唯「そこのお兄さんっ!唯とお・ま・ん・こ♪していきませんかっ?」(1000)

よお、よく来たなけいおん豚ども!ここは釣りスレだ!
連載終了でがっかりした分だけ腹筋していきな!

続き書いてもいい?

>>2
さっさと腹筋しろ

なんだ…実はID:JdqSvVHz0も釣り師という高度な釣り手法を期待したのに

唯「あんあんあーん」
キャサリン「うおんうおんうおん」

誰も期待してないからもうやめていいよ

さてと

「この間の金曜日のことです」

純ちゃんは、ふぅ、短く強く息を吐いた後、訥々と語りはじめた

「あの日、軽音部は部活がなかったんですよね?」

確かにその日は練習を無しにしたのだ。私も、律もむぎも、学校に居残ってやることがあったから

「その日はジャズ研も部活がなくて、だから私たちと、暇してた唯先輩の4人で買い物に行ったんです」

初耳だった。何か事件が起きたのはその日、その時ということか…

「それで、商店街をぶらぶらして、お茶したり服を見たりしてたんです。でも…」

「でも?」

「憂が、急にいなくなったんです」

「いなくなった?」

「はい。気がついた時には私と梓と唯先輩だけでした」

純ちゃんはうつむき加減で語る。心なしか声に力がなくなっているように思えた

「電話してみたけど全然出なくて、10分くらいその場で待ってたけど来なくて。・・・普段の憂ならこんなことはまずありえないのに、と思いました」

「それで・・・?」

律が身を乗り出す。私は左手でそれを制する

「3人で手分けして、探すことにしました。30分したらまたここに戻ってくる、ってことにして」

純ちゃんはそこで、またふぅ、と息をついた。お冷を飲み干す

「25分くらい探したけど見つかりませんでした。そこでたまたま同じところを探しに来た唯先輩と合流して…その時でした」

私は嫌な予感が全身を突き刺すのを感じた。きっと今から私は絶望する、そんな確信があった

「唯先輩に電話がかかってきました。…梓からでした」

「憂ちゃんが見つかったのか!」

律が叫ぶ。声が大きい。むぎが人差し指を口に添えて制した

「…はい。でも電話の向こうの梓はひどく混乱していたみたいで、唯先輩が何度も『落ち着いて!』って叫んでました」

いつの間にか純ちゃんの目にはうっすらと涙が浮かんでいる

「私は唯先輩に電話を代わってもらって、梓を落ち着かせて、梓が今いる場所を聞きました。商店街の裏の、ほとんど行ったことがないような路地でした」

「路地…裏…」

「私たちは走って、走って…梓が言った場所に着きました。そこには」

純ちゃんはつばを飲み込んで、こう言った

「呆然と立ち尽くす梓と、体中擦り傷だらけで、ほとんど裸と同じ格好の憂が・・・いました」

「それ…って…」

律が声を絞り出すように漏らした

「……強姦」

むぎのその言葉で、とうとう純ちゃんに限界が来た。ぼろぼろと零れていく涙…

「うっ、ういっ、ういが、ういがあっ!よ、呼んでも、へん、へん、じ、しっ、しなくってっ!」

嗚咽を漏らしながらも純ちゃんは語ってくれようとする。見ていられないよ、こんなの

「純ちゃん、大丈夫だから、少し落ち着いて、な?少し休もう、ほら、息を整えて…」

私には、純ちゃんの涙をハンカチで拭うことしか出来なかった

お店の人がいぶかしげにこっちを見ている。むぎが、席を立ってお店の人に話をしに行った

私たちの席にはそれからしばらくの間、純ちゃんのむせび泣く声だけが響いていた

しばらくして純ちゃんはお手洗いに立った

その間に、アイスティーが4つ運ばれてきた。さっきむぎが注文しておいたようだ

こんな時でも冷静に心配りができるむぎに、私は感心すると共に、いくらかの怒りもまた覚えたのだった

純ちゃんが戻ってきた。髪の毛が若干濡れている。顔を洗ったのだろう。涙はもう止まったようだ

「すみません、お待たせして…」

開口一番、純ちゃんはそう言って頭を下げた

「気にしないでいいよ。今一番つらいのは純ちゃんだ。話せるようになったら話してくれればいいから」

律が優しくいたわった。どうやら律も落ち着いたようだ

私は…どうだろう

「あの、掻い摘んで話してもいいですか?その、詳しく話すと…また泣いちゃいそうだから…」

私たちは小さくうなずいた

「それで、梓も唯先輩も立ち尽くしちゃってたから、とりあえず憂に声をかけたんです。
 でも中々反応しなくて、ほっぺたを軽く叩いたり、軽く揺さぶったりして、それでなんとか気がついたみたいで…。
 そうしたら…唯先輩がいるのに気付いたんですね、憂…凄く取り乱して、凄く泣いて…それを見た唯先輩も泣き出して…」

純ちゃんの目に再び涙が浮かびだした

私は正直言って、もうこれ以上聞きたくなかった。すぐにでもお店を飛び出してしまいたかった

こんな、こんな残酷な話…あっていいわけがない…

「それで私、詳しいことはわからないけど、早くここから離れたほうがいいと思いました。
 憂、ほとんど裸で、制服は上も下もボロボロだし、ショーツも見あたらなかったから、梓に怒鳴りつけて、とりあえず必要な服を買ってこさせました
 梓が戻ってきても二人とも泣きっぱなしで…なんとか落ち着かせて、服を着させました。それで…タクシーを拾って、二人の家に行きました」

純ちゃんはそこまで語り終えると、アイスティーをぐい、と飲み下した

「それから?」

むぎが尋ねた

「それから…傷の手当てをして、梓にはコンビニで食べるもの買ってこさせて…帰りました」

「え?…それだけ…なのか?」

私は思わず声を上げてそう聞いた。色々とやるべきことがまだあるはずじゃないか…

「警察は?被害届けとか…そういう」

律も私と同じ気持ちだったようだ

「私だって、凄く心配でしたよ…でも、憂も唯先輩も、もう大丈夫だから、の一点張りで・・・
 それに憂が、警察には絶対に連絡しないで欲しいって言ったんです」

純ちゃんは少し語調を強めて反駁した

「連絡しないで、か…」

確かに、レイプ被害者はレイプに遭ったことを訴え出ないことも多いと聞く。恥になるからだ。それゆえにレイプ被害が減りにくいのだという

私は純ちゃんに詫びた

「ごめん、純ちゃん。そうだよな…憂ちゃんが嫌だと言う以上は…」

「いえ、いいんです。すみません。それで、憂の家を出て…梓と喫茶店に入りました。少なくとも一番情報を持ってるのは梓だから」

梓か…梓は大丈夫だろうか

「でも結局、梓も詳しく説明できるほどの情報は持っていないみたいでした。何となく路地裏にまわったら…その…
 男が…4人…憂を…それで、梓大声をあげたって…それで、男は逃げて、どうしたらいいかわからなくなって唯先輩に電話したんだ、って」

「4人も・・・畜生!」

律が、固めた拳をテーブルに叩き付けた。倒れそうになった律のグラスをむぎが支えた

「それで結局、明日また一緒に憂のところに行こうって約束して、別れました。でも、次の日も、その次の日も、憂には会わせてもらえなくて」

「唯が…会わせなかったのか?」

私は尋ねた。純ちゃんが答える

「…はい。『大丈夫だから、しばらく放っておいて』って。…私も梓もその言葉に従いました
 でも、やっぱりおかしかったんです、いくらメールしても返信こないし、電話しても出なくて…そしたらぁ…!」

テーブルの上に落ちていくたくさんの雫

「憂…死んじゃった…!」

純ちゃんは、声をあげて、泣いた

むぎは、グラスを握り締めたままうつむいている

律は、背もたれにもたれて、両腕をだらりと下に伸ばし、天井を見つめている

私は…どうしたらいいのだろう

「ぜんっ…ばい…!…わ、わた…し…どうじてたら…いっ、よかっ、たん、ですか…!?
 だっ、だれっ、かに…うぁっ!そう、だん…しと…けば、うぐっ、よかった…
 む、むむむりに、でも、うい…会って、お、おけ…ばぁっ!よかったんです、か!?うあぁっ!!」

純ちゃんは泣きながらも語り続ける。問いかけ続ける。誰も、答えない。

答えられるものか

どうしたら良かったかなんてわかるものか

今さら何を言ったって、無駄なのだ

私は席を立って、お手洗いに入った。そして、また、吐いた

泡だったアイスティーだけが排水溝を流れていった

その日は結局、それ以上の進展はなかった

純ちゃんが泣き止むのを待って、それから、わずかに話し合った

後日、唯と梓が落ち着いたら、あらためて話をしようということ

憂ちゃんがレイプされたこと、そしてそれを苦に自殺したのであろうということは、口外しないよう約束しあった

憂ちゃんがそれを望んだ以上は、そうするべきだろう

帰り道…私も律も黙ったまま歩き続けた。口を開いたところで、どうせ益体もない言葉しか出なかったろうが

ただ、別れる時に律が「澪、大丈夫だからな」と言った。言葉の真意はわからないけれど、少し安心できたのは確かだ

帰宅した私はお風呂に入り、大音量の流れるヘッドホンをしたまま床についた

何も考えたくなかったから

その夜、私はきっと嫌な夢を見た

梓は、それから二日ほどして、学校に来るようになった

でも、傍目にはっきりとわかるほど憔悴していた。今の梓に憂ちゃんのことを聞くのは酷だろう

とりあえず私たちは、純ちゃんにあらかたのことを聞いた、と話し、落着いたらでいいから梓にも話を聴きたい、と伝えた

梓は目を伏せて

「すみません」

と一言謝ったきりだった

私はそれでも、梓は何とか大丈夫だろうという、根拠のない確信があった

問題は…唯だ

唯はあの日から一週間以上たっても学校に来ず、連絡も一切とれなかった

「それがね…憂ちゃんのことがあってから…様子がおかしくなってるみたいね…」

さわ子先生はそう言うと人差し指で眼鏡を上げた

「…先生は、最近唯には会ってるんですか?」

「お家のほうには何度も行ってるわ。でも、唯ちゃんに会えたのは2回だけ。本人は気丈そうにしてたけど…強がってるだけね」

「会えない日も多かったのか?」

「会えない日のほうが断然多いわよ。ご両親に伺っても、『出掛けているみたいです』って答えしか返ってこなかったわ」

さわ子先生はそう言って深くため息をつき、それから私たちにも尋ねた

「ねえ、あなたたちは唯ちゃんに会ってないの?それに何か…憂ちゃんのことで聞いていることとかは…?」

律が私のほうをちらりと見た。わかってるよ、律

「いえ…私たちも全然会ってないし…何も、わかりません」

私はそう答えた

「そう……私もね、しばらくの間は様子を見ていたほうがいいかな、とは思うんだけど…唯ちゃんもご両親もかなり憔悴しているわ…
 だからね、あなたたち、唯ちゃんに何かあったら、ぜひ力になってあげて欲しいの。正直言って、私では力不足だから…」

さわ子先生は、膝の上で拳を握り締めていた

「わかりました」

私たちはそう答えた。言わずもがな、だ

しかしその後も、結局唯とは会えない日が続いた

学校にはまったく来ない。先生も、私たちも、和も、今唯がどこで何をしているのかわからなかった

家に何度行っても、ご両親からは『出掛けている』の一点張りだった

唯のご両親は初めてお通夜で会ったときよりもずっとやつれて見えた

電話も繋がらない。メールの返信も来ない

そうこうしているうちに、時間はどんどん過ぎていく…



夏休みが目前に迫ったある日のこと

「澪、ちょっといい?」

私の席の後ろ、中島信代が声をかけてきた

「唯のことなんだけどさ…」

私は信代に言った

「あぁ、ごめん、私も唯とは全然連絡がとれなくて…」

「いや、そうじゃなくてさ…私、見たんだ、唯」

心臓の動きが早くなるのを感じた

「見た!?ど、どこで!?あ、あの、あのさっ!」

我知らず取り乱す。冷静に私を抑える信代

「落着きなって…やっぱり、ここじゃない方がいいかな…放課後、軽音部の部室で、ってことでいいかな
 そっちも、律とかムギとかと一緒のほうがいいだろ?」

「あ…うん、それは…そうだな…わかった。じゃあ、放課後に音楽室に来て」

「了解。……あのさ」

信代は少し表情を曇らせて言った

「期待しないほうがいいから」

放課後。私と律、むぎ。それから、梓と純ちゃんが揃っている

梓と純ちゃんに声をかけるべきか否かは悩んだものの、3人で相談しあった結果、呼ぶべきだということになった

梓は、だいぶ落ち着きを取り戻したように見える。以前の梓と見た目はそう変わらない

純ちゃんは…こんなに眼差しの強い子だったろうか…

私はみんなに向かって、言った

「これからみんなが聞くことは、おそらく悪いニュースだ。そのことは…覚悟しておいてもらいたい」

律とむぎ、純ちゃんが小さくうなずく。梓は…手元のティーカップに視線を落とした

心臓のばくばくいう音が止まらない。不快な緊張感が全身にまとわりつく

ほぅ、とため息をついたその時

扉がゆっくりと開き、信代が現れた

「遅くなってごめん。…これで全員でいいのね?」

律が生唾を飲み込む音が…聞こえた気がした

信代が席に着く。普段なら唯がいるところだ。むぎが紅茶を淹れて信代の前に置く

信代はむぎにありがとう、と言うと、話し始めた

「私の実家は酒屋なんだけど、私、時々家の手伝いをしてるんだ」

その話は聞いたことがある。卒業後は家業を継ぐのだ、とも言っていた

「まあ普段は店先で荷物運んだり、店番したりってのが多いんだけど、たまに配達の手伝いなんかもするんだ
 それで、昨日の夜…9時半ぐらいだったかな。お得意さんのスナックのほうから急な注文があったんだ
 ちょっとしたトラブルがあってお酒が足りなくなったから、急いで持ってきてくれないか、って
 まあ店はもう閉めてたけど、お得意さんだし、だいぶ困ってるみたいだからってことでオーケーしたみたい」

そこで信代は紅茶で口を湿らせた。「美味しい…」と小さく呟いて、また話し出す

「荷物を下ろしたりするために、私も同行することになった。お酒を車に積んで、出発した
 そのスナックは…まあその、いわゆる歓楽街の中にあって。いや、そのお店自体は普通の健全なお店なんだけど
 ああ、まあ、それはいいか。それで…お店ところでお酒を下ろしてる時に・・・見たんだ」

「唯先輩をですか!?」

「うん…あれは……間違いなく唯だった」

「唯は、唯は何て言ってた!?」

律が信代に詰め寄る。信代はその迫力に気圧されたようだ

「ご、ごめん…話、してないんだ…声、かけてないから…」

律が立ち上がって益々詰め寄る。イスがガタン、と倒れた

「はあ!?何だよそれ!?わかんねえ!クラスメイトだろ!?心配じゃねえのかよ!!」

「りっちゃん!落着いて!最後まで話を聞いて!」

むぎが律を抑える。おびえる梓。純ちゃんは俯いて何か考えているように見えた

むぎのおかげか、律は平静を取り戻したようだ。信代に「ごめん」と詫びると、イスを起こして腰掛けた

信代も少しおびえているようだった。律に「うん、大丈夫…」と声をかけると、小さく深呼吸をした

「私もね、声、かけようと思ったよ。でも…私には…無理だった…」

「無理って…何でだよ?」

信代は言うのを躊躇っているようだった。しばしの沈黙の後、意を決したように言い放った

「唯……知らないおじさんとラブホテル街に入っていったから…」

「ラブ…ホテル…」

「…それって…まさか」

「うん…多分、援助交際だと思う」

律がイスから立ち上がる。机に置いた両手が震えている

むぎは口元に両手を当てて固まっている

梓はぽろぽろ涙をこぼしている

純ちゃんは…やっぱり何か考えてるようだった

私は体中の力が抜けてしまって、しばらく声も出せなかった

長い長い沈黙のを破ったのは純ちゃんだった

「あの…そのおじさんってどんな感じの人でした?それにどんな風にしてその…ラブホテル街に入っていきましたか?」

信代はあごに手を当てて、少しの間記憶を反芻した後、説明をし出した

「普通のサラリーマンだったと思う。年は…50歳以上には見えた。髪の毛が薄くて、太ってた」

「……唯先輩のお父さんでは、確実にないわけですね」

「それから、唯は男の人の腕に、こう、抱きつく感じ?で…ちょっとふらふらしながら歩いてたよ
 後は…わからない。私が持ってる情報は、これで全部だと思う。ごめんね」

いい終えて信代は、冷めた紅茶を飲み干した

「いえ、ありがとうございます。助かりました」

純ちゃんがお礼を言った。間髪入れずに今度はむぎが懇願した

「信代ちゃん、唯ちゃんを見かけた場所、教えてもらえないかしら」

「それは構わないけど・・・まさか」

「身勝手かもしれないけど、それ以上は聞かないで。お願い」

私はこんなに力強い瞳をしたむぎを初めて見た

信代は手帳を1ページ破くと住所を書き付け、むぎに渡した

むぎはそれを受け取りながら

「ありがとう。…それから、もう一つお願いがあるの。信代ちゃんが見たこと…他の誰にも言わないで貰いたいの」

と、さらに懇願した。純ちゃんも

「私からもお願いします。先生にも、まだ言わないで欲しいんです…責任は、すべて私たちが取りますから」

むぎと純ちゃんが頭を下げた。私も「頼む!」と言って頭を下げる

信代は目を瞬かせながら、私たちを見ていた。そうして

「……わかった。誰にも言わないよ、約束する。ただし…絶対に無茶はしないこと。わかった?」

と言って、微笑んだ

信代が帰ってから、しばらくの間は沈黙が続いていた

むぎが淹れなおしてくれた紅茶を飲みながら、私は唯のことを考えていた

憂ちゃんが自殺したことは、きっと私たちには想像できないほどショックだったんだろう

でも、それと援助交際(まだ、そう確定したわけではないが)とはどう繋がるのだろうか

自暴自棄になってしまったのか

寂しさを埋めるために、男性を求めたのか

それとも何か、別の目的があるのだろうか

わからない。所詮は机上の空論だ。唯の本当の気持ちなど、想像したってわかるはずがない

……そうだ。わかるはずがないんだ、私たちは唯ではないのだから

唯の気持ちがわかるのは、唯以外にはいないのだ

ならば…!

「行こう、唯に会いに」

私は、そう言って顔を上げた

私たちはその日の夜から、信代が唯を見たという辺りを中心に捜索を始めることにした

話し合い、細かな取り決めなどを決める

もともと治安はいい(はず)の街ではあるが、憂ちゃんのこともある。行動は慎重を要する

まず唯の家を訪ねて、様子をうかがう。唯が不在のようであれば、捜索にうつることにする

常にひとかたまりになって動き、お互いの姿を見失わぬよう気を配る

純ちゃんや梓を捜索のメンバーに入れるのは躊躇われたが、純ちゃんは参加を強く希望した

梓はたっぷりと考えたのち、「やります!やらせてください!」ときっぱり言い放った。もう、泣いてはいなかった

防犯のために防犯ブザーとスタンガンを、催涙スプレーを各自ふところに忍ばせる。全てむぎに用意してもらったものだ

信代が唯を見たのは夜10時前だというから、とりあえず捜索時間は8時半~10時とした

すべてが決まった。私たちは8時に集合することにして、解散した

薄暗くなりつつある道を歩きながら私は、ここのところ消えることなく体中を覆っている嫌な予感が、はっきり強くなるのを感じた

8時少し前、適当な言い訳をして家を出た。途中で律と合流し、唯の家の近くへ向かう

歩きながら律が言った

「唯が見つかったら…どうする…?」

「どう…したらいいんだろうな」

「慰めるか、叱りつけるか、笑いかけるか…」

「そんなことしても…」

「ああ、意味はないよな…」

私たちは何をするために唯を探すのだろう

わからない。わからないけど…それでも、今のままでいいはずは、ない

集合場所には、もう3人が揃っていた。むぎに防犯グッズを手渡され、使い方を簡単に説明してもらう

「やっぱり、唯先輩は家にいないみたいです。お家の人…お父さんでしたけど、何だか目がうつろでした」

梓。つらそうな表情だ

「そうか。…わかった。それじゃあ行こうか、唯を探しに…!」

律が、力強く言った

しかし、捜索初日、二日目、三日目と、手応えはまるでなかった

捜索を始めて4日目、一学期の終業式が終わった

結局、憂ちゃんが自殺してから、唯は一度も学校に来ないままだった

この間、さわ子先生も、何度も唯の家に行ったらしかったが、進展はしなかったと聞いた

先生も、ずいぶんやせてしまったような気がする

私は先生に対して罪悪感を感じながらも、何も教えなかった

さわ子先生、ごめんなさい

その日の放課後、私たちは部室に集まった

もう随分長いこと楽器を合わせていないからし、気分転換にもなるから、と律が提案したのだ

それぞれに楽器を構える。律のスティックがリズムを刻む

私のベースの旋律

律のドラムの力強い音

むぎのキーボードの流れるようなメロディ

梓のギターの繊細なピッキング

そして、唯のギターの音…は…

駄目だ、こんなの、こんなの私たちじゃない!こんなのバンドなんかじゃない…!

弦が押さえられない。指が上手く動かない

私は…泣きながら、座り込んでしまった

軽音部の部室には、四人のすすり泣く声だけがこだましていた

いよいよ夏休みに入った。受験生の夏は地獄というが、これほどのつらさを味わうとは予想も出来なかった

陽のあるうちは参考書に向かい、月の出てよりは唯を探す

そんな夏休みが一週間ほど過ぎた頃…

ついにその日が、小さな希望と大きな絶望に彩られたその日がやってきた


時刻は9時を少しまわったところ

むせるような高温多湿に肌をじっとりべたつかせながら、私たちは夜の街を歩いていた

夏休みに入ったこともあってか、こんな時間帯でも、明らかに高校生か中学生の姿が散見される

「何だか不良少女ばっかって感じですね」

梓の軽口に、

「私たちだって傍目には変わらないぞ」

と私は答えた

その時…私の耳に、聞きなれたあの、甘ったるいような声が飛び込んできた

「そこのお兄さんっ!唯とお・ま・ん・こ♪していきませんかっ?」

全員が足を止めた。声のした方向に目を遣る

そこには確かに、制服姿の唯がいた

ただし、桜高のそれとはまるで違う、どこの学校のものかわからない制服を着た唯が

「ゆ…い…」

唯は、道を行く男性に手当たり次第に声をかけていた

「ねぇ、おじさん!女子高生と…お・ま・ん・こ!したくないですかぁ~?」
「お兄さ~ん、2時間3万円でどお~?サービスするよ~?」
「何でもしていいよ~?生でも、中出しでももちろんおっけ~!お金は…その分もらうけど…」

何だ、これは

一体何なんだ、これ

友達が、目の前で、男に色目を使って身体を売っている

唯が、優しくて、純粋で、妹思いのあの唯が…

「唯!!!!」

私は思わず、大声で叫んでしまった

唯の体がびくりと痙攣し、ゆっくりとこっちを振り向いた

「澪…ちゃん……み…んな……」

次の瞬間。唯は一目散に駆け出した。逃げる!?

「唯!待てっ、唯!」

私たちも慌てて追いかける。しかし、結構な距離がある。人も多い。見失えばもうアウトだろう

「唯!唯っ!」

ところが

「うあっ!?」

後ろざまに、唯が転んだ。客引きをしていると思しき黒人にぶつかったのだ

あぁ、やっぱり…唯だ

もう到底逃げ切れないと悟ったのだろう。唯は立ち上がり、黒人に「あいむそーりー」などと詫びている

「唯…とうとう見つけたぞ…唯!」

律が叫ぶ。目に涙が浮かんでいる

「唯先輩……」

梓はもう泣いていた

「えへへ…みんな……久しぶりだね」

そう言って唯は頭をかいた

律が震える声で問い掛けた

「お前…何っ、何を…おぉっ・・・!」

ほとんど質問のていを成していない。無理もないことだ。私だって、何を聞いていいのかわからない

「あのさ…ちょっと場所変えようよ。ここだと色々めんどくさいから
 ちょっと行くと喫茶店があるから、そこでいいよね」

こちらの気持ちを知ってか知らずか。唯は平然としているように見える

いや……何だろう、この感じは。私の知っている唯とは何かが違う…?


唯の先導で私たちは喫茶店に向かう。

みんな無言だ。葬列のごとくぞろぞろと歩く

5分ほど歩いたところで、喫茶店に着いた。初めて入るお店だ

扉を開けて中に入る。落着いた雰囲気のお店だ

すると、入るなり唯が

「アイスティー6つ!」

と大きな声で店員に注文した。まだ席にも着いていないのに

私はこの時「ああ、この唯はやっぱり、私の知っている唯ではないんだなあ…」とぼんやり思った

全員が席に着くや否や、唯がしゃべり出した

「ごめんね、私も色々忙しくてさ。まあ、何となくみんなが聞きたいことはわかるから、答えるよ」

瞬間、律が唯の胸倉を掴んで怒鳴った

「てめえ、何だその言い草は!私たちがどれだけ心配したと思ってやがる!
 私たちだけじゃねえ!さわちゃんも、和も、アンタの両親も、クラスのみんなも!
 それを言うに事欠いて忙しいだ!?大概にしやがれ馬鹿野郎!!」

「りっちゃん、落着いて!唯ちゃんほら、苦しがってる!」

律の言葉が終わるのを待っていたかのように、むぎが律をなだめた

「は、離して…りっちゃん…」

唯がいかにも苦しそうに声を出す

「ちっ…」

舌打ちをして、律は唯を離した。どさりと尻餅をつく唯

「うぅ…相変わらず乱暴ものだねぇ、りっちゃんは…」

そう言って唯はえへへと笑った。誰もその笑いの誘いには乗らなかった

「じゃあ、単刀直入に聞かせてもらいたい。お前は今まで、何をしていたんだ?」

私は唯の目を見据えて訊いた。唯も私の目を、負けじと見つめ返してくる。そして、答えた

「お金をね…稼いでいたんだよ」

お金…といことはつまり…

「それは、その…援助交際…か?」

「うん。そうだよ」

いともあっさり答えたものである

わかっていた。さっきの、あの光景を見て、99パーセントそうなんだろうとは思ったけれど…

否定して、欲しかったな

「何で…何でなんですかあっ!?唯先輩っ!!」

梓が涙を振り撒きながら叫んだ

「あずにゃん……私はね、駄目な人間なんだよ」

唯がぽつりと呟いた

「まあ、そもそも私の目的がアレだからかもですけど…」

純ちゃんはそう言って頭をかいた

律が続いて言う

「ま、なーんにもしないでボサっとしてるよりは兆倍マシかなー

「そうね。それに、唯ちゃんの覚悟と決意を…私は無駄にしたくないもの
 出来る限りのことは協力するわ!」

むぎも…。梓は、どうだろう…

「わ、私は…私も、力になれるのなら、なりたいです…でも…でもやっぱり、人殺しの手伝いなんて…」

「殺すかどうかはさ、犯人を見つけてからあらためて考えても、遅くはないんじゃないか?」

律があっけらかんとして言った。でも、確かにその通りだ

「梓、律の言う通りだよ。犯人を見つけることと、その、仇を討つことはイコールじゃない
 唯にも、犯人が見つかってもすぐ動くなとは言ってあるしな」

梓はうつむいてじっと考えていた

梓は顔を上げた。意を決したようだった

「わかりました。私も、できる限りのことはしてみます!私にも手伝わせてください!」

そう言って、微笑んだ。私は久しぶりに梓の笑顔を見た気がした

「そういうことだ、澪。あたしらは満場一致だ。澪の作戦に乗るよ!」

「みんな…」

私は顔を上げて、みんなの顔を見回す。力強い視線がまぶしかった

「…わかった。私たちは私たちで、責任を果たす!いいな、みんな!!」

「応!!」

待っていてくれ、唯…!

私たちはその後、今後どうするかを話し合った

唯のことも自分たちのことも、基本的には他言無用にすること

唯に、私たちも動いていることを気取られぬよう、細心の注意を払うこと

一人だけで深入りをしないこと

連絡は密に行い、有用な情報を共有すること

周囲の人に怪しまれぬようにすること、など…

それから、明日は、梓が憂ちゃんを見つけた場所に行こうということになった

何かヒントになるものが残っているかもしれないからだ

「もう何もないんじゃないか?唯が頼んだ探偵が見つけてるかもよ」

と律は言うが、可能性が少しでも残っているなら、行くべきだろう

カラオケを出た頃には、もう深夜零時をまわっていた

月が妙に明るかった

久々におもしろいのがきたな

翌日11時。私たちは商店街の一角にあるファーストフード店の奥の席にいた

早めの食事と簡単な打ち合わせのためである

むぎの用意してくれた防犯グッズを確認し、私たちはお店を出た

純ちゃんの先導。梓は純ちゃんの腕に抱きつくように歩いている

向かうべき場所へは、そこから5分もたたぬうちに到着した

商店街の裏路地、空きテナントの丁度裏に位置するところ

忌まわしい場所。全てのはじまり

「梓」

私は梓に声をかけた

「はい…何ですか?」

「あの時のこと、詳しく説明してくれないか。頼む」

梓は小さく悲鳴を上げて、純ちゃんの腕を強く抱き締めた。純ちゃんが頭をなでている

しばらくして、梓は顔を上げた

「……わかりました」

「あの日…私は唯先輩と純と別れて、憂を探してました…20分ぐらいして…かな?路地裏の方にも行ってみようかなって思ったんです
 適当に見回ってるうちに、悲鳴が…聞こえた気がしました。それから、男の人が怒鳴るような声も微かに聞こえて…
 私、嫌な予感がして、走りました。そしたら…」

「憂ちゃんが…いたんだな」

梓はこくっとうなずいた

「男の人が一人、憂に覆い被さっていました。もう一人が、憂の両腕を押さえてて
 それから一人、地べたに座ってニヤニヤ笑ってました…」

「男は4人いたんだよな?あと一人は…」

「それは…その…ビ…」

ビ…?……まさか!?

「ビデオを回していました」

「…何だよ、それ…!」

律が壁を叩いた。むぎも純ちゃんも絶句している

「ニヤニヤ笑って、ビデオ回して…私、わけがわからなくなって、大きな声で叫んだんです
 そうしたら、その男たち何だか凄いあわてて、逃げていきました
 私怖くて、怖くて…唯先輩に電話して…」

梓は語り終えると、また涙を流した。私は梓を泣かせてばかりいるような気になった

「よく言ってくれたよ梓、ありがとう」

私は梓をねぎらった

むぎが梓に問い掛ける

「その男たちの特徴は…覚えていない?服装とか、髪型とか…」

梓は涙を拭きながら答える

「特徴…ですか…。すみません、顔はあんまり覚えてないです、よく見えなかったし。でも、全員若い感じでした
 それから…白いシャツ。長袖と半袖を着た人がそれぞれ一人ずついました
 どっちも似たような感じで…あの、ワイシャツみたいな感じのです」

「似たような感じの白いワイシャツ…?」

「…学生服」

純ちゃんの言葉に全員がハッとした

「若くて、似たような白いワイシャツを着ている。それって学生ってことじゃないでしょうか
 衣替えが終わっても長袖着てる人はいるし…
 ねえ、梓。その二人、ズボンも似たような感じじゃなかった?思い出してみて」

「うん……。ごめん、両方は思い出せない。でも、憂に…覆い被さっていた半袖の男は…
 緑、そうだ、濃い緑色のスラックスを履いてた」

緑のスラックスか…

律が腕を組んだまま言った

「もし学生だとしたら、学ランじゃなくてブレザーの学校ってことになるな」

私も喋った

「それに、緑のスラックスなんてそう多いわけじゃない。ある程度絞り込めるかもしれないぞ」

「お手柄だ、梓!!」

律が梓の肩を叩いた

「喜んでいいんですかね…」

「とにかく、少しずつだが希望が見えてきたような気はするな…」

「そうだな、よぉし、他に何か手がかりがないか、探してみようぜ!」

律の提案を容れて、私たちはあたりを探してみることにした

もし人が来た時に不信感を抱かれぬよう、むぎと純ちゃんをそれぞれ見張り役にし、

私と律と梓で目を皿にする。何か、何か手がかりになるものはないか…!

「おいっ!みんな!ちょっと来てくれ!」

探し始めてから5分もたたぬうちに、律が声を張り上げた

まさか…そんなに早く手がかりが見つかるのか!?

律は側溝の縁に生えている小さな雑草を指差していた

「何だ?ただの雑草じゃないか?」

「違う!この影に…」

律が葉をめくった。そこには

中心に糸くずの残った、白いちいさなボタンが転がっていた

「これ…ボタン…ですね」

梓が息をのむ

「ああ…それにこんな感じのボタン…よくワイシャツに着いてるよな…?」

律がボタンに手を伸ばす。その瞬間、むぎが叫んだ

「ちょっと待って!」

律がビクリとする

むぎは小走りで駆け寄ると、ポケットからハンカチとピンセットを取り出し、丁寧にボタンを拾い上げ、ハンカチに包んだ

律が驚いて言った

「ピンセットなんか持って来てたのか…」

むぎは

「大切な証拠品だから…取り扱いは慎重にしないと…」

と微笑んだ

唯「私の妹をレイプした奴らを見つけ出して・・・・・・殺して下さい!」

怨み屋「しかるべく!五千円、その額で!」

「でもこれ…本当に事件に関係あるものなんですかね…」

梓がぽつりと呟く。まあ、妥当な意見だろうな

「たしかに今のところ確証はない。だけどあくまで今のところは、だ
 犯人たちのものなのか、それとも単なる落し物なのか。調べてみなくちゃわからないよ」

私は言った。梓は小さくうなずいた

「…そうですよね。まずは調べること、ですね」

「ねえ見て、このボタン」

むぎがみんなにハンカチの上のボタンを示す

「ほら、穴のところに糸がたくさん残っているでしょう?」

確かに、ボタンの穴には糸がたっぷり巻きついている

「それに…」

むぎはピンセットでボタンを裏返す

「この糸、引きちぎられたように私には見えるの。つまりね…」

純ちゃんが口を開く

「自然に糸がほつれて取れたんじゃなくて、強い力でむしり取られた…ってことですか?」

むぎがうなずく

「ええ。もっとしっかり調べないと、確かなことは言えないかもだけど…」

その時私は、必死に抵抗する憂ちゃんが思わずボタンを引きちぎる姿を思い浮かべていた

嫌な、気持ちに…なった

「しっかしなあ…」

律が呆れたようにため息をついた

「ん?どうした?」

「いやさ、これがもし、事件の日に取れたものだとしたら、もうこのボタンは3週間以上もここに落ちてたわけだろ?
 唯が探偵を頼んで…まあ2週間くらいはたってるとしても…私がちょろっと探しただけで見つかるようなものを探偵が見つけていないってのはなあ…」

「確かにそうだな…」

純ちゃんが言う

「…二つ、考えられますね。まず一つ、このボタンは事件とは関係なくて、つい最近誰かが落としたものだってパターン
 もう一つは…その探偵が、よっぽど使えないヘボ探偵だというパターン」

「もし後者だったとしたら…唯はそんなやつらにお金を払うために…」

私はその時、言葉では言い表せない、もやもやした、複雑な気持ちでいた

それから30分ほど、私たちは他に何かないか、探し回った

しかし結局、あのボタンの他には手がかりらしいものを見つけることは出来なかった

私たちは商店街に戻ると、さっきのお店とは別のファーストフードに入り、これからのことを話し合った

この商店街が活動圏内にあると思われる、共学校・男子校を調べ、さらにそのうちで、制服のスラックスが緑系統の学校を絞り込むこと

ボタンを調べて、手がかりを探すこと

制服に関しては私と律が、ボタンはむぎが調べることにした

梓と純ちゃんには、他に手がかりがないか、記憶を反芻するよう言った

お店を出たのは1時過ぎ。次は明後日また集まるということにして、解散した

帰り道、私と律は、得体の知れない満足感に、少なからず酔っていた

コンビニに立ち寄って買い物をし、店を出た

と…その時、ほとんど二人同時に、携帯電話の着信音が鳴り出した

「唯…」

私の着信は、唯からのメールだった

「…さわちゃんだ…!」

律には、さわ子先生からの電話のようだ。不安そうな顔で私を見つめる律

「律、うまくやれよ」

私の励ましに、律は顔をいっそう引きつらせた。不安だ…

律は深呼吸をすると、震える手で通話ボタンを押した

「もしもし、あ、ハイ。まあ…そこそこには。それで、あの……えっ!?唯と連絡がついたんですか!?
 ええ、私はまだ…。はい、はい…はあ!?あっ、すいません、驚いちゃって…いえ…はい…
 はい、わかりました。あの、うちのメンバーには私から連絡しておきますから。…いえ、大丈夫です
 あの…先生、あんまり無理しないで下さいね…いえ、はい、わかりました。はい、また…

 ふーっ…」

律の額には汗が玉のように浮かんでいる。私はそれをハンカチで拭いながら

「お疲れ。さわ子先生…何だって?」

と聞いた

「唯から電話があったってさ。ま、昨日の約束を唯はちゃんと守ったわけだな
 唯のやつ、好きな男の人ができて、そこに入り浸ってるってことにしたみたいだ
 で、また連絡するから心配しないで、って言って一方的に切っちゃったんだとさ」

「そっか…まあ、それが一番妥当な理由かもな」

「さわちゃん…かなり疲れてるみたいだった。本気で唯のこと心配してるんだ」

私は終業式で見た、さわ子先生のやつれた顔を思い出した

「……あぁ、そうだ澪、唯からのメールは何だって?」

「ちょっと待って。今確認する」

私は唯からのメールを開封した

『両親とさわちゃんに電話しました。
 さわちゃんは、ずいぶん心配してたみたい。
 探偵事務所のほうは、まだ探してる途中です。
 約束はちゃんと守るから、みんなもよろしくね。
 それじゃまたね。』

要点だけを伝える、簡素なメール。件名もなく、絵文字も使っていない

私は律に、メールを読んで聞かせた

「……頑張らなきゃな、私たちも」

「……ああ」

さっきまでの満足感は、とっくに消え去っていた

それから私と律は手分けして、インターネットで緑のスラックスのことを調べていった

地図で、商店街のある程度近くにある、共学と男子校、それから中学校を調べる。それらをひとつひとつ検索し、条件に該当するものをピックアップしていく

サイトのある学校はかなり多く、調べるのもそう難しくなかった。

「便利な時代になったもんだ…」

どうしてもわからないところは、本屋に行って受験関係の資料に当たった

翌日のお昼過ぎには調べ終えることができた。予想よりずっと早い

「みんなは…大丈夫かな…」

進展があるといいのだけれど

翌日。場所は私の部屋にした。パソコンが使えると便利だろうという理由からだ

「じゃあ、まずは私と澪が調べたことから行くか」

律に促され、私は発表を始めた

「ああ、そうだな。えっと、パソコンを使って、あの商店街を利用しそうな範囲にある学校を調べてみたわけだけど…」

「もっと要点だけババーンと行けよ、ババーンと!」

だったらお前が発表しろよ…という言葉をぐっと飲み込み、私は要点を述べていくことにした

机の上に置いておいたファイルを手に取る

「ええと、グリーン系のスラックスが制服になってるところは、調べた限りでは4つだな
 高校が3つと中学が1つ。ホームページをプリントアウトしてあるから、見てみて」

ファイルを開いて、テーブルの上に置く

「4つか…すごい、結構絞れましたね」

「ああ、でも正直言えばもっと少ないかとも思ったけど。緑のスラックスなんて見たことなかったから」

「なあ、梓。この4つの制服のなかに見覚えのあるものは?」

律が聞く。梓がファイルを引き寄せじっくりと見ていく

「……ううん…すみません、これだ!という感じはしないかもです…」

まあ、そうだろう。どのスラックスも色味以外には特徴らしい特徴はあまりない

「大丈夫だ、気にするな、梓」

私は梓の肩を軽く叩いた

「あの、ちょっといい?」

むぎがファイルを引き寄せ、左手の手帳を見ながらぺらぺらとページを繰っていく。心なしかいつもより落ち着きがないような…

その時、むぎが目を大きく見開いた

「やっぱり…!」

そして、ある学校のページを指差して

「多分、ここ!」

叫んだ

ここ…って…まさか…!?

「むぎ!ここか!?ここがそのそれのそこなのか!?」

「り、律、おお落着け!落着けって」

あぁ、私も落着けって

梓がむぎに詰め寄る

「どういうことなんですか、むぎ先輩!?」

「説明するから、説明するからみんな落着いて!」

ああ、そうだよな、落着かないと…

私はみんなをなだめることにした

「とりあえずみんな座って、な、むぎの話を聞こう、な!」

「お、おう…」

「はい…そうですね、すみません」

律も梓も自分の席に戻った。純ちゃんは…この子はこんなに落ち着きのある子だったろうか

とりあえずみんな落着いたようだ。私はむぎに話すよう促す

「あの、絶対にそうだ、とは言い切れないんだけど…」

そう前置きして、むぎは話し始めた

「家に帰って、あのボタンを調べてみたの。そしたら、あのボタンにね、ちょっと変わった特徴があったの」

「特徴?」

「うん。ぱっと見た限りでは普通のボタンだったでしょ?でも、よく見るとボタンの裏面にアルファベットが刻まれていたの」

「アルファ…ベット…?」

「そう。ローマ字で『FUJITAYA』って刻まれていたわ。それでピンと来たの。
学生服ってオーダーしたり、特定のお店が学校に卸したりするでしょ?だから、その『FUJITAYA』っていうのはお店の名前で、そこが作ってる学生服なんじゃないか、って」

「なるほど…確かにそう考えることもできますね…」

梓の声はどこかかすれていた

「それで、この辺りで『FUJITAYA』っていう名前の、学生服を扱ってる服屋さんを探してみたら、1件だけ見つかってね、そこに行って、ご主人にあのボタンを見てもらったの
そうしたら、間違いなくうちのボタンだって。藤田屋さんはとても歴史のある服屋さんで、自分のお店で売る学生用のワイシャツなんかには、オリジナルの店名入りボタンを工場でつけさせるのが昔からの決まりらしいわ」

何だか無性にのどが渇いた。手の平の汗が止まらない

むぎの言葉はさらに続く

「それでね、藤田屋さんが主に学生服を卸している学校の名前を聞いて、この手帳にメモをとっておいたの
 それで…今、このファイルにある学校とメモを照らし合わせてみたら…」

むぎが唾を飲み込む音がはっきり聞こえた

「1校だけ…あったわ。このファイルとメモに共通する学校が…!」

私は、むぎの前で開かれているページに視線を落とした

『私立梅ヶ峰高等学校』

律が苦々しげに呟く

「ここか…!」

梓の顔にも、純ちゃんもの顔にも、ありありと怒りが浮かんでいた

多分、きっと、私の顔にも

むぎが慌てた口調で言う

「ま、待って待って!まだ決まったわけじゃないのよ?確実な証拠もないし、
 もしかしたらあのボタンは事件と何の関係もないのかもしれないわ!」

律が反論する

「何言ってんだよむぎ!お前が見つけた証拠じゃんか!この状況で、これだけの偶然が普通重なるか?
 間違いない、憂ちゃんをやったのは…ここのやつらだ!」

純ちゃんも律に同調する

「そうですよ…きっとここに、私たちの敵がいるんです…!」

むぎと梓はますますオロオロするばかりだ

私は、少し様子を見ることにした。ただ何となく

その時

ヴヴヴヴヴン、ヴヴヴヴヴン、ヴヴヴヴヴン

奇妙な音が部屋に響いた

私の携帯電話が、テーブルの上で震えている

ディスプレイには『唯』の文字

「唯からのメールだ…」

みんなの動きが止まった

私は携帯電話を手に取り、メールを開いた

『新しい探偵事務所を見つけました。
 料金も前よりずっと安くて、ちゃんとしてるみたいです。
 これならきっと、すぐに見つけてもらえると思います。
 でも大丈夫、見つけたらちゃんとしらせます。
 それじゃみんなによろしくね。』

私はメールを読み上げると、

「ごちゃごちゃやってる場合か?」

と尋ねた。誰も何も答えなかった

「今のメールの中身、聞いたろ?あの詐欺みたいな探偵事務所はやめたみたいだけど、
 また別のところに依頼はしてるんだ。つまりまだまだお金はかかるんだよ
 唯がどうやって、どんな気持ちでお金を稼いでるのか、忘れたのか?
 折角みんなで頑張って、むぎがいいところに気付いてくれたおかげで、大きなヒントが手に入ったんだろ?
 ここで馬鹿になって仲間割れしてどうするんだよ、律!純!」

律と純ちゃんはうつむいて黙り込んでしまった

「すみませんでした…私、憂の仇が見つかったと思ったら…夢中になっちゃって…」

純ちゃんが泣きながら謝る

律はそっぽを向いたまま

「悪かったよ。あたしもさ、興奮しすぎた。ごめんな、むぎ…澪も」

むぎが微笑む

「ううん、私はいいの。わかってもらえれば何も気にしないわ」

梓もホッとしたようだ。とりあえず一安心…か…?

とりあえず、仕切り直しだ

「まあ何にせよ、この発見は私たちにとっては大きな一歩だと思う。調べてみる価値は十分すぎるほどにあるはずだ
 …ちなみに、この梅ヶ峰高について…何か知ってる人はいないか?
 どういう学校かとか、友達が通ってる、とか…」

みんなお互いに顔を見合わせるばかり

「現状としては情報ゼロ、か…」

梓がファイルを見ながら言う

「ここ、生徒数が600人以上いますね…男女半々と考えても約300人…」

律が投げやりに言う

「多いんだか少ないんだかよくわかんないなー」

言い方はともかくとして、私もそう思う

300人の中から4人を絞り込むというのは実際のところどうなのだろう

「でも…やるしかないわ。手がかりがそれしかないのなら…やるしかないもの!」

むぎが決然と言い放った

そうだ。やるしかない。ごちゃごちゃ言っている暇はないのだ

唯のために…

「さてと、どうやって4人を絞るかだが…」

私がアイデアを募ろうとしたところで、律がそれを遮った

「待った待った」

「何だよ律。せっかく喋ろうと思ったのに…」

「いやゴメンゴメン。でもさ、まだ後輩組の発表聞いてないぞ?」

あ。そう言われればそうだ。私としたことがすっかり忘れていた。結局何だかんだ言ったところで私も舞い上がってたということか

「ごめん、梓、純ちゃん!べ、別に他意はないんだ」

私が両手を合わせると、二人ともくすくす笑った

「別に大丈夫ですよ、気にしてないです。ね、純?」

「そうですよ。それに私は…結局何もヒントになるようなことは思い出せませんでしたし…すみません」

純ちゃんがしょげてしまった。私はそれを慌てて慰める

「いや、それはでも、しょうがないよ。というか当たり前なんだ、純ちゃんは犯人を見てないんだから」

「そうよ。それに、純ちゃんはその分、色々私たちのためにいい意見を言ってくれているもの」

むぎも優しくねぎらう

「先輩方…すみません、ありがとうございます」

「おさんにんさーん」

素っ頓狂な律の声

「な、何だよいきなり…」

「まあそっちのしてることもそれはそれでいいんだけどさあ
 ここに一人ぐんぐんハードル上げられてる美少女がいるんだよなぁ~」

律の目線の先には…涙目になっている梓…

「私…純の分までカバーできるほど…たいしたこと…思い出せてないかもです…」

あああまずい、これはまずい

「大丈夫だ!大丈夫だから泣くな梓!」

「そ、そうよ梓ちゃん!ほんの小さな一歩が大きな一歩に繋がることはたくさんあるわ!」

「そ、そうそう!何も言うことがない私よりずっとマシだって!」

ああもう、どうしたものか。律、お前も何かフォローを…

「若いってのはいいもんですなぁ~」

私はこのとき、律に軽い殺意を覚えた


男『……本当に、いいの?』ゴクッ
唯『…。』コクコク

唯『ひぃやぁああっっ!!らめっ!あっ…あう、、あひぅあひ、男くんのおち★ちん、唯のおま★この中でびくんびくんって!あああっ!!』

とりあえず、一旦ここで休憩ということにした

お茶を淹れ直し、私たちはむぎの持ってきてきれたお菓子を楽しんだ

またいつか、唯と一緒にお菓子を食べられたらいいな、なんてことを考えながら

それから、あらためて梓の発表に入った

「あの、あんまり役に立つことは思い出せてないかもしれません
 あと、思い出したりみなさんの話を聞いたりしているうちに考えたこともあるので、それも一緒に聞いていただけますか?」

「もちろんだ。遠慮なくどんどん言ってくれ」

「はい。それじゃあ…」

そう言って梓は数枚のルーズリーフを取り出した

「ええと…まず犯人の特徴をあらためて思い返してみました。まず…髪の毛が黒い人はいませんでした」

「全員、茶髪ってことか?」

「はい。色の濃さとかそういう細かいところまでははっきりしませんが、黒髪はいなかったです
 それから…憂の腕を押さえていた男は白いタンクトップを着ていました
 もう一人の、ビデオを回していた男も、制服って感じはしなくて。私服っぽかったです」

律が腕を組んで考える

「私服が二人…何だろうな、何か変だ」

梓が続ける

「はい、私もどこか違和感を感じて、考えたんです。で、思ったんですけど
 全員が全員高校生とは限らないんじゃないかって
 高校生がいたから、それは高校生だけの集団だ、と決まるわけじゃないですよね
 高校生は学生服を着た二人だけで、残りの二人は中学生かもしれない、大学生かもしれないです
 もちろん、ただ単に私服に着替えてたってだけで、全員が同じ高校の生徒って可能性もやっぱりあると思います」

純ちゃんが

「多角的に考えろ、ってことだね…」

と呟いた

梓がうなずいて続ける

「そう。色んな可能性を考えて事に当たらないと、大きな失敗にも繋がっちゃう
 私たちがしてることは、ただの人探しじゃないんだから」

「あー、何かいろいろややこしいなーもー!」

「それから、体型は全体的に…中肉中背というか。すごく太ってたりすごく背の高い人はいませんでした
 あと、これも確証はないんですけど、タンクトップの男が逃げるときに、胸元が一瞬光った気がしたんです
 こう、ピカっと。あれは多分、ペンダントか何かが反射したんじゃないかと思います」

「茶髪で、タンクトップで、ペンダント…」

「何だかいかにもって感じだなー」

律は呆れ顔だ

梓はルーズリーフを半分にたたんで言った

「とりあえず、今のところは…これくらいです。すみません、大したことのない情報ばかりで…」

「そんなことないよ。十分役に立つ情報だったじゃないか」

私は心底そう思った。これで、探すべき目標もある程度絞られる

着実に、目標に近付いている。そんな確信があった

「ここまででわかったことをまとめるぞ
 憂ちゃんを襲った犯人は4人組で、『私立梅ヶ峰高等学校』の生徒である可能性が高い
 ただし4人全員がそこの生徒だとは限らない
 また、最悪『梅ヶ峰高』と犯人とはまったく関係ないというケースもありうる。ここは覚悟しておいてくれ
 次に、犯人の特徴。中肉中背で、全員が茶髪。これは重要な手がかりだ
 …とりあえず今のところはこれくらいだな。あと…何かある人はいるか?」

お互いに顔を見合わせる。特にないようだ

私はお茶で唇を湿らせて、次の段階にうつることにした

「それでは、『梅ヶ峰高』を当面のターゲットとして調べていくことにする
 それで、調べる方法だけど…」

「やっぱ地道に聞き込みかー?」

「まあ、それが妥当な線だと思う。知り合いでも入れば内部の細かいことも聞けたんだろうけどな…」

私はそこで、聞き込みの方法を話し合おうと思った。しかし

「あの、もっといい方法がありますよ」

純ちゃんが言った

「いい方法?」

私は純ちゃんの顔を見る。どこか不敵な笑顔だ

「はい。澪先輩、ちょっとパソコンお借りしてもいいですか?」

「ああ、もちろん、それは構わないよ。ちょっと待ってて」

私はパソコンの前に陣取って電源を入れた

「何だ何だ?ハッキングか?」

律が面白がって聞く。ところでこいつはハッキングの意味をわかっているのだろうか

「いえ、そんな大それたことはしませんよ。というか全然できないし」

パソコンが立ち上がった。私はイスを純ちゃんに譲る

「どうするんだ?」

私の問に純ちゃんは

「自己顕示欲を利用してやります」

と言ってにやりと笑った

「自己顕示欲…?」

「はい。…みなさん、ちょっとこれ見てください」

検索エンジンを回して、純ちゃんはあるウェブサイトを開いていた

ディスプレイを覗き込む

『nyxi~ニクシィ~』というサイトのようだ

「このサイト、ご存知ですか?」

純ちゃんが尋ねる。私は知らないが…どうやらみんな知らないようだ

純ちゃんは一瞬呆れ顔をした

「このサイト、国内で一番利用者数が多いSNSなんです」

「えすえぬえす?」

「純、もう少しわかりやすく説明してよ」

純ちゃんが、また呆れ顔になった。さっきより長時間だ

「SNSっていうのは、ソーシャル・ネットワーキング・システムの略で…」

「日本語でお願いします!」

「あうぅ…ま、まあ要するに、ネットの中で友達を作っていくシステムですね」

むぎが首をかしげる

「ネットの中でお友達を作るの?」

純ちゃんが詳しく説明を始める

「はい。たとえばこのニクシィには、登録するとそれぞれ自分のページを持つことが出来るんです」

カタカタと入力をしてマウスをクリック。ページが切り替わる

「これは私のページなんですけど、簡単な自己紹介とか、自分の好きなものとかを書き込めます
 それから、ブログみたいに日記をつけることもできますよ……ブログはわかりますよね?」

さすがに私もブログくらいはわかる。律が言った

「知ってるぞー、芸能人がなんかやってるやつだろ?」

わかってないかもしれない

説明が続く

「まあ日記じゃなくてもいいんですけどね。とりあえず何か書いてアップすると、それが公開されます
 登録してるならどこの誰のページも自由に見れるんですよ」

日記を書いて、誰でも見られるように公開…。何だそれすごく怖いじゃないか

「何だか面白そうね~」

むぎの目がキラキラしている気がする

「それで、色々検索したりして、いろんな人のページを見ていくわけです
 それで気が合いそうだな、とか友達になりたいな、って人がいたら友達になってもらったり、コミュに誘ったりします」

「コミュってのは?」

「共通する趣味とか興味なんかがある人が集まって作る、サークルみたいなものですね
 甘いものが好きな人が集まって美味しい店のこと話し合ったり、映画好きのコミュでは映画について語り合ったり…」

「へえ…すごいんだな…知らなかった」

私は素直に感心した

「…女子高生なら常識レベルなんですけどね」

純ちゃんがぽつりと言った

「でもさ、それはわかったけど…だからどうなんだ?」

律が問い掛ける

「まあ見ていてください…たとえば…」

純ちゃんが何か入力している…桜が丘高校…?

ページが切り替わる

「見てください、これ」

長方形の枠の中に、文字と小さな画像、それが縦にいくつも並んでいる

『桜が丘高卒業生』、『桜が丘高バスケ部あつまれ』、『新潟県立桜が高等学校』…

これって…

「これ全部、コミュです。桜が丘高校って入力するだけでかなりありますね
 まあ私たちの学校以外にも桜が丘高校ってあるみたいだけど、そのへんは見分けるのも簡単だし
 多分詳しく探せば先輩の知り合いの方なんかも見つかるかもしれませんよ
 もちろん、その学校の生徒全員がニクシィに登録してるとは思えないし、登録しててもコミュにまで入ってるかはわからないけど…」

くるりとイスを回転させ、純ちゃんが私たちのほうを向き、言った

「これ、使えると思いませんか?」

「梅ヶ峰校のコミュを探して、その中から犯人の手がかりを探すってこと…?」

「そう。コミュだけじゃなくてもいいんだ。日記のタイトルとか、もっと細かい検索も出来る
 日記だから日付もはっきりわかるし、画像も貼り付けられるからそこから何か見つけることも出来るかもしれないよ」

純ちゃんの言葉に、みんなの顔がほころんだ

「…いける!これならいけるかもしれないぞ!」

「はいです!少なくとも聞き込みよりずっと早く情報が集められます!」

「本当だな。純ちゃん、お手柄だ!」

「ありがとうございます。それに…もしかしたら、犯人の顔や名前も意外とあっさり特定できるかもしれませんよ」

むぎが驚きの声を上げる

「へえっ!?本当に!?」

純ちゃんが答える

「もしかしたら、ですけど。犯人の男どもがチャラい馬鹿男だったとしたら、です」

「このサイトって、実は個人情報がかなり漏洩しやすいんです
 サイトの運営側のせいじゃなくて、ユーザーのミスのせいでですけど
 たとえば…ちょっと見てください。これは私のページなんですけど」

画面は先ほどの、純ちゃんの日記に戻っている

梓が画面上を指差す。熊のぬいぐるみの写真だ

「これ、純の部屋にあるぬいぐるみだ」

「そう。トップページには自由に画像が貼れるんだ
 まあ自分の部屋だとかお気に入りのものだとか、ペットだとかの写真を貼るのが普通だね
 自分の顔写真貼るにしても、普通は一部隠したり、加工したりして、はっきりとわからなくする」

「まあ、それはそうだよな」

私なら絶対に顔なんか載せない

「でも中にはその辺気にしてなくて、はっきり顔がわかる画像を貼り付ける人もいるわけです」

「本当か?」

「ええ、いろいろ見ていけば見つけられるはずです
 それから、ここ、見てください」

純ちゃんは画像の下あたりを指差す。『Jum』と書いてある

「ジャム?」

「私のニックネームです。このニクシィの中では、私は『Jum』なんです」 

律が感心したような反応をする

「はー、別に本名じゃなくてもいいわけだ」

純ちゃんが答える

「ええ。というか本名で登録してる人のほうがずっと少ないと思います
 顔出ししてる人よりは多いでしょうけど」

梓が感想を漏らす

「でも、やっぱり普通はそこら辺は隠すよね」

「そう。普通の人は隠すんだ。個人情報だだ漏れにすることが危険だってわかってる人はね
 つまり、顔をはっきり出して本名で登録してるなんてのは相当の馬鹿だと思う」

純ちゃんは続ける

「このサイト、どっぷり楽しもうとすると、自分の個人情報をどんどん晒していくことになりやすいんです、顔も名前もしっかり隠してても
 本当にコミュの数が多くて、しかもけっこう細かいところを攻めてたりするから
 『出身校』のコミュに入れば住んでる地域が絞られちゃうし、『髪の毛が長い人』のコミュで熱弁ふるえば髪は長いってわかる
 『マックのバイト店員』のコミュに入れば、さらにマックでバイトしてるってこともわかっちゃう」

「調子に乗って仲間増やしてると、自分のことがどんどん覚られちゃうのか…」

背筋に寒気が走った。面白そうだと思ったが、撤回する、ひたすら怖いぞこれは…

「だから、まあ何度も言いますけど普通の人は歯止め聞かせて程ほどにするんです
 でも、馬鹿だったらその辺あんまり考えないだろうから、私たちには都合がいい
 つまり…」

「つまり?」

「犯人どもが馬鹿だったらラッキーですね」

何だそのまとめは

幼女「やあ諸君」

幼女「イキナリだが、ここに幼女で萌えたい変態はいるか?」

幼女「もしいるなら、是非我が家においでいただきたい」

幼女「人もロクにいないし、勢いも全くもってないが」

幼女「幼女と変態のほのぼのとした日常の妄想を垂れ流していってくれれば嬉しい」

幼女「これが招待状だ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幼女「おい変態ちょっとこっちこい」@制作速報vip
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
幼女「変態紳士諸君のお越しをおまちしt」

幼女「ちょっと変態、待ってよ今まじめな話してるんだから」

幼女「えっ?!そ、そんなことないぞ!わたしは変態一筋だって・・・ぁっ、ちっ違っ・・・!/////」

幼女「あっ?!ま、まて変態!み、皆見てるから!皆見てるから!」

幼女「こんなトコでちゅーとかはずかs・・・んっ」チュー

幼女「バカぁ・・・/////」

『ニクシィの日記やコミュに徹底的に当たり、犯人の手がかりを掴むこと』

これが、今の私たちが私たちの力だけでできる、最も重要な仕事だ

私たちは、これを進める上での注意点などについて話し合った

 不用意に質問やコメントなどをしないこと

 自分の個人情報をもらすようなことはしないこと

 何度も同じ人のページに何度も何度もアクセスしないこと(誰がいつアクセスしたかということが、記録され公 開されるシステムがあるかららしい。『足跡』というらしいがよくわからない)

などなど、純ちゃんを中核に据えて、色々と取り決めをした

それから、集合などについては特に日時を決めず、報告すべきことが見つかったらその都度召集をかける、ということにした

やっと解散ということになった

時間にしてみればほんの数時間だが、驚くべきスピードで進展したと思う

だが、すべてはこれからだ。油断も安心もできない、いや、してはいけないのだ

律を残して、あとの3人は私の家を出た。去り際にむぎが

「夏休みが終わるまでに、一度くらいはみんなでどこかに遊びに行ければいいのにね」

と言って微笑んだ

そうだ、一度くらいはみんなで思い切り遊びたい

そしてそこには、笑顔の唯が、いなくてはならないんだ


それからしばらくの間はパソコンに向かい続ける日々が続いた

初めのうちは不安感と恐怖心もいっぱいではかどらなかったが、日を重ねるごとに慣れていった

『梅ヶ峰高校』関係のコミュは実にあっさりと見つかった

あっさり見つかったはいいが、その数は思いのほか多かった

『梅ヶ峰高校野球部』『梅ヶ峰男子』『梅ヶ峰高2年生』『梅ヶ峰高校の卒業生』『梅ヶ峰の七不思議研究』etcetc…

また、コミュの名前に『梅ヶ峰』が入っていなくても、その中身は『梅ヶ峰』に関することだったりもして、ややこしい

だが、この程度のことでへこたれているわけにはいかないのだ。頑張らねば

まずは順当に『梅ヶ峰高校の生徒』というコミュに目を通し、そこから個人のページに飛ぶ

個人のページにはどのコミュ入っているかも表示されるから、その人の趣味嗜好、人となりなどが一目でわかる

お堅い感じの日記をつける人は参加コミュも比較的まじめで、チャラチャラした日記をつける人は、そういういかにもなコミュに多く参加していた

また、同じ高校生でも文章力にはそれぞれ驚くべき差があるということもわかった。

チャラチャラした感じの人の日記は、何と言うか支離滅裂なものが多く、もしかしたら暗号か何かを使って機密を守っているのではないか、と勘繰りたくもなった。こういった文章に慣れるのは実に大変だった

傾向としては、コミュに積極的に加入しているのは女の子で、男はそんなに多くのコミュには参加していないようである

いろいろな発見と気付きがあった。こういう世界が、私のあずかり知らぬところで広がっていたということにあらためて感心する

感心している場合じゃなかった

こうして、数多くの日記を読み、ほんのささいなヒントでもないかと目を凝らしていく日々の結果、何人か気になる人物をピックアップすることができた

気になるページをプリントアウトして、ファイルにとじていく

気付いたこと、気になったことなどがあればメモしたり付箋紙を貼ったりしておく。この前の話し合いで、あらかじめそういう風にしておくこと、と決めておいたのだ

私たちが再び集まったのは、前回の集まりから一週間ほどたってからだった

場所は前回同様私の部屋だ

「おいおい~みんなまぶたが腫れぼったいぞ~?」

集まったみんなの顔を見て、律が思わず吹き出した

そんな律のまぶたも赤く腫れあがっていた

私の部屋に入り、それぞれ前回と同じ場所に座を占める

今回は、それぞれが作成したファイルをまずは回し見する。それから、他の人のファイルを見て疑問に思うことなどがあれば聞く。そして最終的に、特に気になった点を発表するという形で行うことにした

しばらくの間、部屋の中にはファイルをめくる音と、質問・返答する小さな声ばかりしていた

私は、ささいなことでも何となく気になったらファイルするという方法をとっていた

『今日は女の子を強姦した』なんてそのまんまな日記があるはずもないのである。そこにそこに繋がるかもしれない小さなヒントを見つけることが大切なのだ

地道に地道に、ページをめくっては目を通すことを続ける

そうして数時間後…みんなが特に怪しいと感じた人物をピックアップし、ニックネーム及び日記・自己紹介やコミュなどから推測した情報を簡単にノートにまとめた

・しん 梅ヶ峰高3年、当日に商店街に行っている
・鉄 梅ヶ峰高3年、6月までは童貞であることをコンプレックスにしている内容の日記を多く書いていた
・タカちゃん 梅ヶ峰高3年、男尊女卑
・キムラ 梅ヶ峰高2年、暴力的な内容の日記を書く
・かず  梅ヶ峰高2年、当日に商店街に行って食事をしている
・Toshi 梅ヶ峰高2年、桜高のある女子に惚れている、当日に商店街に行っている
・ユーキ 梅ヶ峰高2年、日記に頻繁に『レイプ』という単語を使っている
・ぐっさん 梅ヶ峰高2年、当日に商店街に行っており、『良いこと』があったらしい(良いことについての言及 
 はない)
・内田 梅ヶ峰高2年、7月からの日記にしきりに『童貞を卒業した』と書いている
・タキ 梅ヶ峰高2年、暴力的な内容の日記を書く
・天狗 梅ヶ峰高1年、日記の中でレイプ願望があると告白している
・タナカさん 梅ヶ峰高1年、当日に商店街に行っている、7月からの日記でしきりにぼやいている
                      ・
                      ・
                      ・

こうしてまとめていくうち、最終的に30人を越える容疑者が挙がった

私はノートをみんなに示した

「とりあえずこんな感じで挙げてみたけど…」

梓がうんざりしたように漏らす

「男って下品ですね…」

「この中に犯人がいるのか…?」

律が疑問を投げる

「わからない…でも、とにかくここに挙がった男をあらためて調べてみよう」

私は一覧をコピーしてみんなに配った。それから一人につき数名ずつ分担してさらに詳しく調べ、明後日また集まることにした

ところが

その夜、9時を少しまわったころ。律から電話があった

「ちょっと気付いたことがあるんだ!今から行く!」

気付いたこと…?一体何だろうか

しばらくして律がやってきた。よほど急いだのか、汗びっしょりである

「パソコン!使わせてもらうぞ!?」

律はそう言って、私を追い越していった。

これは…期待、できるのかもしれない…!

私が部屋に入ると、律はもうパソコンの前に座ってニクシィのページを開いていた

「おい律!一体何なんだよ、そんなに慌てて…」

律は私の問い掛けにパソコンから目を離さずに答える

「家に帰ってからな、『かず』って奴のことを調べてたんだよ。そしたらコイツ、このコミュにも入っててさ」

パソコンには『喜多上中学校卒業生』のコミュが表示されていた

「きた…がみ、か?卒業中学のコミュか」

「ああ。で、澪がコピーしてくれた一覧に名前が書いてあるやつで、このコミュに入ってるのが他にもいるんだ」

「『かず』って奴以外にもか?」

「ああ。『タキ』と『ぐっさん』だ」

律は画面をスクロールさせる。たしかに、『かず』『タキ』『ぐっさん』の名前が確認できた

「確かに同じコミュに入ってるな…」

律が畳み掛けるように言う

「しかも全員同じ学年だ。おまけにこの3人はお互いを友人登録している。つまり、同じ中学出身で、かなり仲の良い3人組ってことだな」

「かなり仲が良いってのはどうしてわかるんだ?」

「お互いの日記に、頻繁にコメントを付け合ってる。文面から見ても仲が良いのは間違いない。それから…さっきの一覧表見るとわかるけどな、『かず』と『ぐっさん』はあの日の放課後、商店街に行ってるんだ」

「ってことは…」

「おそらく、一緒に商店街に行ってると思う。しかもそのとき『ぐっさん』は良いことがあった、と日記に書いてるんだ…」

律の言わんとすることはわかる。が、私にはまだピンと来ない

「律の言いたいことはわかるよ。でもそれは、こいつらが一緒に商店街に行ったってだけのことじゃないのか?
それに、『タキ』ってやつは商店街には行ってないないみたいだし、何より憂ちゃんを襲ったのは4人組だ」

律が反論する

「『タキ』は事件当日にそもそも日記を書いてないんだ。その次の日もだけどな。それに、4人目はニクシィに加入していないのかもしれない
それか、ニクシィには加入してるけど、梅ヶ峰高の生徒じゃないかもしれない。ほら、梓が言ってたろ?犯人の中にはタンクトップのやつがいたって」

「確かに、それはそうだけど…」

「それにな」

律はパソコンに向き直り、あるページを開いた

「これは『タキ』のページだ。結構多趣味らしくてな、色んな写真をアップロードしてるんだけど…澪、見てくれ」

私は画面を覗き込む。ウルトラマンの人形の写真だ。人形を手で持って、それをデジカメか携帯電話で撮影したのだろう。しかし…これが何だというの?

「ウルトラマンじゃないか」

「セブンだけどな。まあそれはいいとして…気付かないか?」

「?」

さっぱりわからない

「この画像、アップされたのがつい先週なんだ。暑い盛りだ。…ここ、見てみ」

律が画面を指差す。人形を持っている手の、手首の辺りに…長袖の襟。長袖?

私は若干声を上ずらせながら言った

「おい律!長袖って、確か…」

「ああ、憂ちゃんを襲った男のうち一人はもう7月だってのに長袖を着ていた。梓がそう言ってたよ
 ちなみにこの写真の奥のほうにな…ほらこれ、見えるか?この白いの。多分これは扇風機の枠だ
 ということは、部屋にクーラーが効きすぎてて少し寒いから長袖を着た、というわけでもないんだよな
 さらに、もっと遡ると……ほらこれ、去年の夏にアップされた写真だけど、やっぱり長袖だ
 多分こいつは、年がら年中長袖を着るってのがポリシーなんじゃないか…?」

私はただただ驚いていた。うまく言葉が見つけられない

でも…

「律!すごいじゃないか!これはもしかすると、もしかするかもしれないぞ…!」

私は素直に言葉を走らせた

律は頭をかきながら笑って答えた

「ははは、まあ、いつまでも役立たずじゃいられないしな…
 でも正直、まだまだ証拠って言えるレベルじゃないと思うんだ。こうやってもっともらしく言ってるから、もっともらしく聞こえるけど」

何だろう、今夜の律は違う…!

「同じ中学出身の仲良し3人組がいて、そのうち二人は事件当日に商店街に行ってる
 残る一人は商店街に行っているかはわからないが、犯人グループの一人と特徴が似ている
 …これだけじゃ駄目だ。もっと確かな証拠が要るよ
 それに、もしこの3人が犯人グループのメンバーだとしたら、残る一人を見つけないと…」

「確かにそうだな…でも、これでまた一つ可能性が広がったよ。ありがとう、律」

律は頬を赤らめて、しきりに頭をかいていた

私は律の話を聞いた後、むぎと梓、純ちゃんに、予定を早めて明日集合するよう連絡した

律の発見により、調べるべき範囲が大きく広がった

・犯人グループの全員が梅ヶ峰高の生徒ではないかもしれない、ということ

・また、あの3人が犯人だとするならば、残る一人もおそらく『喜多上中学校』の卒業生であろうということ

私は集まったみんなの前で、昨日の律の話をまとめた

むぎも、梓も純ちゃんも、少なからず興奮しているようだった

私はここで後輩二人に一つの役目を与えた

「この容疑者3人は、二人と同じ2年生だ。だからもしかすると桜高の2年生の中に、この『喜多上中学校』の卒業生がいるかもしれない
少し探ってみてくれないか。卒業アルバムなんかが借りられればなお良いんだが」

純ちゃんが即答する

「わかりました。友達に当たってみます」

梓も続いて

「頑張ります!」

と威勢良く言った

梓と純ちゃんが帰った後、、私と律とむぎは唯に接触を試みるために話し合った

唯の依頼している探偵に情報をリークするためには、その探偵事務所がどこの何という事務所なのかを知らなければならない。それを探るのだ

もちろんそれが理由だが…本当の理由は…他でもない、唯に会いたかったのだ

ただ、これが意外と神経をつかう

唯には、私たちは普通に夏休みを過ごしていると思われていなければならない

裏で行動していることを気取られてはいけない。違和感・不信感を与えてはまずいのだ

慎重な話し合いの結果、前もってアポをとらずに会いにいったほうが自然だろう、ということになった

会いに行った日に、必ず会えねばならない

しかし、今までの経験から考えると、それは容易でない気がする

私たちはそこで…むぎに力を借りることを決めた

むぎの家の子飼いの人間に、唯のことを探らせるのである

これまでにも、むぎの家に頼ることを、考えないではなかった

しかし、そうすることは躊躇われて、実行に移せなかった

私たちがしていることは、犯罪にも繋がるようなことなのだ。もし下手をうってむぎの家に迷惑をかけるわけにはいかない

それになにより、自分たちの力だけで何とかしたい、という気持ちもあったからだ。唯がそうしているように…

だが、もう形振り構ってはいられない

このことを話すと、むぎはにっこり微笑んで

「大丈夫よ。ただ唯ちゃんを探すだけだもの、おかしなことにはならないわ
 それに信頼できる組織に頼むから、安心して」

と言った。信頼できる組織とは一体…

梓と純ちゃんが『喜多上中学校』の卒業生に当たり、むぎの頼んだ組織が唯を探している間、残る私たちは
パソコンで今までどおりに作業をするということに決めた

例の容疑者3人がまったくの無関係だったときのことを考えて、ほかの犯人の目星をつけておく必要もあるかもしれない。ゆっくりしてはいられないのだ

ところが

むぎに調査を頼んだ次の日の夕方、むぎから電話があった

「唯ちゃんを見つけたって!例の歓楽街のあたりよ!」

私はこのとき、むぎの力にもっと早くから頼るべきだったかもしれない、と思った

それからすぐ、私たち3人は私の部屋に集まった

唯に会いにいく。今夜だ。むぎの頼んだ組織は唯をぴったりマークしているから、見失うことはないだろう

あくまで偶然を装って。唯のことが心配だからとりあえず会いに来たら、本当に会えた、ということにして…

私たちは夜8時ごろ、家を出た

8時半、私たちは例の繁華街に立っていた。むぎの携帯電話が鳴り、今、唯がどの辺りにいるかの情報が入った

「『xyz』っていうバーの辺りにいるらしいわ」

そこならば、以前唯を探していた頃に何度か前を通っているからよくわかった

律が深呼吸をして

「準備はいいか?」

と確認した。私とむぎがうなずく

唯に会える…期待と不安で心臓が張り裂けそうだ

10分ほど歩き、そろそろ『xyz』が見えてくる頃…

「え~?い~じゃん遊んでよ~!サービスするよ~?ケチー!」

唯が、いた

「唯!」「唯ちゃん!」「唯ぃ!」

3人とも全力で駆け出していた

「!?みんな!?…うえあぁっ!?」

私たちは唯に抱きついた。3人ともわんわん泣いた。涙の理由はわからなかった

「みんなぁ~、重い、重いよぉ~」

唯は困ったような笑顔を浮かべていた


それから私たちは、以前入った喫茶店に行った

席に着き、律が頭をかきながら話す

「いや、な。3人でちょっと出掛けたんだけど…唯は大丈夫かな、って急に心配になってな
 ダメもとで来てみたんだけど…ダメじゃなかった」

唯が笑って答える。この間とはまた別の制服だ。衣装として何着も持っているのだろうか

「そっか~私すごくびっくりしたよ~だってみんなが泣きながら突っ込んで来るんだもん」

それからしばらく話をした

唯はまだ援助交際を続けているらしく、

「もうすっかり慣れちゃったよ。この仕事、私に向いてるのかもしれないよ~」

と悲しいことをあっけらかんと言い放った。こんなの仕事じゃないだろうに…

また、探偵事務所は新しくしたが、やはり進展はないようだ

「『虎田探偵所』っていうんだよ。おもしろい名前でしょ。ネットカフェで探して見つけたんだ」

あっさり探偵事務所の名前がわかってしまった。これで情報を流すことができる

とりあえずの目的は達した。でもそんなことは、正直どうでもよかった

今は、とにかく唯といっしょにいたい。話していたい。笑いあっていたい…

でも、そうもいかなかった。9時半を回った頃、唯が言った

「ごめんね、今日はちょっとお得意さんと約束があるから…もう行かないと」

お得意さんまでいるのか…やっぱりショックだ

私は立ち上がった唯に、こう聞いた

「なあ…まだ、あの時と気持ちは変わらないのか?」

私の問い掛けに、唯は表情を曇らせて、

「うん…ごめんね。私はやっぱり、あいつらを許せないし、自分の力だけで仇をうちたいと思ってるよ
 これは…こればっかりは、ずっと変わらない気持ちだと思う」

…そうか。やっぱりな…

私たちは唯と一緒に店を出た

唯はやつれた笑顔で

「じゃーね!また会おうねー!」

と手を大きく振り、駆けていった

唯の背中が見えなくなった頃、私は、私たちがまた泣いていることに気付いた

その後私たちはネットで探偵事務所の名前を調べ、電話番号を控えておいた

ただし、そこへの連絡はもう少し先にするべきだ、ということになった

情報に不確定の部分が多すぎる。もう少し煮詰める必要がある

そのためには、2年生コンビの頑張りを期待しないと…

3日後の夕方。梓から連絡が入った

「色々わかったことがあるんです。すぐにみなさんを集めてください!」

どこか自信の溢れる声だった

数時間後の私の部屋。純ちゃんが口火を切った

「ジャズ研の同級生が『喜多上中』の出身だったんで…ほら、これ」

純ちゃんがカバンから出したのは卒業アルバムだった

「おおー!!」

3年生チームがどよめく

むぎが両手をあわせて笑う

「すごい!お手柄よ、純ちゃん!」

「お褒めいただくのはまだ早いですよ」

純ちゃんは不敵に笑った

「その子の家に梓と遊びに行って、いろいろ聞いたんです。というか、まあその子がおしゃべりで…ね?」

純ちゃんが梓に笑いかける。あずさは苦笑して

「聞いてもないことぺらぺらしゃべるんだよね…」

「まったくね…まあ、それはいいか。で、その子に聞いた話で、この間の3人はほぼ特定できました」

純ちゃんは卒業アルバムを開くと、クラスの集合写真のページを開いた

「『岡本和也』…これがおそらく『かず』です。で、その隣の『川口純平』が『ぐっさん』
 それからこっちのクラスの…これ、『杉田恭平』が『タキ』です。『すぎ たき ょうへい』で、『タキ』なんでしょうね」

私は尋ねた

「確かに名前とニックネームの関係は自然だな。でもそれだけじゃ材料として弱い」

純ちゃんが語る

「もちろん、そこも聞いてます。この3人はとても仲がよくて、いつもつるんで遊んでいたそうです
 しかも一緒の高校…そう、『梅ヶ峰』を受験しています。そして何より…この『杉田恭平』…」

純ちゃんは一呼吸置いて

「夏でも長袖しか着ていなかったそうです」

と言った

「この『杉田』、聞いた話では子供の頃に、腕に大やけどを負ってるらしいんです。それを人に見られるのが嫌で
 いつも長袖を着ていたようですよ」

律はかなり興奮している

「うっしゃあー!!間違いない、こいつらがそいつらだ!!」

しかし、それを制するようにむぎが言う

「でも、犯人は4人組でしょう?残る一人は…?」

「…あー……」

むぎの言葉を聞いて、律は急に萎えたようだ。しかし

純ちゃんはまだ語るべきことがあるようだ

「その子に聞いたんです。この3人と特に仲のよかった人はいないのか、って。そしたら
 ええと…こいつです、『三谷晃治』。あの3人とこの『三谷』の4人はすごく仲がよかったそうです
 一部女子の間ではホモなんじゃないかって噂されるくらい…あぁ、失礼しました」

「この『三谷』って人は『梅ヶ峰高校』の人ではないの?」

むぎの問に純ちゃんが答える

「はい、この三谷は進学せずに就職したそうです。どこに就職したかまではわからないけど…」

「ニクシィには加入してないのかな?」

「『タキ』たちが友達登録している人を全員調べてみたけど、この三谷に該当するような人はいませんでした
 もしニクシィに加入していれば、絶対に『三谷』も友達登録されてるはずですから。多分『三谷』はニクシィに加入していません」

私はそれを聞いて少なからず落胆した

「そうか…容疑者の中学時代の親友ってだけじゃあ証拠として弱すぎるな…今も交流があるかすらわからないし…」

と、そこで梓が口を開いた

「まだ話は終わっていないですよ、澪先輩!
 私、見つけたんです、この『三谷』のブログ!」

「ほ、本当か、梓!?」

「はい!昨日、手当たり次第に検索ワード入れて検索しまくってたんです。そしたら見つかりました
 パソコン、お借りしますね」

梓は点けっ放しにしてあったパソコンの前に座り、あるページを開いた

『コウちゃんの、こうすればいいんだ日記!!』

というホームページだった。力が抜ける…

梓が画面をスクロールさせる

「ほら、見てください。この画像。そこのアルバムの『三谷』と同じ顔です」

そこには、タンクトップを着てジーパンをはき、ネックレスをした茶髪のやさ男が木刀を構えている写真があった。間違いない、『三谷』だ

梓がマウスをクリックしページを開いていく

「それにここ、この写真…先週アップされたものです。『三谷』は海に行ってるんですけど…
 この、『三谷』と一緒に写ってる男、『岡本』と『川口』です。こっちの写真には…ほら、『杉田』ですよ、これ」

卒業アルバムのページと見比べる。髪は茶髪になっているし、多少雰囲気も変わっているが、間違いない
『三谷』は今も『岡本』『川口』『杉田』と仲が良いのだ

梓はさらにページを開く

「それからもう一つ。…事件があった日の日記です。短いんですけど、こう書いてあります

 『MTCの新エキスパンション「シャドウの夜明け」を大量ゲット。発売日に買えると気分イーぜ!』 」

律が尋ねる

「えむてぃーしー?えきすぱんしょん?何だそりゃ」

「MTCって言うのは『三谷』がハマってるカードゲームで、新エキスパンションというのは新しいシリーズのことです
 ほかの日記でも、『三谷』はこのカードゲームについて色々書いてますね」

私には梓の真意がまだ読めないでいる

「それが…どう繋がるんだ?」

「このブログで『三谷』はこう不満を漏らしています

 『何でこれだけメジャーかつエクセレントかつエンジョイなものがここにしかないかねー
  もっとコンビニとかにも置け!本屋とかにも置け!置け!オーケー!』

……正直ムカつきますねこいつ。まあいいや、どうやらこのMTCってカードは、この辺にはあんまり置いてる店がないみたいです
 で、『三谷』がMTCを買える唯一のお店がここ…『ゲームショップ ペルセウス』」

「『ペルセウス』!?あの商店街にあるゲームショップじゃん!!」

「はい。つまり『三谷』はあの日、あの商店街にいた可能性が極めて高いんです…!」

繋がった。確かに繋がった…!

・『かず』『ぐっさん』『タキ』『三谷』は事件当日にあの商店街に、一緒に行っている可能性が高い
・憂ちゃんを襲ったのは『梅ヶ峰高校』の生徒で『かず』『ぐっさん』『タキ』は『梅ヶ峰高校』の生徒
・憂ちゃんを襲ったうちの一人は7月なのに長袖のシャッを着ていて、『タキ』は一年中長袖を着ている
・『ぐっさん』は商店街で『良いこと』があったらしいが、その『良いこと』が何かを、その日の日記にもその後
の日記でもまったく明かしていない

私は叫んだ

「お手柄だ、純ちゃん!梓!もしかすると、もしかするぞこれは!」

律も再び興奮して言う

「とうとう犯人が見つかった!!やったぞ!!」

梓がそれを抑える

「待ってください律先輩。そう考えるのは早計過ぎますよ」

「そうですよ、特に、『三谷』に関しては情報がまだ少ないです。犯人と決め付けるのはまだ…」

律はぺたんと座り込んだ

「まあ…それは、そう…か。…そうだな。あー!でもさー、喜びたいじゃんよー!!」

「そうだな、少しぐらいは喜んでもいいよな」

むぎがニコニコしながら言った

「そうだわ!唯ちゃんが頼んでる探偵さんにこのことを伝えたほうがいいんじゃないかしら?」

そうだ、これだけの情報があれば、その『虎田探偵所』も動いてくれるかもしれない。善は急げだ

ああ。でも…

「な、なあ、何て言って電話すればいいと思う?女子高生の人探しに匿名で情報提供者が現れるなんて変じゃないか?」

「確かにそうですね…」

「しかも、絶対に私たちが情報を提供したって唯にばれちゃダメなんだ。その辺の事情をどう説明したらいいかなあ!?」

律が苦笑いして言った

「会議はもう少し長引きそうですかな~?」

その時

律の携帯電話が鳴った

「ん~?ありゃ、さわちゃんだ。心配して電話でもしてきたかな?」

律が通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てる

「はい、もしもし……先生?………!!」

律…?…顔色が……

「……唯が、トラックにはねられたって」

律の携帯電話がぼとりと落ちた

「さわ子先生!!」

病院の廊下。両脇にソファが置いてあり、唯のご両親、とさわ子先生が座っていた

私たちの声に、ハンカチを握り締めたさわ子先生が立ち上がる。目が真っ赤だ

「みんな…!唯ちゃん、唯ちゃんが…!ああっ!!」

さわ子先生はその場に泣き崩れてしまった

律が先生の肩を揺さぶって問い掛ける

「さわちゃん!唯の、唯の容態は!?助かるよな!?大丈夫だよな!?さわちゃん!答えろよぉ!」

駄目だ、さわ子先生はただ泣きじゃくっている……唯のご両親!!

私は唯の両親のところへ駆け寄り問い掛けた

「あの!唯のお父さん!唯は、あの、唯さんは大丈夫なんですか!?大丈夫ですよね!?」

「これはねぇ…天罰なんだ…」

何を…言っている?…天罰?

梓が駆け寄り、私と同じように尋ねた

「唯先輩のことを教えてください!怪我の具合はどうなんですか!?重いんですか軽いんですか!?教えてください!!」

「これはねぇ、私たちへの罰なんだよ。子供をないがしろにした罰なんだよ。神様が、お前たちは子供なんかいらないんだろう、って唯も憂も連れて行ってしまったんだ。もう無理だ。もう無理だ。もう無理だ…」

唯のお父さんはうつむいてブツブツ呟くだけだ。唯のお母さんは…ソファに腰掛けたままぴくりとも動かない

事態がうまく掴めない。心臓が痛いほどに脈を打つ。汗が全身から吹き出す。めまいを感じて私はソファに倒れこむように腰をかけた

梓は泣きながらおろおろしている。純ちゃんは落着きなくあたりをキョロキョロ見回している

むぎはさわ子先生の傍に寄り添って介抱している。律は…

「澪…」

律が私の横にどさりと座った

「大丈夫だよな…だって、約束したもんな…約束したよ…」

そうだ。約束したんだ。絶対に軽音部に戻ってくると、約束したんだよ、唯…

「ああ。唯は甘えん坊でいい加減なところも多いけど…約束を破ったことは一度だってない…!きっと、大丈夫だ…!だから律、泣くな」

私はハンカチで、律の顔をそっと拭った

それからしばらくの間、私たちは手術が終わるのを待ち続けた

途中、何とか落ち着きを取り戻したさわ子先生に、ここまでの経緯を話してもらった

今日の夜9時過ぎ、例の歓楽街の交差点で、唯が道路に飛び出し、直進してきたトラックにはね飛ばされた

数分後、救急車が到着し、この病院に搬送された。唯は全身を強く打っており意識不明の重体

身分や住所の証明となるものがなかったため、病院側は携帯電話の電話帳から自宅及びさわ子先生の電話番号を調べ、連絡した、ということらしかった

道路に飛び出した…?一体なぜ…?

私は『手術中』のランプをぼんやりと見つめていた

唯…私たち、すごい手がかりを掴んだんだぞ…。だから、ちゃんと戻って来いよ…

どれほどの時間、そうしていただろうか

不意に手術室のランプが消えた

唯のご両親以外の全員が立ち上がる

手術室の扉が開き、お医者さんと思しき人と、看護士さんがあらわれた

私たちは一斉に駆け寄り、尋ねた

「唯は、唯は助かりましたか!?」

お医者さんはこう言った

「出来る限りの手は尽くしましたが…残念です。申し訳ありません」





私はその夜、親友を失った

それからのことは、よく覚えていない

みんな、泣いていたような気がする

タクシーに乗って、帰ったような気もする

お葬式に、行ったような気がする

和、信代、姫子…クラスのみんなが泣いていたような気がする

和や信代に何か聞かれたような気がする。私は何か答えたのだろうか

頭の中に靄がかかったような気がして

自分の意志で動いているような気がしなくて

何かを考えることを脳が拒んでいるような気がして

ただ起きて、ただ眠ってを繰り返す日々

私は、夢をみた

私は部室にいた

窓の外は暗い。きっと、夜なのだろう

電気がついていないのに、部屋の中はほんのりと明るく輝いていた

「澪ちゃん」

あ…唯だ

「ごめんね、遅くなって」

「まったく、お前はいつもそうなんだから」

「えへへへ~」

「…なあ、唯。私は、お前に謝らなくちゃいけないことがあるんだ」

「うん…知ってるよ」

「そうか…知ってたのか」

「うん。澪ちゃんは、嘘をつくのが下手だからね~」

「そうかな…。唯、ごめんな」

「…ううん、いいよ。それに、私も謝ることがあるんだ」

「謝ること?」

「私もね、約束を破っちゃったんだ」

「…軽音部に、戻ってくること…か」

「それもあるけど…もういっこ」

「何だろう」

「あの日ね、私は、いつもどおりにお客さんを探してたんだよ」

「うん…」

「そうしたら、若い男の人が、背中を向けて立っていたんだ」

「うん」

「私、その人に声をかけたよ。『お兄さん、私と遊ばない?』って」

「それで?」

「その人が振り向いて、私の顔を見たの。すぐに、すごく驚いた顔になったよ」

「…何でだろうな」

「その人は、すぐにもとの顔に戻った。そして今度はニヤニヤ笑い始めたんだ」

「ニヤニヤ?」

「その人はこう言ったよ。『お前さあ、前に俺とヤったことねえ?商店街の裏で』」

「…まさか」

「うん。その人が、憂を傷つけた人。私と憂はよく似てるから、戸惑ったんだね、きっと」

「唯…」

「私ね、頭に血が上った。こいつだ、こいつが憂をってそう思ったら、大人しくなんかしていられなかった
 その人に掴みかかった。殺そうとしたんだ、首を絞めて
でも、私には力が足りなくて、振りほどかれて、倒されちゃった。でもその時に、そいつのネックレスを引きちぎってやったよ。ざまあみろだよね、たまたまだけどさ
そいつ、悲鳴を上げながら逃げ出した。私は起き上がって、必死になって追いかけたよ。そいつの背中しか見てなかった
それでね、そいつが交差点を突っ切って逃げたから、私も交差点に入ったの。そしたら…」

「わかったよ、唯。もういい。言わなくていい」

「澪ちゃんと約束したのにね、犯人を見つけても、まずは相談するって。約束…破っちゃった」

「いいよ、気にするな」

「ごめんね、澪ちゃん。ありがとう」

「うん」

「…あのね、澪ちゃん。お願いしたいことがあるんだ」

「…何だ?」

「ギー太を、もらってくれるかな?」

「…わかった」

「ありがとう。かわいがってあげてね」

「うん」

「もう、行かなきゃ」

「…そうか」

「うん。さよならだね」

「唯…ひとつ、聞いていいか?」

「うん。何?」

「まだ…恨んでいるのか?」

「…うん」

「…そっか」

「それじゃあね、澪ちゃん」

「ああ」

「みんなにもよろしくね!」

「ああ!」

「さよなら、澪ちゃん!」

「さよなら、唯!」



そこで私は、目を覚ました

頭の中の靄は、すっかり晴れていた

枕元の携帯電話を見る

時刻は午前10時過ぎ。日にちは…何と

あの日から私は、一週間以上もぼんやりとし続けていたようだ

私はお風呂場へ行くと、汗でびしょ濡れになった服を脱ぎ、脱衣籠に叩き付けた

冷水のシャワーを体中に浴びる

水のつぶてが火照った身体を容赦なく責め苛む

死にかけた感覚が息を吹き返していく

身体の中をどくどくと血が流れる音が聞こえる

覚醒しろ、私

仕事はまだ、終わっていない

唯「そこのお兄さんっ!唯とお・ま・ん・こ♪していきませんかっ?」
幼馴染み「そこのお兄さんっ!ワタシとお・ま・ん・こ♪していきませんかっ?」
ラムジェット山下「そこのお兄さんっ!ラムジェット山下とお・ま・ん・こ♪していきませんかっ?」

どれが読みたいかって話だな
あとやっぱり本編とのギャップや人間関係が構築済みなのも大きい
和「そうなんだ、それじゃあ私生徒会行くね」をオリキャラでやったら
アストロトレイン中原「そうなんだ、それじゃあ私生徒会行くね」
彼女はアストロトレイン中原さん
生徒会役員の~ 以降数行の説明
となるから既存のキャラの方が楽だしね

けいおんの最終回見たら泣いちゃいそうなssだな
俺きもい

シャワーから上がった私は、冷蔵庫の中にあったお茶のペットボトルをラッパ飲みしてのどを潤した

両手で両頬をパンパンっと叩き、気合を入れる

「さて、と…」

私は部屋に戻り、携帯電話で電話をかけまくった

律、むぎ、梓、純ちゃん…同じ秘密と傷を持つ仲間達だ

律もむぎも、塞ぎ込んでいる様子が電話口からひしひしと伝わってきた

梓は電話に出なかった

純ちゃんは、他の3人よりは、比較的元気を取り戻しているようだった

私は律とむぎに、それから純ちゃんに、私の家に来るようきつく言い含めた

純ちゃんにはさらに、途中で梓の家に行き、無理矢理に引きずってでも連れてくるよう言った

強引だ。独善的だ。一人よがりもいいところだ。だが、それがどうしたというのだ

私の胸には最早、迷いはなかった

全員が揃ったのは、それから2時間半ほどたってからだった。時刻にして2時少し前

律もむぎも、純ちゃんも、その表情は一様に暗い

梓にいたっては表情が見えないほどに、背筋を丸めてうつむいている

無理もないことだと思う。私も昨日の夜までは、みんなと同じような状態だったのだから

でも、昨日と今日は、やはり違うのだ

深呼吸をひとつ

「私は唯に、後のことを託された」

全員が顔を上げて、私を見た。梓もだ

私は、昨日見た夢の一部始終をみんなに話して聞かせた

「……そこで、目が覚めたんだ。…どうしたお前たち。私がおかしくなった、とでも思うのか?
 確かにたかが夢の話だ。一から十まで私の妄想の産物かもしれないよ
 でも、それでも私はやっぱり、唯の魂が私のところに来たんだと思うんだ…
 唯の無念を、憂ちゃんの悲しみを、私は晴らしてやりたいと思う
 それに何より…私は憂ちゃんと唯を死に追いやったやつを絶対に許せない
 あいつらがのうのうと生き続けるなんて、絶対に許せない。まあ、これは完全に個人的な恨みだけどな
 だから、私はこれからも、復讐のための活動を…いや、ハッキリ言う。犯人を殺すための活動を続けようと思う
 まともな生活には戻れないかもしれない。それも覚悟の上だ
 それで、みんなには、私に協力してくれるかどうか、正直な意見を聞かせて欲しい」

みんな黙り込んでいる。それはそうだ、無理もないことだろう

夢のお告げで、しかも殺人を決意するなんて…まるで三文ミステリ小説だものな…

「私は協力しますよ、澪先輩」

沈黙を破ったのは純ちゃんだった

「みなさんお忘れかもしれませんが、私のそもそもの目的は憂の仇討ちです
 覚悟なら、この中の誰よりも先にしているはずです
 もし私以外の全員が復讐を諦めていたとしても、私は決して諦めていなかったと思いますよ
 力をお貸しします。だから、私にも力を貸してください、澪先輩」

純ちゃん…

と、今度はむぎが口を開いた

「二つ、条件があります。」

「条件…?」

「私を作戦参謀に任命すること。そして、私の提案には素直に従うこと
 これを守ってくれるのなら、私も力を貸すわ
 …私にだって、どうしても許せないことはあるんだから…」

「むぎ…わかった。その条件を飲むよ」

「うん!」

それから、梓が顔を上げた

「この一週間、ずっと考えていました
 私…唯先輩の気持ちがわかりませんでした
 いくら大切な、大好きな妹のためとはいえ、殺人を犯そうと思うなんて、絶対におかしいと思っていました
 でも、今ならあのときの唯先輩の気持ち…よく、わかるんです
 本当に、本当に大好きな人を奪われたときの気持ちは…たぶん、理屈じゃないんでしょうね
 …うん、澪先輩、私もやります!このまま泣き寝入りなんて死んでもごめんです!
 私も、私のこの手で唯先輩と、憂の仇を討ちます!」

梓…!

あと、答えを出していないのは律だけだ

律は腕を組み、目をつぶってじっと考えているようだった

私は律に声をかけた

「律…私たちに合わせなくていいんだ。律が思う、率直な意見を聞かせて欲しい
 律が反対したって、誰も律を責めたりしない。裏切ったなんて思わない
 むしろ反対するほうが正しいんだからな。だから、私たちのことは気にしないで…」

「私はさ、すっげームカついてるんだよな!」

私の言葉を遮り、律が言った

「律…」

「何で澪の夢にしか唯は出なかったんだよ!私だって唯と話したかったしお別れも言いたかったんだぞ!
 部長をさしおいて副部長のところにだけ出るなんて、ま~ったくあのドジっ子は~!
 …私のところにも来てくれてれば、澪の代わりに私が発起人になってカッコつけられたのにさ」

「じゃ、じゃあ律…お前も…」

「あったり前じゃんか!考えてたのは梓ばっかじゃないんだぜ?
 私だって、この一週間いろんなことを考えたんだ。考えて考えて…
 もう全部忘れて今までどおりに生きた方がみんな幸せかもな~何てことも思ったけどな…
 やっぱり駄目だ。このままじゃ収まりがつかない!私も、この手で恨みを晴らすぜ、澪!」

「みんな……ありがとう、本当に」

私はタオルで、顔をごしごしとこすった

「さて、と」

お茶を新しく淹れて一息つくと、律が話し始めた

「でも、結局犯人が誰なのか、ってことははっきりしてないんだよな~」

痛いところを突かれてしまった。だが、いずれ突かれるところではあったろう

夢で見た唯の言葉を信じるにしても、犯人の顔や名前、特徴などは唯の言葉にはなかった

「また地道な捜査に戻るほかないか…」

私のそんな言葉にみんなが落胆の色を見せた、かに思えた。しかし

「犯人はあの4人組で間違いないと思います」

そう言ったのは純ちゃんだった

「何でそう言い切れるんだ?」

という私の問に、純ちゃんは

「私はみなさんよりもほんの少しだけ復帰が早かったんですよ」

と言って、パソコンの前に座った

「みなさん、この一週間で『三谷』のブログにアクセスしましたか?」

誰も答えない。それはまあそうだろう、そんな状態ではなかったはずだ

「私も昨日の夜にやっとチェックしたんですけど…これ、あの日の日記です。読みますね

『マジで最悪!!街で変な女にからまれて首しめられたっつーの!!
しかも後ろからおっかけられて足ひねるし!お気ニのネックレス引きちぎられるしよォー!!
 もーホントカンベンしろっつの!基地外さんはみんな死んでくださーい(笑)』

…これ、唯先輩ですよ、間違いなく。やっぱり唯先輩、『三谷』が犯人だと見抜いたんですよ」

「本当だ…間違いないな。少なくとも『三谷』は犯人グループの一人だ」

梓が純ちゃんに問う

「でも純、これだけじゃあの『4人組』がとは言い切れないんじゃないの?」

純ちゃんがそれに答える

「まだ続きがあるんだ。こういうブログってね、閲覧者が自由にコメントをつけられるようになってるんだよ
 で、このコメント欄を使って、擬似的な会話をすることもできるんだ
 芸能人とか有名なブログなんかだと不特定多数のユーザーがたくさん書き込むから、かなり雑然としてわかりづらいけど、
 ほぼ固定ユーザーしか訪問しない個人ブログなんかは、必然的にコメント欄も仲間同士でのダベりに使われちゃったりするんだよね」

「まさか…!」

「そう、そのまさかです。あの3人と『三谷』が、この日の日記のコメント欄でおしゃべりしてるんです
 読み上げますね

『1:お前何やらかしたんだよwwww         カズヤ
 2:元カノだな。よりを戻すといい          キョウヘイ
 3:イヤイヤ、ちょっと前にトラブった女だよ     管理人
   つかお前らも顔知ってるし            
 4:セブンのバイトのあれか             キョウヘイ
 5:ちげーよジュンPの始めての女だよ         管理人
 6;あー、そりゃ首も締められるわwwwwwww   カズヤ』

この管理人というのは『三谷』です。『ジュンP』は『川口純平』のことでしょう。『カズヤ』と『キョウヘイ』はそのまま『岡本和也』と『杉田恭平』ですね
5のコメントから察するに、ニクシィの『ぐっさん』の日記にあった『良いこと』とは…童貞の喪失、それもレイプによる…ものですね。そして3のコメントから察するに、4人全員がそのレイプ被害者の顔を知っている…」

「間違いない…こいつらが諸悪の根源だ…!!畜生!!」

律が床を叩く。梓は伏目がちになって呟いた

「こんなやつらに唯先輩と憂は汚されたんですね…」

むぎがぽつりと呟いた

「唯ちゃんが無茶をしたおかげで、犯人が特定できたのね…」

むぎの言うとおりだった。唯が暴走したおかげで、この日記が書かれたのだから…

唯、お前の頑張りは…無駄じゃなかったぞ…!

標的は定まった。あとは…実行に移すのみだ

いつ、どこでやるか。それを決めなければならない
むぎが口を開いた

「私は、犯人だけに罰が下されるべきだと思うの。みんなの生活は守りたい。できれば、これからも今まで通りに暮らしていけるようにしたいと思っているの
だから…そのために、私の計画に乗ってもらうわ。いいよね澪ちゃん、そういう条件だったものね?」

私は小さくうなずいた。自分から買って出た作戦参謀だ、確かな策があるのだろう

「まず、出来れば夏休み中に実行に移したほうが都合はいいんだけれど…」

夏休み中…そういえば、夏休みは残り10日ちょっとしかない。自分の中の時間の流れ方がおかしくなっている気がした

律が不安そうに言う

「夏休み中ったって…もうあんまり残ってないぞ?」

「うん…そうなのよね…この、お祭の日に4人まとめて始末できれば都合がいいんだけど…」

「お祭の日って…あと5日しかありませんよ?しかも4人まとめてですか?」

「一人一人別々の日に殺すよりも、同じ日に全員のほうが安全なの。お祭の日ならなお都合がいいわ
 でも…今のみんなじゃ到底無理だわ…」

むぎはあごに手を当ててしばらく考えこんだ後、

「みんなの時間を、丸ごと私にちょうだい」

と強い口調で言った

法があんたらを許しても、うちらはあんたらを許さない的な展開だったらいいな

>>834
お前さっきまでジョーカー見てただろwww

その夜、私たちはむぎの家に集まった

聞きしに勝る豪邸である

律が口をあんぐりと開けて、まるで呆けたように威容を見つめていた

「いらっしゃい。さあ、入って」

むぎの案内で、門をくぐり、庭へと入る

そのまま真っ直ぐ家の玄関に…は向かわなかった

右に折れ、家の周りに沿うように歩いていく

「なあむぎ、どこへ行くんだ?」

むぎは答えなかった

しばらく歩くと、2階建ての、旅館風の大きな建物が目に入った

「あそこよ。うちの離れなんだけど」

「うちよりずっと大きい…」

梓が呟いた

むぎは扉に手をかけ、がらがらと開く

そうして私たちのほうを振り返り、言った

「ここに入った以上、4日間は何があろうと、外に出ることは許さないわ
 そして、今後…まともな人生を歩めなくなるかもしれない
 その覚悟が出来た人だけ、入って頂戴」

扉の奥は漆黒の闇だ。まるで地獄の怪物が口を開けて、憐れな獲物を待っているかのよう…

身体がぶるりと震える

でも、もう後戻りする気はないのだ

私は深呼吸をすると、玄関に足を踏み入れた

律も、梓も、純ちゃんも…それに続いた

「そう…いいのね」

むぎが扉をぴしゃりと閉めた

私たちは真の暗闇に包まれた

「ようこそ、『裏 琴吹』へ…」

むぎの声が、ひどく歪んで聞こえた気がした

5日後の朝

離れの地下の修錬場に、私たちは車座に座っていた

「みんな、お疲れ様。本当に…よく頑張ってくれたわ」

むぎが感慨深げに呟く

律は笑って、あざの残る手で頭をかいた

「いや~、まったく初めはどうなることかと思ったぜ~」

「本当です。殺す前に殺されるかと思いましたよ」

「ほんとほんと」

梓と純ちゃんも楽しげに答えた。よく見れば身体のあちこちに傷やあざがある

私も、そうなのだろうな

むぎが一つ咳払いをして口を開く

「とはいえ、この4日間の修行は…所詮は付け焼刃に過ぎないわ、酷なことを言うようだけれど
 力を過信するのは危険なの。そのことをよく肝に銘じておいて」

みんなの顔に陰りが浮かぶ

むぎはそれを見ると、にこりと笑った

「でも…大丈夫、私たちなら…きっとできるわ」

それから私たちは、最終的な打ち合わせを行い、段取りを確認し、朝食をとった

食後のお茶を飲みながら、むぎが言った

「今から集合の7時までは自由時間とするわ。それぞれ、好きなことをして大丈夫よ
 それに顔を見せておきたい人もいるでしょう?…これで最後になるかもしれないから」

私は顔を見せておきたい人、会っておきたい人を思い浮かべた

両親よりも先に、唯の顔が浮かんだ


私は家に戻り、両親に、この4日間の、嘘の思い出を話した

軽音部の合宿に行っていた、ということにしてあったのだ

両親は変わらぬ笑顔で私の話を聞いていた

私は思わず泣きそうになるのを、必死でこらえていた

お父さん、お母さん、あなたたちの娘は…今夜、人を殺します

>>835
なにそれ?

私は両親とお昼を食べた後、唯の家に行ってみることにした

唯のご両親は…あれからどうなったのだろう

ほどなくして、唯の家に着く

呼び鈴を鳴らすが、反応がない。ドアノブに手をかけて回すと、ドアが開いた

「すみませーん!どなたか、いらっしゃいませんか?
 あの、秋山と言います!唯さんの同級生の、秋山澪と言います!」

反応はない。諦めて、帰ろうかとしたその時、人の動く気配がした

「……唯のお友達ですか…。さあ、どうぞ、上がってください」

現れたのは唯のお父さんだった。さらにげっそりとやつれて、あの唯や憂ちゃんのお父さんとはとても思えない姿だった

茶の間に案内されると、そこには唯のお母さんが机にもたれるように座っていた

ゆっくりと顔を上げて、会釈をしてくれる。私はこの人の声を、まだ聞いていないと思う

「さあ、お線香をあげてください。唯も憂もきっと喜びますよ…」

お父さんに誘われて、私は祭壇の前の座布団に腰を降ろす

黒い縁取りの中に、笑顔の唯と憂ちゃんがいた

私はお線香に火をつけ、鈴を叩き、手を合わせた

「もうすぐ…もうすぐだからな。待っていてくれ、唯。憂ちゃん」

私は心の中でそう唱えた

私はそれから、お父さんに許可をもらい、唯の部屋を見せてもらった

雑然としている。唯が家を出てから、誰も手をつけなかったのだろう、あちこちに埃が積もっている

私は目当てのものを見つけて、その前に座った

「久しぶりだな、ギー太」

ギタースタンドに立て掛けられた、唯の相棒

「お前もずっと…寂しかっただろう?
 唯はな、もうこの世にはいないんだ。つらいだろうけど、本当のことだ
 だから私は、唯の無念を晴らす。みんなで唯の恨みを晴らしてやるんだ
 だからギー太、お前も見守っていておくれ、な」

私はそうギー太に語りかけた

と、その時

ギタースタンドにしっかり置かれているはずのギー太が、ゆっくりと私のほうに向かって倒れてきた

私はギー太を両腕で受け止めた

「……そうか、そういうことか…ごめんな、ギー太
 そうだよな、お前だって…悔しいんだよな。わかった、お前だけ仲間外れになんかしないよ」

私はゆっくりと、ギー太のペグを弛め始めた


時刻は6時半。私は両親にお祭に行くからと断って、家を出た

ぼんやりと薄暗い道を、私はゆっくりと歩く

今日までの想い出が、ぐるぐると走馬灯のように、糸車のように私の頭の中を回る

唯と初めて会った日のこと、一緒に楽器屋に行ったこと、合宿、文化祭の初ライブ、
クリスマスパーティー、お正月の初詣、新歓ライブ、梓が軽音部に入った日…

唯の笑顔が 憂ちゃんの笑顔が

私の中でぐるぐると回る

道の途中で、律と合流した

互いに一言も交わさず歩き続ける

次第に暗くなっていく夜道

しかし、私たちの足取りは強く、乱れることもない

私たちは、ただお互いの足音だけを聞いていた

待ち合わせの場所には、もうみんなが待っていた

梓も純ちゃんもよく見るような私服

むぎは、襟元だけ真っ赤な、黒い浴衣を着ていた

「準備はいいわね…?」

むぎの問い掛けに、私たちは強くうなずいた

「応」

時刻は7時半をまわったところ

標的の4人は、出店の射的に興じている。周りを考えぬ、狂気じみた声だ

「倒れねー!!おいおっさんコレ倒れねーぞ!!サギだろ!サギだろこれおい!!」

「ひゃはははは、つーかお前そもそも当たってなくね?」

「ざけんなよ当たってるってマジでー!!」

「というか当たってたとして欲しいか、これ」

「いやいや、恐竜は男のロマンだからね。まあいらないけど」

律が吐き捨てるように言う

「盛り上がってやがんな、馬鹿どもが」

私は梓に声をかける

「準備はいいか、梓?」

「…はいです!」

そう言って梓は、左手にかき氷を持って駆け出した

「先輩!早く早くー!!きゃあっ!?」

梓が『三谷』にぶつかる。かき氷がこぼれて、その腕にかかる

「うぉ冷たっ!!おい何すんだてめえ!!」

「ごっ、ごめんなさい!ごめんなさい!あ、あの、よそ見してて、その…」

そこに、私たちは駆け寄る

「おーい、どうした梓…まったく、何をやっているんだお前?」

「あちゃー、このドジっ子め~」

むぎが『三谷』に駆け寄り、ハンカチで腕を拭きながら謝る

「ごめんなさい、大丈夫ですか?お召し物に汚れはありませんか?」

むぎの丁寧な対応に戸惑ったのか、『三谷』は声を上ずらせながら

「お、おぉ…ま、まあ大丈夫だけどよ…気をつけろよマジで」

と言った

『三谷』の腕を拭き終えたむぎが、

「あの、ご迷惑をお掛けしたお詫びに、何かご馳走させていただけませんか?
 お連れさんたちもご一緒に…いかがですか?」

と下から見上げるように『三谷』を見つめて誘う。この目つきに勝てる男はそうはいまい

『三谷』はオロオロしながら仲間に問い掛けた

「お、おいどうする?なんか言ってっけど」

「いいじゃん!何かおごってもらおうぜ!はいはーい!ゴチになりまーす!」

『岡本』がいかにもお調子者という風に返事をした

よし。第一段階クリア

私たちはそれから、近くの出店でクレープを買い、4人組と一緒に食べた

観察すると…『岡本』と『川口』がなにやらささやき合い、クスクス笑っている

その目線は確かに、私たちを舐め回すように見ていた

クレープを食べながら、律が提案する

「あのさー、私たちこれから色々見て回ろうと思うんだけど~よかったら一緒に見て回らない?」

むぎが同調する

「それはいい考えだわ~。大勢で見たほうがきっと楽しいもの~!」

「だろ~?ねえ、どう?お兄さん・が・た?」

男たちは二つ返事だった。第二段階クリア

私たちはそれから、男4人組と一緒に出店を見て回った

その間、それぞれの男の好みをそれとなく観察する

『岡本』はむぎに積極的に話し掛けている

『川口』は純ちゃんと話しながらもちらちらと梓を見ている

『杉田』は口数が少ないが、律に興味を示しているようだ

そして『三谷』は…

「へー、みおちゃんてゆーの!?かわいい名前ー!!どんな字書くの?え?わかんね!いいや!!わっかんね!!」

…ともかく、これで標的は定まった

私たちはしばらく歩き、出店の終わるところにまで至った

今までの明るさとは打って変わり、その先はあえかな街灯の光しかなく、暗く寂しい

「もうお店ないねー、もどろうか」

『川口』がそう言った。そうはさせない

私は『三谷』の腕に抱きつくようにすると、無言で闇のほうへと歩いていく

「あれ?ちょっとみおちゃん?」

『三谷』は初めこそ慌てたが、すぐに顔をほころばせて

「あー、なるほどね、うん、いいんじゃね」

と納得し、私と共に歩き出した

それを皮切りに、律と『杉田』、むぎと『岡本』も、別方向へと歩き出す

「あれ?ちょっとお前ら?」

うろたえる『川口』の両腕にそれぞれ梓と純ちゃんが絡みつき、

「もー、あんまり大きな声出さないでくださいよ~」

「それとも…私たち二人じゃ…イヤ?」

と猫なで声で誘った。陥落

私たちはそうして、暗闇の中に溶け込んでいった

みんな…上手くやれよ…!

私は少し歩いて、『岡本』さんを人気の少ない小学校の裏手あたりに誘い込みました

「にゃははは!つむぎちゃーん、何でこんなトコ来ちゃってるわけ~?」

「何でって…本当はわかっているんじゃありませんか?」

「え~?やっぱりそうなの~?うーん、おじさんショックだなあ
 こんなにかわいい子が、はじめて会った男と会ったその日にこんなことするなんてさ~」

私は少し甘えるような口調に変えて、こう言いました

「もう…そんなこと言わないで…いじわる」

『岡本』さんはますますニヤニヤと笑います

私はそこで、『岡本』さんの目を見つめて、こう言いました

「もう…じゃあ、ちょっと待って。お願いがあるんです。少し、目をつぶっていてもらえますか?」

「そんなお願い?いいよ!聞いちゃう!いくらでも聞いちゃう!」

『岡本』さんはそう言うと、その場で目をつぶって棒立ちになりました

私は、右手の関節をボキボキと鳴らすと、『岡本』さんの喉もとを右手で掴みました

「むぐう!?」

力を込めて、一気に締め上げます

ぐっ、ぐぐっ、ぐいっ、…ぶぐっ

『岡本』さんの全身の力が抜け、両手両脚をだらりと投げ出しました

目の玉が飛び出るかというほどに、目が見開かれています。きっと、何が起きているかわからないうちに死んだのでしょう

私は強く息を吐くと、

「私、一度でいいから外道を縊り殺したかったの」

と呟きました

今日中に終わればそれでいい

私は道の上を『杉田』と歩いていた

『杉田』は口数が少ない。しかし、折に触れて、偶然を装うかのように私の身体に触れてくる

ムッツリスケベが…

「なあ、律ちゃん。どこに行く気だ?」

「ちょっとこの先にな…いいムードのところがあるんだよ」

私はそう言って、目を細めて『杉田』見つめた

『杉田』は目をそらした。頬が赤らんでいたかどうかはわからない

そのまま少し歩くと、ひときわ明るい場所が見えた。公衆トイレである

「あのさ、ちょっとトイレ。あんたはどうする?」

「ああ、俺は…いいよ」

トイレに駆け寄り、中に入る。『杉田』はトイレの壁のすぐそばで、立って待っている

私は『杉田』に気付かれぬように、トイレの窓から外に出る

そしてトイレのふちにジャンプして手をかけ、トイレの上に登った

足音を立てないようにゆっくり進む。トイレの上から、『杉田』の頭が見えた

私はドラムスティックを両手に持ち、心の中で数えた

「ワン…ツー…スリー…!」

私は飛び上がり、『杉田』に肩車するような形で飛びついた

「うわぁっ!?」

『杉田』が驚きの声を上げる。騒がれてはまずい

私は即座に両脚を交差させて、『杉田』の首を絞める

声が出せなくなった『杉田』は、長袖の腕で私の両脚を強く掴んだ

私は手の平でスティックを半回転させ、『杉田』の両目めがけて突き入れた

ぶしゅっ!

まだだ

ずぶぶっ!

まだまだ…

ぐじゅっ!

深々と突き刺さったスティックは『杉田』の脳にまで達した

『杉田』はそのまま、前のめりに倒れた

私は『川口』の右腕に、純は左手に絡みつくようにして、暗い林道を歩きました

「ね、ねえ…どこに行くつもり?二人とも…?」

『川口』はすっかりのぼせ上がって、ニヤニヤしっぱなしでした

「この近くに、公園があるんです…ベンチが大きくて、人もほとんど来ないような公園が」

純、ずいぶん過激だ…。それに過剰に反応する『川口』…。うわっ、気持ち悪いもの見ちゃった…

そうこうするうちに、予定の場所まで来ました

人目は…ない。よし、ここでいい

「『川口』さん、童貞捨てたのいつですか?」

急に純がそんなことを聞いた。何それ!?予定に無いよ!?

「え!?な、何でまたそんなこと…」

「いいじゃないですか~、どうせ今から特別な関係になるんだし
 聞いておきたいんですよ、ね?いいでしょ?」

純…大丈夫なの…?

「そ、そう…まあ、いいけど…
 え~とね、7月の最初の頃だったよ。ずいぶん最近だけどね」

「へえ、相手は?」

「あ、あの~ナ、ナンパした…女の子」

「名前は?」

「名前は聞かなかった…い、いや、わ…忘れた」

「その子…『川口』さんとセックスして、何て言ってました?」

「…何でそんなことばっかり聞くんだ?」

まずい!『川口』が不信感を…

ぐじゅっ

その瞬間、純のつま先が『川口』の股間にめり込んでいました

『川口』が崩れ落ちる、その瞬間に、純ちゃんはタオルを『川口』の口に押し込みました

「悲鳴は困るんだ」

純が冷たく言い放ちました

『川口』は、股間を押さえて悶えています

「効くでしょう?鉄板入りの安全靴は。さっきの音からして…キンタマ潰れちゃったね
 でもいいよね。もう使わないんだから」

純は淡々と言葉を紡ぎます。怖い…純、怖いよ…純…!

「あんたが童貞捨てるために犯した女の子…どうなったと思う?死んだよ
 お前らが、お前らクズのせいで、私の親友は死んだ。手首切って死んだ
 その子のお姉さんも死んだ。…あんたらが殺したんだ
 だからさ…あたしたちは、あんたらに復讐することにしたわけ
 …多分今ごろ、あんたの仲間も殺されてるよ。さあて、あんたが先か向こうが先かどっちでしょう?」

「純…!い、いい加減にしなよ!急がないと人が来るよ」

「わかってるって、梓。さあ、やろう。二人でこいつに、止めを刺そう」

と、その時。『川口』が口にタオルを突っ込んだまま、こう言いました

「お…おえんあさい…おえふぁひが…わるふぁっは…ううひへ…」

ごめんなさい、俺たちが悪かった、許して…

許してやれよ

私はそれを聞いて、何故だかわからないけど、座り込んでしまいました

「純…ごめん…私…できないや」

「梓……」

「わかってる…でも、でもダメなの…やっぱり、私にはできないよ…ごめん…」

「…わかった。梓、あんたはそこにいて。私一人で…やれるから」

私はそのまま、うつむいて泣き続けていました

やがて、『川口』のくぐもった、とても小さな悲鳴が聞こえても

私は、声を出さずに泣き続けていました

名前:名無しさん@九周年[] 投稿日:2008/11/20(木) 00:51:56 ID:YU/m12ae0
「のさばる悪をなんとする 天の裁きは待ってはおれぬ この世の正義もあてにはならぬ
闇に裁いて仕置きする  南無阿弥陀仏」
http://jp.youtube.com/watch?v=p4cEew9DdFY

中村主水 (藤田まこと)      「最近世間を騒がす仕事人ですけどね、実は私が仕事人なんですよ」
念仏の鉄 (山崎努)        「殺しは殺しだ、この癖はなかなか止められねぇぞ」
棺桶の錠 (沖雅也)        「オレは棺桶を届けるだけだ」
三味線屋の勇次 (中条きよし) 「助けてくれだと?一体何人の人間がてめえにそう言ったんだ!!」
飾り職の秀(三田村邦彦)    「あんたのそういう生き方を見てると反吐が出そうだぜ!!」
鍛冶屋の政 (村上弘明)
組紐屋の竜 (京本政樹)

藤枝梅安 (緒方拳、田宮二郎ほか)  「世の中どんどん悪くなるな」

「なあ、みおちゃん、どこ行くワケ?何かもうスゲー暗いんすけど」

『三谷』が素っ頓狂な声を上げる

私が小声で

「もう夜だから、少し静かに喋ろう?私、ちょっと恥ずかしいよ…」

と言うと、『三谷』は

「おう!了解!みおちゃんの頼みならマジよろこんで聞くぜ!」

と大声で答えた。本当に馬鹿なんだ、こいつ…

私たちは少し歩き、河原のあたりにやってきた

川の水はすでにほとんどなく、大きな石がごろごろしている

「ちょっとここで休もうか」

私たちは芝生の上に腰を降ろした。『三谷』は私の横にぴったりくっついて座る

汗の感覚が気持ち悪くて仕方がない

「みおちゃんさあ、何で俺のこと選んでくれたワケ?」

『三谷』がニヤニヤしながら問い掛ける

「あなたが…私を選んでくれたから」

私はそう答えた。まあ間違ってはいない

『三谷』はそれを聞いて、身悶えしながら

「ヤベエ!みおちゃんヤベエ!マジでヤベエ!」

と連呼していた

さて、そろそろか…

私は周囲に人がいないことを確認すると、『三谷』ほうに顔を向けた

「ねえ…あのさ…いいよね…?」

その言葉を聞いて、『三谷』はいきなり私に覆い被さってきた

私は必死に止める

「待って!待ってってば!」

「えー?何でよ?みおちゃんが誘ったんだべ?」

「明るいと・・・恥ずかしい。それに、ここじゃ人に見られちゃうかも」

そう言って私は、橋の下に移動することを提案した。『三谷』はそれを了承した

橋の下に移動して、私は腰を降ろした

それから…Tシャツを脱いだ。上半身はブラジャー一枚だ

「きて」

『三谷』はもう何も言わず、私の胸に飛び込んできた

『三谷』が夢中で私の胸を弄んでいる間に、私は準備を整えた

バッグから軍手を取り出し、両腕にはめる。そして…

私は『三谷』の名前を呼んだ

「『三谷』くん…」

『三谷』が顔を上げた瞬間

『三谷』の首には、ギー太の弦が巻きついていた

だよね

ぐいぐいと、ギー太が『三谷』の首に食い込む

『三谷』は必死に、弦を引きむしろうとするが、無駄だった。指の先から血が吹き出ている

ギー太の弦をより合わせたものだ。ベースの弦並みに太い

私はさらに力を入れて締め上げる

『三谷』の口からはあぶくが溢れ、目玉は飛び出んばかりだ

「お前が何で死ぬのか…教えてやろうか?お前は私の親友とその妹を殺した。その報いだ
 でも安心しろ、あの世で二人に謝れとは言わない。だって、お前は二人がいるところには行けないからな…!」

『三谷』身体がぴくんと痙攣した。そして、それ切り動かなくなった

私は肩で息をしながら、身体の上の『三谷』をはねのけた。そして急ぎブラジャーを直し、シャツを着ると

私はそのまま、後も見ずに走り出した

三谷「地獄で平沢姉妹をファックしてやるぜヒャハハハアハゴバァ!」

それからのことを、あと少しだけ話そうと思う

私は前もって示し合わせていたとおり、むぎの家に集合した

私が行った時にはむぎと律がすでにいて、笑いかけてくれた。私もぜえぜえと息をしながら、笑いかけた

数分後、涙を流す梓を、純ちゃんが助けながら戻ってきた

一瞬不安に思ったが、純ちゃんは笑った。無事、役目を果たしてくれたようだ

全員の無事と成功が確認された

むぎがそこで、

「それじゃあ、みんな、すぐに帰って。今夜はゆっくり休むといいわ
 後のことは心配しないで大丈夫だから、くれぐれも、迂闊なことはしないようにね」

と言った

私たちは不安な気持ちを持ちながらも、むぎの言葉に従った

和「そうなんだ、それじゃあ私は生徒会行くね」

私は家に帰ると、すぐにシャワーを浴びて身体を洗った

それからすぐに、布団にもぐった

でも、眠ることはできなかった

これからどうなるのかという不安

『三谷』を殺したときの感触

唯と憂ちゃんの復讐ができたという喜び

色々な思いが廻って、色々な考えが頭を廻って…

私は布団から出ると、キッチンでお父さんのお酒を少し飲み、ヘッドホンで音楽をかけながら目を閉じた

何も考えぬように、何も考えぬように…

そうしているうちに、私は眠りに落ちていった

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