妹「腹パン防止法が決まったんだって」 兄「マジ?」 (152)

妹「もしやっちゃったら懲役だって」

兄「……」

妹「お兄ちゃん?」

兄「……部屋もどる」トコトコ

妹「ちょ……お兄ちゃ……」

妹(どうしたんだろ)

妹(なんか落ち込んでた?)

妹(もう腹パンごっこできないからかな?)

……兄部屋

妹(よし)コンコン

兄「なんだ?」

妹「お兄ちゃん」ガチャン

兄「ああ……おまえか……」

妹「ねえ、最後に腹パンごっこしない?」

兄「はあ?」

兄「捕まるんだろ?」

妹「法律施行は明日だから大丈夫だよ」

兄「……」

妹「……ねえ?」

兄「いや……ダメだ」

妹「なんで?」

兄「癖になる」

妹「そりゃ今までそれで遊んでたんだから」

兄「もうこういう関係はやめよう」

妹「なんで?」

兄「もう腹パンの時代は終ったんだよ」

妹「腹パンに変わるものはあるよ!」

兄「これはおまえ……」

兄「いや、俺達の今後の問題なんだ」

妹「なんで……? なんで……?」

兄「すまん」

妹「アホ! お兄ちゃんのアホ! インポ!」ダダダ

兄「お、俺はインポじゃ……」

翌朝 キッチン

妹「……」ジー

妹(お兄ちゃん……)ジー

兄「……」

兄(これでよかったんだ)

兄(これからの腹パンごっこは危険すぎる)

兄「……」プイ

母「どうしたの? ご飯よ二人共」

父「早くしなさい」

テレビ「次のニュースです」

テレビ「今日より腹パン防止法が施行されました」

テレビ「政府の見解は……」

母「こんな法律までできるなんて世も末ね」

父「まったくだ」

父「第一、聞いた話だと腹パンって言ったか?」

父「あれは、腹を殴る遊びらしいな」

父「そんなものが法律で禁止されること自体遅すぎるんだ」

母「ホントそうだわ」

兄「……」モグモグ

妹「……」フルフル

妹(違う……!)グッ

妹(そんな単純な話じゃないの……!)

妹「あのさ……」

兄(やめろ!)ガシ

妹「……あ」ピタ

兄「(やめとけ……!)」ジー

妹「(お兄ちゃん……でも……)」ウルッ

兄「(いいから!)」

妹「……」ガタ

妹「……学校行く」

母「あんた全然食べてないじゃない」

父「具合でも悪いのか」

妹「……別に」

兄「……」

屋上


兄「おまえ今朝、何言おうとしてた?」

妹「……」

妹「腹パンは別に悪くないって」

兄「馬鹿野郎!」

妹「……」ビク

妹「だって本当なんだもん!」

兄「本当だからってどうなる?」

兄「あのまま言ってたら良くて留置所だ!」

妹「でも……!」

兄「……社会には従うしかないんだよ」

妹「やっぱり、お兄ちゃんもただ周りに合わせるだけなんだ……」

兄「仕方ないだろ……」

妹「……」グス

妹「じゃあ、せめて最後に……」スッ

兄「待て……! やめろ! 何構えてんだよ!」

妹「行くね? お腹に力入れてね?」

兄「や、やめ……」

妹「えいっ!!」ドン

兄「……うぐっ! かはっ!」ドピュ

兄「お、おまえ……」

妹「ハァハァ……お、お兄ちゃん、たくさん出ちゃったぁ……」ウットリ

兄「くそ……」

兄「じゃあ、こっちも……」スッ

妹「あ……」

兄「オラァッ!!」ドゴオ

妹「……ごほっ! イグッ!」ビクンビクン

妹「あはは……イっちゃったあぁ……」

ここまで書きためです

?「ちょっと何してるの!!」

兄「!!」ビクッ

妹「!?」ビクッ

兄(ま、まずい……)

妹(い、いや……)

兄「あ、あれ……おまえ、幼……」

幼「ちょっと今何してたの?」

兄「……」

妹「……べ、別に」

兄「え……と……」

幼「何してたのって聞いてるんだけど」

兄「あ、いや、ちょっとプロレスをさ……」

妹「う、うん。そうだよ」

妹「あと、空手……そう! 空手だよ!」

幼「……」

幼「……まあいいわ」

幼「もう、クラスに戻りなさい」

幼「授業始まるわよ」

兄「あ、ああサンキュ」ダッ

妹「う、うん。じゃあね」ダダッ

幼「……」

授業中
兄と幼のクラス

幼(今朝のあれって……)

幼(もしかして……)

幼「……」

幼(この前ネットで見た腹パン……)

幼(ううん、そんなわけない)

幼(兄くんが妹ちゃんのお腹を殴るなんて……)

幼(きっと見間違いだ)

幼「……」ジー

兄「!?」

兄「……」オドオド

幼「……」

幼「ねえ?」

兄「ひっ……な、何……」

幼「今朝、妹ちゃんとさぁ」

兄「……」ビク

幼「……」

幼「……なんでもない」

兄「あ、ああ……そう……」ホッ

幼「……」

幼(……これはまずいことになったかも)

放課後

妹「お兄ちゃんっ」ガラ

兄「あ……妹……」

幼「……」ジー

妹「帰ろ?」

兄「ああ」

妹(う……幼さんの目線が怖い)

妹「今日、親戚の用事だからさ?」

兄「あ、ああ、そうだったな」

兄「じゃ、じゃあな、幼」

幼「……」

幼「……うん」

生徒A「まったく兄の野郎、なんであんな可愛い妹がいるんだよ」ヒソヒソ

生徒B「できた子だよな、クソ……」ヒソヒソ

幼「……」

兄部屋

兄「……さあ、言え」

兄「今朝、なんであんなことした?」

妹「え……だって……」

兄「だってじゃない!」

妹「……!」ビクッ

兄「仮にあの時、幼じゃなくて他人だったらどうなってた?」

妹「それは……」

兄「……なんで……殴った……?」

妹(え……? ……涙?)

妹(お兄ちゃん泣いてる?)

兄「……ぐ……なんで殴ったんだよぉ……」

兄「あんときおまえが殴らなかったら、俺だって……」

妹「……でも楽しかったじゃん」

兄「馬鹿っ!」

妹「……!!」ビクン

兄「とにかく……危険なんだ……」

兄「もう、今後俺に話しかけるな」

妹「……でも」

兄「出てけっ!!」

妹「……え?」

兄「出てけよっ! 二度と来るな!」

兄「今後絶好だ!」ドン

妹「あ……」

兄「……」ガチャン

妹「……」

妹(うぅ……こんなのって……)

夜 繁華街

妹「……」トコトコ

妹「……はぁ……」トコトコ

チンピラ「おっす、嬢ちゃんw」

チンピラ「今ひとり?」

妹「……」ガンムシ

チンピラ「ねえねえ?」

チンピラ「遊ぼうよ?」

妹(くそ……今日に限って周りに人影がない……)

妹「……」キョロキョロ

妹(待てよ……? 誰もいない?)

チンピラ「ねえねえ、ホテル行こうよ??」

妹「……」

妹「……ふんっ!」ドゴッ

チンピラ「ぐふっ!!」

大通り

妹「ふぅ……ここまで来れば安全……」

妹(まぁ、手加減したから大丈夫だけど……)

妹(でも……)

妹(満たされない……)

妹(お兄ちゃんなら、きっと……)

妹「……」ムラムラ

妹「……ハッ!?」

妹(まずいまずい、妄想で別の世界に行くとこだった)

幼「ちょっと、そこにいるの、妹ちゃん?」

妹「……!」ビク

幼「やっぱり妹ちゃんだ」

妹「こんばんは」

幼「うん、こんばんは」

妹「……」

幼「……えっと……」

幼「……ちょっと話があるんだけど、いい?」

妹「……」

妹「……はい」

幼「そこの喫茶店でいいかな?」

妹「はい」

喫茶店

妹「……話ってなんですか?」

幼「……」

幼「じゃあ、単刀直入に聞くね」

幼「今朝屋上で兄くんと何してたの?」

妹「……言いました。空手だって」

幼「……」

幼「でも兄くんはプロレスって言ったよね」

妹「……とにかく遊びです」

妹「……それが何か?」

幼「……」

妹「話がそれだけだとしたら帰りますけど」ガタ

幼「……」

幼「……腹パンしてたんじゃないの?」

妹「!!」ビクッ

妹「な、何言って……」

妹「そんな……馬鹿なこと……」

幼「……」ジー

客A「……おい、今」

客B「ああ、腹パンって、確かに……」

客C「聞き間違いよね?」

客D「まっさかぁ」

妹「う……」ドクン

妹(周りの目が……)ドクンドクン

幼「どうなの?」

妹「それは……」ドクンドクンドクン

幼「答えて」

妹「失礼しますっ!」ダッ

公園

妹「はぁ……はぁ……はぁ……」

妹「私……何やってんだろ……」

妹「……」

妹「あ、三日月……」

妹「綺麗だな……」

妹(あの時、ここで腹パンした時も確か……)

妹(楽しかったな)

妹「……」

妹「……う」ポロ

妹「……う……ぐす……」ボロボロ

妹(なんで……なんでこんなことになったの?)

妹(もう、お兄ちゃんと口もきけない)

妹(ううん、下手したら幼さんに通報されて……)

妹(……いや、でも証拠はないから……)

3時間後

妹「……」ボー

妹「……はぁ」ボー

妹「ふぅ……」ボー

妹(眠くなってきた)

妹(えっと、携帯……)チラ

妹(もう一時か……)

妹(お母さん心配してるだろうな)

妹(……お兄ちゃんは……)

妹(兄『もう、今後俺に話しかけるな』)

妹「うっ……」グス

妹「やだぁ……やだよぉ……」ボロボロ

妹「……うう」グス

兄「おい……こんなとこで何やってんだ?」

妹「……あ」

兄「帰るぞ、みんな心配してる」グイ

妹「え……?」

兄「ほら、ちゃんと立てよ」

妹「あ……ありがと」

帰り道

妹「……ねえ」

兄「なんだ?」

妹「もう話さないんじゃなかったの?」

兄「……」

兄「……聞き間違いだろ」

妹「へへ……」

兄「とにかく帰って飯だ」

兄「そのあとちゃんと寝るんだぞ」

妹「うん」

兄「あと……」

妹「……ん?」

兄「俺が悪かったよ」

妹「え?」

兄「腹パンは終ったけど、別の道を探そう」

翌朝 兄部屋

妹「お兄ちゃーん、朝だよー」

兄「ZZZ」

妹(また、お兄ちゃんってば、お腹出して寝て)クスクス

妹(じゃあ、お腹に一発)スッ

妹「えい!」ドゴォ!

兄「ぐぅ!!」ドピュ

兄「……はぁはぁ」

兄「な、なんだ妹か……」

妹「おはよう」

兄「あ、ああ、おはよう」

妹「ご飯だよ、それじゃ」

兄「……わかった」

兄(あ……精液……夢精か?)

キッチン

妹「んーおいしい!」モグモグ

兄「はぁ……だる……」モグモグ

妹「おかわり!」

母「はい、今日はよく食べるわね」

兄「太るぞ?」

妹「そっかなぁ?」

兄(まあ、こいつは腹筋鍛えてるし、動いてるから太らないだろうけど)

テレビ『速報です!』ビービービー

父「!!」

母「!!」

兄「!?」

妹「え……? これって……」

テレビ『速報です!』

テレビ『今朝2chのVIP板で腹筋スレを立てたものが逮捕されました』

テレビ『まず運営者の……』

兄「な、なんだよ、これ……」

父「まったく、ロクでもない事件だな」

母「ええ、物騒だわ」

母「最近のインターネットは理解できないわね」

妹「……」

妹(そんな……)フルフル

テレビ『なお警視庁は、過去にも同じスレッドを立てた者を取り調べるとしています』

妹「!!!」

妹(まずい! 私いつもスレ立ててる!)

妹(腹パンを広めるために腹筋スレが必要だったから!)

妹(で……でもこんなことって……)

学校 屋上

兄「話って?」

妹「今朝のニュース見た?」

兄「ああ」

兄「腹筋スレがどうとか言うヤツだろ」

妹「あれ、ずっと私が立ててたの」

兄「……なんだって?」

妹「これから腹パンの時代になる」

妹「そう確信してたから」

兄「なんで腹筋と腹パンが関係あるんだよ!」

妹「関係あるよ」

妹「腹筋を鍛えてたら、いくらでも腹パンしあえる」

妹「みんながより良い腹パンライフが送れる」

妹「だから私……」

兄「バカ……なんで言わなかったんだよ……」

妹「みんなわかってくれるって思ってたから……」

兄「それが馬鹿だって言ってんだ!」

兄「もう腹筋スレ立てて捕まった奴もいるんだぞ!」

兄「次はおまえ……」

兄「……いや、俺達だ」

妹「ううん」

妹「自首する」

妹「今なら私だけですむ」

妹「それに……」

兄「……」

妹「私はもう腹パンなしでは生きられないから……」

兄「……ぐ」ダキッ

妹「あ……お兄ちゃん……」ダキッ

兄「……俺だって」

妹(ダメだ……これ以上お兄ちゃんを巻き込むわけにはいかない)

幼「何やってるの……?」

兄「……あ……幼……」

妹「……」

妹(はぁ……これで終わりか……)

妹(でもせめてお兄ちゃんだけは……)

幼「昨日と違ってちゃんと聞いたからね」

幼「言い逃れはできないよ」

兄「……く」

妹(でもどうしたら……)

妹(どうしたらお兄ちゃんだけでも守れる……?)

幼「なんとか言ってよ」

兄「ああ、俺達は腹……」

妹「待ってっ!!!」

兄「!」

幼「!」

妹「全部……全部私のせいなの……」

妹(全部私のせいにするしかない!)

幼「そう」

幼「でも兄くんもしてるって聞いたよ?」

妹(ダメ!)

妹(なんとか私に引きつけて……)

妹「言ってない! 全部私が言ったの!」

兄「……」

幼「ねえ、どうなの兄くん?」

兄「……それは」

妹「お兄ちゃんは関係ないっ!!」

幼「……」

幼「ううん、関係あるの」

幼「このままあなたたちを見過ごすわけにはいかない」

妹(もう……ダメ……なの?)

幼「このまま二人で自首すれば罪は軽くなるわ」

幼「お願い」

幼「もうこれ以上罪を犯さないで……」

妹(そんなテンプレセリフ……)イラッ

妹(聞きたくないっ!)ダッ

兄(幼の方に飛びかかった?)

妹「ふんっ!!」ブンッ ドスッ!

幼「……く」ト

妹(もろに入った)

幼「……それで終わり?」

妹「……え?」

幼「おらあっ!!」ドォン!

妹「ぐあぁ!!!」

兄(な……? 嘘だろ……?)

兄(妹の腹パンを受けたどころか返しただと……?)

幼「……く……効いたわ」

幼「やるわね、妹ちゃん……」

妹「そ、そんな……」

妹「な、なんで……」

兄「そうだ! なんで妹の腹パンに耐えられるんだよ!」

兄「妹はパンチングマシーンで2トン出したことあるんだぞ?」

兄「それを平然となんて……」

幼「……平然じゃないわ」

幼「少しは効いたわよ」

兄「で、でも……」

生徒ら「ザワザワ」ガヤガヤ

幼「とにかくここはまずいわね」

幼「行くわよ」グイ

妹「……え?」

幼「さあ立って」

妹「う……うん」

兄「お、おい……」

幼「兄くんも行くよ」

兄「でもどこに……」

幼「話はあとよ」ダッ

兄「あ、待てよ……」ダッ

妹「……」ダッ

妹(何……?)

妹(一体何が起こってるの……?)

喫茶店

幼「……ここまで来れば大丈夫だけど」

兄「おい……ちょっと……」

幼「何?」

兄「ちゃんと説明してくれ」

妹「そ、そうだよ」

幼「説明なんていらないんじゃない?」

妹「ちょ……そんなの私、殴られ損じゃ……」

幼「妹ちゃんがそれを言う?」

妹「う……」

兄「とにかく話してくれ」

幼「何から?」

兄「え…と……」

妹「なんで私の腹パンに耐えられたの?」

妹「手加減なんてしなかったよ」

幼「それだけ?」

兄「そうだ、なんで昨日の時点で気付かなかった?」

兄「今考えると変だ」

兄「あの時、俺達が腹パンした痕跡が残ってたはずだ」

幼「……」

幼「ひとつづつ行くね」

幼「まず、私が妹ちゃんのパンチに耐えられたわけ」

妹「……」ゴクリ

幼「腹筋してたから」

幼「おわり」

妹「そんなんじゃダメ!」

妹「耐えれたのはいいけど、そのあと私に腹パンを倍返しした説明にはならない!」

兄「そ、そうだ。教えてくれよ」

幼「はぁ……」

幼「私も腹パンしてたことあったから、これでいい?」

兄「よくねえよ」

兄「相手誰だよ?」

兄(くそ……なんで俺はこんなに苛イラついてんだ?)

兄(でも幼のヤツが他の誰かのパンチをうけてイクって考えたら……)

幼「……」

幼「あ、兄くんだよ……///」

兄「……え?」

妹「……あ?」ギロッ

兄「ひぃ……ちが……これは……あの……」オロオロ

妹「ふーん、お兄ちゃん、幼さんとも腹パンしてたんだぁ……よかったねぇ……」

兄「あわわわわわわ」

幼「……って言っても一人でだけどね」

兄「はあ?」

妹「へ?」

幼「ひとりで鍛えてたってこと」

兄「???」

妹「……!」

妹「もしかして……」

幼「うん。あなたたちの関係は知ってた」

妹「やっぱり!」

妹「VIPの腹筋スレで腹筋しないで真面目に議論してたのって……」

幼「うん」

幼「あまりにもスレ立ての釣り方が妹ちゃんっぽかったから」

妹「……」

妹(確かに色々と書いた気がする)

幼「カマかけたら当たり……ってわけ」

幼「気付いた時はショックだったよ」

幼「兄妹で腹パンとか許されることじゃないからね」

妹「……」

兄「……」

幼「でも……同時に羨ましくなった……」

幼「だからいつかの時のために鍛えてたんだよ」

幼「それから腹筋スレでID出しては死にものぐるいで特訓したよ」

幼「サンドバッグも買ってきて、同じだけパンチも練習した」

兄「……おまえ……そこまで……」

妹「……」

幼「しまいには楽しくなってきてさ」

幼「はぁ……IDで0だった時は悔しかったなあ」

幼「腹筋できないだもん」

幼「逆に桁違いの数が出た時は最高にやり甲斐あったよ」

幼「……辛かったけどね///」

幼「ま、そんなことはいいか」

幼「話の続き」

幼「あ、でも昨日の時点でわかってたからいいのか……」

幼「痕跡はあったね」

幼「二人とも息荒かったし、服も乱れてたしね」

兄「……」

妹「……」

兄「と、とにかく……これからどうするかだ」

妹「うん」

幼「妹ちゃん」

妹「……何?」

幼「今日のニュース見た?」

幼「腹筋スレ立てて捕まったっていう」

妹「……うん」

幼「実はね……もう……」

?「どきなさい!」

?「開けろ! 捜査令状は取っている!!」

兄「!!」

妹「!?」

幼「……」

幼「……ちょっと遅かったわね」

兄「あれ……警察……?」

妹「……嘘」

幼「落ち着いて」

兄「ば……落ち着け……」

幼「しっ!」

警察A「犯人を出せ! ここにいるはずだ!」

警察B「捜査に協力しろ!」

バーテン「はぁ……まいったなぁ」

バーテン「僕の店でこういうことをされるとねえ」

バーテン「とにかく帰ってよ」

バーテン「他のお客さんに迷惑だからさ」

警察A「貴様、捜査を邪魔する気か」

警察B「公務執行妨害だぞ」

警察B「我々が追っているのはA級犯罪者だ」

バーテン「……」

バーテン「しょうがないねえ」

兄「……!」

妹「ねえ、まずいよ……どうしよう……」

幼「……」

警察A「じゃあ中を調べるぞ」

警官B「『ガガ……えー、こちら腹パン対策班……』」

バーテン「うーん、非常によろしくないねえ」

バーテン「……」ユビ パッチン

男客「おらぁ!!」ドン!

警官A「ぐふ!」カクン

女客「てぇい!!」パアン

警官B「がはっ……き……貴様ら……!」ガクン

妹(え? え? 何これ?)

兄「……」ポカーン

幼「……」

男客「おめーら大丈夫だったか?」

兄「え、ええ……」

妹「……だ、大丈夫……」

女客「怖かったでしょ?」

兄「……は、はい」

妹「……う、うん」

バーテン「大丈夫でしたか、お嬢様」

幼「このくらいなんともないわ」

幼「それより警備がずさんよ」

幼「まさか、この場所がわかるなんて……」

バーテン「とにかくこの店は今日で閉店ですねえ」

幼「相手は予想外に早いわ」

幼「あと数時間後には、占拠されてると思った方がいいわね」

バーテン「ですねえ」

兄「……」ポカーン
妹「……」ポカーン

数時間後

レストラン

バーテン「ここだとかなり時間が稼げますねえ」

幼「しょうがないわね」

幼「それよりコーヒー出してよ」

幼「あ、この子たちにもね」

バーテン「イエッサー」

兄「……」

妹「……」

兄「なあ?」

幼「何?」

兄「一体何が起こってるんだ?」

幼「何から聞きたい?」

兄「ちょ……その……」

妹「『お嬢様』って何?」

幼「……」

幼「聞いての通りよ」

妹「幼さん何者?」

妹「これって私達は助かったの?」

幼「……残念だけど」

幼「助かったとは言い難いわ」

妹「じゃあ、違う質問」

幼「ちょっと待って」

幼「まだ私が何者か答えてないわ」

妹「……じゃあそれお願い」

幼「そうね……」

幼「」

幼「簡単に言えば腹パン防止法に反対する者よ」

妹「腹パン……反対?」

幼「ええ」

妹「……幼さんが?」

幼「ええ」

妹「でもさっき自首しろって……」

幼「そのままここに連れてくるつもりだった」

妹「……」

妹「ご、ごめんなさい」

幼「? 何が?」

妹「あの、お腹パンチしちゃって……」

幼「いいわよ、そんなに効かなかったし」

妹「……う」

妹(なんか悔しい)

幼「とにかく今後はここで暮らすことになるわ」

兄「家には帰れないのか……」

幼「当然でしょ」

幼「もう兄くんの家も家宅捜索されてるわよ」

兄「マジか……」

兄(父さん、母さん……)

妹「いつ帰れるの?」

幼「……」

幼「……帰れないと思った方がいいわ」

妹「!!」

妹「……そんな」

幼「捕まるよりはマシでしょ?」

妹「……う」

幼「二人とも、もう、今日は寝て」

幼「明日の支度があるから」

兄「最後に聞かせてくれ」

幼「何?」

兄「おまえを信用していいのか?」

幼「……」

幼「……信頼できる人間なんていないわ」

兄「……」

妹「……」

幼「でも当分は保証してもいいよ」

兄「……それだけ聞ければ充分だ」

兄「今はおまえを信じるしか選択支はないからな」

幼「いいかしら?」

兄「ああ」

幼「妹ちゃんは?」

妹「……」

妹「……いいよ」

幼「……じゃあね、おやすみ……」

ちょっと夜食食ってきます

次の日が来た

妹「ん……」

妹「えっとここは……」

妹「……」

兄「ZZZ」

妹(となりで寝てるお兄ちゃん)

妹(でも景色が違う……)

妹(そうだ、確か……)

幼「お目覚め?」

妹「あ、幼さん、おはようございます」

幼「おはよ」

幼「眠れた?」

妹「はい」

幼「そう、よかった」ニコッ

妹(改めてみると幼さんって美人だなぁ)

幼「兄くんの方は……」

兄「ZZZ」

幼「問題ないみたいね」

妹「えっと、あの……」

幼「?」

妹「これから私達どうすれば……」

幼「ふふ、心配ないわ」

幼「兄くんが起きたら食事だから」

幼「それから話すよ」

朝食

妹「……ん……んぐ」モグモグ

兄「……」モグモグ

幼「……」パクパク

兄「で、どうすんの、これから?」

幼「まず紹介しておくわ」ユビ パッチン

バーテン「早いねえ」

男客「おはよう」

女客「おはようございます」

兄「おはようございます」

妹「お、おはようございます」

バーテン「バーテンだよ、よろしくねえ」

男客「男客っす、よろしくっす」

女客「女客よ、よろしくね」

兄「えっと兄です」

妹「……妹です」

幼「さて……今日の予定だけど……」

考えてませんスマソ

幼「予定は……」

一同「……」ゴクリ

幼「カスミ作戦」

兄「……?」

妹「はい?」

バーテン「いよいよ、やるんだねえ」

男「ついに来たっす」

女「いよいよ世界が変わる時ね」

兄「……はい質問」

幼「なあに?」

兄「意味わかんないんですけど」

幼「付いてくればわかるわ」

兄「何するんだよ」

幼「……」

幼「……戦争」

某所

兄「えっと、ここって」

幼「霞ヶ関」

兄「……国会とかあるところ?」

幼「まあ、そんな感じ」

兄「一体カスミ作戦ってなんだよ」

幼「霞ヶ関に行って法律を変えて貰おうって作戦」

兄「なるほど」

兄「……ってやばいじゃん!」

幼「じゃ、このまま腹パン防止法とかいうわけのわからない法律で捕まっていいの?」

兄「……よくないけど」

兄(く……やるしかないのか……)

妹「待って」

幼「何?」

妹「でも、どうやって変えて貰うの?」

妹「だって私達、丸腰だし」

妹「向こうは警察に守られてるし」

妹「……勝ち目ないんじゃ」

幼「なぜ、私達がここにいるかわかってる?」

幼「それに警察……いえ、国家権力が私達を狙うのか」

妹「……難しいことはわかんないよ」

兄「別に特別な力でもあれば別だけど……」

幼「気付いてるじゃない」

兄「へ?」

幼「あるのよ、私達には特別な力」

妹「まさか……」

幼「そう……」

妹「腹パン?」

幼「というか腹筋力とパンチ力ね」

兄「マジで?」

幼「ええ」

兄「って言ってもたいしたことないだろ」

兄「向こうは銃持ってるんだぜ」

兄「軍隊だってあるじゃん」

幼「……まだ自分の力に気付かないの?」

兄「?」

幼「ここにいる私達はバカみたいに、腹筋スレで鍛えた連中ばかりよ」

幼「そして最後までやり続けた人間」

幼「他のすぐにネタと割り切ってやめていった人らと違ってね」

兄「……う」

兄(本当にそんな力があるのか?)

兄(とてもじゃないけど信じられない……)

幼「妹ちゃん、そこに、ちょっと立ってみて」

妹「えっと……こう?」

幼「じゃ、女ちゃん、やって」

女「はーい」

妹(え? 木刀ふりかぶって?)

女「とりゃあああああああああああああ」ドンッ

妹「がはあっ!!」

妹「い、痛いよう……」

妹「木刀でお腹殴るなんて……」

幼「どうだった?」

妹「どうって……」

幼「普通なら病院行きよね」

妹「……う……確かに」

幼「この力を使って戦うのよ」

兄(マジで? どう考えても無理じゃね?)

 そして俺達は官公庁に向かうことになった。

 このふざけた法律を自ら変えるためだ。

 そのためには、この腹筋力……つまり丹田が必要になる。

 だから俺達は腹筋をしてきた(らしい)。

「お兄ちゃん、じゃあ私は文部科学省に行ってくる」
「ああ、気を付けてな」

 妹を見送る。なんだか妹のヤツは嬉しそうだった。

 そりゃそうだ。この手で法律が変えれるんだしな。

 その時、女さんが俺の方を叩いた。

 そこには笑顔の女さんと、ニヤニヤしている男さんがいた。

「私は財務省に行ってくるよ」
「俺は経済産業省だ」

 二人とも本気で交渉しにいくわけだ。

 聞けば二人ともカップルで女さんのお腹の中には、赤ちゃんもいるらしい。

 それでもお互い加減して腹パンしあってたらしい。

 そして俺と幼は……

「行くんでしょ?」

 そこには、見慣れた幼馴染みがいた。

 腹パン防止法を変えるために作られた組織の頭。

「ああ」
「妹ちゃんと、女ちゃんと、男さんは省庁、全部回るんだって。あとは私達に任せるって」
「責任重大だな」

 俺は晴天を見上げながら、深く息を吸った。

 横の幼馴染みも大きくノビをしながら俺に続いた。

「そうね、責任重大ね。なんとしても、この法律を変えなきゃね」

 その顔は苦虫を押しつぶしたような複雑表情だった。

 こいつも捕まった仲間を取り戻すという使命があるのだ。

 そして失敗は許されない。

「行くか」
「ええ」

 霞ヶ関の閣僚、官僚たち相手の暑い夏が始まる。

 交渉は難航を極めた。

 そもそもまずは警察と自衛隊を相手に交渉しなければならなかった。

 どんなに力があろうと人間武器には敵わない。

「ふふ、敵うわよ。でも、もっと利口なやり方があるだけ」

 そう言った幼馴染みの笑顔が印象的だった。

 俺もその利口なやり方の方が現実的だと考えた。

 そもそも国家権力相手にまともに戦うなんて無茶だ。

 彼らも同じ日本人。話せばわかる。

「甘いわよ。実際話してもどうにもならないことばかりなんだから」

 だからって実力行使をしても何もいいことはないと思う。

 話し合いでわかる人間なら話し合いをするべきだ。

「まあ、外国人相手だと本気で戦わないといけないけどね」

 そう言って海外情勢を語る幼馴染みの話は半分もわからなかった。

 でも、とても生き生きしてて楽しかったのは覚えている。

「お兄ちゃーん!!」

 声と一緒に、妹の姿が飛び込んできた。

 その手には例の署名の書類があった。

「これで最後だったよ。ほら、官僚さんたちの署名」

 署名の中には各省庁の官僚の署名があった。

 もちろん、このふざけた『腹パン防止法』なる法律を止めるためだ。

 内情を聞けば実際、多くの国民に実害がないからこんな法律が通過したらしい。

「おお、がんばったな」
「妹ちゃん、グッジョブ」
「えへへ、それほどでも」

 妹は照れ笑いをしながら、いかに自分が凄いかを力説してた。

「なんか表現の自由の問題があるんだって。だから署名してもいいよってさ」
「でも官僚の署名って問題あるんじゃないのか?」
「それは大丈夫よ」

 腕を組みながら幼染みは言った。

「彼らも一個人だからね。こういうことで間違ってたと思ったら、支持だってしてくれるわよ」
「そうなの? よくわかんねえけど」
「私はわかるよ。お兄ちゃんと違って」
「んだと?」

「あとほら、これも」
「おお」

 さらに女さんと男さんが集めた署名もあった。

 それにしてもこの量は異常だろう。

 よくこんなに集めたな。

「男さんと女さんは?」
「用事があるから、今日は帰るって」

 二人とも、もの凄く忙しいらしい。

 まあ、こんな殺伐とした生活送ってたんじゃしかたないよな。

「あとでメールしとくか」
「そうね」

 幼染みもほっとした表情をしていた。

 なんだかんだで部下想いなのだ。

「で、あと残るは……」

 俺はその建物を見上げる。

 横の二人も同じだった。

 その後。

 結論から言うと結局、法律は覆らなかった。

『正しいとわかっていても通らないことがある』

 今回はこれを学べた良い事例だ。

 そもそもこんな法律、即、廃案にしてもおかしくないはずだ。

 だが一度通ってしまったら、きちんとした法手続をしないと元には戻らない。

「でもさ、さすがにお巡りさんたちは謝ってたしー。私はもういいよー」

 妹の言うことも、もっともだが、あの喫茶店のアジトや、その後俺の家であった捜査は、明らかに間違っている。

 一歩間違えばブタ箱で臭い飯を食べていた可能性もある。

「文民統制の問題があるからよ。国家はあくまで政府が国民に尽くすものなの。国民主権だしね」

 世界の統治で日本が一番マシというのは、幼馴染みの弁だが、俺は馬鹿なのでこのへんもよくわからない。

 ちなみに妹は知ったかをしていた。

 これだけは言える。

 絶対にあいつもわかってない。

 とにかくこの法律をやめたいなら、根本的な対処法が必要らしい。

3年後

兄「はぁ……いろいろ勉強してみたけど……」

兄「結局政治家になるしかないってことか」

幼「簡単に言うとね。でも他にも方法はあるわよ?」

兄「どんな?」

幼「そうね……いくつかあるけど……」

妹「お兄ちゃーん! お姉ちゃーん!」ダダダ

兄「なんだ?」

兄(そういえば、いつのまにか幼の事を姉、呼ばわりするようになったな)

幼「ほら、慌てない。落ち着いて」

妹「あはは、いいじゃん。で、これ見てよ」

兄「……」ピラ

兄「なになに……現在のお金と票の流れ……?」

兄「……へえ、こういう方法か」

幼「まあ、お金使って、支持する政治家の票を集めるのが手っ取り早いってことね」

5年後

妹「お兄ちゃーん!!」ガラッ

兄「うわっ!」

妹「見て……とうとう……」ウルウル

兄「ついに、腹パン防止法を止められたのか……」

兄(でも実質形骸化してて、あんまり意味なかったような……)

妹「やったよ! これで心置きなく腹パンができるよ!」

兄「あ、ああ」

兄(そう言えば、いつのまにか腹筋も腹パンと一緒にしなくなったなぁ)

妹「やったぁ。やったよ……」ダキッ

兄「ああ、やったな」ナデナデ

テレビ「次のニュースです」

テレビ「今日より妹SS防止法が施行されました」

テレビ「政府の見解は……」

~END~

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