ハルヒ「すいませーん、ユッケひとつ」(100)

  ~4月某日、某焼肉酒家え○す~


ハルヒ「いい店ねぇここ! テレビで見たとおりだわ!」

キョン「おお、俺も見たぞ。『深イイ話』だろ?」

店員「いらっしゃいませ。5名様ですか? わたくし、テーブル担当をさせていただきます池田です。
   どうぞ、お席へご案内いたします」

みくる「うわぁ、テーブル担当なんてあるんですねぇ」

古泉「激安焼肉店とは思えませんねぇ」

長門「…………」


 SOS団の面々は、とある焼肉店に来ていた。
 そう、あの殺人焼肉店である。


 4月18日放送の『人生が変わる1分間の深イイ話』の映像はこちら。
 ttp://www.youtube.com/watch?v=jYqX3b4VMbY

キョン「俺、焼肉なんて久しぶりだからテンション上がるわ~」

古泉「1皿100円ですか。本当に安いですねぇ」

キョン「1番高い皿でも380円だってよ。すげ~」

 キョンと古泉が、メニューを眺めながら楽しそうに顔を綻ばせている。

みくる「お店の雰囲気はまるで高級店みたいなのに、凄いですねぇ~」

古泉「それにしても珍しいですよね。長門さんから焼肉屋に行きたいだなんて」

長門「テレビで見た」

ハルヒ「いやぁ、あたしも昨日テレビで見て行きたかったのよねぇ。
    紳助嫌いだから、普段は『深イイ話』なんて見ないんだけど、たまたま目に映ってさぁ」

キョン「俺はあの番組結構好きだけどな。
    平野綾が、水着逆さまネタで滑ってた回は面白かったぞ」

ハルヒ「ああー、あの放送の時、実況板がすっごい盛り上がったわ~」

キョン「なんだ、しっかり見てるじゃないか」

ハルヒ「うっさいわねぇ! そんなことより、さっさと注文決めなさい」

キョン「まぁまぁ、適当にじゃんじゃん注文しようぜ。どうせ安いしな」

みくる「メニュー多くてよく分かりません。お任せします」

ハルヒ「分かったわ。すいませーん! オーダーお願いしまーす!」

 ハルヒの大声に反応し、すぐに先ほど対応した女性店員が戻ってくる。

店員「はい、お決まりでしょうか」ニコッ

ハルヒ「生中5つ! それとサンチュセットとシーザーサラダと~、
    和牛カルビとカイノミとハラミとロースを3皿ずつに、ネギタン塩と豚バラを2皿ずつ」

店員「はい、以上でよろしいですか」

 店員が注文を繰り返したところで、ハルヒははっと気が付く。

ハルヒ「ああ、すいません、後それからー――――」





              「ユッケください!!」





 死神が冥界の扉を開いた……。
 ハルヒの命もあと僅かか……。

キョンたち「かんぱーい!」カンッ

ハルヒ「ごくごくごくっ! ぷはぁー!! ビールうまぁー!」ゲップ

みくる「ビール最高でしゅう!」プハー

長門「…………」グイグイッ

古泉「皆さん美味しそうに飲みますねぇ。僕なんかお酒強くないから羨ましいですよ」

キョン「はっはっは、そりゃお前、人生損してるぞーっ」

古泉「っていうか、高校生ですしね」

 キョンたちは、テーブルに運ばれてきた生中をグイっと煽り、
 早くも宴会ムードに包まれていた。

店員「お待たせいたしましたー。サンチュとサラダ、それと和牛カルビ、和牛カイノミを3皿ずつ、
   それとこちら――――」




              「ユッケでございます」 ドンッ





 平和なムーミン谷に悪魔がやってきた……。

店員「お後のご注文もすぐにお持ちいたしますのでー」サッ

キョン「きたきた。早速焼こうぜ」

ハルヒ「注文もどんどん追加しましょ。ユッケはあたしが食べるわ!」

 涼宮ハルヒ、若干16歳にして高らかに自殺宣言。

キョン「俺、ユッケって好きじゃないな。だってそれ牛肉だろ?
    生で食べるなんて怖くないか? 刺身じゃあるまいし」

古泉「そうですね。僕も加熱せずに肉を食べるのは抵抗がありますね」

ハルヒ「え、そうかしら? そう言われると何かあたしも気になってきたわね」

 キョンと古泉が、知らず識らずの内にハルヒに助け舟を出す。

長門「心配無用。通常、焼肉店などで出されるユッケには、トリミングと呼ばれる作業工程が行われる」

 しかし、地獄へ引き戻す長門。

みくる「トリミングってなんですか?」

長門「ここでは肉の表面を削ぎ落とす行為を指す。
   大腸菌などの有害な雑菌は表面に付着しているので、
   これによって食中毒などの症状を防ぐことが出来る。
   真っ当な店なら徹底してやるはず」

キョン「ここ、ちゃんとやってるかな?」

古泉「知識のないアルバイトに任せてるかもしれないですよね。
   ひょっとしたら、コスト削減のために、そのトリミングをしてないという可能性も」

ハルヒ「んも~、2人とも何言ってんのよ。
     こんな立派なお店が、いい加減なもの出すわけないじゃないの。
     ちゃんと生でも食べられるお肉に決まってるわよ」

キョン「う~ん、まぁそれもそうか」

 キョンは何の根拠もないハルヒの口上にあっさり納得し、
 ハルヒはそのままユッケの皿をたぐり寄せた。

ハルヒ「あ、有希もユッケ食べたい?」

長門「いらない」

ハルヒ「そう、じゃあやっぱりあたしが食べるわ。ん~、美味しそう~」

 ハルヒが、卵とネギの入ったユッケをスプーンでかき混ぜる。
 そして、生肉と卵が融け合った時、
 遂にそのO111、およびO157という名の猛毒が、ハルヒの柔らかい唇の下へ運ばれる……!


ハルヒ「いただきま~――――」

すまん…
どうしよう書き直そうかな…

みくる「そういえば、ユッケって変な名前ですよね。肉の部位の名前ですか?」

ハルヒ「――んっ?」ピタッ

 みくるの素朴な疑問に反応し、すんでのところで手を止めるハルヒ。

ハルヒ「なぁに~、みくるちゃ~ん、そんなことも知らないの?」

古泉「言われてみれば、僕も知りませんね。韓国の料理名……でしょうか?」

ハルヒ「そうよ。ユクは韓国語で肉という意味、フェは生肉を細かく刻んだものという意味でね、
    ユクとフェを続けて発音するとユッケになるのよ」

みくる「ふぇ~、そうなんですか~」

キョン「それは俺も知らなかったなぁ。漠然と韓国料理だとは思ってたけど」

長門「ユッケの歴史はそれなりに古い。
   19世紀末に朝鮮でまとめられた是議全書にもその存在が記されている。
   元々は、牛肉ではなく犬肉を使われていた。
   当時の朝鮮人たちは、これをスープに入れて夏バテ防止のために食べていたとされている」

みくる「い、犬ですかぁ~、可哀想ですぅ~」

キョン「まぁ昔の話ですよ。19世紀って1800年代だし」

古泉「そうですね。現在と昔では価値観も常識も違うものですし、
   まして国が違うわけですから、食文化の違いも大いにあるでしょう」

ハルヒ「それにしても有希、すっごい詳しいわね~。そんなにユッケ好きなの?
    やっぱりこれ食べる?」

長門「いらない」

ハルヒ「そう。それじゃ、やっぱりあたしが食べるわね。いただきま――」

キョン「カルビ焼けてるぞ。熱いうちにこっち先に食えよ」

ハルヒ「それもそうね」

 毒ユッケは一端テーブルの隅に追いやられる。
 そうこうしている内に、次々と追加注文がやってきた。

キョン「ん~、安いのに美味いなぁ」モグモグ

古泉「サンチュに肉を包んでご飯と一緒に食べると最高ですねぇ」

みくる「ビールも最高でしゅう!」プハァー

ハルヒ「あー、誰よネギタン塩を両面焼いたの! これは片面だけでいいんだってば」

キョン「そうなのか?」

ハルヒ「じゃないと上に乗っかったネギが落ちちゃうでしょうに」

キョン「それもそうだな。すまんすまん」

長門「もぐもぐ……」チラッ

ハルヒ「ん? ああ、ユッケ? やっぱり食べたいの?」

長門「いらない。あなたは食べないの?」

ハルヒ「ん~、なんだかお腹いっぱいになってきたわねぇ」

キョン「じゃあ俺が食うよ。残したらもったいないし」

長門「待って」

キョン「なんだ? やっぱ長門が食うか?」

長門「そうじゃない。そのユッケは涼宮ハルヒが箸をつけた」

ハルヒ「でも、口はつけてないわよ」

長門「一度かき混ぜたものを他人が食べるのは行儀が悪い」

ハルヒ「そ、そうかしら?」

キョン「俺は気にしないけど」

ハルヒ「まぁ有希がそこまで言うなら、やっぱりあたしが食べるわ」

 ユッケは、テーブルの上をグルグルと回り、
 結局ハルヒの下へ戻ってきた。

ハルヒ「んじゃ、いただきまーす」

  ぱくっ

ハルヒ「うん、おいしい」モグモグ

長門「…………」


みくる「ほんとアメリカって許せませんよねぇ~!」ヒックッ

古泉「朝比奈さん、飲みすぎですよ」

キョン「俺はまだまだ食えるな~。もっと注文しようぜ」

ハルヒ「すいませーん、ビール追加~!」

 その後も、彼らは最後の晩餐を楽しんだ。

  ~2日後の朝、学校の教室~


  ガラガラガラッ!

ハルヒ「あらキョン、おはよ――」

キョン「体は平気かハルヒィィィィィ!!」ガバッ

ハルヒ「な、なによ……? 見ての通り、健康体そのものだけど??」

キョン「お前、今朝のニュース見てないのか!?」

ハルヒ「ニュースって??」

キョン「この前、焼肉食いに行ったろ!?
    あの店のユッケに、O111っていう猛毒の菌が含まれてたらしいんだ!」

ハルヒ「は? う、うそでしょ……?」

キョン「いいから携帯のテレビを見てみろって! ほらっ!」

TV『――引き続き、焼き肉チェーン・焼肉酒家え○すの集団食中毒事件をお知らせします。
  同店のメニュー・ユッケを食べた小学1年生の男児1人が感染症のため死亡しました』

ハルヒ「死亡!!??」

キョン「お前は大丈夫なのか!? 何ともないか!?」

ハルヒ「そ、そう言われてみると、お腹が痛くなってきたような……?」

キョン「な、なんだってえええええええ!!?」

  ガラガラ

岡部「チャイム鳴ったぞー、席つけー」

キョン「それどころじゃないですよ先生! ハルヒが殺人ユッケを食べてしまったんです!」

岡部「な、なにぃ!? あ、あの皆殺し焼肉店の猛毒ユッケをか!?」

キョン「そうです! あの逆切れ焼肉店の致死性の劇薬ユッケです!」

岡部「す、すぐに病院へ行くんだ! 今、タクシーを呼んでくる!」

朝倉「どうしてそんなことしたの涼宮さん! 辛いことがあったなら言ってくれれば……!」

ハルヒ「い、いや、別に死のうと思って食べたわけじゃないんだけどね……」

キョン「俺も病院へ行くぞ! 急いでタクシーへ!」

ハルヒ(あ、あたし、死んじゃうの……?)

  ~そしてタクシー~


運転手「お客さん、どちらまで?」

キョン「近くの病院までお願いします! こいつ、あの殺人ユッケを食べてしまったんです!」

運転手「な、なんだってぇ!? 殺人ユッケっていったら、
    半数致死量は0.001mg、塩素の70万倍、筋弛緩剤の30000倍、
    青酸カリの4000倍、サリンの350倍、ベニテングダケの100倍、
    トリカブトの50倍、フグ毒の10倍に相当する、あのベロ毒素ユッケのことかい!?」

キョン「そうです! 史上最高の猛毒といわれる、
    ボツリヌスやダイオキシンにも匹敵する有害菌を持った、あの殺人ユッケです!!」

ハルヒ「あ、あんまり猛毒だの殺人だの言わないで……。
    何だか頭まで痛くなってきたわ……」

運転手「いけねえ! 脳にもダメージがきてるのかもしれん!! シートベルトを締めてくれ!」

ハルヒ「あ、ちょっと待って。このタクシー、カーナビついてる?」

キョン「そんなこと気にしてる場合じゃないぞハルヒ!」

ハルヒ「そ、そうね。気が動転して……」

運転手「よし、飛ばすぜ!!」

読みやすい文章だな



  ブルオオオオオオオオオオオンッ!!!


キョン「すぐに着くからな、大丈夫だぞ」

ハルヒ「……ねぇキョン。あたし、死んじゃうのかな」

キョン「そ、そんなことはないぞハルヒ! せいぜい半身不随くらいさ、きっと!」

ハルヒ「最期かもしれないから……言わせて…………」

キョン「なんだっ?」

ハルヒ「あたし、あんたが好き」

キョン「ハ、ハルヒっ?」

ハルヒ「今までずっと言えなかったけど、でも言えずに死ぬなんて嫌だから……。
    ごめんね、突然こんなこと言われても困るよね……遅すぎるよね…………」ウウッ

。・゜・(ノД`)・゜・。

キョン「俺もお前が好きだ」

ハルヒ「……っ!! ほ、本当に……!?」

キョン「ああ、お前みたいな女、世界中どこを探してもいないさ。
    俺にとってはただ1人の女だ……。好きだハルヒ、付き合ってくれ……」

ハルヒ「キョン……キョン……!!」ギュッ

 キョンとハルヒは、狭いタクシーの中で力強く抱きしめ合う。

ハルヒ「キョン……」

キョン「ハルヒ……」

 まるで時間が止まったかのような甘美な一時に身を置く2人。
 と、そこで、ハルヒは奇怪なことに気が付く。

ハルヒ「……あれ、この車、車線はみ出してない?」

ながもんの差し金か?


 確かに、車はかなりのスピードを出したまま、若干斜めに走っていた。

キョン「ほ、本当だ。ちょっと、運転手さん?」

運転手「…………」グッタリ

 運転手はハンドルに突っ伏したまま返事をしない。

キョン「ちょ、ちょっと!?」

ハルヒ「ね、寝てるの!?」

キョン「はっ……! ダッシュボードの上に置かれてるあれってまさか!!」

ハルヒ「え、ああ! あれは!!」

 キョンは薬用の紙袋を見つけた。
 内用薬フェノバルビタールと書かれている。

キョン「抗てんかん薬だ!!」

キョンかっけー

ハルヒ「この人、てんかん持ちなの!?」

キョン「うおおお! ドア開かねえ!!」ガンガンッ

 この運転手、先ほどはハルヒに対して脳にダメージ云々言っていたが、
 実際のところ、脳にダメージを負っているのは他ならぬ自分の方であった。

キョン「そ、そうだ! サイドブレーキを!」

 キョンはサイドブレーキに手を伸ばすが、

ハルヒ「ああ、前!!」


  プップーッ!!


 間に合わず、対向車線を走ってきた重機と、


  ギャシャアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!


 正面衝突。

長門「計画通り」

通行人A「うわー! タクシーと重機がぶつかったぞー!!」

通行人B「救急車を呼べー!!」


ハルヒ「ユッケなんて……食べなければ…………」ガクッ



 涼宮ハルヒ 享年16歳 

 死因 殺人ユッケとてんかん事故のコラボ

  チーン ポクポクポク


 ちなみに、キョンは奇跡的に無傷で、数年後に長門と結婚したとか。


 おわり

やっぱしながもんかwww

サクッと読めて良かった

   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―'彡-i     |
  i  ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' /    .|

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   .i i.| ' ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、   /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
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つまんなかったらごめん

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