ソーニャ「次の仕事は見滝原に行くのか」 (824)


――空き教室


ソーニャ「あぎりも行くのか?」

あぎり「はい」

あぎり「仕事をするのはソーニャと私です」

ソーニャ「ふーん。移動方法は?」

あぎり「車を出してくれるそうです」

ソーニャ「車で行くのか」

あぎり「あとお弁当出ます」

ソーニャ「いや、それはいいんだが」

あぎり「何のお弁当がいいですか?」

ソーニャ「いや、それはいいんだが」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377961199


あぎり「経費で落ちます」

ソーニャ「今は昼飯なんかどうでもいいだろ」

あぎり「決めておくよう言われてるんですよ」

ソーニャ「……あぎりと同じでいい」

あぎり「ご飯は白米、五目、海苔を選べますが」

ソーニャ「……同じでいい」

あぎり「飲み物は」

ソーニャ「昼飯の話はもういい!仕事の話をさせろ!」

あぎり「じゃあお茶でいいですか?」

ソーニャ「好きにしろ!」


ソーニャ「ったく……」

ソーニャ「……しかし、見滝原か」

ソーニャ「こないだニュースでやってたな」

あぎり「そうですね」

ソーニャ「確か……何だっけか」

ソーニャ「あの、台風的な……」

あぎり「スーパーセルですね」

ソーニャ「ああ、それだ」

ソーニャ「要するに被災地だよな」

あぎり「そうなりますね」


あぎり「被災地とは言っても交通等は問題ないそうです」

ソーニャ「組織でも想定外に被害が小さかったとか何とか言われていたしな……」

ソーニャ「それはさておき、あぎり」

あぎり「はい」

ソーニャ「私はまだ仕事内容を聞かされていない」

ソーニャ「何しに被災地に行けと言うんだ?」

あぎり「ご存じでない」

ソーニャ「知らん」

あぎり「私も話に聞いたのが小一時間前ですので、詳しいことは聞いていないのですが……」

あぎり「手を出して下さい」

ソーニャ「?」


あぎり「ハンカチ被せて~」ヒラッ

ソーニャ「…………」

あぎり「種も仕掛けもありません」ヒラヒラ

あぎり「いち、にの……」

あぎり「にん♪」

あぎり「なんと、ソーニャの手の上に……」

ソーニャ「普通に渡せ」

ソーニャ「……封筒か」

あぎり「この中に入ってる写真の人に用があるそうです」

ソーニャ「つまりターゲット、と……」

ソーニャ「どれ」


ソーニャ「…………」

あぎり「…………」

ソーニャ「なぁ……あぎり」

あぎり「はい?」

ソーニャ「あぎりも見たか?この写真」

あぎり「見ましたよ」

ソーニャ「こいつ見た時どう思った?」

あぎり「美人さんですねぇ」

ソーニャ「いや、そういうのはいいから」

ソーニャ「私には……どう見ても『子ども』に見えるんだが」


ソーニャ「何歳だ。こいつ」

あぎり「聞いた話には、中学二年生だそうです」

ソーニャ「は?」

あぎり「中学二年生」

ソーニャ「中二……だと?」

あぎり「だそうです」

ソーニャ「いやいやいやいやいや……」

ソーニャ「何でたかが中学生を狙わなきゃならないんだ」

あぎり「かく言う私達も高校生じゃないですか」

ソーニャ「それは、まぁ……」


ソーニャ「じゃあ、何か?『こいつ』は……」

ソーニャ「現役中学生の皮被った殺し屋か何かだと?」

ソーニャ「わざわざ私とあぎりの二人で狙うってことは、少なくともただの中学生ではないよな」

あぎり「そうですねぇ」

ソーニャ「何か聞いてないのか?」

あぎり「はい。私も気になりましたので聞きました」

あぎり「何でも魔法少女なんだそうです」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「……は?」


ソーニャ「何だって?」

ソーニャ「……『アイツ』が変な棒振り回してミルキーベイベーとか何とか言って騒いでたから、幻聴したかもしれん」

ソーニャ「私達は何を狙うんだって?」

あぎり「『魔法少女』です」

ソーニャ「魔法少女……?」

あぎり「魔法少女」

ソーニャ「魔法少女……」

あぎり「…………」

ソーニャ「…………」


ソーニャ「何だその仕事は!?」ダンッ

ソーニャ「何だよ!魔法少女って!子ども向けアニメか!」

あぎり「観るんですか?アニメ」

ソーニャ「観るか!」

ソーニャ「魔法少女とか何言ってんだよ!馬鹿にしてんのか!?」

あぎり「私に言われましても」

ソーニャ「……そ、そうか。わかった」

ソーニャ「これはアレだな?」

ソーニャ「コードネームとか隠語とか、そういうのの類だな?」

あぎり「さぁ」


ソーニャ「……くそっ」

ソーニャ「何が魔法少女だよ。気が抜ける」

あぎり「でも、別にいいじゃないですかー」

ソーニャ「よくないし。というかいいのかよ」

あぎり「世の中には催眠術で戦う殺し屋や幼稚園児の忍者もいますからね」

あぎり「魔法少女がいてもいいじゃないですか」

ソーニャ「何か世界が違くないか?」

ソーニャ「……まぁ、いい。忍法があるなら魔法もあっていいだろう」

あぎり「いやぁ、私のはただの忍法ですがな。魔法じゃないですよ」

ソーニャ「説得力ねえよ」


ソーニャ「……で、この魔法少女とやらを殺ればいいのか?」

ソーニャ「それなら用意するものが……」

あぎり「いいえ」

あぎり「その人を連れてこいとのことです」

ソーニャ「連れてくる?」

ソーニャ「それは、生死関係なくとかではないのか」

あぎり「攫ってきなさいってことですね」

ソーニャ「そうなのか」

ソーニャ「攫うとなると……何か秘密でも握ってるってのか?スパイとか」

あぎり「組織の『武器』に関わることだそうです」

ソーニャ「……!」


ソーニャ(……武器、か)

ソーニャ(と、なるとこいつが……?)

ソーニャ「……尋問か」

あぎり「そうですね」

ソーニャ「そうか……ついに尻尾を掴んだってところか」

ソーニャ「まあ、この際魔法少女でも中学生でも何だっていいことだな」

ソーニャ「で、仕事はいつだ」

あぎり「今週はその人の身辺を調査したりするそうなので……」

あぎり「予定では週末です」

ソーニャ「土曜日か。丁度いい」


あぎり「予定開けておいてくださいね」

ソーニャ「当たり前だ」

あぎり「やすなさんからのお誘いも断ってね」

ソーニャ「尚更当たり前だ」

ソーニャ「……それで?こいつの情報は今のところ写真だけか?」

あぎり「詳しい情報は後ほどとのことで、いただいた情報は最低限のことだけ」

ソーニャ「せめて名前くらいはわかるだろう?」

あぎり「名前は写真の裏に書いてあります」

ソーニャ「何だ、書いてあったのか」

ソーニャ「…………」


ソーニャ「……あぎり。これ、何て読むんだ……?」

ソーニャ「い、一応な!念のための確認のためだぞ!」

ソーニャ「日本人の苗字ってたまに難しい読み方するのあるからな!」

あぎり「何も言ってませんよ」

あぎり「これはですね……」

あぎり「『あけみ』って読みます」

ソーニャ「そ、そうか」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「ターゲット『暁美ほむら』……か」

ほんの十数レスだけど、ここまで

かなりのスローペースになるとは思うけど、よろしければ気長にお付き合いください。わさわさ


キルミーベイベーのベストアルバム、買わなきゃ(使命感)



――見滝原


こんにちは。

わたし、鹿目まどか。ばっちり中学生。

……わたしは、自分なんて何の取り柄もない人間だと思ってました。

ずっとこのまま誰のためになることも何の役に立つこともできずに……

最後までただ何となく生きていくだけなのかなって、

それは悔しいし寂しいことだけど、でも仕方ないよねって思ってました。

でも、現実は違ってました。

わたしは『魔法少女』として強大な素質を持っていたのです。

わたしにその素質があることを知った時は、

魔法少女のことを何も知っていなかった頃はまだ、それはとっても嬉しいことだと思ってました。

こんなわたしでも、誰かのためになれるんだって。誰かを救えるんだって。


……突然ですが、わたしはほむらちゃんのことが大好きです。

とっても優しいのです。

もちろん好きな理由ってのはそれだけじゃありません。

ほむらちゃんは、わたしとの出会いをやり直したいと契約して魔法少女になりました。

そして鹿目まどかとの約束……魔法少女にさせないという誓いを果たすために……

悲しくて辛い戦いを、何度もやり直してきました。してくれました。

わたしは何の取り柄もないって思ってたけどここまでわたしのことを思ってくれている人がいたんだって、

誇り高い気持ちになると同時に申し訳のない気持ちになりました。

こうして……ほむらちゃんは因縁の魔女、ワルプルギスの夜を撃退したのでありました。

ほむらちゃんはわたしを……ううん、みんなも、救ってくれたのです。


「わたし」がほむらちゃんと出会った時のことは、昨日のことのように思い出せます。

ですが、避難所で過ごしたあの時はずっと昔のことのように思えます。

みんなが命がけで戦っている一方で、膝を抱えてジッとしていたあの時間は精神的に辛いものでした……。

そんな嵐から一転、本日は雲一つない快晴なり、です。

風が全然なくってちょっと蒸し暑いなって思うけど、いい天気なのです。

そしてわたしは今、マミさんのお家に来てます。

ワルプルギスの夜の前では安定だったお茶会、放課後ティーパーティです。

……いえ、今は放課後ではないんですけど。

チャイムを押します。ピンポンです。


マミ「あら、いらっしゃい。鹿目さん」

まどか「こんにちは」

マミ「さぁさぁ、あがって」

まどか「お邪魔します」


マミさん……わたしとさやかちゃんに魔法少女のことを教えてくれた、素敵な先輩。

ほむらちゃんは最初の頃はマミさんのことをフルネームで呼んでいて、

マミさんと敵対っぽい関係にありました。ハッキリ言って仲悪かったです。

今にして思えばどっちかと言うと、マミさんが一方的に拒絶していた、というか……

でもでも、色々あって和解して……「巴さん」って『昔』の話し方になりました。なってました。

ほむらちゃんもマミさんのことが大好きだったのです。『昔』も今も。

マミさんはとっても強くて優しくて、みんなに慕われるお姉さんのような人です。


まどか「お久しぶりですね。マミさん」

マミ「そう?久しぶりって程でもないと思うけど……」

まどか「メールとかで身近に感じますから」

マミ「なるほど、そうかもね」


……ワルプルギスの夜に伴ったスーパーセル。

キュゥべえが言うにはそれこそわたし達の街は壊滅的な状態に十分なりうる程に大きなものだったそうです。

でも、みんなのおかげで……その嵐の元凶を撃退してくれたので、それは未然に防がれました。

……比較的小規模に抑えられたとは言え、被害が無かったこともありません。

わたし達の学校もそう。

避難所になった体育館は大丈夫でしたが、校舎の方に被害が出てしまいました。


精密機器が壊れたりガラスが割れて張り替えなくちゃならなくなったり……

だからそんなこんなで、現在学校はお休みです。

何やら立て込んでいるそうで、いつ学校が再開されるか、それはまだわからないそうです。

そして今日、みんなと顔を合わせるのはワルプルギスの夜以来になるのです。やったー。


まどか「ほむらちゃんはもう来てます?」

マミ「あら、来て早々に暁美さんのこと?」

まどか「え、あ、いや、その……」

マミ「本当、大好きなのね」

まどか「か、からかわないで下さいっ」

マミ「ふふ、ごめんね。みんな来てるわよ」

まどか「もー」

まどか「……ん?」


まどか「んー……」

まどか「とっても甘い匂いが……」

マミ「クッキーを焼いたのよ」

まどか「そっか。それで……」

まどか「あぁ、とっても美味しそうな……」

まどか「……あ」

まどか「お、お昼ご飯食べたばっかりなのにお腹が……」

マミ「ふふ、慌てなくてもたくさん焼いてあるからね」

マミ「鹿目さん、きっと気に入るわ」

まどか「わーい」

マミ「お茶を用意してくるわ」

まどか「はいっ」


さやか「まどかぁー!」

まどか「さやかちゃん、杏子ちゃん」

杏子「おう、久しぶりだな。元気してたか?」

まどか「うん。二人は?」

さやか「バッチグーよ。グー!」

杏子「さやかは元気すぎてむしろ鬱陶しいわ」

さやか「何をー!?」


さやかちゃんと杏子ちゃんがクッキーを仲良く食べています。

知り合った当初はケンカばっかりしてた二人ですが、

今ではとっても仲良しです。

杏子ちゃん。口元にクッキーがついてるよ。

いやぁ、二人とも元気そうでなによりです。


さやか「来るのが遅いよまどかー」

まどか「そんなこと言ったって」

さやか「旦那を待たせちゃいけないな!」

まどか「だ、だん……!」

まどか「も、もうっ!マミさんもさやかちゃんも……」

まどか「ほむらちゃんのことになるとそんな風にからかってくるんだもん!」

さやか「……あれあれ?おかしいね」

まどか「?」

さやか「誰も旦那がほむらのことだなんて言ってないよ?」

まどか「……?」

さやか「普段嫁嫁言ってるあたしが旦那……っていう発想はなかったのね」


まどか「……ハッ!」

まどか「も、もーっ!」

さやか「ハッハッハ。悔しかったらあんたもあたしを煽ってみろ」

まどか「……こ、この胡座ー!」

杏子「あたしも胡座かいてる訳だが」

まどか「あっ、ご、ごめん」

さやか「下手くそか!」

まどか「うぅ……さやかちゃんなんてもう知らないんだから!」

さやか「うぇひひひ」

杏子「まぁ落ち着けよまどか」

まどか「むぅ……」


杏子「さやかをイジるネタ、ないことはないぞ?」

まどか「え?」

さやか「えっ」

杏子「ふっふっふ……」

杏子「なぁ、さやかぁ……」

さやか「な、何ですか杏子さん」

杏子「……どう告るつもりなんだい?」

さやか「え……!?」

杏子「あの坊やにさぁ、どうやって気持ちを伝えるんだ?」

さやか「あ、あの、その……えっと……」


杏子「学校始まったら、仁美と同時にするってんだろ?」

まどか「きょ、杏子ちゃん……」

杏子「セリフ考えた?シチュエーションは?」

さやか「う、うぅ……」

杏子「休校中だから仕方ないって、考えるの後回しにしてんじゃないの?」

まどか「そ、そろそろやめてあげた方が……」

杏子「練習に付き合ってやってもいいぞ。あたしをアイツと思っ……」

さやか「うるさい!うるさいうるちゃい!」

まどか「あ、噛んだ」

杏子「な?」


恋愛事ってデリケートなものだと思うからそこを「突く」勇気はなかったけど

……

流石杏子ちゃん。さやかちゃんを手懐けてます。

さやかちゃんは幼なじみの上条君のことが好きなんです。

でも、さやかちゃんってこういう大事な時には臆病な子。

自分の気持ちに素直になれないのです。

一方で仁美ちゃんも実は上条君が好きだった……という三角関係ができて困っ

たものでした。

そんな中わたし達が暗躍して、仁美ちゃんと同時に告白するという取り決めに

こじつけたのです。


杏子「当たって砕けろって言葉もあるからな」

さやか「玉砕前提!?やめろよ縁起悪い!」

まどか「えと、頑張ってね。さやかちゃん」

さやか「ぐぬぬぬ……!」


杏子ちゃんは、風見野から来た魔法少女。

面倒見がよくて人情に厚い子。

マミさんと仲違いしていましたが、ほむらちゃんが仲介になって、何とか仲直

りできたそうです。

それからわたしとさやかちゃんと出会いました。だけど……

何でも杏子ちゃんは、上条君の腕を治したいと契約しようか悩んでいたさやか

ちゃんと、

契約をしたことで悲しい思いをしたかつての自身が重なったんだそうです。

その時はみんな魔法少女の真実を知らなかったのですが、杏子ちゃんはさやか

ちゃんの契約を阻止してくれたのでありました。

その上条君も何だかんだでナーバス状態から立ち直ってくれてたようで、お互

い納得のいく結果オーライな訳なのです。

杏子ちゃんは現在、風見野で活動しつつマミさんの家でゆ――


「まどかお姉ちゃぁーん!」

まどか「いふゥッ!?」


まどか「ゆ゙……ゆまちゃ……」

ゆま「会いたかったよぅ」


……脇腹を抉るようなタックルをかましてくれたこの子は、千歳ゆまちゃん。

風見野で使い魔に襲われかけてたとこを杏子ちゃんに助けてもらって……

それからてんやわんやありまして、杏子ちゃんといつも一緒にいる魔法少女の

女の子。

とっても人懐っこい甘えんぼさんな可愛い子です。

ゆまちゃんは幼い身でありながら、マミさんと杏子ちゃんに魔法少女の悲しい

真実を受け入れさせたんだそうです。

言葉に謎の説得力があると言いますか……わたしはゆまちゃんに大きな可能性

を感じます。

ゆまちゃんは現在、風見野で活動しつつマミさんの家で杏子ちゃんと一緒に居

候という形で暮らしています。

……魔法少女の女の子って、日本語的にどうなんだろう。重複してますね。


まどか「げ、元気だった?」

ゆま「うん!」

まどか「あはは……見て分かっちゃうよ」

ゆま「んー」

杏子「あー……大丈夫か?まどか」

まどか「う、うん」

さやか「あたしもほむらも喰らっちゃったよ。ゆまちゃんタックル」

さやか「油断してた時に来るからさぁ……」

ゆま「時折自分が抑えられないよ!」

まどか「あはは……」


杏子「ま、悪気はないんだけどな。だだゆま。これで三回目だぞ。学習しろ」

ゆま「ご、ごめんなさい……」

まどか「ううん、いいの」

杏子「ほれ、ゆま。こっち来い」

ゆま「はーい」

さやか「可愛いなぁ」

さやか「ゆまちゃんはあたしの嫁になるのだー!うりうり」

ゆま「あはぁ、くすぐったいよ」

杏子「ん?まどか、座らないのか?」

まどか「…………」


杏子「まどか?」

まどか「あ、その……」

さやか「ふふ……わかってるよまどか」

さやか「わたしの旦那はどこなのって」

さやか「早く出しなさいよって言うんでしょ?」

まどか「だ、旦那って……!」

さやか「あ、嫁?」

まどか「お、お嫁さんって、だから、そういうのじゃ……!」

杏子「嫁でも何でもいいけど、ほむらならもう来てるぞ。マミから聞いてるだ

ろうがね」

まどか「うん……それで……」

「こんにちは。まどか」


まどか「!」


その優しい声……!振り返らなくても誰だかわかります。

いち早くそのご尊顔を拝みたい気持ちが走り、即、ターンです。

突然ですが、わたしにはちょっと恥ずかしい癖があります。

それは、とっても嬉しいことがあって……その時、すぐ側に大好きな人がいる

と……


まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「きゃっ」

まどか(……温かい)


……衝動的に抱きついてしまうことです。わたし、ゆまちゃんに対して人のこ

と言えないのです。

ほむらちゃんはスレンダーなので抱き心地が丁度いいです。

それで、抱きつかれた瞬間に漏らす驚いた声がこれまた可愛いのです。


ほむら「も、もう、まどかったら……ゆまちゃんみたいなことして」

まどか「えへへ」

ほむら「元気だった?……ってわざわざ聞く必要もなさそうね」

まどか「うんっ」

さやか「ひゅー!お熱いねー!」


さ、さやかちゃんがからかってきます……。

本当は調子に乗って頬ずりしちゃいたいとこだけど、

みんなの目があるので流石に自重するとして……


まどか「ご、ごめんね。急に……」

ほむら「いえ……別に構わないけど」


杏子「まぁまどか。いい加減座りな。そこ、ほむらの隣」

まどか「あ、う、うん」

ゆま「まどかお姉ちゃんのためにとっといたんだよ!」

まどか「あ、ありがとう……」

さやか「やれやれほむら。そこはだーれだってやるか後ろから優しく抱きしめ

てやるのがセオリーじゃん?」

さやか「まどかもそれを期待して立ちっぱで……」

まどか(……否定はしないよさやかちゃん)

ほむら「先に座ってて、まどか。私はまたちょっと外すわね」

さやか「スルースキル!」

マミ「大丈夫よ。暁美さん」


ほむら「あ、巴さん……」

マミ「はい、追加のクッキー」

ゆま「わぁい」

マミ「それで、鹿目さんの紅茶」

まどか「ありがとうございます」

ほむら「す、すみません、巴さん」

マミ「ふふ、いいのよ」

まどか「どうかしたんですか?」

杏子「この追加クッキーを……盛りつけっていうの?それをしにほむらは台所

行ってたんだよ」

マミ「それで鹿目さんが来たって言ったらそそくさと……」

ほむら「と、巴さん!」


さやか「デレデレしやがって、ちくしょう。クッキーが甘い」

杏子「最初から甘いけど」

ゆま「おいしい」

さやか「そういう意味じゃないのよん」

マミ「あ、そうそう、鹿目さん。クッキーはもう食べた?」

まどか「いえ、まだです」

ほむら「……そうだったの?」

まどか「うん」

マミ「ふふ、手作りだから、是非感想聞かせてね」

まどか「はい、もちろんです」


マミ「召し上がれ」

ゆま「上がってね」

ほむら「…………」

まどか「はい。では……」

まどか「はふぅ、良い匂い……それに形も可愛いですね」

まどか「いっただきまーす」

マミ「どう?」

まどか「…………」

ほむら「ど、どうなのかしら?」


まどか「美味しいです!」

マミ「どういうところが?」

まどか「どういう?うーん……」

まどか「甘くてサクサクしてて香ばしくって……?えっと……」

まどか「卵が濃厚っていうのかな……何て言えばいいんだろう?」

まどか「か、感想を言うのは苦手ですけど……」

まどか「とにかくとっても美味しいです!」

マミ「まぁ」

ゆま「やったねほむらお姉ちゃん」

まどか「え?」


ほむら「あ、ありがと……気に入ってもらえて、嬉しいわ」

まどか「これって、もしかして」

マミ「そう。暁美さんが作ったのよ」

まどか「!」

まどか「ほむらちゃんの手作り!」

ほむら「巴さんに……教えてもらって……ね」


ほむらちゃんは一人暮らしをしていて、自炊をしています。

大好きなほむらちゃんの手料理という補正を抜きにしても、

お料理の腕は上手なものであるとわたしが保証します。

このクッキーにしても、お昼休みにおかず交換をしたお弁当にしても。

さやかちゃんが言うにはほむらちゃんは女子力っていうのが高いんだそうです

。すごい。


まどか「とっても美味しいよ!流石ほむらちゃん!」

ほむら「あ、ありがとう……でも、分量通りに作っただけよ?」

ゆま「気持ちがこもってるんだよー」

まどか「うんうん」

さやか「愛するまどかへのキ・モ・チ♪」

ほむら「さ、さやか!」

さやか「ふふふ、ほむらったらすっかりまどかの胃袋を掴んじゃって」

まどか「掴まれちゃったのかなって」

ほむら「もう、まどかまで……」


まどか「マミさんマミさん」

マミ「ん?どうしたの?」

まどか「今度わたしにもお菓子作り教えてくださいっ」

まどか「ほむらちゃんにお返ししたいです」

ほむら「まどか……」

マミ「…………」

マミ「暁美さんに教えて貰うというのはどう?」

ほむら「へ?私?」

まどか「…………」


まどか「ありですね」

ほむら「……でも、私、教えられるようなことは……」

マミ「暁美さん、あなた飲み込みよかったし大丈夫よ」

まどか「いいかな?ほむらちゃん」

ほむら「……あまり、期待しないでね」

さやか「二人きりでお菓子作りときたもんだ」

まどか「だ、誰も二人きりって言ってな……!」

ゆま「ゆまも作ってみたいなって」

マミ「じゃあみんなで一緒に作りましょうね。グループ分けして……暁美さん

と鹿目さん。私達……佐倉さんも」

杏子「おう、巻き込まれた」


さやか「さやかも作ってみたいなって」

ゆま「マネしないでよぅ」

マミ「もちろん歓迎するわ」

ほむら「えと……それで、まどかは都合の悪い日とかあるかしら?」

まどか「う、ううん。学校お休みだからいつでも」

ほむら「それもそうね。それじゃ、いつがいいかしら……材料も買わないと」

さやか「材料を買うついでに色々といちゃこらデートればいいさ!」

杏子「おまえはさっきから何で二人をカップルに仕立て上げようとしてんだ?



さやか「面白いから」

杏子「そうか」


「やぁ、みんな」

まどか「!」

ほむら「ッ!」

ゆま「あ」

マミ「キュゥべえ」


……そろそろ現れるんじゃないかと思ってました。

キュゥべえ。本名(?)はインキュベーター。

契約をさせて、魔法少女にさせる……異星人?らしいです。

見た目だけは可愛いんですが……。


QB「さやかとほむらに対しては久しぶりという言葉が適しているね」

杏子「…………」

ほむら「キュゥべえ……!」

マミ「……ま、まぁまぁ、暁美さん。折角の集まりだし……」


ほむらちゃんの声に力が入る……。それを察してマミさんが宥めようとする…

…。

魔法少女の真実を黙ってて、契約を持ちかける……わたし達から見れば「騙し

て」いたキュゥべえ。

でも感情がないらしいから、騙していたっていう感覚はないみたい。

それに加えて、実際に願いを叶えてもらったっていう負い目と言いますか恩義

といいますか、そういうのがあります。

なので、マミさんと杏子ちゃんとゆまちゃんは、キュゥべえに対してどうにも

複雑な思いなんだそうです。

特にマミさんは家族みたいに思っていましたから……。


ほむら「……私に対しては久しぶり……そう言ったわね」

QB「うん、そうだね」

ほむら「……まどか?」

まどか「……う、うん」

まどか「ワルプルギスの夜から今日まで、キュゥべえ。ちょくちょくウチに来

てたの」

ほむら「!」

まどか「で、でもっ、大丈夫だよ。ほむらちゃん」

まどか「みんなと約束したもん。契約しないって」

まどか「キュゥべえの勧誘なんて聞く耳持たないんだから」

ほむら「まどか……」


QB「手強くなったものだよ。ほむらがいなければ確実にまどかを魔法少女にで

きていただろうに」

杏子「てめぇもしつこいヤツだな」

QB「仕方ないよ。まどかの素質は……」

さやか「はいはいわかったよ。すごいのね。何度も聞いた」

マミ「……ねぇ、キュゥべえ。悪いんだけど、少し外に行っててもらえないか

しら?」

QB「うん?どうしてだい?」

マミ「女の子だけでお話ししたいっていう気分もあるの」

QB「なるほど。確かに少女にはそういう習性が確認されている」

ゆま「そうなの?」

さやか「ゆまちゃんにはまだちょっと早いのかな?」

杏子「いや、年は関係ないんじゃないかな」


QB「僕なら気にしないのにな。性別という概念もないからね」

ほむら「……失せなさい」

QB「おや」


優しい声から打って変わっての、ほむらちゃんの冷たい声。

ほむらちゃんの怒った顔、あまり見たくはないのですが……

ほむらちゃんの方を向かざるを得ません。何故なら……


ゆま「ひっ……!」

さやか「そ、それって……!?」


ゆまちゃんとさやかちゃんが戸惑いながらほむらちゃんの方を見ていましたの

です。

瞬時に魔法少女に変身してキュゥべえに銃を向ける光景はそこまで珍しくはあ

りません。二人に何が?

わたしは恐る恐る、ほむらちゃんの方に視線を向けました。


ほむら「よくも私の見ていないところでまどかと接触したわね」

QB「まどかには魔法少女になる権利と素質がある。僕としてもそう簡単に引き

下がれないよ」

まどか「……!」


ほむらちゃんの姿は、お人形さんみたいな可愛い私服のままでした。

ですが、その華奢な手には、とっても不相応なものが……。


QB「それに、僕はまどかに拒絶されたわけでもない」

ほむら「失せなさいと言ったのよ」


キラリと光ったそれは、水に濡れたみたいに銀ピカな『ナイフ』です。

その刃先がキュゥべえの顔に向けられています。


QB「大体、君がまどかから目を離したのは君の事情じゃないか」

ほむら「……」

QB「ところで、これはマミのリボンと同じような魔法だね」

ほむら「……試されたいのかしら」

QB「……やれやれ。わかったよ。退散しよう」


普通の感覚ならナイフを向けられたら「怖い」ので退散するでしょうが……

キュゥべえの場合は身体が傷つくと「勿体ない」から退散するのです。

キュゥべえがこの部屋からいなくなったのを確認すると、

ほむらちゃんのナイフは淡い紫色の光になって、

ほむらちゃんの体の中に吸い込まれていきました。


ほむら「…………」

まどか「…………」

ゆま「あ、あぅ……」

さやか「……ほ、ほむら。今のって……」


不意に訪れた沈黙の中、さやかちゃんは恐る恐るほむらちゃんに聞きました。

私はナイフを持っていたのがほむらちゃんだったので怖くはないですが……


ほむら「……驚かせちゃったわね」

ほむら「ごめんなさい……」

ほむら「本当はもうちょっと後で話したかったのだけど……」

杏子「何だ、まだ話してなかったんだな」

ほむら「えぇ、一応」


さやか「杏子は……知ってたの?」

杏子「あぁ、一応」

まどか「そのナイフって……マミさんのリボンと同じって……?」

マミ「えぇ。キュゥべえも言ったけど、私のリボンと同じもの」

ほむら「……巴さん、後は私の方から説明させてください」

マミ「そう?」

ほむら「……あのね、三人共」

まどか「う、うん……」

ゆま「うん……」

ほむら「何から話そうかしら……とりあえず、このナイフだけど……」

さやか「だ、出してテーブルに置かんでいいから!怖いから!」


ほむら「まず、時間遡行の能力で私はまどかとの出会いをやり直して……」

ほむら「それによって、私は時間停止の能力を失ったってのはもう話したわよ

ね」

ほむら「時間を止める能力は、やり直せる期間だけのものだったって」

さやか「う、うん。前に聞いた」

ほむら「私は、時間停止の魔法に頼りっぱなしだった。だからそれが無くなっ

た時点でかなりの戦力が落ちた」

ほむら「……しかもそれだけじゃなく、私の武器は消耗品。時間停止がなくな

ったということは、その武器はもう新しく手に入れられない」

まどか「…………」

ほむら「言ってしまえば……少なくとも、魔女に対して戦う力は何も残されて

いない……」

ほむら「だから、巴さんに相談をしたの」

マミ「私のリボンを生成する魔法を参考にしたいって言ってね」


ほむら「リボンみたいに伸ばすことも撓らせることもできない……」

ほむら「銃のように複雑な構造のものも、剣のように大きいものは作れない」

ほむら「今の段階では、このナイフがやっと作れるようになったっていうところ



ほむら「もっとも、こんな短いナイフじゃ魔女や使い魔の相手なんてまともにできない

けどね……」

ほむら「刃物の扱いなんてわからないし、元々接近戦は不慣れだし……」

ほむら「だったらスローイングナイフ……なんてしようにも刺さるはずがない」

さやか「そ、そうだったんだ……」

ほむら「私はもう一度、巴さんを師事することになったわ」

マミ「私からすればもう一度も何もって感じだけどね」

ほむら「まぁそれはそうなんですけど」



ゆま「で、でもっ、みんな、ほむらお姉ちゃんに約束したよ」

ゆま「助けてくれた恩返しに、グリーフシードをほむらお姉ちゃんのために取

ってくるって」

ほむら「えぇ……そう言ってくれた時は嬉しかったわ」

ほむら「本当、本当に嬉しかった……」

ほむら「だけど、いつまでも甘えていられないからね」

さやか「そっか……何て言うか、ほむららしいね」

杏子「まぁな。ほむらの事情はマミから話だけは聞いていたが……」

杏子「そうだな……あたしはあんたに教えられるようなものは持ってないけど

、組み手くらいなら協力するよ」

ゆま「じゃ、じゃあ怪我しちゃったらゆまが!」

ほむら「……ありがとう。杏子。ゆまちゃん」

まどか「…………」


まどか「……ほむらちゃん」

ほむら「ん?」

まどか「何で……内緒にしてたの?」

ほむら「…………」

さやか「そうだよ!水くさいよ!」

さやか「ま、まぁどっちにしても魔法少女でないしせいぜいカッターナイフし

か持ったことないあたしらには何もできないけど……」

ほむら「べ、別に内緒にしていたつもりはなかったのよ」

ほむら「形だけでも何かしらできるようになってから話したくて……」

杏子「よくわからんが拘りがあるんだな。まぁそこもほむららしい」

まどか「で、でも……!」

マミ「…………」


マミ「ナイフと出すって言って卵出してきた時はどうしようかと思ったわ」

まどか「へ!?た、卵!?」

さやか「え、えぇー……」

マミ「えぇ。Sサイズ」

さやか「胸の大きさに比例してるんですか?」

ほむら「は?」

さやか「ごめん」

マミ「ちなみにこのクッキーに使った卵は暁美さんが産んだものよ」

まどか「う、産ん……!?」

ほむら「ま、間違ってはいないかもしれませんけど何か嫌ですその言い方!」

さやか「あ、あの……それって、大丈夫なんですか?その、食品衛生法?」

マミ「私が紅茶を出すのと似たようなものよ」


杏子「何であっても加熱すれば大丈夫だよ」

さやか「加熱はそんな万能じゃないよ」

杏子「むしろそんじょそこらの安い卵よりも美味いと思う」

まどか「そ、そうなの?」

杏子「おう。今朝も食った」

ゆま「じゃああの目玉焼き……ほむらお姉ちゃんのだったんだ……」

ゆま「ほむエッグ美味しかった」

杏子「あぁ……黄身が濃厚っていうの?」

マミ「そうなの。しかもお箸で黄身が掴めちゃう」

まどか「す、すごい!」

ほむら「そ、それ程でもないわ」

さやか「わからない……今の会話のどこに照れる要素があるのか、あたしにはわからない……」


まどか(ほむらちゃんの卵……)

まどか「……た、食べてみたいかも」

さやか「まどか!?」

まどか「クッキーも美味しいけど、卵焼きとかで……」

まどか(ほむらちゃんの身体から出てきたものを食べる……)

まどか(な、何だか、ちょっとドキドキする響きだねって思ってしまうのでした)

ほむら「え、えぇ……勿論あげるわ。後でつくってあげる」

まどか「わぁい」

杏子「産むじゃないの?」

ほむら「……『つくる』のよ。意地でも」

ゆま「拘りだね」

さやか「拘りとはちょっと違うんじゃない?」

マミ「あ、そうそう。拘りと言えば――」



――日も傾いて、久しぶりのお茶会はお開きになりました。


楽しい時間はあっという間です。もっと、こういう時が続けばいいのになぁ…

…。

ちなみにほむらちゃん印の卵……通称ほむエッグ。お土産に貰っちゃいました



流石にほむらちゃんの身体から出てきたものだとは言えないので、

買い過ぎちゃったからお裾分けに貰ったという名目で……。

差しあたりほむエッグのハムエッグを作ってもらおうかなって。

目玉焼きは半熟か?固焼きか?どっちでもいいと思いますが、

パパのその時の気分に委ねることにします。

それにしても、ほむエッグ生産の瞬間を見せてもらいましたが……

ほむらちゃんの手から卵が淡い紫色の光を帯びながらコロコロ転がってくる光

景はシュールでした。

また明日もマミさん宅に集合です。

今、わたしとほむらちゃんは二人、肩を並べて、少しだけの同じ帰路です。


まどか「今日は楽しかったね」

ほむら「えぇ」

まどか「みんな元気そうでよかった」

ほむら「そうね。本当に」

まどか「……何だか、名残惜しいな」

ほむら「あら、話し足りなかったの?」

まどか「だって、久しぶりで嬉しくって」

ほむら「ふふ、そうね」

ほむら「でも、明日また話せばいいじゃない」

まどか「それはそうなんだけど……」


ほむら「まぁ……そうね。私で良かったら話相手になるわ」

まどか「いいの?」

ほむら「えぇ」

まどか「えへへ、よかった。ちょっと期待してたんだ」

まどか「ほむらちゃんならそう言ってくれるかなって」

ほむら「ふふ、そう?ご名答」

ほむら「でも程々にね。休みだからって夜更かしはよくないから」

まどか「うん。大丈夫だよ」

ほむら「……と、名残惜しいけどまどか。ここまでね」

まどか「あぁ……ホントだ」


まどか「時間が経つのって早いなぁ……」

ほむら「楽しいとあっという間ね」

まどか「本当そう思うよ」

ほむら「さて……と」

ほむら「それじゃあね。まどか。私はこっちだから」

まどか「うん。バイバイ」

まどか「メールするねっ」

ほむら「えぇ、待ってるわ」

まどか「それとまた明日っ!」

ほむら「えぇ、またね」


ほむら「……ふふ」

ほむら「明日のお茶会もそうだけど……まどかとのクッキー作り」

ほむら「楽しみだな……」

ほむら「はぁ……本当、楽しかった」

ほむら「これが……ずっと求めていた時間」

ほむら「あの日を越えて、渇望していた日常なんだな……」

ほむら「そう思うと……本当に、心地良い気分」

ほむら「こんな日々がずっと続けばいいなぁ」



「……アイツだな」

「そうですね」


「えっと、ターゲットの写真は……あ、あれ?」

「なんと、写真はあなたの服の内ポケットに……」

「……ひ、人のうっかりを勝手に自分の忍法にするな。っていうか忍法でもね

ぇ」

「にん♪」

「……よし。暁美ほむら。見間違いはない。本当に来たな」

「結構待ちましたね」

「変装してる可能性は?」

「見たところないです」

「お前が言うなら大丈夫だ」

「では早速行きましょうか」

「……いや、待ってくれ」



「どうしました?」

「少し様子を見てからにしたい」

「様子、ですか」

「あぁ……念のためな」

「んー……」

「別に構わんだろう」

「まぁ、そうですね。私も少し見てみたいですし」

「よし、意見が一致したな」

「でもあまり時間はかけられませんよ?明日には『来て』もらわないといけませんから」

「何、明日なら間に合うだろ」

今回はここまで。卵を作る能力に別に深い理由はない。卵かけご飯が食べたい

ちょっとしたトラブルがありまして、めちゃくちゃ遅れて申し訳ない。
落ち着いてから新しくスレを建て直すことも検討したけど、まぁそのままやってこうかと
また次も時間かかるとは思うけど……気長にお付き合いいただければ幸いなのです

名前が途中で「新鯖~」に変わっちゃったし、ついでというかいっそのことというか、
名前をトリップにしてみた。他意はないです


本日は、昨日に引き続きいい天気です。

あ、でも雲一つないってことではないです。

鮮やかな青空に少しギャップを感じる灰色の雲が浮かんでます。予報では雨は降らないそうですが……。

昨夜はほむらちゃんと文章でお話をしました。

お菓子作りのこと、学校のこと、みんなのこと、

ニュースのこと、勉強のこと……他愛ないお話です。

電話だとママに長電話だと怒られるしメールもお金かかるので、

チャットのアドレスを送信して、そこでお話をしましたのです。

楽しかったです。

思えばチャットなんて随分久しぶりに聞いた気が……


昨夜のチャット会では話題に挙げませんでしたが、

ほむらちゃんが新しい魔法を会得しようと頑張っているっていう話を昨日のお茶会で聞いて……

わたしも手伝いたいなと、とても強く思いました。

ナイフの使い方とか、武器の知識なんて全くないので……その辺りわたしでは踏み込めない領域です。

だから、どうにかこう……例えば特訓中にお茶を差し入れするとか……

そういう面で協力できたら……支えてあげたいなって思う今日この頃なのでした。

さて、本日もマミさんの家でお茶会なのです。

チャット会とお茶会って響きが似てますね。おチャット。


まどか「……あ!」

まどか「ほむらちゃーん!」


ほむら「あら、まどか。おはよう」

まどか「うん、おはよう」

まどか「一緒に行こっ」

ほむら「えぇ、勿論」

まどか「えへへ」


テレビの占いは最低でしたが、今日は運の巡り合わせはいいかもです。

マミさんの家に行く途中にほむらちゃんとバッタリ出会えました。

行き先は同じだもんで別に待ち合わせしていないのに……

フィーリングってヤツですかね。それって嬉しいなって思います。

今日もほむらちゃんは指を通してサラサラしたくなる奇麗な髪を揺らしてます。

キューティクル羨ましいです。毎朝お手入れしてるんだろうなぁ。大変そー。

……髪?


まどか「髪……」

ほむら「かみ?」

まどか「ねぇほむらちゃん、シャンプーかリンス変えた?」

ほむら「え?どうして?」

まどか「ううん、何となく」

ほむら「…………」

ほむら「まぁ、変えたと言えば変えたわね」

まどか「あ、そうだったの?」

ほむら「小袋入りのシャンプー。新製品のお試し用だとか何とか」

まどか「ポスティングサンプリングってヤツ?」


ほむら「そうね。サンプルの一回きりだけど……髪質変わった?」

ほむら「自分では気付かなかったけど」

まどか「髪のことあんまり詳しくないけど……いつも通りだよ」

ほむら「それなら別にいいのだけれど……」

ほむら「……でも、何だか嬉しい」

まどか「嬉しい?」

ほむら「だって、聞いてきたということはあなたは私のほんの些細な変化に気付いてくれたということ」

ほむら「それって、私のことをよく知ってくれている、見ていてくれているってことじゃない?」

まどか「そ、そういうものなのかな?」

ほむら「私はそう思うし、嬉しいと思ったわ」


まどか「本当にただ何となく聞いてみただけだよ?」

まどか「だから変化に気付いたのかと言われると……」

ほむら「それでも嬉しいの」

まどか「う、うーん……」

ほむら「…………」

ほむら「ところで、それ、新しいのじゃない?」

まどか「え?」

ほむら「それ。リボンのことよ」

まどか「え、あ、う、うん……そうだけど……一応」

まどか「き、気付いたの?」


まどか「だ、だってこれ……」

まどか「同じ色……というより、お気に入りだからもう一セットって買った……」

まどか「予備って言うか……同じものだよ?それなのに?」

ほむら「えぇ、何となく」

まどか「そ、そんなことに気付くなんて……」

ほむら「一歩間違えたらドン引きなレベル?」

まどか「…………」

ほむら「……手遅れ?」

まどか「……嬉しい」

ほむら「ね?」


まどか「えへへ……」

ほむら「ふふ」

まどか「違うリボンだったら『似合ってる?』なんて聞けたんだけどな」

ほむら「その前に気付いて『似合ってるわ』って言ってやるわ」

まどか「あはは、ほむらちゃんには敵わないや……何色が似合うかな?」

ほむら「そうね……私には赤いリボン以外のイメージがないから何とも……」


ほむらちゃんのような子が友達であることを誇りに思い、

ほむらちゃんのおかげで自分に自信を持てるようになった一方……

わたしじゃ全然釣り合わないよねっていうちょっとした劣等感を抱く時があります。

別に特別気にしてはいないのですが……ほむらちゃんに勝る要素が欲しいなと、わたしはたまに思うのです。

そんな感じのほのぼの~と会話をしていたら、あっという間にマミさんのお家につきました。


まどか「もうついちゃった」

ほむら「そうね」

まどか「ちょっと早かったかな?」

ほむら「大丈夫よ。巴さんが寝坊でもしてない限りは」

まどか「そうだね」


ほむらちゃんは呼び鈴を押しました。ピンポーン。

とたとたとドアの向こうから足音が聞こえます。

十中八九、この足音はゆまちゃんです。

取りあえず念のため、タックルには警戒しておきましょう。

わたしとほむらちゃん。どっちに来るかな?


ゆま「いらっしゃーい!」

ほむら「あっ」

まどか「ゔっ」


……わたしでした。

ゆまちゃんはドアを開けてわたしと目が合った途端、

きらりと目を光らせて狙いを定め、ぴょーんっ。

……とジャンプしてわたしのお腹にダイブしました。

ほむらちゃんはわたしが勢いで後ろに倒れないようにと、さっと背中に腕を伸ばしてくれていました。

でも大丈夫。覚悟はしてたのでジャストタイミングで踏ん張りました。変な声は出ましたが。

ほむらちゃんは、本当になまら優しい。


ほむら「……大丈夫?」

まどか「う、うん……」

ゆま「……あ」

ゆま「まどかお姉ちゃん……ごめんなさい。またやっちゃった」

まどか「だ、大丈夫だよ。ゆまちゃん」

ほむら「今日も元気ね。ゆまちゃん」

ゆま「…………」

ほむら「……?どうしたの?」

ゆま「……あ、ううん」

ゆま「……ほむらお姉ちゃん、髪切った?」

ほむら「え?切ってないけど……」


おやおや、どうやらゆまちゃんもほむらちゃんの微妙な変化に気付いたようです。

小さな変化に気付いてくれるのって、女の子にとって嬉しいものなのです。

ゆまちゃんは首を傾げてます。ゆまちゃんも何が変わったのかよくわかってないんだ。


ゆま「んー?」

まどか「ほむらちゃん、シャンプー変えてみたんだって」

ゆま「シャンプー?」

ほむら「そんなに雰囲気変わって見えるものかしら……」

ゆま「うーん……まぁ、いっか」

ゆま「あがってー。マミお姉ちゃーん!」


ゆまちゃんはサンダルを雑に脱ぎ捨てて小走りで中に戻りました。

……直しとかなくっちゃね。


マミ「いらっしゃい。二人とも」

さやか「へっへーい!またまどかドンケツゥー」

さやか「しかもほむらと二人で……ひゅー!」

まどか「さやかちゃんったら……」

杏子「夜勤明けのおっさんかお前は」

さやか「そこはせめて女性で表してほしかった」


さやかちゃんも相変わらず元気です。

一方で杏子ちゃんは少し眠そうです。

マミさんのお家は今日も賑やかです。

ゆまちゃんはマミさんにぺったり張り付いてこちらをじーっと見てます。ネコみたいで可愛い。


マミ「さぁ、座って座って」

ほむら「失礼します」

まどか「はぁい」

さやか「まどか、しれっと隣同士」

ほむら「…………」

まどか「だ、だって空いてる場所的にも……」

さやか「動揺しちゃってるぅ~どうですか杏子さん」

杏子「ふゎ……」

さやか「欠伸すんな!」

杏子「くだらねーことを言うからだ」


マミ「さて、全員揃った所で……」

杏子「お菓子を食べよう」

ゆま「ご飯食べたばっかりじゃない」

杏子「食うことで眠気を覚ますのさ」

さやか「それ、余計に眠くならない?」

杏子「食ってみなきゃわからない」

杏子「それに紅茶にはカフェインっつー、何かよくわからん目が覚めるのが入ってる。学校で習ったろ?」

マミ「まぁ……いいけど」

まどか「杏子ちゃん、相変わらずだね」

ほむら「……えぇ、そうね」


マミ「と、いうことで紅茶とお茶菓子」

まどか「わぁい」

杏子「昨日の残りだな」

ゆま「ほむクッキー♪」

さやか「ほむエッグ♪」

ほむら「…………」

まどか「すっかりネタにされちゃったね」

ほむら「……えぇ、困ったものね」

まどか「あ、そうそう。ほむらちゃん」

ほむら「ん、何?」


まどか「ほむらちゃんに貰った卵なんだけど」

ほむら「卵……がどうかした?」

まどか「目玉焼きにして食べたよ」

まどか「あ、大丈夫。ちゃんとパパには説明したから」

ほむら「そう」

まどか「とっても美味しかったよ」

ほむら「気に入ってもらえたようで何より」

さやか「た、食べたんだ……まどか」

さやか「いや……鹿目家」

まどか「食べたよ?」


まどか「パパもこれはいい卵だねって褒めてた」

マミ「鹿目さんのお父さんお墨付きね」

杏子「あたし等の舌に狂いはなかったってわけだ」

ゆま「ほむらお姉ちゃんの卵は世界一ィィィ」

さやか「ふ、ふーん……」

ほむら「そ、そんな褒める程じゃ……」

まどか「えへへ、照れちゃって。かーわいー」

ほむら「か、からかわないで……」


ゆま「かーわいー」

ほむら「も、もう、ゆまちゃんまで……」

さやか「かーわいー」

ほむら「調子に乗らないで」

さやか「この扱いの差よ」

杏子「安定のさやか」

さやか「うーん……そうとまで言われたら欲しくはなるね。クッキーも美味しかったし」

さやか「あたしも卵貰っていいかな?つっても今貰っても持て余すから……」

さやか「冷蔵庫のがなくなりそうになったらお願いしてもいいい?」

ほむら「えぇ、また今度ね」


さやか「と、いうことでほむらのクッキーとマミさんの紅茶。マミほむセットをいただきましょう」

まどか「いただきまぁす」


温め直された昨日のクッキー。

流石に多少のパサつきがあるといいますか、昨日と全く同じというわけにはいきません。

だけども十分「とっても美味しい」の範疇です。

熱い紅茶との相性が本当に良いのです。

一口啜って「ふへぁー」みたいなことを言って顔を綻ばすさやかちゃん。

紅茶に立つ湯気を頑張って吹き飛ばしてる杏子ちゃん。その様子を面白そうに見るマミさん。

クッキーをもぐもぐしながらじーっとほむらちゃんを見るゆまちゃん。……髪が気になるのかな?

平和です。

ああ、平和です。平和です。


杏子「はぁ……うめぇ」

さやか「眠気は覚めた?」

杏子「そうでもない」

さやか「…………」

杏子「むしろ布団にくるまりたくなったぞ」

さやか「言わんこっちゃない」

ゆま「お昼寝にはまだ早いよ」

杏子「寝るのに許可は取るまいよ」

マミ「膝貸すわよ?ひ・ざ・ま・く・ら♪」

杏子「いらん」


杏子「ふわぁ……」

ゆま「キョーコ大丈夫?」

杏子「だいじょーぶだいじょーぶ」

まどか「杏子ちゃん、寝不足?」

杏子「あぁ、まぁな……夜に『出て』きやがってよ」

マミ「そうなのよ。十時くらいだったかしら?まぁ大した相手じゃなかったけど……」

杏子「興奮したっていうには違和感あるが……なかなか寝付けなくなってな」


……魔女が出てきたんだ。

いつ現れるかわからない魔女に、いつすることになるかわからない戦い。

本当に、魔法少女って大変だな……。

……十時頃。確か、ほむらちゃんとチャットしてたっけ。


ほむら「……黒い、アレですか」

杏子「ん?あぁ、どっちかというと赤黒いって感じかな」

ほむら「大変……でしたね」

マミ「ふふ、大丈夫よ。三人もいるんだからあれくらい」

さやか「やっぱり、気にしてるんだね?ほむら」

ほむら「えぇ……どうしても出てくるものだから」

ゆま「大丈夫だいじょーぶ」


ほむらちゃんはしばらく魔法少女として魔女退治はお休みですが……

チャットでは魔女が出たって退席もしなくて、話題にも出なかったです。

なるほど、わたしに気を使ってくれたのかな?


さやか「マミさんとゆまちゃんは平気ですか?」

マミ「えぇ、私は大丈夫だけど……」

ゆま「ゆまも元気ー」

杏子「寝付きのいいヤツは羨ましいね。ふぁ……」

ほむら「冷たいお水でも飲ませたらどうでしょう」

マミ「そうね。それがいいかも」

まどか「あ、わたしが入れてきます」

マミ「そう?ごめんなさい。お願いするわ」

ゆま「氷マシマシね」

杏子「氷って気分じゃないんだがなぁ」

さやか「氷に気分も何もないっしょ」


マミさんちのキッチンはいつも奇麗です。

シンクがピカピカ。食器棚はきっちり整理整頓されていて……。

ピカピカなコップに、冷蔵庫の製氷機からカラカラと氷を入れて、

ミネラルウォーターを注ぐ。透明なコップに浮かぶ四角い氷が奇麗です。

このまま一口いただきたいなっていう思いをグッと抑えて……


「やぁ、まどか」

まどか「あ、キュゥべえ」

まどか「契約はしないよ」

QB「まだ何も言ってないじゃないか」

まどか「冗談だよ。しないのは本気だけど」

QB「やれやれだ」


QB「その水は?」

まどか「杏子ちゃんに飲ませるんだよ」

QB「今日は紅茶じゃないんだね」

まどか「ううん。紅茶だよ」

まどか「眠そうだから眠気覚ましに冷たいお水を」

QB「なるほどね」

まどか「それにしても、ミネラルウォーターを常備してるって何だかマミさんらしい」

まどか「わたしならお水飲もうってなったら水道のお水飲んじゃう」

QB「水道水は安全なものだと認識しているのにこうやってわざわざ買うなんて、僕にはその感覚、よくわからないね」

まどか「こ、紅茶に合うお水があるんだよっ。硬水も軟水も、あるんだよっ」

QB「ふーん、そんなものかな」


QB「しかし、今日も集まっているんだね」

まどか「うん」

QB「昨日も何時間も話して、ワルプルギスの夜以前にも長話をして……」

QB「今日も。同じ人間と同じ行動をして飽きたりしないものなのかい?」

まどか「飽きるだなんてとんでもない!」

QB「そうかい?」

まどか「そうだよ」

まどか「キュゥべえったら、無粋」

QB「そうかな」

まどか「もっと人間のこと勉強した方がいいよ」


QB「昔からしてるよ」

QB「依然、あまり成果を得ているとは言えないけどね」

まどか「時代と一緒に人も変わるんだよ」

まどか「いくらしてもし足りないくらいだよ」

QB「わけがわからないよ」

まどか「キュゥべえが人間のことを理解するには、まずは感情を知らなくちゃね」

QB「感情なんて、邪魔なだけだと思うけどなぁ」

まどか「こんな調子じゃ先は長いね」

QB「ところで、まどか」

まどか「何?」


QB「ほむらは来てないのかい?」

まどか「ほむらちゃん?来てるよ?」

QB「それは気付かなかった。どこにいるんだい?」

まどか「みんなと一緒にお茶してるけど……」

まどか「ほむらちゃんに用?」

QB「用があるというわけではないんだけど……」

QB「少し気になったからね」

まどか「気になった?」

QB「うん」


QB「ところで彼女は誰だい?」


まどか「……ん?」

QB「ん?」

まどか「ごめん、何て言ったの?」

QB「彼女は誰だい?」

まどか「……彼女って?」

QB「君と一緒に来た人物だよ」

まどか「へ?」

QB「うん?」


キュゥべえが、何か言いました。理解ができませんでした。何を言ってるの?

あたかも「あなたの知ってるほむらちゃんは本当にほむらちゃんなのだろうか」と

そんな風に言ってるかのようなことを言いました。

今はそんな哲学なんて語ってる場合じゃないのです。


まどか「……『一緒に来た人』って、誰?」

まどか「わたしは、ほむらちゃんと二人きりだったよ」

QB「うん。だからほむらの姿をしている彼女のことさ」

まどか「ほむらちゃんの……姿?」

QB「ああ、気付いていなかったんだね」

QB「それなら『変装している』という表現がわかりやすいかな」


ますますますます意味がわかりません。

要は「ほむらちゃんって誰?」って言ってるの?

キュゥべえの哲学より一杯のお水の方が大事です。

それとも記憶喪失?キュゥべえが?

一番現実的なのは魔女の口づけとか、そんな仮説ですが……


まどか「あ、あはは……キュゥべえ。いくらほむらちゃんに嫌われてるからって、そんな嫌味……」

QB「……?」

まどか「ほむらちゃんを、に、偽物扱いだなんて」

QB「そう言われても……」

QB「彼女から魔力の波長は感じないし、僕がほむらじゃないと言った以上、ほむらじゃないよ」

QB「意味のない嘘はつかないよ。僕は」


じゃあ、意味がある嘘?

真っ先にそういう疑念を持つくらい、わたしは混乱しています。

だって「あの人」は間違いなく「ほむらちゃん」です。

変装?声も仕草も体型も何も変わらないのに!


魔力を感じない?魔法少女じゃないからそんなのわかんないよ。

だとしても、その魔力の波長とかそういうのでわかるとしても、

誰かしら気付いてるはずだもん。


QB「むしろ、魔法少女の素質すらないからね」

QB「何だったら彼女の前に僕をつきつけてみたらどうだい?」

QB「僕が見えないはずだからね」

まどか「…………」

まどか「も、もう!キュゥべえったら!」

まどか「わたしが契約しないからって、そんな嫌がらせっ」

まどか「気にしないっ。気にしないんだからっ」


コップを杏子ちゃんのとこにさっさと持ってっちゃおう。

コップは氷と水ですっかり結露ってます。


まどか「お待た……せ」

ほむら「まどか」

マミ「…………」

杏子「…………」

さやか「…………」

ゆま「…………」

まどか「あれ?」


何やら、先程と何か違和感があります。空気が重いのです。

わたしがお水持ってきてる間に何かあったの?


さやか「……まどか」

まどか「あれ?わたしの場所……」

さやか「席替えよ。席替え。合コンじゃないけどさ……座って座って」

まどか「?」

まどか「あ、はい。杏子ちゃん」

杏子「ん?あ、おう……サンキュ」


よくわからないまま、さやかちゃんの隣に座って、向かい側の杏子ちゃんにお水を……

眠そうにしてたからお水を入れてきたんだけど、どうやら目が覚めてしまってるようです。

杏子ちゃんの目がパッチリと……パッチリというより……鋭い?


ほむら「……みんな、どうしたの?」

まどか「そうだよぉ」


杏子「別に……何ともねぇよ」

マミ「えぇ。……ねぇ、暁美さん」

ほむら「はい、何でしょう」

マミ「さっきの続きなんだけど……」


マミさんとほむらちゃんが何やら小さな声で話始めました。

すると、さやかちゃんはわたしの耳元に口を近づいてきて、耳打ちをしてきました。

吐息がこそばゆいです。


さやか「ねぇ、まどか……」

まどか「?」

さやか「あの、何て言うか……その……」


さやか「な、何だかほむらがおかしいんだよ」

まどか「……おかしい?」

さやか「突然ホウ酸がどうこう言ってきてさ……」


ホウ酸?化学兵器か何かの話かな?

……ホウ酸ダンゴ?

……それは、あの……黒いアレが連想されます。

そう言えばほむらちゃんも「黒いアレ」って言ってたね。

その言葉が出た時は、魔女の話をしていたはず。だから関係ない。と、思う。

……わたしは、キュゥべえの言葉が頭の中で巡っていて、

少し、お腹が痛くなりました。


さやか「マミさんも、杏子もゆまちゃんも……あんたがいなくなった途端に何だかほむらを意識し始めたっていうか……」

さやか「マミさんが急に変わりばえしないから席替えしようって言って……」

さやか「ゆまちゃんもあんたらが来てからマミさんに張り付きっぱなしだし……」


わたしはキュゥべえの少し前のセリフを思い出しました。

『彼女からは魔力は感じないし、僕がほむらじゃないと言った以上、ほむらじゃないよ』


まどか「…………」

さやか「……まどか?」

まどか「……そ、そんなはず」

まどか「そんなはず……ないよ」

さやか「え?あんた何か知ってんの?」

まどか「…………」


マミ「ホウ酸はよく聞くけど、重曹もいいのね」

ほむら「えぇ、重曹なら掃除にも使えますし安価です」

マミ「なるほど……それに安全なのよね」

ほむら「はい」

杏子「そういう商品を買えばいいだろ買えば」

マミ「まぁそれはそうなんだけどね」

杏子「それにほむらなら平気そうに見えるけど」

ほむら「私だって嫌よ」

杏子「またまたー」

ほむら「私はあなたを何だと思っているのよ……」


さやか「……ど、どうしたってのさ?まどか」

まどか「…………」

さやか「え、もしかしてこの状況理解できてないのあたしだけ?え?」

まどか「さ、さやかちゃん……」

ほむら「……あなた達」

まどか「え?」

さやか「へ?」

ほむら「さっきから何をこそこそ話しているのかしら?」

さやか「え?あ、いやぁ、別に……」

まどか「…………」


さやか「ほむらの敬語が未だに気色悪ぃぜ!って話をしてただけだよ!」

ほむら「余計なお世話よ」

まどか「あ、あはは……」

ゆま「…………」


マミさんの背中越しにほむらちゃんを見るゆまちゃん。

ほむらちゃんを見るゆまちゃんの目……。

わたしは、同じような目を見たことがある。

あれは……いつだったかな。

そう……ある危機に直面した時の、怯えと警戒の目。


まどか『……杏子ちゃん』

杏子『……まどか?』

杏子『……もしかしてあんた』

まどか『……キュゥべえとキッチンで会って……それで』


脳内で杏子ちゃんに話しかけると、同じく脳内に返事が返ってきます。

魔法少女はテレパシーが使えます。便利です。

わたしは魔法少女ではありませんが、キュゥべえが無線LANみたいな働きをして、わたしでも思念を送受信できます。

杏子ちゃんはほむらちゃんに軽口を叩きながら脳内でわたしに応対します。器用なものです。


杏子『そうか……キュゥべえは何て言ってた?』

まどか『……ほむらちゃんは、ほむらちゃんじゃないって』


杏子『そうか……その証言だけで十分だ』

まどか『ま、待って……や、やっぱり、信じられないよ』

まどか『ほむらちゃんはほむらちゃんだよ』

杏子『……みんな、聞いてくれ。テレパシーで』

マミ『佐倉さん?』

ゆま『どうしたの?』

杏子『今からキュゥべえをここに呼ぶ』

杏子『だが、誰もキュゥべえに目を向けるな。無視しろ』

さやか『え?何で?』

杏子『何でもだ。おい、キュゥべえ』


マミ「……それで、暁美さん」

ほむら「あ、はい」

マミ「結局売られてるのが一番だってのはわかったけど……」

マミ「あなたの家では何を使っているの?」

ほむら「私の家では……」

QB「呼んだかい?杏子」

ほむら「すみません、商品名はちょっと忘れちゃって……」

マミ「……そう」

杏子「まぁテキトーなのでいいじゃんか」

QB「杏子?何か聞きたいことでもあるのかい?」


テーブルの上にぴょんと飛び乗り、杏子ちゃんを見て話しかけるキュゥべえ。

ほむらちゃんは「色々試してみるのもいいかと」って言いながら、

キュゥべえの尻尾に触れちゃいそうな距離の紅茶を手に取って、一口。

テーブルの上のキュゥべえにはチラリとも目を向けずに。

『このほむらちゃんにはキュゥべえが見えていない』

声も聞こえていない。そういう風に見えました。

……疑惑が確信になりました。

疑惑、というより、信じたくないっていう思いのが強かったです。

『このほむらちゃんは、ほむらちゃんじゃない』

ほむらちゃんの仕草、声、見た目をしてるけど……違う。

あの照れた顔も、優しい目も、可愛い声も、

キュゥべえ曰く『変装』なんだ。


まどか「…………」

杏子「…………」

ほむら「はぁ、美味しい……。この紅茶、何て名前でしたっけ」

さやか「…………」

ゆま「…………」

マミ「…………」

ほむら「……巴さん?」

ほむら「…………」

マミ「…………ねぇ、暁美さん」

ほむら「はい?」


マミ「トッカ!」

ほむら「なッ!?」


マミさんのリボンが、カーペットから生えてきて、ほむらちゃんを束縛する……

「ほむらちゃん」は一瞬だけ驚いた表情を見せたけど……すぐに真顔になりました。

やっぱりだ……。確信はさっきもしたけど、やっぱり、信じられないって気持ちがあるのです。

だって、ほむらちゃんはクールな性格だけど、焦る時は焦る。

和やかムードでいきなり縛られて、すぐに落ち着ける人じゃないもの。

いや、ほむらちゃんの偽物とか関係なくこの落ち着きはただ者じゃありませんが。

全員その場に立って、縛られたほむらちゃんを見下ろしてます。


ほむら「……どういうことですか。巴さん」

マミ「……しらばっくれないで」


杏子「ふざけやがって……!」

さやか「きゅ、キュゥべえがいなければわからなかったなんて……」

ゆま「で、でも……それって、このお姉ちゃん、魔法少女でないってことだよね……」

マミ「あなたは何者なの!?」

まどか「ほむらちゃんのフリは……もう、やめて下さい」

ほむら「きゅうべえ?」

ほむら「……ハァ」

ほむら「流石にごり押しは無理ね……諦めざるを得ないわ」

ほむら「仕方ない……そうよ」

ほむら「私は『偽物』よ」


さやか「偽物……!」

マミ「……!」

杏子「尻尾を出したか……」

まどか「……!」

QB「…………」


耳を疑う言葉を、ほむらちゃんの声で聞きました。

その声も、話し方も、仕草も、溜め息の仕方も、照れた顔も、

優しい目も、髪をファサーってする癖もほむらちゃんそのものでした。

だけど……「彼女」はいつも見る笑顔で偽物だと言いました。

正直、その偽物って言葉が嘘だとさえ思えてしまいます。


でも、キュゥべえはそういう意味のない嘘をつかないから、偽物発言は本当なんです。

何よりキュゥべえが見えてないみたいなので魔法少女ではないんです。ということは少なくともほむらちゃんじゃないんです。

目の前にいるのは、本当に、本当に本当に偽物なんだ……。

チャットの内容も、みんなへの態度も、ほむらちゃんが知りうる多くのことをわかってました。

だから俄に信じられない……むしろ、認めたくないのです。

優しくて可愛らしい笑顔のほむらちゃん。

わたしのリボンに気付いてくれたほむらちゃん。

ゆまちゃんに飛びつかれた時咄嗟に手を伸ばしてくれたほむらちゃん。

でも、それはほむらちゃんじゃない誰かだったんだ……今更ながら、背筋がゾクリとします。

いつものノリで抱きついたりしなくてよかった。


ほむら「……こほん」

ほむら「私の変装に気付くなんて……予想外でした」

ゆま「えっ!?」

まどか「こ、声が変わった……!?」


「ほむらちゃんの偽者」は一つ咳払いをして、

途端聞きなれない声を発しました。

声の高さもトーンも違う。ゆったりとした声。

……だけど、ほむらちゃんの笑顔です。

マミさんのリボンで縛られていながらも、

ほむらちゃんの笑顔とその話し方のせいで、力が抜けてしまいそうです。

緊張感が出ない。


ほむら「忍法、縄抜けの術~」

まどか「!?」


突然、マミさんのリボンがパサパサと落ちました。

そして「偽者さん」はスクッと立ち上がり、両手をあげてジャジャ~ンってしてました。

「偽者さん」の顔に集中していたからか、全くそんな感じの動きはわかりませんでした。

キュゥべえが見えないということは魔法少女でないのは間違いないのですが……

マミさんの束縛の魔法を抜け出すなんて、増して座った状態で……魔法としか思えない。


さやか「え!?」

マミ「なっ……わ、私のリボン……!?」

杏子「い、今……何が……」

ほむら「私、『呉識あぎり』といいます。よろしくね~」


さやか「ご、ごしき……」

まどか「あぎり……さん?」

ほむら「はい~」

ほむら「バレている以上、いつまでも変装していても仕方ないですね」

マミ「変装……ですって?」

ほむら「これが私の、本当の姿だぁ」バリッ

杏子「な、何を……!?」

ゆま「顔が!顔が!」


軽快な音と同時に、ほむらちゃんの笑顔がバラバラに……

あの顔のマスクをバリバリーってやるアレです!

漫画とかでしか見たことない!マスクとは言え気分が悪いものです!


ほむらちゃんの笑顔から出てきたのは、声にピッタリなゆる~い笑顔です。

これが「呉識あぎりさん」です。美人さんです。

紫がかった瞳と長い黒髪がほむらちゃんとちょっと印象が被る。


あぎり「どうも~」

マミ「何で……わ、私のリボンを……!?ま、魔法……!?」

あぎり「いやぁ、ただの忍術ですがな」

さやか「に、忍術ゥ……?」

まどか「あ、あなたは……あなたは一体……!?」

あぎり「忍者です」

ゆま「アイエエ!?」

杏子「…………」


忍者さんだそうです。

忍者さんなんだそうです。


あぎり「にん♪」

さやか「う、嘘……おっぱいが膨らんでる」

まどか「…………」


サラシでも巻いてたのでしょうか。胸もそうなんですが……背格好もです。

顔の変装マスクを破いただけにしては、身長も明らかに伸びてます。

髪だって、あぎりさんも長いですが、ほむらちゃんだって長かった。

でもほむらちゃんの髪には二手に分かれてるっていう癖がある。

あの髪もカツラだったということです。

マスクをバリーってするだけで、本物の髪……物理的におかしいのです。


あぎり「はい、これあげます」スッ

マミ「しゅ、手裏剣?」


あぎりさんはいつの間に、どこから取り出したのか、手裏剣を持っていました。

そしてそれを杏子ちゃんに差し出します。杏子ちゃんは恐る恐る手にとります。

「武器を出したことに全然気付けなかった。ちくしょう」

杏子ちゃんの強張った顔がそう語っているように思えました。


杏子「って名刺だこれ!?いいのかこれ!」

あぎり「現代忍者の名刺は手裏剣。これ常識」

まどか「何だ名刺かぁ……びっくりした」

さやか「いやまどかそのリアクションはおかしい」


……そ、そうだった。「何だ名刺か」なんて言ってる場合じゃありません!

ほむらちゃんに変装していたということは、今この場にほむらちゃんがいないということです。

それはとても不安になるべきシチュエーションです。本当ならわたしはあぎりさんに怯えるのが普通なのです。

でも何故だか、この人を見てると気が緩むというかなんというか……色んな意味で雰囲気が違うんです。

例えるならお化け屋敷にゆるキャラが闊歩するような、

しれーっと魔女の結界にいてお弁当を食べていそうな……雰囲気が緩いんです。

気を抜くべき空気じゃないのに、気が抜けちゃうし、わたしもまた緩いことを考えちゃって、言ってしまいそうです。

注意なのです。


杏子「ってあんたの肩書きなんてどうでもいい!あんたは結局何なんだ!」

杏子「ほむらはどうなった!あいつは今どこにいる!」サクッ

杏子「いってぇ!手を切った!刃物を手渡すなんてどうかしてるぞ!」

あぎり「まぁまぁ、落ち着いてください」

さやか「ほんとだよ」


まどか「え、えっと……取りあえず……ほむらちゃんはどこなんですか?」

あぎり「理由があって私の仲間と一緒にいます。今日も側にいると思います」

ゆま「な、仲間……!?」

あぎり「本当は昨日、土曜日に伺いたかったんですが少々立て込んでしまいまして、日曜――昨日の夕方頃、誘拐させていただきました」

マミ「あ、あのお茶会の後に……!?」

あぎり「できれば私も今日学校行きたかったんですが、お休みして今日、参りました」

さやか「が、学生だったんだ……」

あぎり「それで行方不明だとかで騒ぎにならないよう……」

あぎり「私が今みたいに変わり身の術で身代わりさせてもらいまして」

あぎり「近い内、見滝原を離れるという設定を作りに来たんです」


マミ「見滝原を……離れる」

マミ「そうなると……下手をすれば、私達は暁美さんが攫われたことを、ただの帰省だと認識していた……と」

あぎり「そうですね。私も正直、見破られるとは思ってませんでした」

あぎり「でももしバレてもあなた達になら話しても問題なさそうですね。魔法少女だそうですし」

杏子(魔法少女のことを知ってはいるのか……)

まどか「あ、あのっ、あぎりさん!」

あぎり「はい」

まどか「それで、ほむらちゃんは、どうして……連れてかれちゃったんですか」

あぎり「少々トラブルに巻き込まれてしまいましてね。それが解決するまで……」

さやか「トラブル……って……?」

あぎり「それはお話できません」


ゆま「そ、それで、ほむらお姉ちゃんは大丈夫なの!?」

あぎり「はい。無事は保証しますよ」

あぎり「とても元気です」

杏子「……言葉だけなら何とでも言える」

あぎり「信用できませんか」

ゆま「へ、変装したってことはゆま達を騙そうとしたってことだもん!」

杏子「人を騙してまででっちあげる必要があること……なんだよな」

マミ「それなら……信用できないわね。鹿目さんを安心させたいところだけど……」

まどか「…………」

あぎり「なるほど」

あぎり「騙すという言い方こそ悪いけど、それも心配させないためでもあったんですよ」


あぎり「うーん。裏目ですね」

あぎり「……あ」ポン

あぎり「チャットはちゃんとできてたじゃないですか」

マミ「チャット?」

まどか「……た、確かに昨日ほむらちゃんにチャットしたけど……」

さやか「い、違和感とかなかった?」

まどか「うん……普段するメールとかとあんまり変わらなかった……」

マミ「で、でも所詮文章……簡単に成り済ましはできるわ」

あぎり「ちゃんと本人に打たせたんですよ?」

杏子「そんなもん信用できねぇ」


あぎり「そうは言われてもこれ以上証拠とかありませんし」

さやか「よ、よくわかんないけどほむらを返して!」

あぎり「それはできません。ごめんね」

杏子「こうなったら……とっ捕まえて尋問してやる。マミ、ゆま」

マミ「……勢い余って私の家壊さないでね」

ゆま「ふ、二人とも下がっててね」

さやか「う、うん……」ダジ

まどか「…………」

あぎり「これ以上ここにいても仕方がないので、すみませんが失礼しますね」スタスタ


さやか「へ、変身したのにノーリアクション!?」

まどか「ほむらちゃんで一度見ているとか……そういうこと?」

杏子「お、おい!普通に歩いてんじゃないぞ!」

あぎり「そう言われても」

杏子「おい!待てって言ってんだ!」ガシッ

スポンッ

杏子「あ?」

ゆま「手が取れた!?」

マミ「つ、作り物?」

あぎり「あ、ごめんなさい。それ、もしもの時用の忍法用小道具」

あぎり「でも煙幕って忍者っぽくない?」


杏子「は?」

あぎり「爆弾よりはマシでしょ~」

まどか「……!」

マミ「さ、佐倉さん!手を離して!」

杏子「え?」

ブシュゥゥゥ!

杏子「うわっぷ!」

さやか「け、煙が!?」

あぎり「天然由来の香り付きです」

まどか「フ、フローラル!」


杏子「えほっ!おえほっ!け、煙思い切り吸い込んで……!」

ゆま「キョーコ!どこ!どこ!?」オロオロ

さやか「落ち着いて!その場から動いちゃダメだ!どっかぶつけて壊しちゃったらマズイ!」

マミ「あああ……わ、私の家がぁ……」

まどか「え、煙幕……!」

マミ「と、取りあえず今は呉識さんとやらを何とかしないと……!」

まどか「で、でも、本当に何も見えない……!」

ゆま(う、うぅ……ほむらお姉ちゃんをラチカンキンした人はどこ……!?)

ゆま(ほむらお姉ちゃんを守るんだ!助けるんだっ!捕まえなきゃっ!)


マミ(このままでは逃げられる……せめて暁美さんの居場所を吐かせなければ!)

杏子『マ、マミ!リボンで出入り口を塞げ!ヤツを逃がすな!』

マミ『今やる所よ!』シュル

ゆま「こ、こうなったら当てずっぽうで……」

ゆま「えい!」ギュッ

ゆま「手応え!やった!捕まえた!」

杏子「ゆ、ゆまか!?それはあたしだ!」

ゆま「あ、ごめん」

杏子(確かに妙なマネさせないよう引っ捕らえておくべきだな)

杏子(マミのリボンで逃げ場は防いだからから……)



杏子「こなくそ!」ガシッ

杏子「よし!手応えあった!」

さやか「ちょ!杏子!?」

杏子「さやかか!?」

さやか「ど、どこ触ってんのよ!」

杏子「あ?くそ!紛らわしい!」

さやか「間違えといて何よその言い草!このスケベ!」

杏子「どこ触ったんだあたしは!?」

さやか(……あ、あたしもあぎりさんをキャッチした方がいい空気?)


さやか「あ、あたしだっていつまでもほむらに助けられてばかりじゃない!」

さやか「ビギナーズラックを期待して……そこだ!」バッ

マミ「きゃああ!?い、今の美樹さん!?」

さやか「あ、マミさんだ」

まどか(て、てんやわんやだ……)

あぎり「皆さんの心配に思う気持ちはわかりますが、あまり詮索はしないでほしいんです」

あぎり「巻き込みたくないというには、私達もそうですし……ご本人きってのお願いでもありますので」


ほむらちゃんが……わたし達を巻き込ませないように……?

どういうこと?ほむらちゃんの身に一体何が起こってるっていうの?

説明して欲しい。して欲しいけど……。


杏子(視覚がダメなら聴覚だ……)

杏子(音のする方向……)ジリジリ

あぎり「皆さんも魔法少女のことが公になるのは困ると思います」

あぎり「なので大事にはしないよう、重ねてお願いしますね」

まどか「え、えーっと……」

まどか「あ、あなたはどうして魔法少女のことを……!」

杏子「そこだ!煙が消えてからじっくりと尋問してやる!」バッ

まどか「きょ、杏子ちゃん!?」

杏子「……あれ?」

杏子「え?あれ?」


杏子ちゃんの抜けた声がします。どうしたの?


杏子「こ、ここから声がしたのに……いない……?」

さやか「いない?何を言って……」

ゆま「……あ!」


……煙が薄くなってきて、みんなの姿が見えるようになりました。

さやかちゃん、ゆまちゃん、マミさん、杏子ちゃん……

一番背の高い影はもうなかったです。

その代わりに「変わり身の術」って書かれた紙が貼られた何故か竹筒の形をしたスピーカーがテーブルに置かれていました。

これが現代忍術……!既にいなかった!


さやか「……スピーカー」

マミ「リボンを張った時にはもういなかったのね……」

まどか「こうなることを予測して、こんなものを……!?」

ゆま「……そ、そういうことになるね」

杏子「くそ……逃がしちまったか……情けねぇ」

さやか「そんな……」

マミ「もっと早くリボンを出せていれば……あるいは……!」

まどか「…………」


忍者を語るあぎりさん。

きっと、マミさんのリボンをもっと早く使っても、

杏子ちゃんの幻影やゆまちゃんの頑張りをもってしても、

煙幕を張られた時点でわたし達じゃどうやっても捕まえることなんてできなかったんじゃないか……

と、わたしは思いました。強キャラの臭いがしましたのです。


まどか「ほむらちゃん……」

まどか「ほむらちゃん……!」


そんな……そんなことって。

ほむらちゃんは、たくさん辛い思いをして、たくさん苦労して、

やっと未来を歩み始めたというのに……

ついに日常を取り戻せたって言ってたのに……

それなのに、ほむらちゃん。攫われちゃうなんて……

きっと、怖い思いをしているに違いありません。

助けてって思ってるに違いありません。

だけど……だけど、わたしは無力です……。


「皆さんの心配に思う気持ちはわかりますが、あまり詮索はしないでほしいんです」

「巻き込みたくないというには、私達もそうですし……ご本人きってのお願いでもありますので」

わたしはあぎりさんの言葉を思い出しました。

魔法少女のことを世間に知らせるわけにはいかない、という意味で大事にできないというものごもっともなのです。

そして、ほむらちゃんは巻き込ませたくない、ということです。

嘘である可能性も否めないものですが、ほむらちゃんの言いそうなことです。

ほむらちゃんは、そういう優しさを持っています。

だけど、わたしには、その優しさが辛い。

巻き込ませたくないという理由で自分が辛い思いをする。

そういう優しさは……とても心苦しい。


マミ「……鹿目さん」

まどか「うぅ……マミさん」


あぎりさんの雰囲気に飲まれて割りとのん気してましたが、

帰って、改めてほむらちゃんのいない状況を飲んで……涙が滲んでました。

マミさんはわたしの肩に手をおいて「暁美さんなら大丈夫よ」って励ましてくれます。


杏子「結局、ほむらの手がかりはゼロでスタート……か」

マミ「……どうしたものかしら」

まどか「…………」

さやか「まどか……」

ゆま「え、えっと……」


ゆま「そ、そうだ!ほむらお姉ちゃんに電話を……!」

さやか「と、とりあえずしてみよう!……電話番号なんだっけ?」

マミ「……無駄だと思うわ」


キュゥべえがいなければ、少なくともわたしは変装に気付かなかった。

それはつまり、声でも本物かどうかわからないってこと……。

「しばらく東京に帰るわ」って言われたらみんな「へぇそうなの」ってあっさり信じて寂しがったことでしょう。

あぎりさんは、魔法少女ではないみたいだけど魔法少女のことは知ってるみたいだった。

でもその細かいことはわかってなかったし、あぎりさんの仲間に魔法少女とかがいる可能性も否めません。

だから……どっち道、要するにカマをかけるっていうこともできないでしょうし……。


まどか「そう、ですね……」

杏子「普通に考えたら取り上げられてるだろうな」


さやか「…………」

さやか「あの人は……完璧だった」

さやか「あたしに対する態度はチト気に入らな……いや、それを含めても完全にほむらだった」

杏子「あぁ……」


わたしにとって、一番嫌だったのは……ほむらちゃんの偽物に気付けなかったことじゃなく、

「ほむらちゃんが誘拐された」ということが実感と共に理解できたはずなのに、

あぎりさんがあぎりさんだったからか、どうにもイマイチ、緊張感が持てない現状です。

ほむらちゃんが無事だという言葉を、保証も根拠もなしに信じているのです。

もちろん無事でいて欲しいし、信じたいことだけど、

言ってしまえば誘拐犯に、ほむらちゃんの身を預けて安心なんて、普通できないというものなのです。

なのに……初対面のあの人なら大丈夫って、そんな気がしてしまうんです。


QB「ほむらを取り戻す方法ならあるよ」

杏子「あ、キュゥべえいたのか」

QB「酷いなぁ、君が呼んだんじゃないか」

杏子「あ、そういえばそうだった」

さやか「急に喋ったと思ったら、どうせあれでしょ?」

QB「けいや……」

さやか「はいはい」

QB「せめて最後まで言わせてくれないかな」

ゆま「仕方ないね。キュゥべえだもん」


マミ「……しかし、参ったわね」

さやか「えぇ……ほむらが誘拐されるなんて……」

杏子「手がかりは何にもなしだ」

マミ「あ、えぇ……そのこともそうなんだけど……」

マミ「実は今日、みんなで話しておきたいことがあったから……」

まどか「話しておきたいこと?」

マミ「えぇ、今度、ワルプルギスの夜の祝勝会をしましょうって」

杏子「祝勝会だぁ?」

ゆま「パーティだね」

マミ「思いついたのは昨日のよるだけど……まぁ、そんな状況じゃなくなったけどね」


マミ「その祝勝会をやろうって話をしたかったのよ」

マミ「お菓子作ったり……『あの二人』も呼んで……」

さやか「……あの二人、ですか」

杏子「……あいつらか。そういやワルプルギスの夜以来会ってねぇな」

ゆま「…………」


……「あの二人」

ここにいるみんな、あの二人に良い印象は持っていません。

特に、ほむらちゃんは……。

……正直なところ、わたしもあの二人が苦手です。

でも……あの二人の協力が「また」必要なんだと、

わたしは、思うのであります。

ちょっと怖いけど……近い内に、会う必要がありそうです。


QB「こんな時にパーティの話かい?」

マミ「ゔ……」

杏子「おめーは黙ってろよ」

さやか「だって……あの人見てると何だか緊張感が出ないんだよね」

まどか「さやかちゃんも?」

ゆま「よくわかんなくて怖いけど、優しそうだったよね」

杏子「ほむらの無事って言葉、取りあえずは信用しておくか。安心したい」

マミ「……よかったわ。私だけじゃなかったのね」

マミ「みんな、呉識さんに対する印象は最悪ではないのね」

杏子「本当は最悪であるべきなんだろうけど……あの変な誘拐犯」


あぎり「…………」ピッ

あぎり「もしもし~」

あぎり「私です。あぎりです」

あぎり「あれ?聞こえますかぁ?電波がよくないの?」

あぎり「あ、はい」

あぎり「そうですね」

あぎり「バレました」

あぎり「はい」

あぎり「うーん……」

あぎり「まさか見破られるとは思ってもみませんでしたね」

あぎり「何か合言葉のようなものでもあったのでしょうか……九兵衛とか何とか言ってたような……」


あぎり「変装には結構自信あったのに……ちょっとがっかりです」

あぎり「……それにしても、何で卵あげたってこと教えてくれなかったんでしょう。えぇ、卵」

あぎり「…………」

あぎり「そうですね。取りあえず、私はそろそろ帰りますね」

あぎり「見滝原でどこか美味しいお店わかります?お腹が空きまして」

あぎり「…………」

あぎり「えぇ、はい。わかりました」

あぎり「では」ピッ

あぎり「…………」

あぎり「……お蕎麦な気分♪」

今回はここまで。わさわさ。次回はいつになるかな。なかなか落ち着かない


昨日


「ソーニャ、起きて」

ソーニャ「んん……」

「起きて下さい」

ソーニャ「あぎり……」

ソーニャ「んん……もう少し」

あぎり「…………」

あぎり「忍法、目が覚めるの術~」グニッ

ソーニャ「痛ぇッ!?」

あぎり「最近胃が荒れてません?」

ソーニャ「ツボ押しは忍法じゃねぇ!」


ソーニャ「あ゙ー……で、何だよ」

あぎり「見滝原に着きましたよ」

ソーニャ「何だ。もう着いてたのか」

ソーニャ「ああ……くそ、まだちょっと眠い」

あぎり「今朝から慌ただしくて忙しかったですもんね。お疲れ様」

ソーニャ「それはお互い様だ。あぎりは平気なのか?」

あぎり「はい。車内で仮眠もとりましたし」

ソーニャ「……にしては元気そうだな」

あぎり「では忍法目がシャキーンとするの術を……」ゴソゴソ

ソーニャ「何をする気か知らんがやめろ」


あぎり「ただの目薬ですよ」

ソーニャ「忍法じゃないし。それでも何か変なもん入ってそうだから嫌だ」

あぎり「天然由来の成分です」

ソーニャ「言うと思ったよ」

ソーニャ「……ちょっと蒸し暑いな」

あぎり「近くのコンビニで冷たいものでも」

ソーニャ「呑気だな……後にしろ」

ソーニャ「しかしここが見滝原か……。思ってたより普通だな」

あぎり「そうですね。復興も進んでますから」

ソーニャ「それに意外と都会だ」


ソーニャ「……で、仕事の話になるが」

あぎり「はい」

ソーニャ「どこに行けばいい。家か?学校か?」

あぎり「学校は休校になってます」

ソーニャ「あぁ、そうか。そうだったっけ」

ソーニャ「あぎりに任せてて下調べあんまりしてないからな」

ソーニャ「指示は受けているのか?」

あぎり「はい」

ソーニャ「指令書か何かはあるか?」

あぎり「ありますよ」


ソーニャ「あるならちょっと見せてくれ」

あぎり「はい」

ソーニャ「…………」

あぎり「…………」

ソーニャ「……?」

あぎり「なんと、ソーニャのポケットの中に」

ソーニャ「寝てる間に仕組んだんだろ……」ゴソゴソ

ソーニャ「地図?」ガサ

あぎり「今いるのはここで……ここに待っていればいいとのことです」

ソーニャ「ふーん」


あぎり「ここがご自宅。通ってる学校」

ソーニャ「ああ」

あぎり「私達はこの道を迂回して来ました」

ソーニャ「そうか」

あぎり「ここコンビニ」

ソーニャ「その情報はいらない」

ソーニャ「しかし、ここで待て……か」

ソーニャ「場所指定するなんて、ここを通るってわかってるってことか?」

あぎり「どこに出掛けているのかまではわかりかねますが、帰路ですかね」

ソーニャ「なるほどな」


ソーニャ「それで、待つってどれくらい待てばいいんだ?」

あぎり「詳しい時間までは指定されてませんね」

あぎり「夕方頃としか」

ソーニャ「は?夕方?」

あぎり「はい。大体の時間ですが」

ソーニャ「時間があり余るな」

あぎり「渋滞や事故などで到着が遅れた場合を考慮してますからね」

ソーニャ「……まぁ、そりゃそうかもしれないが」

あぎり「では、取りあえず少し遅いお弁当にしましょう」

ソーニャ「…………」


数時間後


ソーニャ「…………」イライラ

あぎり「…………」

ソーニャ「……遅いな」

あぎり「……え?何か言いました?」

ソーニャ「……別に」

ソーニャ「お前はさっきから何してんだ?」

あぎり「情報交換です」

ソーニャ「つまりメールか」

あぎり「はい。仕事の一環です」

ソーニャ「……の割には随分気楽そうに見えるが」


ソーニャ「誰としてるんだ?まさかやすなとしてないだろうな」

あぎり「ヤキモチですか?」

ソーニャ「違ぇよ」

あぎり「仕事仲間ですね」

ソーニャ「上司か?忍者か?」

あぎり「どちらかと言うと後輩にあたりますね」

ソーニャ「……で、そのメールの内容は本当に仕事に関係してるんだろうな」

あぎり「一応」

ソーニャ「一応て……」


あぎり「退屈ですか?」

ソーニャ「……仕事中だ。退屈してる場合じゃない」

ソーニャ「少し気を張ってるだけだ」

あぎり「花札でもします?」スッ

ソーニャ「何で持ってきてるんだよ」

あぎり「暇つぶしにでもと思って」

ソーニャ「旅行気分かよ」

あぎり「どうです?」

ソーニャ「ルール知らないし」

あぎり「ルール知ってたらするんですか?」


ソーニャ「それにしても、いつまで待たされるんだ」

ソーニャ「もう日も傾いてきたぞ」

あぎり「私に聞かれても」

あぎり「確かに少し小腹も空きましたね」

ソーニャ「あぎりって意外に食う方だよな」

あぎり「そうですか?」

ソーニャ「ああ」

あぎり「本当に?」

ソーニャ「気にしてるのか?」


あぎり「やはり私もくのいちですから、それなりには」

ソーニャ「くのいちだからという理由はよくわからんが……」

ソーニャ「体型を気にする程だらしない身体でもないし、気にしなくてもいいだろ」

あぎり「そうですか。それなら……」

ソーニャ「そんなことより、本当にターゲットは指示通りに来るのか?」

あぎり「来るとは聞いているんですけども」

ソーニャ「帰り道なのかもしれんが、ここを通るとは限らな――」

あぎり「あ、見て。ソーニャ」

ソーニャ「ん?」

ソーニャ「……フラグ回収が早いな」


「時間が経つのって早いなぁ……」

「楽しいとあっという間ね」

「本当そう思うよ」

「さて……と」

「それじゃあね。まどか。私はこっちだから」

「うん。バイバイ」

「またメールするねっ」

「えぇ、待ってるわ」

「それとまた明日っ!」

「えぇ、またね」


「……ふふ」

「楽しみだな……」

「はぁ……今日も、本当、楽しかった」

「これが……ずっと求めていた時間」

「あの日を越えて、渇望していた日常なんだな……」

「そう思うと……本当に、心地良い」

「こんな日々がずっと続けばいいなぁ」



ソーニャ「……アイツだな」

あぎり「そうですね」


「……ふふ」

「楽しみだな……」

「はぁ……今日も、本当、楽しかった」

「これが……ずっと求めていた時間」

「あの日を越えて、渇望していた日常なんだな……」

「そう思うと……本当に、心地良い」

「こんな日々がずっと続けばいいなぁ」



ソーニャ「……アイツだな」

あぎり「そうですね」


ソーニャ「えっと、ターゲットの写真は……あ、あれ?」

あぎり「なんと、写真はあなたの服の内ポケットに……」

ソーニャ「……ひ、人のうっかりを勝手に自分の忍法にするな。っていうか忍法でもねぇし」

あぎり「にん♪」

ソーニャ「……暁美ほむら。間違いない。本当に来た」

あぎり「結構待ちましたね」

ソーニャ「変装してる可能性は?」

あぎり「見たところないです」

ソーニャ「お前が言うなら大丈夫だ」

あぎり「では早速行きましょうか」

ソーニャ「……いや、待ってくれ」


あぎり「どうしました?」

ソーニャ「少し様子を見てからにしたい」

あぎり「様子、ですか」

ソーニャ「あぁ……念のためな」

あぎり「んー……」

ソーニャ「別に構わんだろう」

あぎり「まぁ、そうですね。私も少し見てみたいですし」

ソーニャ「よし、意見が一致したな」

あぎり「でもあまり時間はかけられませんよ?明日には来てもらわないといけませんから」

ソーニャ「何、明日なら間に合うだろ」


ソーニャ「魔法少女ってのがなんだかよくわからん以上、抵抗された場合を考えないといけないからな」

あぎり「確かに、結局よくわかりませんでしたからね」

ソーニャ「まぁ私とあぎりの二人がかりだし、失敗はあるまい」

ソーニャ「二手に分かれるぞ」

あぎり「そうですね」

ソーニャ「余程のことがない限り『話』をするのも今日中には終わるだろ」

あぎり「十時にはお休みしたいです」

ソーニャ「マイペースだな……」

ソーニャ「とにかく、まずは私が行く。頃合いを見て、あぎりが……」

あぎり「はい。わかりました」


……ずっと。

ずっと続けばいい……か。


ずっとって、いつまでだろう。

魔法少女と普通の人とでは、生きる世界と時間が違う。

言ってしまえば昨日の今日で死別してしまう……そういう可能性が「普通」よりもずっと高い。

寂しいことだけど……いつかは何らかの形でまどかと一緒にいられなくなる、そういう時が来る。

それも、そう遠いことでないのかも……しれない。

今まで、突然の別れを想像することは、何度かあった。

最近は……まどかとの約束を果たせて、日常を取り戻せてから……

少し、平和ボケしているという自覚がある。

ループの最中は必死だったからというのもあったけど……その切なさをより感じる。


いつまでも、ずっとまどかの側にいたいというのは山々だけど……

……覚悟しているつもりでは、ある。その「いつか」が来ることに。

魔法少女だから、いつまでも一緒にいられないって……わかっている。

だけど、魔法少女になったからこそ、今、こうしてまどかといられる。

さらに突き詰めれば、私の命と心は魔法少女のまどかに救われた。

私とまどかの関係は、どちらかが魔法少女であることで「延命」しているに過ぎない。

そう割り切らなくちゃいけないのかもしれない。

そう思えば、このもやもやした気持ちも少しは楽に……

いや、私がよくても当のまどかはどう思うか……。


ほむら「はぁ……」

ほむら「…………」

ほむら(……別のことを考えて気を紛らわそう)

ほむら(いつまでも……こうして現実から逃げてていいのかな、とは思うけど……)

ほむら「……あ、そういえば今日は鶏肉が安いんだったっけ」

ほむら「私の卵を使って……今日の夕ご飯は親子丼なんか……」

ほむら「親子丼……種族レベルの親違い……」

ほむら「でも、ちょっとネタ的に面白いかもし――」

ほむら「……!?」ゾクッ


ほむら「――ハッ!?」バッ

ソーニャ「あっ」

ほむら「……!」

ソーニャ「こいつ……」

ソーニャ(私の気配に気付くとは……油断したか)

ソーニャ(あるいは、魔法少女の実力といったところか?)

ソーニャ「……暁美ほむらだな」

ほむら「え……!?」

ほむら「な、何で私の名前を……!?」

ソーニャ(戸惑っている……まぁ当然か)


ほむら「あなたは一体……!」

ほむら(長いループの間、人の気配には敏感な方になったという、自覚はある……)

ほむら(だけど、この人の気配に、ここまで近づかれるまで全く気付かなかった……!)

ほむら(い、いつの間に!?どこから!?)

ソーニャ「後でゆっくり話してやる」

ほむら「……後で?」

ソーニャ「ここで話せる内容じゃないからな……」

ソーニャ「お前に用があるんだ。来てもらう」

ほむら「わ、私に……」

ほむら(い、いきなり何を言っているの……?)


ほむら(私に用?)

ほむら(初対面の外国人に来いと言われる心当たりはない)

ほむら(怪しい……怪しすぎる)

ほむら「どういう……用?」

ソーニャ「だからここでは言えないんだって。向こうで話してやる」

ほむら「向こう?……拒否するわ」

ソーニャ「お前にそんな権利あると思うのか?」

ほむら(この人……)

ソーニャ「初めに言っておくが、お前に危害を加えるつもりはない」

ソーニャ「つもりはない、が、抵抗するようなら……」スチャ

ほむら「ナ、ナイフ……!?」


ほむら(出会い頭にナイフを向けられた!?)

ほむら(……い、『今』までに何度も、そして色んな敵意を向けられたことはある……!)

ほむら(だけど、この人のは……何というか、次元が違う!)

ほむら(説明のしようがないけど……何となく、空気が違う。そんな気がする)

ほむら(お金欲しさの強盗とか誘拐とか……そんなのとは話が違うって感じがする!)

ほむら(な、何にしても……い、萎縮してはダメ!)

ほむら「……ナイフの脅し程度には屈しないわよ」

ソーニャ「……脅すという意図ではない」

ソーニャ(やる気か。この眼光……なかなか修羅場をくぐり抜けているのかもしれないが……)

ソーニャ「魔法少女だからって、調子に乗るんじゃない」

ほむら「……!」


ほむら(ま、魔法少女のことを知っている!)

ほむら(と、いうことは魔法少女!)

ソーニャ「…………」

ほむら「…………」

ほむら(いや、でも……指輪はしていない)

ほむら(それに、相手が魔法少女だというのを知っているなら既に向こう変身しているはず)

ほむら(ということは……この人は魔法少女ではない?)

ほむら(それじゃあ、一体何者?)

ほむら(魔法少女でないのに……魔法少女の私に用がある人間?)


ソーニャ「…………」

ほむら(何となく、だけれども……)

ほむら(私とは生きてる世界が、また別の意味で違うって感じがする)

ほむら(間違いなく一般人というわけではない……!)

ほむら(魔法少女でないからと言って油断はできない。ここは、戦闘体勢に……)

ソーニャ「……大人しくしていた方が身のためだぞ」

ほむら(でも、変身したとして、その一瞬の隙を見せるのも憚れる。嫌な予感がする)

ほむら(目の前で服装が急に変わったら驚くだろう。でも、魔法少女のことを知っているということは……)

ほむら(変身することで動揺を誘えるかと考えると……分の悪い賭けになる)

ほむら(あまり皆の手を焼かしたくないけど、ここはテレパシーで助けを――)


ソーニャ「下手な抵抗をすると怪我をする!」ダッ

ほむら「ッ!」

ソーニャ(まずはナイフで軽く怯ませて相手の隙を作る)

ソーニャ(それで関節を取って自由を奪ってやる!)

ソーニャ(あとはまぁ、何か適当に……)

ほむら(――ま、マズイ!予想以上に速い!出遅れた!)

ほむら(避けることは……できない!)

ほむら(ナイフをッ!)バッ

ソーニャ(――ナイフ!?)


ガキィッ!


ほむら「く……う、うぅ……!」ググ…

ほむら(ま、間に合った……何とか、ナイフを作り出せた……!)

ソーニャ「……私のナイフを受け止めたか」

ソーニャ「お前もナイフ使い……どこに隠し持っていた」

ほむら(つ、強い……!押し負ける……!)

ソーニャ(寸止めするつもりではあったが……こいつ)

ソーニャ(この反射神経。咄嗟に逃げず武器を構える判断……やはりただものではない!)

ソーニャ(ナイフを取り出す瞬間を見逃してしまったのは不覚だった)

ソーニャ(そして華奢だけどそれなりに力もある……これが、魔法少女か)

ほむら(お互いに片手にナイフ……しかし、私の方は、もう、キツイ……!)

ほむら(かと言って、両手でナイフを押さえるわけには……両手が塞がるのは……!)


ソーニャ(接近戦に関しては素人だな)

ソーニャ(とは言え、こうも素人レベルなのは気になるが……)

ほむら(ど、どうすればいいの!?)

ほむら(空いてる左手で……何をすれば!?左手が自由な分、何をすればいいのかわからない!)

ほむら(慣れないナイフで戦闘をしたとて、返り討ちにあいそうだし……)

ほむら(下手に手を出しても、相手のもう片方の手で、何されることか……)

ソーニャ(今のところ魔法少女と名乗る要素は『少女』ってとこだけか……)

ソーニャ(……っていうか、ずっと思っていたが)

ソーニャ(魔法少女って称しているのが気に入らない)

ソーニャ(相手を馬鹿にしてるとしか思えないし……)


ソーニャ(魔法少女といったらやっぱり正義のヒーローって感じのを連想させる)

ソーニャ(正義ぶった感じが腹立つ!)

ソーニャ(『盗人』のくせに!)

ソーニャ「素人のヒーローに殺しのプロが負けるものか!」

ほむら「こ、殺――!?」

ギン! カチャン

ほむら「し、しまった!ナイフが!」

ソーニャ(手ぶらになった!ここで関節技を……!)バッ!

ほむら(きょ、距離を取らなければ!魔力で脚力を強化ッ!)


ほむら「くッ!」タッ

ソーニャ「!」スカッ

ソーニャ「くそっ、逃した!」

ほむら「はぁ……はぁ……!あ、危なかった……!」

ソーニャ(今のジャンプでこれほどまで距離を……)

ソーニャ(ナイフで鎬を削ったり脚力がすごかったり、ずいぶんと肉体派な魔法少女だな)

ほむら(な、何とか距離は取れた……でも……)

ほむら(これ以上、この人に対してナイフで……いや、接近戦では渡り合えない!)

ほむら(テレパシーで助けを呼ぼうにも、実際に助けが来るまでは持ちこたえなければならない)

ほむら(とにもかくにも変身しなくては!)


ソーニャ「…………」

ほむら(盾の中に爆弾は数個、銃弾も少しは残ってる……)

ほむら(よっぽど危ない時のためにとっておいたけど……)

ほむら(魔女や使い魔でないのに勿体無いけど、いざという時はそれで……!)

ソーニャ「…………」スッ

ほむら「……?」

ほむら(ナイフをしまった……?)

ほむら(無防備に……どういうつもり……?)

ソーニャ「…………」

ほむら(ノーガード戦法?)


ソーニャ「…………」

ほむら(腕組んじゃった。……まさか、敵意はもう無い?)

ほむら(意味がわからない。ナイフを構えて襲いかかってきたと思ったら……)

ほむら(急にナイフをしまって……どういう意図が?)

ほむら(もしかして、実力を試してみたとか、そういう漫画か何かでよくある――)

ソーニャ「その程度の実力じゃ、早死にするだろうな……」

ほむら「う……」

ソーニャ「よし、やれ」

ガバッ

ほむら「――むぐッ!?」


ほむら(は、背後……!?)

ほむら(口を布で……!何者!?)

ほむら(い、息が……!そ、それにこの臭いは……!?)

ほむら(そんな、いつの間に……もう一人いたの!?)

ほむら(け、気配、全く感じなかった……!)

ほむら「むもむむ……!」

ほむら(何者……!?)

ソーニャ「……あぎり。何か苦しんでないか?」

ほむら(あぎ……り……?)


ほむら「む……ぅ」

ほむら(意識が……)

ほむら(……これは……『そういう薬』……だ……)

ほむら(力が……入らない)

ほむら(魔法少女でも……効くものは「効く」……)

あぎり「天然由来の成分です」

ソーニャ「聞いてねぇよ」

ほむら(オ、オーガニック……)

ほむら(そんな……)


ほむら(私は……私は、どう、なっちゃうの……?)

ほむら(せっかく……せっかく、まどかを……)

ほむら(まどかとの約束を果たして……)

ほむら(日常を取り戻せたと……思ったのに……!)

ほむら(こんなのって……)

ほむら(こん……なの……)

ほむら「まど……」

ほむら「…………」

カクッ

ほむら「……すぅ」


ソーニャ「…………」

あぎり「眠りましたね」

ソーニャ「……眠るのに案外かかったな。安物か?」

あぎり「そんなことないですよ。耐性でもあったのかも」

ソーニャ「お前は魔法少女を何だと思っているんだ」

ほむら「すぅ……すぅ……」

ソーニャ「寝顔は普通の子どもなんだが……」

あぎり「寝顔と言えばソーニャも……」

ソーニャ「皆まで言うな」

ほむら「むにゃ……もう、食べれない……」

ソーニャ「都市伝説レベルの寝言を!?」


ソーニャ「……しかし、あまり手がかかる相手じゃなくてよかったな」

ソーニャ「ナイフみたく爆弾とか隠し持ってたらどうしたことかと思ってた所だ」

あぎり「そうですね。私も助かりました」

ソーニャ「あぎりもか」

あぎり「よく考えたら今日は手裏剣持ってきてなかったので」

ソーニャ「今日は!?普段ならまだしも今日は仕事だろ!」

あぎり「仕事の内容が内容なので、軽くでいいかなと思いまして」

あぎり「でも薬と忍法用小道具は持ってきてますし」

ソーニャ「……ま、まぁいいけど」

ほむら「親子丼……」


ソーニャ「……しかし、あまり手がかかる相手じゃなくてよかったな」

ソーニャ「ナイフみたく爆弾とか隠し持ってたらどうしたことかと思ってた所だ」

あぎり「そうですね。私も助かりました」

ソーニャ「あぎりもか」

あぎり「よく考えたら今日は手裏剣持ってきてなかったので」

ソーニャ「今日は!?普段ならまだしも今日は仕事だろ!」

あぎり「仕事の内容が内容なので、軽くでいいかなと思いまして」

あぎり「でも薬と忍法用小道具は持ってきてますし」

ソーニャ「……ま、まぁいいけど」

ほむら「親子丼……」


ソーニャ「よし、さっさと車に積むぞ」

あぎり「そうですね」

ソーニャ「あぎり。お前は足を持て」

あぎり「はい」

ソーニャ「よいしょ……二人で抱えてるとは言え、随分と軽いな」

あぎり「うんこらしょ、うんこらしょ」

ほむら「……親子丼」

ソーニャ「こいつさっきと同じ寝言言ったぞ」

あぎり「天丼ですね」

ソーニャ(上手いと思ってしまったのが悔しい……)

今回はここまで。話進んでないですね

すごい今更な話だけど、書こうと思ってすっかり忘れていた
所謂注意事項。下記の内容が含まれます

・外伝組が登場します(織莉子、キリカ、ゆま)
・優木沙々が登場します
・オリキャラがいないこともないです。作中には出てきません

間違えて途中送信された……
要はこういうことです

・外伝組が出る
・きらマギ出身の沙々がいる
・ジョジョ六部の露伴的ポジションでオリキャラがいる
・没キャラも出演する(キルミーベイベーはアニメ設定準拠)

ということです


『ほむらちゃん』

……まどか?

声のする方に視線を向けると、魔法少女のまどかがいる。

魔法少女姿のまどか。

この姿……正直なところ、大好きではある。

まどかの優しい性格と可愛らしさがとてもマッチしていると思う。

この姿に、私は命を救われた。

この姿との出会いが、私と鹿目さんとの始まりの物語。

好きな姿ではあるけど、それを見ないために私は長い間戦った……。

皮肉なものだなと、思ってしまう。


ここは、公園?

青い空、緑の芝生、白い雲。

隣には桃色の姿を親友。

いい天気ね……まるで昨日の昼のよう。

『実はわたしね、ほむらちゃんのことが好きなんだ』

えぇ、私も好きよ。実はってあたかも衝撃の事実みたいな言い方ね。ちょっとショックよ。

『だから、ほむらちゃんの好きなようにして欲しいんだ』

それは嬉しいわ。でも何を?

『うおー』

どうしたのまどか。


『あっ、あっ、くそぅ!くそぅ!どうすんの!おぉぅ!』

あら、さやかが杏子に固め技を喰らっているわ。仲良しね。

『実はゆまね……犬派なの』

衝撃の事実。そのネコミミは何だと言うの?

『ご飯にする?それとも親子丼?』

要はご飯ですね。巴さん。

『……ね?そうでしょ。ほむらちゃん』

……そう。ね。わかったわ。まどか。

これは夢ね。

『うるさいナーミン』

あ、あなたは私にいきなりナイフを持って襲いかかってきた……


ほむら「……ん」

ほむら「こ、ここは……?」

ほむら「う……」


何だか少し、頭がくらくらする……。

私は……眠っていたみたい。

そうだ……覚えている。

私は、眠らされたんだ。変な薬で……。

この頭がボーっとするのも、その副作用?

……そして、考えたくないことだけど……

私は……誘拐、されてしまったんだ。

どうしよう。


ほむら「……ハッ!」

ほむら「…………」

ほむら「ふぅ……」


ひとまず、ホッとした。

特に痛みのある箇所がないのはもとより、

指輪――ソウルジェムは取られていなかった。

魔法少女という存在を認知していながら取り上げなかったというのは気になるけど……。

あと、私の荷物がない。どこにあるのだろう。

魂が手元にあるだけで十分と言ってもいいが、

財布やケータイがないのは、それはそれで心許ない。


まずは……状況を確認しなくちゃいけない。

畳の匂いが心地良い、落ち着いた雰囲気の和室。

テレビやらエアコンやら、普通の居住空間という感じの一室。

家の居間を豪華にしたような、そんな感じの和室。

掛け軸に何か怪しい気配を感じるがそれはさておき……。


ほむら「……どこ、なんだろう?」

ほむら「そもそもここは見滝原……?」


この折り曲がった座布団を枕に、眠っていたらしい。手に畳の跡がついちゃってる……。

テーブルの上に急須と湯のみ。お煎餅がある。その側にポット。

そういえばちょっとお腹が空いている。喉も渇いている。いただいていいのかな。



取りあえず、歩き回ってみよう。

意識を失う瞬間の力の入らなさとは大違い。しっかりと脚を動かせるのに、ちょっと感動。

それにしても……私は本当に誘拐され、監禁されているということなんだろうか……。

それにしては、甘すぎる。

監禁するというなら普通、手足を縛るくらいはするだろう。

それをしないのは対象である私的に大助かりだけど……。

縛らないにしても、せめて出入り口に鍵をする。あろうことか、襖だし。

「いや、襖でも鍵はないこともないだろう」何て思ったら普通に開くし。出れる。

廊下の奥に見える妙な置物が少し気になるが、見張りのような、人の気配はない。

廊下に出て無闇に動き回るのはひとまずやめておこう。

この部屋には……監視カメラのようなものはない。隠しカメラ?

ひとまず、座ろう。こちとらそれなりに修羅場を経験してるつもりだから、割と冷静だ。


私を捕らえた(少なくとも)二人組。

私に話があるとか言っていたけど……何者なんだろうか。

魔法少女のことは知っている様子だった。

ソウルジェムは魔法少女の魂だし、変身するのに必要なもの。

しかし、ソウルジェムを取り上げていないとは……どういう意味か。

魂であることを知らないにしても、魔力の源くらいの認識さえないということ?

尤も、私の場合は変身できても大したことはできないけど。

あるいは、眠っている間に一回死んでいたりしたのかもしれない。

ソウルジェムのことは知らなかったか、私に殺意はない……と考えられる?

私を誘拐した相手は、魔法少女のことを名前でしか知らない?


勿論、一番の問題は誘拐されたこと。

正直な所、誘拐される心当たりがない。

いや、本当はないことはないけど、

「それ」があの少女と繋がるとは到底思えないし……

証拠は一切残してないので「それ」からただの女子中学生である私に繋がるとも、到底思えない。

これまでだって、一度だってそんなことはなかった。

それ以外に、例えば恨みを買われるようなことは……


ほむら「…………」

ほむら「……ダメ、思いつかない」

ほむら「あるいは思い出せないか……」


勿論、一番の問題は誘拐されたこと。

正直な所、誘拐される心当たりがない。

いや、本当はないことはないけど、

「それ」があの少女と繋がるとは到底思えないし……

証拠は一切残してないので「それ」からただの女子中学生である私に繋がるとも、到底思えない。

これまでだって、一度だってそんなことはなかった。

それ以外に、例えば恨みを買われるようなことは……


ほむら「…………」

ほむら「……ダメ、思いつかない」

ほむら「あるいは思い出せないか……」



ただ、少なくとも、そう邪険には扱われないことは確信した。

ソウルジェムを奪わない、束縛の類もない。

あの人も危害を与えない的な発言をしていた。

そしてこの環境……。

「監禁」という言葉のイメージからかけ離れたリラックス空間。

使おうと思えばテレビもエアコンも触れる。

飲み物とお煎餅を用意してくれている。

そう、思うと……


ほむら(そう思ってしまうと……)チラッ

ほむら「…………」

ほむら「緊張感が削がれるわね」ビリ


ほむら「今何時なのかしら……お腹空いちゃった」

ほむら「置いてあるってことは食べていいのよね。お煎餅」バリッ

ほむら「サラダ味って何味?」

ほむら「急須の中身は緑茶?」トポポ

ほむら「うん……熱そう……」

ほむら「あ、茶柱」

ほむら「初めて見た……本当に立つんだ」

ほむら「……ふふ、いいことありそう」

ほむら「…………」

ほむら「ハッ!既に大変な目に遭ってる!」


ほむら(誘拐されたというのに何をくつろいでいるの私は!?)

ほむら(馬鹿みたいじゃない!)

ほむら「……とは言え」

ほむら(魔女に襲われたりスーパーセルの元凶と戦ったり……)

ほむら(学校が襲撃されたり誰かさんに殺されかけたり……)

ほむら(慣れって怖いものね)

ほむら「緊張感がイマイチ湧かないわ……」

ほむら「困ったわね。こんなことしてる場合じゃないはずなのに」

ほむら「でも、畳って落ち着く……」

ほむら「…………」ズズ…

ほむら「ふぅ……」


ほむら「いつも紅茶かコーヒーばっかり飲んでるから……」

ほむら「たまには違う茶もいいものね。何て言うお茶なのかしら」

ほむら「…………」

ほむら「大体何で畳なのよ」

ほむら「何が目的かわからないけど、もっと他に場所あるでしょうに」

ほむら「こんなリラックス空間に放り出すなんて」

ほむら「無理とまでは言わないにしても、緊張するのは……」

ほむら「あたかもくつろいでくださいと言ってるようなもの――」


「まぁ、私の家ですから~」


ほむら「!?」バッ

ほむら(こ、この声!記憶にある!)

ほむら(意識を失う前、天然がどうこうと、この声が言ってた気がする……)

ほむら(ど、どこ!?)キョロキョロ

ほむら(――ハッ!)

ほむら「押入の中!」バン!

「やっと眼が覚めましたね」ヌッ

ほむら「うわぁ!背後から!」

「どうも~」

ほむら「え?」


「あぎり。やっぱ薬が強かったんじゃないか?」

ほむら「あ、あなたは……!」

あぎり「おかしいですねぇ……用法、用量はちゃんと合ってるはずなのに」

あぎり「試させて、ソーニャ」

ソーニャ「ふざけんな」

ほむら「…………」

ソーニャ「というかお前……リラックスしすぎだろ……」

ソーニャ「監禁されてるってのに煎餅食うか普通……」

ほむら「あ、やっぱり監禁されてたんだ、私……」

ソーニャ「おい」


あぎり「まぁまぁ、座って座って」

あぎり「どうぞ楽になさって下さいね」

ほむら「え、えぇ……」

ソーニャ「楽にも限度があるだろ。身の程を弁えろよ……」

あぎり「忍法、畳の魔術の術」

ソーニャ「忍法でも何でもねぇ。『術』が重複して響きが気持悪い」

ほむら(この二人が……私を誘拐した……)

ほむら(二人の手に指輪も、爪に模様もない)

ほむら(やっぱり、魔法少女ではないのね)


ほむら(しかし二人とも、こうして見ると……)

あぎり「ゆっくりお話しましょう」

ソーニャ「あぎりも少しは考えろ。これじゃただの客じゃねぇか」

あぎり「まぁ、私の家ですし」

ほむら(その、なんていうか……)

あぎり「早く終わらせましょう。そろそろ夕食の時間です」

ソーニャ「お前なぁ……」

あぎり「お茶どうぞ」トポポ

ソーニャ「あぁ……うん」

ほむら(……ゆるい!)


ソーニャ(まぁ、話は一杯飲んでからでも……)ズ…

ソーニャ「……ん?このお茶……」

ほむら「?」

あぎり「お口に合いませんか?」

ソーニャ「いや、美味いけど……何だか、不思議な風味だな」

ソーニャ「なんて言うお茶なんだ?」

あぎり「…………」

あぎり「お煎餅以外にもチョコレートとかありますよ」スッ

ソーニャ「おい。答えろ。おい」

ほむら「ど、どうも……」


あぎり「それはそうと」

ソーニャ「おい、言え。これは何だ」

ほむら(甘い)モグモグ

ソーニャ「食ってるし」

あぎり「紹介が遅れましたね」

あぎり「私は呉識あぎりといいますー。よろしくね」

ほむら「は、はぁ……」

ソーニャ「……私はソーニャだ」

ほむら「あ、わ、私は暁美……」

ソーニャ「知ってる」


あぎり「私達は高校生です」

ほむら「こ、高校生……!?」

ほむら(中学生の私が言うのもなんだけど)

ほむら(高校生か……若い)

ほむら(少なくとも年上だろうなとは何となく思ったけど……)

あぎり「一応」

ほむら「え?」

ほむら「…………」

ほむら「……あ、あの、あなた達は、一体……」

ソーニャ「…………」


ソーニャ「……殺し屋だ」

ほむら「こ、殺し屋!?」

あぎり「私は忍者です♪」

ほむら「に、忍……!?」

ほむら(え、えっと……何?何これ!?)

ほむら(魔法少女でないと思ったら殺し屋と忍者!?)

ほむら(り、理解不能!)

ほむら「その……えっと……」

ほむら(そう言えば、殺しのプロが何とか言ってた……)

ほむら「こ、殺し屋と忍者が……どうして……?」


ソーニャ「お前の質問は後で聞いてやる」

ほむら「え……」

ソーニャ「まずは私達の質問に答えろ」

ソーニャ「質問と言うより、尋問だな。こんなとこで何だが……」

ほむら「じ、尋問……?」

ソーニャ「あまり長々と話したくないからできるだけ簡単に済ませたい」

ソーニャ「あぎり。例の物を」

ほむら「?」

あぎり「はい」コト

ほむら「……ッ!」


ほむら(こ、これは……!)

ソーニャ「お前が使い込んでくれた『銃』だ……もちろん本物」

ソーニャ「だが壊れている。もう使い物にならない」

ソーニャ「一応言っておくが、言い逃れはさせないぞ」

ほむら「う……こ、これは……えと……」

あぎり「これはですねぇ」

あぎり「見滝原のとある川の底で見つかりましてね」

あぎり「金属疲労をしている上に水に浸かって泥が詰まっちゃって」

ソーニャ「お前が壊したんだ」


ほむら(こ、この銃は……!)

ソーニャ「この銃は私達の組織が所有する物だ」

ほむら「組織……?」

ソーニャ「他にもあの被災地で見つかったそうだ」

ソーニャ「この改造銃以外にも、ショットガンとかマシンガン、バズーカ。それら弾の薬莢や破片。その他もろもろとな」


ほのぼのとした雰囲気が急に、重くなる。

唯一の、心当たり。私が問われる罪。……それは窃盗。

私の武器は、銃器、あるいは兵器。……だった。

本物だ。それは、盗品。

テーブルに置かれたそれは、間違いなく、盗品のそれの一つ。

最後に使ったのは、ワルプルギスの夜の使い魔を撃って……

その後は……。


ソーニャ「これらを被災地から回収し、指紋なり何なり調べた結果、お前に行き着いた」

ソーニャ「そして、それらの武器……」

ソーニャ「少なくとも回収された物は全て、組織で紛失してしまった武器だ」

ソーニャ「……信じがたいが、お前が盗んだんだな」

ほむら「…………」

あぎり「怒らないから素直に言ってください」

ソーニャ「怒るとかそういう次元の話じゃないだろ……」


空気が重くなっても、二人はコントのようなやり取りをしている。ゆるい。

しかしそれどころじゃない。

こんな若い二人に、武器の窃盗を問われるなんて全く予想していなかった。

いや、女子中学生が武器を盗むのだから女子高生がそれを捕らえるのも、

ある意味では理に叶っているのかもしれない……。混乱している。私は何を考えている。


この時間軸では……基地から兵器は盗まなかった。

いつもと違う暴力団事務所から武器を盗んだ……。

改造銃だった。それ以外にもバズーカ砲や手榴弾もいただいた。

そしたらそこで手に入れた改造銃が思いの他相性が良くって……。

何というか、フィット感というか、とても使いやすかった。

並の魔女や使い魔特に対し威力の面で不便に思わなかったから……基地から盗むのは見送った。

特に困らなかったし、盗むとすればワルプルギスの夜直前くらいに。

……その程度に考えていた。

でも、なんやかんやあって、接近戦を得意とする杏子と呉キリカを仲間に加えた。

前にさやかと杏子を「大物」で巻き込んでしまった反省もあって……。

バズーカ砲こそあれど、軍から盗むことはやめて、そのままワルプルギスの夜に挑んだ。

そして、その改造銃と味方のおかげで、ついにワルプルギスの夜を撃退することに成功した。


と、思っていたら……まさか、こんなことに……。

私は確かに時間を止めて、指紋も足跡もつかないよう気を遣って盗んだ。

今までに一度としてバレたことなんかなかったのに。

そうか……指紋か。薬莢か。

戦った後のことは全然考えていなかった。

壊れたり弾の補給ができなくなった物は基本的に盾に入れっぱなしだが、

戦火の中、落としてしまったものもあったはずだ。

薬莢なんかいちいち回収している余裕なんて、戦っている最中もその後もなかった。

ワルプルギスの夜に結界が存在しないことをその時は忘れていたのかもしれない。

これっぽっちも考えになかった。

……嬉しかったから。頭が一杯になってたから。


……組織という言葉を使った。

殺しのプロを自称していた。

そして……私が盗んだのは、暴力団事務所から。

とにもかくにも、私は実際に誘拐されて、

怖い目つきで尋問をされている、今……。


ほむら「…………」

ソーニャ「……おい。こら。黙ってんじゃないぞ」

ほむら「…………」

あぎり「ソーニャ。あんまり威圧しちゃダメ。泣いちゃいますよ」

ソーニャ「武器を盗むような奴がそれくらいで泣くかよ」

ほむら「……まし……た」

ソーニャ「あ?」


ほむら「うぅ……」

ほむら「ぬ、ぬす、盗み……」

ほむら「盗み、まし、た……!」ポロポロ

ソーニャ「うわ、泣いた」

あぎり「ほらー」

ソーニャ「何がだよ」

ほむら「えぐっ、ぐすっ……ず、ずみっ、ませっ……」

ソーニャ「だー!泣くな鬱陶しい!」

あぎり「ソーニャ。めっ」

ソーニャ「バカにしてんのか」


ほむら「私……ぬす、盗み、ました……で、でも……」

ほむら「ど、どうか……どうかっ……!えぐっ」

ほむら「りょう、両親と……み、みんなを、まぎごまっ、ないで……!」

ほむら「関係……ないんです……!ですから……!」

ほむら「私は……ぐす、どうなってもっ、どうなってもいいから……!」

ほむら「私が悪がっ、たです……!」

ほむら「お願い、じます!」

ほむら「すみませんでした!すみまぜんでしたぁぁ!」バッ

ソーニャ「う、うわ……マジ泣き」

ソーニャ「面倒くさいな……」


あぎり「落ち着いて。泣かないで?」

ほむら「う、うえぇっ、ぐすっ……ひぐ……!」

あぎり「ね?怒ってませんから……」ポン

ソーニャ「…………」

ソーニャ(……何で私が悪いみたいな空気になってんだよ)

ソーニャ(悪いことをしたのには違いないんだぞ)

ソーニャ(確かに盗まれたこっちもこっちだし)

ソーニャ(こいつを責めるのも何か違う訳だが……)

ソーニャ(っていうか責めてるつもりはなかったのに……)

ソーニャ(納得いかねぇ……)


ほむら「わ、私っ……私……!」ポロポロ

ソーニャ「はぁ……わかった。わかったよ」

ソーニャ「……ほむら。怖がらせて悪かった」

ソーニャ「私達は別にお前達を消すとか恐喝するとかそういうのじゃないから」

ほむら「うぅぅ……ぐす、ひっく……」

あぎり「本当ですよー」

ソーニャ「関係ない人を無闇に巻き込んだりしない」

ほむら「うぅ……ひぐっ……ぐすん」

ソーニャ「……くそ、まずは落ち着かせないと」

あぎり「これじゃまともに話できませんね」


ソーニャ「明日学校なんだから早く済ませたいというのに……」

あぎり「急かしても仕方ないですね。コンビニでご飯買いに行きます」スッ

あぎり「そろそろ夕食時ですし」

ソーニャ「お前なぁ……まぁ、一理ある」

ソーニャ「一応聞くが」

ソーニャ「お前が食べたいからじゃないよな?」

あぎり「…………」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「いや、答えろよ!」

あぎり「では行ってきます」


ソーニャ「いや、待て……私が行く」スッ

あぎり「ソーニャが?」

ソーニャ「泣いてる中学生と二人きりになりたかねぇ。……何か欲しいのはあるか?」

あぎり「適当なもので。アレルギーや嫌いな食べ物の報告は受けてません」

ソーニャ「アレルギーはともかく……まぁいい」

ソーニャ「それじゃ、任せたぞ」ガラッ

あぎり「はい」


ほむら「ぐすっ……うぅ、うくっ」

あぎり「…………」トポポ

あぎり「はい。お茶のおかわりです。飲んで落ち着いて」

ほむら「う、うぅ……は、はい……ぐすっ」


――コンビニ


店員「エアロスミスー」

ソーニャ(……くそ)

ソーニャ(何から何まで面倒なことになったもんだな)

ソーニャ(さっさと片づけばいいんだがな……)

ソーニャ(魔法少女……か)

ソーニャ(アイツが聞いたらどう思うか……)

ソーニャ(想像するだけでもムカつく。絶対に魔法少女なんて言葉を知らせてなるもんか)

ソーニャ「……!」

ソーニャ(焼きそばパンが売り切れ……だと……?)ワナワナ



数十分後


ガラッ

ソーニャ「帰ったぞ」

あぎり「あ、おかえりなさい」

ほむら「…………」

ソーニャ「お、大人しくなって……」

ほむら「すぅ……すぅ……」

あぎり「泣き疲れて眠っちゃいました」

ソーニャ「……こいつ、寝てばっかりだな」

ソーニャ「ところで、そのテーブルの上の小瓶は何だ?」


あぎり「…………」

ソーニャ「……察した」

ソーニャ「適当に買ってきたぞ」

あぎり「ありがとうございます」

あぎり「では、そろそろ起こしますね」

ソーニャ「あぁ」

あぎり「起きて。起きて」ユサユサ

ほむら「んぅ……んぉ?」

ソーニャ「情けない顔だな……」


ほむら「ん……?」ボー

ソーニャ「落ち着いたか?」

ほむら「ほぇ?ふぁい、どうも……」

ほむら「しゅみません。取りみらしちゃって……」

ソーニャ「あぎり。お前さ。もうちょっと普通の薬を用意できないのか?」

あぎり「眠らせる薬はさっきのとこれしか持ち合わせがなかったもので」

ソーニャ「…………」

あぎり「忍法、ハッとするの術」ギュッ

ほむら「ぁ痛ぁいッ!」

ソーニャ「だからツボ押しは忍法じゃねぇ」

ほむら「……ハッ!?あ、あれ?」


ソーニャ「えっとだな。ほむら」

ほむら「あ、はい」

ソーニャ「取りあえず、お前が想像しているようなことは多分ないから安心しろ」

ほむら「多分?」

ソーニャ「それじゃ、さっきの続きを話すが……」

ソーニャ「お前の盗んだ武器。それらは私達の組織が所有するものだったってのはいいよな」

ほむら「……はい」

ソーニャ「こっちでも、武器の盗難とあって大騒ぎだったらしい」

ソーニャ「おかげで私に支給されるはずだった武器が……」ブツブツ

ほむら「?」


あぎり「特に証拠がないまま、見滝原でそのなくなった武器が見つかりました」

ソーニャ「そこで、お前が犯人として色々調査された。交友関係や親戚類、色々とな」

ソーニャ「まぁ、調査をしたのは一部のチームだったから私達は詳しく知らない」

ほむら「…………」

ほむら(さらっと言われたけど……両親やみんな、既に見られていたということ……?)

ほむら(今更ながら……背筋が寒く感じる)ゾクッ

ソーニャ「で、お前の身辺を洗ったわけだが……お前、暴力団事務所から盗んだらしいな」

ほむら「は、はい」

あぎり「すごいですね」

ソーニャ「すごいな」


ソーニャ「その事務所なんだが……実は組織とは『無関係』だった」

ほむら「へ?」

ソーニャ「そもそも私達の組織にあんなチンケなもんは置かない」

あぎり「むしろ敵組織側の系列でしたね」

ソーニャ「系列って言い方は正しいのか?」

ほむら「あの……そ、それって……」

ほむら「私は、敵組織なるところから、お二人の組織のを……?」

ソーニャ「結論から言うと、こっちの武器を横流しした『裏切り者』が……恥ずかしながら組織にいたんだ」

ほむら「裏切り者……?」

あぎり「ビックリしましたねー」

ほむら(本当にビックリしてるの?)


ソーニャ「金目的かスパイかは知らないが……武器の盗難は内部犯だった」

ソーニャ「最初はお前がその裏切り者と繋がりがあるのではと思われたが……」

ソーニャ「先の身辺調査や現場の検証とか証言等から、組織にとって無害と判断した」

ほむら「え?無害?」

ソーニャ「盗んだのと武器をダメにしたのは事実だからその判断、私は納得いってないが」

あぎり「特に大きな実害を与えたって訳ではありませんでしたからね」

ほむら「…………」

ほむら「あ、あの……」

ソーニャ「ん?」

ほむら「も、もしかして、私……」

ほむら「その……敵組織に……狙われて……?」


ソーニャ「……いるのはまず間違いないらしい」

ほむら「…………」

ほむら「口封じ……ですか?」

ソーニャ「そこまでは聞いてないが、そうなのかも」

あぎり「少なくとも組織としてはあなたを悪いようには見てません」

ソーニャ「変な話だけどな……。子どもだから甘く見てんのかな」

ソーニャ「あ、そういやお前が壊した改造銃を作った組織の奴が『使い込んでくれてありがとう』だって」

ほむら(こ、怖いニュアンスにしか聞こえない!)

あぎり「それでですね」

あぎり「私達が通ってる学校に一緒に来てもらおうと思って」

ほむら「え?」


ほむら「が、学校……?」

ソーニャ「そうだ。同じ学校に通って、常に私達のどっちかの側にいさせる」

あぎり「私とソーニャで『護衛』するんですよ」

ほむら「ご、護衛……してくれるんですか?私を?」

ソーニャ「上がそうしろって言うからそうする」

あぎり「裏切った人がまだ特定できてないので、組織で匿えません。なので私達が」

ほむら(な、何やら大変なことになった!)

ほむら(誘拐されたと思ったら、その人に護衛されることになった!)

あぎり「どうせ学校はお休みですしね」

ほむら「そ、そうですけど……」

ソーニャ「私達じゃ不満か?何なら別に見滝原にも組織の人間はいるにはいるぞ」

ソーニャ「お前の言う友達を巻き込みかねないが、それでもいいならそいつらに任せても……」

ほむら「ふ、不満だなんてとんでもないです」


ソーニャ「そうか。それならよし」

ソーニャ「お前は被災を受けて、親戚のいる『ここ』に来て……」

ソーニャ「落ち着くまで私達の高校に『体験入学』するという形で通ってもらうことになった」

ほむら「た、体験入学?」

あぎり「ついでに高校での生活を体験できますよ~」

ソーニャ「授業は少し大変かもな」

ほむら(体験も何も、まずどの都道府県の教育委員会かもわからないのに……)

ほむら(……高校か)

ほむら(ループの間で色んな知識を得たから高校くらいの内容ならついていけないことはない、とは思うけど……)

ほむら(それはともかくとして、進路のことなんて今まで全然考えたことなかったな)

ほむら(大学とまでは言わないにしても、高校くらいはまどかと同じとこに行きたいな)


ほむら「…………」ポケー

ソーニャ「おい、聞いてんのか」

ほむら「え?あ、はいっ!」

ほむら(いけない。まどかとのハイスクールライフの空想に耽りかけてた)

ほむら(護ってくれるって言われて、ちょっと安心しちゃったのかも)

あぎり「既に組織が色々話をつけてます」

ほむら「……あの、体験入学って……」

ソーニャ「なんだ」

ほむら「体験入学って、そういうこととは違うんじゃ……」

ほむら「説明会とか、長期休暇中にどうこうとか、そういうのを言うんじゃ……」

ソーニャ「知らねぇよ」


あぎり「被災しててんやわんやでドサクサにってことで」

ほむら(テ、テキトーだ……)

ほむら(そんなんで教育委員会はいいんだろうか)

ほむら(ワルプルギスのスーパーセルのせい。特例とできるのだろうか?)

ほむら(まぁ……できるからこういう話をしているんだろうけど)

ほむら「と、ところで……」

あぎり「なんでしょう」

ほむら「親戚って……誰の?」

ソーニャ「あぎり」

あぎり「私?」

ソーニャ「私のにする気か?」


あぎり「ソーニャみたいにお肌白いですし、入るのはソーニャのクラスですし、そうなのかなと思ってました」

ソーニャ「そこは国境を越えた親戚よりも日本人で合わせた方が無難だろう」

ソーニャ「目の感じとかちょっと似てるし、親戚と言っても信じられると思う」

あぎり「そうですか?」

ほむら(……髪型を見て言ってない?)

あぎり「…………」ジー

ほむら「あ、あの……?」

ほむら(目の感じ……か。似てるのかな……?)

ほむら(色合いとかがちょっと……っぽい?)

あぎり「……『なる』のは簡単そう」

ほむら「え?」

あぎり「いえ、こっちの話」


ソーニャ「何にしても、交換留学生とかよりはいいだろ」

ほむら「それは、まぁ……」

ソーニャ「よし、ほむら」ドサッ

ほむら「な、何ですか?それ……」

ソーニャ「制服、体操着、上履き……こっちで過ごす用のものだな」

ほむら「わ、私の家の!?」

あぎり「それから、はい」ドサッ

ほむら「……これは?」

あぎり「日用品等々……」

あぎり「鍵を拝借しました」

ほむら「ほ、ほんとだ。私の……」



あぎり「それとソーニャが使っているのと同じ教科書」

ソーニャ「他に家から持ってきて欲しいのがあれば言え。不備があったら困るのはお前だしな」

ほむら「は、はぁ……」

ほむら「……あれ?これ枕?枕まで……?」

あぎり「枕が変わると眠れないってよく言いますからね」

ほむら「お、お気遣いどうも……」

ほむら(眠れなくなるような要素が他にありすぎる!)

ソーニャ「まぁしばらくここで、あぎり同居する形になるからな」

ほむら「ど、同居……!?」

ソーニャ「そりゃ組織に置いておけないし、親戚設定だから当然だろう」


ソーニャ「罠はあるけど居心地はいいぞ」

ほむら「え?」

あぎり「歓迎しますよー。スペースもありますしー」

ほむら「あの、罠って……」

あぎり「でも同居って、何だか少し照れくさいですね」

ソーニャ「そんなこと言ってる立場じゃないだろ」

ほむら「罠……」

ソーニャ「それと、私も何度か邪魔することになる」

ほむら「……はい」


ソーニャ「しかし見滝原中だっけか。この制服……色合い的にかなり目立つよな。こっちはブレザーだぞ」

あぎり「可愛らしいデザインですが、こればかりは……」

ソーニャ「まぁ仕方ないよな」

ソーニャ「で、これは体操着。……っておい、ブルマかよ」

ほむら(ふ、二人が私の制服と体操着をいじくり回してる……!恥ずかしい……)

ソーニャ「今なんか変なこと考えただろ」

ほむら「い、いえ!何も考えてません!」

ソーニャ「それはそれでどうなんだ」

あぎり「ブルマ……この頃じゃ珍しいし、体操着でも目立ちますね」

ほむら(え、そうなの?)

ほむら(……不意に訪れるカルチャーショック)


ソーニャ「まあどうしようもないよな。おい、ほむら」

ほむら「はい」

ソーニャ「取りあえず荷物の確認しておけ」

ほむら「あ、はい」

あぎり「あ、あと制服着てみてください」

ほむら「え?」

あぎり「見てみたいです」

ソーニャ「……まぁ、うん。着ろ」

ほむら「…………」

ソーニャ「しばらく向こうむいてる」プイッ


……なんだろう。

いつもの制服を着るだけなのに何か……変に緊張する……。

ま、まぁ、それにしても……

知らない内に、家に入られたというのは、決して気持ちのいいものではない……。

取りあえず、着替える前に、言われた通り確認をば……。

歯ブラシ、シャンプー、ブラシ、タオル、ケータイの充電器。

まぁ元々家には大した物はないし……通帳や印鑑とか、大事な物は盾の中に入れちゃってるし、こんなものよね。

こっちは着替えと……。

……あ!?私の下着まである!

あ、あぁぁぁぁ……!恥ずかしい……!

いや、そりゃ私服同様、持ってくるのは当然だろうけど!

普段どんな下着を着用してるのか知られたっていうのはとても気まずい。



ソーニャ「……あぎり」

あぎり「はい」

ソーニャ「随分と、甘くないか?」

あぎり「何がですか?」

ソーニャ「何がって……あいつの扱いだよ」

ソーニャ「確かに裏切り者の存在はあいつのおかげでわかった……」

ソーニャ「魔法少女だかなんだか知らないが、中学生を護るのもまぁわかる」

ソーニャ「だが、何で私達が他の仕事全部放ってまでほむらを……」

あぎり「いけませんか?」

ソーニャ「いいかいけないかとかいう話じゃなくてだな」


ソーニャ「しかも結局、武器を盗んだ理由も言及する必要なしと来たもんだ」

ソーニャ「聞かなくていいと上が言うなら聞かないけども……」

ソーニャ「やはりこっちとしては、イマイチ納得がいかない」

あぎり「そうですね。私も気になりまして、聞いてみました」

あぎり「何で武器を盗んだんですかって」

ソーニャ「そっちか。それで、何だって?」

あぎり「今回の調査に参加した方からですが、文書でお答えをいただきまして」ガサッ

ソーニャ「そうか」

ソーニャ(……普通に出したな)

ソーニャ「どれ」パラッ


『 ソーニャさん、呉識あぎりさん

  暁美ほむらという人物についてのご問い合わせとのことで、回答させていただきます。

  彼女が魔法少女であるのはご存じですね?

  魔法少女が何か、という疑問に関してはお答えしかねますが、

  結論から言うと、彼女は「ワルプルギスの夜」に深く関与しています。

  ワルプルギスの夜とは、便宜上、魔法少女における世紀の争いとでも思ってください。

  武器の盗難も、そのことに関係しています。既に通達されているかと思いますが

  彼女が自主的に話さない限り、お気になさらぬよう、重ねて申し上げます。


  さて、この度、私情ではありますがお二方にお願いがあります。

  調査したところ彼女は現在、戦闘術の習得に励んでいます。つきまして、

  お手数をかけますが任務のついでにでも、何か教授していただけないでしょうか。

  あくまで私の我が侭ですが、彼女が望むなら、是非ともお願い申し上げます。        』


ソーニャ「…………」

あぎり「……『ワルプルギスの夜』って聞いたことありますか?」

ソーニャ「どっかの国にそんな祭りがあると聞いたことはあるが……」

あぎり「盗難は、せざるを得なかったか、決定事項かのように読みとれますね」

ソーニャ「……魔法少女のこととなると聞いてもわからんだろうな。魔法少女すら知らないんだから」

あぎり「ですね」

ソーニャ「わかった……気にしないでおこう」

あぎり「……それで、後半の部分なのですが」

ソーニャ「……教えるとか何とか」

あぎり「いかがですか?」

ソーニャ「……意味がわからない」


ソーニャ「経路は違うし中学生だろうが、あくまでも盗人だぞ」

ソーニャ「護衛する理由は納得するが、教える義理まではない」

ソーニャ「ほむらのおかげで裏切り者の存在が割れたが、その礼にっていう内容じゃないぞ」

あぎり「それはそうですけど……」

ソーニャ「別にしろとは書いてない」

ソーニャ「教えてやれるようなことはない。余計なことはしたくない」

あぎり「私は、機会があれば教えてあげたいです」

ソーニャ「……本気で言ってるのか?」

あぎり「そういうのを教えるのは一度経験しましたが、結構楽しかったですし」

あぎり「それに一緒にいる時間も多くなりますからね」


ソーニャ「それはやすなにインチキ道具売りつけた時の話か?」

あぎり「インチキだなんて」

ソーニャ「それはともかくとして、意味がわからないぞ」

ソーニャ「訳の分からない奴の訳の分からない事情に対して」

ソーニャ「何でそんな面倒なことを……」

あぎり「ソーニャ」

あぎり「裏見て、裏」

ソーニャ「裏?」ピラッ

ソーニャ「…………」

あぎり「私は手裏剣を教えようと思うんですが」

ソーニャ「……好きにしろ」

ソーニャ「……おい!もう着替え終わったか?」


ほむら「え?あ、はい」

ソーニャ「……脱いだ服を畳む必要はないだろ。どうせそれも脱ぐんだし」

ほむら「何やらひそひそ話をしてたので、邪魔しちゃいけないかなと思って……」

あぎり「お気遣いどうも~」

あぎり「制服、似合ってますよ」

ほむら「えっと……あ、ありがとうございます……?」

ソーニャ「やっぱり色の対比的に目立つよな……」

ソーニャ「まぁいいか。……さて、ほむら。早速明日から学校に行くことになる」

ソーニャ「今夜は私もあぎりの家に泊まるが、朝は早くから出るからな」

ほむら「は、はい」

あぎり「ソーニャと同じクラス。楽しそうなことになりそうですねー」

ソーニャ「それは本気で言ってるのか?私をからかっているのか?」


ほむら「?」

ソーニャ「あー、ほむら。私のクラスにやかましいバカがいるが、適当に流してくれ」

ソーニャ「ましてや『私は魔法少女です』なんて絶対に言うなよ!いいか絶対に言うんじゃないぞ!」

ほむら「え、えーと……はぁ……」

ソーニャ「さて……そろそろ夕食にするか。コンビニ弁当だが」

ソーニャ「お前は風呂にでも入ったらどうだ」

あぎり「沸いてますよ~」

あぎり「はい、パジャマとバスタオル」

ほむら「ど、どうも……」

ほむら(呉識さんも、ソーニャさんも、色々と、何て言うか……ちょっと、怖いけど……)


ほむら(……不安は積もるばかり)

ほむら(でも、私を護ってくれるって言うんだもの)

ほむら(今もこうして気遣ってくれて……)

ほむら(とってもいい人。安心できる)

ほむら(気がかりがあるといえば、皆を心配させてしまうことだけど……)

ほむら(色々情報を伝聞する方法はあるけど、その辺りどうなるんだろう……)

ほむら(皆の声が聞きたい……無事である旨を伝えたい……)

ほむら(せめて、皆とメールしたい)

ほむら(……メール)

ほむら(メール?)

ほむら「……あ!」


ソーニャ「何だ」

ほむら「そ、そういえば、ま……友達のメールが来る約束が……」

ソーニャ「友達?」

ほむら「お話するんだって約束してるんです。多分九時か十時か……」

ソーニャ「すればいいだろ。後でケータイは返すから」

ほむら「……いいんですか?使っても……」

ソーニャ「電話は基本的にダメだが、メールくらいなら」

あぎり「もちろん話の内容は検閲させていただきますけどね」

ほむら「…………」

ほむら(何その羞恥プレイ!)


今回はここまで。
書いてて思ったけど、こんな饒舌なソーニャちゃん、何か嫌だなって
でもまぁ仕方ないよね。仕事なんだもん

それはそうとキルミーベイベーOVA、偽あぎりさんが予想外に可愛かった
キルミーベイベーベストアルバムを買おう(提案)
本当はベストアルバム発売日に終わらせたかったんだけどな……
データがアレしたり忙しかったりとか言い訳をしまくるスタイル。わさわさ

データがアレっていうと……もしかして書き直してるのかね。そうだとしたら……なんていうか、マジで乙
やすなとさやかのダブルうざかわいいを期待してよかですか


次の日の朝


ボンジョルノ!

私、折部やすな!割かし高校生!今日もいい天気!


やすな(どこ行っちゃったんだろ?)

やすな「……あ!」

やすな「おはよう!ソーニャちゃん!」ポン

ソーニャ「――ッ!」

ゴキャッ

やすな「にゃあぁぁぁぁ~!」

ソーニャ「よお」

やすな「何事もなかったかのように!?」


やすな「ふえぇ~手首がー」プラプラ

ソーニャ「朝からうるさいな」

やすな「もうー」コキッ

やすな「やれやれ」

ソーニャ「お前も何事もなかったかのように外した関節を戻すな」

やすな「もう慣れましたよーだ」

ソーニャ「お前……慣れるもんじゃないだろ……」

やすな「外した本人に引かれた!?」

ソーニャ「流石にそれは……ない」

やすな「冗談とかじゃなくてマジ引き!?ひどっ!」


やすな「そ、ソーニャちゃん、どこ行ってたの?」

ソーニャ「別に、どこでもいいだろ」

やすな「トイレ?それにしては遅いよね。結構早くから学校来てたよね」

やすな「もしかして……出ないの?」

ソーニャ「胃から朝飯を出させてやろうか」

やすな「やめて!」

ソーニャ「ったく……職員室だ」

やすな「職員室?お?呼び出し?何したの?」

やすな「追試?煙草?暴力事件?画鋲?」

ソーニャ「そんなわけあるか」


やすな「それ以外に思いつかないや」

ソーニャ「いや、もっと色々あるだろ……」

ソーニャ「そもそも呼び出しとかじゃないし」

やすな「呼び出しじゃない……土下座でもしにいったの?」

ソーニャ「何を想像しているんだお前は」

ソーニャ「まぁ……知人のことでちょっとな」

やすな「あぎりさん?」

ソーニャ「いや、違う」

やすな「え、嘘……あぎりさん以外にも知人とかいたんだ……」

ソーニャ「…………」ギリギリ

やすな「イダイダイダダダイ!」


やすな「朝から連続サブミッションはキツイ」

ソーニャ「させなきゃいいだろ。学べ」

ソーニャ「それで、そういうお前は廊下で何してんだ」

やすな「ソーニャちゃんを探してたんだよ」

ソーニャ「私をか?」

やすな「ちょっと用があってね」

ソーニャ「ふん、どうせくだらないことだろ」

やすな「くだらなくなんかないよ!」ムスッ

ソーニャ「差し詰め机の中にチェーンメール紛いのもんでも入れたんだろ」

やすな「アイドンノゥー」

ソーニャ「捨てといたからな」

やすな「事後!?」


やすな「折角書いたのに……」

やすな「それで、知人って誰なの?」

ソーニャ「…………」

やすな「はいはい、どうせお前には関係ないとか言うんでしょー」ブー

ソーニャ「いや……関係なくはないか」

やすな「え?私に関係あるの?」

やすな「何何?どんな人?私の知ってる人?」ワサワサ

やすな「私、気になります!教えてわさわさっ!」ワサワサ

やすな「気になる気になるぅぅぅぅ!フゥー!」ワサワサ

ソーニャ「…………」


ソーニャ「うるさい。後にしろ。ほら、ホームルームが始まる」

やすな「あ、ほんとだ」

やすな「…………」

やすな(私に関係なくないというソーニャちゃんの知人……って一体何者なんだろ)ホワワン


知人『私、殺し屋見習い!あなたの家の隣に越してしましたにゃん!』

知人『アタシ、スナイパーヨ。キョウカラ、コノクラスニカヨウデスヨ。ヨロ』

知人『やすな殿!汝のことはソーニャに聞きましたでありんす!あちきを弟子にしてくだしゃんせ!』


やすな「ほぁ~……?」

ソーニャ(また変なこと考えてるんだろうな……)


教室


ワイワイ ガヤガヤ

やすな「何だか教室が騒がしいんだよね」

ソーニャ「まぁ、そうだろうな」

やすな「何か知ってるの?」

ソーニャ「むしろお前が知らないのが意外だ」

やすな「朝早くから来てずっとソーニャちゃん探してたから……」

ソーニャ「時間を無駄にするな」

やすな「発言がババ臭い」

ソーニャ「んだとコラ」


やすな「それで?」

やすな「知ってるのソーニャちゃんは」

ソーニャ「ざわついてる理由に心当たりがある」

ソーニャ「こういうのはどうしたって噂になるからな」

やすな「どしたの?」

ソーニャ「別に言う必要はない」

ソーニャ「というかわかる」

やすな「?」

ガラッ

教師「はい、みなさん、おはようございます」


教師「どうやらもう知っている人もいるようですが……」

教師「このクラスに『体験入学』に来た子が入ります」

ザワ…ザワ…ワサ…

やすな「体験入学?」

ソーニャ「…………」

やすな「転校生じゃないんだね」

ソーニャ「まぁな」

教師「中学生……皆さんもついこないだの立場ですね」

教師「えー、皆さん。見滝原市の災害はみなさんご存じですね」

教師「その影響で、復興するまでの間こちらに来たわけですね」

教師「細かいことは気にしないこと……それでは入って。どうぞ」


ガラッ

「…………」トコトコ

やすな「わー。制服可愛いねぇ」

ソーニャ「…………」

ザワザワ…ワサワサ…

「…………」

教師「はい、自己紹介よろしく」

「……みっ」

「見滝はりゃ中学校から来ました」

ソーニャ(あ、噛んだ)

「あ、暁美ほむら、です」


ほむら「え、えっと……」

ほむら「こ、このクラスではないんですが」

ほむら「この学校で……お世話になってる親戚がいまして」

ほむら「その方のお宅で、お世話になってます」

ほむら「えっと……その……」

ほむら「さ、災害で、私の学校が、大変なことになってて……それで……」

ほむら「そ、それまでの、み、短い期間ですがよろしくお願いします」ペコッ

パチパチパチパチパチ

やすな「わー」パチパチ

ソーニャ「…………」


教師「はい、と、いうわけで、学校といい土地といい、暁美くんは慣れない環境で――」

ほむら(はぁ……何度もこういう挨拶してきたから……)

ほむら(もう慣れたものかと思っていたのだけど……)

ほむら(ちゃんと喋れてたかな)

ほむら(やっぱり知らない高校生に注目を浴びるのは……すごい、萎縮する)

ほむら(えっと……)キョロ

ほむら(あ、ソーニャさん発見)

ほむら(……これから、常に彼女の側にいなければならない)

ほむら(学校のことでも色々お世話になる……改めて挨拶しておいた方がいいかしら)

ほむら(それに……)


教師「さて、積もり話もありますが……何か、ありますかね」

ほむら「えっ?」

教師「何か伝えたいことでもあったら」

ほむら「あ、じゃあ……えと、そ、その……」

ほむら「ソーニャさん」

ソーニャ「へぁっ?」

やすな「え?」

ほむら「その、色々ご迷惑おかけするでしょうか、改めて、よろしくお願いします……!」ペコッ

ソーニャ「!?」

ザワザワ ソーニャノシリアイ? ワサワサ

ソーニャ「あ、あいつ……」


やすな「ソーニャちゃん知り合いなの?」

やすな「あ、もしかしてさっき話してた知人って……」

ソーニャ「……あぁ、あいつだ」

やすな「そっかー」

やすな「中学生だってさ。美人さんだね」

やすな「ソーニャちゃんはその現役JCとどういう関係なの?」

ソーニャ「いや、別に……」

ソーニャ「あぎりの親戚だ」

やすな「あぎりさんの親戚かぁ……!」

やすな「言われてみれば似てるね。髪が長いとことか」

ソーニャ「…………」


ソーニャ(くそぅ……ほむら……)

ソーニャ(こんなところで名指しするヤツがあるか!)ハァ

やすな「ねぇ、どうしたの?何ヤレヤレってしてるの?」

ソーニャ「…………」

やすな「無視?」

教師「はい、それじゃあ……ソーニャの前の席が空いてるから、そこに座って」

ほむら「は、はい」

ほむら(……注目されてる。顔を知ってる人がいないのがこんな精神的にキツイことだったなんて……)

ほむら(知らなか……いえ、忘れていたわ)

ほむら(ソーニャさんがいるのが唯一の救いというか……)

ほむら(安心感ね)


やすな「あれ?その席……」

ソーニャ「何だ」

やすな「あの……いたよね?」

やすな「ソーニャちゃんの前……」

ソーニャ「何が」

やすな「ほら、前の席……」

やすな「いやいや、いたじゃん!名前は知らないけど……いた……よね?」

やすな「その人……顔……見てない……ような……」

ソーニャ「知らない」

やすな(な、何があったんだ……前の席の人……!?)ゴクリ


ほむら「ど、どうも」ペコッ

やすな「よろしくねー」

ソーニャ「…………」ジトー

ほむら(む、無言の圧力)

ほむら(何か怒らせること言ったかしら……?)


やすな「…………」

やすな(あぎりさんの親戚か……)

やすな(ってことはこの子も忍者だったりするかも?)

やすな(忍装束とか着てそう)

やすな(と、なると……この子も変わった忍法使うのかな)


生徒A「向こうでは部活やってたの?運動系?文化系?」

ほむら「えっと……部活は、やってません」

生徒B「スゴイ髪だね。毎朝大変じゃない?」

生徒C「あのスーパーセルすごかったんだってねー」

生徒D「怪我人いなかったんだってね。それは何より」

ほむら「え、えぇ……はい」

ほむら(怪我どころか私、脚もげかけたけどね……)

ほむら(巴さんに至っては……あぁ、思い出したくもない)

ほむら(しかし、初日の「こういうの」……何度も経験したけど)

ほむら(やっぱり初対面で、しかも高校生となると……うぅ)モジモジ


やすな「緊張してる。かーわいー」

ソーニャ(自己紹介の時みたいにまた変なこと言わないだろうな……)

やすな「ところでソーニャちゃん。ミタキハラってどこ?何県?」

ソーニャ(やすなも食いつかないわけがないよな)

ソーニャ(こういうの珍しいから)

ソーニャ(増して私の知人、あぎりの親戚設定ときたものだ……)

ソーニャ(何とか適当にあしらっておきたいところではあるが……そううまくいくだろうか)

ソーニャ(さて……何とかほむらと二人きりになれないか)

ソーニャ(こういう時テレパシーの一つでもできれば楽なのに)


やすな「ねー、ソーニャちゃん?」

ソーニャ「…………」

やすな「あれ?無視?無視ですか?」

ソーニャ「…………」

やすな「ぐぬぬ……」

やすな「さっきからほむらちゃんの方ばっか見てるね。嫉妬!」

やすな「気になるなら話しかければいいのに」

やすな「ソーニャちゃんが構ってくれないなら私もほむらちゃんとこ行っちゃうもんね」チラッ

ソーニャ「…………」

やすな「くそぅ!くそぅ!」


ほむら(……?)

ほむら(背後から視線を感じる……)チラッ

ソーニャ「…………」ジトー

ほむら「…………」

生徒A「そういえばソーニャの知り合いって言ってたけど、どういう関係?」

ほむら「べ、別に、その、親戚の知り合い、程度のですが……」

ほむら「えっと……」

ほむら「その……ご、ごめんなさい。何だか、緊張しすぎたみたいで気分が……」

生徒B「あ、ごめんね。一方的に話しちゃって」

ほむら「い、いえ、あの、保健室に……」


生徒C「そんじゃあ保健委員……」

ソーニャ「……いや、待ってくれ」ガタッ

生徒B「ん?」

やすな「あ」

ソーニャ「私がつれてく」

やすな「ソーニャちゃん」

生徒D「ソーニャがやる気よ!」

生徒F「頼むぞソーニャ!」

生徒A「私の仕事……」

ソーニャ「……悪いな」



ソーニャ「ほむら、行くぞ」

ほむら「あっ、は、はい。よろしくお願いします」ペコ

ソーニャ「そんなペコペコするな」

生徒D「行ってらっしゃーい」


生徒B「可愛いなぁ……私も中学生に戻りたいな」

生徒C「そうね」

やすな「うーむ」

やすな「私も行ってこよっと!」

生徒A「あー、やっぱりやすなっちはついてっちゃうのね」

生徒B「本当に仲が良いよね。あの二人」


廊下


ソーニャ「お前なぁ……」

ほむら「は、はい」

ソーニャ「何であの場面で名指しするんだよ。恥ずかしいだろ」

ほむら「だ、だって……同じクラスですし、一緒にいる必要もあるので……」

ほむら「知り合いという設定を広めておいた方が……」

ソーニャ「一理あるかもしれんが……あまり目立ちたくない」

ほむら「……すみません」

「ソーニャちゃぁーん!」

ほむら「?」

ソーニャ「ちっ……面倒なのが来やがった」


やすな「追いついた!」

ソーニャ「はぁ……ついてくんな戻れ」

やすな「相変わらずつれないなー」

ほむら「えっと……」

ほむら(ソーニャさんの隣の席にいた人ね)

やすな「ドーブロエウートロ!私、折部やすな!」

やすな「よろしくねほむらちゃん!」ワサワサ

ほむら「は、はぁ……よろしくお願いします」

ソーニャ(やすなのテンションに押されてる……)

ほむら(初対面ながらにしても元気な人だってわかるわ……)


やすな「んもう、ソーニャちゃんったらっ」

やすな「こんな美少女が友達にいるなら教えてくれればいいのに」ウリウリ

ソーニャ「話す義理がねえし、うるさい」

やすな「あぎりさんと私以外に友達がいたことに内心驚いてます」

ソーニャ「てめぇ私を何だと思ってやがる」

やすな「きゃーこわーい」

ほむら(……折部さんからどことなく漂うさやか臭)

ソーニャ「ウザい」ゴスッ

やすな「んぎぁっ!」

ほむら「な、殴っ――!?」


ほむら「だ、大丈夫ですか!?」

やすな「心配してくれるの?何て優しい子……!」キラキラ

やすな「ソーニャちゃんとは大違い」

ソーニャ「ふん」

ほむら「あ、あの……」

やすな「え?あ、うん。平気だよ。いつものことだから」

ほむら「い、いつもの?」

やすな「ほむらちゃん、あぎりさんの親戚なんだってね」

やすな「ソーニャちゃんから聞いたよ」

ほむら「え?あ、えぇ、はい、そう、ですが……」

ほむら(呉識さんを知ってる……ソーニャさんと呉識さんの知り合い?)


やすな「あぎりさんの親戚ってことは……やっぱりくのいちなの?」

ほむら「へ?」

やすな「忍者って一族みんながーってイメージが」

ほむら「い、いえ……」

ソーニャ「こいつは普通の中学生だ」

やすな「ふーん?」

やすな「あぎりさんにはお世話になってます」ペコリ

ほむら「え?あ、はぁ……こ、こちらこそ……」ペコッ

ほむら(お世話……?)

ほむら(呉識さんが忍者であることを知ってる……?)

ほむら(お世話っていうことは、お弟子さんとか何かなのかな)


やすな「それにしても、災難だったね……」

やすな「こんな離れたとこに通うことになるなんて」

ほむら「い、いえ……」

やすな「どれくらいここにいるの?」

ソーニャ「復興するまでって言ってただろ」

やすな「だからそれがどれくらいかって聞いてるの。二週間?」

ほむら「そればかりは何とも……」

やすな「ソーニャちゃん。『組織』の力で何とかしてあげれないかな?」

ほむら「……!?」

ソーニャ「慈善事業じゃねぇんだよ」

ほむら(組織の……!?)


ほむら(お、折部さん……組織のことまで知っている!?)

ほむら(そういえばソーニャさん……魔法少女のことを話してはいけないうるさい人がいるって聞いた……)

ほむら(それがこの人?ソーニャさんの同僚か何かなのかしら)

ほむら(同じ組織の人だとして、魔法少女を秘密にする理由はわからないけど……)

ほむら(……私の護衛、三人もいるってこと?だとすれば心強いものね)

やすな「ほむらちゃん。学校はどんぐらい壊れちゃってるの?」

ほむら「え、あ、そうですね……外面もそうなんですが、機能面で色々と……」

ほむら「セキュリティとか色々な管理システムが故障してしまいまして」

ほむら「避難所になってた体育館は大丈夫でしたが校舎は……」

やすな「ふーん……機械のことはよくわかんない。時間かかりそうだね」

ソーニャ「……そうかもな」


ほむら「で、でも何にしても組織の問題が解決次第ですね」

ソーニャ「ちょ……!」

やすな「へ?」

ほむら「既にご存知とは思いま……」

ソーニャ「お、おま……ほむら!」

ほむら「え?」

やすな「……ん?」

やすな「……ね、ねらわ?」

ほむら「……あれ?」

やすな「ほ、ほむらちゃん……?」


ほむら「?」

やすな「狙われてる……って、何したの?」

ソーニャ「ほむら!お前……!」グイッ

ほむら「はぅっ」


ソーニャ「バッカ!何即効バラしてんだよ!」

ほむら「え?何をですか?」

ソーニャ「お前の立場だよ!狙われてるって普通話すか!?」

ほむら「……あ!」

ソーニャ「わかったか?お前の言ったことはだな……!」

ほむら「もしかして、折部さんってその裏切り者の容疑者……」

ソーニャ「違えよ!」


ほむら「す、すみませんっ!」ビクッ

ソーニャ「やすなはただの一般人だ!」

ソーニャ「そんなことしれっとベラベラ話すか普通!?」

ほむら「え、だ、だって……」

ソーニャ「だっても何もだな……!」

ほむら「ソ、ソーニャさんと呉識さんの知り合いだって言うので……」

ほむら「その、て、てっきり同じ組織の方かと……」

ほむら「それに呉識さんが忍者ってこと知ってるみたいですし……」

ほむら「組織のこともご存じだったようなので……つい……」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「……あ」


ほむら「そんなことを知ってる普通の人なんて、普通いないと思って……」

ソーニャ「そ、それは……まぁ、言われてみれば、そうだよな」

ソーニャ「いや、でも……あー……」ポリポリ

ソーニャ「やすなは……ちょっと、特別なんだよ……」

ソーニャ「その……あー……あのだな、やすなはあくまで一般人で……」

ソーニャ「私とあぎりの立場を知っていて……たまに刺客との戦いに巻き込まれたりもするけど……」

ソーニャ「やすなのことを詳しく話さなかったのは……その……いつもいっつもまとわりついたりしてきて……何て言うか……」

ほむら「……?」

ソーニャ「うっかりしてた」

ほむら(えぇー……)


ほむら「……お、折部さんは、殺し屋と忍者のことは知っていながら、無関係なんですね?」

ソーニャ「ああ、知っている」

ソーニャ「悪い、うっかりしてて」

ソーニャ「やすなのことあんまり考えてなかった」

ほむら「お、お友達として、お互いそれはどうなのかと……」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「とにかく、やすなの件についてはこっちの不手際だ。責めて悪かったな」

ほむら「い、いえ……」

ソーニャ「仕方ない。任務とお前のことをやすなに話すか……」ハァ



やすな「どしたのわさわさ」

ソーニャ「話は済んだ」

やすな「それで、ほむらちゃん何したの?」

やすな「やっぱり忍者?」

ほむら「…………」

ソーニャ「仕方ない。話してやる」

ソーニャ「確かにこいつは訳あって敵の組織に狙われている」

ソーニャ「何で狙われているのかまでは言えないが……」

ソーニャ「だから私とあぎりで護衛する任務を預かっている。だからこの学校に通うことになったんだ」

やすな「護衛?」


ほむら「はい。お世話になってます」

ソーニャ「やすな。一応言っておくが、これはほむらの人生がかかっている」

やすな「!」

ソーニャ「こいつのことが可愛いと思うなら余計なことするなよ」

やすな「可愛いって……ソーニャちゃんまさかそっちの趣味が?」

ソーニャ「は?」

やすな「ごめんね……私、そういう趣味ないの。距離を置こう」スス…

ほむら「……日本語って難しいですね」

ソーニャ「貴様……!」

やすな「まぁそれはさておき」


ほむら(さ、さておかれた……!?)

やすな「ソーニャちゃんって暴力専門でしょ?大丈夫?」

ソーニャ「誰が暴力専門だ」ギリギリ

やすな「あだだだだ!手が!手が取れる!本日三度目!」

ほむら(な、流れるように自然なサブミッション!流石プロ!)

やすな「あ!取れた!見えないけど今絶対に手が取れた!キュポーンって!」

ほむら「…………」

やすな「ほ、ほらぁ、ほむらちゃん怯えてる。暴力反対!」

ソーニャ「呆れてんだよ」

ほむら「え?いや、別に……何とも……」

やすな「何ともって、それはそれでどうなの?」


やすな「いたた……」

ほむら「あの……大丈夫ですか?湿布くらいなら用意できますが……」

やすな「いい子過ぎる……その気遣いを少しでもソーニャちゃんに分けてあげて」

ほむら(私は……いい子なんかじゃない)

ソーニャ「甘やかすな。すぐつけあがるぞ」

ソーニャ「こいつには殴りすぎが丁度良い」

やすな「この鬼!悪魔!」

ソーニャ「で、何が大丈夫なんだって?」

やすな「いや、ほら……護衛ってことは、ほむらちゃんを守るってことでしょ?」

ほむら(な、流した!?折部さんにとってはいつものことなのね……)


ソーニャ「そうだが?」

やすな「ソーニャちゃんに守ることなんてできるのかな」

ソーニャ「……まぁ、言いたいことはわかる」

ソーニャ「確かに私の本職は殺し屋……SP的な心得はない」

ほむら「学生じゃないんですか」

ソーニャ「社会的には学生だ」

ソーニャ「……だが、何にしても問題はない」

ソーニャ「要するにほむらを狙う刺客を返り討ちにすればいいんだからな。組織のフォローもある」

やすな「無理そう」

ソーニャ「あ!?」


やすな「だってだって!ソーニャちゃん絶対ほむらちゃんイジめるよ!」

ソーニャ「は?」

ほむら「…………」

やすな「気を付けてね。ソーニャちゃんはすぐ怒るから」

ほむら「……怒るんですか?」

ソーニャ「それはやすながウザいからだ。ほむらみたいな大人しいヤツに手を出すかよ」

やすな「いーや!ソーニャちゃんは暴力振るうね!絶対振るうね!」ビシッ

ソーニャ「振るうか!」

やすな「ふふん、果たしてそれはどうかな?」

やすな「ほむらちゃん!」

ほむら「え?あ、はぁ、な、何でしょう」


やすな「ソーニャちゃんを煽って!」

ほむら「あ、あお……?」

ソーニャ「おい。変なことを教えるんじゃないぞ」

やすな「これはテストです」キリッ

ほむら「テスト?」

やすな「煽り耐性がなさすぎるソーニャちゃんが本当に、本っ当に!」

やすな「この聖女ほむらちゃんにムカつかないか確かめさせてもらうよ」

ほむら「せ、聖女って……」

やすな「いつも通りついカッとなって護衛対象の関節を外したらクビになって無職になって野良犬と暮らすことになるよ!」

やすな「それでもいいの!?」

ソーニャ(……またいつもの思いつきか)イラッ


ソーニャ「ったく……お前じゃないんだからそんなことするか」

やすな「さぁ!ソーニャちゃんを怒らせるような悪口を!さぁ!」

ソーニャ「聞け」

ほむら「そ、そんな、急に言われても……」

ほむら「えっと……」チラッ

ソーニャ「健気にもやすなの言いなりに……」

ソーニャ「構わん。言ってみろ」

ほむら「は、はぁ……でも……」

やすな「カモカモッ!」

ほむら「えと……す、すみません」ソワソワ

やすな「謝った!?気ぃ弱っ!」


ソーニャ「…………」

やすな「……止めないんだね?」

ソーニャ「あ?」

やすな「ほむらちゃんに悪口考えさせるの、止めないんだね」ニヤリ

やすな「ほむらちゃんに悪口言われたいの?ソーニャちゃんって実はドM~?」

ソーニャ「ふん!」ボコッ

やすな「グヘッ!じゅ、十二分にドS!」

ほむら「あ、あの……どうしたら……」

ソーニャ「はぁ……仕方ない。一度言い出したらしつこいからな」

ソーニャ「テキトーにさっさと言っちまえ。どうせすぐ飽きる」

ほむら「で、でも……」

ソーニャ「安心しろ。悪口の一つや二つで怒る程私は短気じゃない」

やすな「え?」


やすな「なまら短気だよ」

ソーニャ「……敵とやすな以外に暴力は振るわないと誓おう」

やすな「敵と同じ括りされた!?」

ほむら「…………」

ほむら(ソーニャさんの悪口……か)

ほむら(ソーニャさんの第一印象は「怖そう」だったけど……)

ほむら(知り合ってみれば割とそんなでもない……でももしかしたら気にしてるかもしれない……)

ほむら(強いて言えば、殺し屋を名乗る割には煽り耐性がなさすぎる?)

ほむら(……っていうのも余計なお世話か。そういう演技かもしれないし)

ほむら(護られている立場上、あまり下手なことを言って傷つけたり神経を逆撫でなんてしたら、今後気まずくなる)

ほむら(当たり障りのない軽い冗談レベルの内容で、折部さんを納得させられるような悪口……)


ほむら「……ふむ」

やすな(ソーニャちゃんの悪口を真剣に考えてる……)

ソーニャ(くそ真面目なヤツだな……)

やすな「そ、そんな悩むことじゃないんだよ?」

やすな「気軽にカモカモっ!」

ソーニャ(そしてこの安定のやすな)

ほむら「……こ」

ソーニャ「こ?」

ほむら「こ、声が……」

やすな「声?」


ほむら「思いの外低い……かな?なんて……」

ソーニャ「…………」

やすな「…………」

ソーニャ「ヘタクソか!」

ほむら「ご、ごめんなさい!」ビクッ

ほむら(もしかしてコンプレックスだった!?)

ソーニャ「いやいや怒ってない怒ってない。世に言うツッコミだから」

ほむら(ほっ……)

やすな「……えぇー」

やすな「確かに少年声かもしれないけど……今の悪口のつもり?」ナイワー

ほむら「そんな無理ですよ……急に言われても」


やすな「遠慮しなくていいんだよ、ほむらちゃん」

やすな「これはソーニャちゃんのためでもあるんだから」

ほむら「で、でも……ソーニャさんの悪いところなんて思いつきませんし……」

やすな「うぅっ、ここだけ聞くとソーニャちゃんを思い切り持ち上げてるかのような発言」

やすな「何か許せない」

ソーニャ「は?」

やすな「今思えば知り合ってあまり日が経ってないんだよね」

ほむら「え、えぇ、まぁ……昨日の今日ですし……」

やすな「仕方ないよね。ソーニャちゃん猫被ってたのかもしれないし」

ソーニャ「被るも何もねぇよ」


やすな「私ならソーニャちゃんの悪口なんてたくさん言えるよ」

やすな「ヘタレとかビビリとかマヌケとか単純とか鬼金髪とか暴力女とかヘタレとか……」

ほむら(ヘタレって二回言った)

やすな「遠慮せず何だって言ってあげてもいいんだよ?」

やすな「簡単じゃん」

ほむら「え、えっと……」

やすな「大丈夫。ソーニャちゃんのほむらちゃんへの暴力は……」

やすな「この私が庇う!」バーン

やすな「さぁ!ソーニャちゃんを罵倒するがいいよほむらちゃん!」

ソーニャ「……じゃあ今受けるか」ガシッ

やすな「あ」


コキャッ

やすな「オゥッ!」


やすな「」チーン

ほむら「……だ、大丈夫……ですか?」

ソーニャ「ほっといても大丈夫だ」

ほむら「いや、でも今結構エグい音が……もしもし、折部さん?」ユサユサ

ソーニャ「やめとけ。触るとバカが移るぞ」

ほむら「で、でも……白目剥いて……」

ソーニャ「だから、大丈夫だって」

ほむら「そんな、いくらなんでも……」

やすな「もー!」ガバッ

ほむら「!?」


やすな「ソーニャちゃん邪魔しないでよぅ!」プンスコ

ソーニャ「すぐ復活するから」

ほむら「た、タフな方だ……」

ソーニャ「呆れるくらいに丈夫なんだよ」

やすな「ソーニャちゃんがほむらちゃんに乱暴しないかっていうのを調べなきゃいけないのに」

ソーニャ「せんでいい。しないから」

やすな「そんなの信用できないよ!いっつも私をいたぶるじゃない!」

ソーニャ「それはお前がウザいからだ!」

やすな「くそぅ!これじゃ埒が明かないぜ!」

ソーニャ「お前のせいだろ!」

ほむら「あ、あの!わ、私は……!」


ほむら「私はソーニャさんのこと……信用しています」

ほむら「ソーニャさんや呉識さんは……私の身の安全を考えてくれています」

ほむら「今回の騒動、私の友達にも危害が及ばないよう配慮してくれるそうですし……」

ほむら「何より私の事情も……深く追求してくれませんでした」

ほむら「そういう方針なのかわかりませんけど……すごく、嬉しかったです」

ほむら「だから私はソーニャさんと呉識さんに、安心してこの身を任せられます……」

ソーニャ「ほむら……」

ほむら「なので、折部さん……そういうことで、納得していただけませんか?」

やすな「あ、二人とも見て!グランドに野良猫が!」

ソーニャ「聞け」

ほむら「…………」

ソーニャ「諦めろ……そういうヤツなんだよ。コレは」

やすな「ん?どうしたの?」←コレ


ほむら「……ところで、その、呉識さんは……?」

やすな「あぎりさん?」

やすな「そっか。あぎりさんってソーニャちゃんの仲間だ」

ソーニャ「忘れてたのか……?」

やすな「まさか。ってことはあぎりさんもほむらちゃん守り隊なんだよね?」

ソーニャ「何だその隊は」

やすな「あぎりさんがいるなら安心だね」

ソーニャ「……私とあぎりのその差はなんだ」

ほむら「あ、あの……」

ソーニャ「あぎりなら……」

やすな「待って!」


やすな「ふふふ、読めたよ!これはいつものパターン!」

ソーニャ「あ?」

ほむら「パターン?」

やすな「あぎりさんの話題になると結構な確率で……」

ほむら「?」

やすな「ほっぺ摘ませて!」ニギッ

ほむら「ふへっ!?」

ソーニャ「許可を取る前に……」

やすな「うーん」グイグイ

ほむら「ひ、ひふへはふひゃへ!?」


やすな「違う……」

ソーニャ「どうしたいきなり」

やすな「次はソーニャちゃ……」

ソーニャ「触るな」バシッ

やすな「あふんッ!」

ほむら「いたた……な、何なんですか……」

やすな「ごめんごめん。いつものパターンだとほむらちゃんの皮膚がバリバリーって破けて実はあぎりさんだったーなんてことかと」

ほむら「ひ、皮膚……?」

ソーニャ「変装のマスクだよ」

ほむら「あぁ、あの映画とかでよく見る……」


やすな「そしてあぎりさんはソーニャちゃんと違って短絡的に乱暴したりしない」

ソーニャ「いちいち私を煽るような言い回しすんのはどうにかならんのか」イラッ

やすな「まぁ手裏剣投げられたり変な薬打たれたり地獄落とし喰らったりはあったけどね」

ほむら「…………」

やすな「あ、でも変装してたらわからないか……で、そのあぎりさんがどうしたの?」

ソーニャ「あぎりは今出かけてるからいないぞ」

ほむら「え?私を護ってくれるんじゃ……」

ソーニャ「あぎりはあぎりでやることがあるんだよ」

やすな「やること?」

ソーニャ「とにかく、あぎりは今仕事で学校にはいない」

ほむら「仕事?」

ソーニャ「仕事」


やすな「?」

ほむら「?」

やすな「まぁいっか。それにしても、びっくりしちゃった」

やすな「じゃああぎりさんの親戚だっていうの嘘になる?」

ソーニャ「そうなる」

やすな「そっか。私、ほむらちゃんが弟子か何かだと思ったもんだよ」

ソーニャ「弟子て」

ほむら「……ある意味では、少し、近いかも」

やすな「あれ?そ、そうなの?」

ソーニャ「もうあぎりから話は聞いていたんだな」

やすな「あぎりさん?」


ほむら「はい……お忙しい中、恐縮です」

ソーニャ「まぁあぎりがそうしたいって言うなら……」

やすな「あぎりさんに弟子入り!?」

ほむら「いえ、弟子っていう程のことでは……」

ほむら「ここにいる間、手裏剣の使い方を少し教えていただけることになりまして……」

ほむら「本当、ありがたいことです」

やすな「ふっ……ほむらちゃん」ポム

ほむら「?」

やすな「姉弟子。姉弟子」クイクイ

ほむら「……折部さん?」


ほむら「一般人なのに、呉識さんの弟子?」

ほむら「じゃあやっぱり本当は組織の……?」

ソーニャ「ただのお遊びだ」

やすな「お遊びだなんて心外だなー。これでもあぎりさんから色々学んでるんだよ?」

やすな「水遁の術」

ソーニャ「水筒」

やすな「まきびし」

ソーニャ「自滅」

やすな「えーっと……えっと……」

やすな「……くそ!くそ!」


ほむら「…………」

やすな「うっ、そ、そんなジト目で私を見ないでっ」

やすな「でもいいなー。私もまた教えて貰おっかな」

ソーニャ「ダメ。邪魔なだけだ」

やすな「えー。いいじゃん」

ソーニャ「手裏剣なんてどうせお前、二、三回投げて上手くいかないってんで飽きる」

やすな「我ながら光景が想像できる」

ほむら「飽きっぽい……タイプ?」

ソーニャ「そうだな……集中力もないし」

やすな「女心はなんとやらって言うからね」

ソーニャ「使い方違うし」


やすな「ソーニャちゃんは教えないの?」

ソーニャ「しない。面倒臭い」

やすな「うわー、ソーニャちゃん薄情ー」

ほむら「ま、まぁまぁ……」

ほむら「教えていただけること自体、わざわざ労力を割いていただいてるわけですので……」

やすな「謙虚だなー」

やすな「いいじゃんソーニャちゃん」

やすな「いつものアレ、教えてあげなよっ!」

ほむら「アレ?」

ソーニャ「……ナイフか?」


やすな「ううん、ツッコミ」

ソーニャ「ツッコミ言うな」ベシッ

やすな「ぶぐっ!」

ほむら(どつき漫才……)

ほむら(――ハッ!)

ほむら(今……さやかにツッコミを入れるビジョンが……何故?)

やすな「うぅ、やっぱりダメだ……ソーニャちゃん、手取足取りレクチャー無理だ……」

やすな「人に教えるような器じゃない……体罰パラダイス」

ソーニャ「…………」

ほむら「あ、あの、べ、別に私、手裏剣で十分といいますか……」

やすな「気を使われちゃってるよ」


やすな「やれやれ、ソーニャちゃんは本当に気が利きませんなぁ」

ソーニャ「……そこまで言われたら引けないな」

ソーニャ「じゃあ得意のサブミッションを……」

やすな「おお!」

ソーニャ「お前練習用の人形な」

やすな「やめて」

ほむら「あ、あの……あまり肉体的というか……暴力的なのはちょっと」

ソーニャ(武器泥棒の魔法少女が何言ってんだ)

やすな「ほむらちゃんが私を庇ってくれてる……!優しすぎて涙が出る」

ほむら「か、庇うというか……ただ、怪我させちゃったらとかが、怖いというか……ただ、気が弱いだけです……」

ソーニャ「むしろ逆にこいつ怪我させてみろよ。数秒後には治るくらいに頑丈だぞ」

やすな「ふふふ、ほむらちゃん……ソーニャちゃんとは別のタイプのツンデレですね。萌えるね」

ソーニャ「何言ってんだお前」


ほむら「それに私、サブミッションとか、そういうのするタイプじゃないですし……」

やすな「タイプ?」

ほむら(大体、使い魔や魔女相手に関節も何も……)

ソーニャ「何だ、折角やすなが体を張ってくれるのに」

やすな「拒否します!拒否します!」

ほむら「お気持ちは嬉しいですが、すみません……」

ソーニャ「ま、元より冗談だ。教えてやるなんて酔狂は……」

やすな「ふふふ……逃げましたね」

ソーニャ「何だお前」

ほむら「あ、あの……私は、その、呉識さんの家にお世話になってて一緒の時間が長いので……そんなご迷惑は、その……」

やすな「同じクラスだから、一緒の時間がーっていうのは言い訳になりませんなぁ」

ソーニャ「いつにも増してウザいな……ほむらが来てテンションあがってんのかしらんが……」


やすな「うん、ソーニャちゃんといえばナイフだね」

やすな「ナイフ教えてあげたらいいんじゃない?ちょちょいっと」

ソーニャ「随分と簡単に言ってくれるな」

ソーニャ(ナイフ……か。確かにほむらも使っていたが……)

やすな「何とかイングナイフって奴だね。かっこいい」

ほむら「スローイングナイフ……ですか」

ソーニャ「……なんだ、ほむら。不満か?」

ほむら「い、いえ……手裏剣と被るかなぁ、なんて……」

ソーニャ「な、ナイフにはナイフの利点がだなぁ……!」

やすな「プププ……あぎりさんの下位互換……!うぇへへーぃ!」

ソーニャ「……何かほむらお前、昨日の今日で随分と図々しくなったな」ジト…

ほむら「い、いえ!そんな滅相も……!」


ソーニャ「やすなに影響されないように、このバカからも護ってやらないとな」

ソーニャ「だが……くそ、下位互換だと?あぎりと比べられるのは癪だ」

やすな「身長とかプロポーションとかね」

ソーニャ「お前の方が小さいだろ」

やすな「別に私は気にしてないし」プー

ソーニャ「くっ……」

ほむら「じゃ、じゃあ、あのっ」

ソーニャ「ん?」

ほむら「は、刃物……」

ソーニャ「刃物?」

ほむら「刃物の扱いについて教えていただけませんか?」


ほむら(手裏剣なら……ナイフ同様、魔力で作れそうだし……)

ほむら(それにいつか、魔法少女のさやかみたいな剣が作れるようになれば、現状のナイフよりはそれを使うだろうし……)

ほむら(そうすれば、近距離と遠距離両方の武器が……それに手裏剣だって刃物)

ほむら(だったら、刃物についての知識があった方が後々に……!)

ソーニャ「……刃物、か」

ソーニャ「確かに、ナイフや仕込み刀……刃物の扱いについては心得はあるつもりだが……」

ほむら「こ、言葉で教えていただけさえすれば、後は自主練習させていただきますので」

やすな「えー、つまんない」

ソーニャ「何がだ」

ソーニャ「まぁ……確かに、それならこっちとしても比較的楽……」

ソーニャ(……あれ?何で私は教えることが決定事項みたいなことになってんだ?)


ほむら「?」

ソーニャ「…………」

ソーニャ(……まぁ、あぎりも教えるというし)

ソーニャ(それくらいなら……やすなもうるさいし……でも……)

ソーニャ(さんざ面倒だから嫌だと言った手前……しかし……)

やすな「あれ?どうしたの?」

ソーニャ「……気が向いたらな」

ほむら「は、はいっ。ありがとうございますっ」

やすな「よかったね。ほむらちゃん」

ほむら「え、えぇ……はい」

ほむら(……まさか折部さん、そういう風に促して?)


やすな「ソーニャちゃんの刃物講座ぁ?ソーニャちゃんの口から上手く説明できるかなぁ?」

やすな「ボキャブラリー大丈夫?スパーとやってドーン!って教え方じゃダメだよ?」

ソーニャ「お前に語彙力とやかく言われる筋合いはねぇ!」

ほむら(……そうでもなさそう?)

ほむら(何だか……成り行きで、色々と技術が身に付きそうなことになったわね)

ほむら(それはそれで怪我の功名というか、不幸中の幸いというか、渡りに船というか、助かるけど……)

ほむら(それになんだかんだで、ここでの生活も楽しめそう)

ほむら(……なるべく積極的に話に参加しないとソーニャさんと折部さん、二人のペースというか、空気に取り残されそうだけど)

ほむら(基本コミュ障な私には、少し気が重い部分もある……)

ほむら(そして何より……皆が気がかり)


ほむら(まどか……今、見滝原ではどうなっているのかしら……)

ほむら(私がいないってことで、心配かけていることでしょうね)

ほむら(こうして無事であることを、何とか伝えたいわね)

ほむら(……メールしていいって言われている)

ほむら(中身見られちゃうのは恥ずかしいけど……送ってみよう)


ソーニャ「……ん、悪い。電話だ」

ほむら「え?あ、はい」

やすな「ほむらちゃん護る仕事中ってことは……その間アレな仕事は入らないよね?」

ほむら「さ、さぁ……」

ソーニャ「……あぎりか。……ハ?何だって?」

ソーニャ「バレた……?すまん、順を追って説明してくれ」

やすな「?」

ほむら「?」

今回はここまで。大きく見ても年内には終わらせられるはず。だったらいいなって
>>289……まぁ、お察し。バックアップとか用意してなかったこっちもこっちですし

映画公開されたけど今更おべべの人を挿入することはできないね。する気は特にないけど

読み直してみて微妙に違和感があると思ったらやっぱり間違えてたので>>360訂正。失礼



ほむら(まどか……今、見滝原ではどうなっているのかしら……)

ほむら(私がいないってことで心配をかけていることでしょうね)

ほむら(こうして無事であることを、何とか伝えたい)

ほむら(……メールをしていいって言われている)

ほむら(中身見られちゃうのは恥ずかしいけど……今夜送ってみよう)


ソーニャ「……ん、悪い。電話だ」

ほむら「え?あ、はい」

やすな「ほむらちゃんを護る仕事中ってことは……その間アレな仕事は入らないよね?」

ほむら「さ、さぁ……」

ソーニャ「……ハ?何だって?」

ソーニャ「バレた……?すまん、順を追って説明してくれ」

やすな「?」

ほむら「?」


今の気持ちにそぐわない、意地悪な天気。

気持ちが落ち込む理由。それはなんと言っても、ほむらちゃんに変装した……

変装した……。

……えっと、なんだっけ。


杏子「……よぉ」

ゆま「おはよう。まどかお姉ちゃん」

まどか「うん。おはよう、二人とも」

杏子「なあ、まどか。あれからのことだが……」

杏子「あぎりとかいうヤツからはあれ以上何もなかった」


……そう。あぎりさん。呉識あぎりさん。

彼女が現れて、わたし達を散々混乱させてくれた日からついに日を越してしまいました。


「ほむらちゃんがいない」……というだけで「あの日」の夜はとても長く感じました。

眠れませんでした。なので、寝不足気味です。


まどか「そっか……」

ゆま「……大丈夫?まどかお姉ちゃん」

まどか「うん……ちょっと眠れなくって」

杏子「まぁ、無理もないわな」

杏子「……昨日のあたしみたいだな?」

まどか「あはは……そうだね」


杏子ちゃんとゆまちゃんと……三人でお出かけです。

とっても、大事な用があるのです。


「あの日」の夜。ほむらちゃんからメールが来ました。

ほむらちゃんの文章……元気だから心配しないで、とのことです。

ほむらちゃんからメールが来るのはとっても嬉しいこと。

ほむらちゃんの言葉は、音声は勿論のこと文面でもテレパシーでも好きです。

だけど……昨日のは、悲しかった。


まどか「…………」

ゆま「まどかお姉ちゃん……」

杏子「あまり……気を落とすな。まどか。気持ちはわかるし……戸惑うのもわかる」

杏子「あたしだって、まだ現実味が沸かないというか……」

ゆま「え、えっと……その……」

ゆま「は、ハンカチ……使う?」

まどか「……え?」


ハンカチ……?

そっか、わたし……今、泣きそうになってたんだ。

涙が……滲んでたみたい、です。

無意識の、内に……。


まどか「ご、ごめんね……気、使わせちゃって……」

杏子「まどかは泣き虫だからな」

まどか「そ、そんなことないもん」

ゆま「ハンカチ……」

まどか「ううん、大丈夫。ありがとう、ゆまちゃん……」

ゆま「うん……」

まどか「…………」

杏子「…………」


そもそもあぎりさんは、わたし達に「ほむらちゃんが誘拐された」ってことを隠ぺいするために来ました。

ほむらちゃんが見滝原にいないことを、帰省なりなんなりで虚偽の理由づけのために来たのです。

だからそのメールは、それがバレたからの苦し紛れの火消しなんだって、さやかちゃんは言ってました。

そう……ほむらちゃんのケータイを没収していれば、なりすましなんて簡単なのです。

悔しいことに、わたしは文章だけでほむらちゃんか否かを見分けることはできません。

……とても返信なんてできません。安心してって書かれても、できません。

仮に本人からだとしても、ほむらちゃん以外にわたしの気持ちが読まれる可能性のあるメールなんて嫌です。

「fromほむらちゃん」からそんな疑惑が生まれるのはとても悲しいです。


杏子「……大丈夫さ。ほむらのしぶとさはあんたも知ってるだろ?」

杏子「プレゼントしてやったグリーフシードだってまだまだたくさん盾に入ってることだろうよ」

杏子「だからそう簡単にくたばったりはしねぇ」

ゆま「ほ、ほむらお姉ちゃん、強いもん!ねっ?」

杏子「あぁ、強い強い。……だからまどかもそう泣くほど不安がるな。な?」

まどか「……うん」


そう……ほむらちゃんは強い。

わたしのために何度も苦しい思いをして……それでも諦めなかった。

時間停止や銃器がなくたって、ほむらちゃんは強いんです。

だから必ず、ほむらちゃんなら戻ってこれる。来てくれるって、信じています。

時間が止められなくなったことも、確かに不安要素の一つですが……

杏子ちゃん。そうじゃないの。わたしが一番不安なのは「そういうこと」じゃない。

ほむらちゃんもきっと不安な思いを抱いているはず。みんなに会いたがってるはず。

それが辛いの。

ほむらちゃんが辛い思いをしてると思うと、わたしも辛い。

さぞかし心細いことだろう……。だけど、わたし達には何もできない……。


あぎりさんが帰っちゃって、ほむらちゃんのケータイにコンタクトする勇気がなくて、

お家に行ったら色々無くなってて、キュゥべえが何か言ってて、

やっと発覚した、ほむらちゃん誘拐事件。

自覚と共に、わたしは泣いてしまいました。

隣に、手の届く位置にほむらちゃんがいないことが悲しくて悲しくて。

……あぎりさんの言う通りというわけではありませんが、

警察にも学校にも親にも報告しませんでした。

ほむらちゃんのことと魔法少女のことで大事になっては困るのはお互い様。

わたし達以外、みんなほむらちゃんが攫われたなんて思わないことでしょう。

ほむらちゃんは、一体何に巻き込まれているんだろう。

……ほむらちゃんがわたし達に話してくれたある秘密。

心当たりがあるとすれば……それだけ。


わたし達は手がかりを求めて、ここにやってきました。

それが実際に得られるかまではわかりません。

……「行く」ことを提案したわたしが言うのも何ですが、

とても、緊張してしまいます。恐怖という感情に、むしろ近いです。

そこは大きなお屋敷。

杏子ちゃんの呼び出しに応じて、立派なドアがゆっくりと開く……。


杏子「よ、待たせちまったか?」

杏子「……ワルプルギスの夜ぶりだな」

まどか「…………」

ゆま「おはよー」

ゆま「織莉子お姉ちゃん」


ここは、織莉子さんの家。

織莉子さんは、キリカさんと同居しています。

わたし達に軽く会釈をしてにっこりと微笑んでゆまちゃんに答えます。


織莉子「えぇ、おはよう」

織莉子「……そして、鹿目さん」

まどか「…………」

織莉子「……そんな萎縮しないで下さい」

織莉子「さ……入って」


わたし達が織莉子さんに会いに来たのは……

ただ単純に、ワルプルギスの夜以来会ってないからってこともあるんだけど、

……ただ、信じてるだけじゃダメだから。


ゆま「キリカお姉ちゃんは?」

織莉子「キリカはでかけているわ」

織莉子「おつかいに行かせているの」

ゆま「おつかい?」

杏子「ふーん。あんたらいつも一緒にいるから、そういうのは一緒に行くもんかと思ったが」

織莉子「そう言われてもね」

まどか「…………」

織莉子「…………」

織莉子「えっと……お茶、用意してますので……」

織莉子「座って」


奇麗なテーブル。ピカピカのカップとポット。

中身はもちろん紅茶。

織莉子さんも紅茶が好きなんだそうです。

それでわたしは今日、初めて織莉子さんが淹れたお茶を飲むことになります。


織莉子「紅茶……どうぞ」

織莉子「はい、ゆまちゃん。これお砂糖ね」

ゆま「ありがとうっ。いただきます」

まどか「…………」

杏子「……何か変なの入ってないよな?ん?」

ゆま「ゆまがお砂糖入れた直後に変なこと言わないで欲しいなって」


紅茶の湯気をジッと見つめるわたしを見てから、

杏子ちゃんは冗談めいた口調で織莉子さんに聞く。


織莉子「ふふ……信頼がないのね」

織莉子「勿論入ってないわよ」

杏子「どうだかねぇ……」

織莉子「もう、佐倉さんも人が悪い」


喉をくくっと鳴らして「お見通しだぜ」と「なんちゃってプー」の、

少なくとも二つの意味合いを感じ取れるような笑い方をする杏子ちゃん。

対する織莉子さんも笑ってはいるけど、その目は少し寂しそうに見えました。

わたしがさっさと飲まないからだ……と、少し罪悪感を覚えます。

そんなこと言っちゃだめだよって、杏子ちゃんに言いたいとこだけど……

だけど実際……怖い。

だって……わたしは、彼女に命を狙われた過去があるから。


織莉子さんは、予知の能力を持った魔法少女です。

織莉子さんが契約した時……その予知の力で、わたしの未来を見たんだそうです。

わたしが契約して、それで魔女になって、ワルプルギスの夜よりもずっと恐ろしいことになる未来。

そういう、予知を見てしまったのだそうです。

それで、わたしが魔女にならないよう「殺そう」と……しました。最初は所謂暗殺でした。


織莉子「なら、まずは私が一口飲みましょうか」

杏子「おうおう、飲んでみ」


時には……そう。わたしの飲み物に毒を入れたこともありました。

毒というか……魔力?何にしても飲んだらわたし、お陀仏でした。

もっとも、ほむらちゃんにしっかり守ってもらえたけど。

そして、ほむらちゃんは二人の存在を悟りました。

……いえ、最初から知ってました。


織莉子「……う」

杏子「どうした?」

織莉子「やっぱり熱くて飲めないわ」

杏子「……おい」

織莉子「茶葉を開かせるためにはできるだけ熱い方がいいの」

杏子「まぁ、うん。マミもそんなこと言ってたよ……つっても、匂いなんてわからんが」

ゆま「ふーふー」


ほむらちゃんは『このわたし』と出会う前から織莉子さんとキリカさんを知ってたそうです。

いつかのループで『わたし』は実際に二人に殺されたことがあったんだそうです。

毒殺の証拠が何とか言って、ほむらちゃんは、二人のことを止めるために……

マミさんと杏子ちゃんとゆまちゃんの四人で敵地(?)に乗り込んで……戦いました。

どっちが勝ったかというのは、言うまでもありません。

そして、ほむらちゃんは、本気で二人を殺そうと、ソウルジェムに銃口を向けて……。

勝手についてきてたわたしは、ほむらちゃんを必死に止めました。


杏子「まぁ、いいさ。魔力も感じないし……」

杏子「あの死闘を共にしたんだ。それなりに友情ってもんがある」

ゆま「えへ、みんな仲良し」

織莉子「……あ、ありがとう」


例え命を狙われているからって、殺そうとしてるからって、

ほむらちゃんが……みんなが二人の命を奪うのは違うと思ったからです。

呆然としてるほむらちゃんを尻目に、わたしは織莉子さんに「契約」を持ちかけました。

「魔法少女に絶対ならないから、ほむらちゃんに協力してください!」

「万が一にでも契約したなら、わたしのソウルジェムあげます!」

みたいなことを、必死に喚いてた記憶があります。

必死すぎて、その辺り、有耶無耶です。本当にそう言ったのかはハッキリしません。

でも、契約したなら殺されても仕方ないという意志は、その時ハッキリありました。

ほむらちゃんに怒られました。自分の命を何だと思ってるのって……少し怖かった。


今にして思えば、殺されるなんていうのに実感がなかったから、

わたし自身の命を軽視するような発言をしたのかもしれません。

でもとにかく、あの時のことは無我夢中で。これほんと。

まぁなんだかんだあって、ほむらちゃんは交渉を始めました。

簡単に言えば「ワルプルギスの夜と戦うのに協力しなさい」って。

ワルプルギスの夜を倒せば「わたしの魔女」は生まれないからって。

ほむらちゃんは、わたしの「契約しないよ」って言葉を信じてくれています。

わたしも、ほむらちゃんがわたしのために辛い思いをしてきたことを知っているし、

ほむらちゃんがわたし……ううん、みんなのために頑張ってくれていたことも知っている。

だからわたしは、絶対に契約なんてしない。

わたしは共闘の「契約」を破らせたりしない。

未来は変えられる。織莉子さんが最悪の未来を阻止しようとしたように。


二人は、ほむらちゃんの交渉に乗ってくれました。

そして、共闘関係を結びました。

その間マミさんの心意気で信頼関係が何たらかんたらって……

キリカさんは同じ学校でしたので、お昼ご飯一緒に食べたり、

放課後、織莉子さんとキリカさんを加えた賑やかなお茶会もしたものでした。

だけど……結局ほむらちゃんは二人に対する恨みを拭いきれなかったみたいでした。

あとわたしも……命を狙った側と狙われた側だったもので、恐怖を拭いきれ……拭えてないです。

何とか仲を取り持とうとするマミさんとさやかちゃん、ゆまちゃんには苦労をかけました。

ものすごく気まずかったです。

だけど、二人は実際、ほむらちゃんを助けてくれました。

そして、ワルプルギスの夜撃退です。勝利です。

一方のわたしとさやかちゃんは避難所で膝を嗅いでました。


みんなのおかげで見滝原は救われました。ほむらちゃんのおかげでわたしも救われました。

みんなの中に織莉子さんとキリカさんが入っている。その頑張りの一部は、突き詰めればわたしのためでもありました。

改めてわたしは、二人は仲間になったんだって、そう、思ったのです。

仲間なら、仲良しじゃないといけません。

だからわたしは……

その大切な仲間が淹れてくれた紅茶を飲まずにしてはいられません。

毒が入ってるかも、なんて疑念を持ってはいけない!


まどか「い、いただきます!」

織莉子「あ、鹿目さ……」


紅茶を飲むのに、こんな緊張する時がありますか。

少しお行儀は悪いですが、ゴクリと一口いただきま――ッ!?


まどか「ゴフッ!」

杏子「!」

まどか「ぐふっ……えふッ!」

ゆま「ま、まどかお姉ちゃん!」

杏子「おい!まどか!まどかァー!」

まどか「げほっ……がふ……!」

まどか「ぐ、うぐ……くふっ……うっ」

織莉子「…………」

まどか「う……うぅ……あ、ああ……」


まどか「あぢゅい」

織莉子「…………」

杏子「猫舌め」

織莉子「……私、熱いって言いましたよね」

まどか「ぼーっていてて聞いてましぇんでひた」

ゆま「……ふーふーしないとね?」

織莉子「えっと……鹿目さん。水、要りますか?」

まどか「ら、らいじょーぶれす」

杏子「火傷したか?」

ゆま「治そうか?」

まどか「う、ううん。へーき。平気だから……ちょっとビックリしただけ」


恥ずかしいです。

紅茶を吹き出すなんて最悪です。

今、わたしの体が熱いのは、決して紅茶のせいではありません。

耳が真っ赤なことでしょう。

耳に心と書いて「恥」よく言ったものです。

お借りした布巾でテーブルを拭くわたし。惨めです。

テーブルクロスがなかったことに安堵しつつ、

舌のヒリヒリも落ち着いてきました。


まどか「……ごめんなさい。織莉子さん」

織莉子「い、いえ……」

杏子「紅茶いい感じに温くなったぞ」

ゆま「美味しい」


織莉子「それで……」

織莉子「私に、話があるようだけど……?」


織莉子さんが背筋を正して聞いてきたので、

わたしも真似して背筋をピンとさせま……


織莉子「楽にしてていいですよ。鹿目さん」

まどか「あっはい」

杏子「ああ、そうだ。あたし等はあんたに聞きたいことがあってな」

ゆま「ほむらお姉ちゃんのことなんだけど……」

織莉子「……えぇ、暁美さんのことなら私も聞いているわ」

織莉子「暁美さんともあろう人が、テレパシーもできずに攫われるとはね……」


ほむらちゃんが攫われたということが確信できた後、

マミさんは警察や大人の人に言えない代わりに二人に伝えました。

あぎりさんのことも、知っていることでしょう。

織莉子さんは、ハァ、とため息をつきました。

ほむらちゃんを心配してくれているのは、なんとなく嬉しい。

それで、わたしが欲しい模範回答が得られたら、もっと嬉しいんだけど……。


まどか「それで……あの……」

まどか「ほむらちゃんの居場所……『予知』でわかりませんか?」

織莉子「…………」


織莉子さんは、わたしが魔女になった姿を「見た」らしいのです。

見たということは、映像か、画像か……


わたしの想像、もとい理想では、ほむらちゃんの未来を見ることで……

例えば、その背景に見滝原タワーが映っていたら、

ほむらちゃんは今、見滝原にいるということがわかる。……ということです

ほむらちゃんの未来というより、ほむらちゃんの居場所を見てほしい。

そうすれば、そこに行けば、ほむらちゃんに会える。

状況によっては、助けに行ける。どうやら、織莉子さんにわたしの意図が伝わったようです。


織莉子「…………」

織莉子「……ハッキリ言わせてもらうけど」

まどか「は、はい」

織莉子「無理よ。それはできない」

杏子「…………」

ゆま「そっか……」

まどか「……そう、なんですか」

織莉子「私はまだ、予知能力を完全には使いこなせてないところもあるし……」

織莉子「一応やってみたけど……大体、それができるなら苦労はないわ」


織莉子さんは本当に残念そうな顔をして答えました。

……ショックはわりと小さかった。

決して期待してなかったわけじゃないんだけど、

残念に思うとすぐに、あるいは思うより先に、

できないならできないで仕方ないよねっていう考えが、

わたしの中にあったみたい。

うん。それができれば苦労はないもんね……。


まどか「そう……ですよね」

織莉子「でも……鹿目さん」

織莉子「あなたが、私の能力を頼ってくれて……嬉しいわ」

織莉子「それなのに、ごめんなさい。お役に立てなくて……」


まどか「そ、そんな、謝らないで……」

織莉子「……でも」

ゆま「でも?」

織莉子「でも、安心して下さい」

織莉子「あなたの望みは叶えられる……」

杏子「……どういう意味だ?それは」

まどか「…………」

織莉子「私の能力は千里眼の術ではない……あくまで予知」

織莉子「それで、暁美さんの未来はわからないけど、あなたの未来は読めた」

まどか「……わたしの、未来?」


わたしが魔女になるとか、そういう意味でなく?

わたしの望みは叶えられる?それって……


まどか「何を……見たんですか?」

まどか「どういう、未来を……!」

織莉子「あなたが暁美さんと二人、肩を並べてお茶を飲んでいる様子」

まどか「……!」

織莉子「私の予知では、無事帰ってくるというヴィジョンを映した」

織莉子「いつかはわからないけど、それが事実」


織莉子さんは、にこりと微笑んで、わたしに言いました。

そして、それは……わたしを安心させてくれる。


自然とわたしの口角があがっていました。

織莉子さんの笑顔に釣られているんじゃなくて、

わたしが欲しい答えじゃなかったけど、わたしが欲しい言葉の一つだったから。

「無事帰ってくる。それが事実」

予知能力という……お墨付きをいただきました。


ゆま「やったね!まどかお姉ちゃん!」

杏子「あぁ、安心材料が得られたな」

まどか「うん……!」

織莉子「……そう、ね」

織莉子「呉識さん……といったかしら?」

織莉子「ひとまずは、あの人を信頼すればいいと思う」


織莉子さんの予知は絶対ではありません。

何故なら、織莉子さんは「わたしが魔女になる」という未来を見たにも関わらず、

わたしは絶対に魔女はおろか魔法少女にならないのです。

だけど、それは、予知に干渉をしたから。

織莉子さん達が、その予知の内容を否定するため、行動をした。

だから見えた未来が変わったのでしょう。実際に変わったのですから。

もし行動をしなかったら、わたしは契約して魔女になってたことでしょう。

ある意味では、わたしは織莉子さんにも救われているんだと思う。

つまり、居ても立っても居られない気持ちはあれど、このままほむらちゃんの事情に干渉しなければ……?


杏子「……そんじゃ、まどか、ゆま」

杏子「聞きたいことも聞けたし、あたし等はそろそろお暇するか」


冷めた紅茶をクイッと飲み干した杏子ちゃんは言いました。


織莉子「あら、もうお帰り?」

杏子「あぁ、別の用事があるからな」

ゆま「マミお姉ちゃんがね、サクセンカイギするんだって」

織莉子「会議?」

杏子「いや、そんな大層なもんじゃない」

杏子「今あんたから聞いたことを報告してちょいと話すだけさ。いつもの茶会と何ら変わらない」

織莉子「そう。もうちょっとお話できたらと思ったけど……」

杏子「またの機会にな」

織莉子「というか……私達はそれに呼んでくれないの?」

まどか「え、あ、その……えと……」

杏子「すまんな」


杏子「何せ大掃除も兼ねてるからな」

織莉子「大掃除?」

杏子「トイレの芳香剤みたいなにおいの煙をまき散らされてな」

織莉子「煙って……あなた達何があったの?」


正体はあぎりさんの煙幕です。昨日、思い切りまき散らされた……。

決して悪い芳香ではないのですが、トイレという言葉がつくとどうしても気になってしまうそう。

さて、取れるでしょうか。そのにおい。


ゆま「お掃除を手伝ってって誘うのもメーワクだもんね」

織莉子「……別に気にしないのに」

まどか「えっと……すみません。別の機会、に……また、お茶しましょう。みんなで」

織莉子「えぇ、そうさせてもらいます。巴さん達によろしくお伝え下さい」

杏子「…………」


杏子「なぁ織莉子」

織莉子「何かしら」

杏子「さっきからちょいと気になってたんだが……」

杏子「何でまどかに敬語なんだ?」

織莉子「……気まずいから」

まどか「…………」

杏子「……あぁ、そう」

ゆま「えっと……うん。頑張って」

杏子「あー……っと、そ、それじゃあな」

織莉子「え、えぇ。また」

ゆま「お邪魔しましたー」

まどか「し、失礼しますっ」


織莉子「…………」

織莉子「……はぁ」

織莉子「……ごめんなさい……鹿目さん」

織莉子「……嘘をついて」


織莉子「…………」

織莉子「もしもし。美国です」

織莉子「えぇ、はい」

織莉子「そうですね。信頼は得られたかと」

織莉子「……そうですか」

織莉子「大した力とは言えませんが……相手はあくまで魔法少女」

織莉子「お気を付けて」

織莉子「……えぇ、そうですね。私の依頼でもありますから」


あー……緊張した。

でも、ワルプルギスの夜以来に会ったけど……

織莉子さん、大分丸くなった印象を受けました。

何せ初対面で既に殺意を持たれていた程ですし。

残念ながら、織莉子さんに聞きたかったこと。

ほむらちゃんの居場所を予知で特定には至りませんでした。

でも、織莉子さんは、わたしの隣にほむらちゃんがいるという予知を見ました。

ほっとしました。

あぎりさんの、のほほんとした空気で無条件に信頼しかけていたところですが、

織莉子さんの予知が後押しして、ある程度安心ができるようになりました。

とは言え、心配だし寂しいのには違いありませんが。


杏子「さて、そんじゃマミんとこに行くかね」

まどか「うん」

ゆま「でもお掃除やだなー」

杏子「居候の分際でわがままだな。あたしだって嫌だぞ」

まどか「ダメだよ。お世話になってるんだからちゃんとしないと」

杏子「わーってるよ」

ゆま「普段からカジテツダイしてるもんね?」

杏子「おう」

まどか「どんなことしてるの?お風呂掃除とか?」

杏子「それもあるが、ほむらのためにグリーフシードを狩ってくるのは主にあたしが……」

まどか「家事は?」


「この公園を通ると近道なんだよ」ってゆまちゃんは言いました。

杏子ちゃんとゆまちゃんは猫みたいに色んな抜け道を知っています。

方向感覚に自信があるとは言えないので、羨ましい。

しかし、寂しい公園です……最近の公園は遊具がなくなりつつあるみたいです。

怪我をするからって理由なんだそうですが……、見滝原でも例外ではありません。

……と言っても、この公園の遊具はスーパーセルの影響で土台が緩んだり歪みができたりしたから撤去されたのですが。

取りあえずで設置された新しいベンチと噴水くらいしかありません。

最近ジャングルジムとか見てないなって。

公園そのものの需要が減っているのでしょうか、

通り抜けようとするわたし達以外に、人は二人くらいしかいませんでした。


まどか「……ん?」

杏子「ん、どうした?」

まどか「二人……」

ゆま「二人?」

まどか「あそこにいるの……」

杏子「あそこ?あれか?」

まどか「そう。その人」

まどか「もしかして……」

ゆま「……!」

ゆま「キリカお姉ちゃんだ!」


ゆまちゃんが先輩の名前を呼びながら大きく手を振って存在をアピールしてます。

黒いボブカットの三年生は、こちらに気付いたようです。

ぎこちなく手を振り替えして……やっぱりキリカさんだ。

キリカさんは、わたし暗殺計画の主な実行犯。

毒を盛ったり、魔力で形成した爪で斬りかかろうとしたり……

織莉子さんのことが大好きすぎて殺しかけたなんて、笑い話にもなりません。

だけど、二人と共闘関係を結んで、キリカさんと話してみると結構面白い人です。

個人的にびっくりしたのは……ほむらちゃん達と死闘を繰り広げた昨日の今日で、

ニカッとした明るい笑顔でお昼を一緒に食べようと誘ってきたことです。

そして織莉子さんの手作り弁当を自慢してきました。あの時は気まずかった。

切り替えが早いというか……正直、よくわからないところのある人です。


キリカ「おやおやおやおやおや」

キリカ「やぁご三方」

杏子「おう」

まどか「こんにちは」

ゆま「元気してた?」

キリカ「あぁしてたしてた。超元気」


学校が違うので、正直言うと織莉子さんはあまり慣れてませんが、

キリカさんは結構慣れました。

だとしても、私服のキリカさんを見たのは今が初めてです。

だから正直、遠目で見た時本当にキリカさんか不安がなかったこともあったりなかったり……。


キリカ「丁度いいところに」

ゆま「丁度いい?」


まどか「……あれ?この子……?」

「…………」

杏子「ん?あ、何だ。いたのか……誰が?」

キリカ「うん『これ』ね……」


遠目でわたしは二人見かけました。大きい(キリカさん)方と小さい(?)方。

キリカさんの陰になるようにちょこんと立って、チラチラと様子を窺っている小さい影。

キリカさんの視線を追って気付きました。キリカさんの腕と脇の間からくりっとした丸い目がわたしの目と合いました。


キリカ「ほら、自己紹介しな」

キリカ「この人達は私の知り合いだよ。ほら、大丈夫だから」


キリカさんは服をキュッと掴む小さな手を引っぺがし、前に引っ張り出す。

「ちょっと、乱暴ですよ」って言いそうになったけど、言葉を飲み込みました。

その子は……年齢はゆまちゃんくらい?髪は奇麗な白……いや、銀?織莉子さんのと似た色です。

もじもじと人差し指同士をキスさせてる、女の子……?


杏子「何だこいつ?」

ゆま「……あ!」

杏子「ん?どうした?」

まどか「あ……その指輪……」

杏子「指輪?」

杏子「……お」


小さい指に、小さな『指輪』がキラッと光りました。

わたしはこのデザインを知っている。

……と、いうことは。


キリカ「そう。この子もね」

まどか「……魔法少女」


わたしの言葉にピクッと反応した女の子は、わたしの顔をじっと見つめ、

そして左手、次に杏子ちゃん、ゆまちゃんの顔と手をそれぞれ視線を向けました。


「……魔法少女、なのですか?」

キリカ「あぁ、そうだよ。こっちとこっちはね」

「……なぎさと一緒なのです」

キリカ「うん、そうだね。一緒だね」

キリカ「ほら、なぎさ。名乗りなさい」

なぎさ「えっと、えと……」

なぎさ「……なぎさ、なのです」

なぎさ「百江なぎさなのです」


もじもじしながら自己紹介。なぎさちゃん、恥ずかしがり屋さんなのかな?

わたしも……なぎさちゃんくらいの時にはこんな感じだったかも。


なぎさちゃん。

顔を赤くして、ペコリと会釈をする。お利口さん。

杏子ちゃんとゆまちゃんが全身を見定めしてます。

い、威圧させちゃうよ。

話しやすくするように、話しかけてみようかな。自己紹介してくれたんだもん。


まどか「わたし、鹿目まどか。よろしくね。なぎさちゃん!」

なぎさ「……う、うん」


わたしには、タツヤという弟がいる……そう。わたしだってお姉さんです。

……何故だか周りの人からはそのことを忘れられて妹的扱いをされがちですが。

それはともかく、頑張ってお姉さんぶってみました。


ゆまちゃんもそうでしたが……

こんな小さい子も、魔女や使い魔と戦うなんて少々考えられないところではあります。

だけど、ゆまちゃんは実際強い。戦ってる所見たことあります。

この子もきっと、ゆまちゃんに負けないくらい強いのかな?


杏子「ふーん、なぎさねぇ……それも魔法少女」

杏子「見滝原の魔法少女なのか?」

キリカ「あー、うーん。まぁ、そうだね」

杏子「まぁ?」

ゆま「キリカお姉ちゃんとどういう関係なの?」

キリカ「……むぅ」


キリカさんは何やら腕を組んで、視線を左上に向けました。

口をへの字にして、頭の中からなぎさちゃんのことを説明するのに適した言葉を探しているみたいです。


キリカ「それを話すのは色々面倒だな……」

杏子「おい」

キリカ「いや、まぁ、ほんと、色々あるんだよ」

まどか「色々って?」

キリカ「あー……うーん……うん」

キリカ「……ねぇゆま」

ゆま「?」

キリカ「ちょっとなぎさと遊んでやってくれないかな」

ゆま「え?」


キリカ「なぎさ、君のことが気になるみたいだから」

ゆま「あっ」

なぎさ「……あぅ」


なぎさちゃんは真新しい靴でグリグリと地面を踏みにじってます。

チラチラと、わたし達……特にゆまちゃんの方を見ながら。

やっぱり年が同じくらいってことで意識しているのでしょうか。

ゆまちゃんは、杏子ちゃんの顔をじっと見つめて……

杏子ちゃんはゆまちゃんの言いたいことを察したみたいです。


杏子「おう、お友達になってやりな」

ゆま「……うん!」


ゆま「えっと……なぎさちゃん?」

なぎさ「う、うん……」

ゆま「わたし、千歳ゆま。よろしくね」

ゆま「ゆまって呼んで」

なぎさ「……よ、よろしく……なのです」

なぎさ「……ゆま、ちゃんは……キリカお姉さんのお友達?」

ゆま「……うん!」

キリカ「あ、ちょっと悩んだ」

杏子「仕方ないな」

まどか「うん」

キリカ「いや、まぁ、ほら……あー……まぁいいけどさ」


ゆまちゃんと初めて会った時のことを思い出しました。

ほむらちゃんとマミさんが会わせたい人がいると行って、

こことは違う……人気のない夕暮れの公園に来ました。

少し待って、杏子ちゃんが来て……その後ろにいたのがゆまちゃんでした。

杏子ちゃんはマミさんを睨みながら何か話してました。聞き取れなかったのでわかりません。

ゆまちゃんには威嚇されました。

そしてマミさんの背後にこっそりと回って、何故かスカートをめくろうとしました。

多分杏子ちゃんを責めてるように見えたんでしょうね。

ほむらちゃんに止められて、叱られてショボンってしてました。

さやかちゃんは「何この変な子」って言ってましたが、

まぁ今にして思えば、警戒していたからと、まぁわかりますが……。


ゆまちゃんは、人見知りでした。

というより、杏子ちゃん以外に不信感を持っていたというか……

勿論、今では思いっきり飛びついてくる程に人懐っこい子です。

猫みたいな言い方ですが、人に慣れました。

いや、むしろゆまちゃんは猫みたいな子なのです。


ゆま「お話しようよ?なぎさちゃん!」

なぎさ「……う、うん」

ゆま「魔法少女になってどれくらい?」

なぎさ「えっと……結構前なのです」

ゆま「……それっていつ?」

なぎさ「いつかは今じゃないのです」

ゆま「え?何が?」


年が近いということもあるんだろうけど、

こうして初対面の相手にフレンドリーに接するようになって、嬉しいものです。


キリカ「まぁまぁ二人とも」

キリカ「ほら、そこの自販機で好きなの買って飲みなよ。ほら、お金あげるから」


キリカさんが金色のコインを乗せた手を差し出すと、ゆまちゃんは丁寧に受け取ります。

少し前までキリカさんを本気で怖がっていたのに、慣れたものです。

そしてキリカさん、何でも子どもが苦手だそうですが……ゆまちゃんとなぎさちゃんは大丈夫みたいですね。

タツヤとはまだ会わせてませんが、いつか会わせる機会来るでしょうか。


キリカ「釣りはお駄賃にしていいよ。山分けしな」

ゆま「ありがとう!」

なぎさ「な、なのです」

ゆま「行こっ、なぎさちゃん!」

なぎさ「あっ、ゆまちゃん。待って」


ゆまちゃんの後を追って、なぎさちゃんもとっとこ走る。

ゆまちゃんとなぎさちゃん。幼い魔法少女同士すぐに仲良しになれそうです。

かわいいなぁ。


キリカ「あぁー……やれやれ、二人とも。来てくれて助かったよ」

キリカ「ほら、私って子ども苦手なんだよね。精神的に疲れちゃった」

杏子「あぁ、ゆま見て何かそんなことも言ってた気がするな」

まどか「でもその割には結構……ね?」

キリカ「うん?」

まどか「結構お姉さんしてたなって」

キリカ「そうかな……?」

キリカ「でも、そりゃあさ」


キリカ「流石に当の子どもの前で節操なく拒絶したりはしないよ」

キリカ「世間体というか公私混合っていうかコペルニクス的転回というか?」

杏子「何言ってんだお前?」

キリカ「うん、ゆまでちょっと慣れたってとこもあるね」

まどか「……あの、それで。なぎさちゃんは……」

キリカ「うん?」

まどか「キリカさんと、どういう関係なんですか?」

キリカ「どういうって言われると……そうだね……」

杏子「親戚か?」

キリカ「親戚……ってわけでもないけど……」

キリカ「んー、まぁ、知り合い。そんなとこだね」


キリカ「近い内にみんなにも紹介するつもりだったんだ」

杏子「一応聞くが、マミんとこにおしつけるってんじゃないだろうな?」

キリカ「……もしかしたら泊めてやってって頼むことはあるかもしれないけど、そんなつもりはないよ」

キリカ「なぎさはとりま、織莉子んとこにつれてく。私と織莉子二人きりの時間が減るのは少し寂しいけどさ」

杏子「織莉子のとこか……」

まどか「じゃあ入れ違いでしたね」

キリカ「うん、悪いね。理想としては君らが来て、その時ついでに紹介したかったんだけど」

キリカ「色々と立て込んじゃってね……」


キリカさんはぽりぽりと頭を掻きながら空を見上げました。

鮮やかな空色。ぽかぽか陽気。


キリカ「ま、なぎさのことはいいとして」

キリカ「やっぱ、ほむらのこと?」

まどか「…………」

杏子「あぁ……その通りだ」

キリカ「まぁそうだろうね」

キリカ「私も織莉子から聞いたよ。大変だったね」


視線を空からわたしに移し、同情の目をしてくれました。

かつてその目で殺意を向けられましたが。

なので、不意に見つめられると一瞬、ぎくりとしちゃう。

わたしの悪い癖。


キリカ「あぎりさんとか言ったね?ほむらを攫ったのは」

まどか「はい……」

杏子「…………」

キリカ「ん?どうかした?」

杏子「いや、お前がさん付けなんて珍しいなって」

キリカ「……私だって一応、年上に対する敬意とか、ある」


キリカさん……マミさんと織莉子さんは三年生です。

だから、この三人が「先生」以外の年上のことを話してる様子……

少なくともわたしは見たことはない。あぎりさんが何歳かは知りませんが

だから、キリカさんの「さん付け」は、何となく真新しいなって気持ち。


キリカ「魔法少女じゃないのに、魔法少女を攫うなんて……」

キリカ「すごい輩もいたもんだね」

まどか「それで……わたし達は、織莉子さんに……予知で、ほむらちゃんの居場所とかわかったらなって思って」

キリカ「そうか。それが要件だったんだね」

キリカ「はは、まぁ無理だったんだろうね。それでわかればもっと早く君を殺しに出かけられたよ私達は」

まどか「…………」

キリカ「タチの悪い冗談だったね。謝るよ」

杏子「ま、あたしとゆまは付き添いというより護衛に近かったりするんだよな。そんなお前達だから」

キリカ「…………」

杏子「タチの悪い冗談さ。大体は」

キリカ「言ってくれるねぇ。……ん?大体?」


キリカ「ま、まぁいいや」

杏子「一応収穫はあったから、会って無駄ではなかった。な?」

まどか「う、うん……」

キリカ「ほむらが戻ってくるっていう予知のことだね。私も聞いた」

キリカ「それじゃ私からも……ちょっと情報をば。脳の片隅にでも置いといて」

杏子「……情報?」

キリカ「織莉子は話してないかもしれないけどさ」

キリカ「実はさ……ちょっと、心当たりがある」

杏子「心当たり?何の?」

キリカ「……ほむらを狙う犯人」

まどか「……!」


杏子「狙うって……あぎりとは違うのか?」

キリカ「あぎりさんは危害を与えないって言ったんだろう?そして実際戻ってくる未来だ」

キリカ「それでさ……あぎりさんがほむらを匿っているんじゃって……私と織莉子は考えてんだよね」

キリカ「私が言いたいのは、その匿う理由、その敵」


トラブルに巻き込まれて……あぎりさんはそう言った。

無事は保証します……あぎりさんはそう言った。

わたし達を巻き込ませたくない……ほむらちゃんはそう言ったらしい。

キリカさんの言う犯人。

何となく、わたしの中で何かが繋がっていっているような気がします。


キリカ「名前は『優木沙々』……」

キリカ「勿論魔法少女だ」


杏子「……優木、沙々?」

まどか「……魔法少女」

キリカ「実はね……私と織莉子は、君達に出会う前にそいつと会っていたんだ」

キリカ「いや、会ったというよりは……襲われたって言い方が近い」

まどか「……!」

杏子「テリトリーを狙って、か」


初めて聞く名前。でも、魔法少女。

他のテリトリーを狙う魔法少女がいるという話は聞いていた。

優木沙々という人も「その」魔法少女だったんだ。

あとで詳細をネットで調べてみよう。キュゥベえネットワークがあれば、

魔法少女に関係することならわからないことは少ない。


キリカ「まぁそうだね」

キリカ「人を洗脳する能力を持っている……自意識過剰でコンプレックスの塊みたいなケチな魔法少女さ」


キリカ「織莉子は、あいつの術中に嵌ってしまったんだ。まだ、私達は経験も浅かった」


キリカさんは、ことの経緯をダイジェストかのように、簡単に話してくれました。

他の街から、その優木沙々って人が見滝原に来たそうです。

目的は勿論、見滝原の魔法少女を支配してテリトリーをゲットすること。

それで、最初に目をつけたのが織莉子さんでした。織莉子さんはお嬢様学校の生徒。

……その人は織莉子さんの身の上にコンプレックスを抱いたっぽいです。

なので織莉子さんを不意を突く形で洗脳し、親友を装いました。

その人の洗脳魔法は『自分より優れている相手』しか操れないんだそうです。

『魔女を操る』こともできるそうで……驚きの能力。


キリカ「魔女を操るったってね……所詮は洗脳だけが取り柄みたいなとこあるから」

キリカ「あいつ自身はただ並以下の魔法少女だと思うね」



キリカ「時間停止能力がないナイフ一本持ったほむらでも判定負けするレベル」

キリカ「ほむらとあいつじゃ戦闘センスやメンタルにも差がでっかいだろう」


でも、その洗脳はキリカさんによって(キリカさん曰く『深い愛』故に)織莉子さんは正気を取り戻しました。

で、なんだかんだあってフルボッコにしたそうです。

だけどその人は(魔女を操ることができるから)孵化寸前のグリーフシードを隠し持っていて、

偶然か必然か、魔女が誕生し、そのどさくさに紛れて逃げられてしまったんだそうです。

その後、織莉子さんは見滝原中学校に目を向けて……とのことでした。

と、大まかな話と洗脳を解くコツを話し、

キリカさんは大げさなアクションで「やれやれ」と肩を竦めました。

……そんなことがあったんだ。初めて知った、二人の過去のこと。

思えばわたしは二人のことを、何も知らないや。


杏子「逃がした……ねぇ。……で?それがどうしてほむらと繋がるんだ?」

杏子「聞いた話じゃ、ただ単に、過去にいざこざがあったとした」

キリカ「まぁ話は最後まで聞いてよ」

キリカ「君達とのいざこざが何とか落ち着いた後にちょいと、そいつを探して見たんだ」

キリカ「一度逃した敵の再来に警戒するのは当然だからさ、一応ね」

キリカ「……で、行方不明になってた」

まどか「行方不明……!?」

キリカ「魔女の結界で死んだ?魔女になった?」

キリカ「しろまるに聞いてみたら、違った。生きていると言っていた」

キリカ「家にも学校にも見せてないらしい。一応捜索願が出ている」

キリカ「今日、私はなぎさのとこに行って……しろまるに会った。そして、聞いた」

キリカ「しろまるがあいつを最後に見たのは見滝原だ。それもほむらのアパートの近くだ」


まどか「…………」

キリカ「……しかも、昨日の夜だ。ほむらが攫われた日の深夜」

杏子「……!」

キリカ「私と君達じゃあないが……あぎりさんと入れ違いだったんじゃないか……ってのが、私の意見さ」

まどか「それで……その人が怪しいって……」

キリカ「私が言ったことは全部、推測に過ぎない。だから織莉子も話さなかったんだろう」

キリカ「……まぁ、なんだ」

キリカ「私はヤツの能力を伝えた。だからってことでもないけどまぁ、気を付けてね」


……キリカさんの話に集中しすぎて、体が固まってました。

優木沙々っていう人……行方不明で、ほむらちゃんのお家に近づいた、織莉子さんとキリカさんの敵。

ほむらちゃんは帰ってくるっていう、安心要素をいただいたはいいけど……

別の不安要素が生まれてしまいました。


キリカさんは困ったように笑って「怖がらせちゃったかな?」って言いました。

わたしは「いいえ、そんなことは……」と言って……誤魔化しました。

……大丈夫。

仮に、優木沙々という人が関係あったとしても、

あぎりさんと入れ違い説とすれば……その人とあぎりさんは別。

織莉子さんの予知とあぎりさんの言葉を信じれば、

ほむらちゃんは、優木沙々っていう人には負けない。

万が一にでも、ほむらちゃんが洗脳されて帰ってこようものなら、

キリカさんから聞いた、洗脳を解く方法を試みればいいのです。

……ゆまちゃんとなぎさちゃん遅いね。

と、別のことに意識を向けて紛らわせることにしました。


ゆま「キョーコ!キョーコ!」

杏子「うおっ!びっくりした。なんだよ」

ゆま「鬼!」

杏子「本当になんだよいきなり!」

なぎさ「ゆまちゃんがキョーコお姉さんと追いかけっこするって」

なぎさ「鬼さんなのです!」

ゆま「早く早く!」


……おやおや?もう仲良しになったんだね。二人とも。

ゆまちゃんがビシーっと杏子ちゃんを指さして、

真似するようになぎさちゃんも若干ドヤ顔で杏子ちゃんをさす。

でもね二人とも。普通、鬼からは逃げるものなんだよ?


キリカ「ジュースはもういいのかな?」

ゆま「ゆまオレンジジュース飲んだ」

なぎさ「なぎさはリンゴジュースなのです。ゆまちゃんととりかえっこして一緒に飲んだのです」

キリカ「ほう……間接キ」

杏子「よし、お前黙れ」


すっかりお互い仲良しだね。

どんなお話したのかな。わたしもなぎさちゃんから色々お話聞きたいなって。


なぎさ「元気いっぱいだから遊ぶのです!」

ゆま「キョーコ!キョーコ!」

杏子「お、おいおい……」


杏子「……よし。まどか」

まどか「わたし?」

杏子「あんたに任せる。弟いるからお手の物だろ?」

まどか「えー、走りたくないなって」

杏子「あ!テメェ!」

キリカ「まぁいいじゃないか。付き合ってあげてよ」

杏子「あたしだって走りたくねぇよ。面倒くさい」

なぎさ「えぇー!キョーコお姉さん鬼さんなのですー!」

杏子「それはどっちの意味での鬼だ?」

ゆま「キョーコのお尻のシールを取るの!」

杏子「は?シールって……」


杏子「……あ!」

杏子「テメェいつの間に!」


ゆまちゃんの言った通り、杏子ちゃんのお尻……

正確にはいつものホットパンツにキラキラした星のシール。


なぎさ「キョーコ鬼さんのお星さまを取ったらなぎさ達の勝ちなのです!」

杏子「誰が鬼か」

杏子「ってか、いつの間にこんなものを……」

ゆま「朝から」

杏子「朝!?」


……わたしは気づいてたよ?

でも、そういうファッションだと思ってました。アップリケっていったっけ。それかと。

キリカさんはニヤリと笑う。知ってた上で黙ってたんですね。


杏子「くそ……恥かいたぞ」

杏子「おいキリカ。あんたが預かったんだろ。だったら責任取ってあんたが鬼ごっこをだな」

キリカ「えー、君達が来るまでは私一人でなぎさ見てたんだよ?」

杏子「いや知らねえよ」

キリカ「見知らぬ人と二人きりでおどおどしてたなぎさにこうして友達ができたのは気を利かせた私の功績」

杏子「だから知らねえって」

キリカ「いいじゃないか。魔法少女同士楽しみなよ」

杏子「テメーもだろうが魔法少女は」

キリカ「そういう君こそゆまで慣れてて、まさにお手の物のはずさ」


杏子ちゃんがキリカさんに鬼役を押しつけようとしている、その後方から、

こっそりこっそりと近寄るなぎさちゃん。

そしてソーっと杏子ちゃんのお尻に手を伸ばして……


杏子「おうケツ触んなコラ!」

なぎさ「ひゃあ!」

ゆま「惜しい!」

杏子「てめぇら……不意打ちとは良い度胸だな……」

なぎさ「鬼さん。お尻くださいなのです……!」

杏子「何だその言い回しはキモいぞ」


小さい手をわきわきさせて、ジリジリと杏子ちゃんを囲む二人。

杏子ちゃんはキリカさんを恨めしそうな目でジトーっと見ると……


キリカ「こんな子どもに背後を取られるようじゃ、甘ちゃんだよ」

まどか「転ばないようにね?」

杏子「……くそっ、貸しにしとくから……な!」

ゆま「あ!逃げた!かかれー!」

なぎさ「鬼さん待つのですー!」


踵を返してダッシュ!それを追うゆまちゃんとなぎさちゃん!

杏子ちゃんは走るペースをちゃんと落としてちゃんと、追われてくれる優しい子。

まぁ……魔法少女の脚力で本気で追いかけっこしたら大変なことになりそうだけど。

小さな魔法少女達はきゃあきゃあかわいい声をあげて杏子ちゃんを追いかけてます。

杏子ちゃんのお尻を追いかけてます。

わたしとキリカさんは心地良い日差しを浴びながら、

面白半分微笑ましく一人と二人の駆け引きを見守ります。


キリカ「なんだかんだ言って杏子は子どもに甘いね」

まどか「あはは、ほんと、そうですね」

キリカ「口ではああ言ってるけど、楽しそうに逃げとるねぇ」

キリカ「いやー、助かっちゃった。ありがとね、まどか」

まどか「あ、あはは……わたし何もしてない……」

キリカ「さて、いい加減座るか」


鬼を追いかける勇敢なる二人を微笑ましく眺めながら、

キリカさんは近くのベンチに歩いて、腰を下ろす。

わたしもついていって、お隣失礼します。

思えば、キリカさんの隣には初めて座ります。

大抵、キリカさんの隣には織莉子さんがいましたから。


キリカ「よし、そこだ。行けっ」

キリカ「あー……やるねぇ。腐っても杏子だ」

まどか「腐ってもって……」

キリカ「…………」

まどか「……?」

キリカ「……ほむらのことだけどね」

まどか「…………」

キリカ「もちろん、私も私なりに心配してるつもりだよ」

キリカ「ただね、私は織莉子のことを信用してる」

キリカ「少し大げさかもしれないが、自分自身よりも信用してる」

キリカ「織莉子の言うことならどんなことでも自信を持てる」


キリカ「だから織莉子がほむらが戻ってくるっていうなら……」

キリカ「私は心配はすれど不安はないよ」

キリカ「だって、織莉子の予知を、本人以外で一番理解しているのは私だと思っているから」

キリカ「だから君も、あまり落ち込みすぎない方がいい」

まどか「キリカさん……」

キリカ「なぎさと織莉子と友達になって、楽しく待ってればいいと思うよ」

まどか「…………」

まどか「……わたしの魔女の予知は外れましたけどね」

キリカ「……はは、言うねぇ。絶対に契約しないって?」

キリカ「でも……わかんないよ?」

まどか「な、ないですもん!」


キリカ「わかった、わかった」

まどか「みんなと約束しましたもん」

キリカ「そうだね……うん。君、本当にいい奴だ」

まどか「え?」

キリカ「自分を殺そうとした人間に、こうもあったかい感情を表してくれるなんてね」

キリカ「ほむらが君を愛する気持ちわかるよ。本当に心優しい人だ。君は」

まどか「あ、愛するって……!」

キリカ「君は愛されてるし、愛してる。美しいね」


……キリカさんはすぐに、愛という表現を使う。

別にだからと言って悪いこととは……むしろいいことだとは思うけど、ビックリしちゃう。

確かにわたしはほむらちゃんのことが大好き。

だけど、キリカさんが「愛がー」って言うと……なんて言うか「別」の意味に聞こえて……

……ちょっと、敏感すぎるかな?


キリカ「君が死んだらきっと天国に行けるよ」

まどか「ぶ、物騒なこと言わないでください……」

キリカ「はは、悪いね」

まどか「……?」

キリカ「……さて、と」


わたしは、キリカさんの笑顔を何度か見たことがあります。

織莉子さんに甘えていたり、惚気てたりする、エヘヘっていう照れた笑顔。

冗談を言ったり面白い漫画を読んだ時の、アハハっていう明るい笑顔。

ゆまちゃんと一緒に杏子ちゃんを追いかけるなぎさちゃんを見るその横顔は、

その二種どっちにも当てはまらない、優しい笑顔。

ほむらちゃんがわたしによく向けてくれるのと、同じタイプの笑顔でした。

ただ……少し、その目が悲しそうに見えたのは、気のせいだったのでしょうか。


キリカ「まどかも行ってきたら?」

まどか「……行くならキリカさんもですよ?」

キリカ「帰らせて欲しいなって思ってしまうのでした」

まどか「あはは、真似しないで下さいよー」


キリカさんは、追い回されてる杏子ちゃんを指さして笑む。

きゃあきゃあ言いながら、ゆまちゃんとなぎさちゃんが追いかける。

それにしてもなぎさちゃんとキリカさん。どういう関係なんだろう。

これから織莉子さんの家に行くみたいだけど……

もしかして、織莉子さんの親戚なのかな?

何にしても、また改めて紹介して欲しいなって思ったのでした。

そして……織莉子さんとも、世間話をしたいと思いました。


今日はここまで。レス数の割にこの話の進行速度よ

申し訳程度のなぎさ要素。元々出す予定はありませんでしたが……別に内容を改変してたから遅くなったなんてことはないですよ?
これほんと。書き溜めるというか書き直すというか、その時間とやる気がちょっと、うん。気長に待ってほしいなって
クロスなのにクロスとの絡みが少ないって?はっはっは


>>321を訂正します。失礼


ほむら「で、でも何にしても組織の問題が解決次第ですね」

ソーニャ「ちょ……!」

やすな「へ?」

ほむら「既にご存知とは思いますが、私狙われてまし……」

ソーニャ「お、おま……ほむら!」

ほむら「て?」

やすな「……ん?」

やすな「……ね、ねらわ?」

ほむら「……あれ?」

やすな「ほ、ほむらちゃん……?」


――昼休み


ソーニャ(あぎりの存在がほむらの仲間に知られたのは痛かったが……)

ソーニャ(こっちのことを詮索するような動きがないというのは助かる)

ソーニャ(しかし、何がどうであれ、あのあぎりの変装を見破ったということになるが……)

ソーニャ(魔法少女の仲間と言うからには、やはりそいつらもただものではないらしい)

ソーニャ(まぁ、見滝原に関しては『アッチ』に任せるとして……)

ソーニャ(問題は敵組織の動きだ。あれからまだ一週間も経ってないが、刺客を送るとかいった動きを全く見せていない)

ソーニャ(組織の裏切り者にどこまで知られていて……どこまでリークされているかわからない以上……何とも言えないか)

ソーニャ(肝心の裏切り者については未だに捜査中だが……)

ソーニャ(この動きのなさは……嵐の前の静けさ、とでも言うものか)

やすな「くっはぁぁァ~~~!ンニャフッ!」ノビー

ソーニャ(静けさなんてなかった)


やすな「午前の授業やっと終わったー!」

ほむら「お、お疲れ様です」

やすな「おっひる♪おっひる♪」

やすな「お勉強で頭使ったからカロリーが足りないぜ!」

ソーニャ「寝てたくせに、何が頭を使った、だよ」

やすな「ぐぬぅ」

やすな「……そういうソーニャちゃんもウトウトしてたよね」

ほむら「…………」

ソーニャ「う、うるさいな」

やすな「人のこと言えませんぞなもし」

ソーニャ「ほ、ほら、私は……」


ソーニャ「その、ある意味一日中仕事してるわけだからな」

ソーニャ「いつ刺客が来るかわからんし……気を張ってて疲れてんだ」

やすな「ふふふ、言い訳ですね」

ソーニャ「それよりほむら」

やすな「おぅスルー」

ほむら「はい」

ソーニャ「学校は慣れたか?まだ一週間も経ってないが」

ほむら「はい、割と」

ソーニャ「そうか。割とか」

ソーニャ「ならいい。授業でわからないことがあったら聞けよ」

やすな「聞けったってぶっちゃけソーニャちゃんより頭良いんじゃない?」

ソーニャ「…………」


やすな「取りあえずで受けた小テストは満点で、先生がノリで指したらちょっとキョドった後に答えちゃう」

ほむら(キョドるって……)

やすな「高校の内容についていけてるなんて、ほむらちゃんって頭良いんだね。中学生なのに」

ほむら「へ?い、いえ、そんな……」

ソーニャ「見習えよ」

やすな「ソーニャちゃんもね」

ソーニャ「お前の方が見習えバカ」

やすな「仕方ない」

ソーニャ「仕方なくねぇよ」

やすな「見滝原学校って頭いい学校なんだね?」

ほむら「い、いえ、そうとも言えません。その……私の同級生に……ちょっと……」

ほむら(かく言う私もかつては……ちょっと所ではない、か)


ソーニャ「あー……まぁ、どこにだってやすなレベルはいるよな」

やすな「そうだね」

ソーニャ「認めただと……?」

やすな「うんうん。私のように成績こそ悪くても天才肌な子が……」

ソーニャ「は?」

ほむら(時間遡行してる間……)

ほむら(武器を使う過程で色々な知識――特に語学数学物理時々化学とかの分野を学んだり……)

ほむら(ループ始点から退院するまでに授業の内容を予習をしていた時期もあった)

ほむら(……案外覚えているものね)

ほむら(世界史や生物とかはちんぷんかんぷんだったけど。……指されなくてよかった)


ほむら(この学校に通うようになって……)

ほむら(主にソーニャさん、呉識さん……そして折部さんと仲良くさせてもらっている)

ほむら(緊張は未だ残るけど、大分落ち着いてきたわ)

ほむら(制服や体操着が違うから浮いてしまっているというのはまだ気になるけど……)

ほむら「…………」

ほむら(呉識さんの存在がまどか達に知られて……)

ほむら(フォローするつもりで、まどかに送ったメール……)

ほむら(私は元気でやってるよって……そういうメール)

ほむら(未だに……返事が返ってこない)

ほむら(ただ一言「無事でよかった」とか、せめて私のメールを読んでくれたことに対してアクションをして欲しいのに)

ほむら(うぅ……せめて「fromまどか」が見たい……まどかの言葉が欲しいのに)

ほむら(ヘコむ……悲しい)


やすな「いやー、お腹空いたー!」

やすな「お昼ーうおー」ガタガタ

ソーニャ「机をくっつけるな。揺れてうっとうしい」

やすな「ほら、ほむらちゃんもほむらちゃんも」

ほむら「は、はぁ……」

ほむら(……折部さんの明るさには少し救われる気持ちになるわ)

やすな「それともソーニャちゃん。屋上で食べるのご所望かしら?」

やすな「もー、しょうがないなー。そんなお外がいいんでちゅかー?」

ソーニャ「何も言ってねぇよ」

やすな「それじゃ、待ってるからね」


やすな「…………」

ソーニャ「ん?」

やすな「あれ?二人とも、今日は購買行かないの?」

ソーニャ「行かない」

ほむら「はい」

やすな「んんん?お財布忘れちゃったの~?」

やすな「ソーニャちゃんが土下座して頼むというのであれば奢ってあげ……」

ソーニャ「忘れてねぇよ」トン

やすな「あ!こ、これは……!」

やすな「お弁当……だと……!?」


ソーニャ「……何だよ。そのリアクション」

やすな「いつも購買パンなソーニャちゃんが!?」

やすな「不器用で面倒くさがりでぶっきらぼうなソーニャちゃんが自炊するとは到底思えないから……」

ソーニャ「いちいち煽るような言い方するの何とかならんのか?」

やすな「もしかしてほむらちゃんが?」

ほむら「は、はい。そんな手の込んだものではありませんが……」

やすな「すごい!」

ほむら「その……守られてる立場な上、色々御教授いただいてますから」

ほむら「食事とか色々用意してもらいましたので、これからしばらくは……」

ほむら「せめてものと思って、先日から、炊事をお手伝いさせていただくことに」

ソーニャ「そういう気遣いしなくていいのに……まぁ経費として落ちるからいいけど」


ほむら「呉識さんに相談したら便宜を図ってもらいまして」

やすな「へぇー」

ソーニャ「……しかし、何だな」

ソーニャ「あぎりと私で三人分も作ってもらってなんなんだが……」

ソーニャ「守ってくれてる相手におつかいさせるなんて案外図太いよなお前」

ほむら「え゙、あ、その……」

ほむら「ふ、ふふっ、ふ……」

ソーニャ「笑って誤魔化すな」

やすな「いいなー私もソーニャちゃんパシらせたい」

ソーニャ「憧れのベクトルおかしいだろ。パシリじゃねーし」


やすな「まー、でもそうだよね」

やすな「ほむらちゃんは成長期だもん。焼きそばパンなんかよりもお弁当の方がいい!」

ほむら(成長期……ね)

ソーニャ「焼きそばパンディスってんのか」

やすな「栄養ないじゃん焼きそばパン」

やすな「ところでさ、あぎりさんって料理作るの?」

ソーニャ「…………」

ほむら「…………」

やすな「……あれ?どったの?」

ソーニャ「……あぎりの家には何度か泊まったことはある」

やすな「ほう」


ほむら「わ、私も……呉識さんの料理、いただきました。……多分」

やすな「いいなー。あぎりさんの手料理……ん、多分?」

やすな「よくわかんないけど、どうなの?美味しい?」

やすな「あぎりさんは何でもできるイメージがあるからね」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「……う、うん」チラッ

ほむら「……は、はぁ」コクリ

やすな「え、何?どうしたの?」

やすな「もしかして実はメシマズだったり?」

ソーニャ「い、いや、下手ではない……と思う」

やすな「思う?」


やすな「普通ってこと?」

ソーニャ「いや……はっきり言って、美味い」

やすな「あ、上手なんだ、イメージ通り!」

ソーニャ「いや、上手なのかと聞かれると……」

ソーニャ「わからない」

やすな「はぁ?」

やすな「もー、ソーニャちゃんじゃ埒明かないや」

やすな「ほむらちゃん。あぎりさんのご飯はどうだった?」

ほむら「…………」


ほむら「……食事をする際、呉識さんはまずテーブルに布を被せます」

やすな「布?」

やすな(テーブルクロス?)

ほむら「布を取ると、そこにはつきたてのお餅が」

やすな「…………」

やすな「ん?」

ほむら「大変おいしゅうございました」

やすな「…………」

ソーニャ「…………」

ほむら「…………」


やすな「そ、それにしても手料理なんて!」

やすな「すごいねほむらちゃん!」

ソーニャ「お、おう。そうだな」

ほむら「せ、先輩や知り合いに教わったり、色々勉強しまして」

ほむら(まぁ流石にあんなに繰り返せば自然と色々なことは身に付く)

やすな「へー、すごい」

ソーニャ「しっかりしてるな」

ほむら「一人暮らしですし、しっかりしてないと大変ですから」

やすな「え!?」

やすな「ひ、一人暮らし!?中学生なのに!?」ヤベェ


やすな「しかも手作りのお弁当……女子力53万はあるね」

ほむら「女子力ってそういうものなんですか?」

ソーニャ「よく知らないが絶対に違う」

やすな「女子力たったの5か……ゴミめ」ヘッ

ソーニャ「ふん!」ゲシ

やすな「きゃん!足踏まないで!」

ほむら(あ、今のは痛そう……)

やすな「ソーニャちゃんはほむらちゃんの手料理もう食べた?」

ほむら(そしてこの回復力である)

ソーニャ「いや、私はこの弁当が初めてだが……」

ソーニャ「あぎりが美味いって言ってたからな。期待できる」

ほむら「い、いやぁそんな……」


やすな「自炊かぁ……」

やすな「じゃあ献立も考えるんだ?」

ほむら「はい。栄養も色々考えて……」

やすな「いつも購買パンのソーニャちゃんのために……」

やすな「あぁ!眩しい!ほむらちゃんから後光が差してるよ!前世の罪が洗われるゥ!」

ソーニャ「何言ってんだお前」

やすな「ほむらちゃん!」

やすな「貴殿の女子力を見込んでお願いがあります」

ほむら「は、はぁ……何でしょうか」

やすな「ソーニャちゃんにカルシウムをたくさん食べさせてあげてね」

ほむら「カルシウム?」


ソーニャ「……どうせすぐ怒るからとか言うんだろう」

やすな「うん」

ほむら「…………」

ソーニャ「……なるほど」

ソーニャ「お前もたくさん摂るといいぞ」

やすな「私?」

ソーニャ「多分治りも早くなる」ニギニギ

やすな「あっ……折る気だこの人!?」ビクッ

ほむら「ぜ、善処します」

ソーニャ「別にせんでいい」


ソーニャ「バカはほっといて、いただくとしよう」

ソーニャ「どれ」パカ

やすな「わぁ!美味しそう!」

ソーニャ「あぁ、手慣れているな」

ほむら「ど、どうも」

やすな「いいなーいいなー」

やすな「ねぇソーニャちゃん。私にもほむらちゃんを一口……」

ソーニャ「何だその言い回し」

ソーニャ「まぁいいだろう」

やすな「やったー」


ソーニャ「言っておくが」

ソーニャ「玉子焼きを丸ごと口に突っ込んで一口っていうのはなしだぞ」

やすな「先手を打たれた!」

ソーニャ「てめぇやっぱりそのつもりだったのか」

ソーニャ「……ん?」

やすな「どしたの?」

ソーニャ「いや、玉子焼き……」

ほむら「はい。結構自信作です」

ソーニャ「いや、それはいいんだが……」

ソーニャ「私、卵なんか買ったっけか……?」

ほむら「え」


ほむら「あ、た、卵は……元々ありましたので……」

ソーニャ「……そうだったか?確か前来た時は……」

ほむら(お手製卵ですなんて言えない)

やすな「買ったかどうかもわからないなんて……」

やすな「こないだみたいに記憶喪失?」

ほむら(こないだ……?)

ソーニャ「うるさいな。他人の家の卵の有無なんてイチイチ覚えてるわけがないだろ」

やすな「ボケたのかな?」

ソーニャ「天然物のボケはほっといて、いただこう」パクッ

やすな「どうなのわさわさっ」

ソーニャ「……うん」


ソーニャ「美味い」

ほむら「よ、よかった……口に合ったようで」

ほむら「やっぱり外国の方って味覚違うのかなと思って」

やすな「あー、味覚もおバカなのかしら」

ソーニャ「その発言は国際問題だぞ」

やすな「それではグルメリポーターのソーニャさん」

ソーニャ「は?」

やすな「感想をどうぞ。中継です」

ソーニャ「…………かなり美味い」

やすな「くそ下手め」

ソーニャ「一瞬でもノってやった私がバカだった」


やすな「私も食べてみたい。いい?」

ソーニャ「あぁ」

やすな「いただきます」パクッ

ほむら「……どうですか?」

やすな「激うまです」

ほむら「恐れ入ります」

ほむら(誉めてもらうのって、本当に嬉しい)

やすな「それではグルメリポートをしたいと思います」

やすな「見た目の奇麗さに相応しく、甘くて美味でございますね。ふわふわしっとりしてて、何だか卵の味が濃い?ような気がします」

やすな「そうだ!これは卵が違うんだ!烏骨鶏!」

ソーニャ「そんなわけあるか。……いや、あぎりの家にあるって言うからには案外……だ、だがしかし……」

ほむら(私です)


やすな「ごちそうさま。ほむらちゃん」

ほむら「ふふ、はい、お粗末様です」

やすな「間接キスだねソーニャちゃん」チラッ

ソーニャ「よし、お前黙れ」

ほむら「そ、それじゃ、私も……同じものですけど」

やすな「……あれ?」

やすな「同じお弁当なのに、ほむらちゃんのは量少ないんだね」

ほむら「はい、私小食でして……」

やすな「そっかー。でも何だかイメージ通りだね。悪い意味でなく」

ほむら「イメージ?」


やすな「ほむらちゃんみたいなクール!って感じの子は小食って相場は決まってるからね」

ソーニャ「何の話だ?」

やすな「あ、もちろんソーニャちゃんはたくさん食べるイメージあるからね」

ソーニャ「それはどういう意味合いで言った……?」ギロ

やすな「そ、そうやってメンチ切るとこかなっ!?」

やすな「ソ、ソーニャちゃんはともかくとして!」

やすな「ほむらちゃんは育ち盛りだからもっともりもり食べなきゃ」

ほむら「そうは言っても……」

やすな「ちゃんと食べないとおっきくなれないよ」

やすな「高校生になってもぺったんこだよ!ソーニャちゃんみたいに」

ソーニャ「あ゙?」


ほむら「…………」ジー

ソーニャ「おい、深刻そうな顔で人の胸を見るな」

ソーニャ「大体、やすなも人のこと言える程じゃないだろ」

やすな「ひゃっ!セクハラ!」

ソーニャ「腹の脂肪を切り取って胸に移植するか?」スチャ

やすな「結構です」

ほむら(帰ったら巴さんの食生活、聞いてみようかな……いや、その前に呉識さんか)

ソーニャ「お前は私とやすなの胸を交互に見るのをやめろ」

ほむら「へ?あっ!す、すみません。別にそんなつもりじゃ……!」」

やすな「えっちー」


やすな「しかし、うーん」

ほむら「……どうかしました?」

やすな「何だか同じお弁当でソーニャちゃんの方が大きいってなると……」

やすな「ソーニャちゃんが食いしん坊みたい」

ソーニャ「うるせぇ」

やすな「ごっつぁんです」ムハー

ソーニャ「デブ声やめろ。気持ち悪い」

ほむら(本当に仲がいい……)

ほむら(折部さんの明るさは……時たま、さやかを思い出される)

ほむら(楽しげがある一方で……ちょっとしたホームシック)


――昇降口


やすな「やったぁぁぁぁぁ帰るぜよぉぉぉぉぉ!」

ソーニャ「うるせぇよ!」ガスッ

やすな「ブゲァ!」

ほむら「あ」

やすな「ねぇねぇソーニャちゃん」

ソーニャ「ん?」

ほむら(安定のリカバリー)

やすな「ほむらちゃんのためにパシ……じゃなかった。おつかいするの?」

ソーニャ「絶対にわざとだろ今の」


やすな「気になったんだけどさ、やっぱり領収書とかもらうの?上様なの?」

ソーニャ「お前が気にすることじゃない」

やすな「相変わらずつまらない答え……リポーターとしても芸人としても失格だよ」

ソーニャ「誰が芸人だ。……っていうか昼の話続いてたのかよ」

ほむら「…………」

ほむら「……あ、あの、ソーニャさん」

ソーニャ「うん、どうした?」

ほむら「今日は、私も一緒に行ってもいいですか?」

ソーニャ「……なんで」

ほむら「え?なんでって……」

ほむら「なんでって言われると……その……」


ソーニャ「……いつ刺客なり何なり現れるのかわからないんだぞ」

ソーニャ「あまり外をうろつくのはよくない」

ほむら「でも……」

ソーニャ「でも何だよ。いつもの通りあぎりとまっすぐ帰れ。買い物なら私一人で十分……」

やすな「なるほど。ほむらちゃんが言いたいことはわかった」

ソーニャ「あんだよ」

やすな「ソーニャちゃんは食材を見る目がないから買ってくるものがみんな微妙。萎びてたりね」

やすな「ここは一人暮らしマスターの私がこの目で食材選びをしたいのだ!」

やすな「人参は葉っぱが生えてくる何か丸いっこいとこが小さい方のが美味しいのよん」

やすな「……ってことでしょ?」

ソーニャ「ふざけんな」


ソーニャ「私だってそれなりに選別して……」

ほむら「まぁ、それもちょっとあるんですけど……」

ソーニャ「あんのかよ!」

ほむら「ちょ、ちょっとです!ちょっと!」

ソーニャ「ちょっとでもあんのかよ」

やすな「あー、やっぱりソーニャちゃんだね」

ソーニャ「やっぱりって何だ。やっぱりて」

ほむら「い、いえ、ただ、あの、買いに行かせてるのも気が引けるんで……せめて一緒にと」

ソーニャ「……昼に言ったこと気にしてたのか?」

やすな「守ってくれてやっている俺様におつかいをさせるなんて肝っ玉の据わったベイビーだぜニヤリ……」

ソーニャ「それは私のつもりか?」


ほむら「…………」

ソーニャ「ったく……そんなことお前が気にすることじゃ……」

やすな「ほむらちゃんがかわいそーだよー」

やすな「あぎりさんにソーニャちゃんがほむらちゃんをイジめたって言いつけてやるー」

やすな「私が慰めてあげるぜぇ、よちよちベイベー」ナデナデ

ほむら「あっ、ちょ、お、折部さん……!」

ソーニャ「…………」

ほむら「あ、あの……や、やめてください……」モジモジ

やすな「ふひひ!きゃわたんですなぁ!」

ソーニャ「きめぇ」

ほむら「うぅ」

やすな「ふひっ」


やすな「……羨ましい?」

ソーニャ「あ?」

やすな「ソーニャちゃんもほむらちゃん撫でたい?」

ソーニャ「バカか」

やすな「あっ、撫でられたい?仕方ないなー」ワキワキ

ソーニャ「近寄るなバカ」

やすな「チッ、相変わらず可愛げのない人」

ソーニャ「……おい、やすな。頭を出せ」スッ

やすな「え……?」

ソーニャ「……」ポン

やすな「わっ、ソーニャちゃんが私の頭に手を……も、もしかして……私を撫でたかったの!?」

やすな「もうっ、しょ、しょうがないにゃぁ……撫でさせてあ・げ・る☆」

ソーニャ「……」ギリギリ

やすな「いだだだだだ!爪!爪が!爪が食い込んでる!爪!」


やすな「ひどいよぉ……」

ほむら「ソーニャさん……」

ソーニャ「……はぁ、もう、わかった。わかったよ」

ソーニャ「買い物くらいならつれてってやるよ……全く……」

ほむら「あ、ありがとうございます」

ソーニャ「何で礼を言われなくちゃいけないんだか」

やすな「オホン、コホンオホン!」

ほむら「?」

やすな「ゴホホーン!オホン!」

ソーニャ「うるさいぞ息止めろ」

やすな「咳じゃなくて息を!?」


ほむら「……風邪ですか?」

ソーニャ「なるほど風邪か。よし帰って寝ろ」

やすな「ち、違うよ!」

やすな「んもう、鈍感なんだからっ」

やすな「これはね、私もお買い物に行きたいなってサインだよ!察して察して」

ソーニャ「やだ」

やすな「即答!何で!」

ソーニャ「ウザイから」

やすな「ぶーぶー」

ほむら「……別に、いいんじゃないんでしょうか」

やすな「そーだそーだ」


ソーニャ「ほむら、お前……自分が置かれてる立場、たまに忘れてないか?」

ほむら「?」

ソーニャ「……さっきも言ったが、あまりうろついて人目にだな」

ほむら(あ……見える……)

ほむら(折部さんがはしゃいでそれを殴って余計に目立ってしまっている二人プラス私が見える……!)

やすな「嫌だって言ってもついてくよ!」

ソーニャ「……はぁ、仕方ないな。許可してやる。じゃないとしつこいからな」

やすな「YES!YES!」

ソーニャ「お前荷物持ちな」

やすな「Oh……」


「何の話してるの~?」


ソーニャ「うおっ!?」

やすな「うわっ!」

ほむら「あ、呉識さん」

やすな「な、何で下駄箱の上にいるんですか!?」

あぎり「え~?何でですかね?」

ソーニャ「知らねぇよ!?」

ほむら「えっと、私達これから一緒に……」

やすな「っていうかほむらちゃん……」

ほむら「はい?」

やすな「あぎりさんが下駄箱の上から見下ろしてるのに驚いてない……」

ほむら「え?まぁ……慣れました」

ソーニャ「お前ら家でどう過ごしているんだ?」


あぎり「一緒に?」

やすな「あ、はい。みんなでスーパー寄ろうよって話です」

あぎり「みんなでお買い物ですか。それならぁ、私もお買い物行きたいなって~」

ソーニャ「ああ、いいぞ」

やすな「即答!?私の時は渋ったのに!」

ソーニャ「だってやすなだし」

やすな「くそぅ!くそぅ!」

ほむら「え、えっと……そ、それじゃ、行きましょうか?」

ソーニャ「ああ」

やすな「了解です!」

ほむら「それで、お店は?」

あぎり「少し回り道をする程度で、そう遠い場所ではありませんよ」

ソーニャ「まずお前は降りてこい」




あぎり「学校はどう?楽しいですか?」

ほむら「えぇ、はい。楽しませてもらってます」

あぎり「それはなにより」

ほむら「……あの、呉識さん」

あぎり「はい?」

ほむら「あれから……見滝原には……」

あぎり「いえ~、行ってませんね」

ほむら「そうですか……」

あぎり「でも、お友達は元気そうだという報告を受けてます。ご安心ください」

ほむら「元気そう……ですか。それなら……え、報告?」


ほむら(……それって、皆が組織に見られてるってこと?)

ほむら(それはそれで安心できるかと言われると……うーん……)

ほむら(……いいのかしら?)

やすな「ほむらちゃんの友達かぁ……」

やすな「どんな人?」

ほむら「どんなって……」

ほむら「…………」

ほむら「みんなそれぞれ個性的ですね」

ソーニャ「そりゃそうだろうな」

やすな「じゃあじゃあ、一番好きな人は?」


ほむら「す、好きなって……」

ほむら「…………」

ほむら「えと、何より……とても優しい人ですね」

ほむら「それでいて、可愛らしくて……話していて心が和む……私の憧れの人……」

やすな「ほぇー」

やすな「会ってみたい」

あぎり「私は会いましたよ」

やすな「いいなぁ」

ほむら「会いたいです……」

ソーニャ「……切実だな」


あぎり「そうですねぇ」

あぎり「また行く機会があれば、お伝えてしておきますね」

あぎり「とても優しくて可愛らしくて……」

ほむら「伝えるってそっち!?やめてください恥ずかしい!」

あぎり「うふふふふ……」

ほむら「話したいことは山ほどあるけど、私は元気だとだけ伝えてください」

あぎり「はい」


やすな「仲良しだねぇ」

ソーニャ「あぁ、そうだな……大分打ち解けてるようには見える」

ソーニャ「まだたどたどしい所もあるが……それはほむらの性格か」


あぎり「ところで、今日の夕飯は何ですか?」

ほむら「そうですね……オムライスとサラダにしようと考えてましたが……」

やすな「ほむライス」

ソーニャ「ん?」

ほむら「何か食べたい物とかありますか?」

ほむら「折角ご一緒しているので、売ってる物を見て決めようかと」

あぎり「そうですねぇ」

ほむら「夕飯だけでなくとも、明日の朝食、お弁当のおかずとか……」

ほむら「ソーニャさんは、お弁当で何か食べたいものとかありませんか?」

ソーニャ「私か?」

やすな「唐揚げ食べたいな」

ソーニャ「お前じゃねぇよ」


あぎり「突然ですがソーニャ。今日泊まりません?」

ほむら「あ、それなら朝と夜にも食べたい物があれば……」

ソーニャ「…………ああ、そうだな……うん。泊まらせてもらおう」

やすな「美女二人に誘われるなんてギャルゲーの主人公みたいだね!」

ソーニャ「うるさい。……食事は任せる。何でもいい」

ほむら「何でもいい、ですか」

あぎり「何でもいいが一番困るんですよ」

あぎり「ねー」

やすな「ねー」

ほむら「ね、ねー……」

ソーニャ「てめぇら……」


ソーニャ「家主はあぎり、お前だろ。お前が決めろよ」

ソーニャ「大体、ほむらの料理のレパートリー知らないし」

あぎり「それはそうかもしれませんけどぉ、何よりソーニャはお客さんですから」

あぎり「ねー」

やすな「ねー」

ほむら「ね、ねー……」

ソーニャ「てめぇら……」

ソーニャ「くだらねぇテンドンしてんじゃ……」


ソーニャ「――ッ!?」ゾクッ


ソーニャ「!」バッ

ほむら「へっ?」

やすな「うぇっ!?ど、どうしたの!?いきなり振り返って!?」

あぎり「…………」

ほむら「ソ、ソーニャさん?」

ソーニャ(今……背後から……)

ほむら「…………」

ほむら「……天丼?」

やすな「えー?天ぷら作るのって大変なんだよ。少しは遠慮しようよソーニャちゃん」

ソーニャ(確かに……今、感じた……)


ソーニャ(……『殺気』だ)


ソーニャ「……あぎり」

あぎり「そうですね」

やすな「?」

ほむら「?」

ソーニャ「……ほむら。やすな」

ほむら「は、はい」

やすな「どうしたの?」

やすな「……あ、もしかして財布なくした?」

やすな「やれやれドジッ娘だねソーニャちゃん」

ソーニャ「お前ちょっと黙ってろ」


ソーニャ「今日はこれで解散する」

やすな「へ?」

ほむら「……?」

ソーニャ「ほむら。お前はあぎりと先に帰れ」

ソーニャ「買い物なら私がやっておく。……オムライスとサラダでいいんだな」

ほむら「え、で、でも……」

ソーニャ「私の言うことが聞けないのか」

ほむら「…………」

やすな「えー、お買い物したいよー」

ソーニャ「黙ってろ……やすな」

やすな「……ソーニャちゃん?」


ソーニャ「やすな、お前は私と来い。一応家まで送ってやる」

ソーニャ「ただし少し回り道をする」

やすな「あらあら?デート?きゃっ」

ソーニャ「……走ってもらうこともあるかもしれん」

やすな「えっ何でやだ」

ソーニャ「いいからついてこい……『撒く』ぞ」

やすな「え?マク?何を?尺?」

ソーニャ「それじゃ……また明日。あぎり……頼んだぞ」

ほむら「は、はい……」

あぎり「えぇ、任せてください」

やすな「また明日ね」


あぎり「振り向かないで~」

ほむら「…………」

あぎり「はい、次はこっちの道を通りましょう」

ほむら「は、はい」

ほむら「……あ、あの、呉識さん?」

あぎり「はい」

ほむら「あの、いきなりどうして……」

あぎり「気付きませんでしたか?」

ほむら「気付くって……」

あぎり「実はあの時、私達をつけてきていた人がいたんです」



ほむら「……!」

ほむら「そ、それって……もしかして……!」

あぎり「お察しの通りかと」

ほむら「刺客……!」

あぎり「はい、正解です♪」

ほむら(あ、緊張感がログアウトする)

あぎり「ついに向こうも動き出しました」

ほむら「そ、それで……分かれたんですね」

あぎり「はい」


あぎり「ソーニャも上手ですが、私の方が追っ手を撒くのは得意です」

あぎり「忍者ですし」

ほむら「それは……うん……そうでしょうね……」

ほむら(私を狙う刺客……)

ほむら(一体、どんな……)

ほむら(だけど……呉識さんとソーニャさんがついてくれている)

ほむら(相手が何者であろうと……)

ほむら(決して屈しない。もう何も怖くない)

あぎり「ではこの角を曲がった辺りで忍法を使って私達の存在感を世界から抹消し逃れましょう」

ほむら「なにそれこわい」


「…………」

「……くそ」

「バレちまいましたねぇ……」

「呉識あぎり……つったっけ。アイツと一緒ってのはマズイ」

「しかも……わたしの存在がバレちまった」

「チッ、仕方ないですね……やはり、直接出向いてやるしかないか……」

「まぁいいですとも」

「どうせ元々、暗殺をするつもりなんてあってないようなもんですからね……」


「……くふふ」

今回はここまで

500レス突破。思いの外レス数重ねてるなって
キルミーSSのまどかクロスなのかまどかSSのキルミークロスなのか、
なんやかんやあって自分自身でよくわからなくなったりしたりしなかったりしてみたりしナーミンだったり

やすな「ち 、違うよ!」

やすな「ん もう、鈍感なんだからっ」

やすな「こ れはね、私もお買い物に行きたいなってサインだよ!察して察して」


あのさぁ……


――呉識さんの家にお世話になって、結構な期間が経った……経ってしまった。

和室で生活した経験はほぼないのに「和の家」というのは不思議と落ち着く。

ただ……この家の場合壁を撫でながら廊下を歩いていたら真後ろに金ダライが落ちてきたり、

何気なしに掛け軸を捲ったらその裏は抜け穴のようになっていてうっかり落ちかけたり、

テレビのリモコンを押したつもりが「オブジェだとばかり思っていた物体」が動き出してビームを撃たれたり、

対侵入者用なのか酔狂でつけたカラクリなのか……順当な場所から意外な場所に、色々仕掛けがある。

当初は怖く思ったがもう慣れた。むしろカラクリを見つけるのが一つの楽しみになっていると言っても案外否定できない。

怖いと言えば、呉識さんは天井に逆さまにぶら下って「おはよ~」と言ってきたり、

湯船に竹筒型スピーカー(その時はそれがスピーカーとは思わなかった。アヒルの玩具のノリかと思った)が浮かんでいて、

ほっこりしてたらいきなりそのスピーカーで話しかけてきて、何かと私を驚かせてくれる。色々な意味で。

意外にお茶目な不思議系くのいちとの生活は、何かとビックリすることが多いし心臓にも悪い。

でもなんやかんやで私はこの生活、環境に……それらを踏まえても馴染めていると思う。

「私は適応力が高い」と、これからは自負していいかもしれない。


巴さんのお茶をよくご馳走になっているという私の習性を呉識さんは知っていた。

普段からそういう習慣であるという可能性がないこともない以上「だから」とは言えないけど、

学校から帰ると呉識さんは私にお茶を用意してくれる。嬉しい。

お茶がというよりもその心遣いが身にしみる。

ただ呉識さんが用意してくれるお茶は紅茶ではない。だから気持ちが新鮮。

昨日は緑茶だった。でも一昨日いただいたお茶の名前を私は知らない。

そして何故か教えてくれない。企業秘密?

呉識さんは、私の手から卵が出てきても全然リアクションなさそうなくらいに不思議な人。

しかしそれでいてそういう心遣いをしてくれる魅力的な人。

むしろ負けじと指先からイクラとか出してきそうではあるが……

私の玉子料理には大層お気に召してくれているようだが、何にしても私の卵事情は見せられない。

いつも驚かせてくる仕返しに見せてみたいとこではあるけれども。


ソーニャ「おう、ほむら」

ほむら「おはようございますソーニャさん」

ソーニャ「ああ……ん?」

ソーニャ「あぎりは一緒じゃないのか?一緒に行動しろと言ってあるはずだが……」

ほむら「呉識さんなら校門の前まで一緒でした」

ほむら「ホームルームが始まるまでにやっておきたいことがあるんだそうで、分かれました」

ソーニャ「あいつ何か委員会とかやってたかな……?」

ほむら「日直とか……」

ソーニャ「だとしても……まぁいいか。あいつの考えてることはよくわからんからな」

ソーニャ「さっさと上履きに履き替えて教室に行こう」

ほむら「はい」


ソーニャ「……なぁ、ほむら」

ほむら「あ、はい」

ソーニャ「お前ってさ、下駄箱に手紙とか入ってたことあるか?」

ほむら「手紙……?」

ほむら「も、もしかしてソーニャさん、下駄箱にラブレ……」

ソーニャ「そういうお前はあるのか?そういうのもらったこと」

ほむら「え、あ、えっと、ま、まぁ……何回かは」


ソーニャさんの方からそんな浮ついた話題が出るとは思わなかった。

下駄箱に手紙……重ねたループの間、そういうことは何度かあった。

さやかのイタズラ怪文書だったり、まどかに書かせた潜入捜査的魔法少女体験三行報告書、

魔法少女相手ならテレパシーで事足りる。

所謂ラブレターもなかったこともない。返事は言うまでもない。

何度か同性からのもあったということは秘密にしておこう。

そのラブレターに対し何故かヤキモチを妬いていた四週前のまどかは可愛かった。……亡くしてしまったけれども。


ほむら「それで……どうし、ましたか?」

ソーニャ「どうしたもなにも……」

ほむら「まさかやっぱり恋文……!」

ソーニャ「ちげぇよ」

ソーニャ「……お前、ノリが若干やすなに汚染されてきてないか?」

ソーニャ「元の生活に戻ったらキャラ変わったねとかいわれないよう気をつけろよ」

ほむら「…………」

ソーニャ「たまに、暗号化された指令書が下駄箱に入ってることもあるんだよ」

ほむら「指令書」

ソーニャ「それで魔法少女とやらはそういうのはどうなのかとちょっと気になっただけ」

ほむら「そうでしたか。……魔法少女でそういう手紙のやり取りはほぼないですね」

ソーニャ「ふーん」


折部さんのノリに少し影響されているのだろうか、私は。

この前、刺客がどうのこうのと呉識さんとソーニャさんは言っていた。

刺客の影が見えてから、自分が思っている以上確かに長い時間経過している。

この時間を合わせれば……どれだけの時間、ここにいるというのだろう。

あれからしばらくはピリピリしていたソーニャさんも、割と落ち着いてきているようだ。

しかし結局、以後私を買い物に連れて行ってくれるようなことはなく、

呉識さんかソーニャさんのどちらかがお買い物。私の書いたメモを片手に。

どちらかもう片方は常に一緒にいるという、いつもの直帰であった。

通学の場合はどちらか片方あるいは二人と一緒。通学路でも警戒は怠らない……らしい。

気になるその刺客だが、以降影も形も見せていない。

バレたことに気付き、一旦間を置いて、警戒心が少しでも緩んだところに来るものなのだろう。

多分。


「おっはよう!」ポム

ほむら「あ、折部さん」

ほむら「おはようございます」

やすな「うんうん。挨拶は気持ちいいね」

やすな「増して肩に手を置いて即サブミッション!ってのがない挨拶は特に気持ちがいい!」チラッ

ソーニャ「お前がウザいから悪い。自業自得だ」

やすな「ボデータッチはインポータン!」

ほむら「……でもそれって、大丈夫なんですか?」

ソーニャ「あん?」

ほむら「挨拶されただけで誰彼かまわず関節をってなったら……」

ソーニャ「大丈夫だ。気配でわかるようになっているからな。そんなことはありえない」

やすな「は?」


ほむら「で、でも何度か私の前でも折部さん……」

やすな「納得いかんでおまんがな」

ソーニャ「普通は何度も見せるシーンじゃないはずなんだが……」

ソーニャ「ぶっちゃけやすなの場合はわざとだ」

やすな「ひどっ!?」

ソーニャ「お前は何度言っても懲りないからな」

ソーニャ「背中から話しかけるなって何度も言ってるのに」

やすな「い~じゃーん。挨拶ぐらいさー」

やすな「ねー?」

ほむら「え、あ、はぁ……そうですね」

ソーニャ「…………」


やすな「挨拶して関節キめるだなんてそんなの絶対おかしいよ!暴力娘!」

ソーニャ「ほむら行くぞ」

やすな「無視!」

やすな「……チッ、ほんとコイツしょうがねぇわ」

ソーニャ「お望み通りにしてやる」ギリギリ

やすな「あががが!肩が!肩が!」

ほむら「…………」


ただ……未だに、二人のペースには完全に慣れてはいない。

慣れないというより……心なしか二人に取り残されたような気持ちによくなる。

本当に二人は仲良しだ。ケンカするほど仲がいいとはよくいったもの。暴力が一方的なケースは知らないが。

なんだかんだで、今日もまた授業を受ける。

知ってる分野と否の分野。余裕と理解不能の高低差の大きい授業はストレスになる。


――昼休み


やすな「じゃーん!」

ソーニャ「食後からうるさい」

ほむら「?」

やすな「ふふふ、見て見て」

ほむら「……ビニール袋?デザートですか?」

やすな「やだっ、デザートとか発想が可愛い。キャハッ」

ソーニャ「うぜぇ」

やすな「ふふふ、これはね……ばばーん!」ザー

ほむら「……これは」


お昼休みは素晴らしい。

折部さんがどこからともなく取り出したビニール袋から何かを出した。

机から落下する程たくさんのそれは黄緑だったりオレンジだったりカラフルな……

……手裏剣?


やすな「ほむらちゃんが手裏剣を勉強してるそうだからね」

やすな「私も協力したいと思い、手裏剣をたくさん用意しました!」

ソーニャ「折り紙じゃねぇか」

やすな「本物なんか用意できるわけないじゃん。常識的に考えてよ」

ソーニャ「……」


……目に見えて、苛立っている。

ソーニャさんは、短気な人だと思う。

殺し屋としてそれはどうなのかと思うくらいに短気だ。

とは言え、その怒りが折部さん以外の人あるいは物に向いたところは今のところ見たことがない。

折部さんが煽る以外に彼女を怒らせる要素がないからだ。

だからこの場合、折部さんが怒らせるのが上手だから気が短く見えるのかそれとも本当に怒りっぽいのか……

私には判断できない。


ほむら「えっと……あ、ありがとうございます」

やすな「うふふ、よくてよよくてよ」

ソーニャ「お前ほむらに気を使われているってわかっているのか?」

やすな「え?なに?」


折部さんも折部さんなりに、気を使っているのね……

お気遣いは嬉しいけど、あまり手裏剣がどうとか人前で言わないで欲しい。

そのおかげでいつの間にか私は忍者マニアの歴女と噂されている。日本史は得意でない。

その件を物申したいと思いはしたが、彼女の厚意を無下にできない。


ほむら「……奇麗に折れてますね」

やすな「でしょ?でしょ?」

ソーニャ「無駄に器用だからなコイツ」

ほむら「それにしてもこんなにたくさん……」

やすな「ほむらちゃんのためを思えばいとわない」

ソーニャ「暇なヤツだ」

やすな「眠気に耐えながら授業中にコツコツと……」

ソーニャ「勉強しろよ!」


呉識さんからは手裏剣の投擲術。

ソーニャさんからは刃物の扱い方。

二人方それぞれから戦い方を教わっている。

手裏剣はナイフと同様、魔力で作ることができる。

目を盗んでこっそりと木(多分変わり身の術用)に投げつけてみたら奇麗に刺さった。

手裏剣の質十二分に良し、私の技術もそれなりに良し。

手裏剣にも色々種類があるがまだその違いがいまいちよくわかっていない。

そして問題は、その手裏剣術が魔女や使い魔相手に通用するか。

……流石に魔女を探しに出掛けられない。試せない。

そういえばその魔女や使い魔もしばらく見ていない。

この辺りは魔女や使い魔の気配を全く感じない。

キュゥべえさえも見ていない。それは別に見なくてもいいけど。

グリーフシードのストックは盾の中に十分過ぎる程あるからいいが……

現れないは現れないで気になる。


やすな「ほら、的も用意してあるから、投げて。投げて」

ソーニャ「……的?」

ほむら「?」

やすな「はい、手裏剣。紫が似合うね」

やすな「よーし、二人でソーニャちゃんをやっつけるでござる!」

ソーニャ「やっぱり的って私のことか」

やすな「当たり前じゃん。空気読め」

ソーニャ「フッ!」パァン!

やすな「ゴボボーッ!」

ソーニャ「……いいかほむら。やすなをビンタをする時はこう手首のスナップをだな」

ほむら「…………」


折部さんは本当に明るく賑やかで……

落ち込んでいても無理矢理元気を引き出されそうだ。

巻き込まれているソーニャさんからしたらたまったものではないテンションかもしれないが、私は案外、嫌いでない。

これがさやかだったら「ウザい」と思うところだが……いや、この状況ならさやかでも……。

……気にしていない時なんてなかった。いつだって気になる。見滝原のこと。皆のことが気になる。

まどかはもちろん、巴さん達……普段はうるさいと感じていたそのさやかとでさえ、寝る間を惜しんででも話したい気持ちにある。

この際、正直なところあまり親しいとは言えない美国織莉子と呉キリカとだって世間話をしたい。

……何でも呉識さんは私を攫った次の日、高校生(仮)になった日に、見滝原に行ってまどか達に会っていたらしい。ずるい。

内容を聞いてみれば、取りあえず私の安否、及び心配しないでいいというようなことを話してくれたらしいが……

それなら、まぁ……うん。

それに呉識さん達との生活もそれはそれで良い。

寂しさも少しは和らいでいる。ともかく、いつまでも気にしすぎてナーバスになってはいけない。

私は毎日のおかずと刃物講座のことを考えなくては。今夜は何にしよう。


ソーニャ「……さて、と。そろそろだな」

ほむら「はい?」

ソーニャ「ほむら、ちょっと来い」

やすな「あれ?どこ行くの?私も行く!」

ソーニャ「お前は来るな」

やすな「えー!」

ソーニャ「ほむらと大事な話をしたいんだ」

ほむら「話?」

ソーニャ「それこそお前、空気読めよ」

やすな「からけ?」

ソーニャ「……行くぞほむら」

やすな「ブー」


ふてくされた折部さんを置いて、ソーニャさんにつれられる。

大事な話と言っていた。

それはきっと、組織関係の話だ。

あるいは、見滝原の話……まどか達に何かあったのでは……!?


ソーニャ「ほむら」

ほむら「はい」

ソーニャ「今まで話してなかったが……実は殺し屋という身分上、たまに来るんだ」

ほむら「来るって……何がですか?」

ソーニャ「……所謂、果たし状と言ったところか」

ほむら「果たし状?」


ブレザーの内ポケットから一枚の紙を取り出した。白い紙に明朝体で何やら書かれている。

差し出されたので「読んでみろ」という意味と受け取り、紙を手に取った。

行動選択は正答らしい。読んでみる。


『 お前を消しに来ました。空き教室に来なさい

  もちろん、あけみほむらを連れてきなさい    刺客 』


ほむら「……こ、これって」

ソーニャ「多分、こないだ現れた刺客のものだと思う。今更来やがった」

ほむら「もしかして今朝、下駄箱に……」

ソーニャ「その通りだ。これが入っていた」

ソーニャ「これから空き教室に行って、その刺客を引っ捕らえる」

ソーニャ「お前にはそれに付き合ってもらう」

ほむら「…………」

ソーニャ「どうした?」

ほむら「い、いえ……何でも……」

ソーニャ「?」


刺客はどうやら私の苗字を漢字がわからなかったらしい。

ではなくて、

殺し屋……の抗争的な物というのは……こう……

もっと、何と言えばいいのか……丁度いい言葉は思いつかないが、

こんな、昔の漫画によくある不良同士の決闘みたいな展開が待っていたとは思わなかった。

肩すかしどころの話ではない。しかもソーニャさんからすればそれは割とよくあることらしい。

散々私の中の殺し屋、そのイメージにあらゆる面で反したソーニャさんだけれども……

「あっち」の業界では案外それが普通なのかもしれない。……いや、多分違う。


ほむら「……呉識さんは?」

ソーニャ「あぎりは学校にいるにはいるが」

ほむら「一緒ではないんですか」


ソーニャ「あぁ」

ソーニャ「何か忙しそうだったしな。まぁ私一人で十分だ」

ほむら「……き、緊張します」

ソーニャ「私一人だから不安か?刺客の相手は慣れてる」

ほむら「別に不安だなんてことはないんですが……」

ソーニャ「フッ、それならいい」


不敵に微笑むソーニャさん。

護ってもらっている立場上、本来なら「頼もしい」と思いたいところだが、

折部さんとのやりとりが印象に強く、些か不安がある。

「刺客に負けるんじゃないか」という悲観的な不安ではなく、

「私、ボケに回らないといけなくなったりしないだろうか」という自分でもよくわからない謎の不安が。


兎にも角にも、緊張する。

色々な意味で。

それに、もしかしたら私も加勢した方がいい状況というのも起こりうるかもしれない。

もしそういう可能性が、少しでもあるというのなら、準備が必要。


ほむら「……あの、ソーニャさん」

ソーニャ「何だ?」

ほむら「……そ、その前に、お手洗いに行ってもいいですか?」

ソーニャ「…………」

ほむら「…………」

ソーニャ「……行ってこい」

ほむら「は、はい、すみません」


ソーニャ「ここだ」

ほむら「ここが空き教室……」


こんなところにも教室があるとは知らなかった。

そもそも使われない教室なんて、あるものなのだろうか。

それはさておき、ここに刺客が待ちかまえているらしいが……

確かに、昼休みでも人通りは少ないかもしれない。が、何故よりによって校内で?


ソーニャ「……入るぞ」

ほむら「……は、はい」

ソーニャ「まずはこのさっき拾った何か丁度良い感じの棒を投げ込む。そしたらすぐに入るぞ」


囮による陽動。

いつの間に、そして校内のどこでそんな物を拾えたのか。


カラン、カランという音の後に一拍おいて、にソーニャさんは教室の中に飛び込んだ。

どこからの攻撃に対応できるっぽい姿勢に、ビシッと身構える。敵の動きはない。

あ、私も入らなくちゃ。


ほむら「……誰もいませんね」

ソーニャ「ああ、やすなのイタズラだったか?」

ほむら「折部さんの?」

ソーニャ「過去にあったからな」

ソーニャ「……コケないぞ」

ほむら「?」


警戒の姿勢を解いたソーニャさんは辺りを見渡す。

自分で投げた棒を見下ろし睨むソーニャさんを尻目に、

私なりに警戒をする……。



「……くっふっふ」


ソーニャ「!」

ほむら「こ、この声は!?」

「やっと来ましたね……待ちくたびれましたよ」

ソーニャ「刺客か!どこに隠れてやがる!」

ほむら「そ、そこのロッカーから声が……!」

ソーニャ「!」

刺客「何者だって聞きたいことでしょうので名乗りますけども……」

刺客「わたしは魔法少女の『優木沙々』ッ!」

沙々「暁美ほむらを狙う、貴様の刺客です!」


ロッカーの中から籠もった声が空き教室内に響く。

魔法少女……!?刺客は魔法少女だった!

いや、ターゲットが魔法少女だからある意味妥当なのかもしれないけど。


ほむら「魔法少女……」

ソーニャ「魔法少女……か」

沙々「あれ?あんまり驚いてないトーン」

ソーニャ「そんなことよりも……」

沙々「何さ?」

ソーニャ「何でロッカーの中にいんだよ」

沙々「…………」

沙々「何か……バーンって、かっこよく出てこようと思ってて」

ソーニャ「は?」

沙々「何!魔法少女だと!って驚いてるとこにバーン!って出たらかっこよかったのに。何で驚かないんですか」

ソーニャ「何だこいつ」


沙々「では……出ますよ。バーンって出ますよ」

ソーニャ「さっさとしろ」

沙々「せーのっ……!」ガタッ

ソーニャ「…………」

沙々「あれ?」ガタッ

沙々「あ、あれれ?」ガタガタ

ソーニャ「おい、早くしろ」

沙々「開かないんですけど」

ソーニャ「ほむら帰るぞ」

沙々「待って!待ってください!」ガタガタガッタン

沙々「引っかかってる!?引っかかってる!?」ガンガン


ほむら「……何、これ。コント?」

ソーニャ「今までの刺客も大抵こんなもんだ」

ほむら「……こんなもんなんですか?」

ソーニャ「うん」

沙々「一緒にすんな!過去にしくじった奴らとわたしを一緒にすんな!」ガタガタガタガタガタガタガタ

ソーニャ「ガタガタうるせぇ!同類だバカ!」

沙々「わたしを見下すんじゃねェェッ!」

バァン!

沙々「開いた!やったぜ」


片足を高くあげ息を荒げて叫ぶ刺客。

声の感じ、そして魔法少女と名乗った以上……

確かに魔法少女だ。ロッカーの中で既に変身をしていたらしい。


ソーニャ「うわっ、ダセー服」

沙々「ダ、ダサくない!ダサくありませんよ!」


魔法少女の衣装はともかく、ロッカーの扉を蹴り上げたその姿は不格好だ。

というかそれ以前にもう既に格好が悪い。色々と。

ダサい服……か。

……私の魔法少女の姿もソーニャさんに「ダサい」認定をされてしまうのだろうか。


沙々「とぉっ!」ピョン

ほむら「あ、棒……」

沙々「れっ?」

沙々「どげっ!」ベチン!

ソーニャ「あ、コケた」

沙々「散々じゃねぇかくそったれが!」


優木沙々は自分で踏んだ棒を思い切り踏み、それをへし折った。

冷めた目で見るソーニャさん。多分私も同じ様な目をしている。

刺客は取り繕ってソーニャさん……いや、私を指さしてニヤリと笑った。

切り替えが早い。


沙々「初めまして暁美ほむらさん。わざわざ言うまでもないことですが、わたしの目的はあなたですよ」

ほむら「…………」

沙々「一度お話したかったものです。お時間いただいてどうもです」

沙々「っていうか素直に連れてくるとかバカなんじゃない?」

ソーニャ「何だとてめぇ」

沙々「バカで結構!わたしとしてはとても助かりますよ。言う通りにしてくれて!くふふっ」

ソーニャ「ふん。刺客が魔法少女であるという情報は受けていたんだ」

ソーニャ「だから本職を連れてきただけだ」

沙々「何……だと……」


……情報、か。

刺客が魔法少女だなんてどういうルートで知れるのだろう。

思えばこれまでの日々において、組織に関しては何も知り得るものはなかった。

知る必要もないことかもしれないし、その謎は謎のままでいい。余計なことはしない。


ソーニャ「ほむら。こいつは本当に魔法少女か?そして見覚えがあったりするか?」

ほむら「は、はい。彼女は魔法少女で間違いありませんし、初めて見る名前と顔です」

ソーニャ「そうか」

ソーニャ(報告によれば見滝原に住む魔法少女と抗争した過去があるとのことだった)

ソーニャ(魔法少女とかいうのは見滝原だけで何人いるんだって話だが)

沙々「……まさかわたしが魔法少女であることが既にわかっていたとは」

沙々「流石と言うべきか、ちきしょーと言うべきか……」

ソーニャ「そんなことより私の質問に答えろ。組織の『裏切り者』は誰だ」

ソーニャ「誰が組織の武器を売り払って、そして情報をお前達に流した」



私が事務所から盗んだ武器は、ソーニャさん達の組織から盗まれた物。

組織の裏切り者が、その事務所に武器を横流ししたということ。

そういえばそんな理由だった。私と「組織」の繋がりは。

……別に忘れかけていたわけじゃない。……わけじゃない。


沙々「くふっ、くふふふふふ」

沙々「バーカ。言うわけないでしょう。貴重な情報源を」

沙々「ほむらをいただいて、わたし達は外から、彼女達は内部から……あなたの組織をぶっ壊してやりますよ」

ソーニャ「そうか、裏切り者は複数いるのか……そして少なくとも一人は女と」

沙々「…………ハッ!」


察した。

……いや、ロッカーのくだりでもうわかっていた。

優木沙々。この人はダメだ。


沙々「くっそぅ!くそぅ!」

沙々「と、と、ともかくソーニャ!あんたを倒してほむらを攫わせてもらいます!」

ソーニャ「返り討ちにしてやる」

ソーニャ「お前を引っ捕らえて情報を吐いてもらうからな」

沙々「ハッ!返り討ちの返り討ちにしてやるわ!」


私は誘拐された当日、緊張感が湧かないとまったりとしてしまった。

優木沙々も多分、この世界の空気感染をしたとかなんとかなんじゃないか。そう思う。

そんな魔法少女と、殺し屋が対峙する。

殺し屋vs魔法少女。字面だけで見ると割とシュール。

私も魔法少女となって応戦したいところではあるが、ソーニャさんの前で変身するのは少々憚れる。

結局のところ彼女は魔法少女をそこまで認知していない。服装が一瞬で変化するような非現実的な行動は取りたくはない。

しかし、相手は既に変身をしていた。

中身がアレとは言え、単純に考えれば魔法少女の刺客の方がアドバンテージがある。


沙々「ではではっ!ほむらをいただいちゃいます!」

沙々「覚悟しなさい!」

ほむら「……いただく?」

沙々「うん?何ですかな?」

ほむら「攫うとも言ったけれども……」

ほむら「私を消しに来たんじゃないの?優木沙々」

沙々「あ?くふっ、消すだなんてとんでもありませんよ」

沙々「……ははーん、これはもしや、わたしに解説をさせて時間稼ぎしようって?」


……別にそんな意図はないが、気になっただけだ。

私はてっきり、敵組織に狙われてるって言うからに命を狙われていると思っていた。

聞いた直後に、ここで消さずに「まずは攫って別の場所で消す」という可能性も考えられたが、

この反応を見るにどうやら違うらしい。


沙々「パツキンの殺し屋さん。あんたは知ってましたかな?」

沙々「わたし達の狙いはほむらの命ではない……って」

沙々「敵の事情はどこまで踏み込めていますか?」

ソーニャ「……興味ないな」

沙々「知らなかった?へぇー!護衛対象の命の危機だったかもしれないのに!」

ソーニャ「私は護るという命令があればそれに従うだけだ」

ソーニャ「増して貴様等の事情なんてくそどうでもいい」

ソーニャ(そもそも肝心のほむらがそんな危機感持ってないし)

沙々「……つまらない人ですね」

沙々「ま、いいでしょう。教えてさしあげましょう。訳も分からず刺客に狙われるのもキモいことでしょうし……」

沙々「折角の機会ですしお教えします」


沙々「ま、とは言ってもですね、そんな難しいことじゃありません」

沙々「事の始まりはあんたの組織の誰かさんが『こっち』に寝返ったこと」

沙々「そしてそいつは、あんたの組織の武器庫から武器を盗んで……」

沙々「それを『こっち』の下っ端に横流しした。下っ端はそれを売ったり、ドンパチやらかしたりしてお金を稼いでました」

沙々「ところが!ほむらがその武器をパクりやがりました!」

沙々「そのせいでその下っ端チンピラーズは責任を取らされて……どうなったかはわたしの知ったことではありません」

沙々「あ、わたしは組織に入って日は浅いですが、そんなチンピラ共とは違いますよ?」

沙々「魔法少女に理解のある組織でしたから、魔法少女優木沙々はここまでのし上がりました」

ほむら「優木沙々の組織に魔法少女が……!?」

ソーニャ「…………」

沙々「すごいでしょ。で、ま、あんたのおかげで横領ルートがバレちゃいましてね……」


ソーニャ「ほむらが浮かんでくるまで、外部犯の線が濃いと思われていたんだ」

沙々「そう。波と調子に乗りかけていました。……なのに、あんたのせいで……」

沙々「しかし、わたしは短気な方ですが我々寛容です」

沙々「あのそれなりに厳重な警備からよく盗め出せたものです。あそこから盗めた時点でこっちは魔法少女の仕業だと思われていました」

沙々「そして……こう、結論がつきました」

沙々「……『欲しい』ってね」

ソーニャ「……欲しいだと?」

沙々「その窃盗スキルがものすごく欲しいらしいんですよ!だってそうでしょ?」

沙々「あんなとこから証拠もなしに盗めるなんて、その気になれば国際要人のマル秘情報とかも盗めると思うでしょ?ルパン顔負けですよ」

沙々「お金とれるレベルですよ。本当にこればかりはわたしも純粋に尊敬しちゃいますよ」

沙々「あなたの様なプロの泥棒さんは是非とも組織に迎え入れたい!」

沙々「要は勧誘ですよ!攫って仲間に迎え入れます!」


……勧誘ときたか。

どうやら、時間を止める能力に関しては知らないようだ。

どうやって武器を盗んだのかわかっていないようだ。

……にも関わらず、優木沙々の言う窃盗スキル。敵組織はそれが目的らしい。

狙いは私の命ではない。口封じなんかではない。

もっとも、仮に「もう盗めない」と言っても、

嘘だと信じないか、それなら用はないとそれこそ口封じに狙われることだろう。

なら、黙っておくに越したことはなさそう。

仮に可能であっても、端からもう二度と『こんなこと』はしたくない。

増して呉識さんとソーニャさんの敵に加担するだなんて絶対にありえない。

……ソーニャさんはあまり動揺していない。

最初から私の命が狙われていたわけではないということを彼女は知っていたのだろうか。


ほむら「拒否するわ……そんなこと」

沙々「くふふっ、あんたに決める権利なんてあるわけないじゃないですか」

沙々「必ずや、あんたはわたしの組織に忠誠を誓わせますよ」

ソーニャ「フン……そんなの、私が許さない」

ソーニャ「お前をぶちのめして尋問してやる。誰に依頼されたか、裏切り者は誰か……」

ソーニャ「洗いざらい吐いてもらうぞ!」

沙々「ハン!そんなみみっちぃナイフで魔法少女のわたしに勝てると思っているのか!?」

ソーニャ「魔法少女だろうが何だろうが関係ない」

ソーニャ「すぐに終わらせてやる!」

沙々「すぐに終わる立場は逆ですがねぇっ!」


ソーニャさんはナイフを構え、体幹と脚に力を込めている。いつでも走り出せる姿勢。

対し優木沙々は、鈍器……いや、杖を構える。これが魔法武器か。

相手は魔法少女。何をしてくるかわからない。固有魔法も不明。

迂闊に距離を詰めるのはまずい。

それはソーニャさんも理解しているらしい。手札がわからない相手に取るに妥当な距離感。

優木沙々と睨み合ったまま、互いに膠着状態。空気が張りつめる。

動かないということはその攻撃方法に隙が大きいか、そもそも届かないか。そうでないなら既に攻撃をしかけている。

優木沙々がソーニャさんの相手をしている隙に変身をして私も加勢を……

いや、相手が何をしてくるかわからない以上私も下手に動かない方がいいかもしれない。

やはりこういう緊張した状態の時、いてくれて嬉しいのは……もちろん、呉し――


「逃げてーッ!」ドンッ


ソーニャ「んぐぅっ!」


沙々「は!?」

ほむら「!?」

ソーニャ「ぐ……ぐふっ」

ソーニャ「や、やすな貴様……!」

やすな「この鬼ー!」

ほむら「お、折部さん……」


いてくれて嬉しいのは呉識さんだ。

頼もしさ、何とかしてくれる感は正直なところ巴さんをも凌駕する。

しかし実際に現れたのは折部さんでした。

ソーニャさんを追って来てしまったんですね。

やっぱり校内で「こういうこと」やるのは絶対におかしいって。



沙々「な、何だ?こいつは……」

やすな「ソーニャちゃん!こんなちっちゃい子まで手にかけるつもり!?」

沙々「あぁ!?誰がちっちゃいって!?」


私の知っている魔法少女は一人の幼女を除いて全員中学生だ。

優木沙々が何歳かは知ったことではないが、見た目だけで判断するなら中学生が妥当だ。

中学生が殺し屋の刺客だなんていうのも冷静に考えたらとんでもない……いや、高校生でも十二分におかしい。


ソーニャ「バ、バカヤロ……こいつは刺客だ!」

やすな「うっそだー、こんな子どもがそんなわけないじゃーん」

沙々「だ、だ、だっ……!誰が子どもだ!失礼ですよあんた!」

やすな「どうみてもほむらちゃんとそう変わらないじゃん」

ソーニャ「お前、ほむらが何でここにいるかわかってんのか?」

やすな「…………ハッ!」

ほむら「……もしかして、忘れられていた?」


やすな「そ、そうだ!ほむらちゃんは敵の組織に狙われている身!」

やすな「だったらその刺客も子どもで何ら問題ない!」

ソーニャ「いやその理屈はおかしい」

沙々「子ども扱いすんなっつーの!」

やすな「うおおおお!ほむらちゃん!私の後ろに!」バッ!

ほむら「お、折部さん……!」

沙々「ふふん。ほむらを庇うおつもりで?格好つけんじゃねーよ」

やすな「ほむらちゃんは私が守る!」

ソーニャ「おい、余計なことすんな!」

沙々「ムカつきますね……ヒーローのつもりですか」

やすな「うん!」

沙々「パワフルに肯定されるとは思いもしませんでしたわ」


やすな「ほむらちゃん!ソーニャちゃんを後方支援するよ!」

やすな「やすな手裏剣ボンバー!」ペイッペイッ

沙々「いたっ、痛いっ。地味に痛いっ。やめろ!」

ほむら「折り紙持ってきてたんですか?」

やすな「やすな手裏剣シューティング!」

ソーニャ「うっとうしいから邪魔すんじゃ……」

やすな「やすな手裏剣ストロガノフ!」

ソーニャ「いたっ」

ソーニャ「てんめぇー!どさくさに紛れて私に当ててんじゃねぇ!」

やすな「わ、わざとじゃないよ!」

沙々「舐めんなこのクソガキ!」

やすな「どう見ても私の方が年上だよね!」

ギャーギャー

ほむら「……えーっと」


やすな「さあ!ほむらちゃんも手裏剣を!」

ほむら「は、はぁ……」

ほむら「…………」

沙々「がー!ムカつくから先にあんたをぶっ殺す!」

やすな「ひぃっ!」

ほむら「……!」

シャッ!

沙々「!?」

沙々「うおっ!?」バッ

やすな「あ、避けた。ほ、ほむらちゃん!ナイス手裏剣!」

沙々「き、貴様……!?」

沙々「ど、どこにそんなものを隠し持っていた!」

やすな「?」

ほむら「…………」


折角作ってもらって申し訳ないが……

折り紙の手裏剣なんて話にならない。

……勿論、今、魔力で作った。上手く再現できた。

折り紙でなく、本物……いや、本物ではない。魔力の手裏剣。

巴さんの作る魔力のリボンを参考にした……「作る」コツは大方理解できている。

ナイフの刃、その簡単な応用。

しかし、優木沙々……ふざけていてもやはり刺客を名乗るだけのことはあるらしい。。

不意打ちのつもりが、その身に刺さるに至らなかった。

手裏剣は肩を掠めたらしく、衣装の一部は裂け、血が滲んでいる。

今の一瞬でよく手裏剣が折り紙でないと見極めて回避するに至れたものだと思う。


ソーニャ「…………」

やすな「あれ?何で怪我してんの?紙なのに。あ!紙でも切れるね!納得」

ソーニャ「紙じゃねぇ」

ソーニャ「……今のは本物だ」


やすな「ほ、本物!?」

ソーニャ「どこで仕入れたのか……あぎりから貰ったのかしらないが」


お世話になってる二人から学んだ手裏剣と刃物の知識。

狙ったところに飛び、標的に刺さるくらいの腕は身につけた。

どういう刺さり方をするか、刃が入りやすい角度もある程度頭に詰め込んだ。

肝心の魔女や使い魔相手に通用するかはさておいて、我ながら上手く刺さった。ロッカーに。

人間に向けて刃物を投擲するのは抵抗感があるし、折部さんが見ている。

だから顔は避けた。刺さるかはさておき狙おうと思えば狙えた。


沙々「い、今のはビビッた……危なかった……」

沙々「折り紙の手裏剣のせいで油断した……お、恐ろしいヤツですね……やってくれますね」

ソーニャ「どっから持ち出したのかしらんが……なるほど、なかなか上手じゃないか」

ソーニャ「それはそうと……」


沙々「くふふ……面白くなってきやがりましたね……!」

沙々「まずはターゲットであるあなたを……」

ソーニャ「おい」

沙々「ああ!?うっさい邪魔すん……」

ソーニャ「ふん!」ドスッ

沙々「なばァッ!」

沙々「」ドサッ


……ありのままに起こったこと。

今の手裏剣で、私に意識を向けた刺客。

そこをソーニャさんに呼び止められ振り返る刺客。

腹パン。倒れる刺客。

あっけない。

しかし……。


ほむら「い、一撃……」

やすな「うわー、痛そう」

ソーニャ「ふん」

ソーニャ「……しかしこれでやすなでない限りしばらくは動けまい」

やすな「あーあ……もう、こんなちっちゃい子にも容赦ないんだから……」

ソーニャ「うるさい」


今ので折部さん基準って……どれだけ丈夫なの折部さんは……。

それはそうと、二人はまだ気付いていない。

いや、気付いたところでわかるはずがない。


ソーニャ「さっさと縛り上げて組織に受け渡してやる」

ソーニャ「ほむら。紐か何か持ってないか」

ほむら「……いえ」

ソーニャ「そうか……参ったな。気絶してるとは言えほったらかしにするわけにもいかないし」


やすな「私には聞かないの?」

ソーニャ「あるのか?」

やすな「そんなもんあるわけないじゃん。バカなの?」

ソーニャ「フン!」ドスッ

やすな「ハムッ!」

やすな「ぐ、ぐぬぅ……」

ほむら「こ、これは痛そう……」

ソーニャ「安心しろ。刺客にやったのと同じくらいだ」

ほむら「……普通は手を抜きますよね」


どこまで頑丈なのか折部さん。それはさておいて。

……なるべく気づかないフリをする。気にしていないフリをする。

演技力に特別自信があるわけではないが。


沙々「…………」


沙々(……くぅ……い、息が止まるかと思った)

沙々(く、くふふ……)ムクリ

沙々(なかなか強烈な腹パンでした……食後だったら多分吐いてた)

沙々(しかし、わたしは魔法少女……まして、刺客!)

沙々(その気になれば、痛みなんて消せる!)

沙々(よし、そのまま背後から……!)

ほむら「…………」ジー

沙々(あっ)

沙々(……そうだった)

沙々(こいつ……『変身しない』から……)


ソーニャ「あぎりに持ってきてもら……」

ほむら「動かないで」チャッ


ソーニャ「!?」

やすな「何それ?」

やすな「……ヒィッ!?じゅ、銃!?」

ソーニャ「ほむら!?」

やすな「ま、まさかほむらちゃん!?」

ソーニャ「そんなはずが……へ、変装か!?」

ほむら「……後ろを見てください。二人とも」


二人には私が突然銃を突きつけたように見えているようだ。

否定している暇はない。驚く二人の間から、銃を構え優木沙々の眉間を狙う。

二人の間を銃の引き金に指を置いたまま歩いて……刺客の方へ。

優木沙々は気絶なんてしていない。

本当に気を失うのであれば、魔法少女の衣装は解かれる。

私が変身していなかったから油断したのか、魔法少女と対峙した経験がないのか知らないが……何にしても愚策というものだった。

ソーニャさんの一撃で気を失わなかったのも大したものと思うべきなのかもしれない。


変身をするのは憚れる。

しかし、変身して盾を出さなければ『こんなもの』は手に持てない。

こんなこともあろうかと、隠し持っていた。

トイレに行った際、盾から取り出して……。

新しい武器の補充はできないのには違いない。

しかし、全て無くなったわけではない。

……とは言え、このハンドガンには弾は入っていない。

ないものはない。ただの脅し。


沙々「くっ……う……!」

ソーニャ「刺客が……目を覚ましてやがる」

やすな「仕留め損なうとはソーニャも衰えたものだな」

ソーニャ「うるせぇ」ゴツッ

やすな「いぎゃん!」


やすな「そ、それよりもソーニャちゃん……」

やすな「ほむらちゃんが持ってるアレって……?」

ソーニャ「本物だ……」

やすな「な、なんでほむらちゃんがそんなのを……!?」

ソーニャ「わ、私が知るか……確かに、確かに回収できるものはされたはずなんだ」

ソーニャ「手裏剣はまだ、あぎりから貰ったとかで説明はつくが、どうして……」

やすな「いいなぁ」

ソーニャ「羨むなバカ」

やすな「憧れちゃうよね。ピストル」

沙々「まだ……隠し持っていやがったか……!」

ほむら「…………」


ソーニャ(やはり、盗難されたものと同じ型だ……見間違えじゃない)

ソーニャ(回収できなかったものは既に売り払われたとかしたと思っていた)

ソーニャ(あいつの家も実家も下駄箱の中も全部確認したのに!)

ソーニャ(まだ隠し持ってたのか!ちゃっかりしやがって!どこに隠し持っていたんだ)

ほむら「…………」


に、睨んでる……ソーニャさんが睨んでる……。

背後からでもわかる。

絶対怒られる。武器まだ全部返してなかったこと絶対に怒られる。

と、とりあえず今は目の前の敵を……。

優木沙々は、銃を眉間に向けられて憎らしげに私を睨んだまま動かない。

弾が入ってると思っている相手に逃げる隙なんて与えない。


ほむら『まさか……魔法少女が殺し屋をやるなんて世も末ね』

沙々(テレパシー……!)

ほむら『いくら魔法少女とは言え、眉間を撃ち抜かれたらどうなることか』

沙々(くっ……!)

ほむら『見ればわかるだろうけど、この銃にはサイレンサーがついていない……だから本当に撃てば騒ぎになる』

ほむら『仮に即死を免れても、あなたもそれを望まないでしょう』

ほむら『私も撃ちたくはないが……あなたを殺さなければならないなら仕方ないと考えている』

沙々「…………」

沙々『く、くふふ……変身しないから舐めプかなと思ったのですが……』

沙々『なるほど。わたしを油断させるためってとこですか……わたしも考えが甘かった』

沙々『しかし、この銃……。これが……ですか』

ほむら『……何かしら?』

沙々『これが例の……武器ですね』

ほむら『中学生に根こそぎ盗まれた……という?』

沙々『くふふっ、皮肉屋さんですね。そんな情けない話なわけないじゃないですか』


沙々『魔女によく効くそうですね』

ほむら「…………」

沙々『魔女に使い魔にいい仕事をするとかしないとか』

ほむら『……私が盗んだ武器の用途を知っていたのね』

ほむら『それは皮肉と受け取ってもいいのかしら?』

沙々『用途も何もどうせそれ以外にないですしね。社会的身分はただのJC』

沙々『それで?これでわたしに勝ったつもりなんですかねぇ?』

ほむら『……つもり、ですって?』

沙々『くふふ……わたしが、魔法少女ターゲットに何の準備もなく攻め込むわけがないということです』

沙々『あなたはわたしがそんなただのバカと思ってました?』

ほむら『……割と』

沙々『ちくしょー!』

ほむら『いやだからそういうところがよ』

沙々「…………」


沙々『わたしをバカ呼ばわりしたことを後悔させてやるぞクソが』

ほむら『そう……でもさっき自分でも認めてなかったかしら』

沙々『まぁそれはそうなんだけど……』

沙々「くふふ、くふっ……もう、思わず笑ってしまいますよ」

ソーニャ「気絶したフリなんかしやがって……」

沙々「わたしが入ってたロッカーを調べてみてくださいよ」

ソーニャ「……ロッカー?」

沙々「ほら、早くしないと危ないですよ?」

ほむら「……あなた、何が言いたいの?」

沙々「ロッカーの中にある物がわたしの脱出経路だと言ってんだよ!」

やすな「どれどれ?」ガチャ

ソーニャ「お、おいやすな!気を付けろ!」

やすな「なぁに?これ」


ほむら「あ、あれは……!?」

沙々「ほほう、まさか一目見てわかっちゃいましたか?いや、わからなくちゃいけないんですがね」

ソーニャ「……!」

沙々「これにビビってもらわなくちゃいけない……素人は知らなくても無理ないですね?」

やすな「?」


そう。見てわかった。

形は違うが、同じようなものを私はいくつも自作した。

時に魔女の首を吹き飛ばす。……『爆弾』以外の何物でもない。


沙々「爆弾ですよ!これは!」

やすな「ば、爆弾!?」

沙々「撃たれるのは死んでも……じゃなくて、死ぬからいやですね。ほむら。わたしは目立つのは嫌です。あくまでこっそりと攫いたかった」

沙々「でもね、あんたらも、学校で爆弾がーって目立つのは嫌じゃありませんか?」

ソーニャ「何……!?」

沙々「でもわたし達は別に構わない。この学校に通ってなんかいませんから」

ソーニャ「くっ、くそ……!」

やすな「ひ、ひぃぃ!」

沙々「くふふ……できたら爆発されたくなければって脅したいとこですが……そうは言ってられません。さよなら!」


ほむら「あ!」

ソーニャ「しまっ……!」


優木沙々は、こちらにニヤニヤとした憎たらしい顔を向けたまま、

いつの間にか開いていた窓から飛び降りた。バク宙のフォーム。


ソーニャ「くそっ……みすみす逃してしまった……」

やすな「あわあわわ爆弾あわわわわ」

ほむら「お、落ち着いて折部さん!」

やすな「でででででででもでもでもでも」

ソーニャ「こんな状況でもうっとうしいな……」

ほむら「こ、ここは、避難させた方が……」

ソーニャ「そりゃまぁそうだな」


ソーニャ「やすな。お前は逃げろ」

やすな「で、でも……!」

ソーニャ「爆弾があるなんて言うな。爆発なんてさせない」

やすな「ソ、ソーニャちゃん分解できるの!?」

ソーニャ「知識はある」

やすな「無理だぁぁぁぁぁ!」

ソーニャ「何でだぁぁぁぁぁ!」


悔しげな表情から一転、冷静に状況を判断し、折部さんに煽られて怒るソーニャさん。

パタパタを両手を振ってパニックになる折部さん。

ソーニャさんが解体できるかどうかはともかくとして、

折部さんを落ち着かせる必要がある。


ほむら「お、折部さん!落ち着いて下さい!」

やすな「!」

ほむら「必ず、爆弾は何とかします!呉識さんと私もついてます!」

やすな「ほ、ほむらちゃんも……?もしかしてほむらちゃんも爆弾を……!?」

ほむら「私も……知識は、あります!」

やすな「う、うん!し、信じてるよ!」

ソーニャ「何だこの扱いの差は!」

やすな「だってソーニャちゃんだし」

ソーニャ「……!」ガツン

やすな「ォウチ!」

ほむら(非常時でも安定しているわね……)

ソーニャ「まぁこの際いい。いいか、やすな。爆弾のことは誰にも言うなよ」

やすな「あい」


折部さんはロボットのようにギクシャクした動きで空き教室を出て行った。

色々な意味でマイペースだとは思うが平常心は無理だと思った。

空き教室のドアがパタンと閉まった。


ソーニャ「……よし、それじゃ早速」

ソーニャ「ん?」

ほむら「あっ」


その直後、ガタッとドアが開いた。

そこにいたのはやはりというか、呉識さんだった。

何やら大きな袋を持っている。何だっけ……そう、唐草模様っていうアレ。


ソーニャ「あぎり……!」

あぎり「お待たせしました~」

ソーニャ「いたんなら刺客を……!」

あぎり「いいえー、それはちょっとぉ、間に合いませんでしたね」

あぎり「これを集めるのに夢中になってて」

ほむら「!」

ソーニャ「お、お前……!」

あぎり「えぇ、仕掛けられることはわかっていましたからねぇ~」

ソーニャ「お、おう……」


風呂敷を解くとロッカーにあるものと寸分違わず同じ物があった。

これで全部?……全部な気がする。何せ呉識さんだし。

しかし……爆弾が仕掛けられるということをわかっていたとは……?


ソーニャ「こいつが仕掛けられていた爆弾か……」

あぎり「あと一つがどうしても見つからなかったんですが、刺客が持ち歩いていたんですね」

ほむら「ずっと探してたんですか?もしかして朝から」

あぎり「はい~。これで数が合いました」

ソーニャ「呑気だな……で、これで全部ってことなんだな?」

あぎり「はい。でも全部を持ち運ぶのは大変。ここで早速分解しましょう」

ソーニャ「面倒くさいな……」


……あと一つ?爆弾の数までわかっていた?

仕掛けられること自体よりも、仕掛けられた場所さえもわかっていたような態度とノリに思える。

本当に謎な人だ。でもまぁ、呉識さんだし。


呉識さんはスカートの中から工具箱を取りだした。

これで分解……スカートの中から?

あ、でも別に巴さんもスカートからマスケット銃を……

って魔法少女基準で考えてどうするのよ。


ソーニャ「忍術で何とかならないのか」

あぎり「そう言われましても無理ですよ。私の忍法は魔法じゃありませんから」

ソーニャ「説得力がねぇよ」

ほむら「魔法少女ながらすごく同意です」

ソーニャ「何が魔法少女ながらだっての……しかし、どっちにしても全部解体するのは骨が折れるな」


ソーニャさんが話している間にも、呉識さんは爆弾の一つを開けていた。

中の構造……パッと見では複雑そうに思えなくもないが……。


ほむら「…………」

ほむら「この程度なら……」

ソーニャ「ん?」

ほむら「これくらいなら私も分解できます」

ソーニャ「は?」

ほむら「私も手伝います。工具を貸していただけますか?」

ソーニャ「……知識はある、みたいなことさっき言ってたが……」

ソーニャ「ダメだ。素人に触らせられない」

あぎり「はい、どうぞ」

ほむら「お借りします」

ソーニャ「おい」


あぎり「平気ですよ~私が保証します」

ソーニャ「保証とか言ってる場合じゃねぇだろ」

あぎり「でも本人もそう言ってますし、実際に作れるんですよ?」

あぎり「暇な時は忍法用の爆弾一緒に作りましたし」

ソーニャ「プラモデルじゃねぇんだぞ!」

ほむら「取った蓋はどうしますか?」

ソーニャ「さらっと作業してんじゃねぇよ!」

あぎり「ほら、ソーニャ。急がなくちゃ」

ソーニャ「お、おい!……くそっ」


内部構造。あれとそれをこうしてどうのこうので、信管を外して……色々何とかすれば問題ない。

私の機械操作の魔法と知識があれば時間の迫る解体作業ではない。

むしろ簡単すぎる。最初からただの囮や時間稼ぎの方法に過ぎないのなら質より量といったところ。

これならまだ呉識さんと雑談しながら『爆の巻物』を作っている方が楽しい。

……さらっと私、とんでもないことを考えた気がする。


――廊下


やすな(爆弾かぁ……)

やすな(急いで逃げ走ってきちゃったけど)

やすな「ど、どうしよう」

やすな「爆弾は何とかなるって言ってた……」

やすな「みんなを避難させた方がいいのかな」

やすな「でも爆弾のこと言うなって言ってたし……」

やすな「…………」

やすな「みんななら大丈夫だよね」

やすな「ソーニャちゃんは不器用だからちょっと不安だけど」

やすな「あぎりさんやほむらちゃんもいるから、大丈夫だよね」

やすな「教室で待ってよっと」


「お待ちになってください」

やすな「!?」

やすな「あ、あなたは……!?」

やすな「そんな!だ、だってさっき……」

「……飛び降りてすぐに同じ階に戻っちゃきちゃいけませんかね」

やすな「刺客……!」

「そういえばあなた個人には名乗ってませんでしたね……わたしの名前は優木沙々」

やすな「沙々にゃん!」

沙々「そう、わたしは……って誰が沙々にゃんだ!」

沙々「まあ、いいけど……お話しませんか?」

沙々「あなたとお話したいからこそ、わたしは逃げたフリをしたんですよ……安物の爆弾をたくさんバラ撒く程ね」


やすな(ど、どうしよう!刺客だ!)

やすな(私の手裏剣捌きに恐れ戦いて私を狙いに来たんだ!くぅ!自分の才能が憎い!)

沙々(何か知らないけど不意にイラッとした。何でだろう)

やすな(逃げてソーニャちゃんに教えなくちゃ!)

やすな「……あッ!あんな所にアンニュイな物が!」ビシッ

沙々「!?」バッ

やすな「うおおおおおお!」ダッ

沙々「あっ!てめぇ!」

やすな「逃げ切ってやるー!いやっふえぇぇ――――い!」

沙々「そ、そうはいくかッ!」

沙々「洗脳☆マギカビーム!」ズビビ


やすな「ギャー!?」バリバリ

沙々「よし!」

やすな「あ、あわわ……あぅ……」

やすな「…………」

沙々「……折部やすな」

沙々「あなた、わたしの仲間。オーケー?」

やすな「……あい」

沙々「イエス」

沙々「トモダチ。トモダチ」ワサワサ

やすな「トモダチ。トモダチ」ワサワサ

沙々「オーケーオーケー」


沙々「よし、洗脳成功」

沙々「くふふ……ソーニャの友達、いただいちゃいました」

沙々「わたしの洗脳魔法は『自分より優れたヤツ』しか操れない」

沙々「魔法少女でもないこのクソウゼーのを洗脳できちまう事実は癪なもんだけど……致し方なし」

沙々「ついて来て下さい。学校はサボタージュしましょう」

やすな「うん」

沙々「これからあなたはわたしの下僕です」

やすな「あれ?友達じゃないの?」

沙々「え?」

沙々「え、えぇ、えぇ!友達ですよ!」

やすな「今下僕って……」

沙々「それは、ほら。親しき仲にも礼儀っつーか、便宜上っつぅか」


沙々「シュレディンガーの猫というか、ラプラスの魔というか……」

やすな「?」

沙々「パブロフの犬とか、コペルニクス的転回といいますか、そういう関係がいいかと」

やすな「……?」

やすな「まぁいっか」

沙々「よろしい」

沙々(バカで助かった)

沙々「……それじゃ、わたしの『お願い』はちゃーんと聞いてもらいますからね?下僕さん」

やすな「わんわん!」

沙々「何で!?」

やすな「下僕といったら犬かと思って」

沙々「…………」


沙々(わたしは、織莉子とキリカに敗北して自分を分析した)

沙々(わたしは自信過剰なところがあった)

沙々(少しは控えめに……)

沙々(この心構えで、魔法少女でないうざいJKでしかないこいつ……)

沙々(お嬢様学校出身でもなく、わたしを一度倒したとかもない)

沙々(そんなヤツでも、わたしに勝る箇所がある箇所を見ることができた)

沙々(少し前のわたしなら、こいつを見下してて洗脳なんてできない)

沙々(……殺し屋と忍者と友達になれる、その"コミュ力"だ)

沙々(わたしが持っていない、わたしが劣る能力……憧れてしまう)

沙々(憧れは劣等感……彼女は『上』だ……ウザいけど賞賛に値する。ウザいけど)

沙々(……ウザいけど!)

今回はここまで。沙々てこんな人だったっけ
もう少しで終わり。さてさて、年末は忙しいもんだけど、年内に終われるかな?




ほむらちゃんがいなくなって、どれくらい経っちゃったんだろう。

学校が休みだと、曜日の感覚がちょっと狂って正確な日数があやふやです。

加えて、大好きな友達が攫われているとあっては、気が気でないものです。

無事に帰ってくるっていう信じる心というか確信というか、そういうのがあるので少しは落ち着いています。

ただ……わたしのほむらちゃん分はとっくに枯渇しているのはこの世の真実です。


なぎさ「……マミさんのくるくるした髪」

マミ「うん?」

なぎさ「チーズみたいなのです」

マミ「……!?」

マミ「な、何だか急に寒気が……」

なぎさ「くわえてみていいです?」

マミ「だ、ダメ!ダメよ!」

なぎさ「さきっちょだけ!さきっちょだけでいいから!」

さやか「お行儀悪いよなぎっち」

なぎさ「なぎっち?」


ほむらちゃんがいない期間は、なぎさちゃんがわたし達とお友達になった日から今までとそんなに変わらない。

人見知りだったなぎさちゃんに懐かれたのはいいんだけど、その分期間の長さを実感してしまいます。

百江なぎさちゃん。

キリカさんがどこからともなくつれて来た親戚ではない子。

どういう事情があるのかわからないけど、はぐらかして教えてくれません。

で、なぎさちゃんは現在、織莉子さんの家で暮らしています。

家族はどうしたの?とかは誰も聞きません。ゆまちゃんの例があるからです。

最初は恥ずかしがってたなぎさちゃんも、今ではマミさんの背中にへばりついてカールした髪をスンスンと嗅ぐくらいになりました。

なぎさちゃんは甘えん坊さんです。


なぎさ「いいにおいなのです」

マミ「あ、ありがとう」

なぎさ「でもチーズのにおいはしないのです」

マミ「うん。発酵食品のにおいがしたら困るわ」

なぎさ「黄色いのに……」

マミ「なぎさちゃんの中では黄色=チーズなのかしら?」

なぎさ「うん!」

マミ「いい返事ね」


マミ「ほら、そろそろ離れて?」

なぎさ「やなのです」

マミ「チーズあげるから」

なぎさ「はいなのです」

さやか「欲望に忠実だなぁ」

まどか「あはは……」


なぎさちゃんはチーズに目がなくて、昨日のお茶会で出てきたちチーズケーキへの喜びっぷりったらすごかったです。

「チーズフォンデュなんて見せたら卒倒するんじゃない?」ってさやかちゃんが言ってました。それくらい大好きです。

チーズ好きに関してはこんなエピソードも……

一緒に暮らしてる織莉子さん曰く、なぎさちゃんは何にでもパルメザンチーズをかけたがるそうです。

スパゲティはもちろん。トースト、カレーライス、サラダ……チーズと名がつくもの以外は大抵かけたがるそうです。

「新たなる境地への挑戦なのです」とか言ってカレイの煮付けにかけようとして流石に怒られたそうです。

そんななぎさちゃんをキリカさんは「ほとんどビョーキ」って言ってました。チョコケーキに紅茶に入れる用の砂糖をパラパラさせながら。

……そっちはチーズバーガーに裂けちゃうチーズを挟んでオーブンする所業です。

しっかりしてる織莉子さんが見ているから大丈夫とは思いますが……二人とも、将来偏食になっちゃったりしないか少し心配です。はい。


なぎさ「退屈なのです」

なぎさ「ゆ~まちゃ~んとあ~そびた~いのです~」

さやか「あたしじゃ不服かい?」

なぎさ「さやかも楽しいですけども」

マミ「ゆまちゃんはね、佐倉さんと風見野へ魔女退治に行ってるのよ」

なぎさ「いつ帰ってくるです?」

マミ「魔女を倒したら、だから……なんとも言えないわ」

なぎさ「ぶー」

まどか「トランプやろうトランプ」

なぎさ「なぎさジジ抜き得意なのです!」

さやか「ほほう。このさやかちゃんに勝てるかな?」

なぎさ「キリカはジジ抜き弱いのです」


なぎさちゃんはゆまちゃんがお気に入りのようです。

やっぱり同い年の方がいいのかな?

確かにゆまちゃんも、周りはみんな年上だからか、喜んでましたし。

二人を比べれば……ゆまちゃんの方がしっかりしてるかな?

……今日も、マミさんの家に集まりました。

このところ、毎日マミさんのお家に集まっているような気がします。

本日はマミさんとさやかちゃんとなぎさちゃん、わたしの四人です。

杏子ちゃんとゆまちゃんは今、風見野に行っています。

織莉子さんとキリカさんもお出かけだそうです。

何でも、予知で見滝原と風見野のいろんなとこに魔女が現れるらしいから……とのことです

予知で魔女が現れる場所は大雑把にはわかるけど、予知でほむらちゃんの居場所は全くわからない。

無理もないことかもだけど、なんだかもどかしい。



わたしの中では結構長いこと、ほむらちゃんとの繋がりが途絶えています。

とは言え、メールとか電話とかする気にはなれない。やっぱり怖いって思いがあるから。

でも、織莉子さんとキリカさんのお言葉もあって、

ほむらちゃんに危ない目を遭わせないみたいなことを言ってたあぎりさんを、一度しか会ったことないけど……信用しています。

だからほむらちゃんの安否に関して言えば、不安は割と弱い。


さやか「まどか。マミさん。トランプよトランプ」

まどか「あ、うん。いいよ」

マミ「ポーカーフェイスには自信あるわよ」

さやか「ババがわかんないのに必要ですかねそれ」

マミ「そうね。いらないかも」

さやか「切っちゃいますよー」

なぎさ「あっ、あっ、さやか、さやか」

さやか「んー?」


なぎさ「なぎさ混ぜ混ぜしたいのです」

なぎさ「バララーってのを練習したいのです」

さやか「ばらら?」

マミ「リフルシャッフルのことかしら」

まどか「りふる?」

マミ「だから……貸して」

マミ「こうするのよ」


さやかちゃんからトランプの束を受け取ると、マミさんはそれを二分にして、

バララーってしました。テレビとかでよく見るあの混ぜ方。

リフルシャッフルっていうんですね。また一つ、わたし賢くなった。

流石マミさん手先が器用です。わたしの場合は何度やってもバララーじゃなくてバラバラーってなっちゃいます。


なぎさ「それなのです!」

さやか「イッカスゥー!」

なぎさ「やらせてやらせて!」

マミ「はい、どうぞ」

なぎさ「えっと、半分にして、こうやって」

なぎさ「あー」

まどか「あぁあぁ、バラバラに」

なぎさ「まとめてー」

なぎさ「半分にしてーこうやってー」

なぎさ「あー」

マミ「難しいわよね」

なぎさ「むむむ……」


さやか「うずうず」

まどか「?」

さやか「頑張る姿。そして頬を膨らましてカードをまとめるその姿」

マミ「ふふ、微笑ましいわね」

さやか「うずうず」

まどか「効果音が口に出てるよさやかちゃん」

さやか「さやかちゃんホールド!」

なぎさ「ひゃっ」

さやか「かわいいねぇー!」

さやか「なでなでベイベー!」

なぎさ「あぁん、くすぐったいのです~」


いきなりなぎさちゃんに抱きついてくすぐるさやかちゃん。

なぎさちゃんはきゃあきゃあ言って笑ってる。

ゆまちゃんでほとんど同じ流れを見たよ。いや、わたし自身でも体験したよ。

見る分には、微笑ましいなぁ。

さやかちゃんったら、頭を力強く撫でちゃって……なぎさちゃんの髪が乱れちゃうよ。

なぎさちゃんといいゆまちゃんといい杏子ちゃんといいわたしといい……どうしてさやかちゃんは人の頭を撫でたがるのだろう。

ほむらちゃんにもやろうとして普通に振り払われてた。さやかちゃんでも流石に年上にはしません。

なでなで……か。わたしも好きかって聞かれたら正直嫌いじゃないけど、

ほむらちゃんに撫でてもらえたらそれはとっても……って、何を考えてるのわたしは……。

うーん……。

……恥ずかしいけど、ほむらちゃんが戻ってきたら頼んでみようかな。

全然会えなくて寂しかったからっていう言い訳に撫でて欲しいなって。想像するだけでも恥ずかしいですね。



ピンポーン


マミ「あら?」

なぎさ「誰か来たのです。ゆまちゃん!?」

さやか「それにしては早くない?さっき出掛けたんでしょ?」

なぎさ「忘れ物なのです」

まどか「普通に郵便じゃないでしょうか」

マミ「ごめんなさい、席外すわね」


ピンポンって音がすると、一瞬ほむらちゃんが!?なんて思っちゃう。

ある種の条件反射みたいなものかな?

ほんの一瞬だけ期待して「そんなはずが……」って即思う。

悲しい寂しい条件反射。

多分条件反射ってそういう意味じゃないと思うけど……。



マミ「はい」ガチャ

「こんにちは!」

マミ「え?あ、はぁ……こんにちは」

「いやー、会ってみたかったんだよねー!」

「初めまして!えーっと……」

「…………ハッ!私あなた達の名前知らない!」

マミ「あのー……」

「ほむらちゃんのお友達だよね?」

マミ「……ッ!」

マミ「暁美さんを知っている……んですか!」

「うん!」

「私、折部やすな!いっそ高校生!」バーン


……!?

今、玄関の方で「ほむらちゃん」「暁美さん」というキーワードが聞こえてきました。

さやかちゃんも聞こえてたようで、わたしと目を合わせました。

すぐにわたしは立ち上がって、玄関の方へ小走りに近い早歩き。

視界の隅でさやかちゃんも立ち上がったのが見えて、なぎさちゃんの「あっ、待って」という声が聞こえます。


まどか「マミさん!」

マミ「か、鹿目さん」

やすな「あれ?この人達は?」

さやか「えっと……い、今あなた、ほむらって言いました!?」

やすな「うん」


そこに立っていたのは、明るい笑顔をした女性。

何故かブレザーを着ている……中学生か高校生なのかな。

……何やらあぎりさんと近しいものを感じました。何でだろう。


やすな「私折部やすな!疑いもなく高校生!」

マミ「……だ、そうよ」


元気な声で自己紹介。何だろう、さやかちゃんとも近しい何かを感じる。

なぎさちゃんはわたしの後ろに隠れてやすなさんの方を見ています。

人見知りだものね、初対面だものね。わたしもちょっぴり緊張してるよ。


まどか「あ、あの……ほむらちゃんとのご関係は……?」

やすな「友達です」キリッ

マミ「そ、それはそれは……」

マミ「あ、申し遅れました。私、巴マミです」

さやか「さやかです」

まどか「わ、わたしはまどかです」

なぎさ「な、なぎさなのです」

やすな「みんなほむらちゃんの友達?」

さやか「あ、なぎさちゃんはほむら知らないです」

やすな「ふーん……」


やすな「いやはやいやはや」

やすな「ほむらちゃんが友達に会いたがってたからさ、どんな人達かなってさ」


会いたがってた……。やっぱりほむらちゃん、向こうで寂しい思いを……。

やすなさんって人は……「向こう」でほむらちゃんと知り合ったのかな。

じゃあこの人はあぎりさんの仲間……?忍者?


やすな「この中でほむらちゃんと一番仲良しなのは誰かな?」

まどか「へ?」

さやか「えーっと……」

さやか「それは、まぁ……一番はまどかですね。はい」

まどか「そ、そういう風に言われると恥ずかしい……」


やすな「なるほど!」

やすな「まどかちゃん!」

まどか「は、はいっ」ビクッ

やすな「ほむらちゃん、まどかちゃんのこと大好きだって言ってたよ」

まどか「へっ……!?」

やすな「優しくて可愛らしくってー。えっと、あとなんか言ってたっけ」

マミ「あらあら、ふふ、良かったわね」

さやか「フゥー!」

まどか「あ、あわわ……はぅ」

なぎさ「顔真っ赤なのですー」



まどか「そ、そ、それよりもっ」

まどか「ほむらちゃんの知り合いなんですよねっ」

やすな「そだよー」

まどか「ほむらちゃんは……どうですか?」

やすな「どうって?」


元気ですか、無事ですか、寂しがってませんか、悲しんでませんか、

わたし達のこともっと何か言ってませんか、どこにいますか、

何でつれてかれちゃったんですか、いつ帰って来ますか、

聞きたいことがありすぎて、ぼんやりとした質問になってしまいました。


やすな「うん。まーそれよりも、ほむらちゃんのことなんだけど」

さやか「それよりって最初からほむらの話なんスけど」

やすな「とりあえず、私がここに来たのはね……」

やすな「実は何と!」


やすな「ほむらちゃんも見滝原に来てるのです!」


まどか「……!」

マミ「ええっ!?」

さやか「マジですか!?」

なぎさ「やったのです!やっとほむほむにご挨拶できる!?」

まどか「……ど、どこ」

やすな「へ?」

まどか「どこ!どこにいるんですか!?ほむらちゃん!」ガバッ

やすな「わおっ」

さやか「お、落ち着けまどか!」ガシッ

まどか「あっ……す、すみません、つい……」

やすな「んもう、落ち着いて落ち着いて!」

やすな「こんなにあわあわしちゃって、せっかちさんだね」



やすな「ついてきて。案内するから!」

まどか「はい!」

マミ「あ、ま、待って。出掛ける仕度が……」

さやか「そうですね。ケータイ置きっぱにするわけにもいかんね」

なぎさ「戸締まりなのです」

やすな「ガス栓閉めた?」


ほむらちゃんが……見滝原に来ている。

ほむらちゃんが……いる。

ほむらちゃんに……会える!

やっと、やっと会える……!


ほむらちゃん!


路地。


いつかの夕方。ここでさやかちゃんと杏子ちゃんはケンカをしていました。

きのことたけのこどっちが美味しいかという口喧嘩。

それはさておき

わたし達はやすなさんの後を歩きながら小声でお話中。

「ほむらちゃんは今あまり人目につく場所にはいられない」

と、やすなさんはさっきそう言いました。

どういう訳かもちろん聞いたけど、はぐらかされちゃいました。


さやか「でもさ、結局なんでほむら攫われちゃったんだろ」

まどか「あぎりさん、トラブルに巻き込まれたとか何とか言ってた気がする」

マミ「巻き込まれた……ね。どういうことかしら」

まどか「向こうで魔女が何かして、ほむらちゃんの力がどうしても必要だったとか」

さやか「でもほむら、戦う力が……」

マミ「……いえ、ありえない話でもないわ」



なぎさ「何で?」

マミ「暁美さんがワルプルギスの夜を倒した魔法少女の一人だって知っていれば、その経歴ある暁美さんの協力を求める理由もわかる」

マミ「時間を止める力がなくなったかどうかなんて第三者からしたらわからないもの」

さやか「なるほど……まだ帰ってこないのは『それ』が立て込んでいるから……?」

まどか「そ、それならどうして秘密にするんでしょうか」

なぎさ「時間止める能力がなくて大変なら、なおさらなぎさ達の助けが必要なのです」

なぎさ「それに、そういうのは多い方がいいに決まってるのです」

マミ「それは……」

マミ「……『そういう事情』だから、といったところかしら」

なぎさ「そういうって、どういう?」

マミ「わからないわ。あくまで仮説だもの」


その仮説に則ると、あぎりさんはほむらちゃんに協力してほしいことがあったってことになります。

秘密にしなくちゃいけなくて、一日や二日で解決する問題ではない内容。

だけど、それだとどうにもいまいち納得できないこともあります。


なぎさ「ほむほむ、魔女の口づけとか?」

さやか「あー、そっか。魔女か……」

さやか「魔女の口づけ受けて帰るに帰れないって」

なぎさ「魔女の口づけ喰らったから帰すなんてできないもんね」


なるほど。そういう考え方もありですね。

……でも、まぁ考えることもないんじゃないでしょうか。

やすなさんはほむらちゃんの居場所につれてってくれている。だから……

……本人から直接聞いた方がいい。


やすな「魔女?」

まどか「へっ」



やすな「魔女ってなぁに?」

なぎさ「えっと……」


あっ、き、聞こえちゃってたみたい。

魔法少女じゃない人にいきなり魔女とか言っても、そりゃハテナってなるよね。


さやか「い、いえいえ!聞き違いです!」

やすな「そんなことないですー。ちゃんと聞いたよっ」

マミ「…………」

マミ「な、なぎさちゃんが見てるアニメの話です」

やすな「アニメ?」

まどか「……!」


察しました。

マミさんの言わんとすること。


まどか「じ、実はさやかちゃんもそのアニメのファンでして」

さやか「へ?」

なぎさ「面白いアニメ大好きなのです」

まどか「子ども向けのだから恥ずかしいので誤魔化して……ね?」

マミ「えぇえぇ」

まどか「そ、それに魔女が出てくるんです。はい」

さやか「……あっ」

さやか「そ、そうなんスよぉー!アニメ大好きー!」

さやか「魔女っ子サイコー!フゥー!」

やすな「へぇー」

やすな「さやかちゃん子っどもー」

さやか「あ、あはは、女の子はいつでも魔法少女に憧れるんスぅー」


さやか「あはは……」

さやか「はは……は……」

さやか「……うん」


さやかちゃんがすごい微妙な顔をしてます。

恥ずかしいやら恨めしいやら。

言葉に出来ない。こんな顔初めて。

だからそんな顔で見ないでほしいなと思ってしまうのでした。


やすな「魔女……か」

やすな「その魔女のことなんだけどさ、聞きたいことがあるの」

マミ「聞きたいこと?」

なぎさ「アニメ?」

やすな「あのさ……『これ』何だか知ってる?」スッ




やすなさんはポケットから何かを取り出しました。

よく見たらポケットが膨らんでいる。結構何か入っているみたいです。

やすなさんの手の平にあるもの……

それを見て、わたしは……なんて言うか、その……

横隔膜じゃなくて全身の細胞一つ一つが一斉にしゃっくりしたかのような、そんな気持ちになりました。

黒くて丸くて尖ってる。


マミ「グ……『グリーフシード』ッ!?」

やすな「私と沙々にゃんで、これを色んなところに置いてきたんだ~」

まどか「!?」

やすな「沙々ちゃんは『魔女パワーで戦力の分散』だって言ってたの!まあ私よくわかんないけどね!」ドヤァ…

マミ「な、なんですって……!?」

なぎさ「ささ?」

さやか「何でドヤ顔なんスかねぇ……」

さやか「……あれ?ササ?どっかで聞いたような……」


……さ、沙々!?

それって……それって、優木沙々って人のこと!?

キリカさんが、前に話してくれた、行方不明の魔法少女!

ほむらちゃんが誘拐された日の夜に現れた……疑惑の!

確か……えっと、その能力は……!


マミ「まさか……あなた、優木沙々の術中に……!」

やすな「?」

さやか「優木沙々……ササ!そうだ!それだ!」


……洗脳魔法!

そうなると……間違いありません。

やすなさんは操られている!

そして、その洗脳魔法は確か……魔女さえも操れる!

魔女を操れるということは……使い魔も……!

そして、やすなさんの手にあるのは、真っ黒なグリーフシード……



やすな「キャラット!」


マミ「な、何……!?」

やすな「マックス!フォワード!ミラク!カリノ!」クルクル

なぎさ「何してるのです?」

さやか「よ、よくわかんないけど……なんかしてくる!」


やすなさんは軽やかっぽいステップをしながら、何か叫んでます。

まるでゲームやアニメにある魔法とか呪文の詠唱のようなことを……

……魔法。


やすな「マギカッ!」

ズアッ!

まどか「きゃあ!」

さやか「こ、これは……!?」


ターンをビシッと決めて、ポケットから出した真っ黒な球体を天に掲げると、

辺りが……路地が変わってしまいました。

何とも形容しがたいオブジェクトとカラーリング。

終始ドヤ顔の折部さんの後ろに、何やら動く壁。

壁……じゃない。

――魔女。

ここは魔女の結界!


マミ「ま、魔女……!」

なぎさ「どうしてグリーフシードなんて持ってるのです!?」

やすな「召喚魔法」キリッ

さやか「そ、そうだ……思い出した。優木沙々……前聞いた……」

さやか「洗脳魔法で……魔女も……操れるって!」


どんよりしている空間。

何か赤黒くてもさもさしてずっしりしてる巨大な魔女。

魔女の、口っぽいところからわさわさと出てくる物体……。

何やらつやつやして丸っこくてぐにゃぐにゃしてるようでポンポコポンって感じの、大型犬くらいのサイズで赤と黒のインクを混ぜ混ぜしたような色した使い魔。

大きな魔女の前に仁王立ちでドヤ顔してるやすなさん。

こんもりしたポケットからグリーフシードを取り出したので、

きっとあと何個かそのポケットに入ってるんだろうな。


マミ「なぎさちゃん!」

なぎさ「はいなのです!」

なぎさ「……二人には初めてだね」

まどか「へ?」

なぎさ「なぎさの魔法少女おべべをお披露目なのです!」

さやか「お、言われてみれば」


マミさんとなぎさちゃん、変身です。

言われてみれば、そう言えば、変身シーンを生で見たの久しぶりな気がする。

なぎさちゃんが魔法少女であることは知ってたけど、魔法少女の姿を見るのは初めて。

ネコミミっぽいフード……ゆまちゃんと被ってます。フードだけに。

そして手にはラッパのようなものを……音波攻撃とかするのかな?


さやか「マミさん!あたし達は……」

マミ「あなた達は……そうね。そこの物陰に隠れてて」

マミ「そして……これ」シュルッ

さやか「こ、これは……」

マミ「リボンで作ったわ。名を冠するならトッカ・コントラッタッコ・ランデッロ」

なぎさ「何語なのです?」

マミ「……魔法で作ったバットよ。いざという時はこれで鹿目さんを護ってあげて」

マミ「いつか『前』と同じようにね」

さやか「……はい!」


やすな「すごい!何か変身した!」

やすな「くふふ、負けてられないね」

やすな「やすな召喚獣アタック!」

やすな「行って!金つば(名前)!ういろう(名前)!」

使い魔「ガチ」

使い魔「スギテ」


やすなさんの指示で使い魔がマミさんとなぎさちゃんの方へもうダッシュ。

操られている魔女から出た使い魔を、操られているやすなさんが指示を出す。


なぎさ「来るのです!」

マミ「なぎさちゃん!動きを止めて!」

なぎさ「了解なのです!」


マミさんは何度かなぎさちゃんと戦っています。

動きを止めてという指示。

と、いうことはなぎさちゃんはそういうことができる能力


なぎさ「ぷわー」プワー

さやか「あ、何か出た」

まどか「あれは……」


なぎさちゃんの魔法武器から出てきた、キラキラした透明の球体……

織莉子さんの水晶玉と違う透明の球。虹色に光っている、柔らかくて、そして濡れている。

シャボン玉。おっきなシャボン玉。

屋根までじゃなくてそのままふわふわと使い魔の方向へ飛んでいきます。


さやか「奇麗だなー」

まどか「あれがなぎさちゃんの武器……!」

さやか「でもさ、シャボン玉でどうやって戦うっていうのよ」


確かに、ちょっと頼りない。

シャボン玉はどちらかというと戦いとは正反対の位置に存在するイメージ。

平和と儚さ。

だけど、マミさんがなぎさちゃんに「それ」を出すことを指示したということは、

きっと何か、不思議な力のあるシャボン玉なんだなっていうのがわかります。


使い魔は勢いそのままシャボン玉に突進しました。

当然シャボン玉はパチンと……


まどか「あ!」

さやか「あれは……!?」


……割れない?

むしろ使い魔がシャボン玉の中に入っちゃった!

使い魔がシャボン玉の内壁をベチベチ攻撃します。

でも割れない。シャボン玉なのに割れない!


なぎさ「ゲットだぜなのです!」

マミ「ティーロッ!」



そして逃げ場のない使い魔をマミさんが狙撃!

当たらないはずがありません。

シャボン玉の中の使い魔が撃ち抜かれて、シャボン玉が何か爆発しました。ボーン。

どこかの漫画で爆発するシャボン玉を見ましたが、それはさておき一匹撃破です。

もう一匹が来ます!


まどか「あ、見て!さやかちゃん!」

さやか「もう片方の使い魔の動きが止まってるよ!」

さやか「そして使い魔の足下が光ってる……あれはちっちゃいシャボン玉!」

さやか「そうか!あの爆発性だけでなく弾力性のあるシャボン玉が地面にくっついてて、それに触れた使い魔がそれを踏んだんだ!」

さやか「さっきの使い魔がシャボン玉に閉じこめられたように、割れないシャボン玉が使い魔の足にくっついて、動きを止めた!」

さやか「そしてマミさんの狙撃二発目ー!当然使い魔の急所を直撃ー!今の一瞬で二匹の使い魔を葬ったー!」

さやか「一発ずつで隙の大きいマミさんのマスケット銃に対して相手の身動きを封じて爆発で追い打ちかましてくれるシャボン玉!いいコンビだ!まさにパスタとチーズのようなナイスな組み合わせだぁー!」

さやか「はぁ……はぁ……」

まどか「お、お疲れさま」

さやか「あー、あっつい」


マミ「なぎさちゃん!」

なぎさ「はいなのです!」

なぎさ「マミさん命名の必殺技を喰らうのです!」

なぎさ「何とか・何とか・ディ・サポーネなのですー!」ポポポ

マミ「覚えてない!覚えてない!」


やすな「すごいなーみんな。魔法みたいなことしてるよー」

やすな「まるで魔法少女だね!」

やすな「どうしよう。このままじゃ負けちゃう!」

やすな「もっと!もっと出して!」

魔女「…………」

やすな「沙々ちゃんに持たされた変な黒いのあげるから」ペイペイッ

魔女「…………」

やすな「ぐりぃふ何とかって言ってた気がするよ!食べて食べて」


――数十分後


マミ「明らかに……使い魔を倒して……優勢」

マミ「最初は……調子よく倒していたのに……」

なぎさ「はぁ……はぁ……」

なぎさ「つ、疲れたのです……」

マミ「使い魔が多すぎる……!キリがない!」

マミ「折部さんのとこに近寄れないし……この距離で魔女を狙撃しても通じないし……」

マミ「心なしか使い魔も耐久力が普通より高い気がするし……」

マミ「い、一体どれくらい戦っているの……」

マミ「このままだと……くっ」

QB「まずいね」

なぎさ「あ、いたの?キュゥべえ」

QB「今さっき来たところだよ」

QB「随分と時間をかけているなと思ったけど……納得いったよ」

マミ「……どういうこと?」


QB「優木沙々の能力で魔女は操られて、それに準じて使い魔も思い通りに動かされている」

QB「だから一斉に絶え間なく、使い魔同士である程度連携して襲いかかることができる」

QB「さらに、折部やすな……彼女は穢れたグリーフシードを魔女に与えている」

なぎさ「与えるとどうなるのです?」

QB「魔女にグリーフシードを与えるケースはあまりないから何とも言えないけれども」

QB「この魔女の場合……グリーフシードの穢れを、使い魔を強く多く産むエネルギーに置換している」

マミ「グリーフシードを食べている……というの」

QB「体力は大丈夫かい?」

マミ「えぇ、私は大丈夫だけど……」

なぎさ「なぎさしんどいのです」

QB「このままだと消耗戦だね」

マミ「急にだったからグリーフシードあまり持ってきてないのに……」

マミ「ここは、一旦退いた方がいいかしら」

QB「それが安全策になるね」


マミ「なぎさちゃん!悔しいけど、一時撤退するわ」

なぎさ「ええー!」

マミ「このままだとキリがないわ。私が退路を確保するから、美樹さん達をつれてきて!」

なぎさ「わかりました!」タター


やすな「ふふふ……二手に離れたね。今がチャンス!」

やすな「よーし!捕まえて!すあま(名前)!」

やすな「この子達はできたら生け捕り!時給900円!」


使い魔「ギリギリ」バッ

なぎさ「ま、待ち伏せッ!?最初からその陰に隠れて……!?」

なぎさ「ひっ!ひゃああ!」バッ


マミ「――ッ!?」

マミ「なぎさちゃん!」


使い魔「トモスレバ!」


なぎさ「うぅ……」

なぎさ「……あ、あれ?」

なぎさ「襲ってこないのです」

なぎさ「?」

ドサッ

マミ「あ、あれは……!?」

マミ「使い魔が……倒れた?」

マミ「体に……何か刺さって……」

マミ「……ッ!?」

マミ「き、消えた……」

マミ「……『紫』の光!」


マミ(使い魔に刺さった……黒い……塊)

マミ(それが何なのかはよくわからない内に消えてしまった……)

マミ(でも……この『紫の光』は……使い魔に刺さって、淡紫の光を発するそれの持ち主は……)

マミ(まさか……)

マミ「まさかッ!」


「……間に合ったようね」

なぎさ「あ、危なかったのです……」


マミ「ほ、本当……だった」

マミ「嘘だって思ってた……」

マミ「あ……あ……」


マミ「暁美さんッ!?」


懐かしく思える声が私の名前を呼ぶ。

上手く手裏剣が刺さってくれて良かった。

魔力でできた手裏剣ということもあって、決して悪くない威力。

『実戦』で使うのは今が初めてだ。

……そして間に合った。

私の手裏剣は、使い魔から人を守ることができた。

この……

この……えっと……

幼女。

魔法少女だ。

一応聞いておこう。


ほむら「……怪我はないかしら?」

なぎさ「…………」

ほむら「…………」


なぎさ「……誰?」

ほむら「……私も聞きたい」

なぎさ「?」

なぎさ「キオクソーシツなのです?」

ほむら「いえそういう意味じゃなくて……」

ほむら「えーっと……」


……そして、この幼女。

美国織莉子の髪と思わせる銀髪。

丸い目でじっとこっちを見る……魔法少女。

ネコミミのような突起のついたフードが真っ先に目に付く。

ネコミミっぽいカチューシャをつけたゆまちゃんといいコンビになりそうね。

それはそうと、何者なのか。

魔法少女とは言え、見ず知らずの子どもが結界で巴さんと一緒というのには、

なんらかの事情があるに違いない。どうしたものか。


マミ「暁美さん!戻ってきてたのね!」

ほむら「えぇ……心配かけてすみません。巴さん」


こちらに駆け寄ってきた人物の、その優しい眼差しがとても懐かしい。

隣にいる子はきょとんとしている。


マミ「……えぇ、えぇ、とっても……とても心配したわ。でも必ず帰ってくるってわかっていた」

ほむら「もちろんです」

なぎさ「?」

ほむら「積もる話はありますが……この子、誰ですか?」

マミ「そ、そうだったわ!」

マミ「怪我はない!?なぎさちゃん!」

なぎさ「は、はい……助かったのです」

マミ「ごめんなさい……焦って判断ミスをしてしまったわ……」

なぎさ「大丈夫なのです!なぎさこそビックリしちゃって何もできなくて……情けないのです」


ほむら「なぎさ……」

マミ「あ、そうね。暁美さんは初めてね」

なぎさ「アケミサン?」

ほむら「え?あぁ、私の名前は暁美ほむら」

なぎさ「あなたが!話には聞いてたのです!」

ほむら「そう」

なぎさ「まどかがいつも心配してたのです!ほむほむに会いたがってたのです!」

ほむら「まどか……!」

ほむら「って誰がほむほむ!?」

なぎさ「さやかがそう呼ぶと喜ぶって」

ほむら「そんなことないわよ……」


……さ、さやかなら言いかねない。

人がいないことをいいことに……!後で覚えてなさいよ。

あることないこと吹き込んでないでしょうね……鬼黒髪とか。

というか誰もその呼び方を止めなかったの?

ねぇ巴さん。目を逸らさないで。絶対笑ってるでしょあなた。


ほむら「と、取りあえず、その呼び方はよしてね」

なぎさ「嫌なのです?」

ほむら「ええ、普通に呼んで」

なぎさ「ほむら」

ほむら「うん」

なぎさ「…………」

ほむら「…………」

なぎさ「わたしはほむほむ派です」

ほむら「やめてって」

マミ「ふふふっ……」

ほむら「と、巴さん……」


マミ「どうしましょう、あなたと再会できてとっても嬉しくて、緊張感が」

マミ「もっとあなた達のやり取りを見ていたいとこだけど……」

マミ「話は後にしましょう。終わってからね」

ほむら「……えぇ、そうですね」

ほむら「取りあえず、グリーフシードです」

マミ「まあ、助かるわ。……ごめんなさい」

なぎさ「ありがとうほむほむ!」

ほむら「その呼び方やめて」


やすな「じぇじぇじぇー!ど、どうしてほむらちゃんがここに!?」

やすな「学校サボったの!?いけない子!」

やすな「じぇっと……じゃなかった。えっと、どうしよう」

やすな「もしほむらちゃんが来たらどうするのか何て聞いてないよ」

やすな「私は何をすればいいんだろう?」

やすな「何したらいいと思う?かるかん(名前)」

使い魔「シランヨ」

やすな「喋った!?」



――

――――


ほむら「そ、そんな……!」

ほむら「折部さんが優木沙々に攫われるなんて……!」

ソーニャ「……迂闊だった」

ソーニャ「まさかアイツを狙うとは思わなかった」

ソーニャ「アイツがムカツクからって狙われることはないこともなかった……」

ソーニャ「だけど……くそっ。あの爆弾は逃げるためじゃなくて……時間を稼ぐためだった」

あぎり「どうしましょ~」

ソーニャ「本当に困ってんのかお前は」

ほむら「誘拐したとなると……近い内に何かしらコンタクトが……」

ソーニャ「そうだな。ほむらを引き替えに……と言ったところか」

ほむら「…………」


ソーニャ「……あぁ、そうだ。だから私はこれから見滝原に行く」

ほむら「!」

ソーニャ「やすなと刺客は見滝原にいる」

あぎり「そうなんですかー?」

ソーニャ「私の机の中に刺客からのメッセージが入っていた」

ほむら「メッセージ……」

あぎり「見せて欲しいです」

ソーニャ「ああ」



「 折部やすなは預かった。ざまーみろー

  返してほしかったら見滝原にほむらをつれて来なさい

  取引の内容と場所はあなたが見滝原に来たら教えましょう   

  言う通りにしなきゃ、折部やすなの無事は保証しません

                       あなたの刺客より  」

あぎり「……なるほど」

ほむら「折部さん……」

ほむら「…………」

ほむら「見滝原……」


ほむら「……そ、ソーニャさん」

ソーニャ「ダメだ」

ほむら「まだ何も言ってない……」

ソーニャ「どうせ見滝原に一緒に行きたいとでも言うつもりだろ」

ほむら「は、はい」

ソーニャ「だからダメだと言ったんだ」

ほむら「そ、そんな……」

ほむら「刺客が来いと言ってるんですよ」

ほむら「その場所を単身で行くなんて、そんなの、みすみす罠に突っ込むようなもの……!」

ほむら「私なら、見滝原の地理もある程度わかりますし……」

ソーニャ「住んでるのにある程度なのかよ」


ほむら「それに向こうなら私の仲間も……」

ソーニャ「そういうことに巻き込ませたくないみたいなこといってなかったか?」

ほむら「そ、そうですけど……相手は魔法少女ですし……」

ソーニャ「……ただお前が会いたいだけなんじゃないか?」

ほむら「べべ、別にそ、そんなことないですよ?」

ソーニャ「わかりやすいな」

ソーニャ「わざわざ相手の要求通りに連れてくるまでもない」

ソーニャ「兎に角、お前はあぎりとここに残ってろ。一人で十分だ」

あぎり「でも、危ないのには変わりませんよ」

ソーニャ「……ああ」

ほむら「……友達が心配なのは痛い程わかります。だけど、そんな……」

ソーニャ「し、心配だとかそんなんじゃない!」

ソーニャ「別にあいつのことなんてどうでもいい」

ほむら「どうでもいい、だなんて……!」


ソーニャ「あいつはそもそも、私の事情に踏み込み過ぎなんだ」

ソーニャ「関わらない方がいいのに、しつこくしつこく……」

ソーニャ「本来なら普通の一般人として暮らせばいいのに、そんなバカなことをして……」

ソーニャ「そんなバカが、巻き込まれてその身に何かあったらとなったら……」

ソーニャ「後味が悪いからだ」

ほむら「…………」

ほむら「……ソーニャさん」

ソーニャ「それに、向こうにも組織の仲間はいる」

ソーニャ「いいか、お前は来るな。……あぎりも釘刺せよ」

あぎり「了解しました。定期連絡忘れないで下さいね」

ほむら「呉識さ……!そ、そんな……」

ソーニャ「あぁ、任せたぞ。あぎり」


ほむら「……呉識さん」

あぎり「なぁに?」

ほむら「ソーニャさんはああ言ってましたけど……」

ほむら「本当に大丈夫なんですか」

あぎり「心配ですか?」

ほむら「そ、それはもちろん……!」

あぎり「そうですね」

あぎり「私も行きたいところですが、あなたの身を一番に考えないといけませんからね」

ほむら「……うぅ」

あぎり「でも」

ほむら「?」

あぎり「自衛能力、あなたならもう十分あるかと思います」


ほむら「……!」

あぎり「向こうのお仲間もあなたの顔を見たがってますし」

あぎり「私も助けに行きたい気持ちは山々です」

あぎり「大切なご友人の一人ですからね」

ほむら「呉識さん……!」

あぎり「ソーニャからの連絡が途絶えたら参りましょう」

あぎり「早くて明日」

ほむら「……はい!」

あぎり「一応渡しておきますね」

ほむら「渡す?」

あぎり「はい」

ほむら「……?」


あぎり「何と、あなたの袖に」

ほむら「て、手品ですか……」ゴソゴソ

ほむら「これは、カード?」

あぎり「これで見滝原に行きます」

ほむら「ま、まさかこれは……!」

ほむら「組織で秘密裏に作られてる乗り物とか……」

ほむら「そういうののカードキー的な……!」

あぎり「九千円くらい入ってます」

ほむら「あ、電子マネー……」

あぎり「電車もバスも、ありますよぉ」


――――

――


結局、ソーニャさんからの連絡はなかった。

だから呉識さんと共に、見滝原に来た。

呉識さんはソーニャさんを捜すとのことで分かれた。

呉識さんは「あなたの仲間と合流してください」と言っていた。

魔女の気配を感じたから取りあえず来てみた。そこに誰かしらいる、あるいは来ると思ったから。

結果はドンピシャというものだった。

だけど、どうしてこんな所に折部さんが……。

優木沙々に攫われたはず。それならその優木沙々の側にいるのが普通。


ほむら「…………」

マミ「彼女……折部さんとは知り合いなのかしら?」

ほむら「えぇ……向こうの学校で」

マミ「学校?」

ほむら「詳しい話は後でしましょう」

マミ「そうね」


マミ「それで……彼女は今、洗脳されているわ」

ほむら「洗脳……!?」

マミ「それが優木沙々っていう魔法少女の能力。魔女と使い魔も操れるそうよ」

ほむら「洗脳魔法……そうか……それで」

なぎさ「なぎさはなぎさなのです!」

ほむら「え?……あ、名前ね。うん……知ってる。名乗らなくてもわかるわ」

ほむら「でも何でそのタイミングで自己紹介したの?」

なぎさ「してなかったから……」

ほむら「そう……律儀ね」


優木沙々の能力。洗脳魔法……。

これが折部さんがこんな場所にいる理由?操られている……。

それはそうと、結界には……この二人と折部さん以外にいないのかしら。

気になるし周りをじっくり見回して探したいところだけど、魔女と折部さんの方に集中をしなければならない。

もし仮にまどかとさやかが結界に巻き込まれたとしても……

巴さんのことだ。きっと既に避難させていることだろう。


ほむら「……優木沙々のことを知っているようでしたが?」

マミ「えぇ、美国さんと呉さんから聞いたわ」

マミ「何でも、私達と会う前に戦ったそうよ」

ほむら「なるほど……そうですか」

ほむら「ひとまず私は、折部さんを保護したい」

マミ「わかったわ。だったら私となぎさちゃんであなたと援護するわ」

ほむら「ありがとうございます……ですが」

ほむら「二人は魔女の方をお願いします」

マミ「で、でもあなたは……」

なぎさ「みんなから聞いたのです……ほむほむは弱いって……大丈夫なのです?」

ほむら「……間違ってはいないけど、その言われ方はちょっと不服ね」

ほむら「あとほむほむやめて」


ほむら「でも大丈夫。私が弱いのは……もう、過去のこと」

なぎさ「ナイフ……!」

マミ「でも、暁美さん……ナイフで渡り合うには近づかないといけない」

マミ「この通り使い魔が多すぎて……それに、使い魔も操られているというわ」

マミ「獣のようにただ襲いかかるだけということがない……」

ほむら「……なるほど」

ほむら「でも折部さんに近づくだけなら何てこともない。使い魔の移動速度も覚えました」

ほむら「増して……思考は少しでも人間に近い方がむしろ避けやすい」


ナイフの使い方は学んだ。それも対人間に特化している。

殺し屋に教わったのだからそれは当然だけど。

手裏剣だって使える。

精製できるナイフの刃渡りだって一センチ伸びた。

手裏剣は効いた。なら、ナイフだって通用する。


なぎさ「短い武器なのです……!危ないのです……!」

マミ「……大丈夫よ。なぎさちゃん」

マミ「暁美さんを信じて」

なぎさ「わ、わかったのです……」

ほむら「素直な子ね」


ありがたいこと。

心配してくれるのは結構だけど……

巴さんの言う通り、信じて欲しい。


なぎさ「……怪我しないでね?ほむほむ」

ほむら「もういいわよそれで……」

ほむら「……さて、と」


ほむら「…………」タッ

やすな「お、おお!?ほむらちゃんがめっちゃすごい速さでこっちに来る!」

やすな「えっと、えっと、マミちゃんとなぎさちゃんはさなづら(名前)とかるかん(名前)にやらせて……」

やすな「八つ橋(名前)!大福(名前)!おはぎ(名前)!やすなストリームアタックだ!」

使い魔「ピロシキ」バッ

使い魔「モトイ」ダッ

使い魔「デハアウチ」ズアッ

ほむら「……!」


折部さんの前に立ちはだかる、赤黒い異形達。

使い魔は全部同じような姿だが、折部さんには見分けがついているのだろうか。

名前を付けているということは……


やすな「あ、ごめん全然違った」

やすな「ちまき(名前)!えっと、以下略!」


ついていないようだ。


使い魔「ナカヨシ」

使い魔「コボルスキ」ズアッ

ほむら(……甘い!)サッ

やすな「よ、避けた!?華麗!」

やすな「つ、捕まえて!」

使い魔「ミゾオチ」

ほむら「……!」

スカッ!

使い魔「フォリシッ」ズシャッ

やすな「ひぃ!真っ二つ!?」

やすな「あ!ナイフ持ってる!」


やすな「うっそ!?あれで斬っちゃったの!?」

やすな「やだああああ!ほむらちゃんがソーニャちゃんに似ちゃったあああああ!」

やすな「あんなに良い子だったのにぃぃぃぃ!ふえぇぇん!」

やすな「絶☆望した!」

ほむら「……さ、流石魔法で作っただけあってよく切れるわね」


ソーニャさん直伝のナイフ術……。

斬る角度、持ち方、振るい方……。

教わった知識が役に立った。

難点があるとすれば射程が短いこと。

しかし、距離の詰め方、身のこなしを教わった。カバーが可能。

使い魔相手にナイフは微妙だと思っていたけど……

この程度の使い魔相手なら十分。


使い魔を躱し、文字通り道を切り開いて距離を詰めた。

すぐ目の前にあわあわしている折部さんがいる。

使い魔の新しい介入も間に合わない。


やすな「ああ!金つばぁぁぁ!」

やすな「あれ、違ったっけ」

ほむら「…………」

やすな「ひぃっ!ほ、ほむらちゃんがすぐそこに……!ヤバイかも!」

やすな「こ、こうなったら……!やるしかない!」

やすな「ほむらちゃん!ごめん!私は暴力に走るよ!」

やすな「うおー!やすな真拳!」バッ

やすな「ズババー!」

ほむら「…………」


ガシィッ!

やすな「んぎゃあああああ!」

やすな「一瞬で手首取られたぁぁぁぁ!」

やすな「あだだだだだだ痛い痛い痛い!ギブ!ギブ!ギブギブ!」


手足をバタバタさせる折部さんの背後に回り込み、手首を掴んで軽く捻る。

手裏剣術。ナイフ術。

そしてこれは……サブミッション。

魔女や使い魔にはてんで役に立たないことだが……

ソーニャさんにしょっちゅう喰らっている様を見せつけられて、覚えてしまった。

見様見真似ではあるけど……これは、折部さん。あなたから学ばせてもらったと言って過言でない。

呉識さんの手裏剣、ソーニャさんの知識、そしてあなたの……えっと……うん。

「向こう」で学んだ技術で、私は、優木沙々に勝利したい。


ほむら「……折部やすな」

やすな「……ほ、ほへ?」

ほむら「優木沙々はどこにいる」

やすな「……ほむらちゃん?」

ほむら「優木沙々の居場所を言いなさい」

やすな「こ、怖いよ……いつものほむらちゃんじゃない……!?」

ほむら「言わないなら例えあなたでも……折る」

やすな「ひっ!?」

やすな「ほむらちゃんはそんなこと言わないもん!偽物め!」

ほむら「……」ギュッ

やすな「ノォォォ!痛い!肩が!肩が!」


巴さんに然り、それまで敬語で話していた相手に対しこういう言葉遣いや態度をとるのは少々心が痛む。

増して関節技で悶絶させるなんて罪悪感で胸が苦しい。

それでも可能な限り威圧をする。声のトーンを落とし「どす」とやらを利かせる。

折部さんを脅してでも、敵の居場所を吐かせなければならない。

最悪、本当に折ってでも。

大丈夫。彼女のタフさはよく知っているし、もしアレしてしまっても魔法で治すこともできる。


ほむら「早く言いなさい……さもないと……」

やすな「う、うぐぐ……!痛い……痛いよ、ほむらちゃん……!」

やすな「やめて……お願い、痛いよぉ……ふえぇ」プルプル

ほむら「…………」

やすな「…………」

やすな「……あ、泣き落としダメ?」

ほむら「ダメ」

やすな「ですよね」


やすな「……ふ、ふふ……ふ」

ほむら「……何がおかしいのかしら?折部やすな」

やすな「この締め方。ソーニャちゃん程じゃないね」

やすな「やっぱりほむらちゃん優しい子。手加減してる」

やすな「その刺々しい喋り方、むしろギャップカッコイイよ」

ほむら(刺々しい……)

ほむら「……余計なことは言わないでくだ……言わないことよ。折部やすな」

ほむら「優木沙々はどこに行ったの」

やすな「うへ、へへへ」

やすな「で、でも悪いけど……さ、沙々ちゃんの居場所は……わから、ないよ」

ほむら「…………」

やすな「嘘じゃないよ!……マジね、これ」

やすな「でも……」

やすな「でも、まどかちゃんは……」

ほむら「!」


ほむら「まどかが……?」

ほむら「まどかが!まどかがどうしたと言うの!?」

やすな「まど、かちゃんは……もう、ここにはいないよ。ふへへ」

ほむら「……!?」


まどかは……もう『ここ』にいない!?

まさか……結界の中にいたというの!

……不覚だ、気付かなかった。


やすな「よく見てなかったけど……誰かが、連れてったよ」

ほむら「つ、連れてかれた……!?誰がまどかを!?そしてどこに!?優木沙々!?」

やすな「だ、だからわかんないって……でも、きっと、沙々ちゃんの仲間だね」

ほむら「……ッ!」

やすな「ふ、ふふ……ふ…………くふっ」

やすな「」カクッ

ほむら「……折部やすな?」

ほむら「折部……さん?」

ほむら「折部さん!?折部さん!」

ほむら「き、気を失ってる……?」


マミ「暁美さん!そのまま彼女を!」

ほむら「巴さん!?」

マミ「折部さんが捕らわれたら魔女の動きが鈍った……!」

マミ「彼女は魔女の司令塔!」

マミ「ティロ・フィナーレッ!」


魔女は巴さんに任せていたから特に意識していなかったが……

折部さんに気を取られていたから巴さんが例の砲台を作っていたのに微塵とも気付かなかった。

そして魔女の体には透明な……柔らかくて、そして濡れている球がいくつも張り付いている。

その近くを、大きなシャボン玉が浮いている。その中に使い魔が閉じこめられている。

動きを制限している。なぎさ……ちゃん、とやらの能力ね。

いつもの居眠りと大差のない顔で力無く倒れそう……そんな折部さんの体を支えながら、

静止する魔女の体が貫かれるのを見送った。あと何か爆発した。

結界は解かれた。


結界が解け、景色が見慣れた路地になって……

二人の魔法少女が変身を解いたのを見て、私もひとまず解く。

そして真っ先に私と側で眠る折部さんの元に駆け寄るのは……


さやか「ほむらァー!」

ほむら「……さやか」

さやか「えっと、えっと、な、何から話せばいいんだろ……」

さやか「ま、まずは……お、おかえり!」


焦燥と歓喜が混濁した、中途半端な笑顔をしている。

嬉しいけどそれどころじゃない。でも嬉しい。きっとそう考えている。

まどかが結界の中にいたと知って……さやかも何となく、いるんじゃないかと思った。

本当に、理由もなく、何となくそう思えば、その通りだったらしい。

「おかえり」……まどかからも聞きたいその言葉。

しかし、さやかとも、こうして再会できたのはとても嬉しく思う。

元気そうで何よりだ。

嬉しいは嬉しい。しかし……


さやか「うぅぅ……まどかに会わせたい」

なぎさ「あ、あれ!?まどかは!?」

さやか「わかんないんだよ……」

マミ「わ、わからない!?」

さやか「あたし……まどかと一緒に隠れて見てたんです」

さやか「それで、ほむらが現れて……」

さやか「ビックリしてまどかの方を見たら……もう……」

マミ「そんな……!」

なぎさ「今度はまどかが攫われちゃったのです!?」

ほむら「……そう。わかったわ、さやか」

さやか「ごめん……あたしがついていながら……」

ほむら「……いえ、仕方ないわ」

ほむら「それに……下手に気付いていたらあなたにも危害が及んでいたかもしれない」


さやか「危害?」

ほむら「現実味ないでしょうけど、相手は殺し屋の類よ」

なぎさ「こ、殺し屋!?」

マミ「暁美さんあなた、それ本気で言っているの!?」

さやか「あんた……一体、何に巻き込まれたっていうの……」

ほむら「……それは教えられない」

ほむら「片足だけでも突っ込んでいい話でもないから」

さやか「……ほむら」

さやか「あんたはいつもそうだよ……」

ほむら「…………」

さやか「悲しいことや辛いこと、ほんとの気持ちをみんな自分の中に閉じ篭らせちゃってさ」

マミ「美樹さん……」

さやか「あたしだって……あたし達だって、色々思うことはあったんだよ……」

ほむら「その話、長くなりそう?」

さやか「まぁそれなりには」


ほむら「じゃあ後にして頂戴」

さやか「あっはい」

マミ「それで、暁美さん」

マミ「その……折部さんのことなんだけれど……」

なぎさ「寝てるのです?」

ほむら「……巴さんの言うところの、優木沙々の洗脳魔法」

ほむら「多分それが解けたからか……何とも言えませんが、急に気を失ってしまって」

なぎさ「任せるのです!」

なぎさ「どれどれ」サワサワ

なぎさ「……ふむふむなのです」ペタペタ

なぎさ「このお姉さんから悪い魔力を感じるのです!」

さやか「触診の意味ある?」


マミ「……瘴気を浴びてしまったとか、そういったところね?」

なぎさ「です!」

ほむら「……!」

QB「穢れの溜まったグリーフシードをいくつか持ち歩いていたみたいだしね。全部魔女に与えてしまったようだ」

QB「魔法を受けていたということもある……その影響も受けているだろう」

さやか「だ、大丈夫なんですか!?マミさん!」

マミ「顔色はよくないけど……呼吸は乱れてたり、弱ってたりはしていないようね」

マミ「……どう?キュゥべえ」

QB「魔女の口づけを喰らった訳でもないからね」

QB「瘴気を浴びたことに加えて洗脳魔法を受けて肉体と精神に負荷を受けたといったところかな」

QB「そのまま放置しておくと危険なのには間違いないけど、命に別状はないだろう」

マミ「……だ、そうよ」


ほむら「とにかく、折部さんを避難させないと」

さやか「あ、あぁ、うん。そっちはあたしに任せてよ」

ほむら「任せるわ。それじゃあ巴さんは……」

マミ「折部さんの話では、他にもグリーフシードが仕掛けられて――」

なぎさ「!」

マミ「……今、また産まれたようよ。丁度。魔女は私がやるわ」

ほむら「お願いします」

マミ「暁美さんは、鹿目さんを追うんでしょう?」

ほむら「……はい」

マミ「…………」

マミ「少し前のあなたなら『心配だからやめなさい』と言いたいところだけど……」

マミ「今のあなたなら、大丈夫そうね。……あなたの師匠ができなくて残念だわ」

ほむら「と、巴さん……」

マミ「ふふ、何てね」


なぎさ「なぎさはっ!?なぎさはっ!?」

なぎさ「なぎさは何すればいいのです!?」


随分と元気な子ね……本人は真剣なんだろうけど。

一人称が自分の名前という点でゆまちゃんと印象が被る……

ともかくとして、見知らぬ子どもの役割を私に託されても困る。

巴さんと一緒にと言うべきか、私についてきてと言うべきか。


マミ「なぎさちゃんは、美樹さんと一緒にいた方がいいわね」

マミ「それで折部さんをお願いね」

ほむら「……そ、そうですね。優木沙々のような敵がまだいる可能性もある」

マミ「えぇ、魔法少女が側にいるに越したことないわ」

QB「僕も何か手伝おうか?」


マミ「そうね……」

マミ「二人……いえ、三人をつれてったらゆまちゃんを折部さんのところへ誘導してあげて」

さやか「ゆまちゃん?」

マミ「佐倉さんなら一人でも大丈夫でしょうけど、なぎさちゃんを一人にするのは不安……」

マミ「それにゆまちゃんの治癒魔法が折部さんに効くかもしれないしね」

QB「うん、わかったよ」

なぎさ「むっ、なぎさも一人でも大丈夫なのです!」

マミ「ゆまちゃんと一緒なのよ」

なぎさ「了解なのです」

さやか「チョロいなー」

ほむら「二人は仲良しなのね」

さやか「まあね」

マミ「それじゃ三人とも、私は行くわ」


ほむら「ええ……よろしくお願いします」

さやか「まっかせて下さいよ!」

マミ「いつもみたいに鹿目さんに抱きつかれるがいいわ!」

ほむら「なっ……!」

ほむら「も、もうっ、巴さん……」

さやか「ふへへへ」

ほむら「そこ、ニヤニヤしない」

さやか「ふひっ」


まどかに抱きつかれたいのは山々だが……

って、そうじゃなくて。

そんな恥ずかしい気持ちになるようなことを言って巴さんは駆けていってしまった。


やらなければならないことがある。それも、二つ。

一つは、魔女の結界で攫われたまどかを追いかけること。

そして、折部さんの安全を確保すること。


ほむら「……悪いけど、折部さんを頼んだわ」

ほむら「ここからなら私の家が一番近い……場所はわかるわね」

さやか「おうよ!」

なぎさ「なのです!」

ほむら「これ、私の家の鍵よ」

ほむら「……任せたわ」

なぎさ「なのです!」

ほむら「……それって口癖?」

なぎさ「?」

ほむら「いえ、何でもない」


ほむら「しかし……まどかは一体どこに……」

なぎさ「キュゥべえ知らない?」

QB「うん、わかるよ」

QB「まどかは僕にとっても重要人物だからね。危害が及ぶのは避けたい」

ほむら「…………」

さやか「ど、どこに!?」

QB「まどかなら『廃墟』に行ったようだ」

ほむら「廃墟?」

さやか「……あ、それって」

さやか「あたしとまどかがマミさんと会った場所?」

QB「うん。そうだね。僕とも、出会った場所だね」

ほむら「なるほど……わかったわ。それじゃ……任せたわ」


さやか「…………」

なぎさ「…………」

さやか「え、えーっと……」

さやか「念のためもしもーし」ツンツン

やすな「…………」

なぎさ「やっぱ起きないのです……」

QB「完全に気を失っているね」

さやか「ですよね……やすなさん!失礼します!」グイッ

さやか「ぬおぉ……!お、重い!」

さやか「一般人代表現役ピチピチJCがJKをおぶさって運ぶのには……は、ハードすぎる!」

QB「増して気を失っている人間を担ぐのは、相当な力と体力を要するよ」


さやか「うぐぐ……あ、やばい!これ思った以上にキツイ!」

さやか「ま、まさか魔法少女じゃないという設定がこんなところで枷になるなんて!」プルプル

QB「何を言ってるんだい?」

なぎさ「だ、大丈夫?」

さやか「へーき、へーき……!あたしかて、魔法少女じゃないけど……」

さやか「ほむらに頼られたなら……」

さやか「やってやろうじゃないのよォッ!」

QB「契約するかい?目を覚ま……」

さやか「ぬゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

QB「わけがわからないよ」

なぎさ「なぎさも手伝うのです!」

さやか「どうやって?」

なぎさ「このお姉さんをシャボン玉に閉じこめてプカプカ浮かべるのです」

さやか「無理無理!めっちゃ目立つもん!」


なぎさ「ダメです?」

さやか「ダメポ」

なぎさ「じゃあちっちゃいシャボン玉をいっぱい出すのです」ポポポ

さやか「ほうほうそれで?」

なぎさ「シャボン玉をいっぱいくっつけるのです」ペタシペタシ

さやか「……お?」

さやか「何だかやすなさんがちょっぴり軽くなったような……」

なぎさ「シャボン玉のフリョクっていうのなのです。持ち上げるのです」

さやか「なるへそ……でもさ……これ、爆発するよね」

なぎさ「うん」

さやか「怖いわぁ……」

QB「魔力で作られているものだからね。そう簡単には割れないよ」

さやか「でも……強度ってどれくらいになるわけ?」

QB「なぎさが込めた魔力によるね」

さやか「あやふや!」


なぎさ「よくわかんないけどなぎさを信じてほしいのです!」

さやか「……う、うんそうだね」

さやか「大体、背負ってる人につけたシャボン玉が割れる要素なんてないよね。多分」

さやか「よし!待っててやすなさん……!」

さやか「このさやかちゃんアンドなぎさちゃんが、あなたをほむほむハウスに招待しちゃいますからね!」

やすな「…………う」

さやか「……やすなさん?」

やすな「……うぅ」

さやか「や、やすなさん!?」

やすな「うぅ……ん……」

なぎさ「ま、まさか目を覚まして……」

やすな「……もぉ食べれない」

さやか「都市伝説レベルの寝言を!?」


さやか「でもこんなこと言うようなら……」

なぎさ「割と大丈夫そう?」

QB「うなされているようだね」

さやか「うなされ!?言葉と裏腹にハードな状況!」

なぎさ「い、急がなくちゃ!」

さやか「おんぶして走るなんてぶっちゃけ恥ずかしいけどそんなの気にしてられないぜ!」

さやか「うおおおおおお!」ダダダ

なぎさ「ですううううう!」タタタ

さやか「なぎさちゃんはえええぇぇぇ!?魔法少女の脚力すごっ!」

さやか「待って!待って!おいてかないで!」

さやか「っていうかそんな有り余るパワーあるならやすなさん運ぶの手伝ってよ!やすなさんのお尻支える何なりさぁ!」

なぎさ「あ、そうなのです。それは気付かなかったのです。目からウロコなのです」

さやか「マジで?」


廃墟。


キュゥべえが言うには、ここにまどかがいるらしい。

この時間軸にとっては、ここがまどかとさやかの始まりと言ってもいい。

二人が、キュゥべえに導かれ、魔女と出遭い、巴さんと出会った場所。

薔薇に執着しているグロテスクな魔女がここに産まれた……あるいは現れた。

経営難に陥り開発が中止された、埃っぽい廃墟。

ここに刺客もきっといる。ここに入る直前に変身した。

警戒をして歩いていたが……

そこでまず出会ったのは、刺客ではなかった。

まどかでもなかった。

無彩色の空間に、青と白と黄色はとてもよく似合う。


ほむら「そ、ソーニャさん!」

ソーニャ「……ほむらか」

ソーニャ「何だお前その格好」

ほむら「あ、えっと……」

ほむら「ま、魔法少女の……作業服?」

ソーニャ「お、おう」


ソーニャ「それで何でお前、ここにいるんだ?」

ほむら「何でって……」

ほむら「ソーニャさんこそ、今までどこに……!?」

ソーニャ「ん?ああ……やすなを追ってきたはいいんだが……」

ソーニャ「結局見つからなくてな」

ほむら「だ、だったら……!」

ほむら「ソーニャさんの連絡が途絶えたから私と呉識さんが……!」

ソーニャ「そうか。そういうことだったのか」

ソーニャ「すまないな。心配かけて」

ソーニャ「だがそんなことはさておいて」

ほむら「そ、そんなこと……!?」


ソーニャ「お前に会わせたい……というか、会ってもらわなければならないヤツがいる」

ほむら「わ、私に……?」

ソーニャ「おい!」

「はいはーい♪」

ほむら「……ッ!」


ソーニャさんは、後ろの柱に向けて呼びかける。

そして、返答。

この声……聞き覚えがある。

ま、まさか……

優木沙々……っ!


沙々「やっほーですよ。くふふっ。また会えましたね」

ほむら「…………!」


沙々「くふふふっ、驚きのあまり声も出ない?」

沙々「何でわたしとソーニャが一緒にいるん……」

ほむら「まどかッ!」

まどか「ほ、ほむらちゃん!」

沙々「……おいこらテメェ。いや、まぁそりゃそうかもしれないけどもさ……」


柱の陰から、優木沙々が現れた。その側に……両手首を紐で束縛された……

悲しげな表情をする、小さくて、大きな存在。

やっと会えた……まどか。

優木沙々に肩を抱かれ粗雑に体を揺すられている。


沙々「ほらっ、返してやんよ」トンッ

まどか「あわわっ」


優木沙々は乱暴にまどかの背中を押した。

両手の自由が利かないまどかはそれにより転びそうに……。


ほむら「ま、まどか!」ガシッ

まどか「ほむらちゃん……」

まどか「ご、ごめんね。ほむらちゃん……私……」

ほむら「まどか……大丈夫。大丈夫よ……」

ほむら「……やっと、会えたわね」

まどか「うん……」

ほむら「今、紐を切るわ」

まどか「ありがとう……」


ナイフを作り、縄を切る。

紅い縄の跡が痛々しい……。

まどかの震える肩を掴む……その握力が、自然と強くなってしまう。

久しぶりにまどかに触れることができたのに、会えたのに、何の喜びも沸かない。

不気味に沸かない。別の感情が私の心を支配しているから。

優木沙々への怒り、ソーニャさんが優木沙々のすぐ側で腕を組んでいる戸惑い。

これは今、どういう状況なんだろうか。

ところでまどか……ちょっと背伸びたかしら?


ほむら「くっ……優木沙々……!」

沙々「くふふ、おお怖い怖い」

沙々「でもですねぇ、こいつはあんたを誘き寄せるための餌であって、人質ではありません」

沙々「だから返してやるんですよ」

沙々「せめてもの情け……どうせ、今生の別れになるのですから。ここでちゅっちゅしてもいいのよ」

ほむら「今生の……?」


ほむら「あなた、何を言って……」

ソーニャ「ほむら」

ほむら「……ソーニャさん」


何故ソーニャさんが刺客を目の前にして、何もしないのか。

色々と嫌な想像をしてしまう。

裏切ったのか、ソーニャさんに変装した敵か、あるいは……


ソーニャ「沙々の特技は催眠術……『洗脳』だ」

ほむら「……ま、まさか」

ソーニャ「お前も沙々にかけてもらうといい」

ほむら「……っ!」


何と言うこと……!

優木沙々の術中に、ソーニャさんまで……!

多分、今の私の状況と、同じように……折部さんを餌にした。

そうか、それでだ……それでいつもと空気が何となく違うのか……!


ソーニャ「ほむら……まどかのことが大事なんだそうだな……」

ソーニャ「助けたいか?」

ソーニャ「それなら、沙々に洗脳されて、従え」

ほむら「くっ……!」

ソーニャ「これは、まどかのためでも、お前のためでもある」

ソーニャ「私だって、お前が心配なんだよ」

ソーニャ「お前が従って『向こう』の組織に忠誠を誓えば……」

ソーニャ「まどかは無事に解放されるし、もっとたくさんのことを教えてやる」

ソーニャ「私もついてってやるんだ」

ソーニャ「あぎりだって来てくれる」

ソーニャ「共に『向こう』で仕事するぞ」

ほむら「ソーニャさん……!」


ソーニャさんの口から、とても嫌な言葉の羅列を聞いた。

私が心配だとか、従えだとか……

彼女を洗脳したことは元より、折部さんを利用したことも、

まどかに乱暴な扱いをしたことも、何もかもが許せない。


沙々「くふふ……いつでもウェルカムですよ」

沙々「わたしと契約して、後輩及びパシリになってくださいよォッ!」

沙々「大丈夫です!ちょっとわたしの前に来て跪くだけでいい……」

沙々「そして、あなたはわたしの支配の下に置かれます……それだけでいい!」

ほむら「くっ……!」

ほむら「ソ、ソーニャさん……」

ほむら「目を覚まして!あなたはそんな人じゃない!」

ソーニャ「お前に私の何がわかる。会ってたかだか数週間程度だ」

ほむら「それでも……!それでもあなたは……」

ほむら「折部さんを救うために単身乗り込む……そういう人なのに!」

ソーニャ「や、やすなは関係ないと言っただろ!人の話を聞け!」


ほむら「う……で、でも……」

ソーニャ「……嫌か?私の言うことを聞かないのは」

ソーニャ「嫌なら力ずくで屈服させてやる!」チャッ

ほむら「くっ……!」


ナイフを向けられた……。二度目、だ。

このソーニャさん。柄にもなく……じゃ、じゃなくて、いつになくシリアス!

これが殺し屋の本気か……それとも、優木沙々の洗脳の力か……!

やるしかない。

やらなきゃやられる!


ほむら「……!」チャッ

まどか「ほむらちゃん……私……!」

ほむら「……まどか」

ほむら「大丈夫よ……必ずあなたを護る」


彼女と生活をして、そのスピードは何となく理解している。

ナイフの間合いや動きが――多分距離を一気に詰めてサブミッションをしてくる。何となくで推測ができる。

逆にこっちが距離を詰めて、ナイフを何とか取り上げて、関節技を決めるのが得策か。

関節をキメればどんな力持ちが相手でも無力化ができる。

問題は、それができるか……。

ソーニャさんの性格からすれば、私がまさか関節技できるはずが……と、油断する。

攻めるならその隙を突くしかない。兎に角まずは一手……!


ほむら「!」シャッ

まどか「手裏剣!」

ソーニャ「……!」

ソーニャ「投げりゃいいってもんじゃないぞバカめ!


投擲した手裏剣を、尽く弾かれた。

片手に持ったナイフを素速く動かして、手裏剣は光を放って消えていく。

……最初から、当てるつもりはない。つもりがない……というより、できない。

やはり……彼女に向けて、投げられない。敵ではない。操られているに過ぎないから……。

……手裏剣を弾いたくらいの隙でナイフを握った手首は掴めない。


ほむら「……!」

キィィンッ!

ソーニャ「む……っ!」

ほむら「……く!」

ソーニャ「……な、懐かしいな、ほむら」

ソーニャ「お前と初めて会った時もこうやって、ナイフで押し合ったな」

ほむら「ぐくっ……ううぅ……!」

ソーニャ「……っ」

ソーニャ「あの時よりも……ずっと力が強いな……!」


やはり強い。

手裏剣を弾いた隙を突いたつもりが、あっさり止められてしまった。

しかし、あの時と違って今の私は魔法少女の姿をしている。

そしてナイフの扱いを学んでいる。

今のままなら……いける!何とか押し勝って……!


ソーニャ「だが……」

ソーニャ「プロには遠く及ばないな!」

ほむら「ぐ……!うぅ……!?」

ほむら「て、手に力が……!こ、これが本気の……!」

ソーニャ「ふん、まだ本気じゃないぞ」

ほむら「う……く……ま、負けられない」

ほむら「うぬあぁっ!」

ソーニャ「!」

キィィン!

ソーニャ「くっ」


魔法少女の腕力でも彼女のナイフを奪うことはできなかった。

お互いにナイフが無くなった。作戦を変える。

全ての出来事がプロット通りにいくとは限らない。

どうする?どうしたものか。



……っ!

お腹がガラ空きだ……!

心苦しいが、空いた手で……鳩尾を……

殴る!

力が私と拮抗して動揺している。その動揺の僅かな隙を突く!

魔力を込めた手刀ではなく、魔力を込めた腹パン。

気を失わせれば洗脳魔法も何とかなる。多分。

気を失わないにしても、殴ったことで何らかの隙が……きっと


ほむら「……ごめんなさいッ!」バッ

ソーニャ「……っ!」

ドスッ!

ソーニャ「む……!」

ほむら「は、入った……!」

ほむら「こ、これで気を失……」


ドスッ

ほむら「う……ぐっ!?」


一瞬、呼吸が止まった。

視界が一瞬でぼやけた。吐きそうになる。

倒れまいと思った時には既に膝を地面についていた。

お腹を攻撃したと思ったら、されていた。

何が起こった……!?


まどか「ほ、ほむらちゃん!」

沙々「おーおー、見事に入りましたねぇ」

ほむら「げほっ、ごほごほ!」

ほむら「ぐぶっ……げほっ」

ほむら「お……おえっ、ごふ、うぇ」

沙々「くふふ……わたしも喰らった腹パンですよ。健康に影響はないぜ」

ほむら「な、なんで……今……確かに……」

ソーニャ「私はこの下に高性能薄型防弾チョッキを着ている」

ソーニャ「そんなパンチは効かないぞ」

ほむら「そ、そんな……」

ソーニャ「殺し屋の嗜みだな……お前には話してなかった」

ソーニャ「勿論着忘れてなんかない」

まどか「ほむらちゃん!」タッ

ほむら「はぁ……はぁ……!」

まどか「だ、大丈夫?ほむらちゃん……!」

まどか「……ごめんね……ごめんね。私のせいで……!」

ほむら「泣かないで……まどか……」


沙々「くっふっふ……」

沙々「わかりましたか?プロとの格の違いを!」

沙々「痛いほど身に染みたでしょう……あなたではソーニャに勝てないと」

沙々「さぁ、わたしに洗脳されなさい」

沙々「それが嫌ならソーニャにボコボコにされますし、背中をさすってるそこのチビに危害加えられても文句は言えない」

ほむら「くっ……!」

まどか「……っ」

沙々「ぶっちゃけた話、要求を呑まなきゃボコボコにします。あなたも、そいつも」


魔力で痛みを紛らわすものの、何だか胃が重い。

ま、まどかにまで手を出すと言うの……!

どうする……。

ソーニャさん相手に、私の力では勝てない。身をもってわかった。

まさかそんなソーニャさんともあろう人が、こんな簡単に操られるなんて……。

自分の力と彼女を少し過大評価をしていたというのか。私は。

間違っても優木沙々が優れていたとは認めない。


どうするか。

他のみんなの合流を待つ余裕はない。

そして、私が条件を呑まなければまどかに危害が及ぶ。

それだけは避けなければならない。呉識さんは今、どこにいる。

ソーニャさんを捜すと言って、どうしてここにいてくれないのか……

……自分の無力さに、やつあたりをしてしまった。


ほむら「くっ……」

まどか「ほむらちゃん……」


まどか……。

まどかは守らなくては……。

それが……私の生き甲斐だから。

私一人が犠牲になれば、ここはひとまず穏便に片が付く。


ここは……従おう。


ほむら「……わかった、わ」

まどか「!」

ソーニャ「…………」

ほむら「まどかに手を出さないと約束するなら……」

ほむら「……仕方、ない」

まどか「そ、そんな……!」

沙々「賢明ですよ。くふふっ」

ほむら「…………」


こうすれば……いい。

元はと言えば、全て私に原因がある。

まどか達も……呉識さん、ソーニャさんも折部さんだって、私のせいで巻き込まれたようなもの。

……全ては、こうなるべきだったのかもしれない。私が自身を持ってして落とし前をつけなければ。

私は敢えて洗脳される道を選ぶ。そして……助けてもらうしか……道がない。

一人で勝手に突っ込んで他力本願だなんて、自信過剰の救いようのない話だ。

でも……信じるしかない。どうか、そんな馬鹿な私を救って欲しい。


まどか「ダメ!」

まどか「ダメだよほむらちゃん!」

ほむら「まどか……」


まどかが私とソーニャさんの間に立ちふさがって、真剣な目で、私の顔を見る。

その目は好きだけど、こんな真っ直ぐな目で見ないで欲しい。

私はあなたに尊敬されるような人間じゃない。

私は、私は……。


まどか「……ほむらちゃん」

まどか「ダメ……行っちゃ……」

ほむら「でも……」

ほむら「でも、こうでもしないと……私の頭じゃ、これ以上いい方法が思いつかないわ……」

まどか「…………」


まどか「……言ったよね。ほむらちゃん」

ほむら「…………」

まどか「確かに言った。……『護る』って」

まどか「こんなことに屈したら、それができなくなる」


確かに私は……まどかを護ると誓った。

まどかのために戦うと誓った。護ると心に誓った。


ほむら「だったら、尚のことよ……。従わなければ……あなたに被害が及ぶ」

ほむら「それだけは……それだけは……!」

ほむら「…………」

まどか「その必要はないんだよ」

まどか「……手は出させません」

ほむら「……え?」


まどか「私はあなたのことを護るって、決めて……いいえ、決まっていた」

まどか「あなたには鹿目まどかという人を護るために戦った過去がある」

まどか「だったら、私こそ尚のこと」

ほむら(え、あれ……?な、何だか……この、まどか……)

まどか「あなたを護らなくてはいけないから」

ほむら「…………」

ソーニャ「……おい、どけ。まどかっつったか」

まどか「絶対に、絶対に手出しはさせません」

ソーニャ「威勢がいいな……だがどけ。怪我をしたくないだろ」

まどか「どきません」

ソーニャ「どけ」

まどか「どきません」

ソーニャ「……脅しじゃないぞ」スッ

ほむら「ナ、ナイフ!まだ持って……!」

ほむら「まどか!危ない!避けて!」

まどか「どきませんし、逃げません」

ソーニャ「……見た目に反して大した度胸持っているな」



沙々「くっふっふ……仕方ないですねぇ……」

沙々「必要とあらば力ずくにでも退けなさい」

ソーニャ「……大体お前、何で私の名前を……」

まどか「…………」

ソーニャ「……なんだよ」

まどか「…………」

ソーニャ「…………」

まどか「……私の目を見てください」

ソーニャ「……は?」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「……!」

ソーニャ「まさか、お前……!」

まどか「私の目を……よく、見てください」

ほむら「……?」


沙々「……ハッ!」

沙々「ソーニャ!退け!退くんだッ!」

沙々「こいつは……!こいつはッ!」


ほむら「…………ッ!」

ほむら「ま、まさか……」

ほむら「う、嘘……だ、だって……そんな……」

ほむら「まどか……いえ……!」

ほむら「あなたは……!」


沙々「ソーニャ!逃げろと言ってんだよ!」

沙々「こいつは鹿目まどかじゃな――」


まどか「洗脳されても何とかなるの術~」パチン


ソーニャ「うっ……く……」

ソーニャ「ああ……頭がくらくらする……」

ソーニャ「……ん?あれ?」

ソーニャ「私、何をして……」

沙々「アイエエエエ!?な、何でだよ!?洗脳が解けた!?」

ソーニャ「……?」

ソーニャ「あいつは……刺客?何でこんなところに……」

ソーニャ「えっと……私は、見滝原に来て……」

ソーニャ「そう、誘拐されたやすなを捜して……それでやすなを見つけて……」

ソーニャ「そしたらやすながほむらの知り合いと仲良くなったとか言って、連れて行かれて……」

ソーニャ「それで、こいつに……そうだ!そうだった!」バッ

沙々「う、うぅ……!」


ソーニャ「……くそっ、頭が痛い」

まどか「大丈夫ですか?」

ソーニャ「あぁ、何とか……って誰だお前」

ソーニャ「いや……お前は……そうか。お前か」

ソーニャ「何でこんな薄汚いところにいるんだ、私は」

まどか「刺客に操られていたんですよ」

ソーニャ「あ、操られただと?」

ソーニャ「そんなバカな……」

まどか「催眠術的なのにかかる直前までの記憶はないんですね?」

ソーニャ「催眠術……」

ソーニャ「多分……ないんだと思う」

ソーニャ「……私、ほむらに何かしちまったか?」


まどか「どうもー。怪我はありませんかー」

ほむら「ま、まどか……」

ほむら「い、いや……違う……」

まどか「忍法、敵を騙すなら味方からの術~」バリバリーッ

ほむら「…………」

ソーニャ「あぎり……」

あぎり「どうもー」

ほむら「え……」

ほむら「ええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

あぎり「にん♪」

あぎり「お疲れさまでしたー。後は任せてね」

ほむら「え、え、い、いつ?いつの間に?いや、いつから?」


あぎり「禁則事項です」

ほむら「それ何か違うんじゃ……」

ほむら「え、えっと……と、取りあえず」

ほむら「あ、あの……えっと……」

あぎり「はい?」

ほむら「本物のまどかは……」

あぎり「えぇ、いますよ」

ほむら「ど、どこに!?まどかは!?」

あぎり「私と一緒に行動していました」

ほむら「呉識さんと……一緒に?」

あぎり「それでは、どうぞ~♪」


……どこから説明すればいいのでしょうか。

大好きな声がわたしの名を呼んで……声の主と対面する前に……

わたし自身の気持ちを整理するために、ちょっと振り返ってみようと思います。


わたしは、マミさん、さやかちゃん、なぎさちゃんの四人で、マミさんの家にいました。

織莉子さんとキリカさんは近くに魔女が現れると予知をして待ってるそうで、

杏子ちゃんとゆまちゃんは同じく魔女が現れる予知を聞いて風見野に行ってて……

そしたら、やすなさんが来ました。とっても明るくて……さやかちゃんのような人でした。

やすなさんは、ほむらちゃんのことを知っていました。あぎりさんの知り合いなんだそうです。

ほむらちゃんの居場所に案内すると言って、わたし達はついていきました。

その結果、魔女の結界に誘い込まれました。

事前に優木沙々って人……つまり、そこにいて目を丸くしてる人のことは聞いていました。

やすなさんと魔女が操られているんだって、わかりました。


それで、さやかちゃんの後ろでマミさんとなぎさちゃんが魔女と戦っている所を見ていました。

やすなさんは魔女と使い魔に何やら大声で叫んでいて……

それで……ふと、後ろを見ました。

気が付いたら、そこに「わたし」がいましたのです。

「もう一人のわたし」

一瞬ビックリしましたけど、正体はすぐにわかりました。

しれーっと魔女の結界にいました。

あぎりさん。

わたし(あぎりさん)は人差し指を口元に「しー……」って言って、

マミさんとなぎさちゃんに集中しているさやかちゃんに気付かれずに、

やすなさんの方をチラッと見て、何も言わずにわたしの手を引いて結界の外へ……。

さやかちゃんに何も言わずに行くのはちょっと……って思いましたが素直に黙って、わたし(あぎりさん)に従いました。

途中、やすなさんがこちらを見ていたような気がしましたが……。


そしたらわたし(あぎりさん)に、いつか来た廃墟へと連れてってもらいました。

で、そこで待っててって言って柱の影に。

その間、わたし(あぎりさん)はわたしと全く同じ……声も背格好も同じです。

ドッペルゲンガーまどか。

そして言われた場所でじっとしてました。

それで……優木沙々って人が金髪の人と一緒に来て……大喜びでわたし(あぎりさん)を羽交い締めにしました。

その間、わたし(あぎりさん)がひぃって怯えてふえぇって言ってたりました。迫真の演技です。

決していい気分はしませんが……本当にあぎりさんがわたしだったら、きっとふえぇぇって言ってるんだろうなって。

鹿目まどかがわざわざこんなところに単身で来たという不自然さも、あぎりさんの演技力で丸め込まれました。

あぎりさんは……待ち伏せをしていたんだ。あの魔法少女を捕まえるために。


まどか(そして……)

まどか(そして……ついに)

まどか(ついに……あの人に会える!)


まどか「……ほむらちゃん」

ほむら「……まどか」


目の前にいる人は、変装でも幻影でもありません。

本物です。確信をもって言えます。わかります。

違和感は微塵としてありません。

わたしの大好きな親友です。


まどか「ほむらちゃん……!」

ほむら「まどか……!」


『向こう』にいる間……ずっと、ずっと会いたかった。

その手で触れて、声を聞きたかった。私の大好きな親友、その姿……!

目の前にいる人は、変装でも幻覚でもない……本当に、目の前に!

わかってる。確信を持ってわかってはいるんだけど、でも、念のため……。


まどか「ほむらちゃ……!」

ほむら「本物よね?」

まどか「へ?あ、うん」

ほむら「……まどか!」

まどか「はわっ!?」


ほ、ほむらちゃんが抱きついてきた……!

ほむらちゃんとのスキンシップの一環としてボディタッチの一つや二つはありました。手を繋ぐとか……。

わたしがテンションあがってほむらちゃんに抱きついたりとか、そういうことだってあります。

だけど、ほむらちゃんの方からこうしてくるのは……初めて!

き、緊張しちゃってます!温かいです!

ほむらちゃんのほっぺがわたしのほっぺに触れてます!柔いです!

この体温、力加減、肌触り、髪が撫でるこそばゆさ。

ああ……本当に、本当に戻ってきた。ほむらちゃんが、すぐそこに!

嬉しい……嬉しい!


ほむら「やっと……やっと会えたぁ……まどかぁ……」

まどか「ほ、ほむらちゃん……」

ほむら「まどかぁ……」


わたしも……ほむらちゃんが無事でよかった。

無事に、こうやってわたしの射程距離に……本物のほむらちゃんが……。

温かくて柔らかい……ほむらちゃんの頬が、心地良い。

震える声が、すぐ側に……。そして頬に、液体の感覚……。

ほむらちゃん……!

わたしも……わたしも、ほむらちゃんの頬に涙つけちゃいそう。


ほむら「えぐっ……まどか。まどか……!」

ほむら「会いたかった……会いたかったよ……!」


まどか「わたしも……だよ。ほむらちゃん……」

まどか「ぐすっ……ほむらちゃん……!」

まどか「無事で……無事で良かった……!」

ほむら「寂しかったよ、まどかぁ……」

まどか「うん……!わたしも、とっても寂しかった!会いたかった!」

ほむら「だって、メールしても全然返ってこないんだもん……」

まどか「…………メ、メール?」

ほむら「うん……一生懸命頑張って書いたんだけど……」

ほむら「あなた達との繋がりが一切なくなっちゃって……本当に寂しかった……!」

まどか「…………」

ほむら「……まどか?」

まどか「……ほ、ほむりゃちゃー!」ギュー

ほむら「まどか……!」


まどかも、私と同じ気持ちだったんだ。

噛んじゃうくらいに喜んでくれている。

力強く、私を抱きしめ返してくる。

まどかに、こんな強く抱きしめてもらえるのも、本当、久しぶりに思えてしまう。

まどかの体温をより感じる。むしろ、ちょっと暑い。でも、その暑さと柔らかさが何よりも嬉しい。


ほむら「まどか……まどか……!」

まどか「ほむらちゃん……ほむらちゃん……!」


お互いに、名前を言い合うことしかできません。

色々言いたいこと、話したいことがありすぎて、こんがらがって、実際に出せません。

それにしても……やっばーい。

わたし、これまでに来た『fromほむらちゃん』のメール全部……。

だって、偽物だと思ったんだもん。あぎりさんが信頼に値する人物だって心でわかっても、やっぱり……って思って結局返信できませんでしたもん。

ごめんね。……ごめんなさい。


あぎり「感動的なシーンですねぇ」

ソーニャ「……見てるこっちが恥ずかしいんだが」

あぎり「水を差しちゃダメですよ」

ソーニャ「いいや、限界だ。差すね」

ソーニャ「おいほむら!」

ほむら「は、はいっ!」

ソーニャ「喜ぶのは後にしろ。まだ終わってない」

ほむら「……!」

まどか「…………」


ソーニャさんの声で、ほむらちゃんの抱きしめる腕の力が一気に無くなって、

パッと離れました。名残惜しい……。

そしてほむらちゃんは涙目ながら、いつものキリッとした凛々しいご尊顔になりました。

視線の先は……。


ほむら「……優木沙々」

沙々「う、うぅ……!」

ソーニャ「よくも私を洗脳しやがったな……」

あぎり「もう逃がしませんよ~」

あぎり「『連絡』がありました。あちこちに仕掛けたという……」

あぎり「ぐりぃふしぃど?ってのはもう全て、回収しました」

ほむら「グリーフシード……!」

ソーニャ「それが何かは知らないが……仕掛けたっていうからには爆弾か何かだろ」


学校に襲撃に来て、爆弾を仕掛けた……同じような方法。

グリーフシードを仕掛けたということは、魔法少女勢の戦力分散が目的か。

姑息なことをしてくれる。

そして……無関係である折部さんを攫って利用するとは、腹立たしいことこの上ない。


沙々(そ、そんな……わ、わたしの洗脳が……!)ワナワナ

沙々(忍法……だと……!?ふざけんじゃねぇ……!)

沙々(あのワルプルギスの夜に勝った魔法少女の一人……そして、名の立つ仕事人……!)

沙々(逃げ道は……ない!)

沙々(……つ、詰んだ?……詰んだ!)

沙々「う、うぅ……!うぅぅ……!」

沙々(こ、このままだと……わたしは……!)

沙々(きっと、アイツラの組織で……酷い目に遭う!)

沙々(監禁されて、拷問されて、自白剤でラリラリさせられて……)

沙々(尋問させられる!エロ同人みたいに!)

沙々(くそ……!こ、このまま……!)

沙々(このままやられるくらいなら!)

沙々(……さようなら)


沙々「うおおおあああああぁぁぁ!」バッ

ほむら「あっ!」

まどか「……あっ!」


沙々っていう人はソーニャさんの洗脳を破られて戦意を喪失したのか、

いつの間にか魔法少女の姿を解いていました。

そして、右手を高く突き上げる。

その手には……とても見覚えのある、光沢のある宝石……。

……まさか!


優木沙々。抵抗する気はないらしい。

しかし、捕まるつもりもないらしい。

きっと、掲げた物を破壊するだろう。

……『自殺』するつもりだ!


まどか「ソウルジェム!」

ソーニャ「あ?何だそりゃ」

あぎり「色違いのを持ってましたね?」

ほむら「た、叩き割る気!?」

あぎり「?」

ほむら「と、止めなくちゃ!」ダッ

ソーニャ「あ!おい!」

あぎり「どうかしたんですか?」


ソーニャさんと呉識さんは知らない!

ソウルジェムは魔法少女の魂……。

それを割るということは、魂を砕くということ……。

死んでしまうということ!追いつめられて自殺させてしまう!

まどかに、遺体を見せられない!見せてはいけない!


沙々「わあああああぁぁぁぁ!」ブンッ!

ほむら「ま、間に合わな……!」

まどか「きゃああぁぁぁぁぁ!」


バシィッ!


沙々「がああっ!」

ほむら「!?」

まどか「えっ!?」

沙々「ああっ!く……うっ!」

沙々「て、手が……くぅっ、うぅぅ……!」

ほむら「な……何……!?」


パシッ

「ちょっと『遅くして』……ソウルジェムは回収させてもらったよ」

「ここに来ることも予測通りね……ただちょっと、様子を見させてもらっていたわ」


ソーニャ「来るのに結構かかったな。ここに住んでるんじゃなかったか?」

「えぇ……ですが、色々準備してまして」

「ごめんなさーい」

ソーニャ「そっちはともかくお前のノリが苦手だ」

「ええー……」

あぎり「お疲れさまです~」

「いえ、呉識さんこそ、ご苦労さまでした」

「お世話になってますよ。はい」


まどか「あ……あなたは……」

ほむら「そ、そんな……どうして……」


ほむら「み、美国織莉子!?呉キリカ!?」


優木沙々の手に、光の玉がぶつかった。

そしてソウルジェムを落とした。

その瞬間……黒い影の、残像のような物が視界に現れ、落とした宝石を奪い取った。

黒い影だった人型はその手にソウルジェムを持っている。……呉キリカ。

ゆったりと歩きその元に寄る白いカーテンのような姿。……美国織莉子。

二人が現れたのは予想外ではあるが……それはまだいい。

しかし……何故、呉識さんとソーニャさんと普通に話している?


織莉子さんとキリカさん。

優木沙々って人を知っている二人がここに来たのはまだ何となくわかります。キュゥべえから聞いたとか何とかで……。

でも、あぎりさんとソーニャさんっていう人……と知り合いなの?

そうなると、ほむらちゃんが攫われちゃったことを、どういう視点で見ていたの?

え?何?えっと……うん?

一体どうなってるの?

色々あって混乱しちゃって……考えがまとまらない。



織莉子「どうも、暁美さん。お久しぶり」

キリカ「君とはワルプルギスの夜以来になるね。ははっ、ほんとお久しぶりだよ」

ソーニャ「ん?何だほむら」

ソーニャ「こいつらと知り合いだったのか」

ほむら「し、知り合いもなにも……」

あぎり「同じ魔法少女なんですってね」

まどか「…………」

ソーニャ「世間は狭いな」

ソーニャ「ちょくちょく話には出てたと思うが……」

ソーニャ「見滝原にも組織の目、手足がある」

ソーニャ「それがこいつらだ。織莉子とキリカ」

ソーニャ「つい最近入った新人だ。まぁ、私達の後輩にあたる。一応」


沙々「う、うああ……ああ……お、お前ら……!」

キリカ「はぁ……また会うとは思わなかったよ」

織莉子「いつぞやは世話になったわ」

沙々「う、うぅぅう……!うっ、うぅ……!」

あぎり「お知り合いですか?」

織莉子「えぇ、まぁ、一応……」

あぎり「じゃあ縛っておいて。はい、紐」スッ

キリカ「あっ、はい」

キリカ「……知り合いだから縛るっていう発想の飛躍」

あぎり「何ですか?」

キリカ「いいいいいえ!何でもないです!」


沙々「…………」

キリカ「何だか、急に静かになったな」

織莉子「よく見て、キリカ」

キリカ「なぁに?」

織莉子「気を失っているわ」

キリカ「え?何で?」

織莉子「さぁ……?取りあえず縛って」

キリカ「はぁーい」

キリカ「よいしょ、よいしょ」ギュッギュッ

キリカ「……どうやって結ぶの?」

織莉子「それはまぁ普通に……」

キリカ「普通って?蝶結び?」

織莉子「……えっと」


ソーニャ「……で、結局何だったんだ……ソウルジェムってのは」

あぎり「同じようなの持ってましたね」

ほむら「え?あ、は、はい……」

まどか「えっと、わたしは持ってませんけど……」

まどか「何て言うか、その……魔法少女の証というか……」

ほむら「そ、そう……それがないと死んだも同然、みたいな……」

ほむら「……ね?」

まどか「うん、うんっ」コクコク

ソーニャ「よくわからん」


死んだも同然……その通りです。

何で織莉子さんとキリカさんがここに、そしてこの二人と普通にお話しているのか、

そういう疑問はさておいて。

取りあえず、追いつめて自殺させたということにならなくてよかった……のかな?


ソーニャ「そ、そうだ!おい!お前等!」

キリカ「は、はいぃっ!?」

ソーニャ「やすなはどうなった!」

織莉子「わ、私に聞かれても……あ、暁美さん?」

ほむら「え、あ、はい」

ほむら「折部さんは、友人に私の家へ運ばせました」

ソーニャ「ほむらの家か……」

ソーニャ「よし、行ってくる」

ほむら「私の家の住所は……」

ソーニャ「わかってる」

ソーニャ「後は任せたぞあぎり」ダッ

あぎり「行ってらっしゃーい」



ほむら「……行っちゃった」

まどか「うん……」

あぎり「元気ですねー」


ソーニャさんはすごい勢いで走って行っちゃいました。

きっと、やすなさんのこと大切なんだな。

その気持ち、本当に、痛い程よくわかります。

ほむらちゃんのお家か……行きたいなって、思うところだけど。


あぎり「ところで、結べましたー?」

織莉子「あ、はい」

あぎり「うんこらしょっと」

あぎり「……それでは、この刺客は私が組織に引き渡しておきますね」

キリカ「あざっす!先輩!」

あぎり「だから二人に色々話してあげてね~」

織莉子「はい。よろしくお願いします」


試行錯誤の跡が見受けられる雑なグルグル巻きにされた刺客を引きずる呉識さん。

ひらひらと手を振って、そのまま埃まみれの廃墟の陰に消えていった。

取り残された三人の魔法少女とまどか。


ほむら「…………」

ほむら「あなた達と、二人は一体どういう関係なの?」


ほむらちゃんは織莉子さんとキリカさんの方を見て尋ねます。

尋ねられた、二人はお互いに顔を一度見合わせます。

そのタイミング寸分違わずほぼ同時。本当に仲が良いですね。


織莉子「そうね……ここで話すのも何だから……」

キリカ「喫茶店にでも……あ、いやそこで話すのはまずいか」

織莉子「私の家に行きましょう」

ほむら「……えぇ、お邪魔するわ」

まどか「……う、うん」


織莉子「あ、でも……ごめんなさい、鹿目さん」

まどか「へ?」

キリカ「この話は、ちょっと一般人にゃ手厳しいというか」

ほむら「…………」

織莉子「呉識さんが忍者ということはご存じでしょう」

キリカ「で、ソーニャさんは……『殺し屋』なんだ」

まどか「こ、ころ……!」

織莉子「言ってしまえば、暁美さんは『そういう事情』があるの。だから……」

まどか「…………」

ほむら「……なんだかんだで、あなた達が組織の一員であること」

ほむら「そして、私に対して居心地の良い待遇であったこと」

ほむら「なんとなく、線が繋がっていってるように思える」

ほむら「あなたが話したいことが何となくだけどある程度推測できるわ。……多分、私の今後を話すことになるのでしょう」

キリカ「勘がいいね。平和ボケしてるものかと思ってたよ」

ほむら「それなら……私のことだと言うのなら、まどかにも無関係の話じゃないわ」

ほむら「まどかには聞かせられない話だと言うなら仕方ないけれど……」

まどか「ほむらちゃん……」


織莉子「……相変わらず、ね」

キリカ「気持ちはわかるよ。うん」

キリカ「でもさ、言っておくけどさ……そんな感情論の通用する次元の話じゃない」

ほむら「いいえ、通用しなくはないわ。折部さんが良い例よ」

キリカ「いや、私はその折部って人は知らないんだけどさ……」

織莉子「…………」

ほむら「…………」


ほむらちゃんと織莉子さんがじっと見つめ合っています。

きっと、テレパシーでお話をしているんだ。

……わたしのわがままに、ほむらちゃんは交渉をしてくれている。

ほむらちゃんの優しさを改めて痛感すると同時に、

わたしの不甲斐なさが情けなく思う。


織莉子「わかったわ」

織莉子「鹿目さんなら口外することはない。そのことについては信用に値するわ」

織莉子「でも鹿目さんにとって、気持ちのいい話ではないとは思う」

織莉子「それでもいいのなら」


わたしはふと、いつか織莉子さんが話してくれた予知の内容……

ほむらちゃんと肩を並べてお茶を飲む。

というのを、思い出しました。

それは、これからのことなんだと、わたしは思いました。

織莉子さん達が話す内容。組織という言葉。殺し屋という言葉。

一緒に話を聞くことに後悔はありませんが、すごく不安を、予感させる。

……取りあえず、絶対にほむらちゃんの隣に座ろうと決意をしました。


――風見野


「うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」


ズザァァァッ!

「ついに、ついにッ!わたしの出番が来たァッ!」バーン

没キャラ「ソーニャ!あぎり!」

没キャラ「このわたしがわざわざ来てやったぞ!」

没キャラ「ふふ……だが勘違いするなよ!わたしはお前達を助けに来たんじゃないからな!」

没キャラ「何故なら!お前達を倒すのは!」

没キャラ「このわた……し……」

没キャラ「なん……だか……ら?」

没キャラ「……あ、あれ?」

没キャラ「……誰もいない」

没キャラ「…………」ポツーン

没キャラ「くそぅ」



没キャラ「おっかしいなぁ……」

没キャラ「ここにいるはずなのに……もしかして間違えちゃったかな」

没キャラ「……ハッ!まさかこのわたしに恐れを成して逃げ出したな!?」

没キャラ「くっくっく……逃げたなら仕方ない」

没キャラ「逃げるとは卑怯なり!」

没キャラ「はぁ……どうやって帰ろう」トボトボ


「……赤毛」

「髪を後ろに束ねている」

「幼い印象を受ける声」

「チラッと見える八重歯がチャームポイント」

「……間違いない!」

「こいつが……『サクラ』ッ!」

 
没キャラ「見ててくれ神様……!次こそは……」

「止まりなさい!」バッ

没キャラ「!?」

「ついに見つけたわ……サクラッ!」

没キャラ「え!?ええ!?何?何!」

「私の名前は浅古小巻!」

小巻「あんたを引っ捕らえに来た刺客よ!」

没キャラ「し、刺客!?」

没キャラ「わ、わたし狙われる側デビュー!?」

没キャラ「スポットライトがこのわたしに!」

没キャラ「ついにこのわたしの拳法が日の目に……!」

小巻「うるさいわよ!サクラ!」


没キャラ「サクラ?」

没キャラ「…………」

没キャラ「……人違いだよ」ガックシ

小巻「そんなはずないわ!」

小巻「聞かされた特徴からドンピシャなのよ!」

没キャラ「ち、違うって!」

小巻「じゃああんたは何者よ!」

小巻「名乗りなさいよ!」

没キャラ「な、名前……!?」

小巻「何年!何組!名前は!?」

没キャラ「名前……は……」


没キャラ「わたしの……名前は……えっとあのえとそのうんと……」ダラダラ

没キャラ「わたし名前はそのちょっとなんというかそれはあのね」

没キャラ「サクラなんていう可愛い名前とか憧れるけどいやそれは違くて」

没キャラ「わたし名前がそのあのその名前がこのどのものかの」

没キャラ「えっと……えっと……」

没キャラ「……うぅ」ジワッ

没キャラ「うぅぅぅ……」ポロポロ

小巻「あ、泣いた」

小巻「……えーっと」

小巻「の、逃れることができないと悟ったわね」

小巻「さぁ、私に捕らえられるといいわ」

小巻「えっと、手錠、手錠……」ゴソゴソ

「……何やってんだ?あんたら」


小巻「ッ!?」バッ

小巻「何者!?」

「あたしか?ここの魔法少女……佐倉杏子だ」

小巻「サクラ……佐倉!」

小巻「赤毛……ポニテ……八重歯……ロリ声……」

杏子「誰がロリ声だ」

小巻「あんたが佐倉杏子!」

杏子「だからそう言っただろ」

杏子「あんた、魔法少女だな。それなら狙いは魔法少女のこのあたしに決まってる」

杏子「バカだねあんた。なもん、指見りゃわかんだろ」

杏子「こいつが魔法少女に見えるか?ん?」

没キャラ「?」


小巻「う、うるさいわよ!あんた!」

杏子「……それで?あんたはあたしに何の用があるんだ?」

杏子「っていうかどこのどいつだ?」

QB「彼女は浅古小巻。見滝原の魔法少女だね」

杏子「魔法少女っつーのは見りゃわかる。こんな斧持ち歩いてる一般人いてたまるか」

QB「彼女とは知り合いかい?杏子」

杏子「いや、知らない。急に絡んできた」

QB「初対面ということかい?」

杏子「初対面なのにだよ」

没キャラ(この人は何と話してるんだろ……?)

小巻「…………」


小巻「佐倉……あんたのことはざっくりとした外見以外にも聞いている」

小巻「幻惑使いだそうね」

杏子「…………」

杏子「それはどうかな?」

小巻「今更しらばっくれるんじゃないわよ」

杏子「幻惑使いとして用があるなら当てが外れたなと言ってるんだよ」

小巻「……チッ、さっきからうざったいわね」

小巻「私に敗北して引っ捕らえてやるわ!」ジリッ

杏子「威勢がいいな。しかし、引っ捕らえるだと?」

杏子「確かにあまりよろしくないことはしているが……あんたに捕まる理由がないね」


小巻「佐倉……」

小巻「……あんたに個人的な恨みはないわ」

小巻「でも……あんたは捕まらなければならない」

小巻「あなたは引き替えなのよ……」

杏子「何を言ってんだ?引き替え?」

杏子「何か?あたしの身柄で何か報酬でももらえるとか?」

杏子「あんたも『組織』の人間なのか?」

小巻「私……『も』?」

杏子「いや、あたしは違うけど」

小巻「む、無駄話はもういいわ!」

小巻「幻惑使いのあんたを差し出せば、優木を救い出せるのよ!」


杏子「ユーキ?どっかで聞いたな……」

QB「優木沙々のことだと思うよ」

杏子「優木沙々……ああ、あいつか」

杏子「何だお前、それの知り合いなのか」

小巻「……そうよ」

小巻「共に『ヤツ』をギャフンと言わせようと結託した……」

小巻「私の親友よ!」

杏子「うわ、面倒くさそうな関係だな」

小巻「優木は、ああ見えて甘えん坊なのよ。可愛い妹のような子なのよ……腹黒いけど」

杏子「いや知らねぇよ。沙々とかいうヤツは会ったことねぇもん」



小巻「優木は突然、行方不明になったのよ……私は捜したわ」

小巻「そしたら、黒ずくめの女が現れて……」

杏子(うっわ胡散くせー)

小巻「佐倉……あんたの幻惑魔法が欲しいそうだった」

小巻「それで、あんたを引っ捕らえれば、優木を取り戻せる……と!」

杏子「何だよいきなり自分語りしやがって……」

QB「杏子の幻惑魔法はその気になれば確かに強力だ」

QB「使いようによっては……」

杏子「やめろ」

杏子「あたしはもう幻惑魔法なんざ、ロッソのアレ以外使わないんだ」

小巻「あんたの主義なんてどうでもいいわ!」


杏子「……あっ」

杏子「浅古小巻……ああ、どっかで聞いたと思ったら」

杏子「織莉子の知り合いだな。さっきの『ヤツ』って織莉子のことか」

小巻「……!」

小巻「……美国を知っているの?」

杏子「ああ。あたしの仲間だ」

小巻「仲間……ですって……!?」

小巻「くそっ……」

小巻「……金かしら?」

杏子「……かつて、あたしと織莉子は敵同士だった」

杏子「しかし……なんだな。仲間のことをそう言われるのは腹立つね」

杏子「てめぇみたいな成金はむかっ腹が立つ」

小巻「ぐっ……!き、貴様……!」


杏子「織莉子とキリカから色々聞いてるんだよ」

杏子「何でもさ、お前、織莉子が気に入らないんだって?」

杏子「だけどあんたはその織莉子から直々と……」

杏子「ワルプルギスの夜の存在を教わって、共闘を持ちかけられたんだろう?」

小巻「…………」

杏子「ところがお前はそれに応じなかった。ま、織莉子の言うことを聞くとか何とかでちっぽけなプライド様が許さなかったんだろう」

杏子「それどころか、ワルプルギスの夜にビビッてちゃっかり見滝原を出ていった」

小巻「……っ!」

杏子「いや、まぁあの伝説級の魔女だ。逃げても誰も責めねぇよ」

杏子「ただ、織莉子とキリカは戦った」

杏子「倒せはしなかったが勝利して生き延びた。一方お前はすごすご帰ってきた」

小巻「…………」


杏子「そして、友達のためだか何だか知らないが、あたしを引っ捕らえようとしているな」

杏子「……ワルプルギスの夜に勝った一人のあたしとやろうってかい?」

杏子「いいぜ、早く帰りたいと思っていたとこだがな」

小巻「クッ……!」

小巻「う、うぅぅ……くっ……!」

小巻「ぐぬ、ぬ……!さ、佐倉……!」

小巻「や……やってやろうじゃない!かかってきなさいよ!」

杏子「…………」

杏子「沙々の居場所なら、あたしは知っているぞ」

杏子「織莉子から聞いた」

小巻「ッ!?」

小巻「何ですって!?ど、どこにいるの!」


杏子「見滝原さ。すれ違っちまったな」

小巻「そ、そんな……!」

杏子「それで、まぁ、織莉子の仲間が……うん、保護したのかな?知らないけど」

小巻「!」

杏子「あんたが織莉子に頼むなら……」

杏子「詳しいこと教えてくれるかもよ?あいつなら詳しく知ってるはずだ」

杏子「何せ保護した奴の仲間だからね」

小巻「…………」

小巻「…………優木」

小巻「……フン!誰が美国なんかの世話になるか!」ダッ


QB「行ってしまったね」

杏子「そうだな」

杏子「ま、あんなプライドの高い小物でも友情はそれなりに大事ってことか」


杏子「……やれやれ、大丈夫か?あんた」

没キャラ「…………」ポカーン

杏子「おーい?」

没キャラ「え、あ、えっと……あ、ありがとう」

没キャラ「おかげで……その、助かった……のかな」

杏子「どうだかねぇ……」

杏子「……あんた、旅行者かい?」

没キャラ「え?」

杏子「旅行者って成りじゃねぇな。何しに来た?」

没キャラ「え、えっと……」

没キャラ「ひ、人捜し」

杏子「あんたもかい」


杏子「そうだな……交番の場所でも教えようか?」

没キャラ「あ、ううん……いい。もう帰るよ」

杏子「帰る?人捜しなんじゃないのか?」

没キャラ「い、いや、もう大丈夫」

没キャラ「それじゃあ……駅、教えて。見滝原駅」

杏子「見滝原駅ぃ?ここ風見野だぞ?」

没キャラ「ええっ!?嘘だろ!?」

杏子「本当」

没キャラ「見滝原じゃない……」

杏子「隣だけどな」

没キャラ「……えっと、じゃあ、最寄り駅教えて」

杏子「あ、ああ……。……立てるか?手ぇ貸すか?」

没キャラ「…………」

杏子「あの変態……じゃなかった。変なヤツに襲われてたっぽいけど、怪我はしてないか?」

没キャラ「…………」ホロリ

杏子「ちょ……!」


杏子「お、お前何泣いてんだよ!」

没キャラ「え……?」

没キャラ「あ、あれ……なんでだろうな」

没キャラ「嬉しいはずなのに……何で涙が……」

没キャラ「こんなに優しくされたのって……ぐすっ」

没キャラ「あ、あはは……あれ、おかしいな……ひっく」

杏子「……あんたも苦労してんだな」

杏子「送ってやるよ。そんな遠くないからさ」

没キャラ「でも……そんな、悪いよ」

杏子「あぁ、気を使ってくれんのか。ヘッ、別にいいよ」

没キャラ「……ごめんね?」

杏子「気にすんな」


――見滝原


ソーニャ「……ここだ」

ソーニャ「場所は知っていたが……来るのは初めてだな」

ソーニャ「ここにやすなと……ほむらの友人がいるのか……?」

ピンポーン

ソーニャ「…………」

ドタドタガタガタガタ

ソーニャ(うるせぇ……)

ガチャッ

「ほむら!?」

ソーニャ「…………」

「誰!?」ビクッ

「が、外国人だ!どうしよ!」


「な、ないすとぅーみーとぅー!」

「うぇるかむさんきゅー!かもかも!あいむさやかみき!」

ソーニャ「何だお前……」

さやか「日本語!?」

さやか「喋れるなら初めから言ってくださいよ!ビビッたー!」

ソーニャ(何だこのやすな臭いガキは……)

ソーニャ「……お前がほむらの仲間か?」

さやか「え?あ、は、はい……仲間っていうか……」

さやか「あ……あたし、美樹さやかです。どうも」ペコッ

ソーニャ「今名乗っただろ」

さやか「あ、そうでしたね」


さやか「それで……その……」

ソーニャ「……私は」

さやか「あ、織莉子さんから聞きました」

さやか「ほむらを守ってくださったそうで……」

ソーニャ「ん?あぁ」

さやか「確か……そう、やすなさんの愛人」

ソーニャ「バカにしてんのか」

さやか「えへ、冗談スよ」

ソーニャ「……」イラッ

ソーニャ「おい貴様。私はふざけている程暇じゃないんだ」ギロッ

さやか「ひっ」ビクッ


ソーニャ「とっとと中に入れろ」

さやか「は、はい……」

さやか(怖ェェェ――!この人怖エェェ――!)

さやか(あぎりさんややすなさんの知り合いって聞いてたからフレンドリーな人かと思ったのに!)

さやか(怖い!怖いよぉー!)ビクビク

ソーニャ「やすなはどうした」

さやか「あ、その、まだ目を覚ましてないです……はい」

ソーニャ「……怪我は?」

さやか「し、してないであります!」

さやか(……でも、やすなさんが心配なのかな)

さやか(息切れはあんましてないけど顔が赤い……急いで来たんだろうね)

さやか(恐ろしいと思ったのは必死さの現れだったんだ!ってとこかな?)


ソーニャ「入らせてもらう」

さやか「どうぞどうぞ。あたしの家じゃありませんが」


ソーニャ「…………」

ソーニャ(……『向こう』に色々持ち出したことを含めても……何というか、質素だな)

ソーニャ(中学生の一人暮らしなんてそんなゴロゴロもの置かないもんなのかもしれないが……)

マミ「美樹さん。この方が……」

なぎさ「ガイジンさんなのです」

ゆま「な、ないとぅみとぅ。あいむゆまー」

さやか「ゆまちゃん。この人日本語オッケー」

ゆま「あ、なーんだ」

なぎさ「なぎさなのです」

マミ「……こんにちは、巴マミです。美国さんから聞いています」

ソーニャ(こいつらが……ほむらの……)

ソーニャ(……この小さい二人も魔法少女とやらなのか?)

ソーニャ(そして……)


やすな「…………」

ソーニャ「やすな……」

さやか「えぇ、はい。色々あって、こうして寝かせている所存にあります」

ソーニャ「……そうか」

ソーニャ「…………」

ゆま(キュゥべえにほむらお姉ちゃんの家に行くように言われて……)

ゆま(キョーコ置いてっちゃったのは気残りだけど、行ってみたら、このお姉ちゃんが寝ていて……)

ゆま(魔女の悪い空気とか何かそんな感じので倒れちゃったみたいで……)

ゆま(ゆまの治癒魔法で浄化をしたんだよね)

ゆま(このお姉ちゃんの体調は治せたと思うけど、体力がないとかで眠ったまま……)

ゆま(……って説明したいけど、このお姉さんは魔法少女じゃないんだよね)

なぎさ(教えて安心させたいよね)

ゆま(なぎさちゃん直接脳内に……!)


ソーニャ「……しかし、何だな」

さやか「?」

マミ「?」

ゆま「?」

なぎさ「?」

やすな「…………」

ソーニャ「……狭いんだが」

さやか「そ、そりゃ一人暮らしのあれですからね……」

マミ「その上布団も敷いてるから……」


さやか「でも何故か枕までないんスよね」

ゆま「いくら探してもなくって」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「気を失ったと聞いたが……何故だ?」

さやか「えーと、何でかと聞かれると……えっと……」

なぎさ「色々あったのです」

ソーニャ「……ふ、ふーん」

マミ(まぁ、実際は……)

マミ(孵化寸前のグリーフシードを携帯して、魔女の結界にしばらくいたから……)

マミ(その瘴気の影響を毒のように受けていて……)

マミ(それはもう取り払ったから大丈夫とは思うけど)

マミ(……なんて、言えないわよね)

なぎさ(教えて安心させたいよね)

ゆま(なぎさちゃん直接脳内に……!)


ソーニャ「……まぁ、大丈夫なんだろう?」

ゆま「任せてー」

なぎさ「なのですー」

マミ「体力さえ回復すれば目を覚ますかと思います」

さやか「安静にですね。はい」

ソーニャ「そうか……お前達が大丈夫だというなら」

ソーニャ「ほむらの仲間だから、信用はできる」

さやか「どやぁ……」

なぎさ「どやぁ……」

ソーニャ「何でドヤ顔なんだよ」

マミ「…………」


マミ「あの……ソーニャさん?」

ソーニャ「ん?」

マミ「暁美さんは……」

マミ「暁美さんは、どうしてあなた達の所へ連れて行かれたんですか?」

ゆま「あ、ゆまも知りたい」

なぎさ「なぎさも」

さやか「さやかちゃんも」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「お前達が気にすることじゃない……」

ソーニャ「……と、言いたいところだが」


ソーニャ「…………」

ゆま「?」

なぎさ「?」

ソーニャ「お前達……魔法少女なんだろ?」

マミ「えぇ……はい」

ゆま「うん」

なぎさ「なぎさもなのです」

さやか「あたしは違います」

ソーニャ「知らん」

ソーニャ「私は魔法少女じゃないし……」

ソーニャ「魔法少女のことなんて正直さっぱりわからん」


ソーニャ「しかし……魔法少女だと言うのなら……」

ソーニャ「お前達にも全く関係ない話でもないかもしれない」

マミ「……私達とも?」

ゆま「どういうことなの?」

ソーニャ「……それは、私の口からは言わないでおく」

さやか「えーっ、何ですかそれー気になる」

ソーニャ「いつか、知ることになるだろ」

さやか「ほぇー、焦らしますねぇ」

ソーニャ「焦らすも何もねぇよ」

なぎさ「いつか?」

ソーニャ「いつか」


ゆま「いつかは今じゃないよ」

マミ「どうしたの?」

ゆま「何でもないよ」

さやか「いつかと言われましても……ねぇ?」

なぎさ「ですです」

ソーニャ「いつかはいつかだ」

ソーニャ「問題は、それが誰から聞くのかだが……」

ソーニャ「……そう、だな」

ソーニャ「ほむらの口から聞かされることを、ちょっぴり期待する」

さやか「?」

ソーニャ「……ちょっぴりな。ちょっぴり」


織莉子さんの家。


テーブルを挟んで二対二。

紅茶が四つ。ケーキ四切れ。

織莉子さんとキリカさん。わたしとほむらちゃん。

ほむらちゃんは『向こう』での暮らしのことを話してくれました。

思ったよりも楽しくやっていたみたいです。

あぎりさんと一緒に暮らしてたって聞いて、ちょっとヤキモチ。

それで少し世間話をしたところで……本題に入りました。


織莉子「まず、鹿目さん……あなたに謝らないといけないことがあるの」

まどか「わたしに……?」

織莉子「えぇ……」

織莉子「ほら、佐倉さんとゆまちゃんの三人で来てくれたでしょ?」

まどか「はい」

織莉子「その時、予知で暁美さんの居場所はわからないと言ったわね?」


織莉子「あれ、嘘」

まどか「…………」


……私が『向こう』に行ってる間、見滝原でどういうことがあったのかはわからない。

まどかもまどかなりに、私を救おうとしてくれていたのね。

その事実だけで十二分に嬉しい。

一方で、下手に干渉して巻き込まれなくて本当に良かったと安堵の気持ちもある。


織莉子「私だって、予知能力の訓練を積んだんだもの。結構わかるわ」

キリカ「ワルプルギスの夜との戦いを通して成長したってとこだね」

織莉子「予知を使うことで、暁美さんはもちろん、呉識さんの周りのこと……優木さんのこともわかっていた」

織莉子「だけど、とても巻き込ませられない話だったから」

織莉子「みんな……あなたを組織の抗争に巻き込ませないためだったのよ」

織莉子「騙すようなことしてごめんなさい」


織莉子さんは頭をペコリと下げました。

それに続いて素速くキリカさんも、テーブルにおでこぶつけるくらいの勢いで。

二人はほむらちゃんだけじゃなくて、わたし達も護ろうとしていたんだ……。

わたしの命を狙ってた、この二人が……。何だか感慨深いものがあります。


まどか「そ、そんなっ、謝らないで……」

キリカ「そうはいかないよ。君は私達のことを信じてくれていたのに……」

キリカ「嘘をつくっていうことは裏切ることと同じさ」

まどか「……あ、ありがとうございます……何から何まで、本当に……」

織莉子「……ふふ、変な話ね」

織莉子「あなたを殺すために動いていた私達が、こうして頭を下げ合うなんて」

ほむら「…………」

まどか「そ、そうですね……あはは」


ほむら「……美国織莉子。呉キリカ」

キリカ「うん?」

ほむら「あなた達はどうして組織のことを知っていたの」

ほむら「どこであの二人と知り合ったの」

織莉子「…………」

キリカ「…………」

ほむら「それを話すためにこの場を用意したのでしょう?」


ほむらちゃんは、二人をまだフルネームで呼んでいる。

まだほむらちゃんは二人に対して心を開いていない……ってことになるのかな。

わたしはもう二人にはそれなりに慣れた。

ほむらちゃんも……仲良くしてもらいたいものです。



織莉子「……私の父のことはご存知かしら?」

まどか「?」

ほむら「……えぇ、知っているわ」

キリカ「まだ誰にも話してないはずだけど……どこかの時間軸で聞いたのかな」

ほむら「そうよ」

織莉子「まあ……鹿目さんに簡単な説明をすると、私の父は我ながらそれはそれは素晴らしい政治家だった」

織莉子「だけど、父は……汚職に手を染めて、そして自殺をしてしまった」

まどか「……!」

織莉子「そこから、私は……私の生活はおかしくなっていったのよ」

織莉子「それこそ、鹿目さん。あなたを殺すことを人生の目標と考えるくらいにね」

織莉子「そういう予知を見たのよ。あなたを抹殺しなければ世界が滅ぶって」



まどか「…………」

キリカ「…………」

織莉子「今はそういう予知は見えないけど……それはおいておきましょう。これは前置き、プロローグ」

織莉子「鹿目さん抹殺計画も失敗に終わりひと段落ついた時……」

織莉子「私とキリカは、秘密裏でお父様の死の真相を追ったわ」

織莉子「警察でも自殺と断定されたけれど……」

織莉子「私はどうしても、お父様が自殺だなんて納得いっていなかった」

織莉子「少なくとも、私一人残して自殺するような人じゃない。私はそう信じている」

ほむら「調べていったら……組織に?」

キリカ「そうなんだよね。まさかあんな大事になるとはね」

織莉子「それで色々あった後に、入らせてもらったのよ」

ほむら「……肝心なところがあやふやね」

キリカ「魔法少女の力を欲しがっててさ、本当に渡りに船だったね」


ほむら「……もしかして、だけど、ソーニャさんの組織がその……」

ほむら「自殺に見せかけての……隠蔽したとか」

織莉子「尋ねてみたところ『こっち』は関係なかったわ」

織莉子「大体、もしそうだったらこうしてソーニャさん達にお世話になってないわ」

ほむら「それは……まぁ……」

織莉子「結局未だにお父様の死の真相はわからないままだけど……」

キリカ「きっと、辿り着けるさ」

ほむら「……優木沙々の能力は洗脳と聞いたけど」

キリカ「うん。あいつが織莉子の御尊父の行動を操ったとか考えたんだけど、やっぱ時期とかが合わないんだよね」

織莉子「犯人に近づけるかもしれないけど復讐に許可がいるのがちょっとネックかしらね」

まどか「…………」

織莉子「……何てね、ふふ」


まどかの顔を見てか、美国織莉子は取り繕うように言った。

どんな顔をしているのか、首を回してまで見たいものではない。


まどか「あの……もしかして、なぎさちゃんって」

織莉子「なぎさちゃん?」

ほむら「なぎさ……そうだ。結局あの子は何だったの?」

ほむら「あなた達が預かっているそうだけど」

織莉子「あら、会ったのね」

ほむら「少しだけね」

まどか「なぎさちゃんて……その、組織と関わりが?」

織莉子「…………」

キリカ「…………」

キリカ「……ま、その辺りは秘密」

キリカ「なぎさの件は、あまり深く聞かないでほしいんだよね」

キリカ「公私混同っていうのかな?」

まどか「?」


キリカさんは笑って言いました。

同じようなことを前も聞いた気がします。

なぎさちゃん……前々から何だか不思議な子とは思っていた。

一体どういう事情が……。


織莉子「……条件を満たせば、暁美さんには教えてあげられるかも」

ほむら「……条件?」

ほむら「あの子の事情にはあまり興味は沸かないけど……何?」


美国織莉子はコホンと咳払いをして、背筋を伸ばした。

彼女にとって大切な話なのだろうか。

そして自身の膝を数秒見つめた後に、私の目を見る。


織莉子「……私達の仲間にならない?」

ほむら「……何ですって?」


織莉子さんは、照れくさそうに言いました。

わたしとほむらちゃんは、首を傾げるだけでした。


ほむら「仲間って……既にそうじゃない。一応」

織莉子「いえ、そういう意味じゃ……え、一応?」

織莉子「……ちょっとショック」

ほむら「……ご、ごめんなさい」

キリカ「……えっと、うん」

キリカ「要はさ、組織に入らないかって言うんだよ。ほむら」

ほむら「いや、言ってることはわかるわ……」

ほむら「だけど、私を組織にって……」

織莉子「呉識さんとソーニャさんは……あなたに色々教えたことでしょう」

ほむら「え、ええ……手裏剣と、刃物……」

織莉子「それは実は、私がお願いしたことなの」

ほむら「……!?」


美国織莉子が、あの二人に依頼した……!?

私に戦う力を教授してあげてほしいと……?

な、何でそんな……



織莉子「私達の同期になってもらいたくて依頼した……というところもあるのだけれどね」

織莉子「つまり、あの二人があなたに色々と……ある意味で商売道具の一部。それを教えたのは……」

織莉子「それは、あなたが後輩になる可能性があったから……よ」

まどか「ま、待ってくださいっ」

まどか「よ、よくわかりません」

ほむら「同じくよ。私に組織に入れと言っているのはわかるけど……何がどうなっているのよ」

織莉子「優木沙々サイドと少し被りますが……」

織莉子「武器を盗める技術はないにしても、その度量とそれらをバレずに隠し持てる能力……」

キリカ「まぁ、盾の能力だね」

織莉子「それに対しての、スカウトというものよ」

ほむら「スカウト……」

織莉子「時間を止めることができないのは知っているわ。だからその内容で推薦したのよ」


ほむら「……あれだけ気を遣ってくれてたのは、私が『後輩』になるかもしれなかったからなのね」

キリカ「まぁそれはその人達次第」

ほむら「……呉識さんにも、ソーニャさんにも、私はとても感謝している」

ほむら「あの二人が……いえ、折部さんもいたから、私は向こうでの生活は割と充実していた」

ほむら「可能なことなら、その恩に報いたいと思う」

ほむら「だけど……組織に『入る』となると……」

ほむら「こう言っては何だけど……殺し屋の仲間になるということじゃない」

織莉子「まぁそうですね」


私はただの一般人として過ごしたいが、

もしそういう存在になったら……平穏はないんじゃないだろうか。

そうなると、それは……。


キリカ「感謝しているって言うなら……私達もだよ」

キリカ「君に出会ったから、私は今こうして織莉子と一緒にいられる」

織莉子「そう。私もキリカ以外の人を信じられるようになったと言ってもいい」

織莉子「だからこういう形で報恩のアプローチをしてみたのよ。何であれ、あなたは欲していた戦力を手に入れられた」

ほむら「そ、それはそうだけど……」

織莉子「あのね……私、また、別の予知を見たの」

まどか「予知……?」

織莉子「今や遠い昔のことにも思える……撃退したワルプルギスの夜」

織莉子「まだヤツは生きている……」

織莉子「そして……そう遠くない未来に再び現れる」

ほむら「……!?」

織莉子「そういう予知を見たわ」



ワルプルギスの夜がまた現れる……!?

そう遠くない……そんな間を空けずに現れるというの……!?

確かに倒すことはできず、逃げられてしまった。

だけど……


織莉子「具体的にいつかはまだわからないし、場所も日本と限らない」

キリカ「今度こそ、倒そうと思うんだ。それが今の私達の生きる目標」

キリカ「その魔法少女の悲願に……協力してもらいたいと考えている」

織莉子「組織に入ることで……力をつけて」

ほむら「…………」

まどか「…………」

織莉子「魔法少女は、その存在を世間に知られてはいけないけれど……」

織莉子「その存在を許容してくれて、そしてある程度の社会的地位を保証してくれる。それが組織よ」


キリカ「まぁ、ね。別にさ、魔法少女とは言え、たかだか中学生」

キリカ「誰かを消せとか遺体を処理しろとか、そういう話じゃないんだよ

キリカ「……まぁ将来的にそれ紛いなこともするかもしれないけどさ」

まどか「……っ」

織莉子「たまに……例えば私で言えば予知で『仕事』のサポートをしたり、キリカの能力を使ったり……」

織莉子「あなたなら……所謂運び屋ね。武器とか運ぶとか……そういうお手伝いもある」

ほむら「……『そういうこと』に加担するのね」

キリカ「そう奇麗事だけの世界じゃないからね。そう推薦しちゃったしさ」

キリカ「まぁでもさっき言ったように私達はたかが中学生。そんな私達が基本的にすることと言ったら今のところいつもの通りグリーフシードを集めるだけだよ。ただ遠出することもあるかもってくらいさ」

キリカ「お給料出るよ」

ほむら「グリーフシード?……それは、組織に対しメリットはあるのかしら?」

織莉子「あるわ。組織にグリーフシードが必要な人がいるのだから」

キリカ「先輩魔法少女も、いるんだよ。数人だけだけどね」

キリカ「私達はまだ会ったことないんだけど、その先輩魔法少女の内一人が君のことを大層気に入ってるみたいなんだ」

キリカ「君が入ってきたらそれはとっても嬉しいなって言ってた」

ほむら「…………」


織莉子「あなたが盗んだ改造銃だけど……」

織莉子「実はあの銃を作ったのが、その先輩魔法少女なのよ」

ほむら「……そう、だったのね」

ほむら「じゃあ……その人によろしく言っておいて」

キリカ「だから会ったことないんだってば」

織莉子「……その武器は、元々魔女に対して特に効くよう、弾丸とか一つ一つご丁寧に微量の魔力が込められていたのよ。そういうのを作る能力」

織莉子「対ワルプルギスの夜を想定して作られたはいいけど……結局お眼鏡に適うの使い手がいなかった。しかもそもそもそれ以前に横領された」

キリカ「結局の所その武器でワルプルギスを殺すには至らなかったわけだけど……君が一番、その手作りを上手く使えるってんで会いたがってる」

キリカ「他の方は詳しくは知らない。何か色々研究してるんだってさ。魔法少女に関する何かかも」

織莉子「それと、あなたの盾に入れたグリーフシードは穢れない。食べ物も腐らない。その辺りにおいてはこの上ない素敵なレイトウコよ」

ほむら「人の能力を家電みたいに使うと言うの?」

キリカ「まぁそうだね。それ含めて組織の魔法少女達は君を欲しがっている」

まどか「…………」


まどか「でも……」

ほむら「……まどか?」

まどか「…………」


ソーニャさんって人はまだどんな人かよくわかんないけど、

あぎりさんは本当にほむらちゃんを護ってくれた。とっても素敵な人だってわかりました。

とは言え……忍者はともかくとして『殺し屋』って言葉が出てきました。

殺し屋が所属する組織……だから……。


キリカ「わかる。わかるよ。まどかの言いたいこと」

キリカ「組織だって『そういうとこ』だし、そういうこともするかもしれない。今はともかく将来的にはね」

キリカ「それを、ほむらにやらせたくないってんだろう?汚いモノに触らせたくないと」

織莉子「組織にこれ以上深く関われば、両親や鹿目さん達を悲しませることになるかもしれない」

織莉子「しかし、現実を言えば……いつまでもそのまま生き続けるのも難しいわ」

キリカ「残酷な言い方かもしれないけど、魔法少女って時点で取りあえず普通の生活には戻れないんだよね」

織莉子「大学へ行くことを考えているなら、大学受験と魔女狩りを並行することになるもの」

織莉子「まぁ、あなたならできなくはないでしょうけど……」


大学受験と両立する自信はないが……

常日頃から抱いていた不安を突きつけられた。

いつまでもまどかと一緒にいたい。

しかしそれはできない。それをはっきりと言われた。


ほむら「…………」

まどか「…………」


わかってました。

ほむらちゃんが魔法少女としわたしを護ってくれて……

そのせいで、ほむらちゃんの人生を変えてしまった。

ほむらちゃんの将来の道を狭めてしまった。罪悪感。


織莉子「……決定権はあなたにある」

織莉子「メリットもデメリットもいくらだって言えるけれど……」

織莉子「今これ以上話しても仕方ないわよね。あなたも疲れているでしょうし」



織莉子さんが思い出したかのように紅茶を啜りました。

そういえば、紅茶……。

……すっかり冷めちゃってる。


ほむら「……私」

キリカ「ん?」

ほむら「私は……」

まどか「……ほむらちゃん?」

織莉子「…………」

ほむら「魔法少女という立場上……」

ほむら「みんなといつまでも同じ時間を生きていられない」

ほむら「それは、寂しいことだけど仕方ないことだと思うけど覚悟が……」

ほむら「……できていた、つもりだった」



ほむら「だけど……少なくとも今はまだ……まどか……」

ほむら「みんなと、日常を過ごしていたい」

ほむら「こうして久しぶりに会えて、わかったの」

ほむら「友達と過ごせる日常に、私にはまだ未練がありすぎる……。覚悟なんて口だけ」

ほむら「……組織に入るのは魅力的とは思うけど……決心つかないわ」

ほむら「仮に入った後でも……いつでもどこでも会えたとしても……」

ほむら「入ってしまったら、単純に、まどかとは遠い世界の存在になる……ということよ」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「友達と過ごせる日常を大事にしたい」

織莉子「そう……ね。私も、そう思う」

キリカ「私は、織莉子と一緒なら、こういう生き方でいいと思ってる。少なくとも私の場合はそれで納得している」

キリカ「両親やまどか……君達には悪いとは思うけどね」

織莉子「あなたがそう考えるのも至極当然だと思うわ」


ほむら「……保留じゃあダメかしら」

織莉子「問題ないわ」

ほむら「それじゃ……それでお願いするわ」

ほむら「よろしく伝えておいて」

キリカ「了解」

織莉子「まぁ……日常を……と言っても、取りあえずもう少し向こうで過ごしてもらうのだけれどね」

まどか「え……ほむらちゃんまだ帰ってこないの?」

キリカ「そりゃ何も告げずに忽然と学校からお世話様ってのはいないからね」

ほむら「……その辺はまぁ、わかるわ。武器を盗んだ罰と受け取ることにする」

キリカ「ほう、それ以外は罪でないと?」

ほむら「そう思うことにしたわ」

キリカ「ははは、虫がいいねぇ」


織莉子「あ、そうだ」

織莉子「一応これ……組織の求人」

キリカ「聞きたいこととかあったらいつでも言っておくれ」

ほむら「求人あるんだ……」


織莉子さんがほむらちゃんに渡した一枚の紙。

どんなのか気になるけど、見えない。

ほむらちゃんは絶妙な角度でわたしの視界に文面が入らないようにしている……

そんな風に見えました。あまり関わらせたくないという意図を感じます。偶然かもだけれど。


織莉子「渡しはしたけど……」

織莉子「入る入らないはさておいて、今度あなたに魔法少女として、私の……」

織莉子「と、友だ……仲間として、仕事を手伝ってもらいたいの」

ほむら「仕事?」

織莉子「仕事とは言ったけど、ビラ配りとかそういうのと大差ないわ」

まどか「ビラ配りって……そ、その、そんなノリで組織……に誘うんですか?」


キリカ「んー、組織に誘うというにはちょっと違うかな?組織と裏で繋がっているチーム、的な?」

まどか「は、はぁ……」

織莉子「えっと、その魔法少女に一人候補がいましてね。いえ、もしかしたら二人になるかも」

キリカ「私は『両方』とも大っ嫌いなんだけどね、ほむら。君に同行を願いたい」

ほむら「……私達が、魔法少女を勧誘、と?」

織莉子「えぇ、皮肉なものよね」

織莉子「浅……じゃなくって、仕事の話はさておいて」

織莉子「少しでも加入することに対して前向きなら……暁美さん」

織莉子「巴さん達にも話だけはしておいて欲しいわ」

ほむら「……えぇ、そうね」

ほむら「考えておく」

まどか「…………」



蚊帳の外です。わたし。

組織がどうとか、わたしにはよくわかりません。

わかることと言えば……

ほむらちゃんの意志によっては、ほむらちゃんの将来が保証されるかも……?ってことかな。

しばらくはいつも通りみたいなことを言ってた。

しばらくっていつまでだろう。

いつまで一緒に、日常を過ごせるんだろう。

……悲しい気持ちになりました。

ほむらちゃんを守ってくれてたあぎりさんやソーニャさん。

ほむらちゃんを助けてくれた織莉子さんとキリカさんがいる。

ほむらちゃんの安否という観点で言えば……

この上ない安心感でしょう。


わたしはほむらちゃんが大好きです。


だからできることなら、ほむらちゃんとずっとずっと一緒にいたい。

一ヶ月も経たずに「ほむらちゃんがいないなんて耐えられないよ」と弱気になっていたわたしにとって……

将来的にほむらちゃんが「あっちの世界」に行って、それで会えなくなるとするならば……

とても悲しいし、嫌だで済むなら何度だって嫌だと言うことでしょう。

……でも、残念ながら、織莉子さんの言う通り。ほむらちゃんの言う通り。

魔法少女という時点で……

わたしの考える「ずっと」は……一緒にいられないのかもしれません。

いつお別れになるのか、わからない。

言ってしまえば、昨日の今日で亡くなっちゃう可能性も……ある。少なくとも「普通」よりずっと。

今こうしている間にも、マミさんも、杏子ちゃんもゆまちゃんもなぎさちゃんも、魔女と戦っているのかもしれない。

苦しめられている可能性は……結局、否定できない。

「あの人なら大丈夫」っていう、自信にしかならない。


わたしだって、わたしなりに、ほむらちゃんが、魔法少女のみんながそういう存在なんだって、

いつか悲しくて寂しいことに……ってのを覚悟をしようと、していたつもりです。

特にほむらちゃんは……わたしのために魔法少女になったようなもの。

そう思うと、わたしがほむらちゃんの未来を奪ってしまったんじゃないかと、

そう、思えてしまいます。罪悪感があります。

ほむらちゃんは、散々「わたし」に振り回されてきました。

だから、ほむらちゃんに「あっち」に行かないって選択をするのを期待するのは……図々しいことだと思います。

勿論、わたしには、嫌だと言う権利はない。

それを言うことは、ほむらちゃんを縛り付けることになるから。

これ以上、そういうことはできない。

ほむらちゃんが決めたことなら、それこそ覚悟をしなければなりません。

組織からの勧誘……これは、ほむらちゃんの未来が決まる道標。


ただ……ただ、今は保留です。

だからせめてわたしは……ほむらちゃんと同じく、今という日常を楽しもうと思います。

久しぶりだった分、思い切りほむらちゃんに抱きついて、ほむらちゃんに料理を教わって……

一緒に勉強して、たくさんお喋りして、いっぱい食べて、頭なでなでしてもらって……

お泊まりもしたい。同じお布団とお風呂に入りたい。

もっともっともっと、毎日を楽しみたい。

ほむらちゃんが守ってくれたわたしの日常を、いつまでも、ずっと噛みしめて。

一生の想い出にしたい。


……差しあたり、ワルプルギスの夜祝勝会プラスほむらちゃんおかえりパーティがしたいです。

チーズフォンデュとか用意したら、なぎさちゃんすごい喜ぶだろうな。

織莉子さんとキリカさんはもちろん、あぎりさん、やすなさん、ソーニャさんも呼んで。

きっと……ううん。絶対に楽しいことでしょう。

わさわさ騒ぎたいものです。


――夜


ソーニャ「…………」ピッ

ソーニャ「…………」

ソーニャ「もしもし、あぎりか」

あぎり『はーい』

あぎり『お疲れさまでしたー』

ソーニャ「ああ」

ソーニャ「どうだった?」

あぎり『どう、とは?』

ソーニャ「沙々とか言ったっけか。あの刺客のことだ」

ソーニャ「尋問に同行したんだろ?」

あぎり『はいー』


あぎり『目を覚ましたらとても取り乱してまして』

あぎり『証言も支離滅裂といいますか』

ソーニャ「何だそりゃ」

あぎり『記憶が混乱しているみたいなんですね』

ソーニャ「記憶が?」

ソーニャ「消されたというわけではないのか?私が操られていた間の記憶が……みたいな」

あぎり『刺客として活動していたことは断片的に覚えています』

あぎり『ですが、どこから指示されたとか、そういったものは殆ど覚えていない、わからないとのことです』

ソーニャ「……そっちでは何か言ってたか?そいつに関して」

あぎり『刺客もまた洗脳されていたのではないか、とのことです』

ソーニャ「洗脳?」

ソーニャ「また洗脳か……で、誰がそうだって?」

あぎり『魔法少女の方です』

ソーニャ「何という説得力だ……」


ソーニャ「……あまり有益な情報は得られそうにないな」

ソーニャ「で、そいつはどうするつもりだ?」

あぎり『実は彼女には捜索願が出されてまして』

あぎり『これ以上の拘束する意味もなさそうですし。明日には解放するそうです』

ソーニャ「ああ。わかった」

ソーニャ「……捨てゴマだった、と考えるのが自然か」

あぎり『私には何とも。ですが、その可能性もあり得ますね』

ソーニャ「……それで?」

ソーニャ「組織の裏切り者は誰だったのかわかったのか?」

あぎり『はい。三名でした』

ソーニャ「……そうか。だが、わかってよかった」

あぎり『ひとまず安心ですね』

ソーニャ「それで、そいつらは今どうしてる?」

あぎり『亡くなりました』


ソーニャ「……は?」

あぎり『身柄を確保して事情聴取と思った矢先にです』

ソーニャ「…………」

ソーニャ「もしかして……消されたのか?」

あぎり『病死だそうです』

ソーニャ「病気?」

あぎり『違うという声もあります』

ソーニャ「じゃあその声は何だと?」

あぎり『魔法少女の力じゃないか……と』

ソーニャ「また魔法少女か」

あぎり『何とも言えませんね』

ソーニャ「まぁいい。私達には魔法少女のことはよくわからんからな」

ソーニャ「その辺りは上の判断に任せよう」

あぎり『そうですね』


あぎり『ところでソーニャは今何してますか?』

ソーニャ「私か?」

あぎり『いつ戻られるのかなって』

ソーニャ「今はほむらの家でやすなを看ているところだ」

ソーニャ「帰るのは……そうだな、やすなの具合次第ってとこ」

あぎり『まだお目覚めになられてない?』

ソーニャ「あぁ……顔色はいいんだがな」

ソーニャ「そういうわけだからそっちは任せた」

あぎり『はい。わかりました』

あぎり『では、よろしくお伝えください』

ソーニャ「ああ」

あぎり『それで、結局どうなりましたか?』

ソーニャ「何が?」

あぎり『あの件ですよ』

ソーニャ「……気になるか?」

あぎり『はい』

ソーニャ「……ほむらを組織に勧誘する」

ソーニャ「織莉子が言うには――」


やすな「…………」

やすな「ん……」

やすな「……んん?」ムクッ

やすな「うーん……?」

やすな「……ぬぅ、頭痛が痛い」

やすな「……あれ?」

やすな「……ここ、どこ?」キョロキョロ

やすな「…………」

やすな「私、何してたんだっけ……?」

やすな「私は確か……えっと……」

やすな「刺客に捕まって……えっと……」

やすな「えっと、えっと……」ホワワン


――

――――


やすな「ねぇー、沙々ちゃん」

沙々「なんですか?」

やすな「本当にソーニャちゃん来るの?」

沙々「来る来る。超来る」

やすな「そう言ってずっと待ってるじゃない。まだ待つの?」

沙々「ま、もうちょっとですから。頼みますよ」

やすな「はぁ~い」

やすな「終わったらクリームパン奢ってくれるんだよね」

沙々「モチのロンです」

沙々「このままソーニャをわたしのとこに誘導すればいいんです」



沙々「そうすればサプライズパーティでソーニャとほむらとあぎりでワッショイ」

沙々「トモダチ、トモダチ」ワサワサ

やすな「トモダチ」ワサ

沙々「……ん」

沙々「もうすぐ来ますね」

やすな「わかるの?」

沙々「超わかりますよ」

やすな「ふーん?」

やすな「でも沙々ちゃんったらツンデレだね!」

やすな「みんなと友達になりたいからって爆弾とか使うなんて!」

沙々「だってだって、恥ずかしいんですものー」

沙々「わたし、シャイなんですぅー」



沙々「はぁ……バカだなコイツ」

やすな「え?」

沙々「いや、何でもないです」

やすな「恥ずかしいの範疇を越えてると思うなって」

沙々「しょうがないじゃん。しょうがないじゃん」

沙々「ダイナミック照れ隠し」

沙々「じゃあ……またね。よろしくお願いしますよ」

やすな「うん。沙々ちゃん」

沙々「…………待ってて。小巻さん」

沙々「ほむらさえ……ほむらさえ差し出せば……また、あなたに……」

やすな「沙々ちゃん?」

沙々「え?あ、いえいえ、何でもないですよ」




「やすな!」


やすな「あ」

やすな「ソーニャちゃん!」

ソーニャ「な、何でお前ここにいるんだ!?」

やすな「ん?」

ソーニャ「刺客に攫われたとかあったが……どこかで見ているのか?」

やすな「……わからない」

ソーニャ「わからない?」

やすな「す、隙を見て逃げちゃった」

ソーニャ「何?逃げたぁ?」

やすな「うん。案外余裕だったよ」

ソーニャ「よ、よく逃げれたな……」

やすな「やっぱり殺し屋ってみんなマヌケなんだなって思ってしまうのでした」

ソーニャ「おい」


やすな「ソーニャちゃんこそ、本当に見滝原に来ちゃうなんて……」

ソーニャ「なんだ?」

やすな「……私を助けに来てくれたんだね」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「別に……お前のことなんてどうでもいい……」

ソーニャ「知り合いが組織の事情に巻き込まれたとなったら胸糞悪いからな」

やすな「ツンデレ乙!」

ソーニャ「うるせぇ!」

やすな「でも何にしても……私のこと心配してくれてたんだね、ソーニャちゃん」

やすな「えへへ、嬉しい」

ソーニャ「……ふん」




ソーニャ「まぁいい」

ソーニャ「助かったってならそれでいい、すぐに戻ろう」

やすな「うん」

ソーニャ「怪我とかしてないか?」

やすな「大丈夫だよ。ありがとう」

ソーニャ「…………」

ソーニャ「お前を攫ったヤツのこととか色々聞かせてもらうからな」

やすな「色々……?スリーサイズとか?」

やすな「このスケベ!」

ソーニャ「ふざけてるとブッ飛ばすぞ」

やすな「ごめんなさい」

ソーニャ「ここなら……そうだな」


ソーニャ「やすな。見滝原にも組織の人間がいる」

ソーニャ「今からとりあえずそいつらのとこに行く。そこで話を聞くからな」

やすな「ソーニャちゃんの友達?」

ソーニャ「……組織に入ってまだ日も浅いから何とも言えない」

やすな「……ねぇ、ソーニャちゃん。その前にさ」

ソーニャ「ん?」

やすな「ちょっと……時間、いいかな?」

ソーニャ「あ?何だよ。後にしろ後に」

やすな「ね、いいからいいから」

ソーニャ「ったく……少しだけだぞ。コンビニにでも行くつもりか?」


沙々「……くふふ」


――――

――



やすな「そうだ……何でかわかんないけど、私……刺客と協力なんかしちゃってて……」

やすな「何でそんなことしてたんだろう……?」

やすな「それで、その後、ほむらちゃんの友達の家に行って……」

やすな「それで会いに行って……」

やすな「会って……それから……」

やすな「……どうしたんだったっけ」

やすな「うーん……」

やすな「ダメだ……なんか思い出せない」

やすな「そもそもここどこなんだろう」


「……やっと起きたか」




やすな「あ、ソーニャちゃん」

やすな「あれ?誰かと電話してたの?」

ソーニャ「ん?あぁ、まぁな」

ソーニャ「具合はどうだ」

やすな「具合。……えっと、うん。特に何ともないけど……」

ソーニャ「そうか」

やすな「うーん」

やすな「私、ほむらちゃんのお友達のとこに行ったのまではぼんやりと覚えてる気がするんだけど……」

やすな「確か、まどかちゃんって名前に覚えがあるよ」

ソーニャ「そうか」

やすな「っていうかここどこ?」

ソーニャ「ここは……」



やすな「ハッ!」

やすな「ま、まさか今度こそソーニャちゃんち!?」

やすな「意外に和風!」

ソーニャ「ほむらの家だ」

やすな「あ、なんだ」

やすな「ほほう……ほむらちゃんのお家ね」キョロキョロ

やすな「……何にもないね」

ソーニャ「ああ」

やすな「ぬいぐるみの一つでも置けばいいのに」

やすな「そうだ!今度ぬいぐるみ作ってあげよう!」

やすな「ほむらちゃんならソーニャちゃんみたいに乱暴にしないだろうし」ジトー

ソーニャ「需要と供給ってもんがあることを学べ」

やすな「それで、そのほむらちゃんは?」

やすな「……って外暗っ!こんな夜に夜遊びですか!ほむらちゃんが不良になった!」

ソーニャ「ちげぇよ」


ソーニャ「泊まるんだってよ」

やすな「あ、お友達のとこ?」

ソーニャ「ああ。まあ久しぶりに会えたんだからな」

やすな「そっかぁーそれならたくさんお話したいよね」

ソーニャ「ああ」

やすな「ソーニャちゃんは行かなかったの?」

ソーニャ「行ってどうすんだよ。お前もいるのに」

やすな「おやおや?心配してくれてるの?」ニヤニヤ

ソーニャ「バカ、そんな訳あるか」

ソーニャ「お前が一人目を覚ましたら私の家と勘違いして荒らすだろうからな」

ソーニャ「私が責任を持ってお前を看てんだよ」

やすな「……そっか」

ソーニャ(……洗脳されてほむらを殴っちまったらしいからな)

ソーニャ(記憶にないが……その詫びみたいなもんだ)

ソーニャ(何て言ったらまたうるさいだろうなコイツ)

やすな「……ありがとう。ソーニャちゃん」

ソーニャ「……ふん」


ソーニャ「ったく……ほむらもほむらだ」

ソーニャ「他人を置いていくなんて無用心な」

やすな「信用してくれてるんだよ」

やすな「それにやっと友達に会えたんだもん」

やすな「ほむらちゃん、元の生活に戻れたんだよね?」

ソーニャ「……ああ」

やすな「よかった。ほむらちゃん、寂しがってたもんね」

やすな「めでたしめでたしだね」

ソーニャ「…………」


『みんなと、日常を過ごしていたい』

『友達と過ごせる日常を大事にしたい』


ソーニャ「……なぁ……やすな?」

やすな「何?」



ソーニャ「……あー」

ソーニャ「その……何だ……えっと」

やすな「?」

ソーニャ「……な、何か」

やすな「うん?」

ソーニャ「……食いたい物とかあるか?」

やすな「え?」

ソーニャ「もう元気そうだが、まだ安静にした方がいい」

やすな「食べたい物かぁ……」グー

やすな「そういえばお腹空いたなー」

ソーニャ「ずっと寝てたからな」

ソーニャ「コンビニで何か買ってきてやるよ」

やすな「!」


やすな「ソーニャちゃんが……私に?」

ソーニャ「ああ」

やすな「奢り?」

ソーニャ「……ああ」

やすな「…………」ジー

ソーニャ「な、なんだよ」

やすな「そ、ソーニャちゃんが優しい……!?」

やすな「気持ち悪っ」

ソーニャ「て、てめぇ……!」ギリッ

やすな「う、うそうそ!ありがとうサンキュー!ソーニャちゃん!」

やすな「そ、それじゃあね、私焼きそばパンが食べたいな!」

ソーニャ「……わかった。買ってこよう」


やすな「それとクリームパンと唐揚げとアイスと桃缶とー」

ソーニャ「…………」

やすな「魚肉ソーセージとチーズケーキ食べたいな。あ、飲み物はオレンジジュースね!」

ソーニャ「……随分と食うな」

やすな「それと漫画欲しい!」

ソーニャ「は?」

やすな「漫画キャンデロロットときらきらマギカの今月号!」

ソーニャ「おい。食い物と言ったはずだ」

やすな「えー、せっかくソーニャちゃんが奢ってくれるって言うもんだからさぁ」

ソーニャ「食い物と言ったはずだぞ」

ソーニャ「まず食い物に限らなかったにしても流石に図々しいと自重しろよ」


やすな「え、だってソーニャちゃんだし」

ソーニャ「あ?」

やすな「仕方ないなー。漫画は私がお金出すから」

ソーニャ「いや、そういうことじゃねぇよ」

ソーニャ「兎に角、金は私が出してやるが……」

ソーニャ「食い物しか買ってこないからな」

やすな「えー」

ソーニャ「何が不服なんだ」

やすな「折角の機会なんだからさ?」

ソーニャ「何の機会だよ」

やすな「ソーニャちゃんを色々パシらせたいなって思っ――」



ソーニャ「調子に乗んなッ!」

ガツンッ

やすな「ギャフッ!」


ソーニャちゃんはぶっきらぼうで乱暴者。

あぎりさんは何を考えてるかわからない。

ほむらちゃんは素直でいい子だけど何やら秘密を持っている。

私の知らない別の世界でも生きている人達。

……本当に、本当に癖の強い人達です。

だけど……

私の、最高の友達なのです。

これで完結。お疲れさま。あとあけおめ
2013年に終われなかったよ!
2014年はきっとキルミーベイベー復活の年になるよ。だから問題ないよ

しかしまさか内容も投下期間もこんな長くなるとは思わなかったなぁ……
内容はともかくデータはバックアップを取っておくとよいでしょう

と、いうことで、お付き合いありがとうございました。迎春。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom