コーヒーショップ 魔王 (92)

裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる

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山もオチもありません

カランコロン

魔王「いらっしゃい」

勇者「おう……」スタスタ

スッ

魔王「おしぼりとお冷ね。オーダーは?」

勇者「今日は……オリジナルブレンドとサンドイッチにするわ」

魔王「かしこまりました」

勇者「……」

魔王「最近はどうなんだ?」

勇者「どうにもこうにも、金がねぇ……」

魔王「最近は不景気だからねぇ……」

勇者「そそ、戦争してた時に比べるとな」

魔王「でも勇者ならそこそこ国にお金貰えるんじゃないのかい?」

勇者「何年前の話だと思ってるんだよ……名前だけが残って他は普通のおっさんだろ?」

魔王「それもそうだな」クスッ

ガラッ

魔王「今日の豆は魔国竜の渓谷産コーヒー豆と光の国原産豆をブレンドしたオリジナル」

ゴリゴリ

勇者「……よくもまぁ飽きないな」

魔王「飽きないさ。昔からの趣味だからね」

魔王「豆は挽きたてが一番。香り高い豆の良さを最大限に引き出せる」

魔王「うん。いい匂いだ」

勇者「……全く。毎回会って必ず変な魔王だなって思うよ」

魔王「君も大概だったろう?まさかあんな登場の仕方をしてくるなんて思わなかったよ……」


~~~~~~~~~~~


魔王『勇者が来た?そうか……それで今はどこに』

コンコン

将軍『閣下、勇者が謁見願いたいと城外までやってきてございます』

魔王『ん……?勇者とは力ずくでも殺しにかかってくる猪の様な人間だと聞いていたが……いいだろう。通してくれ』

将軍『ははっ』


勇者『本日は光の国の使者として参りました。閣下にお目通り叶った事光栄に思います』

魔王『君が勇者か。思っていた人物とは随分印象が違うな』

勇者『力ばかりの能無し者、でございましょうか?』

魔王『ははは、いや。無礼を許して欲しい。そこまでとは思っていなかったがここまで理性的な人物だとも思わなかった』

勇者『一騎当千の武勇など私は持ち合わせておりませぬので。それに一国の国の王においそれと刃を向けるなど、無礼も甚だしく出来たものではございません』

魔王『うん。そうか、それで今日の要件は』

勇者『はっ、光の国と魔国は長きの間戦を繰り返してきましたが、遂にその歴史に終止符を打ちたく参上致しました』

魔王『つまり、同盟を結びたいと?』

勇者『ははっ』

魔王『……』

勇者『……』

魔王『此の場で答えを出すにはあまりにも重要な案件だな。議会を通して検討する必要がある』


~~~~~~~~~~~~

勇者「本当は停戦の申し立てだったんだけどな。王国の内部では平和論を唱える人間が次々増えていて、いずれ同盟を結ぶ時も来ると思って俺が独断でやったんだ」

魔王「いや、君は本当に勇者らしくないな。それが気に入っているんだけど」ゴリゴリ

勇者「お前の方が魔王らしくなかったぞ…」


~~~~~~~~~~~~


魔王『この話については身長に検討しよう』

勇者『ありがたきお言葉』

魔王『ところで勇者。君にもうひとつ聞きたい事がある』

勇者『なんなりと』

魔王『君は、コーヒーは好きかい?』

勇者『……は?』

>>11 修正


勇者「本当は停戦の申し立てだったんだけどな。王国の内部では平和論を唱える人間が次々増えていて、いずれ同盟を結ぶ時も来ると思って俺が独断でやったんだ」

魔王「いや、君は本当に勇者らしくないな。それが気に入っているんだけど」ゴリゴリ

勇者「お前の方が魔王らしくなかったぞ…」


~~~~~~~~~~~~


魔王『この話については慎重に検討しよう』

勇者『ありがたきお言葉』

魔王『ところで勇者。君にもうひとつ聞きたい事がある』

勇者『なんなりと』

魔王『君は、コーヒーは好きかい?』

勇者『……は?』

ガチャ

魔王『なにもない部屋だがくつろいでくれ』

勇者『は、はぁ……?』

魔王『椅子に掛けて、力を抜くといい』

勇者『ありがとうございます。失礼致します』ガラッ

魔王『力を抜けと言っただろう?ここには私と君しかいないからそうかしこまる必要はない。私が疲れてしまうからね』

勇者『そ、そうですか……』

魔王『そういう訳だ。今はかしこまる方が私に失礼だぞ』

魔王『……これから君にとっておきを振舞おう』

勇者『とっておき…』

魔王『そう……これだ』カラカラ

勇者『それは……豆?』

魔王『エルフの森でしか取れない希少なコーヒー豆だ。芳醇な香りとコクのある味わい。最高級と言われる豆なんだぞ』

魔王『これでも飲んで、ゆっくりしようじゃないか』


~~~~~~~~~~~~

魔王「あの時振舞ったのもコーヒーとサンドイッチだったな」サラサラ

勇者「そうだな……あの時と同じだ」

魔王「私と君が老けたのだけが昔とは違う」

勇者「お前は昔からじいさんだったじゃないか」

魔王「そうだったな」チョボボボ...

魔王「一旦少量のお湯で蒸らす事で旨味が抽出されてより香り高くなる」

勇者「レコード掛けてもいいか?」

魔王「どうぞ」

スタスタ

勇者「よし……と」カチャ

~♪

魔王「……なんど聞いてもいい曲だ」

魔王「……」

魔王「うちのサンドイッチは食材にもこだわる。綺麗な水で育てた小麦のパンに新鮮なレタス、トマト。自家製ピクルスに有名精肉店から仕入れたベーコン。バターにマスタードを塗ったパンでこれを挟む」

サクッ

魔王「はい、特製サンドイッチ」

勇者「……」パクッ

勇者「……美味い」

魔王「そして、美味いサンドイッチには美味いコーヒーだ」コトッ

勇者「……」ズズッ

勇者「ふぅ……」

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ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー


勇者「また来るよ」

魔王「いつでもいらっしゃい」フキフキ

カランコロン


裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる……

こんなかんじで進めていく予定です。コーヒーでも飲みながらチラッと見てやって下さい

カランコロン

魔王「いらっしゃい」

エルフ「こんにちはマスター」

魔王「今日はなににするの?」

エルフ「紅茶!いつものでね」

魔王「かしこまりました。コーヒーショップなんだから出来ればコーヒーを飲んで欲しいんだけどね」

エルフ「だってマスターの紅茶美味しいんだもん」

魔王「それはそれで嬉しいしいいか」

魔王「茶葉はエルフの里で栽培されている無農薬有機栽培の特別なものを使う」

魔王「水にもこだわりがあって、これは北の天の城と呼ばれる山の湧き水を使ってるんだ」

魔王「まろやかな口当たりでほんのり水本来の甘みを感じる事が出来る」

エルフ「煮出しでねー!」

魔王「君は本当に煮出しの紅茶が好きなんだね」

エルフ「故郷の味だから……」

エルフ「そういえばマスターって魔王様なんだよね?」

魔王「……なんでばれたのかなぁ、隠してるつもりなんだけどね」

エルフ「だってお店の名前『コーヒーショップ 魔王』じゃない」

魔王「……そこだったか」

エルフ「お仕事とかはしないでいいの?」

魔王「仕事はほとんど息子に任せているからね。まだまだ未熟だけど」

エルフ「私は王子様すごく頑張ってると思うなぁ」

魔王「そうか…ありがとう」

魔王「出来たよ、紅茶に……角砂糖は2つ」カチャ

エルフ「ありがとう!」ズズッ

エルフ「……美味しい」

魔王「……」フキフキ

エルフ「落ち着くなぁ……」

魔王「紅茶には心を落ち着かせる力がある。頑張ってる時や辛い時、紅茶を飲めばきっとリラックス出来るよ」

魔王「気持ちを悪い方向に持って行ったままは良くないからね」

エルフ「……」

魔王「だから……また辛い事があったらここにおいで」

エルフ「……!」

魔王「きっとまた美味しい紅茶を飲ませてあげよう」

エルフ「なんでわかったの……顔に出してないつもりだったのに」

魔王「これでも魔王、だよ?他人の気持ちを察する事くらい訳ないよ」

エルフ「すごいね」

魔王「大した事はないよ、これくらいの事はね」

魔王「話も聞いてあげるよ?」

エルフ「……ううん。大丈夫!紅茶とマスターのおかげで楽になったから」

魔王「それはよかった。お祝いに曲でもかけよう」スタスタ

ジジッ

~♪

魔王「……」

エルフ「……」

魔王「……」

エルフ「いい曲だね」

魔王「本当に、いい曲だ」

ーーーーーーーーーーーー
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ーーーーーー
ーーー


エルフ「また来るね」

魔王「またおいで」

カランコロン

魔王「……」


裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる……

コーヒー美味しいですよね!

仕事の前とか少し時間がある時にカフェに行って一息つくと気分も切り替えられてリラックス出来るのでオススメですよ。お店によって味も違うので飲み比べてみるのも楽しいです

カランコロン


魔王「いらっしゃい」

剣士「……」スタスタ

魔王「君か。注文は?」

剣士「カフェオレ」

魔王「かしこまりました」スッ

魔王「光の国原産の豆は程よい酸味とコクが味わえる」ゴリゴリ

魔王「濃く抽出したコーヒーに同量の牛乳を加えてうちのカフェオレは出来る」ゴリゴリ

魔王「牛乳にもこだわりがあって、特別なエサを与えて育てた乳牛から絞った牛乳しか使わない」ゴリゴリ

魔王「まろやかな舌触りに深みのある甘さがコーヒーの酸味と混ざって絶妙な味を表現する」コトコト

剣士「……貴様も相変わらずだな」

魔王「君こそ。あの頃と変わらないじゃないか」

剣士「俺は……随分衰えてしまった。死期もすぐそこに近づいているはずだ……」

魔王「肉体は衰えても君の魂は変わらずそこにある。あの時と同じ瞳の色をしている」

剣士「いや……俺はただの過去の遺物だ。時代は常に新しい物を求めている。過去と同じ魂なんぞ、忘れられて捨てられるべきものだ」

魔王「そんな事はないさ。君の意志は未来にだって伝えるべきものだ」


~~~~~~~~~~~~



勇者『市民よ!聞いてくれ!今まで人間と魔族は敵対し続けてきた。けれど、もうその時代は終わるんだ!』

暴徒『黙れ!魔族は敵以外の何物でもない!魔族に加担する人間も皆敵だ!!』

勇者『……無理か……』

剣士『……勇者。俺は……俺も魔族を憎んでいる。家族を、親友を殺されて。仇を取りたいと思っている』

勇者『……お前もそうなのか……』

剣士『彼らの気持ちも分かる。言い分も分かる。だが……』

剣士『俺はお前の意志を尊重する』

勇者『……!!』

剣士『いつまでもこれを繰り返しては、永遠に平和は訪れない』スッ

チャキッ

剣士『お前に平和が見えているなら、俺は自分の意志を殺して戦うぞ。だから諦めるな』

剣士『敵が1万だろうが100万だろうが、俺はお前と共に戦う。一国を相手にでもしてやる』

敵国兵士『光の国め……魔族に魂を売ったか!』

剣士『いつまでも過去のしがらみに囚われているお前らよりは随分マシだ。過去を忘れ、今を歩むか。過去に囚われ、永遠に彷徨うか。選べ』

敵国兵士2『うるさい!!貴様ら逆賊は屠ってくれる!!』

勇者『剣士……』

剣士『やれるものならやってみろ。例え腕が千切れ、脚が砕けようとも俺は戦い続けるぞ……』


~~~~~~~~~~~~


魔王「君は次の時代を切り開いた。君の持つその意志は、受け継がれるべきだ」

剣士「……」

ポタッ

魔王「……うん。いい香りだ」

魔王「今君は剣術を教えているんだっけ?」

剣士「まぁな……」

魔王「君の剣を通じて、門下生に意志が伝わるといいね」

魔王「君の剣は、殺人剣じゃなくて、未来を切り開く開拓剣だ」

剣士「……そんなに褒めてもなにも出せないぞ」

魔王「いいよ。ただ……」

魔王「私の淹れたコーヒーを飲んでくれればそれで十分だ」

コトッ

剣士「……」ゴクッ

剣士「……美味い」

魔王「それはよかった」ニコッ

剣士「……さっきの話だが……」

魔王「ん?」フキフキ

剣士「未来を切り開いたのは貴様だ。貴様の様な魔王がいなければ、こんな時代は来なかった」

魔王「……」フキフキ

剣士「魔族と人間が手を取り笑顔を浮かべる。夢にすら描けなかったこの時代を作ったのは紛れもない貴様だ。俺は……ゲホッ!!ぐぅ……」

魔王「…!!」

剣士「気にするな……言っただろう。死期が近づいていると……」

剣士「せめて死ぬまで……貴様の作る世を見物させてもらう」

魔王「……そうかい。わかった」

魔王「この平和な世の中、幸せな世の中を死ぬその時まで見ていてくれ」

剣士「……ふふ」

魔王「なにか曲をかけよう」スタスタ

ジジッ

~♪

剣士「……」

魔王「……」

剣士「また来る」スッ

魔王「楽しみにしているよ」

剣士「……」スタスタ

カランコロン

魔王「……」


裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる……

以上です

生存報告だけ。週末は会社とか上司交えての忘年会とかで書けませんでした。今週は1、2回くらいしか書けないと思いますが期待せずにお待ち下さい

一応今書いてるやつの片手間で書いてるので、そこまでがっつり続ける訳でも無いですが、ネタが出てくる限りは頑張りますのでよろしくお願いします

カランコロン

魔王「いらっしゃい」

淫魔「こんにちは」

魔王「君か……」

淫魔「来ちゃダメだったかしら?」

魔王「そんな事は無いさ。何にする?」

淫魔「カクテルでもいただこうかしら?」

魔王「……コーヒーショップなんだからコーヒーを飲んでもらいたいんだけどなぁ」スッ

淫魔「とか言っておきながらちゃんと準備してある所なんか好きよ」

魔王「お酒まで揃える様になったのは君のおかげだけどね」

淫魔「あら、嬉しいわね」

魔王「褒めた覚えは一度もないんだけど」チョロロ...

魔王「君に一番最初出したのは私の私物だったね」

魔王「……」シャカシャカ

淫魔「シェイカー使ってる所も様になってるわよ」

魔王「それはどうも」シャカシャカ

魔王「今はお酒にも妥協はないよ。魔国北部で作られる極上のウォッカに血の色のリキュール……」

淫魔「カクテルの名前は……『魔王の血』かしら」

魔王「正解」シャカシャカ

魔王「どうぞ」コトッ

チョロロ...

魔王「高い場所からグラスに注がれる様はまるで魔王が血を流した様子にも見える」

淫魔「ん……」ゴクッ

淫魔「……いい味よ。貴方の血」フフッ

魔王「……」

淫魔「ところで……」

魔王「……」フキフキ

淫魔「そろそろ私と結婚してくれる気にはなったかしら」

魔王「……」

淫魔「まだ決心がつかない?」

魔王「決心もなにも考察した事すら一度もないけどね」

淫魔「あら、冷たいのね」

魔王「私には妻がいるから」

淫魔「それってもう……何年前の事?」

魔王「何年前でも答えは変わらないよ」

淫魔「どうして?いつまでも一人でもいいの?」

魔王「……私はまだ妻を愛してる。彼女を愛してる」

魔王「例え彼女の言った事でも……それだけは譲れないよ」

~~~~~~~~~~~~


魔王「……」

勇者「俺も前線に出る。必ずこの戦いを治めて……新しい時代を切り開くぞ」

魔王「それじゃあ私も……」

勇者「後方を指揮する者がいなくてどうするんだ。頼むよ」

魔王「……」

淫魔「貴方……」

魔王「ん……」

魔王「出てきてはダメだと言っただろう」

淫魔「夫が頑張っているのに妻だけ楽をしてるなんておかしいでしょう?」

魔王「……本当に君が妻でよかったと思うよ」

魔王「君がそばにいてくれるだけで勇気と力が湧いてくる」

淫魔「ふふ……」

魔王「……進軍状況は?」

伝令「は、現在渓谷出口付近にて勇者隊、剣士隊が敵軍と交戦。徐々にですが敵軍が後退しています」

魔王「ん。わかった」

魔王「……しかしこの渓谷……道も細く……なんだか誘い込まれているような気がする」

魔王「前線部隊に伝えてくれ。左右崖上からの挟撃に備えて後方部隊は迂回路から進軍する」

伝令「はっ!」


???「魔王……貴様の好きな様にはさせない。必ず俺が……」グッ

???「[ピーーー]」シュッ


魔王「……」

淫魔「……」

キランッ

淫魔「!!」ダッ

魔王「ん、どうし…」淫魔「危ない!!」ドンッ

魔王「っ……!?」

ザシュッ

淫魔「かは…………」ドサッ

魔王「淫魔!!!!」

魔王「これは……槍。ただの槍じゃない……」

???「ゲイ・ボルグ。聞いた事あるだろ」ザッ

ズシュッ

淫魔「……」ビクッ

魔王「……君は」

クーフーリン「クーフーリンとでも名乗っておくよ」ブンブン

クーフーリン「この槍で魔王、貴様を屠ってやる」チャキッ

魔王「……」

魔王「……」

クーフーリン「怖気付いたか?ならば……」

ドクンッ

クーフーリン「!?」

魔王「……」ギロッ

スッ

魔王「……死んで償え」

ドシュッ

クーフーリン「がっ……」

クーフーリン「俺の手足が……一瞬で……!?」ゴロッ

魔王「消えろ」

パンッ

兵士「……消えた?」

兵士2「いやでも……この赤い霧は……」ヒタッ

兵士「……血?」

ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー


淫魔「ごめ……んね」

魔王「……」ギュッ

淫魔「私が……我儘言ったから……」

魔王「もういい……済まない」

魔王「私は君を救えない……」ポロ...

魔王「あの槍は……本物だ……済まない……」

淫魔「お願い……いい?」

魔王「ん……?」ポロポロ

淫魔「妹……いるでしょう?あの子を……お願い……」

魔王「……あぁ」

淫魔「それ…と……げほっ……もう一つ」

魔王「私に出来るなら……なんでも……」

淫魔「私の大好きな人の手で……死にたい……」ニコッ


ザシュッ


~~~~~~~~~~~~

魔王「君の面倒は見てあげるけど妻には出来ない」

淫魔「そう……でも好きなのになぁ……」

魔王「……」フキフキ

淫魔「……本当に好きなんだよ。お姉ちゃんが好きなるくらいだもの……」ボソッ

魔王「ん?」

淫魔「なんでも。そろそろいくわね」

魔王「……またいらっしゃい」

淫魔「うん」スタスタ

カランコロン

魔王「……」


裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる……




カランコロン

魔王「いらっしゃい」

戦士「……」ギシッ

魔王「君は……初めてかな?」

戦士「そうだな……ここがそうなのか……」

魔王「まぁ好きな所に座りなよ」

戦士「そうさせてもらう」コツコツ

スッ

戦士「オススメは?」

魔王「オススメかぁ……コーヒーショップだから当然コーヒーなんだけど」

魔王「豆も色々こだわりがあってその人に合ったものを提供したいからね。その人にぴったりだと思うのがオススメになるかな」

戦士「そうか……」

魔王「……それと」

魔王「ピリピリ殺気を立てるのはやめてもらいたいんだけど」

戦士「……あんたが魔王ってのは本当なのか?」

魔王「……誰にも教えた覚えはないのにどうして知ってるのかなぁ……」

戦士「裏の界隈では有名だぞ。魔王が店開いてるって」

魔王「そうなのか……」

戦士「……」スクッ

魔王「……」

戦士「魔族最強の漢であり頂点に君臨する指導者。是非手合わせ願いたい!」

魔王「あぁ…そういうことか」

戦士「一瞬でもいい。俺と手合わせしてもらいたい」

魔王「最強なんかじゃないと思うんだけどなぁ……竜王とか黒鉄の騎士とかもっと他に強いのはいるよ」

魔王「それに指導者って言ってもほぼ引退しているし。もうコーヒーを淹れてるだけの耄碌じいさんだよ」

戦士「その竜王も黒鉄の騎士もあんたに絶対の忠誠を置いている!影から息子に助言しているのも知っている。それに」

戦士「強烈な魔翌力を感じる。冷や汗が出てくるくらいに」

魔王「それは……君が殺気を出してるからだよ。大体この店も狭いし外は裏路地、まさか誰かの前でやる訳にもいかないし」

戦士「それなら問題ない……」スッ

チャキッ

戦士「俺の得物はランスだ」

魔王「……そういう問題なの?」

戦士「安心しろ。振り回したりはしないし店の物も傷つけない」

魔王「しかも店の中でやるつもりなんだ」

魔王「……言っても聞かないみたいだね」スタスタ

魔王「……」チョボボ

魔王「……」ズズッ

魔王「……うん。美味い」

カチャ

魔王「相手するよ。その代わり少しでも傷が付いたら弁償だからね」

戦士「面白い……」

戦士「ところであんたの得物は?まさかそのコーヒーの入ったカップとソーサーなんて言わないだろうな?」

魔王「だと言ったら?」

戦士「……舐めてもらったら困るッ!!」ビュッ!!

カキィンッ

戦士「……!?」

魔王「……」ズズッ

戦士「制ッ!!破ッ!!」ビュッ!!ビュッ!!ビュッ!!

カキィンッ

戦士「……」

戦士(まさか……目にも止まらぬ速さで打ち出した筈の俺のランスを……)

戦士(ソーサーだけで受け止めただと……!!?)

魔王「それだけ?まだまだなんだろう?」

戦士「……」ギリッ...

戦士(ならば喰らえ……認識さえ出来ない必殺の連撃!!)

戦士「疾ッ!!」ビュッ

戦士「おらあああああ!!!」ビュビュビュビュビュッッッ!!!!

魔王「……!」ゴクッ

カタッ

キュオオオンッ

戦士「な、なんだと……」

戦士(空になったコーヒーカップの中に……ランスを閉じ込めた……!?)

魔王「……」

戦士「くっ……」ジリッ

魔王「今度は私からいくよ」ヒュッ

戦士「消えたッ!?」

コツン

戦士「あだ!?」

魔王「デコピン。これで私の勝ち」

戦士「……」ドサッ

戦士(今のがデコピン……?痛みこそ薄かったが……まるで死に直面したような……そんな恐怖を感じた……)

戦士「は、はは……なんて強さだ……」

戦士「これが実践だったら……一瞬で殺されていた……」

魔王「私は強くないさ」

魔王「相手を傷つけるだけの力なんて強さじゃない」

戦士「……」

魔王「もう満足した?」

魔王「汗もすごいし、何か飲んだ方がいいよ」スタスタ

戦士「そ、それじゃあ……スポーツドリンク」

魔王「……コーヒーショップなんだからコーヒーを頼んで欲しいんだけど……」ゴソッ

戦士「……とか言いながらあるのか」

魔王「一応ね」コポポポ...

戦士「ん……」ゴクッゴクッ

戦士「ぷは!」

戦士「……失礼した」

魔王「もういいよ。君の気が済んだなら」

戦士「会計を……」

魔王「えっと……スポーツドリンク代と床が剥がれたからそれの修理費に……」

戦士「えっ」

魔王「君のランスを受けた時に穂先が欠けて飛んでったのがテーブルに当たって傷ついたからそれも……あと……」

戦士「……」

魔王「合計これくらいかな?本当は手合わせに付き合ってあげた手間賃も欲しいけどそこは勘弁してあげるよ」

戦士「……す、少しでいいから負けてくれたりは……」

魔王「え?なにか言った?」ゴゴゴゴゴ...

戦士「……いえ」

チャリン

魔王「また来てくれて構わないからね。手合わせはもうしないけど」

戦士「あぁ……」

カランコロン

魔王「……」


裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる……

以上です。

メインの方は犬娘でタイトル探すと出てくると思います

おぉ、ありがとうございます。あっちの完結に合わせてこっちも終わらせるつもりなのでそんなに長くはならんです

カランコロン

魔王「いらっしゃい」

老人「久しぶりじゃないか」

魔王「……あぁ、そういえば両国会議の期間だっけ。お忍びかい?」

老人「堅苦しいのばかりだと堪えるからの……」

魔王「一国の王がそんな事を言ってよかったのかな?」

老人「俺も人間だからな……」

魔王「そうだったね。光の王」

光の王「コーヒーをもらおうか」

魔王「かしこまりました」

光の王「……しかし、随分平和になったもんだ」

魔王「君がいたからここまで出来た」

光の王「随分苦労したがな。あの頃はすぐにでも平和は作れると思ってた」

光の王「やってみれば随分時間経っていた……」

魔王「いや、かなり早く平和になったと思うけどね」

光の王「魔族と人間、比べれば時間の流れ方が目に見えて違う」

光の王「人間は早く老いる。体感もそれだけ違うだろう」

魔王「……」

光の王「……長い長い道のりだった」

光の王「途中までは若さでなんとかなっていた気がするな」

魔王「……若さか。確かに今と比べると君は随分面白い人間だった」

光の王「誰だって老いれば堅実にもなる」


~~~~~~~~~~~~


光の王『なに、停戦の協定ではなく無期限の同盟を提示した?』

勇者『はい、彼の国の王は知恵もあり誠実でありました。許されぬ事は承知しております。どうか私の首と引き換えに……』

光の王『……ククッ。ハハハハ!!』

勇者『!?』

光の王『面白いじゃないか!面白い!同盟か……こんなにも早く辿り着けようとは』

勇者『……光の王』

光の王『政略は堅実に事を運ぶのが定石、だが……やはり賭博を打った方が断然面白い』

光の王『俺も同盟は常々考えていた。いつかは魔族とも手を取り合い……』

光の王『こんなにも醜い争いはいつか終わらせねばならぬと。俺の代で必ず……』

光の王『勇者、君の行動の代償はたかくつぞ』

勇者『はっ』

光の王『君に魔族との共存への未来への指揮を執ってもらう。一生掛けてもだ』

勇者『……必ず、達成してみせましょう』

ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー


光の王『魔王……』

魔王『光の王か』

光の王『ふん……確かに。面白い男のようだ』

魔王『……』

光の王『同盟を申し込む。堅実にしていてはいつまでも終わらない』

光の王『速攻でカタをつける』

魔王『……ははは!』

魔王『君は……君の方が遥かに面白い』

魔王『よろしく頼むよ』


魔王『ところで……』

光の王『ん』

魔王『君はコーヒーは好きかい?』

~~~~~~~~~~~~


魔王「魔国南部の農村部で栽培された豆を使った」

魔王「香り豊かで深い味わい。口当たりは滑らかで優しいのが特徴的だな」

魔王「どうぞ」コトッ

光の王「……」ズズッ

光の王「……あの時と同じ味だ」

魔王「また飲みたくなったら来るといいよ」

光の王「次はいつになるかわからないけどな」

魔王「気長に待つさ。のんびりしていても平和だ」

光の王「……いくよ」コツ

魔王「……」フキフキ

カランコロン


裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる……

カランコロン

魔王「いらっしゃい」

黒鉄の騎士「……」ジャキッジャキッ

魔王「あぁ……君か」

黒鉄の騎士「……」ジャキンッ


黒鉄の騎士「魔王陛下!!ご無沙汰しております!!」

魔王「う、うん……もう少し気楽にしてもらってもいいんだけど」

黒鉄の騎士「某随分気楽にしてるつもりでありますが……」

魔王「というかなんで公私でずっとその鎧着てるの?前から思ってたけど」

黒鉄の騎士「某の名は黒鉄の騎士。この鎧を外してしまえば黒鉄でも騎士でもなくなってしまうからであります」

魔王「いやぁ……別にそんな事はないと思うけど……」

黒鉄の騎士「魔王陛下のお言葉はありがたや。しかしこの鎧に兜、外す訳にはいかぬのであります」

魔王「黒でピカピカしてるし目立って大変じゃないの…?」

黒鉄の騎士「確かに大変ではありますなぁ……」

~~~~~~~~~~~~


黒鉄の騎士『……』ジャキッジャキッ

市民『あ、黒鉄さん!今日は仕事ですか?』

黒鉄の騎士『そうでありますよ。今は昼休憩を少々……』

市民2『黒鉄の旦那じゃないですかい!次はいつ飲みに行けるんで?』

黒鉄の騎士『いやぁ……しばらく仕事が片付きそうになくて……』

露天商『黒鉄ちゃん!お昼休憩なんだって?あたし特製のタンメンがあるから食べていきなよ!!』

黒鉄の騎士『いや食事は先程…』

吟遊詩人『黒鉄の騎士殿……今日は是非私の歌を……』

黒鉄の騎士『そろそろ休憩も終わr』

子供『よろいのおじちゃんだー!』

黒鉄の騎士『お、おじ……』

~~~~~~~~~~~~

魔王「随分楽しそうだけど」

黒鉄の騎士『あんまりこう……もてはやされるというか……下町アイドル的なアレじゃなくてこう…騎士としての威厳とか……」

魔王「それでいいよ。みんなに愛される将軍なんて素晴らしいじゃない」

黒鉄の騎士「しかし某魔国四将軍が一人で……」

魔王「その四将軍って呼び方もなんか恥ずかしいんだけど」

黒鉄の騎士「四将軍!かっこいいではありませんか!強そうだし!」

魔王「そうかなぁ……というか何頼むの?」

黒鉄の騎士「某エスプレッソをお願いしたく。砂糖は多めで……」

魔王「かしこまりました」

魔王「……豆は竜の渓谷産だけで」

魔王「深煎りしたこれを微細になるまで砕いていく」ゴリゴリ

魔王「いい香りだ……」

黒鉄の騎士「ところで魔王陛下はどうしてコーヒーがお好きになられたのでありますか?」

魔王「元々好きだったよ?自分で作る程じゃなかったけど」

魔王「妻も好きでね……妻の為に美味しいコーヒーを淹れたいと思って始めたんだ」

魔王「いつの間にか趣味になってたよ。喜んでくれたからよかったけど」ゴリゴリ

魔王「……もうそろそろ趣味を持ってもいい時期だと思ったのもあるかな」

黒鉄の騎士「時期……とは?」

魔王「私もいい歳だろ?だからなぁ……」

黒鉄の騎士「そうであったのでありますね」

魔王「ところで……息子は上手くやってる?」

黒鉄の騎士「若でございますか?それはもう!」

黒鉄の騎士「民の事を考え、時に自ら鍬を持たれ、よく町を観察なさっておいでで」

黒鉄の騎士「素晴らしい領主としての手腕を発揮しておいでであります」

黒鉄の騎士「それに加え外交も怠らず、人間と魔の者両者に有益な政策をなさる」

魔王「それならいいんだ。もういい加減私がいなくても国を統率出来る様にしてもらわないと」

黒鉄の騎士「そうですなぁ……しかし魔王陛下も依然この国の指導者。魔王陛下の采配もまだまだ必要であります」

魔王「もう定年退職して趣味一筋になりたいよ」

魔王「豆が出来た。これをフィルターに詰めて……」

魔王「沸騰したお湯を加える」

魔王「加圧されて濃厚な味わいのコーヒーが出来上がる……」

黒鉄の騎士「魔王陛下のコーヒーはいつ飲んでも美味しい!某の楽しみでもありますよ」

魔王「そう言ってもらえると嬉しいよ」

魔王「どうぞ……砂糖も入ってるよ」コトッ

黒鉄の騎士「いただきます」ズズッ

魔王「……兜で口元が見えないのにどうやっていつも飲食してるの本当に」

魔王「人の心が読めてもそれだけはわからないよ」

黒鉄の騎士「コツがあるのでありますよ」

魔王「コツね……カップの淵から先にコーヒーが消えてる様にしか見えないけど」

魔王「というかいつかみんなで温泉に行った時も鎧外してなかったよね……」

黒鉄の騎士「あれは楽しかったでありますなぁ……いい湯だった」

魔王「沸騰して倒れちゃうんじゃないかと心配したよ」

黒鉄の騎士「ごちそうさまでございました。あいもかわらず至高の味、某感服するばかりで……」

魔王「そ、そう……」

黒鉄の騎士「では某、職務が残っております故これにて失礼つかまつるであります」ジャキッ

魔王「また来てね」

黒鉄の騎士「是非とも!」ジャキッジャキッ

カランコロン

魔王「……」


裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる……

明けましておめでとう御座いました

カランコロン

魔王「いらっしゃい」

魔術師「どうも」

魔王「君は確か……勇者の仲間だね」

魔術師「そうよ。今じゃああの頃の魔術じゃなくて占いみたいなのをやってるけど」

魔王「そうなんだ……折角だから占ってもらいたいな」

魔術師「あの魔王様でもこういう事に興味あるのね……」

魔王「魔王って名前を取ったら私も普通の魔族だよ」

魔術師「そう……まぁ、貴方のコーヒーでも飲んでから占ってあげる」

魔王「いつもより丁寧に淹れてあげないとね」

魔術師「ふふ、いくらそうしたって占いの結果は変わらないわよ?」

魔王「それで注文は?」

魔術師「そうね……ウィンナコーヒーでももらいましょうか」

魔王「かしこまりました」

ザザッ

魔王「豆は光の国南部の物を使うよ」

魔王「口当たりが優しくて深みのある味わいが特徴で……」ゴリゴリ

魔王「香りもたまらない」

魔術師「落ち着く匂いね」

魔王「コーヒーの香りは人をリラックスさせてくれる」

魔王「他には疲労回復とか老化防止にもいいんだ」

魔術師「その割には随分老けてるわね」クスクス

魔王「飲み始めるのが遅かったんだよ。きっと」

魔王「ところで……勇者達といろいろやってた時もそうだけど。あまり顔を見なかったね」

魔術師「私は基本的に前に出るタイプじゃないもの」

魔術師「後方の見えない所から魔術で支援するのよ」

魔王「まぁ……肉体派の魔術師なんてあまりいないよね」ゴリゴリ

魔術師「……いいお店ね」

魔王「私の宝物だ」ゴリゴリ

魔術師「……レコードなんてあるの」

魔王「一曲いかが?」

魔術師「それじゃあ……オススメを」

魔王「オススメ……今日はこれだな」ジジッ...

~♪

魔術師「……いい曲だわ」

魔王「コーヒーは濃い目に抽出するよ」コポポポ...

魔王「上に乗せるホイップクリームは魔国の水源近くで飼育されている水牛から」

魔王「濃く抽出されたコーヒーと濃厚なクリームの相性は格別だよ」

魔王「どうぞ」コトッ

魔術師「いただくわね」ズズッ

魔術師「……おいしい」

魔王「それならよかった」

魔術師「……おいしいコーヒーをいただいたお礼に占ってあげる」

魔王「よろしくお願いしようかな」

魔術師「手を……」

魔王「……」スッ

魔術師「……」ブツブツ

ポゥッ...

魔王「光が灯った……」

魔術師「しばらく、そのままで……」


魔王「……」

魔術師「……」

魔術師「……そう。そうなの……」

魔術師「貴方、自分で分かってるんじゃない?」

魔王「……なんの事?」

魔術師「とぼける必要はないわ。未来をみたんだもの」

魔術師「いや、未来をみても見えなかった」

魔王「……」

魔術師「いいもの、見せてあげるわ」

魔王「……遠慮しておくよ」

魔術師「貴方が一番見たいものなんでしょう?出来るわよ」

魔王「……それを見てもなにも変わらない。なにも意味がない」

魔術師「いいえ、それは嘘よ」

魔術師「意味はある。これから貴方が見るものは夢でも幻想でも無く本物」

魔術師「魔法が当たり前の様に存在している世界なのだから出来て当然よ」

魔王「……」

魔術師「せめて……悔いの無い様に……」

ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー


魔王「……」

魔王「……」

魔王「……悔い、か」



裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる……

メインの方が完結したのでこちらも次回最終回です

カランコロン

魔王「いらっしゃい」

淫魔「……」

魔王「君か……こんなにまたすぐ来るなんて珍しいじゃないか」

魔王「今日は少し酒の入荷が遅れててね。出せるカクテルも少ないだろうけど……」フキフキ

淫魔「……」

魔王「ん……どうかした?」

淫魔「……ただいま」

魔王「……」

淫魔「ただいま、貴方」

魔王「……」スルッ

パリン

魔王「……君は誰だ」

淫魔「わかるでしょう?」

魔王「わからない」

淫魔「貴方は信じてくれた。だから私はここにいるの」

魔王「違う。妻はもうこの世にはいない」

淫魔「貴方に会いに来たの。いや……ずっとそばにいた」

魔王「違う」

淫魔「魔術師さんが言っていたわ。望む心、信じる心、愛する心を持っている者であれば姿が見えるって」

魔王「……」

淫魔「貴方は私にまた会いたいと望んでくれていた。いつか会えると信じていてくれた。私を愛していてくれた。だから私は貴方とこうして話す事が出来ているの」

魔王「……」

淫魔「ずっとそばにいたの。貴方がお客さんにコーヒーを出して喜ばせてあげている姿、コーヒーを出して喜んでいる姿を私は見てた」スタスタ

魔王「……」

ギュッ

淫魔「貴方……」

魔王「淫…魔……」

淫魔「ありがとう。今までずっと私の事を想ってくれて。私たちの夢を叶えてくれて」

魔王「……なんで、こんなにも暖かいんだ」

淫魔「……霊として見える様になるんじゃなくて、一時的な受肉らしいわ。聞こえるでしょう」

トクン...トクン...

淫魔「少しの間だけ、貴方と生きる事が出来る……」

魔王「……」

淫魔「ねぇ……また飲ませて、貴方のコーヒー」

魔王「……あぁ。待っていてくれ……」

淫魔「……震えているの?」

魔王「……気のせいだよ。そこのカウンター席に座ってくれ」

淫魔「うん」スタスタ

魔王「……」サッサッ

淫魔「お皿、割れちゃって怪我しなかった?」

魔王「大丈夫だよ。心配しないで……」

魔王「豆は……竜の渓谷産と光の国特産の豆を使おう」カラカラ

魔王「豆は挽きたてが一番香りが良くて美味しいんだ」ゴリゴリ

淫魔「いい香りね」

魔王「君の一番好きなブレンドだよ」

淫魔「覚えててくれたのね」

魔王「忘れる訳ないさ」ゴリゴリ

淫魔「……いいお店ね」

魔王「私たちの夢だったね」

淫魔「一緒にコーヒーショップを開いて」

魔王「私がマスターで君がウェイトレス」

淫魔「大繁盛じゃなくてもいいから」

魔王「少しでもお客さんの心に届く様なコーヒーを」

淫魔「安らぎと」

魔王「心地よさと」

淫魔「安心と」

魔王「少しの喜びをあげられるようなお店」

魔王「……すまない……君を……君の事を……!」

魔王「守ることが出来なかった……!!」ポロポロ

魔王「何が魔王だ。何が魔国の頂点だ……!!ただ愛する人一人守れないなんて……」

淫魔「違うの!!」

魔王「どこかで慢心していたんだ。全て上手くいくと、何事もなく解決すると。私は……私は……」

淫魔「違うわ。違う……」

淫魔「貴方はなにも悪くない。あの時槍を投げた男には誰一人気がついていなかったわ。貴方だけの責任じゃない」

魔王「だがそのせいで君は……!」

淫魔「もし私があの時ああしなかったら貴方が死んでた」

魔王「君を失うくらいなら私が[ピーーー]ばよかった……!」

淫魔「そんな事言わないで!!」

淫魔「貴方がいなければ平和は訪れなかったかもしれない。今になっても戦争が続いていたかもしれない!」

淫魔「それも否定してしまうの……?」

魔王「……」

淫魔「よかったの、これで。今こうして貴方とまた会えた。貴方は私の夢を叶えてくれた。これで十分じゃない……」

魔王「……」

魔王「……そう……だな。君の言うとおりだ」

魔王「君にもまた会えた。これで満足だ」

サラサラ

魔王「少しのお湯で蒸らせばさらに香りがよくなり飲みやすいコーヒーに仕上がる」チョボボ...

淫魔「隣で、一緒に飲みましょう」

魔王「マスターが客と一緒に飲むのもなかなか変だと思うな」

淫魔「たまにはいいんじゃないかしら?」

魔王「……そうだな」

コトッ

魔王「失礼するよ」

淫魔「どうぞ」

魔王「……久しぶりだね」

淫魔「本当に、久しぶりね」

ズズッ

魔王「うん、美味い」

淫魔「……美味しい」

魔王「……きっと。安らぎを一番求めていたのは私なんだろうな」

淫魔「……」

魔王「コーヒーショップを開いて、お客さんにコーヒーを出して、世間話をして。音楽を聞いて」

魔王「なにかかけようか」

淫魔「お願い」

ザザッ

~♪

魔王「いい曲だ……」

淫魔「本当にね……」

魔王「全て、報われたような気がする。君とこうして一緒にコーヒーを飲めた、それだけで」

淫魔「貴方はよく頑張ったわ。もう、これ以上頑張らなくてもいいくらいに」

魔王「そうかな……」

淫魔「きっとそう」

魔王「……それならもう一度だけ、君と手を繋いでもいいかな」

淫魔「えぇ……」スッ

ギュッ

魔王「……世界が輝いて見える」

淫魔「貴方の作った世界ですもの、きっとこれからも輝く」

魔王「……あとは二人で見ていようか」

淫魔「ずっとずっと、いつまでも貴方のそばにいるわ」

魔王「私もだ。ずっと君のそばにいる」

淫魔「……ありがとう」


穏やかな音楽が流れ、どこか懐かしくも感じる空間にただ二つ。コーヒーの注がれたカップが寄り添う様に並んでいた……


裏路地にひっそりと居を構える冴えない見た目のコーヒーショップ。そこには今日も美味しいコーヒーと安らぎを求めて誰かがやってくる……




fin...

短かったですが完結です。お付き合いいただきありがとうございました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年10月06日 (月) 19:56:06   ID: SzbeSPLm

うるっと来た。

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