京介「おかえり」 桐乃「ただいま」 (1000)

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京介「なあ、桐乃」 桐乃「なによ」
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なによ」 - SSまとめ速報
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前々スレ
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」
京介「なあ、桐乃」 桐乃「なに? 京介」 - SSまとめ速報
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前スレ
京介「ただいま」 桐乃「おかえり」
京介「ただいま」 桐乃「おかえり」 - SSまとめ速報
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まさかの3スレ目
本編完結済み(前々々スレ~前々スレの途中まで)

短編をちまちま投下するスレです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375244567

乙乙
いやー、まさか2レス目で憤死させられるとは思わなかったぜ
京介も寂死くならなさそうでなにより

>>1乙、でもここは4スレ目だと思うんだ

謎は解けた
>>7さんのレスは、本日投下分の2レス目に対して。
>>8さんのレスは、自分が1で書いた3スレ目というのに対して。

つまりここは4スレ目ということ。



奇しくもスレタイが進行中の内容と合った最高のタイミングだな。入れ替えただけなのに
実はスレが埋まるタイミングを調整して狙ってたりして

乙です!
京介に妹自慢するなんて自爆もいいとこな気が…

しかし赤城は一応京介の親友なわけだし高坂兄妹が付き合ってるのを知っているんだろうか
瀬菜は知ってるし赤城も瀬菜みたいな感じで理解はしてくれてんのかね

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>14
自分も建てる時に、スレタイどうしようって思って入れ替えてみたら投下中のお話とぴったりでニヤけてました。

それでは、投下致します。

二日目。

昨日は中々寝付けず、気付けば朝を迎えていたという感じ。 多少は寝れたけど、それでもやはり気分は悪い。

それはそうと昨日の夜。 風呂に入ってから着替えようとしたら、寝るとき用のスウェットが一着無かったんだよな。 どっかに置きっぱなしか、干しているときに飛んでいってしまったか。

まあ、その内出てくるだろうしどうでもいいことだけど。

そして今は夕方。 ほんのり暗くなり始めている空に、綺麗な月が段々と浮かび上がってくる。

京介「……あいつ、今何してんだろ」

窓の外を眺めてそんな事を思いながら、携帯を開く。

昨日の朝のメール以来、桐乃からの連絡は無い。 それはつまりあいつは向こうで楽しくやっているからだろうし、俺から連絡してそれを邪魔してしまうのも気が引ける。

……あー、つっまんね。

携帯を布団の上に放り投げ、俺自身も布団に身を投げる。

ほんの少し、その布団からは桐乃の匂いがした。

あやせ「桐乃ー。 もうすぐご飯だけど、何してるの?」

部屋でくつろいでいたところ、あやせが話しかけてきた。 ちなみにあやせとは同室。 当たり前だケド。

桐乃「う、ううん。 何でもない!」

そう言い、慌てて携帯を閉じる。 今日も結局、あいつから連絡はこなかった。 昨日の朝から、連絡無し。

……むっかつく! 自分は黒いのとか沙織とかと楽しくやってるから、大丈夫ですよって!? あの馬鹿兄貴!

むう。 考えたら余計にムカついてきた。 いきなり電話してやろうかな? でも、それはそれでなんか負けた気分だし……。

あやせ「……お兄さんから、連絡来た?」

あやせは心配そうに、そう言う。

桐乃「ううん……来てない」

あやせ「……あの男!」

め、目が怖いよ? あやせ。 なんだか寒気もするんですケド……。

桐乃「あ、あたしは大丈夫だって。 別にそのくらい」

そうそう。 あたしはそんな依存なんてしてないし。 たった数日会えないくらいで、だしね。

あやせ「桐乃がそう言うなら、良いけど……」

桐乃「うん。 ほら、ご飯でしょ? いこ、あやせ」

あやせ「う、うん」

あやせの手を引き、あたしは食堂へと向かう。 足取りは少し、重かった。

「今日は一緒に遊んでくれてありがとう。 また遊ぼうね、お兄ちゃん♪」

画面の中には笑顔で手を振るキャラクター。 俺はそんなキャラクターを無機質とも呼べる感情で眺めていた。

桐乃が置いていったエロゲーをやっていた(修学旅行にまでエロゲーを持って行こうとしたら、さすがに止めるけど)訳だが、どうにも暇潰しにすらならない。

いつもならいつの間にかやり込んでいて暇潰しくらいにはなるのだが、今日はそんな気分にもならず、なんだか馬鹿らしくなってしまう。

何故か。

やっべえ。

今更気付いた。

俺、桐乃がいないと寂しくて無理だ。

一人っきりの部屋は広すぎて。 一人っきりの飯は不味くて。 一人っきりの朝は不快で。 一人っきりの夜は眠れない。

京介「……桐乃」

呟いても、返事をする奴は今居ない。 虚しく、部屋の中にその声は消えて行く。

なんだよ、くそ。

俺ってここまでシスコンだったのかよ。 笑えてくるぞ、なんか。

いつも当たり前の様にあるモノ。 失って、初めて気付くモノ。 短い期間だったが、俺にはそれが分かった。

当然の様に傍にあるそれが、どれだけ幸福な物なのか。 どれだけその日常が、かけがえの無い物なのか。

……時刻は22時。 いつの間にか、俺は桐乃に電話を掛けていた。

コール音一回目。 あいつはやはり、すぐに電話に出る。

京介「……桐乃か?」

「そだケド、なに? あたし今チョー忙しいんだよねぇ」

桐乃の声はいつもより暗く聞こえる。 俺の気分が落ち込んでいるからだろうか。 それとも。

京介「わ、わりい。 なんていうか……な」

「え~? もしかしてあたしの声聞きたかったとかぁ? ひひ。 シスコン」

京介「……そうだよ。 お前の声が聞きたかった」

「……ふん。 あっそ」

京介「でも、忙しいみたいだったな。 少しでも話せて良かったわ。 またな」

「は、はぁ!? ちょっと待てい!!」

京介「な、なんだよ?」

「あ、あたし……今、チョー忙しいところを時間作って、少しなら話せるようにしたんですケドぉ」

「なのにもう切るとかぁ~。 マジで言ってるの~?」

京介「お、おう……そうだったのか、悪いな。 んじゃあもう少し話そうぜ」

「ひひ。 やった!」

「じゃない! そうじゃない!!」

な、なんだ……一人でなんか盛り上がってるな、こいつ。

京介「で、そっちはどうよ? 楽しいか?」

「……まぁまぁかな? でもまだ家でエロゲーやってた方がマシかも」

京介「んだよ、折角の修学旅行なんだから楽しんで来いよ」

「はいはい。 でもつまらない物はつまらないし」

京介「行ったことがある場所とか?」

「そうじゃないケド……」

京介「見たい物が無かった、とか?」

「……そうでもないケド」

京介「ならどうして?」

「わかんない。 自分でもちょっと分かんない。 なんか知らないケド……つまらないってだけ」

京介「ふうん? じゃあ帰ってきたら桐乃の好きな場所行こうぜ。 一緒に」

「お! ほんとに!? じゃーあ……ハワイ行きたいなぁ」

京介「ハワイアンズくらいなら……」

「ケチ。 だけど、どこでもいーよ。 なんなら一日家でデートでも。 あはは」

京介「ん。 じゃあそうだな……ごろごろしながら、エロゲーでも話でもするか」

「うん。 それで良いよ、京介」

京介「おう。 じゃ、気をつけて帰って来いよ」

「はいはい。 あんたはいっつも心配しすぎ」

京介「仕方ねーだろ。 妹の心配しない兄貴なんていねーし、彼女の心配しない彼氏もいねーんだよ」

「……うん。 だよね」

それからしばらく、俺は桐乃と電話を続けた。

他愛も無い話で笑って、驚いて、時には少し恥ずかしくて。

そんな話をしている最中が、この二日間では一番楽しかった。 少なくとも、俺にとっては。

京介「そういや、明日って何時にこっち着くの? 場所は学校だっけか」

「明日? えーっと……確か、夕方の五時だったかな。 そのくらいにガッコに着くと思うケド」

京介「ふうん。 じゃあ飯は俺が作ろうか? お前、疲れてるだろうし」

「良いって。 そんくらい余裕だっつーの」

京介「でもなぁ……」

「じゃあさ、また二人で作ろうよ。 ね?」

京介「……それなら別にいいけどよ」

「ならけってーい。 材料しっかり買っといて……あ、ヤバ」

京介「ん? どした」

「……時間が。 ごめん、切るね。 今電話してるのばれたらヤバイから。 もう部屋で寝てる時間だしさ」

言われ、時計に目を移すと既に時刻は23時。 1時間も電話してたのか。 全く気付かなかった。

てか、こいつは超忙しいとか言ってなかったっけ。

京介「そかそか。 そりゃあ超忙しいだろうな。 へへ」

「ば、ばか。 察しろっつーの……じゃ、おやすみ」

京介「おう。 おやすみ」

そして、桐乃との電話を終える。

その電話を終える最後の言葉、桐乃の声色は……いつも通りに思えた。 それは俺の気分が戻ったからか、それとも。

それが分からない俺では無いな。 もう。

にしても不思議だよ。 このたった1時間の電話で、俺がさっきまで感じていた不快な気持ちだとかは、全部まとめて吹っ飛んでいったんだぜ。

約一年前。 俺は桐乃に「お前がいないと俺は幸せになんてなれない」と言った。 それは正しくその通りだったって訳だ。

いやいや、まさか俺も桐乃が三日間……正しくは家に居ない時間は一日だけど、たったそのくらい居ないだけで、こんな気持ちになるなんて思ってもいなかったぞ。

……ぶっちゃけ、桐乃がいないと俺は生きていけんかもしれん。

当然、桐乃にそんな俺のうだうだした想いを言いたくは無いけどな。 冗談で言うことはあるかもしれねえけど。

さて、俺もそろそろ寝るとしよう。

桐乃と俺とは今、遠い場所に居るのだが。

俺が眠る布団のすぐ隣に、桐乃が居るような、そんな気がした。

電話を終えて、一人。

実は、あたしからも電話を掛けようとしたところに京介から電話があった。 そういうワケで、今は泊まっている旅館の休憩所的なところに来ているんだケド。

先生に見つかったら、多分怒られるだろうなぁ。 でも、そんなことはどうでも良かったりする。

桐乃「……えへへ」

未だに電話の余韻は残っていて、自然と笑い声が漏れてしまう。

こんなとこ誰かに見られたらヤバイよねぇ。 でも仕方なくない? うん、仕方ない。

あたしは片手で持っていたスマホを抱き締めるようにして、少し大きめのソファーの上に寝転がる。

桐乃「……なんか、久し振りに緊張したかも」

てゆうか、あたしってどれだけ京介のことが好きなのだろうか?

いつからだって言われれば、そりゃもう昔からずっと……だけど。 どのくらいか、って言われると少し難しい。

だって、比べられる物が無いから。

エロゲーも、友達も、モデルの仕事も、色々な趣味も。

どれも大切だけど、京介のことは、そのどれよりも大切で。 どれよりも好きで。

桐乃「……な、なに考えてるんだろ。 あたし」

顔が熱くなっているのが分かる。 だけど、昨日と今日、胸にあったモヤモヤとした感情はすっきりとしていた。

桐乃「これじゃ、ブラコンって言われてもなんも言えないじゃん」

でも、楽しいな。

楽しいし、幸せだ。

明日、家に帰れば京介が居てくれる。 あたしを待っていてくれる。

……それはやっぱり、幸せなことなんだろう。

ずっと想って、何年も何年も。 無理だと思ったりもして。

それで、あたしは決めた。

あたしのワガママで、京介が高校を卒業するまで付き合って貰う事によって、決着を付けようと。

でも。

京介はそれが終わった後。

あたしに、キスをしてきて。

あたしが心配している様なことを全部吹き飛ばしてくれて。

……あたしはそれが、自分ではどうしようも出来ない程に、嬉しかった。 幸せだった。

そして今。

夢みたいになっちゃってて。 京介と付き合っていて、一緒に暮らしていて。

もう、一生分の幸せを使い切ってしまったんじゃないかと思うほど、幸せだよね。

桐乃「……ふひひ」

あーヤバ。

でもさ、そうなるともっと何か無いかなって思うよね? ふつー。

あたしとしては……やっぱり、夜景が見えるレストランとか行っちゃって、その後は腕とか組んじゃったりして? 街の中歩いて、色々見たりして。 ほ、ホテルに行くのはありかな!? いや、落ち着けあたし。

その、ホテルとか行っちゃっても良いケド……それでも、あの京介と一緒に暮らしている部屋が良いかな。 落ち着くし。

沢山、その日の思い出話とかしちゃって~。 一緒にコタツ入って? ひひ。

桐乃「……こ、これチョーやばくない? えへへ」

……いつの間にか、京介と電話を終えてから大分時間が経っている。

そろそろ戻ろっと。

あやせ「もう、どこ行ってたの? 桐乃」

部屋に入るとすぐ、あやせがあたしに声を掛ける。

桐乃「あ、あははは。 ちょっとね~」

あやせ「……あはは。 分かっちゃった。 電話でしょ?」

桐乃「ちょ! 聞いてたの……? あやせ」

あやせ「ううん。 聞いてないけど、桐乃の顔を見れば分かるって。 すっごい幸せそうだし」

桐乃「そ、そんなことないって!!」

あやせ「こ、声でかい! 静かにしないと、先生来ちゃうよ」

桐乃「あ、あー。 ごめん……でも、そんな幸せそうになんてしてないって」

あやせ「そう? さっきスキップしてたの窓から見えたけど」

み、見られてた!?

桐乃「そ、それは……な、なんとなくスキップしたくなったの。 いきなり」

あやせ「ふうん? なんとなくねぇ……」

桐乃「何その目は~。 信じてない?」

あやせ「桐乃には悪いけど、全く信じてないかな。 あはは」

桐乃「もう……」

あやせ「それと桐乃、あと一ついいかな」

桐乃「なに?」

あやせ「さっきから少しニヤけすぎだから、気をつけてね」

桐乃「……うう。 あやせのばか」

翌日。

渋滞やらで遅れて、学校に着いたのは結局、18時を回った頃だった。 バスから降りると風が冷たく吹いていて、冬が近づいているのを感じる。

桐乃「……ちょっと寒くない? あやせ」

あやせ「だね。 もうちょっと暖かい格好すれば良かったかも」

桐乃「だよねぇ」

そんなことを言いながら、校門に向かって歩いて行く。 すると突然、あやせが口を開いた。

あやせ「あ、ごめん桐乃。 またね」

桐乃「へ? ちょ、ちょっとあやせ?」

理由も言わず、あやせは駆け足で去っていく。 何だろう? 何か用事でもあったのかな。

……まあ、それなら仕方ないか。 一人で帰るとしよう。

あたしは歩くのを再開し、校門から外に出る。

丁度出たところで、肩に手を置かれた。 そっちの方に視線を移すと。

あたしが、一番会いたい人が居てくれて。

京介「よ。 なんか久し振りって感じだな」

桐乃「あんた……なんで?」

京介「妹の顔が早く見たかった! ってのじゃ駄目か? 荷物持つぜ。 重いだろ」

桐乃「……ありがと」

京介「ん? なんか言ったか?」

桐乃「なんでもない。 聞こえなかったらそれでいーの」

京介「……そか。 へへ、どういたしまして」

桐乃「……聞こえてたんじゃん」

京介「いいや、聞こえてねーよ。 なんて言ったか考えただけだ」

桐乃「……ふうん」

京介はそう言い、あたしが片方の手で持っているバッグを指差す。

桐乃「うん。 こっちは良い」

桐乃「……ほら」

言いながら、あたしは京介に手を差し出した。 空いている方の手を。

京介「……ん。 おう」

京介も空いている手を差し出し、あたしの手をしっかりと掴む。 寒さの所為で冷えていたけど、暖かかった。

桐乃「さあて、京介はぁ~。 ト、ウ、ゼ、ン! 料理の勉強してただろうし? 帰ったら期待してるからね~。 あたしの足引っ張らないでよ?」

京介「と、当然だろ。 風呂沸かしといたからさ、帰ったら入れよ。 寒かったろ?」

……話題変えてるし。 別に良いケドね。 あたしが教えればいいことだから。

いや……ちょっと待てあたし。 京介に後ろから抱かれる様に料理教えられるのもありっちゃあり……かな?

だってそうだよね。 結構前に一緒に作ったときなんて、そうされたし。 あれはマジでやばかった! あの時キスされてたらあたしは多分死んでた。 間違い無い。

桐乃「ふ、ふひひ」

京介「……大丈夫かお前」

桐乃「え、え? あ、あはは。 あたしは大丈夫! ほんと!」

京介「なら良いけど」

こんなの想像してるのばれたら生きていけないって。 それにしても。

寒かったろ、か。

何を言ってるんだろうね、この馬鹿。 そんなの……どっちがだっつーの。

桐乃「うん。 仕方ないから入ってあげよっかな」

京介「へへ。 どーも」

そうして、あたしと京介は並んで歩く。 あたしたちの、家に向かって。

辺りはもう暗く、街灯が道を照らしていた。

桐乃「……てか、こっちに着くの五時って言ってなかったっけ?」

京介「ああ、言ってたな」

桐乃「今、六時だけど……」

京介「たった一時間じゃん。 そんくらいなんでもねーよ。 それだけお前に会いたかった」

桐乃「……あっそ」

京介「反応薄っ! んだよ。 折角来てやったのに嬉しくねえの?」

それを聞くかなぁ? ふつー。

桐乃「どう思う? あたしが嬉しいと思ってるか、思ってないか、どっちだと思う?」

あたしは試すように、そう言ってみることにした。

京介「……うーん。 そうだなぁ」

京介「ヤバ! 京介が来てくれてる! マジ、チョー嬉しいんですケドぉ!」

京介「って感じ?」

珍しく、京介があたしの思ってることを外す。

昔はそんなのしょっちゅうすぎてイライラしてたケドね。 今となっては、逆にそっちの方が珍しい。

桐乃「全然違うんですケドぉ」

そりゃそうでしょ。

だって、あたしが想ったのはその程度の物じゃないし。

そんなのは絶対に言ってあげないケドね。

京介「……そうかい。 ま、良いさ。 それよりお土産楽しみにしてんだけどさ」

桐乃「え~。 どーしよっかなぁ……欲しい?」

京介「まさか、買ってきてねえの?」

桐乃「買ってきたに決まってるっしょ。 でもぉ、あんたがそーゆう態度だとあげるか悩むな~。 ひひ」

京介「……へいへい」

桐乃「あはは」

桐乃「……あ」

言って、あたしは足を止める。

その所為で数歩進んだ京介は、振り返りながら口を開いた。

京介「なんだ? 何か忘れ物でもしたか?」

桐乃「じゃなくって」

笑って、一歩ずつ近づいて。

あたしは京介に、キスをした。

桐乃「ただいま。 京介」

京介「……おう。 おかえり。 桐乃」

京介の驚いた顔を見て、あたしは笑顔を向けて。

帰ってきたと実感した。

桐乃「ごちそうさま」

桐乃は言うと、食器を片付ける。 俺はそんな桐乃の姿を見つめている。

まあ、いつもの光景。

それに気付いた桐乃は俺の方を向き、口を開いた。

桐乃「なにニヤニヤしてみてんの」

京介「……別にニヤニヤなんてしてねえよ」

桐乃「どーみたってしてるじゃん。 なんかヘンなこと想像してない?」

京介「してねーよ! つうか、お前だってニヤニヤしてんじゃねえか」

桐乃「はぁ!? あたしはフツーだっての。 これがいつものあたしの顔。 文句ある?」

俺はお前の顔を十年以上見ているけど、今の表情がデフォルトってことは無いぞ。 絶対に。

京介「なら俺もこれが普通なんだよ。 これがいつもの俺の顔だ」

桐乃「なワケ無いでしょ。 なに言っちゃってんの?」

その台詞、そっくりそのままお前に返すぞ。

京介「あー。 俺に会えたのがそんな嬉しかったのか。 はは、可愛い奴め」

桐乃「違う違う違う!! ばっかじゃないの!?」

京介「そうかいそうかい。 へへ」

桐乃「チッ……。 てか、それを言ったら京介だってあたしに会えて嬉しかったんじゃないの? ん?」

馬鹿な奴め。 俺はお前と違って素直なんだよ。

京介「おう。 そうだよ。 お前に会えて超嬉しいし、マジで今日はすっげえ良い日だ」

桐乃「……ばか」

案の定、桐乃は顔を真っ赤に染めて、パソコンの前へ行き、何やらカタカタと操作を始める。

京介「何してんの?」

俺がそう聞くと、桐乃は俺の方を見ることもせずに、そのままの姿勢で口を開く。

桐乃「決まってんでしょ。 今まで我慢してた分、エロゲーやるの」

今の流れからエロゲーに持っていくのかよ、こいつは。 すげえな、さすが俺の妹だ! はは。

京介「……お前はほんとお前だな」

俺はなんだかその光景を見て、それが如何に幸せな物か、噛み締める。

変わらない日常というのは、それだけで幸せな物なのだ。 それが今回、俺が学んだこと。

桐乃「……京介、ちょっと良い?」

京介「ん? どーした?」

桐乃「あんた、あたしが居ない間エロゲーやってたでしょ」

京介「な、なんで分かるんだよ……てか、別にやってても良いだろ?」

桐乃「このゲームはプレイしたら履歴が残るの。 で、妹が居ない時に妹とそーゆうことするゲームやってたとか、変態」

京介「お前が居る時にやってもお前なんも言わねーじゃんか! 何でお前が居ないときにやったら駄目なんだよ!」

桐乃「うっさい変態。 あたしが見てる前以外でこれからやったら許さないから」

……一般常識的に考えて、妹が見てる前で妹とエロいことをするゲームをやる方が問題ある気がするんだけど。

まあ、それを言ったらお終いか。 俺はこいつとエロゲー的展開になっている訳だし。

何より、俺と桐乃じゃあ、桐乃の許可が出ないとそれは駄目ってことだしよ。

京介「桐乃」

桐乃「なに? 変態」

一々変態変態言うんじゃねえよ。 まさか俺の呼び方を「変態」にする気じゃあるまいな、このヤロー。

京介「俺が愛してるのはお前だけだぜ。 それはこれからも、ずっとな」

それを聞いた桐乃は肩をぴくっと震わせ、いつもの様に慌てて……。

だと思ったのだが、桐乃は振り返ると、こういった。

桐乃「……あたしも一緒」

桐乃をからかおうと思って言った台詞だったのだが、どうやらそれはそっくりそのまま俺に返ってきてしまったらしい。


修学旅行 後編 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

レス忘れ
>>17
赤城さんは知らないという設定になってます。 全員が全員、あやせや黒猫の様に納得するのも変な話になっちゃいそうなので。


それと予告的な。
明日投下分ですが、前スレで頂いためがね云々のお話となっております。



ところで修学旅行の定番といえば告白イベントだと思うけど
桐乃はされなかったんだろうか

>>74
桐乃さんの後ろにはあやせさんが待ち構えております

おつ

しかしどうしても気になった点が1つ
あやせは「声でかい!」とは言わないと思う
「こ、声が大きいよ!」みたいな言葉使いじゃないかなーと

>>78
確かに……。
言われて見れば違和感が。
修正しておきます

2828

気になったので一応確認ですけど、
>>63>>64の間って抜けてる訳じゃないですよね?

「ただいま」「おかえり」の後、いきなり「ごちそうさま」だったんで…

後日見付かったスウェットには桐乃の髪の毛が付いていたとか、香りが付いていたとか…(以下自粛)

>>86
抜けているわけでは無いです。 場面が飛んだと考えて頂ければ。
道中の会話や料理シーンはご想像にry

俺が寝間着で着ているスウェットを妹が修学旅行に持っていくわけがない!

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下致します。

桐乃「京介、喜んで。 人生相談あるから」

桐乃が修学旅行を終えて数日。 そんなある日、こいつはいつもの様に俺にそう言った。

ちなみに時刻は23時。 眠い。

京介「……そう喜べって強要されると素直に喜べないんだけど」

桐乃「なによ。 折角あたしが相談してあげてるんだから素直に喜べばいいのに。 あんたってホント、捻くれてるよね」

ど、どっちがだ……。 これだけは言わせて貰うぜ、桐乃。 お前の方が確実に捻くれている!

言わないよ? だってそうだろ、言ったら睨まれるし、怖いじゃん。

俺の心の中だけで言わせて貰うってことだ。 分かったか。

京介「や、やったー。 桐乃からの人生相談だ。 ちょー嬉しいぜー」

桐乃「心が篭ってないからやり直し。 どーぞ」

京介「よ、よっしゃあああ!! 桐乃からの人生相談だって!? なんつう幸運なんだ!!」

桐乃「ちょっと大声出さないでよ。 うるさいな」

京介「……すいませんでしたね。 桐乃さん」

もう慣れた。 慣れた慣れた。 こんなのいつものことだから。

……慣れたよ。

桐乃「なに泣いてんの? そんな嬉しい?」

京介「あ、ああ……泣くほど嬉しいぜ。 はは」

桐乃「ふうん。 じゃあどうしよっかな~。 相談しよっかなぁ~。 やめちゃおっかな~」

……じゃあどうしよっかな。 そろそろ夜も遅いし寝ようかな。

京介「……どうぞ相談してください。 桐乃さん」

桐乃「しっかたないなぁ! 最初からそーゆう風に言っとけばいいのに」

京介「……へいへい。 で、今回はどんな相談だよ?」

桐乃「えっとね。 これ、見て」

そう言い、桐乃は雑誌を取り出す。

ええっと……これってあれだよな。 桐乃が載ってる雑誌。 俺も持ってるから分かるが。

京介「これってあれだよな。 超美少女が載ってる雑誌だよな」

桐乃「そうそう! よくわかってんじゃん! 偉い偉い」

京介「当たり前だろ。 なんつったってあのあやせが……」

桐乃「なんか言った?」

京介「いえ何も」

桐乃「で、誰が載ってるって?」

京介「そりゃあ決まってるだろ。 あの超可愛くて、超美人で、超優しい桐乃さんが載ってる雑誌だ」

桐乃「ふふん。 そのとおり! で、それでなんだケドぉ……」

桐乃「あたしさぁ、最近ちょーっと有名になってきて、街中歩いてると時々声掛けられるんだよね。 ちょっと遊ばない?って」

京介「どこのクソ野郎だそいつ! ぶっ飛ばしてやる!!」

舐めた真似しやがって! 桐乃をナンパとか許せねえ!

桐乃「……で! 当たり前だけどそんなの全部シカトしてるよ? でも、やっぱりちょっと怖いんだよね」

京介「……ふむ」

桐乃「それで、それを防止したいから……」

京介「ああ、分かった。 俺が学校とか仕事とか行く時全部付いて行けば解決だな」

桐乃「ま、マジで?」

桐乃「じゃない! ちがくて、その」

桐乃「変装とかした方がいいかなぁ……って思うんだよね」

京介「……変装? 頭から被るマスクでも買うの?」

桐乃「買うワケないでしょ! そっちの方が絶対に声掛けられるじゃん!」

それもそうか。 主に警察の方とかに。

京介「なら、やっぱり俺が付いて行けば……」

桐乃「あ……あれ、そっちの方が良いかも」

京介「ん? 何か言った?」

桐乃「な、なんでもない。 とにかく、変装用でメガネが欲しいの。 だから、今度の休みに一緒に買いにいこってハナシ。 京介から見て、丁度良い奴選んでよ」

京介「そういうことか。 分かった。 そのくらいならいくらでも付き合うぜ」

……なんということだ。 俺、冷静を装っているけどかなりテンション上がってるぜ。 だって、あの桐乃がメガネを掛けてくれるって言うんだぜ!?

ああヤバイ。 想像したらよだれが出そうな勢いだ。

桐乃「……身の危険感じるんだケド」

京介「桐乃、俺に任せろ!」

桐乃「……今までで、一番任せたく無い顔してるよ?」

京介「気のせいだろ、気のせい」

それはそうと、俺の考えだと桐乃が声を掛けられる理由って、こういう言い方をすると失礼かもしれんが、雑誌で有名になったのだけが理由では無いよな。 そりゃあそれの影響も多少はあるかもしれないけど。

だってさ、こいつってマジですげー美人だから、普通に歩いてるだけで声掛けられるだろうし? なら別にメガネを買ったからって、声を掛けられることが無くなるとは思えないんだが……。

つうかだな、俺としては桐乃に言い寄る男が居るって時点で、それはもう許せない事態なのだ。

なので、桐乃の提案には乗るだけ乗っておいた方が良い……のかな。 それで多少変わればいいし、変わらなかったら俺が桐乃を毎日学校まで送っていって、仕事の時は付き添えばいいだけだしな!

そして次の日。

桐乃「伊達メガネだし、可愛いの選んでよ?」

京介「……いや、すっげーダサいの選んだ方が、声掛けられないんじゃね?」

桐乃「それじゃダメだっつーの!」

京介「な、なにが?」

桐乃「……色々と」

むう。 そう言われると困るぜ。 普通に俺が思ったのを選んじゃって良い物なのか。

それより昨日は確か、丁度良い奴と言っていたのに、今日は可愛い奴になっているぞ。 どうせならってことなのか?

京介「じゃ、じゃあ……とりあえず、これはどうだ?」

まあ、実際に掛けて貰わないと分からないかもしれないし。

そう思い、手短にあるメガネを一つ桐乃に渡す。

桐乃「これね。 ……どう?」

俺が選んだのは赤ぶちのメガネで、可愛らしい表情をしながら、桐乃は俺を見る。

京介「いや……あれだな。 なんか女王様みたいになってる」

桐乃「は、はぁ!? あんた、喧嘩売ってんの!?」

言動も殆どそれじゃねえか。 だけど、それでも可愛いが。

桐乃「……ふん。 とりあえずキープね」

キープするんだ。 結局。

京介「じゃあ……これは?」

そう言う俺が選ぶのは丸メガネ。 桐乃は手に取り、掛けようとして動作を止める。

桐乃「ヤダ。 気に入らない」

京介「そか。 うーん」

桐乃「京介が似合うと思ったので良いんだって。 いっぱいあるでしょ?」

なんか段々変わってないか? 俺が似合うと思った奴で良いの?

京介「まあ、お前は最悪鼻眼鏡でも似合うと思うけど……」

桐乃「それは明らかにバカにしてると思うから、怒るよ」

京介「……冗談だっつの。 じゃあ」

俺は一つ、メガネを手に取る。 一般的にありそうな、普通のメガネ。

桐乃「これか……どう?」

見た瞬間、俺は思わず桐乃を抱き締めた。 ヤバイ、カワイイ。

桐乃「ちょ、ちょっと! こんなとこでやめてよ……」

言葉の割りには声は小さく、更に抱き締めたい衝動に駆られるが、なんとか抑える。 ギリギリで正気を取り戻すことに成功したのだ。 あぶねぇ……。

京介「お、おう……悪い。 めちゃくちゃ似合ってたというか、めちゃくちゃ可愛かったというか……」

桐乃「そ、そう? じゃあこれにしよっかな!」

京介「でもよ……お前そんだけメガネ掛けた状態が可愛かったら、今よりもっと声掛けられるんじゃねえの?」

桐乃「ひひ。 なに、心配してんの?」

京介「ったりめえだろ」

桐乃「……大丈夫だって。 京介があたしのことしっかり見とけば、大丈夫だから」

京介「……おう。 りょーかい」

つう訳で、帰宅。

桐乃「……ふひひ」

桐乃は先ほどから、買ったメガネをニタニタと笑いながら見つめている。 こいつ、メガネが欲しかっただけなのかな?

京介「なあなあ、ちょっと掛けてくれよ、それ」

桐乃「え~。 どーしよっかな? そんな見たい?」

京介「そりゃもう! めっちゃ見たいっす!」

桐乃「おっけおっけ。 一回だけだかんね?」

京介「お、おう!」

言うと、桐乃は若干慣れない動作でメガネを掛けた。

文句を言わない辺り、桐乃もかなり乗り気な様子。

桐乃「……はい」

京介「は、破壊力やべえな……」

桐乃「……あんまジロジロ見られると恥ずかしいんですケド」

京介「で、でもお前それはマジでやべえぞ!?」

桐乃「……そう?」

京介「おう! いや、つうかお前、それ外で着けるな。 やっぱ駄目だ」

桐乃「な、なんでよ。 変装用で買ったのに」

京介「俺以外に見せるとか耐えられん。 だから、見せるのは俺だけにしてくれ! 頼む!」

無茶苦茶言ってるのは分かるが、それでもそうして欲しかった。

桐乃「……どうしてもってゆうなら……それでいいケド」

京介「マジで!? よっしゃ!!」

京介「でも……それだと、結局意味無いよな……ううむ」

桐乃「あ、あれは……その」

京介「なら、こうしようぜ。 桐乃」

桐乃「え? な、なに?」

京介「お前の顔に、俺とキスしてる写真を貼るとか」

桐乃「するワケ無いでしょ!! 絶っ対しないかんね!!」

京介「……なら、お前の顔に「京介の」って書いとくとか」

桐乃「イヤに決まってんでしょ! あんたは顔に「きりりんの」って書かれてイヤじゃないの!?」

京介「俺は別に構わないけど……」

桐乃「……マジ?」

京介「割と、マジだ」

桐乃「…………で、でもヤダ! あんたは良くてもあたしはフツーにイヤだし!」

少し悩んでなかったか、こいつ。 気のせいだと言う事にしておくか。

京介「……うーーーーん。 だが、それだと俺がなあ」

桐乃「……あたしが声掛けられるっての、そんなにヤなの?」

京介「まぁな。 で、どうすっか」

桐乃「な、なら……出来る限り、あたしと一緒に居ればいいんじゃない? 買い物とか、どっかいくときも」

京介「お前がそれで良いなら、そうしたいけど」

桐乃「……じゃないと京介はヤなんでしょ? あたしはベツに京介がそこまでゆうなら構わないし……むしろ」

桐乃「っ! とにかく! それでこのハナシは終わり!」

京介「……分かった。 そうするか」

桐乃がそれで良いのなら、俺としても喜ばしいことだしな。

……さてと。

京介「で、話が変わるんだけどよ、桐乃」

桐乃「なに?」

京介「……ちょっとコスプレしてくれよ」

桐乃「は、はあ!? なに言ってんの、いきなり」

京介「いや、お前のそのメガネとコスプレの組み合わせがどれ程の破壊力があるのか、少し興味があってな」

桐乃「……それで、コスプレしろって?」

京介「……おう」

桐乃「……変態。 なら早く違うとこいってよ。 着替えられないから」

……文句は言いつつもしてくれるのか。 全く可愛い奴だぜ。

京介「わ、分かった……ありがとな」

桐乃「……ふん」

つうかだな、前に温泉旅行行ったときは俺の前で平然と下着姿にならなかったっけ? あの時は桐乃も多少暴走していたが。

……いやまあ、俺も目の前で着替えられたら色々と大変だし、それならそうで助かるけど。

数分後。

桐乃「京介? もう、いいケド」

桐乃から声を掛けられ、再び中へ戻る。 俺はゆっくりと、そこに居る桐乃に顔を向けた。

京介「こいつはヤベぇ……」

目の前にはメイド。 メイド服を着てメガネを掛けた桐乃。 普通に殺人兵器だろ、これさ。

桐乃「え、えっと……とりあえず、無難にこれかなって」

京介「さすが俺の妹! 写真撮っていいか!?」

桐乃「……京介だけしか見ないなら、良いよ?」

うおっ! この台詞とその格好はかなり来るぞ!?

桐乃「京介以外に見られたくないし……京介だけにしか見せないから」

京介「ま、待て! ストップ! それ以上言うと俺が死ぬ!!」

桐乃「あ……ご、ごめん」

可愛いなあ! もうほんと、今日の夜抱き締めながら寝ようかな!

京介「よ、よし……次、頼んでいいか?」

桐乃「……うん」

京介「じゃあ……制服に、エプロンとか?」

桐乃「……着替えるから」

言い、外を指差す桐乃。 一回乗ると、結構ノリいいよな、こいつ。 素で嫌がってたら言う奴だし、そう言わないってことは……。

京介「……おう」

また数分後。

桐乃「ど、どうかな?」

言いながら、手を前にして俺を上目遣いで見る。 もう俺、今日で死んでも良い気さえしてきたな。 ははは。

京介「……まずは、抱き締めていいか?」

桐乃「へ? いきなり?」

京介「まあ断っても抱き締めるけどさ!」

言いながら、俺は桐乃を抱き締める。 桐乃は抵抗せず、されるがまま状態。

桐乃「……う、うう」

京介「……」

桐乃「ちょ、ちょっといつまで抱き締めてるの」

京介「……」

桐乃「ね、ねえ。 ヤバイって……」

京介「……何が?」

桐乃「……聞かないでよ……ばーか」

京介「じゃあ……やめるか?」

桐乃「……もう少しだけなら許したげる」

京介「そうかい。 好きだぜ、桐乃」

桐乃「……その代わり、一つ命令」

京介「ん?」

桐乃「え、えっと……その、い、一日」

桐乃「……一日一回、好きって言って?」

京介「おう。 良いぜ」

桐乃「じゃあ……ほら」

京介「……さっき言わなかった?」

桐乃「い、今からだからさっきのはナシ! 早くいって!」

京介「わーったよ。 桐乃」

京介「……好きだ」

桐乃「こ、この変態っ!!」

なんで!? おかしくね!? なんで俺今殴られたの!?

いやそりゃあ照れ隠しだってのは分かるけどさ、それでも理不尽すぎて驚くぜ! ほんと!

桐乃「あ、ご、ごめん……つい」

倒れた俺の傍にしゃがみ込み、俺の顔を覗き込む桐乃。 しかし、俺の目線はそれ以外のところに向いていた。

京介「……お前、結構エロいパンツ履いてるんだな」

桐乃「ばっ! ど、どこみてんのよ!! サイテー!!」

京介「俺が見るのは、お前だけだぜ、桐乃」

桐乃「だからヘンな方を見ながらいうなっ! せめて顔見て言ってよ!!」

京介「いや……だって、お前いつまで経っても下を隠さないから……」

桐乃「~~~~!!! このばかっ!!」

時間は経って、今は夜。 桐乃は「もう二度とコスプレしてあげない」と怒り、風呂へと行ってしまった。

んで、何故か風呂場から時折変な声が聞こえて来る。

「こ、これはヤバイって! ふひひひ。 さすがにやめないとヤバイよねぇ! ひひ」

な? さっきからこういうったのが聞こえて来るんだ。 何をしてんのか分からないが。

「で、でも……ここなら良いかな? いやでもぉ!!」

……勉強でもするかな。

ちなみに結局、あのメガネは俺専用にしてくれたようだ。 その代わりと、後は俺が桐乃のパンツを凝視していたことによる制裁として、俺の額にでかでかと「きりりん専用」と書かれたのだが。

いや、さっきは構わないとか言ったけどさ、これで実際外出ろとか無理だろ。 しかも油性だし。

……風呂場でなんとか洗って落とさないと、明日大学行けないじゃん。

京介「はぁ……」

そんな風に落ち込んでいると、桐乃が風呂から出た様で、戻ってきた。

桐乃「うわ~。 あたし専用とか、キモ~」

京介「お前が書いたんだろうが!! それでキモいとか言うんじゃねえよ!!」

桐乃「だってぇ、京介それで外行くんでしょ? ヤバイって~。 えへへ」

京介「でねえよ!? 俺これで出たら頭おかしい奴だからな!?」

桐乃「……出ないの?」

急にしおらしくなる桐乃。 それを見て、俺は若干だが焦る。

そうだよな……。 俺、さっきは桐乃に「構わない」って言っている訳だし。

京介「な、なんだよ。 普通出て行かないだろ……?」

桐乃「……それって、京介はあたしだけの物じゃないってことだよね? そう、だよね?」

京介「そうじゃねえよ! 俺は桐乃だけの物で、桐乃は俺だけのだ! 誰がなんと言おうと!」

桐乃は聞き、表情を一転させる。

桐乃「ぷ。 あんたおでこにそれ書いて言われてもギャグなんですケドぉ?」

京介「て、てめえ……騙したな?」

桐乃「あんたが勝手に騙されたんじゃん? ウケる~」

桐乃「じゃ、あたしは明日朝からあやせと加奈子と約束あるし~。 おやすみ。 ひひ」

言うと、桐乃は布団の中へと潜る。

……風呂、入るか。

結論から言おう。 落ちなかった。 普通に残ったままである。

京介「……明日どうすんだよ、これ」

多少は消えたが、文字は余裕で読めてしまうレベルだ。 どんなイジメだよ。

桐乃「……うーん」

で、その張本人はぐっすりと寝ているときた。 先ほど、頬を突付いてみたのだが、起きる気配は皆無。

これは余談だけど、こいつの肌ってすっげえ柔らかくて、綺麗なんだよな。 女子高生って全員こんなもんなのか? それとも、桐乃だけなのだろうか。 まあ、桐乃以外には興味ねえけど。

……しかしあれだな。 こう、人を困らせておいて自分は気持ちよく寝るとは、随分な奴である。

でも何か妙だな……いつもはそうなのに、そうじゃない『何か』がある気がするのだが。

……ま、考えても仕方ねーか。

よし、それならやるか!

当たり前だろ? 俺だけこのまま泣き寝入りとか嫌だもん。

そう思い、俺は油性ペンを取り出す。 することなんて決まってるぜ。

京介「……寝顔可愛いなぁ」

違う違う。 そうじゃねえ。 危うく寝顔を眺めるだけで終わっちまうところだった。 なんつう魔性の女だ、この妹め。

京介「……京、介、専、用っと」

よし。 これで痛み分けだ。 どうせ気付くだろ、朝起きたら。

京介「……お、兄、ち、ゃ、ん、大、好、きっと」

空いているスペースを使っておまけ的に書いてみた。 このくらいなら別に良いだろ? 多分。

京介「……写メ撮っとくか」

京介「いや、でも前怒られたしなぁ……寝よ」

言えば撮らせてくれるらしいし、明日頼むとしよう。 今日はなんだかんだ言って疲れたしな。

俺はそんな風に思いながら、桐乃の隣に入り、眠りに就いた。

頬に衝撃。 俺起床。

京介「……桐乃か」

桐乃「あたしじゃなかったら誰だっつーの!! てかそれよりそんなことはどーでも良いの!」

朝から元気な奴だな。 俺はもう少し寝ていたいんだけど。

京介「なんだよ……騒々しいな」

少しの文句を吐きながら、俺は体を起こす。

その所為で桐乃との距離が縮まり、お互いすぐ目の前に相手の顔。

桐乃「……これ、あんたがやったんでしょ」

言うと、桐乃は自分の顔を指差す。

……ああ、そうだった。 昨日寝る前にそんなこともしたっけか。

京介「似合ってるぜ、桐乃」

桐乃「そんなカッコいい顔して言ってもムカつくだけだからっ!! どーすんのよこれ!?」

京介「どうするって言われてもな……俺もどうしようってところだし」

京介「大体、元はと言えば桐乃が俺の顔に書くからだろ?」

桐乃「だ、だからって! 今日あやせと加奈子と約束あるっていったじゃん!」

京介「俺だって大学あるんですー。 お前は休みだっけ? なら良いじゃん。 今更あいつらに見られたって別に良いだろ」

桐乃「良いワケあるかッ!」

桐乃の見事な突っ込み、もとい肘打ち攻撃が俺の腹に入り、俺はこう思う。

それにしても、こいつは顔が自分の顔がニヤけていることに気付いているのだろうか? ってな。

ちなみにだが、その後数日は相手が寝ているときに顔に落書きをするのが俺たちの間で流行ることになった。 勿論、水性で。

それの発端でもある今日は、結局家で桐乃と遊ぶことになったのだが。

……ああ、それと後一つ。 メイク落としでそういうのは落ちると、俺は知っている。


変装メイク 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

ネット配信までついにあと二週間だ
ここもネット配信までだっけ?

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下致します。

京介「冬コミ?」

黒猫「ええ、そうよ。 わたしはサークル参加をするのだけど、あなたたちは一般参加でしょ?」

桐乃「あんた、まーた本出すの? 去年の夏コミはたまたま売れてたケドぉ。 今回はムリっしょ。 あはは」

ひでぇなこいつ。 完全に馬鹿にしてる。

黒猫「あら? ふふ。 あなたは知らなかったかしら? わたしのサークル……今じゃ結構有名なのよ。 今年は百部刷る予定というくらい、ね」

桐乃「はいはい嘘乙。 あんたの厨二同人誌がそんな売れるワケないでしょ。 妄想は頭の中だけにしときなって」

……こりゃあれだな。 またいつものパターンだ。 やれやれ。

沙織「きりりん氏。 黒猫氏の言っていることは本当のことでござるよ? 前までは確かに無名サークルでしたが」

黒猫を庇っているとも貶しているとも取れる台詞だぞ、それ。 こいつも大概だな……もっと言い方って物があるだろ!

桐乃「……マジ? 世も末だね」

京介「お前が言うなよ……」

11月のある日。 俺たち4人はたまたま時間が空いていた今日、集まっていた。 場所は最早恒例にもなりつつある俺と桐乃が住んでいるアパートだ。

京介「そんで、出来の方はどうなんだ? また何か手伝うこととかあればやるけどよ」

黒猫「今年は問題無いわ。 抽選漏れも無かったし、同人誌の方も殆ど完璧に仕上がっているしね」

黒猫「ま。 作家様のお手を借りずとも、問題無いと言う事よ」

沙織「はは。 前回協力して頂いた夏コミの分を随分と参考にしておられた様ですが」

黒猫「あ、あなた! それは言わないでと……」

桐乃「へえ?」

黒猫「……何よ?」

桐乃「いやぁ、なんでも? ふひひ」

黒猫「……鬱陶しいわね。 呪い殺すわよ」

桐乃「はいはい。 ……ま、参考になってるなら良いケド」

黒猫「ふ、ふん」

……仲良いな。

そんなことを思いながら、俺は沙織に耳打ちをする。

京介「なあ沙織。 こいつらって前と少し変わったか?」

沙織「何を仰いますか、京介氏。 お二人は最初からこうでござろう」

京介「……それもそうか」

これも恐らくは一緒なのだ。

俺と桐乃と一緒で、大きく変わった訳じゃあない。 変わったのは多分、二人の関係ってところだろう。

桐乃「ちょっとあんたなに沙織にデレデレしてんの」

言いながら、蹴りが俺の右足に命中。 テーブル下での攻撃。

……うむ。 いつも通りな我が妹だ。

黒猫「ふふ。 大変ね、兄さん。 独占欲の強い女の相手という物は」

桐乃「そんなんじゃないっつーの! なんか気に入らないだけだし! てゆうかその呼び方やめてっつってんでしょ!」

黒猫「その発言よ。 それが最早そうじゃない。 大方、家に居る時はいつもべったりなのでしょう?」

桐乃「なワケあるかっ!」

……何も言うまい。 俺はな。

沙織「きりりん氏と黒猫氏は本当に仲良しでござるなぁ。 羨ましいですぞ」

京介「羨ましくはねえだろ……」

沙織「いやいや。 拙者もああいう風に、思いっきり話したい時もあるのですよ」

沙織「それとも何か。 京介氏が拙者のお相手になってくれるということですかな?」

京介「俺だけじゃねーよ。 あいつらも、お前の話相手にはなってくれるだろ? どんな時でも」

沙織「……そうですな。 はは」

桐乃「だからデレデレすんなっつってんの!」

今度は左足に命中した。 次はどこに飛んでくるのだろうか。

そんな風に思える辺り、俺も成長したのだろう。 いや、慣れただけかもしれねえけど。

黒猫「待ちなさい。 まだ話の途中よ」

桐乃「チッ……どこまで話したっけ?」

黒猫「わたしが兄さんとプールに行った話と、家で何回か遊んだ話と、お祭りに行った話、までね」

桐乃「ぷ。 たったそれだけ? ウケルんですケドぉ」

ちょっと待て! こいつら何の話してるんだよ!?

黒猫「大事なのは時間と、その内容よ? あなたの様なビッチには分からないでしょうけど」

黒猫「わたしは二週間も付き合っていなかったのに、それだけのことをしているのよ。 対してあなたはどうなの?」

桐乃「……ふん。 たった二週間で別れるとか、あんたの方がよっぽどビッチじゃない? ねえ、京介」

頼むから俺に振らないでください桐乃さん。 その話題に俺は入り込めねえぞ!?

黒猫「それにしても、あなたは京介と十年以上一緒の家に住んでいるというのに、キスしたのは最近のことでしょう? ふ。 それに比べてわたしは」

黒猫「あなたがアメリカに行っている間、キスなんて済ませたわよ」

桐乃「……はぁ!?」

……おいおい。 マジでもうやめてくださいよ。 ほんとに。

桐乃「ちょっとあんたどーゆうこと!? あたしがアメリカ行った時って、あんたらまだ付き合ってなかったっしょ!? なのにキスしたって!!」

京介「違う! お前が思っているようなことじゃない!! 頬だから!!」

桐乃「……口と口じゃなくて?」

京介「そうだよ! てかあの時はマジでお前が思ってる様な不純なことにはなってねーからな!」

桐乃「ふん……」

黒猫「あらぁ? 悔しいのかしら。 ふふふ」

やっべ。 なんで俺は元カノに過去の話をされながら、妹でもあり今の彼女でもある奴に責められているんだよ。

……改めて考えると、俺ってすごいことになってんな。

桐乃「へえ? たったそれだけで悔しがるとでも思ってんのぉ? あたしなんて、京介と温泉旅行行ったし~」

桐乃「んでぇ、その部屋でキスしちゃったしね~。 それも普通のキ」

京介「待て待て待て待て待て待て待てぇええ!!!! 桐乃ちょっとこいッ!!!」

こいつは何を言おうとしたんだよ!? 予想は付くけどさ!!

俺は急いで桐乃の腕を引っ張り、一度台所へと避難。 黒猫と沙織には聞こえない様に、小声で会話を始める。

京介「……お、お前。 それは言うんじゃねえよ」

桐乃「……ベツにいーじゃん」

京介「……良くねえ! なんで赤裸々に語られないといけねえんだ!」

桐乃「……だって……負けたくないし」

いつから勝ち負けになってんだっつうの……。 はぁああ。

京介「……そんな勝負しなくたって、お前は負けちゃいねえよ。 だからそういう暴露話をするんじゃねえ。 恥ずかしくて死ぬ」

桐乃「……じゃあ、あいつの前であたしが一番だって言って」

京介「……お前なぁ」

桐乃「……じゃなきゃ話す。 全部」

まーじーかーよー。 ていうか、恥ずかしい思いをするのはこいつだって同じじゃねえのかよ。

京介「……分かったよ。 やりゃいいんだろ、やりゃ」

桐乃「……うん」

で、話し合いを終えた俺と桐乃は再び居間へ。

黒猫「仲が良いことね。 ふふ」

沙織「そうですなぁ。 羨ましい限りでござる」

ほっとけほっとけ。 もうこの際どうにでもなれ、だ。

桐乃「ちょっと黒いの、京介があんたに言っておきたいことがあるんだって」

言うと、桐乃はにこにこと笑いながら、俺の方に顔を向ける。

分かったとは言った物の、いざ言えって言われてもどう切り出せば良いんだ。 嘘を吐く訳じゃねえから良いんだけどさ。

京介「……あー。 えーっと」

桐乃「早くしろ」

こええ。 つうかこれって二人から見たら、俺が脅されているように見えてるんじゃないのか。

京介「お、俺は……桐乃が一番だ。 い、一応」

桐乃「はぁ? 一応?」

京介「……桐乃が一番だ。 絶対に」

桐乃「……ふん。 シスコン」

公開いじめみたいだぜ。 今でもこれはこいつらの罠なんじゃないかって思うくらいだ。 穴があったら入りたい。

黒猫「はあ。 知っているわよ。 今更どうしたの?」

沙織「黒猫氏。 これは恐らく……結婚報告みたいな物でござるよ。 子が親にする奴ですな」

もしそうだったとしてもお前らに改まって挨拶はしねえよ!! なんで親の心境になられてんだっつーの!!

黒猫「なるほど……つまりあなたたち、結婚するのかしら?」

桐乃「す、するワケないっしょ!」

沙織「はは、またまた……実はもう既婚、ですかな?」

桐乃「ちっがーう!!」

……ふむ。 流れは流れ、乗っておくか。

京介「……お前、俺と結婚したくねーの?」

桐乃「そ、そうじゃないって! ち、違うんだケド……」

黒猫「あら、結婚おめでとう」

桐乃「だ、だーかーらー!!」

沙織「く、くく、あははは」

ついには沙織が堪えきれずに笑い出し、黒猫も釣られて笑い、俺も同様に笑い出す。

桐乃だけは顔を真っ赤に染め、恥ずかしそうにしているのが余計におかしくて、自然と場が和んでいた。

京介「は、ははは。 わりいわりい、さすがに悪ノリしすぎたな。 く、あはは」

沙織と黒猫が未だに笑う中、桐乃は俺の方を向き、小さくひと言。

桐乃「……あんた、あいつらが帰ったら分かってるんでしょうね」

京介「は、はは……は……え?」

俺は次第に、笑顔が強張っていくのを感じていた。

桐乃「正座」

京介「……はい」

夕方。 黒猫と沙織が帰宅し、今は俺と桐乃だけがここに居る。 つまりは説教開始というわけ。

桐乃「まず謝罪ね。 どうぞ」

京介「え、ええっと……調子に乗ってすいませんでした」

桐乃「ま、良いか。 じゃあ次、あたしをからかった理由。 どうぞ」

京介「……はい。 桐乃……桐乃さんが恥ずかしがってるのが可愛くて、つい」

桐乃「ふ、ふうん? 可愛かった?」

京介「そりゃもう!」

桐乃「……ふん」

言いながら顔を逸らす桐乃。 うむ。 可愛い。

桐乃「……じゃあ次。 あ、あたしのこと好き?」

京介「勿論。 超好き」

桐乃「ふ、ふひひ。 ならよし!」

桐乃「次、最後ね」

桐乃「……黒いのにキスされた場所、教えて」

……なんだ? まだ疑ってるんだろうか。

別に変な場所では無いしな。 そのくらいなら言っても良いのか?

京介「こ、ここだけど」

俺は言い、右の頬を指差す。

桐乃「そこね。 おっけ」

短く言うと、桐乃は正座をしている俺の隣に座り、顔を近づけて。

同じ場所にキスをした。

桐乃「……ん。 どう? どうせあいつのことだし、呪いだとかなんとか言ってたんでしょ? 解けた?」

意地悪っぽく笑う桐乃を見て、俺は顔が赤くなるのを感じる。 なんか、恥ずかしいぞ。

京介「解けたっつうよりは……」

実際、黒猫自身はとっくに呪いは解けたと言っていたけども。

俺としちゃあ、あれだな。

京介「……強力な呪いをかけられた感じだ」

桐乃「ひひ。 それもそれでいいかな。 あはは」

隣で笑う桐乃は嬉しそうで、楽しそうにしている。

俺はそんな桐乃をみて、習って、俺は同じ様にキスをする。 不意を突かれた所為か、桐乃は俺がキスした場所を押さえ、硬直。

京介「……そんな驚くことか? 一応感想聞きたいんだけど」

桐乃の頭に手を置きながら、顔を覗き込みながら俺は聞く。 程なくして、桐乃は口を開いた。

桐乃「……あんたと一緒」

それから少し時間が経過。

夕食を食べ終えた後、俺はごろごろしながら本を読み、桐乃はどうやらエロゲー中の様子。

まあ、いつもの光景と言った感じである。

そんな中、桐乃は俺の方を向くと、用意していた様な棒読み具合で口を開いた。

桐乃「あ、そーいえばぁ。 今度あたし文化祭あるんだよねー」

京介「……へえ」

桐乃「でー。 カフェやる予定なんだよねー」

京介「……ふうん?」

桐乃「ら、来週の土日なんだけどぉ」

京介「……そうか」

桐乃「……こ、この!」

ちょっと待て! 俺はしっかり返事してたじゃねえか! どうしてお前は俺に掴みかかってくるんだよ!?

京介「んだよ、いちゃいちゃしたかったのか?」

桐乃「今日は違うの! あんたが興味無さそうに流すからでしょ!?」

今日はってことはいつもはそうなのかよ。 新事実だぜ。

京介「じゃ、じゃあどう反応すればよかったんだ……? めっちゃ興味ありそうに聞くのも、あれじゃね?」

桐乃「そうじゃなくって……京介、どうせ暇でしょ? 家に引き篭もってるだけだし。 だから、文化祭来てみれば?」

……まるで俺が引き篭もりみたいな言い方をするのには異論を唱えたいが、ここはとりあえず抑えよう。

ええっと、なんだ。 要するに桐乃は文化祭に来て欲しいってことでいいよな? 多分。

京介「……そりゃあ行きたいけど、お前の学校ってあれだろ? あやせとか加奈子も居るんだろ?」

桐乃「いるケド?」

京介「……良い予感がしないんだが」

桐乃「だいじょーぶだって。 もし何かあったらあんたを追い出すから」

そこは嘘でもあやせや加奈子を止めるって言えよ。 行った途端そうなったら俺、泣くぞ。

桐乃「で、どうすんの? 来るの? 来ないの?」

京介「行かないって言ったらどうなんの?」

桐乃「あやせに泣きながら「京介に無理矢理キスされた」っていう」

京介「回りくどい言い方はやめようぜ。 死刑って言おう。 率直に」

桐乃「いくらあやせでもそこまで怒らないって。 良い子なんだから」

……お前はあいつの本当の恐ろしさを知らんからそんなことを言えるのだ。 多少は知っているかもしれねえけど、そんなの氷山のうちの一角だぜ。 割とマジで。

京介「……そ、そうか」

つまりあれか。

行かなければ死刑で、行けば死刑になるかもしれない。 ってことだよな。

生存確率が高い方は当然後者で、生存本能がある俺としては当然そっちを選ぶしかない。

これはあれだ。 二択の様に思えて実は一択しかない選択肢である。 最早、選択肢ですらねえな。 強制イベントっつうことだ。

京介「分かった。 行くよ、文化祭」

桐乃「マジで? やった! えへへ」

そう喜びながら、元居た場所へと戻る桐乃。 俺に見えている背中からは、嬉しさが溢れ出ている様にも見える。

京介「時間とか教えてくれよ。 その時行けばいいだろ?」

桐乃「いいケド、京介ってば妹にそんな会いたいのぉ?」

……おいちょっと待てこの野郎。

今、お前が来いつったんじゃねえかよ。 それとも何だ? 俺の耳が腐ったか。 こいつはやっぱりこうやって俺をからかうのを楽しんでいるよな。

京介「悪いか? 俺はお前のことを愛してるから、会いたいに決まってるじゃねえか」

言いつつ、桐乃を後ろから抱き締める。

桐乃「……や、やめてって。 毎回いきなりするのマジでやめて」

京介「言ってもお前だって抵抗しないじゃんか」

桐乃「ち、違うの……したいケド、あんたにそうされるとできないんだって……」

消え入りそうな声で言い、桐乃は横にある俺の顔を見つめる。 後ろからの所為で、距離は予想以上に近かった。

あー。

破壊力やっべえ。

京介「わ、悪い……」

結局は俺と桐乃、二人共が恥ずかしがるという展開になった訳だが、この空気はどうにも癖になってしまいそうだ。

桐乃「……なんで離してんの」

若干怒った様子の桐乃はやがて、そう呟く。

京介「いや……ちょっと恥ずかしくて」

桐乃「そこはフツー、更に抱き締めてキスでしょ!? ありえないんですケドぉ!」

桐乃「チッ……空気読めっつーの!」

大分ご立腹のご様子。 お前ってキス好きだよなぁ。 なんて思う。

京介「……すまん」

が、こういう場合は素直に謝っておくべきだろう。 桐乃が望んでいたことを見抜けなかったのは俺だしな。

桐乃「ふん。 もー良いし。 明日」

桐乃「……明日、どっか連れていきなさいよ。 お詫びで」

ああ、そうか。

京介「おう。 任せとけ」

未だにこんな感じのデート約束ではあるが、それもまた俺たちならではで楽しいのかもしれない。

桐乃「分かれば良いよ。 ほら、こっち来て」

桐乃「久し振りにシスカリやらない? 最近やってなかったし」

京介「良いぜ。 べっこべこにしてやるよ」

桐乃「ひひ。 上等じゃん。 じゃあどうせならさ、何か賭けるってのどう?」

京介「ほお、負けてもしらねえぞ? 俺はお前に一晩抱き枕になれっつう命令をするが……」

桐乃「ふうん? あんたそんなこと望んでるワケ? ま、良いケドね」

京介「よし、決定だな。 じゃあ次はお前の番だぜ」

桐乃「あたしかぁ……どーしよっかな」

今更、気付いた。

どこか見覚えがあると感じていたこの光景……一年前と、一緒だ。

桐乃は唇に指を当てながら考える。 そして、やがて思いついたのか、口を開いた。

桐乃「じゃあ、あたしが勝ったら」

桐乃「京介が一晩、あたしの抱き枕になること。 それでいい?」

京介「……一緒じゃね?」

桐乃「……一緒かも」

一緒で、一緒じゃねえな。

京介「ま、とにかく勝負しようぜ」

俺は言う。 桐乃に向けて、笑顔で。

桐乃「そんな焦っても負けるのが早まるだけなのに。 ひひ」

対する桐乃はそう言い、俺にコントローラーを手渡す。

俺はしっかりとそれを受け取ると、桐乃のすぐ隣に腰を掛けた。


冬に向け 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

レス忘れ・・
>>167
一応、その予定です。

それでは、投下致します。

京介「ええっと……」

桐乃「ご、ご、ごごごごっ、ごちゅ、ご注文は?」

噛み過ぎだろ。 なんて言っているか殆ど解読不可能だぞ。

京介「じゃあ、桐乃で」

桐乃「……どーぞ」

もじもじと手遊びをしながら、視線を横に向け、桐乃はすぐさまそう言った。

京介「ぶっ! ちょっと待てい!!」

こ、こいつ可愛いなほんと。 もう可愛いって次元を通り越している気さえするぜ。

京介「お前それ俺以外に言ったら怒るぞ!?」

桐乃「ゆーワケないっしょ!? ばかじゃん!?」

京介「う、うむ……」

京介「てか……それで本当に大丈夫なの? 明日」

桐乃「……多分」

練習の時点でこんな状態なら、到底出来ると思わないんだけどな。

……そう。 俺は今日、明日ある文化祭の練習という名目で、桐乃に付き合わされていた。

桐乃「て、てか。 あんたにゆうとなんか緊張する。 キャラ変えてよ」

京介「なんでそんな理由でキャラを変えないといけねーんだよ!」

桐乃「いいじゃん。 イメチェンにもなるでしょ?」

京介「……ふむ」

京介「えと、例えば?」

桐乃「おねえキャラとか」

京介「するかっ! お前は俺がそうなった方が良いのかよ!?」

桐乃「だって、京介のままだと緊張しちゃって……」

京介「別に俺だけが来るわけじゃないんだから、緊張しねえだろ……」

桐乃「そだケドさ……」

京介「つか、それならやっぱ俺は行かない方が」

桐乃「ダメ。 来なかったら怒る」

京介「……はいよ」

俺としちゃあ、そりゃ行きたいけどな。 桐乃だけしかいないんだったら! だが。

加奈子はまあ、まだ良いよ。 ガキだし。 問題はもう一人だろ。

先ほど桐乃としたやり取りなんて、あいつの前でやったとしたら俺はどうなることやら。

桐乃「じゃ、じゃあ少しキャラ変えてやってみてよ。 ね?」

結局そうなるわけか。 はぁ……仕方ねえ、ここは桐乃の提案に乗っておこう。

京介「わーったよ。 面倒な客って設定な」

桐乃「うん。 おっけ」

よし。 なんかぶっちゃけこれって役に立つか分からないし、少し桐乃をからかって遊ぶとしよう。 そのくらいお礼として貰っておいても良いだろ。

桐乃「……いらっしゃいませー」

京介「え~? なに~? 聞こえなかったんですケドぉ」

桐乃「す、すいません」

顔笑ってねえぞ……。 大丈夫か、こいつ。

京介「ま、良いや。 早く席案内してくんない? チョー疲れてるから」

桐乃「……こちらになります」

京介「ん。 じゃ、とりあえず飲み物ヨロシク」

桐乃「え、ええっと……どれになさいますか?」

京介「はぁ? 飲みたいのくらい察しろつーの。 使えないなぁ」

桐乃「やってられるかッ!! つうかなにそのムカつくキャラ!? ウザすぎ!!」

キレやがったよ。 ていうかムカつくキャラって言われてもな。 モチーフは俺の目の前に居る訳だが。

京介「まあ、ここまで言う客もいねえとは思うけどな……多分」

桐乃「チッ……とりあえずあんた、謝りなさいよ」

京介「なんで!? 俺なんかしたっけ!?」

桐乃「使えないとか、どの口が言ってるのってカンジなんですケドぉ。 早く謝って」

京介「だからあれはキャラ作りであってだな……」

桐乃「それでもカンケー無いし。 あたしがムカついたからあんたは謝るの。 あたしに謝れるとか嬉しいでしょ?」

こいつは一体、俺のことをどれだけ変態だと思ってやがるんだ。 さすがに桐乃に謝るのが嬉しいとか断じて無いんだけども。

京介「……さーせん」

桐乃「はぁ? なにそのやる気の無い謝り方? 誠意が感じられないからやり直し」

京介「こ、この……すいませんでした」

桐乃「最初に今「この」って言ったよね。 謝り方としてありえないから。 やり直し」

京介「……すいませんでした」

桐乃「え~? なに~? 聞こえなかったんですケドぉ。 謝る時にそんな小さな声で言ってさ、相手が許すと思う? 京介」

京介「ゆ、許さないんじゃないんですかねぇ……」

桐乃「よく分かってるじゃん。 ま、でもぉ」

桐乃「あたしは許してあげるケドね?」

……やべ、今ちょっとだけだが良かった、嬉しい、みたいな感情が出てきたぞ。 俺、良い様にしつけられている気がするんだけど。

京介「……どうも」

いやいやいや。 冷静に考えても今の状況は絶対おかしい! 俺は桐乃のためにこの練習に付き合っていたっつうのに、なんで俺は必死になって謝ってるんだよ!?

桐乃「まあ、仕方ないし明日あんたが来たらあやせに任せようかな……。 あたしじゃ無理だし」

京介「やめて!? ねえ桐乃さん、マジでやめてください!!」

桐乃「だ、だって仕方ないでしょ! あたしだって京介来たらあたしが行きたいケド……無理なんだもん」

桐乃「へ、ヘンな風になって皆に見られるのもヤダし……」

……明日で俺の人生も終わりか。 良かったよ。 うん。

そして次の日。

京介「……なんかあれだな。 大学の合格発表より緊張するぜ」

しかも場所は高校な。 あーこええ……。

俺の命日となる今日。 目の前に建つ巨大な墓場を俺は見据えていた。

「お? 高坂じゃねえか!」

京介「うわあ!? やめて!! 許して!!」

「……大丈夫か? お前」

俺が恐る恐る声の方を見ると、そこには親友。 赤城が立っていた。

京介「あ、赤城かよ……驚かせるんじゃねえよ、殴るぞ」

赤城「いきなり理不尽だな……お前」

赤城「高坂……お前さ。 最近理不尽っぷりが発揮されてるぜ。 この前のドタキャンと言い、今のと言い。 誰にどんな悪影響を受けてるんだよ」

京介「はっ! そんなことはどうでも良い。 なんでお前がここに居るんだ?」

赤城「ん? 決まってんだろ。 天使ちゃんの姿を見に来たんだよ。 当然じゃねえか」

京介「天使……ああ、桐乃か」

赤城「ちげえよ! 瀬菜ちゃんを見に来たんだ!」

京介「そーいやそうだったな……忘れてた」

赤城「お前マジで殴るぞ……一応お前と同じ部活だったじゃねえかよ」

京介「いやいや、だって俺桐乃以外は全部同じ生き物にしかみえねーもん。 しょうがないだろ?」

赤城「……なんか、お前大学入ってからちょっとおかしくなったな」

ほっとけほっとけ。 良いんだよ別に。

赤城「で、高坂もここに居るってことは妹を見に来たってことだな。 一緒に行こうぜ」

京介「まあな。 んじゃ、そうする------」

いやちょっと待て。

瀬菜の場合は俺と桐乃の関係を知っているから良いとして、だ。

赤城の場合はどうだ?

こいつは知らないわけだし、例えばこいつを連れて桐乃のところに行ったとしよう。

で、俺がまあ桐乃に挨拶するだろ? 桐乃は多分、普段と違う展開で焦ると思うけど。

まあそこまでは良いさ。 別に可愛い妹だ。 で済むからな。

問題はその後……か?

桐乃が万が一にでも口を滑らせたとして、昨日の様な展開になったらどうだろう。

昨日、練習した時の様な展開。

……いやでも、赤城は馬鹿だし普通に誤魔化せるかもしれんな。

だったら問題無くね? こいつを連れて行ったとしても。

ううむ……。

ん?

待て、待てよ。

桐乃は今日、ウェイトレスの格好をしているんだよな。 カフェをやっているし。 メイドカフェじゃなかったのは悔やまれるが、それでもさすがは桐乃だけあり、めちゃくちゃ可愛い。

……それで、だ。

その格好を赤城に見せる……? あの桐乃を?

京介「お前調子乗ってんじゃねえぞ!?」

赤城「何が!? 俺は普通に一緒に行こうって誘っただけなのに、なんでお前はキレてんの!?」

京介「お、おう……すまん。 でも、とにかくそれは駄目だ。 絶対に」

赤城「いや……別に俺もどうしてもお前と行きたいって訳じゃないから、良いけどよ。 よっぽど大事な理由があるんだろうし」

京介「ま、まーな。 はは」

赤城「うっし。 じゃあ高坂、ここからは別行動だ。 また会おう!」

……爽やかな奴だなぁ。

俺はそんな赤城に適当に手を振り、再び学校を見据える。

別に隠していた訳じゃないが、桐乃は俺が行っていた高校へ進学したってことだ。 理由は、なんとなく分かるけどな。

さて。

そろそろ、行くか。

桐乃から教室は教えてもらっていたので、すんなりとその教室の前には到着。

なんだか懐かしい感じだよ。 こうして来ると。

京介「ええっと……入っていいのかな、これ」

一応、教室の前には営業していることを知らせる看板が置かれている。

いつまでも悩んでいたって仕方無いし……入るか。

そう思い、扉に手を掛け、俺はゆったりとした動作で、開く。

あやせ「いらっしゃいま------」

ぴしゃり、と思いっきり扉を閉められる。 入店拒否らしい。 ははは。

京介「……桐乃の奴、あやせに何も言って無かったのかよ」

そりゃ閉められるかもな! めちゃくちゃ名残惜しいが帰るか!

ふう、命拾いしたぜ。

あやせ「……あの」

振り返ったところで扉が開くと音がし、あやせから声が掛かる。

京介「え、ええっとなんでしょうか」

あやせ「どうして居るんですか。 帰ってください」

京介「……今からそうしようと思っております」

あやせ「そうですか。 それで、何故ここに?」

京介「……桐乃は何も言ってなかったのか? あいつが来てくれって言ったんだよ」

あやせ「……なるほど、桐乃が」

言いながら、あやせは僅かに開いた隙間から教室の中へと視線を移す。 そこには多分、桐乃が居るのだろう。

あやせ「わ、分かりました。 特別に入っても良いです。 桐乃を呼びますね」

ここってあやせの許可制だったんだな。 桐乃しか入れないんじゃねえのか、ここ。

京介「ああ、いや。 それなんだけどさ……」

京介「あいつ、どうにも俺の相手は無理っつうんだよ。 緊張するだとか、なんとか」

あやせ「……お兄さんがセクハラをするからじゃないですか?」

京介「してねえよ! そんなことは」

……セクハラじゃない。 俺がしているのはスキンシップだ!

あやせ「怪しいですね……でも、いつも一緒に居るのに……どうして?」

京介「俺に聞かれてもな。 まあ、俺が思うにあいつは普段と違う姿を見られるのが、恥ずかしいんじゃねえのかな」

あやせ「あ。 今ので納得しました」

京介「……っていうと?」

あやせ「だって、普通に考えたらおかしいじゃないですか。 お兄さんの相手が出来ないのに、お兄さんに来て欲しい。 だなんて。 変じゃないですか?」

ふむ……。 確かに、そう言われて見ればそうだ。 明らかに矛盾しているな。

京介「で、それで納得したってのは?」

あやせ「普段と違う姿を。 の部分です。 桐乃は多分、お兄さんに学校での桐乃を見て欲しかったんじゃないですか?」

そーいうことね。 なるほど。

京介「……それであやせに頼むとか言ってたのか。 でもさ、俺が居るって分かったら結局あいつは緊張しちゃうんじゃねえの?」

あやせ「ううん……そうですねぇ。 あ、ではこうしませんか? ここからしばらくの間、二人で桐乃を眺めましょう」

……乗った! 良い案だ!

京介「お、おう。 そうしよう」

と言う訳で、俺とあやせは桐乃にばれない様、しばらく扉の隙間から観察。

あやせ「……桐乃、最近どうですか?」

京介「どう……っていうのは?」

あやせ「決まってるじゃないですか。 お兄さんに対して、ですよ」

京介「……ううむ」

京介「……相変わらず素直じゃねえし、すぐ怒るし、理不尽なことばっかだけど」

京介「でも……笑ってる顔ばっか、見てる気がするな」

あやせ「そうですか……良かったです」

京介「……たまに殴られるけどな?」

あやせ「良いじゃないですか。 お兄さんはそれでお礼を言うべきですよ」

京介「……お前も俺のことを勘違いしてるよな。 ちくしょう」

あやせ「強ち間違いでは無いと思うんですけど……」

あやせ「……可愛いなぁ、桐乃」

ん!? ああ、あやせか。 俺の心の声が漏れたのかと思ったぜ。

京介「あー。 それでさ、お前は俺の相手してくれんの?」

あやせ「それを私に聞きますか。 お兄さん」

京介「……んだよ」

あやせ「一応もう一度聞いておきます……それで、桐乃はどうしろと?」

京介「……俺の相手はあやせに頼むとか、言ってた」

あやせ「嫌です」

京介「そこまではっきりと速攻拒絶されると、泣きたくなるぜ……」

あやせ「何故、私が変態セクハラ野郎の相手をしなきゃいけないんですか。 でも……桐乃が、かぁ」

桐乃の頼みだと、本当に弱いよなぁ……あやせの奴。

あやせ「お兄さん、ここは桐乃に頼んでください。 あやせは嫌だと」

京介「それを俺が言ったら確実にしばかれるんだよ……桐乃はお前のこと、大切な親友だと思ってるし」

あやせ「それって、何か問題あります?」

あやせ「だって、桐乃はお兄さんを殴って終わりで、私も嫌な思いをすることもないし……円満に解決じゃないですか」

京介「俺が殴られてる時点で円満じゃねえからな!?」

あやせ「もう……我侭ですね。 分かりましたよ」

京介「お。 なら相手してくれるのか? 悪いな、あやせ」

あやせ「だからそれは嫌だと言ったじゃないですか。 耳が腐っているんですか」

ひっでえ……。 そこまで言わなくても良いだろ。 敬語でグサグサ言ってくる辺り、下手したら桐乃より酷いぞ。

京介「でも、なら分かったってなにが?」

あやせ「すぐ分かります。 お兄さん、桐乃の普段と違った姿は、しっかりと見ましたか?」

京介「ん? ああ、まあ。 あいつが頑張ってる姿は、しっかりとな」

あやせ「ふふ。 なら大丈夫ですね。 少し待っててください」

あやせは言うと、教室の中に戻って行く。

何だってんだ? まさか、桐乃に声を掛ける訳じゃねえよな。 言ったとしても、あいつが素直に来るとは思えんし。

俺がそうしてしばらく廊下で待っていると、やがて教室の中から声が聞こえて来る。 あやせの声だ。

「桐乃ー! 彼氏さん来てるよー!」

声でかっ!? いやそれよりも逃げられない状況を作りやがった!? つうかそれにしても彼氏って!

いや、間違ってはいねえけどさ!

ど、どうする……逃げるか? でも俺が逃げたら恥を掻くのは結局あいつだよな……くそっ!

そう考えるとやはり逃げることなんて出来ず、俺は渋々、その廊下で桐乃を待つ事にした。

あやせにあれだけ大声で言われた手前、桐乃はすぐに姿を現す。 顔は……ああ、予想通り、めちゃくちゃ真っ赤。

京介「……よお」

桐乃「……ふん」

で、しばらく無言。

京介「き、桐乃?」

桐乃「……ちょっと待ってて」

桐乃は言うと、扉を閉める。

……ふむ。 俺は一体いつになったら中に入れるのだろうか。

桐乃「……おっけ。 いこ」

桐乃はすぐに戻ってくると、廊下の外に出る。 いこって言うけど……どこに?

京介「中入っちゃ駄目なのか?」

桐乃「ダメ。 いいから早くいこ」

京介「……へいへい」

そうして俺は桐乃に手を引かれ、学校の屋上へと連れて行かれた。

桐乃「その……ごめん!」

屋上に着くや、すぐさま桐乃は俺に頭を下げる。

京介「え、えっと? どうしたんだよ?」

桐乃「本当だったら、あたしが案内しなきゃいけないのに……ごめん」

京介「別に良いって。 桐乃が無理って言うなら、我慢してまでやってもらおうとも思わねーよ」

俺は言いながら、設置してあるベンチへと腰を掛けた。

桐乃「……うん。 嫌じゃないんだよ。 ほんとに」

桐乃も倣い、俺の隣へと腰を掛ける。

京介「知ってるっつうの。 だって、お前は俺に惚れてるもんな?」

桐乃「う、うっさい。 文句ある?」

京介「ねえよ。 はは」

よっぽど恥ずかしいんだろうな。 それなら最初から呼ばなきゃいいのに。

……ま、そういう姿も見て欲しかったから呼んだんだと、俺は先ほどあやせに言われたが。

京介「少しだけど、頑張ってる桐乃が見れて満足だぜ?」

桐乃「ほんと? どうだった?」

京介「どう……って言われてもな。 もうちょっと笑った方が良いんじゃね?」

桐乃「そ、そうかな?」

京介「でもなぁ……お前の笑顔は正直超絶可愛いからな……他の奴に見せるってのは、嫉妬する」

桐乃「……そか。 えへへ」

京介「……嬉しそうじゃねえか」

桐乃「そりゃそうでしょ。 そんなこと好きな人に言われたら、嬉しいって」

言い、桐乃は俺に笑顔を向ける。

京介「……やっぱ桐乃、笑顔がすげー似合うよ」

桐乃「どーも。 ひひ」

俺は桐乃の頭を撫で、ベンチから立ち上がる。

京介「さて、俺はそろそろ帰るかな。 桐乃の姿も見れたことだし」

桐乃「そ、そか。 その……あのさ」

京介「ん?」

桐乃「……これ、あげる」

桐乃は言い、俺の方に一枚の紙切れを差し出す。

京介「おう、サンキュー。 って……これ、なんだ?」

その紙切れを見ると、どうやら何も書いておらず、本当にただの紙切れの様で。

桐乃「……あたしが」

桐乃「あたしが、なんでもゆーこと一つだけ聞いてあげる。 その券で!」

言いつつ、顔を完全に俺から逸らす。 ほ、ほう。

京介「ま、マジ?」

桐乃「……お詫びだし。 マジ」

京介「さ、さんきゅ」

桐乃「……ヘンなことには使わないでね」

京介「あ、当たり前だろ。 は、はは」

危ない。 ヘンなことに使う気満々だったぜ。 ふう。

桐乃「じゃ……あたし戻らないといけないし。 またね、京介」

京介「おう。 またな」

桐乃は未だに少しだけ頬を染めながら、屋上から降りて行く。

俺はというと「んだよ、キスくらいしてけよ」なんて思っていたのだが、当然そんなことは言える訳が無い。

言ったら怒られるしな。

……うむ。 虚しいぞ。 この空気。

帰ってどうするかな……エロゲーは桐乃に禁止されているし。 そう考えると家に帰ったとしてもやることがねえんだよなぁ。

そもそも、エロゲーを取り上げられてやることが無くなる俺ってどうなのかとも思うが。

つうか、妹に妹物のエロゲーを禁止されるってすげえシュールじゃない? 改めて考えるとさ。

まぁ……帰ろ。

一人での帰り道。

ポケットに入れていた携帯から、着信音が聞こえてきた。

携帯を開き、確認すると、どうやらメールで差出人はあやせ。

最近では珍しいっちゃ珍しいが、一体何用だろうか? まあ、今日のこともあるし、恐らくそれ関係だとは思うけど。

From 新垣あやせ
今日はすいませんでした。 あの後、たっぷり桐乃に怒られちゃいましたよ。


To 新垣あやせ
いや、俺としては感謝してるよ。 あのくらいしないと桐乃は俺の前に来なかっただろうし。 ありがとな。
にしても、わざわざ彼氏だって大声で言う必要は無かったんじゃ……。

From 新垣あやせ
では、私はどういたしまして。 と言えば良いんですかね?
彼氏だって言ったのには理由がちゃんとありますよ。 知りたいんですか?


To 新垣あやせ
ああ、それで良い。
理由? まぁ、確かに桐乃の可愛い顔は見れたけど。

From 新垣あやせ
気持ち悪いですね。 変態。
理由は桐乃に言い寄る輩が居なくなる様に、ですよ。 桐乃って人気者ですから、そういうのが多いみたいなので。
勿論、お兄さんが桐乃に変な事をした日には、御挨拶に伺いますので。


京介「……御挨拶って。 あっち系の人みたいな恐怖を感じるぞ」

京介「ま、あやせも桐乃のことを考えてくれてるんだな」

そう思い、携帯をポケットに仕舞おうとしたところで、違和感。

メールには普通、文章の終わりにENDだとか付くよな。 少なくとも、俺の携帯ではそうなのだが。

あやせから来た最後のメールには、それが無い。 つうことは。

俺はボタンをカチカチと押し、本文をずらしていく。 下へ、スクロールしていく。

やがて、文が一つ。


それと、桐乃の彼氏はこれだけ格好良い人なんだぞ。 という自慢です。


文化祭 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

ちなみに本日の分、多分本編最終話の次に量が多かったんです。
そして気付けばメインがあやせ寄りになっていたんです。

桐乃のモデル友達のランちんって、
同じ学校なのか?

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>306
さ、さあ?

それでは投下致します。

12月。

俺と桐乃はコタツに入り、向かい合っている。

京介「じゃあ……そうだな。 こんなのはどうだ?」

京介「質問に、自分の考えと正反対の答えをしなきゃいけないって縛り」

桐乃「……ふうん? ベツにいいよ。 質問して」

ぶっちゃけ暇なのだ。 出掛けるにしてもこの寒さだし、行く場所という物が無いし。 最近新作のゲームも無いし。 ってなことで、暖かいコタツの中で会話をしようってことになった。

京介「よし。 じゃあ最初な」

京介「桐乃は俺のこと、好きか?」

桐乃「……ストップ。 京介、こういうゲームするときいっつもそうゆー話題にするのやめて」

腕を組み、俺のことを睨みながら桐乃は言う。 さすがに最近だとそう聞くだけでは慌てなくなってきたな。 やりすぎたか。

京介「んだよー。 良いじゃん」

桐乃「よくなーい。 なんで毎日の様にあたしに「好き」って言わせようとすんの? ふん」

……そっくりそのまま返してえなぁ! おい!

ちょっとだけ、ここだけの話をしよう。

桐乃は学校に行く前、俺が起きていたら目の前まで来て。 俺が寝ていたら起こして。

今日の分は? と聞いてくる。 そりゃあ勿論あれだ。 前に桐乃に言われたこと。 一日一回言えって奴。

んで、俺は言ってやるんだけどな。

ちなみに休みの日は布団の中でお互い向き合ったまま言わされる。 ぶっちゃけすげー恥ずかしい。

京介「いやいや、だってお前が恥ずかしそうに「好き」って言ってるの見るとぐっとくるんだよ!」

京介「つうか、逆のことを言えば良いんだから「嫌い」って言えばいいんじゃねえの?」

俺がそう言うと、桐乃はしばし考え、口を開く。

桐乃「……そ、そうだった」

京介「ははん。 お前って……もしかして、普段から好きって言おうとしてんのか? 咄嗟にそう出てくるってことは」

おうおう、なんだよ。 それならどんどん言えよなー。 こいつって滅多にそう言わないし。

桐乃「うるさい! とにかくダメな物はダメ。 逆の立場になって考えてよ」

コタツをばんばんと叩きながら、いつもの様にこいつは言う。 もうちょっと素直になれば良い物を。 今のままでも可愛いけどな。

京介「ふむ、逆の立場か……」

つまり、俺が桐乃に「あたしのこと、好き?」って聞かれたらってことだよね? そんなの決まってるじゃねえか。

京介「別に、俺は全然構わないけど」

桐乃「ほ、ほお。 じゃああたしが質問する側ね? いい?」

京介「考えてることと反対のことを言えば良いんだよな? 来い」

桐乃「そうそう。 京介は、あたしのこと好き?」

……めちゃくちゃ好きだけど! 好きだけど、言わないといけないのか。 そういうルールならば。 全然そこまで考えて無かった。

京介「……き、きききっ、嫌い」

言うのに15秒ほど掛かった気がするぜ。 予想以上にこれは辛い。

桐乃「ちょ、ちょっと待ってね」

桐乃は言うと、何回か深呼吸を繰り返す。

桐乃「……これ、聞いた方のダメージの方がでかいかもしれない」

なら最初から逆で、とか言わなければいいのに。

京介「そうか? じゃあ俺から質問、桐乃は俺のこと、好きか?」

俺がそう聞くと、桐乃は先ほどのことも踏まえ、答える。

桐乃「嫌い」

……即答されると傷付くな。 ていうか、こいつ今、殆ど反射的に答えなかったか?

京介「お、おう……」

桐乃「ね? 聞いた方がダメージでかくない?」

桐乃「ふうん? あたしに嫌われるのそんなヤなの?」

京介「そりゃそうだろ。 当たり前じゃねえか」

俺が言うと、桐乃は表情を一変させ、ニタニタと笑い出す。

桐乃「そっかぁ~。 ひひ。 ねね、京介」

京介「な、なに?」

桐乃「あたしぃ。 京介のことチョー嫌いなんだよねぇ」

すいません1個飛びました

京介「……ていうか、お前の即答っぷりがちょっと傷口を広げた気がするぜ」

桐乃「ふうん? あたしに嫌われるのそんなヤなの?」

京介「そりゃそうだろ。 当たり前じゃねえか」

俺が言うと、桐乃は表情を一変させ、ニタニタと笑い出す。

桐乃「そっかぁ~。 ひひ。 ねね、京介」

京介「な、なに?」

桐乃「あたしぃ。 京介のことチョー嫌いなんだよねぇ」

京介「お、お前……」

桐乃「チョー嫌いとゆうよりはぁ。 チョー大ッ嫌い、みたいなカンジ?」

こ、こいつわざとやってやがる……そんなのは分かってる。 分かってるんだけども。

京介「待って、頼むから待って。 桐乃さん、それすげーぐさぐさくるから、やめて」

桐乃「どーしよっかな? じゃあ~。 京介はあたしのことどー思ってるの?」

京介「……好きに決まってんだろ」

桐乃「えへへ。 でもあたしは嫌いっ!」

京介「……うう」

やべ、涙出てきた。

桐乃「ちょ、ちょっとなに泣いてるの? そこまでになる? フツー」

京介「冗談だとは分かってるんだけどよ……お前に嫌いって言われるとマジで悲しいんだよ……」

桐乃「う……。 ご、ごめんって。 だから泣かないでよ」

桐乃は慌しく俺の横に入ると、俺の顔を自らの服で拭う。

京介「桐乃ぉ……」

桐乃「も、もう……」

俺はそのまま桐乃に抱き着き、桐乃と共に横に倒れ。

桐乃「……動けないんですケドぉ」

京介「……わり」

桐乃「……寒いし、しばらくこーしてても良いケドね」

京介「……おう」

桐乃の体は、熱いほどの体温だった。

三十分ほど経った後。

京介「よし! 気を取り直して次行こうぜ!」

桐乃「テンション上がりすぎじゃん?」

京介「んなことねーよ。 良いから次やろうぜ」

桐乃「って言われてもねぇ。 やること無くない?」

それなんだよなぁ。

京介「仕方ねえ……シスカリでもやるか?」

桐乃「またぁ? てゆうか、あんたそーゆうケドいっつも負けてるじゃん。 この前賭けたときだって、結局あたしに負けてたし」

京介「……そういや、それで抱き枕にされたな」

桐乃「それはいーのっ! とにかく、あんたとやってもつまんないんだって。 せめてもーちょっと強くなってよ」

……いつかその台詞をそっくりそのままお前に返したいな。 黒猫や沙織にはボコボコにされてる癖によ!!

京介「ならネットで黒猫とか沙織とか……あ、そうだ。 あいつらと遊ぶか? どうせなら」

桐乃「良い案だとは思うケドぉ……遊ぶって言っても、結局四人集まってもやることなくない?」

京介「心配すんな。 俺にも考えがあるからよ。 とにかく一度、声掛けてみようぜ」

桐乃「おっけ。 それは分かったんだケド」

京介「なんだ?」

桐乃「その……抱き着かれたままだと、電話出来ないんですケドぉ」

京介「は、はは。 そりゃそうだな……」

黒猫「で、わざわざあなたの家に来たのだけど。 なんかこの部屋、やけに暑いわ」

京介「そうか? コタツはあるけど、暖房とかそんな効いているわけでは無いと思うが」

沙織「ふむ……ああ。 はは。 確かに黒猫氏の仰るとおりですな。 やけに暑い」

桐乃「あんたらどんだけ寒さに強いワケ? こーしてコタツに入ってても、フツーに寒いくらいなんですケド」

あの後、桐乃が二人を電話で呼び、予定も空いていた為にこの家へと集まっている。 割とこうやって集まってると落ち着くんだよな。

黒猫「……状況を説明するわね。 あなたたちは分かっていないらしいから」

京介「おう? よくわかんねーけど、頼むわ」

それこそ黒猫の言っている意味が全く分からないが、こうして俺と桐乃が良く分かっていない事態を沙織や黒猫に納得した表情をされるのは少し嫌だしな。 聞いておこう。

黒猫「分かりやすく、今のわたしと沙織をあなたに置き換えさせてもらうわ」

黒猫「まず、あなたが友達の家に呼ばれたとするわね?」

京介「うん」

そうだな。 赤城の家に呼ばれたとして考えるか。

黒猫「で、その友達の家には通い慣れているから、インターホンなどを使わずに勝手に入るじゃない?」

京介「俺はそんなことしねえぞ……? てか、その時点でかなりの常識知らずだよな……お前ら」

沙織「はは。 拙者にとっては、ここはもう第二の家みたいな物ですから」

京介「勝手に人の家を自分の家にするんじゃねえ!」

その内、勝手に私物を持ち込んで、暮らすんじゃねえのか!? そうなったら俺と桐乃の二人暮らしが終わりじゃねえかよ!

黒猫「……で、まぁ、それは流して頂戴。 あなたはそれで友達が待っていると思われる居間に行くじゃない?」

京介「まあ、そうだな。 まさか勝手にくつろぐわけには行かないしな?」

嫌味ったらしく、俺は黒猫と沙織に言う。

対する黒猫はそんなのはなんとでも無いように、話を続けた。

黒猫「友達の姿を見たあなたは驚く」

京介「……どして?」

黒猫「決まってるじゃない。 その友達とその友達の妹が仲良くコタツに入っているのだから」

京介「別に普通じゃね……なあ、桐乃?」

俺は言い、横に居る桐乃へと声を掛けた。

桐乃「うん。 ベツにおかしいとこなんて無くない? それともあんたの家って、そんな兄妹関係冷めてんの? ウケル~」

お前が言うな、お前が。

黒猫「別に同じコタツに入っているくらいじゃ驚かないわよ。 わたしが驚いたのは」

黒猫「あなたたちがわざわざ同じ面に、寄り添うようにしてコタツに入っているからよ」

……ええっと。 俺が赤城の家に行ったとして。

赤城と瀬菜が寄り添うように座っていたら……うわ! キモっ!!

桐乃「あ、あんたどうしてあたしの隣に居るのよっ!! 出てけっ!!」

恐らく、俺と同じくらいのタイミングで事実に気付いた桐乃は言いながら、俺に蹴りを放った。

……今日も我が妹は理不尽である。

京介「いや待てよ!! お前そう言うけど、こいつら来る前まで「えへへ」とかにやにや笑ってたじゃねえか!?」

桐乃「は、はぁ!? あ、あれは! あれはその……エロゲーやりたくなって笑ってたの!!」

どう考えても嘘だが、それはそれで酷いな!? エロゲーやりたくていきなり笑い出すとか病気かよ!?

黒猫「ほら、だから暑いと言ったじゃない。 いえ、この場合は熱いかしら?」

京介「言い直すんじゃねえ!!」

桐乃「いいから早くあんたは出てけッ!」

沙織「はは。 いつも通り平和な光景ですな」

京介「どこがだよ!? お前らには見えてないかもしれないが、今もコタツの中で桐乃に攻撃されてるからな!?」

桐乃「あっち行けっつってんの! 近寄るな!!」

京介「わ、分かったら蹴るのをやめろ! 今場所変えるから!!」

……いやいや、マジでさっきまで桐乃は「ミカン食べる?」とか笑顔で言いながら隣に居たと言うのに。

黒猫の奴め……恨むぞ。

黒猫「ふう。 それで、今日は何故集まっているのかしら?」

桐乃が俺の正面。 左に沙織。 右に黒猫。 結局、この形になった訳なのだが、先ほどから黒猫と沙織にばれない様に桐乃と俺はコタツ下で攻防を繰り広げている。

京介「ああ、それだったな。 ぶっちゃけて言うと暇だったんだよ。 すること無いし」

黒猫「それだけの理由でこのわたしを呼び出したというの? あなたも随分と偉くなったわね」

逆にお前はどれだけ偉いのか聞きたいな。 どうせ聞いたら「堕天聖のわたしに向かって」とか言い出すから聞かないけど。

……言いそうなことが分かりつつある俺がちと怖いな。 はは。

桐乃「またまたぁ。 あんた昨日言ってたじゃん。 「わたし、明日家に一人で暇なのよね……お願いだから遊んでください」って」

黒猫「暇だとは言ったけれど……そこまでは言って無いわよ」

沙織「はっはっは。 幸い、拙者も暇を持て余しておりましたのでな。 今日のお誘いは丁度良かったでござるよ」

京介「そうなのか。 なら呼んで良かったぜ。 お前らと居ると楽しいし」

そう言うと、足に今までのより数倍強い攻撃が加わる。

京介「いっ! お、おま……」

黒猫「どうしたのよ。 急に変な声を出して?」

京介「い、いや……何でもねえ」

桐乃「……」

無言で俺を睨む桐乃。 怖いっス。

……あれか。 俺が「お前らと居ると楽しい」と言ったのが気に食わなかったのか。 いやいや、そうは言っても桐乃と居る時が一番楽しいに決まってるじゃんか。 察してくれよ!

そんな願望を込めつつ、桐乃を凝視。 凝視。 凝視。

やがて桐乃は口を開く。 とは言っても、声は出さない。 口パクの要領でこう言った。

キ、モ、イ。

京介「……はぁ」

沙織「お疲れの様ですなぁ。 何かお手伝いすることがありましたら、言って下されば手を貸しますぞ?」

京介「いや、そうじゃねえんだ……ただ、な」

言うまい。 俺はもう黙って妹の攻撃に耐えるとしよう。 こいつが俺にきつく当たれば当たるほど、ちょっとしたことがすげー可愛く見えるしな! プラス思考プラス思考。

京介「……よし。 じゃあ俺が今日計画してること、発表するけど良いか?」

そしてこんな時は気持ちの切り替えが大事だし。 未だに軽い攻撃は桐乃から受けていて、俺も時々反撃しながらなので、時々変な声が出そうになるのは我慢せねば。

黒猫「早くしなさい。 退屈すぎて寝そうよ」

沙織「まぁまぁ、黒猫氏。 京介氏は焦らすのが大好きなのですよ。 そうでしょう? きりりん氏」

桐乃「な、なんであたしに聞くワケっ!? そんなの知らないしどーでもいいっつーの!」

京介「別に俺は焦らすの大好きじゃねえよ! 勝手にキャラ付けすんじゃねえ!」

京介「さて……今日はだな」

京介「人生ゲームでもやろうかなって思ってるんだよ」

桐乃「うわ。 つまんなそー」

始まってもいないのに文句を言うんじゃない! そう思い、足で軽く小突くと、その数倍の威力で蹴りが返って来る。

黒猫「ふっ。 人生ゲーム……たかが卓上ゲーム如きに、わたしの人生を委ねろというの?」

京介「そこまで求めてねえよ……」

沙織「はは。 たまにはそういった物も良いですな。 ですが京介氏、そのゲームはどこに仕舞ってあるのですか?」

京介「ん? あー。 ああ、出すの忘れてたな」

ちなみに俺が言っている人生ゲームだが、以前に桐乃と二人でやろうとか言って買った物の、二人だと果てしなくつまらなかったので押入れに封印してあるという物だ。

それで俺と桐乃が学んだこと。 二人で人生ゲームはやめたほうが良い。 開始数分でお互い作業感漂っていたぜ、あれは。

京介「押入れに仕舞ってあるから、ちょっと待ってろ」

そう良い、コタツから出ようとしたところで、黒猫が口を開く。

黒猫「あら。 それならわたしの方が近いし、持ってくるわよ」

京介「お。 なら頼むわ」

黒猫は頷くと、コタツから出て、押入れの前へ。

……なんか忘れてる。

なんか、なんか……ええっと。

あの押入れに、仕舞ってあるのって。

京介「ストップ! 黒猫止まれ!!!」

黒猫「な、なに……? 急に大声を出さないで頂戴。 びっくりするじゃない……」

京介「よし、よし。 そのままゆっくり引き返せ。 コタツの中に戻るんだ」

黒猫「……何故? それが仕舞ってあるのはこの押入れでしょう? ならわたしが持っていった方が」

京介「良い。 そこに入っているのは間違いねえ。 だが、落ち着け。 お前は大人しく元居たコタツの中へ戻れ」

黒猫「何よ。 全く……」

少しだけ怒りながら、黒猫は渋々だが、コタツの中へと戻っていく。

桐乃「なに? あんたそこに仕舞ってあるあたしの雑誌見られるのがイヤなの? ぷ」

京介「言うなよ! 折角隠してたのに意味ねえじゃねえか!!」

桐乃「ベツに隠す物じゃないじゃん。 むしろ飾っとけっつーの」

お前は自分が表紙の雑誌とかを飾られて恥ずかしくねえのかよ。

黒猫「ふん。 何かと思えばそんなくだらないことだったのね。 まあ良いわ。 早く持ってきて頂戴」

京介「……へいへい」

俺は返事をし、押入れの前まで移動。

そしてゆっくりとそこを開く。 目に入るのは、殆ど新品のままの人生ゲーム。

……あーぶーねー!

マジで危なかった。 危うくこれがあいつらの目に入る所だったぜ……。 桐乃にも言って無い、この俺の宝物が。

俺は人生ゲームの外箱を開ける。 そこには一冊のノート。

表紙にはこう書いてある。

「桐乃アルバム」

ふむ。 これはヤバイ。 見られたらマジで終わるからな。

このノート。 この危険物には「桐乃の写真」が沢山収められているのだ。 それはあいつが乗っている雑誌から切り取った奴(当然保管用と別の分から)と、個人的に撮った奴(勿論、許可を取って撮った)と、桐乃から送られてきた写メを印刷した奴など、様々。

簡単に言えばスクラップブックの様な物である。 そして、これは誰にも話していない。 つうか話せるわけが無い。

京介「思い出せて良かった……」

大分前に撮ったあれも貼ってあるからな。 桐乃とキスしてる奴。 普通にヤバイだろ。

俺はそっと、そのノートを押入れの奥に仕舞い、人生ゲームをコタツへと運ぶ。

京介「待たせたな。 持ってきたぞ」

黒猫「仕方ないわね。 そこまでしてわたしに人生をぶち壊されたいというのなら、やってあげるわ」

沙織「はは。 山あり谷ありですからな。 銀行は拙者が努めさせて頂きます故」

桐乃「最下位の人は罰ゲームね。 厨二病を卒業するって罰ゲーム」

黒猫「……それは誰に言っているのかしら?」

桐乃「んー? 誰にも言ってないケドぉ? 敢えてゆうならここに居る全員にだケド。 あんたはなんで反応したの? ねえねえ?」

黒猫「ふふ。 そうね。 ごめんなさい」

桐乃「……う、うん」

黒猫の予想外の余裕っぷりに、桐乃は若干困惑する。 いつもなら黒猫の方が慌てそうな感じだったが。

黒猫「ならわたしは、最下位の人はマル顔を卒業するという罰ゲームを提案するわ」

桐乃「ま、マル顔!? このクソ猫!!」

黒猫「あっらあ? わたしはひと言もあなたがマル顔だなんて言っていないけれど? それとも……もしかして自覚があったのかしら。 ごめんなさい。 ふふ」

桐乃「へ、へえ。 そーゆうこと言っちゃうんだ? だ、だから京介に陰で負け猫って言われるんじゃないのぉ?」

京介「言ってねえよ!? 捏造するんじゃねえ!!」

黒猫「ま、負け猫ですって……? これだからビッチは厭なのよ。 すぐに股を開くというのに」

桐乃「あたしはまだそんなことしてないっつーの! それとも負け犬の遠吠え? あ~。 そかそか、猫だから負け猫だよね。 鳴いてみなよ。 にゃーって」

黒猫「あらあら。 弱い犬ほど良く吠えるのよ。 あなたの場合はクソビッチだけども。 ふふ」

京介「……なあ、いつになったら始まるんだ?」

沙織「さあ? それとも二人で人生ゲームをしますか? 京介氏。 拙者と二人っきりで」

京介「頼むからお前だけはまともで居てくれ……」


人生ゲーム 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

おつう
猫耳猫尻尾でテレテレしてるきりりんが見たいです

桐乃アルバムの話がすんごく見たい

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下致します。

桐乃「えっと……モデルの仕事に就く。 だって! やっぱあたし才能あるよねぇ~」

京介「でも給料的には黒猫とか沙織の方が上だよな」

桐乃「うっさい。 フリーターに言われたく無いんですケドぉ?」

京介「……ほっとけ」

にしても始めたは良いが、俺はいきなりフリーターかよ。

んで、桐乃がモデルねぇ……。

なんだろうな、この暗示は。 怖い怖い。

桐乃「てゆうかぁ。 あたしがモデルなのにあんたフリーターとかどうすんの? やっていけなくない?」

京介「ゲームの話だろうが! 現実はちゃんとやっていけるから心配すんじゃねえ!」

桐乃「京介がそーゆうなら信じるケド……」

黒猫「ちょっと。 まだ始まって数分しか経っていないというのに、二人の世界を作らないで頂戴」

二人の世界ってな。 別に普通の会話をしていただけだっつうのに。

桐乃「なに? 嫉妬~? ウケルんですケドぉ」

黒猫「言ってなさいな……このビッチ」

こいつらはこいつらで、未だにこうだしな。

沙織「賑やかで何よりですな。 京介氏~」

京介「騒がしくて頭が痛いですな。 沙織氏~」

もうちょっとこう、静かにできんもんなのか。

……まぁ、無理だろうなぁ。

黒猫「次はわたしの番ね。 ええっと」

言うと、黒猫はルーレットを回す。 出た数字とマスを見比べ、黒猫は唐突に顔を上げた。

黒猫「……そういえば、少し関係の無い話なのだけど」

京介「どうしたよ。 急に」

黒猫「この人生ゲーム、結婚できるのよね」

京介「ん? あー、そういやそうだな」

買うときに桐乃がこれにしろって言ったんだよな。 すげー必死に。

黒猫「あらそう。 ではわたしが止まったマスね。 左隣の人と結婚。 らしいわ」

京介「……それって俺だよな」

黒猫「そうね。 ふふ」

黒猫の方から、俺はゆっくりと視線を桐乃に向ける。 コタツ内での攻防は大分落ち着いたのだが……。

京介「……うっ」

やべえ。 物凄い形相で俺のことを睨んでやがる。 ていうかなんで俺!? 俺はなんも悪いことしてなくね!?

桐乃「……チッ」

黒猫「あら。 どうしたの? たかがゲームじゃない。 ふふ。」

桐乃「べ、ベツにぃ? ゲームで京介がいくら他の奴と結婚しても、あたしは何とも思わないしぃ?」

言いながら俺の足を蹴るのをやめて頂けませんかね。 桐乃さん。

沙織「はっはっは。 ではきりりん氏は拙者と結婚致しますか?」

桐乃「え~? どーしよっかなぁ?」

桐乃は言いながら、俺のことをチラチラと見る。

……いやお前が沙織と結婚しても、別に俺は構わないが……ゲームだし。 それに沙織は女だし。

京介「いいんじゃね?」

軽くそう言ってみたのだが、案の定強烈な攻撃がコタツ下で行われる。 結構痛い。

黒猫「何を変な顔をしているの? 『あ、な、た♪』 次は『あ、な、た♪』の番よ?」

桐乃「そのキモイ呼び方辞めてくんなーい? マジ鳥肌立つんですケドぉー」

黒猫「別にわたしがどう呼ぼうとわたしの勝手でしょう? なんと言ったって、わたしの旦那なのだから」

京介「……頼むから喧嘩しないでくれよ」

桐乃の怒りが大分蓄積されているな……こりゃ。 これ以上あいつが怒るようなことが起きなきゃいいが。

京介「えっと、俺の番か」

そう言い、ルーレットを回す。

出た数字の分だけコマを進め、そこに書いてあった文字は。

「おめでとうございます。 元気な子供が生まれました。 結婚している場合は子供を一人乗せてください」

京介「なんだこのクソゲー!?」

黒猫「ふふ。 随分と手が早いこと」

沙織「これはこれは……」

俺は恐る恐る、桐乃の顔色を窺う。

桐乃「……こ、この……!」

肩を震わせ、俯いて、若干見える顔は殺意とも取れる表情をしていた。 ああ、ヤバイ。

桐乃は数秒そうした後、顔をあげ、俺に向けて口を開いた。

桐乃「…………ちょっと集合」

京介「……はい」

そういう訳で桐乃に連れて行かれ、台所へ。

桐乃「あんた、どーゆうつもり?」

京介「ええっと……な、何がでしょう?」

桐乃「とぼけんな。 なんであいつと結婚したり……こ、子供作ったりしてんの!?」

俺が聞きてーよ! なんでゲームで浮気者扱いになってるわけ!?

京介「し、仕方ねえだろ? マスにそう書いてあるんだし」

桐乃「マスに書いてあることに素直に従うんだ。 へ~」

いやいや、従わないでどうやってゲームするんだよ。 マスの意味ねえじゃんそれ!

京介「あくまでゲームはゲームだって。 現実じゃ結婚するのなんてお前しかいねえと思ってるって……」

桐乃「そ、そう? なら……なら、子供は?」

京介「……お、お前しかいないと思ってるけど」

桐乃「へ、へえ。 なら良い。 うん」

一気に怒りが収まったな……。 つうか、なんで俺はこんな恥ずかしい台詞を言わされているんだよ。

京介「……分かってくれたなら良いが。 んじゃ、戻ろうぜ。 待たせても悪いし」

桐乃「ひひ。 おっけおっけ」

……あれだな。 こんなことになるなら人生ゲームをやろうなんて提案しなきゃ良かったぜ。 やれやれ。

黒猫「お帰りなさい。 あなた♪ 変な女に連れて行かれていたみたいで心配したわよ?」

こいつも一々煽るんじゃねえよ! 折角怒りが静まったというのに!

桐乃「勝手に言ってれば~? 所詮ゲームだしね。 なにムキになっちゃってんの?」

俺はその台詞をついさっきまでのお前に聞かせてやりたいわ。

京介「はぁ……次、沙織の番だぞ」

沙織「お疲れの様ですな。 ご苦労様でござる」

京介「……もうこれをやめてゆっくりしたい気分だ」

沙織「はは」

それからは黒猫も煽っては無駄と悟ったのか、大して煽らずに。

桐乃も桐乃で大きな反応はせず、つつが無くゲームは進行する。

まあ、こうなってしまえば後は楽だろう。 目的自体が「平和にゲームを終えること」になりつつある俺だが、もうそれでいいや。

なんて思っていた。 今の今まで。

ゲームも終盤に差し掛かってきた時。 事件は起きたのだ。

黒猫「わたしの番ね。 えっと……」

黒猫「な、なによこのマスは」

黒猫が若干焦り、そんなことを言う。 勿論俺は不審に思い、そのマスを見たのだが。

「多額の借金を背負った結婚相手に愛想を尽かす。 結婚しているならば、離婚となります」

京介「相手ってことは俺じゃねえか……つうか借金って?」

黒猫「マスによれば、一億円の借金らしいわね。 資産は全て没収らしいわ。 可哀想に」

完全なる被害者じゃね? 俺。 勝手に結婚させられて勝手に借金まみれだぜ。

京介「……自殺しかねえだろ、それ」

沙織「という訳で、京介氏の資産は没収ですな」

うむ。 これもう俺が最下位だよ。

桐乃「ざっまああ!! ふひひ。 チョーウケルんですケドぉ!!」

誰に言っていると思う? 俺じゃねえんだよこれが。 黒猫に言っているんだぞ、こいつ。

黒猫「随分と嬉しそうね……。 この男に未来は無いわよ」

ひでえ言い草だな。 さっきまで笑いながら「あなた」とか言ってたのによ。

京介「その辺にしとけよ……次は俺か」

言い、ルーレットを回す。 出た数字は6。

マスは……。

京介「……誰か一人を選んで結婚できる。 らしい」

やべー。 黒猫を選んで酷い目にあわせてやりたいぜ。 はは、さてどうするか。

まあそうは言っても、俺がそう言ってからずっっっと、桐乃がこっちを見ているんだよな。

……良いのか? お前を選んで良いのかよ? 資産無しの借金一億とか悲惨ってレベルをとっくに通り越しているぞ。

桐乃「だ、誰にすんの?」

選ぶしかねえか……。

京介「え、ええっと。 じゃ、桐乃で」

桐乃「えええ~? あんた借金まみれじゃん~? チョーイヤなんですケドぉ」

桐乃「まぁでもぉ……マスにそう書いてあるなら仕方ないなぁ~。 従わないといけないし? 何より京介が選んだんだしねぇ~」

どんだけ嬉しそうなんだよ、こいつ。

桐乃「ふひひ。 よし」

桐乃は言うと、席を立ち上がる。 見ると何やら自分の前に置いてあったお金やらを手に持っているが。

……何してんだ?

そう思ったのも束の間。 桐乃は俺の隣に座ると、コタツに足を入れた。

京介「……えっと、どした?」

桐乃「ん? だって結婚したんだしこれがフツーじゃない? 席的には」

桐乃「ね? でしょ? えへへ」

顔が綻びまくってる。 例えて言うならエロゲーをやっているときの顔だ。 例えがちょっとアレだけどな。

京介「そ、それにしても近くね?」

桐乃「ベツによくな~い? 結婚してるんだしぃ。 当たり前っしょ?」

……隣に座るというよりかは、もう殆ど密着していると言って良い程に近いのだが。

つうか、それ以前に頭を俺に預けてきているし。

桐乃「えへへへ」

……可愛いなぁ! おい!

黒猫「……一気にサウナになったわね」

沙織「サウナというよりは、真夏と言った方が正しいかと」

黒猫「真夏にサウナを加えた感じよ。 それが一番しっくりと来るわ」

沙織「良い例えですな。 黒猫氏」

好き勝手言いやがって……。 ちくしょう。

桐乃「なになに。 僻み? ぷ。 あんたもこうすれば良かったんじゃない? もう今はあたしの旦那だけどね? ひひ」

黒猫「いえ。 そこまではさすがのわたしも……」

黒猫が引き気味に笑ってんぞ! こいつのそういう顔も珍しいな……。 それ程までの状況ってことなのだが。

沙織「はは。 それよりきりりん氏。 ここにお菓子があるのですが、愛する旦那様に食べさせてあげましょうぞ」

京介「ちょっと待て!! お前何言ってんの!?」

桐乃「え~。 しっかたないなぁ! 京介がそうして欲しいならぁ……ベツにいいケドぉ」

それでお前は承諾してんじゃねえよ!! 今すぐにでも逃げ出してえ!

桐乃「ほら、京介。 あーんって」

そして俺はそうして欲しいなんてひと言も言ってねえんだけど!? ああ、分かった。 こいつ大分暴走してやがる。

……恐らく。 俺と黒猫が結婚していた所為で、こいつの中では色々と溜まっていたのだろう。 なんてことだ。

京介「い、いやあ……それはちょっと」

桐乃「……」

泣きそうになってる!? あの桐乃が!? 目に涙いっぱい溜めてんぞ!?

京介「な、なんてな! はは! 桐乃からそうして貰えるなんて超幸せだわ!」

桐乃「ほ、ほんと? ふひひ」

桐乃「じゃあほら、あーん」

京介「あ、あーん……」

その一部始終を見ていた黒猫がひと言。

黒猫「バカップルね」

京介「うるせえ! ほっとけ!」

桐乃「きょーすけ。 ほら、こっち向いてよ」

京介「……お、おう」

沙織「良い光景ですな。 心が和むでござる」

こ、このヤローども……好き放題しやがって! 俺はもう死にたい程に恥ずかしいんだが!

桐乃「おいし? ひひ」

ああでもやっぱりこれだけ可愛い桐乃を見れたから良かったかもしれない! 良くねえけど良かった!

桐乃「えへへ……」

黒猫「あら? どうして桐乃は満足そうにしているのかしら?」

桐乃「はぁ? そりゃ京介と結婚できたしぃ? こうして京介も嬉しそうだしぃ? あんたよりはあたしの方がお似合いってことかなぁ! とか思ったりしてるからじゃん? ふひひ」

黒猫に対する態度はすげーいつも通りだな……。 逆に驚くぜ。

黒猫「そうね。 それは良いことだわ。 でも、桐乃」

黒猫「あなたは尽くすより尽くされる。 といった感じじゃないかしら? その男に「あーん」とかされたいのでは?」

桐乃「……そ、それは」

……あの、なんか雲行きおかしくないですか? 黒猫さん。

黒猫「それとも、もしかしてあなたはそれすらやってもらえない悲しい女だったのね……可哀想に」

桐乃「そんなこと無いしっ!」

桐乃は顔をあげ、勢いよく黒猫に言う。 対する黒猫はニヤニヤと笑っている。 なんだこの展開。

桐乃「ね? 京介」

京介「ええっと……まあ」

桐乃「じゃあ、はい」

やらねばならんのか!? 黒猫と沙織の目の前で!? 俺が桐乃に「あーん」って!?

京介「……」

桐乃「ふひひ」

俺を上目遣いでじっと見つめる桐乃を見ると、これでもかってくらいの笑顔を俺に向けていた。

……もうなるようになっちまえ。 今日はそういう日だったということなのだから、諦めが肝心だしな。 はは。

京介「……わーったよ。 ほら」

京介「……あーん」

桐乃「あ、あーん」

黒猫「ちょっと待ちなさい。 その姿勢のまま」

京介「な、なんだよ?」

黒猫は強く言うと、何やらごそごそと携帯を取り出す。

黒猫「桐乃。 折角だから写真に収めましょう。 記念として」

京介「そんな記念いらねえよ!? お前は悪ノリしすぎだっつうの!!」

桐乃「きょ、きょうすけ……お願い!」

お前とことんおかしいな!? 後になって絶っ対に「あらあら。 この時はこんな可愛かったのに、どうしたのかしら?」ってネタで脅されるんだぞ!! 俺もだが!

京介「う……」

しかしこうも桐乃にお願いされてしまうと参ってしまう。 俺は助けを請うように、沙織の方へと顔を向けた。

沙織「もうちょっと寄った方が良いかと」

……こいつまで携帯構えてやがる。 もう駄目だ。 ここには俺の敵しかいねえ!

京介「分かったよ! 好きにしてくれ!!」

それから色々と……本当に色々とあったのだが、際どいこともあったので内容は割愛させてもらう。

際どいと言ってもあれだぞ。 服を脱げだとかそこまでのことじゃないからな。 最初は写真撮影に始まって、段々とヒートアップして、その内に黒猫が「口移ししてみなさいな」とか言って。

……勿論、さすがにそれは断ったけどな? 念の為に言っておくけど。

いや俺としては黒猫や沙織が居なかったら……とは思ったかもしれない。 あくまでも「かもしれない」なので思わなかった方の可能性が高い! うむ。

沙織に至っては「京介氏ときりりん氏のキスが見たいですな」とか言いやがってさ……。

マジでこいつら追い出そうかと思ったよ。 いくらなんでもふざけるにしたって限度があるっつうの!

……キスをしたかどうか? そんなこと聞くなよ。 別にそれはどうでもいいじゃねえか。

で、そんなこんなで今。

沙織「では京介氏。 またでおじゃる」

黒猫「さようなら。 今日は良い夢が見られるわね」

京介「二度と来るなっ! お前らが入って良い場所はここにはねえ!!」

桐乃「えへへ。 またね~」

桐乃はもうすっかりご機嫌。 今だけだろうけどな。 明日になったら多分、酷く後悔するんだろうよ。

……さて。

京介「桐乃」

桐乃「な、なに? ひひ」

京介「一緒に風呂入ろうぜ! 風呂!」

桐乃「い、今から? まだ早い時間だケド……」

京介「良いじゃんか、別に。 嫌か?」

桐乃「イヤじゃない! イヤじゃない……ケド。 でも……ちょっと恥ずかしいかも」

可愛いなぁああ!! あいつらが居なくなって、思う存分桐乃と一緒にいちゃいちゃできるじゃねえか! しかも桐乃は今、なんだかほわほわしているしな! これを逃す手はねえ!

京介「俺も一緒だっつうの。 でも、良いだろ?」

桐乃「…………うん」

よし! よーし! やったぜ! へへ。

思わずガッツポーズ。 桐乃は恥ずかしそうに笑っている。 うむ、今日もこいつは可愛い。

それから俺は桐乃と一緒に風呂に入り、桐乃の作った飯を食べ、二人仲良く布団で寄り添い、その日は寝るのだった。

ここからが超悲惨。 次の日のことだ。

桐乃「……座れ。 そこ」

俺が大学の講義を終え、アパートの部屋に戻った瞬間に桐乃に命令される。

指す場所は勿論、玄関。 いつかのことが頭をよぎる。

京介「き、桐乃さん……?」

桐乃「早く座れ。 今すぐ」

……はは。 なんとなく想像付いてきたぜ。

京介「は、はい」

俺は大人しく座る。 正座で。 玄関で。

桐乃「……これ、どーゆうこと?」

桐乃は言うと、俺にスマホを向ける。 画面には写メ。 恐らくは黒猫から送られてきたのだろう。

……俺と桐乃がキスしている写メ。

京介「ど、どういうことって言われても……てか、お前覚えて無いの?」

桐乃「お、覚えてるケド……なんか、なんでそうなったのかよく覚えてない」

桐乃「だから説明しろっつってんの! 早く」

お前は酔っ払いかよ! どんだけだ……マジで。

京介「分かった。 分かったから落ち着け。 な?」

桐乃「チッ……」

俺はこうして、桐乃に事細かに事情を伝えるのだった。 泣きながら。

桐乃「事情は分かったケド……あんたも調子乗りすぎ」

京介「だって仕方ねえだろ? お前めっっっちゃ可愛かったし!」

桐乃「ふ、ふうん? ま……次から気を付けてね?」

なんだか俺が悪いことをしている気がしてきたぜ。 いや、ていうか実際こうして正座をさせられているわけだけどな。

にしても、今日はやけにあっさり引いていくんだな、こいつ。 いつもだったらもっと言ってくると思うのだが。

京介「おう。 多分大丈夫だ」

桐乃「多分じゃない! 絶対だかんね」

京介「ぜ、善処はしよう」

ここまでなら、もしかしたら笑い話で済んだかもしれない。

桐乃「……ったく」

そう言い、桐乃は部屋の奥へと向かって行く。

一歩、二歩、進んで。

……なんだ?

桐乃の足取りが、なんだかおかしい。

体がやけに左右にぶれていて、やがて、足でそれを支えきれなくなり。

桐乃は崩れるように、その場に倒れた。

それが沙織や黒猫とクリスマスパーティを計画していた日から、一週間前のことだ。


クリスマスまで 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

レス忘れえええ
>>358
面白そうですね。
ちょっと浮かんだ物あるので、書いてみます。

>>361
ちょろっとは触れる様な気がしますが、もしアイデアが浮かんだら書いてみますね。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

バッドエンドにはなりません。
好きで書いてるので、好きなキャラが不幸になるのはイヤイヤ。

原作やアニメ無しで見ている方も居るんですね。 とても嬉しい。
明日までに全ルートコンプ、宿題で。


それよりweb配信分の予告キター!!
きりりんキュンキュンする。


本日の投下致します。

頭が痛い。

吐き気もする。

体が熱い。

意識は朦朧としていて、視界はぼやけている。

「桐乃? おい、桐乃!」

それでもあいつの声だけは、しっかりと聞こえていた。

桐乃「っ!」

あれからどのくらい経ったのだろうか? 目を開けると不快な感じは消えていて、いつものアパートの一室にあたしは居た。

桐乃「……あたし」

……そっか。 倒れちゃったのか。

京介にはばれない様にうまいこと隠していたつもりだったんだけど……これじゃばれちゃってるよね。

昨日辺りから具合が悪くて、今日も昨日よりはマシだったけど。 それでもさすがに無理をしすぎたのか、ついには倒れちゃったか。

桐乃「……心配掛けてるだろうなぁ」

今は本当に大丈夫。 でも、動き回るのは良くないかな。 怒られるだろうし。

……そだ。 京介は?

桐乃「いない、よね」

体を起こした状態で辺りを見回す限り、京介の姿は見えない。

どこかに買い物にでも行っているのか。 お風呂にでも入っているのか。

桐乃「少しくらいなら……動いても大丈夫っしょ」

せめて、家の中だけは確認しよう。 何よりいち早く京介に会いたいし。

……いやいや。 勿論、京介に会って「会いたかったよ!」とかいうわけが無いケド。

よし。 そうと決まれば。

桐乃「……まだちょっと体重いかも」

自分の体では無いような、そんな感じがする。 重いというよりかは、宙に浮いている感じと言った方が正しいかもしれない。

あたしはそんな体を引きずり、まずは家の中を確認。

……お風呂場、無し。

……台所、無し。

……お手洗い、無し。

桐乃「……いないし」

どうやら、家の中には居ないらしい。 それに確信を持てたのには理由がある。

玄関に、京介の靴が無かったからだ。

桐乃「どこ行ってるんだろ? あたしがこんな状態だっつーのに」

そう一人愚痴を吐き、若干の目眩。

……やっぱ、まだ全然本調子じゃないかなぁ。

桐乃「あ、そだ。 ケータイ」

それをまずは一番最初に確認しておくべきだったよね。 京介のことだから、どうせメールか電話か、あるはずだし。

桐乃「えーっと……」

部屋の中を見回し、場所を確認。

桐乃「……あれ?」

そういえば、確かスマホはあの時……手に持っていたはず。 でも今は、丁寧にしっかりと充電器によって充電されている。

場所は、テーブルの上。

桐乃「京介がやってくれたのかな? でも、あの京介がそこまで気を利かせるのもヘンなハナシ……」

京介って細かいことにはホント、気が利かないしね!

……とっても大事なことには、すぐ気付いてくれるけど。

だけど、今回のあたしの不調は全然ばれてなかったなぁ。 あたしの隠し方がうまかったのだろうか? それとも、いつもみたいに気付いて貰いたく無かったからだろうか?

ま、良いや。 とにかく今は連絡っと。

桐乃「京介、は」

スマホの画面を触り、手慣れた動作でまずはメールBOXと着信履歴を確認。

……ふむ。 両方無しか。 せめてどこへ行ったかくらい言っとけっつうの。 あの馬鹿。

あたしは少しだけ苛立ちながら、電話帳から京介の名前を出す。

……ここだけのハナシ。

京介の登録は、一番上に来るようにしてある。 気分だよ? 気分。 別にヘンな意味なんて無いし。

で、あたしはそのまま京介に電話を掛ける。 数回のコール音が鳴り、電話は繋がった。

「桐乃か? どした?」

は、はぁ!? どしたってなに!? どうしたもこうしたも無いっての!!

桐乃「あ、あんたねえ……あたしが倒れたのに、どしたってどうゆーこと? 喧嘩売ってんの?」

「た、倒れた!? 桐乃がか? すぐに行くから待ってろ!!」

……あれ?

おかしいな。 京介はその時居たはずなんだけど……。 今の反応を見る限り、明らかに今初めて知ったと言った感じだったよね。

勘違い、かな?

桐乃「う、うん……分かった。 待ってる」

「おう!」

あたしは疑問に思いながらも、通話を終える。 今聞いた声は、間違い無くあたしを心配してくれている京介だったから。

京介が来てくれるというのなら、あたしはここで待つだけだ。

あ。 場所を言うの忘れてたけど……大丈夫だよね? あいつのことだし、そんなのすぐ分かるはずだし。

結局、あたしの予想通り。 京介は数十分程でここにやって来る。

京介「桐乃? だ、大丈夫か?」

桐乃「……うん。 今はへーき」

あたしの顔を見るや、すぐさま京介はそう言った。 額には汗を掻いていて、必死にここまで来てくれたのがすぐに分かる。

京介「そっか……。 ふう、心配したぜ。 倒れたとか言うから」

桐乃「ちょっと具合悪くてね」

桐乃「……その、ごめん。 何も言わないで」

京介「んだよ。 謝るなんてお前らしくねーな? いつもなら「ったく。 そんくらい分かって当たり前じゃん?」くらい言ってそうだけど」

桐乃「あたしだって悪いと思ったら謝るっつーの。 人を無礼者みたいにゆうのやめて」

京介「はは。 わりいわりい」

なんだか久し振りに見た京介の顔は、とても安心出来る物だった。

京介「そだ、桐乃」

あたしの正面で椅子に座る京介は立ち上がりながら言う。

京介「まだちょっと具合悪いんだろ? おかゆでも作るか?」

桐乃「いーよ。 京介の作った料理食べるくらいなら自分で作った方が美味しく出来るし~?」

京介「具合は悪くても口は減らねえな……。 俺もそれなりには料理出来んだよ。 大人しく待ってろ」

桐乃「はいはい。 じゃあ食べてあげる。 感謝してよ?」

京介「……へいへい」

京介はいつもの様に言い、台所へと向かっていった。

……やっぱり。

やっぱり、安心するな。 こうして京介と話しているだけで。

そんな風に思いながら、窓の外を眺める。

太陽は昇りきっておらず、天気は快晴。 雲一つ見当たらない綺麗な空だった。

「おーい、桐乃ー」

そんな景色をぼーっと眺めていた所為か、少しばかり眠くなってしまっていたあたしに声が掛かる。

桐乃「なにー?」

「これ、調味料とかどこにあんの?」

……だから任せられないんだっての。 全く。

てゆうか、何回かは一緒に作っているんだし、そのくらい覚えとけばいいのに。 ほんと、抜けてるよねぇ。

桐乃「ひひ。 しっかたないなあ。 今行くから待ってて」

「へーい」

それから、京介が作ってくれたおかゆを食べて。

少しの雑談をして。

やがて、京介は言った。

京介「おし。 じゃあお前も大丈夫そうだし、そろそろ行くわ」

桐乃「へ? 行くってどこに?」

京介「ん? 言ってなかったっけ。 黒猫と遊ぶんだよ、今日」

黒猫と遊ぶ? そんなの、何も聞いてないんだけど。

桐乃「そ、そうだったんだ。 でも言ってくれたって良いじゃん。 てゆうか言いなさいよ」

あたしが焦っているのを隠しながら言うと、それに答える京介は平然としていて、何でも無いことのように言った。

京介「おいおい。 なんで俺がデートの予定を妹であるお前に言わなきゃならねえんだよ。 お前だって、俺たちのこと応援してくれてたじゃねえか」

……あれ? 今、何て言った?

桐乃「なに? それ」

京介「言葉のまんまの意味だが……俺が、黒猫と今日デートの予定だってことだよ」

桐乃「……うそ」

京介「嘘じゃねえって……大丈夫か? まだ熱、あるんじゃねえの?」

言葉がうまく飲み込めず、京介の顔をぼーっと見つめる。 いつもと変わらない顔。 あたしが大好きな顔。

桐乃「……ね、ねえ。 あたしと京介って、どんな関係だっけ」

やっと絞り出したその質問。 恐る恐るで、聞いた質問。

それに答える京介は、やはり平然としていて。

京介「決まってるだろ。 俺たちは兄妹だよ」

桐乃「……それだけ?」

京介「本当に大丈夫か? 兄妹以外に何があるっつうんだよ」

残酷だった。

もし、もしこれが京介の冗談だとしたら。

あたしは多分、京介を殴ってしまうだろう。

でも、京介の言葉からはどこからもそんな様子は窺えず、嘘偽り無い本音ということがあたしには分かってしまう。

だから、普段ならあたしは怒っているのだろうけど。

桐乃「そか。 行ってらっしゃい」

顔に笑顔を貼り付けて、心にも無い言葉を吐いていた。

京介が去ってからしばらく、あたしはその場に座り込んでいた。

なんとなく、分かっていたのかな。

何かおかしいって。 嫌な夢でも見ている気分で、だけど意識ははっきりとしていて。

だってそうでしょ。

この部屋には、あたしの物しか無いのだから。

京介と一緒に暮らしていたら必ずあるはずの、京介の物が全く無かったから。

何が起こってるのか全く分からない。 ただただ、気分が悪い。

分かっているのは一つだけ。 あたしが今、泣いていて。 その涙はどうしても止められないということだけだ。

桐乃「……これからどーしよ」

京介は黒猫と付き合っていると言っていた。 あたしじゃなくて、黒猫と。

おかしいよね。 つい昨日まで、この部屋で一緒に寝て、一緒に起きて、一緒にご飯食べて、一緒にゲームして、時々一緒にお風呂なんか入っちゃったりして。

そんな風に、ずっと一緒に居たのに。

あたし的にはこんなのは夢だと思うしかないんだけど。 いつになっても覚める気配が無い。 これじゃあまるで、別の世界に来たみたいだ。

桐乃「あいつだったら、どうするんだろ」

こんな信じられない状況になったとして、あいつだったら。

昔のあいつだったとしたら。

諦めてしまうのだろうか。 無理だと思って。 それとも、昨日までのことが悪い夢だとでも思って。

でも、今のあいつだったら。

……そんなの、決まってるか。

桐乃「……ムカつく。 ムカつくムカつく。 むっかつく!! なにあたしを放置して黒いのと付き合ってるとか言っちゃってんの! 信じられない! サイテー!!」

だけど、それでも。 あたしは京介のことが、やはり好きだ。

あたしがまず、最初にしたこと。

桐乃「沙織? いきなりごめんね」

「きりりん氏ではござらんか。 どういったご用件で?」

友達を頼ることだ。 あいつみたいに。

桐乃「実はさ、あたしちょーっと風邪で倒れちゃったみたいなんだよね。 で、記憶が混乱してるというかなんというか」

桐乃「そんで、あたしたちってどうやって知り合ったんだっけ? 細かく思い出せなくてさぁ」

我ながら、かなり大胆な切り出し方だと思う。 ぶっちゃけ病院に連れて行かれてもおかしくなくない?

「おお……拙者の知らぬところでそんな一大事が……。 ええっと、拙者ときりりん氏の運命の出会いの話でしたな」

それから沙織が語りだした事は、あたしが全て知っていることだった。 オフ会で会って、意気投合して。 といった感じ。

桐乃「そっか。 ありがとね、沙織」

「いえいえ。 お力になれたのなら、光栄でござる」

桐乃「……あ、そういえばさ。 黒いのと京介っていつから付き合っているんだっけ?」

「……きりりん氏。 まだ京介氏のことが?」

「ああ、いえ。 野暮でしたな。 あのお二人が仲良くなったのは……」

「そうですなぁ。 京介氏が高校を卒業して、きりりん氏が中学を卒業して、その後のことですな」

「その年が終わる頃には、付き合っていたはずですぞ」

桐乃「……そう。 ありがと」

それから少しの雑談をし、電話を切る。

……なんとなく、状況は分かってきた。

あたしは京介とは普通の兄妹で、京介は黒猫と付き合っている。

それが今から一年ほど前のことらしい。 つまり、京介と普通の兄妹に戻る。 という約束をして、それがそのまま叶ったということだ。

だとしたら、やっぱりあたしは昨日の昨日まで、ずっとあんな夢を見ていたのだろうか?

ううん……そんなワケ、無いよね。 今でも強く覚えているあれらのことが、夢だなんてありえないし。

でも、そんなことを考え続けても状況は変わらない。 普通の兄妹に戻って、その兄に対してあたしは未だに恋愛しちゃってる。

そんで、兄はそれを切り抜けて、あたしとの約束を成し遂げた。 ということだよね。

……ふん。 上等だっての。

あたしはいつだってワガママだし、理不尽だし、素直じゃない。

でも、良いでしょ? 妹なんだし。

あたしは決意を固めると、京介に再び電話を掛けた。

京介「どうした? 急に呼び出して。 つうか具合は大丈夫なのか?」

……変わらないなぁ。 デート中だったはずなのに、妹の為にそれを途中で終わらせるだなんて。

黒猫じゃなかったら、とっくに振られてるよ、あんた。

桐乃「具合は平気。 京介に、話したいことがあったの」

あたしと京介は今、近くの公園へと来ている。

昔、一緒に良く遊んだ公園。

京介「そか。 また人生相談か?」

桐乃「ちょっと違うかな……。 うん」

京介「ふうん? ま、良いぜ。 聞くよ」

言ったとしても、何も変わらないかもしれない。

昔のあたしだったら、それを伝えるなんてことは絶対にしなかったけど。

想い続ければ、いつかは届くはず。

京介は京介で、あたしはあたし。

そんなの、どこでも一緒だから。

どこまで行っても、どこに行ったとしても、一緒。

だから、あたしは言う。 あたしとあたしが想っていることを。 いつになく素直に、率直に。

桐乃「あたしは」

桐乃「……あたしは、京介のことが好き。 京介が黒猫と付き合っているのはイヤ。 ううん、黒いのだけじゃなくて、誰と付き合っててもイヤ。 辛くて、悲しくて、涙が出てくるから」

桐乃「あたしは、兄貴が好きで、京介が好きで、そんな……兄に恋しちゃってる妹だけどさ」

桐乃「でも、あたしはこの気持ちを押し殺すなんて出来ない。 ワガママで、迷惑掛けて、うざがられてた時もあるかもだけど」

言葉を紡ぐ。 いつかのあいつの様に。

しっかりと顔を見て、逸らす事無く、最後まで。

桐乃「あたしは、京介が居ないと幸せになんてなれないから」

桐乃「だから、これからずっと、あたしと歩いて欲しい。 一緒に」

最後の言葉を言い終わり、あたしは笑顔をあいつに向ける。 先ほどとは違って、心からの笑顔。

そしてその時、何故か……あたしはあたしの姿と京介の姿を眺めているような感覚を受けていた。

いや、それは最初からずっとだったのかもしれない。 目が覚めてから、なんとなく……だけど。

京介「桐乃……」

京介「……そうか。 やっぱ、そうだよな」

京介「なあ、桐乃。 俺-----」

京介がそう言った瞬間、視界が白く染まった。

「おい、大丈夫か? 桐乃!」

声が聞こえる。 はっきりと、近くで。

桐乃「……京介?」

頭は若干痛く、体は熱を持っているのが分かる。 それと、やけに体が重い。

京介「……良かった。 急に倒れるから心配したぞ。 病院行くか?」

やっぱり、夢だったのかな。

桐乃「ん……だいじょぶ。 ただの風邪だから」

あたしは言いながら、体を起こす。

京介「分かってたなら言っとけっつうの……はあ、マジで死ぬかと思った」

布団のすぐ横、京介は心配そうにあたしを見ていた。

……心配そうにというよりかは、安心した表情と言った方が正しいかも。

桐乃「うん……ごめん……う、うう」

それが、今のあたしにとってはとても嬉しいことで。

嬉しくて嬉しくて、気付けばあたしは泣いている。 いつから、こんな泣き虫になってしまったのだろう?

京介「お、おい? 悪い、なんか嫌なこと言ったか? 俺。 ごめんな、桐乃」

桐乃「ひひ……そうじゃないっての」

慌てる京介が面白くて、ついつい笑ってしまう。

京介「……そか。 大丈夫か?」

桐乃「……大丈夫じゃない。 だから抱き締めて」

涙をぽろぽろと零しながらも、笑顔であたしは言う。 はっきりと、大好きな人に向けて。

京介「おう。 任せとけ」

京介は言うと、あたしを抱き締め、頭を撫でる。 暖かくて、嬉しくて、幸せで。 京介の匂いはとても、安心できる物だった。

桐乃「……会いたかったよ」

京介「なに言ってるんだよ。 毎日会ってるじゃねえか」

桐乃「……そだね。 えへへ」

多分。

あたしが見ていたのは、夢じゃなかったのかもしれない。

こんな風に考えてしまうのも、もしかしたらあの黒猫の所為なのかな? あの電波女め。

でもさ、やっぱり……夢というよりかは、別の話って感じ……だったんだよね。

だから、あたしはこう思うことにしよう。

頑張れ、あたし。

今回は、そんなちょっぴり変わった話。


見る夢は 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

親友が「夜魔の女王(クイーンオブナイトメア)」だけに悪夢を見させられたって事なのかな。
体調が良くないと理由も無く不安になるものだけど。

途中から夢落ちを予想してしまった自分が怖いw

ネタが尽きたらで良いんですが、最初の長編を桐乃視点で…m(_ _)m


本編1話からずっと追っ掛けてて、今回の話をちょっと考えてみた。
京介が「なあ、桐乃」って言うときって必ずその後のきりりんは嬉しそうにしてるか、幸せそうにしてるかなんだよね
たったそれだけだから偶然かもしれんが、俺は今回の話のきりりんも幸せになったと思い込む事にした

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>489
本編全てを桐乃視点から、となると文量的に厳しい物があるので、この話を桐乃視点から~といった感じで書いて貰えれば、書きますよー
桐乃の思っていることも考えながら書いていた筈なので、多分書けると思います多分

>>493
ノーコメントで!!
昨日のお話については、パラレル的要素が強いので、明確な感じで「これ」と言った物は無いです。
結構思い付きで書いているので、読んでくれた方がそれぞれ考えてくれればなと思っています。


13時頃から、本日の分投下致します。

投下致します。

桐乃「なーんでクリスマスまでわざわざあいつらに会わないといけないワケ?」

俺の隣を歩く桐乃は先ほどから、こんな感じの文句を永延と垂れている。 もう言わなくても分かるとは思うが、言動とは裏腹に表情はとても嬉しそうだ。

京介「んだよ。 じゃあ俺だけでいこっかなー」

桐乃「はぁ? 京介は家で一人の方が似合ってるし。 だからあたしだけで行く」

……仮にもこいつ、俺の彼女でもあるよな? なのに家で一人が似合ってるってどういうことだよ。 妹としても、彼女としても今のは酷い!

京介「ふむ……ああ。 そういうことか」

桐乃「なによ。 一人で納得されても困るんですケドぉ」

京介「要はあれだろ? 俺が黒猫とか沙織と話すのが嫌だから、桐乃しか話せない家に居ろって言いたいんだよな?」

桐乃「……」

桐乃「自意識過剰乙! 黒いのとかにいくら言われても、あんたはあたし大好きだから大丈夫っしょ?」

ぽかんと口を開けた後、桐乃は若干慌てながらそう言う。

いやてか、どっちが自意識過剰だっつーの。

……でも確かに桐乃の言うとおりではあるからな、そうでも無いのか?

京介「……どうだろうな?」

が、俺は敢えてそう言った。

桐乃「ふん。 そんな風に言ったって、分かるっつーの」

言いつつも、若干だが不安そうな顔付きだぞ、こいつ。

可愛いなぁ。 堪らん! だけど、こんな顔をいつまでもさせておくのはあれだよな。 うむ。

京介「んな不安そうにすんなよ。 お前の言うとおりだっつうの」

俺は言い、桐乃の頭の上に手を置く。

桐乃「……知ってるし」

京介「ほう? じゃあどうして「本当かな?」みたいな顔してんの? はは」

桐乃「……知ってるし! そんなの知ってるし、そんな顔してないし!」

京介「そうかいそうかい。 分かったよ」

桐乃「……チッ」

この舌打ちでさえ、最早可愛いの領域だよなぁ。 ったく、昔の俺はこんな奴が近くに居たのに、何をしてたんだか。

そんなことを考えながら横を見ると、桐乃は頬を少し赤く染め、むすっとした顔付き。

桐乃「……さむ」

呟く桐乃を見て、俺は一つのことを思い出した。 丁度今から一週間くらい前のこと。

京介「そーいや、ぶり返さないように気をつけろよ? 一応、病み上がりなんだしさ」

桐乃「大丈夫大丈夫。 もう完璧だって」

京介「……馬鹿は風邪を引かないってこと?」

桐乃「……喧嘩売ってる?」

これでもかってくらい俺のことを睨んでやがる。 顔はすげえ可愛いのに、そんな形相するんじゃねえよ。

京介「はは……まさか」

桐乃「てゆうか、逆でしょ。 京介が風邪を引かないのはそれが原因だと思うケドぉ」

京介「……前に引いたろ。 お前が看病してくれた時」

桐乃「え~? 覚えてなーい。 なんのことぉ?」

こいつの中じゃ、あれは割と無かった事になってるんだよな。 あの時、勢いに任せすぎた所為だろうけど。

京介「それならそれでいいよ」

俺はそれが面白く、笑いながらそう言った後、続ける。

京介「……ああ、それでさ」

桐乃「なに?」

京介「この前、何でも言う事聞いてくれる券……くれたろ?」

桐乃「……あー。 あったね。 それが?」

……嫌そうな顔するんじゃねえ! お前がくれた物だろうがよ!

京介「あれな。 今、使わせて貰う」

俺は桐乃に告げると、財布からその紙切れを取り出す。

桐乃「……そこまで大事そうに仕舞ってあると、怖いんですケド」

京介「ん? 当たり前だろ。 だってこれを使えば桐乃が何でも言うこと聞いてくれるなんて、夢の様な話じゃねえか!」

桐乃「ストップ、ストップ。 何でもって言っても、ヘンなことに使わないでよ」

京介「……例えば?」

桐乃「その……アレをアレしろとか。 そういう系」

ジェスチャーを付けるな! 見ている俺が恥ずかしいだろ!

京介「……エロゲーやりすぎだぞ、お前」

桐乃「お、お互い様でしょ!! で、なに? そうじゃないなら何に使うっての?」

むしろ、それしか浮かんでこないお前は相当だと思うがな。

……それを考えた事があるのは黙っておこう。 そうした方が賢明だし。

京介「えっとな、じゃあ」

俺はその紙を桐乃に渡し、言う。

京介「桐乃の場合、言っておかないと分かってないかもしれないから、言っとく」

京介「自分の体、もっと大事にしてくれ。 もし体調悪かったら、俺に言ってくれ」

京介「俺に何が出来るかなんて分からないし、何もできねえかもしれないけどさ」

京介「それでも俺はお前の兄貴だから、心配なんだよ。 お前のことが好きな奴としてもな」

俺が言うと、桐乃は驚いたような……嬉しいような、そんなのが混ざった様な顔をしていた。

京介「……聞いてくれるか? この命令……っつうか、約束っつうか」

桐乃「……あんたのことだから、どうせ「コスプレしてくれ」とか「一日敬語で話してくれ」とかゆうのかと思った」

想像以上に酷い感想だ……。 もっとこう、ありがとう! みたいなのはねえのかな?

桐乃「でも……うん。 良いよ。 分かった」

京介「おう。 サンキュー」

これが、黒猫と沙織が待つ場所へ行く道中の会話。

その最後に見たのは、機嫌が良さそうな桐乃の顔だった。

今から数ヶ月前の話。

桐乃が修学旅行に行っていて、俺と沙織と黒猫と、三人で今日のことを決めた時の話だ。

黒猫が提案した桐乃へのサプライズだが。

「わたしが提案するのは」

「あのビッチが好きなメルルのコスプレを皆でする。 というのはどうかしら?」

「それぞれ合った衣装を着て、BGMであの電波ソングでも流しておけば、涙を流して喜ぶと思うのだけど」

「ほほー。 なるほど。 確かにきりりん氏が喜びそうなアイデアですな」

「でもよ、あいつは俺が連れて行くんだぜ? 俺はどーしたら良いんだよ。 予めコスプレとかしてたらばれるだろうし、何よりその格好で外を歩くのは嫌だぞ……」

「分かってないわね。 あなたは何もしなくて良いの。 その場ではね」

「その場では?」

「……まあ、良いわ。 クリスマスは基本、ビッチとチャラ男が仲良くする日でしょう? 後は自分で考えなさい。 このチャラ男が」

「……お前そろそろ怒るぞ?」

と、こんな感じの会話があった。

桐乃「うはー! あんたそれどうしたの? アルちゃん似合ってないし! ウケる~!」

黒猫「うるさいわね。 わたしもこんな格好より、どうせならダークウィッチの方が良かったわよ」

桐乃「メルルにまで厨二持ち込まないでくんない? ダークメルちゃんはそんなんじゃないっつうの」

沙織「はは。 似合っておりますぞ。 黒猫氏」

京介「……そう言うお前はどうしてコメットくんなんだよ」

もはや人間ですらねえじゃん。

桐乃「てゆうか、言ってくれれば良いのに! あたしもしたかったぁ!」

お前を驚かせる為の物だしなぁ。 言えるわけがない。

沙織「はっはっは。 心配御無用! きりりん氏の分もしっかりと用意してありますぞ」

桐乃「ま、マジ!? どれどれ!?」

黒猫「あれよ。 ダークウィッチ状態のメルルに付いているコメットくん」

桐乃「……マジ?」

京介「適当なこと言うなって! お前が一番好きなメルルだよ」

桐乃「うっは! なら着替える! 今着替える!」

これだけ嬉しそうにしてくれるなら、このパーティもやった甲斐があったよな。

つか、なんでお前は服に手を掛けてるんだよ!? 一応俺が居るんですが!!

京介「待て待て待て! 落ち着け! 桐乃!」

桐乃「へ? あ、う……うん」

桐乃は気付いたのか、脱ぎかけていた服を戻し、その場にあるソファーに腰を掛ける。

桐乃「そ、そーいえばさ。 これって誰が計画してくれたの?」

京介「パーティ自体は沙織。 で、企画は黒猫」

桐乃「……あー。 そうゆうことね。 ありがとね、沙織」

桐乃「と、黒猫も」

黒猫「わたしをついでみたいに言ったのが癪に障るわね……まぁ、良いわ。 それより早くあなたも着替えなさいな」

桐乃「ひひ。 おっけおっけ……あれ」

桐乃「そーいえば、京介はしないの?」

やっぱ突っ込むよなぁ、それ。

京介「ん。 あー、俺は良いんだよ」

桐乃「ふうん? ま、良いや」

桐乃「じゃあ、着替えるからあんたは早く出てって」

京介「……へいへい」

もうちょっとあれだよ、言い方優しくしてくれねーかな! 桐乃らしくて良いっちゃ良いんだけどよぉ。

しかし文句を言わず、俺は渋々部屋を出て行くのだった。

桐乃「ふひひ。 どう? 可愛い?」

部屋を出て廊下で一人寂しくぼーっと突っ立っていた俺は、少し経った後に呼び戻される。

部屋の中に入ってくる俺を見て、桐乃はすぐさまそう言った。

……うん。 勿論可愛い。

ていうか、この衣装露出度アニメのより高くねえか!? ヤバイだろこれは!

京介「う、うむ」

黒猫「ふふ。 どう? 可愛いかしら?」

俺が答えるや、黒猫が桐乃の横に立ち、言う。

京介「……まあ」

と答えれば桐乃は俺のことを睨み。

京介「あ、も、勿論桐乃の方が可愛いけど……」

と答えれば黒猫が「イチャイチャしないで頂戴」という。

……どうしろっつうの? 俺はどんな試練を受けているんだよ。

沙織「拙者はどうでござるか? 京介氏」

京介「お前のが一番コメントしづらいぞ……?」

なんか、沙織のはコスプレというよりは着ぐるみで遊園地とかに居るキャラクターみたいだし。

桐乃「ま、あたしが一番可愛いのは仕方ないかぁ! 素材が良いしね~」

黒猫「あら。 先輩は確かにあなたが一番可愛いとは言ったけれど、一番似合っているとは言っていないわよ? ねえ、先輩」

京介「……確かにそうだが」

桐乃と黒猫、どっちがより本物っぽいかと言われると……黒猫なんだよなぁ。

桐乃とメルルじゃ、そもそもイメージ全然違うし。 それを言ったら黒猫もなんだけど……黙っていれば似ているし。 今回は髪もこいつは用意しているし。

桐乃「そんなのどーでも良いし。 京介が可愛いって言ったあたしの勝ち。 分かる?」

嬉しい判定方法だぜ。 それならもう桐乃さん以外に勝てる人いないじゃないですかぁ!

……これはちょっとキモいな。 自分の頭の中だけど。

黒猫「いつから勝負になったのよ。 まぁ、今日くらいはあなたの勝ちでも良いけれど」

桐乃「てゆうかぁ。 今日くらいとか言っちゃってるケドぉ。 あんたがあたしに勝ったことってあったっけ?」

俺の記憶が正しければ、つい昨日もシスカリのネット対戦でぼっこぼこにされていた気がするけど。

最終的に俺が被害受けてるんだからな? 色々と。

沙織も黒猫もそれを踏まえた上で、桐乃の相手をして欲しい物だ。

いや、踏まえた上で桐乃をぼっこぼこにしている可能性もあるのか?

……考えないでおこう。

沙織「まあまあ、お二人とも仲良くしましょうぞ。 折角のパーティですしな」

桐乃と黒猫は沙織の仲裁を受け、お互いに顔を逸らす。 もう見慣れた光景でついつい笑ってしまう。

京介「はは、全くだな。 楽しもうぜ」

こんな感じの出だしではあったが、その後は大分うまく桐乃を楽しませてやることが出来たと思う。

笑って、騒いで、たまに言い合い。

騒がしくはあるけれど、俺はそんな空気が好きだ。

桐乃が居て、黒猫が居て、沙織が居て。

この関係が壊れてしまうことなんて、もう無いだろうなという、確信めいた物が俺の中にはあった。

黒猫「喜んでいるかしら。 桐乃は」

黒猫は座る俺の近くに来て、尋ねてくる。

……こいつも結局は心配なんだよな。 それが。

京介「喜んでいるさ。 友達がここまでしてくれたんだからよ」

俺は沙織と何やらゲームで対戦している桐乃を見ながら、言ってやる。

桐乃がこれで楽しまないわけが無いだろ。 そんなのはもう、分かりきっていることじゃねえか。

黒猫「それなら良かった。 でも、一番大事なのはこの後のことよ? あなたは分かっているの?」

京介「当たり前だろ。 今年こそ、失敗はしたくねえし」

黒猫「……あなたが言っているのは去年のこと、よね?」

京介「まあな」

黒猫「わたしは詳しくは聞いていないから知らないけれど、それが失敗だったとは思えないわよ」

京介「……どーだか」

黒猫「例えばの話をするわ」

黒猫「選択肢が二つ、三つ、あったとして」

黒猫「あなたはそれを選んできた。 何個もの選択を」

黒猫「それについては、どう思っているの?」

俺が選んできた選択。 それは多分。

京介「……間違いだらけだったかな、って感じだ。 もっと桐乃を幸せに出来る選択はあったんじゃねえかって」

黒猫「それは後悔? やり直しをしたいという、後悔?」

京介「後悔では無いな。 やり直したいとも思っていない。 間違いだらけだけど……俺と」

京介「俺と、桐乃が選んだ物だからよ」

黒猫「……そう」

黒猫は小さく笑いながら、呟く。

黒猫「もしかしたら、だけど。 最近の桐乃を見て、一つそうかもしれないと思ったことがあるわ」

京介「……なんだ?」

黒猫「ふふ。 あなたは、選択を間違えてなんかいなかったのでは無いかしら」

黒猫「全て正解を選んだからこそ、今の状態では無いのかしら」

そういう考えも、ありなのかもしれないか。 間違いではなく、正解だったと。

京介「……どうだろうな。 神様にでも聞かなきゃ分からないさ、それは」

黒猫「ふふ。 そうね」

黒猫「でも、あなた程の重度のシスコンが、妹ルートの選択を間違えるとは思えないわ。 やっぱりね」

京介「……改めて言われるとなんか恥ずかしいぞ」

黒猫「え……? あなた……ちょっと待って」

黒猫は言うと、若干引き気味になりながら続ける。

黒猫「……シスコンという言葉を褒め言葉として受け取っていない?」

京介「……」

京介「……ほっとけ!」

俺は桐乃よろしく、黒猫から顔を逸らす。

黒猫「あら? 図星だったのかしら。 耳まで真っ赤よ。 せ、ん、ぱ、い」

言いながら、黒猫は俺の方にじりじりと近寄る。 待て、このパターンは。

桐乃「あんたなにいちゃついてんのよ!! ここ来るときに言ってた言葉もう忘れたの!?」

ほらあ! 桐乃のアウトラインに入ったじゃねえかよ!

黒猫「嫉妬の塊の女は醜いわね。 ふふふ。 今わたしはあなたのお兄さんと愛を囁きあっていたのよ」

桐乃「は、はぁ!? ちょっと京介説明して!!」

京介「そんなことしてねーよ!!」

黒猫のヤロー……。 良いぜ、分かった。 お前がそうなら俺にも手はある。

桐乃「……ふうん?」

疑ってるなぁ、こいつ。

京介「ええっと、確か「喜んでいるかしら、桐乃は」って聞いてきたんだよなぁ? 超不安そうな顔付きでさ!」

黒猫「わ、わたしはそんなこと聞いていないわ! 捏造しないで頂戴!」

捏造じゃねえし、最初に捏造したのはお前だぞ!?

桐乃「へ~。 あんた心配してたんだ? あたしが喜んでるかどうか」

桐乃はここぞとばかりにニヤニヤ笑い、黒猫に言う。

一文抜けてました。


京介「つうかだな、最初に話し掛けてきたのは黒猫だ!」

桐乃「……ふうん?」

疑ってるなぁ、こいつ。

京介「ええっと、確か「喜んでいるかしら、桐乃は」って聞いてきたんだよなぁ? 超不安そうな顔付きでさ!」

黒猫「わ、わたしはそんなこと聞いていないわ! 捏造しないで頂戴!」

捏造じゃねえし、最初に捏造したのはお前だぞ!?

桐乃「へ~。 あんた心配してたんだ? あたしが喜んでるかどうか」

桐乃はここぞとばかりにニヤニヤ笑い、黒猫に言う。

黒猫「ふ、ふふふふ。 それはあくまでもハッタリ。 今、まさに今これから、あなたをどう抹消しようか策を練っていたところよ」

照れ隠しにしても恐ろしい言い訳だな。

桐乃「そかそか。 ひひ」

黒猫「な、なによ……?」

桐乃「ありがとね。 今日めっちゃ楽しんでるから、そんな心配しなくて良いっつーのに」

黒猫「……そ、そう。 なら良いわ」

見ていて微笑ましい光景だよ、全く。 俺もなんだか楽しい気持ちになってくるぜ。

桐乃「でも、あんたはベツだから。 家帰ったら説教ね」

京介「……お、俺っすか?」

桐乃「あんた以外誰が居るのよ。 とりあえず家の中入ったらすぐ正座だから」

……なんか、デジャヴだなぁ。 似たようなことが前にもあった気がする。

京介「……分かりました。 桐乃さん」

引き攣った笑いになりながら、俺は泣く泣く桐乃に言うのだった。

そして、素直に従う俺を見て黒猫と沙織は会話を始める。

沙織「……将来の姿が目に浮かびますな。 黒猫氏」

黒猫「……そんなの分かり切っていることでしょう? あの男はマゾなのだから」

京介「好き勝手言ってるんじゃねえよ! 俺はマゾじゃねえ!!」

桐乃「え? そうなの?」

京介「……お前なぁ」

桐乃「あやせがそう言ってるから、あんたあたしに怒られるの楽しいって感じてるんだと思ったケド」

あいつは一体俺をどんな目で見てるんだよ!? ていうか、そうだとしたらあやせが俺に暴力を振るっていたのってそういうことなのか!?

……そう考えると可愛いな、あやせ。

いやそうじゃねえ。 騙されるところだったぜ。 勝手に俺の桐乃に適当なことを言いやがって!

京介「あやせの奴め……! なんてことを言いやがる!」

黒猫「でも、あなたって桐乃に怒られてるときでも嬉しそうにしているわよ?」

京介「……それは無いだろ?」

沙織「いえ、黒猫氏の言うとおりでござるが……」

……もしかして、俺が気付いていないだけでそうなのか?

いやいや、それはねえって!! さすがに!!

京介「……ていうか、俺がそうじゃないって言うなら、桐乃は俺に優しくなるわけ? 普段」

桐乃「今だって充分優しいじゃん?」

京介「それはそうだが……」

桐乃「ならよくなーい? てゆうか、どう優しくしろっての?」

京介「そうだなぁ……」

「京介ー。 ご飯できたよー! ほら、いつまで寝てるの?」

「……もうちょっとだけ」

「もう! 仕方ないなぁ」

言い、桐乃は俺にキスをしてきた。 寝起きで。

「お、おまっ!」

「えへへ。 目、覚めた?」

「……そりゃな」

「じゃ、ほら。 お返しは?」

「わーったよ。 やれやれ」

京介「うへへへ……」

黒猫「沙織、救急車を呼んで頂戴」

沙織「承知しました。 黒猫氏」

桐乃「あ、あんた……あたしでヘンな妄想すんなッ!!」

頭に痛み。 桐乃の肘打ち攻撃。 あやせには及ばないが中々の物理的攻撃力だ。

京介「いってえ! 別に俺がどんなこと考えようが良いじゃねえかよ!!」

桐乃「だ、だからって寝起きでキスとか意味わかんないし!!」

京介「お、俺、口に出してたか……?」

黒猫「大分垂れ流し状態だったわ」

沙織「京介氏の頭の中は愉快ですな。 ははは」

……泣きたくなってきた。 なんか。

京介「つうか、桐乃はどの程度ならセーフなんだよ!? そう言うけどよ!」

桐乃「あ、あたし? あたしは……」

「たっだいまー」

「おう。 おかえり、桐乃」

「今日、チョー疲れたんだよねぇ。 いつもより仕事長かったしぃ」

「そっか……大変だったな」

京介は言うと、あたしを後ろから優しく抱き締める。

「ちょ! い、いきなりヤダって……」

「良いじゃん。 俺はそうしたいんだって。 お前は?」

「……聞かないでよ。 てゆうか、あたし少し汗掻いてるし」

「気にしねえよ、そんなの。 もしお前が気にするならさ、一緒に風呂入るか?」

「……京介がそうゆーなら、そうしよっかな」

桐乃「ふひ、ふひひひ」

沙織「黒猫氏。 至急、救急車の手配を」

黒猫「ええ、任せて頂戴」

京介「お前も大して変わらねーじゃんか!! 人のこと言えねえだろ!?」

いや、それより大分収穫があったぞ。

まず、桐乃が帰ってきたらすぐ抱き締めて欲しいと思っていることと、俺と一緒に風呂に入りたがってるということだ。 やったぜ。

桐乃「な、なに聞いてんの!? サイテー!!」

京介「だだ漏れだったからな!?」

……てか、俺のも今みたいな感じで漏れてたのだろうか。 そう思うと更に泣きたくなってきたんだけど。

黒猫「本当に、似た物同士お似合いで羨ましい限りだわ」

沙織「拙者としては、背中が痒くなる思いですが……」

そんな二人の言葉を受け、俺と桐乃は揃って顔を赤くすることになった。


クリスマス 前編 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

自分のIDがなんか綺麗!

おつおつ

おつおつ

ちょっと気になったが>>496
>こんな感じの文句を永延と垂れている。
延々と、じゃないか?
そもそも永延って年号みたいだし、SSとはいえ軽く推敲した方が良いんじゃないの?

空気読めないレスですまん、気に食わなかったらNGにでもしといてくれ

>>555
指摘ありがとうございます。
まとめて落とす時の方は修正しておきます。
推敲は一応しているのですが、抜けてしまうこともあるので。 申し訳ない。

それとついでに。
次の投下ですが、多分月曜日になると思います。 勿論明日出来ればしますが、月曜日になる確率が高め。

乙、感想ありがとうございます。

「まいらいふ」なら「妹命」だろう
「妹愛」なら「まいらぶ」じゃないか?

何かが好きなことを○○命!って言うだろ?
つまりシスコン、妹至上主義、故に「妹命!」
ここで命を英訳しライフと読み、妹を音読みしマイと読んでMYとかける
MY LIFE = 我が人生
妹大好き!!妹こそ我が人生、我が命!!

京介にピッタリじゃん

乙!

風呂一緒に入るときってタオル巻いてたっけ?
なんか知らんがすごく気になって眠れない

エロはない方向なの?

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

>>564
タオル巻いていたのは本編のお泊りした時だけですね。
それ以外は・・・

>>566
今日のお話の次のお話がそれに近いかもです。
露骨には書けませんが・・


それでは、投下致します。

桐乃「あー、楽しかったぁ」

京介「なんだ? 珍しく素直じゃねえか」

桐乃「珍しくは余計だっつうの」

桐乃は背伸びをし、俺の頭を叩く。

それは本当に軽い叩き方で、なんだかそれが可愛らしく、俺はついついにやけてしまう。

桐乃「なに幸せそうな顔してんの? もしかしてホントにマゾ?」

京介「ちげーよ! アホかっ!」

桐乃「ふうん? ま、どっちでもいいケドね~」

桐乃「それより早くかえろ。 ご飯の準備しないといけないし」

桐乃は言いながら、俺の少し前を歩く。

桐乃「でも、もーちょっと遊んでても良いのに。 あいつら「今日はこれで終わり」とか言い始めちゃってさぁ」

そんな文句を言う妹に、俺は後ろから声を掛けた。

京介「なあ、桐乃」

桐乃「なに? どしたの?」

京介「……今からちょっと遊び行かないか? 折角のクリスマスだしよ」

それが今日、俺が考えていた桐乃へのプレゼントだった。

桐乃「……そう考えてたなら最初から言えばいいのに」

京介「それじゃお前へのサプライズにならねーじゃん。 驚いたろ?」

桐乃「ふん……まあね」

京介「へへ。 嬉しそうで何よりだ」

俺がついさっき遊びに誘ったとき、桐乃はすぐに頷き、今はこうして二人で電車に揺られている。

桐乃「それで、どこ行くつもりなの?」

京介「言ったらつまらないだろ。 多分、桐乃は喜ぶと思うけどな」

桐乃「なら良いケド」

言いながらふいっと顔をそらす桐乃。 それを見て、俺は自然と笑っていた。

電車の外から見る限り、既に外は真っ暗。 時刻は19時になりそうなところ。

……これなら丁度良いだろう。

桐乃「ここって……」

京介「俺たちにとっちゃ、思い出の場所かもな」

来た場所はスカイツリー。 前に来たのは……もう、二年前のことになるのか。

桐乃「京介があたしを泣かした場所じゃん? ひひ」

そういう言い方は止めて貰えないでしょうか。 桐乃さん。

京介「悪かったな……」

桐乃「良いよ。 もう」

桐乃は言うと、スカイツリーを見上げる。 その横顔は笑顔でいっぱいになっていて……俺にはもう、身に突き刺さる寒さなんて物は全く気になくなっていた。

桐乃「ほら、なにぼーっとしてんの。 行くんでしょ? 上」

京介「おう。 今日はゆっくり見ようぜ。 前回は途中でお前逃げちゃったしな?」

さっきの仕返しとばかりに言う俺。 桐乃はそれに唇を尖らせながら返す。

桐乃「チッ……そーゆう乙女心を傷付けることを言わない方がいーよ。 あたしじゃなかったら今のでもう今日は終わってるから。 サイアクその場で別れることになるからね?」

京介「かもな」

俺の言葉に、桐乃は少し不満そうな顔をする。

だから俺は、こう付け足した。

京介「で、お前はどうなんだ?」

桐乃「……ばーか」

はは、返事としては充分だな。

京介「俺はお前が居れば良いよ。 桐乃は?」

桐乃「……ふん」

桐乃は俺の手をしっかり掴むと、展望台へと向かって歩き始めた。

ったく、つくづく会話が成立しねー奴だぜ。 でもまあ、俺には何を言いたいのか大体想像が付くけどな。

京介「なんか、懐かしいなぁ」

桐乃「そんな時間経ってなくなーい? おじさん臭いこと言わないでよ」

展望台から夜景を眺めながら、俺と桐乃は話す。

京介「へいへい。 で、どう? 感想は」

桐乃「……ぶっちゃけて言っていいの?」

京介「そりゃな。 お前の気持ちが知りたいし」

桐乃「あっそ。 じゃあ正直にゆーケドぉ」

桐乃「なんてゆうか、二回目になると感動薄いかも」

……大分正直に言ったな、こいつ。 まあ俺も感じていたことではあるが。

京介「そうか」

桐乃「……もしかして予想してた? あたしがこう反応するって」

京介「そこまで分かれば苦労しねえよ」

       /  . : : : : :/ : : : . . . . : : : : : : : : : : : .   ヽ.        ハ
       ' . . .   . : :イ: : : : : . . . . \: : : . . . . : : : :  ハ    }       }
     / :/   : /.. /|: {   . . . . . . :ヽ : : . .ヽ. :    ‘>ァ      ト,
     .' :イ . : : ::/ :/  {: :卜..       ‘,   ハ    . . . iく      卜 }
     i/ ! . : : イ ∧  ‘:. :{  \ : : : : : : : ヽ:/,ィi: : : : : . | `\ }   .ん'′
     ! | : : :' |ム__\∧:‘    \:. _>彡<: ; | : : : : : . | ミ、: ヽ  /イ`ヽ
     { { : :|l〃〃(`ミー:.‘.  、、__ >≦:._:.:./ィ| : : :i:. : 厂`ソヽ} / // ノ
     ,小:. : :|バ {ミ:; :i   ヽ:、  ̄フ爪:::(_iミ<Vi : : : :}-yー:彡'i{ / / i {
      { {.∧: ‘.   乂ソ   `\   {ミ :;、.リ i}゙ リ : : .ん 爪 \j|'  { | }
      | 、 ト、∨i/           乂_ン ノ / : ..:/  ′   ヽ   }. j {
     入. ヽ.}:.{`\      '            / : .::厶' ノ     i /ス.化ノ
     乂_トミ、.|八             /i/ン .: イ≦´       l}《L}′
        てハl : :i\       __     ‐≦- フ:. /         厂j/
         マ } : |.   .  ´   `     . イ }:i:;′       人iン′
         ∧i : |ヘ   }> .     .. ≦ {   |:i{/       /__ソ
        ゙}: :| ∧  `ヽ  } ̄ 〃´  〃  }:i′    __ j_ノ
           }! :|  丶.  ト、  ..   ノ   jノ   ノ´爪ン7′あんたら色々と突込み所満載だけど、
           |} .|     \  廴ノ-\r’   人厶こ>ー'´ /  原作を知らなくても楽しめるし、原作を知って
.          八、:V     | ̄ `ヽ=く_,.~ー} ,′    , ′  いればより楽しめるって事で良いじゃん。
         '.、:{     |          /イ     イ
         ‘.`乂   j       _ノ′     ,  なんか文句ある?

           ‘,    |      フ':i′      ,′
             }     {     ー≦彡|      /

桐乃「でも、あんまりショックじゃないんだね。 そんな風な顔してるケド」

そうだな。 それは桐乃の言うとおりだ。 俺はそう言われて、あまり残念だとか、悲しいだとか、そういう気分にはならなかったから。

京介「まあ、もしかしたらって言うか、俺もそう思ってたしなぁ」

桐乃「やっぱり? ひひ。 やっぱ兄妹似てるのかな?」

京介「少なくとも、俺は似てるとは思わないけど……」

桐乃「それはあたしも思ってるっつーの。 てゆうか、そもそもあたしと兄妹ってだけで、あんた超幸運だからね? 感謝してよ」

感謝要素が随分と沢山あるんだな。 愉快な奴だぜ。

京介「ありがたき幸せです。 桐乃様」

桐乃「……京介、やっぱりマゾでしょ?」

京介「いや……もうそれでもいい気がしてきた」

こういうことを言わせておいてこの台詞だからな。 桐乃には毎日驚かされっぱなしだ。 はは。

それと正しく言うと、お前がサドなだけであって、俺は断じて違うのだが。

まあ、それを言ったら怒りそうなのでやめておこう。

京介「んー。 秘密」

桐乃「植物園とか行ったらマジ怒るから」

京介「……さすがの俺でも、あれは無いと思ってるからな」

桐乃「へえ。 成長したんだ。 偉い偉い」

京介「……どーも」

今居る場所は展望台。

次に行く場所に掛かる時間といえば……そうだな。 徒歩3分ってところだろう。

桐乃「ちょ、どこ行くの? エレベーターあっちなんですケドぉ」

京介「良いから良いから。 付いて来いって」

桐乃「もう飽きたってのー」

文句をぶつぶつと言う桐乃を連れ、俺はある場所へと向かう。

……恐らく、桐乃が望んでいることだとは思うのだけど。

俺が向かったのは、展望台にあるレストランだ。

予約をしていたのもあり、すんなりと席まで案内される。 夜景が見渡せる席。 晴れのおかげもあり、クリスマスのおかげもあり、普段よりは輝いている町の景色が見渡せる。

桐乃はこのレストランに入ってからはずっと無言で、それが少しだけ怖く、俺はこうして桐乃と対面して座るまでこいつの表情を見ていなかった。

桐乃の正面に座って、こいつの顔を見て、俺はようやく口を開く。

京介「……泣くほど嬉しかったか? へへ」

桐乃「……だからずるいんだって。 先に言ってよ、ほんとにさ」

目に涙をいっぱい溜め、震えた声で桐乃は言った。

京介「最初に言ったろ。 サプライズなんだから言ったら意味ねーって。 で、桐乃はこういうの好きかなって思ったんだけど、どうだ?」

桐乃「……ウソみたいだけど、ホントなんだよね」

桐乃「折角だし、正直にゆうケド」

桐乃「ひひ……死ぬほど嬉しい」

桐乃は俺に笑顔を向けて、そう言う。

そんな顔を見るだけで、俺はこう思わされる。

やっぱり、俺はこいつが好きなんだなって。 妹としても、恋愛対象としても、好きなんだなって。

京介「そうか。 はは、そりゃ良かったぜ」

桐乃「なんか……泣いちゃってごめんね」

京介「良いよ、別に。 その涙はなんか、俺にとっても嬉しいし」

桐乃「そか……あはは。 なら良かった」

それからは二人で話しながら、夜景を見ながらの食事。 クリスマス当日となると予約を取るのもかなり大変で、四苦八苦した末に結局、俺は沙織の手を借りたんだけどな。

沙織は何も事情は聞かずに二つ返事で承諾してくれて、この場所を確保してくれた。 その代わりと言っちゃあれだが色々手伝わされたが。

……主に、バイトとかコスプレとか。 桐乃には内緒にしてあることだ、これも。

だけど多分、いつかは笑い話として話すのかもしれない。 それがいつかは、分からないけど。

これだけ苦労したのも、何だか桐乃の笑顔を見ただけでやった甲斐があったってもんだぜ。 こいつは心底幸せそうに笑っていて、俺もまた、幸せだ。

桐乃「ところでさ、京介」

京介「ん? どした?」

桐乃「……こう、驚かされっぱなしってのも負けたカンジでヤなんだよね」

京介「……勝ち負けじゃねえぞ?」

桐乃「あたしの気持ちの問題だって。 だから」

桐乃「いつか必ず、仕返しするから覚えといてね」

京介「……ほーう。 言っとくが、俺はそうそうのことじゃ驚かないぞ? お前に毎日驚かされてるし」

桐乃「ひひ。 あたしを誰だと思ってんの? 今日のこと、何倍にもして返してあげるから」

京介「おう。 楽しみにしとくぜ」

結局、この何年も後に俺は生きてきた中で、多分一番驚いたし感動したし泣いたことを桐乃にされる訳なのだが。

そう考えると、桐乃の中ではあの日のことはもう、この時既に頭の中では決まっていたのかもしれない。

京介「よし。 じゃ、街の中回ろうぜ。 見たい物とかあるか?」

桐乃「うん。 折角だし服とかアクセ見たいかな。 京介は?」

京介「俺は特に無いかな。 ていうかさ、桐乃」

京介「行きたいところ察しろって前に言ってたじゃんか? 今日は良いのかよ?」

桐乃「あー、今日は良いよ。 ずっと行きたかったところ、もう連れて行ってもらえたしね。 ひひ」

京介「へへ、そうか」

感動して泣いてくれるなんて、これほど嬉しいこともねえさ。 大好きな奴がそうしてくれたのなら、俺はもうそれだけで充分だしよ。

展望台で夜景を見終わった後、京介はあたしの手を引き、フロアの中をどんどんと進む。 夜景を一緒に見れるのはそりゃあ嬉しいケド……。

でも、それだけだとあれじゃん? あたし的には京介と一緒ならどこでも良いかなってのはある。 間違いなく、気持ち的にはね。

だけど、折角のクリスマスなんだし、もっと色々見て回りたいってのもあるよね。 限定アクセとか、あるし……。

そんなことを思いながら、京介に手を引かれる。

……ほんともう、ゴーインなんだから。

それにしても、一体、どこに行くつもりなのだろうか?

疑問に思いながらも、あたしは京介に向けて不満をたらたらとぶつけていた。

あたしの言葉に京介は笑って返すだけで、なんかバカにされてるみたいでムカつく。

そう思っているのに気付いているのか、いないのか。 京介はあたしの手をしっかりと握りながら、歩き続ける。

やがて、目的地と思われる場所に着いた。

そこにあったのはレストランで、京介が店員と話しているのを聞く限り、予約をしていたのだろう。

あたしはそれに驚いて、本当に全く予想していなかった事態に、息を飲んだ。 何かを言おうとした気はするんだけど、何も言えなかった。

仕事関係とかで話はたまにあるから知ってる。 この場所が予約するだけでも難しいっていうのも。

それに今日ってクリスマスだよ? それを考えると、京介はどれ程の根回しをしていたのだろう。

多分……誰かに、協力はしてもらったと思う。 でも、それでもあたしにとっては。

それだけで胸がいっぱいで、気付けば席に座っていて。

目の前に居る京介は、あたしに向けてこう言った。

「……泣くほど嬉しかったか? へへ」

……そっか。 あたし泣いちゃってるのか。

だから、いつもはっきりと見える京介の顔がぼやけて見えてしまうのだろう。

そりゃ、泣いちゃうって。

大好きな人があたしの為にしてくれて、大好きな人と一緒に夜景を見ながら食事して。

その大好きな人は、あたしを見てくれている。 外側だけじゃなくて、内側も。

それがすごく、本当にすごく……嬉しかった。

なんだろ。 こんな気分になったのは、いつ振りだろう。

……もしかしたら、京介がお父さんとお母さんの前で、あたしを好きだと言ってくれた時以来かもしれない。

あーもう! なんでこいつは時々こんな気持ちにさせるワケ!? ずるくない!?

こんなのされたら、マジであたしおかしくなっちゃうっての。

……はぁあああ。 とりあえず今日の分はあたしが計画しているアレで仕返しするとして。

それだけじゃなんか納得行かないよねぇ。

……よし、よーし! 決めた!

家に帰ったらめちゃくちゃ甘えてやろう。 京介がドン引きするレベルで甘えてやろう。 あたしをこんな気持ちにさせたあいつの所為だから、あたしは悪くない!

ぶっちゃけて言っちゃうと、今すぐこの場で京介の膝の上にでも座ってやりたい気分だケド……さすがに人目があるしね。 残念ながらムリ!

う、うう……あたしを我慢させるなんて良い度胸じゃん。 京介め。 後悔しても知らないから!!

京介「良かったな、欲しい服とかアクセあって」

桐乃「うんうん。 やっぱこういう日は限定物あるからねぇ」

桐乃の様子からして、かなり満足できる物があったのだろう。 先ほどからずっとにやにやしっぱなしだしな。

今はこうして家に向かって歩いているのだが……なんか距離が近くねえか?

ま、まあ。 まあそうだな、悪い事では無いし、良いけどよ。

京介「……なんていうか、桐乃はやっぱり桐乃だよな」

桐乃「へ? どしたの、急に」

京介「いや……アキバ行ったときと、今日みたいに服とかアクセとか見てるときも、同じくらい楽しそうだったからさ」

桐乃「そんなの当ったり前でしょ。 両方があたしだもん」

桐乃は数歩先に進んだ後に腕を組み、俺の方を向きながら言う。

桐乃「でもね、一つ良いこと教えてあげよっか?」

京介「良いこと? なんだ?」

桐乃は組んでいた腕を解き、俺に背中を向け、一歩、二歩、歩く。

そして止まると、桐乃は俺に背中を向けたまま口を開いた。

最後に振り返り、桐乃は今日一番の笑顔を俺に向ける。

……うおう。 それは反則だぜ、桐乃さん。

京介「……今年ももうすぐ終わりだけどよ」

京介「最後にお前にそう言って貰えて、俺すっげー嬉しいわ。 ありがとよ、桐乃」

桐乃「えへへ。 どーいたしまして。 でもまだ後何日かあるんだから、もっと嬉しいことあるかもじゃん?」

京介「よっぽどのことじゃなきゃ、今の言葉より嬉しいことなんてねえよ」

京介「……そうだな。 なあ、桐乃」

京介「俺は本当に、お前を好きになれて良かった。 お前に好きになってもらえて良かった。 お前と会えて良かった。 そんで」

京介「お前の兄貴で、良かったよ」

桐乃は少しだけ口を開き、何かを言おうとしたが……それを飲み込む。

代わりといっちゃあれだが、桐乃は数歩後ろで止まっていた俺の隣まで来て、俺の腕に自身の腕を絡ませる。

京介「……はは。 返事は無しか?」

桐乃「分かるでしょ? そのくらい。 ひひ」

そうだな。 もうそんなのは、俺にとっては考えるまでも無く分かることだ。 だから、たまには静かに帰るとしよう。

横に居る桐乃の体温は暖かくて、俺の心も自然と暖まる。

それは多分……こいつも一緒。

ここ数年のクリスマス、桐乃は心の底から楽しんでいなかったかもしれない。 最初から最後まで、な。

一昨年は……イブだったけども。

今年はお互いに、最初から最後まで楽しめた。 そんな、クリスマスだった。

俺と桐乃はその日あったことを話しながら、俺たちの家へと向かって帰っていく。

まあ。

……家に帰ってから、大変だったけどな。

その話は、次にするとしよう。


クリスマス 後編 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

乙です!いつも楽しく読ませてもらってます!

>>596>>597の間に一文抜けてるような・・?
あと>>615>>616の間は読者にはナイショということなんでしょうか?

ウワアア

>>621
ありがとうございます。

>>596-597
丸々1レス分抜けてました。
↓が入ります。


桐乃「じゃ、そろそろいこ。 これで終わりじゃないっしょ?」

京介「当たり前だろ。 じゃあ、ほら」

俺は言うと、桐乃に手を差し出す。

桐乃はしっかりとそれを掴み、俺の隣に並ぶ。

桐乃「で、次はどこいくの?」

>>621
すいません、そこも丸々1レス抜けてます。
全ては暑さの所為。

>>615-616
間に↓が入ります。



桐乃「確かにアキバでエロゲー見てる時も、黒いのとか沙織とかと遊んでる時も」

桐乃「渋谷とかで服とかアクセ見てる時も、あやせとか加奈子と遊んでる時も」

桐乃「すっごく楽しいよ。 その二つは同じくらい、楽しい」

桐乃「だけどね、京介。 あたしはあんたと遊んでる時が、一番楽しい」

桐乃「京介が言ってるあたしが楽しそうって奴。 全部同じくらい楽しそうに見える理由、分かったっしょ?」

申し訳ない。途中でぶった切ってしまいました。orz

それにしても毎日暑いのは、ここの所為?

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下いたします。

京介「たっだいまー」

桐乃「誰も中にいないケド?」

京介「なんとなくだよ……なんとなく。 一人で暮らしてた時も言ってたしな」

桐乃「うわー。 寂しい~」

京介「うっせ、ほっとけ」

デートを終えての帰宅。 玄関で靴を脱ぎ、荷物をコタツの近くへと置く。

京介「ふう。 桐乃、先に風呂入っちゃえよ」

桐乃「お。 良いの? んじゃあお言葉に甘えて入ってこようかな」

京介「今日はお前のおかげで楽しかったからな。 お礼ってことで」

桐乃「はいはい。 でもお礼はベツで請求するケド?」

京介「……へいへい」

どんなお礼が要求されるか分からないが、それがまたちょっとだけ楽しみでもある。 ううむ、良い感じに桐乃に飼い慣らされてる気がするぜ。 ったく。

桐乃「じゃ、また後で」

そう言うと、桐乃は着替えを持ち、風呂場へと向かって行った。

京介「……あいつ、本当に楽しそうだったなぁ」

誰も居なくなった居間で、一人呟く。

黒猫や沙織と遊んで、俺と二人で遊んで。

あいつが笑っていると、やっぱり俺も楽しくなってくるんだよな。

それは恐らく、他のことでもそうだろう。

あいつが悲しければ、俺も悲しい。

あいつが嬉しければ、俺も嬉しい。

だとしたら、果たして桐乃の方はどうなのだろうか。

そんなことを考えている内に、いつの間にか俺は寝ていた。

「ちょっと、なに寝てんの?」

桐乃の声が聞こえ、肩をゆさゆさと揺らされ、目が覚める。

京介「……桐乃か?」

桐乃「そうだケド」

京介「……何でビンタしなかったんだ?」

桐乃「あたしが起こす時、毎回ビンタしてるみたいな言い方やめて」

京介「で、でも、すげえ珍しいじゃん? 今日はどうしたの?」

桐乃「……そこまで言われると、ちょっとムカつくんですケドぉ」

京介「お、おう……悪いな」

桐乃「ふん。 それよりお風呂空いたから、入って来ちゃいなよ」

京介「ん、ああ。 そうさせてもらう」

……ふむ。

桐乃の態度が多少引っ掛かるが……まあ、良いか。 気にする程のことでも無いだろう。 多分。

そんな風に思いながら、俺は風呂場へと向かって行った。

風呂から出て、今はコタツに入りながら本を読んでいる。

桐乃は正面に座っていて、何やら先ほどからそわそわした様子。 多少、それが気になるな……。

桐乃「ね、ねえ。 京介」

そろそろ来るかと思っていたが……一体、何だろう?

俺は本から視線を外し、桐乃の方に目を向ける。

京介「どした? なんか相談か?」

こんな場合は多分、それだと思うからな。 ついでに時計を見ると、時刻は22時。 明日は俺も桐乃も休みだし、夜更かしすることとなっても構わないか。

桐乃「……そ、相談とは……ちょっと違うかな」

……だとしたら、何だ? こればっかりは見当がつかねえな。

桐乃「その、えっとね」

桐乃「……今日、ほんとにすっごく嬉しかったの。 嬉しかったし、楽しかった」

京介「お、おう……」

そう改めて言われると、結構恥ずかしいっつうの。 まあ、そう言って貰えると俺もめっちゃ嬉しいけどさ。

桐乃「で……でね」

桐乃「……」

何かを言おうとし、桐乃は押し黙ってしまう。

京介「……なんだ?」

桐乃「……ヘンなこと言ってもいい?」

ど、どうしたんだ? 急に。 こいつが変なことって言うくらいだし、相当じゃね……?

いや、だとしても。 だとしても俺はこいつの兄貴だ。 聞かない選択肢はありえん!

京介「あ、ああ、良いぜ。 言ってみろよ」

桐乃「う、うん」

俺がそう言うと桐乃は頷き、胸を片手で押さえながら、ゆっくりと口を開く。

桐乃「……ちょ、ちょっとだけ。 今日、ほんのちょっとだけ甘えてもいい?」

……何が起きた?

今、明らかに後頭部を強打されたような衝撃が来たんだが……。 桐乃は今、何て言った?

今日、ちょっとだけ、甘えてもいいか。 ってことだよな。 言葉を一つ一つ繋げると……。

……なるほどなぁ! 桐乃どうしちゃったの!?

桐乃「……ダメかな?」

いつになく顔を真っ赤にして、桐乃は言う。 上目遣いで俺のことを見ながら、目をうるうるとさせて、手を忙しなく動かしながら。

京介「お、おおお俺は別に構わんがっ!?」

す、すげえ声が裏返ってしまった。 つうか桐乃の顔をまともに見れねー! なんか知らんがめちゃくちゃ恥ずかしい!

桐乃「ほ、ほんと!? 嘘じゃないよね?」

京介「……嘘じゃねえよ。 てか、あれだ。 断る理由は無いし」

桐乃「そ、そか。 ふひひ」

特徴的な笑いを漏らし、桐乃はその場で立ち上がる。

京介「……ど、どした?」

桐乃「えへへ……ちょっとね」

桐乃の顔はあれだ。 例えるならばエロゲーをやっている時の顔になっている。 すっげえ嬉しそうな顔。

桐乃「……ふひひ」

桐乃はとことこと歩き、コタツを半周。 俺の真横まで来ると、すぐ隣に入ってきた。

……なんかつい一週間くらい前にも同じことあったな!

京介「……桐乃?」

桐乃「良いでしょ? 隣でも」

京介「お、俺は別にいいけど……」

桐乃「あたしはこっちの方が良いの。 ひひ」

……す、すごく可愛いな。 おい。

桐乃はそのまま俺の手を持ち、自身の手を絡ませる。 恋人繋ぎみたいな状態。 これはもうしょっちゅうではあるのだが、こう……桐乃がにこにこしながらやってくるのは初かもしれん。

ていうか、先ほどからずっとにぎにぎとしてくる。 こ、これはヤバイ。

桐乃「……京介」

京介「な、なんだ?」

桐乃「何でもない。 あは。 呼んでみただけー」

ヤバイんだが! これはヤバイんだが! なんか変な汗掻き始めてるし俺!

京介「そ、そ、そうか。 はは……」

桐乃「京介も呼んで?」

呼んでって……ええっと、桐乃のことを呼べってことか? そのくらいなら、良いけども。

京介「おう……桐乃」

桐乃「……なに?」

京介「な、なんでもねー。 呼んでみただけだ」

桐乃「そかそか。 えへへ」

桐乃「きょーすけ」

言うと、桐乃は俺の体に寄りかかる。 自然と、俺は桐乃の肩を抱くようにそれを受け止めていた。

京介「……どした?」

桐乃「あったかいなぁ。 って思っただけ。 ダメ?」

京介「……全然駄目じゃねえよ」

桐乃「うん。 ありがと」

……あー、もうあれだな。 これじゃあ黒猫とか沙織に散々バカップルと呼ばれても無理はねえ! というかもうそれでいいや!

桐乃から段々力が抜けて行き、やがて俺の体に抱きつくような姿勢へと移る。

うわあ、こいつめっちゃ良い匂いするな……。

桐乃「……京介って良い匂いするよね。 ひひ」

俺の考えを読んだかのように、桐乃は言う。

京介「そ、そか? お前の方が良い匂いするって」

桐乃「ほんと?」

京介「お、おう」

桐乃「……ふうん」

桐乃は俺の言葉を受けると、何事かを考えるように視線を彷徨わせる。 数秒そうした内、桐乃は今よりも更に、体を押し付けるように抱き着いてきた。

京介「き、桐乃?」

桐乃「どしたの?」

京介「……いや、そんな強く抱きつかなくてもって……思っただけ」

いつもだったら叩かれる様な台詞だが。

桐乃「ベツにいいでしょ?」

今日の桐乃は、そう答えるだけだった。

京介「……うむ」

桐乃「えへへ。 京介にあたしの匂いを付けてるの。 嬉しいっしょ?」

あやべえ、俺死ぬかもしれない。

明日、起きたら三途の川辺りを渡っているかもしれんな。 はははははは!

つ、つうかだな。 さっきからマジで心臓がすげー勢いでバクバクいってるんだよ。 体もすっげー熱い。

桐乃「……ひひ。 すっごいドキドキしてるけど、大丈夫?」

京介「い、いや……全然大丈夫じゃねえかも」

桐乃「へえ~? あたしのせい?」

京介「……大分な」

桐乃「ふふん。 そっか。 ならほら、京介もいーよ」

言うと、桐乃は一度俺から離れ、腕を広げる。

……抱き締めろってことだろうな。 これは。

京介「……ああ」

もう流れるままに、俺は桐乃に抱き着く。 桐乃の体は暖かくて、やはり良い匂いがした。

桐乃「……やっぱ京介の方が良い匂いしない?」

京介「……んなことねーだろ」

桐乃「ふうん……」

桐乃「……ねね、京介」

京介「……ん?」

桐乃「ちょっと、一回座りなおして」

桐乃の言葉を受け、俺は一旦桐乃から離れ、崩れた体勢を戻す。

で、その時改めて桐乃の姿を見て思ったのだが……こいつって今、家でも着ていたパジャマを着ているんだよ。 可愛い奴な。

……それが今、抱き着いて抱き着かれてとやってる内に、大分肌蹴ているのだが。

みょ、妙にエロいな……。 普通に裸を見るより、かなり。

京介「こ、こうか?」

俺は桐乃から視線を外し、確認を取る。

桐乃「……足は伸ばした方がいいかも」

言われるままにそうする。 何をしたいのかまだ良く分からないが。

京介「……これでいいか?」

桐乃「うん。 おっけ。 ひひ」

笑うと、桐乃は再度俺に近づき、俺の足の上へと座った。

京介「……ちょ、ちょっと待て。 待て、桐乃」

桐乃「なに? どしたの?」

京介「な、なんでこっち向いてんの?」

桐乃は俺に背中を向けず、見つめあう形で座ったのだ。 もう、なんか良く分からなくなってきた。

桐乃「だって、こうした方が京介見ていられるし? あったかいし」

桐乃「……嬉しくない?」

京介「ちょ、超嬉しいが……だけど、超恥ずかしいぞ」

桐乃「あたしだって一緒だって。 あ、てゆうか」

桐乃「明日になったら、今日のこれは無かったことにするから。 よろしく」

……いやいや無理だろ! 一生忘れられねーって!

京介「ど、努力はする……」

桐乃「忘れなかったらマジ怒る」

京介「……分かった分かった。 忘れるから」

桐乃「……ありがと。 京介」

言うと、桐乃は俺に抱き着いてくる。 先ほどと違って正面からの所為か、密着する面積は多い。

京介「……好きだぞ、桐乃」

俺も桐乃を優しく抱き締め、そう言う。 考えて言ったというよりかは、自然と出ていた言葉。

桐乃「……それは嬉しいんだケド。 でも、京介」

桐乃「そ、その……言おうかすっごく迷ったんだケド……言っていい?」

京介「な、なんだ?」

桐乃「……さっきから抱き着く度に、その、当たってるんだケド」

桐乃は言いながら、俺の下腹部をちらっと見る。

京介「そ、それは言うんじゃねえよ!! 仕方ねえだろ!?」

い、今すぐ逃げ出したい気分だぜ……。 家から飛び出してしまいたい気分だ。

桐乃「あ、あたしは気にしないから良いっての! それに今始まったことじゃないし!?」

京介「お、おう……」

桐乃「で、でもさ……それって、あたしの所為だよね?」

ん……? なんかこの展開、見覚えがあるぞ。 ええっと、なんだっけか。

確か、桐乃が貸してくれたエロゲーにこんな展開があった気がする。 うむ。 で、次はどうなるんだっけか。

桐乃「……その、あたし一応エロゲーとかやってるし? ち、知識はあるから……ね?」

こ、これはかなりぐらっとくる台詞だ。 もうマジで、頭がどうにかなっちまいそう。

桐乃「……だから、その」

京介「だ、駄目だ!」

桐乃「……でも、付き合ってるのにそうゆうのゼロっておかしくない? あたしは、大事にしてもらってると思うから……嬉しいケド」

……そう言われると、ほんとなんも返せねえぞ。 マジで。

京介「……きょ、今日はとりあえず無し! な!?」

桐乃「う、うん! そ……そうしよう。 うん」

桐乃も大分慌てた様子で、俺のその提案に承諾する。 あ、危なかった。

……いや、危なかったというよりかは、そこまで言ってくれた桐乃に対して、俺がへたれただけなのだが。

京介「……代わりって言ったら変だけど、さ」

京介「キス、しようぜ。 桐乃」

桐乃「……ひひ。 うん、いーよ」

多分、この時のキスという言葉の意味はお互いに分かっていたと思う。

普通のキスではなくて、そういうキスだということを。

桐乃は目を瞑り、俺の首に手を回す。

俺は桐乃の頭を片手で支え、もう片方の手は腰へと回して、体を支える。

ゆっくりと桐乃に顔を近づけ、俺と桐乃はキスをする。

……何分だろうか。 そのまま数分間、ずっとお互いに唇をくっ付けたまま。

物凄い近い距離で、桐乃は俺の目をじっと見つめる。 俺もまた、一緒だ。

不思議とお互いに目を瞑ることは無く、見つめあう。 いつもは恥ずかしくて目を瞑るのだけど……今日はなんだか、いつまでも桐乃を見ていたかった。

そして、やがて、俺は桐乃の中へと舌を入れる。

桐乃もすぐに唇を少し開け、俺を受け入れる。 桐乃の中は暖かくて、甘くて。

お互いがお互いを求めて、何分も何分もそれを続ける。 俺と桐乃は時間を忘れて、延々とそれを続けていた。

ひょっとしたら一時間近くそうしていたかもしれないし、数十分かもしれない。 やがて、どちらからともなく、唇を離す。

京介「……桐乃」

桐乃の目はとろんとしていて、目がゆらゆらと揺れている様にも見える。

桐乃「……ばか」

小さくそう言うと、桐乃は再度、俺に抱き着いてきた。 で、俺の耳元で桐乃は言う。

桐乃「……そんなされたら、あたしが我慢できなくなっちゃうんですケド」

声は小さく、息は荒く。

京介「わ、悪い……」

桐乃「……良いよ。 ベツに。 でも、もーいっかいだけ、キスして」

桐乃「ふ、ふつーのね。 ふつーのキス」

京介「……はいよ。 分かった」

離れた桐乃の頭を再度支え、俺は桐乃に軽くキスをする。

桐乃「えへへ。 ありがと、京介」

笑い、桐乃は立ち上がった。

京介「構わねえよ……って、どこ行くんだ?」

桐乃「……ちょ、ちょっとお風呂。 すぐ、戻る」

京介「……お、おう」

恥ずかしそうに言う桐乃を見て、大体の事情を察し、俺はそう答えるとその場に寝転がる。

桐乃が風呂場に行く足音を聞いた後。

京介「はぁあああぁああああ……マジでやばかったな。 死ぬかと思った」

だけど、死ぬかと思っても案外大丈夫な辺り、もうちょっと行っても大丈夫だったんじゃねえか!? と、少し思う。

でもなぁ、未だに抱き着いたり抱き着かれたりするだけで緊張するというか、恥ずかしいというか、そんな気持ちになるしな。

つ、つうかだな。 あいつが「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ甘えてもいい?」とかいう言い方をする所為で、マジで不意を突かれた気分だ。

あ、あれのどこがちょっとだっつーの! 桐乃さん本気出しすぎだって!

……くそ、なんだかやられっぱなしはあれだぜ。 気分が悪いというか、負けた気分だ。

今日桐乃が言っていた言葉、なんとなくだが分かったぜ。 やられっぱなしはあれだな。

よし、よーし! 桐乃が戻ってきたら、今度は俺が甘えてやろう。 あいつがドン引きするくらいに。

は、ははは。 今に見てろよ、桐乃め。

それからしばらくの間、俺と桐乃は似たようなことを2、3度繰り返し、気付いたらお互い眠っていた。

……間違えても一線を越えることは無かったとだけ言っておく! お互いの体をなんか触った気がしなくもないが、多分そんなことは無かったと思う!

で、今は結局コタツの中で俺が目覚めたということだ。

すぐ目の前には桐乃。 幸せそうな顔で、だけどもどこか……なんか、疲れているような顔、だろうか? そんな顔をしていた。

つか、俺は桐乃に抱き着きながら寝ていた様で、桐乃も桐乃でそうだったらしい。 つまり、こいつが起きないと俺も動けない。

……ま、いっか。 こうしてこれだけ近くで寝息を立てる桐乃を見ていると、なんだか和んでくるしな。

俺は桐乃を起こさないように、首だけをゆっくりと回し、時刻を確認。

おいおい、もう昼過ぎじゃねえかよ。 ……ま、無理もねえか。 昨日最後に時計を見た時点で、5時くらいだった気がするし。

しっかし、あれを忘れろね……。 どう考えても無理だろ。 桐乃にあれだけ甘えられたのって、初めてだと思うしな。

酒を飲んでいるわけでもなく、桐乃の具合が悪いわけでもなく、桐乃の本心で、そうしたいと言ってくれて、そうしてくれて。

俺が思っている以上に、桐乃はどうやら甘えたいと思っているのかもしれんな。

桐乃「ん……」

やがて、桐乃が目をゆっくりと開ける。 すぐ目の前に居る俺を見て、こいつはひと言。

桐乃「な、なに抱き締めてんの! 変態っ!!」

……さすがにそれはねえだろ!? いくら忘れろと言っても、いきなりそれは酷いって!

桐乃「し、信じられない! 妹が寝ているところを抱き締めるとか!!」

京介「言っとくが、お前も俺のこと抱き締めてるからな!? つうか昨日のお前はどこ行ったんだよ!?」

桐乃「あ、あれは……うう。 忘れろっつったでしょ! もう今まで溜めてた分は消化したからいいの!! だからあれは無しッ!」

す、すげえ理論だ……はは、納得せざるを得ない! だって俺はこいつの彼氏で、兄貴だし。 もう仕方の無いことだ。

京介「……別に、溜めなくても普段から甘えりゃいいのに」

桐乃「……いーの?」

京介「当たり前だろ。 つうか甘えろ!」

桐乃「じゃ、じゃあそーしよっかな……」

桐乃は小さく笑うと、口を開く。

桐乃「……その、早速なんだケド」

京介「ん?」

桐乃「約束だったし、ゆうケド」

そして、桐乃はこう言った。

桐乃「……風邪、ぶり返したかもしれない」

京介「……マジかよ」

コタツで寝た所為か。 夜遅く……というか、朝方近くまで桐乃と話していた所為か。

それとも、桐乃が上にシャツ一枚しか着ていない所為か。

間違えて無いぞ。 今、桐乃はシャツ一枚しか着ていない。 勿論、下着は着けているけど。

だから俺は朝から色々ヤバイんだよ! 今もこうやって桐乃と抱き合っているわけだが、俺は下に視線を向けない様に気を付けているからな。 偉い偉い。

で、まあ結局は色々重なった結果だろう。

桐乃「……だ、だから看病して?」

よく見ると、ぼーっとした顔付きの桐乃。 嘘では無いことはすぐに分かる。

京介「分かった。 布団敷いてくるから、ちょっと待ってろ。 大人しくしとけよ?」

だったら俺は、そう言うしか無いだろう。


クリスマスの夜 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下いたします。

あれから数日。 桐乃は未だに体調を崩しており、現在は12月28日。

京介「……まだ具合悪いか?」

桐乃「うん……ごめんね。 毎日」

京介「何がだよ。 お前と毎日ずっと居れるんだから、これ程嬉しいことはねえっての。 馬鹿か」

桐乃「……シスコン」

京介「悪いか? シスコンで」

桐乃「……悪くはないケド」

京介「へへ。 だろ」

布団に寝転ぶ桐乃を見て、俺は桐乃の頬に手を添える。

京介「まだ結構熱あるよな。 なんか飲みたい物とか、食いたい物あれば言ってくれよ」

桐乃「はいはい。 あたしは大丈夫だって……」

京介「仕事は休んどけよ? そんな状態で行くとか言ったらさすがに怒るからな?」

桐乃「……本当は超行きたいケドね。 京介がそうゆーなら、休む」

京介「……おう。 さんきゅ」

桐乃「ひひ。 なんで京介がお礼言ってんの?」

京介「お前にそういう風にしつけられてるからだよ。 人使いが荒い妹だからなぁ」

桐乃「人が寝込んでるからって好き放題言っちゃって。 ふん……治ったら覚悟しといてね」

京介「……へいへい」

こんな感じで、ここ数日の間、俺はずっと桐乃の近くに居た。 そうするだけでも、桐乃は嬉しそうに笑ってくれたから。

それと、これはお返しでもあるのだ。 いつか、桐乃に看病してもらった時のお返し。

……そういや、その時こいつはコスプレしてくれたんだっけか。 懐かしいなぁ。 またしてくれねえかな?

京介「へへ」

桐乃「……今絶っ対、ヘンなこと考えてたでしょ」

京介「そ、そんなことねーよ!」

桐乃「嘘吐かないで。 なに考えてたの?」

京介「……あやせ並みの鋭さだな。 くそ」

京介「昔、お前が俺の看病してくれたときの事、思い出してた」

京介「お前のおかげで……即、治ったからな」

桐乃「ふん……そりゃ、こんだけ超美少女が看病してあげて治らなかったら、マジで許さないしね」

京介「いや、多分ネコミミとネコしっぽのおかげだろ?」

桐乃「……あれは忘れて欲しいんだケド」

京介「写真残ってるけど」

桐乃「ぶっ! ま、まだ持ってたの!?」

叫び、咳き込む桐乃。 そんな桐乃の背中を叩き、落ち着かせる。

京介「当ったり前よ! あれは俺の家宝だからなぁ!」

桐乃「へ、へえ。 じゃあさ……今度、それでデートしてあげよっか?」

京介「ま、マジで!? いや、でも待てよ……お、お前」

京介「まさか……あの格好で外に出る気か……?」

桐乃「で、出るワケ無いって! 家で! 家でデートしようってハナシしてんの……」

京介「お、おう……そうか。 びっくりした」

ここで桐乃が頷いたら、どうしようかと思ったぜ。 さすがの俺でもメイド服にネコミミとしっぽを付けた妹と外でデートはしたくねえからな……。 視線で死ねる。

京介「ま、そういうことなら是非お願いしたいな! 出来ればこの前の日くらい甘えてくれると俺は嬉しい!」

桐乃「……どーしよっかなぁ? 考えといてあげる。 ひひ」

京介「はは。 宜しく頼むぜ、桐乃さん」

桐乃「……はいはい。 あ、じゃあさ。 コンビニでゼリー買ってきて。 喉痛いし、そうゆうの食べたいカンジ」

京介「おう、任せろ!」

俺は全く持って無防備で、何にも警戒していなかったんだ。

桐乃の目的は、そんな物では無く、もっとヤバイ物で。

京介「ただいまー。 桐乃ー、買ってきたぞー」

コンビニ袋を片手に、桐乃のところへと向かう。

布団の上でうつ伏せになりながら、桐乃は何やら本を眺めているようだった。

京介「おかえりくらい言えよ。 ほら、ゼリー今食うか?」

桐乃「……」

しかとかよ! せめて頷くかしろって。

京介「……何読んでんの?」

なんとなく、その本には見覚えがあった。 ええっと。

……それ俺のノートじゃねえかよ!!!

京介「あ、あー。 俺ちょっと用事あるから、旅立ってくるわ」

桐乃が反応しない今の内にと思い、俺はその場をそーっと離れる。 気付かれない様に。

ある程度距離を取り、居間に到着。 こ、怖かった。

と思ったが、案の定桐乃から声が掛かる。

桐乃「へえ? あたしが風邪で寝込んでるのに、ほっといてどっか行くんだ?」

京介「……すんません」

俺が言うと、桐乃は指でくいくいと俺を呼びつける。 まるで召使いの気分だぜ。

桐乃「……これだよね? この前あんたが黒いのに見せたくなかったのって」

京介「あ、ああ。 そうです」

桐乃「ふうん」

ぱらぱらとページを捲り、桐乃は言う。

京介「て、てか……どうやってそれ見つけたの?」

桐乃「この前の時になーんか怪しいなーって思ったから、さっき押し入れ探させてもらっただけ。 もうちょっとうまく隠せばいいのに。 ひひ」

京介「いやいや、だってそれ人生ゲームの箱の中に……あ」

そうだ。 前にそれで遊んだ時、箱から出してそのままだったのか。

桐乃「……だから前は探しても無かったんだ。 なるほどね」

それでお前は定期的にそういうのを探しているってことか。 やめてください。

桐乃「で、何かゆうことは?」

京介「あ、あはは……えっと」

京介「そ、それに乗ってる奴、めっちゃ可愛くね?」

桐乃「ふーん。 ふう~ん」

京介「……なんだよ」

桐乃「べっつに~。 でも、このくらいじゃ驚かないし。 京介も隠すことないのに」

京介「そう言って貰えるとすげえ助かるが……」

桐乃「だから、今度は一緒につくろ。 アルバム」

桐乃は笑顔を俺に向けながら、そう言うのだった。

なんというか、あれだけ必死に隠していた俺が馬鹿みたいで、笑えて来るぜ。

京介「……おう」

桐乃「だケド。 このキスしてる写真はちょっとヒドイかな。 これで何してたのかは聞かないであげるケドぉ」

……そういうことはマジで言わないで欲しい。 黙って触れずにいることができねえのか、こいつ!

桐乃「……だから、あたし用に一枚写真とろ。 それで許したげる」

京介「そ、それって……お前がその写真で何かするってことか……?」

俺が言うと、桐乃は熱で赤くなっている顔を更に赤くさせ、言う。

桐乃「そ、そんなワケ無いでしょ! 変態!!」

京介「は、はは……だよな。 わり」

桐乃「……チッ。 いいから、早く写真とろ」

京介「分かったよ……で、どんな写真撮ればいいの?」

桐乃「ヒミツ。 とりあえず準備してよ」

京介「……準備?」

桐乃「あたしとあんたで一緒に写るんだから、セットしてってこと」

京介「ああ、オッケー。 分かった」

言われるがまま、俺は桐乃のスマホをテーブルの上に置く。 カメラをこちらに固定して、タイマーをセットして。

京介「出来たけど、これで良いのか?」

桐乃「うん。 じゃあ、ほら」

桐乃は言い、俺に向けて両手を差し出す。

……つまり、抱っこしろってことだよな。 普通に考えたら。

京介「……はいよ」

俺は桐乃の背中と足に腕を回し、桐乃は俺の首辺りに腕を回す。

そのまま桐乃を抱き上げ。

京介「これで良いか?」

桐乃「ひひ。 おっけおっけ。 あんま時間無いから、ちゃんとカメラの方向いてね」

京介「へいへい」

その姿勢のまま数十秒。 やがて、その時が近づいていることを知らせる音が、桐乃のスマホから聞こえて来る。

桐乃「ね。 京介」

京介「ん?」

桐乃「これが最後の指示ね。 はい」

そう言われ、桐乃の方に視線を移すと、目を瞑り、ほんの少し笑っている桐乃の顔が見える。

……ああ、はいはい。 そういうことかよ。

京介「……」

俺はそのまま、桐乃にキスをする。 桐乃は何も言わず、俺に回していた腕を少しだけきつく、ぎゅっとしていた。

京介「……満足か?」

写真撮影が終わり、桐乃を布団に降ろしながら俺は聞いた。 桐乃は未だに目を瞑ったまま、口を開く。

桐乃「ぜんぜーん。 あたしが満足したと思う?」

京介「するわけねえよな。 俺の妹だもんな?」

桐乃「そーゆうこと。 でも、今日はちょっとだるいし、また今度ね」

京介「おう。 早く治しちまえよ? もうすぐ年越しだしよ」

桐乃「分かってるって。 大人しく寝てるっつーの」

桐乃「……でも、冬コミいけないのは残念かなぁ」

京介「つっても三日間あるだろ? それまでに治せばいいだろ」

桐乃「そーじゃなくて。 黒いのが出るのって一日目っしょ。 それに行けないのがちょっと残念」

京介「……そっか。 はは」

桐乃「なに笑ってんの?」

京介「いや……仲良いなって思っただけだよ」

桐乃「……ふん」

その日はそうして、桐乃と少しの話をしながら過ごした。

それが起きたのは次の日の朝早くで、俺が桐乃の分の朝飯を作っているときのことだ。

時刻は6時。 桐乃がいつ起きても良い様に、早めに起床したというわけ。

で、おかゆを作っていたところ、俺の携帯電話が居間で鳴っているのに気付いた。

桐乃を起こしたらまずいし、火を止めると急いで居間へと向かう。

発信者は……沙織? 何だ、こんな朝早くに。

京介「もしもし?」

「良かった……起きてたでござるか。 京介氏」

どこか慌てた様子で、沙織らしからぬその様子に、少しだけ胸が騒ぐ。

京介「なんか用事か?」

俺がそう聞くと、沙織は少々間を置いた後に喋りだした。

「実は……少々困った事になりまして」

「拙者は今日、黒猫氏と一緒にサークル参加だったのでござるが……」

「……サークルで参加の際は、サークル参加証という物が必要なのです。 それを忘れてしまいまして」

京介「おいおい……ってことは、参加できねえのか?」

「いえ、そういう訳では無いのですが……」

なんだ、随分と濁した言い方だな。

京介「……ええっと、つまり?」

俺がそう聞くと、電話からはしばらく何も聞こえない。

京介「おい? 沙織?」

「……」

「……ごめんなさい。 忘れたのはわたしよ。 本当だったらあなたに言う必要も無いことなのだけど」

京介「黒猫、だよな? どういうことだよ」

「……こんなことを頼むのは非常識だと分かっているわ。 迷惑極まり無いことも分かっているわ」

「……参加証はわたしの家にあるの。 妹たちに先ほど聞いて、それは確実だわ。 無理なら無理と言って頂戴」

「それを……持ってきてくれないかしら?」

京介「……そういうことか」

普段なら、絶対に持って行ってやるよ。 友達だもんな。

俺にとっちゃそれが当たり前だし、困ってる時に何もしないなんてことは出来ないだろうさ。

でも。

でも今、俺は。

京介「……悪い、黒猫。 今日はどうしても外せない用事があるんだ。 本当にすまん」

あの状態の桐乃を放っておいて、いけるわけがねえ。 俺にとって大事なのは、そういうことなんだ。

「良いわよ。 構わないわ」

「それに、忘れたからと言って参加できないと言う訳でも無いのよ。 身分証があれば当日でも入場可能だから。 朝っぱらからごめんなさい」

京介「悪いな……頑張れよ、サークル」

「ふふ。 わたしを誰だと思っているの。 完売して、あのビッチに自慢しにいってあげるわ」

京介「はは……。 おう、期待してる」

そうして、通話を終える。

桐乃「……電話、黒いのから?」

桐乃の声が聞こえ、そちらに視線を向けると、やはり顔色が悪い桐乃の姿。 ぶり返したのもあり、今日も体調は悪そうに見える。

京介「起きてたのか。 体調は……聞かない方が良さそうだな」

京介「電話は沙織から。 途中で黒猫に変わったけど」

桐乃「……あいつ、なんだって?」

桐乃の近くに行き、すぐ横に座る。 近くで改めてみると、辛そうなのは見て取れる状態。

京介「なんか、サークル参加証ってのを忘れちまったらしい。 でも、参加は出来るから心配いらねーって」

桐乃は俺の言葉を聞くと、頭を押さえる。 数秒した内、口を開いた。

桐乃「それだけ? 黒いのが言ってたのって」

京介「おう。 それだけだが」

桐乃「……あの馬鹿」

体を起こし、俺の方に顔を向け、続ける。

桐乃「確かに入れるよ。 参加証を当日忘れても」

桐乃「でも、コミケはそういうのにすっごく厳しいの。 ペナルティが付くに決まってるよ」

京介「……ペナルティ?」

桐乃「……うん。 入場時間を一般と一緒にされたり、最悪……次回参加不可とかになるかも」

京介「あいつ……それを言わなかったってことかよ」

桐乃「迷惑掛けたくなかったんじゃない? あの馬鹿。 ほんとに馬鹿」

桐乃「だから、京介」

桐乃が言おうとしていることなんて、分かっている。 こいつだったら、そう言うのだろう。

桐乃「行ってあげて、黒猫のとこに」

それでも、俺の答えは決まっているんだ。 黒猫は大切な親友だけど、沙織も大切な親友だけど。

京介「……俺は、行けない。 お前を放って置くことなんて出来ねえよ」

桐乃「あんたも……ばか。 黒いのにとって、本を出すってことはとても大切なことなの。 分かるでしょ、あんたなら」

京介「……まあな。 それは、分かるけどよ」

桐乃「あたしがエロゲーとかを大事にしているのと一緒。 そのくらい、黒いのにとって大事なことだから。 だから、次に参加出来ないとかなったら、あいつすっごい落ち込むと思うの」

桐乃「……馬鹿だから、口ではそんなこと言わないかもしれないケド」

桐乃「京介も、あたしが同じ様な時に助けてくれたじゃん? だから、黒いののことも助けてあげて。 あたしは大丈夫だから」

京介「……言ってることは分かった。 黒猫がどれ位、それを大切にしてるのかもな」

京介「でも、黒猫は黒猫で……お前はお前だ」

京介「俺は、お前の方が大切なんだよ。 桐乃」

黒猫には悪いが……俺は、そうなんだ。 それが本当の気持ちだ。 嘘を付くことは出来やしない。

桐乃「……ありがと。 嬉しい」

桐乃「京介ならそうゆうと思ってたのかな。 あたし」

桐乃「……ね、京介」

京介「……どした?」

桐乃「温泉旅行行ったときのこと、覚えてる?」

京介「覚えてるよ。 それがどうした?」

桐乃「あの時、京介は三つだけ命令聞いてくれるって言ったよね。 あたしの命令を」

京介「……そう、だな」

桐乃「まだ一個残ってるから、命令」

桐乃「黒猫のところに行ってあげて、今すぐに」

京介「……お前」

桐乃「あたしは大丈夫だから。 てゆうか、ただの風邪なんだしそんな心配いらないっつーの。 シスコン」

桐乃にとっては多分、俺には傍に居て欲しいと思っているのだろう。 なんとなく、分かる。 兄妹だからな、俺たちは。

でも、それでも桐乃は黒猫のことを想っているのだ。 大切な友人として、最初に趣味について全力で話せた相手として。

京介「……はぁ」

京介「分かったよ。 そこまで言われたら、聞かないわけにはいかねーよな。 なんつっても、桐乃の命令と来ちゃあ聞く以外に選択肢はねえよ」

京介「……行ってくる。 桐乃」

桐乃「ひひ。 絶対届けること。 これも命令ね」

京介「おう。 任せとけ」

京介「だけど、何かあったらすぐ連絡してくれ。 絶対に、な。 これだけは約束してくれ」

桐乃「だから大丈夫だって言ってるのに。 でも……うん。 分かった」

京介「ああ。 じゃあ、桐乃」

京介「行って来ます」

桐乃「うん。 行ってらっしゃい」

それから、俺がまず向かったのは黒猫の家。

その道中にて、黒猫とは電話を済ませていた。

今から行くことと、絶対間に合わせるということだけを伝えて。

俺と桐乃が住んでいるアパートからはそれ程離れておらず、大して時間は食わずに到着。

黒猫が住んでいる社宅に到着すると、その入り口には俺の見知った奴が立っていた。

日向「高坂くん! こっちこっち!」

京介「日向ちゃんか!? どうしたんだよ?」

日向「さっきルリ姉から電話があったんだよ。 「わたしの下僕がそちらに行くから、歓迎してあげなさい」って」

京介「……下僕ではねえけど」

どっちかというと、桐乃の下僕って感じだぜ。

日向「へっへっへ。 そういえば聞いたよ、高坂くん」

京介「ん? 何を?」

日向「まだ彼女作って無いんだって?」

ああ、そっちの話ね。 はは。

京介「……えーっと、誰に聞いたの、それ」

日向「ルリ姉に決まってるじゃん。 別れたって聞いたときはどうなるのか心配だったけど、今だと高坂くんの話とかするとき、とっても幸せそうにしてるんだよね。 だから付き合ってる物だと思ってたんだけどねぇ」

京介「……そっか」

黒猫は多分、気を利かせてくれているのだろう。 そりゃあそうだ。 俺が妹と付き合っているなんて、認める奴の方が少ねえなんてことは分かりきっている。

日向「で、それで物は相談なんだけど、あたしとかどう!?」

京介「はは。 わりいが、俺の恋愛対象は高校二年生限定なんだよ。 だからごめんな」

日向「ちぇっ。 じゃあ後四年間かぁ……」

京介「いいや、違うぜ。 後四年後は大学三年生限定だな」

日向「ええっ!? もしかして高坂くんって、相手の年齢と自分の年齢気にする感じ? ていうか、年齢にこだわる感じ?」

京介「そうだなぁ。 そういえばそうなるのかもな」

日向「じゃあ、あたしもルリ姉もダメじゃん!! 今高校二年生の人って誰か居たっけ?」

京介「んー、どうだろうな?」

日向「あ、そういえばキリ姉っていくつだっけ?」

京介「……さぁ?」

日向「今度聞いておこーっと。 あ、てかこんな立ち話してる場合じゃなかった。 これ、持って行ってあげて」

言い、日向ちゃんは俺にサークル参加証を手渡す。

京介「ああ、ありがとうな。 今度お菓子でも買ってやるよ」

日向「マジ? それってデートの誘い?」

デート、デート。 デートね……ふむ。

「あんた、なに年下の子供お菓子で釣ってんの? マジキモイんですケドぉ」

京介「いや、黒猫とか桐乃と一緒に遊んだときにでも。 はは」

日向「まー、あたしは楽しければ何でもいいけどね~。 それじゃほら」

日向「行ってこい! 高坂くん!」

京介「おう! またな」

最後にそう言い、手を振る日向ちゃんに手を振り返し、走る。

駅までは……バスを使うよりかは、走った方が良さそうだ。

今の時刻は6時30分。 こっから東京までは50分くらいか? やべえ、これで間に合わなかったら完全に立ち話の所為じゃね?

……いいや、間に合わなかったってのはありえない。 桐乃に絶対間に合わせろと命令されちまってるからな。

だったら俺はそれに答えるだけだ。 何としてでも間に合わせる。 ってな。

強くそう想い、俺は走り、駅へと向かって行った。


コミケ当日 前編 終

こんばんは。
乙、感想ありがとうございます。
一応ネット配信までですので、後三日ですかね?
とは言っても書きたいネタが最近ちょろちょろと出てきてるので、なんだかんだ言って続く可能性が。
仕事が少し忙しくなりそうなので、投下間隔は落ちそうですが。


それでは、夜中にこっそり投下します。

京介「黒猫か? 今どこにいる?」

「……あなた、本当に来たの? 桐乃は?」

「外せない用事とは、桐乃のことでしょう? なのに来るなんて……」

京介「……知ってたのか?」

「桐乃とはしょっちゅう話しているから。 具合が悪そうなことくらい、分かるわよ」

「それで、あなたはそんな桐乃を放って来たの?」

京介「……ああ、そうだよ」

「それは、あなたの意思?」

京介「……正直に言った方が良いよな? その質問には」

「……」

黒猫は答えず、俺はそれを肯定と受け取り、続ける。

京介「俺の意思じゃあない。 俺は、桐乃の傍に居てやりたかった」

京介「でも、命令されちまったんだよ。 生意気な妹にな。 行って来いって」

「……ふふ。 そう」

京介「……俺が恩知らずでショックか?」

「いえ、そんな訳無いじゃない」

「あなたも本当のことを話してくれたから、わたしも本当のことを話すわ」

「それを聞いて、とても安心したの。 今、わたしはね」

京介「安心?」

「そうよ。 多分……だけど。 あなたが桐乃のことを大切にしているのが分かって、安心したのかしら? 勿論、そんなことはずっと前から分かっていたことだけれど」

「自分でも良く分からないのよ。 良く分からないけれど、そんな感じ。 ごめんなさい、上手く伝えられなくて」

京介「いや……充分だよ。 それだけ言ってもらえりゃあ、充分だ」

京介「って、こんな電話してる場合じゃねえよな? お前、今どこにいんの?」

「あら。 あなたには見えないのかしら。 でもそれは仕方の無いこと。 魔界の波動を感じられないあなたには、わたしの姿を見ることが出来ない……」

……そうですか。

京介「悪かったな。 で、どこだよ?」

「あなたの後ろよ。 先ほどからずっと、その間抜けな背中を眺めていたわ」

そう言われ、振り向く。

黒猫「おはようございます。 先輩」

そこには黒猫が居た。

……怖いな、こいつ。

沙織「ありがとうございます! 京介氏!」

無事に間に合ったようで、入場時間を待つ沙織から頭を下げられる。

京介「構わないって。 それに、お礼は俺より桐乃に言ってくれ」

沙織「……分かっております。 きりりん氏には、京介氏のコスプレ写真を送ることでお礼をすることになっておりますので」

京介「へ、へえ……」

とりあえず、毎度のことだが水面下でその様な取引をするのはやめて頂きたい。 せめてひと声掛けてくれよな。

京介「……でも、俺は桐乃に頼まれればいつでもコスプレくらいしてやるけど……何でだろうな?」

沙織「京介氏がきりりん氏の前だと、だらしない顔付きになるからでは?」

京介「……自覚無いけど」

沙織「はっはっは」

なんだその笑いで誤魔化した感じ。 俺ってそんななってるの? 納得いかないんだけど。

黒猫「……迷惑掛けたわね。 ありがとう」

沙織と話していると、横から黒猫がそう言った。

京介「そう改まって言われるとなんか照れるな。 はは」

京介「……あ、そういやさ」

一つ思い出した。 俺も礼を言わなければならないことを。

京介「黒猫、ありがとな。 日向ちゃんに黙っててくれて」

黒猫「……何を?」

京介「俺と桐乃のことだよ。 黙っててくれたんだろ?」

黒猫「……いえ? わたしは何もそんな配慮はしていないわ」

京介「……ん?」

黒猫「魔界からの魔女にあの男は攫われたとは言ったけれどね」

……魔女ってな。 つうか、それを日向ちゃんは適当に解釈したんだろうな。

京介「……結果オーライって奴か。 はは」

先ほどのお礼の言葉をすぐに返して欲しいと思ったところで、着信音。

携帯を開くと、メールが一件届いていた。 差出人は桐乃。


From 桐乃
どう? 間に合った?

京介「だってよ。 沙織、黒猫」

沙織「全く。 人の心配よりは自分の心配を……と言ったところですなぁ」

京介「そりゃあ、お前にも言える台詞だぜ。 ペナルティの件、黙ってた癖によ」

沙織「……はは、面目無いでござる」

黒猫「そういえば」

黒猫「桐乃が風邪をひいた原因って、結局何だったの? クリスマス前に一度ひいたとは、聞いていたけど」

……シャツ一枚だけで寝てたからじゃね? とは言えん。 無理無理。

京介「あー。 えっと……コタツで寝てたからじゃね?」

と、俺は嘘とも言えないことを伝える。 ざっくり言えば、そうだろうし。

黒猫「なるほど。 なら自業自得ね」

黒猫「という訳で、写真を撮りましょう。 三人で撮って、あの女に送ってやりましょう」

京介「……ぶっちゃけると、俺は早く帰りたいんだけど」

黒猫「まだバスが来るまでは時間があるわ。 それまでなら良いじゃない。 ね?」

沙織「そうですな。 きりりん氏にとっても、良いと思いますぞ」

沙織「……黒猫氏も、本当はそういうお考えなのでは?」

黒猫「……そんな訳無いでしょう。 勝手に推測しないで頂戴」

京介「はは、分かったよ。 一枚だけ撮って、送ってやるか」

京介「でもさ、あいつ内心では安心するだろうけど、表面的には絶対怒るぞ?」

黒猫「分かっているわよ。 その為にあなたが居るのでしょう?」

……酷い扱いだな、おい。

要するに桐乃が表面的に出す怒りを俺が抑えろってことだろう? 体を張って。

……いやこの扱いはやっぱり酷いと思う。 マジで。

京介「へいへい……」

結局はそう答えるんだけどな。 いつものことだから。

沙織「では、撮りましょう!」

そうして俺と沙織と黒猫は、三人で集まって写真を撮る。 間に合ったことを伝える為に。

俺はその撮った写真をメールに貼り付け、すぐに桐乃に送った。


To 桐乃
俺を誰だと思ってるんだ? 桐乃さんよ。


送信ボタンに指を置き、少し考える。

……ううむ。 ちょっと違うな。

To 桐乃
妹との約束を俺が破る訳無いだろ。 シスコンだからな。


よし。 これで良い。

俺はそのまま、送信ボタンを押す。

黒猫「本当にシスコンね?」

京介「の、覗いてるんじゃねえよ! ほっとけ!」

黒猫「あら? わたしはただ推測して言っただけよ。 当たったのかしら?」

京介「お、お前はなあ……くそ」

桐乃もよくこんな奴と言い合い出来るな。 あいつのメンタルには時々驚かされるぜ。

で、そんな会話をしている最中に着信。 開いてみると、今度は電話。

京介「もしもし、桐乃か」

「そだケド。 あんたあたし抜きで随分と楽しそうだね?」

……やっぱそうなるよなぁ!

京介「あ、あー。 はは、いやいや、桐乃さんが居なくて滅茶苦茶寂しいっすよ。 マジで」

「ほんと? ふうん。 じゃあちょっと黒いのと変わって」

京介「黒猫か? 別にいいけど」

京介「黒猫、桐乃から電話」

黒猫「わたしに? まぁ、構わないわ」

そう言い、黒猫は電話を受け取り、耳に当てる。

黒猫「もしもし、ご機嫌いかがかしら。 苦しんでいるの?」

……今までに聞いたことの無い心配の仕方だぜ、それ。

黒猫「あらそう。 苦しんでいるようで何よりだわ。 ふふ」

黒猫「……え? ええ。 ああ、そういうことね」

黒猫は俺の方をちらっと見ると、続ける。

黒猫「それはもうとても楽しんでいたわよ。 わたしと沙織に会えて。 会っていきなり抱き着いてきたもの」

京介「おいおいおいおい、おい! 何の話だそれ!?」

俺は黒猫から携帯を奪い取り、耳に当て。

京介「桐乃か? 黒猫の言ってたこと全部でっち上げだからな!?」

「……はぁ、なにを心配してるワケ? 今更そんなの分かってるっての」

京介「お、おう……そうか。 なら良かった」

「でもぉ? あたしが具合悪くて寝てるのに、写真送りつけてくるなんて良い度胸だよね? そう思わない?」

京介「……マッハで帰ります」

「うん。 よろしい」

通話終了。 末恐ろしい妹だぜ、全く。

黒猫「大変そうね。 兄さん」

京介「だ、誰の所為だと思ってるんだよ……」

黒猫「それについてはしっかりと感謝しているわよ。 ありがとう」

黒猫「それと、桐乃にも伝えておいて頂戴。 ありがとうと」

京介「さっきの電話で言っとけば良いのによ……そのまま伝えちゃっていいのか? お前の言葉」

黒猫「たまには、ね。 打ち上げもやるつもりだから、とっとと治しなさいとも伝えておいてくれるかしら」

京介「へへ。 了解」

京介「それじゃ、沙織、黒猫。 頑張れよ」

沙織「お任せください! 京介氏の最後の頼み……しかと聞き入れましたぞ!」

京介「……俺はまだ死なないからね?」

黒猫「そもそも、あなたが桐乃の元へ戻ったら、余計に熱が出るのじゃないかしら」

京介「お前の言っている意味は分かった。 それを踏まえた上で、少し黙れ」

と、こんな感じで愉快な仲間に見送られ、俺は桐乃の元へと帰るのだった。

京介「桐乃、大丈夫か?」

部屋に入るやすぐ、俺は桐乃が寝ている布団の横に行き、話し掛ける。

桐乃「遅い。 あたしが死んでたらどーすんのよ」

京介「……一生後悔するだろうな?」

桐乃「ふん。 なら呑気に写真とか撮るんじゃないっての」

京介「悪い悪い。 反省してるよ」

桐乃「ならいいケドぉ」

桐乃は口ではそう言いつつも、嬉しそうな表情をしている。 俺が間に合った事が、こいつにとっては嬉しいのだろう。

黒猫が無事、コミケに出られることが嬉しいのだろう。

京介「そういやさ、黒猫から伝言だ」

桐乃「……どーせくだらないことじゃないの?」

京介「ありがとう、早く治せ。 だってよ」

桐乃「……ふうん。 そか」

更に嬉しそうな顔してやがるよ、こいつ。 面白いなあ。

京介「言っとくが、もうお前が治るまで俺は離れないからな。 命令も全部使ったろ?」

桐乃「はいはい。 今回は傍にいるの許してあげる。 感謝してね?」

京介「おう。 風呂入るときも一緒だぞ」

桐乃「……なんでそうなんの! 絶対イヤ」

京介「んだよ。 そんな嫌か?」

桐乃「……だ、だって」

桐乃「……あんたとお風呂入ると、体余計に熱くなるし」

……聞いといてあれだけどな。

そういうことは頼むから心の中だけで思っていてくれ! 言われるとマジで意識しちゃうからさ!

京介「そ、そりゃ……俺も一緒だが」

桐乃「……変態」

京介「……でも、お前は俺のこと好きなんだよな? へへ」

桐乃「……チッ。 ばーか」

俺はそのまま、桐乃の頭をゆっくり撫でる。 桐乃の目は少しだけとろんとしていて、俺に向けられている。

桐乃「……一回しか言わない」

桐乃「……好きだよ、京介のこと」

お、おう! おうおう! やっべえ可愛い!

思わず俺は桐乃を抱き締め、布団の上に一緒に倒れた。

桐乃「ちょ……あんま近いと、風邪移っちゃうよ」

京介「構わねえ。 俺は今、こうしていたいんだよ」

桐乃「……シスコン」

京介「そう言うお前はブラコンじゃねえか」

桐乃「……それがどうしたっつーの。 あたしは兄貴と付き合っちゃう程のブラコンだケドぉ。 文句ある?」

京介「ねーよ。 むしろめっちゃ嬉しいぜ」

桐乃「……ひひ。 だよね?」

京介「おう」

そのまま桐乃は目を瞑ると、気持ち良さそうな笑顔になっていた。

京介「……顔、触ってもいいか?」

何聞いているんだろうな、俺。

だが俺がそう聞くと、桐乃は何も答えず、頭を少しだけ俺の方へと寄せる。

その行動の意味を理解した俺は、顔に掛かった髪を後ろに流し、桐乃の頬へと触れた。 撫でるように。

京介「……黙ってれば世界一可愛いな、やっぱ」

俺が言うと、桐乃から返答。

桐乃「……一応聞こえてるからね、それ」

京介「……はは」

京介「でも、俺にとってはどんな桐乃も、世界一だぜ?」

桐乃「よくそんな寒い台詞出てくるよねえ。 ひひ」

未だに目を瞑りながら、桐乃は続ける。

桐乃「でも、あたしにとっては嬉しい言葉だから」

京介「……そうかよ。 へへ」

桐乃「……うん」

それから数分、俺たちの間には心地よい沈黙が訪れていた。

やがて、桐乃は口を開く。

桐乃「……てか、顔触りすぎじゃん?」

京介「だって仕方ねーじゃん。 お前の肌、触ってると超気持ち良いし」

桐乃「……そりゃ、モデル一応やってるし、そういうのチョー気を使ってるしね」

京介「だろうな。 で、触るのやめた方がいいか?」

桐乃「今日だけ、特別に許してあげる。 今日だけだからね、明日触ったら殺す」

迂闊に近づけないじゃねえかよ。 ていうか、寝てるときに間違えて触ったのもカウントされてしまうのだろうか。

そんなくだらないことを考えながら、俺は桐乃に。

京介「そうか。 ありがとよ」

やったぜ! よっしゃ! 良い日だ、今日。

とりあえず今は触り放題だもんね! へっへっへ。

……それにしても、こいつってマル顔って言われると怒るけど、そんな気にすることなのかね。

俺としちゃあ、可愛い限りなんだが。

そんなことを思いながら、ほっぺをつまんでみた。

桐乃「ひょっと、ひっぱんないれよ」

……手で払わない辺り、そんな嫌では無いってことか。 というか、そのまま喋るとか可愛いなこいつ。

桐乃「……」

俺がそれを続けていると、やがて桐乃も目を開け、俺の頬をつまむ。

京介「……」

桐乃「……」

何しているんだ、俺たちは!?

冷静に考えてみると、すごく恥ずかしい状況になりつつあるが。

桐乃「……はらして」

桐乃も同じ事を思っていたのか、恥ずかしそうに言う。 それを聞かない訳には行かないので、俺はそっと桐乃のほっぺをつまんでいた手を離した。

桐乃「なんか、眠くなってきちゃった」

京介「……おう。 寝とけ」

桐乃「一つお願い。 良い?」

京介「命令じゃなくてか?」

桐乃「うん。 お願い」

京介「……なんだ?」

桐乃「あたしが寝るまで、ぎゅってして」

京介「お安い御用だよ。 任せろ」

俺は再び目を瞑る桐乃の背中に手を回し、抱き寄せる。

桐乃「……えへへ」

こいつ、熱を出すとめちゃくちゃ甘えるんだな。 前もそうだったけど。

クリスマスのときは……。 あの時は確か「あんたの所為でああなった」とのことらしい。 ていうか忘れろって言ってたのに自分で覚えてるじゃねえか。

俺としては、どっちの桐乃も桐乃で、妹で、可愛いことには変わりないけど。

それでもなんというか、このギャップはすげえぐっとくるな。 これがギャップ萌えとか言う奴なのか。 だとしたら恐ろしい物だぜ。

京介「桐乃、まだ起きてるか?」

桐乃「……ん」

京介「なんか、今更になっちまったけど」

小さく返事をした桐乃に、俺は言う。 言い忘れていた一つの言葉を。

京介「ただいま」

俺が言うと、桐乃はすぐに返事をする。

桐乃「……おかえり」

桐乃は安心した様な顔をしていて、俺は桐乃の顔を一度撫でると、少しくすぐったそうにする。

自然と、俺は笑っていたと思う。 俺はお願いを叶える為に桐乃をゆっくりと抱き締め、目を瞑る。

それから数分経った頃には桐乃は静かに寝息を立てていた。

寝ている桐乃に布団を掛け直し、俺は一度居間へと戻った。

喉が渇いたのもあり、冷蔵庫から麦茶を取り出したところで、携帯が鳴り響く。

発信者は沙織。 恐らく今日のコミケのことだろう。

京介「もしもし」

「京介氏。 沙織でござる」

「きりりん氏の体調はどうでござるか?」

京介「ああ。 大分良くなってると思う。 今は寝てるけどな」

「そうでしたか。 それならば一安心……ですな」

京介「それより、そっちはどうだった? 同人誌は売れたか?」

「はっはっは。 勿論ですぞ。 今回も無事、完売したでござる」

京介「はは、良かった。 黒猫の奴、喜んでただろ?」

「それはもう。 興奮して拙者が何故か叩かれまくっておりました」

京介「……どっかで似たようなことをされている気がするぜ。 俺の気持ちが分かったか?」

「はっはっ。 可愛いものですな。 拙者的にはきりりん氏の愛情表現を受けてみたいのですが……」

京介「あいつのは過剰すぎるんだって……まあ、可愛いけど」

「……しかし、京介氏も随分と素直になられましたなぁ」

京介「なんで俺が前は素直じゃなかった。 みたいな言い方してんだよ」

「素直になったというより、気持ちに気付いたと言った方が正しかったですかな?」

京介「……さあな?」

「ははは。 何はともあれ、無事に終わりましたので、その報告でござるよ」

京介「おう。 お疲れ様。 打ち上げの予定とかは決まってるのか?」

「お。 さすがは京介氏。 遊ぶ事に関しては手が早い早い」

京介「遊び人みたいに言うんじゃねえ!」

「まぁまぁ。 実は、昨年の夏の様にまたお泊りでもしようかと思っておりまして」

京介「泊まり? ああ……またあそこか?」

「いえ、今度は違うところでござるよ。 にん」

京介「……一応聞いてみるが、お前っていくつ別荘あんの?」

「……企業秘密で」

京介「……はいよ」

「京介氏ときりりん氏が良ければ、なのですが」

「ご一緒に年越しなど、どうでしょうか?」

京介「おお、いいんじゃねえの? 桐乃も多分、喜ぶと思うけど」

京介「黒猫は?」

「是非、とのことです。 では打ち合わせも兼ねて、お時間ある時にでも一度全員でチャットでもしましょう。 勿論、きりりん氏の体調が優れないようでしたら、日程はずらしますので」

京介「おう。 楽しみにしておくわ。 今日の夜か、明日にでも桐乃と話してみるよ」

「ええ。 では、また」

京介「またな」

こうして、俺たちの冬コミは終わる。

そして後日、打ち上げをすることが決まったのだった。


コミケ当日 後編 終

以上で投下終わりです。
日付変わっちゃってますが、本日のお昼ごろ(夕方くらいかも)にも投下いたします。

乙、感想ありがとうございます。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

投下致します。

京介「たっだいまぁ」

今更だが、夕飯の材料の買い出しは順番制となっている。 俺が買いに行った次の日は桐乃で、桐乃が買いに行った次の日は俺で、と言った感じ。

まあでも、結局は俺の番のときは桐乃が「暇だしあたしも行ってあげよっかなぁ?」と言って来て、桐乃の番のときは「桐乃、一緒に行こうぜ!」と俺が言うから、結局は殆どの場合一緒に買い物をしているのだが。

だとすると、どうして今日に限って俺一人か。 という疑問にぶち当たるだろう。

答えは簡単。 今日、12月30日は桐乃に仕事が入っていたからだ。 勿論近くまで送っていった。 つい昨日まで体調を崩していたし、何より桐乃に変な奴が近寄らないように。 仕事に行くのも本当は反対なんだけどな。

そして、俺は帰りに商店街に寄って来て、買い物を済ませたというわけだ。

で、だとしたらどうして「ただいま」と言ったかという疑問に次はぶち当たる。

それも答えは簡単だ。 単に俺にそういう癖がある。 というだけのこと。 大した意味なんて無い。

そろそろこんな無駄話を続けるのもどうかと思うので、本題に入るとしよう。

京介「……ふむ」

俺は料理の材料を冷蔵庫に入れると、最後に一つ残った物をコタツの上に置く。

寒いのもあり、コタツの中に入り、その物を凝視。

「果汁100%! 寒い冬に、暖かい家の中で、冷えたチューハイ *お酒は20歳になってから」

京介「どうみても酒だよな……」

興味があったわけじゃないよ? 一応言っとくけど。 てか、別にあったとしても良いだろ。 俺だってもう20歳だしな。

正直に言うと、くじ引きで当たったんだよ。 当たったというか、今回ははずれの様な物だけど。 でもまあ、はずれにしては良い物だと思うぜ。

……で、だ。

この酒をどうするかって問題が出てくるんだよなぁ。 以前なら、仮にもこういうのが当たった場合は親父に渡せば良かった。 それで全て解決。

だが、今はそれは出来ない。 かと言ってただ捨てるのも勿体無さすぎる。 ううむ……。

でもさ、俺はもう飲んでも問題無いわけだし、そこら辺は堂々としてても問題ねえよな?

よし……。 と、とりあえずひと口飲んでみるか。 桐乃が帰って来る前に、ちょろっと。

そんな考えに至り、俺はコタツの上に立つチューハイの缶を手に取る。

俺も飲んだことが無いと言えば嘘になるから、大体の味は知っている。 結構美味いよね、チューハイ。

そして、俺は指を蓋に掛け。

「たっだいまあ」

誰だ!? いや一人しかいねえよ!! 桐乃だ桐乃!!

京介「お、おう! おかえり! はは」

桐乃は自身のカバンと、どこかで買い物でもしたのか、ビニール袋を床へと置く。

桐乃「……なんか隠したでしょ?」

京介「いや! そんなことは無いぞ!?」

桐乃「怪しすぎ。 早く出して」

……なんでこいつはそんな鋭いんだよ!! ああ、考えてみればそうだ。 あのお袋の娘だぜ。 そりゃそうだ。

と、変に納得したところで状況に変わりがあるわけも無く、俺は相変わらずの乾いた笑いを桐乃に向ける。

京介「は……はは」

桐乃「……」

無言で片手を差し出す桐乃。 早くしろとのことらしい。

俺は泣く泣く、渋々、つい先ほど隠した酒を桐乃に手渡すのだった。

そして、再び缶はコタツの上へ。

俺と桐乃はその缶を挟むように座っている。

桐乃「……京介ってお酒飲むっけ?」

危うくぶち殺されるのかとも思ったが、意外にも桐乃から怒りは感じられない。 というよりは、少しだけだが興味がありそうな顔付きをしている。

京介「いや、飲まないけど。 たまたまくじ引きで貰ったんだよ。 それ」

桐乃「へえ。 で、飲むの?」

京介「と思ってたんだけど……桐乃が嫌って言うなら、飲まねえよ」

桐乃「あー。 実はさ」

桐乃は言い、先程置いたビニール袋を取り出す。

桐乃「これ、今日貰ってきたんだけど……」

中を見ると、数本の缶。 ふむ、どうみても酒だな。

京介「お前の仕事先はどういう考えなんだ……」

桐乃「京介の思ってるのとはちょっと違うって。 あたしが無理矢理貰ってきたの。 お父さんにあげますって言って」

京介「……なんで?」

桐乃「だって~。 ひひ。 興味あるじゃん? 少し」

……やっぱそうかよ。 大体そんなところだろうとは思ったけど。

京介「お前まだ高校生じゃねえかよ! 駄目に決まってんだろ?」

桐乃「ふうん~。 じゃあ、昔あんたが隠れてお酒少し飲んでたのとか、全部あたしの気のせいだったってこと?」

京介「……何故知っている」

桐乃「どうしてだろうねぇ~? ふひひ~」

恐ろしい奴だ。 絶対誰にもばれてないと思ったのに。

桐乃「で、なんて?」

京介「……でも駄目! 駄目な物は駄目だ!」

桐乃「ケチ。 じゃあもうあやせに言いつけるし」

京介「あやせを良い様に使ってるよな……? お前」

桐乃「あたしはただ報告するだけだって。 問題無いっしょ?」

京介「一応、その報告する内容とやらを聞いても良いか?」

桐乃「京介がぁ、毎日毎日お酒飲んで、あたしに暴力振るってくるって相談する」

京介「それあやせじゃなくても問題になるじゃねえかよ!! やめて!?」

桐乃「じゃ、飲んで良いでしょ?」

……このヤローめ。

ぶっちゃけた話、別に俺も真面目に生きろなんて言える立場じゃねえし、ある程度のことくらいなら良いんじゃねえの? とは思っている。

でもな、俺が恐れているのはそうじゃねえんだ。 こいつ、酒飲むとめっちゃ本性出すんだよ……。

普段当たりがキツイから……まあそれも、最近だと大分甘えてくるようにはなったけれど。 それもあり、酒を飲んだときのこいつはヤバイ。

俺が危険視しているのは、こいつがそうなることによって俺が死に掛けるということなのだ。 だが、ここで承諾しないとあやせに殺される。

比喩とかではなく、文字通り。

京介「……よし」

京介「じゃあ言うぜ。 桐乃」

京介「お前、酒飲んだときどんな状態になってるか自分で分かってるの?」

桐乃「んー……」

桐乃「京介~、愛してるよぉ。 ふひひ~」

桐乃「とか、こんなカンジ?」

冗談で言ったのは分かるが、それでも言われるとすげー恥ずかしいぞ。 嬉しいけどな。

京介「……もっと酷い」

桐乃「……マジ?」

京介「マジ」

桐乃「でも、京介はそれで「しめしめ」みたいにならないっしょ?」

……いやなりますけど?

京介「ま、まあな……はは」

桐乃「……そーいえば、前にあたしがそうなったときの詳細ってまだ聞いてないんだケド」

京介「へ!? あの時はお前すぐ寝ちゃったからな! 特になんもなかったぜ!」

桐乃「じゃあ問題無いよね?」

京介「……そうなっちゃうな」

嵌められたのか、これは。

京介「でもなぁ……」

と俺が言うと、桐乃はすぐ近くまで来て、座り込む。

俺の方に顔を向け、手を合わせ。

桐乃「きょうすけぇ、おねがぁい」

落ちたな俺。 断るの無理だ。

京介「はぁあああぁああ……分かったよ。 けど飲みすぎるなよ?」

桐乃「ひひ。 やったぁ!」

つうか、別に俺の許可が無くても飲めば良いのに。 わざわざ許可を求める辺り、可愛いぜ全く。

桐乃「じゃあ、コップ持ってくるね~」

と、桐乃は機嫌が良さそうな声で台所へと向かって行った。

桐乃はそれからコップに氷を入れ、持ってきて、コタツの上へと置く。

さて今から飲むか……となったのだが、ちょっと待て。

京介「……突っ込んでいいのか?」

桐乃「なにが?」

京介「えっと、なんでコップ一つしか持ってきて無いの?」

桐乃「そ、それはあれ! コップもう一つ見当たらなかったしぃ~。 そっちの方が片付け楽だしぃ~。 それに、飲みすぎ無いように?」

可愛いなあ! 目的忘れて抱き締めたくなるよ、ちくしょうめ。

ちなみに、一つどうでもいい話をここで挟もう。

俺は今、コタツに足を入れて座っている。 で、桐乃はそのすぐ横に座っているのだ。 対面じゃなくて、真横。

な? どうでもいい話だったろ。

京介「まあいっか……じゃあ」

桐乃「うん。 最初はこれどう?」

……最初は? ええ、こいつもしかして、一本で満足しないつもりなのかよ。

京介「最初っていうか今日な? 明日は一応黒猫と沙織と泊まりだろ? なら前みたいに二日酔いにならないようにしろよ?」

桐乃「……仕方ないなぁ」

桐乃「じゃー、これが良いかな」

言い、桐乃は先ほど持って帰って来たビニール袋から缶を取り出す。

その缶には梅酒と書いてあった。 ふむ。

京介「分かった。 じゃ、注いでくれよ」

桐乃「なんであたしがやらないといけないの。 京介がやって」

……普通お前が注いで「どーぞ」とか言うんじゃねえの!? い、いや……まあ、そうだな。 桐乃の場合はそれが逆だとしてもおかしくは無い。 俺の考えが甘かったってことだ。

京介「へいへい」

俺は結局そう返事をし、置かれているコップに桐乃が渡してきた梅酒を注ぐ。

桐乃「ひひ。 あたしからねー」

早速それを取り、桐乃は言い、コップに口を付ける。

京介「あんま飲むなよ? さっきも言ったけどよ」

俺の言葉を聞くと、桐乃は一度コップから口を離し、若干不機嫌になりながら返答。

桐乃「分かってるっつーの。 しつこい」

怒られてしまった。 お前のことを心配して言ってるんだけど!

桐乃「……」

桐乃はコップに入っている液体をしばし見つめ、やがて、それを口に運んだ。

桐乃「……ん」

ひと口含み、桐乃は飲み込む。

桐乃「……あ、おいし」

……こいつって意外と酒好きなのか? 前もなんだかんだ言って半分飲んでいたし。

桐乃「ほら、京介も飲んでみて」

言うと、桐乃は俺にコップを手渡す。

京介「……おう」

俺は受け取り、口を近づけ。

桐乃「待ったぁ! なんであたしが飲んだところから飲もうとしてるワケ!? 違うとこから飲んでよ!!」

……別に良いじゃん! このケチが!!

京介「わ、分かったよ……」

返事をし、渋々違う場所から飲む。

京介「……お、本当だ。 美味いな」

桐乃「でしょ? ひひ。 次はあたし~」

俺の手からコップを奪い取り、再び桐乃は口に含む。

……お前が今飲んでる場所って、俺がさっき飲んでいた場所じゃねえかよ! このヤロー!

で、今は俺と桐乃でひと口ずつ飲んだので、コップにはまだ結構な量が残っている。

こいつはその殆どを一気に飲みやがった。

京介「お、おま……」

桐乃「うひひ。 おいし~」

京介「……もう酔ってんの?」

桐乃「まだ大丈夫だって。 ほら、次京介の番」

言うと、桐乃は俺にコップを手渡す。

いやまあ、確かに美味いけど……こいつどうなっても知らないぞ。

京介「……はいよ」

渡されたコップに口を付け、残りを飲み干す。

……ふむ。 なんか顔が熱くなっているのは分かるけど、そんな変な気分にはならねえな。 さすがに。

桐乃「よし! じゃあ次ね~」

京介「まだ飲むのか?」

桐乃「当たり前でしょ! たった缶一本じゃん」

最終的にこうなっちまうんだよな。

いやまあ、確かに美味いけど……こいつどうなっても知らないぞ。

京介「……はいよ」

渡されたコップに口を付け、残りを飲み干す。

……ふむ。 なんか顔が熱くなっているのは分かるけど、そんな変な気分にはならねえな。 さすがに。

桐乃「よし! じゃあ次ね~」

京介「まだ飲むのか?」

桐乃「当たり前でしょ! たった缶一本じゃん」

最終的にこうなっちまうんだよな。

てか……こいつ本当に大丈夫かな?

まだ口調とかは割といつも通りだし、この酒自体もそんなに強くない奴だから、平気なのかもしれんか。

京介「わーったよ。 今持ってくるから待ってろ」

俺はそのまま冷蔵庫に行き、中から缶を一本取り出す。 こっちは俺が貰ってきたチューハイだ。

京介「ほら、今度はこっちでいいだろ?」

桐乃に渡すと、なんだかすげー嬉しそうな顔をする。

……俺の妹がこんなに酒好きなわけがない!

桐乃「おっけ! ほら、じゃあ早く座って座って」

京介「へいへい……」

俺は再度、桐乃の隣へと腰を掛けた。

桐乃「ひひ。 んしょっと」

桐乃は言うと、俺の膝の上へと腰を掛けた。

……ちょっと待て! やっぱお前酔ってるじゃねえかよ!!

京介「き、桐乃……?」

桐乃「なに? 文句あんの?」

京介「……ねえけど」

うう。 いきなりのこれは結構びびるんだよ。 何回かやられているけどよ。

まあ嬉しいけども! 超嬉しいけどな!

桐乃「じゃあ問題なーし。 注ぐよ?」

言うと、桐乃は缶を開け、コップに注ぐ。

桐乃「えへへ。 おいしそー」

なんか、俺めっちゃ悪いことをしている気分になってきたぜ。 女子高生に酒飲ませて膝の上に座られてるってかなりヤバイんじゃないか? しかも妹だし。

……まあいっか!

京介「さっきは桐乃からだったし、次は俺からな? 良いだろ?」

桐乃「え~。 まぁ、いっか。 どーぞ」

桐乃はコップを手に取り、後ろに居る俺の方を見ると、そのコップを俺に手渡す。

俺は軽く桐乃の頭を撫でた後、コップを受け取り、ひと口。

京介「お……結構美味しいな、これも。 ほら」

桐乃の体を抱き締める様に、俺は目の前にコップを差し出す。

桐乃「ほんと? ひひ。 いただきまーす」

言うと、コップを両手で持ち、桐乃はそれを飲む。 その仕草がなんだか可愛らしく、ついつい横から覗き込んでしまう。

桐乃「なにみてんの?」

京介「別に? 可愛いなって思って見てただけだ」

桐乃「……ふうん」

桐乃は俺から顔を逸らし、コップに入っているチューハイをちびちびと飲む。 多分、恥ずかしがっているのだろう。

俺はそんな桐乃の髪をとかすように触り、もう片方の手で抱き締める。

桐乃「……ほら、京介の番」

京介「ん、ああ。 サンキュー」

俺は桐乃の髪を触るのをやめ、コップを受け取った。

桐乃「ちょっと離してくれない?」

京介「えー。 なんで?」

桐乃「いいから。 早く」

言われ、不満に思いつつ、桐乃を抱き締めている手を離す。 ちくしょうめ。

桐乃「よいしょっと」

言うと、桐乃は俺の膝の上で体を半回転。 分かりやすく言うと、向き合う形にする。

京介「……ど、どした?」

桐乃「ベツに? こうした方が、あたしのこと見れるでしょ?」

京介「お、おう……へへ。 だな」

桐乃「えへへ」

桐乃は言いながら、俺のことをじっと見つめる。 普段なら逸らしそうな物だが、今日は全くその気配が見られない。

京介「……」

桐乃「……」

京介「……っ」

ついには恥ずかしくなり、俺は顔を逸らす。 そうしながらも、桐乃の目って綺麗だなぁ、とか思っちまうが。

桐乃「ひひ。 あたしの勝ちね」

京介「勝負だったのかよ。 はは」

桐乃「ふひひ~。 京介!」

桐乃は唐突に笑い出すと、俺に抱き着いてきた。 抱き着いたというよりかは、しがみつくの方が正しいかもしれない。

京介「あ、あぶねえよ。 コップ持ってるんだし」

桐乃「……イヤなの?」

京介「嫌じゃねえって。 馬鹿。 ちょっとコップ置くからさ」

桐乃はそれを聞くと、一旦俺に回していた腕を解く。 超不満そうな顔をしながら。

俺はそんな桐乃の頭を一度撫で、コタツの上へとコップを置いた。

桐乃「もういい?」

京介「おう」

桐乃「……京介から抱き締めてよ」

京介「へいへい」

俺は言われた通りに桐乃を抱き締め、そのまま後ろへと倒れる。

桐乃は俺の胸に頭を置きながら、嬉しそうな表情を作っていた。

桐乃「……あ、そーだ」

京介「んー?」

桐乃「ちょっと待っててね」

桐乃は起き上がり、先ほど置いたばかりのコップを手に取る。 二杯目のチューハイも、もう残り少なくなっていた。

桐乃「あのさ、エロゲーとかやってると、時々こんなのあるんだけどぉ」

若干呂律が回っていないような、そんな口調で桐乃は言う。

桐乃「こういう風に、飲み物を口に入れてぇ」

そのまま、自分の言った通りに残ったチューハイを口に入れる。

桐乃「んー」

俺に顔を近づけ、桐乃は何かを言おうとするが、飲み物が入っている所為で口を開けない。

……ドジだなおい! いやぁ。 ていうか、こいつは何をしようとしてんだ?

顔がスゲー近いし。 恥ずかしいんだけどよ。

京介「……なんだ?」

俺が聞くと、桐乃は自分の顔を指した後、俺の顔を指す。

……キスってこと? そのまま? それってつまりあれか?

京介「……えっと、それって、口移しするってことか?」

俺が聞くと、桐乃はコクコクと首を縦に振る。

京介「そ、それはまだ早いっつうか! 恥ずかしいっつうか!! も、もうちょっと仲良くなってからとか!?」

京介「だ、だから桐乃。 俺は別に嫌って訳じゃねえんだよ? お前可愛いし、俺はお前のこと、超好きだしよ」

俺がそう答えると、桐乃は口に含んでいたのを飲み込み、言った。

桐乃「ひひひ。 さすがに冗談だってのぉ。 まさかぁ、本気にしちゃったワケ?」

京介「お、お前絶対本気だったじゃねえか! そんな感じしたんだけど!」

桐乃「どうだろね~? それとも無理矢理して欲しかった? ふひひ」

京介「……うっせ。 アホ」

桐乃「ふうん。 そうゆうこと言っちゃうんだ。 折角ちゅーしてあげようかと思ったけどぉ。 やーめた」

ま、まじで? 桐乃からしてくれるはずだったの!?

京介「……マジ?」

桐乃「うん。 でも京介素直じゃないしなぁ~」

京介「く……くそ。 分かったよ! ぶっちゃけして欲しかった! これでいいか!?」

桐乃「キモっ! 襲われるぅ~」

京介「こ、このヤロー」

桐乃「ひぃ。 あはは」

桐乃はケタケタと笑い、俺の顔をじっと見る。

桐乃「まぁ、でもぉ」

急に真面目な顔付きになり、桐乃はそのまま俺に顔を近づけ、キスをして。

桐乃「約束だし。 感謝してよね?」

俺から離れ、桐乃はそう言った。

京介「……ああくそ! お前卑怯だぞ!!」

桐乃「なにが? うひひ」

京介「良いぜ良いぜ。 今日はぶっちゃけてやる。 俺はお前ともっとキスしたいんだよ! 桐乃はどうだ!?」

桐乃「京介がそうしたいってゆうなら、付き合ってあげてもいいよ?」

京介「い、言っとくが、普通のキスだけじゃないからな!?」

桐乃「へんたーい」

京介「うっせ! じゃあ、ほら、桐乃」

京介「……ここじゃあれだし、布団行こうぜ」

俺が桐乃に言うと、桐乃は俺にしがみつく。

桐乃「はいはい。 早くしてね」

俺はそのまま桐乃を抱きかかえ、布団へと向かっていった。

次の日。

京介「……な、なあ、桐乃」

目が覚めて、俺は桐乃に話しかける。

桐乃「……なによ」

京介「……昨日の夜、あまり記憶が残って無いんだが」

桐乃「……あたしも一緒だケド」

京介「そ、そうか。 それで、俺たちって今こうして布団で一緒に寝てるよな?」

桐乃「う、うん」

京介「……正直に言うと、今下着しか着てる感覚が------」

桐乃「ゆうなぁああああ!!!」

京介「お、お前もか? もしかして」

桐乃「ど、どっちでも良いでしょ!!」

京介「……一線越えてねーよな?」

桐乃「それは大丈夫だと思うケド……」

京介「な、なら良いか……」

桐乃「……一つ気になること」

京介「なんだ?」

桐乃「……口の周りがなんかべたべたする」

……うわ、俺も一緒だぞそれ。 でもなんか大体想像付いてきた。 敢えて口に出すことはしないが。

京介「よし……こうしようぜ、桐乃」

京介「昨日はめちゃくちゃ暑くて、暑さの所為で俺と桐乃の記憶が若干飛んでて、それで俺も桐乃も今こんな格好ってことだ」

桐乃「今、冬だケド?」

京介「すっげー異常気象だったんだよ。 昨日は。 だからこれは自然な流れであって、おかしくなんてない!」

桐乃「……口の周りがべたべたしてるのは?」

京介「あ、汗じゃね?」

桐乃「……キスしてたよね?」

京介「い、言うんじゃねえ! 言われたらなんだか若干思い出してきたから! 今になってすっげえ恥ずかしいからやめろ!!」

桐乃「う、あ、あたしも一緒だっての……」

桐乃「てか、京介」

京介「……今度は何だよ?」

桐乃「……そろそろ着替えたいから、目一回瞑ってよ」

京介「あ、あはは。 だな」

その後、少し話し合い、俺と桐乃の間ではその日のことは無かったこととなるのだった。


アルコール 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

一応、この前ネタ頂いていた京介が酒を飲んだら云々のが元となってます。
期待と大分違う感じに仕上がってそうですが……

すまん、違和感を素直に書かせてほしい。

ここの京介なら「母体にかかわる」とか色々でっち上げて非行だけは阻止するもんだと思ってた。
そして桐乃も「変態」と罵りながらもなんだかんだで納得するもんだと思っていた。

誤解されそうな書き方だったので。
あくまで個人的な感想であって、現実の価値観にリンクさせて氏の作品を貶めるつもりは毛頭ありません。
仮に今後、タバコなりハーブなりバイクを扱う展開があったとしても、それはそれで楽しみに読めると思いますので気になさらないでください。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

その辺りはイメージと違っていたらすいません。
タバコは想像が付かないので、書く予定は無いです。

それでは、投下致します。

京介「沙織、お前って本当にすげえな……」

俺は言いながら、山からの景色を見下ろす。

こいつ、海の近くだけでなく、山にも別荘を持っていたのかよ。

沙織「景色はかなりの物ですわ。 冬だからこそ、こういうのも趣があって良いかと思いまして」

黒猫「……ここって旅館では無いのよね? 沙織」

沙織「一応……個人で所有している物となっていますが。 どうかなさいましたか? 黒猫さん」

黒猫「……さっき、ちらっと見たわ。 禍々しいオーラを放っている浴場を。 なんてこと……これは」

桐乃「チョーでっかいお風呂あったよね! うちもあれだけ大きければなぁ」

沙織「ふふ。 京介さんと一緒に広々と入れるのに、ですか? きりりんさん」

桐乃「そうそう!」

そうそうじゃねえよアホ! 馬鹿!!

黒猫がすっげえ冷めた目で俺のことを見ながら、冷ややかに笑っているじゃねえか!

京介「は、はは……」

沙織「仲が良くて羨ましいですわ」

うっさい。 ほっとけや。

ていうか、沙織のこの状態もなんだか随分久し振りな気がするな。 こっちの方が可愛いし、普段からこうしてりゃ良いのに。

桐乃「とりゃ!」

京介「いってぇ! なんだよ!?」

急に桐乃にケツを蹴られ、俺は後ろを振り向きながら言う。

桐乃「なんかムカついただけ」

……相変わらずだが、勘でやってるとしたら恐ろしい的中率だぜ。 やれやれ。

黒猫「いちゃつくのもその辺にして頂戴。 こんな山奥で干からびたく無いわ。 しかも冬に」

黒猫「あなた達の熱波はもはや公害レベルなのよ。 この公害カップル」

京介「悪かったな公害で!」

沙織「うふふ。 では、夕飯でも作りましょうか。 先ほど、材料も買いましたし」

沙織「きりりんさんも、黒猫さんも、手伝ってくださいますか?」

そういや、もうそんな時間か。 時刻は18時、年越しまでもう少しと言ったところ。

桐乃「もっちろん。 当たり前じゃん?」

黒猫「ええ、良いわよ。 むしろ、手伝わせて貰いたいくらいよ」

桐乃と黒猫はすぐにそう答える。 あー、てか、俺は?

京介「俺もなんか手伝うか?」

桐乃「いい。 あんた来たら逆に邪魔だしぃ~」

京介「……へいへい」

相変わらず酷い言い方だぜ。 はは。

沙織「京介さん、きりりんさんは恐らく……京介さんに食べて頂きたいのかと思いますよ。 毎日食べていると思いますけどね」

京介「……知ってるよ。 ありがとな、沙織」

沙織「ふふ。 余計なお世話でしたね。 京介さん」

それから数十分待ち、やがて沙織達が料理を運んでくる。 なんか、俺すっげー良い気分なんだけど! 階級が上がった気がするぜ。 へへ。

桐乃「なにボーっと座ってんの。 運ぶのくらい手伝えっての」

……お前いっつも家じゃ「京介は座ってて良いよ。 あたし持ってくるから」って言うじゃねえかよ! なんで友達の前だとそんな当たりキツイわけ!?

京介「……へいへい」

照れ隠しにしても酷い言い方だぜ。 まあそんなところも好きだけどよ。

俺は思い、にやにやしながら桐乃を見ると、こいつはこう返す。

桐乃「なに笑ってんの。 チッ……」

そして俺の足を踏みつける。

京介「いって! 足踏むんじゃねえよ!」

桐乃「え~? だってぇ、京介踏んで欲しそうな顔してたしぃ」

京介「どんな顔だ!?」

言いたい放題だな、桐乃め。

黒猫「本当に気持ち悪いわね。 この変態」

……うわー。 超帰りてえ。 なんで俺はこんな暴言吐かれながら、必死に料理が乗った皿を運んでいるのだろう。

気分はあれだ、性格の悪い奴に雇われた執事って感じ。 だって黒猫も桐乃も既に座って料理を運ぶ俺を眺めてるし。

そんな光景にため息をつきながら、キッチンに置かれている料理を運ぶ。 ひたすら。

沙織「ごめんなさい、京介さん。 わたくしたちだけでは運びきれなかったので」

そこに居た沙織は、先程から忙しなく料理を運ぶ俺に向けて言う。 一番のお嬢様が一番の優しさだよ、ほんと。

京介「良いって良いって。 俺もただ座ってるだけじゃ、わりいしな。 何か他にもあったら気軽に言ってくれよ」

沙織「はい……あ、それでしたら京介さん」

京介「お、早速か? 何だ?」

沙織「わたくし、自宅に本を忘れてきてしまいましたの。 急に読みたくなったので、取ってきてください」

京介「……外、雪降ってるけど」

沙織「ええ」

京介「……ここ山の中だけど」

沙織「ええ」

京介「……ここには悪魔しかいねえ!!」

沙織「ふふ。 冗談ですよ。 ごめんなさい」

京介「お前が一番まともなんだから、頼むからおかしくならないでくれよ……」

ほんと、心の底からのお願い。

京介「いただきます」

ようやく運び終わり、待ちに待った食事。

さすがに四人ともなると賑やかで、なんだか少し、懐かしかった。

黒猫「……それ、どうかしら?」

黒猫は言いながら、俺が食べていた茶碗蒸しを見る。

京介「すっげえ美味いけど……これ、お前が作ったのか?」

黒猫「え、ええ……まあ」

ちょっとだけ嬉しそうな顔をする黒猫。 あれだよな、料理って作る側からすると、ひと言美味いと言われるだけで、すっげー嬉しいんだよな。

俺自身、あんま作ったことは無いけどさ。

桐乃「そーいえば、黒猫って和食系得意だったよね。 よくそんなの作れるね?」

黒猫「難しい料理では無いわよ。 手間は確かにかかるけれど……火加減さえ気を付ければ、誰でも作れるわ」

桐乃「へぇ~。 んじゃさ、今度教えてよ。 あたしも作ってみたい」

黒猫「ええ、良いわよ。 愛する旦那様の為だものね」

桐乃「ち、違うっての! 自分で食べる用だしっ!!」

今日はそんな衝突も無さそうで何よりだな。 それにしても桐乃が作ってくれる茶碗蒸しか……早く食べたい! 今度黒猫に早く教えるよう言っておこう。

最早、桐乃の言葉は頭の中で自動変換だぜ。 今のは「京介と一緒に食べたいな!」ってところだ。 やべ、顔がにやけてしまうぞ。

そんなことを思いながら、皿に乗った肉じゃがを口の中にいれる。

京介「……あ」

京介「これって、お前が作ったのか?」

俺は言いながら、桐乃の方に顔を向ける。

桐乃「え? そうだケド。 なんで分かったの? 見てた?」

京介「いや……見て無いけど、味が桐乃の作った奴と同じだからさ」

桐乃「ふ、ふうん。 そか」

沙織「良かったですね。 きりりんさん」

桐乃「は、はぁ? なにが?」

沙織「うふふ」

桐乃「……ふん」

そんな一連の流れを見ていた黒猫が口を開く。

黒猫「前から思っていたのだけど、あなた達は定期的にイチャイチャしないと死ぬ呪いにでもかかっているのかしら?」

桐乃「どこがよっ! ベツにイチャイチャなんてしてないでしょ!」

京介「俺も同じ意見だが……」

黒猫「……やれやれ。 仕方無いわね。 それならあなた達がどの程度イチャイチャしているのか、説明してあげるわ」

なんだってんだ。 俺と桐乃なんて一般的に見れば、至って普通なのだと思うけど。

そりゃあ、家で二人っきりの時とかはある程度自覚も無くはねえが……それでも、普通のカップルとかだってやってることじゃねえの? って思うよな。

黒猫「まず一つ目。 あなた達、全体的に距離が近すぎるのよ」

京介「……そうか?」

俺は言いながら、すぐ隣に座る桐乃に顔を向ける。

桐乃「……そうでもないっしょ」

桐乃も俺の方を見て、そう言う。

ふむ、問題無いじゃん。

沙織「うふふ。 ここに来る時も、手を繋いでおられましたね」

京介「そりゃそうだけど……」

桐乃「だ、だってそれは仕方ないでしょ? 京介がどうしても手を繋ぎたいって土下座してくるんだもん」

京介「いやしてねーけど!?」

自然と嘘を付くのはやめてもらいたい。 ていうかどっちかと言ったら、お前の方から手繋いできたじゃねえか。

黒猫「……ああ、分かったわ!」

黒猫は突然大きな声を挙げ、何かに納得したような表情をする。 一体なんだってんだ。

京介「な、なんだ……?」

黒猫「ふふ。 あなた、桐乃に飽きたのね」

桐乃「はぁ!? あんた舐めてんの!?」

そこで何で俺の胸倉を掴むんだよ! 言ったのは俺じゃなくて黒猫だ!

京介「な、なわけないだろ! 俺は今でも桐乃のことが超好きだ!」

桐乃「そ、そう? ……良かった」

くぅ、心配そうな顔しやがって。 俺がそんな風になることなんて、絶対ねえっての!

黒猫「では、どうしてわたしと付き合っていたときは手を繋ぐだけでドギマギとしていたの?」

京介「そ、そりゃあ……当たり前だろ?」

桐乃「チッ……」

うわ、超不機嫌顔。 つうか黒猫の奴は一体何が目的なんだ!? くそ……。

黒猫「それで、今桐乃と手を繋ぐのに緊張はしないのかしら? ふふ」

京介「……もうしっかりと付き合って一年は経つしな」

思えばそうか。

もうあれから一年経ったのか。

俺と桐乃が家を出てから、もう一年。

黒猫「それを飽きたというのよ。 分かる?」

京介「……わかんねーな。 お前が何を思ってそう言ってるのかも、わかんねえよ」

俺が若干苛立ちを覚えながら答えると、黒猫は顔を上にあげ、口を開く。 雰囲気から、ふざけた様子は感じ取れなかった。

黒猫「理由を知りたいのよ。 どうして桐乃のことをそこまで好きになれるのか」

京介「どうして? 好きになるのに理由なんかいらないだろ」

黒猫「……そうね、その通りよ」

俺と黒猫の会話を沙織と桐乃は黙って聞いている。 何かに気付いてか、その空気に圧されたのか、それは分からない。

黒猫「でもそれは、普通の恋人の場合。 そうでしょう?」

普通の恋人、ね。

京介「それは俺と桐乃が兄妹だからか?」

黒猫「ええ、そうよ」

俺が聞くのとほぼ同時に黒猫は答えた。 そして、続ける。

黒猫「わたしや沙織、それにあやせやあのメルルもどき。 その人達は分かっているわ。 あなたと桐乃の関係も。 分かった上で、友達でいたい……仲間でいたいと思っているわ」

黒猫「それでも、それを認めない人たちも出てくる。 当然のことよ」

黒猫「あなた達の両親だってそう。 田村先輩だってそう」

黒猫「これから、もう何年もしない内に社会に出て……普通に行けるとは到底思えないわ」

黒猫「必ず問題にぶつかる。 それでも、あなたは今と変わらずに同じ事を言えるかしら?」

黒猫の問いに、俺は答える。 決まっている答えを口に出す。

京介「言えるさ」

黒猫「桐乃がそれで泣いたとしたら、あなたはどうするの?」

京介「その時は話を聞いてやるよ。 桐乃が泣き止むまで」

黒猫「それでもどうしようも無かったら?」

京介「その時は一緒に泣くさ。 どうしようもねえからな」

黒猫「そう。 今、この場ではそう言って置けばいいかもしれないわね。 でも、それはあなたも分かっているでしょう?」

京介「まあな。 だけど、俺にも一応考えって物があるんだよ」

黒猫「……それは、何?」

それを聞くとき、黒猫は不安そうになりながら聞く。 見てすぐに分かるさ、そのくらいなら。

そして黒猫の考えは、何となくだが分かった。

こいつは、俺たちのことを心配しているのだろう。 今は楽しくやってるが、それが何年経っても続く物なのかと、心配しているんだ。

不器用な聞き方だけどな。

京介「俺と桐乃が問題にぶつかって、どうしようも無くなっても」

京介「俺たちには、お前らが居るからよ。 黒猫も沙織も、あやせも加奈子も。 御鏡も瀬菜も」

京介「その時は遠慮無く頼らせてもらうさ。 良いだろ?」

俺の言葉に、黒猫は頬を緩ませ、笑った。

黒猫「良い答えだわ。 前に言ったこと、忘れていなかったのね」

京介「当たり前だろ。 お前には本当に、返しきれないくらいの恩があるしな」

黒猫「ごめんなさい、こんな話を急に……年が明ける前に、確かめておきたくて」

京介「そうかい。 で、その結果は?」

黒猫「聞くまでも無いことでしょう? それは」

黒猫「ふふ。 それで、今……恩があると言ったわね? その恩、一発で返す方法があるのだけど……どう? 試してみる?」

京介「無理なことじゃなきゃ、試したいけど」

黒猫「簡単なことよ……」

黒猫は言うと、俺の左隣に腰を掛ける。 ちなみに右隣には桐乃が座っている。

黒猫「……か、体で払えばいいのよ」

何言ってんだこいつ!? つうかめっちゃ恥ずかしそうに言うんじゃねえよ! 俺が変なことしてるみたいな構図になってるじゃねえか!

沙織「あらあら。 京介さん、ハーレムですわね」

京介「なんで携帯構えてるんだ!」

ていうか、ていうかだな。 これは敢えて言わなかったことなのだが……と言うよりかは、敢えて触れなかったことなのだが。

……右隣から、殺気を感じる。

京介「ま、まあとりあえず食器片付けるか! はは」

手をポンと叩き、俺は言う。 あからさまに怪しすぎるぜ、今の俺。

桐乃「……」

チラ見したところ、八重歯剥き出しで俺の事を睨んでいる桐乃が見えた。

京介「あ、あー美味かった。 さ、風呂でも入るかなぁ」

立ち上がろうとしたところで、肩を掴まれる。 やっぱりそうなるよね。

桐乃「さっき黒いのと話してたときはあんな格好良いこと言ってたのに、なんで今デレデレしてたの? ん?」

京介「し、してねーよ? 俺はいつも通りだよ?」

桐乃「へええ。 へえ。 ふうん」

こういう風な反応する時って、かなり怒ってるんだよねぇ、こいつ。

桐乃「……まぁ、今日は良いや。 もうすぐ年越しだし、トクベツ」

京介「さっすが桐乃さん! 優しいなあ! 天使みたいだ!」

ここぞとばかりに持ち上げる俺。 だけど生憎、それが逆に怒らせることになったらしい。

桐乃「言っとくケド……今日は、だからね。 明日になって家帰ったら覚えとけ」

京介「……はい」

こうは言うが、意外とノリノリだぜ、俺。 だって桐乃の怒ってるところとかも可愛いしな。 うん。

黒猫「どうでも良いことだけれど、そろそろお風呂に入りましょう?」

京介「え? 一緒にか?」

桐乃「あんたねぇ……」

京介「いやいや、冗談だっての! 桐乃としか入らねーよ!」

黒猫「前に言っていたのは本当だったのね……二人で毎日お風呂に入っているとか、なんとか」

京介「毎日は入ってねえよ!! 何勝手に解釈してんだ!」

黒猫「なら、何日に一回かしら?」

京介「……しゅ、週一くらい」

最初は一ヶ月に一回だったんだけどな。 気づいたら週一回になってたんだ。 今でも不思議なんだよね、これ。

黒猫「今度あやせに報告しておかないと」

京介「お前、良いのかよ。 そんなこと言ってただで済むと思うのか」

黒猫「な、何よ……?」

いつもと違う答えに、黒猫の表情が険しくなる。 へへへ、俺にも考えがあるんだよ。

京介「お前な。 俺がぼっこぼこにされて、最悪包丁で刺されるかもしれないんだぞ! それで良いのか!? そうなったら捕まるのはあやせだぞ! お前は友達を一人失うことになるんだぞ!」

黒猫「……お風呂に行ってくるわ」

無視されたなぁ! 最近、黒猫がどんどん酷くなってる気がするぜ。 誰の影響だろう。

……桐乃とあやせだな。 間違いない。

こうして、黒猫と沙織と桐乃はそのまま風呂に行き、俺もまた風呂へと向かう。

ちなみに、この俺たちが来ている沙織の別荘なのだが、なんと風呂が男女別になっている。 何でも昔は本当に旅館だったらしく、それを買い取ったとのことだ。

こんなところに桐乃と一緒に住んでみたいなぁ。 なんて考えながら、一人風呂。

京介「……ふう」

黒猫にも先ほど言われたが、大変なのはこれからだろう。

そんなのは分かっている。 桐乃も分かっているはずだ。 俺たちが歩こうとしている道は、とてつもなく険しい物だろうと。

ゲームみたいにはいかねえよ、さすがに。 いや、あのゲームの主人公達も、裏ではすっげえ頑張ってるのかもしれないけどさ。

だけど俺は、あの妹の為になら何でも出来る気さえするんだ。

桐乃。

今だからこう思えるのかもしれないけど、俺にとって何より大切な奴で、何より好きな奴で、世界でたった一人の妹だ。

……桐乃はどういう風に思っていたのかな。 今までのことや、これからのこと。

あいつは多分、あいつの性格なら、多分。

ずっと、気持ちを抑えて影で泣いていたのかもしれない。 俺には何となく分かる。

どう言えばいいんだろうな。 こんな気持ちは。

守ってやりたいだとか、抱き締めたいとか、一緒に居たいとか。 それよりも、もっとこう……大切にしてやりたい。

今、あいつは俺に「幸せ」と、良く言ってくれる様になった。 でも、俺はもっとあいつを幸せにしてやりたい。 今よりも。

これから多分、そんな道を模索し続けることになるのだろう。 そして、それも黒猫が言っていた「問題」とやらに含まれているのだろう。

ならば良いさ。 やってやる。 俺は俺が思うように、あいつを今よりももっと、幸せにしてやる。

それが、兄である俺の役目で、桐乃を好きになった俺の役目で、桐乃に好きになってもらえた俺の役目だ。

その後、風呂から出て再びリビングへ。

入ると沙織と桐乃と黒猫が揃って髪を乾かしている。 中々に面白い光景だ。

京介「なあなあ、桐乃」

そんな桐乃の背中に、俺は声を掛ける。

桐乃「なに? なんか用?」

京介「桐乃のこと、俺めっちゃ愛してるからな」

桐乃「ぶっ!」

桐乃は勢いよく立ち上がり、俺の方にずんずんと詰め寄ってきた。 可愛いな! はは。

京介「本当のことじゃん」

桐乃「こ、このバカっ!!」

黒猫「沙織、見なさい。 あれがバカップルの良い例えよ」

沙織「羨ましいですわね。 うふふ」

桐乃「ちょっと来いッ!!」

黒猫と沙織の冷やかしに耐え切れなくなったのか、桐乃は叫ぶように言うと、俺を引っ張り廊下まで連れて行く。

京介「な、なんだよ?」

桐乃「なんだよじゃないでしょ! な、なにあいつらの前であんな恥ずかしいこと言ってんの!?」

京介「はは。 悪かったって」

桐乃「……笑いながら謝ってもムカつくだけなんですケド」

ったく、一々可愛い奴だ。

俺はそんなムスッとした顔付きの桐乃に、キスをした。

桐乃「っ!? な……なっ! あんたッ!」

ここではしないとでも思ったか! 馬鹿め、俺はどこにいてもお前にキスするんだよ。

京介「あいつらにばれなきゃいいだろ?」

言いながら、笑う。

桐乃「……そ、そうゆう問題じゃないし」

京介「もう一回してもいいか?」

桐乃「だ、ダメ! それはダメ……」

京介「どして?」

桐乃「ど、どうしても。 その……帰ってから、家で二人の時に、すればいいじゃん……?」

俺が優位に立っていたと思ったら、このひと言ですっげえ来る物があるんだよな。 てか、こいつがもしおねだりとか覚えたら、俺は何でも聞いてしまいそうだ。

昨日のアレだって、こいつが「おねがぁい」とか言った瞬間、全部吹っ飛んで行ったしな。 全部だぜ、全部。

京介「お、おう……そ、そうだな。 はは」

桐乃「……か、帰ってからなら何回でもいいから」

すげえ台詞だな……。

いや、てか。 ううむ。 恥ずかしいぞ、くそ。 やはりこいつの破壊力はヤバイ。 今から家に帰ってでも布団の中でゆっくりしたい! 二人っきりで! マジで!

沙織「お二人とも、もうすぐ年越しですよ?」

と、廊下で話していた俺達に声が掛かる。

京介「あ、ああ。 もうそんな時間か」

京介「ほら、行こうぜ。 桐乃」

桐乃「う、うん」

未だに桐乃は顔を赤くしていて、恥ずかしさを我慢している様な顔をしていた。

……写真に収めてぇ!! 携帯を寝室に置きっぱなしってのがすっげえ悔やまれる!!

黒猫「ほら、もう年を越すわよ。 沙織、桐乃」

京介「あのー、俺も一応居るんですけど……」

黒猫「あら、そうだったの。 ふふ。 気付かなかったわ、ごめんなさい」

京介「……はぁ」

溜息を付きながら、時計に目を移す。 時刻は23時50分程。

京介「そだ、テレビでなんかやってんじゃねえの? この時間なら」

沙織「あ、そうですわね。 付けて見ましょう」

そう言うと、沙織はリモコンを手に取り、テレビの電源を入れる。

『新年あけましておめでとうございます!』

とのこと。 テレビに表示されている時間は既に日付が変わってから5分ほど経っている様だ。

京介「……沙織?」

沙織「ええっと……時計がずれていたみたいですね。 うふふ」

黒猫「気付かぬ内に新年を迎えていたというの? それは不味いわ。 非常に不味いわよ……現世と魔界に歪みが生じてしまうわ」

桐乃「……あんた、まだ厨二病抜けてなかったの?」

……まぁ、この方が俺たちらしいと言えばそうなのかもしれない。

桐乃「あれ……ちょっと待って。 だとすると、あたしの新年最初の言葉って」

桐乃は言うと、俺の方を睨む。

京介「は、はは。 続きは家に帰ってから聞くからよ」

京介「とりあえず、あれだ」

四人、顔を見合わせ。

「あけましておめでとう」

そして、新しい年は始まる。


年越し 終

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

いよいよ明日、配信ですね!
この待っている時間が一番楽しかったりそうじゃなかったり。
アニメ終わってしまうのが寂しい。

こんにちは。
乙、感想ありがとうございます。

配信前に投下ぁ!

新年になってから、まだそんな日が経っていない頃。

夜で外が真っ暗で。

気温は雪でも降りそうな寒さの日。

って言っても、その日は晴れていたんだケド。

そんなある日。 あいつはあたしに声を掛けた。

「桐乃、ちょっと付いてきてくれ」って言って。

あたしは不審に思いながらも、渋々と付いていった日の話をしよう。

桐乃「なんかさぁ、あんた最近どこ行ってるの?」

京介「え、えと。 俺? どこって?」

桐乃「あんたしか居ないでしょ。 最近、夜になる度にどっか行ってない?」

京介「あ、ああ。 そうだな……運転の練習だよ、練習」

ふむ。 京介が免許を取って、一緒に貯めてた貯金で車を買って、それでその練習ってことか。

怪しいっつの!

桐乃「じゃ、なんで夜?」

京介「はは……そっちの方が練習になるかなーって思って」

桐乃「……ふうん?」

京介「そんなことよりエロゲーやろうぜ! 新作買ったって言ってたじゃねえか。 な?」

どう見てもウソだケド……。 何か、隠しておきたいことでもあるのかな。

あたしも言いたく無いこともあるにはあるから、人のことを言えた義理じゃない。 でも、やっぱり気になるよねぇ。

桐乃「京介も相当エロゲ好きだよね?」

京介「……誰の所為だと思ってるんだよ」

桐乃「所為って言わないで。 おかげでしょ?」

京介「へいへい……」

……よし。 明日、少し調べてみよう。 京介が何をしているか。

次の日。 今日もあいつはどこかへと出掛けて行った。 一人残されるあたしの身にもなって欲しいよ。

思い出されるのは、あたしが小さかった頃のこと。 あいつは遊びに行って、あたしは追いつけなくて。 そんな超悔しかった日のこと。

……ま、今日はそっちの方が都合が良い。 京介の前じゃ堂々と調べられないし。

一応言っておくケド、この時間以外殆どべったり一緒に居るワケじゃないからね? 今の言い方だとそう聞こえるかもしれないから、一応。

だってほら、あたしが学校とか仕事のときは別々なんだし。

……それ以外だと、いつも一緒だけど。

ってそうじゃないそうじゃない! あいつのことを考えてぼーっとしてしまった。 ムカつく!

これもあれも、全てはあたしに何も言わないで変なことをしてるあいつが悪い! うん。

桐乃「……ほんと、どこ行ってるんだろ?」

そう呟き、窓から外を眺める。 空は曇っていて、いつもは綺麗に見える星は見えなかった。

桐乃「ダメダメ! 落ち込んだらダメだ!」

若干落ち込みそうになった気持ちに活を入れ、電話を手に取る。

まずは、黒いののところで良いかな。

桐乃「もしもし、夜遅くにごめんね」

「構わないわ。 丁度、妹たちとお風呂が終わったから」

桐乃「え!? あんた妹と一緒にお風呂入ってんの!?」

「邪悪な気配を感じるわよ。 食い付き方が怖いわ……」

桐乃「そ、そんなことないって……ふひっ」

あ、よだれが。

「……はぁ。 それで、用件は何だったの?」

桐乃「お、おっと。 忘れるところだった。 えーっとね」

そっちが本題だったのに。 黒猫が妹たちとCG回収シーンを迎えていたなんて。 伏兵すぎる。

桐乃「京介ってさ、最近なんかヘンなところなかった?」

「……ちょっと待ちなさい。 もしかしてそれは」

あれ。 もしやいきなり当たり?

「…………惚気話かしら?」

桐乃「ちっがうっての!!! てゆうかあんたに惚気たことなんて無いっつーの!!」

「今までのが惚気じゃないとして、あなたの惚気の基準が恐ろしくなってくるわよ?」

桐乃「あーもう! で、あいつヘンなところなかった? さっさと答えてよ」

「ふふ。 そうね」

「わたしが知る限り、先輩におかしなところは無かった筈よ」

「もっとも、普段の先輩も変と言えば変だけどね」

桐乃「だーめーだー。 全然分かんないし」

その後……あやせに加奈子、沙織にもせなちーにも電話して聞いたんだけど、全員が何も知らなかった。

てかね、ちょっとこの一連の電話で不満な点があるの。 みんな、あたしが「京介のことなんだケド」と言った瞬間に惚気かどうか聞いてくる。

どうしてだー! あたしってそんなキャラなの!?

……ま、まあ。 そりゃあ、京介はいざというときに物凄く頼りになって、超格好良くて、それにいつも助けてくれるし。 優しいし。 気配りできるし。 あたしのこと見てくれてるし。 あたしのこと大好きだし。

不意にキスしてくるのは許せないケド! あれ、ほんとこっちの身にもなって欲しいんだよね。 てか、未だにあいつとキスするのに全然慣れないんだよねぇ。

心臓とか張り裂けそうになるし、顔は赤くなってるのが分かるくらいだしさ。

でも、不思議と近くに居ると落ち着くんだよね。 夜、寝るときだってそう。

あいつと一緒に布団の中で目を瞑るだけで、ゆっくり休めるから。

あ、でも! これもまた許せないことがある!

……最近だと寒いのか知らないケド、朝起きるとほぼ確実に抱き締められてるんだよね。 あたしは抱き枕じゃないっての。

抱き枕かぁ……。

そういえば、新しい抱き枕出るんだっけ? 今度京介と一緒に買いに行こうかな。

通販で買っちゃってもいいんだケド……どうせなら一緒に行きたいし。 あいつ車あるしね。

よし、そうと決まったら早速デートの予定を。

桐乃「……あれ。 なんか忘れてる気がする」

……なんだっけ?

ま、そんなことより今はデートの予定だ! 行く場所はアキバだとして……どんなコースにしよっかな。

朝から出掛けて、お昼は喫茶店でも行こう。 で、お昼過ぎからは渋谷に行くのもありかな?

そだ。 どうせなら渋谷か新宿辺りであいつの服も見てあげようかな。 最近、新しい服欲しいとか言ってたし。

んで、それでぇ……夜はどうしよっかなぁ。

たまには落ち着いたところでも良いかな? でもそれだとこの家になっちゃうんだよね。

それは京介と話して決めることにしよう。 早く帰ってこないかな、あいつ。

次の日。

桐乃「デートの予定とか考えてる場合じゃなかったじゃん!! あいつが出掛けている原因を調べてたのに!!」

またこのパターン! あああもう! ムカつく!! 家に居ないときまであたしの頭の中を占領するなんて、許せないんですケドぉ!

今日もまた京介はどっか出掛けてるし。 あいつがこんな行動をしなければ、あたしも頭を抱えることなんて無いってのに。

あいつが行きそうな場所……今日はそこを考えるとしよう。

とにかく、まずは電話~。

桐乃「もしもし、あやせ?」

「桐乃? どうしたの? こんな夜遅くに」

桐乃「あはは、ごめんね。 昨日に引き続き、ちょっと聞きたいことがあってさ」

「お兄さんのことだね。 うん、良いよ」

桐乃「ありがと。 それで」

桐乃「もし、あやせが京介だったとしてさ……その」

う……いざ聞くとなると、言い辛い。

桐乃「…………エロいお店とか行きたくなる?」

「ぶっ! ちょ、ちょっと桐乃!」

電話越しであやせが咳き込んでいる。 無理もないケド。

桐乃「だ、だから例えばのハナシだって! お、男の人ってそうなるのかなぁ……って」

「なんでそれを私に聞くの! そ、そういうのって男の人に聞いた方が早いと思うよ」

桐乃「言えるワケ無いじゃん! 御鏡さんならフッツーに答えそうだケドさ……でも、やっぱイヤじゃん?」

「それで私……ってこと?」

桐乃「うん、まあ……そう」

「分かった。 桐乃が真面目なのは分かったけど……でも、やっぱ私じゃ分からないよ」

「……だけど、仮にお兄さんがそういうお店に行ってたとしたら、桐乃はどうするの?」

桐乃「あ、あたし?」

あたしは……。

良いかな、あやせにだったら。

桐乃「チョームカつくケド。 ムカつくし、悔しいケド。 でも、京介がそれで悩んでいるとしたら……許しちゃうかもしれない」

「そっか。 やっぱり、優しいんだね。 桐乃」

桐乃「そんなことないって! もしそうだったら一発か二発は殴ってやるつもりだし!」

「あはは。 その時は私も手伝うよ」

……その台詞はちょっと怖い。

桐乃「やっぱあやせは分からないかぁ。 あ、加奈子ならそうゆうの詳しいかな?」

「……それは止めた方が良いよ。 加奈子、余計なことを言いそうだから。 例えば」

「京介? ああ、行ってるに決まってんだろ~? 男ってエロいし」

「とかね?」

桐乃「あ、あー。 確かに。 なんか言いそう」

「ふふ。 まぁ、もしも桐乃にそんなことを言ったら……」

桐乃「あ! あたしやらなきゃいけないことあったんだ! ごめんあやせ! ありがとね!」

それ以上先は聞かないほうが良いと思い、あたしは慌てて電話を切る。

結局、今日も収穫無しか。

もう、こうなったら直接本人に聞くしかないよね。 あいつは言いたく無さそうだけど、気になって仕方ないんだもん。

……明日、出掛ける前に聞いてみよう。

桐乃「京介、ちょっと来て」

京介「ん? 別に構わんが」

桐乃「そこ、座って」

京介「出来ればコタツに入りたいんだけど……」

桐乃「ダメ。 良いから早く座れ」

京介「へいへい……」

そう返事をすると、京介は床に正座する。 正座までしろとは言ってないのに。

京介「で、何だよ?」

桐乃「……あんた、何隠してるの?」

あたしが言うと、京介は分かりやすい程に慌て、答える。

京介「べ、別になんも隠してねえよ? マジ」

桐乃「へえ。 ほんとに?」

京介「お、おう……毎日出掛けてるのは、運転の練習だし」

桐乃「……ひひ」

京介「き、桐乃? どした?」

桐乃「ねえ、京介。 あたしは何を隠しているのか聞いただけなのに、なんで運転の練習が出てくるの?」

ここまで見事にぼろを出すとは思って無かった。 妹としても、こいつの彼女としても少し心配になってしまう。

京介「そ、それは……なんて言うか」

桐乃「早く言った方が楽だよ? ほら」

京介「……あーくそ! まぁ、良いか。 元々そろそろだったし」

京介は言うと、立ち上がり、あたしに手を差し伸ばしながら続ける。

京介「今日は一緒に出掛けようぜ。 桐乃、ちょっと付いてきてくれ」

俺は渋々ながらも言った。 もう、隠すのにも限界は近そうだし、何よりこいつに悩んで欲しくは無いから。

桐乃「……良いの? あたしも一緒に行って」

京介「当たり前だろ。 つうか、元々その予定だったし」

最終的には桐乃の為だしな。 こいつが喜ぶかどうかは置いといて、だが。

桐乃「分かった。 行く」

桐乃は言い、立ち上がる。

京介「じゃ、俺は外で待ってるから、準備出来たら来てくれ」

俺は最後にそう言うと、部屋を後にした。

桐乃「で、これどこに向かってるワケ?」

京介「まーまー。 もうすぐだからよ」

助手席に座る桐乃に言い、俺は目的地へと向かう。

場所はそこまで遠くは無い、近くの山を少し入ったところだ。

桐乃は暇潰しの為か、ラジオのチャンネルをカチカチと回す。 いつもは桐乃がCDやらを持って来てくれるのだが、今日はそうではないらしい。

てか、こいつたまにエロゲーソング持ってくるんだよ。 あれマジで恥ずかしいからやめて欲しいぜ。 この前なんて、赤城を乗せた時にそれが入ったままで若干気まずかったし。

しっかし、最初の頃はわざわざ後部座席に乗っていたのに、今となっちゃ普通に助手席に乗ってくれるようになって、若干嬉しいぜ。

いいね、車デート!

そんなことを考えている内に、目的地へと到着。

少し開けた場所にある駐車場に車を止め、桐乃に降りるよう伝える。

京介「着いたぜ、桐乃」

桐乃「こんな山の中? あんた、こんなとこで何してたの?」

京介「良いから良いから、ほら」

桐乃「チッ……はいはい」

俺と桐乃はそのまま外に出る。 そして、俺はカバンからひとつの物を取り出し、それを桐乃に手渡した。

桐乃「なに? これ」

京介「それ、付けといてくれ」

桐乃「……目隠し?」

京介「おう」

桐乃「ま、まさかあんた……あたしにエロいことする気!? こんな山奥で!?」

京介「ちっげーよ!! エロゲーのしすぎだッ!!」

いやまあ、俺だってこの状況でそれを渡したらそう勘違いされるのは無理も無いとは思ったが。 でも、そうしないとなぁ。

桐乃「ほんっと変態。 ふん」

言いつつも、素直に付けてくれるんだなぁ。 全く、俺が悪い奴だったら間違いなくヤバイことになってるだろうに。 どれだけ信用しているんだか。

京介「ほら、手繋ぐぞ。 それだと歩けないし」

桐乃「……うん」

桐乃の声は先ほどよりも小さく、視界が塞がれているのが恐らくは怖いのだろう。

俺は心の中で桐乃に謝り、手を引いて歩き出す。 桐乃が転ばないように気を使いながら。

そして歩くこと数分。 その場所へと到着した。

京介「着いたぜ、桐乃」

桐乃「もう? じゃ、これ取っていい?」

京介「おう」

俺が答えると、桐乃はすぐに目隠しを取る。

桐乃「……なにここ? 完全森の中じゃん。 少しは見晴らし良いみたいだケド」

ま、そりゃあそうだろうな。 夜景を見る場所じゃあ無いから。

桐乃「ちょっと、京介?」

聞いてくる桐乃に向け、俺は上を指差した。

桐乃「……?」

桐乃の顔は疑問でいっぱいになっていたが、俺はそんな桐乃を少しの笑みを浮かべながら眺める。

やがて、桐乃は上を向いて。

桐乃「……これ」

そうだ。

ここは夜景を見る場所じゃない。

ここから見れるのは、星空だけだ。

京介「ずっと良い場所探しててさ、心配掛けてたら悪かったな。 付き合ってからもう一年になるし、その記念でお前に見せたかったんだ」

桐乃「……ばか。 心配なんてしてないっつの」

京介「へへ。 そうかい」

桐乃は膝を抱え、その場に座り込む。 俺は黙って、その隣に腰を掛けた。

京介「家を出た日も、こうして星を見てたっけか」

桐乃「……うん。 覚えてるよ、あの日のことは。 多分、一生忘れない」

京介「俺も一緒だよ。 思いっきり殴られた痛さが今でも思い出せるぜ……」

桐乃「ひひ。 あたしの為に殴られたんだから、幸せっしょ?」

京介「へいへい。 そうだな。 お前の為になら、俺はいくら殴られたって構いやしないさ」

桐乃は笑顔で星空を眺める。 その横顔は、とても綺麗な物だった。

桐乃「長かったね」

京介「この一年が、か?」

桐乃「ううん。 そうじゃなくて、一緒になれるまで」

京介「だなぁ。 十年以上だもんな。 はは」

桐乃「でも、この一年はあっという間だった」

京介「……そうだな」

桐乃「だけどね、京介」

桐乃は俺の方に顔を向け、言う。

桐乃「今まで生きてきた中でさ、この一年が一番楽しかったよ。 あたしは」

笑顔でそれは反則だぜ。 今度、やってはいけないことを取り決めた方が良さそうだ。 じゃないと俺が死ぬ。

京介「ありがとよ、桐乃。 夏にも来ような」

桐乃「ひひ。 いーよ。 てか、チョー寒い」

厚着をするよう言ってあったから、格好は問題ないと思うが……それでもまあ、寒い物は寒いよな。

京介「桐乃、俺を舐めたら駄目だぞ。 こんなこともあろうかと」

俺は言いながら、カバンから水筒を取り出す。 予め予想していたので、中には暖かいお茶を入れてある。

桐乃「ちょっと期待してたケド、本当にそんなの持ってきてたんだ」

言いながらも、何故か不満そうな顔付きをしているな、こいつ。

京介「なんか怒ってるか? お前」

桐乃「……ベツに」

明らか怒ってるじゃん。 お茶は飲んでいるけどさ。

京介「んだよ。 まだなんかあるのか?」

桐乃「無いっての。 もう良いし」

京介「……へいへい」

こうして、俺と桐乃は一緒に星空を眺めた。

なんてな。 こいつが不満そうな顔をしている原因も、少し不機嫌になっている原因も分かっているさ。

ただちょっと、意地悪をしたくなっただけで。 ただちょっと、桐乃の反応が可愛かっただけだ。

そして、俺は隣に座る桐乃を抱き締めた。

桐乃「……チッ」

京介「へへ、寒いんじゃなかったのか?」

桐乃「べっつに。 ふん」

京介「んじゃあ、離れるか?」

桐乃「……寒い」

京介「そうかい。 気が合うのか俺もさみーんだよ。 だから、もう少しこうしてるか」

俺が言うと、桐乃はこくんと頷く。

桐乃「……ありがと」

京介「え? 今なんつった?」

桐乃「なんでもなーい」

桐乃「てか、まだ寒いんですケドぉ。 もうちょっと近くよって抱き締めてくんない?」

京介「りょーかい」

俺は一度立ち上がり、空を眺め続ける桐乃を抱きかかえ、膝の上に座らせる。

桐乃「……そこまでは頼んで無いんだケド」

京介「良いじゃん。 俺がこうしていたいんだよ」

桐乃「……あっそ」

とは言いつつも、桐乃は前に回している俺の腕を抱く様に、しっかりと掴んでいた。

京介「今年もよろしく。 また沢山遊ぼうぜ」

桐乃「だね。 沙織とか黒猫とか。 たまにはあやせとか加奈子とかとも良いかもね」

京介「おう。 暇しそうにはねえな、はは」

桐乃「あたしが居るのに暇とか言ったら、許さないし?」

京介「へいへい」

桐乃「……そだ。 今度さ、新しい抱き枕が欲しいんだケドぉ」

桐乃はどこから持ってきたのか、手帳を取り出し、俺に何かのコースを説明し始める。 恐らく、デートコース。

俺は楽しそうに話す桐乃に耳を傾け、ゆっくりと頭を撫でる。

そして桐乃は、それを当然のことのように、笑顔のまま受け入れた。


星降る夜に 終

次スレの準備いるかな?

以上で本日の投下終わりです。
乙、感想ありがとうございます。

待ちに待った配信日ですね。
後一時間ちょっと!
お風呂で体を清めてきます。

>>982
お話のストックが今全部切れていますので、ある程度書け次第スレ立てようかと思っています。
一週間後くらいには……

スレタイは分かりやすいのにする予定なので、大丈夫かと。

自分にレスしてましたすいません。

>>981さんです

不謹慎ながら京桐が駆け落ちして樹海だか山中で発見される同人誌を思い出した

>>988
ちょっと興味が……
良かったらタイトル教えて頂けないでしょうか。

アニメ良かったですね。
最後のキスはずっと口だと思ってたのに、頬だったとは。
書く意欲が物凄く沸いたので、一話書いて今日中に投下します。

次スレのご案内。

桐乃「行ってきます」
桐乃「行ってきます」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376832426/)

こっちのスレは埋めちゃいます。

うめ

             /. . .          . . . . ミ. . .\、.. .    ヽ
            .      . . イ . . ト、 . . . . . . . . . .\. . .ヽ:. . . . . ’
          / .′. . . . ./ {:.. : { \ . . . . . . . . . . .\/∧:. . . . . ‘.
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