今日はとある大学の入試の日。
大学 正門──
受験生「よーし、絶対合格してやるぞっ!」
ライバル「やあ、受験生じゃないか」
受験生「お前はライバル!」
ライバル「ふっ、まさかこんなところで君に会えるとはね」
受験生「お前もこの大学を受けるのか」
ライバル「まぁね」
受験生「おかげでますます燃えてきたぜ! 勝負だ!」
ライバル「望むところさ!」
大学 教室──
受験生「まさかお前と同じ教室で、しかも席が隣り合うとは……」
ライバル「どうやらボクらは対決しなければならない運命らしいね」
受験生「これまでお前とは様々な分野で戦ってきたが──」
ライバル「勝敗は全くの五分と五分だったね」
受験生「この入試で長年続いたお前との因縁に決着をつけてやる!」
ライバル「いいだろう。正々堂々戦おうじゃないか!」
<試験科目>
英語 60分
国語 60分
地歴 60分
受験生「実にシンプルで分かりやすい構成だな」
ライバル「分かりやすい方が、決着も明確だ。いいことじゃないか」
受験生「まずは英語か。毎日ハンバーガーを食べてきた俺の実力を見せてやる!」
ライバル「ボクだって、毎日吹き替え洋画を観賞してきたさ!」
受験生「……やるな」
ライバル「君こそ」
~英語~
受験生「よぉ~し、最初は──」
問1 次の英文を和訳しなさい。
This is a pen.
受験生「!?」
受験生(なんだ、このふざけた問題は!?)
受験生(ま、まずい……いきなり分からない)
受験生(くそっ、まさかこんなハイレベルな問題を出してくるとは……)
受験生(せっかくこの間、大金を積んでTOEIC1級の資格を得たというのに……)
受験生(落ち着け……英語の長文読解はたとえ分からない単語があっても)
受験生(文脈や単語の構成から、内容の推測は十分可能だ!)
This is a pen.
受験生(Thisは代名詞だったはず)
受験生(isはbe動詞だったな。be動詞がなんだったかは記憶に残ってない)
受験生(仕方ないので伊豆にしよう)
受験生(aは……“あ”だな、間違いない)
受験生(penはなんだろうな……)
受験生(public environmental nation……通称P.E.N)
受験生(たしかこんな用語を見たことがある。夢で)
受験生(公共の……? 環境の……? 国民……?)
受験生「………」
受験生(分かったぞ!)
受験生(これは国家ぐるみで環境問題に取り組んでいる国民のことだ!)
受験生(つまり、日本人だ!)
受験生は一問目を解答した。
『代名詞伊豆あ日本人』
受験生(よぉ~し、二問目……)カリカリ
ライバル(む、もう一問目を解いたのか。早いな……)
ライバル(仕方ない。この技は使いたくなかったが……封印を解く!)
ライバルはムチャクチャに解答用紙に文字を書き始めた。
ガリガリガリガリガリ……
受験生(な、なんだ……? ライバルが異常な早さで問題を解いている!)
受験生(ま、まずいっ! 俺もスピードを上げなくては!)カリカリ
ライバルが使ったのは『焦燥を誘う筆(クイック・ライティング)』という技だ。
凄まじい速度で解答を行っているように見せかけ、敵の焦りを誘う高等テクニックだ。
ライバル(ふふふ、焦っているね……)カリカリ
ライバル(さらにスピードを上げるよ!)ガリガリガリガリ
受験生(ウソだろ!?)
受験生(くそう、本当に問題読んでるか怪しいくらいの速さじゃないか……)
受験生(ライバルめ、ここまで英語力をつけていたとは……)
受験生(ならば──アレをやるしかない!)
受験生は問題用紙を激しい音を立てながらめくった。
ベラッ!
ライバル(バカな!? もう1ページ目を終えて2ページ目へ!?)
ライバル(いくらなんでも早すぎる!)
ライバル(『焦燥を誘う筆(クイック・ライティング)』によって)
ライバル(受験生の秘められた英語力を引き出してしまったのか……?)
受験生は『次の世界へようこそ(ネクストステージ)』を使っていた。
問題用紙をめくることで、敵にそのページの問題を解き終えたと錯覚させる技である。
受験生(まさか『次の世界へようこそ(ネクストステージ)』を使うことになるとは)
受験生(さすがはライバルだぜ!)
試験開始30分後──
受験生とライバルはお互いに技をかけ合っていた。
つまり、受験生はひたすら問題用紙をひっくり返し、
ライバルは解答用紙に何かを書きまくっていた。
受験生(残り時間30分か……)
ライバル(そろそろ仕掛け時だな)
二人は同時に同じ技を繰り出した。
受験生&ライバル(『永遠なる沈黙(エターナルサイレンス)』!)
これはあえて全ての動作を止めることで、
敵に「自分は全ての問題を解き終えた」と絶望を与える技である。
受験生(む……ライバルも同時にペンを置いただと!?)
ライバル(受験生はもう全て解き終えたというのか!?)
受験生(マズイ……結局まともに解いたのは一問だけだ。どうする?)
ライバル(『永遠なる沈黙(エターナルサイレンス)』を解除すべきか?)
受験生&ライバル(いや、技の解除──それすなわち、敗北!)
受験生&ライバル(このまま試験終了まで技を継続する!)
試験終了のチャイムが鳴った。
受験生(終わった……)
受験生(結局最初の一問しか解かなかったな……)
受験生(まぁいい、残り2教科で満点取れば十分挽回できる!)
ライバル(ふふふ、『永遠なる沈黙(エターナルサイレンス)』解除!)
ライバル(なかなかいい戦いができたよ、受験生)
ライバル(残り2教科も面白い勝負ができそうだ!)
~休み時間~
受験では、休み時間も戦いである。
受験生「どうだった?」
ライバル「君こそ、どうだったんだい?」
受験生「けっこう難しかったけど、8割は固いってとこかな」
受験生が『安全なる得点圏(ボーダーキープ)』で先制攻撃。
一般的に私大入試の合格ラインは6.5~7割程度ともいわれるが、
これを超える8割以上の得点はキープしたとウソをつくことで、
敵に大ダメージを与える技だ。
ライバル(難しいというわりに、8割も取れたのか……!)
ライバル(ボクは『焦燥を誘う筆(クイック・ライティング)』に力を費やしたから)
ライバル(1割取れたかどうかも怪しいのに……!)
受験生「お前はどうだったんだよ?」
ライバル「内緒、さ」
受験生「なんだと!? 俺は教えたんだから、教えろよ!」
ライバル「敵に手の内を明かすほど、ボクは甘くないよ」
受験生「ぐっ……!」
ライバルは『黙秘剣(シークレットソード)』で対抗。
自分の情報を出さないことで、敵の疑心・混乱を誘うテクニックだ。
受験生(なんだ、あの不敵な笑みは……)
受験生(一問目以外白紙の俺とちがって、マジで8割くらい取ってそうだ……)
~国語~
現代文と古文から成り立つ形式である。
受験生(まずは現代文から解いていこう)ペラッ
受験生(うわっ、なんだこの文章は!?)
受験生(漢字がメチャクチャ多いじゃないか!)
受験生(くそっ、全部平仮名にしてくれよ……俺みたいな受験生もいるんだから)
受験生(せめて振り仮名つけるとかさぁ……サービス精神がなってないな)
受験生(こうなったら、仕方ない!)
受験生(『運転がし(ローリング・ペンシル)』発動!)コロコロ
これは、全てを運に任せ鉛筆転がしの結果で解答するという奥義である。
古来より、数多くの受験生がこの技に頼ってきたといわれている。
ライバル(ボクは古文の方が得点源だからね……)
ライバル(先にこっちを終わらせてリラックスしよう)ペラッ
ライバル(なぜ古文が得意かって?)
ライバル(ボクにはイタコの才能があるからさ!)
ライバル(『鎮魂さんいらっしゃい(ラブコール)』がね!)
『鎮魂さんいらっしゃい(ラブコール)』とは、
歴史上の人物を我が身に宿した気になれる能力である。
ライバルの精神世界──
ライバル「さあ、古文のアドバイスをくれ! リンカーン!」
リンカーン「人民の人民による人民のための政治」
ライバル「政治じゃない、今は古文について聞いているんだ!」
リンカーン「人民の人民による人民のための政治!」
ライバル「だから政治じゃないっていってるだろ!」
リンカーン「人民の人民による人民のための政治ッ!」
ライバル(くそっ……仕方ない!)
ライバルは古文の解答欄を全て『人民の人民による人民のための政治』で埋めた。
試験終了のチャイムが鳴った。
受験生(よし、今度は全部の問題を解いたぞ!)
受験生(これも鉛筆のおかげだ、ありがとう)
受験生(運がよければ、俺は満点間違いなしだ!)
ライバル(ふふふ、完璧だ……)
ライバル(採点者がリンカーンファンなら、ボクの満点は確実だ!)
ライバル(これで英語での失敗は取り返せたな……)
~休み時間~
受験生「いよいよ次でラストか……」
ライバル「どうやらボク、国語は満点を取れそうだよ」
受験生「俺もだよ」
ライバル「さすがはボクが認めた男、そうこなくてはね」
受験生「お前こそ、俺のライバルだけはあるぜ」
ライバル「さて、次でいよいよラストだ。手加減はしないよ!」
受験生「望むところだ!」
~地歴~
受験生(世界史、日本史、地理のいずれかから選択か……)
受験生(ちなみに俺は世界史を勉強してきた)
受験生(古代史から近未来史まで、全て頭に詰まっている)
受験生(なぜなら大は小をかねる。世界史を極めれば、日本史も極められるからだ)
受験生(だが、俺はあえて全く勉強していない地理に挑む!)
受験生(おそらく試験作成者は俺が世界史を勉強していると読んで)
受験生(世界史には超難問を用意しているにちがいない)
受験生(だからこそ、俺は地理を選ぶことで、試験作成者の裏をかく!)
ライバル(ふふふ、ボクは日本史を選択させてもらうよ)
ライバル(リアス式海岸の形状をしたボクの脳には、日本史こそが相応しい)
ライバル(木曽山脈の如き雄大な日本史は、ボクの心を癒やしてくれる)
ライバル(親潮のように流れるようなペンさばきで、ボクは日本史を解いてやる)
ライバル(ボクの日本史知識はフィヨルドだって真っ青さ)
ライバル(10分も経たないうちに、ボクの答案はカルデラ湖になるだろう)
ライバル(そして、ボクは晴れて大学生という名のツンドラ気候になるんだ!)
ライバル(ハーッハッハッハッハ……)
試験開始10分後──
受験生(くそっ、一問も分からん!)
受験生(やはり全く勉強してない科目を解くのは難しいな……)
受験生(だが俺は諦めないぞ! 最後までベストを尽くす!)
ライバル(ふむふむ、地租改正の税率は何パーセントか、だって……?)
ライバル(100パーセントに決まってる!)
ライバル(なぜなら、ボクが偉い人だったら100パーセントにするからね!)
ライバル(刀狩りを行った人物は……バイカル湖だったはず)
ライバル(フンフ~ン)カリカリ
受験生(ライバルめ……着々と問題を解いているな!)
受験生(このままではまずい……)
受験生(仕方あるまい)
受験生(この技を使って、ライバルを足止めしなければ!)
受験生は机に向かって消しゴムを猛烈な勢いでこすり始めた。
その往復速度、およそ100km/h!(やや誇張アリ)
出来あがった消しゴムのカスの山。
受験生はこれを、ライバルめがけて吹きかける。
受験生「喰らえッ! 『邪悪なる霧(ダーティミスト)』!」
ライバル「──ぐわっ!」
ライバル(目の中に消しカスが入った!)
ライバル(くっ、『邪悪なる霧(ダーティミスト)』とは、やられたよ!)
ライバル(ボクの視界がDarknessになってしまった!)
ライバル(このままでは失明してしまう!)
ライバル(回復しなければ!)
ライバルはこんなこともあろうかと持っていたタマネギを、手でむしり始めた。
ライバル(『浄化する涙(クリーニング・アイ)』!)
ライバルはボロボロ涙をこぼすことで、目に入った消しゴムのカスを洗い流した。
ライバル(よし、回復完了!)
受験生(やるな……さすがはライバル!)
ライバル(ふふふ、今度はこちらから攻めさせてもらうよ!)
受験生(来いッ!)
ライバル(『ICBM(大学内弾道ミサイル)』ッ!)
ライバルは受験生の利き手である右手めがけ、鉛筆を投げつけた。
受験生「──ぐぁっ!」
受験生(鉛筆が俺の右手に刺さった……!)
受験生(くそっ、これではもう右手で試験を解くことはできないっ!)
『ICBM(大学内弾道ミサイル)』とは、
“in college ballistic missile”の略である。
大学受験でのみ使用を許される近代兵器の一つだ。
ライバル(終わったね……。あの右手ではもう解答は不可能だ)
ライバル(せいぜい失血死しないよう、傷口にハンカチでも当てておくことだ)
ライバル(これでボクの勝ちは決まっ──!)
ライバル(なにぃ!?)
受験生(甘いな……)カリカリ
ライバル(左手で……問題を解いている!?)
受験生(これを披露する日が来ようとは……)カリカリ
受験生(『左右雇用機会均等法(レフトアンドライト)』をッ!)カリカリ
『左右雇用機会均等法(レフトアンドライト)』について説明しよう。
これは、右利きの人間が左手で頑張るという技である。
受験生(字はメチャクチャ汚いが……解答はできる!)カリカリ
受験生(貴重な鉛筆を一本無駄にしたな、ライバル!)カリカリ
ライバル(くそっ、今日は鉛筆を二本しか持ってきていない……)
ライバル(もう『ICBM(大学内弾道ミサイル)』は使えない!)
ライバル(こんなことならもっと鉛筆を用意しておくべきだった!)
ライバル(両手を封じれば、ボクの勝ちは確定したのに!)
受験生(さて、今度はこっちが反撃する番だ!)
ライバル(いったいなにをやる気だっ!?)
受験生(狙いは──お前のカバンだ!)
受験生はライバルのカバンを開け、中から携帯電話を取り出した。
ライバル(ま、まさか……!)
そして、電源を入れ──自分の携帯電話からライバルに電話をかけた。
ライバル(し、しまったぁっ!)
ピロロロロ…
受験生「この入試で長年続いたお前との因縁に決着をつけてやる!」
ライバル「いいだろう。正々堂々戦おうじゃないか!」
正々堂々……
受験生(最終奥義『地獄の鎮魂歌(ヘル・レクイエム)』……)
受験生(これでお前は退場だ!)
『地獄の鎮魂歌(ヘル・レクイエム)』とは、
敵の携帯電話を鳴らし、退場処分に追い込むという受験生の最終奥義である。
試験監督「ん、今ケータイの音がしたぞっ!?」
試験監督「そっちから聞こえたぞっ!」ザッザッ
竹刀を持った試験監督が、ライバルのもとに歩いていく。
受験生(やった……俺の勝利だ!)
ライバル(ふっ、甘いよライバル……。一人で地獄には堕ちない!)
ライバル(『地獄の返歌(ヘル・レクイエム・リフレクション)』!)
ライバルは自分からも受験生の携帯電話に電話をかけた。
トゥルルル…
受験生(やられたっ!)
受験生の携帯電話からも音が出てしまった。
試験監督「そこの二人、さては携帯電話をいじっているな!?」
試験監督「不正は許さん!」
試験監督「キサマら二匹まとめて退場処分にしてくれるわっ!」
受験生(やられた……!)
ライバル(ふふふ、どうだい? これで君も──)
受験生(『証拠隠滅(テレフォンクラッシュ)』!)グシャッ
受験生は携帯電話を破壊した。
ライバル(なんだとっ!?)
ライバル(ならばボクも、『証拠隠滅(テレフォンクラッシュ)』!)ガシャッ
ライバルも携帯電話を破壊した。
試験監督「さぁ、キサマら! 手に持っているものを見せてみろ!」
試験監督「どうせ携帯電話だろう!?」
受験生とライバルは携帯電話の残骸を見せた。
受験生「俺の携帯電話壊れてるんですけど、こんなので音が出ますか?」
ライバル「ボクもです。あなたの聞き間違いだと思いますが……」
試験監督「た、たしかに……これほどに壊れていては音が出るはずがない」
試験監督「君たち、疑ってすまなかったな。試験に戻るがいい」
受験生「どうも」
ライバル「分かりました」
受験生(ほっ……)
ライバル(セーフ……)
『地獄の鎮魂歌(ヘル・レクイエム)』対決は、両者痛み分けに終わった。
受験生(危なかった……)
受験生(さすがはライバル、まさかあんな返し技があるなんてな)
ライバル(恐ろしい技だったよ……『地獄の鎮魂歌(ヘル・レクイエム)』……)
ライバル(携帯電話はパーになったが、退場よりはマシだろう)
受験生(しばらくは試験監督に目をつけられているだろうから、技を出せない)
受験生(仕方ない……我慢も戦いのうちだ!)
ライバル(今はじっとチャンスを待つ時だろう……)
ライバル(次に仕掛けるのは、試験開始30分後だ!)
二人は眠ることで体力を温存する作戦を取った。
受験でもっとも重要なのは知力でも時の運でもなく、体力である。
二人とも、今は問題を解くより体力回復を優先すべきだと理解していた。
そして体力を回復しながらも、虎視眈々と“その時”を待っていた。
これは即戦闘に移れる睡眠法『睡眠武即(バトルスリープ)』である。
受験生(今日こそ決着をつけてやるぜ、ライバル!)スースー
ライバル(受験生、ボクが勝ってみせる!)グガー
試験開始30分後──
二人は同時に目を覚ました。
受験生(先手は俺がもらうぜ!)
受験生は問題用紙の一部をビリビリ破くと、紙片をライバルに投げた。
受験生(『暇を持て余した紙々の遊び(ペーパースノウ)』!)
『暇を持て余した紙々の遊び(ペーパースノウ)』は、
殺傷力こそ『邪悪なる霧(ダーティミスト)』に劣るが、
長時間滞空するためそれだけ相手の集中を削ぐことができる。
ライバル(くっ、なんて技だ! 紙がうっとうしいっ!)
ライバル(ならばこちらも手段は選んでいられない!)
ライバル(君が紙の力を借りるなら、ボクは大地神ガイアの力を借りよう!)
ライバル(『大地の憤怒(アースクエイク)』!)ガタガタ
『大地の憤怒(アースクエイク)』とは、
机を揺らして敵の解答を妨害する大技である。
受験生(すごい揺れだ……! これじゃとても解答なんかできないぞ!)ガタガタ
受験生(まさか、こんな技を習得していたとはな……!)ガタガタ
受験生(とにかく、この地震を止めないと試験どころじゃない!)ガタガタ
受験生(『純白の立方体(ホワイトキューブ)』発射!)ガタガタ
受験生は『純白の立方体(ホワイトキューブ)』、すなわち消しゴムを投げた。
ライバル(消しゴムが右鼻の穴に突き刺さった!)ガタ…
ライバル(ボクは口呼吸が嫌いで、左鼻の穴は風邪で詰まっているから──)
ライバル(呼吸が出来ない!)
ライバル(ま、まずい……意識が遠のく……)クラッ
ライバルは鼻の穴から消しゴムを取り、かろうじて窒息死を免れた。
ライバル(さすがは受験生、ボクの予想を遥かに上回る強さだ)
ライバル(やはり全てを出さなければ、受験生を倒すことはできないね)
ライバル(やらせてもらうよ、本気で……!)
ライバル(『時を駆ける装置(タイム・マシーン)』装着!)
ライバルは腕時計をメリケンサックのように右手にはめた。
これでライバルのパンチ力は24時間×60分で、1440倍になった。
ライバル(喰らえッ……『時を破壊する拳(タイム・パンチ)』ッ!)バキィッ!
ライバルの右ストレートが、受験生の顔面に直撃した。
受験生「ぐがぁっ!」
受験生(なんて威力だ……!)
受験生(これはライバルの必殺技『時を破壊する拳(タイム・パンチ)』!)
受験生(これはもう、なりふりかまっちゃいられねえな!)
受験生(禁断の技『切り裂く鉛筆(ペンシル・クロー)』を出すしかないッ!)
受験生は四本の鉛筆を指の間にはめ、拳を握った。
受験生(いけぇっ! 『四死重力鉛筆(ペンシル・ニードル)』!)ザクッ!
四本の鉛筆が、ライバルの肩に突き刺さった。
ライバル「いぎゃあっ!」
互いに一撃を与えあった両名が、不敵に笑う。
受験生(これはもう──)
ライバル(アレをやるしかないようだね!)
受験生&ライバル(『受験戦争(リアルファイト)』を!!!)
バキッ! ドカッ! ガスッ! ドゴッ!
武器を捨て、全力で殴り合う二人。
『受験戦争(リアルファイト)』とは、大学入試を極めに極めた二人にのみ許された、
究極のサバイバルマッチである。
試験監督「!?」
試験監督「キサマらぁ、試験中になにを殴り合っている!」
試験監督「失格だ! 二人ともすぐに教室から出ていけっ!」
受験生「イヤだね」
ライバル「イヤです」
試験監督「この俺に逆らう気か!?」
試験監督「──ならば、この竹刀で叩き出してくれるわッ!」
試験監督が襲いかかってきた。
受験生「とてつもない邪悪なオーラだ……油断するなよっ!」
ライバル「オーケー!」
試験監督「素手で竹刀に敵うものかっ!」ブンブンッ!
受験生「くそっ、あれじゃ近づけない!」
ライバル「遠距離攻撃ならボクに任せてくれ」
ライバル「この残り一本に全てを賭ける!」
ライバル「『ICBM(大学内弾道ミサイル)』だッ!」
鉛筆が試験監督の眉間に突き刺さった。
試験監督「うぎゃあああっ!」
ライバル「今だ、トドメをっ!」
受験生「よっしゃあ!」
受験生「電子辞書にしてなくてよかったぜ……」
受験生はカバンから英和辞書を取り出す。
受験生「これでトドメだっ!」
受験生「『吾輩の辞書に不可能の文字はない(ナポレオン・ディクショナリー)』!」
『吾輩の辞書に不可能の文字はない(ナポレオン・ディクショナリー)』とは、
ぶ厚い辞書で敵を殴打する秘伝中の秘伝である。
むろん、刺激的な単語にはもれなくピンク色のマーカーでラインが引いてある。
受験生「おりゃあああっ!」ドゴォッ!
試験監督「バ、バカな……この俺がこんな奴らに……!」
試験監督「だが、覚えておけ……俺を倒しても……」
試験監督「第二、第三の試験監督が現れ……キサマらを……必ず……!」ガクッ
試験監督は気絶した。
受験生「やったぜっ!」
ライバル「さすが受験生、みごとな一撃だったよ!」
受験生「いや……お前のミサイルがなければ、あいつは倒せなかった」
受験生「この勝利は二人の勝利だ!」
ライバル「ふっ……そうだね」
試験を受ける者にとって、試験監督はもっともやっかいな存在(てき)である。
いなくなるに越したことはない。
周りの受験者たちからも歓声が上がった。
「よくやったっ!」 「あなたたち、スゴイわ!」 「最高のコンビだぜっ!」
だが、試験監督がやられ際に放った言葉……。
“だが、覚えておけ……俺を倒しても……”
“第二、第三の試験監督が……キサマらを……必ず……!”
これは的中してしまうことになる。
試験監督B「コラーッ!」
試験監督C「何をやっているんだ!」
受験生とライバルは騒動を聞きつけてやってきた新手の試験監督たちによって、
教室から追い出されてしまった。
試験終了後──
受験生「今日はいい戦いができたぜ! 今までで一番かもしれないな」
ライバル「ボクもさ」
受験生「この大学……」
受験生「……どっちも合格してるといいな」
受験生「俺、お前と同じ大学に通ってもっと色々勝負したいよ」
ライバル「ふっ、そうだね」
ライバル「お互いベストは尽くしたし、あとは合格発表を待つのみさ」
受験生「じゃあな」
ライバル「うん、さようなら」
合格発表日──
二人は再び大学に来ていた。
受験生「よぉ、ドキドキしてきたぜ」
ライバル「ボクもだよ。自信があるとはいえ、やっぱり緊張するね」
受験生「ネットや電話でも分かるけど、やっぱこういうのは掲示板で見ないとな!」
受験生の番号は1192、ライバルの番号は1185である。
ライバル「あの掲示板に書いてあるんだね」
受験生「よっしゃ、見に行こうぜ!」
ライバル「え~……っと」
受験生「1192、1192……」
ライバル「あったよっ!」
受験生「俺もだっ!」
感激し、抱き合う二人。
受験生「大学生になっても、俺たちはライバルだぜ!」ガバッ
ライバル「もちろんっ!」ガバッ
厳しい戦いであったがゆえに、喜びもひとしおであった。
~
学生A「おい見ろよ、この合格発表の掲示板。定員割れしてたみたいだな」
学生B「ハハハ、ホントだ。この学部人気ないからな」
<平成24年度 妥協大学 妄想学部 一般入試合格発表>
1185
1192
上記2名を除き、合格とする。
おわり
この物語はフィクションです。
実際の大学受験とは一切関係ありません。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません