向日葵「バカは死んでも治らない」 (18)

※ 注意点

1 おそらく大量の地の文注意

2 ひまさく(ゆりゆりした描写はなし)

3 グロとかはほとんど無い


以上の注意点を確認した上で読むかどうかを決めていただければ幸いです

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ー夢ー

自分は今、夢を見ている、私はそれだけをはっきりと理解していました。

明るいのか暗いのかすらわからない。

それどころか温度や時間に音などといったごく当たり前の周囲の環境、
さらには自分の身体の所在までもが、あやふやに散らかってしまっている。

だけどそういった不自然でもやもやした感覚達を、
これは夢なのだから何もおかしな事はないと、私は何一つ違和感なく平気で受け入れていました。


「ひまわりぃ……、ひまわりぃ……」


その時突然聞こえてきた櫻子の弱々しい声。

大人しくて張りのない、ひどく気だるげな彼女らしからぬ響き。

ある意味肉親よりも身近に日頃共に過ごしてきた幼馴染の声。

その声には鬼気迫った不吉で不穏な調子が込められていて、
根拠なくいきなり膨れ上がった恐ろしい予感が、私の心をとても力強く締めつけました。




――彼女はもう死んでしまっていて、私に今生の別れを告げに来たのではないか?



いくら夢の中のぼんやりとした意識だとはいえ、何故か私は、そう考えてしまっていたのです。

「さーくらこぉー!、さーくらこぉー!」

自分が口を動かしているかなんてわからない。

ただ私は一心に櫻子の名前を呼んでいました。

無性に櫻子の顔を今すぐ見たくてたまりませんでした。





――そうして何度も何度も呼び続ける内に、それがいつの事だかはよくわからないけれど、
                         

          いつの間にか目の前に櫻子がいる事に私は気付きました。 



普段と何も変わらぬ様子の櫻子が、そこにはいました。

記憶の中の彼女と一寸も変わらぬ等身大の彼女でした。



私はその一時が所詮は夢の出来事に過ぎない事を完全に忘れて、
己の心配が杞憂であった至上の喜びを、
彼女へ向かってがむしゃらに抱きつく事で表現しました。


いつもの現実の中でなら、素直になれず出来なかっただろう行動。

きっとそこが夢の中だったから、いつもと違う空間が、私にそうする事を許してくれたのでしょう。


「……ごめんね、向日葵、私今まであなたに隠してた事があるんだ」

「えっ?」

温かな彼女の体を夢中で抱きしめていると、不意に耳元にそんな言葉を囁かれる。


悲愴極まりない声に思わずハッとして、
飛び退くように櫻子から離れた私は、改めて彼女の顔をまじまじと見つめました。


そこにあったのはやはりいつもと変わらぬ櫻子の顔、そして伸び伸びとした立ち姿。


けれど声の調子と外れた彼女のいつも通りの平静な姿が、
先程は私をこの上なく安心させてくれたにも関わらず、
今度は私の心にざわざわと不安を湧き起こしました。


恐ろしい、わけもわからず純粋にそう思いました。

私はふと、自分が今この瞬間に凍えているという事実に気付きました。

恐ろしいからでは決してありません。

櫻子に触れた際に感じたよく見知った温もりが、そこから離れた私に寒さという物を意識させているのです。

櫻子に触れていなくてはこんな寒さには到底耐えられない。

仕方なく私は、おっかなびっくり櫻子にもう一度抱きつきました。

櫻子はじっと黙って落ち着いた様子で、そんな私を見つめていました。

温かい彼女の心臓の鼓動、そしてそれに連動する私の脈動。

私は、櫻子に触れる事で、今初めて自分の身体の所在を発見した事にこの時気付きました。


「ねえ、向日葵……。私の秘密を聞いて貰えるかな……?」


「ええ、もちろんですわ、櫻子」


自分でもびっくりするほど早く、私は櫻子に同意していました。

それは私の意志ではありませんでした。


少なくとも私には――秘密とやらを聞くか聞かないか?――どちらかを選べる程に、
櫻子の秘密という言葉を消化できていなかったのです。



しかし、それは驚くほど呆気なく、私が覚悟も済ませぬままに、
淡々と「秘密」は口にされてしまったのでした。





――私はね、実はもうとっくに、向日葵の知らない間に死んじゃってるんだ。

今日はここまで

現行の髪の毛の燃えるあかりの話の、最後の三分の一くらいを書いてたら(ry

あっちをさっさと完結させてこっち書く

>>5 訂正

× 私は、櫻子に触れる事で、今初めて自分の身体の所在を発見した事にこの時気付きました。

○櫻子に触れる事でしか、自分の身体の所在を、この夢の中では見出せない事に私は気付きました。

「そんな、嘘よね櫻子……、だって――」


衝動的に漏れ出た否定の言葉。

だって、に続く文字列が浮かんでこない。

かぶりを振る櫻子。


「本当だよ……。だって、ほら――」


そう言ったかと思うと櫻子は、
彼女にはとても似合わぬ繊細な手つきで自らの顎に触れ、
そしてそのまま上へと力を加え腕を持ち上げていきました。


それにつれて首の中間付近が横一文字に、音もなく徐々に裂けます。


次第に露になる彼女の内側が、
そこから流れ出るドロリとした液体が、
鮮やかな赤色を私にこれでもかと明示しています。


思わず堪らなくなって目を逸らした私の視界を、
目よりもまず記憶にこびりいた、
印象的な赤が単色へとじわりじわり染め上げていきます。


――赤、紅、朱、緋、あか、アカ……。



瞬間、覚醒して目を一杯に見開く。

使い慣れたベッドの上、パジャマは嫌な汗で湿っていました。

夢の名残を振り払うように、お腹にぐっと力を入れて起き上がる。

強張った身体の緊張をどうにかほぐそうと、大きく何度か息を吐きました。


「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」


低血圧、朝の目覚めが悪いなんて、
たいして私にとっては珍しい事ではないけれど、
それにしたって今朝のこれはひどい。


精神的な物、あるいは肉体的な物、
それらのどちらがこの体調不良を、
より主体となって引き起こしているのか。


あれはバカげた夢なのよ、そう思って必死で心を落ち着かせようとする私に、
起きてから絶え間なく頭部に感じる鈍痛が、それは違うと教えてくれているようでした。

「お姉ちゃーん!」


楓が私を呼んでいる。

楓のために朝食の支度をしなくちゃ。


石のように頑なにその場へ留まろうとする己の身体を叱咤し、
無理やり重い腰を上げました。



「向日葵ぃー!ひぃまぁわりぃー!」


家中に響き渡る、現実の櫻子の元気な声。

夢とは違う櫻子の証に私の口元が緩む。


朝食後、依然気分が悪いままだった私は、
今日が休日である事をこれ幸いと、
ベッドの上でうずくまるように脱力し、布団にくるまっていました。


眠ってしまうと、またさっきの悪夢を見てしまう気がしたので、
そうする気にはなれませんでした。


しばらく私の周囲には穏やかな沈黙が流れ、
唐突に部屋の扉を開けて櫻子が入ってきました。


「何?楓から聞いたけど、体調悪いんだって?」


「ええ、少しね……」


目の前にいるのはいつもと変わらない櫻子でした。


それが私の心中の、あまりに馬鹿げていて、
それでいてとても恐ろしい疑惑を呼び起こします。


――櫻子は、もしかして私の知らぬ間にもう死んでしまっているのではないか?


「櫻子、あなたって、ちゃんと生きてますわよね?」


「……いきなり何言ってんの?」

怪訝そうな櫻子の声。

私も理性では、それが至極合理的な解答である事を認めています。

しかし、夢の中の櫻子、そして現実の櫻子に決定的な違いを見いだす事が出来ない。

その事が私の理性から外れた感情の部分に、気持ち悪いしこりを残しているのでした。


「だって、おかしいじゃありませんの」


「花子ちゃんに撫子さんはあんなに優秀なのに、真ん中の櫻子がこんなにお馬鹿だなんて」


「それでももしかしたら、櫻子はいつの間にか死んでいて、頭の中が腐ってるのならあるいは……」


「おい、何だとコラ」


わかりやすい怒りに満ちた櫻子の声。


そのまま櫻子はこちらに殴りかかるような素振りを一瞬見せましたが、
結局それを止めて言いました。


「向日葵体調悪いから疲れてるんだって。そういう時は早く寝ろよ」

「いや」


「なんで?」


「だってまた、悪い夢を見てしまいそうですもの」


「そんな事だろうと思って、一度家に帰ってこれを持ってきたよ」


「これさえあればぐっすり眠れること間違いなし!」


誇らしげな櫻子の声。

高らかと掲げられた彼女の右腕。


見ると彼女の右手には、
数学の教科書が隅を摘ままれる形でぶら下がっていました。


「それで?」


「これから私がこれを読むから……」


「そんな物じゃ櫻子じゃあるまいし私は眠くなりませんわよ」


「どうせ櫻子のたどたどしい朗読にイライラして、余計眠れなくなるくらいが関の山ですわ」


「マジで?」


「おおマジですわ」

ダラリと垂れ下がる彼女の右腕。

それから少しばかりうんうん唸った櫻子は、何かを思いついたらしくハッとした顔をしました。


「そうだよ!悪い夢を見ちゃうなら、さっさとその元になる不安を取り除けばいいんだよ」


「そんなこと言われても……」


とはいえ、悪夢を見てしまうだろう原因についてははっきりしていました。

それがどのような現実の不安が形を変えた物なのかはわかりませんが、
櫻子が今ここでしっかりと生きている人間だと言う事が判明すれば、
きっと健やかに眠れるはずなのです。


「何か不安に思ってるような事、心当たりはないの?」


「……櫻子って、本当に今、私の目の前で生きているんですわよね?」


「まぁーた、それぇー?」

心底呆れたという声を出す櫻子。

しかしこれは理屈ではないのです。

なるほど、確かに私は疲れている、それを今、深く実感しました。


「これまで長い事一緒に過ごしてきたじゃん。仮に私が死んでたら向日葵が気づくでしょ」


「いつも、一緒にいた訳じゃありませんわ」


「じゃあねえちゃんや花子に聞いてくればいい?私って生きてるよねって?」


「撫子さん達だって、あなたと絶えず一緒にいた訳じゃないでしょう?」


「ぐぬぬ、ああ言えばこう言う……。こう言えばああ言う……」


櫻子はしばし途方に暮れたといった様子で困惑顔を浮かべていました。

そして何を思ったか、突然勢いよく私の腕を掴みました。

「ちょっと!なんですの?」


「いいから!」


強く体ごと引き寄せられる形で、私の手が櫻子の胸にくっつけられる。


ドクドク、ドクドクと、何故か妙に彼女の心臓が早鐘を打っているのを、
指先と手の平にそっと感じました。


加えて鼓動の感触を意識してすぐ、
櫻子がこちらの首に腕を巻き付かせる形で、
ひしと抱き付いてきました。


これだけ身体を意識的に密着させたのは久しぶりに思えて、
櫻子の腕の中で私は少し緊張してしまいました。


櫻子のぎこちなく強張った身体も多分、
その接触がいつもとは何か違う物だと思わせるのに一役買っていたのでしょう。

「もうこれでわかったでしょ!私は生きてるって!」


「……いいえ、夢の中の櫻子ゾンビも今と同じくらい温かくて、心臓がちゃんと動いてましたわ」


「生きているのだと偽装している可能性も考慮しなくてはいけない」


「う、うがあああああああああああ!」


「ちょ、ちょっと櫻子落ち着きなさい!」


私からさっと離れたかと思うと、
櫻子は顔を真っ赤にしながら頭を抱え、
その場でしきりに地団太を踏み始めました。

今日はここまで

百合とか関係なく読んでて恥ずかしくなるようなのを書こうと思ったら
書いてる方が先に恥ずかしくなってしまったパターン

ただ短編なのでさっさと完結させたいです

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