岡部「愚行移山の」 ほむら「オブサーバーズ」 まどか「二スレ目だよ♪」 (806)

 
 タイトル通り、Steins;Gate と 魔法少女まどか☆マギカのクロスとなります。

 前スレ↓
 
 岡部「愚行移山の」 ほむら「オブサーバーズ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366463001/)

 捏造設定、性格改変、独自解釈、地の分

 これらが大丈夫な人はお進みください。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376828016



 第27話;『無意味だとは思わないのかい?』



 こうして、岡部とほむらの戦いは始まった。
 
 一度目の時間跳躍はDメール研究に全てを捧げた。

 起こりうる全ての出来事を無視し、Dメールを完成させることに全てを捧げた。

 しかし、Dメールは完成せず、一度目は失敗に終わった。


 二度目の時間跳躍はDメール研究と平行してワルプルギスの夜の妥当を視野に入れることとなった。

 手始めに、二人が揃えることの出来る限界までの武器を手に入れた。

 警察、自衛隊基地、アメリカ軍基地……
 二人で作業を分担したため、随分と捗った。
 岡部はほむらの時間停止も使えるらしい。

 そして二人でワルプルギスに挑んだ。

 結果は失敗に終わった。


 三度目の時間跳躍はまどかを生き残らせるためだけに戦った。

 どうにかこうにかまどかを説得し、外国へ行かせることだけは出来た。
 が、しかし

 QBの囁きに耐えられなかったまどかは勝手に帰国。
 QBと契約して魔法少女となった。

 結果は失敗。


 四度目の時間跳躍は二人では無理だと岡部が提唱した。
 
 よって二人は魔法少女の部隊を編成する。
 各地の魔法少女に応援要請をし、二桁以上の数の魔法少女の部隊を編成するのだ。
 そのために、5回目、から10回目までの時間跳躍をした。
 そうして上手く事を運び、ついに決戦となった。
 が、そこに来るまでに、不慮の事故で魔法少女の大半が死亡。
 どうやら大人数で戦ってはいけないようだと結論を出した。


 失敗


 次も失敗した。

 Dメールは未だに完成しない。

 その次も失敗した。

 Dメールは完成しない。


 次も失敗。

 Dメールは未完成。

 失敗。

 未完成。

 失敗。

 未完成。

 失敗。

 未完成。

 失敗。

 未完成。

 失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗。
 
 未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成。

 失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗。
 
 未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成未完成。

 そうして数えるのも億劫になるほど二人がタイムリープしたとき、ふと岡部が言った。








岡部「やはり、ダルではないとDメールは完成しないのか?」


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岡部「やはり、ダルではないとDメールは完成しないのか?」

 ほむらの家で、椅子に力無く腰掛けた岡部は唐突に呟いた。

ほむら「……どう言うこと?」

 ほむらは岡部の言葉の真意を聞くため、俯いた顔を上げる。
 しかし、その動きは緩慢で、出来の悪いスローモーションの様だった。
 ほむらの言葉に、岡部も同じく緩慢な動作で頷いた。

岡部「……ああ、……昔、言ったよな? 前の世界線でタイムマシンを開発したのは、……助手と、ダルだった」

ほむら「…………?」

 ほむらは岡部の話の全貌を把握できない。 
 こういうことは多々あった。
 岡部はほむらのことを理解しているのに、ほむらは岡部倫太郎を理解することが出来ないでいた。

岡部「Dメールは、もしかしたら……」

 ―――― ダルにしか、作れないのかもしれない。

 そう言うや否や、岡部はゆっくりと立ち上がる。
 ほむらは未だに戸惑っていた。

ほむら「何をするの?」

 岡部は小さく答えた。

岡部「……秋葉原に行く」

 そう言って岡部は歩き去ってしまう。
 ほむらは慌てて立ち上がる。

ほむら「ま、待ちなさい……。置いていかないで……」

 そう呟いて、岡部を追いかけていった。



 数時間後;秋葉原



Qβ『いきなり秋葉原に行こうとか……何かあったの?』

 Qβの訝しげな声が響く。
 しかし、岡部は短く答えた。

岡部「ダルを探し、Dメールを作らせる」

Qβ『……至と由季は巻き込まないんじゃなかったのかい?』

 岡部の返答に、Qβは渋い声色で答える。
 しかし、それにも岡部の鉄仮面のような無表情が揺らぐ事は無かった。 

岡部「……心境の変化だよ」

 そんなことを嘯く。
 その声は、ほむらが遙かな昔に聞いた、自信に満ちた声からはほど遠く、ただの機械のようだった。

Qβ『……まあ、別にいいけどさ……、それよりも』

 ぼそぼそと呟き、Qβはほむらを横目で見つめる。

Qβ『……この無表情鉄仮面美少女は何処の何方かな? 
   凶真がロリコンだとは思いたくないけど、君の助手の様な雰囲気を漂わせてるこの子は一体?』

 何も知らないQβの問いに、ほむらは心の内で溜息をついた。
 
ほむら(……そういえば、こいつより私の方が岡部との付き合いが長いのよね……)

 ふと、そんなことを思う。


 第三者から見れば、まだ出会って2日ほどしか経っていないが、
 ほむらの主観から見れば、かれこれ軽く年単位となる付き合いなのだった。

岡部「……」

 Qβの、無知故の問いに、岡部の表情が、微かに歪んだ。
 それはほむらにしか分からないぐらいだったが、確かに泣きそうな表情になった。

岡部「……助手などではない」

 岡部は小さく否定する。
 その手が、小さく震えたのをほむらは見ていた。
 そして、そのまま岡部は小さく言った。

岡部「こいつは、俺の――――」














 ―――― 同類、だ。  

 その言葉は雑踏に消え、ほむら以外の、誰にも届くことはなかった。



 メイクイーン+ニャン×2



メイド達「お帰りニャさいませ♪ ご主人様っ♪」

 その店内に入ると、ほむらにとっては見慣れない景色が広がっていた。
 明るい店内、奇妙な衣装の店員、奇妙な言葉。
 何もかもが見慣れない場所だ。
 そして、見慣れない服を着ている店員の中の一人が、ほむらと岡部の方へ歩いてきた。

フェイリス「お帰りニャさいませ♪ ご主人様っ……って凶真!! 久しぶりだニャ♪」

 岡部の事を凶真と呼んだのは、ピンク色の髪をツーテールに纏めている美人だった。
 
岡部「……覚えていたのか」

 岡部の声に、僅かな驚きが混じる。
 ほむらもそうなのだが、最近の岡部はあまり感情を動かすことが無い。
 そのため、岡部の動揺はほむらにとって新鮮なモノだった。

 
フェイリス「当然ニャ!! フェイリスはメイクイーン+ニャン×2 
      に来てくれたご主人様とお嬢様のことは全員覚えてるニャ!!」


 フンスと胸を張るフェイリスと名乗ったメイド。
 岡部は小さく口の端を歪めた。

岡部「……おもしろい冗談だ」ククッ

フェイリス「冗談じゃないニャ!! フェイリスはみなさまのメイドとして・・・・・・ニャ?」

 フェイリスはそこまで反論すると、岡部の横にいたほむらのことに気づいたらしい。
 おもしろい物を見たようにニヤニヤと笑いを浮かべた。


フェイリス「お帰りニャさいませ♪ お嬢様♪ ……で、凶真~♪
       このとんでもなく美少女のお嬢様は凶真の彼女かニャ?」

岡部・ほむら「「違う(わ)」」

 フェイリスの下らない邪推を岡部とほむらは同時に否定する。

フェイリス「違ったかニャ……。じゃあ、お二人はどういうご関係ニャ?」

 否定したにも関わらず、フェイリスがしつこく岡部とほむらにの関係について訪ねて来た。
 岡部はいつの間にか元の無感情な声に戻り、答えた。

岡部「まあ、いろいろあってな……」

 とは言っても、魔法少女のことなど話すわけにもいかず、岡部ははぐらかす。
 が、しかし

フェイリス「ニャるほど……。凶真とお嬢様もアノ事件の被害者だったというわけニャ……」

ほむら「!!」

 何かを知っているかのような口調に、ほむらは自分達のことがばれたのではないかと冷や汗をかく。
 すると、焦るほむらの脳内で岡部の声が響いた。

岡部『大丈夫だ、コイツの言っていることは全て妄想だ。気にすることはない』

ほむら『も、妄想?』

岡部『ああ、だから適当に聞き流しておけ』


 岡部はそこまで念話で伝えると、再びフェイリスと話し始めた。

岡部「……早く席に案内してくれないか? 客がつまっていると思うのだが」

フェイリス「ニャニャ!! そういえばそうだったニャ!! じゃあ二人ともこっちに来てくださいニャん♪」

 フェイリスに連れられ、岡部とほむらは席に着く。
 
ほむら「……」キョロキョロ

 前述の通り、ほむらにとってはあまり見慣れない場所なので、ほむらは辺りを見回してしまう。
 明るい店内と、自分達の持つ空気が余りにも不釣り合いだと思った。
 岡部の方を見ると、岡部も辺りを見回していた。
 しかし、意味合いはほむらと違ったらしい。

岡部「フェイリス、ダルはいないのか?」

 フェイリスに岡部が訪ねる。
 どうやら、岡部はここでダルという人物を捜すらしい。
 ダルという男はこの店によく来るのだろうか。
 岡部の問いに、フェイリスの顔が微かに陰った。

フェイリス「……ダルニャンは、最近来ないニャ……、ユキニャンも。
      この前までは毎日来てたのに……ニャにかあったのか心配ニャ……」

 フェイリスは沈んだ声で言った。
 それを聞いてほむらは、どうやらダルという人物が今日この店に来る確率は低いだろうなと
 思っただけだったが、岡部の方を見てみると、どうやら岡部は違う考えのようだった。

岡部「何……? ダルが、来ていないだと?」

 岡部の顔は青くなっていた。
 同じ店に毎日来なくても、そうおかしいことではないとほむらは思ったが、岡部にとっては違うらしい。

岡部「済まないフェイリス、急用ができた」

 そう言うと、座ったばかりの席を立ち上がり、店を出ていこうとする。

フェイリス「ニャ!? ご注文はいいのかニャ!?」

岡部「いらん、これで許してくれ」

 焦るフェイリスの声に、岡部は懐から財布を取り出すと千円札を取り出し、テーブルに叩きつける。

フェイリス「ニャ!? こんなの受け取れニャいニャ!!」

 さらにフェイリスが焦った様子を見せる。
 が、岡部はさっさと店を出ていってしまった。

ほむら「ま、待ちなさい……」

 ほむらも突然の岡部の豹変に戸惑いつつも、岡部を追って店を後にした。



 秋葉原;街中


 
岡部「いいか!! 手分けしてダルを捜せ!! 一刻も早く見つけろ!!」

 岡部が悲鳴にも似た声を出した。
 ほむらは困惑する。

ほむら「私、そのダルって言う人の顔も知らないわ」

 ほむらの言葉に、岡部は苛立ったように頭を掻く。

岡部「俺とQβでダルを捜す。貴様はそれらしい人物を見かけたら俺に連絡しろ」

 いつもとは違う、感情的な口調で吐き捨てる。
 その態度に、ほむらは少々顔を強張らせた。

ほむら「私、この街にも詳しくないのだけれど」

岡部「なら俺に付いてこい!!」

ほむら「分かったわ」

 苛立たしげに吐き出された言葉に、ほむらは従うことにした。



 街中



 かくして、岡部とほむらが一緒にダルを捜し、
 Qβはダルのいる場所にいくつか心当たりがあるというので、単独行動させることになった。

 そうして数時間後、ダルが見つからず、憔悴する岡部にQβからの念話が届いた。

Qβ『凶真!! 至を見つけたよ!! 今から僕が指定する場所に来てくれ!!』

 もちろん岡部は素直にQβの指示に従った。

 場所は奇妙な衣服店だった。

ほむら「……この奥に?」

岡部「……彼奴らしい、な」

 この奇妙な衣服店、その先にダルと言われる人物が、居るらしかった。
 
ほむら「でも、この店って……」

岡部「ああ、ここは……」

Qβ『まあ、至の仕事場の一つだよ』

 その店は俗に言うコスプレ専門店だった。



 ダルの仕事場

 

 ダルこと、橋田至の仕事場に入ったほむらと岡部は絶句した。
 Qβは既にこの惨状を知っていたのか、短く呻き声を出しただけに留まる。

ほむら「……!!」

岡部「……これは」

 きらびやかな雰囲気を持つ店の隠し扉。
 その向こうに、ダルの仕事場があった。
 しかし、その雰囲気は同じ建物にありながら、店の雰囲気とは全く違う物だった。














 破壊

 破壊

 破壊

 破壊
 
 破壊

 パソコンは画面が砕かれCDは原型を無くしゲームはズタズタにされ本は全て契られ
 椅子は真っ二つになり机は割られ壁にはあちこち叩いた後があった。

 そして、その部屋の奥に、壁に背を預け、生きているのか死んでいるのか分からない人物がいた。

岡部「……ダル?」


 岡部が、恐る恐るといった風体で話しかける。
 幾度もの時間跳躍により、感情が磨耗しているにもかかわらず、
 その声には驚きと、そしてダルという人物に対する心配が含まれているようにほむらは感じた。
 
 そして、そんな岡部の声に、部屋の主はゆっくりと顔を上げた。

ダル「……誰?」

岡部「俺だ」

 掠れた声色の部屋の主に、岡部は短く答えた。
 それで伝わったようで

ダル「……ああ、岡部か」

 部屋の主は納得したように呟き、また顔を伏せた。
 その様子に岡部は顔をしかめる。

岡部「……一体、何があったのだ」

 その声に、しばらく見せたことのない心配そうな色が、再び含まれている。
 それに気づいたとき、ほんの微かにほむらの胸が痛んだ。
 しかし、部屋の主はそんな岡部の心配もよそに、虚ろな声を上げる。

ダル「ユキたんが……」


























 ―――― 死んだ。


岡部「!?」

Qβ『なっ……』

 その事実に、岡部だけでなく、これまでの状況を静観していたQβまでもが絶句する。

 ユキという人物を知らないほむらにとっては、あまり現実味のないことであったが。

ダル「いや、殺されたんだよ……、魔女に!! 僕はそれをただ……黙って……ウッ、オェェェェェェェェ!!!!」

岡部「ダル!?」

 虚ろに呟いていたと思っていたダルが、いきなり口元を押さえ、胃の中の物を吐き出す。

 が、数日間何も食べていないようで、胃液だけがその口から吐き出された。

岡部「大丈夫か?」

 岡部は、そんなダルに心配そうに駆け寄る。
 それを見たほむらの顔が、少しだけ歪んだことは誰にも知られることはなかった。
 もちろん、ほむら自身も気づかない。

ダル「……何だよ……あっち行けよ……」

 ダルは俯くと、再度虚ろな言葉を紡ぐ。
 岡部は、壁により掛かっているダルの元まで歩くと、片膝をついた。

岡部「いいか、ダル。よく聞くのだ」

 岡部はゆっくりと、しかしはっきりと言葉を紡ぐ。
 その言葉の力強さに、ダルだけではなく、
 Qβやほむらですらも岡部の紡ぐ言葉を、身じろぎ一つせずに聞いていた。


岡部「貴様は……」

 岡部が言葉を紡ぐ。 
 そこには、ほむらがかつて見た、力強さが備わっているように見えた。

岡部「阿万音由季を、救いたくはないか?」

 岡部の言葉に、しかしダルは力無くうなだれる。

ダル「そんなの、無理に決まってんだろ……常、考」

岡部「無理ではない!!」

 岡部はダルの言葉を否定した。

岡部「貴様だって知っているだろう? この世界には、道理を越えた力がある!!」

 しかし、その言葉がダルに届いた様子はない。

ダル「無理に決まってるだろ……? ユキたんは、由季は、死んだんだぞ?」

 否定の言葉を呟くダルの言葉に、意志も、気迫も何もない。
 あるのは、絶望と諦観。

岡部「……」

 岡部は、その言葉を聞くと、無言で立ち上がった。
 そして、大きく息を吸うと――――













岡部「貴様ァ!!」

 ―――― ダルを殴りつけた。


 岡部は元々非力なため、ダルをマンガのように吹き飛ばすことはそれこそなかったが、
 頬を殴られたダルは、驚いたように目を見開いた。

ダル「何、すんだよ……」

 ダルの睨みつける視線に、しかし岡部が怯むことはない。
 ダルに向かい、ほむらがあのとき聞いたような声で言った。

岡部「貴様の阿万音由季への思いはその程度だったのか? 
   <我が頼れる右手>はその程度の男だったのか? 
   貴様はスーパーハカーではなかったのか?」


ダル「……」

 岡部の激昂に、ダルはうるさそうに顔をしかめる。
 だがそれこそが、岡部の言葉がダルに届いている証拠でもあった。

岡部「貴様はッ!!」

 岡部は続ける。
 そして、最後の言葉を放った。

岡部「鈴羽との約束すらも、忘れてしまったと言うのか!?」

ダル「……だ、誰だよ。鈴羽って……」

 ダルは岡部の言葉に対し、否定の言葉をつなげる。
 しかし、その顔は先ほどより大きく歪められていた。
 まるで、大切な何かを失った喪失に耐えるような顔だった。

岡部「……阿万音鈴羽は貴様の娘だ。6年後に生まれてくる、貴様の娘だ。
   未来から、この世界の運命を変えるため、生涯をかけて戦った娘だ。まだ思い出せないのか!?」

ダル「……ッ!!」

 岡部の言葉に、ダルは苦しそうに顔を歪める。
 額には脂汗が浮かび、目から輝きは失われていっている。

岡部「思い出せよ!? 貴様は未来を変えると約束しただろう!? そう鈴羽に言っただろう!?」 

 なおも岡部は熱のこもった口調で続ける。
 ダルの顔は真っ青になり、目からは輝きが――――










ダル「ッ!!」

 ―――― 消えた。


 そして、新たな光が宿る。そうほむらには見えた。
       ・・・・
ダル「お、オカリン? SERNは、ラウンダーはどうしたお!? いや、そうじゃなくて、ユキたんが死んで……。
   ……何だこれ、僕の記憶が、二つある……?」

 突如、ダルの口調が変化する。
 岡部は信じられない物を見るかのような目でダルを見ていた。

岡部「まさか、貴様、リーディング・シュタイナーを……?」

ダル「……そうかもしんね。今の僕には、オカリン達と過ごした記憶と、ユキたんと過ごした記憶の、二通りがあるお」

 先ほどまでの絶望に満ちた表情から一転。
 驚愕の表情になる岡部とダル。
 ほむらには話の内容が理解できなかった。

ほむら「どういうことなの? リーディングシュタイナーってのは岡部しか持っていない能力じゃないの?」

岡部「いや、リーディングシュタイナーは、誰しもが持つ能力だ。……いろいろと個人差はあるがな」

 岡部は首を振ってほむらの問いに答える。
 そこに、ダルの声が響いた。
                  ・・
ダル「オカリン、僕たちは今、何処にいるんだお?」

 ほむらには意味不明な問いに、岡部は淀み無く返す。

岡部「少なくとも、α世界線や、β世界線ではないことは確かだ」

ダル「まあだいたい予想はしてたけど、やっぱそうか……」

岡部「ここは最悪の世界線だ。俺はここから抜け出したい、
   そのためにはDメールの再開発が必要だ。……協力してくれるな?」

ダル「言うまでもないだろ。ユキたんが死ぬ時点でこの世界に未練はないお。
   でもオカリン、α世界線にたどり着いて、それからの勝算はあんの?」

岡部「無い。だが、進むしかない」

ダル「全く、やれやれだお……」

 ほむらが立ち入れないほどの隙のなさで会話をする岡部とダル。 
 ほむらが黙って見つめるうちに、大体の話は決まってしまった。



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 数日後



ダル「……出来たお」

 岡部の部屋でダルが真剣な面持ちで見つめるのは、電子レンジを魔改造した何か。 
 これこそが、岡部の言う電話レンジらしい。
 あまりにもガラクタに見えた。

岡部「まて、これまでも理論上は完成したのだが、肝心の放電を起こさなかった。実験するまでは、完成かどうか分からない」

 慎重に岡部が発言する。
 しかし、その顔には期待の色があった。

ダル「んじゃぁ、実験しますか。……つーか、世界も土地も変わったのに、まだ僕らブラウン氏の上で実験すんのね」

岡部「……まあ、それも因果という奴ではないか?」

ダル「……皮肉だな」 

 二人は、よく分からないことを話し、そして少しだけ笑った。

 そこには、確かな自信と期待があった。



 数分後



岡部「さて、実験を始めるぞ」

 岡部の声が部屋に響く。

ほむら「どうするの?」

岡部「まず、過去にメールを送れるか、確かめる必要がある」

 そう言って岡部は電話レンジに手をおいた。

岡部「ダル!! 準備は良いか?」

ダル「こっちはおk。後は誰の携帯にメールを送るかっつーのを決めるだけだお」

 ダルがパソコンの前に座り、返事を返す。
 軽口とは裏腹に、その目は真剣だ。
 岡部もそれに答え、その後にほむらを見つめた。

岡部「分かった。……ブラックロックシューターよ、いまから、貴様の携帯にDメールを送る」

ほむら「……何で私?」

 あまりにも突拍子のない言葉に、ほむらは訝しげな顔をする。


岡部「まあ、貴様にDメールが本当に時を越えるマシンだと実感してほしくてな」

 どうやら、岡部はほむらに自分の言っていることを証明したいらしい。
 別にそんなことをしなくてもいいのにとほむらは思ったが、そこは素直に従うことにする。

ほむら「分かったわ」

岡部「よし。それでは、どんな内容が良い?」

ほむら「内容?」

 ほむらの問いに、岡部は頷いた。

岡部「どんな内容のメールを過去に送りたい?」

ほむら「……別に、何でも良いわ」

岡部「ふむ、ならば適当な数字の羅列でも送るとしよう」

 そう言って、岡部は自分の携帯を操作する。 
 どうやら、メールを作成しているらしい。

岡部「そう言えばマリオネッツよ」

 不意に、岡部が話しかけてきた。


ほむら「何よ」

岡部「貴様、携帯の充電はしているのか?」

ほむら「……貴方に指摘されてからは、毎日欠かさず充電しているわ」

岡部「そうか、なら良いのだ」

 そしてメール作成に戻る。
 そんなやりとりをしている二人を見て、ダルは一言呟いた。

ダル「あの二人、仲良くね?」



 数分後



ダル「んじゃ、スイッチオン」

 ダルの声とともに、電話レンジが稼働する。
 電子レンジだった物は、すでに扉も破壊されており、完全に別物になっていた。

ほむら(よく回るわね……)

 そんな的外れな感想をほむらが抱いていると

岡部「ックク……」

 横で岡部の笑い声がした。

ほむら「……何」

 不気味に思ったほむらが訪ねると、岡部は笑いながら答えた。

岡部「見るが良い。この電話レンジのターンテーブルを」

ほむら「ターンテーブルが、どうかしたの?」

岡部「逆回転している」

ほむら「……それが?」


 岡部は答えない。
 返事の代わりに、いびつな笑みを浮かべていた。
 岡部が、小さく言った。

岡部「さあ、始まるぞ」

 バチバチバチバチッ!!!!!!!!!!!

 刹那、強烈な音と共に電話レンジが放電する。 

ほむら「何……これ」

 あまりにも異常な事態に、ほむらは呆然とする。
 対する岡部は、もはや笑いを隠そうとはしていなかった。

岡部「ククク……ハハハハハハハ!!!!!!」

 手を額に当て、芝居がかった声で笑う。

 ―――― そして、静かに携帯の送信ボタンを押した。


 
 数分後



 あの後、放電は数十秒で収まった。
 岡部が送信ボタンを押しても、一向に過去が変わる気配がないため、
 実験は失敗に終わったとほむらは思ったが、どうやら違うらしい。

岡部「あれは意味のない数字の羅列だからな。たとえ過去に送られても、世界は変えられんのだ」

 そう言って岡部はほむらにメールの受信履歴を見るように促した。
 ほむらが携帯を開き、受信履歴を確認すると、そこには

 2011;3/XX
 件名;ナシ
 123456

 件名;ナシ 
 789012

 件名;ナシ
 345678

 三つの、身に覚えのない履歴があった。
 しかも、日時は一ヶ月も前。
 ほむらは身を震わせる。
 そして、小さく呟いた。

ほむら「これが、Dメール……」

 Dメールの性能を、初めて実感した瞬間だった。



 数分後



                       オペレーション・フレイヤ
岡部「……それでは、これより作戦名《勝利を司る女神》、最終フェイズを行う」

 静寂が満ちた岡部の部屋で、部屋の主が厳かに言い放った。
 ダルはすでに電話レンジを作動できるように準備している。
 着々と進んでく作業を、ほむらは黙って見ていた。

岡部「アイアンメイデンよ」

 不意に、岡部に話しかけられる。

ほむら「なによ」

岡部「最後に、言い残したことは無いか?」

ほむら「は?」

 出来の悪い三流映画のような、そんな台詞を述べる岡部。
 しかし、その目は真剣だった。

岡部「おそらく、α世界線に行けば、貴様の記憶はすべて《無かったこと》になる」

 岡部は、真剣な声のまま続けた。

岡部「貴様の努力も、苦労も、悲しみも、何もかもが《無かったこと》になる」

 ―――― そして、何事もなかったように貴様は本来の生活を送るだろう。


岡部「だから、言い残したことはないかと、聞いたのだ」

ほむら「そうね……」

 ほむらは少し考え

ほむら「いえ、特に無いわ」

 答えた。

岡部「……そうか……」

 その答えに、岡部は少しだけ顔を歪ませたが、ほむらにはそれが何故なのか分からない。
 分かるのは、もっと後になってからだ。

岡部「……では、最後のミッションを始めよう」

 岡部の声が、小さな部屋に響いた。


 バチバチバチバチバチッ

 放電が始まり、きな臭い匂いが中りに漂う。
 岡部は、感慨深そうにほむらを見つめている。

ほむら「……早くしましょう。放電が終わってしまうわ」

 ほむらが促すと、岡部は少し寂しそうな顔をして

岡部「ああ、そうだな」

 と言った。
 そして、送信ボタンに指を当て、ほむらを見つめて小さく囁いた。

岡部「……じゃあな」


 そして、指に、力を込めた――――






























 ―――― 世界は変わらない。

岡部「何故だ!?」

 岡部の悲痛な声が、ほむらの耳を哀しく打った。



 数時間後



 あの作戦は、失敗で終わった。
 岡部が送信ボタンを押しても、世界は何も変わらなかった。
 岡部はかなり取り乱した。
 頭を掻きむしり、鬼のような形相になって

 ―――― 何故だ!? どうして!?

 と、喚き、何度も電話レンジを起動させた。
 Dメールの文面も変えたらしいが、それでも世界は変わらなかった。
 今、岡部は力無くイスに座り込んでいる。
 ダルとQβは心配そうに岡部を見ていた。
 
ほむら「……ねぇ」

 今までになく憔悴しきっている岡部に、ほむらは声をかける。
 それは、慰めのつもりなのか、叱咤しようと思ったのかは、
 ほむらにも分からなかったが、岡部のあまりにも痛々しい姿に、声をかけずには居られなかった。

 しかし

 ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!

 それは、突如ほむらたちを襲った地震と、奇妙な音によりかき消される。


ダル「な、何だお!?」

Qβ『地震……にしては奇妙なことが多すぎるね』

岡部「……」

ほむら「……一体何なの?」

 地震はともかく、奇妙な音はほむら達の上からしていた。
 ほむら達の上には、屋上しかないはずだ。

ダル「もしかして、屋上になんか居るん?」

ほむら「……確認してくるわ」

 ダルの言葉に、玄関のドアに手を当てるほむら。
 しかし、ドアを開けようとする前に、岡部の方へ向く。

ほむら「ほら、岡部。貴方も来るのよ」

岡部「……分かった」

 ほむらの指示に、驚くほど従順な岡部。
 ほむらはそんな岡部に違和感を抱きつつ、ドアを開け、階段を上る。

 奇妙な音の正体は、屋上にあるはずだ。


 屋上


ほむら「……これはっ!?」

 屋上にある、異常な光景にほむらは驚愕する。
 このビルの屋上には、本来は何もないはずだ。
 しかし、今は違う。

 気持ち悪くなるほど青い空が広がる屋上。
 そこには





















ほむら「何、これ……」

岡部「……!!」

 銀色に鈍く煌めく、人工衛星のような、奇妙で異常な物体があった。


岡部「……タイム、マシン」

 唐突に岡部が呻く。
 最初、ほむらはその意味が分からなかった。

ほむら「タイムマシン?」

岡部「……何故だ」

 しかし、岡部はほむらの呟きに反応することなく、
 ただ、白昼夢を見ているかのように、虚ろな言葉を発していた。

 プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………

 突如、水が急激に蒸発するような音がする。
 そして、タイムマシンのハッチが開いた。

 中から、人影が降りてこようとしていた。

ほむら(……一応、警戒した方が良さそうね)

 そう思ったほむらは魔法少女へ変身する。
 人影は、タイムマシンを降りようと、梯子を降ろした。

 カツ カツ カツ ……

 規則的で、金属的な音が響き、その人物はタイムマシンを降りる。

岡部「貴様は……」

 岡部はその人物の姿を確認すると、驚愕の声を上げた。
 しかし、それはその人物の正体が分かったから上げたものではない。
 むしろ



















岡部「誰だ?」

 分からないからこその、驚愕だった。

 これで今回の投下を終わりにします。
 このスレを始めてみたという人は初めまして。
 前スレから見てくれたという人は二スレ目までお付き合いいただきありがとうございます。
 一応、一つの物語の為、初見の人は前スレを見てくださった方が話の内容が理解できると思います。

 本編第二部の始まりです。
 このスレ内には終わらせたいとは思いますが、
 何分まだ書きだめが溜まっていないので何とも言えません。

 さて、未来から来た人物とはいったいだれなのか。

 時間跳躍については描写をアッサリにしておきました。
 そうじゃないと話が進まないので……

 長文失礼しました。
 それでは、応援してくれる皆様に感謝を。
 お休みなさい。

 前スレかぁ……
 雑談とか質問で埋めてくれたらとてもうれしいのですが……
 色々オリ設定で訳分からんこともあるでしょうし。
 まあ、ちょくちょく埋めネタをやると思います。
 ご指摘ありがとうございました!! 

 あと基本、本編投下は木曜日曜にやりますので。
 それでは

 こんばんは、遅くなりました。
 それでは、20分から投下を始めたいと思います。
 今回は少し短いです。ご容赦を



 第28話;『運命ってのは残酷だよ』



岡部「貴様は……誰だ?」

 岡部の呟きが、青空へ霧散する。
 どうやら岡部にも、その人物のことが分からないらしい。
 ほむらはその人物を再度見た。

ほむら「……見ない顔ね」ボソッ

 その人物は、どうやら女性のようだった。
 ライダースーツに身を包み、少し色素の薄い髪をツインテールに纏めている。
 顔は女のほむらが見ても、美人といえる程度には整ってはいるが、
 それよりも目を引くのは、その女性の眼差しだった。
 見ようによっては高校生のようにも見える雰囲気を持った女性だが、
 その眼差しには何の色もなく、年老いた老人のように静かだった。

???「……久しぶりだな。岡部倫太郎」

 女性は、小さく口を開く。
 思ったよりも高く、子供っぽい声だったが、そこに秘められる感情は、やはり老人のように静かだった。
 そして、その老人のような眼差しは岡部に向けられていた。

岡部「……誰だ」

 岡部は女性に問う。
 岡部は、その女性に覚えがないらしい。
 岡部の問いに、女性の顔が小さく歪む。
 しかし、直ぐに何事もなかったかのように元に戻った。
 女性は岡部を見つめたまま、口を開いた。


???「私は、2025年から来た」

岡部「……答えになってないぞ」

 岡部の言葉に、女性は顔を顰めた。
 女性は呆れたような声を出す。

???「……本当に分からないのか?」



























 ―――― バイトのおじさん。

 岡部の顔が困惑から驚愕に変わった。

岡部「!!? ……まさか、貴様は……!!」


 女性が最後に言った、「バイトのおじさん」と言う言葉に、何かに気づいたような反応を見せる岡部。
 女性は満足そうに頷いた。

???「そう、私は――――」


























綯「2025年から来た、天王寺祐吾の娘」

 ―――― 天王寺綯だよ。


岡部「貴様が……小動物?」

 岡部は掠れた声を出す。
 無理もないだろう。
 目の前にいる女性が、天王寺綯などとは信じられないのだろう。
 ほむらも信じられなかった。
 ほむらの知る天王寺綯が、こんな風に成長するとはとても思えなかったからだ。

 気弱で、ある種まどかとにた雰囲気を持つ少女が、たった15年で、
 どうしてここまで疲れた目をしているのか、ほむらには理解できなかった。

綯「……」

 未来の綯と名乗った女性は、無言で岡部に歩み寄る。
 岡部は、下がることもできずに、ただ女性が歩み寄るのを眺めていた。

綯「……岡部、倫太郎」

 綯が小さく呟いた。
 その人身が妖しく光ったのを、ほむらは見た。
 ほむらを謎の悪寒がおそう。

ほむら「……!! 岡部!!」

 ほむらは岡部に警告しようとするが、時既に遅し。
 岡部は

岡部「は?」

綯「……会いたかった」

 未来の綯と名乗る人物に、抱きつかれていた。


綯「……会いたかった。本当に」

 感慨深そうに、綯は呟く。
 その声色には、様々な感情が練り込まれていた。

岡部「……済まないが、離れてくれないか」

 居心地が悪そうに岡部が言った。
 綯はゆっくりと体を離す。
 岡部は、呆然とした顔で、口を開く。

岡部「……貴様は、何のために、この時代へ来たのだ?」

 その問いに、綯は無表情のまま、答えた。

綯「ワルプルギスの夜の」

 ―――― 殺害。

岡部「……何だと」

ほむら「それは、本当なの!?」

 綯の発言に、ほむらと岡部は驚きを隠せない。
 それほどまでに、二人にとってはワルプルギスの夜を倒すことなど不可能だと思える事なのだ。

岡部「……しかし、何故そんなことをする?」

 岡部が綯に問いかける。


岡部「こちらには、既にDメールが存在するのだ。……ならば、あの出来事を変えるための文面を送れば……」

綯「無駄」

岡部「何?」

 顔を顰める岡部。
 綯は続ける。

綯「『あのDメールは、取り返しがつかない。あのとき生まれてしまった疑念は、
   その後いくらメールを送っても晴れない』……それが、おじさんの最終的な結論だ」

 淡々と吐き出される言葉。
 Dメールは意味をなさない。
 つまり、それが意味することは――――

ほむら「つまり、まどかは救えないって事……?」

 Dメールは意味をなさない。
 つまり、α世界線に到達できない。
 つまり、まどかの運命を変えられない。
 つまり、まどかは救えない。
 にわかには信じられない。いや、信じたくはなかった。

綯「いや、運命を変えること事態は不可能ではない」

 綯は否定する。
 混乱する二人を、綯は静かな目で見ていた。

綯「未来がどうなるか、お前達は知っているか?」

岡部「……そもそも、ワルプルギスの夜によって世界は壊滅状態になるのではないのか?」

 綯の言葉を、岡部は疑問で答える。
 


綯「違う」

 綯は笑った。
 それは諦観の笑みだった。

綯「それよりももっと悪い」

岡部「……どうなるのだ?」

綯「この世界は、……私たち人類は」



















 ―――― 魔女の家畜に、成り下がったのさ。


岡部「!?」

ほむら「どう言うことなの!?」

 先ほどから、意味不明でショッキングな事実ばかり言われたせいか、ほむらの脳内は静かにパニック状態となっていた。

 魔女の家畜?

 一体、どう言うことなのだろうか?

綯「一週間後、ワルプルギスの夜がこの市を襲う。それはお前達も知っているな?」

岡部「……ああ」

 混乱するほむらの代わりに、岡部が綯と会話を行う。
 岡部の肯定の言葉に、綯は頷いた。

綯「しかし、奴は一人の魔法少女に殺される」

ほむら「……まどか!!」

綯「……そうだ。鹿目まどか。最強の魔法少女にして、最悪の魔女となる女だ」

 鹿目まどか
 そう言ったときの綯の顔は、憎悪で歪んでいた。

岡部「……小動物?」

 異常を感じた岡部が、綯に話しかけた。


 対する綯は掠れた声で囁く。

綯「……お父さんは、彼奴に殺された」

岡部「……!!」

ほむら「!?」

 絶句する二人が見えていないかのように、綯は語った。

綯「……ワルプルギスの夜を殺したあの女は、その力を使い果たし、魔女になった」

 ―――― そこから、人類にとっての地獄が始まった。

 あふれ出す憎しみを、押し殺したような声で離す綯。
 そこに岡部が疑問を挟む。

岡部「待て。スカーレットが魔女化した場合、世界は十日で滅ぶのではないのか?」

綯「違う。正確には、世界を十日で滅ぼす力を持つ、だ」

ほむら「……それがどう違うの?」

 ほむらの疑問に、綯はいびつな笑みを浮かべる。

綯「……魔女は、何を食らって生きると思う?」

ほむら「……?」

 意味不明の問い。 


 それにほむらが頭を悩ませる。
 しかし岡部は何かに気づいたように、息を呑んだ。

岡部「……まさか」

綯「そう、そのまさかさ」

 岡部の呟きに、綯は頷く。

綯「魔女は、奴らは、人を喰らって生きる。私達は、未来の人類は、
  魔女となった鹿目まどかに家畜のように生かされているんだ」

 それは、ほむらにとって、あまりにも信じがたい事実だった。

ほむら「嘘よ。……まどかが、そんなことをするはずがないわ」

綯「嘘ではない」

 ほむらの呻くような否定に、綯は口を三日月のようにし、答えた。
 皮肉にも、それは岡部が時々やる笑いに似ていた。

綯「あの女は、一週間後に人類の大半を死滅させる。そして、残った人類を、自分の食料として飼い続けている」

ほむら「嘘よ!!」

 綯が吐き出す、耳障りな言葉を止めようと、ほむらは叫ぶ。
 しかし、続けようとした罵倒の言葉は、岡部に肩を掴まれ、言うことはできなかった。

岡部「抑えろ、今はコイツの話を聞く方が優先だ」


ほむら「……ッ!!」

 岡部の肩を掴む力が、予想よりも強かったため、ほむらは必死で自分を抑えた。
 そんなほむらを、綯は冷たい目で睨んでいた。

綯「お前は何時もそうだな。……他人の話を聞こうとせず、自分の世界に引きこもっている」

 ほむらに向かい、蔑みの言葉を投げかける綯。
 岡部は、綯を睨みつけ、低い声を出した。
 
岡部「貴様も余計な言葉を言うな。早く話を進めろ」

綯「……分かった」

 綯はふてくされたように、話を続けた。

綯「魔女に支配された世界を変えようと、私は橋田至と暁美ほむらにこの時代まで送り出された」

 ほむらは違和感を感じた。

岡部「……何故貴様が?」

 岡部が疑問を挟む。
 綯は文句を言うこともせずに淡々と答えた。

綯「一週間後の災害、……私達は魔女審判なんて呼んでいるが、
  そこで、私のお父さんや、人類の大半が死に絶えた。……運良く生き残った私は、
  バイトのおじさんに拾われた。そこで暁美ほむらと、橋田至に会わされた」

 そこまで言うと、綯はチラと岡部を見る。


 質問はないか、という意味らしかった。
 岡部は首を振り、ここまでの質問はないことを伝えた。

綯「絶望にまみれた世界で、おじさんと暁美ほむら、橋田至の三人は、その世界を変えようと世界線の研究をしていた」

岡部「……しかし、Dメールはもう……」

綯「別に、過去に送ったDメールを取り消す方法が使えなくなっただけだ。
  私を拾ったときのおじさんも、今のおじさんみたいな顔をしていたが、
  やっぱりあきらめきれなかったのだろうね。何かに惹かれるように研究を始めたのさ」

ほむら「それで、……世界を変える方法は見つかったの?」

 ほむらが綯に話しかける。
 綯はほむらを睨むと、馬鹿にしたように答えた。

綯「見つかってないなら、私はこの時代に来ていない」

岡部「見つかったのだな!? 教えてくれ!! どうすれば、この世界は……」

綯「それには順序が必要」 

 叫ぶ岡部を、綯は指を一本立てて抑える。

綯「まず、この世界線の最悪な点って何だと思う?」

 綯が岡部に問いかける。
 岡部は、熱に魘されたように答えた。

岡部「まずは、貴様の言った魔女審判、それに、シャイニングやリリー、
   クリムゾンにスカーレット、阿万音由季、そして紅利栖やまゆりが死ぬことだ」


綯「そうさ、その通り」

 綯は頷き、続ける。

綯「では、その元凶は何だと思う?」

ほむら「……元凶?」

綯「そう、この世界線が、ここまで最悪になった元凶」

 綯はそこまで言うと、答えを待つように岡部を見つめる。
 岡部は暗い声で答えた。

岡部「……俺の、Dメールか」

綯「違う。それはα世界線からこのπ世界線になった大本。私が言いたいのは、全てを最悪へ導いた元凶」

 ―――― つまり、ワルプルギスの夜のことだ。

綯「おじさんの必死の研究によって。これまでの悲劇は全て、奴の結界のせいだと言うことが分かった」

ほむら「ちょっとまって。……ワルプルギスの夜は、結界を持たないはずよ」

 疑問を持ったほむらが、綯に問いかける。
 綯は今度は馬鹿にせず、答えた。

綯「正確には、結界を持たないんじゃなくて、私達にその結界が認識できないだけ」

岡部「……どういうことだ?」

綯「……奴の性質は、舞台装置。」
               キゲキ                 ヒゲキ
 ―――― ……全ての悲劇が、彼奴によって仕組まれた喜劇だ。


岡部「……」

綯「おじさんはこう、結論を出した」

 ―――― ワルプルギスの夜が生まれた瞬間から、この世界そのものが、奴の結界に包まれていると、ね。

ほむら「なっ……」

 あまりにも突拍子のない結論。
 ほむらは絶句する。
 しかし、綯は気にも止めた様子はなく、話を続ける。

綯「おじさんはこう考えた。
  『ワルプルギスの夜を、生まれる前に殺すことができれば、世界線を変動させられるのではないか』」

 綯の言葉を、岡部は半信半疑で問い返す。

岡部「……そんなこと、できるのか?」

綯「さあ? でも、一番可能性が高いのはこの方法だ」

ほむら「……で、その生まれる前のワルプルギスの夜、つまり、その元になった魔法少女は、何時の、何処の誰なの?」

 ほむらの言葉に、綯は顔をしかめた。
 それは、単にほむらに話しかけられたから不快に思った、
 などというものではないように思えた。
 綯は、渋い顔のまま、静かに告げる。

綯「……おじさんの、知っている人だよ」

岡部「……何?」


 綯の発した言葉に、岡部が驚愕を露わにした。
 そして、直ぐに青ざめた。

岡部「ま、さか……」

 手は小刻みに震え、目の焦点は合っていない。
 見開かれた目には、現実への拒絶と、逃避。

岡部「う、嘘だ」

 岡部は綯の言葉を否定する。
 しかし、綯の答えは非情だった。

綯「嘘ではない」

岡部「嘘だと言ってくれ」

 岡部が懇願する。
 だが、綯の無表情は変わらない。

綯「残念だが真実だ。……彼女は三年前に魔女となった。彼女は7年前に契約した。彼女が――――」

岡部「もう辞めてくれ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 広い、吸い込まれそうな空に、岡部の絶叫が響く。
 しかし、綯の言葉は止まることはなかった。

























綯「椎名まゆりこそが、ワルプルギスの夜だ」

 これにて今回の投下を終了します。
 
 萎え様光臨だぜヤッフゥゥゥゥゥ!!!!!!
 口調がおかしいとかそんなのは気にしない!! 
 ただ出したかった!! それだけ!!
 つーか未来萎え様は出番ほとんど無いから想像でおKの筈!!
 アンダーリンの萎え様かあいいよぉ!!!!!

 …………………… スイマセン、取り乱し過ぎました。

 まあ、今回はいろいろとオリ設定が爆発する回でした。
 内容は賛否(賛・1;否・9)両論だと思います。
 尤も、この設定に関しては初期のころから考えてはいましたが。

 それと、切のいいところで終わらしたかったので内容が短くなってしまいました。
 お詫びとは言っては何ですが、
 
 前スレの埋めネタのネタも無くなってきなので、番外編のリクエストなどを言ってくれれば、
 出来うる限りやってみたいと思います。

 長文失礼しました。
 それでは、応援してくれる皆様に感謝を
 お休みなさい。

 こんばんは
 今日は書きだめが溜まらないので、前スレで即興の埋めネタをします。
 10;30から始めますが、
 マジで番外編の提案とかあったらお願いします。
 ガチでネタがねぇや……

こんばんは、10;30頃に投下したいと思います。



 第29話;『どうしてこんな事をするの?』



岡部「嘘だ……」

 未来の綯と名乗る女が語った言葉は、あまりにも信じがたかった。

 
 まゆりがワルプルギスの夜? 
 馬鹿馬鹿しい。


 ―――― 本当に?

綯「嘘ではない。椎名まゆりこそが、この悲劇の元凶だ」

 綯が無感情に呟く。
 だが、綯の言っていることは何かの間違いだ。

岡部「……根拠も何もないのに、よくもそんなことが言えるな」

 俺の口から、ぞっとするような声がでる。
 まるで、俺が俺ではないみたいだった。
 
綯「……この結論は、未来のおじさんが出したものだ」

 綯が吐き捨てるように言った。
 
 ……未来の俺だと?
 困惑する俺に、綯が畳みかけるように続ける。


綯「そもそも、おじさんのDメールによって、椎名まゆりは魔法少女となった。
  そして、おじさんのDメールによって変化した世界には、ワルプルギスの夜がいた。
  ……因果関係を考えない方がおかしい」

岡部「……」

 俺は綯に言葉を返すことができない。
 確かに、一理あると考えてしまう。
 そして、それを認めてしまう自分が嫌だった。

岡部「……しかし、Qβは、まゆりの死体を見たと言っていたぞ」

 まゆりがもし、魔女になったというのなら、それはどう説明するのだ?
 俺は暗にそう言う意味を込めて言う。

 反応は、意外なところからあった。


























ほむら「岡部、……それは本当なの!?」


岡部「ブラックロックシューター?」

 ほむらが目を見開き、驚愕を露わにしていた。
 なぜ、そこまで俺の発言に驚くのか意味が分からなかった。

ほむら「……もし」

 ほむらが、ぽつりと呟く。

ほむら「もし、岡部の言っていることが本当なら」

 ―――― 椎名まゆりは、魔女になったかもしれない。

岡部「……え?」

 反応できなかった。
 まさか、ほむらまでもがそんなことを言うとは思わなかった。
 俺は、どうしてか裏切られたような気分になる。

岡部「根拠はあるのか!!」

 ドス黒いものが生まれた俺は、投げやり気味になって怒鳴った。
 ほむらは少し震え、怯えたような声で返す。
 
ほむら「……怒、らないで」

 その声を聞いた瞬間、立ちこめようとしていたどす黒い怒り収まる。
 そして、とたんに恥ずかしくなった。


 自分よりも遙かに年下の少女に、八つ当たりをした自分を、
 馬鹿みたいに感情的になった自分を、殺したくなった。

岡部「済まない。俺が悪かった。……続けてくれ」

 冷静になろうと、俺は無理矢理自分を落ち着かせる。
 ほむらは怯えたような顔を、表面上は止め、話し始めた。

ほむら「岡部、Qβは、『椎名まゆりの死体を見た』と言ったのよね?」

岡部「ああ、それがどうした?」

ほむら「……じゃあ、もう一つ質問」

 ―――― 椎名まゆりは、何処で死んでいたの?

 訳の分からないほむらの問い。 
 しかし、その言葉を聞いたとき、なぜか悪寒がした。

岡部「……たしか、路地裏で死んでいたと、聞いたような」

 悪寒のせいで震える口を何とか開き、ほむらの質問に返す。
 ほむらはそれを聞いたとき、顔を歪めた。

 まるで

 俺に同情するかのように。

ほむら「岡部、それはあり得ないの」

 ほむらが恐る恐るといったように口を開く。


 聞きたくない。

ほむら「普通、魔女と戦って死んだ魔法少女は、死体も残らない」

 キキタクナイ。

ほむら「死体が残る場合は、根本的に二通りしかない」

 もう、ほむらが何を言いたいのか分かっていた。

ほむら「一つは、不慮の事故でソウルジェムが魔女以外の要因で破壊された場合」

 止めてくれ。

ほむら「そして、もう一つは――――」

 ―――― 魔法少女が、魔女になったときよ。

 溜息交じりの言葉で、ほむらは絶望的な仮説を締めくくった。

岡部「しかし!! まゆりが例え、ワルプルギスの夜になるとしても!!
    それは世界線の収束で決められているから、変えれないのではないか!?」

 俺は醜くも、最後の反撃に出る。
 そして、その答えは綯から帰ってきた。

綯「彼女が魔女になったときに、彼女を観測したものはいない。
  観測されたのは彼女の死体と思われているモノ。
  私たちは、それを本当の死体にさえすればいい。つまり、世界線を騙す余地はある」

岡部「…………ッ!!」

 俺は更に言葉を返すことは出来なかった。
 もう何も反論が思いつかない。
 もう、逃げられなかった。


綯「そう、未来のおじさんも、そういう結論を出していた」

 俺が押し黙ると、綯が話し始めた。

綯「もはや、道は一つしかない」

 ―――― 椎名まゆりを殺し、この世界を救うしか。

 綯は、溜息をつくように、しかしはっきりと言った。


 殺す。


 殺さなければならないと。


岡部「……タイム、リープを続けるという、手段だってある」

 俺は無意識のうちに、呻くように反論した。
 綯は、ただ笑った。

綯「本当にそう思ってるか?」

岡部「……っ」

 俺は、答えられなかった。


 分かっている。
 そんなことでは、世界を変えれないと。
 あの日常へ、帰れないと。

 でも

 でも

岡部「そんなこと、認められるわけがないだろ……!!」

 まゆりを犠牲にするなんて、あり得ない。
 そう、あり得ないんだ。

綯「おじさん」

 綯は一歩だけ、前に出た。














綯「もう、終わりなんだ」

岡部「……!!」


綯「そう結論を出したのは――――」

 ―――― 未来のおじさん自身。 

 綯は言った。
 諦めろと、この俺が言ったと。
 だが、たとえ結論を出したのが、未来の俺自身だとしても、
 俺はまゆりを見捨てるわけにはいかないのだ。

岡部「そいつには、覚悟が足りなかっただけだろう。……俺は」

綯「違くはない。おじさんは、まだ未来のおじさんとはかいりできてない。
  未来のおじさんは、間違いなくおじさんと同じ人間だよ」

 訳の分からないことを綯は呟く。
 そして、続けた。

綯「未来のおじさんも、最初はそうだったよ。タイムリープをあえて止めることで、
  新たな可能性を探しているって言っていた。でも――――」

 ―――― おじさんは自殺した。

ほむら「え?」

 綯の言葉に、ほむらは阿呆みたいな声を上げた。
 俺だって、内心穏やかじゃいられない。
 俺が、自殺?

岡部「……あり得ない」

綯「あり得なくないさ。世界線の収束が起これば、不思議な事じゃない」

岡部「しかし、俺が自殺など……」

 そんな中途半端な終わり方を、仮にも俺が選ぶとは思えなかった。


綯「……まあ、おじさんの死に際を看取ったのは、一人しかいない。
  そいつ曰く、『岡部は、これ以上の絶望をまき散らす前に、私に全てを託し、散った』らしい」

 そう言いながら、綯はほむらを睨んだ。
 ……まさか

岡部「俺の死に際を看取ったのは……」

 綯は頷いた。

綯「そうだよ、そこにいる暁美ほむらさ」

 突然の指名に、ほむらは目を丸くした。

ほむら「……私?」

 ほむらは惚けた顔をしていた。

 しかし、ほむらが俺の提案を聞いて、時間跳躍を止めることなどあるのだろうか。
 いや、もしかしたら未来には、俺たちが時間跳躍をする可能性と、
 時間跳躍が失敗する可能性が両方あり、綯がいた世界は俺たちが失敗した世界なのかもしれない。 

綯「まあ、あんな奴のことだ、何処まで本当のことなのだか」

 首を捻り、斜めに構えた姿勢で綯は呟く。
 あまり、ほむらの綯からの評価は良くはないようだ。

ほむら「ねえ、貴女……」

 ほむらが、恐る恐ると言った風体で口を開く。
 綯は面倒くさそうに顎をしゃくり、続きを促した。
 ほむらは、震える声で聞いた。

ほむら「岡部は、何時死ぬの?」 


 確かに、俺は何時頃死んでしまうのだろうか。
 ほむらの問い掛けに、綯は忌々しそうに口を開く。

 そして、それは

 あまりにも

 予想外だった。

























綯「一年後」

ほむら「ぇ……?」

岡部「……!!」


 あまりにも早すぎる死期に、俺達は驚愕を隠せなかった。
 俺は、ポツリと、感想を口にする。

岡部「随分と、早いな」

 落ち着けるために吐いた言葉に、綯は激高した。

綯「早いどころの話じゃない!!」

 ほむらは、まだ驚愕の表情で固まっていた。

ほむら「そんな……」

 数秒間は、悲痛な顔で、一切ほむらは動かなかった。
 その後、ようやく驚愕の表情を浮かべなくなったほむらが、俺の近くまで歩いてくる。
 そして

ほむら「岡部、ここは彼女の提案を受け入れるべきよ」

 目を赤くし、そんなことを言った。

岡部「……貴様まで」

ほむら「だって死ぬのよ!?」

 反抗しようとした俺の言葉を遮るように、ほむらは叫んだ。
 それは、俺が今までに聞いたことのないほど、悲痛な声だった。

ほむら「何時までも、全てを救うとか、馬鹿みたいな事を言わないで!! 妥協案を受け入れるのも、一つの手!!」

 それに、こんな事は言いたくないけど、とほむらは続ける。

ほむら「貴方には、この世界を、ここまで歪めた責任があるでしょ?」

岡部「……ッ!!」


 俺は、何も言い返すことは出来なかった。
 確かに、魔法少女たちを悲劇に追いやったのは、俺だ。

 ほむらの気持ちもよく分かる。
 まどかを救う。
 それだけがほむらの勝利条件なのだ。
 俺たちは、たまたま目的が一致していたからこそ、組んでいただけだ。
 少なくとも、ほむら側はそういう認識だろう。
 彼奴の記憶を持つ俺は、それを責めることが出来ない。

 確かに、俺の戦いは既に詰んでいるのかもしれない。
 もう、これしか手がないのかもしれない。
 だが、俺は


















岡部「少し、一人で考えさせてくれ」

 それでも、まだ無様に足掻こうとしていた。



 数分後



綯「さすが暁美ほむら。おじさんの同情を引こうなんて、やり方が汚いね」

 岡部が去った後の屋上で、不意に綯が呟いた。

ほむら「……」

 ほむらは綯の罵倒にも、反応をすることがなかった。
 ほむら自信、岡部を責め立て、糾弾するようなやり方は好きではなかった。
 それでも、岡部を納得させるしかなかった。
 そうでなければ、まどかは救えない。
 そして、岡部も――――

綯「本当に、おじさんは自殺だったのかね?」

 思考は、綯の言葉によって止められた。

ほむら「……?」

綯「おじさんが自殺したってのを見た人間は、一人しかいないって言ったな?」

 ―――― それなら、いくらでも偽装が出来るんじゃない?
 
 吐き捨てるように言う綯。
 その言いぐさは、まるで――――

ほむら「未来の、私が、岡部を殺したとでも?」

 ドロリと、何か暗いものが、心から溢れ出すような気分がした。
 
綯「そうは言ってない。ただの邪推さ」

 ほむらの暗い視線を、綯は飄々とかわす。
 そして、少しトーンを落とし、言った。

綯「まあ、埋葬しようって提案も、未来のお前の提案で無しになり、
  おじさんの死体はお前が処理したんだけどさ。……ちょっと怪しいな~ってだけ」
 
 岡部がいるときにはほとんど見せなかった、暗い感情が込められた視線で睨む綯。
 
綯「……全然変わってないよ。お前」

 不意に、そんなことを呟いた。

綯「何時だってお前は、イカれてる」

 ほむらには、その意図が分からなかった。



 街中



岡部「どうすれば、いい?」

 開発都市といえど、地方都市。
 あまり人通りが多くはない町中で、俺の呟きは誰にも届かない。
 頭を冷やそうと、歩いてばかりいるが、何も浮かばない。
 俺は、何も出来なかった。

岡部「どうすればいいんだ……」

 まゆりを殺し、他の全てを救う。
 いや、この世界では紅利栖も死ぬのだ。
 変えた後の世界で、紅利栖が生きているとは思えなかった。
 
 つまり

 まゆりと紅利栖か魔法少女達。
 それか、Dメールをが意味をなさない今、意味を殆ど無くした時間跳躍か

 俺に与えられた選択肢は、それだけだった。

岡部「なんで……」

 呟きが漏れる。
 何故、ここまで最悪になってしまったのだろう。


 最初は、まゆりか、紅利栖か、
 天秤に掛かっているのは、その二人だけだったはずだ。

 だが、たった、たった一回の愚行で、ここまで最悪になってしまった。

 俺が、あのとき、ほむらのような強さで、どちらか一人を選んでいたのなら、二人も、死ぬ必要はなかったはずだ。
 そこまで考えて、俺は、

 人の命を、まるで数字のように計算している俺に気づいた。

岡部「何考えてんだよ……」

 俺は全てを救うのではなかったのか?
 そのためには、終わりのない地獄にも、身を捧げると、誓っただろう?

 なのに

 なのに

 俺は

岡部「何で、犠牲を前提に考えているんだ……」

 心を捨て、時間跳躍への畏れを捨て、俺は鳳凰院凶真になったはずなのに、
 俺は、なんで、

 そこまで考えたとき

 「岡部先生?」

 声がした。


岡部「え?」

 驚いた俺は、声のした方を振り向く。
 そこには、まどかが居た。

まどか「岡部先生、どうしたんですか。こんな所で……」

 俺は周りを見回す。
 知らない景色。
 どうやら、随分と遠くまできてしまったらしい。
 俺はまどかに向かった。

岡部「いや、ただふらついていただけだ。心配しなくていい」

 この時間軸では、俺たちは殆どまどか達と関わっていない。
 辛うじて、学校で話す程度だ。
 この時間軸では、俺は魔法少女のことなど何も知らない一般人なのだ。

 この世界では、既にマミもさやかも、杏子も死んでいる。

 だからか、まどかの顔も沈んでいた。

まどか「私もです。……何だか、実感がわかないんです」

 実感、というのはさやかや、杏子が死んでしまった事だろう。
 既に悲劇は後一つを残すだけという事になったわけだ。
 よく見れば、まどかの顔色は随分と青かった。
   


まどか「あっ……」フラッ

 突然、貧血でも起こしたようにふらつくまどか。
 俺は慌ててまどかを支えた。

岡部「大丈夫か?」

まどか「あ、すいません……」

 俺に支えられたまどかは、恥ずかしそうに礼を言った。
 
まどか「最近、よく眠れなくて……」

 そう言って、強ばった笑顔を俺に向ける。
 よほど、疲れたのだろうか。
 顔が近い場所にあったので初めて気づけたが、まどかの顔にはうっすらと隈が出来ていた。

まどか「あ、あの……」

 不意に、まどかが呟く。

岡部「? どうした?」

 青白いまどかの顔が、微かに赤くなっていた。
 寝不足のせいで、熱でもあるのか?












まどか「か、顔が近いです」

岡部「ん? ああ、済まない」


 確かに、こんな往来の場で、何時までも女子中学生を支えるわけにはいかないな。
 まどかの顔が赤くなって居るのも、羞恥のせいというわけか。
 俺はまどかを立たせる。

 まどかはまだ、フラフラと頼りなく立っていた。

岡部「大丈夫か?」

 まどかはこのままで大丈夫だろうか。
 少し心配になる。
 
岡部「どこか休めるところはないか……?」

 少し、休んだ方がいいと判断した俺は、辺りを見渡した。
 あまり見慣れない場所のため、土地勘が全くなかった。
 
 少し見回すと、近くに喫茶店が見えた。
 俺はまどかに提案する。

岡部「少し、あそこで休まないか?」

まどか「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

 まどかも戸惑いながら了承してくれた。

 そうして俺らは、喫茶店に入っていった。


 喫茶店

まどか「へぇ、こんな店があったんですか……」

 無理矢理笑顔の形を作り、虚勢を張るまどか。
 俺は店員を呼ぶと紅茶を二つ頼んだ。

まどか「え、あの……」

岡部「大丈夫だ。こちらから誘ったのだ。こっちが払うさ」

 俺は、俺が紅茶を二人前頼んだことに、怪訝な顔をしたまどかに言った。

まどか「いえ、そうじゃなくて……」

 安心させるように言った俺の言葉に、まどかは首を振る。

まどか「先生って、紅茶、飲めるんですね」

岡部「? まあ、嗜む程度にはな」

まどか「…………」

 俺の言葉に、まどかは俯く。
 その様子に、俺は声をかけた。

岡部「スカーレット?」

まどか「……何でもないです」

 しかし、まどかは素っ気なく返す。
 ……まあ、今は確かに大変な時期だしな、いろいろ一人で抱え込んでしまっているのだろう。
 まったく、難儀な奴だ。


岡部「……リリーのことは、残念だったな」

まどか「……………………はい」
 
 だから、俺は自分から話を振ることにする。
 自分で抱えるより、誰かに吐き出した方がいいだろう。
 そう言う判断だった。

岡部「まさか、彼奴が死ぬなんてな」

 俺は話を続けようと、わざと白々しいことを言う。
 俺は既に、未来のことを分かっているのに。
 出来の悪い茶番だと思った。

まどか「……岡部先生」

 唐突に、まどかが呟く。

岡部「何だ?」

まどか「先生は……」

 ―――― 誰か、親しい人が死んだ事って、ありますか?

 突然で、予想外の質問に、俺はしばし戸惑う。
 まどかもそれを感じたようで

まどか「あ……ごめんなさい。変な質問でしたね……。答えなくていいです」

 自分の質問の奇妙さを察し、その質問を納めようとする。
 それにしても、親しい人が死んだことがあるか。か、まどかにしては過激な質問だな。
 













 ……………………親しい人?

 
 ―――― まゆりと紅利栖は、どうしたんだ。


岡部「……ッ!!」

まどか「岡部先生?」

 突然、顔を歪めた俺に、まどかが心配そうに声をかける。
 しかし、その声も俺には聞こえなかった。

 何で?

 ―――― 何で?

 どうして?

 ―――― どうして、俺は
 
 まゆりと紅利栖を天秤の片方に掛けていたことを、忘れていたんだ?

岡部「あ……ぁ……」

 俺は決断しなければならないはずだ。

まどか「だ、大丈夫ですか!?」

 目の前にいるこの少女を含む、この世界線であった魔法少女達か

 俺の大切な幼なじみと、大事な仲間か

 なのに

 ―――― どうして

 俺は

 ―――― 忘れていた?


 まどかに声をかけられたからなど、言い訳にもならない。
 そんな事、これを忘れる理由にはならない。

 ―――― 忘れて良い理由にはならない。

 じゃあ何で、俺は、忘れていた?

岡部「……俺は、最低だ」

 そんなの、とっくに分かっていた。

 俺は

 逃げようと

 ―――― まゆりや、紅利栖、そして魔法少女達から、逃げようと

 していたんだ。











まどか「岡部先生!!」

岡部「ッ!!」

 まどかが机越しに俺の名前を叫んだ。
 その叫びで、俺は正気に戻る。
 
 ―――― いや、正気に戻ろうと取り繕った。

 しかし、それはただの強がり。
 本当の正気とはほど遠かった。


岡部「俺は……」

まどか「先生、大丈夫ですか?」

 ギリギリの所で、思考のループから立ち直った俺に、まどかが心配そうに声をかけてくる。
 こいつだって、目に隈をつけて、大丈夫かと言われる側の筈なのに、
 なんで人の心配が出来るのだろうか。

岡部「まどか……」

まどか「へ!?」

 俺の言葉に、まどかは驚いたような顔になる。
 そして、顔を若干赤くして言った。

まどか「え、いや、先生、え? 名前で?」

岡部「まどか、教えてくれ」

まどか「え? あ、はい」
 
 まどかは、まだ顔を赤くしつつも、居住まいを正し、俺の話を聞こうとしてくれた。
 俺は、震える口から、無理矢理声を絞り出す。
 思えば、馬鹿な問いだった。

岡部「俺は、……どうしたら、いい?」

まどか「え?」


 俺の馬鹿な問いに、まどかは素っ頓狂な声を上げる。
 当然だろう。
 俺だって馬鹿だと思う。
 何も事情を知らない少女に、俺は何を言っているんだ?

 それも、俺はこの子の命を天秤の片方にのけているのに、
 俺は自分の望む世界のために、この子の命をベットにしているというのに。
 
岡部「済まない……。おかしな質問だったな。……今のは、忘れてくれ」

 俺は軽く手を挙げ、今の話を忘れるようにまどかに言う。
 しかし、まどかは

まどか「……先生」

 先ほどの惚けた顔から一変、真剣な面持ちになり、俺を見つめていた。
 まどかは、俺を見つめて、言った。

まどか「……何か、先生のために、私に出来ることはありませんか?」

岡部「……え?」

 俺は予想外の言葉に、呆けた声しか出すことが出来なかった。
 ただ、目の前の少女は、当然のことのように呟く。
 
まどか「私じゃ、あんまり力になれないかもしれませんけど、でも、私に出来ることがあれば、言ってくれませんか?」

岡部「お前……」

 何で?

 と、言おうとする声を、俺は出すことは無かった。
 


岡部(そうか、そうだよな……)

 鹿目まどかとはそういう少女だ。
 自己主張が弱く
 他人に流されやすく
 気弱で

 それでいて
 
 自分が傷ついていても、他人の事を思いやる、優しい少女。

 時として、自らも滅ぼしてしまうほどの、優しさを抱える少女。
 
 それが、鹿目まどかだ。

岡部「クッ……」



















 そのとき、カチリと、何かがはまったような気がした。

まどか「岡部先生?」

岡部「ハハハ……」

 もはや、口から乾いた笑いしか出ない。
 
 本当は、分かっていたんだ。

 俺は、まゆりや、紅利栖を救えないって。


 α世界線と、β世界線の狭間にいた時とは違う。
 天秤の両端それぞれに、大切なものがつり下がっていたときとは違う。

 今の天秤の片方には、最初から何もなかったんだ。

岡部「ハハハッ……」

 何だか、随分と頭がすっきりしている。
 だから、分かってしまう。
 最初からニ択なんて無かった。
 あのDメールが不発に終わった今、道なんて閉ざされてしまったんだ。

まどか「……」

 ―――― まどかが、心配そうに俺を見ていた。

 時間跳躍を続けると言うことは、彼女が救われる可能性を潰し、
 俺の自己満足の為に、限りなく0に近い可能性を探すこと。

 そして、その戦いでは、俺は一人だろう。
 もう、隣には誰にもいないだろう。

 俺は、たった一人で、何十億分の位置の確率に、たどり着けるだろうか?

 いや、不可能だ。

 俺が、そんな大した人物ではないのは、俺が一番よく知っている。

岡部「分かってんだよ……!!」


 そう、分かってたんだ。

 鳳凰院凶真なんて、どこにも居ないって。

 そんなの、俺の妄想だって。

 それこそ、鳳凰院凶真が生まれたその時から気づいていた。

 鳳凰院凶真には、何の力もないって。

 そりゃそうだ

 鳳凰院凶真は、弱くて醜い岡部倫太郎が考え出した妄想の産物だ。

 弱くて脆い岡部倫太郎が、潰れて、溶かされて、グシャグシャになっても戦えるよう、作り出した、薄い殻。

 俺にも、鳳凰院凶真にも、力なんて、最初から無い。

 負け続けて、終わり続けて、たどり着いたこの場所は、どうしようもなく残酷で、
 
 それでも、俺は有りもしない可能性にすがりついていた。
 俺は、あのときの失敗を取り戻したくて、見えもしない可能性に全てをかけていた。

岡部「なあ、まどか」

まどか「なんですか?」

 俺の選択肢は二つ。

 このまま、俺の妄執とともに繰り返すか。

 それとも、ここで俺の醜い妄執を断ち切るか。

 選択肢は二つ。

岡部「お前は、俺のために死んでくれるか?」

まどか「!! ……………」

 ただ

岡部「……済まない。馬鹿な質「それで」

 俺の進むべき道は

まどか「それで、岡部先生が、救われるなら」

岡部「………ありがとう」

 一つしかない。


岡部「まあ、冗談だ。気にするな」

まどか「それでも。です」

 この少女は、生きるべきだ。

 死んではなら無い。

 だから、



















岡部「お前は、優しい奴だな」

まどか「……そんなんじゃないですよ」

 終わりにしよう。全てを。
























 ―――― そのとき、世界は切り替わる。

 今回はこれで投下を終了します。
 
 今回は色々物語が動きます。

 その中で、一年後にオカリンが死んだ場合、
 ほむらがその死体をほむら自身が死ぬまで保存し続けるって言う裏設定があったり。
 色々と考えていて楽しい回でもありました。

 でも、オカリンの心理描写はこの回が一番きつかったかもしれません。
 全てを助けようとするオカリンを、どう諦めさせるか、
 ちょっと違和感もあるかもしれませんがそこらへんは、まあ、温かい目でお願いします。
 
 長文失礼しました。
 応援してくれる皆様に感謝を
 それでは、お休みなさい。

 こんばんは、
 昨日はサーバーの調子が悪かったみたいで投下できませんでした。
 木曜日に纏めて二回分投下したいと思います。
 それでは

 こんばんは、
 10;00から投下したいと思います。



 第30話;『予想道理じゃつまらないじゃないか』

 

岡部「……ここは」

 俺は、確かに、先ほどまでまどかと話していた。
 しかし、今は違った。

 俺は町中にいた。

 しかも、俺はその場所を良く知っている。

岡部「……コンビニの帰り、と言ったところか」

 俺の手にはビニール袋。
 そう、この道はコンビニから俺の家までの道だ。

 何故、さっきまでまどかと話していた俺が、こんな所に立っているのか。
 その答えは、直ぐに出た。

岡部「大方、ほむらが全てを片づけた。そういう事だろうな」

 俺は、その答えをゆっくりと口に出した。
 抵抗も、躊躇いもない。
 俺は、どこかおかしくなったのかもしれない。


 だが、どうでも良かった。
 
 もう、どうでも良い。

 まゆりは死んだ。紅利栖も死んだ。

 それだけだ。

 それだけだった。

 実感もクソも沸かないが、本当にそれだけだった。

岡部「……」スッ

 俺は携帯を取り出す。
 そして、電話帳を開き、ある人物に電話をかけた。

 プルルルルルルルルルルルルルルルルル……カチッ

マミ『もしもし、岡部さん? どうしたの?』

 電話口から、マミの声が聞こえた。
 
岡部「ああ、済まない。間違えてしまったようだ。ごめんな」

マミ『ああ、そうなんですか?』

岡部「そうだ。済まなかったな。じゃあ」

 プツッ ツー、ツー、ツー、

岡部「……」


 俺は手元の携帯を見つめる。

 マミは生きていた。

 彼女は死ななかった。

 残り一週間を切ったのに、だ。

 ただ、実感は沸かなかった。

 マミとの短い通話を終えた俺は、他の人物にも電話をかける。

 美樹さやか

 阿万音由季

 俺は、この二人に電話をかけた。

 二人とも、何事もなく、電話にでた。

 彼女たちは、救われた。

 さやか曰く、杏子も生きているらしい。
 そう言うさやかの声には、杏子への嫌悪感はなかった。
 どうやら、ここも変わったようだ。


岡部……フゥ」

 ただの確認作業を終えた俺は、小さく溜息をつく。
 まだ、全てが終わった実感は無かった。

 何時か、俺は受け入れることが出来るのだろうか。

 まゆりの死を

 紅利栖の死を

 全ての終わりを

 俺の敗北を

 運命のイタズラで父親を二度、失った彼女のように

 事故で両親を失った彼女のように

 自らの願いで家族を失った彼女のように

 俺は、受け入れられるのだろうか。















 そんな気は、全くしなかった。



 自宅前



 俺はフラフラと、自宅の前までたどり着く。
 行く宛もなく、やることもない。
 俺はおぼつかない足取りで階段を上がっていった。

岡部「……」

 不意に、この階段から飛び降りれば、
 まゆりや紅利栖と同じ場所に行けるかもしれないと思い立つ。
 
 魔導サイエンティストであった頃は、そんなことでは死なないだろう。

 しかし

岡部「もう、俺には何の力も無いのだな……」クク

 俺は自らの掌を見つめる。

 その証であるソウルジェムは、この世界線の何処にもなかった。

 だから、今此処で、身を投げ出しさえすれば……












岡部「いや、止めよう」

 しかし、直ぐに首を振ってその考えを改める。


 俺は死なない。
 俺は生きる。

 まゆりと紅利栖を見殺しにて、今更何言ってんだとも思うが、俺は生きる。

 死は罰じゃない。
 ただの逃げだ。
 それに、世界線の収束によって、俺は死にたくても死ねないだろう。

 だから生きる。

 彼女たちの居ない世界を。

 せめて俺だけは

 彼女たちが生きていたことを

 覚えているために。

岡部「……」

 俺は、鍵を取り出し、ドアを開ける。
 音もなく扉は開き、俺は家の中に入る。

 Qβが家にいるのなら、俺の戦いが終わったことを伝えよう。
 そう、思いながら。


 俺は靴を脱ぎ、リビングに入る。
 
 そして、リビングの戸を開けたとき

























 「お帰りなさい」

 声がした。
 しかし、その声はQβのものでは無く。

岡部「……お前は」

 予想外の人物のものだった。

ほむら「遅かったわね。紅茶、勝手に飲ませてもらったわ。別に良いでしょ?」

 眼鏡を掛け、髪を大きな三つ編みにした、暁美ほむらがそこにいた。


岡部「何故お前が此処に……いや、それよりも、今のお前は……」

 ―――― 誰だ?

ほむら「……質問の意図が分からないわね。貴方は何が言いたいの?」

 俺の問いに、ほむらは僅かに顔をしかめる。
 しかし、その行動そのものが、俺にとってはやはり不可解だった。

岡部「……お前は、俺と共闘したことを覚えているのか?」

ほむら「? 何言っているの? 当然じゃない」

 ほむらは訳の分からなそうな顔をする。
 しかし、それはあり得てはならないことだ。
  
 そんな偶然は、あり得ない。

岡部「……一つ聞くが、貴様は確かに過去を変えたのだな?」

 俺の問いに、ほむらは顔をしかめる。
 何故だか、そのしかめ方は、叱られるのに耐えようとする、子供のような表情だった。
  
ほむら「……謝らないわよ。これは、確かに必要なことだったのだから」

岡部「別に良い。……とにかく、貴様は前の世界線の記憶を覚えていると、そう言うことになる訳だな」

 俺がほむらの言葉を軽くいなし、質問を続けると、
 ほむらは何かが腑に落ちなかったようで、顔をしかめたまま返した。

ほむら「ええ。……そう言うことになるわね」

岡部「……」


 ほむらの答えを聞いた俺は、思考を始める。
 何故ほむらは、前の世界線の記憶を覚えているのかについてだ。
 
ほむら「どうしたの?」

 黙り込む俺に、ほむらは俺の顔を見上げながら聞いた。
 少しだけ、不安そうな顔をしていた。

岡部「世界線が変われば、記憶も塗り帰られるはずだ。何故、お前は前の世界線の記憶を覚えている?」

ほむら「……ああ、そう言う事ね」

 俺の言葉を聞いた途端、興味を失ったような顔になるほむら。
 
ほむら「貴方と同じようにリーディングシュタイナーとやらが発動したんじゃない?」

岡部「……それが一番妥当だろうが……」

ほむら「とにかく、あまり重要なことでは無さそうね」

 ほむらは溜息と共に、この話を打ち切ろうとする。
 確かに、あまり優先順位の高い問題ではないので、俺もそこで止めることにした。

 代わりに、もう一つの疑問をほむらに投げかけた。

岡部「何故お前が此処にいる?」

 何故、ほむらは俺の家にいるのだろう。
 この世界線に到達した時には、ほむらはこの家には居なかったとは思う。
 


 少なくとも、今の俺はともかく、この世界線本来の俺とほむらが、そこまで親しくなるとは思えない。

 なぜならば

岡部「それに、お前、ソウルジェムが……」

ほむら「確かに、無いわね」

 俺の言葉に被せる形で、ほむらは自分の手を見た。
 本来、ほむらの爪に刻まれているはずの紋章がない。
 それが意味するのは、即ち、ほむらが魔法少女ではないことだった。

ほむら「でも、それを言うなら貴方もじゃない?」

 手を下ろしたほむらが俺の手を見て呟いた。
 
ほむら「それと、さっきの質問に返しておくけど。私が此処にいるのは、
     貴方に突然世界を変えたことについての、説明をする為よ」

岡部「……別に、お前にとって、選択肢など一つしかないことは分かっていた。
    ……それに、はなからお前に俺の意見を仰ぐ義理など無いのだ。
    俺に無断で世界を変えようと、お前の勝手だろう」

 確かに、ほむらがいきなり世界線を変えたのには多少驚いたが、あり得ないことでは無いとも思っていた。
 だから、別に良い。
 そう言う旨をほむらに伝えた。

 しかし、ほむらはどう思ったのか、僅かに顔を歪めた。

ほむら「……怒ってる?」

 小さく、そう聞いてくる。


 別に、ほむらの行動に対して、
 どうとも思っていないのは先ほど説明したはずなのだが、どうにも伝わっていないらしい。

岡部「お前の判断は正しかった。……英断だ。素直にそう思うよ」

ほむら「……」

 俺の言葉を聞いたほむらは、少し泣きそうな顔をした。
 褒めているのに、何故そんな悲しそうな顔をするのだろう。
 訳が分からなかった。

岡部「お前のような判断力があれば、俺も此処まで無様に負け続けることもなかっただろうにな……」

 そう言いつつ、クククと小さく喉を鳴らした。
 何がおかしいのか、全く分からなかったが、とにかく何かがおかしかった。
 しかし、ほむらは全く笑うことは無かった。
 寧ろ、真剣な顔で俺の自嘲を否定する。 

ほむら「そんなこと無いわ。……貴方が居なければ、私はまどかを救えなかった」

岡部「まあ、まどかを死にそうなめに追いやらせたのも俺なんだけどな」

ほむら「……貴方は、もっと自分を評価すべきだわ」

岡部「その言葉、お前にそっくり返してやろう」

ほむら「……」

岡部「……」

 話が噛み合わない。


 それをお互いが感じていた。
 あまりにも気まずい沈黙が、場を覆った。

岡部「……そう言えば、お前がこの世界線へ来たとき。お前は何をしていたのだ?」

ほむら「……まどかと、買い物」

 突然の問いに、ほむらは少し辿々しく答える。
 ……まどかと、買い物。か。

岡部「……それは済まないことをしたな。
   だが、もう用事も終わったことだし、今からまどかと買い物の続きでもしてくると良い」

 我ながら良い提案だと思った。
 この気まずい空間を打破できる上に、ほむらはまどかとの幸せな日常を堪能できる。
 これ以上無いほど、最高の提案だ。
 しかし、ほむらはその提案に打ちのめされたような顔をする。

ほむら「で、でも。……私の都合で勝手にお開きにしたのに、また勝手に連れ出すのはまどかに悪いわ……」

 慌てたように、否定の言葉を紡ぐ。
 俺は少し微笑んで、返した。

岡部「お前はまどかを救うために、あれだけ頑張ったんだ。少しくらいのわがままは許されるさ」

 そうだ。ほむらはまどかのために戦い続け。
 正しい判断をして、此処にいる。
 この世界は、まさしくほむらの勝ち取った証といえよう。
 それに、ほむらには俺に無断で世界線を変えた事への罪悪感があるようだが、それだって必要ない。
 だから、ほむらはこんな所にいなくていいんだ。


ほむら「……分かったわ」

 俺の思いが伝わったのか、ほむらは席を立つ。
 その顔が、少しだけ悲しそうに歪められていたのは、ほむらの優しさ故か。
 
岡部「色々と、済まなかったな」

 俺はほむらのために道を開けながら、小さく言う。
 ほむらは、答えなかった。
 ドアノブに手をかけ、外に出ていこうとする。
 俺は反射的に、別れの言葉を口にした。

岡部「それじゃあほむら。また明日、学校でな」

 ほむらはその言葉に、しばし立ち止まると
           
ほむら「……また、何度かこの家に来ても良い?」

 小さく聞いてきた。
 やはり、まだ罪悪感は拭えないのだろうか。
 俺はほむらに理由を尋ねる。

岡部「どうしてだ?」

ほむら「……貴方の作る紅茶、嫌いじゃないのよ」

岡部「マミの方が、よっぽど美味く作れるんじゃないか? 
   今のお前は、マミとの関係も良好だろう? 入れてもらえばいいじゃないか」

 俺の言葉に、ほむらはしばし俺を見つめると

ほむら「貴方の紅茶の方が、甘くて私好みなのよ……!!」

 そう言って、乱暴に扉を閉めて出ていった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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岡部「……ふぅ」

 ほむらが帰った後、俺は小さく溜息をついた。
 何だか、春先だというのに、とても寒い。
 一人で居るのには、俺の部屋は広すぎるような気がした。

岡部「思えば……。よくこの部屋で、ほむらと方針を話し合ったのだったな」

 ほむらの家か、俺の家。
 長い、長い戦いの中では、どちらかの家で話し合うことが多かった。
 俺は、二人で居ることに慣れてしまっていた。

岡部「でも、それも終わりだ」

 もう戦いは終わった。
 ほむらとの同盟も終わり。
 共闘する理由がなくなった今、ほむらにも、俺にも、お互いに仲良くする理由など無い。
 ほむらは罪悪感からか、何度か俺の家に来ようとしているらしい。
 まあ、それも長くは続かないだろう。

岡部「そうすれば、俺は一人、か」

 厳密に言えば、違うのだろう。
 俺の周りには、Qβや天王寺家の人々がいる。





 だけど、俺はどうしようもなく孤独であるような気がした。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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 結論から言えば、全てが終わってからの二週間。
 毎日欠かさずほむらはやって来た。
 午後六時から、俺の家に来て、飯をたかり、紅茶を飲み、俺と他愛ない雑談をし、十時頃に帰る。

 最初の頃は、ほむらが俺への罪悪感から来ているのかと思い、

岡部「まどか達と遊ぶ時間が無くなってしまうだろう?」

 と、やんわりと追い返そうとしたが。

ほむら「さすがに午後六時から遊びに行かないわ」

 撃沈した。
 しかし俺はしつこく

岡部「親が心配しているんじゃないか?」

 と言ってみるが

ほむら「私が一人暮らしなの知ってるでしょ?」

 また撃沈した。
 むしろ

ほむら「今の私は魔法少女でも何でもないから、カップメンばかりの食生活だとどうなるかしらね?」


 逆に脅された。
 まあ、確かにほむらの食生活改善はした方がいいと思い、4日目には追い返すことを諦めた。
 
 いや、俺は最初から追い返したくなかったのかもしれない。
 いつの間にか、ほむらと話すことを楽しみにしている俺がいた。
 偶に天王寺家で食事をしたりもした。

 話すのは、本当に何でもないこと。

 仁美がまた告白されたこと。

 まどかのテストの成績が悪かったこと。

 さやかと上条恭介の仲は進展していないこと。

 早乙女先生は、まだ彼氏を見つけていないこと。

 本当に色々なことを話した。
 それは、あの戦いの時には話したこともないようなことで、

 本当に、戦いは終わってしまったのだ。

 そして、ただの日常がやってきた。

 意味もなく、刺激的でもなく、何があるわけでもなく、

 ただ、過ぎ去るだけの日常。

 でも、そこには安らぎがあった。

 俺なんかが、手に入れてはいけないくらいの物が、そこにはあった。

 ただ

 ただ







 その幸せは、長くは続かなかった。



 二週間後



 戦いが終わってから二週間後。
 いつものように、学校に登校しようとしていた俺に、電話が掛かってきた。
 
 出てみると、早乙女先生だった。

早乙女『あ、岡部君ですか?』 
 
岡部「はい、そうですが……。早乙女先生、どうかしましたか?」


 いきなり彼女が電話をかけてくるなんて珍しい。

早乙女「ええ……えっと、今日と明日の学校がお休みになるみたいなので、岡部君にも伝えておこうと……」

岡部「え? どうして、休みになってしまうんですか?」

 何故学校が休みになってしまうのだろうか。
 創立記念日、ではないはずだ。
 見滝原中学校はあれでも市立だ。
 学食があるが市立だ。
 色々と設備がすごいが市立だ。
 と、言うわけで、そんなことで休みになる学校ではないのである。
 ならば、何故?
 俺の疑問は、電話越しの声によって解かれる。

早乙女『え、知らないんですか? 最近、この見滝原市に』

 ―――― 前代未聞のスーパーセルが、近づいてるんですよ。
 



 次の日:岡部宅



 なんだ?
 
 なんだ?

 何だ?

 ナンダ?

 前代未聞のスーパーセル?

 それは、

 まるで、

 いや、違う。

 それは終わったはずだ。

 もう、終わりのはずだ。

 終わったんだ。

 オワッタンダ。

 終わりなんだ。

 終わりなんだ。

 終わりな『終わってなんかいないさ』


岡部「え?」

 突然の声に、俺は戸惑う。

 何故なら、聞こえた声は――――

Qβ?『椎名まゆりを殺したくらいで、椎名まゆりが――――
    いや、ワルプルギスの夜が止まると、本当に思っていたのかい?』

 Qβの物と、同じ物だったからだ。

 俺の部屋に突然現れた白い獣は、溜息をつきながら呟いた。

Qβ?『本当に、そんなことで最悪の魔女を止められると思ったのかい?』

岡部「だが!! 世界線は変わったはずだ!!」

 何故、目の前の白い動物が、そのことを知っているのか。
 そんな疑問も持たないまま、俺は反論する。

 もう戦いは終わったはずだ。
 なのに、何故。

Qβ?『確かに、椎名まゆりを殺すことで、暁美ほむらは世界線を変えた。……しかしね?』

 ―――― それは唯の延命に過ぎなかっただけだよ。

岡部「……そんな」

 世界線を一度変えても、結果は同じ。
 俺は、この現象を知っている。
 俺は、これのせいで、何度も、仲間の願いを踏みにじらないと、いけなかったのに。


岡部「まだ……、俺たちは、π世界線から抜け出せていないのか?」

Qβ?『その通りだよ』

岡部「……どうして」

 ほむらは、まゆりを殺したのではないのか?
 ならば、何故、ワルプルギスの夜は生まれた?

Qβ?『君たちの作戦は完璧だったよ。ただ一つ、誤算があるとすれば』

 ―――― 椎名まゆりの力を、読み間違えていたことだね。

岡部「まゆりの、力?」

 意味が分からなかった。
 確かに、まゆりがワルプルギスの夜になるほどの力を持つのは分かる。
 しかし、ほむらは確かにまゆりを殺したと言った。
 ならば、何故――――

Qβ?『君は、椎名まゆりの固有能力を知っているかい?』

岡部「え?」

 まゆりの、固有魔法?
 そんなの、考えたこともなかった。

Qβ?『まあ、知らないのも無理は無いけどね』
 
 Qβらしき何かは首を振る。
 懐中時計に繋がっている、銀の鎖がシャラリと揺れた。


Qβ?『椎名まゆりの能力はね――――』
































 ―――― 因果の反転。

岡部「因果の、反転?」


 どんな能力か、さっぱり分からない。
 だが、その字面から、何だかヤバそうだと言うことは、辛うじて分かった。

QB?『そもそも、椎名まゆりの願いは亡くなった祖母の蘇生……
   つまり、『死という因果の生への反転』だ。……彼女の能力も、それに見合った物になるべきだと思わないかい?』

 俺を試すかのような口調で、Qβらしき何かは呟いた。
 ……つまり、まゆりの能力は、

 本来あるべき因果を、真逆の結果にする。

 と、言うことか?

Qβ?『まあ、魔法少女の時の椎名まゆりはそこまで反則的な能力は持ってないけどね。
    せいぜいが、絶対に当たる攻撃を外れさせたり、その逆を行ったりさ』

 それだけでも、随分と反則な気がするが、……まあ、俺が弱いだけかと無理矢理自分を納得させた。
 白い獣は続ける。

Qβ?『まあ、彼女の力がそこまでではなかったからこそ、彼女は魔女になったし、
    暁美ほむらに殺されたんだけどね。……だけど、殺したのはまずかったよ』

岡部「どういう、ことだ」

Qβ?『彼女は殺されたことで、その固有魔法のタガが外れた。そして、彼女は自らの結末を、
    反転させたのさ。まあ、反転と言っても、完全なものじゃない。だからこそ、彼女は魔女として復活したんだ』

 意味が、分からない。
 何だ、それは?


 出来の悪い厨二小説か何かか?
 そんなの、俺たちの努力が、

 全部無駄だったって、言っている様なものじゃないか。
 
Qβ?『完全に無駄って訳じゃないよ。現に、直接の魔女化じゃなくて、
    こういった間接的な魔女化にしたおかげで、君たちの猶予は一週間増えたわけだし、
    今のワルプルギスの夜の力だって、君たちが戦ってきたどのワルプルギスよりも低い』

 そんな、慰めじみたことを言うQβ。
 しかし、全くそんな風には聞こえなかった。
 それ所か、ある違和感に気づいてしまった。

岡部「お前、何でそんなことを知っているんだ?」

 こいつは、知りすぎている。
 本来、Qβが知るはずのない情報を知っている。
 こいつは、何者なんだ?

Qβ?『ああ、今更その質問かい?』

 Qβらしき何かは、呆れたように首を振った。
         オブザーバー  サーバー
Qβ?『まあ、僕は「観客」兼「脚本家」みたいなものだよ。訳あって、このQβ君とやらの体を借りているけどね』

 意味が、分からない。

岡部「答えに、なってないぞ」


Qβ?『良いじゃないか。僕の正体なんて。君の戦いに支障が出るわけでもない。
    益でもない。それよりも、僕たちがすべきなのは、これからの話だ』

 俺の問いを飄々といなす白い獣。
 その調子のまま、話を続けた。

岡部「これからの話、だと?」

Qβ?『そうさ、僕は――――』






















 ―――― 君に、この悲劇を覆す方法を教えにきたのさ。



 第31話;『よく頑張りました』
         


岡部「終わらせる、方法?」

 何を、言っているんだ?

Qβ?『そうさ、この連鎖を終わらせる方法を、僕は君に教えに来た』

岡部「そんな方法、あるわけが……」

Qβ?『あるんだよ』

 俺の言葉は遮られる。
 Qβの姿をした何かは、俺の瞳を見つめ、静かに断言した。

Qβ?『暁美ほむらが、椎名まゆりを一度殺害したことによって、
    ワルプルギスの夜の力は前とは比べ物にならないほど弱くなった。つまり、今なら』

 ―――― ワルプルギスの夜を、倒すことが出来る。

 馬鹿げた話だと、そう思った。

岡部「……そんなこと、出来る訳無いだろう」

 自信満々に語られる方法を、俺は否定する。
 何かの声は、俺にとって酷く滑稽に写った。
 ワルプルギスの夜を倒す?
 不可能だ。


 そんなことが出来ていたら、俺達はこんな苦労をしなかった。
 そんなことが出来ていたら、ほむらが何度も傷つく必要も無かった。
 たとえそれが、前よりも、格段に力が落ちていたとしても

岡部「因果反転? ……そんな滅茶苦茶な力に、勝てる訳ないだろ……」

 俺は、勝てる気がしなかった。
 ワルプルギスの夜の元がまゆりだとか以前に、純粋に、あの怪物に勝てる気など、微塵も無い。
        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
Qβ?『まあ、普通の魔法少女ならば、彼女に打ち勝つのは不可能だろうね』

 事も無げに、ナニカは先ほどまでの自分の言葉を否定する。
 やっぱり、不可能なんじゃないか。と、俺は思った。
 だが、ナニカはさらに言葉を続けた。

Qβ?『だけど、例外もある』

岡部「例外……だと」

Qβ?『そうだね、たとえば、「因果をねじ曲げるほどに強大な力を持った魔法少女」。
    ……そうだね、全盛期の鹿目まどかがこれに該当するね』

 その言葉に、俺は何か暗い感情を覚えた。

岡部「まどかを、生け贄にするつもりか?」

 ふざけるなよ。
 これは俺の問題なのだ。
 無関係な少女を巻き込むわけにはいかない。
 巻き込みたくない。
 俺の怒りのこもった声は、しかしナニカに届くことはない。
 ナニカは飄々と答える。


Qβ?『そんなつもりは無いよ。あくまで、それが有効なのは前の世界線での話だ。
    この世界線では、暁美ほむらの時間跳躍は、無かったことになっているだろ?』

岡部「……では、お前の言う方法とは一体何なんだ?」

 怒りが収まった代わりに、苛立ちの籠もり始めた俺の言葉。
 目の前に居る獣の、遠回しな言い方が、今は腹立たしかった。

Qβ?『そうだね。横道にそれすぎた。……では、もう一つの例外はね』

 ―――― 「因果から外れた者」だよ。

岡部「……何?」

 意味が分からなかった。
 ふざけてるようにしか、思えなかった。

Qβ?『? 聞こえなかったのかい? じゃあもう一度言おうか、「因果から外れた者」こそが、全てを終わらせる鍵だよ』

岡部「ふざけてるのか?」

 何を思ったか、もう一度頭のおかしいことを繰り返した馬鹿に問いかける。
 
 因果反転の次は、因果から外れた者?

 馬鹿じゃないのか。
 そんなの、出来の悪い厨二小説にも出てこない。
 俺の「設定」にも劣るほどのチープさだった。

岡部「これは馬鹿の妄想じゃないんだ!! もっと真面目に話せ!!」


 あまりにも頭の悪い言葉に、俺は語気を荒げながら白いナニカに詰め寄った。
 もしかしたら、解決方法も何もかも、この馬鹿の妄想なのではないかと、本気で思った。
 しかし、その馬鹿は、俺の怒りのこもった視線にさらされても、身じろぎ一つせず、言葉を続けた。

Qβ?『……やれやれ、「因果を無視して記憶を保持できる者」が、何を言っているんだい?』

 心底呆れたようにボヤくナニカ。
 しかし、俺は、そいつが俺のことを形容する言葉に、違和感を覚えた。
 その言い回しは、まるで

岡部「お前は……」

 ―――― 俺が、その「因果から外れた者」だとでも、言いたいのか?

 そう言おうとする前に、白い獣は頷いた。

Qβ?『ようやく気づいてくれたようで、何よりだよ』

岡部「なんで……俺が」

 信じられない。
 馬鹿馬鹿しい。
 唯の妄想だ。

 俺の名は、岡部倫太郎。
 ただの、人間だ。
 何の力もない、
 敗北者だ。


Qβ?『それでも、君は関わってしまっただろう?』

 ―――― 魔法少女たちの、演劇に。

Qβ?『本来、然るべき時までは、君と魔法少女はかかわり合いになんてならないはずだったんだ。
    なのに、君はこうしてここにいる。この君は、本来関わるべきのない「役者」は、
    こうして舞台の脚本を無視して、此処にいる。君がワルプルギスに勝てるかもしれない理由なんて、それぐらいさ』

 まるで、獣は現実を演劇のように語る。
 気持ち悪い。
 何もかもが、不気味だった。

 知らないはずのことを知り

 現実を演劇と称し 
 
 あまつさえ、俺が全ての悲劇を終わらせられると嘯く。


Qβ?『君は差し詰め、悲劇の舞台に乱入した道化師ってところかな? 舞台装置に縛られず、
    脚本も無視できる。……現状、そんな存在は君しか居ないんだよ。だからさ、
    君も今すぐ、行くべきだよ。……今、ワルプルギスとこの地の魔法少女たちが交戦中だ。
    まあ、彼女らは十中八九死ぬ。それを変えられるのは、君しか居ないんだ』

 何も出来なかった、この俺を。

岡部「……そんな訳、あるか」

 俺は呻くように囁いた。
 
岡部「……俺は何も出来ない。もう、ワルプルギスに対抗する手段もない。……はは、もう、世界は終わりなんだ」

 世界は終わり。
 妙に、その言葉が納得できた。


 まゆりは死んだ。

 紅利栖も死んだ。

 阿万音由季も死ぬ。

 マミも死ぬ。
 
 さやかも死ぬ。

 杏子も死ぬ。

 もちろん、俺も死ぬ。

 ……きっと、まどかも、ほむらも死ぬ。

 世界は終わる。

岡部「……どうでもいい」

 もうどうでもいい。
 ないてもさけんでもかなしんでもはかなんでも
 うらんでもわめいてもにくんでもあらがっても
 しんでもいきてもわらってもたたかっていても

 終わりだ。
 全て、意味を無くす。
 
 そうだ、もう、全て――――














 プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル……

 電話が鳴った。


岡部「……」

 もう何もかも終わるのだから、出なくても良いかとも思ったが、
 最終的に何となく出てみることにした。

 相手は、早乙女先生だった。

早乙女『あ!! 岡部君ですか!? 大変なんです!!』

 俺がでると、挨拶もそこそこに早乙女先生は焦った様子で言った。
 大変です、か。

 知ってるよ。

 そう皮肉気に口を歪める。
 しかし、その笑みは、すぐに壊されることになる。



















早乙女「あの!! まどかちゃんと、ほむらちゃんが、スーパーセルの中心地に向かったって!! 聞いたんです!!」

 気付けば、俺は無意識のうちに駆けだしていた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 岡部がこちらを見もせずに、去っていくところをQβの形をした者は静かに見つめていた。

Qβ?『やはり、彼は行くんだね』

 感嘆した様子で、ナニカは呟いた。

Qβ?『たとえ頭で何も変えられないと知っていても、それでも心で動いてしまう。
    魂で動いてしまう。……それは彼の美徳であり欠点だ』

 周りに誰もいないが、それでもナニカは言葉を続けた。

Qβ?『頑張ってくれ』
                     セカイセン
 ―――― 僕の知らない、自由な物語を見せてくれ。

Qβ?『君があの魔女を倒せたら、きっとそこにたどり着けるだろうから』
                                   モノガタリ
 ―――― 誰も、僕でさえ結末を知ることの出来ない、世界線へと。

 そうして、奇妙な獣は暗がりの中へ消えた。



 街中



岡部「クソッ!! 電話が繋がらない!!」

 もう既に、携帯は圏外を示していた。
 それほど、此処はヤバいのだろう。

 スーパーセルの中心地。
 それが此処だった。

岡部「ほむら!! まどか!! 何処にいる!!?」

 俺は叫びながら走った。
 本当にほむらやまどかがいるかなんて分からない。
 でも、呼びかけなければならない。
 俺の頭の中からは、さっきまでの虚ろな絶望は消えていた。
 代わりに、とてつもない焦燥が生まれた。
 
岡部「まどかぁ!! ほむらぁ!!」

 俺は馬鹿みたいに叫び続ける。

 実際、大馬鹿だと思う。

 世界が危ないと、さっきまで何もかも諦めて、
 全てを見捨てようとしていたのに、
 大切な者が無くなると警告されたら、
 無様に這いずり回る。

 何も学んでいない。
 何も成長できていなかった。


岡部「クソッ……どこだ。どこにいる!!」

 俺は叫び、走る。

 走る。

 走る。

 走る。

 走る。

 走る。















 そして俺は、見つけてしまった。

 ほむらではない

 まどかでもない

 彼女は、いや、彼女たちを

 俺は

 見つけてしまった。































 首の無くなった黄色い死体と

































 腹に剣が刺さった青い死体、































 そして、ぐちゃぐちゃになった赤い死体。


岡部「……そんな」

 俺は、走りながら彼女たち、だった物を見つけた。
 生きているのものなど無かった、
 
 皆死んでいた。

 だから、

 俺は、


















岡部「……ごめん」

 そのまま、通り過ぎた。

 心の中で、ごめん、ごめんと、何の慰めにもならないことを言いながら。


 そして、俺はたどり着く。
 本当に偶然だった。

 奇跡に、等しかった。

 そこは開けていた。

 そこで、戦闘があったのか、瓦礫だらけだった。

 その、狂った広場の中央に、彼女はいた。
 
 俺の同類。

 俺の同士。

 俺の憧れ。

 俺の何か。

 暁美ほむら

 彼女は、まだ生きていた。

 死んでいなかった。

 ただし













岡部「ほむら!? しっかりしろ!! ほむら!! オイ!!」

 彼女の腕と足は、片方づつ潰されていた。


ほむら「……ぁ」

 腕と足が潰れている彼女は、ゆっくりと俺の呼びかけに反応した。
 彼女の潰れた箇所からは、暖かい物が流れ出していた。

 俺は、彼女の手を握り、呼びかけることしかできなかった。

岡部「ほむら!! 大丈夫か!? 俺だ、岡部だ!!」

ほむら「……ぉかべ?」

 掠れた声で、彼女は返事をした。
 俺は、再度ほむらに呼びかける。 

岡部「だいじょうぶだ!! 今たす「ごめんなさい……」

 しかし、ほむらの弱々しい声によって遮られてしまった。
 ほむらは、掠れた声で話す。

ほむら「ごめんなさい……。罰が、当たったのね……」

岡部「ほ、むら?」

 突然の言葉に、俺は戸惑ってしまう。
 しかし、ほむらはそんな俺が見えないかのように、懺悔の言葉を続けた。

ほむら「わ、たしが、貴方の、大切な人を、ころ、殺したから……」

岡部「……違う。あれは正しかったんだ」


ほむら「……ちがわ、ないわ。……ごめんなさい。ごめんなさい。……許して」

 懺悔の言葉の最後に、新たな言葉が混じった。
 許してほしいと。
 
 ほむらは、何もしていないのに。
 ただ、ひたむきに頑張っただけなのに。

ほむら「ごめんな、さい。ごめんなさい。……お願い、私を、許して…………ください」

 段々、ほむらの声が涙声になっていく。
 俺は、居たたまれなくなった。
 だから

岡部「大丈夫だ。……許すよ。許すから……。今は、喋るな」

 言ってしまった。
 言った途端に、やってしまったと感じた。
 俺の言葉を聞いた、彼女の顔は、今までにないほど輝いた。

ほむら「ありが、とう……」

 そして、彼女は、少しだけ、すがりつくように俺の手を強く握り。

 そのまま

 目を

 閉じた。


Qβ?『……大丈夫だよ。今はまだ、気絶しているだけさ』

 そして、新たな声が聞こえた。

岡部「……」

Qβ?『まあ、彼女が死んでしまうのも時間の問題だろうけどね』

 答えない俺に、白い獣はさらに続けた。

岡部「……どうすればいい?」

 分からない。
 俺が何をしたらいいのか。
 
 分からない。
 俺はどうやってこの少女を救えばいいのか。

Qβ?『分かっているだろう?』

 呆れたように獣は首を振る。
 そして、深紅の瞳で俺を見つめた。

Qβ?『君がやるべきことはただ一つ』
















Qβ?『僕と契約して、魔道サイエンティストになってよ!! ……言ってみたかったんだ、これ』


 ふざけるように、獣は言った。
 だが、俺が今、縋りつける物はそれしかなかった。

岡部「俺が、もう一度契約すれば、ほむらを助けられるのか?」

 俺は、藁を掴むような気持ちで聞いた。
 白い獣は、溜息をついた。

Qβ?『限りなく低いよ。……でも、君がやらなければ、彼女が助かる確率は0だろうね』

 その言葉が、俺の背中を押した。

岡部「……いいだろう。契約を、しよう」

Qβ?『OK、良いよ。じゃあ、君の願いを聞こうか』

 奇跡売り――――インキュベータの皮を被った何者かは、そう言った。
 俺は、少し溜めて、ゆっくりと、つっかえない様に言った。
















岡部「助けてくれ……」


 もう、全てを助けたいなんて、馬鹿げたことは言わないから。


 俺なんてどうなっても良いから。


 せめて、彼女は、彼女たちだけは。


 運命なんて檻に囚われない、人生を歩けるように。


 お願いします。


 助けて、ください。














Qβ?『……君の願いはエントロピーを凌駕した』

 ―――― 瞬間、世界は光に包まれる。


 光が収まり、俺は魔導サイエンティストとなる。

岡部「ほむらは、ほむらはどうなった!?」

 俺は、ほむらの方を向いた。
 ほむらの怪我は、どうなっただろうか。
 
 ほむらは、まだ気絶していた。

 腕も、足も治っていなかった。

岡部「……畜生、畜生!!」

 くやしむ俺の中で、当然だ。と言う声がする。
 俺は、所詮その程度の力しか持たない。

 俺は何も変えられやしない。

岡部「……まだだ、まだ、他に何か方法が……」

 それでも、俺は諦めきれず、思考を開始しようとする。
 だが――――

















 南の方角から、声がした。
 
 ―――― キャハハハハハハハハハハハハ!!!!

 俺は、じっとりと嫌な汗をかきながら、そちらを振り向く。
 そこには、俺の元幼なじみ。

岡部「ワルプルギス、の夜……」

 絶望は、すぐそこまで来ていた。


岡部「そんな……」

 俺の頭は真っ白になっていた。
 勝てる気がしなかった。

 何も、出来ないような気がした。

 ―――― ドロリと、魂が濁る。

岡部「こんな結末、ありなのかよ……」

 最悪だ。

 そして最低だ。
 
 ワルプルギスの夜は、今まで見たどのワルプルギスの夜よりも、凶悪に見えた。
 
 逆さまになっていた魔女は、もはや逆さまではない。
 頭を上にしている。
 ただそれだけの筈なのに、今まで、どの魔女も発したことのないプレッシャーが俺を襲った。

 ―――― 魂は濁り続ける。

 今直ぐ逃げ出したい。


 鳳凰院凶真で無くなった俺は、その存在に震え上がっていた。

 怖い

 怖い

 怖いと。

 一重に、尻尾を巻いて逃げ出さなかったのは、彼女が居たからだ。
 
 俺のすぐ側に、彼女は居た。

 だから、俺は逃げられない。

 逃げてはいけない。

岡部「かかって来いよ……」

 俺は形ばかりの威勢を吐く。
 もう、目の前にいる怪物が、まゆりだとは思えなかった。
 
 怪物も、僅かながらの魔力を発する俺に、気づいたようだった。

 歪んだ笑いを張り付けたまま、魔女は周囲に浮かばせているビルの一つを、俺に向けて投げつける。

岡部(まだだ、……まだ、俺にはこれがある)

 俺は、チラと左手を見た。
 そこには、ほむらがかつて所持していた盾があった。

 これがあるという事は、俺は時間停止が使える。
 せめて、ほむらだけでも逃がす。

 その決意を胸に秘め、迫りくる巨大ビルを見据え、俺は、時間停止を

岡部「……ぇ」

 出来なかった。

 俺は忘れていた。
            ・ ・ ・ ・
 もう、時間停止は、時間切れであることを。


 そんな

 そんな

 そんな

 そんな

 そんな

 そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんな

 そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんな 
 そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんな 

 ―――― 魂は、もう殆ど濁っていた。 

 何だよ。

 何なんだよ。

 止めてくれよ。

 助けてくれよ。

 逃げたい。

 逃げたい。

 死にたくない。

 嫌だ。

 嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
 いやだいやだいやだいやだいやだいや――――

 ―――― その時、俺の手が温もりに触れた。


岡部「ほ、むら」

 スッ、と頭が冷えた。
 全てがゴチャゴチャになった感覚の中で、唯一、彼女の暖かさだけを感じることが出来た。

岡部「ごめん……。ごめんな……」

 気づけば、懺悔をしていた。
 ごめん

 ごめんなさいと、

 許されるわけがないのに、

 馬鹿みたいに言った。

岡部「ごめんな……」

 ビルの巨体が俺たちに迫りくる。
 もう、時間もない。

 最後に、俺はほむらを守るように、覆うようにビルに立ちふさがった。

 意味のない行動だが、それでもやらずには居られなかった。

 ごめん

 ごめんな、こんな事しかできなくて。

 ビルは目の前まで迫っている。
 
 俺は、自らへの失望と、ほむらへの罪悪感。
 そして、こんな事にしてしまった愚かな俺自信への憎しみを胸に抱き、静かに、俺の終わりを見つめた。

 目の前を、陰が覆った。
 そして、俺の意識は暗転する。






















 ―――― 俺の魂は、完全に濁りきる。

 パキンッ

 何かが砕けるような、乾いた音が響いた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



Qβ?『さて、これで全ての即興劇の用意は整った』

 ビルが地面に突き刺さった光景を見つめながら、白い獣は呟く。

Qβ?『期待しよう――――何て野暮な言葉は、もう言わないよ。
    僕はずっと君を見つめ続けてきたんだ。君ならば、出来るだろうね』

 ―――― 僕の知らない。僕ですら分からない未来を、掴みとることが。

 白い獣が呟いたその瞬間、地面に杭のように突き刺さっていた巨大なビルが、
 まるで灰になったかのように、ボロボロと崩れ、風に吹き飛ばされた。

Qβ?『……始まったようだね』

 深紅の双眼が、見つめるその先には

























???「……………………」

 白衣を着た、騎士のような姿の、バケモノが、そこにいた。

 これで今回の投下を終わりにします。
 えっと、メアリー臭、ですか……。
 できるだけオカリン無双にしないようにしてるんですけどね……。
 まあ、究極的に言えばクロスオーバー自体メアリーモノですから……。
 確かに妄想設定が多い気がしますけどね。このSS。

 まあ、オカリンが全てを解決して、ハイそれで終わりっていう話にはしないつもりではいますので。

 それでは、今回の物語は色々な転換期です。
  
 ワルプルギスの設定に関しては、
 本気出すと正逆反転するって聞いたのでそっから妄想してこんな感じに。
 だからこそ、ほむらがいくら力を尽くしても勝てず、
 因果を超えた存在になれるまどかが勝てると言う妄想。

 本当に妄想ばっかだなオイ……。

 長文失礼しました。
 応援してくれる皆様に感謝を
 それでは、お休みなさい。
 

 こんばんは、10;00から投下をしたいと思います。
 推奨BGMは「magia」です。


  
 第32話;『おめでとう』
        ~現実線上のシュタインズゲート~



 鹿目まどかは呆然としていた。  
 なぜならば、目の前に死体が、

 大切な仲間の死体があった。

まどか「……みんな」

 現実を処理しきれないまどか。
 しかし、彼女の呟きに応えるものは存在しない。

 黄色の少女も

 青色の少女も

 赤色の少女も

 誰も彼も、口を閉ざしたままだった。

まどか「そんな……!!」

 つい、昨日まで笑い合っていた少女たち。
 だが、彼女たちは、もう笑うことも、喋ることもない。
 まどかはそれが信じられなかった。


 そして、それはそんなまどかが見た幻想か

まどか「え……?」

 死体が























 起き上がろうとしていた。

 少女達の亡骸は、虚ろな表情のまま立ち上がる。
 その顔に笑いなどもちろん無い。
 言葉も発しない。

 ただ、幽鬼のようにふらふらと、しかし3つとも同じ方向へ向かう。

 まるで、誰かに呼ばれたかのように。
 
まどか「ま、まってよ!!」

 まどかは、その衝撃から立ち直ると、3つの死体を追いかけていった。


 たどり着いた場所は、開けた広場だった。
 瓦礫が至る所にある、その広場の中心に、まどかはある物を見た。

 それは、 

 自らの友人と、

 空に浮かぶワルプルギスの夜、

 そして、友人の傍らに佇む、騎士の様なバケモノだった。

まどか「ほむらちゃん!!」

 まどかの行動は早かった。
 まどかは、すぐさまほむらの側に駆け寄った。
 その直ぐ側にバケモノが居たが、関係ない。
 今のまどかにとっては、さらに友人を失うことが一番怖かった。

 そして、まどかは、ほむらの側に来る際に、ほむらの異常に気づいた。

まどか「ほむらちゃん……腕と、足……」

 ほむらの腕と足は潰されていた。


 血が

 赤くて、暖かいモノが、溢れ出ている。

 まだ、胸が上下しているため、生きていると思われたが、
 ほむらが死に近づいているのは、まどかの目にも明らかだった。

まどか「……貴方が!!」

 まどかは怒りの籠もった声とともに、隣のバケモノを見た。
 バケモノは、何故か襲ってこなかった。
 その代わり、バケモノの横には




















 3つの、少女、だったものがあった。


 3つの元少女は、バケモノを取り囲むように立っていた。
 中心に立つバケモノは、擦り切れた騎士の様な鎧の上に、擦り切れた白衣を着ていた。
 しかし、その顔には、大きな口があり、
 鮫のような、鋭い刃が無数に存在していた。

 少女達は、身じろぎ一つせず、バケモノを囲んでいた。

 バケモノは、それを静かに見ていた。
 そして、不意に、黄色い少女へ手を伸ばし――――


























 喰らった。


まどか「!!」

 凄惨な光景だった。
 少なくとも、まどかには直視できない光景だった。

 バケモノは次々と少女達を喰らう。

 肉が裂け

 内蔵が出て

 血が飛び散った

 ピリャリと、血がまどかとほむらに降り懸かった。
 しかし、まどかはそれを拭う事もせずに、地獄のような光景を、声もなく見つめていた。

 数秒後、少女達は完全にこの世から姿を消した。

 捕食が終わったバケモノは、まどかの方を向く。

まどか「……!!」

 まどかは自分も食べられるのではないかと思う。
 しかし、逃げることは許されなかった。
 
 バケモノはまどかに手を伸ばす。
 その光景に、まどかは死を覚悟し、目を閉じた。


















 ―――― 蒼い光が、まどかと、そしてほむらを包んだ。


まどか「え?」

 いつまで経っても死ぬ気配がないことを感じ、
 目を恐る恐る開いたまどかはその光景に驚愕する。

 不可思議な光がまどか達を包んでいるからではない。
 まどかにとっては、それは見たことのある光だ。
 
 それは、まどかの親友である、青い少女の力だった。

 音符のようなモノが、ほむらを取り囲む。
 そして、ボゴボゴボゴと、奇妙な音を立てながら、
 ほむらの潰れた腕が、足が、再生していく。

 まどかは、その異常な光景をただ、黙ってみていることしかできない。

 ほむらの腕と足が完全に回復すると、バケモノは満足そうに笑った、
 そのようにまどかには見えた。

 そして、バケモノは、空に浮かぶワルプルギスの夜の方へ向くと、そのまま跳躍した。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 騎士のようなバケモノは、最悪の魔女へ向かって跳躍する。
 その手には、いつの間にか槍が握られている。

 紅い、紅い槍だった。

 バケモノは槍を降りあげ、魔女へ向かい投擲する。
 
 しかし、その程度の槍の一撃ならば、本来はワルプルギスの夜に対して、傷一つ付けることが出来ない。
 因果反転、と言う販促に近い能力を抜きにしても、
 ワルプルギス自体が圧倒的な力を持っているからだ。

 
 ―――― キャハハハハハハハハハハ!! 

 だから、反転は必要ないと、ワルプルギスの夜は判断する。

 それが、いけなかった。







 ズガァァァァン!!!

 爆音がなった。
 そして、最凶の魔女の下部分。
 歯車のような部分が、大きく欠けていた。


 誰も、その時起こったことを理解できなかった。
 最凶の魔女。
 それが、傷を負っていた。

 その中で、唯一冷静な騎士のバケモノ。
 騎士は、無数のマスケット銃を展開する。

 それも、かつて黄色い魔法少女が使っていたモノだった。

 十や二十を遙かに超える数のマスケットは、その銃口の全てを魔女へ向ける。
 そして、その銃口と同じ数の弾丸を吐き出した。

 ズガガガガガガガガガガガ!!

 マスケット銃では本来出せないはずの音が、無数のマスケット銃が組み合わされることにより響く。

 無数の銃弾が魔女を襲う。
 しかし今度は、魔女も油断しなかった。

 最凶の魔女の固有魔法、因果反転を発動し、全ての攻撃を完全に無効化する。

 その筈だった

 ―――― キャハハハハハハハハ……ハ?

 因果反転を発動した魔女はしかし、全ての弾丸をその身に受けていた。
 魔女の大きさと比べると、あまりにも小さい弾丸が、大量に魔女に当たっていた。
 最凶の魔女は理解できなかった。

 そして、騎士は口を歪め、笑った――――
























 グシャッ

 騎士は、二方向から襲ったビルに潰された。


 ―――― キャハハハハハハハハハハハハ!!

 魔女は、再び笑う。
 どうやら、騎士の姿をしたバケモノは、自らの側に来ていた暴力に気づかなかったらしい。

 魔女の魔力により強化された巨大質量を持つ物体は、確実にバケモノを砕いた。
 魔法少女は愚か、魔女の中でもかなりの耐久力を持つお菓子の魔女でも木っ端微塵になる威力だ。

 だから、生きているはずがなかった。

 地に落ちたビルは、そのまま二度と動かない。

 ただ、その間からぐちゃくちゃになったナニカが飛び出した。

 肉塊は、周りに蒼い光を展開させる。
 ゴボゴボと、奇妙な音を立てながら、肉塊は徐々に、形を取り戻していった。

 それは、最凶の魔女に唯一傷を与えた化物。
 化物は、右手に剣を携えていた。
 それはもちろん、かつての青い少女の剣である。

 魔女は恐怖した。
 錯乱のままに、魔女は瓦礫を化物へ跳ばす。
 瓦礫といっても、下級の魔法少女ならば一撃で葬り去る威力だ。

 現に、化物も、手を砕かれ、足を砕かれる。


 しかし、直ぐに再生してしまう。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も砕いても、化物は近づいてくる。

 魔女は恐怖した。
 なぜなら、魔女は知っているからだ。

 その化物は、諦めない。

 その男は、諦めない。

 魔女は、不意に朧気なビジョンを思い出す。

 そうだ

 そうだった

 その化物、いや、その男は、かつて魔女の英雄だったものだ。
 騎士であった存在だ。

 そう、その名前は――――







































 バツンッ

 そこで首を断ち切られた魔女の意識は、二度と甦ることはなかった。
 


 バケモノは、トリガーを引いたことにより、一時的に巨大化させた剣を手から放す。

 剣は騎士の手を放れると、存在意義を失ったかのように、灰となり、宙に舞った。

 目の前の最悪の魔女も同じだった。
 
 首を断ち切られた魔女は、断末魔の悲鳴も上げることはなかった。

 ただ、静かに灰となり、朽ちる。
 
 おとぎ話のように、悪の魔女は、騎士によって倒された。
 そして、世界は舞台装置から解放される。
 もはや、この世界の脚本は存在しない。

 この世界は物語ではない。

 故に




















 悪の魔女を倒した騎士も、灰になり、消え去ろうとしていた。


 騎士は笑う。

 騎士は笑う。

 騎士は笑う。

 まるで、自らの消滅を喜ぶかのように。

 怪物である騎士の体は、もう殆ど消えようとしていた。

 最後に騎士は、ある方向を向いた。

 そこには、バケモノになる前の男にとって、守るべき存在が居た。

 バケモノはそれを覚えている。

 自我を無くし、心を無くし、人としての全てを無くしたバケモノは、それでも覚えていた。

 そして、バケモノは完全に消滅する。
 
























 「執念」の性質を持つ、自らを憎悪したバケモノの物語は、そこで終わった。 



 ???



 目を覚ますと、俺は不思議な場所にいた。

岡部「……ここは?」

 光が溢れ、世界を覆っている。
 そこに俺は、一人で居た。

岡部「取り合えず、歩いてみるか」

 立ち止まっていても埒があかないと思った俺は、歩くことにした。
 
 俺は、道無き道を歩く。
 歩いて、歩いて、歩いて、歩く。



 「ねぇ、倫太郎さん」

 そして、俺は一人の少女と出会った。

岡部「……マミか」

マミ「一緒に歩いても、いい?」

岡部「……ああ」

 俺とマミは、連れだって、道無き道を行く。
 少し歩くと、マミが話しかけてきた。 

マミ「ねぇ、倫太郎さん」

岡部「なんだ?」

マミ「ずっと一緒に、いても良い?」

岡部「……勝手にしろ」

 全ての戦いは終わった。
 これからは、誰もが自由の世界だ。
 マミの意志は、マミだけの物だ。
 ……何で俺を選ぶのかは分からないが。


 「ねぇ、岡部先生」

 声がした。
 俺が振り向くと、マミは消えていて、代わりにさやかがいた。

さやか「あたし、先生の役にたてたかな?」
  
岡部「……もちろんだ」

 さやかの魔法は、確実に役に立った。
 さやかにあの回復魔法が発現したのも、彼女の気質故だろう。
 感謝している。

岡部「……済まないな。死体に、あんな事をして」

さやか「別に良いですよ。もう死んでたんですから。
    それよりも、まどかも、恭介も、仁美も、
    ……転校生も生きてます。それだけで、十分ですよ」

 さやかは笑った。
 俺も、少し笑った。
 やはり、さやかは笑ったほうが似合うな。
 そう思った。


 「なあ、オッサン」

 声がした。
 次は、杏子がいた。

杏子「この世界に、正義ってあんのかな? 奇跡ってあんのかな?」

岡部「……それはお前が決めることだろう」

 彼のアインシュタイン曰く、生き方には人生には奇跡など無いという生き方と、
 人生の全ての生き方が奇跡だと思う生き方があるらしい。
 つまり、奇跡なんて人の主観に左右されるわけだ。
 
岡部「ただ、自由が、この世界にはある。全てが決まってないんだ。
    明日には、奇跡と思える何かが起こるかもな」

杏子「へへっ、そうだな」

岡部「そうだろう」

杏子「なぁオッサン」

岡部「何だ?」

杏子「やっぱさ、奇跡ってあると思うんだ」

岡部「そうか」

杏子「……ありがとな」

 そう言って、杏子は微笑んだ。
 そこには、愛と正義を信じる無垢な少女がいた。


 「……あんたって、ほんとに馬鹿ね」

 声がした。

岡部「なんだ、助手か」

紅利栖「助手ってゆーな」

 なんだか、このやり取りも懐かしい。
 俺は、ちょっと笑った。

紅利栖「で、これが岡部の望んだ結末なわけ?」

 
岡部「最良ではない。でも、尽くせるだけ尽くしたさ」 

紅利栖「……ほんと、岡部って馬鹿よね」

岡部「……天才変態処女に言われたくないな」

紅利栖「しょ、しょしょしょしょ処女ちゃうわ!!」

岡部「わかった、わかった」

紅利栖「……」ムスー

 どうやら、紅利栖を怒らせたらしい。
 まあいいさ、時間はたくさんあるんだ。
 ゆっくり行こう。


 「ねえ、オカリン」

 声が聞こえた。
 振り向けば、まゆりがいた。

まゆり「まゆしぃは、オカリンの重荷かなぁ……」

 珍しくヘコんでいる。
 俺は優しく諭した。

岡部「……そんなこと、あるわけ無いだろう」

まゆり「でも、まゆしぃは……」

岡部「……人質が意見とは、な。お前は、黙って俺とずっと一緒にいればいい」

まゆり「……いいの?」

岡部「かまわないさ。時間はたくさんある。お前に紹介したい奴らだっている。ゆっくり行こう」

まゆり「……ありがとう」

 まゆりは笑った。
 俺も、笑った。

 俺は歩く。


 そして、俺は小さく呟く。

 なあ、ほむら。

 俺の声は、聞こえているか?

 たぶん聞こえてないだろう。

 だから、これは独り言だ。

 だけど、いつか、お前に届くと良いなと思う。



 この先の未来は、なにも決まっていない。

 真っ白な、世界。

 そこに物語を描くのは、人の意志だ。

 その先に俺は行けない。

 それでいい。




 完全に自由な世界。

 お前の世界。

 俺が望んだ世界。

 随分と、手からこぼしてしまった。

 でも、一握りだけは掴めた、その希望。

 できるだけ、大切にしてくれ。




 それと、最後のわがままだ。

 願わくば――――

























 俺のことなんて忘れて、幸せに生きてくれ。


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 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ほむら「……ん」

 粘ついた意識が覚醒する。
 ほむらが目を開けると、青空が広がっていた。

まどか「ほむらちゃん……気づいたの?」

 愛すべき親友の声が聞こえる。
 ここは、どこだろうか。

Qβ?『そうだね、ここは、完全に自由な世界。運命に縛られない、人間の世界。神の居ない世界さ』

ほむら「……生きてたの」

Qβ?『まあ、もうそろそろ僕の意識も消える』

ほむら「?」

Qβ?『こっちの話さ』

 ほむらは、不可思議なことを言うQβから目を放すと、辺りを見回した。

ほむら「ねぇ、岡部はどこ?」

 あれは夢だったのだろうか。
 ほむらの腕が潰れ、足が潰れ、今にも死にそうだったとき、岡部が来てくれたのではなかったのか。
 ほむらは、まどかに問いかけた。
 しかし、答えは他の方向から聞こえた。

Qβ?『死んだよ。君たちに、素晴らしき新世界を残してね』


ほむら「……そう」

 岡部が死んだ。
 そう聞かされても、ほむらの心は、波立たなかった。
 岡部は、それほど自分にとって大きな存在ではなかったのだろうか。
 そう、考えると、少し悲しかった。

ほむら「……終わったのね」

 ほむらは、小さく呟く。
 本当に、全てが終わったのだ。
 ほむらには、なかなかそれを信じることが出来なかった。
 ほむらは、空を見上げる。
 そして、小さく、口を動かした。

 ―――― ありがとう。

 青空は、どこまでも続いていた。























 全てが、自由であった。





 CAST


 岡部倫太郎

 
 暁美ほむら

 
 椎名まゆり


 鹿目まどか

 
 牧瀬紅利栖

 
 巴マミ


 橋田至


 佐倉杏子


 阿万音由季


 美樹さやか


 秋葉留未穂

 
 早乙女和子


 天王寺祐吾


 QB


 天王寺綯


 Qβ




 
































 愚行移山のオブサーバーズ

 THIS IS THE TRUE END 









































 BUT IT IS NOT THE HAPPY END

 ROOP ROOP ROOP ROOP……



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まどか「ねぇ、ほむらちゃん」

 不意に、まどかが話しかけてきた。
 ほむらは、短く返す。

ほむら「……なに?」

 なぜだか、ほむらは親友に対し、ぞんざいな態度で返してしまう。
 しかし、まどかはそれを気にした様子もなく、続けた。

まどか「そう言えばね? さやかちゃんや、マミさんや杏子ちゃんの、
     その……体は、化け物に食べられちゃったんだけど……」

ほむら「……」

 要領を得ないまどかの言葉、しかし、まどかは賢明に言葉を見つけようとしていた。

まどか「え、と。さっきそこで……」

 ―――― 岡部先生の、体を、見つけたの。

ほむら「……そう」

 岡部の死体が見つかった。
 それがどうした?
 そうほむらは思う。

 生きてるわけでも無し。

 見るだけ無意味である。

 しかし、ほむらは

ほむら「……埋葬でも、してあげましょうか」

 岡部への敬意と、ほんの少しの同情で、そう言った。
 


 そして、ほむらは岡部だったものと対面する。

 動かない体。

 安らかな顔。

 まるで、眠っているような岡部の死体。

 ほむらは、彼を瓦礫に埋めようと、動かそうとしたときに、岡部に触れた。

 そのとき――――



















ほむら「……………………………………え?」

 ほむらは、ようやく理解する。


 岡部の、その手の冷たさの意味を。
 岡部が動かない理由を。
 岡部の安らかな顔の正体を。

 ほむらは、ようやく理解した。

 岡部がもう、笑わないことを。
 岡部がもう、怒らないことを。
 岡部がもう、ほむらを導いてくれないことを。

 ほむらは、ようやく気づいた。

 岡部と過ごした、長い、長い時間。
 その一つ一つが、自分にとって掛け替えのない物だったこと。
 岡部は、もう二度と、自分に紅茶を振る舞ってくれない。
 自分は、もう二度と、岡部と同じ時を生きられない。

 それに気づいたとき、気づけばほむらは――――


















ほむら「あ……ぁ……」

 絶叫すら、上げることは出来なかった。


まどか「ほむら……ちゃん?」

 まどかはほむらの異変に気づき、心配そうに駆け寄る。
 だが、ほむらにはそれが見えなかった。

ほむら「……死んだ?」

 虚ろに、呟く。

ほむら「しんだ、しんだ、死んだ?」

 まるで壊れたラジオのように、一つの単語を繰り返していた。
 





 思考が出来ない。

 息が出来ない。

 わらえない。

 認めない。

 苦しい。

 辛い。

 痛い。

 悲しい。

 死にたい。

 わらいたい。

 一緒にいたい。


 どうして
 どうして
 どうして
 どうして

 何故
 何故
 何故
 何故

 いやだ
 いやだ
 いやだ
 いやだ

 どうすれば
 どうすれば
 どうすれば
 どうすれば

 おかべりんたろうを、すくうことができる?

 すくう
 すくう
 すくう
 すくう 
 すくう
 すくう
 すくう
















 パチンッ

 その時、ほむらの脳裏に、一つだけ、方法が閃いた。


ほむら「ねぇ、あなた……」

 すぐさま、ほむらはQβに話しかける。

Qβ?『? 何だい?』

 ほむらは、ゆっくりと、吐き出すように言った。

ほむら「私と、契約してくれない?」

まどか「……ほむらちゃん?」

 まどかが、呆然としたようにほむらを見た。
 ほむらは気にならなかった。
 ただ、狂的に、病的に言った。

ほむら「私と契約しなさい。インキュベータ」

 Qβの無表情な顔は変わらない。

Qβ?『……彼を、救うつもりかい?』

 しかし、声色は明らかに強ばっていた。
 ほむらは笑う。
 答えなど決まっている。

ほむら「それ以外にある?」

Qβ?『君は……鹿目まどかが生きる可能性がある世界を、捨てるつもりかい?』

 Qβが問いかける。
 鹿目まどか、
 
 その言葉に、ほむらの心はチクリと痛む。

 だが、それだけだった。


ほむら「両方生き残れる世界にすれば問題はないわ」

 狂った思考で弾き出した結論を得意そうに言った。
 その様子に、Qβは静かに溜息をついた。
 そして、言った。

Qβ?『良いよ。 元々、そうしないと奴の手からは逃れられないからね』

ほむら「……交渉、成立ね」

 ほむらは笑った。
 それは、今までにないほど、歪な笑いだった。

Qβ『で、願いは何だい?』

 Qβが問う。
 ほむらは狂的な笑いのまま、言った。
















ほむら「もう一度、私に寄越しなさい……」

 ―――― 時を越える、力を。
 
 その時、世界に光が満ち。

 ほむらの新たな戦いが始まった。

 そうして、愚者の物語は新たな愚者へと渡される。
 

 これで、今回の投下を終わりにします。
 
 オカリン無双&ハーレム回でした。
 代償は命ですけど。
 
 ちなみにオカリン魔女(?)化時の名前は『アルベルト』です。
 もちろん、有名な某相対性理論の父が元ネタ。

 今回は色々と工夫を凝らした回です。

 まあ、ほむらはオカリンと同じ失敗をしましたね。
 
 長文失礼しました。
 それでは、お休みなさい。

 こんばんは、9;15から投下します。



 第33話;『これが罰というわけですか』



 岡部宅


 柔らかな日差しが俺の部屋を包んだ。

岡部「……ん、ん……」

 今は春だが、朝はかなり涼しい。
 その中で、暖かな光が俺の顔を照らす。
 その暖かさで、俺は目を覚ました。

岡部「……今は、何時だ?」

 小さく呟くが、答える者など誰もいない。
 俺は手元の携帯を覗き見る。

岡部「……えっと、時間は……」

 そこで、俺の思考は真っ白になる。
 なぜならば、俺の携帯電話のアラーム機能は既に終わっていた。
 そして、時刻は本来俺が起きるべき時間よりも遙かに未来であった。

岡部「…………………………え?」


 え、ちょ、まて、ウェイウェイウェイウェーイ。
 ま、ま、マジで?

岡部「ぎゃ……」

 ぎゃ

岡部「ギャアァァァアァァァァァァ!!!!!!」

 絶叫と共に、俺は慌てて起きあがり、支度を整える。
 ヤバい、殺される。

 俺は肉食獣から逃げるシマウマの如きスピードで家を出た。
 夜更かししすぎたか……?

 いや、それよりも……。

 遅れたら殺されてしまう。

 そこで俺は思考を止めると、今まで生きてきた中で出したことのないスピードで走っていった。


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 見滝原病院


 
 暁美ほむらの、粘ついた意識が一つの形を取る。
 ほむらは、静かに目を開けた。
 そして、小さく誰かの名前を呟いた。

ほむら「……お、かべ」

 その言葉を呟いた瞬間、ほむらの意識は急速に覚醒を始める。

ほむら「おかべ……岡部!?」

 ほむらは慌ててベッドを飛び出る。
 まるで、岡部と行った最初のタイムリープの時のようだった。

 不安だ。

 不安だった。

 観測していないと、岡部がどこかに消えてしまいそうだった。

 だから、ほむらはあの時のように駆け出す。

 自分と岡部が初めて会った場所。

 見滝原中学校へと。


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 鹿目まどかは何時もの日常を謳歌する。
 何時もと同じ道を歩き、
 何時もと同じ友達と話す。
 
まどか「あ、さやかちゃん。仁美ちゃん」

さやか「オハヨ~、まどか」

仁美「おはようございます。まどかさん」

 昨日まで、同じ道を歩いてきた。
 きっと、明日も同じ道を歩くのだろう。
 漠然と、まどかはそう思っていた。

 しかし、「今日」は何時もとは、少しだけ異なった。

さやか「……ん? あれ、何?」

 最初に気づいたのはさやかだった。
 さやかはまどかたちの後ろを指さす。
 まどか達も、つられて振り向いた。
 そして、そこには

ほむら「はっ……はっ……」

 髪を振り乱し、必死の形相で駆ける少女がいた。
 


まどか「何だろう……」

 少女は病院服を着ていた。
 そして、足には何も履いて無く、擦りむいたのか、裸足の足が少し赤くなっているように見えた。
 まどか達が、その少女を遠目で見つめていると、その少女もまどか達に気づいたようで、こちらに駆けてきた。
 
仁美「こっちに来ますわ」

 仁美の言葉通り、少女はまどか達まで駆け、ちょうどまどかの目の前で止まった。
 そして、ほとんどまどかにつかみかかるような体勢で言った。

ほむら「……まどか? まどか!! 岡部は!? 岡部はどこ!?」

さやか「え、何、この子まどかの知り合い!?」

 少女の態度に、あらぬ勘違いをするさやか。
 だが、まどかにはこのような知り合いはいない。
 しかし、なおも謎の少女は叫び続ける。

ほむら「岡部よ!! 岡部倫太郎!! 貴女達の学校にいる、教師もどき!! 彼は今何処にいるの!?」

 少女は意味の分からない問いかけをする。
 しかし、少女の目は真剣そのものだった。

 まどかは、戸惑いつつも、申し訳ない気持ちになり、言った。

まどか「え、と。……岡部って」



























 ―――― 誰ですか?

ほむら「…………ぇ?」

 少女の顔が、凍り付いた。


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 数時間後



岡部「疲れた……」

 俺はクタクタになりながら、家への帰路につく。
 ちなみに、俺の仕事は某有名ハンバーガー店でのバイトだ。
 内容は主に接客。
 俺自体はあまり愛想が良い方ではないのだが、俺の実家は何の因果か青果店の為、
 接客ノウハウはもはや本能レベルに染み着いているのである。

 まあ、全国チェーン店の接客と、自営の青果店の接客など全然違うのだが、
 この地、見滝原のマ○クは時間帯責任者が奇特な人物のため、非常にアットホームな雰囲気なのであった。
 よって、俺の接客もあまり浮かない。
 ただし、店長は鬼の様な人物の為、絶対にサボれない。
 
 まあ、それを含めても非常に理想的な環境だった。

岡部「……ん? もう家か……」

 自分の運の良さについてツラツラ思考をしている内に、
 どうやら家の前まで着いてしまったようである。

 消して新築とは言えないが、掃除が行き届いていて、
 小ぎれいな印象を受けるそのビルの二階。

 そこが俺の城だ。

 そして、その一階には需要不明なブラウン管テレビを扱う店、ブラウン管工房が存在する。
 俺の部屋の大家であり、恩人でもある人物が経営する店。
 ちょっとした縁で、俺は彼等と出会い、一時期この店でバイトをしていたこともある、思い出深い場所だ。

 どうやら、その店は、まだ開いているみたいだった。


 ブラウン管テレビが所狭しと並ぶその店内に足を踏み入れる。

岡部「店長、いますか~?」

 声を上げながら、その店先を潜ると、とある人物が出迎えてくれた。

綯「あ!! バイトのおじさん!!」

 トタトタと駆け寄ってくる彼女は天王寺綯。
 この店の店長である天王寺さんの一人娘だ。
 非常にしっかりした娘さんであり、昔のちょっとした出来事により、俺みたいな奴に懐いてくれている。
 彼女は笑顔を浮かべながら言った。

綯「おじさん!! 明日のオフ会、行っても良いってお父さんが言ってくれたの!!」

岡部「そうか!! それは良かったな!!」

 俺は笑いながら駆け寄ってくる綯の頭を少し撫でた。
 彼女は嫌がる様子もなく、それを受け入れてくれた。


















 ちなみに、オフ会というのは、今、この見滝原市で試験的に行われている「見滝原コミュニティ」のオフ会のことである。


 「見滝原コミュニティ」と言うのは、
 見滝原市内のみでログインすることのできる専用掲示板のことを指す。
 掲示板とは言っているが、その実は何でもありのお喋り場だ。

 オンラインゲームやチャットなど、
 月いくらかの会費を払うだけで色々なことをして遊ぶことができるのだ。
 俺も、半年前から綯に誘われ、この掲示板もどきで遊んでいる。

 話は戻すが、綯の言う「明日のオフ会」と言うのは、
 この「見滝原コミュニティ」でのオンラインゲーム
 「ディストピアブレイカー」のギルド内でのオフ会のことだ。

 ゲームについての説明は省くが、用はそのゲーム内のシステムに
 「ギルド」というものが存在し、明日はそれのオフ会なのだ。

綯「おじさんも来るんでしょ? だってギルドマスターだもんね!!」

岡部「まあな、ギルドマスターだしな……」

 ギルドマスターとは、文字通りギルドの創設者のことだ。
 このゲームを始めた当初に、俺がノリとお遊びで作った零細ギルド。
 もともと、俺は人付き合いが苦手なため、色々なしがらみがある他ギルドに入らず、
 なおかつ綯とパーティを組むため、形だけ整えたマジモンの零細ギルドだ。


 名前は、「未来ガジェット研究所」。
 色々とあれな名前だ。
 まあ、俺のハンドルネームが「鳳凰院凶真」というだけでも何かアレなのだが。

 まあ、そんなことはどうでも言い。
 問題なのは、何故そんな本来メンバーが俺と綯だけで、
 オフ会開く必要のない零細ギルドがオフ会を開いたか、である。

 結論から言えば、入ってしまったのだ。
 この零細ギルドに、人が。

 ついこの前、プレイヤーキラーに襲われた俺を助けてくれた熟練のプレイヤー様と、
 何を間違ったのか「最初に目に入った」という理由だけでこのギルドを選んだ新人が。

 入ってしまったのである。

綯「しかも二人とも女の人なんだよね!! 楽しみだな~」

岡部「……いや、まあ、そうだな」

 綯などは浮かれているが、正直俺は憂鬱だった。
 入ってきた二人は、どちらも女性らしいのだが、正直俺は信用できない。

 オフ会で会ったとたんネカマだとカミングアウトされて終了だと思っている。
 寧ろ、どちらともそれが目的なのではないかとも思ってしまう。
 て言うか、本当に女の人だったらそれこそ俺にとってはネカマであることより始末が悪い。

 ―――― 純粋に、怖いのだ。彼女を思い出すから。

 だが、綯がやる気の為、行かざるえない。
 非常に憂鬱だった。



 因みに、綯のハンドルネームは「ヨルムンガンド」。
 熟練さんは「ソニックメイデン」。
 新人さんは「サークル」。

 である。

 マジで「鳳凰院凶真」だけ浮いている。
 
 何でこんな名前にしちゃったのだろうか。



 岡部宅



 下のブラウン管工房に店長も帰ってきて、俺はその場を辞し、家に帰る。
 とにかく、朝の全力ダッシュが堪えた。
 早く寝たい。
 俺は家の扉を開く。

岡部「ただいま……なんてな」

 下らない冗談だ。
 俺は一人暮らし。
 出迎えてくれる者など居ない。
















 その、筈だった。
 
 「おかえりなさい、遅かったわね」


岡部「は?」

 何か幻聴が聞こえたぞ?

 「……帰ってきたんでしょ?」

 ハハハ俺も一人暮らしが長いからな人恋しいのだろう幻聴の一つや二つぐらい聞くだろう
 うんそうだきっとそうに違いない消して俺の部屋に見たことのない少女が居るなんて三流
 エロゲみたいな展開はないはずだうんきっとそうだ。

 「岡部?」

岡部「ギャァ!!」

 気づけば目の前に少女の顔があった。
 かなりビビった。
 
 いや、それよりも

 それよりも

岡部「だ、誰だお前!!?」 
 
 ―――― ズキリと、胸が痛む。


 俺は至近距離にある少女の顔から逃げるように後ずさる。
 


 しかしながら、部屋の主は俺な訳で、この少女は間違いなく不法侵入なのだが。
 いや、このご時世、一人暮らしの男の部屋に少女が居るなんて言われて見ろ、責められるのは俺だ。

 ―――― それに、これくらいの年の少女と、あまり話していたくない。 

 もちろん、目の前にいる少女と会ったことはないため、俺は確実にアレだ。捕まる。

 ……会ったことなんて、ないよ、な?

 不意に、そんなことを思ってしまう。
 そこで、俺はよく彼女の顔を確かめようと、背けていた目を彼女に向ける。
 そして、その少女は




















ほむら「そんな……私のこと、覚えてないの……?」

 口を開け、目を見開きながら、泣いていた。


岡部「え、え?」

 俺は戸惑う。
 いや、テンパる。
 それもそうだろう。

 目の前で少女が泣いているのだ。
 しかも俺のせいのように思えた。

 よく見ると美少女である。
 ボサボサの髪と病院着で分かりにくかったが。

ほむら「そんな、嘘でしょ? 嘘って言ってよ……」

 少女は泣いている。
 いや、でも、俺は彼女を知らない。

 話したことは愚か、会ったことすらない。
 見たことなど、無いのだ。

岡部「え、あと、その……大丈夫か?」

 流石に居たたまれなくなった俺は、少女に恐る恐る声をかける。
 少女は、涙に塗れた目で、俺を見つめた。

岡部「え~、あ、その、何だ」

ほむら「……何?」

 いや、怖いです。
 そんな怖い目で睨まないでください。
 とは言えず

岡部「何か、用事があるようだし、上がるか?」

 こんな事しか言えない俺であった。

 ―――― 本当は、一秒でも早く、この家から追い出したかった。

 ―――― それが出来ないのは、彼女に対する罪悪感からだ。

 ―――― 目の前の少女ではなく、ずっと前に死んだ彼女への、罪悪感からなのだ。


岡部「ウーロン茶で、いいか?」

 俺は恐る恐る、今でまだ鼻を啜っている少女に問う。
 少女は、涙ぐみながら言った。

ほむら「……紅茶、ある?」

岡部「……インスタントならあるが」

ほむら「……じゃあいらない」

 そう言ってまたエグエグと泣き始める少女。
 泣きたいのはこっちだ。

 どうすればいいのだ一体。
 誰か教えてください。
 
 とりあえず俺も席に着き、事情を聴取する。

岡部「暁美、でいいのか?」

ほむら「……ほむらでいいわ」

 いきなりハードルが上がりましたね、ハイ。
 初対面で何言っているのだこの女は。
 もしかして、最近はやっている電波さんなのかこの子は。


岡部「それでは暁美、おま……君はなぜ俺に……」

ほむら「……」グス

 あ、ヤベ。

岡部「分かった分かった分かった!! ほむらだな!? 何で君は俺の部屋にいたんだ!?」

 半ばヤケクソになる。
 もういい、後は野と成れ山と成れだ。

 俺の投げやりな質問に、ほむらは静かに答えた。

ほむら「……私は」














 ―――― 未来からきたの。

岡部「…………………………は?」

 もしかしなくても、やはりこの子は電波なのかもしれない。そう思った。


 いきなりすごいことをカミングアウトされた。
 さすがの俺もびっくりである。
 
 しかも、そのすぐ後に堰を切ったように話し始められた。
 
 結論から言えば、その話は信じがたかった。

 俺が美化されてるし魔法少女が魔女になってファーだし
 俺が美化されてるしインキュベータやエントロピーなど色々な専門用語が飛び交うし
 俺が美化されてるし挙げ句の果てには時間跳躍なんか出てくるし
 俺が美化されてるし俺が美化されてるし。

 ただ、その話を語る暁美の目は真剣だった。

 だが、だが――――



















岡部「信じ、られんな……」

 何かもう、ほら、ビュンビュン飛んでしまっている。
 何がとは言わない。
 分かってほしい。


ほむら「確かに、そうかもしれない。でも、半分でも良いから、信じて」

岡部「……まあ、かまわないが」

 俺としても、完全に嘘だとは思わない。
 そうとは決めつけたくない。
 俺も、似たような体験をしたことがあるからだ。
 誰からも信じられないってのは、かなり辛い。

 ここは俺が、大人として彼女の話に真剣に取り組まなければいけない機会である。

 だから、俺は。

岡部「なあ、だが暁……ほむらよ」

ほむら「……何」

 彼女に問いかける。

岡部「君はなぜ……」

 お前は何故。

 こんな
















岡部「こんな馬鹿なことをしているんだ?」

 聞かずには、居られなかった。


ほむら「……え?」

 少女は唖然とした。
 まあ、そうだろう。
 だが、目の前にいる少女の話を全て、信じるとするのなら、
 少女の最後の行動は、あまりにも不可思議だ。
 故に、俺は聞かずには居られない。

岡部「……君の目的は、その親友とやらを救うことなんだろう? 
    その目的が叶ったのだから、わざわざ時間跳躍などしなくても良いと思うのだが……」

 俺の最大の疑問点はそこだった。
 何故この少女は、その世界を投げ捨て、此処に来たのだろうか。

ほむら「……貴方、自分が何言っているのか理解しているの? ……このままじゃ、貴方は死んでしまうのよ」

岡部「まあ、せいぜい抗わさせてもらうさ」

 そもそも、この電波な話が事実と決まった訳じゃない。
 ……まあ、もし俺が死んでしまうことが事実だとしても。

 ―――― それはそれで、好都合なのだがな。

 俺の言葉を聞いた少女は、目を赤くしながら机を叩く。
 その顔には、憤怒の感情があった。

ほむら「そんなに!! 運命を変えることは簡単な事じゃないの!! 私は!! 貴方と、まどかが……救われる世界に……」

 その少女の言葉を聞いたとき。

 ―――― ドロリと、嫌なものが溢れだした。


岡部「……余計なお世話だ」

ほむら「……え」

 いきなり剣呑な声色に変化した俺の言葉。
 少女は戸惑っていた。
 しかし、俺はその声色のまま、続けた。

 全てを救う、か……

岡部「愚かだな」

 俺はそう断言する。
 少女は黙って、俺を睨んでいた。



 しかし、そもそも、現実は都合の良いおとぎ話ではないのだ。

 全てが救われるハッピーエンドなど、この残酷な世界のどこにも存在しない。

 どこかで妥協しないといけないのだ。

 全てを守りたいなど、ガキの理論。

 だから嫌なことでも、受け入れないといけないのだ。

 それが出来ない奴は、全てを失うまでだ。

岡部「自分に都合の悪い現実を拒絶するなんて、唯の逃げだ。君は、逃げるべきじゃなかったんだ」


 たとえ、全てが彼女の妄想だとしても。
 これだけは言っておきたかった。

岡部「これから、君の身に降り懸かる全ての不幸を、君はなかったことにするつもりなのか?」

 そんなことは、不可能だ。

岡部「不可能だろ? だからさ、君は」

 ―――― 俺の死を、受け入れるべきだったんだ。

 何だか、妙な気分がするな。
 俺もヤバいぐらい電波な事を言っている気がする。

 ―――― まあ、俺の命なんてどうでも良い。重要なのは別のことだ。

 ただ、間違ったことは言っていない。

 自分にとって都合の悪いことがある時、それから逃げ出すことは自分ばかりでなく、他人を傷つけてしまう愚かな行為だ。
 そして、逃げ続ける事なんて出来やしない。

 この残酷な世界で、自分にとって都合の悪い出来事なんて、それこそ星の数ほどあるのだから。

 強くあるべきなのだ。
 自分の失敗から目を背けるのでは無く、失敗を教訓にし、二度と同じ過ちを繰り返さないこと。
 それが、この世界の住民に求められているものであり、俺たちが生きる上でもっとも大切なものだ。

 ―――― 本当に?


 妙な思考を頭を降って止める。
 とにかく、彼女を取り巻く環境は絶望的だ。
 ならば、もうここらで現実を受け入れても――――




























 バリンッ!!!!!!!!!!

 ガラスの割れる、音がした。
 驚いた俺が目を向けると、そこには、

ほむら「ふざけないで!!」

 憤怒、と言う表現ですら生温い形相で俺を睨む、暁美ほむらの姿があった。
 恐ろしい顔をした少女は、テーブルをまたぎ、俺につかみかかる。

ほむら「貴方は……岡部じゃない!! 岡部は、そんなこと言わない!!」

 カチン

 何だか無性に苛立つ。
 この電波少女が言う岡部さんが誰だか知らないが、
 俺とそんな居たかどうかも不明の人物を比べないで欲しい。


 何だか元彼と比べられる彼氏みたいだ。
 いや、俺は付き合ったことなど無いけど。
 そんな感じがした。

ほむら「貴方なんて、岡部じゃない!!」

 また、一段と大きな声で少女が叫ぶ。
 流石に俺ももう色々とアレなので、俺は少女を睨みつけ――――


























岡部「……あれ?」

 睨みつけることは出来なかった。
 少女は、跡形もなく消えていた。
 割れたガラスが、電灯の光を反射していた。
 

 これで今回の投下を終わりにします。

セカンドオカリン「諦めろ、現実だ」

ダル「今日のお前が言うなスレはここですか?」

 色々とギャグテイストが入った回ですが、ほむらに感情移入していれば、両者の温度差が
 ものすごく気持ち悪い回だったと思います。

 そして、セカンドオカリン登場でございます。
 もとはβオカリン。
 ダブルオ―カリンと名付けよう。

 まだまだ風呂敷を広げます。 
 倍プッシュだ……!!

 長文と散文失礼しました。
 それでは、お休みなさい。

 ちなみに、オカリンのネット友達の『サークル』と『ソニックメイデン』はまどマギキャラです。
 予想してみてね!!
 
 それでは今度こそ、お休みなさい。



 あ、スイマセン。
 上のレスの
 
 もとはβオカリン

 の記述ですが、もう少し詳しく書くと、性格はアルタイルβオカリンに近い感じという事です。
 さすがにこのオカリンがβ世界戦線から来たとか言う超設定はやらないつもりですので、たぶん。

 何度もスイマセン
 それでは、お休みなさい。

 こんばんは、11;00から投下を始めたいと思います。



 第34話;『魂は何処にあるんだろうね』


 暗い

 暗い

 暗い
 
 暗い

 暗い

 暗い、暗い病室で、少女は唯、月を見た。

 心臓が軋む

 脳が歪み、自らの吐息すら不協和音を奏でる。

 そう錯覚してしまうほどに、ほむらの精神は狂い始めていた。












 沼男、と言う逸話を知っているだろうか?

 ある日、男が雷に打たれ、死んでしまった。

 男は雷により消滅してしまう。

 しかし、その雷が近くの水たまりに突然変異を起こさせた。

 水たまりは、男と同じ外見、記憶、精神を持つナニカに変異した。

 そして、そのまま、男と何もかもが同じナニカは、男として、生活を続けた。

 さて、男と、彼と同じ外見を持つ沼男は、死んでしまった男と同じ人物なのだろうか?

 これは、そう言う話だ。

 ほむらは、唐突にそんな話を思い出した。
 何処で聞いたかも分からない話。







 しかし、その話がほむらの意識を、さらに深い闇へ誘う。 

 岡部と同じ顔をしていながら、記憶も、性格も全く異なるあの男は何者だ?

 あの男は岡部ではない。

 それは確定している。

 ならば、本当の岡部は何処へ行った?

 何処へ?

 何処へ?

 何処へ?

 ほむらに、彼女が知っている岡部倫太郎は、もう何処にもいない。という発想はない。

 死ぬはずがないのだ。
 何故ならば、彼女は時を越えた。
 岡部がいる世界へやってきた。
 ならば、岡部は生きているはずだ。

 たとえ、ほむらのことを覚えていなくても、彼女の意志を肯定してくれるはずだ。
 
 尊重してくれるはずだ。

 だが、岡部と同じ顔をした男――――沼男はほむらの全てを否定する。
 ほむらの全てを踏み砕き、ほむらを陥れようとしている。

 そう、暁美ほむらは思いこんでいる。

ほむら「……何処なの?」


 小さい呟きも、やがては闇に飲まれる。

 そもそも、ほむらは気づくべきであった。
                    イレギュラー
 彼女の知る岡部倫太郎こそが、異分子であることに。
 
 岡部倫太郎が魔法少女の物語に介入する前に、ほむらは、
 何度も、岡部倫太郎が見滝原中学校の教師もどきをしていない世界線など、
 吐いて捨てるほどあったことに。

 それでも、同じ世界線をほむらが回り続けていたのは一重に、岡部倫太郎という存在がいたからだ。

 岡部倫太郎という存在が、指針となり、辛うじてほむらは同じ世界線を回り続けていた。

 そうでなければ、たとえば、彼女が岡部とともに時間跳躍をせずに、
 独りで時間跳躍を行えば、彼女は岡部倫太郎というイレギュラーを取り逃がし、
 鹿目まどかの因果率がより高い世界線へと、移動したはずである。

 最も、ほむら自身は、自分の運の良さに気づくことはなかった。
 これまでも、そしてこれからも。
 何故ならば、彼女にとっては、そんな可能性はもしもの話だからであるからだ。

 存在し得ない物語であるからだ。

 だが、今の彼女にしてみれば、そんな最悪の物語の方がまだ幸せだったのかもしれない。


ほむら「岡部……貴方は何処なの?」

 此処は彼女の知る「岡部倫太郎」が存在しない世界である。

 しかし、彼女は呟き続ける。

 何処にもいない誰かの名前を。

 繰り返し、繰り返し。

 






















 パチンッ

 そして、気づいた。

ほむら「……彼奴さえ居なければ」


 正確には、気づいたように思いこんだ。

ほむら「ふ、フフフ……ハハハハハ……そう、彼奴さえ、居なくなれば……」

 狂った思考、壊れた感性。

 それら全てによって、おぞましい計画が練り上げられる。

 倫理など無い

 常識もない

 計画性もない

 辻褄もない

 何もない

 暁美ほむらはもはや正気と言えるような精神ではなかった。

 もともと、そう言った性質があったのか。

 それとも、永きに渡る戦いのせいか。

 ほむらの思考はすでに狂気に浸食されていた。

 だからこそ、ほむらは気づけない。

 うっとりと、闇を見つめる彼女の腕が、

 小さく、それでもハッキリと震えていたことに。
 













 もし俺が、過去へ行くことが出来るのならば、

 過去の俺に言ってやりたい。

















 迂闊なことはするなと!!

 軽率なことをするなと!!

 フィクションの中にある陰謀や魔の手は、思ったより俺たちの側にあるのだと。














 翌日;ファミレス

 

 逆にサプライズ。
 こんな言葉を知っているだろうか?
 
 某、絶望教師漫画からの引用であるが、曰く。

 サプライズを期待してそれに身構えて居たのだが、
 何事もなかったのでむしろサプライズだった。と言うものだ。

 たとえば、誕生日に飲み会に誘われて、
 何かあるのかと思っていったら普通の飲み会で割り勘で金を払ったり。

 選挙前に古い友人から電話がかかってきて身構えたら、
 何気ない会話で終わったり。

岡部「……え、と、あの」

綯「おじさん!! あの人たちだよね!?」

 ネット上の女の友人の正体は絶対ネカマだと思って、オフ会に行ったら。

まどか「……」

早乙女「……」

岡部(ウソだろ!? 誰か嘘だと行ってくれ!!)

 寧ろ俺以外全員女だったりとな!!

 しかも、あれだ。
 女子中学生と、成人女性のコンビだ。

 俺と同年代じゃ無い分、話題も合わない。
 完全に詰み、俺は今すぐ投了したい。


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岡部「え~、では、これから、未来ガジェット研究所の第一回、オフ会を、始めたいと、思い、マス」

 目の前で、岡部と名乗った男が乾杯の音頭を取る。
 その姿は、子供のまどかにさえ、緊張しているのが伺えた。
 尤も、まどかも人のことは言えなかった。
 引っ込み思案なまどかにとっては、知らない人と会うことは大きな重荷となっているのだ。

 いや、それよりも、まどかを緊張させているのは、横にいる人物の存在だろう。

早乙女(な、なんで鹿目さんがいるんですか!?)

まどか(それはこっちの台詞ですよ!! 先生ってゲームとかするんですか?)

 まどかは、ゲームは子供がするものという印象を抱いていた。
 実際には違うのだが、まどかの父である知久も、
 母である詢子もゲームなどには触れないため、必然的にまどかはそういうイメージを持っているのだ。

 ゲームを全くしないと思っていた知久が、実は歴戦のカードゲーマーだったという事実をまどかが知るのは別の世界線の話である。

 ともかく、まどかはこの場の半数が大人、という事実に純粋に驚いていた。
 しかし、早乙女はどう受け取ったのか
                     ソロプレイヤー
早乙女「ええそうですよ!! どうせ私は独身ですよ!!」バンッ

岡部「ヒャッ!!?」 

 いきなり叫び、机を叩く。
 その様子に、岡部は小さく悲鳴を上げた。


 大の男が情けない限りだが、それでも驚いても仕方ないほど早乙女の表情は鬼気迫っていた。
 早乙女も、それに気づいたようで、顔を真っ赤にし、椅子に腰掛けた。
 岡部はひきつった顔で司会を続ける。

岡部「あ、貴女が、ソニックメイデン、だ……ですよね?」

早乙女「そ、そうですね。早乙女といいます」

 どこかぎこちない敬語で、早乙女の方を向く岡部。
 彼の自己紹介曰く、彼は「鳳凰院凶真」、通称キョーマらしい。

まどか(もうちょっと、怖い人かと思ってたんだけどな……)

 実際、ネット上では、もう少し尊大な口調だったはずだ。
 しかし今は、顔をひきつらせ、かなり緊張しているように見える。
 俗に言う、ネット弁慶なのだろうかとまどかは思った。

岡部「で、君が、サークル、と」

まどか「あ、はい。鹿目まどかです。見滝原中学校の二年生です」

綯「え……、サークルさん、見滝原中の人なんですか……?」

 まどかの自己紹介に、驚いたように声を上げたのは「ヨルムンガンド」、天王寺綯だった。
 
綯「私も、見滝原中学校なんです」

早乙女「あ、私も見滝原中学校で教師をやっています」

 綯の言葉に、同調するように早乙女も名乗る。
 どうやら、見滝原中の関係者がほとんどらしい。


岡部「……まさか、同じ組織に所属する人間が四人中三人も揃うとはな」

 岡部も驚いたようにメンバーを見回す。
 そして、小さく呟いた。

岡部「つまり、俺だけ蚊帳の外か……」

 どこか、物悲しそうな声色に、まどかはつい、岡部に声をかけてしまった。

まどか「あの、キョー……岡部さんは何をしているんですか?」

岡部「ん? ああ……」

 まどかの問いかけに、困ったように岡部は頭をかいた。

岡部「まあ、色々あってな……。今は一応、近くの店でアルバイトをしている」

まどか「あ、そうなんですか……」

 なにやら喋りづらそうな雰囲気を出していたので、まどかはおとなしく引き下がることにした。

岡部「……」

 ただ、まどかの質問に答えるその一瞬、岡部の顔に恐怖と、
 後悔が入り交じった表情が浮かんだことは、誰にも知られることはなかった。


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 黒い少女は歩く。

 その端正な顔に、歪んだ微笑みを浮かべながら。

 少女は歩く。

 濁った決意と、狂った執念を持ちながら。

 騎士を自称する哀れな道化は歩く。
                  エキストラ
 悪の魔王と誤認した、唯の大根役者を滅するため。

 敵を倒せば、愛しい人が戻ると盲信して。

 少女は澱んだ雲が空を覆う中、幽鬼のようにさまよっていた。


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 数時間後



 何とかオフ会は成功に終わった。

 とは言っても、ファミレスで数時間だべっただけだが。
 まあ、色々な話ができたので良しとしよう。
 いやしかし、あのボスを倒すあんな裏技があったとは!!
 早乙女さんには頭が下がる限りだ。

 綯と鹿目まどかも同じ中学の話で盛り上がったようだし、良かった良かった。

 ……それで終わったら、どれだけ良かったか。

岡部「……」

まどか「……」

 今現在俺は、サークルこと鹿目まどかと共に家路についているのである。

 いや、唯帰る方向が同じなだけだのだが。
 一切、スイーツな内容はない。

まどか「あ、あの……」

 横を歩く、鹿目まどかが俺に話しかける。
 いきなりのことに、俺はドキリとしてしまう。
 女は苦手なのだ。
 特に、女子中学生は。 

 ―――― もういないアイツを、思い出してしまうから。


岡部「な、なんだ?」

 だが、そんな内心の不和を出来るだけ押し留め、俺は対応する。
 鹿目まどかは口を開く。

まどか「あの、岡部さんと、綯ちゃんって元々知り合いなんですか?」
 
岡部「まあ、昔彼女の実家で働いていたことがあってだな……」

まどか「どんな店なんですか?」

岡部「ブラウン管専門テレビ店」

まどか「あれ、ブラウン管って、そろそろ使えなくなるんじゃ……」

岡部「あの人にそんな概念は通用しない。店長のブラウン管への愛情は常軌を逸しているのだ」

まどか「ふ、不思議な人なんですね……」

 引かれた。 
 俺は事実を言っただけなのに。
 まあいいか。

 俺は気を取り直すと、前を向き、道を歩く。
 鹿目まどかもこれ以上何も言わず、黙って歩いた。

まどか「あれ? あの子は……」

 突然、鹿目まどかが驚いたような声を上げる。
 俺が道を見ると、そこには
























ほむら「こんにちは……いい天気ね」

 奇妙な笑いをした、暁美ほむらがそこにいた。


岡部「暁美ほむら、何故ここに……」

まどか「岡部さん、あの子を知ってるんですか?」

 鹿目まどかは、不思議そうに俺を見た。
 
岡部「ま、まあな」

 俺は曖昧な笑いで答える。
 俺自身、昨日の夜、暁美ほむらと話したことは気には残っていたものの、
 幻覚だったのかもしれないと思い、それほど気にしていなかったのだ。

 ただ、暁美ほむらは幻覚などではなかった。
 彼女は、俺達の目の前にいる。

 ちなみに、今日は曇りである。

ほむら「会いたかった……」

 暁美ほむらは、ユラリと、歩いてくる。
 その姿は、まるで幽霊のように、現実味がない。
 吹けば飛ぶような、脆くて、儚かった。

 暁美ほむらは、俺のすぐ側まで来た。
 手を少し伸ばしただけで、それこそ触れてしまえるくらいに。

 そして、暁美ほむらは笑った。

ほむら「さよなら、沼男……」

 意味不明な単語を呟くと、誰かに助けを求めるように、腕を前に突き出した。


 パシャリ

岡部「……え」

まどか「……嘘」

 奇妙な音が鳴り、暖かいものが、俺の胸元に降り懸かった。
 
岡部「お前、何を……」

 俺は、驚愕と共に暁美ほむらを見た。
 血が、赤い液体が、俺のシャツを濡らす。

ほむら「ふふ、ははははは……」

 少女は笑ったままだった。
 その虚ろな目は、誰かを連想させた。

岡部「おい……」

 俺は肋骨を何度も殴りつける心臓を押さえつけ、吐息を吐くように、言葉を紡ぎだした。

岡部「何で、お前は」















 ―――― 自分の腕を刺しているんだ? 

ほむら「……………………ぇ?」

 少女はそこで初めて気づいたように、自らの血塗れの腕を見た。


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 ほむらは混乱していた。
 狂った思考すらも、すでに作動しない。
 ただ、ほむらの視界は、真っ赤に染められていた。

 それは、炎のように赤く。

 それは、木漏れ日のように暖かい。

ほむら「なんで……」

 自分は、確かに此処へ、沼男を殺すために来たはずだ。
 そのための武器は持っている。
 後は、刺すだけで良かった。

 なのに、

 なのに、

 何故、何故、自分は、いや、自分の左手は

 沼男を守るかのように、ナイフに突き刺された?

 左手からナイフを抜こうとするも、左手はしっかりとナイフを、そしてほむらの右手すらも掴んでいる。

 まるで、沼男を守るかのように。

 分からない。

 ほむらには何も分からなかった。

 ほむらは動かない。

 沼男も、動かない。

 奇妙な静寂が、二人を覆った。














 カタン

 何か、音がした。


ほむら「誰なの!?」

まどか「あ、あの……」

 驚いたほむらが、音のした方を見ると、そこには、ほむらの親友がいた。
 今の今まで、沼男しか視界に入っていなかったほむらは、
 そこで、ようやくまどかがこの場所にいることに気づいた。

 そして、世界が急速に赤以外の色をを取り戻す。

まどか「だ、だいじょうぶ?」

ほむら「……ま、まどか?」

 ほむらの親友は、この世界では赤の他人、
 もしくはそれ以下のほむらに、それでも心配そうに近づいてくる。

 ただ、それがほむらには恐ろしかった。

ほむら「こ、来ないで!!」

 ほむらは叫ぶ。
 怖かった。
 ただ、怖かった。

まどか「で、でも、酷い怪我だよ!?」

 まどかはほむらの拒絶に戸惑いながらも、尚ほむらを手当てしようとする。


 しかし、ほむらは後ずさり、まどかから逃げた。

 非難しているように見えた。
 まどかの視線は、沼男を殺そうとしているほむらを非難しているように見えた。

 勿論、それはほむらの妄想なのだが、ほむらには親友の全て、
 いや、この世界の全てがほむらを嘲笑い、非難しているように思えた。

 世界中の何者も発していない非難の声に恐怖するほむら。
 そして、それらに混じり、声が、直ぐ側から聞こえた。

岡部「お、おい、お……いや、ほむら!!」

ほむら「……あぁ……あ……」

 沼男は、心配そうにほむらを覗き見る。
 ほむらは、その男に、いっそう恐怖を感じた。

岡部「お前は、なんでこんなことを……!!」

 男は、ほむらの出血の様子を確認しようと、血だらけの腕に手を伸ばす。

 そして、沼男の手が、ほむらの手に触れた瞬間。

 バチン

 ほむらの中で、何かがはじけた。

ほむら「・・・・・・ぁあ!!」ダッ
 
 ほむらは男の手をふりほどくと、すぐさまその場から逃げ出した。


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 電波少女こと、暁美ほむらが脱兎の如く逃げ出す。

岡部「あ、おい!!」

 俺も暁美ほむらを追うため、最初から全力で走り出す。

まどか「岡部さん!?」

岡部「先に家に帰っていろ!! 親御さんが心配する!!」

 走り出す俺に声をかけたまどかに、俺は叫び返し、
 そして暁美ほむらを追いかけるため、もう振り返らず、駆けだした。


岡部「待て!!」

 俺は暁美ほむらを追う。
 もしかしたら、昨日の記録を塗り変えかねないほどの全力で俺は走っていた。
 暁美ほむらの移動ルートは、道に出来ている赤い血痕を宛にして割り出す。
 それでも、俺は未だに彼女に追いつけない。

岡部「何で……!!」

 走る俺の口から、呻きにも似た呟きが漏れる。
 俺が暁美ほむらを追いかけている理由は、別に彼女が怪我していたから、と言うわけではない。
 そんな理由、俺には似合わない。

 ―――― これは唯の罪滅ぼし。

岡部「何でお前が……!!」

 ―――― そうであるべきなのだ。

岡部「あのときのまゆりと、同じ目をしてるんだよ……」

 誰にも聞こえない声で、そう悪態をつくと、俺はさらに走る速度を上げた。


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 ほむらは路地裏で逃げる。
 全てが怖かった。

 あの時、自分の腕を刺したとき。

 「岡部を刺さなくて良かった」

 と考えてしまう自分がいることに気づいた。

 それが怖い。

 自分が幾重にも分裂したかのような錯覚に陥る。

 だから、ほむらは逃げる。

 親友から逃げ。

 頼りにしていた男から逃げ。

 戦いから逃げ。

 運命から逃げ。

 逃げる。

 逃げる

 にげる

 ニゲル

 もはや意味を為さないほむらの思考。

 ほむらはもう、逃げるしかなかった。

 そうしなければならないほど追い込まれていた。

 そしてほむらは路地裏を抜け、光の中に身を踊らせる。

 そして――――






















 ほむらの思考は、予測できなかった。

 キキィィィィィィィィィィィィィ!!!!

 車が、鉄の塊が、ほむらへ一直線に向かってくる。

ほむら「……え」

 そこは車道であった。


 いきなり飛び出たほむらに驚いた運転手は、
 あわててブレーキを踏んだようだが、それも焼け石に水でしかなかった。

 死の足音に、ほむらの全てが停止を始める。

 そして――――





















 ドンッ!!!!!

 鈍い音が、見滝原市に響きわたった。

 これで今回の投下を終わりにします。
 初めに言っておきますが>>1 はほむらが好きです。
 ただ、同時に萌郁さん(シュタゲメンヘラキャラ)も好きなだけです!!

 ……勢いだけで行った結果がこれです。
 
 まあ、それはさておき、サークルはまどか、ソニックメイデンは早乙女先生です。
 いや、むしろ歴戦のソロプレイヤーには早乙女先生以外合わないですね。

 ほむらもしっかり活躍させたいです。
 
 それでは、応援して下さる皆様に感謝を
 お休みなさい。
  

 こんばんは、今日は色々な用事が重なり、投下が出来そうにありません。
 明日に、今日の分の投下をしたいと思います。
 それでは

 こんばんは、11;00から投下したいと思います。



 第35話;『人は打たれ強いんです』



 鉄の塊が、ほむらを襲う。
 ほむらの思考は既に停止していた。
 そのまま、ほむらに車が激突する直前、ほむらの体は誰かに突き飛ばされる。
 そして――――




 ドンッ!!!

 鈍い音が見滝原市に響く。

 そのとき既に、ほむらの意識は朦朧としていた。
 これまでの疲れからだろうか、ほむらの意識はするりと暗転する。

 そして、意識が完全に落ちる前に、ほむらは自分の指先が、誰かの指先と絡まったように感じた。
 そのまま、手を握る。

 ほむらは朦朧とした意識で、車に牽かれた人間の腕だろうと辛うじて予想した

 その手は、とても暖かった。
 まるで、『彼』の手のようだった。

 そこで、ほむらの意識は完全に暗転した。


 ???


 
 明るくて、暖かい場所。
 ほむらはそんな場所にいた。
 
 ほむらの目の前には、男がいる。
 彼は背を向けていた。

ほむら「~~~~~!!」

 ほむらは彼の背中に呼びかける。
 しかし、彼が振り返ることはなかった。

 そして、彼は歩き去ってしまう。

ほむら「~~~~!!」

 ほむらは、それを追いかけようとするが、前に進むことが出来ない。
 何故ならば、足に暗くて、冷たい泥が絡みついていたからだ。

 そして、そのまま、暁美ほむらは、ズブズブと地面へ沈んでいってしまう。
 もがけばもがくほど、ほむらは身動きが取れなくなっていった。

 足、太股、腰、胸、首の順番に、ほむらの身体は沈んでいく。
 
ほむら「~~~~~!!」

 ほむらは叫ぶ。
 しかし、その声も虚空へ消える。
 
 開いた口に、泥が入った。


 泥はほむらを浸食する。
 ほむらは、自分が無くなっていくような気がした。

 そして、ほむらの顔が完全に沈みそうになったとき、
 腕が、誰かによって捕まれた。

 強い力でほむらは闇から引き上げられる。

 何者だろう。そう思ったほむらは、自分の腕を掴む何者かを見た。
 そして、溜息を吐くように呟いた。























ほむら「沼男……」

 そして、ほむらは悪夢から目覚める。



 病室



 ほむらは悪夢から目覚めた。
 思考が曇っていた。
 濁った脳が、左手に、微かな痛みを感じたことを伝える信号を受信した。

ほむら「……」

 ほむらは左手をゆっくりと持ち上げる。
 ナイフに刺されていたはずの手のひらは、包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 そこまで確認すると、ほむらの注意は周りにも向けられるようになる。

ほむら「私の、病室?」

 小さいほむらの呟き。
 それに呼応するように、病室の端から声がした。

看護士「あ、起きたのね」

 看護士はほむらの側まで来ると、ゆっくりとした口調で話し始めた。

看護士「駄目じゃない。勝手に病院を抜け出しちゃ。貴女、丸2日眠っていたのよ」

 その口調は、ほむらを責めるようであった。
 看護士は続ける。

看護士「まあ、勝手に外出しただけで、事故に遭っちゃうなんて自業自得とは言い切れないかもしれないけど……」

 事故。
 その言葉に、ほむらの記憶が急速に形を取り戻し始めた。

ほむら「……私は、車に牽かれたんですか?」

看護士「違うわ。貴女は牽かれなかったの。通りかかった男の人が助けてくれたらしいわ」

 看護士はほむらの言葉を否定した。
 ほむらは、首を傾げる。

ほむら「……一体、誰が」

 疑問符を浮かべ始めたほむらを見た看護士は、ほむらに語りかけるように言った。

看護士「そういえば、さっきその人の意識が戻ったそうなのよ。お礼をしに行ってみる?」

 その提案に、ほむらは頷いた。


 ほむらは看護士に連れられ、院内を歩き、その病室へたどり着いた。

 一般用病棟の、特に代わり映えのしない6人部屋。
 その一番奥のベッドに、彼はいた。

ほむら「……貴方は……!!」

 彼の姿を見た途端、ほむらの中で濁っていた何かが暗い光をを取り戻し、燃え上がる。

 しかし、それも直ぐに萎んでしまう。
 何故ならば

岡部「……ああ、暁美か。調子はどうだ?」

 その彼は、沼男――――いや、岡部倫太郎は、至る所に包帯を巻いた、痛々しい姿でベッドに横たわっていた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ほむら「どうして、私を助けたの?」

 ほむらは岡部を睨みつけながら聞いた。
 事故に遭う前に心にくすぶっていた暗い炎はもうなかった。
 ただ、ほむらは静かに岡部を見ていた。
 岡部は小さく溜息をつく。

岡部「別に、只の偶然だ。お前がいきなり立ち止まったから、
   止まるに止まれない俺はお前を突き飛ばし、結果的に助けた格好になっただけだ」

ほむら「……そう」

 ほむらは短く答えると、思考を始める。
 自分は、結果的にとはいえ、この男に助けられたのだと。
 沼男と蔑視し、憎んでいた男に命を救われた。
 故に、ほむらはあの時のような、暗い感情を彼に向けることが出来なかった。

 何がほむらの身に起こったのだろうか。

岡部「なあ、暁美」

 黙って思案するほむらに、岡部がおずおずといったように話しかけてきた。

岡部「事故の時に怪我を負ったりしなかったか? その手の傷以外、怪我などはないな?」

ほむら「……ええ、御陰様でね」

岡部「そうか」

 そう言ったきり、岡部は口を噤んだ。
 
 沈黙が二人を被う。


 ほむらは、それを振り払うように言った。

ほむら「恨んでないの?」

岡部「何をだ?」

 ほむらの言葉に、岡部は不思議そうに聞いてきた。
 ほむらはゆっくりと答えた。

ほむら「……私のこと」

岡部「ああ、そう言うことか」
 
 ほむらの回答に、岡部は納得したように頷いて、言った。

岡部「俺の自己責任だ。お前のせいじゃないさ」
 
 その言葉が、ほむらの知っている『彼』によく似ていて、ほむらは何も言い返すことが出来なかった。

 それをどう勘違いしたのか、岡部は心配そうな顔で固まっていた。

 それが、ほむらをますます混乱させる。

 目の前の男は、『彼』と同じ顔をしているが、内面は全く違う。
 と思えば、ふとしたときに彼の面影を感じさせる。
 そうと思えば、あまりにも『彼』らしくない表情をすることがある。
 でも、それでも、やはりそこには彼の面影があるのだった。

 そもそも、とほむらは思う。


 目の前の岡部倫太郎は、どんな人生を生き。どんな出会いをし、どんな記憶を持つのだろうか。

 彼が昔言ったことに、記憶は魂であるということがあった。
 ならば目の前の岡部の魂は、どれぐらい彼と同じもので、どれほど『彼』と違うのだろうか。

ほむら「ねぇ」

岡部「何だ?」

ほむら「貴方のことについて話して。
    何故、貴方は大切な人の死でも受け入れようなんて持論を持ったの?
    貴方の人生に何があったの?」

岡部「……そうは言われてもなぁ」

 ほむらの唐突な願いに、困ったように髪を掻く。
 しかし、ほむらの真剣な目に、降参したような溜息をついた。

岡部「つまらない、楽しくもない話だけど、それでも良いのか?」

ほむら「構わないわ」

岡部「……」

 そして岡部は、少し考えるような素振りを見せ、再度溜息をついた後、穏やかに話し始めた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



岡部「俺には……昔、幼なじみが居てな。と言っても、お前は知っているんだったな?」

岡部「まあいい、とにかく、彼女――――まゆりは、俺の唯一の幼なじみだったんだ」

岡部「俺が……そう、お前くらいの年だったかな、
    まあ、そのときには思春期特有の気恥ずかしさやら何やらで俺とまゆりは疎遠になっていた」

岡部「タイミングの悪いことに、そのときちょうど、まゆりのおばあちゃんが亡くなったんだ」

岡部「まゆりはおばあちゃんっこだったからな、アイツは悲しんで、悲しんで、一時期失語症になったらしい」

岡部「毎日、毎日おばあちゃんの墓の前でぼぅっと墓を見つめていたんだ」

岡部「俺はさ、それが居たたまれなくなって、そんなまゆりを毎日見ていた。でも、俺じゃなにもできなかったから、本当に只見ていただけなんだ」

岡部「そんなある時、俺に不可思議なメールが届いた」

岡部「内容は覚えていないが、とにかく、まゆりを救おうとすると、まゆりが死んでしまう。と言ったような内容だったと思う」

岡部「え? それがDメールだって? なるほどな……お前の話の辻褄も、一応合っているわけだ。
   ……確かに、タイムマシンは存在するのかもしれないな。
   まあ、お前の話の俺はともかく、俺の場合は、一度も実物を見ないで一生を終えそうだがな」

岡部「……話を戻そう。その不可思議なメールを受け取った次の日のことだ」

岡部「あの日は雨が降っていた。とても雨脚が強かったのを覚えている」

岡部「いつもの通り、まゆりは虚ろな目でおばあちゃんの墓を見ていた」

岡部「その前の日まで、ずっとそうだった。そして、その次の日もそうなんだろうって、俺は漠然と思っていた」

岡部「でも、違ったんだ」


岡部「光が、雲の切れ目から降りてきた。
   ほら、天使が舞い降りるときのエフェクトみたいな、とにかく、この世のものとは思えない光が降りてきたのだ」

岡部「俺は何事が起こったのかと思ったよ。まゆりもそうだったらしい。まゆりは、空の切れ目に向かって手を伸ばした」

岡部「俺は、突然怖くなった。まゆりが、連れ去られるんじゃないかって思った」

岡部「でも、俺は駆け出せなかった。あのメールが、頭にちらついたんだ。
    もし此処で俺が行けば、まゆりは死んでしまうのではないかって、ほんの一瞬だが、思ってしまった」

岡部「そして、そのまままゆりはどこかへ駆けだして行ってしまった」

岡部「俺もあわてて追いかけたが、まゆりに追いつくことは出来なかった。アイツは結構運動神経がよかったんだ」

岡部「そして、何時間も探して、日が暮れて、俺は家に帰ろうとしていた。
    何故か、酷い頭痛がしていたし、まゆりが椎名の家に帰ったのではないかと思ったからだ」

岡部「そして、その時、俺は見てしまった」

岡部「まゆりが居た」














岡部「それも、死んだはずの椎名のおばあちゃんと手をつないで、だ」


岡部「信じられないと思うし、馬鹿みたいな話だと思う。でも、俺は確かに見たんだ。
    決して、俺の頭がおかしくなったとかいうことじゃない。
    ついさっきまで死んでいたはずの人が、まるで最初からそうであったかのように生きて、笑っていたんだ」

岡部「怖かった。ただ、怖かった。自分がおかしくなったんじゃないかって。
    周りの人間は、さも当然のようにまゆりのおばあちゃんが生きていることを受け入れていた」

岡部「母親にそのことを聞いてみたら、困ったように怒られた。
   そのときにようやく気づいたんだ。俺以外、この異常に気づいていないって」

岡部「俺はそれ以来、一連のことについては誰にも言っていない。そして、まゆりとも、さらに疎遠になった」

岡部「いや、普通なら、それぐらいが普通だったのかもな。まあ、とにかく、俺とまゆりが疎遠になり、数年が過ぎた」

岡部「俺は高校二年生で、まゆりは中学三年生になった」

岡部「ある日、俺とまゆりは珍しくすれ違った。俺は声をかけようとしたんだが、まゆりは挨拶しただけで行ってしまった」

岡部「あの日と同じ、雨の強い日だった」

岡部「その夜、椎名のおばさんからまゆりが帰ってこないと言われた俺は、無我夢中で外に出た。
    あの日の繰り返しになるんじゃないかと、訳の分からない出来事が、また、起こってしまうのではないかと思ったんだ」

岡部「そして、その予感は当たった」

岡部「……………………」














岡部「あ、ああ。済まない、大丈夫だ。俺が此処まで進めたんだ、最後まで話すさ」

岡部「誰も居ない路地裏、そこに、まゆりが居た」

岡部「いや、正確にはまゆりだった物があった」

岡部「まゆりは、死んでいた」


岡部「……血を沢山ながしていた。冷たかった。俺は無我夢中で救急車を呼んだ」

岡部「葬式は、次の日に執り行われた。まゆりのおばあちゃんは、
    あまりにもショックだったらしく、寝込んで、そのまま死んでしまった」

岡部「訳が分からなかった。意味が分からなかった。認められなかった」

岡部「まあ、それから色々あって、俺は学校へ通うのをやめた」

岡部「何故か? まあ、あの時は馬鹿な物にとりつかれてな。ただの黒歴史さ」

岡部「聞かせろだって? ……分かった」

岡部「……タイムマシンを、作ろうとしていたんだ」

岡部「わ、笑わないのか? ……そうか」

岡部「俺は、まゆりを生き返らせるため、タイムマシンの研究、と言っていいのだろうか。
    に没頭した。学校へ行く暇なんてなかった」

岡部「親との仲も悪くなり、そのまま俺は家出した」

岡部「そして、流れに流れた先がこの見滝原市と言うわけだ」

岡部「地方都市だからアパートの家賃も安そうだったし、それでもここは色々と発展しているから、
    タイムマシンに必要なパーツが売ってるんじゃないかと思ったからだ」

岡部「そこで俺は、ある人と出会った」

岡部「まあ、有り体に言えば、金が尽きてな。
    公園で途方に暮れていたら、目の前で遊んでいた子供がいきなり転んだ」

岡部「で、その子を介抱して、家に送り届けたら。
    まあ、そこで俺がその子をおぶっていたことが誤解を生んだらしく、
    何やかんやあり、ブラウン管工房というところでバイトをさせてもらえる上に、その上の一室を借りさせてもらえることになった」

岡部「店長には本当に感謝している」


岡部「そして、そこで俺の新たな生活が始まったわけだ」

岡部「両親に連絡も取った。二人とも、俺のことを心配していたが、無理矢理説得した」

岡部「そうして、昼はブラウン管工房のバイトをし、夜にタイムマシンの研究をするという生活が始まった」

岡部「まあ、その話は割愛させてもらう」

岡部「それで一年ほどたったとき、
   地元の近く――――秋葉原でタイムマシンが出来たとかほざく馬鹿の記者会見があると聞いて、見に行った」

岡部「すごい、人だかりだった。どうやら、そいつは学会でも有名な男らしく、多くの人が注目していた」

岡部「……内容は稚拙で幼稚、しかも、昔のアニメの丸パクリだったが」

岡部「それでも俺以外、ヤジの一つも飛ばさず聞いていたんだから恐れ入るよ」

岡部「俺か? 俺は我慢できなかった。
    あんな幼稚な理論を振りかざす馬鹿を一度でいいからブン殴りたかった。
    同じタイムマシンを研究するものとして、あいつは許せなかった」

岡部「俺はその男を糾弾した。あいつが俺に論破され、顔を真っ赤にするのは見ていて気持ちがよかったな」

岡部「だが、思いついていた文句の半分も言い終わらないうちに、俺は外に連れ出された」

岡部「しかも、警備員とか会場のスタッフとかではなかったのだ。誰だと思う?」

岡部「牧瀬紅利栖。17歳でサイエンス誌に乗った天才だった少女だ」

岡部「彼女はこう言った
   『タイムマシンなんて馬鹿馬鹿しいという意見には賛成しますけど、あんな風に叫ぶのはマナー違反です』とな」

岡部「俺はその時ちょっと色々精神がおかしくなり始めていた頃でな、
    その言葉に年甲斐も無く、カチンと来た。中鉢への糾弾を邪魔されたのと、タイムマシンを否定する牧瀬の態度にな」

岡部「俺はまず、牧瀬の意見を否定した。
    そして、中鉢の理論の問題点を上げて、奴の理論をあざ笑った。
    思えば、俺は、中鉢にはそれほど義憤なんざ感じていなくて、ただ、ストレスのはけ口にしたいだけだったのだろうな」

岡部「それで、どうしてか牧瀬は怒ったらしく、タイムマシンが可能か否かのデスカッションをしようと言ってきた」


岡部「ククッ…………。結果は俺の惨敗、なかなか見事に無様だっと思う。
   俺が二年近く考えてきた理論の全てはことごとく論破され、仕舞には滑稽なガキの妄想呼ばわりだ……」

岡部「……俺だって、頑張ってきたはずなのにな……」

岡部「……お前の言うことが本当ならば、タイムマシンは実在するというのだから、彼女も滑稽だったわけだがな。
   本当に、誰も報われないディスカッションだったよ」

岡部「それで、まあ、その時の俺は激怒してな、家に帰った後、寝食も忘れて研究を続けた。自棄になっていたんだな」

岡部「そして、俺は過労でぶっ倒れた」

岡部「ここの病院のベッドで店長の娘で、俺が介抱した子、綯と言うんだが。
    にワンワンと泣かれて、店長にブン殴られて、ようやく、俺がどれほど人に迷惑をかけているかに気づいた」

岡部「……これは、個人的な内容なんだが。店長も、綯が生まれたときに妻を亡くしていたらしい。でも、今は娘と幸せそうに生きている」

岡部「それを聞いたとき、俺は自分自身の馬鹿さかげんに愕然とした」

岡部「そりゃそうだ。愛する人を亡くした人なんて、それこそこの世界に無数にいる。その中で俺だけ不幸面なんて出来なかった」

岡部「だから、俺は、未来を見ることにした」

岡部「店長や、綯と一緒にいる未来を、選んだんだ」

岡部「……後悔はあるし、自らの罪悪感も失った訳じゃない。俺がもうちょっと賢ければ、まゆりは生きていたのかもしれない」

岡部「でも、俺は馬鹿だった。どうしようもないくらい馬鹿だった。時を越える資格なんて無かった」

岡部「だから、せめて俺は、今ある物を失わないために、この世界を生きるって決めた」

岡部「もう二度と、あんな思いをしないように、未来へ進むことを選んだんだ」



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 夜;ほむらの病室



 ほむらは、暗い闇の中で思考する。
 
 あの岡部倫太郎にも、苦労があり、人生があり、決意があった。
 今のほむらには、彼に対する憎しみなど完全に消えていた。
 寧ろ、共感すら覚える。
 その姿に、あの白衣の男に助けられる前、かつてほむらが抱いた、諦めや諦観に近い物を感じたからだ。

 それに、ほむらが椎名まゆりを殺し、世界を変えた後の「彼」の姿にも似ていた。
 傷つき、疲れはて、それでも歩こうとする姿が、特に。

 ただ、ほむらを叱咤し、導いた『彼』の姿は、今の岡部からは微塵も感じられなかった。

 『彼』は何処へ行ったのだろう?

 ほむらは、既に気づいていた。

 いや、最初から知っていた。

 ただ、認められなかっただけなのだ。


 ほむらは逃げていた。

 『彼』が居ない事実から。

 『彼』が居ない世界から。

 だから、ほむらは自分の殻に閉じこもっていた。

 それも、すぐに壊されてしまったが。

 「岡部倫太郎」は、確かにこの世界に存在する。

 ほむらの心の殻を壊したのは彼の存在だった。

 彼の苦労や、記憶を聞かなければ、いつまでも彼のことを沼男だと盲信し続けていただろう。

 ただ、『彼』は何処にも居ない。
 ほむらは、小さく『彼』の名を呟く。

















ほむら「鳳凰院、凶真……」


 その名前を呟いたとき、ほむらの中ですとんと納得がいった。
 ほむらを叱咤し、導き、共に歩んだのは、岡部の中にいる、
 もう一人の岡部――――鳳凰院凶真であったのだと、ようやくほむらは気がついた。

 彼は、嘘など言っていなかったのだ。
 『彼』は、間違いなく、鳳凰院凶真だったのだ。

 ほむらが、冷酷な仮面を己に張り付け、別の自分に変わろうとしていたのと同じように、
 『彼』もまた、仮面を張り付けていた。

 おそらく、ほむらの物などより、ずっと厚く、重い仮面を。

 そして、そんな『彼』は、もう、何処にも居ない。
 
 居るはずがないのだ。

 この世界の岡部は、『彼』が居なくても生きていける。
 彼が居なくても、岡部は歩いていく。

 全てを否定し、世界の支配構造を崩そうとしていた愚者の居場所など、もう、この世界の何処にもない。

ほむら「…………」

 それに気づいたとき、ほむらは静かに泣いた。

 否定の涙でも、狂的な涙でもなく、
 ただ、この世界から消えた『彼』を悼むためだけに、ほむらは、一晩中涙を流し続けた。



 翌朝



 プルルルルルルルルルルルルルルルル……

ほむら「……ぅん?」

 機械的な音が鳴り、ほむらは目覚める。
 音の発生源は、ほむらの携帯。

ほむら「誰からかしら……」

 ほむらはゆっくりとした動作で、携帯をとった。

ほむら「もしもし……」

???『ブラウン管工房、その屋上に今すぐ来なさい』

 聞こえた声は、覚えがあるような、無いような不思議な声。
 女の声だった。
 ほむらは首を傾げる。

ほむら「……誰?」

 電話の先の女は、呆れたように溜息をついた。

???『貴女の戦いは、まだ終わった訳じゃないでしょう?』

 その言葉に、ほむらは硬直した。
 ほむらは思い出す。

 そう、なにも問題は解決していない。

 一ヶ月したらワルプルギスの夜は現れる。


 電話の先の女は、淡々とした口調で続けた。

???『ちなみに、岡部はワルプルギスが来た際に死ぬわ』

ほむら「……………………!!」

 驚愕に固まるほむら。
 それを気にもとめず、女は冷徹ともいえる口調で言い放った。



























???『世界を、岡部を、まどかを救いたいなら、今すぐ、ブラウン管工房の屋上へ来なさい』

 ガチャリ

 そうして、携帯電話は沈黙した。

 これで今日の投下を終わりにします。
 今回は殆どこのオカリンの状況説明回です。
 
 色々苦労して、アルタイルオカリンみたいになった感じです。
 
 まあ、死を受け入れるのが正しいのか
 それとも死を拒み続けるのが正しいのか。
 
 今回はそんな問いが投げかけられる回です。

 さて、この問いに、ほむらは、そしてオカリンはどう結論を出すのか。
 
 それでは、応援してくれる皆様に感謝を
 お休みなさい

 こんばんは、
 用事が重なったため、明日に投下したいと思います。
 何度もスイマセン。
 それではお休みなさい。

 こんばんは
 9;40から投下したいと思います。
 かなり短いですのでご容赦を。



 第36話;『暁美ほむらという女の子は』



 ブラウン管工房;屋上


ほむら「……これは」

 ほむらは目的の場所にたどり着いた。
 そして、驚愕に身を強ばらせる。

 何故ならば、ほむらの目の前には、あって成らないもの。この世界には存在できないはずの物があったからだ。

ほむら「タイム、マシン……」

 呆然とほむらは呟く。
 
 そして、辺りを見回した。

ほむら「一体、誰が未来から……」

 しかし、ほむらの周りには誰もいない。
 ほむらは一人、ブラウン管工房の屋上にポツンと立っていた。














 プルルルルルルルルルルルルルルルルルル……

 突如、電子音がした。


ほむら「何処から……!?」

 ほむらは目をむきながら、再度辺りを見回す。
 そうして、ほむらはようやく目の前の床に携帯が落ちていることに気づいた。

 ほむらは何故か、それを拾わなければいけない気がした。

 ほむらは携帯を拾い、着信ボタンを押す。

ほむら「……もしもし」

???『どうやら、ちゃんと取ってくれたみたいね』

 電話の先からは、先ほどの女の声が聞こえた。

ほむら「何のつもり? どういう意図があってこんな回りくどいことをしたの?」

 ほむらは電話の先の女に尋ねた。
 女はそれを聞くと、くつくつと笑う。

???『これには、ちゃんと意味があるのよ。考えてみなさい』

 からかう様な女の言葉。
 ほむらは苛立ちながら言った。

ほむら「そんな下らない遊びをしている暇は無いわ」

 吐き捨てるようなほむらの言葉に、女は溜息をつく。

???『本当に余裕がないわね……』

ほむら「いいから答えなさい!!」


 遂に痺れを切らしたほむらが携帯に向かって怒鳴る。
 電話の先の女は、もう一度溜息を吐き、言った。


























???『本当に、昔の「私」は落ち着きに欠けているわ』

 その言葉に、ほむらは青ざめる。

ほむら「……今、何て」


 ほむらは、女に向かい呆然と問う。
 女は再び笑った。

???『貴女の考えている通りよ』

 そして、ゆっくりと、ほむらの予想通りの言葉を口にする。




























暁美『はじめまして、私は2035年から来た、未来の貴女。そう解釈してもらえるかしら?』


 さて、と電話の先のほむらは言う。

『何処から話せばいいのかしらね』

『まずは何故、私がこの時代に居るか? という質問の答えから言いましょうか』

『私の目的は一つ。「岡部倫太郎」を救うことよ』

 ―――― でも、岡部はもう……

『そうね。私が憧れや、崇拝に近い感情を抱いた岡部――――「鳳凰院凶真」は、もう存在しないわ』

『だけど、この世界にだって岡部はいるでしょう?』

『苦しんでも、傷ついても、歩こうとしている人が』

『それとも、貴女はこの世界の岡部を否定するのかしら』

『違うわよね? 分かるわ。だって、私は貴女だから』

『……いいえ、「かつて貴女だった」というのが正しいわね』

『私は、この世界線で岡部が出会ってから、一ヶ月後にある分岐点に立つことになったわ』

 ―――― ワルプルギスの、夜……

『その通り、岡部と出会い、彼の心情を聞いた私は、この世界から逃げることをやめ、終わりを受け入れようとしたわ』

『冷静に考えて、私の望む世界にたどり着くことなんて不可能だと思ってしまったから』

『でも、結局、私はこうして此処にいる』

『やっぱりね、抗いたいのよ』


『今の貴女はね、抜け殻よ』

『「鳳凰院凶真」を失い、自分が何をやろうとしていたのかすら見失い。狂い、濁り、絶望し、諦観した貴女はね』

『そして貴女……いいえ、私はこのままズルズルと、一ヶ月、この世界の岡部と一緒に過ごすの』

『すばらしい時間だったわ。それこそ、岡部の死を、まどかの死を受け入れてもいい、とすら思えるくらいね』

『でも、一ヶ月後、ワルプルギスが来たとき、岡部は死んだ』

『そりゃそうね、そう決められているんですもの』

『私はようやく夢の中から現実へ引き戻されたわ』

『結局の所、岡部の死を受け入れようが、否定して、時間跳躍を繰り返そうと、どちらも逃げにしかならないのよ』
       
 ―――― じゃあ、私は、どうすればいいのよ!!

『私もそう思ったわ。現実を受け入れることなんて出来ない。でも、時間跳躍をしても無駄』

 ―――― なら、私は……私のしてきたことは……

『……早まらないで』
 
 ―――― ……え?

『私は、安易な二つの道は、どちらとも間違いだと気づいた』

『でも、諦めきれもしなかった』

『そうでしょ? 「彼」は、そんなこと、私に教えなかったわ』

 ―――― 鳳凰院、凶真……


『だからこそ、私は必死で考えた』

『そして、私は――――』



































『時間跳躍を止め、この現実で戦い、全てを貴女に託すことにした』

 ―――― え?


『この世界の全てを、まどかを、岡部を救う』

『そう決めた私は、橋田至と合流し、彼の協力を借りた』

『運良く、彼のリーディングシュタイナーが発動してくれて良かったわ
 ……いいえ、もしかしたら、どこかで、「彼」と友人だった橋田至が、認められなかったのかもね』

『こんな、結末が』

『そうして私達はタイムマシンの研究チームを立ち上げた』

『まあ、主にタイムマシンは橋田至任せだったんだけど』

『私は、主に橋田至と行動していたQβと魔法少女の研究をしていたわね』

『そして、私達は長い間、戦い続けた』

『一重に、私が折れなかったのは、この世界線の岡部と過ごした一ヶ月があったからよ』

『その思い出が、幸せな日々が、この世界が悲惨ならば悲惨なほど、私に強大な「意志」を植え付けたの』

 ―――― ……意志

『そう、そして私は、研究に研究を重ね、ある一つの、結論を生み出したわ』

『タイムマシンを作っただけでは、岡部は救えない』

『椎名まゆりを殺しただけでは、まどかは救えない』

『ならば、私――――いや、貴女はどうすればいいのかしらね?』


『椎名まゆりは3年前に必ず魔女になってしまう』

『おそらく、椎名まゆりが契約する前に介入しても、世界線の収束によって無意味になってしまう』

『といって、それよりも前に介入すれば、バタフライエフェクトで、大変なことになるかもしれない』

『ならば、道は一つでしょう?』

『椎名まゆりを殺さず、ワルプルギスの夜を消す方法』

『それはね――――』
























『椎名まゆりを、あえて魔女にし、その後で魔法少女に戻せばいいのよ』


 自信満々の、未来の自分の結論を聞いたほむらは、内心失望していた。

ほむら「馬鹿馬鹿しい・・・・・・」

暁美『あら、理論的にはこれが一番よ? 椎名まゆりが魔女になるのは確定しているけど、
   魔女から魔法少女に戻らないとは確定していない。これこそが、世界の隙をつく唯一の方法だと思うわ』

 未来のほむらは至って真面目そうな声色でいう。
 口調こそ変わらないが、そこに秘められた意志は本物だとほむらは気づく。

 だからこそ 

ほむら「貴女は、狂っているわ・・・・・・」

 魔女を魔法少女に戻す?

 なんて馬鹿馬鹿しいのだろう。

 それこそ、不可能に近い。

 もしかしたら、世界を変えるよりも難しいかもしれない。

 手段が目的より難しければ世話無い。

 ほむらはそう思った。
 しかし、未来のほむらの口調は変わらない。

暁美『それはそうでしょう。だって私は未来の「暁美ほむら」何ですもの』

ほむら「・・・・・・!!」


 未来のほむらの言葉に、今のほむらは反論することができない。
 代わりに、ほむらは未来の自分に問う。

ほむら「なら、言ってみなさい。その、魔女を元に戻す方法ってものを」

 そして、未来のほむらは事も無げに言った。

暁美『必要なのは、記憶と、エネルギーと、それとほんのちょっとの奇跡ね』

ほむら「ふざけないで……」

 おどけたように語る未来の自分に、ほむらはさらに苛立った。
 魔女を魔法少女に変えるなど、ほむらが体験した無数の時間跳躍の中で、絶対に起こりえなかったことだった。

暁美『確かに、可能性は低いし、仮定に仮定を重ねた暴論よ』

 一見、自信なさげな口調。
 しかし、声色は確信ともいえるような雰囲気をまとっていた。

暁美『でも、このまま最低の結末を受け入れるよりはましでしょ?』

ほむら「……でも、そんなことをしたら、あのときの二の舞に……」

 ほむらは自分の記憶にまだ新しい出来事を思い出す。
 椎名まゆりの殺害。

 ほむらは、それが一番の選択肢だと思い、結果、大切な人を永遠に失った。


 また、失ってしまうかもしれない。

 ほむらの記憶が、足を踏み出すことを拒んでいた。

 ほむらのそんな思いを、未来のほむらは気づいた。
 いや、最初から知っていた。
 だから、未来のほむらはほむらに優しく言った。

暁美『まだ、タイムリミットまでに時間がある。ゆっくり、考えてみて』

ほむら「……」

 ほむらは少しの沈黙の末、未来の自分に問いかけた。

ほむら「……貴女は、何故……」

暁美『私がアプローチをかけられるのは貴女しか居ないのよ。この時間軸の貴女のみが、「私」から乖離できる』

 言い聞かせるように、語る未来人。
 ほむらは首を振った。

ほむら「違うわ、貴女はどうして」

 ―――― 全てを失うリスクを、許容できたの?

 その問いに、電話越しの自分が苦笑したのを、ほむらは感じた。

暁美『そうね……、理論的に言えば、もう既に最悪な状態だから、一縷の望みにかけたって言えるけど……』

 そこで、未来のほむらは一旦言葉を探すような素振りを見せる。
 そして、ふさわしい言葉を見つけた未来人は、静かに言った。

暁美『私が、そう望んだからよ』


ほむら「……」

暁美『タイムリミットギリギリになったら、もう一度電話する。その時に、作戦を説明するわ』

ほむら「……」

暁美『じゃあ、またね、未熟で、無限の可能性を持つ私』

 ガチャリ

 音を立て、通話が途切れる。

 後には、少女が一人、残された。 

 これで今日の投下を終わりにします。
 本当に短くてスイマセン。
 接続章なので、かなり短くなってしまいました。

 未来ほむら登場。

 色々な因果関係をかいているせいで>>1の頭がパンク寸前です。
 どんどんお粗末な内容になって行っている気が……
 
 しかもBLEACHのゲームに嵌っちゃったから時間がゴリゴリ削られます。

 つぎは予定通りに投下しなければ。

 応援してくれる皆様に感謝を
 それでは、お休みなさい
 

 こんばんは、
 10;50から投下したいと思います。


 
 第37話;『逃げ出さないのは彼女の未練さ』



 朝。
 いつも通りに目を開く。
 頭が痛い。

ほむら「あら、起きたのね」

岡部「……?」

 何故か頭の真横に暁美の姿がある。
 おかしいな、と思っていた俺だが、すぐにそこは病院だったことを思い出した。
 枕のふかふか加減が段違いだった。

 しかし、暁美はまた俺の見舞いに来たのだろうか。
 とりあえず、暁美自身に聞いてみることにする。

岡部「また来たのか」

ほむら「来てちゃだめ?」

岡部「いや……」

 別に、此処に来るのにいちいち許可など要らないのだが。
 それでも、綯以外の美少女に見舞われるなど、何だかこそばゆい気分だ。
 それに、なぜだかこの少女と話していても、今は苦痛をあまり感じない。
 ただ、それよりも今は頭が痛い。
 


 それはさておき、入院生活は暇なものなのだ。
 特に、しばらく歩けなくなっている俺にとっては。
 二週間ほどで歩けるようになるらしいが、それまでに暇すぎて死ぬかもしれない。

 だからこそ、こういう見舞い客はありがたい。
 と言うか、彼女も入院患者だったはずだが。

岡部「お前は、出歩いていいのか?」

ほむら「大丈夫よ。腕の傷以外は特に悪いところはないわ。後は検査待ち。まあ、入院期間は延びたけど」

 俺の言葉に暁美は素っ気なく答えた。
 本当に、腕以外の怪我はなさそうだった。

 俺はほっとすると同時に、少し後ろめたい気持ちになった。

 何故暁美は、俺の見舞いなどに来ているのだろう?
 まあ、彼女の話を信じれば、暁美と俺はどこかの世界で仲が良かったらしいが――――














 ―――― 頭が、痛い。

 いや、止めよう。この思考は。
 頭が痛くなる。
 物理的に。


 あの事故にあったときからそうだ。

 暁美ほむらが言っていた事実に思考を巡らすと、とたんに酷い頭痛が襲ってくる。
 それに気づいたのは昨日、彼女に俺の身の上話をしていたときに彼女の言っていた
 情報を加味した言葉を口に出そうとした瞬間、突き刺すような頭の痛みをほんの一瞬感じた。

 幸い、暁美には隠せたが、今では彼女がもたらした情報について考えないようにしている。

 しかし、暁美は何故、彼女を知らない俺の見舞いなどしているのだろうか。
 答えは俺にだって分かる。
 俺が、偶然たまたま彼女を交通事故から助けたからだ。

 
 本当にまぐれだった。 
 只、俺が止まれなかっただけなんだ。

 だから感謝とか罪悪感を抱かれるのは本当にあれなのだが。
 
岡部「別に、俺はお前を助けたくて助けた訳じゃないからな。そこの所をはき違えないように」

 俺は一応暁美に忠告しておくことにする。
 しかし、暁美はただ苦笑をするだけだった。



 一週間後;4月中旬



 俺は何とか歩けるようになってきたため、現在はリハビリもかねて病院内をうろついている。

 怪我はあまり大したことがなかったようだ。

ほむら「貴方ね……、足が骨折だったのに良くそんなことが言えるわよね……」

岡部「一週間以内に歩けるようになれば軽症だろう」

ほむら「……ハァ」

 俺の横で溜息をついている暁美は、病院内をうろつく俺に小判ザメのように付いてきた。
 病院にいる皆様に奇異の視線で見られるから止めてほしいのだが、一向に聞かない。
 俺は早々にこの少女から逃げるのを諦めていた。

 ―――― いつだって俺は、ほむらには根負けしてしまうんだ。

 ……頭が痛いな。何か飲み物でも飲むか。

岡部「暁美、自販機はどこにある」

ほむら「私は貴方の小間使いじゃないんだけど……」

 随分と、彼女は口答えが多くなった。
 まあ、最初の頃のような電波話に情緒不安定より随分ましだが。

岡部「教えたら飲み物を恵んでやろう」

ほむら「……要らないけど、自販機は一階のエントランスの横よ」


岡部「何……だと?」

 ウゲ、一階だと?
 さっきは歩けると言ったが、まだ俺は松葉杖なのだ。
 そこまではちょっとした冒険になってしまう。
 俺は暁美の方を向くと、マックで培った無料スマイルを3割り増しくらいで送った。

岡部「なあ、暁美……」

ほむら「……ハァ」

 俺が言い終わらない内に、ほむらは溜息とともに手を出す。

岡部「頼んだぞ。ちなみにファンタグレープがあったら頼む」

ほむら「……」

 俺はその手の上に300円のせた。
 暁美がものすごく微妙な顔をしたが放っておく。
 ガキっぽいとか言うな。
 自覚はあるんだから。


 数十分後

 

 遅い。

岡部「暁美の奴、何をしているんだ……?」

 遅すぎる。
 いや、同じ場所で待っている俺も俺だが。
 それにしても遅い。

岡部「このまま待っていても埒があかないな……」

 数十分も待ったんだ。
 これから探しに行っても、すれ違うことはないだろう。たぶん。

岡部「最初から俺が行けば良かったではないか・・・・・・」

 ブツブツと文句を垂れながら俺は行く。
 目指すは一階。

 もう一度言おう。
 俺は松葉杖である。
 
 まあ、何か厄介なことに遭われても俺の責任になってしまうわけだし、探しに行かないわけがないが。



 一階;エントランス



岡部「暁美の奴、どこ行った……?」

 俺は現在暁美を捜索中だ。
 因みに我が右手には既にファンタグレープが握られている。

 ―――― ドクターペッパーも、魅力的だったがな。

 ……今日はマジで頭が痛いので、これ以上見つからなかったら病室に引き返そう。
 そう思っていたときに、俺は不可思議な物を見つけた。

岡部「あれは何だ?」

 それは――――














 ズキッ!!!

岡部「ッ!!」

 ―――― 黒い、汚れた宝石が、壁に付いている。


 あれを見た瞬間、俺の頭痛はさらに酷くなった。
 もしかしたら、事故にあったときに脳の血管がおかしくなったのかもしれない。
 蜘蛛膜下出血とかイヤだな。
 とにかく、早く病室に戻ろう。

 俺はそう思い、黒い「卵」から目を背けた。

 それが、いけなかった。

 俺は黒い宝石から目を背けたときに、その側にある物まで見てしまった。

 いや、正確には者だ。

 中学生くらい。

 白い動物をつれている。

 青い髪。

 それなりに見れる顔をした、「笑顔が似合いそうな」、ボーイッシュな少女。














 ズキッ!!!!!!!!!!!!!!!

岡部「うグっ!!? あああああああああああああああ!!」

さやか「え、何!?」


 突然悲鳴を上げた俺を、訝しげな表情で少女は見る。

 ―――― お菓子だ。お菓子だ。此処はお菓子だ。

 痛い、痛い。
 脳が割れるように痛い。
 刻まれるように痛い。

 脳に神経など無いのだが、それでも痛い。

 まるで海馬に電極をぶっさされたような――――




















 ズキッ!! ズキッ!!

 ―――― そう、彼女が言っていたことが現実になったような痛みだ。

 もはや、思考が続けられなくなるほどの痛みが、俺の脳を襲う。

岡部「あああああああぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


さやか「ちょっ、大丈夫ですか!!?」

 青い髪の少女が、俺に近づいてくる。
 その少女の顔が鮮明になるたびに、俺の脳はかき回されたような痛みを倍増させる。

岡部「くっ来るな……」

 絞り出すように、俺は言った。
 しかし、少女には届かなかったようで、彼女はなおも近づいてくる。

 俺は松葉杖だ。

 それが、無理な姿勢で後ずさろうとした。
 結果、無様に尻餅をついてしまう。
 
さやか「大丈夫ですか?」

 俺が後ずされなくなった隙に、少女は俺との距離を詰める。
 お陰で、脳の痛みはピークに達した。
 痛い、痛い、痛い、痛――――






















 ―――― その時、世界は反転する。



 「お菓子の魔女」の結界



岡部「……ここは、何処だ」

 幾らか頭痛が収まった俺は、周りを確認する。
 突然、俺の周りの全ての景色が変貌した。
 反転し、組み替えられた。

 そこは、サイケデリックな空間だった。
 洋菓子……俗に言うスイーツが満ちた空間。
 ファンシーな光景であるにも関わらず、俺は不気味さを感じた。

さやか「……大丈夫ですか?」

 隣にいたらしい少女が、俺の安否を尋ねてくる。
 先ほどよりも収まったとは言え、この少女の顔を見ると、また頭痛が酷くなっていく。
 俺は目を背けながら、独り言のように呟いた。

岡部「ここは、何処だ……?」

 俺はこの時点で、此処にいる誰もがこの問いに答えられないと思っていたので、
 本当にただの独り言で終わらすつもりだった。

 しかし、答えは返ってきてしまった。 

QB『此処はね、魔女の結界だよ』

 ズキッ!!

岡部「ぅッ!! ……喋った……?」


 また頭が痛くなった。
 本当に検査した方がいいのだろうか。

 白い獣は、俺の驚きを静かに受け止め、話しかけてくる。

QB『此処は、世界に悪意をばらまく存在。魔女の巣さ。
   ここはちょうど魔女の視界からはずれてるからいいけど、あまり出歩かないでね』

岡部「何を、言っている……?」

 俺の呻きに、驚いたような顔をしたのは青い少女だ。

さやか「おじさん、QBが見えるんですか!?」

岡部「見えるに決まっているだろう……お前は何を言っているんだ」

さやか「そ、そうなんですか」

 訝しげな顔をし、少女は黙り込む。
 そんなことはどうでもいい。

 俺にとって今、重要なのは……

岡部「おい、お前」

QB『何だい?』

 目の前にいる、白い獣。
 これと同じ特徴を持つ物を、俺は「聞いたことがある」。
 
岡部「お前は、QB、なんだよな?」

QB『? ……ああ、申し遅れたね。僕はQB。魔法少女と契約をする者さ』

岡部「……」


 ビンゴだ。
 俺はこいつの話を聞いたことがある。
 暁美と最初に会ったあの日。
 これは、あいつが一晩中語った電波話の――――

























 ズキッ!!

 ……まあ、詳細を思い出すのは後にしよう。
 今重要なのは、彼女の言っていたことは全て事実だと言うことだ。
 驚きはない。
 半分は信じていた。

 寧ろ、暁美の電波話が本当だったことよりも、確実にやばいことがある。

岡部「つまり、此処は魔女という化け物の本拠地だと?」

QB『その通り』

 その通り。じゃない。
 それはもの凄く俺たちが危険な状況にいるという事じゃないか。
 それなのに、なぜコイツ等は平然としている?


さやか「ああ、あたしは見張りなんですよ」

 俺がそう質問すると、事も無げに少女は言った。
 見張り、だと?

QB『そうだよ、僕たちは魔女を倒せる少女――――魔法少女が来るまで、魔女を見張っているのさ』

 魔法少女。
 また、暁美の話に出てきた単語。
 まさか、彼女らが待つ魔法少女とは……。

岡部「その、魔法少女の名前は?」

さやか「? 何? マミ先輩と知り合いなんですか?」

 マミ?
 知らない名だ。
 暁美ではないのか……。




















 ―――― お 前 は 知 っ て い る ハ ズ だ。

 ズキッ!!

岡部「グゥッ!!!?」

さやか「また!? 大丈夫ですか!?」


 まただ。
 また頭が痛くなる。

 
 知らないはずの単語を聞いたとき、なぜか脳がもの凄く痛い。 

 しかし、それも徐々に収まった。
 それでも、数分かかったが。
 少女は、俺を心配そうに見た。

さやか「さっきから突然叫んでますけど、大丈夫なんですか?」

岡部「ああ、持病の偏頭痛が酷くてな」

さやか「そうなんですか。……お大事に」

 俺はとっさに嘘を付いた。
 確かに、いきなり叫び出したら頭の造りを疑われても文句はいえんな。
 それに案外、本当に偏頭痛かもしれない。

 そこに、QBの無機質な声が響いた。
 
QB『……マミが来たよ』

さやか「ホント!?」

 青い少女は嬉しそうな顔をした。
 よほどそのマミという少女は信頼されているのだろうな。
 
 そして、その件の魔法少女はやってくる。

 バンッ!!

さやか「来た!!」

 大きな音がして、魔女の部屋の端の扉が開く。
 そこには、黄色い、奇妙な服を身に纏った少女と、

岡部「鹿目、まどか……?」

 魔法少女に手を引かれる、鹿目まどかの姿があった。


マミ「一気に決めさせて!!」

 魔法少女の声が巨大な空間に響く。
 マミと言われた少女は俗にマスケット銃と言われる銃をバットのように持ち、
 現れた小さい魔女に叩きつける。

 魔女はボールのように飛んでいく。

 俺は、それを声もなく見つめていた。
 危ないからと避難させられた鹿目が、側に近寄ってきて、俺の姿を発見した。

まどか「あ、岡部さん……って、何ですか!! その怪我」

 驚いたらしい鹿目。
 しかし、俺にそれについて構っている暇はない。

 俺の目は、魔法少女と魔女の戦いに釘付けだった。

 少女は優勢だった。
 
 少女は華麗だった。

 魔女は弱かった。

 俺はなぜだか不安だった。

 頭がまた痛くなり始めた。

 少女は優勢だった。

 少女は必殺技らしき物を決め、クルリとターンをする。














 ―――― 悪寒が走った。


岡部「…………避けろ!!」

マミ「え?」

 俺は、気づけば叫んでいた。
 何故だかいやな予感がした。
 
 だが、時は既に遅かった。

 小さな、小さな魔女から吐き出された怪物が、光色の魔法少女を襲う。
 彼女は避けることはおろか、状況の把握すらできていない。

 ―――― 結果は歴然だ。運命は決まっている。

 彼女は、逃げられない。























 カチ

 ―――― ただ、ねじ曲げられる者だって居る。
 
 カチ

 気づけば、黄色い魔法少女は消えていた。

ほむら「ギリギリだったわね……」


マミ「……」

岡部「あ、暁美!?」

まどか「あの子は……」

 俺たちの視線の先、そこに黄色い少女を抱えた、暁美がいた。
 彼女も、奇妙な衣装を身に纏っていた。

ほむら「さて、今の私は何処までやれるのかしら……」

 暁美はそう呟くと、怪物の方を見る。
 そこには、いびつな形になり、地に這い蹲る魔女がいた。

ほむら「まあ、病院のワゴンを喰らったらそうなるわよね」

 こともなげにほむらはそう呟くと、何処からか消火器を取り出す。
 何をするつもりだ?

ほむら「……根比べと行きましょうか」

 ほむらは消火器を携えたまま、魔女に近づく。
 そして、魔女の頭に消火器を降りおろした。

 ガキン




























 ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン
 ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン
 ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン
 ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン
 ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン
 ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン
 ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン
 ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン。

 そうして10分後に、暁美は魔女の殺害を終了した。



 ほむらの病室



岡部「お前の言っていたことは本当だったのか……」

ほむら「最初からそう言わなかった?」

 俺の呟きに、ほむらは淡々と返した。
 既に、少女三人組は家に帰してある。
 特に、マミと言われた少女の精神状態はあまり芳しくなかったため、残りの二人も引き下がってくれた。

 そのため、俺は暁美と二人で居るわけだ。 

 因みに、俺の病室だと人が多いので、俺たちは暁美の病室にいる。

 俺は低く呟く。

岡部「つまり、俺が後少しで死ぬのも、事実というわけか」

ほむら「…………ええ」

 暁美は肯定した。
 信じていなかったわけではないが、こうして現実味がある死の宣告とは、何とも薄気味悪い物だった。
 俺はもう一度暁美に問いかける。

岡部「お前は、何回繰り返したんだ?」

 頭が痛い。 
 でも、そんなこと関係なかった。

 俺が渇望しても、手に入れることの無かった力、時間跳躍。
 
 それを手に入れておきながら、何も変えることのできなかった少女。暁美ほむら。

 彼女は、どんな思いで繰り返し続けたのだろうか。
 俺には、測り知ることなどできなかった。


ほむら「沢山よ……」

 曖昧な表現のまま、うつむく暁美。
 その瞳が、全てを物語っていた。

岡部「そうか……」

 そのまま、俺は黙り込んでしまう。
 暁美も、何も言わなかった。

 無音の時間が続く。

 最初に破ったのは、暁美だった。

ほむら「……どうしたらいいか、分からないの」

 泣きそうな声で、暁美は囁く。

岡部「……」

 俺は、無言でその続きを促した。

ほむら「私の見てきた道は、どれも意味がなかった」

ほむら「未来の私が、別の道を語ったけど、正直、彼女の正気を疑うほどのお粗末な出来だったわ」

ほむら「それに、たとえ成功しても、あの時の二の舞になるかもしれない」

ほむら「私は、何を選べばいいの?」

岡部「……」

 正直、意味が分からなかった。
 ただ、暁美が何か重要な選択をしなければならないことは分かった。
 そして、それの最高の答えも。

 俺は、その答えを口にする。

岡部「……受け入れればいい」


ほむら「……」

岡部「お前だけが、がんばる必要はないんだ。お前は十分戦ったじゃないか。もう、いいだろう?」

 暁美の目、そこから彼女がどれだけ戦ったのか、何となく分かった。
 それに、魔女。
 彼女は、あんな化け物と何度も戦っているのだ。
 もう、休んでもいいだろう。

ほむら「どうして?」

 ほむらは呟く。

ほむら「どうして貴方は、自分の命に無頓着なの?」

 暁美には言われたくなかった。
 俺は溜息を吐き、答える。

岡部「いくら足掻いたって無駄なんだろ? なら、受け入れるしか無いじゃないか」

ほむら「……ッ!!」

岡部「確かに、その日は最悪だと思っても、
   受け入れさえすればその明日はその日よりもマシになるものだ。
   そうやって、傷を癒していけばいい」

 現に俺は、そうやって生きている。
















 ―――― ぐちゃぐちゃになった心を、殻で覆い、表面上だけ綺麗にしたんだ。

ほむら「岡部……」

 ほむらは、どこか痛みに耐えるような顔で言った。
 俺は、優しく語りかける。

岡部「今日は、一人でゆっくり考えると良い」

 俺はそう言って、松葉杖をつきながらほむらの病室を出ていった。
 一人でいろいろ考える時間は必要だ。
 特に、こんな時には。


ほむら「……」

 ほむらは一人、病室に取り残された。
 置いて行かれた。
 そんな気分がした。

ほむら「私は、どうすれば……」

 どうすればいいのか、全く分からない。
 岡部を救いたい。

 しかし、方法がない。

 道がない。

 そもそも、岡部自身、ほむらの救いなど必要としていなかった。
 
 ならば、救う必要があるのだろうか?

ほむら「未来の私が言った道は論外よ。あんなの、岡部の死を早めることになりかねない……」

 そこまで言いかけて、ほむらは自分が、岡部が死ぬことを拒絶していることに、ようやく気づいた。
 
 そして、ほむらは思い出す。
 未来の自分が、最後に言い残した言葉を。












 ―――― 私が、そう望んだからよ。


ほむら「……岡部は、三週間後に死ぬ。まどかも」

 ほむらは、小さく、確かな声で呟く。
 カチリと、何かがはまった音がする。

ほみら「……何を」

 ほむらは、ようやく答えを見つける。
 全てを覆す、悪手だらけの中の、最後の一手を。

ほむら「何を、戸惑っていたのよ。私は……!!」

ほむら「まだ、終わってなんかいないわ。絶望を受け入れるのには、まだ早すぎる」

 大義名分なんて関係ない。

 リスクなんて意味がない。

 失敗ガ怖い?

 もう失敗している?

ほむら「藁に縋るしか、私に道なんて無いのよ……」

 岡部はこれ以上の時間跳躍を逃げと言った。

 ならば、あの悪手は、「逃げなかった」ほむらが見つけた最善手だ。

 ならば、何を迷う必要があったのだろう?

ほむら「本当に、私は馬鹿ね……」

 そう言いつつも、ほむらの顔は笑っていた。
 心の濁りは、もう無い。
 恐怖は振り払った。
 躊躇いは飲み干した。

 ほむらはもう一度、小さく笑った。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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 暁美は、その次の日に、吹っ切れたような顔をして来た。

 全てを受け入れたのだろう。

 それでいいんだ。

 そして、俺はほむらと最後の余生を過ごす。

 俺は自分の死を信じていた。

 魔法少女と魔女。

 あんな物を見せられたら、時間跳躍や予知を信じざる得ない。

 もしかしたら万が一に回避できるかもしれないが、まあないと考えて良いだろう。

 驚くほど、俺は自分の死を信じきっていた。

 ―――― 俺が死ぬのは、事実だからな。

 ほむらと過ごしている間、ずっと頭が痛かった。
 俺は蜘蛛膜下出血で死ぬのだろうか?

 まあ、冗談はおいておこう。

 俺は残りの時間を病院のベッドの上で過ごした。

 そこで、ほむらと色々な話をした。

 俺の黒歴史ノートを公開したりもした。

 暗黒絶龍波ってなんだと笑われた。

 俺も笑った。


 バイト先の時間帯責任者が自転車を跳ばして見舞いに来た。

 無断駐車で自転車を没収されていた。

 天王寺親子が来た。

 病院食では味気ないだろうと、コンビニ弁当付きでだ。

 美味かった。

 見滝原コミュニティに暁美とログインした。

 サークルと、ソニックメイデンは最近来ていないらしい。

 暁美と俺と綯の三人でクエストに行った。

 ソニックメイデンに教えてもらった裏技を遊びで使ったら一瞬で終わった。

 暁美から文句を言われた。

 それ以降、暁美がドハマりしたらしく、一日でレベル99まで鍛えてきた。

 馬鹿かコイツ。

 とにかく色々なことをした。
 死ぬと決まった瞬間、俺は何かを吹っ切ったように全てを楽しんだ。
 どうせ死ぬんだ。

 ―――― これくらい、許してくれ、まゆり。

 そして今日は、退院日。
 さらに俺が死ぬと言われた日の3日前。

 何でも、スーパーセルが近づいているらしい。
 


 俺は、久しぶりの我が家にいた。
 松葉杖はさすがにまだ取れない。

 俺は、家で椅子に座りながら、爺の如く、窓の外の景色を楽しんでいた。



























 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

岡部「な、何だ!?」

 もの凄い轟音と揺れがした。

 地震かと思った。

 しかし、地震でないことはすぐに分かった。

岡部「屋上で、何かやっているのか?」

 屋上から音がしていた。
 
岡部「一体、何が起こっているんだ?」

 俺は好奇心に耐えきれず、松葉杖をつきながら、それでも足早に屋上へ向かった。



 屋上



岡部「何だこれは……」

 異常な光景だ。
 そのせいか、また頭の痛みが酷くなった。

 人工衛星のようなものが、屋上で馬鹿みたいな存在感を放っていた。

岡部「人工、衛星か……って、ん?」

 謎の物体Xを観察していた俺は、その下にある小さな陰に気づく。
 
 それは――――



























岡部「あ、暁美!!? しっかりしろ、おい!!」

 気絶していた、暁美ほむらだった。


岡部「一体、屋上で何があったんだ!?」

 困り果て、独り言を呟いた。
 そして、またしても答えが返ってきた。

暁美「その子は眠らせてあげて、今、重要な役目を終えたところだから」

岡部「お前……は……?」

 もの凄い美人がいた。
 牧瀬紅利栖と、同レベルかそれ以上。

 なぜ牧瀬を引き合いに出したかというと、それは彼女の服装にあった。

 ヨレヨレの白衣と、ボサボサの髪。
 それはいかにも研究者らしくて、つい思い出してしまった。

 そして、そんないかにもマッドな格好の女は、それでも美しかった。
 他の人にはない、強い光がその目に宿っていたからか、
 とにかく、彼女はどうしようもなく不完全じみている格好だったが、それでも完全だったのだ。

 女は、俺の方を向き、微笑みながら言った。

暁美「岡部」

岡部「何故、俺の名を……」


暁美「貴方は、受け入れろと言ったわね」

 女は穏やかながら、確かな意志と共に言葉を紡ぐ。
 俺は圧倒されていた。

暁美「15年間考えた答えがこれよ」

 女は言った

暁美「貴方の死を受け入れるぐらいなら、全てを壊した方がまだマシだわ」

 そして、女は不思議な機械に乗り込む。

岡部「あ、おい!!」

 俺は我に返り、女に呼びかける。
 女は、少しだけ悲しそうに笑って、ハッチを閉じた。

 ―――― 瞬間、光が世界に満ちる。

 それは、あまりにも幻想的で、美しかった。
 あの女は、実は天使だったのではないか、そう思えるくらいの、幻想的な光。
 そして、機械はひときわ輝くと、

 消えた。





















 ドクン!!

岡部「グァ……!!」

 直後、激しい目眩と頭痛を感じ、俺の意識は暗転した。

 これで今日の投下を終わりにします。
 
 オカリンが自分の主張をウザいほど語りまくってますね。
 厨二病が治っても、受け入れ厨のオカリンっていったい。

 ちなみに、>>309 と >>310 の間で視点転換します。
 分かりづらくてスイマセン。

 それとマミさんが助かったのはマミさんでは「お菓子の魔女に勝てない」ように世界線が収束するからです。
 つまり、最初の頃もほむらと連携してれば勝てた。

 あと、お菓子の魔女戦で、ほむらは一切銃器を使いませんでした。
 このSS内での設定では、ほむらの魂『ソウルジェム』のみが時間跳躍するため、
 物質は跳躍できないことになっています。

 それと、ほむらの登場タイミングが何時も遅いのは対魔女の武器を揃えていたからです。
 ワルプルギスと戦おうとしていた最初の頃は特に。
 決してほむらが無能だから遅れたとかじゃありません(きっぱり)。
 ぶっちゃけ、ほむらの場合は眠る時間も無かったかも。

 長々とスイマセン。
 応援してくれる皆様に感謝を
 それでは。

 こんばんは、11;10頃投下したいと思います。



 第38話;『これが君の選択か』
         ~昇天離脱のスターダスト~











         3月下旬




















 暁美ほむらの病室


 
 頭が重い。
 頭痛がする。
 熱が酷い。

 暁美ほむらは、自分の病室のベッドの上で、小さく呻いていた。
 視界がぐらぐらと揺れる。
 目眩がする。

メガほむ「前にも、こんなことがあったな……」

 ほむらは熱に魘されながら、そんなことを思う。
 それは去年の8月頃だったか。
 ほむらは一度、ものすごい熱に魘されたことがあったのだ。
 そのときも、目眩がした。
 それこそ、世界が変わるのではないかと思ったほどだ。















 プルルルルルルルルルルルルルルルルルル……

 静かな病室に、無機質な音が鳴り響いた。

メガほむ「誰だろう……?」


 ほむらは首を傾げながら、無機質な音声の発信源、携帯電話に手を伸ばした。
 両親は共働きのため、連絡の手段として買い与えられた物だった。
 ただ、ほとんど使ったことはない。
 
メガほむ「お父さんかな……」

 ほむらは小さく独り言を言いながら、携帯を開き、耳に当て、着信ボタンを、

 押した――――























 頭の中に蛆虫が居る。
 蛞蝓でも、ヒルでも良いかもしれない。
 とにかく、どうでもいい。
 そうどうでもいよくない岡部をたすワルプルギスをたおさいや魔法少女に戻さないといけない。


ほむら「ぅあ……、ああ……」

 脳が、脳に、脳で。
 脳に痛んだ。
 脳に痛んだ、ほむらが気も狂う。
 痛んだ?
 痛いだ。痛い。
 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。

 痛くて暖かい、痒くて冷たい。
 かゆいいたいかなしいつらい。

ほむら「あああ、ああ、あああああ」

 狂う痛い殺したい死にたい死にたくない生きたい生きたくない。
 死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。


















 ―――― パチン。

ほむら「…………え」

 ほむらは我に返る。
 砕かれバラバラになった記憶と精神が、一つに纏まった感覚。
 バラバラに分解した模型をもう一度くみ立て直したような感覚だった。


              ・・・・・・・
 そして、ほむらは、思い出していた。

ほむら「こ、ここは……」

 何時? と言うことは出来ない。

 痛かった。
 脳ではない。
 ほむらの脆弱な心臓が、痛みを訴えていたのだ。

ほむら「はぁ……はぁ……ゲホッゲホッ!!」

 頭も別の意味で痛い。
 熱がある。
 目も、霞んできた。

 魔法少女ではなくなったほむらは、ただの脆弱な少女でしかない。
 
ほむら「……ック!!」

 ほむらは気力で無理矢理ベッドから降りる。
 いや、正しくは転げ落ちた。

ほむら「ッガ……!!」

 背中をしたたかに打ったほむらは、うめき声を上げる。
 しかし、目の光は消さぬまま、腕だけで這いずって進もうとする。
 今のほむらは歩ける状態ではなかった。
 しかし、行かなければならなかった。

 ズリ、ズリ、ズリ、ズリ、ズリ。


 這い蹲り、それでもほむらは懸命に外を目指す。
 見つけなければならない。
 そうでないと、計画は準備段階で頓挫してしまう。
 それだけは防ぎたかった。

 ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン。

 心臓が何度も爆発し、ほむらの肋骨を殴りつける。
 このまま、心臓が爆発してしまうのではないかという錯覚に陥った。
 それでもほむらは進む。
 僅かな歩みを、何度も何度も繋げる。
 まともに体が動かなかった。

 それでも、諦める気はさらさら無かった。




















QB『……まさか、こんな所に魔法少女の素質を持つ子が居るなんてね』

 声がする。


ほむら「グッ……お前は……」

 ほむらは乱暴な言葉遣いになりながら、目の前の獣を見つめた。
 
QB『やあ、やっぱり僕の姿が見えているようだね。
   僕はQB。君が魔法少女になってくれるのなら、君の願いを何でも一つかなえてあげるよ!!』
            カタ
 無機質な声で獣は騙る。
 ほむらは、その本性を知っている。
 が、同時にほむらが捜し求めていた者も、この獣なのだ。

ほむら「……なら、……私の願いを叶えなさい」

 ほむらは切れ切れの声で、どうにか言葉を紡ぐ。
 獣は無感情な顔を傾けた。

QB『分かったよ。君の願いを言ってごらん』

 獣の言葉に、ほむらはゆっくりと答えた。















ほむら「力を」

 ―――― この世界の理不尽な理を破壊する力を。

 ―――― 岡部を救い出す力を。

 ―――― 私が望む世界に行くことの出来る力を。

ほむら「……寄越しなさい」

 世界が、光に包まれる。

QB『……おめでとう。君の願いは、エントロピーを凌駕した』
 
 光の中で、ほむらはそんな声を聞いた。



 病院;屋上



 それはそこに、佇んでいた。
 銀色に光輝く物体。
 
 タイムマシンである。

ほむら「まさか、ここにあるなんてね……」

 病院の屋上に着いたほむらは、辺りを見回す。
 ほむらの服装は、もう病院着ではない。

 黒と白を基準とした、奇妙な衣服。
 そう、魔法少女としての衣装である。

ほむら「どうやら、また携帯電話は落ちていないみたいね」

 ほむらはあたりを確認すると、懐からある物を取り出した。
 ほむらの携帯電話だ。

 プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル……

 取り出した瞬間に着信音が鳴り響く。
 まるで見ているかのようなタイミングだった。

ほむら「……もしもし」

 ほむらは躊躇わずに着信ボタンを押す。
 電話からは、予想通りの女の声。

暁美『どうやら、上手くやったようね』


ほむら「さてね、確証はないわ」

 同じ声、同じ人物が電話越しで会話をする。
 同一人物の、少し落ち着いた声が笑う。

暁美『大丈夫よ。あいつ等は、願いは完璧に叶えてくれるわ』

ほむら「……これに成功したところで、成功率は相変わらず低いままだけど」

暁美『でも、その作戦に参加したのは貴女自身の意志でしょう?』

ほむら「……」

 正確な部分をつく未来の自分の指摘に、ほむらは黙りこくる。
 暁美はなおも続けた。

暁美『でも、これは確かに大きな一歩よ。この準備を失敗したら、全てが水の泡ですもの』

 そうなのだ。
 未来のほむらが立てた作戦。
 そして、ほむらがタイムリープをする直前に聞いた計画は、無謀というのも生ぬるい物だった。












 ―――― まず、魂って、どう言うものだと思う?

 計画を明かされる時の、未来の自分の言葉が、鮮明に思い出される。


 ―――― 岡部は、「記憶」を魂と言っていたけど、私の予想は違うわ。

 ―――― 「魂」は粘土みたいなものよ。形が変わりやすく、人によってその成分が違うの。

 ―――― そして、「記憶」は魂と言う粘土の形を変える、いわば型のようなものね。

 ―――― 魔女化も原理は似たようなものよ。

 ―――― 魔法少女が絶望によってこれまでの自分の記憶、
        つまり「型」を壊し、魔女の本能っていう新しい「形」に自分の魂を変える。

 ―――― ならば、魔女を魔法少女に戻す為にはどうしたらいいと思う?

 ―――― その逆を考えればいいのよ。

 ―――― 魔法少女が魔女になるとき、大量のエネルギーを生み出すわ。

 ―――― それは彼女たちの記憶だったもの。

 ―――― なら、その形を復元できれば?

 ―――― 魔女の形を壊し、魔法少女としての形を取り戻させ、
        彼女たちが放出した強大なエネルギーを打ち込めば、出来るかもしれない。

 ―――― そのための一つ、対象の記憶を取り戻させることは簡単よ。

 ー―――― 思い出させるんじゃなくて、無理矢理ぶち込めばいい。

 ―――― そのための技術を、貴女は知っているはずよ。

 ―――― 私はそれを、「ピースメーカー」と呼んでいるわ。

 ―――― そうよ、簡単に言うなら、魔女になる前の魔法少女の記憶をデジタルデータとして採集し、
        魔女になったらそれをぶち込む。まあ、タイムリープの応用ね。

 ―――― そして、二つ目の問題点。魔女の形を破壊することと、
        魔女に膨大なエネルギーをそそぎ込むこと。これはさっき言ったタイムリープが関係してくるわ。


 ―――― 結論から言えば。技術でそれを行うことは出来ない。

 ―――― ただ、奇跡なら?

 ―――― 見せかけでも、何でもいい。それでも、あれは間違えようもなく、人知を越えた力なのだから。

 ―――― 結論を言うわ。
























 ―――― もう一度魔法少女になりなさい。

 ―――― 時を魔法以外の力で越え、契約をキャンセルするのよ。
 
 ―――― そして、時を越える力の代わりに、理を打ち破る力を手に入れなさい。




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ほむら「これで、何かが変わったとも思えないけど」

 ほむらは渋い顔で呟く。
 電話先の女は答えた。

暁美『でも、力の使い方は分かっているんでしょう?』

 ほむらはゆっくりと言った。
 
ほむら「でも……、実感が湧かないのよね」

 ほむらの力の使い方は、すでに彼女自身の頭の中に入っている。
 
 しかし、どうにも使い道が限られている気がするのだ。

ほむら「これじゃあ、ワルプルギスの夜とまともに相対できないんじゃないかしら?」

 ほむらの言葉に、電話の先の声は笑った。

暁美『勝つのが目的じゃないもの。当てればいいのよ、当てれば』

 あまりにも軽い口調に、ほむらは呆れる。
 しかし、暁美の調子は変わらない。

ほむら「貴女は……」

暁美『やれるだけのことはやったわ。後は野と成れ山と成れよ』

 暁美はおどける。
 ほむらの顔に、僅かだが苦笑が浮かんだ。

暁美『まあ、長話は置いておきましょう。全ての用意はタイムマシンの中にあるわ』

ほむら「……分かった」


 暁美の言葉に、ほむらは頷いた。
 どんなに先が暗くても進む以外に道はないのだ。
 暁美は笑った。
              ラストオペレーション    ブリュンヒルデ
暁美『フ……、それでは最終作戦「絶対的な勝利を司る戦女神」の開始を宣言するわ』

ほむら「……は?」

 未来とはいえ、自分が発したとは思えない痛々しい台詞に冷たい声を出すほむら。
 暁美は苦笑した。

暁美『何時か分かるわよ……。そう遠くない未来にね』

 そして、暁美は最後に一言だけ呟いた。

暁美『信じているわ。そして、がんばって』

 ガチャン

 またしても、一方的に電話は切れてしまった。


















     2008年 某日




















 秋葉原;路地裏



 椎名まゆりは頭を悩ませていた。
 
まゆり「キュウちゃん、それはホント~?」

 目の前にいるのは、白い獣。
 後にQβと名乗る存在である。

Qβ『確かな情報だよ。近いうち、いや、もしかしたら今日中にも強大な魔女が来るかもしれない』

 Qβに言わせれば、近いうちに強力な魔女がこの地にやってくるらしい。
 もちろん、まゆりは魔法少女の宿命として、その魔女と相対しなくてはならないのだが――――

まゆり「どうして逃げようなんて言うの?」

Qβ『だから、これは君一人で解決できる案件ではないんだ。君一人が行っても良くて相打ち、悪かったら犬死にさ』

 目の前の相棒、Qβが頑なに逃走することを進めてくるのである。

まゆり「でも、そんなこと出来ないのです……」

 しかし、まゆりは魔法少女である。
 つまり、彼女は魔女と戦う宿命を持つ。
 正義感が強いまゆりとしては、あまり歓迎したくない提案だった。
 
まゆり「まゆしいが逃げちゃったら、ここにいる人は大変な目に遭っちゃうよ?」

 大変な目、と言うのは些かマイルドすぎる表現だが、まゆりの言っていることは間違ってはいなかった。
 ここで、まゆりが逃げ出した場合、秋葉原の住人は大変な被害を追う。
 何人もの人が犠牲になる可能性もある。
 それはQβにも分かっていた。


 しかし、ほかのQBから聞いた情報と照らし合わせると、
 まゆり一人だけでは些か荷が重いような気がしたのであった。
 Qβはまゆりを説得するため、声を上げる。

Qβ『でも、君が負けたとしてもそれは変わらないだろう? だったら、いったん引いて戦力を――――』

 
























ほむら「ちょっと、良いかしら?」

 途中まで言っていた説得の言葉は、一人の乱入者によってかき消された。


まゆり「貴女は、誰?」

 まゆりは、乱入者の方へ顔を向けた。
 随分と顔の整った少女だった。
 まゆりと同い年くらいに見えるが、そうでもないように見える。
 とにかく、不思議な感じの少女であった。
 対するQβは、そのまとう雰囲気から彼女の正体に気づいた。

Qβ『君は、魔法少女かい?』

 Qβの問いに、少女は小さく頷いた。

ほむら「そうよ、貴女達の手伝いにきたの」

 その台詞に、喜びの声を上げたのはまゆりだ。

まゆり「本当!?」

 そう言いながら、少女の手を取り、飛び跳ねた。

まゆり「すごいのです!! これなら、魔女さんも倒せるよね、キュウちゃん!!」

Qβ『……』

 はしゃぐまゆりを後目に、Qβはじっとりとした視線を少女に送った。
 少女は軽く髪をかきあげてそれをいなした。

まゆり「まゆしぃはまゆしぃだよ♪ 貴女は?」

 まゆりがハイテンションのまま、自己紹介を始める。
 少女は、面倒くさげにそれに答えた。

ほむら「暁美ほむらよ、こちらこそよろしく」

 その台詞には、自称無感情のQβが驚くほど、感情が詰まっていなかった。


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 数分後


ほむら「そういえば、これを付けてくれないかしら」

 おもむろにほむらがまゆりに言った。
 その手にあるものを見て、まゆりは疑問符を浮かべる。

まゆり「え~と、帽子ならまゆしぃ持ってるよ?」

Qβ『これを帽子といえる君の感性に僕は今脱帽しているよ』

 とぼけた発言をするまゆりに、Qβが突っ込んだ。
 ほむらは気にせず続ける。

ほむら「これは、脳波をはかる装置なの。貴女の精神状態を調べて、今戦える状態か否かのメディカルッチェックをするのよ」

まゆり「へぇ~、そうなんだ~」

 まゆりはほむらの解説に感心するが、Qβは首を捻った。

Qβ(そんな装置、まだこの星の文明じゃ作れないはずなんだけどな……)

 しかしQβが結論を出すよりも先に、まゆりはその装置を付けてしまった。



 数分後



ほむら「もういいわ。ありがとう、椎名さん」

まゆり「それで、まゆしぃはどうだった~?」

ほむら「大丈夫。問題無しよ」

まゆり「そっか~。良かったのです」

 ほむらの言葉に、まゆりは嬉しそうな態度を見せる。
 Qβ一人、暁美ほむらに違和感を覚えた。

Qβ(何だろう……。何かが、おかしい……)

 しかし、その違和感に気づくことは出来なかった。
 
 ほむらはまゆりに尋ねる。
 
ほむら「そう言えば、貴女の能力は何なのかしら?」

 ほむらの言葉に、まゆりは考え込む様な顔をした。

まゆり「え~とっ、ねぇ……? い、いん?」

Qβ『「因果反転」だよ』

 口を尖らし、考え込むまゆりに、Qβが助け船を出した。

ほむら「「因果反転」?」

 聞き慣れない単語に、ほむらは首を傾げた。
 Qβは簡単な説明をする。

Qβ『物事の因果を操作する力さ。
   例えば、絶対に当たらない攻撃を絶対に当てる攻撃に変えたり出来るんだ。
   もちろん、それを逆使用して、防御に使っても良い』

ほむら「へぇ……」
 
 ほむらは感心したような様子を見せるが、内心では頭を抱えていた。


ほむら(「因果反転」……。やっかいな能力ね)

 ワルプルギスの夜の元となった魔法少女なのだ。
 元々侮ってはいない。

 ただ、時間停止が使えなくなったのは大きな痛手だった。
 時間停止が使えるならば、難なくまゆりに攻撃を当てることが出来るのだ。
 それは、椎名まゆりを殺したそのときに立証されている。

ほむら「で、弱点とか、無いのかしら?」

 内心の動揺を抑え、ほむらはまゆりに尋ねる。
 しかし、答えは意外なところから返ってきた。

Qβ『燃費が悪いんだよ、この能力は。
   それに決定的な攻撃方法も持っていないんだ。
   だから持久戦に持ち込まれるときついかな』

ほむら「……それ以外には?」

Qβ『さてね、僕からしても謎が多い能力だ。分からないものの方が多いよ』

ほむら「……そう」

 ほむらは有益な情報がとれなかったため、また思考を始める。
 とにかく、攻撃を当てなければいけない。
 それが、それだけが、課題だった。



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 最初に気づいたのは、まゆりだった。

まゆり「何か、大きいのか来るのです……」

ほむら「え?」

Qβ『まさか……』

 ほむらとQβは、まゆりが仰ぎ見た方角を向く。

 そこから、無数の鳥が飛び立っていた。

ほむら「もしかして、例の魔女?」

 ほむらの問いに、まゆりは頷いた。
 その様子に、Qβは呆れながら呟いた。

Qβ『野生のカンって奴かね……』

 ほむらはそれを無視し、まゆりに告げる。

ほむら「じゃあ、行きましょうか」

まゆり「うん!!」

 ほむらに肯定の意を示したまゆりは、Qβの方を向く。
 そして、言った。

まゆり「キュウちゃんは、ここに残ってて」

 驚いたのはQβだ。


 慌てた様子で、まゆりに問いかける。

Qβ『ま、まってよ!! 何でさ!?』

まゆり「まゆしぃは、あの魔女さん相手にキュウちゃんを守りながら戦える自身がないのです……」

 まゆりはホンワカとした言葉とは裏腹に、真剣な面もちでQβを見つめた。
 その視線に射られ、Qβは返す言葉を見つけることが出来ない。

まゆり「ごめんね……」

 まゆりはQβへの謝罪を口にする。
 Qβはそこへ慌ててフォローの言葉を口にする。

Qβ『大丈夫だよ。確かに僕は足手まといだからね。でも、絶対に無事に帰ってきて』

 Qβの言葉に、まゆりは笑った。

まゆり「うん♪ 約束だよ~」

ほむら「……」

 ほむらは静かに、その光景を見つめていた。



 道路



 まゆりが先を走り、ほむらが後を追う。
 しかし、まゆりの足は速く、ほむらはどんどん距離を離されてしまう。

まゆり「ほむちゃん。大丈夫?」

 まゆりがほむらに合わせ、走るスピードを緩めようとする。
 しかし、ほむらは首を振った。

ほむら「先に行って。何とか場所は分かるから」

 おそらく、そこはかつてほむらが椎名まゆりを殺害した場所であろう。
 と検討を付けているほむらは、まゆりが先行する事を促した。

 それに、ほむらの目的は椎名まゆりとともに戦うことではないのだ。
 ならば、一緒のスピードで走る意味はない。

 まゆりはほむらの言葉になにを感じたのか、少し顔を曇らせると。

まゆり「うん……わかった」

 そう言って、地面を勢い良く蹴った。
 
 ダンッと小気味良い音がし、まゆりはぐんぐんとほむらとの距離を広げていった。


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 そうして走って数分後。
 ほむらはある人物をみかけた。

ほむら「お……」

岡部「……」

 そう、岡部倫太郎である。
 彼は少しだけ、暗い顔をしていた。
 恐らくは、まゆりと既に会っているのだろう。
 ほむらは岡部に声をかけたいという強い欲求に刈られた。
 しかし、それを無理矢理振り切って進む。
 失敗は、今のほむらには許されてはいないのだ。
 失敗は即ち岡部の死を意味する。
 故にほむらは、岡部の横を通り過ぎる。

 全ては彼の命を救うため。
 自分の望む世界にたどり着くため。
 ほむらは誘惑を振り切り、走った。


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 世界のラジオ館


 まゆりは結界を見つけた。
 
まゆり「人が、多いのです……」

 そう、まゆりの周りには沢山の人がいた。
 しかし、誰も彼も虚ろな目をしている。
 まゆりは首元を見る。
 そこには、魔女の口づけ。

まゆり「……このまま、結界の中に入ったら。この人達は……」

 魔女に魅入られた人間は、自殺を試みることが多い。
 もし、まゆりが魔女と戦っている間に誰かが自らの命を絶ったら……。
 と思うと、まゆりの足は自然に鈍ってしまう。

まゆり「……こうなったら」

 まゆりはソウルジェムを降り上げ、魔法少女へ変身する。
 幸い、あたりは魔女に魅入られた人間ばかりなので、まゆりが見咎められる事はない。

まゆり「変身……完了っと」

 まゆりの衣装は、驚くほど質素なものだった。
 少し洒落たジャージにスカートという、最低限魔法少女らしいと見えなくもない衣装。
 
 まゆりは懐に収納しておいた、金属バットを取り出す。
 まゆりは武器を持っていないのだ。
 しかし、まゆりの魔力量自体は破格の量のため、それは魔法少女の武器と遜色無い威力を見せた。

まゆり「えいっ」


 気の抜けるような掛け声とともに、まゆりは自らの魔力を解放する。
 刹那、周囲一体を蒼い光が包んだ。

 美樹さやかが放つ魔力よりも、ずっと白に近い、青空のように優しい光。
 それが周囲の全てを包み込む。


























 ―――― 世界の「全て」は反転する。

 蒼い光が消え、周囲の人々の魔女の口づけも消える。
 「因果反転」により、魔女の口づけを無効化したのだ。
 まゆりは、少しふらつきながらも、目の前の結界を見つめる。


まゆり「……すこし、疲れたのです」 
 
 まゆりの額には玉のような汗が吹き出ている。

 見れば、まゆりのソウルジェムはかなり濁っていた。
 
 空は、曇り始めていた。

まゆり「ここで、ほむちゃんを待つのもいいの、かな……?」

 まゆりが、ほむらと合流するのを待とうとした、その時――――





















 ―――― 世界は反転する。

まゆり「……!!」 

 気づけば、まゆりは魔女の結界の中に誘われていた。
 そして、その目の前には、

魔女「キャハハハハハハハ!!!!」

 魔女がいた。
 それも、かなり巨大だった。

まゆり「大きい……!!」

 巨大な魔女は二刀の剣を両手に携えていた。
 魔女のサイズから見て、あの剣も相当大きいのだろう。
 あの剣をたたきつけられた瞬間、まゆりの体は一瞬で消し飛んでしまうだろう。
 圧倒的な強さだった。

まゆり「でも……」

 まゆりは首を振り、魔女を見据える。
 そこには、一片の絶望すら浮かんではいない。

魔女「キャハハハハハハハハハハ!!!」

まゆり「……行くのです!!」

 まゆりは魔女に向かって、一気に加速した。


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 五分後;世界のラジオ館



ほむら「この辺よね……」

 ほむらは息を切らせながら、周囲を見渡す。
 この辺に、魔女の結界は存在するはずだ。
 しかし、結界の気配は無い。
 魔女の気配もなかった。

ほむら「ここじゃ……」

 無いのかしら。
 そう言おうとするほむらの言葉は、続けることはできない。
 
 ―――― 寒気が、走った。

ほむら「!?」

 ほむらは、何か嫌な気配を感じる。
 その気配が発せられている場所は、ラジ館の裏の路地裏。
 ほむらがまゆりを殺した場所だ。
 
ほむら「あとは、あそこね……」

 ほむらは小さく呟くと、路地裏に向かおうとする。
 
 ポタリ

 何か冷たいものを感じたほむらは、上を見上げる。
 雲が空を覆っていた。

ほむら「そういえば、雨が降るのよね……」

 ほむらは、そこで空を見るのを止め、路地裏に向かった。


 路地裏


ほむら「椎名さん、居る?」

 ほむらは、暗い路地裏に向かって訪ねる。
 小さく、声が帰ってきた。

まゆり「あ……、ほむちゃん……?」

ほむら「椎名さん、魔女は倒したの……?」

 ほむらは、まゆりの姿を見るため、路地裏に入っていく。
 そして、その奥でほむらは見た。

 濁りきった。

まゆり「大丈夫、一人で立てるよ……」

 まゆりのソウルジェムを。

まゆり「っう!!」

 まゆりは小さく呻くと。体をくの字に折り曲げる。
 そして、その体中にまがまがしい魔力が覆う。
 そして――――



















 ―――― 少女は、「反転」する。


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 通称「ワルプルギスの夜」の結界



ほむら「……」

 ほむらは対峙する。
 時は来た。
 既に、後戻りはできなかった。


 目の前にいるのは最凶の魔女。


 ワルプルギスの夜


ワルプルギス「アハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 ほむらがこれまで戦ってきたものよりも、随分と小さいが、間違いなくそうだった。
 これから力を蓄えていくのだろうか。
 
ほむら「行くわよ……暁美ほむら」

 ほむらは小さく自分を叱咤すると、魔女に向かって跳躍した。

 これで今日の投下を終わりにします。
 そろそろ、ほむら編が終わりに差し掛かろうとしています。
 
 ほむらはワルプルギスに勝てるのか。
 
 まゆりって意外と口調が難しい……。
 自分の未熟さを教えられる日々です。

 
 
 応援してくれる皆様に感謝を

 それでは、お休みなさい。

こんばんは
PCがぶっ壊れました。
暫く投下できそうに有りません。
因みに自分は魔法少女はある程度で成長が止まるに一から揚げ
度重なる遅れ、本当申し訳なく思います
応援してくれる皆様に感謝を
それでは

PCぶっ壊れました。
暫く投下できそうに有りません。
何度も遅れてすみません
応援してくれる皆様に感謝を
それでは

pcぶっ壊れました。
暫く投下できそうに有りません。

 うぉ!?
 PC復活したから見てみたらこんなに!?
 本当に申し訳ございません。
 色々とトラブってしまったので投下は日曜日にしたいと思います。
 何度もスイマセン。
 それでは


 こんばんは、遅れてスイマセン。
 そろそろ投下したいと思います。



 第39話;『良くやったよ、彼女は』



 ほむらは、因縁の相手と相対していた。

 ワルプルギスの夜

 それが彼女の名前である。

魔女「キャハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 しかし、その姿はほむらの記憶の中の者よりも遙かに小さかった。
 さらに、結界もある。
 しかし、その結界は異様だった。
 現実と大差ない景色が広がっていた。
 空は雲に覆われている。
 そして、ほむらは、大きな道路の上にいた。

ほむら「……どうやら、あの時みたいな力は出せないみたいね」

 ほむらは冷静に脳内を整理する。
 魔法少女と魔女、奇妙な膠着状態が続いた。

 先に動いたのは、魔法少女だった。

ほむら「ッ!!」

 魔女へ向かい、一気に駆け出す。
 そして、右手の中には、光。

 その光は、まるで槍のような形となる。
 ほむらはそれを掲げ、最凶の魔女へ向かう。
 


 しかし、魔女も黙ってみていてはくれない。
 道路標識、ガードレール、瓦礫など様々な物を操り、ほむらへ投げつける。

ほむら「ック!!」

 今まで、時間停止の恩恵に頼っていたほむらは、それを避けきることが出来ない。

 ほむらは仕方なく、手に持っている槍で道路標識を受け止めようとするが――――






















 グシャ

 グロテスクな音と共に、ほむらの体は弾き飛ばされた。

ほむら「……ッ!!」


 ほむらは受け身を取れずに地面を転がった。
 ほむらは痛みで濁った思考で考える。

 ほむらの新たな能力である光の槍は、質量を持たなかった。

 故に、ほむらは攻撃をまともに食らってしまった。
 しかも、不意打ちに近い形で、だ。

 ヒュン ヒュン ヒュン

 そこまで考え、ほむらは慌てて飛び起き、走り出す。
 瓦礫が直ぐそこまで迫っていた。
 
 今のほむらは、ただ避けることしかできない。
 防御する手段が存在しないからだ。

 幸い、ワルプルギスの夜とは距離があるため、何とか回避することが出来る。
 しかし、このままほむらが何もしなければ、ほむらが敗北することは明白だった。

ほむら「……やってみるしかないわね」

 ほむらは一人、小さく呟くと、槍を担ぎ、狙いを定め、

 投げた。

 音もなく光の槍は一直線に魔女へ向かう。
 魔女はそれを防ごうと瓦礫の縦を作るが、槍はそれをすり抜け、突き進む。

 ほむらの予想は当たった。

 ほむらの槍は、この世界の物質の干渉を受けない。

 故に、攻撃が防げない。
 


 しかし、いかなる防御もすり抜ける。

 放たれた槍は、一直線に魔女へ向かう。
 何者にもそれを拒むことが出来ない。

 そして、光の槍は魔女に突き刺さ――――
























 ―――― 因果は反転する。

 チクリと、ほむらの脳が痛む。

魔女「キャハハハハハハハ!!」

 ―――― る事はなかった。


 光の槍は、魔女に当たることはなかった。
 いや、確かに、当たったようにほむらには見えた。
 しかし、気づけば槍は外れていた。

 いや、外されていた。

 椎名まゆり――――いや、ワルプルギスの夜の能力、「因果反転」によって。

ほむら「……分からないことが、多すぎるのよ……」

 ほむらは悪態をつく。
 ほむらの能力はほむら自身の脳に情報が読み込まれている。
 しかし、それはあくまで使い方と、その能力のみ。
 細かいルールまでは把握していないのだ。

 しかも、相手側の情報も少ない。
 「因果反転」など、反則的にもほどがある。

ほむら「少し、様子を見ないと」

 情報を集めるため、魔女から距離をとり、思考をしようとするほむら。

 これまでと違い、本当の意味で失敗は許されない。

 瓦礫を避け、道路標識を避け、レールをかわし、ほむらは思考する。
 最悪の能力「因果反転」の対策法を。



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 本来、椎名まゆりの「因果反転」はそこまで強力な能力では無い。
 燃費が悪く、効果も限定的。

 特に、コストパフォーマンスの面から見れば最悪最低。
 普通の魔法少女ならば、片手の指の数ほども使用できないほどだ。

 莫大な魔力を持つまゆりでも、二十回ほどが限度であろう。

 しかし、ほむらが対峙している「ワルプルギスの夜」となれば、話は別だ。

 魔女のエネルギー源は「汚れ」だ。
 それは魔法少女が魔法を使った後に出来るものであったり、人の黒い感情から出来るものでもあったりする。

 魔法少女の「魔力」と、魔女の「魔力」は違うエネルギーのことを指すのだ。

 いわば、魔法少女の魔力は「正」のエネルギー。
 魔女の魔力は「負」のエネルギー。

 酸素と二酸化炭素、動物と植物の関係を思い浮かべればちょうどいい。

 魔女は負のエネルギーを吸い、己の魔法と、正のエネルギーを生み出す。
 魔法少女は魔法を使い、負のエネルギーを生み出す。

 お互い、奇妙な依存関係が成り立っているのである。
 
 しかし、魔女の魔力は周囲から吸収するため、無尽蔵に近く、一方、魔法少女の魔力は自身が溜めることの出来る量が最大だ。

 つまり、ワルプルギスの夜は「椎名まゆり」だった頃とは違い、無限に「因果反転」行うことが出来る。
 
 もちろん、出力や吸収量の問題で、その力は全盛期と比べるまでもないが。
 
 しかしそれでもほむらは、自身が思っているよりも、絶望的な状況にたたされているのだった。



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 かわす。

 避ける。

 その連続。

 ほむらは避け続ける。

 思考は一向に纏まらない。

 ほむらは避け続ける。

 幸い、攻撃はそれほど過激ではなかった

 これならば、ほむらは何とか避け続けることが――――





















 ―――― 因果は反転する。

 チクリと、ほむらの脳が痛んだ。

 バキ


ほむら「……え?」

 気づけば、ほむらの身体は宙に舞っていた。
 視界にあるものが全てゆっくりと動く。 
 逆に、ほむらの思考はどんどん加速していった。

 「因果反転」

 それは、攻撃にも応用できると言われていた。
 そのことを、ようやくほむらは思い出した。

ほむら(……勝てるわけ無いじゃない、あんな化け物)

 思考は加速する。
 視界は暗くなっていく。

 ほむらは、自分がいかに愚かな選択をしたか考え始めていた。
 
ほむら(……怪しげな奴の口先に騙されて、こんなところで終わりなの?)

 無駄、無謀、無策。

 そんな字がほむらの頭を巡る。

 魂は絶望し始めていた。

 思考は諦め始めていた。

 体は動かなくなり始めていた。

 そして、ほむらは、全てを投げ出そうと、そっと目を閉じた――――




















 ――――「諦めるのか?」

 声が、聞こえた。



 ???



ほむら「……え?」

 白い空間

 果てしない次元

 ほむらは、そんな場所にいた。

 目の前に、懐かしい白衣の後ろ姿があった。

ほむら「岡部!!」

 ほむらはその男の名を叫ぶ。
 男は、軽く右手を挙げ、声を出す。

 金属をこすり会わせるような、嗄れた、低い、無感情な声だった。

 ――――「岡部ではない。鳳凰院凶真だ」

 その受け答えは、遙かな昔、何度か聞いたことのある物だった。
 男は続ける。

 ――――「諦めるのか? お前は」

 男はほむらの方を向かず、言った。
 その言葉に、ほむらの頭に血が上る。

ほむら「無茶なこと、言わないでよ……」

 しかし、ほむらは叫ぶことが出来ない。
 自分の言っていることは、目の前の男を殺すこととほぼ同意味のことだからだ。
 ただ、ほむらは小さく、心の叫びを声にする。

ほむら「私じゃ、無理なのよ……」


 そのまま、ほむらは膝から崩れ落ちる。
 もう、立つことすら出来なかった。
 そんなほむらの様子を知っているのかそうでないのか、背を向けた男は言った。

 ――――「いや、これはお前にしか出来ない事だ」

 男の声は、しかしほむらの声を動かすことはない。
 ほむらは崩れ落ちたまま、呟く。

ほむら「貴方の方が、上手くやるはずよ。「鳳凰院凶真」」

 きっとそうだ。とほむらは思った。
 何時だって、「鳳凰院凶真」はほむらに出来ないことをやってのけた。
 ほむらよりも強く、優しく、絶望に何度も立ち向かう存在。
 究極の愚者。
 それが、彼だ。
 そして、その男は未だにほむらに顔を見せない。
 しかし、ほむらの目には、男が笑っているように見えた。

 ――――「「鳳凰院凶真」……か」

 男は感慨深そうにその単語を口にする。
 そして、吐き出すように言った。

 ――――「なら、お前にもその権利があるはずだ。「鳳凰院凶真」」

 そして、男の姿が、ノイズが走ったようにブレる。
 重なり、見えた姿は――――














ほむら「……私?」


 見間違えようもない、暁美ほむらその物の姿だった。

 ――――「俺は電波と呼ばれる」

 ほむらの姿がブレる。

 現れたのは、巴マミ。

 ――――「電波は何処にでも混じっている。厨二病と呼ばれることもある」

 マミの姿がブレる。

 今度は橋田至に変わった。

 ――――「空気であり、ウザくもある。その浸食作用は強力だ」

 橋田の姿が知らない女性の姿に変わる。
 紅い髪の女性だった。

 ――――「故に疎まれ、遠ざけられる」

 紅い髪の女性が変わる。
 今度は蒼い髪の少女、美樹さやかだ。

 ――――「しかし、俺……いや、「私」は必ず周りを浸食する」

 さやかのすがたが、紅い髪の少女、佐倉杏子に変わる。

 ――――「「私」は何処にだって居る」

 杏子の姿が椎名まゆりに変わる。

 ――――「32バイトの中にも潜んでいる」

 まゆりの姿が鹿目まどかの姿に変わる。


 ――――「人の向上心の中にも「私」はいる。強さにも、弱さにも「私」はいる。
     正義にも悪にも闇にも光にも世界にも内面にも現実にも幻にも想像にも妄想にもーーーー」

 そして、再びほむらの姿に変わった。

 ――――「お前の中にも、「私」――――いや、俺はいる」
 
ほむら「……私の、中?」

 ほむらは、呆然とし、その言葉を反芻した。
 ほむらの姿をした何か――――いや、「鳳凰院凶真」は頷いた。

 ――――「そうだ、お前は既に手に入れているはずだ。無限の力を」

ほむら「無限の、ちから」

 鳳凰院凶真は再び頷いた。

 ――――「もっと己に自信を持て。ほむら」

 鳳凰院凶真はそう言った。

 ――――「お前ならば、必ず世界を変えられる」

 そして、彼はこう続けた。

















 ――――「諦めなければ、必ず道は開ける。戦え、暁美ほむら――――いいや、「鳳凰院凶真」」

 そうして、光の世界は消える。
 無限の闇へと、全ては開いた。


 
 ワルプルギスの結界



 ほむらの意識は覚醒する。
 未だに、ほむらの身体は宙に浮いていた。

 思ったよりも、ほむらが気絶していた時間は短かったらしい。

ほむら「ック!!」

 ほむらは即座に身を捻り、着地する。
 魔女からの追撃はない。

 侮っているのか、それとも、別の要因があるのか。

 ほむらの思考はまた加速する。
 
ほむら(……私が鳳凰院凶真?)

 馬鹿馬鹿しい。

 下らない妄想にもほどがあった。

 だが

 だが















ほむら「……ククッ」

 あまりにも馬鹿馬鹿しいせいで、むしろ笑えてきた。


 そのまま、吹き出す。

ほむら「ハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 ほむらは狂ったように笑う。
 いや、本当に狂ったのかもしれないと、ほむらは自問する。
 なぜなら、今のほむらは

ほむら「狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真。それで良いんでしょう?」

 何者も歩みを止めることの出来ぬ、究極の愚者となったからだ。

ほむら「ッハ!!」

 ほむらは苦笑と共に、最凶の魔女へ駆け出す。
 負ける気はしなかった。
 
 鳳凰院凶真は、何者にも負けることはない。

魔女「キャハハハハハハハ!!」

 再び突進を仕掛けるほむらを、嘲笑うように魔女は瓦礫を投げつける。
 しかし、それを見て、ほむらはますます顔を歪ませる。
 狂喜の形に。

ほむら「ワンパターンなのよ!! 貴様の攻撃は!!」

 ほむらは地面を強く蹴り、後ろへ飛ぶ。
 最初から特攻など頭にない。

 ―――― 目的は、魔女にあの魔法を使わせること。

 目標を失った瓦礫は、空しく宙を切る、はずだった。


魔女「キャハハハハハハハハハハ!!」

 魔女が笑う。

 ほむらの脳がチクリと痛んだ。

 そして――――




























 因 ―――― ほむらは光の槍を投げつける。

 果 ―――― 光は真っ直ぐに魔女へ進む。

 は ―――― 障害物は関係ない。

 反 ―――― ただ、ただ引き寄せられるように進む。

 転 ―――― そして、文字通り光の早さで魔女へ到達する。

 す ―――― 光の槍は、魔女を貫――――






































魔女「ハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!????????????」

 ほむらの脳がチクリと痛む。

 ―――― 因果は反転する。


































 瓦礫は大きくほむらを外れ、光の刃もまた、魔女を貫くことが出来なかった。

ほむら「予想通りねッ!!」

 ほむらはその笑みを更に歪める。

 本当は別に何も予想してはいない。
 ただの口先三寸。
 出まかせの言葉だ。

 ただ、ほむらは「因果反転は同時に複数使えるのか」という疑問を確かめただけだ。

 そして、答えは否。

ほむら「貴様の力の綻び、見つけたわよ……!!」

 ほむらは誰にも届かない挑発をする。
 その顔の笑みは益々歪んでいった。

ほむら「さあ、ワルプルギスの夜」

 ほむらは歪んだ笑みのまま、呟く。

ほむら「私たちの因縁に、蹴りを付けましょうか!!」

 そして、ほむらは三度、絶望へ向かって駆けだした。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 
 ワルプルギスの夜は苛立っていた。

 何故、目の前の「舞台役者」はまだ絶望しないのだろうかと、考える。

 「舞台装置」の性質を持つ魔女は、悲劇の脚本家であったはずだ。

 絶望の総監督であったはずだ。

 なのに、目の前の「役者」は絶望しない。

 確かに、圧倒的な力の差を見せつけた。

 しかし、「役者」は絶望しない。

 強い視線で、魔女をにらむ。

 三度、少女はワルプルギスの夜へ向かい、駆ける。

 少女が持つ光の固まりは危険だ。

 最凶の絶望はそう本能で感じた。

 魔女にマトモな精神は存在しない。


 故に魔女は、ほむらを危険と見なし、さらなる攻撃を加えることにした。

 少女は駆け、一直線に魔女へ向かう。
 手には、光の槍を掲げていた。

 魔女はあえて、瓦礫で彼女の道を阻むようなことはしなかった。

 少女は真っ直ぐに魔女へ向かう。
 そして、魔女に肉薄すると、その槍を掲げ、魔女へ――――



 
























 

 
 因 ―――― 魔女は、少女に道路標識が刺さるよう、因果を反転した。

 果 ―――― 哀れな少女は全身を突き刺されるはずだ。

 は ―――― 魔女は笑う。

 反 ―――― 愚かなことだ、と魔女は思った。

 転 ―――― これで終わり、そのはずだった。

 す ―――― しかし

 る ―――― 少女の武器を持たぬ左手から、まばゆい光が放たれた。

 そして、魔女の意識は暗転する。
































 パキリ
 
 何かが割れるような音がした。

 そして、何の因果か、この宇宙全ての平均気温が約0、1度下がった。


 
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ほむら「……クッ」

 全身から魔力が吸い取られる。
 それは、ほむらの魔法が発動した証だった。
 
 全身が痛い。
 最凶の魔女によってほむらの身体は標識に貫かれていた。

 しかし、ほむらは勝利した。
 ほむらの能力が発動した。

 「理の破壊」
 それがほむらの能力である。

 大した能力に聞こえるが、実はそうでもない。
 その能力は

 ―――― 生まれて間もない魔女をソウルジェムでもぐリーフシードでもない物質に変える。

 ただ、それだけの能力だ。

 パキ パキ パキ

 ワルプルギスの夜が割れ、灰となり、消滅する。
 後に残ったのは、透明な宝石。

 生まれた物質はソウルジェムのように魔法少女を動かすわけでもなく、グリーフシードのように汚れを吸うわけでもない。

 完全に無意味な物質。

 それが、その物体だ。


ほむら「……ッフ」

 しかし、ほむらは笑う。
 痙攣する腕を叱咤し、腹に刺さった鉄の棒を抜く。
 魔法少女であるほむらは、そんなことで死ぬことなどできないのだ。
 ほむらは懐を探る。
 そして、ある物を取り出す。

 ソレは頑丈なケースに収められていた。

 ソレの無事をほむらは確認すると、安堵の溜息をつく。

 ソレは銃のような形をしていた。

 ほむらはソレを無色の宝石に突きつけ、引き金を引いた。

























 刹那、無色の宝石は鮮やかなアオイロに染まる。

 優しい、澄み切った空のような、暖かい水色へと。



 路地裏



 ――――「何で!! 死んじゃうんだよ!!?」

 雨が降る世界で、その声だけが響いた。
 ほむらは、未だその声に対して、違和感を感じていた。 やがて、声は止み、気配は去る。

 ほむらは、這うようにして進んだ。

 そしてほむらはたどり着く。

 椎名まゆりの、抜け殻へと。

ほむら「……これで、終わりよ」

 ほむらはそう囁くと、冷たくなったまゆりに水色の宝石を握らせる。 

まゆり「……っん?」

 宝石は一際輝き、まゆりの意識が覚醒する。
 上体だけを起こし、周囲を確認しようとする。

 だが

ほむら「……お幸せにね」

 ゴツン

まゆり「……ッ!!」グラッ

 そう呟いたほむらの手刀により、再び意識を刈り取られた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 路地裏


岡部「まゆり!!」

 俺は、地面に血だらけで伏しているまゆりを見つける。
 慌てて、俺は彼女を抱き起こした。
 血は雨によって冷たくなっていた。

 しかし、彼女は暖かかった。

岡部「まゆり!!」

 俺はもう一度彼女の名を叫ぶ。
 するとどうだろう。
 まゆりは、ゆっくりと目を開けたのだ。

まゆり「……オカ、リン?」

 弱々しい、まゆりの声。
 その声を聞いたとき














 











 パチン

 何かの、スイッチが入る音がした。


岡部「この馬鹿!!」

まゆり「!!」ビクッ

 気づけば、俺は怒鳴っていた。
 まゆりは、小さく震えた。
 俺は、それを見て

 俺は

 俺は

 おれは

岡部「心配、かけさせやがって……」

 まゆりを抱きしめていた。

まゆり「オカリン……」

 泣きそうな声で俺のあだ名を呟くまゆり。
 俺だって、泣きそうだった。

岡部「いいか? まゆり」

 俺はまゆりに向かって、小さく囁く。
 まゆりは怯えるように俺をみた。
 俺は、吐き出す。

岡部「お前は」





















 ―――― 俺の、人質なんだ。何処にも、行かせない。

 そう、一世一代の妄言を、大真面目に言った。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 岡部がまゆりを抱きしめる様を、ほむらは静かに見ていた。
 そして、呟く。

ほむら「強く、生きてね……」

 その言葉は、誰にも届かない。
 もう、岡部とほむらの運命は交わることは無い。
 それで良いとほむらは思った。
 
 ほむらは、絡みつく未練を振り切り、その場をあとにした。



 タイムマシン内部


 
 ほむらは足を引きずり、タイムマシンに乗り込む。
 腹には穴があいていて、魔力も残り僅か。
 満身創痍のほむらは、それでも笑っていた。
 
 こんなに幸福な気持ちになったことは、今まであっただろうか。

 こんなに充実感に満ち溢れていたことは今まであっただろうか。

 ほむらは震える手でタイムマシンを操作する。
 ブウウゥンと音を立て、タイムマシンが起動する。

 光の粒子が、ほむらの世界に満ち溢れる。

 それは時の欠片のようで、ほむらはいつの間にか涙を流していた。

ほむら「ふ、ふふ……」

 ほむらは、静かに笑う。
 ゆっくりと、ほむらの身体に重力がかかっていく。

 ほむらは、幸せそうな表情で、目を閉じた。















 ―――― 世界は、スイッチを入れたかのように切り替わる。
















 ???




























 何処だ?

 何処だ?

 何処だ?

 ここは何処だ?

 俺は何だ?

 彼女は何だ?

 俺は何処にいる?

 教えてくれ。

 教えてくれ。
 
 教えてくれ。

 あ……け……み……

 これで今日の投下を終わりにします。
>>381 のぐリーフシード× → グリーフシード○

 これにて第二部終了。
 次が最終部になると思います。

 第二部は基本的にほむらが主人公となっています。
 
 話は変わりますが、クレオパトラって、39歳まで生きたんですよね……。
 魔法少女って意外と寿命なげぇ……

 次回は第三部。
 原作よりへたれになったあの方が主人公です。

 応援して下さる皆様に感謝を
 それでは、お休みなさい。

用事が有るため、三回程投下を休ませていただきます。
なんどもごめんなさい。
完結させるつもりは有るので、どうか最後までおつきあいください。

 こんばんは、お久しぶりです。
 9;30から投下したいと思います。



 第40話;『狂っているのは君さ』



 この世界は狂っている。
 俺はそれを知っている。

 そう、身を持って俺はそれを知っているのだ。

まゆり「オカリン? どうしたの?」

岡部「…………」

 この世界は狂っている。

 少なくとも、ついさっきまで死んでいたはずの人間が生き返るくらいには。

まゆり「オッカリーン?」

 幼なじみが、俺に問いかける。
 俺はそれに返すことができない。
 いや、したくなかった。

 怖い。

 俺は秋葉原にいた。

 俺は見滝原市にいない。

 何故、こんなことになってしまった?


まゆり「オカリン!!」

 幼なじみの顔をした何者かが、俺に怒ったように問いかけてきた。
 ベタリと、接着剤か何かで固定されたような口を開き、俺は彼女に問いかける。
 頭が、酷く痛かった。

岡部「……お前、まゆりか」

 端から見ればひどく滑稽な問い。 
 しかし、俺にとってはなによりも重要な問いだった。

まゆり「? まゆしぃはまゆしぃだよ?」

 目の前の少女――――まゆりは、不思議そうな顔で、何ともないように答える。
 つい、今の今まで死んでいたはず、なのにだ。
 
 俺は、ひどく冷静な思考で考える。

 あのときと同じだ。と、
 椎名のおばあさんが生き返ったときと同じだ、と。

岡部「どうして、お前がここにいる」

まゆり「ラボに行くためだよ~」

 俺の問いに、意味の分からない単語で返すまゆり。
 ラボ、だと?

まゆり「早く行かないと~。みんな待ってるよ?」

岡部「あ、ああ……」

 考えてもわからない。
 だから俺は前を歩くまゆりにつれられ、ラボ、という場所に行くことにした。



 未来ガジェット研究所



岡部「何だ。ここは……」

 秋葉原の道はずれ、酷くボロいビル。
 まゆり曰く、その二回が『未来ガジェット研究所』らしい。
 そう、俺が変わる前の世界でしていたゲームでのギルド名だ。

 そこから、間違いなくこの名前が俺が付けたものだと分かってしまう。

 俺は唖然として、二階を見ていた。
 だから、一階の存在なんて、気にも留めていなかった。
 不意に、後ろに人の気配を感じた。
 俺は後ろへ振り向く。
 そこにいたのは、オーガのような大男。

天王寺「おう、岡部」

岡部「……店長?」

 俺に声をかけてきたのは、天王寺さんだった。
 この狂った世界で、最初に出会った知り合いだった。
 しかし、俺の声に返されたのは

天王寺「ハァ? 店長って……テメェをやとった事なんて一回もねぇだろうが。いったい何の真似だ?」

岡部「……え?」

 戸惑い、だった。


岡部「いやいやいや、俺は一時期此処の店員をしていたことがあるでしょう? 冗談にしてはたちが悪いですよ」

 そんな訳はない。
 俺は間違いなく、ブラウン管工房のアルバイトをしていたことがあるはずだ。
 そうでなければならない。

 もし、そうでなければ、「ブラウン管工房の店員であった俺」という存在が否定されてしまう。
 そんな訳がない。

 だってそうだろう?
 椎名のおばあちゃんの時だって、変わったのは周りの人間の、椎名のおばあちゃんの生死に関する記憶だけだ。
 俺についての記憶は、何も変わっていなかったじゃないか。

 何で、何で、何で、何で――――

天王寺「お前さん、頭に花畑でもできたか? お前さんは一度も此処で働いたことはねぇよ」

岡部「……!!」

 膝から崩れ落ちそうだった。
 実際、そうしたかった。
 しかし、俺は気づいてしまった。

 未来ガジェット研究所。その一階。

 見滝原市にあった頃とは比べものにならないくらい狭く、オンボロな、ブラウン管工房を。

まゆり「オカリン、大丈夫?」


 もはや、崩れ落ちることも出来なくなった俺の顔をのぞき込みながら、まゆりが心配そうに訪ねてくる。
 だが、俺は何も気の利いた台詞を言うことは出来ず、ただ、近寄ってきたまゆりを押し退けた。
 頭が、また酷い痛みを訴えている。

 見捨てられた子猫ような気分になった俺は、必死に、震える脚を押さえつけた。
 崩れ落ちたら、二度と戻れないような気がしたからだ。

岡部「店……いえ、天王寺さん」

 俺は、無意識に天王寺さんに向かって話しかける。
 しかし、会話を続ける為の言葉が見つからず、俺の言葉はボトリと地面に落ちる。

 嫌な沈黙が俺たちを覆う。

天王寺「なあ、岡部よ……」

 天王寺さんが、何か言いたそうに口を開く。
 しかし、その言葉も、続けられることはなかった。

綯「まゆりおねーちゃーん!!」

 ドシン

 水と肉の塊がぶつかったとは思えないほどの重低音が鳴り響く。


 俺は、その音を知っていた。

 その筈だった。

まゆり「綯ちゃん、トゥットゥル~♪」

綯「トゥットゥル~♪」

 奇妙な挨拶を交わす、綯とまゆり。
 綯のタックルを受け、しかしまゆりはまったく体勢を崩していなかった。
 その事に、俺は内心驚いていた。
 綯のタックルはかなり衝撃があったはずだ。
 俺はそれを知っている。
 何故なら、そのタックルを、俺も頻繁に受けていた。
 筈なのだから。

 地面に突っ立ち、呆然と抱き合う二人の少女を見ていた俺に、綯が気づく。

 そして、怯えたように、まゆりの陰に隠れて、俺に挨拶をした。

綯「……ぁ、オカリンおじさん、こんばんは……」

岡部「……は?」

 意味が分からなかった。
 何故、綯はそんな怯えた目で、俺を見るのか。
 どうしてだ?
 
 今までと、真逆じゃないか。





























 ズキンッ

 ―――― いや、これが正しいんだよ。


岡部「……」ガクッ

まゆり「お、オカリン!?」

 
 膝の力が抜け、再び頭痛が酷くなる俺に、心配そうに、再びまゆりが近づいてくる。
 俺は、それをもう一度押し退けようと――――






















 ズキッ

 頭が、一際痛くなった。

 気づけば、言葉がするするとでてくる。

岡部「ククッ……どうやら、俺の中に封じられている
   悪霊が再び暴れ出したらしい……。『約束の日』は近いようだな……」

天王寺「何だ、いつもの岡部じゃねぇか」アキレ

まゆり「……まゆしぃは本気で心配しちゃったのです。何でも無くてよかったよ……」


岡部「……え?」

 言ってしまった後で、俺は自分が言ったことに気づく。

 何だ、この台詞?

 これじゃ、まるで――――

 俺が、

岡部「鳳凰院……凶真」

 鳳凰院凶真みたいじゃないか。

天王寺「やっぱいつもの岡部だな」

まゆり「……何時ものオカリンなのです」

 まゆりが、安堵の溜息をつく。
 
 しかし、俺はそんなまゆりの声も聞こえず、震える体を支え、オンボロビルの二階、未来ガジェット研究所に行く。

まゆり「あ、待ってよオカリ~ン」

 まゆりの声も聞こえない。
 とにかく、今は休みたかった。



 ラボ、室内。



ダル「オース、オカリン」

岡部「あ、ああ」

 ラボにはいると、いきなり横にデカい男が話しかけてきた。
 いや、こいつは確か、橋田至といったはずだ。

 高校の頃、同じクラスになったことがある。
 尤も、話したことは数回しかないが。
 しかし、何故橋田はこんな所に居る?

 ……おそらく、これも、この世界の俺の交友関係の一つなのだろうな。
 自分でも驚くほど冷静な頭で、そう考える。

 天王寺親子との関係がリセットされたのが、かなり響いたのか、全てを受け入れることの出来る気分だった。
 いや、俺は全てを受け入れなければいけないんだ。
 
ダル「……オカリンどうしたん? そんな難しい顔して」

岡部「ああ、いや、何でもない」

まゆり「オカリン、さっきからずっとこんな感じなんだよ~」

ダル「あ、まゆ氏いたん? オース」

まゆり「ダル君、トゥットゥルー♪」

ダル「相変わらずまゆ氏の挨拶はなんだかすごい件について」


岡部「……」

 まゆりと橋田は何て事の無いように、会話をする。
 この世界では、これが普通なのだろう。

 おかしいのは、俺だ。

 ならば、俺が受け入れれば全て済む話だ。

 俺は、近くにあったソファに身を預けると、携帯電話を取り出す。

 出てきたのは、一昔前のストレート型の携帯。
 俺が、前の世界で使っていたものと同じだった。

岡部「……」クス

 どうやら、この世界の俺も金欠だったらしい。
 そんなどうでも良い共通点でも、今の俺にとっては宝石よりも価値があるものだった。

 俺は携帯をいじり、連絡先のフォルダを開く。
 自分自身の交友関係を、一度洗ってみたかったのだ。

 そして、電話帳が開かれる。

 まゆり
 ダル
 フェイリス
 ルカ子
 自宅

 ……余りの少なさに絶句する。
 こいつ、友達居ないだろ。


 いや、俺もけして多い……いや、居なかったが、
 さすがにバイトの連絡先やら同僚の連絡先やらでもう少し多かったと思うぞ?
 いや、でも私的な連絡先はこいつの方が多いのか……。

 というより、半分以上が、俺の知らない人間へ続く連絡先じゃないか。
 誰だよ、フェイリスって。外人か?

岡部「……ハァ」

 思わず、溜息を吐いてしまう。
 俺は、これからどうすればいいのだろう。
 見滝原市にいる知人に連絡を取るか?

 魔法少女である暁美なら、俺を覚えてくれているかもしれない。

 そうだ、暁美だ。
 彼女なら、俺を助けてくれるかもしれない。

 だが、そうでなかったら?

 彼女も、俺を忘れていたとしたら?
 そしたら、俺はきっともう、立ち上がることが出来なくなる。
 だから、俺は見滝原市にいく案を、そっと封印する。

 まずは、この交友関係がどういったものなのか確認――――

















 プルルルルルルルルルルルルルルルルル……

 電話が、鳴り響く。


ダル「ン? 此処に電話とか……誰っすか……」

 橋田が面倒くさそうに固定電話の受話器をとる。

ダル「もしもし……」

 そこまで言ったとき、橋田の顔が困惑に染まる。

ダル「は? 父さん? ……僕的にはお兄ちゃんの方が良かったのにな……」

 橋田はそこまで言った後、俺の方を向き、受話器を差し出す。

ダル「オカリン、謎の女が代われってさ」

岡部「俺に?」
  
 俺は受話器を受け取った。

岡部「もしもし?」

???『お願い!! 今すぐラジ館の屋上に来て!!』

岡部「……誰だ?」

???『もし来るなら』


















 ―――― おじさんが、この世界線にやってきた理由を、全て教えてあげるよ。

岡部「!!」

 その言葉を聞いた俺は、ソファを蹴倒し、ラジ館へ向かう。

 そこに、この狂った世界の謎の答えがあるかもしれない。
 その希望が、俺を押し進めた。



 ラジ館;屋上



 横殴りの風が、俺の白衣……そう、なぜか俺は白衣を着ていた。に当たる。
 息を切らし、ゼイゼイと酸素を求めていた俺の目に、銀色の物体が目に入る。

 ―――― そうだ、あれは、世界がおかしくなる前に、俺の目の前にあったものだ。

まゆり「わあ、これ何ー?」

ダル「……ロボじゃね? 変形合体するかも」

 俺の隣では、同じようにまゆりと橋田が息を呑んでいた。
 そりゃそうだろう。
 誰だって同じだ。
 現に、二回目の俺だって――――。















 ズキッ

 ―――― 本当に、二回しかないのか?


岡部「……ッグ」

 頭が割れるように、痛み出す。
 だが、もう慣れた痛みだ。
 もう、無様に叫ぶことはない。

 俺は、銀色の人工衛星を睨みつける。
 もし、あれが、俺がみたものと同じなら。

 彼女が、乗っているかもしれない。

 プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

 煙を吹き出しながら、人工衛星のハッチが開く。
 俺は、ある種の期待を持ちながらそれを見守っていた。
 しかし、でてきたのは――――






















鈴羽「……君が、岡部倫太郎?」

 彼女では無かった。


岡部「……お前は、誰だ」

鈴羽「答えて。君が岡部倫太郎?」

岡部「あ、ああ……」

 頷きながら、俺は謎の女の服装を見る。
 迷彩柄のジャケット、硝煙の匂い、腰のホルスター。
 まるで、彼女は軍人のようだった。

 軍人女は口を開く。

鈴羽「あたしの名前は橋田鈴羽。そこの橋田至の娘で2036年から来たタイムトラベラー」

岡部「……は?」

 色々とツッコミ所が多すぎて一度に処理しきれない。
 しかし、橋田鈴羽は構わず続ける。

鈴羽「オカリンおじさんに、頼みがあるの」

岡部「お……おじさん?」

まゆり「オカリンおじさんなの~?」

 いやいや、どうみたってこの女は二十代。
 対する俺は19歳。
 まだまだおじさんと言われる謂われはない。

 俺ってそんなに老け顔なのか……?

 軽い自問自答に襲われた俺に橋田鈴羽が、真剣な顔で詰め寄る。
 そして、さらに衝撃的なことを抜かした。

鈴羽「この世界線の未来では、第三次世界大戦が起こっちゃうんだ!!」

岡部「……は?」


まゆり「うわ~大変だよ~、大変だよ~」

ダル「え、釣りじゃなくて?」

 ……仮にも第三次世界大戦という厄ネタなのだから、
 もうちょっとシリアスにならないのだろうか。

 ……無理か。あまりにも非現実的すぎて、むしろバカみたいに聞こえる。

岡部「つまり、そこにあるのは、タイムマシンと言うことか?」

 気づけば、俺は橋田鈴羽にそんなことを聞いていた。
 橋田鈴羽は頷く。

 じゃあ、彼女が乗ってきたあのマシンもタイムマシン、と言うことになるのか……。

鈴羽「この世界線の未来では、第三次世界大戦のせいで世界の総人口が10億人まで減っちゃうんだ」

 え、10億人? 

ダル「ちょ!! い、今の総人口って69億人位じゃなかった? つ、つまり……59億人も死んだってこと!?」

 59億人……ごじゅうきゅうおくにん!!?

 やっとその数字の意味が分かり、俺の顔も青ざめる。
 橋田鈴羽は慌てふためく橋田に頷く。 

鈴羽「核兵器が使われてね……」

 ただ、それだけの言葉。
 しかし、橋田鈴羽に張り付いた自嘲の笑みが、事態の凄惨さを物語っていた。


鈴羽「あたしが此処に来た理由はただ一つ」

 そう言って、橋田鈴羽は俺を睨みつけるように見、そして言った。

鈴羽「おじさん、あたしと一緒に、世界を変えて!!」

 噴いた。

ダル「なにこのエロゲみたいな展開」

 橋田は無視する。
 俺は、橋田鈴羽を見る。
 ふざけているようにも、おどけているようにも見えない。

岡部「どうして、俺なんだ……」

 口からでたのは、純粋な疑問。
 何故、俺みたいな奴が行かなければならないんだ?
 もっと、ふさわしい奴が居るだろう。
 
 たとえば、暁美とかの方が俺より頼もしいだろう。
 どうして、俺なんだ?

鈴羽「おじさん……最近、変わったことがあったよね」

 橋田鈴羽は、突然、そんなことを言う。

岡部「何の事……ッ!!!」

 寒気が走った。

 端から見れば、意味の分からない言葉だろうが、俺だけは分かる。
 分かってしまう。


鈴羽「どうやら、ドンピシャだったみたいだね」

 橋田鈴羽は、そこで小さく溜息をつく。
 
鈴羽「おじさんは、一度世界線が変わったのを『観測』しているんでしょ?」

岡部「……どうして、お前が」

鈴羽「知っている? でしょ?」

 その通りだ。
 何故、俺以外の、それも未来人が、それを知っている?

鈴羽「簡単な話だよ」

 橋田鈴羽は首を竦めていった。


















鈴羽「聞いたんだよ、未来のおじさんに。いや、正確には、おじさんの遺言に、かな?」

岡部「未来の俺……? それも、遺言、だと?」

 遺言ということは、つまり、俺は……。

鈴羽「そう、おじさんは2025年に亡くなったんだ」


ダル「……mjd?」

まゆり「……そんな……」

 呆然とする橋田とまゆり。
 対する俺は、比較的冷静に受け止めていた。
 こんな事を、前にも言われたからだ。
 
 橋田鈴羽は、そんな俺を見て、言った。

鈴羽「この未来を変える為には、おじさんが《シュタインズゲート》にたどり着く必要があるんだ」

 シュ?

岡部「《シュタインズゲート》?」

 橋田鈴羽は頷いた。

鈴羽「そう、元々おじさんがいた世界線でなければ、
   この世界線でもない。全く未知の世界線。それが《シュタインズゲート》」

岡部「そこに行くと、どうなるんだ?」

鈴羽「……分かんない」

岡部「分からない、だと?」

 分からないとは何なんだ。
 それなら、今よりも酷いことになるかもしれないって事じゃないか。


鈴羽「あたしは、この計画を立案したおじさんと、
   それを進めて、タイムマシンを作った父さんの思惑通りに動いているだけだから」

 そう言って、橋田鈴羽は、橋田の方をチラと見る。
 
ダル「ぼ、僕?」

 橋田が、タイムマシンを作った……?
 橋田のことをよく知らない俺は、あまりそれに驚けなかった。
 もしかしたら、橋田は見かけによらず凄いのかもしれない。
 とにかく、今の問題は、そのシュたなんちゃらが未知だということだ。

岡部「それならば、今より悪くなる可能性だってあるわけだろう?」

鈴羽「うん。確かに、そうかもしれない。
   でも、今よりずっと良くなるかもしれない。
   もしかしたら、今よりずっと最悪な世界かもしれない」

 かもしれない。
 かもしれない。
 かもしれない。

 熱に浮かされた様に、橋田鈴羽は語る。
 
鈴羽「でも、確かに言える事は、《シュタインズゲート》が全く未知数の世界線だということ」

 そして、橋田鈴羽は俺を直視する。
 俺は耐えられなくなって、目をそらした。

岡部「なら、俺の元居た世界に……」

 戻してくれ。

 そう言おうとして、俺はあることに気づく。


岡部「……もしかして」

まゆり「? オカリン、どうしたの?」

 俺の視線を、不思議そうに受け止めるまゆり。
 もし、世界が、俺が元居た世界になったら……。

 まゆりは死ぬ。

鈴羽「……やっぱり、《シュタインズゲート》に行くしかないんだよ」

 青ざめた俺の顔を見て、橋田鈴羽は言った。

鈴羽「だからさ、おじさん……」

 鈴羽は、俺に手をさしのべる。

鈴羽「あたしと一緒に、未来を変えてよ」

岡部「俺は……」

 どうすればいい?

 俺はどうすればいい?

 この手を取ると言うことは、俺の、「現実を受け入れる」というポリシーに反する。
 だが、この手を取らなかったら、確実に世界は崩壊する。


 俺は、俺は、俺は……






























まゆり「……あのね、オカリ~ン」

 不意に、まゆりが話しかけてくる。
 
まゆり「まゆしぃには、その話、ちんぷんかんぷんだけど……、オカリンにしか、出来ないことなんでしょ?」

 そう言って、まゆりは橋田鈴羽を見る。
 橋田鈴羽は頷いた。

鈴羽「……うん、そうだよ」 


まゆり「だったら、行った方がいいよ~」

 まゆりの言葉に、橋田も頷く。

橋田「まあ、未来が変えられるかどうかなんて分からないけどさ。
   やれることはやるべきだろ常考。……失敗しても、誰もオカリンを責めたりしねーお」

鈴羽「おじさん、これは、おじさんが嫌ってる過去の改変なんかじゃないよ。
   理不尽な未来を変えるための戦いなんだ」

岡部「……」

 三人から説得され、俺は引くに引けなくなる。
 そして、俺は、少しの諦観と共に




















岡部「分かった、行くよ」

 その手を、握った。

鈴羽「……ありがとう、おじさん」

岡部「礼はいい……。で、俺は何をすればいいんだ?」

 それが分からないと、未来の変えようがない。
 俺の疑問に橋田鈴羽は、静かに言った。

鈴羽「去年の夏に、此処で死んだ人が居る」

 此処で死んだ人間。


 俺は、それを知っていた。

岡部「……まさか」

鈴羽「そう、そのまさかだよ」

 橋田鈴羽は、そして、続けた。























鈴羽「去年、此処で死んだ牧瀬紅利栖を、助けることこそが、
   シュタインズゲートへたどり着く、唯一の方法だよ」

 これで今日の投下を終わりにします。
 お久しぶりです。
 三回も投下が出来なくて申し訳ないです。
 
 今回はシュタゲぞいの話でした。
 しばらくまどマギ勢はフェードアウト。
 
 今回はオカリンがかなりへたれになった回。
 ちょっとリア充になった代わりに、何か大切な物を失ったオカリンの話でした。

 というか、叛逆ではまどか出るんですね……。
 映画になって影が薄くなった主人公ってオカリンだけじゃないですかヤダ~。

 それでは、応援して下さる皆様に感謝を。
 お休みなさい。

 こんばんは。10;30から投下します。



 第41話;『絶望の味は如何です?』


 
 タイムマシンの中は、以外と広かった。
 少なくとも、俺と橋田鈴羽が座ってもスペースが空くぐらいは。

鈴羽「そう言えば、おじさん」

岡部「……なんだ?」

 橋田鈴羽が俺に向かって話しかけてくる。
 俺は気だるけな疲労が満ちた口を開き、答えた。

鈴羽「電話の電源、切っておいて。過去で混線しちゃうといけないから」

岡部「……ああ」

 軽い怠惰を感じながら、携帯の電源を切る。

鈴羽「じゃあ、この作戦の概要を説明するね」

 橋田鈴羽が、俺に向かい、再び顔を引き締めた。

鈴羽「八階の踊り場、そこで死んでしまった牧瀬紅利栖を救うこと。これがまず第一に考えること。
   第二に、過去のおじさん……つまり岡部倫太郎には絶対に会わないこと。
   深刻なタイムパラドックスが起きるかもしれないからね」

岡部「……分かった」

鈴羽「……おじさん、大丈夫? 凄く青い顔をしているけど」

 端的に答えた俺を、上目がちにのぞき込みながら、橋田鈴羽は訪ねてくる。


岡部「何でもない」

 俺はそう言って、橋田鈴羽から目を背けた。
 何故自分がこれほど気分が悪いのか、全く分からない。

 ―――― 俺の無力さが、苛立たしいんだろ。

 俺は橋田鈴羽から目を背けたまま答える。

岡部「何でもないんだ」

鈴羽「……そう、ならいい」

 橋田鈴羽は何かを諦めたように、俺を凝視するのをやめる。
 そして、俺たちは過去にたどり着くまで、一度も目を合わせることはなかった。

 そして、不意に橋田鈴羽が呟く。

鈴羽「……タイムトラベルが始まるよ」

岡部「分かった」

 そう答えた直後、

 光が世界に満ちあふれ

岡部「グゥ……!!」

鈴羽「……!!」

 俺達を押しつぶすような重力を感じた。



 7月28日;世界のラジオ館;屋上



鈴羽「着いたよ」

 橋田鈴羽の声が一畳程度のタイムマシン内部に響く。
 俺は圧迫されてあちこちが痛むからだをさすった。
 霞む視界、そこに銀色が広がる。

鈴羽「はい、時計」

岡部「……ああ」

 目の前に差し出されたデジタル時計。
 それを何の疑問もなく俺は受け取る。
 それを、橋田鈴羽は観察するような目で見ていた。

鈴羽「これ、この時代の時間に合わせてるから。必要でしょ」

岡部「……ああ」

鈴羽「それ以外に何か無いの?」

 俺の気の抜けた答えを聞いた橋田鈴羽は、俺のことを鋭い視線で睨みつける。
 
岡部「……すまない」

 橋田鈴羽の視線に、困り果てたように受け止める俺。
 それを見た橋田鈴羽も、困ったような顔になる。

鈴羽「ホントに、君は岡部倫太郎なの?」

 そして、困った顔つきのまま、橋田鈴羽は聞いてくる。


 俺は、何となく胃の当たりがムカムカし、ぶっきらぼうに答えてしまう。

岡部「……さあな」

鈴羽「……そう」

 そう言いつつも、橋田鈴羽はハッチを開ける。
 俺はタイムマシンの外に投げ出された。

鈴羽「あたしはタイムマシンの監視をしているから。おじさん、頑張って」

岡部「……わかった」

 そう答え、俺は屋上を後にした。



 階段踊り場



 いきなり声がした。 

??「まゆりは此処で待っていろフゥーハハハハハハ!!」

岡部「!?」

???「あ、オカリーン」

 聞きなれた声が、二つ。

 まさか、あれは……

岡部「ック!!」

 俺は身を翻し、踊り場の陰に隠れる。
 すぐ目の前を、白い長身の男が通り過ぎた。

倫太郎「フゥーハハハハハハハハ!!」

岡部「……」

 そのときすれ違った顔は、間違いなく俺のものだった。
 いや、いやいや。

岡部「あれはないだろ……」

 何なんだこの世界の俺は……。
 痛々しすぎる。

岡部「……まあいいか」

 あの俺と今の俺は関係ない。
 最優先事項は牧瀬紅利栖を救うことだな。うん。



 四階



 俺の記憶と変わらず、相変わらず凄い人だかりだ。
 中鉢の会見が始まるまで一息吐こうと、俺は四階まで降りた。

 そこで俺は――――

紅利栖「あの、すいません」

 ―――― 話しかけられた。

 俺は驚きとともに振り返る。
 そこにいたのは

岡部「牧瀬……紅利栖……!!」

 赤い髪の少女。
 整った顔。
 世界のすべてを敵視しているかのような目つき。

 彼女は紛れもなく、牧瀬紅利栖だった。

紅利栖「……私、貴方と面識ありました?」

 苛立った様子を隠そうともせず、牧瀬紅利栖は俺を睨みつけた。
 俺に向ける指。
 その根元には手首。
 洒落たブレスレットがついている。
 ……コイツ、こんな趣味があったのか。
 
岡部「い、いや……」

紅利栖「貴方さっきこのビルの屋上から降りてきましたよね?
     屋上で妙な音がしたしビルが揺れたように感じたけどそれと何が関係が? 
     いったい何があったんですか? まさかドクター中鉢の仕込み……とか言わないですよね?」

岡部「は、はぁ……」

 牧瀬紅利栖は敵意に満ち溢れた目を、そのときだけは好奇心に輝かせ、俺に問いかけた。


 その瞳は、俺が見たことの無いもので――――
































 ―――― この実験大好きっ娘が!!

 俺は、たじろいてしまう。


紅利栖「あの、大丈夫ですか? 凄い汗ですけど……」

岡部「だ、大丈夫だ……」

 しかし、俺の背中はベットリと冷や汗で濡れていた。

紅利栖「どうやら、貴方も研究職の人みたいですけど……」

岡部「え? あ……」

 そう言われて、俺は、白いジャケットだと思っていたものが、ペラペラの白衣だったことに気付く。
 もちろん、俺はただの未成年。
 研究職などではないので、弁明しようとする。

岡部「いや、これは……」

 ピンポンパンポーン

放送『――――本日は、ドクター中鉢によるタイムマシン発明記念記者会見にお集まりいただき、
   まことにありがとうございます。ただいまより、当館八階にて、イベントスペースにて記者会見を行います――――』

岡部「もう始まるのか……!!」

紅利栖「あ……」

 放送により、牧瀬紅利栖の注意が外れた瞬間をねらって俺は駆け出す。
 マジで逃げた。ガチで逃げた。



 ラジ館;八階


 
 八階に戻ると、既に会見は始まっていた。
 つーかものすごく聞き覚えのある声が聞こえてくる。

倫太郎『俺が誰なのかはどうでも良い!!』

岡部「あの野郎……」

 もちろん俺だ。
 この世界の俺もドクター中鉢に糾弾するのかい。
 俺ってあんな痛かったのか。
 酷いなおい。

倫太郎『いま貴方が語ったタイムマシンの理論は――――』

岡部「……」ヒクヒク

 やばい。
 見ていられない。
 俺はそそくさと業務員用通路に逃げ込んだ。



 業務員用通路



 さっきまで続いていたおっさんの声が止まる。
 会見が終わったらしい。

岡部「そろそろ、牧瀬紅莉栖が来るころか……」
























 コツコツコツ……

 その時、足音が聞こえる。
 とっさに俺は物陰に隠れる。


 誰が来たのだろうか。

 牧瀬紅利栖だろうか。

 それとも……

岡部「……誰だ?」

 俺は目を限界まで動かし、その人物を見る。
 その人物は、やはり牧瀬紅利栖だった。

 彼女はなにやらA4ほどの大きさの封筒を持っていた。
 そう言えば、さっきも持っていた気がする。
 そして、牧瀬紅利栖はあろうことか、その封筒の中身に向かって、微笑みかけていた。
 
 ……あれ?

 何だか、封筒がさっきよりも膨らんでいる気がする。
 気のせいじゃない。
 
紅利栖「……」

 牧瀬紅利栖はしかし、封筒から目を離すと、そわそわしだす。
 誰かを待っているように見えた。

 ……一体、こんな所で誰を待っているんだ?

 と、その時。

 カツ、カツ、カツ……

 再び、足音が聞こえた。

 俺は息を潜め、足音の主を見る。


 それは――――






























中鉢「……何の用だ」

 ドクター、中鉢だった。


 何故だ?
 俺は混乱に包まれていた。
 牧瀬紅利栖と、中鉢。
 この二人に、何の関係が……?

 その疑問は、すぐに氷解する。
 ショックな事実と共に。

紅利栖「話があるの。パパ」

 ……は?

 ぱ、パパ?

 そんな驚きを消化するまもなく、中鉢は口を開いた。

中鉢「それは、なんだ?」

 不機嫌まるだしの口調で、中鉢は封筒を睨みつけ、言った。
 対して、牧瀬は、怯えながら、イビツな笑みを浮かべた。

紅利栖「……パパが、タイムマシンの会見をするって聞いて」

中鉢「だから何だ?」

紅利栖「それで、私も考えてみたの。タイムマシンが作れるか、どうか」

 そう言って、牧瀬は封筒から書類を取り出し、中鉢に渡した。

 タイムマシンの、論文を。




















 ……………………え?


 待てよ。

紅利栖「パパの意見を聞かせてほしい」

 待てってば。

紅利栖「それを踏まえて、手直しして」

 待てって言ってんだろ。

紅利栖「学会に出してみようと思ってるの」

 何で、お前が――――

紅利栖「相手にしてもらえないだろうけど」

 そんなものを

紅利栖「一応、私、サイエンス誌と、面識あるし」

 タイムトラベルの論文なんて、書いてんだよ。

中鉢「……」

 中鉢は苛立たしげに紙をめくる。
 読めば読み進めるほど、彼の顔は険しくなっていった。

 ……それほど、その論文は完成度が高いのか。


 そして、中鉢は低い声で呟いた。

中鉢「誰が、こんなものを書けと言った?」

 震える声。
 その気持ちに、俺は共感してしまう。

 嫉妬、羨望。

 相反する気持ちを、持ってしまうのだ。
 牧瀬紅利栖と出会った人間は。

 牧瀬は俺達と違いすぎる。

 あいつは天才で、俺達は凡人。

 その違いは、埋められない。

岡部「……」ギリ

 俺はあふれる感情を抑えるため、唇を噛む。
 鉄の味がした。

 ふざけるなと、もう一人の俺が呟く。

紅利栖「パパが七年ぶりに連絡をくれて記者会見を見にこいって言ってくれたでしょ
     それがきっかけになってパパが考えて居ること私も考えてみようって思って
     それで論文にまとめてみてもしかしたら作れるようになるんじゃないかって
     思えるようになったの」

 そうか、俺が必死こいて探していた答えはお前にとっては親への貢ぎ物か。


 痛々しい笑みを浮かべた牧瀬を見た俺は、恐ろしいほどに濁った思考でそう考えた。

紅利栖「もし、その論文が認められたら、学会を追放されたパパのリベンジになるかも――――」

中鉢「私は追放されたのではない!!」

 牧瀬はその怒鳴り声を真面に受け、身を竦ませる。

紅利栖「ど、怒鳴らないでよ」

 牧瀬の小さい言葉は、中鉢と牧瀬の間でドロリと溶け、霧散した。
 中鉢は気にせず、再び論文をめくり出す。

紅利栖「……パパって、読むのが速いよね。昔とちっとも変わってない」

 牧瀬は懐かしそうな顔をし、呟く。
 対して、中鉢の顔は醜く歪められていただけだ。
 ペラペラと論文をめくり、そのたびに顔をさらに歪ませる。
 やがて、硫酸を飲み干したかのような顔で、中鉢は論文から顔を上げた。 

中鉢「……悪くない内容だ」

 長い沈黙の後、中鉢はポツリと漏らす。
 ぶっきらぼうな言い方だが、それは間違いなく、中鉢自身が漏らした本心。
 そして、それに牧瀬も気付いたのか、顔を輝かせる。


紅利栖「こ、この論文はね、パパと共同署名でも良いと私は思っているの……」

 は?

 何言ってんだコイツ。

 その言葉の意味を、このアマは分かっているのか?

 案の定、中鉢は顔を赤くし、震えている。
 当たり前だ。

 異常なことに、今爆弾発言したこのトントンチキの牧瀬紅利栖は自分の発言の意味が分からないらしい。

 自分自身が、恐ろしいまでの天才だと言うことも、理解していない。

 自分の理論がどういう結末をもたらすのかも知らない。

 自分が玩具のように取り扱った理論が、どこかの誰かが死ぬほど渇望していたものだと気付いていない。

 悪意はないのだろう。
 だが、結果的には、牧瀬は自分自身の天才性をひけらかしていることになるのだ。

 史上最高の天才を娘に持つ中鉢。
 彼の気持ちは想像には難くない。
 きっと、劣等感や嫉妬、羨望や父親としてのプライドや虚栄心が入り交じっている。

 だが、牧瀬にはそれがわからない。
 所詮、凡人の気持ちなど分からないのだ。

中鉢「学会には出すな。これは私が預かっておく」

 ボソリと、中鉢は言った。
 その声には、先ほどまでとは比べ物にならないほどの、暗い感情。
 牧瀬は、それに気付かない。

紅利栖「どうして……」


中鉢「どうして、だと?」

 呆然とする牧瀬の声に、薄暗い中鉢の声が重なった。

中鉢「まだわからんのか!? たかが『サイエンス』誌に低レベルな論文が掲載された程度で調子に乗るなと言うことだ!!」

 中鉢の中の何かが、バキバキと折れていく音が聞こえた。
 俺はそれを聞いたことがある。
 前の世界で、俺は実際に牧瀬自身の手により、それを折られたからだ。

 それはきっと、小さな心が砕かれる音。

 自分がこんなにも無力で小さい存在だと、分かりきっていることを再び目の前に突きつけられる感触。
 自分の欠点を全て書かれたノートを全国放送で至る所に配信されたような気分だ。

 それが分からない欠点のない天才様は、ただ呆然とそれを見ているしかない。

中鉢「何だ? 親に対してその顔は何だ!!」

紅利栖「ご、ごめん……」

 だが、牧瀬は中鉢が怒っている理由を理解することは出来ないだろう。
 そういうものだ。

 人が蟻を理解することは出来ない。
 だが、蟻はいつも人を見上げているのだ。
 
 見上げられている人間は、蟻の機嫌をとるために、無理に明るい声を出す。

紅利栖「ねぇ、久しぶりにあったことだし、色々と話したいんだけど……パパは今、青森にすんでいるんだよね?」

中鉢「帰れ」

 しかし、帰ってきたのは冷たい言葉。


中鉢「さっさとアメリカに帰れ。そして二度と顔を見せるな。何が意見を聞きたいだ。
   何が共同署名だ。本心では、そんなことをこれっぽちも思っていないだろうに……
   私を哀れんでいるつもりか? それとも蔑んでいるのか? ふん……ご大層な身分だな!! 娘の分際で!!」

紅利栖「パパ、何を言っているの!? 落ち着いて――――」

中鉢「私は十分落ち着いている!! 余計なことを言うな!!」

 狭い従業員通路に、中鉢の怒声が響く。
 牧瀬が死ぬ時間はどんどん近づく。

 まさか、中鉢が……?



















 ぱちん。

 何かが聞こえた気がした。


 そして、中鉢は豹変する。

中鉢「どうして、論文を私が預かるのか? とお前は聞いたな?」

 口角を歪ませ、イビツな笑いをして、中鉢は自分の全てを殻で被い隠す。

 そして、その歪んだ口を開く。

中鉢「この論文は私の名前で発表する……それだけだ!!」

 それは、科学者がやってはいけない物ではないか?
 科学者として、人として、父親として、それはあまりにも最低な振る舞いだった。
 しかし、牧瀬を砕くには十分だ。完璧だ。

紅莉栖「……パパ、もしかして」

 震える声で、牧瀬は問いかける。

紅利栖「……まさかパパ、盗むの……?」

 どうして、こうもコイツは人の神経を逆なですることしか言えないのだろうか。
 怒りや苛立ちを通り越して、呆れや哀れみ、すがすがしさも感じてくる。

 だが、中鉢にそう感じる余裕など無い。

中鉢「誰に……誰に対して口をきいておるのだ!!?」

 口元から泡を吐き、論文を叩きつけた中鉢が、牧瀬の、その細い首を鷲掴みにする。

 牧瀬は顔を歪ませる。
 それは、肉体の痛みからか、それとも、精神の苦痛からなのだろうか。

中鉢「お前に私の気持ちが分かるか!? 無理だろう!? 何故お前はそんなに優秀なのだ!!!!!?????」

紅利栖「パ……や、め……」


中鉢「私はお前が憎い!! 存在そのものが疎ましい!! 屈辱だ!! 分かるか!? だから遠ざけたのだ!!
    お前と親子であることに耐えられんからだ!! ……なのに何故、そんなことも、分からない!?」

 無茶苦茶だ。
 娘に言う言葉じゃない。
 俺がそう中鉢を非難する言葉を考えている間に、牧瀬紅利栖の細い首はギリギリと締め付けられる。

 同時に、中鉢の心も万力に締め付けられ、壊れていくのだ。

岡部「……確定だ」

 俺は確信とともに小さく言葉を吐き出す。

 牧瀬紅利栖は中鉢に殺される。
 実の父親に見捨てられ、その短い人生を終えるのだ。



















 死ぬ?

岡部「…………ふざけるなよ」


 中鉢、お前は、死ぬという言葉の意味が分かるのか?

 お前がしている行為の意味を理解しているのか?

中鉢「お前がいたせいで……お前のせいで!!」
 
 ふざけるな!!



岡部「よせ!! 中鉢!!」



中鉢「……貴様は!!」

 俺は物陰から、ゆっくりと進み出る。
 中鉢は弾かれたように牧瀬から離れ、俺に向かって敵意の籠もった視線を向けた。

紅利栖「げほっ、げほげほげほ……」

 牧瀬が咳込む。
 俺はそれを一別すると、中鉢を睨み返す。

岡部「お前、人を殺そうとすることの意味が分かっているのか?」

中鉢「貴様……記者会見を台無しにしたさっきの若造か……よくもぬけぬけと!!」

 中鉢はギラリとした、血走った目で叫んだ。

紅利栖「……貴方は、確か……」

 掠れ気味の声で、牧瀬が小さく呟く。
 俺は、再び彼女の方を見た。

 腹の底で、理不尽な怒りはまだ渦巻いている。
 それは、ちっぽけな俺の自尊心からできた、醜い何か。


岡部「お前は、親との復縁のためにその論文を作ったのだったよな……」

紅利栖「……え?」

岡部「分かっているのか? お前が片手間に作った論文は、誰かが必死で求めている物なのかもしれないんだぞ?」

紅利栖「なにを……言って……」

岡部「お前は天才だ。それを自覚しろ」

 それだけ言って、俺はもう一度中鉢を睨む。
 中鉢は無視された屈辱からか顔を歪ませている。

中鉢「私を無視するとは……いい度胸だな若造……これ以上私をバカにして、どうする気だ……ええ?」
 
 そして、中鉢はポケットから何かを取り出す。

 ギラリと光る、暴力の結集物。
 ナイフ。

 刃渡りは10センチあるかないか。
 それでも、突き刺されれば大けがをするだろう。

 だが、怖くない。

 俺はもっと怖い化け物を見たことがある。
 それに、冷静に対処すれば、俺でも何とかなる。

中鉢「……私を、バカにするな!!」

 中鉢は何も躊躇いもなく俺に向かい突進してくる。


 ただ、初老のおっさんの攻撃など、うまく避ければ―――






























 突然、足がグネッと曲がる。
 たまにあることだ。
 何もない所で足を捻り、バランスを崩す。


 普通なら、ご愛敬ですませられること。
 しかし、今は――――




























 グサリ

岡部「グ、ァ……」

 何か暖かいモノが飛び散る。
 腹が一気に暖かくなる。


 そして、直後。
 神経を引きちぎるような痛みが俺を襲った。

岡部「グ、ウ、ァ……」

 ブチュリと、腹から何かが抜かれた感触がした。
 俺はバランスを失い、無様に尻餅をつく。

紅利栖「だ、大丈夫ですか!?」
 
 牧瀬は、青い顔をして俺の元に駆け寄ってくる。

 そして、なぜだか何かを悩むような顔をする。

 しかし、一瞬でそれを決意の顔に変えると、彼女は、右手に付けていた洒落たブレスレットを外した。
























 ―――― 世界は光に包まれる。


岡部「……え?」

 光に包まれた後にいたのは――――


























紅利栖「大丈夫、今、治しますから」

 フワフワとしたマント。
 フリル付きのスカート。
 まるで、「魔法少女」みたいな衣装に身を包んだ、牧瀬紅利栖がいた。


 朱色の光が俺の傷口を包む。
 すると、何故だかシュウシュウと音を立て、俺の傷口が再生する。

 まるで、逆再生するかのようだった。

岡部「牧瀬……お前は……」

 俺は、驚いて彼女の顔をマジマジとみる。
 しかし、それは耳障りな声により、阻まれた。

中鉢「なんだ……それは……」

 俺が中鉢を見ると、中鉢は顔をひきつらせて、牧瀬の手元を凝視していた。
 紅利栖は困ったように、口を開く。

紅利栖「パパ、ごめ「それは何だと聞いているんだ!!」」

 中鉢の怒声に、牧瀬は泣きそうな顔になる。
 しかし、それに気付かない哀れな父親は、さらに言葉を重ねる。

中鉢「お前は悪魔に魂でも売り飛ばしたのか……?」

紅利栖「パパ……」

 牧瀬は泣きそうな声で中鉢に呼びかける。
 いつの間にか治療は終了していた。
 しかし、中鉢は恐怖を全面に出し、言った。

中鉢「来るなっ!! バケモノ!! お前など私の娘ではない!!」


紅利栖「……ッ!!」

 今までにないほど、牧瀬の表情が歪む。
 気付けば、牧瀬が手に持っている宝石はその朱色の輝きを減らし、ドズ黒く濁っていた。

 































 そして、最後の輝きが、消える。

 ―――― そして世界は反転する。



 魔女の結界内部



岡部「何だ、これは……」

 おかしい。

 何故、魔法少女の宝石が濁った瞬間、魔女が現れた?
 そこで俺は暁美の言葉を思い出す。

 魔法少女は絶望すると、魔女になると。

 ゾクリ

 何か冷たい気配を感じる。

 俺の目の前には呆然とした中鉢しかいない。

 牧瀬は何処へ行った?

 俺は、恐る恐る、振り返った。




















魔女「………………」

 そこには、人間と同じ姿形の、闇が固まったような化け物がいた。

 これで今日の投下を終わりにします。

 なんやこのシュタゲ魔法少女(約一名は19歳男性)の魔女化率……。
 自分で書いといてなんだけど多すぎですね……。
 ちなみに魔女紅莉栖の名前はクリスティーナ。
 
 話は変わりますが、今井さんと関さんのシュタゲラジオを聞き逃していたのでCDで聞きました。
 すごい面白い。
 下ネタ多いけどそれでも面白かった。
 特に今井さんが良かったです。ツッコミのキレが。

 それでは、応援してくれる皆様に感謝を。
 お休みなさい。
 

 こんばんは、10;50から投下をしたいと思います。



 第42話;『醜い』



 魔女の結界



 魔女は虚ろな顔を上げる。
 その目があるべき場所には、暗く重たい穴があった。

岡部「……!!」

 ジリッ

 俺は無意識に一歩足を下げていた。
 途轍もないプレッシャーが俺を襲う。

中鉢「ひぃぃ!!」

 中鉢の顔は恐怖でひきつっている。
 しかし、中鉢が今の状況を正しく理解しているとは思えなかった。

魔女「……」

 魔女は笑い声すら上げることをせず、一歩、進んだ。
 俺は反射的に後ずさる。


 朱い髪の間から闇が見える。
 俺には、その闇が笑っているような気がした。



























 ズガン!!

 突如、轟音が響く。
 世界に光が満ちる。
 そして、光が立ちこめた後には、一人の少女がいた。

鈴羽「やっぱり、こうなっちゃうわけだね……」

岡部「橋田、鈴羽?」


 橋田鈴羽の衣装は、膝上まで包む長い黒コート。
 右腕は近未来的な籠手に被われていた。
 俺はその奇妙な服装、それに見覚えがある。

岡部「お前、もしや」

鈴羽「話は後!! まずはあれをどうにかしないと!!」

 ピシャリと橋田鈴羽は言い放つ。
 その間も、視線は魔女から外さない。

鈴羽「逃げるよ!! おじさん!!」

 ガシャン

 機械的な音を出し、橋田鈴羽は籠手を魔女に向け――――


















 グルン
 
 橋田鈴羽の右腕が、彼女自身の頭の先に添えられる。


鈴羽「…………ッ!!」

岡部「おい!!」

 何をしているんだこいつは!?
 まるで、自殺をしようとしているみたいじゃないか!?
 そして、右手の籠手、そこの先が光る。


 ガガガガガガガガガガガガガガ


 巨大な花火が連発されたような音がする。
 右手の籠手に、銃が内蔵されていたのだ。
 人間が作り出した暴力の音がする。

 煙が飛び出し、橋田を包む。

岡部「橋田鈴羽!!?」

 まさか、本当に自殺!?
 俺は橋田に向かって叫ぶ。
 
 立ちこめる煙には、確かに硝煙の匂いがした。
 そして、煙が晴れる。














鈴羽「う……」

 そこには右手がおかしな方向に曲がっている橋田鈴羽がいた。


岡部「橋田ッ」

 俺は橋田の元まで駆け寄ろうとする。
 しかし、それは他ならぬ橋田自身の声によって止められた。

鈴羽「来ないでッ!!」

岡部「!?」

 橋田鈴羽は俺を睨む。
 その目には憎しみの光が灯っていた。
 意味が分からない。

鈴羽「やっぱり、アイツの能力だ!!」

 橋田は叫ぶ。

鈴羽「おじさん!! 速く逃げ――――」























魔女「……」ニタァ

 俺達は、気づけなかった。
 絶望は、直ぐ側にいるというのに。


岡部「橋田鈴羽!!」

 いつの間にか、魔女は橋田鈴羽の直ぐ側にいた。

鈴羽「魔……女……!!」

 うずくまっていた鈴羽は無駄のない動作で立ち上がり、後ろに跳躍しようとする。

 
 が、

 グシャ、バキバキ

鈴羽「グ……!!」

 橋田鈴羽の呻きが聞こえる。
 そして、相変わらず沈黙する魔女。

 その右手には、いつの間にかレイピアのような剣が握られていて、その先には、

 血塗れの鈴羽の腕が突き刺さっていた。

鈴羽「……速い」

 橋田の呟きが俺に届く。
 速い。

 そんな表現ですまされるのか?

 俺には、魔女の動きが全く見えなかった。

 俺は、ただ突っ立っている事しか出来なかった。


 呆然として突っ立っている俺。
 鈴羽は俺を睨み付け、叫ぶ。

鈴羽「何してんの!? ここから早く消えてよ!!」

 憎しみの籠もった視線。
 俺はそれに戸惑う。

鈴羽「早く――――」


 ブチュ


 一瞬だった。

鈴羽「……ガ」

岡部「……え」

中鉢「ひ、ヒイィィィィ!!!」

魔女「……」

 魔女に橋田の下半身が潰されていた。
 いや、潰された。という表現は正しくないのかもしれない。
 橋田鈴羽の肉は一瞬にしてミンチになっていた。
 魔女の手に握られている剣にこびり付いている肉片と血から、かろうじてあの剣で突き刺したのだと分かる。

 しかし、それをいったい何度繰り返したら、あんな事になるのだろうか。

 痺れた脳で、そんなことを冷静に考えていた。


鈴羽「……おじさ……逃げて……」

 橋田鈴羽の声が、虚ろに響く。

 俺はその声で我に返る。

岡部「だ、だが……」

 お前はどうする。
 そういおうとした俺の顔に、陰が落ちる。

岡部「!?」

魔女「……」

 俺の直ぐ前に、既に魔女は居た。

鈴羽「おじさ……ん」

 鈴羽の声は虚しく響く。

 俺の視線は目の前の朱色の魔女に釘付けだった。

 魔女は虚ろな眼を俺に向ける。
 その眼は、俺の腹に向けていた。

 その視線はさっきまで傷があった場所。
 しかし、既に傷は治っている。
 傷一つない腹を、魔女はじっと見つめていた。

 そして、俺の傷が完治しているのを確認すると

魔女「……」ニタリ

 ニタリと微笑み、そのまま俺から離れる。
 そのまま、闇の中へ消えていった。
 
 ―――― 世界は反転する。


 
 業務員用通路



岡部「……何だったんだ」

 嵐のように魔女は居なくなった。
 まるで、今までの全てが夢のようだった。

 しかし、夢ではないのだ。

 目の前には、動かない牧瀬紅利栖が居て、
 その直ぐ側に、下半身がぐちゃぐちゃになった橋田が居た。

中鉢「ひ、ぃああああああぁぁぁぁぁああぁぁああ!!!!」
 
 中鉢は叫び、直ぐにその場から駆け出す。
 俺は橋田鈴羽の側に駆け寄る。

岡部「す、直ぐ救急車を呼ぶ!!」

 そこまで言って、俺は自分の携帯が使えないことに気づく。

岡部「クソッ!!」

 俺は舌打ちをすると、橋田鈴羽を抱え、その場を去った。



 タイムマシン内部


 
鈴羽「……う」

岡部「まだ、生きているようだな」

 橋田鈴羽の眼がゆっくりと開く。
 まだ生きているようだ。
 普通の人間ならば、間違いなく生きているはずはない怪我だった。

鈴羽「魔法少女は、こんな事じゃ死ねないんだよ」

岡部「なら、お前はやはり……」

鈴羽「うん、魔法少女」

 橋田鈴羽は潤んだ目で俺を見つめる。
 普段の彼女なら、絶対に見せないような表情。
 そこで俺は彼女がけが人だと言うことを再確認した。

岡部「俺は、何をすればいい?」

 橋田鈴羽は、淡く、暗い光が灯った目を向ける。

鈴羽「おじさんが、元居た時代へ」

 そう言って橋田鈴羽は震える手を挙げ、タイムマシンを操作する。

 タイムマシンの動かし方が分からない俺は、ただそれを見ていることしかできなかった。



 2011年5月某日



 光が満ち、俺の居た時代にたどり着く。

鈴羽「着いた、よ」

 鈴羽はタイムマシンのハッチの近くにあるレバーを引く。

 プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……

 ハッチが開き、太陽の光が俺たちに注ぐ。

まゆり「オカリ~ン。大丈夫だった~?」

ダル「出ていった一瞬で戻ってくるとか、さすがタイムマシンすな」

 まゆりと橋田がタイムマシン内部をのぞき込む。
 そして、血塗れの橋田鈴羽を見て、顔を青ざめさせる。

ダル「ちょ、大丈夫なん!?」

まゆり「……」

 橋田は泡を食った様な顔をして、橋田鈴羽の傷の状態を確かめようとする。

 しかし、その橋田を押し退け、顔をしかめたまゆりが前に進み出た。

まゆり「……だいじょうぶだよ、スズさん」

岡部「……どういうことだ?」

 まゆりは、懐に手を入れながら呟く。


まゆり「スズさんは、まゆしぃが助けるのです」

 そして、懐からあるモノを取り出す。

岡部「それは!!」

 それは、水色に輝く宝石。
 まゆりも、魔法少女だったのだ。

 そして、水色の宝石が一際輝く。



















 ―――― 世界は反転する。

岡部「グァッ……」

 俺は一気に酷くなる頭痛と目眩に顔をしかめる。
 だが、そんな痛みも、目の前の光景を見た瞬間、吹き飛んだ。

岡部「傷が、治っている!?」


 治っている。と言う表現は間違っているかもしれない。

 傷がなかったことにされている。

 そんな表現の方が、正しいのかもしれない。

 タイムマシン内部に飛び散っている血は、最初から無かったかのように消えていた。

 もちろん、橋田鈴羽の下半身も、元通り。
 服すらも、元通りだった。

まゆり「良かった……」フラッ

 額に汗を浮かべたまゆりは、体勢を崩し、そのまま倒れ込む。
 俺はそれをあわてて支えた。

岡部「ま、まゆり!!」

 まるで、まゆりが自分の命を鈴羽に与えたような気がして、俺は半狂乱になりながら、まゆりの名を叫ぶ。

ダル「と、とりあえずラボに運ぼうぜ、オカリン」

 橋田は目の前の光景に眼を白黒させながら言った。
 もちろん、俺に異論はなかった。



 未来ガジェット研究所



鈴羽「……ん」

まゆり「……ぅん」

 二人が呻き、目を覚ます。

ダル「あ、二人とも、大丈夫なん?」

 橋田が目覚めた二人にミネラルウォーターを手渡す。

鈴羽「……ありがとう、父さん」

ダル「……マジで君は僕の娘なん?」

鈴羽「ん、まあね」

 そういって橋田鈴羽はペットボトルの水を一気に飲む。
 ペットボトルの中身は一気になくなった。

岡部「大丈夫か、まゆり」

 俺はまゆりの側に近寄り、その隣に座る。
 まゆりは、じっと手元の水を見つめていた。

岡部「なあ、まゆり……」

 俺は、唾液を飲み込み、まゆりに問いかける。


岡部「お前も、魔法少女なのか?」

まゆり「……うん」

岡部「そうか……」

 そこで、俺たちは沈黙に包まれる。
 俺たちはお互いに、言葉を持つことができなかった。

ダル「ちょ!!」

 そこに、橋田の慌てたような声が聞こえる。
 
 俺が振り向くと、橋田鈴羽がうずくまっていた。

鈴羽「ぐ、ゲ」

 青ざめた橋田鈴羽は苦悶の表情を浮かべている。 
 それに、橋田鈴羽の影で見えないが、なんだか酸っぱい匂いが立ちこめている。

 吐いたのだろうか。

ダル「大丈夫っすか!?」

 橋田がすぐさま駆け寄り、橋田鈴羽を抱き起こす。
 橋田鈴羽の腕は哀れなほど震えている。
 
岡部「一体、何があった?」

ダル「ワかんね、鈴羽氏に過去で何が起こったのか聞いたら、こうなったんだお」

 橋田は本当に訳が分からない、と言った顔で首を振る。
 俺にだって訳が分からない。
 まゆりの治療が不完全だったのか?


鈴羽「やっぱり、そういうことか」

岡部「何?」

 ゼイゼイと、息も切れ切れに橋田鈴羽は呟いていた。
 なにが、そういうことなんだろうか。

鈴羽「早く、薬を飲まないと」

 橋田鈴羽は、なにやらやばい単語をつぶやく。
 薬、だと?

 橋田鈴羽は懐から何かケースのようなモノを取り出すと、その中から大量の錠剤を手に落とす。
 そしてそのまま、ペットボトルに残っていた水で飲み干した。

 少しすると、橋田鈴羽の震えは治まる。
 本当に何かヤバイクスリなのだろうか。
 
 何かの薬で一時的に震えを止めた橋田鈴羽は、俺の方を向く。

鈴羽「あいつの……牧瀬紅利栖の能力の、正体が分かった」

 そこでもう一度橋田鈴羽は顔を歪ませ、一際大きく震える。

ダル「あ、あんま無理しなくても「いい、今言わせて」」

 心配する橋田の言葉を遮り、橋田鈴羽は俺を見つめる。

岡部「牧瀬の、能力だと?」

 俺は呟く。
 橋田鈴羽は頷いた。
 そして、言う。

鈴羽「牧瀬紅利栖の能力は――――」

 ―――― 感情操作。


岡部「……感情操作?」

 何だか、ものすごく弱そうなんだが。
 もっとこう、時を止めるとか、火を出すとか、月牙を打てるとか、そういう能力じゃないのか?
 感情操作って、ものすごく弱そうなんだが。
 大事なことなので二回言いました。
 
鈴羽「そんなわけない」

 俺の思考から漏れ出た言葉を橋田鈴羽は断固とした口調で否定した。

岡部「しかし……」

鈴羽「……ねえおじさん」

 橋田鈴羽は、薄暗い瞳で俺を見つめる。

鈴羽「殺し合いをするのに一番邪魔なモノって、何だと思う?」

岡部「……は?」

ダル「鈴羽氏、何物騒なこと言ってんの?」

まゆり「……!!」

 突然の話の切り替えに、俺も、橋田も付いていけない。
 唯一、まゆりだけが、何かに気付いたように、顔を強ばらせた。


 橋田鈴羽は、青くなった唇を震わせ、小さく呟く。

鈴羽「それはね」


























 ―――― 恐怖だよ。

 底なしの闇を抱える口調で、硝煙の匂いがする少女は、そう呟いた。


岡部「恐怖……」

ダル「それが、一体今までの話と何の関係が?」

 橋田鈴羽の言った言葉を反復した俺と、その意味を橋田鈴羽に問う橋田。

 橋田鈴羽は、薄暗い口調で続ける。

鈴羽「人に殺されるかもしれない恐怖、
    人を殺すかもしれない恐怖……戦争に於いては、それが一番邪魔な物なんだよ」

 濁った笑みを浮かべ、少女は自嘲の言葉を続ける。

鈴羽「あたしは、軍人だったんだけどさ、軍にいたときは、感情を消すための訓練を受けた」

ダル「そ、それって人権無視じゃん!!」

 青ざめた顔で、橋田は叫ぶような口調で呟く。
 橋田鈴羽は自嘲の笑みを壊さない。

鈴羽「あたしの生まれた時代にそんな言葉はないんだよ。父さん」

ダル「!!」

 橋田鈴羽の言葉を聞いた橋田は、ガクリと、力無くうなだれた。

鈴羽「感情を殺す方法はいろいろある。
    ……まあ、軍ではドラッグを使っていたけど、一昔前にはそれこそ洗脳とか、いろいろあった」

岡部「もしかして、お前が今飲んだ薬は……」

鈴羽「そうだよ、これが恐怖を消す薬。効果は強力だけど、その分副作用も酷い」

まゆり「何で、そんなもの……」

 力無く、薬の入ったケースを揺らす橋田鈴羽に、まゆりは呆然としたように問いかけた。
 橋田鈴羽は眉を潜め、答える。

鈴羽「こうでもしないと、牧瀬紅利栖には、立ち向かえないからだよ」

岡部「その、感情操作、と言う奴のせいでか?」

 橋田鈴羽は頷いた。


鈴羽「牧瀬紅利栖、アイツは、人の恐怖心を増大させ、戦えなくする。
   恐怖で足が止まり、動けなくなった獲物を静かに、アイツは壊していくんだ」

岡部「まてよ。お前は薬で恐怖を消していたんじゃないのか?」

 俺の疑問に、橋田鈴羽は憎々しげに吐き捨てた。

鈴羽「そうだよ。でも、それは悪手だった」

 ―――― アイツはきっと、感情を無理矢理消失させた人間を操作することが出きる。

鈴羽「だからあたしは、無理矢理腕を折らなくちゃならなくなった。
    それに、後半から薬がほとんど意味を成さなくなってた」

 そうか、だから橋田鈴羽はあんな自殺みたいな真似をした、と言うことか。
 
まゆり「どういうこと、なの?」

 まゆりは眉を潜め、俺に尋ねてくる。
 俺は、重たくなった口を開き、答えた。

岡部「つまり、恐怖を捨てなければ奴の前に膝を折り、恐怖を捨てれば、奴の操り人形。と言うことだ」

ダル「……八方塞がりじゃん」

 橋田の絶望が滲んだ声が、狭い部屋に響く。

 ……そんなの、もう皆分かっていることだ。
 ただ、理解できていなかった、それだけなのだ。


 牧瀬紅利栖から生まれたあの化け物。

 アイツには勝てない。

 仮に、その感情操作を打ち破ったとしても、あの化け物に勝てるのか?

 あの速さに追いつけるのか?

 さらに、絶望的なことを橋田鈴羽は続ける。

鈴羽「あたし達は、あの化け物を、牧瀬紅利栖に戻さなきゃいけない」

岡部「何だと……?」

 不可能だ。
 そんなバカなこと、出きるはずがないだろう。
 いや、そもそも、この言いぐさ、まさか、こいつは……


岡部「お前、まだ続けるつもりなのか」

 俺の言葉に、橋田鈴羽は訝しそうに返した。

鈴羽「……当たり前だよ」

岡部「何でだよ!! 無理なんじゃないのかよ!?」

 こいつはバカか?
 たった今、八方塞がりだって結論が出たじゃないか。
 何でこいつは、まだ受け入れない?


鈴羽「諦めるなんて選択肢、あたしには無い」

 ゼエゼエと、呼吸を求めるかのように、橋田鈴羽は呟く。
 意味が分からない。:

岡部「無駄なんだよ!! あんな化け物に勝てるわけ無いだろ!! 少しは頭使えよ!!」

鈴羽「分かってるよ!! でもあたしは行かないといけない。そうしないと、未来は、未来は……」

 そこで、橋田鈴羽はブルリと震える。
 その眼には、恐怖と、狂気があった。

 橋田鈴羽は、血走った目で俺を見る。

鈴羽「……おじさんは、どうして何時も逃げようとするの……?」

岡部「……!!」

 ゾクリと、心臓を鷲掴みにされたような気がした。
 そして、何か熱い物が喉元を通り過ぎ、脳に到達した。
 破壊的で破滅的な衝動が、俺を襲う。



岡部「逃げているのはお前だろう!!?」

 俺は鈴羽の首元をつかみ、持ち上げる。
 結果的にとはいえ、首を絞める様な形になってしまう。


鈴羽「……ォ、おじ……さ……」

まゆり「オカリン!!」

ダル「お、オカリン!!」

 まゆりと橋田の悲鳴も、橋田鈴羽の涙も、全て無視する。
 逃げている?
 俺が、逃げているだと?

岡部「未来から逃げているのは、何処のどいつだ……ええ?」

 ふざけるな。

 ふざけるなよ。

 俺は逃げていない。

 受け入れているだけだ。

 むしろ、橋田鈴羽、お前の方が――――















まゆり「オカリン!!」

 俺はまゆりに突き飛ばされる。


ダル「す、鈴羽氏!!」

 俺の手が離され、倒れ込む橋田鈴羽を橋田が支える。
 
 皆、恐怖の宿った眼で俺を見つめてきた。

まゆり「今日のオカリン、何だかおかしいよ……」

 ボソリと、まゆりが呟く。

 俺は、その言葉で我に返った。

岡部「お、俺は」

 俺は、何をしていた?
 怒りにまかせて、満身創痍で、傷つき、疲れはてていた少女に何をしていた?

 でも、もう引き下がれ無い。
 やってしまった以上、もう、この現実も受け入れるしかない。

岡部「お、おかしいのはこの世界だ」

 粘つく唇をこじ開け、何とか言葉を紡ぐ。
 自分で言っている言葉に、自分で吐き気がした。

岡部「不可能なんだよ。無理なんだよ。……分かってくれよ」

 自分がやってしまったことが恐ろしかった。
 


 逃げ出したかった。

 ここにいる奴は、みんな俺を恐れていた。

まゆり「オカリン……」

ダル「オカリン……」

鈴羽「……」ゼェ、ゼェ、ゼェ

 皆、俺をおかしい奴だと思っていた。
 俺からすれば、お前等がおかしい存在なのに。

 イヤだ。

 こんな世界、イヤだ。

 こんな俺が、イヤだ。

岡部「あ、あぁああぁあぁあぁあぁぁぁぁ」

 そんな非難しないでくれ。
 そんな眼で見つめないでくれ。

 俺は、

 俺は
 
 オレハ

 おれは

岡部「あああぁぁぁぁ!!!」

まゆり「オカリン!!」

 そこから、無様に逃げ出すことしかできなかった。
 





















 そこからの、俺の通った道のりは覚えていない。
 ただ、薄っぺらい財布を握りしめ、電車に乗り、遠い、遠い場所に行きたかった。

 何度も、何度も電車を乗り換えた。

 そうして、俺はたどり着く。

岡部「見滝……原」

 それは、俺の選択か。
 それとも運命の選択なのか。

 それとも――――

 これで、今日の投下を終わりにします。
 物語序盤はオカリンの強さを書いたので、今はオカリンの弱さを書きたかった回です。

 ちなみに、鈴羽は固有魔法を使わない、初期魔導サイエンティストオカリンに近い状態です。
 そして、魔女紅莉栖は対人間特化の魔女です。
 bleachの一護の卍解みたいなスピードタイプでもあります。
 
 ちなみに、感情操作をされてオカリンを殺そうとしなかった鈴羽はすごい。
 初期プロットでは鈴羽オカリンを殺そうとしてたし……。
 まあ、幾ら鈴羽といえどPTDD? でしたっけ? それに近い精神障害にはなっています。
 たぶん、二度と魔女紅莉栖の前では立てないかも。

 次回は見滝原編。
 まどマギ勢復活。
 ヘタリンは治るのか。

 応援してくれる皆様に感謝を。
 お休みなさい。

 こんばんは。
 9;50に投下したいと思います。
 ご指摘ありがとうございます!!
 PTSDでしたか、よかった、本編に名前出さなくてよかった本当に。



 第43話;『愚かしいよ。恥ずかしい』



 見滝原市;駅前


 俺は一体、何故此処にいるのだろう。
 俺はどうして、この地に立っているのだろう。

岡部「何で、俺は見滝原に来たんだ……」

 見慣れた景色。
 俺の脳に馴染んだ景色。

 だが、この地には、もう二度と来たくは無かった。
 俺がどうしようもなく、孤独だという事を自覚したくなかった。
 
岡部「……帰ろう」

 そうだ、帰ればいい。
 幸い、財布には後、一駅位は乗れる金はある。
 一刻も早く此処を離れればいい。
 そうだよ、何で俺は改札口を出たんだ?

 俺は一体何を期待していたんだ?

岡部「馬鹿馬鹿しい」


 見滝原に来れば、彼女が出迎えてくれると思ったのか?
 そんなに都合の良い奇跡があると思うのか?

 岡部倫太郎、お前は知っているだろ?

 この世界は、そんなに優しくない。

 何時だって、残酷なんだ。

岡部「……」

 俺はクルリと身を反転させると、そのまま、俺はチケット販売の機械の前に並ぼうと、歩きだした――――























 「―――― 岡部?」

 声が、聞こえた。

岡部「……え?」


 聞きなれた声に、俺は反射的に振り向いた。
 懐かしさ、期待が入り交じった俺の視線。
 その先に、彼女は居た。
 最初に見たような、赤い眼鏡に大きな三つ編み。

ほむら「貴方、岡部よね」

まどか「えっと、ほむらちゃんの知り合い?」

岡部「……あ」

 暁美ほむら。

 俺の希望。



















 ―――― そして、これから始まる最低の物語の引き金だった。



ほむら「岡部……よね。私を、覚えている?」

岡部「あ、ああ」

 忘れるわけがないだろう。
 忘れるはずがない。

 寧ろ、俺は、お前が俺のことを忘れていると、そう思って。

岡部「お前は、俺のことを……」ギリッ

 気付けば、俺は歯を食いしばって、暁美を見つめていた。
 暁美は、その視線を受け止め、頷いた。

ほむら「ええ、覚えているわ」

岡部「……そう、か」

 堪えきれない物が、喉元までせり上がってくる。
 俺は膝を突き、震えた。

 やっと、俺を覚えている人がいた。
 ようやく、俺を知っている人がいた。

ほむら「……岡部?」

 ブルブルと哀れに震える俺を、暁美は訝しげに見つめてくる。
 
岡部「……来るんだ」

ほむら「……何が?」

 要領の得ない俺の言葉を、ぶっきらぼうに、それでも、その中にかすかな優しさを含ませ、彼女は聞いてくる。
 俺は、途切れ途切れの単語を紡ぎ、何とか言葉にする。
















岡部「第三次……世界大戦……」

ほむら「……なんですって」

まどか「?」

 ようやく繋げた、単語。
 暁美は、正しく俺の言葉の意味を理解したようだった。

 そして、隣の鹿目に視線を向ける。
 
ほむら「……ごめん、まどか。今日のショッピングは中止させて貰っていい?」

まどか「え?」

 突然の暁美の言葉に、鹿目は呆けた顔をする。
 しかし、その声色に、何かを感じ取ったのか、少しだけ寂しそうな顔をして、頷いた。

まどか「……うん、分かった。ほむらちゃん、じゃあね」

ほむら「……ごめんね」

 そうして、鹿目は去っていった。



 ファミレス


 
 俺たちは、話す場所を求め、ファミレスに入った。
 ほむらは、席に座ると早々に話しかけてくる。

ほむら「で、第三次世界大戦って、何?」

岡部「……」

 俺は、腹の底に溜まり、ぐるぐると渦巻く物を何とか形にしようとする。
 そして、長い沈黙の後、ようやく、口を開いた。

岡部「……俺の所に、未来人が来た」

ほむら「……!! 詳しく、聞かせて」

岡部「あ、ああ……まずは――――」



 そして、俺は暁美に全てを話した。

 橋田鈴羽

 中鉢論文

 第三次世界大戦

 牧瀬紅利栖

 感情操作の魔女

 全てが出来の悪い嘘のようだった。
 出来の悪い三流ストーリー。
 本当に、そうだったら、どんなに良かっただろう。

ほむら「……」


 暁美は、ブツブツ語られる、断片的な、俺の話を無言で聞いていた。
 その目に映る光は、俺には理解すらする事が出来ない物だった。

 そうして、ようやく俺の話が終わる。

ほむら「……第三次、世界大戦、ね」

 暁美は目を細める。
 それは、獲物を前にした肉食獣の様でもあり、
 愚かな子供の戯言を聞く、母親のようでもあった。

 そして、静かに暁美は口を開く。

ほむら「質問は、一つ」

岡部「……なんだ」

ほむら「貴方は、いくつまで生きるの?」

 意味の良く分からない問いだった。
 俺の、死ぬ年なんて関係ないだろう。
 だが、俺に答えないなんて選択肢はない。

岡部「2025年。俺が、33歳の時だ」

ほむら「……そう」

 その後、しばらく暁美は何かを考え込むように、口元に手を当てた。
 そして、ゆっくりと、口を開く。


ほむら「……で、私は、その牧瀬紅利栖を魔法少女に戻せば良いのね」

 噴いた。

岡部「ちょ、待て待て待て!!」

 何を言っているんだこいつは!!
 だからそれは絶望的だという話をさっきまでしていたはずなのだが。
 
 そう言うと、ほむらは前髪をクルクルといじり、答える。

ほむら「不可能ではないのよ。魔女から魔法少女に戻すことは。……簡単ではないけどね」

岡部「そう、なのか?」

 しかし、本当にそんなことが出来るのか?

 あの怪物――――牧瀬紅利栖は、そんな生易しい相手じゃない。 
 
岡部「……勝算は、あるのか?」


ほむら「……あるわ」
 
 ほむらは磨き抜いた黒オパールの様な目で、俺の目をじっと見つめた。

ほむら「何故なら、私は――――」

 そして、重たい口が開かれる。
 
 それと同時に――――
















ほむら「前の世界線から、この世界線へ変えたのは、私だから」

岡部「何だと……!?」

 ―――― 運命石の扉が

 プルルルルルルルルルルルルルルルルルルル……

 ―――― 開かれる。


岡部「……俺の電話だ」

 何なんだ、いきなり。
 重要な話の最中だというのに誰だよ電話をかけて来たのは少しは自重――――



























まゆり『トゥットゥルー☆ オカリ~ン。こちらはまゆしぃなのです』

 ………………は?

岡部「ま、まゆり!?」

 電話口から聞こえたのは、何時もの、幼なじみの、脳天きな声。
 まさか、俺を連れ戻しに来るのか?

岡部「な、なんだ。俺は戻らんぞ。今は大事な『あのね、オカリン』」

 俺の弁解は、まゆりの何時にない、真面目な声に遮られた。
 そして、今まで、俺が聞いたことの無い声色で、まゆりは続けた。
 
まゆり『あのねオカリン……まゆしぃはね、まゆしぃは』


















 ―――― スズさんと一緒に、牧瀬さんを助けに行こうと、思うのです。

 寒気が走った。
 


岡部「待てよっ!! 何で、お前が!?」

 気付けば、叫んでいた。
 どうしてだ、どうしてまゆりが、そんなことを。

鈴羽『あたしが頼んだんだよ』

 グシャグシャに歪んだ思考の中、声が聞こえる。
 俺は、苛立たしげに唇を噛んだ。
 ドロリとした、鉄の味がする物が唇を流れ落ちた。

岡部「橋田……鈴羽ッ」ギリッ

鈴羽『うん、そうだよ』

 さっきまでよりも、ずっと平坦な声。
 無理矢理、感情を消しているかのような、そんな声。

岡部「何故だ……。何故、まゆりを……」

 荒ぶる感情を押し殺し、掠れた声を紡ぐ。
 そうしないと、叫び出しそうだった。

鈴羽『おじさんが悪いんだよ』

岡部「……ッ」

 台詞の調子とは裏腹に、その声色は何処までも平坦だった。
 そのズレに、俺の背筋が泡立つ。
 ヤバイ。
 今の橋田鈴羽は、まともじゃない。


鈴羽『あたしは、失敗しちゃいけない』

 ボソリと、橋田鈴羽は呟く。
 
























 ―――― 失敗した。

 ズキッ

岡部「……ッ」

 まただ。
 また、この頭痛。
 俺はその痛みを堪え、歯の隙間から、絞り出すように呻いた。


岡部「それが、お前の使命だからか」

鈴羽『そうだよ。それが、あたしの使命』

 使命、か。

 そんなことのために、まゆりは死地へ行くのか。

岡部「ふざけるな……」

 ふざけるなよお前に何の権利があるんだ何で
 お前なんかにまゆりの命を奪う権利があるんだ
 まゆりは絶対に殺させやしない殺していい人間
 じゃないんだもしそれでも殺そうとする奴がいるのなら――――

















 ―――― 俺がそいつを、ころしてやる。

 ズキッ

 また頭痛。
 そして、先ほど感じた異常な思考が、独り言となっていたらしい。
 橋田鈴羽はそれに返してくる。

鈴羽『はは、今のおじさんらしいよ』

 へらへらと笑う橋田鈴羽。
 しかし、その平坦な声色は変わらない。


岡部「……俺に案がある。だから待ってくれ」

 俺は沸き立つ怒りを抑え、何とか下手に出る。
 あまりにも無茶すぎる。
 馬鹿馬鹿しすぎる。
 どうか、まともな思考回路があるなら、思いとどまってくれ――――

鈴羽『嫌だ』

岡部「何故だ!?」

 俺はあまりにも愚かな橋田鈴羽の思考に、思わず本気で怒鳴っていた。
 何で俺の案を無視する?
 お前は世界を変えたいのではなかったのか? 
 どうして――――













          ・
鈴羽『――――今のおじさんは、信用できない。信頼できない』

岡部「…………!!」

鈴羽『だから、あたしは、あたしの方法で未来を変える』

岡部「ちょっと待て――――」

鈴羽『じゃあね、おじさん』

 ブツッ……プー、プー、プー、

 電話は、掛かってきた時の様にいきなり切れた。



岡部「畜生ッ!!」

 俺は苛立ちからテーブルを殴りつける。
 鈍い痛みが、腕を伝った。

ほむら「……何があったの?」

 険しい表情の暁美が呟く。
 
岡部「……橋田鈴羽――――未来人が、勝手にタイムマシンを使おうとしているらしい」

 俺は苦々しく呟く。
 暁美は少し考えるような表情になった。

ほむら「橋田鈴羽? 天王寺綯じゃなくて?」

 そして、ぽつりとそんなことを言った。
 
岡部「何故そこで綯の名前が出るんだ……いや、それよりも」

 早く橋田鈴羽を止めなければ。
 そんな言葉を、俺は続けることは出来なかった。

 何故ならば――――


















 ―――― 世界は、反転する。

岡部「!?」

ほむら「まさか……」

 世界が、スイッチを切り替えたかのように、変わったからだ。


ほむら「魔女の、結界……!!」

 焦りを含んだ暁美の声。
 それに、この結界は……

岡部「この結界は……牧瀬、牧瀬紅利栖のものだ!!」

ほむら「何、ですって!?」

 暁美の強ばった声が聞こえる。
 そりゃそうだろう。

 つまり、それの意味することは……





















魔女「……」

岡部「糞ッ」

ほむら「ッ!!」

 魔女が、牧瀬紅利栖が、居るということだからだ。


 
 魔女の結界



ほむら「逃げるわよ!!」

 暗い魔女の結界で、暁美の声が響く。

ほむら「今の私は、魔法少女じゃないの!!」

岡部「何!?」

 ま、マジなのか、それは!?
 驚く俺をよそ目に、暁美は何かを懐から取り出す。
 そしてそのまま、それを魔女に向かって投げた。

魔女「……」

 魔女は突っ立ったまま、ほむらから放り投げられた何かを、無言で見ていた。

 そして――――

 ドッカァァァァァァァァン!!

 そのまま、放り投げられた爆弾は爆発した。

 濛々と煙が立ち上った。

 唖然としている俺の右手が、何者かに引き寄せられる。
 引き寄せた主は、暁美だった。

ほむら「早く。逃げるわよ」

岡部「あ、ああ……」

 曖昧に頷いた俺は、ほむらと共にその場から駆け出した。



 魔女の結界



ほむら「はいコレ。護身用」

 手渡されたのは、法律ぎりぎりの特大サバイバルナイフ。

 何で、コイツは危険なものを大量に持っているんだ?

ほむら「護身用よ、護身用」

岡部「どう見ても違うだろ……」

 どちらかというと、その形状は復習用だ。
 チャイムが鳴らされ、扉を開けたら、いきなり「こんにちは」とか言われ、そのまま一突き……

 ……止めよう、こんなの誰も得しない。

 俺はおぞましい妄想を打ち切る。
 止めよう止めようこんなの誰も得しないというか俺のSAN値がゴリゴリ消えていく。

 ……なんだか、違和感を感じる。

岡部「そうだよ、暁美は……?」

 俺が馬鹿馬鹿しい妄想をしている内に、暁美は俺の周辺から消えてしまっていた。

 まさか、先に行った……?
















 ―――― 「私」は、心臓に疾患を抱えていた。

 ズキン


 いい加減慣れてきた痛みが俺の脳を襲う。
 俺は、なぜだか、とても嫌な予感がした。

岡部「暁美は……」

 そう小さく呟きながら、後ろを振り向く。
 そこには

ほむら「はぁ、はぁ……グッ!!」

 息も絶え絶えで、死にそうな、暁美がいた。

岡部「暁美!!」

 俺は慌てて暁美の側へ引き返す。
 そして、顔が青くなった暁美を背負おうと、手を、伸ばした――――
















 一瞬だった。気づけなかった。

岡部「ぁ……」

 忘れてなんていなかった。
 でも、高を括っていた。

 常に気を張っていなければならなかったのだ。
 絶望は、直ぐ側に、居るというのに。

魔女「……」

 魔女は、俺と暁美の直ぐ側にいた。
 その虚ろな眼下が、俺たちを見下ろしている。


岡部「ック……」

 焼け石に水だと思いながら、俺は、ナイフを――――


























 ―――― 魔女の眼下が、怪しく光る。

 ゾクリ


 寒気が、走った。

 いや、その前に俺の目の前にいるのは何だ?

 何だ何だ何だ何だなんだなんだ?

 華奢な化け物がまるで阿修羅のように見える。

 ―――― そのとき、すでに俺は魅入られていたのだ。

 こわい、こわいこわいこわいこわいこわいこわい。
 脳にウジ虫がわいてはっているような不快感を覚える
 指先から腐り落ちていくような絶望感を覚える
 動けば殺される
 動かなくても殺される
 ころされるころされるころされるころされるころされる
 ころされるころされるころされるころされるころされる

岡部「ヒィ……」

ほむら「岡部、どうしたの!?」

 耳障りな雑音が聞こえるきっとコイツも俺を殺そうとしているんだそうかそうかそうか
 きっとそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだ
 でも動けないうごいたらころされるころされるころされころされるころされるころされるころされるころされる――――































 パキン

 ―――― 何かが壊れるような音を、聞いた。

 ふと、正気に戻った。
 コレが、魔女の能力なのだろうか。
 さっきまでの絶望的な恐怖感は、まるで幻想だったのかの様に、綺麗サッパリ消えていた。


 魔女はまだ、俺たちを見つめている。
 どうやら、俺が正気に戻ったことに、気づいていないらしい。





























 ナラバ、コイツヲコロセルカ?

 そうだ、今ならコイツを殺せるはずだ。
 魔女を、殺せるはずだ。

 不意を打て、一撃で決めろ。

 今、逃げ出してはいけないのだ。
 
 突き刺せ。ねじ切れ。

 因果を、断ち切れ。

岡部「……!!!」

 俺はサバイバルナイフを無造作に突き出す。
 完全に、魔女の不意を打ったはずだ。
 魔女の胸に吸い込まれるように、鈍い銀の煌めきは収束する。


 そして

                                ―――― ブチュリと

 気味の悪い音が聞こえ
 
                          ―――― 肉を指す感触がして

 魔女の胸に

                               ―――― 彼女の胸に

 俺の頬に

                           ―――― 何だかあたたかい

 赤い鮮血が飛ぶ

                              ―――― 白い涙が伝う


















 全てがスローモーションのようだった

               ―――― 早くこの時間が終われと、必死に願った















 俺の

岡部「……あぁ」

 ナイフは

岡部「あぁあ」

 深々と

岡部「ああぁぁあぁあ」

 赤いナニカをまき散らしながら

岡部「あああああああああああああああああああ!!」

 暁美ほむらの胸に

ほむら「……ァ」

 突き刺さっていた。





























魔女「……」ニタリ

 






























 


 ―――― 世界は切り替わる。




 ファミレス


 
 まるで何もなかったかのように、魔女と、結界は消えた。

 暁美も消えた。

岡部「あ、ああ……」

 まるで全てが夢だったかのように。

岡部「あ、ああああああああああああ」

 だが、夢なんて優しいものじゃない。
           ジゴク
 ここが紛れもなく現実であることは、

 俺の白衣にこびり付いた血と

 赤く染まったナイフが、

 否応がなしに

 完璧に

 証明していた。

 これにて今回の投下を終わりにします。
 このヘタリンが何も策なしに魔女の攻撃を打ち破る訳が無い(きっぱり)。

 ヘタリンが感じる恐怖がヘタリンのキャバを超えただけ。
 よって魔女の操り人形。

 さて、次回は残り三人の魔法少女が出ます。
 ヘタリンの運命はいかに。

 応援しれ下さる皆様に感謝を
 それでは、お休みなさい。

 こんばんは
 色々用事があったので、今日の投下は出来そうにありません。
 明日、投下をしたいと思います。
 それでは。

 こんばんは
 9;00から投下したいと思います。


 
 第44話;『悲劇じゃ終われない。そうだろ?』


 
 見滝原市;町中

 

 俺は何とかファミレスから飛び出した。
 何も頼んでいなかったので、金を払う必要はなかった。
 紅いナイフは白衣に包んだ。
 上手く隠れたかどうかは分からない。
 見たくもなかった。

岡部「ハァッ……ハァッ……」

 俺は息を切らせ、どこかの公園にたどり着く。
 休日の昼間だというのに、人は居なかった。

 どうでも良かった。

 震える膝をいなし、俺は自らの両腕を凝視する。

岡部「……俺は」

 ひどく弱々しく、掠れた声が聞こえた。
 それが、俺の声だということに、数秒かかった。

岡部「……俺は!!」

 殺す気じゃなかった。
 そんな気はなかった。
 魔女が悪いんだ。


 そんな言葉を、吐けるほど俺は賢くなかった。
 自分を慰める手段すら知らなかった。
 まだ、彼女を刺し殺した感覚は、鎖のように俺の腕に絡み付いている。

 ブチュリと――――

                  ―――― 肉を抉って。


岡部「……ゥッ!!」

 途端、吐き気が襲ってくる。
 罪悪感、失望、自己嫌悪。

 様々な感情が入り交じって、交差して、点滅する。

 俺の汚いブヨブヨした部分が、化学物質を吐き出し、脳内信号を操る。
 
 だいたい何で彼女が死ななきゃならないんだどうして彼女だったんだそれにしても俺は何だ
 何なんだ彼女を殺してしまったじゃないかどうしてそんなことをしたんだなんで彼女何だどうし
 て俺じゃないんだどうして俺が――――


















 ―――― 死ななかったんだ。 

 
 カチリ


 俺の中で、何かがハマったような音がした。

 俺は、フラフラと、丸めた白衣を伸ばした。

 その中から、目的のものを取り出す。

 特大のサバイバルナイフ。

 これさえあれば、俺は、俺を――――




















 ―――― ぶっ殺せる。
 
岡部「……最初から、こうすれば良かったんだ」

 俺はぽつりと呟く。


 俺は疫病神だ。

 まゆりを助けようとして、天王寺さんたちに迷惑をかけた。

 世界を救おうとして、橋田鈴羽の心に傷を負わせた。

 そこから逃げ出したら、まゆりを失った。

 また、戦おうとしたら、俺は、暁美を、暁美を、失った。

 本当は、昔から気づいていた。

 俺はこの世界に、何一つ貢献していない。

 俺は無力だ。

 意味なんてない。

 むしろ害悪だ。

 世界の敵だ。

 彼女たちの死神だ。

 でも、死ねなかった。

 死にたくなかった。

 怖かった。

 俺という存在が1ミクロンまで分解され、この世界に拡散し、俺が居なくなってしまうことが。

 嫌だった。

 死にたくなかった。

 でも、今は――――














岡部「やってやるさ……ケジメだからな」


 俺は、恐怖で震える腕を押さえる。

 ナイフを持った手を、高々と降りあげる。

 一突きで終わりだ。

 これが償いだ。

 終わりにしてやる。

 俺は、ナイフを、腕に、突き立てた。

岡部「……ァ」

 紅い、赤い、朱いものが世界を多い、俺の意識は暗転した。



 ???



 俺は、岡部倫太郎だ。
 
 だが、俺は今、ブヨブヨとした白い固まりだった。

 それを、白衣を着た、暗い顔をした男が見下ろしている。

 ――――「貴様は必要ない」

 まさにその通りだと、俺は頷く。

 ――――「俺は必要ない」

 白衣の男――――「鳳凰院凶真」も頷いた。

 ――――「そうだ、貴様は要らない」

 全くその通りだ。
 俺なんて死ねばいい。

 ――――「じゃあな、俺」

 鳳凰院凶真は用が済んだとばかりに、身を翻し、去っていく。
 


 ――――「ああ、さよならだ。俺」

 俺も、鳳凰院凶真への興味を無くし、そして口を噤んだ。
 元から、口など無かったが。

 そのまま、俺は朽ち果てていくだろう。
 それでいいと、俺は思った。

 ―――― 本当に?

 俺じゃない誰かは想う。
 
 ―――― 本当に、あいつだけでいいのか?

 俺ではない何者かが想う。

 ―――― あいつは、壊すことしかできないぞ? 奪うことしか、できないぞ?

 俺ではない岡部倫太郎は想う。
 そうして、主導権は、俺から「岡部倫太郎」に移る。

 いや、俺には元々主導権など無かったのかもしれない。

 とにかく、「岡部倫太郎」は、「鳳凰院凶真」を追いかける。

 ズルズルと、ズルズルと。


 白いブヨブヨした体は、動くごとに削れていく。
 削がれ、消えて無くなる。

 ゴミみたいになっても、カスみたいになっても、岡部倫太郎は動き続けた。

 そうして、本当に岡部倫太郎はゴミになって、泥の中に消えそうになる。






















 それは、必然だった。

 ――――     を、助けてくれるんですか?


 それは、偶然だった。

 それは、運命だった。

 それは、宿命だった。
 
 ―――― 貴方の  は、まだ終わってはいません。

 俺の目の前に、誰かが降り立った。
 いや、その表現はおかしかった。
 
 ―――― ならば、貴方の手助けを、私はできます。

 何故ならば、彼女は人ではない。

 彼女は――――

 ―――― 貴方は、貴方を失ってまで、自分の信念を貫きたいですか?




























                           女神
 




















 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 俺の瞼が開く。
 はっきりしていく意識。
 反対に、違和感はどんどん募っていった。

岡部「ここは、どこだ?」

 俺は公園のベンチに寝転がっていた。
 太陽は、燦々と、憎たらしく俺に降り注いでいた。

 
 不意に、誰かの声が聞こえた。 

さやか「あ、気づいた? 怪我、ひどかったんだよ? 後一歩遅かったら死んでいたね、おじさん」

岡部「……」

 俺が状況を飲み込めずにいると、少女は何かを差し出してくる。

 それは、ドクターペッパー。

さやか「あそこの自販機で買ってきたから冷えてるよ。これ、クソ不味いけど癖になるね」

 まだ、頭がぼうっとしている俺は、言われるがままに、ドクベを飲む。
 杏仁豆腐のような味が、喉元を通り過ぎた。


 ひんやりとした感触が、俺の思考を覚醒させる。

岡部「お前は……」

 俺は目の前にいる、蒼髪の少女に覚えがある。
 そうだ、俺はこの少女を知っている。
 たしか、彼女は――――






















 ―――― 前 の 世 界 で 会 っ て い る。

岡部「……ッ!!」

 そして、俺の記憶が蘇る。
 なんで、どうして、なぜ。
 俺は、俺は、おれは

岡部「俺は、生きているんだ……」


 俺は俺を消したはずだ。
 殺したはずだ。

 だが、俺が突き刺したはずの腕には、ぐるぐると包帯が巻かれている。
 いや、よく見れば、俺がさっきまで着ていた白衣のなれの果てであった。
 そして、その大仰な見た目とは裏腹に、痛みはあまり感じなかった。

 だから、思考をする余裕が生まれる。

 何で、どうして、俺は生きている?

さやか「……やっぱり、おじさん、自殺をしようとしていたんだね」

岡部「何?」

 俺は、ゆっくりと、視線をあげる。
 そして、少女の、蔑むような視線とぶつかった。

さやか「どうして、おじさんはそんなことをしたの?」

 少女はゆっくりと口を開く。
 聞きたいのはこっちの方だ。

岡部「何でお前は俺を助けた?」

さやか「おじさんさぁ……質問に質問を返すのはマナー違反だって分かってる?」

 俺の問いに、少女は溜息を吐く。
 その言いぐさに、俺は腹が立った。
 助けてなんて、俺は一言も言っていないのに。
 


 俺は少女を睨んだ。

岡部「いいから答えろ」

さやか「イヤだ。まずはあたしの質問に答えて」

 少女は頑なだった。
 それに、話の主導権は、すでに少女の手にあった。
 俺は、苛立ちを押さえ、話す。

岡部「俺がこの世界にいても、誰かの迷惑になるだけだ。なら、いっそ俺などいない方がいい」

さやか「……っは。やすい自己陶酔だね」

岡部「な……」

 俺が震えるように吐き出した言葉はバッサリと切り捨てられた。
 まるで、俺の事情など、どうでも良いかのように。

岡部「お前に何が分かる!!」

 俺は立ち上がり、少女を見下ろす。
 声は怒りで濁っていた。
 しかし、少女は、俺を哀れむような目で見つめるだけだった。

さやか「おじさんさ、この世界に人間なんて60億人以上もいるんだよ?
    そん中で、価値がある人間なんて何人もいないよ」


 何かを悟ったかのような顔で、そんなことを言った。
 それは、暗に、俺など、居ても居なくても同じだと、言っているようだった。

岡部「質問には答えた。次はお前が答える番だ。なぜ俺を助けた?」

 俺は早口気味にそう言った。
 早く茶番を終わらせたかった。
 しかし、それとは裏腹に、少女はゆっくりと口を開く。

さやか「馬鹿馬鹿しいからさ」

岡部「何だと?」

 少女の言葉に、こわばる俺の顔。
 少女は続ける。

さやか「だってそうじゃん。おじさんが何を想って自殺しようと思ったかなんて知ったこっちゃ無いけどさ」

 ―――― もし、何かを無くしたんなら、残ったものを、必死で守らないといけないんじゃないの?

 バカだと思った。
 ガキだと思った。
 何をしたり顔で言っているんだコイツは。

 でも、

 でも、

岡部「――――――――――――――――ッ!!」

 俺は何も言い返せなかった。
 罵倒を吐けなかった。
 間違っていると糾弾できなかった。


 代わりに、言い訳じみた言葉が飛び出す。

岡部「もう、そんな物はない。それに、守ろうとしたって、無駄なんだよ」

さやか「……」

 俺の言い訳を、少女はかみ砕くように聞いた。
 そして、一言。

さやか「自分に酔ってんの?」

岡部「……!!」

 少女は、心底呆れた目で、哀れんだ目で、俺を見つめた。

さやか「自殺しそうなほど追い込まれています~って、自慢でもしたいの?」

岡部「違ッ……俺は!!」

さやか「可哀想な自分に酔ってる暇があったらさ、その可哀想な状況を打破するために生きてみなよ。
    逃げるのを止めなよ。そしたら、きっと、ちっぽけな壁なんてぶちこわせるよ」

 少女は、まっすぐに俺を見つめた。
 俺は、その瞳を直視できない。

 俺が、逃げている?

 逃げているのか? 俺は。

 いや、俺は逃げてなんかない。
 
 俺は、この現実を、受け入れようとしていたじゃいか。




 ……本当に?


岡部「……俺は、逃げてなんか、いない」

 やっとのことで、言葉を吐き出す。

 少女は、目を細めた。

さやか「また失うよ? そして今度は、戻れなくなるかもね」

岡部「……」

 俺はその言葉を無視して、立ち上がる。
 これ以上、こんな戯言を聞いていたくなかった。

 ―――― 気づいてしまう。俺が弱いことに。

 俺は、その場を立ち去ろうとする。
 ナイフはもう無かった。
 どこかに、捨てられたのだろうか。

さやか「……」

 少女は、何もいわなかった。

 俺は、何か捨て台詞を残そうと思って、何もいえなくて、結局。

岡部「……ドクターペッパー、ありがとう。中学生の小遣いじゃ、高いだろう。あれ」

 そんな、馬鹿げたことしか言えなかった。
 
 俺は、公園を立ち去った。
 



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 さやかは公園を立ち去る、長身の男の姿を眺めていた。
 そして、その陰が消えると、とたんに眉間に皺を寄せる。

さやか「は~!! つかれたつかれた!!」

 盛大で大仰な溜息を吐き、肩を回す。
 そこには、先ほどまでの悟ったかのような少女はいなかった。

さやか「ほんとああいうの迷惑だよね~。わざわざ話し聞いてるさやかちゃんマジ天使!! ってかんじ」

 ヘラヘラと笑いながら、そんなことを言う。

さやか「あ~あ。150円損しちゃったよどうしよう?」

 ぶつくさ、やや演技過剰に不満を漏らす。

 そのとき、バイオリンの音色が聞こえた。

さやか「……始まったんだ」

 途端に、さやかは口を噤む。
 これが、さやかの守りたかったものだ。

 数日に一度、この公園でさやかの幼なじみが、バイオリンの練習をするのだ。
 その音色を、遠いところで聞くのがさやかの最近の趣味だった。

 近くには、別の人間がいるから、遠くで聞いているしかないのだ。

 だが、それでもよかった。
 それだけでも、幼なじみの元気な姿は、さやかの心をいやしてくれる。












 だが、今日は違った。


さやか「……あれ」

 さやかは、自分の異変にようやく気づく。
 いや、やっと気づいていない振りを止めた、と言った方が正しいのだろうか。

 さやかは自らの頬に指を当てる。
 指先には滴。

さやか「なんで、あたし泣いてんだろ」

 その滴も、直ぐに消えて無くなる。
 指先が、ブレて見えた。

さやか「なんであたし、ふるえてんだろ」

 さやかは自分の体を抱くようにして支える。
 そうしないと、崩れ落ちてしまいそうだった。

さやか「分かんないよ……教えてよ『――――』」

 つぶやいた言葉も、直ぐに消える。
 誰に、教えてもらえばいいのか、分からなかったからだ。

 誰が教えてくれるか、覚えていなかったからだ。
 
 さやかはもう一度、自分の体を、強く抱きしめた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 数時間後


 俺は、フラフラと日が暮れた見滝原の町を歩く。
 見慣れた、けれども俺が知らない町並み。

 俺は、ドラッグ中毒者のように、幽鬼のように、フラフラと、さまよう。

 一体、俺はどうすれば良かったんだ。

 俺は、何をどうすれば良かったんだ。

 何を、何のために、どうすれば良かったんだ?

 思考のループは止まない。

 何で、俺だったんだ?

 俺に、戦うべき理由なんてあったか?

 今からあらがって、取り戻せるのか?

 また、誰かを傷つけるだけじゃないか?


 まゆりにしたように、暁美にしたように、誰かを傷つけるだけじゃないか?

 そうだよ、俺はもうだれも傷つけたくないんだ。

 だから、良いじゃないか。

 もう、休ませて――――





















 ドンッ

不良「ァア!?」

 誰かと、ぶつかった。
 
岡部「あ、すいません」

 それだけ言って、俺はまた歩きだそうとする。
 が、しかし

不良「あん? テメェ、それだけかよ?」

 俺は胸ぐらを捕まれる。


子分A「ショウさんマジかっけぇww!!」

子分B「無礼者はww成敗wwすかww!!」

 取り巻きがうるさい。
 俺は、気だるげに口を開いた。

岡部「……なんですか」

 俺の言葉に、不良は口を満足そうに歪ませる。
 通行人どもは、明らかに俺たちを避けていた。
 誰も、俺を助けちゃくれない。
 まあ、それが普通だ。
 チンピラは粘っこい口調で俺に話しかける。

不良「そっちがぶつかってきたんだ。慰謝料はもらわねぇとなぁ」

 ……絵に描いたようなチンピラ具合だ。
 もはや感心する。
 それが、不良の癪に障ったらしい。 

不良「何笑ってンダゴラァ!!!」

 バキッ

岡部「ッウ」

 いきなり殴られた。
 痛い。


 だが、思ったよりは痛くない。
 これなら、10発くらいなら耐えられそうだ。
 通行人がいきを飲んだのが分かったが、結局だれも動こうとしない。
 どうでもいい。
 だが、まあ、殴られるのも面倒くさいので、俺は大人しく、財布を取り出そうと――――























杏子「品がねぇなぁ、兄ちゃんたちよぉ」

 まだ、幼さが残る声が、それを遮った。


不良「ァン? ンだオメェ?」

 時代錯誤な不良が、少女の方を振り向く。
 そして、げびた笑いをあげる。

不良「ヘヘッ、なかなか可愛いじゃねぇの。何だぁ? 
   嬢ちゃんが俺の相手をしてくれんの? 兄ちゃん頑張ってヒイヒイ言わせてあげるけどww」

子分A「さすがwwショウさんww早速ナンパスかww」

子分B「かっけぇwwかっけぇww」

 取り巻きがもの凄くうるさい上に、酷いセクハラだ。 
 胃がムカムカする。
 しかし、少女はどこ吹く風だ。

杏子「キモッ」

 その言葉に、子分の一人が反応する。

子分A「んだとテメェ!! 調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

 そして、紅い少女につかみかかる。
 しかし、

 パンッ

 そんな、小気味良い音が、一回だけ響き、子分は崩れ落ちる。
 少女は、口の端を歪ませた。

杏子「折角群れてんのに一人で来んじゃねぇよ。バカなんじゃねぇの?」


子分B「テメェッ」

 少女の挑発に、もう一人の子分が反応する。
 しかし、呆気なく、一瞬で、膝から崩れ落ちた。

 盛大に二人とも鼻血を出していた。

不良「……この野郎!!」

 不良は青筋を立ててキレる。
 少女はにやにや笑いを続けていた。

杏子「なになに? アンタも殴られたいの? 物好きだねぇ。もしかしてMってやつ? 糞じゃん。近寄んな」

 プツン

 あ、やばい。
 間違いなく、不良の理性が切れた。

不良「ひ、ひひ、良いぜ。後悔してもおせぇからな!!」

 不良は懐から何かを取り出すと、腕を振った。

 シャキン

 銀色の光が、その腕の先に現れる。
 ナイフだ。

不良「久々にキレたぜ!!!!!!」

 なんだか本当に残念なことを叫びながら、不良はナイフを振りあげ――――


















 ドスッ!!

 俺に突き刺した。

岡部「……ゲッ」


不良「まずはテメェからだ!!」

 血走った目で、不良は叫ぶ。
 だが

杏子「……っち」 

不良「ンなッ!? 何時の間に!???」

 少女は不良の意識が俺に傾いていたときに、一瞬で距離を積め、そのまま回し蹴りで不良の頭を蹴る。

不良「っが」

 うめき声を上げ、ふらつく不良。
 しかし、少女の連撃は止まることが無く、そのまま、正挙突きが不良の腹に刺さった。

不良「ぎゃ」

 形容しがたい、鈍い音が響き、不良は1メートルくらい吹き飛ばされる。
 そして、白目をあげて落ちる。
 鮮やかな手際だった。

 ここが劇場か何かならスタンディングオペレーションをしよう。

 もっとも、腹に穴があいてるのでできないが。

杏子「ッチ。結構深いな、傷」

 紅い少女は苦虫を噛み潰したような顔で、俺の傷口を確かめた。

岡部「……いや、大丈夫だ」

 俺は、それを手で征すると、立ち上がり、歩きだそうとする。
 少女は怪訝そうに目を細めた。

杏子「何処へ行くつもりだ?」

岡部「何処へでも良いだろう」

 俺は、少女の方を向かずに答えた。
 少女は小さく舌打ちをした。
 
 そして、少女の小さな手が、俺の頭に触れる。

岡部「……?」

杏子「わりぃなおっさん。ちょっと眠っててもらうわ」

 少女がそうつぶやいた瞬間。
 俺の意識は暗転した。



 数分後;路地裏



 目が覚めたのは、路地裏だった。

岡部「……今日は気絶が多いな」

 最初にでたのは、そんな言葉。
 その馬鹿馬鹿しさからか、どこかで苦笑する声が聞こえる。
 もちろん、あの少女だった。

杏子「ククッ、厄日なんじゃね?」

岡部「……そうかもな」

 本当に、今日は厄日だ。
 本当に。

杏子「怪我、直しといたから」

 不意に少女がつぶやく。
 気づけば、俺の腹には、包帯――――の様に細かく裂かれた白衣だった。

杏子「何? おっさん、厨二病って奴なの? その腕、何も怪我してなかったけど」

岡部「……」

杏子「チェ、だんまりかよ」

岡部「……して」

 俺の小さな呟きに、少女は怪訝そうな顔をした。


杏子「何? 何か言った?」

岡部「どうして、お前は、俺を、助けた?」

 通行人どもは皆俺を無視した。
 それが普通だ。
 俺だってそうするだろう。
 なのに、なぜ、この少女は……

杏子「別に、おっさんのためじゃねぇ」

 ピシャリと、少女は言い放った。

杏子「あのバカどものウルサイ声が癪に障っただけ」

岡部「じゃあなんでお前は俺の怪我を治した?」

 俺は早口気味に言った。
 どうして、こいつは俺の怪我を治したんだ?
 何か裏があるんじゃないのか? 
 それとも、さっきの少女のように、俺の姿が癪に障ったのか?
 俺の疑問に、少女は呆れた顔になる。

杏子「理由なんてねぇよ」

岡部「いや、理由があるはずだ。教えてくれ」

 俺の言葉に、少女は顔をしかめた。
 しかし、俺のどこか懇願するかのような視線に、何かを思考する。
 そして、ようやく口を開いた。

杏子「アタシが助けたいと思った。じゃ、だめか?」


岡部「馬鹿言うな、そんなわけ「馬鹿なのはおっさんじゃねぇか?」は?」

 俺の言葉は遮られ、少女は俺をまっすぐに見つめた。
 俺はまた、視線を逸らした。
 少女はかまわず続ける。

杏子「別に、誰かを助けるために、そんな小難しい理由なんて必要ないだろ。シンプルな感情論でいいんだよ」

岡部「……感情に身を委ねれば、誰かを傷つけかねないぞ」 

 俺は、小さく言った。
 感情にまかせて行動すれば、誰かを傷つける。
 それは、不良に刺された俺しかり。
 そして、俺の身勝手な行動で消えていった彼女達にも言えた。


















杏子「じゃあ、そいつの傷を治せばいいじゃん。簡単だろ?」

 何でもないかのように、さらりと少女は言った。


岡部「無茶を、言うな……」

 人間、それが出来たら苦労はしない。
 それが出来たら、犠牲なんて生まれない。
 ましてや、俺にはそんなこと出来ない。
 俺の顔を見て、少女は小さく溜息を吐く。

杏子「誰も傷つけたくないんだろ? それなら、そんぐらいの無茶はしないとな」

 少女ははにかんで、紙袋を俺に投げつけた。
 俺はそれを、何とか掴んだ。
 中身はリンゴだった。

杏子「はいそれ、迷惑料」

 少女は少し笑って言った。

杏子「じゃあな。おっさん」

 そう言って、少女は路地裏の薄暗がりに消えた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 暗闇の中を、杏子は進む。

杏子「こんなもんで良いのかねぇ……」

 杏子は懐を探り、ある物を取り出す。
 それは、お守りだった。
 表面には、少し形が崩れた、『一日一善』の文字。

杏子「『一日一善』って、マミの野郎、頭沸いてんじゃねぇの?」

 つい最近、巴マミと再会した杏子は、無理矢理このお守りを押しつけられてしまった。
 それを律儀に守る杏子も杏子だった。

杏子「まあ、あのおっさんにも悪いことをしちまったかねぇ」

 先ほどの男は、自分が杏子に助けられたと思っていたらしいが、実際は少し違う。

 ―――― ただ、哀れなウサギを喰らおうとしていた狼を、虎が喰らっただけなのだ。

 あのリンゴは、そう言う意味での迷惑料だった。

杏子「しかし、リンゴやりすぎたかね……お」

 そこで杏子は、暗い、暗い見滝原市の夜の空に、金色の穴が空いていることに気づく。
 
杏子「改めてみると、結構デカいなぁ」

 空に空いた穴は、金色の光を放ち、世界を見下ろしていた。

杏子「……」

 杏子は、何となく。本当に、何となく、月へ手を伸ばす。
 しかし、もちろん、指先が月に触れることなどなかった。

杏子「ッケ……何やってんだろうな、アタシは」

 杏子は手を下げると、金色の光に背を向ける。
 そして、ゆっくりと、暗がりの中に消えていく。

杏子「……ッチ」

 何だか、とても大切なことを忘れているような、月の光と共に取りこぼしてしまったような。そんな気がした。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 俺は、リンゴが大量に詰まった紙袋を持ちながら、夜の町を歩く。
 リンゴの重みからか、俺の足取りは先ほどよりも幾分かしっかりしていた。

岡部「全てを、救う……?」

 あまりにも滑稽な言葉。
 馬鹿馬鹿しい言葉。

 俺は既に気づいている。

 俺の左手

 俺の腹

 そこに刻まれた二つの傷は、既に跡形もなくなっている。
 この現象を、俺は知っている。

 青い少女も、紅い少女も、魔法少女だ。

 それぐらい、俺でも気づけた。

 つまり、俺に威勢の良い言葉をはいた二人は、二人とも「力を持つもの」だということだ。
 なるほど、それならば、奴等はマンガのような台詞を吐けるだろう。
 


 魔法

 幻想の世界の力

 それさえあれば、いくらでも強い言葉が吐けるだろう。

 力があるのだから、当たり前だ。

 力がある者の理論だ。

 ならば、力がない者は、どうすればいいんだ?

 俺は、どうすればいいんだ?

岡部「……畜生」

 ドロリとした呟きが漏れる。
 どいつもこいつも、強すぎる。
 どいつもこいつも、かっこよすぎる。
 俺は、そんな人間じゃないのに。
 泥の中で、光を見つめる虫だというのに。

岡部「……畜生!!」

 どうすればいいんだよ。
 牧瀬紅利栖を魔女から魔法少女に戻す?
 俺に出来るわけがない。

 俺は弱い。

 屑以下だ。

 俺は、俺は、俺は――――

















 グチャ
 
 突然、肉が飛び散る音がする。


岡部「……なんなんだよぉ!?」

 間抜けな叫びが、俺の口から漏れる。

 目の前には、肉塊。

 その形状から、近くのビルから飛び降りたのだと言うことが分かった。
 おそらく、自殺だ。

岡部「何なんだよ……これ」

 今日はいろんな事がありすぎる。
 もういやだ。

 何でこんなに馬鹿みたいな出来事が重なるんだよ。

 何で、何で、なん――――














 ―――― そして、世界は反転する。


 
 魔女の結界



 動悸が早くなる。
 息が苦しくなる。

 またか

 またかよ

岡部「……ふざけんなよ」

魔女「ヒャハハハハハハハハ!!」

 魔女がいる。
 牧瀬紅利栖ではない。

 だが、俺が到底かなわない相手だと言うことは既に分かっていた。
 
 俺は殺されるのだろうか。

 さっきは醜く生き残ったのにか?

岡部「ふざけんなよ……!!」

 運命というものが、この世にあるなら。
 俺は、それをグチャグチャにしてやりたい。
 そう思った。


魔女「ヒャハハハハハハハハハハハ!!」

 しかし、それももう遅い。

 魔女は、その鋭い爪をを降りあげ、俺に向かい、降り下ろす。

 俺は、その終わりを、静かに、見つめた――――





















 ―――― 諦めないで。


岡部「!?」

 刹那、黄色い螺旋が魔女を包む。

魔女「ヒャ!?」

 魔女は素っ頓狂な声を上げ、しかし抵抗出来ず、黄色い螺旋に拘束される。

マミ「危なかったわね。大丈夫?」

 そして、俺の目の前には、かつて俺が見た、魔法少女。

岡部「……お前は」

 名前は知らない。
 だが、その顔は覚えている。

マミ「話は後!! まずはお片づけをしましょう!!」

 そして、少女は魔女へ向き直る。














 結果は一瞬で決まった。

 ほとんど、話すことはない。

 少女が勝った。

 これだけ言えば、十分だ。



 ビル街



岡部「随分と、呆気ないな」 

 結界が消え去り、世界が元の色を取り戻す。
 俺は、金色の少女に向かい、小さくつぶやく。
 少女は振り返り、俺を見つめた。

マミ「貴方、魔女を知っているの?」

 俺は頷いた。

岡部「……ああ、一応な」

マミ「じゃあ魔法少女のことも?」

岡部「……ああ」

マミ「知り合いに、魔法少女が?」

 少し、期待を含んだ声色で、少女は呟く。
 俺は、首を振った。

岡部「もう、居ない」

マミ「そう……ごめんなさい」

 俯く少女。
 俺は、自分をズタズタに引き裂きたい衝動を抑え、軽く手を挙げた。
 
岡部「別に、君が謝る事じゃない」


 少女は首を振った。
 そして、俺を見つめる。

 俺は、また、目を逸らした。

岡部「強いんだな。君は」

 俺は話を逸らすために、そんなことを言う。
 少女は恥ずかしそうな顔をし、首を振った。

マミ「別に、私は……」

岡部「強いじゃないか。現に魔女を瞬殺じゃないか」

 本当に羨ましい。
 俺の心からの純粋な言葉に、少女はそれでも、頷かなかった。

マミ「そんなの、本当の強さじゃないわ」

岡部「……強さだろ」

 俺は、少女の頑なな態度に、苛立ちを覚える。
 圧倒的な力、それが強さじゃなくて、何だと言うんだ。

岡部「それなら、強さって何なんだよ」


 羨ましい。

 力が欲しかった。

 何時だってそうだった。

 タイムマシンを作り出す力が欲しかった。

 まゆりを救う力が欲しかった。

 「  」を助けるために力を求めた。

 ……「  」って、何だ?

 思い出せなかった。

岡部「……」

マミ「本当の、強さね……」

 思考の海に沈む俺を、少女の声が引き戻す。

マミ「……諦めない事じゃない?」

岡部「……諦めない、事?」

 俺は虚ろに呟く。
 少女は笑って頷いた。

マミ「どんなに力が強くても、諦めたら終わりでしょ?」


岡部「諦めたら……終わり」

 なら、諦めなければ、出来るのか?
 そんな都合のいいことが、本当にあるのか?

マミ「でも、手を伸ばさなければ、掴めないわ」

 少女は俺を見つめる。
 その瞳から、俺は、もう、逃げることすら出来なかった。

 少女は立ち上がり、後ろを振り向く。
 そして、歩きだした。

岡部「お、おい……」

 俺は、少女のいきなりの動きに戸惑う。
 少女は静かに言った。

マミ「私たちの道は、まだ交わっていないわ。次会うときまでに、私の言葉の意味、考えてみて」

 そういって、少女は去る。
 暗い道に、一人残された。



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 巴マミは自己嫌悪に襲われていた。

マミ「ま、またやってしまったわ」 

 赤と青が混じった顔で、ぶんぶんと首を振る。
 いつもの悪い癖だ。

 人前に出ると、どうしても大人ぶってしまう。
 両親を亡くした日から、ずっとそうだった。

 ずっと、ずっと弱さを覆い隠し、強さを演じてきた。

 そんな自分が、強さを語るとは何事であろうか。

マミ「し、しかも、夢の受け売りなんて絶対に言えないわ……」

 さっき言ったことは全て、夢の中で、誰かが言っていたものだ。
 マミは恥ずかしさで柱に頭を打ちつけたくなった。
 しかも、夢の内容も恥ずかしい。

 自分が死にそうなときに、王子様が助けに来てくれるという、小さい女の子が考えそうな話。

 おとぎ話をそのまま夢にしたような物だったのだ。


マミ「しかも、カッコつけて勝手に帰ってしまったし……。だ、大丈夫かしら、あの人……」

 あわあわとなりながら、自分の来た道を振り返る。
 しかし、引き返すのも、気が引けた。

マミ「……」

 マミは空を見上げる。
 暗闇が、空の果てまで広がっていた。

マミ「……大丈夫、よね」

 マミは穏やかな声を出す。
 確信のない自信が、マミを包む。

マミ「きっと、大丈夫よ」

 マミはそう呟いて、歩き出す。
 きっとあの青年は大丈夫だ。

 なぜならば。

マミ「夢の中の王子様に、雰囲気がとても似ていたから、ね」

 そうして、マミはただ、足を進めた。












                                                世界が回っている。

 様々な糸によって紡がれた世界。

                                       それらが無限にあり、平行に並ぶ。

 交わることはなく、干渉することはない。

                                                   その筈だった。

 小さな、光が、一つの糸から飛び出た。

                                     やがて、無数の糸から光が飛び出る。

 そして、それらがより集まり、重なり分裂する。

                                                  そして、やがて














                             神が、生まれる。













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 一日後;朝


 
 けだるげな眠気が俺を覆う。

 ―――― ……の

 もう少し、寝ていたかった。

 ―――― ……あの

 本当は、ものすごく起きたかったというのに。

まどか「あの!!!」

岡部「うわぁ!!」

 耳のそばで大声が響き、俺の意識は覚醒する。
 見渡せば、公園。
 俺は、金色の少女と別れた後、公園に戻り、ベンチに座り、そのまま寝てしまったのだった。
 かすんだ思考が、徐々に再生していく。
 目の前には、鹿目まどか。

まどか「あ、あの……」

岡部「……何だ?」

 オドオドしながら、鹿目は俺の目を見つめる。
 俺は、それを受け止める。


 鹿目は、俺の後押しを受け、言った。

まどか「あの、ほむらちゃんが、昨日から、連絡が付かなくて……。何か、知ってませんか」

 胃が締め付けられた。
 そうだ、俺は、昨日――――

岡部「魔女と、出会ったんだ」

 気づけば、そう呟いていた。
 鹿目の顔が、分かりやすく強ばる。

まどか「何で、それを、貴方が……」

 しかし、その声は俺の耳に届かない。
 俺は虚ろな声のまま続けた。

岡部「それで、暁美は…………死んだ」

まどか「……………………え?」

 長い、永い沈黙の後、状況を飲み込めないとでも言うように、鹿目は息を吐き出すように、驚愕した。
 俺は、腹の中のドス黒いものを吐き捨てるように呟く。
 
岡部「俺が、殺したんだ……」

 鹿目が息を飲む音が聞こえた。

まどか「ど、どう言うことですか?」

 どういう意味?


岡部「そのままの意味だよ……俺が、殺したんだ」

 虚ろに呟くと、鹿目の顔が赤くなる。
 俺を睨みつけ、絞り出すように叫んだ。

まどか「何でですか!!?」

岡部「…………」

 俺は答える術を知らなかった。
 鹿目は、目に涙をためながら、もう一度叫ぼうと――――

















ダル「あ、居た居た!! オカリーン!!」

 それは、橋田の声にかき消された。


まどか「あ、貴方、誰ですか?」

 鹿目の驚いたような声が響く。
 橋田はそれをちらりと見やると、俺に向きなおり、恨みがましい声で言った。

ダル「何? まさかオカリンナンパしたん?」ウワァ

岡部「そんな訳ないだろう!!」

まどか「そ、そんなんじゃないですよ!!」

 何故か、地味に俺と鹿目の声がシンクロする。
 橋田はフヒヒとイヤらしく笑った。 

 しかし、直ぐに真面目な顔になる。

ダル「……じゃなくて。オカリン」

岡部「な、何だ?」

 橋田の声のトーンが落ちる。
 その目には、真剣な光があった。

ダル「鈴羽氏とまゆ氏は、過去に行ったきり、戻ってきてない」

岡部「!! そう……か……」

 やはりか。

 何となく、そう思っていた。

 しかし、やはりそれをハッキリ宣言されると、体の芯が無くなっていくような気がした。
 しかし、次の橋田の言葉で、立ち上がらなければならなくなる。

ダル「ただ、二人から、預かっている物があるお」

岡部「なん、だと……?」

 俺は、震える体を無理矢理支え、橋田に向かう。
 橋田は、さっきまでとは明らかに違う。厳かな声で呟いた。


















ダル「まゆ氏からの、メッセージだお」 

 これで、今回の投下を終わりにしたいと思います。
 久々にマギカ勢が勢揃いの回でした。
 
 マギカ勢の口調がおかしい気がするけど気のせいだきっと。

 それでは、応援して下さる皆様に感謝を
 お休みなさい

 こんばんは
 10;00から投下したいと思います。


  
 第45話;『物語の終焉は直ぐ其処だ』

 

 まゆりからのメッセージは、ダルが持ってきていたノートパソコンの中に入っていた。
 鹿目まどかが恐る恐る画面をのぞき込んでいるが、まあどうでもいい。
 俺は、逸る気持ちを抑え、まゆりと書かれたデータを、開いた。

 中身はビデオだった。
 未来ガジェット研究所の一室、その中央に、まゆりは居た。



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 ―――― まゆ氏、もう始まってるお。

まゆり『あ、そうなの~? トゥットゥル~☆ オカリーン、見てるー?』

 ―――― そうそう、だから何かメーセージを言って。

まゆり『……う~んとねぇ。え~っとねぇ……』

 ―――― ・・・・・・まさか、考えてないの?

まゆり『違うよ~。いっぱい、考えてたんだけどね。
    いざ言おうとすると、どれから言えばいいか分からないのです』

 ―――― ちなみに、どんなのかkwsk。

まゆり『え~っとぉ……まゆしぃが少し居なくなっている間は、
    オカリンに毎日ご飯を食べて欲しいのと、
    寝る前にちゃんと歯磨きして欲しいのと、
    朝はちゃんと起きるのと……』

 ―――― あ~!! まゆ姉さんもっと短く纏めてよ!!

まゆり『ん~? ……じゃぁねぇ……』

まゆり『ねぇねぇオカリン』

まゆり『まゆしぃは少しの間だけ、オカリンから離れちゃうけど……』

まゆり『絶対に、オカリンの所に帰ってくるから、心配しないで欲しいのです』


まゆり『まゆしぃは、オカリンの人質だから』

まゆり『それに、まゆしぃは何時だって、オカリンの側にいるのです』

まゆり『オカリンがまゆしぃの側にいてくれたみたいに、まゆしぃは何時だってオカリンの側にいるのです』

まゆり『だから、心配しないで』

まゆり『これは、まゆしぃがやりたいことだから』

まゆり『まゆしぃは、オカリンのためになにもできてなかったから、オカリンの役に立ててなかったから』

まゆり『まゆしぃは、過去へ行くのです』

 ―――― うはっ、リアル時を駆ける少女ktkr!!

 ―――― 父さんは黙ってて!!

まゆり『きっと、まゆしぃにしかできない事が、あるのです』

まゆり『だから、オカリンにはまゆしぃが帰ってきたときに唐揚げがたっくさん食べられるよう、準備しておいて欲しいのです』

まゆり『だから、心配しないで』

まゆり『またね』

まゆり『オカリン』


 












 ブツッ


 そこで、ビデオは終わった。



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岡部「何だよ……これ」

 俺は、ノートパソコンを前にして、小さく、声を震わせた。

 なにが、帰ってくるだよ。
 嘘ばっかりじゃないか。
 だって、こんな内容、こんな内容――――

岡部「遺言、みたいじゃないか……」

 ふざけるな。

 ふざけるなよ。

まどか「あ、あの、一体何なんですか? か、過去に戻るって……」ヒソヒソ

ダル「スマソ、これはちょっち企業秘密だから」ヒソヒソ

 後ろの二人が、何事かを話し合っている。
 どうでもいい。

岡部「この、嘘つきが……」

 俺の中で、怒りの業火が燃え上がる。
 ふざけるなよ。
 本当に行ってしまうのかよ。
 また、行ってしまうのかよ。

 あの時みたいに、ふわふわと、ふわふわと、手の届かないところへ。



















 パチン

 させない。



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岡部「何だよ……これ」

 俺は、ノートパソコンを前にして、小さく、声を震わせた。

 なにが、帰ってくるだよ。
 嘘ばっかりじゃないか。
 だって、こんな内容、こんな内容――――

岡部「遺言、みたいじゃないか……」

 ふざけるな。

 ふざけるなよ。

まどか「あ、あの、一体何なんですか? か、過去に戻るって……」ヒソヒソ

ダル「スマソ、これはちょっち企業秘密だから」ヒソヒソ

 後ろの二人が、何事かを話し合っている。
 どうでもいい。

岡部「この、嘘つきが……」

 俺の中で、怒りの業火が燃え上がる。
 ふざけるなよ。
 本当に行ってしまうのかよ。
 また、行ってしまうのかよ。

 あの時みたいに、ふわふわと、ふわふわと、手の届かないところへ。



















 パチン

 させない。


 そうだ、それを俺は最初から知っていた。

 ただ、忘れていただけなんだ。

 ただ、思い出せなかっただけなんだ。

 俺は橋田に向かって叫ぶ。

岡部「橋田!!」

ダル「な、何?」

岡部「何か、何か過去へ繋がる物はないか!? 俺がまゆりを助けるために、役に立つ物はないか!?」

 俺は必死に叫ぶ。
 遅すぎたのかもしれない。
 もう戻れないのかもしれない。

 それでも、俺は――――

 












岡部「俺は、こんな世界、認めない!!」

 まゆりが居ない世界など。

 暁美が居ない世界など。

 少女たちが理不尽な災厄に見舞われる世界など、俺は認めない。


 ―――― 貴方の死を認めるぐらいなら、この世界を壊す方を、私は選ぶわ。

 ふと、そんな言葉を思い出す。
 謎の女が言っていた言葉。
 今は、その意味がよく分かる。

岡部「橋田、力を貸してくれ……」

 こんな世界は受け入れない。
 この俺が破壊してやる。
 そう意気込む俺を、橋田は見つめ、小さく溜息を吐いた。

ダル「……ダル」

岡部「?」

ダル「ダル、僕のあだ名。オカリンが橋田呼びとか、気持ちワリーし、これからそう呼んでくれお」

岡部「……分かった。ダル、助けてくれ」

 俺の言葉に、橋田――――いや、ダルが親指を立てる。

ダル「オーキードーキー。つーか、オカリンにはメッセージがもう一個届いてる」

岡部「何?」


ダル「ほれ、もう一つのファイル。たぶん、オカリン向けだお」

岡部「……これか」

 黒い、簡素なノートパソコンの中にある二つ目のデータ。
      オペレーション  フェンリル
 題名は『作戦名「神を喰らう獣」』。

 俺は、それを開く。
























 ―――― パスワードを入力してください。





岡部「パスワード?」

ダル「……これは」

 ダルが、その画面を見て目を細める。
 何か、知っているのか?

ダル「これ、僕が作ったセキュリティプログラムじゃん」

岡部「なら、解除方法が……」

 俺は一抹の期待とともに、ダルに尋ねる。
 が

ダル「無理。解毒剤を作れる毒なんて意味ねーし、色々魔改造されてるっぽ」

岡部「そうか……」

 俺も、ダルも黙りこくり、画面を見つめる。
 
 パスワード、か。


ダル「つーか、オカリン分からんの?」

 ダルが訪ねてくる。

岡部「俺が?」

ダル「だってこれ絶対未来のオカリンが設定してるっしょ。ファイルの厨二ネーム的に考えて」

 ……俺としては寧ろこんな痛々しい題名は絶対に付けたくないのだが。

 ただ、未来の俺がパスワードを考えた、と言うのはあるのかもしれない。
 俺は、思考する。

岡部(誕生日? いや、そんな簡単じゃないか。人の名前? ランダムすぎる……)

ダル「ん~、このパスワード、二文字、三文字、七文字の単語の組み合わせっぽい」

 俺から引ったくったパソコンをカタカタいじくりながら、ダルは呟く。

 二、三、七文字、だと?

 俺の知っている単語に、そんなもの、有ったか――――














 ズキン

 ―――― EL PSY KONGROO

岡部「エル、プサイ、コングルゥ……」


ダル「は? またその厨二単……それだ、それだお」

 呆れた顔から、直ぐに真剣な顔になるダル。
 俺は、震える声で呟いた。

岡部「英語に直せば、二、三、七文字……」

ダル「オカリン、打ち込んでみるお」

 そう言って、ダルは俺にパソコンを差し出す。
 俺は、ゆっくりと、間違えないように、キーを叩いた――――








 ―――― パスワードを承認しました ――――







 そうして、ファイルが展開する。



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???『まゆりの遺言は見たか? 他のファイルを見ろ』

???『すでに見たなら、このまま聞いてくれ』

???『初めましてだな、十五年前の俺』

???『我が名は鳳凰院凶真』

???『十五年後の、お前だよ』

鳳凰院『お前は、戦いから逃げ出し、その結果、まゆりも、ほむらも失った。そうだな?』

鳳凰院『しかし俺は――――お前は、これから一年もしないうちに』

鳳凰院『再び、タイムトラベル理論と向き合うことになる』

鳳凰院『向き合って、一四年。それが、俺だ』

鳳凰院『このビデオレターを聞いているということは――――』

鳳凰院『お前は、まゆりも、ほむらも失ってしまった。そう言うことだな』

鳳凰院『辛かっただろう。自分自身を死ぬほど恨んだだろう。お前の気持ちはよく分かる』

鳳凰院『なぜなら、俺は一五年後のお前だからな』

鳳凰院『……そうだ。俺も失った。失ったまま、一五年が過ぎたよ』

鳳凰院『言いたいことは分かる。それが分かっているなら、何故止めなかったのか?』

鳳凰院『そう言いたいんだろう?』

鳳凰院『だが、それは出来ない。お前にはあえて全てを失ってもらった』

鳳凰院『そうだ、鈴羽にまゆりを過去に連れていくよう、指示をしたのは俺だ』


鳳凰院『なぜだか、わかるか?』

鳳凰院『必要なことだったからだ。目的は二つあった』

鳳凰院『一つは、腑抜けたお前の目を覚まさせるため。ショック療法という奴だ』

鳳凰院『もう一つは、この俺に、くじけることのない「執念」を与えてもらうためだ』

鳳凰院『お前は、全てから逃げ、まゆりを失い。ほむらを殺した』

鳳凰院『お前自身が、ほむらを殺した』

鳳凰院『ほむらは俺に、お前に、色鮮やかな世界を与えた』

鳳凰院『まゆりを失い、ボロボロになり、灰色の世界で死を待つだけの毎日だった俺の日常を変えたのはほむらだ』

鳳凰院『ほむらが居なければ、この世界線で俺はまゆりを失っても苦しむ心も持たず、全てを諦めただろう』

鳳凰院『なのに、お前はほむらを殺した』

鳳凰院『魔女に操られていたからとかなど、理由にならない。言い訳にならない』

鳳凰院『ほむらをお前が殺したことは「なかったこと」にしてはいけない』

鳳凰院『お前が、お前の弱さが、ほむらを殺したのだ』

鳳凰院『その後悔、その罪悪感が、2025年のこの俺へと――――』

鳳凰院『いや、この計画を完成させた、無数の俺へと繋がっているのだ』

鳳凰院『ほむらを殺してしまった、その「執念」があったからこそ、俺は、このムービーをお前へ届けることが出来た』

鳳凰院『普通のタイムトラベルでは、世界を変えられない』


鳳凰院『この世界は、運命というまやかしに囚われているからだ』

鳳凰院『だからあえて、一度失敗することで、こうして因果を作った』

鳳凰院『お前が失敗してくれたおかげで、この十五年、俺は研究に明け暮れたということだ』

鳳凰院『料理の下ごしらえ、といったようなものだ』

鳳凰院『鈴羽が乗ってきたタイムマシンは、俺とダルが血反吐を吐くほどに研究をしたから生まれた。努力のたまものだ』

鳳凰院『だが、その理論は、かつて牧瀬紅利栖が作り出したものだ』

鳳凰院『史上最高の天才が生みだした理論だ。失敗するはずがないだろう?』ニヤリ
                         magica
鳳凰院『因みに型式は<M204型>。Mは魔法少女の頭文字だ』

鳳凰院『それの本当の意味を、お前はまだ理解できていないだろう。当然だ。だから――――』













           オペレーション  フェンリル  
鳳凰院『俺は、<作戦名「神を喰らう獣」>の第二フェイズへの移行を宣言しよう』
 

      ダイバージェンス
鳳凰院『世界線変動率を変え、未知の世界線――――』

鳳凰院『<シュタインズゲート>へ到達する計画だ』

鳳凰院『ちなみに<シュタインズゲート>と命名したのは俺だ』

鳳凰院『何故<シュタインズゲート>なのかは、お前は分からないだろう』

鳳凰院『だからこそ、お前には――――』














鳳凰院『――――記憶を取り戻してもらう』

鳳凰院『お前は気付いているだろうが、ここにいる俺は、正確には「お前」ではない』


鳳凰院『かつて暁美ほむらと共に戦っていた存在』

鳳凰院『その存在の記憶が、俺の中に存在する』

鳳凰院『分かるか? 俺の中には二人の「岡部倫太郎」の記憶がある』

鳳凰院『暁美ほむらを殺したことによって「執念」を手に入れた「岡部倫太郎」、
     かつて様々な世界線を漂流し、いくつもの理論を手に入れた「岡部倫太郎」』

鳳凰院『俺の中には二つの「記憶」と「意識」が混在しているのだ』

鳳凰院『しかし、これは「岡部倫太郎の失敗」という事象の確定でもある』
                ラスト リーディングシュタイナー
鳳凰院『俺はこの現象を「運命探知の魔眼の呪い」と呼んでいる』

鳳凰院『お前には、前世とも言うべき記憶を思い出してもらわなければならないが――――』

鳳凰院『「ラストリーディングシュタイナー」は絶対に発動してはならない』

鳳凰院『故に、お前には――――』

鳳凰院『人工的にリーディングシュタイナーを発動してもらう事になる』

鳳凰院『しかし、今のお前は「ラストリーディングシュタイナー」が発動しかかっている。
     だが、だからこそ、お前はこのパスワードが分かったし、人工的に無理やりリーディングシュタイナーを発動させられるのだ』

鳳凰院『まず、お前には鈴羽が残したはずの――――』

鳳凰院『「タイムリープマシン」を使用してもらう』

鳳凰院『「タイムリープマシン」は、記憶のみを過去にとばすタイムマシン』

鳳凰院『まあ、端から見たらガラクタにしか見えないからな。ダルが壊してないこと祈れ』

鳳凰院『ククッ……冗談だ』

鳳凰院『まずはお前に、「タイムリープマシン」を使い、二日前。そう、鈴羽がきた時間に戻ってもらう』

鳳凰院『そこで鈴羽にお前がタイムリープしてきたことを言え』

鳳凰院『細かいことは鈴羽が説明する。それに――――』

鳳凰院『お前が思い出せば、全てが理解できるはずだ』

鳳凰院『追加として、お前が世界線を変えるためにするべき事を説明する。まずはこれを見ろ』


 ―――― ザザ……ザザザ……



 古いテレビ映像



レポーター『――――成田発モスクワの行きのロシアン航空801便が飛行中に起こした火災事故ですが――――』

 いきなり、映像が切り替わる。
 画面に映った日付から察するに、恐らく去年の9月頃のニュース。
 そして、画面が切り替わる。

中鉢『――――無事到着させた機長には賛辞を送りたい。彼は、この私と、私が書いた論文を救ったという意味で正に英雄だよ――――』

 ぶてぶてしい表情で、ドクター中鉢は受け答えしている。
 あの時、牧瀬に向かって癇癪を起こしていたオッサンとは同一人物だとは思えない。

 しかも、抱えているのは牧瀬が書いた論文が書いた封筒。
 あの野郎、やはり論文を奪ったのか。

中鉢『――――元々、この封筒は、スーツケースに入れて貨物室に預ける予定だった。
   実際、そうしていたら論文は貨物室で焼け焦げ、
   人類の夢はそこで終わってしまっただろう……しかし!! 
   神は幸運な運命のイタズラを起こした。その神による業がこれだ!!!』

 そして、出したのは――――

 メタル、うーぱ?

 確かに、それはメタルうーぱだった。
 昔、綯がうーぱにはまっていたので色々見せられたから、俺もうーぱだと理解できた。

中鉢『――――これが封筒に入っていたおかげで、荷物を預ける際に
   金属探知機に引っかかってしまってな。私は封筒だけをスーツケースから出して、機内に持ち込んだのだ!!
   先ほど機長は英雄だと言ったが、人類の夢を守った真の英雄は、この小さな人形であると言えよう!!!』

 俺は、アップで写った焼け焦げた人形に、元は何色だったかわからないマジックで、かわいらしい文字で、

 「まゆしぃの」と、書かれていた。

 まさか、これは――――



 ブツンッ


鳳凰院『――――これは、事件が起こった当日、まゆりがガチャポンで当てたものだ』

鳳凰院『――――これが、全ての引き金となる』

鳳凰院『まゆりは当てたうーぱを、その日に落としてしまう。そして、拾ったのが紅利栖だった』

鳳凰院『そして、それは論文と共に、中鉢へ渡り――――』

鳳凰院『紅利栖の論文を火災から守り――――』

鳳凰院『第三次世界大戦の、原因となった』

鳳凰院『つまり、第一に、このうーぱを回収することが命題となる』

鳳凰院『そして、牧瀬紅利栖を魔女の呪縛から解放することが、第零の命題だ』

鳳凰院『「牧瀬紅利栖が魔女となり、その身体が血だまりの中に倒れている」という状況は、運命により確定している』

鳳凰院『しかし、それだけだ』

鳳凰院『「紅利栖を魔女から戻し、世界を騙す」事が出来れば、世界を変えることが出来る』

鳳凰院『彼女を救わなければならない理由は、お前が「思いだせば」分かるだろう』

鳳凰院『――――さて、これまでが、<作戦名「神を食らう獣」>の概要説明だ』


鳳凰院『……最後に、俺からだが、別に聞かなくても言い。まあ、とりあえず言わせてもらうぞ』

鳳凰院『これから、お前には数々の試練が降り懸かるだろう。だが』

鳳凰院『しかし、これだけは忘れるな』

鳳凰院『貴様は誰かのために戦っているわけではない』

鳳凰院『お前は、お前だけのために戦っているのだ』

鳳凰院『お前の戦いはお前が始めたものであり、お前が終わらせるべきものだ』

鳳凰院『それは責任であり、エゴであり、業であり、罪だ』

鳳凰院『その重さに、耐えられないのならば――――』

鳳凰院『――――諦めろ』

鳳凰院『全て受け入れ、「俺」になれ』

鳳凰院『それが最良の選択だ』

鳳凰院『だが、お前がこの世界を否定するのならば、世界を破壊する罪を受け止めるのならば――――』

鳳凰院『――――戦え』

鳳凰院『それが、<シュタインズゲート>に到達するための選択だ』

鳳凰院『健闘を祈るぞ、狂気のマッドサイエンティストよ』

 ―――― エル ――――

 ―――― プサイ ――――

 ―――― コングルゥ ――――






 ブツッ



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その言葉を最後に、ムービーメールは終わった。
 鹿目とダルが、呆れたように突っ立っていた。
 
 しかし、俺は、俺は――――

岡部「フ……フフフ……」

 何故だろう、笑いが止まらない。
 
岡部「エルプサイ、コングルゥだと?」
  ラスト リーディングシュタイナー
 「運命探知の魔眼の呪い」だと?
    オペレーション  フェンリル
岡部「〈作戦名「神を喰らう獣」>だと?」

 馬鹿だ。

 33歳にもなって、何をやっているんだこいつは。

 ちょっと此処に来い。

 暗黒絶龍波を喰らわせてやろう。

 しかし――――

 最高だ。


 俺の理想を、具現化した存在。

 現実という嵐の前で、飛べずに羽ばたけずにいた蝶が、いつも見ていた夢の中の存在。
  ホウ オウ
 不 死 鳥

岡部「……ハハハハハ!! 良いだろう!! やってやる!!」

 アヒルが絞め殺されるときに出すような声で、俺は叫んだ。
 鹿目は目を丸くして、驚いている。
 ダルは、ただ、呆れていた。

まどか「な、何なんですか……?」

ダル「真面目なオカリンなんて、幻想だったんだお……」

 ま、オカリンが変人じゃなきゃ、僕も調子が出ねぇし。とダルは気だるげに肩をすくめる。

 俺はまだ、爆笑していた。

岡部「ククククク……ハハハハハハハ!! フゥーハハハハハハハ!!!!!!!」

ダル「いい加減止めれ。そこのJCがビビってるお」
 
まどか「……は、はは」

 ひきつった笑いを浮かべる鹿目。
 まあ良いだろう。
 勝手にムービー見たんだし。

ダル「つーか、今のムービーって結局どういう意味なん? 世界を騙せとか、マジ基地杉」

 ダルがそんな事を聞いてくる。

 クククッ……!! 良いだろう、教えてやる!!















岡部「知るか!!」 

ダル「ブッ!!」

まどか「!?」

 噴かれた。
 だって意味分かんなかったんだもん。


ダル「じゃ、じゃあどうすればいいん!? あんな厨二メールの解読できるのはオカリンだけじゃん!! どーすんの!?」

岡部「言っていただろう……? 
   その「タイムリープマシン」を使えばいいのだ。ダル、他にも何か橋田鈴羽は残さなかったのか?」

 俺の問いに、橋田は何か考え込むような表情を見せ、そしていきなり顔を青くする。

ダル「え? まさか、あれなん……?」

 ヒクヒクと、唇をひきつらせ、脂汗をかいている。
 何だ? まさか、本当に分解したとか……?

ダル「……いや、指一本ふれてないけど……ガッカリすんなお?」

 何やら不吉なことを言うダル。
 え、何? 何なの?

岡部「フ……フフ!! まあいい!! ダルよ、とっととラボへ行くぞ」

ダル「おー。オカリンがマジでもとに戻った件」

 俺の強がりに、ダルが目を丸くする。
 え、俺いつもこんなんだったの?
                    ラグナロック
岡部「まあいい、行くぞダルよ!! 「最終戦争」は直ぐそこだ!!」

 ……うん、考えないようにしよう。
 厨二プレイ楽しいし。

 白衣がないので、シャツを翻し、俺は秋葉原に戻ろうとする。

 そのシャツの裾を、誰かに捕まれた。


岡部「ん?」

まどか「あ、あの……」

 鹿目が俺のシャツをつかんでいる。
 何か用だろうか?
 まどかは、上擦った声を出す。

まどか「あ、貴方は、何がしたいんですか? ほむらちゃんを殺したって言ってたのに、
    ほむらちゃんを助けるって言って……貴方は何を、望んでいるんですか?」

 ああ、そういうことか。
 確かに、端から聞いたら意味不明だな。

岡部「俺の、望み、だと? ……知りたいのか?」

 俺は歌うように、演技過剰に、唇を歪ませながら言った。
 鹿目は、恐る恐る、小さく、頷いた。
 シャツをパタパタはためかせ、芝居がかった声で叫んだ。

岡部「この鳳凰院凶真の望むことはただ一つ!!」

 ―――― この世界の支配構造を

岡部「破壊することだよフゥーハハハハハハハ!!」

まどか「……え?」

 俺の馬鹿みたいな答えに、鹿目は呆けた顔をする。
 俺はシャツを掴む鹿目を振り払うと、歩き出す。


岡部「……じゃあな、鹿目……行くぞダル!!」

ダル「はいはい……いや、なんかごめんね? 家のオカリン、厨二病だから……」

まどか「は、はあ……」

 面倒くさそうに答えるダル。
 後半は鹿目に言っていたらしい。
 まったく、失礼な奴だ。

岡部「うるさいぞダル!!」

ダル「へいへい……」

 そうして、俺たちは歩き出す。
 失ったものを取り戻す。

 やっと気付いた、俺の本当の思い。

 俺はもう、自分に嘘などつかない。

 進んでやる。

 それが、「運命石の扉の選択」だと、言うならな。

岡部「……なあダルよ」

ダル「なんぞ?」













                           サイフ
岡部「クソッ、機関の陰謀により俺の「邪悪な黒鰐の鱗」が、深刻なダメージを受けたらしい……」

ダル「ラボに帰るまでの金がないんですね分かります」



 未来ガジェット研究所


 
岡部「ダル!! 「タイムリープマシン」は何処だ?」

 ラボに戻るや否や、俺はダルに尋ねた。
 ダルはひきつった笑いを漏らす。

ダル「そこの段ボールの中に入ってるけど……」

岡部「何!?」

 世紀の大発明がそんなぞんざいな扱いでいいのか!?
 俺は若干慌てながら、箱を開く。
 そこには――――














 

岡部「橋田さん。何ですかねぇ……これ」

ダル「知りませんねぇ岡部さん」

 電子レンジを魔改造したガラクタが入っていた。 
 もしかして、俺釣られてる?


岡部「……なにやら、手書き臭い説明書が入っているが」

ダル「ふんふん……こんなんで過去に行けんの?」

 俺の手にある説明書をのぞき込みながら、ダルは唸る。
 俺だって疑わしく思っている。
 だが、

岡部「だが、やるしかないだろう」

 俺は箱の中から、電子レンジを取り出す。
 ダルには説明書を読み、電子レンジのセッティングをすることを頼んだ。

ダル「あ、これペケロッパにつなげんの? 確かにラボにあるけど……マジでこれだけでどうやったら過去に行けん?」

岡部「……御託はいい。早く作業をしろ」

ダル「オーキードーキー」

 そして、それ以降は何も言わず、俺たちは作業を続ける。
 そして、数分後にセッティングは終了した。


岡部「じゃあ、行くぞ……」

 俺は囁くように言った。
 既に、ヘッドセットはつけてある。
 ダルは頷く。

ダル「これで完璧。説明書が正しかったなら、これで二日前に行けるはずだお」

 本当に、これで過去に行けるのか。
 疑念は晴れない。
 
 だが、行くしかない。

 全てを取り戻すために、

 俺は、どんな手でも使うと決めた。

岡部「ダル!! 起動してくれ!!」

ダル「オーキードーキー!! ポチッとな!!」

 ポチ

 簡素な音と共に、電子レンジが起動する。

 ドアは破壊されているため、ターンテーブルが回転する様が見える。

 ビチッ

 バチバチバチバチバチバチバチ!!


岡部「な……!!」

ダル「ほ、放電してるお!!」

 マジか。

 本当に、これは――――

岡部「ククッ、フハハハハハハハハハハハハ!!」

 俺は笑う。
 
 バチバチバチバチと、放電が最高潮に達する。

 俺は、この時ばかりは素に戻り、叫んだ。

岡部「……飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


















 5月14日

  ↓

 5月12日















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 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 頭が痛い。
 だが、懐かしい感覚。


 ―――― 慣れ親しんだ感覚。

 
岡部「……ァ」

 ぼやけた焦点が、一点に集中する。
 世界が、鮮やかな色を、紡ぎ始める。

 最初に見えたのは、懐かしい、幼なじみの――――

まゆり「オカリ~ン。どうしたの~?」

岡部「……まゆり」

 ――――顔だった。

岡部「まゆり!!」

まゆり「わわっ、オカリンどうしたの!?」

ダル「まさかの幼なじみルートッスか!?」

 俺はまゆりを抱きしめていた。
 よかった。

 本当によかった。

 これで俺は――――

岡部「必ず、お前を救う」


 しかし、まゆりは不思議そうな顔をするばかりであった。

まゆり「オカリ~ン。まゆしぃはここに居るよ~?」

 そうか、そうだった。
 まゆりはまだ何も知らないのだ。

 一体、どう説明したら――――「おじさん」

岡部「ん?」

 俺は声のした方へ振り向く。
 そこには、渋い顔をした橋田。
 彼女は、どこか不機嫌な様子で言った。

鈴羽「短刀直入に言う。『戻って』来たんだね?」

岡部「ああ、俺は『二日後』から来た」

 それだけで、鈴羽は事情を察したようだ。
 俺の言葉に、コクリと頷いた。

まゆり「オカリ~ン。二日後から来たってどういうこと~?」

ダル「また厨二設定何?」

 どうやら、残りの二人は全く理解していないらしい。
 俺が説明してやる必要がありそうだな。

岡部「厨二病ではなぅぁい!! 俺は二日後からタイムリープしてきた、正真正銘の鳳凰院凶真だぅぁ!!」

ダル「……厨二杉だろ常孝」

まゆり「あのね~、まゆしぃにはサッパリなのです」


 な、なんて理解力の低さだ。
 未来ガジェット研究所の精鋭の名が泣くぞ!?

 白衣をバサァ!! としながら、そんなことを思っていたら、いきなり肩が掴まれる。

鈴羽「あのね、あんな説明で理解しろって強制することの方が無理があるからね?」

 橋田がものすごい顔で俺を睨んでいた。
 こ、怖ぇ。

鈴羽「それに、あんまり時間がないから」

 橋田はまじめな顔に戻すと、そう呟く。
 確かに、時間は刻一刻と過ぎ去る。
 今は、橋田との話を優先した方が良さそうだ。

岡部「<作戦名「紙を喰らう獣」>だったよな? 俺は何をすればいい?」

 俺の問いに、橋田は言葉を選ぶように、ゆっくりと答えた。

鈴羽「まずは、おじさんに人工的なリーディングシュタイナーを発動してもらう必要がある」

岡部「そうらしいな。だが、それはどうすれば?」

 俺の尤もな問い。
 橋田は、答える。

鈴羽「まず、未来のおじさんがリストアップした人物の、記憶を採取してもらう」

岡部「記憶?」


鈴羽「そう、記憶。おじさんの持つ、以前存在した世界線の記憶を保持する能力は、
    人なら誰しも、能力の強弱はあれど、持っているものなんだ」

岡部「なるほど、それで?」

鈴羽「おじさんと関係が深かった人物の記憶の中には、多かれ少なかれ、
   『かつてのおじさん』がいるはず。それを束ね合わせ、おじさんの脳に入れることで、おじさんの中の記憶を呼び覚ますんだ」

岡部「マジ?」

鈴羽「マジ」

 何それ怖い。
 他人の記憶を移植だと?
 
 そんな悪魔みたいな所行をするのか、俺は。

 ただ、それぐらいしないといけないと言うのは予想していた。

 だから、抵抗はない。

岡部「分かった。なら、その人物のリストを渡してくれ」

 俺は橋田の目をのぞき込む。
 澄んだ目だった。

 そこには、俺にまゆりを連れていくと宣言した狂気はなさそうだった。
 それもそうだ。
 橋田鈴羽は、未来の俺に言われたことを、忠実に守っただけなのだから。
 
鈴羽「あ、うん。これだよ」

 橋田は結構分厚い紙束を俺に渡す。
 これが、俺の戦いの第一歩。

 俺は、その紙束を持ち、高らかに叫んだ。















岡部「これより!! <作戦名「紙を喰らう獣」>の第二フェイズを実行する!!」

 スイマセン鳳凰院の言っている歳月を一年減らしてください。
 これじゃあ因果が大変なことに!!

 ちなみに、

 5月12日;鈴羽光臨、まゆしぃ・鈴羽気絶

 5月13日;鈴羽・まゆしぃ復活 ほむら死亡

 5月14日;オカリンタイムリープ

 という事にしてください。
 
 もうホント誤字ばっか>>1ってホント馬鹿。

 折角の未来オカリンが台無しだよ!!

 本当に今回は色々スイマセンでした。

 それでは、読者の皆様に感謝を
 お休みなさい


 番外編 紙じゃない、神だ。

 本編じゃない世界線にて


岡部「フゥ―ハッハッハッハッハッハ!! ……どうしたまゆりよ」

まゆり「オカリ~ン。紙を食べるのはフェンリルさんじゃなくてヤギさんだよ~?」

岡部「違う!! 紙では無く神だ!! フェンリルは北欧神話で主神オーディーンを殺したとされる魔狼だ!! 断じて山羊では無い!!」

ダル「いや、オカリン完全にイントネーションが紙だったじゃん」

岡部「読み方は『オペレーション・フェンリル』だっただろうが!! どこに紙になる発音があるのだッ!?」

ダル「あれじゃね? オカリンがよく言ってる機関の陰謀って奴じゃん?」

岡部「機関はそんなにショボくないぞ!? ショボくないからな!?」

まゆり「大事なことだから二回言ったんだね~☆」

鈴羽「まさか、その紙に情報が書かれている人達を野獣となったおじさんが食べちゃう(意味深)!?」

岡部「そんなわけあるか!! そんなわけあるか!! 橋田ァ!! 貴様ちょっとおかしいぞ!?」

まゆり「リストにはダル君も載っているよ~?」ペラペラ

岡部「まゆり何時の間に!?」

ダル「オカリン……」

岡部「?」



























ダル「まさかオカリンが僕を狙っていたなんて……」

岡部「そんな訳あるか!! そんな訳あるか!! 断じてそんなことは無いぞ大丈夫だからな誤解するなよつーかしないでください」

ダル「冗談だお」テヘペロッ

岡部「ダァァァァァァァァァァァルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!???」

ダル「オカリンがそんなやつだったらとっくにルカ氏に手を出してるもんな。つーかHENTAI紳士は物理的な手段には出ないお」

岡部「いろいろと文句はあるがまあいい……とにかく俺は断じてそんな性癖は持ち合わせてないからな」

ダル「ハイハイ」

まゆり「わかってるよ~」







































鈴羽「え~、そうなの!? お母さん何時もそんな話をしていた気がするんだどな~? ペンが進むとか言って」

岡部「」

ダル「」

まゆり「えへへ~。鈴さんのお母さんはふ女子なんだね~☆」

岡部「……ダルよ」

ダル「オカリン……」


























岡部「なんか、がんば「嫁が腐女子とか萌死ぬ!!!!!」ハァ!??」

 おしまい

 申し訳ございませんでしたァ!!
 山羊さんっておかしいだろおい!?
 もうヤダ誤字ばっか酷過ぎるぞおい。
 
 まあ、紙束に書かれた人物の記憶を移植すると言えば、ある意味間違って……るなうん。
 作戦名は「神を喰らう獣」です。

 断じてお手紙を食べたりとかはしません。
 山羊さんではありません。
 誤字スイマセンでした。

オカリン「しかし、山羊はギリシャ主神ゼウスが変じた仮の姿なんだよな……ありかも」

ダル「ねーお」

 それでは、終盤も近づいてきたので、連続投下もあるかもしれないなと考える>>1 でした。
 本当にゴメンなさい。

 こんばんは。
 それでは投下を始めます。



 第46話;『置いていくわけがないだろう』

 

 対象1;椎名まゆり



 「え、まゆしぃもオカリンに記憶を渡すの?」

 「まゆしぃは、ぷらいばしーに悪いと思うなぁ……」

 「でも、オカリンなら安心なのです」

 「でも、恥ずかしいなぁ」

 「だってそうだよ~☆ まゆしぃだって大人の階段をしっかりと上っているのです☆」

 「うん……でも、オカリンには必要なんだよね」

 「なら、持っていって欲しいのです」



 対象2;橋田至

 

 「え? 僕もそのリストに入ってんの?」

 「イヤだなぁ……オカリンに記憶を渡すってことはオカリンと一つになるってことっしょ?」

 「……自分で言ってて気持ち悪くなってきたお」

 「ん? なに? 記憶を入れるときは一気に全員分オカリンに書き込むから……」

 「他の美少女たちと一つになれる?」

 「よしオカリン僕の記憶なら幾らでもあげるお」

 「……ま、無茶スンナ」



 対象3;橋田鈴羽



 「今度はあたしの記憶だね」

 「使い方は分かるよね?」

 「もう一度説明しておくけど、このヘッドセットで記憶を読みとり、この記憶装置で保管する」

 「時期が来たら、中の記憶をまとめておじさんに移植する」

 「負担が大きいらしいんだ。他人の記憶の移植ってのは」

 「だから、頑張って」


 
 対象4:桐生萌郁


 
 「……」

 「……………………………………取材?」

 「……………………………………年齢別の女性の脳波を計る………………?」

 「………………………………………………私じゃなければ、いけないの?」

 「……………………」

 「………………やります」

 「…………なんだか、懐かしい気が、するから」



 対象5;漆原るか



 「あ、こ、こんばんは岡……凶真さん」

 「え? これをつけて欲しいって?」

 「ぼ、僕、コスプレとかは、ちょっと……」

 「コスプレじゃ、ないんですか?」

 「す、済みません!! 早とちりしちゃって、僕、僕、どうしたら……」

 「え、これを付けるだけでいいんですか?」

 「……これでいいんですか?」

 「あ、もう帰っちゃうんですか?」

 「そうなんですか……用事なら、仕方ありませんね」

 「用事、頑張ってくださいね。ええと……えるぷさいこん……こんがりぃ?」

 「わっ、済みません済みません!!」



 対象6;フェイリス・ニャンニャン



 「おかえりニャさいませ!! ご主人様……凶真ァ!!」

 「今日は機関との戦いはないのかニャ?」

 「ニャニャ!? それは……かつて聖戦で使われたという「戦女神のティアラ」!?」

 「まさか、フェイリスが六百六拾六代目の戦女神に選ばれたのかニャ!?」

 「大丈夫ニャ凶真……フェイリスはこのティアラにかけられた呪いを必ず打ち砕いてみせるニャ」

 「……ニャニュニュニュニュニュ……」

 「…………」

 「……できた、できたニャ!!」

 「凶真!! フェイリスは遂に「嫉妬狂いの魔女」の呪いを打ち砕き、今世の戦女神となったニャ!!」

 「ニャニャ? どうしたニャ凶真? そんなひきつった顔をして、あ、ティアラ返すニャ」

 「あ、凶真!! 右腕が暴れ出したのかニャ!? え? 今直ぐお払いをして貰いに行かなくちゃニャらない?」

 「あ、凶真!! 凶真!! お店によって行かないニャ!?」

 「……行っちゃったニャ」



 一日後
 

 対象7;巴マミ



 「え? 雑誌の取材?」

 「私がですか?」

 「ちなみに、何処の……」

 「そんな雑誌聞いたことないんですけど……」

 「え? 協力してくれたらケーキクーポン?」

 「……アンケートですか?」

 「違う? 脳波測定機?」

 「……今お金は持ってませんよ」

 「要らない? それなら、じゃあ」

 「終わったんですか? 結果は?」

 「……そうですか」

 「あの」

 「貴方、どこかで私と会ったことありませんか?」

 「ない? そうですか」

 「あ、クーポンですか、ありがとうございます」

 「さようなら……」

 「…………」

 「絶対、どこかで見たんだけどなぁ」



 対象8;美樹さやか


 
 「あ、あたしに取材!?」

 「いや~いつかこんな日は来ると思ってたんですよ~」

 「何が聞きたいんですか? 美しさの秘訣?」

 「え、脳波測定?」

 「じ、地味!!」

 「これ顔とかでない奴じゃん!! 百人に聞きました的なあれですよね!?」

 「うわぁ、やる気なくなちゃったなぁ……」

 「え? 今なら音楽コンサートペアチケット配布?」

 「うわっ、スゴい有名なとこの奴じゃないですか」

 「…………」

 「やりますやりまーす!!」

 「え? 誰かと一緒に行きたいのかって?」

 「違いますよ~。さやかちゃんは誰とも付き合っていませ~ん」

 「何なら、お兄さん、一緒に見に行きませんか?」

 「アハハッ、冗談ですよ」

 「あげたい人が要るんですよ」

 「……これでチケット貰えるんですね?」

 「あ、ホントだ。ありがとうございます!!」

 「お兄さん、見滝原の人なんですか?」

 「違う? 秋葉?」

 「そうなんですか。残念♪」

 「もちろん冗談ですよ~?」

 「じゃあ、さようなら~」

 「……」

 「秋葉原、か」

 「今度行ってみようかな?」



 対象9;佐倉杏子



 「アン? 雑誌の取材?」

 「悪いけど他当たってくんない? こっちも暇じゃないの」

 「は? 今なら菓子詰め合わせプレゼント?」

 「バカなの? 子供じゃねぇんだから……」

 「……捨てる? おいちょっと待て」

 「食べ物粗末にスンじゃねぇぞ? オッサン」

 「……っち、分かったよ。やればいいんだろ? やれば」

 「……もう終わったのか?」

 「随分と呆気無いのな」

 「菓子プレゼント? ああ分かったよ。持っていく」

 「じゃあな~」

 「…………」

 「……名前きいときゃ、良かったかな?」



 対象10;鹿目まどか


 
 「……雑誌の取材、ですか」

 「あの、どうして私が?」

 「ランダムなんですか……」

 「……あ、やりますよ。大丈夫です」

 「…………」

 「もう、終わりなんですか?」

 「……あ、あの」

 「ここらへんで、人を見ませんでしたか?」

 「長いおさげの、眼鏡を掛けた、私と同じくらいの年の、女の子なんですけど」

 「そ、その子が、何時まで経っても待ち合わせ場所にいなくて……」

 「どうしたんですか!? い、いきなり血相を変えて……」

 「あ、あの!? すいません!! すいませーん!!」

 「……行っちゃった」

 「……」

 「……あの人、ほむらちゃんを捜してくれるかなぁ」

 「きっと、探してくれるよね?」



 対象11;ーーーーー



岡部「……暁美が居ない、だと……?」

 俺は見滝原の町を駆ける。
 暁美が待ち合わせ場所に来ていない……?

 知らない。

 俺は、そんな未来を知らない。

鈴羽「……きっと、『暁美ほむらが待ち合わせに来る』は世界線の収束に含まれていないんだろうね」

 俺の吐き捨てた愚痴に、律儀に橋田が答える。
 しかし、俺にはのんきに話をしている余裕がなかった。

岡部「家にいるのかもしれない!! 橋田、暁美の家の住所は分かるか!?」

 俺は橋田に、期待を込めて訪ねる。
 未来人なら、ここで失敗することも知っていたのではないか?
 しかし、橋田は首を横に振った。

鈴羽「……ゴメン、こんな事態は、想定されていなかったから」

岡部「……クソッ」

 俺は悪態をつく。
 俺だって暁美の家を知らないのだから、人のことは言えないのだが、それでも、吐き捨てずには居られなかった。

 思えば、俺は暁美ほむらと言う人物を殆ど知らない。
 彼女だって、俺のことを良く知らない。


 彼女が知っていたのは、俺が今、成ろうとしている「俺」だ。
 俺と彼女は、かつての「俺」によって繋がれていたに過ぎないのだ。
 
 俺と彼女は友人だったのだろうか?

 俺は、どうして、彼女を「捜す」ために駆け回っているのだろうか。

 そもそも、俺が今、彼女に抱いている感情は、本当に俺のものなのだろうか。

 「ラストリーディングシュタイナー」

 それの、初期症状によって植え付けられた、かつての「俺」の思いなのではないのだろうか。
 俺は、実は「俺」を取り戻すつもりで居て――――

















 実は、「俺」に取り込まれているんじゃないのだろうか。

岡部「落ち着け……今はそんなこと考えるな……」

 俺は、カラカラに乾いた唇から、掠れた声を出す。
 俺は俺だ。


 他の何者でもない。

 今は、暁美を捜す方法だけを考えろ……。

 俺は何者でもないんだ。
 
 俺は俺だ――――


















     ホウオウインキョウマ
 俺 は 「 俺 」 だ。

 ―――― 三角路の、少し古びたアパート。

岡部「……ッ」


 まただ。

 またこの感触。

 「ラストリーディングシュタイナー」の初期症状。

 デジャヴ

 俺は、暁美の家を知っている。

鈴羽「どうしたの? おじさん」

 橋田が、訝しげに聞いてくる。
 俺はベッタリと張り付いた口を開く。

岡部「暁美の家はこっちだ……」

鈴羽「? ……ッ!! もしかして、おじさん」

岡部「言わないでくれ。考えたくない」

 何かに感づき、顔を強ばらせた橋田を無理矢理制す。
 考えたくない。
 
岡部「行くぞ、……こっちだ」

鈴羽「……うん」

 俺たちは、暁美の家に向かい、方向を変えた。



 ほむらの家



岡部「……着いた。ここが、暁美の家だ」

 俺は、橋田に向かって言った。
 橋田は自らのソウルジェムをにらんでいた。

鈴羽「人や、魔女の気配は、無いようだけど」

岡部「留守にしているのだろうか?」

 俺は橋田に問う。
 もし留守ならば、待っている方ががいいのだろうか。
 しかし、橋田は難しい顔をして言った。

鈴羽「……可能性は、もう一つあるよ」

岡部「何?」

 俺の干からびた声に、橋田は言いにくそうに、切れ切れに呟く。

鈴羽「もしかしたら、もう、既に、死んで、いるのかも」

岡部「ッ!!」

 その言葉を聞くやいなや、俺は暁美の家のドアノブを掴み、おもいっきり捻る。

 鍵はかかっていなかった。

岡部「暁美!! 暁美ッ!!」

 俺は半狂乱になりながら、靴も脱がずに家の中に入る。


 そんなわけ無い。

 まだ、彼女は死んでいないはずだ。

 まだ、俺は生きている彼女を――――














岡部「……ァ」

 俺は、彼女を見つけた。

 カラフルなソファの上で

 眠るように目を瞑っていて

 それでも、あまりにも生気が無い

 暁美

 ほむらを

岡部「あ、暁美?」

 俺は彼女の側に近寄り、その華奢な腕をとる。
 冷たい。

 とても、冷たい。


岡部「……あ、あ……」

 何だよ。
 俺が殺したときは、あんなにも熱かったのに。
 今は、死ぬほど冷たい。

岡部「……」ギリ

 俺は歯を食いしばる。
 分かっていたはずだ。

 暁美が今日死ぬことは、分かっていたはずだ。

 だけど、俺は

 心のどこかで

 彼女が生きているんじゃないかと

 思いこんでいたんだ。

 だけど、これはまゆりの時とは違う。

 彼女は、俺が覚悟をしたところで、

 行動しなければ、戻ってはこないんだ。


岡部「……暁美」

 俺は、小さく彼女の名を呟く。
 最初は、名字で呼ばれると、彼女は泣きそうな顔をしていたっけ。

 何時からだろう、俺が暁美と呼んでも、何も言わなくなったのは。

岡部「……関係なんて、無かった」

 俺は、小さく囁く。
 そう、関係なんて無い。

 俺が、彼女を救いたいと思う気持ちが、たとえかつての「俺」のものだったとしても。

 関係ない。

 暁美と過ごしたあの日々。

 本当に短い一ヶ月。

 俺は覚えている。

 ならば、彼女を助けたいと願う理由は、それだけで十分だ。

岡部「ふ、フゥーハハハハハハハ!!!!!!」


鈴羽「おじさん?」

 突然笑いだした俺を、鈴羽は驚いた顔で見る。
 俺は白衣をはためかせ、キメキメにポーズを作り、言った。

岡部「タイムマシンを、使おうではないか!!」

鈴羽「……そうだね、確かにそれを使えば、いける」

 そうだ、それを使えばいい。

 俺たちに、遅すぎたとか、間に合わないとか、そんなものはない。
 
 俺は飛ぶ
 
 彼女が居た昨日へ舞い戻るため。

 彼女が居るべき明日へ飛び立つため。

 それが、「運命石の扉の選択」だ。



 












 5月13日;13時24分


   ↓


 5月12日;20時44分







 見滝原中学校



鈴羽「……着いたよ」

岡部「ここは、見滝原中か?」

 俺は辺りを見回した。
 この、無駄に近未来的な校舎は間違いなくそうだった。

鈴羽「過去のおじさんと今のおじさんが会うとタイムパラドックスが起こるからね。結構前に飛ばせてもらった」

岡部「そうか……」

 それについては、異論はない。
 とにかく俺は、暁美に会えればよいのだから。

岡部「行くぞ橋田」

鈴羽「……うん」

 俺たちは、見滝原中学校を後にした。



 ほむらの家前



 ピンポーン

 簡素なチャイムの音がする。

鈴羽「人体反応、アリだよ」

 橋田の声が聞こえる。
 
 俺の鼓動が、ドクドクと鼓動を刻む。

 たった数秒間の間が、永遠にも感じられた。

 カチャリと、鍵が開き、ドアが開く。

ほむら「はい、どちら様……」

 そして、見せるのは、懐かしい顔。
 彼女は、俺の顔を見て、少し呆然とした顔になる。

ほむら「岡部? どうして……」

岡部「話がある、入れてくれ」

 俺の言葉に、彼女はしばらく考え込むような顔をする。
 そして

ほむら「いいわ。いらっしゃい。散らかってるけど」

岡部「……ありがとう」

 俺たちを、部屋に招き入れた。



 ほむらの部屋



 暁美の部屋は、西洋風に纏められている、なかなかに古めかしい家だった。
 中世のヨーロッパのアパートの一室みたいな、感じ。

ほむら「ちなみに、彼女は?」

 暁美が、俺の後ろに立っている橋田を見ながら言う。
 橋田は簡素に言った。

鈴羽「未来人。あたしも、そこにいる岡部倫太郎もね」

ほむら「……!?」

 その言葉に、暁美は僅かに顔を歪める。
 そして、俺に向かいその口を開いた。

ほむら「未来で、何かあったの?」

 俺は、僅かなデジャヴを覚えながら、口を開いた。

岡部「第三次、世界大戦」

ほむら「……!! 詳しく、聞かせて」

 そして、俺は、もう一度語り出す。
 これまでの経緯。
 そして、俺たちの目的。

 そして、これから、どうすればいいのかを。


ほむら「……」

 それを、暁美はただ無言で聞いていた。

 そして、俺が話し終わると、ゆっくりと口を開く。

ほむら「その作戦は何なの? 随分と穴だらけじゃない」

岡部「何だと?」

 俺の言葉に、暁美は頷く。 

ほむら「あまりにも至らない部分が多すぎる。
    たとえば、魔女を魔法少女に戻す部分とかは、あまりにも曖昧すぎる。
    その説明、どうしてくれるのかしらね? 未来人さん」

 暁美は橋田を睨みながら、そんなことを言った。
 橋田はその視線を真っ向から受け、それでも臆せずに言う。

橋田「それは、君の記憶を採取する事で、保管されるはずだよ。暁美ほむら」

ほむら「……」

 橋田の言葉に、暁美は目を細め、何かを思考する。
 そして、ぽつりと言った。

ほむら「……私は、貴方たちに記憶の提供はしない」

 な
 なんだと!?

岡部「な……!! どういうことだ!?」


 俺はソファから立ち上がると、ほむらの肩を掴む。

岡部「お前、それがどういうことになるか分かっているのか!?」

 ものすごい形相で詰め寄る俺に、暁美は突き放すような声色で言った。

ほむら「もちろん。 ……過去には、私が行くわ」

 一瞬、意味が分からなかった。
 
岡部「あ、暁美?」

 俺の呟きに、暁美は強い目で、俺を見つめた。
 どうしてか、俺は目を離せなかった。

ほむら「そちらの方が、確率が高いわ」

 ゆっくりと、しかし、強い意志を感じさせる口調で暁美は言う。

鈴羽「それは駄目だよ」

 橋田が、顔をしかめながら言った。

鈴羽「君は、明日には死ぬ運命なんだ。……今の君が牧瀬紅利栖と戦って、生きて帰れる保証はない」

ほむら「それでも構わないわ。世界を、変えられるならね」

 ほむらは、そんな言葉を、何てこと無いように吐く。
 ただ、それは、それは 

岡部「ふざけるなよ」


 俺はユラリと立つと、暁美を睨みつける。
 暁美は溜息をつき、言った。

ほむら「貴方は魔女と相対できるの?」

岡部「!! そ、それは……」

 いい淀む俺の隙をつき、ほむらは言葉を繋げる。

ほむら「まあ、貴方にも魔女が見えるから、契約する権利はあるんでしょうね」

ほむら「でも、そうして、どうするの?」

ほむら「その計