「ベルトルトとユミルの……」(510)

描写を書きたくて突発的に書いただけ
本当に短い!

のにこう言った描写は好きなのでもしかしたら他キャラとのも書くかも?


ソレの

今行われている行為の前に交わした言葉なんて
大実はした意味は無いのだと思う



唇の前に、自分の物ではない弾力がある
それはほんのりとした体温を宿していて、ふにふにとした感触があった

顔の前にある圧迫感は、未だに離れようとしない
その圧迫感の所為で、目が開けづらいし呼吸も辛いと言うのに

数秒続いた圧迫感と、それによる呼吸の停止に私の心臓は大きく揺れだした
酸素が欲しい、と言う切実な要望に……つい薄く口を開けてしまう

鼻からの呼吸なんて、相手の顔に吹きかけてしまうのは憚られたのだ


でも、それは私の体は予想以上に空気を欲していたらしい

空気が唇の表層をかすり、ひゅっと音を立てて
その息を、反射的に止めようとしたら

いつの間にかユミルは、鼻から少し大きく息を吸っていた


――やばい、鼻息が

吸うならまだしも、吐きだして吹きかけたら恥ずかしい
ユミルは反射的に一息だけ吸いこんだ呼吸を体の内に留め……もう一度、息を止めた

でもたった一呼吸だけで、酸素が行き渡るはずはない

あまりの息苦しさに、ユミルは体を捻りつつ目の前にある大きな体を押す
だが相手は、こちらの背中に手をまわしていて……ついでにその手の一つが、私の後頭部へと回って

がっしりと、こちらの体を己の体に密着させてきた



――やめろよ、もう息が……

キスをしている、と言う事実よりも息苦しさが上回ってくる

その癖に私の体に巻きついている、腕や掌には力強いぬくもりがあって
何故だか、安心していた

彼の掌は、まるで撫でる様に
でも逃がさないと言う様に僅かに触れている場所を往復する

後頭部と背中を掌で摩られて、言い様も無い程に全てを委ねて仕舞いたくなった

他人と体温を交換するのは、こんなにも気持ちがいい物だと
不意に、思い知らされた気がした



――だったら、抱きしめられるだけでも私は満足なのに


出来る事なら、キスで息苦しさを与えられるのではなく
ただ、抱きしめるだけの方が……

そう思った瞬間、顔の前にあった圧迫感が消えた
ついでに唇に当たっていた感触も無くなったので、少しだけ顔を引きながら瞼を動かす


すぐにそいつを見れなかったのは、恥ずかしいと言う感情もあったからだが
何よりも荒い呼吸をしている姿なんて、見せたくないと思った故の行動だった


――お前は、こんな私をどう思ったんだよ?

私の触れた唇の弾力は、私が感じた物と変わらなかったのだろうか
それとも、やはり鼻息が当たっていた?

ゆるゆると、相手の表情を窺う様に瞳を開ける
私より少し上の目線からこちらを見ていた彼は、そんな私を見てからにこりと笑う


見るなよ、と言う感情から私は自身の手で顔を覆う
熱くなった頬を覆う様にしていた掌の上に、奴の掌が重なった

そして


「ユミル、…………かわいい」

普段の声とは違う、熱で蕩けた様な声
まるで口の中に放りこまれ、唾液にある熱によって溶かされたチョコレートみたいだ

悔しいのは、そんな声に反応して私の頬の熱は更に上昇した事
くそっ、普段の私なら……こんなセリフに反応なんてしないのに


――今の私の体は、私じゃないみたいだ

だってこんな乙女の様な反応、私には似合わないと分かっている
なのにそんな行動を治める方法を、私は知らない

だから、だろうか
私は無意識の内に、小さい子が首を振る様にイヤイヤと首を振った

ついでに少し体を揺らし……私の手に重ねられた掌や、回された腕に抵抗の意を示す


でもそんな私に届いたのは、面白そうに少しだけ笑う声だった



――こんなに必死なのに

体を強く押し返して、八つ当たりがしたい……と力を込める
私らしくない、照れと言う名の「焦燥感」を早く外に出してしまいたかった

そう思っているのに、緊張からだろうか
私の体は堅く、ぎこちなく少し揺れるだけだ


――どうしよう

私の心情を少しも分かっていないのか、彼の掌は私の頬に添えていた手をそっとどかした

上に向けても顔を余す事なく見られるだけだし、左右に振っても彼は余裕でこちらの方を覗きこんでこられる距離
だから逃げ場を失った私の顔は、唯一の逃げ場である下の方を向くしかなかったのだが


なのに、顔を逸らす事は阻止される
私の包みこまれた頬は、ヤツの温かい手で持ち上げられてしまったのだ

それは、抵抗しようとすら思えない程の自然な動作で
その行動に驚き、目を開けると

あいつの満面の笑顔が、視界一杯に飛び込んできた


改めて、こんなに密着していると思い知らされ
白黒とした、もしくはぱちくりとした目をしてしまったのだろう

彼は目元の下にあった親指を、そっと耳たぶの下に動かす様な形で動かす
そんな動作で、頬を撫でた


「ねぇ、もう一回してもいい?」

その返答を出す間もなく、青年は私の視界を彼で一杯にでもする様に
私の顔の目の前へ、己の顔を近づけてくる



二回目のキスには、私は不覚にも目を開けたままだった

彼は瞳を閉じたまま
今回は押しつけるだけでは無く、まるで私の下唇をアマガミする様に食んでいる

羞恥とくすぐったさで、両手を突っぱねる様に力を込める
だが密着しすぎていた体の間に、己の両腕は上手く力が入ってくれなかった


本日二回目の、密着が原因による息止めは上手くいかなかった

その際に微かに漏れた自分の声に、ユミルは思わず赤面する
かすれた様な、少し乙女がかった声


――どんな声だよ、と言う
己の中のツッコミでさえ、もう力が入っていない事を思い知らさせられた

これは、まだ舌も入れていない……軽めのキスだと言うのに



――くそっ

嫌だ、嫌いだ

――こんな奴、大嫌いだ


そう思う癖に、こいつの体温は酷く心地がいい


羞恥と、安心と、苦しさと、ぬくもりを感じた私が示した反応は
目尻に涙を溜める事だった

なんで泣いているのか、それすら分からずに唇をアマガミされ続けている
私は覚悟を決めて、瞳をギュッと閉じた

その反動で、僅かに溜まっていた水分が瞳の端からつっと零れる

いつの間にか掴んでいた彼のシャツが、掌の汗で僅かに湿気ているのを感じながら
ユミルは涙が流れていった事を認識したのだった



その唇が離れたのは、時間がある程度たってからだった

すっと顔を引き、私の表情をマジマジと見つめて来たそいつは
相も変わらず笑顔のまま、今度は両手を使って私の顔を撫でる

目尻にたまった涙が、彼の手によって顔面に塗り拡げられた
……私はもう、成すがままにされている


「ユミル、ちょっと長く唇を押し当てていただけなのに」

なんでそんな色っぽい表情をするの
なんて……そう、幸せそうに呟いてきた奴に


「そんな表情、するつもりも見せるつもりもねぇよ」

心からそう思っている事を、告げる

すると奴は
あぁ、もう……と言いながら、今一度私を腕の中に閉じ込めた

適度な圧迫感とそいつの体温に、一瞬眩暈を起こしそうになったのは秘密だ



「ユミルは可愛いなぁ」
「あぁそうかい」

否定する気も根こそぎ奪われてしまい
私の肩に顔を埋めて来たそいつの後頭部を、軽く叩く様に撫でた


「ねぇ、ユミル……お願いだからさ」

そんな顔を、僕以外に見せないでね
なんて言われた言葉に……思わず失笑する


「そんな予定はねぇよ」
「そっかぁ、良かった」

そう言ってきた長身で黒髪のそいつは、自分の額を肩に擦りつけてきた
整えられていた髪の毛の毛先が、私の首筋をくすぐる


くすぐったい癖に


――離したくない

なんて思った私は、もしかしたら重症なのかもしれない

【おわり】

ベルトルトとユミルのチューを長ったらしく描写したかっただけです
その癖にスレ立ててしまって申し訳ない

気が向いたら他のキャラとユミルをチューさせたいですが、ほんと突発的なので書けるかな?とちょい不安
でも書いて欲しい人がいたら、ちょっと教えてくれると嬉しいです

乙!萌えまくった!

朝から萌えたw


>>14 萌えて下さりましたか!

>>15 朝から時間が無いのに何やってんだろ自分

乙!
いやもう色んなシチュエーションでベルユミ書いて欲しいわ

スレタイがベルユミだし>>17の言う通りチュー以外のベルユミを書いてほしいな。


>>17 色んなシチュですか、考えてなかった!

>>18 そう言えばスレタイそうだった!(迂闊!)

ちなみにチュー意外は手をつないだり、目を見て笑ったり程度なんです
私の中で一番進んでいるのはチュー、もしくは(精一杯頑張って)ベロチューなのですが
進まないのってがっかりされるんでしょうか?

あ、これから数日ネット落ちます!書き溜めておきますね

乙乙
このユミルと結婚したい

のんびり更新待ってる


>>107 ユミルさんの嫁入り道具にはベルトルさんとクリスタちゃんのどっちがいい?

投下します!
ようやく授業だー!


-Side Y-



午前の授業、その開始直前
私は金髪の少女の手によって、技巧術の教室へと放り込まれてしまった


授業が始まり
ユミルはそっと周りを見た後に、隣に座っている少女の顔を覗き見る

クリスタが気を使ってくれて、私達が座っている席は出入り口の一番近く
教官の居る、前方からは一番遠い――所謂、特等席と言う奴だ


無理矢理とでも言うかなんと言うか、私を授業へと引きずってきた彼女だが
こちらの不調も、考慮してくれていたらしく

普段は人に嫌われない様にと、顔色を窺っていると言うのに
あまり話した事の無い同期に話し掛け、席を変わってくれないかと交渉し

そして今は
二人で、その席に座っている


ユミルはクリスタの成長を、心から喜びつつ

それが「私の為に」と言う理由で行われたなんて事実に
思わず照れてしまいそうになる

私は、よくクリスタに「愛している」と言うが
どうやら、私自身も「愛されている」らしい


幸せな気分に浸りなりながらも、片手間に授業の講義を頭に入れて行く


技巧術の授業は、固定砲や銃言った火器
兵士に必要な立体起動装置の他にも、壁に設置された扉の成り立ちから、荷馬車の修理法まで幅広い技術が教えられる

だがそれぞれの基本的な構造や手順さえ覚えると、後は応用の幅が利く授業だ


今日の授業は、立体起動装置に関する物で
壊れた装備と装備を組み合わせて、一組の装備を組み立てると言う課題

今手元にあるのは、年式が古い装備と新しい装備
それらを新型の装備を重点的に使いながら、組み立てていく


はっきり言って、これは私にとって苦手な授業だ
手先こそは器用だと自負しているし、ある程度は出来る

だが、こう言うコツコツした作業は嫌いなのだ
これはもう、相性が悪いとしか言えない


ちらり、と気分転換がてら
隣の少女の進行状況を確認してみる

彼女はもう、主要なパーツの選別は終わっている様だった
ベルトの金具に差し込むネジを選別し、そのネジをベルトに巻き付けようとしている




「ん――おいクリスタ、そっちは古い方の装備だがこっちのネジの方が」

そう言って、新型の方を指さそうとすると……ぬっと現れた影が指先を掠めた

視線を上げると、其処には背の高い
いや、高すぎると言う様な身長を持つ青年が立っている

女である私よりも、少しだけ艶がある様な黒色の髪
それに合わせた瞳が、こちらの手元を見ている

……授業中の、はずなのに


「は……、なんで」

漏れた言葉に、青年はこちらを見て……にこりと微笑む
私の心臓が、少しの痛みを伴って少し跳ねた



「早めに終わったらね、助言をして来いって先生が……あぁここか。クリスタ、このドライバーには新型のネジの方がいいよ」

どっちも使えるけれど、巻きやすさはこっち
そう言って、私が言おうとしていた助言を奪った奴は無責任にニコニコ笑っている

私がクリスタに助言したかったのに、むかつく
イライラしながら左右の足を組み替え、体自体をベルトルトから逸した


のに
私達のテーブルにある空いている椅子を、奴が動かした気配がする


――座る気かよ

あぁ、本当に今日は思い通りにならない
発情期の今は、男子に近づきたくないのに


――あ、また思いだしてしまった

そんな私の気持ちは露知らず、隣に座る心根の優しい少女は無邪気に礼を言っている

読みごたえがあって楽しいです。次の更新も楽しみに待ってます

ここのほのぼのした二人を見てると頬が緩んでしまうな
「以上、未満」の続きものんびり楽しみに待つよ


>>175 そう言って頂けてとても嬉しいです

>>176 あわわ、本当にありがとうございます。あっちの方も必ず着手します

前回、誤字が無いようにと思っていたのに
最後の最後の雑談部分で誤字がある罠、当方には誤字の呪いが掛かっているのか

投下します


-Side Y-



ぼんやりと、ユミルはその口にスープを運ぶ

朝と同じで味が薄く、塩が足りない――いつものスープ
それをユミルは今、一人で味わっていた



今は昼食の時間で――たまには一人で食べたい、そう言い残して
クリスタはサシャに押し付けた

一人で食べたい、と言うのは嘘ではない
今のクリスタは近くには、居たくなかったから


あの
キラキラとした瞳で、興奮冷めやらぬ言い方で


「ベルトルトってね、ユミルに気があると思うの!」

なんて勢いよく、手を振り回して話すクリスタの傍には
どうも居れなかった


何をどう思ったのか
それを想像するのは、あまりにたやすい


結局、ベルトルトの目的は私と組むことではなく
ライナーとクリスタが、ペアを組む事だったと言うのに

溜息を吐きながら、カチャンとスプーンを下に降ろす
周りから微かにざわつくような声が耳に入ってくるが、いつも通りの事なので気にはしなかった

と、言うよりも気が回らなかった


ユミルの思考に、また技巧術での光景が蘇る
あの懇願する様な、真剣な瞳で


――「午後の対人格闘の授業だけれど。ユミル、僕と組んでくれない?」

と言われた瞬間を思い返した時、思考がオーバーヒートした
熱を逃す事が出来ない、軽く頭を抱え込む



――ああ!もうっ本当に、マジで!

どうしてくれるんだよ!
ぐるぐると、混乱する思考回路

確かに、コレはクリスタに勘違いされてしまってもおかしくない台詞だ
実は一瞬、勘違いしそうになってしまった自分もいる


――いや、でも……ありえないだろ

その言葉と共に、自分の容姿を思す事で思い返す
この言葉は、見の程をわきまえさせる為の呪文の様な物

それを脳裏から引っ張り出す


キツイ一重、日に焼けている褐色の肌
ニヤリとすぐに持ちあがる、薄い唇

ぼさぼさの髪も、雀斑の浮いた頬も

どれもこれもが、想って貰うにしては貧相な特徴である事
自分はそれを自覚している、分かっている

だから


――格闘訓練を一緒にって、それは期待する様な台詞を吐くなよ

ぐるぐると、ぐるぐると
私は悪くない、と言う言い訳がおへその下辺りを巡る

なんだろう、この消化できない様な感覚は
と、心の内で漏らした


混乱しつつももう一度スプーンを握った、私の前にふと足音が止まった
こちらを見る気配に、視線を上げると――そこには一人の少年が立っている



「ここ、座るぜ」
「あぁ」

そう言うと、声の主は向かいにあった椅子を引いた

そしてこちらを見る事なく、じっと別の方向を見て
少しだけ呆れた様な顔を浮かべた後に、ようやく腰を下ろす

ようやく座った、見知った奴に
私は軽く疑問をぶつけてみる


「サシャと一緒に食わなくていいのか?」
「あぁ……サシャと一緒に居たら飯を取られるからな、たまにはいいだろ」

そう言うと、久しぶりにゆっくりとご飯が食べられる
と言ったのにも、関わらずコニーは

パンやスープに手を着けずに、こちらの方に視線を向けた
何か言いたさそうな、目で

いつもと違う雰囲気を察して、ユミルは言葉を促す



「なんだよ」
「お前、気をつけろよな――マジで」

何がだ
その声は表に出さずとも伝わったらしい

コニーは「あー」とか「うー」とか、どう表現したらいいか悩んだ……その挙句に
ちょいちょいと指を動かし、顔を寄せろと言ってきた

なんだなんだと顔を寄せると
子供が内緒話をするかの様な姿勢で、小さな声で用件を切りだされる


「お前、今朝食堂で言っていただろ――発情期って」

こちらの口元は、相手の耳元には無いので小さく頷いて返す
相手も了承の意を汲みとったのか、言葉を続けた



「なんか居るんだよなぁ、触発されてるやつ」

この言葉には、少しだけ顔を引いて
眉を寄せる様な表情を、見せる事で返すと

コニーが、もう少し話したいと言う意思を示したので
もう一度顔を寄せた


「お前も一応は女だろ、女が発情期なんて言っちゃいけ無いっつー事だ」

それだけ言うと、さすがに「触発されている」の意味もわかる

コニーが元の体制に戻って、パンへと手を伸ばすのを確認してから
こちらも、元の体制へと戻した


どこからで、その話をしているのを聞いて
少なからず心配に思ったのだろう、この意外に義理堅い奴は

彼の心情まで汲みとり終わり、ユミルは軽く感想を漏らす


「男って単純だな、ブスでもいいだなんて」
「オレとはさ、家畜を飼う事で見ているからな……低脳で、発情した獣」

あれは見苦しい、と意外に辛辣な事を言いながら
コニーは噛み辛いと判断したのか、パンをスープに浸す



「しかもさ、俺って耳がいいだろ――さすがにダチの女に発情している猥談は萎えるわ」

もう、最悪
その心情を、ゲロ吐きだす様な表現で表された

食事中に汚い奴だ
だがそれで食事を中断するほど軟ではないので、私も食事を再開する


「お前ならまぁ、その腕っ節でどうにでも出来るかもしれないけれどさ」

そう言ってチラリと、数席先あたりへと視線を飛ばした
なる程、そんな近くでそんな話があったのか

ふむふむと納得した様に頷きながら、先程から漬けられたままのコニーのパンへと視線をやる
パンの先が、そろそろいい具合に味が染みている様に見えた


「そうか……ありがとうな、コニー。今後は場をわきまえるわ」
「おぅ、俺もブスを性対象に見た話しなんて聞きたくねぇ」

ここでようやく、いつもの調子に戻ったのか
コニーがニカッと笑った

そうだよな、話しにくい話題だったよな
言わせてしまってめんぼくない、と思う――僅かに、ではあるが


なので目の前の、くりんくりんの頭に手をやった
丁度コップで水を飲むところだったので、気付かれていない

少しだけ押すと
ごふっと言う音が、彼の喉の奥で鳴った


「てめぇ、ブスっ何すんだ!」
「だっはっは!すまんすまん、礼をしようとしたら間違えちまった」

今までの湿気た話を吹き飛ばす様に、大きく笑う
その意図を知ってか知らずか、コニーも大きく反論してきた


「このやろっ」

反撃の為か、コニーがこちらに伸ばしてきたので
その手を叩き落とし、次は立ちあがって両手で――頭をぐりぐりと撫でまわす


わーわーぎゃーぎゃー

そんな効果音がピッタリだと思える様な声で、二人でじゃれあっていると
コニーの声に魅かれて来たのか、サシャが未だスープの中に浸かっていたパンをハシッと掴んだ

それを躊躇い無く、口に入れる


「あまり噛み応えが無くなってしまいましたね……コニー、漬けすぎです」
「あ、俺のパン!」

ここで、サシャに任せいていたクリスタも輪の中に入った
相も変わらずの、お優しい言葉でサシャを宥める


「サシャ、さすがに咥えている部分だけにしようね。コニーが可哀想」
「だろ!?そうだよな!さっさと離しやがれサシャ!」

すると
「ふひひいれているふんだけで、ひひんですね」と、訳の分からない音が聞こえた

全員がその音を耳にした
その瞬間

更にもう一口分、パンがサシャの口の中へと吸いこまれて行った


余談だが、サシャの口は大きい
酷く大きい

その行動を見るに
さっきのは訳の分からない音は「口に入れている分だけは、いいんですね?」とでも言っていたのだろう

ここまで来ると、さすがに意地汚らしさが過ぎる
席を立ち、サシャの後ろに向かうと――その後頭部に、本気のチョップを叩きこむ


やりすぎとは、言わないで欲しい
これくらいしないと、この食い意地怪獣はその口に含んだパンを放さないのだ

それは同期の中では常識で
今ではクリスタすらも、サシャの後頭部には全力でチョップを叩きこめる


ユミルは咥えている口が怯んだ隙に、パンを掴みとってコニーの手にポンと乗せた

ついでに再度、お礼の言葉を口にする


「――心配してくれて、サンキュな」
「おう、お前もありがとな」

それだけ言うと
コニーは、パンと一緒に食器類も手に取って走り出す

その後を……正確には、一度ロックオンした食べ物のあとを
待って下さいコニー!もう一口!――と言いながら、サシャもついて行ってしまった



――全く、馬鹿で可愛い奴らだな

ユミルはそう思いながら
クリスタのついでに懐に入り込んでしまった、単純馬鹿な少年少女を見送る


そして

少し離れていたお陰か、普段の様子に戻ってくれたらしい少女の頭に
ユミルは慣れた手つきで己の手を乗せ、ぐりぐりと撫でてみた

さらりとした金髪に、掌の感覚がすんなりと馴染む


――やっぱりコニーより、クリスタの方が落ち着く


クリスタの身長に合わせて、収まる感覚
それを感じながら、ユミルは少しだけ息を吐きだした


一旦ここまで
か、改行を間違え……ガクブル

コニーとサシャ、大好きです
少年と年上のお姉様と言う設定は大好物なので、いつかは書きたい

コニーいい奴!男の子だね!
ダチ=ユミルをともだち認定してて、嬉しくなっちゃった
コニーとサシャのやり取りは癒やしですよねw

何だかんだ言って、コニ―って場の空気は読めてたりするんだよなあ


誤字脱字がいっぱい

>>191 この子たちへの寄り道に、新たに目覚めてしまいました

>>192 本当に大切な事はちゃんと考えているんですよね

今回のみコニー視点で
投下します


-Side C-



それを聞いた時、状況を咄嗟には理解できなかった


「……でさぁ」

ふと、耳に入ってきた声

最初は、普通の雑談だと思っていたが
そうでない事に、気が付いてしまう


「そんなに溜まってんなら、相手してやってもいいと思った訳よ」
「マジぃ?ブスの相手は萎えるんだけど」

紙袋かぶせろよ、ぎゃはははは

下卑めいた笑い声が、廊下に響く
だがそんな事は俺には関係ない



「にしても――ユミルさんはクリスタちゃんを平らげただけでも飽き足らず、欲求不満とはねぇ」
「本っ当、悪食だなぁ」

だがその会話の中に、知人の名が入るならば――話は別

ここでようやく、俺はその会話の内容が聞き流すべき物ではないと気が付いた
馬鹿だから、遅かったかもしれない

それでも


「――おい、お前ら」

ダチを見捨てるクソ野郎には、俺はなりたくない


だから
その話は「悪い」物だと言う事は、咄嗟に理解できた


目の前に居る面子を、軽く見てみる
確か――内部に近い地域から、出て来た奴らだったと思う

成績は中の下
卒業は出来るだろうが、出世は見込めない

そんな絶妙なポジションの奴らで、その成績を自覚しているから真剣に授業に取り組もうとしていない奴


――だからあんまり、ペアや班を組まない方がいいよ

なんて事を、以前アルミンが教えてくれた


まぁいい、そんな事はどうでもいい
そんな奴らの会話の中に、ユミルやクリスタの名前が出て来たって事の方がが問題だ


「何の話を、しているんだ?」

ギロリ、と睨みつけたつもりではあったが
それでも迫力は乏しかったらしい、そいつらはひらひらと手を揺らして笑い声を上げた

こちらを、気にしている雰囲気は無い


「なんだ、コニーじゃないか!」
「お前も入るか?――実はさ、お前とも仲のいいブス女が発情期らしいんだよ!」


そいつらが提示してきた単語も、少しは意外性があったが
態度の方が酷く不愉快だった


発情期?いや、人間って確か年中発情期の動物だろ
お前らそんな生物学も知らないのか?それとも、性的な言葉にはしゃいでいるだけなのか?

もしかしてお前ら、狩猟民族じゃないから
だからこんな事も知らないのか?


生物を育て、命を刈り取る事を知っている民族としては、初歩の初歩である知識
それが俺のスカスカの脳味噌から、勢い良く吹き出してゆく


正直、要領を得ない疑問の数々ではあったが

だがその疑問達は
一つの感情へと、直行している事くらいはわかる


――不愉快、と言う感情へと


日頃から、ユミルの事を
ブスだブスだと言っている俺が、言うのはおかしいが

俺の言うブスと、こいつ等の言うブスはニュアンスが違う


――ふざけるな、ふざけるな

兄妹が、弟と妹だった俺にとっては
ユミルは初めて出来た――姉の様な存在だ

その存在を馬鹿にされて
ふつふつと、怒りがつのって行く


俺は馬鹿だから
胸の中で渦巻いているこの怒りを、言葉にしてを訴えかける術なんて知らない

けれども、拳で喧嘩を吹っ掛けるのは違うと言う事は分かる


そして
男の俺が、言うのもなんだが


――男って、最低な生き物だ

いや、違うか


低脳な男は、最低な生き物
だな、この場合


その時、どんな顔をしていたのだろう

奴らを睨みつけていた様な気もするし
直視するのも嫌だったから、目を逸らしていた様な気もする


覚えているのは



「――――お前ら、最低」


出来る限りの感情を込めて
その一言を吐き捨て、踵を返した事だけだった

後から、不愉快な声が
俺の背中に向けて飛んでくる


「ぎゃはは!コニー、意外とユミルの事が好きだったのかぁ?」
「仲がいいからってさぁ、俺等に喧嘩を吹っ掛けるなよぉ」

俺の指摘なんて、歯牙にもかけていない
その事実に、己の掌に爪を立てた

いや――今はそれよりもユミルだ
低脳で最低な生き物の存在を、早くユミルに忠告しておいた方がいい




「なぁサシャ、クリスタとユミルは一緒じゃねぇのか?」
「なんかユミルがお布団の中でまったりしていたので、遅れているみたいですね――あ、来ましたよ」

ユミルとクリスタが
午前の授業のぎりぎりの時間に教室に入ってきた事に、俺は安堵した

つまりそれは
そいつらと接触する事なく、授業を始めてくれると言う事……だから


――ま、俺も忠告の出来る時間が無かったけど

でも、昼食の時間になれば
あいつらは無理でも、俺は話しかける事がいくらでも出来る


けど、今はまず授業だ
目の前には、細かいパーツが複雑に絡み合う文明機器が二つ置いてある

それを睨みつけながら
俺は苦手な、細かい部品の組み立てへと精を出した


そして、昼の時間

ちょっと目を離した隙に、サシャにクリスタを押しつけ
食堂へと行ってしまったと言うユミルを追って、俺は早足で食堂へと向かっていた


――なんで、用事がある時に限ってそいつと擦れ違っちまうんだろうか

過去に何度かあった、タイミングの悪さの原因を思い返してみるが
この疑問の解明は、俺には手に余る

今度、マルコかアルミンにでも聞いてみるとしよう


食堂に入り、目的の奴を探す為に視線を彷徨わせる
すると、少し奥まった席にあいつの背中が見えた


――本当に探しづらい外見をしているよな、あいつ

男子と並んでいても区別が付きにくい高身長だし
髪の色もややかすんだ黒色も、探しやすいと言うより紛れやすい

そんなあいつを、ようやく見つけ出し
時間を無駄に出来なかったので、食器を取ってからその席に近づく



――おい、見ろよ……横から見てみると、あいつ意外と胸あるぞ!

――お前本当に胸フェチだな

――男なんてみんなそうだろ!


ハタっとその声に気付いて目をやると
朝話していた奴らが、またユミルの事を変な目で見ていた

と、言うか
そいつらはユミルの席から三席くらい離れた席に座って、そんな話をしてる

途端、俺は苛立った
この馬鹿共ではなくて、ユミルに対して


――普段あんなに、透かした態度を取っている癖に!

おい、気付けよブス!お前の不用意な一言で偉い事になってるぞ!

見つけてしまった身内の失態に、心情そのままに大股で歩く
そしてユミルに座っている席の前で、足を止めた



「ここ、座るぜ」

了承を貰える前提の台詞を吐いてから
そいつらの方へ、視線を向ける


お前らは小声で話すだけだが
どうだ、俺は堂々と話しかけたぞ

自分の方が優位に立っているのだと、視線に込める
向こうもこちらに気が付いたのか、ようやく話すのを止めた

それを確認し
ようやく腰を下ろす俺に


「サシャと一緒に食わなくていいのか?」

普段通りの、本当に普段通りのユミルの声が聞こえた
どうやら、自分に向けられている好奇の視線には気が付いていないらしい


お前な、自分の事をもっと考えろよ
何のためにお前の所に来たと思っているんだ?

普段のお前は、そんなんじゃないだろ
周りに細かく視線をやって、弱み掴んで、人の内情を嘲笑う冷たいお前はどこに行ったんだよ


「あぁ……サシャと一緒に居たら飯を取られるからな、たまにはいいだろ」

返答として口から出た言葉は
常日頃から自分が思っている事なので、するりと出て来てくれた

やったな、常日頃の自分
でもサシャには感謝はしねぇ


こちらの言いだしづらい雰囲気は察してくれたのか、ユミルが訝しげにこちらを見る


「なんだよ」

切りだされたその言葉に、少しだけ話をしやすくなる
こいつのこう言う察しの良い所、本当に話しやすい

だからこそ、俺やサシャの様な
単純的な思考回路の奴は、つるみやすいんだろう


「お前、気をつけろよな――マジで」
「何がだ」

するりと出て来た言葉
けれどもそれで全てを察する事が出来る程、こいつは有能ではないらしい

……とは、言っても
さすがにその噂話をしていた奴らの近くで、女のこいつに白昼堂々こんな話題を出すのはどうなのだろう


少しだけ考えても、いい案なんて早々に浮かんでくるはずもない
仕方がなく俺は、少しだけユミルに顔を寄せる様に言った



「お前、今朝食堂で言っていただろ――発情期って」

形の良いユミルの耳元で、こそりと呟くと
こくりとその頭が、縦に動いた


「なんか居るんだよなぁ、触発されている奴」

ここでスッと、相手がその頭を引いた
その眉が、少しだけ怒っている様にキュッと吊り上がる

怒っている様な表情だが、これはこいつにとっては相槌を打つ様な物らしい
よく一緒に話す仲だからこそ、そこは汲みとる事が出来る


でもさすがに内情を正確に読みとれているのか、それとも読み取れていないのか
そこまでは分からない

なのでもう一度、指をちょいちょいと動かして見せると
ユミルも素直に顔を寄せてくれた


「お前も一応は女だろ、女が発情期なんて言っちゃいけないっつー事だ」

言いたい事はお終いだったので、体制を戻してパンを掴む
ユミルはゆっくりと、僅かに伏せていた瞼を上げた

頭の中での、情報処理が終わったらしい



「男って単純だな、ブスでもいいだなんて」
「俺はさ、家畜を飼う事で見ているからな……低脳で発情した獣」

あれは見苦しい
そんな言葉を洩らしながら、俺は昔飼っていた番犬を思い出した

なんでもいい、と手当たり次第に覆いかぶさろうとする――あの仕草
あいつらも似たようなもんだ

そう思っても、可愛くは思えないが


「しかもさ、俺って耳がいいだろ――さすがにダチの女に発情している猥談はなえるわ」

お前ならまぁ、その腕っ節でどうにか出来るかもしれないけれどさ
そう言い終わると、三席隣りのそいつらにチラリと視線をやる

そいつらは苛立たしげに舌打ちをして、こちらから目を逸らした



――俺は俺で、こいつらと少し距離を置かないとな

女社会程ではないが、男社会にも陰湿な所が少しはある
これだけの事を言ったのだ、逆恨みされないとは言い切れない



――でも、まぁ

身長こそは低いものの、単純に腕っ節勝負なら負ける気はしない
実は俺、脱いだら結構凄いんです……筋肉

もちろん、ライナー程ではないけれどな
あれを超えられる奴なんて、そうそういない



「そうか……ありがとうな、コニー」

今後は場をわきまえるわ
そう言ってくれたユミルに、少しだけ安堵する

気をつける、と言ったんだ
もう大丈夫だろう

そこの辺りは、信頼している


そう思ったところで、肩の力がふーっと抜けていく
あぁ、相手に気を使って話すって――やっぱり苦手だ



「おぅ、俺もブスを性対象に見た話しなんて聞きたくねぇ」


反動、だろうか

心からの言葉を、目の前の女に投げかけると
水を飲んでいる最中に、頭を押された

次いで頭もぐしゃぐしゃに揉まれるし、サシャにパンを半分以上食われるし
本当、もう散々だった

だけど



「――心配してくれて、サンキュな」
「おう、お前もありがとな」


その言葉で、チャラと言う事にしておく


サシャから食料を守りきる為に、食堂内を駆けた時だった
入り口近くに座っている大男二人組が、不意に視界に入ってくる

ライナーが、ベルトルトの手をぎゅっと掴み
ありがとう!と大声を上げていた

ベルトルトは困った様に、その眉を垂れさがらせていたが
感極まっている様子のライナーは、気にならないらしく

クリスタと対人格闘のペアが組めるなんて!
と、声を大にして礼を言っている


「い、いや……まぁ僕も」

そう言って、チラリと一瞬
ユミルの方に視線を向ける彼を見れたのは、本当に偶然


しかし、偶然はここまで
俺にはまず、午後の授業をこなすだけのエネルギーを摂取すると言う使命がある

何このコニ―ってばめっさいい男w


視線は外したが
その言葉は、微かに耳に届く



「ユミルと少し話して――いい友達になれればなって、思ったし」



言っただろ
狩猟民族は耳が良いって

コニーは目元を綻ばせて
捻くれた友人の、良い所を理解してくれる人が増えた事を喜んだ


男子同士の気安さとは、また違う
サシャやクリスタ、ユミルとの関わり


――お前だったら加わってもいいぜ、ベルトルト

そう言ったら、どんな反応を示すのだろう


サシャは「パンをくれたらいいですよ」
と言いつつ、至って普通に迎え入れ

クリスタは笑顔で「話そうよ」と輪の中に彼を導き
ユミルは「クリスタに近づくな」と言いながら、クリスタを抱きしめそうな気がする


――よし、今度やってみるか

そんな想像を繰り広げながら
コニーはなんとか、死守したパンにかぶりついた


一旦ここまで
ちょっと閑話的な感じになりました

「改行減らせ」がめっちゃ出たので、レス数も時間も増えちゃったよ


とても良いね

そろそろ更新あるかな…


>>214 コニーは元々いい男じゃないですか!

>>218 乙をありがとうございます

>>219 ありがとうございます、嬉しいです

>>220 更新しますよ

怪獣が暴れていてなかなか集中できませんでした、ごめんなさい
――では投下します!


-Side Y-



きた、どうしようか
来てしまった


――この時間が、ついに



「じゃあユミル、頑張ってね!」

先程の食事の時間に
邪推をするな、と散々言ったにも関わらず

少女は、去り際にそう言い残して行ってしまった
俗に言う「言い逃げ」である

クリスタに言われた言葉に、どんな意味があったのかは……考えたくもない



「あ、ユミル」

とりあえず、名前を呼ばれたので振り返ってみると
やはりと言うかなんと言うか、それはその人で


「ベルトルさん」

いつの間にか、私の背後に迫った約二メートルの巨体
そいつを軽く見上げながら、その名を呼ぶ


「今日の対人格闘の授業、よろしくね」

気楽に言われると、どう返したもんかと一瞬悩んでしまいそうになるが

でも
やっぱり、気にするのは馬鹿馬鹿しい……よな


「あぁ、今日はよろしく」

とりあえず無難にそう返すと、奴はにこりと笑って返した
笑顔の多い奴だな



「じゃあ早速やろうか、今日は警棒を持った相手との対戦らしいよ――はい、最初はユミルから」
「ちょっと待てベルトルさん、ここじゃ駄目だ……こっち」

素っ気なく、そう言うと
ベルトルトの袖を軽く握って歩き出す

周りを確認しつつ、とりあえず妥協できる地点まで移動し終わると
ピタリと立ち止って、彼を見上げてみると

彼は不満もなく、素直に付いてきていた


「ま……ここならいいか、おいやるぞ」
「ん?」

きょとん、と
今しがたの行動が理解できていない、と言った表情で見返される

言う程の事でも無いが、そんな顔をされたので
とりあえず理由を言う事にした



「ここならさ、クリスタが良く見えるだろ?」
「あぁ、そう言う事か」

納得、と言う言葉を含んで彼が頷く
そんな反応だったが言葉のチョイスが気にくわない

そう言う事とは何だ、私にとっては大切な事だ



「クリスタが寝技を掛けられないかってな……用心してんだ」
「ライナーは紳士だから、大丈夫だと思うけど」

その言葉に
おそらく私は、怪訝な顔をしたんだろう

ベルトルトは嘘じゃないよ、と苦笑しながら言葉を重ねた


「ライナーは、とっても頼りになる人だから」
「ふぅん――まぁその言葉を信じるにしろ信じないにしろ、見守ってはおきたいんでね」

過保護、と言われればそれまでだが……止める気は無い
そう意思表示をしながら、武器を渡せと手を差し出す


ベルトルトから警棒を受け取り、重さを確認する
意外と、ずっしりと重い

クリスタの手の細さなら
無理に振り回すと、自分の手首を痛めるかもしれない


――授業が終わったら、クリスタの手首を確認するとしよう

痛みがあってもなくても、湿布は必要だな


そして勢いよく振り回す事で、武器がすっぽ抜しまう可能性もある
万が一に落としてしまった時は、足元には気をつけなければ


手の中にある武器を確かめ終わると
次は訓練の事について、確認する


「軽くでいいか?」

訓練を軽く終わらせていいものか、問いかけてみると
ベルトルトは、少しだけ困った顔をしつつも頷いた



「それでも僕は構わないけれど」
「助かる」

短くそれだけ告げてから、ベルトルトから距離を取った
二、三歩くらい間を開けてから軽く身構えると、相手もそれに倣う


まずは、大きく横から薙いでみる
ベルトルトは半歩引いて、その攻撃をかわす

慣性の法則だろう、警棒を持った手は方向転換をしにくい
私としては苦手な武器だ


それからとりあえず

二、三回程振り回してみたが――やはりどうにも扱いにくく
このままだと悪気なくとも、相手にぶつけてしまうかもしれない



「なぁ、ベルトルさん」

言うと、彼の肩がピクリと動いた
まずは不意打ちはしない事を伝える為に、構えを解いて見せる


「ならず者、変わってくれ」
「え、まだ当たってないよ?」

向こうも肩の力を抜く
私は不満そうな表情のまま、現状を呟いた


「どうもこの武器は私の性分には合わないらしい、変わってくれよ」
「うーん」

正直――すんなりと頷いてくれるかと思っていたが
こちらの意に反して、少し悩まれる

そして



「じゃあ全力で」

放たれた言葉は、更に意外な一言だった


「全力でいいから、当てに来て――そしたら僕がならず者をやるよ」
「……正気か?」

目を細めて、その意を問う
けれども相も変わらず、奴は笑っている

そして簡潔に


「大丈夫」

とだけ、言われた


当たる事は無いと、確信しているのか
それとも女子だからと、舐めているのだろうか


――そうか、なら

当ててやる


明確に、意思を持って
私は攻撃するべき目標を、思いっきり睨みつけた

まずは胴をめがけて、大きく踏み込み
思い切り棍棒をふるう


その巨体に似合わない
意外に素早い動きで交わされた

ので今度は
武器を持っていない手で、服を掴もうと手を伸ばす


その手は読まれていたのか
こちらの伸ばす手を、ベルトルトの手で掴みとられた


手を抑えられた為、体制が崩れる
が……その間に、ベルトルトは攻撃はしてこない

少し距離を取って、じっとこちらの傾向を窺っている


舌打ちをして、もう一度
しかし今度も攻撃を流されて、距離を取られてお終いだった


相手が距離を取ったので、こちらが更に退いて距離を大きくとる

ユミルはクリスタの方へと、チラリと視線をやった
特に、危害を加えられているは様子ない

いや、むしろ
クリスタはライナーと距離を取り攻撃をかわしている


その、動きは



「……ベルトルさん」
「あれ、またおしゃべり?」

駄目だよ、視線をはずしちゃ
そんな言葉を混ぜつつも、名前を呼ばれた彼はこちらに倣って構えを解く


「そうじゃねぇ――お前の戦い方って」
「あ、やっぱりばれた」

だよな、と漏らした声に
そうだよ、と彼は言う

そして今度は、二人同時に
お互いの親しい者の方へと、視線を向ける


視線の先には
警棒を持ったライナーに、挑むクリスタの姿

いや、挑むと言うよりは
相手の攻撃を流す様に努力している、と言った方が正解だろうか


その動きは、詳細は違うが


「クリスタも、こっちも動きを見ていたのか」
「うん……ライナーがね、クリスタの特訓に付き合いたいって」

そう言って、彼はまた笑う


クリスタの様な小柄な女子は、相手に組まれると如何足掻いても不利になる
だから攻撃を避けて、相手が疲れるまで待つ事

これがクリスタの格闘術の基本だ


「ユミルと組むんだったら、クリスタに動きの手本を見せてあげろ――ってライナーが」

その言葉が示すのは

ベルトルトの動きを見せて、手本とさせ
ライナーと一緒に、実際に動いて習得

そしてお膳立てをしたのはライナー、と言う事


意外な所からの、助力の申し出だったが
それはそれで助かる

いくら身長があると言っても
女のユミルを相手に、クリスタの実力を向上させるのは限界があった

憲兵団を目指して欲しいと願うユミルが
クリスタに一番技術を習得して欲しいと望んだのは、立体機動と対人格闘だったから



「そうか、助かる」
「僕にお礼はいらないよ……ライナーがクリスタを助けてあげたいって、そう思っただけ」

向けられたその顔と、声の真摯さで
訓練を始める前にこいつが言っていた事が、ようやく嘘ではない事をようやく知る


なるほど
確かに、ライナーは紳士で……なおかつ「お人好し」だ

そして


「言ったでしょ、紳士なんだよ彼は」

そんな親友に付き合い
こんなにも尽力してやれる、こいつも「お人好し」なんだろう



「だからほら、ユミルも休まずに動いてあげ…」
「クリスタはお前の動きを手本にするんだな、よし――分かった」

そう思うと
一層訓練に、やりがいがある


「クリスタがこっちを見ているんだったら――俄然、格好いい所を見せてやりたくなってきたよ」


それに

今までクリスタが、私ではなく
お前を見ていたと言う事実も、少々気にくわなかった所だ



「えっ――ちょ、ユミル!?わっ!!」


今度は、蹴り技も混ぜて仕掛ける
向こうも意表を突かれた様で、鋭く声を上げた


「避けるなっ!」
「そんな事……言われて、も!」

相手の軸足を、思い切り蹴り上げる
……つもりだったが、避けられてしまった

でもそれも、想定の範囲内

警棒を相手が移動するであろう方向へ、タイミングを合わせて放る
と言うか……奴の目の前で、手を放す


「あっ」

言葉と同時に、ベルトルトは無理に体を捻って警棒をかわした
その隙に

タックルをかまし、その大きな体を地面へ向けて叩きつけてやる
向こうも驚いたのか、沈めた体をまだ動かさない



「私は警棒が苦手、だからな」

おちゃらけた様な声を漏らすと
くすっと笑った目の前の奴につられて、私も笑う


「まぁ確かに、苦手なら放り投げちゃう事もある……よね」

一本取ってやったぜ
心情そのままに、顔を上げてクリスタの方を見る

すると丁度
相手もこちらの方を見ている様で、目があった


――格好いい所、見せられたか?

軽く手を振ってみる、が
クリスタの表情が、少しオカシイ


――まさか少し目を放した隙に、ライナーが何かやったのか!?

そう思って、立ち上がろうとした時だった
柔らかい感触が、掌に触れる


体を起こそうと、手をついたその先は――広い、胸板の上
掌に当たったのは布地の下にある柔らかな、無駄の無い筋肉の感触だったらしい

そうだよな、タックルを喰らわせたから私は今
ベルトルトの上に、乗っているだよな


…………ん



――なんか今、恐ろしい考えが頭の中をよぎって行った気がする



まさか
私は今、発情期なのに

こいつの体の上に


それ以上を考えない為に

視線はクリスタの方に固定し、ゆるゆると体を上げて
私の下になっていた奴の顔の方は、見ない様にして

一歩、また一歩と離れる



「え、ちょっとユミル?」


なのに、気が効かねぇな


そんな私の行動を不思議に思ったのか、怪訝な声がかかる

平常心を保って、離れたって言うのに
そいつはよりにもよって、こちらの手を掴んで――名前をもう一度呼んだ


「ユミル?」

反応が全くない事に心配した、そいつが
不意にくるりと体を回しこんで、こちらの表情を窺いこんできやがった


ベルトルトの顔を見てしまった、その瞬間
私の動きが、ピタリと動きが止まる

しかしそれに反して
心臓がどくん、どくんと大きく鳴った

なんだよこれ、体は動かないのに
皮膚の下で熱が、血管通して暴れまわっているみたいだ




「…………っ」
「…………ユミル?」

おい



「……ユミル」

おい、やめろよ



「あの」

やめろ、言うな



「ユミル」

だから言うなって!










「もしかして、照れてる?」










あああああ!!もうっ!
言いやがったぁぁあああ!!



「…………っ!クリスタ、ちょっとペア組んでくれ!!」

そう叫んで

ついでに感情の一部を、大声で吐きだして
私は駆けだす



「え、ちょ、ユミル今はまだライナーと……っきゃ!」
「わああっ、すまん!じゃあサシャを探してくる、さしゃああああ!!」

その時を思い返すと、私はこう思う





――あぁ、壊れていたんだな


-Side B-



――順調だったと思う
最初こそは



お昼ご飯を挟み、緊張がほぐれたらしい彼女は
至っていつも通りの彼女に戻っていた



「今日の対人格闘の授業、よろしくね」
「あぁ、今日はよろしく」

会話もやりとりも、いつも通りに出来て
安心からか、僕の顔にも笑顔が浮かぶ


「じゃあ早速やろうか、今日は棍棒を持った相手との対戦らしいよ」

男子は女子と組む時
たいてい先に、武器を持つならず者役を譲る

先に女子に武器を譲っていた方が、武器の感触を得てくれて怪我をさせにくいから
僕もそれに倣い、ユミルに警棒を差し出す


「はい、最初はユミルから」

実は、そう言いながらも
僕は密かに、緊張していた



――大丈夫、この会話は自然な流れ

そう思いながら、武器を差し出していたのだが
ユミルはこちらの事は気に掛けず、きょろきょろと周りを見回し始める


「ちょっと待てベルトルさん、ここじゃ駄目だ……こっち」

言葉と同時に、了承は得ず
僕の袖を軽く握って、周囲を確認しながら歩き始めた

距離にして、十メートル程だろうか
短い距離を歩いた後にピタリと止まって、視線を彷徨わせたると

ようやく、こちらの方を見つめる



「ま……ここならいいか、おいやるぞ」
「ん?」

本当に僅かな、距離の移動
その意図を掴みかねて、言葉が漏れる


「ここならさ、クリスタが良く見えるだろ?」

僕の小さい声に反応すると

ユミルは顔を小さくしゃくり
そちらの方向へ顔を向けろと、軽く指示をされながらの説明をしてくれる


「あぁ、そう言う事か」

確かに、先程よりも件の二人が良く見える


実はさっきの場所でも、クリスタとライナーは見えてはいたのだが
ユミルにとっては、不満だったらしい


正直、僕達にとっても都合が良い
向こうからも、こちらが見られる場所



「クリスタが寝技を掛けられないかってな……用心してんだ」

丁寧な説明に、細かい心遣い
これもクリスタと接しているうちに、彼女が得た物なのだろうか

同期のアイドル、クリスタを守るとなると
並々ならぬ努力も必要だと言う事は、分かる

なんせ、成績上位であるライナーを始め
多くの男子の手から、クリスタを守り続けているのだ


なのに彼女は、なんて事ないと言う風にその言葉を吐き出す
気が効く、凄い人



「ライナーは紳士だから、大丈夫だと思うけれど」

僕の、心配はいらないと言う意味を込めての言葉は
鵜呑みには出来ない、とでも言いたげな表情で返されてしまった

嘘じゃないよ、と言葉を重ねる


「ライナーは、とっても頼りになる人だから」
「ふぅん――まぁその言葉を信じるにしろ信じないにしろ、見守ってはおきたいんでね」

少し過剰気味に、二人の事を気に掛けながらも
ユミルは僕と訓練をする為に、手を伸ばしてくれる

その手に警棒を渡して、ならず者を譲ると
ユミルはその重さを確認し、チラリとこちらを向いた



「軽くでいいか?」

その言葉の前に「訓練は」と言う主語が隠れているのを感じ取ると
僕は少しだけ思案し、口を開いた


「それでも僕は構わないけれど」
「助かる」

それだけ言うと、彼女の行動は早かった


二、三歩程の距離を取るとすぐに構え
こちらも体制を整えた事を確認すると、その手を大きく振り上げる

僕はそれを、前もって予想をしていた動きで避けた

ユミルは全力では無く
武器の使い方を確かめつつ、腕を振るっている――そんな様子に見える


何度か、攻撃をかわすと

すぐに攻撃は来ないと判断したのか
ユミルはぐるりと、コリを解すように手首を回しながら声を漏らした



「ベルトルさん」

思いがけないタイミングで響いた声に
攻撃を構えていた肩が、ピクリと動いた

うーん、と僅かに唸りながらもユミルは構えを解き
こちらも警戒を解くようにと、言外に促す


「ならず者、変わってくれ」
「え、まだ当たってないよ?」

その言葉に
僕も腕全体の強張りを解いて、本格的に会話を始める


この提案は
僕にとって少し都合が悪い

出来ればユミルに、ならず者の役をやって貰いたいんだけれど



「どうも私の性分には合わないらしい、変わってくれよ」
「うーん」

少し悩む
だってまだ、向こうも出来ていないだろうし

だから


「じゃあ全力で」

あえて
挑戦的な言葉で、ユミルを誘ってみた


「全力でもいいから、当てに来て――そしたら僕がならず者をやるよ」
「……正気か?」

こちらの意を測りかねている様な声
大丈夫かな、実はちょっとだけ自信は無い

でも、笑って言おう



「大丈夫」


そこから、ユミルの攻撃は真剣になった
普段相手にしている、ジャンやマルコよりも狙い所がやや汚い

でもなんとか、攻撃を予測して避け続ける

自分から攻撃は加えない
本来は自分が攻撃するべき瞬間も、相手との距離を取る事に専念する

繰り返しに
ユミルが苛立っても、それを続けた


そして、ふと
彼女は自分から僕に距離を取り、クリスタとライナーへと視線を向かわせる

何度目かの、彼女の行動
前回まではすぐに視線を戻して、訓練を再開していたのだが

今回は
顔はそちらに向けたまま、彼女の口がふるっと揺れた



「……ベルトルさん」

あ、ばれたかな
そう思っていると、彼女の視線がこちらの方に戻ってくる


「あれ、またおしゃべり?」
「そうじゃねぇ――お前の戦い方って」

あ、やっぱりばれた
思っていた以上に早く気付かれてしまい、思わず笑ってしまう

すると僕達の目的が、何なのかも悟ったのだろう


ユミルは「だよな」と言ったので
僕は「そうだよ」と呟く

そして今度はユミルと共に、ライナーたちの方へと視線を向けた


そこには
僕の動きを手本にして、ライナーの攻撃を避けようとしているクリスタの姿


ライナー曰く

避け続け、相手が疲れた所に攻撃をする格闘術は
クリスタがずっと練習してきた事らしい

だからと言って普段組んでいる
ユミルやサシャ、ミカサ相手では練習にも限度がある

男子とも訓練も積まなくては、到底実践では使えない



『俺がクリスタの特訓に、付き合ってやれればいいと思うんだがな』

常々そう言っていた彼の為に
今回僕が、一肌脱いであげたのだ


って事は、と言う前置きを置いて
ユミルは口を開く


「クリスタも、こっちの動きを見ていたのか」
「うん……ライナーがね、クリスタの特訓に付き合いたいって」


ユミルが、クリスタを見守る様に
ライナーも、クリスタを良く見ている


だからこそ
唐突ではあったが、ペアを組める事が決まったと報告をした際に

彼は僕に、すぐに頼みこめた


『頼むベルトルト!クリスタに手本の動きを見せてやりたんだ』

『自分でやるばっかりでは、頭がこんがらがる』

『手本となる動きを見せてから、練習をさせたい』

『クリスタから見える場所でユミルと組んで、この動きを模してはくれないか』


「ユミルと組むんだったら、クリスタに動きの手本を見せてあげろ――って、ライナーが」

ユミルはそれを聞いて、少々むずがゆそうだったが
大きく息を吐きだし、了解の意を示した



「そうか、助かる」
「ううん……ライナーも助けたかったみたいだし」

複雑そうだが、何とか降りたその了承に
僕自身も少しほっとする


「言ったでしょ、紳士だよ彼」

ユミルの目が、僕を映す
そこには見直した、とでも言う様な感情が宿っていた

それが少し嬉しくて、僕も先を促す


「だからほら、ユミルも休まず動いてあげ…」
「クリスタはお前の動きを手本にするんだな、よし――分かった」

ニヤリ、と彼女の口が弧を描いた
あれ、さっきまではなんだか嬉しかったのに――なんか嫌な予感がする



「クリスタがこっちを見ているんだったら――断然、格好いい所を見せてやりたくなってきたよ」


言葉と同時に大きく踏み込まれ、避けた所を蹴りで狙われた
さっきとはまた、スピードが違う


――えっ、さっきの……本気じゃなかったの!?


「えっ――ちょ、ユミル!?わっ!!」

ユミルの目は、完全に僕の事をロックオンしている
さっきとはまた違う態度の変化に、状況の整理が追いつかない



「避けるなっ!」
「そんな事……言われて、も!」

そう言いつつも、一撃
また一撃と、ギリギリで避け続ける


格闘術、と言うよりは
喧嘩術とでも言うのだろうか

彼女の長い手足と、柔らかい筋肉をいかした
型に嵌らない動き


先程よりも、嫌な所を重点的に狙われて

軸足を狙った蹴りを、辛うじて交わした所に
僕の目の前で、警棒を握っていた彼女の手が――ぱっと開いた



「あっ」

それは僕が移動していた方へ、ゆっくりと落下する
警棒を、無理に体を捻って回避した

その隙に

隙あり、とでも言う様な笑顔で
ユミルは体全体でこちらにタックルしてきた

タックルは綺麗に決まり、僕の体は後方へと引っ張られる


咄嗟に、僕の背中に回った彼女の手を庇う様に
僕は背中を浮かせて、地面へと接触させる――少し痛い

痛む背中を堪えていると
得意そうな彼女の声が、僕の上から響いた



「私は警棒は苦手、だからな」

まるで笑っている様な、軽い一声
彼女の急な攻撃に、僕が対処できなかったのも問題だが


「まぁ確かに、苦手なら放り投げちゃう……よね」

何やっぱり一番の敗因は
苦手と言っていたのに、投げ捨てられる事を考慮していなかった事

なんせナイフでも銃でも無く
今回の武器は、ただの棒なのだ


――それを考え付かなかった、こちらが悪い


その時、また
ユミルがクリスタの方へと視線をやった

この訓練中に、彼女が向こうを気にするのは何度目だろうか
もう十回は、超えている様な気がする

いい笑顔で、クリスタの方へと手を振っているユミルを見て
楽しそうだな、と思ったが


その表情がふと
思案する様な物に、変わった

少しだけ眉を寄せて
何かを探る様な視線を、ライナー達の方へ送っている

気になる物でもあるのか、僕の体の上から動こうと
彼女がこちらの胸の上に手を置いて、立ち上がろうとした……ら


ユミルの表情が、ハッと
何かに気が付いた、ととでも言う様に揺れた

立ち上がる為に力を込めようとしていた手の力を、ゆるゆると解いて
こちらの方に体重を掛けないよう、スッと立ち上がる


でも何処かぎこちなく、緊張している様な動き
そのまま何も言われる事は無く、ユミルは僕から離れるように歩く


急に、無言で離れられても困る



「……ユミル?」

離れて行く彼女の手を、咄嗟に掴んで声を掛けると
彼女の肩が強張った


――まさか、どこか痛めたのか

庇ったつもりではあったが、手を痛めてしまったのでは
そう思ったので――彼女の前に体を回し込んで、その表情を窺うと


瞬間
彼女の表情が、少し怯えた様な物に変わる

そして今度は、肩だけではなく
その体全体が固まってしまった様に、立ち竦んでいた


何処かを痛めた、とは
また違った様子に、疑問符ばかりが心に浮かぶ



「…………っ」
「…………ユミル?」

ふと見てしまったのは、今朝と同じ場所


――あれ、また耳が少し赤い



「……ユミル」

声を掛けると

次いで、彼女の顔全体が赤く染まる
悔しそうに噛まれた唇

ここでようやく、僕は朝から一連の行動に合点がいった



「あの、ユミル」

もしかして、僕に



「もしかして、照れてる?」


今朝
耳が赤かったのは、僕が声を掛けられたからなの?

そして今、緊張しているのは
僕の体に密着してた事に、気が付いたから?


今朝から不審だった彼女の行動が
「僕に照れていた」と言う理由を持たせると、綺麗に当て嵌ってしまう


掛けられたその回答を聞いた途端
ユミルは体を翻す

その動きで、合わせていなかった視線がこちらに一瞬重なり
すぐに離れた

そして朝と同じように


「…………っ!クリスタ、ちょっとペア組んでくれ!!」


彼女は、またクリスタに助けを求めて駆けて行く
けれど



「え、ちょ、ユミル今はまだライナーと……っきゃ!」

うん、だからユミル
クリスタはライナーと組んでるでしょ


「わああっ、すまん!じゃあサシャを探してくる、さしゃああああ!!」


――なんだか、ふと寂しく感じた

やっぱり、彼女が頼りにするのはクリスタで
その次はサシャなのか


ん?
……って、あれ


ちょっと待ってよ、ユミル!
僕と組んでくれないと、僕あぶれちゃうじゃないか!

待ってユミル!置いていかないで!


一旦ここまで
本文だけで、46レス……い、意外に多かった

今後の更新予定ですが、あと一回の大量投下(もしくは二回)で
馴れ初め編は終了かと思います

だから更新はあと三回から五回くらい?
残りも宜しくお願いいたします

照れユミル様が照れ隠しに罵詈雑言(と見せかけて悪口になってない)吐くのをずっと待機している訳だが…(´・ω・`)

>>275
肝心のご本人がストだと!?
照れユミル様のご機嫌を直していただくには、神話に倣って扉の前で全裸で踊り狂うしかないのか?
では仕方がない(バッ


>>276 全裸で踊り狂うだと、みたい!(おい)

遅くなってごめんなさい、文章がやっと完了した
今日の夜から更新できそうです

……照れ隠しの罵詈雑言は、ちゃんと含んでるよ

天岩戸が開いたと聞いて!


>>278 下々の者が書いている分なので、きっと空いたのはガチャガチャのカプセルだと思う

二週間も空いてしまって申し訳ありません
途中で席を外したくはないが、もしかしたら多少間が空くかもしれない

では投下します


-Side Y-



まただ、とユミルは思った


体の中を暴れまわる様な、熱の鼓動
それが感情による物なのか、体調による物なのかすら解らない

厄介な物だと思う、この


――発情期、と言う奴は

体の中に籠った熱を持て余しながらも、ユミルはサシャを探す

足を進めている内に、目的の人物が視界に入ってきた
だが

声を掛ける事は無く、そしてサシャの方へと向けていた足を逸らして
ユミルはその場から音もなく立ち去る


サシャ既に、コニーと組んでいたし

何より、あのコンビの近くに行くと
教官に目を付けられると言う事を、思い出したからだ


そこからは早足で、教官の目が二人に視線を送っている間に
人影がまばらになっている方へと目指した

すると

丁度いい木陰が目に留まる
幹も大きく、死角になりやすそうだ


そこに向けて足を運び
樹木の根元は大きなくぼみがあったので、そこに体をおさめ

最後に
訓練中の奴らから、こちらの様子が見えない事を確認すると

そこでようやく、一息つけた


それにしても


――なんだよ、この熱

朝と同じ熱、なのだろうか
でもついさっきまで、収まっていたじゃないか

なのに、ベルトルトの体に触れている思った瞬間に……再燃した


それは、何故だろう
発情期なんて単語、コニーと居た時は全く感じなかったってのに

あれ
それはコニーだからか?

あいつは私にとって、対象外だったか?



――いや、違う。そんな事はどうでもいい

原因を探るのは後にしよう
今は、この頬の熱を収めるのを最優先にしないと


――にしても、この熱はどうやったら無くなるのだろう

とりあえず、頬を叩いたり
手で仰いでみたり、膨らませてみた……が

なかなか、熱は逃げてくれない


どうすれば、この熱が外に逃げてくれるのかすらもわからない
となると、もうお手上げだ


さすがに
授業の終了までには戻らないと、さぼっている事がばれてしまう

だから早く、この熱を納めなくてはと
焦りだけがつのって行く



――なんでだよ

わずらわしい、面倒臭い


――なんで、発情期なんか



その時
草を、踏みしめる音がした

その距離は随分と近い


どうやら――人の気配に気付かない程、私は思考に没頭していたらしい
教官に見つかったかと、反射的に顔を上げる


そこには……


-Side B-



駆け抜けて行ったであろう方向に、あたりをつけ
ベルトルトはユミルを探していた

途中でユミルが探していたであろう、サシャを見つけたが
コニーとペアを組んでおり、その周辺に彼女の姿はない


――もしも、だけれど

ユミルがその光景を、見ていたとしたら
元からさぼり屋気質なのだ、さっさとさぼりを決め込んでいるのかもしれない


――全く、置いて行かれる人の身にもなって欲しいんだけれど

胸中で苦情を言いながらも
彼女の内情に“気付いて”しまったと言う後ろめたさがある為、どうも放ってはおけなかった

途中でペアを組める人がいたとしても、声を掛けられる前に距離を取りながら
人気のない方向を選びながら、先へ先へと進んで行く


だが、どうやら進み過ぎてしまったらしい
あまりにも人気が無い事に所まで、歩を進めてしまっている己に気が付き――ベルトルトは歩みを止めた


行き過ぎてしまったか
と、ひとりごちながら踵を返す


その時だった
くぐもった、小さな声が聞こえたのは

今まで、ユミルを見つける事が出来なかったので
何故か悪い予感が過ぎる


――もしかして、怪我でもして動けない……なんて事は

浮かんだ不安に突き動かされ

慌てて周りを見渡した物の、お目当ての人物は見つからない

けれどもここで、探すのを中断する訳にもいかないし
かと言って――声を出して、探す訳にもいかない

彼女がもし、たださぼっているだけなら
ソレが迷惑になってしまう事は、容易に予想できた


不安を抱えながらも
駆け足で周囲を回りながら、その人を探している……と


ぽつりとあった、少し大きめの樹木
その木の蔭に、人の背中が見えた

ユミルかと思って駆けよってみる、が
髪色や長さや洋服の特徴などが、どう見ても別人だ


残念ったに思い、その姿を視界から外そうとした時



ドサッと
何かが倒れこむ様な、音と共に


「――ち……くそ」


掠れて消えそうな程の、小さな声
その声は、探していた人の――ユミルの、声


不穏な状況に
咄嗟に駆け足で、声の方……先程ユミルと見間違えた、その人の隣まで移動すると

視線の先に入ってきたのは、やや窪んだ樹木の根元
そして二人の男を足元に沈め、肩で息をしているユミルだった


顔を殴られたのか、唇の端には僅かに血が付着し
髪の毛も、格闘術の訓練をしていたと言うにはあまりにも乱れている

全力で殴り合いでもしたとでも、言う様な光景


思いにも寄らなかった光景に、固まった僕に
ユミルは、鋭い視線をパッと向けて


そして


「あっ!おい、ベルトルさん――そいつ確保!」


大きな声で、僕に指示を出した


-Side Y-



足音が聞こえた方に目をやると、三人の訓練兵が――そこに立っていた
下衆の様な、気持ち悪い笑みを顔に貼り付けてこちらを見ている


そいつらが“どんな目的”でここに来たのか
前もってコニーから聞いていた話で、なんとなく予想が出来てしまう

まぁ、予想すべき要求を提示されたとしても
了承する気は、全くもって無ないのけれど


にしても

格闘術の訓練で、人ごみから離れた瞬間に声を掛けられると言う事は
相手も、この時間に目星をつけていたのだろうな



――鍛錬しろ、下位訓練兵どもが

自分もよくさぼる方だが
上を目指している癖に努力を怠る奴は、嫌いだ

でも、まぁ


――私にとっても、丁度いいタイミングだ

体に籠った熱を紛らわす為の、いいカモが
向こうからやって来てくれたと、そう思っておく事にしよう



「よぉ、ユミルちゃん」
「発情期、なぁんだって?」


――お前らには関係ないだろ

心の中で毒づきながら、両手の指で閉じたり開いたりを繰り返す
準備運動は、大切だからな


「でもお相手なんていないんだろ、ブスなんだし」
「そんな可哀想なブスの為に、ボランティア活動でもしてあげましょうか?」

ぎゃはは、それ上手い!

内輪で褒め合っている三人を、チラリと見つつ
次は足先を支点に、足首を軽く回す

会話が長かったので、手首も回し終わってしまった


軽い準備運動が終わると
ここから先は時間の無駄なので、早々に話を終わらせる事にする



「うっぜぇ」

一言で会話を切り
口角を上げ、不敵に笑う

そうする事で、自分は他人を小馬鹿にした表情になる事を
ユミルは知っていた


「下衆い奴らの粗末な物なんて、お呼びじゃねぇんだよ……犬にでも発情してろ、馬鹿共が」

きっぱりとした、お断りの言葉
そして喧嘩への、お誘いの言葉

そして、相手を馬鹿にする心情を目一杯込めて――声を発した


まぁこちらの希望も、こいつ等の希望も
発情期の気分も晴らしてしまおうと言う意味は同じなので、支障はないだろう

それに返答も
相手の予想していた内容と、大差ないはずだ


はい、分かりました
お付き合い致しましょう……なんて

私が言わない事くらい、分かっているだろうから



「なぁ――今だったら、悪ふざけだったと言う事で許してやれるぞ」

挑戦的な態度に
三人は、可笑しそうに笑った


「もしかしてぇ、エッチな想像してるの?」
「あはは、ユミルちゃんはどんな状況を思っているのかなぁ」

警告として告げた、その言葉にも
倍以上の不愉快な声が、返ってくる

人数的に有利なだと、油断しているのか
これから自分達が得られると思いこんでいる、状況に笑っているのかは……わからない


「さっすが発情期!」
「でもどうしてもって言うならいいぞ、無理矢理系ってお好き?」

茶化し言葉には「馬鹿か」と言う返答を返しておいて
舌打ちをしながら、軽く構える

いくら温厚な私でも、もはや我慢の限界だった



「丁度いい、じゃあ体を貸してもらおうか――ボコらせろよ、私も気分転換したい気分なんだ」

意見の相違が無い様に
ユミルはギュッと握った拳を掲げ、その意思を伝える


「どうせお前等も“はい、そうしましょう”なんて言われるとは……思ってなかったんだろ?」

掛ってこいよ、と挑発をしてみると
なけなしのプライドでも傷つけられたのか、その顔が赤く染まった

勿論、それは怒りによって


「生意気な口、ききやがって!」
「ふざけるな、こっちがボコって組み敷いてやるっ」

二人、挑発に釣られて
こちらの方へと、殴りかかって来た

こちらはくぼみの中
相手はこちらを、見下ろせる場所

勿論、人数的にはこっちが不利だし
立ち位置でも、こちらの方が分が悪い

だがその地形を活かす事なく、突っかかってくる奴らだったら
利用できる物くらいはある


勢い良く駆け下りすぎて、急には立ち止まれないであろう――そいつらの内の一人に
斜め下からの蹴りを喰らわせる

スピードが付きすぎて、方向転換すらしにくかったのだろう
簡単に、相手を捕える事が出来た


景気良くめり込んだ足が、痛くなる前に離す

本当は股の間が一番いいのだが
流石に其処は、軽々しく打たせて貰えないだろう

のでもう一度
今度は胃の辺りをめがけて、素早く上段蹴りを喰らわせた


口から胃液が飛ぶ
少しだけ掛った……汚い


「て、め」

二発の蹴りを喰らわせている間に
駆け下りて来ていた、もう一人がこちらに拳を振るった

コレはさすがに、避けきれず頬に一撃食らう


アニやミカサ程、格闘術に心得がある訳ではない
だが、こんな雑魚には負け劣らない自信はある


場数も、それなりに踏んでいると自負しているからだ

喧嘩の最中でも、高揚はしない
そして――痛みに慣れていると言うのも、こちらの強み

だから


攻撃を喰らい、地面に手をつく――そのついでに砂を握りこんで
相手の顔に、思いっきり投げかけた

視界の奪われて呻くそいつに
男の急所へと、蹴りをぶち込む


「このっ!」
「!?」

背後から、声が聞こえた

最初に倒したつもりの奴は、思っていたよりもダメージが大きくなかったらしい


甘かったと思っても後の祭り
後ろを取られ、羽交い締めにされてしまう


「ちっ、……くそ」
「暴れんなブスが!」

拘束を解こうとしても、さすがに腕力は劣る

視線を下にやり、相手の足の位置を確認する
おそらく小指があるであろうその位置に、体重を乗せた踵を乗せぐりぐりと押す


馬術でも使用される、この支給のブーツは底がとても堅い
だが相手のブーツも防御力があるので、拘束の力を解いてくれる程のダメージではない様だ


「くそっ、ブスの発情期ってだけでも最悪な癖に」
「じゃあ、離せよゴラァ」

足を踏まれまいと、こちらの体重を少しでも浮かそうと努力をする相手と
羽交い締めされた姿勢のまま、相手の小指の先に出来る限りの体重を乗せようとする自分

そんな、地味な攻防戦が繰り広げられたが
状況は未だに、こちらの方が不利だ


なんせ
もう一人、相手はいるのだから



「よーし、よく抑えておけよリチャード」

いまだに
くぼみの方へとは降りてこないそいつは、偉そうに呟いた


「ジャック……偉そうに、言うなって」
「そうだな、まずは――胸でも揉んでや…」

そこまで話が進んだ所で
相手の注意が、足元の方へといっていたのをいい事に

勢い良く体を捻り、腕の中から逃げ失せる


そして、すぐに体を反転させ
狙っていた顎の下に、ストレートを一発叩きこんでやった


男は、苦しそうに蠢きながら地面へと崩れ落ちる


相手が地面に伏せたのをいい事に
少しだけ警戒しながらもゆっくり近づき

そして――今度は首の方へと絞め技を掛けて、確実に意識を飛ばした
一人の処理が終わったら、金的を喰らわせた奴も同じ処理


二人をなんとか打ちのめし
一段落して、ゆらりと立ち上がった時だった


私達とは違う足音が、少し遠くから聞こえてきたのは


やや駆け足に近付いた、その足音の方へと視線を向けると
最後の一人の男が呆然と立ちすくんでいる

その、隣に現れた
そいつよりも大きな青年


目の前で
女一人に仲間がのされた事に、呆然としていたのだろうか

隣に人影が現れた事に、面白いくらいにびくついたそいつは
慌てた様に、仲間を置いて駆けだしていく

咄嗟に、声を上げた


「あっ!おい、ベルトルさん――そいつ確保!」

逃がしてたまるか、女の敵!
そう思って声を出すと、ベルトルトもこちらの状況はわからないながらも駆けだしてくれた



――よし、偉いぞベルトルさん

暫定三位の実力ならば、あんな奴はどうとでもなるだろう

雑魚を託し
ユミルは目の前にいる気を失った二人を前に、にやりと笑う


――さて、こいつ等にはどんな恥を掻かせてやろうか

お楽しみの、お仕置きタイムだ
さぁ何をしよう


ユミルは喧嘩をしている時以上に、頭を回転させ
こいつ等の処遇を考えた


-Side B-



声に釣られて隣へ視線をやると
“そいつ”と指摘された人物は、既に駆けだしてしまっていた

ユミルの指示に従い、全力で男を追走する


元々、体力はそんなに無いのだろう
難なく追いつけたそいつの首に手を回し、軽く締めあげる様な形で足を止めさせる

首の閉まった所為か、カエルの声の様な物が息と共に漏れた


とりあえず、今は格闘術の授業中なので
見つかっても不自然ではない様、そのままの姿勢で待機しておく

すると、案の定


「おお!でかしたベルトルさん」

なんて、僕に笑顔を向けながら
ユミルがくぼみから出てきて、僕の方へと駆け寄って来てくれた


そして



「よっ!」
「がっ……」

適度な距離から加速し
走ってきた勢いそのままで――またいい具合に、男に向かって飛び蹴りをかます


長距離の助走をつけた蹴りは、男の意識を沈めた

僕に拘束されているままだったから、受け身もろくに取れなかったらしい
少しだけ、可哀想だと思う……本当に少しだけれど


だって


――おそらく、だけれど

さっきチラリと見えた状況からすると
この仕打ちは、彼等の自業自得なのだろう

そう思ったから


男を蹴り倒したその人は
大きく息を吐いて、こちらに視線を向ける

その顔には、先程のあたふためいた表情の欠片もなく

何故か、僕は
少しだけ残念に思った


「ベルトルさん、助かった」
「え、えと……ユミル、彼は何?」

これまでの段階で、僕が見たのは
おそらく、男二人をのしたであろうユミルと

逃げた一人の男を確保した僕の目の前で、ユミルが男を倒したと言う事


ただ、それだけ

それだけでは、とても理解のしようが無いので
状況整理の為に現状を訪ねてみる


その返答は、かなり簡単な物だった


「こいつらにおっぱい揉まれそうになったんだよ」
「ん?」

お……ぱい?

普段の男子訓練兵の日常生活に、あまり耳馴染みのない言葉が飛び込んでくる
唐突な異分子に、僕の頭の中がフリーズした

そんな僕の為に、ユミルはもう一度言う


「おっぱい、揉まれそうになったんだ」



――聞き間違えじゃなかった

女の子の口から、そんな台詞あまり聞きたくないのにな

少しだけ意気消沈しながら
その原因を、チラリと見やる


言うだけ言ったユミルは、僕の手から気絶している男を既に奪い取っていて
その体を、ずるずると引きずっていた

なんとも豪快なその仕草に、思わず一瞬呆れてしまった物の
放ってはおけないので、付いて行く事にする


ユミルの目的地は
先程の、樹木のくぼみだったらしい

二人の男を沈めた場所に到着すると


「あ、ベルトルさん――こいつも同じようにするから、手伝ってくれ」

と声掛けられた
ちなみに同じように、とは


「…………あぁ。うん、分かった」

つまり、まぁ
そう言う事なのだろう


チラリと、もう一度木の根元を覗き見る
そこにはまぁ……先にぼこぼこにされていた、二人の男の姿が見えた


ズボンと取り払われ、ハンケツを出された状態で


下を覗き終わり、ベルトルトは溜息を吐く

自分は頭の回転が、悪い方ではないのだが
本当に、なんでこんな状況になったのかが読み切れない事を――悔しく思いながらも、とりあえずユミルに従う

男のズボンに手を掛け
そして下半身はパンツのみになった男を……くぼみに放りこんだ

勿論、パンツを半分ずり下げた状態にして


そして、脱いだズボンはと言うと
随分と高い部分にある木の枝に、ユミルが引っかけた


彼らがこの枝に気付き、なおかつズボンを奪取する為には
ズボンの無い状態でこの木を登らなくてはならない

もしチャレンジすると、なると
足が擦れて痛くなる事が、容易に想像できた


――木の幹って、結構痛いんだよね

山奥の村出身である、僕は知っていたので
ご愁傷さまと、心の中で呟いた


ここでようやく、ユミルの表情が
すっきりした、と言う様な顔に変わった

その事実に、少しだけ安堵しながらも
僕はもう一度、今度は少し真剣に

先程と同じ質問をぶつける


「ねぇユミル、何があったの?」
「んー…、だからな」

声掛けに応じて、ユミルがこちらの方を向く
良かった、三人を打ちのめしたついでに、機嫌も良くなってくれているみた…



「…………ぁ」



と、漏れた声の後に


ぼんっ

と、僕の目の前で
効果音が付きそうな勢いで、ユミルは顔を赤く染めた


あー…うん
やっぱり無理だったか、また照れちゃったね


――まぁ、それはそうだろうね

僕の目の前で、男のパンツを半分ずり降ろしたのはユミルだもん

その情景を思い出したら
時間差と相成った相乗効果により、照れるのは当然だと思う



けれど

僕は多少、呆れながらユミルを見る


――ちょっと、うっかりしすぎでしょう

そんな心情を持ちながらも
とりあえずは逃げられない様に、がっちりとその手を掴んだ

ベルユミに外れ無し
だけど
このベルユミは特にいいなあ


>>311 ありがとうございます!特に、なんて照れます

席外していました、更新再開

地方から出てきた時に気がついたけれど
レタス巻きって全国区じゃ無かったと言う事が、未だに違和感がある


-Side Y-



ユミルは思う


思いっきり気分転換をする為に、喧嘩を吹っ掛けた
それは認める

そこはこちらが悪い、反省している
喧嘩っ早いのは私の悪い癖だと言う、自覚もしている


ただ、気晴らしの原因を忘れる程に拳を振うだなんて
自分でも思っていなかった

自分の不覚さが悔しくて
ユミルはキュッと唇を噛んだ


そんなにも、発情期の熱が溜まっていたのか
それとも――前後不覚になるくらい、あの三人が私の逆鱗に触れたのか

わからない


でもただ、一つだけ
はっきりと言える事がある



――ベルトルさんに、どう言った経緯でこの様な展開になったのかを

言う訳にはいかない
恥ずかしすぎる



『貴方に触れて、発情期の熱が籠ったのです
 それを発散させるために、喧嘩しました』



なんて、絶対に

言う訳には、いかなかった


ぐるぐると
ベルトルトの顔を見た瞬間から、思考が急回転している


ただ、どんなに考えても
コレだと言った誤魔化し方が浮かばない


――あぁ、そうだ

しかも
私、こいつの目の前で


――男のパンツをずり下げて、下に放り込んじゃったんだ

どうしよう、マジ死にたい

いや、違う
私はそんなポイントを、恥ずかしがる様な性格ではなかった

現に、今の今まで
こいつの存在に改めて気付くまで、気にしていなかったじゃないか


それに

もしも、コイツじゃなくて
目の前にいるのがコニーやジャン辺りだったら、未だに大笑いしている自信がある



――え、あれ……それは、なんでだ?


コニーが対象外と言う可能性は
まぁ――正直、結構な確率であるかもしれないが

だがジャンや、マルコも対象外なの……だろうか


ジャンも、その可能性が無い訳ではない
悪乗りも口の悪さも、対象外と思っていてもいいくらいに悪い

マルコは、どうだろうか
おかん的な存在として認識しているのなら、対象外もありえなくは無いが


と、なると

自分は発情期だと言うのに
異性と見ていない存在が、あまりにも多すぎる事になってしまう



――そんな事、ありえるのか?


でも現に、私は今こいつに手を掴まれていて
それだけで、心臓がばくばく言って……

あぁ、そうだ


――そうだ……私は今、こいつに腕を掴まれていたんだった

現実逃避をしそうになった思考回路を修正し終わると

チラリと
己の手を掴んでいる者の方を、ユミルは見やる


そこには、真剣な目をして
こちらを見ている、ベルトルトの姿があった


逃げられない
そう結論付けるには十分すぎる状況に、ユミルは腹をくくった

そして、今までで起きた物の中で
「話せる状況」だけを脳内で整理し、話しを繋げる


――よしっ

テンパった時に、喧嘩を売られて
それでむしゃくしゃして倒してしまったと

その際に、胸を触られそうになったと
それだけを言おう、そうすれば不自然ではないはずだ


「えぇ、っとぉ……っ!?」


え、今


――何が、起きた


言葉を出した途端、自分でも驚いた
そしてベルトルトも、豆鉄砲を食らった様な顔をしている


「ん!?」


ソレを認識して、慌てて口を閉じる
が、もう遅い

まさか


――こんなにも、上ずった声が出てくるなんて


自分の身に起きた事が、信じられなかった



「嘘は駄目だからね、ユミル――君は、状況を省いての説明が上手そうだから」
「えっ、う……うん」

ベルトルトの眼光は鋭く、言葉も真剣味を帯びている

やばい、先手を打たれた
頷いてしまった、自分のばか

嘘を警戒されてからの誤魔化しは、どうあってもやりにくい


――でも、タイミングが悪すぎるだろう

先程の声を思い返してみると、穴に飛び込みたくなるくらい恥ずかしい


相手の目を見るのが嫌で、ユミルは視線を手元に落とした


きっと、原因はコレだ
手を握られている所為に決まっている

また上ずった声を出すのが嫌だったので
「離せ」と言う意思を、握られている手を動かして――言外に伝えてみた


その間にも、こいつの手を温めている温度と
私の体に宿っている温度が混ざり合い、じんわりと手の表層を湿気させて行く


――頼む、早く離してくれ


握られている部分が、しっとりと発汗している事実を
何故だか、悟られたくは無い


意図が伝わったのか
それとも、伝わらなかったのか――分からない

とにかくもう一度、手を軽く揺らして
この手を離して欲しいと伝えると


ベルトルトの指先は、一瞬微かに緩み
そして


ぎゅっと、握り返された



――あああ!!ちっ違う、そうではないぞベルトルさん!

慌てて、その顔に視点を合わせてみると
奴の表情はまさに……可笑しそう、と言う表現がぴったりで

つまりそれは
明らかに、分かっているのに意地悪をしたと言う顔で



――確信犯か、このやろぉお!!



と、思わず叫ぶ
もちろん心の中で……だが

今、声に出したら確実に
また上ずってしまいそうな気がしたのだ


-Side B-



それはまさに、経験が生んだ教訓だった
なんせこの展開の後、駆けだされると言う場面を


――僕は二回も、経験済みだったから



朝からの、合計三回目
盛大に赤面してくれた彼女の腕を、僕は握る


それは、この気を失うまで返り討ちにされた男達が
彼女の言う「おっぱい揉ませろ」だけの要求でこうなったとは――正直、思えなかったからだ


僕に対して照れる
と言う行動を起こしている、彼女には申し訳ないが

状況が整理できるまで、我慢していて貰う事にしよう


ユミルは、案の上視線を彷徨わせた
どう言うべきか、考えているのだろう……彼女はポーカーフェイスが上手そうだ


――少し、気を引き締めないとな

そう思っていた時だった
ソレが起こったのは



「えぇ↑、っと→ぉ↑……っ!?」

(※矢印は音程)


聞こえて来た声は、普段の声ではなかった
上ずって、音程が外れてしまっている

僕も思わず、一瞬大きく瞬いてしまった



「――ん!?」

その音程に
一歩遅れて気付いたユミルは、慌てて口を閉じたが

出てしまった声はもう戻らない


――明らかに、緊張している事がばればれだ

恥ずかしがっているだけの行動なら、想定内だが
それが――今から嘘をつく事に対しての、緊張だったらまずいので



「嘘は駄目だからね、ユミル――君は、状況を省いての説明が上手そうだから」

一足先に、釘を刺させて貰う

そして目線でも
意識的に鋭くして、真面目に話して欲しいと伝えた


その釘刺しに


「えっ、う……うん」

ユミルが頷いてくれて、本当に良かった
僕もこれ以上の無体はしたくない

笑ってみせると
もう、いっぱいいっぱいだとでも言う様に――ユミルが、顔を更に赤く染めた


そして

せめて、手を離してくれ
とでも言う様に、繋いだ手が軽く揺れる

僕は反対に、逃がしてはならないと思ったので
手が解けない様に、改めて握り返した


そして
握りなおすと同時に、感じたのは


――あれ、手が少し湿気ている

と言う事


握りなおすのと、また同時に
僕は、ユミルの手と肩が大きく揺れているのも見てしまって

その反応が面白くて、つい口角が上がってしまう


――ユミルは手汗を気にしていたから、手を離して欲しかったのか


笑っちゃいけない、戻さないと……と思うのに
なかなか自分の口が、思い通りに動いてくれない


――彼女には、少し悪いけれど

僕はこの状況が
実は、結構おもしろい


ユミルと目が合う
笑っていたのに気付かれてしまったので、少しだけ頭を下げて謝った


本当は……全然反省なんて、していなかったんだけど


-Side Y-



――こちらの反応を、面白がってやがいる

それを、ありありと伝えて来たそいつの表情に
思いっきり裏拳を叩き込みたくなった

なのに
そうは思っても、ぴくりとも動かない体


――苛立たしい、本当に悔しいのに

調子を崩してしまい、未だに立て直せないでいる自分が
こいつ以上に、腹立たしかった


笑っているそいつを睨みつけると
ごめんごめんとでも言う様に、少しだけ頭を下げられる


もちろん
だからと言って、許す気にはならない

はずなのに


――拳を叩きこむのは、やめにしておこう

なんて戯言が、浮かんできてしまった

私にしては甘すぎる対応
こんな事を、クリスタ以外に思う日が来るなんて夢にも思わなかった


本当に不思議な奴だな
自分を、発情期に落としこんでくるなんて



――……ん?

自分の心に浮かんだ声が、ふと引っかかる


あれ、と言うか
私、こいつにしか反応を示してない……のか

コニーにも反応せず
それどころか、発情してきた奴等にも反応していない


でも今は、顔が熱いと言う事は
こいつ限定で、私は反応しているって事……か?

そう考えると、先程の疑問も解消された


コニーと話していても、先程の男たちに接触しても
なんともなかった、そのチグハグさが

「こいつにのみ」と言う単語を加える事で、一気に解消される



――それにしても、なんでこいつにだけ?


一つ解決した疑問の後に、また湧きあがってきた疑問を解消する為
ユミルはその人の、名前を呼んだ



「なぁ、ベルトルさん」
「なに?」

握りしめられた手を、じっと見つめながら声を発する



「……あんたも、発情期だったりするのか?」
「え」

最初はきょとんとした顔で
でもその直後には、顔を思いっきり赤らめて

ベルトルトは、こちらを掴んでいない方の手をぶんぶんと振り
違う、と大きくアピールしてきた


「え、ちょっ!待って、なんでそうなったの!?」
「いや、だって……私も発情期だし」

少しだけ声色を落としながら、口にする
コレを思いっきり口に出していたら、私は変質者になってしまいそうだ



「お前ももし、発情期で――まぁ私にはわからんが、フェロモンあたりの相性が良かったから」

だから


「こんな反応になっているのではないか、と」

言いつつ、熱くなている頬を指さす
ベルトルトはその答えに、あんぐりと口を開けた


「それが原因で――お前限定の発情期になったんじゃないかと、憶測したんだ」

そう考えると

ベルトルトが手を繋いで離さない理由や、対人格闘を組んだ理由
そして私に構う理由も、わかる


彼が発情期だったから、発情期の女に近づいた
と言う、至極簡単な理由で


ベルトルトは、口と一緒に目も見開いて
こっちを凝視してくる

見つめてくる意外、何もしないそいつに
思わずこちらも心配になってきた


「ベルトルさん?」
「あ、え、……と、その」

赤くなりながら、しろどもろどになりながらも返答してきたその仕草は
とても少年らしい物で

少しだけ、胸がキュンとときめいた


――ん、なんで私はこいつが苦手なのにときめいてんだ?

内心首をかしげながらも
話の途中なので、目の前の相手に集中する



「え、と……そんな、急に言われても」
「だよなぁ、私お前の事苦手なのに――いきなりそうなってもな」










「え」
「ん?」


驚いた様な声に、私も思わず声を漏らした



「えと、ユミル?」
「なんだよ」

なんだ、どうしたお前
反応が妙にぎこちないぞ


「今……おかしな言葉が聞こえた様な」

それだけ言うと、ベルトルトはまた塞ぎ込んでしまった

おかしな言葉とはなんだ
もう一度言え、って事か?


「私お前の事苦手なのに――いきなりそうなってもな……か?」

ひとつ前の台詞を、再度口にする
すると、今度こそベルトルトの動きが止まった


固まった後、大きく溜息を吐きながらこちらをじっと見る
……って、なんだよその瞳

おい、なんだ
その憐みの様な瞳は



「な、なんだよ!言いたい事があるなら、はっきり言え!」

そう言いながら、大きく手を振ると
今度は、いとも簡単に彼の手は離れた


思いにも寄らず、簡単に離れた手に
一瞬驚き、そして少し戸惑う

その離れた手と、奴の顔を見比べてみるが
彼の表情は少し思案気味なだけで、うんともすんとも言わない


「おい、なんか言ったらどうなん…!」
「ごめんユミル、その……僕が言っていい事か、分かんないんだけれど」


ぽつり、と
その口だけが小さく動いた

見事なまでに自信なさ気なその声を
聞き洩らしてしまわない様、こちらも声を出すのを止める



「それに、その――ここまで露呈されたら、僕も意識せざるを得ないと言うか……」

ぽつり、ぽつりと
一単語づつを、じっくり考えながら出している様な声

聞き逃してしまわない様に、耳を澄ます



「僕が、言っていい事かは――わからないけれど」


それは聞いた、その続きはなんだよ
苛立ちながらも、言葉を待つ










「それってさ――恋、なんじゃないかな」


-Side B-



今、僕が分かっている事

・ユミルは僕に対して照れる
・それは好意的な心境による結果……だと思う


そして、この事を踏まえて僕が思ったのは
自惚れかもしれないけれども


多分、ユミルは……


ちなみに現在

ユミルは、同期の三人をお仕置きしている理由を尋ねられている途中に
僕に手を握られて、真っ赤になっています

うん、これってやっぱり
そう言う事、なんじゃないかな


――となると、どうしよう

ここからどうすればいいか、ちょっと分からなくなってきた

いや、まぁ
手を握ったのはこっちなんだけれどね



その時、ふとユミルの表情が変わった
頭の中で、何かが繋がったとでも言う様な顔をして

そして
握りしめていた手をじっと見つめる


「なぁ、ベルトルさん」
「なに?」



「あんたも、発情期だったりするのか?」
「え」

思いにも寄らない言葉に、一瞬思考が止まってしまう


「発情期」と言う、その言葉の意味を察して
全力で、否定した


「え、ちょっ!待って、なんでそうなったの!?」

発情期と思われるって

僕が女の子と
誰かれ構わず、いちゃいちゃしたいって思われているって事だよね!?


「いや、だって……」

僕の全力の否定に自信が無くなったのか、少し言葉にするのを躊躇った後
ユミルは小さな声で、続きの言葉を発した



「私も発情期だし」

あぁ、そう言えば
ユミルは朝そう言った単語を口にしていた

朝食の時間の食堂で、僕がその言葉を口にしない方がいいと引き止めたのが
今日、ユミルとよく関わる様になったきっかけだった


にしても、女の子の言う発情期はまだ大丈夫だけど
男に向けて発情期と言うと、ちょっと生々しい……と言うかおぞましいな

それにしてもユミル


――まだ、発情期だと思っていたの


僕、その場の冗談だと思っていたよ



「お前ももし、発情期で――まぁ私にはわからんが」

混乱する僕を置いていき
ユミルは自分の赤くなった頬を指さしながら話し続けた


「フェロモンあたりの相性が良かったから」

えっ、待て待て待て
何の話をしているの?フェロモン?

更に意外な単語が追加されて、僕も少し困る


「だから――こんな反応になっているのではないか、と」

こんな反応、って
顔が赤くなる事ね……うん、それならまだ理解できる



「それが原因で――お前限定の発情期になったんじゃないかと、憶測したんだ」



――あれ、コレって

僕、もう……告白された様なものじゃないの、これ


えーと、ちょっと待ってねユミル
少し整理するから、うん

君は、僕に「照れ」ていたんだよね
話しかけたり、触れたりする事で真っ赤になっていたし


そして……まぁ
単語の選択は如何なものかと思うが

「発情期」と言う言葉を、使っていると言う事は
君も「異性が気になる状態」と言う事も理解している、と


うーん……やっぱり、最初の「発情期」の言葉のセレクトが悪かったのかな

そこで生物学的な分野で理解しようと、考えが固まってしまって
フェロモンとかそう言った所に思考が飛んでしまった……と


女の子って、よく恋バナしているイメージがあるのに


――ねぇ、ユミル

紆余曲折しなくても
答えは、身近な所にあるんじゃないの?


しかも「僕限定の発情期」とまで言っているよね

なんで気が付かないの、と言うか
もしかして、気が付いて言っているの?


気が付いて言っているとしたら、なに
その告白方法、女の子の中で流行っているとか?


――もし、告白を……されているとしたら

僕は、どう言えばいいんだろう



改めて
ベルトルトはユミルを見つめる


男子と並べるくらいに、背の高い身体
言葉使いも態度も、女の子らしさが少ない

けれど
スタイルもいいし、赤くなった顔は可愛いと思う


そんな人に
まるで告白……のような、告白をされた



「ベルトルさん?」

心配をしているかのように、声を掛けられる

僕としては、君の方を心配していたんだけれど
あまりにも長く、考え込んでしまっていたのだろうか


「あ、え、……と、その」

声を掛けられてしまい、戸惑ってしまう
どうしよう、なんと返せばいいのか分からない


「え、と……そんな、急に言われても」

落ち着け、ベルトルト!
それは告白をされた時の返事みたいになっているぞ!?

はい、先生!
でもどうやって言葉を繋げばいいか、分かりません!


どう伝えるべきか、考えていた所に
ユミルは、また――爆弾を落としてきた



「だよなぁ、私お前の事苦手なのに――いきなりそう言われてもな」





「え」
「ん?」


混乱して、擦りきれそうになっていた思考回路に
冷水をぶっかけられた様な感覚が、頭に走る


――あれ、まさか

冷えた思考に追いつかないのか、口の端がひくりと痙攣した



「えと、ユミル?」
「なんだよ」

思いにも寄らなかった事実に直面した所為か
体全体が、動かしづらい



「今……おかしな言葉が聞こえた様な」


それだけ口にすると、僕の思考能力はぷつりと途切れた
考えるのをしばし放棄し、返ってくる言葉を待つ

ユミルは、怪訝そうに少しだけ眉を寄せ
改めて言葉を放った


「私お前の事苦手なのに――いきなりそうなってもな……か?」



まさか、ユミル
君って本当に、本気で



「発情期」だから「照れ」て
「僕限定」だから「フェロモンの相性がいいだけ」だと、そう思っているの!?


僕の中で、ユミルの「年頃の女の子らしさの評価」が急降下で下がっていく

うん、まぁそれもいいんだけれどね

「鈍感」や「鈍い」
あとは「天然」って言う評価が上昇したから、まだ救いはあるんだけど



「な、なんだよ!言いたい事があるなら、はっきり言え!」

心を逃避させて、少し落ち着こうとしているのに

ユミルはまた
煽るよう様な事を、僕に言う


――言いたい事?それはもう、たくさんあるよ

言いたい、滅茶苦茶言いたい
けれどもユミル、ちょっと考えてよ





――僕が君に、ソレを言うの?


惚れられている側が、惚れている側の人に

貴女は私の事を、異性として見て
なおかつ好意を持っているからこその、行動なんです――と

あぁ、だめだ
少し遠まわしにしようとしたら、ものすごく硬い文章になっている


でも、どちらにしても
それって、言葉の一つを間違えたら「自惚れ野郎」の称号を得てしまうんですけど

そんな事を、僕に強要するの!?


――誰か、助けて

そうは思っても、ここには助けてくれる人は誰もいない

せいぜい伸びている男子が
少し離れた所に、転がっているだけだ


そうこうしている間にも、無情に時間は過ぎていく

うんともすんとも言わない僕に向け
再び、ユミルは苛立つように声を掛けた


「おい、なんか言ったらどうなん…!」



「ごめんユミル、その……僕が言っていい事か、分かんないんだけれど」


絞り出すように、僕は声を出す

黙っていても、解決にはならない
ならせめて、出来る限り伝えるしかなかった



「それに、その――ここまで露呈されたら、僕も意識せざるを得ないと言うか……」


そう、ユミルは自覚が無くても
僕はもう彼女の気持ちを自覚してしまった

今後も同期として付き合うのだ、そんなのフェアじゃない


――もう、言ってしまおう

そう心に決めて、ベルトルトはユミルの方へと視線を合わせる


ユミルは、一言も発せず
無言のままこちらを見て、言葉を待ってくれていた

それは、ありがたいのだけれど
今は……無言の圧力が、少し怖いです


「僕が、言っていい事かは――わからないけれど」


もう、僕は思考がショートしそうで
早く終わらせてしまいたかった


後にして思うと
もっとユミルに、事前に確認しておけばよかったと思う


「お年頃の話だから、もう少し考えてから話そうか」
「デリケートな話だから、夕飯の後でね」

そんな言い回し、後から考えてみるとたくさん浮かんできた


でも

その時の僕は、もういっぱいいっぱいで
こう言うしか、なかったんだ





「それってさ――恋、なんじゃないかな」


-Side Y-



その言葉に、私は思わず目を見開いた

……コイ?
私が、ベルトルさんに――恋?


その単語に対して、湧きあがってきたのは
照れでも、恥じらいでも無く――違う、と言う否定の言葉だった



「はっ……恋って、そんな訳ないだろ?」

少し笑って、そう言ってみるけれど
反応が返ってくる事は無い

その沈黙が耐えがたくて
私は更に、言葉を紡いだ



「だって、おかしいだろ……私がこんな反応するの」
「そんな事ないよ、ユミルだって女の子だし」

動揺を悟られたく無くて、口にすると
ベルトルトはすぐに否定してくれた

その言葉の意味を考えたくなくて、続けざまに言葉を発する


「いやいや、だってこんなオトコ女だぜ?」
「ユミルは女の子でしょ、凛々しくってスタイルだっていい」

「なぁに言ってんだよ、それに私はブスだ」
「照れた顔とか、すっごく可愛かったのに」

……まったく
ベルトルさんは、私の思考を止めるのが上手いな


「ありえない」

次いで出た言葉は、一単語だけ

けれども、ぽそりと漏らした言葉は
私の中にすとんと落ちて、心に収まった気がした


ありえない、ありえないだろ
私は、巨人で……顔だって背格好だって男みたいで


――だって私には、女性的と言われる要素があまりにも少ない


可愛いと言うのは、クリスタやサシャの事を言うし
綺麗なのはミカサやアニの事だ

そして恋が似合うのは、ミーナやハンナ


恋をしていると、公言出来るのは
いつだって可愛くて綺麗な女の子の、専売特許なのだから



それに
第一私には、恋愛に現をぬかしている暇は無い

そんな事する時間は無いし
資格だって、無い


でも、何故
心底そう思っているはずなのに



――ユミルは女の子でしょ、凛々しくってスタイルだっていい


なんで



――照れた顔とか、すっごく可愛かった


その言葉が、こんなにも嬉しいだなんて
反則だ


でもコレは違う、恋じゃない
男に、そんな風に褒められたから嬉しいだけだ

だって私は、今
発情期なんだから


「ユミル」

言葉と同時に
頬を挟む様に、手を伸ばされた

その長い、すらりとした手によって
私は簡単に捉えられてしまう


温かい、温度を感じた

それが妙に嬉しくて、落ち着きそうで
でもそんなのは嘘だと、私はかぶりを振る


それを認めると
私自身も、これは恋だと思ってしまいそうだった



「――違う」

漏らした声は、自分の物ではないと思いたいくらいに
自信のなさそうな声


「違う、恋じゃない」
「恋だよ」

ふるふると、顔を振る
添えられた手が、頬に少し掠れた


「違う、だって私は――お前の事が苦手だったんだ」
「そうなの?」


そうだ、お前の事が苦手だったんだ
それを証明するために、思いを言葉に乗せる


「あぁ、そうだ――柔らかい声も、穏やかな姿勢も、清潔そうな髪も、優等生すぎる雰囲気もいけすかない」
「――ん?」

ベルトルトが少し首をかしげた様だったが
私は言葉を続けた


「文句無しの好青年と言う印象を持っている癖に、その長所を自己主張しすぎない、控え目な所も嫌いだ」
「えぇっと……そうなんだ」

あぁ、そうだよ
そうなんだ――だから


「だからそんな、苦手だった相手を、好きになるはずがない――いきなりドキドキするとか。これはもう、体調の変化としか言いようがないじゃないか!」

思い切り、言いきって見せる
これでもう、恋なんて言われないはずだった……が



「なんだろう、褒められている気がするんだけれど」
「そんな訳無いだろ…………あ」


いや違う、今のは褒めていた
きっとがっつり、褒めていた



――嘘だろ?


だって
私はこいつの事が苦手で

そう、苦手なんだ
だから悪口だって、こんなに言える



「笑顔ばっかで、へらへらしているのが気にくわない」
「うん」

「優しくって、お人好しすぎて。人に利用されがちな奴だ」
「間違ってはいないね、うん」

「おまけに空気系なイケメンだ」
「イケメンって思ってくれているの?ありがとう」


「違う違う、そうじゃない!なんだこれ、どうなっているんだ!?なんか違う意味の方向でばっかり受け取られていないか!?」
「そんな事ないよ」

「じゃあなんで!そんな、嬉しそうな顔しているんだよ!」

そう言うと、ベルトルトの顔が
嬉しそうに揺れた



「だって」

そう言うと、ベルトルトは
頬を挟んでいた手に、少しだけ力を込めた

柔らかいてのひらが、上昇した頬の熱を吸収していく



「だって……そんな顔を真っ赤にして言われても、愛の告白としか受け取られないんだもん」
「ふ、ぁ!?」

慌てて――頬は塞がれているので、首に手をやった

熱い、確かに熱い
ううう嘘だろ、私どんな顔で今まで話していたんだ!?



「そ……そう言う事は、早く言え!なんで今まで黙っていたんだ!」
「うーん、さすがに言いにくくて」

「馬鹿っ!!」

鋭く、非難の声が出る

そうだ、これは恋なんかじゃない
好きな人に、馬鹿なんて言えるもんか

そうだ、もっと言ってやる


「馬鹿っ、馬鹿!この大馬鹿者っ……嫌いだ、大嫌いだ!もっと嫌いになったから…!?」

言葉の途中
私とベルトルトの距離が、いきなりゼロになった


「は――はぁ!?」
「なんか、嬉しいなぁ……告白されるってこんなに嬉しい物なの?」

ぎゅうぎゅうと抱きしめられて
目がチカチカする

顔から火が出る、と言う表現が正しい事を
今まさに、ユミルは体感していた



「こ、告白じゃねぇし!離せっ、この空気系イケメン!」
「だからそれ、褒め言葉だって」

そう言って、ベルトルトは大きく笑った
そして吸った

そりゃあ呼吸だから、吐いたら吸う
けれど


「何だよお前!息を吸うな、くすぐったい」
「えぇ、不可抗力――そしてなんか、いい匂いがするね」

匂いって、匂いって……!
お前の胸板だって、結構いい匂いがしている――じゃなかった


「お前、そんな性格だったか!?そんなに悪かったか!?」
「ふふ、ついなごんじゃって」

嬉しそうな声が、上から降ってきた
ついでに、何かが私のつむじに擦り寄っている

両手は私の背中だから
これは、ベルトルトの頬か?



「性格、悪いぞ」

ぽつり、ともう一度言うと
また楽しそうな声が、上から囁いてきた


「だから、真っ赤な顔……は今は見えないか。真っ赤な耳が見えている状態で、そんな事を言われても」
「あぁ、もうっ!」

じたばたと暴れても
約二メートルの体は、なかなか引きはがせない


でも
体の中を暴れまわる熱は、もう限界だ

流行りの風邪で、体温が40℃を超えた時も
ここまで苦しくは無かったと思う


――くそっ、今は諦めるしかないのか


ぎゅうぎゅうと、密着してくる体を押し返すのは諦めて
ユミルは、今一度その胸に寄り添ってみた


ベルトルトの腕は、こちらの背中と腰に回されているが
こちらの腕はどうしたものだろう

だらんと、垂れ下がっていた腕が
僅かに動いては、元の位置に戻ると言う行動を繰り返す


――なんだろう、温かいし気持ちいい

そんな感情なのに心臓は煩い
眩暈が起きそうなくらいに居心地が良くて、頭がくらくらする



「…………ぅ」

息が、強制的に吐き出させられる
体を抱きすくめる力が増えたからだ


――でも私の吐きだす呼吸は、こんなに熱かったか?

いや、体温が上がっているから熱いのだろうけれど
でも何故だろう


――この熱さが、心地良いだなんて


こんなにも心地良いのだったら
抵抗をせずに、さっさと受け入れていれば良かったのかもしれない

ユミルは少しだけ、先程の自分の行動を後悔した


幾分かの時間が過ぎ
ようやくベルトルトは、腕の力を僅かに緩める

暴れまわっていた心臓は、少し落ち着いている
それでもやはり、大きく鳴っていたけれど


目の前の体が動き、少しだけ自分の体と離れた

息苦しかったはずなのに
二人の間に通った空気の冷たさに、少しだけ物寂しさを感じる


「ねぇユミル」
「なんだ」

抱きしめられている間にも
相手は何か考えてくれていたらしく、話を切り出された


「食堂で、コニーと話していたよね」
「ん」

いきなりの言葉に、こちらは付いていけない
けれどもとりあえず、頷いた



「その時は、どうしていたの?」

真剣な瞳が、こちらの目を覗きこむ
収まった心臓を、また暴れさせたくなくて――少しだけ目を逸らした



「どうって、話して」
「うん」

頷いて
昼食の時間の、己の行動を思い返す


「コニーの頭を撫でて」
「うん」

ベルトルトは頷くと、力の抜けきっているユミルの手の方へ腕を向けた

そして手の甲をキュッと掴むと、そのまま己の頬の方へと持っていく
手の平を自分の頬に向ける様な形を取らせ、押し付けた


「…………っ」

ベルトルトに、頬を撫でさせられている様な展開に
少しだけユミルも戸惑う



「そして?」
「ありがとうなって、言って……それでお終い」

そう言うと、「そう」と少しだけ残念そうに返した
次いでベルトルトは、未だに意識を覚ましていない三人の方を視線で示す



「うん、じゃあ彼等は?」

その言葉に、少し息を詰まらせながらも従う
もしかしたら何処か、期待をしていたのかもしれない



「発情しているのかって、言われて」
「うん、発情しているの?」

言った傍から、尋ねられてしまった

「うん」とも「いいえ」言いづらかったので、かぶりを振る
そんな恥ずかしい事を、至近距離で言わないで欲しい



「発情、していなかったんだね――それで?」

先を促そうとする彼に、従いたくは無い
けれど、至近距離で手を取られて……だから


自分への言い訳は、すらすらと頭に浮かぶ癖に
何処かがくらくらしている

妙な、感覚だ


「俺が、相手をしてやろうかって」
「そうなの?――さっき言っていた事と違うけど」

あぁ、そうだ

事前に何処をベルトルトに言うのか、決めていたのに
もう忘れてしまっている


その事に、今更気が付いた



「違わない、それも言われた」
「って事は他の事も言われたんだ……そして?」

三人に言われた事を思い返す


あぁ、そうだ
コレを言ったら、否定してくれるかな

淡い期待を込めて、言葉を紡いだ


「ブスで発情期なんて、最低って」
「ユミルはブスじゃないのにね」

他には?と言いながら
言葉の先を促す

私はと言うと、期待してた言葉を貰って嬉しかったのだろうか
足元がふわふわとする、まるで熱に浮かされている様だ



――なんだろう、このまま眠ってしまいたい


続きを言わないユミルに、少し痺れを切らしたのか
それとも、落ち着いてきたユミルに意地悪をしたくなったのかはわからない

ベルトルトは、自分の腕の中で安心した様子の彼女の耳元に
少しだけ顔を寄せる





「――俺が、相手をしてやろうか?」

普段より低い、けれど少年らしさも残っている声が鼓膜を揺らす


ベルトルトが、今日触れた男の行動をなぞっているのは
もちろんユミルも気が付いていた

だが


――さすがに、その台詞は言われないと思っていたのに

完全に虚をつかれる形になり
ベルトルトの言葉が、ユミルの胸にさくっと入り込む


やばいやばいやばいやばい
鼻血が出ちゃいそう

状況も雰囲気も、全部台無しにする様な言葉だが
本当に出てしまう様な気がした


まぁ、出なかったけれど


瞬間、体を離されて
ユミルは正面から、顔を覗きこまれた


――あ、ベルトルさんの顔だ

そう言えば、ずっと話していた癖に
ずっと顔を見ていなかったように思える


――ベルトルさんの顔も、赤い

ぼんやりとした思考の中、そう思う



「ユミル、僕の言いたい事、分かった?」
「…………」

つい、その顔に見惚れてしまう

反応が悪いと感じたのか
ベルトルトはこちらの肩に置いた手に、ギュッと力を込めた


「他に人にされても照れなかったのに、君は僕にだけ照れたんだろう?」


それを、発情期と言うならば
そう前置きをして、ベルトルトはゆっくりと言いきった



「僕は、それを恋だと思う」



心臓が、爆発した様な気がした
いや、多分爆発した、きっとした


だって
もうそれ以降の事なんて、覚えていなかったから





「えっ、わー!?ユミル!?」


そんな声が、遠くで聞こえた気がした


-Side B-



こう言うと何だが

僕に言うだけ言わせて、ユミルは倒れた


――ずるいよ、ユミル

僕だって恥ずかしかったのに
僕の所為で倒れちゃうなんて、責められないじゃないか



僕はユミルを担いで教官の元へ行き
ユミルが寝不足だったと言う名目で、救護室へと彼女を運ぶ権利を勝ち取った

あの倒れていた三人は……置いてきた
どうせ元々、そのつもりだったし


午前の授業と午後の授業
その二つが終わったら、僕は当番では無いので風呂に入って寝るだけだ

就寝前に、気分転換用に借りて来た本に目を通す
いつも通りだった、何もかもが


そう
今日あった事も、日常の一部なんだ


――戦士として入り込んだ、偽物の日常の……ほんの一欠片

明日になって、明後日になって
そして一ヶ月もたったら、日々に埋もれてしまう様な――ほんの些細な出来事

僕はまた、感情を表に出さない様にして
日々を過ごして行くだけ


今日の出来事は
ただ、それだけの物



「おーい、そろそろランプ消すぞ?」
「そうだよね、もう寝なきゃ」

聞こえて来たその声に、本にしおりを挟みこんで閉じる

そして顔を、話の中心の方へと向けると
案の定、声を掛けられた


「ベルトルトも、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫」

確認は、僕が最後だったらしい
消えた灯りの所為で、周りは見えなかったけれど

全員、自分のベット周辺の配置くらいは把握していたので
もぞもぞ動きながらも、それぞれ堅い布団に体を収めた


おやすみー
うん、おやすみ

そんな声もちらほら聞こえる中
僕も明日の為に、体を休めようとした


瞳を閉じれば、すぐに闇が浮かび上がって
僕を眠りの世界に連れて行ってくれる


――え、あれ


体を起こす
落ち着くように、二、三回ほど深呼吸をする

そしてもう一度
ベットへと身を伏せて、布団をかぶった


でも、目を閉じても
体制を変えても、仰向けになってもうつ伏せになっても

ソレは、思考から離れてくれなかった



――うそ、まさか


これって……


-Side Y-



数日後


「どうしよう」

ユミルは、振ってきた声に顔を上げた



そこには192センチの、大柄な青年
先日私が――「彼限定の発情期」と言う物を催していると言う事が、発覚した男

まぁ所謂
恋のお相手だと、認識できた青年の姿だった


現在、私の症状は収まっている
彼が指摘してくれたお陰だ


事前の心構え
それが恋にこんなにも必要な物だとは、私は初めて知った



「どうしたんだよ、ベルトルさん」
「ユミル、えっと……あのね」

そう言うと彼は、言いにくそうにしていた口を
意を決したかの様に、開いた


「君の顔が、いつも浮かんでくるんだ」
「まぁ、あんな世話を焼かせちまったからな」

其処は心底、申し訳ない
心からそう思う


「寝る前とか、食堂行くときとか、授業中とか……なんかこう、忘れられなくて」
「そうだよな、申し訳ない」

謝罪を声に出すと
彼は違う、と言いながら首を振った


違う、とは何だろうか
僅かに首をかしげながらも、彼の発する言葉に耳をすませる



「しかも、それが――こう胸を締め付ける感覚、と言うか」

そんなにストレスになっているのか
今度、紅茶でも買って来てやろう


「君の事を、ぎゅっと抱きしめたいと言うか……あぁ、つまり、これは」

なんだ、そんな事でストレスが和らぐのか
だったらお安いご用


――……ん?

待て、なんかおかしくないか
少し混乱してきた、こちらの思考回路なんてお構いなしに


「つまり、その」


前置きを置いた後
ベルトルトはもどかしそうに――けれども、全部を言い切った



「君限定の、発情期を催したみたいなんだ!」


その言葉に、耳と頬が熱くなった気がした


え、えぇっと
つまり、それって


ベルトルさん限定の発情期を催した私と
私限定の発情期を催したベルトルさんの感情が

大勢いる、たくさんの人達の中で
お互いに生きている中で

ぴったりと、重なり合ったと言う事



それが、どんな奇跡なのか
どれだけの幸運なのか

私は知っている


何万、何億通り分の一の確立だ



「だからね、ユミル……僕と」



その言葉の先は
恥ずかしくてもう、お前らに見せる事も嫌なんだ

頼むから、勝手に想像しておいてくれ!





ベルトルトとユミルの……【馴れ初め】


信じられるか
今回の更新、本文だけで105レスなんだぜ

全五回の描写を載せて終了予定なので、残りは三つ

でも残りの三つは、文章的には最初の「ちゅー」くらいの長さなので
それぞれ一回づつの更新で終わります

皆様エネル源のコメントありがとうございました
もう少しお付き合いくださいませ

羨ましいんだよっ!
て気分にさせられたわ
こんちくしょー

乙!!
画面の前でゴロンゴロンのたうち回りながらリロードボタン押しまくってた。
なんなのこいつら。くっそかわええww

1の文章は、なんというか、読んでて安心出来る文章だと思う。
気づいたら全文読み終わっていたというか、物語の流れ、キャラの心情に集中出来るというか

何が言いたいかって言うと、1の書いたお話をもっと読みたいんだぞコノヤロー!!です。

うわああああ私も転げまわりたいww何なのこの甘酸っぱさww
無自覚から自覚するまでの流れがすっごい丁寧に描かれてていいわーこれ。

乙!!
ベルトルさんの「俺が」に悶え狂ったわ!!!!!イケメンすぎるだろ!!!!!!

てか今更だし二回目になるんだけど、本当に乙です!!
超大量更新ありがたかったけど大変だったろうに……

本当にありがとうございやした!!!!!

大量更新ありがとう、待っててよかった!

きゅんきゅんして出来る事なら枕に顔うずめてジタバタしたいw

大量更新歓喜!
105って、凄いな!読みごたえあって嬉しいよ!乙!


ほんとベルユミに外れは無いよなぁ。

きゃっほぅ!
鏡と鶏用意して全裸で踊り狂った甲斐があったってもんだ!

なんだよ、普段空気のクセにこのイケトルトさんは!
なんだよ、「俺」って不意打ち過ぎるだろ!!
そして、ユミルさまベタ褒めですやんwww
やだもー、ニヤニヤが止まらない(*´Д`)


>>388 それきっと、書いた本人が一番思っているかも!

>>389 安心できる文章とか、気付いたら読み終わっていたとかありがとうございます!
駄文書きですが、コメを励みに頑張るぞこのやろー!

>>390 丁寧と言われて嬉しいです、ちょっとくどすぎるかもと思っていたので

>>391 そこは書いていて、当方も悶えてました

>>392 二回目のコメ、滅茶苦茶嬉しいです

>>393 ではユミルさんの膝枕でじたばたしてください

>>394 105と言う数字は、当方もビックリしました

>>395 当方の駄文を「外れの無いベルユミ」に入れて下さるとは

>>396 ま、まだ全裸で踊っていたのか!
普段の「僕」からの重要ポイントでの「俺」化は破壊力がありすぎてニヤニヤが止まんない

>>396さんへの他スレでの返信
なんか指摘されると恥ずかしいですね!穴があったらダイブしたい、と言うか超大型巨人のお口にダイブしくなっちゃいました


では描写行きます


今日一日の訓練が終了し

訓練兵たちは、我先にと訓練場所を後にする


汗の染み込んだシャツを脱ぐために、部屋へと急ぐ者
訓練の過酷さから、ゆっくりと歩く者

渇いた喉を潤しに、井戸を目指す者
友人と共に、話しながら兵舎に向かう者


そして私とベルトルさんは
兵舎に戻る前の僅かな時間を、雑談で埋めていた

時間はとても短いし、場所も訓練をやっていた所の木陰だけれど
これは「逢瀬」と、言える物かもしれない


私達の、数少ない
恋人らしい行動



――私達は、まだ恋人らしい事は殆どしていない


手をつないだり、会話をしたり
こう言った空き時間に、二人きりになる

その程度の事しかしていない


でも
私はこれで、十分だった


クリスタもサシャも、ついでにライナーも
その時間については了承しているらしく、なにも言わずに私とベルトルさんの二人きりにしてくれる

私もベルトルさんも、今の関係が心地よかった


もちろん、その間にクリスタに悪い虫が付かないよう
私は策を巡らさている


ちなみに今日は

私達の部屋のシーツが干しっぱなしだから、取りこんでくれ
と、クリスタに言って

ライナーに声を掛けられる前に、部屋へと向かわせた


クリスタが無事に女子寮に入ってしまえば、こちらの物
あの体力の少ない少女が、食事の時間まで出てこない事はほぼ確実

つまりそれは
男子がクリスタに単独で声を掛ける機会は、殆ど無くなる――と言う事


まぁこんな風に



「クリスタには出来る限り、用事を願いして――ライナーと一緒に過ごさせない様にしているんだ」


にやり、と笑いながらユミルは自慢げに言う


本日の二人の雑談は、ユミルによる

『クリスタを守る為に、私がどれだけの事をしているのか』
と言う話しが中心になっていた



ちなみに、口には出さないが

保険として、パンで釣ったサシャを投入してもいたし

ユミル自身も
食事の時間にクリスタから男子に話しかけられなかったか、確認していたりもするのだが


その部分を言わなくても
どのくらい自分が、あの少女が大切に思っているかを――見せつけには十分だと判断して

親しい友人と話すように、軽やかに
そして楽しげに、ユミルは話を進めた


「一応これでも、ライナーの対応も……ありがたいとは思っているけれどな」

だが
それはそれ、これはこれだ


きっぱりと、ライナーを警戒している事を口にすると
彼は「酷いなぁ」と苦笑しながら、少しだけ親友をフォローする


「ライナーは紳士だって、君も知っているだろ?」
「それでも――親鳥は、雛に外敵が近づいてきたらつつくもんさ」

すると、こちらの言葉を踏まえて


「じゃあ僕は、クリスタにつつかれちゃう?」

ベルトルトは、自分が同じく求愛して捕まえた者

つまり、ユミルを
雛と例えて疑問を口にした


それに対して、まるで呆れた様な口調で
でも内心、嬉しく思いながら


「まぁ私は雛なんて柄じゃない、が……クリスタの頭突きは痛いから、注意しろよ」

ユミルは返答と、小さな忠告を一つ伝える



――クリスタも、自分を好いてくれている

その事が前提の言葉に、嬉しくなったので
ユミルはポンポンと、目の前にあった肩を叩く

それだけの接触なのに、嬉しそうに相手は笑ってくれた


その仕草に、少しだけほっとする


そう、ほっとした
恋人と言う関係が、肩を叩くだけで終わるはずが無い

手をつないだり、話したり
それだけで済むはずが無いのだ


――なのに、何故ほっとしたのか

考えない様に、蓋をする
見ないようにする為に


「そう言えば、さ。クリスタに関して、ライナーに宣戦布告をしたんだ」

新たな話題を投入して、雑談を続ける


自分達の会話の中身は
ライナー、クリスタ、サシャの話題が主だ


何故かベルトルトは
「ユミルが了承したら、クリスタがライナーと付き合える可能性が上がる」

と、思っている節があり
よくライナーとクリスタの事を話題に出す

その事を、ユミルは察知していたが
あえて、誤解を解く事はなかった


そんな一因もあってか
不思議とユミルとベルトルトの間で、会話が途切れる事は少ない


『その時に、クリスタがサシャにな』
『あぁ、その時はライナーがね』

時には、他の同期のメンバーも話題に加わる
誰も彼もが一癖も二癖もある人物ばかりなので、時間は駆け足で駆け抜けていった



「ライナーが可哀想過ぎるよ。ちなみにユミル、いつそんな事を言ったの?」
「お前と付き合って、すぐかな」

さらり、と事実を述べると
ベルトルトは少し驚いた様に瞳を見開く


「え、だってその時……ユミル緊張してばっかで、僕とも上手く話せていなかったのに」
「すまんな、クリスタの愛は別腹だったんだ」

つまり
クリスタの為なら、どんな行動や勇気だって奮い立たせられる――と

そう言外に告げると
目の前の男の顔は、情けない事になった


性格の悪さが滲みでて、申し訳ないが
彼を困らせる事は、少し面白い


ユミルの心情を、分かっているのかいないのか

悲しそうな表情をしながらも
彼は先を促してきた



「あぁ、ライナーにはな『いくら私とベルトルさんが恋仲になったとはいえ、私はクリスタを手放す気は無い』と高らかに宣言してやったんだ」

そしたらライナーの奴、灰になっちまってさぁ
と、話しつつ笑うと

今度は、ベルトルトも控え目に笑った
それもまた、いつもの事だ

こちらが笑うと、彼も笑ってくれる


――今の関係が心地よい

それはベルトルさんも、そう思っていてくれているはず

無理もせず、自然体に
そんな関係を築けていると、私は信じて疑わなかった


そして

身近な人達の行動を、お互いに話している状況が
ふと、止まった

毎日、何かしら話しているので
話しが止まる事もた度々あった……が

私が「何か」を感じたのは、次の瞬間だった


ベルトルトの顔が
ふと、何かに切り替わった


変わるきっかけの物なんて、なにもない

風の音も、空気も
そして私達の会話だって、いつも通りだった


でも

何に、切り替わったのか
彼が何を思って雰囲気を変えたのか

それはわからなかった



「ね、ユミル」

何かを企んでいる様な言葉と
何かを期待している様な声


「手を、貸してくれる?」

そう言って
彼は自分の手を、てのひらを上にして差し出してきた


それに従い、私もてのひらを上にして
差し出されたてのひらの上に、己の手を乗せる

空気を読んだが故の行動だ


私の手を載せた、彼の手
それが自然な動きで、こちらの視線の高さ辺りに上昇する


――何をするんだろうか

そんな疑問が
ようやく浮かび上がってきた時だった

視界の中に、ベルトルトの頭部がすっと入ってきたのは
そして



ちゅっ

と、擬音語じゃない
実際ある様な音が、こちらの鼓膜を揺らした


温かい
柔らかい

そんなぬくもりの物が
こちらの親指の付け根あたりに、触れている


目を、見開いた

そう言えば、手の方にばかり視線をやっていて
彼の顔の方は見ていなかったが

それにしても不意打ちだ


目の前の光景が一瞬理解できず
ただ――てのひらに伝わった触覚だけが、びくりと己の手を動かして拒絶の反応を示す

震えた手の反応を、ベルトルトは握っている手で包み込んで
ユミルのてのひらにキスを落とし続けた


親指と人差し指の、骨の間にある僅かなくぼみ
そこにピタリと嵌める様に、ベルトルトの唇はそこに押し付けられていて

引き続き、ぞくりとした感覚は
触れられている唇から走り続けている

くすぐったい様な、もどかしい様な
悪寒の様な、気持ちいい様な


今まで感じた事のない感覚に、ユミルは目を見開く


思ってもいなかった、彼の行動は
思考を一気に吹き飛ばした


やがて感覚に慣れて来たのか、動きを止めた彼女に
気が付いているのか、いないのか

ベルトルトはひたすらに
その唇を落とした所だけを、舐めたり吸ったりと繰り返す


押し付ける様な、舌の動きをしたかと思えば
リップ音を立てて、吸う

今度は舌先で、くすぐる様な動きをしたと思えば
次は子猫が母猫から母乳を吸う様な、柔らかい動きでその部分の全体を吸う

そんな行動を、十回も……いや、十五回はしただろうか


親指の方を走る骨と、人差し指の骨の間

僅かなくぼみのある辺りだけが
じんわりと、自分とは違う他者の熱を浸透しきった時


ようやく
彼の、視線だけがこちらの方へと向かってくる



二人の視線が、交錯した


こちらの手の平に、唇は乗せたまま
男は、何かを欲している様な目線をユミルに送り

ユミルもソレを、正面から見てしまった


その視線は、まるで蛇の様だ
こちらの心を、絡め取るかの様な視線



そして



――ユミル


己の名前を、聞こえない声でベルトルトが呼んだ

声は、出されていない
しかし手の平に触れている彼の唇がそう動いた事を、触覚で理解する


そう、呟いた後に
ベルトルトの舌が、するりと出てきて


今度は、こちらのてのひら全体を大きく舐めた


生温かい感覚に、驚愕する

今まで局地的に触れていた感覚では無い
大きな範囲だったので、触れている舌の生物的な動きをてのひら全体で理解してしまう


舌は二、三往復くらい大きく動いた後

その動きは手首の方へと移行した


皮膚の薄い、関節の辺り


その辺りをベルトルトは大きく舐めあげ、またキスを落とす

その時、また
ちゅうっと言う音が、鼓膜を揺らした


その音が、ユミルの背筋にぞくりとした物が走らせる

一度、小さく走ったその感覚は
次の瞬間、今まで溜まっていた物が決壊したかの様に


ぞわりとした感覚を、一気にユミルの体を走らせた

今回は、手の先からではなく
腰の辺りから発生したそれは、びくりと肩と腕を動かす


その震えを、舌先で感じとったのか
それとも手を掴んでいる腕で感じたのか

ベルトルトは、こちらの方へ再度視線を向ける

こちらを見たまま、一度大きなリップ音を立て
手首への愛撫を一旦、終了させた






「――なに」


不機嫌そうな声
いや……真剣そうな、だろうか

それすらも分からない


自分のてのひらを、軽く握っていた男の手が
少し強めに、こちらの手を拘束する


「な、……なにって」

声を、発した瞬間
ようやく頭が、正常に動き出した



私は

手を、舐められた
キスされた


関節部分に、ぞくりとした感覚が走る
顔には熱が集まる


何だこれ
何だこれ、何だこれ



キスをされた


この、こいつに――触れられている、手に


舐められて
くちづけられて



「う、……わっ!」

叫びながら
手を、慌てて上の方へと振り上げた

奴は驚き、目を見開いた顔をしている
でも、そんな事構っている暇は無い


本当は顔を、覆ってしまいたい
絶対に私の顔は、今赤く染まっている

あぁでも
今この手には、こいつの唾液が付いていて……



――わっわたしなっ、さ……先に戻ってるからっ!



そんな感じの無い様が、口から出た様な気がする
とにかくしっかりと覚えているのは

ひたすらダッシュして
ダッシュして


兵舎に辿りついて
息を整えている瞬間

今まで奴が触れていた手が
正確には舐められていた手が、視界に入って



もう、この手を
どうすればいいんだよ!



こんな手では、頭を抱える事も出来ず
かと言って、洗いに行く事も……何故か出来ず



その日、その場所の
そこ辺りの時間帯の記憶は

微妙な体制で、悶えていた事しか
何故か覚えていなかった





ベルトルトとユミルの【てのひらへのちゅー】


一旦ここまで

性衝動に突き動かされそうなベルトルさんの、ほんの少し手前の行動と
性衝動なんてまったく理解できていないユミルさん


そして前回の更新ではたくさんのコメント、そして長い感想もたくさんあり、心底感動させてもらいました
本当に本当にありがとうございます!本当は5レス以上使って、感謝の気持ちを書き記したいくらいです!

おつおつー(^o^)/

「俺が」あたりから薄々感じてたけど、このベルトルさんがっつり肉食ですやんww
いいぞもっとやれ!

明け方までお疲れ様でした~
ゆっくり眠ってね~

乙ですよ

手へのキスだけでもこんなに官能的になるのか…
ベルトルさんの熱がおおもう///

これで手のひら、だけ、だと………!?
描写力すげぇ!

そういえば手のひらの上へのキスは懇願のキスという意味があったよな

つまり……そういうことか?


>>421 た、確かに肉食になってしまっている!ずいぶん薄いキャベツでくるんだロールキャベツみたいだ

>>422 官能的ありがとうございます、書いててむず痒かった

>>423 描写力すごいありがとうございます!

>>424 当方は意識していなかったけれど、まぁ……つまりそう言う事みたいですね

最新刊ではエルヴィンの胸板とおじさま臭にノックアウトされた
くそっ、すりすりしたい!

今回はベルトルさん視点です


あれ、違った最新刊じゃない
最新号だ

締まらないけれど、投下します


人は、それぞれの体の箇所を合わせるのが好きだ


手と手を勢い良く合わせてハイタッチ
小指と小指を絡めて指きり

視線と視線を合わせてアイコンタクト
手と手を組み合わせての握手

唇と唇を重ねてキス
体と体を重ねての性行為



そして

僕の彼女であるユミルは
ほっぺたとほっぺたを合わせせるのが、好きだったりする


僕が、それに気が付いたのは
お互いを抱きしめあっている時

なんだか頬骨に、何か当たっているなと思ったら
ユミルが自分のほっぺたを、こちらのほっぺたに――ぐりぐりと擦り寄せてきていた


甘える様な、そんな仕草ですり寄ってくるのは
正直、嬉しい

けれども何故、頬骨と頬骨を重ねる様な仕草で
頬ずりを行うのだろう


そんな考えが、頭に浮かんで

それ以降はその疑問が
何故か頭から、離れない


自分とユミルの間には、約20センチ程の身長差が存在する
なので彼女が、その行動を行うのは至極まれなのだ


僕は、ぎゅうっと体を屈めて
ユミルに覆いかぶさる様に、全力で抱きつくのが好きだ

体に回した手で、お互いの距離を埋める様に
少しの隙間も無くなる様に抱きつく事が、好きなのだが


すると彼女は、決まって

僕の首筋に埋もれた状態から、頭を懸命に伸ばし
まるで動物が匂いをこすりつけるような仕草で、僕の頬に自分の頬を寄せる

そしてぐりぐりと、頬骨で頬骨を押してくるのだ


ちなみにこれは、周りに人がいないときに限る
他人に甘える姿を、彼女は見られたくないのだろう



「ねぇ、ユミル」

声を発して、拘束している腕を緩める

すると
頬骨を擦りつけていた彼女の動きが、ピタリと止まった


「なんだよ、ベルトルさん」

発せられたその声色は、至って普通だ
話しかけられたから答える、それだけの声色

抱きしめているので、表情こそは分からないのだけれど
おそらく普通に、いつも通りの怪訝な表情を浮かべているのだろう


両手を肩に伸ばして掴み
彼女の体を押して、僅かに距離をとる

あぁ、やっぱり想像通りの表情だ



「なんで君は僕の頬骨に、頬骨を擦り寄せるの?」
「えっ、それは」

ユミルは少しだけ驚いた様に目を見開き

えっと
その、だってだな

そんな単語を、いくつか口にする

困った様な、悩んでいる様な
そんな視線を引っ提げながら、顔を真っ赤にして



「その……」


最後に、一つ
ぽつりと接続詞を口にしてから、ユミルはようやく口を開いた



「頬ずりが、きもちいい……から」



――なに、その理由


そんな感想が、僕の心を駆け抜けてゆき

次には
別の感情が、押し寄せてきた


可愛い可愛い
えぇっなにその表情、潤んだ目

口元に指を持って行って、恥ずかしそうな仕草してる
なにそれ、可愛い


前から思っていたのだが
ユミルの「発情期」は、すっごく幼い

でもそこがまた、魅力的だ


彼女の方が年上なのに
僕の方が、“そう”言った感情をたくさん知っていて

“それ”を教えていきたいと言う
僕が少しだけ立場が上の感覚が、また男心をくすぐる


その一方で
時々彼女が落とす、その仕草と言葉にも戸惑う事も多い

今も、そうだ


――なに、きもちいいって

そんな事
まだキスもしていない彼氏の前で、照れながら口にしないで欲しい

いや、他の男の前だったらもっと駄目だけれど


あぁどうしよう

僕は今
そう言った事に躊躇いがちな、君の事を全く考えずに


色んな所を触りたい
そして、触れたいと

そんな事を考えてしまっています
男でごめんなさい


先程、疑問に思っていた事なんて
体外に吹っ飛ばす程、膨張した思考は

僕の顔を赤くし、ユミルの肩を掴んでいた指先すらも赤くしたと言うのに
まだ、行き渡りきっていない


行き場の無い感情を
僕は抱きしめる事でしか、表現できなくて

もう一度、隙間がなんて無くなるくらいに
意外に細い彼女の体を、縋りつくように抱きしめた


そしたら
また、密着したからだろうか

今度は、少し遠慮気味に
すりすりと


ユミルは頬骨と頬骨を、擦り合わせて来た


――可愛い、可愛い

そんな猫みたいな仕草で
僕の体で幸せになってくれる彼女が、愛おしい



――本当は、僕も「気持ちいい」事をしたいけれど

もしかしたら
僕も、彼女の「幼い発情期」が伝染してしまったのかもしれない


とりあえずはこの

抱きしめると言う行動と
彼女に、頬を寄せられると言う仕草で

もう
いっぱいいっぱいになってしまった


つまり

ここから先の
僕が彼女に“教え込みたい”愛情表現は

また
次の機会へと、持ち越しになったのである





ベルトルトとユミルの【ハグと頬ずり】


マーキングの意味も込めて、スリスリしつつ
目を細めたり、ほっとする様な表情を浮かべたりも出来る

そんな頬ずりは、とても可愛いく――そして正義だ!

次はラストの更新
……のはずだったが、蛇足をどうするか迷っている

うっひゃあああああ禿萌えたああああ!
何なのこの描写の細やかさ。絵に浮かんでくるようだ―(*´∀`)

ユミルかわええ~萌る
この章の二人は先の熱っぽさとは違い、仲良しな猫と大型犬みたいだw


ユミル可愛いよぉ!!
頬擦りしたい!!>>1に頬擦りしたい!!

おつでした!!

くっそかわいい!!!!!!
二人のほっぺの間に割り込んで頬ずりされたい!!!!

萌えすぎてごはんが喉を通らない!
ずっと続け!


>>437 その絵を是非具現化して、当方に見せてくれ!(土下座)

>>438 向こうはベルトルさん主体、こっちはユミル主体でお送りしました

>>439 いつ、いつくれるんだ?当方はもうPCの前で頬を差し出しているぞ!

>>440 クリスタ的美少女の方だったら、是非こちらから割り込んでほしいとお願いします

>>441 喉を通らないとは、たまご粥でもご用意しましょう!

本日二度目の更新ですが、IDが丸っこくて可愛かったので今日中に更新する事に決定!
相変わらず適当だな、と言う突っ込みは受け付けません

これにて完結します


口火は切られた
さぁ、話を始めようぜ

ベルトルさん










「僕は超大型巨人なんだ」
「私はヒストリアが一番なんだ」



「僕は人類を滅ぼさなければならない」
「私はヒストリアを守りたい」

「僕は君を、殺す場へと連れ去ってしまう」
「私は私の命なんか惜しくない、ヒストリアを救えるならば」

「でも僕は、君が好きだ」
「そして私は、お前も守りたいんだ」

「堂々巡りだ」
「けれど、お互いの終着点は違うんだよ」

「どうすればいい?」
「私はこの話の結果を、一つしか思い浮かべられない」

「決断をした僕を、軽蔑してもいい」
「私に幻滅してくれても構わない」

「それでも僕は、君を好きで居続けるだろう」
「誰がお前を嫌っていても、私の感情は揺るがない」

「愛が世界で一番美しいなんて、誰が言ったんだ」
「私は私が一番だった、けれども一番も二番も奪われてしまった」

「僕は愛より友情より、優先しなければならない物がある」
「私は自分より、お前を優先したい」



「だから」
「そう思うから」


会話だったのか
独白だったのか

お互い、声を合わせていたのか
テンポが重なっていただけなのか

それすらも、わからない

けれども、ただひたすらに
お互いのその声を、心に焼き付ける


気絶しているエレンは
ライナーが気を利かせて、見張ってくれていて

ベルトルトとユミルは、巨大樹の森の入口で
ライナー達から少しだけ離れた所で、二人きりになっていた



「別れよう、ベルトルさん」


その言葉を切りだしたのは、ユミルが先だった
瞳には涙は無い、感情の揺らぎもない

ただ、ひたすらに未来を見ていた



「このままでは、お互いが辛すぎる」


その言葉は、自分が発した癖に
胸にズキリとした痛みを起こさせた



――あぁ、私は



こんなにも、こいつの事が好きだったんだな


これから先

自分は、彼等を欺いて逃げる手段を講じる
そして彼は、命を奪う場へ自分を連れて行こうとする

お互いにそれは理解していた


だったら、せめて

恋人を欺くよりも
恋人を処刑台に送るよりも

お互いの、恋人になろうと言う口約束を解除した方が
ずっと心が楽だった


「そうだね、でもお願いがあるんだユミル」
「なんだ?恋人としての最後の感情を振り絞って、その話を聞いてやる」

ユミルはあえて、最後と言う言葉を口にする


――そう、最後なのだ

その言葉を噛みしめて、ベルトルトはその口を開けた


「うん、そうだね――じゃあ僕も、恋人として最後のお願いをするよ」



「ユミル、僕は君を殺すよ
戦士として、最大限の力で――僕は目的を達成させる努力をする

でも……お願いが、一つだけあるんだ

もし、もし万が一

君が生きていて
僕が生き抜いて

二人共に、一日でも未来があるとしたら


ううん、一日は贅沢かもね


一時間でもいい
一分でもいい

ほんの一秒でも、安らかに君の隣にいる時間があるのなら

ねぇ、ユミル





僕のお嫁さんになって下さい」



「おかしい」
「そう?」

「別れ話をしていた」
「そうだね」

「殺害予告までされた」
「うん」

「殺すんだろ?」
「目的の為ならね」



「一日でも、なんて――そんな未来があるのか?」
「そうだね、もしかしたら壁の中の独房で一緒になる機会くらいはあるかも」

「死刑台に上る、一時間前かもな」
「そう、一時間でも」

「……お前達の故郷で、私が生きるのを許されたりしてな」
「それが一番いいね、一緒に家畜を飼おう」

「今、は駄目なんだな」
「そうだね。あまりにも未来を、悲観的に取り過ぎてしまうから」

「そうだな……先が不確定なのが、私は一番嫌だ」
「そうに決まっているじゃない、夫婦で殺し合いなんて嫌だよ」


「夫婦になるのなら、喧嘩くらいが一番いい」
「そうだね、きっと僕は負けるよ」

「尻に敷かれる宣言、か?」
「惚れた弱み、って奴だよ」

「……これから、別れるんだぞ?」
「そうでした」

「ちょっと可愛い言い方だったな」
「テヘペロの方が良かった?」

「そしたら殴ってた」
「そしたら、最後の恋人との喧嘩だね」

「最後の痴話喧嘩、か」
「やり損なったね」

「そうだな」
「うん」

「…………」
「…………」

「なぁ、…」
「君と僕が、共に穏やかに過ごせる未来が……一時間でもあればいいね」

「そうだな、一時間あればそれなりに話しが出来る」
「手を繋げるし、キスもできる」



「私が、手料理を振舞う事も出来る」
「楽しみだな」

「掃除もしようか」
「だったら君が料理している間に、僕がやるよ」

「そうか、助かる」
「尻に敷かれてますから」

「そうだったな」
「いい旦那さんでしょ?」

「けれど、子育てには自信が無い」
「一緒に頑張ろうよ」

「そうだな」
「うん」

「でも」
「でも?」

「お前の子供なら、きっといい子だから――自信が持って、この腕に抱ける気がする」
「子育ての経験を得る為には、平穏な時間が一年は必要だね」

「一年か、贅沢だな」
「子作り経験も出来るね」

「好きな人に孕ませられると言う経験も出来る」



「じゃあ、僕も未来の希望を言ってもいい?」
「あぁ」










.



「朝起きたらね、君が僕の隣に居るんだ」
「そうか」

「君は朝起きるのが苦手な僕の事を、いい加減にしろって怒る」
「お前、朝は苦手だもんな」

「朝ごはんを一緒に食べて、今日一日の話をする」
「訓練兵の時にも、していたな」

「僕だけか、それとも両方かはわからないけれど――仕事に行って離れ離れになる」
「生活が出来ているのか、幸せな未来だ」

「帰ってきたら離れていた分、ただいまのチューで幸せを感じるんだ」
「行ってきますのキスも、忘れるなよ」

「……忘れてた」
「だろうな」

「そして一日の話をして」
「また話すのか」

「そしてお終い」
「終わりか?」



「そこから、また一日を繰り返す」
「また、それが続くのか」

「ただ無条件に――明日も明後日も、君と一緒の生活がある未来が欲しい」
「それは幸せだな」

「それをおじいさんとおばあさんになるまで続けるんだ」
「なんだ、世界で一番幸せになろうってだけの話じゃないか」

「うん、でもね」
「なんだ」










「僕達二人とも投獄されちゃったバージョンもあるんだ」
「へぇ、どんな未来だ?」



「死刑前日の朝、僕は処刑場の地下に移動する」
「意外にリアルに話が始まったな」

「君と獄中で再会する、お隣の牢獄同士」
「すごい奇跡だ」

「僕はユミルの手を握る」
「となると、私もお前の手を握っているのか」

「そしたら僕が言うんだ。病める時も、健やかなる時も……って奴」
「互いをずっと愛し続けます、ってな」

「そして一日間だけ、夫婦としての時間を過ごすんだ」
「なぁ」

「ん」
「一つだけ、聞いていいか?」

「なに?」
「何故、私も処刑されそうになっているんだ?」



「奇跡と言うか……それくらいのミラクルが起こらないと、僕達は結婚できないでしょ」
「確かに奇跡だが、私にとってもっとマシな奇跡はないのか?」

「だって、じゃないと――まだお互い殺し合っていると言う、そんな未来が用意されている可能性が」
「たしかにな」

「それだけは嫌なんだ」
「そこは完全に同意する」

「お互いに生き残れるといいね」
「生き残ったら駄目だろ、お前は私を全力で害しに来い」

「そうするよ、全力で君を捕えに行く」
「私も、全力で逃げてやるよ」

「って事はユミルの力次第って事だね」
「お前の力不足って可能性も考えておけよ――でも、まぁ」

「そんな未来が起こる可能性は、殆ど無いけれどね」
「来ないんだろうなぁ、こんな未来」



「本当、もし一時間だけでもあったら奇跡だよ」
「だな」

「うん」
「…………」

「…………」
「…………」

「ねぇ」
「もう、無理に会話を伸ばすのはやめろ」

「……ぇー」
「大丈夫だ、お互いに大切な思い出は得ているだろ」



「何それ、ユミル男前じゃん……僕、お嫁さんになっちゃう」
「話を伸ばすなって」

「伸ばしてないよ、惚れ直しただけ」
「なんだそれ」

「へい、そこの綺麗なお嬢さん。僕とお茶でも飲みに行かない?」
「それやめろ」

「なんて素敵な方なんだ。お願いします――僕と、付き合って頂けませんか?」
「……やめろって」

「あ、ユミルが照れた」
「照れるくらいなら、いつか見せてやれる機会もあるさ」

「あるといいね」
「不確定な未来だがな」

「…………」
「…………」

「…………」
「…………」

「ねぇ」



「無理に会話を伸ばすなって」
「……うん」

「そろそろ終わりだな」
「そ、か」

「……終わりだよ」
「そうだね」



「じゃあな、ベルトルさん」
「今までありがとう、ユミル」



「お前の女でいれて良かったよ」
「君の男でいれた事が僕の誇りだ」

「だから、いつか――僕と結婚しようね」
「あぁ、約束だ」





ベルトルトとユミルの【別れ話とプロポーズ】


描写ばかりのお話だったので
最後は殆ど会話だけ

どのような顔をしていたのかは、読者の皆様にお任せします

「ベルトルトとユミルの……」はこれにて完結
お付き合い頂き、本当にありがとうございました



と、言いたい所だったが
蛇足が発生

ただ終わり方は、これが一番当方の好みなので困っている


皆様の力を貸して欲しい
蛇足が必要と言う方は、名前住所年齢電話番号を明記の上……

では無かった

「蛇足、閲覧希望」と明記して↓にレスして欲しい
ある程度の方がいらっしゃったら、載せるつもり

ただ区切りをつける為に、載せるまでに二日か三日は空けようとは思っている


ちなみにレス付けてくれる方がいらっしゃったら
その際に感想くれると……すっごく嬉しいよ(小声)

名前 こにーすぷりんがー16さい
住所 だうぱー村
でんわばんごうってなんだ?

…冗談です。蛇足希望します。ユミルの本当に性器ついてんのかわからないくらいな初心っぷりが可愛かった

おつ。泣いた。


蛇足閲覧希望。全力で希望。むしろ全裸で希望。
会話文だけのさっぱりしたラストも良かったけど、それまでの描写たっぷりりりーんな感じもすごい好きだよー!
ふたりの価値観の違いというか、大切にしてるものが最後の最後まで違うのが良かった
でも、それですれ違うような二人じゃなくて、それをよくわかってるからこそお互いを好きになったのかな、と思った。

あ、あと、最初のユミルがちゅーの夢を見るきっかけみたいなエピソードとかあったら……知りたいかも(小声

最後の最後で思いっきり泣かされた。故に蛇足も閲覧希望。
これだけ最初から最後まで目が離せなかったスレってのも初めてな気がします。

乙です

蛇足希望

別れだけど夢みる余地のある話しで読んでる側にも救いあって良かった
最初の頃から追ってて、最後を迎えて、胸いっぱいです

乙!
からの蛇足希望!
俺も最初から見ていた!描写が多いくせにエロくないとかけしからん。いつかはわからんがエロも書いてくれよ!

蛇足閲覧希望
涙腺は破壊されたのに胸は温かくなる超良質スレです、ありがとうございます。

乙!蛇足希望。
楽しませてもらったよ。ラストはシリアスで〆るとは・・・ツボだ!
待ってるぜー


感想くれるとありがたい、に答えて下さった皆さん!
わーい、本当にありがとうございます。涙がちょちょ切れそうだ



>>461 コニーに笑った!実は当方も恋愛部分のシーンしか書いていなかったから、あまりの初心さに驚愕

>>462 描写ぷりりりーんありがとう!別れるけど愛してる、と言う関係が書きたかったんだ

>>463 初めてって、そんな……初めて、頂いちゃいましたか

>>464 胸いっぱいありがとうございます!存分に二人の関係に夢見て下さい

>>465 エロ書けないんですよね、てのひらのチューの描写がこちらの中では一番のエロだ!

>>466 超良質スレ初めて言われた、ありがとうございます!!

>>467 ツボですか、ありがとうございます!待ってて下さいね


ちなみにですが「別れ話とプロポーズ」の冒頭にある二人の会話は
分離させると一人づつの独白にしても読める様にしてます

機会があったら脳内で抜粋して読んでみて下さい



以下は

>>461さんの「ユミルの初心っぷり」
>>462さんの「ちゅーの夢を見るきっかけ」

に軽く答える山なし落ちなしの文です
先日言っていた蛇足ではありません






「ねぇユミル、ファーストキスってどんな味?」
「事前にシチューを食べていたら、シチューの味がするぜ」



思った事を、ありのままに伝えたら
彼女は不満そうに、唇を尖らせた

その仕草すら絵になるとは
クリスタマジ可愛すぎる


本日の授業は座学と技巧術
それほど体力を使わない一日だったかったからか、女子兵舎の入り口付近にはたくさんの人が屯っている

その話題の殆どは
年頃の女の子らしい、恋のお話だ


私とは、無縁の話

だが殆どの女の子は、この話をすると可愛く見える
ハンナなどは、普段より二倍も三倍も輝いて見えるから驚きだ

ちなみに、目の前の愛しき少女も
計測不可能な程、顔をキラキラさせている



「ねぇユミルは、キスした事ないの?」
「あいにく、其処辺りは経験がない」


これは、嘘


お礼的な物だったら、何回かやった事もあるが
そう言った情の籠った物はしていないので、伏せてから伝える

舌を絡めた物でもなかったし


あと、一度だけ裏場の親父に「鞭で打ってくれ」と言われた事はあったが
それはまぁ、ぶって踏むだけだったので色々セーフだろう

全部服の上からだったし


……うん

うすら寒い事を思い出してしまった
この事は忘れて、目の前の少女に集中するとしよう



「クリスタ、ユミル。なんの話をしているんですかぁ?」
「サシャ」



「口づけの話しなんだけど、サシャはした事ある?」
「私は毎日、食材と口づけ出来るだけで幸せですよ!」

にこにこと笑いながら、ずれた事を言う

でもまぁ、とても幸せそうだからいいのだろうな
さすが我らの芋女


「でもユミルは、経験がありそうですね」

また言われた
そんなに私は、進んでいる様に見えるのだろうか


「生憎と、そんな思慕の情を秘めた物は経験が無いんだ」

二度目の回答は、嘘を限りなく無くして返す事に成功する
人間ってこうやって、嘘が上手になって行くのか――人間って卑怯な生き物だな



「でも、キスかぁ」

ほわほわと、クリスタが思考を何処かに飛ばしている
年頃の女の子にふさわしい、恋に恋する瞳だ

ちなみにクリスタ

恋に恋するならまだいい
だが男に恋するのは、認めないからな


「キス、ですかぁ」

と思っていたら、意外に芋女も恋に夢見ていたようで
少しだけ目を細めながら空想している

相手は誰だ
良く話している相手としたら、コニーかジャン……それかマルコだろうか



ふと目を伏せて
いつかするかもしれないキスを、思い浮かべてみる


相手はどんな男だろうか

背は高いのか、低いのか
手は大きく、こちらの頬を撫でてくれるのだろうか


――そう、例えば……

脳裏に、不明確な男の姿がふと浮かぶ
そして無意識のうちに、人差し指で柔らかく唇を撫でていた



――キス、か

唇を指の腹でなぞり、少し押してすぐに離す

裏町で、仲良くなった子供たち達に
お礼として口づけた時はこんな弾力だっただろうか

さすがに指先では再現しきれない


女の人にキスされた、と言うステータスを得たその男の子たちは
きゃっきゃと騒いで私にお礼を言っていた



――可愛かったなぁ

そう思って笑うと、クリスタとサシャの瞳がこちらにキッと向いた
ロックオン!とでも言う様に輝いている


しまった、見られた



「ユミル!今何を思い出したの!?」
「実はやっぱり、キスをした事あるんですか!!?」

キラキラと輝いた瞳の女の子達を
ユミルは一回、意味深にジッと見つめた

最初っから否定するより、少し間を入れてから返答した方がいいと言う事は
深夜の女子兵舎で行われるガールズトークにて、嫌と言う程に学んだ


「まぁ、あると言えば……ある、かな」
「えっえっ、そうなの!?ねぇどんな!?」


こちらへと体を寄せてくる少女の
白く、柔らかい肌にそっと手を這わせる

さらりと撫でると、高級な絹の様な手触りと
先程入った風呂の香りがした


「でもこれは、ノーカンだと思うぞ」

にやりと笑って見せて
その頬をさらりと撫でた


「ほっぺだから、な」


嘘、実は口にもしている
けれどもコレは、騒がれるので言葉にはしなかった


脳裏に、初めて唇と唇を触れ合わせた時の記憶が蘇る

戯れに地方の市場に行った時
助けてくれた地元の少年へと、私は礼に口づけた


思い返してみると
甘酸っぱ過ぎて、苦笑しか漏らせない





その夜
私は、キスをする夢を見た

その時は発情期と間違えてしまったが
今思うと、意外に私は乙女だっただけなんだ――と、素直に思える





ユミルの【恋を自覚する、その前のお話】


ど・こ・の・少・女・漫・画・だ・!

自分で書いていて
目から口から耳から砂糖が流れ落ちそうになった

糖分の過剰摂取で腕が震えた


ユミルは別に初心すぎる訳ではない、と言い訳

苦手なのは“愛情を持って示される”愛情表現で
恋愛感情が絡んでなければ、いつものユミル様です


蛇足は今日の夜か、明日にします

乙!
冒頭の奴は気付かなかったわ、読み返してくる

おつー!

え、もしかして、この地元の少年って……!?
て思ってしまうんですけど期待しても良かですか?良かですか!?!?!?!?


>>480 実はひっそりとやっていました

>>481 やはり、分かってしまいましたか……そうです、彼は幼少期のダズです!

なんてコメントを返信しつつも、ベルユミ好きなので
まぁ、そう言う事では無いかと思います



では、ここから蛇足に入ります、一話目は趣味に走りすぎた感が否めない

二話あります、が
本当に蛇足なので、期待しないで下さい



「やぁ、ユミル」
「なんだ、ベルトルさんか」

「……なんだろう、どう話したらいいか分からないな」
「近況でも話せばいいんじゃないか?」

「僕はボロボロになっちゃった」
「はは、ボロボロになってない奴なんていねぇよ」

「疲れた」
「お疲れ様」

「君も、お疲れ様」
「ありがとな」

「もう、いいかな」
「大丈夫だろ」

「本当に?」
「あぁ、もうお互いに命の奪い合いをする事は無いと思う」

「もう一度聞いていい?――本当に?」
「あぁ、もう大丈夫だ」



「…………っ」
「泣くな、泣くなよベルトルさん」

「やっと、君と会えた」
「……だから、泣くなよ」

「この、理不尽な世界を通して……君を見る必要が無くなった」
「だから、たのむよ」





「君に会えた――のに」
「泣くな……頼む、私にはもう」










「目も見えないし、腕も脚も無いんだ」



「…………っ」
「口がきけるだけ、奇跡だ」

「ユミル!今、僕は君の前にいるよ」
「あぁ、声が前から聞こえている」

「なのに君は、檻の中にいるんだ」
「そうか、残念だな」

「手を届かせたいのに、触れられない」
「残念だったな、でも鼓膜が一つだけ無事だよ――だからお前の声は、きちんと届いている」

「ユミル、なんで――君が」
「時代の流れって奴がな、ちょっと不運に傾いただけだ。だから気にするな」

「なんで君が、僕を励ましているの」
「それはお前がへたれなだけ」

「ぐうの音も出ないな」
「そうかよ、でももっと話をしようぜ」



「お前も、檻の中にいるのか?」
「そうだよ、ちょっと時代の流れで不利益を被って――僕は罪を犯しちゃったんだ」

「もうすぐ終わって、罪から解放されるな」
「君の命も、僕の命もね」

「そうだ。でもお互いに争う事のない時間が、少しでも得られて――私は本当に嬉しい」
「ユミル」

「あの時、お前が言った言葉覚えているか」
「うん」

「もう、言わなくていい」
「……ぇ」

「その言葉は、来世に取っておいてくれ――私も綺麗な気持ちで、その言葉を聞きたい」
「君は……それでいいの?」

「あぁ、それがいい」
「酷いよユミル、僕が今までどんな気持だったか分かって言っているの?」

「分かっている、自惚れかもしれないがな」
「……それが君の望みなの?」

「あぁ、そうだ」
「そっか――分かった」



「ユミル、僕のお嫁さんになって下さい」
「おい」

「健やかなる時も、病める時も」
「おい、ちょっと待て」

「僕は君に、全ての愛を捧げます」
「ちょっと待てって」

「汝ユミルは」
「おい」

「健やかなる時も、病める時も」
「ちょ、おい」

「君の全ての愛を、僕に捧げてくれると誓いますか」
「あ、――はい」



「ちょっと待てって」



「ユミル、これで僕達は夫婦だね」



「待てよ」
「もぉ、なに?僕の奥さん」

「はい、と言ったのは悪かった……なんか口から出た」
「ユミルの素直な気持ちでしょ?嬉しいよ」

「喜んでくれて何よりだがな。私は口と鼓膜が一つ分くらいしか、お前を認識できていないんだぞ」
「そうだね」

「だからな」
「でもね、ユミル――君は残っているじゃない」

「…………」
「僕が好きな“君”が残っているんだから」

「……でも」
「この世界って、捨てたもんじゃないと思うんだ」

「……でも、幻滅しただろ」
「しないよ、大丈夫――こんな史上最高の犯罪者、好きになってくれた君はとても心が綺麗だ」

「そうか?」
「うん、そうだよ。惚れ直した」



「なぁ、ベルトルさん」
「なぁにユミル」

「これって幸せな結末なのかな」
「そうだと思うよ、だって僕は幸せだ」

「…………」
「ちょっと、そこは私だって幸せって言ってよ」

「複雑なんだよ」
「君が複雑なら――しょうがないな」





「来世も是非、お願い致します」
「来世まで付いてくる気か、ストーカー」



「……ねぇ、ユミル」
「なんだよストーカー」

「旦那さまって、呼んでみて」
「えぇー」

「えぇって、そんなに嫌?」
「呼んで欲しいのか?」

「うん、とっても」
「そうか」





「来世でも夫婦になって下さい、旦那さま」
「こちらこそ、お願いします私の奥さん」





ベルトルトとユミルの【最後のお話】



※50話から先のお話





……


…………


………………




「……と、言う夢を見ました」


ぽろぽろと涙を流しながら、そう言ってくるベルトルトに
ライナーと自分は、怪訝そうに彼を見つめる事しか出来なかった


一体、何を言っているとのだろうか
この男は

痛くなりそうな頭を抱えながら
ユミルはあのな、ともう一人の方に声を掛ける


「ライナー、お前は驚きすぎ」
「いや、そうは言われても」

こんなベルトルトは、初めて見たんだよ
と聞こえて来た、呆れかえった声に

ユミルは心底、申し訳なく思う



「私の元彼がすまんな」
「いや、こちらこそ迷惑を掛けた。こいつは俺の親友でもあるからな、しかも現在進行形で」

そう言いつつ、頭を下げてくれるライナーはつくづくいい奴だ


私を拉致した挙句、死地に送ろうとしたり
エレンの手足を食いちぎったり

ついでに壁を壊したり
兵団向けて、巨人を投げ飛ばしたりする奴だが


まぁ、根はいい奴なんだよな



ユミルは大きく溜息をついた
それくらいの事しか、出来なかったから


座標によって、巨人どもの標的にされてしまったライナーとベルトルト
彼等と共に、何とか巨大樹の森に撤退し

満身創痍となったので、泥の様に眠りに就いたのは
もう昨日の事だ


そして朝、目が覚めてみると
己の体にベルトルトが

もとい、別れたばかりの元恋人が
その巨体でぎゅうぎゅうと――持てる限りの力全てを使って、抱きついていた


疲れていた所為で判断が鈍っていた
と言う名目で、その眉間に肘を思い切り当てる

……そしたら


「ユミル、君……生きてた」

良かった
とかほざいて、泣きやがった


私はと言うと
はじめてみたこいつの「涙」びっくらこいて

思わず、巨体を殴るのを止めてしまった
今思えば、それがいけなかった


殴るのが止まった途端、こいつはまた
持てる限りの力全てを使って、抱きしめてくる

死闘を繰り広げ、いろんな部分が欠損している体をだ


かなり、痛かったので
ベルトルトの顔を掴みあげ

その耳元で


「痛いっつってんだろ!!この童貞野郎っ!!!」

と、叫んだら
ライナーも目を覚ました

単語に身に覚えでもあったのか
心なしか、冷や汗をかいている様に見える


と、言った経緯で
私とライナーは、夢の内容を聞く事となった

ベルトルトは、定番の体育座りをしながら
時々リアルに思いだすのか、体をびくびく揺らしながら語る


要約すると

私が牢屋の中で、手足が欠けて目が見えなくて
鼓膜も片っぽ破れていて

しかし、ベルトルトはボロボロだが五体満足だった

まず
ここが不公平だと思う


体がボロボロの私が、ベルトルトに「結婚できない」言うが
ベルトルトが「健やかなる時も病める時も……」の下りを言うと、何故か速攻頷いたそうな

うん、ここもおかしいよな?


二人で「奥さん」「旦那さま」と言い合いながら
ついでに来世の約束までして「幸せだねぇ」と言い合った

なんだそれ、何処のチープな恋愛小説だ
第一、何故巨人なのに回復していない


昨日から、本当に色々な事があった

その前にも色々あったが
今回は割愛する


別れ話をして、円満に他人同士になって
お互いに死んでもおかしくない様な死闘を繰り広げて、なんとか生き延びた

割愛しても、これだけの事があった


しかもそれらは
一日の間に、全て起こったと言うから驚きだ



そんな忙しい一日に、そんな夢を見るとは


――想像力の、たくましい奴だ

主に私を
可哀想な方向に想像する事だけは、頂けないがな


夢の内容を全て話し終えたベルトルトは
今一度その長い手足をこちらに絡みつかせようと、にじり寄って来た


「ユミル……」
「おい、ベルトルさん――近づくな、私らはもう他人だ」

警告はした
しかし、ベルトルトの足はなおも目標へと進む


「ユミル、幸せかもしれないけれど……僕はあんなハッピーエンド、嫌だよ」
「まったく同感だな。私も嫌だが――もう一度言うぞ、近寄るな」

警戒心をあらわにして、ユミルは後ずさる

その瞬間、見えた瞳に
頬がひくりと引き攣った


――熱のこもった、瞳

今のベルトルトの目は、見た事があった


てのひらを、熱心に舐めていた時の
あの瞳



「ねぇユミル、恋人の期間を一日だけ延期しない?」
「だ、だから近寄るなって」

救いを求める様に、第三者であるライナーへと視線を送るが
初めてみる親友の豹変ぶりに、すっかり放心してしまっている

役立たずめ


「べ、ベルトルさん……その」

巨大樹の枝とは言え、たくさんの距離がある訳が無い
こちらの足場は、もう無くなってしまった

ベルトルトの瞳が、きらりと光る
獲物を射程距離に収めた、肉食動物の様な光


「あんな結末は嫌なんだ」
「そっ、そうだな……お互いにそうならないようにしよ…」





「だから僕、一度でいいからじっくりとユミルを抱いてみたいなぁ」



――ひゃっ……!?


あまりの台詞に、よく分からない声が漏れそうになる


救いを求めて
もう一度、男の親友を見た

すると、ライナーは
その時すでに、理解できないと言う事を受け入れきってしまったのか

悟りを開いた様な表情をして


「俺、離れておくな――ごゆっくり」

なんて言い残して、立体機動装置で移動をしやがった!!



「ま、待てライ……っ!」
「酷いなぁユミル、なんで僕じゃなくてライナーの方を見ちゃうの?」

その声は、私の
すぐ後ろで、した



「ひっ……!?」

がしり、と大きな手が肩に掛けられる

その手で掴まれると、どんなに抵抗してもびくともしない事を
私は身を持って知っていた


体が
意識とは関係なく、震える

もちろん、恐怖によって



「ユミル、準備は……いい?」
「まま待てベルトルさん!私達は敵、敵同士になるんだぞ!?」

うん、そうだね
そう言って、ベルトルトはユミルの体を自分の方へと向けた

ユミルは咄嗟に、顔を逸らす
男がどんな顔をしているのか、なんて

知りたくもなかった



「大丈夫だよユミル、コレが終わったら」


ちゃんと、敵同士になるから



そう言って、行動を起こそうとするベルトルトに
ユミルは力の限り抵抗をした



その後
二人がどうなったのかは

まぁ皆様のご想像通り、と言う事で





ベルトルトとユミルの【別れた後の、彼の蛇足な発情期】


終わりました

最初はキス描写で終わらせるつもりだった
馴れ初めも、時軸的には一日だからもっと短くなるはずだった

そして【別れ話とプロポーズ】で終わるはずだったのに!

と言う「思いの他、長くなった」が何度も起きた作品でしたが
これにて終了します

今まで読んで下さった皆様も
これから読むであろう皆様も、本当にありがとうございました

最後に長編が完結したので、最後に執筆した物リストを提示します


長編
○「ベルトルトとユミルの……」
○ユミル「は?人が二人に分裂する薬……?」

短編
○ベルトルト「君の願いが、叶ったよ……エレン」
○ライナー「俺はクリスタと結婚したい」
○ベルトルト「いっただっきまーす」
○エレン「俺はユミルが好き」
○ユミル「ミドルなライナー」
○エレン「短編を」ライナー「三編」ベルトルト「纏めて載せるよ」
○リヴァイ「大人しくしろ」ユミル「嫌だぁ!離せよ!!」

未完結
○エルヴィン「養女にならないか?」ユミル「……は?」

停滞、ごめんなさい
○ベルトルト「文通以上」ユミル「そして、恋愛未満」

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