勇者「喰らえ魔王ッ!」魔王「ホイミ!」 (132)

ズバァン!

かいしんの いちげき!
まおうは たおれた!▽

勇者「えっ」

僧侶「えっ」

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勇者「えっ、ホイ……えっ?」

僧侶「えっ、死……うそ、え?」

勇者「……」

僧侶「……死んだんですか?」

勇者「……うん、たぶん……」

僧侶「……」

勇者「……」

僧侶「……何で?」

勇者「……」

僧侶「さっき魔王言ったじゃないですか。『私が最も得意とする魔法で相手してやろう』って」

勇者「うん。言った」

僧侶「メラゾーマとか、ザラキーマとか飛んでくると思ったじゃないですか」

勇者「うん」

僧侶「……ホイミって」

勇者「……」

僧侶「しかも敵に向かってホイミって」

勇者「……」

僧侶「敵に向かって撃つにしてもさあ……せめてベホマラーとか、ベホマズンとか……ザオリクとか……すごいのあるじゃないですか」

勇者「……」

僧侶「……なんでホイミなの?」

勇者「……回復呪文苦手だったんじゃない?」

僧侶「なおさらそんな呪文撃たないでほしいですね」

勇者「俺も苦手だけど、応急処置に仕方なく使ってるし……」

僧侶「魔王に共感しないでくださいよ……」

勇者「……」

僧侶「……なんかちょっと元気になっちゃった自分に腹が立つんですけど」

勇者「わかったアレだ」

僧侶「はい?」

勇者「『良くぞここまで来た勇者!弱り切った貴様を倒しても仕方ない。どれ、回復してやろう!』ってやつ」

僧侶「……ホイミだと万全の状態にならないんですけど」

勇者「……」

僧侶「しかも治すタイミング遅いですよね」

勇者「……ゴメン」

僧侶「いや……勇者様に謝られましても」

僧侶「ていうか勇者様も……なんでいきなり倒しちゃうんですか」

勇者「だって、すげー強い呪文撃つと思ったから……止めるためにも一撃必殺で」

僧侶「息の根止めちゃいましたねえ……」

勇者「……首元がら空きだったよ」

僧侶「がら空きでも、ほら……もっと身を守る手段とか……ほら……ねえ?」

勇者「……」

僧侶「……はあ……」

勇者「……」

僧侶「……何でですか?」

勇者「?」

僧侶「な・ん・で!死んじゃったんですか!?」

勇者「わからん……自殺?」

僧侶「いや、自殺にももっとこう……あるじゃないですか」

勇者「……と言っても……なあ?」

僧侶「私はほら、こう……血で血を洗う激しい攻防とか、傷ついた勇者様を必死で治療する私とか、そういう……」

勇者「……」

僧侶「……ねえ本当に死んだの?」

勇者「……うん」

僧侶「……私達にホイミ撃って?」

勇者「うん……」

僧侶「……」

勇者「……」

僧侶「……故郷の小さな村を飛び出して、オークやらハーピーやらゾンビやらと戦って……」

勇者「……」

僧侶「何度も死にかけて、時には格上の魔物とも戦って……」

勇者「……」

僧侶「荒れ狂う海を超え、太陽の見えない暗黒の大陸を、命からがら魔王の城まで進み……」

勇者「……」

僧侶「城内の強いモンスターとも戦って、側近のイビルプリーストとも命がけで戦って……」

勇者「……」

僧侶「……最後の魔王が、なんでホイミ?」

勇者「俺に聞かないでくれよ……」

僧侶「……」

勇者「……」

僧侶「こんなのが本当に、魔物のトップなんですか?」

勇者「うん……たぶん」

僧侶「……本当のボスいるんじゃないですか?」

勇者「けど……魔王って名乗ったし」

僧侶「……五十年前、魔物を引き連れて人間相手に戦争をしかけて、勝利し今の混沌の世界を創りあげた……」

勇者「……」

僧侶「この世界最大の悪が……ホイミ?」

勇者「もうやめようマジで」

僧侶「だって……」

勇者「なんか意味があったんだって」

僧侶「……」

勇者「……いや、無いかも……しれないけど」

僧侶「……」

勇者「……」

勇者「とにかく、魔王は倒したんだ。これで世界に平和が訪れる!」

僧侶「……だといいんですけど」

勇者「さっそく王様に報告しに帰ろう。故郷に帰ったら英雄だ」

僧侶「いいんですかね、こんな倒し方で……」

勇者「いいんだよ。重要なのは結果だって。ほら、魔王を倒したことで、この大陸を包む暗雲も――」

ピカッ!

ゴロゴロゴロ……

勇者「……」

バシャアン!!

ザァァァァ――

僧侶「……晴れませんね、暗雲……」

勇者「……」

僧侶「ていうか……強くなってませんか?雨……」

勇者「もうヤダこの大陸」

僧侶「……どうしますか?」

勇者「どうするって……さすがにこの雨の中帰るんは危険だろ。夜営の道具ももう残り少ないし、魔物の生き残りに襲われでもしたら……」

僧侶「……魔王を倒した英雄が、魔王城で寝泊まりですか……」

勇者「俺もヤダよ。魔王の死体の横で寝るのは」

勇者「それじゃあ、おやすみ。僧侶」ゴロリッ

僧侶「うう……魔王城の中に魔物の生き残りがいたりしませんよね?」モゾモゾ

勇者「たぶん大丈夫だと思うけど……」

僧侶「ああ……早く村に帰りたいなあ」

勇者「俺も早く、平和になった城下町を歩きたいよ」

僧侶「……お姫様とですか?」

勇者「う……そりゃあ、そうだといいけど……」

僧侶「……」ジロリ

勇者「あ、いや、それはどうだろうなあ?俺とお姫様じゃ、身分がさ……」

僧侶「……王様は、魔王を倒した英雄にだったら、喜んでお姫様を差し出すと思いますよ?」

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「……もう寝よう。僧侶」

僧侶「……つーん」

勇者「……僧侶、俺さ……」

僧侶「……」

勇者「…………いや、何でもない」

僧侶「……」

勇者「おやすみ……」

僧侶「……」

勇者「……」

ゴロゴロゴロ……

僧侶「……あがりませんね、雨」

勇者「城の中あさったら、夜営の道具ちょっとはあるんじゃないか?」

僧侶「私嫌ですよ、ずぶぬれになって歩くの」

勇者「といっても……いつ雨が上がるのかもわかんないし、早く王様に報告しないと……」

僧侶「数日遅れても問題無いですって。それに、あがらない雨なんてありませんよ」

勇者「……だといいけど」

僧侶「私、食料探してきますね」

勇者「俺も城内を散策してみるか……」

勇者「……といっても、魔王城はひと通り歩き回ったしなあ……」

スタスタ

勇者「すべての宝箱は開けたし、鍵で開けられる所は全部調べた」

スタスタ

勇者「ここにある宝箱は――」

ガチャッ

勇者「伝説の剣が入っていたんだよなあ。ボロボロに錆びた古臭い剣だったけど……」

カチャカチャ……

勇者「暇だから俺の剣でも入れとくか。勇者になったときにじいちゃんから貰った新品の剣だぜー。喜べよー宝箱」

ガチャン

勇者「さて、他は……」

僧侶「勇者様ー」タッタッタ

勇者「うん?」

僧侶「見つけましたよー。食料っ!」

勇者「本当かっ!?」

僧侶「これで今晩はひもじい思いしなくてよさそうですね、えへへ」

勇者「ああ、よかったあ」

カカッ!

ピシャアアアン!!

勇者「それにしても、僧侶が料理上手で良かったよ」ガツガツ

僧侶「家が農家ですからねえ、自分家の野菜でご飯作るのは毎日のことですよ」

勇者「こんな美味しいご飯が食えるんだったら、もう二、三日は魔王城で暮らしてもいいかなあ?」モグモグ

僧侶「そ、そうですか?えへへ……」

勇者「しかし……」

僧侶「……ええ……」

ザーザー……

勇者「……今日も魔王城で寝泊まりかあ」

僧侶「あ、明日は雨あがりますよっ!」

勇者「……はあ……」

僧侶「……」

ピシャアアアン!!

ザーザーザー……

ザァァァァァ――

勇者「……」モグモグ

僧侶「いやあ、肉や野菜がいっぱいあって良かったですね。肉は保存用ので腐る心配はないし」

勇者「……」パクパク

僧侶「野菜なんか、ちょっとしなびてるけど中庭にたくさんなってましたよ。手入れしたら自給自足でしばらくは生活出来そうですねえ」

勇者「……しばらく、か……」

僧侶「……」

勇者「……いつになったら雨、上がるんだろ」

僧侶「……」

勇者「……何日たったかな?」

僧侶「ええと……二週間、ですかねえ?」

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「……あがんねえよ、雨」

僧侶「……」

勇者「もう我慢出来ないわ。帰ろう僧侶」

僧侶「えっ、けど雨が――」

勇者「十分体力は回復出来た。魔物の群れに囲まれでもしないかぎり大丈夫だって」

僧侶「……やだなあ、濡れるの」

勇者「村に帰れば温かいお風呂だってあるさ。さあ……」

カッ!!

ゴロゴロゴロゴロ!!

僧侶「ううう……さ、寒いです勇者様……」ガタガタ

勇者「すごい雨だな……前が見えない」

僧侶「こ、こんな事言うのもあれですけど……あったかい魔王城がちょっぴり恋しいです」

勇者「少しの辛抱だ。南に向かえば海が見えるはず……」

僧侶「この視界の悪さじゃ何処に向かえばいいのかわかりませんよお」

勇者「コンパスによると、南はこっちだ。ほら、しっかり……」

僧侶「うう……」

ザァァァァァ……

僧侶「ゆ……勇者様ぁ……私、もう……」

勇者「しっかりしろ。俺の記憶が正しければ、もう少し進んだ所に雨風を凌げる洞窟があったはず……」

僧侶「その台詞、数時間前に聞きましたよおっ」

勇者「お、おかしいな……そもそもこれだけ歩けば、もう岩礁地帯は抜けてるはず……」

僧侶「……?」

勇者「なんで……景色が変わらないんだ……?」

僧侶「……あれっ、勇者様」

勇者「うん?」

僧侶「あ、あれは……?」

勇者「……?」

僧侶「灯りが見えます……民家でもあるのでしょうか?」

勇者「馬鹿な、ここは魔の暗黒大陸だぞ。人なんて――」

僧侶「だ、だけど灯りが……」

勇者「魔王城に向かうまで、家はおろか人の姿さえ見なかっただろ?」

僧侶「……だったらあの灯りは?」

勇者「……オークか何かが松明を持っているのかも……」

僧侶「……」

勇者「……用心して進もう。面と向かってなら負けるはずないさ」

僧侶「……はい」

ザッザッザッザ……

勇者「……」

僧侶「……勇者様……」

勇者「……」

僧侶「……オークじゃ、なかったですね……」

勇者「……」

僧侶「……だけど、何でですか?」

勇者「……お前もわかってるだろ?俺たちは南にまっすぐ向かってた」

僧侶「だ、だったら何で?」

勇者「……」

ピカッ!

僧侶「なんで……目の前に魔王城があるんですか!?」

勇者「……」

ゴロゴロゴロゴロ!!

バタンッ

僧侶「……間違いなく、魔王城です。私達がさっきまでいた」

勇者「これは……結界か?魔王は最後に、俺達を結界に閉じ込めた……のか?」

僧侶「……」

勇者「だとしたら、その魔法の源が……どこかに魔法石があるはずだ。それを壊せば……」

僧侶「勇者様……」

勇者「しかし、この城にそんなものが?そんなエネルギーなんて感じない……そもそもこんな広範囲の結界なんて、聞いたこと……」

僧侶「勇者様……」

勇者「それともこれは呪いのたぐいか?魔王の最後の言葉に、そのような呪術が――」

僧侶「勇者様っ!!」

勇者「な、何だよ僧侶」

僧侶「……もう休みましょう。疲れてるんですよ……私達」

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「……畜生……」

ザァァァァァ……

勇者「……何日たったんだ?」

僧侶「……」

勇者「……それとも何年?……何十年?」

僧侶「……」

勇者「時間の流れがわかんねえ……一日が一年のように、ひどくゆっくりに感じたり……一分が一瞬のように、またたく間に過ぎていったり……」

僧侶「……今日もすごい雨ですね……」

勇者「よくこんだけ尽きもせず降れるもんだよ。全く……」

僧侶「……」

勇者「……」

僧侶「……!勇者様っ!!」

勇者「何だ?」

僧侶「そ、外に……松明の光が!!」

勇者「何っ!?」ガバッ

僧侶「おそらく魔王軍の残党です……し、しかも……」

勇者「……なんて数だ……!」

勇者「この城に入るつもりか?」

僧侶「おそらく、魔王への謁見のため……」

勇者「おいおい冗談じゃねえ、魔王の間にいるのが魔王じゃなく勇者だとバレたら、俺達殺されてしまうぞ」

僧侶「し、しかし逃げても外は雨です。体力を奪われ、すぐに野垂れ死んでしまいますよおっ」

勇者「全員倒すっていうのも……現実味の無い提案だよなあ、あの数じゃ……!」

僧侶「そ、そうだ!!勇者様、服を――」

勇者「服ぅ?」

僧侶「魔王の着ていた装束を着てください。早く!」

勇者「いいけど……なんでそんな」

僧侶「いきますよー……モシャス!!」

ボンッ!

魔王「お、おお!魔王の姿になった!」

僧侶「これで何とか、魔王軍を欺いてください」

魔王「うう……魔王を倒した英雄が、魔王のふりかあ……」

僧侶「私は玉座の後ろに隠れておきます。何かあったらサポートしますので……」

魔王「っつっても、魔王のふりってどうすりゃいいんだ?悪者っぽく笑えばいいのかな……フッハッハッハッハ……とか?」

僧侶「いや、そこ重要ですか?それよりも他に――」

ゴンゴンッ

僧侶「!!……来た!?」

魔王「待って俺まだ心の準備が……」

僧侶「頑張ってください、それではっ!」ササッ

魔王「待ってくれ、おーい」

ギギイィィ……

魔王(入ってきたっ!)ササッ

ザワザワザワ……

魔王「……」

ゾロゾロ……

ゴブリン「ギュウウウ……」フラフラ

ゾンビ「ぐあああ……」ノロノロ

スケルトン「ぎしい……」ガチャガチャ

魔族「うう……」ヨロヨロ

魔王(……なんて数だ……そ、それに)

魔剣士「……魔王様、魔王様……」ヨロリ

魔王(こいつら……全員、深手を負っている……!?)

魔剣士「魔王様……奇跡ノお力ヲ、我らニ……」

魔王「……?」

魔剣士「何卒、我らニ……再度戦へと相まみエルよウ、奇跡ヲ……」

「奇跡ヲ」

「「キセキヲ」」

「「「奇跡おおおおおお……」」」

おおおおおおおおおおおおお…………

魔王「き、奇跡……?」

魔王「お、おい僧侶……奇跡って何だよ?」ヒソヒソ

僧侶「おそらくですが……あの傷を治す能力か何かなのでは、ないでしょうか……?」ヒソヒソ

魔王「い、いやもう無理だろ……あの傷じゃあ回復呪文なんて意味ないよ」ヒソヒソ

僧侶「しかし、何かしなければ、彼らはここから動きそうにありませんし……」ヒソヒソ

魔王「……ううん……」

魔剣士「……魔王様?」

魔王「うん?あ、ごめ……ご、ゴホンゴホン!」

魔剣士「ゴメ……?」

魔王「あー、すまぬな。すこし……その、めまいがしてな……私も続く勇者との戦いで、疲れておるのだ……」

魔剣士「……?」

魔王「うむ、奇跡の力……だったな」

魔剣士「戦イにヨッテ傷ツイた我らニ、癒やしヲ……ドウカ」

魔王「わかった。今……行おう」

スッ……

魔王(といっても、俺は僧侶みたいに回復呪文は得意じゃないし、こんな重症の魔物の治療なんか、出来るわけが……)

魔剣士「……」

魔王(それに……今まで散々殺してきた魔物を治療、だって?どうして俺がそんな事を……!)

魔剣士「……魔王様……?」

魔王(くっ……え、ええい!仕方ない!)

魔王「……ホイミ」ボソッ

パァァァァ……!

魔王「っ!」ビクッ!

魔剣士「オオ……アリガタイ……アリガタイ……!」

「ウオオオ……」

「魔王様ァ……」

「「「魔王様ァァァァァァ……」」」

魔王「…………クソッ」

パァァァァ……!

魔王「次はどいつだ?片っ端から治してやろう」

おおおおおおおおおおおおおおお……

カカッ!

ゴロゴロゴロゴロ!!……

勇者「……」

僧侶「……お疲れ様です」

勇者「……」

僧侶「……勇者様?」

勇者「……いや……」

僧侶「?」

勇者「……強くなってたんだな、俺……って、思ってさ」

僧侶「……はい。私が、及ばぬくらいに……」

勇者「……なんで治せちゃうかなあ……」

僧侶「……」

ザーザー…

勇者「俺達、今までどのくらい魔物を殺してきたのかな……」

僧侶「……」

勇者「最初は、村のすぐ近くに住み着いていたオークだっけ?」

僧侶「あの頃は私達、弱くって……大変でしたよねえ」

勇者「死にかけるたびに、僧侶にホイミ唱えてもらってな……ハハ」

僧侶「あれを覚えていますか?魔物が街の王様に化けていた事件」

勇者「あったあった。あいつ強かったなあ。倒してから街の人の誤解とくのも大変でさ……」

僧侶「様々な困難に立ち向かってきましたよね」

勇者「人々を苦しめる存在とな。……最後の最後にこの大陸行くのでも、ハーピーが海域を飛び回るせいで船を出せないって言われて、ハーピー退治に向かったり……な」

僧侶「退治したら、皆さん嬉しそうでしたねえ」

勇者「ハーピーのせいで何人も死んでたらしいからな。人々の幸せのため、勇者として頑張ったよ俺は……ハハ」

勇者「今日、治してやった魔物達は……どれだけの人々を苦しめるんだろうな」

僧侶「……」

ゴロゴロゴロゴロ……

勇者「どれだけの人が、死ぬんだろうな。……俺の治した魔物の手によって」

僧侶「……」

勇者「……自分の命可愛さに、世界中の人々を犠牲にしたんだ。ハハ……畜生」

ギリッ

勇者「……畜生……畜生っ!」

僧侶「……勇者、様……」

勇者「僧侶」

僧侶「はい」

勇者「絶対に、生きて帰ろう」

僧侶「……」

勇者「生きて、帰って……また勇者として戦うんだ。人々を苦しめる魔物達と、戦うんだ」

僧侶「ええ、必ず……」

ザァァァァァ……

ザァァァァァ……

僧侶「――者様――起きてください、勇者様……!」

勇者「う、うーん……?」

僧侶「勇者様、早く……準備を!」

勇者「じゅ、準備?」

僧侶「外に、松明の光が見えます」

勇者「…………は?」

勇者「……また魔王のまね事すんのかよ?」

僧侶「……」

勇者「また……汚らわしい魔物どもを治療しなきゃいけないのかよ?」

僧侶「……」

勇者「俺は……勇者だ!俺は、俺は――」

僧侶「……」

勇者「……」

僧侶「……準備を」

勇者「…………ああ」

ザッ

魔王「……」

「魔王様ァァ……」

「奇跡ヲ、我らニ……」

「痛イ、痛イヨオ……!」

「「「魔王様ァァァァァ……」」」

魔王「傷を見せろ。治してやろう……」

「「「おおおおおおおおおおおおお……」」」」

魔王「ホイミ」

パァァァァ

魔王「ホイミ」

パァァァァ

魔王「ホイミ!」

パァァァァ

魔王「ホイミ!!」

パァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ……

ザァァァァァ……

勇者「……毎日毎日、怪我人ばっかだな」

僧侶「はい」

勇者「もう……何日たったのか全然わからねえや。黒雲のせいで太陽も見えないしな」

僧侶「……はい」

勇者「ちょっとフケたかな?俺」

僧侶「やめてくださいよ……私、まだ若くいたいです」

勇者「ハハ……おっ、松明の光が見えたぞ」

僧侶「はい」

勇者「さあ……やるか」

僧侶「はい。……モシャス!」

ボンッ!

魔王「……フー。僧侶、水を汲んできてくれ。傷口を洗うための」

僧侶「はい」

魔王「……僧侶」

僧侶「はい?」

魔王「……すまない」

僧侶「?……何ですか、急に」

魔王「……いや」

ザーザー…

「「「おおおおおおおおおお」」」

魔王「ホイミ」

パァァァァ

魔王「ホイミ」

パァァァァ

魔王「ホイミ」

パァァァァ

魔王「ホイミ」

パァァァァ

パァァァァ……

オーク「魔王様……アリガトウゴザイマス……プギイッ」

魔王「……オーク、か」ピクッ

オーク「プギっ?」

魔王(まだ、いたんだな……皆殺しにしたと思ってたのに)

オーク「ナ、何デショウ?ギギイッ?」

魔王「いや……ああ、そうだ。一つ気になったのだが」

オーク「ヘイ」

魔王「貴様らは……毎日毎日傷だらけになってここまで来るが、何処で戦っているのだったかな?」

オーク「プ、プギ?」

魔王「ここまで大量の魔物が傷つくような争い、無かったと思うのだが……?」

オーク「何ヲ……今ハ人間共トノ戦争ノ、真ッ只中デゴザイマス」

魔王「……何?」

オーク「世界中ノ人間トノ争イデス……ソレハモウ激シイ戦イデシテ」

魔王「……人間と魔物との戦争は、五十年前に終結したはずだ」

オーク「ギ?」

魔王「今……外の世界では、戦争が起こっているのか……!?」

オーク「魔王様?何ヲ仰ラレテイルノカ……?」

魔王「私を連れて行け、オーク」

オーク「プギイ?」

魔王「私を、この大陸の外へ連れて行け。自由に出入り出来る貴様らに付いて行けば、私も抜けられるかもしれぬ」

オーク「ソレハ構イマセンガ……プギギ?」

魔王「なんとしても……外の世界に行かなくては……!」

ゴロゴロゴロゴロ……

「プ?プギ?」

「魔王様……?」

「何故俺ラノ軍ニ……プギギ?」

オーク「申シ訳ゴザイマセン……魔王様ヲオ運ビスル馬車ガ無ク、歩カセル事ニ……」

魔王「構わない。さっさと出発してくれ」

オーク「ヘ、ヘエ」

魔王(僧侶……外の世界が安全かどうか、見極めてすぐに迎えに来るからな……)

オーク「ソレデハ……行クゾ!!野郎共ォォォ!!」

「「「オオオオオオオ!!」」」

ザァァァァァ!!!

魔王「くっ……やはり、酷い雨だな」

ザッザッザッザ……

オーク「大丈夫デスカ?プギギ?」

魔王「私に構うな。さっさと進め」

オーク「プギ……」

ゴロゴロゴロゴロ……

バシャバシャバシャ……

魔王「むう……雨が激しすぎて、すぐ前を歩くオークの姿すら朧げだ」

ザッザッザッザ

魔王「離れると、大変な事になるな……」

ザァァァァァ……

魔王「しっかりと、ついていかなければ……」

ゴロゴロゴロゴロ……

カッ!!

魔王「うっ――!?」

ピシャアアアン!!

ゴロゴロゴロゴロ!!

魔王「くっ、雷か……一瞬、前が――」

ザァァァァァ……

魔王「……オーク?」

ザァァァァァ……

魔王「……オーク?何処へ行った?おい!」

ザァァァァァ……

魔王「馬鹿な……あの大軍だぞ。一瞬で姿を隠せる訳が無い……少々遠くへ行ったとしても、わかるはずだろ……」

ザァァァァァ……

魔王「おい……返事をしてくれ、オーク」

ザァァァァァ……

魔王「おい……オーク、オーク!」

タッ

魔王「真っ直ぐ進んだはずだ……俺は一瞬しか目をつむってない。真っ直ぐ進めば、オーク達に追いつけるはずなんだ……!」

タタタタッ

魔王「外に、出るんだ……俺は勇者なのだから、苦しんでる人々を、助けないといけないんだ……!」

ゴロゴロゴロゴロ……

魔王「今まで、治してしまった罪の分……俺は、戦わないといけないんだ……!!」

タタタタッ

魔王「……!!」

ピタッ!

ザァァァァァ……

魔王「……ハァ、ハァ……!」

ザァァァァァ……

魔王「……は、ハハ……ハハハハ……!」

ザァァァァァ……

魔王「アハハハハハハハハハハハハハハハ!ま、魔王城だ!!真っ直ぐオークの後を追ったのに!!魔王城が目の前にあるぜ!あは、アハハハハ!」

ザァァァァァ……

魔王「アは、ハハハ……はは」

ザァァァァァ……

魔王「……何でだよう、どうして……なんで、何故なんだ?」

ザァァァァァ……

魔王「戦うことも許されないのか……俺が、俺が……何をしたっていうんだよお」

ザァァァァァ……

魔王「誰でもいい!誰か、誰か……!!」

ザァァァァァ

魔王「誰か――俺を……俺を――!!」

カッ!

魔王「俺を……助けてくれえええええ!!!」

ゴロゴロゴロゴロ!!

ザーザー…

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「……時間だな」

僧侶「……はい」

勇者「……」

僧侶「……」

ゴロゴロゴロゴロ……

魔王「ホイミ」

パァァァァ

魔王「ホイミ」

パァァァァ

魔王「……ホイミ」

パァァァァ

魔王「……ホイ……」

…………

魔王「……ホイ、ミ」

パァァァァ

魔王「……ホイミ」

パァァァァ

パァァァァ

パァァァァ

パァァァァ

パァァァァ

魔王「ホイミ」

パァァァァ

ハーピー「ありがとうございます……キキキィッ」バサッ

バサバサッ……

魔王「フー……今ので、今日の分は終わりか」

僧侶「お疲れ様です」

魔王「……ふう」

ボンッ!

勇者「……疲れたな」

僧侶「はい……」

勇者「……何年たったのかな」

僧侶「……」

勇者「何年も何年も、休まずに魔物を治してきて……」

僧侶「……」

勇者「もう……この世界がどうなってるのかも、わかんねえや」

僧侶「……」

勇者「いつの間にか……この城も賑やかになったなあ」

僧侶「ええ……」

勇者「治した魔物が、この城に住み着いて……」

僧侶「……」

勇者「少々居心地が悪いが、気が紛れるよ」

僧侶「……」

勇者「……」

僧侶「……勇者様」

勇者「……うん?」

僧侶「最後の、魔物……」

勇者「……?」

僧侶「……ハーピー、でしたよね?」

勇者「……ああ」

僧侶「……」

勇者「……!」

勇者「そういや……ハーピーって」

僧侶「ええ……」

勇者「……退治したと思ってたんだが」

僧侶「私も……そう思っておりました」

勇者「……生き残りが、いたのかな……?」

僧侶「さあ……」

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「そういや、最近……」

僧侶「?」

勇者「怪我をした魔物の数……減った気がしないか?」

僧侶「……言われてみれば」

勇者「……何かが、変わってきているのか……?」

僧侶「……」

勇者「……」ポリポリ

僧侶「……」

勇者「……!」ピタッ

僧侶「……?」

勇者「……見てくれ、僧侶」プチッ

僧侶「はい?」

勇者「……白髪だ」

僧侶「……」

勇者「……はあ……」

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ

魔王「ホイミ」

パァァァァ……

ドラゴン「オオ……アリガタイ……」

魔王「……今日の分は終わりか」

ギギイィィ!!

魔王「?」

オーク「マ……魔王様……ハァ、ハァ」

ヨロッ……

魔王「オーク!?」

魔王「どうしたのだ、オークよ……その傷は何だ!?」

オーク「ツ、ツイニ……現レマシタ……奴デス……プギ」

魔王「動くな!なんて非道い傷だ……今治すぞ」

オーク「魔王様……奴ガ、奴ガ現レタノデス……」

魔王「奴?奴とは……誰だ?」

オーク「……『勇者』デス」

魔王「……は?」

カカッ!

ゴロゴロゴロゴロ!!

魔王「……勇者、だと?そ、んな……馬鹿な」

オーク「我ガ同胞ハ……勇者ニ皆殺シニサレマシタ。生キ残ッタノハ、俺ダケ……グウッ」

魔王「そんな……馬鹿な話があるか。勇者は、勇者は……!」

オーク「奴ハ……コチラニ向カッテオリマス。ドウカ、魔王様。ゴ武運ヲ……」

魔王「待てオーク!もっと詳しい話を――」

オーク「……」

ガクッ

魔王「ホイミ!!」

パァァァァ……

オーク「……」

魔王「おい、目を覚ますんだ。傷なら治っただろう?目を覚まして……詳しい話を聞かせてくれ。オーク!」

オーク「……」

魔王「……畜生、どういう事なんだ!?勇者!勇者が現れただと!?……勇者がオークを皆殺しにした?勇者は……」

ザァァァァァ……

魔王「勇者は……俺じゃねえか」

ビュウウウウウウ

ウウウウウ

ザァァ――

――ァァァ――

魔王「……助けてくれ、僧侶」

僧侶「……」

魔王「オークが死んだ、あの日から――助けられない魔物の数が増えた。皆……俺の前で事切れていく」

僧侶「……」

魔王「勇者が、現れたからだ。……俺が、現れたからだ」

僧侶「……」

魔王「勇者は一歩一歩着実に、一日一日近付いてくる。俺を殺しにな。……勇者は――俺は、魔王を殺したが……今わかった」

僧侶「……」

魔王「……いや、本当はずっと前からわかってたんだ。目を背けていた。……魔王は、俺なんだ」

僧侶「……」

魔王「俺は魔王を殺した。その魔王は……俺だったんだ」

僧侶「……」

魔王「……死にたくないよ」

僧侶「……」

ザァァァァァ……

魔王「確かに俺は、数多くの魔物を殺してきた!根絶やしにするつもりで殺してきた!魔王を殺すのにも――何の罪悪感もなかったさ!!けれど、その分……今まで治してきただろう!?」

僧侶「……」

魔王「治したよ!何度も何度も治したよ!!今まで傷付けてきた魔物を、全部治してやったんだ!!女神にでもなった気分でな……俺は俺の幸せを手放して、治してやったんだ!!俺は!!」

僧侶「……」

魔王「何故!?その俺が、何故殺されないといけないんだ!!?俺の手によって!何故首を斬られて死ななきゃならないんだ!?何故!?どうして!!」

僧侶「……」

魔王「俺が――何をしたっていうんだよおおおお!!」

僧侶「貴方が治した一匹の魔物は、百人の民を殺します」

魔王「!……」

僧侶「勇者様が治した魔物は……私達が生まれる前の、五十年前の戦争で……人々を殺し、この世界に暗闇をもたらすでしょう」

魔王「……」

僧侶「勇者様……貴方は、私達は……我が身可愛さに、多くの人を殺しすぎたのです」

魔王「……」

僧侶「……」

魔王「…………死にたくないんだよ」

僧侶「私もです」

魔王「……死ななきゃならないのか」

僧侶「……はい」

魔王「……」

僧侶「……」

僧侶「……勇者様」

魔王「…………」

僧侶「私が、最後まで付き合いますので」

魔王「……」

僧侶「……」

魔王「……ありがとう」

僧侶「……いえ」

魔王「……本当に、すまない……!」

僧侶「…………」

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ

魔王「……」

ハーピー「申し訳……ございません……勇者を止められず……」

魔王「良い……ゆっくりと、休め」

ハーピー「……」

ガクッ

魔王「……勇者が来るぞ」

老女「……はい」

魔王「……ククッ、僧侶よ」

老女「はい」

魔王「お互い……年を、とったなあ」

老女「……」

魔王「まさか……老いた私が、魔王と瓜二つだったとは」

老女「……」

魔王「……当然か。魔王は……私なのだからな」

老女「……」

魔王「……」

老女「……魔王様」

魔王「何だ」

老女「最後に……一つだけ」

魔王「……」

老女「小さな村で出会い、平凡な毎日を過ごし、旅に出て、世界を回ったあの日々――」

魔王「……」

老女「本当に、本当に楽しかったです」

魔王「……」

老女「愛しております。魔王様」

魔王「……」

老女「今まで、ずーっと……お慕いしておりました」

魔王「……」

老女「城のお姫様という……貴方の想い人については、よく存じ上げております。けれど……」

魔王「……」

老女「愛しております。世界中の、誰よりも」

魔王「……」

ザァァァァァ

魔王「……」

老女「……」

魔王「……私も」

老女「……!」

魔王「私も……愛しているさ。僧侶……世界中の、誰よりも」

老女「……はい」

魔王「…………」

老女「…………」

魔王「……地獄で会おう。僧侶よ」

老女「その時は、キス……していただきますからね」

魔王「ああ……とろけるような、熱いやつをな」

老女「楽しみです」

魔王「……ああ、素晴らしい日だな」

老女「ええ……」

魔王「本当に。……死ぬには、良い日だ」

老女「……はい」

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ザァァァァァ

ァァァァァ――

魔王「……」

ギ……

ギギイィィ……ッッ!!

魔王「……来たか」

勇者「ついに……ハァ、ハァ」

僧侶「はぁはぁ……」

勇者「ついに、辿り着いたぞ!魔王!!」

魔王「待ち望んでおったぞ、勇者……フッハッハッハッハ」

ザァァァァァ

勇者「貴様の側近の、イビルプリーストは倒した!!あとはお前だけだ、魔王!!」

魔王「……そうか。奴を……倒したか」

勇者「心配するな、すぐに貴様も奴の元へと送ってやる……」

魔王「ほう……それは、楽しみだ」

ザァァァァァ……

魔王(すぐに、私も君の元へと向かうよ。僧侶――)

勇者「行くぞ、魔王……!苦しめられた民の怒り、思いしれ……!」

僧侶「ううっ……」ギリッ

魔王「フッハッハ……勇者よ」

勇者「!?……何だ」

ザァァァァァ……

魔王(私よ、お前はこれから先――終わることのない地獄へと囚われる)

ザァァァァァ

魔王(死んだほうがましだというような、終わることのない地獄だ。お前は今まで殺した分の、これから殺す分の罪を背負うのだ)

ザァァァァァ

魔王(せめて――強い心を持ってくれ。そして……出来ることならば、お前がこの地獄を終わらせてくれ……)

ザァァァァァ

魔王「勇者よ……私が最も得意とする魔法で相手してやろう」

勇者「何っ!?」

僧侶「ゆ、勇者様……!」

魔王(お前がこれから先、何度も何度も使う呪文だ。……忘れないでくれ)

勇者「くっ……!」カチャッ

僧侶「うう……!」チャキッ

魔王(この呪文の……暖かさを)

ザァァァァァ……

勇者「喰らえ魔王ッ!」

魔王「ホイミ!」

ズバァン!

つうこんの いちげき!
まおうは たおれた!▽

終わりです。
ありがとうございました。

手塚治虫は本当、考えてることがおかしいと思う。

短くまとまってて良かった
他に書いてた作品ある?

無限ループを抜け出すような話も書いて欲しいなーなんて

>>126
澪「徘徊後ティータイム」
静・ジョースターの奇妙な日常
男「安価で超能力学園トップを目指す」
このくらいです。宣伝行為失礼しました。

>>127
これ以上SSの掛け持ち増えたら死にますので……
たぶん、魔王を殺さないか魔物を治さなければいいんじゃないですかね?

>>128
他のSSの粗筋お願いします

>>129
澪「徘徊後ティータイム」
けいおんの秋山澪が、深夜徘徊をする話。初めて書いたSS。

静・ジョースターの奇妙な日常
ジョジョ第四部の「透明な赤ちゃん」が成長したら……という妄想SS。
現在進行形。今日書こうと思ったけど書ききれませんでした。ごめんなさい。
オリジナルな上ジョジョ読んでないと意味がわからないものですが、一番力入れてます。

男「安価で超能力学園トップを目指す」
深夜で現在進行形。タイトルの通り。バトル7割ギャグ2割エロ1割。
元々は静・ジョースターの息抜きに書いてたけど、仗助が出てきて息抜きにならなくなった。

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