ハルヒ「謎のおっさんに違いないわ!」 (175)

小学生の、六年生の時。普通の日常に気が付いたあたしは、面白いことを求めた。

中学に入ってから、あたしは面白いことを求めて活動してきたつもり。

でも、結局は何もなかった。

そして、今日あたしは高校生になった。

少しは何かが変わる。そう思って、高校に至る坂道を登った。

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面白くもない普通の入学式が終わり、教室に移動。

どうせ教室に着いたら、自己紹介に決まってる。

ワンパターンで飽き飽きするわ。あたしは教室に人が揃うまでそう思ってた。

教室に人が揃った。でも、あたしの興味は只一人に注がれていた。

あたしの後ろに座った人物は制服を着ていても解るほどに筋骨隆々とした大男だった。

なにあの二の腕?あたしの胴回りよりも太いんじゃないかしら?

しかもどう見てもおっさん。二十歳過ぎの子供がいてもおかしくないくらいの。

顔は怖い感じがするけど、ダンディな男前。

それが詰襟をきっちりとホックまで閉じて、その上にカラーをつけてるんだから笑っちゃう。

だけど、なんで詰襟なの?うちの学校はブレザーなんだけど。

そんな謎のおっさんが気になっているうちに、予想通りの自己紹介が始まった。

つまらない自己紹介を聞き流しながら、あたしの番がやってきた。

「東中学出身、涼宮ハルヒ」

後ろのおっさんも気になるけど、一応、要求だけは伝えておこう。

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」

たぶん、クラスの連中も後ろのおっさんが気になってるんだろう。

あたしの紹介も聞き流された感じだ。

そしてついにその瞬間がきた。

あたしの後ろのおっさんが立ち上がり、自己紹介を始める。

>>4
最終行

×あたしの後ろのおっさんが立ち上がり、自己紹介を始める。

○おっさんは座ったまま自己紹介を始めた。


と思ってください。

「シルバ・ゾルディック。オレの名を呼ぶのは自由だが指図は受けない」

おっさんはそれだけ言うと沈黙した。

自己紹介は終わりらしい。

なによあれ!名前しか言ってないじゃない。

謎だわ!謎!謎のおっさんに違いないわ!


こうしてあたしの高校生活は何かが少し変わって始まった。

なんだなんだ
酔えば酔うほど書く人か
どんだけのペースで飲んでんだ
心配になるわ

燃料切れたら言えよ。
御中元で贈るから。

>>13
ワインを開けた日なら、一日に一本+αくらい

>>14
ビール!哀しいけど今って夏なのよね。

あたしはこのおっさんを観察した。

普段は大人しく授業を受けている。

ほとんど喋らない。

尾行しようとしたけど、教室を出た時には見失った。

なんなのこのおっさん!謎だわ!

おっさんは馬鹿みたいに大きい。

たぶん二mは越えてると思う。

しかもムキムキで横幅もあるもんだから、おっさん列の後ろから苦情がでた。

その所為で席替えになった。クジ引きだって。本当に平凡な方法で嫌になるわ。

ここはおっさんと接触できるいい場所なのに余計なことをって、あたしは思った。

おっさんは窓際最後尾で固定。あたしとしては真横か真ん前に行きたいところ。

そう思っていたら、見事におっさんの前を引き当てた。

あたしは思わず立ち上がって、

「やったわ!」

なんてガッツポーズをとってしまったわ。

あたしが新しい席に向かうと、おっさんは既に自分の席に座ってた。

おっさんはここでも無表情。

あたしは席に座り、振り返っておっさんに言ってやったわ。

「どう?またあたしの後ろになれて光栄でしょ?」

「………」

おっさんは無表情のままで無視をした。

なんなのよ、あいつは!

あたしは見てるだけの女じゃないのよ。

ある朝、HRの前に直接聞いてみた。

「ねぇ!あんたなにもんなのよ!」

あたしみたいな美少女が孤独なおっさんにわざわざ振り返って声をかけてあげたんだから、
普通なら感謝の一つもして答えるのが筋でしょうに、このおっさんときたら、

「学生だ」

表情一つ変えずにそう答えただけ。

本当に頭にくる。

もう、このおっさんを部活で囲って調べるしか無いわ!

あたしはそう思った。

部の名前も決まっている。

S涼宮ハルヒが Oおっさんを S調べる為の団。

これね。そう決めた日から、あたしは活動を開始した。

まず部室。

文芸部の部室に目を付けた。

今年の春に三年生が卒業して部員ゼロ、新たに誰かが入部しないと休部が決定していた唯一のクラブ。

一年生の新入部員が入ったらしいけど、一人しかいないし休部になったようなものに違いがないわ。

そういうことで、下調べで、お昼休みに部室棟の文芸部にまで足を運ぶ。

部室には誰も居ないと思ってドアを開けたら、窓辺に本を読む一人の少女がいた。

文芸部員だろう。都合がいいので交渉を試みる。

「ねぇ、部室貸してくれない?」

窓辺の少女は無表情に答える。

「どうぞ」

「ありがとう」

「本を読めればいい」

少女は無表情に応じた。

部室の問題は解決した。

次はあのおっさんの入団のさせ方。

ここはやっぱり強硬策ね。

部室に連れ込んで強引に団員にしてしまおう。

放課後が待ち遠しいわ。

待ちに待った終業のベル。

あたしはおっさんの腕を掴み強引に部室に連行しようとした。

無理だった。ビクともしない。

何こいつ?石像か何かで、足は地面にくっついてるんじゃないかと思った。

地団太を踏んで悔しがってるあたしにおっさんが声をかけてきた。

「何か用か?」

ついにおっさんから声をかけてきたわ!

あたしにかかればこんなもの。チョロイものね!

二日後、それは届いた。

赤と黒。二着のバニースーツ一式。

週が明け、嬉々としてそれを持って行く。

朝のHR前、おっさんを見る。

おっさんは何故か眼鏡をしていた。

「なによそれ?老眼鏡?」

あたしの問いに、おっさんは一言、

「実験だ」

とだけ答えた。

あたしは考えた。

普通に考えれば、眼鏡か老眼鏡よね。

でもおっさんに限ってそんな普通なのはあり得ない。

なんて言ってもあたしが目を付けた、不思議な存在なんだもの。

それにおっさんは『実験』って言ってた。

『実験』って何?

あたしが出した結論は、通信機兼相手の力を数値化する眼鏡。

そうよ!きっとそうに違いない!

「ねえ、あんた。それって遠くの相手と話したり、相手の力が解る道具よね?」

あたしはずばりと聞いてやった。

「元々は音声と映像を送るだけの眼鏡だったんだが……」

おっさんが珍しく言いよどむ。

「だったんだが?」

あたしの追及に対しておっさんは、

「今解析したところ、数値は錬に対応してないそうだ」

おっさんは意味不明なことを言ってあたしの頭を三回程優しく叩いた。

馴れ馴れしい。

待ちに待った放課後。

全員が揃ったのを見計らい、紙袋から掛け声とともにバニースーツ一式を取り出す。

「じゃあああん!」

バニースーツを見たみくるちゃんが何かを察したのか、

「あのあのあの、それはいったい……」

と慌てる。

「あたしとみくるちゃんが着るのよ!」

「い、いやですっ!」

あたしの命令に逆らうみくるちゃん。抗命は重罪なのに知らないみたい。

あたしはちらりとおっさんを見る。

かなり興味深そうに見てるわ。

流石のおっさんもバニースーツの魅力には勝てなかったみたい。

おっさんの反応を見る為に、みくるちゃんを目の前で着替えさせることにした。

何故か抵抗するみくるちゃん。

「おとなしくしなさい!」
「いやあああぁぁぁ!」

セーラー服を脱がせとスカートのホックに指をかける。

おっさんの様子を見る。

恥じることなくガン見してる。

みくるちゃんとおっさんの目があったのか、

「見ないでぇ!」

とみくるちゃんが泣き声で叫ぶ。いいわ!ナイスリアクションよ!

あたしの期待に反して、おっさんは恥ずかしがるみくるちゃんをじーっと見てるだけで無表情。

何を考えてるのかしら?なんて思いながら着替えさせてたら、一人のバニーガールが出来上がってた。

みくるちゃんは「うっうっ」と泣いていた。

そういえば、みくるちゃんにはファンが多くて泣かすと一部の男子生徒を敵に回すらしい。

まぁ、おっさんなら男子生徒の全部を敵に回しても瞬殺できそうだし問題ないでしょう。

二メートルの大男が男子生徒をちぎっては投げをしてるところを見てみたい気もしたけど、
今はそれどころじゃない。

なんで、恥じらうみくるちゃんの着替えを平然と見てるのよ!

これはあれね。みくるちゃんの魅力不足。

団長であるあたしが手本を見せようとおっさんの前で着替えてやった。

ところがやっぱり平然と見てるだけ。

……と思いきや、突然

「クックックッ」

と笑い出した。

あたしの魅力に陥落した。そう思ったのも束の間、おっさんが続ける。

「次は何をしてくれるんだい?お嬢ちゃん達」

おっさんが聞いてきた。

「その恰好で酌でもしてくれるのか?」

あたしとしたことがその後の展開を考えていなかった。

「え……えっと…」

こんなことなら親父の酒でも持ってきておくんだった。

「今日は終わりだな」

あたしの後悔を知ってか知らずかおっさんは出ていった。

その日、家に帰って反省をした。

次はお酒を持って行こうって。

でも、そこからちょっと考えた。

そして一つの疑問が浮かぶ。

みくるちゃんは兎に角、あたしみたいな美少女が目の前で着替えてるのに平然としていられるのかしら?

「もしかして、あのおっさんはホモかも知れない」

つい口に出る。

よく考えれば、部室には美少女が溢れてるけど、美少年が一人も居ない。

次は美少年をおっさんの前に出してみよう。

そう考えてその日は眠りについた。

部室のドアを開けるとそこは薔薇の園だった。

キョンは息も絶え絶え、茫然自失としながら、

「か……返して…俺の貞操」

おっさんは顔色一つ変えずに一滴の血も流さずに抜き差しする。

流石に上手だ。仮に息子がいたとしてもまだあの域に達してないだろう。

苦悶の表情を浮かべるキョンに対して、おっさんは何の感情も浮かべず、業務の様に処理している。

ドアをそっと少しだけ開けて中を覗く。

つまらなそうにおっさんが座ってる。

キョンはその向いで恐縮したように体を小さくして座ってた。

なんだか期待外れな光景だった。

「なんで入らないんですか?」

みくるちゃんが声をかけてきた。

振り向き、みくるちゃんに対して、口に人差し指をあてて黙るように注意する。

その日おっさんを観察していて気が付いたことがある。

その事について、終業時に声をかけた。

「そう言えば眼鏡は?」

「昨日、ちょっとな」

「そう……」

「眼鏡があった方がいいか?」

「べ、別にあたしは眼鏡属性はないし好きしたらいいわ」

「そうか。凝要らずで助かったぞ」

おっさんは意味の解らないことを言ってあたしの頭を撫でた。

馴れ馴れしいし、不思議なおっさんだわ。何時か謎を解明してやるんだから!

その日は、おっさんの傷に障るといけないので、SOS団は休みとした。


そして翌日金曜日。

朝のHR前。怪我をしてたおっさんに調子を聞く。

「問題ない」

いつもと全く変わらぬ様子。一安心した。

待ちに待った放課後。部室で皆を前にあたしは一大発表をした。

「次の土曜日! つまり明日! 朝九時に北口駅前に集合ね! 遅れないように。来なかった者は死刑だから!」

おっさんをじっくり観察するために屋外活動を展開することにしたの。

キョンが何の為にとか言ってたけど無視してやったわ。

そして土曜日。

あたしは三十分前に北口駅前に到着。当然一番乗り。

おっさんが最後に着いたなら、無理難題でも吹っかけようかと考えた。

でも、そもそもおっさんは着てくれるのかしら?ちょっと心配。

そんなことを考えているうちに、古泉くんが着て、続いてみくるちゃん、有希の順番で集まった。

バカキョンに至っては五分前といったギリギリにやってきた。

やっぱり、おっさんは着てくれないのかしら?不安になった。

そして九時丁度。諦めて振り返ったあたしの前におっさんがいた。

「あんた何時からいたのよ?」

嬉しさを隠しておっさんに聞いてみる。

「さぁな」

おっさんは平然と答える。

悔しい。最後って確定してたら、何らかの罰ゲームを与えられたのに。

とりあえず、喫茶店に移ることにした。

あたしを含めた三人は私服だ。古泉くんはスーツだった。
みくるちゃんはノースリーブワンピースに水色のカーディガン。

だけど、なんで有希とおっさんは制服なわけ?

有希はなんとなく理解できるわ。だけど、おっさんに至っては、例の詰襟。制服ですらない。

変な胴着は昨日見たけど、おっさんの私服はどんなのなのよ?

フラストレーションは貯まるばっかり。

喫茶店の奥にあたし達六人は案内された。

それぞれ注文する。おっさんは迷うことなく自然な形でアメリカン・コーヒー。

有希が注文を迷ってる間、なにその無難なチョイス!なんてイライラしてしまった。

喫茶店の中でクジ引きをした。

ゾロゾロと歩いてはおっさんを観察するどころではない。

爪楊枝に印を付けて二組に分ける。

その結果は信じられないものだった。

おっさんは、みくるちゃんとキョン。

あたしは有希と古泉くん。なに?この本末転倒。

仕方がないので、午後にもう一度組み分けしよう。そう思った。

古泉くんが、「何を探すのですか?」なんて言うものだから、

「あたしが喜びそうなもの」

って答えておいた。今のあたしを満足させるのはおっさんの秘密だけなんだけど。

頼んだわよ。みくるちゃん。あと、おまけにキョン。

喫茶店の料金はおっさんがいつの間にか払ってくれてた。

別に大人っぽくてカッコいいだなんて思わなかったんだからね。

喫茶店を出て、おっさん達と別れたあたしは、気もそぞろに街をブラブラ。

ぶらつきながら、あたしはふと思いついた。

残り時間十分とかでおっさんたちを駅前に呼び出したらどうだろう?

遅刻を名目におっさんに無理難題を押し付けられるわ!

ちょっと卑怯な気がしたけどこの際仕方がないわよね?

その為に、有希や古泉くんと時間を潰した。

十一時半に駅前に着いた。

そこで二十分程立ち話。

有希は聞いてるだけだから、実質は古泉くんとだけだけど。

古泉くんは、「こんなところで立ち話ですか?」

なんて言ってたけど無視。時間を潰したいんだもの。

そして十一時五十分。あたしはキョンに電話をかける。

「十二時にいったん集合。さっきの駅前のとこ」

「間に合うわけが----」

キョンの抗弁を無視して電話を切った。

さて、おっさんにどんな無理難題を押し付けようか?

あたしは自然と笑みがこぼれる。

「ああ、そういうことでしたか。言ってくだされば協力をしましたのに」

なんて古泉くんは言っていた。

ところが、それから五分後。

おっさんは両脇にみくるちゃんとキョンを抱えて駅前にやってきた。

もう!ほんとなんなの!いい加減秘密のベールを脱ぎなさいよ!

罰ゲームを与えるわけにもいかず、そのまま昼食。

ファーストフード店で軽く食べる。

おっさんはポテトとコーラのみ。

なに?ナゲットに腐った肉でも使ってるとでも思ってるのかしら?

あたしの視線に気が付いたのか、おっさんは、

「オレに毒は効かない」

なんて言ってけど。

もう一度クジ引き。今度はおっさんと一緒になれると楽観視していた。

ところが、おっさんはキョンと有希の組。

あたしは古泉くんとみくるちゃん。

なに?キョンは午前も午後も一緒とか不公平すぎる。

思いっきりキョンを睨みつけてシェーキを啜ってやったわ。

そのまま午後もダラダラと過ごして解散した。

休日を一日潰してもおっさんの謎は一個も明らかにならなかった。

それどころか謎が増える一方。周りの所為で順調に行かなかったのもある。

その夜、あたしはイライラ、モヤモヤしながら眠りについた。

何とも言えない違和感を感じて目を覚ました。

天井がない。ここはどこだろう?

布団が硬い?もしかして地面に眠ってるのかしらなんて思ってると、

「目が覚めたか?」

おっさんの声がした。

あたしが目を開けると、おっさんは例の詰襟姿で周りの気配を探るように突っ立てた。

「女の子が寝てるんだから、ちょっとは心配そうにこっちを見なさいよ!」

あたしはおっさんに文句を言う。

「………」

おっさんはチラリと見るだけで無視。

「それで、ここはどこなのよ!」

そう言いながら、あたしは周りを見渡す。

「知らんな」

おっさんはそう言ったけど、どう見ても学校だ。気が付けばあたしも制服姿だった。

「ちゃんと布団で寝てたのになんでこんな場所に居るの?」

「………」

「あんた、なんか知ってるんじゃないの?」

「………」

「ちょっと何か言いなさいよ!」

「………」

あたしが不安で色々聞いているのにおっさんは無視。

「もう、いいわ!学校の中を探検するわよ!」

あたしは精一杯の元気を出し、校舎に向かう。

おっさんは黙ってついてくる。

学校の中は真っ暗だった。

電気をつけようとしたらおっさんがあたしの手を押さえた。

「なに----」

あたしの発言は口を手で押さえられたことによって止められた。

おっさんはあたしの手を押さえていた手を離し、自分の口元に持っていった。

そして人差し指を立てる。静かにしろってことみたい。

あたしが首を縦に振ろうとしたら、おっさんは手を離した。

首を全く動かせないなんて、おっさんの力も謎だわ。

おっさんはあたしを小脇に抱えて移動した。

あたしを抱えてるにも関わらず、全く問題なく移動する。

そう言えば今日、キョンとみくるちゃんを両脇に抱えて移動してたな、

なんてことを思い出す。

おっさんは真っ暗なのにまるで見えてるかの様にスムーズに移動する。

しかも足音一つ立てない。足音一つない静かな校舎を抱えられて移動してる感覚は奇妙なものだ。

怪力で暗闇でも問題なく、足音一つ立てないおっさんの正体が益々気になる。

おっさんはあたしを連れて屋上に出た。

おっさんは暫く辺りの様子を窺うと、ようやくあたしを降ろした。

「いきなり----」

あたしが喋ろうとしたら再び口を押えられた。

静かにしろってことらしい。

仕方がないので、眼下を確認しようとフェンスに駆け寄ろうとしたら、今度は頭を押さえられた。

伏せろって言うことかしら?注文が多いおっさんだこと。

渋々屈んだような態勢でフェンスの下を見に行く。

見渡す限りダークグレーの世界が広がっていた。
山の中腹に建っている校舎の屋上からは遠くの海岸線までを目にすることが出来る。
左右百八十度、視界が届く範囲に、人間の生活を思わせる光はどこにもない。
すべての家々は闇に閉ざされ、カーテン越しにでも光を漏らす窓が一つもなかった。
この世から人間が残らず消えてしまったかのように。

「どこなの、ここ……」

あたしは誰に言うともなく呟いていた。

「気味が悪い」

おっさんはあたしの横に屈んだ。

三回ほど頭を撫でた。

セクハラも甚だしい大きな手だった。

撫でられたからという訳じゃないけど、なんとなく安心したあたしは異変に気が付いた。

突如校庭に青白い光が盛り上がったのだ。

「なにか出た!」

みるみる間に、それは巨大な人の形となった。

「なにアレ? やたらでかいけど、怪物? 蜃気楼じゃないわよね」

あたしの興奮を横におっさんは冷静だった。

「あれを退治したら出られるのだろう」

まるであたしにそう思い込ませるかのように言うと、おっさんは飛んだ。

跳んだというよりは、飛んだと言った方がいいくらいに飛んだ。

フェンスを越えて、校舎よりも遥かに背が高い巨人の遥か上にまで飛んだ。

昇り切ると両手を広げ、その後手を巨人に向けるような格好で落下した。

グシャッっとでも音が出そうな勢いで巨人が頭からひしゃげる。

おっさんはそのままひしゃげた巨人とともに地面に落ちた。

そして凄まじい爆音と共に爆風が起こる。

フェンス際で見ていたあたしは吹き飛ばされた。背中をしこたま打った。

背中の痛みも何のその、あたしは急いでフェンスに戻る。

砂埃が巻き上がり様子は窺えないが、青白い光が消滅していくのは解る。

おっさんが巨人を倒したみたい。

普通なら、あの高さから落ちたら無事では済まないだろうけど、おっさんは無傷な気がした。

砂埃から何かがこちらに飛んできた。

フェンスを飛び越え、あたしの横に静かに着地したのは、やっぱりおっさんだった。

「あんた、いったい何者なわけ?もしかして、宇宙人とか超能力者って言うんじゃないでしょうね?」

あたしはおっさんを見つけた時からの疑問を口にした。

「休業中の暗殺者だ」

おっさんは何事でも無い様に正体を明かした。

やった!ついに正体を突き止めたわ!!

あたしは歓喜した。

目が覚めた。ベッドから落ちてた。

「痛~い」

思わず声が出る。ベッドから落ちて背中を打ったみたいだ。

それにしても変な夢だった。

それにしても休業中の暗殺者とか笑っちゃう。なんで、暗殺者があんな戦いをするのよ。

夢とはいえ、我ながら荒唐無稽だったわ。

まぁ、結構面白かった。背中の痛みも忘れてたくらいなんだし。

目覚し時計を持ち上げて現時刻を確認、午前二時十三分。

……寝よう。

あたしは布団を頭まで被り、背中をさすりながら眠りについた。

おっさんの正体を考えてたから、なかなか眠れなかったんだけど。

日曜日は一日中、悶々として過ごした。

週明け、朝のHR前におっさんにはっきり聞いてやったの。

「シルバは暗殺者とか言うんじゃないでしょうね?」

「休職中だがな」

「はぁ?休職中ってなんなのよ!」

「学業に専念しないといけないからな」

おっさんが続ける。

「卒業したら元同級生として半額で請け負おう」

「何をよ?」

「暗殺の仕事だ。今すぐに殺したい奴が居るなら俺の家族を紹介しよう。一割くらいは安くするだろう」

「家族も暗殺者なの!?」

「ああ」

おっさんのホラ話を聞きながら、あたしは言ってやった。

「似合ってるわよ」









消失までは書く予定でしたが、ハルヒ視点だとヤマ場がなく思った以上にダラダラになりそうなので、
気が向いた時に書き足すレベルに落とします。

六月に入り、退屈だった中間試験の予想通りで退屈過ぎる結果が返りつつあった。

初夏にもなったというのに特別に面白いことがない日々に退屈していたあたしは何気なく市のホームページを覗いてみた。

要するにそんな所をチェックするくらい退屈だったの。

ところが、市のイベント告知を見てあたしは驚いた。

『第九回市内アマチュア野球大会参加募集のお知らせ』

そう書いてあった。あたしは憤慨したわ!何をあたしに無断でイベントを開いてるのよ!ってね。

即日申し込んで、チラシもゲットしたわ。

そして翌日の放課後、あたしはSOS団の皆の前で発表したの。

「野球大会に出るわよ!」ってね。

みくるちゃんが「え……?」って感嘆の声をあげた。

みんなが感動の余りに声を出さないでいると、空気を読まないバカキョンが聞いてきたの。

「何に出るって?」

さっき野球って言ったのに聞いてなかったの?

あたしはキョンにも解るように「これ」と言ってチラシを渡してあげた。

「ふーん」

と、キョンは呟いて顔を上げた。物わかりの悪いキョンもようやく理解したみたい。

「で、誰が出るんだ、その野球大会に」

前言撤回。全然わかっていなかった。

「あたしたちに決まってるじゃない!」

「その『たち』というのは、俺と朝比奈さんと長門と古泉とシルバさんも入っているのか?」

「あたりまえじゃないの」

「俺たちの意思はどうなるんだろう」

「あと三人、メンツを揃える必要があるわね」

頓珍漢な事を言うキョンは無視して話を進めた。

「我々の存在を天下に知らしめるチャンスだわ」

本当はおっさんの身体能力のチェックが目的なんだけど、みんなの前だしもっともらしいこと言っておいた。

「いいでしょ野球。言っとくけど狙うのは優勝よ!
 一敗も許されないわ! あたしは負けることが大嫌いだから!」

あたしの考えに感動している様子だった一同に発破をかけて、あたしは野球部に行って道具を貰った。

野球部は物わかりが良かった。それほど揉めることもなく、グローブを九個、バットにボールをくれた。

ダンボールに道具を一式入れて部室に戻った。

喜ぶ団員を想像してたのに、キョンがケチをつけてきた。

「これは軟式野球の試合だぞ。硬式を持ってきてどうするんだ?」

意味不明でお馬鹿なキョンを無視してると、

「それで、その試合とやらはいつなんだ」

キョンは寂しくなったのか、また質問してきた。

「今度の日曜」

「明後日じゃねえか! いくらなんでも急すぎるだろ」

「でも、もう申し込んじゃったし。
 あ、安心して、チーム名はSOS団にしといたから。そのへんは抜かりないわ」

あたしの手際の良さに一同が唖然としていた。

団長様を見くびらないで欲しいわ。

「……他のメンツはどこからかき集めるつもりだ?」

キョンが呆れた事を聞いてきた。そんな事まであたしにさせる気なの?

「そこらを歩いているヒマそうなのを捕まえればいいじゃない」

なにも出来ないキョンに方法を教えてあげた。

「解った。お前はじっとしてろ。選手集めは俺がする。とりあえず……」

キョンはようやく理解したみたい。感謝しなさい。

それなのに、谷口と国木田に声をかけるとほざいてたわ。

今回は団員の自主性を尊重して人選には口を出さないことにした。

みくるちゃんも友達を連れてくると言ってた。

おっさんの友達なら見たかったけど、それは今度の楽しみにとっておきましょう。

メンツも決まったことだし、特訓をすることにした。

特訓と言えばもちろんあれよ。千本ノック。

ところが、みんな全然だらしなくて話にならない。

みくるちゃんは丸くなったまま動かないし、

キョンはみくるちゃんを連れてグランドの外にでちゃうし、

有希は手の届く範囲の球にしか反応しないし、

古泉くんは面白みもなく爽やかにさばいてたけど。

メインのおっさんに至っては、みんなの様子を確認した後に特訓も受けずにどこかに行っちゃった。

本番まで焦らす気なのかしら?頭にきたけど、楽しみにしておくことにしたわ。

うっぷんを晴らす為に野球部に千本ノックをしてあげた。感謝しなさい。

そして二日後。日曜日。午前八時ちょうど。

あたしたちは市営グランドに集合した。

みくるちゃんは二年生の鶴屋って人を連れてきた。なんとなく興味を引く人だ。

キョンは素直そうな妹を連れてきていた。見学させるらしい。

そしておっさんなんだけど、何故か黒いスーツを着た人達を五人程連れてきた。

「その人達は?」

あたしの質問におっさんは軽く口角を上げて、

「勝ちたいからな」

とだけ答えた。あの人達を参加させる気なのかしら?

メンツを考え直さないといけなくなったわ。

おっさんが連れてきた人の中で気になったのは大きな老婆ね。

すごく体格がいいの。

体格が体格だけにおっさんの親戚かと思ったけど、おっさんに対する態度がそうじゃなかった。

それとキョンの妹とあんまり年が変わらない感じの子もいた。

この子を見てあたしは思ったの。キョンの妹ってば幼稚すぎ。流石のあたしでも将来が不安になった。

キョンの妹は小学五年生なんだよね?つーか、これからっしょ。

キョンの妹に対する不安を振り払ったあたしはスタメンを考える。

おっさんの謎を解明する為に黒服の五人は入れるから、溢れるのは五人。

谷口と国木田は当然外れるとして、特訓をさぼったキョンとみくるちゃんも外しちゃおう。

みくるちゃん友達はいい味を出してたからちょっと勿体無い。

それでも枠がない以上は仕方がないので外れてもらうことにした。

ポジションと打順は考えるのが面倒だったし、公平を期するためにアミダクジで決めた。

一番、ピッチャー、あたし。二番、ライト、黒服おばば。三番、センター、有希。四番、セカンド、おっさん。五番、レフト、黒服少女。六番、キャッチャー、古泉一樹。七番、ファースト、黒服一号。八番、サード、黒服二号。九番、ショート、黒服三号。

だった。他の連中は補欠。マネージャーはみくるちゃん。応援もみくるちゃん。

黒服連中は自己紹介すらしないから不便で仕方が無いわ。

おっさんに名前とか関係を聞いても『頭数だ』としか言わないし!

>>72>>73の間に


あり得ないそんな光景を想像してニヤニヤしてたらみくるちゃんが声をかけてきた。

「あの……どうかしましたか?」

「え!?何でもないわよ!まだみくるちゃんには早いわね!」

みくるちゃんがきょとんとしている。かわいいなぁ、もう!

そんなことを思って歩いていたら、部室に着いた。


が抜けていました。

夏休みに入って、八月も中頃になった。

そろそろ皆宿題も終わらせて居る頃でしょう。

ここからは、みんなも心置きなく遊べるはず!!

ここから皆と遊び倒して、おっさんの謎の一つや二つ明らかにするわよ!

残り少ない夏休みをどうやって過ごすかの予定表を書き上げたあたしは、
満を持してSOS団の招集をかけた。

喫茶店に集合したSOS団を前にあたしは予定を発表したの。

満場一致と思っていたら、珍しくおっさんの方から口を開いた。

「たまには何時もと違う夏休みもいいんじゃないか?」

何時もの夏休みって何よ!?
そりゃおっさんくらいになれば、夏休みを何回も経験してるだろうけど。

「そうだな……オレの家で残りの夏休みを過ごすって言うのはどうだ?」

心なしゲンナリした表情のおっさんが珍しい提案をしてきた。

おっさんの家が気になって、夏休みどころじゃなかったのも事実。

渡りに船とはこの事よね?

「あんたがどうしても家に招待したいっていうのなら、それでもいいわよ?」

二つ返事はしないわ。軽く見られたくないしね。

「ああ、是非きて貰いたい。ここよりも涼しくて過ごしやすいぞ」

「まぁ、そこまで言うのならいいわ!合宿を兼ねて出発しましょう!!」

あたしたちは半日で準備を終わらせて、おっさんが用意していた飛行船に乗って出発した。

家について驚いた!おっさんは山の頂上に住んでいたの。

バカみたいに大きな門をおっさんが手で開けた。

なんであんな仕組みにしてるんだろう?謎だわ。

門をくぐると森だった。

これまた馬鹿みたいに大きい犬が出迎えてくれた。

多分あれは洋犬。だって柴犬には見えなかったもの。

しかも狩猟犬だと思う。だって土佐犬にも見えなかったもの。

庭の奥に進むと黒い服を着た人達が整列してた。

例の野球大会に着ていた人達だ。

おっさんの出迎えみたい。この人達はおっさんの執事なんだって!

もしかして途方もないお金持ちなのかもしれない。

途中に立派な洋館があったけど、それは執事の人達が使ってる場所って話だ。

おっさんの住んでいる家はお城みたいだった。


おっさんは家族の一部を紹介してくれた。

一部って言うのは紹介できない人も居るみたい。

おっさんも色々と大変なんだと思った。

そのおっさんだけど結婚をしていたみたい。

奥さんを紹介されたけど顔を包帯で巻いていた。

佇まいからすると多分かなりの美人だったんだと思う。

無事に怪我が消えるといいなぁって思った。

長男は長髪の二十は超えてるだろうって人だった。

なんだろう?恰好が良いと言えば良いんだけど、何を考えているか解んなくて不気味な人だった。

あたしを見て、おっさんに

「刺しておこうか?」

なんて言って、釘みたいに太い針を服から抜いてたし、本当に不気味。

次男は太っちょで見るからにオタクだった。

みくるちゃんを見る目がとてもイヤらしかった。

あれはみくるちゃんの人形とかを作って部屋に飾るわよ!

絶対にそんなタイプなんだから。

三男は家出中だって。

日本人形みたいで可愛い子も居た。

なにも言わずに睨みつけてた。

おっさんは基本的に子供の教育に失敗してると思う。

そんな感じでおっさんの家で見たこともない御馳走を食べたり、
執事の人達の相手をして遊んであげていたら、八月が終わっていた。

帰り着くのは九月も暫く過ぎた頃になるって話だった。

あのゴトーとかいう執事さん達がやったコイン遊びは凄かったなぁ、
なんて飛行船の中で考えていたら、バカキョンが突然叫んでた。

「うわぁ~~~!!俺宿題を全くやってねぇ!!」

本当にバカね。どうする気なのかしらと思っていたら、

おっさんが、「問題ない」と一言声をかけて肩を叩いていた。

おっさんならなんとかしそうな気がする。

おっさんの家で見たこともない御馳走を食べたり、
執事の人達の相手をして遊んであげていたら、八月が終わっていた。

帰り着くのは九月も暫く過ぎた頃になるって話だった。

あのゴトーとかいう執事さん達がやったコイン遊びは凄かったなぁ、
なんて飛行船の中で考えていたら、バカキョンが突然叫んでた。

「うわぁ~~~!!俺宿題を全くやってねぇ!!」

本当にバカね。どうする気なのかしらと思っていたら、

おっさんが、「問題ない」と一言声をかけて肩を叩いていた。

おっさんならなんとかしそうな気がする。

九月に入ってようやくあたし達は帰り着いた。

普通よりも少し遅いけど、あたし達SOS団の新学期の始まりだ。

キョンの宿題だけど、おっさんの言う通り、何の問題も発生しなかった。

教師連中が忘れてるかの様だった。

あと、一部の教師の頭に釘みたいな針が刺さっていた。

おっさんの子供も勧めてたけど流行なのかしら?

おっさんもそうだけど、大人って言うのは謎だらけね。



チラ裏SS オチマイ

付き合って頂いた皆様においては、お疲れ様でした。

射手座の日でミルキ大活躍とかを考えていたんですけど、
全体的にヤマ場が作りにくいのでここら辺で打ち切りとさせていただきます。

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