まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」 ACT2 (286)


この作品はまどマギ×ジョジョのクロスオーバーSSです。

また、本スレはまどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361546925/) の続きとなっております。ご了承下さい。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1364654387


#26『未来へ立ち向かう力』


Yumaという使い魔を倒したさやかは、

きょろきょろと辺りを見回しながら廊下を歩いている。

途中で魔女に会うならそれはそれで構わない。

スタンド使いの使い魔でも構わない。

何故なら、自分にもスタンドがあるためである。

レイピアを持った、銀色の甲冑のようなスタンド。

名前は既に決めてある。


さやか「うーん……どこに行けばいいんだろう」

さやか「みんな無事かな」

さやか「仁美は避難できたかな……」


テレパシーで呼びたいのは山々だけど……。

ほむらはあたしを助けてくれた。それはつまり、現在絶賛バトル中って可能性が高い。

杏子とキリカさんは今何してるかわからない。

下手に呼びかけて邪魔するような……KYな結果になったら嫌だ。

それに……考えたくないことだけど……あり得ないことではないけど……

呼ぶのが怖い。

もし杏子やキリカさんに呼びかけて返事が返ってこなかったなら……

シーンとした静寂だけだったらって思うと……それが恐ろしい。

負けるはずがないって思うと同時に、もしかしたらって思うと……

だから呼べない……。

万が一があったら……受け入れられるか断言できない。


——敵は後、何体いるか。

不安な気持ちを紛らわすために、さやかは考える。

ほむらから聞いた情報。

前の時間軸でほむらが知っているスタンド使い。

まどか、自分、マミ、杏子、ゆま、織莉子、キリカ、

恭介、仁美、M市の魔法少女。

M市の魔法少女がアーノルドになったという。

そして、迷宮化した学校は元に戻っている。それはHitomiが死んだということを表す。

つまり、それらの内この時間軸で使い魔として産まれ、

さやかがわかる範囲で存在しない概念は——

杏子、織莉子、仁美、ゆま、M市の魔法少女……

もとい、シビル・ウォー、リトル・フィート、ティナー・サックス、キラークイーン、水を熱湯に変えるスタンドである。

あくまでほむらが知っている範囲であるから他にもいるだろうけど……と、さやかは思った。


さやか「…………」

さやか「……ティナー・サックスとやらがいなくなったのはいいけど……参ったな」


アーノルドの結界は空が黒くなるという特徴がある。

しかしティナー・サックスにより、漆黒の空は誤魔化されていた。

空が黒くなっている。

幻覚が消えたためである。

学校を迷宮にしておいて今更誤魔化す必要はあったのか、とさやかは思ったが、

今はそれよりも意識すべきは、この異常性に気付いた一般人のパニックである。

放課後故に人数そのものはそれほどでもないが、

残っていた生徒職員が混乱し、逃げまどっているらしく、騒がしい。

さやかには、どうすることもできない。


「……うっ、ひぐっ」


さやか「……ん?」

「うくっ……うぇっ、ぐすっ」

さやか「……泣き声?」


歩き回っている内に、さやかは図書室の前に辿り着いていた。

内部から、とても懐かしく思える声が聞こえた。

「偽物」はもういないはずなので「本物」である。


さやか「……『仁美』」

さやか「図書室に……逃げ込んだのか」

さやか「…………」

さやか(……化け物、か)

さやか(…………)


逃げ回っている内に、足首を怪我してしまった。

足首を捻り転倒した際、何故か五寸釘が落ちていて……刺さってしまった。

ジンジンと痛み、走れない。

痛みと恐怖に堪えながら、足を引きずり、たまたま近かった図書室に逃げ込んだ。

隠れる場所があるからだ。仁美は本棚の陰に隠れ、すすり泣きながらずっと膝を抱えていた。

突然学校が迷路のようになり、隻腕の子どもに出会った。

その子どもは『化け物』だった。化け物のせいで訳も分からず謎の苦痛に襲われ、

そして親友の姿をした同類であろう化け物が苦痛を消した。

理解が追いつかない。


仁美「うっ、うぅ……うぐっ、ひぐっ……」

仁美「誰か……誰か助けて……お父様……お母様ぁ……」

仁美「もぉいやだよぉ……いやぁ……!」


仁美「死にたくない……ぐすっ」

仁美「死にたくないよぉ……」

「……仁美!」

仁美「!」


体がビクリとする。思わず身構える。

「化け物」と同じ声がした。


さやか「大丈夫!?」

仁美「…………」

仁美「さやかさん……!」


服が違う。『本物』だ。

白と水色の、剣を持った化け物はいなかった。

そこにいるのはいつも見る制服を着た親友だった。


仁美「…………」

さやか「仁美!怪我はない!?」


血が染みたズタボロの制服のせいで、顔や体は血で汚れている。

固まった血で髪はゴワゴワで、ほとんど半裸の自分。

そんな状況の自分に、一切不気味がることなく心配してくれている。


仁美「うぅぅ……」

仁美「……さやかさぁぁぁぁん!」

さやか「うわっと!」

仁美「さやかさん!さやかさん!うぐっ、ぐすっ、さやかさん!さやかさん……!」

仁美「怖かった!怖かったよぉ……!さやかさん……!あうぅ……ひぐっ」

さやか「……仁美」

さやか「……大丈夫!大丈夫だからね!」


仁美は思わずさやかに抱きついた。

寂しく、怖かった。心が救われた気持ちになる。

ハッキリ言って自分の姿は汚い。

しかしさやかは、むしろ抱きしめ返してくれた。

涙と鼻水が止めどなく溢れてくる。

自身の制服が体液で汚れることに一切気に留めていない。


仁美「さやかさん……ぐしゅ、さやかさん……!」

さやか「…………」


仁美……。ごめんね。

変身を解いて接するなんて……

自分を隠すなんて、ずるいよね。

だけど……あたしも怖かったんだ。

魔法少女の姿で会って、あんたに怖がられるのが……。


何分くらい経ったか——

あるいは長く感じただけで実際には数十秒しか経っていないかもしれない。

仁美はずっとさやかを抱きしめていた。

さやかはそれに応え、強く抱きしめ返していた。


さやか「……落ち着いた?仁美」

仁美「…………」

さやか「……仁美?」

仁美「…………んぅ」

さやか「…………」

さやか「……あはは、寝てらぁ。こいつ」

さやか「安心……したんだね」

さやか「こんな状況で寝れるなんて……あんたもあんたで肝が据わってるよ」

さやか「…………」


仁美は体力的にも精神的にも疲労困憊の状態にあった。

不可抗力で肌を露出していたためか、さやかの体温をより感じることができた。

安心感、柔らかい感触と、温かい心地。

瞼を閉じたらいつの間にか意識をなくしてしまった。

すぅ、すぅ、と寝息を立てている。

普段はほむらと別のベクトルで落ち着いていて、

中学生にしては大人びた性格と態度をしている。

しかし、今の仁美は母親に抱かれた幼子のように、

安らかで庇護欲をかきたてられるような寝顔をしている。

さやかは、仁美の足首を手で触れる。魔力を与え、傷を治すために。


さやか「仁美は……」

さやか「……仁美は渡さないからな」


さやか「あんたが『アンダー・ワールド』なんだね」

「…………」


『そいつ』は全長約2m。顔があり、肩があり、四肢がある。

左右の、目があるべき部分からゴムチューブのようなものが生え、

背中にかけて伸びている。悪趣味な魔改造をされたマネキンのようだった。

さやかは立ち上がり、制服の上着を脱ぐ。

脱いだ制服を寝息をたてている仁美にかけ、変身した。

さやかは剣先を、魔女アーノルドのスタンドに向けた。

アンダー・ワールドは機械音声のような声で喋る。


「アト一匹で……モウ一匹産メルんダ。折角ダカラ」

さやか「……このドグザレが」


こいつを殺せば……全てが終わる。

こいつを殺せば……今までに死んだ人たちの仇がとれる。

マミさん、恭介、他たくさんの人々。

みんなの魂の名誉のためにも、こいつは殺さなければならない。


さやか「あたしのスタンドで……針串刺しの刑に処してやる」

「…………」


さやかの姿がブレ、銀色の甲冑が現れる。

さやかのスタンドはレイピアを構える。

このレイピアは突くだけでなく、斬ることもできる。

剣の達人のスタンド。

二種の剣が、スタンドを狙う。


このスタンドには表情というものがない。

アンダー・ワールドは淡々と話す。


「アンダー・ワールド……僕ノ『本来』の能力ヲ……知ってイルノカイ?」

さやか「……本来の能力?」

さやか「そんなもん、知る前に刻んでやる」

「イイヤ……僕モ死ヌ訳ニャイカン……」

さやか「奇遇だね。あたしも殺させる訳にゃいかないんだよ!」


アンダー・ワールドはその場でしゃがみ、床に手で触れながら喋る。

銀色の甲冑はレイピアを、さやかはカットラス風の剣を構え、

諸悪の根元に一歩分近づいた。


『魔法武器が何でできてるか知らねーけどよぉ……』

さやか「……は?」

さやか「何だ……今の声」

『鋼の融点は……炭素の含有量によってそれは下がるが……およそ1600℃くらいだそうだ。学校で習っただろう』

さやか「な……!?」

さやか「あ、あんた……い、いつの間に……!」

「僕の能力ダ……地面……モトイ『床の記憶ヲ掘リ起こしタ』……ツイサッキのコトサ!」

さやか「……『杏子』ッ!」


赤銅色のポニーテールをした、魔法少女がそこにいる。

しかし、実際ここにいるわけではない。

図書室で使い魔を対峙していた『少し前』の「佐倉杏子」の事実。

過去の事実を掘り出す。それがアンダー・ワールド本来の能力。

その能力が魔女の力と共鳴した結果が、ヴェルサスという使い魔群である。


『今からあたしは2000℃の炎であんたを燃やしてやる!』

『あんたをスタンドごと体ごと焼き尽くす!』

さやか「杏子が……ここにいたんだ……!これは杏子の過去!」

さやか「それに……す、スタンドだって!?」

さやか「杏子もスタンドに目覚めたのか!」

さやか「くそぅ!一番聞きたかった声をこんな形で聞くことになるとは……!」

さやか「——ハッ!や、ヤツはッ!?」

さやか「し、しまった!気を取られて……!」


アンダー・ワールドは消えていた。

佐倉杏子がいた事実を掘り起こしただけで去っていった。

アンダー・ワールドは戦闘向きのスタンドではない。

加えて、既に結界を維持するためにスタンドエネルギーを使っている最中でもある。

圧倒的に不利だったため、逃げた。


さやか「逃げられたか……」

さやか「こ、『これ』はどうすればいいんだ!?」


『そんなの、佐倉杏子が許さん!』

さやか「う、うぅ……!」


佐倉杏子の事実は片膝をつき、祈るような手の形を作った。

顔が清らかに見えた。普段の態度からは想像もできない。

そして背後にいる『鳥人型スタンド』は構える。


さやか「な、なんだ……!空気が……」

さやか「暑い……いや!熱すぎる!」

さやか「これは……!」

『クロス・ファイヤー・ハリケーン!』


それは『炎』だった。

『佐倉杏子が操る炎のスタンドが、美樹さやかという概念を焼いた』

——という事実が襲いかかる。


赤色のスタンドは両手を交差して炎の塊を生成した。

その炎は巨大な『十字架』の形をしている。

炎の塊が迫れば迫るほど、空気が熱くなる。

その勢いに、さやかは気圧された。

まるで炎上している納屋に放り込まれたかのような恐怖心。


さやか「こ、これは!ヤ、ヤバイ!」

さやか「この炎!ヤバすぎる!」

さやか「し、しかし……!」

さやか「ここで避けたら仁美が……!」


仁美は、寝苦しそうに眉を潜めている。暑いからだ。

ここで横に避ければ、その炎は仁美に衝突する。そういう軌道。

加えて下手に目を覚まさせてこの姿を見せるわけにはいかない。


さやか「…………」

さやか「そうか……杏子は炎のスタンドか」

さやか「家族を火事で亡くしたって聞いてたのに……」

さやか「克服したんだね。杏子。過去を……」

さやか「だったら、あたしもこんなところで臆病風に吹かれてる場合じゃあないね」

さやか「気合入れろよぉ〜……あたしのスタンド!」


銀色の甲冑はさやかの目の前に立ち、身構える。

十字架型の炎を、スタンドで『受け止める』つもりでいる。

炎を受け止めて、仁美を守る。

スタンドが傷つくと本体にもダメージが及ぶ。

さやかの体はただでは済まないだろう。

しかし、逆を言えば……本体にダメージを受けるとスタンドも傷つく。

それのさらに逆を言えば——


十字の炎がさやかに迫る。

まず熱風がさやかを包み、次いで灼熱が襲う。

2000℃の炎がやさかとスタンドを覆った。


さやか「ぐぅぅあああぁぁぁぉぉぉぉぉッ!」

さやか「よ、予想以上……だ!予想以上のエネルギー!」

さやか「し、しかし……!銀色の!」

さやか「あんたの火傷はあたしが『治して』やる!」

さやか「気合で止めろ!根性で何とかするんだ!」

さやか「仁美を守ってやるんだッ!」


そう!逆を言えば……本体が治れば、スタンドも治る!

例えあたしのスタンドの『防御甲冑』が溶けようとも、溶けるダメージがあたしに及ぼうとも!

あたしが治癒魔法で治れば、甲冑も直るはずだ!


さやかは、数学の授業で似たようなものを聞いた記憶があった。

あの時、数学教諭は裏だか逆だか対偶だか言っていた気がする。



SayakaとHitomi、二体の使い魔を倒した杏子は、

一切の迷いなく見慣れぬ校内を歩く。

途中で魔女に会うならそれはそれで構わない。

スタンド使いの使い魔でも構わない。

何故なら、自分にもスタンドがあるためである。

炎のヴィジョンをした熱を操る、赤い鳥獣の亜人型スタンド。

名前は既に決めてある。


杏子「……この廊下の先に誰かいるな」

杏子「さやかか、ほむらか、あるいはキリカ……」

杏子「……『図書室』だな……そこは確か」


杏子は「炎」と並行して歩いている。

六つの炎の塊で構成された「それ」は「魔力探知機」である。

風で炎が揺れるように、探知機は魔力の波長を感じ取り、居場所を知ることができる。

炎の揺れ方で、場所に加えてそれが魔法少女か魔女か使い魔かの判別が可能。

「前方」の炎が揺れている。

魔法少女がいる。

これが誰か、考えるまでもない。

この魔力の波長は、絶対に間違えない。


杏子「…………」

杏子「……無事でいてくれよ」


図書室に辿り着いた。ここに『仲間』がいる。

ついさっき、ここで二匹の使い魔を倒したが……、

まさかこんなすぐに戻ってくるとはな……杏子はそう思った。

そこには、白いマントと青空のような髪をした魔法少女がいる。

偽物の方ではない。「そっち」はもう滅ぼした。

仮に魔女が同一の使い魔を「もう一つ」作れるのなら既にもうやっている。

故に、そこにいるのは偽物なんかではない。


杏子「さやか!」

「……あ!」


杏子は友の名を叫んだ。その声に反応し、さやかは振り返った。

自分の姿をした使い魔は、ほむらとキリカが既に葬った。

即ち、同じ理由で自分の偽物はいないとわかってくれるはずである。


さやか「あんこ!」

杏子「誰があんこだ!」

さやか「無事だったんだね!」

杏子「ああ」


何やら室内が焦げ臭いのは気になるが、

さやかは無事のようだった。

前髪が少し縮れているのは気になるが、

さやかは温かい気持ちになれる笑顔を見せてくれた。

無傷に見えるが、一応聞いておかなければならない。


杏子「あんたも無事だっ——」

杏子「……!」

さやか「ん?どったの?」

杏子「な……」


杏子「なんじゃぁぁぁぁ!?」

さやか「うお!?何だいきなり。頭でも負傷したか?」

杏子「さやか!何だよ!あんたの後ろにいるお化けは!」

さやか「お化けェ!?あんたにはこれがお化けに見えんのか?」


気付かなかった。さやかのすぐ側に、半透明の物体がある。

『銀色の甲冑』がある。

まるで高級な博物館から抜け出してきたかのように、ピカピカと光沢を放っている。


さやか「あんたと同じだよ!あたしもスタンドに……」

杏子「さ、さやかもなのか!?さやかもスタンドに!?」

杏子「っていうか何であたしにもスタンドが目覚めたって知ってんだよ」

さやか「いやぁ、ちょっと色々あってね」

杏子「?」


杏子「まぁ、とりあえずお互い落ち着こう……な?」

さやか「杏子が勝手に騒いだだけじゃんか」

杏子「それは言うな」

さやか「いやぁ……杏子にもスタンドが目覚めてたってのは意外だーって思ってはいるけど……なんだろう」

杏子「正直、衝撃が薄いわ。あたし」

さやか「あたしはさておき、あんたもか……」

杏子「……まるで、あたし達がスタンドを持つことが運命で定められているとかそんな感じ」

さやか「あー、わからないでもない。まるであたしのスタンドと杏子の鳥人間が元から友達だったかのような」

杏子「鳥人間言うなこの博物館」

さやか「博物館ンン?甲冑だから?」

さやか「まぁそれはさておき……不思議だね。これが引力ってヤツか」

杏子「は?何が引力だよ。解説しろ」

さやか「引力なら仕方ない」


さやか「しっかしやれやれだ。自慢してやろうと思ってたのに」

杏子「ほむらならご期待通りのリアクションが期待できそうだが」

さやか「確かに。あのクーデレをビックリさせるのが楽しみだね」

杏子(クーデレって何だ……?外国語か?)

杏子「ところで、あんたのスタンドはどんな能力だ?あたしのは炎のスタンドなんだが」

さやか「あたし?あたしは……うーん。なんだろう」

さやか「……レイピアをすごい巧みに振り回す能力?」

杏子「何じゃそりゃ」

さやか「……あ!じゃあ、レイピアなのに斬れる能力!」

杏子「じゃあって何だよ」

さやか「甲冑がすごい能力」

杏子「何がどうすごいんだよ」


さやかと杏子は互いにあったできごと。

戦った相手。知りうる互いのスタンドについて、

そして倒した敵のことを話した。


杏子「……それにしても」

さやか「ん?」

杏子「何であたしらにもスタンドが発現したんだろうな」

さやか「あたしが知るかっての」

杏子「……本当に、何も考えてないのか?」

さやか「へ?」

杏子「……実は、あたしな」

さやか「…………」

杏子「ある可能性を考えてる」

さやか「……可能性?」


杏子「……まどかが『契約』したんじゃないか、とあたしは思っている」

さやか「え!?」

杏子「だってよぉ、スタンド発現させる魔女はいないんだぞ」

杏子「ほむらは前の時間軸とやらで発現して、それが継承していると考えるにしても……」

杏子「あたしらが新しく目覚めるなんて考えられない」

杏子「アーノルドにもスタンドを発現させる力がある、という可能性も否めないが……」

杏子「契約が、最も考えやすいんだよ」

さやか「…………」

さやか「まどかは……あたしの親友だ」

さやか「だからまどかのことはよくわかる。あいつは契約なんてしない」

杏子「わからないぞ。人間、窮地に追い込まれれば追い込まれる程わからない」

杏子「最近キュゥべえも見てないしな」

さやか「…………」


話題を変えたい。そう思った。

さやかは、杏子にある事柄を尋ねる。


さやか「……ねぇ、杏子」

杏子「何さ」

さやか「仁美……どうすればいいかな」

杏子「仁美?……あぁ」

杏子「『こいつ』のことか……息はしてるようだが」

さやか「疲れて寝ちゃったんだ」

杏子「おいおい……こんなとこでよく寝れるな」

さやか「無理もないよ」


杏子は、制服がタオルのようにかけられ、寝息をたてている少女を指さす。

髪が固まった血でゴワゴワで、失礼だとは理解していながらも、小汚いと思った。


杏子「怪我……してんのか?」

さやか「いいや……。あたしが治したんだ」

杏子「…………」

さやか「仁美を避難させること……できないかな?」

杏子「悪いが……今からこいつを抱えて結界を出てもう一度入ってくるっていう余裕はない」

さやか「それは……わかってるけど……」

杏子「……だが、言えることがある」

さやか「?」

杏子「これだ」

杏子「出せ。あたしのスタンド」


杏子は鳥獣の亜人型を背後から召喚した。

そして、スタンドは手の平から炎のオブジェを生成した。


さやか「図書室に入ってくる時にも同じの見えた気がしたけど……」

さやか「これ何?」

杏子「これな?簡単に言うと、魔力探知装置だ」

杏子「炎の揺れ方で魔力を探知するんだ。だからあたしは図書室に来た」

さやか「な。なるほどよぉー。何で炎が六つくっついてる?」

杏子「それぞれが上下左右前後を表している」

杏子「で、どうやらこの探知機によると魔女は『屋上』にいるらしい」

さやか「屋上!そんなとこに……!」


杏子「しかも……使い魔が全員屋上に集まっている。そういう『揺れ』をしてる」

さやか「な、何だって!?ど、どういうことよ!」

杏子「その方角以外に、使い魔か魔女の『揺れ』がないんだ」

さやか「いや、そうじゃなくて……」

杏子「……あたし達がスタンド使いであることが割れたからだろう」

杏子「魔女の護衛に全戦力を注ぎ込むってことらしい」

さやか「……な、なるほど。じゃあ……それって……」

杏子「仁美が使い魔に襲われる心配は全くないとは言えないが……仁美を狙ってる余裕はあっちにはないと思われる」

さやか「……ホッ」

杏子「無責任に安心しろとは言えないがね」

杏子「……さて、今すぐ行きたいのは山々だが……まずやることがある」

さやか「……うん。そうだね」


——五分くらいは休憩していたいところである。


Mamiを撃破して、その疲労が引きずっている。

しかし生憎その余裕はない。

ほむらは教室を出た。空が黒い以外は違和感のない普通の世界。


ほむら「…………」

ほむら「幻覚が消えている……」

ほむら「と、いうことは……ティナー・サックスを殺した、ということね」

ほむら「……呉キリカはまどかを避難できたかしら」

ほむら「幻覚が消えた今こそ……魔女のところへ行けるはず」

ほむら「どこにいるのかわからないが……」

ほむら「……ひとまず、誰かしらと合流したいところではある」


ほむらは不安を抱いている。

さやかは助けることができたが、杏子とキリカはスタンド使い相手に渡り合えるかどうか……。

スタンドが見えるのは……スタンド使いの自分だけだからだ。


ほむら「この状況……呉キリカや美樹さやか、佐倉杏子……この三人なら、何やらおちゃらけたことを言いそうね」

ほむら「私も……タフなセリフを吐きたい……」

ほむら「少なくとも美樹さやかには……テレパシー、通じるかしら……?」


『ほむらァァァッ!』


ほむら「きゃっ!?」

ほむら「て、テレパシー……しかも、この声は……」

ほむら『……さ、佐倉杏子』

杏子『おお!通じた!』

ほむら『呼びかけの声が大きすぎるわよ。ビックリするじゃない』


ほむら『それで?テレパシーをしてきて、さらにティナー・サックスの幻覚が解けているということは……』

杏子『ああ。SayakaとHitomiを倒した』

ほむら『……よくやってくれたわ。まさか二体も倒すなんて……』


ホッ、息を吐いた。

ほむらは安堵した。


『あたしはYumaを倒したよ!』

ほむら『……美樹さやか。どうやらキラークイーン相手に生き延びたようね』 

さやか『うん!』

さやか『ねぇ……ほむら』

ほむら『何?』

さやか『……その、ありがとう!』

さやか『あたしを……あたしなんかを助けてくれて』

ほむら『…………』


ほむら『あなたに死なれても困るからよ……志筑仁美に伝えてもらわなくちゃならないことがある』

さやか『はは……うん。そうだね』

杏子『ほむら。あたし達はあたし達で既に合流している』

杏子『そして調べた結果、屋上に魔女がいることがわかったぜ』

ほむら『屋上……?』

ほむら(……調べたって、どういう意味だ?)

さやか『これからあたし達は屋上に行くつもりだ』

ほむら『わかったわ。待ちあわせをしましょう』

杏子『いや、ほむら。あんたは"体育館"に行け』

ほむら『……なんですって?』

杏子『体育館にキリカがいる』


ほむら『呉キリカが体育館に……?』

ほむら『……どういうこと?』

杏子『わからん。わからんが……そこにいるんだ』

さやか『体育館に、キリカさんが何故か一切移動せずいる』

さやか『理由はわからないけど……キリカさんは体育館で立ち往生してるっぽいんだ』

ほむら『…………』

ほむら『わかったわ……私は体育館へ向かう』

杏子『おう。あたしとさやかは屋上で、魔女と戦う』

さやか『さやかちゃんとあんこちゃんに任せなさいよー!』

杏子『誰があんこだ!クドいぞ!』

ほむら『……わ、わかったわ』


危険だからやめろと言いたいところだが、声の調子でわかる。

止めても無意味だ。ここは何も言わず、二人に任せよう……。


テレパシーは途絶えた。

二人はこれから、屋上へ行き、魔女アーノルドと対峙する。

全ての元凶——できることなら、加勢したいところではある。

しかし、ティナー・サックスの迷宮で自分がいつの間にか三年生の教室にいたように、

キリカが体育館に誘い込まれたのだとすれば……、

まどかの避難ができなかったとすれば……、

まどかがそこにいる可能性がゼロでない限り、ほむらは行かないわけにはいかない。


ほむら「…………」

ほむら「……体育館」

ほむら「何故、そこで止まっているの……呉キリカ」

ほむら「……動けない理由があるというのね」


ほむらは、駆け足で体育館へ向かった。

動くに動けない理由。一つだけ『心当たり』がある。

それが的中しないことを祈りたい。


屋上。

さやかは今でも思い出される。

青空の下、今は亡き先輩との初対面の場所。

幼なじみと三人でベンチに座り、弁当を食べた。

暖かい日差しと、爽やかなそよ風。今でも覚えている。

その思い出の場所が、最終決戦の舞台だ。

空はベタ塗りされたかのような漆黒。

寒くも暑くもない生温い空気。


その屋上に、さやかと杏子は辿り着いた。

杏子の「探知機」の通り、そこに敵がいた。

ジシバリの魔女アーノルド。

そして、その使い魔の集団。


『オイ、オイ、オイ……』

『見テヨ。アノヒョロイガキ共、ヤル気ダヨ』

『困ッタネ。"アノコ"は今イナイノニ』

『ボクは戦闘タイプのスタンドジャないカラネ』

『アト一匹喰エテレバなぁー』


ジシバリの魔女、アーノルドの横に立つ人型のエネルギー像。

アンダー・ワールドはそう言った。

アンダー・ワールドと魔女を庇うように、既に何体かの使い魔が戦闘態勢をとっている。

スタンド使いが主を全力で護衛する。

そこに、赤と青のスタンド使いが対峙する。


杏子「あいつを殺せば全てが終わるんだな……」

さやか「そうだね。見えるよ。あれがアンダー・ワールド」

杏子「あいつら全員スタンド使いだぜ」

さやか「そうね……こりゃ骨が折れるよ」

杏子「……逃げるなら今の内だぞ?」

さやか「バカ言わないでよ」

杏子「そうかい」


杏子は、さやかに右拳をつきつけた。

さやかはその意味を悟る。

左拳を、杏子の右拳にコツンとあてる。


杏子「勝ったらうまい飯でも奢れよ」

さやか「断る!」


杏子は思う。


これで……下手したら三度目になるかもしれない。

あたしの大切な存在を失うのは……な。

でも、さやか。今のあんたは強い。スタンド使いだ。

そしてあたしもスタンド使い。

自信過剰は御法度なことだが……とても気が楽だよ。

……なぁ、さやか。あたしはあんたと友達になれて、正直、心が満たされているという感じがある。

これから、ずっと一緒にいてくれる人ができたと思えて……いや、思うじゃない。

これからもずっと一緒なんだよな。さやか。

あんたといると……誇り高い気持ちになれるんだよ。あんたは希望。

あんたは一生かかってもマミの代わりにもゆまの代わりにもなれない。

さやかはさやかだからだ。あたしが大好きになったさやかなんだ。


さやかは考える。


この戦いで、杏子にもしものことがあったら……何度目になるだろう。

杏子を……あたしの大切な存在を失ったりするのは……そういう可能性、ないこともない。

あるいは……あたしが死ぬこともありえるんだ。

でも、あたし達は強い。負ける気がしない。気がベリッシモ楽だね。

……杏子。あたし、あんたと友達になれて嬉しいと思ってるよ。

あたしは……マミさん、恭介、たくさんの大切な人を失って、

失意のどん底の中、これからもずっと一緒にいてくれるって言ってくれてさ……。

杏子は恭介の代わりにもマミさんの代わりにもなれない。

杏子は杏子だからね。あたしの新しい嫁だ。まどかはほむらに取られちゃったようなもんだし。

……自分で言うのも何だけど、こういうこと考えると死亡フラグみたい。

スタンドがある以上……そうはいかねーけどね!フラグはへし折るもの!


ジシバリの魔女、アーノルド。

犬のような姿をした魔女は、首から溢れる粘液を撒き散らしながら牙を剥く。

上条恭介の姿をした使い魔、童女や少女、青年や中年といった人間型の使い魔が集まる。

全てスタンド使いである。前の時間軸に死んだ概念。

その中の一体、松葉杖をついている少年の姿がそれらのセンターに位置している。


Kyosuke「さやかのおかげで僕はこの通り……左腕が自由になった」

Kyosuke「どうせなら脚も治しといてくれればよかったのに……それはまぁいいとして」

Kyosuke「さやかは『彼女』の仇だ。ハーヴェストで目玉を抉ってやろう」

「イーかい、今ハ、君ガ、リーダーナンダ。僕達を守ッテオクレヨ」

「Mamiチャンが死ンデ、臨時のリーダーヨ」

Kyosuke「任せてよ……『母』さん」

Kyosuke「それにしても……」

Kyosuke「親孝行が死んだ後にできるとは思わなかったね。全く」


さやか「さぁ、あたし達の、新しい領域……」

杏子「未来へ立ち向かう力……『スタンド』を見せてやる!」

杏子「ところで、そこにいるのはあんたの好きな坊やの姿だが……」

杏子「斬れるのか?」

さやか「し、心配性だなぁ……大丈夫だよ」

杏子「どうだかねぇ……あんたは『アレ』のために魔女になってんだぞ」

さやか「べっ、別の世界は別の世界!今は今!」

杏子「スタンドがなければどっちみち『アレ』のせいで魔女になってただろうがね」

さやか「うるせぇうるせぇ!とっととスタンドを出しなさいよ!」

杏子「あいあいさー」



二人は、自身のスタンドに名前をつけた。


杏子はマミから与えられた技の名前、ロッソ・ファンタズマ……『赤い幽霊』からヒントに、

亜人型のスタンドに「赤」という色を使うことにした。

そして……ゆまの生前のことだった。

杏子はゆまに初めて魔法を見せた時、ゆまはこう言った。

「手品みたい!キョーコすごい!」

ゆまが死んで以降、あの時の笑顔はいつでも思い浮かばれる。

このスタンドの能力は炎を自在に、それこそ魔術師のように操ること。

手品と魔術師ではニュアンスは違うが、英語では同じである。

過去を受け入れ未来へ雄飛する決意の名前は、それらから取ることにした。


さやかは、銀色の甲冑という特徴から「銀」という色を使うことにした。

杏子と友達になったあの夜、キリカからほむらの過去を聞いた時のことだった。

自分は魔女になると、巨大な車輪のようなものを投げつける攻撃をするらしい。

「どういう理由で車輪なんだ。車椅子とかそこら辺か?CDなんかはちょっと近いかな?」

と、さやかはその時思った。

そこで、スタンドの名前は銀と「車輪」から取ることにした。

このスタンドは、そういう魔女にならないという誓い。と、さやかは考えるようにした。

かつてテレビで見た「アレキサンダー」という映画を連想した。途中で寝てしまったが。

それに登場した『戦闘馬車』が、戦士と車輪の組み合わせに丁度良いと思った。

消耗した精神を持ち直した克服の証の名前は、それらから取ることにした。


スタンド使いであり、魔法少女の二人は、

自身にとっては全ての元凶である、ジシバリの魔女アーノルド。

そしてそのスタンド使いの使い魔群、ヴェルサスに対し、

仇を打ち砕くために己の精神力を高ぶらせる。

過去を受け入れた杏子。

恐怖を乗り越えたさやか。

互いが互いの精神力を高め合う。

今の二人は、どんな敵が相手でも……ワルプルギスの夜だって倒せる——そう、思っている。

初めてその名を呼ぶスタンドと共に、

二人は、同時に敵勢に突っ込んでいった。


杏子「マジシャンズレッド!」

さやか「シルバーチャリオッツ!」


マジシャンズレッド 本体:佐倉杏子

破壊力−B スピード−B  射程距離−E
持続力−B 精密動作性−C 成長性−B

炎のヴィジョンをした熱を操る亜人型スタンド。その性質は「雄飛」
スタンドの口や手から炎を放出し、形状や温度を自由自在に操ることができる。
本能にインプットされているかのように、炎の扱い方は「何となく」で理解している。
スタンド自体の射程距離は短いものの、炎による中距離攻撃が可能。
火事で失った過去を受け入れ克服したことで、炎の能力を得たのだと杏子は考えている。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


シルバーチャリオッツ 本体:美樹さやか

破壊力−C スピード−A  射程距離−E
持続力−C 精密動作性−B 成長性−B

レイピアを装備し、銀色の甲冑のような姿をしたスタンド。その性質は「克服」
純粋なパワーはさほど強くないが、高速で力強い剣捌きが最大の武器。
甲冑による防御力に、本体の治癒魔法が加わり屈指のタフさを誇る。
失意に陥っていた精神状態、逆境から乗り越えたことでこの能力の素質を孕み、発現した。
それらは他者によって克服したため、他者を思う心が己を雄飛させる。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


今回はここまで。お疲れさまでした。

アーマーテイクオフで本体の服が弾け飛ぶとか炎で作った分身とか、
色々ネタは考えてはおりましたが、話の都合上やっぱ没です

残るところあと二回。
もう残り話数的に「私達の戦いはこれからだ」エンド丸見えでしょうが、
何卒よろしくお願いします

>アーマーテイクオフで本体の服が弾け飛ぶ
おいそれは没にしちゃ駄目だろおい

アーマーテイクオフ(ゲス顔)
まとめ民だけどあと何話でとか書かれるとちょっと萎える

>>53
ニコニコ静画ですが、これ↓を見て思いついたです。けどやっぱりどうにも展開上…
ttp://seiga.nicovideo.jp/seiga/im1323718

>>54
今日はここまで。だけだと何か勿体ない気がしてついつい色々書いちゃうんですよ。深夜のテンションとか色々要因はありますが
まぁどうせモバイル版でのページ稼ぎとかでもない限りこんな各話ごとの後書きなんてまとめないでしょうし、問題ないでしょう


で、レスをしてそれだけってのが勿体ないし何か知らないけどテンション舞い上がってるので報告とかをついでにしたくなるのです
ということで今夜10時半くらいに再開します。多分

何か変なことが起きない限りは4月1日の夜に完結予定です


#27『もう何があっても挫けない』


キリカ「ハァ……ハァ……!」

キリカ「……何だよっ!」

キリカ「どうなってるんだ!?」

キリカ「どうして私達は『体育館』に来てしまったんだ!?」

キリカ「外に……外に出たかったのに!」

キリカ「体育館に……誘い込まれて……」

キリカ「ど、どうすればいいんだよ……全く!」


キリカは今、力無くぐったりとしているまどかを抱きかかえている。

教室にて、ほむら達と合流しまどかの護衛を任された後、

キリカは和子の姿をした使い魔、スケアリー・モンスターズという能力の使い手と対峙した。


能力は「恐竜化」と称される「動体視力を身体能力の強化」をするスタンド

キリカはまどかを結界の外へ一秒でも早く避難させたかったため、

時間を遅くする能力を使い、Kazukoの首と切り落とし殺害した。

それを見たまどかは、気を失ってしまった。

使い魔と言えど、担任の教諭の首が飛んだのを目の当たりにしたのだ。

その直前にKazukoから、本物の和子、その他同級生達の死を伝えられた。

まどかは精神的に限界を超え、耐えられなくなり気絶した。

キリカは学校の外へ向かっていた。そのまどかを避難させるためである。

しかし、二階へ行く階段を下ると四階にいて、踊り場が家庭科室となっていた。

教室に入るとそこはトイレで、床にドアがある。

そういった奇妙な光景に飲み込まれてしまっていた。

そして気が付くと、キリカとまどかは『体育館』にいたのだ。


キリカは今、これまでの人生最大の警戒心を持ち、その場で待機している。

下手に動くと危険であると感じたためである。

これは、Hitomiによるティナー・サックスの幻覚であり、

幻覚の世界にキリカは飲み込まれてしまった。

距離感も、方向感覚も、記憶力も、その他五感の全てで騙された。

幻覚の校内は、本体の死によって既に解けたのであるが、

キリカはそのことを知らない。

状況が理解できていない。

この体育館も、本物かどうか判別ができない。


キリカ「ヤ……ヤバイ!何かヤバイっ!」

キリカ「本当にここは体育館なのか……?」

キリカ「体育館に見えているだけで……別の場所なのか!?」

キリカ「ここを出てったとて……」

キリカ「次は……次はどこに飛ばされるんだ……!?」

キリカ「う、うぅっ……こ、こうしてる間にも……」

キリカ「何故……何故敵は襲ってこないんだ……!?」

キリカ「私をわざわざどうして体育館に誘い込んだんだ……!」

キリカ「ど、どうしたら……どうすればいい……!」


「呉キリカッ!」


体育館の入り口から、力のこもった声が聞こえる。

振り返ると、そこには黒い長髪をした魔法少女がいた。


キリカ「!」

キリカ「恩人!どうしてここが……!」

ほむら「あなたがここにいるってわかったからよ」

ほむら「まどかを抱えているということは……避難すらできてなかったのね。やっぱり」

キリカ「うぅ……ゴメン。不甲斐ないよ」

ほむら「無理もないわ……ティナー・サックスの術中に嵌ったのでしょう」

ほむら「……まどかは無事でしょうね」


キリカの腕には、目を閉じているまどかがいる。

呼吸はしているが、その表情はどこか曇っている。


キリカ「あぁ……この通り、気を失っているだけさ」

キリカ「無理もない。同級生や早乙女先生が死んだって聞いて……」

キリカ「その上私が早乙女先生の姿をした使い魔の首を切り落としたからな」

キリカ「担任の先生の首が飛ぶ様を見たからね……軽くて助かるが」

ほむら「……そう」


ほむらはキリカに歩み寄り、まどかの頬に触れる。

こんな小さな体で、たくさん人の死と出会ってしまった。

つくづく、魔法少女に関わらせたくない存在だ。

ほむらはそう思った。

気絶することで思考を放棄したまどか。

悲しい気持ちになる。


キリカ「さやかと杏子は?」

ほむら「……魔女と交戦中よ」

ほむら「あなたを助け出して、まどかの避難を確認したら屋上へ向かうつもり」

キリカ「屋上にいるのか……」

ほむら「……それより、ここにあなたの使い魔がいるはずよ」

キリカ「……あぁ、そうなんだろうね……私を誘い込むということは……」


Kirika——スタンド名。クリーム。

愛する織莉子を殺した、憎き使い魔。

織莉子を愛するキリカの概念が、織莉子を殺したという皮肉。

廊下や教室には一つも「クリームの軌跡」はなかった。

まだ校舎内で現れていないということは、ここにいる可能性が高い。


キリカ「あるいは……君を誘き寄せる作戦である可能性も否めなくはない」

ほむら「落ち着きなさい」

キリカ「落ち着いているさ……あぁ。落ち着いてるよ」

キリカ「よく君が来るまで生きていられたもんだと自分でも感心するくらい落ち着いている」

キリカ「何故生かしているのか……アプローチを仕掛けてこないのかはわからないけどさ」

ほむら「時間を止めて逃げること、それ自体は簡単なことだけど……」

ほむら「ヤツをここに足止めさせてアーノルドへの加勢を防ぐという意味でも……」

ほむら「ヤツは私達がどうにかして始末するべき」

キリカ「そう言うと思ったよ恩人」

キリカ「それで……ヤツのスタンドは……どうすればいい」


ほむら「…………」

キリカ「君から聞いた話から判断するに……」

キリカ「『クリーム』はかなりヤバイスタンドなんだよね。大丈夫?」

ほむら「……対策は、ないこともない」

キリカ「本当?」

ほむら「ストーン・フリーッ!」


ピシィィッ

ほむらの手から、糸が縦横無尽に勢いよく飛び出す。

糸はバスケットゴールや天井等様々な場所に結びつき、糸同士は絡み合い、

体育館全体にあやとりのような景色を作り出す。

そして盾からライフル銃を取り出した。


ほむら「……前の時間軸の巴さんの概念から学んだ、クリームの探知法よ」

ほむら「ただし……躱せるかはわからない」

ほむら「クリームは何かを飲み込みながらでないと移動ができない」

ほむら「しかし今『糸の結界』を張った……あなたには見えないでしょうけど」

ほむら「糸の結界が切れた瞬間。そこがクリームの居場所ということよ」

キリカ「で、でも……糸が切れるということは……」

ほむら「えぇ、私の筋肉も切れる……でもその程度の傷、何てこともない」

キリカ「……それで、その糸の結界とやらで居場所がわかったところでどうするの?」

ほむら「ヤツは暗黒空間という概念に姿を隠しているけど……本体も相手も互いに干渉ができない」

ほむら「だから必ずヤツは……獲物を確認するため、姿を見せてくる」

ほむら「その瞬間を狙撃する。それしかない」

キリカ「……私にはスタンドのことわからないから君に従うしかできない」


ほむら(そう……これしかない)

ほむら(顔を出した瞬間に時を止めて、狙撃する)

ほむら(しかし……呉キリカという概念、そのソウルジェムは背中側の腰の位置にある)

ほむら(ヤツがわざわざ自分の弱点を外に出すとは思えない)

ほむら(頭を単に撃ち抜くだけでは勝てない)

ほむら(ならば……『エキスプロッシブ弾薬』……弾丸の先端に爆薬が仕込んである炸裂弾)

ほむら(これを喉に撃ち込めれば……この弾薬が爆裂する)

ほむら(爆発エネルギーがKirikaの体内を通れば……暗黒空間の内部に干渉できるかもしれない)

ほむら(今のところ……策はこれだけだ)


ほむらは狙撃銃を構え、天井を見上げる。

糸の結界に注視する。


「決意」のあるその目、遠くを見る凛々しい表情。

外見から既に、今までの人生で出会った誰もかもを超越した精神力を感じる。

織莉子以外の人間を純粋な気持ちから「一番だ」と称える日が来るとは思わなかった。

「恩人……この精神力なら無事に生き延びる」キリカはそう思った。

そして「勿体ない」と思った。


キリカ「…………」

キリカ「なぁ、恩人……」

ほむら「……ん?」

キリカ「……ちょっと、聞いてもいいかな」

ほむら「何?」

キリカ「ずっと……聞きたかったんだ」

キリカ「君は……本当に、戦うつもりなのかい?」

ほむら「……何?」


キリカ「こういう時に聞くなって言いたくなるだろうけど……」

キリカ「こういう時だからこそ聞かなきゃならないと思うんだ」

ほむら「だから、何よ」

キリカ「君は……ワルプルギスの夜に、勝てるのかい?」

ほむら「……何が言いたいのかわからない」

キリカ「ワルプルギスの夜がどれほどのものかわからないけどさ……」

キリカ「恩人ほどの実力者が何度も勝てなかったと言うなら……勝機は薄いと思うんだ」

ほむら「……そんなもの、やってみなくてはわからないじゃない」

ほむら「私には、スタンドがいる。ストーン・フリーがいる」

ほむら「新しい武器と新しい力がある。人数は関係ない。希望がある」

ほむら「だから私は諦めない」


キリカ「…………」

キリカ「そうか……それは立派だね」

キリカ「でも、ワルプルギスを越えたとして……」

キリカ「まどかは『幸せ』にはなれないよ」

ほむら「…………」

キリカ「言いにくいけど断言させてもらう。まどかは幸福にはなれない」

キリカ「巴マミという尊敬する人間が死んだ」

キリカ「早乙女先生は死んだ。私のクラスメートも死んだ。仁美っていう友達はわからないけど……ともかく結果的に、たくさんの人が死んだ」

キリカ「さやかと杏子(私もいるけど)だって今後の戦いでどうなるかわかったもんじゃない」

キリカ「まどかは……人の死を直に感じ過ぎだ」

ほむら「…………」


キリカ「織莉子やゆまという子ども、私とはそんな関わりがないからさておき……」

キリカ「顔見知りが次から次と死んでしまうんだ」

キリカ「まどかのような優しい性格の少女が塞ぎ込まないはずがない」

キリカ「そんな状態で、彼女は誰かを愛せるのだろうか」

キリカ「もちろん、いつかは時間という万能薬が解決してくれるかもしれない」

キリカ「ただね……まどかにはいともたやすく奇跡を起こせるんだ。全て無かったことにできる」

キリカ「契約さえすれば全てを取り戻せる。無力な自分を変えられる」

ほむら「まどかは自分が世界を滅ぼす魔女になりうるということを知っている。魔法少女の真実を知っている」

ほむら「するはずがない」

キリカ「あぁ、そうだ。しないかもしれない」


キリカ「それもそうだし……何より契約をしちゃえば君を悲しませることを知っている」

キリカ「さらに君に守られる価値が消えて見捨て……いや、その前に私に殺されるだろう」

キリカ「私が言いたいのはこういう場合『できること』そのものが厄介なんだ。それがさらに彼女を追いつめる」

キリカ「新しい能力を手に入れたのなら、それをもってリセットした方が賢明ではあると思うな。私は……」

ほむら「…………」

キリカ「レイミとか言ったっけ?それもアーノルドも存在しない未来作り……」

キリカ「どっち道、この状態のまどかを救うと言うんじゃもう……ダメだよ」

キリカ「まどかには心の傷が大きすぎる」

ほむら「……何よそれ」

ほむら「文句があるならハッキリと言いなさい」

キリカ「ハッキリ言ってるつもりだよ。私は」


キリカ「まどかを思うなら、もうチェスや将棋でいう『詰み』なんだ」

キリカ「まどかは君が思っている以上に弱い。第三者の視点だからこそわかる」

キリカ「契約をすれば取り戻せる。契約をしたら君に見捨てられる。しろまるはきっと勧誘をし続ける。契約をしたら私に殺される」

キリカ「仮にさやかと杏子が生き延びたとしても……二人は魔法少女の真実を知っている以上、まどかに『契約していーよ』とは言わないだろう」

キリカ「その気になれば全てを取り戻せる力があるのに……」

キリカ「葛藤とチラつく希望……両者の摩擦ですり減る精神」

キリカ「最早まどかに『日常』はない。いつか壊れる」

ほむら「勝手なこと……言わないで」

ほむら「それじゃあ何よ!一人も犠牲者を出さずに勝てというの!?あなた達がまどかを殺すというのに!」

ほむら「あるいはまどかを魔法少女にさせることを容認しろというの!?まどかとの約束を!私の決意を破棄してまで!」

ほむら「ふざけたことを言わないで!」


キリカ「……当人でない私だから、所詮勝手なことでしかないさ。時間遡行の苦しみなんて全く想像できない」

キリカ「落ち着いてくれ。激昂する気持ちはわかる。私も君を侮辱する発言だと重々承知の上さ」

キリカ「もし私が君と同じ立場なら、まどかを織莉子に例えれば……」

キリカ「私もきっと……いや、間違いなく織莉子のために単身でもワルプルギスの夜に挑むだろうし、一握りでも可能性があればリセットなんて考えないと思う」

キリカ「そしてこんな感じのシチュエーションで無理だ何だ言われたらふざけんなと言うだろう」

キリカ「しかし、他人事だからこそ、確実な手を取るべきだとドライな物言いができるのもまた事実」

キリカ「君には強くてニューゲームが認められているんだ」

ほむら「…………」

キリカ「……ねぇ、恩人。君のことを否定するようなこと言ったのは謝る」

キリカ「ただ、第三者の意見を言わせてもらえば、わた——」


ガォン


ほむら「…………」

ほむら「……え?」

ボトッ ボトッ

——何かが落ちた。

見覚えがある。上履きだ。

まどかを抱えていたキリカが立っていた場所。

そこに『円の穴』があいている。

コルク栓を抜いたような穴の縁に、鹿目まどかの上履きが『中身』ごと、二足分。

ほむらは、状況を理解する前に自分の細胞全てが静止したかのような錯覚を覚えた。

理解した。織莉子の時と同じ。


『まどか』と『キリカ』が『たった今』『ここ』で『死んだ』



「ビンゴォ!飲み込んだぞ!」


後方より、聞き覚えのある……つい先程まで聞いていた、味方と同じ声。

ほむらは硬直した体に力を込め、

ゆっくりと振り返り、その方向を見る。

そこにいた「もの」を見て、足が震え出した。

体感温度が急激に低下し、寒気がする。

髑髏を象ったフードを被ったキリカの上半身が浮いている。

そして、ニヤニヤとした顔をしてほむらを見ている。

それは呉キリカの概念『Kirika』

頭のフードはスタンド『クリーム』


Kirika「地面の中をモグラみたいに飲み込みながら移動していた」

Kirika「なるほど糸の結界か……Mamiから聞いたのか?それとも君が考えたのか……」

Kirika「何にしてもだね、そういうことをされた経験があるんだ。だからそうした。無駄無駄……」



……う、嘘……?


まどか……?呉キリカ……?

嘘、でしょ……?

まさか……そんな……

『死んだ』……?

クリームに飲み込まれて……

嘘……嘘だ、そんなの……

床の下から……クリームが出てきて……

呉キリカが、抱えられていたまどかが……消えた。

……そんな。

そんな!そんなッ!ついさっきまで、すぐ側にいたのにッ!

あっけなさ過ぎる!


ほむらは、少なからずとも、キリカに友情を感じていた。

感傷を持たない決意故に、意識して「呉キリカ」と呼び一線を引いていた。

しかし『キリカ』と呼びたかった。できなかった。

後悔した。

……そして『この』まどかと最期に交わした会話。

それはまどかを悲しませるようなことだった。突き放すような言い方だった。

キリカに任せた後、落ち込んでいたまどかに一言も声をかけずに、

そのまま一人で教室を出て……Mamiと対峙した。

まどかに謝りたかった。

突き放すようなことを言ってごめんなさい……と、謝罪をしたかった。

しかしどちらもできず、二人は死んだ。暗黒空間に粉微塵にされた。

防衛のための闘いもできずに、生きることを止められた。


ほむら「う、うぅぅ……うぁぁ……!」

ほむら「ああああ……!ああ……!」


ようやく声が出るようになった。

糸の結界は精神的動揺によりいつの間にか解除されていた。

無意識的に体が動く。

ストーン・フリーの拳を振るわせ、Kirikaに特攻する。


ほむら「うぅぅぅおおおおおあああああああああッ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

Kirika「おっと危ない」

ほむら「ああああああああああああああッ!」

「オラオラァ!オラオラオラオラオラオラオラ!」


Kirikaは体重を後背に置き、暗黒空間に身を隠す。

ガォンッ!

ストーン・フリーの左拳がその暗黒空間に飲み込まれ、粉々になった。

同時にほむらの左手がバラバラに分離していく。

血を吹き出し、細く白い指が宙を舞った。

甲に埋め込まれているソウルジェムが宙に浮く。


ほむら「あああああああああッ!」

ほむら「ス、ストーン・フリー!」


手首から糸を伸ばし、床に落ちる前にソウルジェムを巻き付ける。

糸でソウルジェムを包み、左手を『編ん』で修復した。

スタンドの左手も治る。


ほむら「ハァ……ハァ……!」

ほむら「そんな……そんな……!」

Kirika「……ふふ」

ほむら「ま、まどか……!呉……キリカ……!」


ほむらの心に、絶望の感情がハッキリと浮かんだ。

目に涙を浮かべ、ガチガチと歯を鳴らす。

対照的に余裕の表情をしたKirikaは暗黒空間から再び全身を出す。

黒い眼帯。髑髏を象った黒いフード。

優勢と劣勢がハッキリと二分化した空気。

ほむらの息が荒くなる。

心臓も肺も血管も萎縮したかのような息苦しさを覚える。

頭痛と吐き気がする。


Kirika「……何故『私』とまどかを生かしていたと思う?」

Kirika「何故今、私が君を狙わなかったと思う?」

Kirika「私は床下で君達の気配を読んでいたにもかかわらず、君を飲みこまなかった……」

Kirika「そういうこともできたはずだった。二人一辺に飲み込めて合理的だったという理由もあるし、恋人の仇ということもなくもない」

Kirika「何故、わざわざ君を殺さなかったのか……わかるかい?」

ほむら「ハァ……!ハァ……!」

Kirika「まず、あの二人を生かしていたのは、君をここに呼ぶためだ。そのためにHitomiにちょいと頼み込んだがね」

Kirika「こっちの呉キリカがテレパシーで君に助けを呼ぶと思ったんだ」

Kirika「ともかく私は……君に用がある」

Kirika「母親のピンチなんてどーでもいい。そろそろ親離れしそうだからね。私……」


使い魔の言う親離れ。

それは使い魔から魔女へ成長することを意味する。

Kirikaは成長するエネルギーを十分保持している。


Kirika「まぁさておき、私の言いたいことをさっさと素直に言おう……『矢』だ」

ほむら「……矢?」

Kirika「そう。矢だよ。暁美ほむら」

Kirika「スタンド使いはスタンド使いと引かれ合うという言葉、身に覚えはあるかな?」

Kirika「君から感じる、君の持つ矢から……私達は引力を感じたんだ」

Kirika「そして、私は理解した……SayakaとHitomiとYumaの死を経て、気が付いた」

Kirika「それは……『スタンドを発現させる矢』だ」

ほむら「……え?」

Kirika「もう一度言う。その矢は『スタンドを発現させる』ことができる」


……何を、言っているんだ。

あの矢は、いつの間にか盾の中に入っていた、気が付いたら拾っていたものだ。

そんなものが……魔女と一切関係ないはずの矢が、そんなことが……。

引力を感じるって……そんなことがあるはずがない!


Kirika「さやかと杏子にスタンドが発現した……だから私の仲間は死んだんだ」

ほむら「ッ!?」

Kirika「それが何なのか、本当にわけがわからないけど……まぁいい」

Kirika「私達は、それのおかげで産まれた」


み……美樹さやかと佐倉杏子にスタンド!?

ますます意味がわからない……。

確かに二人にはあの矢を見せた。でも、それが何だというんだ。

まどかと呉キリカが死んで……そんなこと言われて……。


ほむら「…………」


いや……待てよ……?

あの矢にスタンド……?スタンドが発現……と、いうことは……

それって……それって……!


ほむら「そ、そんな……それじゃあ……」

ほむら「それじゃあ……私は……!」

Kirika「そうだね……君がその矢をとある魔法少女に見せびらかして、その魔法少女にスタンド与えたんだ」

Kirika「スタンド使いが魔女になり、アンダー・ワールドが君達を滅ぼすんだ」

Kirika「その矢が一体何なのかはわからないが……」

ほむら「うぅ……ぐ……うぅ……!」

Kirika「要するに……結局は『また』君のせいでこうなったんだ」

Kirika「運命はよくできた物語だ……『君』が『アンダー・ワールドを生み出した』んだ」

ほむら「そ……そんな……!」

Kirika「『君』が『マミとゆまを殺した』んだッ!」

ほむら「そんなのって……そんなのって……!」

Kirika「さぁ……その矢、君はどうする?我々としては、欲しいなぁーって思うんだけど」


まどかとキリカが目の前で死んだ。

その無力感。

そしてクリームという能力に対する恐怖。

その絶望感。

思わぬところで判明した矢の正体。

混乱が襲う。

M市の魔法少女にその矢を見せたから、その矢でアンダー・ワールドを生ませてしまった。

自分が、この状況を作ってしまったのだ。

自分が、マミとゆまを殺した。

矢を手に入れてしまい、それを気まぐれでずっと持っていたから、

早乙女先生も、上条恭介も、その他大勢が死んでしまったのだ。

そして、私がまどかとキリカを殺した。

Kirikaはほむらの目の前に立ち、手を伸ばす。

差し出した手の平に矢を置け、という意味らしい。


「怖い」「辛い」「悲しい」「私のせい」

スタンドという呪いを断ち切れなかった、予告されたレクイエムという恐怖。

尊敬していて「好き」だったマミの死、愛らしかくて「好き」だったゆまの死、

「好き」になりかけていたキリカの死、命を賭すほど「好き」なまどかの死。

そしてそれが自分の行動のせいだった。

弱い自身を隠した冷徹の仮面の崩壊。

感傷を無理矢理縛り付けた感情の緒が切れた。

まどかは、担任の姿をした使い魔の首が切断され、それを目の当たりにした。

それがトリガーとなり、今まで押し殺していた悲しみや恐怖の感情が、そのキャパシティを超えてしまった。

精神衛生上自己防衛のための気絶。

そしてほむらもまた、まどかとキリカの死が引き金となり、その限界に到達した。

気絶はしない。

ほむらは精神的に『弱い自分』に戻ってしまっていた。


——「弱いほむら」は思った。


し……死んじゃう。

逃げなきゃ……ここは退かなくちゃ!

死ねないから……私は死ねない!死ぬわけにはいかない!

生きなくちゃ……逃げなくちゃ……ジシバリのいない遠くへ……。

逃げて……前の時間軸みたいに……また離れるんだ……遠くへ行かなくては!

私が死んだらそれで終わってしまう!

死にたくない……絶対に死にたくない!

私が死んだら……まどかを救えない……!

まどかを救わなくちゃいけないのに!

殺されるわけにはいかない!

生きて逃げて、次へ行かなくちゃいけない!


ほむら「わ……渡す……」

Kirika「お」

ほむら「渡す……『矢』は渡すから……!」

ほむら「わ、私は死ねない……だから、こ、殺さないで……!」

ほむら「お願い……」

ほむら「この矢を……」

ほむら「だから……だからお願い……」

ほむら「助けて……」

ほむら「見逃して……!私を……助けて……!」

ほむら「こんな矢……いらない……!」

ほむら「お願い……命だけは……!」


ほむらは目からボロボロと涙を零し、盾から矢を取り出した。

そして神に貢ぎ物をするかのように矢を差し出した。

その腕はがくがくと震えている。

Kirikaは一歩前に出て、矢をひょいと取り上げる。

満足げな表情をして、矢をまじまじと見つめる。

対照的に、ほむらは紅潮した頬と歪んだ口で助けを乞う


Kirika「はい。預かりましたよっと」

Kirika「カッコワルイねぇ。ボス戦してるさやか杏子に示しがつかないよ」

Kirika「……では」

Kirika「大人になる最後の一歩を、君で成し遂げる!」

ほむら「!?」


Kirika「君を食べて完結だ」

ほむら「そ、そ、そんな……や、約束……が……!」

Kirika「ハハハハハハ!混乱のあまり、使い魔風情に交渉が成り立つと思っちゃったのかい!?」

Kirika「こいつは傑作だ!アハハハハハ!ハハハハハ!」

Kirika「君は使い魔に命乞いをした上に、騙されたって逆上するんだ!?」

ほむら「う、うぅ……!」

Kirika「フヒャヒャハハハ——!アケミィッヒヒィィ——ン!」

Kirika「ふぅ」

Kirika「あー、面白かった」

Kirika「Kyokoが言わなかったかい?」

Kirika「魔法少女は絶望しかけが一番『美味い』って」


Kirikaの態度はほむらの恐怖をさらに煽る。

逃げなければならない。恐怖で脚が動かない。

時間を止めることも、抵抗することも忘れた。

狙撃銃がある理由もわからない。


ほむら「あ……ああ……!」

Kirika「あと一人喰えば、私は魔女になれる」

Kirika「能ある鷹は爪を隠す……最も魔女に近いのは甘やかされたYumaではない。このKirika」

Kirika「魔女になった暁には……我がスタンド、クリームに肖り……」

Kirika「私のことを『クリームヒルト』とでも呼んでおくれ」

Kirika「ドイツの女性名だよぉ、確か……多分。アーノルドは明らかに男の名前だからねぇ……」


ほむらは震える手の力だけで下半身を引きずり、

後ろへ、少しでもKirikaから離れようとした。

Kirikaはゆっくりと一歩、二歩、と歩きその距離を詰める。

逃げると言うことは、生存を諦めていないということ。

絶望で魂を穢れる前に、前の時間軸で世界を滅ぼすと予知されたレクイエム、

その誕生を防ぐためにも殺さなければならない。魔女化のギリギリを計る。


ほむら「い、いや……いやぁ……」

Kirika「と、言ってもそんな名前を呼んでくれる人は誰もいないだろーけどね……」

ほむら「いやぁぁぁぁぁ……ぁぁぁ……!」

ほむら「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

Kirika「ええい、やはり気になる。最期くらい黙って逝け。時間を遅くする」

Kirika「…………これで落ち着く」


時間の遅くなった世界。その気になればほぼ無音の世界。

Kirikaは、両手で顔を覆い、ゆっくりと前屈みになり泣きわめくほむらの顔を見て、

『ツボ』に入り、少し笑った。満足した後、そっと首筋に指を近づける。

首に指を突き刺し、ゆっくりと味わいながら吸い取る。

生きたまま喰われていく、恐怖に歪む獲物の顔を鑑賞しながら喰う。

これがKirikaの最も好む食べ方。「支配」したという実感が快感。


Kirika「では、いただきま——」

Kirika「……ん?」

Kirika「あれ……?」


Kirikaは指の動きを止めた。

ほむらから取り上げた矢。

その矢に違和感を覚えた。

正確には、矢を持った自分の手に違和感を覚えた。



——『温かい』


Kirika「……なんだ?」

Kirika「……ッ!?」

Kirika「矢……矢に……」

Kirika「『糸』が……?」


目視して気付く。

ほむらの左中指に描かれた紫の菱形から、糸が伸びている。

ストーン・フリーの『糸』が『矢』に巻き付いている。

ついさっきまではなかった。

正確には気付かなかった。笑っていた間のことか、

その矢には確かに、糸が巻き付いている。

細い糸が矢で切れた。


よく見ると、糸の断面から淡い光が放たれている。その光が遠赤外線のように温かい。

断面から中指へ、ほむらの体に『淡い薄紫色の光』が到達した。

矢に伸ばした糸。それはほむらの無意識の行動だった。

矢から離れた紫色の光の糸が、ふわふわと揺れている。

その間に、紫の糸の先が、引き寄せられているかのように盾に伸びていく。

理解不能。時の遅くなった世界に光の線をKirikaは見た。


Kirika(な、なんだこれは……!?)

Kirika(時間を遅くしたのに……スーって糸が……)

Kirika(時間を遅くしてるのにこの速度ということか!?)

Kirika(いや……これは、まさか……『魔法の影響を受けていない』……!?)

Kirika(こ、これは……!これは何かがヤバイ!)


光の糸は、時間が遅くならない。

目の前の異様な光景に、躊躇し体が動きを静止させた。

得体の知れない『糸』の先端は、ほむらの盾に触れた。

左指と『砂時計』が、光の糸で繋がった。


Kirika「こ、これは……この『糸』は……!?何だ!これは……!」

Kirika「な、な……」

Kirika「何かわからんがくらえッ!死ねい!ほむらッ!」


間食は取りやめた。すぐにほむらを殺さなければならない。

急いでほむらのソウルジェムを砕かなければならない気がする。

即死させなければならない。

Kirikaの手がほむらの魂に触れそうになる。

その一瞬のことだった。


バグォォッ!

Kirika「うげッ!?」

Kirika「え……あ……ぅ?」

Kirika「何だ……今の……は……」

Kirika「……い」

Kirika「ギ……グガ……!?」

Kirika「OGOOAAAAAAAAAHHHHHHA!?」

Kirika「なっ、なっ、な!なぁぁんだアァァァァァァァァッ!?」

Kirika「私の!私の『指』がァァッ!?」


時の遅くなった世界に悲鳴が響いた。突然、Kirikaの右手が砕けた。

指が砕け折れ吹き飛んだ。千切れた指は「物体」となったため、ゆっくりと霧になりながら宙に舞う。

そして、光る糸よりも異様な光景をKirikaは目撃した。

目の前の魔法少女、ほむらの左手の前に、

黒く濁りつつある魂に触れるのを遮るように『得体の知れない腕』が現れた。


丸い鋲の装飾がされた黒いグローブ。

古代の拳闘士を思わせる力強そうな腕。

さらに異様なのは、それがほむらの『盾』から『飛び出し』ているということ。

時間が遅くなっていたにも関わらず、指を破壊されたことに気付くのが遅れた。

光の速さを超えたかのような、時間でも止められたかのような。

突然腕が盾から現れ、Kirikaの手を破壊した。

ストーン・フリーではない。


Kirika「なん……だと……!?」

Kirika「こ、こいつは……ほむらの……」

Kirika「い、いや、違う……『違う能力』……!」

Kirika「こいつは『何者』なんだ……!?」


Kirika「スタンドは一人一能力……!」

Kirika「何が起こったというんだ……!?」

Kirika「た……盾から……」

Kirika「ヤツの『盾』から『知らない拳』が飛んできただとッ!」

Kirika「時間を遅くしたのに、」

Kirika「……ヤ、ヤバイ!」

Kirika「逃げなくてはッ!何かヤバイッ!」

Kirika「クリーム!暗黒空間に身を潜めろォォォ————ッ!」


ほむらの盾から紫色の光の糸が靡いている。

そして盾の陰から半透明の腕とは別に、細く小さい、

飛び出した腕とは正反対のような子どもらしい『手』が現れた。

手首にその光の糸が巻き付いている。細い指がゆっくりと動いている。

時間が遅くなっているため、光の糸や謎の腕とは違ってじわじわと、

半透明の腕の『持ち主』が『この世界』に現れようとしている。


Kirikaは使い魔としての本能から息の詰まるような恐怖を覚えた。

逃げなければならない。逃げるしかない。

そう思った。

クリームの暗黒空間にその身を隠した。

Kirikaが暗黒空間に逃れたため、時を遅くする魔法の効果が切れる。

時は普段通りに動き出す。


ほむら「あああああぁぁぁぁぁッ!」

ほむら「ハァ……ハァ……!」

ほむら「……あ?」

ほむら「ハァ、ハァ……き、消えた……」

ほむら「何……!?何が……?」


Kirikaが消えていた。

ほむらは涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭う。

何故消えたのか、ほむらには理解ができていない。

まどかとキリカの死に錯乱し、絶望を突きつけられた。

ほむらは取り乱した心を落ち着かせ、状況を確認する。

床に穴があいて、まどかの足首がある。

それを認識し、そこで初めてほむらはあることに気付いた。

『盾』から『淡い紫色の光を発する糸』が出ている。

ストーン・フリーの糸ではない。ストーン・フリーが消えた。

しかし、これはストーン・フリーと同じ『何か』を感じる。

光の糸は無風の空間でゆらゆらと揺れている。


盾から出ている紫色の光は、視界の外へ伸びている。

その糸を目で追う。それは自身の背後に伸びている。

糸の先には『人』がいた。

錯乱していたとは言え、気配を感じなかった。

自分以外の人間がいるはずがないということは、自分自身でよくわかっている。

まして『既に死んでいる者』がいるはずがない。

心臓が止まるような、肺が萎縮するような感覚を覚える。


ほむら「そんな……嘘……」

ほむら「あり得ない……だって……だって!」

ほむら「だって……あなたは……!」


ほむら「ま……『まどか』ッ!?」



「魔法少女」という言葉が具現化したかのような、

できることならば二度と見たくはないと思っていた桃色の衣装。

かつて憧れた、優しさと凛々しさを兼ね、含まれている瞳。

見間違えるはずがない。

そこに『鹿目まどか』がいる。

幼い妹をあやすような、穏やかな笑顔をしている。

その顔を見ただけで、心が洗われたような気持ちになる。

そして、まどかの背後に『何か』が見える。

『……ほむらちゃん』

頭の中に優しい声が響く。テレパシーと同じ調子。

いつでも、いつまでも聞いていたい大好きな声。


ほむら「あ、あなたは……どうして……」

まどか『頑張ったね。お疲れさま……』


……頭が混乱している。

目の前に『まどか』がいる。

それも魔法少女の姿をしている。

この時間軸では契約していないはずだし、そもそも目の前で死んだはずだ。

ここにいるのはあり得ない。

ましてや、私を助けるなんて……絶対に、あり得ない。

……そして、ストーン・フリーがいない。どこかへ消えた。

その代わり、盾から……正確には砂時計から『紫の光を放つ糸』が伸びている。

この光に、既視感を覚えたと思ったら……そうだ。

魔法少女のまどかが射る、魔法の矢……その閃光にちょっと似てる。

しかし光の調子は淡く、何より色が違う……。


そしてそれは、目の前にいるまどかの手首に巻き付いている。

繋がっている。ほむらとまどかだ。

まどかの背後にいるのは……半透明の人の像。

精神のエネルギー……スタンド。

靡く黒い髪。

ミケランジェロの彫刻のような圧倒的な存在感。

初めて見るが、知っている。

間違いない。確信を持って断言できる。

これはまどかのスタンド、

『スタープラチナ』そのものだった。


ほむら「まどか……まどか、だよね……」

まどか『ほむらちゃん……やっと名前で呼んでくれたね』

まどか『嬉しいな……とっても嬉しい』

ほむら(間違いない……前の時間軸の『まどか』だ……)

ほむら(感覚でわかる。私を助けるために死んだ、スタープラチナを得たまどか本人だ)

ほむら(でも……前の時間軸、まどかは契約はしていないはずだ……)

ほむら(そして、アンダー・ワールドの使い魔でもない……)

ほむら(どういうことなの……私、夢でも見ているの……?)

ほむら「ど、どうして……」


そして「何故魔法少女の姿なのか」「何故この時間軸にいるのか」

二重の意味を含めて投げかけた「どうして」の答えを待った。


まどか『……あなたは何となくわかってると思う』

まどか『スタープラチナを見て確信を持ってるだろうけど……』

まどか『わたしは……"前の時間軸"の鹿目まどかだよ』

まどか『勿論……アーノルドという魔女とは関係ない』

ほむら「ど、どういう……こと……?」

まどか『……正確には、わたしは鹿目まどかという概念。幽霊みたいなものかな?』

ほむら「概、念……」

まどか『ほむらちゃんはこれまでにこれの"片鱗"を見ていたと思うよ』

まどか『今のわたしにはね、この時間軸の全てが見えていたの』

まどか『だからね、全部わかってたよ。この時間軸でもほむらちゃんがわたしのために頑張ってくれたことも』

まどか『マミさんが、ゆまちゃんが死んじゃったことも……』


悲しそうな目で、静かな口調でほむらに言う。

ほむらは、今の状況に既視感を覚えた。

夢の中で、会ったような……いつのことだったか思い出せない。


まどか『今まで助けることができなくてごめん……ごめんね』

まどか『今という時をずっと待っていた。あなたが私を"呼び出して"くれることを』

ほむら「まどか……何を言ってるのか……よくわからないよ……」

ほむら「何が……何がどうなっているの……?」

ほむら「私のストーン・フリーはどうなっちゃったの……?」

まどか『…………』

ほむら「ねぇ……まどか……」

まどか『さて……まずはクリームから逃げなくちゃいけないよね』

まどか『どうしよっか?見えないんだよね』


答えてくれなかった。

結局ほむらは何も理解していない。

何故まどかがいるのか、ストーン・フリーはどうなってしまったのか、

この光の糸は何なのか、自分に何が起こったのか。

自分の感情の整理もできない。

喜べばいいのか、悲しめばいいのか、誇ればいいのか、

どういう顔をすればいいのか全くわからない。

ほむらの感情が不明確のまま、まどかは宙を見つめる。

クリームを探している。

クリームは今、この世界には存在しない。

ストーン・フリーによる糸の結界を貼り直すよう暗に指示しているのかと思ったが、

そのストーン・フリーはどこかへ消えた。その代わりに紫の糸がある。

しかもそれはどう扱えばいいのかわからない。



『……です』


ほむら「……ん?」

ほむら「……まどか、今何か言った?」

まどか『ううん。何も?』

『2メートル、直進です』

『2メートル、直進、して、ください』

ほむら「……え?ほら、また……」


誰かが、直接脳内に話す声がする。

聞き覚えがないが、上品な印象を受ける落ち着いた声。

ずっと前に聞いたことがあるような、そんな声。

普通、この状況で聞き慣れない声を聞けば警戒しなければならないが、

ほむらは不思議と焦燥感を覚えなかった。


まどか『2メートル直進だって。ほむらちゃん』

ほむら「あ、あの……まどか?」

まどか『2メートルだってば』

ほむら「え、えっと……どうすればいいの……?」


まどかもその声が聞こえている。

聞こえて当然かのように、普通に振る舞っている。

まどかの知り合いの声らしい。

そんな声の人がいただろうか……ほむらは思ったが、心当たりがない。


まどか『だから、2メートル直進だってば。はいっ』

ほむら「……う、うん」


まどかは手を差し伸ばしてくれた。

ほむらは、その手に手を伸ばす。

まどかはほむらの手をギュッと握り、軽い力で引いた。


……!?

ま、まどかの手……もとい、グローブ……布の感覚がしない。

触れている感覚そのものはある……だけど……『ない』

まるで、ストーン・フリーの糸に触れているような……、

触れているけどその感覚がない……。実像がない。

これは……『実物』じゃあない。

そして……この、私の手を引っ張る感覚……。

懐かしい……とても、懐かしい。

どうしよう……また、泣きそうだ……。

でも、泣いている場合ではない。

泣いちゃダメ。

何が起こっているのか理解できてないけど、今はとにかく——


ガォン!

削るような、飲み込むような、破壊するような音がした。

振り返ると、先程までほむらが立っていた場所……、

親友と戦友の死に動揺し床に落としてしまった狙撃銃が消えていた。

そして、円の穴があいている。クリームの痕跡。


ほむら「ッ!?」

ほむら「まどか!?あ、穴が!銃が!」

ほむら「Kirikaがそこにっ!」

まどか『うん。そうだね。そこにいるんだ』

ほむら「あ、後少しでもそこにいたらやられてい——」


『Uターンしてください』


ほむら「ま、またあの声……!」

まどか『ほむらちゃん。こっち見て』

ほむら「あっ……」

ほむら「……ッ!?」


ほむらは、スタンドのようなまどかが指す方向を見る。

目の前の光景に、ほむらは固まった。

やはり理解が超えている。

まどかとキリカが死に、それが矢を拾った自分のせいであることを知る。

前の時間軸のまどかが側にいて勇気づけてくれている。

ストーン・フリーが淡紫色の色に変化した。

追い打ちをかけるかのように、理解不能は立て続けに訪れる。

『Kirikaが浮いている』


ほむら「ど、どういう……こと?」

ほむら「何で……何でここにKirikaが……!?」

ほむら「暗黒空間に隠れているはずのKirikaが何故私に『見える』のッ!?」

まどか『落ち着いて。ほむらちゃん。とにかく"それ"を避け続けるの』

ほむら「私……頭がごちゃごちゃしてるよ……」



『数字を表示した小さな液晶が額にあるKirika』


それが空中で片膝をついてゆっくりと浮上している。

非常にシュールな光景であり、不気味な光景。

ほむらは頭が破裂するのではないかと思った。

取りあえず、謎の声の指示通りに移動する。


ガォンッ!

再び、床に穴があいた。

『Kirika』が通り過ぎて少しのタイムラグ、その後のことだった。

Kirikaと暗黒空間を分離したかのような感覚だった。

そしてそれは、ほむらに一つの結論を導かせた。


ほむら「こ、これは……」

ほむら「……『クリームのルート』ッ!?」

ほむら「この『Kirika』が通った後に、実際にクリームが通過している!」

まどか『そう……正解だよ』

まどか『わたしと、あの予知は……クリームのルートからあなたを避難させている』

ほむら「……予知?」

ほむら「…………」

ほむら「……『予知』ッ!?」

ほむら「まさか……まさかッ!」

まどか『そう……そのまさかだよほむらちゃん』

ほむら「『美国織莉子』ッ!?」


『 YES I AM! 』


背後から声がした。

振り向くと、まどかの時と同様にいつの間にか、側に、人がいた。

頭を飲まれ、結界の奥に消えていった存在。

『美国織莉子』がそこにいた。

イギリス近衛兵を思わせる形状の、白い帽子。

白いカーテンを纏ったかのような衣装。

そしてまどかと同じように、その手首に盾から伸びた『紫色の光』が巻き付いている。


まどか『織莉子さん……今のって……』

織莉子『ひ、久しぶりの"現世"だからちょっと張り切っちゃったわ……お恥ずかしい』

まどか『ィエッス!アイアムッ!』

織莉子『真似しないで!』

ほむら「ど、どうして……!どうしてあなたがここに!」

ほむら「あの声は……そうだ、思い出した……あなたの声だった!」

ほむら「あなたは死んだはず!死んだはずのあなたが何故ッ!」


盾から二本の糸が伸びている。

時間軸を超越した、前の時間軸のまどか。

結界に消えた、この時間軸の織莉子。

紫の光は、二人の死者と繋がっている。

織莉子は微笑みと共に答える。


織莉子『"ムーディ・ブルース" AND 予知能力。それが答え』

ほむら「ム、ムーディ……?」

織莉子『私の"スタンド"よ』

ほむら「あなたの……スタンド?」

ほむら「で、でも……あなたのはリトル・フィートだったはずじゃ……」


どうやら今床をすり抜けていくKirikaの姿は、織莉子のスタンドらしい。

織莉子は解説を続ける。


織莉子『ムーディ・ブルースは"過去の事実を再生"する……DVDのようなスタンド』

織莉子『皮肉にもアンダー・ワールドと少し似たような能力に思えるけどそれはさておき……』

織莉子『それに私の"未来予知"の能力が共鳴した!スタンドと魔法の共鳴!』

織莉子『あなたが見えているキリカは使い魔のキリカの"20秒後"……未来の姿よ』

織莉子『外界からシャットアウトしているクリームは……』

織莉子『まさか自分の未来を"先行上映"されているとは到底思わないでしょう』

ほむら「未来を……『予知を再生』している……ということ?」

織莉子『そう。正確には"再"生とは違うけど、ともかく。見えなくなっている本体を……暗黒空間の中身を再生しているわけ』

織莉子『要するに、ムーディ・ブルースを避ければ敵も避けられる』

織莉子『もっとも短い時間しか先行上映できないけれどね』

織莉子『私にしか見えなかった予知を、"映像"として他者と共有できるというのが利点であり……』

織莉子『欠点よ。相手にも見えてしまうから。見られた以上予知通りに行くはずがないもの』


織莉子『でも、クリームは暗黒空間に隠れて干渉ができない。予知が見られることはない』

まどか『三分か、四分か……あるいは五分。ずっと飛び回っているわけにもいかない』

まどか『必ず、暗黒空間から顔を出して外を確認しなければならない』

織莉子『そのタイミングも、ムーディ・ブルースで"予習"できる』

ほむら「そ、それって……」

まどか『そう……ほむらちゃん。今言えること……」

まどか『クリームから顔を出す瞬間。そこしか、わたし達が暗黒空間に干渉できる隙がないっていうこと』

織莉子『……外界を覗く時しかチャンスはない。待つしかないのよ』

まどか『だからそれまで、少しお話しようか』

まどか『どうせいつ出てくるか予知でわかるんだし』

まどか『本当は、さやかちゃんと杏子ちゃんのところへ行きたいけど……Kirikaは葬らなければならない』

織莉子『何より、私のキリカの仇討ちよ』

ほむら「…………」


ほむら「あなた達は……」

まどか『ん?』

ほむら「あなた達は一体何なの?」


こればかりは、答えてもらわなければならない。

何故、前の時間軸のあなたがこの時間軸にいるのか。

何故、死んでこの世界からいなくなったあなたがここにいるのか。

ストーン・フリーに何が起こったのか。

まどかと織莉子、二人は顔を見合わせる。


まどか『んー……』

織莉子『どこから話せばいいのかしら』

まどか『…………"矢じり"だよ』

ほむら「……矢じり?」

ほむら「それって……もしかしてあの『矢』のこと?」


まさか……と思った。

いつの間にか盾の中に入っていた、石の矢。

その矢は、スタンドを発現させる力があると、使い魔は言った。

それを踏まえ、前の時間軸。

魔法少女でなかったはずのまどかは今、魔法少女の姿で現れている。

得体の知れない矢と魔法少女。二つの事象。

それらから導き出された推測と同じことを、まどかはいともたやすく言う。


まどか『あの矢は……わたし……もとい、前の時間軸の鹿目まどかの願い』

まどか『わたしは、あなたに力を託したいと願った……』

まどか『ほむらちゃんにスタンドを発現させたかった』

まどか『スタンドは魔女の呪いじゃあない……絶望に抗い、立ち向かう力……』

まどか『あの矢は、わたしの契約で作り出されたスタンドを発現させる道具』

まどか『次元を越えてあなたと共に時間遡行をした、わたしの、未来への遺産』


ほむら「じゃ、じゃあ、ストーン・フリーは……!ムーディ・ブルースは……!」

まどか『そう。わたしが望んだから生まれたんだよ』

まどか『引力の魔女レイミとは別の……そっちが黒なら、これは白のスタンド!』

まどか『ちなみにスタープラチナは、わたしに巻き付いた因果律の力で白となったスタンド』

まどか『この現象の片鱗として……わたしと織莉子さんの魂は盾の中にいることしかできなかった。夢の中で言うことしかできなかった』

ほむら「…………」

まどか『……誤解を招かせちゃって、辛い思いをさせちゃってごめんね。でも、これしかなかった』

まどか『ほむらちゃん。あなたは希望。あなたなら……みんなを救済できる』

まどか『わたしは、あなたにわたしだけでなく、みんなを救って欲しかった……だから矢を託したの』

まどか『……申し訳ないと思っているよ。自分勝手なこと言っちゃって。願っちゃって。片鱗を見せる程度しか、してあげられなくて』

ほむら「まどか……」

まどか『スタンドは……確かに魔女の呪いだったかもしれない』

まどか『でも、わたしにとっては、強さであり、勇気の具象であり、誇りだった』


まどか『だから、ほむらちゃんに持ってほしかった』

まどか『これは……わたしの願い。わたしの力』

織莉子『ただ……長所と短所は表裏一体……』

織莉子『その矢で知らない内に誰かを傷つけてしまい、その人が魔女になってしまって、スタンドが暴走をしてしまった……』

織莉子『それがアンダー・ワールド……キリカを殺めた憎き概念』

まどか『わたしは……そのリスクに気付けなかった』

まどか『マミさん達を死なせてしまったのは……本当は"わたしのせい"なの』

まどか『……本当にごめんなさい』

まどか『でも、わたしはどうしてもこの"レクイエム"に目覚めてほしかった。理解してほしかった』

ほむら「レ、レクイエム……!?」


心臓がしゃっくりをするような感覚。

『レクイエム』という言葉をまどかが言い、ビクリとなった。

そして……疑惑が実感となった。


ほむら「じゃあ、まどか……この……この『紫色の糸』は……!」

織莉子『そう……レクイエムよ』

まどか『前の時間軸……織莉子さんは、ほむらちゃんのレクイエムが世界を滅ぼすと予知した』

織莉子『鹿目さんの望むスタンドと、引力の魔女が孕ませるスタンドは別のもの……レクイエムも同じ』

まどか『わたしの矢で発現したストーン・フリーが、その矢を取り込んだ……』

織莉子『"スタンド"が"矢"を得ることで踏み込む"新たな領域"……レクイエム』

まどか『この糸がほむらちゃんのレクイエム!』

織莉子『ストーン・フリー・レクイエム!』

まどか『名を冠するなら"コネクト"ッ!』


ほむら「『コネクト』……!」


まどか『勿論由来は"connect"……直訳で"繋がる"という意味』

まどか『コネクトの能力……前の時間軸の概念、死んだ概念……"次元を越えて繋がる能力"ッ!』

織莉子『あなたの願いと魔法。そしてレクイエムの共鳴』

ほむら「私の……私の願いと……能力」

まどか『ほむらちゃんが……わたしと一緒にいたいと願ってくれた、心底からの願い』

織莉子『そして、時間軸という次元を越えるその魔法、共に次元を突き抜けるレクイエムのパワー』

まどか『これらが共鳴し覚醒した……わたし達、"他の概念"をつれてくる能力』

織莉子『これはこれでアンダー・ワールドと少し似ているわね』


次元を越える砂時計から伸び、前の時間軸の概念と死んだ概念と繋がっている糸。

ストーン・フリー……暁美ほむらのレクイエム。

淡紫色の糸は依然優しい光を放ち、重力の干渉を受けずに揺れている。


ほむら「私の……私の能力……レクイエム」

ほむら「私が……あなた達を連れてきた……」


まどか『そうだよ。ほむらちゃん。そして……そろそろだよ』

織莉子『ヤツが出てくるわ』


宙を浮き漂っていたキリカの姿は静止した。

そして、ムーディ・ブルースは姿勢を変えて、こちらを見下ろす。

即ち、今から20秒後に、そこでKirikaは暗黒空間から顔を出す。


ほむら「あそこに……!」

織莉子『ムーディ・ブルースを解除するわ』

まどか『あんなとこに顔を出すんだね』


ムーディ・ブルースは織莉子の元へ戻ってきた。

Kirikaの形は歪み、姿を変える。

ラバースーツを着たマネキンのような姿になった。

スピーカーのような形状をした両目、額には未来のKirikaと同じように液晶が埋め込まれている。

それが、ムーディ・ブルース本来の姿。


まどか『それじゃ……行ってくるよ』

ほむら「まどか……」

まどか『スタープラチナッ!』

『オラァッ!』


スタープラチナは床を強く蹴り、ジャンプした。

スタープラチナが持つ強力なパワーは、跳躍力14メートル以上を可能にする。

まどかの概念と繋がるコネクト。

盾の砂時計から伸びる淡紫色の糸。

ほむらの盾とまどかの手首を繋ぐ、緩やかな線が描かれた。



まどか『スタープラチナ!"時は止める"ッ!』


スタープラチナ。

力強く、素早く精密な動きが出来る、最高レベルのポテンシャルを誇る。

かつて、スタープラチナはまどかの精神力に伴っていなかったため、その力を出し切れていなかった。

それは前の時間軸の話。まどかは契約したことで、素質と成長がその差を克服し、力を引き出すことに成功した。

その結果、スタープラチナは『数秒だけ時間を止める』ことができるようになったのだ。

まどかは時間停止能力は『ほむらへの憧れ』が反映されたものだと思い込み、そうだと信じている。

時の静止した世界に、暗黒空間から出てきたKirikaの上半身が浮かんでいる。


まどか『……やれやれだよ』

まどか『スタープラチナ!引きずり出して!』

『オラアァァ————ッ!』


時の止まった世界で、スタープラチナは暗黒空間から身を乗り出したKirikaの胸ぐらを掴む。

そして力強く引き、Kirikaを暗黒空間から引っ張り出した。

触れても止まった世界に入門させることはない。

落下はしない。Kirikaの全身は空中に静止する。


まどか『……やっぱり止められる時間はこれくらいが限界かな』

まどか『そして時は動き出す』

Kirika「さぁ、今やつらはど」

Kirika「こに——ッ!?」


ふと気が付くと——

Kirikaは驚愕した。暗黒空間から半身を出しただけのつもりが、何故か自分の体、その全身が『外』にいる。

宙に浮いているだったにも関わらず、同じ目線の高さに『まどか』がいる。

何故か、まどかの概念の使い魔は産まれなかった。

いるはずがない存在が、いつの間にか現れ、突如目の前に現れた。

理解不能。


まどか『捕らえたよ……キリカさん……いや、Kirika』

Kirika「な……!?え……!?」


Kirika「な、何で私は……暗黒空間の外に……!?」

まどか『暗黒空間から無理矢理引きずり出した!』

Kirika「鹿目まどかッ!?」

Kirika「ク、クリーム!暗黒空——」

まどか『スタープラチナ!』

『オラァッ!』

ガスゥッ!

スタープラチナは左手でKirikaの延髄にあたる箇所に手刀をあてた。

使い魔である以上、延髄を狙った所で失神させるような意味は為さない。

位置はどこでもよかった。『床に叩き落とすこと』に意義がある。


Kirika「どっげェ————ッ!?」

ドグチァッ!

Kirika「グピィッ!」


床に叩き付けられたKirikaは全身の肉が裂け、

体のあちこちから品質の悪い油絵の具のような体液を流す。


Kirika「ぐぅ……クカハッ……うげぐ」

Kirika「何……なん……だ……!?クッ!」


Kirikaは追い打ちを受けないためにもすぐに立ち上がる。

右脚が千切れそうではあったが、状況を確認する。

十数メートル先に、ほむらがいる。

そして、使い魔はたった今気付く。

ほむらの横に人がいる。『もう一人』増えている。

さらに『もう一人』上にいる。


Kirika「ゴボ……ガボッ……な、何故……だ……!?」

Kirika「何故……いるんだ……『織莉子』……!」


その姿を知っている。

あの姿は愛している。

この姿とキスだってした。

だが……『それ』は死んだはずである。


Kirika「そんな……まさか。……死んだはずだ……ぞ!」

Kirika「まどかも……そう!だけどもッ!」

Kirika「死んだヤツが何故ここにいる!しかもまどかはスタンド使いじゃなかったはずだ!契約すらしてなかった!」

Kirika「アーノルドが産んだヤツじゃあない!私はついさっき殺したぞ!何者だ!?」

織莉子『…………』

まどか『…………』

Kirika「答えろ!貴様らッ!むしろ貴様が答えろッ!暁美ほむらッ!」

ほむら「…………」

ほむら「さぁ……何のことだか……わからないわ」


Kirika「お、おのれェ……!」

Kirika「ほむらの能力は時間停止!スタンドは糸がくるくるしてるだけ!」

Kirika「そんな……死んだ命を蘇生するような能力なんて……」

Kirika「……ッ!」

Kirika「ま、まさか……まさかッ!」


Kirikaの心底からある推測が浮上した。

認めたくはない。しかし、それ以外にあり得ない。

『それ』なら全て『そういうことだった』で説明がついてしまう。


まどか『ン……ソウルジェムを叩き付けた際に破壊したつもりだったんだけど……』

織莉子『えぇ、生きてるようね……確かに魔女になりかけというヤツね』


まどかは、コネクトが自重をなくしているかのようにふわふわと降りてきた。

織莉子は、相手がキリカの姿であるにも関わらず、その目に寸分の慈愛がない。

ほむらは、まだその顔に混乱が見える。考える時間が欲しいと言わんばかりの表情。


Kirika「そんな……そんなことが!それ以外にない!」

織莉子『生き残るのは……この世の"真実"だけ……真実から出た"真の行動"は、決して滅びはしない』

まどか『わたし達とみんなの行動と意志は滅んでいない……』

織莉子『あなたは果たして滅びずにいられるのかしら?』

まどか『自称クリームヒルト……!』

Kirika「『レクイエム』だッ!」

Kirika「ス、ストーン・フリー……レクイ、エム」

Kirika「馬鹿な……予知と違うぞ……!『異なるレクイエム』だぞ……!」

Kirika「前の時間軸の予知では!地球上の生命を吸収する能力!」

Kirika「異なるレクイエムが!死者を蘇らせたのか!?」

ほむら「正直未だに状況が完全に飲み込めていない、そんな自分も存在しているけど……感覚でわかる」

ほむら「このレクイエムはコントロールできている……!」

ほむら「世界を滅ぼしたりなんかしない!コネクトは私のレクイエム!」

ほむら「レイミが発現させるスタンド、矢が発現させるスタンドは違う!レクイエムもその然り!」


ほむらの前に、まどかと織莉子の概念が立ちふさがっている。

Kirikaの心に絶望が訪れた。一対三。圧倒的不利。

……しかし、すぐに改める。

絶望なんてものが、あるはずない。まだ希望がある。

ポイントは射程距離。Kirikaは諦めない。


Kirika「う、ウグォォ……!お、おのれ……!」

Kirika「ふざけやがって……!この死に損ない共がァァァ……!」


——Kirikaは考える。

そうか……アーノルドが前の時間軸のまどかを産まなかった理由……

作らなかったんじゃなかったんだ。作れなかったんだ。既に鹿目まどかという概念がいたからだ。

同じ概念は三つ以上この世界にあってはならないんだ!多分そういうことなんだろう。

まどかのスタンド……スタープラチナは恐ろしすぎる能力だ。射程距離的にこの距離で十分か……それとももう数メートル離れるか?

何にしても、予知で暗黒空間から外へ出るタイミングを読まれてしまったんだろう。


だから、私は捕まった……だが!だが『なんてことない』ッ!

暗黒空間にそのまま逃げればいい!

外に出なければいい!この際そのまま逃げたって構わない!

我がクリームは無敵!暗黒空間に隠れさえすれば、勝つかは別として、負けはしない!

ほむらの魔法、ソウルジェムが真っ黒であるから時間を止めることはもう『できない』……!

まどかの能力、スタープラチナは『数秒程度だけ時を止める』ことができる。生前のOriko情報、そして今実際に体験して理解した……。

時が止まっているのに数秒と数えるのも変な話だが……数秒だけなら!

この距離!射程距離!問題はない!叩き付けられた場所と奴らの場所がこれだけ離れていれば!

ストーン・フリーは存在しない!そして織莉子のスタンドは追い打ちをしてこなかったことから戦闘型でない!

もしそうなら既に、床に叩き付けられた時点で追い打ちをしていたはずだからだ!

どれもこれも、暗黒空間に孤立する私には乗り越えられないことではないッ!

隠れさえすればッ!隠れて!ここから逃げて!さやかと杏子を飲み込み、やっぱりアーノルドを救おう!

ここは退くんだ!ここで退くことは敗北ではない!


ほむら「ま、まどか!」

まどか『なぁに?ほむらちゃん』

ほむら「や、ヤツが暗黒空間に消えちゃう!」

織莉子『……かもしれないわね』

ほむら「ストーン・フリーとスタープラチナの射程距離ではあそこまでは……」

ほむら「それに、ムーディ・ブルースは戦闘型じゃなさそうだし……」

ほむら「そもそもストーン・フリーは今別の姿になってる」

ほむら「このままだと暗黒空間に再び隠れられて手が出せないよ!?」

ほむら「ど、どうするの!?二人とも!私はコネクトで何をすればいいの!?」

ほむら「何故まどかは距離を空けて叩き付けたの!?」

織莉子『落ち着いて。暁美さん』

まどか『……何の問題もないよ。ほむらちゃん』

ほむら「へ……?」


織莉子『慌てる必要は何もない』

織莉子「お茶でも飲んで……話でもしようや……」ジョロンジョロン

ほむら「な、何を言って……」

織莉子『暁美さん。ムーディ・ブルースは私のスタンドではあるけど……』

織莉子『こればっかりはあなたが言わないとスッキリしないわ』

ほむら「な、何……?」

織莉子『私が代わりに言うのは不格好だと言うのよ。あなたが言うの』

ほむら「な……何を言って……?」

織莉子『飲み込みが悪いのね。"5分17秒前"よ』

ほむら「ご、ごふん……?」

織莉子『これが、ムーディ・ブルース本来の能力……』

織莉子『5分17秒前を"再生"する』

ほむら「……そ、それって……それってもしかして……!」

ごめんなさい。なんか別のとこで使おうと思ってた文が割り込んじゃってました。
>>145 訂正


織莉子『慌てる必要は何もない』

ほむら「な、何を言って……」

織莉子『暁美さん。ムーディ・ブルースは私のスタンドではあるけど……』

織莉子『こればっかりはあなたが言わないとスッキリしないわ』

ほむら「な、何……?」

織莉子『私が代わりに言うのは不格好だと言うのよ。あなたが言うの』

ほむら「な……何を言って……?」

織莉子『飲み込みが悪いのね。"5分17秒前"よ』

ほむら「ご、ごふん……?」

織莉子『これが、ムーディ・ブルース本来の能力……』

織莉子『5分17秒前を"再生"する』

ほむら「……そ、それって……それってもしかして……

>>146最後の」間違えて消しちゃいました。私ってば疲れてるっぽい




織莉子がほむらを落ち着かせている頃、

Kirikaはクリームを使い、暗黒空間の入り口を生成した。

中に入ったもの全てを破壊する暗黒空間。

そしてそれに干渉できるのは『そういう能力』を持った自身のみ。

無敵の空間であり、この距離なら、入るだけなら近づかれようとも間に合わない。

狙撃をするにもトリガーを引く前には消えているだろう。


Kirika(この便所に吐き出されたタンカスどもがッ!貴様らはいつか必ず殺すッ!)

Kirika(ブチ殺してやるッ!絶対に暗黒空間にバラ撒いてやるからなッ!)

Kirika「クリームッ!暗黒空間に身を——」


まどか『ほむらちゃん!織莉子さん!』

織莉子『再生(リプレイ)が開始されるわ!』

ほむら「す……」


ほむら「ストーン・フリーッ!」


「オラァッ!」

バキィィッ

Kirika「グベッ!」

Kirika「ブ……ゲッ!?」

Kirika「……え?」


Kirikaは、暗黒空間に入る寸前に突如として真横から「何か」に殴られた。

しかも、たった今ほむらが叫んだ言葉と、オラァの声を知っている。

声の主は、女性的な体格をしている。

有名な彫刻のような存在感があり、 所々が解れている。

糸の拳は様々なものを砕きそうな、頑丈さを見て取れる。

『ストーン・フリー』がそこにいる。


ほむら「す……ストーン・フリー……」

織莉子『ムーディ・ブルースを一時停止する』


織莉子がそう呟くと同時に、Kirikaは自身を殴った相手をもう一度確認する。

ストーン・フリーがそこにいる。見間違いではない。

彫刻のように、その場で動かない。

ここにある事実。

離れた位置に敵。すぐそこに、その敵のスタンド。

額には、タイマーのようなものがついている。


Kirika「ゲボ……ス、ストーン・フリー……?」

Kirika「ば、バカな……いつの間に……!」

Kirika「ストーン・フリーは、人型では、射程距離が……短いはずだ!」

Kirika「何故私の側にいる!何故離れた位置にいるッ!?何故レクイエムに進化したのに『進化前』が残っている!」

『この距離ならさ……』

Kirika「——ハッ!」

『お互いに外しっこはなしだよ』


声が聞こえる。

目の前にいるストーン・フリー。そして挟むようにまどかがいた。

不意打ちを喰らい動揺をした隙に接近を許してしまった。

まどかの隣にはほむらと織莉子。

スタープラチナの射程距離。ストーン・フリーの射程距離。

挟まれた。

ストーン・フリーの過去は、スタープラチナの方を向いている。

Kirikaは、自分がチェスや将棋でいう「詰み」の状況にあることを悟った。

スタープラチナのスピードは熟知している。

ストーン・フリーのパワーは思い知らされた。

だからこそ、逃れられないという確信と恐怖がある。


織莉子『これが……我がムーディ・ブルース"本来"の能力』

織莉子『私のムーディ・ブルースは、先程暁美さんが、この世界のキリカと鹿目さんが殺されて、半狂乱にラッシュした"ストーン・フリー"を"再現"した』

織莉子『鹿目さんがスタープラチナで吹き飛ばしたその座標……』

ほむら「……!」

織莉子『完璧ではない、いまいち気に入らない位置ではあるけど……』

織莉子『そこが、ストーン・フリーが"いた"場所よ』

ほむら「私の……ストーン・フリーの、過去……」

ほむら「時間を『録画』する能力……!」


まどかは……それを計算に入れていたんだ……。

やっぱり……やっぱりまどかはすごい。

どうしよう……さっきから、何度目だろう。

涙が滲んでくる。ジーンってしちゃう。


一緒に戦えて嬉しいと思うと同時に、私は感動している。

でも……でも今は、我慢しなくちゃ。倒した後なら……泣いても許されるはずだよね。


まどか『ほむらちゃんのスタンドと、一度一緒に戦ってみたかったんだぁ』

織莉子『それでは、暁美さん。もう一度かけ声をしましょうか。一時停止を解きますから』

Kirika「あ、ああ……そ、そんな……そんな……!」

ほむら「う、うん」

まどか『それじゃ、ほむらちゃんっ。準備いい?』

ほむら「……うん!」

Kirika「う、うあ……おあぁ……い、いやだ……いやだッ!やめて……!」

織莉子『ちなみに"リピート再生"っていうのもあるわ』

Kirika「う……」


ほむら「ストーン・フリーッ!」

まどか『スタープラチナッ!』

Kirika「うおおおおおあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


    オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!

  オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!
オラアアァァッ!   オラオラオラオラオラオラーッ!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!
    オラオラァ! オラオラオラオラオラオラオラ!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!
    オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!
 
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!   オラアアァァッ!
       オラオラオラオラ!   

 オラオラオラオラオラオラーッ!




二体の近距離パワー型スタンド、同時に放たれる拳のラッシュ。

ストーン・フリーの拳が叩き込まれ、Kirikaは体勢を崩す。

スタープラチナの的確な角度と強さでの打撃でKirikaの態勢を無理矢理調整させる。

体の向きを調整されて即、ストーン・フリーのもう一打。

ストーン・フリーに合わせて精密に殴るスタープラチナ。

全ての骨を生きたまま砕くかのような力と速さ。

あまりにも多くの手数により、Kirikaの足は床につかない。

Kirikaは最早、呉キリカの姿をしていない。

拳と拳に顔面が挟まれる。眼球が潰れた。

骨格が崩れ顔の形は壊れ指や肩が砕け内臓は破裂した。

まどかは集中力を極限まで高めスタープラチナに殴らせる。

ほむらは本当に自分でストーン・フリーを操っている錯覚を覚えた。

織莉子はムーディ・ブルースに『もう一周』一心不乱にさせた。


ストーン・フリーは攻撃をやめ、静止した。

二回リピート再生をさせた。

Kirikaの体は宙を舞い、スタープラチナの『丁度良い』位置へ。

『オラァァァァッ!』

スタープラチナは締めの一撃を放つ。

拳を肉塊に叩き付ける。


Kirika「ヤッダァァァァァァァバァァァァァァァァァッ!」


床に穴をあけ、Kirikaは『底』へ落ちた。


Kirika「WRRRRRR……RRYYYY……」

Kirika「……グブゥッ」

Kirika「あ゙……あ゙ア゙……ガ……」

Kirika「NUUUAAA……MMMNN……!」


Kirika「イ゙……今だ……隠れるんだ……」

Kirika「暗黒空間に……隠れるんだ……クリームは発動するんだ……!」

Kirika「ヴェルサ、スは……し……幸せ……に、なるんだ……!」

Kirika「しあ……わ、せ」

Kirika「——ガフッ!」


使い魔は、黒い煙となる。

魔女と魔法少女の中間となった概念は、ソウルジェムの弱点を克服する。

魔法少女のタフさと魔女の生命はたった今、死亡した。

ジシバリの魔女アーノルドの使い魔群、スタンド使い部隊、ヴェルサス。

その中で最も魔女に近かったKirikaは塵と化す。


使い魔だった黒い煙は、穴から出て宙に舞う。

黒い煙は周りの空気と混ざり合い、少しずつ色が抜けていく。


——ほむらには、見えていた。

その色の抜けた『透明な煙』が見えている。

白とも灰色とも、桃色とも言わない透明な煙。

コネクトの淡い光にあてられてか、

透明の煙は微かに紫色を帯びた。

そして、形を変えていく。

雲が生き物の形に見える時があるように、

「それ」と同じような現象かと、最初、ほむらはそう思った。


淡い紫の煙は『二人』に見えた。


ほむら「あ……」

ほむら「ま……『まどか』ッ!キ……『キリカ』ッ!」


まどかの姿が見えた。キリカの姿が見えた。

二人の姿が空へ浮上していく。それが幽霊か何かに思えて仕方がなかった。

「…………」

二人の煙と目が合った気がした。ほむらはその煙に向かって足を踏み込む。


ほむら「ああっ!」

ズテンッ!

しかし、膝に力が入らずほむらは転倒した。頬を地面に打ちつけてしまう。

前の時間軸のまどかは思わず一歩前に出そうになったが、織莉子が止めた。

このまどかと織莉子は確かに見えていた。

コネクト、ほむらのレクイエムが……『もう二本』

光の糸が空に向けて伸びつつあったのを。

ほむらの無意識の行動であった。


ほむら「グッ!……ハッ」

ほむら「…………」

ほむら「うぅ……」


ほむらは上体を起こし、天井を見た。

まどかとキリカの姿に見えた「何か」は既に消えていた。

そして、気が付けば——

ジシバリの魔女の結界は『解けて』いた。

空が明るい。

たった今解けたのか、それとも既に解けていたのか。

窓から差し込む爽やかな太陽がほむらを照らした。

ジシバリの魔女、アーノルド。その全ての因縁はたった今途絶えた。

さやかと杏子が撃破したのだ。

そしてふと、その二人もスタンド使いであることを思い出す。


ほむら「げ……幻覚……だったの……それとも……」

まどか『…………』

織莉子『幻覚ではないわ』

ほむら「……え?」

まどか『そう……レクイエムは魂を支配する能力……』

織莉子『きっと、彼女達の魂がコネクトと共鳴して……見えたのよ』

ほむら「魂……?」

ほむら「何で……何でわかるの?あなた達に……そんなことが……」

まどか『……うーん、何て言えばいいんだろう』

織莉子『あなたのスタンド……いえ、レクイエム。もとい、コネクト』

織莉子『それに触れられた時、その性質を理解したわ』

まどか『うん。うん』

ほむら「……どういうこと?」

まどか『それはね、ほむらちゃん。自然に理解できるはずだよ』

ほむら「…………」


まどか『さて、そろそろわたし達も消えようか』

織莉子『そうね』

ほむら「え、消える……?」

ほむら「いなくなっちゃうの……二人とも……?」

ほむら「そんなの……そんなの嫌だよ……!」

ほむら「二人とも、行っちゃヤダ……」

ほむら「行かないで。寂しいよ……」

まどか『でも……いつまでもいられないよ……』

織莉子『気持ちはわからないでもないけど……それは仕方がないこと』

ほむら「うぅ……」

まどか『わたしはほむらちゃんに託した希望が叶って、名前で呼んでくれただけで十分過ぎるくらい幸せだったよ』

まどか『わたし、ほむらちゃんに会えて……本当に楽しかった』


まどか『あなたは……わたしの最高の友達』

まどか『だから、ほむらちゃん。次……"わたし"を迎えに来てほしいなって』

ほむら「……迎え?」

まどか『次の時間に遡行する時……あなたと"この"わたしの魂がそれを望むと思うから……』

織莉子『コネクトは次元と次元を繋ぐ』

織莉子『別の私と、また会いましょう。あなたが望むならの話だけれど』

まどか『えへへ、絶対に迎えに来てね?約束だよ』

ほむら「じ、次元……?それに、迎えって……?」

織莉子『レクイエムは魂を支配する能力……精神に直接干渉できる力』

まどか『ほむらちゃんのコネクトは……精神の概念を、あなたの誓いを繋ぎ止める』

ほむら「まどか……?織莉子……?」

ほむら「ねぇ、何を言ってるの……?」


ほむら「よくわからないよ……つまり、どういうことなの?」

ほむら「どういう、意味……」

ほむら「……な……の?」

ほむら「…………」

ほむら「い……『いない』……?」


声が聞こえない。姿が見えない。

しかし、前の時間軸のまどか。この時間軸の織莉子……、

二つの概念が完全に消えたという実感だけがあった。恐らくもう二度と会えない。

そして、この時間軸のまどか。この時間軸のキリカ。

この二人が死んだという喪失感が改めて心を突っつく。

しかし——希望はある。


ほむら「天国……とでも言えばいいのかな」

ほむら「行ってしまったんだね……導かれて」

ほむら「二人とも……」

ほむら「…………」


ほむら「……ん」

ほむら「矢が……」

ほむら「……ストーン・フリー?」

ほむら「………………」


カチャン、と音をたてて矢じりが落ちてきた。

石の矢。とても輝いて見える。

スタンドを発現させ、ストーン・フリーを新たな力に進化させた道具。

まどかから託された希望の具体。ほむらはそれを拾う。


ほむら「……この矢」

ほむら「前の時間軸のまどかが……契約してまで承継してくれたもの……」

ほむら「全ては、この時のために……私のために……まどか」


ほむら「去ってしまった……人達から受け継いだ……ものは……さらに先に……進めなければ、ならない」

ほむら「この矢は、盾の中に入れて……おこう。きっと……また一緒に……来てくれる」

ほむら「そして……また……必要な、時、に……」


ほむらは、盾に希望を収めつつ、前の時間軸のまどかとこの時間軸の織莉子の言葉を思い出す。

『自然に理解できるはずだよ』『精神の概念を、あなたの誓いを繋ぎ止める』

『コネクトは次元と次元を繋ぐ』『彼女達の魂がコネクトと共鳴して……見えたのよ』

——たった今、一つの推測が立てられた。コネクトの真の能力。

それが正解であることをほむらは心の底から期待した。

ドサッ

途端、ほむらは全身から力が抜け、その場で倒れてしまった。

精神的にも肉体的にも、疲労がピークに達したため意識が飛んでしまったのだった。


その数分後、肩を組み合い、疲労により覚束ない足取りで歩く二人の仲間が体育館に辿り着いた。

そしてほむらを介抱した。


スタープラチナ・ザ・ワールド 本体:鹿目まどか(前の時間軸)

破壊力−A スピード−A 射程距離−E
持続力−C 精密動作性−A 成長性−A

数秒だけ時間を止めることができるスタンド。その性質は「勇気」
大切なものを守れる自分になりたい、という思いから発現した。
パワー、スピード、精密動作に優れ、最強レベルのポテンシャルを誇る。
ほむらのストーン・フリーと似た波長を持っている。
まどかは「ほむらに託す」ことを契約して『矢』を創った。
まどかの因果と魔力の一部を内包するその矢は時間軸を超え、未来への遺産。希望となる。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



ムーディ・ブルース 本体:美国織莉子

破壊力−C スピード−C 射程距離−C
持続力−C 精密動作性−C 成長性−C

『矢』で指を傷つけたことで発現したスタンド。その性質は「真実」
「この時間軸」の織莉子のスタンド能力。真実へ向かおうとする意志が反映された。
過去の出来事を録画したDVDのように再生・早送り・巻き戻し・停止して観ることのできる能力。
対象に変身して「再生」するが、対象によってはムーディ・ブルース以上の力が出せる。
則ち、再生中に限り成長性以外のステータスはAにもEにもなりうる。
また織莉子の未来予知の能力と共鳴し、未来の「先行上映」が可能。
しかし予知と同じように、上映された出来事が真実になるとは限らない。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


今回はここまで。お疲れさまでした。

決着、そしてレクイエムの登場です。オリジナル能力ですね。かずマギの誰かさんの能力とは一切関係ありません。
因果の糸がどうこうということで糸のレクイエム
オリジナル能力ということでご不明な点が生まれると予測されます
完結後に予告通り質問コーナー的なのを設けるので、その時に是非是非

レクイエムにまだ目覚めてないはずなのに片鱗が見えてますが、
三部格ゲーにレクイエムの片鱗みたいな感じの技があるから、いいよねってノリで
ちなみにムーディ・ブルースと織莉子の組み合わせはスタンド編を構想するにあたって最初に思いついた組み合わせだったりします


さて、そんなこんなで、次回で最終回になります


#エピローグ『再会の物語』


——数日が経過した。


見滝原中学校にて、教諭と生徒合わせて三六名が行方不明となる事件が発生した。

保護された職員生徒の多くが「おかしな証言」をしている。

警察は精神が錯乱しているとして回復を待つとともに、

見滝原病院で発生した失踪事件との関連を調べている。

某県教育委員会は見滝原中学校を無期限的な休校とする対処を取り、

後日保護者に向けた説明会を開催すると発表した。


——事件の真相。

魔法少女とスタンドという事情を知らない者からすれば、

誰であっても説明することのできない出来事である。

世界の暗転。殺戮。『人が化け物に喰われた』と説明して誰が納得できようか。


事件の生き残り、その内の魔法少女。

暁美ほむら。美樹さやか。そして佐倉杏子。

三人は今、見滝原駅にいる。天気は晴れ。

ほむらは、いざというときまどか以外を見捨てる覚悟の他にもう一つ決意していたことがあった。

それは「目的を果たすまで両親に会わないこと」である。

メール等による最低限の返信や定期連絡を除いて両親と関わらないことを決めていた。

『感傷』に繋がるためである。感傷は前の時間軸の敗因だったからだ。


——当駅から出発する東京行きの新幹線。

ほむらは、それに乗って東京へ帰ることにした。

両親に会うために。

さやかと杏子はその見送りである。


見滝原中学校は現在、無期限の休校中。

再開する日は未定だが、必ずその間にワルプルギスの夜は見滝原に到来する。

まどかのいない世界に、ほむらは残る理由がない。

この世界の残り時間は、ほむらは東京で家族と過ごし……

再び砂時計が回転し時間遡行ができる時を待つことにした。

正確には、さやかと杏子にそうするよう勧められ……いや、強制させられた。

グリーフシードをいくつか、餞別として押しつけられた。

残された見滝原、風見野は、さやかと杏子が守ると誓ってくれた。


ほむら「本当に……見滝原に帰らなくていいの?」

杏子「構わないさ。あんたには帰る場所がある。家族水入らずで過ごせばいい」

さやか「あたし達がこの街とみんなを守っちゃいますよォ〜」


新幹線が見滝原駅に到着する時刻まで、予約した時間までまだ余裕がある。

ほむらは、三人で会話するこの状態がずっと続けばいいと思った。

同時に、早く次の時間軸に行きたいという矛盾した思いがある。


ほむら「でも……」

杏子「気にするな。ほむらがいようがいなかろうがワルプルギスの夜が来るのは決まっている」

さやか「だからほむらはほむらの目的に集中すればいい。誰があんたを見捨てるだなんだ攻めようか」

ほむら「本当に……あなた達、たった二人でワルプルギスに挑もうと言うの?」

ほむら「確かに、この時間軸にいる意義はない……それでも、私はこの街を……」

杏子「スタンドが通用するか試したいってとこだろ?そりゃ困る」

さやか「お試しでワルプルをやられちゃーたまったもんじゃないからね。それにうっかり死なれたら全てがパーよ」

杏子「スタンド使いのあたし達がいれば簡単に倒しちまうからよ。一度勝たれたらあんたは油断するだろうからな」

ほむら「そ、そんなことは……」


さやか「だからぁ、もうこの街はあたし達のテリトリーなの!」

杏子「好き勝手されちゃぁたまんねーわけよ」

杏子「エイミーだかスイミーだか知らないが、例の黒猫の世話はちゃんとやるよ」

さやか「ちゃんと責任を持って愛でるから何の心配もない!」

ほむら「…………」

ほむら「二人とも……」


もしや……と思った。

油断がどうこうでワルプルギスの夜と戦わせたくないのではない。

少しでも私と一緒にいれば……感傷とでも言えばいいのか、

別れが辛くなる。必ずいなくなってしまうのだから。

だから見滝原から追い出すような形になってでも……そうしようとしているのではないか。

……自意識過剰かもしれない。だけど、そう思うことにした。


ほむら「…………」

ほむら「ふふっ……何よそれ」


久方ぶりに笑った気がする。

それどころかこの時間軸で初めて笑ったような気がする。

無愛想な戦友の笑顔を初めて見た二人は、

ほむらってこんな可愛い顔をするんだ。……と思った。


さやか「……ねぇ、ほむら」

ほむら「何?」

さやか「別れ際に言うのもなんだけど、頼まれてほしいことがあるんだ」

杏子「三つ、あたし達の願いを聞いてくれよ。礼を言われる程なんだからいいだろ別に」

さやか「まぁぶっちゃけるとこっちが礼を言う側だろーけど、聞いてよ」

ほむら「……願い?」

杏子「そうだ」

さやか「うん」


杏子「一つ目は、次の時間軸とやらで、なるべく早くゆまを助けてやってほしいんだ」

杏子「あいつは親から虐待を受けていたんだ。救って、魔法少女と関わらない幸せな人生を歩ませてやってほしい」

杏子「具体的に何をすりゃいいのかあたしにゃ検討もつかんが……」

杏子「あんたならそれなりに上手くやれるだろ。施設にぶち込むなり誘拐するなり、方法は任せる」

さやか「二つ目は、向こうのさやかちゃんを救ってほしいということ」

さやか「ほら、あたしはご存じの通りバカなヤツだからさ……恭介に好きだなんて契約しようがしなかろうが関係なく多分言えない」

さやか「恋を成就させろとまでは言わないけどさ……向こうのあたしに後悔のない選択をさせてほしい」

杏子「三つ目はあたしを何とかしてくれ。あたしもあたしでこの通り素直になれねーヤツなんでな」

杏子「今だから言えるが、本当はあたし、マミが好きなんだ」

杏子「マミが生きてたらそんなことぜってー言えないが……」

杏子「あたしとマミの仲を取り持つなりしてくれたらそれはとっても嬉しい」

さやか「杏子はツンデレさんだからね」


ほむら「…………」

ほむら「……えぇ」

ほむら「わかったわ。二人とも」

ほむら「ゆまちゃんも、あなた達も、救えるよう努力するわ」

杏子「頼むぞ」

さやか「うん。よろしーく」

杏子「……あ、ちょっと待った」

ほむら「?」

杏子「四つにしてくれ」

ほむら「四つ?」

杏子「頼まれ事を四つにしてくれってことだ。忘れてた。もう一つは……」


杏子「ほむら。幸せになってくれ」

ほむら「杏子……」

さやか「あぁー、一番肝心なこと忘れてたよ」

さやか「あたしもさ。あたし達はあんたの幸せを一番に望むよ」

ほむら「さやか……」

ほむら「……えぇ。わかったわ。努力する」

ほむら「幸せになってやろうじゃないの」

杏子「おう、なりやがれ」

さやか「頑張りなさいよ」

ほむら「…………」

さやか「…………」

杏子「…………」


ガシィッ!

三人は両隣の「仲間」の肩に手を置き円陣を組んだ。

三人のスタンド使いは笑顔を見せているが、その目には涙を浮かべている。

ほむらは、この二人と二度と会うことはないだろう。

さやかと杏子は、このほむらと永遠の別れとなるだろう。

別れを惜しんでいる訳ではない。感極まっているわけでもない。

悲しくも感動でもなく何故涙が出るのか、誰も説明はできない。


さやか「それじゃあね!しみったれた小娘!長生きしろよ!」

さやか「そしてこのあたしのことを忘れんなよ!」

杏子「次でまた会おうッ!」

杏子「あたしのことが嫌いじゃあなけりゃあな!……マヌケ面ァ!」

ほむら「忘れたくてもそんなキャラクターしてないわよ……!あなた達は……」

ほむら「……元気でね」


新幹線到着予定時刻十二分前。

ほむらは振り返り、改札へ向かった。

それとほぼ同時に、さやかと杏子も振り返り、見滝原駅を後にした。

三人はお互い、手を振る等といった、これ以上の別れの言動をとるつもりはない。

今の円陣が三人にとっての儀式であり、正式な別れを表す。

ほむらは改札機を通過した。

さやかと杏子は駅前のコンビニを通過した。


杏子「……腹、減ったな。さやか。折角だからどっかで飯にしよう」

さやか「いいねぇ。でも金はあんの?」

杏子「ほむらから餞別としていくらかせびっちゃったもんねー。イタリア料理を食べに行こう」

さやか「うわ、あんた……色々台無しなヤツだな」


杏子「うっせぇ。剣振り回すしか能がないスタンドのくせに」

さやか「はぁ!?」

杏子「それしかできないってことは、単純な性格ってことだろ?スタンドは精神力」

さやか「それは聞き捨てならないねぇ!あたしのスタンドを馬鹿にすんなよ!?」

さやか「あたしのスタンドはあんたの炎を耐えられる甲冑がある!」

さやか「その気になればあたしの剣で二刀流なんてのもできるだろうし!」

杏子「チッチッ、甘い甘い。あたしのク炎はまだまだそんな甘くはないぞ」

さやか「あたしのスタンドは杏子のより断然素速いのよ」

杏子「速さはそうかもしれないが、何にせよあたしのスタンドと比べたら大したことないな」

さやか「あたしのスタンドのが強い」

杏子「いいやあたしのスタンドのが強い」


さやか「こっちのが強いわ!」

杏子「いいやこっちのだね!」

さやか「あたしのスタンドの方が強い!絶対強い!」

杏子「いいやあたしのスタンドの方だね!パワーもある!」

さやか「シルバーチャリオッツのが強い!」

杏子「マジシャンズレッドの方が強いね!」

さやか「わー!やんのかコラァ!」

杏子「はっ!やってみなくても結果は見えてるぜー!」


互いに自分のスタンドには自信がある。

そしてワルプルギスの夜という伝説級の魔女に対し、

絶対に負けないという自信と負けられないという意地がある。


「ああ、ここにおれの進むべき道があった!ようやく掘り当てた!」

こういう感投詞を心の底から叫び出される時、あなた方は初めて心を安んずる事ができるのだろう。

——夏目漱石「私の個人主義」より抜粋。


杏子は、さやかに進むべき道を見出した。

さやかは、暗闇の荒野を杏子と手を繋いで歩くことにした。

二人の心は安らいでいる。互いが生き甲斐となって癒している。

幼なじみのまどかや片思いの恭介、尊敬するマミ慕っていた早乙女先生。

戦友のキリカや妹同然だったゆま、仲直りしたかったマミ。

大きすぎて多すぎるものを失ったのも事実ではあるが、

二人はそれを受け入れ、未来を死ぬまで生き続ける。

その先にあるもの。それは誰にもわからない。

さやかと杏子は人目も気にせず言い争いを始めた。

二人は心の底から今の時間を楽しいと感じているのだ。


新幹線は滑るように走る。

ノートパソコンを眺めるスーツの男性客や、

本を読みふける女性客がいる。中は静寂を保つ。

ほむらは指定席にて、窓から流れる景色を静かに眺めていた。


ほむら「…………」

ほむら(……帰るって連絡したら、お母さんすっごく喜んでくれてたな)

ほむら(弱いあの頃の私から……かなり変わっちゃったから、お父さんびっくりするだろうな)


両親が感傷に繋がると考えたのは、ほむらが両親を深く思っているためである。

今のほむら——感傷を弱点と考えなくなったほむらは、すぐにでも両親に会いたいと、無性に思う。

『この時間軸の両親』とはお別れをしなくてはならないが、とにかく、会って話がしたいと考えている。


——すてきな青空だった。


青空を背景に、普段は見られない視点から見る見滝原の街並み。

この平和な景色は、いずれワルプルギスの夜に破壊されるのだ。

スーパーセルという災害として扱われる。

この災害によりまどかの両親を含め、多くの人が亡くなってしまう可能性がある。

あくまで可能性。

二人の仲間は、ワルプルギスの夜と戦うつもりらしいが……、

その戦果を知る頃には、自分はもうこの時間軸にいないだろう。

知る術はない。別に知りたいとは思わない。

それは決してネガティブな意味合いを持ち合わせてはいない。

だかと言って、勝てるだろうという考えがあるわけでもない。


ほむら「…………」

ほむら(さやか……杏子……)

ほむら(任せたわよ……『この』見滝原は)

ほむら(あなた達の願いは聞き入れる)

ほむら(あなた達はあなた達で幸せになって欲しい……私の願いはそれくらい……かな)

ほむら(……まどか)

ほむら(前回は逆に守られて……今回は守れなかったね)

ほむら(情けないよね……ほんと。私ってば……)

ほむら(いつになったら、私はあなたを守る私になれるのかな)

ほむら(まどか。次こそ私はあなたを……)

ほむら(……ううん。みんな)


ほむら(私は……全てを救いたい)

ほむら(キリカ……あなたと友達になりたい)

ほむら(ゆまちゃん……あなたの笑顔がまた見たい)

ほむら(さやか……あなたに後悔をさせたくない)

ほむら(織莉子……あなたに生きる目的を示してあげたい)

ほむら(杏子……あなたを素直にさせてあげたい)

ほむら(巴さん……あなたにまた甘えさせてほしい)

ほむら(まどか……あなたと交わした約束は決して忘れない)

ほむら(みんな……私、頑張るからね)


ほむら(もう何があっても挫けない)

ほむら(私は、まどかとの約束を果たすし……)

ほむら(同時に、みんなを救ってみせる)

ほむら(まどかがくれた未来への遺産……みんなから受け継いだ人間の魂を持ってして……)

ほむら(全員がワルプルギスの夜を越えて、未来へ……!)

ほむら(一緒に、因縁を断ち……黄金のように輝く道を歩もう)

ほむら(そこから……私の、私達の人生、未来が始まる)

ほむら(あなたという未来に幸運を……)

ほむら(貫いた想いが未来を拓くんだ)

ほむら(……だよね?)


ほむら(コネクト。『あなた達』の魂が望むのなら——)








——これは再会の物語









文字通り私が再び大切な人と出会うことになるいきさつ……

そして思い返せば繰り返される一ヶ月の間はずっと祈り続け……

この力と技術による死闘も「祈り」の旅でもあった。


心の平和を「祈り」

明日、知り合いが笑っていることを「祈り」

仲違いをすれば理解し合えることを「祈り」

新しい出会いを「祈る」

そのあたりまえのことを繰り返しながら——

友と世界の平穏を祈る。


そしてひとつひとつの山を越える。


今——また山を越えることになる。


彼女の住所はこの街ではないが、ある理由で見滝原に来ている。

そこで、魔女に出くわした。

彼女は死力を尽くして戦った。

魔女を倒すことで少しでも世界に平和と誇りを取り戻せることを信念としている。

その結果は——。


「……やめときゃ……よかった、かな」

「よその……テリトリーの魔女に……手を出すだなんて」

「私は……」

「死ぬ、んだ……」

「…………」

「やぁ。何日ぶりになるのかな」

「……あなたは」

「でも残念ながら、君はここまでのようだね」

「……キュゥ、べえ」


敗北した彼女にとって……目の前の白い小動物は、

奇跡をもたらしてくれた、願いを叶えてくれた尊き存在。

>>196訂正



——古びた廃ビルに、少女がいた。


彼女の住所はこの街ではないが、ある理由で見滝原に来ている。

そこで、魔女に出くわした。

彼女は死力を尽くして戦った。

魔女を倒すことで少しでも世界に平和と誇りを取り戻せることを信念としている。

その結果は——。


「……やめときゃ……よかった、かな」

「よその……テリトリーの魔女に……手を出すだなんて」

「私は……」

「死ぬ、んだ……」

「…………」

「やぁ。何日ぶりになるのかな」

「……あなたは」

「でも残念ながら、君はここまでのようだね」

「……キュゥ、べえ」


敗北した彼女にとって……目の前の白い小動物は、

奇跡をもたらしてくれた、願いを叶えてくれた尊き存在。


「ってことは……やっぱ私、もうダメなのね……」

「体は動かないし……ソウルジェムも真っ黒……挙げ句に魔女には逃げられて……」

「私は……もう死ぬのね」

「ああ、そうなるね」

「あなた……私なら……とても強くなれるって言ったのに……」

「強いことと負けることは違うよ」

「…………」

「君は頑張った方だ。僕に君を助ける術がないのはとても悔やまれる」

「…………」


キュゥべえはピョンと身を翻し姿を消した。

廃ビルに残された少女は、ただ自分が魔女になるのを待つしかない。

自分の魂が忌むべき魔女になるということを知らないまま逝けるだけ、まだ幸福な死ではある。

ガラスのない窓から入り込んでくる雨で、寝そべっているコンクリートはとても冷たかった。


「……どうして、こんなところに」


声が聞こえる。

薄れいく意識の中、その声の調子が驚愕か悲哀か、どんな感情が込められているのかさえわからない。

霞んでいく景色に、鮮やかな色のブーツが見えた。

その足で、その人物が魔法少女であることがわかった。

テリトリーに無断で入ったのは自分の方。自業自得である。

助けを乞わないにしても、伝言を託したい。それくらいの慈悲に期待する。


「目が霞んでよく見えないけど……あなたは、ここの魔法少女?」

「ごめんなさい……勝手に、テリトリーに入って……勝手に死んで……」

「そこに私のカバンが落ちてるでしょ……?」

「その中に、身分証明書がある……そこの住所を辿れば、ある魔法少女が見えてくると思う」

「それで……伝えて欲しいの……私の死を……私の友達に……」


「…………」

「お願い……伝えて……」

「……その必要はないよ」

「……え?」


現れた少女は、倒れている少女の魂にグリーフシードを宛った。

魂が浄化され、敗戦した少女の体が軽くなる。

視界が回復し、その少女の顔を視認できるようになった。


「……あ」

「こんな所にいたんだね」

「あ、あなたは……」

「何で見滝原なんかに……」


そこにいたのは、首に切り傷のある少女。

彼女の親友であり、家族同然と言っても相違ない大切な存在である。


「あなた……どうして、ここに……」

「ある人がね……僕の前に現れて教えてくれたんだ。おまえさんは見滝原のこの廃ビルにいるって」

「ある人……?」

「名前は知らない」

「……そう。それで、迎えに来てくれたのね」

「何がくれたのね、だっての……僕を置いて勝手に死にかけるだなんて……」

「……ごめんなさい」

「まぁ、過ぎたことはいいとしよう……ところでさぁ」

「何かしら?」

「……『レイミ』と『アーノルド』って言葉に覚えある?」

「レイミ?アーノルド?」


「知らないわ」

「その人は僕のことを『アーノルド』おまえさんのことを『レイミ』だとか何やら言ってたんだけど」

「…………」

「本当に知らない?っていうか僕のは明らかに男性名だぞ」

「……本人がいない以上、確認しようないわね」

「うん。まぁ独り言ってことにしとこう」

「そうね」

「……ねぇ。僕、もう一つ聞いたいことがあるんだ」

「今回は何?」

「真の『幸せ』って……考えたことある?本当の『幸せ』を……」

「……幸せ?どうしたの、またそんないきなり」


「僕はこう考える。……『幸せ』っていうのは『思い出』を誰かと共有すること」

「共有……」

「そう。独りじゃあないんだ。一緒に行った場所、一緒に観たこと、ちらりと聞いたこと、戦ったこと、泣いたこと、思ったこと……」

「それを共有するっていうのが、あなたの言う『幸せ』なのね?」

「そう。僕は……今、僕の目の前にいる人が大好きなんだ」

「…………」

「いつも『思い出』と一緒にいたい。共有したいんだ。たくさん……いっぱい……」

「……うん。そうね。私も……そうしたい」

「嬉しいな……」

「……ありがとう」

「僕の方こそありがとうだよ」


「……『祈って』おこうかしら」

「……祈る?」

「そう……私を救ってくれた、あなたにここを教えた人に」

「何て?」

「知らない人だし、特に何ってこともないけど幸せになってとかそんな感じで……それじゃ、ボチボチ帰りましょう」

「……うん。帰ろうか。レイミ。僕達の町に……」

「……えぇ。アーノルド」

「やっぱ僕、男性名で呼ばれるの嫌だ」

「ふーん。そう……フフ」


ピンクのマニキュアをした少女と、首に切り傷のある少女は、一本のビニール傘に、肩を並べて歩く。

得体の知れない少女に導かれ、再会した二人は帰るべき場所へ帰っていったのだった。


——放課後。


空は雲に覆われている。

天気予報によれば、夕方から明日の早朝にかけて雨が降るらしい。

見滝原中学校校舎入り口に、三人の女子生徒がいる。

鹿目まどか。美樹さやか。志筑仁美。


さやか「やっと授業終わったよぉ〜」

仁美「お疲れさまですわ」

まどか「さやかちゃんまた数学の時間寝ちゃったね」

さやか「体育があったから仕方ない」

まどか「体育がある日は必ずそうなるの?」

さやか「まどかもあんまり人のこと言えないよ」

まどか「そ、そんなことないもんっ。さやかちゃんよりは起きてるもん」

仁美「…………」


まどか「そ、それはそうと雨降るかなぁ?」

仁美「今にも降りそうですわね……」

さやか「仁美傘持ってないけど大丈夫?」

仁美「折り畳みがカバンに入ってますわ」

まどか「さやかちゃん、学校に行く時は持ってなかったけど……」

さやか「置き傘だよん」

まどか「でも折り畳み傘だよね」

さやか「置き折り畳み傘だよん」

仁美「持ち歩かなきゃ折り畳みの意味がありませんわ」

まどか「この前持って帰るの忘れちゃった傘だよね。それ」

さやか「はい」


さやか「仕方ないって。雨降るって言って降らなかった天気予報が悪いんだって」

さやか「30%とか自信満々に言っといてそれだもん。あたし気象予報士嫌い」

仁美「そんないわれもない……」

まどか「あ、あはは……」

さやか「ねぇ、まどか。これから何か予定ある?」

まどか「え?特にないけど……」

仁美「私には聞かないんですの?」

さやか「どうせお稽古でしょ?」

仁美「まぁそうなんですけどね」

仁美「やっぱりまどかさんだけに聞いてたら寂しいじゃないですか」

さやか「仁美ってたまに子どもっぽいよね」


さやか「仁美って大人な雰囲気醸し出してるけど……あ、やっぱ同級生なんだなって思えて安心するよ」

仁美「そうですか?」

まどか「うん。わかるわかる。仁美ちゃんって年上っぽいもん」

さやか「まどかはまだ小学生な気がする」

まどか「えっ!?」

まどか「そ、そんなことないもん!子ども扱いしないでよぉ!」

仁美「そうやってムキになるところがますます……」

まどか「ひ、仁美ちゃんまで!」

さやか「だって……ねぇ?」

仁美「ですわ」

まどか「む、むむむ……確かにわたしは童顔かもしれない……」

仁美「童顔も何も……」


さやか「……で、予定ないんだよね。脱線してしまった」

まどか「うん」

さやか「ちょっと買い物に付き合ってよー」

まどか「うーん……お買い物……」

まどか「できれば雨降る前に帰りたいんだけど……宿題も早く終わらせたいし」

さやか「えぇー、いいじゃん。何のための傘だよー」

仁美「さやかさん。無理強いはよくありませんわ」

さやか「むぅー」

まどか「ごめんね?」

さやか「仕方ないなー。いつかその埋め合わせをしてもらうからね!」

さやか「……ってあれ?今日宿題なんて出てたっけ?」

仁美「…………」

まどか「…………」


今日もまた、日常の一部を満喫してまどかは帰宅した。

玄関を開けると、いつもとは違う気配を感じる。

父親と弟は今、家にいないという気配。

そして、母親がいるという気配。

まどかの勘の通り、母親——鹿目詢子は既に帰宅していた。

頬杖をついてテレビを見ている。


まどか「ただいまどかー」

詢子「ん?今のはまどかのギャグか?かなり大爆笑」

まどか「早いねママ」

詢子「おう、何か気が乗らないからちゃっちゃか逃げてきたよ」

まどか「に、逃げたって……」


相変わらず、ワイルドというか自由というか……

こういうところもカッコイイにはカッコイイんだけど。

——と、まどかは思った。


まどか「そんなのダメだよ。ちゃんとお仕事しなくっちゃ」

詢子「いいのいいの」

まどか「よくないよ……パパとタツヤは?」

詢子「お出かけ。私と入れ違っちゃったみたい」

まどか「そっか……それで帰って早々お酒?」

詢子「いいじゃん!ちょっとくらい!」

詢子「それはさておき、まどか。ついさっきニュースでさ、娘虐待して捕まった親のニュースやってたよ」

まどか「へ?テレビ?」


テレビは今、一昨日にあすなろ市で犬猫二十数匹が仲良く走り去ったという

楽しそうだが少し不気味なニュースを放映している。

詢子は缶をチャポチャポと鳴らしている。


詢子「風見野だってさ。近いねぇ」

まどか「虐待……」

まどか「……それで、その子はどうなったの?」

詢子「保護されたよ。親戚とかがいるならそっちに行くだろうけど、いないなら施設に行くか……」

詢子「その辺はどこも報道しないんだよな。プライバシーの保護とか多分なんかそんなんだろう」

まどか「……酷いよね。虐待なんて」

詢子「腹痛めて産んだ子にそんなことするなんざ想像もつかないね。いや連れ子とかかもしれんけど」

まどか「わたし、パパとママの娘で良かったな」

詢子「そうかい。嬉しいこと言ってくれるじゃあないか」


詢子「親ながら、良くできた子だよあんたは」

まどか「そ、そんなこと……」

詢子「それでさ、その保護された子」

まどか「?」

詢子「ちょっと面白い……と言うのは不謹慎かな、何か奇妙なこと言っててさ」

まどか「奇妙なこと?」

詢子「その子が『お姉ちゃんが窓から逃がしてくれた』みたいなことを警察とか医者に延々と話してるらしい」

まどか「……逃がした?」

詢子「知らないお姉ちゃんが窓から逃がしてくれて、病院に連れて行ってもらって、初めて虐待が発覚したとか。一人っ子だそうだし」

まどか「えーっと……?」

詢子「言ってしまえば、そのお姉ちゃんとやらは不法侵入したってことになる」

まどか「…………」


詢子「虐待ってのはなかなかわからないもんでさぁ」

詢子「疑いのある家に行こうにも民事介入だ何だって難しいらしいんだ」

詢子「そのお姉ちゃんとやらが何のために不法侵入したかは知らないが……」

詢子「その子を救うためだったら、カッコイイよなァ〜」

まどか「……そうだとしたら、すごい行動力だね」

詢子「……どうした?まどか」

まどか「あっ、ううん……わたしには真似できそうにないなって……そんな勇気ないし……」

詢子「…………」


言ってしまえば赤の他人のことであるが、まどかは虐待を受けた子どもに、本気で心を痛めている。

そして、もしかしたらただのこそ泥だったのかもしれないお姉ちゃんとやらに、劣等感を抱いている。

そういう優しさを持っている。そういう気の弱さを持っている。

母親だからわかる。まどかは『そういう子』であり、自慢の娘なのだ。


詢子「行動力が全てじゃないぞ。まどか」

詢子「そういうことをできるのが勇気ってわけじゃない」

詢子「まどかにはまどかの良さがあって、まどかなりの勇気の形ってもんがある」

詢子「逆に、あんたが子どもを助けるために無茶して怪我したなんてなったら私の方がヤバイ」

詢子「そもそもあんたはまだまだ思春期の子ども……成長の余地がある」

まどか「こ、子ども……ママまでわたしを子ども扱いするんだ」

詢子「あんたは私の娘だ。いい勇気に育てよー。よぉ〜しよしよしよし」


詢子はまどかを抱き寄せ頭に手を乗せた。

そしてわしゃわしゃと髪をかき乱す。


まどか「ま、ママっ!髪が、髪がボサボサになっちゃうよ!」

詢子「何だよ。ちょっと前までは喜んでただろーが。えへへーつってよォー。なでなでー」

まどか「いつまでも子ども扱いしちゃヤだよっ!」


母親と娘の他愛ない会話とやり取り。

まどかは、この日常がいつまでも続くことを望んでいる。

まどかは普通の人々と同じように……、

家族を愛し友人を愛し国を愛し学業に勤しむ。

ただの中学生。少し、自分に自信の持てないただの中学生。

平穏な日常が当たり前で、とても望ましい。


すると、鹿目家のインターホンが鳴った。

いつも聞き慣れた、来客を表す音。


詢子「おっ、誰か来た。まどか行ってきてよ」

まどか「こ、こんなボサボサな髪じゃ恥ずかしいよぉ!」

詢子「悪かったって……私が行くよ」

まどか「もう……」

まどか「……髪とかそうっと」


まどかはカバンをテーブルの上に置き、洗面所へ向かった。

洗面台は、父親がこまめに掃除をしてくれているため、いつもピカピカである。

鹿目家が誇る明鏡には、いつもの自分が映っている。

まどかはリボンを解き、愛用の櫛を通す。

実際で見てみれば、想像以上に乱れていた。


まどか「もー。ママったら……一切加減なしだよ」

まどか「……酔ってるのにお客さん応対させてよかったのかな」

まどか「あっ」

まどか「これは……ママに買ってもらった新しいリボンだ」


洗面台に、ビニールの包装がされた二本組のごく細い赤リボン。

母親のインスピレーションを突き動かしたという実績のあるリボン。


今度、それを着けて学校へ行こうと考えていた。

まどかは、何気なしに包装の接着剤を剥がし装飾品を手に持つ。

絹のような肌触りがした。

そして、髪を左右にまとめ、試しに着けてみる。

蝶の羽のような形になる。


まどか「ん〜……」

まどか「……ちょ、ちょっぴり」

まどか「……いや、思った以上に派手かな?」

詢子「まどかー」

まどか「ママ」

詢子「お、新しいリボン」

まどか「髪をとかすついでにつけてみちゃった。どう?」


詢子「あぁ。似合ってる似合ってる」

詢子「やっぱり私の目に狂いはなかった」

まどか「でも、少し派手じゃないかな?」

詢子「ふっ、いいじゃん。これならまどかの隠れファンもメロメロ間違いなしさ」

まどか「ふぁ、ファンだなんて……」

詢子「それよりまどか。お客さんだ」

まどか「え?わたしに?」

詢子「うん」

まどか「……誰だろう?さやかちゃん?」

詢子「いや、知らない。でも多分クラスメート」

まどか「……?」

まどか「まぁいいや。行ってくるね」


詢子「よし、早速おニューのリボンを見せてやれ」

まどか「な、何だか恥ずかしいかも……」

詢子「大丈夫だって。この私が似合ってるって言うんだ。誇れ誇れ。ドヤ顔で応対しろ」

まどか「う、うん。ドヤ顔はしないけど」

詢子「……なぁ、まどか」

まどか「何?」

詢子「あんた……学校で何かあった?」

まどか「え?」

詢子「その、ケンカとか……」

まどか「……ケンカ?」

詢子「……とにかく、行ってこい」

まどか「?」



まどか「お待たせ……しました」

まどか「……えーっと」

「…………」


まどかはドアを開くと同時に来訪者と目が合った。

そこには、見滝原中学校の制服を着た少女が立っている。年齢は自分と同じくらい。

華奢な体格。肌の色は健康的とはほど遠い。

さらっとした芯の強そうな黒い長髪。

そして、ライトパープルのリボンを髪に結んでいる。

そのリボンが自分が着けたリボンの色違いであることに気付くに時間は要さなかった。

まどかは母親が『ケンカ』という単語を出した理由がわかった。

目の前の少女が怒っているように見えたのだ。

それでいて、その瞳から冷たさだけでなく温かさも感じた。

二つの対照的な感想を同時に得るという『矛盾』があった。


まどか「その……」

まどか「ど、どなた……ですか?」


まどかはおそるおそる尋ねた。

もし、会ったことはあるが覚えていないだけであれば失礼に値する。

しかし、実際に知らない、あるいは覚えていない。初対面。

ただし……見覚えがないわけではない。ただ、それがいつでどこでのことかはわからない。

問われた少女は沈黙している。


「…………」

まどか(な、何で黙ってるんだろう……お客さんだよね?わたしに用があるんだよね?)

まどか「…………」

まどか(それにしても……綺麗な子だなぁ。ちょっと怖そうな部分もあるけど、どことなく懐かしい気がする)

まどか(それに……あのリボン。わたしのと色違いだ)

まどか(すごい偶然。結構有名なのかな。あのリボン)


まどか「…………」

まどか(なんて、考えてる時とは違うね……)

まどか「……その……あの」

「…………」

まどか「も、もしかして、ですけど……」

まどか「わたし……」

まどか「あなたと会ったこと……あります?」

まどか「お、覚えてないだけだったら……その、ごめんなさい」

「…………」

まどか「え、えっと……」

まどか「……お、おそろいのリボンですね」

まどか「もしかして……このリボンって流行ってるんですか?」


思わず敬語で話してしまう。

仁美とは別の方向性で大人びている。上級生かもしれない。


「…………」

まどか「あ、あのぉー……」

「……っ」

ガシッ

まどか「えっ!?ちょっ……!」


黒髪の少女は、まどかの手首をいきなり掴んだ。

まどかは有無を言わさず、急に手首を掴まれた。

蝶の羽ばたきのように、速いようで静かな動きだった。

その力は、絶対に離させない強さと、痛くないようにという気遣いの弱さ。

まどかは、突然手首を掴まれて驚きはしたが不思議と怖いとは思わなかった。

それどころか、滑らかな肌の感触がどことなく懐かしい気持ちにさせる。


「…………」

まどか「あ、あの……」


シュルッ

そして、その少女はリボンを片手で解いた。

淡い紫の線はふわりと浮いた。


まどか「あ……」

まどか(似合ってたのに……)

「…………」

まどか「あっ……な、何を……」


少女は依然答えず、そのリボンをまどかの手に握らせた。

絹のような肌触りと仄かな石鹸の香りを感じた。

自分が着けているものと色違いに過ぎないはずなのに、

何故だかそのリボンがとても高級なものに思えた。


まどか「あの……」

「……わかる?」


少女は、やっとまどかに口を聞いた。優しい声だった。

不思議と脳に直接その声が響いたかのような、そんな感想を抱く。


まどか「わ、わかるって……」

「これが、私の能力よ……『コネクト』は次元を越える」

まどか「え……?」

まどか「こ、こねく……?えぇっと……あの、その、ご、ごめんなさい」

「あなたと……いえ、あなたの概念と約束をした。あなたの魂を連れてくると……」

「そして、迎えに行くって……まどか」

まどか「い、いきなりそんなこと言われ……あれ?今……わたしの名前……」

まどか「どうしてわたしの名前を……初対面、だよね……?」

まどか「何を言っているのか……わたし、全然わか、ら……」

まどか「……な……い」

まどか「……!」


言葉が止まった。不意に言葉が出なくなった。

突如脳裏に、何やら妙な光景が浮かび上がった。

——黒のショートボブの少女と肩を並べて、学校の体育館をふわふわと浮いていた。

そして、床に倒れている少女から、『何かが伸びてくる』

『淡紫色の糸』だった。そして光り輝く糸が、自分とその少女と『繋がっ』た。

そういう光景を、その目で見たことがある気がする。

夢の中か何かで見た気がする。


「……まどか」


少女は再び、まどかの名を呼ぶ。

そう言えば……と、まどかは思った。

突如浮かんだ映像の中で、光の糸を伸ばしている少女と……

目の前にいる少女。……どこか『似て』いる。


まどか「——ッ!」


背筋に電流が走ったかのような衝撃を、まどかは感じた。

痛みはない。熱さも冷たさもない、鋭くも鈍くもない衝撃。

呼吸が一瞬止まった。心臓がしゃっくりをした。

体から力が抜けるような、それでいて逆に何かが入ってくるような感覚。

——今、まどかは理解した。


まどか(……ある)

まどか(わたしは……『ある』)

まどか(この人に『会ったことがある』……)

まどか(そうだ……『思い出し』た!この人は!)

まどか(わたしはこの人を知っている!いや、このまなざしと、リボンの理由を知っている!)

まどか(この人は、わたしに会いに……いや、『迎え』に来てくれたんだッ!)

まどか(わたしに『思い出させる』ために!見覚えのある見滝原中学の制服姿で!そして——)

まどか(紫のリボンをつけて……!)


まどかの頭に流れ込んでくる光景。

体は覚えていないが魂が覚えている体験。

夢で見た景色のようで、実際に歩んだ世界。

自分は「前の世界」の鹿目まどかではない。

それは間違いない。正真正銘、その確信がある。

しかし「前の世界」の鹿目まどかの記憶がある。


まどか(確かわたしは『死んだ』んだ……)

まどか(それで、そのあと……死んだはずなのに、感覚があったんだ)

まどか(紫色の淡い光……『彼女』の心と心、精神と精神、魂と魂が繋がったような……温かい感覚)

まどか(紫色の淡い光……『コネクト』……次元を乗り越えて……)

まどか(『前』のわたしの魂がそれを望んだからだ……一緒にいることを)



まどかは思い出した。


思い出した、というよりも——

脳の奥に潜在されていた記憶が呼び覚まされたかのような、

記憶を本に例えると、そのページの余白にたった今書き込まれたかのような、

体験していない事柄を事実として頭が受け入れる。

わたしは、いつだったか——『前の時間軸』で粉微塵になって死んだんだ。

でも、そのまま消えるだけだったその魂を、精神の一部を、目の前の女の子が……

友達が『持ってきて』くれたんだ。

『前の世界』のわたしの記憶。

この世界のわたしの記憶と、前の世界のわたしの記憶が繋ぎ止められた。


思い出させてくれた……。呼び覚ましてくれた……。


書き込んでくれた……!受け入れさせてくれた……!


まどか(全て……ではないけど……そうだ。理解した)

まどか(わたしのためだったんだ……)

まどか(『この人』は……わたしのために……)

まどか(何度も命の危機に晒され、悲しみ、苦しみ、憎み……辛い思いをしてくれた)

まどか(わたしなんかのために……想像も絶する勇気と覚悟を抱いてくれたんだ)

まどか(わたしを救うって誓ってくれた……)

まどか(わたしのために戦ってくれてたんだ……!)

まどか(……魔法少女)

まどか(魔女、ソウルジェム、ワルプルギスの夜)

まどか(さやかちゃん、マミさん、杏子ちゃん、ゆまちゃん、キリカさん、織莉子さん)

まどか(スタンド、ストーン・フリー、石の矢)

まどか(そして……コネクト)


まどか(交わした約束は忘れない……!)

まどか(わたしは……わたしは……!)

まどか(わたしはこの人の親友だったんだ!)

まどか「……うぅ」

「…………」

まどか「わたし……『思い出し』た……!」

「……!」

まどか「思い出せた……」

まどか「思い出せたよ……うぅ」

まどか「思い……ぐすっ、出せたよぉ……!」

まどか「うっく……ひぐっ」

「……なにを泣いているの?」


涙をポロポロと零すまどかに少女が問う。

親友がどういう表情をしているのか、涙でよく見えない。

しかしまどかは、彼女に何を言うべきかを既に理解している。


まどか「この涙は……幸せの涙だよ……」

まどか「あなたが……ここにいることの……」

「…………」


まどかの紅潮した頬に涙が伝う。

体が震えている。

リボンを手渡した少女の手を、離れないように強く握る。

とても温かい。

少女はまどかの言葉、その意味を心で理解している。


「……それは私も同じよ」


「心が暗く冷えてしまっていた時……」

「温かくしてくれたのはあなたなのだから」

まどか「……ありがとう」

まどか「思い出させてくれて……ここに来てくれて……グスッ、わたしに、会いに来てくれて……」

まどか「ほんとに……ほんとにありがとう……!」

まどか「ありがとう……それしか言う言葉が見つからないよ……!」

まどか「わたし……嬉しいよ……」

まどか「あなたに『また』会うことができて……」

まどか「わたし……わたし……!」

まどか「とっても嬉しい……!」

「まどか……」


「……ごめんなさい。あなたを守れなくて」

「それにわたし……あなたに冷たいことを言った……」

「覚えてる?あなたの大切な人の死を……私は『仕方ない』と言った」

「あなたを突き放すようなことを言って……」

「それが最期の会話になるだなんて思わなかった」

「だから、第一に謝りたかった……ごめんなさいって言いたかった」

まどか「ううん……」

まどか「何も……謝ることなんてないよ……!」

「……まどか」

まどか「謝るのはわたしの方……わたしの方こそ……ごめんね……!」

まどか「本当に……ごめんね……!」


詢子「…………」


詢子「あー、その……和解した?ところ申し訳ないが……」

まどか「ぐすっ……あ、ママ」

詢子「まどか……その子はお友達かい?」

詢子「あーっと……なんだ。子どものケンカに首を突っ込むのは野暮ってもんだが……」

詢子「野次馬精神で聞いてみたいところもある。空気読めてないと言われるのも承知の上」

詢子「よかったらこの酔っぱらいにそこのべっぴんさんを紹介してくれないかい?」

まどか「ケンカなんかじゃないよ……ママ」

まどか「この子はね……」

まどか「わたしの……わたしの、最高の友達……!」

詢子「友達ィ?」

まどか「ずっと前に知り合って……色々……本当に、色々あって……」

まどか「そして『再会』できた……!」


詢子「……話が読めんのだが」

詢子「あんたが何で泣いてんのかはさておき……制服のその子と『再会した』ってつうことは……」

詢子「和子から転校生を受け持つって話を聞いてたが、もしかしてこの子のことか?」

まどか「うん……!」

詢子「そ、そうか……この子が……ずっと前に別れた友達ってことかい……」

詢子(……涙目になるほどなのか?そんなにか?そんなになのか?)

詢子(まどかがそんな大切に思う子、私が話に聞かないはずないんだが……)

詢子(再会ってなると、引っ越したとかそういうことだろ?小学生時代か園児時代か……)

詢子(いや、記憶にない……)

詢子(まさか……私が覚えてないだけ?)

詢子「……な、なぁ、まどか。私、この子に会ったことあった?」

まどか「……うん……ね?」

「えぇ……」

詢子「……私ィ?」


詢子「えっと……すまん。全く覚えがない」

まどか「だってママとは事実上『初対面』だから……」

詢子「は?」

まどか「あ、ううん。何でもない」


……あぁ、何を言ってるのかさっぱりだ。

理解不能なのはお酒のせいか?そんなに頭回らないほど飲んじゃあいないぞ。

まぁいいか。それにしても、再会したとやらの子の顔……。

玄関で応対したその時、怒っているように見えたのは私の間違いだった。

あの表情は、この子の「緊張」な気持ちの表れだったんだ……。

ずっと前とやらに別れて……まどかに覚えてもらえているかどうか、否か、を。

今は目に涙をうっすら浮かべて、あんなに可愛らしく微笑んでいる!

まるでこの子にとってまどかは「心」を注いだ存在であるかのように……!


少女の輝きのある、愛くるしい微笑みを見てそう感じた詢子は……

『将来この子、きっと幸せになるわ』

……と思った。


本当に……。

本当に、廻り道だった……。

本当に本当に……なんて遠い廻り道……。


詢子「それで……あんた、名前は?」

「…………」

詢子「ところでさっきから震えているけど……ひょっとして寒いのかい?」

詢子「そういや雨が降ってきたな……ウチにあがりなよ」

「……ほむら」

詢子「え?」


だけど、今……ここにいる。会いに来てくれた。

わたしの大好きな親友。わたしの最高の友達。

夢の中で会った……


「ほむら。私の名前は……」








「私の名前はほむらです」








——まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」 (完)


おまけ:解説まとめ

ちなみに登場したスタンドは前作、名前だけで登場した分を含めるとこのようになります。

3部:スタープラチナ クリーム ティナー・サックス マジシャンズレッド シルバーチャリオッツ
4部:キラークイーン ハーヴェスト バッド・カンパニー スタープラチナ・ザ・ワールド
5部:リトル・フィート ドリー・ダガー(小説) ムーディ・ブルース
6部:水を熱湯に変えるスタンド ストーン・フリー アンダー・ワールド
7部:シビル・ウォー チューブラー・ベルズ スケアリー・モンスターズ

Raymea(レイミ)

引力の魔女。その性質は「伝承」
別の世界からスタンドという概念を引き入れた、
あるいはその概念を創造したとされる魔女。
立ち向かう力は必ず良き未来へと繋がっていくと思い続けている。
使い魔を使って、日々誰かにスタンドという力を伝える。
それがいつかこの世界に平和と誇りを取り戻すものだと信じて。


Sabbath(サバス)

引力の魔女の手下。その役割は「選別」
結界内の廃墟に引きこもる黒いマントを羽織ったマネキンような姿。
結界に迷い込んだ者へ、向かうべき二つの道を与える。
一つは生きて選ばれる者への道。
もう一つは、さもなくば死への道。


Cavenome(カヴェノメ)

引力の魔女の手下。その役割は「発現」
断層に空いた『穴』そのものがその姿。
Cavenomeに触れた者は、噛みつかれてしまう。
その歯形をつけられた者はスタンドという能力を発現する。
人によっては高熱を伴い、また人によってはスタンドを発現せずに死ぬ。



Arnold(アーノルド)

ジシバリの魔女。その性質は「因縁」
犬のような姿をしていて、スタンドという能力を持つ魔女。
めぼしい相手から記憶を読みとり、自身の記憶と共有することを趣味とする。
アンダー・ワールドの能力と共鳴し、掘り出した過去をそのまま結界とすることができる。
その結界は空の色がアイボリーブラックである以外は精密。
また、アンダー・ワールドで生み出した事実を使い魔として『固定』できる。


Versace(ヴェルサス)

ジシバリの魔女の手下達。その役割は「追想」
アンダー・ワールドで生まれ使い魔となった存在の『総称』である。
掘り出された過去の概念に寄生する形で生きている。
意志があり、外見は瓜二つだがその性格は正確でない。
魔法少女の概念を兼ねる個体はソウルジェムに相当する部位が弱点となる。


アンダー・ワールド 本体:ジシバリの魔女 Arnold(アーノルド)

破壊力−なし スピード−C  射程距離−結界内
持続力−A   精密動作性−C 成長性−A

「過去の事実」を『掘り起こす』能力。その性質は「追憶」
掘り起こされた事実は運命のように変えることはできない。
しかし、魔女の力によりその事実は『過去の概念』として、
使い魔として生まれ変わりその運命から解放される。
過去とは、ほむらの時間遡行能力で言う「前の時間軸」を指す。
失った時間、概念への執着から発現したと考えられる。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


リトル・フィート 本体:Oriko

破壊力−D スピード−B  射程距離−E
持続力−B 精密動作性−C 成長性−C

人差し指に鋭い爪のあるロボット風のデザインをしたスタンド。その性質は「瑣末」
その爪で傷つけられたものは小さくなる。また、自分自身も小さくできる。
縮んでいくスピードは魔力依存。魔力を込めれば込める程早く縮ませる。
OrikoはKirikaを小さくして小動物のように撫でるのが好き。
逆に自身が小さくなってKirikaの指にしがみつくというのも悪くない。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


クリーム 本体:Kirika

破壊力−なし スピード−C  射程距離−E
持続力−C 精密動作性−C 成長性−E

「暗黒空間」という概念を創造・干渉する能力。その性質は「孤立」
フードのような姿をしている。それを被ることで暗黒空間を創る。
その中に隠れることで姿を消し、浮遊して移動ができる。
移動中に触れたものは暗黒空間へ飲み込まれて粉微塵にされる。
暗黒空間に隠れている間は何者からの干渉を受けず、Kirikaもまた干渉できない。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


キラークイーン 本体:Yuma

破壊力−A スピード−C  射程距離−E
持続力−D 精密動作性−C 成長性−B

触れた物を爆弾にする能力(一度に一つだけ)。その性質は「護身」
キラークイーンが触れた物は小石でも人体でも爆弾にして爆発させられる。
爆発のタイミングは本体の任意、または爆弾が触れられること。
爆弾にする能力ばかりに依存しているためか、格闘性能はさほど優れていない。
左手の甲から、魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車「猫車」を出すことができる。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


バッド・カンパニー 本体:Mami

破壊力−B スピード−C 射程距離−B
持続力−B 精密動作性−C 成長性−B

銃を持った小さな歩兵百体の群体型のスタンド。その性質は「統率」
兵隊は狙撃か銃剣で刺すといった攻撃をする。一体一体の力は弱い。
組織を結成したいという欲求と、几帳面な性分が反映したとされる。
ちなみに群体型スタンドの所有者は心に決定的な欠落があるらしい。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


シビル・ウォー 本体:Kyoko

破壊力−なし スピード−C 射程距離−B
持続力−A  精密動作性−C 成長性−D

過去に「捨てたもの」を支配する空間を創造する能力。その性質は「浄罪」
「捨てたもの」の幻覚を見せつける。その幻覚は相手に直接襲いかかる。
図書室や廃教会等の屋内に「結界」を設定し、その結界に入り込んだ相手に作用する。
結界内で本体が殺された場合、殺した相手に「捨てたもの」を押しつけて生き返るという能力もある。
しかしKyokoは使い魔なので、罪悪感というものがない。
故に押しつける罪も清める罪もないため、罪を押しつけることはできず、殺されると死ぬ。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


ドリー・ダガー 本体:Sayaka

破壊力−A スピード−A  射程距離−C
持続力−A 精密動作性−C 成長性−C

魔法武器の剣に取り憑いているスタンド。その性質は「転嫁」
自身に受けるダメージの「七割」を刀身に映りこんだ相手に転移する。
三割は喰らうが、Sayakaの治癒能力と半自動カウンター能力は相性抜群。
Sayakaは常に魔法少女の姿をしているため、24時間スタンド剥き出しである。
光の反射を利用した能力であるため、暗闇では発動しない可能性がある。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


ストーン・フリー 本体:暁美ほむら

破壊力−A スピード−B  射程距離−E
持続力−A 精密動作性−B 成長性−C

一言で言えば糸のスタンド。その性質は「覚悟」
引き裂かれてしまいそうだった心を繋ぎ止めるかのように発現した。
自分の体を解いて糸状にし、その糸を自在に操ることができる。
スタンドの糸を集めて人型にすることで、力が集中しパワー型スタンドになれる。
力が強く丈夫だが、その代わりに射程距離が二メートル程度となる。
糸で「編む」または「縫う」ことによってある程度の傷の治療が可能。
糸は石鹸のような香りがするらしい。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


シルバーチャリオッツ 本体:美樹さやか

破壊力−C スピード−A  射程距離−E
持続力−C 精密動作性−B 成長性−B

レイピアを装備し、銀色の甲冑のような姿をしたスタンド。その性質は「克服」
純粋なパワーはさほど強くないが、高速で力強い剣捌きが最大の武器。
甲冑による防御力に、本体の治癒魔法が加わり屈指のタフさを誇る。
失意に陥っていた精神状態、逆境から乗り越えたことでこの能力の素質を孕み、発現した。
それらは他者によって克服したため、他者を思う心が己を雄飛させる。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


マジシャンズレッド 本体:佐倉杏子

破壊力−B スピード−B  射程距離−E
持続力−B 精密動作性−C 成長性−B

炎のヴィジョンをした熱を操る亜人型スタンド。その性質は「雄飛」
スタンドの口や手から炎を放出し、形状や温度を自由自在に操ることができる。
本能にインプットされているかのように、炎の扱い方は「何となく」で理解している。
スタンドの射程距離は短いものの、炎による中距離攻撃が可能。
火事で失った過去を受け入れ克服したことで、炎の能力を得たのだと杏子は考えている。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


スタープラチナ・ザ・ワールド 本体:鹿目まどか(前の時間軸)

破壊力−A スピード−A 射程距離−E
持続力−C 精密動作性−A 成長性−A

数秒だけ時間を止めることができるスタンド。その性質は「勇気」
大切なものを守れる自分になりたい、という思いから発現した。
パワー、スピード、精密動作に優れ、最強レベルのポテンシャルを誇る。
ほむらのストーン・フリーと似た波長を持っている。
まどかは「ほむらに託す」ことを契約して『矢』を創った。
まどかの因果と魔力の一部を内包するその矢は時間軸を超え、未来への遺産。希望となる。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



ムーディ・ブルース 本体:美国織莉子

破壊力−C スピード−C 射程距離−C
持続力−C 精密動作性−C 成長性−C

『矢』で指を傷つけたことで発現したスタンド。その性質は「真実」
「この時間軸」の織莉子のスタンド能力。真実へ向かおうとする意志が反映された。
過去の出来事を録画したDVDのように再生・早送り・巻き戻し・停止して観ることのできる能力。
対象に変身して「再生」するが、対象によってはムーディ・ブルース以上の力が出せる。
則ち、再生中に限り成長性以外のステータスはAにもEにもなりうる。
また織莉子の未来予知の能力と共鳴し、未来の「先行上映」が可能。
しかし予知と同じように、上映された出来事が真実になるとは限らない。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


コネクト 本体:暁美ほむら

破壊力−なし スピード−なし  射程距離−なし
持続力−なし 精密動作性−なし 成長性−なし

「一緒にいたい」という心底からの願いから発現したレクイエム。
ストーン・フリーが矢を取り込み、紫色に光り輝く糸のような姿に変化した。
浄土から地獄へと繋ぐ蜘蛛の糸のように、砂時計から並行世界の次元をも越える糸を伸ばす。
糸は『別次元の概念』や『死亡した概念』を盾の中へ連れてくることができる。
時間遡行の能力と共鳴してその他者の精神(記憶)の一部を、次の時間軸へ持ち越し承継させた。
受け継がれた人間の魂。勇気と覚悟、誇りと絆がある限り、交わした約束を忘れない。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ



マギア 本体:此岸の魔女 Homulilly(ホムリリー)

破壊力−なし スピード−なし  射程距離−なし
持続力−なし 精密動作性−なし 成長性−なし

前々回の時間軸でほむらが発現するかもしれなかったスタンドの先の領域。レクイエム。
レクイエムとは全ての魂を支配するエネルギーのことである。
マギアは地球上の全生命の魂を十日以内に『消滅』させる。
魔女を殺さない限りレクイエムの活動は続くが、魔女に干渉しようとすると魂は消滅する。
このレクイエムはその時間軸の織莉子が予知で見た可能性の一つに過ぎない。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

これにて全四作に渡ったまどか×ジョジョクロスのシリーズ完結になります。お疲れさまでした。
ある意味でリボほむエンド。タイムリープで他人の記憶を引き継がせるとかチートもいいとこです。

それでは、長くなりましたが最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

と、いうことで予告通り質問コーナー的なのを設けます。

全シリーズ通して気になる点やご不明な点等、
あるいは製作にあたって等、何かしら聞きたいことがありましたら是非。
答えられるものなら何でも答えます


また、HTML化依頼は少し期間をとって前スレとまとめて依頼します。ではでは

全米が泣いた


前作にも似たような質問あったけど、各スタンドの配役の理由は?


ワルプルギス戦その後みたいな続きありますか?

乙です

この世界のまどかは因果蓄積済みの最凶クリーム体?
となると、またおりキリはまどか殺害を目論むと思うんだけど、その場合には脅す所から始めるのかな
それともまどかみたく記憶継承させて引き込む感じになるのか
織莉子に生きる目標を与えたいって言うけど、なんか上から目線だなぁ

まずは乙

ここで切っちゃうのはこの先をもっかいやってもくどいって判断?

あとコネクトって誰のどんな記憶でも継承させられるのか
JOJO風の昇天シーンに立ち会って魂を取り込むみたいな条件があるのか

>>252
具体的に何がどうもやもやなんだよ

乙です!読み応えありました。
質問ですが、前々週のオリコはほむらがスタンドとレクイエムに覚醒する予知をしたけど、
どういうきっかけで覚醒するはずだったのか構想はありますか?


そろそろ現段階で答えられることに答えていきます

取りあえず前置き、前提として

・便宜上前作のメガほむを「一周目」本作のクーほむを「二周目」本作終盤のリボほむを「三周目」と呼びます
・レイミの呪いと設定したものとまどかの契約で作った矢で発現するスタンドは異なります
・ジョジョの世界のスタンドと同一のものというわけではありません

と、いうことでよろしくお願いします


>>251

折角なんで前作で答えたのとまとめてみました

レイミ編
まどか-スタープラチナ:主人公だから
さやか-ドリー・ダガー:剣だから+奇をてらいたくて
ゆま-キラークイーン:猫+虐待繋がり
織莉子-リトル・フィート:五部のスタンドを使いたい一心で特に丁度いいのがなくて妥協した感じ
杏子-シビル・ウォー:七部のスタンドを使いたい一心で特に丁度いいのがなくで妥協した感じ+幻覚繋がり
キリカ-クリーム:インスピレーション+スイーツ+主に盲信
仁美-ティナー・サックス:ナイトメアっぽい(デス13は寝てないといけないので除外)
恭介-ハーヴェスト:四部の(ry

矢編
ほむら-ストーン・フリー:スタープラチナの娘的スタンドで、因果律の糸だかなんだかで糸繋がり
さやか-シルバー・チャリオッツ:お似合いです
杏子-マジシャンズレッド:魔女がロウソクメラメラ頭ということで
マミ-バッド・カンパニー:何かいい感じだと思って
織莉子-ムーディ・ブルース:真実を求める感じの人なんで、真実に向かおうとする意志繋がりで
魔女-アンダー・ワールド:ストーン・フリーの敵には丁度いいかなって。D4Cだと出会ったら死んじゃうし


割とテキトーです


>>253
続きはないです。三周目の後日談のようなものはありません

安価1レススレでジョジョクロスのほむらが集うというネタがあったのですが、
そんなノリで三作のほむらが集うというとても痛いおまけが脳裏を過ぎりましたが、当然しません



>>255
矢に一周目まどかの因果律が少し注ぎ込まれたみたいな描写をした気がしますが、まぁ大体いつも通りです

二周目の終盤でキリカの魂にもレクイエムが伸びている的な描写があるので、あったと思うので、
三周目キリカがほむらと出会えばキリカは二周目のことを思い出します。多分
そこから何とかこう、説得するとか何なりして……その辺はご想像にお任せします
キリカがほむらを覚えてるということを臭わせるシーンも考えてましたが、都合上カットしました

>上から目線
ほむらからすればまどか抹殺は明らかに間違った道なのでそう言っても仕方ないかなと思って


>>258
くどいという理由もありますが、正直な所、もうこれ以上話が展開できないというか、ネタがないというか……
さらにぶっちゃけるともう二度とワルプルギスと戦わせたくないのです

大体その通りです。
コネクトって名前なので昇天してる魂と繋がることが条件……という設定です。
発動中に死に立ち会えば誰でも、持ち越せる記憶はあくまで一部です。
言いにくいんですが、実はそこまで細かく設定してません



>>260
意図してもやもやさせる表現や場面をつくった部分もあるので、多分それらのことかと思います。
だらけ、ということなんで他にもモブキャラという名のオリキャラが出しゃばってるとか色々考えられます



>>261
時系列的にスタンドを得るのは学校襲撃からしばらく後、
ワルプルと戦っている最中に覚醒。スタンドは不明。でも覚醒はすれど結果は完敗
慣れないスタンドでエネルギーを浪費+スタンドに目覚めたのにという無力感に絶望して魔女化レクイエム

という設定がないこともなかったのですが描写する必要がなかったので


これくらいでしょうか……

自分で質問受付とかやっといて何ですが、こう解説とかすると恥ずかしいですね。これは痛いと言われても仕方がない

一応本作開始から継続的に質問を募集し、その都度答えてたつもりでしたが、
もしかしたらこれ以前に答えてないものや、質問だと思ってなかったものもあるかもしれません。
もしそうなったらごめんなさい。ご指摘いただければ幸いです

引き続き、質問の類は受付けております。SS関係ない個人的なことでも構いません。好きなキャラは徐倫です。


また、HTML化依頼及び質問コーナーの締切はこのスレの勢いが20か30切る切らないあたりになったらすることにします
その時には報告致します

あとsageにするの忘れてました。失礼

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom