岡部「愚行移山の」 ほむら「オブサーバーズ」(1000)

 
 タイトル通りシュタインズゲートとまどか☆マギカのクロスオーバーです。
 両作品の独自解釈や、クロスのための設定改変等があります。
 捏造設定や、地の分も多少はいります。
 とにかくまどマギとシュタゲのクロスが見たいんだ!! という人は同士です。
 
 以上の事でも見てみたい、という人はどうか温かい目でお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1366463001

男「まずこのssにて注意していただきたいことが」

1、>>1はss初心者。「いくらなんでもこれはないわ」とか「キモ過ぎる」
とか思った人はブラウザの戻るを押してください。
2、メタ発言があります。ご容赦ください。
3、更新が遅くなります。

男「まあこんぐらいか。あとは…まぁキャラの設定としては>>1の知り合いなどが使われている。
  ちなみに主人公の設定はほとんど作者だ。」

男「次から口調かわる」

男「じゃぁ温かい目で見てやってください。はじまりはじまりー」


               宇宙にはじまりはあるが、終わりはない……無限

                                                 だがそれは『彼ら』に保たれている、幻想でしかない……夢幻

     星にもまたはじまりはあるが、自らの力をもって滅び行く……有限

                                                 しかし確かにそこに『あった』という事実は、永久に刻まれる……悠幻

 海に行ける魚は陸を知らない。彼らが英知を持てばそれもまた滅び行く

                                                 されど英知を持てばたとえ刹那であろうと、この星の王となる

     英知を持つ者こそ最も愚かであることは、歴史からも読み取れる

                                                 それでも世界を我が物顔で歩いているのは、英知を持つ者である

 人間が光の速さを超えるのは、魚たちが陸で生活をはじめるよりも滑稽

                                                 つまり英知を持つ者とは、最も滑稽な生物であるということになる

      これは抗える者達に対する、神からの最後通告と言えよう……

                                                 そしてこれは、神からの最後通告に対する








                           最も滑稽な生物の中でも最も滑稽な者の、最後の抵抗の物語だ






      2010年 8月 17日 午後9時

 東京都、秋葉原、駅から徒歩10分、大檜山ビル2階、そこに俺はいた。

岡部「……また失敗か」

 目の前にあるのは、電子レンジを魔改造したようなガラクタ。 
 だが、これは記憶だけを飛ばすタイムマシン。

 タイムリープマシン

 これこそが、今の俺にとっての生命線であった。

岡部「クソッ!! またタイムリープを……」

 岡部はそう言葉を吐き出しかけて、止めた。
 タイムリープは、無駄。
 そういうことだ。
 
岡部「そもそも、2日間しか戻れないタイムリープに意味はあるのか……?」

 タイムリープで、ある程度の過去なら変えられる。
 しかし、結果はいつも同じ。
 幼馴染の死、それだけだ。

岡部「やはりDメールを…… いや、今さら何を変えるつもりだ?」

 そう、もはや過去にメールを送る必要はない。



岡部「だが、エシュロンのメールを消せば、紅莉栖もッ!!」

 牧瀬 紅莉栖か、椎名 まゆり
   α世界線か、β世界線

   これは、そういう話だ。

岡部「やはり、タイムリープを……」

 しよう。
 そう言おうとした
 その時


    世界戦の収束
           
                       因果応報


                Dメール
 
                                  打ち消す
 
   何を?

                     始まり


      因


                              何を変える?

                    果


                                               終わり

        『岡部倫太郎は、レジスタンスの創設者』

                            『バタフライ効果って、知ってる?』

                なぜ俺は、レジスタンスに?

                                         タイムリープの失敗?

                           違う 

     世界を解放するため?

                           否




    まゆりの、復讐

                         なぜまゆりは死ななければならない?

                                          『人が一人死んでも、世界線は対して変化しません』

          では、まゆりは?

                                         復讐

             ワルキューレ
 
                           鳳凰院凶真の人質

        幼馴染

                                               大切なモノ

                   世界よりも大事

                         ん?

                                     もしや 

                  モシヤモシヤモシヤモシヤモシヤ

岡部「まゆりが、俺の、人質だから?」











 その答えは、ある一点において正解であった。



 なぜ椎名まゆりが死ななければならないのか、
 その答えは思ったよりも簡単だ。


  《岡部倫太郎に、SERNのディストピアに立ち向かうレジスタンスを》

               《作らせる為》

 俺は、そう思ってしまった。

岡部「なんだよ……」

 言葉は、形を成さず、霧散する。

岡部「まゆりが死ぬのは」

   全て

岡部「俺が」

   ワルインジャナイカ



 数百回を超えるタイムリープの中で、俺の思考は完全に摩耗していた。

岡部「だったら」

 だから、通常ならあり得ない答えを導き出した。

岡部「まゆりを」

  オカベリンタロウ
 《鳳凰院凶真》の特別である椎名まゆりを

岡部「人質にしなければいいんだ」

 ただの幼馴染に、特別じゃない存在に、変えてしまえばいい

岡部「なんだ、かんたんじゃないか」ククク

 壊れた思考で、考え付いた答え。
 それは最低最悪で、砂漠の蜃気楼の様に、
 憐れな犠牲者を、罠に誘うのだった。

岡部「だったら早く準備しなければ」

 本来は、考えられない解、
 正道から、外れた答え、
 だからこそ、この世界線の岡部倫太郎は、








 本来の物語から、外れる事となる


     8月 17日 午後11時

岡部「これでいいか……」

 血走った目で、虚ろに告げる。

 件名:
 本文:まゆりを助けるな、まゆりが死ぬぞ

岡部「紅莉栖、まゆり、これで…… やっと……」

 壊れ、道を外れる。
 止めるべき者は、もう、いない。
 
岡部「まゆりとは、もう会えないが、それでいい」

 生きてさえいれば、それで

岡部「さあ、これで……」

 狂ったように、いや、狂いながら微笑む俺は、

 送信ボタンに、

 指を、当てた








  0.571046
  ↓
 π.xxxxxx








 第一話;『まずはテレビでも見ましょうか』






夢を見た

誰かが、泣いている

泣き声が、重なる

それは、鎮魂歌のようで

俺を糾弾する、声のようだった

止めろ

辞めてくれ

助けてくれ

■■■ タスケテ

何処へ行くんだ

行かないでくれ

逝かないでくれ

泣かないでくれ


俺はここにいる

お前を助ける

だから笑ってくれ

突然、彼女は、泣くのを辞めた

泣き顔は、笑顔に変わった

でも、それは、俺の望んだ、笑顔ではなく

狂った様な、壊れた様な、嘲笑だった


彼女が笑えば、鎮魂歌が一つ、また一つと消える

消え去った音は、笑いに変わる

アイツと同じような、笑顔へ

そうして俺の周りには、笑顔がいっぱいできた

みんな笑っている

みんなわらっている

ミンナワラッテイル

でも、俺の目には、笑顔は見えない

俺の魔眼が、能力が、見させてくれない

泣いている

鳴いている

哭いている
















岡部「……ん」パチ

岡部「ここは!?」バッ

 あの『Dメール』を送った瞬間、リーディングシュタイナーが発動した
 
岡部「ここは…… どこだ?」

 気が付けば俺の周りは一変していた。
 異常に本が積まれている、そんな部屋だった。

岡部「なんだ、此処?」

 俺は何気なく、周りに積まれている本を手に取る。

岡部「『タイムマシン考察』?」

 それだけでは無い、

岡部「『量子力学』『相対性理論』『脳科学入門』……」

 様々な分野の本が、所狭しと積んであった。

岡部「ここはいった「おい 岡部ェ!!!!」

懐かしい声が聞こえた、あれは誰の声だっけ。



天王寺「おい岡部、バイトの分際で寝過ごすたぁいい度胸だなぁ? アァン?」

 そうだ、この声はミスターブラウンだった。

岡部「バイト……ですか? 俺が?」

天王寺「アぁ!? 何寝ぼけたこと言ってんだ!? オメェ」

岡部「そうでしょうね、俺がブラウン管工房のバイトなど……」

天王寺「お前は1年前から家のバイトだったじゃねえか?」ナニイッテンダ?

岡部「は?」

天王寺「ホントに寝ぼけてるみたいだな…… さっさと顔洗って店に出ろ。 いいな?」

岡部「えっ」

天王寺「い・い・な?」

岡部「ハイ」


 10分後

岡部「俺が…… バイト?」

 なんだ? 何が起こった?

天王寺「おい岡部ぇ!! 早く来いや!!」

岡部「あ、あぁ」

 何が起こったんだ?
 とりあえず、俺は一階に行くことにした。

岡部「様変わりした部屋に、俺がバイト…… どういうことだ?」

 考えるのは後にしよう。今は情報を集めるのが先だ。
 そう思って店先に出た俺の目に映ったのは

岡部「な……」

 見慣れた秋葉原の街ではなく

岡部「ここは、ドコダ?」

 閑静な住宅街だった。


天王寺「おい岡部、何時まで呆けてんだ。 仕事しろ仕事」

岡部「ミ、ミスターブラウン」

天王寺「……」

岡部「ミスターブラウン!!」

天王寺「あぁ!? 俺の事か?」

 おかしい

天王寺「なんだよミスターブラウンって」サイショキヅカナカッタゼ

 何かがおかしい

岡部「と、とにかく!!」

 ここは、

岡部「此処って、秋葉原ですよね?」

天王寺「……ホントに今日のお前なんかおかしいぞ」

 ココハ

岡部「答えてくださいッ!!」

天王寺「ハァ…… 此処はな」


天王寺「見滝原だよ」

 ドコダ?

岡部「見滝……原?」

天王寺「……本当に大丈夫か? ……今日は休んでいいぞ」

岡部「そう……させて、もらい……ます」

カッカッカッカッカッカ

バタン

岡部「何が起こっている……?」

 解らない

岡部「そうだ!? まゆりは!? 紅莉栖は!? 携帯は何処だ!?」

 ワカラナイ

岡部「…… まゆりのメアドも、紅莉栖のメアドも、無い」

 それだけじゃない

岡部「ダルのも!! フェイリスのも!! 萌郁のも!! ルカ子のも!!」

 なにも、無かった


岡部「……ッ」ガクッ

 ナンダ?ナンダ?ナンダ?

岡部「何が起こっている?」

 どの世界線でも、こんなことは無かったのに

岡部「そうだッ!! まゆりの家に直接かければ……」ピピピピ プルルルルルル

 ガチャ

岡部「俺だ!! まゆり!! いるならへ『お掛けになった電話番号は、現在繋がっておりません』

 え?

岡部「なん……で?」

 ドウシテ?

岡部「クソッ!! もう一回だ!!」

   『お掛けになった番号は……』

岡部「……ッ」

岡部「なら俺の家に直接……」ピピピピ プルルルルルルル

 ガチャ

岡部母『はい、もしもし岡部です「俺だ!!」倫太郎!?』

岡部「母さん!! まゆりは何処に行った!?」

岡部母『…… まゆりちゃんなら』


   モウ、イナイジャナイ

岡部「え?」

岡部母『あぁ、お盆が最近近いから? それなら、お墓参りはいつもと同じ日にやるそうよ』

 聞きたくない

岡部母『まゆりちゃんも災難だったわねぇ……』グスッ

 キキタクナイ

岡部母『椎名のおばあちゃんもその直後に亡くなっちゃって……』

 辞めろ

岡部母『もう二年もたつのね……』

 ヤメロ

岡部母『まゆりちゃんが』

 ナ ク ナ ッ テ カ ラ





 ブツッ

 プー プー プー プー 







岡部「ハァッ ハァッ ハァッ ……嘘だ」

 だって、そんな事

岡部「嘘だ」

 信じられるわけが

岡部「ウソダ!!」

 無いだろう?

















 ブツッ













  3か月後 ブラウン管工房

レポーター『現在、全世界で注目されている《中鉢論文》は、近代科学で否定されてきたタイムマシンに関する論文で……』
 
 時代遅れブラウン管、その向こうから、ローカルテレビのレポーターがこちら側へ話しかける。

天王寺「……」ズズッ

 コーヒーを片手にくつろぐ天王寺。
 心なしか、その表情は暗い。

綯 「……お父さん」

天王寺「何だ? 綯」

綯 「バイトのオカリンおじさん、最近こないね……」

天王寺「……」

 訪れる沈黙

綯 「辞めちゃったの?」

天王寺「…… 有給休暇ってやつだよ」ボソッ

綯 「え?」



 首をかしげる綯、天王寺は愛娘を見つめて

天王寺「まだ上の部屋にアイツの荷物あるだろ?」

綯 「うん……」

天王寺「ほら、夏休みってやつだ」

綯 「そうなの?」

天王寺「ああ、そのうち戻って来るさ」

 優しい、嘘をついた

レポーター『続いてのニュースは、見滝原市の新たな取り組みについてです』

レポーター『見滝原市では、先日、現在増加傾向にある自殺未遂者・及び心中未遂者』

レポーター『それらへの対応として《見滝原特別支援病院精神科》を設立しました』

レポーター『彼らはそこで、メンタルケアを行い、社会復帰を目指す模様です』

レポーター『先日収容された18歳男性も、最初は錯乱が激しかったようですが』

レポーター『現在は落ち着いているそうです』

レポーター『また、彼は初めてのケースとして』

レポーター『市立見滝原中学校で、社会復帰のためのリハビリをするそうで――――』



  ブツッ



天王寺「……なあ、綯、今日はもう店畳んじまおう」

綯 「え?」

天王寺「せっかくの夏休みだ、どっかすきなとこ連れてってやるぞ?」

綯 「ホント?」

天王寺「ああ、ほんとだ」

綯 「じゃあ、私ね―――」

 こうして、彼らの日常は収束されていく。
 どこか、歯車をなくしつつも
 ただ、機械的に回っていくのだ。





 ――――――夢を、見ていた

 ここは劇場

 演目は、『魔法少女』

 使い古された、悲劇だ

 もう、何度も開演し

 何度も終わった

 細部は何度も書き換えられているが、結末は同じ

 救いは、無い

 使い古された表現だが

 その劇場は、壊れたレコーダーの様に

 悲劇を、繰り返し続けていた





 第一幕は、『孤独』

 あたり一面の化け物の中で、たった一人、戦い続ける少女がいた

 周りには誰もいない

 彼女一人、戦い続ける

 彼女は無敵だった

 無敵な故、彼女は孤独だった

 彼女が引き金を引けば、怪物たちは飛び散る

 それは、美しいワルツで

 俺は、悲劇が待っているのというのに

 見とれていた
 
 そして、独りぼっちで戦い続ける彼女にも

 仲間が出来た

 故に









  彼女は無敵ではなくなった









 一番目の少女は、首を跳ね飛ばされた








 第二幕は『正義』

 頼れるものがいない舞台で、彼女は、正義の味方であろうとした

 憧れた正義はもういない

 それでも彼女は、正義を貫こうとした

 彼女は不屈だった

 不屈な故、彼女は限界に近づいて行った

 彼女が刀を振るえば、悪は砕かれる

 それは、痛々しいコンサートで

 俺は、目を背けた

 彼女は確かに不屈の闘士だが、心はただの少女だった

 彼女は確かに正義の味方だが、守る者は居なかった

 故に











 彼女は正義の味方ではなくなった










 二番目の少女は、内なる悪にその身を焼かれた








 第三幕は『愛情』

 愛すべき者がいない舞台で、彼女は、生き続けた

 愛したい者はもういなく、愛をくれる者もいない

 それでも彼女は、生き続けた
 
 彼女は生きようとした

 生きようとした故、彼女は正義と対立した

 彼女は強い、十分に生きれるくらいに

 だが、その生き方に意味は無く

 まるで道化の一人芝居だ

 その生き方に、俺は共感した

 生きる意味の無い彼女は

 最後の最後に、生きる意味を見つけた

 故に








 彼女は命を失った









 三番目の少女は大切な者と共に命を散らした







 第四幕は『世界』

 繰り返される悲劇の中で、彼女は、優しくあろうとした

 その優しさは、さらなる悲劇を生み出すが

 同時に、救いでもあった

 救済ではあるが、彼女は救われなかった

 彼女は救われない故に

 彼女を救いたい者は嘆いた

 優しき少女は、自らを削り

 他の者を助けようとした

 その救いは完全なるもので

 絶対の均衡を持つ

 俺は、あまりの眩しさに

 目を、閉じた

 優しき彼女は他の物を救うために

 人ではなくなった

 故に



 彼女は優しさを失った








 四番目の少女は機械仕掛けの神となり、心を無くした






 さて、これにて悲劇は終了

 すべてが救われるが、何も救われない

 だがこれが正しい結末で――――「認めない」

 「こんな結末、認めないわ」

 どうやら、演劇にケチをつけた客がいるらしいな

 「もう一度、繰り返す」

 何だよ、この終わらない演劇はお前が繰り返してるのか

 早く終わらしてくれよ

 俺だって暇じゃないんだ

 そう言おうと振り向いた俺の目に映ったのは

 「何度でも、繰り返す」

 ―――――――――――――俺だった

 髪は長く、顔は幼い、

 少女のような見た目のそいつは、一見、何もかも俺とは違う

 


 だが同じだ

 同じなのだ

 「クックックックックック」

 笑いが零れる

 こんなとこにいるとはな

 なるほど、演劇が終わらない訳だ

 たしかに、悲劇じゃ終われないよな

 「そうだろ?」











 ―――――――観測者さんよ



これで第一話終了
ここまで読んでくれた方々、どうもありがとうございます
次の投下は一週間後。 
書きたくてやった、後悔はしていない。

ほむほむとオカリンのからみをかくのを目指して!!

あともう一つ、>>26 の天王寺の「せっかくの夏休みだ、どっか―――」はミスです。
正しくは「休日」です。

シュタゲ映画公開ヤッター!!! ということでも書かせていただきました。
5月には文庫版も出るそうで今から楽しみです。

それでは、おやすみなさい

えっと、予定よりも早く筆が進んだので今日の10時ごろから投下しようと思います。
文体や構成、設定に関する疑問や指摘は大歓迎ですが、険悪な雰囲気にしてしまうものは……
それと期待してくれている皆様ありがとうございます!!
それでは


 2010年12月 某日 見滝原特別支援病院精神科

 今日も、一日が始まる

岡部「……」

岡部「……どんな夢を見てたっけ」

岡部「まあいいか」

ガラッ

早乙女「お邪魔しますね~」

岡部「ああ、ミス・シングルですか。 どうしたんです? こんな時間に」

早乙女「……いい加減その変なあだ名はやめてくれませんかねぇ」

岡部「いやです」

早乙女「ハァ…… まあ、いいです。 どうですか? 調子は?」

岡部「別に、いつも通りです」

早乙女「貴方のいつも通りは宛にならないんですけどね……」


早乙女「っと、いけないいけない、話が脱線してしまいました」

早乙女「えっと、そろそろ学校側の手続きが終わりそうなので、それの報告に来たんですけど」

岡部「……随分と時間がかかりましたね」

早乙女「仕方ないですよ、初の試みなんですから」

岡部「じゃあ俺はいつから見滝原中学校に行けば?」

早乙女「三学期から、だそうですね」

岡部「そうですか……」

早乙女「そろそろ岡部君の方も退院なんでしたっけ?」

岡部「……ええ、どうやらもう大丈夫、と判断されたそうですね」

早乙女「3か月っていうのは、見滝原では長い方なんですけどね」

岡部「そうなんですか?」

早乙女「ええ、病院に運ばれても1~2週間で通院も無しになりますからね」

岡部「随分と、速いんですね」


早乙女「まぁ、不思議です、よね」

岡部「不思議で済ませていいんですかね」

早乙女「ですよね……」

岡部「……」

早乙女「と、とりあえず、報告すべきことは終わったので……」

岡部「で?」

早乙女「世間話でもしましょう!!」

岡部「……またですか」

早乙女「またです」

岡部「はぁ……」


 同日、午後3時

岡部「……やっと帰ったか」

 実に長い世間話だった

岡部「俺のため、というのは理解できるのだがな」

 それでも、その心遣いは俺には必要ないものだ

岡部「……始めるか」

 俺はベッドの下から、一冊のノートを取り出す

岡部「早く完成させなければ……」カリカリ

 俺が道を踏み外した原因

岡部「タイムマシンを」カリカリ



 俺の愚行により辿り着いてしまった世界線。

 この世界には、まゆりは居ない。

 そして、紅莉栖も、

 俺がそれを知ったのは新聞でだった。

 牧瀬 紅莉栖 死亡

 この字が俺の中で回り続け、また死にたくなった。

 だが、諦めてはいけない。

 まずはα世界戦に戻る。

 そのために、俺は独力で造らなければならない。

 諦めるな

 絶望するな

 俺の罪を償うその日まで

 執念を持ち

 戦え


 第二話;『そんなに怒らないでください』



 翌日 ブラウン管工房にて

 俺は今現在、見慣れない町を歩いている。

  テクテク

  テクテク

  テクテク

  テクテク……ピタ

岡部「此処だよ……な」

 何度か道に迷ってから、俺はブラウン管工房の前についた。
 無論、自分の荷物を回収するためである。

岡部「……すみません、誰かいますか」

 太陽は既に真上にある。
 いつも通りならミスターブラウンがいるはずだ。
 案の定、古びた店先に人間とは思えない巨体が現れた。

天王寺「……オメェか、岡部」


岡部「無断欠席二か月、家賃滞納二か月、そして……自殺未遂」

天王寺「……」

岡部「……荷物を引き取りに来ました」

天王寺「あぁ? 何言ってんだオメェ?」

岡部「いえ、もう追い出されても仕方ないでしょうし、二階の俺の部屋の引き払いを……」

天王寺「あぁ、そういうことか」

岡部「それでは、二か月分の家賃の返済と、あの件に関しての「家賃だけでいい」

岡部「は?」

天王寺「見滝原中でリハビリすんだろ? 家は近い方がいいじゃねぇか」

岡部「ですが……」

天王寺「あぁぁぁ!! うるせぇ!! ブン殴るぞ!!」

岡部「……」


岡部「……ありがとう、ございます。 ミスターブラウン」

天王寺「その代わりミスターブラウン禁止な」ナンダソノアダナ

岡部「フフッ、検討しておきま「バイトのおじさーん!!!」は?」

ドスンッ

岡部「グェッ」

綯 「バイトのおじさん、こんにちは~!!」

岡部「しょ、小動物……?」

綯 「も~!! 小動物じゃないって言ってるでしょ!!」

岡部「あ……、すまない」

 何なのだ一体、
 天王寺綯が俺に懐いている?
 本当になんなんだこの世界線。

天王寺「い~つまで人の娘と抱き合っているつもりだ岡部ェ!!」

岡部「俺に小動物がタックルしてきてそれを支えきれず俺が倒れその上
             小動物がのしかかっているこの状況をどう抱き合ってると解釈するんですかミスターブラウン」

天王寺「長ぇしどっからどう見てもおかしいだろうが」ホラ、ハヤクナエハナレロ


綯 「やっと夏休み終わったんだねおじさん!!」

岡部「夏休み?」

天王寺(そういうことにしてるんだよ、合わせろや)ヒソヒソ

岡部「あ、ああ、長かったが、今終わってな」

綯 「じゃあまたバイトに来てくれるよね!!」

岡部「……いや、すまない。ここではもう働けそうにないんだ」

綯 「え……」シュン

天王寺「確か見滝原中に行くんだったけか?」

岡部「らしいです「ホント!!?」

綯 「私も来年から見滝原中に行くんだよ!!」

岡部「そうなのか……」

綯 「おじさんと一緒だね!!」エヘヘ

岡部(見た目は完全に小学校低学年なのだがな)


 少しして

 俺はブラウン管工房(仮)の二階にいた。
 つまり俺の部屋である。
 
岡部「今日からここで暮らすんだよな……」

 正直、違和感はぬぐえない。無理もない。こんな場所には、一時間たりともいなかったのだから。
 俺はこの世界線にたどり着いた後すぐ、まゆりを失った絶望から自ら命を絶とうとしたそうだ。
 そうだ、というのは俺の記憶が靄に包まれたように不鮮明であるからだ。
 
岡部「食料も買わないとな」

 まゆりが生きている世界線に戻すのには、Dメールが必要不可欠だ。
 だが、この世界線には電話レンジ(仮)は存在しない。
 そのため、俺は独力で電話レンジ(仮)を完成させないといけない。

岡部「長期戦になるな」

 だが、覚悟の上だ。 

岡部「これは、俺の戦いだ」

 俺への、罰だ。



翌日 秋葉原

 岡部「久しぶりだな」

 俺は秋葉原にいた。
 病院から許可はもらっている。

岡部「秋葉原は変化なし……か」

 フェイリスの時の様に、大きな変化は起こっていない。

岡部「ラボメン達はどうなっているのだろうか……」

 独り言をつぶやきながら歩く。

 やがて大檜山ビルがあった場所にたどり着く。

 だが

岡部「……」

 そこには
 当然だが
 大檜山ビルは無かった。


岡部「――」クルッ

 俺は駅に引き返した。
 これ以上見ていたくなかった。

 そして

 秋葉原駅の近く

 人ごみの中で

 俺は

 見た





岡部「あれは――まゆりの――」


 まゆりが持っていた懐中時計が、俺の前を通り過ぎた


岡部「待てッ!!」

 まゆりの時計は、白いナニカが持っていた。
 動物のようだ。
 身軽な動きで人ごみの中を潜り抜けていく。

岡部「クソッ!!」

 俺は追いかける。
 途中、何人かの人間に不審な目で見られたが、そんなことは関係ない。
 まゆりに関係がある。
 ならば、追いかけるしかない。

岡部「ハァ、ハァ 奴はここか?」

 俺は路地裏にたどり着いた。
 周りは薄暗い。

岡部「何処だ!!」

 必死で探す。
 探さなければと、感じていた。

 そして俺は―――

 
―――世界が切り替わる

 運命の階段を―――

―――世界が切り替わる
 
 踏み外すこととなる―――

怪物「キャハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 俺の認識する世界は一変した。
 薄暗かった路地裏はきらびやかな部屋に変わる。
 どこかのコンサートホールのようだった。
 そして、その中心に、嘲う化け物が、一つ。

岡部「な……」

 驚く俺の視界、その端に何かが映る。
 それは、あの白い動物だった。

岡部「なぜ、ここに……」

???『どうやら付いてきてしまったようだね』

岡部「言葉を!?」

 構わずそれは続ける。

???『大人に、それも男に僕が見えるとはね』

???『少し興味深いな』

岡部「何を――」

 言っている
 そう、言おうとした。

 だが

怪物「キャハハハハハハ……ハ!!!!!」



 怪物の笑いがいったん止まった。

 そして

???『まずい!! 逃げるんだ!!』

岡部「何!?」

 戸惑いつつも、俺は全速力で逃げようとする。

 だが

怪物「あァァああアあぁぁァアあぁぁあァァァァァァァああぁ!!!!!」

 怪物が吠える。
 人型のそれは、全身黒尽くめの、ロックの衣装に身を包んでいる。
 その異形からは何本も腕が、生えている。
 そして腕の一つ一つに、楽器を持ち、鳴らす。
 
 俺は

岡部「ッ!!?! オェ、グェェェェ!!!」

 吐いた。
 
 頭が痛い。ガンガンする。イタイイタイイタイ
 俺は膝をつき、身悶えた。
 無理だ、立てない。
 思考も許されない。



怪物「キャハハハハハハハ!!」 

 怪物が近づいてくる。
 抵抗は不可能。

岡部「ウ…………ァ……」

 死が足音を鳴らす。
 近づいてくる。

岡部「ミ……ンな……」

 極度の恐怖からか、幻覚が見える。
 それは、ラボメンの形をしていた。
 一人の、顔をしていた。

 それは、ダルではない。

 それは、萌郁ではない。

 それは、ルカ子ではない。

 それは、フェイリスではない。

 


 それは、紅莉栖ではなく、

 それは、まゆりでもなかった。

 俺が見たのは、あの少女。

 未来から来た、と語り、俺を導いた少女。

 まっすぐ目をしていた少女。

 それは

 ソレハ




??「アタシが来たからにはもう安心だよ!! そこの人!!」

岡部「鈴……羽?」

 《阿万音 鈴羽》の形をした、何かだった。


 鈴羽の顔をしたナニカは、その身に似合わぬ大きな斧を振り上げる。
 そして、一閃。

鈴羽?「甘いね!!」ブン

怪物「キャハ!?」ザシュ

 怪物は切り裂かれる。

怪物「キャハハハハ!!」

 だが、怪物は全身の裂傷を無視すると、大きく息を吸い――――

鈴羽?「遅い」グチュ

 そのまま、二つに分けられた。

岡部「やった……のか?」

 あまりにも早い決着。
 俺の頭痛もいつの間にかなくなっていた。

 だが

鈴羽?「まだだよ」


 呟く

怪物A「ギャハ!! ギャハ!! 」

怪物B「ハハハ!! ハハハ!!」

 起き上がった怪物は、二つに裂けていた。
 だが、生きていた。
 二つになっても、別々に分かれ、生きていた。

鈴羽?「厄介だね……」

 少女の目が、キラリと光る。

鈴羽?「でも、関係ない!!」ブン

 腕を一振り、そして、斧は無数に増えた。
 金の斧や銀の斧、それらが幻想的な光景を作り出す。

鈴羽?「喰らえ!!」

 斧は、振るわれる。
 振るわれた斧は、無数の斧は、怪物に群がりその肉を、はぎ取ってい行く。
 食い殺していく。

怪物AB「ギャァアアァァァァァあああぁぁあ―――」

 そして、唐突に、斧たちの斬撃は終わり。
 あとには
 食い散らかされたような。
 肉片だけが残っていた。


 少したって

岡部「……」

鈴羽?「いや~、大丈夫だった?」

岡部「問題ない」

???『いや、でも良かったよ、君が生きていて』

 あの白い獣がしゃべる。

岡部「お前らは……なんだ?」

 問う
 そして

鈴羽?「私は」

 答える

鈴羽?「阿万音 由季」

由季「魔法少女さ」


岡部「阿万音……由季?」

 知っている。
 正確には、その苗字を。

 岡部(阿万音 鈴羽の関係者か? 母親、と言ったところか)

 無論、鈴羽はこの時代には生まれていない。
 生まれるかどうかも不確かだ。
 そして

岡部「魔法少女?」

 その単語
 なんだ、その言葉は。

???『それは、僕から説明しよう』

 白い、獣。

岡部「どういうことだ?」

???『と、その前に、自己紹介でもしようか』

 ――――岡部 倫太郎――――


 な

岡部「どうして、俺の名前を?」

 獣は続ける。

???『やはり、そのようだね』

 獣は続ける。

???『では、自己紹介をしよう』

 獣は続ける。

???『僕の名前は―――――』

 獣は続ける。
 そして、目を見開き


???『鳳!!!』







???『凰!!!』







???『院!!!』







???『Qβ(キュウベータ)!!!』


                     ト、‐- 、              , - ―.ォ
                     |: \  \         / /: : :.|
                     l: : : ヽ  `   ̄ ̄  ´  /: : : : /
                      ': : /              \: : /
                      У ,               `く
                     / /                 ヘ ヽ
                     / /  γ::o,      γ::o,  ハ  ヽ
                 ,、  /  i   ヽ::ノ        ヽ::ノ  .i  ヘ‐- 、__
                 ヽ\,    、      、 _  ,      /   ヘイ/,> ,
                  ヾ_」   /\.      `´` ´     /ヘ   /イ     >、
                 / ヾ,.、 λ  `ー‐ァ----  r一 '   入/"   i\       \
            __ /    `>く}ヘ    /     ヘ   /厶へ     \__   ヽ
               ,=―/  ,__(´‐' ノ!/f/!  ゞ--- ' {ヾi. \_
             ,ィ  .,(___ノー__ ̄ー '゙i .| }       | |  ∧`ヽ.
            /(__/ー  ´  -‐ ヾ{___!_   i  i   |  ∧  `ヽ.__
           ノ ∧___,ニ、__      `ー、ノ  /__ /|.   ∧      `ー-、
           `rイ ∧;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i;i/! ̄`ー---'_____//|     ∧         `ヽ      イメージ映像です。
           / 《  `ヽ;i;i;i;i;i;i;i/ /    |、::::::::::::::::::::::::/::|     /          }
           ∨ ゙、   \;i;i;i/,イ  \   |::::::::::::::::::::::::/.:::|   /        ,'   ,′
            \      ̄ /___> !:::::::::::::::::::::/.:::::| <___    i /    {
             \     / |      !::::::::::::::::::/::::::::|      |    |,′   /
               ヽ___/ / |      !::::::::::::::::,'::::::::::|      | _   .!    }
                |    ,'   !     .|::::::::::::::::::::::::::::!       !.|:|  .!    }
                !   , ,′!     .!:::::::::::::::::::::::::::|       ! ̄ ̄ .!    !
                V  ,' .,′ l       |:::::::::::::::::::::::::::|       !    }    |




岡部「……何?」

由季「また始まったか……」



Qβ『フェニックスの鳳凰に院、クイーンのQにβ。気軽に鳳凰院、もしくはQβと呼んでくれ』

由季「全然気軽じゃないんですが」

岡部「……」

 どういうことだ?
 
由季「というか、君の名前はQB(キュウベェ)じゃなかったの?」

 下の方はともかく、『鳳凰院』という単語には聞き覚えがある。
           コピー                                    ゼロノス
Qβ『それは僕の複製体に過ぎない!! 此処にいる僕こそが彼らのオリジナルでありNo.0だ!!』

由季「厨二病乙」

 聞き覚えがあるどころではない。
 
 その名は、まさしく

 俺の

岡部「真名……」

Qβ『よく気が付いてくれた!! 君とは気が合いそうだ!!』

由季「話を合わせなくていいからね?」



Qβ『話を合わせる? そんなはずが無いだろう? 何故なら僕と倫太郎は前世からの魂の導きに「話が進まないから次言ったら切るよ?」……ゴメン』

 何やら小芝居が始まったようだが俺は気にも留めず口を開く。

岡部「一つ、良いか?」

Qβ『なんだい?』

岡部「なぜ俺の名前を知っている?」

 当然の疑問だ。
 俺は名乗ってすらいない。
 初対面の奴にわかる訳が無いのだ。

Qβ『フ……、中々鋭い質問だね』

由季「いや、此処まで倫太郎倫太郎って連呼されれば気づくでしょう」

 気にせずQβは続ける。
 心なしか、その表情が引き締まったように見える。
 最も、鉄仮面染みた面は微動だにしないが。

Qβ『その前に一つ質問をするよ?』

岡部「何だ?」

Qβ『君は……』







 椎 名 ま ゆ り を 覚 え て い る か ?

 
 ドウシテ

岡部「どうして、お前がまゆりを知っている?」

Qβ『どうやら、覚えているようだね』

 忘れるはずが無い

Qβ『ならば、僕の話を聞いてくれ』

 俺がこの手で殺してしまったも同然なんだ

Qβ『そうだな、まずは《魔法少女》について―――』

 ガシッ

岡部「どうして、お前が知っているか聞いているんだ!!」

由季「ちょっと!!! 君!?」

Qβ『落ち着きなよ』

 冷たい声

 まるで感情が入っていないような

 機械的な、声



Qβ『《魔法少女》に関することは、椎名まゆりにも関連する』

岡部「……」

Qβ『だから、僕の話を聞いてくれないかい?』

岡部「……わかった」

Qβ『ありがとう、感謝するよ』

岡部「いいから、早く話せ」

Qβ『そうだね、では、魔法少女について話させてもらおう』

由季「あ、アタシも魔法少女だよ」

Qβ『そう、そして由季がさっき倒したのが魔女、呪いから生まれた存在さ』

岡部「魔女と……魔法少女か」

Qβ『そうだね、そして僕やその模造体達は思春期の少女と契約し、魔法少女になってもらうんだ』

由季「模造体ってアンタね……」

Qβ『そして、魔法少女となった少女には魔女を退治してもらう』

由季「さっきみたいな感じかな」


Qβ『命がけの戦いだ。でも、メリットも確かに存在する』

岡部「メリット?」

由季「『願いを何でも一つ叶えてくれる』んだよ。契約するときにね」

岡部「願いを……?」

Qβ『そうだよ。まぁ、人生を差し出すに等しい契約の等価としてはいささか物足りないけどね』

由季「ホント、アンタ少女と契約する気あんの?」

Qβ『フ、僕の配下となるのはそこらの有象無象では物足りないからね。足手まといがいるよりは少数精鋭の方が良い』

由季「誰が配下だって?」シャキン

Qβ『お、落ち着こう!! 話し合う余地はあるはずだ!!』

岡部「……話を続けてくれ」

Qβ『すまないね、話の腰が折れた』ダレカサンノセイデネ

由季「殴っていいかな?」

Qβ『とりあえず、要点をまとめよう』

 1・魔女という怪物を打倒するために魔法少女が存在する。

 2・魔法少女は思春期の少女がQβとその模造体(QB)と契約して変身。

 3・契約するときには、『一つだけ願いを叶えられる』

 4・魔法少女は魔女と生きている限り戦い続ける。


Qβ『これが基本だね』

岡部「これが、どうまゆりと関係しているんだ?」

 気づいていた

Qβ『……もう気づいているんだろう?』

 気づいてしまった

Qβ『椎名まゆりは』

――――君の幼馴染は




























Qβ『魔法少女だったんだよ』


 ~同日・見滝原特別支援病院精神科~

 暗い診察室に二人の人間が座っている。
 一人は早乙女、もう一人は初老の男。
 岡部の担当医であった。

医者「……どうですか? 岡部君の状態は」

 岡部の担当医が早乙女に問いかける。

早乙女「どう……、ときかれてもその点では先生の方が詳しいのでは?」

医者「確かにそうですけどね……、貴方という第三者の目で見た場合の様子を聞きたいのですよ」

早乙女「……彼はいたって正常でしたが」

 医者は目をわずかに細める。

医者「いたって正常、とは?」

早乙女「それは……、日常会話も普通に出来ましたし……」

 ――――自殺しようとした人には、思えませんでした。

 医者の顔が、若干曇る。

医者「やはり、そう見えますか」

早乙女「何か、問題でも?」


早乙女「むしろ、落ち着いているのは良い事ではないのですか?」

医者「……通常なら、ですがね」

早乙女「どういう事ですか?」

 早乙女の問いに、医者はゆっくりと切り出す。

医者「彼の回復は、ハッキリ言って」

 ――――異常です。

早乙女「異……常?」

医者「貴方は岡部君のリハビリの担当でしたよね?」

早乙女「え、ええ」

医者「なら、これから話すことを心にとどめてください」

早乙女「……?」

 疑問符をうかべる早乙女、構わず医者は続ける。

医者「最初、彼がこの病院に運ばれたとき、それはそれは大変な状態だった」


 ~医者の回想~

岡部『ちがう、ちがうちがうちがうちがう』

岡部『まゆり、ちがうんだゆるしてくれおれはおまえをころしたくないんだただおまえとくりすをすくいたかっただけでおれはそれだけなんだ』

岡部『やめてくれなかないでくれたすけてくれだれかだれかだれかまゆりをたすけてくれそのためならおれなんでもするから』

岡部『母は八ハハハはっは!!! すべてあらかじめきめられてたんだりょうほうすくうなんてむりだったんだ』

岡部『ちがうちがうちがうちがうおれがもっとかしこければまゆりはすくえたんだ』

岡部『まっていろかならずたすけるおまえもくりすもぜったいだぜったいぜったい』

岡部『そのためにはでぃめーるがひつようだおくれおくれおくれおくれ』

岡部『ないないないないないあれがないあれがないとおれはすくえない』

岡部『なんとしてでもなんとしてでもなんとしてでもなんとしてでも』

岡部『すくうまもるたすけるうばうこわすみすてる……』

岡部『かなら、かなら、必ず、たすけないと』


 ~現在・診療室~

早乙女「……ッ!!! そこまでひどい状態だったんですか!!?」

医者「ええ、目も当てられませんでしたよ」

 ――――しかしですね。

医者「その状態は、ほんの一日程度しか続かなかったんです」

早乙女「一……日?」

医者「ええ、夜が明けた後、私が彼の様子を見に行くとですね」

 ――――すまないが、此処は何処だ? なぜ俺は繋がれている?――――

医者「彼の様子は一変。 まるで常人のように振る舞いだしたのですよ」

早乙女「……」

医者「そうですね……」

 確証は、無いのですが。
 医者は続ける。


医者「彼と同じケースを見たことがあります」

早乙女「ケース、ですか」

医者「溢れる感情に蓋をし、なんでもないかのように振る舞う」

医者「たとえば、私が昔診察した大陸の少年兵はですね」

 ――――家族を自分の手で殺していました。

早乙女「……!!!?」

医者「たまに、あるのですよ」

医者「身近な人が、死んだとき」

医者「抑えきれぬ、感情を発露したとき」

 ――――自分の心に、蓋をする。

医者「そうして、自分の心を封じ込める」

医者「ですがね、この症状はかなり良くない兆候です」

早乙女「どういうことですか?」

医者「自分の心を封じ込める、といっても、一時的なものです」


医者「死んだ人の墓を見たとき、大切な人の死を実感したとき」

 ――――その蓋は、決壊する。

医者「そうなれば後は下り坂ですよ」

医者「ずっと死者の顔がちらつき、身悶える」

医者「永遠に罪の意識にさいなまれるんです」

医者「もはや、生きながら死んでいる」

早乙女「……」

 沈黙する二人。重苦しい空気が流れる。

医者「……私も長い事、精神科医をしていますがね」

早乙女「はぁ」

医者「分かったことは一つだけです」

 ――――精神とは、読んで字のごとく

医者「精密な、神の領域なんです」

 ――――人が足を踏みいてれはいけない


医者「真にふがいないのですが、 彼を、守ってやってください」

早乙女「……」

医者「私には、彼がどんな人生をくぐってここまで壊れたかわかりません」

医者「それでも、未来ある若者を壊したままには出来ません」

早乙女「……」

医者「彼には、誰かのサポートが必要なのです」

医者「お願い、出来ますか?」

早乙女「……わかりました」

医者「ありがとうございます」



















 カチッ


 以上で今回の投下を終わりにいたします。
 ……Qβの事については反省はしている。
 もうキャラ崩壊ってレベルじゃないことも分かっています!!!
 ですが、今後のことを考えるとどうしても必要なキャラでした。
 あと阿万音 由季は思いっきり鈴羽を基にしてますね。
 フェノグラムはいつか手に入れる。絶対だ。
 阿万音由季はキャラが不確かなのでね……

 色々と至らないところもあるでしょうが、今日まいた伏線は物語を進めていくうちに回収される
予定ですので。
 期待してくれる皆様に感謝を

 お休みなさい

 応援レスをくださった皆様ありがとうございます。
 書き溜めもたまってきたので投下します。


 第3話:『お茶でも飲んで落ち着きましょう』



 「場所を変えよう」

 阿万音由季の提案で俺たちは阿万音由季のおすすめの店に行くことになった。
 そこは、俺にとっても覚えのある場所だった。

「「「おかえりニャさいませ♪」」」

岡部「メイクイーン+ニャンニャン……」

由季「あ、知ってんの?」

岡部「一応……な」

 おそらく、この世界線での接点は無いだろうが。

フェイリス「あ、由季ニャ~ン!!」

由季「あ、フェイリスちゃん!!」

フェイリス「ダルニャンはあっちの席にいるニャ」

 ん?

岡部「ダルだと?」


由季「え、知ってんの?」

 ……この世界線での俺は高校卒業後、ブラウン管工房で働きながらタイムマシンの研究をしていた。
 ダルと出会ったのは高校1年の時。
 一応知り合いの筈だ。
 此処では、アイツは俺の右手ではなく、ラボメンでもないだろうが。

岡部「高校の時の同級生だ」

由季「ふ~ん、世界って案外狭いもんだね~」

フェイリス「由季ニャン由季ニャン」

由季「ん?」

フェイリス「そちらのご主人様は?」

岡部「……岡部倫太郎だ」

フェイリス「……由季ニャン由季ニャン」

由季「何?」

フェイリス「浮気はダメニャン?」

由季「な、何言ってんのさ?」


フェイリス「彼氏とのデートに男の人を連れてくるとかあてつけにしか見えないニャン♪」

由季「いや、違うしデートじゃないって」

岡部「……邪魔ならどこかで時間を潰しているが」

由季「いや、だからデートじゃないって!!」

フェイリス「冗談ニャン♪」

由季「じょ、冗談ってキミねぇ」

岡部「早く席に案内してほしいのだが」

フェイリス「空気の読めない男はモテないニャンよ?」

岡部「モテるつもりなど無い」

フェイリス「……」

由季「フェイリス?」

フェイリス「エイッ」ギュッ

由季「!?」

フェイリス儲「「「なん……だと?」」」


岡部「何のまねだ?」

フェイリス儲「「「何だ!? あの男!? フェイリスたんと固有結界貼りやがってるぞ!?」」」

岡部「……外野が煩いから離れてくれないか?」

フェイリス「フェイリスに抱き着かれても全く動じないなんて……、まさか、倫ニャンは……」

 あ、これ話が長引くフラグだ。
 ここはどうにか切り抜けるしかない。

 ……あれしか無いか。
 俺はフェイリスに向かい大仰なポーズをとる。

岡部「ククッ、俺の正体を詮索するのは後にしろ」ククククククク

フェイリス「!?」

由季「もしや、岡部君も……」

Qβ『強者同士は惹かれあう。ということか……』

 外野が煩い

岡部「俺たちの真名を名乗り合うには未だ時が来ていない。然るべき時が来るのを待つのだフェイリスよ」

フェイリス「ま、まさか倫ニャンも……」

岡部「倫ニャンではなぁぁぁぁい」


岡部「凶真と呼べぇぇぇ!!」

由季「……ガチか演技かどっちなんだろう?」

フェイリス儲「「「まさか……、あの年にもなって?」」」チュウニビョウ?

 周りの視線が痛い、この世界線に来てからは、うまくスイッチが入らず
 厨二病にも一苦労だ。

Qβ『凶真か……、いいセンスじゃないか』

フェイリス「凶……真……?」

岡部「……?」

 様子がおかしい、顔が少し険しくなっている。
 まさかリーディンク・シュタイナーがまた発動したのか?

岡部「俺が現在提示できる情報はここまでだ。早く案内しろ」

フェイリス「……っは!? わ、わかりましたニャン♪」

 難しい顔でフェイリスが接客する。
 どうやら、まだ発動はしていないらしいな。


 メイクイーン+ニャンニャンの奥にそいつは居た。

ダル「おっ!! ユキた~ん……って横の男は何ぞ?」

由季「あっ、この人はダル君と同じ『協力者』でね……」

岡部「岡部倫太郎、お前と同じ高校にいたはずだが?」

ダル「岡部? 岡部岡部……ってもしや、リア充岡部のことかお!?」

岡部「は?」

由季「え? リア充って?」

ダル「高校一年の時に、男女問わず人気があった野郎がいたお」

 えっと、もしかして。

由季「それが、岡部君だと?」

ダル「そうだお!! 間違いない!! あ~、思い出したらムシャクシャしてきた!!!」

岡部「とりあえず落ち着け」

ダル「うるせぇよリア充!! こっちみ……」

由季「ダル君?」ガシッ

ダル「ヒッ、な、なんぞ?」ビクッ

由季「頭 、 冷 や そ う か 」


ダル「さ、サーセン!!!」

 このカップルの力関係が垣間見える図だ。

由季「ハァ、でこっちは岡部君『魔法少女』について知っている人だよ」

ダル「mjd?」

由季「マジで」

ダル「つーことは岡部も『魔女』の結界に巻き込まれた感じですか」

岡部「そういうことになるな」

Qβ『そこで、僕が勧誘したということになるね』

 Qβが俺の言葉に繋ぎ、語る。
 何故かダルは驚いた顔をして

ダル「あ、QB氏居たん?」

 と聞いた。

岡部「? Qβなら俺の肩にいるが……」

ダル「あぁ、QB氏は魔法少女の才能がある人にしか見えないらしいんだお。声は聞こえるけど……」


 ん? なんかおかしくないか?

岡部「それだと俺が魔法少女の才能があるということに……」

Qβ『あるよ?』

ダル・由季・岡部「ナ、ナンダッテー!?」

ダル「キモチワルッ、まじでゴス衣装着た成人間近の男性とか誰特だよ!!」

Qβ『いや、別に凶真に魔法少女になってもらう気無いし……』

由季「凶真気に入ったんだ……」

岡部「じゃあ、叶えたい願いがあったら貴様と契約すればいいのか?」

 本当にどうしようもなくなったら俺が魔法少女になる場合も考えた方が良いかもしれない。

Qβ『そうだけど、君の才能は魔法少女としては最低ランクだ。 叶えられる願いもそれ相応だよ?』

由季「たとえば?」

Qβ『高級フレンチを一か月食べつつけることぐらいが最高だろうね』

ダル「ショボッ!!」

岡部「うるさい」

 それから俺たちは色々なことを話した。
 魔法少女、魔女、QB、ソウルジェム、グリーフシード……
 気づいたら日が暮れようとしていた。


 おもむろにQβが口を開く。

Qβ『そろそろ凶真にまゆりの事を説明したいんだけど……』

ダル「説明って何ぞ?」

Qβ『ちょっと君たちには席を外してほしいんだ』

由季「どういうこと?」

Qβ『凶真のプライバシーに関わるかもしれないしね』

岡部「別に俺はいいのだが……」

Qβ『それでも、私用だから』

 別にいいというのに、なぜここまで二人(?)で話すのにこだわるのだろう?

ダル「・・・・・ま、言いたくないってんなら聞かないお」ユキタンイコ

由季「え、あ、うん。 じゃあ一時間後に戻って来るね」

 そうして、店を出る二人。
 あの二人が後々に鈴羽を生むのだ。
 そう考えると感慨深い。

岡部「で、説明というのを聞かせてもらおうか」

Qβ『その前に僕等も場所を移そう』

岡部「何故だ?」

Qβ『僕等を熱心に監視している子がいるからね』

 そういって、Qβがチラと見た先にはフェイリスがいまだに難しい顔で俺たちを見つめている。

Qβ『話の邪魔をされても困るしね』

岡部「そうだな、場所を移そう」


 会計を済ませ、店を出る。
 途中でフェイリスに引きとめられたが、やんわりと拒否。

 その後、近くの公園についた。

岡部「で、説明というのは?」スチャ

 俺は耳に携帯を当てながらQβに問いかける。

Qβ『えっと、その携帯は?』

岡部「お前は普通の人間には見えないのだろう? この方が自然だ」

 それに、『報告』に近いからな。
 
Qβ『なるほど、いいセンスだ。僕も数万年前の聖戦の時には姿を現せてい……』

岡部「いいから早く説明をしろ」イライラ

 実にマイペースだなこいつは。

Qβ『そうだね、まずは前提として『椎名まゆり』は魔法少女。 この認識を持っていてくれ』

岡部「……なぜまゆりと契約をした」

 魔法少女になりさえしなければ、まゆりは―――
 いや、決めつけるのはよくない。
 そもそも、あのDメールが悪かったのだ。
 冷静に考えればあんなものは愚の骨頂だ。
 まゆりは、絶対に俺が守る。
 そう決めたはずなのに、それを放棄する。
 実に虫唾が走る。



 だが、同時に思ってしまう。
 まゆりが契約さえしなければ、と。

Qβ『僕と契約したのはね、彼女の意思だ』

岡部「どういうことだ?」

Qβ『……彼女の望みを知っているかい?』

 そのとき、俺の中の何かがはじけた。
 記憶中枢が情報を検索する。


『…… まゆりちゃんなら』





                    『あぁ、お盆が最近近いから? それなら、お墓参りはいつもと同じ日にやるそうよ』



『まゆりちゃんも災難だったわねぇ……』グスッ



                      『椎名のおばあちゃんもその直後に亡くなっちゃって……』


『もう二年もたつのね……』


岡部「亡くなった祖母の……蘇生?」

Qβ『正解だよ。期待通りで何よりだ』

 俺の人質にならなかったまゆりの行きつく先は、魔法少女?

岡部「やはり、この世界線は……」

 必要ない
 やはりDメールを早く送るべきだ。
 そして、そのためには、電話レンジを完成させなければ。

Qβ『そして僕とまゆりは三年間共に過ごした』

Qβ『充実した日々だったよ』

Qβ『この秋葉原にも何度も連れて行ってもらった』

Qβ『他の奴らに言わせたら、無駄だとかいうんだろうけど』

Qβ『僕にとっては、かけがえのない日々だった』

Qβ『この懐中時計は彼女の形見でね、気に入っているんだ。』

岡部「……カイチュー」

Qβ『そうまゆりはいっていたね……』

 この世界線では、まゆりは俺とではなくQβと過ごしたというわけか。

Qβ『君の話もいろいろ聞いたよ』

岡部「……なんと言っていた?」

Qβ『自分が魔法少女になる前は、祖母を失った悲しみで周りが見えなかった』

岡部「……」

Qβ『でも、そんなときずっと凶真が見守ってくれた』

岡部「……」ギリ

 それでも俺は、まゆりを守ることを放棄しようとした。
 最低の、男なんだ。


Qβ『まゆりは君の事が気にかかってたみたいだよ?』

岡部「そうか……」

Qβ『時々、夢を見るんだ、って言ってたよ……』

岡部「夢?」

Qβ『うん……、僕が鳳凰院Qβって名乗ってるのもその影響だよ』

岡部「どういう、事だ?」


 Qβの回想 ~4年前~

 もうすでに夜になった東京の町。
 僕とまゆりは眠らぬ街を見つめていた。

まゆり『まゆしいはね、時々オカリンの夢を見るのです』

QB『オカリンって、君の幼馴染の?』

まゆり『そうだよ』

QB『あまり君と親しくないようだったけれどね』

 実際、岡部倫太郎とまゆりの仲は親しくなかった。
 岡部倫太郎はまゆりを見ると怯えたような顔をする。
 そして必ず。

 ―――― なあまゆり、椎名のおばあさんは元気か? ――――

 と聞くのだ。

まゆり『それは……、仕方がないのです』

QB『どうしてだい?』

まゆり『まゆしいがQBちゃんと出会う前、まゆしいの世界が閉ざされていたとき』

 ―――― オカリンは、ずっと呼びかけてくれていたのに

まゆり『まゆしいは、答えられなかったのです……』


QB『そうして君は僕と出会い、願いを叶え、魔法少女となったんだけどね』

まゆり『そうだけど……』

QB『けど?』

まゆり『もし、まゆしいが』

 ――――魔法少女にならなかったら

 ――――そんな夢を、見たのです。

QB『……ちなみに、どんな夢なんだい?』

まゆり『ん~とねぇ。 まゆしいとオカリンが一緒にいて~』

 ―――― 周りにたくさんの人がいてね?

まゆり『オカリンは《鳳凰院ナントカ》って言っててまゆしいを人質にしているのです』

QB『人質って……』

まゆり『みんな優しくて、かっこよくて、でも』

 ―――― その夢の最後は、いつもまゆしいが死んじゃうのです。

QB『……良かったじゃないか、そんな夢が現実にならなくて』

まゆり『でも、夢はそれで終わりじゃなくてね?』

 ―――― 何時も何時も、オカリンが駆けつけてくれるのです。


まゆり『《俺は鳳凰院ナントカだ~!!》って言いながら』

 ―――― 何時も助けに来てくれるのです。

QB『……』

まゆり『でもね、まゆしいは何時もオカリンの手をすり抜けてね?』

 ―――― オカリンはそのたびに泣きそうな顔をするのです。

まゆり『それでも、また立ち上がって《俺は鳳凰院ナントカだ!! 失敗は許されない》って言うのです』

 まゆりの話を聞く。
 僕は言い知れぬものが胸にこみ上げてくる。
 これが嫉妬だと分かった時には、
 もう、取り返しのつかないことになってしまったが。

QB『……君は一体岡部倫太郎にどんな幻想を抱いているんだい』

まゆり『幻想っていうより、夢だよ?』

QB『分かってるけどさ……、僕が此処にいるのじゃ不満かい?』

 少し、痛みを感じる。

まゆり『不満じゃないよ~。 QBちゃんはまゆしいのパートナーなのです』

QB『……』

まゆり『でもね、夢で見たオカリンはかっこよくて』

 ―――― その鳳凰院ナントカさんは、まゆしいのヒーローさんだったのです。


 Qβの回想;その二 ~一年後~

 暗い路地

 降りしきる雨

 言い知れぬ不安

 それは的中した

QB『まゆり!! まゆり!!』

 僕は彼女の名を叫ぶ、しかし、

 彼女が答えることは無かった。

QB『あ……あ、』

 冷たい体によりそう

 鼓動は聞こえない。

 なにも、ない

QB『うわぁぁァァァァァァァ!!!!!』

 それなのに、自分の鼓動はガンガン鳴る。

 五月蠅い

 五月蠅いんだ


 僕がまゆりと過ごした3年間で得たモノ。

 それが僕を締め付ける。

 絡み付いてくる。

QB『どうしてだよ!!?』

 消えることは無いと思った。

 僕がいれば、最良の結果になると思った。

 そんなのは、まやかしだった。

QB『どうして……来ないんだよ』

 少し前に聞いた話を思い出す。

 彼女はその後も何度か僕に夢を語った。

 それは彼女の願望であり、夢。

 彼女が息絶えるときにやってくる英雄。

 騎士

 鳳凰院―――――

QB『まゆりはずっと待っていたんだよ!?』

 お前のことを


QB『どうして来ないんだよ!!』

 そんなのは分かりきっていた。

 それはまゆりの夢だ

 現実に

 そんなものなどいない

QB『何でいないんだ……』

 いない

 いない

 いない

 ならば

QB『この世界に、いないというのなら』


 英雄が

 ヒーローが

 騎士が

 正義が
 
 いないのなら

QB『僕が』

 僕が

QB『なってやる』

 もう二度と、繰り返さない。

 まゆりと同じ目に合う少女はもう見たくない。

 だから

QB『今から、僕の名は』

 まゆりの英雄

 《鳳凰院》







Qβ『Qβだ!!!!』



 現在

岡部「……」

 現在、俺はQβの話を聞いている。
 こいつが《鳳凰院と名乗った理由》も分かった。

 だが、分からないことがある。



          ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 
 まゆりはなぜ、未来のことを知るリーディングシュタイナーを発動した?




 《鳳凰院 凶真》を夢で見たのは、おそらくリーディングシュタイナーのせいだろう。
 リーディングシュタイナー自体はあまり珍しい、と言うほどのモノでもない。
 実際、ラボメン達が記憶を回復することで俺は助けられてきた。
 
 しかし、それはあくまで《過去の記憶》だ。
 改変される前の記憶を持っていても、4年前では自分が死ぬ記憶など受け継がれない。

 たしかに、今ここにまゆりがいるのなら、自分が死んだことを思いだすかもしれない。

 だが、実際に思い出したらしいのは4年前。

 予言染みた不気味さがある。

岡部「なぁ……、魔法少女って予言とかできるのか?」

Qβ『出来る子もいるさ、でも魔法少女の能力は一人一人違うんだよ』

岡部「まゆりは?」

Qβ『彼女はそういう能力では無かったね』



岡部「そうか……」

Qβ『驚いたかい? 僕はホントはただのQB、《鳳凰院 Qβ》なんてただの設定さ』

岡部「いや、全然?」

Qβ『手厳しいなぁ』

 そしてQβが俺を見つめる。

Qβ『まあいいさ』

 ――――話はもう一つあるんだ。

 話?

岡部「何だ?」

Qβ『キミを信頼して言おう』

 ――――魔法少女の、真実についての話を


岡部「真実?」

Qβ『そう、真実だ』

岡部「なぜ俺に?」

Qβ『君に知ってほしかった』

 ――――これは、僕の贖罪なんだ

 赤い眼は俺を睨む。
 その無表情に、
 僅かな翳りを見た。

岡部「……いいだろう、話せ」

Qβ『恩にきるよ』

 そうして話はじめる。

 ソレハ

 禁忌の、真実だった。


Qβ『魔女は、何から生まれると思う?』

 突然の問い

岡部「俺が知るわけないだろう」

Qβ『魔女は呪い、つまり穢れから生まれる、さっきの話で少しふれたね?』

岡部「一応な、だが抽象的すぎていまいちわからんな」

Qβ『そういう風に言っているんだ、当然さ』

岡部「何?」

Qβ『ソウルジェムは、魔法を使うたびに濁っていく。分かるかい? 穢れていくんだ』

岡部「……」

Qβ『この星の人たちは成長途中の女性のことを少女と呼ぶんだろう?』

 話がまた、突然切り替わる。

Qβ『ならば、やがて魔女になってしまう彼女らを』

 魔法少女と、呼ぶべきだ。

岡部「お前らは……、何がしたいんだ?」


 魔法少女から魔女が生まれ、魔女を魔法少女が倒す。
 永遠に終わらぬ円環。
 ウロボロス。
 何故だ?

Qβ『宇宙の延命』

岡部「何?」

Qβ『エネルギーというのはね、日々目減りしていくんだよ』

Qβ『エントロピーって言葉を知っているかい?』

Qβ『エネルギーは形を変えるごとに失われていく』

Qβ『正確には質が下がる、と言った方が正しいけどね』

Qβ『まあ、どうでもいい。重要なのはそこじゃないんだ』

Qβ『僕達は探していたんだ』

 ――――熱量学の法則にとらわれないエネルギーを

岡部「馬鹿じゃないのか?」

 そんなもの、あるはずが無いだろう。
 食っても太らないケーキを見つけるようなものだ。

Qβ『あったんだよ』

Qβ『それが、《感情》。君たちの中に在る混沌さ』


岡部「感……情?」

Qβ『そうだよ、僕たちは感情をエネルギーに変える技術を確立した』

Qβ『しかし、僕達には感情が無い』

岡部「だから、人間に目をつけた?」

Qβ『御名答』

Qβ『ソウルジェムはね、感情の動きでも濁っていくんだ』

Qβ『たとえば憤怒、たとえば嫉妬、たとえば恐怖』

 ――――たとえば、絶望とか。

Qβ『そして濁りきったソウルジェムはグリーフシードになる』

Qβ『魔女の誕生だ』

Qβ『そしてその時、膨大なエネルギーが発生する』

Qβ『最もエネルギー効率がいいのが第二次性微期の少女の希望と絶望の相転移なんだよ』

Qβ『そうだね、宇宙を5日くらいは延命できるんじゃないのかな』

岡部「たった、5日だと?」

Qβ『宇宙の広さを考えると、それは途轍もない量だよ?』


岡部「別の方法は、無いのか?」

Qβ『ある事にはあるさ』

岡部「じゃあ、その方法を使えばいいんじゃないのか!!?」

Qβ『僕等のトップがそれを許さない』

Qβ『僕等は効率重視なんだよ』

岡部「ふざけるなよ!! じゃあ、まゆりは!? たとえ生き残っても、希望なんてないじゃないか!!」

 こいつはまゆりと共に過ごしていたのでないのか?
 あまりにも、非情じゃないか。

岡部「阿万音由季は!? アイツの未来はどうなるんだ!?」

Qβ『……』

岡部「お前らは……神にでもなったつもりか?」

 脳が冷えていく。
 思考が冷静になっていく。
 まゆりが殺された時とは違う、
 でも、それと同じくらい黒いものがこみあげてくる。


岡部「そんなことのために、まゆりは死んだのか?」

Qβ『もし、誰か知らない人の命一つで、まゆりが生き返ったら、君は、その他人を殺せるかい?』

岡部「どういうことだ?」

Qβ『まゆりと、他人、どちらが大事だって聞いているんだ』

Qβ『君は、まゆりを救うためなら、見知らぬ人をその手で殺せるかい?』

Qβ『僕達は、できた。数億人の少女より、宇宙の延命を選んだんだ』

岡部「……」

Qβ『価値観の問題なんだよ』

岡部「……」

Qβ『……』

岡部「……」

Qβ『……』

 沈黙

Qβ『僕だって……』

 おもむろに語りだす。


Qβ『僕だって、もうこんな事はしたくない』

 それは、叫び。
 それは慟哭であり、嘆き。
 感情というダムが決壊したように吐き出す、怒り。

Qβ『こんなことは間違っている。 わかっているんだ!!』

Qβ『でも仕方ないんだ!! 僕一人じゃ何もできない!!』

岡部「お前……」

Qβ『僕一人で何かが変わるのか!? 無理なんだよ!!』

Qβ『何も変わらない!! しまいには疾患者として登録除名がおちだ!!』

Qβ『でも、それでも僕は抗いたい!! 抗いたいんだ!!』

Qβ『まゆりのような子はもう生み出させたくない!!』

Qβ『出来るなら時を戻しまゆりを救いたい!!』

Qβ『でも、それが出来ないから、せめて……』

 その嘆きを聞いたとき。




















 パチンッ


 アイツが、目覚める。

岡部「フゥ――――ハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」カンカンカン

 滑り台の階段を駆けあがる。

子ども「ママー。 あそこの人……「しっ!! 見ちゃいけません!!」

 もうスイッチが入った。
 周りの目など気にしない。
 そう、そうあるべきなんだ。

Qβ『え?』

岡部「貴様はまゆりを救いたいのだろう?」

Qβ『でも、そんな事……』

岡部「不可能か?」

 違う

岡部「そんな言葉は溝に捨てろ!!」

 不可能などと言う言葉は、愚者以下の賢者気取りの糞どもの言葉だ。

岡部「時を越えろ!! 世界を変えろ!! 意地でもまゆりを救いたいのなら!! 俺に協力しろ!!」

 本当にすくいたいと思うなら、足掻け。

Qβ『なに……を?』

岡部「時を超える」

Qβ『!?』

岡部「正確には、時を超えてメールを送る」

Qβ『正気かい?』

岡部「俺はいつだって本気だ」

 だから、聞いてくれ


岡部「わが名は、ふぉぉぉぉぉぉうおぉぉぉぉぉぉういん!!!! ぎょぉぉぉぉぉんま!!!!!!」

 高々に言う。
 俺の真名。

QB『は、なんて?』

 相手の反応なんて気にするものか。

岡部「貴様の贖罪は確かに聞いた!! 次は俺の話を聞け!!」

Qβ『凶真の、話?』

岡部「そうだ!!!」

 そうして俺は語りだす。
 これまでの世界線漂流を
 俺の罪を

Qβ『……』

 Qβは無言で俺の話を聞いていた。
 
岡部「~~~~~~」

 俺はせきを切ったように吐出し続ける。
 そう、全ては俺の責任だ。
 俺の浅はかさが悪いのだ。



 そうして俺は話し終える。

Qβ『君の言っていることは面白い仮説だね』

岡部「仮説ではない、全て真実だ」

Qβ『もし、それが真実なら、君が最後に送ったDメールを打ち消せばいい……と?』

岡部「理解が早くて助かる.。 最も、問題はまだ多くあるが」

 Dメールを送るには時がたちすぎている。
 タイムマシンも作らなければならないだろう、な。

Qβ『時を超える……か』

岡部「どうだ?」

Qβ『正直、骨董無形な話だ』

 ――――――でも、辻褄は合ってる。

 そうして考え込むQβ。
 5分ほどしただろうか。
 おもむろにあいつは口を開いた。

Qβ『話が本当なら、僕を連れて行ってほしい』

岡部「どういうことだ?」

Qβ『君の手伝いをさせてほしい』


岡部「貴様が何の役に立つというのだ?」

Qβ『安心してくれ。僕は地球外生命体、超技術には事欠かないかと思うけどね』

岡部「……阿万音由季はいいのか?」

Qβ『問題ない、彼女は強いからしばらくは大丈夫さ』

岡部「……分かった」

 ならばすることがあるな。

岡部「Qβ!!」

Qβ『?』

岡部「貴様をラボメンナンバー009に任命する!!」

Qβ『ラボメンって君の話に出てきた?』

岡部「そうだ」

Qβ『……いいのかい?』

岡部「タイムマシンに関わるなら当然だ」

 そして、新たな同志よ

岡部「歓迎するぞ!!! フゥ――――ハハハハハハハハハ!!!!!」


Qβ『でも、僕は……』

岡部「ゴチャゴチャ言うな!!」

 そう、こいつはもう仲間だ。
 俺と同じ目的を持つ、な。

Qβ『……ありがとう。凶真って、優しいんだね』

岡部「なっ!? こっこれはだな、そう、地球外生物の技術力を持ったものを牛馬のように働かせる俺の作戦でな……」

Qβ『……君は愉快だね、見ていて飽きないよ』

岡部「ま、まあいい、そうなれば由季さんに了承を取らなければな」

Qβ『そろそろ時間だ、僕達も店に戻ろう』

 俺たちはメイクイーン+ニャンニャンへあるく、
 心なしか希望が見えてきた気がした。
         シュタインズゲート
岡部「これが、《運命石の扉》の選択か……」

Qβ『シュタインズゲートってなんだい?』

岡部「あとで教えてやろう」

 そういって、歩く。
 さあ、見滝原へ戻ろう。






 俺の、戦いへ

 以上で第3話終了です。
 長かったと思われた方はスミマセン……。
 説明パート的な意味合いもあるのでかなり長くなりました。
 
 Qβが鳳凰院を名乗る理由はこの回で明かされました。
 ですが、それと同時に新たな謎も加わったと思います。
  
 応援レスをしてくれた皆様に感謝を
 それでは、お休みなさい

 10時から投下したいと思います。
 数々の応援レスありがとうございます。
 そして誤字指摘ありがとうございます。
 正しくは荒唐無稽ですね、骨董無形って……


 第四話;『お茶菓子はどうだい?』


 時は過ぎ去り 1月

 俺は見滝原中学校にいた。
 もちろん、社会復帰という名目のせいである。

早乙女「何ですかその格好は!!」

 俺は立たされている。

岡部「いや、ちゃんと支給されたスーツを着てますが……」

早乙女「髪型は? 髭は?」

岡部「いや、時間が無く」

早乙女「時間が無くても最低限の身だしなみは整えてください!!」

 実に小うるさい事だ。
 だから結婚できんのだ。

早乙女「あぁ~、もう!! ちょっとこっちへ来てください!!」

岡部「は、何を?」

早乙女「早く!! ハリー!!」

 ネクタイを引っ張られ俺は連れ去られる。
 行き着いた先は水道だった。


岡部「ここで何を……」

早乙女「これで身だしなみを整えてください」

 差し出されたのは、化粧道具(男性用)。

岡部「なぜこんなものを?」

早乙女「ふっふ~ん♪ 実は私に出来たのですよ」

岡部「は? 何が?」

早乙女「彼氏ですよ~、カ・レ・シ!!」

 曰く、最近彼氏が出来たので持ち歩いているそうだ。

岡部「まさかミス・シングルに彼氏ができるとは……」

 だが、化粧道具は使われた様子が無い。
 なんとなく重そうな愛である。

早乙女「舐めないでくださいよ~」コノママゴールインシテヤル

 などとほざくミス・シングルを無視し化粧道具を取る。

岡部「しかし公立の教室に据え置きの鏡があるとは……」


早乙女「見滝原中はそこんところ力入れてますからね~」

 適当な話をしつつ、身だしなみを整える。
 10分後、ようやく終わった。

岡部「……どうですか?」

早乙女「」

 無言

岡部「どうですか?」

早乙女「ッは!? え、いやぁ、大丈夫ですよ? 前とは大違いです。ムーンとスッポンです!!」

 よくわからないことを言う。

岡部「はぁ、そうですか」

早乙女「さ、さぁ!! SHRの時間ですよ~」ハハハハハ

岡部「大丈夫だろうか……」


 見滝原中学校;一年教室

早乙女「それでは!! 皆さんにお知らせがあります」

 ミス・シングルが告げる。
 なにやら彼女が俺について説明している。
 3分ほどで終わった。

早乙女「さて、岡部先生どうぞ!!」

岡部「初めまして、岡部倫太郎と言います。来年度の5月までという、少々長い期間ですが、どうかよろしくお願いします」

 あらかじめ考えておいた言葉を言う。
 慣れない言葉遣いだが、このくらいなら大丈夫だ。

生徒たち「「「」」」ポカーン

 な、何だ?
 生徒たちは無言だ。
 もう少しなんかざわついていてもいいのではないか?
 そして、突然。

女生徒s「「「キャ~!!!!!」」」

 思いっきり叫ばれた。

女生徒A「どんな人かと思ったらイケメンじゃん!!!」

女生徒B「凄いスゴーイ!! モデルみたい!!」

さやか「病院からくるって言ったからどんな奴かと思ったらすごいのが来たねまどか!!」

まどか「う……うん」


 どうやら第一印象としては上々らしい。
 何事もなく終わるといいのだが……。

早乙女「ハイみなさん静かに!!」

 ミス・シングルが注意する。

早乙女「それでは、岡部先生への質問は休み時間にしてください!! SHRを始めます」

 そうして、俺の奇妙な新生活は幕を開けるのだ。

 ~~休み時間~~

女生徒B「先生!! 好きな本とかあります?」

女生徒C「先生!! 好きな番組とかは?」

さやか「何で病院に入ってたの?」

まどか「さやかちゃんやめようよ……」

 生徒に囲まれた。
 そんなに病院から来た男が珍しいか。

岡部「あ、と、そのだな?」

 実に初日から厄介である。


 ~五時間目 総合

 何とか休み時間のたびに質問を投げかけてくる生徒をかわし五時間目までたどり着く。
 五時間目の内容は『特別授業』。
 なんでも、俺が一時間好きに授業していいらしい。

岡部「なにかいい授業内容は無いか~?」

 情けないが考えていない。
 生徒頼りも情けないが仕方ない。

さやか「は~い!!」

 青い髪の女生徒が真っ先に手を上げる。
 先程失礼な質問を投げかけてきた奴だ。
 美樹 さやか、と言ったか。

さやか「最近、タイムマシンがどうたら言っていますけど実際タイムマシンって可能なんですか?」

 ピンポイントでこの質問。
 こいつ、機関のエージェントじゃないだろうか。

岡部「タイムマシン……とは?」

仁美「確か、中鉢博士がどうとかとワイドショーで散々取り上げられていますわね」

さやか「そうそう!! 実際できるんですか?」


男子生徒「俺も見た!! 特集が結構長くやってるよな」

男子生徒B「でもできるのかな?」

男子生徒C「どうですか先生?」

 ヤバイ、こっちに視線が集まってくる。
 どうしようか。

岡部「……では、タイムトラベルをするのには11の方法があるのは知っているか?」

 俺は紅莉栖がしていたような方法を取ることにする。

女生徒A「11個もあるんですか?」

岡部「ああ、まずは~~~~~~」

 11の理論についての簡単な説明をする。

岡部「だが、これらの理論では実際にはタイムトラベルは不可能だろうな」

 紅莉栖も言っていたが、お互いを否定する理論があったり、材料をそろえるのが難しかったり、これらの方法でのライムトラベルは無理だろう。

男子生徒C「では、タイムマシンは出来ないと?」

女生徒C「でも、中鉢はできるって……」


岡部「大方、中鉢博士は12番目の論文が出来たとか言っているんだろうな」

 しかし、β世界線での中鉢の論文はジョンタイターのパクリだ。
 いや、ジョンタイターは本物の未来人じゃ……、
 というのはα世界線での話であり……、
 こんがらがってきた。

まどか「えっと、じゃあその論文ではタイムマシンが?」

 ピンク色の気弱そうな女生徒が俺に質問する。
 鹿目 まどかだったけ。

岡部「さあな?」

さやか「さあなって先生……、生徒の質問に答えられないってアンタそれでも教師ですか!!」

 いや、人類の命題に一回のモグリ教師が答えられる訳が無いだろう常識的に考えて。
 まぁ、タイムトラベル出来るか否かについては答えられる。
 SERNに見つかるのもまずいし言わないが。

岡部「何だ? さやか。 そんなに必死になって? 変えたい過去でもあるのか?」

 話をはぐらかすために、こっちから質問を投げかける。
 
さやか「……」

 さやかは突然うつむく。



 何だ? なんか地雷踏んだか?

さやか「いや、あの……」

 ―――― 幼馴染が、交通事故にあって……

岡部「……すまない、軽率なことをした」

さやか「いや、こっちこそ、なんか、辛気臭くしちゃって」

 たどたどしく言う美樹。

岡部「……バタフライ・エフェクトという言葉を知っているか?」

さやか「え?」

岡部「北京で蝶がはばたくと、ニューヨークで嵐が起こる。と言ったものなのだがな」

仁美「聞いたことありますわ」

岡部「過去を変える、というのは慎重にすべきだ」

男子生徒「なんでですか?」

岡部「たとえば、恐竜時代にタイムトラベルするとするな?」

女子生徒C「そして?」


岡部「来た時間はほんの数分、だがそいつは運悪く何かの動物を潰してしまった」

まどか「……」

岡部「そしたら、現代から1億人の人間が消え去った」

男子生徒B「え、どうして?」

岡部「人間が昔ネズミのような動物だったのは知って居るな?」

岡部「そいつが潰したのはそれだ」

女生徒B「そんな簡単に消えちゃうもんなんですか?」

岡部「あくまでたとえだ。だが、小さなことが巡り巡って取り返しのつかないことになる場合もある」

さやか「……」

岡部「だが、幼馴染を救おうとするその気持ちはよい事だと俺は思う」

さやか「え?」

岡部「仲間は大切にすべきだ。 幼馴染ならなおさらな。 見舞いにはいっているか?」

さやか「ハイ!! もちろん!!」

岡部「そうか」

 思ったよりも美樹は優しい人物らしい。

岡部「他に何か質問は―――――」

 そうして、俺の初授業は何とか成功した。
 なかなかうまくやっていけそうだ。


  午後8時前後 見滝原

 俺はブラウン管工房へ向かって歩を進めていた。

Qβ『いや~、今日は成功だったようだね。何よりだ! さすが凶真僕が見込んだだけはある』

岡部『たまたま得意分野だっただけだ。次はこうはいかないだろうな』

 ちなみに、Qβは授業中は町の探索をしていた。
 散歩はこいつの日課らしい。

Qβ『秋葉原より萌が少ないときいたときは一時期どうなるかと思ったけど、此処のリアル中学生はなかなか……コスプレが似合いそうだ』

岡部『馬鹿か』

 こいつ、厨二病でオタクとか、もう末期だぞ。
 しかしながら、テレパシーとは便利だ。

岡部『最初に教えてくれればよかったのではないか?』

Qβ『僕は、「報告」の方がうれしいんだけどな……』

岡部「そちらの方が良いならご期待に応えるが?」スチャ

Qβ『一番いいのを頼む』

 こいつ、ノリノリである。


 たわいない雑談をしていたが、俺は何か動くものに気づいてしまった。

岡部「何だ?」

 それは、人影。
 かなり酔っているらしく足取りがおぼつかない。
 人影自体は珍しくない。
 この時間帯は特に。
 
 だが、問題は

Qβ『凶真!! あの人、建物の上にいるよ!!』

岡部「分かっている!!」ダッ

 駆けだす。
 距離は10メートル。
 十分追いつく。
 だが、落下したらどう支えればいい?

岡部「―――ァ」

 墜落
 人影は、真っ逆さまに落ち――――――








???「大丈夫?」

 黄色い魔法少女に、受け止められた。



Qβ『魔法少女!?』

???「あら、QB。こんなところにいたの? なんで男の人と?」

岡部「知り合いなのか?」

Qβ『知らない。あと僕は鳳凰院Qβなのでそこの所よろしく』

???「……まあいいわ、少し待っていてね、すぐ終わるから」クルッ

 踵を返し工場と思われる建物の中に入っていく少女。

岡部「お、おい!!」

 仕方ないので追いかける。












 中に入ると、そこは異界だった。

岡部「魔女の結界か!!」

 実に久しぶりだ。

???「あら、ついてきちゃいけないって言ったのに。 それにあなた、魔女について知っているの?」

岡部「あ、ああ、少しな」

 そういったとき

魔女「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」


Qβ『魔女!!? こんな直に居るわけがないのに!!』

???「貴方への質問は後にしましょう!!」

 魔法少女は魔女に向き直る。

???「さあ、踊りましょう!!」タッ

魔女「アヒャヒャヒャ!!!」グワッ

 魔法少女と魔女がお互い間合いを詰める。
 魔法少女は周りに何丁ものマスケット銃を展開、
 すれ違いざま、銃を放つ。

Qβ『マスケットか……、いいセンスだ』

 魔女は、男女の上半身がくっついたような姿をしていた。
 てけてけの強化バージョンみたいな感じだ。
 気持ち悪い。

???「もう一回!!」 

 今度は間合いを取り、銃を放つ、全弾命中。

魔女「アギャ!?」

 苦痛の叫び声をあげる魔女。



???「これでどう?」

 さらにマスケットを展開し、乱射。
 銃弾の雨が魔女に襲い掛かる。

???「まだまだ!!」

 さらに追い打ちをかけるため、マスケットを――――

魔女「アギャハハハハハハハハハハ!!!!!」

 展開する隙を狙って、魔女が突撃する。

 完全に不意を突かれたため、魔法少女は対応できず――――――











???「残念♪」

魔女「アギャ?」

 
 魔女の全身を、リボンが絡みとっていた。
 魔女の姿と相成って、自分の巣に絡まる蜘蛛のようだ。

Qβ『策士、策に溺れる。 か……』

 いや、なんか違う

魔女「ギャギャァ!!! ギャギャァ!!!」

 絶叫を上げる魔女。
 それは、怒りか、恐怖か、
 どっちでもいいが。

???「これでおしまい!!」

 魔法少女はひときわ大きい銃をつくると――――

???「ティロ・フィナーレ!!!!!」

 その一撃で、魔女を吹き飛ばした。

Qβ『す、すごい……、単純な戦闘力なら由季以上だ……』

 Qβが感嘆の声を上げる。
 確かにあの手際は戦闘を知らない俺でも感心するほどの美しさだった。
 しかし、
 もっと効率のいい方法は無かったのだろうか、とも思う。
 なんとなくわざとピンチに陥ったりしているような……。



 魔法少女である阿万音由季の戦いや、戦士であった鈴羽の戦闘を見た者としては、よくできた劇を見ているような感覚がする。

Qβ『でも戦いの無駄も由季以上だね。遠距離用の武器やあのリボンをうまく使えばもっと……』

 Qβも同じことに気付いたらしい。さすが本職、と言ったところか。

???「フゥ、一仕事終了ね」クルッ

 こちらに向き直る魔法少女。

???「はじめまして、くわしい話は別の場所でゆっくりとしましょう」

岡部「あ、ああ」

 違和感
 
 何かがおかしい

 大切なことを忘れているような―――

Qβ『まだ終わっていない!! 結界が解除されていないよ!!』

 そうだ、まだ魔女は―――「アヒャハヤハヤハヒャヒャハ!!!!!」
 
 男の上半身を無くした魔女が少女に襲い掛かる。
 少女は魔女に背を向けている。
 ヤバイ

岡部「避けろォォォォォォォォォォォ!!!!!!」



???「なんてね♪」

 パンッ

 振り向き様の一発、頭を打ち抜かれた魔女はそのまま沈黙した。

 そして、世界は分解される。

 ガラスが割れるようだ。





 俺たちは汚い工場にいた。

岡部「怪我は無いか?」

???「大丈夫、心配ありがとう」フフッ

Qβ『君は……、この地、見滝原の魔法少女で間違っていないね?』

???「QB? 何言っているの?」

Qβ『……、君の言っているQBは僕の兄弟の事だろうね……』

???「まあ、そうなの?」

岡部「おい、兄弟ではないだろうが」ヒソヒソ

Qβ『おそらく彼女は魔法少女の真実を知らない。だったら余計なヒントを与えるのはまずいだろ?』ヒソヒソ


???「じゃあ、貴方たちは?」

Qβ『僕は鳳凰院Qβ、気軽に鳳凰院さんかQβと呼んでくれ』

岡部「……岡部倫太郎、見滝原中で教師のまねごとをしている」

???「あら、私も見滝原中の生徒よ?」

岡部「……お前は?」

???「私は巴マミ」
























マミ「見滝原中の3年生で、魔法少女よ」


 同日;マミの家

 俺たちは巴マミの家にいた。
 紅茶まで出される始末だ。

岡部「自宅にまでついてきてしまったが……。 いいのか?」

Qβ『JCの家に凸とか……。凶真捕まるんじゃないかな?』

岡部「やめろ」

マミ「大丈夫。QBの兄弟さんとその相棒でしょ?」

岡部「まぁ、一応そういうことになるな」

マミ「それに悪そうな人には見えないし、仮に襲ってきても大丈夫」

Qβ『魔法少女だからね、もやしの凶真が勝てる道理なんてないよね』

岡部「中学生に負ける19歳か……」

マミ「フフッ、仲がいいんですね」

岡部「まあいい、で、聞きたいこととは?」

マミ「色々あるわ……、まずあなたは何者?」

岡部「……岡場倫太郎としか言いようがないが」

マミ「QBやQβ君が見えるのは魔法少女の才能を持つ人だけ。 そんな中、Qβ君と親しげに話しているあなたは? って事」


Qβ『簡単に言うと、魔法少女の才能を持つ男。 だね』

マミ「魔法少女の才能を持つ?」

岡部「前々から気になっていたのだが、なぜ俺に魔法少女の才能があるのだ?」

マミ「魔法『少女』というくらいなんだから、少女しかなれないと思っていたのだけれど……」

Qβ『正確には少女がなりやすいだけだよ』

Qβ『魔法少女になるための条件は結構いろいろあってね』

Qβ『因果律、精神性、そして……、心と肉体の揺らぎ』

岡部「揺らぎ?」

Qβ『魔法少女に適しているのは第二次性徴期の少女、と言ったよね?』

岡部「ああ」

マミ「私もそれはQBから聞いたわ」

Qβ『少女の肉体は思春期の前に一回完成するんだ。 保健体育でやらなかった?』

岡部「覚えているか、そんなもの」


Qβ『でも、思春期の心は未熟で、幼い』

マミ「心と体のアンバランスが『揺らぎ』?」

Qβ『その通り。話が早くて助かるよ』

Qβ『男子ってのは思春期と第二次性徴が同時に来るからね。魔法少女にはあまり適さない』

 ――――例外もあるけどね。

マミ「それが、岡部さん?」

岡部「……」

 心と体の揺らぎ、か。
 心当たりは無いわけではない。
 おそらく、その原因はタイムリープ。

Qβ『ごく稀に、だけど』

マミ「でも、男の人で魔法『少女』って何だか変な響きよね」クス

岡部「魔法少女になる気など無い。よって関係ないな」

マミ「あら、そうなの?」

岡部「仮になっても、できる願いがショボイ。 フレンチ一か月分が最高だぞ?」

マミ「それは……、ひどいわね」


岡部「少女たちに戦いを任せるのは忍びないが……」

 俺が出ても足手まといだろう。

マミ「あら、心配してくれるの?」

岡部「まあ、命がけとあっては、な……」

 それに、魔法少女の真実の事もある。
 気がかりであることに変わりは無い。

岡部「……お前と一緒には戦えないが、できる限りのサポートはさせてもらう」

 そう言うとマミは少し目を見開いた。

マミ「ありがとう、その思いだけでも、十分」

Qβ『思いだけじゃないさ、しっかりとサポートさせてもらうよ』

マミ「……期待して、いい?」

岡部「任せておけ」

マミ「……、じゃあ貴方は私の後輩ってことね?」フフッ

岡部「な?」

 なん……だと?

Qβ『先輩は年下……、ラノベにしたら売れるかな?』ボソッ

 ホントにこの地球外生命体、日本になじみすぎじゃないだろうか。


マミ「うれしいわ!!」

岡部「そ、そうか」

 後輩、というのはなんか違う気もするが。
 それでも、微笑むマミに口答えもできず。

岡部「まあ、いいだろう」

 そういうしか、無いのであった。

マミ「そうだ!! とっておきのお茶菓子があるの!! 食べる?」

Qβ『いただこう』

 即答か

岡部「甘いものか……」

マミ「甘さ控えめよ?」

岡部「じゃあ、いただくか」

マミ「そう、それじゃあ、とって来るわね♪」


 キッチンへ行くマミ。
 それを見送る俺たち。

Qβ『……彼女も、また被害者なんだね』ボソッ

 少し、憐れみと後悔を含んでいる。

岡部「気にするな、とは言わんが、くよくよ悩んでも仕方ないだろう。俺たちは今できることをするだけだ」

Qβ『そうだね……、いいのかい?』

岡部「何がだ?」

Qβ『Dメールを送ればこの関係も無くなる、積極的にかかわって、あとで寂しくはなら無い?』

岡部「と、言ってもな」

 おそらく、タイムマシンを造るのに必要な期間は長い。
 まゆりや紅莉栖は絶対に助ける、が
 焦りすぎて、あのDメールの様になってしまったら本末転倒だ。

 まゆりと紅莉栖を救うためになら何でもする。

 だが、それは慎重にしなくてはならない。

岡部「それに、5月までは学校に行かなくてはならないしな」

Qβ『そうだね……』

 無論、現在だって寝る時間を削って研究をしている。
 必ずまゆりを、紅莉栖を救う。

 それが、俺の意思。











 絶対に、覆ることは無いのだ。


 物語が動くのは、3か月後。

 俺が、アイツと出会った時からだ。

 もう一人の俺。

 比翼の片割れ。

 時空を操る魔法少女。

 だが、この時の俺はそんなことも知らず。

 ただ、毎日を過ごしていた。

 緊張感も無かった。

 まゆりや、紅莉栖がいないのに、だ。

 思えば、俺の心はもうとっくに壊れていたのかもしれない。

 すくなくとも、妙な余裕が出来てしまうぐらいには。

 アイツの心は壊れていなかった

 鏡の先の俺、

 だが何かが違う、俺には理解できない、狂った俺

 いや、もしかしたらあっちの方が正常なのかもしれない、

 本当は、こっちが狂いきっているから、正常なあっちが狂って見えるのかもしれない

 ……まあ、いいさ、

 どっちが狂っていても、

 どっちも愚者であることには変わりない

 さあ、始めようか

 新たな演劇を

 

 以上で今日の投下は終了です。
 やっとまどマギサイドの魔法少女登場か……
 次回はまどマギ本編の時間になります。
 ついにタイトルのあの子登場
 
 それでは、応援してくれる皆様に感謝を

 お休みなさい

 書き溜めが溜まった僕は、投下せずにはいられないッ!!!!!
 と言うわけで9:30頃から投下したいと思います。
 応援レスありがとうございます!!
 


 俺は、そこにいた。

 ――――私は、そこにいた。

 終わった世界で

 ――――終わっていない世界で

 俺は寝ていた

 ――――私は起きていた

 アイツは起きていた

 ――――あの男は寝ていた

 俺は願う

 ――――私は願わない

 俺は諦めない

 ――――私は諦めた?

 俺は祈る

 ――――私は祈らない


 祈りを捧げるのは仲間へ
                 トモ
 ――――祈りを捧げるなら神へ

 止まるな、進め

 ――――止まるな、繰り返せ

 決断しろ

 ――――決断しろ

 この世界を廃棄しろ
 
 ――――この世界を守護しろ

 変えろ

 ――――留めよ

 替えろ

 ――――止めよ

 帰ろう

 ――――戻れない

 戻れるさ

 ――――無理



??「―――――を」

 誰かが叫ぶ

??「―――――を」

 叫ぶ

??「―――――の」

 叫ぶ

??「――――――へ!!!!」

 祈る

???「――――が守ろうとしたこの世界を壊すの?」

 問う

???「私はそんなの認めない」

 問う

??「これが?」

 笑う

??「これがお前の友の望んだ世界?」


???「違う」

 否定

???「私は―――の願いを、否定したくない、それだけ」

 叫ぶ

??「本当に……お前は、」クク

 微笑

??「それでも、救いたいよ」

 決意

??「俺の――じゃ届かない」

 でも

??「―――――――なら、届く」

 此処じゃない

??「―――が、きっと、見つける」

 ―――

??「――――――――――――」


???「それでも、貴方は――――――じゃない」

 叫ぶ

???「また繰り返すの?」

 叫ぶ

??「繰り返すんじゃない」

 答える

??「辿り着くんだ」

 自信を持って

???「でも、そこには―――」

 嘆く

??「0じゃなくなる」

 笑う

??「たった一つでもいい」

 笑う

??「どこかの――――が」

 辿り着くべきだ













 ―――――へ


 第5話;『物語が始まるよ』

  4月某日

 岡部倫太郎の朝は意外と遅い。

綯 「おじさーん!! 朝だよ~!!」

 天王寺綯も今年で中学一年生。
 つまり岡部と同じ登校ルートである。

岡部「……もう朝か」

綯 「早くしないと置いてっちゃうよ~」

岡部「わかった、今行く」

 急いで服を着替え身だしなみを整える。
 その間、わずか10分。

 天王寺綯による調きょ……もとい教育の賜物である。

岡部「ではいくか」

綯 「おじさんは仮にも先生なんだからもっと早く起きなよ~」

岡部「大丈夫だ、そっちには問題は無い」

綯 「まあ、おじさんと一緒に登校できるのはうれしいからいいけど」


岡部「なぜお前と一緒に登校しなければならんのか……」

 わからん。
 そのせいで俺が幼女愛好者という噂も立っている。
 実によろしくない。

綯 「え、ダメ?」シュン

岡部「い、いや、別にダメとかではないのだが……」

 この少女を泣かせるとオーガが出てくる。

綯 「そう!?」パァァァ

岡部「う……」

 ほとんど毎日こんな感じなのだから困る。
 まあいいか。
 時間というのは、かけがえのないものなのだから。


 見滝原中学校正門

さやか「けしからん!! そんな破廉恥な子はこうだ!!」

まどか「ちょ、イヤ、やめて!!」

さやか「かわいい奴め、男子にモテようなんて許さん―――」

岡部「何をやってるか」ガン

さやか「~~~~~~~~!!!」ヒリヒリ

まどか「ありがとうございます岡部先生!!!」

さやか「何すんすか先生!!!」

岡部「お前が何すんすかだ」ハァ

綯 「お、おはようございます」

さやか「オッ、綯ちゃんじゃないか!! 今日もかわいいねぇ」

綯 「あ、ありがとうございま……す?」
    ブルー★リリー
岡部「《蒼い百合》よ、綯にセクハラをするのはやめろ。 オーガがお前を夜襲するぞ」

さやか「なにそれこわい」

仁美「先生、お早う御座います」

  
         ワカメ ☆ ガチャピン
岡部「ああ、《海鮮軍の緑の悪魔》か」

仁美「もう少しあだ名はどうにかなりませんか?」

岡部「無理だな」

仁美「ですよね」

まどか「本当に先生って面白いですよね」ウェヒヒヒ
                 スカーレットピンク
岡部「貴様もなかなかだぞ《黒に近し桃色》」

まどか「だからそのあだ名やめてくださいよう」ウェヒヒヒ

岡部「お前も気に入っていたではないかスカァーレットォ」

まどか「ウェヒヒヒ、やっぱり面白いです先生は」

さやか「な~に二人だけの空間に浸ってんだおまいらは!!!」ピョーン

綯 「固有結界を張るのはよくないです……」

仁美「まさか!? おふた方はもうそんな関係に!?」

岡部・まどか「違うから大丈夫」

仁美「デスヨネー」



 見滝原中;SHR

 ミス・シングルが厳しい視線で生徒たちを睨んでいた。

早乙女「目玉焼きとは」

 目玉焼きとは?

早乙女「固焼きですか? 半熟ですか?」

生徒たち「「」」ズコッ

中沢「ど……どうでもいい」

早乙女「岡部先生!! 何かありますか!?」

岡部「どっちでもいいかと思うのだが……」

早乙女「その通り!! たかが卵の焼き加減で女の魅力が決まると思ったら大間違いです!!!」

 ミシリ、と教鞭が不吉な音を立てる。
 おそらく、三カ月ほど前に言っていた彼氏とやらと別れたのだろうな。

早乙女「女子の皆さんは『僕半熟じゃ食べられな~い』とか抜かす男とは交際しないように!!」

 どう見ても卵の焼き加減だけが原因とは思えないのだが。
 もうその頃は二人の関係は冷え切っていたのではないか?
 そう思わないのはさすがミス・シングル。


早乙女「そして男子の皆さんは卵の焼き加減にケチを付けないこと!!」

さやか「だめだったか」ヒソヒソ

まどか「ダメだったんだね」ヒソヒソ

岡部「これは当分無理だろう」ヒソヒソ

早乙女「そこ!! 私語は慎みなさい!!」

岡部・さやか「オゥケィ!! ミス・シングル」

早乙女「……」グス

 ヤバイ、若干涙目だ。

早乙女「と、とにかく!! 今日は皆さんに転校生を紹介します」ズズー

 あとで差し入れでも持っていこうか。

早乙女「暁美さーん、いらっしゃーい」

 そして教室に入ってきたのは、

さやか「うわ~、スゲー美人」

ほむら「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

 簡素な自己紹介。


岡部「ふむ、中々に無愛想な転校生だな。なあまどか?」

 俺は前にいるまどかに話しかける。

まどか「……」

岡部「まどか?」

 よく見るとまどかが固まっている。
 
まどか「うぅ……」

 そして転校生から目をそらした。

岡部「転校生が何か?」

 そういいながら転校生の方を見る。

ほむら「……」ジー

岡部「」

 ガン見していた。
 もちろん、まどかを



 休み時間


女生徒C「暁美さんって前は何処の学校だったの?」

 謎の転校生、暁美 ほむら
 彼女の周りにはすでに人だかりができていた。

仁美「不思議な雰囲気の人ですよね……」

岡部「……」

 不思議、というか、な……
 どっかで見た感じなのだが……

さやか「ねえまどか、転校生と知り合い?」

岡部「そうだな、さっき思いっきり見られていたぞ」

まどか「はは……」

岡部「なにかあったのなら―――「ちょっといいかしら」

まどか「え……?」

 そこにいたのは、噂の暁美ほむら。


岡部「……何のようだ?」

ほむら「貴方には関係ないわ」

岡部「……」

ほむら「……鹿目さん」

まどか「な、何?」ビクッ

ほむら「貴方がこのクラスの保健委員よね?」

 違和感

ほむら「連れて行ってもらえる?」

まどか「あ、ええと……「俺が連れて行こう」え?」

 俺は椅子から立ち上がりながら告げる。

岡部「暁美 ほむらといったな?」

ほむら「あなたに頼んだ覚えは無いわ」

 冷徹な目

 また、違和感

岡部「休み時間もあと少しだ……、時間に縛られない俺の方が案内役としては適任だ」

ほむら「……」

 沈黙

ほむら「ま、いいわ。連れてってくれる?」


 廊下

岡部「……」

ほむら「……」

岡部「……なぜ、まどかが保険係だと知っていた?」

 振り向くほむら、その目は少し鋭くなっていた。

岡部「……なんだ?」

ほむら「なんでもないわ、早乙女先生に聞いたの」

岡部「そうか」

ほむら「……」

岡部「……」

ほむら「……」

岡部「そこを右に」

 曲がれ
 そういう前に、ほむらは道を進んでいた。


岡部「……」

 何だこいつ
 道を知っているのか?
 じゃあなぜ俺に道を……
 いや、こいつが道を聞こうとしたのはまどかだったな。
 まどかに用事が?

岡部「なあ「まどかにこれ以上近寄らないで」

 は?

ほむら「鹿目まどかにこれ以上近寄らないでって言っているの」

岡部「何故だ?」

ほむら「……」クルッ

岡部「お、おい!!」

 それ以上何も言わないほむらに俺は戸惑う。
 鹿目まどかに近寄るな?
 何だそれは?

岡部「どういう―――」

ほむら「もう保健室、どうもありがとう。さようなら」

 拒絶

 それは、明らかに拒絶だった。


 放課後;CDショップ

 俺はなぜかCDショップにいた。

岡部「何故だ?」

綯 「おじさ~ん!!」フリフリ

 基本的に俺の帰宅時刻はまちまちだ。
 教師、といってもモグリなので、こうして生徒と同じ時刻に帰ることもある。
 そして帰宅途中、捕まった。

 誰に?

 我が大家、天王寺オーガの一人娘

 天王寺綯にだ

岡部「どうしてこうなった……」

 まあ別にいいのだが
 建前は日本文化だ。

岡部「そういえば、Qβは?」

 何時も口(?)喧しく付いてくる彼奴がいないと何だが奇妙な気分にとらわれる。
 こういう時には必ず『JCのお供……、最終戦争への布石さ』とか言って付いてくるのに。


綯 「おじさ~ん!! あった、あったよ!!」

 綯がこっちに向かって来る。

岡部「……何がだ?」

綯 「これこれ!!」

岡部「こ、これは……」

 差し出してきたのは、某悪魔閣下の《蝋人形の館》である。
 というかこんな趣味があったのか。
 怖いわ。

綯 「壊れちゃって……」

 これが無いと寝れないんだ~

 とか言っている。
 怖い怖い。

岡部「もうちょっとましなのは無いのか……」

綯 「へ、変かな……?」

 ―――― ヘルプ!! ヘルプミー!!!!!――――――

岡部「ホエ?」

綯 「や、やっぱり?」シュン


岡部「い、いや、違うんだ小動物!! ここここれには深いわけがあってだな……」

 なぜ俺がこんな浮気が見つかった夫みたいな言い訳をしなくてはならないんだ。
 それはさておき、さっきの声は間違いなくQβ。
 何かあったのだろうか?

岡部「す、すまない小動物!! ちょっと急用ができてだな、先に帰ってくれないか?」
 
 そう言うと

綯 「やっぱり……、私の事なんて……嫌いだよね」グスッ

 泣かれた。

岡部「ちちちちちち違うぞ!! そそそそそそそうだ小動物!! 明日の昼一緒に弁当を食おう!! おごってやる!!」

綯 「……ホント?」

岡部「本当だ!! 俺を信じろ!!」

綯 「イヨッシャァァァァァァァァァ!!!!!!」

岡部「!!!!?」ビクッ

 なんか怖い。

岡部「そ、それじゃあ行くぞ?」タタタタタタタタタタ

 俺は逃げた。
 最初から最後まで全力だった。



 ――――ヘルプミー!!!!!―――――

岡部「クソッ!!!」

 駆ける
 Qβのいる方へ

岡部「どこだ!!」

 声を張り上げて叫ぶ。

 駆ける

 駆ける

 駆ける

 駆ける

 駆ける

 ドンッ!!!!!!

岡部「グ!?」

まどか「キャァ!!!!?」

 ぶつかる。


岡部「ま……、まどかか!?」

まどか「せ、先生!?」

岡部・まどか「ど、どうしてここに?」

まどか「わ、私は誰かに呼ばれて……」

岡部「……俺もだ」

まどか「そ、そうなんですか……」

 ガタンッ

岡部「何だ!?」

QB『ハァ、ハァ』

Qβ『だ、ダイエットにはきついかな……』

 二匹の獣。

まどか「あ、あなたたちなの?」

岡部「一体何が……」





ほむら「そいつから離れて」


岡部「暁美……ほむら?」

 暗がりでよく見えないが、そいつは確かにあの転校生だった。

まどか「だ、だめだよ。この子たち怪我してる……」

ほむら「あなたには関係ない」

岡部「だったらお前にも関係ない事だな」

 ほむらが睨みつける。
 結構怖い。

ほむら「岡部……倫太郎……!!」

 瞳に込められた感情は、嫉妬?

岡部「その二匹は俺のペットだ、手を出さないでもらおうか?」

ほむら「……」

岡部「……」

 その時

さやか「まどか!! 先生!! こっち!!」

 ブシャァァァァァァ!!

 消火器の煙が俺たちを包む。


さやか「早く!! 先生も!!」

岡部「う、うむ」

 逃げる俺たち。

Qβ『魔法少女よ!! 今度は必ず!! この雪辱を晴らそう!!』

岡部「馬鹿煽るな」

 俺は走った。
 最初から最後まで全力で逃げた。
 さっきもこんなことなかったっけ?

さやか「何よアイツ!! 今度はコスプレで通り魔!?」

岡部「……」

 そう、暁美ほむらの服は普通では無かった。
 まるで、魔法少女のようだ。

岡部(しかし、魔法少女だとしたら……、この近くは)

 そう思った矢先。

 ――――世界は、反転する。


さやか「ああ!! どうなってんのさ!!」

 さやかがぼやく。
 たしかに、走っても走っても出口は見えない。
 そのはずだ。

岡部「……ッチ」

まどか「岡部先生? って、え?」

 どうやらまどかも気づいたようだ。

 俺たちは使い魔の大群に囲まれていた。

さやか「悪い、夢だよね?」

まどか「あ、ああああ……」

岡部「……」

さやか「嘘、嘘ですよね先生!!」

 悲痛な声で叫ぶ。

岡部「いや……」

 ああ


















 連絡していてよかった。

 パァァァァァァァ

さやか「何!?」

まどか「これは?」









 「危なかったわね」


マミ「でももう大丈夫」

岡部「遅かったな」

マミ「これでも全速力よ?」

まどか「え、えっと……」

マミ「QBとQβ君を助けてくれたのはあなたたちね?」

さやか「え、ええ」

マミ「ありがとう、彼らは私の大切な友達なの」

まどか「あ、あなたは?」

マミ「そうね、自己紹介しないと」

岡部「……まずは一仕事してくれ」

マミ「そうね♪」

 ズガガガガガガガガガガ!!!!!!!!

使い魔「」

Qβ『よ、容赦ないね……』

 一瞬で倒しやがった。
 敵に回したくない。

マミ「私は巴マミ、見滝原中3年の魔法少女」


さやか「すっすごい!!」

岡部「……」

Qβ「やはり強いね……」

 ――――そして世界は正しい位置に戻る。

さやか「戻った!?」

マミ「……」

 マミは気を緩めず闇を見つめる。
 その視線の先にいたのは

岡部「暁美……」

ほむら「……」

マミ「魔女は逃げたわ。 仕留めたいのならすぐに追いかけなさい」
          シャイニングマギカ
岡部「お、おい《光色の魔法少女》……」

マミ「岡部さんは黙ってて」

岡部「グ……」

マミ「今回はあなたに譲ってあげるわ、暁美さん」


ほむら……「私が用があるのは「飲み込みが悪いのね」

マミ「見逃してあげるって言っているの」

ほむら「……」クルッ

岡部「な、オイ!!!」

マミ「岡部さんも少し黙って」

岡部「……」

 俺は闇の中に去っていくほむらを見る事しかできなかった。


 QB&Qβ治療中

 パアァァァァァァ

岡部「いつ見ても便利だな……」

マミ「フフッ、そう?」

QB『ありがとうマミ、助かったよ』

 そうマミに礼を言う獣はQB。
 マミと契約したQBだそうだ。
 外見から声まで何もかもQβと同じだが
 Qβは懐中時計を持っている。

Qβ『死ぬかと思った……、むしろ一回死んだ』

 妙に人間臭い言動をするのも特徴だな。

マミ「お礼は岡部さんとその子たちにね」

QB『どうもありがとう。 僕の名前はQB』

Qβ『フ……、では僕も自己紹介をしないとね……』

マミ「この子はQβ」

Qβ『ちょっ、僕の自己紹介邪魔しないでよ!?』

まどか「あなたが私を呼んだの?」


Qβ『……君たちを呼んだのはそこの陰険糞ゴミ鉄面皮野郎さ』

QB『ひどいなぁ』

まどか「じゃ、じゃああなたが?」

QB『そうだよ、鹿目まどか、美樹さやか』

さやか「な、なんであたしたちの名前を?」

QB『僕、君たちにお願いがあってきたんだ』

Qβ『べ、別にいいじゃないか!! この町にはマミがいるんだろ? これ以上増やすことは……』

QB『いいじゃないか、多ければ多いほどいい』

まどか「え、と、お願いって?」

QB『ほら、君は黙ってなよ』

Qβ『ッチ』

さやか「あはは……、で私たちへのお願いって?」

QB『そうだね、言わせてもらおう』

岡部「……」



QB『僕と契約して』



















QB『魔法少女になってよ!!!』

 以上で今日の投下を終了します。

 !! は多用しない方が良いですか
 最高二個にするよう気を付けます。

 やっと始まったまどマギ本編
 下準備やなんやらに4話かかってしまいました。
 ついにほむら登場です。

 話は変わりますが。
 まどマギオンラインのほむらの部活バージョン衣装が白衣!!
 科学部にでも入ったのでしょうか。
 ほむらの白衣姿とは実に俺得な限りです。

 シュタゲの小説版《ウロボロス》読み直してますが、
 世界線重複について考えると知恵熱が出そうです。
 カッコイイダルとオカリン見れるからいいですが。

 話が長くなってしまいましたが、応援してくれる皆様に感謝を

 お休みなさい

 書きだめも溜まったので10時から投下します。
 あと !! は基本は二つ、強調したいときは複数使う方向にしますのでよろしくお願いします。


 マミ宅

 ガラッ

岡部「さあ入れ」

マミ「あなたの家じゃないのだけど」

岡部「そんなことはどうでもいい!!」

さやか「はは……、おじゃましま……ってすげぇ!?」

まどか「素敵なお部屋……」

マミ「一人暮らしだから心配しないで」

 確かにマミの部屋は広い。
 中学生の一人暮らし用としてはいささか豪勢だ。

岡部「ろくにもてなしの準備も無いがな」

マミ「だからそれ私のセリフ……」

岡部「茶でも入れて来よう」スタスタ

マミ「全く岡部さんは……」

 呆れながらもマミは微笑をうかべていた。

さやか「あの~」

マミ「何?」

さやか「岡部先生とはいったいどういったご関係で?」


マミ「岡部さんは私の後輩よ?」

さやか「フムフムって後輩!?」

QB『魔法少女のだけどね』

まどか「……それで、魔法少女って?」

QB『よく聞いてくれたね、それでは――――』

マミ「待って、まずはお茶でも飲みましょう」

 マミが引き止める。

QB『早く話をしたいのだけど……』

マミ「せっかちな男の子は嫌われるわよ?」

QB『フゥ、やれやれ……』

マミ「岡部さんがお茶を入れてくるまで待ちましょう」


 第6話;『まだ始めだよ?』


 俺はこの3か月間で紅茶を入れるのが異常に上達していた。

岡部「またせたな」コト

まどか「ありがとうございます」

さやか「うわっ、いい匂い」

岡部「練習したからな」

 俺自身はマミの家に買い置きしてあるドクターペッパーを飲むつもりだ。

さやか「ゲ、ドクペとか……、先生そんなもん飲むんすか」

岡部「ゲとか言うな」

 これは選ばれし者の為の知的飲料なのだぞ?

Qβ『好き嫌いはよくないよ? 一度飲んでみるといい』

さやか「ヤダ」

まどか「さ、さやかちゃん……」

マミ「それはそうと、岡部さんも紅茶を入れるのが随分とうまくなったわね」

岡部「鍛えられたからな、お前に」

Qβ『人はそれを調教と言う』

 本当にうるさいなコイツ。


QB『準備がいいならそろそろ話をしていいかい?』

Qβ『だが断る!!』

 直ぐに強い口調で拒否するQβ。

マミ「そんなこと言わないで、QBに選ばれた以上他人事じゃないの」

Qβ『だったら他人ごとにしておけばいいと思うけどね!!』

 QβはQBがまどかたちに近づくのを阻止したいらしいな。
 まあ、当然か。
 しかしそのせいで、QBから『観察対象』にされているのをもう忘れたか。
 何でも、感情を持った個体は貴重らしい。
 しかし、契約を妨害する個体は邪魔でもある。
 故の観察対象。
 下手な動きは出来ない。

岡部「……話くらいならいいだろう?」

Qβ『な……』

岡部『魔法少女の才能があるなら一か所に集めた方がこっちにも都合がいい』ヒソヒソ

Qβ『……分かったよ』

 渋々承諾する。

QB『よし、それじゃあまずは魔法少女から……』

 俺たちには聞きなれた話をQBは丁寧にしていく。
 もちろん、重要な部分は隠したままだったが。


 翌日;見滝原中学校 屋上



さやか「ねぇまどか」

まどか「ん?」

さやか「願い事ってさ、なんか考えた?」

まどか「ううん」

さやか「ま、そうだよね。 あたしも無いよ」

さやか「欲しいものも、やりたいこともいっぱいあるけどさ」

 ―――――― やっぱり、命を懸けてまで叶える願いじゃないよ。

まどか「そうだね……」

QB『意外だなぁ、たいていは二つ返事なんだけど』

さやか「……あたし達ってさ、幸せバカなんだろうね」

まどか「え?」

さやか「恵まれすぎて、それ以上はいらないって感じなんだろうね。」

 ―――― でもさ……
 
 さやかは少し暗い顔で続ける。

さやか「命を懸けてでも叶えたい願いがある人だっているはずなのにね……」



まどか「さやかちゃん……」

 ギリッ

さやか「不公平だと思わない? チャンスが欲しいって思っている人はたくさんいるはずなのにね」

 タンタンタンタン

 階段から誰かが上がってくる。

まどか「ほむら……ちゃん?」

さやか「昨日の続きかよ!?」

 まどかを守るように立つさやか。

ほむら「いいえ、本当はそいつが鹿目まどかに近づく前にけりをつけたかったけど」

 ―――― もう意味が無いわ。
 そう、嘯く。

ほむら「で、どうするの? あなたは魔法少女になるつもり?」

 まどかを睨みつける。

まどか「わ、私は……」

さやか「こんな奴の話聞く必要ないよ」

ほむら「昨日、放課後話したこと覚えてる?」

まどか「え、うん……」

 どうやらまどかはほむらと昨日の内に接触をしたらしい。
 


 さやかを無視して、ほむらはまどかに告げた。

ほむら「そう、なら忠告が無駄にならないよう祈ってるわ」

 そういい、ほむらは屋上を後にしようとする。

まどか「ほ、ほむらちゃん!!」

 呼び止めるまどか、ほむらは足を止め、振り向く。

ほむら「何?」

まどか「あ、あなたは」

 ――――どんな願い事をして、魔法少女になったの?

ほむら「……」

 カンカンカンカン

 ほむらは答えず、屋上を去った。


 屋上、階段前


岡部「答えないのか?」

 屋上から来たほむらに問いかける。

ほむら「……見ていたの?」

岡部「さぁ? 昼休みに屋上に来たら何やら怪しげな雰囲気だったのでな」

 ほむらは目を細める。
 敵意のこもった視線だ。

ほむら「……そういうことにしておきましょうか」

岡部「で、俺はお前に用がある」

ほむら「私は別にないわ」

岡部「お前はどうしてスカーレットを契約させたくないのだ?」

ほむら「……強引な男は嫌われるわよ?」

岡部「生憎、餓鬼に好かれようとは思わんな」

ほむら「あなたには関係ない話」

 あくまで俺と会話をする気はないらしい。
 だが、こちらにもカードはある。

岡部「……手を組めるのではないかと思って来た」

ほむら「……どういうこと?」


岡部「お前の目的と、俺たちの目的、互いに協力できる内容だと思ったからな」

ほむら「……私にはその気はない」

岡部「連れないな」

 実にセメントだ。

Qβ『凶真、そんなんじゃナンパは成功しないよ?』

ほむら「……!? QB!!」

 ほむらの目がようやく驚きの色を表す。

Qβ『鳳凰院Qβ、と呼んでくれないかな』

ほむら「黙れ……」

 だが、すぐに暗い色が宿る。

岡部「……なぜお前はそんなにもQβを目の敵にする?」

ほむら「答える義理はないわ」

 あくまでも非協力的か。

岡部「お前がそういう態度をとるならこちらにも考えが……「おじさ~ん!!!!!」

 え、あ、は?

 ドスン

岡部「グェ」

綯 「おじさん!! 探したんだよ!?」


岡部「は? 探した?」

綯 「昨日一緒にご飯食べるって約束したでしょ!!! 忘れちゃったの!?」

岡部「あ」

 そうだった。

綯 「やっぱり忘れちゃってた……」

岡部「ス、スマン……」

 しかし、俺には今話し相手が……って

岡部「あの野郎……」

 野郎ではないが。

 既に、明美ほむらの姿は消えていた。
 
 そして、同時にQβの姿もなかった。

綯 「おじさん!! 今日はお弁当作ってきたんだ!! 一緒に食べよ?」

岡部「あ、ああ……」

 Qβの事が心配ではあるが、あいつは存外しぶとい。
 何とかやるだろう。
 それに、暁美ほむらの優先順位はそれほど高くない。

綯 「おじさん!! 早く早く!!」

岡部「分かった」

 俺は、綯の後に続いた。



 学校;廊下



ほむら「……」

Qβ『……』

 ほむらとQβは廊下を歩いていた。

Qβ『ドナ……じゃなくて僕は君のことがだ~い好きなんだ。 お話しようよ』

ほむら「お前と話すことはないわ」

 Qβの冗談も聞かず。
 最高に険悪なムードだ。

Qβ『ハァ……、僕はまどかと契約する気はないよ?』

ほむら「嘘を言わないで」

Qβ『QBたちは嘘は言わないよ』

ほむら「そうね……それがお前たちのやり方だものね」

 憎しみがこもった視線で見つめるほむら。

Qβ『悪いと……思っているさ』

ほむら「?」

 ほむらは訝しげな顔をする。
 Qβは続けた。

Qβ『信じてほしい、僕はもう少女たちと契約する気はない』


ほむら「……」

 Qβの言葉に何も答えないほむら、無視を決め込んだらしい。

Qβ『フゥ……、最悪の状態だね……』

 溜息が妙に人間臭い。

Qβ『まあいいさ、僕は黒髪冷徹美少女JCとお近づきになるまでは諦めないよ』

ほむら「……」チャキ

 ほむらは無言で銃を構える。
 しかも周りに人はいない。
 かなりまずい状況だ。

Qβ『じょ、冗談だよ』

 必死に弁解する姿もやはり人間染みている。

ほむら「……」

 無言で銃を下す。
 どうやら、徹底的にコミュニケーションをとることを避けることに決めたようだ。

Qβ『それじゃあ、僕は凶真の所にでも帰るとするか』

 諦めたQβは踵を返す。

ほむら「……」

Qβ『あ、そうだ』クル

 振り向く。

Qβ『君は何やら多くのことを隠してるようだけどさ』


Qβ『もし』

 ―――― 本当につらくなったら。

Qβ『誰かに助けを求めたほうがいい』

ほむら「……」

Qβ『僕じゃなくても、凶真でもいい』

 ―――― 本当に信じられるような人がいれば、ずいぶんと変わるはずだよ?

ほむら「……」

 ほむらは何も答えない。

Qβ『じゃあ、そろそろ帰るとするかね』ヒョコヒョコ

 Qβの姿が消える。

 あとに残されたほむら。

 その表情はうつむいていて見えない。

 わずかに口が開く。

 微細な振動は音を紡がなかったが、
 
 確かにほむらは、吐き出すように呟いた。

ほむら「……頼れる人なんていない。信じられるのは自分だけ。決まっているでしょ?」

 それは、決意のようにも。

 自分に言い聞かせる、暗示のようにも聞こえた。



 夕方;マミの部屋



 俺はマミの部屋にいた。
 今日はまどかやさやかたちと魔法少女体験をしたらしい。
 俺たちとしてはまどかたちを魔法少女にしたくは無いのだが、
 それをマミに言っても栓の無い事だ。

岡部「……で、今日はどうだったんだ?」

 ドクペをあおりながら聞く。
 何やらマミが買ってきてくれるらしく、俺が補充する必要はない。
 Qβ曰く『ヒモ乙』らしいが何のことか分からない。

マミ「どうって、なんのこと?」

岡部「魔法少女体験の事以外ないだろう」

マミ「難なく終わったわ」

岡部「そうか、それは何よりだ」

マミ「……」

岡部「……」

マミ「ねぇ、岡部さん」

岡部「何だ?」

マミ「岡部さんは、反対なの?」


岡部「何の事だ?」

マミ「鹿目さんや美樹さんを魔法少女にしたくないのか、と言うことよ」

 マミが俺の方を向く。

マミ「なんだか岡部さん、あまり乗り気じゃないみたいで」

岡部「……そうか?」

マミ「Qβ君は露骨にそうだし、岡部さんもなんだかんだ言って勧誘には反対な気がするの。 違う?」

岡部「……本音を言えば、あまりお勧めしないな」

マミ「どうして?」

 本当に不思議そうな顔で、マミが聞いてくる。
 だからと言って、魔法少女の真実を教えるのもいただけない。

岡部「……命がけの戦いだ、賛成はしたくないな」

マミ「確かに、そうね……」

岡部「……」

マミ「……」

 沈黙

 俺もマミも、自分から話が切り出せなくなった。

 やっとの事で、喋る。

岡部「それに、この見滝原だけならシャイニングマギカでもなんとかなるだろう?」







 それが、地雷だった。


マミ「本当に……、そう思う?」

 小さな問い。

岡部「ああ、実際そうだろう?」

 俺は確信を持って答える。
 マミは強い、だからこそここまで来れたのだ。

マミ「本当に?」

 もう一度、聞く。

岡部「……何が言いたい?」

マミ「……」

 押し黙るマミ。
 一体何が言いたいのだ。

岡部「悩み事でもあるのか?」

マミ「そう、と言えばそうね」

岡部「聞いてやらんことも無い「そんなこといわないで」


 俺の言葉を打ち消すマミ
 その目には、鈍い光。

マミ「どうせ、岡部さんには解決できないわ」

岡部「……やってみなければわからんだろう」

マミ「分かるの」

岡部「何故だ?」

マミ「分かるったら分かるの」

 今日のマミはなんだか様子がおかしくないか?
 何時もは余裕をもって人と接しているはずなのに、
 今日は精神が幼児退行したようだ。

岡部「話してみるがいい」

マミ「無理よ」
 
 諦めは俺の最も嫌いな言葉だ。
 マミは諦めている。
 相談すればいいのに、だ。

岡部「……シャイニング!!」

マミ「じゃあ……」

 ―――― 貴方は魔法少女になってくれるの?



岡部「……ッ!!?」

 突然の問い。
 意味を理解するのに数秒かかった。

マミ「出来ないでしょ? してもらうつもりもないわ」

 ――――でも

マミ「私はずっと独りぼっちだった」

岡部「……マミ?」

マミ「少し、聞いてくれない?」

岡部「……わかった」

 始まるのは、マミの心の闇だった。


マミ「私の願いって知ってる?」

岡部「いや……」

 魔法少女になるときにかなえる願いは少女の深い部分に触れるものだ。
 あまり聞くべきものではない。

マミ「『生きたい』よ」

岡部「何?」

 どういうことだ?

マミ「昔、交通事故にあってね……」

 聞けば、マミは数年前両親とドライブしている最中、交通事故にあったらしい。
 両親は二人とも死に、マミも瀕死の状態だった。
 だから、マミはこんな広い部屋で一人暮らしを……

マミ「そんなときよ。 QBと出会ったのは」

 何も知らなかった。

マミ「迷う時間は無かったわ」

 彼女の理由なんて、知ろうとも思わなかった。

マミ「それから、私はずっと独り」


岡部「……」

マミ「独りだから、寂しいし、辛い」

 ―――― だからね?

マミ「かっこつけて、自分を鍛え上げて、ますます独りになって」

 ―――― 普通に暮らしたいと思ったこともある。

マミ「普通の友情をはぐくんで、普通に両親の愛を受けて、普通の恋をして」

 ―――― でもね?

マミ「無理なの」

 ―――― 私は知ってしまった。

マミ「私は魔女に襲われる人を見捨てられない」

 ―――― 見捨てちゃいけないの。

マミ「だから、独りぼっち」

 ―――― そんな私に

マミ「後輩が出来たのよ?」

 俺の、事か


マミ「でもね? そしたらますます惨めになった」

 ―――― 貴方はいつも私の後ろ。

マミ「私の隣には誰もいないの」

 ―――― 誰も、誰も

マミ「だから、鹿目さんたちが」

 ―――― 魔法少女候補だ、って聞いたとき

マミ「とても、うれしかったの」

 ―――― 独りじゃなくなるかもしれない。

岡部「……」

 これが、マミの闇。
 一番奥底の部分。
 気づかなかった。
 分からなかった。

岡部「なあ、マミ……」


マミ「ごめんなさい。でもね? 本当の私はこうなの」

 ―――― ずっと悲しくて、弱くて、醜くて、脆い。

岡部「……」

マミ「だから、鹿目さん達に魔法少女になってほしい」

岡部「……」

マミ「分かってるわ。身勝手な願いって」

 ―――― でも

マミ「もう、独りは嫌なの」

岡部「……」

 嫌な気分がした。
 神聖な領域に、土足で踏み込んだような、そんな気分。
 
 そして、俺にはマミの闇は祓えない。
 俺は魔法少女になるつもりはない。
 だから、《岡部倫太郎》に《巴マミ》は救えない。
















 パチンッ













岡部「クックックックックックックック……」

 スイッチが入る。

マミ「岡部さん?」

 俺が変革する。

岡部「フゥ―――ハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!! ゲホッゲホッゲホッ!!」タッ

 ドクペがのどに入った。
 かっこ悪い。
 まあいいか
 俺はソファに立つ。
 結構いいものなので少し怯んだが、そんなのは関係ない。

マミ「お……岡部さん?」

 違うな

岡部「岡部ではなぁい!!」

 我が名は

岡部「ふぉぉぉぉうをおぉおぉぉおういん!! ぎょんま!!」

マミ「え?」

 マミが呆然としている。
 それはそうだろう。
 この、鳳凰院凶真と相対しているのだ。
 畏怖を抱かぬはずが無い。


 この世界線に来てから白衣が無く。
 スーツ姿なのは仕方がない。
 しまらないがそれもどうでもいい。

岡部「《光色の魔法少女》よ!! 貴様は『独りは嫌だ』と言ったな?」

 問いかける。
 もっとも、答えが返ってこなくても問題ない。

岡部「ハッ!! 軟弱だな!!」

 その僻んだ根性が気に入らないと

 煽る。

 煽る。

マミ「なんで……すって?」

 マミの目に剣呑な光が走る。
 死ぬかもしれない。

岡部「軟弱だと言っているのだ!!」

マミ「……貴方に、何が分かるの!? 学校で人気者の、独りじゃない、貴方が!!」

 ―――― 私の隣にも居ない、貴方が!!

 ついにマミも激昂する。

岡部「貴様こそ分かっていないでは無いか!!」

マミ「何!?」

 分かっていないのだ。

 この俺を

 鳳凰院凶真を






岡部「貴様の横にはこの俺、鳳凰院凶真がいる!!」


マミ「……何言ってるの!?」ッハ

 嘲笑

 マミには似合わない

マミ「じゃあ魔法少女になってくれるの?」

岡部「ならん!!」

マミ「じゃあ―――――」

岡部「だからどうした!!」

マミ「え?」

岡部「魔法少女じゃない? そんなことが関係するはずが無い!!」

 ―――― そうだ、関係ない。

岡部「貴様は魔法少女になったことで優越感でも抱いているのか?」

 ちゃんちゃら可笑しいな!!

岡部「自分は独りだと、思い込んでいるのか?」

 馬鹿じゃないのか?


岡部「とんだ中二病の妄想だな!! 俺は、此処にる!!」

 ―――― 此処にいるんだ。

岡部「貴様を独りにしているのは他ならぬ貴様自身なのではないか?」

マミ「……言いたいことは、それだけ?」

 俺を睨みつけるマミ。
 目には怒りが宿っている。
 真面目にコロコロされるかもしれない。

岡部「そんな自意識過剰な貴様にいいことを教えてやろう!!!」

 ―――― とっておきの魔法だ。

岡部「貴様をラボメンナンバー010に任命してやる!!!!」

マミ「ラボ……メン?」

 毒気を抜かれたように呆ける。
 呆れてるのかもしれない。

岡部「ラボメンは俺の仲間だ!!! そして俺はラボメンナンバー001!! 創始者であり司令官!!」

 ―――― 貴様は俺の部下だ!!

岡部「上司の情けだ!! どうしても貴様が一人に耐えられなくなったとき、『ラ・ヨダソウ・スティアーナ』と叫ぶがいい!!」

 ―――― 何時でも駆けつけてやる。

岡部「貴様がどこに居ようとな!!」

 ―――― その時に教えてやる。


岡部「貴様は独りではない!! 貴様の隣には」

 Qβがいる。

 さやかがいる。

 まどかがいる。

 そして

岡部「この俺、鳳凰院凶真がいる!!」

 独りだと悲観するな。

岡部「魔女など関係ない!! 狂気のマッドサイエンティストにかかれば赤子も同然!!」

 だから、お前は

岡部「独りじゃないんだよ、貴様は」

 言い切った。

 そしてマミは

マミ「何を、言っているの?」

 まだ分からんようだな。

岡部「貴様は独りじゃないんだ」

 優しく言う。


岡部「どうしても危険な時はこの俺を呼ぶがいい」

 もう一度言う。

岡部「何時だって、何処へだって、駆けつける」

 お前は

岡部「貴様は、俺のラボメンなのだからな」

マミ「……」

 マミは無言だ
 ちょっと怖い。

マミ「……口先だけで、人が救えたら、苦労なんてしない」ボソ

岡部「そうかもな、だが、覚えてくれるだけでいい」

 マミは無言だった。
 でも、伝えたいことは伝えられた。

マミ「……今日は帰ってくれない?」

 それは明らかな拒絶だった。

 でも

 俺はやりたいことはやった。
 悔いなど無い。

岡部「分かった」

マミ「……」

岡部「だが、覚えておいてくれ」

 ―――― 貴様は俺の仲間だ。






 そして、マミの家を出る。



 バタン


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 自分の部屋に一人取り残されるマミ。

マミ「……」

 暗い顔で、ポツリとつぶやく。

マミ「詭弁だけで、私が独りじゃなくなるなら、そう思えるほど単純なら、甘えてよかったのかな……」

 いくら力強い言葉を並べようが、岡部はマミにとって守るべき対象であり、
 後ろにいる人間だ。

マミ「とっても優しい人だってのは、分かってるんだけどな……」

 ―――― それでも

マミ「心が、寒いの」

 ―――― もう、独りはいやだ

マミ「自分をだまし続けるのは、嫌なの」

 そう言って、マミは少しだけ顔を歪ませる。

マミ「私って」

 ―――― 最低

 その言葉は、虚空へ消えた。

 以上で今日の投下は終了です。
 原作2話の部分に当たります。が、大幅な改変が加えられています。
 と、言うかまどかたちの行動を外部から見た感じですね。
 物語自体はまだそこまで変わってませんが視点が変わっている感じです。

 悲報!! 鳳凰院凶真撃沈!!

 まあ鳳凰院さんだけですべてうまくいったら苦労は無いですよね。
 
 結局一番キャラがつかめないのはオカリンかもしれない……
 
 あとあだ名への反応ありがとうございます!!
 まどマギJC勢は大体色からあだ名が作られています。
 ほむほむのあだ名は少しひねりが無いですが結構ピッタリになったと思うのでお楽しみに。 

 それでは、長文になりましたが、応援してくれる皆様に感謝を

 お休みなさい

 

       _

     σ   λ
     ~~~~ 
    / ´・ω・)   <さあ、ショウタイムだ

 _, ‐'´  \  / `ー、_
/ ' ̄`Y´ ̄`Y´ ̄`レ⌒ヽ
{ 、  ノ、    |  _,,ム,_ ノl
'い ヾ`ー~'´ ̄__っ八 ノ

\ヽ、   ー / ー  〉
  \`ヽ-‐'´ ̄`冖ー-/

 ……スミマセン、おふざけが過ぎました。
 それでは10時から投下したいと思います。

  
 第7話;《物語の分岐だね》

 『ティロ・フィナーレ!!!』

 爆音

 使い魔は砕け散った。

岡部「早ッ!!!?」

Qβ『最速記録更新だ……』

まどか「か、かっこいい……」

さやか「凄いなぁ……」

QB『……』

 皆、呆然としている。
 無理もない。
 開始早々終わったのだ。
 なんか騙された気分だ。

マミ「一件落着ね♪」

岡部「え、あ、そ、そうだな」

 何コイツ
 こんなチートキャラだったのか。



さやか「いや~、やっぱマミさんはカッケえねぇ~」

岡部「命がけの戦いだ、見世物では無いぞ」

 前々から思っているのだが、危機感が足りなくないか?

マミ「危ないってことは忘れないで」

 そこはマミも注意するらしい。

さやか「いえ~す!!」

岡部「ホントに分かってんのかコイツ」

 まあ、死んでも死ぬようなタマじゃないか。

まどか「そういえば、グリーフシードは?」

Qβ『今のは魔女から分裂した使い魔だからね、グリーフシードは持ってないよ』

まどか「魔女じゃないんだ……」

さやか「最近はずればっかじゃない?」

岡部「……使い魔だって放っておけないのだ」

マミ「成長すれば分裂もとと同じ魔女になるからね」

さやか「……ねぇまどか」ヒソヒソ

まどか「何? さやかちゃん」ヒソヒソ

さやか「毎回思うんだけどさ。あの二人仲良くない?」ヒソヒソ

まどか「そ、そうかなあ?」ヒソヒソ

さやか「まさか、フラグ!!?」

まどか「でも、今日は雰囲気が少しぎすぎすしてる気がする」ヒソヒソ


マミ「それで、貴女達の願いは決まった?」

 突然の問い。
 やはりマミは、魔法少女に勧誘するスタンスを保ち続けるらしい。
 当然か
 それほど、マミの心に巣食う闇は根深い。
 さらに魔法少女の真実も知らない。
 そう、何も知らないのだ。

まどか「え、ああと……」

さやか「あはは……まだ決まってないんですよね」

岡部「……命がけの戦いだ。対価に見合う願いが無ければ、ならないのも一つの手だ」

 それでも、俺たちの意見は変わらない。
 マミとは関係が悪くなるかも知れないが、この方がお互いの為だ。

まどか「でも……」

岡部「現在、この見滝原はシャイニング一人でも守り切れているからな」

さやか「で、でも!! マミさん一人じゃ」

マミ「……確かに、最近は魔女が多くなって少しきついわ」

さやか「ほら!!」

Qβ『じゃあ願い事は決まったのかい?』

さやか「う、それは……」

 沈黙するさやか。
 当然だろう。

 さやかの次の発言を待つ俺たち。

 ポツリと、呟く。

さやか「それってさ、誰か他の人のために使うのってありかな」


マミ「え?」

さやか「たとえば、たとえばの話だよ」

岡部「……」

さやか「私なんかよりさ、ずっと困ってる人がいるなら」

 ―――― その人のために使うのもありかな、なんて。

まどか「……それって上条君の事?」

岡部「上条?」

まどか「ほら、さやかちゃんの幼馴染の……」

 ―――― 幼馴染が、交通事故にあって

 思い出した、さやかの幼馴染は交通事故にあったのだっけ。
 上条と言うのか。
 まだ退院していないのか。

まどか「凄くバイオリンが上手なんですけど……」

 ―――― 腕を怪我して、もう……

岡部「……不躾な質問をしてしまったな、すまない」

さやか「先生が謝る事じゃないですよ」

 気丈に言うさやか。


QB『別に、契約の対象が絶対に契約者自身っていう訳じゃないよ』

 QBの言葉に直ぐにQβが返す。
 
Qβ『僕個人の見解としてはあまりお勧めしないな』

さやか「どうして?」

 Qβは少し躊躇した後、吐き出す。

Qβ『……偽善は自分の身を滅ぼすよ?』

 その言葉を聞いた途端、さやかがいきり立つ。

さやか「偽善って、あんたねぇ!!」

 今にもQβに掴み掛りそうなさやか。
 それを意外にもマミが遮った。

マミ「……私も感心はしないわ」

 マミもこの時ばかりはこちら側らしい。

さやか「マミさん!!?」

マミ「他人の願いを叶えるなら、尚更自分の願いはハッキリさせないと」

 マミの言葉は理にかなっている。
 マミはさらに続ける。








 ―――― 美樹さん

マミ「貴方は、その人の夢を叶えたいの?」

 ―――― それとも、その人の夢にかなえた恩人になりたいの?

マミ「似てるようで、全然違うよ、これ」



さやか「……ちょっと、その言い方はひどいと思う」

 声を絞り出すさやか。
 手は震えている。

マミ「ごめんね、でも、そこら辺をハッキリさせないと」

 ―――― きっと、後悔するから。

岡部「シャイニング……」

 彼女の声には、さやかに対する心配が含まれている。
 マミは特殊だ。
 彼女はそうするしか生き残れなかった。
 だから、
 恵まれているさやかには、しっかりと考えてほしいのだろう。

さやか「……ごめん、あたしも考えが甘かった」

 それをさやかも感じたのだろうか、
 素直に謝罪を口をする。

岡部「文字通り一生に一度のチャンスだ、安易に使うべきではないな」

 一応、釘を刺しておく。

QB『僕としては早く契約して欲し……』

Qβ『黙れよ、契約前提で話すんじゃないよ』

QB『君はどっち側なんだよ……』









 ……Qβいい加減自重しろ、本当にどうなっても知らんぞ?


 数分後;公園

 暗い公園
 まどかとさやかは家に帰した。
 QβとQBも探索に出かけている。
 つまり、公園には俺とマミしかいなかった。

 と、思っていた。

ほむら「分かっているの? 巴マミ。貴女は無関係な一般人を巻き込んでいる」

 暁美ほむら
 何時からいた?

マミ「彼女たちはQBに選ばれたの。もう、無関係ではいられない」

ほむら「貴女は二人に魔法少女になってほしいと思っている。違う?」

 ほむらの問いかけにマミは悠然と答える。
 笑みすら零している。

マミ「そうね、否定しない」

ほむら「でもそちらの人は貴女とは別の意見みたい」

 ほむらの視線が俺に向かう。

岡部「……最終決定は彼女らが下すことだ。……俺個人としては反対だが」

ほむら「強引にでもとめたら? 私にしたみたいに」

 厳しい目

岡部「魔法少女になる度胸も無い俺に、彼女らを無理やり引き止める権利は無いだろう」

 もちろん、全力で引き止めたいが。

ほむら「魔法少女になる?」

 おっと、こいつは俺の才能を知らないのか。
 何でも知ってそうでいて、そうでもないのか。


 だが答えてやる気も無い。

岡部「一方的な情報提供はしたくないな」

ほむら「……じゃあいい」

 ほむらは顔をしかめ、もう一度マミを見る。

ほむら「とにかく、鹿目まどかだけは絶対に契約させるわけにはいかない」

マミ「あら、あなたも彼女の才能に気付いていたの?」

 才能?

岡部「どういうことだ?」

マミ「鹿目さんには強力な魔法少女の素質があるの」

岡部「まどかに?」

 似合わないな。
 いや、ファンシーさでは似合うのか?

ほむら「彼女だけは絶対に契約させない」

岡部「無論、俺はそのつもりだが……、なぜお前はそこまでまどかに執着する?」

 何か違和感を感じる。

 大きな、違和感。

マミ「なるほど、自分より強いものは邪魔ってわけ?」


 ふてぶてしいマミ。
 何時もと様子がちがう。

岡部「しゃ、シャイニング?」

マミ「まるでいじめっ子の発想ね」

岡部「言い過ぎではないのか?」

マミ「QBを自分の利益の為だけに傷つけたの、当然」ヒソヒソ

 女って怖い。
 最近真面目にそう思う。

ほむら「貴方とは戦いたくないのだけれど」

マミ「なら、その尖った態度を止める事ね」

 マミに正論がある。
 暁美ほむらは非常にとっつきにくい。
 マミとは別の意味で孤高の魔法少女だ。
 
マミ「今度私の友達を傷つけることがあるなら」

 ―――― 覚悟する事ね?

 マミは笑顔だ。
 本来笑顔とは威嚇を表すらしいがまさにその通りだ。
 ホントに女性って怖い。

マミ「岡部さん、先帰ってるわ」スタスタ

岡部「お、おい!!」

 そう言い残して、去った。
 かなりご立腹の御様子だ。
 何か奢ってやろうか。
 尤も、金は使いたくないが。



ほむら「……岡部倫太郎」

 急に呼ばれた。

岡部「何だ?」

ほむら「鹿目まどかには近づくな、そういったはずだけど?」

 何やらこの前のことを無視したことでこちらも不満を抱いてるらしい。
 世界が自分の思い通りになると思っているのか。
 俺がその程度の脅しに屈するはずかないだろう。
     ブラック ロック シューター
岡部「《岩の心を持つ黒き射手》よ、何故そう言うのか教えてくれなければそんな警告になど乗れんな」

ほむら「ブラッ……何?」

岡部「ブラックロックシューターだ」

ほむら「どうでもいい……」

岡部「どうでもいいとか言うな!!」

ほむら「で、さっきの話の続きなんだけど」

岡部「聞けよ」

 俺の抗議を無視してほむらは語りだす。

ほむら「貴方は何者?」


岡部「何?」

ほむら「貴方は居るはずの無い存在」

 違和感

ほむら「私の知らない存在。魔法少女を知る男」

 違和感

ほむら「自然なら起こりえない。こんなことは初めて」

 違和感

岡部「お前は、随分と俺の存在を否定したいようだな」

ほむら「気のせいよ」

 一蹴

ほむら「で、質問の答えは?」

岡部「知りたいのか?」

 知りたいのだろう?

ほむら「別に」

岡部「おい」


ほむら「ただ、あんまりイレギュラーを起こして欲しくないだけ」

岡部「イレギュラー?」

 また違和感

岡部「お前……さっきから何を言っている?」

ほむら「少なくとも、貴方は知るべきでないことね」

岡部「……」

ほむら「さようなら、岡部倫太郎。あまり盤上をかき回さないでね」

 ―――― 迷惑だから。

岡部「ブラックロ……って消えた?」

 俺が言い返そうとしたときにはすでに暁美ほむらは居なかった。
 あれが魔法少女の独自能力と言うやつなのだろうか。

 だとしたら、かなり厄介そうだ。





岡部「……帰るか」

 俺も帰路につくために歩き始めた。

 暁美ほむら






 この違和感は何なんだ?


 翌日;ケーキ専門店


 俺はマミとこじゃれたケーキ店にいた。
 黙々とケーキを食べるマミに、紅茶を何杯もおかわりする俺。
 中3JCと19歳、モグリ教師。
 優雅な美少女と、成人間近の男。
 危ない絵だ。

マミ「此処のケーキは美味しいんだけど高くって」モグモグモグモグモグモグモグ

岡部「そうか……」

 どうしてこんなことになったのか簡潔に説明したい。

 福引した
 ケーキバイキング無料券二枚あたった
 マミ誘った

 よし、何とか三行で説明できたな。

岡部「日頃魔女退治で疲れているからな、俺からの報酬だ」

 まどかやさやかにあげるという手もあった、が
 生来の庶民気質からか、高級ケーキ店のチケットを手放せずにいた。
 それに、マミとの関係も修復しておきたい。

マミ「……ありがとう」モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ

岡部「よくそんなに食えるな」

マミ「此処のケーキはとってもおいしいのよ?」

岡部「いくら美味くても限度があると思うが」


 甘いものは別腹、と言うが……。

岡部「いくらなんでも……、10皿以上とか……」

 別腹どころか胃の中にブラックホールでも飼ってるんじゃないか?
 彼女の胃の中に入ったらタイムトラベル出来るんじゃないか?
 本気で考えてしまう。

マミ「何? さっきから見つめて」

岡部「そんなに食べて……、女は体重云々を過剰に気にするんじゃないのか?」

マミ「ご心配なく、だてに魔法少女やっていませんから」フフ

 優雅にほほ笑む。

岡部「魔法少女だからって何でも許されると思うなよ?」

 実際、太らない理由=魔法少女ってなんだ?
 そういえばまゆりも食っても太らなかったよな……。
 胸の脂肪にいっているのか。

Qβ『フ、人類の神秘、だね』

岡部「いたのか」

Qβ『JCをしっかり堪能するのに言葉は不要!!』

 マジモンの変態だ
 ダル以上かもしれない。


マミ「あら、いたのQβ君」

Qβ『いたさ、なんせいっても僕は鳳凰院――――』

 しかし、その名乗りはまたも阻まれる。

 『マミさん!!!!! 助けて!!』

 声が聞こえた。

岡部「なんだ!?」

マミ「あれは、鹿目さん!?」

Qβ『まさか、まどかたちに危機が!?』

 一斉に声がした方を振り向く。
 そこには肩で息をするまどかがいた。

まどか「ハァッ、ハァッ、びょ、病院に、グリーフシードが……」

マミ「グリーフシードですって!?」

岡部「病院にか!?」

 グリーフシードは魔女の卵だ、つまり……

Qβ『それは拙い!!』

 俺たちはかなり危険な状況に動揺を隠せない。
 そこに、追いうちの様なまどかの言葉。










まどか「さ、さやかちゃんが、け、結界の中に……」


 数分後;病院前

 俺たちは病院にたどり着いた。

岡部「ここか……」

Qβ『どうやらそのようだね』

マミ『QB、状況は?』

 マミがさやかと行動を共にしているQBに連絡を取る。

 ―――― まだ大丈夫、すぐに孵化する様子は無いよ

岡部『さやかは大丈夫か?』

 ―――― へーきへーき。退屈だよ

まどか『退屈って、命に係わるんだよ!?』

 ―――― むしろ、うかつに卵を刺激する方がマズイからね、急がなくていいからなるべく静かに来てくれると助かるよ。

マミ『分かったわ』

 ブゥン

 マミが紋章に手をかざすと結界への入り口が出来た。

マミ「さあ、行きましょう!!」

岡部「ああ」

まどか「ハイ!!」

Qβ『了解だよ』


 結界内

岡部「しかし、さやかの奴も無茶をするな……」

 魔女とじかに退治する可能性もあるのに。

マミ「でも今回に限ってはさえた手ね」

岡部「シャイニングにスカーレットが電話すればよかったのではないか?」

 真っ当な質問だと思う。
 それにマミは少し赤くなり俯いた。

マミ「電話番号、交換してないの」

岡部「オイ」

 なんで交換しないんだ?
 俺とは交換しているであろうが。

マミ「自分から交換したいって言い出すのが怖くて……」

Qβ『ボッチ系美少女……萌える!!!!』ボソ

 黙らんか。

まどか「あ、じゃあ今度交換しましょう!!」

 明るくまどかが言う。

マミ「え、いいの?」ウル


 早くも涙目。
 世界記録更新だ。

まどか「マミさんなら全然いいですよ」

 何気ない返答。
 しかし、それはマミの心にダイレクトアタックするぞ?

マミ「」ブワ

まどか「ま、マミさん?」

 案の定の展開だ。
 だが、微笑ましい。
 しかしそれはマミの孤独を加速させてしまうのではないか。
 まどかの魔法少女化を加速させてしまうのではいか。
 俺はそれが、心配だ。

マミ「そうね、これなら魔女を取り逃がす……」

 言いかけて、止まった。
 マミは突然俺たちの方へ振り向く。
 つられた俺も後ろを見ると。

ほむら「……」

岡部「ブラックロックシューター……」


マミ「まだ態度は改めない様ね、暁美さん」

ほむら「今回の獲物は私が狩る。貴女たちは下がって」

岡部「そうもいかない、奥にさやかがいる」

ほむら「その二人の安全は保障するわ」

マミ「信用できないわ」シュル

 マミのリボンがほむらを拘束する。

ほむら「!? ば、バカ……、こんなことやってる場合じゃ……」

マミ「怪我させるつもりはないけど、抵抗したらどうなるか分からないわ」

ほむら「貴女は何をやっているの!?」

マミ「相対的に見た結果ね。信用して欲しいなら誠意を見せる事。良い?」

 ―――― そしてあなたにはこちら側への信用が無いわ。

マミ「そんな人を信用できる?」
 


岡部「シャイニング……」

マミ「行きましょう、岡部さん、鹿目さん」

ほむら「待って!!」

 悲痛な叫びだ。

 また、違和感。

ほむら「ううっ!!」

 ギュゥゥ!

 マミのリボンが締め付ける。

マミ「……行きましょう」

まどか「え、はい……」

 そのまま奥へ歩き去るマミとまどか。
 だが俺は歩けずにいた。
 Qβも一緒にいる。
 少し時間が経っただろうか。

ほむら「早く……止めなさい」

岡部「何?」

 ようやく締め付けから解放されたほむらが俺に向かって呟く。


ほむら「巴、マミでは……この先の魔女に勝てない……」

Qβ『どういう事だい? 君は生まれる前の魔女と戦ったとでもいうの?』

岡部「茶化すなQβ」

Qβ『茶化したつもりはないよ……』

 ほむらの声は真剣そのもの。
 意味不明なことを言っているが、聞かなければならない。
 そんな気がした。

ほむら「早……くしないと……彼女」

 ―――― 死ぬ……わよ?

岡部「!?」

Qβ『ど、どういう事だい!?』

 あまりも突拍子の無い言葉に俺の思考回路はしばし停止する。

 だが、体は即座に反応した。

Qβ『凶真!?』

 驚くQβをしり目に駆ける。


 おそらく、ほむらの言うことは真実だろう。

 なんとなく、分かる。

 何故かと聞かれたら答えようがないが。
 分かってしまう。

 行かなければならない。

 追いつかなければならない。

使い魔「ギャシャシャシャシャ!!」

岡部「どけッ!!」

 使い魔が襲ってくるが無視して進む。

 進め

 進め

 進め

 手遅れになる前に











 そして俺は見つける。

 黄色い髪

 あの、少女だ。

岡部「マミ!!!」


マミ「あら、探したのよ?」

まどか「岡部先生……。逸れちゃ駄目ですよ」

岡部「魔女は!?」

 二人の言葉を遮り、尋ねる。

マミ「まだ」

 簡潔な言葉。
 まだ魔女とは対峙していないらしい。

岡部「そうか……」

まどか「あ、岡部先生!!」

 何かに気付いた様にまどかが言う。

岡部「何だ?」

 その言葉は

まどか「私、決めました」

岡部「何をだ?」

まどか「この戦いが終わったら」

 まどかは少し溜めてから言った。

まどか「私……」








 ―――― 魔法少女になろうと思うんです。


岡部「!?」

 俺は絶句する。
 どうしてそんなことで纏まったのだ?

マミ「鹿目さんと私で魔法少女コンビを結成するの。帰ったらお祝いするの」

 マミが弾んだ声でこっちへ向かってくる。

Qβ『ちょっと待ってよ!? 命がけなんだよ!?』

 Qβの質問は悲鳴に近かった。

マミ「大丈夫、私が守るから彼女は死なない」

 自身に満ち溢れたマミの顔。
 俺は

 ―――― 彼女……死ぬ……わよ?

 思い出す。

岡部「だが、願いは決まったのか?」

まどか「まだ、決めてませんけど……」

 ―――― でも

まどか「私は」

 ―――― マミさんみたいな、カッコいい人になりたいな、って

岡部「……後でゆっくり考えてもいいのではないか?」


まどか「大丈夫です。もう、決めたことですから」

岡部「だが、しかし……」

マミ「岡部さん」

 見つめられる。
 まどかに聞こえないように囁かれる。

マミ「私、やっと気付いたの」

岡部「……」

マミ「岡部さんに言われてから、ずっと考えてた」

 ―――― 私は、独りじゃないのかな。って

マミ「岡部さんが私のことを思ってることもわかった」

 ―――― でも、私の孤独は晴れない。

マミ「でも、さっき鹿目さんが教えてくれた」

 ―――― 鹿目さんの思ってること


 ―――― 本当に、私の隣にいてくれる人。

岡部「シャイニング……」

マミ「分かってる、岡部さんは本気だって。でも」

 ―――― 言葉だけじゃ、足りない。

マミ「最低だって、分かってる」

 ―――― それでもあの子は私のことをかっこいいって言ってくれた。

マミ「あの子だって私にとって光り輝いているのに」

 ―――― だから、教えてあげるの。

マミ「あの子は、自分で思っているような、何の取り柄もない子じゃないって」

 ―――― 私にとっての、救いだって。

岡部「……」

Qβ『凶真……』

 マミは本気だ。


岡部「……」

 此処まで覚悟の決めたマミを俺は引き止めることが出来るのか?
 俺は無力だ。
 引き止めることなど不可能に近い。

 ―――― マミ!! グリーフシードが動き始めた!!!

岡部「何!?」

 ―――― 孵化が始まる!! 急いで!!

マミ「オッケー、分かったわ」

岡部「シャイニング……」

 ―――― ……死ぬ……わよ?

 思い出されるのはあの言葉。
 俺は引き止めようとしたが、その言葉はマミに届かない。

マミ「今日と言う今日は速攻で片づけるわよ!!」

 届かない

 ピカァァァァ

 マミが魔法少女に変身する。
 その表情は自信に満ち溢れていたが、
 俺は不安しか覚えなかった。


 マミの弱点はその慢心にある。
 それが俺とQβで出した結論だ。
 効率ではなく、優雅さを重視した戦い。
 それは彼女の美徳であり弱点。
 実力の無駄遣いに近い。
 それ故に、俺は心配だ。
 特に、今日はマズイ。

岡部「油断は、するなよ?」

マミ「分かってる」

 うわの空で答えるマミ。
 彼女は有頂天だ。
 ただでさえこの状態はいただけない。
 その上

 ―――― 彼女……死ぬ……わよ?

 あの言葉、
 今日は危険要素が多すぎる。

マミ「行くわよ!!」ダッ

 掛け声とともに駈け出す。
 
使い魔「ギギィ!!」ジャキ

 使い魔たちは一斉にマミの方を向く。



 しかし、マミは攻撃される前にマスケットを展開、使い魔を次々と屠る。
 マミが右手の銃を撃った、使い魔が散る。
 マミが体からマスケットを出す。
 マミが左手の銃を撃った、使い魔が散る。

 そうして10秒と掛からず使い魔は全滅。

まどか「マミさん、絶好調ですね!!」

岡部「……」

マミ「さあ、鹿目さん!! 行きましょう!!」

 まどかの手を取り駆けだすマミ。

岡部「……」ダッ

 俺は彼女たちの後を追いかけるしかなかった。


 魔女の間

 マミが力強く向く先、そこには人形のような魔女がいた。

さやか「なんかヨワッちそう」

 お世辞にも強そうと言えない外見だが、油断はできない。
 それこそ、魔女の強さに外見はほとんど関係しない。
 俺たちの認識の外にいる化け物なのだから。

岡部「マミ!! 油断はするな!!」

 堪え切れず、叫ぶ。
 しかし

マミ「……」

 その声はやはりマミまで到達することは無かった。
 マミは満たされた顔でつぶやく。

マミ「もう何も怖くない」ボソッ

 俺は、言い知れぬ恐怖を感じた。

 だが、そんな俺をしり目に演劇の舞台は整っていく。
 整っていってしまう。








マミ「さあ、始めましょう!!!」

 その声が、引き金だった。

 以上で投下終了です。
 原作第3話、上ですね。
 いつの間にか量が多くなっていたのでマミさんの命運は次回で

 ほむほむのあだ名はシュタゲのイラストを描いているhukeさんのブラックロックシューターから
 ほむほむ紫よりは黒っていうイメージも結構あるので。
 あと長い黒髪とか。
 それとひんにゅ……ゴホッゴホッ

 さて、次回は運命の分岐点。
 オカリンの、マミさんの選択やいかに。

 そういえばセブンスドラゴン2020の2で宮野さんと斉藤さんが新規ボイスに!!
 加藤さんもいるのでオカリン・ほむほむ・QBのパーチィ作れるぜやっほう!!
 と思っていたら宮野さんの声が銀河美少年(かデント)でした……。

 サインはいるかい? とか言うオカリンは嫌だ……

 ……話が脱線してしまいましたが、応援してくれる皆様に感謝を

 お休みなさい

 

 応援レスありがとうございます。
 10:15から投下したいと思います。


 第8話;《残念だ》
      ~結合分離のエンプレス~


マミ「折角の所、悪いけど」

 巴マミには、目の前にいる魔女はそれほど強そうに見えなかった。
 故に、彼女は安心しきっていた。

 ―――― マミが銃弾を浴びせる。

マミ「一気に決めさせて!!」

 彼女の思考は、魔女を倒したその先にむけられていた。

 ―――― 反撃は無く、魔女は墜落する。

 鹿目 まどか
 自分の隣に居てくれる存在。
 その存在が、彼女の心の隙を生んだことに気付かず。

 ―――― マミが銃身で魔女を殴りつける。

 彼女は、死への階段を上がり続ける。
 まるで、断頭台へ行くことを知らぬ女王の様に

 ―――― 魔女が吹き飛ぶ。

 普段の彼女なら、此処で違和感に気付いたはずだ。
 しかし、気付けなかった。



 ―――― 吹き飛ばされた魔女は追撃をかわすも、地に這いつくばる。

 それは、彼女の慢心か
 それとも、世界の選択か

 ―――― 倒れた魔女に銃を突きつけ、引き金を引く。

 どちらでも、結果など変わらず。
 悲劇であることには、変わりない。

 ―――― マミは少し下がった。

 そう、悲劇
 用意された舞台
 断頭台

 ―――― 魔女はリボンにより、空高く舞い上げられる。

 巴マミは、彼女は、暁美ほむらの主観で、
 両の指では足りぬほど、此処で死んだ。










 首 が な く な っ た 死 体 の み が 見 つ か っ た。

 ―――― マミは銃を構える。

 たとえ生き残っても、彼女は死ぬ。
 ただ、誤差の範囲内で踊っているに過ぎない。


 ・ ・ ・
 あの日が来る前に、彼女はその短い人生を終わらすのだ。

 ―――― 必殺の銃だ。

 結局、彼女の死は覆らない。
 覆せないのが、世界の選択。

 ―――― 引き金を引く。

マミ「ティロ・フィナーレ!!!!」

 その引き金は、自分の命を絶つものだった。
 そして彼女の死は刻々と近づいてくる。

 ―――― リボンで動けない魔女は、銃弾に打ち抜かれる。
 
 覆せぬ死

 ―――― だが、魔女は大きく息を吸い込んだ。

 決定事項

 ―――― 魔女は何かをを吐き出す。

 巴マミでは、その迷宮から抜け出せない。

 ―――― それは一直線にマミに向かって来る。

マミ「え?」

 彼女の最後はいつも死だった。
 
 ―――― マミは、茫然と魔女を見る事しかできなかった。





















 ただ、悲劇で終わる運命は、一人の道化師によって覆される。

岡部「マミィィィィィィィィィィ!!」

 ―――― マミに向かっていた俺は、彼女を思いっきり突き飛ばした。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 魔女の間


岡部「グァ……、ゲホッゲホッゲホッ!!!!!」

マミ「……え?」

 俺はあの時、マミが魔女に攻撃される前、既にマミに近づいていた。
 戦いはマミの優勢に見えたが、どうしても暁美ほむらの忠告が頭から離れなかった。
 それが幸いした。

 マミを助けることが出来た。

岡部「話は後だ、まだ魔女がいる」

マミ「おか……べさん?」
 
 マミはまだ放心状態だ。

岡部「しっかりしろ!!」パチン

 頬を叩く。
 申し訳ないが、気つけの為だ。

マミ「どうして?」

 その疑問に答える暇は無い。

魔女「……」ギロ

 魔女が俺たちを睨んだ。
 襲い掛かってくる。

岡部「クソッ!!!」ダッ

 俺はマミを抱えて攻撃を避ける。



 俗に言う、お姫様抱っこのような姿勢になりながら俺は、マミに語りかける。

岡部「言っただろう? 仲間だからな」

 それが、偽りのない俺の本心だ。

マミ「仲間……?」

 マミは不思議そうに呟く。

岡部「放心するのは後にしろ。……魔女が来る」

マミ「……」

 マミは無言だ。
 運よく魔女はまだこちらを警戒し、動いていないが
 再び襲ってくるのも時間の問題だろう。

 そして

マミ「……そう……仲間……」スタ

 マミが俺の腕から離れ、二本の足で立つ。

岡部「マミ……?」

マミ「ありがとう岡部さん。もう大丈夫」

 俺が見上げる、その先には。

マミ「あの魔女は、私が倒す」













 気高く、優雅な、一人の魔法少女がいた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 巴マミは散り散りになっていく力を束ね、立ち上がる。
 目の前にいるのは魔女。
 
 巴マミは知っている。
 自分は、この戦いで命を落とすということを。

 知っている――――と言うにはあまりにも朧げなそのビジョン。
 微弱ながら彼女にリーディングシュタイナーが発動した。

 だから、分かる。
 自分はここで死ぬ。

 さっき感じた死の恐怖は、今だ拭い去ることが出来ない。
 それでも、立ち上がる。

マミ「私が、一番口先だけだったのね……」

岡部「え?」

 何も怖くないなど嘘だった。
 死への恐怖は常に隣にいる。

 だが

マミ「喰らいなさい!!」 

 ―――― 打ち出した銃弾は真っ直ぐに魔女へ向かう。



 隣に居るのは、恐怖だけではないことを知っているからだ。

 ―――― 魔女に全て当たるも、効いた様子は無い。

マミ「まだまだ!!」

 単に、自分が気づいていないだけだったのだ。

 ―――― マミはリボンで魔女を牽制する。

 孤独な自分に酔っていただけなのだ。

 ―――― ぶちぶちぶちと、リボンを噛みちぎる音がした。

 力が無くても、隣にいてくれる

 ―――― マミは恐怖で消えそうになる魔力を律した。

 そんな存在から、目を背けていた。

 ―――― 一瞬だ。一瞬でいい。

 その存在は自分を守ってくれた。

 ―――― 一瞬だけでも、隙が出来ればいい。

 自分は独りじゃなかった。そんなことに、今さら気づいた。

マミ「……」ギリッ


 その思いが、自分に恐怖と立ち向かう力を与えてくれた。
 恐怖を感じないのは強さじゃない。
 物理的な脆弱さが弱さに繋がるわけではない。
 恐怖を感じながらも立ち向かうことこそ、本当の力。
 たとえ力が無くても、必死に足掻くのが、本当の強さ。

 ―――― マミは再びリボンで牽制する。今度は二倍の量だ。

 そう、気付いた。
 あの人は自分よりも遙かに強くて弱い。
 自分はあの人に支えられている。

 ―――― しかし全てかわされる。

 だけどあの人を守る者は居ない。
 なら、自分が盾になればいい。
 と、思っていた。




















 ―――― そして、放り捨てたはずの銃身が魔女にぶつけられた。

マミ「!?」

岡部「マミ!! 今だ!!」

 ―――― 魔女の殺意が岡部に向く。

 結局、助けられてばかり。
 でもそれは、自分が独りじゃないという実感を感じるものだった。















 そして、その充実感は

 ―――― マミはその一瞬を見逃さず

マミ「ティロ!!!!!!!」

 虚ろな悲劇を

 ―――― ありったけの魔力を

マミ「フィナァァァァァァァァァァレ!!!!!!!」

 破壊する。

 ―――― 必殺の一撃にのせた。














 爆音がする。

マミ「ハァッハァッ……」クラッ

 立ち込める煙の中マミは、自分の体が誰かに支えられるのを感じた。

岡部「大丈夫か!?」

 それは、とても暖かく、嬉しかった。

マミ「大丈夫……」

 だが

岡部「早くグリーフシードを……」

 岡部がそう言い終わらぬうちに



































 ―――― 魔女が、一直線に向かって来る。


マミ「岡部さん!!!」

 マミは震えそうになる手に、力を込め。

 ―――― 魔女が来る。

岡部「何をする!!!??」

 最期の言葉と共に

 ―――― 魔女が来る。

マミ「――――――」

 岡部を、突き飛ばした。


















 ぼりぼりむしゃむしゃむしゃぼりぼりと


 ナニカをかみ砕くような音が響いた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 俺は何もすることが出来ずに、呆然と、アホの様にひざまづいていた。

岡部「ア……ァ」

 マミが倒れている。
 全身真っ赤で、倒れている。
 あのあかかああかかかかかかああ赤かかかあかかあ赤赤いものは何だ?

まどか「嫌ァァァァァァァ!!!!!!」

 誰かの絶叫が聞こえる。

魔女「……」ギロ

 魔女がこっちを睨んでいる。
 
 しかし、俺の目に映る全てが色彩を無くし、ただ彼女の赤だけが鮮明だった。
 首から上が足りないような気がする。
 きっと気のせいだ。

岡部「ひ……」

 これは何だ?
 眠っているのか?

 ―――― 違う

 じゃあ何だ?
 分かった、気絶してるんだろう。

 ―――― 違う



 じゃあ何だって言うんだ!?

 ―――― もう分かってるんだろ?

 それじゃあマミは死んだって……


 ……死んだ?























 パリン

 何かが、割れる音がした。


 死んだ?死んだ死んだ死んだ?

岡部「あ……」

 そうだ、そうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだそうだ。
 これが死だ死だ死だ死だ死だ死だ死だ死だ死だ死だ死だ死だ

 思い出した

 オモイダシタ









岡部「あ、ああああああああああああ!!!!!!」

Qβ『凶真!!?』

 まゆりと紅莉栖はこうやって死んだんだ。
 こうやってこうやってこうやってこうやってこうやって

 死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ


 まゆりの死が、くりすの死が、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐると
 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐると

 俺の頭の中で回る回る回るまわるまわるまわる

まどか「岡部先生!! 逃げて!!」

 ―――― 魔女は岡部に今も襲い掛かりそうだ。

 しんだしんだしんだんだあはははっははははははっはははははは
 ははははははっははははあははははははっははははははははは

QB『二人とも!! 早く契約を』

 ―――― 契約を迫るQB

Qβ『僕が囮になるから、凶真を連れて逃げて!!!!!』

 ―――― 身を挺してかばおうとするQβ

 死死死死死死死

 ―――― 怪物の牙は岡部に襲い掛かってくる。

 あははははははははははははははははははははははははははははは

Qβ・QB『『早く!!』』

まどか「あ、ああ……」















 ―――― その必要は無いわ
















 赤くて赤くて赤くて赤いチがマミからしみだしている。

ほむら「此奴を倒すのは……私」
 
 ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう
 マミがマミがマミがマミがマミがたおすはずだったんだ。

 ―――― 魔女は突然現れたほむらに、臆することなく食らいつく。

 マミからあたたかいモノがながれだす。
 そのかわりマミはつめたくなってくる。

 まゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすゆるして
                    まゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすゆるして
 まゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすゆるして
                    まゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすまゆりくりすゆるして
 
 これがしだこれがしだ

 おれがかのじょたちをころしたんだ。

 ―――― しかしその牙は空を切る。

 ゆるしてゆるしてゆるして

 ―――― ほむらは別の場所に立っていた。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる



 ―――― まるで暁美ほむらという存在をそのまま切り取って、別の場所に置いた様な不自然な移動。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

 ―――― 魔女は再びほむらに襲い掛かる。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

魔女「ガブッ」

 ―――― 当たらない

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

魔女「ガブッ」

 ―――― 当たらない

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

魔女「ガブッ」

 ―――― 当たらない

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

魔女「ガブッ」

 ―――― 当たらない

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

魔女「ガブッ、モグモグモグモグ」

 ―――― ようやく、喰らいつけた。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

ほむら「……終わりね」


 ―――― 魔女が食べたのは爆弾だった。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

魔女「!?」

 ズガァァァァァァァァァ!!!!!

 ―――― 魔女が内側から爆発する。

ほむら「……」

 ―――― 爆発の連鎖は留まることを知らない。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

 ―――― そして魔女は沈黙する。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

 ―――― ほむらはそれを、静かな目で見ていた。

さやか「……ッ!!」

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……ぐ?

ほむら「……命拾いしたわね」

 ぐるぐるぐるぐる……どうして死んでしまった。

ほむら「目に焼き付けておきなさい」

 ぐるぐるぐるぐる……なんで思い出してしまった。

 ぐるぐるぐるぐる……死の、実感を。

ほむら「魔法少女になるって」

 ぐるぐるぐるぐる……思い出した
 
 死ぬってことは



 まゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりす
  まゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりす
   まゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりす
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             まゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりすまゆりまみくりす






 「「こういうことよ(だ)」」



 夕方;病院の外



さやか「返せよ……」

 誰かが何か言っている。

 どうして

 どうして

 どうして

ほむら「……」

さやか「返せよ!! それはマミさんのグリーフシードだ!!」

 なんでマミの

 どうしてマミの

まどか「……岡部先生、大丈夫ですか?」

 最後が

 あんなんなんだ

ほむら「そう、これは魔法少女の為のモノ」

まどか「……」

ほむら「貴女達には、触る資格なんてない」


 どうして

 マミの最期が

 マミの最期の言葉が

 あんなんだったんだ

 






















 ―――― 倫太郎さん、ありがとう


























 ボキン





 何かが、折れる音がした。


岡部「……」スチャ

 俺は携帯を構える。
 マミが任務で殉職したことを伝えなければ。

まどか「どうしたんですか? いきなり携帯なんて出して……」

 無視する。

岡部「俺だ」

 パリパリパリパリパリと、何かが塗りたくられていく。

さやか「せ、先生?」

岡部「マミがやられた。ああ、惜しい人物を無くした」

 心を塗り固める音だ。

ほむら「……」

岡部「だが、俺は機関の陰謀に屈したりなどしない」ククククク

 心を、嘘という名の漆喰で、固めようとする音だ。

岡部「ああ、分かっているさ」

 まゆりや、紅莉栖やマミ、彼女たちの死で、足が止まる前に

Qβ『凶真……』

 覆い尽くしてしまおう。

 それが

岡部「全て」

 ―――― 運命石の扉の選択だよ。

岡部「エル・プサイ・コングルゥ」


まどか「先生……」

 可哀想なモノを見るような目でまどかが俺を見る。

さやか「先生がおかしくなった……」

 さやかも同様だ。

岡部「Qβ」

 俺は彼女たちを振り向きもせず、Qβに話しかける。

Qβ『な、何?』

岡部「まどかとさやかを家に送ってくれ」

 今はもう遅い時刻だ。

Qβ『もちろんそのつもりだけど……凶真は? どうするの?』

 俺は、ほむらの方を向く。

岡部「暁美ほむら、話がある」

ほむら「……頭のおかしい狂人と話すことは無いわ」

 憐れむような目で、見つめてきた。

まどか「ほ、ほむらちゃん!!!」

 少しだけ、怒ったような声色。

岡部「別にいい」

 だが必要ない。

まどか「あ……」


岡部「クックックックック……この話を聞いた後でも同じことが言えるかな?」

 喉からの笑い声を、あえて口で言う。
 キメキメに言う。

ほむら「何の事?」

 俺は既にある結論に達した。
 さっきので、靄のように不鮮明だった記憶が、実感が、全て戻ってきた。

 だから、気付けた。
 理解できた。
 違和感の答えに達した。

岡部「ククククク」カッカッカッカッカ

 ほむらに近づく。

ほむら「!?」ザッ

 警戒態勢に入るほむら。
 無駄だよ。
 こっちには戦う意思など無い。
 それに、
 
 貴 様 如 き で は 俺 を 殺 せ な い 。
 
 だからさ

岡部「仲良くしようじゃないか。 《時間遣い》」ボソ

ほむら「!?」

 ほむらの横を通り過ぎる時、低く呟いた。
 まるで三流映画の悪役のように。

 そう、嘯いて見せた。
















 さあ、壊れた話を、始めよう。












 以上で今回の投下を終わりにします。
 
 オカリンついに暴走。
 >>1 は中鉢スイッチと呼んでいるものが入りました。
 300人委員の鳳凰院モードでも言い換え可。
 ぶっちゃけ未来オカリンに少しづつ近くなっています。
 
 そしてマミさん救済ならず。
 そもそも両作品が運命に抗う物語なので、簡単に救っちゃいかんだろという判断の元、苦渋の選択。
 マミさん好きなのに……
 ただ、見せ場は当初の予定より大幅アップしました。
 はたして彼女の最期は悲劇か、それとも……

 次回はちょいとオリジナル回になります。
 オカリンに注目です。

 それと、今回は表現に少し工夫を。
 ―――― 
 ↑を多用し、描写を分けてみました。
 改良点などがあったら指摘お願いします。

 長文失礼しました。
 
 それではお休みなさい。

 予定が多かったため一週間ほど間が開いてしまい誠に申し訳ございませんでした。
 10:00ごろから投下したいと思います。


 


 第9話;《救えなくて残念です》

 夕方;公園

 暁美ほむらは困惑していた。
 
岡部「何か飲み物でも奢ってやろうか?」

 何故自分と目の前の男が公園にいるのか……ではない。
 それよりもさらに重要なことがある。

岡部「フム……ドクターペッパーは無いのか、使えん自販機だな」

 こ の 男 は 誰 だ ?

 ほむらが知る岡部倫太郎ではない。
 いや、彼はイレギュラーであるのでよく知っている人物というわけではないのだが、
 巴マミが死んでから人が変わったように振る舞いだした岡部。
 彼の身に、何が起こったのだろうか。

ほむら「いいから早く話をしてくれない?」イライラ

 余裕、というより危機感不足な岡部の態度にほむらは少し苛立つ。
 だが、内心は冷静に岡部を観察していた。

岡部「そう焦るな」ククク

 公園のベンチに座りながら含み笑いをする岡部。
 
 ほむらはやはり、この一週間で掴んだ《岡部倫太郎》とズレを感じた。
 ほむらにとって、岡部はここまで不気味な人物ではなく、むしろ好青年と言う印象だった。



 少しまどかになれなれしいのには目をつぶる。
 だが実際、岡部は生徒からの人気も高い。
 顔も平均以上、性格も穏やか、
 表情の起伏が少ないのが欠点だが

 『それがいいんじゃないの!!』

 とか言われて一部の女生徒からは熱狂的な支持がある。

 ほむらも岡部の印象は《お人よし》である。
 感想はそれ以上抱かなかった。
 たとえイレギュラーでも、
 魔法少女の才能があったとしても、
 男がそこまで魔女との戦いに介入するとは思えなかった。

ほむら「……どうして?」

 徐に口を開く。
 ほむらは理解できないことがあった。

岡部「何の事だ?」

 薄ら笑いによって、表情を歪めている岡部。
 
ほむら「貴方の《時間遣い》っていう発言の事」

 ほむらの魔法は、傍から見れば性質が分かりづらい。
 それに自分の情報を一切漏らしていないほむらとしては、納得のいかない事態だった。



                       サイズハング
岡部「残念だったな。さっきの言動は《カマかけ》だ。情報ありがとう」

 やられた。

ほむら「カマかけだったっていうこと……」

 そうだとしても何故岡部はその結論にたどり着いたのか。
 ほむらには理解しがたい。

岡部「そうだな……」

 岡部は何事かを考える。
 ほむらはそれを冷ややかな目で見つめていた。

岡部「まずは結論から言わせてもらおうか」

 ポツリと、口を開く。

ほむら「何?」

岡部「違和感は始めからあった」

ほむら「違和感?」

岡部「そうだな、この俺でなければ気付かないような違和感だ」

ほむら「……」

岡部「暁美ほむら……貴様は」

 岡部は、躊躇いながらも、しっかりとした口調で言葉を吐き出す。












 ―――― 未来から来たのではないか?


ほむら「!?」

 いきなり核心にたどり着いた。
 ほむらは内心舌を巻く、が表情には出さない。
 相手にアドバンテージを取られてはいけない。

ほむら「どうしてそう思ったの?」
 
 否定も肯定もしない言い方をし、岡部の出方を見る。

岡部「言っただろ? 違和感だ」

ほむら「違和感?」

岡部「貴様は未来の事、いや、本来知りえない情報を知っていた」

ほむら「たとえば?」

岡部「保険委員が誰か・保健室の道・その他の言動から推測しただけだ」

ほむら「早乙女先生から聞いたって言わなかった?」

 そう指摘するが、岡部は表情を歪めニヤニヤ笑うままだ。
 それが無性に、ほむらを苛立出せる。

岡部「いや、そんなものは俺の推論を補強するものでしかない」

 不意に、岡部の声のトーンが落ちる。

岡部「結局全て当てずっぽうの推論に過ぎない」

 当てずっぽうの推論で自分が時間遡行者ということがばれた?
 それこそほむらにとって信じがたい事実だ。



ほむら「当てずっぽうでよくそんな自信満々に語れるわね」

 実際、当てずっぽうでここまで語れるのなら別の意味でも凄い。

岡部「可能性は無限だ。俺はその中で最も状況合うものを選んだに過ぎない」

ほむら「だから、その発想がどこから来るの?」

 ほむらの苛立ちの篭もった問い掛けにも岡部は不敵な笑いを崩さない。
 そして、言った。

岡部「《目》だよ」

ほむら「目?」

 意味が分からない。
 混乱するほむらを無視し、岡部は続ける。

岡部「貴様の目を見たときだ」

ほむら「どういう事?」

岡部タイムリーパー特有の目……、年齢と内面があっていない、不和、揺らぎと言ってもいい。

ほむら「……」

岡部「確かに、違和感に気付かない人間は多いだろう。だが、俺は気付くことが出来た。尤も、時間はかかったがな。」


ほむら「……」

 ほむらは無言のまま、思考する。
 この男は何者かと。
 自分の最大の秘密に、わずか一週間で辿り着いた男。
 その危険性は未知数。
 目的も定かではない。

岡部「俺としては、なぞなぞの答え合わせなど放っておいて、本題に入りたいのだが」

 ほむらの秘密をなぞなぞ呼ばわりする岡部。
 ほむらはなぜ気付いたのか、さっぱり分からないのに。
 ほむらは無性に腹が立った。

ほむら「なぞなそごときで、一週間も悩んだ男が良く言うわね」

 今日の自分はおかしい。
 感情的になりすぎている。
 そう思うも、嘲りの言葉を止められなかった。

岡部「……ほう?」

 岡部は、それを聞くと目を細めた。
 そして、微笑むような表情で言う。

岡部「ああ、確かになぞなぞ呼ばわりはあまり良くない表現だったな」

 口元が、歪む。
 それは、狂った道化師の様にも、愚かな民を見守る聖人のようにも見えた。

岡部「貴様は血反吐を吐く思いで、運命を変えようとしているのにな」

 ゾクリと
 何かが捕まれるような気分になった。
 岡部の顔は相変わらず、半月のように口が開いている。


ほむら「貴方は何者なの?」

 やっとの事で声を絞り出す。

岡部「そうだな……」

 岡部は少し黙り、思考する様子を見せる。
 そして

岡部「鳳凰院凶真、とでも呼んでくれ」

 意味が分からない。
 ほむらは目の前の狂人の雰囲気に、調子を掻き乱されていた。

ほむら「鳳凰院……?」

岡部「フェニックスの鳳凰に院、そして凶悪なる真実、それで鳳凰院凶真だ」

 そしてクックックックック……と笑う。
 その姿は狂った道化師ごとく、奇怪だった。

ほむら「……」

岡部「まあ、そんな事はどうでもいい」

 岡部はまるで自分自身の発言すらも、意味の無いモノとして振る舞う。

岡部「さっさとこの話の本題を取り出そうではないか」

ほむら「……本題って、さっきも言っていた?」

岡部「そうだ」


岡部「俺がわざわざ貴様と会っているのには目的がある」

ほむら「目的?」

岡部「貴様の協力をしてやろう」

ほむら「……協力?」

岡部「ああ、そうだ」

ほむら「……どうして?」

 何故、この男は自分に協力したいなどを言い出した?
 いや、同盟自体は《岡部倫太郎》自身から話が出ていた。

岡部「そうだ、貴様にも変えたい運命があるのだろう?」

 ただ、目の前の不敵な男から、そんな言葉が出るとは思わなかった。

岡部「だったら、俺がそれに協力してやる」

ほむら「……」

 ほむらは沈黙し、頭を回転させる。
 岡部の協力を受けるメリットについてだ。


 岡部倫太郎

 イレギュラー

 鳳凰院凶真

 目の前にいる男は有用か?
 ほむらの脳がガリガリと、プラスマイナスの計算を始める。

 岡部の実績……プラス。

 イレギュラーとしての不確定さ……プラマイゼロ。

 まどかの信頼を持つ……マイナス。

 自分の情報を持つ……手に収めなければマイナス。

 岡部の戦闘力……マイナス。

 岡部の不気味さ……マイナス。

 そもそも自分の思い道理になるのか? ……マイナス。

 それに、ほむらには岡部といるときの雰囲気が嫌だった。
 自分の奥底を握られているような感覚。
 自分自身につけた仮面が意味をなさない感覚。

 そして、やはり

 《もう、誰にも頼らない》

 その誓いが、彼女に結論付けた。


ほむら「その必要は無いわ」

 それは、拒絶の言葉。
 誰かに頼ることを、人の強さを認め無くなった言葉。
 誰かに裏切られ続け、失望し、虚ろな何かに満ちた言葉。

 しかし、岡部はそれすらも気にせず、ほむらの心に土足で入りこむ。

岡部「……本当にいいのか?」

 岡部は再度問う。

岡部「貴様は本当に最後の希望を逃すことになるぞ?」

 それは、出来の悪い悪徳商法染みていた。

ほむら「……私一人で十分」

岡部「本当にそうか?」

 岡部の顔が、歪む。

岡部「だったら、貴様の目がそんな風になるまでタイムリープする必要も、無かったと思うがな。」

ほむら「……」

 ほむらは押し黙る。
 確かに、自分は既に時間の迷子だ。
 しかし、ここで諦める訳にはいかない。
 止まってはいけないのだ。
 彼女との約束を果たすため。
 今回こそ絶対に勝つ。

 そう、決意したはずの心を
 岡部は、この男は、
 踏みにじってくる。


























 ―――― 何回失敗した?

 岡部の声が、不協和音を奏でた。


 ―――― 何度繰り返した?

 ゾクリ、と悪寒がする。
 岡部の口が、耳まで裂けているような気がした。

 ―――― 俺からの協力を拒むとは、よほど自分の力に自信があるらしいな。

 からかう様な口調。
 だが、その声色には怒りと苛立ちが含まれていた。
 ……苛立ち?

 ―――― まさか、それほど失敗していないのか? 

 自分の心が、鷲掴みにされる様な感覚。
 気持ち悪い。とほむらは思った。
 
 ―――― たった数十回程度で、俺と言うイレギュラーに会えたのか。運がいいな。

 その言葉を聞いたとき、ほむらの中の何かが恐怖に勝る。

ほむら「たった数十回?」

 ほむらの心がどす黒い感情を生産する。
 
ほむら「たった数十回だけですって?」

 それがどんなに辛かったのか、オマエは知っているのか?
 何十回も最愛の人の死を見続けるのが、どんなに辛い事か分かっているのか?
 
 生み出された言葉を、ほむらは押しとどめる。
 此処で感情を表したら、それこそ岡部の思い通りと。
 
 しかし、岡部はほむらを気にも留めない。



 ―――― ならば時間跳躍の限界はどれくらいなのだ? 貴様の達観具合から見ると2日程度という事はなさそうだが?

 2日程度、と言う岡部の声に妙なものを感じるほむら。
 だが、違和感に気付かない。
 それほど、今のほむらの内心は、平常とは程遠かった。

ほむら「貴方に……何が分かるっていうの!?」

 こんな男に、何も特異な人生など送っていなさそうな男に、自分の苦悩が分かる筈がない。
 思考の中で言葉を吐き捨てる。
 こんな奴に、こんな奴に、こんな奴に、
 こんな―――

 ―――― そうだな、時を超える時、ゲームのリセットボタンを押しているような感覚は無かったか?

 え?

ほむら「なんで……」

 それを? と言おうとした自分を無理やり押さえつける。
 言ってしまったら、認めてしまうような気がしたからだ。

 失敗したとき。
 彼女を救うのに失敗したとき。
 最近は、もはや彼女の死をを嘆き悲しむのではなく――――

 ―――― 《また駄目だった。今回の失敗の原因は?》という冷めた分析をするのではないのか?


 今度こそほむらは青ざめた。

ほむら「何で……私の……」

 考えていることが分かるの?
 
 そういう前に、岡部は言葉をつなげる。

岡部「……同じだからさ」

 それは、哀愁の混じった声色だった。

ほむら「え……?」

 ほむらは岡部を見つめる。
 そこには、歪んだ顔の道化師はいなかった。

 そこにいたのは

岡部「俺も、タイムリーパーだった。大切な奴を死の運命から、救おうとした」

 実年齢から何十歳も年を取ったような。
 そんな顔をした男がいた。

岡部「でも、駄目だった、駄目だったんだ」

ほむら「……岡部?」

 その声色の変化に、ほむらは戸惑う。

岡部「分かるか? 運命は最初から決まっているんだ」



ほむら「何を……」

 疑問符を浮かべるほむら、岡部は嘲笑う。

 ―――― ……おいおい、何度もやり直していて気付かないのか?

 岡部の声に再度不協和音が混じる。
 さっきまで苦悩で歪んでいた岡部の顔が、仮面を張り付けたように変革する。

 ―――― 感じたことは無いか? 何度やっても変わらない決定事項、世界の収束を。

ほむら「……」
 
 ほむらは思考する。
 岡部の言葉の真意についてだ。
 運命の収束、決定事項。
 だが、いくら考えても岡部の真意は理解できなかった。

 ―――― 分からないか……、まあいいさ、確かに貴様の知らない理論で惑わすのはよくないな。

 クックックックック……と、含み笑いをする岡部。
 不気味さが加速する。

 ―――― いいさ、時間は有限で無限なんだ。ゆっくり教えてやろうか。

ほむら「……何を?」

 ほむらは岡部の考えていることが全く分からない。

 ―――― そうだな、貴様の事についてもしっかり聞きたい、ならば俺の事について先に話すのが礼儀だろうな。











 そうして岡部の口から語られたのは、突拍子もない、救いようのない物語だった。



 数分後

ほむら「……嘘よ」

岡部「嘘ではないな」

 否定するほむらに、肯定する岡部。
 岡部の声からはあの不協和音が感じられなくなった。
 だが、不気味なのはそのままだ。

ほむら「それが事実なら……、私はまどかを救えないって事?」

岡部「……全ては貴様の時間跳躍の限界次第、もしくは俺の様なイレギュラーに頼るか、だな」

 岡部の声は一定の質を保ち続ける。
 まるで、機械仕掛けの人形。
 それに対し、ほむらの声からは余裕が無くなっていく。

ほむら「そんなの、嘘に決まってるじゃない……」

 運命が決まっている?
 世界は収束する?
 だったら、自分の努力はどうなる?
 全て無意味だったのか?
 

 そんな訳が無い。
 そう、ほむらは結論付けた。

ほむら「第一、貴方の話は信用に値するようには聞こえない」

 岡部の話を信じたくなかった。



ほむら「全て、貴方の妄言の可能性も捨てきれない」

 今までの岡部の言動。
 それを肯定する材料は、何一つない。
 そう、岡部の語る事には証拠がな――――

 ―――― 試してみるか?

ほむら「……何ですって?」

 言葉の真意を理解しかねるほむら。
 岡部はさらに、大きく口を開いた。

 ―――― 俺を殺してみろ。

ほむら「!?」

 ほむらはますます真意が分からなくなった。
 岡部は笑いを止めることなく、続けた。

 ―――― 世界線収束の証明だ。俺は収束理論では2025年までは死なない。……尤も、この世界線ではそうと限らないが。まあ、その時はその時だ。

 気がふれたようなことを言い出す岡部。
 
ほむら「……狂ってる」

 かろうじて、言葉を吐き出す。
 まさに狂人の思考だ。
 運命を証明するために自分の命を懸ける?
 ほむらには、それが狂行にしか見えない。



 もしかして、巴マミを失った悲しみから逃れるための手の込んだ自殺?
 そうとも、考えた。
 だが、それは呆気なく破壊される。

 ―――― どうした? 俺を殺せれば、運命の否定になるだろう? 貴様は運命を否定したくはないのか?

 不協和音が膨張した。
 その声には、混じりっ気のない純粋な狂気が含まれていた。
 それらが、ギリギリとほむらを締め付ける。
 万力に締め付けられたような心は、音を立てて軋みだす。
 そこに、追い打ちをかけるような岡部の言葉。

 ―――― 怖いのか? 運命を認めることが、世界の収束を認めることが。



























 プツリ、とほむらの中の何かが切れた。


ほむら「……運命なんて、存在しない」

 ―――― ほう?

 岡部の顔が、ますます歪む。
 ほむらはそのまま続けた。

ほむら「あったとしても、打ち砕いて見せる」チャキ

 そう言いながら、ほむらは銃を構える。
 幸い、夜も更け、人はいない。
 銃を撃っても、誰にも見とがめられないだろう。
 そう判断した。

 ほむらは、何回もの時間跳躍の中で歪んだ感性で、岡部との会話で冷静さを失った思考で、そう判断した。

 ―――― やっとやる気になったか。まあ、その覚悟は無意味なものだが。

 嘲笑う岡部。

ほむら「絶対に、貴方の思い通りにはならない」グッ

 ほむらは引き金にかけている指に力を入れた。
 
 ―――― おっと、一発で殺せるよう調整してくれよ? 無駄な怪我はしたくないからな。

ほむら「……ッ!!」

 この状態になっても余裕を崩さない岡部。
 ほむらはそれに答えはせず、岡部の頭に向けた銃の引き金を――――


















天王寺「お嬢ちゃん、夜遊びは感心しねぇなあ」ガシッ








 引くことは、出来なかった。








ほむら「……離して」

 ほむらの言葉を、しかし大男は聞かなかった。

天王寺「そりゃあモデルガンか? いけねぇなあ、子供が持つもんじゃねぇ」

岡部「……ミスターブラウンですか」

 岡部が大男に話しかける。
 その声色から、不協和音は消えていた。

天王寺「おう、岡部。……ミスターブラウンはやめろっつてんだろ。俺は天王寺だ」

岡部「スミマセンね、癖の様なものだ。気にしないでくれるとありがたい」

天王寺「気にするなって、無理だろ……」

 天王寺と呼ばれた大男と岡部はそのまま会話を始めた。
 どうやら、知り合いらしい。

天王寺「……んで、このお嬢ちゃんは何モンだ?」

 急に話の矛先がほむらに向かった。

天王寺「オメエに妹がいる何ざ聞いたことが無いんだが……」

ほむら「妹なんかじゃないわ……」

 腕にかかっている力が予想外に強い。
 ほむらは、弱々しい声で天王寺の疑問を否定した。


岡部「……そいつは俺の生徒ですよ」

天王寺「生徒?」

岡部「ええ、人生相談を受けましてね」

天王寺「……ああ、そういえばオメエ教師のモグリやってんのな」

 納得したようにうなずく天王寺。
 しかし、すぐに疑問符を浮かべる。

天王寺「って、人生相談受けてんなら、何でモデルガン突きつけられてるんだよ」

岡部「ああ、こいつは軍事オタクでしてね。たまにこうして威嚇してくるんですよ」

 ほむらが銃を出すよう誘導したのは岡部であり、
 またほむらは軍事オタクでもないのだが。
 ほむらは飛び出そうになった言葉をかろうじて喉に戻す。
 これ以上混乱させるのは得策ではない。
 そう判断したからだ。

天王寺「威嚇でも人にモデルガンを向けるのは、良くねえと思うぜお嬢ちゃん」

 天王寺がほむらに話しかける。

ほむら「まずは離してくれない……?」

天王寺「……まあいいぜ、こっちの危ねぇモンは預かっとくけどな」ヒョイ


 銃を奪われた。
 力は強く、ほむらの自力では対応できない。

天王寺「おい岡部、オメエもこんな時間に人生相談なんざやってんじゃねえよ」

岡部「大丈夫です。そろそろ終わるころでしたから」

天王寺「そういう事じゃないんだけどな……」

 困ったように頭をかく天王寺。
 そして、まあいいかと言いほむらに向き直った。

天王寺「嬢ちゃんもこんな時間までこのバカと一緒にいないこったな。何されるか分かったもんじゃねえ」

岡部「年下趣味は無いので」

天王寺「オメエな……、っつーか二人ともさっさと家に帰れ」ホレホレ

 岡部の態度に呆れの様なものを浮かべる天王寺は、
 何かを思い出したように、ほむらたちが家に帰るよう促した。

天王寺「それにな、最近妙な噂が絶えなくてな……。嬢ちゃんぐらいの年の子供が何処かにいなくなるっつうな……」

 そんな噂をほむらは聞いたことが無かった。
 魔女が何か関係しているのかもしれない。

岡部「言われなくてもそうしますよ。……ブラックロックシューター、送ってやろう」

 岡部がほむらの方を向いた。
 しかし、ほむらは拒絶した。

ほむら「その必要は無いわ」


天王寺「……でも夜も更けてるしよ、送ってもらった方が良いぜ」

ほむら「必要ない」ダッ

 そう言って駈け出した。

岡部「……」

天王寺「おい!!」

 岡部と天王寺が反応し、追いかけようとするころには、既にほむらの姿は闇に消えてしまった。


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 ほむらは走っていた。
 何故だかは分からない。
 だが、これ以上あの場所にも居たくなかった。

 岡部倫太郎

 あの男といると、暁美ほむらは壊れていく。
 正確には、《暁美ほむら》という仮面が壊れていく。

 全てが見透かされているような感覚。
 
 自分自身が浮き彫りになる感覚。

 それがたまらなくほむらにとって不快だった。
 だが、

ほむら(岡部 倫太郎……)

 自分が見透かされるというのは、
 同時に自分を理解してくれるという事で、
 もしかしたら……と言う期待も心のどこかにあった。

 もしかしたら、自分を理解してくれるのではないかと。

 この迷宮から抜け出せるのではないかと。













 しかし、ほむらは忘れていた。

 ―――― 自分自身が、岡部倫太郎を殺すことに失敗したことを。



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天王寺「で、岡部。あの嬢ちゃんは何モンだ?」

 いきなり質問された。
 しかもさっきまでの表情豊かな顔とは違い、無表情。
 俺はこの彼を見たことがある。

 ラウンダ―

 これは、天王寺の裏の顔だ。

岡部「何って、この俺のせい「トボけんじゃねぇぞ?」

 ……やはり気づいているか。
 ミスターブラウンは右手の物をブラブラ揺らす。

天王寺「これ、本物だろ? なんであんなガキが持ってるかは知らねぇがな」

 そう言ってほい、と俺に向かって投げてくる。

岡部「本物だと分かってるなら、もっと扱いを丁寧にしてくれませんか?」

天王寺「安全装置を外してねぇ。あの嬢ちゃん、ずぶの素人なのか動揺していたかのどっちかだな」

 随分とまあよく観察している人だ。
 だからこそ、ラウンダ―の統括をさせられていたのだろうが。
 


岡部「……何で俺に?」

 俺は手元の凶器を見る。
 こんなものを普通、ホイホイ渡していいのだろうか。

天王寺「オメェなら変な使い方しねぇだろ」

岡部「……警察に届けたりしないんですか?」

 当然の疑問を言う俺に呆れたような顔をする。

天王寺「何だ? 『女子中学生から奪いました』って言うのか? 話になんねぇな」

 それもそうだ。
 かなり信憑性のない話だ。
 警察が信じるはずが無い。

天王寺「それに、厄介ごとに巻き込まれてるらしいしな。これくらいあってもいいだろ」

岡部「……どう見てもこれくらいじゃない気がしますがね」

 至極真っ当な俺の講義は黙殺される。

天王寺「それにお前さん、『銃は怖いから嫌だ』っつう目をしてねぇな」

岡部「……」

 確かに、銃を手に入れる事への恐怖感は無い。
 ただ、警察に目を付けられるのは面倒だし、何より魔女に一般人が使う通常兵器がどれくらい役に立つのかわからない。
 故の迷いなのだが。


天王寺「……綯を悲しませるようなことすんじゃねえぞ」

 不意に、ミスターブラウンの声が変わる。
 さっきまでの無感情な声から、少しだけ、何かの感情が込められた声になる。

岡部「……シスターブラウンは絶対に巻き込みませんよ。安心してください」

 我ながら完璧な答えだと思ったのだが、彼は頭をかくだけだった。
 
天王寺「そういう事じゃねぇんだけどな……」

 呆れたように呟く。
 この完全なる答えに何が不満なのか。

天王寺「……とりあえずそれは持っとけや」ケケケ

 ミスターブラウンが乾いた笑い声を出しながら言う。

天王寺「ま、せいぜい気を付けるこった」

 そう言って、ミスターブラウンも夜の暗がりに消えた。



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 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 することも無くなったので、俺も家に帰った。
 帰って数分したころに、Qβがやってきた。

Qβ『凶真、まどかとさやかの見送りは終わったよ……』

 どこか疲れた顔で言うQβ。
 こいつもマミの死にはショックを隠し切れないのだろう。
 俺は、どうなのだろうか。

岡部「そうか、済まないな……。こんな仕事を押し付けて」

Qβ『別にいいさ、JCと一緒に歩くなんて夢のようだよ』ハハハ

 強がりを言うQβ。
 他人の気遣い方も、やはり妙に人間らしい。

岡部「なに、世界線を変えることが出来れば、マミの死も無かったことになるかもしれない」

 むしろ、俺たちにはその方法しかないのだ。

Qβ『でもさ……、ほむらと接触する必要はあった?』


岡部「何がだ?」

Qβ『ゴメン……さっきの話、少し聞かせてもらったんだ』

 別に謝ることは無いと思うが。
 妙なところで律儀だ。

Qβ『それでね? 確かにマミが死んだ今、ほむらと同盟を組むのは正しいと思う』

 ―――― まどか達を魔法少女にしないためにね。

Qβ『でもさ、こんなにせっかちになる必要も無かったんじゃないのかな?』

岡部「どうしてだ?」

Qβ『まどかもさやかも相当参っていたんだ、今は彼女たちのメンタルケアにあてる時間だと思うけどね』

 本当に此奴はお人よしなのだ。
 まゆりと過ごした時間がそれほど大切だったのだろう。
 俺は少しだけ嬉しくなった。

岡部「俺はほむらの方が重要だと判断したまでだ、だが、軽率だったな」スマン

Qβ『いや、いいけどさ……。いつもの凶真は真っ先にまどかたちの心配しそうだから……』

岡部「そうか?」

Qβ『うん。だから凶真もやっぱり疲れがたまっているんじゃないかって』


 別に疲れは溜まっていない。
 マミの事で参ってもいない。
 いや、参っていないというのはいささか嘘になるか。
 
 確かに、直後はマミの死や、まゆりの死、紅莉栖の死が渦巻いていて発狂しそうだった。
 しかし、今は驚くほど落ち着いている。
 初めの頃、俺が自殺未遂から立ち直った時とも違う。

 その時はまゆりと紅莉栖が死んだという事実は、どこか遠いものとして処理していた。
 現実味が無かったのだ。

 だが、今は違う。

 彼女たちの死をありのままに受け止め、それでも感情が揺らがない。

 おかしい状態だというのは分かっている。

 俺は《岡部倫太郎》から《鳳凰院凶真》になってしまった。

 スイッチが壊れてしまった。

 現に、マミが死ぬまで、一年前の夏の事をどこか遠い事の様にして、詳細が思い出せなかった。

 だが、今は全て鮮明に思い出せる。

 ほむらがタイムリーパーだと気付いたのもそのおかげだ。

 おそらく、もう戻れない気がする。

 だが、それでいい。

 役立たずの岡部倫太郎よりは、いつも大胆不敵で失敗を知らぬ鳳凰院凶真の方が役に立つ。

 これは俺が望んだ。

 俺自身の選択だ



岡部「俺がアイツの手伝いをしたいのは、未来を変えさせるためだ」

Qβ『確か、彼女もタイムリーパーなんだよね』

 聞いていたのか。

岡部「アイツで実験するため、勧誘したのだがな」

Qβ『一応聞いておくけど、何の実験だい?』

 自分でもよく分からないので、適当にはぐらかすことにする。

岡部「観察実験」

Qβ『変態だ……』

岡部「貴様が言うな」

 間違いなくおかしい方向へ話が飛躍しそうなので黙った。あと黙らせた。

Qβ『……あのやり方はナンセンスだと思うよ? 怖がらせちゃいけないでしょ。ちょっと強引すぎるかな』

岡部「……」

 確かに、そこまで強引にして俺にほむらを勧誘するメリットは無い。

 アイツがいなくてもDメールさえ完成させればいいのだからな。
 それで俺の目的は完遂する。
 まだダルを勧誘した方が良い。
 尤も、この世界線のダルを戦いに巻き込みたくはない。
 ダルにはぜひ阿万音由季と幸せに過ごして欲しいものだ。


Qβ『まあいいや、とにかく今日はゆっくり休んで心身ともに落ちつけよう』

岡部「そうだな」

 ……なぜ俺はほむらに執着していたのだろうか。

 ―――― アイツの意志は固い。
 
 なぜ俺は、彼女を助けたいと思ったのだろう。

 ―――― 俺などよりも、ずっと。
       オカベリンタロウ
 俺の名は鳳凰院凶真。

 ―――― ダイヤモンド並みに固い。

 他人の願いを踏みにじり、自分の願いを完遂するエゴイスト。

 ―――― だから脆い。

 なのに何故、俺は

 ―――― アイツは一人だ。

 アイツに

 ―――― だからこそ、手伝いたかったのかもしれない。



























 同情していたのだろうか。

 ―――― 俺がラボメン達に、助けられたように。


 以上で投下を終了します。

 さて、オカリンの狂気度が上がりました。
 イメージはアトラクタフィールド2%のオカリンをマイルドにした感じ。

  
 あえてほむほむ視点で語る事でオカリンの不気味さを演出したつもりでしたが、いかがでしたか? 
 オカリンは素で不気味なボスキャラもこなせますからね。未来と2%に限りますが。


 それとほむほむのタイムリープについてですが、回数が不明の為、曖昧な言い回しになっています。
 >>1 自身は20以上100以下と踏んでいますが……
 ほむほむの覚悟完了は3回目のタイムリープですでに兆しが出ていたので……
 20回は少ないように見えますが、RPGのボスキャラ戦にたとえてみたらいいと思います。
 RPGやったことない人はご勘弁を
 経験ありの人は考えてみてください。
 正直>>1 なら10回ゲームオーバーで投げますね。
 ほむほむは基本休み無しなので辛さ倍増……

 まあ、公式がどうあれ、このSSではほむほむは30回程度のタイムリープとさせていただきます。
 それでも3年弱ですか……

 それと、シュタゲ小説エピグラフとパンドラを読んできました。
 真帆ちゃんかわいいよ真帆ちゃん。

 ……長文失礼しました。
 それでは、応援してくれる皆様に感謝を、
 
 お休みなさい

 

 

 応援してくれる方々、ありがとうございます。
 10;00時ごろから投下を開始します。

 スミマセン、10;15からです。


 第10話;《歯車が壊れだしたようですね》

 見滝原総合病院

 近未来的な病院。
 その廊下を美樹さやかは歩いていた。

さやか「……」

 《上条》と書かれたネームプレートが掛かった病室のドアを開く。
 しかし、中には誰もいない。

さやか「……あれ?」

看護師「あら、上条君のお見舞い?」

 頭に疑問符を浮かべるさやかに声が投げかけられた。

さやか「ええ……」

看護師「ごめんなさいね、診察の予定が繰り上がってね」

さやか「ああ、そうでしたか」

 どうも、といいさやかは病室を後にした。


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 上条恭介は天才だった。

 ―――― なんで、恭介なのよ?

 ヴァイオリンの天才少年とまで言われた少年はしかし、不幸な事故に見舞われた。

 ―――― あたしの指なんて、いくら動いていたって何の役に立たないのに

 足にも、手にも怪我を負った。

 ―――― なんであたしじゃないの?

 ただ、足の怪我はそれほどでもなかった。

 ―――― もしあたしの願いで、恭介が治ったとして、それを恭介はどう思うの?

 しかし、腕の怪我は致命的だった。

 ―――― ありがとうだけでいいの?

 たとえ、歩けるようになったとしても指の怪我は治らない。

 ―――― それとも、それ以上の何かを……

 ヴァイオリニストとしては致命的だ。

 ―――― あたしって、嫌な子だ。

 もう二度と、彼は楽器を弾けない。


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 見滝原中学校

早乙女「え~確かに、出産適齢期と言うのは医学的根拠に……」ペラペラ

 ミス・シングルが授業とは関係ないことを言っている。
 公私混同するのはやめて欲しかった。

 尤も、俺には関係のない事だが。

Qβ『流石に僕でも三十路越えの女性はね……』

岡部『誰もそんなこと聞いてない』

Qβ『まあそうだね』

 別にQβが見滝原中にいるのは俺と雑談するためではない。
 タイムトラベル理論のディスカッション。
 それが今回の目的だ。

Qβ『で、凶真の話が正しいとするならタイムトラベル理論はSERNが研究しているんだね?』

岡部『そうだ』

Qβ『だったら一番可能性があるのは君がSERNへ行く……』

岡部『それだけは駄目だ』

 SERNに行くことは一番ありえない。
 だが、確かに最も確率が高い。
 それでも、まゆりが死ぬ元凶にも等しい奴らの傘下に加わるのも、おかしい気がする。
 ただ、最終手段としてはありだろう。
 だが

岡部『そもそも低学歴の男をSERNが招き入れるか?』

 鳳凰院凶真となってもその区別はハッキリさせる。
 俺がいくら狂気のマッドサイエンティストでも、その器はうだつの上がらない《岡部倫太郎》なのだ。


Qβ『だったら僕たちが独自に研究するしかないか……』

岡部『ああ、だからこうしてディスカッションしているのだ』

Qβ『そうだね。と、言っても理論自体はほとんど完成しているんだっけ?』

 理論か……
 タイムトラベル自体の理論は完成していない。
 俺達が完成させたのはあくまでも36byte+αのデータを過去に送る事だけ。
 この時点ではSERNですら物理的なタイムトラベルまで達していない。

岡部『だが、俺達に必要なのはDメールだけでいい……』

 そう、Dメールだけで十分なのだ。

Qβ『そうなのかい? でも、そしたら此処にいる君がまゆりたちを』

 ―――― 救えなくなっちゃうじゃないか。

岡部『問題無い』

 もはやタイムリープマシンすら必要ない。
 俺に必要なのはDメールだ。
 俺が、この失敗し続けた愚かで愚鈍な俺が、わざわざやり直す必要など無いのだ。
 
岡部『おそらく、Dメールを打ち消せばα世界線になる』

 ―――― そして、今の日付から考えると、俺はSERNに捕まっている。



岡部『そして、俺はワルキューレになる』

Qβ『ワルキューレってレジスタンス、だよね?』

岡部『そうだ』

Qβ『でも、そしたら君が……!!』

岡部『そんなことは重要じゃない』

 そうだ、この俺が新たな世界線に行く必要は無い。
 俺は確実に失敗した。
 そんな俺がマミとまゆりと紅莉栖。
 三人を救える訳が無い。
 でも、立ち止まることもあり得ない。

岡部『……《俺》が進むためには必然的に《失敗した俺》がいる』

 そうしなければ因果が発生しない。

岡部『俺は、次の俺に繋げる』


 ……なあ、知っているんだろう?

 どこかの誰かさんよ。

 この世界の俺が失敗しても

 死んでも朽ちても、失敗しても

 次の俺がいる。

 無数の世界線がある限り、俺は必ず、俺『達』は必ず、

 マミも、まゆりも、紅莉栖も死なない世界線へたどり着く。

 それが、俺の役目。

 たった一回の勝利のために、

 たった一度の栄光のために、

 無数の屍の一つに、
 
 無限の歯車の一つに、

 なってやる。

 なってみせる。






















岡部『それが、運命石の扉の選択なんだよ』



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 昼休み;屋上

まどか「……何だか、違う国に来ちゃったみたいだね」

 暗い顔でベンチに座り込むまどか。
 
まどか「何だか、知らない人の中にいるみたい」

 その声色は、昨日までのまどかとは大きく異なっていた。

さやか「知らないんだよ、誰も」

 さやかも同様だ。
 
さやか「誰もあたし達の住んでる世界が変わったことに気付かない。あたし達にだって分からなかったんだ、仕方ないよ」

 ―――― もっと早く気付くべきだったんだよ。

 さやかは、どこか遠いものを見つめるような目をしていた。

まどか「……岡部先生は、気付いていたんだよね」

 まどかの言葉に、さやかは諦観した目で答える。

さやか「……確かにね、でも、あの人もマミさんが死んだら、なんか変わっちゃった」

まどか「……」



 あの時、岡部の様子は、明らかにおかしかった。
 まどかには、最初はマミを失って呆然としているように見えた。

 しかし、突然、チャンネルを切り替えたテレビの様に、切り替わった。
 有体に言えば、おかしくなった。

 そのせいで、今日はまどかも、さやかも、話しかけることが出来ずにいた。

さやか「なんか携帯に独り言ブツブツ呟いてたしさ、あの人も相当参ったんじゃない?」

まどか「そうなの、かな?」

 確かに岡部は豹変した。
 だが、まどかにはさやかの言っているような、《おかしくなった》様には見えない。

 まるで数十歳年を取ったかのような岡部の変貌に、そんな言葉は似合わない。
 そう、思った。

さやか「でさ、まどかは、今でも魔法少女になりたいと思ってる?」

 俯いて黙り込んだまどかに、さやかは静かに尋ねた。

まどか「……」

さやか「……そうだよね、仕方ないよ」

 さやかが、優しい声でまどかを慰める。

まどか「ずるいって、分かってる。今さら、虫が良すぎるよね……」

 マミと一緒に戦いたい。その思いは、他ならぬマミの死によって打ち壊された。
 戦いが何であるか、死が何であるか、その実感は、少女に耐えられるものではない。

まどか「でも、怖いよ……嫌だよ……」

 目に涙を溜め、まどかは自分の思いを吐き出す。
 さやかはそれを優しく抱きしめた。


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 見滝原市;公園

 鋭い視線で、QβはQBを見ていた。
 
Qβ『……君はどうするつもりなんだい? インキュベータ』

QB『どうもこうも、君なら分かると思うけどね、疾患者君』

 違いと言う違いは無いはずなのに、明らかに違う二つの影。
 その間に流れる空気は、お世辞にも友好的とは言えない。

Qβ『まどか達を、契約させるつもりかい?』

QB『それが僕たちの仕事だろ?』

 僅かな怒りを滲ませるQβ、
 そして、対照的に平坦な声のQB。

Qβ『君は……マミが死んだことに、何も抱かないのかい!?』

 もはや悲鳴に近い声で問いかける。

QB『マミが死んだことは惜しかったね、彼女は優秀な魔法少女だった。そんな彼女が生み出すエネルギーはさぞや量が多かっただろうね』

 だが、届かない。



Qβ『ッ!! 君ってやつは!!』

QB『僕からしてみれば、君の方が異常なんだよ?』

 どこまで行っても平行線な話。
 結局、交わることは無い。

QB『感情を持ったインキュベータなんて例が少なすぎる』

Qβ『……』

QB『実に興味深いよ……もしかしたら、魔法少女のシステムもいらなくなるかもね』

 そんなわけあるか、とQβは思う。
 インキュベータが感情を手にしたら、まず自分たちをエネルギー源にしようなんて思わないだろう。
 破綻した論理だ。

QB『まあ、当分は彼女たちに契約を持ちかける気は無いからね』

Qβ『……』

QB『僕もこの町に魔法少女を連れてくるので忙しいのさ』

Qβ『連れてくる?』

 Qβの疑問に、QBはヤレヤレと言うように返した。

QB『マミが死んだんだ。ほかの魔法少女はここを狙って来るだろうね』

Qβ『!!』

QB『まあ、無用なトラブルが起きない様、祈ってるよ』

Qβ『ちょっと……』

 Qβの静止も聞かず、QBは公園から出て行った。


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 昼休み;食堂


ほむら「……」

岡部「……」

 かなり重い沈黙があった。

ほむら「……」

岡部「……」

 ガラガラの学生食堂。
 中学校に学生食堂なんてあるのか、と最初は思った。
 さすが開発都市。いちいちやること成すこと金がかかっている。
 尤も、それに見合った値段の学食のためにか、利用する生徒はほとんどいないが。
 そして俺らも例外ではない。

岡部「……何故学生食堂でカップ麺を食っている?」

ほむら「貴方だけには言われたくないわ」

 ほむらが食べているのはカップ焼きそば《UMA》。

ほむら「貴方もカップラーメンに、冷凍唐揚げ、紅茶の組み合わせって……」

岡部「紅茶はお手製だ」フフン

 確実にマミのちょうきょ……もとい指導の結果が溢れ出る出来になっている。

ほむら「どうでもいい……」

岡部「どうでもいいなんて言うな」


 ――――これは彼女が生きた、証明なのだから。

ほむら「……それで、何のつもり?」

 急にほむらが俺を訝しげな顔で見つめ、問いかける。

ほむら「なんで私の目の前で昼食を食べてるの?」

岡部「……昨日の答えを聞いていないからな」

 そう、ミスターブラウンの乱入で忘れてしまったが俺は未だコイツの返事を聞いていない。
 
岡部「脅迫めいた言葉で、同盟を迫るのは悪かったと思っている」

 あの時の俺は、ほむらに気圧されぬ様、いつも以上に気を張っていた。
 有体に言えば、緊張していたのだ。

岡部「それについては謝罪する。それを含めた上、改めて考えて欲しい」

ほむら「……」

 ほむらは無言だ。
 確かに、昨日の俺はやりすぎたと思う。
 銃で自分を撃てなんて、狂人の思考だ。
 どうかしていた。
 俺なら、そんな奴とは組みたくない。

 しかし、ほむらの出した答えは違った。

ほむら「……ある程度までなら」

 ポツリと、呟く。

ほむら「条件付きでなら、同盟を組んでもいい」



 予想外の言葉だった。
 条件付きとはいえ、同盟を組めるのなら、昨日の努力の甲斐があったものだ。

岡部「……ありがとう」

 ただ、返答が予想外すぎて、感謝の言葉は随分とそっけないものになってしまった。

ほむら「別に……感謝されるようなことはしていないわ」

岡部「それでも、だ」

ほむら「……私から出せる情報は限られている。それでもいい?」

 と、いう事は何の為に繰り返しているかすらも、教えてくれないという事なのか?

 それを尋ねると、ほむらは少し俯いた。

ほむら「私はまだ、貴方を完全に信用したわけじゃない」

 確かに、それもそうだろう。
 出会って間もない人物を、簡単に信用しろと言う方が無茶だ。

ほむら「ただ、貴方なら私の目的にたどり着いていても、おかしくは無いと思う」

岡部「……」

 随分と、過大評価されてしまったらしい。
 やはり、昨日中学生になめられまいと気張ったのが悪かったか。

















 ―――― 弱さを見せまいと、仮面の奥に閉じこもったのが悪いんだ。


 妙なビジョンを打ち消す。
 気を取り直し、自分の推理をするため、疑問を小さく口にする。

岡部「貴様の目的……か」

 カチカチカチカチと、パズルのピースをはめていく音がする。

 ―――― 暁美ほむらの目的、タイムリープ、執着……





 そして、パズルは完成する。

岡部「……まどかが目的か?」

ほむら「……その通り」

 どうやら正解のようだ。
 まあ、これまでのほむらの言動、行動から勘で当てたのだが。
 しかし、おおむね合っていたらしい。

ほむら「私の目的は、《鹿目まどかの魔法少女化の阻止》」

岡部「……どういう事だ?」


 ほむらは俺の質問に、少しだけ沈黙する。
 が、数秒した後、小さな声で答えた。

ほむら「……彼女が魔法少女になれば、待っているのは確実に《死》よ」

岡部「世界線の収束か「そんなのじゃない」

 ほむらは強い口調で俺の言葉を遮り、睨みつけてくる。

ほむら「今まではやり方が間違っていただけ。今度こそ必ず 《ワルプルギスの夜》 を倒す」

 言葉の中に、聞きなれない単語が混ざる。

岡部「《ワルプルギスの夜》?」

 ほむらは少しだけ《しまった》と言う顔をしたが直ぐに元の冷静な仮面を被る。

ほむら「……あと二週間後に、《ワルプルギスの夜》と言われる魔女が来る」

 ワルプルギスの夜、とは古代ケルトの魔女が行うサバト(儀式のようなもの)の日の事だったか?
 それが名前についているとは……、随分と有名な魔女なのだろうか。

岡部「強いのか?」

 しかし、その問いは愚問だろう。

ほむら「少なくとも、並みの魔法少女は一人では倒せない」

 おそらく、時間を止める能力を持つほむらが、何度もやり直しをするぐらいには強い。
 それくらいには、俺でも気づける。

岡部「そんな魔女相手に、貴様一人で大丈夫なのか?」

 俺の問いに、彼女はコクリと頷いた。


ほむら「今度こそは、必ず」

岡部「……」

 俺は思考する。
 ほむらがたとえワルプルギスの夜に勝ったとしても、まどかの死は覆せるのか?

 答えは否だ。

 ほむらが何度も繰り返しているのなら、
 何度も失敗しているのなら、
 そんな安直な方法ではまどかは救えない。

 まどかの生死に、世界線の収束が関係しないのなら、もっと前の段階でほむらはまどかを救えていた。
 だが、《魔法少女になった場合》と言うほむらの言葉も気になる。
 つまり、まどかが魔法少女にならない場合は世界線の収束が起こらない?

 しかし、確定にまでは至らない、情報が足りない。

岡部「他に、貴様から出せる情報は?」

ほむら「あとは言えない」

 どこまでも非協力的である。

岡部「何故だ?」

 少しだけイラ付きながらほむらに尋ねる。


ほむら「……貴方に話す必要が無いからよ」

岡部「……だが、それではスカーレットを救える確率が減っていく」

 何が怖くて情報を隠しているのかは分からないが、少し脅しても情報は聞きだすべきだ。
 そう判断する。

ほむら「……別に貴方に助けられなくても、私はこの時間でまどかを救う」

 俯くほむらの目に、少しだけ諦観の光がともっていた。
 もちろん、彼女は否定するだろうが。
 ただ、俺はその目を知っている。
 
岡部「大丈夫だ」

ほむら「?」

 いきなり変なことを言う俺に、ほむらは疑問符を浮かべる。

岡部「この時間でなら、必ず、お前はスカーレットを救える」

 なぜなら

岡部「この俺、鳳凰院凶真がイレギュラーなのだ。絶対に、何かを変えることが出来る」

ほむら「……期待しないで、待ってる」








 ほむらの目に宿る光は、この世界線に来るまでの俺と同じだ。
 全てを諦めながら、たった一つの希望を見つけるために、繰り返し続ける大馬鹿野郎。

 ―――― それが俺たちの本性であり、真実。



 ―――― そんな大馬鹿は、誰かが支えないといけない。
 
 ―――― 誰の力も借りようとしない馬鹿野郎には、誰かが無理やりにでも力を貸さないといけない。
 
 ―――― たとえば、鈴羽。最初の終わりないタイムリープで、俺に目標を与えてくれたのは彼女だ。

 ―――― たとえば、紅莉栖。彼女は、何時だって、どの時間だって、俺の味方だった。

 岡部「……」ギリ

 壊れた俺の心が、紅莉栖の事を考えると、少しだけ軋む。

 《こんなところで寄り道していいのか?》と

 《他のタイムリーパーなんてどうでもいいじゃないか》と

 ―――― そんな訳無いだろう?

 それを誰かが否定する。

 そして俺は、やはり暁美ほむらを助けようとするのだ。









 紅莉栖、俺の助手。

岡部「……」

 ―――― 少しだけ、寄り道するのを許してくれ。

 これが終わったら、必ず、

 ―――― 俺は繋げるから。

ほむら「……?」

 ―――― 俺は出来ないけれど。

 たどり着けないけど。

 ―――― 必ず、お前を、まゆりを、マミを、

 救える俺に

 ―――― 俺の全てを、渡すために。

 進むから。



ほむら「岡部?」

岡部「……む」

 ほむらが俺の顔を覗き込んできている。

ほむら「……いきなり黙り込むから、何かあったのかと思ったわ」

岡部「……済まなかったな、少し考え事をしていた」

 俺の弁解にほむらは少し顔をしかめた。

ほむら「……まあ、あとは美樹さやかも魔法少女化させないで」

岡部「ん?」

 何の話だ?

ほむら「私からの情報。美樹さやかを魔法少女化させるのは危険」

岡部「……教えてくれるのか?」

 ほむらは、溜息をつきながら言った。

ほむら「別に、気まぐれよ」

岡部「そうか……、それでもありがたいよ」

 それは俺をある程度は信用してくれたという事だ。


ほむら「別にいいわ。あと、近いうちにこの見滝原に外部から魔法少女がやってくる」

岡部「外部から?」

ほむら「そう、出来れば彼女と同盟を組みたい」

岡部「一人で大丈夫ではないのか?」

ほむら「あくまで保険程度よ。多いに越したことは無いわ」

岡部「確かに、保険は多い方が良いな」

 ほむらは頷いた。

ほむら「それと、彼女と美樹さやかを接触させてはいけない」

岡部「……分かった」

 理由も聞かず了解の意を伝えた俺に、ほむらは訝しげな表情をする。

ほむら「……理由を聞いてくると思ったけど」

岡部「この状況は貴様の方が事情を知っている。貴様の指示に従った方が良いと思ってな」

 尤も、どうしてか教えてくれるのならそれに越したことは無いが。

ほむら「……彼女と美樹さやかは相性が悪い。最悪、殺し合いに発展するくらいね」

岡部「成程、了解した。で、特徴を教えてくれるとありがたいのだが――――」

 それからの時間、俺達はその魔法少女についてや、これからの基本方針、注意すべき点等について、休み時間中話し合うことになった。


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 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 放課後;マミの家

まどか「……」

 ギイィ

 マミの家の扉を開き、中に入る。
 虚ろな足取りで、リビングを目指す。

まどか「……ごめんなさい。私、弱い子で、ごめんなさい……」ボソッ

 自分は何もできなかった。
 その思いだけが、まどかの周りに付きまとう。
 内罰的なまどかの思考は、負の連鎖を生み出す。

 だからなのか

 俯き、沈んだ声で、何かに導かれるように歩くまどかは、気付くことが出来なかった。
 







岡部「……スカーレットか」

 もう一人、客人がいることに。



まどか「先……生……?」

 小さく、驚きを呟きに出すまどか。
 それに対し、岡部はソファに腰を掛けながら、紅茶をすすっていた。
 真ん中にある小洒落たテーブルには、ポット。
 そしてその端には、岡部の物ではないカップが一つ、置かれていた。

岡部「なるほど、客人は貴様だけか」クックックックック

 ノイズの様な笑いが漏れる。
 それがまどかには、たまらなく恐ろしく映った。

まどか「……え、と、先生は何で、此処に?」

岡部「いては悪いか?」

まどか「此処は、マミさんの家です」

岡部「そうだな」

まどか「じゃあ、何で、岡部先生が此処に?」

岡部「……では聞くが、何故貴様もここにいる?」

 質問は質問で返された。


まどか「私は……」

 その後に繋ぐ言葉は見つからなかった。
 
 ―――― 何の為?

 そんなのは分かっている。

 だが、言葉になどにできなかった。

 そんなまどかの様子を、岡部は興味なさそうに一瞥する。

岡部「別に、貴様の目的などどうでもいいのだがな。紅茶でも飲むか?」

 そう言って、岡部は机の上のもう一つのカップを顎でしゃくった。

まどか「え、あ……」

 戸惑うまどかに、何を勘違いしたのか、岡部は少し目を細めながら続ける。

岡部「供養とは残された者の為のものだ。別に貴様が飲んでしまってもいいだろう」

まどか「く、供養?」
 
 一瞬だけ、まどかの思考が止まる。

岡部「ああ、マミのな」

まどか「!!……あ、あ」

 そっけない言葉。
 ただ、まどかを支えている何かを破壊するには、十分すぎた。



まどか「ご、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいマミさん」クラッ

 足元が不確かになり、まどかはそこにしゃがみ込んむ。

岡部「スカーレット?」

 問いかけてくる岡部の声もまどかには聞こえない。
 ただ、まどかには涙を流しながら、ここには居ない誰かへの謝罪をすることしかできなかった。

まどか「ごめんなさい!! 弱くてごめんなさい!!」

 また落ちていく。
 自虐の連鎖の中へ、落ちていく。

岡部「……」

 それを岡部は何処か慈しむ様な目で見ていた。
 そして

岡部「スカーレット、いいのだ」

 まどかの前にしゃがみ、語りかけた。

まどか「?」

 訳の分からないまどかを、あやすように囁く。

岡部「貴様は弱くなどない。シャイニングが死んだのは、俺のせいだ」

まどか「そ、そんなこと「貴様は悪くない」

 涙にぬれた目で岡部を見るまどか。
 岡部は優しく語る。

岡部「貴様が戦う必要など無い。」

 


岡部「貴様は自分を責めすぎている」

 岡部はまどかを見つめた。
 その目にはまどかが見たことのない光が宿っていた。
 そして、微笑む。

岡部「全て、俺に任せるがいいさ」

まどか「岡部……先生」

 静かだが、力強い言葉で囁く。

岡部「この世界は、必ず、俺たちの望む世界になる」

 意味が分からない。
 その言葉の真意だけではなく、

 まどかには、何故岡部がこんなにも冷静なのか。

 笑っていられるのか。
 
 自信たっぷりなのか。

 全てが、理解できなかった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 夕方;見滝原総合病院

 赤く染まった病室、そこのたった一つの寝台に少年が寝ている。
 そのそばには、少女が座っている。
 少女・さやかが少年・恭介に質問する。

さやか「何を、聞いているの?」

恭介「……亜麻色の髪の乙女」

 恭介の表情は晴れない。
 さやかはそれを理解しているが、振り払うように笑う。

さやか「いい曲だよね。……あたしってほら、こんなだからさ。クラシックなんて聞く柄じゃないって思われてさ」

 無理をして明るい話に持ち込もうとする。
 それでも恭介の顔は晴れない。

さやか「だからかな、たまに曲名とか言い当てたらスッゴイ驚かれるんだよね」ハハ

 無理やり明るくしようとするさやかだが、
 恭介の言葉が暗く、それを塗りつぶした。

恭介「さやかはさ……」

 不意に、呟く恭介。
 さやかは、努めて明るく返す。

さやか「なあに?」

 だが、その微笑みの仮面は、他ならぬ恭介自身の手ではぎとられる。

 ―――― そう、引き金は、引かれた。









恭介「僕に嫌がらせをして、楽しいかい?」


 濁った声で怨嗟の言葉を口にする。
 かつて天才と言われた少年は、怒りを罪なき少女に放つ。

恭介「何でこんなになった僕に音楽なんて聞かせるんだ? 僕をいじめているのか?」

さやか「そんなことない!! だって恭介は音楽が好きだ「もう聞きたくないんだよ!!!」

 さやかの否定も聞かず、ただ自分の中の濁った何かを吐き出すように叫ぶ。

恭介「自分で弾けもしない曲をただ聞いているなんて!!」ガシャ

 動かない腕をCDに叩き付ける。
 円盤はひび割れ、赤い液体が辺りに飛び散った。

さやか「やめてよ!!」

 さやかは恭介の腕に飛びつき、凶行を止めようとする。
 しかし、止めるまでも無く恭介の体から力は抜けていた。

恭介「動かないんだ……」

 恭介の声にはさっきまでの怒りは無くなり、代わりに絶望が滲む。

恭介「諦めろ。だってさ……」

さやか「え……」

恭介「先生から直々に言われたよ。もう奇跡か魔法が無いと治らないってさ!!」

 悲鳴に近い声で叫ぶ。
 さやかは少しだけ恭介を見つめ

さやか「あるよ!!」

 何かを決意したように、力強く言った。


恭介「え?」

 不思議そうにさやかを見る恭介。
 さやかは笑いかけ、言った。
























さやか「奇跡も、魔法も、あるんだよ」

 既にさやかの心は決まっていた。

 たとえどんなに苦しくても

 奇跡を起こすと。

 それが悲劇を生むと知らずに

 滑稽な悲劇の幕を自ら開く。

 それを知るのは

 窓の外から覗き込む

 白い観客のみだった。

 以上で今日の投下を終了します。
 今日は接続章なのでここまでで。
 オリジナルシーンを含むと増えてってしまう……
 
 というか、地の文とセリフがうまくかみ合わない……
 読みづらくないですかね?
 やはり地の文が少なすぎるのが原因ですかね。
 本読んで勉強しないと……

 あとこの回のオカリンを見て、オカリンが元に戻った。と考える人もいるかと思いますが
 実際は最初のころと違う部分がいくつかあります。
 スイッチが壊れた先でも、またスイッチがあるようです。
 前回のオカリンは『スーパー鳳凰院モード』という事で。  

 そういえばいつも思うのですが、原作まどマギのラストはハッピーなのか、バッドなのか。
 まあでも、救いと絶望を混在している終わり方はさすがウロブチさんですね。
 fate/zeroもそんな感じですし。

 対するシュタゲも完全なハッピーではないんですよね。
 だからこその劇場版。
 映画みにいきてぇ……。
  
 ……長文失礼しました。
 それでは、応援してくれる皆様に感謝をして。
 お休みなさい。

 応援ありがとうございます。
 10;00から投下をしたいと思います。


 第11話:《歪んだ歯車は止まらないさ》

 夕方;駅前

岡部「さやかは何処だ!?」

 俺は現在、さやかを捜索していた。
 理由は単純、《いなくなったから》である。

 先程、俺とまどかはマミの家で話していた。
 その時、さやかを付けていたQβから連絡が入った。

 ―――― ヤバイ!! さやかの反応がロストした!!

 Qβは俺の指示により、さやかの見張りをしていた。

岡部『Qβ!! さやかは病院で居なくなったんだな?』

Qβ『そうだよ!! ……あの野郎!! さやかたちには手を出さないって言ったじゃないか!!』

 理由はもちろんほむらからの情報だ。
 俺たちはその情報を聞いて、何も策を講じないほど馬鹿じゃない。
 人手が足りなければ話は別になって来るが、幸い、警護対象は二人。
 対するこっちは三人だ。
 十分対応できる、筈だった。

岡部『何故居なくなった?』

Qβ『分からないよ!! 気づいたら僕の視界から消えていたんだ』

 


岡部「こんなに早く、魔法少女になろうとするとは……」ギリ

 自分の愚かさに吐き気がする。

 元々、俺たちはまどかとさやかに《魔法少女の真実》を話そうと思っていた。
 ただ、マミの一件もあり、これ以上辛い現実を見させるのはまずいと判断した。
 
 直ぐに魔法少女になる確率は少ないと判断し、後回しにしてしまった。

 それが拙かった。

 俺は携帯を取り出し、ある人物に電話を掛ける。
 もちろんある人物とはあの魔法少女だ。

ほむら『……何?』

 息を整え、それから要件を一気に話す。

岡部「……俺だ!! ブルーリリーを見失った!! 貴様も捜索に専念してくれ!!」

ほむら『まどかはどうするの?』

岡部「それについては大丈夫だ。スカーレットは魔法少女になる気は無いらしい」

ほむら『知ってる。さっきまどか自身から聞いた』

岡部「ならさっさとリリーを探せ!!」

ほむら『人使いが荒いわね……。まあいいわ、こっちでも探してみる』

岡部「済まないな、では、エル・プサイ――――」

 ブツッ、プー、プー、プー。

 切りやがった。



岡部「あの野郎……」

 流石に初回で無視されるとは思わなかった。
       アイアンメイデン
 さすがは《鉄の乙女》と言ったところか。

 ……そんなふざけた思考に入りかけた俺の目に、映るものがあった。

岡部「あれは、スカーレットと……ワカメか?」

 仁美とまどかは友人なのだから、一緒に歩いていても何も不自然ではない。
 しかし、違和感が首をもたげる。

岡部「ワカメよ!! 今日は習い事はいいのか!?」

仁美「あら、岡部先生。ごきげんよう」

まどか「岡部先生!!」

 仁美よりも早く、まどかが駆け寄ってくる。
 その顔は必死だった。 

岡部「どうしたのだ?」

まどか「仁、仁美ちゃんに、変なのが……」

 まどかが指差す先には、仁美の首元があり、そこには何か痣のようなものがあった。
 見覚えがある。
 たしか、あれは

岡部「《魔女の口づけ》……!!」



 《魔女の口づけ》とは、いわば魔女のマーキングのようなものである。
 魔女に魅入られた者は、これを付けられる。

 そして自殺がしたくなる。

 不可解な自殺や心中は、ほとんど魔女の口づけが原因と言っていいだろう。
 この見滝原市は特に魔女が多いため、不可解な自殺が後を絶たない。

 よって設立されたのが、俺の入院していた病院、と言うわけだ。

まどか「岡部先生、ほむらちゃんに電話出来ますか?」

岡部「大丈夫だ」

 確かに、魔女に関する事なら、本職の魔法少女に任せた方が良いだろう。
 そう考え、ほむらに電話を掛けた。

 が

 プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル

岡部「何故だ? 何故出ない?」

 一向に電話に出る様子は無い。
 俺は電話を切った。

岡部「スカーレット済まない。連絡が取れないようだ」

まどか「そ、そんな……」

仁美「そうだ!! お二人ともぜひご一緒しませんか? ええそうですわ♪ それがいいでしょう♪」

 いつの間にか近寄ってきた仁美が、俺とまどかの手をつかみ、引っ張った。
 俺たちは無されるがままに導かれていった。
 


 数分後:工場

 薄暗い工場。
 周りには仁美と同じように、魔女に魅入られた犠牲者が集まっていた。
  
まどか「!! 岡部先生、これって……」
   
岡部「ああ……」カチカチ プルルルルr

 危険性を再度確認した俺は、再びほむらに電話を掛ける。
 しかし、やはり繋がらない。

工場主「……そうだよ、俺ぁ駄目なんだよ」ブツブツ

 この工場の持ち主らしい男が嘆いている。

工場主「こんな小さな工場も切り盛りできなかった。俺に居場所なんて……」ブツブツ

 うあぁ~ う~ あ~

 周りの人間の呻きも合わさり、一種の合唱のようにも思える。
 尤も、聞きたくない類のものだが。

 そして人々は一か所に集まり、何かを用意していた。
 バケツと、洗剤二つか?

まどか「ッ!! ダメ!! それはダメ!!」



 魔女の犠牲者たちが用意しているものを見た途端、青ざめ、まどかは駈け出した。
 しかし、仁美に止められる。

仁美「邪魔してはいけません。あれは神聖な儀式ですのよ」
 
まどか「だって、あれ危ないんだよ!? 此処にいる人たちみんな死んじゃうよ!!」

 悲鳴のように叫ぶ。

岡部「何!?」

 そこまでヤバいものだったのか!?
 だが、まどかの訴えも虚しく、仁美はにこやかにほほ笑むだけだった。

仁美「そう♪ 私たちはこれから素晴らしい世界へ行きますの♪」

 何もこもっていない声で、熱に浮かされたように囁く。
 吐き気がした。

岡部「……その素晴らしい世界とやらは死の国か?」

 バカバカしい、そんなものは存在しない。

 ―――― 死なんて、ただ虚ろなだけなのに。

 気にも留めず、仁美は続けた。

仁美「生きている体なんて邪魔なだけですわ♪ お二人なら、直ぐに分かりますから」

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 周りの奴らが拍手をする。

まどか「は、離して!!」

 まどかは、仁美も、拍手も振り払うようにしてバケツへ向かった。

 そして

 ガッシャァァァァァァァン!!!!

 ガラスが割れる音がした。



まどか「ハァッ、ハァッ……」

 肩で息をするまどか。
 
 うあ~ う~ ああ~

 そこにゾンビの様に人々が迫っていく。

岡部「ッチ、スカーレット!!」

まどか「岡部先生!!」

 ゾンビどもを掻き分け、まどかに手を伸ばす。
 手が繋がれたら、俺たちは壁に追い詰められた。

まどか「ど、どうしよう……」

岡部「スカーレット、こっちに扉がある」

 ガチャ

 俺たちは扉を開け、中に入った。
 すぐさま扉を閉め、奥へ駈け出す。

 しかし









 キャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

岡部「……使い魔か!!」

まどか「そ、そんな……」










 ―――― そして世界は反転する。



 周りには大量のブラウン管テレビが浮いていた。

まどか「や、やだ……そんな!!」

 もはや悲鳴に近い声でまどかが叫ぶ。

岡部「スカーレット!! 俺の手を離すな!!」

まどか「いやだ、助けて、誰かぁ!!」

 まどかは半狂乱になりながら叫んだ。
 
 そして、叫ぶまどかの輪郭が少しづつ歪んでいった。

 俺の輪郭も歪んできた。

 歪んだまま、俺たちは落ちていく。

 落ちていく。

 落ちていく。

 堕ちていく。

 オチテイク。


 



 そうして、きらびやかな場所にたどり着いた。



 魔女の間


 俺とまどかは浮いていた。
 周りにはメリーゴーランドのようなものがあって、そこに使い魔が乗っていた。

 使い魔達の間に、ブラウン管に羽が生えたようなものがある。

 おそらく、魔女だろうと、検討を付けた。

 ブラウン管には、何かが移っている。

岡部(ああ……、あれは……)



























 映っていたのは、俺だった。


 『どうしてまゆりが救えないんだ!! ふざけるなよ!!? こんな世界……こんな世界……』

 世界に向かって呪いを吐き出している俺がいた。

 『ぶち壊してやる……この世界を、跡形も無く、木っ端微塵に!!』

 世界を破壊しようとする俺がいた。

 『もういやだ……。なんで俺がこんな目に、彼女たちがこんな目に合わなきゃいけないんだ……』

 自分の、彼女たちの運命を嘆いている俺がいた。

 『ヒャハハハハハハハハ!!!! 皆死んじまえばいいんだ!!!』

 もう何もかも訳が分からなくなり狂ってしまった俺がいた。

 『諦めようよ……。もう何もかも手遅れなんだ、俺はよくやったよ。もう辞めていいだろ?』

 全てを諦め、逃げ出そうとする俺がいた。

 『いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ』

 何もかもを否定し、自分の殻に閉じこもった俺がいた。

 無数の俺がブラウン管の中にいる。
 無限の俺が叫んでいる。

 俺がいて、
 
 俺がいて、



 おれがいて

 オレガイテ

 オレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテ
 オレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテ
 オレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテ
 オレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテ
 オレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテオレガイテ

岡部「……」

 俺は

 おれは

岡部「くだらないな」

 否定する。

岡部「こんな物でこの俺に攻撃しているつもりか?」

 反吐が出る。

 精神攻撃でももっとまともな物を出してくれ。

 こんなちゃちな怨嗟の声では、

 俺は愚か

 人一人すら壊すことなどできないぞ?


 そこまで考えたとき、ブラウン管に映るモノが切り替わる。
 ノイズの音をまき散らし、切り替わった先に映ったものは。

























岡部「まゆり、紅莉栖、マミ?」

 憐れな被害者たちが、死んでいく光景だった。

 赤いあかいアカイ光景が目に焼き付く。

 


 一瞬を何十倍にも引き伸ばされたかのように、彼女たちの死はゆっくりと、しかし確実に近づいている。

 幻覚と分かっていながら、それでも其処に居るのではないかと思わせるほど、飛び散る紅は鮮明だった。

 無数のブラウン管が朱を映し、ブラックアウトする。

 何度も死んで

 また初めからになって

 また死んだ。

 死んで生きて死んで生きて。

 繰り返し繰り返し流れ出る。

 またぐるぐるぐるぐるぐると、俺を苛む。

 だが、

 だが、

 だが、








 そんな物がどうしたというのだ?


岡部「オイオイオイ、その程度か?」

 この程度の幻覚ならいつも見ている。

 昨日から、マミが死んだあの日から、

 全ての実感を思い出した時から、

 ずっと俺の頭の片隅から離れない。

岡部「魔女の作り出す幻覚は、人間の作るモノにすら負けるのか?」

 だとしたら、笑い話もいいところだ。

 人々に絶望とやらを与える魔女様が、ただの人間一人、壊せないのだからな。

岡部「本当に、滑稽だな」

 貴様には何の価値も無い。

 勝手に願いを叶え、勝手に絶望し、世界を呪って。

岡部「悲劇のヒロインにもなったつもりか?」

 そんな自己陶酔野郎はトイレットペーパーに自伝でも書いてろ。











 ―――― そして、世界はひび割れた。


 ズバンッ!! ズバンッ!! ズバンッ!!

 使い魔が全て真っ二つにされる。

 そして、ブラウン管の魔女の前に静かに佇む影が、一つ。

まどか「あれは、さやか……ちゃん?」

 先程から、腕を握っている感触しかなかったまどかが、声を出す。

岡部「ブルー、リリーか?」

 俺達を捕まえていた使い魔を次々と断ち切り、現れた人影。
 それは間違いなく、俺たちの良く知っている、

 美樹 さやかだった。

 


使い魔「キャハハハハハ!!」

 ズモモモモと、ブラウン管の中から使い魔たちが生み出される。
 それらは全てさやかに襲い掛かった。

 しかし

さやか「ハァッ!!!!」

 一閃
 使い魔達はさやかの裂帛の気合いと供に断ち切られる。

 だが、使い魔達は未だ無数に居る。
 追撃がさやかを狙う。

 しかし、さやかも黙ってはいない。
 身を独楽のように回転させると使い魔の攻撃を避けていく。
 そして、隙を見つけ、またもや一閃。

 それだけで、使い魔達は二つに割れて行った。

使い魔「ギャ嗚呼アアあゝアアぁ嗚呼ぁ!!」

 使い魔の断末魔が俺の耳を打った。

さやか「はああああああ!!!!」

 さやかは悲鳴が鳴り終わらない内に魔女に近づく。


さやか「これで終わりだあ!!!!」

 魔女に肉薄したさやかは、剣の切っ先を魔女に向け、トリガーを引いた。

 ズバンッ!!

 軽やかな音が響く。

 そして

 グチャッ!!

 グロステスクな音を合図に、この戦いは終息した。


 数分後;工場内

さやか「いや~、ごめんごめん。危機一髪ってとこだったね」

 間の抜けた声が静寂を打った。

まどか「さやかちゃん、その恰好……」

岡部「魔法少女に、なったのだな?」

さやか「ん? まあ、そんなとこ」

岡部「何故だ? 貴様とて、昨日の一件で魔法少女になる事の意味をよく理解したのではないのか?」

さやか「いやあ、まあ、心境の変化って言うのかね」

 へらへらと、笑いながらそんなことを言った。

さやか「大丈夫だって!! 初めてにしちゃ上手くいったっしょ?」

まどか「でも……」

岡部「……」

 そういう問題ではないのだ。

 最大の問題は其処ではない。


 こんな事になるならもっと早く伝えておくべきだった。

 完全に後手に回った。

岡部「……ッ!!」ギリッ

 これは俺の失態だ。

 もう迂闊なことはしないと決めたのに。

 よくよく考えてから行動しようと思ったのに。

 また失敗してしまった。

 判断を間違えてしまった。

まどか「せ、先生……」

 まどかが心配そうに声をかけてくる。

 俺は大丈夫だと、答えようとして――――

 カツン

 ―――― 均衡は破壊される。

 ほむらが其処に居た。
 挑むような視線で、さやかを見つめている。

ほむら「貴女は――――」

さやか「フンッ!! 遅かったじゃない、転校生!!」

 ほむらが言おうとした言葉は、さやかの挑発に遮られた。

ほむら「……」

 ほむらは、少しだけ悲しそうな目になった。


 同時刻;病院

 上条恭介は違和感に気付いた。

 腕の感覚がおかしい。

恭介「ん……?」

 最近まで慣れ親しんだ感覚とは何かが違う。

 腕が触角を取り戻したかのように、感じた。

 恭介は試しに腕を持ち上げ、力を入れる。

恭介(どうせ、こんな腕なんか……)

 一種の諦観とともに込めた力は、

 正しく腕を閉じさせた。

恭介「……!!」

 ググッっと、握られる手のひらを見て、

 恭介はしばし、言葉を失った。


 同時刻;電波塔の上

QB『まさか君が来るとはねぇ。さっき見かけたときは驚いたよ』

 QBが自らの隣に向かい、話しかける。
 そこには、紅い少女がいた。

???「ハンッ!! マミの奴がくたばったって聞いたからさ、わざわざ来てやったってのに」

 そこで少女は一旦言葉を止め、手元のジャンクフードを食べる。

???「てめぇの兄弟だっけ? それに、新しい魔法少女ね……、ちょっと話が違うんじゃない?」

 まるで軽口の様に出された言葉にはしかし、隠しようのない敵意がこもっていた。

QB『ついさっき契約できてね。もうここには新しい魔法少女がいるんだ』

???「何それ? マジむかつく」

 そう言いながら、ジャンクフードを口に含む。
 そして何かを考え付いたかのように口元を歪ませた。

???「でもさあ……、こんな絶好な縄張り、みすみすルーキーちゃんに渡すってのも癪だなぁ」

QB『どうするつもりだい? 杏子』

 杏子と呼ばれた少女は、急に甘い声で囁いた。

杏子「決まってんじゃん」

 ―――― ぶっ潰しちゃえばいいんでしょ? その子?

 そして、端正な顔を悪意で歪ませる。
 白い口元には、鋭い八重歯が見えた。


 おまけ;『ほむらちゃんの携帯事情』

岡部「おい焔」

ほむら「……急に真面目に呼ばれたかと思ったけど何か違う気がするのは気のせい?」

岡部「気のせいだろう、焔よ」

ほむら「……名前で呼ばれるのは怖気が走るわね」

岡部「……貴様は俺の事を何だと思っているのだ」

ほむら「狂人」

岡部「即答か」

ほむら「ええ、もちろん」

岡部「ええい!! そんなことはどうでもいい」

ほむら「じゃあ何なの?」

岡部「なぜ俺からの電話に出なかった?」

ほむら「電話?」

岡部「さっきかけただろう? あれに出でくれればまどかが危険な目に合うことも無かったろうに」


ほむら「……そんなのあったかしら」

岡部「俺は確かにかけたぞ? スカーレットに聞いても分かる」

ほむら「……まどかと一緒にいたの?」

岡部「食い付く所がおかしくないか?」

ほむら「いいから、まどかと一緒にいたのね?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

岡部「え、あ、はい」

ほむら「なぜまどかは自分で私に電話をかけなかったの?」

岡部「まどかは貴様の電話番号を知らないと言っていたぞ」

ほむら「あ……」シュン

岡部「……いきなりどうしたのだ」

ほむら「そう言えば、まどかと最後に電話しあったのは、随分と前の時間軸のことだわ……」

岡部「……」

ほむら「……」

岡部「なんだか、済まない」

ほむら「止めて、ますます惨めになる」


岡部「そ、そうだ。ところで本当になぜ俺からの電話に出なかったのだ?」

ほむら「無茶な話題変更ありがとう。で、携帯電話なんてあの時からかかってきてないわ」

岡部「何だと?」

ほむら「ええ、いくら貴方が愚かでも着信拒否なんてしないから」

岡部「ありがたいのかありがたくないのか……」

ほむら「まあ、最後のエルなんとかは切ったけど」

岡部「所見で切られたのは初めてだ」

ほむら「どうでもいいじゃない。で、私は電話なんて受け取ってないわね」

岡部「……」

ほむら「かけ間違えとかじゃない?」

岡部「ちょっと携帯見せろ」

ほむら「は?」

岡部「いいから、早く」

ほむら「……仕方ないわね。はい」ヒョイ


岡部「やはりな……」マジマジ

ほむら「やはりって何?」

岡部「おい、《鉄の乙女》よ」

ほむら「……どこまで私のあだ名は増えるの?」

岡部「さあ? ところで、貴様が最後に携帯を充電したのはいつだ?」

ほむら「何でそんなこと聞くの?」

岡部「……もう分かるだろう?」

ほむら「分からないわ」

岡部「マジか」

ほむら「マジよ」

岡部「いいか……この携帯」

ほむら「この携帯?」










岡部「充電切れてる」

ほむら「……何で勿体ぶったの?」


岡部「いいだろ、別に。……で、いつ最後の充電をした?」

ほむら「……三日前?」

岡部「おい」

ほむら「仕方ないじゃない。通話する相手がいないんだから」

岡部「ほむら、お前……」ホロリ

ほむら「だから止めて素に戻らないで貴方に慰められるなんて惨めでたまらないわ」

岡部「俺はな、貴様が不憫で……」

ほむら「貴方だけには言われたくないわ」

岡部「何だと?」

ほむら「貴方もいつも一人通話しているじゃない」

岡部「なっ」

ほむら「本当は通話する相手がいないんじゃない?」

岡部「ちゃ、ちゃんといるぞ!!? なななななな何を訳の分からないことを」

ほむら「明らかに動揺しているわね。……昨日の威勢は何処へ行ったの?」


岡部「とにかく、俺には貴様よりも多くの人間と通話している」

ほむら「本当に?」

岡部「あ、ああ」

ほむら「じゃあ登録帳見せて」

岡部「なん……だと?」

ほむら「本当に私より多いなら登録帳も潤っているはずだわ」

岡部「見せるはずが無いだろう?」

ほむら「自身が無いのね?」

岡部「そんな訳無い」

ほむら「じゃあ見せて」

岡部「……お、俺だ、今機関の精神攻撃に――――」

 ヒュンッ

岡部「あ」

ほむら「えっと、登録帳、登録帳」


岡部「時間停止だと!? 汚いぞ!!」

ほむら「どうとでもいえばいいわ……あった」ピコピコ

岡部「止めろ!!」

ほむら「もう遅いわ、……どれどれ」


 店長

 ミス・シングル

 阿万音由紀

 スカーレット

 ブルーリリー

 ワカメ

 シャイニングマギカ

 焔

 計8件

岡部「……笑いたければ笑うがいい。二ケタに行ってない登録帳を」

ほむら「……」

岡部「焔?」

ほむら「私の……ちょうど4倍ある」

岡部「何……だと?」

ほむら「私の、親と貴方のしか無いから……」

岡部「焔……」ブワッ

ほむら「だから止めてホント止めてマジで止めて」





 おしまい

 以上で今日の投下を終わりにします。
 
 やべえよ、話が進まない……。
 一週間に大体二回ペースでよかった……。
 原作一話に二回投下しないといけないなんて……。

 それはさておき、ついにアンコちゃん登場です!!
 長かった、ほんと長かった。
 これでまどマギサイドの魔法少女はすべてそろいました。

 オカリンの狂気性がチラホラ浮かぶ回でもありましたね。
 此処から今のオカリンがどんな状態か想像してもらえるとありがたいです。

 ……この時点でも、オカリンとほむほむは運命を変えられませんでした。
 この二人の行く末は何処なんでしょうか?
 期待していただいてくれれば幸いです。

 ……ちなみに、不気味オカリンを見たいならアンダーリンかリべリオンですね。
 タイムリープの壮絶さが感じられます。

 長文失礼しました。
 応援してくれる方々に感謝を。
 お休みなさい。

 

やっと追いついたぞ!
最初の方は香ばしくて読みづらかったけどおもしろい
拙いはひらがなの方が読みやすい気がする

 10;00頃から投下を開始します。
 >>414 
 拙い は、マズイを変換したらこうなってしまいました。
 しゃばけなどで使われていたので気にせず使ってしまいましたが、確かに読みづらいですね。
 つたないと同じ漢字ですから……。
 読みづらい字を使ってしまい申し訳ありませんでした。
 



 第12話;《君は狂っているようだね》

 見滝原中学校;教室

仁美「ふぁぁ……」

岡部「どうしたのだワカメよ。人前で欠伸をするとは、貴様らしくないな?」

さやか「寝不足?」

 俺とさやかが連続で尋ねる。
 昨日はお互いに避け合っていたきらいがあったが、今は普通に会話できるようになった。
 これも、さやかが魔法少女になったことへの余裕からくるものだろうか。

仁美「ええ、昨夜は病院や警察やらで夜遅くまで……」

岡部「何か、あったのか?」

さやか「大丈夫?」

仁美「何だか私、夢遊病って言うのか……それも同じような症状の人がたくさんいて、気が付いたら皆で同じような場所に倒れていたんですの」

 確実にそれは、魔女の口づけのせいだろう。
 ただ、仁美や医者は夢遊病として、その奇怪な行動を納得している。
 魔女はこちらの世界からでは認識できないからだ。

仁美「お医者様は集団幻覚とか何とか……、今日も放課後に精密検査に行きますの」

さやか「そんなんなら学校休んじゃえば?」

岡部「検査で体を壊されたら、それこそ笑い話にもならないからな……」

仁美「駄目ですわ。それではまるで本当に病気みたいで……」

さやか「さっすがユートーセ―、偉いわあ」

岡部「茶化す部分ではないだろう……」

さやか「あははははははは!!」

 何かを振り払うようにさやかは笑った。

まどか「……」

ほむら「……」

 俯くように座るまどかと、それを睨むほむら。
 彼女たちは、壊れたラジオのように笑うさやかを、どう思っていたのだろう。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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 放課後;フードコート

岡部「俺の失態だ。弁明の言葉も無い」

ほむら「……」

 雰囲気のいい、リア充達が来るようなフードコートで俺は女子中学生に頭を下げていた。
 
岡部「まさかここまで早くブルーリリーが契約するとは思わなかった。完全に後手に回ってしまった。済まない」

ほむら「別にいいわ」

岡部「それでもだ」

ほむら「……この一件は美樹さやかの愚かさが招いた事態、貴方を責める必要は無いの」

 ほむらはコーヒーを一口飲み、溜息をついた。

ほむら「あくまで私の目的はまどかの魔法少女化の阻止。美樹さやかが魔法少女になっても、そこまで計画に支障はない」

岡部「しかし……」

 魔法少女になる、という事は魔女になるという事と同義語だ。
 ほむらはそれを知っているのだろうか?
 知らないのなら、伝えた方が良いのだろうか。
 頭をめぐらせ、悩んでいる俺を横目で見ながら、ほむらが語りかけてくる。

ほむら「尤も、魔女化は防ぎたいわね」
 
岡部「は?」

 一瞬、意味が分からなかった。
 ……今、なんて言ったコイツ?



岡部「貴様……、知っているのか?」

 問いかける俺に、何気ない風に一言。

ほむら「……やはり貴方は知っているようね」

 当然のことのように言われた。

 なんだか過大評価な気がする。
 やはり第一印象がアレだったからか。
 そうなのか。

岡部「と、いう事は貴様も……、魔法少女は、魔女になる事を」

ほむら「ええ、知っているわ」

 どこか濁った眼で俺の方に向かい、ほむらは目を細める。
 しかし、その目に俺は映っていなかった。

ほむら「2~3回くらい時間跳躍すればわかる事実よ」

岡部「……ならば、もっと必死に、ブルーリリーの魔法少女化を止めようとしても良かったのではないか?」

 少しだけ、ほむらを睨む。
 ほむらは肩をすくめた。

ほむら「さっきも言ったけど、私の目的はまどかを救う事」

岡部「だから……、ブルーリリーはどうでもいいと?」

ほむら「どうでもいいとは言ってないわ。ただ、こっちだって余裕なんてないの」 

 ―――― 私には、全てを救う余裕なんてない。

 そう言って、ほむらは俯いた。
 悲しそうな瞳が少し、前髪の間から覗いた。
 


 失言だ、そう思った。

岡部「済まない……」

ほむら「貴方が謝る事じゃない」

岡部「しかし、俺が偉そうに言えたことでは無かったからな……」

 そうだ、俺だって多くの思いを犠牲にして、進んできた。
 そんな俺に、彼女の選択を否定する権利は無いだろう。
 だが

岡部「それでも、最低限、命だけは救おうと粘ってみてもいいのではないか?」

ほむら「努力はしているわ」

 確かに、そうだろう。
 マミの時も、彼女はちゃんと警告していた。
 別に、救うことを放棄したわけではないのだ。

岡部「……そうか、ならいいんだ」

 俺はこの話を打ち切る事にする。

岡部「そろそろ、時間ではないか?」

ほむら「……そうね、そろそろ来るころだと思う」

 その時、俺たちに声がかかる。

???「あ、岡部先生、ほむらちゃん……」

 どうやら、来たようだ。
 
岡部「遅かったではないか、スカーレットよ」

 先程、まどかから連絡があった。
 曰く、ほむらと会わせて欲しいのだそうだ。
 確かに、ほむらは神出鬼没だからな。捕まえるのには一苦労だろう。
 


まどか「……ごめんなさい」

ほむら「別にいいわ。座って」

 ほむらは落ち込んでいるまどかを慰め、席に座らせる。
 他の人間にその優しさを発揮すれば、これまでのループ、もっとうまくいったのではないだろうか。
 そう思いかけたが、口には出さないことにした。

 代わりに、まどかに質問をすることする。

岡部「で、話とは何な「話って何?」

 俺の言葉はほむらに遮られた。
 自分がいくらまどかと話したいからって人の話を遮ることは無いだろう……。

まどか「あの、さやかちゃんの事なんだけ、ですけど……」

 まどかはおどおどしながら話す。

岡部「……別に無理して敬語を使う必要は無い。貴様が話しかけているのはブラックロックシューターなのだしな」

まどか「あ、ありがとうございます」

岡部「別にいい、それより、話の続きを」

まどか「えっと、ほむらちゃん」

ほむら「何?」

 まどかはほむらの方を向き、話し始めた。


まどか「あ、あのね。さやかちゃんはね、思い込みが激しくて意地っ張りで、結構すぐに人と喧嘩しちゃったり……」

ほむら「……」

まどか「でもね、すっごくいい子なの。優しくて、勇気があって。誰かの為と思ったら、頑張りすぎちゃって……」

ほむら「魔法少女としては致命的ね」

 ほむらは冷たく、言い放った。

まどか「そう……なの?」

 沈んだ声のまどかに、ほむらはさらに冷徹に返答する。

ほむら「度を越した優しさは甘さにつながる。蛮勇は油断になるし、どんな献身にも見返りなんてものはない」

まどか「……」

ほむら「それを弁えていなければ、魔法少女なんて勤まらない」

岡部「……」

 確かに、ほむらの言っていることは正論だろう。
 ただ、それを思春期真っ盛りの少女たちに求めるのは、酷ではないかと、そう思う。

ほむら「それが守れないなら、魔法少女はただ死んでいくだけ」

 知らない内に言葉が漏れ出ていたのか、ほむらが俺を睨んできた。
 そして、吐き捨てるように言う。

ほむら「だから、巴マミも命を落とした」








 言ってはならないことだと、そう思った。


岡部「……言いすぎだ、もう少し口を慎め」

 俺はほむらの発言を諌めた。
 確かに、魔法少女は心を鬼にしなければいけないものだろう。
 だからこそ

岡部「貴様にマミを責める権利は無い」

 結局、ほむらも『鹿目まどかを救う』という、度を過ぎた優しさから来る目的のために戦っているのだ。
 そんな彼女に、誰かのために一人で戦い続けたマミを否定する権利は無い。
 無論、俺にも。

ほむら「……貴方は、何の味方なの?」

 ほむらは睨みつけるように、俺の方を見た。

岡部「さあな」

 俺は俺の味方だ。
 オカベリンタロウ
 鳳凰院凶真は自分の願いの為に、他人の思いを犠牲にする最低で最悪の男だ。
 今、ほむらを助けているのも、究極的には自分の為に過ぎない。

 ―――― 誰だってそんなもんだろ。

 妙な幻聴を打ち消す。

まどか「と、とにかく、さやかちゃんは大丈夫だって言ってるけど……」

 険悪になった空気を振り払うように、まどかは元の話題に戻した。

ほむら「美樹さやかの事が心配なのね」


まどか「……私じゃ、もうさやかちゃんの力になってあげられないから、だから、ほむらちゃんとにお願いしたいの」

 懇願するような声で、そうほむらに頼み込む。

まどか「岡部先生は、全て俺に任せるがいいって言ってくれたけど、魔法少女じゃない岡部先生を危険な目にあわしたくないから」

岡部「……余計なお世話だ」ボソ

ほむら「岡部」ボソ

 今度は俺がほむらに諌められる。
 そんなやり取りに気付かなかったのか、まどかは話を続けた。

まどか「だから、さやかちゃんと仲良くしてあげて。マミさんの時の様にケンカなんてしないで」

 それに関してはほむらより俺の方が適任ではないのか?
 そう言おうとしたが

 ―――― 貴方に、何が分かるっていうの?

 違う。 

 俺はマミと意見を違えた。
 
 俺がもっと冷静なら、
 
 俺にもっと力があったら、
 
 彼女を救えていたのではないか?

 そう、たとえば俺が魔法少女になっていたら、

 何かが変えられたのではないか?

 何かが何かが何かが何かが何かが何かが何かが何かが

 ―――― 何が?



ほむら『才能が一欠けらも無い貴方が魔法少女になったところで、何も変わらないわ』ボソ

 ほむらがまどかに聞こえない様、念話で話しかけてきた。

 俺はほむらの方を見た。
 彼女は苦い顔をしていた。

ほむら『さっきからブツブツと独り言がただ漏れ。幸い、まどかには聞こえなかったみたいだけど』

岡部『済まない……』

ほむら『……さっきも言ったけど、才能も無い貴方が魔法少女になったところで何もできない。むしろ懸念要素が増えるからならなくて正解』

 ほむらが俺を責めてくる。
 ただ、その中に少し何かが混じっている。
 それは、なんだか普段ほむらが俺に向ける感情とは縁遠いものに感じた。

















まどか「―――― だから、魔法少女で協力できれば、魔女をやっつける時も安全だし……」

 いつの間にかまどかの話が進んでいた。
 俺は慌ててまどかの話に耳を傾けた。

まどか「だから……お願い……」

 若干涙声になりながら、まどかは呟くように話を締めくくった。
 それを聞いていたほむらは、少し何かを考えるように俯いて

ほむら「……私は、出来ない約束はしたくない。……美樹さやかの事は、諦めて」

 言った。


まどか「そ、そんな……」

 まどかの声に絶望が滲んだ。
 ほむらは続ける。

ほむら「出来る限りのことはするわ。でも、彼女の人生は、魔法少女になった時点で決したも同然なの」

 あまりに冷徹な声で、まどかの心を抉る言葉を生産する。

岡部「流石に言い過ぎでは……」

ほむら「もう一度言う。私もできる限りのことはするわ。でも、私にだって私の戦いがある」

まどか「……」

ほむら「だから、期待なんてしないで」

 吐き捨てるように、自分の思いをほむらは語った。

ほむら「魔法少女になるってことは、たった一つの希望の為に、全てを諦めることを指すの」

 血を吐き出すように、海を抉り出すように、言葉を紡ぐ。

ほむら「私にだって、全てを諦めても叶えたいものがある」
 
まどか「……だからなの?」

 まどかは、放心したようにほむらに問う。



まどか「だからほむらちゃんは、自分の事も、ほかの人の事も、全部諦めちゃったの?」

 まどかの問いに、ほむらは頷いた。

ほむら「……たとえどんな罪を背負っても、私には戦わなきゃいけない理由がある。それだけ」

 そう言って、ほむらは席を立った。
 
ほむら「時間を取らせてごめんなさい。ほら、岡部も行くわよ」

 そう言って、ほむらはその場を後にした。
 俺は、半泣きになったまどかを少しの間だけ見つめた。

岡部「大丈夫だ。昨日も言っただろう? 必ず、貴様の望む世界に行けるさ」

 そしてまどかの頭を少しだけ撫でると、俺はほむらの後を追った。

 その時に、まどかの呟きを聞いたような気がした。




















まどか「……信じたくても、信じられないよ。先生……」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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 数時間後;街中

さやか「ここだ……」

 美樹さやかは路地裏に入ろうとしていた。
 そこには結界がある。
 隣には、彼女の親友であるまどかと、彼女と契約したQBがいた。

QB『この結界は、たぶん魔女の物では無くて、使い魔の物だろうね』

さやか「楽に越したこたあないよ。こちとら未だ初心者なんだからね」

 ぼやくQBに、呑気な口調でさやかが返した。
 まどかは、無言でさやかについてきている。

さやか「んじゃあ、行きますか」

 そう言って、さやかは結界の中に入った。

QB『油断は禁物だよ』

 警告をするQB。

さやか「分かってる」

 さやかは静かに返した。


 ぶううううううん!!

 笑いとも叫びともつかない悲鳴が聞こえる。

さやか「!!」

 さやかは身構えた。
 その視線の先には、飛行機に乗った子供のような使い魔。

QB『逃げてしまうよ!!』

さやか「任せて!!」

 警告を発するQBに、さやかは強い口調で答えた。
 
 パァァァァァァァァァァァ!!

 瞬間、結界内に光があふれる。
 美樹さやかと言う存在が、光の中で変革していく。
 魔法少女への変身である。

 ブンッ!!

 剣が振られる音とともに、変身は完了した。

さやか「行くよ!!」

 気合と共にマントをはためかせ、剣を展開する。



 無数の剣は、さやかを囲むように地面に突き刺さっている。
 
さやか「はっ!!」

 さやかは独楽のように回る。
 右手で剣をつかみ、回転する勢いで魔女に投擲した。
 間髪入れず、左手からも剣を放つ。
 それが繰り返され、無数の県が使い魔に迫った。

 しかし、何度も放たれた剣は使い魔に当たることは無かった。

 ガキン

 金属的で無機質な音が響き、剣は地に落ちる。

さやか「!?」

 驚きと戸惑いに固まってしまったさやかに、声が投げかけられた。

???「ちょっとちょっと」

さやか「誰!?」

 さやかは声の元を向く。

 そこには、紅い魔法少女がいた。
 さやかには知る由も無かったが、その少女は佐倉杏子である。

杏子「何やってんのさ?」
 
 杏子は呆れの入った声で、さやかに質問を投げかけた。
 そして、杏子の肩を通り過ぎるように使い魔が逃げていく。

まどか「あ、逃げちゃう……」



さやか「クソ!!」

 まどかの声にハッとなったさやかは、慌てて使い魔を追いかけようとした。
 しかし、追いつくことは無かった。

 ―――― そして世界は反転する。

さやか「う……」

 使い魔が遠ざかり、結界が崩壊した。
 しかし、さやかはそこから一歩も動けなかった。

 何故なら、さやかの喉元には、槍の穂先が添えられていたからだ。

杏子「見て分かんないの? あれは使い魔、魔女じゃない」

 杏子は、呆れをますます強める。

杏子「グリーフシードなんて持ってない。分かんないの?」

 馬鹿にするような杏子の口調。
 さやかはいきり立った。

さやか「だって、あれを放って置いたら人が殺されるのよ!!?」

杏子「だからさ、それでいいんだよ」

 一瞬、さやかには目の前にいる少女が言っていることが分からなかった。


 そんなさやかを気にも留めず、杏子は続けた。

杏子「使い魔が人を4~5人喰って、グリーフシード孕んで、魔女になった方が良いだろ?」

 嘲るように、杏子の顔が歪む。

杏子「卵産む前の鶏絞めてどうすんだっての」

さやか「な……」

 さやかは絶句する。
 目の前の紅い少女の語る言葉は、さやかには理解しがたいものだった。

さやか「アンタ……使い魔に襲われる人を見殺しにするって言うの!!?」

 叫ぶさやかに、杏子は煩そうに言葉を吐いた。

杏子「食物連鎖、アンタみたいに、真面目に学校言ってる奴ならもちろん知ってるよねぇ?」

さやか「は?」

 さやかは怪訝そうな顔になる。
 杏子は歪んだ笑みを浮かべながらさやかを見つめた。

杏子「弱い人間を魔女が喰う。そしてそれをあたし達が喰う。当然だと思わない?」

 そう言って、口を半月の様に開く。
 さやかも、まどかも、何も言うことが出来ず、辺りには静寂が満ちた。

















岡部「成程、その考え方、嫌いではない」

 その奇妙な静寂は、一人の男によって破られる。


杏子「ッ!!」
 
 突然の声、杏子は声のした方へ振り向いた。
 杏子の背後、ちょうどさやかの真反対にその男がいた。 

岡部「そう身構えなくていい」

 岡部と言われた男は、右手をひらひらと振る。

さやか「お、岡部先生……?」

まどか「何で……?」

 余裕そうな男とは正反対に、明らかな動揺を隠せない二人の少女。
 杏子は男を静かな苛立ちを込め、睨んだ。
 
杏子「邪魔しないでくんないかな? オッサン」

 不意打ち染みた岡部の登場に、少々驚いた。
 しかし、それだけだ。
 おそらく、この男は自分たちの戦いを子供の喧嘩かなんかと思い、しゃしゃり出てきたのだろう。
 
杏子(なら、この槍で2~3本パイプを叩き切ってやらぁいいか)

 そう思い、その行動を実行に移そうとした。

 ―――― 魔法少女同士の間で、要らぬ騒ぎは起こすな。

 だが、それは男の言葉によって止められた。

杏子「何?」

岡部「聞こえなかったのか? 魔法少女同士で戦うなと言っているのだ」

 違う。
 そんな事ではない。
  
 何よりおかしい事がある。

杏子「何でテメェが、魔法少女について知ってやがる」

 杏子は躊躇いなく質問を口にした。



岡部「俺が知ってては悪いか?」

杏子「当たり前だ……」

 本当に不思議そうな声で問いかける岡部に、呻くように杏子は答えた。

杏子「何で男が魔法少女について知ってるんだよ。テメェは何者なんだ?」

 杏子は目の前の男を睨む。
 理解不能な出来事に、杏子もわずかだが動揺していた。

岡部「そうだな……」

 岡部はしばし迷う様子を見せたが、答える口調は妙にハッキリしていた。

 ―――― 鳳凰院凶真とでも、呼んでくれればいいさ。

杏子「ふざけてんのか?」

 明らかに胡散臭い偽名を語る岡部。
 杏子はその態度に苛立つ。

岡部「ふざけてなんかいないさ」

 岡部は笑った。

杏子「何なんだよ、てめぇ……」

 杏子はさらに鋭く、岡部を睨んだ。
 しかし、岡部には全くの無意味のようだった。


岡部「言っているだろう? 俺はこの無益な争いを止めに来ただけだ」

 あくまで岡部は調子を崩さない。
 杏子の苛立ちが加速する。

杏子「……ケンカはやめて仲良くしましょうってか? ッハ!!」

 苛立ちを抑えきれなくなった杏子はそれをを口にする。

杏子「そんな甘いもんじゃないの。魔法少女も、この世界も」

 何のために、岡部が魔法少女同士の戦いを止めに来たのかは、杏子にはわからない。

杏子「綺麗事偉そうに語ってんじゃねぇよ。センセイさんよぉ」

 だが、正義感から止めに来たというなら、それはまさしく杏子にとって唾棄すべき対象であった。

岡部「別に綺麗事ではないさ。俺はただ、バカげた理由で無意味な争いを起こすなと言っているのだ。俺の目的に沿わないからな」

杏子「へぇ?」

 なるほど、ただの正義感ぶった奴では無いという事か。
 そう思った。

さやか「バカげた理由って……!? そいつは人を見捨ててるんですよ!?」

 さやかが岡部に向かって叫んだ。
 岡部は少し首を傾ける。

岡部「見捨てる見捨てないは個人の自由だろう?」

さやか「なッ!?」

 絶句するさやかに、岡部は構わず続けた。

岡部「貴様の理想を他人に押し付ける必要は無い」


さやか「ッ!!」

まどか「岡部先生……」

 さやかは岡部を睨み、まどかは悲しそうに岡部の名を呟いた。

岡部「……第一、使い魔から人々を守りたいのなら、そこの魔法少女など放って置けばいいではないか」

 岡部は呆れたように、さやかに向かい、言う。

岡部「今は魔法少女同士のいざこざよりも、使い魔退治の方が重要ではないのか?」

さやか「!!」

 岡部の言葉に、何かに気付いたようにさやかは目を見開いた。

さやか「そっか、そうだよね……」

 一言、呟く。
 そして、

さやか「行くよ!! まどか!!」

まどか「……うん!!」

 二人はは杏子とは逆方向へ駈け出した。

杏子「させるかよ!!」

 しかし、それで見逃すほど杏子は甘くない。
 一瞬で二人の少女に接近すると、さやかを岡部の方へ突き飛ばし、まどかを結界で隔離した。

 紅い鎖状の結界は、壁の様にまどかを杏子とさやか、そして岡部から切り離す。


 杏子は余裕を崩さず、さやかを見た。

杏子「オイオイオイ。まさかアンタ本当に、正義の味方気取ってんの?」

 その声に嘲笑を込める。
 
杏子「おちゃらけた冗談はいい加減にしてくんないかなぁ?」

 蔑みの声に、さやかの目には再び敵意が灯った。

さやか「うるさい!!」

 剣を振り上げ、杏子に突進してくる。
 杏子は無造作に槍を上げ、襲い掛かる剣を止めようとしたが――――

岡部「止めんか」

さやか「え?」

 それよりも先に、さやかが岡部の出した足に躓いた。
 ドテン、とその場に似合わぬ音がした。

さやか「何すんすか先生!!」

 声を荒げたさやかが抗議した。

岡部「貴様が何すんすかだ。安い挑発に乗ってどうする」

 呆れたように岡部が返す。



 そして岡部は杏子の方を向き、見つめてきた。

岡部「……目的は見滝原市を貴様のテリトリーにすることか?」

杏子「へぇ? 分かってんじゃん」

 岡部の問いに、笑って答える。
 岡部は続けた。

岡部「新人狩り、という事か」

杏子「そゆこと」

 此処まで見抜かれたのなら、もはや隠すことに意味は無いと判断し、杏子は開き直った。

杏子「中々キレモノじゃん。見直したよオッサン」

 そう言いながら、さやかに槍を向ける。

杏子「と、いうワケでさ。その子、邪魔なんだよねぇ」

さやか「な……!!」

杏子「だからその子、ぶっ潰したいんだよね~」

 軽口の様に吐き出す言葉はそれでも、さやかへの敵意にあふれていた。
 岡部は少し目を細めた。

岡部「俺が許すと思うか?」

杏子「だってさ、無益な争いじゃないじゃん? アタシにとっては有意義だよ」

 杏子は八重歯をむき出しにして挑発する。
 岡部は静かに答えた。

岡部「俺の目的に相反する以上、見過ごせはしないな」


杏子「へぇ? ……じゃあオッサンがアタシを止めてくれんの? 見たところ、ただの人間っぽそうだけど」

 口を歪ませ、さやかに向けていた槍を岡部に向ける。

岡部「貴様如きでは話にならんな」

 岡部はそう言って、嘲笑う。
 口が半月の様に開いた。
 
杏子「フゥン……?」

 面白そうな声色で岡部の言葉に返す。
 だが、杏子の顔はもはや笑っていなかった。

杏子「魔法少女舐めてんの?」

 さっきまでの笑いを含んだ声とは明らかに違う声が、杏子の口から洩れる。

さやか「……!?」

 杏子の急激な変化に、さやかは戸惑った。
 しかし、岡部はまるで動じた様子が無い。

杏子「その気になりゃあ、テメェみたいな一般人は瞬殺できるんだよ?」

 杏子は岡部の様子に苛立ちながら告げる。
 その脅し染みた警告に、岡部は笑みをますます深めた。

 ―――― なら殺してみろよ。



杏子「ハァ?」

さやか「何言ってるんですか!?」

まどか「先生!?」

QB『……』

 その場にいた者が、三者三様な声を上げる。
 岡部は気にすることなく続ける。

 ―――― まずは俺と戦え、もし俺を殺せたら、ブルーリリーと戦ってもいいぞ?

 ブルーリリー、と言うのが誰を指すのかは杏子には分からないが、状況からさやかの事だろうと判断する。

杏子「アンタ正気かよ?」

 そんなのは勝負とすら言えない。
 もはや虐殺ともいえない。

 ―――― どうした、怖いのか?

杏子「そんな訳ねぇだろ」
 
 スッ、と杏子の目が細められる。
 杏子は槍を握る手に力を込めた。

杏子「こちとら生きるために他人を見殺しにしてんだ。今さらただのオッサンとの勝負如きでビビったりしねぇよ」



 杏子の返答に、岡部の口は更に深く裂ける。

 ―――― ならば、問題は無いな?

 狂ったように顔を歪ませる岡部。
 そして囁く。

 ―――― 尤も、俺が死ぬことなぞありえないがな。

 杏子は、自分の心が冷えるのを感じた。

杏子「へぇ? アンタ、自分が死なないとでも思ってるんだ?」

 口から滑り出た言葉は、杏子自身が驚くほど凍てついていた。

杏子「魔法少女の戦いは死と隣り合わせだよ?」

 ―――― そんなこと分かっている。

 本当に分かっているのか疑わしいものだ、と杏子は思った。

杏子「困るんだよねぇ……遊び半分で、来られちゃ、さ!!!!!!」ブン!!

 杏子は右手に掴んでいた槍を振りかぶると、岡部に向かって投げた。
 
 放たれた槍は紅の稲妻の様に岡部に襲い掛かる。

 しかし、杏子に岡部を傷つける意思は無かった。



杏子(これならコイツもビビッて逃げ出すだろ)

 杏子が放った槍は、岡部の手首に向かっている。
 手首を少しでも動かせば避けれるものであり、当たることはまず無い。
 
 岡部は反射で避けるだろう。
 そう、思っていた。
































 ザシュッ!!!

 何か、音がした。


杏子「は?」

 有り得る筈の無い音に、杏子の思考は一時停止した。
 有り得る筈の無い紅が、ボトボトボトと地に落ちていた。

岡部「ゥゥゥゥゥウゥゥゥ!!!!」

 岡部は、呻いていて

さやか「……ぇ?」

 さやかは茫然とし

まどか「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 まどかは叫び声をあげていた。

杏子「嘘だろ……?」

 杏子は目の前にあるモノが信じられなかった。

岡部「痛ぇじゃねぇかよ……」

 岡部は左手で右手を押さえている。
 左手の指の間から、紅い何かが流れ落ちている。
 そして、表情は、笑っていた。










 ―――― 貴様こそ、理解していなかったのではないのか?

 以上で今回の投下を終了します。

 スーパー鳳凰院再登場。
 もはやオカリンじゃないと思う自分と、
 いや、オカリンならこれくらいやってくれるだろと思う自分がいます。

 もちろんオカリンはこれくらいでは死にません。
 ……オカリンってよく考えたら相当なチートキャラですね。
 そのチートさを最大限活用しているのがアンダーリン未来オカリンなのでしょうね。

 ついに杏子ちゃん本格登場!! 
 この時がやってきたぜ……。
 マミさんのところはサクッと終わらせたかったのにマミさんが勝手に動いて
 結果一話丸ごと使うことになってしまいましたからね……。

 いや、マミさん好きなのでいいのですが。
 杏子ちゃんは境遇が鈴羽っぽいからオカリンをフル活用できそうだなと。
 だから杏子ちゃん登場まではサクッとやろうかなと思っていたら、マミさん劇場。
 さすがマミさん、ヒロイン力たけぇ……。

 いつかこの二人で
 
 佐倉『凶』子と巴『真』ミ の鳳凰院シスターズ!! 的な番外編でも書こうかな……。

 ……話が広がらなそうですね。

 長文といつも以上の駄文スミマセンでした。
 今後とも応援よろしくお願いします。
 それではおやすみなさい。


 スミマセン、用事が立て込んで今日の内には投下できそうにありません。
 明日には今日の分を投下したいと思います。
 それと、数々のレスをありがとうございました。
 これからも応援よろしくお願いします。
 

ヽ(*゚д゚)ノ カイバー 9;15から投下します。



 第13話;《こんな世界はおかしいです》


 ―――― 貴様こそ、理解していなかったのではないのか?

杏子「なん……だよ……」

 岡部の言葉に、答えようとするも、体が震えて上手く答えられたかどうか分からない。
 杏子の目には、紅いナニカしか映っていなかった。

 ―――― どうだ? 人を傷つける感覚は?

 岡部が何事か言っている。
 そこで、不意に気付いた。

杏子「テメェ……、わざと……」

 岡部はわざと杏子の攻撃を受けたのだ。
 それを口に出すと岡部の顔はますます歪んだ。

 そして、杏子に向かって歩き出した。

杏子「何だよ……」

 それでも杏子は後ろに後ずさることは無い。
 そうしてしまったら、自分が怖気づいていることになる。
 動揺している証明になってしまう。

 


岡部「……クククク……」

 短い笑いを漏らし、岡部はゆっくりと、しかし確実に歩いてくる。

杏子「く、来るなよ……」

 こんな事は初めてだった。
 杏子は実の所、他人に此処まで大けがを負わせたことは無かった。
 
 確かに、何度もケンカをしたことはある。
 人に傷を負わせたことも一度や二度ではない。
 
 しかし

 こんな、腕を切ってしまうような事は起こらなかった。
 何時もちゃんと計算していた。

杏子「止めろよ……」

 命が惜しい奴なら、普通の人間なら、怪我が怖い人間なら、

 絶対に当たることは無い攻撃だった。

 ―――― 岡部は杏子の目の前までやってきた。

岡部「これが……」

 岡部はにやりと笑い、手の無い右手を挙げて――――

岡部「これが、貴様のやっていたことだ」

 ドロリと

 あたたかいモノが

 ―――― 杏子の頬にあてた。

 杏子の頬に当たった。



杏子「ッ!!」ズサァァ

 杏子はついに後ずさった。

さやか「ッ!! 先生!!」

 状況をようやく飲み込んださやかが、岡部の傍に寄る。
 さやかの手には岡部の手首がある。

さやか「先生、待ってて!! 今、治すから!!」

 少し掠れた声でさやかが叫ぶ。
 直後、さやかと岡部を青色の光がつつんだ。

 青色が赤を包み、赤色が漏れ出るのが少しづつおさまっていく。
 
QB『彼女の祈りは《癒し》。だけど此処までとはね……』

 QBに表情と言うものが存在していたとしたら、この時ばかりは驚きの表情だっただろう。
 QBは、さやかに此処までの回復が出来るとは思っていなかった。
 不意に、ある仮定がQBの頭を横切る。

QB『……成程、彼女の祈りは『上条恭介の《腕》の回復』だ。それならこの異常な回復にも納得できる』

 さやかの魔法が強化されるわけだ、とQBは呟く。

まどか「岡部先生……、よかった」

 まどかは安堵の溜息をついた。
 


 そして岡部の治療が終わると、さやかは杏子を睨んだ。

さやか「アンタみたいな糞野郎がいるから……、誰かが傷つかなきゃなんないんだ」

 静かな声で、怒りを口にする。

杏子「……」ギリ

 別に傷つけるつもりは無かった、と言っても信じてはもらえないだろう。
 別に弁解するつもりも無い。
 むしろ当初の目的通りだ。

 だから戦闘態勢に切り替えようとした。

 その時、

杏子「……ぁ」

 自分の腕が

 真っ赤に染まっているという事に気付いた。

杏子(こんなに、血って沢山出るもんだっけ?)

 痺れた脳は、見当違いな方向へ動く。
 的外れな思考をする。

杏子(こんなに血が出てたら、死んじゃうんじゃないかな)

 杏子自身が、魔女との戦いで傷つくことは何度もあった。
 ただこれほど血は出なかったはずだ。

 それもその筈だろう。
 彼女は魔法少女だ。
 その頑丈さも、ただの人間とは天と地ほど違う。


 だから

 初めてだった。

杏子「……」

さやか「黙ってないでさぁ!! なんかいいなよ糞野郎!!」

 黙り込んだ杏子に、さやかの罵声が浴びせられた。
 その声に、ハッとなる。

杏子「……うるせぇよ」

 それでも、そう答える事しかできなかった。
 さやかが剣を構える。
 杏子は、腕を上げようとした。

岡部「……待つのだ」

 岡部が再度割って入る。
 貧血の為か、足元は不確かで、岡部はふらふらと、陽炎のように揺れていた。

まどか「先生!! 立っちゃだめだよ……」

 まどかが心配そうな声で呟く。

さやか「無理しないで」

 さやかも同様だ。


 それでも、岡部は立ち上がり、杏子の方を向いた。
 
岡部「済まないな、驚かせてしまって」

杏子「ハ?」

 今度こそ、訳が分からなくなった。
 岡部は、ため息交じりに言う。

岡部「まさか、そこまで動揺されるとは思わなかったのだ」

 どこか苦笑するように、岡部は小さく肩を震わせた。

岡部「人は第一印象が全てとは限らない、と言う訳か」

杏子「何を……」

 訳が分からない杏子。

岡部「貴様の人となりを、見極めようと思ってな」

 岡部は静かに言った。

岡部「成程、情報通りで安心したよ。《佐倉杏子》」

杏子「……!? なんで……」

 教えたことは無いはずだ。
 なのに何故、この男は自分の名前を知っている?

 疑問が杏子を包んだ。



岡部「さる筋からの情報だ」

 岡部はそこでにやりと笑う。
 それは、さっきまでの不気味な物ではなく、
 いたずらをする、子供のようだった。
     クリムゾン マギカ
岡部「《真紅の魔法少女》よ、今日の所は俺に免じて退いてくれないか?」

さやか「……見逃すんですか!?」

 岡部の言葉に、さやかは驚きと、少しの怒りを含めて反応した。

岡部「結果的に俺は無傷だ、そこまで目の敵にしないでくれ」

 だが、岡部はあくまで冷静だった。

岡部「クリムゾン、俺は貴様と戦いたくない」

杏子「……」

 穏やかに語られる岡部の提案に、乗ってしまおうか。
 そう、杏子は少しの間だけ考えたが













 ―――― この、魔女め!!

 思い出した。


杏子「……ケッ!!」

 心に仮面を貼り付ける。

杏子「オッサン、アンタのキチガイみたいな行動にはちぃと驚いた。でもよ、それでハイ退きますって言うと思ったか?」

 杏子は、《魔法少女・佐倉杏子》として言葉を吐く。

岡部「……」

 岡部は、少しだけ悲しそうな顔をしたが、そんなことは杏子に関係ない。

杏子「アタシは魔法少女だ」

 誰かに言い聞かせるように、ゆっくりと言った。

杏子「誰かを傷つけたくらいでビビっちゃ、やってられないんだよ!!」

 振り払うように、

 叫ぶように、

 嘆くように言った。

さやか「やっぱアンタは糞野郎だ……!!」

 呻くようにさやかが返す。
 そして、剣を杏子に突きつけた。


杏子「ハッ!!」

 杏子も武器を構え、笑う。
 顔が引きつっていないか、それだけが心配だった。

杏子「やってみやがれ!! トーシロー!!」

岡部「……止めろと言っているだろう」

 岡部の弱々しい声が響く。

まどか「魔法少女同士で戦うなんて……」

 まどかの嘆きが広がる。

さやか「コイツだけは、倒さなくちゃいけないんだ!!」

杏子「だからテメェに出来るのかよ!? ルーキー!!」

 それらを全て無視し、杏子はさやかを、さやかは杏子を睨んだ。
 張りつめた空気は、今にも千切れそうだった。

 ビリビリビリと、お互いの殺意は絡み合う。
 その刹那、張りつめた糸は切れた。

杏子「ッ!!」

 杏子は駈け出し

さやか「!!」

 さやか剣を正眼で構えた。

 そして、剣と槍がぶつかり、コロシアイが始まる。


















 筈だった。

 ―――― 誰も観測できなかった。

ほむら「ハァ……、どうしてこう、皆愚かなのかしら」

 戦いは、第三の魔法少女によって止められた。 
 


杏子「何!?」

さやか「!?」

 二人が驚くのも無理は無いだろう。
 突如として、新たな乱入者が来たのはまだよかった。

 それなら、さやかはともかく、杏子はそこまで動揺していなかったはずだ。
 しかし、実際はそれだけで無かった。
          ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 さやかと杏子、お互いの位置が入れ替わっていたのだ。

杏子(何だよこれ!?)

 杏子がさやかの位置にいるのはまだ分かる。
 杏子はさやかに突進していたからだ。

 しかし、さやかの謎の移動は意味がわからない。
 まるで空間ごと切り取ったようなズレ。
 戦い慣れしている杏子ですら、見切ることは出来なかった。

ほむら「……」

 ほむらは長い髪をなびかせる。

まどか「ほむらちゃん……」

 まどかがほむらの名前を呟く。
 そして

岡部「遅かったではないか、アイアンメイデン」

 岡部はそれでも余裕そうに笑っていた。


杏子「何しやがった!!」

 杏子はすぐさま乱入者に向き直る。

 だが

杏子「!?」

ほむら「……」

 ほむらは既に杏子の背中に回り込んでいた。

杏子「な……」

 杏子は振り向き、ほむらの顔を驚きとともに見つめた。
 そして、ニヤリと無理やり顔を歪ませる。

杏子「成程ね……、アンタが噂のイレギュラーって奴か」

 目の前の魔法少女の事は既にQBから聞いていた。
 故に、そこまでの動揺は感じなかった。

 ―――― 尤も、ほむらと接触する前に、それ以上の狂人と接していたのも一端にあるだろうが。

杏子「妙な技を使いやがる!!」

 挑発的な言葉を出しながら、杏子の思考はフル回転していた。

杏子(瞬間移動か……?)

 そう結論を出しそうになるが、情報が足りない。

さやか「邪魔をするな!!」

 杏子が思考している間に、さやかがほむらに向かい駈け出した。

 だが
 


 トン

さやか「え……」

 グラリと、さやかの体が崩れる。
 さやかの背後にはほむらがいた。

まどか「さやかちゃん!!」

 まどかが心配そうに叫ぶ。しかし、結界が邪魔をし、駆けつけることが出来ない。

杏子「……大丈夫、気絶しているだけだ」

 杏子は安心させるよう、さやかが気を失っていることを伝えた。
 そのあと、乱入者を睨んだ。

杏子「何なんだアンタ? そこのオッサンの仲間か?」

 岡部の反応からグルなのかと検討を付け、尋ねる。
 ほむらは首を振った。

 そして、岡部をちらと見ると、少し目を細めた。

ほむら「いいえ、ただの同盟相手。私はあくまで冷静な人の味方」

 機械のような声で吐き出す。

ほむら「そして私の敵は、無駄な争いをするバカ」

 言ったあと、さやかを睨んだ。
 しかし直ぐに杏子に向き直る。
 そして、聞いた。

ほむら「貴女は、どっちなの?」

 ―――― 《佐倉杏子》


杏子「……アンタもかよ。……どこかで会ったか?」

ほむら「さあ?」

 ほむらは肩をすくめた。
 杏子はほむらを睨む。

杏子「……」

ほむら「……」

 沈黙。
 お互いに声を発さず、ただ睨み合う。

 気分の悪い沈黙が辺りを包んだ。

杏子「……ッチ」

 先に杏子が折れた。

杏子「手札がまるで見えないとあっちゃね」

 ため息交じりに呟く。

杏子「そいつも潰せないしね、今日の所は降りさせてもらうよ」

ほむら「賢明な判断ね」

 杏子は答えず。ダンッ!! と跳躍する。
 そして杏子は去って行った。
 


 杏子が去って行った後、まどかは結界から解放され、さやかのもとに駆け付けた。
 そして、さやかの容態を確認すると、ほむらを見た。

まどか「た、助けてくれたの……?」

 不思議そうなまどかに、ほむらは冷たい声で答えた。

ほむら「貴女は何処まで愚かなの?」

まどか「うぅ……」

 ほむらの剣幕にまどかは少したじろく。
 ほむらは気にせず、追及を続ける。

ほむら「美樹さやかは諦めろって言ったつもりだけど? それに魔法少女には関わるなって、言ったわよね?」

まどか「わ、私は……」

ほむら「……私は愚か者が一番大嫌いよ」

 まどかを横目で睨む。
 そして、視線をずらし、岡部を見た。
 付け足すように呟く。

ほむら「……無能もね」

 岡部は蹲ったままだった。
 動く様子が無い。

ほむら「岡部?」


 ほむらは訝しげな声を出した。
 それでも岡部が動く様子が無い。
 ほむらは岡部の傍に近づいた。

ほむら「もしかして、この血って……」

 ほむらは、飛び散っている大量の血液に目を向ける。
 若干顔を引き攣らせながら、誰とも無しに尋ねた。

まどか「お、岡部先生の……う、腕が……」

 ほむらの問いに、まどかが怯えたように答えた。
 ほむらは岡部の手元を見る。
 スーツの右手の裾だけが微妙に短くなっていた。
 負傷の形跡はない。

ほむら「……見たところでは無傷に見えるわ」

QB『さやかが直したんだよ』

 ほむらの疑問に、今まで黙っていたQBが語りだした。

QB『まさかあそこまでの癒しが出来るとは思わなかったけどね……』

 感心したように感想を言う。
 ほむらはそれを無視した。

ほむら「……」チャキ

 無言で岡部に銃を向ける。


まどか「ほむらちゃん!!?」

 まどかが驚きの声を上げる。
 ほむらは無視して、銃口を上に向けると引き金を引いた。
 
 パンッ

 乾いた、決して小さくない音が辺りに響く。
 それでも岡部が反応することは無かった。

ほむら「……これでも目覚めないの?」

まどか「ほ、ほむらちゃん……」

 まどかが怯えたようにほむらを見つめた。
 ほむらはその視線に気づかない。

ほむら「しょうがないわ……」

 愚痴を言いながら、ほむらは岡部の腕を掴み、無造作に支える。
 そしてそのまま、歩き出した。

ほむら「まどか」

 ほむらは短く、まどかを呼ぶ。

まどか「な、何?」

 ほむらはしばらくまどかを見つめた後、ボソリと言う。

ほむら「私は愚か者には容赦しない。覚えておいて」

まどか「ほむらちゃん……」

 まどかは、去っていくほむらと岡部を見つめるしかなかった。

QB(暁美ほむら、君はまさか……)

 一方、QBは暁美ほむらについての仮説を立てていた。
 だが

QB(いや、それよりも……。 岡部倫太郎、君はいったい何者なんだ?)

 QBにも、全ては見渡せていなかった。

 


 数十分後;別の路地裏

ほむら「まだ起きないのね……」

 ほむらは無造作に投げ出した岡部を見る。
 まだ起きる様子は無い。
 もう一度空砲を鳴らそうか。
 そう思い、盾に手を添えようとしたとき。

Qβ『感心しないね。優しさが足りないよ』

 物陰から、Qβが出てきた。
 銀色の懐中時計が、首元で揺れる。

ほむら「……」

 ほむらは横目でQβを睨む。
 ほむらはあまりQβの事を信用していない。
 尤も、なら岡部の事を信用しているかと言われたらそうではないが、Qβは特に信用できない。
 あのQB達の一匹なのだから。

Qβ『無視とか、僕それがご褒美になるほどには至れていないよ?』

 Qβが軽口を言って来るが、ほむらは全て無視する。

Qβ『酷いねぇ……、攻略難度Sランクだね』

ほむら「……」

Qβ『ちょ、マジでガン無視? さやかの監視をして、凶真と君に逐一報告しているのは誰だと思ってるのさ』

 ブツブツと愚痴を呟くQβ。
 ほむらはその人間らしさに異常な違和感を覚えた。
 だが、長年にわたり積み重ねてきたQBに対する恐怖心にも似た敵意は揺るがない。
 そして、その敵意を無くさないためにも、ほむらはこの異常なインキュベータとは会話しないことにしていた。

Qβ『僕との直接の念話も嫌がるしさ……。凶真をいちいち経由するってのも面倒くさいよね』

ほむら「……」


Qβ『ハァ……、もういいよ。これは僕の独り言さ』

 諦めたように呟いた。

Qβ『しかし凶真も無茶をするよね……』

ほむら「……」

Qβ『自ら腕を切られに行くなんて正気じゃない。いくら君が来るまでさやかと佐倉杏子を戦わせたくないからって、あんな方法で足止めしなくてもいいじゃないか……』

 Qβは岡部を心底心配しているように見えた。
 それがほむらに更なる違和感を与えた。

Qβ『それに凶真は全然わかっていない。凶真が傷ついたら、さやかは佐倉杏子を絶対に敵視するに決まってるじゃないか』

 呆れたようにQβは呟いた。

Qβ『君は、自分の価値を分かっていない』

ほむら「……」

 ほむらにはその言葉の真意は理解できなかった。

 Qβは続ける。

Qβ『君がいなくなる事はこの世界の大きな損失だよ』

 まるで愛しい相手に囁くように。
 ほむらの存在を忘れたように。
 言った。



















Qβ『君のいない世界なんて、想像もしたくない』


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 翌日;ゲームセンター

 タッタッタッタッタ、と軽快なステップが響く。

杏子「~~~♪」

 佐倉杏子がダンスゲームに精を出していた。
 口にはポッキーを加え、軽快に踊る。
 慣れた様子で踏まれるステップに、ミスは無い。

 そして、彼女に近づく影が、一つ。

ほむら「……」

 暁美ほむらである。
 
杏子「よお、今度は何さ?」

 杏子はほむらの方を見もせずに言った。
 その声には、昨日までの動揺は微塵も無い。

 対するほむらは昨日と同じ無表情。
 まっすぐに杏子を見つめ、言った。











ほむら「この街を貴女に預けたい」

 ポキッ

 ポッキーが折れる音がした。



杏子「どういう風の吹き回しよ?」

 杏子は尋ねながらも、ステップを踏み続けていた。
 また、ミスは無い。

ほむら「魔法少女は貴女みたいな子が相応しいわ」

 ほむらはポーカーフェイスを崩すことなく、続けた。

ほむら「美樹さやかでは器が足りない」

 冷徹に語られた言葉に、杏子は笑った。

杏子「フン、元よりそのつもりさ。んで? ルーキーちゃんはどうすんの? 放っときゃまた突っかかってくんじゃない?」

 尤も、杏子にとってはそれはあまり重要ではない。
 もっと重要な事項はほかにあった。

杏子「それにさ? 魔法少女が戦うってなったら、またあのオッサンが五月蠅いんじゃ無い?」

 そう、あの男。
 杏子に腕を切られた、あの狂人こそ、今の杏子にとっては一番の懸念事項だ。
 自分がまたさやかと戦ったら、おそらく再度あの男は乱入してくるだろう。
 
 そして、また自分から傷付きに来る。

杏子「あのオッサンは狂ってやがる。下手したらぶっ殺しちゃうかもね」

 別に、人を殺すことに抵抗は無い。
 だが、一般人を直接殺すのは目覚めが悪い。

 そういう事にする。



杏子「アンタの同盟相手なんだろ? どうにかしてくれよ」

 杏子はほむらの方を見もせずに行った。
 まだミスは無い。

ほむら「その心配は無いわ」

杏子「あ?」

 ほむらの言葉に、杏子は疑問符を浮かべた。
 ほむらは続ける。

ほむら「美樹さやかは私たちで対処する。よって、貴女が心配することは無い」

杏子「そりゃぁ頼もしいね」

 あまりそう思っていない口調で杏子が答えた。
 そして、続ける。

杏子「……でも、まだ肝心なことを聞いてないんだよなぁ」

 ほむらの方を向く。
 それでもステップがやむ様子は無かった。
 まだミスは無い。

杏子「アンタ達は何者だ? 一体何が狙いなのさ」

 


 ほむらは無表情のまま、杏子の質問に対し、口を開いた。

ほむら「二週間後、この街にワルプルギスの夜が来る」

 何でもないように吐き出された言葉。
 しかし、その言葉に杏子は顔を強張らせた。

杏子「……何故分かる?」

 静かに問う。
 その声はさっきまでの杏子とは明らかに違うトーンであった。
 その変化が、ワルプルギスの夜の壮絶さを物語っていた。

ほむら「それは秘密」

 ほむらは髪に手を当てながら返す。
 調子を崩すことは無い。

ほむら「ともかくそいつさえ倒せれば、私はこの町を出ていく」

杏子「……」

ほむら「あとは貴女の好きにすればいい」

 ほむらは髪を掻き上げながら告げた。

杏子「ふうん……」

 杏子は何事かを考える。
 それでも体の動きは止まることは無い。
 まだミスは無い。


杏子「あのオッサンはどうすんの? つーか何であのオッサン来てないの? こういうのに首を突っ込むの好きそうなのに」

 素朴な疑問を口にする。
 その疑問に、ほむらは初めて表情を変えた。
 呆れた表情になったほむらは、吐き捨てるに呟く。

ほむら「あの馬鹿は、今病院にいる」

杏子「は?」
 
 予想外の返事に、杏子のリズムが僅かに狂った。
 杏子は気にせず、ほむらに問う。

杏子「そりゃまた、何で?」

ほむら「大量の出血による貧血。命には別条ないし、病院に行ったのも貧血の薬をもらいに行っただけ」

 ほむらの答えに、杏子は内心溜息をついた。
 だが、それを表には出さない。

杏子「そんならいいや。で、ワルプルギスの夜ねぇ……。確かに独りじゃちと辛いが、二人がかりなら勝てる。そういう事?」

 杏子の言葉に、ほむらは頷いた。
 
 タンッ!!

 それと同時に、軽やかな音が響き、杏子のプレイしていたゲームが終了する。

 『Excellent !!』

 その言葉と共に、スコアが表示される。
 杏子はそれを見ると、顔を歪めた。

杏子「ッチ、一回ミスったか」

 そしてほむらの方を向き、言った。

杏子「まあいいか。アンタも喰うかい?」

 そう言って、ポッキーの箱を差し出した。



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 翌日;病院

 さやかは両手でCDを抱え、廊下を走る。
 その顔には微かな笑みがある。

 恭介の病室のドアまでたどり着くと、一気に開ける。

さやか「恭介!!」

 しかし、その声が届くことは無かった。

さやか「え……?」

 病室には誰もいなかったからだ。
 さやかは茫然とした顔で病室を見渡した。
 病室はきれいに整えられている。
 窓の傍のベッドには、人がいるのは愚か、使われた形跡すらない。

看護師「あら? 上条さんなら昨日退院したわよ?」

 立ちすくむさやかに、看護師の声が投げかけられる。
 さやかはハッとして看護師を見た。
 看護師は言葉をつなげる。

看護師「リハビリの経過も順調だったから、予定が前倒しになって……」

さやか「……」

 さやかの耳には、もう看護師の声が雑音にしか聞こえなかった。


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 翌日夕方;見滝原市街中

岡部「……」

 俺はフラフラと、既に暗くなった街を歩く。
 ただの散歩、と言う訳でもない。
 探索とも言い切れない曖昧な状態だ。

岡部「……」

 昨日は何もできなかった。
 俺としては、昨日は病院なぞに行かなくても良かったのだが、

 ―――― 体は資本だよ? 無茶はしない。これは鉄則だよ。

 Qβが強い口調で進めてきたため、渋々病院へ行った。
 実際、昨日はひどい頭痛で何もできそうになかった。
 今も僅かだが頭痛がするし、足元もふらついている。

 だが、これくらいならば問題ない。
 無論、Qβに止められもしたが

 ―――― 散歩位させてくれ。

 そう言って飛び出してきた。

岡部「しかし、この街の発展具合は異常だな……」

 近代的な街並みを歩きながら、呟く。
 この街の発展率は異常の域に達している。
 東京にも劣らない科学技術だ。

 狂気のマッドサイエンティストとして、この街に興味があるのは事実。
 散歩と探索が入り混じる今に、この街を見ておきたい。


岡部「しかし、新たな魔法少女か……」

 それでも、俺の思考は別の事に向けられる。

岡部「奴は焔の情報通り、表層だけで判断してはいけないようだな……」

 呟きながら、街を歩く。
 紅い魔法少女、佐倉杏子。
 彼女とさやかとの激突は、何とか避けられた。そう思う。

 一度腕が切られてしまうという事態もあったものの、最悪の事態は避けられた。
 杏子とさやかが殺し合うという事態は避けられた。

 それならば、俺の腕など安いものだ。

岡部「そして、焔とクリムゾンが同盟を組んだ、か……」

 昨日の間に聞かされた。
 佐倉杏子と速めに接触するのはよい事だと思う。
 だが

岡部「それをリリーがどう思うか、だよな」

 どう見てもほむらとさやかの仲は最悪だ。
 杏子とさやかの相性も最悪。

 ギリギリの状態で保たれていたほむらとさやかの間が決壊してしまうのも時間の問題だろう。

岡部「それまでに俺たちとリリーの間を取り持ちたいが……ん?」


 人目につかない橋の上。
 そこに何か、紅い光を見た気がした。

岡部「あれは、クリムゾンか?」

 その光に剣呑さを感じた俺は、そこへ向かう事にする。
 足がふらついて、あまり速く動くことが出来ない。
 だが、しっかりと歩き、橋の上に向かう。

 どうやら、橋の上には杏子とさやか、そしてまどかがいるらしい。

 何故あの二人が一緒にいる?

 まさか、杏子の奴――――

岡部「同盟を無視しているのか?」

 ならば早く行かなければならない。
 無駄な争いなど、止めなければ。

岡部「俺達の敵は、そんなモノでは無いと言うのに……」

 全てが予想外に動いている。

 全て、うまくいっていない気がする。

 きっと、俺が無能なのが悪いのだろう。

 だから何も救えなかった。
 まゆりも、紅莉栖も、マミも、

 それでも、俺は戦い続けなければならない。

 ―――― それしか、出来ない。

 たとえ愚かでも、歩き続けない者に道など開けない。

 ―――― だが、0に何をかけても0でしかない。














 たとえその先が、光など差さない場所でも。

 ―――― 全ては、運命石の扉の選択なんだよ。

 以上で投下を終わりにします。
 やっと原作の半分近く行きましたか。
 まだまだ先は長いようですが。
 
 杏子ちゃんのビビりようは若干キャラに合わないかな? とも思いましたが、
 血だらけの人間が頬触ってきたらあれくらいはビビりますよね。
 しかも血がドバドバ出てたら。
 杏子ちゃんは優しいので、まああれくらいはオカリンを心配してもいいかなと。

 次回はちょっと 『永劫回帰のエピグラフ』ネタを挟みます。
 所見の人でもわかるよう、また、ネタバレにならないよう書くので大丈夫だとは思いますが……。

 長文失礼しました。
 応援してくれる皆様に感謝を。
 お休みなさい。

 再度申し訳ございませんが、投下は明日になりそうです。
 普段なら毎週 水曜土曜 に投下していたのですが日程の都合で毎週 火曜日曜 の投下になりそうです。
 また、今月は予定が立て込んでいるので何度か投下が無い時もあるかもしれません。

 書きだめもそろそろ書かねば……。
 応援してくれる皆様に感謝を、
 それではまた明日。

 応援ありがとうございます。
 9;10頃に投下したいと思います。
 


 第14話;《それは救いかな?》


 ふらつく体を支えながら、俺は橋につく。

杏子「うざい奴にはうざい仲間がいるもんだねぇ……」

 槍を構えながら、杏子はそんなことを言う。
 俺は橋の淵に立つと、彼女らに声をかけた。

岡部「貴様ら、何をしている……」

ほむら「じゃあ貴女の仲間はどうなのかしらね」

 二つの声が重なった。

杏子「!!」

さやか「!!」

 杏子は俺の方へ顔を向け、さやかはほむらの方へ顔を向けた。
 ほむらは杏子を睨んでいる。

ほむら「話が違うわ。美樹さやかには手を出すな、そう言った筈よ?」

 ほむらの顔は何時もより、僅かだが強張っている。
 杏子はそこで初めてほむらに気付いたように、彼女の方へ眼を向けた。
 そして、挑発的に口を開く。

杏子「アンタのやり方じゃ手緩いんだよ!! どのみち相手はやる気だしなぁ!!」

 そう言って、ほむらを睨んだ。
 俺は堪え切れなくなって口を開いた。

岡部「無駄な争いはするな。そう、言った筈だが?」


 俺の声に、杏子はビクリと身を震わせ、俺の方を見た。
 しかし、その口調は静かなものだった。

杏子「……甘っちょろいこと言ってんなよオッサン。アンタだって分かってんだろ?」

岡部「だからと言って……」

ほむら「私が彼女の相手をするわ」
 
 抗議の声を遮り、ほむらが前に一歩出る。

岡部「アイアンメイデン、貴様……」

 俺の言葉に、ほむらは髪を掻き上げた。

ほむら「……美樹さやかは話し合いで納得できるような人間じゃない。貴方だって分かるでしょう?」

 ほむらは俺を睨む。
 俺は言い返せなかった。
 そこに、さやかの声が重なる。

さやか「当たり前だ!! アンタ達と話すことは無い!!」

 さやかは身構え、ソウルジェムを右手に持った。
 それを見たまどかが、顔色を変え、さやかに向かって駆け出した。

まどか「駄目!!」

 まどかは、さやかの手からソウルジェムを奪い取ると、そのまま橋の下に投げた。
 ソウルジェムは道路に落ちることなく、バスの荷台に墜落。
 バスはソウルジェムを乗せたまま走り去っていく。

岡部「な!?」

ほむら「……!!」

 それを見たほむらと俺は硬直した。



さやか「まどか……!! アンタなんてことを……」

 さやかはまどかに詰め寄り、睨みつける。

ほむら「……!!」

 ほむらはそれらを無視し、次の瞬間に消え去った。
 おそらく、さやかのソウルジェムを取り戻しに行ったのだろう。
 素早い決断だ。

まどか「だって、こうしないと……」

 まどかの言葉はしかし、最後まで言われることは無い。
 グラリと、さやかが倒れたからだ。

まどか「さ、さやかちゃん?」
  
QB『今のはまずかったよ、まどか』

 戸惑うまどかに、呆れた様なQBの声。

QB『よりにもよって、友達を投げるなんてどうかしてるよ』

 本当に疑問そうに、QBが口を開く。

まどか「何? どうしたの……?」



 戸惑うまどか。

杏子「……」

 杏子はさやかに近づく。
 そして首を掴み、持ち上げた。

まどか「や、やめて……!!」

 まどかの言葉は、杏子の耳に届く様子も無い。
 杏子はしばし厳しい顔だったが、不意に驚愕で顔を歪ませた。

杏子「どういう事だよ……。オイ……」

 躊躇いがちに、その後の言葉を続けた。

杏子「コイツ、死んでるじゃねーかよ……」

岡部「……」ギリ

 失態だ。

 全て悪い方へ転がっている。







 これも、世界の収束だというのか……?


まどか「さやかちゃん!! ねぇさやかちゃん!!」

 まどかが横たわったさやかに呼びかける。
 だが、さやかが答えることは無い。
 
 しかし、それでも必死に呼びかける姿には

 ―――― おい……、まゆり? まゆり!!

 悲痛さしか感じられなかった。

杏子「何がどうやがってんだ、おい!!」

 杏子が顔を歪ませ、疑問を叫ぶ。
 その声にQBが、口を開いた。

QB『君たちが身体をコントロール出来るのは、精々100メートル圏内が限度だからね』
 
杏子「100……メートル? 何のことだ!? どういう意味だ!?」

 杏子がQBを睨んだ。
 しかし、QBは気にも留めずに言葉を紡ごうとする。

QB『普段は当然、肌身離さず持ち歩いているんだから、こういう事故は滅多に――――』

 QBが口を開き、言葉を紡ごうとしたとき、俺の横を白い影が通り、QBに激突した。

Qβ『黙れよ糞野郎!!』



岡部「Qβ……」

 QBに激突したQβは、QBと揉み合う。
 揉み合いながらも、罵声を浴びせ続けた。

Qβ『この!! 屑野郎!! 言わなくていい事を!! 死ね!! 氏ねじゃなくて死ね!!』

QB『本当に、君は、どっちの、味方、なんだい!!』

 転がり、一つの毛玉になる二匹。
 それを止めたのは、以外にも杏子だった。
 両手にそれぞれQBとQβを持ち、両方を睨みつける。

杏子「止めやがれ!! テメェは何を隠そうとしてんだ!!」

 先程までさやかと戦おうとしていた者が、今度は戦いを止めている。
 皮肉なものだ。

Qβ『止めてよ!! 離して!!』

 手足をバタつかせ、必死にQβは抵抗する。
 しかし、杏子の手が振りほどかれることは無かった。

QB『いやぁ、助かったよ。ありがとう杏子!!』

 Qβとは対照的に、QBはいつもの調子で杏子に声をかけた。
 
杏子「礼なんていらねぇ、さっさと答えろよ!!」

 杏子は顔を強張らせたまま、QBを睨んだ。



まどか「そうだよQB!! さやかちゃんを助けてよ!!」

 まどかも涙声で叫ぶ。
 その悲痛な声にも、QBの調子が変わることは無かった。
 ただ、少しだけ疲れたような感じが混じった。

QB『だからさぁ……』

 呆れたように呟く。
                      ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
QB『そっちはさやかじゃくて、ただの抜け殻なんだって』

Qβ『止めてよ!! お願いだから!!』

杏子「少し黙ってろ!!」
 
 荒々しい手付きで、Qβが地面に叩き付けられる。
 Qβは二・三回ほどバウンドし、手すりの傍で止まった。

岡部「Qβ!? 大丈夫か!? しっかりしろ!!」

 俺はQβの安否を確かめようと、Qβの傍に寄る。
 幸い、気絶をしているだけのようだった。
 だが、その隙にQBが話を続ける。
 俺には、その話を止めることは出来なかった。

QB『さやかはさっき――――』

 ―――― まどかが投げ捨てちゃったじゃないか。

 少女たちは絶句した。

杏子「何……だと……?」

まどか「え……?」



QB『そもそもさぁ……』

 QBが首を傾げる。

QB『ただの人間と同じ、壊れやすい身体のまま、魔女と戦ってくれなんてとてもじゃないけどお願いできないよ』

 少女たちは沈黙していた。
 QBは気にせず続ける。

QB『君たち魔法少女にとって、元の体なんて言うのはね……』
        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 ―――― 外付けのハードウェアでしかない。

杏子「……は?」

QB『君たちの本体である魂はね、魔力を効率よく運用するため、コンパクトで安全な姿が与えられているんだ』

まどか「どういう……、事なの?」

 話に頭の処理が追いついていない少女たち。
 それもそうだろう。
 いきなり『魔法少女』はソウルジェムが本体だ。などと言われて即座に理解できる方がおかしい。
 魔法少女自身なら、尚更だろう。

QB『僕等の役目はね、君たちの魂を抜き取ってソウルジェムにすることなのさ』

 そういうときも、QBの声のトーンは、決して変わることは無かった。

杏子「テメェは、なんてことを……」
 
 ゆっくりと、杏子が掴んでいるQBに力を入れる。



杏子「ふざけるんじゃねぇ!! それじゃあ、アタシ達、ゾンビにされちまったようなもんじゃないか!!」

 杏子がQBに向かい怒鳴る。
 その怒気は、彼女の髪の色に相成って炎のように見えた。

QB『むしろ便利じゃないか』

 悪びれもせずに、QBは魔法少女の利点を口にする。

QB『心臓が破れても、全身の血液が抜かれても、脳が壊死しても、肺が潰れても、内臓がくり抜かれても、君たちはソウルジェムがある限り無敵なんだよ?』

まどか「……」

岡部「……」

 まどかは涙を目に溜めながら、QBを見ている。
 杏子は茫然としていた。

QB『弱点だらけで、脆くて弱い人体よりよっぽど便利だよ』

 杏子を見つめるQB。
 その瞳は赤いビー玉の様に、無機質にきらめいていた。

まどか「酷いよ……」

 かすれ声で、まどかは何とか短い言葉を口にする。
 QBは首を傾げ、本当に不思議そうに言った。

QB『……君たちは、何時もそうだね。事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする』

 QBは、本当に、心から不思議そうに吐き捨てた。










QB『訳が分からないよ』


QB『どうして人間は、そんなに魂の在処に拘るんだい?』

杏子「……ッ」

 聞きようによれば、挑発とも取れるQBの言葉。
 杏子は何か言おうとした。が

ほむら「待たせたわね」

 それはほむらの登場によって止められる。
 ほむらはそのままさやかに近づくと、その手にソウルジェムを乗せた。

 瞬間、さやかが目を開く。

さやか「……ん?」

まどか「さやかちゃん!!」

杏子「!! ……」

ほむら「……」

岡部「……」

 さやかの目覚めに、三者三様の対応をする少女たちと俺。
 しかし、さやかは突然の状況に目を丸くするだけだった。

さやか「何? 何なの?」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 数時間後;さやかの家にて

 さやかは自室で佇んでいた。
 カランと、ソウルジェムを置く音がした。

さやか「騙していたのね、あたしたちを……」

 虚ろに呟く。

QB『僕は魔法少女になってくれって、きちんとお願いしたはずだよ? 大方の説明は省略したけどね』

さやか「……!!」

 ガランッ!!

 さやかは怒りのあまり椅子を倒す。
 そして、QBを怒りの形相で睨んだ。

さやか「何で教えてくれなかったの!?」

QB『聞かれなかったからさ』

 QBはあくまで簡潔に、無機質に答える。

QB『知らなければ知らないで、何の不都合も無いからね』

さやか「……ッ」

QB『そもそも君たち人間は、魂の存在なんて最初から自覚していないんだろう?』

 QBはさやかの頭を見つめた。

QB『そこは神経細胞の集まりに過ぎないし』

 そして、さやかの胸元へ眼をそらす。

QB『……そこは循環器系の中枢があるだけだ』


QB『その癖、生命が維持できなくなると精神まで消滅してしまう。だから僕たちは君たちの魂を実体化し、守れるようにしたんだ』

さやか「余計なお世話よ……」

 睨むさやかだが、QBは涼しい顔を崩さない。
 机の上に跳躍すると、さやかのソウルジェムの傍に立つ。

QB『……君は戦いと言うものを甘く見過ぎだよ』

さやか「?」

 疑問符を浮かべるさやか。
 QBはさやかを見つめた。

QB『たとえばさ、そうだね……。腕が切られた場合、……そう、この前の倫太郎の状態だね。その時に、肉体がどれだけの痛覚を感じると思う?』

 そう言いがら、さやかのソウルジェムに手を添えた。
 ソウルジェムが青く光り、瞬間。

さやか「……が、ぁ」

 さやかの右手に激痛が走った。

さやか「あ、あぁあぁああぁ……」

 右手を押さえ、さやかはうずくまる。
 右手が、火で炙られた様に熱い。

QB『そうだね……、それと血液が流れ出ていく感覚も付けたそうか』
 
さやか「ひッ……あ、ぁぁあぁぁぁぁああぁ……」


 右手から、何かがドクドクと流れ出ていく。
 血管が蛆虫のようにうねり、傷口で暴れまわっている。

QB『これが本来の《痛み》さ』

 さやかにQBの無機質な声が投げかけられる。
 さやかはQBを上目づかいで見た。

さやか「岡部……先生は、こんなのに、耐えてたの?」

 息遣いも荒く、満身創痍のさやかは、それでも強い目でQBを睨んでいた。
 QBはソウルジェムから手を放した。
 さやかの右手の焼かれるような痛みは無くなる。
 QBは溜息をつくように、意識をハッキリさせたさやかに呟いた。

QB『そうだね、彼は異常だ』

 今までの無機質のような声に、僅かに揺らぎが混じる。
 疑問、と言う歪みが。

QB『本当に……、彼はイレギュラーだよ。もしかしたら暁美ほむら以上かもね……』

 さやかが、暁美ほむらという単語に反応した。

さやか「転校生が、何だって?」

QB『いや、なんでもないさ』

 さやかの言葉を受け流し、QBは続けた。

QB『岡部倫太郎、彼は常人ではないよ』

さやか「……?」

 その言葉の真意は、さやかには測り兼ねるものであった。


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 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 翌日;さやか宅前

岡部「春だというのに、暑いな……」

 俺はドクペを片手に、さやかの自宅の前にいた。
 午後だからだろうか、太陽の日光が肌を焼く。

岡部「さて、いくか……」

 その時、後ろからいきなり声がした。

杏子「何が、『いくか……』だよ」

岡部「……クリムゾンか」

 俺は後ろを振り向くことなく、少女の名前を告げた。
 《紅色の魔法少女》こと、佐倉杏子は、ふてくされたように呟いた。

杏子「チッ、動じねぇの?」

岡部「それくらいで驚いていたら身が持たん」

杏子「ふうん……」

 シャリッっと、小気味いい音が聞こえた。
 俺は杏子の方を振り向く。
 杏子はりんごの入った袋から、一つ取出しかじっていた。
 
 実にみずみずしく、美味しそうだ。

 俺は今日、昼飯を食べていない。
 そもそも学校にすら行っていない。
 昨日の貧血を理由に、今日も休みを取っていた。

 昼まではQβと今後の方針の話し合いをした。
 そしてそれが終わったら、昼飯も喰わずにさやかの家までやってきた。
 今日はさやかは休みらしい。
 ほむらに電話したとき、そう聞いた。
 
 Qβは昨日の負傷で療養中だ。骨まではいっていなくても全身の打撲が酷かった。
 故に、俺が無理やり休ませた。そもそも動けるような状況ではなかったので説得は簡単だった。



 そんなこんなあったせいで昼飯どころか朝飯も喰っていない気がする。
 
岡部「……」

杏子「……?」

 そんな俺の視線に気づいたのか、杏子は訝しげな顔をした。
 だが、俺は『そのリンゴをくれ』等と言う馬鹿なことは言わない。
 そんなのは俺のプライドが許さない。
 たとえ狂気のマッドサイエンティストでなくてもいい歳した男が少女から食い物をもらうなど――――

 グゥゥ~

 あ、

杏子「オッサン、腹減ってんの?」

 呆れた様な目で杏子が訪ねてくる。
 言い逃れもできないので、素直に話すことにした。

岡部「実は、朝食も昼食も食べていない」

杏子「ふ~ん、ただでさえヒョロイオッサンが食事抜いてどうすんのよ?」

 おっしゃる通りです。

杏子「まあいいや、ほらっ」

 杏子がリンゴを投げてきた。
 俺はそれを受け取り、疑問と共に杏子を見た。
 杏子は笑いながら言う。
 
杏子「食うかい?」

 ありがたく頂くことにした。


 数分後

杏子「じゃあ、オッサンもあのルーキーの様子を見に?」

岡部「まあ、そんなところだな」

 さやかの家の前の茂みに腰掛け、俺たちは現状の情報交換をしていた。
 杏子とは初対面時に色々あったが、昨日の夜の内に、それについて話し合いは済ませてきた。

杏子「……つーかマジオッサンおかしな奴だよな~。腕切った相手と普通こんな雑談できんのかよ?」

岡部「それについては昨日のうちに終わらせたはずだ」

杏子「ま、そうだけどさ。あ、もう一個食う?」

岡部「いただこう」

 この通り、杏子はなかなかさっぱりした奴だ。
 『敵同士』では無く『同盟相手』として、直ぐに関係を構築できたのには御の字である。

杏子「あのルーキーの様子見に来たっつうとこは、アタシも同じだな」

岡部「貴様もか?」

杏子「ほら、アタシ達ってさ、こんなんじゃん」

 少し陰のある笑みを見せながら、杏子は自分のソウルジェムを出す。

杏子「だからさ、な?」

 曖昧な言葉を呟く。
 うまく自分の言葉に出来ないのだろう。俺はそっとしておくことにした。


岡部「……リリーに用事があるなら、俺は席を外していようか?」

杏子「ん? いや、別にいいよ。オッサンに絶対に聞かれたくないってわけじゃないし」

 手を軽く振り、杏子は笑った。
 しかし、俺はその顔に僅かな陰りを見つけた。
 俺は話を変える事にする。

岡部「しかし……、オッサン呼ばわりは止めてくれないか? 俺はれっきとした未成年だ」

杏子「ハハッ、だったら恰好からなんとかしろって。まずは無精ひげをそりなよ」

 杏子は楽しそうに笑った。
 
岡部「ああ……そういえば最近剃った覚えが無いな」

杏子「だからオッサン臭いんだよ」

岡部「五月蠅いな、……さっさとリリーを呼び出さないと日が暮れてしまうな」

 俺がまた話を変えると、杏子は立ち上がった。
 
杏子「んじゃあ、あのボンクラを呼び出しますか」

岡部「そうだな」

 チャイムを押そうとする俺を、杏子がとめる。

杏子「その必要はねぇよ」

 そう言うと、杏子はさやかの家の二階を見つめた。

 数秒後、二階のカーテンが開かれ、さやかの顔が見えた。
 さやかは俺と杏子の姿を見止めると、ビックリした様な顔をした。

 そして、部屋の奥に引っ込んでいった。

岡部「今のは……、念話か?」

 俺が再び杏子の方を向くと、杏子は親指を立てた拳骨を前につきだした。

杏子「ヘヘッ、便利だろ?」

 まるで幼い子供のような顔で、彼女は笑っていた。



 数分後;見滝原市郊外

 俺はさやかと杏子と共に見滝原の町、その外れにある森の中を歩いていた。
 杏子が先頭に立ち、俺とさやかを先導している為、三角形型になっていた。

杏子「ルーキーちゃんよぉ」

 三角形の頂点、杏子がさやかに話しかける。

杏子「やっぱ後悔してんの? こんな体にされちまって」

 溜息をつくように、杏子はさやかに話しかける。

杏子「なんだかんだでこの力を手に入れてからさ、好き勝手出来たわけだし」

 ―――― 後悔するほどの物でもないしね。

 務めて明るい声で笑う。
 確かに杏子にとって、魂が何処にあるのかなど関係ないのかもしれない。
 俺も、あまりそんなことは重要と思えないしな。

さやか「アンタは、ただ、自業自得なだけでしょ」

 さやかが吐き捨てるように言った。
 罵声にも近い言葉に、杏子は明るく答えた。

杏子「そうだよ。自業自得にしちゃえばいいのさ」


 クルリと振り向き、俺たちの方を見る。

杏子「自分の為だけに生きていりゃ、何もかも自分のせいさ」

 杏子ははにかむように笑う。

杏子「誰を恨むことも無い。後悔なんて出来る訳も無い。そう思えば、大抵の事を背負えるもんさ」

 それは、俺好みの考え方だった。

杏子「オッサンもさ、そう思うだろ?」

岡部「ああ、そうだな」

さやか「……」

 ただ、杏子の考え方は一つだけ、決定的に間違っている。

 ―――― 人間は最初から、自らの行いの責任を他人に擦り付けることなど許されない。
 
 迂闊な選択など、常に自分自身の愚かさから来るものでしかない。

 ―――― たとえ誰を救おうとしても、守ろうとしても、誰のために生きようとも、責任は全てその選択をした自らにあるのだ。

杏子「さあ、ついたぜ」

 杏子の声がする。
 俺は俯いていた顔を上げた。
 そこには、寂れた教会があった。

岡部「此処は……?」

杏子「アタシの親父の教会だったとこさ」

岡部「貴様の、父親の?」

杏子「まあね。ところでさ、オッサンはルーキーに話があるんだろ? 先話していいよ」

岡部「あ、ああ……」



 俺はさやかの方を向く。

さやか「話って、なんですか?」

 さやかは不機嫌そうに顔をしかめながらも、俺の話を聞いてくれるらしい。
 俺は口を開いた。

岡部「俺はこれから貴様らに『魂』の話をしようと思う」

さやか「……? どういう事ですか?」

杏子「? アタシにも話しかけてんのか?」

 さやかと杏子、二人が同様に、俺の話に口を挟んだ。
 俺はゆっくりと答える。

岡部「そうだな、この際、貴様ら二人ともに話を聞いてほしい」

さやか「……」

杏子「まあ、別にいいけどよ……」

 俺は二人が話を聞く体制に入ったことを確認すると、努めて穏やかに話し始めた。

岡部「貴様らは、魔法少女は、魂をソウルジェムと言う形にされた。そうだな?」

杏子「いきなり何だ? そりゃ昨日聞いたじゃねぇか」

岡部「そうだな。では、魂とはどこにあると思う?」


 俺の突然の質問に、杏子は驚いたような、呆れた様な顔をした。

杏子「ハァ!? ……そりゃあ、此処にあるんじゃねえか?」

 そう言って、杏子は自分の胸をさした。
 それを見たさやかは、暗い声で呟いた。

さやか「そこには循環器の中枢しかないよ」

杏子「……うっせえな。じゃあ此処か?」

 若干苛立ったように、今度は頭を指さした。
 また、さやかが暗い声で呟く。

さやか「そこは神経細胞の集まりだ」

杏子「うっせえな!! 魂なんて目に見えないモンの在処なんて、想像して言うしかねぇじゃねぇか!!」

 ついに声を荒げ、杏子がさやかに詰め寄る。

岡部「いや、頭と言うのはあながち間違っていないな」

 俺の言葉に、二人は驚いたように俺の方を見た。
 俺は続ける。

岡部「尤も、俺が言っているのは『脳』では無く『記憶』の事だがな」

 自分の答えがあっていたことに『ほら見たか』と言う様な顔になる杏子。
 さやかはそれを無視し、俺に尋ねた。

さやか「……どういう事ですか?」
 


岡部「『Amadeus』と、言うものを知っているか?」

さやか「? あ、アマデウス?」

 俺の言葉に疑問符を浮かべるさやか。
 無理も無いだろう。
 今時、中学生がそんな単語を知っている方がおかしい。
 しかし、杏子は意外な言葉を口にする。

杏子「何かの映画の事だよな、それ」

 俺は目を丸くした。

岡部「よく知っているな」

 俺の言っている『Amadeus』とは意味が違うが、確かに『アマデウス』と言う映画は存在する。
 ただ、内容がモーツァルトやサリエリなどが出てくる様なものなので、今の中学生ではまず見ないだろう。
 さやかなら、上条恭介の影響で知っているかもしれないとは思っていたが、まさか杏子が知っているとは思わなかった。

杏子「……親父がさ、神父だったから。そういう感じのをよく見せられたんだよ」

 杏子の顔が、僅かに陰る。

岡部「そうか……」

 俺はこれ以上聞くことなく、話を続ける。

岡部「さて、この『Amadeus』と、言うものは杏子の言っているような昔の映画の事ではない。『Amadeus』とは――――」

 ―――― 紅莉栖が研究していた……

 その言葉を噛み殺し、続けた。

岡部「ヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所が研究しているシステムの事だ」

さやか「……何処?」

杏子「ヴィクトル……何だって?」


 あまり芳しくない反応に内心、目元を押さえながら説明する。

岡部「ヴィクトル・コンドリア大学。簡単に言えば世界の東大だ」

杏子「つーことは、とんでもなく頭いいとこって訳?」

岡部「そうだ」

さやか「で、そのアマデウス、ですか? それがどうしたんですか?」

 そう、それこそ俺が待っていた問いだ。
 これは自分の記憶を確かめ、情報を再確認すると、口を開いた。

岡部「『Amadeus』とはな――――」

 口を湿らせ、一言一句、確かめるように言った。





















岡部「『魂』が宿される可能性のある、人工知能の事だ」


 反応は、さっきよりも芳しくなかった。

杏子「は?」

さやか「?」

 俺は彼女たちに分かるよう、かみ砕いて話す。

 人工知能『Amadeus』とは、文字通り『人工知能』である。
 ヴィクトル・コンドリア大学は元々、『記憶のデジタルデータ化』についての研究をしていた。

さやか「記憶の、デジタルデータ化……?」

岡部「そうだ」

 人間の記憶をデジタルにし、保存する。
 本来はそこで、再度人間の脳に戻すのが目的だったはずだ。

 ―――― タイムリープマシン

 そう、俺たちが作ってしまったあの化け物も、この技術が使われていた。
 
 だが、『Amadeus』は違う。
 いや、その発展形と言ってもいいかもしれない。

 『保存された人間の記憶をベースに、自ら思考する人工知能』
 それが『Amadeus』だ。

 俺が紅莉栖の事について調べていたときに偶然発見した動画は、これまでの常識を破壊するには十分な物だった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 動画;人工知能の革命

Amadeus『教授、それは sexual harassment として訴えてもいいでしょうか?』

 3Dモデルの少女が、背の高い金髪の男に話しかけている。
 人工音声のようで、抑揚に多少の違和感があるが、それでも、かなり実際の人間に近づけられている。
 その横には、3Dモデルの少女によく似た、現実の少女が一人。
 彼女は 比屋定 真帆と言うらしい。

 ―――― 紅莉栖の、同僚だったらしい。

真帆「えっと、教授はこの私の記憶で動作している『Amadeus』に、何でも質問してみろと言っています」

 教授がまた何事か言い、それを比屋定が通訳する。

真帆「何時まで親と一緒にお風呂に入っていたか、一週間前のパジャマの色、私のクレジットカードの番号……、クレジットカードの番号?」

Amadeus『いいわよ、そんなこと言わなくて。そもそも前二つにも反応しなさいよ。恥ずかしいじゃないの。そしてクレジットなんてもっと言えないわ』

 聴衆の中で、どよめきが起こる。
 何人か、この『人工知能』の特異さに気付いてきたのだ。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

杏子「どういう事だ?」

 杏子が難しい顔で質問してくる。
 確かに、分かりづらい内容だろう。

岡部「つまり、もしこのやり取りが事前にプログラムされたものでないのなら、『Amadeus』はただの人工知能ではない」

さやか「? 人工知能って元々そういうものじゃないんですか?」

 さやかの疑問に、俺は動画を一回止めると、分かりやすいように答える。

岡部「現在人工知能、と言われているものは決められたプログラムに従って動く」

杏子「決められた?」


岡部「そうだ、例えばだな……、SFモノで人間がいなくなっても仕事を続けたロボット、と言うものなら聞いた事があるか?」

さやか「あ~、それなら何かで見たかも」

岡部「つまり、そのロボットがこれまでの『人工知能』だ。与えられた仕事しかこなせず、決められたルーチンによって行動を決定する」

 俺はそこでいったん喋るのをやめ、二人を見る。
 二人とも、事の重大さに気づいたのか、顔が徐々に強張ってきていた。

岡部「だが、『Amadeus』は、違うとしたら?」

 俺は再び動画を再生した。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

真帆「皆さん、もうお気づきかと思いますが、『Amadeus』は、自分で話していい事と、そうでないことを判断することが出来ます」

 ざわめきが、少しづつ大きくなっていく。

真帆「私たちは、『Amadeus』にそういったプログラムを一切組み込んでいません。つまり、彼女は、与えられた記憶から独自に判断しているのです」

 その中で、比屋定真帆は、虚空を見つめている。
 そして、彼女の話を『彼女』が引き継いだ。

Amadeus『そして、『私』は、いつの間にか『与えられた情報を忘れて』―――― と言うより、『記憶の引き出しから出せなく』なってしまうのです』

 Amadeusは続ける。

Amadeus『例えば、一週間前に来ていた私のパジャマですが、私はそれを『思い出す』ことが出来ません。生きていく上で必要ないからです』

真帆「この様に、『Amadeus』は記憶をデータベースとしているだけでなく、思考も非常に人間と似通っています」

 真帆はこれまでの話をまとめる。

真帆「これは、私たちとしても研究を重ねてはいるのですが……まだ、詳しくは解明されていないのです」


 真帆が話を終えると、教授と呼ばれた大男―――― レスキネン教授がマイクを持ち、真帆に通訳をさせる。

真帆「さらに、最も驚くべきところは、『Amadeus』が、意図して嘘をつく所なのです」

 通訳は続く。

真帆「『彼女』は、必要と感じたら平気で嘘をつきます。インプットした記憶で検討し、自分のそして他人の為に」

 真帆の言葉が言い終わるか言い終わらないかの内に、『Amadeus』が言葉をつなげる。

Amadeus『教授、人疑義の悪いことを言わないでください。確かに、私は嘘がつけますが、それは平気なことではありません』
        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 ―――― 良心がとがめます。

 しばし、教授が驚いた顔をした。
 しかし、言葉を続ける。

真帆「この様な検証を続けていくことで、最終的に、『Amadeus』に、人間と同じような」
















 ―――― 『魂』を与えられるのではないか。そう思っています。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 


 動画が終わり、俺は二人を見た。
 二人とも、最後の『魂』と言う単語に反応しているようだ。

岡部「この通り、魂とは、『記憶』に宿るモノなのかもしれないな」

さやか「それが、なんだって言うんですか?」

 さやかは吐き捨てるように言う。
 確かに、俺でも何がいいたいのかよく分からないのだ。
 だが、言葉にしてやる。

岡部「つまり、貴様らは貴様らだという事だ」

さやか「?」

杏子「へ?」

岡部「ソウルジェムは、心臓につけるピースメーカーの様なものだ。貴様らの魂などでは断じてない」

 ―――― 貴様らの魂は、貴様ら自身の思い出にある、記憶にある、あやふやで、不確かな物なのだ。

岡部「そして、動画内でも、『魂』を与えられるのではないか? と言っていたな?」

 ―――― つまり、いまだに『魂』は人間が持つものなのだ。

岡部「だから、嘆くことは無い。貴様らは魔法少女だが、同時に、間違えようも無く人間なのだ」

 俺はそういって言葉を締めくくる。
 杏子とさやかは何処か呆けた顔で俺を見つめていた。

 そう、貴様らは人間だ。

 ―――― もし、お前たちが人間でないというなら。
 
 魂が別の場所にあることなど問題ではない。
              タマシイ
 ―――― 36byteの『記憶』を受け取った俺は、受け取り続けた俺は。

 だから、貴様らは

 ―――― 俺は

 人間だ。

 ―――― 人間ではない。


 以上で今回の投下を終了します。
 
 エピグラフネタを挟んでしまいました……。
 説明が分かりづらい!! と思った方には本当に申し訳ない限りです。
 ただ、色々と共通していることもあったのでぜひ加えたかったのです。

 ぶっちゃけソウルジェムが魂だろうがあんま関係ないだろと。
 ピースメーカやら延命器具を付けている人は人間ではないのかと。
 今回はそういうお話です。

 ではそろそろこの辺で。
 応援してくれる方に感謝を、
 おやすみなさい。

 スミマセン、誤解の無い様追記しておきますと、
 もう一つの魔法少女の秘密に関しては、まったくの別問題です。
 今回は魔法少女とソウルジェムに関しての話だけです。
 というか、あっちのインパクトが強すぎてこっちが霞むというか……。
 それでも、決して魔法少女は楽なモノでは無いですから。

 それでは、もう一度、
 応援してくれる感謝を、
 お休みなさい。 

 ウギャァァァァァァ!!
 本当に申し訳ございません!!
 ピースメーカー × → ペースメーカー ○ ですね。
 誤字指摘ありがとうございました。
 それと、Amadeusの話は
 『岡部が紅莉栖について調べていたとき偶然見つけた動画』を見せています。

 表題に関してはサーバーとオブザーバーの言葉遊びです。ホントダヨ?
 最初はガチの誤字だったのですが、『観測者=岡部、ほむら』と『クライアントの依頼にこたえるシステム=QB、Qβ』
 となるので結果的には良かったのかなと。
 ……どうか温かい目でお願いします。

 それと、もう一つ、
 毎週 火曜日曜 投下と言ってしまいましたが、それも訂正。
 毎週 木曜日曜 投下となります。
 
 誤字が多くて本当に申し訳ございません。
 応援してくれる皆様に感謝をして、
 それでは。

 

 こんばんは、7:45 から投下したいと思います。


 第15話;《この世界は醜いよ》


岡部「だから、貴様らは、人間だ」

 俺が言葉を終えると、二人は呆けたように立っていた。
 そして、杏子が不意に笑った。
 
杏子「ハハッ、……オッサンはそんなこと言うためにここまで来たのかよ?」

岡部「そうだ」

 俺が答えると、杏子は呆れた様な顔になる。
 実際呆れているのだろう。次の言葉を聞けば分かった。

杏子「……馬鹿じゃねぇの?」

岡部「そうかもな、魔法少女でない俺が貴様らを慰めよ「そうじゃねぇよ」

 杏子は俺の言葉を止める。
 その顔は、純粋な疑問と、少しの心配が満ちていた。

杏子「何でアンタは、ここまでアタシらに関わろうとするんだ?」

 それがお前の疑問か?
 それは愚問だ。

岡部「関わっては悪いか?」

 何だがこんなやり取りを前にもやった気がする。


 
杏子「そうじゃねぇ、そうじゃねぇんだよ」

 俺の言葉を杏子は否定する。
 杏子は俺を見つめた。

杏子「何でアンタは、そこまでアタシらの事を気にする?」

岡部「? どういうことだ?」

 意味が分からない。

杏子「何でアンタは、体を張ってアタシらに関わる?」

 ―――― 何でアンタは、腕を切られて、平然と魔法少女を、アタシ達を慰めるようなことを言うんだ?

杏子「ずっと思ってたんだよ。アンタはおかしい」

 ―――― 腕切られて、血をドバドバ流して、病み上がりの体で、人の心配?

杏子「それが慈善事業だってなら、アンタは、オッサンは、そこのルーキー以上にイカれてるよ」

 杏子の言葉に、呆けていたさやかが反応する。

さやか「……誰かの為に、戦っちゃ悪いの?」

 杏子は俺を見つめたまま答えた。

杏子「他人の為に戦っても損をするだけだ。分かってんだろ? ルーキー」



 杏子の口調はあくまで静かだ。
 だが、その声には、今までにない凄味があった。

さやか「……」

 さやかが押し黙る。
 杏子は続けた。

杏子「だからオッサンも傷付いた。良い事なんて何一つねぇじゃねぇか」

 杏子は俺に聞いてくる。
 俺は杏子の目を見たまま、答えた。

岡部「俺の目的の為だ」

 俺の言葉に、杏子は笑った。
 それは、自嘲の笑みの様にも思えた。

杏子「どうせ、その目的とやらも、誰かの為なんだろ?」

岡部「……」

杏子「分かるよ。オッサンを見てたら、嫌でも」

 無言の俺に、杏子は皮肉気に言った。
 杏子の顔には、僅かな陰りがあった。
 
杏子「でもさ、やっぱそんなの止めた方が良いんだって」
 
 呟く。


岡部「そんなモノ、貴様が言えることではないだろう」

杏子「言えるさ」

 俺の言葉に、杏子はそう呟く。
 俺は杏子を見る。

岡部「それは、貴様の願いが関連しているのか?」

杏子「……」

 杏子の目が僅かに見開かれる。
 先程まで、杏子の言葉の端々に気になる言葉は大量にあった。
 だが、それには杏子の触れてはいけない部分だと思った俺はあえて訪ねなかった。

 ほむらはあまり杏子について教えてくれなかった。
  
 ―――― 私に他人の心の奥をペラペラ語る趣味は無いわ。

 そう言って、名前と能力程度しか教えてもらえなかったのだ。
 情報提供としては問題があるが、人間としては褒められるものだと思う。
 ほむらは無限にも等しい時間の中で、感情と言う感情を無くした様な鉄仮面少女だが、人を思いやる心を持っていたのだ。
 俺は、それが無性にうれしかった。
 
 ―――― 俺とは違う可能性を、見つけてくれるかもしれない。

 少しだけ笑っていたようで、ほむらに訝しげに見つめられた。
 俺が笑った理由をほむらにつたえると、

 ―――― 気持ち悪い。


 そんなことを言われた。
 嬉しかったのだから仕方ないではないか。
 そしてほむらは少しだけ顔を俯け、続けた。

 ―――― 一つだけ言っておくわ。彼女の独善は、彼女の願いからきている。それを、覚えておいて。

 どうしていきなりそんなことを言ったのか分からなかったが、貴重な情報だったのでありがたく聞いておくことにした。

杏子「……オッサン、知ってんのか?」

 杏子の言葉で思考の海から戻される。

岡部「いや、ただの予想だ」

 俺にも他人の深い部分を詮索する趣味は無い。
 だが、もはやそういう状態でもない。
 さっきのやり取りで確信した。

 ―――― 佐倉杏子は歪められている。

岡部「だが、貴様の言葉の端々から見える貴様の人物像と、貴様の表層が合わなかったことに違和感を抱いた」

 本来、佐倉杏子は他人へ気配りができる、優しい少女だったはずだ。
 それで無かったら、さやかを励ますため来るだろうか?

 ――――それで無かったら、俺などの心配をするのだろうか?

岡部「貴様の過去に何があった?」


 本来は今のような状態でも、聞いてはいけないのだろう。
 だが、俺は狂気のマッドサイエンティスト。
 関わりたいときは、鬱陶しいと言われても関わる。
 それが、俺だ。

岡部「貴様は何故、そこまで他人のための行為を憎む?」

 俺の言葉に、杏子は俯いた。
 そして、語りだした。

杏子「ここは、アタシの親父の教会だった。言ったよな?」

 そう言って、杏子はりんごを取り出す。

杏子「まあ、ちょっとばかり長い話になる。食うかい?」

岡部「いや、腹がいっぱいだ。リンゴ三個目はキツイ」

 そう言うと、杏子は少し微笑む。

杏子「オッサン、もやしだもんな」

岡部「ほっとけ」

 そして、さやかの方を見た。

杏子「アンタは食べる?」

 そう言ってさやかにリンゴを放り投げる。

さやか「……」

 さやかは受け取ったリンゴを、

 そのまま放り捨てた。

杏子「ッ!!」


 顔が怒りの形相に変わった杏子は、そのままさやかに掴み掛り、その首を絞める。

杏子「食い物を粗末にすんじゃねぇ。……ぶっ潰すぞ?」

さやか「……」ギギ

岡部「お、オイ……」

 俺は杏子を止めようと声をかけた。が、
 俺がとめる間もなく、さやかは解放された。

さやか「けほっ、けほけほっ!!」

 せき込むさやか。
 杏子はりんごを拾う。
 協会の中はほこりが溜まっていて、落ちたリンゴもかなり汚い。
 しかし杏子は、そのまま紙袋の中に入れようとした。

岡部「喉が渇いた、やはり一個もらおう」

 俺は杏子の腕からリンゴをひったくり、そのまま齧った。
 少し埃っぽいが、まあいいだろう。

杏子「汚ねぇぞ」

岡部「『穢れた果実』……。良いではないか」

杏子「オッサンな……」

 呆れた目で俺を見る。

岡部「どうした? 早く話を続けろ」

杏子「……ま、いいけどさ……」


 杏子は何かを諦めたように呟く。
 そして、周りを見渡し、語り始めた。

杏子「……アタシの親父は、正直すぎて優しすぎる人だった」

 ―――― 毎日、新聞を読む度にさ、涙浮かべて真剣に悩むような人だったんだよ。

 杏子は悲しそうに言った。

岡部「……」

杏子「新しい時代を救うには、新しい信仰だって、それが親父の口癖でさ」

 ―――― だから、あるとき教義に無い事も言い始めたんだ。

杏子「もちろん、信者の足はばったり途絶えたよ。本部からも破門さ」

 ―――― 誰も親父の話を聞こうとしなかった。

杏子「当然だよね。傍から見ればアタシらは胡散臭い新興宗教だ」

 ―――― どんなに正しい事を、当たり前のことを話そうとしても、世間じゃ鬱陶しがられる。

杏子「アタシ達は、一家そろって食う物にも事欠くさまだった」

岡部「だから、食べ物にそこまで……」

 俺は、誰にも聞こえないように呟いた。
 だからこそ、杏子はあそこまでさやかの行動に激怒したのか。

杏子「納得できなかったよ」


 杏子は続ける。

杏子「親父は間違ったことなんて言ってない」

 ―――― たった五分でもよかった。

杏子「ちゃんと耳を傾けてくれれば、分かったはずなんだ」

 ―――― だけどさ、だ~れも、相手にしてくれなかったんだ。

 杏子の瞳は、鈍く光っていた。
 何かを映しているようで、実のところ何も映していない虚ろな瞳が、俺をとらえる。

杏子「理解できなかった」

 ―――― 許せなかった。

杏子「理不尽だった」

 ―――― でもアタシじゃ変えられなかった。

杏子「足りなかった」

 ―――― 何が?

杏子「決まってんじゃん」

 ―――― 力だよ。

岡部「……ッ」

杏子「アタシは、アタシに何も力が無い事が、無力なことが、たまらなく嫌だった」

 ―――― 我慢できなかった。

杏子「だから、アタシは」













 ―――― QBと契約したんだ。


杏子「皆が親父の話を」

 ―――― 真面目に聞いてくれますようにって。

 そう言って、杏子はりんごを取り出す。
 みずみずしいりんごには、歪んだ杏子の顔が映る。
 何故か、泣いているように見えた。

杏子「効果はてきめん。翌日からはどんどん信者が増えて行ったよ」

 ―――― そしてアタシは晴れて魔法少女さ。

杏子「いくら親父が正しくても、それで魔女が倒せるわけじゃない」

 ―――― だから、アタシが倒すんだって、意気込んでたのさ。

杏子「アタシと親父で、世界を救うんだって、馬鹿みたいに信じていたんだよ」

 杏子はりんごを齧る。
 その顔は、りんごに映った顔のように歪んでいた。

杏子「でもね?」













 ―――― あるとき、親父にからくりがばれた。
 


杏子「そっからはゴロゴロ転落さ」

 ―――― ブチぎれて、アタシの事を魔女なんて言って。

杏子「酒に溺れ、頭がイカレ、とうとう家族で無理心中」

 ―――― 魔女のアタシだけ残してさ。

杏子「笑っちゃうよね、アタシは本物の魔女と戦っていたのに」

 ―――― でも、アタシの祈りが全てを壊したんだ。

杏子「他人の都合を知りもせず、勝手な願いをしたせいで」

 ―――― 皆、不幸になった。

 杏子は俺達に背を向けるように話す。
 そのため、顔が見えない。

杏子「その時、心に誓ったんだよ」

 ―――― もう二度と、他人の為に魔法を使わない。

杏子「この力は、全て自分のために使う」

 杏子は俺たちの方に振り向く。
 その表情は穏やかだった。
 
杏子「希望と絶望は等価値なのさ」

 ―――― そうやって、この世界のバランスは成り立っているんだよ。


 杏子はその言葉で話を締めくくる。
 さやかは俯いたまま、杏子に言った。

さやか「どうして、そんな話を?」

杏子「アンタも好き勝手やればいいさ。自業自得の人生を生きなよ」

 杏子の言葉に、さやかは静かな目で返した。

さやか「それって変じゃない?」

岡部「……確かにな」

 さやかの言葉は正しい。
 だが、間違いでもある。

杏子「どういう事だよ?」

 杏子は尋ねる。
 それにはさやかが問いで返した。

さやか「アンタは自分の為だけに生きているはずなのに、どうしてアタシの心配をしている訳?」

 ただ、その問いはおかしい。
 
杏子「アタシと同じだからだ」

 杏子ははにかんだ。



 さやかの言葉に、杏子は目を見開き、じっとさやかを見つめた。

杏子「何でアンタは……」

さやか「アタシは後悔しない。この力は素晴らしいものに出来る。そう、信じているから」

 さやかは強い瞳で杏子を睨んだ。
 そしてちらとりんごを見つめ、続ける。

さやか「それからさ。アンタ」

 ―――― そのリンゴを、どうやって手に入れたの?

杏子「……」

 杏子は答えることが出来なかった。

さやか「お店で払ったお金はどうしたの?」

 杏子は答えられない。

さやか「……言えないんだね」

 さやかは冷めた瞳で見つめた。

さやか「なら、アタシは、そのリンゴを食べられない」
 
 ―――― 貰っても、嬉しくない。

杏子「ッ!!」ギリ

 杏子は苦虫を噛み潰した様な顔になる。

岡部「クリムゾン……」

 俺の言葉は届かず、杏子は叫ぶ。

杏子「馬鹿野郎!!」

 


 それは、悲鳴のようにも聞こえた。

杏子「アタシ達は魔法少女なんだ!! 他に同類なんていないんだ!!」

 杏子の悲鳴にとは対照的に、さやかの声は何処までも静かだった。

さやか「アタシはアタシとして戦い続ける」

 さやかは吐き捨てるように呟くと、階段を下りていく。
 去っていく背中は、何かを悟っているようにも見えた。





















 ―――― 何を悟っているんだよ?

 思考にノイズが走る。
 この前、さやかと杏子の戦いでは、こんな感覚は無かった。
 あの時より余裕があるからだろうか。
 それとも、アイツが再び動き出そうとしているのか。

 ―――― 本当に
 
 彼女たちの滑稽さに苛立ったのか
 中途半端さにむかついたのか
 その心に、救われてほしいと、俺が願いをもったからなのか。
 
 口が勝手に開く。

 ――――お前たちは


















岡部「馬鹿か?」

 もう、我慢できなかった。



杏子「!?」

さやか「!?」

 杏子とさやかが驚いたように、俺を見る。
 俺も二人を見た。

 俺の中で沈んでいた何かが、この時だけ浮き上がり、体を動かしだす。

岡部「どうしてそう、お前達は無駄に考える?」

 ―――― お前たちは、どうしてそんな考え方しかできない?

杏子「オッサン? 何、言ってんだよ」

 俺は杏子を無視する。

岡部「他人を守る守らない? 他人の為に戦う戦わない?」

 ―――― そんなことを議論している時点で、お前達は大馬鹿者だ。

岡部「守りたいから守るのではないのか? 助けたいから助けるのではないのか?」

 俺の言葉に、杏子は茫然としたような顔をする。
 さやかは、俯いていた。

岡部「クリムゾンがリリーに忠告したのも、リリーが願いを使ったのも、そうしたいからそうしたのではないか?」

 ―――― ならば、どうしてそうネチネチ論点とずれていることを考えている?


 居なくなった筈のアイツが、鎌首をもたげる。

岡部「お前たちは、救いようの無い、馬鹿だ」

 吐き捨てるようにソイツが言う。
 ソイツは、俺では言葉に出来ない何かを、懸命に言葉にしようとする。

岡部「そんな考え方をしていたら、他人の為に他人を守るとなど考えていたら。お前たちは、きっと後悔する」

 ―――― 後悔などしていたら、お前たちは進めなくなる。

岡部「全ては己の為だ」

 ―――― 己の為に、他人を救うと考えろ。

岡部「そうしなければ」

 ―――― お前たちは

岡部「必ず破滅する」

さやか「……岡部先生」

 さやかは俺を睨む。
 ソイツは気にしない。

岡部「全ては自分の責任だ。全ては目的の為だ。全ては――――」

 ―――― 己の選択だ。


岡部「全ては自らが望んだ世界に辿り着くためだ」

 ―――― 他人に責任を押し付けるな。絶対にな。

岡部「そんなことをしようとするのなら、俺はお前らを許さない」

 ―――― お前達を、死よりも苦しい地獄に送ってやる。

 俺はそこで語るのを止めた。

 危ない、アイツが出てきてしまった。
 無力で、脆弱、口だけのアイツが。
 
 そのせいで、おかしな事を口走ってしまった。
 引かれていないだろうか。
 俺は杏子とさやかを見る。

 案の定、二人とも固まっていた。
 やってしまった。

 数秒後、先にさやかが動き出す。
 さやかは口を開いた。

さやか「岡部先生って、本当に頭おかしいですよね」

岡部「なっ……」

 言うに事欠いてそれか。
 まあ、確かにイカれたことを口走った自覚はある。
 さやかは続ける。
 その顔は、どこか悲しげだった。
 
さやか「皆が、岡部先生みたいだったら、どんなに良かったか」

 そう言って、さやかは踵を返し、協会から出て行った。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 数分後;協会

杏子「……」

岡部「……」

 しばらく無言の時間が続いた。
 正直気まずいので、俺から話を振る事にする。

岡部「なあ」

杏子「ん?」

 うわの空で答えてくる杏子。

岡部「そのリンゴ、どうやって手に入れたのだ?」
 
杏子「ッ!! ……オッサンもかよ」

 杏子は身を震わせると、怒りの形相で睨んでくる。
 だが、泣くのを我慢しているようにも見えた。

杏子「オッサンも『そんなりんご食えません』って言うのかよ?」

岡部「いや?」

 俺の言葉に、杏子は少し落ち着いた様になる。
 それでも、俺に対する追及は止めなかった。

杏子「じゃあ、何で!?」

岡部「気になっただけだ」

杏子「……」

 杏子は言葉を詰まらせる。
 そして、俯き、ポツリと言った。





杏子「盗んだ」

 やはりか。



岡部「……」

杏子「だって、仕方ねぇだろ?」

 俺の無言をどう受け取ったのか。
 杏子がブツブツ愚痴る。

杏子「食いものねぇわけだし……」

 その言葉を聞いたとき、ふと、誰かを思い出した。
 
 未来には、碌な食い物が無いと言った少女。
 彼女は――――

 その時、俺の中で連想ゲームが始まった。

 無一文、食うのにも困る、未来から来た戦士……、バイト?






岡部「そうだ……」

杏子「?」

 我ながらいい考えを思いついた。
 俺は杏子の方を向く。
 そして、口を開いた。













岡部「ついてこい、いいところに連れて行ってやろう」

 何故か、誘拐犯の様な言葉になってしまった。



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 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 数十分後;ブラウン管工房

 俺とミスターブラウンが向かい合う。
 あまり良く無い絵面だが、そんな事どうでもいい。

 ミスターブラウンが、俺の頼みに訝しげな声を出した。

天王寺「バイトォ? この嬢ちゃんが?」

岡部「ええ、そうです」

 ミスターブラウンは渋い顔をした。
 
天王寺「しかしなぁ……」

 ミスターブラウンは杏子の方をちらと見る。
 杏子は俺の後ろで椅子に座り、ブラブラと足を振っていた。

天王寺「嬢ちゃん、まだ働ける年じゃねえだろ? またなんでバイトなんか……」

杏子「そこのオッサンが連れてきたんだよ!!」

 その言葉に、ミスターブラウンは俺を睨んだ。

天王寺「あん? 岡部よぉ、一体何がしてぇんだ?」ギロ

 ミスターブラウンが睨んでくる。
 かなり怖い。

岡部「彼女は給料が必要だからです。ミスターブラウン、後生です」

 俺はそれ以上言葉を並べず、少し頭を下げる。
 ミスターブラウンは少し溜息をついた。

天王寺「……金が欲しいんなら親の手伝いでもしときゃいいじゃねぇか」

杏子「……」



 ミスターブラウンの言葉に、杏子は苦虫を噛み潰した様な顔になった。
 それに気付いたのか、ミスターブラウンがまたもや不思議そうな顔になる。

 が、直ぐに何かを納得した様な顔になった。
 ミスターブラウンは杏子に向かい、口を開いた。
 
天王寺「嬢ちゃん、失礼を承知で言うが――――」

 そこで一旦言葉を切る。
 杏子はミスターブラウンを睨んだ。

杏子「何だよ?」

 その声に、ミスターブラウンは言葉の続きを言った。

天王寺「嬢ちゃんは――――」

 ―――― 親がいないのか?

杏子「ッ!!?」

 杏子は驚愕の表情を浮かべ、ミスターブラウンを見た。

杏子「どうして――――」

天王寺「俺も孤児だったからよ、分かんだよ」

 ミスターブラウンは静かな顔で、杏子に向かう。
 そして、俺を横目で睨んだ。

天王寺「オイ岡部、お前さん、知ってたのか?」



 ミスターブラウンの言葉に、杏子は苦虫を噛み潰した様な顔になった。
 それに気付いたのか、ミスターブラウンがまたもや不思議そうな顔になる。

 が、直ぐに何かを納得した様な顔になった。
 ミスターブラウンは杏子に向かい、口を開いた。
 
天王寺「嬢ちゃん、失礼を承知で言うが――――」

 そこで一旦言葉を切る。
 杏子はミスターブラウンを睨んだ。

杏子「何だよ?」

 その声に、ミスターブラウンは言葉の続きを言った。

天王寺「嬢ちゃんは――――」

 ―――― 親がいないのか?

杏子「ッ!!?」

 杏子は驚愕の表情を浮かべ、ミスターブラウンを見た。

杏子「どうして――――」

天王寺「俺も孤児だったからよ、分かんだよ」

 ミスターブラウンは静かな顔で、杏子に向かう。
 そして、俺を横目で睨んだ。

天王寺「オイ岡部、お前さん、知ってたのか?」



岡部「ええ」

天王寺「ま~た余計なことに首を突っ込んだ。そういう訳か」

 ミスターブラウンは呆れたように苦笑した。
 
岡部「ええ、ですからこのクリム「おじさん!! 来てたの!?」は?」

 まさか、この声は……。

 ズドンッ!!

岡部「グフッ」

 結構、イヤ、かなりの衝撃に、ただでさえ病み上がりでふら付いている体が倒れる。
 と、思いきや杏子に支えられていた。

杏子「オッサン、大丈夫か?」

綯 「おじさん!! 来てたの!?」

天王寺「おい岡部ぇ!! 人の娘と抱き合ってんじゃねぇ!!」

 一斉に言葉が浴びせられる。
 ただ、俺はいきなりの衝撃と、徹夜に近い話し合いが祟ったのか、
 意識が朦朧とした。
 切れ切れの声で、俺が呟いた言葉は。

岡部「俺は、オッサンか、おじさんで、確定なのか……?」グフ

 その言葉を残し、俺の意識は暗転した。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 数分後

 ボコンッ

 頭に衝撃を感じ、俺は飛び起きる。

岡部「何だ!?」

天王寺「やっと起きたか」

岡部「……そのさすってる拳は何ですかミスターブラウン」

 どうやら俺はミスターブラウンに文字通り叩き起こされたらしい。
 実に迷惑なおこしかただ。

綯 「おじさん、大丈夫?」

杏子「大丈夫かよ、オッサン」

岡部「大丈夫だ、問題ない」

 心配そうに覗き込んでくる少女たちをいなす。
 俺ほミスターブラウンに話しかけた。

岡部「ミスターブラウン、俺はどのくらい気絶を?」

天王寺「ほんの数分ってところだな」

岡部「そうですか、ならまだ完全な日暮れまでは時間がありますね。なら、さっきの――――」

天王寺「あ? あの話なら終わったぞ?」

岡部「は?」


 あまりにも、急な展開に俺は魚のように口をパクつかせる。
 ミスターブラウンは溜息をついた。

天王寺「あの嬢ちゃんのバイトの話だよ。明日から嬢ちゃんはうちのバイトだ」

岡部「え?」

 俺が寝ていた数分に何があったのだろうか。
 
杏子「まったく、オッサン共が……、余計なことをしやがって……」ブツブツ

綯 「明日からよろしくね!! 杏子おねえちゃんっ!!」

 ブツブツ文句を言う杏子に、ぴょんぴょん飛び跳ねる綯。

 カオスだ。

岡部「えっと、ミスターブラウン? とりあえず、クリムゾンのバイトは採用、ということで?」

天王寺「まあそういう事になるな」

 俺の言葉にミスターブラウンは頷いた。
 そこに、綯の言葉が続く。

綯 「そうだ!! お祝い会をしようよ!!」

杏子「お、お祝い会?」

 戸惑う杏子。

岡部「お祝い会?」

 俺も戸惑っていた。



綯 「そう!! お祝い会!!」

 はしゃぐ綯の言葉を要約すると、
 新しいバイトが入ったのがうれしいのと、
 最近俺と食事をしていないらしいからだそうだ。

 どうやらこの世界線の俺は頻繁にミスターブラウン宅で夕食を食べていたらしい。

天王寺「そういう訳だ。まだ夕食の準備はしてねえが、まあ、少し待ってくれや」

 聞くところによると、天王寺家は別の場所にあるらしい。
 歩いて行ける距離なので、車は必要ないらしいが。

岡部「……ミスターブラウン」

 少し考えた後、ミスターブラウンを呼ぶ。

天王寺「何だ?」

岡部「夕食は、まだ作っていないんですよね?」

 俺の問いに、ミスターブラウンは怪訝な顔をした。
 
天王寺「まあそうだが、……何がいいたいんだ?」

 俺は顔を上げると、ミスターブラウンをまっすぐに見つめた。

















岡部「二人ほど、それに加えてもいいですか?」



 番外編;『凶真様の雑学力』

 後日

岡部「焔よ、アイアンメイデンよ、ブラックロックシュータよ」

ほむら「一度にあだ名を複数使うの止めてくれない?」

岡部「断る」

ほむら「でしょうね。で、用事は何?」

岡部「ああ、そうだったな。これを見てくれ」

ほむら「……?」

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 Amadeusの動画を見せています。
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ほむら「……これが何?」

岡部「つまり魂は記憶にあるという事だ。ソウルジェムなど気にするな」

ほむら「ああ、そういう事」

岡部「そう!! 初戦ソウルジェムなど心臓につけるピースメーカーの様なもの。貴様が気にすること――――」

ほむら「ちょっと待って」

岡部「何だ?」

ほむら「私の聞き間違えならいいのだけれど……」

岡部「だから何だ?」

ほむら「貴方……、今ピースメーカーって言わなかった?」

岡部「? 言ったが?」

ほむら「ねえ、それって……」















ほむら「ペースメーカーじゃない?」

岡部「」


ほむら「まさか、気づいてなかったの?」

岡部「……」

ほむら「もしかして、これをあの二人に話したの?」

岡部「……」

ほむら「……」

岡部「……」

ほむら「同情するわ」

岡部「う、うるさい」

ほむら「……自信満々で語った慰めが間違っていたなんて本当に同情すべきね」

岡部「違う、間違ってなどいない」

ほむら「いや、思いっきり間違えてるから、心臓につける爆撃機なんてないわ」

岡部「違う!! あれは今は失われし古代シュメール語で『ピィ・スゥ・メイクゥアー』と言うのだ」

ほむら「思いっきり言い訳にしか聞こえないけどまあいいわ。で、意味は?」

岡部「『心臓起動装置』だ」

ほむら「何処の進撃よ」ハァ

岡部「うるさい……、……もういい、俺は帰らせてもらう」プイ

 スタスタスタ





ほむら「……本当に、あの時とは別人ね」フゥ

ほむら「まあ、でも……」

 ――――『ソウルジェムなど気にするな』

ほむら「そんなことを、わざわざ私に言うなんて」

ほむら「本当に、お人よしね」

ほむら「……」クス


 おしまい

 以上で投下終了です。
 
 投下の時ミスってしまったので、酉を変えたいと思います。
 毎度スミマセン……。

 一応番外編でピースメーカーネタを拾えたぜ!! 
 ……ホントもうこれからこんな事無いようにしないといけませんね。

 杏子ちゃんがバイトに入りました!!
 これで天王寺家が出せる!!
 天王寺家やダルも好きな自分としては彼らの出番をぜひ作りたいです。
 
 次回はオリジナルシーンを挟みます。
 天王寺家でお食事会ですね。
 これまでよりはまだ、ほのぼの(?)になるかと思います。
  
 そして本当に申し訳ないのですが、
 >>1 の都合で次回と次々回、投下が出来ません、

 次の投下は今月の23日になりそうです。
 本当に申し訳ありません。
 
 書きだめも書かないと、

 それでは、応援してくれる皆様に感謝を
 お休みなさい。

 お久しぶりです。
 それでは、10;30から投下です。


 第16話;《希望を持つ限り救われません》


天王寺「で、説明してもらうか」
 
 ミスターブラウンの怒りの声が俺を襲う。

杏子「……」

ほむら「……」

まどか「……あ、綯ちゃん。こんにちは」

綯 「……あ、こんにちは……」

岡部「言ったじゃないですか『二人ほど加えたい』って」

天王寺「いや、言ったけどよ。全員中学生とか聞いてねぇぞ岡部」

 ミスターブラウンがものすごい形相で俺を睨んでくる。
 正にオーガの如し。
 背中には怒りの炎が見えている。
 幻覚であることを信じたい。
               バイトクリムゾン
岡部「むしろ小動物や紅蓮の労働戦士から年齢が離れている方が駄目でしょう。気まずくなる」

天王寺「人の娘を小動物扱いするんじゃねぇよ!! ……いやな? 俺が言いたいのはそういうことじゃねぇんだよ。なんでテメェが女子中学生を大量に連れてくるかってことが問題なんだよ」

岡部「つまり……、どういうことです?」

天王寺「だからなんでテメェの周りには大量の女子中学生の影がちらついてんだよ!!」

 ミスターブラウンの怒声が俺の耳を打った。
 巨体から放たれる大声はもはや爆音に近い。
 鼓膜が破れそうだ。

岡部「教師紛いの事をしているんだから、こういう知り合いが多くなるのは普通でしょう」

天王寺「いや、普通じゃねぇよ」



 ミスターブラウンの言っていることの意味が分からない。
 教師が生徒と仲良くなるのは普通ではないのか?
 不意にミスターブラウンの目が、俺を心配するような目に変わった。

天王寺「岡部……、サツに掴まんなよ?」

岡部「いやなんでそんな話が飛躍するんですか」

 ミスターブラウンの言っていることは本当に意味不明である。
 
岡部「貴様らもそう思うだろう?」

 俺は肯定の意見を聞こうと、後ろの少女達の方を向く。
 が、

ほむら「……確かに、携帯の登録帳にも女子中学生の電話番号ばかりあったわね……」

まどか「……岡部先生、人と仲良くなるの上手だから……」

杏子「……そういえば、ルーキーにも随分と信頼されてたな……」

綯 「……おじさん、やっぱりそうなんだ……」

岡部「」

 いや、何だこの反応。
 俺はこんな反応求めていないぞ?

天王寺「……」ビキビキビキ

 頭に血管を浮かび上がらせ、ミスターブラウンが俺を睨んでくる。

岡部「ご、誤解ですよミスターブラウン。貴方が懸念しているようなことは何もありません」

天王寺「うるせぇ!!」

 バコン、と頭に衝撃。



 しかし、随分と手加減をしてくれたらしく、少しめまいと吐き気がするだけだった。
 いや、もうめまいと吐き気の時点でやばい気もするのだが、
 まあ、何時もよりは良心的だ。
 
 ミスターブラウンがほむらの方を向く。

天王寺「ハァ……、んで? その譲ちゃんはこの前お前と一緒にいた子だよな?」

ほむら「その通りよ……。だけど、嬢ちゃんじゃないわ。暁美ほむらって名前があるから、暁美とでも呼んで」

天王寺「はいはい分かった分かった暁美の譲ちゃん。んで、その譲ちゃんは?」

 睨んでくるほむらを軽くいなすと、今度はまどかの方を見た。

まどか「鹿目、まどかです……」

 まどかは怯えたように答えた。
 確かに、オーガに何者だと聞かれてビビらない奴はいないだろうな。

天王寺「そう怖がんなくていいぜ。俺は天王寺裕吾、綯の父親だ」

 ミスターブラウンが目尻を下げ、優しく自己紹介をする。
 こんな態度もできるのなら俺にも優しくしてほしいものだ。

まどか「えッ!! 綯ちゃんの、お父さん?」

 まどかが怯えた様な顔から一気に驚いた顔になる。
 当然だろう。
 あの親子を見たら誰だってそう思う。
 橋田親子といい勝負だ。



まどか「え、そ、そうなんですか……?」

 まどかは綯とミスターブラウンを交互に見る。
 まだ信じられないのだろうか。 
 ……それもそうか。

岡部「事実だスカーレット、その人はミスターブラウン、そこの小動物の父親だ」

天王寺「だからテメェは人の名前をしっかり言いやがれ!!」

 また殴られた。
 横暴だ。

岡部「あまりにも横暴だとは思わないか? アイアンメイデンよ……」

 俺はこの世の理不尽さを問おうとほむらの方を向いた。

ほむら「……」

 ほむらは驚愕の表情のまま固まっていた。

岡部「ブラックロックシューター? 焔?」

 俺の問いかけにも全く反応しない。
 おかしい。
 俺はほむらの肩を少し叩く。

 ビクッと身を震わせると、ほむらは俺を虚ろな目で見た。
 ボーっとしたように口を開く。

ほむら「私は今、遺伝子の不思議を垣間見た気がするわ……」

天王寺「嬢ちゃんも大概失礼だなオイ」


 
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 数十分後;天王寺家

杏子「うめぇじゃん!!」

 杏子の声が客間に響いた。

岡部「それに、栄養のバランスも整えられているな」

 少々味付けが濃いが、それでも健康を極端に害すほどではない。
 むしろ俺の好みだ。
 ただ、この料理は綯が作ったのだろうか、随分とカラフルな色合いだ。
 サラダにオムレツと、少々天王寺家……もといミスターブラウンのイメージにそぐわない。
 美味いからいいのだが。

まどか「……」

ほむら「……」

 ほむらとまどかは無言で箸を進めている。
 まあ、ほむらは人と積極的に話すタイプではないし、まどかも今の精神状態では積極的にはなれないだろう。
 
岡部「ブラックロックシューターは、誰かの手料理を食べるのは久しぶりではないか?」

 だが、構いたいときには構う。それが俺のスタンスなのだ。
 しかしほむらの回答は素っ気ない。

ほむら「別に、インスタントも手料理も変わらないわ」

 可愛くない答えだ。
 ほむらの言葉に、ミスターブラウンが肩をすくめる。
 
天王寺「ま、俺の味付けは結構濃いらしいからな、仕方ねぇか」

 溜息を吐きながらそんなことを言った。

 ……いや、ちょっと待て。



岡部「……ミスターブラウン。この料理はもしや、貴方が?」

天王寺「? たりめぇだろ。大勢で食う時は大概俺が作るって言わなかったか?」

 俺はそんなことを聞いた覚えが無い。
 おそらく、リーディングシュタイナーが発動する前の話なのだろう。

岡部「ああ、そうでしたね」

 俺は適当に話を合わせることにした。
 これ以上、天王寺家に心配させるのも締まらないと思ったからだ。

岡部「……」

 俺はチラとほむらの方を向く。
 
岡部(奴はミスターブラウンが小動物の親と聞いて驚愕していた。ならば、この事実を聞いてどうなっている?)

 あの時のほむらは珍しく驚愕の表情を浮かべていた。
 意外と想定外の事実に弱いタイプなのかもしれん。

 そう思い、首を回した先には――――

杏子「オッサン、料理うめぇんだな!!」

 ミスターブラウンを褒めちぎる杏子と

綯 「お、驚かないの?」

 そんな杏子の反応に若干戸惑う綯、

まどか「私のパパも料理上手だし、あんまり不思議なことじゃないよ……?」

 ようやく口を開いたまどか、

 そして

ほむら「……」

 目が死んでいるほむらがいた。



岡部「おいブラックロックシューター、大丈夫か?」ヒソヒソ

 隣にいるほむらを肘で小突く。
 ほむらは微かに身を震わせる。
 やっと正気に戻ったか、そう思ったが。

ほむら「……まさかあの外見で? 此処まで美味しい料理が作れる物なの……?」ブツブツ

 まだだった。
 まだトランスしている。

 本当に想定外の事態には弱いのだろうか。

岡部「おい焔!!」ボソッ

 何時もツンとしているほむらが動揺している。
 それを見ているのは意外にも面白かったが、何時までもトランスさせている訳にもいかない。
 俺はほむらをさっきよりも強く小突いた。

ほむら「……!!」ッハ

 今度は正気に戻ったらしい。
 少し顔を赤く染めながら、再度箸を進める。

岡部「……フ」

ほむら「何よ」

 ほむらが思いっきり睨んできた。
 だが、顔はまだ赤くなっているため全く怖くない。

岡部「いや、何でもないさ」

 俺は曖昧に答えると自分の料理に向き直った。


 ―――― 暁美 ほむら

 彼女は未だ、歪んでいない。

 ―――― だが、時間跳躍を続ければ、彼女はいつか破綻する。

 たとえば

岡部「……」チラ

綯 「まどか先輩のお父さんは薄味なんですか?」

 ―――― ジュウゴネンゴマデマッテイロ

 復讐と言う鎖に繋がれ、時間跳躍を繰り返した彼女。
 俺は、思い出す。

岡部「……」

 俺はそれを振り払うように食事を再開しようとする。
 だが

 目についたのは、オムライス。

 膨らんだ黄色に、紅。

 ―――― オカベ……クン ゴメン……ナ サイ

 それは、彼女の胸に出来た刺し傷のようで。
 また、思い出す。

 それに連鎖して次々と記憶が呼び起された。


 ―――― オカ……リン

 俺の重荷にならずに済んだと、微笑みながら死んだ彼女。

 彼女はもういない。

 ―――― ……
 
 何も言わず、何も語らず、たった一人で死んでいった彼女。

 彼女はもういない。

 ―――― ありがとう、リンタロウサン

 最期に俺の名前を呟き、死んだ彼女。

 彼女はもういない。

岡部「……」

 ……まただ、
 また、記憶が俺を蝕もうとする。
 そんなモノ、効かないのに。
 
 ―――― 俺の心は既に壊死しているというのに。

 腐りきった俺の心は悲しみなど生産しない。
 絶望など生産しない。
 
 負の感情が丸ごと消えてしまったようだ。
 
 罪悪感も感じず、ただただ冷静に記憶を見つめる。

 彼女たちの死を思い出し、感じるのは、悲しみや罪悪感などでは無く――――

 ―――― 冷たく、濁った執念が、俺の心に溜まっていくのだ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 数十分後;天王寺家庭

岡部「フゥ……」

 天王寺家の庭、その縁側でドクペを煽りつつ、雲一つない空を見る。
 今日は嫌味なぐらい快晴だ。
 ただ、星は見えず、月だけが、夜空に空いた穴の様だった。

岡部「……」

 不意に、なんとなく、本当になんとなくだが、俺は月が掴めそうな気がした。
 俺は無意識のうちに夜空へ手を伸ばす。

杏子「何してんだ?」

 そんな俺に杏子の声が掛かった。
 不思議そうな顔で、彼女は俺を見つめている。

岡部「ああ、星が、掴めないかとな」

 手をひっこめながら答えた。
 杏子は笑った。

杏子「そんなん無理に決まってんじゃん」

岡部「そうだな」

 俺も苦笑する。
 何をやっているんだか、俺は。


杏子「……オッサンって意外とロマンチストなのな」

 杏子はそう言いながら、俺の隣に腰掛ける。

岡部「ロマンチストなどではないさ。……ただ、幼馴染の真似をしていただけだ」

 俺の言葉に、杏子は意外そうな顔をした。

杏子「へぇ……、オッサンにも幼馴染なんているんだ」

岡部「オッサンにもとは何だオッサンにもとは」

杏子「あんま似合わないってことだよ」

 杏子は笑い、俺を見る。
 そして言葉を続けた。

杏子「空に手を伸ばすなんて、変だな」

岡部「そうだな」

 確かに、変な癖だった。
 ただ、その仕草は今の俺には何よりも愛おしいのだ。
 懐かしいのだ。

 物思いにふけっていた俺に、杏子が話しかけてきた。

杏子「なぁオッサン……」
 
岡部「何だ?」

杏子「オッサンはさ……」

 そこまで言って、杏子は口を噤む。
 その目には、静かな光。


岡部「?」

 疑問符を浮かべる俺に、杏子は言葉を続けた。

杏子「オッサンはさ、なんでアタシの事を」

 ―――― 助けようと思ったの?

岡部「……どういう事だ?」

杏子「だってそうだろ?」

 杏子は首を傾ける。
 しかし、その目はいまだに俺を映していた。

杏子「出会って一週間もたってない奴にバイト先の斡旋? ふざけてる」

 杏子は続けた。

杏子「いくらオッサンの目的のためだって、こりゃあ度が過ぎてる」

岡部「……」

杏子「何でオッサンはアタシに優しいんだ?」

 純粋な疑問に彩られた、言葉。
 俺は杏子の目を見つめ返した。

岡部「……貴様は打倒ワルプルギスに必要な戦力だ。離反してもらっては困る。それだけだ」

杏子「嘘だね」

 速攻で否定された。


 杏子は再び言葉を紡ぐ。

杏子「ならここまでする必要ないじゃないか。それとも何? オッサンは『形だけの仲間でも優しくしますぅ~』って胸糞悪くなるような偽善野郎なのか?」

 一気に言葉を吐き出す杏子。

杏子「違うだろ」

 杏子は断言し、俺の方を見つめる。
 その真っ直ぐな視線に、俺は口を開かざる得なかった。

岡部「俺だって、見ず知らずの奴の世話をする気は無い」

杏子「じゃあ何で――――」

岡部「貴様が、俺の仲間に似ていたからだ」

 そう、それだけが、俺の理由だった。

杏子「は? 仲間?」

 聞き返してくる杏子に、俺は頷いた。

岡部「貴様は俺の仲間によく似ている」

 俺は一人の少女を思い出す。

 世界を変えに来たと言った少女
 未来からのタイムトラベラーだった少女

 佐倉杏子は、彼女に似ていた。


岡部「そいつには家というものが無かった」

杏子「!?」

 そう、彼女は公園のテントで暮らしていた。

岡部「そいつの両親は既に死んでいた」

杏子「……」

 親になる予定の人間なら生きているが、彼女の本当の意味での親は既に死んでしまった。

岡部「そいつは正義感の塊だった」

杏子「……それはアタシと似てないじゃん」

岡部「貴様は十分いい奴だ」

杏子「……」

 確かに、阿万音鈴羽と佐倉杏子では違う部分も多い。
 だが、俺は何故か二人を重ねてしまっている。
 まるで、自分の思い出を掘り起こす老人のようだ。

杏子「なあオッサン……」

岡部「何だ?」

 杏子は膝を抱え、呟く。


杏子「オッサンやっぱ、とんでもないお人よしだよ」

岡部「……俺はお人よしでは無い。これは俺のエゴに過ぎない」

 そう、俺は狂気のマッドサイエンティスト。
 他人の願いを踏み潰し、自らの願いを叶える者。
 これはただの俺のエゴ。
 思いを溝に捨ててしまった、裏切った彼女等への、謝罪にも等しい行為。

 決して、俺はお人よしでは無い。

杏子「ま、オッサンがそう思ってるんならいいよ」

 そう言って杏子は微笑む。
 それは何時もより、眩しく見えた。


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 数十分後;街中

ほむら「……」

岡部「……」

 俺とほむらは街中を歩いていた。
 二人で、だ。
 なぜこんな事になったのだろうか。
 すぐに思い浮かぶ。

 ―――― 此処んところ物騒だからな。岡部、ほむらの嬢ちゃんを送って行けや。

 とミスターブラウンに言われたからだ。

 どうやら此処の所本当に物騒らしい。
 最初は魔女の影響かと思っていたが、どうやらそれだけでは無く、街に少女だけを狙った暴漢が出るとかなんとか。
 尤も、魔法少女であるほむらや杏子が簡単にやられるはずも無いのだが、まどかは別であるし、念は入れた方が良い。

ほむら「ねぇ……」

 ほむらが俺に話しかけてくる。

ほむら「何で私をあれに誘ったの?」
 
岡部「あれ……とは?」

ほむら「決まってるでしょう? さっきの食事会よ」

 ほむらが俺の方を睨んでくる。
 俺は少し笑いながら返した。

岡部「バイトクリムゾンと貴様は共闘するのだろう? ならば仲は深めていて損は無い」

 俺の言葉に、ほむらは眉を潜める。

ほむら「じゃあまどかは?」

岡部「貴様を呼んでいる時にQBと契約されていては元も子もないだろう?」

ほむら「それでも……」


 まだ腑に落ちない様子のほむら。
 俺は溜息を吐く。

岡部「それに、貴様とスカーレットの中を深めようと思ってだな……」

ほむら「必要ないわ」

 だが、ほむらは俺の言葉をバッサリと切る。
 こういうのをツンドラとかなんとか言うらしい。
 Qβが言っていた。
 俺は内心頭を抱える。
 それまったく可愛げがないよな?
 
岡部「……貴様はもう少し社交性を持った方が良いぞ?」

ほむら「貴方に指図される覚えは無い」

 キッと睨みつけてくる。
 俺は指で目元を押さえた。

岡部「ワルプルギスの夜を倒すためには杏子と仲良くなった方が「私一人で十分なの」

 さっきよりも強く遮られる。
 ほむらの方を向くと、そこには険しい顔をした少女がいた。

ほむら「彼女は保険に過ぎない。本当なら私一人で十分」

 彼女の目は真っ直ぐに俺を睨んでいる。
 その目は、どこか虚ろな光を湛えていた。

ほむら「わざわざ誰かと仲良くなる必要なんて無い」

 そう言って、目を伏せる。
 薄暗い景色の中で青白く浮き出ている顔が、黒く長い髪の中に隠れていた。

岡部「本当にそう思うか?」

 俺は静かに問う。


ほむら「ええ」

 それに短く答えるほむら。
 俺はほむらのそばに寄る。
 と言っても、俺とほむらの間はまだ一メートルほどあったが。
 俺が近づくと、ほむらは少し震えたが、あらかさまに俺から逃げるようなことはしなかった。

岡部「人とは、弱いものだ」

ほむら「……」

 ほむらは答えることなく、黙々と歩き続ける。
 俺は続けた。

岡部「人は呆気なく死ぬ。そしてその意志は弱い」

ほむら「……私はもう人間じゃない」

岡部「そうかな?」

 俺は少し首を傾ける。

岡部「人とは、そう簡単に人以外の何かに変われないものだ」

 元に俺だって、中々変わる事は出来なかった。

 ―――― 今だって、変われていないのかもしれない。

 一度自分を構成するすべてを砕き、破壊し、掻き混ぜ、出来た汚物を虚構の殻で取り繕う。
 それが変わるという事だ。


岡部「人はそう簡単に変われない。だからこそ協力し、助けあい、力を補い続けてきた。それは、魔法少女だって例外ではない。違うか?」

ほむら「違うわ」

 ほむらは強い口調で否定した。

ほむら「彼女たちと慣れ合うメリットなんて無い」

岡部「何故そう言いきれる?」

 俺の疑問に、ほむらは俺を鬼気迫る表情をしながら見る。
 目元が少し、赤いような気がした。

ほむら「誰も未来を受け止めることなんて出来なかった。誰も彼も弱かった」

 ほむらの声に宿る、澱んだ何かのどす黒さに、俺は少したじろいた。
 たじろいた処で、彼女からはどす黒く澱んだ何かが流れ続けているのは止まらないが。

ほむら「結局のところ、貴方の言うとおり、彼女たちは間違いなく人間ね」

 ―――― 彼女たちはあまりにも脆く、脆弱で、醜い。それが人間だってなら、間違いなく彼女たちは人間ね。

岡部「……おい」

 ほむらの言葉に、俺は顔を強張らせる。
 彼女の言葉は看過できるものでは無かった。
 しかし、そんな俺に構わず、ほむらは澱んだ何かを生産し続ける。

ほむら「あくまで貴方は『彼女たち』を擁護するのね……」

 ―――― ならいいわ、教えてあげる。

岡部「何?」
 
 聞き返す俺に、ほむらは引き攣った笑みで答えた。

ほむら「未来を、教えてあげる」

 紡ぎ出されるのは、残酷な物語であった。



ほむら「数日後に美樹さやかは魔女化する」

岡部「……どういうことだ」

 疑問に、ほむらは嘲る様な笑みを浮かべた。

ほむら「貴方にでも分からないことってあるのね」

岡部「質問に答えろ」

 苛立ちの混じった声に、ほむらは動じることなく、続ける。

ほむら「一番最後の時間軸での出来事よ」
 
 ―――― まあ、大体の時間軸で美樹さやかは魔女化するけど。

岡部「……」

ほむら「そして必ず佐倉杏子も近いうちに死ぬわ」

 ―――― 何時の時間軸だって、最後まで残るのは私とまどかだけ。

ほむら「良かったわね。自分の主張があっていて。今回の時間軸も概ねその通りになるんじゃない?」

 ―――― 私がアイツを倒すことを除けばね。

 ほむらが表情を変える、そこには冷たい決意があった。

ほむら「確かに運命は存在するかもしれない。でも、私はそれを打ち砕く」

 ―――― そして必ず、まどかの生きている明日を掴みとってみせる。


ほむら「幼馴染も、仲間も助けられなかった貴方とは違うの。私は」

 ―――― もし否定したいのなら、これからの未来、変えてみせることね。

 そう言って、俺を睨む。
 俺にはほむらが、泣いているように見えた。

ほむら「そう、私は貴方とは違うのよ……」

 ほむらは身を翻す。
 気づけば、ほむらの住んでいるアパートの前までついていた。
 ほむらは何も言わず、階段を上がろうとする。

岡部「待て」

 俺はそれを呼び止めた。
 ほむらは気にせず、階段を上ろうとする。
 それは仕方なく、その小さな背中に声をかけた。

岡部「成程、確かに残酷な未来だな。だが、貴様は一つ間違えている」

 俺の言葉に、ほむらは少し立ち止まった様子を見せる。
 俺は続けた。

岡部「俺が変えたいのは未来などではない」

 それが全てではない。

岡部「俺が変えたいのは全てだ」


岡部「俺は、いや、『俺達』は必ず辿り着いて見せる。マミも、さやかも、杏子も、綯も、ミスターブラウンも、
   萌郁も、ルカ子も、フェイリスも、鈴羽も、ダルも、Qβも、紅莉栖も、まどかも、まゆりも、……そして貴様も、全員が生きている世界へ」

 俺は一気に言葉を絞り出す。
 俺はこんなとこでは終われない。
 たとえ全てに失敗しても、希望が残る限り、俺は求め続ける。
 全てが救われる世界を。
 俺の世界が救われる世界を。























ほむら「そう、応援してるわ」

 ほむらは素っ気なく返すと、そのまま階段を上り切り、暗闇の中に消えた。
 あとには俺だけが残された。

 俺の中には疑問が渦巻いていた。

岡部「何故、アイツは行き成りあんな言動を……?」

 小さく疑問を口にする。
 だが、それに答えてくれるものはおらず、俺の声だけが虚しく響いた。


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 同時刻;天王寺家の車内


 天王寺家の車は白いバンである。
 その運転席に座るのは天王寺。
 まどかと杏子は後ろに座っていた。

杏子『つっても驚いたよ、いきなりオッサンがアンタとあの魔法少女を連れてきたときはさ』

 杏子が隣のまどかを見る。
 会話は念話で行っている為、天王寺に聞かれることも無い。
 話しかけられたまどかは緊張の為か、顔色が優れなかった。
 無理も無い。昨日までは確実に敵対していた魔法少女が隣にいる。
 そこで平然としていられるほど、まどかの肝は太くない。
 たとえ岡部から

 ―――― 心配するな、奴はもう無害だ。
 
 と、言われても。

まどか『え、と、佐倉さん、だよね?』

 しかしまどかは言葉を紡ぐ。
 やらなければならないことがあった。
 杏子は、まどかの念話に少し微笑んで応じた。

杏子『大丈夫だよ、とって食ったりなんてしねぇから。杏子でいいよ』

まどか『え、と、杏子ちゃん?』

杏子『ちゃん付けかよ、調子狂うな……』

 そう言って杏子は苦笑する。
 まどかは昨日までとは全く違う杏子の態度に、内心かなり動揺しながら話を切り出した。

まどか『杏子ちゃん。さやかちゃんとは、もうケンカしないでほしいの』


 杏子はますます苦笑を強める。

杏子『別に、もういがみ合う気は無いよ』

まどか『そ、そうなの?』

 あっさりと帰ってきた言葉に、まどかはいささか拍子抜けした。
 杏子のあまりにも豹変した態度に、やはり違和感をぬぐえない。
 杏子はそれを察したのか、苦笑したまま呟いた。

杏子『アタシもあのオッサンに当てられたかねぇ……』

まどか『オッサンって、岡部先生の事?』

杏子『先生って……、アイツやっぱり先生かなんかなの?』

 疑問を疑問で返される。
 しかしあまり不快感は無かった。

まどか『うん。特別担任ってことで』

杏子『彼奴が先生ねぇ……、クッ、似合わねぇ』

 杏子が笑いを漏らす。
 それは苦笑では無く、純粋な笑いだった。

まどか『そうかなぁ? 結構様になってるよ?』

 岡部の威厳を守ろうと、そんなことを言う。
 実際、岡部の授業は人気が高い。

 と、言っても普通の授業では無く、『授業まがい』、つまり総合の時間なのでそのせいでもあるかもしれないが。
 タイムマシンについての討論や不可思議な道具の工作なんて現代の中学校でまずやらないだろう。
 
 しかし、それを抜きにしても、岡部自身の人気は高いのだ。


 彫が深く、眉が太い顔立ちは現代の若者らしくないが、岡部の顔はそれすらも魅力にしている。
 尤も、よく残っている無精髭や、ぼさぼさの髪でかなり分かりづらいが。

 しかし岡部とまどかのクラスの初対面時、岡部は早乙女によってきちんとした身なりにさせられていた。

 よって岡部の真の姿(?)をじかに見ることになったのである。
 そのためか、岡部ファンクラブなるモノに最も多いのは、いや、そのほとんどがまどかのクラスの学生達だ。

 そのような事を杏子に伝えると。

杏子『いや、それ先生としての人気じゃ無くない? アイドルとかそっち系の人気じゃない?』

 冷静に返された。

まどか『確かに……』

 いつの間にか岡部のプロフィール説明みたいになってしまった話に、まどかは首を傾げる。
 杏子はまたもや苦笑した。

杏子『別にアイツが人気が無いとかそんなこと聞いちゃいないよ。アイツはそりゃ人気だろうしさ』

 まるで昔なじみの友人について語るような杏子に、さらにまどかは首を傾げる。

まどか『ねぇ、杏子ちゃんってそんなに岡部先生と長いこと一緒に居たっけ?』

 まどかの疑問に、杏子は穏やかな声で答えた。

杏子『そこまで長い時間一緒にいた訳じゃ無いけどさ。何か安心するっていうかさ? こっちの領域にズカズカ入って来るんだよ』

 安心とズカズカ入って来るは違うものだと思うまどかなのだが、確かに杏子の話には頷けた。

まどか『確かに、岡部先生は人と仲良くなるのは上手だよね……』

杏子『なるのはってなんだなるのはって』ククッ


 笑いあう二人。
 そこに天王寺の声がかかる。

天王寺「鹿目の嬢ちゃん。着いたぜ」

まどか「あ、ありがとうございます」

 車が止まり、辺りには見慣れた景色が広がっていた。
 天王寺が車から降り、まどかの方のドアを開ける。

杏子「じゃあな、まどか」

 杏子が声をかけてくる。

まどか「うん、またね」

 意外なほど、するりを言葉が出て来る。
 まどかは車を降りると、自分の家に向かって歩く。
 そこに声がかかった。

天王寺「あ~、嬢ちゃん?」

 まどかは天王寺の方を振り向く。
 天王寺は恥ずかしそうに頭をかいて、話し始めた。

天王寺「まあ、なんだ」

 そこまで言うと言葉をいったん止める。
 まどかが不思議そうな顔をして、天王寺を見ると、意を決したように天王寺は一気に言う。

天王寺「嬢ちゃん、岡部の友達なんだろ?」

まどか「え、ま、まぁ、友達? と言うより先生と生徒? ですけど……」

 いきなりの言葉にまどかは戸惑う。
 天王寺は続ける。


天王寺「それでもいいけどよ。まあ、なんだ、岡部をさ……」

 ―――― よろしくな。

まどか「え?」

 まどかの疑問の声に、天王寺は答える。

天王寺「アイツ最近、またなんか一人で抱えてるらしいから、な……。嬢ちゃんが支えてやる、っつうまでに行かなくても、見といてくれるくらいしておいてくれ」

まどか「え、あ、はい……」

 天王寺の言葉の意味が分からず、生返事をしてしまうまどか。
 天王寺はその答えを聞くと満足そうに笑った。

天王寺「それに嬢ちゃん、岡部と仲いいだろ?」

まどか「たぶん、そうですけど……」

 まどかの言葉に、天王寺が豪快に笑う。

天王寺「少なくとも、岡部の方は嬢ちゃんを大切に思ってるぜ?」

まどか「え、えぇ!?」

 いきなりの言葉にだいぶまどかが戸惑う。
 まどかはほんの少し頬が熱くなるのを感じた。

天王寺「岡部はあんま自分の事を話さねぇがな、嬢ちゃんを元気づけたかったんだろうよ。わざわざこんな夕食会に誘ったのはさ」

 天王寺は続ける。

天王寺「気づいてるか? 嬢ちゃん。最初来たときはこの世の終わりみてぇな顔してたけどよ」










 ―――― 今は随分と、いい顔してやがるぜ?


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 ほむら宅

 暗くて古びたほむらの部屋。
 ほむらは家に帰るとすぐに壁に寄りかかる。
 そして、顔を伏せた。

ほむら「アイツとは違うの」

 呟く。

ほむら「アイツとは違うの、アイツとは……」

 それだけを呪詛のように繰り返すほむら。
 未だに濁ったほむらの心は、激しく脈打っている。
 原因は分かりきっていた。

 ―――― あの食事会だ。

 当初、食事会に招かれたまどかの顔色は、お世辞にも良いとは言えなかった。
 だが、いざ始まっているとどうだろう。
 まどかは少しずつ話しをし始めた。

 たとえば自分の両親の事、弟の事。
 そんなことを、綯と言われた少女と話していた。
 それに、岡部も何度か参加していた。

 そしてその時、本当に僅かだが、まどかの顔は安心したように微笑むのだ。
 自分にはもう長いこと見せていない表情。
 それを岡部に見せていた。


 それがほむらの心をたまらなく痛めつける。
 
 ―――― 有体に言えば、岡部への嫉妬である。

ほむら「……」

 本来、魔法少女の秘密を知ってからは、まどかは笑顔を見せなくなっていった筈だ。

 ―――― それはこれまでの時間跳躍でわかりきっている。

 なのに、あの男は容易くまどかの心を癒している。
 それに、佐倉杏子との仲も良好なようだ。

 ―――― それこそ、自分では絶対に至れないほどに。

ほむら「あんな奴に、運命なんて変えられない」

 ほむらはそう思っている。 
 
 何故なら、自分は全てまどかに捧げると誓っている。

 全てをまどかに捧げている。

 その努力が、思いが、あんな『お食事会』を開くような男に負けていいはずが無い。
 たった一人の為、全てを捨てたほむらの思いが、あんな
 
 『全てが救われる世界へ行って見せる』

 と言う戯言を言っている男に負けていいはずが無い。

 ―――― そう思い込まなければ、自分を保っていられない。
 
 だが、ほむらは、気づいていただろうか。

ほむら「必ず、まどかを、救う」

 それは自分の勝手な思い込みだという事に。

ほむら「あんな、奴には、負けない」

 そして、岡部に対する嫉妬の中に、僅かに、そして確かに、

 ―――― 彼に対する憧れが、混じっていたことを。

 以上で今日の投下を終了します。
 
 用事があり、二回ほど投下できませんでした。
 本当に申し訳ありません。
 
 今回はほのぼの(?) です。

 何故ミスターブラウンがオカリンの親みたいになっているのだ……
 
 それと今回はほむほむの嫉妬が爆発してしまいました。
 モーツァルトに嫉妬しながらも心酔するサリエリみたいな感じです。
 
 しかしながらこの話のもう一人の主人公はほむほむなわけで、
 必ず見せ場が来るはずです。
  
 この回はそれまでの準備期間だと、そういう事で。
 早く活躍させたい……

 それでは、長文失礼しました
 応援してくれる皆様に感謝を
 おやすみなさい
 

 応援ありがとうございます。
 10:10ほどから投下を開始したいと思います。


 第17話;《泥沼式に落ちていくね、現実は》

 見滝原中学校

岡部「……」

 数日ほど休んでしまったので、久しぶりの見滝原中学校となる。
 久しぶりと言っても本当に2.3日程度なので久しぶりも何もないが。

まどか「おはようございます!! 岡部先生」

 そこにまどかの声。
 昨日は沈んでいたが、今の顔色はまだましな物になっている。
 
岡部「ああ」

 まどかの挨拶に返すと、隣にいるもう一人の女子生徒の方を向く。

岡部「夢遊病は大丈夫か? ワカメよ」

 俺に話しかけられた女生徒――――志筑仁美は呆れ顔になった。

仁美「それは貧血になられた岡部先生が言う台詞では在りませんわ。 ……お身体は大丈夫ですか?」

岡部「ああ、問題ない」

仁美「それは何よりです」

 そう言うと仁美は穏やかにほほ笑む。
 そこにまどかの声が入り込んだ。

まどか「あ、さやかちゃん」


 まどかの視線の先には、登校してくるさやかの姿があった。
 まどかはさやかに近寄り、声をかける。

まどか「おはよう!! さやかちゃん」

 まどかの声にハッとしたように顔を上げる。
 俺達もまどかの後に続き、さやかに声をかけた。

岡部「ブルーリリーか」

仁美「お早う御座います。さやかさん」

さやか「あ、……ああ」

 声をかける俺たちにしばし呆然としたような顔をするさやか。
 しかし直ぐに普段の顔――――不要なほど元気が有り余っている《美樹さやか》の顔になった。

さやか「……おはよっ」

 元気よく挨拶を返す。
 そうして仲良く三人で歩いていく。
 俺はそれを2,3歩後ろで見ていることにする。

仁美「さやかさん、お身体の調子は?」

さやか「だいじょぶだいじょぶ。ただの風邪だってさ」

まどか「本当に大丈夫?」

さやか「だいじょぶだって!! ……あ~もう心配してくれるまどか可愛いなぁ!!」クワッ

まどか「きゃっ、もうやめてよぅ!!」

仁美「お二人はやはりその様な仲でしたの!?」

そのように、いつもと変わらない風景が広がる。


岡部「……ッ」

 不意に、俺はその光景が愛おしくなる。

 ―――― たとえ、それが全て虚構だとしても。

 俺は、この光景を守りたい。
 改めてそう思った。

まどか「何笑っているんですか?」

 いつの間にかまどかが俺の傍に寄ってきている。

岡部「いや、何でもない。……あえて言うのなら三馬鹿は今日も元気だな、とな」

 俺は気恥ずかしいのではぐらかす事にした。
 狂気のマッドサイエンティストが日常を守りたいなど笑えない。
 しかし、何故かまどかは俺の言葉を受け、僅かにはにかんだ。

まどか「三馬鹿ってなんですか……。それよりも岡部先生もこっちに来てください」

岡部「ん? ああ、別にいいが」

 まどかに連れられ、俺は三人組の中に入った。

さやか「さて、今日は早乙女先生をどうやっていじろうかね……」ククククク

岡部「貴様な……」

仁美「岡部先生、如何にかして下さい。元はと言えば、岡部先生のせいですのよ?」

岡部「俺?」

仁美「そうです。岡部先生が来てからさやかさんがますます手が付けられなく……あれ?」


 中々に失礼なことを言おうとしていた仁美だが、突然話を止め、ある方向に目を向けた。

岡部「?」

 不思議に思った俺が仁美が目を見ている方を向くと

仁美「上条君、退院なさったんですの?」

 そこには松葉杖をついた少年がいた。

岡部「あれが上条恭介か……」

仁美「そう言えば岡部先生は、上条君がお怪我なされてから来たのでしたわね」

岡部「ああ、だから彼を直に見るのは初めてだな」

仁美「なら、一度話してみたらどうですの? 上条君も私たちの同じクラスですし……」

 そのとき、仁美と話していたこともあってか、俺は気付くことが出来なかった。

さやか「……」

まどか「……」

 さやかとまどか、二人の顔が、僅かに強張ったことに。


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 昼休み;食堂

 俺は食堂に目的の姿を見つけた。
            ザ・マリオネッツ
岡部「俺も混ぜろ《不安定な人形》」

ほむら「……」

 答えは無かったが関係ない。
 俺はほむらの目の前に座る事にする。

岡部「食うか?」

 俺はほむらに向かってりんごを差し出した。

ほむら「……何?」

 怪訝そうな顔をするほむら。

岡部「何って、りんごだが?」

ほむら「いや、それくらいわかるけど」

岡部「ならば何故そのような顔をする?」

 俺の言葉に溜息を吐くように答える。
 何故だか今日はあまり元気がなさそうだ。

ほむら「丸ごと持ってきているのが珍しいだけよ」

岡部「切るのが面倒くさかった」

ほむら「貴方ねぇ……」


 呆れ顔で俺を見つめる。
 そして、ふとほむらが訝しげな顔をした。

ほむら「貴方、そのリンゴ誰からもらったの?」

 いきなりの質問、そしてよく分からない内容に俺は戸惑いながら答える。

岡部「ああ? これか? バイトクリムゾンに紙袋単位でもらった」

ほむら「ッ!! ……そう」

 何故だかほむらの顔が強張った様な気がする。
 そしてそれ以上は一言も喋る事無く、黙々と箸を進めていた。

岡部「アイアンメイデン?」

ほむら「……」

岡部「ブラックロックシューター?」

ほむら「……」

岡部「焔?」

ほむら「……」

 話しかけても、全て撃墜。
 驚異の防御力だ。

岡部(何故奴は無言なのだ!?)

 俺は徐々に焦り始める。
 何かやったか、俺よ。


岡部(何故だ? 一体奴の身に何が……ッハ!!)

 不意に飛んでくるビジョン。
 俺の脳内に電撃が走る。

岡部「成程、成程……分かったぞ?」ククク

ほむら「……?」

 いきなり忍び笑いを始めた俺を睨んでくるほむら。
 かなり不機嫌そうだ。
 だがしかし、貴様の不機嫌の理由は既に看破した。
 俺は立ち上がり、ほむらを見下ろす。
 そして唇の端をまげながら言った。

岡部「そのカップ麺、美味そうだな。寄越せ」

ほむら「は?」

 強張った顔から一転、呆けた顔になる。
 俺は気にせず、続けて言った。

岡部「もちろんタダと言わん。こいつと交換だ」

 そう言って取り出したのはきれいに包まれた風呂敷。
 俺はそれを無造作にあけると、中の物を取り出す。

ほむら「ッ!! ……それは」

 ほむらが驚愕の表情を浮かべる。
 彼女のこんな顔を見ることも最近多くなってきたなとか思いつつ俺は決めポーズと共に宣言した。

岡部「そう、これは」

 そこで俺は声を低め、厳かに言う。

岡部「ミスターブラウン&小動物合作の、《手作り弁当》だ」


 天王寺家特製弁当。
 今日の朝、綯に貰った。
 どうやら、新しいバイトを連れてきたお礼らしい。

 俺は颯爽と弁当箱を掲げる。

岡部「どうだ? この弁当と貴様のカップ麺、トレードしないか?」

 俺の問いにほむらはしばし呆然とした様子を見せる。
 しかし、直ぐに

ほむら「……ふざけないで」

 ものすごい形相で俺を睨みつけてきた。
 ただ、その目は少し潤んでいるように見える。
 目元は少し赤い。
 え、ちょ、まてまてまて。

岡部「……泣いて、いるのか……?」

ほむら「……ぇ?」

 ほむらは驚いたように目元に手を添える。
 そして、目を見開いた。

ほむら「な……ん、で?」

 魂が抜かれたように、虚ろなほむらの言葉。
 愕然とするほむらの姿に、俺は言い知れぬ儚さを感じた。

 ―――― 結局、彼女もただの少女なのだ。

岡部「……すまない。何か気に障る発言をしたのなら謝ろう」

ほむら「違……、私は、泣いてなんか……」

 俺の謝罪に、ほむらはまるで駄々っ子のように首を振り、現実を拒絶する。
 しかし、彼女の目からは間違えようも無く、光るしずくが零れ落ちていた。
 困った俺は頭をかきながら、ほむらを見つめる。
  


岡部「……あ~。詫びと言っては何だが、これを受け取ってくれ」

 そうして差し出したのは、先程の弁当。
 ほむらの眼差しが一層きつくなる。

ほむら「要らないわよ」

 そう言って、またカップ麺を食べる作業に戻っていった。
 しかし、俺はしつこく弁当を勧める。

岡部「そのような事を言うな、毎日カップ麺では健康に悪いぞ?」

 俺の強引な勧めに、ほむらは苛立たしげに俺を見る。
 そこには、今までに見たことの無いような色。

 ―――― 憎悪……か?

ほむら「それは貴方が貰った物でしょ? それなら私になんか渡さず大人しく食べていなさいよ」

 きつめの口調で拒絶する。
 俺は溜息を吐いた。

岡部「……ブラウンファミリーはその所の事情を分かってくれないほど非常では無い。それに……」

 俺はほむらの方に弁当を差し出し、自分でもびっくりするほど穏やかな声で言った。

岡部「貴様、『こんなに美味しい』と言っていたよな?」

ほむら「……言って無いわ」


 仏頂面でほむらは否定する。
 だがしかし、俺はしっかり聞いていた。

岡部「……昨日、お祝い会で貴様は確かに言っていた。ミスターブラウンが『自分が出された食事を作っていた。』と言っていた後、貴様がしばし思考停止ていた時に、な……」

ほむら「ッ!!」

 サッと、見事なまで鮮やかにほむらの顔が朱に染まる。

ほむら「……」ギリ

 そして悔しそうな顔をした。
 最近は本当にコロコロ表情が変わるようになってきたな。

岡部「だから、な。貴様が受け取れ。返却は聞かん」

 俺はほむらに弁当を押し付けるとそそくさと食堂から出ていく。
 今日は昼食抜きでもいいだろう。
 たぶん。


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 岡部が去って行った後。ほむらは食堂で一人取り残されていた。
 
ほむら「これ、どうするのよ……」

 手に持っているのは岡部に渡された弁当。
 それをどうすればいいのか、ほむらには思いつかなかった。
 いや、思いつくことには思いつくのだが。
 その方法は、ほむらにとってかなり抵抗のあるものであった。

ほむら「捨てる?」

 しかし食べ物を捨てるのにも抵抗がある。
 さらに他人にあげるという選択肢もある。が

 ―――― これを受け取ってくれ。

ほむら「他人にあげるのも、なんだかね……」

 ほむらは無意識のうちに他人にあげるという選択肢を除外し、再度試行を始める。

ほむら「……やっぱり、食べるしかないの?」

 返そうとしても、きっと岡部は受け取らないだろう。
 ほむらは溜息を吐きながら弁当箱を開ける。

ほむら「随分と豪華ね……」

 弁当は二段構え、そして彩も良い和風弁当である。

ほむら「……イタダキマス」

 ぼそぼそと挨拶をし、ほむらは弁当を消化する作業にいそしんだ。


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 放課後;フードコート

 俺は今現在さやかの後を付けている。
 ものすごく怪しい絵面だが、いたって俺は健全である。

 絶賛全身打撲中のQβに代わり俺がさやかの監視をしているのであった。
 ちなみに尾行中はQβの提案により髭を剃り、髪を整えるなど、変装? とも言えなくもない事をしている。
 なのだが、

仁美「ずっと前から……私、上条恭介君の事、お慕いしてましたの」

さやか「……!?」

岡部(何だこの状況……)

 スイーツ(真)の状況に行き当たるとは聞いていないぞ。
 俺は耳を傾け、より音を聞き取れるようにする。
 尤も、そんな事しても俺に何ができるとも思えないが。

さやか「は、はは……、恭介の奴も隅に置けないね~」

 へらへらと笑い声をあげるさやか。
 しかし、それを見つめる仁美の目は真剣その物だった。

仁美「お二人は幼馴染でしたわね?」

さやか「んん? まあ、腐れ縁って言うかなんて言うか……」

 さやかが引きつった笑いと共に答える。
 仁美の目は変わらない。

岡部(幼馴染……か)

 その言葉には、俺にも思い入れがある。
 だが、俺が物思いに耽る間もなく、仁美は言葉を継いだ。

仁美「本当にそれだけ?」

 仁美の声が、俺とさやかの耳を打つ。


 仁美がさやかを、睨みつけるように見つめた。

仁美「私、決めたんですの」
 
 ―――― もう、自分に嘘を吐かない、って。

さやか「……」

 口を閉ざしたまま、さやかは何も語らない。
 仁美はそんな事はどうでもいいという様に、自分の言葉の続きを語った。

仁美「貴女はどうですか?」

 挑戦するように、仁美が問いかける。

仁美「さやかさん、あなた自身の本当の気持ちと――――」

 ―――― 向き合えますか?

さやか「な、何言ってるのさ……」

 戸惑うように、さやかは首を振る。
 仁美は一口、飲み物を飲むと溜息を吐いた。

仁美「……貴女は私の大切なお友達。だからこそ、正々堂々と戦いたいのですわ」

岡部(ちょ、ちょっと待て)

 俺は仁美の言葉を聞き、疑問に首を傾げる。

 さやかが、幼馴染に恋愛感情?
 マジなのか?


 普通幼馴染に恋愛感情とか……、有り得るのか?
 そんな疑問が俺を包む。

 しかし、仁美の言葉は俺を待ってくれない。

仁美「私は、明日の放課後に上条君に告白します。さやかさんは後悔なさらない様、しっかりと決めてください」

 ―――― 上条くんに、気持ちを伝えるのかどうか。

さやか「あ、あたしは……」

 さやかは動揺し、次の言葉を継げない。
 どうやら本当に、彼女は上条恭介への恋愛感情を持っているらしい。

仁美「それでは」

 仁美はさやかに一礼すると、そのままフードコートから出ていった。
 



岡部「タイミングが、悪すぎるな……」ボソ

 俺は誰にも聞こえないように呟く。
 本当にさやかが上条恭介に恋愛感情を持っているのなら、このタイミングの宣戦布告は彼女に余計なストレスを与えるかも知れない。
 勿論、仁美に罪は無いのだが、それでも空気というものを読んでほしい。
 
岡部「これは正直、俺一人の手に余るな……」

 スイーツ(真)の話題など、俺にとっては無縁の話題である。
 よって、俺以外の誰かの力誰かの協力を仰ぐ必要があるのだ。が

岡部「誰が良いのだ一体……?」

 俺の周りは、そのような話題に疎い者ばかりなのである。
 本当にどうしたらいいのだろうか。


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 夕方;マンション前

 仁美とさやかの会話から数時間後。
 俺はさやかの家の前にいる。
 ……前にもこんなことが無かったか?
 
岡部「……奴は必ず来る……」
 
 俺は人知れず呟く。
 さやかは必ず、今日も魔女探索をしようとするだろう。
 彼奴はそういう人間だ。

 だが、あくまで彼女は戦いの初心者だ。
 魔女と戦っている時、どうなってしまうか分からない。
 しかも仁美との件もある。
 もしかしたら、さやかは戦いに集中できないかも知れない。
 応援をすぐに呼べるよう、俺が彼女の傍に居てやらなければならない。
 なのだが

岡部「……クリムゾンの携帯番号、聞いていなかった……」
 
 そもそもアイツ、携帯など持っているのだろうか。
 まあ、最悪ほむらを呼べばいいのだが、さやかとアイツは仲悪いし……。
 
岡部「しかしいろいろ拗れるのも考え物……む? アレは……」

 色々と考えている俺の視界に入るのは、見慣れたピンク色の髪。
 鹿目まどかだ。

岡部「そうか、奴も……」


 俺は得心し、まどかの様子を見ていることにする。
 まどかは色々と鋭いので、俺の尾行がばれないか少し心配だが

 ―――― 大丈夫!! 君が本気出せば誰にもばれないから!!

 と、の様な事を言われたので信じることにする。
 ばれたら酷いぞ、Qβ。

 と、そこに自動ドアの開く音。
 慌てて俺は再度身を隠すと、ドアの方へ目を向けた。

 そこには、さやかの姿があった。
 さやかは直ぐにまどかの姿を見つけ、何事か話す。

 今現在、俺はドアから出て行くであろうさやかに見つからない為、自動ドアからかなり離れた場所にいる。
 その為、彼女たちの話が聞こえない。

岡部「……一体何を話しているのだ?」

 必死に耳を傾ける俺だが、彼女らの声らしきものは聞こえても、意味を理解することは出来なかった。
 
まどか「~~~~」

さやか「~~~~」

 まどかとさやかは何事か話している。

 そして、二言三言話すと、急に抱き合った。


 まあ、慰めとかそういうのなのだろう。
 だが、此処でQβかダルがいたら
 
 ―――― ウホッ、百合展開キタコレ!!

 とかなんとか言いそうな絵面である。
 
 しばらく抱き合っていた二人は、やがて身を話すと、また二言三言話す。
 そして、二人で歩きだした。

岡部「やはり、あの二人は仲がいいな……」

 俺は何処かその様子を見て、先程抱き合ったことすらも納得させられた。
 ……だからこそ、俺は不思議でたまらない。

 なぜ彼女が、

 ―――― 近いうち、美樹さやかは魔女になる。

 この世界に絶望してしまうのかが。

岡部「おっと、奴等を尾行しなければ」

 そこで俺は彼女たちを尾行していることを思いだす。
 俺は夜の闇に消えた彼女らを追う様に、闇の世界へ足を踏み出した。


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 鉄塔の上

岡部「魔女の結界に入られたか……」

 さやか達は、この場所に来ると、魔女の結界の中に入ってしまった。
 勿論俺も入っていいのだが、そうするとさやか達に尾行がばれてしまう可能性がある。
 それだけは避けたかった。

岡部「しかし、見ているだけとはやはり歯がゆいものがあるな……「ねぇ」

 苦々しげに魔女の結界を見つめている俺に、声がかかる。
 振り向くと、そこには黒い影。
 暁美ほむらである。

岡部「ああ、ザ・マリオネッツか。丁度良かった、貴様もこれを見ておいてくれ」

 俺は彼女の影に声をかける。
 しかし、彼女は返事をするどころか、微動だにしなかった。

岡部「? アイアンメイデン?」
 
 不思議に思った俺はもう一度問いかけた。
 二・三回ほど話しかけると、ようやくほむらから返事が返って来る。

ほむら「……岡部?」

 その声は、えらく疑心に満ちていた。

岡部「いや、なんだその反の「お~い」


 ほむらのおかしな態度に問い掛けをしようとしたとき、第三者にそれを遮られる。
 もちろん、この状況で話しかけてくる奴など、一人しかいない。
 佐倉杏子だ。

岡部「クリムゾンか。良かった、聞いてくれ。……アイアンメイデンがおかしいのだ」

 俺は杏子に向かって困りながら話しかける。
 が

杏子「え、と、……誰?」

 俺だと理解されなかった。
 ま、まあ暗闇だしな、仕方ない仕方ない。

岡部「オイオイ、クリムゾン。この俺の事を忘れたか?」

 そう言って杏子の方へ近づく。
 これでよく顔が見えるはずだ。
 しかし俺の予想に反し杏子は

杏子「……オッサン?」

 ほむらと全く同じことを言った。
 まさか、ほむらも俺の事が分からなかったのか?

岡部「ちょっと待て、ちょっと待て」

 もしかして、変装の効果か?
 だが変装と言っても、髪をおろして、髭を剃って、伊達メガネ掛けて、ユニクロで買った服に身を包んだだけだぞ?
 これなら芸能人の変装レベルではないか。
 まさかここまで効果があるとは思わなかった。


岡部「俺だ、鳳凰院だ。……今リリーの尾行をしていてな、変装中なのだ」

 メガネを外し、前髪を手で持ち上げ、ほむらや杏子が見えるようにする。
 すると二人は唖然とした顔になった。

杏子「え、マジで言ってんの?」

ほむら「貴方……。どこかの特殊部隊にいた?」

岡部「いや、俺もそこまで驚かれるとは思っていなかったぞ」

 変装というのにもおこがましいのに、此処まで俺だと気付かれなかったのには問題がある。
 俺はそこまで影が薄い人間ではない。

杏子「いやぁ、まさかオッサンだったとはね」

ほむら「……」

 ぼりぼりと頭をかく杏子に、無言のほむら。
 なんだか俺の存在を全否定された気になる。

 だが、今はそれどころではない。

岡部「まあいい、……リリーの戦いはまだ終わらないのか……?」

 俺は魔女の結界を見る。
 そこでは、未だにさやかが魔女と戦っていた。

杏子「ッチ。……手こずりやがって……」

 杏子の苛立った、しかしどこか心配するような声が、夜の闇に響いた。


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 《影の魔女》結界内


さやか「はぁ、はぁ……」

 さやかは肩で息を吐く。
 状況はあまり良くなかった。

さやか「やあああああああ!!」

 気合とともに魔女へ駈け出す。
 そこへ魔女の触手が襲いかかってきた。

さやか「ハッ!!」

 腕を力任せに振り、それらを叩き切る。
 荒々しく引き裂かれた魔女の一部は霧散していった。

 だが、切り裂いたのはあくまで一部。

さやか「!!」

 魔女の触手はさやかをまるでドームを作るかのように取り囲む。
 このままでは、逃げ道も無い。

さやか「舐めるなぁ!!」


 さやかは跳躍し、回転する。
 独楽のように回るさやかは、そのまま剣を突きだし、襲い掛かる触手を切り裂いた。

さやか「おああああぁあぁぁぁぁぁあ!!!!」

 障害を全て叩き切り、地面に降り立ったさやかはそのまま駆け出す。
 駆けだした勢いのまま、膝をたわめ、全力で地面を蹴る。

 ダンッ

 決して人間では出せないような音と共に、さやかは先程よりもさらに高く跳躍した。
 そのまま、魔女に向かい、墜落する。
 それは、まるで青く光る流星の様であった。
 
さやか「だぁあああぁぁああぁああああぁぁぁぁぁあ!!!!」

 声にはならない声を上げ、魔女へ一直線へ向かう。

 しかし、その刃が魔女に届くことは無かった。

さやか「……ッ!?」

 さやかは、魔女の髪から伸びた木のような何かに勢いを殺されていた。
 そのまま影の木は早送りをしたように急激な成長をする。

さやか「うわぁああぁ!!」

 異常な成長をする木に巻き込まれたさやかは苦しげな悲鳴を上げた。


まどか「さやかちゃん!!」

 まどかの悲鳴が虚空に響く。

 ―――― その時、世界が切り裂かれる。

まどか「!?」

さやか「!!」

 そこに現れた何者かは、空間ごと影の木を切り裂いた。
 
杏子「まったく……。見てらんねぇよ」

 そこに現れた何者か――――佐倉杏子は呆れたように呟く。
 杏子はさやかを抱えている。
 どうやら、魔女を切り裂いた刹那の間にさやかを助け出したらしい。

杏子「……いいからそこで見てなよ。アンタにはちょっと荷が重い」

 さやかを下がらせる様に杏子は言う。
 しかし、当のさやかは聞く耳を持たなかった。

さやか「邪魔しないで」

 何時もよりも、硬く、暗い言葉。
 杏子が気づいたとき、さやかはいつの間にか立ち上がっていた。


杏子「おい……」

 苛立ったように杏子は呻く。
 しかし、その言葉はさやかに届かない。

さやか「独りでやれる」

 それだけ言うと、さやかは再び魔女へ向かい駈け出す。

さやか「あああぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁ!!」

 獣のような声を上げ、さやかは魔女の元へ駆ける。
 一息の間にさやかは魔女へ肉薄すると、そのまま魔女の首を叩き切った。

 しかし、それで魔女の触手が止まることは無かった。
 竜の様な触手は、さやかに襲い掛かり、その肉を喰らう。

まどか「さやかちゃん!?」

杏子「……畜生!!」

 まどかと杏子が一様にさやかを心配する声を上げる。
 だが

さやか「あはっ」

 奇妙な笑い声をあげ、さやかは陽炎のように立ち上がった。


杏子「!! ……止めろ!!」

 杏子は何かに気付いたように声を上げる。
 しかし、やはりさやかには届かない。

さやか「あはっ、あははははははははははは……」

 狂ったように笑い、魔女の元へ向かう。
 当然のごとく、魔女の触手はさやかに向かい襲い掛かる。
 そして、さやかを貫いた。

さやか「あははははははははははははははははははは」

 それでも、さやかは笑いを止めない。
 壊れたラジオの様にノイズを吐き出す。
 そのまま、触手を切り裂く。

 切られた触手に続き、無数の触手がさやかを襲う。
 だが、さやかに全てきり裂かれていく。

 盤上は、今までが嘘のようにさやかの優勢となる。
 
 それは別に、さやかの速度が上がったとか、窮地に力が覚醒したとか、そのような物ではない。

 ただ、さやかが戦い方を変えただけ。

さやか「あははははははははははははははははははははははは」

 魔女の攻撃を避けることなく、避けるための時間を魔女を殺すために使い始めただけ。


 血だらけになったさやかは、魔女の上に降り立つ。
 そしてそのまま、剣を無造作に魔女へ叩き付ける。

 ズン ガン

さやか「本当だァ……」

 うっとりと呟く。

 ガンガンガンガン

さやか「そノ気になれバ、痛みナンテ……」

 ガンガンガンガンガンガンガンガン

さやか「あはっ♪ あははははははははははははははははははははははははは」

 狂ったように、いや、狂いながら笑い、言った。

さやか「完全ニ消しちゃエルんダァ……」

 あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
  ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
  ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
  ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは















 それを見ていたまどかは、懇願するように呟く。

まどか「もう、やめてよ……」

 尤も、さやかにはもちろんの事、届かないが。

 以上で今回の投下を終了します。

 中々原作から乖離できない……

 次回はいよいよ原作第8話
 出来るだけ原作とは違った展開にしていきたいです。

 ところで、自分で書いていて思ったのですが
 髪おろし髭剃り伊達メガネユニクロオカリンってもはや外見上別キャラじゃ……
 ……考えないことにしよう。

 それでは長文失礼しました。
 応援してくれる皆様に感謝を。
 お休みなさい。
   

 こんばんは、9;30には投下したいと思います。


 第18話;《悲しみに満ちた世界を変えられますか?》



さやか「くひっ、くひひひひひひひひひひひひひひひひ」

 魔女の殺害を終えたさやかが、最後の余韻を噛みしめる様に、笑う。
 
さやか「ひひっ、やり方さえ分かっちゃえば、随分と簡単なもんだね。……これなら負ける気がしないわ」

 ―――― 世界がひび割れる。

 主を失った世界は形を保てなくなり、バラバラに崩れて行った。
 いつの間にか、少女達はビルの屋上に立っていた。

さやか「あげるよ。そいつが目当てなんでしょ?」ヒュンッ

 さやかは乱暴にグリーフシードを杏子へ投げる。
 グリーフシードを受け取った杏子は、僅かに目を細めた。

杏子「おい……」

 何かを言いたげに口を開く。
 だが、それをかき消すようにさやかの声が響く。

さやか「アンタに借りは作らない。だからこれでチャラ。良い?」

 そう囁くと、まどかを連れて屋上を去ろうとする。
 だが

 パアァァァ

 突如、さやかの変身が解ける。
 そしてそのまま、さやかは足をもつらせ、体勢を崩した。


まどか「さやかちゃん!?」

 まどかは悲鳴をあげ、倒れこんださやかを支えた。
 
さやか「あー、ごめん。ちょっと疲れちゃったみたい」

 力の無いさやかの言葉。
 それを聞いただけで、まどかの顔が苦しげに歪む。
 そして、優しくさやかに語りかけた。

まどか「無理しないで……、捕まって」

 二人の少女は、寄り添うようにして屋上から出て行く。
 それを見ていた杏子は、顔を歪め、魔女の遺産を握る手に力を込めた。

杏子「あの、馬鹿……」

 しかし、小さく呟いた言葉は、誰にも届くことは無かった。


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 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 バス停

まどか「もう止めてよ……、さやかちゃん……」

 まどかはさやかに向かい、懇願する。
 辺りには大雨が降っていた。

まどか「あんな戦い方、酷いよ……」

さやか「……」

 さやかが答えることは無い。
 そもそも、まどかの声が届いているのかすら、まどかには分からない。
 それでも、まどかは言葉を紡いだ。

まどか「感じないから、傷ついて良いなんて、そんなの駄目だよ……」

 まどかの言葉に、さやかはピクリと体を動かす。
 そして、静かに呟いた。

さやか「ああでもしないと勝てないんだよ。アタシ、才能無いからさ」

 自暴自棄ともいえるさやかの言葉に、まどかの胸は激しく痛む。
 気付けば、勝手にまどかは反論していた。

まどか「それでも、あんなやり方、さやかちゃんの為にならないよ……」

さやか「……あたしの為って、何?」

 答えるさやかの声は、何時にもなく冷え、固まっていた。


まどか「えっ?」

 自分に向けられる言葉。
 そこに、普段ならば込められることの無い感情。
 それに、まどかは対応できない。

 さやかはそんなまどかを後目に、手を懐に入れる。
 そうして取り出したのは、蒼く光る、ソウルジェム。

さやか「岡部先生はさ、言ってたよ」

 ポツリと、呟く。

 ―――― あたし達は人間だって。

さやか「笑っちゃうと思わない?」

 自嘲気味に、さやかは唇の端を上げた。

さやか「ソウルジェムは、延命装置のようなものだって言ってたんだ。あの人は」

 ―――― だから私たちは人間なんだってさ。

 そう言うさやかだが、その顔は自らの言葉を信じているようには見えない。
 さやかは、自分の奥底に溜まった泥を吐き出すように呟く。

さやか「でもそれってさ」

 ―――― あたしはとっくの昔に、こんな物に頼らなきゃ、生きていけなくなったって訳だよね?


まどか「違うよ……」

 まどかには、岡部がどのような意味を込めたにしろ、さやかに向かって言った言葉が、さやかを追い詰めるために言われたとはどうしても思えない。
 しかし、さやかはその意味を曲解し、自ら己の首を絞めている。
 さやかの親友であるまどかには、見過ごすことのできないことだった。

 ただ、やはり、と言うべきか。
 まどかの言葉は、さやかに届くことは無いのだ。

さやか「……あたし達は、負け組なんだよ」

 ボソリと、吐き出された言葉。
 それは、形容しがたい感情に彩られていた。

まどか「え?」

さやか「だってさ、思わない?」

 ―――― この世界はとんでもなく不平等だ、って。

 絞り出されるさやかの言葉。

さやか「考えても見てよ」

 ―――― 誰かのために戦い続けたマミさんは、何も報われずに死んだ。

さやか「あの転校生は、生きているって言うのに」

 ―――― アタシ達の為に色々がんばってる岡部先生の頑張りが報われたことなんて一度も無い。

さやか「それは岡部先生に力が無いからなんだろうね」

 ―――― そして恭介の腕の為に魔法少女になったあたしは、どうなってる?

さやか「全て仁美に掻っ攫われようとしてるんだ」


 吐き出すように語られるさやかの言葉は、周囲を包む闇よりも暗く、
 降り注ぐ雨よりも冷たい様にまどかは感じた。

まどか「さやかちゃん……」

さやか「負け組ってのは、そういう事だよ」

 ―――― 何もできないのに、力が無いのに、価値が無いのに、何かをしようとする。

 自嘲気味に吐き出される言葉。
 
さやか「あたし達は皆、分不相応な願いを持ったんだ」

 ―――― そんな願い、本当なら叶えられないはずなのにね。

 さやかは何がおかしいのか、口の端を僅かに歪めた。
 本当に狂ってしまったのか、それとも、辛いのを無理やり隠しているのか。
 親友のまどかにさえ、分からない。

さやか「叶える事の出来ない岡部先生は、身を削り続けて何かを成そうとしている」

 ―――― それでも何かを成すには全く足りないのに。

さやか「一方、ズルして願いを叶えたあたし達は、その代償を払い続けているの」

 ―――― 一生をかけてね。


さやか「分かる? たとえ魔法少女の本体が、こんな石ころじゃなくても」

 ―――― あたし達は、身に背負った借金を、一生をかけて返し続ける機械に成り下がっちゃったんだよ。

 あはははははとさやかは笑う。
 さやかの口元は三日月の様に歪んでいる。
 だが、まどかには、その目が悲しげに光っていたように見えた。
 どちらが真実なのか、それはさやかにですら分からない。

さやか「あたしの願いは、恭介に知られることは無いんだ」

 ―――― 誰にも知られない奇跡の代償を、一生かけて払うんだ。

さやか「ズルは一回きり、だから、あたしはもう何もできない」
        アタシ           アシタ
 ―――― 明日に希望は無いし、あたしに価値は無い。

 そう言って、さやかは手元のソウルジェムを睨む。

さやか「こんなのが無いと生きられない体にされて、一生化け物を、毎回死にそうになりながら、殺す羽目になって」

 ―――― あたしってもう、救いようがないんだよ。

まどか「ッ!! そんな事無いよ!!」

 まどかはさやかに反論する。

さやか「じゃあ、アンタが救ってくれるの?」

 さやかは、今までにないほどの怒りで、顔を強張らせた。


 心の中に隠しておけないほど濁りを、さやかは無二の親友に向かって吐き出す。
 彼女の怒りは、既に彼女一人では止められないほど膨張していた。

さやか「QBから聞いたよ。アンタ、誰よりも才能があるんでしょ?」

 ―――― いいよねぇ!! 勝ち組でさ!!

 吐き捨てるようにさやかが言う。
 さやかは怒りに任せ、言葉の暴力を続けた。

さやか「あたしみたいに、人生の全てをかけて魔女を殺さなくていいんだ」
 
 ―――― あたしなんかより、ずっと早く、効率的に魔女を殺せるんでしょ!?

 言葉は槍となり、まどかに突き刺さっていく。
 まどかは耐えられず、思わず目を伏せた。

まどか「私は……そんな……」

さやか「あたしを救いたいって言うんなら。まずはあたしと同じ立場になってみなよ!!」

 ―――― 救いようの無い、負け組にさ!!

 さやかは蔑む様な目でまどかを見た。

さやか「無理でしょ? 当然だよね」

 ―――― これまでも、これからも、満たされてきたアンタが、いきなり全てを失えって言われて、出来る訳無いもんね!!


さやか「ただの同情で、そんなことできる訳無いもんね!!」

まどか「同情なんて、そんな……」

 さやかの言葉を否定しようと、まどかは口を開こうとする。
 しかし、さやかはまどかを睨みつけ、口を閉じさせた。

さやか「何でもできる癖に、何もしようとしないアンタが、知ったような口を開かないで」

 ―――― あたし達を、理解した様な事を言わないで。

 睨みつける目は、これまでに無いほど濁る。
 怒りの篭もった口調とは裏腹に、顔には何の表情も浮かんではいなかった。

まどか「……」

 友人の怒りに、口を開くことのできないまどか。
 さやかはまどかを後目に、雨の降りしきる街へ足を踏み出す。

 バシャッと言う水の音が、嫌に重く感じた。

まどか「さやかちゃん!!」

 まどかは慌ててさやかに呼びかける。
 しかし

さやか「付いてこないで!!」

 それはさやかに拒絶された。

まどか「え……?」

 今までにない、明確な拒絶に、しばしまどかの思考が止まる。
 そんな隙を縫うように、さやかは駈け出して去って行ってしまう。


 ただ、まどかの心は折れなかった。
 まどかは、さやかを追いかける。

まどか「待って!! ……うぅ!!」

 だが、さやかを追いかけようと走り出そうとしたまどかだが、水溜りに滑り、転んでしまった。
 水が跳ね、まどかは泥だらけになってしまう。

まどか「待って、待ってよ!! さやかちゃん!!」

 まどかはそれでもさやかを引き留めようと、必死に声を出す。
 だが、既にさやかはまどかの声が届かないところまで行ってしまった。
 まどかは立ち上がり、再度さやかを追いかけようとする。
 だが

???「……あとは俺に任せておけ」

 それは、一つの声によって止められた。

まどか「ぇ……」

 まどかは驚きと共に、声のした方を向く。
 其処に居たのは

岡部「貴様は家に帰っていろ。アイツは俺が如何にかする」

 まどかに傘を差し出し

 さやかの走り去った方を、強い目で追いかけている

 全身を黒を基調としたセンスのいい服で身を包んだ

 メガネをかけた男

 岡部倫太郎が其処に居た。

まどか「岡部……先生?」

岡部「そうだ」

 岡部はまどかの問いに、柔らかにほほ笑む。
 そしてまどかに傘を押し付けると、そのままさやかを追いかけて行った。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 さやかは雨の中を駆ける。

さやか「馬鹿だよ、あたし。……なんてこと言ってんだろ」

 降りしきる雨は、まるでさやかを責めたてる様だ。
 さやかはその中を、ただ一直線に駆ける。
 その目には、涙が光っていた。

さやか「もう、救いようがないよ……」

 心が濁っていく気がした。
 全てが澱んでいく気がした。
 それらに耐えきれず、ついにさやかは立ち止まってしまう。

さやか「……ッ!! ハァ、ハァ、ハァ」

 魔法少女に変身していないさやかの体は、必死に酸素を求めていた。
 満身創痍のさやかは、それでも走り出そうとする。
 が

岡部「待て!!」

 男に腕を掴まれる。

さやか「!! 何よ!!」

 混乱しているさやかは岡部を認識できない。
 岡部はさやかの抗議を遮るように叫んだ。

岡部「貴様はそれでいいのか!! 親友すらも拒絶して!! それで!!」

 岡部の絶叫。
 その言葉を聞いたとき、さやかの中で何かが折れた。

さやか「……!! ハァ、ハァ、ハァ……ッ!!」

 苦しげに息をする。
 さやかの視界は、既に過呼吸により薄暗くなり始めていた。

岡部「おい!! さやか!!」

 男の呼びかけも聞こえず、さやかの意識は闇に消えて行った。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 翌日


さやか「……んっ」

 まだ日が出たばかりの、早い時刻。
 朝焼けの光に照らされ、さやかの意識は覚醒する。
 そろりと目を開け、周りを確認する。

さやか「……ここ、何処?」

 見慣れない部屋に、まだぼんやりとしているさやかの意識は反応できず、間の抜けた声を出す。
 しかし、直ぐに完全に目を覚ますことになる。

さやか「何……これ?」

 見慣れない部屋には、異常な風景が広がっていた。

 それは、無数に積まれた電子レンジ。
 そしてその全てが原形をとどめていなかった。
 何か余分なパーツを付けられ、積み立てられている。

さやか「何、電子レンジ……って!!!!?!!!」

 異常な光景、前後左右全ての方向に積まれている電子レンジを見回していたさやかは、不意にある物を発見する。
 それは、既に、麻痺しかけていたさやかの思考に完全に止めを刺すものであった。

 それは

岡部「……」

 床に眠りこける岡部と

杏子「……うひゃひゃ、オッサン。もうくえねぇよ……」

 よく分からない寝言を言っている杏子だった。

さやか「ええええぇえええぇぇぇぇぇぇえええ!!?」


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さやか「うえおあおいえおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」

岡部「お?」

 朝っぱらから俺はさやかに叩き起こされた。
 しかもよく分からない絶叫と共にである。
 さらにさやかは顔を赤くしたり白くしたり青くしたりしている。
 なんだか異常な空気だけが伝わって来る。

さやか「お、岡部先生!?」

岡部「そうだが?」

 当たり前のことを聞くさやか。
 そんなに混乱しているのか。

杏子「なんだようっせえな……」

 さやかの絶叫に同じく杏子も起こされたようだ。
 朝には弱いのか、少し不機嫌そうである。

岡部「おお、やっと起きたか」

 俺は杏子に挨拶をする。
 だが

杏子「……誰?」

岡部「俺だ!!」

 またこのネタか。
 そこまで普通の格好をした俺は変か。


杏子「あ~、いや、ハハ、ごめんごめん。改めてみると、な」
 
 特に謝罪の感情も無く、ぬけぬけと言って来る。
 昨日からこの件で俺のライフはガリガリと削られているのに、だ。

岡部「フン、貴様、この俺に対する敬意が足りないのではないか? スカーレットなどはこの俺に即座に気付いたというのに」

 昨日、まどかが俺の事を分かってくれたというのは、実は俺にとって密かな喜びなのであった。
 昨日からまどかへの好感度はうなぎのぼりである。

さやか「ちょ、あたしを無視しないでよ……」

 そこにさやかの弱々しい声が響く。
 
岡部「ああ、済まないなリリー。あの時、貴様が倒れたのでな。勝手に俺の部屋に連れてきてしまった。済まない」

さやか「いや、別にいいで……いや良くないけど。それより、なんでアイツが?」

 そう言ってさやかは杏子を睨む。
 杏子は肩をすくめた。

杏子「オッサンに呼ばれた」

岡部「それ以外にもっと言い方があるのではないか?」

 俺は杏子の言葉に反応すると、さやかの方を再度向いた。

岡部「貴様はずぶ濡れだったのでな。クリムゾンに服を乾かしてもらった」

 魔法を使えば一瞬なのだ。
 魔法と言う腐っても神秘の最上級に位置するものを乾燥機代わりに使うのもどうかと思うが考えないことにする。


杏子「たくっ、魔法少女にこんな事させんじゃねぇよ……」

 ブツブツと杏子が抗議の声を上げるが、聞こえないことにする。
 俺もそう思っているのだ。
 でも仕方が無かったではないか。

さやか「……」

 さやかはあーだこーだ言いあう俺と杏子を無言で見つめている。
 その顔は険しい。

岡部「まあいい、朝飯にでもしよう。大したものは出来ないが、な」

 俺はそれを振り払うように、努めて明るく二人に話しかけた。


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杏子「うまい!!」

さやか「……」

 テーテッテレーという効果音が出そうなコメントをしている杏子。
 それに対し、さやかは無言だ。

岡部「と言っても。俺はこれしか作れないからな」

 俺が朝食として出したのはイギリスの代表的な朝食。
 飯マズ国として有名なイギリスだが、どうしてか朝食はうまい。
 どこかの誰か曰く、『イギリスで美味い物を食べたければ三食朝飯を食べろ』らしい。

杏子「でも料理できたんだな」

岡部「まあな」
    
 俺は、テーブルの上に広がる料理を見る。
 
 ―――― これは、遺産だ。

 たった一人で死んでいった彼女の、残した僅かな遺産。
 俺は忘れない。
 彼女と過ごした日々を、心に楔として打ち込んでおこう。

 ―――― いつか、全てが、救われる日まで。

さやか「……何でもう一つ、皿が載ってんですか?」

 さやかが突然疑問を俺にぶつける。
 おっと、忘れるところだった。

岡部「そろそろ奴を起こさなければ、な」


 俺はそういうと、部屋の隅にある籠に目を向ける。

岡部「Qβ、朝だ」

Qβ『お早うリア充』

 ふざけたことを言いながらムクリと起きてきた。
 と言うか、起きていたのか?

Qβ『杏子が『オッサン……もうくえねぇよ……』とか言いながら女の子らしくない仕草で腹をかいていた当りから』

杏子「詳細に言うんじゃねぇよ!! つうか何でテメェが此処にいるんだよ!?」

Qβ『僕が鳳凰院Qβだからじゃないかな?』

杏子「意味わかんねぇ……」

 杏子が顔を真っ赤にしながら抗議をする。
 しかし、そんな声にもQβはどこ吹く風で食卓に着くと、そのまま朝食をむさぼった。

Qβ『おかわりは?』

岡部「無い」

Qβ『マジか』

岡部「マジだ」

 そんなごくありふれた、日常の一コマと共に、時間は流れていく。

 ―――― 取り返しのつかない、終焉へと。


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 岡部はこれから学校があるらしく、何時もの見慣れたスーツ姿になると出かけて行った。
 よって、現在岡部宅にはさやかと杏子、そしてQβがいる訳、なのだが。

さやか「……」

杏子「……」

Qβ(オウフッ、これは堪えるでござる)

 空気が最悪だった。
 杏子とさやかは対立とまではいかなくなったが、それでも確執がある。
 それは岡部によって中和されていた訳だが、彼がいなくなると、途端に二人の間の空気は悪くなってしまうのだ。
 さらに、もともと知り合いとはいえQβは杏子とさやかとあまり交流が無い。
 
 よって岡部の代わりにはなりえないのである。

Qβ(え、何? 凶真がいなくなっただけでこんな空気になるの? つーか何で凶真学校に行ったの? 馬鹿なの? 死ぬの?)

 今ここには居ない岡部を呪う。
 ただ、岡部は鹿目まどかの監視もかねて学校に行っている訳で。
 それをQβが責めることは出来ないのであった。

杏子「……なぁ」

 最悪の空気を見かねた杏子がQβに向かう。

杏子「お前とオッサン、どういう関係な訳?」


Qβ『は?』
 
 最初、Qβは杏子の質問の意味が分からなかった。
 そんなQβの反応に苛立ったのか、杏子が語気を強めてつづけた。

杏子「だから、テメェは何者で、オッサンと何でツルんでるんだ?」

 杏子がQβを睨みつける。

Qβ『何でって、僕は鳳凰院Q「はぐらかすんじゃねぇ」』

 厨二病で杏子の質問を乗り切ろうとしたが、あっけなく沈没。
 仕方なく、Qβはこの茶番に付き合う事にする。

Qβ『……昔ね、女の子がいたんだよ』

 尤も、その茶番は限りなく無益で、誰かの深い部分を抉るだけのものだが。
 
Qβ『まあ、その女の子は優しくてさ、弱かったんだよ』

 ―――― そんなその子は、ある時お婆ちゃんを亡くしちゃったんだ。

杏子「……」

さやか「……」

 いきなり始まったQβの懺悔にも見える独白。
 杏子は口を挟めず、いつの間にかさやかも聞き入っていた。
 Qβは続ける。


Qβ『まあ僕はその頃可愛げもなんの力も無い、無個性なQBの一人だった訳だけどさ』

 ―――― 僕は、その子と契約したかったんだ。

杏子「……」

 僅かに、杏子の顔が強張る。
 それでも、Qβは続けた。

Qβ『と言ってもね? 彼女は当時何の魔法少女の才能も無く、僕の事も見えなかった』

 ―――― 彼女はずっと、自分の殻に閉じこもっていた。

さやか「ちょっと待ってよ。魔法少女の才能が無いならアンタは何で……」

 Qβは意図的に無視する。

Qβ『毎日毎日、お婆ちゃんの墓に来て、ずっとお祈りしていたんだ』

 ―――― 僕はそれを、ずっと見ていた。

Qβ『まあ、僕だけじゃなく。彼女の傍で、ずっと彼女を見ていた騎士様もいたんだけどね』

 ―――― まあいいや、それでさ、ある時、突然彼女に魔法少女としての才能が出来たんだよ。

杏子「何?」

 Qβの言葉に、杏子は訝しげな顔をする。
 Qβは穏やかな口調で答えた。

Qβ『本当に不思議なんだ。あの時の事は今でも覚えてる』

 ―――― 空から光が舞い降りて、世界は反転したんだ。


Qβ『僕は嬉々として彼女と契約した』

 ―――― 彼女のお婆ちゃんを、生き返らせたんだ。

杏子「!?」

さやか「……!?」

 杏子とさやかは戦慄する。
 あまりにも突拍子の無い話に、さやかは困惑し、杏子は驚愕した。
 ただ、それだけでも分かることがある。

 彼女は

 Qβと契約したという彼女は

 この世界のルールを

 捻じ曲げたのだ。

杏子「そいつは、そんなに、才能があったのか?」

 震える唇を開く。
 聖職者の娘であった杏子としては、それはあまりにも罪深く、許されない行為に思えた。
 
Qβ『僕も驚いたさ。でも彼女は、本当に、いきなりそこまでの力を手に入れたんだ』

 ―――― そして彼女は強くなった。同時に、彼女の騎士様は彼女に自分は不要と考えたらしく、いなくなっちゃったけどね。


Qβ『そうして彼女は戦い続けたんだ。自分の願いの代償を払うために』

さやか「……!!」

 さやかは僅かに身を強張らせる。
 昨日の自分が言っていたことと、似たようなことをQβが言っていたからだ。

Qβ『……とにかく彼女は戦って、戦って、戦って』

 ―――― 死んだ。

杏子「!!」

さやか「!!」

 何でもないようなQβの口調。しかしそこには、隠しきれない悔恨があった。

Qβ『彼女が死んだとき、心にぽっかりと穴が開いたようだった。死にたくなった。生きていたくなかった』

さやか「……アンタに心なんて物ががあるの?」

 苛立だしげに吐かれるさやかの皮肉めいた言葉。
 Qβは自嘲気味に返した。

Qβ『疾患者、って僕は他のQBどもから言われているよ』

 ―――― 本来ならあり得ないものを、僕は彼女との日々の中で手に入れたんだ。


Qβ『まあ結局僕は、色々あって死なないで秋葉原の魔法少女と組んで、魔法少女を守るための活動をしてきたんだ』

 ―――― もう、彼女のような被害者は生み出したくなかったから。

Qβ『そしてある日、僕は出会った』

 ―――― 彼女の、騎士だった男に。

Qβ『君たちも良く知っているだろう?』

 ―――― 鳳凰院 凶真を。

さやか「……岡部先生の事?」

 さやかの疑問に、Qβは頷く。

Qβ『そうだよ。……僕と出会った凶真は、未だに彼女の事を救おうとしていた』

 ―――― 絶望に満ちている世界を、変えようとしていたんだ。

Qβ『それでなんやかんやあって、僕は今、凶真と一緒にいる』

杏子「なんやかんやって一番重要なとこじゃねぇか?」

Qβ『そうかもね』

 Qβは杏子の追及を飄々と躱す。
 その声には、何時もの調子が戻っていた。


さやか「アンタは……」

 黙っていたさやかが口を開く。

さやか「だから契約を、止めようとしていたの?」

Qβ『……質問の意味が分からないよ』

 惚けた答えを返すQβを、さやかはこわばった顔で見つめる。

さやか「その女の子が死んじゃったから、アンタはあたし達の契約を執拗に止めようとしていたの?」

Qβ『……その質問には、yesとも言えるし、noとも言えるよ?』

 さやかの質問を、Qβは曖昧な言葉で返す。
 その態度に、杏子はQβを追及する。

杏子「それってどういうことだ?」

Qβ『昔の僕だったら、その答えはyesだという事さ』

 どこか含みのあるQβの答え。
 首を傾げる杏子を余所に、さやかは質問の続きをする。

さやか「じゃあ今はどう思ってんのよ」

 その言葉に、Qβは、少し沈黙した後。

Qβ『昔の僕は、後悔していたんだ』

 ―――― 彼女を失ってしまったことを。


Qβ『だから僕は、彼女に続く犠牲者を作りたくなかった』

 ―――― それが彼女への償いだと、信じ続けてね。

 そこで、Qβはやれやれと、自嘲を込めた溜息を吐く。
 それが、さやかを無償に苛立たせる。

さやか「……答えになってない」

 先程よりも怒りを込め、さやかはQβを睨む。
 Qβは、今度こそ疲れたような溜息を吐いた。

Qβ『結局ね、僕は間違っていたんだよ』

 ―――― 僕は、赤の他人の為に戦えるほど、いい奴じゃなかったんだ。

Qβ『現に、僕の心は凶真と会った時にはもう、折れそうだったんだ』

 ―――― でも、それを救ってくれたのは、他ならぬ凶真だったんだ。

Qβ『彼は自信満々で、大馬鹿で、危ういけどさ。彼の言葉を聞いたとき、思ったんだ』

 ―――― ああ、僕は、他の誰でもなく、『彼女』を救いたかったんだってね。

 そこでQβは一旦言葉を切る。
 さやかは、その間を塞ぐ様に話しかける。

さやか「……じゃあ、何であたし達を契約から守ろうとしたわけ?」


 その『彼女』とやらを救いたかったQβからすれば、自分たちはもう救わなくていい存在だ。
 ならば、何故?
 疑問がさやかの中を駆け抜ける。
 それに対する、Qβの答えは簡潔だった。

Qβ『簡単だよ。君たちがもし死んだりしたら』

 ―――― 凶真が悲しむじゃないか。

さやか「……!?」

杏子「……へぇ」

 予想外の返答に、しばしさやかの思考は止まる。
 だが、Qβは言葉を止めない。

Qβ『凶真が悲しむの事を、僕は望まない。ただそれだけだよ』

 Qβはさやかを見た。
 そこには、さやかには理解しがたい光が浮かんでいた。

Qβ『僕はね、きっと、凶真と『彼女』の事が大好きなんだよ。そして、とんでもなく利己的なんだ』

 ―――― 彼が悲しむと、僕の心はとんでもなく痛くなる。

Qβ『僕はその痛みが大嫌いだ。だから僕は』

 ―――― 凶真を助けたい。そして、『彼女』を助けたいんだ。


 そこまで言うと、ふと、Qβの瞳が細められる。

Qβ『さやか、君に昔『偽善は身を滅ぼすよ?』と言ったね?』

さやか「え、あ……うん」

 いきなりの問い掛けに、険しい顔をしていたさやかも戸惑った。

Qβ『あの時、僕はこう言いたかったんだ』

 ―――― 独善の無い救済を続けたら、きっと君の心は折れてしまう、とね。

さやか「……独善の無い、救済?」

Qβ『そうだよ、君の行為には、独善が無い』

 ―――― あまりにも英雄的すぎる、と言い換えてもいい。

Qβ『救済とは、他人を一方的に救う行為じゃない。そんな事を続けられる人間なんていないんだ』

 ―――― だから、他人を救う事で、自らの心が満たされなければならないんだよ。

Qβ『僕達は、それを念頭に置いている』

 ―――― だから、『救済』を続けられているんだ。


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Qβ『……』

杏子「……」

さやか「……」

 Qβの話が終わってから、しばらく誰も話さなかった。
 部屋には再び、重い沈黙。
 そこに、クックッと笑い声が上がる。
 驚いた杏子が声のした方を見ると、そこには顔を歪ませて笑うさやかがいた。

さやか「……成程、あたしは、アンタ達よりも負け組って、事か」

 彼女の瞳は、もはや光を映していなかった。

杏子「……」

 杏子はそれを心配そうに見守るも、ただ、見ていることしかできない。
 Qβは、さやかの言葉を、鼻で笑った。

Qβ『負け組? 君が? 下らないね』

 その言葉に、さやかの顔が怒りで染まる。

さやか「だってそうじゃん!! あたしは、アンタ達のような真似が出来ない!! 人外のアンタにですら劣ってるのよ!?」

 叫ぶさやかを、Qβは冷ややかな目で見る。
 そして呟く。

Qβ『素晴らしいじゃないか』

 ―――― 失う悲しみを理解できないってことは

Qβ『まだ誰も、失っていないっていう事なんだから』
 
 その声は、ひどく悲しそうだった。

 以上で今日の投下を終わりにします。

 ……何かホントもう、即興で掻き上げると雑なこと雑なこと。
 書きだめはしっかりしようと思う回でした。

 今回はQβの救済理論。
 まあ、これが正しいとは思いませんが。
 それでもそう思わなくちゃやってられない訳で。

 あとオカリンがいない時の3人荒みすぎだろ……。
 いかにオカリンの存在が偉大だかわかる回でした。

 次回はそろそろ運命の分岐。
 原作以上に狂ってしまった彼女が手に入れるものとは何か。

 それでは、応援してくれる皆様に感謝を
 お休みなさい

 ……書きだめはしっかり書こう。うん。

 お久しぶりです。
 10;15ほどに投下したいと思います。


 第19話;《……驚きました》



杏子「あ、お帰り」

さやか「……」

 俺が自宅に帰るとそこには、杏子とさやかがいた。
 正確には下のブラウン管工房の店番をしていた。
 俺は杏子に声をかける。

岡部「今日はいくつ売れた?」

杏子「いや、アタシもバイト二日目だから何とも言えないけどさ……」
 
 杏子が困った様な顔をする。
 どうやら売り上げは芳しくないらしいな。
 まあ、もはやブラウン管テレビなど時代遅れの骨董品もいいところだ。
 今時買いに来る方もおかしい。

岡部「まあいい。ミスターブラウンは店を開けていることが多いからな、店番をするだけでも御の字だろう」

杏子「いや、まあ、そうなんだろうけど……。良いのか?」

岡部「? 何がだ?」

 俺は、ポリポリと頭をかく杏子を見つめた。

杏子「いや、この店の警備は大丈夫なのかな~って」

岡部「貴様が居るではないか」

杏子「だから、アタシが盗人とかだったらどうすんのかなって」

 何だ、そんな事か。
 そんな事、答えるまでも無いだろう。

岡部「要るか? ブラウン管」クク

杏子「要らない」ハハ

 下らない事で笑いあう俺達。
 そこに、声が飛びこむ。

さやか「……何で、そんなに仲がいいのよ」


岡部「?」

 突然かけられた言葉に、俺は疑問符を浮かべる。
 さやかは続けた。

さやか「何で、岡部先生は、コイツとそんなに仲良く、話していられるの?」

 ―――― 腕を、切られたのに。

 ああ、そういう事か。
 俺はさやかの態度に納得する。
 コイツも、この前の杏子と同じなのだ。
 同じ話をしなければならないとは、なんとも面倒だな。

岡部「……クリムゾンとはもう、仲間だ。それに、貴様が治してくれたしな」

 俺は肩をすくめ、自分の腕を見る。
 そこには傷一つ無い。
 傷が無ければ、それでいいではないか。

 俺の答えに、さやかはどこか得心した様子で呟いた。

さやか「……そうか、そうだよね」

 ―――― 岡部先生なら、そう言うに決まってたよね。

岡部「リリー……?」

 俺はさやかの顔を覗き見る。
 さやかの顔には、怒りで歪んでいるわけでもなく、悲しみに押しつぶされているわけでもなく、
 ただ、鬱々とした『諦観』の無表情があった。

さやか「……あ~、あたし、そろそろ帰ります」

 不意に、さやかがポツリと言った。
 そのまま、踵を返し、ここから去ろうとする。


岡部「……待て」

 俺は去ろうとするさやかを引き留めようとした。
 だが

さやか「……もう、大丈夫ですよ。無茶な戦いはしません。約束します」

 俺は立ち止まる。
 さやかの瞳に射すくめられた俺は、動くことができない。
 
岡部「おい……リリー」
 
 俺はやっとの事で口を開く。
 しかし

さやか「少し、一人にして下さい」

 そう言って、さやかは駈け出して行ってしまう。
 俺は杏子と供にさやかに取り残された。

 俺は手を顎に当て、一人思考にふける。

岡部(一人にしてください……か)

 確かに、この場合は彼女を一人にした方が良いのかもしれない。
 きっと、ゆっくりと、気持ちの整理を付けさせた方が良いのだろう。
 だが

 ―――― 時間は、余り無い。

岡部「やはり、行かなければ」

 突然走り出した俺に驚いた杏子は、俺に向かって叫ぶ。

杏子「……オッサン!?」

岡部「奴を追って来る。 貴様はここに居ろ!!」

 俺は杏子を安心させるように、叫び返すと、そのままさやかを追いかけた。


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 街中

 綺麗に整えられた川の横にある道路。
 そこを恭介と仁美は歩いていた。
 互いに一言も話すことは無く、静かな帰り道だった。

恭介「ねぇ」

仁美「? なんですの?」

 不意に、訝しげな顔をした恭介が仁美の方を向き、話しかける。

恭介「……志筑さんって、帰る方向はこっちなんだっけ? 今まで、帰り道で見かけたことが無かったけど……」

 恭介の疑問に、仁美は頷く。

仁美「ええ、本当は逆方向ですわ」

恭介「え? ……じゃあ、今日はどうして?」

 仁美の返答に、恭介はますます疑問を強めた。
 対する仁美は、少しだけ歩く速さを上げた。

恭介「――――あ、ちょっと」

 恭介は慌てて仁美の背中に声をかける。。
 しかし、仁美は恭介が呼び止めるまでも無く、既に立ち止まっていた。

恭介「……志筑さん?」

 恭介は、立ち止まった仁美に呼びかける。
 声をかけられた仁美は、ゆっくりと振り向いた。















仁美「上条君に、お話したいことがありますの」


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 街中


 さやかは息をひそめ、誰かから隠れるように、柱にもたれかかっていた。
 視線の先には、二人の少年少女。
 
 上条恭介と志筑仁美である。

恭介「~~~~~~」

仁美「~~!! ~~~」

 二人はベンチに腰掛け、楽しそうに談笑している。
 さやかはそれを、虚ろな目で見つめていた。
 心には、ドロドロとした何かが纏わり付いていた。

恭介「~~~~~~」

仁美「~~~~~~」






















 不意に、仁美が恭介の手を握った。

さやか「!!」

 それを見たさやかの胸の内で、どうしようもないナニカが暴れまわる。

 ―――― この光景を全部、壊してしまおうか。

 胸の中の何かは、そう語りかけてきている。
 
さやか「……ッ」

 さやかは痛みを振り払うように、自らの胸を押さえた。
 自らの内で、葛藤をするさやか。
 だが、彼女を後目に、恭介と仁美はベンチから立ち上がり、立ち去っていく。















 腕を、繋ぎながら。