ゴロリ「わくわくさん・・・」
撮影も終わり、閑散としたスタジオに私の声が響き渡る。
ゴロリも思うところがあったのか、すぐには交わす言葉が思いつかず、名前を漏らすのがやっとのようである。
わくわくさん「ゴロリだって気付いてるだろ、今の子供達が欲してるのはこんなものじゃないんだ」
わくわくさん「つくってあそぼ?なんだそりゃ、作らなくたってそれよりも楽しい遊びで世の中は溢れてるじゃないか」
ゴロリに言うべきことではない。そんな事は分かりきっている。
それでも口に出さずにはいられなかった。
こんな醜い己の姿を子供達が見たらどう思うだろうか。
ゴロリ「いいたいことは分かるけど・・・それでもつくってあそぼを楽しみにしてる子供達がいるのも事実なんじゃない?」
ゴロリの言い分は尤もである。
視聴率は低下しているものの、根強いファンが存在するのも事実だからである。
しかし私も馬鹿ではない。そんなことはわかっているのだ。
わくわくさん「・・・本当にそうかな」
ゴロリ「そうだよ!もっと自信もってよ!」
わくわくさん「代わりはいくらでもあるよ、それこそつくってあそぼなんて見てた時間が無駄に思えるほど楽しい代わりがいっぱいね」
ゴロリ「わくわくさん・・・」
本心ではあったがそれを言葉にしたことを私は少し後悔していた。
いくら工夫したところで子供達が関心を持つのは、ゲームや漫画のような媒体であり、ダンボールの切れ端などではないのだ。
それが分かっていても、工夫して自らの力で遊びを作り出す喜びを肌で感じて欲しい。
そう思ったからこそここまで二人でやってきたのだ。
その結果に満足できず、一番の理解者であるゴロリにいわば甘えてしまっているのである。
わくわくさん「すまない・・・もう終わりにしようか・・・」
ゴロリ「・・・・・・」
長い沈黙が続いた。
スタジオには二人以外は誰もいない。
遠くから聞こえる空調の音だけがかすかに鼓膜を刺激する。
ゴロリ「わくわくさん・・・」
沈黙を破ったのはゴロリだった。
逸らしていた視線をゴロリに向け直した。
そこで私はふと気が付いた。
ゴロリの服は糸がほつれ、文字はかすれ、全体的にどこかくすんで見える。
それはゴロリが長年この職場で私を支え続けてくれていたことを物語っていた。
長い間隣にいたのに気付かないものだな。
私はゴロリの瞳を直視することに躊躇い、胸元に視線を落とした。
ゴロリ「ずっと一人で悩んでたんだね」
ゴロリ「気持ちは僕も一緒だよ、どれだけ一緒にやってきたと思ってるのさ」
ゴロリ「寂しいけど・・・そろそろ潮時なのかもしれないね」
わくわくさん「・・・」
ゴロリ「いやぁ長いことやってきたよね、もう何年になるのかな」
ゴロリ「すごい楽しかったなぁ、もちろん何倍も大変なこともあったけどね」
ゴロリ「もうハサミで手を切っちゃうこともないし、セロテープで指がネバネバすることもなくなるね」
目が霞んでゴロリの姿が良く見えない。
感極まって泣いてしまいそうだ。大の大人がみっともない。
ゴロリ「でもさ、最後に、最後にもう一度だけつくってあそぼをやろうじゃないか」
ゴロリ「子供達にまたねっていったままで終わりたくはないんだ、だめかな?」
大粒の涙が頬を伝わり床に落ちた。
鼻をすする音で既に気付かれているであろうが、私は帽子を深く、深く被り直した。
わくわくさん「あぁ、やろう、もちろんやるとも、最後の晴れ舞台だ」
わくわくさん「次終わるときはまたねじゃなく・・・さよならっていわなきゃね」
ゴロリ「ビシッときめてね、最後までわくわくさせてもらおうじゃないか!わくわくさん!」
空調の音は止まっていた。
静まる夜のスタジオで、二人の泣くとも笑うとも言えぬ声が響き渡った。
-----終わり-----
ゴロリ「わくわくさん、今日は何を作るの!?」
わくわくさん「ゴロリ・・・今日はね、ゴミから新しいものを作るんだ」
ゴロリ「楽しそう!でも、何もないみたいだけど」
わくわくさん「ゴロリには見えないのかい?この腐りきった世界が」
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