勇者「ドーナツの世界?!」(729)

第1話 ドーナツの世界

~エルグの城~
王様「勇者はまだか」

勇者「遅れて申し訳ありません」

王様「勇者よ、よくぞ参った」

王様「お主もうわさには聞いておろう。はるか南の大地に、日が昇らぬ夜の世界があることを」

勇者「はい」

王様「近年は魔物の活動も激しさを増し、極南の村が魔王に支配されたと聞き及んでおる」

王様「このままではやがて世界は闇に呑まれ、光を失ってしまうだろう」

王様「その前に女神の加護を受けし若者よ、そなたに魔王の討伐を任命したい」

勇者「かしこまりました」

王様「おぉ、さすが勇者だ。よい報告を期待しておるぞ」


~城下町~
勇者「はぁ、魔王なんているわけないのに……」

勇者「とりあえず成功報酬はかなりの額だし、派遣センターで女僧侶を誘うことにしよう」

勇者「もしかすると、もしかするかもしれないし♪」

局員「勇者さまですね。王様より伺っております。どの方を雇いますか?」

勇者「怪我や病気をしたら困るので、女僧侶をお願いします」

局員「えっ、戦士や魔法使いは・・・」

勇者「費用がかさむので、無駄な人員は必要ありません。だめですか?」

局員「い……いえ、大丈夫ですよ」

女僧侶「勇者さま、はじめまして。私は僧侶です。よろしくお願いします」えへっ

勇者「僕は勇者。これからよろしくね。では僧侶さん、装備を整えて行きましょうか」

僧侶「はいっ」


~北の大地・フィールド~
僧侶「勇者さま、私たちの旅の目的は極南の地なのですか?」

勇者「そうです。兵力を集めて討伐隊を組織し、極南の地に向かわせることは困難なのです」

勇者「だからといって、何もしないでは隣国の目がある。そこで僕たちが精鋭部隊という名目で、魔王の討伐に向かうわけです」

僧侶「わわわ、私たち二人だけなのに精鋭部隊なんですか」アセアセ

勇者「二人だけで充分だから、精鋭なんだよ。まあ、気楽に行こうよ」

僧侶「はい、勇者さま」

勇者「僧侶さん、ストップ。魔物の気配だ」チャキ

魔物「ガルルル……」

勇者「野犬か。僧侶さんは僕のサポートをお願いします」

僧侶「はい!」

鉄の剣を構え、野犬と向き合った。
殺気を感じたのか、牙をむいて唸り声を上げる。
そして地面を蹴り、飛び掛ってきた。


勇者「はあぁぁぁ!!」

キュィーン

野犬「ばうッ!」


野犬はすばやく身をかわし、さらに飛びついてくる。
しかし、それがあだになる。
振り下ろした剣を反し、風をまとわせて振り上げた。


勇者「疾風斬り!」

野犬「キャイン……」

勇者「よし、とどめだ!」

ザスッ!
肉をえぐると、野犬は力つきた。

僧侶「勇者さま、すごいです! 今、回復しますね」

勇者「ありがと」

僧侶「いえいえ、お仕事ですから♪」

勇者「はは……、そうだね。獣たちが血の臭いを嗅ぎつけたみたいだし、僕たちはここを離れようか」

僧侶「はい。野犬さんの命、みんなに繋がりますように」ペコリ


~西の村~
僧侶「勇者さま~。村が見えてきましたよ」

勇者「馬なら1時間程度なのに、歩くと半日もかかるのか……」

僧侶「日が暮れてきたし、宿を探さないとですね。あそこなんてどうですか?」

勇者「民宿って感じだな。今夜はあそこにしよう」

主人「これはこれは勇者さま。王様より伝令が来ております」

主人「特別料金で、お二人120Gになりますが、いかがされますか?」

勇者「割引きとは助かります」

主人「では、こちらのお部屋にお願いします」


僧侶「山に沈む夕日がすごくきれいですよ。なんだか、自然に囲まれていると癒されますね」

勇者「そうだね。ここがもう少し城下に近ければ、住みたいんだけどな」

僧侶「ところで勇者さまぁ……。わ、私たちは同じ部屋なのですか?」

勇者「ごめん、やっぱり男性と同じ部屋なんて困るよね」

僧侶「は、はい……」

勇者「でも、これから長い旅をするわけだし、お互いに信頼関係を築いていかないといけないと思うんだ」

勇者「部屋を分けると金銭的に苦しくなるし、無理にとは言わないけど理解してほしい」

僧侶「そ、そうですよね。私のほうが意識していたみたいで、恥ずかしいです//」

勇者「とりあえず、旅の計画を立てようよ。この村は何がおいしいか知ってますか?」

僧侶「旅の計画って、食べ物ですか?!」

僧侶「今の季節は冬野菜がおいしいですよ。この村は冬になると白菜の収穫が盛んなので、お鍋がおすすめです」

勇者「そうなんだ。じゃあ、今夜は温かいものを食べよう」

僧侶「はいっ。夕食も勇者割引きが付きますかねえ」ジュルル


勇者「えっ、白菜なべを食べられないんですか?」

主人「はい。近頃、魔物が山から下りてきて畑を荒らすようになったのです。先日は農夫が襲われて怪我をしまして、みな困り果てています」

僧侶「勇者さま、残念でしたね」ショボン

勇者「僧侶さん、明日、その魔物を退治しに行きましょう!」

僧侶「本当ですか?! さすが勇者さまです。村の方も困ってらっしゃるようですし、人を襲うようになっては見過ごせませんよね」

勇者「その通り! 食べ物の恨み、思い知らせてやりましょう」

僧侶(あ、そっちなんだ……)


~翌朝~
村長「勇者殿、お待ちください」

勇者「あなたは?」

村長「私はこの村の村長です。宿の主人から勇者殿が魔物退治に行かれると聞きましたが、それは本当ですか?」

勇者「はい。畑が荒らされてはお困りでしょう」

村長「おお、それは助かります。それではぜひ、この娘も連れて行ってはくれないでしょうか? 魔物退治の話を聞き、志願されまして」

僧侶「あの、村長さん。お言葉ですが、年端も行かないお嬢さんを一緒に連れて行くのは、大変危険だと思います」

村長「いえいえ、こう見えても彼女は、この村で一番の魔法使いです。勇者殿といれば安心ですし、よい経験になるでしょう」

魔法使い「魔法使いです。お願いします」ペコ

勇者「分かりました。無事に連れて帰ります」


~裏の山~
僧侶「へぇ~、魔法使いちゃんは来年からお城で研修することが決まってるんだぁ」

魔法使い「はいっ!」

僧侶「ということは、6歳下なんだね。城下の人でも入学できない狭き門なんだよ」

魔法使い「私、勉強がんばりました。あっ、勇者さま、その洞窟です」

勇者「これはグリズリーの巣になってるね」

僧侶「ひえぇぇ、グリズリーですかぁ」

勇者「とりあえず、魔法使いちゃんは僕について来て。外で待っててもらっても、逆に危ないかもしれないから」

魔法使い「はい」

勇者「で、魔法使いちゃんは、どんな魔法が使えるの?」

魔法使い「魔術書は一通り目を通しているので、精霊魔法をすべて使えます」

僧侶「そうなんだ。私が同じ歳のときは、毎日怒られてばっかりだったよぉ」テヘッ

勇者「じゃあ、魔法使いちゃん。洞窟の深部では、火炎魔法と爆発魔法は禁止だから。酸欠したり崩落が発生すると、僕たちも危ないからね」

勇者「とりあえず、命大事にで無理をしなければいいから」

魔法使い「はい、分かりました」


僧侶「うぅ……、勇者さま。うす暗くて怖いです」ビクビク

勇者「しっ、いたぞ」

魔物「ガルルル……」

グリズリーは大きく立ち上がり、威嚇した。

勇者「そうとう気が立っているな。僕が引き付けるから、僧侶さんは回復。魔法使いちゃんは、必要に応じて支援魔法。それでお願いします」

勇者は下段で剣を構える。そして駆け出した。
繰り出される熊パンチを避け、足元にもぐりこむ。

勇者「大地斬っ!」ザシュッ

右足を斬りつけると、グリズリーは倒れた。
怒りの咆哮を上げ、再び立ち上がる。

魔物「グオオオォォっ!」ブンッ

熊パンチが直撃し、勇者は壁に激しく叩きつけられた。

勇者「くそっ!!」

僧侶「勇者さま! 回復魔法!」

魔法使い「伏せてください! 凍結魔法、行きます」

大気中の水分が凍りつき、グリズリーは氷付けになった。
しかし、動きを完全に封じるほどの力はない。
だがその一瞬の隙は、勇者にとって十分なものだった。

勇者「兜割り!」

刀身を全力で振り下ろす。
そして中段から畳み掛けると、グリズリーは力尽きた。

僧侶「やりましたね、勇者さまぁ」

勇者「魔法使いちゃん、ありがとう。あそこで凍結魔法とは、すごいね」

魔法使い「勇者さまの指示がなければ、きっと火炎魔法で攻撃してました」テレ

勇者「いい判断だったよ。さて、今夜は熊なべだ~。後で農夫に運ばせて、振舞ってもらおう」

僧侶「わぁい。グリズリーは、熊パンチの手が美味らしいです♪」

魔法使い「えっ……食べるんですか」

僧侶「この熊さんは、生きるために畑を荒らしていたんだと思います。そして私たち人間は、その熊さんを狩りました」

僧侶「ならばその死は、命を繋ぐものでなければなりません。決して、命を無駄にしてはならないのです」

魔法使い「命を繋ぐ……か」

勇者「さすが、僧侶さん。いいことを言いますねえ」

僧侶「えへへ。当たり前ですよぉ」

10
魔法使い「何だろ? この気配は……」

勇者「魔法使いちゃん、どうかしたの?」

魔法使い「いえ、この奥から魔力を感じるんです」

僧侶「言われてみれば、かすかに感じますね。行ってみますか?」

勇者「そうだな。気をつけて進もう」

魔法使い「魔力のもとは、これみたいですね」

魔法使いは、たくさんの数字が書かれたプレートを手に取った。

僧侶「この数列は……」

魔法使い「ユピテル魔方陣です」

勇者「ユピテル魔方陣?」

魔法使い「はい。縦横斜め、それぞれの列の合計が、いずれも女性数の最初の素数2と男性素数17を掛け合わせた34になるものです」

魔法使い「しかもこれ、完全方陣ですよ」


6、12、7、9
15、1、14、4
10、8、11、5
3、13、2、16


勇者「ちょっと貸してみて」

勇者が手に取ると、魔方陣が光に包まれた。

僧侶「勇者さま、16が消えましたよ! 魔法使いちゃん、これって、15パズルじゃないかな」

僧侶「ほら、開いた空間に隣の数字を動かすことができるし」サッサッ

勇者「あ、おい。勝手に触るなよ。まだ分かってないことも多いのに」

僧侶「ごめんなさい」シュン

魔法使い「でも僧侶さん。これが15パズルだとしたら、大変なことになりますよね」

僧侶「そうだね」

勇者「それはどういう?」

僧侶「15パズルは神の遺産なんです。その昔、この世界はひとつの巨大な大陸だったと言われています」

僧侶「だけど神様の力により、その巨大なパンゲア大陸は少しずつ動いて割れてしまい、海や島ができて今の世界になったとされています」
勇者「パンゲア大陸? 何だか、すごく壮大な話だな……」

僧侶「それが15パズルの伝説として、この世界に伝えられているのです」

魔法使い「この15パズルは順番に並んでいませんよね。しかも、完全なユピテル魔方陣を形成して、魔力を放っています」

勇者「つまり、世界が闇の力に包まれようとしている……ということか」

魔法使い「はい。15パズルは世界の在り方に関わる神聖な神具だから、誰も作ろうとしないし、まして動かそうなんて恐れ多くてできることではないんです」
魔法使い「うわさ通り、世界に異変が起きつつあるのではないでしょうか」

勇者「ふぅん。世界の在り方か。で、僧侶さんはこれを気軽に動かした……と」

僧侶「あわわ、すみません。とっさに、戻さないといけない気がして」アセアセ

勇者「じゃあ、明日までに戻しておいて。僧侶は神に仕える者だ。その職につく僧侶さんが戻すべきと思ったなら、それが正しいのかもしれないね」

僧侶「はい、がんばります!」

今日はここまでにします。

勇者たちが地球で言う南極点を目指しつつ、パズルネタを扱う勇者SSになる予定です。

11
~西の村~
勇者「村長さん、ただいま戻りました!」

村長「おぉ、勇者殿。魔物はいかがなさいましたか」

勇者「見事、退治してまいりました。農夫を派遣して肉を持ち帰り、今夜はみんなで熊なべにいたしましょう」

村長「そうですな。今から農夫を向かわせます」

勇者「それにしても、魔法使いちゃんは素晴らしいですね。的確な判断で、逆に助けられてしまいましたよ」

村長「そうでしょう。この子は村一番の期待の星ですからな」

魔法使い「えへへ//」

勇者「ところで村長さん。明日ですが、馬を一頭借りることはできませんか? 城に戻り、王様に報告しないといけないことができまして」

村長「分かりました。用意させます」

12
~宿、夜~
僧侶「勇者さまぁ、熊なべ、おいしかったですね~」

勇者「ほんと、どうやって臭みを消したんだろ。やわらかくて、こってりで」

僧侶「熊パンチ、とろとろでしたね。明日はぷるぷるになっちゃいますよ」

僧侶「勇者さまぁ、ぷるぷるおっぱい触りたいですか//」

勇者「えっ、マジで!?」

僧侶「……。冗談に決まってるじゃないですか。そんなことをしたら、本気で怒りますからね」

勇者「あぁ……、そうだよね」

勇者(はぁ、釘を刺されたな)

トントン

勇者「どうぞ。開いてますよ」

魔法使い「こんばんは」ペコ

勇者「あぁ、魔法使いちゃん。こんばんは」

僧侶「いらっしゃい♪ 遊びに来たの?」

魔法使い「いえ……、あの、僧侶さん。15パズルは完成しましたか?」

僧侶「できましたよ。ほらっ」

勇者「16の数字、また出てきたんだ」

僧侶「はい。完成したら、結界が張られて動かせなくなりました。もっと遊びたかったのに……」ショボン

勇者(動かすのは恐れ多いものじゃなかったのか? これって……)

魔法使い「ところで勇者さま。完全なユピテル魔方陣について、思い出したことがあるんです」

勇者「思い出したこと?」

魔法使い「はい。普通の魔方陣は縦横斜めが34になるだけですが、完全方陣はそれだけではないのです」

魔法使い「端と端をつなげて筒状にしても、その斜めの合計が34になるんです」

勇者「筒状に?」

魔法使い「はい。上下を繋げて、さらに右と左を繋げると、その平たいプレートはどんな形になると思いますか?」

勇者「上と下を繋いで、右と左を繋いだらドーナツ型になるね」

僧侶「!! それって……」

魔法使い「まずいですよね」

勇者「?」

僧侶「世界は球形をしていますよね。神様が大陸を移動させるときに反対側が見えなかったので、世界を平面的に捉えることができる地図を創造しました」

僧侶「それが世界地図で、この15パズルだと言われています」

勇者「ということは、魔方陣は球形の世界がドーナツ型に歪められることを暗示している?」

魔法使い「……かもしれませんね」

勇者(しかし仮に魔王がいたとして、世界を歪めることができるのか?)

勇者「わかった。今日は本当にありがとう。きみは立派な魔道師になれそうだね」

魔法使い「ありがとうございます//」

魔法使い「それでは、おうちに帰ります。おやすみなさい」

13
~翌日、エルグの城~
勇者「というわけで、世界に何かが起こりつつあるのは間違いないようです」

王様「なるほど。して、その神具に掛けられた闇の力は僧侶が解放してくれたのだな」

勇者「はい。仮結界のようなので、正規の封印を施すほうが良いと言っておりました」

王様「承知した。極南の闇にばかり目が向けられていたが、極北でも異変が起きているやもしれんな」

王様「極北の地への調査団は別に出すゆえ、勇者は引き続き任務を頼む」

勇者「かしこまりました」

14
~西の村~
勇者「というわけで、褒美が出ましたよ」

僧侶「わ~い。山の向こうに都があるはずだから、お買い物が楽しみです。魔法使いちゃんは、都で何が欲しい?」

魔法使い「新しい魔術書が欲しいです」

勇者「えっ、それって、どういうこと?!」

魔法使い「私も勇者さまに付いて行くことにしました♪」

勇者「子供の遊びじゃないんだ、僕は認められない!」

僧侶「妹ができたみたいで、私はうれしいな~」

勇者「いやいや、それは違うでしょ!」

村長「うちの村から勇者殿のパーティーに入れるものが出るとは、とても光栄です。彼女は村で一番の魔法使いです。よろしくお願いします」

勇者「魔道師が必要ならば、城下で人材を選びますし……」

父「まあ、そうおっしゃらずに。勇者さまが魔王を倒せたならば、娘を差し上げてもいいですよ」

勇者「何だか、腹黒い思惑が見え隠れしてますが……」

魔法使い「勇者さま! お邪魔にならないよう、がんばります!」

第1話 おわり

・魔方陣
・15パズル
・トーラス

キリが良いので、ここまでにします。


第1話が完結したということで今後の方針ですが、深夜はアダルトOKなのでR仕様にします。


スプラッター描写やアダルト表現を含む予定なので、悪しからずご了承ください。m(_ _)m

第2話 バラバラの絆

~山道~
魔法使い「♪」

僧侶「魔法使いちゃん、ご機嫌ですね」トテトテ

勇者「はぁ、結局押し切られちゃったよ」

僧侶「でも実力は申し分ないし、楽しいじゃないですか」

勇者「はぁ(二人旅の予定だったのに……)」

勇者「ん? 魔法使いちゃん、ストップ。誰かいるみたい」

山賊A「おうおう、てめえら。痛い目に遭いたくなかったら、金目のもんを置いていきなっす!!」

山賊BC「そうだぜ、置いていきな!」

魔法使い「爆発魔法!」


ドーーーンッ!!


山賊ABC「ぐおーーーっ」ピクピク


魔法使い「勇者さま、都が見えましたよ♪」

勇者「そ……そうだね」

僧侶「山賊さん、これに懲りて悪いことはやめてくださいね」ニコッ


~山すその都~
魔法使い「僧侶さ~ん、お洋服のお店がありますよ」

僧侶「あ、その服、サラマンダーに祝福された繊維を織り込んであるみたいだよ。魔法防御が上がるから、魔法使いちゃんにぴったりなんじゃない?」

魔法使い「こっちの光のドレスもかわいいです♪ でもちょっと高いな……」

防具屋「きっとすごくお似合いだと思いますよ。試着だけでもなさいますか?」

魔法使い「えっ、いいんですか?」

僧侶「じゃあ、私もこのワンピースを」キャッキャッ

勇者「……先に宿を探しましょうよ。もうすぐ日が暮れるし、部屋がなくなるかもしれません」

魔法使い「え~~、この服、着たかったのに」ブーブー

僧侶「また後で来ましょ」

防具屋「ありがとうございました。またお待ちしております」

僧侶「宿屋、宿屋~♪ 勇者さま、ガイドブックに山菜料理がお勧めと書いてあるし、あのホテルにしませんか?」

勇者「山菜かぁ。それじゃあ、そこに泊まりましょう」


主人「ご家族連れの方ですか? それでしたら、一泊200Gになります」

勇者「家族連れというより、勇者なんだけど」

主人「エルグ王の紋章ですね……。少々お待ちください」

・・・
・・・・・・


僧侶「いい部屋ですね、街を一望できますよ。あっ、お城も見えますね」

勇者「そうなんだ。ここは同盟国だし、そちらの王様にも挨拶しておこうか」

僧侶「はいっ」

魔法使い「あのー、勇者さまと同じ部屋なのですか? 普通は殿方と女性は分かれるものかと……」

勇者「魔法使いちゃんは正式な部隊メンバーじゃないから、資金が出ていないんだよね」

勇者「それにこれから長い旅をするわけだし、お互いに信頼関係を築いていかないといけない。だから無理にとは言わないけど、我慢して欲しいかな」

魔法使い「……障壁魔法!!」パァァ

勇者「えっ、何これ?」

魔法使い「光のカーテンです。こっちは私と僧侶さんの部屋だから、勝手に入らないでくださいね♪」

勇者「あー、うん」

魔法使い「それでは、魔術書を探しに行ってきます」

僧侶「迷子にならないように気をつけてね」

魔法使い「は~い」

勇者「あの子は光属性の魔法も出来るんだ……」

僧侶「勇者さま」スッ

勇者「うわぁ、びっくりした! このカーテン、向こうが見えないだけで普通に通れるのか」

僧侶「そうですよ。でも何度も出入りしたら、光の粒子が散って消えちゃいますけどね」

勇者「あの子が戻ってきたときに消えていたら、すごく怒られそうだね。ははっ」

僧侶「やっぱり連れてくるのは良くなかったですかねえ」

勇者「まあ、村長さんや本人の意向もあるし、僧侶さんは話し相手が出来てうれしいんでしょ?」

僧侶「……はい。魔法使いちゃんがいてくれると、妹が出来たみたいでうれしいです」

勇者「彼女は年頃の女の子だし、多感な時期だから気難しいこともあるんじゃないかな。それは仕方ないよ」

僧侶「そうですね……」

勇者「とりあえず日が暮れる前に、僕たちも買い物に行きましょうか」

僧侶「はい」


魔法使い「やっぱり、都の書店は大きいな~」トテトテ

山賊A「親分、あいつっす」

盗賊「あいつって、どう見ても女子供じゃないか。そんなロリっ子にやられたのかい?」

山賊B「それがいきなり爆発魔法で攻撃されまして……」

盗賊「情けないねぇ。子供の魔法使いなんて、児戯に等しいだろ」

山賊A「それがどうやら、あの歳で勇者一行のメンバーみたいっす」

盗賊「なるほど。勇者一行なら、王家の紋章を持っているはずだよな。宿を突き止めて、頂戴するよ!」ビシッ

山賊A「了解っす!」

盗賊「気配消去魔法」スサッ


~街中~
僧侶「勇者さまぁ。私たちが泊まっているホテルからすべての橋を一度だけ通って、街の観光とお城への訪問をして、ここに戻ってくることは出来ると思いますか?」

勇者「一筆書きの問題?」

僧侶「はい。さっき部屋から街並みを見てて、行けるかな~って思って」

勇者「うーん、出来ないかな。気に入ったお店には何度も行きたいから!」ビシッ

僧侶「!!」

僧侶「あぁ、そっか。私たちに一筆書きはできませんね。ふふっ」トテトテ

勇者「で、結局、答えは何なの?」

僧侶「観光マップを見てみたけど、あの橋だけは渡れないみたいです。街から外れるので、行く必要はないですけど」

勇者「ふうん、そうなんだ」

僧侶「一筆書きと言えば、ケーニヒスベルクの橋の問題が有名ですよね」

僧侶「ケーニヒスベルクの街を流れているブレーゲル川に、七本の橋が架けられています。その七つの橋を二度通らずに、すべて渡って元の場所に戻って来ることが出来るか」

僧侶「そのような問題ですが、ご存知ですか?」

勇者「聞いたことがあるな。それって、出来ないんだったよな」

僧侶「そうです。でも実は、すべての橋を渡って、元の場所に戻ってくる方法があるんですよ」

勇者「まさか川を泳ぐとか言うんじゃないだろうな」

僧侶「いいえ、違います。川の上流を目指して歩いて、源流をぐるっと迂回するんです」

勇者「街から出たら駄目だろ」

僧侶「でも、『街を出てはならない』という条件はないですから。面白いと思いませんか?」

勇者「うぅん、そうかな……」

僧侶「この面白さに共感してもらえないなんて、勇者さまと一緒に旅をする自信がなくなりました……」

勇者「大げさだな……。あっ、あそこのお店、溶けないアイスだって。食べてみようよ」

僧侶「はいっ! 溶けないのにアイスって、面白そうです」

勇者「食べ物の好みは合いそうだね」

僧侶「えへへ、そうかもですね」


勇者「あー、うん。まさか本当に溶けないとは思わなかった」ゲンナリ

僧侶「ですね……。なんか、いつまでもジャリジャリしてましたよ」ショボン

勇者「アイスじゃなくて、砂だろって言いたくなった。まあ、こういう経験も観光の醍醐味かな」

僧侶「ですね……。地元の人、食べているのかなぁ」

勇者「外は寒いし、食べるのは観光客くらいじゃないかな。とりあえず気を取り直して、道具屋に行こっか」

道具屋「いらっしゃい。何にするんだい?」

勇者「薬草と聖水を三つずつください」

道具屋「全部で100Gだよ。他に何か買っていくかい?」

僧侶「民芸品を見せてもらっていいですか」

道具屋「うちでは、こういうものが有名だよ」

僧侶「道具屋さん。木の温もりって、いいですよね~」

道具屋「お嬢さん、分かってるねぇ。うちは都だけど、山すそで川もあるから、昔から林業が盛んでね」

僧侶「そうらしいですね。ここの木材は品質が良いと聞いています。あっ……、その組木パズルが欲しいです」

道具屋「今日は機嫌が良いから、少し値引きしてあげるよ」

僧侶「ありがとうございます♪」


~宿~
僧侶「いい買い物ができましたね」

勇者「それ、経費で落とすつもりなの? 王様、怒らないかな」

僧侶「大丈夫♪ 私たちには必要なものだよ」ニコッ

勇者「あっ、魔法使いちゃん、帰ってたんだ。ただいま」

魔法使い「お帰りなさい」ペコ

僧侶「魔術書は何か面白いのが見つかった?」

魔法使い「精霊魔術関連の研究論文がいっぱいありました。僧侶さんが喜びそうな魔法医学の本もありましたよ」

僧侶「そうなんだ。明日、お城に挨拶行ったら、一緒に本屋さんに行こっか」

魔法使い「はいっ♪」

トントン

勇者「どうぞー」

宿の主人「勇者さま、夕食の準備が整いましたがいかがなさいますか?」

勇者「ありがとう。温かいうちに食べさせてもらうよ」


~盗賊さん~
山賊A「ついに勇者たちの宿を突き止めたっす」

盗賊「よくやった」

盗賊「お前たち、人が一番無防備になるのは、いつか分かるか?」

山賊A「宿にいるときっす」

盗賊「いや、欲求を満たしているときだ。食欲、排泄欲、睡眠欲、性欲。だからこそ地位の高いものは、食事に毒を盛られるのを恐れ、枕を高くして眠ることが出来なくなる」

山賊B「仲間に僧侶がいる時点で、毒は効果がないですよね」

盗賊「そうだな。だから、俺たちは寝込みを襲撃する」

盗賊「やつらは今日、山を越えたばかりだ。相当、疲労しているだろう」

山賊B「そうですね」

盗賊「それでまず、全員で女子供を拘束して無力化する。そして気配を消して、勇者の寝込みを襲撃する」

山賊たち「なぜ、女が先なんですか?」

盗賊「この国が派遣した先発隊を見て分かるとおり、あいつもただの衛兵だろう。ならば、俺たちにとって恐ろしいのは、剣術よりも魔法だ」


山賊A「確かに、爆発魔法でのされたっす」

盗賊「それでだ、寝込みとはいえ魔法対策をしなければならない」

盗賊「破魔の腕輪を二つ使って、僧侶と魔法使いの魔力を封印する」

山賊A「えぇっ! それって、今あるお宝でも高価なものじゃないっすか!」

山賊B「そうです! 口を塞げば、詠唱できないはずです! もったいないです!」

盗賊「そんな考えだから、山賊からスキルアップできないんだよ、お前たちは」

盗賊「いいかい、王家の紋章にはそれだけの価値があるんだ。元を取れるなら出し惜しみをせず、ベストの状態で戦える作戦を考えろ」


山賊たち「了解っ!!」

今日はここまでにします。

お休みなさいっす


~宿、勇者の部屋~
僧侶「お肉と山菜の煮物、味付けが絶品でしたね♪」

勇者「ふきのおひたしも、だしを吸ってて美味しかったな~」

魔法使い「二人は、いつも食べ物の話ばっかりですね」ニコ

僧侶「だって、おいしかったじゃない。ねえっ」

魔法使い「僧侶さん、今日はもう疲れました。眠たいです……」ネムネム

僧侶「慣れない旅が、初日から山越えだったもんね。それじゃあ、一緒にお風呂に入ろっか」

魔法使い「はい……」ネムネム

勇者「じゃあ、明日の行動は朝になってから打ち合わせだな」

僧侶「ですね。では、行ってきます♪」

10
~深夜、宿~
盗賊「勇者は寝静まった。お前たち、行くぞ!」

山賊たち「了解!」

盗賊「気配消去魔法! 良いか、見えなくなったり物音を消せるわけじゃないから、絶対に油断するなよ」

サササ・・・

山賊A「この部屋っす」カチャカチャ

ガチャ

盗賊「入るぞ」クィッ

山賊B(よく寝てますね。こっちが女の部屋みたいです)


僧侶「zzz」
魔法使い「スヤスヤ」


盗賊(女の装飾品は、見つけても絶対に触るなよ。どんな魔法が込められているか分からんからな)

盗賊(よし、女の口を塞げ!)

盗賊の指示で、山賊たちは飛びかかった。

僧侶・魔法使い「?!」

山賊A(魔法は使わせないっす)


すかさず、破魔の腕輪を装備させる。
僧侶たちの魔力が吸われ、霧散していった。


魔法使い「むぅむぅ(魔道具?! 魔力がなくなる……)」ジタバタ

山賊C(こら、暴れるな)ボスッ

魔法使い「むぐぅ」

僧侶(魔法使いちゃん!)


破魔の腕輪は魔力を吸い取り、粉々に砕け散った。

山賊AB(親分、腕輪が壊れました)

盗賊「よしっ。気配消去魔法! これで女たちが発する恐怖心も、勇者に気取られん」


僧侶(気配消去魔法? もしかすると、この4人以外にも仲間がいるのかも……)

僧侶(勇者さま、気付いて)エイッ

勇者「……痛っ」

山賊AB(!!)

山賊C「大丈夫です。こっちには気付いてません」

盗賊「だが勇者は起きた。プランBに変更だ。女を縛って運び出すぞ!」

魔法使い「むぅむむぅ……」

僧侶(……)

11
勇者「zzz」

トスッ、コロコロ

勇者「……痛っ」

勇者(これは僧侶さんが買っていた民芸品)

勇者(はぁ、今日は寝相が悪いなぁ)チラッ


・・・
・・・・・・ドンッ

勇者(物音? 扉が開いてる)トコトコ

勇者「僧侶さん、魔法使いちゃん、起きてるんですか?」

!?

勇者「荒らされた跡! くそっ、女を狙った人売りか」

勇者「装備品が盗まれてる……。急がないと二人が!」

山賊A(くくっ)

12
勇者「二人はどこに連れて行かれたんだ……」

勇者「確か、僧侶さんが街のはずれに行く橋があると言ってたっけ。とりあえず、そこに行ってみよう」


・・・
・・・・・・


勇者「橋を渡ると寂れてきたな……。とりあえず、あの廃屋を覗いて見るか」


シュッ……


唐突に、闇から刃物が伸びてきた。

勇者「ぐっ!」

盗賊「上手く避けたな。やはり、さすがは国の衛兵ということか」

勇者「何者だ!」

盗賊「俺は盗賊だ」

勇者「盗賊? 女二人を攫ったのはお前か!」

盗賊「あぁ、そうだ。王家の紋章を渡せば、二人は返してやる」

勇者「紋章? お前みたいな人売りが、何に使うつもりだ」

盗賊「紋章を複製し、衛兵を襲う。そうすれば戦争が始まり、国が争う。その混乱に乗じて市場を握れば、莫大な利益を独占することができるって寸法だ」

盗賊「さあ、大人しく紋章を渡しやがれ!」

勇者「それを聞いて渡すわけがないだろ。二人はどこだ!」

盗賊「交渉は決裂だな。ではお前を倒した後で、ゆっくり探すとするか」

勇者(近くに仲間がいる気配はない。こいつを倒して、二人の居場所を吐かせるしかないようだな)


僧侶「……」
魔法使い「むぅむぅ(勇者さま!)」

山賊B「騒いでも無駄だ。俺たちのことは、そうそう気付かねえよ。さて、丸腰の勇者が親分に勝てるかな?」ガハハ

13
盗賊は、おもむろに勇者に歩み寄った。
まったく警戒心を抱かせず、歩いてダガーの間合いへと入り込む。
そして、腹部へとダガーを突き出した。


勇者「?!」


勇者はすんでの所で身をかわし、次の斬撃を手でいなす。
それと同時、腹に拳が飛んできた。


勇者「ぐっ!」


さらに、ダガーが勇者のわき腹を掠める。
盗賊はダガーを鞘に収めると、改めて構え直した。


盗賊「勇者ってのは、この程度の体裁きも受けられないのかい」

勇者「こんな奴、初めてだ……。動きを読めない」

それもそのはずだった。
戦いでは攻める側も受ける側も、相手の動きを見て一瞬の隙を探っている。
その一瞬の隙を見つけたとき、人はわずかに感情が変化する。

そう、殺気が高まる――。

しかし盗賊は、気配を隠す魔法を使って戦っている。
感情の変化を悟られることなく攻撃し、また反撃することができるのだ。

相手の感情を読むことができないことは、必殺の一撃を捉えることが出来ないことに等しい。

盗賊「おらおら!」

勇者は斬撃をいなし続ける。
攻撃の手が休まったところで、強引に中段蹴りをねじ込んだ。

勇者「あまいっ!」ドスッ

盗賊「くそっ!」

勇者「殺気を感じられないだけなら、キラーマシンと同じだな。しかし機械と違って、人間には一拍の間がある。それを見切れば、受けられないことはない」

盗賊「はははっ。さすがだよ、勇者。だけどな、俺を機械人形と同じだと思わないほうがいい」

盗賊「はぁっ!!」シュッ

勇者「何度やっても同じだ。諦めて、二人の居場所を教えろっ!」

盗賊「加速魔法!!」ギュゥン


思いもよらない急激な加速に反応が遅れた。

勇者「ぐあぁぁっ!」

盗賊「急所を狙ったつもりだったが、この状況でとっさにかわせるとはたいしたもんだ」

盗賊「そら、もう一丁!」シュシュッ


勇者はダガーをいなす。
しかし、身体がしびれて避けきれない。

勇者「ぐっ! 何だ、そのナイフは……」

盗賊「どうやら、効いてきたようだな。こいつには特製のしびれ薬が塗ってある」

勇者「しびれ薬だと……」

盗賊「そうだ。残念だけど、お前とはもうお別れだな」

勇者「くそっ……」

盗賊はダガーを鞘に収め、再び構え直した。
それにより、しびれ薬が刃に塗られる。


盗賊「死ねっ! 加速魔法っ!」ドギュンッ


ぼこぉっ!
勇者の放った渾身の拳が、盗賊の鳩尾にめり込んだ!


盗賊「がはぁっ……」

ドサッ

勇者「加速をすればするほど、自分への打撃のダメージも大きくなる。詰めを誤ったな」


盗賊は倒れた。
勇者は完全にしびれて、立っていることが出来なくなった。

14
山賊BC「お、親分っ!」

魔法使い「むうっむぅ!(勇者さまぁ!)」

山賊B「くそっ! 加勢して勇者をやっちまえ! 行くぞ、山賊C」

山賊C「おうっ!」

僧侶「行かせませんっ!」バッ

山賊B「なにっ?! お前、どうやって縄をほどいた!」

僧侶「えへへ、緩かったんじゃないですか?」

山賊B「ちっ! 魔力のない僧侶なんて、たいしたことねえ。やっちまうぞ!」

僧侶「くすっ。即死魔法♪」

魔法使い(!!)ビクッ

山賊B「ぐあああぁぁぁぁああっっ。や、やめてくれえっ……」


山賊Bはもがき苦しみ、全身が激しくけいれんしている。
やがて動かなくなり、事切れるように力尽きた。


山賊C「ひ、ひいぃぃぃっ」

僧侶「今日、悪いことは止めるように言いましたよね。私、すごく怒っています。いっぱい、反省してくださいね」


僧侶「即死魔法!」ニコッ


山賊Cは力尽きた。

今回はここまでです。

盗賊の作戦は、考えていて楽しかったです。

15
魔法使い「そ、僧侶さん。ふ、二人とも殺しちゃったの……?」ブルブル

僧侶「大丈夫よ、気を失っているだけだから。殺めるということは、相手の未来の可能性を奪うことなの」

魔法使い「未来の可能性を奪う……ですか」

僧侶「そうだよ。だけど、人も魔物も命で命が繋がっている。だからこそ、無益な殺生で命を無価値なものにしてはならないの」

魔法使い「……」

僧侶「魔法使いちゃん、山賊さんが逃げないように手足を縛ってて」

魔法使い「は、はいっ」

僧侶「勇者さま、勇者さまぁ!!」

勇者「無事……だったんだな」

僧侶「はい、魔法使いちゃんも無事です。ひどい怪我……。今、回復しますね」

・・・
・・・・・・


山賊A「親分~。紋章、見つけたっすよ~」

勇者「ご苦労様。じゃあ、返してもらうよ」ニコ

山賊A「げっ、勇者っす……」

16
~帰り道・早朝~
勇者「盗賊たちは番所に届けたし、一件落着ですね」

魔法使い「あの、僧侶さん。どうやって、魔法を使ったんですか?」

僧侶「あの程度の魔道具だと、私の魔力を空っぽにする前に壊れちゃうの。それに縄に使われる植物の組成は理解しているから、回復魔法の応用で破壊できるしね」

僧侶「ただ、山賊たちが気配を消す魔法を使っていたから、魔法使いちゃんがいるし、慎重にならないといけないなと思って……」

魔法使い「じゃあ私……僧侶さんの足手まといになっていたんですね。熊退治を一度したくらいで思い上がっちゃって、私、私……」

勇者「僕と僧侶さんは、王様に仕えるために修行してきた。だから、未熟な魔法使いちゃんとはレベルが違う。策にはまって簡単に魔力を空っぽにされるようでは、足手まといになるに決まってるだろ」

魔法使い「うわぁぁん.....」

僧侶「勇者さま、それは言いすぎです」

勇者「でも才能があると確信したから、キミを連れて行くことを了承したんだ。まだ一緒に来るつもりがあるなら、僧侶さんからいろいろ学んで経験を積んでほしい」

魔法使い「勇者さま、私、もっと頑張ります……。一緒に行きたいです……」

僧侶「魔法使いちゃん、宿に戻りましょう」

17
~宿・勇者の部屋~
僧侶「私たちの荷物は大丈夫みたいだけど、勇者さまの荷物は部屋中に荒らされてますね……」

勇者「魔導師の装身具は危ない物も多いから、警戒したんだろ。はぁ、まずは片付けか」

勇者「この民芸品は、僧侶さんのだな。頭にぶつけてきたやつ」

僧侶「あわわ、頭に当たったんですか。狙い通りです!」

魔法使い「狙い通りって……」クスクス

僧侶「魔法使いちゃん、組木パズルは、みんなの絆を表しているんです」

魔法使い「みんなの絆……ですか」

僧侶「はい。ただの木の球体に見えるんですけど、実はここのパーツが抜けるんです。すると、次々とパーツが外れるようになる」

僧侶「私がいて、魔法使いちゃんがいて、勇者さまがいて……」ヌキヌキ

僧侶「街の人がいて、王様がいて、みんなで世界を支えているんです。だから絆を失い、誰か一人でも欠けてしまうと、全部のパーツがバラバラになって世界を支えることが出来なくなってしまうのです」

勇者「絆……か。これも神の遺産なの?」

僧侶「今、思いつきました」ドヤッ

勇者「即興かよ!」

魔法使い「あの、勇者さま。このカーテン、外そうと思います」

勇者「年頃の女の子だし、別に無理はしなくていいんだよ」

魔法使い「また襲われたときに気付いてもらえないと怖いし、その、勇者さまや僧侶さんとの絆を大切にしていきたいから……。魔法解除!」


パアアァァァッ


魔法使い「私もお片付け、手伝います」

魔法使い「あれ? この本は……」

勇者「あっ! ちょっと待って」


ペラペラ……


魔法使い「え、エッチな本です// 火炎魔法!!」ゴーーッ

勇者「だあああっ、家から持ってきたお宝本がぁ!」

僧侶「あれっ、バラバラになったまま戻せません~」

・・・
・・・・・・


作戦会議の結果、障壁魔法で男女別々に更衣室を作ることになりました。

そして燃やしたエッチな本は、みんなで魔術書を買いに行ったときに新しく買うことを許してあげました。


僧侶「ゆ、勇者さま。エッチなことは、私たちがいないときになさるようお願いします//」

勇者「すみません。ご理解、感謝します……」ペコペコ

僧侶「ところで、そのいやらしい書物も経費で落とすのですか? 王様、怒りませんかねぇ」

勇者「大丈夫! 僕たちには必要なものだよ」キリッ

僧侶・魔法使い「あわわ//」

第2話 おわり

・一筆書き
・組木パズル

短めですが、切りよく終わりにします。

次の3話からは、起承転結の承が始まります。


ストーリーの方向性が見える頃だし、伏線も張っていきたいです。

第3話 命の作り方

~山すその街~
~宿、女湯~

魔法使い「何だか、すっかり居付いちゃってますね」

僧侶「そうだね。でも山菜は美味しいし、温泉は広いし、魔術書にも困らないし、良いこと尽くめだよぉ」

魔法使い「そうですよね。勇者さまの推薦で、お城の魔道師さまからご指導を受けることが出来るし、それはうれしいです」

魔法使い「今日は帰り道に、僧侶さんが言ってたアイスを食べてきましたよ」

僧侶「ええっ、あれを食べたの?!」

魔法使い「あれ、冷たい砂ですね」

僧侶「でしょ、でしょっ!」

魔法使い「あれは駄目です!!」

僧侶「ガマラ砂漠をイメージしてたらしいけど、あれは失敗だよね」

魔法使い「ところで、勇者さまは今夜はエッチなことをなさっているのでしょうか」

僧侶「わわ、いきなり猥談?!」

魔法使い「ごめんなさい」アセアセ

僧侶「今さらだけど、私たちが一緒にお風呂に入るのは、そのためだよ//」

魔法使い「で、ですよね……」

僧侶「だから、今日はしているんじゃないかな」

魔法使い「でもそれをしたら、いつもゴミ箱に終わった後のものが捨ててありますよね……。それがどうしても嫌なんです」

僧侶「……」

魔法使い「やっぱり、エッチな本を禁止することは出来ないでしょうか」

僧侶「何かに悩んでいるのは気付いていたけど、そのことだったんだ……」

魔法使い「はい。私、エッチな本を許すことが、そういうことを許すことだったなんて思いもよらなくて……」

魔法使い「気持ち悪いので、もう止めてほしいです」

僧侶「でもそれを禁止すると、勇者さまだけに我慢をさせることになるんじゃない?」

魔法使い「今は、私たちが我慢しています!」

僧侶「勇者さまも我慢して、私たちを気遣ってくださってますよ」

魔法使い「私には、そうは思えません」

僧侶「う~ん、魔法使いちゃんは知らないでしょ。宿の奥様の計らいで、私たちが避妊具を受け取っていることを」

魔法使い「えぇっ……、避妊具ですか//」

僧侶「そうだよ。それを今までずっと知らないでいられた事は、勇者さまが魔法使いちゃんを気遣ってくれている証拠にならないかなあ」

魔法使い「あの、でもそれって僧侶さんと勇者さまが……//」アセアセ

僧侶「勇者さまは、『私たちの信頼を失うことはしない』とおっしゃいました。避妊具もあるので交わりたいでしょうけど、それを気取られないように配慮してくださっています」

僧侶「そのことがあって、私は信頼できる方だと思いました」

魔法使い「全然知らなかったです……」

僧侶「勇者さまと部屋を分けるのが一番良いのだけど、先日のように夜襲されると困りますしねぇ……。殿方には必要なことだし、禁止をせずに許してあげることは出来ませんか?」

魔法使い「分かりました、もう少し我慢します。殿方と暮らすって、とても難しいですね」


~部屋~

僧侶「勇者さま、入ります」トントン

僧侶「居ないみたいですね」ガチャ

魔法使い「あわわ、やっぱり今夜はなさってます//」

僧侶(無理にゴミ箱を見なければ良いのに……)くすっ

魔法使い「わ、私がエッチだから覗いたわけじゃないもん!」プイッ

僧侶「じゃあこうしましょ。いつもゴミ箱に布をかぶせていれば、勇者さまが一人でなさっていても、それをしていた証拠は分からなくなるでしょ」

僧侶「こうすれば、あまり気にならなくなるんじゃないかな?」

魔法使い「あっ、そういえば家のゴミ箱も、布をかぶせているものがありました」

僧侶「じゃあ、それでいい?」

魔法使い「はい、そうします」


魔法使い「あの、ところで僧侶さん。避妊具って、どのようなものなんですか?」

僧侶「あー、そうか。話しちゃったもんね……」

ガサゴソ

魔法使い「こ、これですか//」

僧侶「そうそう。これを殿方の陰部にかぶせて、ここで精液を受け止めるの。そうすれば、女性の中には入ってこないでしょ」

魔法使い「……」ちらっ

僧侶「な、何?」アセアセ

魔法使い「僧侶さんは、『命を殺めることは未来の可能性を奪うことだから、無益な殺生で命を無価値なものにしてはいけない』と言ってましたよね」

僧侶「そうだね」

魔法使い「だけどその、勇者さまがなさっているエッチなことや避妊することは、未来の可能性を奪っていることにはならないのでしょうか?」

僧侶「ん~、何て言えば良いのかなぁ。命を繋ぐことと、命を宿すことは違うことなの」

ガサゴソ

魔法使い「それは、創世神話の書物ですね」

僧侶「えっとね、女性が新しい命を宿して出産するためには、約十ヶ月の妊娠期間が必要でしょ」

魔法使い「はい」

僧侶「だから子孫を増やしたい殿方は、妊娠期間中に別の女性と交わって命を宿せるように、いつでも射精できる身体を神様からもらったの」

魔法使い「えっ、ひどい!」

僧侶「うん、ひどいよね。だから愛する殿方だけを受け入れたい女性は、どうすれば良いか考えました」

魔法使い「女性は何をしたのですか?」

僧侶「女性は神様に頼んで、一ヶ月に一度だけ命を宿すことが出来る身体にしてもらったの。そのせいで殿方は、女性がいつ命を宿せるのか分からなくなりました」

魔法使い「あっ、それが生理ですね」

僧侶「そうそう。じゃあ女性に生理が来るようになって、殿方はどうしないといけなくなったと思う?」

魔法使い「同じ女性と何度も交わらなければならなくなったと思います」

僧侶「そうだね。そして殿方は一人の女性と交わっているうちに、愛する心が芽生えたのです」

魔法使い「殿方が女性を愛するまでに、そのような神話があったのですね」

僧侶「そこで終わればいい話だけど、まだ続きがあるんだよ。一人の女性を愛するようになった結果、殿方はどうなってしまったと思う?」

魔法使い「えっ、どうなってしまったのですか?」

僧侶「いつでも射精できる身体を持て余すようになってしまったの」

魔法使い「あっ……。だから殿方は、一人でしなければならなくなったんだ」

僧侶「そういうことです。だけどそればかりでは、愛する殿方が不憫ですよね」

魔法使い「……そうかも」

僧侶「だから避妊する方法を考えて、二人の愛情を深め合うために交わるようになりました。その方法のひとつが、この避妊具です」

魔法使い「……」

僧侶「今話した神話が、魔法使いちゃんの疑問への答えになってますか?」

魔法使い「つまり神様から与えられた身体の仕組みだから、必ずしも未来の可能性を奪っていることにはならない、ということですか?」

僧侶「うん。宗教によって違いはあるけど、私はそう考えています」

魔法使い「勇者さまが頻繁に一人でなさるのは、殿方として必要なことなんですね。神話を知ると、それもなんだか面白いです」

魔法使い「僧侶さんのおかげで、勇者さまの性欲を理解できた気がします。だから、一人でする事を許してあげたいと思います」

僧侶「魔法使いちゃん。新しい命を宿すのは素敵なことだし、私たちも愛し合える殿方と出会って授かりたいものですね」

魔法使い「はいっ!」


勇者「二人とも、何を読んでるの?」

僧侶・魔法使い「!!」ビクッ

勇者「そんなに驚かないでくださいよ。逆にこっちが驚きます」

僧侶「えっと、創世神話の書物です」

勇者「相変わらず勉強熱心だね。僕も見習わないと」

僧侶「ところで、勇者さま。そこのゴミ箱なのですが、今後は布をかぶせることにしました」

勇者「えっ、なんで?」

僧侶「その……私事ですが生理の日が近くて……」アセアセ

勇者「あぁ、そっか。気が回らずにすみません」

僧侶「魔法使いちゃんもそれでいい?」

魔法使い「えっ? あっ、はい……」

勇者「そうそう、今のうちに二人に話しておかないといけないことがある」

勇者「今週でお城へのお勤めが終わるだろ、その後ここの都を出て港町に向かうわけだけど、草原を抜けたら砂漠を横断することになるんだ」

僧侶「魔法使いちゃんのことを考えると、夏の砂漠は避けたいですよね。草原を抜けて赤道を越えると、季節が夏になりますから」

勇者「かといって、迂回をすると熱帯雨林を通ることになるんだ」

ガサゴソ

僧侶「砂漠は一週間くらいで越えられそうですね。その後は、大河を船で下るのですか?」

勇者「ああ。川を下って、海に出るつもりだ。草原や砂漠にも街があるから、それを拠点にしながら進めば子供がいても無理なく行けると思う」

僧侶「勇者さまは、夏の砂漠の横断経験はありますか?」

勇者「この国とは同盟関係だし、その関係で何度か遠方訓練をしていたから提案したつもり」

僧侶「そうなんですね」

魔法使い「あの、私は水精霊の魔法を使えますよ」

勇者「知ってる、凍結魔法を使っていたもんね。期待してるよ」

魔法使い「はいっ!」


~草原-ガマラ砂漠~
一週間後、勇者たちは山すその都を後にした。

二週間ほど歩いて草原を抜けると、次第に足元が砂へと変わってくる。
草原の街で宿を取り、装備を整えて砂漠へと繰り出した。

灼けた砂と厳しい日差しが、勇者たちを襲う。
熱風は砂を巻き上げ、容赦なく吹きつける。
それは子供に対しても遠慮をしてくれない。

魔法使いが着ているローブには、木製の鈴を付けることにした。
歩くたびに、カランカランと大きな音がなる。

半日ほど歩いたところで、それが少し遠くから聞こえるようになった。
立ち止まり、追いつくのを待つ。


勇者「少し休もう」

魔法使い「……まだ歩けます」カラコロ

勇者「だめだ、もう日が高い。日が傾いたら、また歩こう」

魔法使い「……はい」

勇者「魔法使いちゃん、こっちにおいで」


勇者は座り込み、右腕を上げてローブを広げた。
少し戸惑いつつ、魔法使いは身体を預ける。
日差しと風をさえぎることの出来る場所は、この中だけだ。

勇者「ほら。恥ずかしがらずに、もっと隣へ」

魔法使い「……はい」

僧侶「勇者さま。一度、魔法使いちゃんに水の魔法を見せてもらいませんか?」

勇者「そうだね。見せてもらっておこう」

僧侶「じゃあ、この水筒を満タンに……」サッ

勇者「まさか、もう全部飲んだのか?」

僧侶「のどが渇いたので、つい。でも、空っぽはこれだけです」アセアセ

勇者「はぁ、僧侶さんを注意深く見てないといけなかったのか」

魔法使い「あの、やってみます。水精霊召喚!!」


空気中の水分が凝縮し、水筒へと向かう。
勇者はそれを持ち上げて振ってみた。


勇者「う~ん、グラス半分くらいかな」チャプチャプ

魔法使い「すみません。砂漠がこんなにも水精霊の力が弱まるなんて、思いもよらなかったです……」

僧侶「そんなこと無いよ。この半分が貴重なんだから」ゴクゴク

勇者「僧侶さん、また飲みすぎだって……」

僧侶「魔法使いちゃん、ありがとう」


~ガマラ砂漠、夜~
僧侶「勇者さま、まだ起きていたのですか? 魔物の気配もありませんし、お身体に障りますよ」

勇者「そうだね。それにしても、魔法使いちゃんはすごいよ。この乾燥した砂漠で水を出せるとは、正直思ってなかった」

僧侶「並みの魔道師なら、水一滴すら出せないと聞きます。旅の途中で魔道師の街に立ち寄ると、きっと喜んでくれると思いますよ」

勇者「魔道師の街か。通り道だな」

僧侶「あの、勇者さま。もし魔法使いちゃんが居なければ、私のことを……」

勇者「んっ?」

僧侶「いえ、何でもありません。早く寝ましょう」


~砂漠の街~
魔法使い「勇者さまぁ、街に着きましたよ!」カランカラン

勇者「これで、砂漠は折り返し地点だな」ふぅ

魔法使い「ねえねえ、僧侶さん。ここの名物はタジン鍋ですよね」

僧侶「うんうん。オオトカゲの肉とたっぷりの野菜! ヘルシーで美味しいらしいよ」

魔法使い「オオトカゲの肉ってはじめてです」

僧侶「私もだよ。楽しみだね~♪」

勇者「鍋は逃げないので、先に宿を探しましょう」


~宿~
勇者「ローブを着ていても、体中が砂まみれだな」

魔法使い「あの、ここにはシャワーなどはないのでしょうか?」

勇者「近くにオアシスがあるから水は豊富だけど、それでも貴重な資源なんだ」

勇者「今から水を買ってくるから、濡れタオルで身体を拭くといいよ」

魔法使い「あっ、水が豊富にある場所なら、買わなくても精霊魔法を使えますよ」

僧侶「街でそのようなことをするのは、ずるいんじゃないかな。皆さん、井戸で水を買っているのですよ」

魔法使い「そ、そうですね……」

勇者「では、行ってきます」

魔法使い「待ってください、私も一緒に行きます」カランカラン

僧侶「ふふっ、何だか仲のいい兄妹みたいですね」


~宿、翌朝~

トントン

宿の主人「おはようございます、勇者どの」

勇者「おはようございます。朝食ですか?」

宿の主人「いえ、勇者どのに客人が訪ねて来られています」

勇者「客人? 今、開けますね」ガチャ

??「おはようございます。あなたがエルグの国の勇者ですかな?」

勇者「そうですが、どなたですか?」

富豪「おぉ、これは失礼。私はこの街一番の成金で、富豪という者です」

勇者「は、はあ……。それで、この街一番の富豪さん? 一体どのようなご用件で……」

富豪「実は娘が病に臥しまして、勇者殿ならば治すことが出来るのでは思い訪ねたしだいです」

勇者「我々は医師ではありません。申し訳ありませんが、お引取りください」

富豪「パーティーに僧侶殿がいらっしゃるでしょう。この街の医師では治せんのです」

富豪「どうか、一度診ていただけないでしょうか。謝礼ならば、いくらでも払います。お願いします!」

僧侶「勇者さま、お話だけでも聞いてみませんか」

富豪「おぉ、僧侶殿ですね。なんと美しい」

僧侶「えへへ、美しいだなんて照れてしまいます//」

富豪「そちらのお嬢様もかわいいですな」

魔法使い「えっ、私? あわわ//」

僧侶「勇者さま、参りましょう!」

魔法使い「そうです! 病気の人を放っておくなんて出来ません」

勇者「はぁ……、分かりました」

10
~富豪邸~
僧侶「この娘さんですね」

富豪「どうか娘をお願いします」

娘「ゼイゼィ、僧侶……ゲホッゲホッ……さま」

僧侶「ひどい熱、それにこの炎症は――。治癒魔法!」

娘「ゼイゼイ……、スゥスゥ」

富豪「おおっ、娘の呼吸が楽になった。娘、娘ぇっ!」

僧侶「あ、あのっ」

富豪「僧侶殿、ありがとうございます!」

僧侶「いえ、この病。私では治すことが出来ません。炎症を治癒したので治ったように見えますが、また再発するでしょう」

富豪「やはり、駄目か……」

僧侶「私たち僧侶は、対象とする生物の組成や毒物の構造を理解することで、治癒魔法や解毒魔法を行使することが出来ます」

僧侶「特に治癒魔法は一般的に人を対象としているので、組成を理解していない生物や、生物ではないものには魔法の効力が届かないのです」

富豪「つまり、魔法が効かない何者かが娘に取り付いているせいで、完治させることが出来ないということですか?」

僧侶「おっしゃる通りです」

僧侶「抗菌作用の強い薬草があれば治せるのですが、私たちが今持っている薬草は抗菌作用が弱い種類なのです。その病にはあまり効きません」

執事「旦那さま。やはり泉に行って、薬草を摘んでくるしかないのではないでしょうか」

執事「どなたに診せても、薬草と答えるばかりです」

富豪「しかし、あそこは魔物が出るようになった。今は誰も近づけんぞ」

執事「ですがこの方々は、勇者殿一行ではありませんか」

富豪「おお、そうだったな。勇者殿、ぜひ薬草を摘んできてはくれまいか」

勇者「そうですね、依頼ならば受けましょう」

11
~オアシス~
僧侶「この辺りは野菜畑になっているみたいですね」

魔法使い「ここで街に必要な薬草を育てれば良いのに……」

勇者「畑で作物以外のものを育てると、自給率が下がるだろ。薬草は自生しているものだし、薬師相手でない限り栽培する農夫は少ないよ」

魔法使い「そうなんですね」

勇者「畑を抜けると、富豪さんが言っていたポイントだ。気を引き締めよう」

僧侶・魔法使い「はいっ」

シュシュシュシュッ!

畑を抜けると、砂地から何かが飛んできた。
勇者は前に出て、それを剣で叩き落とす。

勇者「骨?」

僧侶「あ、ああ……。こんなの不合理です」

前方の砂地から、白骨化した人間の骸骨がわらわらと湧き出てきた。
骸骨がおのおの剣やヤリなど、武器を手にして隊列を組む。


魔法使い「あの人たち、死んでるんですか。それとも、生きているのですか……」


一体の骸骨が駆け出し、ヤリを突き出した。


勇者「くそっ」


勇者はヤリの剣先を払い上げ、同時に切りかかる。
脊椎が吹き飛び、骸骨は崩れ落ちた。

それを合図に、ヤリを持った骸骨たちが構え、勇者へと一斉に駆け出してきた。
剣では、とても捌ききれる数ではない。

僧侶「!! 防御魔法」


一時的に強化された鎧が、受け損じたヤリを受け止めた。


勇者「疾風斬り!!」


カラカラと音を立て、骸骨たちが崩れ落ちる。
その骨の山を飛び越え、剣を構えた骸骨が切りかかってきた。

勇者はそれを剣で受ける。
つばぜり合いを繰り広げていると、足元で骸骨たちが再び立ち上がらんとしていた。

僧侶「魔法使いちゃん、戦うわよ!」

魔法使い「は、はいっ!」

僧侶「行きます……、破壊魔法!!」


骸骨たちがさらさらと粉になり、風に舞う。
人体の組成を理解している僧侶は、回復魔法を応用することで、人体を破壊することが出来るのだ。

わらわらと沸いていた骸骨は、すべて砂中に消えてしまった。


勇者「うわぁ。ある意味、魔道師で一番怖いのは僧侶じゃないのか?」

ドオォォーーーン!!

突如、砂塵が巻き上がった。
まるで竜のごとく意思を持って、僧侶に襲い掛かる。


僧侶「ええっ……、防御魔法!」アセアセ

魔法使い「爆発魔法!!」


砂の竜が爆発し、一帯にはじけ飛んだ。


魔法使い「僧侶さん、大丈夫ですか?」

僧侶「……ありがとう」


舞い散った砂が、ザザァと地面に落ちる。
すると今度は、三つ首の砂竜が現れた。

その砂竜は、骸骨が武器にしていた剣やヤリを取り込み、全身に携えている。
もし爆発魔法を使うと、全身の刃物が飛び交うことになるだろう。


勇者「こんな魔物、今まで見たことないぞ!」

僧侶「魔法使いちゃん、倒せないなら動きを止めることは出来ない?」

魔法使い「か、考えてみます」


三つ首の竜が牙をむき、鋼の刃を向けて襲い掛かる。


勇者「させるかっ! 大地斬」


勇者が斬りかかろうと構えた瞬間、一本のヤリを飛ばしてきた。
かろうじて身をかわし、斬撃を加える。
しかし砂の体は、ヤリを回収して復元してしまう。


魔法使い「勇者さま、退いてください! 土精霊召喚! 石化しろっ!!」


その言葉に砂竜が土となり、石となる。
やがて石像のように固まり、動かなくなった。


魔法使い「や、やった……」

勇者「魔法使いちゃん、よくやった! 今のうちに薬草を摘みに行こう。ここの魔物は何かが異常だ」

僧侶「そうですね。先を急ぎましょう」

12
魔法使い「あの、僧侶さん。魔力を感じませんか?」

薬草を袋に詰めながら、魔法使いが口を開いた。

僧侶「そうね……」

勇者「行ってみよう。何か掴めるかもしれない」

魔法使い「多分、この辺りだと思うのだけど……。あ、ありました!」

僧侶「これはタングラムですね。あの不合理な魔物たちは、もしかしてこれが原因ではないでしょうか?」

勇者「えっ……、タングラムは子供のおもちゃだろ」

僧侶「はい、子供のおもちゃです。だけど、これには魔力が宿っていますよね」
僧侶「実はタングラムは、以前の15パズルと同じく、神の遺産なのです」

勇者「神の遺産だって?! じゃあ、これにはどんな意味が……」

僧侶「タングラムは大中小の三角形5片と、正方形が1片、平行四辺形が1片の計7片で構成されているパズルですよね」

僧侶「この7片には意味があって、木火土金水と太陽、月を表しているのです」

勇者「それって、もしかして占星術?」

僧侶「はい、そうです」

僧侶「占星術は人や国の運命、天変地異を予見するための魔術です。それを占うためには、人や世界を理解する必要があります」

僧侶「それは、占星術以外の魔術も同じです。だから様々なものを形作ることが出来るタングラムは、魔術の基本元素を学ぶおもちゃとして利用されることが多いのです」

勇者「なるほど……。で、そのタングラムが要求していたシルエットは?」

魔法使い「ハートのシルエットが添付されていました」

僧侶「つまり、魔術で新しい命を生み出そうということです。そんなことあり得ません!」

勇者「とりあえず、街に戻りませんか。あの魔物たちが、また襲ってくるかもしれない。そのパズルの謎を解くのは、宿に戻ってからにしよう」

13
~富豪邸~
富豪「おおっ、さすが勇者殿。大量の薬草をありがとうございます。手強い魔物が多数わいていたでしょう」

勇者「ええ。動きを封じておきましたが、安全になったとは言いがたいです。今後も危険が伴うかと思います」

富豪「わしの都にあのような魔物など、本当に口惜しいわい」

僧侶「それでは、この薬草を煎じて飲めば娘さんも三日ほどで完治することでしょう。薬があれば、この街の医師でも変わらず治療することが出来ると思います」

僧侶「治癒魔法で出来ることと出来ないことがあることを、めいめいご承知下さい」

娘「僧侶さま、勇者さま、本当にありがとうございました」

富豪「本当に娘を助けてくれてありがとうございました。これは謝礼です」

勇者「確かに受け取りました。娘さん、お大事になさってください」

娘「はいっ。私も、勇者さまのご武運を祈っております」

14
~宿~
勇者「魔法使いちゃん、ただいま~」

僧侶「ただいま♪」

魔法使い「お帰りなさい」ニコ

勇者「どう? このシルエットは完成しそう?」

魔法使い「全然だめです……。どうしても、ピースが余ってしまいます」

勇者「タングラムパラドックスかな? ちょっと貸してみて」

魔法使い「一体、誰が何の目的で、このようなものを仕掛けたのでしょうか?」

勇者「魔王が暗躍を開始したのかもしれないな」

僧侶「そうですね。タングラムでハートが完成しないことこそ、あの魔物を操っていた力が不合理なものであることを示しているのではないでしょうか」

僧侶「魔術で命を作り出すことは、絶対に出来ないのです」

魔法使い「うわさでは、極南の地に魔王がいるんですよね……」

勇者「対外的には、そういうことになっている」

魔法使い「そのような者が仮にいたとして、なぜ砂漠の都に魔力を込めたタングラムを用意したのでしょうか」

勇者「どういうこと?」

魔法使い「15パズルが示していたドーナツ世界が目的ならば、砂漠に用事はないはずですよね」

僧侶「確かに……」

勇者「話は変わるけど、僧侶さん。魔術で命を作り出すことが出来ないなら、教会が蘇生魔法で死者を蘇らせることも出来ないはずだよね」

僧侶「それは違いますよ。蘇生魔法は新しい命を作る魔法ではなくて、生きようとする力を取り戻す魔法なんです」

勇者「生きようとする力を取り戻す?」

僧侶「はい。ですから、病気で亡くなった方や天寿を全うされた方、肉体の欠損が激しく死を受け入れてしまった方などは、教会でも蘇らせることは出来ません。それが運命だからです」

勇者「そうなんだ、それが蘇生魔法か……。僧侶さんは使えるの?」

僧侶「はい、もちろんです!!」

勇者「それは頼もしいね」

僧侶「でも実はですね、簡易な事例ならば魔法を使わなくても、心肺蘇生法という技術で誰でも蘇生術を行うことが出来るのです」

勇者「へぇ、魔法を使わずに蘇生か。興味深い話だね」

僧侶「勇者さまも、ぜひ教会の講習会に参加して、蘇生術を学んでみてください」

勇者「ところで、このシルエットはやっぱり完成しないね。どう考えても、ピースが1片余るんだよな……」

魔法使い「ですよねえ」

僧侶「いやいや。勇者さまは話してばかりで、ほとんど考えてなかったじゃないですか」

勇者「うっ……」

魔法使い「じゃあ、僧侶さんも挑戦してみてください。すごく難しいですから」

勇者「はい、やってみて」

僧侶「ん~っ、確かに1片余りますね……」

勇者「だろ? これ、答えがないんじゃないか?」

僧侶「勇者さまぁ、ひらめきましたよ!」

僧侶「魔術で新しい命を作り出すことは出来ません。なぜなら、命を宿すことが出来るのは女性だけだからです」

僧侶「殿方と愛し合い、そして結ばれて、私たち女性は新しい命を授かります。だから……」


そう言いつつタングラムを組み替えて、平行四辺形のパーツを手に取った。


僧侶「これを矢に見立てれば、ほらっ♪ ハートに矢が刺さって、とても素敵ではないですかぁ//」

勇者「いやいや、素敵とか関係なくて、重ねたらタングラムにならないだろ」

僧侶「でも、シルエット内に収まってますよ」

そう言った次の瞬間、ハートが輝きだした。


魔法使い「あっ、魔力が解放されました!!」

勇者「ということは――」

僧侶「えへへ、これが正解ですっ!」

勇者「マジか!! あの魔物たちはもう出現しなくなったのかな。後で確認しておこう」


・・・
・・・・・・


僧侶(魔法使いちゃん。新しい命を宿すのは素敵なことだし、私たちも愛し合える殿方と出会って授かりたいものですね)

魔法使い「恋愛のタングラム……か。私は――」チラッ

勇者「魔法使いちゃん、どうしたの?」

魔法使い「い、いえ、何でもありません//」

第3話 おわり

・タングラム

今回はここまでにします。


恋愛のタングラム、
パズル的には強引な解決だったけど、ストーリーの方向性が見えた感じです。

次の4話では、砂漠を抜けて大河に到着します。
水着を着せねば!

第4話 魔法はいらない

~港町~
魔法使い「大河って、すごいですね。川の向こう岸が見えないです!!」

僧侶「あっ、あそこ見てみて。泳げるところがあるみたい」

魔法使い「本当だぁ。砂まみれだし、私も泳ぎたいです」

僧侶「勇者さま、みんなで泳ぎに行きませんか?」

勇者「いいねぇ。でも、二人は水着を持ってるの?」

僧侶「あっ……。出発したときは冬でしたし、水着を持ってないです」

魔法使い「私も持っていません」

勇者「まあ、そうだよな……」

勇者「じゃあ、今日は準備をして、泳ぎに行くのは明日にしようか」

僧侶「それが良いですね。後で水着を買いに行ってきます」

魔法使い「僧侶さん、一緒に選びましょう」

僧侶「そうだね、一緒に行こっか。勇者さまも、水着を準備しておいてくださいね」

勇者「了解っ。じゃあ、サクッと宿を決めましょう」

僧侶「はい。ガイドブックによれば、あの宿は鯉料理が絶品だそうです」

魔法使い「草原に放牧しているヤギさんも名物ですよ」

勇者「ずっと干し肉ばかりだったからなぁ。今夜は魚を食べて、明日は肉を食べに行こう!」

僧侶「新鮮なコイ、楽しみです♪」


~宿・女湯~
魔法使い「久しぶりのお風呂、気持ち良いな~」

僧侶「水が貴重な土地があれば、砂漠に囲まれながらも水が豊富な土地もある。何だか、考えさせられますね」

魔法使い「はい。なぜ皆さんは、こちらに来ないのでしょうか?」

僧侶「魔法使いちゃんも私たちと出会わなければ、エルグの城や村から出ることはなかったでしょ。それと同じじゃないかな」

魔法使い「そっか、そうかもしれないですね」

僧侶「ところで魔法使いちゃんは、勇者さまのことをどう思ってるの?」

魔法使い「えっ……」ドキッ

僧侶「何だか、山すその都にいた頃と比べて変わったよね」

魔法使い「えっと、その……。山すその都にいた時は、エッチなことばかりしているのを見て、嫌になっていました」

僧侶「そうだよね。悩んでいるのが、目に見えて分かったくらいだしね」

魔法使い「それで帰りたいって思っていたんだけど、僧侶さんのおかげで許せるようになったから」

魔法使い「砂漠や草原でたくさん気遣ってくれたし、それをすごく感謝していて、今はまた勇者さまに憧れています」

僧侶「そっか。憧れの人なんだ……」

魔法使い「僧侶さんは、勇者さまのことをどう思っているんですか?」

僧侶「わ、私っ?! 私が一緒に居るのは、仕事仲間だからだよ」

魔法使い「私にだけ言わせて、僧侶さんは誤魔化すんですか?」

僧侶「う~ん、聞きたい?」

魔法使い「はいっ//」

僧侶「何て言えば良いかな……。勇者さまって食べることが好きでしょ。そういうところが、一緒にいて気が合う人だなと思ってる」

魔法使い「一緒にいて気が合う人か……」

僧侶「それくらいで許してくれるかな?」

魔法使い「今日のところは、これで許してあげます」

僧侶「じゃあ、そろそろ上がって、水着を買いに行きましょうか」

魔法使い「はいっ。可愛い水着が欲しいです♪」


~街~
魔法使い「港町って、お店がたくさんありますね~」キョロキョロ

僧侶「貿易の拠点になっている街ですからね」

魔法使い「僧侶さん、これを見てください。ビンの中に船が入ってますよ」

僧侶「ほんとだ。えっ、どうやって入れたんだろ?」

魔法使い「転移魔法ですかねぇ。でもそれ、かなりの高等魔術ですよ」

古物商「お嬢ちゃん方。これはボトルシップと言って、小さい部品を一つ一つビンの中で組み立てて作るんだよ」

魔法使い「えっ! すごいです!! 魔法かと思いました」

古物商「人間は魔法に頼らなくても、工夫をすれば色んなことが出来るものさ。どうだい、ひとつ記念に買っていくかい?」

僧侶「私たちは旅の途中なので、壊れやすそうなものは買えなくて……」

古物商「それは残念だね。また帰りに寄っておくれ」

僧侶・魔法使い「はい」

魔法使い「旅に出ると、発見もたくさんありますね」

僧侶「ふふっ、そうだね。あっ、水着屋さんですよ」

・・・
・・・・・・


魔法使い「そ、僧侶さん。ここのお店の水着、過激すぎませんか//」

僧侶「あわわ、入るお店を間違えたかも//」

婦人「いらっしゃいませ。ここは素敵な水着が揃ってますよ」

僧侶「あ、あの……。私が知っている水着は、ワンピースタイプの繋がった水着なんですが……。これって、どう見ても下着ですよね」アセアセ

婦人「あら、旅のお方ですか?」

僧侶「はい」

婦人「この地域は、砂漠に囲まれていますよね。だから、身体に付いた砂を洗い流すために、生地がどんどん小さくなっていったのです」

僧侶「そ、そうなんですね……」

婦人「はい。この街では、ビキニタイプが普通なんですよ」

僧侶「……どうする? やめる?」

魔法使い「わ、私は挑戦します! ぶ、文化の違いを受け入れます」

僧侶「えぇぇっ!」

婦人「お年頃のお嬢様には、こちらのかわいい水着がおすすめです」

婦人「ビキニタイプや、パレオの付いた水着など、オーソドックスなものが人気ですよ」

魔法使い「// 下着みたいだけど、どれもデザインがかわいいです」

僧侶「あ、あの、私は……」

婦人「そうですねぇ。適齢期の女性は、どなたもこちらの水着を着用します。当店はラインナップが充実していますよ」

婦人「V字水着やモノキニ、紐ビキニはいかがでしょうか。大変似合うと思います!」

僧侶「これなんて、は、裸じゃないですかぁ。無理です、むりっ!」

婦人「では、こちらの透ける水着はいかがでしょうか。生地が多いものもありますよ」

僧侶「あ、ほんとだ。ワンピースもありますね。それなら着られそうです♪」

魔法使い「僧侶さん、それもあぶない水着です!!」


~宿~
魔法使い「はぁ、お買い物楽しかったです」

僧侶「ねえ、まさか試着させてくれるとは思わなかったよぉ~//」

魔法使い「僧侶さん、途中から変なスイッチが入ってましたよ」

僧侶「ふふっ♪ 勇者さまぁ、これを見てください」

勇者「えっ、ちょっ、何ですかそれ!!」

僧侶「ボトルシップというものです」

魔法使い「なっ、いつの間に買ったの?!」

僧侶「えへへ、帰りにふらっと」

魔法使い(あー、旅の帰りじゃなくて、買い物の帰りに買っちゃったんだ)

勇者「僧侶さん。この船、ビンの口よりも大きいですよ。どうやって入れたんだろ」

僧侶「ビンの中で、一つ一つ組み立てたそうですよ。他にも、トランプが箱のまま入っているものがあったり、とても不思議でした」

勇者「へえ、面白いなぁ」

僧侶「ですよね! ここの民芸品で、不可能物体や不可能ボトルと呼ばれるそうです」

勇者「ボトルシップか……。この民芸品は、魔法がなくても工夫をすれば成し遂げられる。そんな事を教えてくれるのですか?」

僧侶「店の主人が、そのようなことをおっしゃっていました。ビンの中に船を入れようだなんて、土地柄が現れていて素晴らしいです」

魔法使い「ところで僧侶さん、壊れるかもしれないから買わないって言ってませんでしたか?」


僧侶「ふふんっ、防御魔法を常時展開しておけば、船が壊れないことに気付いたのです!」ドヤッ

魔法使い「あぁ、なるほど……」

勇者「で、それと水着を経費で落とすのですか?」

僧侶「水着は装備品です! ボトルシップは、私の趣味だから必要なものです!」

勇者「まぁ、いつものことか」

勇者「ところで次の出立ですが、3日後に海を渡る客船が出るようです。それの予約を取ってきました」

僧侶「3日後に船ですね、分かりました。それでは、鯉料理を食べに行きましょう♪」


~夕食~
勇者「鯉の洗い、から揚げ、鯉こく。どれも美味しそうだなあ」

魔法使い「!! 僧侶さん。この大皿のお刺身、鯉の口がパクパクしてますよ」

僧侶「それは活造りだって」

魔法使い「活造りですか……。生きたまま食べるなんて残酷です」

僧侶「私たちが殺めてから食べる料理でしょうか?」

勇者「生きたまま食べるみたいだよ」

僧侶「生きたまま?!」

魔法使い「あ、暴れてますよ。それに、私を見ているみたいです」ビクビク

僧侶「本当に生きたまま食べるのですか」

勇者「食べないなら、僕が全部食べてしまいます」

僧侶「えっ、それはずるいです。鯉さん、命をいただきます」

魔法使い「い、いただきます……」

・・・
・・・・・・


魔法使い「はぁ、一時はどうなるかと思ったけど、美味しかったです」

僧侶「この地域の方は、毎日あのようなものを食べているのでしょうか?」

勇者「活造りは腕のいい職人しか作れない、最高のおもてなし料理みたいだね」

僧侶「えっ? じゃあ、鯉専用の治癒魔法を施して調理しているわけではないのですか?」

勇者「治癒魔法って、それこそ残酷じゃないか」

僧侶「ですよね。食文化にこれほどの違いがあるとは、とても驚きました」

魔法使い「明日はヤギさん、楽しみです♪」

勇者「魔法使いちゃん、ヤギは暴れて蹴ってくるらしいから気をつけるんだよ」

魔法使い「えっ!?」

勇者「ははっ、冗談だよ。今夜は早く寝て、明日に備えましょう!」


~翌日・河原(砂浜)~
魔法使い「勇者さまぁ~」トテトテ

勇者「えっ、魔法使いちゃん?! それって……」

魔法使い「ビキニという水着です。どうですか?」クルッ

勇者「か、過激すぎじゃないかな……」

魔法使い「この街では、これでも控えめだそうです//」

勇者「そ、そうなんだ」

僧侶「あ、あのぉ」

勇者「えっ、僧侶さん! なにっ、その紐みたいな水着は!」

僧侶「お店の方が、あぶない水着ばかりすすめてくださって……。試着しているうちに、いつの間にか買ってました」

僧侶「あの、いかがですか//」ポヨンッ

勇者「うっ……//」

僧侶「えっ、どうして黙るんですか」

勇者「ちょっと一人にさせてください……」

僧侶「あわわ// 勇者さまの妄想で、私たちが脱がされてしまいます」

魔法使い「ええっ、私も脱がされるんですか」

僧侶「今頃は、ビキニの肩紐をほどいているところですよ」

魔法使い「きゃ~っ」ギュッ

僧侶「魔法使いちゃん、殿方がものすごく興奮しています。川に逃げましょう!!」

魔法使い「あはは、勇者さまのえっち~」タッタッタ

勇者(まさか、こんなに際どい水着姿を拝めるとは!)


僧侶・魔法使い「きゃっきゃっ」ジャブジャブ

勇者「うわぁ、みんなあぶない水着で泳いでるし……。あの美女、上を着てないっ。何だ、この楽園は!!」チラチラ

僧侶「勇者さま、どこを見てるんですか。全部、聞こえてますよ!」イラッ

勇者「うわっぷ、水を掛けるなって」

僧侶「えいえいっ」ジャブジャブ

勇者「おおっ! そのアングル、エロすぎてヤバイ//」

魔法使い「むかっ。水精霊召喚、いっけ~!」

勇者「いや、それはちょっと待て!」


ゴオォォォ・・・
ザバァァンッッ!!


勇者「うごぉぉっ……」げほっげほっ

僧侶・魔法使い「……」

勇者「おいっ、お前ら。覚悟は出来てるんだろうなあ」

魔法使い「はっ、逃げましょう!」ダッシュ


僧侶「うふふ、捕まえてごら~ん♪」
魔法使い「捕まえてごらん~」キャッキャッ


勇者「待て~っ!」


僧侶「うふふ」
魔法使い「あははは」タッタッ


勇者「ほらっ、僧侶さん捕まえた。次は魔法使いちゃん」ぎゅっ

僧侶「いやぁん……捕まりました」

勇者「あっ……//」

魔法使い「あわわ// 僧侶さん、水着がずれてます!」


ぽろん♪


僧侶「きゃああぁぁぁっっ」アセアセ

魔法使い「目隠し、目隠し!!」ささっ

僧侶「勇者さま、見ました?」

勇者「いえっ、何も見ていません」フルフル

僧侶「お身体に変化があるようですが……、勇者さま、見ましたか?」

勇者「見ました」

僧侶「ま、まあ、今回は許してあげます。ここでは皆さん、それが普通のようですし……」プイッ

勇者「ふうっ、助かった。あの、ところで魔法使いちゃん。背中に柔らかいものが当たってますが……」

魔法使い「ええっ?! す、すみません//」


魔法使い「僧侶さん、その水着で走るのは止めたほうがいいですね」

僧侶「ふふっ、魔法使いちゃんは子供だね//」

魔法使い「えっ?」

僧侶「この水着は、殿方を興奮させるための水着ですよ」

魔法使い「……!!」

僧侶「勇者さまぁ、遊び疲れてお腹が減ってきたし、あの『川の家』というお店でお昼を食べませんか」

勇者「そうだね。あそこは、焼きそばというものが食べられるんだって」

僧侶「焼きそばですか? 楽しみです♪」トテトテ

魔法使い「あの……、勇者さま//」

勇者「ん?」

魔法使い「砂漠ではありがとうございました。無事に渡ることが出来て、とても感謝しています」

勇者「僕が魔法使いちゃんを守るのは、当たり前のことだろ」ニコッ

魔法使い「ありがとうございます。それでお礼というか、勇者さまを癒してあげたいなと思って、頑張ってビキニを着てみました//」

勇者「魔法使いちゃん、ありがとう。そのビキニ姿、すごく可愛いよ。一緒に旅をしていて、魔法使いちゃんが笑顔でいてくれることが僕はうれしいな」

魔法使い「えへへっ」ギュッ

勇者「ほら、恥ずかしいから、そんなにくっつかない//」

魔法使い「でも、砂漠ではもっと隣に来るように、いつもおっしゃっていましたよ」ムニュッ

勇者「いやいや、砂漠と砂浜は違うから」

魔法使い「勇者さま……」

勇者「ん?」

魔法使い「私のこと、これからもお願いします。僧侶さ~ん」タッタッタ

僧侶「あれ、もういいの?」

魔法使い「か、感謝の気持ちを伝えていただけですから//」

僧侶「そっか。じゃあ、焼きそばとやらを食べましょう!」

魔法使い「はい」


魔法使い「あっ、この焼きそば、キャベツが入ってますよ」

僧侶「魔法使いちゃん、苦手だったっけ?」

魔法使い「いえ……。今夜はヤギさん料理だし、ふと川渡り問題を思い出しました」

勇者「川渡り問題?」

魔法使い「はい。狼とヤギ、キャベツを川の向こう岸に運ぶ問題です」

僧侶「ロケーションにぴったりだね。続き続き♪」ニコッ

魔法使い「川を渡る船を漕げるのは、農夫だけです。だけどその船はとても小さくて、一種類ずつしか向こう岸に運ぶことが出来ません」

魔法使い「さて、農夫がいなければ、狼はヤギを襲ってしまい、ヤギはキャベツを食べてしまいます。どうすれば、すべて向こう岸に運ぶことが出来るでしょうか?」

勇者「狼は檻に入れておくべきだし、キャベツも箱に入れておけば食べられないだろ」

魔法使い「それを言ったら、お仕舞いじゃないですか。魔物の事件にはパズルが関わっていたし、細かいことを気にせず考えてください」

勇者「とりあえず、最初はヤギを連れて行くだろ。そして戻ってきて、キャベツを運ぶ」

勇者「そのまま戻るとキャベツを食べられるから、ヤギを連れて戻る。次は狼を連れて行って、最後にヤギを連れて行けば正解かな」

魔法使い「ピンポーン♪ それを期待してました。最短手順は7手です」

勇者「それくらいなら簡単だな」ドヤッ

僧侶「じゃあ、次は私から出題するね。浜辺にちなんで、カァカァと賑やかなからす算もいいけど、リンド・パピルスのパズルなんてどうかなぁ」

魔法使い「おおっ、由緒正しいパズルじゃないですか!」

勇者「どんなパズルなんですか?」

僧侶「最古の数学パズルと呼ばれていて、算術の面白さを教えてくれるパズルです」

勇者「へぇ、算術の面白さか」


僧侶「それでは問題です。長いので、よく聞いてくださいね」

僧侶「この街には水着屋さんが7店舗あって、それぞれ7種類のあぶない水着を取り扱っています。各種類のあぶない水着は、それぞれ7人の美女に販売されました」

僧侶「その美女たちは家に衣装ケースを7箱ずつ持っていて、その衣装ケースにはそれぞれ7枚ずつエッチなランジェリーが入っています」

僧侶「さて、これらの数を合計するといくつになるでしょうか?」

魔法使い「ええ~っ、どうしてそんなアレンジをするんですか?!」

僧侶「勇者さまのいやらしい妄想が捗るかなって思って//」

魔法使い(うわぁ、やっぱり昨日みたいに舞い上がってるんだ……)

勇者「単純に35じゃないんだよね?」

僧侶「それだと数ではなくて、数字を足したことになります」



勇者「あぁ、そっか」

勇者「ところで、僧侶さんが着ているあぶない水着は、他にはどんなバリエーションがあったの?」

僧侶「色んな水着がありましたよ。その中でもこの水着が特に巧妙で、勇者さまがとても喜ぶと思いました//」

勇者「水着からあふれる膨らみと曲線が、かなりヤバイ感じ。そのおっぱいの突起も気になるんだけどなあ//」

魔法使い「勇者さまっ、胸ばっかり見てないで考えてください!!」ムカッ

勇者「この問題、紙とペンがないと計算できないからパス」

僧侶「答えてくれたら、もう少しサービスしますよ//」

勇者「今日の僧侶さん、何だか乗り乗りですね!」


魔法使い「7店舗のお店がそれぞれ7種類の水着を取り扱っているから、水着は49種類あることになります。その水着はそれぞれ7人の女性に販売されたから、購入した女性は343人です」

魔法使い「そのように考えて足し算すると、合計19607になります」


勇者「あっ、考える気になったのに」

魔法使い「次っ! 次に行きましょう!!」プイッ

10
「きゃぁぁっ……」
ガヤガヤ

勇者「なんだか、外が騒がしいな」チラッ


「しびれくらげだ! 人が溺れているらしいぞ!!」

「みんな浜に上がれっ!」


僧侶「勇者さま。私、救助を手伝ってきます!」

魔法使い「あっ、待ってください!」


・・・
・・・・・・


女「遊泳範囲にくらげが来るなんて」

男「魚を追いかけて来て、迷っただけだろ。無事に助かるといいんだけど……」


僧侶「魔法使いちゃん、あそこみたいですね」

魔法使い「私、行ってきます!」

僧侶「行ってくるって、勝手なことをすると逆に……」

魔法使い「水精霊さん、風精霊さん、力を貸してください!!」ペチョペチョ


水の上を走り、溺れている女性の所まで走る。


魔法使い「もう少し頑張ってください!」


声を掛けると、女性が必死にこちらを向いた。
しかしたどり着く前に、女性は力尽きて沈んでしまった。


魔法使い「そんな……」


周辺には、しびれくらげの脚が伸びている。
水上に攻撃してくることはないが、迂闊に水中に手を入れることは出来ない。

魔法使い「しびれくらげを倒さないと! 爆発まほ――」


爆発魔法を行使しようとしたが、慌てて詠唱を中断した。

こんなところで爆発を起こせば、女性を巻き込む恐れがあるだけではなく、巨大な波が砂浜を襲うことになる。
しびれくらげを倒すことが出来ても、さらなる惨事を招くだけだ。

だからといって、別の攻撃手段を考えてみても、妙案は思い浮かばない。

水精霊の力を借りて攻撃すると、水流が変化して女性が流されてしまう。
風の魔法は水面で砕けてしまうし、火精霊では女性も茹で上がってしまう。


魔法使い「どうしよう、しびれくらげを倒すことができない……」

迷っていると、ライフセイバーが泳いでくるのが見えた。
それを見て、考え方が違うことに気が付いた。

優先することは、しびれくらげを倒すことではなくて、溺れた人を助けることだ。


魔法使い「水精霊さん、お願いします」


水中から川面へと、水泡が湧き起こる。
そのあぶくに乗って、女性が浮かび上がってきた。
ぐったりとしていて、ぴくりとも動かない。

やがてライフセイバーが到着し、女性を抱えると砂浜から浮き輪が投げ込まれた。

セイバー「ぜぇぜぇ……、意識がないようだ、頼む」


救助された女性は意識がなく、砂浜に仰向けに寝かされた。人々が集まり、不安そうに見つめている。


セイバー2「呼吸なし、脈なし。心肺停止を確認」

魔法使い「えっ、そんな!」

僧侶「私、蘇生魔法を……」


名乗りを上げようとしたところで、ライフセイバーは心肺蘇生法を始めた。
気道を確保し、呼気を送る。
続いて、胸部を何度も圧迫した。
しびれくらげの毒が気になるが、訓練を積んでいるようなので息を吹き返すだろう。


魔法使い「キスをして何を……、えっ、えっ?」

女性「げほっ、げほっ……」

セイバー2「蘇生確認。急いで医務室に運んで、毒消しの準備を!」

セイバー「了解!」

僧侶「あのっ、私は国に仕える僧侶です。解毒魔法を使えます」

セイバー2「!! ぜひお願いします。くらげ毒です!」


僧侶「分かりました。解毒治癒魔法!」

女性「うっ、うぅん。あれ、ここは……」

僧侶「ここは砂浜です。溺れていた所を私たちに救助されました。どこか痛い所はありますか?」

女性「いえ、特には……」

僧侶「それは良かったです。それでは私は、これで失礼させていただきます」

セイバー「お二人とも、ご協力感謝します。ありがとうございました」ビシッ

女性「ありがとうございました」ペコリ

僧侶「魔法使いちゃん、戻りましょうか」

魔法使い「はい……」

警備員「警備の船より、水域の安全が確認されました。なお――」

11
~宿~
魔法使い「今日は遊び疲れました~」クテー

僧侶「勇者さま、私たちの水着姿はそそりましたか?」

勇者「それはもう、最高でした。僧侶さんはセクシーだし、魔法使いちゃんは可愛いし、今までで今日が一番幸せだな」

僧侶「ふふっ、楽しんでいただけたみたいで嬉しいです//」

勇者「明日も行きませんか?」

僧侶「明日は旅支度の買い物です」

勇者「だよね……」

魔法使い「もう泳げないなら、一度僧侶さんの水着を着てみたいです!」

僧侶「ええっ。魔法使いちゃんにはまだ早いって……」

魔法使い「でも一度、大人用の水着も着てみたいです//」

僧侶「仕方ないわねえ」

魔法使い「では、挑戦してみます♪」

勇者「背伸びをしたい年頃かな。ところで僧侶さん、今夜は一緒にバーに行きませんか」

僧侶「期待しても、私はまだまだ駄目ですよ。それに避妊具は、砂漠の暑さで駄目になっています。ちゃんと捨ててくださいね」

勇者「……はい」ガックリ

僧侶「でも次にここに来るときは、シーズンオフですよね……。それならば、もう一度みんなで泳ぎに行くのも悪くないかもです」

勇者「そうだね、そうしよう」

僧侶「では明後日は船が出るまで時間があるし、そのときにまた水着姿を楽しんで下さい。それで良いですか?」

勇者「身体の方も許してくれると嬉しいんだけど……」

僧侶「それは妄想で我慢してくださいね//」

魔法使い「もう二人とも、大人の会話が更衣室の中まで聞こえてますよ」

勇者「あ……」

魔法使い「どうですか、勇者さまぁ。私にこの水着は似合いますか?」クルッ

僧侶「わぁぁっ! 魔法使いちゃん、更衣室に戻る戻る!!」アセアセ

勇者「う~ん。かわいく魅せようとしている時点で、魔法使いちゃんにはやっぱり少し早いかも。ビキニのほうが、すごく似合ってたよ」

魔法使い「そうですか……、やっぱり大人の水着は難しいです。来年こそは着こなして、魅了してみせます!」

僧侶「それじゃあ、魔法使いちゃん。服を着て一緒にお風呂に行きましょうか」チラッ

魔法使い「そうですね。ヤギさん料理も楽しみです」

魔法使い「では着替えてきます」トテトテ

僧侶「勇者さま、魔法使いちゃんのこと、ありがとうございました。勇者さまを、また少し信じられるようになりました」

勇者「また少しって、今はどれだけ低いんだよ……」

僧侶「あの、これはお昼に話していたサービスです」ピトッ

勇者「……//」

僧侶「勇者さま、これからも私たちのことをお願いします」

勇者「ああ、分かった」


魔法使い「僧侶さん、着替え終わりました~」トテトテ

僧侶「じゃあ、お風呂に行こっか。それでは勇者さま、私たちの水着姿を妄想してお楽しみください♪」

魔法使い「楽しんでください//」

勇者(もう押し倒してもいいよな、絶対――)

12
~宿・女湯~
魔法使い「はぁ、いいお湯ですね。明後日も遊びに行けるのですか?」

僧侶「船が出るまでの間だけね」

魔法使い「楽しみです♪」

僧侶「それにしても、慣れない水着は疲れるね」

魔法使い「はい……。でもそれで勇者さまも楽しんでくれたなら、私もうれしいです」

僧侶「何だか、積極的に誘惑してたね」

魔法使い「だって、ずっと僧侶さんの胸ばっかり見てるんだもん。私も負けません!」

僧侶「ふふっ、ちょっと刺激が強すぎたかなぁ?」

魔法使い「きっと今頃は、私たちの妄想でなさってますよ//」

僧侶「妄想だけなら自由だし、それは私たちで勇者さまを癒すことが出来たってことだよね」

魔法使い「はい、そうですね//」

魔法使い「ところで、僧侶さん」

僧侶「何?」

魔法使い「魔法は本当に必要なのでしょうか……」

僧侶「どうして?」

魔法使い「今日、川で女性が溺れたとき、私はしびれくらげを追い払えずに、女性を浮かせることしか出来ませんでした。そのせいで、女性は亡くなってしまいました」

魔法使い「でもその後で、ライフセイバーの方が蘇生魔法を使わずに、女性を生き返らせたんです。とても衝撃的でした」

僧侶「そのような蘇生術があることは、砂漠にいたときに話したでしょ」

魔法使い「はい……。でも魔法を使える私は、何も出来ませんでした」

僧侶「魔法使いちゃん、それは間違ってるよ」

僧侶「ボトルシップを買ったお店の主人が、何と言っていたか覚えていますか?」

魔法使い「たしか、『人間は魔法に頼らなくても、工夫をすれば色んなことが出来る』と言ってました」

僧侶「そういうことです。ではなぜ、ライフセイバーさんは心肺蘇生術を学んでいると思いますか?」

魔法使い「魔法を使えないから……ですか」

僧侶「いいえ。魔法を使えないけど、誰かを救いたいからです。だから彼らは教会で学び、努力をしているのです」

僧侶「それでは、魔法使いちゃんはどうして魔術の勉強を始めたの?」

魔法使い「それは……、村を困らせる魔物から、みんなを守りたかったからです」

僧侶「魔術ではなくて、剣術やナイフ術では駄目だったの?」

魔法使い「私は、体術が全般的に苦手です……」

僧侶「それが答えですよ。魔法は誰かを守るための手段のひとつなのです」

僧侶「もし、魔法使いちゃんが魔法を使えなかったら、どうやって村の人を守るつもりでしたか?」

魔法使い「そんなの困ります……」

僧侶「ねっ、魔法は必要なんです。魔法使いちゃんがいたから、溺れた女性は流されなかった。だからすぐに救助することが出来て、ライフセイバーさんの蘇生術で一命を取り留めた」

僧侶「お互いに出来ることをして女性が助かったんだから、それで良いじゃありませんか」

魔法使い「そう……ですね」

僧侶「私は魔法使いちゃんがとても良い判断をしていて、すごくうれしかったですよ」

魔法使い「あの……、もし僧侶さんが魔法を使えなかったら、何をしていましたか?」

僧侶「う~ん、薬師になっていたかも」

魔法使い「薬師かぁ……。私、回復魔法も勉強してみたいです」

僧侶「ふふっ、頑張ってね。そろそろ部屋に戻りましょうか」

魔法使い「はい。僧侶さん、いつもありがとう」

第4話 おわり

・ボトルシップ
・不可能物体

・川渡り問題
・からす算
・リンド・パピルスのパズル

今回はここまでです。

不可能物体はパズルではないけど、
作り方を考えるという意味でパズルに含めました。


次の5話で折り返しの予定です。

第5話 忍び寄る闇

~海・客船~
魔法使い「水平線が丸いです! この世界って、本当に球体なんですね!」

勇者「そうみたいだね。僕もはじめて見たよ」

魔法使い「私たち、一ヶ月後には南の大地に着くわけですよね。極南の地が闇に覆われているといううわさは、本当でしょうか?」

勇者「それを確認して来るのが、僕と僧侶さんの仕事だよ」

魔法使い「私は思うのですが、極夜ではないでしょうか。自転軸が傾いているので、日が昇らない世界があるのは当然のことです」

勇者「それだと話が簡単で良いんだけどな。今は夏だから、日が沈まない白夜のはずだ。パズルの意味とか、行けばすべて分かることだよ」

魔法使い「そうですね」

勇者「ところで魔法使いちゃん、髪が伸びてきたんじゃない?」

魔法使い「はい。前髪を切りたくて、気になっているんです」

勇者「そうなんだ。もうすぐ補給で街に停泊するから、美容室に行くといいよ」

魔法使い「はいっ。あの、勇者さまはどんな髪型が好きですか//」

勇者「う~ん、ツインテールという髪型が似合いそうだと思う」

魔法使い「ツインテールですか? 参考にします♪」

僧侶「二人とも見ないと思ったら、甲板にいたんだ。仲良くデートですか?」

魔法使い「えへへ//」

勇者「ちょっと風に当たろうと思ってね。それより、それはもしかして……」

僧侶「そうです、釣竿です!! 海に入ったんだし、美味しいお魚がいっぱい泳いでますよ!」フフッ

魔法使い「私もやりたいっ!」

僧侶「そう言うだろうと思って、もう一本持ってきたよ」

魔法使い「たくさん釣って、新鮮なお魚が楽しみです♪」

勇者「マイペースだな、この二人は――」

僧侶「ところで勇者さま、豪華客船と海に相応しいシチュエーションパズルに挑戦しませんか?」

勇者「シチュエーションパズル?」

僧侶「出題者が問題を出して、回答者が出題者に『はい』または『いいえ』で答えられる質問をしながら、答えを推理するパズルです」

勇者「なるほど、了解」

僧侶「では問題です。ある日、水兵の男がレストランに行き、ウミガメのスープを注文しました。しかし、船で食べたスープとは味が違います。怒った男はシェフを呼び、問いただしました」


『何だこれは!』
『ウミガメのスープでございます』


僧侶「その日の夜、ショックを受けた男は自殺してしまいました。なぜでしょうか?」

魔法使い「うわぁ……」ゲンナリ

僧侶「知ってても、答えを教えてはいけませんよ。では勇者さま、質問タイムです」

勇者「なぜショックを受けたんだろ?」
僧侶「それを推理してください」

勇者「船とレストランではシェフが違うのだから、味が違うのは当然だと思うけどなあ」

僧侶「はい、そうですね」

魔法使い「勇者さま。シェフによる味の違いは、美味しいか不味いかですよね。もっと別の理由があると思いませんか?」

勇者「あっ、なるほどね。男が船で食べたのは、ウミガメのスープですか?」

僧侶「いいえ」

勇者(ウミガメ以外の肉をウミガメとして偽る理由か。それが自殺の原因だ)

勇者「何の肉か知っていれば、男はスープを食べましたか?」

僧侶「いいえ。彼なら食べなかったと思います」

勇者「船で食料が不足しましたか?」

僧侶「はい」

勇者「その肉は人間ですか?」

僧侶「はい」

勇者「つまり自殺した理由は、船で人間の肉を食べていたことに気付いたからだ!」

僧侶「惜しいけど不正解です。その答えでは、人間の肉を食べることになった理由が分かりません」
僧侶「正解は『乗っていた船が遭難してしまい、そのときに食べていた肉が自分の仲間の肉だったことに気付いてしまい、男はショックで自殺した』でした」


勇者「ちょっと待て。これのどこが豪華客船と海に相応しいんだよ!」

僧侶「えへへ。そうならないように魚を釣りましょう♪」

魔法使い「あの、僧侶さんなら人の肉を食べますか?」

僧侶「どうするだろ……、消えた命を無価値なものにしないために、極限状態にあれば食べるかもしれないです。その極限状態を経験した人にしか分からないこともあるだろうし、難しい質問だよね」

魔法使い「そう……ですね」


~翌日・海の都~
魔法使い「やっと次の街に着きました」

勇者「船はまた3日後に出航だから、それまでこの街でゆっくりしよう」

僧侶「そうですね。海の幸を堪能するぞ~っ!」

魔法使い「この都は『うに』を使った海鮮丼がおすすめだそうですよ」

勇者「じゃあ、お昼は海鮮を食べに行こうか」

僧侶「あっ、そうそう。この都には、ダブルスキルの支援施設があるみたいです」

勇者「やっぱり、この国は底が知れないな。本格的な訓練施設は城下にあるのだろうけど、その施設の一部が他国の人も集まる場所に建設されているってことは、総合的な軍事力が高いことを知らしめることにもなる」

僧侶「そうですよね。だけど今は各国が協力体制をしいているので、私たちも利用できるはずです。行きませんか?」

勇者「行きませんかって、一日二日で修得できる技術なんて何もないだろ」

僧侶「そうですが、ちょっと欲しいものがありまして……。それを買いたいのです」

勇者「そういうことなら、まあ寄ってみるか」


~支援施設~
僧侶「お~、ありました! 私の暇つぶし」

勇者「受付を素通りしてどこに行くかと思えば、欲しいものってパズルかよ!!」

僧侶「これはポリオミノの一種で、ペントミノというものです。正方形5個の辺同士がくっつきあって出来る、全12種類の形をピースとした詰め込みパズルです。ここでは立方体のものも販売されていました~」


魔法使い「これって、神の遺産ですよね」

勇者「へえ、そうなんだ」

僧侶「ペントミノは、この6×10の長方形の枠に隙間なく詰める方法が、約2000通りあります。それが人間の能力の可能性を表しているのです」

勇者「人間の可能性か……」

僧侶「はい。でも本来の意味は、神様は世界を破壊して創りかえることが出来るという、絶対的な存在を畏怖するためのパズルだったんだけどね」

勇者「いくら何でも、変わりすぎだろ」

僧侶「でもそういう訳で、支援施設には必ずペントミノが置いてあるんです」


魔法使い「勇者さま。ちなみに正方形6個を使ったヘクソミノは、世界の扉を表しているそうですよ」

勇者「世界の扉……。たかがパズルなのに、壮大だな」

僧侶「あ、そうだ。1日体験入学みたいなことってしてないかなあ。魔法使いちゃんにとって、プラスになると思うし」

魔法使い「私、やってみたいです」

??「エルグの城の衛兵……おっと、勇者じゃないか」

勇者「奇遇だな。こんな所で何をやってるんだ?」

僧侶「あの、勇者さま。この方はどなたですか?」

勇者「山すその都でお世話になっていた、バロックの城の兵士だよ。バトルマスターで、なかなかの腕前だよ」

僧侶「そうでしたか。こんにちは」

魔法使い「こんにちは」ペコ

バトマス「おうっ。こいつがうわさのロリっ子魔法少女か。なかなか可愛いじゃねえか」

魔法使い「……//」

バトマス「一丁前に照れやがって。ガハハ……」

勇者「ところで、ここで何やってんだよ。まさか、パズルでも買いに来たのか?」

バトマス「何、馬鹿なこと言ってんだ。船旅ばかりだと身体が鈍るだろ。だから、郊外の施設で身体を動かしてきたんだよ。お前も行っといたほうがいいぞ」

勇者「そんなものがあるのか。考えてみるよ」

魔女「バトマスさん、お待たせしました」

剣士「勇者、久しぶりだな」

賢者「あら、エルグの皆さん。お城でのお勤めが終わったのですね。ご苦労様です」

勇者「どうも、お疲れさまです……」

魔法使い「魔女さん、こんにちは」

魔女「こんにちは。ちゃんと精霊魔法の練習してる?」

魔法使い「はいっ!」

魔女「うんうん、偉いね」なでなで

賢者「あたしたちは明日出航なんです。よろしければ、今夜は親睦を兼ねて食事に行きませんか?」

僧侶「いいですね。それなら気になる料亭があるので、そこに行きませんか!」

勇者「そんなことまで調べてるんだ」

僧侶「えへへ、当たり前です」ブイ

バトマス「お前らは家族旅行かよ、いい気なもんだな。まあ店は任せたから、財布は俺たちに任せろ」

勇者「それは助かるよ」

バトマス「じゃあ日没にここで落ち合おうか。また後でな」

勇者「おうっ!」


受付「1日体験入学ですか? 僧侶コースでしたら、明後日に講座がございます。そちらに参加なさいますか?」

魔法使い「出航の日ですね。残念です……」ショボン

僧侶「残念だったね」

魔法使い「はい……」

勇者「あの、先ほど知人から郊外の施設を使えると聞いたのですが、それは大丈夫ですか?」

受付「それでしたら、明日の午後に予約が空いております。実戦形式で行われるアトラクションとなりますので、装備を整えてご利用ください。予約されますか?」

勇者「じゃあ、お願いします」

受付「それでは技量に応じた登録が必要ですので、利用される方は適正検査をお願いします」

勇者「二人はどうする?」

僧侶「魔法使いちゃんは実戦経験が少ないし、私たちも参加しておきます」

勇者「そっか。じゃあ、三人で利用しよう」

受付「では、そちらのフロアにお願いします」

・・・
・・・・・・


大神官「勇者殿、来られよ」

勇者「はい」

僧侶「占星術師の方みたいですね」

大神官「勇者殿は魔法剣士のようですな。しかも女神の加護を受けているようだ」

勇者「ま、まあ、女神から神託をもらっているので……」

大神官「あなたもまた、真の勇者になりうる可能性のある方でしょう。己が信じる道を進みなされ」

勇者「一応、真の勇者に『なりうる』のか」

大神官「続いて、僧侶殿」

僧侶「は~い」

大神官「僧侶殿は、現在の魔法医学を極めておられるな。多くの才能に恵まれており素晴らしい」

僧侶「光栄です」

大神官「ただしその力ゆえ、闇に飲まれぬよう心されよ。さすれば、すべてを滅びへと導くこととなろう」

僧侶「!!」

大神官「では、魔法使い殿」

魔法使い「は、はいっ」

大神官「魔法使い殿は、精霊魔法を使いこなせているようですな。賢者となる資質も備えているようだ。可能性にあふれておる」

魔法使い「ありがとうございます。頑張ります!」

大神官「しかし、あなたには陰が見える。それを乗り越えてくれることを、わしは期待しておるぞ」ナデナデ

魔法使い「は、はい……」


受付「登録が終わりました。明日、係りの者が誘導しますので、そちらで説明を受けて下さい」


~街中~
勇者「アトラクションって、どんなことをするんだろ。楽しみだね……って、僧侶さん?」

僧侶「うぅっ、すべてを滅ぼすと言われてしまいました」

勇者「魔法で命を預かる職業だから、心せよってことだろ」

僧侶「はい、心します……」

魔法使い「私は期待していると言われましたよ。もっと魔術の勉強を頑張りたいです」

勇者「とりあえず、この後どうする? 約束の時間まで、まだあるみたいだけど」

僧侶「私はお店に予約してきます」

魔法使い「私は美容室に行ってきます」

勇者「そっか。じゃあ、一度解散しましょう」


~待ち合わせ~
魔法使い「勇者さま、遅いです!」

勇者「あっ、髪型変えたんだ。ツインテール似合ってるよ」

魔法使い「ありがとうございます。勇者さまが好きだと言うから、この髪型にしたんですよ//」

勇者「そうなんだ。可愛らしくなったね」

魔法使い「えへへ// うれしいです」

僧侶「褒めてもらえて良かったね」

魔法使い「はい//」

勇者「それでは行きましょうか」

>>177
訂正します。

誤→3日後
正→明後日


~料亭~
バトマス「――それで、魔物どもを叩き斬ってやったんだ。あの模擬戦は、本気でやらねえと逆に殺されるんじゃねえかってくらいハードだったぜ」

剣士「あんな設備で訓練しているのかと思うと、この国の衛兵は敵に回したくないと考えるのも頷けるというものだ」

勇者「そんなにきついのか。大丈夫かな……」

バトマス「最初のフロアで全滅するんじゃねえか?」

勇者「いやいや、それはないから」

バトマス「でもお前んとこの魔法使いは、うちの魔道師連中が気に入ってたみたいだが、所詮はまだ子供だ。ろくに魔法を使いこなせないだろ」

勇者「それが中々の使い手で、最近は手のひらで転がされている感じだよ」

バトマス「情けねえな、女なんか力を誇示して、押さえつけちまえばいいんだよ」

勇者「ははっ……。うちでそんなことをしたら、僧侶さんに瞬殺されるぞ」

バトマス「はあ? 女僧侶なんて、精霊魔術の才能がなくて治癒しか出来ない、賢者になれなかった能無しだろうが」

勇者「僕も最初はそんなイメージがあったけど、彼女は規格外なんだ」

バトマス「ちっ、へたれだなぁ。ずっと見てたけど、やっぱりお前ら、三人兄妹の旅人にしか見えねえぞ。家族旅行をしてるんじゃねえぞ」

勇者「まあ、いいじゃないか。うちの国のメイン部隊は、別に動いてるから」

剣士「聞いた話では、北に進めているらしいな」

勇者「ああ、西の村……、エルグの村で神の遺産が発見されたんだ。それでどうやら、世界をドーナツ状にすることが魔王の目的じゃないかと分かったんだ」

剣士「ドーナツ世界か。そういえば草原の洞窟で、賢者が神の遺産を見つけていたな」

勇者「一体、どんなパズルを見つけたんだ?」

剣士「いや、魔術には通じてないから、詳しくは聞いてない」

勇者「そうか……。まあ、そんな訳で極北を調査する事になったんだ。エルグの国は、極南より極北のほうが近いからな」

剣士「なるほど。それで、南は申し訳程度にやる気のないメンバーなのか」

勇者「ま、まあ、調査だけなら何とかなるだろ」

・・・
・・・・・・


魔法使い「賢者さんは、どんな魔法が使えるんですか?」

賢者「あたしは治癒魔法がメインで、精霊魔法と電撃魔法を補助的に使える感じかな。魔女っ子ちゃんも賢者になりたいの?」

魔法使い「はい。魔女さんみたいな魔道師になって、僧侶さんみたいに治癒魔法を使えるようになりたいです」

魔女「うわぁ、それはもう賢者じゃなくて聖人クラスじゃない。それが実現できたら、歴史に名前を残せるかも」

魔法使い「そうなんですか?! 大変そうです」

賢者「そうだよ。両方メインで張るなら、頑張らないと中途半端な実力になっちゃうよ」

魔法使い「そっか、頑張らないといけないですね」

僧侶「ところで、話が変わるんだけど……。そっちのメンバーでは、殿方の性欲をどのように処理しているのですか?」

魔女「な……、何言っちゃってんのよ//」

僧侶「だって、そちらは殿方が二人もいらっしゃいますし、生理現象ですから避けて通れないですよね」

魔女「そんなの知る訳ないでしょ//」

僧侶「あれ、どうしているのか知らないんですか?」

魔女「そっちはどうなのよ」アセアセ

僧侶「定期的に勇者さまと話し合って、一人でしやすいように工夫しています」

魔女「ええっ?!」

賢者「そちらは性に対して、親和的な姿勢なんですね」

僧侶「そうですか? 他のメンバーの方と話す機会は中々ないですし、普通はどうなのかなって思って」

魔女「そんなことを一緒に話し合うとか、絶対有り得ないわ」

魔法使い「えっ……、じゃあ我慢させているんですか? そんなの可哀想です」

魔女「可哀想って言われても、あたしには関係ないし。自分たちで、勝手にしてるんじゃないの?」

魔法使い「一緒にいれば、関係ないなんてことはないと思います」

賢者「どうやら慰安所を利用して、そこで遊んでいるみたいですよ」

僧侶「慰安所……ですか?」

賢者「費用がかさむけど、仕方がないので容認してあげています」

魔女「うわっ、そんな所に行ってるんだ。あいつら最低ね」

賢者「あたしたちに迷惑を掛けるよりも、その方が良いじゃない」

魔女「はぁ……、それもそうね」

僧侶「それが普通なんですかねぇ」

賢者「それが普通かどうか決めるのは、僧侶ちゃんの気持ち次第じゃないの?」

僧侶「そうですね、参考になりました。ありがとうございます」

魔法使い「あの、僧侶さん。慰安所って何ですか?」

僧侶「殿方が金銭を支払って、公娼登録された女性と交わることが出来る施設です」

魔法使い「あわわ// お金を払って女性と交わるんですか?!」

僧侶「そうですよ。そういう施設も、時には必要なんです」

魔法使い「そんな所、勇者さまには行かせたくありません!」

僧侶「そうだね。また海に行って、私たちの水着姿で満足してもらいましょうか」

魔法使い「は、はいっ!!」

賢者「あなたたち、海で遊ぶ余裕があるなら訓練しなさいよ」

魔女「そうやって遊んでばかりだから、バトマスさんに家族旅行って揶揄されるのよ」

僧侶「ははっ……」

・・・
・・・・・・


バトマス「おい、女ども。酒を注ぎに来い!!」

賢者・魔女「はいはい……、噂をすれば何とやら」

バトマス「お前らもだ! 女なら男をもてなせ!」

僧侶「もう少し言い方があるんじゃないですか?」

バトマス「女の癖に、口答えするな!」

僧侶「むかっ……。睡眠魔法!」

バトマス「zzz」

僧侶「あらあら、飲み過ぎですよ。さっ、食べましょ」

賢者・魔女(僧侶ちゃん、よくやった!!)

剣士「確かに瞬殺されそうだな。今ならひと突きだ」ククッ

勇者「はあ……、仕方ない奴だな」


~翌日・訓練施設~
勇者「どうやら、この塔みたいなものが施設みたいだね」

僧侶「私たちはどの建物でしょうか?」

勇者「あれじゃないかな」

案内人「お待ちしておりました。勇者殿」

勇者「はい」

案内人「当アトラクションは実戦形式となっておりまして、各フロアで戦いながら、最上階を目指すことが目的となります。最上階の出口には回復の魔法陣もあるので、ご自由にお使いください」

勇者「勝ち抜き方式ということですか?」

案内人「そうですね。各フロアの者が結託して、総力戦を仕掛けるようなことはありません」

勇者「なるほど」

案内人「それでは、皆様には身代わりの腕輪を支給します」

僧侶「強力な蘇生魔法が込められた魔道具みたいですね」

案内人「さすが僧侶殿。この腕輪には転移魔法も込められていますので、必ず装備してください」

僧侶「最上階まで行けた場合、この魔道具はいただけるのですか?」

案内人「差し上げることは出来ません。その場合は返却していただきます」

僧侶「そうなんですね。良いものなのに残念です……」

案内人「もう宜しいですか? 装備しなかったことによる損害は、一切責任を持ちません。こちらが、その契約書になります」

勇者「どうする、魔法使いちゃん。この訓練、冗談抜きで危ないみたいだけど」

魔法使い「あ、あの、頑張ります」

勇者「そっか。じゃあ、頑張ろうか」

魔法使い「はいっ」

案内人「それでは扉を開けますので、中にどうぞ」


ギイィィッ
ガチャン


魔法使い「うわあ、広いですねぇ」トテトテ

僧侶「魔法使いちゃん、迂闊に歩き回ると危ないわよ」

魔法使い「あ、はいっ」

勇者「ちっ!!」


ザシュッ


案内人「ぐおぉおぉぉっ!」

唐突に、勇者さまが案内人を一閃した。
胸から血を噴き出し、悶絶しながら案内人が崩れ落ちる。


僧侶「ゆ、勇者さま、何を……」


そう口にした瞬間、案内人の身体に得体の知れない変化が起きていることに気が付いた。
生体エネルギーが血流に乗って収束し、生体エネルギーと魔力が激しく融和している。

これは自爆魔法だ!

即死魔法を使えば、収束している生体エネルギーを霧散できる。
しかし魂も消滅させてしまうので、即死魔法を行使すると案内人は蘇生できなくなる。

唯一存在する蘇生の方法は、賢者の石を代償にすることだ。
従って、案内人に即死魔法を行使することは出来ない。
以前、山賊たちに行使したときと違い、気絶させる程度では意味がないからだ。

エネルギーを爆発的に解放させずに無力化する方法は、一つしかない。
その魔法だけは、魔法使いちゃんに見せたくなかった……。

僧侶「破壊魔法!!」


その魔法が発動した瞬間、案内人の体組織が破壊された。
脳や内臓が潰され、次々と血管や神経が切断されていく。

ボキッ
グチャッ……

骨が砕ける音。
その砕けた骨で、人肉がかき混ぜられる音。

全身の体細胞が破裂して、身体中の孔や斬られた胸部から、赤い肉塊がぐちゃぐちゃと流れ出す。

自爆魔法を発動するためのユニットが破壊され、まるで汚物のようになっていく案内人。
どろりと溶けて、自爆することなく絶命した。

その直後、悲鳴が聞こえた。


魔法使い「いやあぁぁぁっ!!」

たった今まで普通に話していた人が、一瞬で殺された。

村の畑が魔物に襲われて、隣に住む農夫の人が殺されたことがある。
たくさん血を流して、苦痛に悶えながら死んでいった。
病気や寿命で亡くなった人も見たことがある。
村での生活は、ときどきそのようなことがある。

だけど、溶けて崩れ落ちていく死体は見たことがない。
人が人ではない、どろどろの赤黒い肉塊になっていく。
骨が皮膚を突き破り、肉をかき混ぜながら砕けていく。

そんな無残な姿にして、人が人を殺せるなんて、
普通じゃない――。

なぜそこまでする必要があったのか、その理由は分かる。
分かるけど……。

無意識が魔力を感じた。
案内人が着けていた魔道具が、死んだことを感知して発動したのだ。
それは強力な爆発魔法だった。


みんな死ぬ――。


魔法使い「火精霊っ!!」


条件反射的に火精霊を召喚した。

僧侶「全体防御魔法!!」

勇者「伏せろっ!!」


ドゴーーーォォンッッ

勇者が魔法使いをかばった瞬間、爆風に吹き飛ばされた。
頭をかばいつつ、壁に激しく叩きつけられる。


勇者「ぐっ……」


防御魔法で強化された鎧やローブが、衝撃を和らげる。
そして爆炎のほとんどは、召喚された火精霊が相殺してくれた。
激しい炎が渦を巻き、虚空に消えていく。

やがてすべてが収まり、静寂が訪れた。

案内人が装備していた二つ目の魔道具が発動し、肉塊が蘇生されて人を成す。
そして、外に転移された。


勇者「くっ……、魔法使いちゃん、大丈夫?」

魔法使い「……はい」

僧侶「今、回復します」

勇者「何だよ、これ……。こんなことが許されるのかよ!」

魔法使い「人が、人が……」

僧侶「魔法使いちゃん、ありがとう。よく頑張ったね」ギュウッ

魔法使い「僧侶さんっ、うわあぁぁぁん......」


僧侶「勇者さま、どうしますか。魔法使いちゃんはショックを受けています。私もまさか、非人道的な手段で襲ってくるとは思わなくて……」

僧侶「こんなの、つらいです。この魔法だけは、魔法使いちゃんの前で、攻撃魔法として人に向けたくなかったのに――」


だから以前、山賊たちには即死魔法を行使したのだ。
人の身体を傷付けない魔法だから……。


勇者「この塔から出る方法は3つある」

僧侶「3つ、ですか」

勇者「こんなに強力な爆発魔法を使うくらいだ。この塔の建築材は、魔法に耐性が強いものだと思う」

僧侶「それが関係あるのですか?」

勇者「ああ。塔を壊して出ることが出来ないから、3つなんだ――」


1、最上階の出口から出る。
2、予約時間が過ぎるのを待つ。
3、魔道具が発動する条件を満たす。


僧侶「予約時間が過ぎるのを待ちましょう!」

勇者「僕は上に行くことも考えている」

僧侶「案内をしてくださっていた方が、いきなり自爆魔法を行使してきたんですよ! それを防いだら、爆発魔法の魔道具が発動したんですよ!」

僧侶「魔法使いちゃんが頑張ってくれなかったら、みんな死んでいたかもしれません。こんなの異常です! 私は反対ですっ!」

勇者「だから、実戦形式なんだろ。残念だけど、実戦は命の奪い合いだ」

僧侶「確かにその通りです。だけど、こんなやり方は実戦訓練とは言いません。今のなんて、人間爆弾じゃないですか!」

僧侶「しかも蘇生魔法と転移魔法が、魔道具で発動するんですよ。生き返るなら、自爆をしてもいいんですか?! そんなの戦争だとしても、非人道的で常軌を逸しています」

勇者「僧侶さんの気持ちも分かる。だから、少し落ち着いてほしい」

僧侶「……はい」

勇者「昨日バトマスたちは、『本気でやらないと殺されそうだった』と言っていたけど、一応それを模擬戦と表現したんだ。何か印象が違いすぎると思わないか?」

僧侶「昨日、私たちの技量を測っていましたよね。レベルに応じた結果が、この仕打ちかもしれません」

勇者「そうかもしれないし、そうではないかもしれない」

僧侶「どういう事ですか?」

勇者「それが分からないから、上に行って確かめておきたいんだ」

僧侶「ルール上、ここはもう安全です。上に行くことは反対です!」

勇者「もし異常事態が起きているならば、そのルールが守られる保障はないだろ」

僧侶「それは……。でも1フロア目が騙し討ちなら、この先も卑劣な罠がありますよ。訓練ではなくて、殺し合いです! それでも行くのですか?」

勇者「ああ。とりあえず、一人で2階の様子を見てくるから」

僧侶「それは危険です。だって、私たち三人で戦う前提になっているんですよ!」

勇者「大丈夫、二人を残して死んだりしないよ。僧侶さんは、魔法使いちゃんを頼む」

僧侶「……。勇者さま、必ず戻ってきてくださいね」


魔法使い「僧侶さん……」

僧侶「どう? 気持ちは落ち着いた?」

魔法使い「あの……、どうして、あんな無残な殺し方をしたのですか?」

僧侶「それは……」

魔法使い「……ごめんなさい。それは分かっています。それ以外の手段がなかったことは分かっているけど、その……」

僧侶「魔法使いちゃん、聞いてくれる? 以前、魔法は必要なのかなって言ってたでしょ。本当は、魔法なんてないほうがいいのかもしれない。だって、魔法は戦争で人を殺すための武器だから」

魔法使い「……」

僧侶「今は魔王のうわさのおかげで国同士が協力しているけど、昔は魔族と人が殺し合い、国と国が戦争をして人々は殺しあっていたの」

僧侶「職業として僧侶を選んだ人は、精霊魔術を学んで賢者になる人が多い。それはどうしてだと思う?」


魔法使い「……分かりません」


僧侶「攻撃する手段を持たなければ、敵兵に殺されてしまうからよ。だから私も、殺めるための魔法を身につけた」

僧侶「教会でも蘇生させることが出来ない、即死魔法を――」

僧侶「そして敵兵に捕まっても逃げられるように、拘束具の組成を研究したり、金属を破壊するために錬金術を学んだの」

魔法使い「僧侶さんは、賢者になろうとは思わなかったんですか?」


僧侶「私は人を殺めるために精霊魔術を学ぶよりも、人間のこと、命のことをもっと深く知りたかったの」

僧侶「さっき見せた破壊魔法は残酷な魔法に見えるけど、正しく使えば命を救うために必要な魔法なんだよ。それは分かってほしい」


魔法使い「やっぱり、僧侶さんは僧侶さんなんですね」


僧侶「もう何が言いたいのか分からなくなってきたけど、精霊魔術を得意とする魔道師は、治癒魔法を覚えて賢者になろうとはあまりしないの」

僧侶「だから魔法使いちゃんは、今の気持ちを大切にしてほしいと思う」

魔法使い「はい……。でも、僧侶さんは一つだけ間違っています」

僧侶「間違ってる?」

魔法使い「魔法がなくても、剣やナイフがあります。魔法は攻撃手段のひとつでしかないのです」

魔法使い「魔法が必要ないのではなくて、魔法を使う人の心が間違っているんです」

僧侶「そうだよね……。私が教えたことなのに、何言ってるんだろ」

魔法使い「僧侶さんは今まで、私に命の大切さを教えてくれました。さっきのことはショックだったけど、今の話と合わせて、自分なりに受け止めたいと思います」

僧侶「魔法使いちゃん……」

魔法使い「それにここは、私たちの技量に応じて設定されているんですよね。ならば、逃げずに上りたいです」

僧侶「本当にそれでいいの?」

魔法使い「僧侶さんは、勇者さまが心配ではないのですか?」

僧侶「そんなの……、心配に決まってるでしょ。勇者さまを追いかけましょう」

魔法使い「はいっ」

10
勇者「二人とも、どうしてここに……」

僧侶「私たちも上ることにしました。2階の様子はどうなっていたのですか?」

勇者「それが、人の気配がないんだ。何かトラップが仕掛けてあるのかもしれないと思ったけど、そういう物もないみたいだ」

僧侶「奇妙ですね……」

勇者「本当に、二人も上に行くのか? 何があるのか分からないぞ」

魔法使い「私は上ってみたいです」

勇者「そうか……。それじゃあ、慎重に上っていこう」

魔法使い「3階にも人の気配がないです。魔力も感じません」トテトテ

僧侶「勇者さま、次で最上階ですね。このまま、何も起きなければいいのですが……」

勇者「二人共、気をつけろ。中に誰かいるぞ」

僧侶「まさか総力戦を仕掛けるつもりでしょうか」

魔法使い「それって、ルール違反じゃ……」

勇者「1階のことがあるし、何が起きるか分からない。警戒を怠らないようにしよう」

僧侶・魔法使い「はい……」


ギィィィッ
ガチャン


??「待っていたよ、勇者ご一行さん」

勇者「お前が最上階の相手か!」

??「そうです。自ら降りていこうかと思うくらい、待ちくたびれましたよ」

魔法使い「ね、ねえ、勇者さま。あの人、翼が生えていますよ」

僧侶「もしかして、魔族……堕天使なんですか?!」

天使「失礼ですね、僕は天使です」

僧侶「神の使いが、どうしてこんな所に……」

天使「女神さまの加護を受ける者と、それが選んだ者。その実力を見せてほしくて、ここに来た次第だ」

勇者「どういうことだ! つまり自爆のことは、すべて女神の意志なのか?!」

天使「今は問答をするつもりはない。まずは、実力を見せてくれないかな」

僧侶「魔法使いちゃん、戦える?」

魔法使い「はい、大丈夫です!」

勇者「よし、来るなら来い!」

天使「では始めるよ。ここにいた、ゴーレムとサイクロプスだ。二体まとめて倒してごらん!」


ゴーレム「ユウシャ、コロス……」
サイクロプス「ウガアァァッ」


二体の魔物が、どこからともなく召喚された。
巨体にもかかわらず、俊敏に駆け出す。


魔法使い「ゴーレムは任せてください!」


魔力で命を与えられた魔物は、すでに砂漠で戦闘済みだ。
岩石か砂か、所詮その程度の違いしかない。

魔法使い「土精霊、召喚!! 砂になれ!」


土精霊にゴーレムの身体に干渉してもらうと、ゴーレムは一瞬で砂に変化した。
そして崩れ落ちた砂を石板にして、床に固定する。
これでもう、復活して動くことは出来ないだろう。

ゴーレムだったものを見やり、勇者さまに加勢した。

勇者「疾風斬りっ!」ヒュッ


勇者さまが剣に風をまとわせ、サイクロプスの右足に斬撃をくわえる。
サイクロプスが体勢を崩した瞬間、水精霊で攻撃した。


魔法使い「勇者さま! 凍結魔法、行きます!」


大気中の水分が凍りつき、サイクロプスが凍結した。
港町なので水分は十分にあり、完全に凍りつく。

その隙を突いて、勇者さまがとどめを刺した。
断末魔の悲鳴が耳をつんざき、砕けた氷が血で赤くなる。

魔道具が発動すると、サイクロプスは蘇生して転移した。

天使「うわぁ、瞬殺だし。すごいすごい!」

天使「しかもゴーレムを土精霊で強引に破壊する人間なんて、はじめて見たよ。さすが、勇者ご一行の魔法使いは一味違うねえ」

魔法使い「これは喜んでいいのでしょうか……」

天使「そうだね、褒めているつもり。なかなか出来ることじゃないからね」

魔法使い「あ、ありがとうございます!」


天使「でもねえ、人間でなければ殺しても良いのかい? ゴーレムの身体を破壊するのは、下で彼女が見せた破壊魔法と同じじゃないか。サイクロプスだって、殺されて可哀想に――」

魔法使い「そ、それは……」

勇者「僕たちの実力を見たかったんじゃないのか! 殺すつもりで襲わせておいて、言えることか!」

天使「どんな理由があろうとも、命を奪うことは未来を奪うことだ。魔法使いちゃん、ただの村娘に過ぎないキミに、その犠牲を背負う覚悟があるのかい?」

魔法使い「無益な殺生で命を奪うことは、絶対にするべきではないです。だけど身を守るために、やむを得ない場合もあると思います。私は、奪った命を無価値なものにするつもりはありません!」

天使「そうか、それがキミの答えなんだね」

魔法使い「はい」

天使「じゃあ、自分の身を守ってみせてよ。魔法使いちゃんに、本当の魔法の使い方を教えてあげるよ」

魔法使い「えっ……?」

天使「土精霊は、興味深い使い方だった。でもね、水精霊での攻撃は駄目だったよ」

天使「人間は誰もが、空気中の水蒸気を凍結させようとする。もっと思い切らなくちゃ。凍結魔法!」


魔法使い「あぁっ……、いやぁぁぁぁっ!!」

強大な魔力を感じた瞬間、右腕に激しい痛みが走った。

筋肉と皮膚、血液、骨。
肩から指先に至るまで、『右腕そのもの』が完全に凍結している。
そして、肩の関節から折れてぼとりと落ちた。

その衝撃で落下した腕が肘で割れ、指先が砕ける。
腕が落ちた右肩から血が溢れ出し、耐え難い激痛に襲われた。


魔法使い「あがあぁぁあっ、やあっいやあぁぁっ……」

天使「ほらっ、次は風精霊の攻撃方法を、その身に教えてあげるよ」

天使「人間は刃物のように攻撃するのが好きみたいだけど、そんな不確実な方法は駄目だよ。生物なんだからさあ、他にすることがあるでしょ」

魔法使い「うぐぅぅっ……」


口と鼻から、大量の空気が押し込まれる。
吐くことは許されず、次々と肺に空気が詰め込まれていく。
胸が膨らみ、叫ぶことも許されず、あっという間に肺が破裂した。

さらに空気の刃が心臓を切り裂き、食道から多量の空気が送り込まれる。
胃や小腸に侵入した空気が暴れ、次々と消化管を破裂させていく。
さらに切断された血管から、気泡が入り込む。


空気の塊に、体内が蹂躙されていく。
意識が朦朧として、
もうどこが痛いのか分からない……。

吐き出される空気とともに血を噴き出しながら、人形のように崩れ落ちた。

僧侶「魔法使いちゃん!!」


何が起きたのか把握できないくらい、あっという間の出来事だった。
凍結魔法で右腕が砕かれ、さらに内臓も破壊されているようだ。

苦悶の表情を浮かべたまま、定まっていない視線。
ごぽごぽと噴き出してくる鮮血が、顔と床を赤く染めていく。

幸いにして、脳が無傷なので、まだ生きてはいる。
しかし、間もなく機能が停止するだろう。

魔法使いちゃんは、実質的にもう死んでいる。

勇者「僧侶さん! 早く魔法使いちゃんをっ!」

僧侶さん「はいっ!」


魔道具により蘇生することは分かっているが、賢者の石と同様の効果があるとは思えない。
欠損した右腕の再生は、恐らく無理だろう。


僧侶「今、楽にしてあげるからね。鎮痛魔法、蘇生修復魔法!!」

天使「へぇ、そんな高度な魔法も使えるんだ」

天使「凍結して砕けた腕や指を再生して繋ぐなんて、人間の域を超えた荒技だね。キミは、その域まで達しているのか」

勇者「このやろうっ! 疾風斬り!!」

風の魔法を宿した斬撃。
天使はその風を反転させて、軽々といなす。


天使「駄目だよ。そんな剣では、僕に勝てないよ。土精霊!」


その言葉と同時、ゴーレムだった石板が、勇者へと飛び掛かった。
後ろに飛び退き、石板に向かって剣を振り下ろす。


勇者「大地斬!!」


剣に宿った魔力が石板を砕く。
砕けた石板は石のつぶてとなり、軌道を変えた。


天使「さて、次はよけられるかな?」


その言葉を受けて、石のつぶてが加速した。
目に留まらないスピードで、勇者に襲い掛かる。
初弾が鎧に当たり、砕け散った。

その直後、石つぶてが次々と手足に被弾した。
肉を貫き、反対側へ貫通していく。

勇者「ぐあぁっ!」

天使「手足が使えなければ、もう剣を振るうことも出来ないだろ」

僧侶「ゆ、勇者さまぁ!」


手足が血まみれになり、床に膝を付く。
このままでは、勇者さまも――。


魔法使い「ゼエゼェ……僧侶さんは勇者さまを……」

僧侶「……分かった。魔法使いちゃん、まだ全快じゃないから無理をしないでね」

魔法使い「はい……爆発魔法!!」


ドオォォォンッ!

激しい爆発が天使の翼を吹き飛ばした。
しかし見る間に回復してしまい、余裕の表情はまるで消えない。


魔法使い「……そんな」

天使「良かった、無事に蘇生したんだね。少しやりすぎたかなって、心配したよ」

天使「殺されても、怯えずに攻撃する精神力。想い慕う力は強い――か」

魔法使い「ゼェゼェ……」

天使「ところで、キミたちはさあ、どうして魔法を使えると思う?」

魔法使い「それは……」

天使「どう考えてもおかしいだろ。燃焼には三つの要素が必要だし、空気中の水蒸気を凍結させて物質の三態を操作している」

天使「さらには致命傷を一瞬で治癒したり、蘇生までしてしまう。それらを可能とするエネルギーは、一体どうやって調達しているんだろうね」

魔法使い「どういう意味……ですか」

天使「世界の扉を閉めさせてもらうよ。封印魔法!」

僧侶「治癒魔法!」
しかし、効果はなかった。

僧侶「えっ?!」


天使の魔法が発動した直後から、不思議な感覚に包まれている。
全身が魔力で満たされているのに、それを根こそぎ奪い取られたかのような虚脱感。

以前、魔術書で読んだことがある。
魔族との戦争時、堕天使が魔術を封じる魔法を使っていたそうだ。

神の遺産である、ヘクソミノ。
そのパズルは、ピースを敷き詰めても長方形にはならず、凸形になる。

その形が示す、世界への扉。
その道が閉ざされたとき、魔法を失うと言われている。

ただし堕天使のみが使っていた魔法だからか、経験則だけで研究は進んでいない。

勇者「大丈夫だ、これくらいなら問題ない……」

僧侶「勇者さま、大丈夫な訳がないじゃないですか! この装身具を使えば、治癒魔法が発動します。今から、それを解放します」


治癒魔法が発動し、装身具が崩れていく。
回復用の装身具は、あと2つだ。
破壊魔法を発動できる装身具も身につけてはいるが、相手が人間ではないので使えない。

ちらりと魔法使いちゃんを見ると、彼女も困惑した表情を浮かべていた。
魔法を封じられたことに気付いたようだ。

天使「さて、最後は火精霊だ。人は皆、火を熾すことに満足して、最も効率よく燃焼させる方法に気付かない」

天使「魔法使いちゃん、キミの炎は橙色なんだよね。火炎魔法を使うなら、風精霊も組み合わせないと。それが本当の火炎魔法なんだよ」


魔法使い「あ、青白い炎?」


今まで炎は赤いものだと思っていた。
強い炎ほど、黄色く輝きが増すものだと思っていた。

それなのに天使の火炎魔法は、青白い炎が鋭利に輝いている。
この炎が具現化したとき、なすすべもなく焼き尽くされてしまうのではないか――。
そんな想像が脳裏をよぎる。

以前の盗賊騒動で反省して、四大精霊の魔法をそれぞれ装身具に込めて身につけている。
しかしそれでは、格が違いすぎて防ぐことは出来そうにない。

勇者「させるか!!」

天使「おやおや、飛んで火に入る夏の虫だよ」

勇者「虫かどうか試して見ろ。全力の斬撃を見せてやるよ! 雷神斬りっ!!」

天使「なにっ?!」


勇者には女神の加護があるので、状態異常の魔法は効果がない。
刀身に電撃をまとわせると、天使に振り下ろした。

放電現象と斬撃により、上半身を両断する。
具現前の炎は消失し、さらに崩れ落ちる天使を斬りつけた。


勇者「はぁはぁ、どうにか倒せたか?」

魔法使い「勇者さま、すごいです!!」

崩れ落ち着いた天使の身体が、光に包まれた。
その光が集まり、まばゆい輝きを放つ。
そして光の繭が霧散すると、何事もなかったかのように天使が立っていた。


天使「痛ててて――。ひどいなあ、死に掛けたじゃないか。さすが、女神さまに加護されているだけあるよ。あの魔法は天使にはきついか……ふぅ」

勇者「蘇生した……。くそっ、もう一撃!!」

天使「もう良いよ、僕の負けだ」

勇者「勝った……のか?」

天使「勇者ご一行の実力は分かったから、もう十分だ。魔法使いちゃん、苦しい思いをさせてごめんね」

魔法使い「……」

天使「命が命で繋がっていることは、絶対的な真実だ。だからこそ命を奪う重さ、奪われる苦しみを知っておいてほしかったんだ」

魔法使い「は、はい……」

天使「キミの魔法の使い方は、力強くて興味深い。でも、魔法防御が課題かな。あの程度で死ぬようだと、人間止まりだよ」

魔法使い「……もっと頑張ります」

天使「そうだね、期待しているよ」

僧侶「魔法使いちゃんを殺しておいて、『命を奪われる苦しみを知っておいてほしかった』とか、勝手なことを言わないでください!」

天使「そのナイフでは殺せないから、脅しにならないよ。キミは、人間以外には無力だ」

僧侶「どうして、あんなことをしたのですか! 1階の案内人も、自爆させましたよね!」

天使「目的のために犠牲は付き物だ。とは言っても、結果的に蘇生しているんだから問題ないだろ」
僧侶「そういう問題ではありません。それが女神の意志なんですか?!」

天使「彼が自爆したことで、キミたちは命の大切さを考えた。そして彼女も殺されることで、命の大切さを深く知っただろう」

天使「それだけでも、大きな意義があったと言えるんじゃないかな?」

僧侶「そうでしょうか。私には、その必要があったとは思えません!」

天使「大局が見えていないから、そう思うだけだよ。この塔で、4つの命が消えた。それを価値のある犠牲に出来るかどうかは、キミたち次第だ。違うかい?」

魔法使い「そう……ですよね。私は誰の命も、無価値なものにしたくないです」

僧侶「魔法使いちゃん、あなた……」

魔法使い「まだ苦しいけど、ここに来て良かったです」

勇者「大局がみえていないと言うなら、教えてもらおうか。女神はなぜ、僕に神託を下したんだ。こんな茶番をした目的は何なんだ!」

天使「キミたち三人に期待しているからだろ。それ以外に、どんな理由があるというんだい?」

勇者「くっ……」

天使「それでは、試練を乗り越えたキミたちにメッセージだ」


天使はそう言うと、パズルを押し付けてきた。


勇者「メッセージ?」

天使「ああ。試される者よ、キミたちが成し遂げてくれることを期待しているよ」

>>244
訂正します。

誤…崩れ落ち着いた
正…崩れ落ちた


予測変換に気付きませんでした。
すみません。。

11
~支援施設~
受付「大変申し訳ありませんでした」ペコペコ

勇者「つまり本来の担当者が襲われ、訓練施設を占拠されていたんですね」

受付「はい。担当者が向かったのですが、強力な結界で救助することが出来ませんでした」

勇者「まあ、無事に帰れたから良いものの……」

受付「しかし、天使ですか。神の使いが興味を持たれるとは、よほど腕が立つお方なのですね」

勇者「はは、それはどうだろ」

魔法使い「そんなことないです。勇者さま、格好よかったです!! 僧侶さんも、本当にありがとうございました!」

僧侶「……、そろそろ戻りませんか?」

勇者「そうだな」

受付「それでは、こちらは無料サービス券となっております。またの機会にご利用ください」

12
~客船~
勇者「天使が残したこのパズルは、どういう意味なんだろ」

僧侶「長方形が4つ又は5つ繋がったピースが11個、きれいに枠の中に納まっていますよね」

勇者「それは分かるけど、この小さいのは?」

僧侶「恐らくですけど、この枠外にある1単位の長方形1ピースが、この中に入るのではないでしょうか」

勇者「いやいや。いくら何でも、それは無理だろ」

僧侶「正方形を切り分けて並べ替えることで、面積が増減する不思議なパズルがあるんです。これも図形消失パズルの一種かもしれません」

勇者「へぇ、そういうパズルがあるんだ」

魔法使い「面積ではなくて、板を並べ替えることで、描かれた人の数が変わる面白いパズルもありますよ」

僧侶「だけどこれはポリオミノ系で、枠の大きさが固定されているんだよね……」

魔法使い「とりあえず、試してみましょう」バラバラ

勇者「これ、長方形の向きを統一しないと段違いになるな」

僧侶「そうですね」

魔法使い「なかなか納まりませんねえ……」カチャカチャ

・・・
・・・・・・

魔法使い「は、入りました!」

勇者「枠にきれいに入っていたのに、さらにもう一つ入っちゃったぞ。すごいな……」

魔法使い「ですよね、興味深いです。最初に少しだけ余裕があったけど、それが利いているんでしょうね」

勇者「だけどこれに、どんなメッセージが込められているんだ?」

僧侶「昨日、ペントミノを『神様は世界を破壊して創りかえることが出来ることを示すパズルだ』という話をしましたよね。ポリオミノ系のパズルにとって、枠は世界なんです」

勇者「そういえば、そんなことを言ってたね」

僧侶「つまりですよ、このパズルは『何者かが世界に侵入している』ことを示すものではないでしょうか」

僧侶「そして私たちに、その何者かを倒してほしいのではないでしょうか」

勇者「なるほど、それがメッセージかもしれないな」

僧侶「だと思います。でも、腑に落ちないことがあって……」

勇者「腑に落ちないこと?」

僧侶「はい……。方法はどうあれ、天使は命の大切さを強調していましたよね」

勇者「魔王を殺さずに倒すことが、目的なのかな」


僧侶「分かりません。具体的なメッセージが欲しいですよね……」

魔法使い「とりあえず天使さんは、『期待している』と言ってくれました」

魔法使い「今日起きたことを肝に銘じて、もっと頑張ろうと思います。魔法医学も本気で勉強したいです」


勇者「そうだね。詳しいことは、向こうに着けば分かるだろう。神の使いが来たんだし、何かが起きている事は間違いない」

勇者「今日のことを生かして、三人で頑張って行こう」


僧侶・魔法使い「はいっ!」

第5話 おわり

(シチュエーション・パズル)
・ウミガメのスープ

(ポリオミノ)
・ペントミノ
・ヘクソミノ

・図形消失パズル

ようやく終わりました。
支援などのレス、ありがとうございます。


物語は折り返して、次から後半。
いよいよ南極圏、南の大地に上陸です。


ちなみに天使から受け取ったパズルは、『ワンダーパズル』というものです。

第6話 淫されていく想い

~客船~
勇者「僧侶さん、魔法使いちゃんは?」

僧侶「図書室で魔法医学の勉強中です」カチャカチャ

勇者「そうなんだ。この間の天使のことだけど、やっぱり魔法使いちゃんには次の街に残ってもらうほうがいいと思う?」

僧侶「それなら、一緒に行くことに決まったじゃないですか」

僧侶「天使は魔法使いちゃんのことが気に入っているようですし、私たち三人を指名しています。別行動は良くない結果を招く気がします」

勇者「やっぱりそうかな……」

勇者「ところで、何をやってるの?」

僧侶「ペントミノを直方体に積上げています。よし、出来た!」カチャカチャ

勇者「ほんと、僧侶さんはいつも楽しそうだな」

僧侶「そう見えますか? 私だって、いろいろ悩みがあるんですよ」

勇者「たとえば?」

僧侶「そうですねえ……」

僧侶「……」

僧侶「勇者さま、一緒にペントミノ牧場を考えませんか。ピースを柵に見立てて、一番大きな牧場を作るのです」

勇者「今、ごまかした?」

僧侶「そんなことないですよ。私たちがこの世界の中で、いつも幸せに過ごせたら良いなと思って言いました」カチャカチャ

勇者「そうだね。そのためにも、南の調査を早く終わらせないとな」

僧侶「ふふっ、そうですね」


~南の都~
勇者「やっと南の大地に到着したなあ」

魔法使い「船旅も楽しかったです。ここって確か、魔術の研究が盛んな都ですよね」

勇者「そうだよ。きっと色んな書物が置いてあるんじゃないかな」

魔法使い「うわぁ、楽しみです。何冊か買って、村に送ってもらうことって出来ますかねえ」

勇者「お店の人に聞いてごらん」

魔法使い「はいっ」

僧侶「ところで、ここは白夜温泉が有名だそうですよ。その温かいお湯で育った鮮魚が、とても美味しいらしいです」

魔法使い「白夜……。そういえば、昨日は夜でも明るかったです」

僧侶「ここは南極圏だしね。夏も終わりが近いし、この辺りはもうすぐ日が沈むようになるんじゃないかな」

魔法使い「そして秋から、ここは極夜ですよね。どうして、こんな場所で魔術の研究をするのでしょうか?」

僧侶「昔は呪術的な現象だと思っていたから、その名残だと思うよ」

魔法使い「なるほど……。言われてみれば、呪術的なものを感じる気がします」

僧侶「皆既日食なども、呪術的な現象だと信じられていたよね」

魔法使い「いや、そうじゃなくて本当に感じるんです」

僧侶「そうなんだ。でも、魔術の研究が盛んな都だしね」

魔法使い「それもそっか」

勇者「僧侶さん。白夜温泉と魚料理は、あの旅館が良いみたいだね」

僧侶「そうですね、そこに泊まりましょう。お魚、楽しみです♪」


~宿~
僧侶「魔法使いちゃん、見てみて。この窓、南向きだから白夜を満喫できそうだよ。遮光カーテンも付いてるし、観光客のニーズに応えた間取りだよね」

魔法使い「ですね~。日が沈まないときに来られて良かったです」

勇者「今後の予定なんだけど、二人とも良いかな?」

僧侶・魔法使い「はい」

勇者「明日はこの国の王様に会いに行くから、二人は自由行動。明後日はみんなで、買出しをしようと思う」

僧侶「分かりました」

魔法使い「了解です!」

勇者「じゃあ、今から観光に行こうか」

魔法使い「今日のうちに、本屋さんと雑貨屋さんを見つけておきたいです」ルンルン


~街~
勇者「この街は24時間営業の店が多いんだな」

僧侶「やっぱり明るいからじゃないですか?」

勇者「そういう土地柄だもんな。うちの近所でも、そういう店があったらいいのに」

魔法使い「勇者さま、雑貨屋さんがありましたよ」

店主「お嬢ちゃん、いらっしゃい。魔道具や民芸品など幅広く取り揃えているよ」

魔法使い「色んな知恵の輪が置いてありますね。あっ! 九連環ですよ、これ」

僧侶「どれどれ? ほんとだ。神の遺産も売ってるんだ。触っても良いですか?」

店主「見本なら大丈夫だよ」

僧侶「ありがとうございます」カチャカチャ

勇者「僧侶さん、神の遺産ってことは、何か意味があるの?」

僧侶「前から三番目の輪を外すためには、この二番目の輪を利用しないと外せないですよね」

勇者「そうだね」

僧侶「そして四番目の輪を外すためには、三番目の輪を利用しないといけない。後は、この手順の繰り返しです」

僧侶「というわけで、九連環は献身や協調性の大切さを教えてくれるパズルなんです」

勇者「ふぅん」

僧侶「私たちも、大切な人のために何が出来るのか。それを考えられる人になりたいですね」

勇者「大切な人か……」

魔法使い「僧侶さん、僧侶さん! このお店、チリ人の輪やキャストパズルもありますよ!」

僧侶「すごいっ、このお店は難関な知恵の輪の宝庫だね」

魔法使い「ねえねえ、これは何でしょうか?」

店主「その知恵の輪は、チャレンジ知恵の輪だよ。その砂時計が落ちるまでに紐を外せたら、商品を一つ3割引きにします」

魔法使い「何でも安くしてもらえるんですか?! 頑張ります!」

僧侶「針金の先端を輪にして、その輪を通るように針金を曲げて、もう一方の先端も同じように輪にして『8の字』みたいな形にしたものですね」

僧侶「それに付属している紐の輪を、針金から外せばいいのですか?」

店主「そうだよ」

僧侶「……。でもこれ、インチキですよね?」

店主「!! な、何を根拠に!」

僧侶「8の字知恵の輪は、両端の輪で閉じる場所によって2種類作れます。これは、外せない作り方です」

店主「それに気付いたところで、お客に損はないだろ。ちょっとした遊び心じゃないか」

僧侶「インチキだと認めましたね」ニコッ

魔法使い「インチキパズルの紐を外すには、結び目をほどくしかありません」

店主「!!」

魔法使い「砂時計が落ちるまでに、紐を外すことが出来ました」ルンルン

僧侶「ちゃんとサービスしてくださいね♪」

店主「お嬢ちゃんたちには負けたよ……」

勇者「おっ、割引きしてもらえるんだ。ところで、このチリ人の輪って、どうやって外すの?」

僧侶「すみません、知らないです。それは、とても難しい知恵の輪なんです。馬蹄パズルと同じように、抜け道があるのだと思いますよ」

勇者「抜け道か。そういう感じには見えないけどなあ」

魔法使い「リングが中にあるように見えて、実は同時に外でもあるんですよね」

勇者「中にあるように見えて、実は外にある……か」

僧侶「そうです。主観が絶対ではないことが分かりますよね」

勇者「どうしても、この知恵の輪だけは外したいっ!」

僧侶「勇者さまも、パズルの楽しさが分かってきましたね♪ ここは良いものが多いので、買って帰りましょうよ」

店主「ありがとうございます。一つだけ3割引きにしますよ!」

僧侶「安い知恵の輪で、割引特約を使う訳ないじゃないですか。もちろん、魔道具を見てから考えます」

店主「そ、そうですな。お買い物をお楽しみくださいませ」

魔法使い「僧侶さん、魔封じの腕輪や賢者の石なんて高級品がありますよ!」

僧侶「その賢者の石は、純度が低い中クラス品ですよ」

魔法使い「そうなんですね。見分けがつかないです」

僧侶「さっきのパズルのことがあるから、魔道具選びは慎重にね」

魔法使い「は~いっ」

店主「……」

僧侶「勇者さま、この転移の羽を魔法使いちゃんに買いませんか?」

勇者「転移の羽?」

僧侶「魔力を解放すると、一度行ったことのある場所に転移することができる魔道具です。これを西の村に行けるように設定しておけば、魔法使いちゃんだけは無事に帰すことが出来ます」

僧侶「天使とのこともあるし、絶対に必要だと思います」

勇者「そうだね」

魔法使い「良いのですか?! だってそれ、ものすごく高級な魔道具ですよ」

勇者「僕たちにとって、魔法使いちゃんの無事が一番重要なことだからね。砂漠の富豪さんの報酬があるし、一つくらいなら大丈夫だよ」

魔法使い「ありがとうございます」

店主「そ、それを安く買うとはお目が高い……」アセアセ

勇者「ははっ、サービス助かるよ。じゃあ、転移の羽と知恵の輪で」

店主「ありがとうございました」


僧侶「とても良い買い物をしましたね~。浮いたお金で、白夜まんじゅうを食べませんか?」ルンルン

勇者「そうだね。あの喫茶店に寄っていこうか」


~宿・夜~
僧侶「温泉育ちのお魚、美味しかったです」

勇者「メインの鍋をポン酢で食べるのが、あっさりしてて良かったね」

魔法使い「から揚げも美味しかったですよ」

勇者「ところで、明日はどうするか決めたの?」

魔法使い「魔術師の街というだけあって、本屋さんや図書館が充実していたので入り浸ります」

僧侶「転移配送サービスも手頃だったし、行きたい喫茶店もあります。明日が楽しみだね」ルンルン

魔法使い「日が沈まないから、明日って感覚があまりしないですけど」

僧侶「そうだね。今夜は太陽がぐる~っと地平線を回るところを見ていようかな」

魔法使い「私も一度見てみたいです!」

僧侶「じゃあ、先に温泉に行きましょうか。ここは白夜にちなんで混浴だそうですよ」

勇者(混浴だと?)

魔法使い「混浴って、複数の源泉が混ざっているんですか?」

僧侶「どうなんだろ? とりあえず、露天風呂って書いてあるし楽しみだよ~」

魔法使い「露天風呂って、確か景色を見ながら温泉に入れるんでしたよね」

僧侶「そうそう。それでは勇者さま、お風呂に行ってきます」

魔法使い「行ってきます♪」

勇者(こ、これはチャンスだ!)


~宿・温泉~
魔法使い「もう夜なのに明るいって、本当に不思議ですよね~。何だか、神秘的です」

僧侶「さっきから、そればっかりだね。ところで魔法使いちゃん、今日もいい?」

魔法使い「はい」

僧侶「もうちょっと抱き寄せるね」ぎゅっ

魔法使い「……// じゃあ、軽く風魔法いきます」シュッ

僧侶「うぅん、分かりにくいな。外だし、一発ドカンと決めてくれない?」

魔法使い「じゃあ、水精霊と風精霊であの雲を散らします」

僧侶「地味だけど、すごいんだよね?」

魔法使い「はい。では、いきます!」


ボォォンッ


僧侶「おおっ、すごい!! これって、天気を操れるんじゃないの?」

魔法使い「天気を操ろうと思ったら、魔力が空っぽになっても無理ですよぉ」

僧侶「局地的なら行けるんじゃないかな。じゃあ、最後に継続的な魔法よろしく」

魔法使い「風精霊さん、涼しい風をお願いします」ソヨソヨ

僧侶「やっぱり、脳が魔法の発動に関わっているみたいね」

僧侶「客船で何人か調査してみたけど、魔法を使える人と使えない人は脳の使い方に微妙な違いがあるみたい」

魔法使い「そうなんですか?」

僧侶「何て言うのかな、魔法を少しでも使える人には、一箇所だけ不自然な部位があるの」

魔法使い「不自然?」

僧侶「魔法を使おうとすると脳がとても活発になるんだけど、そのときに魔力が収束されて、そのまま消えてしまう場所があるの」

魔法使い「それが世界の扉じゃないですか」

僧侶「私もそう思う。だけどね、そこから先が問題なのよ」

魔法使い「問題って何ですか?」

僧侶「その部位を破壊しても、魔法を使うことができることが確認されているの」

魔法使い「そっか。堕天使しか使った事例がないし、それで研究が止まっちゃったのですね」

僧侶「あのとき天使が、『魔法のエネルギーをどうやって調達しているんだろうね』って言ってたでしょ。それってつまり、ヘクソミノが示す別世界から調達しているんじゃないかな」

魔法使い「だとしたら、転移魔法の範疇に入りますよね。魔力が収束して脳が消費しているのではなくて、魔力を使って別世界に干渉しているんだから」

僧侶「転移魔法か……。ありがと、サクッと勉強してみるよ」

魔法使い「やっぱり封印魔法は難しいのですね。魔法医学を極めるのでさえ大変なのに、さらに転移魔法まで覚えないといけないんだから」

僧侶「そう考えると、天使の知識は人間を軽く超えてるんだなって畏怖しちゃうね」

魔法使い「はい……、すごいです」


勇者「ふうん、二人はお風呂でそんな話をしているんだ」

僧侶「!!」
魔法使い「きゃあああぁぁぁっ!!」

僧侶「あわわ// ゆ、勇者さま、ここは女湯ですよ」

勇者「いやいや、僧侶さん。自分で混浴だと言ってたじゃないですか。ほら、あそこ見て」

僧侶「だ、脱衣所が繋がってます!!」

魔法使い「じゃ、じゃあ混浴というのは……」

勇者「白夜にちなんで昼と夜の区別がない、つまり男と女の区別がないという意味だと思うけど」

魔法使い「ええぇぇっ! い、いつから居たんですか?!」

勇者「雲を消す辺りから。魔法の研究をしているみたいだったし、邪魔したら悪いなって思って……」

僧侶「というか、知ってましたよね?」

勇者「ははっ、ま、まさかぁ。二人がいて、びっくりしたよ」アセアセ

魔法使い「うぅ、もういいです。私の裸をたくさん見ましたよね? 見ましたよねえ!」

勇者「それは……、見ました。ご、ごめんなさい」

魔法使い「じゃ、じゃあ、勇者さまの裸も見せてください//」チラッ

勇者「ええっ!!」
僧侶「いやいやいや。魔法使いちゃん、それは駄目ですっ」

魔法使い「魔法医学の勉強で、殿方の身体構造と生体エネルギーの分布が図解では理解できなくて……。そ、それで勇者さまなら//」

僧侶「ちゃんと理解すれば、裸にならなくても読み取れるようになるんだけど。実技研修のたびに、みんなに裸になってもらう訳にはいかないでしょ」

魔法使い「それはそうですけど、殿方のことが全然分からないです」

僧侶「あっ、そうか……。そのための、基礎知識が身に付いていないのか」

魔法使い「僧侶さんがお風呂で私を抱き寄せるのは、魔力分布を詳しく把握するためですよね。それと同じで……」

僧侶「はいはい、分かったから。私も最初は理解できなかったし、見たほうが手っ取り早いのは確かだよね」

魔法使い「はい、そうですよね//」

僧侶「でも、生体エネルギーの分布は読めるようになったの?」

魔法使い「それはもう完璧です」ブイッ

僧侶「えっ、魔法医学の勉強を始めてまだ一ヶ月でしょ。じゃあ、もしかして回復魔法のステップに入ってるの?」

魔法使い「はい。軽い創傷はもう治せるようになりました。でも血管の処理が難しくて、上手く出来ないときもあるけど……」

僧侶「すごいじゃない! 血管と血液の理解は回復魔法の基礎だから、まずはそこをしっかりね」

魔法使い「はい」

僧侶「それが出来るようになったら、次のステップかな」

魔法使い「まだまだ先は長いですね」

僧侶「いやいや、一ヶ月で回復魔法も出来るって、すごいことだと思う。そこまで出来ているなら、殿方の身体構造を見ておかないと性差が出てきたときに苦労するかも……」

魔法使い「ですよね//」

僧侶「本当は駄目だけど、あ……あくまでも学問のためだから、今回だけは特別に許可をして、許してあげるんですからね」

勇者「あれっ、許しちゃうんだ……」

僧侶「さっきの話、聞いてましたよね?」

勇者「それは、まあ」

僧侶「変な意味じゃなくて、魔法医学の実技研修のために、男性モデルになってくださいとお願いしているだけですから。他のお客さんが来る前に、さくっとやりましょう!」

魔法使い「恥ずかしいけど、勇者さまなら信じられます。協力してください//」

勇者「分かったよ。魔法使いちゃんがずっと頑張っているのは知ってるし、そのモデルって何をすればいいの?」

魔法使い「あ、洗い場に移動してください。大鏡が一枚あるので、その前にお願いします//」


勇者「こ、ここで良いかな?」

魔法使い「あわわ、本当に亀さんの頭みたいです// べ、勉強、勉強!」マジマジ

僧侶「魔法使いちゃん、焦らずに落ち着いてやれば大丈夫だから」

魔法使い「はい。ちょっと抱きつきます」ギュッ

勇者(身体が柔らかい……。いや、無心無心!)

魔法使い「やっぱり、骨格や筋肉量が女性とは違いますね」

勇者「そりゃあ、いつも鍛えているから」

魔法使い「身体付き以外に内分泌も違うし、ここも……」

勇者「まだ終わらないのかな?」

魔法使い「あの、今は基本的な身体構造を確認しているだけで……。殿方の身体構造は、男性器と生殖細胞の確認が中心になります」

勇者「そ、そうなんだ……」

僧侶(やっぱり、許すんじゃなかった。これを既成事実にしたくない……)

魔法使い「勇者さま、鏡のほうを向いてください。あの、触りますね」さわさわ

勇者「さすがに触られると……」

魔法使い「あっ、ここで反応して大きくなるんだ」にぎにぎ

僧侶「ねえ、勇者さま。今なら興奮しやすいように、私の身体を許しますよ」ムニュッ

勇者「えっ、僧侶さん、それって……」

僧侶「……はい。性的に興奮して射精することが、男性モデルの役目です//」

勇者「いやいや、うれしいけど冗談だろ」

魔法使い「うれしいなら問題ないですよね。射精してください、お願いします//」

僧侶「別に我慢しなくても良いんですよ。触りたくありませんか?」

勇者「じゃ、じゃあ、その大きなおっぱいを」

僧侶「あぅ//」

魔法使い「完全に勃起して硬くなりました// こんなに早くて複雑な反応なんですね」

勇者「ヤバい、気持ちいい……」

僧侶「魔法使いちゃん。殿方の生体エネルギーの分布が、性的な興奮でどう変化していくのかよく覚えておいてね」

魔法使い「は、はいっ」

僧侶「もちろん、全身の反応もすべて読み取るのよ」

魔法使い「勇者さま、もう少し抱き締めます」ギュッ

僧侶「――で、その変化が安定したら脊髄にある射精中枢が反応して、射精反射が発生するから。男性器の変化は早いから気をつけてね」

魔法使い「はい。何か出てきましたよ……。へぇ、ここから分泌されてるんだ」

僧侶「あぅんっ……// 勇者さま、そこは駄目です」

勇者「でも、すごく濡れてるよ」ヌルッ

僧侶「……。じゃあ、優しくしてくださいね//」

勇者「これは痛くない?」クチュクチュ

僧侶「そう、そこ……そんな感じ」ビクッ

魔法使い(二人とも興奮してる。ううん、今は集中しないと!)

勇者「びくって、僧侶さん感じてるんだ」クチュクチュ

僧侶「はぃ……気持ちいいです//」ハァハァ

魔法使い「精子が移動してますね。あっ、ついに脊髄反射が来ました!」シコシコ

勇者「ちょっと待って、それ以上されると」

魔法使い「今、精液がたくさん作られています。もう出すしかないですよ」

僧侶「勇者さま、私の手に出してください//」

勇者「イクっ!」ドピュッ

魔法使い「わわっ、飛び出すんだ……// す、すごいです!!」

僧侶「ほら、一緒に興奮しない。殿方は射精したらすぐに醒めるから、身体反応の確認をしておいて」

魔法使い「えっ、あっはい」アセアセ

僧侶「どう、分かる?」

魔法使い「何かの酵素が影響して、男性器への血液の流量が変化しています。それと脳内で、新たにホルモン分泌がされているみたいです。あとは少し難しいです」

僧侶「そこまで分かるって、すごいじゃない。じゃあ、最後に精液を確認して」ドロッ

魔法使い「みんな元気ですね。でも、ごめんなさい。流しちゃいます」

僧侶「ちゃんと分泌液の役割とか、精液の変化を観察してからね。それも大切なことだよ」

魔法使い「えっと、頑張ってみます」


僧侶「勇者さま、お疲れさまでした。身体が冷えるし、私たちは湯船に戻りましょう」

勇者「そうだね。僧侶さん、このあと二人で出かけて続きをしませんか?」さわさわ

僧侶「う~ん、すみません。今夜はちょっと無理です。それに身体を許したのは学問のためですから、勘違いしないでくださいね」

勇者「そっか……」

僧侶「でも、もう良いかなと思いはじめています。だから、少し考えさせてください。私には、とても大切なことなので――」

僧侶「ところで勇者さま、魔法使いちゃんの手で射精しましたよねえ」

勇者「あれは不可抗力というか……」

僧侶「それが目的だったので怒っていません。魔法使いちゃんは、勇者さまなら信じられると言いましたよね」

勇者「……ああ」

僧侶「どうか、それを裏切らないであげてください。特に今回のことで、彼女を利用したりしないよう、お願いします」

勇者「分かってるよ。魔法使いちゃんは妹みたいなものだし、さっきのことは割り切るつもりだから」

僧侶「そうなんですね……」

勇者「ふと思ったんだけど、魔法使いちゃんって、僧侶さんから見てどうなの?」

僧侶「きっと、すごい賢者になりますよ。まだ身体構造は理解してないけど、もう的確に把握できているみたいです。一ヶ月で出来ることではありません」

勇者「そうなんだ。僧侶さんは、どれくらいかかったの?」

僧侶「私は12歳から勉強をはじめて、半年くらいかな。私が魔法使いちゃんと同じ歳のときは、怒られてばっかりでしたよ」

勇者「今の僧侶さんからは、想像出来ないね」

僧侶「でもそういう時期があって、今の私があるんです。厳しかった先生に感謝しています」

勇者「でも僧侶さんって、どうして賢者を目指さないの?」

僧侶「人の命について、深く知りたかったからです。だから――」

魔法使い「勇者さまぁ//」ジャブジャブ

勇者「どうしたの?」

魔法使い「今日は協力してくれてありがとうございました。殿方の性がこんなにも精巧で複雑だなんて、全然思ってなかったです。すごく勉強になりました!」

勇者「それは良かったね。応援してるから、勉強頑張って」

魔法使い「はいっ! あの、気持ちよかったですか?」

勇者「そういうことは聞かない」

魔法使い「ふふっ、私は全部お見通しですよ//」

勇者「なっ……、女の子はそういうことも言わない!」

魔法使い「えへへ//」

魔法使い「あの、僧侶さん。手伝ってくれてありがとうございました。勇気を出してお願いして、本当に良かったです」

僧侶「今回は、特別に許してあげただけだからね」

魔法使い「……分かっています。それと僧侶さんの身体反応は、やっぱり私と同じなんですね」

僧侶「えっ、そんなことまでしてたの?!」

魔法使い「背中がずっと触れていたので、ついでに……。二人同時はちょっと疲れました」

僧侶「そうなんだ……」

勇者「というか、さらっとすごいことを言ったような」

魔法使い「わ、私だって、そういう気分になるときがあります//」

勇者「そう……だよね」

僧侶「それは良いけど、精液のほうはどうしたの?」

魔法使い「バッチリです! そういえば、流そうとしたら固まりました。勇者さまがいつも部屋でなさるのは、流しにくいからなんですね」

勇者「えっ、あぁ、うん……」

僧侶「たんぱく質は熱に弱いの。後で一緒に、さっきの復習をしましょうね。ちゃんと理解すれば、身体構造や神経作用が飛躍的に分かるようになるから」

魔法使い「はいっ、お願いします。人の身体って、すごく面白いです!」


勇者「じゃあ、僕は先に戻ってるから」ジャブ

魔法使い「勇者さま……。ここは混浴だし、明日から一緒に入りませんか」

勇者「いやいや、さすがにそれは……」

魔法使い(勇者さまが一人で入っているときに、知らない女の人がいたら……)

僧侶「あの……、知らない殿方に声を掛けられたら怖いし、勇者さまに居てほしいです」

勇者「まあ、そこまで言うなら……」チラッ

魔法使い「わわっ、勇者さまがまた勃起しました//」

僧侶「えっ」
勇者「あっ!」ジャブ

魔法使い「さっき出したのに、本当にエッチですね//」

勇者「はは……」

魔法使い「一緒に入って興奮させて、ずっと我慢させるのは申し訳ないです」

勇者「心配しなくても大丈夫だから」

魔法使い「でも、したいから勃つんですよね――」

僧侶「じゃあ、今夜から勇者さまの更衣室を広げてあげましょうか」

魔法使い「それでどうするんですか?」

僧侶「私たちが部屋にいても、一人でしやすくなるでしょ」

魔法使い「あっ、そうですね。それなら、勇者さまがいつでも出来ますね」

勇者「僕は、二人がいたら気になるんだけど……」

僧侶「私たちは一緒にお風呂に入って、勇者さまを射精させたのですよ。もう今さらじゃないですか」

勇者「それもそうだな」

僧侶「だから私たちの関係に合わせて、部屋の間取りも工夫しましょうよ」

魔法使い「そうです。いつでも出来るようになれば、時間の使い方も変わりますよ」

勇者「じゃあ、部屋に戻ったら頼むよ」

魔法使い「はい、任せてください//」

10
~部屋・深夜~
魔法使い「――つまり回復魔法は、自然回復しない創傷は治せないということですか?」

僧侶「そうです。回復魔法は自然治癒力を加速させる魔法なんです。だから、瀕死の重傷や破裂した内臓は治せません」

魔法使い「そうなると、治癒魔法や蘇生魔法が必要なんですね」

僧侶「そうそう。治癒魔法は生体エネルギーを増幅させて、自然回復を超えた治癒をする魔法。蘇生魔法は失った生体エネルギーを取り戻して、身体機能を再生させる魔法なの」

魔法使い「蘇生魔法は、生き返らせる魔法じゃないんですか?」

僧侶「その生き返らせるというのが、そもそも間違っているの。生体エネルギーを取り戻せる身体でなければ、生きていられないでしょ」

魔法使い「そうですね……」

僧侶「欠損した身体の修復はさらに高度な魔法だし、蘇生魔法があっても人の命は一つしかないということは忘れないでね」

魔法使い「はいっ」

僧侶「じゃあ、勉強はこれでお仕舞い。白夜を見ながら、もう休みましょ」

魔法使い「太陽がちょうど真南に来ていますよ。もう真夜中ですね」

僧侶「太陽が南中して夜中っていうのも、不思議だよね」

魔法使い「はい」

僧侶「勇者さま、チリ人の輪は外れそうですか?」

勇者「んっ? 勉強終わったんだ。さっきから同じことの繰り返しで、外れる気がしないよ」カチャカチャ

僧侶「少し休んで、みんなで白夜を見ませんか? いい眺めですよ」

勇者「そうだな」

魔法使い「勇者さま、見てください。太陽が沈まずに、円を描くようにして動いてますよ」

勇者「実際に見てみると、白夜って幻想的なんだな」

魔法使い「はい。みんなで見られてうれしいです♪」

勇者「そうだね。良い思い出になりそうだね」

魔法使い「あの、勇者さま……。私たちは今、太陽が描く円の中にいるのでしょうか? それとも、円の外にいるのでしょうか?」

勇者「もしかして、なぞなぞ?」

魔法使い「いえ、そういう訳じゃないです」

勇者「普通に考えたら、ここは円の中だよね」

魔法使い「円の中か……」

勇者「それがどうしたの?」

魔法使い「円の中にいるなら、私たちの絆は外れないですよね。あのお店にあった、インチキな知恵の輪と同じです」

勇者「魔法使いちゃん、それは少し違うかな」

魔法使い「えっ、何がですか?」

勇者「僕たちは知恵の輪と同じ。中にいるように見えて、実は外にいるんだよ」

魔法使い「外……ですか?」

勇者「だから絆を深めあって、固く結びつくことが大切なんだ。そうしないと、絆がバラバラになってしまうから」

魔法使い「そっか、知恵の輪なんだ……」

僧侶「外せないから言い訳ですか? ふふっ」

勇者「良いことを言ってるんだから、茶化すなよ。というか、僧侶さんも外せないんだろ?」

僧侶「九連環なら外せます」

魔法使い「あの……。知恵の輪を外した後は、また元に戻しますよね。いつか別れることになっても、私は勇者さまや僧侶さんと一緒にいたいです」

僧侶「大丈夫だよ。魔法使いちゃんは、私たちの大切な仲間だから。私たちの関係が変わったとしても、それだけは変わらないよ」

魔法使い「はぁ……。今の会話に反応しないなんて、鈍いですねえ。それなら明日、露天風呂でたくさん誘惑しちゃいます//」

僧侶「それは駄目です! 勇者さまは私が……」

勇者「僧侶さん。それって、もう身体を許して――」

僧侶「ろ……、露天風呂は、そんなことをする場所ではありません!」

勇者「だよね……」

僧侶「せっかく更衣室を広くしたんだし、そちらでなさってください」プイッ

魔法使い「あらら、怒らせちゃいましたね」

勇者「まあ、いつものことだから」


僧侶(いつものこと……か。やっぱり勇者さまは、したいだけなのかな。それとも――)

魔法使い「……」

第6話 おわり

(知恵の輪)
・チャイニーズリング(九連環)
・チリ人の輪

・キャストパズル

(不可能知恵の輪)
・タオ

今回はここまでです。

雰囲気が変わって、
ようやくエロ展開です。
空気を読んだっぽいレスも、ありがとうございます。


パズルネタは、チリ人の輪。
解き方と答えが、三人の関係を暗示している!
そんな気がして、勇者に解かせています。

入手困難だけど、ダイソー知恵の輪が遊びやすいです。


次回の話は、後編になります。
三人の関係が変化しつつ、ラストも近付いてきた感じです。

第7話 幸せはどこにある

~南の都・図書館~
僧侶「魔法使いちゃんは、何を読んでるの?」

魔法使い「宿から持ってきた、魔法医学の本です。予定しているところまで読んだら、精霊魔術の研究論文にも目を通そうと思います」

僧侶「そうなんだ。魔法医学のことは、何でも聞いてね」

魔法使い「はい。僧侶さんは、何を借りてきたんですか?」

僧侶「転移魔法の入門書。これはここで目を通して、研究論文は書店で買う予定かな」

魔法使い「本当に勉強するんですね」

僧侶「まあね。白夜だから夜も明るいし、本を読むには打ってつけだね」

魔法使い「そうですよね~。今日はゆっくり勉強できそうです」

・・・
・・・・・・


僧侶「魔法使いちゃん、これを見てみて」

魔法使い「何ですか?」

僧侶「絵のパズル、だまし絵です」

魔法使い「これはエッシャーの滝ですよね。こっちは階段ですか? それくらいなら、私も見たことがありますよ」

僧侶「これを実際に作ってみた研究者がいるんだって」

魔法使い「えっ……、あり得ないでしょ」

僧侶「ほらっ」

魔法使い「うわぁ、すごいです! 一見すると不可能なことでも、視点を変えれば再現することが出来るんですね。無理やり作った感じが、逆に好感を持てます」

僧侶「今度は逆さ絵だよ」

魔法使い「変わった帽子を被った貴族の絵ですね」

僧侶「その絵を逆さまにすると、馬の絵になるの」

魔法使い「面白いけど、それが転移魔法とどんな関係があるんですか? メビウスの輪やクラインの壷のほうが、ベースになっていそうな気がするんだけど」

僧侶「認識や錯覚の仕組みを考えて、世界を柔軟に捉えるという意図があるみたい。魔法医学の分野でも興味深いテーマですよ」

魔法使い「それで私に見せてくれていたんですね」

僧侶「えっ、もしかして邪魔をしてると思ってたの?」

魔法使い「そんなつもりで言ったんじゃないです」アセアセ

僧侶「じゃあ、最後に面白い隠し絵を見せてあげるね。何に見える?」

魔法使い「あわわ// 男女が裸でキスをしています」

僧侶「ふふっ。魔法使いちゃんは、昨日からエッチなことばっかり考えているもんね。それにしか見えないよね」

魔法使い「むうっ……、私はエッチじゃないです」

僧侶「拗ねる魔法使いちゃん、すごくかわいい//」

魔法使い「もしかして、昨日の勇者さまと僧侶さんを連想させるために、わざとこれを選んで私に見せたんですか?」

僧侶「……そうだよ。私は今、魔法使いちゃんに心の準備をしてほしいと考えているから」

魔法使い「やっぱり、そうなんですね……」

僧侶「魔法使いちゃんは、勇者さまのことをどう思っているの?」

魔法使い「そ、それは……」

僧侶「それは、何?」

魔法使い「……ぃぃんです」

僧侶「えっ?」

魔法使い「僧侶さんが勇者さまを好きなら、それで良いんです……」

僧侶「それで良いの?」

魔法使い「勇者さまは、いつも僧侶さんを見てるから……。私はまだ子供なんです」

僧侶「……」

魔法使い「でも私だって、もうすぐ結婚出来る歳だもん。僧侶さんが早くしないなら、私が誘惑しちゃいますから!」

僧侶「どうするかは勇者さまの態度しだいなんだけど、今言ったことは後悔しないでね」

魔法使い「わ、分かってます。避妊具なら、道具屋さんにありました」

僧侶「うん、分かった……」

魔法使い「……はぁ」

僧侶「ところで、イルカは見つかった?」

魔法使い「イルカですか? そんなのいませんよ」

僧侶「ほらほら、邪念を払って。イルカは何頭いるかなぁ」

魔法使い「駄目です、見つけられません……」ショボン


~宿・部屋~
勇者「おかえり」

魔法使い「ただいま」

僧侶「ただいま戻りました。王様の話はいかがでしたか?」

勇者「それはあとで話すよ。いつも頑張ってくれているお礼に、今日は二人にプレゼントがあるんだ」

魔法使い「プレゼントですか? うれしいです」

勇者「これが魔法使いちゃんで、こっちが僧侶さん」

魔法使い「ありがとうございます。開けても良いですか?」

勇者「開けてもいいよ」

魔法使い「え、エメラルドのネックレスです!」

勇者「エメラルドには魔力を宿す力があるって聞いたから、魔法使いちゃんにちょうど良いかなって。それがあれば、魔力が空っぽになるリスクを減らせるだろ」

魔法使い「はい、ありがとうございます。エメラルドには魔力を増幅する力もあって、ずっと欲しいと思っていたんです」

勇者「それは良かった」

魔法使い「あの……、似合いますか?」

勇者「すごくかわいいよ」

魔法使い「えへへ//」

僧侶「勇者さま、この指輪はどう解釈したら良いんですか?」

勇者「僧侶さんはパズル好きだし、パズルリングなら喜ぶかなって。ミスリル製だし、装飾品として遜色しないと思うよ」

僧侶「ありがとうございます。これを選ぶとき、何か言われませんでしたか?」

勇者「いや、別に」

僧侶「そうなんですね……」

魔法使い「そ、それじゃあ、夕食の前にお風呂に入りませんか。勇者さまにお礼をしたいです//」

勇者「そっか、一緒に入ることになっていたっけ」

魔法使い「そうですよ。早く入りましょう//」

僧侶「では、勇者さま。一緒に入りましょうか」

今日はここまでです。

イルカのだまし絵は、
『Message d'amour des dauphins』
を検索すると見られると思います。

9 匹くらい…?

>>334

回答ありがとうございました!


正解です!!


~温泉・混浴~
僧侶「魔法使いちゃん、今日もいい?」ギュッ

魔法使い「……はい。風精霊」ソヨソヨ

勇者「昨日もやってたけど、それって何の研究をしてるの?」

僧侶「天使がしていた封印魔法の研究です」

勇者「そうなんだ。素人考えだけど、魔力を吸収する魔法ってないのかな」

僧侶「ありますが意味がないんです。人の力では魔力を空っぽに出来ないんです」

勇者「でも魔力を吸収する魔道具があるじゃないか」

僧侶「その昔、人間と魔族の戦争がありましたよね」

勇者「ああ、人間側が勝利した戦争だね」

僧侶「そのときに堕天使が持ち込んだ神の道具があって、そのレプリカが魔力を吸収する魔道具なんです」

勇者「そうなんだ」

僧侶「つまり人間には、その魔道具以上のことが出来ないのです」

勇者「なるほど……」

僧侶「分かっていることは、魔力が心臓から生み出されていること。そして魔法を使うときに、脳の一部で消滅することです」

僧侶「人の力で魔力を空っぽに出来ないのは、別の世界に魔力が貯蔵されているからかもしれません」

勇者「なんだか難しいね……」

僧侶「そう言えば、勇者さまも魔法を使えましたよね」

勇者「まあ、少しくらいなら」

僧侶「風と土、電撃の魔法でしたっけ。性差があるのか確認したいので、ぜひ見させてほしいです」

勇者「でも剣術に特化させているから、魔法使いちゃんみたいに使いこなせないよ」

僧侶「それでもいいですよ。じゃあ、抱き寄せるので何か見せてください」ムニュッ

勇者「……// じゃあ、水妖斬」パシュッ

魔法使い「手刀で水が二つに割れました!」

勇者「魔法って言うか、これは水中の魔物を斬る体術だね」

僧侶「ありがとうございます。魔法使いちゃんと同じでした」

勇者「ところで、王様の話だけど……。極南の地が闇に包まれているという話は、どうやら本当みたいなんだ」

僧侶「やっぱり、噂ではなかったのですね」

勇者「ああ。単なる噂なら、天使が現れたりする訳がないからな」

僧侶「そうですね」

勇者「それでだ、闇には結界が張られていて、近付くことが出来ないらしい。だから、この国でも手をこまねいているそうなんだ」

僧侶「結界で近付けないなら、私たちの調査も終わりですね……」

勇者「いや、そうじゃない。女神の神託があった者とそれが選んだ者だけは、結界の中に入れるみたいなんだ」

僧侶「女神の加護があるのは勇者さまで、選んだ者は私と魔法使いちゃんですね」

魔法使い「天使さんの言葉と符合します」

勇者「ただ、問題が一つあって……。結界に侵入して帰ってきた者は、数人しかいないんだ」

僧侶「えっ?!」

魔法使い「それってつまり、生きて帰ることができないということですか?!」

僧侶「だから、情報が集まらないのですね」

勇者「恐らく……」

魔法使い「私たちは、天使さんに期待されていますよね。だから、帰るわけにはいかないですよね」

僧侶「そうだね。魔法使いちゃんも、行くしかないと思う」

勇者「でも転移の羽がある訳だし、魔法使いちゃんだけは守ってあげられるから。何かがあったときは、王様に真実を伝えてくれないかな」

魔法使い「分かりました……」

勇者「じゃあ、結界内では何が起きるか分からないから。二人とも自衛策を講じておいてほしい」

魔法使い「……はい」

僧侶「私は、勇者さまと共に歩みます。回復なら任せてください!」

勇者「それで、次は明日の予定なんだけど……」

僧侶「はい」

勇者「この国の王様が、魔法使いちゃんに会いたいそうなんだ」

魔法使い「ええっ! 私にですか?!」

勇者「この国は、魔術の研究が盛んな都でもあるだろ。それで天使と戦闘経験がある魔法使いちゃんに、ぜひ実力を見せてほしいんだって」

魔法使い「戦闘経験って、ほとんど一方的に攻撃されただけです」

勇者「そんな事ないよ。この世界に天使と対峙した魔道師は、魔法使いちゃんだけなんだから。それは偉大なことだと思う」

魔法使い「そ、そうですよね」

僧侶「そうですよ、すごいことです! 他国の王様が会いたいとおっしゃるなんて、もう有名人だね」

魔法使い「は、はいっ。明日、頑張ります」

勇者「じゃあ、そういう訳で、しばらくここに滞在することになるから」

魔法使い「わ、分かりました」


~宿・深夜~
僧侶「勇者さま、起きていますか?」ガサゴソ

勇者「ん? あぁ、僧侶さん。白夜が眩しくて寝られないんですか?」

僧侶「いえ、どうしても話したいことがあって……」

勇者「話したいこと?」

僧侶「はい。今日くださった、この指輪のことです。本当に装飾品以上の意味はないんですか?」

勇者「そうだけど、寝るときも着けてくれているんだ」

僧侶「あの……、これは浮気防止用のリングなんです。いわゆる、結婚指輪です」

勇者「えっ?!」

僧侶「この指輪は指から外すと、簡単にバラバラになるんです。だから婦人は、指輪を外すことが出来ません」

僧侶「そのため、出兵などで長期間の旅に出る殿方が、妻に贈るのです」

勇者「宝石店では、アクセサリーとして売っていたんだけど……」

僧侶「勇者さまに、ずっと聞きたいことがありました」

勇者「聞きたいこと?」

僧侶「エルグの城で仲間を選ぶとき、勇者さまは女僧侶を指名して、戦士や魔法使いの同行を断りましたよね。女性の身体が目当てで、二人旅を選んだのですか?」

勇者「それは……」

僧侶「答えてください。勇者さまは、私と交わりたいだけなのですか?」

勇者「最初はそのつもりだった」

僧侶「……!」

勇者「だけど、すぐに別の気持ちに変わったよ。魔法使いちゃんと姉妹みたいに楽しそうな姿を見ていたら、この二人を守らないといけないなって」

勇者「それに食べることが好きなところが、一緒にいて気が合う女性だなと思ってる」

僧侶「……」

勇者「怒った……かな?」

僧侶「いえ……、正直にありがとうございます。おかげで、決意出来ました」

勇者「決意?」


僧侶「私も食べることが好きな勇者さまと気が合うし、一緒にいて楽しいです。この人となら仕事の関係だけじゃなくて、ずっと信頼して一緒にいられそうだなと思っています」

勇者「それって……」

僧侶「はい、私は勇者さまが好きです。それで……、避妊具も用意しました」

勇者「僧侶さん、気持ちはうれしいけど逃げてない?」

僧侶「逃げる……ですか?」

勇者「生きて帰れる保証がないから、その前にさせてあげようって」

僧侶「やっぱり、勇者さまは信頼出来る方ですね。でも私が聞きたいのは、そんな言葉じゃないんです。勇者さまが私とどうしたいのか、それを聞かせてほしいんです」

勇者「分かった。これ以上は言わなくていい」

僧侶「……」

勇者「僕は僧侶さんのことが好きだ。好きだから、僧侶さんのことが欲しい」

僧侶「うれしい……。私も勇者さまが好きです」チュッ

勇者「ローブの下は、こんな下着を着ているんだ」

僧侶「このランジェリーは、刺繍がかわいいんですよ//」

勇者「ほんとだね。僧侶さん、可愛いよ」さわさわ

僧侶「あんっ……// 触り方がいやらしいです」

勇者「おっぱいが大きくて柔らかいから」

僧侶「大きいおっぱいが好きなんですか?」

勇者「僧侶さんだから、好きなんだ」モミモミ

僧侶「えへへ// 私のおっぱいはぷるぷるですよ」チュッ

勇者「じゃあ、脱がすね」

僧侶「……//」

勇者「裸になっちゃったね」

僧侶「なっちゃいました。恥ずかしいです//」

ちゅっ

僧侶「んっ……んんっ」

勇者「僧侶さん……」

僧侶「ふふっ// 勇者さまぁ」

勇者「好きだ」チュッ

僧侶「はい……、んっ……ぅんっ」

僧侶「あうん……」

勇者「おっぱい、ぷるぷるだね。乳首が硬くなってきたよ」チュパ

僧侶「はぅっ……、ぅん。勇者さま、いやらしいです」

勇者「僧侶さんこそ。ほらっ、もうすごく濡れてるよ」クチュクチュ

僧侶「やぁん// 言わないで」

勇者「いっぱいヌルヌルになって、感じてくれているんだね」

僧侶「……//」

勇者「この辺りが好きなんだっけ?」

僧侶「ひゃうっ、そこが気持ちいいです//」ハァハァ

勇者「いいなぁ……。可愛いよ、僧侶さん」クチュクチュ

僧侶「あんっ、あぅんっ……んっ//」

僧侶「はぁはぁ……// 勇者さまのアソコが、すごく硬くなってますよ」

勇者「それは、僧侶さんがエッチだから」

僧侶「ふふっ♪ 先っぽから、何か出てますね//」シコシコ

勇者「僧侶さん……気持ち良い」

僧侶「いっぱい出てきた// 今度は、私が気持ちよくしてあげるね」

勇者「じゃあ、フェラを頑張れる? 口でするんだけど」

僧侶「や、やってみます!」

僧侶「はむっ、ちゅぱちゅぱ……。くちゅっ……、こんな感じですか?」

勇者「気持ちいいよ、歯は立てないようにね」

僧侶「はい。……ちゅっ、んんっ……ちゅぱちゅる」

勇者「すごく上手だよ」モミモミ

僧侶「ちゅぱちゅぱ……はうんっ……ぅんっ」

勇者「僧侶さん、やばい……いきそう」

僧侶「もういっちゃいそうですか?」

勇者「それ以上されたら、もうヤバいって」

僧侶「では、出してください// 二回戦を、一緒に楽しみましょう!」

勇者「初めては、僧侶さんと一緒になりたい」

僧侶「……// じゃあ、射精中枢が反応しないギリギリまで、めいっぱい気持ちよくしてあげますね」チュパチュパ

勇者「うおっ、ちょっ……僧侶さん……いくっ」ハアハア

僧侶「ちゅぱちゅぱ……ちゅる、ちゅっ……くちゅくちゅ、ちゅぱ……」

僧侶「ちゅぱちゅぱ、くちゅ……。勇者さまぁ、いかがですか?」

勇者「はあはあ……気持ちいい。僧侶さん、絶妙すぎるよ……」ハアハア

僧侶「私は魔法医学を極めた女僧侶ですよ。性反応も性感も、魔力で全部お見通しなんです//」

勇者「はあはあ……」

僧侶「だから勇者さまと一緒に、二人でめいっぱい性感を高め合いたいです//」チュッ

勇者「僧侶さんって、実はすごくエッチなんだ」

僧侶「すごくエッチな女性は駄目ですか?」

勇者「僕はそんな僧侶さんも大好きだよ。もう手放したくない」クチュクチュ

僧侶「はぅん……、うれしい。ああっ、いぃ……んぅ」


勇者「僧侶さん、もう入れて良い?」ハァハァ

僧侶「いい……ですよ。勇者さまと一つになりたいです// 一応、アレを着けてくださいね」

勇者「分かってるよ。僧侶さん」チュッ

僧侶「ぁん……// こ、こんなに大きいのが入るんですよね」

勇者「そうだよ」

僧侶「あの……、優しくしてくださいね//」

勇者「じゃあ、入れるよ」クチュッ

僧侶「あぅん……ぅんっ……」

勇者「僧侶さん、痛かったら言ってね」クチュクチュ

僧侶「はいっ……」

勇者「ゆっくり入れてるから」

僧侶「くっ、んんっ……」

勇者「はぁはぁ……、奥まで入ったよ」

僧侶「んっ……。一つになれてうれしい……です//」

勇者「僕も今、すごくうれしい。それじゃあ動くね」

僧侶「はうっ、やぁっ……あうんっ…」

ギシギシとベッドが軋む音。
そして、僧侶さんのあえぎ声で目が覚めた。

白夜の影響で、遮光カーテンを閉めていても室内はわずかに明るい。
ちらりと見ると、二人が裸で絡み合っていた。


魔法使い(ああ、本当にしてる……)


図書館の帰り道、僧侶さんは道具屋さんに寄っていた。
そこに避妊具が売っていることを教えたのは私なので、すぐにそれだと分かった。

きっと、今夜するつもりだ――。

そう思って心の準備をしていたけど、実際にその行為を見てしまうと心が痛い。

僧侶「ああっ……いぃ、はぅん…………」

勇者「僧侶さん、いきそう」

僧侶「いいですよ……中に出してっ、勇者さまぁ」

勇者「イクっ!」ドピュドピュッ

僧侶「……んっ…………はぁはぁ」

勇者「僧侶さん、大好きだよ」

僧侶「私もです……。勇者さま、いっぱい出ましたね//」

勇者「ものすごく気持ちよかったから// 僧侶さんと一つになれて、すごく幸せだよ//」

僧侶「ふふっ// 何だか、恥ずかしいです」

勇者「もう僧侶さんを放さないよ。絶対に大切にするから」ぎゅっ

僧侶「はぃ……//」

僧侶さんは、この部屋で交わって、私が起きるとは思わなかったのだろうか。

そう考えて、寝ている私を一人に出来ないことに気が付いた。

それに、僧侶さんの背中を押しておきながら、二人きりになれる時間を作ってあげなかった。

私が寝るのを待つのは、当然かもしれない。


僧侶「勇者さまぁ、また勃ってますよ。二回目、出来そうですね//」

勇者「僧侶さん、本当にエッチだなぁ」クチュクチュ

僧侶「ひゃうんっ// 勇者さまこそ、エッチです。また二人で、めいっぱい気持ち良くなりましょ♪」


魔法使い(……はぁ。僧侶さん、すごく幸せそう)

それなのに、
私は嫉妬している――。


勇者「ふと思ったんだけど、今日はずっと魔法使いちゃんと一緒だったはずだろ。ということは、このことに気付いてるんじゃないのか?」


僧侶「実は、魔法使いちゃんが背中を押してくれたんです。もしかしたら、寝たふりをしているのかもしれないですね」

魔法使い(……!!)

勇者「それはそれでまずいんじゃない?」アセアセ

僧侶「睡眠魔法も考えたけど、精神感応系の魔法は身体への負担が大きいのです。そんなこと、大切な魔法使いちゃんに出来るわけないじゃないですか」

勇者「そうだよな……」

僧侶「それに私たちは、後ろめたいことは何もしていません。受け入れてくれると信じています」

勇者「まあ寝てるみたいだし、次から気をつけようか」

僧侶「そうですね」

勇者「僧侶さん……。僕たちが結ばれたのは魔法使いちゃんのおかげだし、彼女との絆はもっと大切にしないといけないと思うんだ」

僧侶「もちろんです」

勇者「だから、何があっても、僕たちも生きて帰ろう。今まで魔法使いちゃんを逃がす方法を考えていたけど、それだけじゃ駄目なんだよ。彼女の未来のためにも、三人で一緒に帰ろうな」

僧侶「はいっ。魔法使いちゃんと話したいことが、これからいっぱい増えそうですしね。さくっと目的を済まして、みんなで楽しく帰りましょう」

魔法使い(やっぱり二人は、私のことを想ってくれているんだ……)

僧侶「あっ! でも三人で帰ると、一緒に出来ないですね」

勇者「そっか、まあ一人で我慢するから良いよ……」

僧侶「いえっ、落ち着いたら魔法使いちゃんと話し合って、私たちが出来るように工夫しましょう。それまで、浮気だけはしないでくださいね」

勇者「分かってるよ」

僧侶「いっその事、勇者さまがこの指輪を嵌めますか?」

勇者「いやいや、サイズが合わないよ。絶対に二人を裏切らないから」

僧侶「その言葉、信じています。魔法使いちゃん、こんな私だけど応援してくれますか?」

魔法使い(ば、バレてる……)

僧侶「なんて、起きてるわけないよね。魔法使いちゃん、本当にありがとう。またちゃんと話すから、これからも一緒に旅をしようね。おやすみなさい」


~翌日・お城~
魔法使い「あ、あの、お城で、ど、どのようなことをするのでしょうか」

僧侶「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私たちも一緒だから」ニコッ

勇者「そうだよ。栄誉あることだから、もっと堂々としないと」

魔法使い「は、はいっ」

魔法使い(何だか、昨夜のことを意識しているのは私だけみたいです……)

王様「待たせたな。で、どなたが魔法使いなのじゃ」

魔法使い「わ、私です」

王様「おぉ、まだ少女ではないか。その歳で勇者一行として旅に出るとは、よほど優秀と見える。天使と戦ったと聞いたが、それは真か?」

魔法使い「は、はい。海の都の支援施設で訓練をすることになって、そこに現れた天使さんに指導してもらいました」

王様「なるほど。魔法使いよ、実はわが国の魔法兵団の兵長が、手合わせを願いたいと申しておるのだ。よもや少女だとは思っていなかったので、断っても良いがどうかな」

魔法使い「が、頑張ります」

王様「おお、そうか。この男が兵長だ。良い試合を楽しみにしておるぞ」

兵長「俺が兵長だ、よろしく頼む。では、魔法使い殿。訓練施設に参ろうか」

魔法使い「お願いします」

僧侶「魔法使いちゃん、頑張ってね」

魔法使い「はいっ」


~屋外訓練所~
兵長「ルールはどちらかが気絶するか、降参するまでの一本勝負」

兵長「この闘技場は占星術の術式により守られていて、致命傷となる攻撃は魔法陣の媒体となった魔道具により封じられる。その場合は、魔法を行使した者の勝ちとする」

魔法使い「じゃあ、思いっきりしてもいいんですね」

兵長「言うではないか。そちらの僧侶殿にはやや及ばぬが、医療班も多数控えているので安心してくれ」

王様「では、試合始め!」

兵長「今回の趣旨は、魔法使い殿の実力を見せてもらうことだ。全力で来てほしい」

魔法使い「は、はい。火精霊、風精霊、火炎魔法行きます!」

兵長「あ、青い炎!?」


たかが火炎魔法なのに、火精霊を丁寧に制御しているようだ。
それが彼女の実力というわけか。


兵長「水魔法!」


多量の水を生成し、猛烈な炎の消火を試みる。
しかしその桁外れな熱量で、水が瞬時に蒸発してしまった。


兵長「な……、まるで効かない。風精霊!」


風精霊の力を借りて右に飛び、炎を回避した。
すると行き場を失った炎は、ブロック壁に直撃して鉄扉を変形させてしまった。
こんなものを食らったら、一瞬で消し炭にされてしまいそうだ。


兵長「おいおい、冗談だろ。しかし、その熱量は諸刃の剣だ!」

魔法使い「きゃっ! な、何なの?」


右腕が高温の何かに触れ、慌てて手を引いた。
しかし、そこには何もない。


魔法使い「まさか見えない炎?!」

兵長「火炎魔法ではない。魔法使い殿が使役した鉄扉を溶かすほどの火炎魔法で作られた、高温の水蒸気だ」


魔法使い「水蒸気?」

兵長「なぜ、水魔法で消そうとしたか。直線的な攻撃だけが、精霊魔法ではない!」


言われてみれば、周囲が陽炎のように揺らめいていた。

水精霊で防御しつつ、それを攻撃に転化する。
炎の魔法を火精霊で分解することに慣れていたので、まったく思いつかなかった。

沸点を遥かに超えた水蒸気が、勢いよく迫ってくる。
そして、腕や脚を焼いた。

魔法使い「いやあぁぁっ……」

兵長「我慢するな。負けを認めろ」

魔法使い「ま、負けない……。凍結魔法、回復魔法!」


高温の水蒸気を凍結させ、手足の熱傷を回復させた。
軽いものなら、容易に治すことが出来る。


兵長「魔法使い殿、その歳で賢者なのか?!」

魔法使い「まだまだ見習いです」

兵長「なるほど、向上心があって素晴らしい。うちの新兵にも見習ってほしいものだ」

魔法使い「ありがとうございます。では、勝たせてもらいます」

魔法使い「土精霊、水精霊召喚!」


土精霊で床を変形させて、兵長さんが動けないように足を固定する。
そして凍結させた氷を融解し、兵長さんの顔を包み込んだ。

兵長さんは人間だから、息が出来なければ死んでしまう。
天使さんならば、きっとこんな攻撃をしてくるだろう。


兵長「?! ゴボボボ、ゲホッ……」

魔法使い「どうですか? 自分が生成した水で窒息する気分は」


もちろん殺めるつもりはない。
だけど、これは試合だ。
どんなにもがいても、絶対に息はさせない。
気を失うか降参してくれれば、私の勝ちだ。

兵長(この水をどうにかしないと……)


まさか彼女が、こんな魔法の使い方をするとは思わなかった。

一般的な魔道師は、威力のある派手な精霊魔法を好む。
それは過程と結果が分かりやすく、威嚇にもなるからだ。

しかし彼女は、純粋に人を殺す方法を追求している。
水が多量にあったから窒息を選んだだけで、もっと効果的な殺し方も出来るはずだ。
並みの魔道師では、この少女に勝つことは出来ないだろう。

兵長(転移魔法!)


顔を包んでいた水を、別の場所に転移させた。
その直後、大きく息を吸う。


魔法使い「ええっ、転移魔法なんてずるいです!」

兵長「油断するな! 土精霊!」


足の拘束を解くついでに、石のこん棒を作り出す。
そして、殴りかかった。

魔法使い「爆発魔法!」


ドオォォンッ!
猛烈な爆風が、兵長さんを吹き飛ばした。


兵長「風精霊召喚、加速魔法!」


まさか爆風に乗っている?!
兵長さんは、私の魔法を何らかの形で攻撃に利用してくる。
魔法は威力だけではなく、その使い方が重要なんだなと、改めて実感させられる。

兵長さんは左手側を風に乗って舞い、攻撃の機会を窺っているようだ。
そして、猛スピードで向かってきた。


兵長「障壁魔法!!」

魔法使い「うぅっ……」


目の前に光のカーテンが現れ、視界を塞がれた。
さらに近距離で展開されたせいで、目がくらんで前が見えない。

風精霊と土精霊の魔力を感じる。
そこに兵長さんがいるはずだ。
だけど、速すぎて捉えられない。

だったら、全体に攻撃すれば良い。
予測が困難な方法で――。


兵長「もらった!」

魔法使い「土精霊さん、頑張って!」

どんなに速く動けても、地面は絶対に踏む。
ならば、その地面をすべて刃にしてしまえば良い。

尖った槍の先端をイメージする。
そして魔力を振り絞り、一面に石槍を敷き詰めた。


兵長「ぐあぁぁっ!!」


石槍を踏んだのか、絶叫が聞こえた。
兵長さんは加速魔法を使っている。
だから、踏みとどまることは出来ない。


ズザァァッ
兵長「――!!」


視力が回復して、声が聞こえた方向を見た。
目の前で、全身が血塗れの兵長さんが倒れていた。


魔法使い「兵長さん! 回復魔法!」


出血は弱まったが、たくさん石槍が刺さっていて傷が塞がらない。


兵長「ぐっ……」

魔法使い「魔法解除。回復魔法!」


ようやく傷が塞がり、出血が止まった。
しかし、動くと傷口が開いた。

魔法使い「私では未熟で、まだ治せないです」

兵長「ゼェゼェ……。良いよ、応急処置で楽になった。ありがとう」

魔法使い「そうだ、試合!」

兵長「俺の負けだ。『綺麗な娘には棘がある』とは、よく言ったものだな。触ると痛かったよ」

魔法使い「ふふっ、兵長さんって面白いです。それを言うなら、『綺麗なバラ』ですよ」

兵長「そうだったな、今日はありがとう。また来てくれたら、君を歓迎するよ」

魔法使い「はい♪ 今日は勉強になりました。ありがとうございました」


~お城~
魔法使い「勇者さま、勝ちましたよ~!」

勇者「魔法使いちゃん、頑張ったね」

魔法使い「はいっ」

僧侶「私は回復魔法を使えたことに驚いたかな。すごく心配したんだからね」

魔法使い「えへへ// だけど、兵長さんは治せなかったです……」

僧侶「まだまだ、これからだよ」

王様「魔法使いよ、見事であった。兵長がとても高く評価しておったぞ。火炎魔法だが、あれは天使の技術なのか? あの鉄扉を溶かすとは、恐ろしい魔力だ」

魔法使い「ありがとうございます。火炎魔法は、風精霊と併せて使うものだと教えてもらいました。壊してしまってすみません」

王様「よいよい。それ以上のものを見せてもらった。そなたに相応しい褒美を用意しよう」

魔法使い「ありがとうございます」

王様「しかし他国民ながら、この才能を失うのは惜しいな。大臣よ、占星術師を呼んで参れ」

大臣「かしこまりました」


・・・
・・・・・・


王様「占星術師よ、優秀な魔法使いに希望の未来を」

占星術師「かしこまりました。それでは、彼女への褒美をわたくしにお預けください」

王様「うむっ」

占星術師「この台は、わたくしが占うときに用意するものです。魔法使い殿、あなたは海の都で一度未来を見てもらっていますね」

魔法使い「はい」

占星術師「あなたには陰が見える。そんなことを二度言われても、面白くはないでしょう。そこで一つ、余興をしようではありませんか」

魔法使い「余興ですか?」

占星術師「お仲間である勇者殿と僧侶殿は、席を外していただけませんか。これは占いですからね」

勇者・僧侶「分かりました」

大臣「それでは、お二人は別室に案内いたします」

占星術師「魔法使い殿、始めましょうか。障壁魔法!」


用意された台の上に、半球状の障壁魔法が三つ並べて展開された。
ちょうどお茶碗を反したくらいの大きさだ。


魔法使い「これは……?」

占星術師「障壁魔法を展開するときに、あなたへの褒美を中に入れておきました。三つの半球は、ちょうど勇者殿ご一行と同じ数ですね」

魔法使い「……はい」

占星術師「さしずめ、あなたから見て左から順番に、勇者殿と僧侶殿、魔法使い殿といったところでしょうか」

魔法使い「は、はい」

占星術師「では、どこに褒美が入っているのか、言ってみてください」

魔法使い「勇者さまがリーダーなので、一番左を……」

占星術師「なるほど。実は、魔法使い殿を表す半球には、褒美が入っていません」


そう言うと、一番右の障壁魔法が解除された。
台の上には、勇者さまと僧侶さんを表す半球が残されている。

占星術師「さて、あなたはもう一度選ぶチャンスがあります。今なら、違う半球を選んでも構いませんよ。どちらにしますか?」

魔法使い「!!」

これはモンティ・ホール問題だ。
それならば、この確率は二分の一ではない。
僧侶さんの半球に変えたほうが、褒美を三分の二の確率で貰えることになる。
確率に従うならば、変えるべきだ。

だけど、これは占星術でもある。
私への褒美は、私の未来を表している。
それを手にすることが出来るのは、勇者さまか僧侶さんか……。

二人が交わる姿を見た後で、僧侶さんを選べるわけがない。
私も勇者さまが好きだから。
だけど――。

占星術師「あなたは勇者殿を選ぶのですね? それなら……」

魔法使い「いえ、私は……僧侶さんを選びます」


勇者さまと僧侶さんは、私のことを大切に想ってくれている。
ならば、私はそれに応えたい。
僧侶さんの背中を押した私が嫉妬するなんて、とても身勝手だと思う。


占星術師「分かりました。では、開放します」


その言葉と同時に、僧侶さんを表す半球の障壁魔法が解除された。
するとそこには、賢者の石で作ったブレスレットが置かれていた。

占星術師「正解です。あなたへの褒美は、賢者の石です」

魔法使い「ううっ……、やっぱりつらいです」

占星術師「先ほども言いましたが、あなたには陰が見える。もうすぐ、それと向き合うことになるでしょう。今の選択はより絆を深め、あなた方に希望をもたらしてくれるはずです」

魔法使い「ありがとう……ございます…………」

占星術師「あなたには華がある。わたくしも、それを楽しみにしていますよ」

10
~宿~
魔法使い(僧侶さん、私に言うことがあるんじゃないですか?)

魔法使い(……、やっぱり言い出せない)


お城から戻り、僧侶さんはずっと転移魔法の書物を読んでいる。
ときどき気晴らしに、ペントミノや知恵の輪で遊んでいるようだ。
しかし一向に、昨夜のことは話してくれない。
勇者さまもずっと、知恵の輪と格闘しているようだ。


僧侶「魔法使いちゃん、さっきからどうかしたの?」

魔法使い「いえ、何でもありません」

僧侶「占星術師さんに何を言われたのか知らないけど、悩んでいることがあったら何でも言ってね。私も気持ちの整理が出来たら、魔法使いちゃんに話すから」

魔法使い「あっ……」

僧侶「やっぱり、悩みはそのことなんだね」

魔法使い「……はい」

僧侶「昨日、私は勇者さまと好きあうようになりました」

魔法使い「知っています……」

僧侶「魔法使いちゃんに背中を押してもらって、そのおかげ告白――って、あれ?」

魔法使い「んっ……?」

僧侶「知ってるって……えっ、なんで!? も、もしかして起きてたの?」

魔法使い「えっ、気付いてなかったの?」

僧侶「あわわ// い、いつから……」

魔法使い「恥ずかしくて言えないです//」

僧侶「ひえぇっ……。も、もしかして見てた?」

魔法使い「少しだけ……」

僧侶「ま……まあ、私は勇者さまとそういう関係になったのです」

魔法使い「あの……、私も勇者さまが……す、好きなんです。だからその、心の準備をさせてほしいです」

僧侶「うん。私も落ち着いたらちゃんと話すから、そのときは……」

魔法使い「……はい」

勇者「キターーーーーッ!!」

魔法使い「!!」ビクッ

僧侶「勇者さま、少しは空気を読んでください!」

勇者「えっ? これ見てよ、ついに外れたんだ!」キリッ

僧侶「ああっ、すごいじゃないですか! チリ人の輪が解けたんですね」

勇者「ふふん。勇者として、これくらいは解けないと示しが付かないじゃないか」

僧侶「戻せますか?」

勇者「ああ、それは簡単。このなが――」カチャカチャ

僧侶「わあぁぁっ! 見せないでください、言わないでください。私が解く楽しみがなくなるじゃないですか!」

勇者「――はい、もう戻ったよ」カチャカチャ

僧侶「あっ、ほんとだ。勇者さまに解けるなら、私も負けてられないですよね」

魔法使い「あはは、なんだか少し吹っ切れた気がします」

僧侶「魔法使いちゃん?」

魔法使い「その知恵の輪は、やっぱり私たちの関係を表していたんですね」

僧侶「どういうこと?」

魔法使い「二人が愛し合って、私は嫉妬しました。でも二人の愛を受け入れられたら、私はまた一緒にいられるんです」

僧侶「後悔してない?」

魔法使い「それは……」

僧侶「怒ってもいいよ。私は魔法使いちゃんの気持ちも知りつつ、勇者さまを奪ったんだから」

魔法使い「ううん、それで良いんです」

僧侶「勇者さま、少し早いけど一緒にお風呂に入りませんか? もちろん、魔法使いちゃんも一緒に」

勇者「そうだね……」

僧侶「私たちにとって大切な社交の場ですし、みんなで話せることから話し合いましょう。ねっ、魔法使いちゃん」

魔法使い「はい」


僧侶「……あれ? さっきのって、チリ人の輪のヒントになってるじゃないっ!」

魔法使い「~♪」フフッ

11
~北の街・エルグの城~
大臣「王様、ただいま極北の地より第一調査団が戻りました」

王様「うむ、通せ」

大臣「承知しました」

団長「ただいま帰還いたしました!」

王様「ご苦労であった。して、極北の地はどうであったか報告せよ」

団長「極北の地は、ただいま極夜でございます。しかしながら極地には結界が張られ、内部は光に満たされているようでした」

王様「なるほど。極南の地が闇ならば、極北の地は光というわけか」

団長「それで結界内に入ることを試みたのですが、入ることが出来ませんでした。そのため、内側がどうなっているのか未確認です」

王様「極南は今、白夜であったな。もしかすると、そこの光が集められているのかもしれん。バロックの国王に協力を要請し、強力な魔道師を含む部隊を編成して向かわせよう。下がってよいぞ」

団長「はっ!」

大臣「王様、結界が張られているとあれば、女神の加護がある者でなければ入ることは叶わないのではないでしょうか」

王様「分かっておる。第二調査団と並行して、神託を賜わる術式の準備も進めよ」

大臣「かしこまりました」

王様「ところで大臣、何のために白夜の光を集めるのだろうか」

大臣「私には分かりかねます」

王様「以前、勇者が神の遺産を持ってきたであろう。世界をドーナツ状にするという話、本当に計画している者がいるのかもしれんな」

第7話 おわり

・だまし絵
"Message d'amour des dauphins"

・メビウスの輪
・クラインの壷

・確率
モンティ・ホール問題

今夜は日食中継があるので、今回はここまでです。


ようやく三人の関係がはっきりして、極地がどうなっているのか分かりました。
エロ展開も書けたし、パズルネタも個人的に満足な感じです。


というわけで、
次回から起承転結でいう『転』になります。
いよいよ、ラスト目前です。

第8話 悲しい再会

~南の大地・フィールド~
勇者「そろそろ夜営の準備をしようか」

僧侶「そうですね」

勇者「じゃあ、僕は簡易テントを組み立てるから」

魔法使い「あ、私は燃えるものを探してきます」

勇者「気をつけてね」

魔法使い「はい」

勇者「あの、僧侶さん。今夜は良いかな……」

僧侶「結界に入るまでは、魔法使いちゃんと勉強することになっているので……」

勇者「そっか、残念だな」

僧侶「私もしたいのだけど避妊具が残り少ないし、帰り道まで我慢してもらえませんか」

勇者「帰り道まで?!」

僧侶「はい。でも、結界内の調査が終わったら魔法使いちゃんと相談して、気兼ねなく出来るように工夫しましょうね」チュッ

勇者「そ、そうだな//」ギュッ

僧侶「では私は、食べられる野草を探してきます」ニコッ


~簡易テント~
魔法使い「――ということは、欲求や感情は脳内物質によって作られているとも言えるんですね」

僧侶「そういうこと。大脳辺縁系が、本能や感情と関係している部分なの。それらを理解することで精神感応系の魔法を使えるようになるから、脳の仕組みを覚えることも大切だよ」

魔法使い「睡眠魔法って簡単そうだと思っていたけど、実は高度な魔法だったのですね」

僧侶「そうだよ。だから賢者とは言っても、治癒魔法しか使えない人が多いの」

魔法使い「そうなんだ」

僧侶「とりあえず、魔法使いちゃんは構造を勉強しましょ。脳の仕組みは、後で良いよ」

魔法使い「ふぅ……。治癒魔法になったとたん、覚えることが増えて難しいです」

僧侶「勉強ばかりで、成果が見えない時期だよね」

魔法使い「はい……」

僧侶「生体エネルギーの増幅を最初に覚えると、回復魔法を治癒魔法にして使えるよ。その分、モチベーションを保ちやすいんじゃないかな」

魔法使い「あぁ、なるほど。そうします!」

魔法使い「ところで、僧侶さんは転移魔法、どうですか?」

僧侶「軽い物なら動かせるようになったかな。そのコップを、左に動かしてみるね。転移魔法……」

パッ

魔法使い「わぁっ! 一瞬で動きました!」

僧侶「これくらいなら簡単なんだけど、見えない場所に転移させるのが難しくて」

魔法使い「見えない場所ですか?」

僧侶「移動先に何があるのか、魔力で読み取らないといけないの。もし障害物があった場合、それをどう処理するか問題になるのよね」

魔法使い「そっか、壁の中にコップは入らないですよね」


僧侶「厳密には空気も障害物なんだけど、気体は固体と違って容易に押しのけられるから――」

魔法使い「よく分からないけど、たった数日で転移魔法を使えるって、すごいです!」

僧侶「私は、記憶の仕組みを理解してるからね」

魔法使い「それも魔法医学の範囲ですか?」

僧侶「そうだよ。でも記憶力が良くても、転移魔法で転移させない方法は思い付かないよ……」

魔法使い「転移魔法って、どうして一瞬で移動するんですか?」

僧侶「分かりやすく言えば、世界と世界を折り曲げて繋げる感じかな。だまし絵のように世界を柔軟に捉えて、空間を魔力で繋げてしまうの」

魔法使い「じゃあ結局、メビウスの輪やクラインの壷は関係ないのですか? 私は、そっちの方が相応しいと思いますけど」

僧侶「それだと表も裏もなくて、元の位置に戻ってきちゃうじゃない」

魔法使い「そっか、それじゃあ転移魔法になりませんね」

僧侶「あっ! 元の位置に戻る?! そういう方法も、ありかもしれない。魔法使いちゃん、ありがとう」

魔法使い「え? はい」

僧侶「なるほど、メビウスの輪か――」


僧侶「じゃあ、私は先に休むわね」

魔法使い「……そうですね。私も、もうすぐしたら寝ます」

ガサッ

僧侶「勇者さま、お疲れ様です。外は少し冷えますね」

勇者「少しね。ここは日差しがあるから、日向ぼっこみたいで温かいよ」

僧侶「ふふっ、本当です」ピトッ

勇者「魔法使いちゃんはどう? 勉強は順調に進んでる?」

僧侶「もう回復魔法のステップを修了したので、治癒魔法を頑張っています。驚異的な速さで修得していくから、教えていて楽しいです」

勇者「僧侶さんの教え方が上手だからだよ」

僧侶「私も転移魔法を覚えたら、今度は薬師の勉強をしていこうかな」

勇者「どうして、薬師なの?」

僧侶「対症療法だけではなくて、原因となるウイルスや細菌を処理して、病の治療をしたいからです」

勇者「身体構造を理解しないと、治癒魔法は効果がないんだっけ」

僧侶「はい。私が治癒魔法を使えるのは人と馬、ネコだけです」

勇者「馬は何となく分かるけど、ネコ?」

僧侶「実はネコが好きなんです。子供の頃に飼っていました、にゃ~//」

勇者「にゃ~って、ははっ。僕もネコ派かな」

僧侶「そうなんですね♪ 勇者さまぁ。今夜はもう、抜いてしまったのかにゃ」さわさわ

勇者「いや、まだ」

僧侶「じゃ、じゃあ、やっぱりしませんか。ちょっと良いことがあったので、気分を上げたいにゃ//」

勇者「『にゃあ』って可愛いよ」

僧侶「恥ずかしいにゃ//」チュッ

勇者「僧侶さん、好きだよ」モミモミ

僧侶「……にゃんっ」

勇者「おっぱいの頂上はこの辺りかな」

僧侶「勇者さまのエッチ//」ヌギヌギ

勇者「今日のランジェリーも可愛いね」

僧侶「このベビードール、ここにリボンが付いているんですよ」

勇者「いいねぇ。僧侶さん、セクシーだよ」

僧侶「ふふっ//」


・・・
・・・・・・


僧侶「そろそろ入れてほしいです//」

勇者「じゃあ、その樹に手を添えて、脚を広げて前屈みになってみて」

僧侶「こ、こう……ですか//」

勇者「そうそう、いやらしいね」クチュ

僧侶「はうん……ああっ、入ってくる…………あうっ……」

勇者「僧侶さんの中、温かくて気持ちいい」

僧侶「わ、私も……。はぅ……んんっ……」

勇者「僧侶さん、僧侶さん……」

僧侶「勇者さまぁ……はうっ……あぁ、いぃ……」

カサコソ
ガサゴソ

??「い、いやああぁぁぁぁっ」バタリ

僧侶「えっ」
勇者「あっ……」

魔法使い「あの、女性の叫び声が……って、あわわ// ご、ごめんなさい。二人がなさっているとは知らなくて、お邪魔しましたっ//」

僧侶「ううっ、また見られた」ショボン

勇者「なんだかなぁ……。この女性は確か――」

僧侶「魔女さんですね。血塗れですし放っておけないので、続きはまた今度でもいいですか」

勇者「さすがに、この状況だしな。今回は我慢して静めるよ……」

僧侶「ですね……。また今度しましょうね」さわさわ

勇者「とりあえず服を着て、魔女さんを治してあげよう。僕は近くにバトマスたちがいないか、少し見回りに行ってくるよ。深手を負って、倒れているかもしれない」

僧侶「分かりました。気をつけて行って来てくださいね//」チュッ


~簡易テント~
魔女「んっ……ここは…………」

僧侶「ここは私たちが夜営しているテントです」

魔女「!! いやっ……」ビクビク

勇者「別に何もしないから」

僧侶「殿方がいると話しにくいことがあるかもしれないし、少し外に出てもらっても良いですか?」

勇者「分かった」

魔女「……きれいになってる。僧侶ちゃん……ありがと」

僧侶「困ったときはお互い様ですから」

魔女「あの……、いつもあんな目に遭わされてるの?」

僧侶「あんな目って?」

魔女「その、無理やり犯されるって言うか……、そういうこと」

僧侶「あ、あぁ。私たちは好きあっているんです。だから、あれは合意で……」

魔女「そんなの、女を抱きたいから都合のいいことを言ってるだけでしょ! 性欲の処理に困っているから、やりたくて利用してるだけよ。僧侶ちゃん、騙されてるわよ!」

僧侶「……えっ?」

魔法使い「魔女さん、その言い方は酷いです。勇者さまはエッチが好きだけど、そんな事をする人じゃないです。今のは、僧侶さんにも失礼です!」

魔女「……」

僧侶「魔女さん、何かあったのですか? 賢者さんや他の方は、どちらにいるのですか?」

魔女「みんな殺した。もう嫌だったの、嫌だったの……」

僧侶「殺した?! どうして、そんなことに……」

魔女「寄せ集めの男女が旅をするなんて、そんなの無理だったのよ! 毎日脅されて、無理やり犯されて、憎くて憎くて――」

魔法使い「そ、そんな。でも一緒に食事をしたときは、そんなことは一言も……」

魔女「それ、もう一ヶ月も前の話でしょ。あなたたちも変わったんじゃないの、この一ヶ月で」

僧侶「そうですね。私たちも変わりました」

魔女「そう、人は変わるのよ」

魔女「ところで、どうして南の大地に魔道師の都があると思う?」

僧侶「それは、白夜や極夜が呪術的な現象だと信じられていたからでしょ」

魔女「その呪術的な影響が、心を惑わせているとは考えられない?」

僧侶「どういう意味ですか」

魔女「抑圧されていた心が、呪術で引きずり出されただけなんじゃないの? あなたの愛情なんて、すべて錯覚よ!」

僧侶「いいえ。魔女さんが言うように抑圧されていた心が解放されたのならば、私と勇者さまは本気で愛し合っていることになります」

僧侶「仮に呪術がきっかけだとしても、素敵なことじゃないですか」ニコッ

魔法使い「……」

魔法使い「あの……。じゃあ、魔女さんも呪術の影響で……」

魔女「とにかく、もう限界だったの!」

魔法使い「だからって、そんな……」

魔女「だから、二人を殺すしかなかったの。いやっ、もう斬らないで……するっ、何でもしますから…………」

魔法使い「?!」

魔女「うああぁぁっっ、もうやめてよ……、いやっ……いやあぁっ……」

僧侶「沈静魔法!」

魔女「……」スースー

僧侶「今はゆっくり休んでください。魔女さんは、何も悪くないですから……」

魔法使い「魔女さん……」


勇者「そうか、バトマスたちはもう――」

僧侶「身体がないと蘇生できませんし、身体があっても死を受け入れた後だと思います」

勇者「つまり、結界に入って生きて帰ることができたのは、魔女さんだけということか」

僧侶「そうなりますね。つらいことがあったようで、酷く錯乱していました」

魔法使い「とても見ていられなかったです……」

僧侶「そんな中、魔女さんが気になることを言っていたのです」

勇者「気になること?」

僧侶「はい。私たちの関係を、『抑圧されていた心が、呪術で引きずり出されただけだ』と言っていました。もしかすると、私たちへのメッセージではないでしょうか」

勇者「それは、僕の気持ちを疑っているのか?」

僧侶「いいえ、『結界の中には、呪術的な何かがある』という意味だと思います。魔女さんはつらいことがあって、今もその影響が残っていますから……」

勇者「呪術のせいで、仲間同士で殺しあったのか」

僧侶「仲間同士で殺しあったというよりは、正当防衛だったと思います。それだけが、魔女さんにとって救いかもしれません」

勇者「そうか、やるせないな」

魔法使い「あの、賢者さんにはもう会えないんですよね……」

僧侶「そうだね。また一緒に、ご飯を食べに行きたかったな……」

魔法使い「……はい」

僧侶「きっと賢者さんも、毎日つらかったと思います。魔法使いちゃん、私たちが賢者さんの冥福を祈ってあげましょう。彼女の魂が安らかに眠れるように――」

魔法使い「うぅっ、はい…………」


~翌朝・簡易テント~
魔女「……」

僧侶「魔女さん、おはようございます。気分はいかがですか?」

魔女「お、おはよう……。少し身体が重いくらいで、特には……」

僧侶「それは良かったです」

魔女「昨夜はごめんなさい。少し取り乱して……」

僧侶「大丈夫です。みんなで朝食を食べませんか? 見たところ荷物もないですし、しばらく何も食べていないですよね」

魔女「あたし、生きていても良いのかな……」

僧侶「生きていても良いに決まってるじゃないですか」

魔女「……」

僧侶「女性を無理やり暴行するなんて、とても許されることではありません。魔女さんは正当防衛だし、絶対に許されます」

魔女「そうだね。許されるよね……」

僧侶「こういうことは言いたくないけど、魔女さんは任務中だということも忘れてはいけないと思います」

魔女「……ぁ」

僧侶「魔王の存在を承知した上での任務だし、命を落とす覚悟はしていたはずですよね」

魔女「それは……」

僧侶「今回のことは、魔王から精神感応系の攻撃を受けて、同士討ちを誘発されただけです」

僧侶「ならば魔女さんは、国に仕える魔道師として次の作戦を検討するために、結界の中で起きたことを報告する義務があるはずです」

魔女「あたしの気持ちも知らないで、よくそんな事を……」

僧侶「すみません。でも魔女さんの経験を次に繋げていかないと、苦しみだけのものになってしまうから、だから……」

魔女「ねえ、任務だと言うなら、どうして魔女っ子ちゃんをここまで連れて来たの? 彼女はただの村娘でしょ」

僧侶「!! それは……」

魔女「ねえ、答えて」

僧侶「魔法使いちゃんは、神の使いに指名されているのです。だから、魔道師の都で村に帰すことが出来なかったのです」

魔女「つまり、神託があったから行くのね」

僧侶「……はい。だから転移の羽と賢者の石を持たせて、絶対に守れるようにしています」

魔女「一般人なんだから、当然でしょ」

僧侶「ですよね……」

魔女「あの子が頑張っているのに、あたしが落ち込む訳にはいかない――か」

僧侶「……」

魔女「それにしても、神の使いか。あれがあるのは、そういうことだったんだ」

僧侶「あれ、ですか?」

魔女「考えをまとめてから話す。はぁ、どうしてこうなったんだろ……」

僧侶「あの、そろそろ朝食を食べませんか」

魔女「……そうだね」

僧侶「昨日の夜、勇者さまと魔法使いちゃんが、カンガルーを捕まえてきてくれたんですよ。お肉は柔らかいし、味付けは私がしたので保障します!」

魔女「二人とも、勇者さんといい関係を築いているんだね。あたしたちは、性欲の捌け口でしかなかったのに……」

僧侶「私たちも、勇者さまの性欲には悩んでいましたよ。だけどその欲求と向き合って、どのように解消させるか三人で話し合ってきました。もしかすると、それが良かったのかもしれません」

魔女「そういえば、以前そんな話をしてたわね。というか、どうして過去形なの?」

僧侶「勇者さまは、もう彼氏ですから//」

魔女「ひょっとして、その指輪は勇者さんから?」

僧侶「はい」

勇者「でもそれ、ミスリルだけど魔道具じゃないよね」

僧侶「浮気防止用のパズルリングです。そんなものを渡されたら、もう勇者さまのことを一途に想い続けるしかないじゃないですか//」

魔女「そっか、本気だったんだ……。僧侶ちゃん、昨夜は邪魔をしちゃってごめんね――」

僧侶「改まって言われると恥ずかしいです//」

僧侶「あっ、そうだ。魔女さん、少しお腹を触りますね」

魔女「えっ?」

僧侶「……、破壊魔法!」

僧侶「体内のすべての精子を、魔法で破壊しました。今までのことで、望まない妊娠をすることはありません。感染症の心配もなさそうですよ」

魔女「ほ、本当に?!」

僧侶「はい、つらかったですよね。もう大丈夫ですよ」

魔女「うぅっ……、うわぁぁん......」

僧侶「魔女さん……」

魔女「ありがとう。僧侶ちゃん、ありがとう……」


僧侶「ごちそうさまです。カンガルー鍋、うまうまでしたぁ」

魔法使い「うまうまでしたぁ」

魔女「う、うまでした……」テレ

僧侶「勇者さま、燻製のほうは順調ですか?」

勇者「有り合わせにしては順調だと思う。完成が楽しみだね」

魔法使い「美味しく出来るかなぁ」

僧侶「当分、食べ物には困らないですね」

勇者「ところで魔女さん、これからどうするんですか?」

魔女「皆さんは、これから結界の中に入るんですよね」

勇者「それが僕たちの仕事だから」

魔女「あたしは……、もうあんな思いをしたくないです。一人で帰ろうと思います」

勇者「帰るって言っても、荷物も何もないよね。はっきり言って、一人で帰るのは無理だと思う」

僧侶「砂漠もあるし、手ぶらで帰れるほどあまくないよね」

魔法使い「あの、帰る方法が一つだけありますよ。私は転移の羽を持っています」

魔女「でもそれは、魔女っ子ちゃんの身を守るためのものでしょ」

魔法使い「私なら大丈夫です」

勇者「魔法使いちゃん、さすがにそれは認められないな」

魔法使い「駄目ですか?」

勇者「魔女さん、南の都までなら一人で行けるかな? 食料は今、燻製を作っているから」

僧侶「何か思いついたんですか?」

勇者「魔女さんは、結界からの生還者だろ。情報は絶対に必要だし、あの王様なら魔女さんを優遇してくれると思うんだ」

僧侶「そうですね」

勇者「バロックの城にも情報が伝わるだろうし、しばらく働いて資金を稼ぐことも出来るだろ」

魔女「勇者さん、ありがとうございます。そうさせてください」


魔女「あの……、皆さんが結界へと向かう前に、どうしても話しておきたいことがあります」

勇者「何をですか?」

魔女「結界の中のことです」

勇者「話せるなら、ぜひお願いします!」

魔女「……はい」

魔女「魔王に支配されたと言われている極南の村ですが、中に入ると呪術の影響が強くなります。ただ、賢者さんだけはその影響がないようでした」

勇者「それは、女賢者だからですか?」

魔女「職業的なことではなくて、女神の加護を受けていたからだと思います」

僧侶「そういえば、勇者さまだけは、天使の封印魔法が無効化されていましたよね」

勇者「なるほど。女神の加護があれば、中に入っても大丈夫なのか」

魔女「でもそこで、賢者さんは男たちに襲われて殺されました。それに耐えられなくて、あたしは彼らを殺しました。村の中では、悪意や恐怖が増幅されるのだと思います」

勇者「……」

魔女「その後は村を出て、付近をさまよっていたんだけど……。極南の地で、ハノイの塔を見たんです」

僧侶「えっ?! 本当に、ハノイの塔があったのですか!」

魔女「はい。あれは間違いなく、ハノイの塔だと思います」

魔法使い「呪術よりも、そっちの方が恐ろしいです――」

僧侶「だよね……」

勇者「よく分からないけど、それってそんなに驚くことなの?」

僧侶「ハノイの塔は三本の支柱が立っていて、その棒に64枚の円盤が刺さっているパズルです。そしてそのパズルが完成したとき、世界が消滅すると言われているのです」

勇者「世界が消滅するパズル?!」

僧侶「はい。ハノイの塔は終末時計なんです」

魔法使い「一体、どれくらい手数が進んでいるのでしょうか……」

魔女「あたしには女神の加護がないので、近付けなくて……」

僧侶「魔女さん、私……任務中とか偉そうなことを言ってしまって申し訳ないです。つらいときなのに、一人でこんなに調査してたなんて知らなくて……」

魔女「いいよ。下手に同情されるより、あたしにはそれが良かったかも」

僧侶「本当にごめんなさい」

魔女「それで、ハノイって神の遺産だよね。今回のことに天使が関わっているならば、あれは原典かもしれません。つまり、あたしたちがすべきことは――」

勇者「ハノイの塔を破壊することか」

僧侶「勇者さま、時計を壊しても時間が分からなくなるだけです」

魔女「そうです。ハノイを破壊するのではなくて、その進行を止める方法を考えるべきだと思います」

勇者「言われてみれば、そうだな……」

魔法使い「勇者さま、15パズルや天使さんからのメッセージも忘れないでください。もしかすると、ハノイの塔はドーナツ世界までの時間をカウントしているのかもしれません」

勇者「ドーナツ世界と世界への侵入者、そして終末時計か――。魔女さん、極南の村に魔物はいるの?」

魔女「特にいなかった……と思います」

勇者「はっきりしないな。危険だけど、そこに原因があるかもしれないから、行かないといけないな」

僧侶「それならば、精神感応系の魔法対策が必要ですね」

勇者「予防策はあるの?」

僧侶「有効な方法は特にないです」

勇者「えっ」

僧侶「精神感応系の魔法を予防することは、あらかじめ感情を固定しておくことになるので、正常な判断力を阻害されてしまいます。それに、身体への負担も大きいです」

勇者「結局は、僕たちの関係次第ってことか」

僧侶「そうなりますね。でも勇者さまには女神の加護がありますし、魔法使いちゃんは守りが万全なので――」

勇者「ということは、魔法対策が必要なのは僧侶さんか」

僧侶「……はい。私も精神感応系の魔法を使えますし、何か考えておきます」

魔法使い「わ、私も心構えをしておきます」

勇者「じゃあ、僕たちの目的を確認しよう」


1、極南の村の調査
2、ハノイの塔の残り時間を調べる
3、可能ならば世界の侵入者を排除する


僧侶「精神感応の脅威を取り払うことが出来れば、今後の戦略も優位になってきますよね」

勇者「そうだな。それだけでも、どうにかしたいよな」

僧侶「はい」

勇者「……で、それに伴って、情報を提供してくれた魔女さんを、僕たちの仲間に迎え入れたいと思う」

魔女「無理です。あたしは、仲間を殺すような魔道師ですよ」

魔法使い「でもそれは、理由があってのことですよね」

魔女「それは……」

魔法使い「四色あれば、どんな地図でも塗り分けることが出来ます。それと同じで、三人では出来なかったことが、魔女さんが仲間になることで出来るようになると思います」

魔女「四色問題か……。あたしたちは塗り方を間違えてしまったんだろうな……」

僧侶「それならば、私たちと塗り直しましょう。魔法使いちゃんもそのほうが喜びますし、私も魔女さんが居てくれると助かります」

魔女「本当に、こんなあたしで良いの?」

魔法使い「はい、お願いします!」

僧侶「もちろんです」

魔女「……、分かりました。よろしくお願いします」

勇者「では今から僕たちの仲間として、別行動をしてほしいです。南の都の王様にこのことを話して、僕たちが戻るか帰還費用が貯まるまで、その場で待機しておいてください」

魔女「はい。皆さんが無事に戻って来れるよう、祈っております」

第8話 おわり

・ハノイの塔
・四色問題

・パズルリング

今回はここまでです。

パズルネタは、ハノイの塔。
終末時計ということで、勇者ものに相応しいネタだと思います。

そしてストーリーも、魔女さんが仲間になって佳境に入りました。
ある意味、次が最終決戦になりそうです。

第9話 心をさらけ出して

~結界内部~
魔法使い「白夜だというのに、結界の中は本当に夜みたいです」

僧侶「結界で光が侵入できないのか、光がどこかに集められているから暗いのか」

魔法使い「どっちなんでしょうね。照明魔法……あれ?」

僧侶「もしかして、この中は魔法が使えないの?」

魔法使い「いえ、一瞬で消えたみたいです」

僧侶「つまり、光がどこかに集められているということね」

勇者「案外、極北の地に集められていたりしてな」

僧侶「極北に光がですか?」

勇者「南が白夜なら、北は極夜だ。ここが闇ならば、向こうは光と考えても良いと思うけどな」

僧侶「そうかもしれないですね」

勇者「そうだろ。みんな闇を恐れて、南側の調査ばかりしてきた。北側のことは、まだ何も分かってないしな」

僧侶「でもそれが正しいなら、何のためでしょうか」

勇者「光を集めて、世界に穴を開けるつもりかもしれない。ほら、ドーナツ世界と世界の終末が、両方同時に達成できるじゃないか」

僧侶「なるほど……。それならば、ハノイの塔の手数は調べておきたいですね」

勇者「そのためにも、極南の村の調査は心してかかろう」

僧侶・魔法使い「はい」


~極南の村~
魔法使い「人の気配はないですね。闇に包まれるまでは、ここも賑わっていたのでしょうか?」

僧侶「そうだね。賑わっていたら、カンガルーやエミューの料理が美味しい場所だったんだろうな。香草をたっぷり使って、焼いて食べるんです」

魔法使い「あぁ、美味しそう」

僧侶「この間は魔女さんがいたから、食べやすいお鍋にしたけど、焼いても最高だよ」

勇者「僧侶さん、今度みんなでバーベキューをしたいね」

僧侶「そうですね。帰ったら魔女さんを呼んで、四人で楽しみましょう!」

魔法使い「あっ、勇者さま!」

勇者「どうしたの?」

魔法使い「あそこの建物だけ、明かりが点いています!」

勇者「光属性の魔法が使えない場所なのに、明かりが灯っているのは怪しいな……」

魔法使い「どうしますか? 調べに行くんですよねえ」

勇者「どう考えてもワナだから、油断だけはしないようにしよう」

魔法使い「はい」

勇者「そういえば、二人とも精神感応の影響を受けてないよね」

魔法使い「言われてみれば、そんな気がしないです」

勇者「そこまで心配する必要はなかったのか?」

僧侶「魔女さんは、『中に入ると影響が強くなる』と言っていました。それは村の中ではなくて、建物の中なのかもしれませんよ」

勇者「となると、安直だけどあれだよな」

魔法使い「……ですよね」

僧侶「あの、勇者さま。光が届かない深海の話ですけど、光で獲物をおびき寄せて捕食する魚類がいるそうです」

勇者「えっ、そんな魚がいるの?」

僧侶「はい。あの光を見てしまった瞬間から、私たちはもう影響を受けているかもしれません」

魔法使い「あそこに向かっていることも、精神感応の影響ということですか?」

僧侶「勇者さまには、そんな覚悟もしておいてほしいです。私たちには女神の加護がないので、不審な行動をしないか注意しておいてください」

勇者「そうだな……」


魔法使い「どうやら、この旅館の一室から光が漏れているみたいですね」

勇者「そこに来いって意味なんだろうな」

魔法使い「行きます……よね?」

僧侶「きっとこの中に、賢者さんの遺体もあると思います」

勇者「この中に入ると、精神感応の影響が強くなるかもしれない。お互いに信じる気持ちを大切にしよう」

僧侶・魔法使い「はい」

ガラララッ


勇者「受付には誰もいないみたいだな」

魔法使い「でも、どこからか魔力を感じますよ」

僧侶「光が漏れていたのは、上の階ですよね」

勇者「行ってみよう」

魔法使い「何だか緊張してきました……」

勇者「どうやら、この部屋みたいだな。準備は良いか?」シャキッ

僧侶「はい……」

魔法使い「大丈夫です」

勇者「開けるぞっ!」

バタンッ!!


勇者「誰もいない」

僧侶「……ですね。寝具も何もないです」

魔法使い「僧侶さん、あの壁際にある物は何でしょうか?」

僧侶「迷路とソリティア……、神の遺産がどうしてこんな所に」

勇者「神の遺産?」

僧侶「はい。迷路は、世界でもっとも古いパズルなんです」

勇者「ありふれていて、そんな気がしないけどな……」

僧侶「入り組んだ洞窟などは、自然が作り出した迷路ですよね。それらは人類が誕生する前から、この世界に存在していました。だから迷路は、神の遺産として扱われているのです」

勇者「なるほど。じゃあ、迷路の意味は?」

僧侶「迷路は死を象徴していて、抜け出すことで復活を表しています」

勇者「死と復活か。入り組んだダンジョンなら、そうかもしれないな」

勇者「じゃあ、ソリティアというパズルは?」

僧侶「ソリティアは、一人で遊ぶパズルの総称です」

勇者「でも確か、ソリティアって、トランプじゃなかったっけ?」

僧侶「最近はトランプ遊戯のクロンダイクを、ソリティアとして認識している人が多いみたいです」
勇者「そうなのか……」

僧侶「これはペグ・ソリティアという由緒あるソリティアで、配置された駒を飛び越しながら取り除いていき、最後に一つだけ駒を残すことが出来れば成功となる盤上パズルです」

勇者「一つだけ残すと成功か……」

勇者「つまりこの部屋から出ることが出来るのは、最後に残った一人だけと言いたいのか」

僧侶「これらのパズルを解くと、そういう意味になりますよね」

勇者「じゃあ、解かなければ良いということか……」

僧侶「魔力が込められているので、そういう訳でもなさそうです」

勇者「それにしても、ここに神の遺産があるということは、この闇を作り出しているのは魔王ではなくて女神なのかもしれないな」

僧侶「女神……ですか?」

勇者「極南の地にあるハノイの塔も、神の遺産なんだろ」

僧侶「はい」

勇者「そして結界に入れるのは、女神の加護がある者とそれに選ばれた者だけだ。女神が首謀者だと考えるのが、理にかなっていると思わないか?」

僧侶「だとしたら、世界を破壊しようとしているのは女神という事に……」


魔法使い「Envy」


僧侶「えっ?」

魔法使い「その迷路の答えです」

僧侶「これを解くと、文字が出るの?」

魔法使い「私はやっぱり諦められません! どうしても、勇者さまが好きなんです!」

勇者「その話はもう終わったはず。まさか、これが精神感応?!」


魔法使い「風精霊召喚!」

僧侶「うぐぅ……」ドスッ


突風を引き起こし、僧侶さんを吹き飛ばす。
そして風の力で勇者さまを床に押さえつけた。


魔法使い「土精霊召喚!」


土精霊で壁を変形させ、僧侶さんを壁に磔にする。
そして、手首と足首に杭を打ち込んだ。

僧侶「ぃやあぁぁっ!! 治癒魔法……」

魔法使い「刺さったままだと、治癒することは出来ませんよ」

勇者「ぐっ……、僧侶さんっ!」

魔法使い「魔力が尽きるまで、頑張ってくださいね。次は勇者さまです」


床を『∩字』に変形させ、仰向けに倒した勇者さまの手足を拘束する。
これで二人の自由を奪うことが出来た。
もう思うがままだ。

魔法使い「勇者さま、もう離しませんよ♪ 勇者さまが大好きなんです、私の気持ちに応えてほしいんです!」

勇者「魔法使いちゃん……、僧侶さんに何てことを!」

魔法使い「どうして……。どうして、僧侶さんの心配をするの?」

勇者「魔法使いちゃん、精神感応に負けないでくれ! 僧侶さんを解放してくれ!」

魔法使い「私の気持ちだけに応えて! どうして、いつもいつも僧侶さんばかり見てるの!」

魔法使い「勇者さまを射精に導いてあげたのは、私のほうが先なのに……。どうして、私じゃないんですか!」

勇者「あれはあくまでも学問として頼まれただけだし、僕は僧侶さんが好きだから!」

魔法使い「では、私のことは嫌いですか?」

勇者「そんなことはない。魔法使いちゃんのことは、大切な仲間だと思ってる」

魔法使い「嫌いじゃないなら、問題ありません。勇者さまを、いっぱい射精させてあげます! そうしたら、私の気持ちに応えてくれますよね//」

勇者「それは違うだろ。もっと自分を大切にしてほしい――」

魔法使い「私を子供扱いしないで! 私だって、一人の女なんです。それを証明して、僧侶さんから奪い返してみせます!」チュッ

勇者「くっ、止めるんだ」

魔法使い「勇者さまぁ// ちゅっ、んっ、んんっ……」

僧侶「うぅっ……、魔法使いちゃん、そんなことはしないで!」

魔法使い「あぁ、私に興奮しているんだ。こんなに硬くなって、私の中に出したいんだ」さわさわ

勇者「僧侶さん……」

魔法使い「ふふっ、私が忘れさせてあげますよ」カチャカチャ

勇者「魔法使いちゃん、止めるんだ。そんなの間違ってる!」

魔法使い「間違ってると言うなら、どうしてこんなに勃起しているんですか? 本当は早くしたいんですよね?」シコシコ

勇者「大地斬!」

魔法使い「ふふっ。剣がなければ、私が使役している土精霊は壊せませんよ」ヌギヌギ

魔法使い「ほらっ、勇者さまぁ。入れたいですか」


ショーツだけを脱ぎ、勇者さまの腰に跨がった。

濡れた陰唇が、ぬるりと陰茎を包み込む。


魔法使い「あんっ……はぁっ、いぃ。僧侶さん、見てますか~?」クチュクチュ

僧侶「もう止めて! 今なら許してあげるから」

魔法使い「許してあげる? ふふっ、まだまだ元気ですね」

勇者「止めるんだ。そんなことをしても、魔法使いちゃんが傷付くだけだ」

魔法使い「そんな事ないです。あぁ……、好きぃ。勇者さま、勇者さまぁ//」ハァハァ

勇者「頼むから、もう止めてくれ。これ以上は……」

魔法使い「射精しちゃうの? いいよ、出して。全部受け入れるから」

勇者「!!」

魔法使い「いっぱい気持ち良くなって、中にたくさん出してくださいね//」チュッ


腰を浮かせて、陰茎を手で直立させる。
そして、ゆっくりと腰を下ろした。
膣前庭に亀頭が触れ、嬌声が漏れる。


魔法使い「あぅん、もうすぐ一つになれる。勇者さまぁ、好きだよ//」

僧侶「破壊魔法!」

魔法使い「いやあ゛ぁっ……」


両脚に激痛が走って、体勢を崩した。
すかさず、回復魔法で回復する。


魔法使い「痛いわねぇ! 邪魔をしないでよ!!」


顔を上げると、磔にしたはずの僧侶さんが自由の身になっていた。
どうやったのか分からないが、すべての杭が足元に落ちていた。

勇者「破壊魔法って、まさか僧侶さんまで……」

魔法使い「どうやって、磔刑から逃れたの!?」

僧侶「さあ、どうやったのかしらね? これ以上は、魔法使いちゃんでも許しません。もう絶対に許さない!」

魔法使い「また私から、勇者さまを奪うの?」

僧侶「魔法使いちゃんには、勇者さまを渡しません!」

魔法使い「私もあなたを、勇者さまと二人きりになんて絶対にさせない!」


だからあの日、私は僧侶さんを二人きりにさせなかった。
告白するチャンスを与えなかった。

見つけられない、だまし絵のイルカ。
どんなに納得させようとしても、この気持ちはもう抑えきれない。

転移の羽を取り出し、天にかざした。

これを使えば、僧侶さんをエルグの村に飛ばすことが出来る。
そうすれば邪魔者がいなくなる。
勇者さまと思う存分、気持ちを確かめ合うことが出来る。


僧侶「転移魔法!」パッ

魔法使い「えっ……、しまった!」

僧侶「帰るのはあなたよ、魔法使いちゃん。もう役目は終わったの」

魔法使い「役目?」

僧侶「そう……、私があなたの同行を許したのは、勇者さまが私の身体目当てだったからよ」

勇者「冗談だろ……」

僧侶「だから優しく接して、いつも味方をしてあげて、あなたが帰らないようにしていたの。子供を連れて歩くことで、その気を起こさせないためにね」

魔法使い「じゃあやっぱり、私のほうが勇者さまに相応しいです!」

僧侶「いいえ、私は勇者さまを本気で好きになったの! その気持ちは、絶対に誰にも負けない!」

魔法使い「あなたは相応しくないです!」

僧侶「転移の羽はここにあるんだから、村に帰るのは魔法使いちゃんだよ」

魔法使い「いやだっ、風精霊召喚っ!」


空気の刃を転移の羽に放つ。
僧侶さんの右腕を切り裂きながら、転移の羽は舞い散った。
そして、込められていた魔力が霧散する。


魔法使い「転移の羽がなければ、私を村に帰すことは出来ないわ!」

僧侶「だったら、死ぬ覚悟が出来ているということだよね。即死魔法!」

勇者「僧侶さん、やめろっ! そんなことをしたら取り返しがつかなくなる!」

魔法使い「いやああぁぁあっっ……」


ブレスレットに加工されている賢者の石が、一つ砕けた。
契約者である私の修復を行い、新しい命を吹き込む。

そして、また一つ砕ける。
次々と命が消えていく。

魔法使い「……治癒魔法!」


エメラルドの魔力と賢者の石を活用して、必死に治癒魔法を詠唱した。

まだ傷を治すことは出来ない。
だけど生体エネルギーを増幅させれば、即死魔法を防御することが出来るかもしれない。

効果があったのか、少し身体が楽になった。

僧侶「そんなことをしても無駄よ。絶対に勇者さまは渡さないから!」

魔法使い「土精霊……召喚!」


建物の壁から土を集め、太めの石槍をイメージした。
そして、それを床から突き上げる。

脚と脚の間。
僧侶さんの女性器めがけて、石槍を突き上げる。


僧侶「あ゛あ゛あああぁぁっ!!」


膣口を強引に破り、濡れていない膣を血塗れにしながら突き進む。
さらに子宮口を切り開き、子宮を押し広げた。

激痛に絶えられず、僧侶さんがもがく。
しかし、もがけばもがくほど石槍は子宮を傷付ける。

集中力を失ったのか、即死魔法が止まった。


魔法使い「ゼェゼェ……、僧侶さんにはそれがお似合いよ」

僧侶「……治癒魔法」

魔法使い「そんなことをしても無駄ですよ。それに今度は、重くて転移魔法でも動かせないですよね」


僧侶さんの生体エネルギーを読み取る。
出血は止まっているが、内性器は傷付いたままだ。
激痛は消えず、未だにもだえている。

僧侶「う゛う゛うっ!!」


脚が振るえ、膝が折れた。
それにより腰が下がって、石槍が子宮を貫く。
そしてそのまま、僧侶さんはズブズブとへたり込んだ。


僧侶「いやあ゛あ゛あああぁぁっ!!」


石槍の先端に、体重が圧し掛かる。
そして、体内を斬り裂きながら進んでいく。

消化管を斬って押しのけ、突き破る。
動脈を斬り、肉を斬り、体腔を血で満たす。
最後に心臓と肺に穴を開け、石槍は背骨で止まった。

体内に一本の串が通り、僧侶さんは苦悶の表情を浮かべながら脱力した。


その瞬間、装身具が二つ壊れたのを感じた。
修復魔法と蘇生魔法の装身具だ。

そしてまた、何かの魔法が発動して一つ壊れた。
どうやら、神経系の魔法のようだ。

僧侶「げほっげほっ、ううっ……」

勇者「僧侶さん!! 魔法使いちゃん、もう止めてくれ! 止めてくれ……」

魔法使い「勇者さまは、そこで待っていてください。終わったら、続きを楽しみましょ♪」

魔法使い「さてと、僧侶さん。奥の奥まで、入っちゃいましたよ。すごくエッチです//」

僧侶「…魔法使いちゃん……」

魔法使い「ゆっくり動かしてあげますから、たくさん気持ち良くなってくださいね♪」

魔法使い「土精霊!」

僧侶「あ゛あぁっ……んんっ。蘇生修復魔法」


石槍に笠状の刃を増やし、伸縮を繰り返した。

内臓を引き千切り、
卵巣と子宮に刃を刺して、そのまま押し潰す。
さらに血液と腸の内容物を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜる。

しかし、それらは修復魔法で正常な位置で再生する。
腸内環境も、適正に管理されているようだ。

それを私は、再び破壊する。
肺と心臓に石槍を刺し、
卵巣と子宮を壊すために、石槍を引いて押し潰す。


僧侶「はうっ……」

魔法使い「あはは。身体の中、いっぱい濡れてきたね」

僧侶「もう…やめ……」

魔法使い「あなたが妊娠するなんて、絶対に認めない! 勇者さまと愛し合うのは、絶対に私なんだから!」

今日はここまでにします。

拷問というか、
惨殺刑というか……、
修羅場がもうしばらく続きます。

R-18宣言はしてますし、
苦手な人はすみません。

やがて赤黒い汚物が、膣から掻き出されるようになった。
ついに、体内の再生が間に合わなくなったのだ。


僧侶「うぐっ……、んっ」

魔法使い「もう逝きそう? いつでも逝っていいよ」グチャグチャ

僧侶「魔法使いちゃん……」


もうすぐだ。
もうすぐ、僧侶さんを殺せる。
勇者さまと二人きりになれる。

魔法使い「早く逝っちゃえ、逝っちゃえっ!」


膣から、子宮や卵巣の肉片がはみ出る。
そして掻き出された汚物が、床を汚していく。
力無く、僧侶さんが笑みを浮かべた。


僧侶「…魔法使いちゃん……、もう気が……済んだ?」

ぐちゃぐちゃ.....

僧侶「私の背中を……押したこと、ずっと後悔していた……んでしょ。だから、こん……な殺し方をするんでしょ?」

魔法使い「何を言いたいの?」

ぐちゅ....

僧侶「本当は、もっと簡単に私を殺せるのに――」

魔法使い「私は本当は、二人の愛を受け入れるつもりでした。だけど、違ったんです。魔女さんが言ってましたよね」


『呪術的な影響じゃないか』って――。

魔法使い「それで分かったんです」

僧侶「……分かった?」ゼェゼェ

魔法使い「僧侶さんが告白した日、私が寝た振りをしている可能性に気付いていましたよね。それなのに、勇者さまと何度も何度も激しく交わりました」

魔法使い「それは、私に見せ付けたかったからじゃないんですか!」

僧侶「それは……」

魔法使い「僧侶さんの愛は偽りです! あなたは、私から勇者さまを奪いたかっただけなんです。見せ付けたかっただけなんです!」

僧侶「奪ったことは認めるわ……。一線を越えようとしている魔法使いちゃんに、私は我慢することができなかったの」

魔法使い「それが呪術の影響、偽りの愛の証拠じゃないんですか? あなたは交わる姿を見せつけたかっただけなんです」

僧侶「違う、違うっ……。睡眠魔法は負担が大きくて――」

魔法使い「同じことよ! 絶対に許せない。だから、淫らなあなたに相応しい殺し方をするんです!」

僧侶「魔法使いちゃん……。どうしても許せないなら、本気で私を殺せば良いわ。修復魔法の装身具は、これが最後だから……」

僧侶「魔法使いちゃんの気持ちを知っていたのに、勇者さまを奪ってごめんなさい」


そう言うと、僧侶さんの装身具が砕け散った。
修復魔法が解放され、石槍をよけて臓器が再生していく。

それと同時、何かの魔法が発動して装身具が砕け散った。


僧侶「……でもね、私は勇者さまを本気で愛してるの!」

魔法使い「それは偽り!」

僧侶「いいえ! その気持ちだけは、誰に何と言われても絶対に譲れない! だから、魔法使いちゃんに許してほしいのっ!」

魔法使い「それなら、私はあなたを殺します! そして、勇者さまを返してもらいます!」

魔法使い「土精霊、もう逝っちゃえ!!」

僧侶「ふふっ……」

魔法使い「えっ?!」


なぜか、土精霊の使役が出来ない。
まさか……、この違和感は封印魔法?!


僧侶「精神感応対策で、沈静魔法と修復魔法の装身具を使い切ったときに、魔法使いちゃんに対して封印魔法が発動するようにしていたの。だからもう……」

魔法使い「あはは、そんなことをすると石槍は抜けませんよ! だから、内臓を正常に修復することは出来ない。僧侶さんは必ず死にます!」

僧侶「そうかなぁ……」

魔法使い「そうです!」

僧侶「魔法使いちゃん、ごめんね。私を許してくれないなら、殺すしかないよね。即死魔法!!」

魔法使い「!! いやあぁぁっっ……」


生体エネルギーと魂が削り取られ、もだえながら崩れ落ちた。
魔法を封じられているので、治癒魔法を使えない。

命が尽きて、賢者の石が一つ砕けた。
そして、また一つ砕ける。
絶望的な速さで、賢者の石が砕けていく。

これがすべて砕けたら、本当に死んでしまうのかな……。

そうなる前に、僧侶さんを殺さないと!


魔法使い「殺す! 殺す、殺す、殺す……」

魔法が使えなくなったときのために、装身具に四大精霊を宿している。
水精霊と土精霊を解放すれば、僧侶さんを確実に殺せるはずだ。

全身の血液や細胞を凍結させれば、瞬時に生命活動を奪うことが出来る。
そして体内の石槍で、身体を粉々に砕いてしまえばいい。
そうすれば、どんな魔法でも蘇生することは出来ない。

顔を上げ、攻撃目標を見定めた。
すると、僧侶さんは泣いていた――。

魔法使い「どう……して…………」


目が合うと同時、僧侶さんが微笑した。
即死魔法の勢いが衰え、少し身体が楽になる。
もしかして、魔力が尽きてきた?!


僧侶「……いいよ。しな……ないで」

魔法使い「……えっ」

死なないで――。
その言葉と涙に戸惑った。


僧侶さんは、精神感応に支配されているのに謝ってくれた。
殺そうとしている私を、気遣ってくれた。

こんなときでも、
僧侶さんは私を想ってくれている。

それなのに、
私は何をしているのだろう――。

・・・
・・・・・・

天使『どんな理由があろうとも、命を奪うことは未来を奪うことだ。魔法使いちゃん、ただの村娘に過ぎないキミに、その犠牲を背負う覚悟があるのかい?』

魔法使い『無益な殺生で命を奪うことは、絶対にするべきではないです。だけど身を守るために、やむを得ない場合もあると思います。私は、命を無価値なものにするつもりはありません!』

・・・
・・・・・・

天使『魔法使いちゃん、苦しい思いをさせてごめんね。命が命で繋がっていることは、絶対的な真実だ。だからこそ命を奪う重さ、奪われる苦しみを知っておいてほしかったんだ』

魔法使い『は、はい……』

僧侶『魔法使いちゃんを殺しておいて、「命を奪われる苦しみを知っておいてほしかった」とか、勝手なことを言わないでください!』

・・・
・・・・・・

僧侶『欠損した身体の修復はさらに高度な魔法だし、蘇生魔法があっても人の命は一つしかないということは忘れないでね』

殺さなければ、殺される。
だけど、本当にそれでいいの?
私は、僧侶さんを殺してもいいの?


・・・
・・・・・・

僧侶『殿方と愛し合い、そして結ばれて、私たち女性は新しい命を授かります。だから……』

僧侶『これを矢に見立てれば、ほらっ♪ ハートに矢が刺さって、とても素敵ではないですかぁ//』

・・・
・・・・・・

勇者『今まで魔法使いちゃんを逃がす方法を考えていたけど、それだけじゃ駄目なんだよ。彼女の未来のためにも、三人で一緒に帰ろうな』

僧侶『はいっ。魔法使いちゃんと話したいことが、これからいっぱい増えそうですしね』

僧侶『魔法使いちゃん、こんな私だけど応援してくれますか? 魔法使いちゃん、本当にありがとう。これからも一緒に旅をしようね』

・・・
・・・・・・

僧侶『魔法使いちゃん。新しい命を宿すのは素敵なことだし、私たちも愛し合える殿方と出会って授かりたいものですね』

魔法使い『はいっ』

私は勇者さまが好きだ!

それでも、私は……僧侶さんを選ぶ。
僧侶さんが幸せだと、私もうれしいから。
僧侶さんはこの旅で、愛し合える殿方に出逢えたのだ――。

二人の幸せを、
ううん、私たち三人の幸せを壊したくないっ!

魔法使い「……土精霊、解放します!」


その言葉と同時、土精霊を宿していた装身具が崩れ落ちた。

勇者さまの拘束を解き、僧侶さんの石槍を取り除く。
ちらりと視線を交わすと勇者さまは頷き、僧侶さんの元へと駆け出した。

あぁ、やっぱり……。
やっぱり私と勇者さまは、心が繋がっている。

愛や恋ではないけれど、私のことを信じて想ってくれている。
それだけで十分だったはずなのに――。

勇者さまが、僧侶さんを抱きしめた。
僧侶さんは艶やかに微笑み、背中に腕を回す。

その瞬間、最後の賢者の石が砕け散った。
そしてそのまま、私の意識は遠退いていった。

今日はここまでにします。

おかげさまで、
ついに500レスを超えました。

かなりキツい描写が続いてますが…
レスありがとうございます。


僧侶「う……うぅん」

勇者「僧侶さん、気がついた?」

僧侶「ま、魔法使いちゃんは?!」

勇者「大丈夫、気を失っているだけだから」

僧侶「大丈夫って……、昏睡状態じゃないっ!」

勇者「昏睡?!」

僧侶「そ、蘇生魔法! お願いだから、死なないで。死なないで……」

僧侶「!!」


魔法使い「……、僧侶…さん」

僧侶「良かった、目が覚めてくれて……」

魔法使い「私、助かったんだ……」

僧侶「魔法使いちゃん、賢者の石は?!」

魔法使い「あ……、ゴム紐だけになっちゃいましたね」

僧侶「そんな……、うそでしょ。賢者の石が全部砕けるなんて、私は何回殺してしまったの!?」

魔法使い「僧侶さん、私は死んでないから。大丈夫ですから……」

僧侶「大丈夫って、石の数だけ殺されたってことなのよ!」

魔法使い「賢者の石は砕けてしまったけど、私は生きています。もう、それだけで十分です」

僧侶「また、そうやって我慢するの? 私のこと、本当は憎いはずでしょ」

魔法使い「我慢なんてしていません。僧侶さんは精神感応の影響を受けていても、私のことを想ってくれていました。そんな人を、どうして憎むことが出来るんですか?」

僧侶「私は魔法使いちゃんを殺したのよ」

魔法使い「私のほうこそ、取り返しの付かないことをしてしまいました。どんなに償っても、償いきれないです……」

僧侶「好きな人を奪われて、さらに見せ付けられて……。ずっと辛かったんでしょ」

魔法使い「私は本当に、二人の愛を受け入れるつもりでした。それなのに、私はあんなに残酷なことを――」

僧侶「魔法使いちゃん……」

魔法使い「私は僧侶さんを許します。私は、私を想ってくれている僧侶さんが好きなんです。だから、幸せになってほしいんです!」

僧侶「勇者さまは、私を嫌いになりましたよね。醜悪で愚かな姿を見せてしまったから……」

勇者「僧侶さんは、精神感応に支配されていたんだろ。僕は僧侶さんを、絶対に大切にするから」

僧侶「私は、魔法使いちゃんを殺しました。勇者さまに相応しくないです」

勇者「僧侶さんは魔法使いちゃんのこと、精神感応で引き出された歪んだ狂気と、さっきの本心から出た言葉、どっちを信じるんだ?」

僧侶「それは……」

勇者「自分ばかり責めるんじゃなくて、もっと魔法使いちゃんの気持ちと向き合えよ!」

勇者「正直言って、殺し合う二人の姿を見ていることがつらかった。だけど二人は、それ以上の信頼関係を築いていたんだなと感じた。だから、精神感応に打ち勝てたんだろ」

勇者「ありのままの姿をも受け止めることが出来たなら、それだけ僕たちの絆は固く繋がることになるんじゃないかな」

魔法使い「私もそう思います。お互いに本音をさらけ出して、それでもまた向かい合うことが出来たのだから、賢者の石を消費しただけの価値があると思います。それで良いじゃないですか」

僧侶「……」

勇者「魔法使いちゃん……。今回のことで、僕は魔法使いちゃんの気持ちを軽んじていたと思い知らされた。普段通りに接することが、正しいと思っていたんだ」

魔法使い「私は勇者さまが好きです。だから以前は、愛し合う二人を見て嫉妬していました」

魔法使い「でも今は、温かい気持ちになれるんです。幸せそうだなって」

勇者「幸せそう……」

魔法使い「だから私は、今まで通りに接してほしいです。気持ちの整理を、ちゃんとしますから。さっきの事は、すみませんでした」

勇者「そっか……、分かったよ。これからも、よろしくね」

魔法使い「はいっ//」

魔法使い「僧侶さん。私がしたことを許してくれるなら、私は私たち三人の幸せを大切にしたいです」

魔法使い「これからも仲間として、大切な友人として一緒にいてほしいです。本当にごめんなさい!」


僧侶「いつの間にか、こんなに大きく成長していたんだね……」

僧侶「魔法使いちゃん、本当にごめんなさい。そして、ありがとう。ありがとう……」

魔法使い「ふふっ♪」

僧侶「勇者さま、こんな私でも好きでいてくれますか?」

勇者「言っただろ、僕は僧侶さんを絶対に大切にするって。二人で一緒に、幸せな未来を築いていこうな」

僧侶「はいっ、勇者さまのことが大好きです!」チュッ

魔法使い「いつか私も、愛し合える殿方に出逢いたいな//」

僧侶「魔法使いちゃんなら、素敵な人が見つかるよ」

魔法使い「そうかなぁ」

僧侶「うん、絶対に大丈夫だよ」

勇者「ところで、魔法使いちゃん……」

魔法使い「何ですか?」

勇者「そろそろ、何か着てほしいんだけど……」

魔法使い「わわっ// 脱いだままなの忘れてたぁ!」

勇者「いつ気付くのかなと思っていたけど、忘れてたんだ……」

魔法使い「もう、いつまで見てるんですか! さっきの続きは、僧侶さんとして下さいね//」

勇者「はは……」


僧侶「勇者さま、着替え終わりました」

勇者「身体は大丈夫?」

僧侶「はい、もう大丈夫です。心配してくれてありがとうございます//」

勇者「そっか、良かったよ」

僧侶「欠損した卵胞も回収して本気で治癒したし、私は天使にその実力が認められた女僧侶ですから。だから、その……」

勇者「んっ?」

僧侶「私と勇者さまの、元気な赤ちゃんを産めますから//」

勇者「そっか、子供かぁ」

僧侶「はい。だから、安心してください」

勇者「今度、二人で落ち着いて話をしような」

僧侶「はい、勇者さま♪」

勇者「じゃあ、精神感応の被害状況を確認しておこうか」

魔法使い「私は、転移の羽と賢者の石を失いました。もう逃げられません。それと、土精霊の装身具を解放しました」

僧侶「私は魔法使いちゃんからネックレスを借りて、魔力の回復中です。用意した装身具も残り少ないです」

勇者「やっぱり、魔法使いちゃんが一番の問題だよな」

僧侶「そうですよね……。こんな形で転移の羽を失うとは、全然考えていなかったです」

魔法使い「すみません」

勇者「そのおかげで、みんなで帰れる訳だし。ポジティブに考えようよ」

魔法使い「はいっ」

勇者「とりあえず今回のことは、かなり重要な情報となるはずだ。それを持ち帰ることを優先させたい」

僧侶「という事は、もう帰るのですか?」

勇者「精神感応の原因は、神の遺産だろ。その魔力を解放してハノイの塔を確認したら、結界内から離脱しようと思う」

僧侶「そうですね。一度戻って、態勢を整えましょう。では、パズルを解きますね」

僧侶「この迷路を解くと、『Envy』という文字が浮かび上がるみたいです」

勇者「固有言語みたいだけど、意味は分かる?」

僧侶「はい。七つの大罪の一つで、これは『嫉妬』です。何だか、作為的なものを感じます」

魔法使い「つまりその迷路は、私の嫉妬心を煽るために用意されたということですか?」

僧侶「そうかもしれないわね。それが私たちに対して有効な攻撃手段として、精神感応の媒体になっていたのだと思う」カチャカチャ

魔法使い「私たちが来ることを知っていて、神の遺産を用意出来るのは……」

勇者「女神しかいないだろうな」

僧侶「そうなると、精神感応はなくならないことになりますよね」

魔法使い「あっ! この迷路が私たちに対して用意されたのなら、魔女さんたちが来たときも、魔女さんたちに対して迷路が用意されたことになります!」

勇者「つまり、このパズルの魔力を解放しても、次の部隊が来たら、それに対して新しい迷路が用意されるということか」

僧侶「……はい。精神感応はなくなりません」

勇者「そうか……。精神感応が消えないと分かっただけでも、部隊編成に有効な情報だよ」

僧侶「そもそも、女神は何をしたいのでしょうか? 精神感応の目的が不明です。あっ、ソリティアが完成しました♪」

勇者「精神感応で殺し合わせる目的か。何がしたいんだろ」

魔法使い「そういえば、天使さんが私たちのことを『試される者』と言ってましたよね」

勇者「精神感応で、何かを試しているのかな」

??「あらあら、駄目じゃない。ここで生き残れるのは一人だけなんだよ。さあ、裁きの続きを始めましょうか!」


声がした場所を見ると、魔法使いちゃんが立っていた。
いや、魔法使いちゃんと同じ服を着た何者かだ。


勇者「お前は何者だ!」

??「私はここを管理する者です。変身魔法、洗脳魔法!」

魔法使い「えっ……。いやっ、いやあ!」


魔法使いちゃんの悲鳴と同時、障壁魔法で闇のカーテンが作られる。
次の瞬間、魔法使いちゃんが消失した。

そして闇のカーテンが外されると、そこには二人の魔法使いちゃんが立っていた。

魔法使い『勇者さま御一行の絆をあまく見ていたわ。まさか、精神支配を乗り越えてしまうなんてね』

勇者「お前たちの目的は何なんだ!」

魔法使い『君たちと問答するつもりはない』

僧侶「魔法使いちゃん!」

魔法使い『君たちにとって、この子は特別な存在だよね。何があっても死なせられない。だから、そこに弱点が生まれる』

魔法使い『さあ、私だけを選んで殺すことが出来るかしら? 見せてもらうわ!』

僧侶「そんな、やっと心から分かり合えたのに……」

勇者「精神感応といい、なんて卑劣なんだ」

いつの間にか用意されていたナイフを抜き、二人が勇者さまに切りかかった。

接近戦を選ぶのは、剣で殺されることが出来る間合いに入るためかもしれない。
そして、本物の魔法使いちゃんが殺されることを期待しているのだろう。

突き出される二本のナイフを、勇者さまが両手でいなす。


勇者「魔法使いちゃん、止めるんだ!」

魔法使い『あはは、あははははは』

勇者「ぐっ!」


魔法使いちゃんのナイフが、勇者さまの腕を掠めた。
さらにもう一方が、鎧の隙間を的確に狙って刺し込んだ。

魔法使いちゃんは、体術全般が苦手だ。
だから、鎧を狙ったほうが偽者かもしれない。

しかし両者とも、勇者さまにナイフを当てることが出来ている。
やはり、ナイフ術で特定することは困難だ。


僧侶「勇者さま! 防御魔法、回復魔法!」

勇者「僧侶さん、ありがとう」

魔法使い『ほらほら、殺さないと殺されるよ。勇者さまに、仲間を斬る覚悟はあるのかな?』

勇者「くっ……」


シュンッ
しかし、剣は空を斬る。


魔法使い『しっかり狙わないと、私は倒せないよ』

勇者「無理だ……。魔法使いちゃんを斬れるわけがない」

勇者「僧侶さん! どっちが魔法使いちゃんか、魔法で分からないか?」

僧侶「そんな都合の良い魔法は――」

勇者「人以外に治癒魔法を使えないなら、それで識別が出来るだろ」


魔法で識別する。
どうして、そんな簡単なことを思い付かなかったのだろう。

精神を集中させ、二人の生体エネルギーを読み取った。

左手側を攻めているのは、人間。
生体エネルギーの分布は、魔法使いちゃんだ。

という事は、
右手側を攻めているのが偽物だ。


……えっ?!


僧侶「勇者さま、無理です……」

勇者「無理?」

僧侶「はい……、どっちも本物なんです。正真正銘、本物の魔法使いちゃんなんです!」

勇者「そんなバカな!」

魔法使い『ふふっ、遺伝子レベルで同じ身体に変身する魔法。服は有り合わせだけど、まるっきり同じだから見分ける術はない!』

僧侶「でも人と同じ状態なら、私の魔法が届きます!」

魔法使い『また私を殺すの? もう賢者の石がないのに……』

僧侶「あぁっ……」

魔法使い『あはは、君たちは私を殺せない。精神支配を乗り越えるほどの絆のせいで、私に殺されるのよ。いいわ、いいわぁ』

勇者「そうだ、僧侶さん! 二人に魔法が効くなら、眠らせれば良いじゃないか」

僧侶「でも……」

魔法使い『ほらほら、よそ見をするなんて余裕だね』

勇者「くっ……」



精神感応系の魔法は、身体への負担が大きい。
だけど、今は非常事態だ。


僧侶「……、分かりました。睡眠魔法!」


しかし、睡眠魔法は効かなかった。

僧侶「どうして?!」

魔法使い『あはは。確かに君は、人間の域を超えているわ。だけど、所詮は人間なのよね。私の精神支配には勝てない』

勇者「だったら、僕が取り押さえるまでだ!」

魔法使い『捌くだけで手一杯のあなたが、二人同時に? 仮にそれが出来たとして、どうやって私だけを拘束するの?』

勇者「それは後で考える!」

魔法使い『分かってないのね。洗脳魔法は、身体や脳への負担が大きいの。だから私を殺さないと、この子は死ぬ』

勇者「死ぬって、冗談だろ……」

僧侶「恐らく、本当だと思います」


拘束しただけでは、魔法使いちゃんを特定できない。

特定して殺さなければ、魔法使いちゃんが人の力を超えた魔法で死んでしまう。

そもそも、精神感応を作り出しているのは、この偽物かもしれない。
ならば、今後の戦略のために倒す必要がある。

僧侶「勇者さま……。私は覚悟を決めました」

勇者「覚悟って……」

僧侶「魔法使いちゃんなら、私を信じてくれるはずです」

魔法使い『ふふっ、なんて身勝手なの? 殺そうとしてくる仲間なんて、信じられるわけがないじゃない!』


二人の魔法使いちゃんが、私に切りかかってきた。
やはり、どちらが偽者か分からない。

だけどそんなことは、今は関係ない。
出来ることをするだけだ。

魔法使いちゃんを特定するために――。

右と左から、ナイフが突き出された。
だけど私には、ナイフをいなす技術がない。

転移魔法も、激しく動いている物体は難しくて、まだ使いこなせない。

だから、ナイフを破壊する。


僧侶「金属破壊っ!」


左手側から突き出されたナイフの刃が触れた瞬間、魔力で金属を特定して刃を破壊した。

それに戸惑い、魔法使いちゃんたちは動きを止めた。


解毒魔法を行使するためには、毒物の構造を理解して無害なものに分解する必要がある。
その応用として覚えた魔法が、金属製の拘束具を破壊する錬金術だ。

魔法使い『錬金術も使えるの?!』

僧侶「魔法使いちゃんには、話したことがあるはずですけど」


そう言うと、私は刺してきた魔法使いちゃんに、拳を突き出した。


僧侶「転移魔法!」
魔法使い「えっ?!」


腰に下げているナイフを転移させて、握り締める。
そして、そのまま突き刺した。

魔法使い「うああぁぁっ! そ、僧侶さん、痛いよ……痛いよぉ」

僧侶「破壊魔法!」
彼女の呻き声を気にせず、ツインテールの右側を破壊する。

勇者「そ、僧侶さん! もし本当の魔法使いちゃんだったら、どうするつもりだ!」

僧侶「大丈夫です。これくらいなら、魔法使いちゃんは回復できます」

ツインテール一本の魔法使いちゃんが、刺したままにした私のナイフを抜いて回復した。
そして、そのナイフを構える。

やはり偽者は、精神感応に特化しているようだ。
だから、攻撃魔法を使わないのだろう。

毎日のように見てきた、魔法使いちゃんの精霊魔法。
その魔力の流れで見抜く方法は、諦めるしかないようだ。

魔法使い1「僧侶さん、本気で私を殺そうとするなんて酷いです!」

魔法使い2「正気でそんなことが出来るなんて、もうあなたのことは信じられないです!」

僧侶「よく聞いて、偽者さん。魔法使いちゃんを見分けられるように、ツインテールの本数で区別することにしました」

魔法使い『ツインテールの本数?』

僧侶「私は絶対に、魔法使いちゃんを特定して助けます!」

魔法使い2「髪を切ったくらいで、私を特定できるわけないでしょ」

魔法使い1「あなたは魔法を封印すれば、もう簡単に死ぬよね」

魔法使い『それに、転移魔法は厄介だし』

僧侶「封印魔法って、やっぱりあなたは天使なの?!」

魔法使い『さぁ、どうかしら。封印魔法!』

僧侶「!!」

今日はここまでにします。

ちなみに、
魔法使いちゃんは、5話で髪型をツインテールにしています。

魔法使い2「あははは、一気に行くわよ! 障壁魔法!」


闇の障壁が視界を隠す。
次の瞬間、首を切り裂かれた。

頚動脈から血液が噴出し、切り裂かれた気管から呼気が漏れる。
治癒魔法が自動で発動し、装身具が一つ砕け散った。
これで治癒魔法を宿した装身具は、残り二つだ。


魔法使い2「あれっ、死なないんだ。僧侶さんは、あと何回殺せば死ぬのかなぁ」

僧侶「げほっげほっ……ぜぇぜぇ。すぅはぁ……」

勇者「やめろっ!」

勇者さまが私たちの間に割って入り、
ツインテール一本の魔法使いちゃんに剣を振り下ろした。

しかし迷いがあるからか、動きに切れがない。
あっさりかわされ、逆に魔法使いちゃんたちに切られた。


僧侶「治癒魔法!!」

魔法使い1「あはは、勇者さまぁ。勇者さまのことが大好きだよ。私の処女を、その大きなモノで貫いてほしいな」

勇者「魔法使いちゃん……」

魔法使い1「そんなものが入ってきたら、すぐに逝っちゃいそう。ねえ、私の愛を受け止めて」

勇者「くそっ、どうすればいいんだよ……」

僧侶「勇者さま、今から私が偽物の正体を暴きます」

勇者「そんなことが出来るのか?!」

僧侶「上手くいけば……。だから勇者さまは、その偽物を斬ってほしいです」

勇者「上手くいけばって、失敗する可能性があるのか?」

僧侶「そのときは、魔法使いちゃんを生き返らせます」

勇者「生き返らせる?!」

僧侶「はい。失敗したら、もう一方も斬ればいいだけなんです」

勇者「それ、本気で言っているのか……」

僧侶「もちろんです。破壊魔法と蘇生魔法、治癒魔法の装身具が一つずつ残っています。だから、絶対に成功します」

勇者「生き返るから殺してもいい。だから、二人とも殺せばいい。そんな理屈が通るわけないだろ!」

僧侶「私たちには、もう後がないことも分かってください! 勇者さま、私を信じてください」

勇者「……、分かった」

僧侶「実はさっきの攻撃で、どちらが偽者か確信できました。ツインテール一本が偽者なんです」

勇者「ツインテール一本が偽者?」

僧侶「はい、間違いありません」

魔法使い1「へぇ、興味深い作戦だね。根拠はあるの?」

僧侶「二人の魔法使いちゃんは、それぞれ攻撃に移るときの体運びが微妙に違います。それは、熟練者と洗脳魔法の差だと思います」

魔法使い2「ふうん……。筋肉量に相応しい動きしか、させていないはずだけどねぇ」

僧侶「そして私は、今までずっと魔法使いちゃんと過ごしてきました。その時間を、私は信じます」

僧侶「だから偽者は、ツインテール一本のほうなんです!」

魔法使い『ええっ?!』

魔法使い1「そんな理由で、私を偽者呼ばわりするの?!」

魔法使い2「というか、その三段論法は何なの?!」

僧侶「私は論理的だと思いますけど」

魔法使い1「勇者さまは、こんな主観だけで私を殺すの?」

魔法使い2「一度でも間違えたら、絶対に後悔するわよ!」

勇者「くっ……」

魔法使い『もういいわ。それが君たちの答えなのね』

僧侶「はい」

魔法使い『もう終わらせます。障壁魔法!!』

闇の障壁で視界を塞がれ、ナイフが突き出された。
激痛と同時に治癒魔法が発動して、最後の装身具が壊れる。
さらに、腕を切られた。
だけど、痛みで呻いている暇はない。


闇のカーテンから抜け出すと、魔法使いちゃんの『ローブ』を確認した。
それは明らかに異変が起きていた。

私がナイフで刺したのは、ツインテール一本の魔法使いちゃんだ。
それなのに、今はツインテール二本の魔法使いちゃんが『破れたローブ』を着ている。

障壁魔法で見えなくなっていたのは一瞬だ。
その間に、攻撃をしながら着替えることは困難だ。
つまり、二人の髪型が入れ替わったことになる。


魔法使いちゃん……。
今、助けてあげるからね!

僧侶「偽者はツインテール二本のほうね!」

魔法使い『えっ?!』

勇者「僧侶さん、話が違う!」


僧侶「破壊魔法を解放します!!」

魔法使い2「いやっ、いやああぁぁっ!」

魔法使い1「……!」

魔法使い2「僧侶さん、どうして私なの?! やめて、やめてええぇぇっ!!」

魔法使いちゃんは、まだ治癒魔法を使いこなせない。
だから内臓を破壊すれば、彼女はなすすべなく死んでしまう。

もし偽者ならば、死んでしまう前に本来の姿に戻るはずだ。
本来の姿に戻れば、破壊魔法を無効化できるからだ。

そしてもし治癒が出来るならば、
やはり偽物を特定出来ることになる。

もだえ苦しむ魔法使いちゃん。
私は間違えていない、間違えていない……。

僧侶「勇者さま! 覚悟を決めてください!」

勇者「分かった。僧侶さんを信じるよ!」


ツインテール二本の魔法使いちゃんに、勇者さまが剣を向ける。
そして小さな身体を、大きな剣が貫いた。


魔法使い2「ゆ、勇者さま……ごほっ。私、私は……」


魔法使いちゃんは涙を流し、苦しそうに呻いている。
大量の血があふれ出し、ローブが赤く染まっていく。

その間、ツインテール一本の魔法使いちゃんは沈黙していた。

勇者「もう元の姿に戻れ。これ以上、魔法使いちゃんの苦しむ姿を見せないでくれっ」


勇者さまの声は震えていた。
魔法使いちゃんを斬る。
私は、なんという残酷なことをさせているのだろう。


僧侶「戻らないと死にますよ。私は確信していますから」

魔法使い2「……」


魔法使いちゃんの生気が消えていく。
やがて変身魔法が解け、その正体を現した。

偽者「どうして分かった……」

僧侶「私が魔法使いちゃんを刺したのは、ローブを切り裂くためです」

偽物「ローブを切り裂くため?」

僧侶「はい。もし変身魔法で二人が入れ替われば、ローブの破れと髪型が一致しないことになります」

僧侶「そして私のナイフを持たせたのも、ナイフの交換に注意を向けさせて着替えさせないためです」

偽者「そういうこと……か。あの三段論法は、ミスリードだった訳か」

僧侶「このことから、ツインテール一本を殺すと宣言しているので、入れ替わりがあれば二本が偽者」

僧侶「もし入れ替わりがなければ、ツインテール一本は殺されてもいいわけだから、ツインテール二本が偽者だと分かります」

勇者「そういうことは、事前に打ち合わせをしてくれないと困るんだけど」

僧侶「敵の前で打ち合わせなんて出来ないですよ」

勇者「……、そうだね」

偽者「まさか、この私が初歩的な論理パズルに引っかかるとは……」

僧侶「それでは偽者さん、魔法使いちゃんを返してください!」

偽者「どうやら、返さない訳にはいかないみたいね」

勇者「最後に、いくつか聞きたいことがある。お前の主は女神なのか? 一体ここで何をするつもりなんだ!」

偽者「ここの目的は、試される者たちの罪を裁くことよ。そのために精神を解放させて、理性を取り払う」

僧侶「罪って、嫉妬ですか……」

偽物「そうね。だけど、その罪は赦されました。仲間を想う信頼と知恵、特別にそれを汲んであげましょう」

勇者「つまり女神は、僕たちに殺し合いをさせるために神託を下して、加護を与えるのか?!」

偽物「それは、私の役目を超えている。赦された者よ、最後の試練を乗り越えてくれることを期待しています」


そう言うと、偽物は光に包まれて転移した。


魔法使い「そ、僧侶さん……私」

僧侶「もう大丈夫だよ。勇者さまが勝ったから」

魔法使い「勇者さま、ありがとうございます。ずっと信じていました」

勇者「天使を見破ったのは僧侶さんだから、お礼なら僧侶さんに」

魔法使い「はい、ありがとうございます」

僧侶「私こそ、精霊魔法を使わないでいてくれて、本当にありがとう」

魔法使い「……あれっ。私のツインテール、片方だけになちゃってる。勇者さまが可愛いって、褒めてくれたのに……」ショボン

僧侶「あっ、ごめんね。天使を特定するために、それ以外に思いつかなくて……」

魔法使い「そっか……、勇者さまが守ってくれたんだ」

僧侶「うん、きっとそうだね」

魔法使い「あの、もう片方の髪を勇者さまに切ってもらってもいいですか?」

僧侶「魔法使いちゃんがそれで納得できるなら、それでもいいよ」

魔法使い「じゃあ、この僧侶さんのナイフでお願いします」

勇者「分かった。じゃあ切るよ」

パサッ・・・

魔法使い「ショートボブになりました。似合いますか?」

勇者「アクティブな印象で可愛いよ」

魔法使い「ふふっ、また勇者さまに褒められました♪」

魔法使い「それでは、賢者さんを探しに行きませんか?」

僧侶「そうだね」

勇者「天使が引き返して光が消えたけど、次の試練があると言っていた。精神感応の危険はなくなったけど、結界の中にいることは忘れないようにしよう」

僧侶・魔法使い「はいっ」

>>571
脱字訂正

誤…片方だけになちゃってる
正…片方だけになっちゃってる


見落としました。
すみません…。


魔法使い「この部屋から魔力を感じますね」

僧侶「入ってみましょうか」

勇者「そうだな」


バタンッ・・・。

扉を開けてすぐ、異様な光景が目に飛び込んできた。


僧侶「!!」

魔法使い「ああっ、むごい……」

裸の男性二人の遺体が、四肢と胴体を八つ裂きにされて床に転がっていた。
流れ出た血液が固まり、こぼれ出た内臓がぐちゃぐちゃに潰されている。
切断された男性器が奇妙に膨らみ、何だか気味が悪い。

異臭と嫌悪感で、吐き気が込み上げてくる。

そしてベッドの上には、全裸の女性の遺体があった。
脚を広げ、臀部だけにされた殿方と繋がっている。

さらに何ヶ所も刺された痕があり、喉元にはナイフが突き立てられたままになっていた。
抵抗する彼女を魔力が尽きるまで、執拗に刺し続けたのだろう。
シーツは赤黒く染まり、張りがあっただろう皮膚も網状に変色していた。

死に逝く中、賢者さんは何を思っていたのだろう。
二人を殺した魔女さんを、誰が責めることが出来るだろう。

混沌とした恐怖をまざまざと感じさせられる。

僧侶「腐敗が進んでますね……。魔法使いちゃん、大丈夫?」

魔法使い「うぅっ、だ……大丈夫です」

勇者「僕たちでもつらいんだ。無理はしなくていいからね」

魔法使い「はい……」

勇者「ここにも神の遺産があるな」

僧侶「迷路とペグ・ソリティアですね。この迷路、少し形が違いますよ」

勇者「僕たちとは違うパズルということか」

僧侶「そうみたいですね。迷路の答えは『Lust』。七つの大罪の一つで『色欲』です」

勇者「色欲か……」

僧侶「精神感応の影響があったとはいえ、ここで何が起きたのか想像すると恐ろしいです」

勇者「そう……だな」

僧侶「賢者さんへの仕打ちは、あまりにも惨いです。それに、魔女さんがしたことも……」

魔法使い「殿方は女性と交わるために、ここまで残酷になれるのですね」

勇者「それは、一部の人だけだから」

魔法使い「分かっています。でも人は、ここまで残忍になれるのですね……」

僧侶「私たちも、ついさっき経験した通りだよ」

魔法使い「そう……ですよね。命は一つしかない大切なものなのに、とても悲しいです」

僧侶「だからこそ、命の尊さを理解しないといけないの。私も魔法使いちゃんも、今以上に――」

魔法使い「……はい。あのっ、賢者さんのお墓を作ってあげたいです。殿方と一緒なのはあんまりなので、丘があればそちらに」

僧侶「そうだね。賢者さんの魂が安らかに眠れるよう、改めて祈りましょう。そのナイフは、遺品として預かっておきますか?」

魔法使い「はい、そうします。風精霊さん……、近くの丘までお願いします」


~極南の村・丘~ 
魔法使い「……土精霊! これで良しっ」

僧侶「賢者さんの魂が安らかに眠れるよう、ご冥福をお祈りします」

魔法使い「ご冥福をお祈りします」

勇者「あの……」

僧侶「何ですか?」

勇者「こういう結果になってしまったから女性には言いづらいんだけど、バトマスたちはどうしようか。あいつらは友人だから、最低限、弔ってやりたいんだ」

僧侶「……そうですね」

勇者「それにあの建物には、まだ多くの遺体があると思う。出来れば彼らも……」

魔法使い「いくら何でも、あの建物にいる全員となると、私の魔力では困難です」

勇者「やっぱり無理か……。実は気になることがあるんだ」

僧侶「気になることですか?」

勇者「魔女さんがここに来たのは、十日ほど前だろ。建物を管理する天使がいるのに、遺体が放置されているのはおかしいと思わないか?」

僧侶「言われてみれば、気になりますね」

勇者「恐らく仲間同士で殺し合わせるために、そのまま放置されているんだ」

僧侶「遺体と殺し合うのですか?!」

勇者「砂漠にいた時、生きる屍を作り出していただろ。それと同じで、死んだ仲間と向き合って、どのように乗り越えるか試すつもりなんだと思う」

僧侶「私たちは第一陣だから、遺体ではなくて魔法使いちゃんが操られたわけですね」

勇者「そう考えると、やっぱり放っておけないだろ。何か手はないかな……」

??「おやおや、素敵な相談をしているようだね」

勇者「!! お前は、いつぞやの天使!」

天使「やあ、久しぶり。まさか精神支配を突破するとは思わなかったよ」

勇者「僕たちの絆は、簡単には壊せない!」

天使「それは良いことだ。魔法使いちゃんも、しっかり頑張っているようだね」

魔法使い「は、はいっ」

勇者「そんなことより、お前が次の相手なのか?」

天使「物騒だねえ。敵対するつもりはないから、剣を納めなよ」

勇者「では、何が目的だ!」

天使「キミたちは、あの建物をどうするって?」

魔法使い「亡くなった方を弔いたいのですが、私では魔力が足りないのです」

天使「なるほど、それは困ったね。じゃあ、弔ってあげるよ」

魔法使い「えっ、本当ですか」

天使「もう必要ないからね。隕石召喚、土精霊!」

まばゆい光を放ちながら、巨大な岩石が降ってきた。
頭の上を通り過ぎて、村に落下する。


ズドオオオォォンッ!


建物に直撃し、強烈な空震が発生して周囲を吹き飛ばす。

やがて衝撃が治まると、村がきれいに無くなっていた。


天使「整地完了! こんな感じでどうだい?」

僧侶「な、何てことを……。あの建物には、たくさんの亡くなった方々が――」

天使「手伝ってあげたのに、ひどい言い草だね」

僧侶「ひどいって、村が一つなくなったのですよ!」

天使「天使の恩寵があって、今頃は喜んでいる頃だと思うけどなあ。どうせ人間は、適当に埋葬するだけだろ」

勇者「結界内だし、そうなるかもしれないな……。天使が弔ったわけだし、これでみんなの魂が安らかに眠れることを祈るばかりだよ」

僧侶「そう……ですね。相談したのは私たちですし、あなたに感謝します。皆さんの魂が、安らかに眠れますように」

魔法使い「安らかに眠れますように……」

天使「僕たちとしても残念だよ」

魔法使い「天使さん、ありがとうございました。魔法の使い方も勉強になりました」

天使「土精霊でこれくらい出来るようにならないと、人間の域は超えられないよ」

魔法使い「はいっ!」

10
勇者「ところで、神の使いに聞きたいことがある」

天使「手短に頼むよ」

勇者「天使の恩寵と言うが、もともとは女神が殺した者たちだろ。この闇は、女神が作り出しているんじゃないのか?」

天使「ははっ、驚きの推理だね。女神さまが闇を作り出しているなら、人間に加護を与える必要なんてないじゃないか」

勇者「それは罪を裁いて、人を試すためだろ」

天使「この間のメッセージは、受け取ってくれたかい?」

勇者「世界への侵入者を排除してほしい、という意味で良いのか?」

天使「その表現が正しいとは思えないけど、そう思ってくれても差し支えない」

天使「キミたちには、この闇を取り払ってほしい。それが、女神さまから加護を受けた者たちの役目だ」

勇者「闇を取り払う?! じゃあ、女神が闇を作っている訳ではなかったのか」

天使「無礼にも程があるよ。そのために、生きる価値があることを期限までに示してほしい」

勇者「生きる価値?」

天使「ああ、そうだ。犠牲になった命を無価値なものにしないために、それらを未来に繋げてほしい」

魔法使い「分かりました!」

勇者「そうだな……。当初の目的通りか」

僧侶「ところで期限とは、ハノイの塔のことですか?」

天使「そう、もうすぐハノイが完成する。対象が仕掛けた精神支配を乗り越えたキミたちなら、それが出来ると信じているよ」

僧侶「やるしかないみたいですね……」

天使「僧侶さん、闇に打ち勝てたキミに我々からのプレゼントだ」

僧侶「これは……?」

天使「正十二面体は宇宙を表している。これは、その広大な宇宙を模したパズルだよ」

僧侶「これが宇宙なんですか?!」

天使「面が回転するものは特に難しいけど、すべての色を揃えてほしい。気分転換にでも、気軽に遊んでくれたまえ」

僧侶「ありがとうございます!」

魔法使い「いいなぁ。バラバラの状態も、カラフルできれいなパズルですね」

僧侶「対角線が星型で、デザインが良いよね。ここを回して揃えていくみたいだよ」

魔法使い「どの面も回るんだ。これは難しそうですね」

天使「魔法使いちゃん」

魔法使い「はいっ」

天使「キミには、僕の羽根をあげよう。祝福された未来が訪れ、天使の恩寵があるように」

魔法使い「わわっ、天使の羽根だなんて……。絶対に大切にします!」

天使「まあ、僕の翼を吹き飛ばしてくれたこともあったけどねぇ」

魔法使い「それはその……ごめんなさい」アセアセ

天使「いいよ、楽しかったから。キミたちが闇を取り払ってくれること、期待しているよ」

魔法使い「はいっ、頑張ります!」

勇者「で、僕には?」

天使「えっ? ないよ」

勇者「ま、マジか! 攻略アイテムとか、そういうものは……」

天使「女神さまの加護があるのに、天使に出来ることなんて何もないだろ。それくらい、察してほしいんだけどなぁ」

勇者「すみません……」

魔法使い「勇者さまには僧侶さんがいるし、私もいます。それで良いじゃないですか」

僧侶「そうですよ、勇者さま。私たちがいるじゃないですか」

勇者「ああ、そうだったな。二人が居てくれたら心強いよ」

僧侶「もちろんです//」

勇者「それじゃあ、僕たちの最後の目的地、極南の地に向かおうか」

僧侶・魔法使い「はいっ、勇者さま!」

第9話 おわり

・迷路
・ソリティア

・論理パズル

・正十二面体パズル

ようやく終わりました。
レスを下さる方、
いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。


今回の話で、三角関係がついに決着です。
魔法使いちゃんの処女は、無事に死守できました!

二人の魔法使いちゃんは、
オマージュですが、パズルSSらしい内容になったと思います。
個人的には、修羅場に気合いを入れましたが。。(笑)

という訳で、
いよいよ最後の目的地。
パズルSSとして、
勇者SSとして、ついに最終決戦です。

ちなみに、
正十二面体パズルは『Starminx 2』です。
かなり難しいパズルです。

第10話 終末のパズル

~極北の地~
調査団A「よし、結界に入るぞ!」

調査団B「あ、あぁ。この光の世界にあるのは、希望なのか絶望なのか……」

調査団A「そりゃあ、光だから希望だろうよ」

調査団B「そうだな」

魔道師C「ま、待て! この結界を越えるな!」

調査団A「ぐああぁぁぁぁぁっっ!!」

調査団B「足が、脚があっ!」

魔道師D「治癒魔法!」

魔道師C「な、何という莫大なエネルギーなんだ。これは光属性の攻撃魔法だ!」

調査団B「ぜぇぜぇ……。攻撃魔法だって?! こんなに巨大なものが放たれると、世界はどうなるんだ」

魔道師C「分からない。だから結界が必要なのかもしれない」

魔道師D「極南が闇に覆われている理由は、もしやこの魔法のためなのか……」


~極南の地~
魔法使い「これが魔女さんが見たハノイの塔ですね」

僧侶「うわぁ、本当にハノイの塔の原典だよ! こっそり持って帰りたいです!」

勇者「いやいや、無理だから。二枚あった結界には入れたけど、この結界のせいで触れないし」

僧侶「でも支柱はダイヤで、円盤は純金なんですよ。ものすごく価値が高い代物です」

魔法使い「僧侶さん、とりあえず今は残り時間を計りましょうよ」

僧侶「はぁ、そうだね」

勇者「でもどうやって時間を計るの?」

魔法使い「ハノイの塔は、その最小手順をメルセンヌ数で表すことが出来ます」

勇者「メルセンヌ数?」

魔法使い「メルセンヌ数は『2のn乗-1』で表せる数のことで、例えば3枚ならば『7』になります」

勇者「ふうん……」

魔法使い「ハノイの塔は64枚だから、メルセンヌ数は約1844京6744兆です。一枚一秒で動いているので、完成まで約5845億年かかることになります」

勇者「5845億年?! 気が遠くなるな……」

魔法使い「それが終末までの時間なので、まだまだ余裕があると思いますよ」

魔法使い「では、移動が終わっている枚数を数えませんか?」

勇者「一枚、二枚、三枚……」

魔法使い「揃っている枚数は、48枚ですね」

勇者「そうだね、48枚だ。つまり、残りは16枚か」

魔法使い「16枚で計算すると、最小手順は、えっと……65535手になります」

勇者「もう万単位なんだ。というか、計算早いなぁ」

魔法使い「暗算は得意です♪ えっと、一時間は3600秒だから、残り時間は約18時間ですね」

僧侶「魔法使いちゃん、もう手数が進んでいるし、半日の猶予しかないと思ったほうがいいんじゃない?」

魔法使い「じゃあ、世界の終末まで、あと半日です」

僧侶「つまり、秋分点を通過したときに、ハノイの塔が完成して終末を迎えるのね」

魔法使い「えっ?!」

勇者「えっ……」

魔法使い「きょ、今日が世界の終末なの!?」

僧侶「もうすぐ完成するって聞いてたけど、本当にもうすぐじゃないですか!」アセアセ

勇者「闇を取り払うって、どうすればいいんだよ」

魔法使い「勇者さま、あそこを見てください。何だか、空がキラキラしていませんか?」

勇者「確かに」

僧侶「時間がありませんし、行ってみましょう。そこに光があるなら、私たちは行かなければなりません」

勇者「そうだな。二人ともこれが最後の戦いだ。心してかかろう!」

僧侶・魔法使い「はいっ!」


勇者「何だろう、この天まで届きそうな塔は……」

魔法使い「このてっぺんから、キラキラした光が出ているように見えますよね」

僧侶「もしかして、勇者さまが言っていたアレじゃないですか?」

勇者「極北の地に、光が集められているかもしれないって話か」

僧侶「はい。この建造物に白夜の光が集められていて、極北に送られているのではないでしょうか」

勇者「ということは、これを破壊すれば闇を取り払うことが出来るという訳か」

僧侶「確証はありませんが、そうだと思います」

勇者「じゃあ、世界の終末が迫っているし、とりあえず倒してみよう」

魔法使い「分かりました。爆発魔法!!」


ドオォォォンッ!


魔法使い「少し穴が開いたくらいでは、びくともしないですね……」

勇者「やっぱり、柱があるから無理だな」

魔法使い「ところで、この柱は何で出来ているのでしょうか?」

僧侶「見たことがない素材だね」

勇者「金属なら、僧侶さんの魔法で壊せるだろ」

僧侶「私はあくまでも、拘束具を破壊することが目的だから……。こんなに巨大な建造物だと、私では無理です」

勇者「そうか……」

魔法使い「勇者さま、この中に入ってみますか?」

僧侶「入って大丈夫なのかな。これは兵器かもしれないですよ」

魔法使い「そっか……。じゃあ、何としてでも倒したいですね」


魔法使いちゃんがそう言ったとき、
一面が眩しい光に包まれた。


勇者「な、なんだ?!」

??「よく来たな、女神に選ばれし人間よ」

勇者「!! お前が世界への侵入者か」

??「侵入者だと? 我はこの世界の造物主だ。世界を創造し、生命を誕生させたもの。この世界の理を統べるものだ」

勇者「造物主……、まさか神なのか?!」

造物主「いかにも」

僧侶「じゃあ、天使のメッセージの本当の意味は――」

以前、天使から受け取ったメッセージは、ポリオミノ系のパズルだった。
ポリオミノにとって、枠は世界を表している。

そして、神の遺産であるペントミノは、
『神様は世界を破壊して創りかえることが出来る』ことを示すパズルでもある。

つまり、天使のメッセージは、世界への侵入者の排除を依頼するものではなかった。
神様が世界に干渉していることを示し、干渉前の状態に戻すことを依頼するものだったのだ。

魔法使い「か、神様がどうしてこんなことを……」

造物主「人間よ、この世界は美しいか?」

勇者「う、美しい?」

造物主「そうだ。人間は同族で争い、同じ過ちを繰り返す。見かねた我々が罰を与えたが、それでも人の心は変わらなかった」

造物主「国と国が争い、人と人とが殺しあう。あまつさえ、少人数で編成された部隊の仲間すら信頼できず、人は殺しあうのだ。お前たちのように」

魔法使い「それは……」

造物主「そんな人間の世界が、美しいと言えるのか!」

勇者「美しいに決まっている。もし美しくないと言うのなら、そのような世界を創造した神様の責任だ」

魔法使い「勇者さま、その一言は……」

造物主「そうだな。それもまた、真実であろう。罪を赦された者よ、お前たちに世界を見せてやろう」


その言葉と同時、五種類の正多面体が出現した。

造物主「プラトンの立体、これが世界だ」

魔法使い「これらが、世界そのものなんですか?」

造物主「正四面体は『火』、正六面体は『土』、正八面体は『風』、正二十面体は『水』。それぞれが四大元素を象徴し、世界を充たしている」

造物主「そして、正十二面体が第五元素『エーテル』。これが宇宙を形成して、世界の基盤となっているのだ」

魔法使い「それが世界なんですね」

勇者「でもそれが、さっきの話とどう繋がるんだ」

造物主「それでは、正六面体のキューブを使おうか。この調和が取れた大地は、人間を作ったことで醜く変化し始めた」


正六面体はルービックキューブのように分割されていて、それぞれの面が回転を始めた。
色が混ざり、バラバラになっていく。


造物主「人間は争い、殺しあう。その度に、世界が汚染されていく。世界の調和を図ったが、それでもバラバラになる」

造物主「どうすれば世界を揃えることが出来る。調和を取ることが出来るのだ」

造物主「女神に選ばれた者よ、このキューブを戻してみせよ」

勇者(天使が言っていたのは、生きる価値があることを示すこと。神を倒すことではない。今はこのパズルを解くしかないのか)

勇者「僧侶さんは、こういうパズルが得意だよね」

僧侶「神様直々のパズルです。ぜひ、挑戦させてください」


カシャカシャ……


僧侶「うぅん。一面揃えるのは出来たけど、二段目を揃えようとするとバラバラになっちゃいますね……」

造物主「このように、調和を乱すのは簡単だ。しかし一度乱れてしまえば、それを戻すことは容易ではない――」

魔法使い「僧侶さん、上段を回転させてこうすれば、このキューブが二段目に移動しますよ」

僧侶「あっ、ほんとだ。これを四回繰り返せば、二段目も完成しそうだね」


カシャカシャ……


僧侶「よしっ、出来たぁ! あと一段!!」

僧侶「……だめだぁ」カシャカシャ

魔法使い「まったく分からないですね……」

勇者「どこをどのように動かしたか、メモすれば良いんじゃない?」

僧侶「そうですね。メモをしながら、試行錯誤してみます」

造物主「どうだ、戻せぬであろう。揃ったように見えても、結局は乱雑になり、世界の秩序を破壊する」

僧侶「……」

造物主「それがお前たち人間なのだ。我々が過去二回、人類のあり方を見直す機会を与えたが、それも結局は――」

僧侶「すみません、静かにしてください。うるさいです」カシャカシャ

造物主「ぐぬぬ……」

魔法使い「僧侶さん、このパターンはどうでしょうか?」

僧侶「それいいね。角を三ヶ所、入れ替えながら向きを替えられるんだ。ということは、十字架を作れば良いんだね」


カシャカシャ……


僧侶「よしっ、あとは側面を入れ替えるだけだ!」

勇者「ここを半回転させて、上を回してみたらどうなるだろ」

僧侶「それだと、揃えた場所がバラバラになってしまいます。いや、こうすれば反対側と辻褄を合わせられるから――」

魔法使い「!! 僧侶さん、さっきの所を逆に回してみてください」

僧侶「あっ、揃った! やったね、魔法使いちゃん!」

魔法使い「はいっ! 面白いパズルでしたね」

僧侶「そうだよね。つい時間を忘れちゃったよ」

勇者「神よ、パズルを揃えたぞ!」

造物主「そ、揃えただと?!」

勇者「例え神様が不可能だと言っても、僕たち人間は協力して困難を乗り越えることが出来るんだ!」

造物主「そしてまた、同じことを繰り返すのであろう。お前たち人間は、秩序を保つことが出来ない」

僧侶「そんなことはありません」

造物主「戦争の歴史が、それを物語っておる。そのキューブパズルを揃えても、容易にバラバラになるであろう」

僧侶「バラバラになっても、また揃えれば良いんです!」

造物主「その度に精霊たちが傷付き、世界が破壊されていると、なぜ分からんのだ」

僧侶「それは……」

造物主「世界の秩序を乱さない方法が、一つだけある。今から、それを教えてやろう」

僧侶「……!!」


正六面体、六色のキューブパズル。
その表面が闇に包まれ、黒一色になった。


造物主「こうすれば、どんなに回転しても秩序が乱れることはない。どんなに回しても、黒なのだからな。そう思わんか?」

勇者「それはまさか、世界中の人類を滅ぼすということか!」

僧侶「そんなの間違っています!」

造物主「乱れることのない秩序。精霊たちが傷付く事のない世界こそ、美しい世界のあり方だ!」

僧侶「神様、見てください。これは天使に貰った、正十二面体の立体パズルです」

僧侶「この形状は宇宙を表していますよね。見ての通り、まったく揃っていません。でも、すごく芸術的で美しいじゃないですか!」

僧侶「確かに、揃っているほうが美しいかもしれません。だけどパズルは、解く過程のすべてが美しいのです」

僧侶「人間もパズルと同じです。パズルを揃えて完成させることは、人で言えば死ぬことかもしれません。ならば、パズルを解く過程は生きることです」

僧侶「生きることは、それだけで素晴らしいことなんです!」

魔法使い「私はこの旅で、色んな経験をしました。僧侶さんには命の大切さを教えてもらい、勇者さまに会って恋と絆を知りました」

魔法使い「砂漠の都と港町では人々の生活に触れて、命を守ることや努力することを学びました。魔法医学を通じて、人体の神秘に触れることも出来ました」

魔法使い「でもそれだけではなくて、人の醜さも知りました。男女が交わることは、幸せなことばかりではないこと。嫉妬に狂い、己の欲望のために人を傷つけ殺せること。そして、どんな人でも残忍になれることを知りました」

魔法使い「確かに戦争の歴史があるように、人は愚かなのかもしれません」

魔法使い「だけど私たちはお互いを信じて絆を深め、精神感応を乗り越えました。世界中の人々も、目標のために協力しあっています」

魔法使い「人は努力して、成長していけるんです!」

勇者「極南の村の精神感応を、僕たちは乗り越えた。あれを仕掛けたのが神様ならば、僕たちの絆は神様でも壊せない! それでも、僕たち人間に生きる価値がないと言えるのか!」

造物主「さすが我の試練に耐え、ここまで来ただけはあるな」

造物主「調和の取れた世界には及ばぬが、それをも美しく見せて成長していこうとする人間がいる限り、まだまだ未来の可能性が残されているのかもしれんな」

勇者「そうだ! いくら神様とはいえ、成長の機会を一方的に奪うことは許されるのか」

造物主「我は二度、世界の調和を図った。それが、大洪水と魔族の投入だ」

魔法使い「大洪水と魔族?!」

造物主「大洪水で世界を初期化した後、人間は新技術によりバベルの塔を建造した。それは契約違反であり、我は罰として言語を多様化させた」

造物主「そして魔族の投入は、魔法という新技術を獲得した人間に対しての戒めだった。その戦いで人間は、ノアとその息子たちへの祝福を満たしつつ、言語を共通化することに成功した」

造物主「思い返せば、やはり人間は成長しているのかもしれないな」

魔法使い「そうです。人は努力し、成長しています! より良い世界を作るために、助け合っています!」

造物主「よし、分かった。お前たちにチャンスをやろう。ハノイの完成より早く、この世界の終焉を止めて見せよ」


勇者「世界の終焉を止める?」

造物主「あと数時間もすれば、極北に集められた光が極南へと撃ち放たれ、世界は終焉を迎えるであろう。すべての生命は絶え、そして新たな世界が創造される」

僧侶「そんな……。本当に世界を壊して、創りかえるだなんて――」

造物主「それが嫌なら、お前たちは制限時間内にパズルを解き、未来を獲得せよ」

僧侶「パズルとは、この建造物をどのように壊すかという事ですか?」

造物主「そうだ。この塔は二つの目的のために、遥か昔に建造されたバベルの塔を移転し改修したものだ」

僧侶「二つの目的?」

造物主「魔術で塔内に光を取り込み、収束させた地磁気に乗せて、極北まで飛ばすこと。そしてその光を再び誘導し、世界を貫くことが目的だ」

僧侶「つまり、この塔はトリック系のパズルなんですね」

魔法使い「トリック系か……」

造物主「では、このバベルの塔を破壊し、過去の罪を清算せよ」

勇者「魔法使いちゃん、ハノイの塔の残り時間は?」

魔法使い「多分、5時間くらいです。少し前に見たときは、限りなく15段に近かったみたいですね」

勇者「あと5時間か……。土精霊で砂に変えるってのは、どうだろう?」

魔法使い「外壁を砂に変えても、柱があるので倒れないですよ」

勇者「じゃあ、極南の村で天使が見せてくれた、空から隕石が降ってくる魔法は?」

魔法使い「今の私では、とても難しいです。精緻に落とすためには、高度な技術と膨大な魔力が必要ですから」

勇者「そうか……。僧侶さん、何とか柱を魔法で壊せないかな」

僧侶「未知の材料なので、壊すのは難しいです」

勇者「こんな太い柱は斬れないし、手詰まりか……」

僧侶「とりあえず、この塔の中がどうなっているのか調べましょう」

勇者「でも、この中に入るのは危険じゃないか?」

僧侶「中というか、私が調べるのは骨組みです」

勇者「骨組み?」

僧侶「はい。トリック系のパズルは、内部構造を推量しなければ解けませんから」

勇者「外壁があるのに、そんなことが出来るの?」

僧侶「解毒魔法を応用すれば、調べるだけなら出来ると思います。それでは、ぐるっと一周してきます」

勇者「分かった。気をつけて行ってきてね」

僧侶「はいっ」トテトテ

魔法使い「あっ、そうだ。神様に質問があります」

造物主「バベルの塔の壊し方なら教えんぞ」

魔法使い「いえ……。どうして、ハノイの塔を作ったのですか? 終末を前提として世界を創造したのですか?」

造物主「愚問だな。パズルは解くために創造するものであろう。人間も誕生すれば、明確な最期がある。この世界とて同じことだ」

魔法使い「それはそうかもしれませんが、何だか腑に落ちないのです」

造物主「腑に落ちないだと?」

魔法使い「バベルの塔を破壊すれば、終末を止めることが出来るのですよね。だけど終末を止めると、ハノイの塔が完成しないという事になります」

造物主「それがどうした」

魔法使い「ハノイの塔が完成しないならば、『パズルは解くために創造するものだ』という発言が誤っていることになります」

勇者「魔法使いちゃん、それはどういうことなんだ?」

魔法使い「つまり、この二つの塔はジレンマなのです」

勇者「ジレンマ?」

魔法使い「そうです。どちらか一方を解くと、もう一方のパズルを完成させることが出来ませんよね。それでは、パズルとして成立しません」

勇者「じゃあ、このバベルの塔は破壊することが出来ないということか……」

魔法使い「それは分かりません。恐らく、壊す方法は必ずあると思います」

勇者「それで終末が止まるなら、別に良いじゃないか」

魔法使い「でも神様は、『パズルは解くために創造するものだ』と言いつつ、解くことが出来ないパズルを創造してしまいました。私は、それが気になります」

勇者「つまり、バベルの塔を壊しても終末が止まらない可能性もある訳か」

魔法使い「はい。本当に世界の理を統べることが出来るのなら、等しく解くことが出来るように作り直すべきなんです」

造物主「なるほど、このような形で切り崩しに来たか。実に面白い娘だ」

魔法使い「ハノイの塔に終末時計としての役割がなければ、パズルは成立します。それに、世界の破壊をやめてください」

造物主「どうやら、論拠があるようだな」

魔法使い「15パズルが示していたドーナツ世界と、ハノイの塔が示す世界の終末は矛盾しています」

造物主「矛盾しているだと?」

魔法使い「ドーナツ世界は形状を歪めることを示唆しているのであって、破壊を示唆するものではありません。両方のパズルが発動したとき、世界はどうなるのですか!」

造物主「15パズルなどは、すべて女神がヒントとしてばら撒いたものだ。したがって、実態と違っていたとしても、矛盾は発生しない」

魔法使い「ただのヒント?」

勇者「なるほど……。だから、魔力が込められていたのか。パズルが発見されやすいように」

造物主「ジレンマだろうが矛盾だろうが、バベルの塔を破壊しなければこの世界は終焉を迎える。娘よ、それが真実だ」

魔法使い「……分かりました」


僧侶「はぁはぁ……、ものすごく疲れたぁ」

勇者「僧侶さん、おかえり」

僧侶「ただいまです……」

魔法使い「僧侶さん、お帰りなさい。バベルの塔とハノイの塔のジレンマを追及してみたけど、取り付く島がなかったです……」

僧侶「そうなんだ。残念だったね」

勇者「それで、内部構造は分かったの?」

僧侶「高層階は分からないけど、土台周辺の構造なら何とか……。まず、この建造物は円筒形をしています。入り口はありませんでした」

魔法使い「トリック系のパズルなら、入り口がないのは想定内ですね」

僧侶「そうだね。骨組みは鉄柱が2本と、未知の素材の柱が等間隔に何本も立っていました。そして鉄柱を始点と終点にして、何本もの鉄材を繋いで、C字環が作られていました」

勇者「その骨組みを、外壁が固めているのか」

僧侶「はい。恐らく未知の素材の柱が、重要な魔道具なのだと思います」

勇者「巨大な魔道具か。それで、中の空間には何があるの?」

僧侶「さすがに、そこまでは……。でもこれがパズルである以上は、この情報の中に破壊する手がかりがあるはずです」

魔法使い「勇者さま、内部は空洞だと思います。少し穴を覗いてみたけど、キラキラした光が上っていくのが見えるだけでした」

僧侶「魔法使いちゃん、中は危ないって言ったでしょ。治癒魔法……」

魔法使い「ごめんなさい」

勇者「とりあえず、C字環の切れ目に行ってみよう。そこが攻略の糸口だと思う」

僧侶「そうですね」

・・・
・・・・・・


僧侶「ここです」

勇者「魔法使いちゃん、穴を開けて確かめてみて。爆発魔法は破片が飛び散るから、砂に変える方針で」

魔法使い「はい、土精霊召喚!」

勇者「本当に、切れ目になっているんだ」

魔法使い「そうみたいですね」

勇者「鉄柱が上まで続いているから、C字環が連なっているのかもしれない。問題は、どうやって土台を破壊するかだけど――」

魔法使い「あっ!!」

勇者「どうしたの?」

魔法使い「電撃魔法です!」

魔法使い「勇者さまは、電撃魔法を使えましたよね」

勇者「正確には、電撃をまとった魔法剣だけど」

魔法使い「その電撃魔法は、無理やり電流を流す魔法ですよねえ!」

勇者「それはそうだけど、それがどうかしたの?」

魔法使い「研究論文で読んだのですが、この状況ではフレミングの左手の法則が使えるんです!」

勇者「何、そのフレミングって?」

魔法使い「この塔の内部は光を極北に飛ばすために、磁界の向きが真上になっていますよね。そして、水平方向に設置されているC字環に電流を流すと、右ねじの法則で垂直方向に磁界の渦が発生します」

勇者「う、うん……」

魔法使い「すると、磁界の渦の方向によって、磁界が強まる場所と弱まる場所が出来ることになります」

勇者「そっか……、そうなるね」

魔法使い「その磁界の強弱がC字環に作用して、その力に押されて動くのです。それが、フレミングの左手の法則です」

勇者「なるほど……。それでバベルの塔を壊せるの?」

魔法使い「試す価値はあると思います。C字環に反時計回りの電流を流してやれば、外向きの力が働きます」

勇者「えっと……、その親指が外側を向いているから、塔を壊せるのか」

魔法使い「はい。C字環が外壁を壊して、すべて崩落するはずです」

勇者「そうなんだ。おおっ、おおぉぉっ!」

魔法使い「つまり、電撃魔法でバベルの塔を破壊できます!」

僧侶「でも問題は、勇者さまの魔力ですよね。この塔を破壊しようと思えば、それだけ大きな魔力が必要になります」

勇者「そうだよな……」

魔法使い「私のネックレスを使えば、魔力を補えます」

僧侶「だったら、私の装身具も使ってもらいましょう。蘇生魔法を宿したものが残っているので、生体エネルギーの強化に使ってください」

勇者「じゃあ、この魔道具を使って、全力で放てば良いのかな」

魔法使い「そうです。勇者さま、頑張ってください!」

僧侶「勇者さま……。私と勇者さまの幸せのために、魔法使いちゃんの未来のためにお願いします」

勇者「二人の気持ち、受け取ったよ。ありがとう。こっちの方向でいいんだよね」

魔法使い「はいっ!」

勇者「はあぁぁぁっ……、やってやる!」


蘇生魔法の装身具が崩れ、エメラルドが緑色に淡く輝いた。
全身が興奮して高ぶり、力がみなぎってくる。


勇者「神速・雷光剣っ!!」


刀身が光を纏い、小規模な放電を繰り返す。
そして激しい爆音とともに、電撃が鉄柱へと放たれた。

ドゴゴゴオオォォンッッ!!


鉄柱からC字環へと伝導し、電撃が塔全体を駆け巡る。
激しい電流が強力な磁界を発生させ、骨格が呻き声をあげた。

C字環の継ぎ目が外れ、強大な力が鉄材を押し飛ばす。
そして外壁を突き破り、崩落の連鎖反応が発生した。

眼前をC字環だった物が飛んでいく。
そして天高くから、無数の瓦礫が降ってきた。

魔法使い「土精霊、風精霊召喚!!」


降り注ぐ外壁と地面を変形させて、巨大な傘を作った。
その上に、次々と瓦礫が降り注ぐ。

傘に瓦礫が降り積もれば、その重みに耐えられないかもしれない。
だから砂に分解して、塔の中心へと風で吹き飛ばす。


ドスッ
一本の鉄材が、岩石の傘を貫いた。

魔法使い「きゃあっ!!」


ドスッドスッ
まるで雨のように、何本もの鉄材が降ってきた。
C字環が吹き飛んだことで、固定されていた鉄柱が外れたのだ。

どうしよう……。
こんなものが直撃すると、一溜まりもない。


僧侶「魔法使いちゃん、一緒に頑張りましょ! 防御魔法!」

僧侶さんが、防御魔法で傘を強化してくれた。
降り注ぐ鉄柱を受け止め、その鉄柱でさらに傘を強化する。
しかし、降り積もる瓦礫に耐え切れず、ひびが入り始めた。


魔法使い「だめっ、もう魔力が足りない……」

勇者「大丈夫だよ」


エメラルドのネックレスを、首に掛けてもらった。
これで魔力を補うことが出来る。


魔法使い「勇者さま、ありがとうございます。土精霊!」


土精霊の使役を強め、傘の補修を行う。
それに呼応して、ネックレスが淡く輝き、魔力を放つ。
しかし限界を超えたせいか、エメラルドが割れてしまった。

魔法使い「ああっ、エメラルドが……」

勇者「魔法使いちゃん、傘が崩落しないように柱を! それと、出口の確保」

魔法使い「そ、そんな余力は! えっと……」


水精霊の装身具を解放し、凍結魔法を発動させた。
大気中の水分が凍結し、何本もの氷の柱が傘を支える。

さらに、火精霊と風精霊の装身具も解放した。
爆発魔法が発動し、積もった瓦礫を吹き飛ばす。
そして、この出口を塞がれないように、突風を巻き起こした。

僧侶さんも私も、すべての魔道具と装身具を使い切った。
もう私たちには余力がない。


魔法使い「お願い! 早く終わって!!」


風が吹き荒れる音が弱くなってきた。
それと同時、降り積もる瓦礫の音が大きくなる。
土精霊の分解も追いついていない。


僧侶「魔法使いちゃん、もう少し! もう少しだから」

魔法使い「はいっ……」


傘を支える圧力で、氷柱が溶け始めている。
もう傘の崩落が近い。

やがて、
すべての音が聞こえなくなった。

魔法使い「音がやんだ?」

勇者「どうやら、崩落が終わったみたいだな」

僧侶「やった……、やりましたね!」

魔法使い「勇者さま、バベルの塔を破壊しましたっ!!」

勇者「よしっ!! 二人とも、よく頑張ったね」

僧侶・魔法使い「はいっ!!」


みんなで手を取り合えば、出来ないことはない。
一人では不可能なことも、手を取り合えば成し遂げることが出来るのだ!

バベルの塔の崩落が終わったとき、瓦礫の山には一本の道が出来ていた。


~極北の地~
調査団A「お、おいっ。結界の様子がおかしいぞ」

魔道師D「ひ、光が空に昇っていく」

調査団B「いよいよ、地に放たれるということか……」

魔道師C「いや、違う。エネルギーが拡散している」


ピカッッ……
ドオォォォン!!


魔道師D「伏せろぉぉっ!!」

・・・
・・・・・・


調査団B「いててて、何が起こったんだ」

魔道師D「全体回復魔法!」

調査団A「光が……、結界が消えたぞ」

魔道師C「もしかして、極南で魔王を倒したのか?」

調査団A「そうだと良いがな。内部調査を行い、城に戻ろう」

BCD「了解っ!」


~極南の地~
??「勇者よ、お見事です」

勇者「あなたは?」

女神「私は女神です。仲間と力を合わせ、よくぞ神が定めし終焉を打ち破ってくれました。とても感謝しています」

勇者「……はい。女神さまよりそのような言葉をいただけるとは、身に余る光栄です」

女神「あなたたち二人も、よく頑張ってくれました。改めて、人間の強さを知ることが出来ました」

僧侶・魔法使い「は、はいっ」

造物主「女神よ、人間はお前の言う通り、愚かなだけの生物ではなかった。力を合わせ、常に成長している」

女神「主よ、やっと分かってくれましたね」

造物主「そうだな。このような者がいれば、人間は世界の秩序を保ち、前に進むことが出来るだろう」

女神「では、終焉を破棄されるのですね」

造物主「そう伝令しろ。この者たちは、我の試練を乗り越えたのだからな」

魔法使い「あの……、まだ終わっていません」

造物主「終わっていないだと?」

魔法使い「はいっ。ハノイの塔を完成させなければなりません」

造物主「それはもう良い。終焉への刻は止まったのだ」

魔法使い「いいえ、神様はおっしゃいました」

『パズルは解くために創造するものだ』、と――。

魔法使い「だから、解くことが出来ないパズルを存在させるわけにはいきません」

僧侶「そうだね。約5845億年もの歳月を重ねて、ようやく完成が見えているんです。解いてあげましょう!」

勇者「おいおい、待てよ。ハノイの塔は終末時計なんだろ。それをもう一度動かしたら、どんな危険があるか分からないじゃないか」

魔法使い「だからこそ、完成させなければならないのです」

勇者「神様がいいと言ってるんだ、その必要はないんじゃないか?」

魔法使い「次に神様がハノイの塔を動かしたとき、残り時間はもう僅かしかありませんよね。そのとき、人々はどうしたら良いのですか?」

勇者「くっ……、そうだな。今、解かなければならないのか」

造物主「面白い、やってみせよ。ハノイの塔が完成したとき、世界は砕け終焉を迎えるであろう」

女神「ちょ、ちょっと! そんなこと、勝手に決めないでくださいよ!」

造物主「女神よ、お前はお前が選んだ者を信じることが出来ぬのか?」

女神「それは……」

造物主「ならば、問題なかろう」

女神「……承知いたしました」

勇者「とりあえず、残り時間を調べよう。ハノイの塔は、自動で解かれているしな」

魔法使い「残り枚数は、あと12段。つまり、終末まで一時間ちょっとです」

勇者「あと一時間か。二人のこと、信じているから」

僧侶「はい、任せてください!」

魔法使い「頑張ります!」

魔法使い「神様。ハノイの塔が完成すれば、世界が終焉を迎えるんですよね」

造物主「それが、そのパズルの特性だ」

魔法使い「では、私からのお願いです。プラトンの立体を、すべて出してください。五つで世界になるのですよね?」

造物主「そうだ。必要だというならば、用意してやろう」

魔法使い「ありがとうございます」

僧侶「次は、私からのお願いです。本当に世界の理を統べることが出来るのならば、私たちにそれを証明してください」

造物主「証明してほしいだと?」

僧侶「この世界が滅びると、私たちは真実を確認することが出来ません。ハノイの塔で世界が終焉を迎えるならば、その仮想世界を壊してみせてください」

造物主「それが、バベルの塔とハノイの塔のジレンマに対する答えか」

魔法使い「はい。それ以外に、両方のパズルを解く方法はありません」

造物主「この世界が破壊の運命から免れるために、別の世界を犠牲にするわけだな」

僧侶「命は命で繋がっています。その正多面体が犠牲だというなら、私たちはそれを無価値なものにするつもりはありません」

魔法使い「そうです。私はこの世界を、絶対に価値あるものにしてみせます!」

造物主「その言葉に偽りはないな。それでは証明してみせよう。我が世界を統べることが出来ることを――」

ハノイの塔の結界内に、五種類のプラトンの立体が配置された。
火土風水と宇宙。
仮想世界に囲まれ、ハノイの円盤が時を刻む。

カタカタカタ……。

一枚。
そして、また一枚。
終末へのカウントが刻まれていく。

そして一時間後、
ハノイの塔が完成して、仮想世界が砕け散った。

魔力が解放されて、闇に消えていく。
その魔力に、私は愕然とした。

この立体は、ただの模型ではなかったの?!
本当に、これが世界だったの?

たった今、
私は世界を滅ぼしたのだ――。


造物主「女神に選ばれし者よ、よくやり遂げた。ハノイを動かすという傲慢な選択も、転じれば勇気ある選択か」

魔法使い「あの……。さっきの立体は、まさか本当に……」

造物主「娘よ、我が模型だと言えば安心するのか?」

魔法使い「それは……」

造物主「お前は誓ったはずだ。この世界を価値あるものにする、と」

魔法使い「……はい」

造物主「ならば、その覚悟と決意を我に魅せてくれないか。一つの世界を犠牲にしてまで得た、お前たちの未来を」

魔法使い「!! は、はいっ!」

造物主「それでは、我は再び静観しよう。お前たち人間が導き出す、この世界の答え。見届けさせてもらうぞ」


その言葉と同時、一帯が光に包まれた。
その光が消えたときには、神様がいなくなっていた。

勇者「お疲れさま。よくやったよ、二人とも」

僧侶「終わりましたね。もうヘトヘトです」

魔法使い「……、勇者さま」

勇者「魔法使いちゃん?」

魔法使い「私はハノイの塔を完成させて、世界を一つ滅ぼしてしまいました。だから私は、より良い未来を築くために頑張りたいです」

勇者「そうだね。でも、一人で背負う必要はないからね。みんなで協力しないと、出来ないことだから」

僧侶「魔法使いちゃん。これからも、私たちと一緒に頑張ろうね」

魔法使い「はいっ。勇者さま、僧侶さん、これからもお願いします!」

僧侶「それじゃあ、魔法使いちゃん。帰りに、賢者さんのお墓に報告しましょうか」

魔法使い「はい、もちろんです。賢者さんや亡くなった方に報告をしたいです」

女神「そのことについて、私は謝罪しなければなりません。村の方々のみならず、数多の者が私の加護を受け、犠牲になってしまいました。本当に申し訳ないと思っています」

勇者「それは……」

女神「先日、極南の村にて弔ったと報告を受けました。来世では、彼らに祝福があることでしょう」
女神「それをもって、謝罪に代えさせてもらいたいと思います」

僧侶「そう……なんですね」

魔法使い「良かったです」

女神「あなたたちが困難を乗り越え、成し遂げてくれたことに心から敬意を表します」

女神「その来たる人生に、女神の祝福があることを約束しましょう。正しき道を歩み、前に進みなさい」

勇者「身に余る光栄です、ありがとうございます!」

僧侶「ありがとうございます」

魔法使い「女神さま、私をここまで導いてくれてありがとうございました」

女神「それでは、あなたたちに祝福された未来を――」


温かく優しい光に包まれる。
その光が消えると、女神さまがいなくなっていた。


勇者「僕たちも帰ろうか。魔女さんが待ってるし、報告すべきことが山ほどある」

僧侶・魔法使い「はいっ、勇者さまっ!」

第10話 おわり

(プラトンの立体)
・キューブパズル

(構造推測系パズル)
・バベルの塔

・ハノイの塔

今回はここまでです。

最終決戦なので、パズルSSの本領を発揮しました!
熱いバトルを期待していた方は、すみませんでした。


パズルネタは、プラトンの立体。
四大元素と宇宙を象徴しているので、勇者SSにぴったりな立体パズルです。

土属性の正六面体パズル『ルービックキューブ』は、絶対に外せないネタですね。(笑)

ちなみに、
正二十面体パズル『Eitan's Star』は、なんと1万円の高級品です。


という訳で、
次回は起承転結でいう『結』。
世界も救ったし、ついにエピローグです。

最終話 私たちの幸せ

~南の都・お城~
王様「待っておったぞ、勇者よ」

勇者「極南の地の調査が終了し、闇の結界を解放して参りました」

王様「な、なんと! 結界を解放したじゃと?!」

勇者「はい。季節が巡って極夜になったので、日は昇りませんが間違いありません。魔女から報告を受けていると思いますが、結界はハノイの塔が示す終末の定めによるものでした」

王様「終末の定め?」

勇者「はい。世界の秩序を乱し、戦争を繰り返す人間に対して、この世界を創造した神様が裁きを下していたのです」

王様「なんと! 魔王ではなく、神の怒りじゃったのか!」

勇者「そうです。そのために結界が必要だったのです」

勇者「精神感応の報告も受けていると思いますが、それは人間を救済したい女神の意見を汲み、神様が人間を試して裁くために用意したものでした」

勇者「その裁きを乗り越える者が現れることで、人間の可能性を示すことが出来ます。だから女神は結界を越えられる者を選び、私たちに神託を下していたのです」

王様「闇が現れるまで、確かに人類は驕り高ぶっておったかもしれんな。して、神と女神はどうなったのじゃ」

勇者「私たちが人間の可能性を示し、闇を取り払うことで神の赦しを得ることに成功いたしました。女神からの祝福も獲得し、人間の未来を静観してくれるそうです」

王様「そうか。僧侶と魔法使い、そして魔女よ。勇者を支え、よくぞ無事に帰ってきてくれた」

王様「そなたらの国の王に代わり、わしからも礼を申し上げよう。書状を出しておくゆえ、返事があるまで休暇を取るが良い」

勇者「ありがとうございます。帰路は各国を訪問して帰るつもりなので、そのことも付記していただくようお願いいたします」

王様「なるほど、良い心がけじゃな。我らは手を取り合わねばならんからな」

魔法使い「あの、私はただの村娘なので……」

王様「おお、そうであった。魔法使いには、エルグ王から書状が届いておるぞ」
魔法使い「書状ですか?」

王様「今月から始まった研修のことじゃが、極南に向かう部隊で研修するようにとのことだ」

魔法使い「は、はいっ! 季節が逆で、すっかり忘れていました」

僧侶「じゃあ、今日から正式な部隊メンバーだね」

魔法使い「なんだか緊張します。勇者さま、僧侶さん、よろしくお願いします」ペコリ

王様「では、魔法使いよ。書状は国王と村長に出しておこう。勇者一行の魔道師として胸を張り、驕ることなく成長していくことを楽しみにしておるぞ」

魔法使い「はいっ、頑張ります!」


~南の街~
魔法使い「はぁ、緊張しました」

僧侶「お城に帰ったら、ご褒美が楽しみだね。美味しいものを食べて、可愛いドレスも欲しいな~」

魔法使い「そうですね♪ 私も美味しいものを食べて、精霊魔術と魔法医学の書物を揃えたいです」

魔女「あたしは何もしてないのに、いいのかな?」

僧侶「魔女さんの情報のお陰で、私たちは助かったんだから。もう大切な仲間ですよ」

魔法使い「そうです。魔女さんのお陰です」

魔女「そっか。二人とも、ありがとう」

勇者「じゃあ、そろそろ宿に戻ろうか。魔女さんと合流して4人になったし、今日から部屋割りを変更するからね」

魔法使い「えっ、そうなんですか?」

勇者「僕と僧侶さん、魔法使いちゃんと魔女さんで二部屋に分かれるから、それでお願いします」

魔法使い「ああ、そういう事なんですね」

僧侶「えへへ//」

勇者「そういう訳で魔女さん、魔法使いちゃんと仲良くしてあげてください」

魔女「はい」

僧侶「じゃあ、後で二人の部屋に遊びに行きますね♪」


~宿・魔法使いと魔女の部屋~
魔女「……」

魔女「…………」

『あぅん……あぁ、勇者さまぁ…………』

魔法使い「僧侶さんの声ですね」

魔女「ま、まあ、こういうことをするための部屋割りだし」

『……ひゃぁん。うんっ、いい……そこ気持ちいい』

魔法使い「そうですよね。いつもより楽しめているみたいで、本当に良かったです」

魔女「そ……そうなんだ」

魔法使い「あの、失礼なことを訊きますけど、二人の声を聞いて、つらいことを思い出しますか?」

魔女「好きあっているのは知っているけど、こんな声を聞くとつらい……かな。魔女っ子ちゃんは?」

魔法使い「僧侶さんが幸せそうで、私も愛し合える人が欲しいなって思います」

魔女「そう……なんだ」

魔法使い「私、極南の村で、魔女さんがしたことを見てきました」

魔女「あれを見ちゃったんだ……」

魔法使い「はい。魔女さんが、バラバラにしたんですよね」

魔女「そうよ……。毎日毎日、嫌だった。憎くて憎くて、もう限界だったの!」

魔法使い「そうですよね。魔女さんたちが、どんな事をされ続けてきたのか……。凄惨な光景を見て、私も恐怖を感じました」

魔女「……」

魔法使い「だけど、本当に殺すしかなかったのですか?」

魔女「あなたに、何が分かるって言うの?」

魔法使い「私も、精神感応で同じ経験をしましたから……」

魔女「あ……」

魔法使い「その影響で、僧侶さんと殺し合いました。私の嫉妬心が、精神感応の媒体でした」

魔女「ごめん……。極南の村に行ったということは、そういうこと……なんだよね」

魔法使い「……はい。それでも私たちは、お互いの気持ちを受け入れあって、絆を深めることが出来ました」

魔女「毎日無理やり犯されていたのに、彼らを許せるわけがないでしょ」

魔法使い「普通なら、そうですよね。でも、神様による呪術の影響があったなら、どうですか?」

魔女「それは……」

魔法使い「だから許すべきだ、なんて言うつもりはありません。だけど今回のことで、殿方のことを避けたり嫌いになったりしないでほしいです」ニコッ

魔女「……えっ?」

魔法使い「勇者さまみたいに、優しくて頼りになる殿方もいるはずですから//」

魔女「あの、そういう話だったの?」

魔法使い「そういう話?」

魔女「てっきり、あたしを責めているのかと……」

魔法使い「そんな事ないですよ~。きっと、私より罪深い人はいないですし」

魔女「それって、どういう……」

魔法使い「多くの人は、他人には言えない闇を抱えています。私は魔女さんのそういう部分も受け入れて、絆を作っていきたいです」

魔女「結界の中で、色々あったのね……。世界を救ってくれて、本当にありがとう」

魔法使い「魔女さん。私たちが世界を救えたのは、魔女さんがいてくれたからですよ」

魔女「はぁ……。もうあたしより、立派な魔道師になってるじゃない」

魔法使い「私はまだ研修生です。もっともっと、頑張りたいです!」

魔女「そっか、あたしも負けずに頑張らないとね……」

魔法使い「魔女さん、今日からよろしくお願いします」

魔女「うん、よろしくね。さっきの話、言えるようになったら話してね」

魔法使い「はい……」

魔女「ところで賢者さんのナイフを持っているということは、遺体はどうなったの?」

魔法使い「賢者さんは、極南の村にお墓を作りました。他の方々も、天使さんが弔ってくれましたよ」

魔女「そうなんだ、ありがとう」

魔法使い「それで来世では、女神さまの祝福があるそうです」

魔女「そっか……。賢者さんのお墓、場所を教えてくれる?」

魔法使い「良いですよ、今度案内します」

『……あぅん、勇者さまぁ……んっ、いくぅ……いっちゃうっ』

魔女「僧侶ちゃん、まだしてるし……」

魔法使い「この時間ならきっと、夕食の時間になるまでしているかもしれないですね」

魔女「えっ?! まさか……」

魔法使い「二人ともすごく好きで、私が許してあげたらもう遠慮なく楽しんでますから」

魔女「遠慮なく?」

魔法使い「そうそう。障壁魔法でテントに仕切りを作ってあげたらね、そこで一晩中してましたよ」

魔女「そんなに?! 一緒にいて、それはキツいわね」

魔法使い「うーん、そうでもないかな。とても幸せそうだし、素敵なことじゃないですか」

魔女「そ、そう捉えるんだ」

魔法使い「それに、愛し合う時間を大切にして心から楽しむのが、僧侶さんらしいですから」

魔法使い「魔女さんも一緒にいれば、きっと変わりますよ。私も、僧侶さんのような女性でありたいです//」

魔女「そっか……。繋がりを大切にしている三人だから、世界を救えたのかもしれないわね」


僧侶「魔法使いちゃん、魔女さん、遊びに来たよ~」

魔女「そ、僧侶ちゃん……。いらっしゃい//」

僧侶「お邪魔します。どうして、そんなによそよそしいの?」

魔女「そ、それは……」

魔法使い「あっ、僧侶さん。ちょうどいい所に」

僧侶「何なに、ちょうどいい所って?」

魔法使い「勉強中なんですけど、分からない所があるんです」

僧侶「頑張ってるね。どんなところ?」

魔法使い「今は、肺のガス交換の勉強をしてるんですけど……。肺胞が必要な理由が分からないんです」

僧侶「えっと、血中成分はもう理解してるはずだよねえ」

魔法使い「はい、完璧です」

僧侶「肺胞が無数にあるのは、表面積を大きくするためなの」

魔法使い「表面積ですか?」

僧侶「例えば、食パンが一斤あるとするでしょ」

魔女(何で食パンなの?!)

僧侶「その食パンにジャムを塗りたいのだけど、四枚切りにした場合と八枚切りにした場合では、どっちがジャムをたくさん使うと思う?」

魔法使い「えっと、八枚切りですね」

僧侶「そうそう、八枚切りだね。パンを薄く切れば切るほど、ジャムを塗る面積が増えるでしょ」

魔法使い「はい」

僧侶「それが肺胞なら、血液が通る面積が増えることになるよね。すると、たくさんガス交換が出来るでしょ」

魔法使い「なるほど、そういうことなんですね」

魔女「僧侶ちゃん、お腹減ってる? おやつがあるんだけど、どうかなあ」

僧侶「もちろん、いただきますっ!」

魔女「極夜まんじゅう。そこの喫茶店で買ってきたの」

僧侶「へぇ、そんなの売ってるんだ。私が行ったときは、白夜まんじゅうを食べましたよ」

魔女「白夜まんじゅう?」

僧侶「こしあんの素朴なおまんじゅうだったけど、あまくて美味しかったな」

魔法使い「極夜まんじゅうは、外が黒糖で中が白あんでしたよ。すごく美味しいです!」

僧侶「そうなんだ、楽しみ~。それにしても、やっぱり昼と夜をイメージしてたんだね」

魔女「一昨日までは昼と夜があったから、昼夜まんじゅうが売ってたわよ。もう買えないみたいだけど」

僧侶「うわぁ、究極の期間限定商品ですね。食べたかったな……」

魔女「そう言うだろうと思って、お土産用を買っておいたから」

僧侶「本当ですか?! 魔女さん、大好きっ!」

魔女「ちょっと、大袈裟だって」アセアセ

僧侶「ところで、今夜は二人の歓迎会をすることに決まったから」

魔法使い「歓迎会ですか?」

僧侶「うん。魔法使いちゃんの研修が始まったし、魔女さんも仲間になったでしょ」

魔法使い「そうですね」

僧侶「だから二人を歓迎したくて、魚料理が美味しい料亭を予約してきたの」

魔法使い「白夜温泉の鮮魚ですよね。料亭、楽しみです♪」

魔女「僧侶ちゃん、あたしのために歓迎会だなんて、本当にありがとう。すごくうれしいです」

僧侶「今夜は二人が主役なんだし、みんなで楽しく過ごしましょうね♪」


トントン・・・

魔女「ゆ、勇者さん。いらっしゃい……」

勇者「こんにちは。あれ? 何、そのおまんじゅう」

僧侶「ふふっ、さすが勇者さま。食べ物の匂いを敏感に感じ取りましたね」

勇者「そういうつもりで来た訳じゃないけど……、一個いいかな」

魔女「ど、どうぞ」

勇者「ありがとう。極夜まんじゅうって言うんだ」

魔女「どうですか?」

勇者「美味しいね、これ。黒糖の風味がちょうどよくて、程よい甘さかな」

魔女「気に入ってもらえて良かったです」

僧侶「ねえねえ、昼夜まんじゅうも食べてみてよ。びっくりしますよ」

勇者「びっくりするの?」

僧侶「これこれ、期間限定の超レアモノだって」

勇者「黒と白のマーブル生地か……」

勇者「何だこれっ?!」

僧侶「ねっ、びっくりするでしょ」

勇者「つぶあんと……まさかの生クリーム?! これがまた、意外と合うとはっ!」

僧侶「魔女さん、これって、もう買えないんですよね」

魔女「昼と夜がある一週間程度しか、製造販売されていないみたい」

勇者「うわぁ、美味しいのに買えないのか。魔女さん、ありがとう」

魔法使い「ところで、勇者さま。何かあったのですか?」

勇者「そうそう。宿の主人が、オーロラが綺麗に見えてるよって教えてくれて。歓迎会まで時間があるし、先にお風呂に入らないか?」

魔法使い「あっ、いいですねえ。露天風呂でまったりしながら見たいです!」

僧侶「そうですね、お風呂にしましょうか」

勇者「じゃあ、先に行って待ってるから」

魔法使い「待って下さい、私も一緒に行きます」トテトテ

僧侶「魔女さんはどうしますか? 混浴なので、一緒に入るほうが良いですよ」

魔女「深夜なら誰もいないし、殿方と一緒だなんて……」

僧侶「いやいや、混浴だから勇者さまと一緒に入るんです。知らない殿方に声を掛けられたら、困るじゃないですか」

魔女「それはそうだけど……」

僧侶「混浴の露天風呂は、私たち三人にとって大切な社交の場なんです。今日から魔女さんも合流したし、四人でゆっくり話をしたいです」

魔女「女性と一緒に入るのが、勇者さんの方針なんだよね。結局、裸を見たいだけじゃない」

僧侶「勇者さまの方針じゃなくて、私たちが一緒に入ろうと提案して決めたことなの」

魔女「あぁ、そうか。よくよく考えてみたら、そうなるよね……」

僧侶「魔法使いちゃんも安心して入ってますし、そもそも私の彼氏なので大丈夫ですよ」

魔女「彼氏なら、貸切風呂にしたほうが楽しめるんじゃないの?」

僧侶「ここの貸切は、解放感が足りないです。身構えずに、みんなで親睦を深めましょうよ」

魔女「分かった。頑張ってみる……」


~温泉・混浴~
魔法使い「オーロラ、はじめて見ました! すごく綺麗ですね」

僧侶「うん、幻想的だよね~」

魔法使い「魔女さん、オーロラって障壁魔法に似ていると思いませんか?」

魔女「言われてみれば、そうだね」

魔法使い「どうやったら、あんなに鮮やかな緑色を出せるだろ」

魔女「光の色は波長が関係してるから、練習すれば分光できそうな気がするけど」

魔法使い「あっ、なるほど。今まで、光を出すことしか考えたことがなかったです」

魔女「光属性って、照明とか閃光弾の代わりにしか使わないしね」

魔法使い「でも分光できたら、パーティーとかに使えそうです。きっと雰囲気が良くなりますよ♪」

魔女「そうだね」

勇者「そういえば、エルグの城からオーロラが見えたって記録を読んだことがあるよ」

魔法使い「えっ、本当ですか?!」

勇者「あれみたいに色鮮やかなものではなくて、赤くて暗いオーロラみたいだけど」

魔女「低緯度オーロラは珍しいらしいです。あたしの国でも観測されたことがあるみたいですよ」

魔法使い「そうなんだ。その低緯度オーロラも見てみたいです」

僧侶「魔女さん、勇者さまがいても大丈夫?」

魔女「ときどき視線を感じるけど、不快ではないかな」

僧侶「それくらいなら安心だね」

魔女「少し恥ずかしいけど、勇者さんなら一緒にいても安心できそうかも……。あたしも、こういう殿方と旅をしたかったな」

僧侶「そっか……。お互いに自然な姿で打ち解けられるのは、仲間として素敵ななことだよね。うん、仲間として」

魔女「あはは、そうだね」


魔法使い「勇者さま……。私たちの旅は、もう帰るだけですね。何だか、あっという間だった気がします」

勇者「そうだね……。でも、世界を救って終わりじゃないから」

魔法使い「はい、そうですよね」

勇者「ああ。人々が手を取り合って、この平和を維持していかなければならない」

勇者「お城でも話したけど、そのために各国を訪問しながら帰路に着こうと思う。それは真実を知っている、僕たちにしか出来ないことだ」

勇者「だから、これからも僕を支えて欲しい。この四人で改めて再出発をしたい」

魔法使い「もちろんです! でも、僧侶さんはどうするんですか?」

僧侶「えっ……?」

魔法使い「だって、今日は避妊をしてないですよね。それって、そういう事ですよねえ」

僧侶「魔法使いちゃんは、やっぱり分かってたんだ……」アセアセ

魔法使い「それくらい出来ないと、治癒魔法を使えないじゃないですか」

僧侶「そうだけど、初日で分かっちゃうとは思わなかったよ……」

魔法使い「どんなことでも、基礎が大事ですから」

僧侶「じゃあ、魔法使いちゃん。私たちのこと、落ち着いたら話す約束だったし、聞いてくれる?」

魔法使い「……はい」

僧侶「私は、勇者さまと結婚することに決めました。それで一息ついたら、子供を作ろうって話し合っていたの」

僧侶「魔法使いちゃんは、私たちを祝福してくれますか?」

魔法使い「もちろんです。おめでとうございます!」

僧侶「魔法使いちゃん、ありがとう。すごくうれしいよ//」

魔女「僧侶ちゃん、もう結婚しちゃうんだ……」

僧侶「はい。今までずっと一緒に生活していたし、お互いのことを分かっているつもりだから」

魔女「そっか……。勇者さん、僧侶ちゃん、おめでとうございます」

僧侶「魔女さん、ありがとう」

勇者「魔法使いちゃん、魔女さん。ありがとうございます」

魔法使い「でも、どうして今なんですか?」

僧侶「世界の平和を維持するために活動をするわけだけど、人を愛したことのない人が平和や愛を語っても説得力がないですよね。それに新しい命を宿すのは素敵なことだし、愛する殿方の子供を早く授かりたいのです//」

魔法使い「なんだか、僧侶さんらしい理由ですね。特に後半が」

僧侶「ふふっ、そうかなあ」

勇者「とりあえず今日は、結婚報告と僕たち四人の再出発ということで。またこれからもお願いします」

魔法使い「はいっ、お願いします」

魔女「分かりました。あたしこそ、お願いします」

魔女「ところで僧侶ちゃんが妊娠したら、身体を気遣いながらの旅になりますよね」

僧侶「それはその……、妊娠すると迷惑をかけるだろうなとは思っています。でも――」

魔女「それは承知しているから、お互いに助け合いましょ」

僧侶「すみません。お願いします」

魔女「子作りも自由にして良いから、産まれる前に一度帰るのか、しばらく都に身を寄せるのか。妊娠する前に、みんなでまた話し合いませんか」

勇者「そうだね。予定はある程度決めているんだけど、考えをまとめておくよ」

魔女「僧侶ちゃん、子供が出来るのが楽しみだね」

僧侶「うふふ、赤ちゃんに会える日が楽しみです♪」

魔法使い「私も赤ちゃんに早く会いたいな//」

僧侶「あのね、人生はジグソーパズルに例えることが出来ますよね。幸せな未来を思い描いて、たくさんのピースをはめて行くの」

僧侶「そのピースには勇者さまがいて、産まれてくる赤ちゃんがいて、魔法使いちゃんと魔女さんがいて――」

僧侶「楽しいことやつらいことを、みんなで一緒に経験しながら、私の人生というパズルを愛情で彩って完成させていきたいです」

僧侶「そのために、今日から私は勇者さまと愛の証明をしていきます//」

魔女「愛の証明かぁ……。愛は行動で示すものだよね」

魔法使い「だそうですよ、勇者さま。私たちに愛を見せてください」

勇者「わ、分かった!」ザバァ

魔女「きゃあっ// な、何を始めるんですか?!」


勇者さんは僧侶ちゃんに歩み寄ると、そっと手を差し伸べた。
僧侶ちゃんはその手を取って、ゆっくりと立ち上がる。
そして指を絡ませて、恥ずかしそうに視線を交わした。

勇者「僧侶さん、愛してるよ」

僧侶「は、はいっ。私も愛しています//」


幸せそうにはにかみながら、僧侶ちゃんが応える。
二人は抱き合うと、ゆっくり唇を重ねた。


勇者「これから、二人で協力して歩んでいこうな」

僧侶「はい。あなたと共に歩むことを誓います」


オーロラが揺れる、幻想的な夜。
それは生まれたままの姿で愛を誓う二人を、優しく包み込んでいるようだった。

魔法使い「何だか、見ている私たちのほうが恥ずかしいです」

魔女「ちょ、ちょっと勇者さんっ。た……、勃ってますよ//」アセアセ

僧侶「ふふっ、勇者さまは元気ですね♪ もう一度、頑張れそうですか//」

勇者「僧侶さんは、そんなにしたいんだ」

僧侶「……はい//」

魔法使い「あわわ// 魔女さんが煽ったからですよ」

魔女「ええっ、あたしのせいなの?!」

勇者「じゃあ、僕たちは先に部屋に戻るから」

僧侶「魔法使いちゃん、魔女さん、私はとても幸せです。歓迎会の時間になったら、二人を呼びに行きますね。それまで、また頑張ってきます!!」

魔女「そ、そうなんだ。僧侶ちゃん、頑張ってね//」

魔法使い「僧侶さん、二人で愛を深めあってください//」

僧侶「魔法使いちゃん、色んなことがあったけど、本当にありがとう。これからも一緒に旅をしようね//」


魔法使い「魔女さん、私たちはもう少しオーロラを見て行きませんか?」

魔女「そうだね。あの二人、本当に夕食の時間まで頑張るんだ……」

魔法使い「言った通りになりましたね」

魔女「何だか逆に、勇者さんの体力が心配なんだけど……」

魔法使い「おおっ、魔女さんが殿方の精力を気遣うとは!」

魔女「さすがに、ねえ……。あの僧侶ちゃんを満足させるのは、大変だろうなと思って」

魔法使い「そうですよね。勇者さま、凄いですね//」

魔女「今夜から、精が付く料理を食べてもらいましょうか」

魔法使い「ねえねえ、あのオーロラを見てください。ピンク色のフリルみたいで可愛いですよ」

魔女「ほんとだ//」

魔法使い「オーロラの名前は、夜明けの女神が由来になっているらしいです」

魔女「へぇ、そうなんだ」

魔法使い「そして、神の世界と人間の世界が、オーロラで結ばれているという伝説もあるみたいです」

魔女「そう考えると、今日見えるのは偶然じゃないのかもしれないわね」

魔法使い「そうですよね。新たな出発をする私たちに、女神さまが希望と慈愛の光を届けてくれたのかもしれません」

魔女「希望と慈愛の光か――」

魔法使い「私はあの時、僧侶さんを選んで良かったです。今、とても幸せです」

魔女「あたしも、こんなに穏やかな気持ちになれる日が来るなんて思ってなかったわ」

魔法使い「魔女さん。新しい命を宿すのは素敵なことだし、私たちも愛し合える殿方と出会って授かりたいものですね」

魔女「そうだね。あたしたちも、僧侶ちゃんみたいに幸せになりたいね」

魔法使い「はいっ、もっと幸せになりましょう♪」


そして、届けましょう。
世界中に女神さまの祝福を――。

最終話 おわり

・ジグソーパズル



・勇者「ドーナツの世界?!」完

無事に最終話が終わりました。
レスをくださっていた方、読んでくれていた方、
ありがとうございます!

最後のパズルネタは、ジグソーパズル。

ジグソーパズルは、学習用にロンドンの地図をパズルにしたものが世界初だそうです。

つまり、
47都道府県の地図をパズルにしたものが、正統派のジグソーパズルかもしれません。

ネタとしては、『ジガゾーパズル』や『純白地獄大王』が興味深いです。


それでは、
至らないところもあったかもしれませんが、これで完結です。
本当にありがとうございました!!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年02月12日 (木) 20:43:57   ID: 5n0LCPoT

過日、一度読んで忘れられずまた探しに探して読んでしまいました。
まだまだ静かに新作をお待ちいたしております。
こんな雰囲気の異色のSSもっと読みたいのです。
あと食事のシーンが多いのも好きなところ。

2 :  SS好きの774さん   2015年02月12日 (木) 20:45:20   ID: 5n0LCPoT

5点星を投入したつもりでしたが仕様か不具合か4点で反映されてしまったようで、ご容赦ください。申し訳ありませんです。

3 :  SS好きの774さん   2015年03月26日 (木) 21:15:30   ID: wZB64qry

>>1
この作者さん、FC2でブログにまとめているみたいです。
地の文が追加されていたり、少し違った雰囲気になっていました。
女幽霊がアプリになるSSもそうみたいだし、検索したら見つかると思いますよ。

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