まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」 (985)


この作品はまどマギ×ジョジョのクロスオーバーSSです。


前作の設定が引き継がれているので、今作だけを読むと展開が理解できない部分があると思います

前作からかなり期間が空いたこともありますので、結構長い作品ではありますが前作の設定を理解した上で今作をお読みいただければ幸いです


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361546925





この『物語』は私が歩き出す物語だ





青春から大人へ……という意味ではなく

未来へという意味で……


私の名前は『暁美ほむら』


最初から最後まで、本当に謎が多い概念

『スタンド』と出会ったことで……


#16『引力、即ち闘』


深夜。

一人の少女が安らかに眠っている頃、

一人の入院患者は、窓から病室を抜け出した。

『一仕事』を終えた少女は、ある高層建築物の屋上にいた。

我々はこの少女を知っている。いや、このまなざしとこの黒い長髪を知っている。

少女——暁美ほむらはファサ、と髪をかきあげた。

その左手には紫色の宝石が埋めこまれている。


ほむら「…………」

ほむら(まどか……)

ほむら(私は……あなたを守る私になりたい。……そう、誓った)

ほむら(私は、成長できたのかしら……あなたを守れる私に近づけているだろうか?)


ほむら(……私は、動揺をしてしまった)

ほむら(エイミーを見せつけられて、動揺をしてしまったから負けてしまった)

ほむら(だから、もうそんな心の弱さは捨てたつもりよ)

ほむら(例え、あなた以外の誰かがやむを得ない犠牲となっても……絶対に、動揺しないと誓った)

ほむら(あなた以外の誰が死のうと、それがゆまちゃんやエイミーであろうと、絶対に……)

ほむら(絶対に必ずや!次こそあなたを守ってみせる!)

ほむら(あなたと交わした約束……必ず果たすッ!)

ほむら「…………」

ほむら「さて、と」


ほむら「病院に戻る前に、軍の基地とチンケな暴力団事務所からいただいてきた武器……」

ほむら「その整理でもしようかしら」

ほむら「……爆弾は作るべきか?」

ほむら「手榴弾を多量に手に入れた……」

ほむら「わざわざ作る必要はあるだろうか?」

ほむら「……いえ、あって困ることもないでしょう」

ほむら「えっと……」

ほむら「ハンドガン、ショットガン、ライフル銃、マシンガン、手榴弾、ロケットランチャー……」

ほむら「それから……これは——」

ほむら「——痛ッ!?」


ほむら「な、何……?」

ほむら「指を切った……どうして?」

ほむら「強いて言えばナイフ……」

ほむら「いや、しかし鞘がついている……だから切るような物は……」

ほむら「……え?」

ほむら「何、これ……?」

ほむら「『こんなの』……盾に入れた覚えがない……」

ほむら「いつ、どこでこんなものを……?」

ほむら「一体これは……?」


ほむら「『矢じり』……?」


——病院


あの夜から数日が経過した。

ほむらは病室のベッドで横になり、じっと天井を眺めた。

やらなければならないことがある時、何も出来ない時間はとても忌々しい。

かと言って、深夜でもないのに『脱走』でもすればバレて問題になる。それは「無駄なこと」だ。

結果的には、この忌々しい時間を黙って過ごすことが、最良で最短な退院への道。


ほむら「…………」

ほむら「今夜あたりね……」

ほむら「ヤツが生まれた時」

ほむら「……引力の魔女レイミ」


ほむら「現れるとすれば……必ず、葬らなければ」

ほむら「できることなら、生まれる前にはどうにかできれば……」

ほむら「レイミ……か」


『引力の魔女レイミ』

前の時間軸に現れた魔女。

廃墟の街並みのような結界を有し、影のような姿をしている。

引力の魔女の手下……使い魔には二種類いる。

一種は黒いマントを羽織ったマネキンのような姿をしている。

もう一種は黒い円、断層にあいた穴のような姿をしている。

そして、その穴の使い魔に噛まれると『スタンド』という能力が発現するらしい。


『スタンド』とは——レイミの呪い、その総称。

精神エネルギーが映像化・具象化したものである。

それは特別な能力を有している。

魔法とは別の能力。

そのスタンドという能力に、人々は振り回された。

その結果、前の時間軸は悲惨なこととなった。

ある種の事がらは死ぬことより恐ろしい。

他者と異なり、優位に立てる能力を得ると、人はつけあがる。

魔法少女の縄張り争いの激化は、それが原因。

スタンドは人を変える。


前の時間軸、ほむらが「スタンド使い」から聞いた事柄。


スタンドには以下のルール・特徴が存在する。

1:スタンドは「スタンド使い」の意志で動き、あるいは自動的に動く。

2:スタンドはスタンドでしか攻撃できない。

3:スタンドが傷つけば、その「スタンド使い——本体」も部位相応に同じ傷(ダメージ)がつく。

4:「スタンド使い」が死ねば、その本体のスタンドも消滅する。

5:ソウルジェムは「本体」にカウントされない。

——スタンドがどれだけ傷ついてもダメージのフィードバックはその「肉体」にしか及ばない。

しかし、本体に変化が及ぶ場合(小さくなる・異空間に隠れる等)ソウルジェムは衣服同様に扱われ、その変化に対応する。

ソウルジェムは魔法少女の魂であるから、当然破壊されれば死ぬ。

スタンドが破壊された場合どうなるかは不明。


6:スタンド使いには「うまい」「ヘタ」がある。

7:スタンドに目覚めるとその血縁者も覚醒することがある。

——上条恭介は父親がスタンドに目覚め、その影響で発現していたらしい。

8:スタンドは一人につき「一能力」である。

9:スタンドは、その本体によっては、力として成長する場合がある。

10:スタンドはスタンドを使いにしか基本見ることができない。

11:スタンドは本体の性格に影響を与える場合がある。良い方向にも悪い方向にも、どう影響するかは不明。

12:スタンド使いとスタンド使いは「引力」のように引き合わされ出会いやすい。

13:スタンドは『レクイエム』と呼ばれる能力に進化することがあるらしい。原因は不明。


前の時間軸。

ほむらにはスタンドが目覚める可能性があった。

結果的にはその力は目覚めなかったものの、

それが『美国織莉子』と『呉キリカ』との出会いの要因となった。

織莉子は予知する能力を持つ。

そして『ほむらのスタンドが世界を滅ぼす』という予知をされたのだ。

正確には、ほむらはスタンドに目覚め、魔女化に伴い『レクイエム』へと進化する。

そのレクイエムが世界を滅ぼすということらしい。

美国織莉子と呉キリカは佐倉杏子を味方につけ、ほむらの抹殺に動いた。


——結論として、ほむら達は敗北した。

仲間であったマミもさやかもゆまも、そしてまどかさえも殺されてしまった。


ほむらと織莉子の決闘の時。

体育館にて、ほむらは織莉子と対峙していた。

ほむらは、自分を狙う理由を尋ね、織莉子の目的を知った。

戸惑いはあったものの、とにかく殺さなければと、

時間を停止してソウルジェムを銃で撃ち砕こうとした。

しかし、織莉子はほむらの時間を止めるタイミングを予知していた。

時間停止を発動する寸前に、織莉子は『囮』を投擲した。

それに動揺したため、時間停止のタイミングが遅れた。

それが敗因である。


ほむら「……動揺したから」

ほむら「あの時……予知されていたとは言え、やはり勝てたはずだ」

ほむら「あの時、美国織莉子がエイミーを使って動揺を誘わなければ……」

ほむら「私が動揺をせずに、冷静に時間を止めていれば……」

ほむら「美国織莉子を殺せていたし、エイミーも助けられていたはずだ……」

ほむら「……『感傷』のせいだ」

ほむら「だから、もう二度と……」

ほむら「二度とそんな感傷を持たない。冷静を最大の武器とせねば」

ほむら「感傷は心の弱さ……今後、決して……決して、そんなことがないように……」

ほむら「今度こそ、まどかを守る」


ほむら「……それにしても」

ほむら「一体どこで『こんな物』を拾ったのかしら……」

ほむら「盾に入れた覚えがないだなんて……」


数日前の夜。

ほむらは『調達』した武器を整理していた時。

盾に手を入れた際に指を切ってしまった。

血がすぐに止まったが、切った物が問題だった。

それは『矢じり』だった。

大きさはソウルジェムと同程度。

涙滴型の装飾が施されている。材質は石と思われる。

しかし中が空洞なのか、石にしては軽い。骨董品としては真新しい光沢。

うっかり指を切ってしまう程それは鋭利で、矢じりというより諸刃のようだった。


ほむら「無意識的に拾っていたということは……」

ほむら「少なくとも大した価値のあるものというわけではないと思う」

ほむら「値打ちのある骨董品とかならちゃんと保管してあるはず」

ほむら「それなら無造作に拾えるものではない……いや、何にしてもそういうものが武器庫に置かれるなんてことがあるわけない」

ほむら「材質は……やっぱり石、か」

ほむら「しかし……尚更、何故、そんなものが盾に入っていたのか」

ほむら「……気味が悪いわね」


今、その矢じりは眼鏡ケースの横に置いてある。

中身の『赤渕眼鏡』は既に髪を結っていた『紫のリボン』と共に捨てた。

眼鏡と同様にこの矢じりを捨てようかとも思ったが、しなかった。

何故しなかったのかはよくわからない。


コン、コン

ドアをノックする音。

咄嗟に矢じりを眼鏡ケースに入れる。没収されかねない。

矢は空の眼鏡ケースに丁度良い大きさだった。


ほむら「どうぞ……」

看護師「おはよーぅ。暁美ちゃーん」

ほむら「……おはようございます」


看護師が入室する。

彼女とは新しい時間軸になってから「初対面」になる。

「この時間軸の時間」では、眼鏡を外した日から数えて三日前ぶりに会う。

常時妙にテンションが高いのは気になるが「いい人で気のいい方」である。


看護師「カーテン開けましょうねー。シートも皺があるから引っ張っちゃう」

看護師「あら、暁美ちゃん眼鏡とって髪解いて……イメチェン?」

ほむら「……はい」

看護師「こうして見ると大人っぽいわね。心なしか声のトーンも落ち着いてるし。ベネ」

ほむら「……そうですか」

看護師「…………」

看護師(こ……この子の『面がまえ』……ほんの数日前に会った時こんな目をしている子じゃなかった……)

看護師(まるで十年も修羅場をくぐり抜けて来たような……スゴ味と冷静さと感じる目だわ……)

看護師(……と、まぁそれはさておき)

看護師「検温するわよン」

ほむら「はい」


看護師「……あれ?あれあれ?」

ほむら「……どうしました?」

看護師「……た、体温計がない」

ほむら「…………」

ほむら(この人は……いい人なんだけどどこか抜けてるのよね……)

看護師「おっかしーなー……確かに日誌と一緒に持ってきたはずなのに……」

看護師「……あ、あった。暁美ちゃん、拾ってくれてたの?」

ほむら「え?」

看護師「体温計。ベッドに落としちゃってたのね。ありがと」

ほむら(……あれ?)


看護師はほむらの手を指す。

手の平には体温計が確かに置かれていた。

しかし、ほむらには、ベッドの上に落ちたであろうそれを手に取った自覚がない。

そもそもベッドの上に落ちたのであれば音がして気付く。視界に入るはず。


看護師「シートの皺伸ばした時に落としたのかな?まぁいいや。そのまま検温しちゃって」

ほむら「……はい」

ほむら(いつの間に……私……体温計を持って……?)

ほむら(偶然手の平に落ちていたのかしら)


「考え事もしていたし」と、ほむらは気にしないことにした。

考えるべきは、体温計のことではなく引力の魔女のことである。


——夕方


ほむらは、ある人物に会いたいと思った。

夜ではいけない。夕方、ほむらは病院から抜け出すことにした。

夜以外の場合、どうしても「病室に戻らなければならない時間」というものを考慮しなければならない。

できることならば、外出許可を得て、正式にでかけたいとは思うが、

生憎、自分は症状がやっとよくなってようやく学校に通えるようになった体。

心配性な主治医が外出許可をくれるとは到底思えない。

魔法少女にとって、心臓病——むしろ心臓はあってないがごとく。

それでも、世間体は普通の病気がちの少女なのだ。

故に、抜け出すしかない。それも、特定の時間までに戻って、

ずっと病院の敷地内を歩き回っていたということにしなければならない。


『……誰にも頼らないだなんて、寂しいこと言わないで』


ほむら「…………」

ほむら「前の時間軸での……『あの人』の言葉」

ほむら「……所詮、そんな言葉は事情を知らない、当たり障りない他人事の慰めの言葉に過ぎない」

ほむら「あなたが錯乱して、私達を殺そうとしたこと……私は忘れない」

ほむら「しかし、私達を助けてくれたこともたくさんあった」

ほむら「まどか以外はいざという時は切り捨てる」

ほむら「そういう、当時の私の中途半端な覚悟」

ほむら「揺らいでいたそれを、あなたは『そっち側』に倒してしまった」

ほむら「…………」

ほむら「……『巴さん』……」


ほむら「今回からの私は、本当に、いざというとき、あなたでも見捨てる」

ほむら「既に私は『こっち側』にいる」

ほむら「必要以上な馴れ合いは、感傷を生む」

ほむら「前の時間軸……私は感傷のせいで、動揺のせいで負けた」

ほむら「だから、そういう覚悟をした」

ほむら「もう二度とそういうことがないように」

ほむら「…………」

ほむら「だから、敢えてこう言うわ」

ほむら「巴さん。今度こそあなたを『利用』させてください」


そこはマンション。

ほむらはチャイムを鳴らした。

会いに来たのは魔法少女として先輩である人物。

インターホンから聞き覚えのある声。


『はい、巴です』

ほむら「…………」

マミ『えっと……どちら様、でしょうか……?』

ほむら「……初めまして。私の名前は暁美ほむら」

マミ『…………』

ほむら今度あなたと同じ学校に転校します。二年生」

マミ『え、えーっと……?ちょっと待ってください』

ほむら「はい」


さやかを美樹さやか。杏子を佐倉杏子。

ほむらは意識して呼び方を変えることにした。

美樹さんや佐倉さん等、少しでも親しげのある呼称は感傷に繋がる。

そう思っていた。

しかし、巴マミは巴さんと千歳ゆまはゆまちゃんと呼ぶつもりでいる。

マミは実際尊敬していたし、ゆまを愛おしく思っていた。

自分から感傷から引き離すために設定した呼び方だが、

何となく申し訳ない気になるため、そのままにしていた。

まだ心に弱さが残っているという反省点が、ほむらにはある。


ドアが開く。チェーンがかかっているが、ドアの隙間から、

見覚えのある顔が来客の自分を見つめる。


ほむら「……初めまして」

マミ「……えっと……どうも」

マミ「それで……転校生さんが、私に何か……?」

ほむら「あがらせてもらってもいいですか」

マミ「あの、先に用件を……」

マミ「…………」

マミ「……わかった。あがって」


ほむらの指を見て悟ったマミは、来訪者を部屋へ招き入れた。


ほむらは、マミの家の匂いが好きだった。

訪ねればいつだって「美味しい匂い」が漂っていたため。

焼き菓子の匂いはしないが、先程まで飲んでいたのだろうか上品な紅茶の匂いがした。

ほむらはその匂いを意識しないよう、ひたすらマミに言うべき言葉を脳内で反芻した。


マミ「お茶でも……」

ほむら「いえ、結構。座ってください」

マミ「…………」

ほむら「今の私に時間はあまりありません。単刀直入に言います。私は魔法少女です」

マミ「えぇ。指を見てわかったわ」

ほむら「そして、今回訪ねたのはテリトリーがどうこうという話ではありません」

ほむら「一つ、お願いがあってきました」

マミ「……お願い?」


ほむら「ある魔女を倒すのに協力してください」

マミ「……え?」

ほむら「『引力の魔女レイミ』……と名付けられていて、私もそう呼んでいます」

マミ「……いんりょく?」

ほむら「今は黙って聞いてください」

マミ「…………」

ほむら「すいません。時間がないんで。……私には仲間がいました」

ほむら「気のいい人もいれば気まずい人もいましたがそれはさておき」

ほむら「私以外の全員が、その魔女の呪いを受けました」

ほむら「そして、結果的には全員、間接的にであれレイミに殺された」

マミ「……ッ!」


ほむら「引力の魔女、レイミ。ヤツを葬るのに協力してほしい」

ほむら「使い魔一匹、残さず、逃さず殲滅する必要があります」

ほむら「恨みを晴らすという意味でなく、再び『呪い』が訪れないようにという理由」

ほむら「自信がないわけではない。ただ、ちょっとした制約がある。特定の場所に近づいてはいけないといった……」

ほむら「魔女自体はそれ程強くありませんが、その使い魔が問題なんです」

ほむら「まず使い魔は何体いるのかわかりませんし」

ほむら「あなたは実力者で、遠距離からの攻撃ができる」

ほむら「念には念を。あなたに協力を要請したいと思い、ここに来た」

ほむら「以上」

マミ「…………」


マミ「えっと……あなたの仲間のことは……その」

マミ「お、お悔やみ申し上げるわ」

ほむら「…………」

マミ「それで……あなたの言いたいことをまとめると……」

マミ「私の仲間に」

ほむら「共闘してほしいわけではありません」

ほむら「せめて、レイミとその使い魔を全滅させるのに協力して欲しい。ただ、それだけ」

ほむら「なので、敢えてこういう言い方を使います」

ほむら「あなたを『利用』させてください」

マミ「…………」


マミ「う、嘘よね。あなた本当は私と仲間に……」

ほむら「食い下がらないでください」

マミ「…………」

マミ「……暁美さん、と言ったわね」

ほむら「はい」

マミ「……私も魔法少女とは言え所詮は中学生」

マミ「目を見ればわかるわだなんて言える程達観した人生は送っていないわ」

マミ「私としても、あなたをいい人か悪い人か判断するにはまだ材料が足りないけど……」

ほむら「……何が言いたいのですか?」


マミ「ただ、あなたは……」

マミ「玄関の前で私を待っていた時、あなたは一人でそわそわしていた」

マミ「こうして話してる時も落ち着かない様子だったし……」

マミ「まるで職員室に入るのを、先生との二者面談の時の内気な女の子みたいにね」

ほむら「…………」

マミ「不安を押し殺して無理矢理冷酷の仮面を被っている表情をする人に悪い人はいないと思うの」

ほむら「……っ」

マミ「にじみ出てるのよ」

マミ「冷たい態度と申し訳なさそうな落ち着きのない仕草。矛盾しているわ」

ほむら「……そ、そんなハッタリ……やめてください」


ほむらは髪をかきあげた。

マミはほむらの顔から焦りを感じ取っていた。


マミ「ハッタリ……そうね。私の考えすぎと考える方が自然よね」

マミ「でも……少なくとも私にはそう見えた。少し、無理してるみたい」

マミ「自分を変えようとして思い切り反対のベクトルに突き進もうとしてボロが出てるって感じ」

ほむら「…………」

マミ「まぁ、見ず知らずの人とは言え……私、他の魔法少女と一緒に戦えるの久方ぶりでね」

マミ「一人でない戦いができる、頼ってもらえたのが嬉しい、そんな脳天気な一面もあるの」

ほむら「……必要以上に馴れ合うつもりはありません」


ほむら「互いにお抜き差しならない危機的状況に陥った時……」

ほむら「私は助けないつもりでいる」

ほむら「残酷な発想とは思うけど、私という人間はいざという時あなたを見捨てます」

ほむら「あくまで、レイミという魔女を葬る協力さえしてくれればいい」

ほむら「それだけは理解してください」

マミ「…………」

ほむら「……いいですか?嫌ならどうぞ言ってください。頼りませんので」

マミ「……わかったわ。協力しましょう」

ほむら「ありがとうございます」


マミ「それで、私はどうすればいいの?いつその魔女は……」

ほむら「今夜です」

マミ「え、わかるの?」

ほむら「多分、が文頭に付く程度の確率で今夜」

ほむら「場所はここから南南東へ結構な距離のある廃ビルの二階。地図を用意してます」

「それは興味深いね」

マミ「あら?」

ほむら「!」


……不覚にも気が付かなかった。

背後から聞き慣れた憎らしい声。

白いからだと赤い目をしたインキュベーター。

全ての元凶。


マミ「あ、キュゥべえ。帰ってたのね」

QB「うん。マミ。彼女は?」

マミ「えぇ。暁美ほむらさんって言う魔法少女よ」

QB「やぁ。よろしく」

ほむら「…………」

QB(見たことがないな……契約した覚えもない……)

QB「……ほむらと言ったね。君は魔女が現れる場所と時間を予知できると見受けられるような発言をしたけれど」

ほむら「…………」

マミ「もしかして固有魔法が予知とか?」

ほむら「……似たようなものよ」


QB「しかし、レイミ……か」

QB「初めて聞く名前だね」

ほむら「この名前は魔法少女の間で言われている便宜上の名前よ」

QB「なるほど。それでも初耳だけどね」

マミ「あ、そうだ。これを聞いとかなくちゃ。その魔女の特徴とかは?」

QB「そうだね。もしかしたらそれでわかるかも」

ほむら「…………」


憎きべき対象がいる分多少の不本意ではあるが、ほむらは話した。

壊れたらせん階段。カブト虫色に錆びたポスト。イチジクの果実のようなダークピンク色をした空。

枯れた紫陽花。二次関数グラフと特異点の落書き。デフォルメされた天使のイラスト。

廃墟の街並み。ウロウロと彷徨う黒いマントを羽織ったようなマネキン。

地面を突き破り隆起した断層。断層にはいくつか穴がある。

引力の魔女レイミ。その結界の特徴を。


QB「ふむ……」

マミ「どう?キュゥべえ」

QB「……聞いたことがないね。該当する情報がない」

QB「僕や僕の仲間が知る範囲では今君の言った特徴に該当する結界は見たことがない」

マミ「そう……」

ほむら「…………」

ほむら(本当は現れるのではなく、生まれるのだけれど……)

ほむら(そこまで知っているのも変に思われるだろう)

ほむら(魔女が生まれる場所がわかるとなれば、何て言われることか)

ほむら(ここはもう話題を逸らしてしまおう。……そうね)


ほむら「……ねぇ、キュゥべえ」

QB「何だい?」

ほむら「これが何かわかる?」


眼鏡ケースを取り出し、蓋を開ける。

そこには矢じりが一つ入っている。


マミ「え?何これ?」

マミ「……矢?」

QB「そのようだね」

マミ「っていうか暁美さん。私には聞かなかったのに……」

ほむら「知らないならいい。わかる?」

QB「……うーん」

QB「わからないね。僕は初めて見るよ」


ほむら(わからないと断言したか……)

ほむら(こいつは嘘はつかない。つまり、本当に知らない)

QB「ただ、少しだけ魔力を感じるよ」

ほむら「……魔力?」

QB「うん。あまり強いものとは言えない」

マミ「魔法で作られたものとか?」

QB「どうだろう。可能な推測としては魔法武器の一部かもしれない」

ほむら「……そう」

QB「君が何故こんなものを持っているのかは計り知れないけど、役に立てなくてごめんよ」

マミ「レイミとかいう魔女もそうだけど、キュゥべえにもそういうジャンルでわからないことがあるのね」

QB「僕はものしり博士ではないからね」


ほむら「…………」

ほむら(魔法武器の一部……か)

ほむら(一つ、推測ができる)

ほむら(盗みに忍び込んだ……基地か事務所)

ほむら(そこに魔法少女がいたか、既に同じ事をしていて去った後だったか……)

ほむら(それを何故か、無意識の内に拾ってしまっていた)

ほむら(……いまいち根拠に欠けるが、今はそれしかないか?可能性の一つとして脳裏にいれておこう)

ほむら「……それじゃあ、私はこれで」

マミ「あれ?帰っちゃうの?」


ほむら「今夜、待ってます」

マミ「ねぇ、よかったらその時まで私の家で……」

ほむら「……そんな馴れ馴れしい人間だったんですか?」

マミ「そんなツンツンしちゃってぇ」

マミ「私はわかるわ。あなたは本当は人見知りが激しくて仲がいい人には人懐っこい内気な……」

QB「もう帰っちゃったよ」

マミ「あれ?」

マミ「あ、テーブルにメモが……時間と地図……」

QB「このメモの場所に来いということなんだろうね」


QB「……ねぇマミ」

マミ「何?」

QB「世の中にはグリーフシードやテリトリーを狙う魔法少女がいると話したことがあるね」

QB「顔見知りならまだしも、見ず知らずの魔法少女にあそこまで馴れ合うような態度をとるのはあまりよくないと思うな」

マミ「それはそうかもしれないけど……何となく、暁美さん。安心感というか……初めて会った気がしないのよね」

マミ「そこんとこ、私にもよくわからないのよ」

QB「…………」

マミ「それに、もしテリトリーを狙う敵だったら既に私をやっているはずよ」

マミ「仮にそうだとしても私は戦いには手慣れている。負けたりなんかしない」

マミ「魔法少女を相手にするのは初めてだけどね」

QB「君がそう言うなら別にいいけど」


——夜


ほむらはいつもの通り、病室から抜け出した。

前の時間軸では爆弾の材料を調達していたであろう頃合い。

それよりもしばし前。

ほむらは目的地に到着した。

レイミの結界が廃墟の街並みなだけあってか、そこもまた廃ビルだった。

前の時間軸で別の魔女が別の廃ビルにて産まれるが、それはまた別の話。


ほむら「……ここも、途中で工事が中断したのかしら」

ほむら「巴さんはまだ来ていない」

ほむら「確かこの辺りにレイミは生まれた」


暗がりに目が慣れてきて、廃ビルの様子が月明かり程度でよく見えるようになった。

黒色と灰色だけでできているかのような、無彩色に包まれた空間。


ほむら「大分見えて来たわね……ライトでも持ってくればよかった」

ほむら「結界の入り口はこの辺りだった……」

ほむら「この辺りに孵化前のグリーフシードとか何かしらあると思うのだけれど……」

ほむら「……ん?」

ほむら「え……」

ほむら「こ、この人は……!」

ほむら「どうしてこんなところで……」


絞った雑巾のようにボロボロな柱の側に『人』がいた。

黄色いカチューシャをした少女が倒れている。

薄いピンク色のマニキュアをして、幽霊のように青白い肌をしていた。

少女の側には、ガラス片のような物と金属の欠片のようなものがある。

目は閉じている。ほむらは少女の首もとに指を当ててみた。脈はない。

出血はしていないが、体には切り傷や打撲痕が複数ある。


ほむら「……『死んでる』」

ほむら「ソウルジェムが砕かれて……いや、自ら砕いたようにも見えなくもないが……」

ほむら「一体何が……」

ほむら「魔女にやられたのかしら」

ほむら「……い、いや……待って」


嫌な予感がした。

厳密には嫌ではないが、良い心地ではない。

不気味な胸騒ぎ。


ほむら「まさか……もしかして……」

ほむら「こ、この人が……この人が『魔女レイミ』なんてことは……!?」

ほむら「時系列的にも違和感はないし……」

ほむら「考え過ぎか……?」

ほむら「何にしても……」

ほむら「ここに巴さんがくる」

ほむら「このソウルジェムの破片はどこかに隠すとして……」

ほむら「私が殺したと勘違いされたりしないだろうか」


マミ「暁美さん!」

ほむら「……巴さん」

マミ「ごめんなさい。遅刻しちゃったわ」

マミ「それで……ええと何だっけ……そう、レイミは?」

マミ「魔女の気配は感じてないし、まだ現れてないわよね」

ほむら「…………」

ほむら「レイミは……既に退散したようです」

ほむら(もしかしたら、産まれなかったという結果しか残っていないのかもしれないが、断定はできない。今はそう言っておこう)

マミ「え?」

ほむら「もう、ここにはいない。ということです」

マミ「あら……」


マミ「ちょっと残念ね」

ほむら「残念?」

マミ「二人で魔女と戦うの、楽しみにしてた部分もあったのに」

ほむら「…………」

ほむら「そのセリフは、彼女にとって不謹慎かと」

マミ「彼女?」

ほむら「……この人」

マミ「……!」

マミ「こ、この人は……」

ほむら「私が来た時には既に……」

マミ「…………」


マミ「死後大分経っているといったところね……」

マミ「学校にいた時間帯かしら。もっと遅くに現れていてくれてれば……」

ほむら「…………」

マミ「彼女は暁美さんの知り合い?」

ほむら「いいえ」

マミ「この辺では見かけないわね」

「彼女は……」

マミ「あっ、キュゥべえ」

ほむら「…………」

QB「M市の方で魔法少女をしていたよ」


マミ「どうしてここに……」

QB「僕もレイミのことが気になって来たんだ」

マミ「キュゥべえ。この人を知っているの?」

QB「あぁ、知ってはいるよ」

QB「ただ……」

QB「彼女は……他の魔法少女のテリトリーに入るようなことはしない」

QB「何故見滝原にいるのか……」

QB「それに、彼女は相棒といつも一緒に行動していたはずだが……今のところ彼女しか魔法少女の気配は感じない」

マミ「そう……」

QB「何があったのか、彼女のみが知るといったところだね」


マミ「……遺体が残っただけ、良い方かしら。結界に取り残されなくて」

ほむら「…………」

QB「そうだ。ほむら」

ほむら「何かしら」

QB「君が話してくれた引力の魔女レイミのことだけど……」

ほむら「…………」

QB「気になって調べてみたんだ」

QB「だけど、君の話した特徴を持った結界はやはり確認されていない」

QB「僕の見解からすれば、引力の魔女レイミというものは存在すらしてないということになる」

マミ「存在……しない?」

ほむら(……余計なことを)

ほむら(いつもは我関せずといわんばかりの態度をとるくせにこういう時だけ……)


マミ「存在しないってどういうこと?暁美さん」

QB「僕も気になるよ。どういうことなんだい?」

ほむら「……もういいでしょ。キュゥべえ」

ほむら「いい加減消えて欲しいのだけれど」

QB「僕は疑問と事実を言ったまでなのに……」

ほむら「あなたは彼女がいつどんな魔女に襲われていたか」

ほむら「それはわかっていない。あなたにはわからない範囲というものがある。嘘つき呼ばわりしないで」

QB「それはたった今のことだか……」

ほむら「いいから失せなさい」

QB「……わけがわからないよ」


キュゥべえはいつもの調子で不満げを表現し、夜の闇に消えた。

魔法少女二人、一人の遺体。廃墟の静寂が訪れる。


ほむら「…………」

マミ「…………」

マミ「……ねぇ、暁美さん」

ほむら「……何か?」

マミ「あなたの仲間って……その……レイミ?って魔女に殺された、のよね」

ほむら「…………えぇ」

マミ「でも、キュゥべえはあなたが言った魔女は存在しないと言っていたわね」

ほむら「それは、キュゥべえが知らない範囲で」

マミ「誰かが犠牲になった魔女よ。キュゥべえはそういうのをちゃんと把握している」


マミ「ねぇ……どういう意味?」

マミ「あなたは……私に、レイミという魔女に仲間が殺されたと言った」

マミ「私は、その時のあなたの眼が本当に切なそうに見えたから、人並みの同情をしたわ」

ほむら「……顔に出てましたか」

マミ「でも……何をどうしても、あなたの仲間は……いもしない魔女に殺されたということになってしまう」

ほむら「…………」

マミ「まさかとは思うけど……私に嘘をついたの?」

ほむら「……何が言いたいのですか?」

マミ「何がって……私もうまく言葉にできないんだけど……」


マミ「えっと……レイミが嘘なら、私が感じたあなたの切なげな目が矛盾点になってしまう」

マミ「だから、戸惑っているのよ。私」

ほむら「……多少、嘘に部類することは言ったかもしれませんが」

マミ「えぇ。やっぱり矛盾しているわよね?」

マミ「暁美さんは……私のこと信用してないわよね」

ほむら「…………」

マミ「……そりゃ、そうよね。だって、形や事実がどうであれ、初対面だし」

マミ「そういう私も、実はあなたに闇討ちをされるかもって疑っていなかったこともない」

マミ「ねぇ。この際ハッキリ言って」

マミ「あなたは私の敵なの?それとも、虚言癖なの?」



ほむら「…………」

マミ「…………」

ほむら「……信じる信じないは好きにしていただくとして……これだけは教えます」

ほむら「私は未来がわかる」

マミ「…………へ?」

ほむら「言葉通り、です」

ほむら「ある目的があって、私はこの時間軸に来た。前の時間軸ではレイミのせいで仲間が死んだ」

ほむら「今回はバタフライエフェクトのように何かが影響したのか、異なる展開……レイミはいなかった、あるいはまだ産まれていない」

ほむら「今言えるのはこれだけ」

マミ「……い、いきなり言われても何が何だか……」


ほむら「信じなくてもいい」

ほむら「適当にあしらわれたと思うならそう解釈していただいても構いません」

マミ「…………」

ほむら「取りあえずまず、レイミのことですが……」

ほむら「もし今後、私が話したものと同じ結界が発生したら、くれぐれも断層の穴には近づかな——」

マミ「……『私』なの?」

ほむら「……へ?」


ほむらは思わず聞き返す。声が裏返ってしまった。

聞き間違えでなければ「私」と言った。

あたかも夕方に話した「死んだ仲間」と「自分自身」を直結させたような……。


マミ「死んだ仲間って……私?」

ほむら「…………」

ほむら「な、何を言って……」

マミ「レイミは、ここ見滝原……私のテリトリーで産まれるのよね。少なくとも」

マミ「つまり、私が戦う蓋然性は高かったということ」

マミ「もしあなたがその『未来とやら』を見た……というよりそこから来たとすれば……」

マミ「その仲間を死ななかったことにできる」

マミ「レイミが現れるという事実を知っていれば、先回りもできる」

マミ「初対面特有の恭しさがないというか……」

マミ「あなたの態度も、何となく納得ができる」


マミ「実はあなたが帰った後……キュゥべえがあなたを契約した覚えのないイレギュラーだということを話したわ」

マミ「それ含めて……あなたが未来人とか異世界人だとかっていうなら、辻褄が合うと思うの。そういう魔法もあってもいいと思う」

マミ「予知能力者ならレイミが現れなかったということは起きないと思う。未来から来た、だったら異なる展開もあり得る」

マミ「……どうなの?」

マミ「あなたの言う未来で、レイミの呪いに私はかかったの?それで死んだの?」

ほむら「…………」

マミ「私としても……ちょっと飛躍しすぎてると思うし……」

マミ「ちょっと、私も私でまだ戸惑っていて……」

マミ「自分でも何を言ってるのかいまいちわからないのだけれど」

ほむら「…………」


ほむら「意外と鋭いんですね」

マミ「じゃ、じゃあ……」

ほむら「YESともNOとも言いません。好きに解釈してください」

マミ「……言及されたくないのね」

ほむら「…………」

ほむら「まぁ……そうです」

マミ「…………」

ほむら「…………」

マミ「……いいわ」

マミ「来るべき時に、あなたの好きなタイミングで、話してちょうだい」

ほむら「……はい」


互いに、難しい顔をしている。

ほむらは、隠していた事実に大きく踏み込まれたことに動揺した。

マミは、自分の死という今遠ざけたいキーワードが浮上したことに戸惑っている。

心の揺れを紛らわすために、マミは遺体に歩み寄る。

そしてその肌に触れた。少しひんやりとした。

マミは遺体に魔力を込める。すると、遺体についた傷や打撲が直った。

服は無傷ながら体が傷だらけという異常性をカバーした。


マミ「……後で通報しておきましょう」

ほむら「……はい」

マミ「心肺停止で亡くなった、といったところかしら」

ほむら「………」


ほむら「巴さん。一つ言っておきます」

マミ「はい」

ほむら「魔法少女にむやみやたら他人を巻き込まないでください」

マミ「……?」

マミ「……!」

マミ「そ、それって『これからは私がいるからね』って遠回しに——」

マミ「ってあれ?」

マミ「い、いない……いつの間に……」

マミ「もーっ」


Raymea(レイミ)

引力の魔女。その性質は「伝承」
別の世界からスタンドという概念を引き入れた、
あるいはその概念を創造したとされる魔女。
立ち向かう力は必ず良き未来へと繋がっていくと思い続けている。
使い魔を使って、日々誰かにスタンドという力を伝える。
それがいつかこの世界に平和と誇りを取り戻すものだと信じて。


Sabbath(サバス)

引力の魔女の手下。その役割は「選別」
結界内の廃墟に引きこもる黒いマントを羽織ったマネキンような姿。
結界に迷い込んだ者へ、向かうべき二つの道を与える。
一つは生きて選ばれる者への道。
もう一つは、さもなくば死への道。


Cavenome(カヴェノメ)

引力の魔女の手下。その役割は「発現」
断層に空いた『穴』そのものがその姿。
Cavenomeに触れた者は、噛みつかれてしまう。
その歯形をつけられた者はスタンドという能力を発現する。
人によっては高熱を伴い、また人によってはスタンドを発現せずに死ぬ。


今回はここまで。お疲れさまでした

ジョジョクロス第四作目にして最終作となります。別にだからと言って特別なことはありませんが

前作をご閲覧になった方はお久しぶりです

インフルエンザで倒れてたりデータ飛んで途中から書き直したり筆が乗らなくて別の作品に手を出したりして完成が遅れ、

何かまぁ他にも色々ありましたが、ようやく今日、スレ建てに至りました次第です

地の文は自分に合わないと最近思いましたね。そういうこともあって地の文あるとこないとこのバランスがめちゃくちゃです
その辺は仕様ということで。大変ですねぇ。地の文。それでいて地の文がないと説明が難しいところもあって……

それとリアルの都合で今までのように毎日更新ということはできないかもしれないです。ご了承下さい


ちなみに今作も完結後、スレの余り具合と相談して「質問コーナー」たるものを設ける予定です
もし何か疑問点やよくわかんねーなってとこや、君の意見を聞こう!みたいなこと(このさい全作通して)があればその時にでもお尋ねください

「今答えてくれないとらめぇ」ってな点があればこういう閑話休題レスを使ってなるべく答えていきたいところです
ただし所謂横レスでご質問されると見逃す恐れがあるので、その辺りタイミングを見てくださいませ

なんやかんやで、今回もどうかよろしくお願い致します


一応書いておきますが、特定のキャラを故意に冷遇する意志や自演行為は一切ありません
わざわざそう書くとうさんくさく見えますが、書かないと何も伝わらずに間違ったまま定着してしまいますので簡単に弁明させていただきます
このもどかしさが匿名掲示板の恐ろしさですね。パパウパウパウ!


冒頭にも書きましたが前作を読んでいることを前提である展開になっているので、
とは言えかなり期間も空きましたし、内容なんて覚えてねーって方もいるかと思います

そこで、前作読む気にならないよって方向けに簡単なあらすじをば


〜1レスでわかる前作の出来事〜

織莉子「本来なら鹿目まどかを抹殺するポジショニングだけど何故かメガほむを殺るぜー超殺るぜー」キリカ「うぇーい」

ほむら「もう、誰にも頼らない!」マミ「やほー」ほむら「うえぇぇん巴さぁぁぁん」

少女「僕はM市の魔法少女だ!スタンド使いだ!水を熱湯に変えるぞ!でも今日は帰るよ。次の日熱で寝込んでいた鹿目まどかの家に侵略しにきたよ!」

まどか「スタープラチナどーん」少女「うわー何か出た」ほむら「鹿目さんにスタンドが目覚めたー」

ゆま「風見野なう」杏子「シビル・ウォーっていうスタンド持ってるよ。すごいだろ。あたし割と鬼畜になった」

織莉子「キリカハァハァ」キリカ「あっ、らめぇ、いやんっ」織莉子「リトル・フィートすごい」キリカ「クリームすごい」

キリカ「風見野なう」織莉子「私と手を組んで仲間になってよ」杏子「やだ」織莉子「爆死するぞコラ」杏子「帰れ」

ゆま「契約してスタンド使いになったよ。キラークイーンだよ。爆死させる能力だよ」杏子「怖い。消えろ」ゆま「うわーん」

マミ「保護した」ゆま「ごろにゃん」さやか「こんな子どもが魔法少女ならあたしも契約してー」

さやか「魔法少女になるわ」QB「ガタッ」ほむら「だめ」さやか「ふざけんなあたし帰る膝の臭いを嗅ぐ陶酔感」ほむら「私ってホント逆ギレ」

まどか「仁美ちゃんが何かするって」仁美「ティナー・サックス!」ほむら「きゃー魔女だー」さやか「契約したぜ」ゆま「ほむほむの気も知らないで勝手に契約するなんて」さやか「アイアムバカ」

杏子「見滝原なう」キリカ「ナカーマ」織莉子「心強いわー、あーかなり心強いわー」杏子「こいつら裏切りそうだからあたしはいつか裏切るつもりでいる」

恭介「ハーヴェスト志筑さんゾッコンラブ」仁美「上条くんスキスキ」さやか「うわーん。契約しなきゃよかったー」

さやか「サノバビッチ魔女レイミ。あたし死にそうだけど」ゆま「助けに」ほむら「来たよ」さやか「レイミの影響でスタンドが目覚めたよ」

織莉子「下準備下準備」キリカ「スタンドの影響で性格が改変されることがあるって設定ってどの辺から出てきたっけ」

織莉子「大木ポイポイ」クラスメート「」キリカ「クリームガォンガォン」和子「」マミ「スタンドに目覚めたと思った矢先にこれだよ。私は死んだ」

キラークイーン第二の爆弾「コッチミロー」織莉子「うわー」キリカ「織莉子を庇って私は死んだ」織莉子「キリカ……私は復讐を誓った。必ずほむほむを抹殺する!」

杏子「シビル・ウォーで捨てた物が襲いかかるよ」さやか「ドリー・ダガーのダメージ反射能力で善戦はしたよ」ゆま「うわーもうやだキラークイーンで自爆する」

さやか「爆発に巻き込まれてあたしは死んだ」杏子「落ちてきた天井のせいで死んだ。これが運命」

ほむら「えーっ、実は私が魔女化に伴ってレクイエムというスタンドの進化系みたいなのを発現して世界を滅ぼすという予知を見たから私を抹殺しなくちゃならないですってー」

ほむら「死ぬわけにはいかないオラー」織莉子「おうコラ猫によるおとり作戦だコラ」ほむら「まけたー。体が小さくなったー」織莉子「生け捕りだー。ほむほむ抹殺」

まどか「そうはいかんざき」織莉子「うおりゃー」まどか「勝った」織莉子「最後ッ屁」まどか「死んだ」織莉子「死んだ」ほむら「助かった」

ほむら「スタンドのせいだ。私の精神的弱さのせいだ。そのせいで私は負けたのだ。全滅したのだ。強くなるには、感傷を持ってはならないのだ」

ほむら「パラレルパラレル、クーほむになぁれ」ほむら「なったわ」ほむら「さよならこの時間軸」

まどか「実はわたし契約してました。その願いとは……?」

ほむら「次の時間軸に来たわ。もう必要以上に馴れ合うのはごめんだわ。あと武器をパクったわ」

ほむら「痛い。指切った。何この『矢』……こんなの盾に入れた記憶にないのに」

——今作へ続く


あぁ、我ながらなんてわかりやすいんでしょう。それでは

あ、そうだ。取りあえずトリップ

それではみなさんおやすみなさい



>別の作品に手を出した
ってこの二ヶ月?の間になんか書いたってことか
タイトルkwwsk

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ガォン

マミ「え?」

キリカ「スタンドがもういないと思った?バカめ。ほむらももうクリームで飲み込んでいた」

ガォン

キリカ「これで予知でみた敵は消えた・・・これで急逝が成し遂げられる!」


完結




みなさんお疲れさまでした。会社のパソコンからしつれいします。作者です。
これにてジョジョクロスは完結です。ありがとうございました
こんなくだらないSSが荒れなかったのは不思議な気持ちです。ここの人はジョジョにもまどかにも愛がないんですねwwwwww

わー、何かすごいことになってますね。言うまでもなく、完結ではありませんよ

私としては別にいいんですが読んでくださってる方の視覚的な迷惑と考えると、
万が一こういうのが続くようなら一旦落として日を置いて落ち着いてから建て直す、というのも検討してみます
まぁめんどくさいんでよっぽどのことがないとしませんけど

以上、宣言兼ねてのちょっとした報告でした
あと折角なんでいただいた質問に答えときます

>>74
『織莉子「暁美さんとの仲良しを成し遂げる」』というタイトルです
息抜きと外伝組の口調の練習がてら書かせていただきました。談義スレでもちょっと話題になりましたね。わぁい


#17『面会人』


学校


和子「みなさん。おはようございます」

和子「ところで……中沢くん」

和子「あなたは今まで食べたパンの枚数を覚えていますか?」

中沢「どうでもいいんじゃないでしょうか」

和子「そうです!どうでもいいんです!世の価値観の中心は数字、というのも一理あります」

和子「しかしながら!そんなしょうもない数字を気にするような人と付き合ってはいけません!」


仁美「またやってしまったようですわね」

まどか「何があったんだろう……」

さやか「あたしは米派だァー」

和子「と、いうことで転校生です」


ほむら「…………」

仁美「まぁ美人」

まどか「カッコイイね」

さやか「うんうん。イケメンだね」

仁美「女性にいう言葉ではないのでは?」

さやか「イケてるツラ(面)でイケメンなんじゃないの?」

仁美「語源的には間違ってはいませんけど……」

まどか「…………」

さやか「どしたまどか」

まどか「あ、ううん。何でもないよ」

まどか(……?あの人、こっち見てる?)


まどか(うーん……?)

和子「さ、自己紹介して」

まどか「…………」

まどか(うーん……?)

ほむら「暁美です」

まどか(何だろう。暁美さん……)

和子「フルネームでお願いします」

ほむら「……私の名前はほむらです」

まどか(夢の中で会った、ような……)



女子生徒a「部活とかやってた?運動系とか文化系とか……」

ほむら「いえ……」

女子生徒b「なぜだ、その不敵なまなざしの理由は?」

ほむら「別に……」

女子生徒c「君は『引力』を信じるか?人と人の間には『引力』があるということを」

ほむら「……えぇ」

男子生徒a「赤んぼうの魂ってのは、どこからやって来るのだろうか?」

男子生徒b「母親の魂が細胞のように分裂して、成長して来たのが人間の魂なのか?」

ほむら「…………」

ほむら「ちょっと失礼するわ」

女子生徒a「またお話しようねー」


仁美「ミステリアースな方ですわね」

さやか「何でネイティブっぽく言ったの?」

さやか「ところで、まどか。転校生と知り合い?」

まどか「え?ううん。初対面……なんだけど……」

さやか「でも、まどかのこと睨んでなかった?」

まどか「睨んでたっていうか……」

ほむら「鹿目まどかさん」

まどか「ひゃい!」

ほむら「……あなたが保険委員よね。保健室へ連れていってくれる?」

まどか「あ、はい」


さやか「……睨んでたの下り聞かれたかな?」

仁美「さぁ……」

まどか「それじゃ、行ってくるね」

さやか「転校生を独り占めだね」

仁美「保険委員冥利に尽きますわ」

まどか「い、いやぁ、そんな……」

ほむら「…………」

まどか「あ、待ってっ、先行かないでっ」

さやか「行ってらー」

仁美「ですわー」


——廊下


まどか(えーっと……)

まどか(何話そうかな)

まどか(保健室に連れてってって言った割にはわたしより前を歩いて……むしろわたしが案内されてるみたい)

まどか(…………)

まどか(それにしても、何だろう……この既視感というか、もやもやした感じ)

まどか「うーん……」

ほむら「……?どうかしたの?」

まどか「へっ?あ、ううん。何でもない」

ほむら「そう」


まどか「…………」

まどか「あ、あのっ、暁美さん」

ほむら「……ほむらでいいわ」

まどか「あ、うん。ほむらちゃん……」

まどか(……あれ、なんで急にちゃん付けしちゃったんだろ。暁美さんって呼んでたのに……ほむらさんでなくて?)

ほむら「何かしら?」

まどか(……変に思われてはなさそうだし、いっか)

まどか「えっと……その……」

まどか「ほむらってかっこいい名前だよねっ」

まどか「燃え尽きる程あーつくーって感じで」

ほむら「…………」


まどか「あ、あれ……気、悪くしちゃった?ごめんね」

ほむら「…………」

まどか「あっ」

ほむら「……まど——」

まどか「ほむらちゃん」

ほむら「か?」

まどか「その指の傷……傷跡?どうしたの?」

ほむら「……『傷』?」

まどか「これ」

ほむら「……あぁ……これね」


ほむら(これは……)

ほむら(あの時、あの『石の矢』で切っちゃった痕……)

ほむら(まだ残ってたんだ……結構前のことなのに)

ほむら(確かに今回はほとんど怪我なんてしてないから治癒はしなかったけど……)

ほむら「……包丁、扱ってた時に、ね」

ほむら「大したことではないわ」

まどか「包丁……」

まどか(そういえば、一人暮らししてるって聞いたっけ)

まどか(中学生で一人暮らし……すごいなぁ)

まどか「んー……ちょっと見せて」


ほむら「あ、ちょっ……」

まどか「包丁?それにしては不自然なところをケガしたね」

まどか「ほとんど治っちゃってる。保健室行くついでに絆創膏でもって思ったんだけど」

ほむら「……優しいのね」

まどか「……あ」

ほむら「どうしたの?」

まどか「ほむらちゃんの手……すべすべで気持ちいい……」

ほむら「は?」

まどか「いいなぁ。ほむらちゃんの『手』……とてもなめらかな関節と皮膚をしてる」

まどか「白くって可愛い指だね……。それにほんのり良い匂い。どんな石鹸使ってるの?」

ほむら「…………」


ほむら「……まどか?」

まどか「……あ!」

まどか「ご、ごめんねっ!つい……」

まどか「こんなのおかしいよね……わたし、初対面なのにこんな馴れ馴れしくしちゃって……」

ほむら「べ、別に構わないけど……」

まどか「何でかな……ほむらちゃん、初めて会った気がしなくて……」

まどか「あっ、ご、ごめんね。わたしまた変なこと言っちゃって」

ほむら「…………」

まどか「……う」

まどか(うぅ……もしかして怒っちゃった?話題を何とか……)


まどか「そ、そういえばさっきほむらちゃん何か言いかけてたよねっ。なぁに?」

ほむら「…………」

ほむら「……コホン」

ほむら「まどか」

まどか「はい」

ほむら「あなたは、自分の人生が貴——」


「暁美さーん!」


ほむら「えっ」

まどか「えっ」


「やっと見つけたわ!暁美さん!」

まどか「え、えーと……」

ほむら「と、巴さん……」

まどか「……ほむらちゃんの知り合い?」

マミ「何年何組なのかすら教えてもらってなかったから、探しちゃった」

マミ「そしたら保健室に行ったって言うんだもの、追ってみたら歩いてたってわけ!」

ほむら「……はぁ、そ、そう……ですか」

マミ「あら、もうお友達できたの?意外にやり手ね暁美さん」

まどか「あ、あの、その……」

ほむら「えぇ……まぁ」


マミ「初めまして。私、三年生の巴マミ」

まどか「えっと……わ、わたし、二年生の鹿目まどかです」

マミ「よろしくね」

まどか「は、はぁ……」

ほむら「…………」

マミ「ふふ……」

マミ「……あれ?」

マミ「……もしかしてお邪魔しちゃった?」

ほむら「巴さん」

マミ「はい」


ほむら「私、言いましたよね。必要以上に慣れ合うつもりはないと」

マミ「でもぉ……折角仲良しになったのに」

ほむら「仲良しなんかじゃありません」

ほむら「とにかく、私とあなたはもう無関係です」

マミ「えぇー……」

ほむら「行きましょう。まどか」

まどか「ほむらちゃん……よくわかんないけどその言い方は酷いよ」

マミ「そーよそーよ。私はただ仲良くしたいだけなのに」

ほむら「…………」

ほむら「まどか。ありがとう。もういいわ」

まどか「え?」


ほむら「保健室の場所、思い出したわ。一度すれ違った。後は一人で行ける」

まどか「あっ、ほむらちゃ……」

まどか「行っちゃった」

マミ「…………」

マミ「ごめんなさいね。無愛想な子で」

まどか「…………」

マミ「あの子、どうにもツンツンしちゃって……ツンデレっていうの?」

ほむら『違います』

マミ(はぅっ!?テ、テレパシー……!聞こえていたの!?)

まどか「…………」

まどか「あの……マミさん?」


マミ「あっ、はい。何かしら」

まどか「ほむらちゃんのこと……知ってるんですか?」

まどか「ほむらちゃん、東京から越してきたばかりって聞いてたんですが……」

マミ「知り合いって程でもないけど……一応」

まどか「でしたら……その、ほむらちゃんのこと、教えてくれませんか?」

まどか「わたし……ほむらちゃんと仲良くなりたいんです。もっと知りたいなって思って」

マミ「私だってなりたいし知りたいのだけれど……そうね。今日のお昼、ご一緒しない?」

まどか「いいんですか?」

マミ「えぇ。その間に暁美さんのこと何かわかったら教えてくれる?」

まどか「はいっ」

マミ「ふふ、それじゃ……屋上で待ってるわ」


マミ(暁美さんの友達と仲良くなれば……)

マミ(間接的に暁美さんとも仲良しになれるわね)

マミ(この人を利用してるみたいでちょっともやっとはするけど……)

マミ(とにもかくにも、お昼の約束を交わしたわ)

まどか「わたしの友達も連れてきていいですか?」

マミ「えぇ。もちろん」

マミ「それじゃ、鹿目さん。また後でね」

まどか「はい。マミさんっ」

まどか(いい人そうだなぁ。大人っぽくて美人だし)




まどかが廊下で知り合った先輩のことを二人の友人に話している頃、

保健室にて、ほむらは考え事をしていた。

先日見た魔法少女の遺体。

時期的にも場所的にも、彼女が引力の魔女レイミになりうる魔法少女である蓋然性が高い。

しかし、違う可能性もゼロではない。ありえる以上、その不安がある。


ほむら「巴さんに最低限の注意はしたが……ふむ」

ほむら「…………」

ほむら「いささか不安なところではあるけれども……」

ほむら「少しの間、巴さんにならまどかと美樹さやかを任せても大丈夫か……?」


ほむら「……巴さんなら、か」

ほむら「甘い考えが抜けてないわね……」

ほむら「でも、今は任せるとしかできないわ」

ほむら「それなりに監視はするけど……果たして」


最上なことはまどかを魔法少女関連のことに、関わらせないこと。

しかし、キュゥべえは神出鬼没。いつどこでまどかと接触をするか予測ができない。

『外せない用事』がほむらにあるため、それは無理だと思いほむらは保健室のベッドのシーツを抓った。

常に監視していたいところであるまどかから、一時的に目を離さなければならない。

どうしても見滝原を離れなければならない日がある。

どうしてもまどかと会わせてはいけない人物がいる。



——昼休み


屋上、マミはベンチに座り、空を眺めた。

天気予報によると次の休日は快晴らしい。

少し遠出してお出かけでもしようか、とマミは考えていた。


「マミさんっ」

マミ「鹿目さん。数時間ぶりね」

マミ「えっと、隣の人が鹿目さんのお友達?」

まどか「はいっ」

さやか「えーと、マミさん。あたし、美樹さやかっていいます。初めましてのよろしくっス」

マミ「えぇ、よろしくね」


暁美ほむらという人物を中心に、三人が集まった。

ほむらに避けられていると感じているマミ。

ほむらと仲良くなりたいまどか。

面白そうだからということでついてきたさやか。

仁美は「委員会の仕事」ということでこの場にはいない。


マミ「それで、鹿目さん」

まどか「はい」

マミ「暁美さんについて、何かわかったかしら?」

まどか「あんまりです……」

さやか「何だか、最低限のことは話したからもういいでしょってオーラが出てましてね」

マミ「んー……やっぱり気むずかしい子ね」


さやか「あの……マミさん?」

マミ「何かしら?」

さやか「その……マミさんと転校生って……結局、どういう関係なんですか?」

まどか「わたし、気になります」

マミ「どういう関係、と言われても……」

マミ(うーん……なんて説明しよう。魔法少女仲間だなんて言えないし……)

マミ「暁美さんが来る前、偶然会ってね。それで少しお話をした程度」

さやか「……それで必要以上馴れ合うつもりはないとか言われちゃったんですか?」

マミ「……えぇ、まぁ……うん」

まどか「わ、悪気はないと思いますよ?」


さやか「……なんか、転校生、嫌なヤツって感じ」

マミ「そうかしら」

さやか「だって、普通そんなこと言いますか?」

マミ(色々複雑な事情ありって感じの子だから……)

マミ(それに魔法少女同士でテリトリーの問題がないこともなし……無理もないもの)

まどか「ほむらちゃんはそんな子じゃないと思うよ」

マミ「そうよ。悪い子じゃあないわ。ねぇ」

まどか「ですよね」

さやか「な、なんスかこのあたし空気読めてないこと言ったみたいな流れ」

まどか「別にそんなこと……」


さやか「し、しかし転校生……ますますよくわかんないやつだ」

まどか「ミステリアースな雰囲気だよね」

さやか「何でネイティブっぽく言ったの?あれ、なんかあたし同じ事言った気がする」

マミ「でもね、暁美さん。思ってることが結構態度に出てくるのよ」

まどか「そうなんですか?」

マミ「えぇ。不安な気持ちになってるとそわそわするし」

さやか「へぇーっ」

さやか「やっぱりそういうのってわかるものなんですかねぇ」

まどか「んー……」


「やぁ、珍しい組み合わせだね」


まどか「え?」

さやか「ほえ?」

マミ「あら。キュゥべえ……」

まどか「な……何?これ……」

さやか「……ね、猫?」

マミ「……って、二人とも『見え』てるの!?」

まどか「きゅーべー……」

さやか「見え……?その、み、見えてますけど……」

マミ「……!」


QB「僕はキュゥべえっていうんだ。よろしく。鹿目まどか。美樹さやか」

まどか「え……い、今……」

さやか「しゃ、喋った!?何コレ!?」

マミ「こ、コレって……その……」

マミ「この子は、私の友達よ」

QB「マミとほむらは、魔法少女という共通点がある」


長い耳と大きな尻尾。

白い体と赤い目をした猫のような小動物。

キュゥべえがそこにいた。

マミが二人の素質ある少女と出会ったことは、とても都合の良いことだった。


今回はここまで。おつかれさまでした。

タイトルの面会人はでてきてませんが、それは次回に
一回の投下で一話ではない。ということです

あとトリップは個人的にあんまり使いたくないので、
こういう後書きレスに気が向いたら程度に使います

特に何でってこともないですが、本編中は名無しでありたい



すてきな青空だった。


こんな日は家でのんびりしたいところだが生憎そんな余裕はない。

私は各駅停車の電車に乗ることにした。

目的地に着くと、駅前のコンビニで五分ばかり雑誌を立ち読みをした。

そして駐輪してある自転車群の隙間を他人にぶつかることのないよう注意しながら商店街へ向かい、

喫茶店に入った。

レイミは『産まれなかった』と考えるのが無難と思える程の調査と日程を経たが、

「安心」のため、時として「実感」が必要になる。

この目で確かめてみなくてはならない。

私はある人物に会うため『M市』へ来た。アポイントメントはとってある。

それは「魔法少女」……首に切り傷のある彼女を、私は忘れもしない。


ほむら「……待たせたかしら?」

少女「……いや、僕もさっき来たところだ」

少女「見滝原の魔法少女さんよ」

ほむら(彼女は……前の時間軸、スタンド使いだった)

ほむら(時期的に言えば、魔女の結界で彼女と初めて会った日に近い)

ほむら(その翌日、私とまどかを襲いに……)

ほむら(もしスタンドが存在しているなら、既に発現しているはずだ)

ほむら(それを確かめなければならない)

少女「よく僕のことがわかったね。初対面なのに。噂になってた?」

ほむら「見滝原のキュゥべえから聞いたのよ」

少女「へ?まぁ……いいけどさ」


この少女のことは……名前すら知らない。

「スタンド使い」か「首に切り傷がある」程度の認識しかない。

ただM市の魔法少女であることしかわからない。

さて……どうやって尋ねようか。


ほむら「……早速だけど、あなたは」

少女「待った。見滝原の」

ほむら「?」

少女「ここはカフェですぜ。何か注文してくれよ。変な目で見られる」

ほむら「……そうね。コーヒーでも頼んでおくわ」

少女「少し飲んでから話そう」

ほむら「……えぇ」


コーヒーとアイスティーが置かれたテーブル。

向かい合う初対面同士、数分間の静寂の後、ほむらは本題へ踏み込む。


ほむら「実に奇妙な質問をするけれど……」

少女「ん」

ほむら「あなたは、何か魔法とは別に……特別な能力を持っているなんてことは?」

少女「……は?」

ほむら「例えば……そう。水を熱湯にするとか」

少女「……?」

少女「即席麺を食うには役立ちそうな能力だが……何を言ってるのかわからない」


前の時間軸、彼女は「水を熱湯に変えるスタンド」を持っていた。

『スタンド』という言葉を使わずに『スタンド使いか否か』を探るには言葉選びが難しい。


引力の魔女レイミの使い魔は、見滝原の外にも広がって活動していたと聞く。

風見野やM市も例外ではない。

万が一、廃ビルで遺体として発見されたあの少女がレイミと無関係とする。

そして既にレイミが生まれていて、広くに活動していたとする。

だとすれば、この少女はある種の指標のつもりだった。

この少女がスタンド使いであれば、レイミの存在を証明する。

そう、考えていた。

しかし、彼女は特に目立った動揺もなければ、

「何を言っているんだ」と言わんばかりの表情を向けている。


ほむら「……いえ、個人的な話よ。関係ないなら……いいわ。失礼な詮索だったわ」

ほむら(彼女はスタンド使いではない……確信した)


ほむら「それはさておき、あなたの方だけど……あなたも私に聞きたいことがあるそうじゃない」

少女「あぁ、そうだね。そのためにキュゥべえに言伝を頼んだんだった」

少女「君が見滝原の魔法少女だと言うもんだから……どうしても聞きたかったんだ」

ほむら「…………」

少女「さて、それは僕の友人のことだ」

少女「彼女も魔法少女なんだけど、とある事情で見滝原に行っていたんだ」

少女「そして『遺体』で発見された……見滝原の魔法少女の君は何か知ってるかい?」

ほむら「あなたの……友人?」

少女「そう。ここの魔法少女が見滝原で亡くなったというからには、見滝原の魔法少女に事情を聞かないわけにはいかない」

少女「正直に言わせていただけば、おまえさんが殺したということも考えられないことではないからな」

ほむら「…………」


少女「写真も持ってきた。彼女に見覚えはあるかい?」

ほむら「…………」

ほむら「……!」

ほむら(この顔は……)

ほむら(間違いない。あの時、レイミが現れるはずだった場所にいた……)


この少女が、ほむらと会う約束に応じたのには、理由がある。

彼女の知り合いの行方を、見滝原の魔法少女に尋ねたかったためである。

写真には、照れくさそうに笑う少女の姿が写っていた。

黄色のカチューシャと白いワンピースが印象的である。


ほむら「……知っているわ」

少女「ふーん……そっか」


少女「で、その様子から見るに……?」

ほむら「……えぇ。私が来たときには既に」

少女「…………」

少女「そう、か……」

少女「……死んだら死んだで悲しいが仕方ない」

少女「いいんだ……もしそうならそうだっていう確信がほしかったから」

ほむら「…………」

少女「ちなみに別におまえさんが嘘をついてるだなんだ言うつもりはない」

少女「…………」


少女「そうか……逝ってしまったんだね……」

ほむら「……ご愁傷様」

少女「いや、いいんだ。仕方ないことさ。魔法少女なんてそんなもの……」

少女「おまえさんには迷惑をかけたね……ただ、彼女はテリトリーを奪おうとする意図はなかったということを擁護させてほしい」

少女「そういうことができる人じゃないんだ」

ほむら「わかったわ」

少女「ありがとう」

ほむら「……聞いてもいいかしら?」

少女「何か」

ほむら「もしかして、その少女の魔法武器は『矢』だったりするかしら?」

少女「へ?」


少女「いや、違うよ。何て言えばいいかな……棒?」

ほむら「聞かれても困るのだけれど……」

少女「で、それが何か?」


ほむらは、いつの間にか盾に入っていた得体の知れない石の矢をテーブルに置いた。

少女はそれを手に取りまじまじと見つめる。

キュゥべえの推測によると、魔法武器の一部ではないかとのこと。


ほむら「この矢じりに見覚えはあるかしら」

少女「……これは何?」

ほむら「魔法武器の一部じゃないかって言われているのだけれど」

少女「うーん、知らないねぇ」

少女「そもそも魔法武器がこんな小汚い石の矢なわけがないだろうよ」

ほむら「小汚いって……」


ほむら(知らないか……まぁ、いいだろう)

ほむら(今のところ、レイミの影はないことがわかった。ここにも、見滝原にも)

ほむら(……レイミにはカチューシャのようなものがあった)

ほむら(そして、あの魔法少女もカチューシャをつけていた)

ほむら(美樹さやかの魔女にマントと剣があった。佐倉杏子の魔女は槍を扱っていた)

ほむら(ああいった外見的特徴が引き継がれる例から考えると……)

ほむら(レイミはあの魔法少女。……やはりそう考えるのが妥当、自然)

ほむら(それだけでは根拠に乏しいが……)

ほむら(レイミはもういない。産まれなかった)

ほむら(そういうことにして、レイミのことはもう忘れた方がいいかもしれない)


その後、二人は十分程度他愛ないやりとりをし、

ほむらは千円札をテーブルに置いて簡単な挨拶を残して喫茶店から出ていった。

少女は指を組み、知り合いの死に自身なりに向き合うことにした。


少女「…………」

少女「まさか……彼女が負けるなんて」

少女「ふむ……これから僕、どうすればいいんだろう」

少女「やれやれ……だ」

少女「何で……見滝原に行ったんだ」

少女「何で……僕を置いて逝ってしまうんだよ……」

少女「…………」

少女「うぅ……クソ……!」


少女「…………」

少女「……ん?」

少女「ありゃ?指が『切れ』てる……?」

少女「この切り傷……カップが欠けていたのか?」

少女「下げられちまった以上確認しようがないが……まぁいっか」

少女「…………」

少女「見滝原、行ってみようかな……」

少女「ひょっとしたら……彼女が見滝原へ行った理由がわかるかも」

少女「そうなるといつ行こうか」

少女「どうせすることないし、彼女の死を悼むより早速行って行動を起こそう」

少女「葬式もいつやるかわかったもんじゃないからなぁ」


市外まで行った用事は一時間もかからなかった。

今、ほむらは見滝原へ帰る電車に揺られている。

乗客は少ない。

その間、今日の出来事を頭の中で反芻する。


ほむら(水を熱湯に帰るスタンド使いだった魔法少女は……)

ほむら(この時間軸でこの時、スタンド使いではなかった)

ほむら(取りあえず、それが知ることができた)

ほむら(時系列的に考えて……そして、その影響がないということは、そういうことだ)

ほむら(引力の魔女レイミ……本当にいないと考えていいだろう)


ほむら(いや……本当にそう考えていいのだろうか)

ほむら(どうしても不安が残る)

ほむら(スタンドも重要なのは確かだが……)

ほむら(いつまでも……それに気にかけている余裕があるわけでもない)

ほむら(精神衛生上にも……いないと考えて……次に、備えよう)

ほむら(……何だか……今日はとても疲れた)

ほむら(……あの矢じりも……結局わからなかったな)

ほむら(まぁ……そんな……気にしなくても……いい、か……)

ほむら(……今度は……あの二人に……会いに、行こう)

ほむら「…………」


——
————


『ゃん……』

『ほむらちゃん……』

ん……何?

『ほむらちゃんほむらちゃん』

……まどか?

『ほむらちゃん!』

……まどか!?

まどかの声が聞こえる……!

まどかよね!ここにいるの!?どこ!?

そ、それに、どうしてここに……?

私に顔を見せて!

『や、を……』


え……?何ですって?

『矢を……あの石の矢を』

矢って……あれのこと?

何を言ってるの?あれが何だと言うの?

まどか。私の声聞こえてる?

『大切にしてね』

……何が?

まどか?何を……大切にしろと言うの?

まどか。何を言ってるの?ねぇ、まどか?

まどか!

どこにいるの!?お願い!顔を見せて!

声しか聞こえない!ど、どこにいるの!?


声……?

あれ……そういえば、私の声……出ていない……?

口から声が出てきてない……!

まどかっ!

私の声聞こえてる!?私の言葉を……。

お願い!返事をして!まどかァッ!

私の側にいて!お願いだから……っ!

………………いない、の?

まどかの声が聞こえない……いなくなったの……?

気のせい……?いや、でも、今……確かにまどかの声が確かに……。

そんな……まどかぁ……。


————
——


ほむら「まどかぁ……」

ほむら「…………」

ほむら「……ん?」

ほむら「…………」

ほむら(……夢?)

ほむら(……夢、か)

ほむら(そっか……夢だったのね)

ほむら(変な夢ね)


ほむら(矢のことを考えていたからか……夢の中にまで出てきたわ……)

ほむら(やれやれだわ……)

ほむら「…………」

ほむら(大切にしてね、か)

ほむら(夢の中とは言え、まどかがそう言ったからには……この矢)

ほむら(……そうね)

ほむら(それ……『お守り』として持っておこうかな)

ほむら(夢の中のまどかに言われたということで……何となく)

ほむら(本当に何となくだけど……縁起がよさそう)

ほむら(……そういえば)


ほむらは、先程はっきりと「まどかぁ……」と口にしていたことを思い出した。

公共の場で、寝言を言ってしまった。

もしかしてドア付近でヒソヒソ話してる二人組の女子高生は自分のことを笑っているのではないか?

そう思うと、ほむらは急に恥ずかしくなった。

次の駅に停車したら降りて車両を移ることにした。それまでにあることを今一度考える。


「次に会うべき人物がいる。しかし『あの二人』は、顔と名前しか知らない」

「どうやって住所を調べ上げたものか」

「キュゥべえを利用すれば簡単だが、あまり関わりたくない上に、不審に思われてしまいかねない」


ほむらは「次の面会人」のことと、お守りにすることにした矢の入れ物について考えた。

降りるべき駅を既に三駅乗り過ごしていたことを気付くのに時間は要さなかった。



——見滝原に隣接する風見野。


その外れに廃教会がある。

そこには、かつてとある一家が暮らしていた。

しかしある日、そこで火災が発生した。

延焼する前に火は消し止められたが、中から遺体が発見された。

この件は新聞にも小さく載ったが、

世間はそのことを忘れかけていた。


廃教会から少し離れた公園のベンチに、少女と童女が座っている。

赤毛の少女は佐倉杏子。その隣の童女は千歳ゆまという。


『ゆまの母親』はとても美しい女性であったけれども、決して良い母親ではなかった。

産後、幼いゆまを置き去りにして彼女はよく夫(ゆまの父親)と夜の街に遊びに出かけた。

寝ていて夜、目を醒ますと両親がいない。家に一人取り残された。

幼い子どもにとってそれはどんな恐怖と絶望なのだろう……。

ゆまは暗闇の中で泣いても無駄なのでただひたすら震えていただけだった。


しかもこの女は父親の見ていないところでよくゆまを殴りつけた。

「人の煙草を見ただけでビクビクしやがってイラつくガキだわ!」

これは逆だった……煙草に怯えるようになったのは明らかにこの女が原因だった。

父親は娘に一切関心を示さなかった。


しかしある日のことだった。

ゆまは気が付くと、自分の両親が足下に肉塊となって転がっていた。

死んでいるのか?これは本当に人だったのか?それさえもわからなかった。

するとそこに、両親を肉塊にした「何か」と戦い、勝利した『杏子』がゆまの前に立つ。

杏子は「あたしについてこい」と言い——ゆまはそれに従った。

杏子はゆまに対して「一人で生きる術を教えてやろう」と思った。

ゆまは食事、銭湯、寝床を必要最低限与えられ、連れて行ったもらった。

最初は落ち着きのなかったゆまも、今ではすっかり杏子に懐いている。

両親から学ぶはずの「人を信じる」という当たり前のことを、ゆまは不器用な他人を通じて知ったのだ。

もうイジけた目つきはしていない……ゆまの心に温かい空気が吹いた。


こうして「千歳ゆま」は国民的美少女に憧れるよりも『魔法少女』に憧れるようになったのだ。


ゆま「キョーコ。キョーコ」

杏子「あん?」

ゆま「ゆま、お腹空いたなって」

杏子「んー……そうだな。世間一般的に言うおやつの時間ってやつか」

ゆま「何か食べたい」

杏子「そうかい……リンゴでも食うかい?」

ゆま「うん!」

杏子「リンゴを……よっと」


片手に持ったリンゴを、杏子は指で弾いた。

今の一瞬で魔力がリンゴの中を通り、パックリと二等分にした。


ゆま「すごい!手品みたい!」

杏子(いや、魔法だよ……)

ゆま「キョーコカッコイイ」

杏子「んな気持ち悪いこと言うな。やめろよ」

ゆま「キョーコ照れてる?」

杏子「やかましい。とっとと食え」

ゆま「はぁい」

杏子「…………」

ゆま「……?どうしたの?」

杏子「いや、何でもねぇ」


魔法少女にとって、魔法と願いは密接な関係にある。

やり直したいと願えば時間を遡行する能力を得たり、

怪我を治したいと願えば治癒魔法に特化する。

杏子は幻惑の固有魔法を有している。

しかし、それは心因的な理由で、心の奥底に封印されている。

杏子は父親のために願い、魔法少女として戦うことを誓った。

後にマミと出会い、師弟関係にあった時期もあった。

その時の杏子は心が満たされていた。

しかし、杏子は魔法少女になったことを父親に知られてしまった。

父親は娘を拒絶した。彼には娘がそれこそ魔女に見えたのだ。

その結果が、廃教会の火災である。


火災の原因は、父親の無理心中による放火。

杏子は、契約したことを後悔した。

自分のせいで家族も家も失ったのだ。

杏子の心は荒み、杏子はマミから独立し、自分の道を進むことにした

使い魔を敢えて退治せず、人を喰わせて魔女にする。

そういったことを平然とやってのける、全方向に槍を向けるような性格になってしまった。

そういう人間を演じている、という表現が近いのかもしれない。


しかし、杏子は気付いていない。

今、隣にいる、自分を慕ってくれるゆまという存在が、

自分自身の尖った心をやすりで撫でるように、丸くしつつあることを。

今日はここまで。お疲れさまでした。

次の18話にてやっとこさスタンドの登場です。途中で区切らない限りは
ちなみに27話が最終話になります


#18『地縛の魔女』


放課後。

ほむらは「用事があるから」と言い、

まどかの「一緒に帰らない?」という申し出を断った。

別世界の親友の誘いを断る程大切な用事がある。


ほむらは今、洋館の前にいる。

手入れをされず不格好に伸びたバラの木がそよ風に煽られ揺れている。

ここには二人の魔法少女が暮らしている。

ほむらは一呼吸置いた後、玄関チャイムを押した。

数十秒後、ドアが開く。

来訪者を出迎えたのは、銀色のサイドテールをした少女だった。


「えっと……どちら様?」

ほむら「……『美国織莉子』ね」

織莉子「へ?はぁ……そうですが……」

織莉子(この制服……キリカのクラスメート?)

ほむら「名前と顔しか知らなかったからこの住所を突き止めるのに少し時間はかかったけど、そう難しいことではなかったわ」

ほむら「わざわざそうしたのはキュゥべえに聞くにも怪しまれると思ったからよ」

織莉子「は?いきなり何を……」

織莉子「……あっ」

織莉子(この指輪……魔法少女!?な、何故魔法少女がここに……!?)

織莉子「と……取りあえず、あがってください」

ほむら「えぇ」


キリカ「織莉子ー。何だったの?宅配便か何か?」

キリカ「こないだのしつこいセールスの輩だったら今から追いかけてボコボコに……」

キリカ「……誰?この人」

ほむら「私の名前は暁美ほむら」

織莉子「……だ、そうよ。キリカは知らない?」

キリカ「知らないなぁ……」

ほむら「あなた達と同じ、魔法少女よ」

キリカ「え……!?」

織莉子「……お茶を淹れますわ」

ほむら「その必要はないわ。さぁ、座って」


織莉子「へ?」

キリカ「あ……」

ほむら「……どうしたの?ここはいけなかったかしら」


ほむらは既に着席していた。

ピンと背筋を張り、冷たい目で二人を見つめる。

そしてテーブルを挟んで向かいの席に座るよう手で促した。


ほむら「一応上座は遠慮したつもりだけど」

織莉子「……私の家なんですけれど」

キリカ「随分と態度がでかいね……」

キリカ(……気に入らない。そこは織莉子がいつも座ってる椅子だ)

キリカ(織莉子のお尻を間接的に触れたのは許しがたいなぁ……)


織莉子「…………」

ほむら「…………」

キリカ『いいかい?織莉子』

織莉子(テレパシー……相変わらず良いタイミングだわ。キリカ)

織莉子『構わないわ。立場をわからせてあげなさい』

キリカ『そうこなくっちゃね』

ほむら「早く座りなさい。話ができないわ」

織莉子「……えぇ、そうですね。そうしましょう」

キリカ「じゃあ客人。ゆっくりと話そ——」


ほむら「遅い」


キリカ「……うか?」

織莉子「…………ッ!」

織莉子「き、キリカ……!?」

ほむら「…………」

キリカ「……う、嘘」

キリカ「私は……私はまだ何も……」

織莉子「キリカァッ!」


既に——だった。

キリカが戦闘態勢を取り、時間を遅くしてしまおうとした瞬間だった。

魔法少女に変身する直前、こめかみに鉄の固さと冷たさを感じた。

その正体は拳銃だった。銃口を密着させられている。

凍傷を負いそうな程冷たく感じた。


テーブルを挟んで少しばかりの距離がある。

しかし、謎の来訪者は一瞬の内にキリカの背後に回り込み、

銃口をこめかみに押しつけながら、氷のような目で織莉子を睨んだ。

キリカは魔法少女に変身する隙さえ与えられなかった一方、

来訪者の服装は白と紫のカラーリングをした、魔法少女のそれとなっていた。


ほむら「あなた達のこういった暴挙を予測しないとでも?」

織莉子「……!」

キリカ「う……」


二人が気付かない程一瞬の内に変身し、気付かれずに接近された。

そして同じくどこからともなく銃を取り出し、突きつける。

手慣れている。

魔法少女となって日の浅い織莉子とキリカは、恐怖に近い緊張を覚えた。



ほむら「……あなた達と私とでは経験に差がある」

ほむら「そのまま彼女の脳を床にブチ撒けてもいいのだけれど、私はそのために来たのではない」


ほむらは銃口をキリカのこめかみから離した。

そのままほむらは何事もなかったかのように、再び同じ椅子に着席した。


ほむら「妙なことはしないことね」

ほむら「一度妙なことをしたペナルティとして、魔法少女の姿のまま話させてもらう」

ほむら「当然。あなた達に変身する許可は与えない。異論は認めない」

キリカ「…………」

織莉子「…………」

織莉子(何……この魔法少女……!)

織莉子(何だというの……!)


織莉子(冷凍庫に数時間入れられていた鉄のスプーンで背筋を撫でられたようなこの感覚……!)

織莉子(言葉に言い表せることのできない、具体的な死の恐怖を感じた……!)

織莉子(予知をして行動を先読みしたいところだけど……)

織莉子(戦闘能力が私よりも上なキリカは変身する暇さえ与えられなかった)

織莉子(変身しなければ予知ができない。変身が完全に封じられている……)

織莉子(瞬間移動の能力か……キリカの時間を遅くする魔法のように、時間を止めたかのような……)

織莉子(そういう能力があるとしか考えられない)

織莉子(少なくとも今の私達では……抵抗すらできない。従うのが得策か)

織莉子「……わかったわ」

キリカ「お、織莉子……」


織莉子「キリカ。座るわよ」

キリカ「あ、う、うん……」

ほむら「やっと話ができるのね」

織莉子「…………」

織莉子「それで?私に話したいこととは何かしら?」

織莉子「内容によっては、力ずくでも出ていってもらうわ」


敬語をやめたのは、せめてもの反骨精神。

できる限りの凄みを見せつけたつもりでいる。

しかし魔法少女を相手に、ただの女子中学生が勝てるはずがない。

馬車に威嚇するカマキリのようだと、織莉子は自分自身で思った。


ほむら「…………」

ほむら(この二人は……ハッキリ言って憎い)

ほむら(そのまま殺して遺体を適当な結界に置き去りにしてしまいたいくらいに憎い)

ほむら(しかし……魔法少女である以上、利用できるものはしてみるべきだ。かなりリスクはあるかもしれないが……)

ほむら(スタンドは本体の性格に影響を与える。私が知っているのは、スタンド使いの彼女達のみ)

ほむら(前の時間軸の佐倉杏子が簡単に人殺しができたように……元の性格に残虐性等が付加されていた可能性がある)

ほむら(彼女達の本質が未確定な今、引き入れる余地があるかもしれない)

織莉子「テリトリーのことかしら」

ほむら「予知の件よ」

キリカ「……失礼、もう一度言ってくれるかい?」

ほむら「予知の件」

織莉子「…………」


織莉子「……私はまだ何も話していない」

ほむら「あなたの能力は予知。そして、世界を滅ぼす魔女が現れるという予知を見た。違う?」

ほむら「いえ、現れるでなくて産まれる、と表現すべきかしら」

ほむら「違ったら違うと言ってちょうだい。人間誰しも間違いはあるのだから」

織莉子「…………」

織莉子「え、えぇ……そう……よ。……そうね。産まれるわ。ある少女から」

ほむら「それはどんな人かしら」

織莉子「わからないわ」

ほむら「ならその魔女は……人の上半身と、無数の糸がスカート状に広がったような下半身をしている?」

織莉子「……ッ!」

織莉子「な……何故それを……!」


ほむら「…………」

ほむら(もしかしてと思ったが、やはりそうだ)

ほむら(予知能力者ということは……レイミがいなかったらまどかの魔女が予知されているはずという読み。どうやら間違いないらしい)

ほむら(美国織莉子は既に魔女になったまどかを予知で見ている)

ほむら「……私はその少女と知り合いよ」

キリカ「なん……だと……?」

織莉子「…………」

織莉子(何ということ……)

織莉子(私の目的を既に知られているということは……読心能力か……?)

織莉子(魔女の外見を言い当てたということは私の心を読んで……?いや、私達は世界を滅ぼしうる少女を知らない)

織莉子(知らないのにその少女と知り合いだと名乗るだろうか)


織莉子(では、彼女は私と同じタイプ。予知能力の魔法少女か……?)

織莉子(それなら色々辻褄は合うかもしれない)

織莉子(いや、それなら時間停止のような魔法との関連性が……)

織莉子(……もう何でもいいわ。何にしても、彼女は『その知り合いを抹殺することを決して許さない』でしょう)

織莉子(それをさせないために私達を消すつもりか……?いえ、だったら既にやっている)

織莉子(まさかとは思うが私達を味方に引き入れようとでも……?あり得ない話ではないか……)

キリカ「…………」

キリカ「……現段階では私達はその少女とやらがどこのどなたかはわからないけどさ」

キリカ「君は何が言いたいんだ?」

織莉子「……そうね。結論をもう言ってください」

ほむら「彼女を殺させない」


キリカ「…………」

織莉子「……世界が滅びるのに?」

ほむら「滅びないわ。契約させなければいいのだから」

織莉子「魔法少女にさせなければ魔女は産まれない……と」

ほむら「そうね」

織莉子「未来のことなんて、誰にもわからないのよ」

キリカ(……予知能力者の言う言葉じゃあないね)

ほむら「それをさせないことが私の目的」

ほむら「未来は変えられる。あなたが例の少女を狙うのと同じ理屈よ」

織莉子「それは確実な手段を……いえ、今はやめておきましょう」


織莉子「それで……何故、あなたはそのことを。そして私の予知能力のことを知っているの?」

織莉子「あなたが私の能力を知っている以上、フェアでないかと」

ほむら「……私が『未来から来た』からよ」

キリカ「……はぁ?」

ほむら「どうせ証明できるようなネタは今のところ特にないから、信じる信じないはひとまずいいとして……」

ほむら「私の目的は、ある少女を救うこと。そのために時間遡行をしている」

ほむら「そして、それは、例の少女」

織莉子「……して、抹殺以外に何をしようと言うの?」

ほむら「魔女にさせない方法がある」

織莉子「……聞きましょう」

ほむら「ワルプルギスの夜を倒すこと」


キリカ「……ワルプルギスの夜?」

ほむら「知らないの?」

織莉子「生憎、魔法少女歴は短いので」

ほむら「なら、簡単に説明するわ」


ほむらは説明した。

自分に関する情報を最大限まで隠し、

スーパーセル。崩壊する見滝原。巨大な体。不気味な笑い声。

伝説級の魔女、因縁の相手のことを、知り得た情報を話した。

織莉子はほむらの言葉に対し適当な相槌を打ちながら聞いた。


織莉子「…………」

ほむら「例の少女は、ワルプルギスの夜から救うために契約し、世界を滅ぼす魔女になってしまう」

ほむら「ならばそのワルプルギスを、私達の手で倒せば、契約はない。……という理屈よ」

キリカ「……私達?」

ほむら「そう。私とワルプルギスの夜を討伐するための『協力』を、あなた達に要請する」

ほむら「私はその少女を契約させない。あなたはその少女を魔女にしたくない」

ほむら「利害が一致してると思うのだけれど」

織莉子「…………」

キリカ「…………」

織莉子「何故、ワルプルギスの夜のような魔女を予知で見なかったのか……それは、例の少女がその前に滅ぼしたから……と」

ほむら「えぇ。多分そうなるのでしょうね」


ほむら「あなたが少しでも賢い人間なら、少し考えればわかることだろうけど……」

ほむら「世界を滅ぼす魔女と比較すれば弱いであろう魔女を倒せば、あなたの目的は達成されるというのよ」

キリカ「結局、世界を滅ぼす魔女が絶対に産まれないという可能性は否定できてないじゃんか」

織莉子「そうよ。万が一、その少女がワルプルギスの夜と無関係に契約してしまったら?」

織莉子「世界の命運がかかっているのよ。確実な方法を取るのが当然の選択」

ほむら「ワルプルギスを葬れば、魔法少女の真実を知れば、契約することはまずあり得ないと思ってくれてかまわない」

キリカ「だからそれを信用させてみてよ」

ほむら「証拠なんてものはない」

キリカ「おいおいおいおいおいおいおいおい」

ほむら「何にしても、それを証明することははっきり言って無理よ」

キリカ「だからおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい」

キリカ「やっぱり『嘘の話』してるんじゃあないのかァーッ?」


織莉子「…………」

ほむら「殺させないために私がデマカセを言うくらいなら、既にあなた達を殺している」

キリカ「うっ……」

ほむら「……百歩譲りましょう」

ほむら「もし契約をされてしまったのであれば……」

ほむら「彼女のソウルジェムを砕かせる権利をあげるわ」

織莉子「…………」

ほむら(いざという時……契約をしてしまったらとは言え……まどかを殺させることを容認することになる)

ほむら(……自分で言っておいて心が苦しい。しかし、私はその覚悟をしてきた)

ほむら(私の目的はまどかを救う……契約させないこと。契約してしまえば救う価値がないとまでは言わないにしても……)

ほむら(……救うために戦っているのだから命を賭けられても文句は言えない、と割り切ることができれば、どんなに楽なことか)


キリカ「……織莉子」

織莉子「…………」

織莉子「……そうね」

織莉子「元々私達も、現段階ではその少女を捜し出すために……具体的な内容は省くけど色々やろうとしていた」

織莉子「あたかも全てを見透かしているかのような……あなたのような方がいなければもっとスムーズに事が進んだでしょうに……」

キリカ「君がいい人であると信じられたらどれほど素晴らしいことか」

織莉子「ハッキリ言わせてもらえば……」

織莉子「あなたが信頼に値する人間かどうかは判断できない。故にYESとは言えない」

ほむら「そう」

織莉子「どうせすぐに決断できる内容ではないし、時間をちょうだい」

キリカ「話し合いが必要だ」


ほむら「……わかったわ。では、答えは保留ということで」

織莉子「えぇ」

ほむら「その間に私を消そうだなんて考えないことね」

キリカ「そ、それはお互い様だろう?」

ほむら「正しい選択を望むわ」

織莉子「…………」

ほむら「…………」

キリカ「…………」


静寂が訪れる。

この場にいる全員が、まるで時間が止まったかのような錯覚を覚えた。


求めた答えは得られなかったが、決裂したわけではない。

それだけでほむらは安心はしないにしても、少しの不安は解消された。

それが上辺だけの言葉であったとしても。


ほむら「……ところで話は変わるのだけれど」

織莉子「何かしら」

ほむら「美国織莉子。呉キリカ。これに見覚えはあるかしら?」

キリカ「これ?」


ほむらはカバンから眼鏡ケースを取り出し、蓋を開ける。

普段は盾の中に入れているが、織莉子に「このこと」を聞くため、

カバンの中に移し、来訪した。


キリカ「……?」

織莉子「これは……矢じり?」

ほむら「えぇ。そうね。一応お守りのつもりで持っているものよ」

織莉子「お守り……それで、これが何か?」

ほむら「これに見覚えがあるかどうかを聞きたい」

織莉子「……ないわ」

織莉子「骨董品かしら?専門家に聞いてちょうだい」


織莉子はテーブルに置かれた矢じりを手に取り、見つめる。

装飾のデザインは個人的に気に入ったが、

もしその値打ちが千円以上ならまず買うことはないだろう、と思った。


ほむら「私が魔法少女に聞いているのは……これには魔力が纏われているらしい」

キリカ「魔力?」

織莉子「……ということは魔法少女か魔女が関係しているの?」

ほむら「キュゥべえが言うには魔法少女の魔法武器の一部かもしれない、と」

キリカ「魔法武器?え、何。君そんな得体の知れないものをお守りにしてるの」

ほむら「いいでしょ別に」

織莉子「何も悪いとは言ってな——」

織莉子「痛っ!」

キリカ「ッ!?」

ほむら「え?」

ほむら「……あら」


織莉子の指から赤い液体が流れる。

矢じりが織莉子の毛細血管を切ったらしい。

血がテーブルに垂れる。


織莉子「ゆ、指が……」

キリカ「織莉子ォォォ!」

ほむら「ちょっと、気を付けてよ。思いの外鋭利なのよこれ」

織莉子「先に言いなさいよと思ってしまうのでした」

キリカ「救急箱はどこだ絆創膏はどこだ塗り薬はどこだあわあわあわわ……!」

織莉子「落ち着いてキリカ」

キリカ「…………」


織莉子「ん、キリカ?」

キリカ「…………」

ほむら「……?」

織莉子「キリカ、どうしたの?急に黙って」

キリカ「……ねぇ、織莉子。今何時?」

織莉子「へ?」

キリカ「……もしかしてもう夜?」

織莉子「あなた何を言っ……」

ほむら「……え?」

織莉子「な、何……これ……?」


キリカ「外が……『真っ黒』?」



この部屋には、大層立派な窓がある。

窓から見る庭は、手入れがされていなくても十分良い景観である。

青空や夕日がとても美しい。今の時間帯では、空色と橙色の混ざった空が見えるはずである。

しかし、

外の景色から黒以外の色が消えた。消えていた。

窓に黒色をベタ塗りされたかのようだったが、そうではないらしい。

外が真っ黒だった。太陽が消えた。空が、雲が消えた。それどころか庭も道路さえない。

まるで屋敷が丸々『穴の中』に落とされたかのようだった。

しかし室内の光度そのものは変わっていない。

故に、この異常な光景に気付かなかった。


織莉子「な……何?こ、これ……」

ほむら「こ、この異常性……まさか……し、しかし……」



『戸惑ッテイルゾ、頑張ッテ行ッテラッシャイ』


ほむら「……?」

ほむら「今、何か声が聞こえなかった?」

キリカ「え?」

織莉子「……『行ってらっしゃい』と聞こえたわ」

キリカ「え?え?」

織莉子「気を付けて。キリカ。ここは『魔女の結界』よ」

キリカ「う、ほ、本当だ……気配がする」

ほむら(そう……ここは魔女の結界だ)

ほむら(しかし……三人も魔法少女がいるのに……)

ほむら(今やっと、魔女の結界に飲み込まれていたことに気付いたのか?)


空が漆黒である以外、不審な点は見当たらない。

天井の広さから家具の配置まで何も変化がない。

魔法少女の経験でわかる。これは間違いなく魔女、あるいは使い魔の結界である。

しかし、結界の内外が全く同じ景色で、気付かない間に飲み込まれた。

気付かない間に魔女の結界にいる。

そんな体験はかつて魔女の口づけをくらって以来、初めてのことである。


ほむら「結界がこんな形で現れるなんて……」

キリカ「結界には入り口があるもんなんじゃないの……?」

織莉子「まるで空間そのものを飲み込みそのまま結界にしたかのような……」

織莉子「空が暗くなっていた時点で、私達がいた場所は結界になっていた、ということ?」

キリカ「ここを丸々『コピー』したとか……?」

ほむら「何にしても……異常すぎるわ」


ほむら(……まさか)

ほむら(ま、まさかこれは……)

ほむら(……い、いえ、そんなことは……)

ほむら(存在しないはずだ。だから、それはあり得ない)

ほむら(異常なことが起きたら『それ』を疑うのは……悪い癖ね)

ほむら(……幻影を見せる魔女?気配を消せる魔女?)

ほむら(いえ、何にしても、どうにも腑に落ちない)

キリカ「これって、本物?結界の一部?」

織莉子「さぁ……ただ、この空間は丸々私の家そのものに見えるけど……」

織莉子(……壁時計は……10時?確か、16時前後に彼女が来訪した……時計が遡った、あるいは進んだ?)


ほむら「……美国織莉子。呉キリカ」

キリカ「何だい。客人」

織莉子「…………」

ほむら「この結界はあまりにもイレギュラーよ」

ほむら「一時的に共闘をしましょう」

ほむら「うっかり死んでしまっては私の目的もあなた達の救世もままならない」

キリカ「…………」

織莉子「えぇ……わかったわ」

織莉子「ただし、ひとまずというだけよ。これが終わったら今日はもう出てってもらうわ」

ほむら「えぇ。わかったわ」


ほむらは盾から取り出したショットガンを構え、

周囲を警戒する。

キリカはいつでも時間を遅くする魔法を使えるよう、

精神を落ち着かせる。

織莉子は二人から少し離れ、結界を観察する。

壁時計は異なる時を指している。

もしやと思い、カレンダーの方へ歩み、日付を確認する。


織莉子「…………」

織莉子「……このカレンダー」

織莉子「日付が先月になっている」


ほむら「……先月?」

織莉子「確かに私は『この』先月のページを破り捨てた。私の字のメモがある」

織莉子「……そう思えば、時計も辻褄が合う」

キリカ「織莉子……君が言いたいことって……」

織莉子「そうよ。この結界は私の家の『過去』そのもの。先月の我が家」

ほむら「過去、ですって?」

織莉子「えぇ。これはコピーよ」

織莉子「結界を生じさせたことも悟らせず、過去のこの場所を再現した」

織莉子「人の記憶を読みとっている?こんな魔女がいるとは……」

織莉子「……ん?」


先月のカレンダーに目をやると、十四日の欄に文字が書かれていることに気付く。

その日に予定を書いた記憶はない。そこには筆記体で書かれた外国語。

この結界のヒントではないか、織莉子はカレンダーを注視する。


織莉子「英語……?」

織莉子「これは……小さいけど私の字に、似てる……わね」

織莉子「えっと……」

織莉子「『この落書きを和訳した時』……」

織莉子「『あなたは死ぬ』……?」

織莉子「…………」

織莉子「何これ。趣味の悪い結か——」



ガォンッ



キリカ「へ……?」

ほむら「な、何……!?」


理解ができなかった。溜息混じりの声を漏らした織莉子。

その刹那に妙な音。壁にコルク栓を抜いたような穴が空いている。


キリカ「おり……こ?」

キリカ「え?何?何が……起こったの?」


見間違えでなければ、たった今、

織莉子の頭が『消え』た。

首から上が『無くなっ』た。

『壁』ごと消えた。


妙な音——。

削るような、飲み込むような、消すような、壊すような、何とも言えない音。

ほむらはかつて、それと全く同じ音を聞いたことがある。

あらゆる命を葬らせる死の音。


「私の『スタンド』……クリームで織莉子の頭を粉微塵にした」


聞こえてはいけない声が聞こえた。

そして、いてはいけない姿が現れた。

頭に黒いフードを被った『呉キリカ』がいつの間にか、そこにいた。

「ここにいるべきではないキリカ」は、首から上をなくし棒立ちをしていた織莉子の体を抱きかかえる。

そして、織莉子の胸部にあるソウルジェムを皮膚と肉ごと毟り取り、

口の中に放り込み「食べ」た。

織莉子の変身が解ける。たった今、美国織莉子は死亡した。


何故キリカが二人いるのか。今の一瞬で本当に織莉子が死んだのか。

夢でも見ているのか。ここはどこなのか。

パニックがほむらの脳内を支配した。横で呆然とするキリカも同じだった。

「キリカの姿」は、流れ出る鮮血を浴びながら、

遺体のスカートを捲り、白い脚を露出させる。


「ふふ……ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン」


脚を撫で始めた。踵、脹ら脛、腿。

その手を滑らせた。

白い脚に薄赤色の線が描かれる。

「キリカの姿」は織莉子の遺体からスカートを剥ぎ取り、

下着のゴムを引っ張りながらニヤニヤした表情でこちらを見ている。


何故キリカが二人いるのか。今の一瞬で本当に織莉子が死んだのか。

夢でも見ているのか。ここはどこなのか。

パニックがほむらの脳内を支配した。横で呆然とするキリカも同じだった。

「キリカの姿」は、流れ出る鮮血を浴びながら、

遺体のスカートを捲り、白い脚を露出させる。


「ふふ……ウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィン」


脚を撫で始めた。踵、脹ら脛、腿。

その手を滑らせた。

白い脚に薄赤色の線が描かれる。

「キリカの姿」は織莉子の遺体からスカートを剥ぎ取り、

下着のゴムを引っ張りながらニヤニヤした表情でこちらを見ている。


「こらッ!」

「うわっ!」

「『食べ物』で遊ばないの!」

「ご、ごめんなさぁい。『同じ』だからつい!」

「この浮気者」


混乱が混乱を呼ぶ。

キリカにゲンコツし怒鳴った存在。

それは、白い衣装、背の高い帽子。

『美国織莉子』がそこにいた。

壁にあいた穴から現れた。

二人の織莉子がそこにいる。

二人のキリカがそこにいる。


ほむら「そ、そんな……え……?」

ほむら「どう、なって……い、一体……え?」

ガシャンッ

思わずショットガンを床に落とす。

隣で無言で棒立ちをしているキリカ。遺体を愛でているキリカ。

首のない織莉子の遺体。腕を組んでいる織莉子。

織莉子とキリカが二人ずついる状況。

「後から来た」織莉子とキリカは、

ほむらと「こっち」のキリカに向けて言った。


「私達は使い魔よ」

「そう!その名は『ジシバリの魔女アーノルド』だよッ!」

「と、我々『使い魔』一同は親しみを持って『母』をそう呼んでいるわ」

ほむら「つ……『使い魔』……!?」

「そう……私達は『アーノルドの使い魔』なんだよ。ところでほむら、イメチェンした?」


自称使い魔の織莉子の姿とキリカの姿は、

不敵な笑みを見せてそう言った。そして続ける。


「だから少しカタコトの外人みたいな呼び方をしてくれると『本物』との区別がついてこっちとしても助かる」

「えぇ。ね?"Kirika"」

「うん。"Oriko"」

Oriko「うふふ」

Kirika「えへへ」


織莉子の姿をした使い魔"Oriko"はそう言った。

キリカの姿をした使い魔"Kirika"はそう言った。

二人……否、二体は『ジシバリの魔女アーノルド』という魔女から産まれたらしい。

使い魔の魔力を感じながら、魔法少女としての魔力の波長も感じる。

使い魔と魔法少女。二つの波を感じる異常な存在。

ほむらは、嫌な予感を覚えた。


Kirika「ちなみにジシバリっていうのは花の名前ね」

ほむら「な……何が……」

Oriko「ふふ……『その節』では世話になったわね。暁美ほむら」

ほむら「何が……起こって……」

Oriko「飲み込みが悪いのね。久しぶり、と言うのよ」


間違いない。ほむらは確信した。

ほむらは、この二体……否、二人に会ったことがある。


Oriko「我々は、あなたが言うところの『前の時間軸』の『概念』よ」

Oriko「私は美国織莉子であり、使い魔である……『過去の時間軸の概念に寄生する』使い魔なのよ」

Kirika「それがアーノルドの『魔女としての能力』であり『スタンド』なのさ」

Kirika「そういうわけで『スタンド使いの私達』がここにいるんだ」

ほむら「ス……『スタンド』……!」

ほむら「魔女の……『スタンド』……!?」

Kirika「トラウマを抉っちゃったかな?」

Oriko「アーノルドのスタンド能力……過去の概念をこの世界に生み出す」

Oriko「そしてアーノルドはそれを使い魔とすることができる」

Kirika「我々は、そのいともたやすく行われるえげつないスタンドを『アンダー・ワールド』と呼んでいる」

Kirika「過去とは、君の見捨てた、記憶している時間軸を言う……それを読みとるのもアーノルドの能力。呼び出すのがスタンド能力」


キリカ「あ……ああ……ああ……」

キリカ「ああ……!あああ……!」


理解を超越した光景に、ようやくキリカの声帯が追いついた。

脳はまだ戸惑っている。

スタンド、時間軸、アンダー・ワールド、アーノルド、理解が追いつかない。

ただ、織莉子が死んだということだけは理解した。

しかし、大切な存在が死んで自分が何を思えばいいのかわからない


Kirika「おやおやおやおやおやぁ?」

Oriko「『あなた』がやっと声出せるようになったわね」

Kirika「そうだねぇ」

Oriko「……しましょ?」

Kirika「え?」


Oriko「Kirika……こっち向いて」

Kirika「あぁ、Oriko……この『私』が見てるんだよ……恥ずかしいよ……」

Oriko「ふふ……見せつけちゃえばいいのよ……」

Kirika「あぁ、Oriko……ん」

Oriko「ちゅ……んっ」

Kirika「はむ、んちゅ……うん」

Oriko「ぁふ……んん……ふぅ」


脈絡もなく、使い魔同士は接吻をし始めた。

艶めいた吐息を漏らしながら、見せつけるようにディープ・キスをする。

わざとらしく唾液と空気が混ざる音を結界内を響かせる。



ほむらはどうすればいいのか、パニック状態に陥った。

撃てばいいのか、撃ったとして、目の前の二体はスタンド使い。

勝ち目はあるのか。スタンドは見えない。

キリカをつれて逃げた方がいいのではないか。

逃げるとして、逃げ切れるのか。

この結界がどういう風になっているのかわからない。

いつの間にかに放り込まれていたため、出口がわからない。

下手に動いた方が危険かもしれない。

しかし、逃げた方が得策だというのも事実。

ならここで一人だけ逃げるよりもキリカを連れて行った方がいい。

後に戦力になる可能性がほんの少しでもある以上、その方がいい。

だとしても、今、体が動かない。むしろ動けない。

混乱している。時間を止めていいのかさえも判断できない。


一方、キリカの心は黒い感情に支配された。

自分の姿をした使い魔が、織莉子の姿をした使い魔と接吻をしている。

「自分」が「織莉子」に腰を撫で回されている。

ソウルジェムのある位置に触れられると「自分」はピクリと体を揺らした。

頬を紅潮させる自分。唇からよだれを垂らす自分。

目を潤ませる自分。艶やかな声を出す自分。内股になる自分。

不覚にも羨ましいと思った。

気持ちよさそうだと思った。

温かく柔らかそうと思った。

吐き気を催す。寝取られているような気分だった。

当の織莉子は死んだというのに。自分が自分なのに。

キリカの脳は今、ほむら以上のパニック状態となっている。


Oriko「んぅ……甘い」

Kirika「ずきゅぅ〜ん」


OrikoとKirikaの唇から糸がひかれる。

Orikoは満足げな表情を見せる一方、Kirikaは顔を赤らめモジモジしている。


Oriko「さぁKirika。ここは私がやるからあなたは先に帰りなさい」

Kirika「う、うん……わかった……」

Oriko「『私』は残しておいてね」

Kirika「早く……帰ってきてね?」

Oriko「えぇ」


Kirikaは、織莉子の遺体を抱え、壁にあいた穴を抜けて部屋の奥へ消えた。

キリカは織莉子が遺体ですら、永遠に自分の側から消えてしまったことに気付く。


——プッツン

キリカ「ウガア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙アアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

ほむら「ッ!?」

Oriko「ちょっと。私のKirikaと同じ声でそんな不細工な騒音を出さないで」

キリカ「殺してやる!殺す!殺すッ!」

ほむら「く、呉キリカッ!き、危険よ!下がりなさいッ!」


沸き立つ激情に頭の中が真っ白になった。

今のキリカはただ喉が潰れるような声を出してOrikoの方に突っ込んだ。

それしかできない。

時間を遅くすることや相手の行動の推測やほむらの助言は二の次三の次。

爪をデタラメに振り回しながら走ることしか、今のキリカに能がない。


キリカ「ブチ殺してやるゥゥゥゥゥゥァアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!」

Oriko「ふん……」

Oriko「蹙れッ!『リトル・フィート』ッ!」


Orikoは背後から人型の像を出した。

人型のロボット風デザインのエネルギー。

前の時間軸の美国織莉子が有していた能力。

右手に鋭い爪を持つ『スタンド』である。

能力は爪で切りつけたものを『小さくする』能力。

しかし『スタンドはスタンド使いにしか見ることができない』というルールがある。

キリカには、その姿が視認できていない。


キリカにはそのスタンドが見えない上に、

リトル・フィートの攻撃は素速い。

混乱しているほむらが時間を止めるより、

暴走するキリカの爪が体に到達するより、

キリカを切りつけ体を小さくして踏みつぶす方が早い。

キリカの爪がOrikoに届く前に、リトル・フィートの爪が触れそうに——。


グンッ

Oriko「……え?」

Oriko「リ、リトル……フィート?」


突如、リトル・フィートの右腕が『止まっ』た。

右腕を動かすことができない。

リトル・フィートの爪がキリカに届かない。

予想外の出来事。

スタンドを持つ自分が持たざる者に負けるはずがない。

見えない能力に勝ち目はない。見えずにいつの間にかに傷つけられる。

美国織莉子の概念、Orikoには予知するまでもないという油断があった。

それ故、その予想外の出来事に大きな動揺を生んだ。


Oriko「リトル・フィート……!どうして……!?」

Oriko「——ハッ!」

キリカ「ガアアアアアァァァァァァァッ!」

ザグッ!


Oriko「ガハッ……!」

ほむら「あ、あれは……!」

Oriko「な、何……!?」


キリカの爪がOrikoの腹を貫いた。

そして、リトル・フィートの右腕が途中で止まってしまった原因を理解した。

ほむらも『理解』した。

少し離れた位置のドアが揺れている。


Oriko「こ……れ、は……!?」

ほむら「み……える……!」

Oriko「……!」

ほむら「『見える』わ……私……!」

Oriko「な……!?」


ほむら「私にも『見える』……!?り、リトル・フィートが……!」

Oriko「な……!?何……だとぉ……!?」

Oriko「あ、暁美ほむらッ!あ、あなた……まさか……!」

Oriko「ス……スタンドを……ッ!」

Oriko「貴様『スタンドが見える』のか……!?」


ほむらの目の前の光景。腹と口から血を流すOriko。

爪を刺したまま静止したキリカ。

背後にいる、半透明の無機質的な人型の像。

腹に細い穴をあけている。右腕をキリカの方へ伸ばしたまま動かない。


ほむら「スタンドが……『見える』……!」

Oriko「スタンドに目覚めたのか!?いつの間に!?」

Oriko「そんな……!このままでは『レクイエム』が——」


ザシュッ!

キリカは爪を勢いよく引き抜いた。

傷口からゲル状の物体が流れ出す。これが使い魔の血。

キリカはそのまま腹を斬った。


Oriko「がはァ……!」

キリカ「よくも……よくも織莉子を殺したな……」

キリカ「貴様ァァァァァッ!」

キリカ「よくも私に『織莉子の姿』を斬らせたなァァァァッ!」

キリカ「貴様が悪いんだッ!」

キリカ「思い知れッ!思い知れッ!」

Oriko「ガアァァァァッ!ガファ!」


キリカはOrikoを、爪を叩き付け突き刺し爪で抉り分解し断ち掘り出し裂いた。

織莉子の姿をした使い魔は赤色の液体を撒き散らしながら断末魔をあげていた。


キリカ「貴様を殺すだけでは私の怒りがおさまらないッ!」

Oriko「グッ、ゴパ……そ、そんな……!そんなッ!」

キリカ「貴様が悪いんだ!貴様が織莉子と私を侮辱した!侮辱したんだ!」

Oriko「この私が……!スタンド使いであるこの私がッ!」

キリカ「思い知れ!思い知れ!どうだ、思い知れ!思い知ったか!思い知れ!思い知れ!」

Oriko「この私がァァァァァッ!」

キリカ「散ねェェェェェェェッ!」

Orika「OOORRRRRYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAHHHHH!」


ガシャンッ!

ほむらはキリカを止める気はさらさらなかった。

そしてほむらが『自分のスタンド』を理解した時、

ようやくキリカの爪がOrikoのソウルジェムを切り砕いた。

同時に、断末魔が止んだ。

リトル・フィートは塵となり、Orikoは黒い煙のようになり消える。

使い魔は消滅した。

キリカの腕が止まった。


キリカ「ハァ……ハァ……ハァハァ……ハァ……」

ほむら(魔法少女の概念という以上……ソウルジェムが砕けると絶命するのか)

ほむら(肉塊のようになってやっと死んだのだからそうなのだろう……)


いつの間にか、窓の外は橙色に変わっていた。

壁にあいた穴がなくなっている。床を汚した血の赤は一切ない。

カレンダーと時計は正しい「今」を指している。

結界が解けたらしい。

そのことは冷静さを欠いたキリカでも理解できた。

それは同時に、最愛の人を失った事実を突きつけられたことでもある。


キリカ「……」

キリカ「織莉子……」

キリカ「織莉子がぁ……」

キリカ「私のぉ……織莉子……」

キリカ「う、うあ……ああぁぁ……!ああ……!」


ほむらはキリカのことをよく知らない。

しかし、キリカが織莉子を大事に思っていたことは「初対面」でも理解できた。

キリカの織莉子への思いは、どことなくまどかを思う自分と被った気がした。

時間遡行を始めた初期の頃の自分の目の前でまどか惨殺されたらどうなるか、

それを想像すれば、キリカがどうなるか、ほむらは容易に想像できた。


ほむら(こ、このままでは呉キリカのソウルジェムが……!)

ほむら「……落ち着きなさい」

キリカ「うあ゙あ゙あ゙あああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあッ!」

ほむら「お、落ち着きなさい!」

キリカ「お゙お゙お゙お゙り゙い゙ぃぃぃぃぃごお゙ぉぉぉぉぁぁぁぁぁッ!」

キリカ「あんまりぃぃぃぃだァァァァァ!い゙や゙ア゙ァァァァァァァァァァァ!」

ほむら「…………呉キリカァッ!」

キリカ「ッ!」


パッシィァ!

ほむらはキリカの頬を叩いた。

軽い音が主を無くした屋敷に響いた。

怯んだ隙を突き、ほむらはキリカのソウルジェムにグリーフシードをあてる。

キリカのソウルジェムは腰についているため、自然と抱き寄せるような形になる。

グリーフシードが黒色に染まったのを確認し、ほむらはキリカを解放する。

キリカの絶望を物理的に防ぐのに、新品のグリーフシードを丸々一個使用した。


キリカ「…………」

キリカ「う、うぅぅぅ……ぐっ……くぅ……!」

ほむら「……落ち着いたかしら?」

ほむら「深呼吸をしなさい。こんなところで魔女になったら笑い話にもならないわよ」

キリカ「私にとって……織莉子は……!」


キリカ「私にとって……織莉子はなぁ……!」

ほむら「……大切な人でしょうね」

キリカ「知った風な……」

ほむら「…………」

キリカ「知った風な口を聞くんじゃあないぞッ!」

ほむら「……っ!」

キリカ「勝手なことを抜かすなァッ!」


キリカはほむらの胸ぐらを掴んだ。

浮かべた涙を通した瞳から黒い感情が見える。

その場の勢いで人を殺してしまいそうな、そういう目だった。

ほむらはそれと似たような目をかつて見たことがある。


キリカ「おまえが……来たからだ……!」

キリカ「魔女とか使い魔は人の憎悪や憂鬱とか、そういうのに……『引力』のように引き寄せられる……!」

キリカ「だからッ!」

キリカ「おまえが連れてきたんだッ!」

キリカ「私達は幸せだった!平穏だった!だから要因はおまえにある!それしかあり得ないんだ!」

キリカ「おまえが連れてきたんだ!おまえがァッ!」

ほむら「……使い魔を誘い込むような精神状態でわざわざ訪ねてくると思うの?」

キリカ「そ、それは……と、とにかく使い魔がおまえに引き寄せられた以外考えられないッ!」

キリカ「私と織莉子の姿をしていたのはいまいちわからないが、おまえはそれを知っていた感じだったぞ!」

キリカ「あいつらはおまえを知っていたようだった!」


ほむら「…………」

キリカ「ここまできて!暁美ほむら!」

キリカ「おまえ以外の他に何があるってんだよッ!」

キリカ「おまえのせいだ!貴様の!貴様のォッ!」


体重をかけ、ほむらを床に押し倒す。

歯を食いしばり息を荒くして顔を近づけるキリカ。

そのまま手を首にかけ絞めかねない、そういう表情。

しかし、ほむらは一切動揺を見せず冷たい表情をする。

熱された鉄を氷塊をあてられたかのように、キリカの頭は冷めていく。


キリカ「ハァ……ハァ……ハァ……」

ほむら「…………」

キリカ「…………」

キリカ「…………わかってるよ」

ほむら「呉キリカ……」

キリカ「わかってるんだよ……八つ当たりだって」

キリカ「君は何も悪くない……こんなの、誰にも予測はできなかった」

キリカ「これはただの事故だ。わかってるんだよ……」

キリカ「予知できなかった織莉子にも、織莉子をみすみす死なせてしまった私にも、それなりの落ち度がある」

キリカ「わかってるけど……わかってるけどさぁ……!」


声が震えている。胸ぐらを掴んだ手から力が抜けていく。

ポロポロと、キリカの目から涙が落ちた。

その滴がほむらの顔に落ちる。温かい涙。

そのまま気の済むまで泣かせるのも良いとほむらは思ったが、

キリカの手首にそっと触れることにした。

それを「離せ」という意思表示と読みとったキリカは、それに従った。


ほむら「…………」

キリカ「…………」

キリカ「…………何故なんだ」

ほむら「…………」


キリカ「何故、助けた?」

キリカ「見ず知らずの人間を……君の友達を殺そうと計画していた人間だ」

キリカ「ましてや今、君の首を絞め落とそうとした人間だ」

キリカ「そんな私を……グリーフシードを使ってまで……」

ほむら「……魔女になられたら迷惑だからよ」

キリカ「…………」

キリカ「魔女になっては困る……というのは嘘だろう」

ほむら「……何故、そう思うの」

キリカ「何となくわかるんだ」

キリカ「私は、織莉子を失ってしまった……」

キリカ「今更何を言われたところで私は気にならないだろうし、口外するような相手もいない」


キリカ「話してよ。君のことを……君の目的を」

ほむら「…………」

ほむら「……私は未来から来た」

キリカ「……へぇ」

キリカ「聞かせてくれないか……?話聞いてる間に……少しは悲しみが和らぐかも」

ほむら「……わかったわ」


ほむらは洗いざらい話すことにした。自分の過去を。

親友との誓い。スタンドという能力。

時間遡行の能力。自分自身への誓い。

『まどか』という名前を伏せて話せる範囲で話した。

最初から魔法少女が魔女になるということを知っているキリカになら、話しても大丈夫だと思えた。


——ほむらは思った。


……スタンドを視認することができてしまった。

つまり『スタンド』が私に『発現』してしまったということだ。

レイミには会っていない。それどころか、初見の魔女、使い魔にしか会っていない。

と、いうことは前の時間軸で既に……そして、引き継いでいるのだろう。

スタンド……か。

それを考えるのは後回しにするとして今危惧すべきことは……、

今現れた『過去の織莉子とキリカ』は『使い魔』だったということだ。

使い魔曰く、そしてその魔女、アーノルドとやらはスタンド使いの魔女らしい。

スタンドという概念が存在しないはずなのに何故……?


レイミが何故スタンドという概念を産みだしたのか、そのルーツは不明だが……、

レイミのような、スタンドにまつわる魔女が他にも存在していたということか……。

そして、そのスタンドに目覚めた魔法少女が魔女になったのだろう。

使い魔の言葉を信じるのならば『アンダー・ワールド』はレクイエムではないらしい。

スタンド使いの魔法少女が魔女になれば、必ずレクイエムが目覚めるわけではないのだろうか。

……前の時間軸で予知を見られてしまった私と違って。


正直マズイということだけはわかる。

スタンド使いの魔女。

一方で、スタンド使いになっていた私。

言うまでもなく、私だけでは手に負えない。

利用できるものならしたい。


呉キリカを引き入れることはできないだろうか。

信用できるとは言えないが、果たして……。


ほむら「——これが、私がここにいる理由」

キリカ「…………ふぅん」

キリカ「友達を助けるために、ねぇ……」

キリカ「それでここに来たわけだ。私達がとんでもないことをする可能性があるから……」

ほむら「それもあるわ」

ほむら「……落ち着いたかしら?」

キリカ「あぁ……割と、ね」


キリカ「あまりに大きな物を失って、絶望を物理的に解消されたら……逆に冷静になれた気がする」

ほむら「内心、ワルプルギスの夜の戦力にならないか……利用する価値があるかを見定めていたわ」

キリカ「私を利用するだって?協力を煽ろうってかい?」

キリカ「ハハ……よしてくれ。私にとっての織莉子はさ……君にとってのその友達なんだ」

キリカ「友達になってくれた人物は、病弱な君を救ってくれた」

キリカ「私もだ。私も織莉子に……死につつあった心を生き返らせてくれたんだ」

キリカ「私は君だ。君の傷は私の傷なんだ」

キリカ「君が友達が死んだらその時間軸とやらを諦めるように……私にはもうこの世界に生きる気力がない」

ほむら「…………」

キリカ「だから、協力は約束できないね。そんな気になれない」


キリカ「それに……その友達の名前すら教えてくれないだろう?」

キリカ「心のどこかで私が織莉子の遺志を継いでそいつを殺しかねないと考えているからだ」

ほむら「そ、それは……」

キリカ「私の、拒否するという選択は……互いにとって丁度良い」

キリカ「私はもうここにはいられない。どこかへ行くよ」

ほむら「……呉キリカ」

キリカ「取りあえず、助けてくれてありがとう」

キリカ「さようなら。恩人……」


キリカは屋敷を出ていった。

ほむらは追わなかった。


ワルプルギスの夜の戦力として利用するつもりだった。

そのため、死なれては、魔女になられては困ると思った。

だからグリーフシードを与えた。

しかし、本人にその気がなければ、無理に戦力としない。

来る者は選別するが去る者は追わない。

慰めの言葉も、説得もしない。

できない。


それ以上に、ある感情が心にある。


美国邸を後にして、日が沈もうとしている帰路。

ほむらは、公園に立ち寄り、ベンチに腰を掛けて考えた。


私は織莉子……いや、Orikoのリトル・フィートが見えた。

呉キリカには見えなかったから……リトル・フィートがスタンドそのものであることはやはり間違いないはずだ。

見えたということは……私はスタンド使いだったということに、やはり間違いないんだろう。

何度考えても……都合の良い解釈をしようにも、それは事実だ。

スタンド……か。


ほむら「まさか……私に、スタンドが……」

ほむら「どうしても信じられない……スタンド」

ほむら「この時間軸でまどかを狙っていた美国織莉子……」

ほむら「それは、世界を滅ぼす魔女になるから」

ほむら「そして、前の時間軸では私を抹殺しようとしていた」

ほむら「それは、私もまた、世界を滅ぼすと予知されたからだ」


ほむら「前の時間軸、美国織莉子の予知では……」

ほむら「私はレイミの影響でスタンドに目覚める」

ほむら「そして私の魔女化に伴って、そのスタンドは『レクイエム』という能力に覚醒する」

ほむら「そのレクイエムが世界を滅ぼす……そういう予知だった」

ほむら「私は……そのスタンドを、持ってしまった」

ほむら「つまり私は……万が一、魔女になったら……」

ほむら「…………」

ほむら「…………ああ、何てこと」

ほむら「魔女になるだけならまだしも……そんな……」


ほむらは頭を抱えた。

自分が魔女になることは、何度か想像したことがある。

どんな魔女になるのか。魔女となったら人をどれだけ殺してしまうのか。

魔力切れか絶望してかどっちなのか。どういう感覚なのか。

なったとてすぐに殺してもらえるかどうか。悪い想像は絶えない。

魔法少女としての素質は大したことないためそれ程強くはないだろう。

しかし、今回は違う。話が根本的に違うのだ。

「世界を滅ぼす存在になる」というのは想像を超えている。

『レクイエム』そのものはわからない。

人間は未知を恐れる。


ほむら「…………」

ほむら「いや……」

ほむら「今は、恐れている場合ではない」

ほむら「私が、世界を滅ぼしうる存在だと言うのであれ……」

ほむら「それが、何だと言うの」

ほむら「言ってしまえばまどかと同じ立場になっただけじゃない」

ほむら「私は誰に誓った?」

ほむら「自分に誓った」

ほむら「まどかを助けると自分に誓った」

ほむら「そう……望みは捨てない!私はそのために生きている!」


ほむら「この状況を逆手に取るのよ」

ほむら「呪いと言えど、これはスタンド……」

ほむら「スタープラチナやキラークイーンのように……これは『力』となる」

ほむら「アーノルドとかいうスタンド使いの魔女に、スタンド使いの使い魔に対して、スタンドが見えるという点で不利を解消できる」

ほむら「そう。逆よ」

ほむら「これは新しい力。新しい技術」

ほむら「世界を滅ぼしうるからといってどうということはないわ」

ほむら「魔女にならなければいい」

ほむら「……いえ」

ほむら「違うわ。ならなければいい、という安易な考えではない」


ほむら「ワルプルギスを越えた……その時に」

ほむら「まどかを守ったその後に自ら命を絶とう」

ほむら「まどかを契約させずにワルプルギスを越えることさえできれば、まどかとの約束を果たせる」

ほむら「そして、私が死ぬことでレクイエムは発動することはない」

ほむら「これで……因縁は断ち切れる」

ほむら「…………」

ほむら「そう……それでいい」

ほむら「まどかを救えれば……それで……」

ほむら「これは私のちっぽけな命なぞ超越した『使命』であり『願い』だから」

ほむら「私の死で完結する……してみせる」


ほむら「…………」

ほむら「問題は果たして……『この』スタンド」

ほむら「どのように扱えばいいか……」


自身の指を見る。

細く白い指の先から、半透明の『糸』が垂れている。

そよ風に揺られず静止している、引力に従事する『糸のスタンド』

それは自分の意志で自在に、音もなく素早く動く。

ドアノブに引っかけ、リトル・フィートの指に巻き付き、その動きを止めた糸。

力強く素速い攻撃を放つまどかのスタープラチナや、

人の五感を騙す幻覚を見せる仁美のティナー・サックスと比べると、

このスタンドは「ただの」糸。あまりにもくだらない。


こんな「糸」ごときで何ができるのか。これから考える必要がある。

これを扱えるようにならなければ、勝利はない。

糸は、どこまで自由が認められるのだろうか。糸で網を作り捕縛でもできないだろうか。

いや、できたとしても糸は切れやすいのではないだろうか。切れたら本体にもダメージを受けてしまう。

わざわざ自分の体を割いてまでそんな表面積を増やす意味を感じられない。


「……あら?暁美さん?」

ほむら「……ん」

ほむら「巴さん」

マミ「どうしたの?こんなところで……」

マミ「そろそろ帰った方がいいわよ。今夜は冷えるらしいから」

ほむら「…………」


マミはほむらの沈黙に「必要以上に馴れ合うつもりはない」という言葉を思い出す。

あの全てに冷めたような、寂しい目。

また冷たくあしらわれるのかと思うと、言葉に詰まる。


マミ「あ……」

マミ「ご、ごめんなさい……また、私……」

マミ「……余計なお世話、だったわね」

ほむら「…………」

マミ「それじゃあ……」

ほむら「…………っ」


ガシッ

ほむらには今……自分のスタンドの用途以外にも、

考えなければならないことがある。

ほむらは立ち去ろうとしたマミの手首を掴んだ。


マミ「え……?」

ほむら「……待って」

ほむら「待って、ください……お願い」

マミ「え……?」


狐に摘まれたような表情をするマミ。

その握力は弱々しい声の調子と非力そうな手と反する強さだった。

ほむらはゆっくりと立ち上がり、マミの目を見た。

その目と態度から、マミは不安の感情を感じ取った。


マミ「えっ?あの、あ、暁美さん?」

ほむら「……巴さん」

マミ「……?」

ほむら「…………」

マミ「ど、どうしたの……?」

ほむら「その……」

ほむら「……い、今までの失礼な言動。……すみませんでした」

マミ「……え?」


マミは自分が夢でも見ているのではないかと一瞬錯覚した。

ツンツンした態度に定評のあるあのほむらが、今、目の前で頭を下げて謝罪している。


ほむら「私が……あなたのお気遣いを無下にしたこと」

ほむら「その無礼を……許してください」

マミ「え、えっと……何かよくわからないけど……」

マミ「だ、大丈夫よ?気にしてないから」

マミ「だから……その、ほらっ、頭を上げて」

マミ「……何があったの?」

ほむら「…………」

ほむら「……あなたの力が必要だと、思ったからです」

マミ「私の力が必要……?」

マミ「それは……ちょっと嬉しかったりして」


マミ「それで……何?」

ほむら「巴さん。私には、目的があります」

マミ「目的?」

ほむら「今、ここで言わせていただきますが……キュゥべえには内密にお願いします」

マミ「……ええ。わかったわ」

ほむら「私は、ワルプルギスの夜を倒したい」

マミ「わ、ワルプルギスの夜……!」

マミ「あの伝説級の魔女が……現れるというの……!?」

ほむら「……はい。ここ、見滝原に、近い将来」

マミ「……!」

ほむら「そして、まどかを契約させないことです」

マミ「え、か、鹿目さん?」


ほむら「まどかを契約させずにワルプルギスの夜の撃破、あるいは撃退……」

ほむら「それが、私の目的です」

ほむら「まどかを魔法少女の世界に深入りさせたくないのです」

マミ「…………」

マミ「でも、鹿目さん……割とノリ気だったりして……」

ほむら「ノリ気?」

マミ「魔法少女体験ツアーをしたの。暁美さんが転校した日に鹿目さんと美樹さんと三人でお昼を食べてたら、キュゥべえが来て……」

ほむら「…………」

ほむら(接触されたことを知らなかったわけではない)

ほむら(巴さんならあの二人を任せても大丈夫という……油断とも取れるが、そういう信用があったからだ)

ほむら(……これも感傷、なのだろうか)


マミ「ま、まぁそれはいいとして……」

マミ「素質がある以上、契約する権利もあるわよ?」

ほむら「まどかを契約させずに、ワルプルギスを越える……それが私の全てなんです」

マミ「…………」

ほむら「まどかだけは、絶対に契約させたくない」

ほむら「こんな私に優しくしてくれる……まどかだけは、この世界に踏み込ませてはいけないんです……!」

ほむら「お願いします……今は詳細な理由を言うことはできませんが」

マミ「……………………」

マミ「……未来の話?」

ほむら「…………」


マミ「あなたと初めて会って話をした時……」

マミ「何とかの魔女レイミに、仲間が殺されたと言ったわね」

マミ「だけど、その魔女は存在すらしていない」

マミ「そのことを聞いたらあなた……未来がわかる……そう言ったわね」

マミ「それを信用するわ。ワルプルギスの夜が来るって断言するんだもの」

ほむら「そう、ですか……」

マミ「それじゃあ、あなたの言った、『亡くなった友達』……」

ほむら「…………」

マミ「鹿目さんという名前が出たということは……」

ほむら「…………」

マミ「…………沈黙は肯定ととるわよ」


ほむら「…………」

マミ「…………」

マミ「……わかったわ。魔法少女体験ツアーはもうしない」

マミ「私にも、聞かれたくないことの一つや二つはある。言及しないわ」

ほむら「……お気遣い、ありがとうございます」

マミ「よくてよ」

マミ「……えっと……それで、暁美さん?」

ほむら「?」

マミ「一応、確認しておくけど……」

マミ「……これから私達、共闘関係ね?」

ほむら「…………」


ほむら「……はい」

マミ「ふふ、よろしい」

マミ「じゃあ、暁美さん。一緒にワルプルギスの夜を倒しましょうっ」

ほむら「……はい」

マミ「うんうん」

ほむら「……あと、巴さん」

マミ「ん?」

ほむら「もう一つ、言っておきたいことがあります」

マミ「何かしら?」

ほむら「まどかを契約させずに、無事ワルプルギスの夜を越えたとしてその後は……」

ほむら「……どうか、まどかをよろしくお願いします」


マミ「……へ?よろしくって?」

ほむら「言葉通りです」

マミ「……?」

ほむら(まどかが未契約である上でワルプルギスの夜を越えた後……私は死ぬ)

ほむら(巴さんには、まどかを契約させないという目的を教えた……そして、理解してくれた)

ほむら(私の遺志を継いでくれるでしょう。……彼女が生き延びれば)

マミ「よくわからないけど……言わずもがなよ」

ほむら「そうですか。……さて、もう一つ、重要なことを話さなければなりません」

マミ「?」

ほむら「今、一人では到底手に負えない状態になっています。だから、あなたを頼ったと言ってもいい」

マミ「……何かしら?」

ほむら「最近、ジシバリの魔女……『アーノルド』と呼ばれる魔女が産まれました」

マミ「アーノルド……魔女なのに男性名なの?」


ほむら「それで……その」

ほむら「そのことについて話したいので……えっと」

マミ「?」

ほむら「巴さんの家……行ってもいいですか?」

マミ「!」

マミ「も、もちろんよっ。歓迎するわ!」


不意にマミの紅茶が飲みたくなった。マミの家の匂いが恋しくなった。

マミに完全に甘えたがっている自分がいる。

マミと共闘関係を結び、安心している自分がいる。

不安の感情を押し殺せなかった。自分の死を前提とすることが怖くて仕方がなかった。

ほむらは、心の中でささやかながら自己嫌悪をした。


リトル・フィート 本体:Oriko

破壊力−D スピード−B  射程距離−E
持続力−B 精密動作性−C 成長性−C

人差し指に鋭い爪のあるロボット風のデザインをしたスタンド。その性質は「瑣末」
その爪で傷つけられたものは小さくなる。また、自分自身も小さくできる。
縮んでいくスピードは魔力依存。魔力を込めれば込める程早く縮ませる。
OrikoはKirikaを小さくして小動物のように撫でるのが好き。
逆に自身が小さくなってKirikaの指にしがみつくというのも悪くない。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある



クリーム 本体:Kirika

破壊力−なし スピード−C  射程距離−E
持続力−C 精密動作性−C 成長性−E

「暗黒空間」という概念を創造・干渉する能力。その性質は「孤立」
フードのような姿をしている。それを被ることで暗黒空間を創る。
その中に隠れることで姿を消し、浮遊して移動ができる。
移動中に触れたものは暗黒空間へ飲み込まれて粉微塵にされる。
暗黒空間に隠れている間は何者からの干渉を受けず、Kirikaもまた干渉できない。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


今回はここまで。お疲れさまでした。

早速脱落者が現れましたが、それはさておきスタンドの登場です
スタープラチナと深い関係のあるスタンドとある血統と深い関係にあるスタンドですね

あと何か魔女が末恐ろしいことになってますが、魔女とスタンドの共鳴がほにゃらららということで、すごい



やられ方がやられ方なので…Yes I'mと舞い戻ってくる可能性も否めないところだが
「食べた」のがどっちの口なのか 


#19『佐倉杏子 師に会いにいく』


今夜の風見野は少し肌寒かった。

公園にて、千歳ゆまは街灯に照らされながら地面を見つめる。

拾った棒きれで地面に大好きな人の姿を描く。

関節を感じさせない傑作である。


ゆま「ふんふふーん」

ゆま「……お腹空いた」

ゆま「キョーコ、まだかなぁ」

ゆま「…………」

ゆま「……魔法少女」


二日前、キュゥべえという猫とも犬ともつかない生き物と出会ったのも、

今みたいに恩人の帰りを待っている時だった。

キュゥべえは言った。

「ゆま。君には魔法少女の素質がある。杏子と同じだ」

「何か、願いはあるかい?魔法少女になる代わりに、叶えてあげられる」

「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

詳しい話を聞いていると、丁度杏子が帰ってきた。

杏子はすぐにキュゥべえを追い返すと、

「あいつの言うことは聞くな」……と言った。

しかしゆまは、魔法少女になれるという事実が嬉しかった。

自分も杏子と同じ存在になれる、杏子みたいに強くて格好いい魔法少女になれる。そう思った。

その上、自分の願いまで叶うのだ。

良いことずくめとはこういうことを言うのだと思った。


恩返しができる。役に立てる。

母親から「役立たず」と罵られてきたゆまにとって、そのことはどんなに嬉しいことか。

翌日「ゆまも魔法少女になってキョーコの役に立ちたい!」と言ってみた。

すると、杏子に「ふざけたこと言ってんじゃねぇ」と怒られた。

ゆまは、何故怒られたのかよくわからなかった。

「危険に巻き込みたくない」という意志を直接言わない。

内容によっては素直な気持ちを言えないという、杏子の性格の短所がそこにはあった。

ゆまは、力にならなければと思う反面、杏子が言うのであればしかたがないという気持ちを抱いた。

命が関わる葛藤をするには、精神が幼すぎるのだ。


ゆま「……カッコイイなぁ」

ゆま「ゆまも、魔法少女になりたい」


ゆま「キョーコ……危ないお仕事してるから……」

ゆま「もし、怪我なんかしちゃったら……!」

ゆま「…………」

ゆま「契約すれば……役に立てるかな」


「ダメよ」


ゆま「え?」

「魔法少女になって、いいことはないわ」

ゆま「……お姉ちゃん、誰?」


覚えのない声が聞こえた。

子どもを諭す母親のような優しい声。

声の主は年の離れた妹を慈しむ姉の表情をしている。


ゆま「……魔法少女?」

「そうよ」


服装のベクトルは魔法少女となった杏子に似ている。

目立つ姿であるにも関わらず、存在に全く気付けなかった。


ゆま「何でなっちゃダメなの?」

ゆま「ゆま……キョーコの役に立ちたい」

ゆま「魔法少女って、危ないことだから……」

ゆま「力を合わせれば、危ないことも避けられる」

「あなたには関係のないことよ……ゆまちゃん」

ゆま「?」

ゆま「……ゆまのこと知ってるの?」


「えぇ」

ゆま「お姉ちゃんは誰?」

ゆま「キョーコのお友達?」

「そんなところね……出かけてるの?」

ゆま「うん」

「そう……じゃあいいわ」

ゆま「もうすぐ帰ってくると思うよ」

「ううん。いいの……ねぇ、ゆまちゃん」

ゆま「なぁに?」

「あなたは今、幸せだと思う?」

ゆま「……?」


「軽い気持ちで答えてくれたいいわ。あなたは今幸せ?」

ゆま「うん。ゆま、幸せだよ。キョーコと一緒にいられて……」

「そう……それじゃあ、幸せな内に別れましょう」

「あなたは魔女の結界で既に死んでいた。いいわね?」

ゆま「へ?」


軽い音が響いた。

何かが体を貫いたような、そんな感覚がした。

痛みはなかった。しかし体が動かない。

何故、自分は地面に寝転がっているのか。

何故、瞬きができないのか。

何故、服が濡れているのか。

真っ暗な空を見上げ、ゆまは自分の身に何が起こったのか考えた。


ゆま「……?」

ゆま「ゆま……何、されたの……?」

ゆま「何で……ゆまは……」

「教えてあげようか?」

ゆま「……うん」

「あなたはね……」

「たった今、私に殺されたの」


ゆまは自身を見下ろす「金髪のお姉ちゃん」の微笑みから、

思わず微笑み返したくなるような衝動を覚えた。

身に覚えはないが、ゆまはそれが「愛情」であることを知っていた。


「ハァ……ハァ……!」

「くそっ……!あんなところに結界ができるなんて……!」

「あそこには……」

「あそこには『ゆま』が……!」


風見野の魔法少女、佐倉杏子は息を切らせて走る。

ゆまを公園に残し「調達」をしに行っていた。

しかし、その帰り。ソウルジェムに独特の感覚を覚えた。

魔女、あるいは使い魔が現れた気配。

嫌な予感がした。

この嫌な感覚は、かつてどこかで感じたことがある。

考える余裕はない。


公園に到着した頃、

いつの間にか月や星々は雲に隠れてか、一切それらが見えない闇夜となっていた。

天気はさておいて、依然、例の気配がする。

位置はすぐそこである。しかし、杏子は立ち往生した。


杏子「ハァ……ハァ……」

杏子「どこだ!」

杏子「結界はどこなんだよ!?」

杏子「結界の気配が……」

杏子「結果がこの近くにあるはずなのに……結界の場所が……」

杏子「入り口は……ハァ、ど、どこなんだ……!?」

杏子「…………」


杏子「……ゆま」

杏子「ゆま!」

杏子「どこかにいるのか!?ゆま!どこだ!」

杏子「いるなら返事しろ!」

杏子「おい!ゆまァ!」

杏子「……!」

杏子「あ、あれは……!」


花壇の側に、動く物の気配を感じた。

ゆまが使い魔に襲われている、そう感じた杏子は足をさらに速めた。


何故『結界もない』のに使い魔がいる気がするのかという疑問は二の次だった。

そこに、二人分の人影を見つけた。

片方は空を仰いでいる。もう片方は倒れている方を見下ろしている。


杏子「……!」

杏子「ゆ、ゆま……!」

杏子「そ、それに……あ、あいつは!?」

杏子「どうして……」

杏子「どうしてここに……」

杏子「見滝原に……いるはずじゃあないのか?」

杏子「明日だって学校あるはずなのに……出歩いていいのかよ……?」


金色のロール髪の少女が、マスケット銃を持って立っている。

杏子はその姿を知っている。ベレー帽とコルセットに見覚えもある。

その足下には仰向けに倒れている子ども。

ほんの少し前まで、明るい笑顔を見せていた童女だった。

銃を持った「魔法少女」は、

何もない空中に話しかけているように見えた。


杏子「『マミ』ッ!」

杏子「それに……ゆま!」

杏子「何でゆまが倒れているッ!」

「……!」


かつての師匠の姿をした魔法少女が、そこにいる。

銃士の魔法少女は、走り寄ってくる杏子の姿に気付くと、

逃げるように踵を返し、去っていった。

マミが見えなくなり、杏子は使い魔の気配がなくなっていることに気が付いた。

既に倒したのだろうか。

杏子はそれよりも、急いで倒れているゆまに走り寄った。


杏子「ゆま!」

ゆま「……あ」

ゆま「キョー……コ……」

杏子「ッ!」

杏子「こ、この傷は……」


血の気のない青白い顔。

地面が赤い液体に濡れて赤黒くなっている。

服に小さな穴があいている。体にも同じような穴があいている。


ゆま「助……け……」

杏子「ま、待ってろ!今治してやる!」


ソウルジェムをゆまの胸にあいた傷に当てる。

杏子の宝石は優しく光り、血を流している穴をふさいだ。


杏子「……ほ、ほら!傷はふさがったぞ!」

杏子「ゆま!もう痛くないか!?」

杏子「……お、おい?」


返事がない。

杏子はゆまの顔を見た。

半開きの口、うっすらと開いた目は空を見上げていた。

蝿がゆまの瞼の上を歩いている。


杏子「……ゆま?」

杏子「……なぁ、ゆま!」

杏子「……ゆま!」

杏子「ゆまッ!」

杏子「おい!ゆま!ゆまァッ!」

杏子「ゆ……ま……」

杏子「ゆ、ゆま……!」


胃液が逆流しそうになった。

心臓が押しつぶされるような感覚になった。

ソウルジェムを持った指が震える。

杏子はゆまの体を揺さぶった。

瞬きはしない。蝿は飛んでいった。

ゆまの名を呼んでも、返ってくるのは寂しい静寂だけだった。

一度救った命は、既に息を引き取っていた。


杏子「……死ん、だのか」

杏子「嘘……だろ……」

杏子「そんな……そんなのって……!」

杏子「ゆま……ゆまぁ……!」

杏子「うぅ……くっ」


杏子「……似てる」

杏子「今、あたしが抱いているこの感覚は……」

杏子「家が燃えてんのを見ていた時と……ちょっと似てる」

杏子「そう……だったんだ……」

杏子「あたしは……あたしはこいつが……」

杏子「ゆまが……」

杏子「あたしはゆまのことが好きだったんだ」

杏子「いっちょ前に魔法少女になりたいとか抜かして……」

杏子「やたらじゃれついてきて、食い物に好き嫌いがある鬱陶しいこいつが……」

杏子「こいつが……好きだったんだ」

杏子「…………」


杏子「あたしがもう少し早く帰っていれば……」

杏子「……くそっ!」

杏子「ゆま……」


杏子は力を失ったゆまを抱きかかえた。

今まで抱えたことのないようなずしりとした重みを感じた。

ダラリと腕が垂れ揺れる。

ゆまの遺体を近くのベンチの上に寝かせることにした。

依然、ゆまの半開きの目は空を見ている。口からは風を感じない。

杏子は瞼と口を閉じさせ、花壇から引き千切った名前も知らない花を握らせた。

そしてその側に半分に切ったリンゴを手向けた。


杏子「…………」

杏子「……両親も行方不明で、死体遺棄、か」

杏子「大きなニュースになるかもしれねぇ……」

杏子「傷もふさいだから死因はわからないだろう」

杏子「なら、司法解剖ってヤツで腹を開かれるかもわからん」

杏子「だが、せめて……せめてどっかで手厚く葬られることを祈るよ。ゆま」

杏子「……さよならだ」


今抱いている虚無感が悲しみであることを、理解はしている。

それを杏子は拒否した。自分の気持ちを自身で否定する。

自分は悲しんではいない。冷静である。

ゆまの遺体の頬に触れると手の震えは止まった。


杏子「よく描けてたじゃないか。地面の落書きよぉ……」

杏子「あたしにしては……いい笑顔に描いてくれたもんだ」

杏子「だが、ちょっと短足気味に描かれたのはなんだな」

杏子「まぁ……ありがとう」

杏子「…………」

杏子「……どういたしましてって、言ってほしかったなぁ」

杏子「生きてる時に、言いたかったな……」

杏子「いや、生きていたら言えなかった、か……」


ゆまがつけている、黄色い球のついた髪留めを取る。

形見として、杏子はそれらをパーカーのポケットに入れた。


杏子「…………」

杏子「……心臓を『撃ち』抜かれていた」

杏子「あれは銃創だった……それも……見覚えがある」

杏子「そして……すぐ側に銃を持ったあいつがいた……」

杏子「あの姿……やはり見間違いはない」

杏子「使い魔が全く同じ傷を負わすことができようか」

杏子「あいつが……殺したんだ」

杏子「それが真実」

杏子「……許されねぇぞ、これは」


信じられない、という気持ちはないこともなかった。

「あいつ」が、人殺しなんて、ましてや子どもを殺すなんてありえない。

しかし実際、銃を持ち、見慣れた銃創のある遺体が残されている。

それが事実。


人は、他人から見て想像の出来ないくらいに変わってしまうことがある。

それは杏子自身が一番よく知っている。

そのきっかけや過程が何であれ、

そういう結果だけしか、今の杏子にはわからない。

「何故だ」という疑惑よりも目の前の事実が優先される。

戸惑いとは別に、ドス黒い感情が心を支配した。

浮かんだ単語。

「復讐」

ゆまの無念は、殺した「敵」を殺すことで晴らされる。

憎悪が杏子の脚を動かす。


杏子「……殺してやる」

杏子「絶対に、絶対に殺してやる……!」


人は、他人から見て想像の出来ないくらいに変わってしまうことがある。

それは杏子自身が一番よく知っている。

そのきっかけや過程が何であれ、

そういう結果だけしか、今の杏子にはわからない。

「何故だ」という疑惑よりも目の前の事実が優先される。

戸惑いとは別に、ドス黒い感情が心を支配した。

浮かんだ単語。

「復讐」

ゆまの無念は、殺した「敵」を殺すことで晴らされる。

憎悪が杏子の脚を動かす。


杏子「……殺してやる」

杏子「絶対に、絶対に殺してやる……!」


杏子「ゆまの名誉のため、魂の安らぎのために……」

杏子「巴マミ!」

杏子「あたしはてめぇをブッ殺す!」

杏子「てめぇのやったことは法律では裁けねぇ」

杏子「だから……」

杏子「あたしが裁く!」

杏子「あたしが最後の審判を下してやる!」


杏子は見滝原に向かった。

もう半分のリンゴを握りつぶし、地面を荒々しく踏んだ。

判決は死刑。憎しみが心を支配した。


——見滝原


ほむらはベンチに座り、空を眺めていた。

昨夜は雲一つない綺麗な夜空だった。

今日はそれに引き続き、雲一つない美しい青空だった。

多数の時間軸において、天気が全く同じということはない。

同じ晴れでも雲があったりなかったり、曇りの日が雨になる。

二つ前の時間軸では、この日は雨だった。

カバンの中を取り出して整理した結果、

折り畳み傘を入れ直し忘れたまどかを傘に入れてあげた。

そして二人肩を並べて歩き、さやかに相合い傘だとからかわれた。

深く印象に残っている。

あの時間軸でのまどかは『行方不明』になってしまった。


昨日……不安の感情から、つい私は巴さんに甘えてしまった。

紅茶をご馳走になりながら、私はアーノルドのことについて話した。

それだけならまだいい。

私はあろうことか、成り行きで夕食までご馳走になってしまった。

一人暮らしが無茶をした程度の豪勢なメニューだった。

……故美国議員の娘、美国織莉子が行方不明となったというニュースをいつか聞くだろう。

どこのことだったかは覚えていないが、子どもの遺体が遺棄されていたという痛ましい事件もニュースで聞いた。

暗いニュースは尽きない。

呉キリカに少なからず同情はしていたし、身元不明の子どもも可哀想だとは思う。

だが……そういう感情は間違いだ。

とても美味しかったが、必要以上に馴れ合ってはいけない。

そう誓ったのに、これは由々しい反省点だ。


巴さんに好意を抱いてはいけない。感傷に繋がる。

いざという時、例えば巴さんを見捨てればまどかが助かるというような状況に陥った時、

私は巴さんを見捨てなければならない。

見捨てることに、罪悪感を抱いてはならない。

感傷で精神を消耗させてはならない。

自分の死後、生き延びていればまどかを任せる。ただそれだけの関係でいい。

私が巴さんや佐倉杏子を差し置いて呉キリカと美国織莉子を共闘に誘ったのは、

『思い入れが薄い』そして『見捨てやすい』からだ。

加えて、結果的に魔女化のことも知っていたため「楽」なのだ。

巴さんと共闘関係を結ばざるをえなかったとは言え、

共闘関係故にプライベートでもそれなりの付き合いが必須とは言え、

何にしても私は反省をしなければならない。

まだまだ弱い自分を切り捨てられていない……。


マミ「暁美さーん」

ほむら「……巴さん」

マミ「待ったかしら?」

ほむら「いえ……」

マミ「それじゃ、お昼にしましょう」

ほむら「……はい」

ほむら「…………」

まどか「…………」

さやか「…………」


巴さんを共闘関係を結ぶということは、

まどかと美樹さやかとも友人にならなければならない、ということを示す。

まどかはいいが、美樹さやかは苦手だ。


まどか「マミさんが会わせたかった人……ほむらちゃんだったんだ」

さやか「ってことは……転校生、魔法少女……」

ほむら「……えぇ、そうよ」

まどか「でもよかった」

ほむら「……よかった?」

まどか「ほむらちゃんがマミさんの友達ってことは、これからはわたし達とも……」

ほむら「……そうなるわね」

まどか「えへへ……わたし、ほむらちゃんともっとお話したかったんだ」

ほむら「……そう」

さやか「あたしの嫁のありがたいお言葉だよ!もっと喜びなさい!」

ほむら「…………」

さやか「……滑ったかな?」


マミさんから会わせたい人がいるって……、

しかもそれが魔法少女だって聞いて、ちょっと緊張してた。

でも、それがほむらちゃんだったなんて、ビックリした。

ほむらちゃん、休み時間や放課後はすぐにどこかに行っちゃうし……、

あんまりゆっくりお話できる機会がなかったんだよね。

過程はどうあれ、ほむらちゃんと一緒にお昼が食べられる。

これからはもっと気軽に声をかけれる。

それは、とっても嬉しいなって。

ほむらちゃんと仲良くなれならいいな。


まどかがそのような呑気なことを考えていると——


マミ「ところで、魔法少女体験ツアー、もうやらないことにしたわ」


先輩はそう言った。

その声のトーンは決して茶化したものではない。


さやか「……へ?」

まどか「……マミさん?」

マミ「ん、聞こえなかった?」

さやか「いや、聞こえましたけど……」

マミ「言葉の通りよ」

マミ「突然だけど、体験ツアーはもうやりません」

さやか「えっと、その……」


さやか「……何でですか?」

さやか「マミさんは、あたし達に魔法少女のことを教えてくれました……」

さやか「魔法少女をより知ってもらうために、体験ツアーをして……」

さやか「あたし、願いが決まれば魔法少女になって……」

さやか「是非マミさんと戦いたいなぁって、ちょっと思い始めてたんですけど」

まどか「わたしも……誰かの役に立てるんだって思って……」

マミ「落ち着いて、二人とも……」

マミ「私は何も契約するなと言ったわけじゃないのよ」

マミ「単純に、あなた達を結界に連れて行くのはやめることにした」

マミ「そういうこと」


マミ「別にあなた達を守りながら戦うのが大変になったとかじゃあないわ」

まどか「そ、それは……わかりますけど……」

さやか「……転校生の入れ知恵ですか?」

ほむら「…………」

さやか「転校生、マミさんに何か言った?」


……やはり、美樹さやかは苦手だ。

巴さんが少しでも私に感化されたのか、そう思っている。

巴さんが「暁美さんに避けられてる」という旨を話したからだ。

彼女は自分が好きなものを盲信する傾向がある。

私に対するネガティブなイメージが巴さんを汚している。

そういう考えが心底にあるのだろう。


マミ「まぁ……間違ってはいないわね」

さやか「むっ」

マミ「あのね、二人とも。聞いて?」

マミ「私はね……この間、魔女の結界で暁美さんに助けられたの」

まどか「ほむらちゃんが……?」

マミ「それで、私は思ったの。もしこの時あなた達がいたらどうなっていたんだろう」

マミ「私は魔女にやられて、あなた達を危険に晒していたら……ってね」

マミ「そしたら暁美さんが、私の手をキュッて握って『一緒に戦って欲しい』ってデレて……」

さやか「転校生が……?うえーっ、なんじゃそりゃ」

ほむら(微妙に間違ってはいないが不服すぎる……しかし「そういうことにする」と打ち合わせをしてしまったし……)

ほむら(それよりもデレるとか変なアドリブ入れないでくださいよ巴さん……)

マミ「それで私、思ったの」


マミ「私は、魔法少女の仲間が欲しいんじゃなくて、魔法少女という立場を理解してくれている友達……」

マミ「自分の抱えてる苦労をわかってくれている存在が欲しかっただけなんだって」

マミ「心底にはそういう自己満足があったのよ」

マミ「暁美さんがそのことを気付かせてくれた……」

マミ「改めて私は、あなた達を危険な目に遭わせたくない」

マミ「できることなら、戦いに巻き込みたくないって思ったの」

まどか「マミさん……」

さやか「いい話だなぁ……」

ほむら「…………」

ほむら「あなた達は……」

さやか「ん?」


ほむら「あなた達は自分の人生が貴いと思う?」

まどか「わたしの……人生」?

ほむら「家族や友達を大切だって、思う?」

さやか「そ、そりゃあ……まぁ、もちろん」

ほむら「もしその気持ちが本当なら……無理に自分を変えようだなんて絶対に思わないで」

まどか「えっと……それは……?」

ほむら「無理に変わろうとすると……全てを失うことになる」

ほむら「あなたはあなたのままでいて」

まどか「……う、うん」

さやか(あれ?なんで「あなた達」から始まって「あなた」で終えちゃうの?)

マミ「…………」


マミ「……さて、いい加減にお昼をいただきましょう」

さやか「そ、そうっスね!」

まどか「い、いただきます」

ほむら「…………」

マミ「あら、暁美さん、そのお弁当手作り?」

ほむら「……はい」

まどか「ほむらちゃんってお料理得意なの?」

ほむら「……得意という程ではないわ」

さやか「マミさんといい転校生といい……一人暮らしで手作り弁当とかスペック高過ぎィ!」

まどか「とっても美味しそう」


ほむら「……食べてみる?」

まどか「いいの!?それはとっても嬉しいなって!」

まどか「わたしのは手作りではないけど……おかず交換しよう」

ほむら「えぇ」

まどか「それじゃあ、いただきます」

まどか「……美味しいっ。ほむらちゃん!とっても美味しいよ!」

ほむら「そ、そう……」

さやか「むむ……転校生にあたしの嫁が取られちゃう……!」

マミ「ふふ、暁美さんったら、照れちゃって」

ほむら「て、照れてません」

まどか「えへへ」


——マミは考える。

暁美さんの言う「未来」で私はどういうポジションだったのか、

私が死ぬというならどういう死に方をするのか、

結局はぐらかされて聞けなかった……。

でも、一緒に紅茶を飲んだり、夕飯を食べている時の暁美さん。

嬉しそうに見えた。

嬉しそう……というより、安心しているような、少なくともそう感じた。

そして今、鹿目さん達と一緒にお弁当を食べて、すごく楽しそうに見える。

本人は表情に出してないつもりなんでしょうけど、

肌が白いから少しでも頬を染めるとすぐにわかっちゃうんだから。


……暁美さんは無理をしている。

強引に自分を押さえ込んで冷徹に徹しようとしている。

だからその分、ブレやギャップが目立つ。

暁美さんの本質はとても弱い人間なんだと思う。そんな気がする。

だから……私は支えてあげたい。「今度こそ」私は暁美さんのために生き延びたい。

私が何とか、彼女の心をこじ開けたいものね。

人は一人では生きていけない。誰にも頼らないなんてことはできないのだから……。


さやか「……ん?」

まどか「どうしたの?さやかちゃん」

さやか「え、あ、いや……何でもない」

さやか(誰かに見られたような……キュゥべえか何かかな)


——放課後


三人はマミの家へ行く約束をした。

ほむらはあまり乗り気はしなかったが、

共闘関係であることを明かした手前、断ることはできない。


まどか「ほむらちゃんっ」

ほむら「……ん、どうしたの?まどか」

まどか「ほむらちゃんと一緒に行きたいなって」

ほむら「あぁ……ごめんなさい、まどか。先生に用があるから先に行ってて」

まどか「じゃあわたしも待ってる」

ほむら「…………」


仁美「……いつの間にあの二人、こんな仲良く……」

さやか「いやぁ……まぁ、色々あってね」


仁美「色々って便利な言葉ですわよね」

仁美「私はお稽古や委員会で忙しく放課後や休み時間一緒にいられる機会が少ない、とは言え……」

仁美「私がいない所でさやかさんもまどかさんも何やら怪しいですし」

さやか「怪しいって仁美あんた……」

仁美「それにしてもまどかさんとほむらさん……」

さやか「あの二人が何か?」

仁美「見てください。ほむらさんの顔。先程まで何事にも退屈しているようなお顔が、母親と会話する娘のように安らいでますわ」

さやか「……いや、変わってないけど」

仁美「私の知る限りでは、ほむらさんはまどかさんに最も大きく心を開いてますわ」

さやか「いやわからんけど」

仁美「きっと前世か何かでお二方は恋人か何かだったに違いありませんわ!」

さやか「仁美……目が怖いよ」


仁美「……って、もうこんな時間。行かなくちゃ」

さやか「お稽古か」

仁美「えぇ。いつか私にもほむらさんを紹介してくださいね」

仁美「私もほむらさんと仲良くなりたいものです」

さやか「あぁ、うん……まどかに伝えとく」

仁美「それでは、また明日」

さやか「うん。バーイ」

まどか「あ、バイバイ。仁美ちゃん」

さやか「お、まどか。転校生はどうした?」

まどか「先に行っててって」

さやか「ふーん」


まどか「用が済むまで待ってるって言ったら『いいから』だって……」

さやか「まぁ、待たせるのも悪いと思ってのことでしょうよ」

まどか「ほむらちゃんと一緒がいいのに」

さやか「転校生が気になっちゃう感じ?」

まどか「うん。もっと仲良くなりたいなって」

さやか「…………」

まどか「どうしたの?さやかちゃん」

さやか「いや……、前世のことなんてどうでもいいよね。うん」

まどか「?」

さやか「そんじゃ、マミさんとこ行こうか」

まどか「うん」


まどかとさやかは、たびたびマミの家を訪ねている。

訪ねればいつだって上品な紅茶と美味しいスウィーツがいただける。

言うまでもなく、食欲のために訪ねているのではない。


さやか「マミさーん」

マミ「あ、美樹さん。鹿目さん。……暁美さんは?」

まどか「先に行っててって言われました」

マミ「あら、そう?」

マミ「それじゃ、行きましょうか」

まどか「はぁい」

さやか「マミさんマミさん、今日のおやつは何ですかい?」

マミ「岩手県盛岡市の吉村さんの牧場の太陽をいっぱいに浴びた牧草をたっぷり食べて育ったジャージー牛のミルクで作った甘くてほろ苦い青春のひとかけらクリーム・ブリュレそして幸せが訪れる。……よ」

さやか「わ、わーい……」


まどか「ぶりゅれ……って何ですか?」

マミ「要するにプリンの親戚みたいなものよ」

まどか「プリン」

さやか「それにしても……マミさん」

マミ「何かしら?」

さやか「本当に魔法少女体験ツアーがもうなくなったのに、別に何も変わらないんだなって」

さやか「いつも通りマミさんの家へおやついだいちゃいますし」

マミ「美樹さんはスイーツ目当てで参加してたの?」

さやか「い、いえ、そういうわけではないですが……」

マミ「私はあなた達とお茶会ができればそれでいい」

マミ「魔法少女の巴マミと『この』私を理解してくれている」

マミ「それだけで十分よ」

まどか「マミさん……」


マミ(鹿目さんは……暁美さんの未来で亡くなった友達……)

マミ(鹿目さんの幼なじみっていう美樹さんも、そうだった蓋然性も高いわね……)

マミ(今……こうして私を慕ってくれてるこの二人……)

マミ(この二人は……暁美さんの見た未来では、魔法少女で……そして、亡くなるのね……)

マミ(そしてきっと……魔法少女にさせたのは私。そんな私も、暁美さんの亡くなった友達の一人)

マミ(……今まで、魔法少女のことを結構呑気に考えてたわ)

マミ(私の理解者が欲しかった、魔法少女になるならなってくれてもいい、そういう心があった)

マミ(危険なことを知っていながら、そう思うなんて……感覚が鈍っていたわ)

マミ(今となって、二人に何も「魔法少女に絶対にならないで」とは言えないけど……)

マミ(とにもかくにも、暁美さんが望む未来造りに協力したい)

マミ(私は今、そう思ってる)



『助けて……』


マミ「……え?」

さやか「どしたのマミさん」

『助けてマミ……!』

マミ「こ、この声……キュゥべえ!?」

まどか「え?」


マミはかつて交通事故に遭い、瀕死の状態に陥った。

そんな時、キュゥべえが現れ、マミは魔法少女となった。

願いは「助けて」

こうしてマミの命は救われた。両親は亡くしてしまった。

マミにとって、キュゥべえは恩人であり、第二の家族のような存在である。


そのキュゥべえからのテレパシー。

テレパシーによる救護要請。

当然、マミはその声の方向へ行くしかない。


まどか「キュゥべえがどうかしたんですか!?」

マミ「……あっちから聞こえる」

マミ「キュゥべえが助けを呼んでいる」

マミ「まさか、魔女に襲われて……?」

まどか「ま、魔女に……!?」

マミ「待ってて、キュゥべえ!今行くわ!」

さやか「マミさん!声に出てます!」

マミ『待ってて、キュゥべえ!今行くわ!』


マミ「うっかりテレパシーと地声を間違えちゃったけどそれはさておき」

マミ「それじゃ、二人とも……」

マミ(結界が出てきたという気配はないけど……)

マミ(何にしても、この二人を危険な目に遭わせてはならない)

マミ「……ここで待ってて」

マミ「暁美さんが来たら、事情を説明してちょうだい」

さやか「は、はい!」

まどか「わかりました!」

マミ「それじゃ、行ってくるわ!」


脇道に走り、マミの姿は見えなくなった。

取り残されたまどかとさやかは、互いの顔を見合わせる。


まどか「い……行っちゃったね」

さやか「キュゥべえ……何かあったのかな」

まどか「とっ、取りあえずほむらちゃんに電話しなくちゃ!」

さやか「え、あんたいつの間にケータイのアドレスを……」

まどか「今それどころじゃ……!」

さやか「後であたしにも教えて」

まどか「人のアドレスを勝手に教えちゃダメなんだよ!」

さやか「はい」

まどか「ってさやかちゃん、随分冷静じゃない?」

さやか「いやぁ、マミさんなら大丈夫でしょ」

まどか「…………あっ、もしもし、ほむらちゃん?」


人気の少ない通路に、マミは到着した。

ここからキュゥべえのテレパシーが飛んできた。


マミ『キュゥべえ!』

マミ『キュゥべえ!どこにいるの!?』


辺りを見回しながら、テレパシーで呼びかける。


QB『マミ……!来てくれたんだね』

マミ『キュゥべえ!』

マミ『あなた、今どこにいるの!?何があったの!?』

QB『実は……拉致されてしまったんだ』

マミ『拉致!?』


QB『それで、君をここに呼び出せと……』

マミ『呼び出せ?』

マミ『……わかったわ。とにかく、あなたは今どこにいるの?』

QB『それは……』

「あんたの後ろだ」

マミ「ッ!?」


背後から、声がした。

まさか、いやそんなはずがない、という思考が瞬時に働く。

後方二メートル。

緑のパーカー、ホットパンツ、赤銅色のポニーテールの少女がいる。

左手に黄色い球のついた髪留めを持っていた。

そして、右手にはキュゥべえが首を掴まれていた。


マミ「キュゥべえ!」

QB「マミ……」

マミ「……それに」

マミ「さ……佐倉さん」

杏子「…………」

マミ「佐倉さん!キュゥべえを解放しなさい!」

杏子「……ふん」

QB「……わけがわからないよ」


マミの目を睨みつけたまま、杏子はキュゥべえを放り投げる。

呼び出すだけの道具にしか思っていなかった。

キュゥべえは空中で身を翻し、猫のように着地した。


マミ「…………」

杏子「…………」

マミ「久しぶりね……」

マミ「わざわざここに何の用かしら?」

マミ「ここは私のテリトリーよ」

杏子「…………」

マミ「……黙ってたらわからないわ」

杏子「マミ……」

マミ「……何?」

杏子「てめぇ、よくもぬけぬけと……」

マミ「へ?」


杏子「ぶっ殺してやるッ!」

マミ「ちょっ!?な、何!?」


杏子は突如、魔法少女に変身し、槍を構えた。

狼狽えているかつての師に穂先を向ける。

そして、マミの突進を仕掛けた。

咄嗟にマミは変身し、杏子の攻撃を魔法少女の脚力で回避する。

カバンが地面に落下する。


マミ「くっ……!」

マミ「ど、どういう了見よッ!?佐倉さんッ!」

杏子「…………」

マミ「あなた……あなたは一体どうしたの!?」


マミ「何でいきなり、あなたが……」

マミ「……ハッ!」

マミ「ま、まさかあなた、魔女の口づけを……?」

杏子「…………」

マミ「冷静になって、目を覚まして!佐倉さん!」

杏子「うるせぇッ!」

マミ「!」

QB「…………」

QB(テリトリーを狙っているのかな……?)


杏子「てめぇはよぉ……確か……言ったよな」

杏子「一般人に危険を晒すような真似はしてはならない……みたいなことを言ったよな」

マミ「え……?」

杏子「なァッ!言ったよなァッ!」

マミ「え、ええ……い……言ったわ……!」

杏子「散々あたしに魔法少女は正義だの希望だの抜かしてたくれたな……」

杏子「なのに!よくも!よくもッ!」

マミ「ま、待って!佐倉さん!落ち着いてっ!」

マミ「一体何を話しているのッ!」

杏子「あ?」

マミ「私には何がなんだか……」

杏子「しらばっくれるなよ……!」


杏子「気付いていなかったと思ったのか!?」

杏子「よくも結界に迷い込んだ『ゆま』を……」

マミ「ゆ、ゆま……?あなたの知り合い?」

杏子「ふざけたこと抜かすなッ!」

杏子「よくも『ゆまを殺しやがっ』たなッ!

マミ「えぇッ!?」

マミ「ちょ、ま、待って!わ、私が殺した!?」

マミ「あなた何を言って——」

杏子「風見野に一つの結界が現れた」

杏子「その時は丁度、あたしはゆまを置いて離れてた……急いで戻ったさ」

杏子「そして、あんたの姿と!ゆまの遺体を見た!」

マミ「わ、私!?」


QB(千歳ゆま……この間会ったばかりだけど……)

QB(どうやら本当に死んだらしい。……勿体ない)

QB(けど、マミは……)

マミ「そもそも私は風見野になんか行ってないわ!まして人を殺すなんてこと……!」

杏子「ゆまには銃創だあったッ!決して見間違えねぇ!あれはあんたのマスケット銃のもの……!」

マミ「……言ってることが全く理解不能だわ」

杏子「あたしが見たんだっつってんだろッ!」

杏子「キョーコ……助けて……」

杏子「それがゆまの最期の言葉だッ!」

杏子「何故殺したッ!」

マミ「だ、だから私はゆまなんて人は知らないし!風見野にも行っていないッ!」


杏子「……ゆまは」

杏子「ゆまは使い魔に襲われて、殺されそうになっていたところをあたしが助けたんだ」

杏子「魔法を他人のために使わないと誓ったが……」

杏子「それでも助けたのは、妹と何となく影が被ったからという面もある」

杏子「だがあいつは……やれお腹空いただのやれ一人にしないでだのやれ寒いだの……」

杏子「保護した最初ん頃はハッキリ言ってウザかった」

杏子「でもな……そのゆまは死んじまった」

杏子「あたしは……失って初めて気付いたんだ」

杏子「ゆまは……あたしに、死にかけて荒んだあたしの心を生き返らせてくれていたんだって」

杏子「あたしが見失いかけてた人間の心に、また気付かせて『くれた』……」

杏子「いや『くれていた』んだ……!」


マミ「…………」

杏子「あいつは両親に虐待を受けていたッ!」

杏子「あいつはほとんど捨てられたようなもんだッ!」

杏子「あいつは孤独だった!あいつは苦しんでいたッ!」

杏子「あたしもそうだった!あたしも親に捨てられ、苦しんだ!」

杏子「あいつの傷はあたしの傷だ!ゆまはあたしだ!あたしたったんだッ!」

マミ「お、落ち着いて佐倉さん!」

杏子「てめぇにわかるか!?形見の髪留めを外す際に味わった、心が擦り切れそうになる感覚を!」

杏子「これがゆまを虐げたクズが買い与えたものだと思うと!ゆまの形見だのに捨ててしまいたくもなるという、もどかしい感覚を!」

杏子「許せねぇ……!てめぇを殺して、無念を晴らさなければならないッ!」

杏子「ブッ殺してやる!ゆまの報いだ!」


憎しみに心が支配されている。マミはそういう印象を受けた。

狼狽えるよりも、冷静になって考える。

風見野には行っていない。それどころか、見滝原を出てもいない。

少なくとも昨夜はほむらを家に招き、夕食を一緒にした。

ほむらが帰ってからは、魔女も使い魔も現れなかったため外出さえしていない。


マミ(……暁美さん?)

マミ(私ではない、私……)

マミ(私……?)

マミ(いえ……私の、姿……)

マミ「…………」

マミ「あ……!」


マミはほむらから聞いていた。

美国織莉子と呉キリカという二人の魔法少女。

その二人に会いに行った時のこと。

気付かない間に結界に閉じこめられていた。

そしてそこで、その二人と『全く同じ姿をした使い魔』が現れた。

その使い魔に、美国織莉子という人物が殺された。

別の未来、過去の世界で死んだはずだった、と語っていた

ほむらにしかわからない、時間軸という概念。

前の時間軸というものに寄生する使い魔。

その人物であり、使い魔でもある。


マミは理解した。

——『その使い魔』だ!

私は暁美さんの、別の未来で殺された友達だった。

前の時間軸では私は死んだんだ。

前の時間軸の美国さん呉さんという二人も死んだんだ。

そしてその二人の姿をした使い魔が現れて、

風見野に『私の姿をした使い魔』が現れたんだ!


マミ「わかったわ!佐倉さん!」

杏子「……あ?」

マミ「信じて!それは、使い魔よ!」

杏子「……使い魔だ?」

杏子「使い魔だってェッ!?」


杏子「言うに事欠いて『使い魔』か!」

杏子「どこに魔法少女の姿を使い魔がいるってんだッ!」

マミ「いるわ!見滝原にも現れたからッ!」

杏子「黙れ!そんな見え透いた嘘をッ!そんな使い魔がいるわけがない!」

杏子「いたと言うなら証拠を出してみやがれ!」

マミ「確かに私は見ていないけど……嘘じゃないわ!」

マミ「『ジシバリの魔女アーノルド』ッ!その使い魔は『前の時間軸』とやらの概念ッ!」

マミ「私であって私でない!別の世界の私の概念!」

杏子「喧しい!今更そんなファンタジーなんか聞きたかねぇ!」

杏子「ブッ殺す!」

マミ「……くっ」


杏子「くらいやがれッ!」

マミ「…………」

マミ(仕方ない、わね)

マミ(いいわ……来なさい)


杏子が再び槍を向け、突っ走る。

マミは手からリボンを生成し、スルスルと地面に垂らした。

ピシィィッ

リボンの端を踏みつけ、手と地面でピンと張らせる。

杏子の槍の先端が、リボンに触れた。


マミ「リボンの防御に力はいらない……」

杏子「ッ!?」


マミ「直線的な力の刺撃は、ほんのわずかにその方向をそらすだけで……」

マミ「刺撃の軌道は大きく外れていく……」

杏子「うぅっ……!」

マミ「そして、刃は当てれば切れるとは限らない」

マミ「角度が少しでもズレれば切れるものも切れないわよ……」

ドサァッ

杏子「グッ……!」

杏子「くそォッ!」


杏子の突撃は受け流された。

思わずバランスを崩し、杏子はマミの横を通り抜けて転倒する。

すぐに立ち上がり追い打ちに備え、構える。


杏子「……ッ!?」

杏子「お、おい……てめぇ……」

マミ「…………」

杏子「それは……何の真似だよ……」

マミ「…………」

杏子「何の真似だと聞いているッ!巴マミィッ!」


追い打ちはしない。そして振り返らない。

殺意を持って襲ってきた敵に対し、背中を向けたまま動かない。


マミ「このままでいい」

杏子「何を……言っているんだ」

マミ「このままでいいと言ったのよ」


マミ「私を殺したいのなら、そうするといいわ」

マミ「それで、ゆまという人の仇が取れるというのなら、あなたがそれで納得するというのであれば……」

マミ「私はこのままでいい」

杏子「て、てめぇ……!」

杏子「何故背中を見せるのかッ!こっちを向けいッ!」

マミ「…………」


答えない。無防備にもその背中を杏子に見せる。

——杏子は考える。

何を考えてやがんだ……!こいつ……!

敵に背中を向けるヤツがいるか?

背中を見せる異常な行動に気を取られた隙に死角からリボンの束縛……?

その様子もなさそうだが……。


……不気味だ。

人間は脳に入ってくる情報の七割だか八割だかは、視力に頼っている……。

背中を見せるってことは、その視力を捨てているということと同じだ。

そのまま攻撃すれば、あたしは簡単にマミを討てる。

だが、本当に攻撃していいのか?

これは罠なんじゃあないのか?


杏子「う……て、てめぇ……!」

杏子「こっちを向けッ!」

杏子「棒立ちはともかく訳を言えエェェッ!」

マミ「…………」

杏子(こ、こいつ……動かねぇ……!)

杏子(…………)

杏子(くそっ……あたしも迂闊に動けねぇじゃあねーかッ!)


マミが走り去り、取り残されたまどかとさやか。


二人は、今日知り合った「もう一人の魔法少女」の合流を待っていた。

まどかが電話をしてから五分程度で、その彼女は合流した。

ここが学校からそれ程離れていないとは言え、

電話を受けてからここに来るまでにはどうしても走らなければならない。

しかしそのような息切れはなく、絹糸のような艶やかな長髪は一切乱れていなかった。

まどかは安心感を心強さを覚えたが、さやかは少し不気味に思った。


ほむら「巴さんが大変だって聞いたけど……」

まどか「うん!あとキュゥべえも!」

さやか「キュゥべえが魔女に襲われてるって!」

ほむら「……魔女?それはないわ。気配でわかる」

まどか「よ、よくわかんないけど!マミさんのとこに!」


「僕が案内するよ!」

まどか「あ!」

さやか「キュゥべえ!無事だったの!?」

QB「あぁ。何とかね」

ほむら「…………」

QB「それよりもほむら。早くマミに加勢を!」

ほむら「……加勢?魔女はいないわよ」

QB「魔法少女に襲われているんだ!」

まどか「ま、魔法少女に!?」

さやか「何で!?」

ほむら「…………」


ほむら(魔法少女……)

ほむら(……いつか会った、M市の魔法少女か?)

ほむら(いや……彼女はスタンド使いだからこそここに来たようなもの)

ほむら(元々は他のテリトリーに足を踏み入れるようなことはしない性格らしい)

ほむら(他に考えられるのは……呉キリカ?)

ほむら「……案内して」

QB「こっちだよ」

まどか「ほむらちゃん!わたしも!」

ほむら「あなた達はここにいなさい」

さやか「尊敬するマミさんのピンチに、黙っていられるもんですか!」

さやか「さっきは……急だったから戸惑ったけど、あたし達も行くよ!」


ほむら「ダメよ。ここにいなさい」

ほむら「相手は人外ではなく人間なのよ。あなた達を優先して襲ってくる可能性も——」

QB「いや、二人にも来てもらうべきだ」

ほむら「……なんですって?」

QB「二人は魔法少女ではないが、いるだけで魔法少女だと錯覚させることはできるだろう」

QB「そうすることで相手は四対一、有利不利がハッキリして退く可能性がある」

さやか「な、なるほど!」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「…………」

ほむら(相手がどんな魔法を使うかもわからないのに……)

ほむら(どうせこいつは、いざという時は契約を、としか考えていない)


ほむら(だが……仕方ない)

ほむら(もし巴さんを襲っている魔法少女が呉キリカだとすれば……)

ほむら(呉キリカは危険すぎる。一刻も猶予がない。もし巴さんが殺されたら、生き返らせるという名目で契約を迫られる)

ほむら(それに、形だけでも四対一という策を使うというのも一理ある)

ほむら「……わかったわ。ただし、私から絶対に離れないで」

まどか「わかった!」

さやか「合点!」

ほむら「キュゥべえ。早く案内しなさい」

QB「うん」

さやか「行くよ!まどか!」

まどか「うん!」


三人は数分走り、人通りの少ない通路に到達した。

まどかは大きく息切れをしている。

さやかはマミの姿をキョロキョロと見回し探す。


まどか「ここに……ハァ、い、いる……の?ハァハァ……」

さやか「まどか……大丈夫?」

まどか「うん……」

ほむら「止まって」

さやか「んぁ、転校生?」

ほむら「ここからなら聞こえないでしょうけど、声量を抑えて」

まどか「な……何……?」

ほむら「巴さんはそこにいるわ」


ほむらは既に視認した。

マミが棒立ちをして壁を見つめている。

杏子が槍を構えたままマミの背中を睨んでいる。

双方、微動だにしない。


さやか「!マ、マミさ——」

さやか「——ん?」

さやか「て、転校生……?」


マミがいるという言葉に、真っ先に体が動いたのはさやかだった。

しかし、ほむらはさやかの前に腕を伸ばし静止させる。


ほむら「止まりなさいと言ったでしょう」

さやか「え?へ?」


ほむら「巴さんは無事よ」

ほむら「でもとにかく、今はまだ隠れてなさい」

ほむら「この陰にいれば気付かれないでしょう」

まどか「な、何で……?」

QB「どういうつもりなんだい?」

ほむら「様子見よ」

さやか「様子見って……」

ほむら「相手を観察することも大切」

QB「……二人は何をしているんだろう」


さやか「んー……確かにマミさんがいる。でも……あの赤い魔法少女は……?」

まどか「ど、どうして二人ともジッとしてるんだろう……?」

ほむら「……彼女は佐倉杏子」

まどか「知っているの?ほむらちゃん」

ほむら「えぇ……巴さんのかつての弟子みたいなものよ」

まどか「で、弟子?」

さやか「な、何で弟子がマミさんを襲ってんのさ!」

ほむら「だからかつての、よ」

さやか「どっからどう見ても再会を喜んでるような状況じゃないって!」

QB「マミは背中を取られているみたいだけど」

まどか「マミさんを助けて!ほむらちゃん!」

さやか「魔法少女なんでしょ!?ちゃっちゃと変身して何とかしなさいよ!」

ほむら「…………」


ほむら「その必要はないわ」

まどか「え……?」

さやか「な……何を言ってんの!?」

ほむら「変身をする必要はない」

ほむら「と、言うより魔法はあまり使いたくないわ」

さやか「だ、だから何を言って——」

ほむら「佐倉杏子は巴さんと関わりがある……」

ほむら「だからと言って、味方となるか敵となるか、今はわからない」

ほむら「しかし今の状態から言って少なくとも今は間違いなく敵よ」

ほむら「そうである以上……彼女に手の内を見せたくない」

さやか「て、手の内って……!」


ほむら「それに、銃……私の武器は銃器なのだけれど」

ほむら「それを撃つにもサイレンサーがないから銃声が響いて、騒ぎになるわ」

ほむら「サイレンサー。用意しておくべきだったとは思う」

さやか「何を言ってんだよ転校生あんたは!」

まどか「こんなの絶対おかしいよ!」

QB「…………」

ほむら「魔法少女って、そんなものよ」

ほむら(……佐倉杏子は、前の時間軸では敵だった)

ほむら(しかしその前の時間軸では味方だった)

ほむら(この様子からして、今は敵だろう。今後はわからない)

ほむら(とは言え、障害として今ここで始末するには早計だ)

ほむら(彼女は利己的な面がある……グリーフシードをチラつかせれば、共闘する交渉に応じる可能性がある)


監視されていることに、杏子は気付いていない。

目の前の背中に集中している。

五分か六分程度の静止だったが、

杏子は一時間立ちっぱなしだったかのような錯覚を覚えていた。

とうとう痺れを切らす。


杏子「クッ……て、てめぇ……な、舐めやがって……!」

杏子「う、うぅ……」

杏子「うおおおおおおッ!」


杏子は地面を踏み込み、走り向かった。

槍の先端は、マミの背骨丁度に向けられている。


まどか「い、いや……!」

さやか「や、やめ——!」

QB「まどか!さやか!二人を止めるために契や——」

ほむら「魔法は使わない……魔法は、ね……」

ほむら「何も問題はない」

ほむら「巴さんを助けることに関しては既に終了している」

QB「……何だって?」

まどか「……え?」

さやか「……あっ!?」

QB「一体……何が……」

さやか「あ、あいつ『攻撃を止めている』ッ!?」


槍の先端が、マミの背中より十数センチの所で静止した。

マミは微動だにしない。

杏子は歯を食いしばる。

かつての師は刺せない……という感傷では決してなかった。

杏子には本当の憎悪があった。刺すこと自体に躊躇はない。

しかし事実、槍は止まった。


杏子「……!」

杏子「な、なん……だ!?」

杏子「う……うっ……く!?」

杏子「う……『動かない』……?」


槍が動かない。

腕にいくら力を込めても、誰かに石突を引っ張られているかのように、

槍がこれ以上伸びない。


マミ「……?」

杏子「な、何が起こったんだ!?」

杏子「何で……!何でだッ!?」

マミ「……さ、佐倉さん……あなた、何をしているの?」

杏子「ま、マミ……」

杏子「これは……てめぇの……魔法ではないな……」

杏子「てめぇ仲間がいるのかッ!?」

マミ「仲間……」


マミ「……まさか」

マミ「暁美さん!?」

ほむら「……えぇ、そうです」

マミ「そ、それに……二人まで……」

まどか「ほ、ほむらちゃんが……助けてくれたん、だよね……?」

さやか「何でこいつは……攻撃を止めたんだ……!?」

杏子「…………」

杏子「魔法少女、か……」

杏子「察するに、黒髪のあんたの仕業だな……!これはよぉ……」

ほむら「……えぇ」

杏子「てめぇ!あたしに何をしたッ!?」

杏子「見えねぇ何かに掴まれてるような……念力のような魔法!」


杏子「何故『変身もせずにこんな芸当』ができたッ!」

ほむら「…………」

杏子「槍を離せ!」

ほむら「さぁ……何のことかしら?わからないわね。佐倉杏子」

杏子「こいつ……!」

マミ「暁美さん……」

マミ(これは……多分、いえ、間違いない……)

マミ(……昨日暁美さんが話してた『スタンド』……とかいうのの力ね)

マミ(スタンド……魔法少女とは違う、未知なる能力……)

マミ(精神のエネルギー……個人によって異なる能力。同じ能力者にしか見えない……)

マミ(私と佐倉さんでは視認できない力)

マミ(確か暁美さんの『それ』の能力は……)


ほむら(私のスタンド……『糸』を佐倉杏子の槍に結びつけて固定した)

ほむら(ドアノブにひっかけてリトル・フィートの指を封じたように……)

ほむら(槍は糸の張りにより、これ以上突き出せない)

ほむら(自分の『体積』は減るものの、意志に応じて自由自在に操れる)

ほむら(スタンドの操作……思ったよりなんてこともないわね)

ほむら(それに……糸は数本か束ねた程度でもかなり丈夫な紐になる)

ほむら(それこそ魔法少女の腕力を止めるくらいには……)

ほむら(既に理解した)

ほむら(私が呪われたのであれば、それはそれで利用すべき……)

ほむら(私はスタンドを上手く操れるようにならなければならない)

ほむら(……名前も、いつかは決めておかないと)

ほむら(それはさておき)


まどか「ほむらちゃんは……一体何をしたの?キュゥべえ」

さやか「魔法は使わないって言ったのに……あたしには何が起こったのかわかんないよ?」

QB「……僕もわからなかった」

QB「変身をしなくてもある程度の魔法は使える。怪我を治したり、マミで言えばリボンを生成したりね」

QB「ほむらは、君達の言葉で表すところの念動力のような魔法が使えるのかもしれない」

さやか「かもって……」

QB「願いによって能力の考察ができないこともない」

QB「ほむらは、契約した覚えがない……イレギュラーな存在なんだ」

さやか「契約した覚えがない……?」

まどか(ほむらちゃん……一体何者なの……?)


ほむら「……巴さん」

マミ「…………」


ほむら「言いたかないですが……あなたは人を信用しすぎています」

ほむら「あなたが佐倉杏子にどういう思いを抱いているかは計り知れませんが……」

マミ「佐倉さんのこと……知ってるの?」

ほむら「…………」

ほむら「私が止めなかったら本当に刺されていたでしょう」

マミ「……そ、そうでしょうね」

マミ「でも、死にはしないわ」

マミ「私は何度も彼女の槍術を見てきたからわかる」

マミ「そして実際に戦ってわかった」

マミ「佐倉さんは私を殺せない。迷いがある」

杏子「……!」


ほむら「……迷い?」

マミ「やろうと思えば頭でも心臓でも突けたはず」

マミ「だけど佐倉さんはお腹を狙っていたわ」

マミ「魔法少女はその程度で死なない」

マミ「殺すと言っておきながら、急所は狙わない……いえ、急所を避けている」

マミ「矛盾をした行動をとっているのよ。佐倉さんは」

ほむら「……なるほど。また矛盾、ですか」

マミ「えっ」

杏子「グッ……!」

まどか「こ、ころ……!」

さやか「…………!」


ほむら「……二人とも、これから魔法少女だけで話すことがある」

ほむら「先に巴さんの家に行くといいわ」

マミ「そうしてくれたほうがよさそうね……」

マミ「私のカバン。持っていって」

マミ「もし先に家についたら、中に鍵があるから……入ってて」

まどか「……わ、わかりました」

さやか「はい……」

マミ「キュゥべえ。二人をお願い」

QB「わかったよ。マミ」

ほむら「…………」

ほむら(あんなヤツに任せるのは不服だが……仕方ない)


ほむら「……さて」

ほむら「落ち着いたかしら。佐倉杏子」

杏子「……」

ほむら「……何があったのか、説明してくれる?」

マミ「佐倉さんは……」

ほむら「今は佐倉杏子に聞いているんです」

杏子「…………」

杏子「……昨日の夜のことだ」

杏子「そいつ……マミが風見野に来たんだ」

杏子「それで……あたしから大切なものを奪っていった」


ほむら「奪った……?グリーフシードを?」

杏子「そんなチンケなもんじゃねぇ」

杏子「そして、あたしは復讐しに来たんだ」

杏子「そしたらあいつは!」

杏子「自分は何もしていない!自分の姿そっくりの使い魔の仕業だとほざきやがった!」

杏子「やったと認めるならまだいい……」

杏子「だが!そんな見え透いた嘘を!嘘をつくってのは人を見下した行為だ!」

ほむら(アーノルドの使い魔……)

ほむら(風見野にも来ていたのね)

ほむら(あの使い魔はOriko、Kirikaと名乗った……と、なると……)

ほむら(巴さんの姿だから差詰め『Mami』といったところか……)


ほむら「佐倉杏子。巴さんの言ったことは本当よ。そういう使い魔がいる」

杏子「……何を根拠にそんなことを言いやがる!」

ほむら「私は実際に対峙したわ」

杏子「いいか!てめーはマミの仲間だ!」

杏子「そんなヤツの言うこと!あたしが信じるはずがないッ!」

ほむら「何にせよ、巴さんがそんなことするはずがないと、あなたも心のどこかでわかっているんじゃないの?」

杏子「……昔はな!だが!人はあっという間に変わる。それにあたしは実際に、この目で見たんだ!」

マミ「…………」

ほむら(……佐倉杏子は利己的な面がある。そしてある意味では純粋な性格)

ほむら(その性格故か、自分が抱く疑問よりも目の前の事実を優先させる、といったところだろうか)

ほむら(今の彼女は、何を言っても無駄なようね……)

ほむら(実際にその使い魔に出くわさない限り……恐らくは)


杏子「あたしが見たのは事実!」

杏子「実際にこいつがッ!」

杏子「マミが『ゆまを撃ち殺した』という結果が残ってるんだ!」

ほむら「ッ!」

マミ「だから、私はゆまなんて人は知らな……」

ほむら「ゆ、ゆま……ちゃん、が……?」

マミ「……暁美さん?」

杏子「あ?知ってんのか……?」

ほむら「ゆまちゃんが……殺された……?」


ほむらは口に手をあて、杏子から目を逸らし、地面を見る。

その声は震えていた。勝手に震えてしまった。


杏子「……あぁ、そうだよ。あんたのすぐ隣にいるヤツに殺されたんだ」

マミ「だから私は……」

ほむら(……ゆまちゃんが、死んだ?)

ほむら(あのゆまちゃんが……)

ほむら(そんな……そんなことって……!)

マミ「……暁美さん?」

ほむら「……はっ」

マミ「ど、どうしたの?」

ほむら「い、いえ……何でもない、です……」

マミ「…………」


杏子「……あんたがゆまとどう関係あるのかはどうでもいい」

杏子「いいか、あんたはあたしに落ち着けと言ったよな」

杏子「しかし、こんなんでもあたしは冷静だ」

杏子「本当はあんたらをぶちのめしてやりたいという殺意で一杯一杯よ」

杏子「あたしは今怒り心頭ってヤツだが……二人を相手する余裕はないことはわかる」

杏子「感傷に流されて無謀なことをして……無駄死になんて絶対にしない」

杏子「だが、もうおさまらねえ……テメーらにつきまとってやることに決めたぞ」

杏子「いいか。マミ。あたしはしばらく見滝原にいることにした」

杏子「あたしはテメーをトコトン困らせてやりてえって心の底から思い始めたッ!」


杏子「もう二度とッ!殺すことに躊躇しねぇ!」

杏子「絶対に頭をカチ割ってくれる!」

杏子「必ずテメーの死をもって!ゆまの仇をとってやる!」

マミ「佐倉さん……」

杏子「……フン!テメーなんか二度と口聞かねー」

ほむら「…………」


杏子は走り去っていった。

糸は既に解けている。

マミは、かつての愛弟子の背中を切なげな表情で見届ける。

ほむらは、予想外な形で知った顔見知りの死の動揺を押し殺している。


前の時間軸、ゆまは自分にとても懐いてくれた。

その笑顔が脳裏に浮かぶ。

可愛らしい笑顔の主は、この世界では既に死んでいる。

その事実を突きつけられ、ほむらは全身の力が一瞬だけ抜けた。

そしてすぐに「これは感傷ではなく、単なる動揺だ」と自分に言い聞かせる。

自分のリアクションを正当化させた。


マミ「…………」

ほむら「…………」

マミ「暁美さん……」

ほむら「…………」


マミ「さっきの反応から見るに……」

マミ「もしかして、ゆまちゃんっていう人……いえ、子も……?」

ほむら「…………」

ほむら「……はい」

マミ「……そう」

ほむら「……佐倉杏子の誤解は必ず解けます」

ほむら「ただ、魔法少女だったり、命のやりとりが関わっていたら……」

ほむら「それは拗れに拗れて取り返しのつかないことになりうる」

ほむら「今はそういうことなんです……仕方がないこと」

マミ「そうね……」

ほむら「……行きましょう」

マミ「……えぇ」


ほむら(佐倉杏子は今……戸惑っている)

ほむら(そんなはずがないという疑惑も、目の前の事実から錯覚して……)

ほむら(ゆまちゃんが殺されたということが……独立して……)


……どうして。どうして、ゆまちゃんのような子が犠牲にならなければならないのか……?

何故、虐待を受けて……既に一生分の苦しみを味わったような子が死ななくてはならないの?

辛すぎる。

……しかし、例えゆまちゃんでも、私はいざという時は見捨てる覚悟をしてきた。

出会う前に……懐かれる前に死なれただけ、まだマシと言える。そう考えるべきだ。

それにしても、今日は疲れた……。

早く、巴さんの家に行って紅茶を……

……って、だから、そんな甘えたことを考えてはいけないというのに。

前の時間軸の決意とは一体なんだったのか。

私は……つくづくダメな人間だ。


ほむらは、頭に手を当てていた。

無意識の行動だった。

マミは「暁美さんは今、ゆまちゃんという子の死」を受け入れようとしている。

そう悟った。

こんな時、肩を抱いてあげるのが妥当な行動なのかと思ったが、

それはしないことにした。

その目に涙が滲んでいるように見えた。

故に今はむしろそっとしてあげるべきだと考えた。

杞憂だとは思うが、今抱き寄せたら、ほむらがめそめそと泣き出すような気がしたためである。

あくまで気がしただけだが、ほむらを泣かせてはならない。泣かせる要因が杞憂でもあってはならない。

見て見ぬ振りをすることが今のほむらにとって最上の対応であると思った。


マミ(……どうして、暁美さんのような弱い子がこんな辛い目に遭わなければならないのかしら)

マミ(私は、暁美さんを守ってあげられるのだろうか……)




あれから何日経ったか、記憶があやふやである。



もう二度と来ないつもりでいた。

悲しみが蘇るからだ。

しかし、やはり自分の居場所はここ以外にない。

自宅でも、学校でもケーキ屋でもない。

キリカは今、家主を失った美国邸にいた。

未だ、織莉子が行方不明になったことは世間には知られていない。

学校にも無断欠席しているにも関わらず、社会からは一切関心を向けられていない。

「織莉子の居場所もまた『私』しかなかった」

キリカはそう呟いた。


今は亡き愛する人のベッドに倒れ込み、うつ伏せになる。

ほんのりと、その人の匂いを感じられるのではと思ったが、

生憎、そういったものは何も感じられなかった。

ただ埃が舞っただけだった。


キリカ「…………」

キリカ「私は……生き甲斐を失った」

キリカ「織莉子……グスッ」

キリカ「うぅ……織莉子ォ……」


キリカは泣いた。

泣くしかできない。

泣くために美国邸へ来たと言っても過言ではない。


キリカ「『命令』しておくれよ……」

キリカ「織莉子が私に……何をすべきかって命令してくれるのなら……」

キリカ「そうすりゃあ、勇気が湧いてくる。誇り高い気持ちになれるんだ……」

キリカ「織莉子の命令なら、何も怖くない……」

キリカ「だけど……私は何をすればいい?織莉子のいない世界で……」

キリカ「何をすればいいのか……わからないよ……!」

キリカ「あの時、絶望して魔女になっていれば……こんなこと悩まなくて済んだんだ……」

キリカ「グリーフシード何か渡さず、そのまま見捨ててくれていた方が楽だったのに……」

キリカ「……逝って、しまおうか……いっそのこと」

キリカ「ソウルジェムを砕くだけで……死ぬのは一瞬だ」

キリカ「自殺を……自殺をしよう」


キリカ「…………」

キリカ「そんな独り言抜かすくらいなら……」

キリカ「何で……私は……今、生きているんだ……」

キリカ「怖いのか?死ぬのが怖いのか?」

キリカ「今まで何度……そういう葛藤をしたんだ……!私は……!」

キリカ「どうして織莉子なんだ……」

キリカ「どうして死んだのが私じゃなくて織莉子なんだ……!」

キリカ「どうして……!どうして……!

キリカ「うっ……うぅ……」

キリカ「うぅぅぅ……」

キリカ「…………」



『キリカ……』


「…………」

「……ん?」

「何だぁ……?」

「今……『織莉子の声』が聞こえたような……」

「……はは、げ、幻聴まで聞こえてきた」

「織莉子……」

「寂しいよォ……私を子ども扱いしてよ……」


『あなたが決めなさい』

『キリカ……行き先を決めるのはあなた』


「…………」

「やめてくれよ……私の頭……」

「こんなの幻聴だ……織莉子の言葉じゃあない……!」

「幻聴は……心の奥底の言葉のようなものだ……」

「私は織莉子のいない世界で生きようなんて思っていない」

「だから、そんな、生きることを促すような幻聴はやめてくれ……!」

「私は、私は……織莉子の所へ逝きたいんだ……!」

「こんな幻聴は、私の本心じゃないはずだ……!」

『真実へ……あなた自身の信じられる道を……』

「やめてくれ……やめてよぉ……!」


キリカ「やめ……て……」

キリカ「……あ?」

キリカ「…………」


枕が濡れている。

窓から指す夕日が温かい。


キリカ「私、眠ってたのか……?」

キリカ「泣き疲れてたってやつなのかな」

キリカ「…………私の行き先、か」

キリカ「……恩人」

キリカ「…………」


キリカ「これが……」

キリカ「これが幻聴だろうが夢だろうが関係ない……」

キリカ「わかったよ。私の信じられる道……」

キリカ「行ってやろうじゃんか……私が思い浮かべた道へ……」

キリカ「夢のお告げってことにしてさ……」

キリカ「その方が……縁起もいいし……」

キリカ「どうせ死ぬのが怖いなら、やるだけやって殺されよう」

キリカ「……確か、アーノルドとか言ったっけか」

キリカ「殺せるもんなら、殺してみろってんだ……!」


キリカは、織莉子のベッドから飛び降りた。

決意が揺らがない内に、早歩きで美国邸を後にした。

向かうべくは……見滝原のどこか。それは後で決める。


アンダー・ワールド 本体:ジシバリの魔女 Arnold(アーノルド)

破壊力−なし スピード−C  射程距離−結界内
持続力−A   精密動作性−C 成長性−A

「過去の事実」を『掘り起こす』能力。その性質は「追憶」
掘り起こされた事実は運命のように変えることはできない。
しかし、魔女の力によりその事実は『過去の概念』として、
使い魔として生まれ変わりその運命から解放される。
過去とは、ほむらの時間遡行能力で言う「前の時間軸」を指す。
失った時間、概念への執着から発現したと考えられる。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


Arnold(アーノルド)

ジシバリの魔女。その性質は「因縁」
犬のような姿をしていて、スタンドという能力を持つ魔女。
めぼしい相手から記憶を読みとり、自身の記憶と共有することを趣味とする。
アンダー・ワールドの能力と共鳴し、掘り出した過去をそのまま結界とすることができる。
その結界は空の色がアイボリーブラックである以外は精密。
また、アンダー・ワールドで生み出した事実を使い魔として『固定』できる。


Versace(ヴェルサス)

ジシバリの魔女の手下達。その役割は「追想」
アンダー・ワールドで生まれ使い魔となった存在の『総称』である。
掘り出された過去の概念に寄生する形で生きている。
意志があり、外見は瓜二つだがその性格は正確でない。
魔法少女の概念を兼ねる個体はソウルジェムに相当する部位が弱点となる。


今日はここまで。お疲れさまでした
遅れると言いましたが、思ったより早く用事が済んでようやく帰ってこれたので投下
久しぶりなんで二回に分けて投下しようとしてた分を一気に放出です
以降投下ペースがあがるとは限りませんが、コンゴトモヨロシク
四日ぶりにベッドで寝れます。お休みなさい

ちなみにかなり前にダウンロードしてほったらかしにしてた専用ブラウザを導入
不慣れ故に使い心地はあまりよろしいとは言い難い。きっといつか慣れる

あまりに外伝組が一掃されすぎで乙をいう気力がなくなったかな
よもや間田や玉美ポジとは、あぁ死んじゃったから辻彩のほうがしっくりくるか

>>426
キリカ加入フラグと織莉子復活フラグ立ってんじゃん。頭悪いな

>>427
生き残ってるのに関しては問題ないが
軽々しく「復活」なんて単語を使いやがって…汚らわしいぞッ

とはいうものの、俺も>>262辺りでグダっちまったから舞い戻ってくるんなら嬉しいけどよォ
魂(?)の語りかけって死亡確定のダメ押しというやつだッ!じゃないですかね?


とはいえ続きが気になっている自分もいるわけで「>>1乙ッ」するしかないじゃない…


#20『ストーン・フリー』


まどかとさやかと正式的に友人となり、

杏子の見滝原襲撃から数日。

織莉子が死に、キリカが失踪し、マミと手を結び、

そしてスタンドに目覚めてからプラス一日。

当時間軸の新たな習慣ができた。

あれからマミは毎日ほむらも家に誘った。

断る理由はないので、素直に甘味をいただき世間話に付き合った。

心のどこかで自己嫌悪を抱いてはいる。

感傷は敗北に繋がる。

それが前回の教訓であるというのに、内心その時間を楽しんでいる自分がいる。


ほむら「…………」

まどか「ほーむらちゃんっ」

ほむら「まどか……どうしたの?」

まどか「ん、帰りの仕度できたかなーって」


元々まどかは人懐っこい面がある。

最近はこれでもかというくらい接してくる……。

嫌ではない……むしろ嬉しいが、正直そこまで好かれる態度は取った覚えはない。

どうせ自分はいつか死ななければならない。まどかをより深く悲しませないためでもある。

だからむしろ少し距離を置かれるくらいの言動をしていたつもりだったのに。

まどからしいと言えばらしいのであるが……。

人間というものは、本当によくわからない。

……無意識の内に『あいつ』が言いそうなことを考えた自分が腹立たしい。


まどか「……?どうしたの?」

ほむら「いえ……何でもないわ」

ほむら「そうね……いつでも行けるわ」


今日もまた、巴さんの家で紅茶をいただく予定になっている。

この時間軸で巴さんから実際に数歩離れて観て初めて知ったことだが、

巴さんは本当、頻繁に知り合いに紅茶と甘味を提供している。

この時間軸以前まで毎回出席していた私は、果たしてどれだけ糖分を摂取していたのだろうか。

考えたくない疑問だが……これからはたまに欠席をすることにしよう。


まどか「それじゃ、行こっ」

ほむら「えぇ」

まどか「マミさんは?」

ほむら「先に帰って用意をしているとのことよ」

まどか「そっか」

まどか「……それじゃあ、二人きりだね。ほむらちゃん」

まどか「ほむらちゃんと二人きりになれるのって、ほむらちゃんが転入した初日以来だね」

ほむら「二人きり?」

まどか「うん。仁美ちゃんは今日もお稽古だっていうし」


ほむら「……美樹さやかは?」

まどか「さやかちゃんは病院に行ったよ」

ほむら「病院……」

まどか「あっ、そういえばほむらちゃんは知らなかったかな」

まどか「さやかちゃんは幼なじみのお見舞いに行ってるの」

まどか「上条くんっていうんだけどね、事故で入院してる」

ほむら「……そう」

まどか「お見舞い行って、そのままマミさんの家に行くって言ってた」

ほむら「わかったわ」

まどか「あ、そうだ。折角だから病院に寄ろうよ」

まどか「クラスメートだし、上条くん紹介しておいた方がいいかなって」

ほむら「……そう、ね。一応挨拶だけでも」

まどか「うんうん。それでさやかちゃんと合流して一緒に行こう」

ほむら「……えぇ」


上条恭介。

美樹さやかが恋慕を抱いている相手。

彼自身とは今までほとんど関わりがなかったと言ってもいい。

会話をした覚えすらない。ないことはないはずだ。

そして、どうやら前の時間軸で彼もスタンド使いだったらしい。

名前は確かハーヴェスト……そう聞いた。

スタンドは一人一能力一体と思っていたが、何でも複数で一体のスタンドらしい。

実際に見る前に彼は佐倉杏子によって志筑仁美と一緒に殺されてしまったが……。

故に詳しくはわからない。


ほむら「ところで、彼はどういう人なのかしら?」

まどか「バイオリンが上手」

ほむら「…………」


学校から病院への道。

知らない道ではないが、知らない振りをして歩んだ。

思えばまどかと肩を並べて二人でここを通るのは初めてかもしれない。

道中、他愛ない世間話をした。

まどかと会話をしてからは……その後の内容は今のところなんでも全て覚えている。

更衣室のロッカーの変な落書きだとかお気に入りのぬいぐるみや家族のこと。

エイミーとの出会いや勉強のこと。今後の将来のこと。

演歌が好きだと言われてそのギャップに思わず笑ってしまい、

まどかを拗ねさせてしまったこと……全て記憶している。


まどか「ほら、ほむらちゃん。ついたよ」

まどか「学校からは今通った道が一番近い」

ほむら「そうなのね」


まどか「ほむらちゃんは魔法少女とは言え……」

まどか「一人暮らしで体の弱い子なんだからね」

まどか「ちゃんと病院への最短ルートはもちろん、地理はちゃんと覚えてないとダメだよ?」

ほむら「そうね……気を付けるわ」

ほむら(何でちょっぴり得意気なんだろう)

まどか「ほむらちゃんは見滝原に来てあんまり経ってないから、もっと色んな場所を案内したいなって」

まどか「ほむらちゃんに見せたい景色。まだまだたくさんあるんだぁ」

ほむら「…………」

まどか「だから……その……」

まどか「ほむらちゃんがよければ、なんだけどね」

まどか「今度……わたしに、見滝原を案内させてほしいなって」


ほむら「……そう、ね」

ほむら「まどかにそう言ってもらえるなんて……嬉しいわ」

ほむら「いつか……喜んで案内されたいものね」

まどか「えへへ、約束だよっ」

ほむら「……えぇ」


世界の平和のためにも、レクイエムのいない未来のためにも、

私はいつか自ら命を絶たなければならない。

まどかが私に好意を持ってくれればくれるだけ、

『その時』まどかをより悲しませてしまう。

まどかの笑顔が辛い。

辛いのに、まどかの幸せそうな顔をもっと見たい。

矛盾した感情がある。


ほむら(いつだったかしら)

ほむら(この病院にグリーフシードがあったが……)

ほむら(この時間軸にはなさそう……か?)

ほむら「……ん?」

ほむら「……え」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「ま、まどか……!」

まどか「?」

ほむら「落ち着いて……今すぐ、ゆっくり……そこから離れて」

まどか「え?ど、どうしたの?」

ほむら「もうゆっくりじゃない!離れなさいッ!」

まどか「!?」


ほむらの視線の先に、異常なものがいる。

白い柱に手をつけて、しゃがんでいる生物のようで生物のようでもない。

それは人の形をしていて、半透明。

当然人間ではない。

『そいつ』は背後にいるまどかに気が付いたのか、ゆったりと立ち上がり振り向きつつあった。


ほむら「早くッ!」

まどか「は、ハワッ!」

ほむら(い、糸のスタンドッ!)


ほむらは指から『糸』を伸ばし、まどかの手首に巻き付け、引いた。

まどかは見えない力に引かれ思わず転びそうになるも、すぐほむらに肩を抱かれ、転倒を免れる。

直立した『そいつ』は全長約2m。顔があり、肩があり、四肢がある。

左右の、目があるべき部分からゴムチューブのようなものが生え、

背中にかけて伸びている。悪趣味な魔改造をされたマネキンのようだった。


ほむらはすぐに理解した。

「こいつは『スタンド』である」

そして、その心当たりが一つだけある。


『……"アンダー・ワールド"……ソレガ僕ノ名前』


半透明のマネキンは、ほむらに語りかける。

当然、まどかには聞こえない。

まどかは、何もない場所を睨みつけるほむらの横顔を見つめるしかできない。


『ソウか……君ニハ僕ノ姿ガ見えルンダッたね。オメデトウ。スタンド使いにナレて』

『美国織莉子ノ件ハごシューショーサマダッタが……ソレはサテオキ』

『僕ノ能力は……地面の"記憶"を掘リ起こすコト』

『そして……魔女ノ魔力と"共鳴"シテソレヲ"結界"トスル……』

『僕のアルジの結界は"過去ノ世界"ナノだ』


ほむら「——ッ!」


魔女の結界の気配が、たった今、現れた……。

おそらく、美国織莉子の家に行った時と同じように、

結界の中は病院そのもののヴィジョンをしているのだろう。

中にいる人々は気付いているのだろうか。

空が真っ黒という異常性に気付く前に、下手をすれば……。

スタンドは、結界の中からでも外で発動ができるのか!

行かなければ!

ジシバリの魔女アーノルド!ヤツを、本体を叩かなければ!


『君ガその気ナラ、来ルトイイ、既にアーノルドノ、娘達は活動ヲ始メた……』

ほむら「なッ!」


アンダー・ワールドはガラスをすり抜けて姿を消した。

今、この病院の内部は結界が展開されている。

スタンドと魔女の性能の共鳴。それが異常な結界の正体。


ほむら「まどか……たった今、病院に魔女の結界が現れたわ」

まどか「えぇっ!?」

ほむら「あなたはすぐにここから離れて。気配を感じて巴さんがすぐに来てくれると思うから」

まどか「で、でも!さやかちゃんがッ!」

ほむら「…………」

ほむら「美樹さやかなら……助ける」

ほむら「だから、すぐに離れて」

まどか「……うん」


ほむらは変身し、脚で窓ガラスをブチ破り病院の内部に『消え』た。

外側から入った瞬間は目に見えたが、奥に向かう様は見ることができなかった。

何が起こったのか、まどかはまだ、理解が追いついていない。

取りあえず、言いつけ通り病院から距離を取ることにした。

結界の中、即ち病院の中にいる人々が心配で仕方がない。


「……おい」

まどか「ひゃッ!?」


背後から声をかけられ、体がビクリと強ばる。

振り返るとそこには赤毛の少女がいた。

まどかをジロリと睨む。

数日前、風見野から来たという魔法少女。

マミのかつての弟子だったという、杏子だった。


まどか「あ、あなたは……!」

杏子「今、魔女の結界が生じたな」

杏子「その結界に対し、あんたは正反対の方向へ走った」

杏子「ということはあんたは魔法少女ではない、と……」

杏子「味方がいるのにわざわざ逃げるっていうことはそういうことだ」

まどか「わ、わたしは……!」


杏子はあわあわとするまどかの横を素通りした。

「マミさんを殺そうとした人」……という印象しかまどかにはない。


既に結界へ入っていったほむらが狙われるのではないか、

これからここに来るであろうマミが危ないのではないか、

まどかは恐怖を感じていた。


杏子「……ふん、そんな顔をするな」

杏子「別にあたしは魔法少女じゃねぇヤツに用はねぇよ。失せな」

まどか「あ、あぅ……」

杏子「…………」

杏子(黒髪のヤツが先にあの結界に入ったな)

杏子(今までで見たことないような奇妙な結界ではあるが……それはさておき)

杏子(暁美ほむらってヤツは妙な奇術を使うヤツ)

杏子(あたしには見えない何かで、行動を封じるという芸当をやってのける)

杏子(いつかヤツと対立する日が来るかもしれない)

杏子(あわよくばそれに備えてという意味でもヤツの手札を覗ければいいのだが……)

杏子(そのためにつけてきたが、思わず収入ってところか)


——この結界は、過去の見滝原病院の姿をしている。

それがアンダー・ワールドの能力。

空いた病室に、巴マミの姿をした使い魔がいた。

そしてすぐ隣に、もう一体使い魔がいた。

それは千歳ゆまの姿をしている。

通称『Mami』そして『Yuma』がいる。

Mamiは手に赤色に塗れている『指』を持っていた。


Mami「三本?幼女の指三本欲しいの?」

Yuma「うん!うんうん!うんうんうん!」

Mami「新鮮なの三本……いやしんぼめっ」

Mami「ほら、投げるわよー。そぉ〜れッ!」

Yuma「わぁー!取って!『猫さん』ッ!」


ズギャンッ!


健康的な肌色で細く柔らかく、血が滴る三本の指が宙を舞う。

使い魔のYumaは背後から人型のヴィジョン……スタンドを出した。

頭は猫のようにも見えなくもないそのスタンドの名は『キラークイーン』

能力は『触れたものを爆弾にする』……例えどんなものであろうとも。

キラークイーンは飛び交う三本の指を片手で掴む。

そして落としたハンカチを渡すかのようにYumaに差し出す。

指がYumaの手に触れると、それらは手の中に沈んでいった。

スポンジに水を垂らすように吸収する。

体で食べる。使い魔の食事法。

Yumaは満面の笑みを浮かべた。『旨み』が体全体に広がっていく。

その笑顔に対し、Mamiは衝動に任せてYumaを背中から抱き、小さな頭に手を置いた。


Yuma「んー、おいしぃ〜」

Mami「よォ〜しよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」

ナデナデナデナデナデナデナデ

Mami「よく取れましたYumaちゃぁ〜〜ん!キャワイーわ!偉いねェーッ!」

Yuma「えへへ〜」

「おいおい、餌付けしてんじゃねーよ」

Mami「ん?」

Yuma「あ!」


そこに、佐倉杏子の姿をした影が現れ、呆れた声を出した。

ドサッと音をたてながら、肩に担いでいた男性の遺体を放り投げる。


Yuma「Kyoko!」

Mami「あら、戻ってたの?」

Kyoko「今戻った」


佐倉杏子の姿をした、魔女アーノルドの使い魔、Kyokoが答える。

前の時間軸の魔法少女の概念。

かつて敵対関係にあったとしても、今は同じ使い魔同士。

姉妹のようなものである。

使い魔として産まれた時系列としては、KyokoはYumaの妹であるが、

使い魔に年功序列の制度はない。

Yumaにしてみれば、KyokoやMamiは姉のような存在であることに変わりはない。


Kyoko「Yuma、食っていいぞ」

Yuma「えッ!?いいの!?大人の死体一個丸々ゥ!」

Yuma「全部食べちゃっていいの!?ホントに!?」

Kyoko「ああ。食え食え」

Yuma「わぁーい!いただきまーす!」


Yumaは遺体の首筋に人差し指を突き刺した。

すると、遺体はみるみると水気を失っていき『溶け』ていった。

遺体は使い魔に吸い取られる。

指で食べる。アーノルドの使い魔の食事法。


Mami「随分甘いのねぇ」

Kyoko「まぁな」

Kyoko「こいつはあたしの妹みたいなもんだからなぁ。可愛いもんよ」

Mami「あら、怖いって理由で捨てたくせに?この子を最期まで世話したのは私よ?」

Kyoko「うるへー。キラークイーンが化け物過ぎるのが悪いんだ」

Kyoko「それに、こいつが大人(魔女)になれば、きっと強力なヤツになろうよ」

Mami「そうね……将来が楽しみだわ」


Kyoko「あたし達の中から最初に魔女になるヤツは……間違いなくYumaだな」

Mami「でも、いいの?」

Kyoko「いいんだよ。別にこいつがあたしより先に魔女に育とうが別に『問題』はないんだからな」

Mami「それもそうかもしれないけど……」

Yuma「けっぷぃ」

Yuma「ごちそーさまでした!」

Kyoko「……おい、待て。髪の毛が残っているぞ」

Yuma「うっ……だってだってぇ、この髪の毛水気が少なくてマズイよ」

Mami「あら、ダメよ。好き嫌いは」

Kyoko「食い物を粗末にするなよ。どうせちょっとしかないんだから我慢してでも食え。折角殺したんだからな」

Yuma「うぅ、はぁ〜い……うえぇー!まずーっ」

Yuma「ちゃんと食べたよ!」

Kyoko「よし。ちゃんとな。偉いぞ」

ナデナデ

Mami「たくさん食べて大きくなるのよ〜。よしよしよしよしよしよし」

ナデナデ

Yuma「えへへへぇ……でもYuma、なでなでされるの大好き」


Yuma「Kyokoとお姉ちゃんと一緒にいれて……Yumaホント幸せぇ」

Mami「ああ……可愛い。何て可愛いの……!」

Kyoko「甘やかすなっつーに。あたしが言えた立場じゃあねーが」

Kyoko「……さて、愛でるのもこれくらいにしてここで報告だ」

Mami「報告?」

Kyoko「ここに魔法少女が来たぞ」

Yuma「魔法少女!」

Mami「随分早いわね」

Kyoko「何でも結界を作った時たまたま近くにいたらしい」

Mami「あらら……やっぱり病院を狙うのはマズかったんじゃあないの?」

Kyoko「かもな。だが今はたくさん食い物が必要なんだよ。長所と短所は表裏一体」


Kyoko「さ、Mamiはアーノルドの護衛に回ってくれ」

Mami「アイアイサー」

Kyoko「あたしはどうしようかな」

Yuma「Yumaは!?Yumaはっ!?」

Kyoko「あん?テキトーなとこほっつき歩いて食べ歩きでもしてろ」

Mami「いい?魔法少女には近づいちゃダメよ?」

Yuma「Yumaを子ども扱いしちゃ嫌!猫さんいるもん!」

Kyoko「確かに過保護もよくないが……あまりあたし達を心配かけさせるなよ」

Mami「そうそう。私達はあなたが大切なんだから」

Yuma「大切……えへぇ」

Kyoko「ってことで、怪我しない範囲で遊んでな」


——夕日の差した病室。


交通事故で左腕と両脚を怪我している入院患者の少年と、そのベッドに腰をかける見舞客の少女。

上条恭介と美樹さやかがそこにいる。

二人は、一つのイヤホンを共有して、片耳からCDのデータを聴いていた。


恭介「……いい演奏だ」

恭介「気に入ったよ。本当にありがとう、さやか」

さやか「お土産……気に入ってもらえてよかった」

恭介「さやかはレアなCDを見つけてくる才能があるね」

さやか「えへへ、このCD見つけるのにチト苦労したよ」

恭介「うん。ありがとう」

恭介「もうちょっと寄った方がいいんじゃないかな」

さやか「あっ、う、ううん。大丈……」

さやか「……うん」


心地の良い気分だった。

さやかがバイオリンの気品ある音色に魅了されたのは、

隣にいる幼なじみがきっかけである。

幼い頃に聴いた、彼の奏でた旋律は今でも脳裏に残っている。

この心地よさは、バイオリンのソロパートが美しいからだけではない。


さやか「……な、なんだかちょっと暑くない?」

恭介「そうかな」

さやか「窓開けていい?」

恭介「でもこの時間帯は太陽が眩しいんだよ」

さやか「大丈夫。カーテン閉めるから」

恭介「窓開けてカーテン閉めても風で……」

さやか「でも暑いんだよ恭介」


恭介「……言われてみれば、確かに少し蒸すような」

さやか「でしょ?」

さやか「さやかちゃん汗かいちゃったよ」

恭介「おかしいな……さっきまではそんなでもなかったのに」

さやか「去年の初夏並に暑い」

恭介「あー、ちょっとわかる。確かに去年の夏は特に暑かったよね」

さやか「うんうん」

さやか「窓開けていい?」

恭介「いいよ」

さやか「全開だー!」

恭介「この窓はちょっとしか開かないようになってるよ」

さやか「なーんだ」


恭介はCDジャケットを見つめ、好きな曲のトラック番号を確認する。

さやかはその様を横目に見ながら窓へ歩み寄り、カーテンを摘んだ。

橙色のカーテンの隙間から、漆黒の景色がチラリと見えた。


さやか「今日はいい天気だったか——」

さやか「……ら?」

恭介「ん?どうかした?さやか」

さやか「あ、いや……その……」

さやか「……ねぇ、恭介、今何時?」

恭介「今?えっと……六時」

恭介「六時だって?随分と遅くなってしまったね」

恭介「さやか、そろそろ帰った方が……」


さやか「違うよ……まだ、そんなじゃないよ……」

恭介「え?」

さやか「何で……?」

恭介「いや、何でと聞かれても……」

さやか(何で……この部屋、夕日が差してたのに……)

さやか(何で『空が真っ暗なのに夕日が差している』わけ……?)


カーテンはオレンジ色。

ベッドも、床も、病室全体。

恭介も、そして自身までもカーテン越しの夕日によって橙色に染められていた。

しかし、空は、窓が黒のインクで塗りたくられたかのように黒かった。

太陽がない。まるで洞窟の中のようだった。


恭介「……どうかした?さやか」

さやか「…………」


さやかは理解した。

これは『魔女の結界』である、と。

自分たちどころか、病院そのものが魔女の結界に取り込まれた。

魔法少女という事情を知り、体験していたからこそ理解ができ、冷静でいられる。

同時にこみ上げてくる恐怖。

マミの『おまじない』のかかったバットは当然持ち合わせていない。

そして、歩けない怪我人がすぐ側にいる。

使い魔に襲われたら、どう対処すればいいのか。

まずさやかは、幼なじみを怯えさせないよう、動揺を押し殺した。


ジシバリの魔女アーノルドの結界の特徴。

アンダー・ワールドというスタンドの力が利用されている。

アンダー・ワールドは、その土地が記憶してる『過去の事実』を掘り起こす能力。

そしてその光景を、アーノルドは丸々結界とできる。

スタンド攻撃が結界の生成。見た目がほとんど変わらない結界。

場合によっては、魔法少女にもスタンド使いにも気付かれない。

この病室の夕日は、過去の事実に過ぎない。

六時という時間も、気温も、湿度も過去の事実に過ぎない。

この病院は『去年の初夏午後六時の事実』という結界に変異していた。


さやか「あ、あのさ……恭介」

恭介「何だい?さやか」

さやか「その……えっと……」


恭介「とりあえず、さやか」

恭介「もうそこの時計を見てみなよ。もう六時。だからそろそろ帰った方がいいよ」

恭介「すぐに暗くなってしまう」

さやか「あ、あはは……優しいね、このあたしを気遣ってくれてるのね」

恭介「……?」

恭介「ねぇ、さやか。何だか顔色が悪いけど……本当に大丈夫かい?」

さやか「は、ははは……」

さやか(マミさんでも転校生でもいいから早く助けに来て……ッ!)

恭介「……外を見てたけど」

恭介「外に何かいたのかい?」

さやか「——ッ!」


グイィッ

カーテンの隙間から、黒のべた塗りの世界が見える。

見せてはならない。

さやかは恭介が窓の外を見ようとしたため、その首を固定させた。

顔に両手を添え、目線を自分の目に合わさせる。

互いの顔は橙色の事実で朱色に染まっている。


恭介「ッ!?」

さやか「……!」

恭介「さ、さやか……?」

さやか「う……うぅ」

さやか(こ、こんな時に何やっちゃってんのあたし……!)

さやか(で、でも……恭介には、この異常な光景を見せるわけにはいかない)

さやか(どうすればいい!?あたしは何ができる!?)



「ヒュ、ヒューヒュー!おあついねー!」


さやか「!?」

恭介「!?」


可愛らしい子どもの声が病室に響いた。

そこには、声相応の童女がいた。

少女向け戦闘アニメのヒロインのコスプレのような衣装を着ている。

ネコミミとその色彩はとても目立つ。

首もとの大きなリボンの真ん中に、宝石のようなものが光る。


さやか(え……何……?この子は……)

さやか(なんちゅー格好を……親の顔が見てみたい)

さやか(い、いや……まさかその格好……『魔法少女』なんじゃあ?)

さやか(魔女の結界も急に出てきたし……こんな小さい子が魔法少女なんてことも……!)


恭介「……え、えーっと?」

さやか「あんたは……?」

「ゆまの名前なんてどうでもいいよ」

ゆま「それよりも、実はさやかに用があってね」

さやか「え?あたし?」

さやか「何であたしのことを知ってるの……?」


魔法少女はとことこと二人に歩み寄る。

さやかの動揺している顔、恭介の混乱している顔、それぞれを見る。

そして、魔法少女はさやかの目をジッと見る。


ゆま「そんなこともどうでもいいの」

ゆま「さやかは、そこのお兄ちゃんのことが好きなんだよね?」


さやか「は、ハァッ!?」

さやか「ちょ、ちょちょ!い、いきなりあんた何を言ってるのよ!」

恭介「さやか……?この子、知り合い?」

さやか「知らないよぉ!初対面!」

さやか「えっと、ゆまちゃん……だっけ?あんた何者なの?答えてよ」

ゆま「ごめんね?」

さやか「質問文にはごめんなさいって答えるよう小学校で習ったのかーっ!?」

恭介「さ、さやか……子どもにそういう言い方は……」

さやか「ちゃんと答えなさい!お父さんとお母さんは!?」

ゆま「……ごめんね?」

さやか「ひ、人の話を聞きなさ……」


ゆま「キラークイーン」

ゆま「能力は触れたものを爆弾にする能力」

ゆま「……あの世で幸せになってね」

さやか「え?」

恭介「へ?」


ドアを開ける音もたてずいつの間にか現れた魔法少女は、

突飛なことを言い出して二人の時間を静止させた。そして、叫んだ。


Yuma「爆発しちゃえ!」

カチリ

千歳ゆまの概念、Yumaはスタンド能力を発動させる。

キラークイーン、その能力は『触れたものを爆弾にする』

キラークイーンは、恭介に触れていた。

細い少年の体から白い煙が噴き出される。

二人は自分自身に何が起きたのかもわからないまま、視界が今の空のように暗くなった。


——暁美ほむらが、アンダー・ワールドの世界を結界とした空間に突入し、

それを追って佐倉杏子が突入した頃。

佐倉杏子は、初めて入る病院を歩き回った。

患者や職員は、処方を待ち、歩き回っていたり、各々の時間を過ごしていた。

槍を持っている少女に一切の関心を向けない。

空が黒い以外は至って普通の光景に見える。


杏子(……なんだ?この結界は)

杏子(何で、こいつらは気付いていないんだ……?)

杏子(空が黒いなんて異常な光景……気付かない方がおかしいぞ)

杏子(それどころか、壁についている『血痕』にも『あたし自体』にも気付いていないようだが……)

杏子(何人か人が死んでるのにこれは……まさか、この人間が使い魔か?)

杏子(いや、それはない……もしそうなら既にあたしを襲っているはずだし……)

杏子(何より経験でわかる。こいつらは本物の人間だ)

杏子(こいつら……耳も目もおかしくなっているのか?)

杏子(魔女の口づけでももらってるんじゃなかろうか?)

杏子「まるで『幻覚』でも見ているかのようだ……」



「メモリー・オブ・ジェット……黒琥珀の記憶」


杏子「……ん?」

「黒琥珀の宝石言葉は忘却……」

「今、特定の人間以外はここで殺戮が行われていることを認識していない」

杏子「……てめぇ、いつの間に来やがっった」

杏子「初めから病院にいたのか?」

「いくら騒ごうと、発砲しようと、誰もその音を認識しない。そして気付いたら殺されている」

杏子「……マミ!」

マミ「そうねぇ……初めからいたわ」


失って初めて家族同然の大切な存在だと気付いた、ゆま。

そのゆまを奪った、憎き黄色い魔法少女。

マミが今、診察室から優雅に歩いて現れた。


マミ「これはまさに……幻惑魔法」

マミ「一般人にきゃーきゃー逃げ回られて騒がしいのはうっとおしいものね」

マミ「魔女を探しているの?また使い魔は無視するのね?」


優しく見えるが裏のありそうな、かつての師の微笑みが杏子の威勢を逆撫でする。

数歩前に歩み寄ったマミに対し、槍の石突きを思い切り床に打ち付ける。


杏子「やかましゃぁぁぁ————近寄るなッ!」

杏子「テメーとは口をきかね——って言っただろォォッ!」

マミ「まぁ、酷い言いようね」

マミ「……そんなこと言ってたっけ?あなた」

杏子(こいつッ……!)


メモリーオブジェットだかオードリーヘプバーンだか知らねぇが、ふざけたこと抜かしやがって……!

こんなふざけたヤツが……あたしからゆまを奪った!

散々きれい事並べていたが、内面はドス黒い邪悪のドクズ!

今のあたしには、あんたは使い魔や魔女と同類に見えているよ……。

心なしか、結界に漂う使い魔の気配とあんたのオーラがごっちゃになってきている。

……殺す。

恨み晴らさでおくべきか。


杏子「ブッ殺す!」

マミ「ブッ殺すなんて……乱暴な言い方ね」

マミ「どう思う?『母上』?」

杏子「……はは、うえ?」


マミが出てきた診察室から、

ノシノシと大きな『生物のようなもの』が現れた。

大人のトラに近い大きさの、四足動物。

——ラブラドール・レトリバーに少し似ている。

三原色の油絵の具を手当たり次第に混ぜ同量の白を入れたような色彩をしている。

首と思われる位置、そこに一文字に傷がある。

そこから赤色の液体が止めどなく流れている。

体内から流れる赤い液体ということで、それは血のように見えた。

しかし、ベチョリ、と粘り気を思わせる音をたてているところから、血ではないだろう。

もしくは、そういう血なのだろう。少なくとも体液ではある。


杏子「こ、こいつ……そんな……馬鹿な……!」

杏子「あり得ない……どうしてだよ……どういうことなんだよ……!


杏子「どうして『マミ』が……」

杏子「マミが……『魔女』を……!?」

杏子「な、何なんだよ……!」

杏子「何が起こって……いるんだよ……!?」


金色のロール髪。ベレー帽、コルセット、スカート。

片手にはマスケット銃。

確かにマミの姿がそこにいる。この姿が、ゆまを撃ち殺した。

見間違いはない。


マミ「ふふ……少し、惜しいわね……私は『Mami』の方」

杏子「マ……ミ?」

Mami「ノンノン、Mami……そしてこちらは『アーノルド』……あからさまに男性名だけど気にしないでね」


Mami「ささ、母上。ここは危険です。お逃げになってください」

杏子「ア、アーノル……ド……?」

杏子「ど、どっかで聞いたような……どこ、だったか……」

Mami「でも、確かに私は巴マミでもある。間違ってはいない」

Mami「何故なら、私は前の時間軸の巴マミという概念だから」

Mami「私は巴マミという事実」

杏子「……?……!?」

Mami「飲み込みが悪いのね」

Mami「私は使い魔だと言っているのよ」

Mami「ジシバリの魔女アーノルド。その使い魔」

杏子「使い……魔……」

Mami「そう。使い魔」

Mami「アイ カピート?」


体が動かない。

脳が現状を受け入れず、動くことができない。

杏子はパニック状態に陥った。

魔法少女が魔女を庇う。

そういうのも世の中に一人くらいはいるかもしれない。

しかし、目の前の魔法少女は使い魔と名乗った。

悪魔に魂を売るようなノリで、魔女の配下にでもなったのだろうか、

それはない。魔法少女の経験でわかる。

魔力の波長というもので、目の前の魔法少女が使い魔であることが、

今、ハッキリとわかった。気のせいではなかった。

使い魔でいて、巴マミでもあると語った。

自分が知っている巴マミとは違う巴マミ。


頭の中で情報がグルグルと回っている内に、

犬のような姿の魔女は姿を消していた。

病院の姿をした結界の、どこかへ消えてしまった。


杏子「使い魔……」

杏子「どっちなんだよ……」

杏子「あんたは……魔法少女だ。そういう『波長』がある……」

杏子「でも……使い魔の波長もある……」

杏子「何なんだよ……意味わかんねぇよ……」

杏子「時間軸って何なんだよ……!」

Mami「私は……魔法少女と使い魔両方の概念を兼ね備える」

Mami「時間軸という言葉に関しては……暁美さんにでも聞いてみなさい」


こ、こいつ……こいつは……!

そうだ……わかり、かけてきた……『そういう使い魔』だ。

暁美……暁美ほむら。

マミとほむらが言っていた……。

人と『同じ姿』をした……使い魔。

そういうのがいる。

それはわかった。今、理解した。

ということは……!そ、そんな……そんな!

実在しただなんて……そんな使い魔が……いるなんて……!

本当だったんだ……マミの言ったことは……!

だったらあたし……あたしは……マミのことを……。

あたしは、本物のマミを『こんなこと』で殺したかったのか!?


Mami「思い込みというのはやっかいなものよ……」

Mami「真実だと思い込んでいたところ、それが異なるものだとつきつけられた時……」

Mami「人はそれにより動揺し、隙を生んでしまう」

Mami「これで、あなたは殺されてしまう」

杏子(そんな……あたしってやつは……)

杏子(あたしは……何で……こんな……)

杏子(何で、マミが人殺しなんてするわけないって思わなかったんだ……)

杏子(普通に考えて……ありえないだろうが……馬鹿か、あたしは……)

杏子(……心の)

杏子(心のどこかで期待してたのかもしれない)

杏子(グリーフシードのために使い魔を放ったりするあたしと、それを否定する立ち位置であるべきマミ……)

杏子(心のどこかで、そんなあたしとマミが『同じ』であって欲しいって、思っていたのかもしれない)

杏子(『人殺しのマミ』というものを、どこかで正当化したかったのかもしれない……結局は同じなんだって……)


杏子(……シケた人生、だった)

杏子(家族もゆまも、あたしのせいで死んだ)

杏子(自業自得ってやつだよ。あたしみたいなヤツにとっては……)

Mami「苦痛を与えずに死なせてあげる」

Mami「それが、佐倉杏子という概念へのせめてもの情けよ」


Mamiはマスケット銃の口を、杏子の胸に向けた。

抵抗をする気が湧かない。

目の前の使い魔が「マミそのもの」でもあることがわかっている。

——今のあたしではマミには勝てない。

深層心理にそういう考えがあった。

防衛のために戦うことを放棄した、生存を諦めた魔法少女。


空気を劈く銃声が響いた。



杏子「…………」

杏子「……?」

Mami「ブッ……ゴホッ」

杏子「……なんだ?」

Mami「ゲブッ……こ、れ、は……!」


杏子が目を開けると、マミの顔が苦痛に歪んでいた。

口からドロドロとした液体を垂れ流し、右胸に小さな穴が空いていた。

佐倉杏子はその傷——「銃創」を知っている。


杏子「こ、これは……」

「怪我はない?佐倉さん」

杏子「まさか……!」

「無抵抗にやられるなんて……あなたらしくない」

杏子「ま……『マミ』ッ!?」


背後から、優しい声が聞こえた。

先程まで前方から聞こえていた声と同じだが、

とても懐かしい気持ちになる。

この世界のマミと、前の時間軸のマミが対峙する形となる。


マミ「でも大丈夫よ、佐倉さん」

マミ「私が来た以上……あいつらの好きなようにはさせない」

杏子「マミ……」

Mami「結界ができて五分足らずで来るとは……」

Mami「やはり……結界は、出すタイミングがシビアね」

Mami「アーノルドにもう少し知性があれば……」


マミ「暁美さんから聞いたときは、正直半信半疑ではあったけど……」

マミ「私そのものね……録画したビデオでも見てるみたいで気味が悪いわ……」

Mami「それは光栄ね」

マミ「とにもかくにも、まずはあなたを葬らせてもらう」

Mami「…………」

マミ「佐倉さん!あの時みたいに、一気に一緒に決めるわよ!」

杏子「……あの時」

杏子(まだ……あたしが素直だった時……)

杏子(マミさんと一緒に……戦っていた時……)

杏子「……マミ」


Mami「…………」

Mami「やれやれ、ね……」

マミ「さぁ、いくら私の概念と言えど、この状況……勝ち目はないでしょうね」

マミ「私とのミラーマッチだけではなく、佐倉さんまでいるのだから!」

杏子(……あたしとマミ)

Mami「……ダメダメね」

杏子「…………」

Mami「あなたは何もわかっていない」

マミ「……なんですって?」

マミ「この状況で、何を言い出すかと思えば……」

Mami「あなたはジシバリの魔女アーノルド親衛隊『Versace(ヴェルサス)』の恐ろしさを理解していないッ!」


バシュッ!

マミ「……ッ!?」

杏子「マ、マミッ!?」

マミ「な……あなた、何を……?」

杏子「こ、これは……!?」

マミ「今……何をしたの……!?」


マミの左手から、突然血が流れ出てきた。

さらさらした血がだらだらと垂れ落ちる。

唐突だった。

突然、左手全体に激痛が走り、血管を破った。

何が起こったのか、視認できなかった。

音も気配もなく、攻撃を喰らってしまった。


マミ(私の……手が……?)

マミ(この距離……まさか、撃たれ、た……の?)

マミ(私はいつ……撃たれた?発砲音も聞こえなかった……)

マミ(……まさか)

マミ(まさか……これが……)

マミ(これが暁美さんの言っていた……『スタンド』という能力……!?)

マミ(スタンドが……私の左手を喰らったとでも言うの!?)

マミ「……に」

マミ「逃げてッ!」

杏子「!」

マミ「逃げて!佐倉さん!早く!」

杏子「な、何を……!」

マミ「くっ……!」


『予感』がした。追撃が来るという勘。

マミは床を蹴り、杏子の前に割り込んだ。

体を回転させ、敵に背を向ける。

その瞬間、マミはスタンド攻撃を喰らった。


マミ「ガファァァッ!……う、ぐぅ……!」

杏子「マミッ!?」


背中に満遍なく痛みが走る。

剣山のマットに背中から倒れ込んだかのようなダメージ。

背中全体から血が流れているような感覚。温かい液体で服が濡れている。

魔法で痛覚を遮断し、考える余裕を作る。

——どうすればいい。何が起こった。


マミ「カハッ……!」

マミ(私はさっき……何をされた?)

マミ(目の前の『私』は……銃を撃つ予備動作が一切なく、私の左手を攻撃した……)

マミ(銃を出さずに銃撃はできない……)

マミ(やはり間違いない……これは、暁美さんが話していた……)

マミ(持っていないと見えない能力……『スタンド』という……概念……!)

マミ(そっちの世界の私も『それ』を持っている……)

マミ(スタンドだとして……何をされたのか……)

マミ(……『勝てない』)

マミ(私はもちろんのこと……佐倉さんも……)

マミ(見えない能力に勝ち目はない……どちらにしても……)

マミ(この負傷では……『負け』る)


マミ「佐倉……さん……」

マミ「逃げな……さい」

杏子「マ、マミ……どういうことだよ……」

マミ「今のままじゃ勝ち目はないわ……あなたも、私も」

マミ「あなたは……逃げて」

杏子「何で……マミ……あたしは……」

杏子「あたしは……あたしはあんたを殺そうとしたのに……」

杏子「何で助けるんだよ……!?何で庇ったんだよ……!?」

杏子「あんたこそあたしを置いて逃げればいいじゃあねーかよ……!」

マミ「…………」

マミ「……あなたのことはいつだって大切に思っていたわ」

杏子「……!」


杏子の目に、涙が浮かんでいた。

混乱と恐怖。マミはどことなく杏子のその表情に懐旧を覚えた。

この負傷。敵に背を向けて走れる自信がない。

敗北を悟った。しかしただでは負けられない。


マミ「佐倉さん……いい?」

マミ「暁美さんを頼りなさい……会ったことあるわよね……?」

杏子「…………」

マミ「私は……暁美さんを支えたいと、心の底から思っていた」

マミ「だけど……それはもう無理そう」

杏子「……え?」

マミ「だからあなたに『託す』わ……」

マミ「あなたが、暁美さんと一緒に……戦うの」

杏子「マ……マミ……?」


マミ「暁美さんには、使命がある……」

マミ「暁美さんには、辛く悲しい過去を背負っている」

マミ「そのためには……あなたの力が必要になる」

マミ「佐倉さん……継いでちょうだい。私の遺志を」

杏子「マミ……!あ、あたし……」

杏子「あたしは……!」

マミ(……ごめんなさい。暁美さん)

マミ(あなたにとって鹿目さんはどれだけ大切な人か、心で理解している)

マミ(ワルプルギスを越えた後、鹿目さんを任されたものね)

マミ(でもちょっと、無理そう……でも、代役は用意したわ)

マミ(せめて一度でもあなたの笑顔が見たかったけど……)

マミ(短い間ながら、あなたと友達でいられて、よかったわ)


Mami「ごめんなさいね。『私』……」

Mami「あなたを殺すのは、使い魔として産まれた故の使命であり生態であり、私の運命なのよ」

Mami「ゆまちゃんを殺したのもそう。可愛かったのに」

マミ(この気持ち……何かしら)

マミ(佐倉さんを託したことで、まるで今までの人生全てに満足したかのような……)

マミ(体が軽い……こんな気持ち初めて)

杏子「あたしはッ!」

マミ「さようなら、佐倉さん」

マミ「私の代わりにこの街を守って」

マミ「そして、暁美さんを幸せにしてあげて!」

杏子「マ……」


マミは力を振り絞り振り返った。

背中全体が真っ赤に染まっていた。


マミ(体を糸にする能力と私のリボン……糸とリボンは似ている)

マミ(だから『それ』のノウハウを教えられればと思っていたけど……残念ね)

マミ(でも……暁美さん。せめて私の気持ち、受け取ってちょうだい)

マミ「ティロ・ボレー!」

杏子「マミィィィィィィィッ!」


残る魔力全てをマスケット銃の生成に使った。

激痛を和らげるための魔力さえそれにあてる。

全身が焼け付くような感覚を覚えたが、

痛み、生命、それらを超越した使命がある。


Mami「ティロ・ボレー……マスケット銃を複数展開し一斉射撃を行う技……」

Mami「数で攻めようってことね……しかし私相手に数で攻めるのは悪手よ!」


何十丁ものマスケット銃が宙に展開され、

それらの全てが一斉に発砲する。

一発一発の銃声が重なり、爆発のような音が院内に響いた。


Mami「……見苦しいわよ、『私』……」

Mami「スタンド使い相手に無能力者が突っ込むだなんて……」

Mami「手ぶらの少女が恐竜とタイマンを張るようなもの」

マミ「…………」


しかし、実際にその銃撃がMamiに届くことはなかった。

リボンから作られたマスケット銃とその銃弾はボロボロに解けていき、

砂漠の砂のようにサラサラと溶けていった。


リボンだった粉がMamiにかかった。

それを払いながら、使い魔は言う。


Mami「私のスタンドであなたのソウルジェムを砕いた」

Mami「ソウルジェムの破壊は魔法少女にとっては即死の急所」

Mami「私のように、使い魔なら少しは使用が異なるけども……」

マミ「…………」

ドサッ

マミの体は力を失い、床に倒れ込んだ。

変身が解ける。

背中の傷はそのままであるため、

ベージュ色の制服はじわじわと赤く染まっていった。



Mami「さて、佐倉さん。次はあなたよ」

Mami「かつての師匠の美しい死に様を見て、あなたはどう思った?感想を聞きた——」

Mami「なッ!?」

Mami「こ、これは……!?」


使い魔は目を丸くした。

杏子がいた場所に『穴』があいている。

スタンド能力、クリームで飲み込んだ跡では決してない。

歪な円が、唐突にぽっかりと開いている。

床にはいくつか皹が走っていた。


Mami「…………」

Mami「そうか、なるほど……」


穴を覗くと、下の階層の、瓦礫で散らかった床が見えた。

瓦礫のいくつかは不自然に払いのけられた痕跡がある。

血の付いた瓦礫片があることから、何かで切ってしまったのだろう。


Mami「ティロ・ボレーの弾幕と自分を陰にして……」

Mami「銃声に紛れさせつつも床を破壊したね」

Mami「それで佐倉さんを下の階に床ごと落とした」

Mami「そして無理矢理逃がしたのね」

Mami「佐倉さんを逃がすために……」

Mami「自分の命を犠牲にした最期の策」

Mami「ふぅん……」

Mami「………………」


Mami「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

Mami「アァーハハハハハハハハハハハ!フフフハハハハハハハハハハハハ!」

Mami「ウフハハハハ……私ってば……大したタマね」

Mami「ほんのわずかな時間だったけど、二転三転する展開の早い戦いだったわ」

Mami「いいでしょう、いいでしょう。敬意を表しましょう」

Mami「かつての愛弟子の魂はまだあずけておくわ」

Mami「あなたは魔法少女としての誇りを託し、魔法少女の真実を知らないままに逝けた」

Mami「これ以上ない幸せな死……それにかっこよかったわ」

Mami「いいものが見れた……あなたのことは誇り高い戦士として、一生忘れることはないでしょう」

Mami「ディ・モールト・グラッツェ」


その身尽きても魂は死せず。

巴マミは、杏子に遺志を託し——死亡した。



——病室に、一体の使い魔がいる。

ベッドの足下に、人が倒れている。

使い魔Yumaは、天井を見る。

時系列は、たった今マミが死亡した時。


Yuma「……?」

Yuma「今の音はなんだろう……」

Yuma「お姉ちゃんかKyokoが頑張ってるのかな?」

Yuma「…………」


キラークイーンで、上条恭介に触れた。

そして、爆発させた。

——さやかを爆弾にしなかったのは、情けからである。


前の時間軸、ゆまはさやかも好きだった。

親しみがある。

殺すことには違いないが、爆弾にして『無』にするのも憚れたためである。

しかし、その情けは使い魔としては間違いである。

『さやかは微かに生きて』いた。

爆弾が目の前で爆発したが、ぼやけた視界が映っていた。

運がよいのか悪いのか、殺されることができなかった。


さやか(……ぅ)

さやか(…………)

さやか(……あたし……寝てた?)


さやか(声が出ない……体も動かない……?)

さやか(何が、起こったの……?)

さやか(思い出せない……)

さやか(頭が……ぼー……っとして)

さやか(それに何か……寒い。……冷房効いてるのかな)

「……大変なことになっているね」

さやか(……キュゥ、べえ?)


ぼんやりとした白い塊が見える。

聞き覚えのある声が脳に響く。


QB「こんな状態になって、よく生きていたね」

さやか(こんな……状態……?)

さやか(あたし……どうなってるの……?)

QB「魔法少女ならまだしも……」

QB「人間がここまで部位を『失って』も生きていられるケースは少ない」

さやか(失……?)

さやか(何を、言って……)

QB「意識があるケースとなるともっと絞られる」

さやか(…………)

QB「君は運がいいというものだ」


さやか(そうだ……あたし……)

さやか(恭介が……目の前で……なんか、爆発……みたいな……して……)

さやか(そ、それで……あたしは……)

さやか(……!)

さやか(あ、あたしは……!)

さやか(い、いや……やだ……!)

さやか(た、すけ……て!)

QB「運がいい……と言ったのは……」

QB「意識があれば契約の意思表示ができるということだ」

QB「幸い、千歳ゆまの姿をした使い魔は、僕達のやり取りに気付いていない」


さやか(助けて!)

さやか(キュゥべえ!助けて!)

さやか(あたし……あたし、死にたくない!)

さやか(こ、怖い……だんだん痛みを感じてきてる気がする……!)

さやか(早く!早く治して!)

QB「それが君の願いだね?」

さやか(助けて……!し、死んじゃう……!)

さやか(早く……早く助け……てェ……!)

さやか(い、息が……できなくなって……は、早く……早く!)

QB「…………」


QB「契約は成立だ」



Yuma「…………」

Yuma「ま、いっかぁ〜」


ツン、とYumaは頭を人差し指でつついた。

Yumaは今、非常に気分が良い。


Yuma「Yuma、さやかをやっつけちゃった!」

Yuma「ルンルン!Yumaってば偉い!」

Yuma「あ、そうだ。折角爆弾にさせなかったんだし……」

Yuma「さやかの死体をお土産に持っていこう!」

Yuma「Kyoko喜ぶね」

Yuma「どうせなら食べる部分が残っていればいいんだ、け、ど……」


ベッドの残骸を迂回し、さやかの遺体を確認しようとした。

もう既に死んだものだと油断をしていた。

スパァッ!

Yuma「……ん?」


ボトンッ

水分を多く含んだ塊が床に落ちた。

辺りが赤黒く汚れている。

その塊に、Yumaは見覚えがある。

白と緑と肌色。指がある。


Yuma「へ……?え?」

Yuma「これ……何……?」

Yuma「これって……Yu……Yumaの……」

Yuma「い……ギ……」

Yuma「KYAAAAAAAAAAAHHHHH!?」


『左腕がなくなっ』た。

鋭利な刃物で切り落とされたような綺麗な断面。

体液がドバドバと溢れ出す。


Yuma「痛い!痛い痛い痛いィィィィヒャァァァァァ!」

Yuma「さぁぁぁぁぁやぁぁぁぁぁかァァァァァァァッ!」

Yuma「いやアァァァァッ!Yumaのぉぉぉぉぉうぅぅぅぅでえぇぇぇぇぇぇぇ!」

Yuma「あァァァァァんまァァァァりだァァァァァッ!AHYYYYYYYY!YAAAAAAAA!」

Yuma「偉くない!Yuma偉くないィィィィィッ!」


瀕死の状態だったさやかに契約をされた。

願いが反映され、固有魔法は治癒。

バラバラになりかけた自分を完治させた。

そして魔法武器の剣で不意を突き、左腕を切り落とした。

頭が真っ白になっている。子どもを斬るのに躊躇はなかった。

Yumaは甲高い声をあげながら病室から逃げていった。


さやか「ハァ……ハァ……!」

さやか「……くっ!」


キュゥべえは既にいない。

さやかは呆然と棒立ちする。

恭介がいた場所に恭介がいない。

粉々になって消えた。ベッドの残骸しかない。

呼吸ができるようになって、実感した消失と虚無。


さやか「…………」

さやか「契約……しちゃった」

さやか「契約したのに」

さやか「したのに……」

さやか「恭介……」

さやか「うぅ……そんな……こんなのって……!」


『爆弾』にされた幼なじみ。

その残骸一つ残さず、破壊されたベッド以外、その場に何もなかった。

さやかは、自分だけ助かったという事実を突きつけられた。

恭介が死んだ。

体がバラバラにされた際、

自分が「そう」なったという実感と共に痛みを感じ始めた気がした。

大切な存在が死んだということを実感し、

心臓がミシミシと音を立てて潰れていくような気持ちになった。

ドス黒い感情が魂を濁していくような感覚。

さやかは覚束ない足を引きずり、病室から出ることにした。

じわり、じわりとさやかの青色のソウルジェムに、黒色が混じっていった。



——佐倉杏子の姿と千歳ゆまの姿が、待合室にいる。

診療受付時間の都合上、遺体は少ない。

Kyokoが殺した。

Kyokoは腕を組み冷たい眼差しで、隻腕のYumaを見る。

居心地の悪そうにYumaは腕を失った経緯を話した。


Yuma「——と、いうことがあってね」

Kyoko「ふーん……へぇ、そう」

Kyoko「オーケーオーケィ。わかった」

Kyoko「それで、おずおずと逃げ帰ってきたのか……」

Yuma「うぅ……」

Kyoko「…………」

Kyoko「情けねぇッ!」


ゴツンッ

Yuma「いたぁい!」

Yuma「叩くのはやめてよぉ!」

Kyoko「何てザマだ!テメーッ!それでも使い魔かァ!?」

Yuma「し、仕方ないよ!だって!倒したと思ったら契約して腕スッパリだもん!」

Kyoko「いいかッ!あたしが怒ってんのはな、てめーの『心の弱さ』なんだYumaッ!」

Kyoko「そりゃあ確かに、死んだと思った奴が生きてて、契約されて左腕をぶった斬られたんだ!」

Kyoko「衝撃を受けるのは当然だ!単に強くなんだからな!あたしだってヤバイと思う!」

Kyoko「だがッ!あたしら魔女アーノルド使い魔群『Versace(ヴェルサス)』の他のヤツならッ!」

Kyoko「仕留め損ねた獲物を前にしてスタンドを決して解除したりはしねぇッ!」

Kyoko「たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!」

Yuma「Kyoko……」


Kyoko「オメーは甘ちゃんなんだよYuma!詰めが甘いんだ!わかるか?え?あたしの言葉が」

Kyoko「契約のせいじゃあねぇ、心の奥のところでオメーにはビビりがあんだよ!」

Kyoko「成長しろ!Yuma。成長しなけりゃあ、あたしたちはをいつまでも大人(魔女)になれねぇ!」

Kyoko「いただきますと思った時には!既に一口いただいちゃっているもんなんだッ!」

Yuma「……!」

Yuma「わかったよKyoko!」

Yuma「目が覚めました!パッチリ覚めました!」

Yuma「Yumaは本能的な危機回避行動に甘えすぎてた!」

Yuma「Yuma!もう逃げない!」

Kyoko「よし」


Kyoko「Yuma……あんたは成果を挙げることはできなかった……」

Kyoko「それどころか結果的にさやかを魔法少女にしてしまった」

Kyoko「こりゃあ戦犯呼ばわりされても仕方ないレベルだ」

Yuma「ぐぬぅ」

Kyoko「しかし、あたし個人としてはよくやったと言ってやる」

Kyoko「獲物を誘き寄せてくれたんだからなぁ」

Yuma「?」

Kyoko「よぉ、ほむら」

Yuma「!」

Kyoko「隠れてないで出て来いよ」

「……っ」

Yuma「ほむほむ!」


ほむら「…………」

Yuma「ほむほむじゃない!」

Yuma「メガネと三つ編みじゃないほむほむなんてほむほむじゃない!」

Kyoko「わかった。わかったからおまえはもう帰ってろ」

Yuma「はぁい。じゃーね。お土産期待してるね?」

Kyoko「おうよ」


Yumaは手を振り、背中を向けた。

遺体が転がる床をただ足場の悪い道のように、

ぐにぐにと障害物を踏んで走り抜けていった。


Kyoko「…………」

Kyoko「時を止めてソッコーで殺そうとせず、ちゃんとあたしの前に出てきた辺り、空気の読めるヤツだ。評価する」


ほむら「…………」

ほむら(やはり……病院を舞台にされた以上、犠牲者が多数出たか……)

ほむら「……くっ」

ほむら(前の時間軸の佐倉杏子……)

ほむら(どんな能力かは知らないが、ヤツもスタンド使いだ……)

ほむら(ただ、今の私はスタンドが見ることができる)

ほむら(状況は対等……いや、時間停止を考えると今の私はむしろ優位かもしれない)

ほむら(スタンドがどんな能力かわからないということが不確定要素ではあるが……)

ほむら(果たして……そのまま時間停止で殺していいものなのだろうか)

Kyoko「……悩んでいるな?」

ほむら「……!」


Kyoko「スタンド使い相手に……慎重になりすぎるということはない」

Kyoko「このまま時間停止をしてあたしのソウルジェムを撃ち抜いていいものか……悩んでいる」

Kyoko「それはさておき、この時間軸にはいないが……」

Kyoko「あたしらは前の時間軸の概念だからその存在そのものは知っている」

Kyoko「引力の魔女のレイミ……あんたはそいつがどうなってるか知らないか?」

ほむら「…………」

Kyoko「何だか、アーノルドが会いたがってるような気がせんでもないんだよな」

ほむら「レイミは……いない」

Kyoko「いない?」

Kyoko「なるほど……この時間軸では孵化に失敗したといったところか」

Kyoko「レイミとアーノルド……何やら繋がりがあるとの使い魔間のもっぱらな噂だったんだ」

Kyoko「スタンドを発現させるレイミがいない世界で産まれた魔女が、何故スタンドを持っているのか……」

Kyoko「まぁ、死人に口なしって言葉もある……アーノルドには言語を話すことも理解することもできない」

Kyoko「レイミとアーノルド、どういう関係かは誰も知らない。使い魔であっても、神であっても」


ほむら「…………」

Kyoko「……ほむら。結論から教えてやろう」

Kyoko「あたしが無駄話している間に時間を止めて撃たなかったのは『正解』だ」

Kyoko「あたしの魔女談義を聞けずに一足早く『嫌なもの』を見るハメになってただろうからな」

ほむら「……嫌な……もの?」

Kyoko「だがしかしッ!」

ほむら「!」

Kyoko「こっそりと『糸』を伸ばして体を縛ろうという策は『不正解』だッ!」

ほむら「……ッ!」


右腕の肉を糸にして、指から伸ばしていた。

自身の体と椅子と遺体の死角を縫い、

糸を束ねた紐で拘束するつもりでいたが、バレていた。

しかし今更なかったことにはできない。



ほむら「くっ!」

ほむら「くらえっ!『糸のスタンド』ッ!」


Kyokoの背後、遺体の陰から紐が飛び上がった。

時間停止能力者に対し、一番警戒に値するのは時間停止魔法。

その心理の意表を突く、敢えてのスタンド攻撃のつもりだった。


Kyoko「…………」

ほむら「……!?そ、そんな……!」

ほむら「な、何をしているの……!?」


紐が飛び出しても、Kyokoは微動だにしなかった。

スタンド攻撃を見破った上で、紐を避けるようなことは一切せず、

ただ黙って縛られた。両腕を封じられた。

何故、わざわざ拘束されたのか、ほむらは戸惑った。


ほむら「……!?」

Kyoko「…………」

Kyoko「ふふん……あんた、あたしのことを知ってんのかよ?」

Kyoko「マミから聞いてなかったのか?」

ほむら「…………」

ほむら「……ハッ!」

Kyoko「気付くのが遅いんだよ!そうさ!」

Kyoko「この光景に一般人は気付いていない!あんたが見えているあたしもだッ!」

Kyoko「種はあたしの『幻惑魔法』だッ!」

ほむら「こ、これは……」

ほむら「そんな……まさか!」

ほむら「ま……」


ほむら「『まどか』ッ!?」


得意気な顔をした佐倉杏子の姿は、みるみると形を変えていった。

黒いリボンは赤いリボンに、赤い衣装はベージュの制服に、

手に持っていた槍は溶けて消えた。

そこには『まどか』がいた。

切なそうな表情でほむらを見ていた。

Kyokoはまどかだった。

ほむらの糸で拘束されたまどかがいた。


Kyoko「幻惑魔法ってのは、本当に便利なもんよ」

Kyoko「どっかの誰かさんはメモリーオブジェットだかオードリーヘプバーンだか何だかわけのわからん名前をつけやがったがな……」

ほむら「う、うぅ……!」



Kyoko「一般人が異様な光景に動揺して逃げ出さないように……普通の景色に見えているようにしている幻影」

Kyoko「聴覚も視覚も触覚も騙す幻惑……」

Kyoko「まどかの幻覚にあたしの幻を被せていた」


Kyokoは『まどか』の背後から現れた。

まどかの幻覚を作り、それに魔法の幻惑を被せていた。

本物のKyokoは別の場所にいた。

視点が異なっていたため、近づいてくる糸が見えていたのだった。

死角ではなかった。


ほむら「まどかの……幻覚……!?」

Kyoko「あんたは今『ん?』って思ったな?」

Kyoko「幻覚に幻惑を被せるってどういうことなのか」

Kyoko「答えはこれだ!我が能力『シビル・ウォー』ッ!」


Kyoko「シビル・ウォーは……そいつが『捨てたもの』の幻覚を見せる能力だ」

Kyoko「このまどかは、あんたが実際に殺した訳でも見殺しにしたわけでもない」

Kyoko「しかし、あんたは見捨てたと思っているんだ」

Kyoko「助けることができなかったという自分自身で勝手に抱いてる罪悪感が、まどかの幻覚を見せているんだ」

Kyoko「あたしは別にそうは思わないが……あんたは心で『見捨てた』と思っている」

Kyoko「このまどかは、あんたの心の闇が生んだまどかだ」

まどか『……ほむらちゃん』

ほむら「……ッ!」

まどか『ほむらちゃんは……わたしを守ってくれるって言ったよね』

まどか『魔法少女にしないって……約束してくれたよね……』

ほむら「こ、これはッ!?」



まどかを束縛していた紐が変形していく。

スパゲティのような形をした紐が、放蕩のように平べったく変形した。

紐が『潰されてい』く。

『潰れ』はじわじわと紐を伝い、ほむらに迫ってくる。


ほむら「ひ、紐が……潰れて……!?」

ほむら「ま、まずいッ!」

ほむら「うっ!くぅ!」


ほむらは左手で紐に手刀をあてた。

ブチリと音をたて、紐は切断される。

紐はほむらの肉でもある。

ダメージが伝わる。ほむらの右腕から血が噴き出した。

潰れた紐はそのまま紙くずのようにくしゃくしゃになっていった。


ほむら「こ、これは……!」

ほむら「私の、私の糸が……!」


スタンドが傷つけば本体も傷つく。糸が切れたことでできた傷を押さえて止血する。

この程度の軽い傷ならすぐに治癒が可能。


Kyoko「これがあたしのスタンド……『シビル・ウォー』だ」

Kyoko「まず、幻影魔法で作った擬似的なものでも何だっていいから……有効範囲という『結界』を設定する」

Kyoko「で、このまどかは結界が見せる幻覚であり、あんたが『捨てた事実』でもある」

Kyoko「スタンドは精神のエネルギー。精神は肉体。表裏一体の関係……」

Kyoko「精神への攻撃は肉体への攻撃。罪悪感がその身を滅ぼす」

Kyoko「『捨てたもの』で押しつぶす。それが我がシビル・ウォー」


Kyokoの能力——シビル・ウォー。

標的が今までに「捨ててきた物」の幻覚を見せる。

幻覚に触れると、それは皮膜のように変化して、標的を包み『圧縮』する。

スタンドが傷つくと本体も傷つく。精神が押しつぶされれば肉体も押しつぶされるのだ。その逆も然り。

罪悪感という精神的ダメージを肉体的ダメージに変換するという見方も可能。

それが、Kyokoのスタンド。シビル・ウォー。


Kyoko「あんたはまどかが大切なようだな……」

Kyoko「あんたは自分の罪悪感を撃てるか?」

Kyoko「これはあんたの脳みそが作り上げたまどかそのものなんだ」

まどか『ほむらちゃん……助けてぇ……』

ほむら「グッ……!う、くぅっ……!」

ほむら「そ……」

ほむら「それが……」

ほむら「それがどうしたというんだッ!」

ほむら「たかが……たかが幻覚ッ!」

Kyoko「その通り。ただの幻覚だ。されど幻覚だ」


ほむら(な……何を、躊躇うことがある!)

ほむら(なんであっても、それがなんであっても!所詮たかがまやかしッ!)

ほむら(こんな……)

ほむら(『こんなもの』は!)

ほむら(動揺してはならない!)

ほむら(このままでは……ヤツの思うツボだ!)

ほむら(……撃てる!撃ってやる!)

ほむら「う、うぅぅ……!」

ほむら「違うんだ……ッ!これは……ただの!ただの幻覚ッ!」

ほむら「偽物なんだッ!」

タァン!


ほむらは銃を発砲した。

弾丸は、まどかの二の腕を貫通した。

まどかは目から涙をポロポロと流しながら苦痛に表情を歪めた。

ダラダラと赤い鮮血が流れ出ている。

その様を見て、ほむらの目尻から涙が伝った。無意識の涙であった。


ほむら「うっ……!」

まどか『グゥッ!』

まどか『腕が……!腕ぇ……!酷いよ……ほむらちゃん……ハァゥゥ……』

まどか『はあぁぁ……そんなのって、ない、よぉ……痛いよぉ……』

まどか『わたしを救うって……誓ってくれたのに……』

まどか『酷い……よぉぉぉぉぉ……!』

ほむら「……!」


こ、これは……!

この息づかい……まどかだ……!

『まどかそのもの』だ……!

幻覚と自覚していても……わかっていても!心の底が私にそう言っている!

私は……私はまどかの姿を、まどかを撃った。

まどかそのものを……!

まどか撃ってしまった!

……『こいつ』がッ!

私にッ!

こいつが私に!まどかを撃たせた!


ほむら「くっ……!うぅぅ……!」

ガリッ!

ほむら「くフゥー……!フゥー……!フゥー……!」


涙がポロポロとあふれ出てきてしまう。

手が震える。

手が震えたら、照準が定まらない。

手の震えを無理矢理抑えるため、震える手に噛みついた。

犬歯が深く刺さり、血が滲む。


Kyoko「親友を撃つなんて……見くびっていた。大したタマだ」

Kyoko「……『足りなかった』かな?」

ガタッ

ほむら「ッ!?」


転がっている遺体が立ち上がったように見えた。

実際は、遺体と床の間から産み出されている。

まどかがもう一人、二人、三人現れる。

全員、悲しい表情をしている。

守れなかった事実。

ほむらの罪悪感が、シビル・ウォーにより新たに産み出された。


まどか『ほむらちゃん……どうしてわたしを助けてくれなかったの?』

まどか『契約したら……わたしは用済みなの?いらないの?』

まどか『ずっと一緒にいようねって……約束したのに……!』


助けられず死なせてしまったまどか、契約をしてしまい諦めたまどか、

魔女になる寸前にソウルジェムを撃ち砕き『殺し』たまどか。

ほむらの罪悪感が、まどかの姿となってゾンビのようにわき出てきた。


ほむら「う……うああ……!」

ほむら「あああ……ああ……!」

ほむら「まど……か……!」

ほむら「わ、私は……!」

ほむら「私はッ!」

ほむら「あなたを見捨ててなんかいないッ!」

ほむら「私は!私はあなたのために……!」

Kyoko「口で否定しても意味がない」

Kyoko「こいつらがいる以上、あんたはまどかを見捨てたんだという意識があった」

Kyoko「そういう揺るぎない真実がある」


ほむら「う、うぅぅぅぅぅぅ……!」

ほむら「……グッ!」

ほむら「くそォッ!貴様ッ!絶対にブッ殺してやるゥゥゥぅぅぅ————ッ!」


ほむらの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

脚が震える。魂が濁る。頭が働かない。


Kyoko「ほほぉ〜……ではやってみるといい」

Kyoko「しかしなんだな……あんたでもそんな下品な言葉使いできるんだな。意外」

ほむら「うおおおあああああああああああッ!」

Kyoko「ちょ……!おまっ!それは……」

ほむら(これは……!これは幻覚だ!幻覚!幻覚!幻覚!幻覚なんだ!)

ほむら(まどかではない!これはまどかじゃない!)

ほむら(まどかの姿をしたただの『ゴミ』だッ!)

ほむら(ヤツを殺すッ!殺せばゴミは消える!)

ほむら(殺してやる!絶対に!殺してやるッ!)

ほむら「うおおおおぉぉぉぉああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!」


盾から取り出したものは『ピカティニー・レール短銃身、伸縮式ストックモデルM249』

純粋な軽機関銃でありながら非常に軽量で、命中精度も高いという特徴を持つ。

ほむらは目を閉じてミニミ軽機関銃を辺り構わず乱射した。

独自に修得した機械操作の魔法と訓練の経験により、

反動による照準のブレは極限まで小さい。


ほむら「うあああああああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁあああッ!」

Kyoko「う、うおおおおぉぉぉぉッ!?」

まどか『いやあああああああああああ』

まどか『きゃあああああああああああ』

まどか『痛い痛い痛い痛いイタイタイタイタイィィィ!』


まどか達の声が銃声に紛れて響く。

耳を引きちぎりたい衝動に駆られる。

銃の反動で涙が飛び散っていく。


——音はすぐに止まった。

弾が切れたのではなく、ほむらは自分の意志でトリガーから指を離していた。

幻覚と言えど、まどかの姿を撃つのに精神的な限界を覚えたためである。

流れ弾で壁に穴があき、転がっていた遺体はズタボロになっている。

異常な世界を認識できていない生存者を無意識的に殺すことはない。

銃口から青白う煙が舞う。

まどかの幻覚はいなくなった。


ほむら「はぁ……!はぁっ!はぁ……!」

ほむら「う、うぅ……く……!ハァハァ……!」

ほむら「や……やったか……?」

「折角のところ申し訳ないが……」

ほむら「……ッ!?」


Kyoko「そんな甘っちょろい覚悟ではあたしには勝てない」

ドスッ

Kyokoは、後ろを振り返ったほむらの首に親指を突き刺した。

突き刺したというより、親指と首の肉が同化したという表現が近い。


ほむら「うぐ……!」

Kyoko「銃声とシビル・ウォーの幻覚に紛れて、既に回り込ませてもらった」

ほむら「がふ……うぅ……!」

Kyoko「そのままあんたを『喰う』ぜ」

ほむら「う、うああ……」

ほむら(お、恐ろしい……!)

ほむら(なんて……なんて恐ろしい……!)


Kyoko「絶望したらあんたのスタンドが進化してレクイエムが発動して世界が滅びるそうだが……」

Kyoko「何てこともない。その前に喰えばいいんだ。フグを食う時にフグの毒を取るのとそんな変わらん」

Kyoko「それに魔法少女は『絶望しかけ』が一番『美味い』んだ」

ほむら「ぐ、ぐぅ……く!」

Kyoko「魔女になるかならないかのギリギリ」

Kyoko「使い魔としての波長が合うとでもいうのか……とにかく美味い」

Kyoko「人間という面を持ち合わせているからこその、グルメ感覚」

Kyoko「よく言うだろ?食い物は『腐りかけが美味い』ってさ」

ほむら「ぐくっ……が……!」

ほむら(このままでは……この……ままでは……!)

ほむら「うぅ……」

ほむら「うおおおおおあああああああああァァァァァァァッ!」


……スタンドのおかげで、時間を止めて兵器を使う以外にも、

確かに私の戦略の幅は広がった。

『糸』で試したいことだってまだある。

成長の余地があるという実感がある……。

だが「意味」なんて何もないッ!

佐倉杏子の概念とはレベルが違うッ!

ヤツの「スタンド能力」には私の「糸」なんて何の通用もしないッ!

ついに『限界』が追いついて来たのか……?

私は……私はまだ納得ができていない……。願いを遂行していないのに!

こんな所で、終わるわけにはいかないのに!

私はまどかを守る私にならなければならないのにッ!

『やるべき目的』があるッ!


ドガッ!


Kyoko「ブッ……ガッ!?」

ほむら「……え?」

Kyoko「ゲフ……クッ……」

Kyoko「ゲボッ?!」


——突然、Kyokoは『何か』の攻撃を喰らい仰け反った。

まるで「殴られた」かのように頬が腫れあがっている。

口から血らしき体液が出る。口の中を切ったらしい。

首からKyokoの指が勢いよくすっぽ抜け、首の肉が少し持っていかれた。


ほむら「ゲホッ!ゲホゲホッ!」

ほむら「ゆ、指が……!?」

Kyoko「今……あたしは……何をされた?」

Kyoko「な、何だ……?」

ほむら「……!?……?」


——かつて、ほむらは似た光景を見たことがある。

前の時間軸。

「ある敵」に襲われた時、同様にそいつは『急』に『殴』られた。唐突だった。

その正体は、まどかのスタンド『スタープラチナ』だった。

友達を助けたいという一心で発現した、まどかのスタンド。

まどかの精神力が敵を攻撃し、自身とほむらを助けた。

その光景と似ている。

今はその視点が、第三者から第一者のものとなった。

Kyokoは頬を赤く腫らす。血が口から流れ出ている。


Kyoko「あたしは……殴られたのか?」

Kyoko「あたしは『こいつ』に殴られたのか!?」

ほむら「ハァ……ハァ……」

ほむら「こ、これは……!」


ほむらは、視界の端に、何かを見た。

上目遣いになってそれを確認する。

「拳」そして「腕」が見える。

それを辿った先にいた……

『糸の塊』


ほむら「い、『糸』が……」

ほむら「糸が……『人』に……!」


ほむらの体から出る半透明の糸スタンド。

そのしなやかな糸が、一本一本が重なり寄り集まり、

塊——人の形を形成した。

それが自らの拳を、Kyokoに叩き込んだらしい。


女性的な体格をしている。

有名な彫刻のような存在感があり、

所々が『ほつ』れている。

糸の拳は様々なものを砕きそうな、頑丈さを見て取れる。

鼻腔の奥で、微かに石鹸のような匂いを感じた。


ほむら「こ、『これ』は……」

ほむら「私の……私の『スタンド』が……!」

ほむら「糸が束ねられて丈夫な紐になるように……」

ほむら「糸が集まって!そのパワーが集中してッ!」

ほむら「線が集まって固まれば『立体』になるこの概念!」

ほむら「パワー……」

ほむら「私に『パワー型スタンド』が目覚めたッ!」


ほむら「あの時のまどかも……似たような感じだったのかしら……」

ほむら「己の精神の、力強いヴィジョン。これが私の……精神の具象」

Kyoko「ぐ、グフッ……き、貴様……!」

Kyoko「よくも……よくもあたしに向かってそんな舐めた真似を……!」

ほむら「糸が塊になることでパワーが集中した……塊のスタンド」

ほむら「まるで引き裂かれそうだった心を縫い合わせ『繋ぎ』止めたかのように……」

ほむら「しなやかさと力強さが兼ね備えられた……糸のスタンド……」

ほむら「…………」

ほむら「いつだったか……『矢』を大切にしてと、夢の中で会ったまどかは言った」

ほむら「夢とは言え、縁起を担いで得体の知れない『矢』をお守りとした……今も盾の中に入れている」

ほむら「何故唐突にその矢のことを思い出したのかはわからないけど……」

ほむら「名付けよう……お守りにした石の矢に肖って」


ほむら「これは既に『糸』を超えた……」

ほむら「……ストーン・フリー」

ほむら「まどかに……何ものにも縛られない自由な未来を与えたい」

ほむら「私は『石作り』の矢と『自由』を手に入れる」

ほむら「聞こえた?『ストーン・フリー』……それが名前」

ほむら「これからは『ストーン・フリー』と呼ぶ!」

Kyoko「……っ!」

ほむら「これは、私の未来への誓い!」

Kyoko「ヤ、ヤバ——」

ほむら「ストーン・フリーッ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

糸の塊——『ストーン・フリー』はかけ声を共に拳のラッシュを放った。

スタープラチナを操っていたまどかも、スタンドの声を聞いていたのだろうか。

まどかと同じ、パワー型のスタンド。そう思うだけでますます勇気が湧いてくる。


Kyoko「うおわあああああああああッ!?」

Kyoko「こ、このパワーはッ!」

Kyoko「ほ、ほむらァァァッ!」


腕をソウルジェムの前に交差しKyokoは必死に防御をする。

糸であるにも関わらず、その拳は鉱物のように固く重い。

「オラァッ!」

ドッゴォォッ!

Kyoko「GYAAAAAAAAAHHHHH!……ゲボファ!」


ストーン・フリーの力を込めた一撃により、Kyokoは吹き飛ばされた。

体が宙に浮き、そのまま壁に背中を叩き付ける。


ほむら「強い……!」

ほむら「ストーン・フリー……」

ほむら「どうやら人型になると遠くへ行けないらしい……」

ほむら「だけど!その代わりにこのパワー!」

ほむら「これが……これが私のスタンドの真の力!」

ほむら「私の新しい力ッ!新しい武器ッ!」

Kyoko「ゲボッ……グフゥ」

ほむら「ま、まだ生きている……」

ほむら「ソウルジェムは砕けなかったか」

Kyoko「…………」


Kyoko「ソウルジェムを砕こうとしたのか……おまえ……」

Kyoko「あたしは……使い魔であると同時に魔法少女の概念でもある」

Kyoko「確かに……ソウルジェムが無事な限り死にはしない……と思う」

Kyoko「ソウルジェムの穢れは空腹だ。絶望をしない以上、魔法を使いすぎて魂を汚せば餓死をする」

Kyoko「魔女寄りな存在にでもならん限り、あたしを殺すにはソウルジェムを砕くしかないのさ……」

Kyoko「だのにおまえ、何の躊躇もなくぶっ放しやがって。なにがオラオラだ」

ほむら「初めての割には上手く扱えた……かなり素早いわ!次こそは!」

Kyoko「HEY!ほむら……」

Kyoko「スタンド能力の新しい境地を切り拓いておめでとうと祝ってやりたいとこだが……」

Kyoko「チト詰めが甘い」

ほむら「詰めが……甘い……?」


Kyoko「ここはあたしの……依然シビル・ウォーの支配下にあるんだ」

Kyoko「則ち……どっち道、あたしには勝てない」

ほむら「……!」

『酷いよ……そんなの……』

ほむら「ハッ!?」

『ほむらちゃんのバカ……』


先程まで看護婦の遺体だったものが、まどかの姿をしている。

正確には、看護婦の遺体の側にまどかの幻影を作り、幻惑で隠していた。

涙を流しているまどかが恨めしそうな声をあげている。

まどかの幻覚は震える指でほむらの左袖をつまんでいた。


Kyoko「シビル・ウォーでもう一体まどかの幻覚を作った!」

Kyoko「よし!触れたな!あんたが捨てたものに……」

ほむら「し、しまっ——」


ドパァァァン

まどかの手が水風船のように破裂して皮膜となる。

ほむらの左腕に、それが巻き付く。

同時にストーン・フリーの左腕が押しつぶされる。

関節と盾が動かなくなった。時間停止と武器を扱えなくなる。


ほむら「う……くッ!?」

Kyoko「左腕を封じたッ!」

Kyoko「幻覚共ッ!こいつの右腕と両脚も封じろォォォ!」


Kyokoの背後からわらわらと『まどか』が現れた。

ほむらは、時間遡行の度に見滝原を捨てている。

そのため、まどかの家族やマミ等の幻覚も見せようと思えばできる。

しかし今のシビル・ウォーには、見せられる幻覚のキャパシティが定められている。

体力も魔力もかなり消耗してしまったため、スタンドパワーに余裕がない。

結局、少ない人数で最も追いつめる幻覚は、まどか以外ありえない。


ほむら「……!」

Kyoko「まずは……四肢を潰せ!」

Kyoko「そしてソウルジェムが漆黒に染まるスレスレに喰い殺す」

Kyoko「この傷は……ほむら!」

Kyoko「貴様を喰って癒すッ!」

ほむら「くっ!」


まどか『ほむらちゃん……』

まどか『わたし達、友達だよね』

まどか『燃え上がれーって感じでかっこいいよね』

まどか『わたしを救うって、言ってくれたよね』

ほむら(ま、まどかの幻覚が……)

ほむら(このままでは……包囲されてしまう!)

ほむら「くそっ……!」

ほむら(盾が使えない以上……どうすることもできない)

ほむら(ここは……撤退するべきか。脚が動かせる内に……)

ほむら(ここから離れればシビル・ウォーの結界とやらから抜け出せるはず)

ほむら(最悪その結界から一度抜け出せば……きっとこの腕もどうにかなる)

ほむら(ここは……逃げるしかできない!)



「逃げるというのは……得策じゃあないよ」


ほむら「!?」

Kyoko「ッ!?だ、誰だッ!」

ほむら「この声は……!」

「遅れてごめんよ。恩人」

ほむら「あなたは……!まさか……!」

ほむら「く……」

ほむら「『呉キリカ』ッ!」

キリカ「YES! I AM!」


眼帯をつけた、黒い魔法少女。

八重歯をニヤリと見せつける、魔法少女。

呉キリカが、参上した。


ほむら「……本物、でしょうね」

キリカ「当たり前でしょーが!証拠は出せないけどね」

Kyoko「む……てめぇ……!」

キリカ「さて、キョーコとか言ったか。君の話は聞かせてもらったよ」

キリカ「正確には、恩人がビービー泣いてる様も見させてもらった」

キリカ「なるほど、スタンドねーって感じだ」

Kyoko「シビル・ウォー!幻覚でキリカを捕らえろ!」

ほむら「く、来る!」

ほむら「呉キリカ!盗み見をしてたなら知っているでしょうけど、幻覚に決して触れてはいけないわ!それがルール!」

キリカ「盗み見って……別に意地悪をしたんじゃあないよ。これは偵察と言うんだ」

キリカ「助言ありがとう。恩人」

キリカ「シビル・ウォーとやらは『捨てたもの』……私が捨てたものか。私が見ている『もの』は私が捨てたと認識しているものなのか」

キリカ「自分のことながらいまいち納得いかないところではあるがそれはさておき」


キリカは周りの状況に全く興味がないとでも言いたげに、

ゆったりとほむらの方を向き、手を差しのばした。


キリカ「恩人。君は今、逃げようとしたね……敵から一歩下がった風に見えた」

ほむら「…………」

キリカ「それじゃあダメなんだ」

キリカ「生かしておいたら、いざって時、土壇場で障害となりうる」

キリカ「つまり……」

キリカ「私は意地でもヤツを殺すことを推奨するッ!前へ進むんだ!」

ほむら「で、でも……」

ほむら「でも呉キリカ!今、私は……!」

キリカ「何の問題もない」



キリカ「恩人。私の手を握るんだ」

Kyoko「……ッ!」

キリカ「ほら、早く」

ほむら「え、えぇ……」

Kyoko「ぼ、亡霊共!早く捕まえ——」


——瞬間。

まどかの幻影の呻き声とKyokoの怒声が途絶えた。

口はゆっくりと動いている。足はじわじわと動いている。

キリカの固有魔法。時間を遅くする魔法。

「ノロマ」な自分を変えるために得た能力。



キリカ「周りの時間を遅くした」

キリカ「そして恩人。君はその時間に対応ができるようにした」

キリカ「『時が遅くなった世界に入門させた』とでも言おうか」

キリカ「さぁ、このままこいつをやってしまおう」

ほむら「……えぇ」

キリカ「立てるかい?」

ほむら「大丈夫……よ」


キリカは「捨てたもの」には目もくれず、ほむらの手を引いた。

ほむらは『まどか』を横目に素直に引かれた。左腕が重い。

スローに動く幻覚を避けつつ、二人はKyokoの側に到達する。


ほむら「呉キリカ」

キリカ「何だい、恩人」

ほむら「その……ありがとう。助かったわ」

キリカ「……やれやれだよ」

キリカ「もう織莉子以外と手を繋ぐことなんざ」

キリカ「一生ないって思ってたのに」

ほむら「……私も家族を除けば手を繋ぐ相手と言ったら、まどかと巴さんくらいよ」

キリカ「私が第三位ってことかい?」

ほむら「猫を含めてもいいのなら四位」

キリカ「ありゃ……銅メダル逃したね」


二人は、シビル・ウォーの本体の側に歩み寄った。

人型のストーン・フリーの射程距離、数メートル範囲。


キリカ「さて……それじゃ、そろそろ終わらせようか」

ほむら「えぇ……」

キリカ「私にはスタンドとかいうものはよくわからないから何とも言えないが……」

キリカ「時間を遅くする魔法はそろそろ解除させてもらうよ。この範囲だけでも結構な燃費がかかるんでね」

ほむら「えぇ、わかったわ」

キリカ「早く早く。これは時間を止めてるわけじゃない。防御の姿勢を取り始めているぞ」

ほむら「……ストーン・フリー」

「オラァァッ!」

ガシャン

Kyoko「——ッ!?」


そして時間は、元の早さに動き出す。

使い魔は自分の胸に手をあてがった。


Kyoko「…………」

Kyoko「そ、そんな……ソウルジェ……ム……」

キリカ「ソウルジェムが破壊されたのに生きているよ?」

ほむら「そうね……」

キリカ「ソウルジェムは破壊されると即死する」

キリカ「……って聞いたのに。その違いがちょっと気になる」

ほむら「こればっかりは『使い魔だから』とでも言ったところかしら……」

キリカ「なるほど……スゲー納得した」


Kyoko「そうか……あたしは……死ぬ、のか……」

Kyoko「だ、だが……結界内で死ねば……」

Kyoko「あたしの、シビル・ウォー……」

Kyoko「結界内で殺されれば……あたしの罪を……おっかぶらせ……」

Kyoko「あたしの……罪……」

Kyoko「あ、ああ……そ、そうだ……!」

Kyoko「ダメだったか……根本的に……ダメじゃねぇか……!」

Kyoko「あたしは……『罪を犯していない』……」

Kyoko「使い魔だから……殺しは生理現象であり、罪悪感が……ない」

ドサァッ

使い魔はその場で倒れた。

前の時間軸の佐倉杏子。

次元を超えて、この時間時にて、二度目の死亡。


そのままKyokoは黒い塵となって消えた。

ほむらとキリカは、その様をただ見ているだけだった。

シビル・ウォーの結界は解除される。

当然、まどかの幻影は消える。

ほむらを束縛していた皮膜も消える。

ストーン・フリーはシビル・ウォーに打ち勝った。

Kyokoが死んだことによって、幻惑魔法、他称メモリー・オブ・ジェットは解かれた。

同時に、空は黒から橙色に置き換わっていた。

丁度、魔女の結界が解かれたらしい。

待合室の遺体はなくなった。全て結界に取り残された。

この病院は、再びいつもと同じ時間が流れ出す。


血まみれの床や弾痕だからの壁はもうなくなっている。

ほむらは時間を停止させ、人目のつかない場所に移動した。

そして、変身を解除する。魂の浄化もついでで行う。

魔法少女の姿は社会には目立ちすぎるのだ。


キリカ「……勝ったね」

ほむら「……えぇ」

キリカ「しかし……ストーン・フリー?それ恩人のセンス?」

ほむら「……私にとっては縁起のいい名前なのよ」

キリカ「別に悪いとは言ってないけど……」

キリカ「ところでケガは平気?」

ほむら「えぇ……大丈夫。どちらかと言えば精神的な消耗の方が大きいわ」

キリカ「グリーフシードはどうせ持ってるだろう?」

ほむら「えぇ……」


ほむら「……呉キリカ。本当によく来てくれたわ……」

ほむら「本当に……。あなたが助けてくれなかったら、私はヤツを殺せなかった」

ほむら「私は逃げていた……結果的にやられていたかもしれない」

キリカ「気にするな恩人」

ほむら「あなたは……強いのね。捨てたものに対して……」

キリカ「私は捨てたものよりも大きいものを奪われたからね」

ほむら「……そう」

ほむら「正直なところ、私は既に自害してこの世にいないとさえ思っていたわ」

キリカ「……うん。まぁね」

キリカ「私……変な『夢』を見たんだよ」

キリカ「夢って言ったけど……頭がぼんやりしてたから本当に夢だったのか、幻覚だったのかイマイチなんだけど」

ほむら「……夢?」


キリカ「織莉子の声が聞こえたんだ……」

キリカ「『キリカ』……って私の名前を呼ぶんだ」

キリカ「その時、私は織莉子がいない世界なら死んでしまおうかとか考えていたんだ」

キリカ「だって、織莉子はいつだって頼りになったし……」

キリカ「大好きな織莉子の決断なら、私は何をするにも勇気が湧いて、やれるって気になれたんだ」

キリカ「そしたら、織莉子は……『あなたが決めなさい』って言うんだよ……」

キリカ「『キリカ……行き先を決めるのは、あなた』ってね」

キリカ「私……少し考えて」

キリカ「『恩人のとこに行こう』って思ったら、声が聞こえなくなった……とてもさびしい夢だったよ」

ほむら「夢で……美国織莉子を……?」

キリカ「うん……と、言っても所詮は私の死にたくないって願望に過ぎないんだろーけどね」


キリカ「とにかく、私にしたあの時の交渉、乗ることにした」

キリカ「君が守りたいという友達を、私も手を貸そう」

キリカ「契約をさせないという条件付きでね」

キリカ「生き甲斐を失ったから、殺されるまで君のために生きる」

キリカ「君の友達とやらの護衛を引き受けてやれるよ。私は」

ほむら「……」

キリカ「そ、そりゃまぁ彼女を殺そうとは考えてた身分だけれども……」

ほむら「……歓迎するわ」

キリカ「そりゃどうも」

ほむら「それよりも……早く行かないと」

キリカ「ん、どこに?」


ほむら「美樹さやかがこの結界に巻き込まれたのよ」

ほむら「それに、巴さんも既に来てるかも」

ほむら「魔女を探して使い魔と対峙したから見かけることはなかっ……」

キリカ「…………」

ほむら「……呉キリカ?」

キリカ「恩人……合流する前に話しておくことがある」

ほむら「……何?」

キリカ「まぁ結界が解けたんだから落ち着こうよ」

キリカ「BADニュースとWORSEニュースがある。どっちから聞く?」

ほむら「…………」


ほむら「……悪い方から」

キリカ「美樹さやかが契約した」

ほむら「……ッ!」

キリカ「君を捜していたら、おぼつかない足でうろうろしてたんでね」

キリカ「事情を少し聞いて、グリーフシードを一個あげて結界から出るよう避難させたんだけど……」

キリカ「願い事は『治して』だそうだ。だから傷を癒す魔法が使えるようになった」

キリカ「爆発に巻き込まれたかのような傷跡があったけど……」

ほむら(爆発……)

ほむら(キラー……クイーン)

ほむら(……そんな)


……さやかの契約を防ぐことができなかったのか。

上条恭介の病室をうろ覚えではあったが知らないわけではなかった。

しかし、私は……。

まどかの「さやかを助ける」という約束を差し置いて、魔女を探してしまった。

その結果として、全速力で走るYumaを見かけて、追ってしまった。

間に合わなかったのだ。これは……完全な失態だ。

あの時は『魔女を倒せさえすれば全て丸く収まる』としか考えていなかった。


ほむら(美樹さやか……)

ほむら「…………」

ほむら(私のせいだ……)

ほむら(認識があまりにも甘すぎた)

ほむら(私は……!)

キリカ「さて、より悪いニュースの方なんだけど……」

ほむら「……?」

キリカ「…………」

ほむら「……うっ」


キリカの表情を見て、ほむらは吐き気を催した。

腹の底からわき上がるような「嫌な感覚」が胃を押し上げた。

ほむらの後悔は、立て続けにのしかかる。


キリカ「君の先輩とやら……マミだっけ、彼女も死んだ」

ほむら「……っ」

ほむら「巴さん……が……」

キリカ「さやかと同様、佐倉杏子に出会ってね……」

キリカ「聞いた話では、彼女を庇って死んだらしい」

キリカ「恩人のとこに辿り着く前にちょいと遺体を確認していたんだが……酷い有様だった」

キリカ「惨死体よりも行方不明ということにしておいた方がいいと思って、敢えて放置した」

キリカ「結界が消えて、彼女も消えたということさ」

ほむら「…………」

キリカ「死んだってことは、葬儀に出なきゃならないだろう。冷酷な発想だが、時間が勿体ない」

ほむら「……そう、ね」

ほむら「その通りだわ……」


いざという時は、見捨てる。

そういう意識があった。

それはあくまでも、いざという時。

美樹さやかのように、救おうと思えば救えた状況で無視することとは違う。

魔女を倒せば全てが終わると先走ることとは違う。

少しでも冷静になっていれば、

美樹さやかを助け出すことができただろうし、

巴さんと合流だってできたに違いない。合流していれば、死なせるなんてことはあり得なかったはずだ。

……何でこんな結果になるような行動を、私はとってしまっていたのか。

今になって思えば、こういうことも予測できたはずだった。


行動をしている時には気付かないのに、行動を終えた時に気付いてしまう。

ほむらは、自分の頭の働かなさに嫌気が差した。


——二人は病院から外へ出た。


ほむらは内心、外に出たくなかった。

さやかを魔法少女にしてしまったのは自分のようなもの。

マミを死なせてしまったのは自分のせいと言っても言い返せない。

まどかに会わす顔がない。

さやかにかける言葉がない。

杏子に触れる勇気がない。


その三人は、病院から少し離れた公園にいた。

外は暗くなりつつあった。この三人以外、この公園に人はいない。

三人はそれぞれの思いの内に苦しんでいた。


まどか「酷いよ……あんまりだよ……!」

まどか「うぅ……うあああぁ……!ヒグッ……エグッ……うぅ」

杏子「…………」

さやか「マミさんまで……そんな……」


さやかが結界から脱出した時、まどかはまず喜んだ。

そしてさやかが契約してしまったことと、

幼なじみが死んでしまったことを、まどかは聞かされた。

次いで、佐倉杏子が結界から脱出した。

悲しみに暮れる二人に、杏子は追い打ちのように、

マミの死を伝えた。

さやかのような性格では「杏子が殺した」と決めつけてもおかしくはない。

しかし、その杏子の声は震えていた。二人は事情を悟った。

まどかはますます泣いてしまった。

さやかは悔しかがった。


そこに、ほむらとキリカが現れる。


ほむら「……まどか」

まどか「……ほむらちゃん」

まどか「うぅ……ほむらちゃぁん……」

まどか「グスッ……」

まどか「ほむらぢゃぁぁぁぁん!」

まどか「うああああぁぁぁ……!ああぁぁぁ……!」


ほむらの姿を見つけた途端、まどかはほむらに飛びついた。

胸に顔を押しつけ、腕を背中に回し抱きしめ、大声で泣いた。

ほむらは、悲しんでいるまどかを身近に感じ、ますます悔しくなった。

自分の浅はかな考え方のせい。

さやかも恭介も救えていた。マミも合流していれば死なずに済んだはずだった。

急がなければよかった。


ほむら「……ごめんなさい」

ほむら「……ごめんね。まどか」

ほむら「私……美樹さやかを助けられなかった」

ほむら「巴さんを……犠牲にしてしまった」

まどか「あ゙あ゙あ゙あぁぁ……!うあああ……!」

まどか「うぅぅ……グスッ、ひぐっ、えぐ……!」


キリカ「えー、と……」

さやか「…………」

杏子「…………」

キリカ「グリーフシード……使い切ったなら、私に渡して」

さやか「……はい」

キリカ「……ん」


ほむら(巴さんが……犠牲になってしまった)

ほむら(いざという時には見捨てると誓っていた)

ほむら(魔女になるくらいなら死なれた方がマシ……とまで、かつては思っていた)

ほむら(感傷は敵……だから……そう、思っていた……見捨てなければならないって……)

ほむら(だけど……私は……)

ほむら(私は……!)

ほむら「…………」

ほむら(悔いるのは、やめよう……)

ほむら(…………佐倉杏子、呉キリカ、そして美樹さやか)

ほむら(……四人いる)

ほむら(そして何より私には……スタンド……ストーン・フリーがいる)

ほむら(ワルプルギスの夜を越えるに……十分可能性がある)



——辺りはすっかり暗くなっていた。


まどかは泣き疲れて眠ってしまった。

まどかはほむらの袖を掴んで離さなかった。

仕方なくほむらの膝を枕にベンチで横にさせた。

さやかと杏子はずっと黙りっぱなしだった。

何を考えているのか、想像する気にもなれない。


キリカ「……恩人。まどかは完全に寝たかな」

ほむら「えぇ……」

キリカ「まどかには刺激が強いんで、その方がありがたい」

ほむら「……?」


キリカはケータイを取り出した。

さやかと杏子は、それに興味を引いたのか、キリカの元に歩み寄った。


ほむら「刺激が強い?」

キリカ「うん……実は、気になることがあるんだ」

キリカ「マミの遺体を写メったんだ」

さやか「なっ……」

杏子「……ッ!」

ほむら「巴さんの……遺体?」

杏子「オイ!テメェ……!」

さやか「マミさんの遺体をそんな……!」

ほむら「……二人とも。静かにして……まどかが起きるわ」


さやか「……っ」

杏子「……チッ」

キリカ「…………」

キリカ「……いいかな」

キリカ「恩人。これを見て」

ほむら「…………」

ほむら「これは……」


液晶に写っていたのは、今やこの世界に存在しないマミの遺体そのものだった。

画面は赤と黄色と白の三色で構成されているようなものだった。

その顔が安らかに見えたのは、都合の良すぎる見方だとほむらは心の中で改める。


キリカ「……手首を見てくれ」

ほむら「……手首」

キリカ「これがズームした写真」


赤い絵の具を塗りたくったように真っ赤に濡れている。

どんな攻撃をくらえばこれだけ赤一色になるのか……。

痕跡はMamiのスタンドの推測材料となる。

今の状態ではスタンドの実像は全く想像がつかない。

……そして、マミの手首は『切断』されていた。

指が千切れていたり、肩がもげているというような状態ではない。

それなのに、手首がスッパリと切れているのは、明らかに浮いている。


ほむら「この手についている傷で切断されたものとしては……断面が綺麗すぎる」

ほむら「つまりこれは……『別の要因』で切断された」

キリカ「恩人は察しがいいな」

ほむら「つまり……この手は……」


ほむら「巴さんがリボンを使って……自分で断った」

キリカ「そうなるんだろうね」

ほむら「巴さんが『自ら手首を斬り落とす』だなんて……」

ほむら「これは……敵スタンドのヒントなのか……」

ほむら「あるいは……何かの『メッセージ』……?」

ほむら「…………」

ほむら「呉キリカ。画像を転送して」

キリカ「わかった……赤外線で?」

ほむら「今後のこともある……メールアドレスを教えるから、メールに添付して」

キリカ「アイアイサー」


ほむらがカバンからケータイを取り出した時、

今最も聞きたくない声が聞こえた。


「マミが死ぬなんて……よっぽどの魔女のようだね」

さやか「……キュゥべえ」

杏子「…………」

キリカ「しろまる……」

QB「いや、正確には使い魔か」

QB「今までに前例がないよ。魔法少女と全く同じ姿をした使い魔だなんてね」

ほむら「…………」

杏子「おい、キュゥべえ。あの魔女は……」

杏子「あいつは何なんだよ……!」

杏子「あの魔女は、使い魔は、何がどうなっているんだよ……!」


QB「僕にもわからないと言ったじゃないか」

QB「……ただ、調査をして最近わかったことがある」

QB「あの魔女は『ある魔法少女が魔女になったもの』だ」

杏子「……は?」

さやか「……え?」

ほむら「……ッ!」

QB「ほむら。君は彼女に会ったことがあったようだね」

QB「M市に住んでいる魔法少女のことだよ」

QB「しかし、彼女は他の魔法少女のテリトリーに侵入するようなことはしないはずなんだけど……」

ほむら(……!あの……魔法少女……?)


スタンドの存在を確認しにいった……指標として活用したM市の魔法少女。

首に切り傷があり、前の時間軸では水を熱湯にするスタンド使い。

何を考えているのかいまいちつかめない、少し背伸びをする性格の少女。


ほむら(あの魔法少女が……)

ほむら(彼女がアーノルドになったって……!?)

ほむら(確かに……彼女は、引力の魔女レイミになるかもしれなかった魔法少女の知り合いだ)

ほむら(スタンドを作りだした魔女の、生前の知り合いなら……)

ほむら(もしかしたら……スタンドのある魔女もあり得ない話ではないのかもしれない……)

キリカ「……しろまる。今すぐこっから失せてもらいたい」

QB「……聞かれたから答えたのに、人間はいつもそうだ……」

QB「わけがわからないよ……」


QBは闇に溶けるように消えた。

さやかは聞き間違いかと思っていた。

杏子は比喩的な表現かと思っていた。



杏子「……おい、どういうことだ」

さやか「い、今……キュゥべえが言ったのって……転校生……?」

ほむら「…………」

杏子「お、おい……黙るな。言え……ヤツは、どういう意図があってそんなことを言った!?」

さやか「転校生!まさか、違うよね……!?魔法少女って……もっと良い物だよね……?」

ほむら「…………」

キリカ「……恩人、もう時間がないと呉キリカは考える」

キリカ「ここは、もう教えてやるべきだ」

キリカ「魔法少女の真実を」

ほむら「…………」

さやか「魔法少女の……」

杏子「……真実、だと?」


ほむら「し、しかし……」

ほむら「いくらなんでも……早すぎるわ……!」

ほむら「美樹さやかは魔法少女になってまだ数時間も……」

キリカ「私は知っているからまだいいが、二人に教えておくに越したことはない」

キリカ「既に一人逝ったんだ。もしそういう時が起きてしまった際、混乱が起きる」

キリカ「起こりうるんだよ。実際に……」

キリカ「さやかだって、私がグリーフシードをあげてなかったら……」

キリカ「私だって、恩人にグリーフシードを貰っていなかったら……」

さやか「キリカさん……あたし、どうなってたっつーんですか……!?」

杏子「ほむら……今すぐに教えろ……!どういう意味だ……!何故、何故そんな辛そうな顔をするんだ……!」

ほむら「……っ」


「……わたしにも、教えて」

ほむら「!」

ほむら「ま、まどか……!起きていたの……?」

まどか「うん……キュゥべえが来た時に……」

まどか「ほむらちゃん……魔法少女の真実って、何?」

キリカ「……もう、逃げることはできない」

さやか「転校生……!」

杏子「…………」

ほむら「……わかったわ」

ほむら「……みんな。落ち着いて聞いて」

ほむら「ソウルジェムが穢れきると、魔法少女は——」


ほむらは話すことにした。

魔法少女の残酷な真実。

それを知って、さやかと杏子がどうなってしまうのか。

こればかりは、二人に託すしか他ない。

魂のない肉体、魔女になりうる魂。

最悪、キリカと二人だけで戦うようなことになったとしても、

杏子が絶望して魔女になり襲われるようなことがあっても、

助けてくれなかったとさやかから憎悪の対象にされようとも、

そういうことになる覚悟はできている。

せめて、まどかが契約をしないと思うようになればせめてもの幸いである。



——この世界のどこでもあり、否なる場所。


魔女の暮らす異空間。

世界の狭間。

ジシバリの魔女アーノルドの結界は、過去の土地をコピーする。

自身というものが存在していないのか、

アーノルドらしさが、この世界にはない。闇、無の空間。

背景のない世界で、その主は持ち込まれた「食糧」を食べている。

そこから少し離れた場所に、アーノルドの使い魔群、ヴェルサスがいる。

もたれ掛かる壁がなければ肘を置けるインテリアもない。

暗闇の世界で、Yuma、Mami、Kirikaが輪をつくって地べたに座り込んでいる。

今日の戦果を報告し合っている。


Yuma「あ〜あ……」

Yuma「なんだ……Kyoko死んじゃったんだぁ」

Mami「残念ながらね」

Kirika「シビル・ウォーは強いスタンドだが……弱体化してしまった以上仕方がない」

Yuma「それなりに悲しいけど、Yumaにはまだ、お姉ちゃんがいるし……いつまでも悲しんでちゃあいけない」

Mami「その通りよ。Yumaちゃん。よく言ったわ。偉いねぇ〜」

Yuma「だからKirikaお姉ちゃんも恋人を殺されたからっていつまでも泣いてちゃダメだよ」

Kirika「あー、うん。そりゃまぁわかってんだけど……」

Mami「それにしたって、情けないわねぇ」

Yuma「Kirikaお姉ちゃんの『チーム』はもう二人も脱落しちゃったよ」

Kirika「ぐぬぬ……」


Yuma「『追加』する?一人になっちゃったよ?」

Kirika「いや……いいよ。私のクリームは正直単独の方がやりやすい」

Mami「強がりね」

Kirika「違わぁい」

Yuma「じゃあ追加は『Sayaka』のになるね。元々欲しがってたから」

Kirika「好きにしなよ」

Mami「片割れがスタンド使いとは言え、同じ人間にやられたってのはメンツ丸つぶれよね。本当に大丈夫?」

Kirika「大丈夫だってばさぁ、ほむらも『私』もどうにでもなるって」

Mami「ところで、そろそろ『出産』に立ち合いましょうか」

Kirika「うん」

Yuma「わくわくぅ」



現段階で産まれている同使い魔、ヴェルサスの中に『あるゲーム』をしている小集団がいる。

Oriko、Kirika、Kyoko。対するは、Mami、Yuma、Sayaka。

前の時間軸、概念として対立した間柄。

前の時間軸に関わった概念を多く滅ぼした方のチームの勝ち。

Orikoのチームは美国織莉子と巴マミを殺害した。

Mamiのチームは千歳ゆまと上条恭介を殺害した。

現在同点ではあるが、Orikoのチームは既にKirika以外が脱落している。

『追加』とは、アーノルドが食事を終えて新たに産む使い魔。

その概念はMamiのチームに加入させられる。


シビル・ウォー 本体:Kyoko

破壊力−なし スピード−C 射程距離−B
持続力−A  精密動作性−C 成長性−D

過去に「捨てたもの」を支配する空間を創造する能力。その性質は「浄罪」
「捨てたもの」の幻覚を見せつける。その幻覚は相手に直接襲いかかる。
図書室や廃教会等の屋内に「結界」を設定し、その結界に入り込んだ相手に作用する。
結界内で本体が殺された場合、殺した相手に「捨てたもの」を押しつけて生き返るという能力もある。
しかしKyokoは使い魔なので、罪悪感というものがない。
故に押しつける罪も清める罪もないため、罪を押しつけることはできず、殺されると死ぬ。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


今日はここまで。お疲れさまでした。
ストーン・フリー覚醒です。やったね!本体よりも胸があるよ!
あとマミさん好きの人ごめんなさい。惜しい人を亡くしました。まだ四話なのに
ネタバレになりますが(個人的な観点で)ハッピーエンドになる予定なんで許してください!何でもしますから!

今更言うのもなんですが、波紋と鉄球はジョジョの空気をメインにしてたけど、スタンド編はまどかの空気がメイン……というのを意識してます
そのコンセプトでこれっていうのも色々とアレな気はいたしますが
いやぁ、ほむらの行動……改めて見るとブチャラティがアバッキオを一人置いて離れた並にもやもやですねぇ……

ちなみにシビル・ウォー戦でキリカが捨てたものってのは、別に何を意識したというのもありません。
織莉子なり親なりきらマギに出てきたえりか(?)なり、フリーにご想像ください


深夜のテンションついでで余計なこと書いておきます。
自演だとかステマだとかは今更過ぎるんで別にどうでもいいことではありますが、
そういったことはしていないと一応は弁明しておきます。元々安定してレスいただいてますからする意味もないですし
まぁどうせ匿名掲示板なんで信じない人は信じないことですが


#21『私達、親友だったんだよ』



『ストーン・フリー』


糸の形の時は遠い距離まで行ける……。

でも力が弱く、ダメージも受けやすい……。

立体になり固まれば……力も集中して強くなる。

しかし、逆に距離はせいぜい……二メートル。

この「ストーン・フリー」で鉄板を破れるか?

いや、それは不可能だった。

コンクリートブロックを殴り砕く程度はできる。

突如発現した私の『精神のエネルギー』


まず把握しなくては……能力の汎用性を……。


昨日——病院に生じた結界へ行く前のこと。

美国邸に警察の人間が入っていったのを見かけた。

織莉子が行方不明になったことが、ようやく世間に認知されたようだ。

やっと、だ。今更だ。警察をのろまだのなんだの非難するつもりはない。

数日経ってやっと織莉子の失踪が社会に知れたということは、

逆に言えば白百合女子中学校の連中は今日の今日まで

誰も織莉子の無断欠席を不審に思わなかったということになるからだ。

電話くらいはしただろう。当然留守番電話だ。

それを踏まえてやっと織莉子がこの世からいなくなったという事実へ踏み込んだ。

……織莉子の父親は、政治家だった。

それも人徳があり、尊敬される人物だったそうだ。

その娘である織莉子もまた、敬われた。

しかしそれは、父親が政治家だったからに過ぎなかった。


織莉子の父親は不祥事をやらかして自殺した。

同時に織莉子の評価も地に落ちた。手の平返し。

周りの人間は織莉子の父親の影しか見ていなかったんだ。

汚職議員の娘という肩書きが汚らわしく見えたのだろう、

だから発見が遅れたんだと思う。関心がなくなったんだ。

クラスメートも教師も……織莉子から目を逸らしたんだ。

……織莉子の遺伝子の半分は彼のもの。

過去のことだということもあるし、そんなことをした織莉子の半分を軽蔑する気はない。

非難すべきは、織莉子を見捨てたヤツらだ。

一人暮らしの女子生徒の数日に渡る音信不通を不審に思わない薄情者共だ。

美国議員の娘の失踪がニュースになってマスコミ連中が来たら、

そういうヤツらはぬけぬけと都合の良いことを抜かすんだろう。腹立たしい。


私は違う。

私は織莉子の人間性に惚れ込んだんだ。

織莉子はこんな私に優しくしてくれた。

私を必要としてくれた。頼りにしてくれた。

私の心は織莉子という天使、いや、女神と出会って生まれ変わったんだ。

……いや、生き返ったと言ってもいい。それまでの私の心は死んでいた。

私こそが織莉子の最愛の人になれる。

織莉子を愛する資格を持つ。

そう思っていた。

だから私の味覚も嗅覚も、織莉子が一番なんだ。


キリカ「恩人には悪いけど……」

キリカ「織莉子のじゃないと、こんなに美味しくない」


織莉子の家にはもう行けない。家にはいたくない。学校へは端から行く気がない。

キリカは今、家出のような形でほむらの家に居候をしている。

こぢんまりとしたアパートの一室。

作り置きの食事が小さなちゃぶ台に置かれている。

料理は上手だが、味覚が合わない。

キリカは昼食を横目にごろりと畳に寝転がる。

床の隅に銃弾が一個転がっていた。

「完璧に見えてどこか抜けている」

一夜ほむらと過ごして感じた内面。


キリカ「恩人は学校へ行ったけど……」

キリカ「昨日の今日で、まどかやさやかは大丈夫なんだろうか」

キリカ「……キョースケっていうのも行方不明になったんだっけか」

キリカ「一人暮らしの織莉子やマミと違って彼は入院患者だ……いなくなったことがわからないということはなかろう」

キリカ「誘拐されたとか、そんな話になるのかな?学校の対応としては……生徒を不安がらせないために、内密にするんだろうか」

キリカ「相談中って、とこだろうか……」

キリカ「……あぁ、落ち着かない」

キリカ「おつかいにでも行こうかな」


キリカは食べかけの食事にラップをして冷蔵庫へ入れた。

居候先の家主から託されたメモと財布。居候として暮らす上の義務を果たすべく、

キリカはそれらと合い鍵を持ち、外出することにした。

そしてふと、最近の天気は晴ればっかりだなと思った。


見滝原中学校は、いつも通りであった。

毎日の通り、仁美は温厚な微笑みと共に丁寧に挨拶をした。

担当教諭の和子は何やら浮かない表情をしていたが、普段通りだった。

今日、さやかは学校を体調不良により欠席した。

まどかは欠席さえしなかったものの、一日中魂が抜け出たかのような沈んだ表情をしていた。

仁美やクラスメート、教師はその様子を心配に思ったが、

まどかは力無く微笑み、大丈夫と言った。

事情を知っているほむらにしてみれば、

その弱々しい笑顔はとてもいじらしい。

ほむらはなるべく、普段通りを振る舞った。

まどかを気にしている内に放課後になっていた。

幸か不幸か、マミと恭介がこの世から消えたということは今のところ誰も知らない。


ほむら「……まどか。大丈夫?」

まどか「うん……大丈夫だよ」

ほむら「…………」

ほむら「……美樹さやかのことが心配なのね」

まどか「…………」

ほむら「……無理もないわ」

ほむら「…………」

仁美「まどかさん。ほむらさん」

ほむら「志筑仁美……」

まどか「……仁美ちゃん」

仁美「……あの、つかぬ事を聞くんですが……」


仁美「さやかさん、メールアドレスを変えたりしてましたか?」

まどか「ううん、してないよ」

ほむら「……どうかしたの?」

仁美「メールを送っても返信がないんですよ」

仁美「明日のことで連絡したいことがあるのに……」

まどか「返事が来ない……?」

仁美「えぇ」

ほむら「そう、返事が……」

ほむら「後でこっちの方でも連絡してみるわ」

ほむら「繋がり次第、あなたに連絡をするように伝えておく」

仁美「すみません。助かります」


仁美「それじゃあ、私は今日もお稽古があるんで」

まどか「……うん」

ほむら「いつも大変ね」

仁美「いえいえ」

仁美「ところで……今日もお二方は『マミさん』のところに行きますの?」

まどか「……ッ!」

ほむら「…………」

仁美「私はなかなか機会がなくてお会いしたことありませんが……」

仁美「いつか私にもマミさんを紹介してくださいね」

まどか「…………」

仁美「……まどかさん?ど、どうかなさいました?」


まどか「……ごめん。わたし、先帰るね」

仁美「え?あ、はぁ……」

ほむら「まどか……」

まどか「また明日ね」

仁美「え、えぇ……」

仁美「今日のまどかさん、どうかしたのでしょうか……?」

仁美「もしかして……『あの日』だったとか……」

ほむら「…………」

ほむら(……巴さんのことを知らないのだから、仕方がないわね)

ほむら「志筑仁美……その……何と言えばいいのか……」

仁美「?」


ほむら「その、まどかとさやかは今……巴さんとケンカをしているの」

仁美「そ、そうだったんですか……?」

ほむら(嘘をついた……でもこのくらいの嘘許されるはず)

ほむら(……それに魔法少女のことを喋る訳にはいかない)

ほむら「だから……二人のことを思うなら、放っておいてあげて」

ほむら「話題に出すなというのもなんだけど……理解して」

仁美「さやかさんも……ですか」

仁美「それなら私……まどかさんに気まずいことを言って……」

ほむら「仕方ないわ。知らなかったのだし……言わなかった私にも落ち度がある」

仁美「…………」

ほむら「これから習い事だというのに後味の悪い思いをさせてごめんなさい」

仁美「い、いえ……ほむらさんが謝ることなんて……!」


仁美「…………」

仁美「……ほむらさん」

ほむら「……何かしら」

仁美「その……」

仁美「変なことを聞くようですが……」

ほむら「?」

仁美「……ほむらさんも、無理してませんか?」

ほむら「……え?」

仁美「私、まだあなたのことあまり存じませんが……」

仁美「何となく……思うんです。ほむらさんも、巴さんと……?」

ほむら「……私は大丈夫よ。何の問題もないわ」


仁美「そう……ですか。ならいいんですが……」

仁美「えっと……それじゃあ、私はそろそろ」

ほむら「えぇ」

仁美「それでは、また明日……まどかさんを、よろしくお願いしますね」

ほむら「……えぇ、さようなら」

ほむら「…………」

ほむら(無理してないか、か……)


志筑仁美……。

元々気遣いができる優しい人ではあるけど、まさか彼女に心配されるなんてね。

この時間軸での巴さんは初対面なのに無理してるとか言われたけど……。

そんなにもわかりやすいのかしら。私は。


志筑仁美もまた……美樹さやかと同じく、上条恭介に恋心を抱いている。

きっと、この時間軸でもそうだろう。

恋敵であるはずの美樹さやかを気遣い、その好意を隠す、

正々堂々、芯の通った性格をしている。

しかし……何にしても彼の死をいつか知らされることになる。

大きなショックを受けることになるだろう。

思いを伝えられないまま好きな人を亡くしてしまうなんて……

恋愛にトラウマを抱くなんてことがなければいいが……


ほむら「…………」

ほむら(さて……どうしたものか)


ほむら(美樹さやか……)

ほむら(ケータイの電源を切っているのか、家に置きっぱなしなのか)

ほむら(家に引きこもっているというのは考えにくい)

ほむら(彼女を捜すべきか?)

ほむら(しかし佐倉杏子の様子も気になる)

ほむら(呉キリカにも同行してもらおう)

ほむら(何にしてもまずは一度家に帰らなければならない)

ほむら(まどかを追いかけた方がいいだろうか……)

ほむら(でも……一人にさせた方がいい時というのもある)

ほむら(魔女になるということを知ってる以上……契約することはないだろうけど……)



頭が働かない。


体から力を感じない。体重すら感じない。

まるで関節部分が糸で吊された、操り人形のような気持ちだった。

昨日、マミという尊敬する先輩、恭介という友人の死を突きつけられた。

昨夜、魔法少女という存在の真実を知った。

その時の幼なじみの失意の表情は、見ていてとても辛かった。

友達が「そんな存在」になった。

友達が「そんな存在」だった。

昨日から、喪失感が心を締めつける。

果たしてどれだけ涙を流したことか、記憶にない。

気が付けば朝だった。


やっと泣かずに家族と会話できるようまで、その感情を抑えられるようになったにもかかわらず、

仁美にマミの名前を出され、逃げるように行ってしまった。

再びわんわんと泣きかねなかったのだ。

そして呑気にもマミという名を出した仁美が、心のどこかで憎らしく思ってしまった。

事情を知らないのだから当然なのに、

気を使わせてしまい、そんなことを思ってしまい、

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「君も僕のことを恨んでいるのかな?」

まどか「…………」


力無く歩むその足下を、いつの間にか並行していたキュゥべえは言う。

可愛らしい小動物に思っていた「それ」も、

末恐ろしい悪魔の使いのように思えた。


昨夜、ほむらから聞いた魔法少女の悲しい真実。

魔法少女の魂はソウルジェム。体を抜け殻にされる。

そして、そのソウルジェムが穢れきると魂は魔女となる。

そのことを内密にし、騙すようにして「搾取」しようとした。

もっともキュゥベえ自身には、人を騙しているという自覚がない。


まどか「……あなたを恨んだら、さやかちゃんを元に戻してくれる?」

QB「それは無理だね」

まどか「…………」


期待はしていない。

するだけ無駄であるという実感がある。

無駄なことをする気力はない。


まどか「……ねえ」

QB「何かな」

まどか「いつか言ってた、わたしがすごい魔法少女になれるって話……」

まどか「あれは本当なの?」


マミと出会い、そしてキュゥべえと会った日。

その時にキュゥべえは話していた。

まどかには素晴らしい、魔法少女の素質を内包している。

さやかを差し置いてまどかの素質を誉めていた。

そのためさやかは拗ねていた。

あの時は、戸惑いと誇り高い気持ちと照れがあった。

あの時は、魔法少女がどんな職業よりも素敵なものだと思っていた。


QB「すごいなんていうのは控えめな表現だ。君は途方もない魔法少女になるよ」

まどか「どうして、わたしなんかが……」

QB「僕にも分からないが……君の潜在能力は、理論的にはあり得ない規模のものだ」

QB「君が力を開放すれば奇跡を起こすどころか、宇宙の法則をねじ曲げることだって可能だろう」

QB「何故君一人だけが、それほどの素質を備えているのか……」

QB「理由は未だにわからない」


あり得ない程の潜在能力……。

……もし、わたしが魔法少女になって、それで魔女になったらどうなるんだろう。

キュゥべえに聞けば、きっと答えてくれる。

でも……さらっと「日本を滅ぼしかねない」とか言われたら反応ができなくなっちゃう。


まどか「……わたしは自分なんて何の取り柄もない人間だと思ってた」

まどか「ずっとこのまま誰のためになることも何の役に立つこともできずに……」

まどか「最後までただ何となく生きていくだけなのかなって」

まどか「それは悔しいし寂しいことだけど、でも仕方ないよねって思ってたの」

QB「現実は随分と違ったね」

QB「まどか。君が望むなら全てなかったことにできるよ」

まどか「……なかったこと?」

QB「そう。なかったこと……時間を巻き戻すという意味ではない」

QB「契約なら、さやかの体を元に戻すこともできる」

まどか「……っ」

QB「それだけじゃないよ」


QB「肉体は既に存在しないが、マミやさやかの幼なじみだという上条恭介という少年を生き返らせることだってできる」

QB「君がその気になればだけれど……」

QB「キリカの親友である美国織莉子という人物、杏子と行動を共にしていた千歳ゆまという人物を生き返らせたってお釣りが出るくらいだ」

QB「逆を言えば君でないと取り戻せない。取り戻すに顔を知らなくたって構わない」

まどか「…………」


美国織莉子さん……。

キリカさんにとって、この世の誰よりも大切だという人。

千歳ゆまちゃん……。

ご両親が魔女に殺されて、杏子ちゃんがお世話をしていたという子ども。

わたしなら、その二人を取り戻せる。

さやかちゃんの魂も、マミさんも、上条くんも、大勢の命も、

わたしが魔法少女になれば……。


まどか「……わたしなら、できるの?」

QB「と言うと?」

まどか「わたしがあなたと契約したら、さやかちゃんの体を元に戻せる?」

まどか「マミさんも、上条くんも、織莉子さんもゆまちゃんも取り戻せる?」

QB「その願いは君にとって、魂を差し出すに足る物かい?」

まどか(わたしが願えば、みんな……)

まどか(みんな、笑顔になれるんだ)

まどか(わたしごときの命で……)

まどか(わたしが願うことでみんな……取り戻せる)

まどか「それなら……わたし……」


「その必要はないわ」


聞き慣れた声がした。

そして同時に、視界の隅に何かが横切った。吹き飛んでいった。

まずは「それ」を確認する。

ゴミ捨て場に放置されていた継ぎ接ぎだらけの人形のような物体。

まどかはそれが何かを知っている。初見で理解できる。

使い魔。

魔女が産む、配下のようなもの。

次に、声のした方を見た。

黒い長髪が揺れ、凛とした目と目が合った。


まどか「ほむらちゃん……?」

ほむら「…………」


ほむら「呉キリカ。まどかは任せるわ」

キリカ「はいよ。恩人」


ほむらの隣にいたのは、眼帯をした黒い魔法少女、キリカだった。

キリカはまどかの横に移動した。

ほむらは振り返り駆けていった。


まどか「え……」

キリカ「怪我はないかい?まどか」

まどか「あ、は、はい……」

キリカ「私から離れるなよ……使い魔が狙ってるからな」

まどか「使い魔……」

まどか「……!」


気が付かなかった。

自分が今いる場所。

空が空でない。

屋内のようで、屋外のようでもある。

歪な形のオブジェが点在している。

無造作に選んだペンキをブチ撒けたかのような色彩感覚。

『魔女の結界』だった。

ほむらが駆けていったのは、魔女の方だった。

ほむらの体が人形に見える程の大型の魔女。

もしかしたら「これ」は、かつて魔法少女だったのかもしれない。

マミのような「いい人」が絶望した姿なのかもしれない。

目を背けたくなる。


キリカ「まどか……目を背けちゃダメだよ」

キリカ「恩人の戦いを見るんだ」

まどか「…………」

キリカ「君がマミから魔法少女ってのがどんなものだと教えられたのかは知らないが……」

キリカ「これが魔法少女だ」

キリカ「そして宿命なんだ」

まどか「宿、命……」

キリカ「……いや、今の君に言っても仕方がないか」

まどか「……?」


キリカは、象の何倍もの大きさの魔女を指さした。

ほむらの華奢な体は、大きな異物に立ち向かっている。


趣味の悪いオブジェとオブジェを、ほむらはタン、タン、と飛び移る。

跳躍力——現在、4m22

魔女への接近を妨げようと、羽根のような突起が生えた使い魔が飛び、向かってくる。

ほむらの跳躍の軌道上に重なってきた。


ほむら「……退きなさい」

ほむら「ストーン・フリー!」


空中でほむらは体幹をひねり、回転と共に腕を突き出す。

ほむらの右腕に半透明の像が浮上し、二本の右腕が使い魔に迫る。

ドグシァッ!

精神力で生成された糸の塊は、虫を払うように何てこともなく使い魔を殴り飛ばした。

ストーン・フリーのパワーであれば一撃で葬れる。


しかし、使い魔を殲滅させるつもりはない。

魔女を急いで倒さなければならない。


ほむら「この魔女……!」

ほむら「よくも『こんな状態』のまどかを狙ってくれたわね」

ほむら「……一気に片をつける」

カチリ

一刻も早く、魔女を葬らなければならないことには変わらないが、

スタンドの経験値を得るためにも銃器は使わない。

遠距離攻撃主体から、近距離攻撃のみの転換。

ストーン・フリーにパワーを備えさせるには、射程距離を犠牲にしなければならない。

しかし、射程距離が短いというのであれば、時間を止めて接近すれば何も問題はない。


——時間停止と近距離武器。

この組み合わせで思うこと。

かつて二人の魔法少女に時間停止の魔法を披露した時のこと。

ゴルフクラブでドラム缶を殴り、近距離武器との相性の悪さを指摘された。

時間停止の使用者が鈍くさかったということもある。

物理で殴るよりも、爆弾を仕掛け爆破させる方が圧倒的に強い。

また、時間停止をしている間、物体は殴る瞬間だけ、その魔法の影響を受けないという特徴がある。

つまり触れた一瞬だけ時間停止の世界に相手を入門させてしまう。

機械操作の技術のように、訓練次第ではその辺りの調節が後付けで、

いつかできるようになるかもしれない。

少なくとも今はできない。

それが時間停止魔法の弱点。


——ほむらの背後から、半透明の人型のヴィジョンが出る。

糸の塊。ストーン・フリーの近距離パワー型のフォルム。


ほむら「射程距離……二メートルに入った」

ほむら「ストーン・フリー!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


ストーン・フリーは勇ましい声をあげながら、

拳の高速ラッシュを叩き込む。

スタンドで触れても、魔女は時間の止まった世界に一瞬だけ片足を入れさせてしまう。

しかし、行動の隙は与えない。

結果的に、いつの間にか近寄られ為す術なくタコ殴りにされる。

至高の戦法。


ただし、アーノルドの使い魔の総称、ヴェルサスはほむらのことを知っている。

時間停止の魔法を知っている。

病院で杏子の姿の使い魔——Kyokoは幻惑魔法により、ほむらを罠に嵌めようとしていた。

あの時、時間を止めて狙撃をしたとしても、あれはシビル・ウォーの幻覚であり偽物だった。

具体的な策は不明に終わったが、時間停止は対策されていた。

同様に、他のヴェルサス相手に通用しない可能性がある。

勝利には常に相手より一手二手先を行き、上回る必要がある。

対策の対策。それが今のほむらの課題。


「オラァァッ!」

ほむら「……やれやれだわ」

ほむら「こんなのを相手に、消耗なんて……していられない」

ほむら「そして時は動き出す」



夕日に照らされた公園。


名前も知らない魔女を撃破し、まどかは二人の魔法少女に連れられた。

まどかはベンチに座らされる。

三人の後をひょこひょことついてきたキュゥべえはその隣に「おすわり」をした。

前方に、ほむらとキリカが立っている。

傾いた日差しにより影のあるキリカの顔は、少し不気味に見えた。


まどか「…………」

まどか「あの、わたし……」

キリカ「……君は『魔女の口づけ』をくらっていたんだ」

まどか「魔女の口づけ……?」

まどか「わたしはいつも通りでしたけど……」

ほむら「自覚がないのが魔女の口づけ」

ほむら「あなたの落ち込んだ気分……そこを狙われてしまったのよ」


ほむらは前屈みになり、まどかの首に手を回し、うなじに触れた。

ひんやりとした指が心地よかった。

そこに魔女の口づけを受けていたらしい。

いつどこでついたのかわからない。


キリカ「それはそうと……しろまる」

キリカ「魔女の口づけがついてまともじゃない精神状態で契約を持ちかけるとはね……つくづくムカつく」

QB「いいや。まどかがいつも通りだと自覚していた通り、まどかの精神はまともだったよ」

QB「この魔女の口づけで、ほんの少し心底の欲求に忠実になっていただけさ」

ほむら「そんなこと……」

QB「疑うなら本人に聞いてみればいいんじゃないかな」

QB「あの時のまどかは、魔女の口づけの補正を考慮した上でも、自分が犠牲になれば、さやかもマミも織莉子もゆまも上条恭介も取り戻せるって、本心で思っていた」

ほむら「…………」

QB「そもそも、気が付いた時には魔女の結界にいたんだ」

QB「僕の勧誘行為はむしろ、魔法少女にさせて魔女から助けてあげようとしていたと言えるんじゃないかな」


ほむらはまどかの目をじっと見つめる。

影のせいで、目から感じさせるものが温かいか冷たいか、それが判断できない。

まどかは目を逸らす。


ほむら「まどか……」

まどか「…………」

ほむら「……本当なの?」

まどか「……え、えっと」

ほむら「本当にあなたは、そう思ったの?取り戻そうと思ったの?」

ほむら「自分の命を引き替えにしてもいいって思ったの?」

まどか「…………」

キリカ「……恩人。私に免じて、攻めるような言い方はやめてあげて」


ほむら「…………」

キリカ「まどかはさ……会ったこともないのに織莉子やゆまって子を生き返らせたいと思ったんだろう」

キリカ「大して親しくもない私や杏子を思って……優しいヤツじゃあないか」

ほむら「……まどかは優しすぎるのよ」

キリカ「そうだね……お人好しが過ぎる」

キリカ(今という現実があるから何とも言えないことだけど……)

キリカ(もしかしたらこんな『気のいいヤツ』を殺さなければならなかったのかもしれなかっただなんて、チト心苦しいな)

キリカ(別に織莉子を否定するつもりはないし……織莉子の命令なら何てこともなく殺せるだろうけど……)

キリカ(……まぁ、今は関係ないことだけどね)

キリカ「まどか。悪いがハッキリ言わせてもらう。君がついでで生き返らせようとした私の織莉子のことだ」

まどか「織莉子さんのこと……?」


キリカ「織莉子はね、予知能力者だったんだ。そういう魔法少女だった」

キリカ「そして、君が滅茶苦茶おっそろしい魔女になるっていう予知を見た」

まどか「え……!」

まどか「恐ろしい……魔女……?」

キリカ「何がどう恐ろしいかは私の口からは言いたくない」

キリカ「しかしまぁ、この際ぶっちゃける。私を軽蔑してくれても構わない」

キリカ「そういう魔女の誕生を未然に防ぐため、私と織莉子は君を殺すつもりでいた」

まどか「ッ!?」


背中にツララをあてられたような気分になった。

冗談ではない。偽りでもない。人殺しの目。氷の瞳。

まどかはごくりと唾を飲んだ。


キリカ「まぁあの時はそれが君だってことは特定するには至ってなかったが……」

キリカ「なんだかんだでその織莉子は殺されてしまった」

キリカ「そして、私は恩人に助けられた」

キリカ「恩人の目的は、君を魔法少女にさせないこと。私達と少し似ていた」

キリカ「その魔女の誕生を防ぐこと。それが恩人の目的」

キリカ「そして、織莉子の遺志だと私は受け取ることにした」

キリカ「まぁ織莉子だったら確実な手段だと言って抹殺の方向性を曲げることはなかったかもしれないが、それはさておき」

キリカ「もし、君が織莉子の遺志を踏みにじる行為に至ろうと言うのであれば……」

キリカ「その時は君を『殺さ』せてもらう」

まどか「……!」

キリカ「痛みは感じさせない。首を斬り落とさせてもらう」


キリカ「異論はないよね。恩人」

ほむら「…………」

まどか「ほ、ほむらちゃ……」

ほむら「…………」

キリカ「沈黙は肯定ととるよ。魔法少女となったまどかに守る意義なし、と」

まどか「そ、そんな……」

キリカ「いいね。命が惜しかったらせいぜいしろまるの言葉を無視することだ」


キリカの口は笑っていたが、目は一切笑っていない。

安心をさせるための笑顔なのかもしれないが、尚更まどかの不安を煽ることになる。

ほむらの無言と、怒っているようで悲しんでいるようにも取れる表情がさらに煽る。


QB「……やれやれ」

QB「契約をすれば殺すだなんて、手厳しい手段をとるものだ」

QB「殺されるとなると、契約をするにできないね」

QB「僕としても、まどかを死なせたくないからね」


キュゥべえは特に口調を変えるわけでもなく、淡々と言った。

「死なせたくない」

あたかも人情家を気取るような表現だと、ほむらは思った。


QB「人間がよくよく口にする友情だとか絆だとか……」

QB「ほむら、君にはそういうのはないのかい?」

QB「友達を殺させるのを容認するなんて、わけがわからないよ」

まどか「……」

ほむら「……っ」


キリカ「織莉子を生き返らせる……とっても魅力的だし、是非そうしてくれと言えるならどれだけ幸せなことかと思う」

キリカ「私は……恩人のことを恩人と呼んでいるから、意志に従い君を殺すとか。そういうことを言ってるんじゃあない」

キリカ「覚えておくといい。私個人として、君を殺すことには躊躇はない」

まどか「…………」

キリカ「恩人。私は行く。まどかと二人きりで話すといい」

キリカ「あまり遅くなる前に、まどかを送ってあげてさ……」

キリカ「私は……しばらく歩きたい気分なんでね」

ほむら「……えぇ」

キリカ「あと私個人として腹が立ったからしろまる、おまえは後でケチョンケチョンにしてやる」

QB「えっ」


キリカはキュゥべえの頭を鷲掴み、早歩きで去っていった。

夕日は沈みかけ、橙色の空は藍色に侵食されつつある。

ほむらは何も言わず、まどかの隣に座った。

布が擦れる音と水の音。大型車の遠い走行音が耳に入る。


お互い顔が見れない。

二人とも、地面を見つめている。

沈黙を最初に破ったのはまどかだった。


まどか「……ほむらちゃん」

ほむら「…………」

まどか「ほむらちゃんって、わたしの何なの?」

ほむら「…………」

ほむら「……友達、よ」

まどか「……友達」

まどか「…………」

まどか「……友達って、そんなに悲しい声で言われる言葉なのかな」

ほむら「…………」


まどか「ほむらちゃんは……さやかちゃんやマミさんを……友達と思ってないの?」

まどか「一緒に学校行ったり、お昼ご飯一緒に食べたよね」

まどか「放課後、マミさんの家で美味しそうに紅茶を飲んでたよね」

まどか「ほむらちゃん、全然笑ってくれないけど、とっても楽しんでいるように見えたよ?」

まどか「なのに……それなのに……」

まどか「どうしてそんな冷たい言い方ができるの……?」

まどか「わたし、マミさんが大好きだし、さやかちゃんを助けたい」

まどか「キリカさんのお友達の織莉子さんって人も、ゆまちゃんっていう子も、上条くんも取り戻せるんだよ?」

まどか「わたしなんかが魔法少女になるだけで、みんな元に戻る……笑顔を取り戻せる」

まどか「できることを、どうして止めるの?」

ほむら「…………」


まどか「キュゥべえは……わたしがすごい魔法少女になれるって言ってた」

まどか「それってつまり、どんな魔女にも負けないってことだよね」

まどか「もちろんわたし……怖いよ。魔女……」

まどか「あんなのと戦うのも怖いし、それになっちゃうかもしれないなんて、死んでも嫌だって思う」

まどか「でもほむらちゃんとキリカさんは……それを知っていたのに、力強く生きてるよね……」

まどか「わたしには、二人がやってることはできないのかな?」

ほむら「…………」

まどか「……わたしにはわからないよ」

まどか「どうしてあなたは、悲しまないなんてことができるのか……」

ほむら「……あなたのためよ」

まどか「……確かに」

まどか「……確かにそうかもね」


まどか「わたしが契約したら魔女になるっていう予知なんだもんね」

まどか「わたしが言ってることが自分勝手なことだってのはわかってる。間違っているってわかってる」

まどか「だけど……だけど契約したら見捨てるだなんて、そんなの酷すぎるよ」

ほむら「…………」

まどか「ごめんね……。わたし、あなたのこと理解できない。わからないよ」

ほむら「……い」

まどか「…………」

ほむら「に……ない……!」

まどか「……ほむらちゃん?」


ほむら「悲しいに決まってるじゃないッ!」

まどか「ッ!」


ほむら「悲しまないなんて……そんなことない……!」

まどか「ほ、ほむらちゃ……」

ほむら「悲しいに……決まってるよ……!」

ほむら「私は……私はそんな……」

ほむら「私は……強くなんかない……!」

まどか「…………」


今まで聞いたことのないような声。

まどかは思わずほむらの方を向いた。

ほむらは泣いていた。

頬にキラキラした線がひかれている。


先程までほむらは、冬場に放置された鉄のような冷たい目、シルク生地のような肌をしていた。

その目からポロポロと雫を落とし、肌は紅潮している。夕日のせいでは決してない。

話している間に、じわじわと涙を滲ませていたのだろうか。

まどかはその変化に、俯いていて気が付けなかった。

溢れる涙を堪えることさえ忘れて、震える声でほむらは言った。


まどか「な、涙……」

ほむら「私だって辛いよ……とっても悲しいよ……」

ほむら「巴さんも、ゆまちゃんも亡くなって……!」

ほむら「美樹さんを助けることができなくて、佐倉さんと巴さんを仲直りさせられなくて!」

ほむら「悲しくて悔しいよッ!」

ほむら「だけど……それでも!それ以上に……!」

ほむら「それ以上にあなたには契約なんてしてほしくないッ!」

ほむら「魔女になるだとか、そんなの関係ない!」

ほむら「私は……犠牲を覚悟して、あなたのために……!」

まどか「わ、わたし……」


ほむらはまどかの両肩を掴み、

涙を溜めた潤んだ瞳で、戸惑いの表情を見つめる。

まどかは、妙な感覚を覚えた。形容しがたい、煙のような感覚。


ほむら「あなたを失えば、それを悲しむ人がいるのに……」

ほむら「あなたを守ろうとしてた人はどうなるというの……!」

まどか「…………」

ほむら「……まどか」

ほむら「お願い……」

ほむら「お願いだから……あなたを私に守らせて……!」

ほむら「何も考えなくてもいい。ただ黙って守られて……」


全てを打ち明けたい。

マミが魔法少女というものを、苦労を共有したいと思ったように、

自分の覚悟をまどかに共有させたい。


しかし、まどかのような優しい性格に、自分のことを話すと間違いなく同情される。

今の精神状態で慰められるのは惨めなだけだ。

もう二度と、弱い自分を出したくない。

あるいは自分で気付いていないだけで既に出ているのかもしれない。


まどか「…………」

ほむら「…………」

ほむら「……ごめんね。わけわかんないよね。気持ち悪いよね」

ほむら「あなたにとっての私は、出会ってからまだ一ヶ月も経ってない転校生でしかないものね」

ほむら「だけど私は……私にとってのあなたは……」

まどか「……お願い」

ほむら「まどか……」

まどか「お願いほむらちゃん。教えて」

ほむら「…………」


まどか「あなたにとってのわたしは、本当はどういう存在なの?」

まどか「ただの友達じゃない、よね……」

まどか「私たちはどこかで……どこかで会ったことあるの?私と」

ほむら「そ、それは……」

まどか「ほむらちゃん。あなたにとってのわたし……それを教えて」

ほむら「まどか……」


……前から、そうだった。

初対面の時も、その次も、その次も、一つ前も、ずっとそうだった。

まどかがたまに見せる、弱々しさと強さの混じった瞳。

その顔で訴えられて「勝った」ことはない。

必ず折れるか逃げてきた。

今この場で話さないわけにはいかなくなった。


まどかは……勘づいてきているんだ。

私が、まどかに抱いているこの感情。この思い。

まどかは……いつだって自身のことを無力だとか鈍くさいだとか言っていた。

あなたが自分でそう言うのなら、確かにそうなのかもしれない。

だけど、私からすればそれはとんでもないこと。

あなたはいつだって、優しくて強い、私の憧れの人。


ほむら「…………」

まどか「…………」

ほむら「……私達、親友だったんだよ」


——美樹さやかは考える。


こんなちっぽけな指輪が……あたしの魂だなんて……ね。

自分で言うのもなんだけど、あたしはこんなに強いというのに……、

お腹の宝石が割れたらそれだけで即死するのか。わけがわからない。

……もしこれをこっから落としたら、あたしは死ぬんだろうな。

そんな簡単に死ねてしまう。

これと、ある程度の距離を取るだけでも死ねる。

うっかりこの指輪をトイレに流しちゃったとしても死ねる。

死因がトイレなんて笑い話にも……いや、一周回ってかなり大爆笑。

そんな体で、人間と名乗るのも人として生きるのも烏滸がましいんじゃなかろうか。

魂のない体。まるで死体……差詰めゾンビみたいなものだ。


歩道橋の柵に背中を預け、赤い空に向けて腕を伸ばす。

逆光のおかげでこの黒い手に指輪なんてものがないように見えなくもない。

しかし、実際、この指に自分の魂がしっかりとあるのだ。

さやかは学校を欠席し、一日中見滝原を歩き回った。

まどかや同級生——「人間と接したくない」という精神状態にあった。

途中、魔女と出くわし、戦った。

治癒能力を過信した「無茶な戦い方」をした。

心のどこかで「これで死ねるなら死んでもいい」という気持ちがあった。

しかし、さやかは強かった。

実際に腕が切断されてもすぐに再生ができ、脚がもげ、胸が抉れても戦えた。

魔女を一匹、使い魔六匹。合計で七匹を、結果的に無傷の状態で切り裂いた。


さやか「…………」

「……こんなとこで何してる」

さやか「……杏子?」


ポニーテールの少女が薄汚れた手提げカバンを片手に、

何を考えているのかわからない、微妙な表情をして立っている。

その表情、勇んでいるわけでも悲しんでいるようにも見えない。


杏子「……さやか、っつったっけか」

杏子「まぁいい。何をしてたんだ?こんなとこで」

杏子「あんたはあたしと違って帰る場所がある……親御さんが心配するぞ」

さやか「…………」

杏子「…………」


杏子「……そうだ。キリカに会ったんだ。ほら、昨日の。あんたの髪が黒くなったようなヤツ」

杏子「昼頃にな……そんで、小遣いだっつって貰った金でロッキーを買った。ふざけたヤツだ」

杏子「……食うかい?」


杏子はパーカーのポケットからロッキーの箱を取り出し、

「一本」をさやかに差し出した。


さやか「…………」

さやか「……いらない」


さやかは、体の向きを反転させた。

今、自分がどんな情けない顔をしているのか想像に難くなく、

弱みを見せるわけにはいかなかった。

車が走る道路を見つめた。


ほむらから、魔法少女の真実を聞いた夜。

自分は自分で大き過ぎるショックを受けながら、

隣で歯を食いしばっていた杏子を見た時、同情をした。

杏子という概念に良い印象は一切ない。

勘違いだったとは言え、マミを殺そうとした。

使い魔を放したり、窃盗しつつの生活も聞いている。

ゆまという子どもを助けようがが家族を亡くしていようが、悪い印象の方が優先される。

『そんなヤツ』に弱みは見せられない。


杏子「いつまでもしょぼくれてんじゃねーぞ。ボンクラ」

さやか「……あたし」

杏子「あん?」

さやか「あたし、もうダメかもしんない」

杏子「……ダメだぁ?」


いきなり何を言い出すんだ。と言わんばかりのトーンに聞こえた。

呆れられるのも馬鹿にされるのも嫌だ。

しかし、自分の素直な感情をぶつけたかった。

さやかは『そんなヤツ』に話を聞いてほしくて仕方がなかった。


さやか「一方的に殺されかけて、死にたくないって魔法少女になって……」

さやか「なった矢先魔女になるとか言われてさ」

さやか「マミさんが死んで……恭介、あたしの幼なじみも死んでさ……」

さやか「こんな、人間なのかゾンビなのかもわからない体になった」

杏子「…………」


さやか「……せめて……せめてさ」

さやか「願い事次第では、恭介も助けられたし……」

さやか「マミさんも死なせずにすんだかもしんない」

さやか「だけど……結局あたしだけ生き延びた……」

さやか「たった一度の奇跡がこんな形で終わるなんて……無駄遣いもいいとこ」

さやか「嫌なんだよね……こんなの……」

さやか「こんな体、嫌よ……あたし」

杏子「まだ続くか?」

さやか「……もうちょっと聞いてよ」

さやか「あのさ……」

さやか「あたし……さ」

さやか「……恭介が好きだったんだ」


さやか「恭介のことが……好きだった……」

さやか「ずっと前から好きだった」

さやか「恋愛感情はさ……自分で思って、いやいやと自分で否定するような……」

さやか「恥ずかしい気持ちだった。そういう年頃なんだよ。あたしは……さ」

さやか「実際に死なれて……やっと自分の気持ちに素直になれるなんて……」

さやか「こんなのってないよ……ひどすぎるよね……」

杏子「…………」

さやか「マミさんも死んだ……」

さやか「マミさんは……気遣ってくれるし……優しいし、大好きだった」

さやか「マミさんと……もっとお話したかったよ」


さやか「生き延びたって何もいいことがない」

さやか「古今東西の魔法少女には悪いけどさ……」

さやか「こんな体……ゾンビみたいなもの……!」

さやか「あたし、あのまま死んでた方がよかった……」

さやか「もう、いっそのこと……」

さやか「このまま魔女になって誰かに迷惑にならないよう……」

さやか「ソウルジェムを叩き割るかどうか悩んでるって気持ちだよ」

さやか「……キリカさんに助けてもらって、何だけどさ……」

杏子「…………」

杏子「……そうか」


杏子はさやかの横に並び、柵に背を預けた。

道路を眺めるさやかの横顔を見つめる。

涙の跡があるわけでもないが、悲哀の表情をしていることは言うまでもない。


杏子「確かに、あたし達は……いつか魔女になっちまうかもしれない」

杏子「普通の人間と比べるとあっさりと死んじまうかもしんねぇ」

杏子「マミみたいな……どんなに大きな存在でも、死ぬ時はあっさり死んじまう」

杏子「自分の命がこんなちっぽけなガラス玉みたいなのに変わっちまったんだ。ゾンビってのは、割と言い得て妙だと思う」

さやか「…………」

杏子「だがな……柄にもないことを言わせてもらうが……」

杏子「いつかは今じゃないんだよな」

杏子「生きる死体だとか罵られようとも、あたしは今、生きている」

さやか「…………」


さやか「……それっていつ?」

さやか「絶対に避けられないよ?」

さやか「この苦悩をずるずるといつまでも引きずって生きてくくらいなら、明日って今くらいのつもりで……」

さやか「すぐでも……なれるもんなら楽になりたいとは思わない?」

さやか「どっち道、人間をやめたっていう後ろめたい気持ちを抱えたままじゃ……長持ちしないと思う」

杏子「……あんた、まさかあたしと一緒に心中してくれって言うんじゃなかろうな?」

さやか「そ、そういうわけじゃないけど……」

杏子「…………」

さやか「あたしは……あたしはただ……」

杏子「……そうだな」

杏子「ここで一つ……例え話をしよう」

さやか「……例え話?」

杏子「まぁ聞けよ」


杏子「……暗闇の荒野に地雷がたんまり埋まっているとする。踏めば即死な」

杏子「あんたは、どの方角であろうがどんくらいの歩幅で進もうが『おまえは七歩進めば必ず地雷を踏む運命だ』って宣告されたら……」

杏子「あんたは進む覚悟ができるか?絶対死ぬって一方的に決めつけられて、その通りだとして、納得いくか?」

杏子「生憎、あたし達はそんな嫌なことを覚悟できる程タフな精神してねぇし、へぇそーですかと納得できる程さっぱりしていない」

杏子「都合の悪い未来も予め知っていれば幸福だなんて……例えド偉い神父様がそう言ったとしてもあたしは同調しないね」

杏子「万に一つでも億に一つでも、一メートルでも長く一歩でも遠く地雷を踏まずに進める……」

杏子「そういう可能性があると信じられるなら、暗闇の荒野を突き進める覚悟を持てる」

杏子「……って気にはなれないか?」

さやか「…………」

杏子「具体的にいつなのかがわかれば、あるいは自発的にできるなら……」

杏子「死ぬことも魔女なんていう異形の化け物になるのも、それを覚悟して受け入れられるのか?」

さやか「……どんなに足掻いても揺るがないことなら、あたしはその方がいいな……。あっさりした最期でいいと思う」

杏子「……そうか。こればっかりは考え方の違いだな」

さやか「…………」


いきなりこいつ……何を言ってるんだ?

何でいきなり荒野がでてくるんだよ。

何の覚悟だって?

わけがわからない。杏子って、こんな変なヤツだったのか?


杏子「あたしは、ゆまにもマミにも死なれちまった」

杏子「あたしにとっては……二人ともすごい大切な人だ」

杏子「ゆまのことが好きだった。マミのことも好きだった」

杏子「あたしはそんなゆまにありがとうって言いたかった。そんなマミにごめんなさいって言いたかった」

杏子「でもそれはできなかった……」

杏子「二人に本当の気持ちを言えなかったし、その気持ちも死なれてやっと気が付くんだ」

杏子「あんたと、少し同じだな」

さやか「…………」



杏子「あたしはいつだってそうさ……実際に失ってやっと後悔をする」

杏子「あたしは、ゆまの分まで生きることがせめてもの手向けだと思いたいんだ」

杏子「マミは、ほむらの力になってやれと言った。それに応えることで報いたい」

杏子「二人の死に向き合って、過去を受け入れて、未来に生き続けていたいんだ」

杏子「だからあたしは、暗闇をがむしゃらに足掻いて、自分の信じた道を歩んでいきたい」

杏子「ひとまずは、ほむらに命を預ける。それが今のあたしにとっての道標だ」

杏子「だからこそあたしは、貯蓄していたグリーフシードを持ってきて、共有する所存よ」

さやか「…………」

杏子「なぁ、さやか」

杏子「色んなことがあって悲観的になる気持ちはわかるよ……でもな」

杏子「生きられる限り生きようぜ」

杏子「その……一緒にさ」


さやか「…………」

さやか「……一緒?」

杏子「……あたしの友達になってくれ」

さやか「……は?」

杏子「あたしの友達になるんだ。そして、一緒に生きてほしいんだ」

杏子「正直に告白すると……あたしは、ゆまもマミも失って寂しい」

杏子「それで、ゆまやマミみたいに先立たれて後悔する前に……」

杏子「先にありがとうとごめんを言わせてほしい。荒野を並行してほしいんだ」

さやか「…………」

杏子「何の義理もないのに何を言ってるのかって思うだろうが……」

杏子「何でほむらやキリカを差し置いてあんたにこの話をしたのか……そこんとこよくわからないんだがね」

杏子「自分の願いに後悔してるあんたの姿が、何となくあたしと同じ臭いを感じたんだ」

杏子「都合の良い言葉だが……別の場所で会っていたらあんたと友達になれた気がするってヤツだ」

杏子「おまけにあんたの願いってマミのとほとんど同じなんだよな。あいつは交通事故だったが」

さやか「…………」


……アホの子なのかな。こいつは。

何でこんなに、希望を持った風なことが言えるんだ。

あんたは既に魔法少女だったから、

魔法少女として生活をしていたからある程度割り切れるだろうよ。

でも、あたしは昨日だぞ。

魔法少女になってまだ一日経ったか経ってないかだってのに、

何で、一緒に生きようなんて言えるんだ……。

こんな体で……!こんなあたしに……!

ゆまって子のことはよく知らないけど……、

こんなあたしを、マミさんの代わりにするつもりなのか?

役者不足にも程がある。どう見ても人選ミスだ。

…………だけど


さやか「……杏子って、ほんとバカ」

杏子「あん?なんだとコラ」

さやか「……バカだよ」

さやか「バカすぎる。本当……」


さやかは、杏子の方を向いた。

そして、凍結した表情筋を精一杯に動かし微笑んで見せた。

しかし、目から涙が伝っている。

嬉しかったのか、悲しかったのか、感動したのか、

さやかは何故涙が勝手に流れてくるのか、その理由がわからなかった。


さやか「あんたも……あたしも……大バカだよ……」

杏子「……そうだな。バカかもしれないな」

さやか「やーい……!バァカバーカ……!」

杏子「ぶっ殺すぞてめぇ」

さやか「ふぇ……へへ……バカコンビの……結成だよ」

杏子「……そうだな」

杏子「……ん」

杏子「結成早々だが、行くぞ。さやか」

さやか「……うん。そうだね」


微かに、魂に嫌いな匂いを感じた。

魔女がどこかに現れたらしい。

二人の魔法少女は、行くべき場所へ向かった。


空は藍色になってきている。

二人は噴水公園近くに辿り着いた。

確かにここに魔女の結界は生じた。

しかし、道中でその気配が消えてしまっていた。

その理由を二人は理解している。

それでも、生じた場所へ行く。

そこに行くことに意義がある。

魔女がいる場所に魔法少女あり。

魔女がいた場所に魔法少女あり。

魔法少女に会うことが重要である。



——思ったよりも


思ったよりも、スッキリしなかった。

無意味だ。しろまるなんか苛めても。

ストレス解消どころか、虚無感しか残らない。

しろまるは悪だ。

感情がないのかは知らないが、自分が悪だと思っていない最もドス黒い悪だ。

それなのに、あたかもこっちが不当な虐待をしているような……そんな気分に何故かなる。

なんだかんだ言って……私はしろまるに本心からの願いを叶えてもらってはいる。

だからそんな思いを抱くのかもしれない。ヤツのリアクションが薄いのも加わっている。

意味がないんだ。八つ裂きは八つ当たりに過ぎない。

尚更胸くそ悪い。逃げられてしまった。


キリカ「……ん?」

キリカ「……君達は」


キュゥべえに対する無駄な虐待に飽きたキリカはふと、

人の気配を二つ感じた。

足音から感じる歩き方の気配から察するに、顔見知りの者がくる。

そこには、さやかと杏子がいた。当然といえば当然である。

さやかは微笑んで、手を振っていた。元気そうに見えた。

杏子は初めて会った時よりも表情が柔らかくなっているように見えた。


杏子「……よ」

さやか「どうも。キリカさん」

キリカ「……二人とも。どうしたの。仲いいね」

杏子「いや……魔女の気配がしたんだがね……」

さやか「途中でなくなったってことは……」

キリカ「そうだね。私と恩人で始末した」

さやか「やっぱり」

キリカ「骨折り損させちゃったかな?」

杏子「いや、いいんだ。どうせ、あんたかほむらに会うために向かったようなもんだからな」

キリカ「私ぃ?恩人はともかく、私に?」

さやか「いやー、そうなんですよね。できればキリカさんがよかったんスが、丁度キリカさんでした」

キリカ「?」


杏子「キリカ。ハッキリと聞かせてもらうぞ」

キリカ「うん」

杏子「あんたは……ほむらのどこまで知っている」

キリカ「……どこ、まで?」

キリカ「まだ知り合ったばっかりの領域だから……」

さやか「いえ、『そー』じゃないです」

さやか「何となくわかるんですよね……転校生のことを恩人とか呼んでるけど……」

さやか「キリカさんが転校生のお仲間やってるのって、恩義とかだけじゃないでしょ」

キリカ「…………」

杏子「何か特別な理由がある……違うか?」



杏子「あいつがどこで魔法少女が魔女になるということを知ったのか……あんたは知らないか、と聞いている」

キリカ「…………」

キリカ「……案外鋭いんだね」

キリカ「いいだろう。教えてあげよう」

キリカ「丁度、恩人もまどかに教えてるだろうしね……」

さやか「まどか?」

キリカ「恩人から聞いたよ。ズル休みしたって……その辺ちゃんと話しておきなよ」

さやか「はぁい」

杏子「わかったから。いいから聞かせろよ。あんたが知ってるほむらの全部を」

キリカ「……ん」

キリカ「恩人はさ……未来から来たんだそうだ」


——話せるところまで話し終えた後。


やはりと言えばいいか、まどかは私に同情してくれた。

「今まで辛い思いをしていたんだね。わたしなんかのために」

震えた声でまどかはそう言っていた。

「わたしなんか」……自分を見下すような発言。

なんかではない。私にとって、まどかはそれほど大きな存在なんだ。

それこそ、私なんかの命を犠牲にしてまでも。

……恐らく、私が伝えたかったことの全ては伝わっていない。

当然だ。ハッキリ言って、今のまどかとは無関係なことだからだ。

時間軸という次元に干渉できるのは、私だけ。

ずっと前の時間軸のまどかのことだから、今の時間軸のまどかは実感が湧いていない。

別に、まどかが理解する必要はない。


私にとって大切なのは、

「私」がいる世界のまどかを救うこと。

それに尽きる。

それが、鹿目まどかという概念との約束であり誓い。

私の生き甲斐。

まどかを救うことができて、全てが終わる。

私の時間遡行が終わり、まどかと交わした約束を遂行し、

人生に悔いがなくなるといったところだ。

そのためにも、現行の時間軸のまどかには、

自分の友達が辛い思いをするくらいなら自分が犠牲になるというような、

そういう精神を持たせてはならない。


まどかを家に送った。

軽く手を振って、まどかが帰宅したのを見届けた。

一人暮らしである私の、生活における手伝いをしていて遅くなった。

という言い訳を与えたとはいえ、

たった今、帰りが遅いと怒られていることだろう。心配をかけさせたからだ。

そういうことで怒られるというのは、愛されている証拠。

別に両親に愛されていないわけではなないが、羨ましい。

両親に会いたくないわけではない。

実家が恋しいと思わないこともない。

しかし、会ってはいけない。帰ってはならない。

感傷に繋がるからだ。死にたくなくなってしまう。

レクイエムの誕生を防ぐために死ななければならないのに。


まどかの家を後にして数分歩いた頃、

前方から三人分の人影が現れた。

全員魔法少女であり、顔見知り。

赤、青、黒。

佐倉杏子、美樹さやか、呉キリカ。


キリカ「……恩人。話は終わったかい?」

ほむら「……呉キリカ」

ほむら「それに……」

さやか「やっ、ほむら」

杏子「昨日ぶりだな」

ほむら「……美樹さやか、佐倉杏子」


ほむら「……どういう組み合わせ?」

キリカ「いやぁ、たまたま会ってね」

キリカ「あ、そうそう。ねぇ恩人、私とさやかって似てる?」

キリカ「杏子が私のことを髪が黒くなったさやかって言ったんだ」

キリカ「そんな似てないよねぇ?」

ほむら「…………」

ほむら「あなた達、気分はどう?」

杏子「ああ、大分落ち着いたよ」

さやか「ん、あたしももう大丈夫だよ。心配かけたね」

キリカ「こら、無視するな恩人」


さやか「ねぇほむら……」

さやか「キリカさんから、あんたのことを聞いたよ」

杏子「未来から来たとか、色々ぶっ飛んだ人生送ってんだな」

ほむら「…………」

ほむら「……話したのね」

キリカ「うん」

ほむら「改めて言う手間が省けて丁度良かったわ」

ほむら「そう。呉キリカの言う通り」

ほむら「私は、まどかを救うために戦っている」

ほむら「そして、あなた達の死を何度か見てきたわ」

ほむら「物証はないけど……私は未来人のようなもの」


さやか「うん……信じるよ」

さやか「あたし……怖かったんだ。魔法少女になって……そういう体になって」

さやか「だけど……杏子に勇気づけてもらったんだ」

さやか「あたしは受け入れたよ……マミさんの死も、恭介の死も」

さやか「そんで、あんたがまどかのために戦ってるって知って……」

さやか「負けられないなって思ったんだ。あたしの嫁を守るためだなんて……こりゃもう、まどかをあげるしかないね」

さやか「このさやかちゃん。あんたのために全力で戦うよ!」

杏子「あたしもだ……。この命、ほむらに預ける」

杏子「それがマミの遺志だからだ。あたしは、マミがあんたに託したものだ」

杏子「やれる範囲なら何だってやるさ」


ほむら「美樹さやか……佐倉杏子……」

ほむら「…………」

ほむら「本当はあなた達に任せるのは不安なところもないこともない」

ほむら「でも、今はそう言ってられない状況だし……複雑だけど、あなた達しかいないから……」

ほむら「だから……キリカには改めて言うことだけど、いざという時は……」

ほむら「まどかをよろしく頼むわよ」

キリカ「……そうだね。了解。殺されるまでやらせてもらう」

杏子「あたし達を置いて先にくたばるのは絶対に許さないが……まぁいいだろう」

さやか「でも、まっ、あたしに、もーしものことがあったら杏子を託すつもりだし……お互い様ってことで!」

杏子「さやかてめぇ何様のつもりだ」

ほむら「…………」


レクイエムというも存在のため、いつか自害しなければならない。

その運命は言わなかったし、誰にも言っていない。自分一人だけの秘密。

ほむらはジシバリの魔女アーノルド、ワルプルギスの夜、

それらとの戦いの生き残りにまどかを託すことにした。


さやか「ねぇ、ほむら。話は変わるけど」

ほむら「何?」

さやか「あんた……何でも『お守り』があるそうじゃないか」

ほむら「……お守り?」

杏子「あぁ、そうそう。キリカから聞いたよ」

ほむら「……?」

キリカ「君が織莉子の家に来た時に見せたものだよ」

ほむら「……あぁ、あれ」

ほむら「…………」

ほむら「どういう文脈であの矢のことを出したのよ……」

キリカ「さぁ」


さやか「どんな意味があるのかはさておき、あたし達にもその恩恵を分けてよ」

ほむら「恩恵って……別に何もないわよ。そんな神々しいものはないわ」

ほむら「私が勝手に夢で見たからという理由だけで……」

杏子「イワシの頭も信心からってな。学校で習っただろう?」

キリカ「初めて聞いた」

杏子「学校はちゃんと行けよ」

キリカ「君にだけは言われたくないよ」

ほむら「…………」

さやか「ねぇ、見せてぇ」

ほむら「……わかったわよ」


大きさは魂と同程度。

涙滴型の装飾が施されている。材質は石。

この石の矢はストーン・フリーの名前の由来にもなっている。

仮に石でなければストーン・フリーという名前に悲劇が訪れる。

中が空洞なのか、とても軽い。

さやかはほむらから手渡された矢をまじまじと見つめる。


さやか「へー……意外に凝ったデザインしてるねぇ」

さやか「なーむー」

ほむら「拝まないで」

杏子「あたし一応教会出身なんだけど」

さやか「じゃあキリカさん先ね。はいどうぞ。それではご一緒に。なーむー」

キリカ「意外に信心深いんだね。生憎私はそういう類のものは一切信じないんだ。だから結構」


ほむら「ほら、もういいでしょう。返しなさい」

さやか「…………」

杏子「…………」

さやか「ヘイ杏子パース!」

杏子「よっしゃぁぁぁ!」

ほむら「ちょっ!?」

キリカ「お!?」


さやかは杏子に矢を放った。

矢じりは放物線を描き、ゆっくりと回転し、

ポスンと杏子の手に収まる。


ほむら「あなた達!何をしてんのよ!」

杏子「ほれほれ、返してほしけりゃ奪って見せろ!」

杏子「ヘイパース!」

さやか「やっほーい!」

ほむら「返しなさい!あなた達!」

さやか「ヘイヘイヘーイ!」

杏子「ほーい!」

ほむら「……ストーン・フリー!」

シャッ

さやか「ゴェッ!」


さやかの首は「何か」に締めつけられた。

石の矢はコツンと音を立てて地面に落下した。

ギリギリ

さやか「あばばばっばばば」

杏子「うおおおお!ほむら!さやかを離せ!」

ほむら「もう既に解いてるわ」

キリカ「ははは、愉快なヤツらだね」

さやか「ゲホッ!ゲホゲホ!やり……すぎでしょうが……!」

杏子「スタンドは卑怯だろ常識的に考えて……」

ほむら「…………」


ほむらの無表情を見て、杏子は悟る。


——見滝原のとある場所。

朝は見滝原中学校への通学路。その夜道に四人の魔法少女がいる。

ほむらは腕を組み、見下ろしている。

杏子とさやかは、コンクリートの地面に正座をしている。


さやか「マジごめんなさい」

杏子「すまん」

ほむら「……で?何でそんな真似をしたの」

さやか「……い、いやぁ……ほむら笑うかなって」

ほむら「……は?」

さやか「あたし、ほむらの笑った顔見たことないからさ」

ほむら「…………」

杏子「あたしは悪くない。さやかが勝手にやったことだ」

ほむら「…………」

杏子「ごめん」


言われてみれば……ここのところ最近、

……いや、それどころかこの時間軸、一度も笑ったことがない気がする。

別に笑う必要はないし、今の二人の行為は完全に悪ふざけだったが……

気を使わせてしまったか。



ほむら「いくら拾い物だからって人のお守りを投げる?普通……」

キリカ「んー、私も恩人の笑顔には興味あるなぁ……泣きっ面は見たけど」

キリカ「ま、笑顔はさておき正座はさておき、恩人」

ほむら「……何?呉キリカ」

キリカ「図らずともここに魔法少女が揃ったんだ」

キリカ「今後のことを話し合うべきだと私は考える」

キリカ「前の時間軸のスタンドとやらの情報を教えてよ」

ほむら「……確かに、そうね」


杏子「そうだな……あたしの姿をした使い魔はもういないらしいが……」

さやか「スタンドに関して全てを話して、情報を共有しよう」

ほむら「誰が立っていいと言ったかしら」

さやか「女の子に地べた座らすかね?フツー」

ほむら「座りなさい」

さやか「ちぇー」

杏子「なぁさやか」

さやか「何?」

杏子「何かしんないけどどっかで指切ったっぽい。治して」

さやか「ありゃりゃ、血が……」

さやか「もー、杏子ったらお子ちゃまなんだから」


杏子「うっせぇ。てめーも手の平切ってんじゃねーか」

さやか「ありゃ?うわ、ホントだ。ねぇねぇ、服に血ぃついてなぁい?腰とか触っちゃったかも」

杏子「くねくねすんな気持ち悪い」

ほむら「二人とも黙ってくれないかしら」

キリカ「いつの間にこんな仲良くなったんだろーね」


人の成長は未熟な過去に打ち勝つことだ、とある人は言う。

杏子はゆまとマミ。さやかは恭介とマミ。キリカは織莉子。

それぞれは各々の喪失の過去に打ち勝ち、未来に戦いを挑むことを選んだ。

もうイジけた目つきはしていない。

生きることが過去に打ち勝てという終生の試練と受け取った。

ほむらの場合、ワルプルギスの夜より先の未来へ進むこと。

それが試練であり、打ち勝つべき過去である。

ほむらは三人の魔法少女という希望が見えた。


ストーン・フリー 本体:暁美ほむら

破壊力−A スピード−B  射程距離−E
持続力−A 精密動作性−B 成長性−C

一言で言えば糸のスタンド。その性質は「覚悟」
引き裂かれてしまいそうだった心を繋ぎ止めるかのように発現した。
自分の体を解いて糸状にし、その糸を自在に操ることができる。
スタンドの糸を集めて人型にすることで、力が集中しパワー型スタンドになれる。
力が強く丈夫だが、その代わりに射程距離が二メートル程度となる。
糸は「編む」または「縫う」ことができ、汎用性は高い。
糸は石鹸の香りがするらしい。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある


今回はここまで。お疲れさまでした。

やっとクライマックス。
誰かさんにスタンド発現フラグが建ってますが、
それはさておき次から数話かけての魔女アーノルド戦回です。

残り話数的に……みたいなメタ視点からの先読みはお控え願いたいです
ならサブタイトルつけるなって話なんですが


#22『見滝原中学校神隠し事件』


今日という日は、天気もあって明るく感じた。

さやかが登校し、いつもの空気を作り出したためである。

どんよりとした曇り空に、さやかの明るい性格が引き立てられる。

まどかはさやかの空気に感化されてか、昨日よりは笑顔を見せた。

そんな日の放課後。

ほむらとさやかとまどかは、

「今後のこと」を話し合うべく教室に残っていた。

仁美は「委員会の仕事」ということでまだ下校はしていないが、

ほとんどの生徒は既に帰路に立っていて、三人しかいない物静かな教室だった。

杏子とキリカを除いた三人で話す内容。

それはその仁美と恭介のことだった。

四人の内二人の魔法少女はその話についていけない。知らないからだ。


さやか「……知らなかったな。仁美も恭介が好きだったなんて」

まどか「…………」

ほむら「私があなた達から意見を聞きたいというのは……」

ほむら「彼女へのフォローのことよ」

ほむら「巴さんもそうだけど、学校の生徒が失踪した……それが人為的なものが自発的なものかはまだ世間ではわかっていない」

ほむら「学校側も気遣っているのか……ともかく生徒の中で知っているのは今のところ私達だけ」

ほむら「死亡したと結論が出るには時間がかかるでしょうけど……」

ほむら「果たして、彼が死んだということは伝えるべきか、行方不明のまま内密にするか」

さやか「……言った方が、いいでしょ。行方不明だなんて……もしかしたら帰ってくるかもっていう可能性が否定できなくて、かえって精神的に辛い」

さやか「伝えるのは辛いだろうけど……仁美に秘密にするってのは、あたし達が心苦しい気持ちにもなる」

まどか「わたしも……言ってあげた方がいいと思う」

まどか「わたしが仁美ちゃんだったら……好きな人が行方不明になったら、どうなっちゃったのか、知れるものなら知りたいもん」

ほむら「…………」


ほむら「……なるほどね」

ほむら「彼の死を伝えるのは確かに辛いこと」

ほむら「そうなると、巴さんが亡くなったことも伝えた方がいいかしらね。あなた達とケンカをしてると咄嗟に嘘をついたけど」

ほむら「時期を見て、私の方から伝えておくわ」

さやか「いや……ほむら……あたしが言う」

ほむら「…………」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「仁美はあたしの親友だ。そんで、ライバルにもなるかもしれなかったんだ」

さやか「別に……だからどうこうってわけじゃないけど……あたしが言う」

さやか「あたしの方から言うよ」

ほむら「……そう」


灰色の雲のおかげで、電灯のついていない教室は薄暗い。

明度に合った、沈んだ空気に三人は包まれた。

天気予報によれば、夕方には雲は晴れるらしいが……。


さやか「……そろそろ、帰ろうよ」

まどか「うん……そうだね」

さやか「仁美のお仕事もそろそろ終わるかな」

さやか「久しぶりに仁美を連れ出して寄り道しようよ!」

さやか「ここんとこずっとお稽古で一緒に帰ってないもんね」

まどか「うんっ」

ほむら「……そうね」

さやか「そうだ。杏子とキリカさん呼ぼうよ。紹介したい」

ほむら「……呉キリカはともかく、佐倉杏子の連絡先知っているの?」

さやか「まぁね」


さやか「ほむら、キリカさんを呼んでよ。あたしは杏子に電話するから」

まどか「さやかちゃん、杏子ちゃんと連絡できるの?でも杏子ちゃんっておうちが……」

さやか「あたしの部屋にこっそり隠してる」

まどか「えっ」

さやか「ま、お父さんお母さんがいない間だけね」

さやか「なんだかんだで冷蔵庫の物を勝手に食べるような卑しいヤツじゃないし」

まどか「ご、ご飯とかはどうしてるの?」

さやか「んー?まぁなんだかんだで大丈夫よ。残り物とか菓子パンとかあげてる。食べ物なら何あげても食べるし」

ほむら「捨て犬じゃないんだから……」

さやか「…………」

ほむら(何かチラチラとこっち見てる……まるで佐倉杏子を養えを言わんばかりに……)

ほむら(別に構わないけど……でも無視しておこう)


さやか「ぐぬぬ……」

まどか「どうしたの?さやかちゃん」

さやか「このさやかちゃんが頭を下げて遠回しに頼んでいるのに……」

さやか「ふぅ〜んそうかい」

ほむら「一ミリも下げてないでしょう」

まどか「?」

さやか「まぁいいや。杏子呼ぼっと。ほむらはキリカさんのアドレス知ってるんだよね」

ほむら「えぇ。まぁどうせウチにいるでしょうけど」

まどか「え?キリカさんほむらちゃんのおうちにいるの?」

ほむら「えぇ」

マミ「それは初耳だわ。どういう事情?」

ほむら「家にいたくないそうです」


さやか「ふーん。親と仲悪いのかな?」

ほむら「さぁ……事情は聞いてないわ」

マミ「贅沢な悩みね……私も人生で一度は家出とかしてみたかったかも」

まどか「マミさん……」

マミ「ところで呉さんは暁美さんの家から学校に行けるのかしら?」

ほむら「えぇ、問題ないです」

さやか「……そういや杏子って学校の場所わかるかな?」

マミ「私と一緒に住んでいた時期があるから知っているはずよ。土地勘もいいし」

まどか「あっ、そういえばそうでしたね」

さやか「流石マミさんは杏子のことなら何でも知ってる」

ほむら「…………」

ほむら「……え?」


ほむら「……!」

さやか「ん?」

ほむら「そ、そんな……」

まどか「どうしたの?ほむらちゃん」

マミ「具合悪いの?」

ほむら「二人とも離れてッ!」

まどか「えっ!?」

さやか「……あ!」

マミ「危ないわ!」

まどか「……ッ!?」


さやか「何……で……!?」

まどか「あ……ああ……!」

ほむら「早く!早く離れなさい!」

マミ「そうよ!急いで!」

さやか「何で……そんな……!」

まどか「ま……マミさん……!」

ほむら「違うわ……まどか」

ほむら「……『こいつ』は巴さんじゃない」

ほむら「ジシバリの魔女アーノルドの使い魔群……ヴェルサスの内一体」

マミ「ふふふ……私は危険よ」

ほむら「……『Mami』!」

Mami「久しぶりにあなた達とお話ができて、嬉しかったわ」


ほむらとさやかはたった今『気配』を感じた。

感じていたはずなのに、気付くのが遅れた。

何故気付かなかったのか。

この空間にあまりにも浮きすぎた、魔法少女の姿でいるというのに。

あまりに自然で、不自然すぎて気付かなかった。

——こういう会話ができることは、この場の誰もが望んでいた。

優しい声と、温かい包容力、その微笑みからは母性さえ感じる。

そんなマミの死を受け入れるのと、望むことは違う。

三人は、マミの声が、マミのことが好きだった。

心のどこかで、死んだということを認めたくなかったのかもしれない。

そのせいで、気付くのが遅れたのかもしれない。


まどか「あ……ああ……!」

さやか「う、うぅぅ……!」


まどかは、恐怖に襲われた。

さやかは、悔しい気持ちになった。

ほむらは、冷静になるよう自分に言い聞かせる。

結界が生じた。

生じていたということは、

キリカと杏子は既に気付いているはずである。

二人とも、見滝原中学校への最短ルートを知っている。

結界ができてどれだけ時間がかかったかはわからないが、

恐らく、すぐにでも二人の魔法少女は合流できる。


Mamiは、マミの顔で不敵に微笑んだ。

ほむらとさやかは魔法少女に変身する。

しかし、すぐに攻撃は仕掛けない。することができない。

余裕の表情を見せているため、何か裏があると踏みとどまってしまう。

スタンド使いだからこその警戒。

スタンド使いでないからこその警戒。


Mami「学校にこんな遅くまで残っているなんて……いけない子っ」

ほむら「……あなたは、何をしに、現れた」


ほむらはMamiの笑顔を睨みつける。

Mamiは困ったように眉をひそめ、溜息をついた。

相変わらず、その顔は優しく可愛らしい微笑みの表情。


Mami「実は私達はね……ちょっとしたゲームをやっていたの」

さやか「ゲーム……?」

Mami「前の時間軸でスタンド使いだった人を殺すゲーム」

Mami「前の時間軸の概念が現行の世界の概念で葬ること」

Mami「それが過去との因縁を断ちきる……って考え方よ」

Mami「あらかたは殺したわ」

まどか「…………」


かつて憧れた先輩の顔、声から「殺した」という言葉は聞きたくなかった。

使い魔とはいえ、ゲーム感覚で人を殺すことをにこにこと笑みながら語る、

そんな姿は見たくなかった。泣きたいところだが、当然、泣くわけにはいかない。

まどかは、下唇を噛むことでその感情を紛らわしながら、ほむらの袖を強く握った。


Mami「それで『残り』の内あなた達が知っている人物を挙げると……」

Mami「鹿目さん、暁美さん、美樹さん、佐倉さん、呉さん、志筑さん、早乙女先生……」

まどか「……ッ!」

さやか「せ、先生まで!?」

Mami「まぁ、落ち着いて。そういうルールなのよ……」

ほむら「何がルールよ……くだらない」

Mami「…………」

Mami「約束するわ。ゲームの参加者は、前の時間軸スタンド使いだった人以外は狙わない」

Mami「まぁ……うざったい虫を払いのけるように、つい殺しちゃったりすることはあるかもしれないけど」

Mami「そこで私は……暁美さん」

Mami「私はあなたとの決闘を希望したい」

ほむら「……!」


Mami「拒否権はあるといえばあるわ」

Mami「され、私はこの『三ヶ月前の学校』の……三年生の教室にいる。何組かは言うまでもないわよね?」

Mami「それじゃあね。いい答えを期待するわ」


言うだけ言って、Mamiは教室から出ていった。

凍り付いた空気に閉じこめられた三人は、

ひとまず解放される。

まどかは過呼吸気味になっていた。胸が押しつぶされそうな気持ちになっている。

ほむらはまどかの背中をさすった。

さやかは剣を強く握り、大きく一歩前に踏み込んだ。

それに気付いたほむらは「待ちなさい」と静止させる。

「どこへ行くつもり?」続けて尋ねる。


さやか「ひ、仁美と先生が危ないから助けに行くんだよ!」

ほむら「なるほど……しかし、一歩下がって元の位置に戻りなさい」

さやか「あたしを……止めるつもりか?」

さやか「それともまずは深呼吸でもして落ち着けって言うのか……!?」

ほむら「魔女を探して叩くことが先決よ」

まどか「え……!?」

さやか「な……!」

さやか「あんた……何て言った……?」

ほむら「魔女を倒すが最優先事項であると言った」

まどか「…………」

さやか「時間が……時間がないんだよ!?仁美が狙われてるんだよ!?」

さやか「まさかあんた……」


さやか「まさかとは思うけど……仁美を……先生を見捨てろっていうのか!?」

まどか「!」

ほむら「……そうとは言わないわ」

ほむら「冷静に考えなさい。美樹さやか」


ほむらは淡々と言った。

その目はとても冷たく見えた。

さやかはほんの一瞬だけ「こいつ感情あるのか?」と思った。


ほむら「病院の時はほとんど無差別に襲っていたにもかかわらず、わざわざ予告をして存在と行動をアピールした」

ほむら「志筑仁美や早乙女先生を助けに来るだろうと、使い魔は誘っているんだと考えるべき」

ほむら「現に私を誘ってきたし……」

ほむら「ヤツらは私達の戦力を分散させるためにそうしたと推測できるわ」


ほむら「スタンド使い……本体が死ねばスタンドも消滅する」

ほむら「アーノルドの使い魔はスタンドで産みだしされたもの……魔女を倒せばそれで全てが終わる」

ほむら「アーノルドを優先し、一気に叩くのが最も合理的」

ほむら「それにゲームの参加者『は』……という表現を使った」

ほむら「ゲームとやらに参加していない使い魔がいると解釈が可能。それらは無差別に狙ってくる可能性がある」

ほむら「つまり、全員を救うことなんて元より不可能なこと。既に犠牲者もいるかもしれない」

ほむら「何人かの犠牲には目を瞑らなければならない……そう考えるべき」

ほむら「犠牲者ゼロではなく、少しでも犠牲を減らすという考え方」

ほむら「そのためにも、魔女を優先し、一秒でも早く殺すことが望ましい」

まどか「そ、そんな……」

さやか「くっ……!」

さやか「そんなの……そんなの納得いかないッ!」


さやか「百歩、いや、三百歩譲って、多少の犠牲には目を瞑るとしても……」

さやか「救う気ゼロの心構えなんてできるかッ!」

まどか「わたしもさやかちゃんと同じ気持ちだよ……」

ほむら「私だって同じよ。でも状況が状況」

ほむら「スタンド使い相手に、スタンド使いでないあなたの勝機は薄い」

ほむら「私は見えるから、強いて言うのなら私が行くべきなのだけれど……」

ほむら「私はそれをしない」

さやか「確率がいくら低かろうと……そんなんがなんだ!」

さやか「覚悟とは暗闇の荒野に進むべき道を切り開くことだ!」

さやか「諦めず、道を切り開こうとする覚悟が大事なんだ!」

ほむら「私は諦めろと言っているんじゃあない!全滅する危険を冒すことがいけないのよ!」

ほむら「魔女を殺すことがみんなの安全を守ること!」


さやか「何を言ってんだ!魔女を優先!?じゃあ病院の時のことはどうなのさ!?」

さやか「言っちゃ悪いけどあんたが魔女を優先したからあたしは契約をしたのよ!」

さやか「この学校に魔法少女の素質のある人はもういないと言い切れるの!?」

さやか「あんたは全校生徒のことを掌握できていると言えるの!?」

ほむら「……っ!」

さやか「ほむら!あんたの意見もごもっともだし、あたしは無責任で感情的に助けるって喚いてるに過ぎないかもしんない!」

さやか「あんたのことは尊敬しているが魔女最優先って案には従えない!」

さやか「何のための魔法少女だ!?卑怯な手も使おう!最悪魔女になったって構わない!」

さやか「でも人命を二の次にするってことだけは……」

さやか「できないねッ!」


さやかは振り返り、全速力で走り出した。

机をいとも容易く避け、教室を出ていった。

強化ガラス越しに、さやかの必死な横顔を見た。


まどか「さやかちゃん!」

ほむら「ま、待ちなさい!美樹さやかッ!」

ほむら「……くっ」

まどか「ほむらちゃん!さやかちゃんを追いかけようよ!」

ほむら「…………」

ほむら(私に命を預けるって言った昨日の今日で……!)

ほむら(忘れていた……美樹さやかの頑固さを……誓ってくれたからって油断をした……!)

ほむら(とは言え……)

ほむら「……追う必要はない」

まどか「ほむらちゃん!?」

ほむら「追わないというより、追えないわ……」


ほむら「私は唯一のスタンド使い……敵の最大の驚異と言っていい」

ほむら「私は狙われやすい……それに時間停止もストーン・フリーも対策されている恐れがある」

ほむら「私としても……スタンド使いとの戦いに慣れているわけではないし、あなたや美樹さやかを守りながら戦える自信がない」

ほむら「美樹さやかのような直情タイプは、今は放っておくしかない」

まどか「そんな……そんなのってないよ!仁美ちゃんや先生だけでなく……さやかちゃんまで見捨てるなんてこと……」

ほむら「……昨日話した通りよ」

ほむら「あなたが契約したら……学校の人々どころか、世界が滅ぶ。守るという思考さえままならない」

ほむら「どっちがマシか、とかではない。それを抜きにしてもあなたが最優先。それが私という魔法少女よ」

ほむら「志筑仁美や早乙女先生の死も、美樹さやかの自滅も、場合によっては仕方ない犠牲」

ほむら「あなたの無事を保証できるまで、余計な行動はできない」

まどか「そんな……そんな言い方あんまりだよ……!」

ほむら「あなたがすることと言えば、大切な人の無事を祈ること」

ほむら「今はあなたを呉キリカに託すことしか私にはできないが……ただ守られていればいい」


呉キリカが到着したのは、丁度一分三十秒後のことだった。

ぜぇぜぇと息を切らしているが、現在自分以外で最も頼りになる魔法少女。

その間、ほむらとまどかは、一切言葉を交わしていない。

まどかは、ほむらの目を見ることができなかった。


キリカ「お待たせ……恩人……!」

ほむら「思った以上に早かったわね。素晴らしいわ」

まどか「…………」

キリカ「……君が頼みたいこと、何となくわかった」

ほむら「なかなか空気が読めるのね」

キリカ「でも一応、聞かせてよ」

キリカ「恩人はこれからどうするのか、そして私は何をするべきか」


ほむら「……私は魔女を探すわ」

ほむら「ヤツらは私がスタンド使いであることを知っているし、佐倉杏子の使い魔の仇でもある」

ほむら「私は確実に狙われる。私は先に魔女を探して、戦況を作る」

ほむら「あなたは佐倉杏子と合流して、状況を伝えて」

ほむら「そしたら佐倉杏子と一緒にまどかを結界から避難」

ほむら「あなたの魔法は私の時間停止魔法と似たようなものだから、避難する分には十分過ぎるわ」

ほむら「まどかを避難させたら、二人で魔女を探して殺すこと」

キリカ「あぁ、わかったよ。別にまどかを殺して織莉子の遺志を継ごうだなんて考えてないもんね」

キリカ「……そんな怖い顔しないで。任せなよ。恩人」


キリカ「それで?恩人は単独で行動するんだ?」

ほむら「えぇ。私は狙われやすいし、実際一体の使い魔に目をつけられた」

ほむら「私の場合はスタンドが見えるから……まだ渡り合える」

ほむら「それじゃあ……任せたわ。私は行く。杏子もすぐ来てくれるはずよ」

キリカ「わかったよ。恩人」

ほむら「…………」

まどか「…………」


ほむらは、まどかに何か声をかけるわけでもなく、一瞥してから教室を出ていった。

まどかは沈んだ表情をしていた。気を使ったのだろう。


まどかは、ほむらの魔女最優先という判断に対し「冷酷」と思ってしまった。

昨日ほむらから、自分のために悲しすぎる過去を体験しているということを聞いていた。

嘘だと疑うわけではない。

むしろ自分のことをこれ程までに大切に思ってくれている人がいたことに、嬉しく思った。

そうだとしても、まどかはほむらのことが、自分にとってのヒーローであると同時に……怖かった。

涙を流しながら、いつもと違う口調で話したほむらが、愛おしくいじらしく思えたのも事実。

しかし、そのほむらに、契約をしたら殺すと遠回しに脅されているという事実もある。

脳裏に押し込んだ複雑な気持ちが、再び浮上してきた。

友達なのに、怯えている自分が存在する。

——自分を救うために、悲しい思いをされていること。

全ては自分のためにやってくれていること。しかしその選択を心のどこかで否定している。

まどかは、そういった罪悪感も感じていた。


ほむらは、取りあえず屋上へ向かっていた。

屋上に魔女がいるかもしれない。何となくそう思い、向かった。

しかし、結論から言うと……ほむらは屋上にたどり着けなかった。

気が付けば、教室にいた。

均等に並べられた、統一感された机と椅子。

床には、見滝原中学校の制服を着た遺体が数体転がっている。

電子機器内蔵されている、何も書かれていない綺麗な白板に血がついている。

「いらっしゃい。暁美さん」

そして、ベレー帽を被った、魔法少女の姿がそこにいる。

先程会った、先輩の概念。前の時間軸の巴マミの概念。Mami。


Mami「あなたが来るのを楽しみに待っていたわ」

Mami「Kyokoの仇だからね」

ほむら「…………」


ほむら「私は魔女を探して屋上へ行こうと思っていた……」

ほむら「そして、階段を上がっていたと思ったら……」

ほむら「いつの間にかここにいた」

ほむら「……幻覚のスタンドね」

ほむら「志筑仁美がそういう能力を持っていた。名前は確かティナー・サックス」

ほむら「幻覚の迷路で、私をここに誘い込んだ……」

ほむら「そういうことなのね?」

Mami「Esattamente(その通りでございます)」

Mami「アーノルドの使い魔群ヴェルサスのリーダーとして、私はあなたを葬る意義と義務がある」

Mami「元あなたの先輩として、正々堂々と決闘という形で決着をつけなければならない」

Mami「決闘を断る権利はある……しかし、断れない状況を作ることは嘘つきの行動ではない」

Mami「だから、こうなった」


Mamiは、「同じ顔」をしていた。

「友達」を家に招き入れた際に見る歓迎の微笑み。

それと、全く同じだった。

遺体が転がっている教室にも関わらず、紅茶とケーキをご馳走してきそうな顔だった。


ほむら(決闘……か)

ほむら(使い魔だというのに、そんな人間らしいことを言えるのがこの使い魔の恐ろしいところだ)

ほむら(……さて、どうしたものか)

ほむら(今ここで時間を止めて即、撃ち殺せるのがベストではあるが……)

ほむら(果たして、そんな簡単にいくだろうか)

ほむら(ヤツはわざわざ私をここに呼びよせた……)

ほむら(時間停止魔法が使える私を、わざわざ迎え入れた)

ほむら(ならば当然、時間停止に対して何らかの対策をされているはずだ)

ほむら(されているとすれば、どういう対策か……恐らくスタンドが関係している)

ほむら(ヤツのスタンドもわからない以上……迂闊に行動はできない。ここは様子を見ておくか)


ほむら「……質問したいことがある」

Mami「えぇ、どうぞ」

ほむら「私との一対一を望んでいるのね?」

Mami「その通りよ」

ほむら「ティナー・サックスの幻覚が加勢しているようなものじゃないの?」

Mami「それはないわ」

ほむら「この三年生の教室は本物?」

Mami「そうかも……」

ほむら「無関係の人間の遺体が転がっているのは何故?」

Mami「正当防衛よ」

ほむら「ゲームとやらの参加者というのは、使い魔全員を指すの?」

Mami「いいえ」


ほむら「今までにあなたは何人殺した?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「今スタンド使いの使い魔は全部で何体いる?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「アーノルドはどこにいる?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「あなたはアーノルドを守るためにここにいるの?」

Mami「答える必要はないわ」

ほむら「他の使い魔はどこにいる?」

Mami「答える必要はないわ」


ほむら「……答えられないという答えが多いようだけど」

Mami「嘘をついても構わないのよ」

Mami「でも私は嘘をついたり騙したりするのはあまり好きじゃないの」

ほむら「……そう」

Mami「さぁ、て、と……無駄話もこれくらいにして……」

Mami「そろそろ、始めましょうか。スタンドバトル」

ほむら「…………」

Mami「あなたのスタンド、ストーン・フリー」

Mami「剛と柔を兼ね備えた糸のスタンド。一方、私のスタンドは不明」

Mami「情報量に差があってフェアではないけど、仕方ないわよね」

ほむら「……そのハンデとして、とまでは言わないけど一つ要求したい」

Mami「あら、何かしら?」


ほむら「待ってくれない?」

Mami「……なんですって?」

ほむら「あなたとの戦い、少し待ってくれと言ったのよ」

Mami「……怖じ気づいたのかしら?」

ほむら「いいえ。言葉通り。ただ待ってほしい」

Mami「随分とふざけたこと言ってくれるじゃない」

ほむら「待ってくれないの?」

Mami「どうしようかしら」

ほむら「虫けら以下の存在が尊敬する先輩の姿であることへの躊躇を消すための『時間』が欲しい……」

ほむら「私にとっては非常に重要な世界なわけだけど」

Mami「……虫けら以下の存在に交渉が成立すると思って?」


ほむら「通じるわ。あなたは腐っても巴マミだから。巴マミという概念だから」

ほむら「それなりのプライドがある。挑発に乗らない冷静さがある。戦士としての誇りがある」

ほむら「今のあなたなら、敵と言えど可愛い後輩の頼みは聞いてくれるんじゃないかしら」

Mami「…………」

ほむら「それとも……使い魔になると全部が全部、ただの人食いしか脳のないノミ以下の概念となるの?」

ほむら「敵のスタンドの秘密を知っているというアンフェアな状態で勝てても嬉しいんでしょうね」

ほむら「正々堂々と戦うという当たり前のことができない……あぁ、嘆かわしい」

Mami「ずいぶんと露骨な挑発をするじゃない。人を虫けら以下呼ばわりして……」

ほむら「えぇ、絶賛挑発中……。それとあなた人じゃあないでしょう。あなた如きが人を語るんじゃないわ」

Mami「本当にあなた私と交渉するつもりあるの?」

ほむら「大いにあるわ」


ほむら「……いい?あなたにもう一つだけはっきり言っておくわ」

ほむら「あなたと私は精神的に身分が違うのよ。今の私は精神的貴族に位置する」

ほむら「つまり私とあなたとでは考え方が決定的に違うというもの……」

ほむら「もう一度、交渉内容を確認するわ。悔しければ応じなさい」

ほむら「成り上がり貴族を気取りたいならYESと言うべきよ」

ほむら「私は純粋に、心おきなく戦えるために虫けら以下の存在が尊敬する先輩の姿であることへの躊躇を消すための心の準備がしたい」

ほむら「あなたが戦いに誇りを覚えているのなら、全力で戦える私と戦う必要がある。義務がある。意義がある」

ほむら「何もあなたのスタンドの秘密を教えろと言っているわけじゃあないのよ」

Mami「…………」


Mamiの左瞼はピクピクと痙攣していた。

優しい微笑みは、苦笑いと化していた。


Mami「虫けら以下……ね。まぁブタとかカスとか言わなかっただけ良しとしましょう」

Mami「私も私だし……お腹も一杯だし、すぐに食べるのもあれよね……」

Mami「いいわ。五分だけ待ってあげる」

ほむら「……チョロい」

Mami「何か言った?」

ほむら「感謝すると言ったのよ。小声で」

ほむら(……挑発を交えつつ譲歩を要求する。そうすることで『敢えて』乗ってくる)

ほむら(もし乗らなければ挑発を受けてしまったようで『ダサい』からだ)

ほむら(敢えて相手の欲求を受け入れる。そういう余裕を見せたがる。相手よりも先に引き金を引かない性格)

ほむら(言い方は悪いけど、巴さんには、こういった性格上の欠点がある)

ほむら(それは、巴さんの概念であるヤツにも通用する……『決闘』や『フェア』という言葉を使用したならなおさらのこと)

ほむら(それにしても、よくもまぁここまで口が回ったものね、私……)

Mami「そうそう……暁美さん。ただし、条件があるわ」

ほむら「条件?」


Mami「……トッカ」

シュルッ

ほむら「ッ!」


使い魔は腕を軽く持ち上げた。

指の先から黄色いリボンが、真っ直ぐに伸びた。

まるでストーン・フリーの糸のようだった。

リボンはほむらの左腕と、盾に巻き付く。


Mami「リボンであなたの左腕を縛った」

Mami「あなたの時間停止能力……止められる前に触れていれば時の止まった世界に入門できる。前の時間軸の経験」

Mami「だから、リボンであなたに触れることにする。拒否は許さない」

Mami「まあ、触れてようがなかろうがそれくらいの調節はできるようになってるかもしれないけど……」

Mami「それを踏まえて左腕……盾を縛った。時は止められても武器は取り出せまい」


ほむら「……わかったわ。えぇ、当然の発想ね」

ほむら(ストーン・フリーでその気になれば切断できるが……それはさておき)

ほむら「今から、きっちり五分ね……わかったわ」

Mami「やれやれ……あなた、ずいぶんと変わってしまったわね」

ほむら「これから私はあなたの顔面をストーン・フリーで殴り潰す覚悟を完了するまで精神統一をする。……だから静かにしててちょうだい」

Mami「……はいはい」


ほむらは透明の壁にもたれかかり、腕を組んだ。

所詮は使い魔。

元より尊敬していた先輩の姿だからといって殴ることに躊躇はない。

精神統一をするというのは真っ赤な嘘。

それでもほむらはそのままじっと床を睨みつけた。

ほむらと先輩の概念の決闘は一時的に凍結される。



キリカと合流して、ほむらと別れ、何分くらい経っただろうか。


まどかは、ずっとそわそわしていた。

すぐ隣にいるキリカは、契約したら殺すと口に出して言った人物。

そして、仮に織莉子という人物が生きていれば、その人と共に殺しに来ていたであろう人物。

実際は今こうして守られているし、悪い人ではないと思えるが、やはり恐怖は拭えない。


「まどか!キリカ!」


——この瞬間を、まどかはどれだけ待ち望んでいたことか。

ポニーテールの魔法少女の声が、名前を呼んだ。

紅潮している頬に一筋の汗が伝っている。

彼女も彼女で、良い印象を持っているわけではないが、

さやかの友達というだけで、ずっと気楽にその名を呼べる。


まどか「杏子ちゃん!」

杏子「気配がしたんでな……急いで来たぜ」

キリカ「それはよかった。しかし、よくここがわかったね」

杏子「まぁな。やっぱり覚えてるもんだな。見滝原の地理は」

キリカ「あー、違う違う。私達がこの教室にいるってことだよ」

杏子「あぁ、そっちか。学校ん中は初めてなんでチト迷ったがな」

杏子「まどか。怪我はないか?」

まどか「うん」

杏子「そうか。よかった」

キリカ「君もまどかが大事なのかい?」

杏子「ぶっちゃけ言うほどじゃない。ほむらが大事だっつーなら、あたしが守りたいものでもあるってだけさ」

杏子「マミの遺言だからな。ほむらに尽くすことは……で、そのほむらはどこだ?」


まどか「ほむらちゃんは一人で行っちゃったよ……」

杏子「そうか……まぁあいつなら大丈夫だろう」

杏子「それで、あたしはどうすればいい?」

キリカ「えーっと……」

キリカ「あれ?君に何か伝えるようなことあったっけ?私ィ」

まどか「…………」

杏子「…………」

キリカ「あ、そうそう。私と一緒にまどかを避難させようってこと」

杏子「何だそんなこと。元よりそのつもりさ」

キリカ「思い出した。私は君にそれを伝えるまで待機していた。で、君にそれを伝えたから、まどかを避難させて再入場」

杏子「なるほどね」

まどか「…………」


杏子ちゃんもキリカさんも……結界で迷ってる人を助けようって言ってくれない。

わたしは、仁美ちゃんや早乙女先生……みんなを助けてほしい。

でももし言ったら、ダメって言われるだろうな……聞かなくても何となくわかっちゃう。

やっぱりほむらちゃんが言ってた通り……

魔女を早く倒すのが、結果的にはみんなを助けることになるんだよね。

だけど……わたしは……。


「……え?杏子?」

まどか「え?」

キリカ「ん?」

杏子「……さやか?」

さやか「な、何……で杏子がここにいんの?」

さやか「何で、まどかやキリカさんがこんなとこに……?」


杏子「は?何言ってんだおまえ」

まどか「さやかちゃん……さっき出てったよね?」

杏子「出てった?……と、なると戻ってきたのか」

さやか「いや……あたしにもよくわかんない……」

キリカ「わからない?」

さやか「うん、気が付いたら……ここにいたんスよ」

さやか「……あ、ありのままに起こったことを話すよ!」

さやか「あたしは階段を下りたと思ったらいつの間にか上っていた」

さやか「な、何を言ってるのかわからないと思うけど、あたしもよくわからなかった……」

さやか「超スピードだとか瞬間移動だとかそんなんじゃない!」

さやか「学校を走り回っていると思ったら、ここに戻ってきていたんだ!」

杏子「お、おい……落ち着けよ」

キリカ「…………」


キリカ「……なんて言ったっけか」

まどか「?」

キリカ「恩人が昨日言ってた……スター……いや違う。『ティナー・サックス』とかいうスタンド」

キリカ「迫真のリアリティーな幻覚の能力。もしかしたら、それでさやか、君は……」

さやか「ゲ、ゲームとかでよく見る、元いた場所に戻って来ちゃう迷いの森的な……?」

杏子「それしかないな……」

まどか「そ、そんな……既に、スタンド攻撃が……」

さやか「言われてみれば……ほら、空が……病院の時みたいに暗くないし……」


さやかは指をさした。三人が振り返ると、その通りだった。

空が黒い。しかし、室内には確かに雲越しの日光が入っている。

まどかはこの光景を見るのは今が初めて。そのため、とても驚いた表情をしている。


杏子「ん、そう言えば……」

キリカ「うっかりしていたが……そうか」

キリカ「……あくまで一般人には結界を悟らせない、と」

杏子「混乱させない、騒がせないために……幻惑魔法の代理か」

さやか「と、取りあえずまどかを避難させよう!」

さやか「折角戻ってきたし、あたしがまどかを抱えますからさ!一緒に……」

杏子「いや、さやか。キリカには時間を操るタイプの魔法が使えるんだ」

杏子「ほむらはあたしとキリカの二人でと言ったそうだが……こいつ一人で十分」

杏子「さやか。あたしと二人で行くぞ。魔女を優先するして倒そう」

さやか「魔女ぉ!?いやいや!ダメだって!」

まどか「そうだよっ!仁美ちゃん達を助けなくちゃ……!」

杏子「仁美ぃ?気持ちは分かるが甘いこと言ってんじゃないぞ」


さやか「仁美はあたしの親友だ!助けないと!」

キリカ「さやか……取りあえず落ち着いて」

さやか「キリカさんはどうなの!?あんたはどっち派!?」

杏子「ほむらは魔女を最優先だっつった」

杏子「ほむらがそういう方針ならそれに従うべきだ!」

まどか「そ、それでも……!」

さやか「……まどか。もう二人はほっといて、二人で仁美を捜そうよ」

杏子「だー、もう!勝手な行動をするな!まどかは避難させるのは絶対だろ!」

キリカ「…………」

さやか「だったら仁美を助けに行こうよ!ねぇ!」


キリカ「…………」

キリカ「……なぁ、三人とも」

まどか「?」

杏子「何だよ」

キリカ「あんまり迂闊に動くな」

さやか「い、いきなり何ですかキリカさん……」

キリカ「正直言ってね、私は疑ってるんだ。元々疑り深い性格なんでね……」

杏子「何を疑ってるっつぅんだよ」

キリカ「使い魔は私達にそっくりだ。つまり、この中に『偽物』がいる可能性を危惧している」

キリカ「杏子かさやか。まどかも案外そうかもしれない」

まどか「えぇっ!?」


キリカ「さやかは一旦退室したから結局、この教室に最初からいたのはまどかだけだ」

キリカ「疑うのは当然だろう」

さやか「……そ、そんなこと言われてもさぁ」

まどか「…………」

杏子「…………フン」

キリカ「でも心配はいらないよ」

キリカ「実はね……使い魔とモノホンを見分ける方法を見つけたんだ」

さやか「え……ま、マジですか?」

まどか「み、見分けるって……」

杏子「正直、本物も偽物も、あいつらは一応概念っつー『本物』でもあるんだぞ。見分けられんのか?」


キリカ「この使い魔共はね……『指』で食事するんだ」

キリカ「吸って喰うらしい」

まどか「吸う……?」

キリカ「そう。体に指をぶっ刺してそこからチューチュー吸いとるんだ。蚊やダニが血を吸うみたいにね」

キリカ「そこで、肉に食い込みやすくするよう、使い魔の『指はチト鋭い』んだ」

さやか「えっ!?嘘ッ!?」

まどか「ほ、本当ですか!?」

杏子「んなことがあるわけねぇだろ……」

キリカ「…………」


まどかは目を丸くしてキリカの顔を見つめ、次の言葉を待つ。

さやかは自分の指を見て、そして隣にいる杏子の手を見た。

杏子は呆れた顔をして答えているが、視線の先はキリカの顔ではなく指にいっている。


キリカ「……ふふ」

キリカ「ああ、嘘だよ……。だが、マヌケは見つかったようだね」

まどか「え?」

さやか「何を言ってんスか?」

杏子「…………」

杏子「……そういう、ことか」

さやか「……?」


杏子はその意図を悟り、視線を移す。

まどかは杏子の動きを察知し、同じものを見る。

さやかは少し考えた。


杏子「…………」

キリカ「…………」

まどか「……あっ」

さやか「…………あぁッ!?」


さやかは気が付いた。

三人の視線が自分に集中していることに。

そしてさやかは理解した。

自分が置かれている立場。

自分の行動が犯したミス。

まどかがその意味を理解した少し後だった。


杏子「てめぇ……!」

まどか「……さ、さやかちゃ……」

さやか「…………」

キリカ「なぁ、どうなんだ?さやか」

キリカ「いや……」

キリカ「この『使い魔』ッ!」

さやか「…………」


さやかの姿は眉を潜めてキリカの顔を見る。

そして、口角がじわじわと上がっていく。

前の時間軸の美樹さやかの概念。ヴェルサスのSayakaだった。


Sayaka「……プ——ッ!」

Sayaka「ウヒヒヒヒヒヒヒ!ハハハハハハハハーッ!」


Sayaka「ウッ、クックックックックックッ、クックッフヒヒヒ!フッフッフッ、ハハハハフフハハッ!ノォホホノォホ」

Sayaka「ヘラヘラヘラヘラ……アヘ、アヘ、アヘ……ウヒヒヒ!ウハハハハハハハハハ!フハハハハハハハ!」


さやかの姿をしたものは、笑った。自分で自分をあざ笑っている。

杏子はまどかの真横に移動した。キリカは爪を構えている。

ジシバリの魔女アーノルドの使い魔、Sayakaは大声を出して笑った。

まどかは、歪んだ笑顔で笑う幼なじみの姿に戦慄した。

杏子は、全く気付けなかった自分に苛立った。

キリカは、もし違和感を覚えていなかったらまどかがどうなってたことか……そう思い寒気がした。


Sayaka「クックック……ヒヒヒ……いやぁ……」

Sayaka「……シブいねぇ」


Sayaka「……キリカさん。ほんと、シブいねぇ」

Sayaka「そっか……そうだよね……」

Sayaka「使い魔だったら指の形が変だ、な〜んて言われてもさぁ……」

Sayaka「わざわざ『自分の手』なんざ見るもんじゃないよねェ」

Sayaka「普通、話者の顔とか周りの人の指を見るってもんだ」

Sayaka「だって使い魔じゃないもんよ」

キリカ「……いいや、そうとは限らない」

キリカ「自分の指と『それ』の指を見比べるという意味で……自分の指を見ること自体は何らおかしくない」

Sayaka「ほえ……?」

キリカ「結局のとこ、君は自分で自白したんだよ」

Sayaka「…………」

Sayaka「ふぅー……」

Sayaka「あたしってほんと馬鹿」


Sayakaは頭をポリポリと掻いた。

そして、その手を首に宛った。


Sayaka「やるじゃない。ちょっと見くびってたよ」

Sayaka「まぁ、あたしとしても……今の演技がバレてもいいとは思っていたんだよね」

Sayaka「惜しかったなぁ……あと少しで一気に『三ポイント』だったのに」

Sayaka「……しかしッ!」

キリカ「!」

ズバァッ!

Sayakaは自身の首を指で掻き切った。

肉を抉りとり、そこから体液が勢いよく噴出される。

その液体は、杏子とまどかにかかる。

まどか「んッ!?」

杏子「うあッ!?」

Sayaka「どうだこの血の目つぶしィッ!」


キリカ「まどか!杏——」

キリカ「ガフッ!?」

キリカ「ゲホ……?ゲハッ!」


キリカは首を抑え咳き込んだ。

激痛と共に吐血をした。

手に濡れているような感覚。首から出血している。


キリカ「な、何だ……!?」

キリカ「わ、私は……触れられていないのに……」

キリカ「いきなり首の肉が裂け……いや、抉れた……!?」


Sayaka「まどかはいただくよッ!」

まどか「わあッ!?」

杏子「ああっ!」

キリカ「ぐっ……!ガホッ!」


二人の目がくらんだ隙とキリカが咳き込んでいる突き、Sayakaは駆ける。

スピードには自信がある。

一気に距離を詰め、杏子を突き飛ばす。

そして素速くまどかを抱え、全力で走る。

Sayakaはそのまま教室から出ていった。

杏子は顔を拭い、Kirikaは魔法で首を治癒した。

使い魔を逃がしてしまった。


キリカ「ハァ、ハァ……」

キリカ「くそぅ……スタンド能力か……名前は確か……『ドリー・ダガー』……」

キリカ「ダメージを転移する能力……いきなり私の首を……くっ、恐ろしい能力だ……」

杏子「うえぇっ、ペッ、ペッ!く、口に入って……!」

キリカ「あーあ……参ったな……まどかが攫われちゃったよ」

キリカ「こりゃ恩人に顔向けできない」

杏子「……え?」

キリカ「いや、こっちの話さ」

キリカ「それよりも、さっさと顔を拭いな。こっちもこっちで大変だよ」

杏子「……?」

杏子「……!」


Sayakaと入れ替わったかのように、既に別の「人物」がいた。

そこにいたのは、小柄な女性だった。

眼鏡をかけて、にこにこと微笑んでいる。


キリカ「……『早乙女先生』……どうしたんですか?」

和子「いえ、みなさん。学校に遅くまで残って勉強だなんて、感心だなと思いまして」

和子「呉さん。久しぶりですね。担任の先生が心配してましたよ」

キリカ「……何て言うと思った?」

キリカ「貴様は使い魔だ……差詰め『Kazuko』ってとこかい」

Kazuko「やっぱり、気付いてましたか……タイミングがタイミングですしね」

キリカ「かかってきなよ……」

キリカ「私は……絶対にまどかをこの結界から避難させる!」

杏子「…………」


キリカ「アメリカ方式」

キリカ「フランス方式」

キリカ「日本方式」

キリカ「イタリア、ナポリ方式」

キリカ「世界のフィンガー『くたばりやがれ』だ」

Kazuko「せ、先生をバカにしているんですか!?体罰をします!」

Kazuko「『スケアリー・モンスターズ』ッ!」

キリカ「ふん!首を切り落としてやるさ!」


キリカは爪を構え、使い魔と対峙した。

愛情を一切感じさせない表情を見せる、教諭の概念はヒステリックに叫んだ。

今回はここまで。お疲れさまでした。

最初は27話構成みたいなこと言いましたが、予定を変更します。
思いの外今回のが長かったんで、戦闘は戦闘で分けたいという理由で急遽ここまでを一話にカウント。
一話追加……正確には最終話をエピローグということにします。
次回戦闘回とか言っておきながらで申し訳ないです。今度こそ、次回から戦闘です。多分今夜投下します
取りあえず言えることは、これ次スレ行きますね。しかも二スレ目が中途半端に終わりそう

ちなみに今回のサブタイトルは魔少年ビーティーのサブタイトルが元ネタだったりする。わかりづれー

>>765
キリカがKirikaになってたけど、まさか…

>>772
ヤバイ。うっかりしてました。同じ名前なせいで本当にうっかりしてました。あたしってホントクサレ脳みそ
すみません、>>765を訂正します。



Sayaka「まどかはいただくよッ!」

まどか「わあッ!?」

杏子「ああっ!」

キリカ「ぐっ……!ガホッ!」


二人の目がくらんだ隙とキリカが咳き込んでいる突き、Sayakaは駆ける。

スピードには自信がある。

一気に距離を詰め、杏子を突き飛ばす。

そして素速くまどかを抱え、全力で走る。

Sayakaはそのまま教室から出ていった。

杏子は顔を拭い、キリカは魔法で首を治癒した。

使い魔を逃がしてしまった。


#23『そんなの、佐倉杏子が許さん』


一方、まどかを抱えたSayakaは、

追っ手がいないことを確認しつつ『図書室』に辿り着いた。

図書室は、Sayakaにとっては思い出の場所。

前の時間軸の死に場所である。


Sayaka「ふぅ……ッブネー!」

Sayaka「まさか使い魔ってことがバレるとはね……」

Sayaka「でもま、いっか〜。これでゆっくりと食える」

Sayaka「たくさん食べて大人の女になるぞー!」

Sayaka「まどか。あんたはあたしの嫁だからなぁ……。嫁だからあたしが食わないといけないんだ」

Sayaka「うぇひひ!別にイヤらしい意味じゃないからね。食べ方も動機もさぁ!」


まどか「…………」

Sayaka「どうしたい?恐怖で言葉も出ないのかな?」

Sayaka「安心しなよ。痛くしないからねぇー」

Sayaka「まずは服を脱がそう」

Sayaka「あ、勘違いしないでね。あたしはKirikaさんと違って同性愛者じゃあないからな」

Sayaka「バナナを食べるのに皮を剥くのと同じ理由だよぉ」

Sayaka「……そもそも使い魔に性別ってあるのかな?あたし乙女名乗っていいの?」

まどか「……おい」

Sayaka「え?」

Sayaka「……き、気のせいかな?今、まどかの口から出てはいけない言葉が——」

まどか「図に乗ってんじゃあねーぞスカタンが!」


ガシィッ!

まどかはSayakaの顔面に肘鉄を叩き込んだ。

Sayakaは思わず鼻を押さえるためにまどかを離す。

そしてまどかはSayakaから離れ、後方にジャンプし距離をとった。

まどかは不敵に、ニヤリと笑っている。


Sayaka「ブッ!?ぶがっ……!ま、まどか……!?……い、いやッ!貴様ッ!」

まどか「……本物のさやかがこの場にいたならこう言うだろーな」

まどか「まどかだと思った?」

まどか「残念!『あんこちゃん』でしたってな」

Sayaka「!?」

まどか「そしてあたしが『誰があんこだ!』ってツッコミをいれるんだよ」


鹿目まどかの姿は、いつの間にか変わっていた。

制服は赤い衣装。

桃色のツインテールは赤銅色のポニーテール。

佐倉杏子がここにいた。


杏子「実はそんなにさやかと話してはいないが……何故だかそんなやり取りが思い浮かぶんだ」

Sayaka「な、何ィィ〜!?」

杏子「あたしの固有魔法は幻惑だ」

杏子「ちょいと幻惑魔法を使わせてもらったぜ」

杏子「あたしの姿とまどかの姿が入れ替わる。そういう幻を見せた」

杏子「あんたは、まどかと『見間違えて』あたしを連れてきたんだ」

杏子「さぁ、あんたの相手はこのあたしだ!」

Sayaka「あたしをおちょくりやがってぇ……!絶対に絶っ……」

Sayaka「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜対に!ぶっ殺ォォォォス!


Sayakaは剣を構え、杏子に剣先を向ける。

「ガル」と言わんばかりに顔を強ばらせ威嚇した。

そして、スタンドの名を叫ぶ。


Sayaka「ドリー・ダガーッ!」

杏子「出してきたか……スタンド!」

Sayaka「スタンド使いの魔法少女と魔法少女、どっちが強いか!」

Sayaka「そんなの試すまでもない!すぐに勝つ!」

杏子「……種はわかっているぞ」

杏子「あたしはほむらと共闘を結んだ。そして、前の時間軸とやらのことを聞いた」

杏子「前の時間軸……あんた、いや、その時のさやかもほむらと共闘関係にあったそうだ」

杏子「あたしとは敵対していたらしい……それはちょっぴり寂しいことだがそれはさておき」

杏子「ドリー・ダガー……『その刀身に映った相手に自身へのダメージの七割を転移する能力』……ほむらからの情報だ」

Sayaka「…………」


ドリー・ダガー。

剣に取り憑いている、実像を持たないスタンド。

その能力は、剣の刀身に映っている相手に自身への『ダメージの七割を転移』する。

Sayakaの頭を吹き飛ばそうものなら、相手は頭の七割が吹き飛ぶ。

体を突き刺せば、転移する七割分の傷を相手は負う。

首を掻き切れば、転移する七割分の傷を相手は負う。

それは、転移に成功すればダメージを三割に軽減されるということも表す。


前の時間軸、「さやか」は失恋をした。

「恭介」が「仁美」に好意を抱いてしまったためである。

そして「恭介」が「仁美」を好きになった原因は『スタンド』にあった。

「さやか」は『自分が悲しい思いをしているのは全てスタンドのせいだ』と、思った。

悪い結果が訪れても自分に落ち度はないはず。

そういう責任転嫁願望から発現したスタンド。


Sayaka「へぇ……よく知ってたもんだ」

Sayaka「スタンドの種が既に知られているってのはあまりいいことではない……」

Sayaka「スタンドを知られるということは弱点を知られることに繋がるからねぇ……」

Sayaka「だけどだよ?」

Sayaka「それはスタンド使いが相手だったら、の話だ」

Sayaka「公平な立ち位置だったら、の話だ」

Sayaka「あるとないでは、ある方が強いに決まってる!」

Sayaka「あんたにあたしが倒せるのかぁ!?」


Sayakaは刀身を杏子に見せつけた。

鏡のように光り、杏子の姿を映している。


杏子「それがどうした」

Sayaka「ん?」

杏子「それがどうしたのかと聞いたんだよ。有利不利なんてのは関係ない」

杏子「確かに……スタンドという未知の能力の差を超えるのは難しいかもしれない」

杏子「だが……あたしはあんたと違って人間の心……」

杏子「人としての考えがあり、誇り高い意志と覚悟がある」

杏子「だからわざわざあんたに教えてやる。使い魔ごときにはチト難解かもしれないが……」

杏子「いいか、最も難しいことは……そういう障害を乗り越えることじゃない」

Sayaka「…………」

杏子「最も難しいことは『自分を乗り越える』ことだ!」

杏子「あたしは自分の『過去』をこれから乗り越える!」

Sayaka「過去?乗り越えるぅ?何を言ってるんだあんた」


杏子「家族が死に、ゆまが死に、マミが死んだ!」

杏子「あたしの心はマイナスだった!それをゼロにするというんだ!」

杏子「行くぞ!『ロッソ・ファンタズマ』だッ!」

Sayaka「なっ……!」


ロッソ・ファンタズマ。

杏子の幻惑魔法。それは己の分身を作り出す魔法、その名前。

分身は幻影であると同時に力があり、

それぞれの分身がその槍を振るい攻撃をすることが可能。

また、視覚的な撹乱や身代わりによる回避もできる。

過去を拒絶して封印された、杏子の願いに伴い目覚めた固有魔法。

杏子の姿が複数に「増え」た。

ちなみに名付けたのはかつての師匠、マミである。


一人、二人、三人。

杏子の分身が増えていく。

幻影でありながらダメージを与えることができる。

使い捨てのスタンドのようなものだと、杏子は思った。

Sayakaは歯を食いしばり、目を丸くして驚いてみせる。


Sayaka「げ……『幻惑魔法』ッ!」

Sayaka「ど、どういう……ことだ!そういえばそうだった!」

Sayaka「ヤツは幻惑魔法が使えなくなっているはずだ!」

Sayaka「過去のトラウマなぞいざ知らずなKyokoならまだしも……」

Sayaka「こ、『この杏子』が使えるはずがない!」

Sayaka「当たり前に使ってて気付かなかった!」

Sayaka「こいつは幻影を使って、まどかに化けてた!」


杏子「人は、変われる。時として精神的に成長するんだ」

杏子「あたしには、未来を生きる決定的な理由と目的がある!」

杏子「あたしは、さやかと生きるという楽しみがある!」

杏子「そのためにはいつまでも過去に縛られてはいけないんだ!」

杏子「ほむらもキリカも、失った過去を心の隅に追いやって生きて戦っている!」

杏子「だったらあたしもよぉ!マミもゆまも家族も、失った過去と向かい合わなきゃいけねーだろ!」

杏子「マミに付けられた名前!父親から拒絶された幻惑魔法!」

杏子「そしてゆまを救ったこの槍であんたに引導を渡してやる!」


分身は一斉にSayakaを包囲した。

杏子達の内の一人がSayakaに語りかける。

使い魔は、複数の杏子に囲まれ、睨まれる。


Sayaka「う、うぅぅ……!うぅぅぅ!」

杏子「前の時間軸のあたしは……シビル・ウォーというスタンドに目覚めた」

杏子「シビル・ウォーは罪を他人に押しつけて過去から目を背ける。そんな能力だったそうだが……」

杏子「あたしは違う!あたしは罪を、あたし自身で受け入れるッ!」

杏子「あたしは過去を克服するんだ!」

杏子「もう一度言うぞ!あたしは自分の『過去』をこれから超えるッ!」


幻惑魔法そのものは、杏子はかつての心因的な理由で使えなくなった。

しかし、家族を失った過去を受け入れようと決心したためか、

マミとゆまの死の悲しみを克服した精神的覚醒か、

それらによって失われた魔法が今再び使えるようになった。

杏子はそう解釈した。

使えるようになっているという実感を抱いていた。

そして実際に、なった。


杏子「ドリー・ダガー……剣に映った相手にダメージを転移する能力」

杏子「分身が剣に映ることで……その転移を分身に受けさせてやる!」

杏子「あんたにゃ治癒魔法があろうが……」

杏子「そんなものは関係ない!ソウルジェムを砕けば即死!」

Sayaka「……くぅ!こ、こいつ!」

杏子「数で押せば必ずソウルジェムを砕けるチャンスはある!さすれば即死だッ!」

杏子「即死すれば転移しない!それがドリー・ダガーの弱点だ!」

杏子「使い魔一体にこんな大技を使うのはチト勿体ない気分だがなァッ!」

Sayaka「か、過去を……超えるだと?……それがどうした!」

Sayaka「な、な、何にしたって!あんたはあたしという過去に敗れるんだ!」


複数の杏子が、ある分身は直線上に、ある分身は角度をつけて、

ある分身は飛び上がり、ある分身は複雑な軌跡を描きながら、一斉に突進する。


杏子「ロッソ・ファンタズマ躱せるかァ——ッ!」

Sayaka「そ、そうはいかんッ!」

Sayaka「うあありゃぁぁぁぁ!」


Sayakaは剣先で『右』を指し、腰を捻りながら、

体を回転させた。

右脚を軸に独楽のように回り、振り回される剣が分身に触れる

分身は剣撃を喰らう。

複数の分身は一体一体がロウソクの火に息を吹きかけたかのように消える。

分身は一瞬にして破れた。

頭をくらくらと揺らすSayakaは、たった一人で立ちつくす杏子を笑った。


Sayaka「ハハハ!ど、どうだッ!回転斬りで幻惑をうち消せたぞッ!」

Sayaka「たかが幻覚!無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁーふははははー!」


杏子「…………」

杏子「ああ……そうだな」

Sayaka「!」

杏子「確かに無駄かもな。ただし……魔力の、だ」

Sayaka「な……そ、そんな……!」


違和感のある声が聞こえる。

方角が違う。後ろから、聞こえる。

考えている内に『前方にいる杏子』が消えた。

Sayakaは声の方へ振り返る前に、杏子は行動に移していた。


杏子「ロッソ・ファンタズマ。分身に紛れてあたしは既にあんたの背後に回った」

杏子「あんたが楽しそうに話していたのは……あたしの分身だ」

Sayaka「な、何だと……!?」


杏子「この距離なら……確実に背中を貫通させて腹の魂を砕く……おっと、使い魔に魂もクソもないか?」

Sayaka「き、貴様ッ……!」

杏子「ブッ殺してやる!」

Sayaka「GYAAH!」

ザシュッ!

杏子の分身はSayakaの背中を槍で突き刺した。

体を貫通し、腹部のソウルジェムを砕くことができる。

Sayakaは膝をついた。

背中を貫通し、臍の位置を貫いた。

ソウルジェムがあれば、砕ける位置。

砕ける、はずだった位置。


杏子「…………」

杏子「……ゴフッ」

杏子「……え゙」


杏子の口元から赤い液体が垂れてくる。

背中に体の水分が蒸発するかのような、熱い痛みが走る。

ゆっくりと腰に手をやり、痛みのする場所に押さえると、生暖かい液体の感触。

言うまでもなく、それは血だった。背中が抉れている。

足に力が入らない。


杏子「げほっ……ぐふ」

杏子「な……」

杏子「何……?え?」

Sayaka「『ぶっ殺す』……」


Sayaka「そんな言葉は意味がない。こういうどんでん返しがある世界では尚更ね……」

Sayaka「ぶっ殺したなら使っていい」


Sayakaは、何てこともなく立ち上がり、数歩歩いた。

そして、背中を向けたまま言った。

ガクッ

杏子の方が、膝をついた。

感覚でわかる。背中から腹にかけて『七割』方が抉られた。

内臓が破れ、背骨が折れ、脊髄が断たれた。


杏子「ば、馬鹿な……!」

杏子「あたしの体……『七割』……穴があいた……!?」


仮に、狙いが逸れてソウルジェムを砕けなかったとしても、

ドリー・ダガーは光の反射に捕らえられた相手が対象。

背後は反射の死角。刀身に杏子は映るはずがない。

その仮定を踏まえて背後に回ったのだ。


杏子「背後からの攻撃……死角だ。刀身に映して反射させるってんなら……」

杏子「あたしは……映っていない……のに……!」

杏子「ドリー・ダガーは光の反射に関係する能力……!ほむらから直々に聞いた情報だ……」

杏子「剣に……あたしの姿が映ってないのに……映るはずがないのに……」

杏子「転移される、はずがない……」

杏子「何故、だ……!?何故、てめぇ、生きている……何故、転移した……!?」


杏子は魔力を神経の治癒にあて、取りあえず再び立てるようにした。

追い打ちを喰らわないよう、槍を杖に半ば無理矢理立ち上がる。

石突の部分で床を突き、その勢いのバックステップで距離を取った。


Sayaka「ふっふふふーん」

Sayaka「あんたがさぁ……ほむらからそういう情報を受けてたであろうってのは流石に馬鹿なあたしでも想定済みよ?」

Sayaka「確かに、あたしのダメージ転移能力……」

Sayaka「反射させなければならないということは……それにはどうしても死角ってのができてしまう」

Sayaka「攻撃の方向によっては『詰む』かもしれない……ドリー・ダガーの弱点その一……」

Sayaka「それをカバーする戦略を考えてないと思ったの?」


Sayakaは依然杏子に背中を向けたまま、両腕を大きく広げた。

白いマントには、赤渕の穴があいている。


Sayaka「周りを見てみろ!」

杏子「ゲホッ……ま、周り……?」

杏子「ッ!?」

杏子「こ、これは……!」


杏子は首を横に向けた。

そして、杏子は自分の目を疑った。

自分がいる。

ここは確かに図書室だった。本棚も机もあった。

しかし、それらがない。驚いた自分の表情が見える。

本棚も机も椅子も全て取っ払われている。

壁面全体に何枚もの『鏡』が立て掛けられている。

鏡に、槍を杖のようにして、震える足で体を支えている自分がいる。

使い魔の方に向き直すと、その方向の壁も『鏡』になっている。


『鏡』

床は変わっていない。天井も変わっていない。

机も椅子も本棚も窓さえなくなっている。

いつの間にか、図書室はガラス張りの一室となっていた。

自分とSayakaを鏡が囲う。

万華鏡の中にいるかのような状況だった。


Sayaka「既にだ。既に対策トリックを仕掛けた」

杏子「こ、これは!げ……『幻惑』か!?」

Sayaka「ご名答。流石は幻惑使い。よくわかったね……ただ、正確には幻覚ね」

Sayaka「ネタ晴らしすると……図書室に『Hitomi』がいる。志筑仁美の概念だよ」

Sayaka「ほむらから能力は聞いているかな?『ティナー・サックス』……幻覚のスタンド能力」

Sayaka「ティナー・サックスの幻覚は五感で騙せる」

Sayaka「既に学校全体にも作っているけど……たった今ここに幻覚の鏡を作らせた」


Sayaka「鏡は目に見えるものを反射する。光は像だ。光は反射だ。ドリー・ダガーは反射のスタンドだ」

Sayaka「ドリー・ダガーの刀身には『鏡に映ったあんた』が映っている」

Sayaka「あたしのスタンドは清らかなさやかちゃんにピッタリな『光属性』だ」

Sayaka「これにより……どの角度からでも、だ」

Sayaka「あたしのドリー・ダガーには鏡越しにあんたが映るのよ」

Sayaka「つまり『鏡を介してあんたにダメージの転移が行われる』ということだ!」

杏子「ひ、光の反射……だと……!?」

Sayaka「ダメージはどの角度からやっても転移する。ドリー・ダガーの弱点その一を克服した」

Sayaka「さらにだな……」

Sayaka「あたしのおへそをご覧なさい。おへそフェチに目覚めてもよろしくてよ!」

杏子「なっ……!」

Sayaka「鏡と同様……既にあたしは幻覚を『被っ』ていた」


さやかの魔法少女姿を見るのは、今日が初めてではない。

昨日「さやかちゃんのファッションショ〜」だとか言って、変身して見せつけてきた。

白いマント。露出された両肩と腹。水色と白を基調としたデザイン。

今戦闘をしている敵とは全く同じだった。つい先程までは。

ドリー・ダガーと鏡によるほぼ全自動ダメージ反射構造を理解した時。

その前後でSayakaの姿に異なる部分がある。

腹にある、ペタリと貼り付けたシールのような水色の宝石。

それがない。

振り返ったSayakaには、ソウルジェムがなかった。

引っぱたいて紅葉を彩らせたくなるような健康的で綺麗な腹に、

小指の先がすっと収まりそうなへそがある。


杏子「ソウルジェムが……ソウルジェムが『ない』ッ!?」

Sayaka「ソウルジェムは『二個』あった!」


絵に描いたようなしたり顔で、Sayakaは叫んだ。

即死のポイントがない、魔法少女のさやかの概念。


Sayaka「あんたが見ていたのは、ティナー・サックスの幻覚だ」

Sayaka「あたしは既にお腹に剣をぶすーってやってソウルジェムを抉り出した」

Sayaka「肉体と魂を分離させる戦法……魔法少女ならどうかわからんが使い魔だからこそできる芸当よ」

Sayaka「壊れたら即死するっつーもんをわざわざお腹につけるとか、今にして思えばバカだよね」

Sayaka「……どーいうこったか、わかるかな?」

杏子「…………」


唾を飲む。

ソウルジェムを分離させた魔法少女の概念。

杏子はそれの意味を悟っている。


Sayaka「そして魔法少女の概念という不死身の体……」

Sayaka「いくらやっても死にはしないという、好き放題が出来る反面、即死の弱点が存在する」

Sayaka「ソウルジェムはいわば使い魔にとって単なる生命維持装置……」

Sayaka「それがないなら、死にはしない」

Sayaka「ドリー・ダガーの弱点その二は、ソウルジェムの破壊……」

Sayaka「本体が即死したら意味がない。あたしのソウルジェムを『預かってもらう』ことでそれも克服した」

杏子「くっ……!」

Sayaka「治癒に定評のあるさやかの概念であるソウルジェムのないSayaka……」

Sayaka「つまり……あたしは死なない肉人形!」

Sayaka「不死身!不老不死!スタンドパワー!」

Sayaka「あたしは最強だァァァァァッ!」


ザグゥッ

Sayakaは剣を自分の膝に突き刺した。

剣が膝を貫通する。赤い体液が流れ出す。


杏子「グァァッ!?」

ドサッ

杏子「グッ!」


ドリー・ダガーの能力。本体へのダメージの七割を刀身の映った相手に転移する。

ドリー・ダガーの刀身には、鏡に反射した杏子が映っている。

七割のダメージは光に乗せられ、鏡を跳ね返り、杏子へ、間接的に刺された。

杏子の膝から鮮血が噴き出す。膝関節の七割が破壊され、再び倒れる。

尻餅を突いて転倒した。立つことができない。


Sayaka「やったッ!勝ったッ!仕留めたッ!」

Sayaka「これで杏子は死んだァァァァ!」

Sayaka「苦し紛れにあたしを攻撃しても、あたしは死なないもぉんねえぇぇぇぇ!」

Sayaka「試しに頭をかち割ってみるかい?あんたの七割がかち割れるよ!」

Sayaka「アハハハ!まどかが喰えなかった腹いせだッ!」

Sayaka「四肢を断ち切って抵抗できなくしてから喰ってやるッ!」

杏子「く……!」


使い魔は不気味な笑みを向けながら、

一歩一歩ゆっくり歩み寄る。

膝を刺したにも関わらず、何てこともなく歩く。

刺し傷は既に消えている。



杏子(……ま、負ける)

キョ粉(負けるのか……あたしは)

杏子(…………ダ、ダメだ)

杏子(あたしはまだ死ねない……!)

杏子(約束を……したんだ……)

杏子(あの夜……あたしは、さやかの友達になったんだ……)

杏子(そして、ずっと一緒にいることを誓ったんだ)

杏子(さやかは、あたしと一緒にいてくれると言ってくれたんだ!)

杏子(死ぬ覚悟はできている……だからあたしはここにいる!)

杏子(だが……!)


杏子(ここでは!こんなところでは死ねない!)

杏子(こんなシケた死に方!ゆまとマミに顔見せできねぇ!)

杏子(あたしは……あたしはまだ死ねない!)

杏子(あたしはまだ!さやかに何もしてやれていない!)

Sayaka「勝った!死ねィ!杏子ッ!」

杏子「ぐ……!」

杏子「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


使い魔は、脚を間接的に斬りつけられ歩けなくなった杏子に近寄り、

頭をめがけ剣を振るった。

空気を切る音が聞こえた。


バァン!

破裂するような音が聞こえた。

杏子は、腕で頭を庇い、ギュッと目を瞑った。

……何も起こらない。

訓練されたボクサーは相手のパンチが超スローモーションで見え……

事故に遭った瞬間の人間は体内や脳でアドレナリンやらなにやらが分泌され、

一瞬が何秒にも何分にも感じられるというあれだと思った。

しかし、杏子はパチリと目を開けることができた。


杏子「……!」

杏子「あ……あれ……?」

杏子(なんだ……何も……起きない……痛みを感じずに死んだのか?)

杏子(いや……違う……なんだ。この感覚……。胸が……いや、心が……『熱い』)

Sayaka「…………」

Sayaka「さ……ま……!」

杏子(燃え上がるように、熱い……!)


腕を開け、視界を開けさせる。

そこには、目を皿にして、歯を食いしばるSayakaの姿。

空中で静止している、水に濡れているかのように綺麗な刀身。

Sayakaの剣を白羽取りして止めた。

『赤い両腕』が、止めた。

半透明の、赤くて温かい『もう二本』の両腕。

それらが、両肩から飛び出している。

初めて見るが、『それ』が何なのか、杏子は知っている。

魂が、それを理解している。


Sayaka「杏子……!き、貴様……!」

Sayaka「あんたッ!バカな……い、いつだ……」

Sayaka「ス……『スタンド』を!?」


何故、いつ、どこで、自分にスタンドが発現したのか。

疑問は尽きない。

しかし、不思議と心は落ち着いていた。

突然体から飛び出してきた、赤銅色の両手首。

HBの鉛筆をベキッとへし折るように、さも当然のように、スタンド使いになっている。

それ自体に戸惑いはなかった。

杏子は、見た瞬間に理解した。

この、赤いスタンドの能力を。

使い魔に、それを見せることで、実際に見ることで実感することにした。

Sayakaの顔は見る見る赤くなり、ダラダラと水滴を垂れ流す。

顔だけでなく、露出した腹や両肩からも、粘液状の液体が浮かんでくる。


Sayaka「う……こ、これは……!?」

Sayaka「なんだ……これ……は……!」

Sayaka「あたしの……あたしの体が……!」

Sayaka「あ……つい……」

Sayaka「『熱い』ッ!?」

Sayaka「か、体の奥から……体液が灯油になって燃えているかのような……!」

Sayaka「と……『溶けて』るッ!?」

Sayaka「ヤバイ!何かヤバイ!体が溶けるだとッ!?」

Sayaka「……!ど、ドリー・ダガー!」

Sayaka「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHH!?」


Sayakaの体から、黒い煙がぶすぶすとあがっていく。

皮膚や肉がただれている。

赤い腕に押さえつけられた剣が、溶けてきている。

鋼の融点は約1600℃程度。赤い腕が、それを超える熱を持っている。

ドリー・ダガーは、魔法武器の剣に取り憑いている『本体へのダメージを転移する』スタンド。

つまり、剣——スタンドそのものにダメージが加われば、

スタンドが傷つけば本体にもダメージが及ぶというルールに乗っ取り、スタンドが受けたダメージが本体に及ぶ。

剣そのものが熱せられれば熱される程、Sayakaの体は沸騰するかのような苦痛に見舞われる。

100%のフィードバック。体が間接的に溶かされている。

Sayakaは剣を思い切り引き、灼熱のスタンドから回避した。

治癒魔法でただれた肉を元に戻していく。

くの字に変形しつつあった剣が、本体の回復に伴い元に戻っていく。


杏子は立ち上がった。

針穴に糸を通せるくらいに心は落ち着いている。

そして自分の精神、闘争心が体から抜き出る様子、

ロッソ・ファンタズマで分身を作り出す様をイメージする。

赤い両腕の持ち主が、杏子の体から分離していく。

太い嘴。鋭い目。頭は鳥そのものだった。

ミノタウロスの頭が、牛から鳥に置換されたような、

鳥獣の頭をした、亜人型スタンド。

赤いスタンドの周りの空気が揺らめいているように見えた。


杏子「こいつが……あたしの……」

杏子「こいつがあたしのスタンド……!」


何がきっかけで現れたのか、やはり心あたりが全くない。

発現することが運命で定められていて、

それを魂が理解していたかのようだった。

どういう能力か、心で理解している。

しかし時には実感することが必要になる。

杏子は「何か出せ」と念じながら、赤いもう一つの自分を観察する。

スタンドの手の平の上に、橙と黄のグラデーションを彩る「もや」のようなものが生じたちわかる。

それは『炎』だった。そしてさらに、幻惑の魔法使いならではわかることがある。

これは本物の炎ではない。『炎のヴィジョンをした熱エネルギー』である。

杏子は自分の精神が求めた能力を実感した。


杏子「……炎に見える熱を操るスタンド」

杏子「……あたしの、心の炎……とでも言おうか」

杏子「……あたしのスタンドは!『炎を操る能力』ッ!」


『ギャァァ——ス!』

杏子の高ぶる精神に同調したかのように、

鳥獣のスタンドは雄叫びをあげた。

禍々しくも、逞しい。

未来へ雄飛する正義の咆哮。

離れた位置からでも、Sayakaは熱を感じた。


Sayaka「炎の……スタンド。なるほど」

Sayaka「あんたは確か、火事で家族を亡くしてるんだったね」

Sayaka「そのトラウマを克服して炎のスタンドが目覚めたってところかな?過去を受け入れるとか言ってたしね」

Sayaka「合点がいくが……杏子。どんな能力であろうと無駄だよ。忘れた?あたしの能力を……」

Sayaka「あたしに攻撃することは無意味だ。あたしを焼き殺すなら、自分の首を絞めることになる」

Sayaka「あたしに対して『熱い』というダメージもあんたに転移することになるんだよ」

杏子「…………」


杏子「スタンドが傷つくとスタンド使いも傷つく……」

杏子「てめぇは剣を溶かされかけた時……スタンドのダメージは転移しなかったな」

杏子「だったらよぉ……その剣が完全に溶けたら……即ち、スタンドが消滅したらどうなるんだろうな?」

Sayaka「……!」


あの時——ドリー・ダガーが取り憑いた剣が熱で溶解しそうになった時、

体液が溶かした鉄になったかのように苦しかった。

杏子の目を見て、使い魔としての本能がうずく。

待避しなければと思ったが、魔法少女の概念としての意地とプライドがムンムンと湧いて出てくる。


Sayaka「…………」

Sayaka「や、やってみればいいじゃあねーか……」

Sayaka「確かにあたしのドリー・ダガーの能力は、本体へのダメージを転移する能力に過ぎない」

Sayaka「剣に取り憑いたスタンドそのものへのダメージは、本体へのダイレクトダメージと違うからな……そういう可能性もあるかも」

Sayaka「だが、それは無理だね」


Sayaka「先程は油断したが、この状況をもう一度見てみろ」

Sayaka「全面鏡張りの世界!鏡の世界は反射の世界!」

Sayaka「炎ごときがどうだと言うんだ!コノヤロー!」

Sayaka「あんたが炎を火炎放射みたいに放出しようもんなら……」

Sayaka「あたしのスタンドが熱くてたまんねーってなる前に!」

Sayaka「その焼けるダメージを転移して、逆に焼き殺してやる!」

Sayaka「これは予告だ!」

Sayaka「あんたは自分自身のスタンドに焼かれ死ぬ!」

杏子「…………」

杏子「そうかい」

杏子「それが……どうした?」



杏子「あたしには勝利の感覚が見えたぞ!」

Sayaka「炎なんかに!何の意味があるのか!」

杏子「魔法武器が何でできてるか知らねーけどよぉ……」

杏子「鋼の融点は……炭素の含有量によってそれは下がるが……およそ1600℃くらいだそうだ。学校で習っただろう」

杏子「今からあたしは2000℃の炎であんたを燃やしてやる!」

杏子「あんたをスタンドごと体ごと焼き尽くす!」

杏子「スタンドの剣へのダメージは、あんたに直接喰らう」

杏子「ソウルジェムのない不死身の体だろうが……そんなもん知るか」

杏子「スタンドの剣を溶かす!あんたを間接的に溶かし殺す!消し炭にしてくれる!」

杏子「それができるくらいの火力はあるはずさ!」

Sayaka「杏子……!それでも火焔をよこすかァッ!」

杏子「いくぞ!あたしのスタンド!」


Sayaka「そういうのをなあ〜……ただのやけくそと言うんだッ!」

Sayaka「いいだろう!意地でも反射してやる!あんたはあんた自身の炎に焼かれ死ぬんだ!」

杏子「そんなの、佐倉杏子が許さん!」


杏子がかつてマミと共に活動していた頃——

ティロ・フィナーレを始めとして

「戦ってる最中に技名を叫ぶ意味ないだろう」と言い争った過去がある。

決してマミの「技名を叫ぶと良い」という持論を受け入れたわけではないが、

今は亡きマミを思うと、名付け、叫ばずにはいられなかった。

「折角だから名付けよう……マミみたいに。技に名前を……」

「生憎あたしはイタリア語がわからないが……決めた。名付けて……」


杏子「『クロスファイヤーハリケーン』ッ!」


杏子は片膝をつき、祈るように両手を組み唇に近づけた。

炎で「それ」を作ることに対し炎で死んだ家族への、

安らかな眠りを祈る思いと懺悔の念を表す。

その背後で、赤いスタンドは両手を交差して炎の塊を生成した。

その炎は巨大な『十字架』の形をしている。

杏子がわざわざ十字の形にしたのは、封印した教会の子どもとして生きた過去の象徴。

それをわざわざ炎で象ったのは、燃えて消えた過去。それらを精神的にも受け入れたという象徴。

幻惑も炎も、もう心因的な恐怖が杏子を縛ることはない。

自分自身のけじめという意味を込めた十字の炎。

過去を克服した炎、未来へ雄飛する炎が放出された。


Sayaka「う、うぅ……うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」

Sayaka「こ、この熱は!このエネルギーは!」

Sayaka「……や、ヤバイ!」


炎の塊が迫れば迫るほど、空気が熱くなる。

その勢いに、Sayakaは気圧された。

まるで炎上している納屋に放り込まれたかのような恐怖心。


Sayaka「うぅ……だ、だがッ!」

Sayaka「ま、ま、負けるか!負けるものか!」

Sayaka「ダメージ反射能力と回復魔法!これほど相性のいい組み合わせはあるだろうか!」

Sayaka「炎だろうが何だろうが!反射してやる!反射できる!」

Sayaka「反射して治す!あたしは無敵!ドリー・ダガーは炎を反射できるッ!」

Sayaka「あんたはあんた自身の炎に焼かれて死ぬんだ!」

Sayaka「かかってこい!炎ごときに負けたりするもんか!」

Sayaka「ドリー・ダガァァァァァッ!」


十字の炎がSayakaに迫る。

まず熱風がSayakaを包み、次いで灼熱が襲う。

2000℃の炎がSayakaとドリー・ダガーを覆った。


Sayaka「ぐぅぅあああぁぁぁぉぉぉぉぉッ!」

Sayaka(よ、予想以上……だ!予想以上のエネルギー!)

Sayaka(し、しかし……ドリー・ダガーの能力で七割を反射したとしても……)

Sayaka(2000℃の三割……三十パーだから……えっと、何百℃程度の炎に襲われることになる!)

Sayaka(魔法少女の概念を備えるあたしにとって!耐えられない温度ではない!)

Sayaka(七割の炎が……相手にいくんだ!いくはずなんだ!)

Sayaka(……なのに)

Sayaka(だのにッ!)

Sayaka(だと言うのにッ!)

Sayaka「く……」

Sayaka「KUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHH!」


服は全て燃えてしまった。剣は変形し、液状化した鋼が床に垂れた。

炎が視界を支配しているため、杏子の様子を見ることはできない。

Sayakaは、このまま自分が溶け死ぬという実感を、今、本能で感じ取った。

腕がドロリと溶け、剣の持ち手が落下する。

液状化したSayakaの肉は黒い煙をたてて『蒸発』していく。


Sayaka「ギャヤヤアアアアアアア!」

Sayaka「うううッ!炎がァ!炎が!あたしの体を!あたしのスタンドを焼くゥ!」

Sayaka「ま、間に合わない!治癒能力が!」

Sayaka「……よくも!よくも貴様ッ!よくもこんなァアアアアアアア————ッ!」

Sayaka「キョオコオオォオオ!ふ……ふ……不死身……不……老……不……死ィ……」

Sayaka「こんなァ〜……こんなぁはずでは……」

Sayaka「……あたしのォ……人、生……」

Sayaka「KURUYAAAAAAAAAAAAAAHHHHHH!」


炎の中から、黒い煙が多量に出てきた。

アーノルドの使い魔群、ヴェルサスは、死亡すると黒い煙となる。

ソウルジェムは無事であるはずだが、Sayakaは死亡した。

スタンドのルール、スタンドが傷つけば本体にもダメージを受ける。

それを行き当たれば、スタンドが消滅すると本体は死ぬ。

ドリー・ダガーは剣ごと焼き殺された。


杏子「…………」

パチン

杏子は指を鳴らした。炎は一瞬にして消えた。

スタンドの操る炎の扱いは本能で理解している。

Sayakaは燃え尽きたが、杏子は『無事』だった。

火傷一つ負っていない。


杏子「Sayaka……あんたの敗因は……二つある」

杏子「一つは、自分の能力を過信していたことだ」

杏子「ドリー・ダガーは光を反射させてこその能力」

杏子「炎のヴィジョンという光源に包まれていたってことは……剣に映るのは当然『炎だけ』ということになる」

杏子「少なくともあたしは刀身に映っていなかった。だから反射を受けなかった」

杏子「炎という光に包まれた剣は、あたしを映さなかった」

杏子「もう一つは……」

杏子「あんたが『スタンド使い』だったということだ」

杏子「…………」

杏子「……桁外れの強さになるが、スタンドが傷つけば本体も傷がつく」

杏子「不死身の体だろうが、そこを突かれてしまえば……」

杏子「長所と短所は表裏一体と言ったところか」


Sayakaのドリー・ダガーは、魔法武器に取り憑いているスタンド。

つまり、スタンド=魔法武器という具体的な物であったため、破壊という撃破の手段があった。

しかし、もし相手がドリー・ダガーのようなダメージのフィードバックが特殊なものでなかったら、

どれだけダメージを与えれば『破壊された』という扱いをされるのかがわからない。

「スタンドの破壊」の終着点は抽象的なものとなっていただろう。

ソウルジェムを破壊しなくても、魔法少女は死んだと思えば死ぬが使い魔ではそうとは限らない。

今倒した相手は、ソウルジェムという即死のツボがない。

そして魔法を持ち人外故の残虐性と耐久力を持つ敵。

炎のスタンド、強力なスタンドだからこそ、二体のスタンドを同時に相手して勝てた。

しかし、もしそうでなかったら……それこそ戦闘に役立ちそうにないスタンドだったなら、

どうすれば殺せたものか全く想像ができない。スタンド使いの魔法少女という概念。

杏子は、改めて自分たちが戦っている敵の恐ろしさを実感した。


杏子「……もう一匹」

杏子「いるって言ったよなぁ……逃げていないよなぁ?」


使い魔、Hitomiのスタンド能力『ティナー・サックス』は幻覚の能力。

幻覚で作り出した鏡で図書室を全面鏡張りにした。

鏡の光の反射により、杏子は苦しんだ。

ヤツがここにいるはずである。


杏子「……相手の立場になって考える」

杏子「これは戦いにおける基本的な考え方だ」

杏子「ソウルジェムを敢えて分離させるという発想……普通はそうこれとできない」

杏子「そしてソウルジェムを離してるってことはよ……どっかに隠してるってこと」

杏子「援護ができる程近くで見晴らしがよく、安全な場所……そうなると」

杏子「なぁ、あたしのスタンドよ……」

杏子「やろうと思えば『それくらい』できるだろ?」


炎のスタンド。

熱エネルギーを炎のヴィジョンで表現し、自在に操る能力。

その使い方を、杏子は本能で理解している。

亜人のスタンドは、手の平からゆらゆらと揺らめくオブジェのような形をした「炎」を生成した。

その炎はふわふわと浮かんでいる。

上下前後左右、それぞれに火の玉が等間隔にある、六つの炎の集合体。


杏子「洞窟とかで迷った時、火の揺れ方を見て風が通ってる出口を探す……なんていうような話をどっかで聞いたことがある」

杏子「これは……あたしの魔力が込められたスタンド炎だ」

杏子「魔力には、光や音みたいな……波長のようなものがある。その波長で魔女の居場所がわかったりするもんだ」

杏子「……この炎はそれを探知する……『魔力探知機』だ」


呼吸や運動等で気流が生じてロウソクの火が揺れるように、

魔力の波長を感知して揺れる特殊な炎。空気の影響は受けない。


「右の炎」が激しく揺れ「前の炎」が形を乱す。

杏子の前方、魔力探知機の右前方向。

探知機によると、その方向にある鏡から特殊な魔力の波が放たれていることがわかった。

距離的には近い。杏子は悠然とそこへ向かい、槍を振るった。

ガシャァァン

幻覚は聴覚や触覚も騙す。

鏡はあたかも本物のように音をたててバラバラに砕けた。

その裏に、目を丸くしている志筑仁美の概念、ティナー・サックスのスタンド使い、Hitomiがいた。

手に持っている青い宝石が黒い霧を出しながら溶けていっている。


杏子「よぉ……ここにいたかい。さやかの親友だそうだな。あんたのその姿」

Hitomi「あ、あぁ……あああ……!」

杏子「あんたがヤツのソウルジェムを預かって無敵の体に仕立て上げたんだな」

杏子「そして今破壊した鏡は、裏側から透けて見えるマジックミラー」

杏子「……さて、始末させてもらうぞ」

Hitomi「み、み……」


Hitomi「見逃してくださァい!殺さないで!」


Hitomiは頭を床に叩き付けて土下座をした。

魔法少女と使い魔、両方の概念を両立させた特異な使い魔。

そのソウルジェムを破壊されない限り死ぬことはない。

しかし、それ以外。

スタンド使いではあるが、魔法少女でない、人間と使い魔の中間の存在。

それは人が死ぬ程度で死ぬ。使い魔としては簡単に死ぬ。

スタンド使いでない限りわざわざ産み出す価値のない妥協点。


Hitomi「どうか!どうか見逃してください!何でもしますから!」

杏子「…………」

Hitomi「そ、そうだ!わ、私の母、もといアーノルドの居場所を教えましょう!」

Hitomi「交換条件ですわ!たっ、たかが雑魚と天秤にかけたらいい交渉に違いありません!」


杏子「使い魔とはいえ、親を売るのか」

Hitomi「い、命の方が大事に決まってますわ!」

杏子「…………」

Hitomi「ど、どうかお慈悲を……!」

杏子「ダメだね。我がスタンドは許さん」

杏子「そんなの、あたしが許さない」

Hitomi「……この人でなしィィィィィッ!」

杏子「うるせぇ。人でないくせに!」

Hitomi「HYYYYYYYYAAAAAAAAAAAHHHHH!」


Hitomiはそのままさっくりと刺殺された。

断末魔が途切れ、幻覚の世界が解かれる。

元の図書室——過去の見滝原中学校に戻った。


杏子「……スタンドを消滅させ、肉体を塵にした」

杏子「そうしたら分離させていたソウルジェムも消えていった……」

杏子「魔法少女の魂はソウルジェムだ」

杏子「ソウルジェムさえ無事なら多少無茶しても死にはしないという認識をしていたが……」

杏子「スタンドが消滅したら本体も死ぬ。ソウルジェム云々以外にも死因は確かに存在している」

杏子「実際使い魔だったが魔法少女でもあるあいつは、そうやって死んだ。ソウルジェムも後を追って消滅した」

杏子「スタンドは精神のエネルギー。精神と魂は類語みたいなもんじゃあないのか?」

杏子「精神ってのは何なんだ?」

杏子「……違う」

杏子「ゾンビみたいな体という表現……あの時は否定しなかったが、それは違うんじゃあなかろうか」

杏子「……ゾンビには勇気はあるか、否、ノミが大きな動物に飛びかかるのと同じように、そんなものはない」

杏子「人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさだ、あたしは今、勇気がムンムンと湧いてきているからな」


杏子「ゆまから貰った気持ち、マミから受け継いだ意志」

杏子「あたしのこの体に、人の心は確かに存在しているじゃないか」

杏子「精神と魂は同じものだ」

杏子「しかしソウルジェムに入れられた魂は……ただの表現に過ぎないんだ」

杏子「全くの別物……人間の魂は分離なんてされちゃあいない!」

杏子「……いや、待てよ」

杏子「じゃあキュゥべえの集めてる感情エネルギーってのは何なんだ?」

杏子「何で感情でソウルジェムが濁るんだ?何で魔女になるんだ?」

杏子「あれ……?わけわかんなくなってきた。やっぱ魂と精神って別物なのか?」

杏子「え、えーっと……えっと……」

杏子「…………」

杏子「フッ、ソウルジェムのない魔法少女……恐ろしい敵だったぜ」


——杏子は思った。


……それにしても危なかった。

あたしが勝てたのは……スタンドのおかげだ。

いつどこで目覚めたのかしらないが……スタンドがなければ普通に死んでいただろう。

そして……精神論になるが、さやかのおかげでもある。

さやかはあたしの友達になってくれた。

さやかが待っている。それだけであたしは救われる気持ちになるからだ。

誰かがあたしを待っている。そういう生活を、あたしは求めているんだ。

思えば、ほんの少しの間だったが、ゆまがあたしの帰りを待ってくれていた……

そういう時期が、今なら幸せだったと胸を張って言える。

ゆまをマミに置き換えても言える。むしろ、マミとゆまが迎えてくれたらなお良かっただろうに。

今ならさやかもその中にぶち込んでしまえ。想像するだけでとっても幸せじゃねぇか。ゆまもマミもさやかも……みんないるなんてな。

そういうのは……失って初めて、実現が不可能だとわかってやっと気付くもんだ。いつだってそうだ。

もし、ゆまもマミも生きていたとて……こんな妄想をしたところで心を和ませることはなかっただろうからな。

あたしってのはつくづく素直じゃない人間だ。後悔ばっかりの人生だ。


杏子「……待ってろ。さやか」

杏子「いや、ほむらでも構わない。キリカはまどかを避難させれただろうか」

杏子「とにかく、誰かしらに合流する必要がある」

杏子「怪我はぼちぼち何とかしておくとして……」

杏子「行かなければ……今すぐに……!」


杏子は、自分のスタンドに名前が必要だと思った。

ほむらのストーン・フリーのように、ものには名前が必要だ。

「ロッソ・ファンタズマ」は「赤い幽霊」という意味だと、かつてマミから聞いた。

そこで、この能力の名前は『赤』という言葉と使おうと考えている。

杏子は無名のスタンドを持ってして、次の戦いのために心の準備を構えた。


ドリー・ダガー 本体:Sayaka

破壊力−A スピード−A  射程距離−C
持続力−A 精密動作性−C 成長性−C

魔法武器の剣に取り憑いているスタンド。その性質は「転嫁」
自身に受けるダメージの「七割」を刀身に映りこんだ相手に転移する。
三割は喰らうが、Sayakaの治癒能力と半自動カウンター能力は相性抜群。
Sayakaは常に魔法少女の姿をしているため、24時間スタンド剥き出しである。
光の反射を利用した能力であるため、暗闇では発動しない可能性がある。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

今日はここまで。お疲れさまでした。

まだ名前は出てませんが、エジプト人のスタンド発現。
サブタイトルでもうほとんどバラしてたようなものでしたが、
それを言ったら次回のサブタイトルなんかもっとバラしてるようなものですがね

今になって思えば火事で家族を失ったのに炎のスタンドとか嫌味過ぎますが
何か納得してるのでそれでよしとしましょう


#24『答え�なんて、あるわけない』


方向感覚や土地勘に自信があるとは言えない。

それでも、学校で迷子になるということは普通ありえない。

ましてや少なくとも一年も通った学校で迷うことは絶対にない。

別のクラスの友人達と一緒に歩いていたはずだった。

自分の教室へ行き、三人の友人に会おうと思っていたところだった。

志筑仁美は今、たった一人、廊下をさまよっている。

常に小走りだったため、息が切れ始めた。


仁美「はぁ……はぁ……」

仁美「な、何……何なの……!?」

仁美「どこに行ったの!?梨央さん!花都さん!」


いつの間にか、自分の両隣にいた友人が消えた。

仁美は自分で自分の状況を整理して、頭がますます混乱する。

階段を上っていたと思っていたら、いつの間にか下りていた。

二階から三階へ向かっていたのに、いつの間にか一階にいた。

上っていくと天井につきあたる階段。床に立ったドア。

段数が十三になった階段を途中三回曲がって上らされると、最後の一段は高さが三メートル。

夢でも見ているのではないか。だとすれば悪夢が過ぎる。

疲れているんだ。そう思った。

仁美は空間に孤立させられた。

「もう一人の自分」のスタンド、ティナー・サックスの迷宮によって……。


「お姉ちゃん迷子?」

仁美「……え?」

仁美「あ、あなたは……?」


幼い印象を受ける可愛らしい声が、背後から聞こえた。

小学生くらいの童女がいる。

緑色のツインテール。猫の耳を象ったようなカチューシャ。

フリルのついた可愛らしい服装。

ニコニコと微笑んでいる。そしてこの子には左腕がない。

隻腕の子どもがそこにいる。

「名前は『ゆま』って言うの。よろしくね。仁美お姉ちゃん」

童女は名乗った。千歳ゆまの概念『Yuma』だった。

この結界の使い魔が、仁美と出会ってしまった。


仁美「へ……?」

仁美「どうしてあなた……私の名前を……」

Yuma「これが迷子の理由だよ」

仁美「……?」

Yuma「仁美お姉ちゃんはHitomiお姉ちゃんの能力ではぐれさせられたの」

Yuma「Hitomiお姉ちゃんの能力……『ティナー・サックス』は幻覚の能力」

Yuma「そういうことができて、見失わせることができる能力」

仁美「私の……能力?」

Yuma「あ、ううん……違うよ。『違うヒトミお姉ちゃん』だよ」

Yuma「ちなみにあなたの担任の眼鏡のせんせーはもう死んじゃったのかな?」

仁美「……え?」

Yuma「えい!『猫さぁん』ッ!」


ペイッ

Yumaは右手に持っていた「何か」を仁美に向けて放り投げた。

銀色のそれはくるくると回転する。

仁美は反射的に手を出し、顔に向かって飛んでくる物体を掴んだ。


仁美「きゃっ!」

仁美「……?」

仁美「……百円玉?」

仁美「え、えーっと……ゆまちゃん……でしたっけ?」

仁美「人に物を……お金を投げちゃいけませんわ……」


どこかで拾ったのか、ピカピカした真新しい百円玉。

製造年は去年。生暖かい小銭。


Yuma「『キラークイーン』の特殊能力……それは……『触れたもの』は『どんなもの』でも……」

Yuma「『爆弾』に変えることができる……たとえ百円玉であっても……」

Yuma「フフ、どんなものであろーとね」

仁美「……!?」

仁美「……ハッ!」


仁美は、不意に氷で背筋を撫でられたかのようにビクリと体を強ばらせた。

嫌な予感がした。生命の大車輪が仁美の第六感を後押しした。

「す、捨てなくては!」

よくわからないが、この百円玉が危険なものだと思った。

仁美はそれを放り投げようとした。

カチリ

Yumaのスタンド能力。キラークイーンが触れた物体は爆弾となる。

遅かった。

百円玉は仁美のすぐ側で爆発した。

爆風が仁美の体を包んだ。


爆発の煙がもくもくと揺れる。

仁美は廊下に、仰向けに倒れた。廊下は赤く濡れた。

目で見て致死量だとわかるくらいの血を流し、ピクリとも動かない。


Yuma「…………」

Yuma「ふふーん。やったね」

Yuma「これでYumaのチームはプラス一点だね!ルンルン!」

Yuma「んー、今はあまりお腹空いてないからなぁ」

Yuma「爆発させちゃおーかな?」

Yuma「いや、でも勿体ない……」

Yuma「だけど殺さないわけにはいかない」

Yuma「同じ次元に同じ概念はあってはならないの」

Yuma「…………」

Yuma「ッ!」


Yuma「猫さんッ!」

ガッ!

Yumaは勢いよく振り返り、キラークイーンは拳を繰り出した。

魔法少女と使い魔の中間だからこそわかる、獲物と天敵の気配を感じとった。

スタンドの手の甲は、背後から近づいた敵の『剣撃』を防御した。


Yuma「さ……『さやか』ッ!」

さやか「……くっ!防御、されたか……いい勘してる」


白いマントが揺れる。

青い魔法少女は苦虫を噛みつぶしたような表情をしている。

魔法武器の剣、その刀身が鏡のように光った。

キラークイーンが手首の角度を曲げて剣を掴もうとする前に、さやかは剣を引いた。


さやか「仁美ィッ!」

Yuma「むむむ……!」


さやかは仁美が倒れた瞬間を目撃していた。

全力で走ったが、間に合わなかった。

Yumaの横をすり抜け、敵への警戒を維持したまま仁美の方へ走り寄る。

仁美は百円玉の爆発を喰らったことで腕が千切れかけ、

腹部が裂け、顔の肉の一部が抉れ吹き飛んでしまっていた。

血の詰まった風船が割れたかのようだった。

さやかは吐き気を催した。

単にグロテスクだからだけではなく、それが親友であるから。


さやか「……くっ」

さやか「仁美……」

さやか「……今、治してあげるからね」


さやかは感じていた。仁美のかすかな生命の鼓動を。

仁美が百円玉爆弾を投げ捨てた第六感による行動は早かったのだ。

今なら治癒魔法で傷を治せる。

しかし、命を狙われている結界の中、生き返らせて何になろう。

死の恐怖を再び味わうだけだ。


さやか「……望みは捨てない」

さやか「また、怖い思いをさせるだろうけど……」

さやか「親友には、生きていてほしい」

さやか「ほんの僅かな可能性さえあれば……」

さやか「例えもう死なせてくれと懇願されたとて、あたしは治せるものは治す」

さやか「それが……好きな人に死なれて残された者の気持ちなんだ……」


Yuma「いいの?さやか……治しちゃうなんて」

Yuma「死なせちゃった方がよかったんじゃなぁい?」

Yuma「それにしても生きてたなんて……当たりどこがよかったのかな?」

Yuma「シニゾコナイってやつだね」

さやか「…………」


さやかは手を仁美にあて、魔力を仁美に込める。

傷がみるみると塞がっていき、抉れた肉が再生する。

失った血も補完され、その内失った意識も取り戻される。

ウェーブがかった髪にへばりついた血の汚れまでは落とせない。

裂けた制服までは直せない。肌に塗りたくられた血は消せない。

血みどろの布きれを羽織った半裸の仁美が今、目を開けた。


仁美「……ん」

仁美「……え」

仁美「さ、さやかさん……?」


視界がハッキリしてきた。

心配そうな顔をした親友が、手を差しのばしている。

そういえば熱した鉄を抱きかかえたような痛みが消えていた。

上体を起こせる。瞬きができる。首が動く。

指が曲げられる。息が吸える。心臓の鼓動を感じる。

肌寒い。痛くない。熱くない。苦しくない。

死にそうと思ったことが夢の話かのようだった。

死ぬほど苦しかったということは夢の話ではないようだった。

仁美は、理解不能な状況に置かれ、理解不能な事象に襲われている。

脳内を巡り巡る電気信号が、ある答えと行動を導く。


仁美「…………」

さやか「大丈夫?仁美……」

さやか「……正体がバレちゃったね」

さやか「だけど、あたしは正義の味方だよ。でもクラスのみんなには内緒ね」

さやか「立てる?本当は一緒についてってやりたいとこだけど……」

さやか「残念ながら、今はそうはいかない」

さやか「この『化け猫』の相手をしなくちゃならないんでね」

さやか「あんたを庇いながら逃げながらあいつとやれるほど、私は器用でないんだ……」

さやか「あたしの見える位置にいてね」

さやか「こんな迷路、一人で放ってはおけないからさ」

仁美「…………」

さやか「……混乱する気持ちもわかるけど、ほら、手を」


仁美の目の前にある光景。

何があったのかはわからないが、死にかけた。

致命傷を負わせたのは、そこにいる猫の耳を象ったカチューシャをした童女。

それを治癒した親友であるさやか。

童女から早乙女先生が死んだということを突きつけられた。

親友は何でも切り裂いてしまいそうな凶器を握っている。

今はすっかり消えた、焼け死ぬかのような痛みが脳裏に浮かぶ。


さやか「どうしたの?仁美。まだどっか痛む?」

仁美「……の」

さやか「……ん?」

仁美「け……の……!」

さやか「……仁美?」

仁美「…………」

仁美「『ばけ』……『もの』……!」


さやか「…………」

さやか「え?」

仁美「ば……『化け物』ぉっ!」


自分を殺しかけたのは得体の知れない、魔女のような恐ろしい力を持った、

人の姿をした恐ろしい「化け物」だ。

そして死にかけたところ、親友の姿が、得体の知れない力で治療した。

それは同じような能力だと思った。そうに違いないと決めつけた。

同じ能力を持つということは、同類に違いない。

目の前の親友の姿もまた「化け物」に違いない。


仁美「ち、近づかないでェッ!」

仁美「いや!いやぁ!」

さやか「…………」

仁美「いいいぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!」


パッシィァ!

仁美はさやかに差し出された手を払いのける。

仁美は震えてうまく動かせない足を必死に持ち上げ、半ば強引に立ち上がる。

そして驚いた猫のように身を翻し、不格好なフォームで駆けていった。

恐怖に支配された少女は悲鳴をあげながら全力で脚を動かした。

途中で転びそうになるも、なんとか転ぶまいともがき、必死に逃げていった。

廊下に響いた悲鳴はだんだんと小さくなり、いずれ聞こえなくなった。


さやか「…………仁美」

さやか(……そうか。化け物、か……)

さやか「…………」

Yuma「間違ってはいないよね。魔法少女ってゾンビみたいなものだから」

さやか「…………」


その気になれば、痛みを消すことができる。

肩を抉られても、顔面を引っ掻かれても、鳩尾を刺されても、

その気にさえなれば、どんな痛みも感覚を遮断できる。

しかし、たった今、仁美に叩かれた手が……とても痛かった。

今までの人生で最も痛く感じた。さやかはそう思った。


Yuma「ある種の事柄は死ぬことより恐ろしい……人間面して生きるより、死なせてあげるのがYuma達の優しさだよ」

さやか「…………」

さやか「……ふふ。あれだけ元気ならきっと生き延びるでしょ」

Yuma「……強がらなくてもいいよ?」

さやか「強がってなんか……いないっつの」

さやか「あたしだって……こんなシチュエーション。負傷を一瞬で治されたら化け物だって言うわ」

さやか「仁美のリアクションは当然だよ。そりゃ当然」

Yuma「へぇ……」


Yuma「Yumaね……」

Yuma「さやかが助けている時……なんてこともなく背後から近づいて……」

Yuma「キラークイーンでさやかのソウルジェムを蹴り割っていれば……それで終わってたよ?」

さやか「…………」

Yuma「それをしなかったのは……これからの長い人生、さやかなんていうチンケな概念に隻腕にさせられたという汚点を背負って生きたくなかったからだよ」

Yuma「それを払拭するには、さやかを『正々堂々』と真っ向から戦って、殺すこと」

Yuma「これは儀式なんだよ。Kyokoの死を弔い、未来を生きる決意の表れ……」

Yuma「フェアがいい。お姉ちゃんみたいなことを言うようだけど」

さやか「…………」

Yuma「キラークイーン。生前は猫さんと呼んでいたし、今も呼ぶ」

Yuma「猫さんはゆまが好き」

Yuma「でも……さやかには見えない能力があるって時点で左腕がなくてもフェアとは言えないかな?」


さやか「…………いいや」

Yuma「……?」

さやか「あたしには……『見える』よ……」

Yuma「……え?」

さやか「あたしには……『キラークイーンが見えている』んだ」

Yuma「何を、言ってるの?」

Yuma「ど、どうせ言うならもっと面白いジョークを言ってね」

さやか「…………」


Yumaは悟る。……見えている。ハッタリではない。

さやかは明らかに、背後のスタンドの顔を見ている。そういう視線をしている。

Yumaの背後に、質量感はないが圧倒的存在感を放つ人型の影。

薄いピンク色の猫っぽい頭をしている「キラークイーン」がいる。


Yuma「……!」

さやか「理由はわからないが……何故か見えている」

さやか「殺人鬼みたいな目をしている……能力は凶悪で……そう思えばルックスもおぞましい」

Yuma「ど、どうして……?」

Yuma「どうして、さやかに……スタンドが……?」

Yuma「ほむほむならまだしも……」

Yuma「だって、だって……スタンドを発現させる……引力の魔女レイミはいない……」

Yuma「なのに……何でスタンドが……」

Yuma「Yumaみたいに……スタンドが欲しいって契約を……?」

Yuma「いや、違う……さやかは治す魔法がちゃんと使えてる……それはない。……何で?」

さやか「……あたしもわからない。でも、見えているよ」


Yumaの背後には、人型の、猫のような頭をした半透明の像がいる。

キラークイーン。それが名前。

病院に生じた結界にて、さやかはYumaの左腕を切断したため、

その腕が再び生えているということがなかったため、スタンドの左腕もない。

さやかは、スタンドが見えていることに、不思議と心は落ち着いていた。

しかしさやかはまだ、厳密にはスタンド使いではない。

スタンドが見えることと、使えることは話が違う。


Yuma「えーい!もうなんだっていい!」

Yuma「バラバラにして殺してあげちゃうんだから!」

さやか「…………」


さやか「ほむらという経験者がいるからね……みんな知っているよ」

さやか「触れた物を爆弾にする能力……」

さやか「その射程距離はせいぜい1メートルか2メートル」

さやか「加えて格闘能力はそれ程強くはない……」

さやか「左腕がないことで、左手から出る『魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車』は既に使えない」

さやか「それくらいであんまり図に乗っちゃいけない」

Yuma「…………」

Yuma「ほむほむのことは好きだけど……お喋りなのはいただけないなぁ」

Yuma「……スタンドが見えるさやか。一方Yumaは隻腕」

Yuma「ひょっとしてYumaの方がアンフェアになっちゃった?いいや、何も問題ないね」


さやか「そうはいかないよ」

さやか「キラークイーンとやらは、そう遠くまでいけない」

さやか「ほむらという経験者がいるからね……みんな知っているよ」

さやか「触れた物を爆弾にする能力……」

さやか「その射程距離はせいぜい1メートルか2メートル」

さやか「加えて格闘能力はそれ程強くはない……」

さやか「左腕がないことで、左手から出る『魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車』は既に使えない」

さやか「それくらいであんまり図に乗っちゃいけない」

Yuma「…………」

Yuma「ほむほむのことは好きだけど……お喋りなのはいただけないなぁ」

Yuma「……スタンドが見えるさやか。一方Yumaは隻腕」

Yuma「ひょっとしてYumaの方がアンフェアになっちゃった?いいや、何も問題ないね」


Yuma「どうせ近づかなきゃさやかはYumaを倒せないよ。剣だもんね」

Yuma「それに、スタンドには目覚めたかもしれないけど使い方がわかっていないよね」

Yuma「使えるなら既に何らかの形で使ってるはず」

さやか「…………」


さやかは剣を持った手を突き出し、

剣先でYumaの額を指した。

そして、さやかは宣言をする。


さやか「あんたは……恭介の仇で、あんたの保護者はマミさんの仇だ……」

さやか「あたしの名は、美樹さやか」

さやか「我が心の師、マミさんの魂の名誉のために!」

さやか「我が友、恭介の心のやすらぎのために……」

さやか「このあたしがあんたを消滅させてやる!」


さやか「…………」

さやか(……と、まぁ、意気込んでは見せてみたものの……)

Yuma「Yumaの能力は、即死の能力」

Yuma「体が爆発すれば、当然体に埋め込まれたソウルジェムは破壊される」

Yuma「Yumaには勝てないよ。あっかんベー」

さやか(……まぁ、確かに難しいだろう)

さやか(相手は近づかれないと爆弾にできない)

さやか(しかし近づかないとあたしは攻撃できない……)

さやか(隻腕とは言え……触れられた時点で負けだなんてハードすぎる!)

さやか(ただ……理由は全くわからないけど、見えないはずのスタンドが見えているというのは有利なことだ)

さやか(あたしにも……十分勝機はある)


……そこで問題だ!

この最強レベルの超能力に対してどうやって勝つか!


3択——ひとつだけ選びなさい

答え�美少女のさやかちゃんは突如突破のアイデアがひらめく

答え�仲間が来て助けてくれる

答え�勝てない。現実は非常である


……あたしが○(まる)をつけたいのは答え�だけれども期待はできない。

都合の良いタイミングに杏子やほむら、キリカさんが少年漫画のヒーローのように、

 ド ン ! と登場して「待ってました!」と間一髪助けてくれるってわけにはいかない……。

逆に既に苦戦をしているところかもしれないと言うのに……!


さやか「やはりここは�しかないッ!」

さやか「うおおおおおッ!」

Yuma「来た来た来た来た来たァァァ——ッ!」

Yuma「猫さんッ!」


さやかは剣を構え力強く踏み込んだ。

剣は相手を斬るためにある。

斬るには、届かなければならない。

例え恐ろしい近距離武器を相手が持っていようとも、

近づかないことには何も始まらない。

やれることはやるべきだ。

——半透明の像はさやかの方へ突っ込んでいく。



左腕がないとはいえ、キラークイーンは強かった。

残った右腕で、いとも容易く剣を掴まれてしまう。

剣を握っても指は切れない。スタンドはスタンドでしか傷つかない。


さやか「う、うぅ!」

Yuma「剣を止めた!そして——!」

『しばッ!』

キラークイーンは体勢を低くし、左脚を振り上げた。

腹部のソウルジェムにつま先が届く位置。剣を掴まれているため、

武器を捨てない限り回避は不可能。武器を手放すわけにはいかない。

さやかは体を捻らせる。標的を逸らし脇腹に当てさせることにした。

足で触れても爆弾にすることはできないのは知っている。あくまで注意すべきは手。


ガスッ!

さやか「グッ!……ぐふっ!」

Yuma「剣を爆弾にしても意味がない……」

Yuma「猫さん!今だよ!」

ガシィィッ!

キラークイーンは剣から手を離し、蹌踉めいたさやかの手首を『掴』んだ。

キラークイーンはさやかに触れられてしまった。


さやか「……!」

さやか「う、腕を掴まれたッ!」

さやか(触ったら爆弾に……恭介のように……)

さやか「くっ……!」」

Yuma「触らないと効果は発揮できない!」

さやか「うおおおおおッ!」


肉体の爆弾化が進行する。

さやかは咄嗟に剣を左手に持ち替えた。

さやかの右腕の皮膚が裂け煙が噴出し爆発する数秒前。


キラークイーンはさやかから手を離し、

人差し指についた『起爆スイッチ』にその親指が触れた。

カチリ

Yuma「負けて死んじゃえ!猫さん!」

さやか「うおああああぁぁぁッ!」

Yuma「ッ!」


さやかの右腕の肉が割れ始める。

右腕から、スタンドの爆発エネルギーの熱風が飛び出す。

爆発した。

さやかは爆風に巻き込まれる。

衝撃で空気が振動する。

白い煙がもくもくと立ちこめた。


Yuma「…………」

Yuma「……Yumaは」

Yuma「Yumaは……確かに……」

Yuma「確かに、さやかに触った……」

Yuma「なのに……何で……!?」

Yuma「ゲボ……ガボッ!」

Yuma「生き……てる」


ベロンッ

突如、Yumaの首の肉がパックリと裂けた。

体液がだくだくと流れ出る。

気道に体液が流れ込み、喉の中、口内に液体があふれる。


さやか「う、うぅ〜ん……!」


さやかは生きていた。顔に火傷を負い、額から血が流れている。

そして、右腕がなくなっている。魔法で断面を止血をする。


Yuma「……『Yumaを斬った』の?さやか……ガボッ、いつ……?」

さやか「…………」

Yuma「うぅ……痛い……ゴボゴボ、ものすごく痛いよ……涙まで出てくるよ……ゴボ」

Yuma「でも……Yumaは強い子だもん」

Yuma「Yumaも泣かないもんっ!」


Yumaは血という概念の体液を油粘土のような塊に変化させて傷を塞いだ。

さやかは立ち上がる。

右腕があった場所からドバドバと血が流れ出る。


さやか「へ、へへ……や、やらせていただきましたァん!」

さやか「爆弾にされる前に……『腕を斬り落とした』」

さやか「スピードには自信があるんだ……」

さやか「あたしの体が爆弾になる前に……左手で右腕を斬り落として……爆弾女化を回避した」


Yuma「…………」

さやか「右腕爆弾の威力は強烈だったけど……」

さやか「爆発をくらいつつ、バックステップしつつ、そのまま左手の剣であんたの首を斬った!」

さやか「ダメージを軽減できたし、耐えき、……った」

Yuma「……でも後ろに下がったから傷はそう深く斬れていない。大したダメージじゃないもん」

Yuma「惜しかったねぇ……もう一歩でも前に踏み込んでいれば首を落とせてたものを」

さやか「う……」


さやかは切断した腕を魔法で治療した。腕が再生する。

——キラークイーンに爆発される瞬間、さやかは自らの腕を切り離していた。

それにより、爆弾化の対象が「さやか」ではなく「腕」に転移し、

爆弾の腕を体から離し、爆風を浴びながら相手を斬る。

直情タイプのさやかだからこそできるシンプルで強引な一矢。

それが、美少女のさやかちゃん苦肉の策だった。後ろに下がった故に、爆死を避けられたが与えた傷も浅かった。


さやか「はぁ……はぁ……」

さやか「くそっ……」

さやか(ほむらからの情報……ソウルジェムは首の後ろ)

さやか(あと少しだったのに……くっ!)

さやか(もうちょいで……ソウルジェムごと首を断てたのに!)

Yuma「……それでなに?さやか」

Yuma「これが、Yumaとキラークイーンを倒す策?」

Yuma「キラークイーンへの防御策?」

Yuma「同じ手が通用するほど、Yumaも子どもじゃないよ」

Yuma「猫さんは腕以外に触れればいいんだよ。さやかは自分の首を切り落とせる?」

Yuma「Yumaもこれ以上痛いのは嫌だから……次が最後で最期にする。でも、それは今じゃない」

Yuma「タイミングはさやかが決めていいよ。いつでもおいで。逃げるならそれはそれで構わないけど……?」

さやか「…………」




答え�


——答え�

————答え�


さやか(あぁ……)

さやか(もう……ダメかもしれない)

さやか(勝てるはずがない……あんな……とんでもない能力に……)

さやか(逃げるなんてありえない。逃げようとしたら何らかを拾って爆弾にして、投げつけてくるに違いない。逃げながらでは避けれる自信がない)

さやか(蛇に睨まれた蛙の気分だ……)

さやか(……勝てない。こいつには勝てない)

さやか(そうか……それじゃあ、あたし……死ぬのか。ここまでなのか)

さやか(…………残念だけど、仕方がない)


さやか(……あたしの自業自得だ)

さやか(あたしがほむらの意見に反対しないで、一緒にいてたら……)

さやか(仁美がこいつと会う前に、魔女を殺せて一掃できた可能性があったのなら……)

さやか(あるいは、魔女を護衛するってんで使い魔達が魔女んとこに集まって仁美と出くわさずに済んだかもしれなかったなら……)

さやか(あたしは……勝手なことをして、勝手に殺されるだけじゃあないか)

さやか(あたしって、ほんとバカ……)

さやか(……思えば今までの人生振り返って……楽しいこともそれはそれでたくさんあったけど……)

さやか(シケた一生だったな……)

さやか(さようなら……みんな……勝利を願ってるよ)

さやか「……こうなりゃ、自爆でもしてやろうか」

さやか「案外それが一番の得策だったりして……さやかちゃん爆弾で道連れに……」


『その必要はないわ』


さやか「…………?」

さやか(……え?い、今……何か聞こえたような……)

『美樹さやか。助太刀する』

さやか(……この、声)

さやか(テレパシー……!)

さやか(あ、あたしは……あたしは!)

さやか(あたしはこの声を知っている!)

『やっと"見つけた"わ……よく今まで生きていてくれたわ』

『あなたみたいな直情タイプは放っておきたい気持ちもなきにしもあらずだったけど……勝手に死なれても困るからね』

『どうやらキラークイーンと交戦しているようね……ハッキリ言わせてもらうけど、あなたではキラークイーンに対して勝機はない』

さやか『あ、あんたは……』


さやか『ほむらッ!』


厳しくも優しさを感じる声が脳に響いた。

Yumaはさやかをにんまりと笑みながら見ている。

さやかがほむらとテレパシーをしているとは到底思っていない。

さやかはほむらとの通信を続ける。

絶望の状況からの救いの声。

地獄で歩いているところに天から垂らされた蜘蛛の糸を見つけたかのような気持ちになる。


ほむら『いちいち言わなくてもわかるでしょう?』

さやか『ほむら!ど、どこかで見ているの!?いつの間に!?』

ほむら『視覚ではわからない。音よ』

さやか『音?』

ほむら『いつからかと言うと、Yumaがいつでもかかって来いと言った辺りから』

さやか『じゃあたった今……』

ほむら『いいからそのままテレパシーを続けて。今はYumaを殺すのが先決』

さやか『わ、わかった……!』

ほむら『……いい?私は今、訳あって身動きが取れない』


ほむら『別の場所にいるけど、あなたがいる場所と状況はついさっき"見つけた"』

さやか(見つけた……?)

ほむら『こればかりは爆発の振動と相手が子どもであることに感謝しなければならないわ。それはさておき』

ほむら『……いい?二秒だけよ』

さやか『二秒?』

ほむら『二秒だけ、あなたは時間を止めることができる』

さやか『えぇッ!?な、何を言ってるの?!』

ほむら『私は誰かに触れた状態で時間停止をすると、その人も止まった時の世界で動けるようにできる』

ほむら『あなたには教えてなかったかしら』

さやか『さ、触ったって……!?』

ほむら『ネタ晴らしをすると、私の糸のスタンドであなたに触れている』

さやか『い、糸……ストリート・ファイターズだっけ?』

ほむら『ストーン・フリーよ』


ほむら『丁度、ストーン・フリーはあなたの脚に触れているはず。右か左かはわからないけど』

さやか(……む)


さやかはYumaに悟られないよう、自分の脚に意識を集中した。

見ることはできないが……言われてみれば、わかる。

何かが触れている。巻き付いている。

『感覚で触られていることがわかる』

スタンド使いになったようだから、その正体を見ようと思えば見えるが……

それはできない。不審な動きをするわけにはいかない。


さやか(ひ、必死になってて気付かなかった……)

さやか(ほむらがどこかから『糸』を伸ばしている!)

さやか(それであたしと接触を……!)

さやか(ほむらに触れていれば……時間の止まった世界に……)

さやか(答えは……答え�だったッ!)


ほむらは今、どこかにいる。

そして、抜き差しならない状況にいる。

にも関わらず、あたしを助けてくれるというのか……。

どこかから、糸を伸ばして……その糸であたしを探しだして……。

音って言うことは、糸は音を伝って離れた場所の状況を聴くことができるんだ。

そして、あたしを助けてくれるなんて……。

それなのにあたしは……ほむらの制止を振り切って、勝手にくたばりそうになって……。


ほむら『いい?あなたのかけ声……まぁテレパシーだけど、それと同時に二秒間だけあなたを時の止まった世界に入門させる』

ほむら『私の状況が状況だから二秒だけ。これ以上は無理。それ以下になることはあるかもしれないけど』

ほむら『その二秒で、必ずYumaの葬るのよ。わかってると思うけどソウルジェムは首の後ろよ』

さやか『……わかった!』

Yuma「……ん?」


Yuma「さ、さやかッ!?」

さやか「ッ!?」

Yuma「その足に伸びているのは何ッ!?」

さやか「マ、マズイ……!」

さやか『糸に気付かれたッ!』

ほむら『報告しなくていい!早く!』

さやか「う……」

さやか「うおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!」

Yuma「え!?え、えーっと!?えっと!?」

Yuma「な、何かわかんないけどくらえッ!」

Yuma「キラークイーンッ!さやかを爆散させちゃえぇぇぇッ!」

さやか『今だほむらッ!ザ・ワールド!』


——奇妙な感覚だった。

一瞬にして辺りは静寂になる。

前方に童女の姿が制止している。

さやかはまず、足下を見た。左の脛に『糸』が一周巻き付いている。

それが滑らかな手触りであることは見て分かる。色や太さは違うが、ほむらのサラサラした長髪を連想させる。

時には実感が必要。これでさやかは、ほむらと繋がっていることを実感でき、勇気が湧いた。

ほむらのテレパシーは聞こえない。

話何かしてないで早くしなさいということだろう。


さやか「……ほむら。本当にあんたは頼りになるヤツだ」

さやか「あんたがいなかったら、あたしは死んでいたよ」

さやか「この絶望的な状況を打開する答えは……�の『仲間が来て助けてくれる』だった」

さやか「答え�なんて、あるわけない」


剣の射程距離。

Yumaとキラークイーンは何もない宙を見ている。


さやか「こうして見る分には可愛い子だな……」

さやか「……使い魔と言えど幼女の姿を斬るのはチト抵抗がある」

さやか「しかし、やらねばならないね……こいつは恭介の仇」

さやか「このさやかちゃん、容赦せん」

さやか「罪悪感なんて、感じちゃあいけない」

さやか「後悔なんて、あるわけない」

さやか「……『斬首』の刑だッ!」


ガシャンッ!

さやかは一文字に剣を振った。

剣はYumaの首を、首の後ろのソウルジェムごと断ち切った。

Yumaの首が宙に浮き、固定される。同時に、キラークイーンの首に線が走る。

二秒経過。


時間は再び動き出した。

ボトリ、と嫌な音がした。

使い魔と言えど、やはり童女の生首はできるだけ見たくない。

さやかは音の方向を振り返り確認することをしない。


ほむら『何って何を?』

さやか『え?』

ほむら『あ、ごめんなさい。テレパシーと間違えたわ』

さやか『?……どうしたのほむら』

ほむら『こっちのことよ。気にしないで』

ほむら『それより何?ザ・ワールドって』

さやか『べ、別に……』


ほむら『この様子だと……勝てたようね』

さやか『うん!……あ、あのさ……ほむら』

ほむら『悪いけど、これ以上話せない』

さやか『あっ、ほ、ほむら!ほむらー!』

さやか「…………」

さやか「返事がないな……もう!」

さやか「ありがとうくらい言わせてくれてもいいじゃんか……」

さやか「…………」


脛に巻かれていたストーン・フリーの糸はなくなっていた。

糸を回収したらしい。

ほむらはほむらで、戦わなければならないのだ。

何やら後方で使い魔がぶつぶつ言っている。



ボトリ

Yuma「——痛ッ!?」

Yuma「いたた……顔、打っちゃった……。……あれ?」

Yuma「Yuma……何で転んじゃったの?」

Yuma「Yuma……何が起こったの……?」

Yuma「あ、あれ……?え……?何……?これ……Yumaの体?」

Yuma「な、何でYumaの隣に……Yumaの体が……さやかもでっかくなって……何で……世界が……横……に……」

さやか「…………」


今にしてYumaは理解した。自分の頭と体が分離した。

ソウルジェムも破壊されている。キラークイーンは頭のないマネキンのようにその場で固まっている。

使い魔にとって、ソウルジェムは生命維持装置のようなもの。

維持ができないだけで、即するわけではない。しかし、どう足掻いてもすぐに死ぬ。


Yuma「う、そ……Yuma……死ん……じゃう、の?」

Yuma「そん……な……嫌……」


さやか「……グリーフシードで浄化……しないと」

さやか「ちょっと、使いすぎたかな……?」


Yuma「い、いやぁ……そんな……!」

Yuma「Yuma……死にたくな……い……」

Yuma「Yumaは……大人にぃ……」

Yuma「…………」

Yuma「——ハッ!」


死が確定したYumaの心に絶望が襲った。

そしてその時、Yumaの脳裏にある声が巡った。


『だがッ!あたしら魔女アーノルド親衛隊"ヴェルサス"の他のヤツならッ!』

『仕留め損ねた獲物を前にしてスタンドを決して解除したりはしねぇッ!』

『たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!』


病院にて交わした、Kyokoとの最後の会話。

その後、Kyokoは敗北し消滅した。

不意にあの光景が思い出された。


Yuma(Yumaは……魔法少女じゃない……)

Yuma(Yuma達……『ヴェルサス』……魔法少女と使い魔の中間の生命体にとって……)

Yuma(ソウルジェムは……生命維持装置のようなもの)

Yuma(ギロチンで斬首された後その生首に意識があることがあるらしいってSayakaが昨日言ってた……)

Yuma(それみたいに……それよりちょっと長く、魔女の端くれとしての……猶予がある!)

Yuma(魔女に近ければ近いほど……それは長い)

Yuma(Kyokoは……使い魔としては産まれたてだったのに……)

Yuma(ソウルジェムを砕かれたら十秒も持たないのに……シビル・ウォーの本当の力を使おうとして死んだ)

Yuma(Orikoお姉ちゃんだって……ほむほむにスタンドが目覚めたことをテレパシーで伝えてから死んだ)

Yuma(Yumaも……Yumaも何かやらなきゃ……かっこ悪い……!)

Yuma(大丈夫……)

Yuma(死ぬのは『二度目』だから怖くなんかない!)


Yuma「キ……」

Yuma「キラァァァァァァァァァァァクイィィィィィィィィッ!」


さやか「ッ!?」

さやか「ま、まだスタンドが使えるのかッ!?」


Yumaの生首は叫んだ。

胴体、肺がなくとも喋れるのは、魔女という概念に進化しつつあったため。

『首のない』隻腕のキラークイーンは動き出す。

キラークイーンはYumaの首を拾い上げた。

『Yumaの生首』に触れる。

「本体を爆弾」にして、さやかに『投げ』つけた。


Yuma「一人でも殺して!ヴェルサスのためにィィィィィィッ!」

さやか「う、うおおおぉぉぉぁぁぁッ!?」


叫ぶYumaの生首が浮き、向かって飛んでくる。

さやかはグリーフシードを片手に、完全な「浄化モード」に入っていた。

生首が最期の一矢を報いるとは、油断していた。勝ったと思っていた。

カチリ

不意を突かれたさやかが防御の姿勢を取ると同時に、Yumaの顔に亀裂が走り、爆発した。

焼けただれそうな熱と爆発の突風。

吹き飛ぶ生首の衝撃が「また」襲いかかる。


Yuma「GABAAHHHッ!」

さやか「うがああああああぁぁぁああぁぁぁッ!」


グリーフシードを持っていた左腕が拉げる。

脚の骨が砕け折れる。顔が焼け、部分部分の肉が剥がれた。


Yumaの体は黒い煙となって消滅した。

さやかは熱風に押され、体を廊下に叩き付けた。


さやか「か……ガハッ……」

さやか「ま……まさか……最期の最期、で……」

さやか「ぐふっ……ゲホッ!」

さやか「何て……ヤツ……だ……」

さやか「だ、だが……あたしは……」

さやか「あたしは……生き延びた……ぞッ!」

さやか「ど、どうだ……まいっ……たか……!ゲホッ」

さやか「う……ぐ……くっ」


さやか「グ、グリーフ……シード……」

さやか「くそっ……どっか……落とし……ちゃっ……た」

さやか「傷を……治癒しなくては……」

さやか「グリーフシードで……浄化……しなければ……」


さやかはグリーフシードを使おうとした瞬間に、Yumaの不意打ちを食らってしまった。

ソウルジェムの防御はできたが、その際、グリーフシードごと左腕を吹き飛ばしてしまった。

魔法武器の剣もどこかへ飛んでいったが、自分の意識は飛ばずに済んだ。

左腕以外にも、脚や肩や顔の肉は抉れ、肋や股関節も破壊されてしまった。

さやかは右腕だけの力で体を引きずり、左腕——握っているグリーフシードの方向へ。


さやか「くそっ……体が……重、い……」

さやか「ハァ、ハァハァ……」

さやか「行かなく……ては……!」


さやか「……ほむらの……ところへ……」

さやか「いや……先に杏子の……とこのがいい、か……?」

さやか「とにかく、行かなく……ちゃ……」

さやか「……あたしの体……あと少しでいい……動いて……くれ……」

さやか「約束……したんだ」

さやか「杏子と……一緒……に……暮らすって」

さやか「す……救うって……ほ、むらを……助けるって……心に、誓っ……たんだ……」

さやか「それなのに……ほむらはあたしを助けられて……」

さやか「ほむらに……ありがとうって……言わなくちゃならない……!」

さやか「あたしが……あたし達が……!」

さやか「この街を守るんだ……!ほむらの願いを……叶えるんだ!恩を……報いて……!」


さやか「そんで……杏子と遊びに行って……キリカさんと、もっと仲良くなって……」

さやか「まどかの笑顔を拝んで……仁美に、恭介のことを伝えるんだ……!」

さやか「そうしなくてはならないッ!」

さやか「あと……あと……数メートル……」

さやか「グリーフ……シー……」

さやか「ド……」


後少し、後少しで血みどろの左手におさまったグリーフシードに手が届く。

そうすれば、魔力を使って体の治癒ができる。

魔力の残りが少なくなり、自然と痛覚を遮断する魔法も解除されていく。

じわじわ全身が焼けるほどに熱くなるも、それを我慢する。

涙をポロポロと流しながら右腕で体を引いた。

そして、右手の指先が左腕に触れ——


『見ツケタゾ!』


『シシッ!』


しかし、グリーフシードはさやかの左腕から『飛び出し』た。

グリーフシードはそのまま転がることもなく、

十センチ程宙に浮いて、手の中から飛び出した。

二足で立ち、四本の腕を持つ、虫のような物体がそこにいる。

アーノルドの使い魔の一匹が持つスタンド。

『ハーヴェスト』が、そこにいた。

前の時間軸の上条恭介のスタンド。

恭介の概念の使い魔が既に産まれていた。

そして、活動をしていた。

ハーヴェストはグリーフシードを抱えている。

能力は、この小さい体と広い射程距離で物を集めること。

そして群体型という特徴を持つ。


小さなスタンドは、グリーフシードを抱えて方向を転換した。

さやかの動きが止まる。

ここで逃してしまえば、自分は死ぬ。

……いや、ソウルジェムが穢れきり魔女となる。

しかし、ズタズタに裂けた筋肉繊維。もう指一本動かせない右腕。

吹き飛んだ左腕。抉れた体。さやかの魂は最早限界にあった。

心に抱いているのは失意や絶望はない。

それを吹き飛ばす別の感情がさやかにはあった。


さやか「………………」

さやか「…………杏、子」

さやか「…………ごめん」

さやか「……一緒に……いようって……約、束……したのに……」


痛覚を遮断するまでもなく、何も感じなくなってきた気がする。

そのままソウルジェムが穢れきるのを待つしか、ただ静かに自分の最期を待つしかない。

謝罪と感謝の言葉を口にすることができただけ、まだ安らかな気持ちを持てる。

計り知れないほどの多くを妥協したが、満たされている。と思った。

悔いは残るが、仕方がない。死ぬことに、恐怖はそれほど感じない。

そう思った。


『——ギッ!』

さやか「……ん?」


薄れ行く意識の中、

さやかの耳に不快な音……鳴き声が聞こえた。

瞼がストーンと重くなっているが、何とかさやかは目をあけた。

視界はぼやけている。


さやか「あ……れ?」

さやか「…………」

さやか「こ、これ、は……!」

さやか「ぐくっ……う?」


掠れた視界の中、明らかに違和感がある。

自分の右腕が、『色褪せた銀色』に変化していた。

正確に言えば、その色が右腕に重なっていた。

何回か瞬きをしたら、視界がいくらかマシになっていく。

さやかの右腕が『甲冑』になっている。

正確に言えば、その像が右腕に重なっている。

そして、その質量感のあるヴィジョンの右手から、弾丸の軌跡のような細く真っ直ぐな線が走っている。

それは『レイピア』だった。


鋭いレイピアがグリーフシードを抱えたスタンドを貫いている。

ハーヴェストが浮いている。

そのまま小さなスタンドは地面に落とした陶器のようにバラバラに崩壊した。

そして、コツンとグリーフシードも落下した。


さやか「この……この『甲冑』……」

さやか「あたしに……一体、何が……?」

さやか「……も、もしかして……」

さやか「これが……まさか……」

さやか「……間違いない、と思う」

さやか「これが……ほむらの言っていた……アレ……?」

さやか「あたしの『スタンド』……?」


キラークイーンは見えていた。

それはつまり、スタンド使い予備軍ということを表している。

そのスタンドが、覚醒し発現したらしい。

さやかは心の中で「あれ取って」と念じた。

するとタンスと壁の間に落ちたマグネットを拾うかのように、

甲冑の右腕はレイピアで「それ」をピシッと弾いた。

そしてグリーフシードは丁度、さやかの鼻の先に転がってきた。

さやかは力を振り絞り、重い体を支えてグリーフシードを自分の魂に宛った。

力が抜けていく。軽い力で体が支えられるようになったためである。


さやか「偉いぞ……あたしの……スタン、ド……」

さやか「このさやかちゃんが……『名前』つけてあげちゃう」

さやか「……浄化してケガを治してから……ね」


『完治』したさやかは「よいせっ」というかけ声と共に立ち上がった。

立って、改めで自分のスタンドを呼び出した。

「現れろ」と願うと出てくる。今度は全身が現れた。

負傷を治したためか魂を浄化したためか、色褪せていたように見えた甲冑は新品の銀食器のように光沢を放っている。

博物館に展示されていそうな中世騎士の甲冑がそのまま命を持って動き出したかのような姿。

右手には裁縫針がそのまま剣になったかのような細く鋭いレイピア。


さやか「これがあたしのスタンドか……」

さやか「うーん……」

さやか「美少女なさやかちゃんのスタンドにしちゃーちょっとゴツいかな」

さやか「ねぇ、あんた。何か出してみてよ。目からビームとか出せないの?」

さやか「このレイピアを振ると真空波みたいのを放つとか!?」

さやか「……あ、そうでもなさそう」

さやか「スタンドは精神力……何となく、こいつの力が頭に流れ込んでくるような……」


さやか「……あたしにスタンドか……いつどこで何で発現したかは全く分からないな」

さやか「あのロリ使い魔も言ってたけど、レイミってのがいないのに……スタンドを発現する要因がない……よね……」

さやか「……うだうだ考えるの面倒くさい」

さやか「今はまず……誰かしらと合流しなくては……」

さやか「どこへ行けばいいんだ……?あたしは……」

さやか「ほむらには、悪いことを言ったからな……謝りたいし、お礼も言わなくちゃだし……」

さやか「……仁美は、避難できたのかな。心配」

さやか「……あ、そうだ。マイスタンド。あんたに名前付けるって言ったよね」

さやか「やっぱ後でいい?いいよね。思いつかないのん」


走っている内に、いつか何かしら起こるだろう、思いつくだろうという単純な思考があった。

——甲冑を着た中世の騎士のような、銀色のスタンド。

そこで、この能力の名前は「銀」という言葉と使おうと考えている。

さやかは銀色のスタンドを持ってして次の戦いのために、心の準備を構えた。


キラークイーン 本体:Yuma

破壊力−A スピード−C  射程距離−E
持続力−D 精密動作性−C 成長性−B

触れた物を爆弾にする能力(一度に一つだけ)。その性質は「護身」
キラークイーンが触れた物は小石でも人体でも爆弾にして爆発させられる。
爆発のタイミングは本体の任意、または爆弾が触れられること。
爆弾にする能力ばかりに依存しているためか、格闘性能はさほど優れていない。
左手の甲から、魔力を探知して自動追尾する爆弾戦車「猫車」を出すことができる。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

今回はここまで。お疲れさまでした

さやナレフちゃんはシルバーチャリオッツ以外にあり得ない!譲れない!それ以外他に何が似合うか!?
……みたいなノリで配役しました。残念ながら話の都合上ほとんど活躍させてあげれてないですけど

残り具合からして次話の中盤から終盤でこのスレがパンパンになりそうです。
中途半端になるので結構残ってて勿体ないけど次スレから次話を始めるか、
中途半端上等でこのスレをギリギリまで使ってから次スレにいくか、検討中

とりあえず次スレのスレタイは
まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」 ACT2 にする予定。だから何だって話ですけど


#25『それはきっとうまくいく道しるべ』


魔法少女と使い魔の殺し合いが行われている頃、

今ここでも、スタンド使いの魔法少女と使い魔が対峙する。

電子機器の埋め込まれている白板。転がる遺体。

ガラス張りの教室。規則的に並んだ机と椅子。

そこに、無言で床を見るほむらと腕を組み敵を見つめるMamiがいる。

突如、Mamiは体を強ばらせ、そしてほむらに対して見つめるから睨むへ変換した。


Mami「——ッ!」

Mami「あなた!今何をしたッ!?」

ほむら「……何って、何を?」

ほむら「言ったでしょう?私は今、精神統一をしてるから静かにって……」

Mami「あなたは今ッ!」

Mami「二秒ほど『時を止めた』わッ!感覚でわかる!」


時系列は、ほむらが自身、机の脚、床の溝といった死角をつき、

ストーン・フリーの糸を伸ばしてさやかの援護を、たった今終えた時。

Mamiはリボンで左腕を縛ることでほむらに触れていた。

そのためMamiもまた、時間の止まった世界に入ったことが感覚でわかる。


ほむら「…………」

ほむら「自惚れが強い」

Mami「……は?」

ほむら「私が巴さんに抱いている悪い方のイメージの一つよ」

Mami「何か言いたいことでもあるの?」

ほむら「要するに、あなたは油断したと言いたいのよ」

ほむら「私の沈黙が精神統一なんて嘘っぱちで、てっきり次の策を考えているものだと勘違いした」

Mami「…………」


ほむら「ストーン・フリーとこの時を止める能力……」

ほむら「相性ははっきり言って良くないわ」

ほむら「触れられちゃ困るというのに体を糸にして表面積を増やすとか最悪」

ほむら「でも、スタンドは使いよう……」

ほむら「あなたが呑気に私を待ってくれると言うのでストーン・フリーで糸を伸ばした。あなたの死角を縫って」

ほむら「そして『美樹さやか』を探し、繋がって……お手伝いをしたわ」

Mami「今の時間停止がそれなのね……?」

Mami「美樹さんがあなたの糸に触れた……ということは今、美樹さんも二秒だけ、時が止まった世界に……!」

ほむら「その通り。今のでYumaを葬ったはずよ」

Mami「……ッ!」

Mami「何……ですって……!?」


ほむら「ストーン・フリーとこの時を止める能力……」

ほむら「相性ははっきり言って良くないわ」

ほむら「触れられちゃ困るというのに体を糸にして表面積を増やすとか最悪」

ほむら「でも、スタンドは使いよう……」

ほむら「あなたが呑気に私を待ってくれると言うのでストーン・フリーで糸を伸ばした。あなたの死角を縫って……」

ほむら「そして『美樹さやか』を探し、繋がって……お手伝いをしたわ」

Mami「今の時間停止がそれなのね……?」

Mami「美樹さんがあなたの糸に触れた……ということは今、美樹さんも二秒だけ、時が止まった世界に……!」

ほむら「その通り。今のでYumaを葬ったはずよ」

Mami「……ッ!」

Mami「何……ですって……!?」


ほむら「ちなみに静かにしろと言ったのは、このストーン・フリーの糸……」

ほむら「糸電話のようにピンと張る必要はないけど……振動を伝わらせることで遠くの音を聞くことができる。だからよ」

ほむら「私はそれで、美樹さやかを見つけだし、状況を聴きつつテレパシーと合わせて援護した」

ほむら「後はあなたの言った通り」

ほむら「私の時間停止能力は、発動前に私に触れていることで時の止まった世界に入門できる」

ほむら「ストーン・フリーの糸に触れさせたことで、美樹さやかを時の止まった世界へ……」

ほむら「美樹さやかは二秒だけ時を止めることができた」

ほむら「だからスタンド使いでない美樹さやかがキラークイーンを突破できた」

ほむら「あなたはまんまと私に騙されたのよ」

Mami「…………」

Mami「よくも……Yumaちゃんを……我らがヴェルサス希望の星を……」

Mami「そしてよくも……!よくもこの私を騙してくれたわね!」

Mami「何が尊敬する先輩への躊躇がどうこうよッ!」


ほむら「こんな状況。決闘だ交渉だなんて綺麗事」

ほむら「汚いと思うかしら?卑劣と罵るかしら?」

ほむら「そういうのは、ゆまちゃんのような子どもを無慈悲に殺すようなヤツに言う言葉!」

Mami「…………」

Mami「立ちなさいッ!」

Mami「今ッ!決闘を開始するッ!」

ほむら「……五分経ってないわ」


巴マミという人間は、戦闘において天才的なセンスを持っている。

ほむらはマミと知り合ってから今まで、ずっと揺るがずそう思ってはいる。

しかし、プライドが高い、油断しやすい等、戦闘においてはマイナスとなる性格的欠点を持つ。

ほむらは、目の前にいるMamiが酷く頭が悪そうに見えた。

それはそういう性格が原因でもある。

さらに使い魔としての本能が中途半端に混ぜ込まれ、尚更醜い。

「ヤツを巴マミと思うのは、巴さんへの冒涜である」……ほむらはそう思った。


Mami「私の譲歩に付け入ってこんな味なことをして!」

Mami「あなたは私が倒すッ!食べなくちゃならない!」


Mamiはそう叫び、リボンからマスケット銃を生成した。

中途半端に正々堂々な性格が祟り、当然のようにリボンを解いた。

ほむらの左腕が自由になる。


ほむら「決闘開始?」

Mami「そうよ!」

ほむら(……リボンを離したわね)

ほむら(そのまま縛っておけば時間停止を防げたものを……)

ほむら「じゃあ遠慮なく」

カチッ


ほむらは時間を停止させた。

銃を持ったMamiがピタリと止まる。


ほむら「……やれやれだわ」

ほむら「こんなのが前の時間軸の巴さんでもあるだなんて、悲しいわ」

ほむら「本物の巴さんなら、きっと……もっと『良い方法』というものを考えてたでしょうに」

ほむら「使い魔故のか、あるいはこれがスタンドの与えた性質への影響か……」


Mamiのソウルジェムを撃つことにする。

これで勝利。


ほむら「そのまま、頭を撃つ」

ほむら「悪いけど、私には時間がないのよ」

Mami「…………」

ほむら「……さような——」


Mami「……フフ」


ほむら「——ッ!?」

Mami「ティーロッ!」

ほむら「なッ!?」

ガァン——!

ほむら「ガッ……!あぁッ……!?」


ほむらが盾から銃を取り出そうと、目を離した瞬間、

Mamiは「時の止まった世界」で銃を構え、撃った。

ほむらは咄嗟に防御の体勢をとるも、

左腕の肘から先が、盾ごと吹き飛ばされてしまった。

撃ち断たれた左腕は床にベタンと音をたてて落下した。

盾を失ったことで時間停止魔法が強制的に解除された。


ほむら「な、何……ッ!?」

Mami「ベネ。これで盾を奪った」

Mami「これで時間は止められないわね」

ほむら「う、うあああ……ああ……!」

ほむら「う、腕が……!私の……腕……!?」

ほむら「な、何で…………!」

Mami「Orikoから聞いているわ。あなたと対峙した時のこと……」

Mami「いざというときは時間を止めれば大丈夫、と高を括ってその油断を突かれて負けたそうね」

Mami「何も成長していないわね。時を止めるタイミングが遅い」

Mami「そして詰めが甘い。甘すぎる」

ほむら「と、時は止まっていた……なのに……なのに……」

ほむら「撃たれた……!」


左肘からボタボタと鮮血が流出する。

信じられない。リボンは解かれたはずだ。何故だ。

ほむらはそういう表情でMamiを見た。

Mamiは得意気な顔をして言う。


Mami「ふふ……時の止まった世界に入門した」

ほむら「どういうこと……!?私は……触れられていなかった!」

Mami「簡単なことよ……」

Mami「時間停止した時……あなたに『触れて』いたから、私も動けたのよ」

ほむら「私に……触れていた……?」

Mami「そう。スタンドでも、触れたと認識されるわ。そういうものなんでしょ?」

ほむら「…………」

ほむら(前の時間軸、巴さんのスタンドは結局、見れていないが……)

ほむら「触れられた……だと……!?」


ブシッ!

ほむら「痛ッ!?」

Mami「耳たぶを撃った。この機会にピアスでも通してみたら?うふふ……」

ほむら「う、撃った……!?」


突然の激痛と共に、耳から血がダラダラと流れ出る。

「肩に何かいる」——違和感に気付いた。

ほむらはその原因を探るべく、肩を見る。ほむらが見た物体。

それは小銃を構えた『玩具の人形』のような姿をしていた。

肩に乗られていても気付かなかった程小さい。推定十センチ。

半透明の像。

正体は見慣れている。これは明らかにスタンドだった。

手に持った小銃で撃ったらしい。


タァンッ!

小人のスタンドは再び小銃を構え、発砲した。二発目。

スタンドエネルギーの弾丸は、ほむらの頬を少しだけ抉り、

ピンを突き刺したかのように、頬の肉に小さな穴をあけた。

小さい故に、魔法少女にしてみればそこまで大したダメージではない。


ほむら「グッ……!」

ほむら「こ、この安物のフィギュアのようなのがスタンドか!」

ほむら「破壊しろ!ストーン・フリー!」

「オラァッ!」

隻腕となったストーン・フリーは、右腕を振るい、対象を殴る。

小人のようなスタンドは四肢が砕けされバラバラに破壊された。


ほむら「や、やった!叩き潰した!」


ほむら(これがMami……もとい、前の時間軸の巴さんのスタンド!)

ほむら(さっきは死角から攻撃されたから驚いたが、見えたらほんのちょっと安心……)

ほむら(何てコトもない小さな……)

Mami「あーあ……勿体ない」

ほむら「……!」

ほむら「き、効いて、いない」

ほむら「スタンドが破壊されたのに……」

ほむら(……いや、違う。効いていないのではない)

ほむら(こんな小さくて弱いスタンドを……近距離パワー型スタンドを持つ私の肩に乗せる……)

ほむら(何故こんな近くにおくのか、そして何故存在を主張させたのか)

ほむら(まるで潰させるために現れたかのような……)

ほむら(潰されても構わないスタンドがいるはずがない)


ストーン・フリーの拳を受け、それはバラバラに破壊された。

スタンドが傷つくと本体も傷がつく。ダメージはフィードバックする。

それは基本的なスタンドのルール。その内の一つ。


ほむら「ダメージがない……ということは……」

ほむら「……い、いや、まさか……」

ほむら「スタンドは、一人一能力……」

Mami「いいえ、多分あなたの推測の通りよ」

ほむら「ッ!」

Mami「集合!」


Mamiは声を張る。

すると、机の陰、遺体の中、体の死角、

様々な場所から殴り潰したものと全く同一の小人が現れる。


パタパタと小人の群衆が動き回る。

小人は蝶の死骸に群がる蟻のようにMamiの足下に集まり、

それぞれがぶつかり合わずそれでいて統率の取れた動きで整列した。

軍事訓練を上空から見るかのようだった。

一体一体が全て共通した背格好で、小銃を持っている。


ほむら「ば、バカな!複数体のスタンドだなんて……!」

Mami「それは、嫌な予感が的中しての動揺?まさか想像つかなかったからってことはないでしょう?」

Mami「……それはまぁいいでしょう」

Mami「マスケット銃を装備した、小さな銃士隊……総百体の歩兵達!」

Mami「これが私のスタンド『バッド・カンパニー』よ!」

Mami「使い魔として産まれ変わってやっと名前が付いた……正確には『姉』に付けてもらった」

Mami「あなたは今、一体潰したから残りの兵隊の数は99……中途半端でイラつくわ」

Mami「でも……その数を聞いて軽く絶望しているんじゃなくって?」

ほむら「くっ……!」


時の止まった世界で動けたのは、ストーン・フリーでさやかを援護したのと同じ理由。

バッド・カンパニーの一体がほむらに触れていたためである。いつの間にか、ほむらの肩に乗っていたのだ。

Mamiは時間が止まったフリをし不意打ち。そして左腕を撃ち断ち、盾を分離した。

時間停止が使えない。銃もない。ストーン・フリーは隻腕。

ほむらは一瞬にして、圧倒的な不利に追い込まれた。


Mami「あなたもまた油断していた。時間の止まった世界にそんな方法で入ってくるなんてって……フフ」

Mami「我がバッド・カンパニーに狙われた盾のないあなたなんて、檻の中の灰色熊同然!」

Mami「そのまま生きたまま蜂の巣になるがいいわッ!」

ほむら「…………」

Mami「全隊ィ〜!構え!」

ジャキィィッ!

99体のスタンド銃士隊が一斉にほむらに銃口を向ける。

先程ほむらを撃ったのは、銃撃一回の威力を知らしめるため。

先程の攻撃の、単純に99倍の攻撃を喰らうとなるとかなり危険であることをほむらは理解した。


左腕——盾がないので時間の停止もサブマシンガンを使うこともできない。

ほむらにあるのは隻腕のスタンド。

両拳ならば、弾丸をある程度は殴り弾くことができる。

そういうことができるパワーとスピードがある。

しかし、右腕だけではその限りでない。

人の形に既に編んである故、今更糸に戻す暇は恐らくないしする意味もない。

絶体絶命とはこのことだとほむらは思った。

しかし、ほむらは敗北をするためにここにいるのではない。

ほむらには、勝利の感覚が見えている。


ほむら「あなたの次のセリフは『盾のないあなたを殺すのは赤子を殺すより楽な作業ね』……よ」

Mami「盾のないあなたを殺すのは赤子を殺すより楽な作業ね」

Mami「——ハッ!?」

ほむら「誰が言った言葉……だったかしら」

ほむら「相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している」

ほむら「残念ながら、あなたの敗北はまだ決まったわけではない」

Mami「な、何を言って……」

ほむら「これは私の体験談と言ってもいい」

ほむら「あなたは、本当につくづく油断する人よ」

ほむら「左腕を吹き飛ばして……それで私を封じたつもりになっていた」

ほむら「油断したから……スタンドを整列させた……」


ほむら「勝利のためには敵の行動を読まなければならない。一手も二手も先を……」

ほむら「群体型とわかった時点で……あなたはこうすると思ったわ」

Mami「いいからとっとと何が言いたいのかを言いなさいッ!」

ほむら「左腕を撃つことじゃあない。こうやって、力を見せびらかすために一カ所に集めるといったことをするのはすぐにわかったというのよ」

ほむら「悔しいけど、ピンと来てしまう……これが何度も巴マミという概念の後輩をやった性か……」

Mami「……ま、まさかッ!?」


Mamiもまた、暁美ほむらという概念の先輩をやった性からか、

咄嗟にある事象を思い、横を見た。自分が吹き飛ばした「獲物」を確認するために。

——しかし、見当たらない。

床にはほむらの左腕が落ちているはずだった。


Mami「……ハッ!」

ほむら「『全隊退避』と命令する」

Mami「バッド・カンパニー!全隊退——ハッ!」

ほむら「今だ!ストーン・フリーッ!」


床に転がっていたはずの左腕は溶けたかのように消えていた。

実際にはほむらがストーン・フリーのスタンドパワーで、

断たれた左腕を既に解(ほど)き、糸にしていた。

Mamiの足下、床にその糸が広がっている。

糸となった左腕は魔力とスタンドパワーで動き、Mamiの死角を縫い、スタンド群にその先端を伸ばしていた。

バッド・カンパニーの銃士隊、一体一体の足に結びついていた。

音もなく、そして注意がほむらに向けられていたため気が付かなかった。

ストーン・フリーは右腕を大きく振ると、糸の結界が白板の方向へ引っ張られる。

糸が引かれ、バッド・カンパニーは白板に叩き付けられた。

白板には『網』が巻き付けられていた。既に張られていた。


Mami「し、しまったッ!?」

ほむら「またまたやらせていただいたわ」

ほむら「既に『糸』は蔦のように這わせておいた」

ほむら「そしてスタンドの足下に『糸の結界』を作った」

ほむら「99体!確かに掴んだわッ!ストーン・フリー!」


白板に張られた網に、足が糸で結ばれた銃士隊を絡みつけさせる。

Mamiは99分割された自分が均等に足を捕縛されたため、足に違和感を覚えた。

一方ほむらは失った左腕をぬいぐるみを作るかのように「編」み、再生させた。

糸の分だけ体の体積が減った程度で、そのダメージをほぼなかったことにした。


ほむら「見ての通り……糸で網を作っていた」

ほむら「そしてその網を引き、一カ所にかき集めさせてもらったわ」

ほむら「要するに磔……スタンドのブービートラップよ」

Mami「…………」

Mami「無駄話している間に?」

ほむら「ええ」

ほむら「あなたは……自信家なところがある。油断をしやすい」

ほむら「あなたは左腕のない私は簡単に倒せると思った」

ほむら「だからあなたは、左腕の挙動も、白板に網を仕掛けていたことにも気付かなかった。プラス、白板が保護色となって糸の網を気付かせなかった」


Mami「……既に、ということね」

ほむら「本当なら飛ばさせた左腕を投網なり手錠なりにしてあなたを捕まえたかったけど……」

ほむら「群体型スタンドだとわかったから急遽、こういう磔作戦を決行した」

ほむら「群体型なら前の時間軸の上条恭介がそういうスタンドを持っていたということを聞いてはいたからね。対策は既に考えてあっただけのこと」

Mami「……飛ばさせた左腕?」

Mami「何よそれ……まさか、最初から左腕を差し出すつもりだったというの?」

ほむら「その通り」

Mami「どういうことか……聞かせなさい」

ほむら「今の私は人慣れしていない猫よりも警戒心が強い」

ほむら「あなたが私を幻覚を使ってまでここに呼び寄せた時点で、私は、時間停止能力の対策ができていると踏んでいたというのよ」

ほむら「何らかの方法で時の止まった世界を動いて騙す術があるのだと」

ほむら「そして、過程はどうあれとにかく左腕を撃ち落とすだろうということも読んでいた」

ほむら「……さっきも似たようなことを言ったけど、癪ながらあなたが巴さんでもあるから……巴さんの性格を知っているからピンと来たということもある」


ほむら「ともかく私は、黙って左腕を吹き飛ばしていただいたわ。そしてあなたは左腕がない私に対しての警戒が緩まった」

ほむら「まぁ、魂を敢えて差し出すなんて無茶なことはしたくないから、ちょっと細工はしたけどね」

Mami「……細工?」

ほむら「そう……ストーン・フリーは体を糸状にして、自在に操作することができる能力」

ほむら「つま先の血液を心臓に運ぶように……指の肉を足に移動させることができる。『肉の移動』……糸の体ならそれが可能」

ほむら「左手に埋め込まれたソウルジェムを体内に取り込んで一時的に移動させることなんて、そう難しいことではない」


左腕が糸になって解けた。

しかし、それならソウルジェムが床に転がっているはずである。

脳や心臓を糸にできないように、ソウルジェムは糸にできない。

ほむらは「編んで」作った左手の甲をMamiに向けた。

ポッカリと穴があいている。

そして、その穴を埋めるように紫色の宝石が「生え」てきた。

魂が収まるべき場所に戻った。そして盾が再生成される。

ソウルジェムは糸の体内を通して心臓のそば、肋の内側に移動させていた。

全ては左腕を切断されることを読んでの行動。


Mami「……気持ち悪いわね。あなたの腕」

Mami「ハリガネムシみたい。反吐が出るわ」

ほむら「……この作戦は」

ほむら「こうすることは……巴さんの遺した手首を見て思いついた」

Mami「は?……手首?」

ほむら「病院であなたが巴さんを殺した時……」

ほむら「巴さんは自ら左腕を切断した。彼女の遺産よ」

ほむら「あなたのスタンドで穴だらけになった左手首……」

ほむら「巴さんはリボンで敢えて、自らの左手を切り落としてから絶命した」

ほむら「何故?と思った……」

ほむら「しかし……だからこそ私は今みたいに『敢えて左腕を切り落とす』という発想を得た」


Mami「何を言っているの?『私』が左手を切り落としたから何だというの。こじつけが過ぎる」

ほむら「都合の良い解釈だと言いたそうね……」

ほむら「死人に口なし。果たして巴さんの行動にどういう意図があったのか……最早確認しようがない……」

ほむら「巴さんは私の糸の能力を知っていた。私のソウルジェムが左手にあることを知っていた。ただそれだけのこと」

ほむら「私は『それ』から正解の解釈ができたのかもしれないし、違ったのかもしれない」

ほむら「あるのは過程から得た結果だけ」

ほむら「私が巴さんから受け取った最期の『過程』から、この発想を導いたという『結果』だけがある」

ほむら「大切なのは結果よ。こじつけでも間違いにしても、この際何でもいい」

Mami「……随分とまぁ、回りくどいことを」

ほむら「とは言え魂をみすみす手放すのははっきり言って怖い……」

ほむら「そこで私は『物を体内に隠す』という技も思いついた」

ほむら「私は巴さんから、一つの作戦を託され、二つの策を発想させた」


ほむら「あなたを倒すのは私ではなく、私と巴さんであるということよ」

Mami「…………」

Mami(私が全体を整列させた理由は……)

Mami(暁美さんの言う通り。概ね合っている)

Mami(左腕を奪い、武器と時間停止を奪い、パワー型スタンドの片腕を奪った……)

Mami(そんな相手に、銃撃のできるバッド・カンパニーの前では、もう何も怖くないと思っていたからだ)

Mami(かつ、私はこのスタンドに絶対的な自信があった。離れた位置から一方的に撃ち殺せる……)

Mami(これほどの優勢。誰だって油断する。私もそーする)

Mami(私の銃士隊を一体の漏れなく捕獲する静なるスピード、私と交渉をして時間稼ぎをするメンタル)

Mami(相手の性格を読んで行動を先読みする判断力、そして私に勝ち誇らせるため本気で戸惑っているように見せかけた演技力)

Mami(油断していたとは言え……今の彼女からは、あらゆる力を奪っても切り札を持っていそうな『凄味』を感じる)

Mami(何てこと……全然成長していないどころか……)

Mami(私は今!使い魔人生最大の山場を迎えている!)


Mami「あなた……そんなにクレバーな子だったかしら……?」

Mami「失礼な言い方だけど、私の知ってるあなたはドジっ子というものよ」

ほむら「……否定はしないわ」

ほむら「実はこれでもたまにピーラーで指切ったり、何もないところで躓いたり……実はそんな根底は変わってない」

ほむら「巴さんはこの私に言ったわ。無理に変わろうとしてボロが出てるってね」

Mami「…………」

ほむら「スタンドとは精神の覚醒。精神が成長して戦闘の『勘』が冴えるようになったといったところかしら」

Mami「……あなたに成長していないと言ったのを謝罪せねばならないわね……ごめんなさい」

Mami「敬意を表すわ……あなた、やっぱりものすごい成長を成し遂げてるわ……あの泣き虫さんが……ふふ」

ほむら「…………」

Mami「正直に告白するわ。それは油断だった……。盾のないあなた……時を止められないあなた程度……と」


Mami「群体型スタンドを集合させて見せびらかしたのも、勝ったも当然と思ったから。カッコイイと思ったからよ」

Mami「可愛い後輩に、カッコイイ先輩の姿を『最期に見るもの』にしてあげたかった」

Mami「まさか、左腕を……ソウルジェムを手放してまでそんなことをするなんて、巴マミという概念には絶対できない発想だわ。実際はちゃっかりソウルジェムを防御していたようだけど」

Mami「ふふふ、確かに……私は油断をしやすい……ふふふ……」

Mami「私ってダメね……戦は数。群体型という強みを一瞬にして奪われちゃうなんて」

Mami「……さて、あなた。左腕を修繕したようだけど……いいこと?」

Mami「あなたは、私……もとい、バッド・カンパニーに触れている。ストーン・フリーの糸で縛り付けている」

Mami「つまり結局の所、時間停止は使えない。時間停止をする時に触れられていたら、それの時間も動く」

ほむら「……そうかもね。そういう意味で魔法少女としてはまだ未熟かもしれない」

ほむら「しかし、少なくともスタンド使いとしてはあなたより高みにいるという自信がある」

Mami「ここに来てまだ挑発してくれちゃうのね。まぁいいわ」

Mami「どちらにせよ、私の兵隊の両腕は自由なまま。あなたが兵隊の足を掴んだに過ぎないから」


ほむら「当然よ……腕を掴んで狙撃を妨害するような真似をすれば気付かれる」

Mami「そう。しかしそれが故に……この状態でもあなたを撃てる」

ほむら「軌道が分かっている銃撃を弾くことはそう難しくないわ」

ほむら「数の都合上全ては無理でも……私が倒れるより早く全滅させる」

Mami「99体を潰される前にあなたを殺す。あなたを喰い殺す」

Mami「…………」

ほむら「…………」


白板に磔にされた銃士隊を潰すことがストーン・フリーの目的。

同僚が潰されながらも撃ち続け、押し勝つことがバッド・カンパニーの目的。

ほむらは勝利することが目的。Mamiも同じ。

二人のスタンド使いの、互いの命を賭けたウチ合いが始まろうとしている。

打つ方か、撃つ方か、最後に立っている方が勝者となる。


Mami「ねぇ、あなた……私に、その貧相な胸のことを言われるのは嫌いかしら?

ほむら「……けなしてみなさいよ……試しにね」

Mami「その必要はないわ。何故なら私は、その胸に風穴をあけると予告するからよ」

Mami「私はあなたの左腕にダメージを与える。盾を奪いガードと銃器を使えなくする」

Mami「次に脚を狙う。膝の関節を砕き、転倒させる。これで逃れることはできなくなるわ」

Mami「そして万全を期して、発動こそ遅いが威力の高い、巴マミという概念の魔法少女人生を象徴する大技……」

Mami「『ティロ・フィナーレ』でその胸もろとも心臓をブチ抜くことを予告する」

ほむら「なるほど。完璧な策ね……不可能という点に目を瞑れば」

Mami「几帳面な性分でね……この順番にやると言ったらやるわ」

ほむら「なら私は、あなたに勝利すると予告しましょう」

Mami「……試してみる?私の内なる意思の銃と、あなたの黄金に輝く拳。どっちが先に感覚と魂魄をタナトスへ還す

か」

ほむら「…………」

Mami「…………」


糸と兵が対峙する。

娘と人外が対峙する。

後輩と先輩が対峙する。

沈黙を最初に破ったのは、

闘志を燃やしているほむら。

ほぼ同時に叫ぶ黄色の使い魔。


ほむら「ストーン・フリーッ!」

Mami「バッド・カンパニーッ!」


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァッ!」

ほむらは三歩踏み出し、拳の射程距離内に敵を入れた。

そしてストーン・フリーは白板に磔となったバッド・カンパニーを殴る。

その間にもMamiの銃士隊はストーン・フリーへ一斉射撃をする。


バッド・カンパニーのスタンド弾は、力強く素速いストーン・フリーの拳のラッシュに何発か弾かれる。

スタンドの声と、発砲音と、弾く音と、弾かれた弾丸が床や机や強化ガラスにぶち当たる騒音が響く。

弾ききれない弾丸は拳と拳の合間を抜けて、ストーン・フリーにビスビスと銃弾が埋まる。

ほむらの顔と体に点々と赤点の傷を描き、血が噴き出る。

白と紫を基調とした魔法少女の衣装が赤黒く染まっていく。

しかし決して怯まない。

ストーン・フリーは依然、弾丸を弾きながら拳のラッシュを続ける。

一撃一撃がバッド・カンパニーを確実に叩き潰す。白板が破壊され内部の電子機器がブチ撒けられた。

白い破片や割れた基盤等に紛れてスタンド銃士の四肢がボロボロと床に落ちる。

残された外枠に張られている網にかかった銃士隊は、吊されながらも撃ち続ける。

ほぼ宙に浮いている状態であろうが、バッド・カンパニーの銃士一体一体は確実に潰されていく。

Mamiは血を吐いた。骨が折れ筋肉が裂けてきている。

それでも気高く燃える闘志はぶつかり合う。


ほむら「うおおおォォォォォァァァァァッ!」

Mami「はああああァァァァァァァァァァッ!」


少女の姿から出てはいけないような雄叫びがあがる。

ほむらは少女としての形振りを構っていられない。

Mamiは巴マミとしての見栄を気取っている場合でない。

体力と精神が削れる音と発砲音が響き合う。


Mami(くっ!す、ストーン・フリー……!)

Mami(このままでは私は押し負ける……しかし、これくらいの強さは予想通り!)

Mami(左腕を敢えて差し出したということには意表が突かれたが……)

Mami(何をしでかすかわからないということもあるから……やはり左腕を奪うことは重要!)

Mami(ここで武器を出されたら当然マズイからだ!予定通り撃つッ!)

Mami「ティーロッ!」


ガァン!

Mamiは間接的に体を砕かれながらマスケット銃を生成し、狙撃した。

ほむらはストーン・フリーの操作、Mamiの間接的殺害に集中していたためか、本体には一切目を向けていなかった。

ほむらは左肘を撃たれた。再び、左腕を吹き飛ばされてしまう。

同時に、ストーン・フリーの左腕の糸が千切れ落ちた。左腕は、宙を舞う。


ほむら「ッ!」

ほむら「グゥゥッ……!クッ!う……」

Mami「左腕を撃ち落としたッ!これで火器とスタンドを封印した!」


ストーン・フリーは両腕でバッド・カンパニーへの攻撃とその攻撃からの防御を担っていた。

片腕が無くなれば、単純に攻撃の手数と防御の面積は半減する。

このまま殴り続ければ隻腕のほむらに勝機はない。

盾を失った。武器は扱えない。

絶体絶命の状況に再び追い込まれる。


しかし——、


ほむらは思った。


『一人の囚人は壁を見ていた』

『もう一人の囚人は鉄格子からのぞく星を見ていた』

……私はどっちだ?

もちろん私は星を見るわ……。

『夜』を越えた後の、翌日の暁に思いをはせながら……

星の光を見ていたい。


左腕が吹き飛んだが……「それでいい」

希望がある。暗闇なんかじゃあない……。

ヤツを倒すのに……これは、最後に残った道しるべ。

それはきっとうまくいく道しるべ。


『この時を待っていた』


ほむら(……この時!今しかない!)

ほむら(だからこそ私は!)

ほむら(私はッ!『覚悟』を決めたんだッ!)

ほむら「うおおおおおォォォォォァァァァァァァッ!」

「ウオオオオオオォォォォォォォォォォッ」

Mami「ッ!」

Mami「暁美……ほむらッ!」


ストーン・フリーが叫ぶ。ほむらが叫ぶ。

ストーン・フリーはバッド・カンパニーの塊への攻撃をやめた。

ほむらは攻撃と防御を捨て、上体を前に倒し走り出した。

Mamiに向けて、ほむらとストーン・フリーが鬨の声と共に突っ込む。

左腕がないため体のバランスが取りづらく、走りにくい。


Mami「やぶれかぶれになって突っ込んできたか!」

Mami「だけども!ストーン・フリーがこっちに突進をしてくる可能性……読んでいたわ!」

Mami「防御を放棄した突進ッ!」

Mami「脚への攻撃はこれで確実に遂行される!」

Mami「バッド・カンパニーはッ!予告通り脚を撃ち砕くッ!」


ストーン・フリーの射程距離が使い魔に到達するまで……約九メートル。

白板に吊された、半数以上が殉死した銃士隊は一瞬で標的のスピードを計算し、

先読みをして、発砲を行った。ほむらは立ち止まらない。

スタンドエネルギーの弾がほむらの膝に命中。関節が破壊される。


ほむら「ガァァ……ッ!グッ……!」

Mami「そして倒れたところを、ティロ・フィナーレ!これで終わりッ!」

ほむら「グ……く……ス……!」


ほむら「ストォォォォォンフリイィィィィィィ——ッ!」

ほむら「脚を!膝を『縫い』なさいッ!」

Mami「……ッ!」

Mami「な、何を……!?」

ほむら「うおォォォアアアア゙ア゙ァァァァァァッ!」

Mami「バ、バッド・カンパニー!もっと!もっと撃つのよッ!」


喉が潰れるくらいの大声をあげながら、ほむらはずらぼろの脚で地面を蹴った。

肉や骨、神経が糸に変化し縫い合わって膝を「修繕」する。

立て続けに発砲されながら、筋肉繊維が断たれる度に縫い、骨が砕ける度に編んだ。

一歩、二歩、関節を治しながら接近する。


Mami「バ、バッド・カンパニィィィッ!何とかヤツを倒しなさいッ!」

Mami「撃って撃って撃ちまくるのよッ!何としてでも転倒させてッ!」


普通、足をすくわれたら倒れまいとする。

あるいは反射的に顔を守るため、仰け反ったり、体を曲げたりする。

突っ込もうとするなら尚更のこと。

そうして体勢を崩した所に、さらに追い撃ちをして脚にダメージを与える。

バッド・カンパニーの一斉射撃で、ほむらを転倒させることが前提だった。

しかし、ほむらは逆にもっと前のめりになり、膝を破壊されながらも走った。

銃弾で千切れそうになる膝の肉と骨と神経を、糸で縫い補修する。

破壊されながら物理的に治療する。

想定外のことだった。予定が狂った。

このまま近づくようであれば、ティロ・フィナーレが間に合わない。

リボンや銃を再生成する暇はないと判断したMamiは、

がむしゃらにバッド・カンパニーに攻撃を続けさせる。


Mami「倒れて……倒れろ!倒れなさいッ!」

ほむら「グッ……く!」

ほむら(も、もう……脚が……)

ほむら「く、ぅ……」

ほむら「届、けエエェェェェェェッ!」


——ドフッ

ほむらは力を振り絞りMamiの胸に飛び込んだ。膝の関節は最早機能しない。

ストーン・フリーの治癒能力よりもバッド・カンパニーの手数が勝った。

ブチブチと音をたて、バッド・カンパニーを束縛していた糸が千切れる。

最早右腕くらいしかまともに動かせる部位のない隻腕のほむら。

唯一の腕でMamiの胸ぐらを必死に掴み、崩れ落ちそうな体を支えている。

解放されたバッド・カンパニーがほむらの背後に集合する。

生き残った銃士隊の全銃口はほむらに向けられた、絶体絶命の状況。


ほむら「ふぅ……!はぁ、はぁはぁ……!ぐく……クッ!」

Mami「がふっ……あ、あらあら……甘えんぼ、さんね……抱きついてくるなんて」

Mami「ストーン……フリーの射程……ね……ゲホッ」

Mami「ま、まさか……膝を砕いたのに走ってくるだなんて……」

Mami「前の時間軸で呉さん……もとい、Kirikaの膝を砕いた時は……ちゃんと転倒してくれたのに」

Mami「……予想以上の根性ね。敬意を……表してあげましょう」

Mami「しかし……あなたの体力は……最早限界……」

Mami「バッド・カンパニーを束縛した糸はボロボロに切れていってるわよ……」

ほむら「ハァ……!ハァ……!」

Mami「私のスタンドの弾速……この距離なら、ボロボロのあなたのスタンドパンチよりも速く右腕を断てる」

ほむら「…………」

Mami「床に熱いキッスをさせてから殺すつもりだったけど……どっちみち……私の勝ち……よ!」

Mami「殴ってみなさい……打たせてあげる……!拳が届く前に……殺す」


ほぼ壊滅状態の銃士隊は引き金に指をかけている。

狙うは……ほむらの延髄と右肩の関節。

Mamiは勝利を確信した。

脳を破壊し、ストーン・フリーの姿が見えなくなった瞬間に喰う。

喰って完結。


ほむら「…………」

Mami「…………」

Mami「何よ……その不敵な表情は」

ほむら「…………」

Mami「何故そうも不敵な目ができるの?」

Mami「私の知ってるあなたなら涙をポロポロ流しながら命乞いをするんじゃあないかしら」

Mami「まぁ……その先入観のせいで私はここまで苦戦をしたのだけれど……」


ほむら「……たよ」

Mami「……何か、言ったかしら?」


ほむらは呟いた。

血まみれで小刻みに震えるその状態からは想像できないような、力のこもった声でほむらは呟く。

Mamiはほむらの目を見る。その目には敗北の色がない。不敵な目。

メラメラと燃える漆黒の炎を宿しているかのような、それでいて冷静さを兼ね備えた瞳。

何故そんな目ができるのか。Mamiは問う。


ほむら「……あなたよ、と言ったの」

Mami「……私?」

ほむら「あなたがやったのよ」

ほむら「私の左腕は、あなたが吹き飛ばした」

Mami「何……?」

Mami「あなた……何を言っているのかしら……?」


ほむら「あなたがもう一度、私の左腕を撃ち断つことを読んで……」

ほむら「それを『待って』私は……あなたに飛びついたのよ」

ほむら「その妬ましい豊満な胸にね」

Mami「あなたという人は……!」

ほむら「魔法少女は魂さえ無事なら死にはしない」

ほむら「哲学みたいな言い方だけど……魂がある限り肉体は、精神は滅びない」

ほむら「死なないと思い込めば……『これくらい』で死にはしないわ」

Mami「……!」

Mami「な……何……!?」

ほむら「……気が付いた?」

Mami「こ……この『感触』は……!」


袖の中で、ほむらはの右腕が解けている。

裂けた衣装の合間から見える、糸状のほむらの腕。

その糸の中に、黒い塊が『埋め』込まれている。

それが、Mamiの丁度両胸の間に当たっている。

Mamiは知っている。この硬さと形状を。

前の時間軸の巴マミという概念は、それの正体を知っている。


Mami「ま、まさか……これは……!」

ほむら「前の時間軸で私がこれを使っているの……何度も見てきたわよね」

ほむら「体を糸にして『爆弾』を腕の中に取り込んでおいた。ぬいぐるみの中にスピーカーや盗聴器をしかけるように……」

ほむら「既に……よ。お腹から取り込んでおいた爆弾を……体内で繊毛運動のように腕へと運ぶのは、そう難しいことでなかった」

ほむら「一応、ソウルジェムで一度やったから……布石というか、ヒントは与えてしまっていたけれど……」

ほむら「うまくいったようね。袖の中での作業だったから、左腕を奪ってやっぱり油断したから気付かなかった」


Mami「あ、あなた……!」

ほむら「既に、私の勝ちは決まった。私が最終的にやりたかったのはこれ……あなたと抱きつくこと」

ほむら「あなたが左腕を吹き飛ばしてくれて……『避難』させてくれた私の『魂』……」

ほむら「爆弾は今!それ以外を吹っ飛ばす!」

Mami「暁美さん……あなたは!まさかッ!」

Mami「や、やめ……!」

ほむら「覚悟はいい?私はできてる」

Mami「バッド・カン——」


右腕からカチリと音が聞こえた。

Mamiは悲鳴をあげようとした。

銃士隊の銃から、エネルギー弾が発射された。

それよりも前に、着弾する前に、

ほむらは体内に埋め込んだ爆弾により『自爆』をする。


教室に轟音が鳴り響いた。

右腕が高熱と共にはじけ飛ぶ。

炎がMamiの胸と首にかかり、ほむらの顔にぶちまけられる。

ひび割れていたガラスは爆発による空気の大きな振動で砕け、電灯も粉々になった。

ほむらは勢いに飛ばされ、背中を思い切り床に叩き付けた。

水の詰まった風船が破裂したかのように、多量の血が飛び散る。

しかし、死にはしない。

魔法少女は魂をソウルジェムに置換されているというシステムがある。

魂が無事なら余程のことでもない限りどんな負傷を負っても戦える。

強いて言えば脳あたりを守れればいい。

ほむらのソウルジェムは、スタンド同士のぶつかり合いの最中、

Mamiの狙撃により左腕ごと吹き飛んでいた。

ほむらの魂は、爆発の影響を受けなかった。

それがほむらの策。力ずくという言葉を好きになるしかない。


ほむら「ゲホ……ごぼっ……!」

ほむら「い、糸で……」

ほむら「糸で……ス、ストーン・フリー……!」

ほむら「傷を……『縫う』のよ……!」

ほむら「ぐ……グフッ!うぅ……くっ!」

ほむら「なるほど……結果的には……予告通り……」

ほむら「今の爆弾で……私の胸が……グッ……」

ほむら「風穴とは言わないにしても……がっつり抉れたわ……思い通りに……ゲボッ」


ほむらの体表……その殆どが血の赤で覆われている。

右腕は当然バラバラに吹き飛んでしまった。

上腕と肩や頬の肉も抉れ、爆弾の破片が喉にめりこんだ。

顔の肉が抉れて醜い顔になっていることだろう、とほむらは思った。

裂けた肉同士を繋げ、別の部位から寄せ集めた『肉の糸』を使って吹き飛んだ部位を編む。


ほむら(この能力のおかげで傷を物理的に小さくできる……)

ほむら(故に……元々不得意な治癒魔法も……簡単な処置で済む。魔力の節約にもなる……)

ほむら「しかし……やれやれ、だわ」

ほむら(如何せん……傷を縫う肉の糸が少ない……)

ほむら(太りたい訳ではないけど、私の肉の少なさには心底うんざりする)


『肉の糸』が明らかに足りないため、ほむらは一部の内臓も糸にして使用した。

胃が頬を縫い、肝臓が肩を作った。

——自分がもし魔法少女でなかったら、

肉も内臓もその気になれば再生できる体でなかったら、

こんな無茶な真似はできなかっただろう。

ほむらはそう思った。


ほむら「はぁ……はぁ……」

ほむら「くっ……」

ほむら「……あ、後は……ケホッ」

ほむら「グリーフシードで……浄化で……」

ほむら「…………」

ほむら「……さて、と」

ほむら「使い魔……」

ほむら「私はこの通り……元気ピンピンだけど……」

ほむら「まだ、生きていたのね。あなた」

Mami「…………」

ほむら「こういうしぶといのは嫌いじゃないわ」


ほむらはMamiを葬るために、髪飾りのソウルジェムを破壊するために、

爆弾をMamiの胸に押しつけて爆発させた。

そのためにMamiの首は千切れ、頭と胴体が二分していた。

それらは黒い煙を、火を消したロウソクの煙程度の量出している。

しかし、結果的に肝心のソウルジェムは無事だった。

偶然だった。計算では爆発した後のことまでは読めない。

Mamiの生首は、ゆっくりと瞬きをしている。

死にかけてはいるが、殺せていない。


Mami「気にすることは……ないわ」

ほむら「…………」


ほむらの脳に言葉が聞こえる。

いつも聞く、テレパシーの声だった。

声は出せないらしい。


Mami「もう……テレパシーするだけで精一杯……歩兵一人も動かせない……」

ほむら「でしょうね」

Mami「まさか……あなた……」

Mami「そんな……『自爆』するなんて」

Mami「私自身……一瞬のことで、何が何だか……よくわからない……」

Mami「私は……私は何故負けたの……?」

ほむら「おさらいしたいの?」


鼓膜が機能しているのかわからないため、ほむらもテレパシーで応じる。

ほむらは削った内臓を魔力で再生しながらMamiに教えることにした。

治癒と、体力を回復させる時間稼ぎも兼ねている。


ほむら「結論から言うと……私は左腕、もといソウルジェムを放棄してあなたに突っ込んだ」

ほむら「あなたが私の左腕を撃つことはわかっていた……」

ほむら「むしろ、撃たせるためにバッド・カンパニーを捕縛し殴ってたと言ってもいいでしょう」

ほむら「過程はどうあれ、私は自爆するために左腕を『避難』させるつもりだったのよ」

ほむら「あなたが予告してくれた時『よっしゃ』と思ったわ」

Mami「…………」

ほむら「そしてあなたは予告を遂行するために、バッド・カンパニーの標的を私に向けたままだった」

ほむら「私は足の負傷も糸で治療しつつ、右腕に埋め込んだ爆弾と共に意地でもそのまま接近し、自爆した」

ほむら「ソウルジェムはあなたに吹き飛ばされたから……ソウルジェムさえ無事なら安心して自爆ができる」

ほむら「あなたは私の胸を撃ち抜くと予告したから、予定通りにやろうと執着したから負けた」

Mami「……だ、だったら……!」

ほむら「もし、そのまま左腕のソウルジェムを撃ち砕いていればと思った?」

ほむら「でも残念。あなたが予告通りのことをしないパターンも考慮しておいた」


ほむら「左腕は吹き飛ばされた時点で『変形』させていたのよ」

ほむら「あなたは突っ込んできた私に気を取られて気付かなかったようだけど……」

Mami「へ、変、形……?」

ほむら「そう。こうやってね」


ほむらの左腕の断面から糸が伸びる。

その糸の先と到達点が結びつく。

切断された左腕を、糸を戻して回収。

ストーン・フリーは相手を殴ることも得意だが、

裂けた体を縫ったり、切断された部位を繋ぐことも得意とする。

肉の糸で筋肉繊維同士神経同士を繋げ合わせることを知ったのはつい最近のこと。


Mami「……!」

ほむら「『既に』よ。既にこういう工作をさせていただいたわ」


回収された左腕、正確には左腕だった物は『球の形状』をしていた。

ほむらは治癒したばかりの右手の指でそれを突いてみせた。

かなりの硬さがあるらしく、コツコツと音がする。

『これ』がほむらの左手。

コルクに糸を何重にも巻き付けた野球の硬式ボールの中身のように、

ソウルジェムに肉の糸を何重にも巻き付けた硬い球状の肉。


ほむら「結構な硬度でしょう?」

ほむら「左腕の体積全てが糸となって巻き付けたから……結構な大きさと重さがあるわ」

Mami「……なるほどね」

Mami「左腕の糸で……魂の防御を……」


ほむら「あなたのスタンドは一体一体の攻撃が小さい」

ほむら「だから左腕がこうなった以上……」

ほむら「仮に撃たれたとて、ソウルジェムまではなかなか行き届かないわ」

ほむら「あなたのマスケット銃で撃たれたら貫通するかもしれない」

ほむら「でももとより、左腕の球を撃つために二丁目の銃を生成するような……」

ほむら「そんな暇はなかったものね」

ほむら「だからどうでもいいわよね」

Mami「……そうね。愚問だったわ」


Mamiの生首はにやりと笑った。

自嘲の微笑。

ほむらは続ける。


ほむら「あなたが左腕を吹き飛ばすことはわかっていた」

ほむら「例え一度吹き飛ばした際に痛い目を見ても……あなたは私の左腕を吹き飛ばさざるをえなかった」

ほむら「だから私は、敢えて腕を差し出すという、当然の選択をした。バッド・カンパニーの数も減っていたしね」

ほむら「なんであろうとも……ソウルジェムのない私はただ爆弾を持って特攻すればいい」

ほむら「勝利には、常に相手の一手も二手も先に進まなければならないし、保険をかけられればさらに良し」

ほむら「もっとも私は元々そこまでクレバーではないから……」

ほむら「もう少し時間があればもっとまともな方法はあったかもしれないけどね」

ほむら「でもどっちみちあなたに勝利はない。体力的にも精神的にも、そして性格的にもね」

Mami「………………」

Mami「ふふ……ふふふ」

Mami「なるほど……ちょっと悔しいけど……認めざるをえないわね」


Mami「私の『完全敗北』よ。おめでとう」

ほむら「それはどうも」

Mami「……ねぇ、暁美さん」

ほむら「……何かしら」

Mami「私は……前の時間軸の巴マミ……つまり、眼鏡っ娘のあなたを知っている……」

Mami「このMami……アーノルドの使い魔ではあるけど……巴マミとしての記憶もある……」

Mami「だから後輩であるあなたへの愛もある。ゆまちゃんと『私自身』を殺しといて何を言ってるんだとは思うだろうけど……」

Mami「あなたの五分間だけ待ってという交渉も……そういう理由で聞いたと言ってもいい……別にただの負け惜しみと思ってくれて構わない」

ほむら「…………」

Mami「実を言うとね……私、嬉しくもあるのよ」

Mami「成長したあなた、強くなったあなたを見ることができて」

Mami「内向的で、自分に自信を持てなかったあなたが……この私を……超える瞬間」

Mami「人間をやめた、後輩と戦うことへの躊躇のない、使い魔となった、Mamiが考える最高のポテンシャル。そんな私を超えたその瞬間に立ち会えて……」


Mami「あなたの成長に敬意を表して……ちょっとしたアドバイスをあげる……」

Mami「Kirikaのスタンド……『クリーム』についてよ」

ほむら「…………」

Mami「クリームは私の知る限り究極のスタンド」

Mami「その対処法……と言っても、私が一度使っただけのものだけど……」

Mami「役に立つかは知らない……Kirikaは既に対策してるかも。でも、それをあなたに……」

ほむら「……それを私に教えると?」

ほむら「巴さんの姿をしているからと言って、使い魔の言葉を信用すると?」

Mami「私はただあなたに助言をしたくなっただけ……私の教えることを、どう解釈しても構わない。使おうが、使わなかろうが……」

Mami「……別にクリームに殺された腹いせってわけじゃあないのよ」

ほむら「……そう。それじゃあ、聞いておこうかしら。一応」

Mami「賢明ね。……まず、私は——」


ほむらは、頭だけとなったMamiが一瞬だけ「巴さん」に見えた。

しかし、すぐに「巴さん」を侮辱していると考え、思い直す。

同じ概念であると言えど、目の前にいるのはあくまで自分の敵。

憎むべき敵。本物の巴さんの仇。ゆまちゃんの仇なのだ。

今、クリームと対峙した際の話をする巴マミという概念は、

これから殺すのは使い魔。偽物に過ぎない。


Mami「……こんな、ところかしら。有力情報だったかしら?」

ほむら「ぼちぼちね。話している間にも傷は完治したし」

Mami「あぁ、そう……ちゃんと聞いてた?ふふ。別にそれでもいいけどね」

Mami「ねぇ……暁美さん」

Mami「最期に……一つお願いしてもいいかしら。情報提供の報酬として……お情けちょうだい」

ほむら「……何かしら」


Mami「私を殺す際……」

Mami「『さようなら、巴さん』って言ってほしいの」

Mami「たった一言、そう呟いてから殺して」

ほむら「…………」

Mami「あなたにとってはくだらないことかもしれない」

Mami「あるいは……巴マミという概念を侮辱する行為かもしれない」

Mami「でも前の時間軸の概念でもある、私にとっては……」

Mami「とっても重要なこと。だから……どうか、お願い」

ほむら「…………」

ほむら「……わかったわ」


ほむら「さようなら。……巴さん」

Mami「……ありがとう」

Mami「もう、話すこと話したわ」

Mami「それじゃ、どうぞ……殺してちょうだい」

ほむら「……ストーン・フリー」

Mami「悔いはないわ」

Mami「私は、成長したあなたと出会うために使い魔として産まれ変わったの、かもしれない……」

「オラァッ!」

Mami「……さよ……なら。ほ……む……」


ストーン・フリーは髪飾りのソウルジェムを打ち砕いた。

Mamiの頭が黒い煙となって消えていく。「残骸」も同様にして消えた。


ほむら「…………」

ほむら「……くっ」


足に力が入らない……。膝を……ついてしまった。

……傷は完治したが、体力的な疲労が癒えているわけではないからだ。

決して、巴さんの姿を殺したことに後ろめたさを感じているわけではない。

使い魔ごときに敬意を抱いているわけなんか決してない。あり得ない。

ただただ疲れただけだ。感傷の類は一切ないんだ……。

ほむらは自分に言い聞かせる。


ほむら「…………」

ほむら「決着ゥゥ———————ッ!」


ほむらは、勝利した。

不意に大声を出したくなり、思い切り叫んだ。

悲しみもなければ達成感もない。

何も残すもののない虚しい勝利宣言だった。


バッド・カンパニー 本体:Mami

破壊力−B スピード−B 射程距離−B
持続力−B 精密動作性−B 成長性−B

銃を持った小さな歩兵百体の群体型のスタンド。その性質は「統率」
兵隊は狙撃か銃剣で刺すといった攻撃をする。一体一体の力は弱い。
組織を結成したいという欲求と、几帳面な性分が反映したとされる。
ちなみに群体型スタンドの所有者は心に決定的な欠落があるらしい。

A−超スゴイ B−スゴイ C−人間と同じ D−ニガテ E−超ニガテ

*実在するスタンドとデザイン・能力が多少異なる場合がある

レス数を確認したら余裕があったんで、このスレではここまで。お疲れさまでした。

三大兄貴の一人のスタンドです。あの人なんか黄色いですからね
地雷とか戦車とか描写がめんd……大変だったので、都合上銃士隊的な感じで

ちょっと専ブラが不慣れ故にちょっともたつきましたが、

新スレを建てましたので、誘導です。

新スレの方で完結した暁にはこのスレと一緒にHTML化いたします。
その前に1000行けばそれはそれでいいのですが……

と、いうことで新スレはこちら
まどか「夢の中で会った……」ほむら「私の名前はほむらです」 ACT2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1364654387/)

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