橘純一「なーんだ、不幸の手紙か」(112)
純一「てっきりラブレターかと思ったよ」
純一(せっかく秘蔵お宝本部屋まで来て読んだのに……)
純一「──ったく、不幸の手紙なんてまた懐かしいを。一体誰がこんなの僕の下駄箱に仕込んだんだ…?」
純一「まあ梅原当たりだと思うけどね。少し気になるし、ちょっと読んでみるか…」ぺら
『この手紙を読んだ人は不幸になります。
ですが今からちょうど24時間以内で誰か女の子に『可愛い』と言えば免れます』
純一「ふむ、なるほど。ってなんだこの呪いの解除法は…」
純一「梅原が考えそうな文面だなぁ、あはは。まったくアイツは飛んだ暇人だよ────」
『──ですがこの方法を試さなかった場合、貴方のお宝本が消えることをここに記します』
純一「───なん、だと…?」
純一「お宝本が、消えることになる……だと!?」がたっ
純一「───馬鹿なっ! これは、これは梅原が書いたものじゃないッ……
アイツは恋人が出来たって嘘をついても、お宝本に関しちゃ冗談は言わない野郎だから…ッ!」
純一「……誰だ、この手紙を書いた人は。しかし、お宝本という通称の言葉を知るのは梅原と、美也だけだ」
純一(梅原じゃないとしたら、ということは美也か…? いや、美也がこんな回りくどいことをするわけない。
というかそもそもする必要性が見えてこないしな)
純一「……………」
純一「……だめだ、わからない。しかしながら僕はこの手紙の内容を信用するべきなのか…?」
純一「不幸の手紙って時点で信憑性はうすい…だが、お宝本という言葉を知っていることは気にかかる……」
純一「……くそっ! 僕は、この手紙に踊らされなければならないのか…っ!」しくしく…
純一「───うん、ここは仕方ない。訳が分からないことだらけだけど、まずは手紙に従うべきか」すっ…
純一「……女の子に可愛い、か」
廊下
純一(とはいってもなぁ……誰か一人の女の子に可愛いと言えっていっても)すたすた…
純一「僕はあんまり女の子と関わり合いが少ないし、それにそもそも可愛いって言えってのも
なかなかハードルが高いよなぁ」
純一(面倒なことになったよ……さて、まずは手あたり次第に女の子と接触を図ってみようかな!)
純一「とりあえず視界内に入った女の子を誰か───……おっ」
梨穂子「もぐもぐ……」たしたし…
純一「あれはあれは、あそこでパンを咥えながら食べ歩きしている奴は……僕の幼馴染、梨穂子じゃないか!」
純一(これはついてるよ! なんてったって梨穂子は幼馴染だもんな!
いきなり可愛いって言っても、梨穂子なら『冗談言わないでよ、ずんいち~』なんて切り返してくれるに違いない!)
純一「……よし、じゃあさっそくながら。梨穂子~!」すたすた…
梨穂子「んむぅ? もぐもぐ……ふんいちっ!?」びくん!
純一「おう、こんなところでなにをしているんだ?」
梨穂子「もごもぐっ、けほっ!」
純一「お、おい……大丈夫か? 喉に詰まったのか…?」さすりさすり…
梨穂子「う、うぐぅ~…っ」
> 純一「僕はあんまり女の子と関わり合いが少ないし、
> 純一「僕はあんまり女の子と関わり合いが少ないし、
> 純一「僕はあんまり女の子と関わり合いが少ないし、
ああ? 大将といえどブッコロしちゃうぞ
純一「そうやって気軽に食べ歩きしているから、喉に詰まるんだよ……水でも買ってきてやろうか?」
梨穂子「っ……っ……」ぶんぶん!
純一「……そうか、本当にいらないのか? 僕が珍しくおごってやっても良いって言ってるんだぞ?」
梨穂子「じゃあいただこうかなぁ~えへへ~」くるっ パァァアー!
純一(なんて良い笑顔だ……)
梨穂子「りんごジュースがいいなぁ、ねえねえ、本当におごってくれるの~?」
純一「……ああ、おごってやるよ。ったく、本当に梨穂子はいやしんぼうさんだなぁ」
梨穂子「そ、そんなことないよ! 私はただね、純一の立場を立ててあげようって思って~」
純一「別に梨穂子から立てられるほどなこと、僕はやってないぞ」
梨穂子「え~? だって私のこと心配してくれたじゃない、それだけで私は感謝感激雨霰~…なんだよ?」
純一「心配するだけでそこまで感謝してくれるのなら、僕は何時だって梨穂子から感謝されてないといけないな」
梨穂子「えー! それってどういうこと純一~っ!」
純一「自分で考えてみるんだ、おのずと答えはわかってくるはずだ」
梨穂子「ん~? ……私って純一に迷惑かけっぱなしだったりするのかな」ちら
純一「…………」
梨穂子「ど、どうして無言で切り返してくるのぉ~! え、私って本当に迷惑ばっかりかけたのかなぁ~っ?」
純一「……梨穂子、あのさ。僕は幼馴染だからってさ、打ち開けちゃいけないこともあるって思うんだ」
梨穂子「むしろ純一から打ち明けてたよね! う、ううっ~……そうなんだ、私って面倒な子だったんだ~……」しくしく…
純一「…………」
梨穂子「おいおいっ…おーいおい……」
純一「…………」
梨穂子「うっ…ひっく…………」ちら
純一「…………」ちら
梨穂子 びくん さっ
梨穂子「おーい、おいおい……しくしく……」
純一(なんだその構ってほしそうな態度は……)
純一「……はぁ。そら梨穂子、俯いた顔を上げるんだ」
梨穂子「…………」
純一「いつまでたっても過去を悔やみ続けても意味は無いんだ、きちんと問題に立ち向かわなくちゃいけない。
気をしっかりもって、前を向いて斜め十五度を見上げるんだ」
梨穂子「え、ななめじゅうごどって……こう?」ぼすんっ…
梨穂子「あわわっ……えっ、あっ、ごめん純一ぶつかっちゃった───」
純一「───いいんだよ、梨穂子…」ボソッ
梨穂子「きゃっ! じゅ、じゅんいちっ……?」
純一「うん? ……どうしたのかな、梨穂子。なんだか悶えてくすぐったそうにしてるけど…」ボソボソ…
梨穂子「だ、だってっ……純一が、耳元で喋るからぁ…っ…ひゃうっ!?」ぴくっ
純一「あはは、梨穂子の耳たぶさんは敏感だなぁ。小さいころからそうだよね、うんうん」
梨穂子「ひんっ、だ、だめだよっ…純一っ…! 学校の廊下でこんなこと、誰かに見られたら……!」
純一「誰も見てないって、ほら。この廊下には僕らしかいないじゃないか」
梨穂子「~~~~~……っ」ぷしゅー
純一(よし、つかみはオッケーだ)
純一(梨穂子はとろそうな様に見えて凄まじく勘がいい所もあるからね、用心に越したことは無いよ)
純一(……『不幸の手紙』の続きを読んでいればひとつ条件が付いていた。
それは『決して不幸の手紙の内容を女の子にバレてはいけないこと』だった───)
純一(───それはつまり、僕が急に女の子に可愛いと言ったことについて弁解をしてはいけないということ。
突然に『可愛い』と言ったことについてこの手紙を言ってはいけないってことだ)
梨穂子「っ……じゅ、純一……顔がちかいよ…」
純一(それならば、そうであるのならば───僕はやりとげるしかない、やるっきゃないのだ!)
純一(無条件で女の子と『可愛い』といえる空気を作り上げることをっ!)
純一(……そうしなければ、僕の大切な秘蔵お宝本は闇へと消えてしまうのだから…)ほろり…
純一(そうと決心すれば答えは早い! 実行するのみ! 僕の紳士の名にかけて!)
純一(梨穂子に可愛いといってやろうじゃないか!)
純一「───梨穂子、そんなに恥ずかしがるなよ。僕まで恥ずかしくなってくるじゃないか」
梨穂子「は、恥ずかしがってよ…っ…こんなこと、普通はやっちゃいけないことなんだよ……っ?」
純一「普通って……梨穂子、僕らの普通ってなんだ?」
梨穂子「え…?」
純一「僕らの間柄は──幼馴染だよな、昔から親同士が仲良しさんで、家が近所で学校も小学校から一緒だった」
梨穂子「う、うん……そうだよ?」
純一「じゃあ聞くけど、そんな間柄の僕たちの普通って───こんなことしちゃいけない、関係だったのか?」ふぅー…
梨穂子「ひゃう~っ!?」びくびくんっ
純一「……僕はそうは思わない、だって相手は梨穂子なんだよ。こうやって抱き合って耳に息を吹きかけても、
僕はまったく嫌じゃないし、むしろ嬉しいことだって思ってる」
梨穂子「はぁっ…はぁっ……うれ、しい……?」
純一「そうだよ、僕は嬉しい。それはだって仲良しだって証拠じゃないか、こんなこと只のクラスメイトだからって出来ることじゃない。
梨穂子が僕の幼馴染だから、僕と一番親しい仲だから……僕はこうやって梨穂子とくっつきあう勇気が持てるんだ」
梨穂子「……わたし、と……仲がいいから…」
純一「梨穂子は僕と仲良くないって、僕のこと嫌いだって思ってるの?」
梨穂子「ううん、そんなことないよ……純一のこと、嫌いじゃない……」ぼー……
純一「……そっか、梨穂子がそういってくれるんなら僕も嬉しいよ。だったらね、ほら今は普通のことをやってるだけなんだよ」
梨穂子「普通のこと、やってるだけ……」
純一「そうそう、これは僕らの仲では普通のことなんだ。至って健全で、若い男女の清い関係性なんだよ。
……なにも怖がることは無いよ梨穂子、ほら、ゆっくりと身体の力を抜いてごらん…」
梨穂子「うん……」すっ…
純一「僕に雪崩れかかるようにして、そう……上手く力が抜けてるよ。どうかな、梨穂子?」
梨穂子「とっても、きもちいいんだね……こうやって、もたれかかってると……」とすっ…
純一「だろ? これはとっても気持ちがいいものなんだ、だから悪いことじゃない。気持ちがいいものってものは悪いことは起こらないだろ?
梨穂子がいつも食べてるシュークリームだってそうだよ、食べたら口の中が気持ちが良くて、まったくもって悪いことだって思わないだろ?」
梨穂子「うん……うん……」とろん…
純一「素直でいい子だね、梨穂子。褒美に頭をなでてあげるよ」なでなで…
梨穂子「えへへ……純一、もっと撫でて~…」
純一「うん、いいよ。そしたらもっと撫でてあげよう」なでなで…
梨穂子「うんっ、えへへ~……───あ。じゅんいち、あのね…」
純一「うん?」
梨穂子「えっとね、そのね……えへへ、もっと……耳に息ふきかけても……いいよ…?」
純一「梨穂子、それは……」
梨穂子「……恥ずかしいけど、ね……でも、とってもとっても気持ちがいいんだぁ~…
でもこれって悪いことじゃないって純一言ってくれたから……ね?」ぐにぐに……
純一「こらこら、頬を首筋になすりつけるなよ」
梨穂子「むっふふ~、私の匂いなすりつけちゃうぞ~……っ」ぐりぐり…
純一「くすぐったいよ、梨穂子……ほら、耳に息吹きかけちゃうぞ?」
梨穂子「んっ、くぅ……あはは、私ったらちょっとクセになっちゃいそうだよ~…」
純一「もっと吹きかけてやろうか?」
梨穂子「ううん、今度は私が……ぱくっ」
純一「っ……り、梨穂子っ……首を噛むのは卑怯だって僕は思う…!」
梨穂子「むひゅひゅ? むっふー!」
純一「お、おおうっ…!」
梨穂子「はむっ、はむはむっ」
純一(い、いい調子じゃないか…! うん! 大丈夫、作戦通りに事は進んでる!)
純一(なんだか勢いでやってのけてしまったけど、梨穂子と少し進んだ関係になったと思えば上々だ!)
梨穂子「じゅんいち~っ」ぎゅう…
純一(よ、よし! ここまできたら流石に言えるだろう、梨穂子に対して『可愛い』という言葉を! 今!)
純一「───梨穂子、そんなに抱きついたら苦しいよ」
梨穂子「えへへ、いいんだもーん……純一こそ、もっと私に抱きついてよ~」
純一「仕方ないなぁ、ほら」ぐるっ
梨穂子「きゃっ!…じゅ、純一…?」
純一「こうやって壁と僕に挟まれると……ドキドキしない?」
梨穂子「う、うんっ……すごく、胸がドキドキしてる…っ」
純一「まるで僕に───食べられてしまってるような、僕の中に入ってしまったような感じじゃないかな」
梨穂子「純一に……食べられた感覚が───」どきっ
純一「…どうかな、梨穂子」
梨穂子「───うん、なんだかそんな感じがする……」もじっ…
純一「……そういうのって、梨穂子は嬉しいのかな」
梨穂子「ふぇっ!? あ、そのね、えっと……………………うん」ぷしゅー
純一「…………」じっ…
梨穂子「………っ」ちら
梨穂子「そ、そんなに見つめないでよ純一……」もじもじ…
純一「どうして、僕は梨穂子のことを見てたいよ」
梨穂子「だって、恥ずかしいんだもん……っ」きゅっ
純一「あはは、僕の首を噛んでおいて良く言うよ。本当に梨穂子は変わってるなぁ」
梨穂子「か、変わってなんかないよっ……ただ、わたしは……」
純一「うん…?」
梨穂子「っ……じゅ、純一の前では……素直なままでいたいだけ……っ」
純一「そっか、梨穂子……ありがとう。僕は嬉しくてたまらないよ」
純一「本当に、梨穂子って。かわいいやつだよn───ごはぁっ!?」ドゴッ!!
梨穂子「え、あ、純一───きゃんっ!?」ごちん!
ずしゃぁっ……
純一「───あたたたっ……な、何なんだ急にこめかみに衝撃が……ってあれ? 梨穂子!?」
梨穂子「きゅう~」
純一「き、気絶してる……もしかして僕に押されて壁に頭をぶつけたのか…?
って呑気に状況を把握してる場合じゃない!! 大丈夫か梨穂子!? しっかりしろ!」
梨穂子「えへへ、美也ちゃん……まんま肉まんは半分個ずつね? じゃあはい、美也ちゃんの分の三割っ」
純一「……大丈夫そうだな、うん」
純一「しかしながらさっきの衝撃はなんだ…? 何か飛んできたようにも思えるけど───」がさっ
純一「ん? なにか今、踏んだよう───うわぁああああああ!? 僕のお宝本んんん!」ばさっ
純一(しかも秘蔵コレクションの一つじゃないか…っ!? どうしてこんな校舎の廊下に……あれ?)
純一「なにかお宝本に挟まってる……こ、これはもしやすると『不幸の手紙』?」ぺらっ
『あ いて ちがう! !』
純一「……相手、違う?」
純一(どういうことだ……? 相手が違う、とは一体……?)くるっ
純一「……あ、裏にも何か書いてある。なになに───」
『───これも不幸の手紙です! また読んだよね? そしたらまた貴方は呪われましししたんです!
~~~…~~…… これからさらに条件を設けます。次に出会った女の子に『可愛い』と言わなければなりません』
純一「なん、だって……っ!? しまった、不幸の手紙なんだから更に呪われるのは当たり前か…!」
純一(なんだか所々、急いで消して訂正した部分があるな……誤字もあるし、というかそんなことより呪いの条件が増えてしまった)
純一「しかも僕のお宝本に挟んで送って来た、これっていつでもお前を見てるいぞ───」
純一「───お宝本を消すことが出来るぞという、もしや脅迫も兼ねているのでは…!?」
純一「……っ」がくぶるっ…
純一(こ、恐い……なんという恐怖なんだろう! 悪魔の所業だよ!)
純一(さっきのこめかみの衝撃は、この雑誌が投げられ僕にぶつけられたって事……それは不幸の手紙を書いた人物が、
僕のお宝本を常に所持していることになる……)
純一(……実質的な人質を、取られてしまったというわけか)
純一「っ……酷いよ、どうしてこんなことをするんだ! 人がするようなことじゃない!」
純一(だが僕はこの手紙に従わなくてはならない、こうして明白な脅しを突きつけられたんだ……くそっ!)
純一「次に出会う女の子に、可愛いと言わなくちゃいけないなんて……梨穂子でさえもなかなかに難しかったのに!」
純一「…………」ちら…
梨穂子「………」きゅ~
純一「……とりあえず、梨穂子を保健室に運ぶか。よいしょっと───」すっ…
純一「──梨穂子、ちょっと持ち上げるぞ。暴れないでくれよな……うぎっ!?」びきっ!
純一「お姫様抱っこは流石に僕には無理か……うん、じゃあちょっと失礼して」ごそごそ…
純一「よし、上手い具合に背負えた。大丈夫だからな梨穂子、ちゃんと保健室に運んでやるからな?」
梨穂子「う~ん……」
純一「よし、じゃあ行くぞ。おっとと……あぶないあぶない」とっととと…
保健室
純一「……ふぅ。なんとか無事にベットに寝かせ付けれたぞ」
梨穂子「すやすや……」
純一(途中、何度か寝惚けながら僕の後ろ髪をもぐもぐ食べやがって……よだれでべったべたじゃないか)
純一「まあ水で洗い落とせばいいよね、うんうん」
純一「──よし、じゃあさっそくながら問題へと立ち向かおうじゃないか!」
純一(手紙には次にである女のkに可愛いと言え、って書いてあったけど……ここまで来る時に誰も合わなかったなぁ。
保健室に先生もいなかったし、こればっかりは本当にランダムになるぞ……)
純一「……数少ない僕の女の子の知り合いの一人、だったらいいんだけどね」
純一「贅沢が言ってられないのはわかってる。だけどどうか僕の少ない女性関係の一人に……!」
純一(お願いします、神様……!)ぐぐっ…
がらっ…
純一(っ! …だ、だれか保健室に入ってきた! 誰だろう……ちょっと覗いてみるか)すすっ シャッ…
純一(遮断用のカーテンを少しだけ開いて……あれ? 誰もいない…?)
「ごくごく……ぷは。なにやってんのよ、アンタ?」
純一「っ~~~~!?」
純一(すでにカーテンの向こう側で、僕の近くにいた……?! は、はやい……既に存在がばれてしまっている!)
純一「って……こ、この声は……薫!」
「この声はって……当たり前じゃないの。他に誰がいるって、い・う・の・よ!」
薫「───こんなにも可憐で美しい声をしているのはあたしぐらいじゃない、知っておきなさいよ馬鹿純一」
純一「え? あ、そうなんだ。ふーん」
薫「まったくもってその興味のなさ……アンタちょっと冷たいわよね、ここ最近特に」
純一「はぁ? そんなことないだろ、僕はいたって普段通り接しているよ」
薫「嘘おっしゃい、棚町さんの目はごまかせやしませんぜっ?」
純一「誤魔化すつもりなんてないよ……それよりもお前、どうして保健室にいるんだ? またサボり?」
薫「アンタだけには言われたくないセリフね、それ……いや違うわ。ちょっと栄養剤を飲みに来ただけよ」
純一「またバイトで疲れてんのか……ちっとは加減をしろよな、ぶっ倒れても知らないぞ」
薫「あーはいはい、わかりましたよ。心配掛けてすみませんでした~」
純一「ったく……」
純一(本当に薫はバイト大好き過ぎるよなぁ、労働が好きなんだろうか?
疲れるだけって思うのによくやるよ……ん? そしたら薫は、疲れることをするのが好きなんだろうか?)じーっ
薫「……?」ごくごく…
純一(つまりは自ら労働に勤しむことにより、身体が疲労し体力が奪われ、倦怠感に襲われながら自宅へと帰って課題を終わらせて。
それら一連の流れを繰り返すことにより、なにか───こう、変質的な快感を覚えてしまっているのでは……!?)どきんっ
薫「……人が水飲んでる時の姿をあんまりじろじろ見ないでよ、変態」
純一「なあ、薫……ちょっと聞いても良いか?」
薫「なによ?」
純一「う、うんっ。あのさ、薫って……」
薫「うんうん」
純一「……ドMなのかなってぐはぁっ!?」ドヅンッ!
薫「…今、なんて?」
純一「き、聞こえてなかったのに殴ったのか…!? あんまりだよ! 傍若無人だよ!」
薫「べっつに人前で暴れてるわけじゃないでしょ? ふんっ!」
純一「僕は人じゃないって言いたいのか、薫はっ……!?」
薫「少なくとも、まともな人間じゃないってことは断言するわね」
純一「無くていいよそんな要素! くそ、だけど僕に意識が残ったままだということは……薫、本当に今日は疲れてるんだな」
薫(コイツは手加減したという言葉を知らないのかしら……まあ、本当に疲れてるんだけど)
薫「ま、さっきの言葉は水に流して上げる。それよりも話しを戻すけどアンタ、ここでなにしてるのよ」
純一「ん? あ、いや何でもないよ。ただ保健室にようがあっただけなんだ」シャッ
薫「…? 今のアンタ、カーテンのそっち側を隠したように見えたんだけど」
純一「えっ? い、いや……そ、そんなワケないだろ…!?」
薫「むー……」じとっ
純一「あ、あはは……」
薫「…見せなさい」
純一「だ、だめ」
薫「抵抗するならまた殴るわよ?」
純一「へ、平和的な解決を僕は望んでいる…!」
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