ジョセフ「お前がディオ・ブランドーか」ディオ「そういう君は (623)

ディオ「そういう君はジョセフ・ジョースター」

ジョセフ(何だか随分気取った野郎が来ちまったな)



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ジョセフ(さっきの馬車の降り方といい、こういうイチイチかっこつけたキザ野郎っつーのが大ッ嫌いなんだよね僕チンはさァ~)

ジョセフ(ま、これからずっと一つ屋根の下で一緒に暮らしていくわけだし、多少の事は多めに見て仲良くしてやっか!)

ジョセフ「ぼくのことはジョジョって呼びな。周りの奴等は皆そう呼んでる」

ディオ「フン……」

ジョージ「ようこそディオくん。歓迎するよ。今日から君は私達の家族だ。私の息子、ジョジョと同じように生活してくれたまえ」

ディオ「ジョースター卿。ご厚意に感謝いたします」

ジョージ「ジョジョ。お前とディオくんは同じ年だ。仲良くしてやりたまえ」

ジョセフ「わかってるよ、父さん」

ジョージ「ディオくん、着いてきたまえ。君の部屋に案内しよう」


※ダニーの件はカット。ダニーはあくまでジョナサンの相棒であるべきだと思うので

ジョセフ(いけ好かねえ野郎だが、鞄持ちくらいしてやるか。長旅で疲れてるだろうしな)

ディオ「おいッ!」ガシィ!

ジョセフ「ヌッ!?」

ディオ「何してんだ? 気安くぼくの鞄に触るんじゃあないぜッ!」

ジョセフ「何ィ~? 運んでやろうとしただけじゃねえか!」

ディオ「小汚い手で触るなと言っているんだ間抜けがッ!」ビュンッ!

ジョセフ「うおぉ!?」パシィ!

ディオ「むッ!?」

ジョセフ「て、てめえ! いきなり何しやがんだァッ!!」

ディオ(完全に不意をついたぼくの一撃を止めるとは……こいつ、貴族の甘ちゃんのくせにケンカ慣れしている!?)

ジョセフ「上ォ等だてめえ! やるってんなら相手になってやるぜ!!」

ディオ「いいかジョジョ、最初にひとつ言っておく。ぼくは一番が好きだ。ナンバーワンだ」

ディオ「誰だろうとぼくの前では威張らせはしない」

ディオ「この家にやっかいになるからといって、ぼくの前ででかいツラをするんじゃあないぜッ!」

ジョセフ「やかましい! 入居初日にケンカ売ってくるたァ頭沸いてんじゃあねえのかこのタゴッ!!」

ジョージ「何をしているんだ二人とも!」

ディオ「も、申し訳ありませんジョースター卿。ぼくが何かジョセフくんの気に触る事をしてしまったみたいで」ペコォ~

ジョセフ「にゃ、にゃにィーーーッ!!?」

ジョージ「ジョジョ!! さっき仲良くしてやれと言ったばかりだろう! どうしてお前はそう喧嘩っ早いのだ!!」

ジョセフ「ち、違うぜ父さん! 今のはこいつが!」

ジョージ「慣れない場所に初めて来てディオくんには不安がある。多少の無礼も働こう。何故寛容な精神でそれを許してやれない」

ジョセフ「た、多少ってレベルじゃ!!」

ジョージ「言訳無用ッ! お前には後で罰を与える!」

ジョセフ「が、がーーーん」

ディオ「フン…」

ジョセフ(や、野郎ォ~。ディオ! 何てヤツだ! 一発で嫌いになったぜあの野郎ッ!!)

ディオ(ジョセフ……予想外に激情の性格だ。奴にはこのディオが上なのだということを徹底的にわからせる必要がある……)

 ジョセフ、自宅で勉強中―――――

ジョージ「フンッ!」ビシィッ!

ジョセフ「だぁーーーッ!! いってえ!!」

ジョージ「また間違えたぞジョジョ! 学校をサボって遊びまわっておるからこんな問題もわからんのだ!」

ジョージ「ディオを見ろ! 20問中20問正解だ!」

ディオ「フン…」

ジョセフ(ケエ~、つまんねえ学校の勉強なんか真面目にやってられっかよォ~。早く抜け出して遊びに行きたいぜ!)

ジョージ「この問題集が終わるまで一歩も家から出さんからなジョジョ」

ジョセフ「が、がーん。マジかよォ~~」



 ジョセフ、自宅にて夕食中―――――

ジョセフ「」ムシャムシャバクバクズビズバァー

カツン バシャアー

ジョセフ「いっけね。ドリンクをこぼしちまった」フキフキ

ジョージ「」ツクエダーン!

ジョージ「ジョジョ! お前それでも紳士か! 作法がなっとらんぞ作法が!!」

ジョージ「もうよい。召使、ジョジョの食器を下げたまえ」

ジョセフ「うえっ!?」

ジョージ「ディオを見ろ! 彼の作法は完璧だ。彼を見て私が今までお前をどれだけ甘やかしてきたかを悟った。私は親として恥ずかしい」

ジョージ「今のお前は紳士失格だ! 部屋に戻って反省しろ!!」

ジョセフ「ぐ、ぐぅ…!」

ディオ「ふん、マヌケが」モグモグ

 ――――深夜

ジョセフ「ちっくしょお~。ディオが来てから家でいい事がまるでないぜ」ゴソゴソ

ジョセフ「あいつマジでぼくにとっての疫病神なんと違う? お、これもも~らい」ゴソゴソ

ジョセフ「へへへ、息子を飢えさすのも父親として失格だと思うわけよこの僕チンはァ~」ムシャムシャ

スージーQ「あ! ジョジョ! また勝手に食材をつまみ食いして!!」

ジョセフ「げっ、スージーQ! オメエこんな時間に起きてきやがって! 便所くらい寝る前にちゃんと済ましとけ!」

スージーQ「サイッテー! もう! 食材管理が甘いって叱られるのは私なんだからね!!」

ジョセフ「チクんじゃねーぞスージーQ! もし父さんに告げ口したらお前のパンティのローテーションを皆に言いふらすからな!!」

スージーQ「ギャアアアア!! もうホンットにサイテェーーー!!!!」

 そしてしばらくの時が経ち―――ある広場では少年達によるボクシングが行われていた。

司会の少年「それじゃあ選手の紹介をしよう!! まずは不動のチャンピオン!! 我等がジョセフ・ジョースターだあーー!!」

ジョセフ「はっピーうれピーよろピくねー!!」

司会「そして挑戦者は最近になって我々の仲間となった彼! 我々はまだ彼のことをよく知りません!」

司会「今日のこの闘いは彼を知るためのいいきっかけとなるでしょう!! 挑戦者はディオ・ブランドー!!」

ジョセフ「なにッ!?」

ディオ「フフフ」バァーーン!

司会「ディオ。初めてここで試合をする君に伝える事がある。ここで試合をする者は自分自身に金をかけてもらうんだ。いいかい?」

ディオ「もちろんだ」チャリチャリーン

司会「グッド。それではルールの説明をしよう。顔面にパンチをもらえばその時点で負け。ボディはいくらもらってもいいがダウンは10カウントで負けだ」

ディオ「顔面に一撃でも入れば勝負は決まる…ふん、素手でのケンカと一緒だな」

司会「それじゃあ試合開始だ! ゴングを鳴らせ!!」

 カァーーーン!!

ジョセフ「……」スッ…

ディオ「フフ…」キュッ キュッ

ジョセフ(コイツ…さっきの言動…なにやら随分喧嘩慣れしてるとみたぜ。初対面の時もいきなり殴ってこようとしやがったしな)

ジョセフ「まずは小手調べ…大振りはせず、様子を見るとするか!」シュッ!

ディオ「フンッ!」サッ!

ジョセフ「それそれィ!!」シュッ! シュッ!

ディオ「ヌウッ!」サササッ!

ジョセフ(野郎…なんて奴だ! こっちはとりあえず当てるために威力度外視でとにかく速くパンチしてるってのにかすりもしねえ!)

ディオ(ジョジョ…! コイツ、生意気にもこのディオを観察している…! 長引くと面倒になりそうだ!!)

ディオ「ここは奴がこちらのフットワークに慣れていないうちに畳み掛けるのが正解よッ!!」シュバッ!

ジョセフ「おーッとォ!!」

ディオ「大仰にかわして隙だらけだ!! そのがらあきのボディに喰らえ!!」ボッグゥ!

ジョセフ「げふッッ!?」

ディオ「そしてあらためて!! その苦悶の顔面に一撃よォー!!」

ジョセフ「ケッ!!」バシィッ!

ディオ「ナニッ!?」

ジョセフ「この試合のルールとてめえの性格! 最終的にゃあ必ず顔面を狙ってくるなんてこたァお見通しよォーッ!」

ジョセフ「そして腕を払いのけられて今度はディオ!! お前の顔面ががら空きだぜェーーッ!!」シュバッ!

ディオ「うおぉぉおお!!」グワァ~ム

ジョセフ「な、なにィ!? 上体をそらしてよけた!? こ、このタイミングでの一撃をかわすとはッ!!」

観客の少年「な、なんだディオのあの動きは!! み、見た事無い動きだ!」

ディオ(スウェーイング……貧民街ブース・ボクシングで磨かれた防御テクニックよ。こんなお遊戯で満足してる猿共じゃあ知る由もあるまい!)

ディオ「そしてジョジョ! 貴様を屠るのはフットワーク、スウェーイングに続く第三のテクニック!!」

ディオ「コンビネーションパンチよォーーーッッ!!」バヒュバヒュバヒュッ!

ジョセフ「うおおおおッ!!!?」

ジョセフ(な、何て手数ッ! そして変幻自在ッ! とても全部は捌けねえ!)

ジョセフ「と、とにかく顔面だけは守らなくてはッ!」ガッシィ!

ディオ「またボディががら空きだぞ間ァ抜ゥけがァ!」ドッボォ!

ジョセフ「ぐ、うぅッ!!」

ディオ「腹筋を固めて耐えようなんざ無駄、無駄、無駄ァーーッ!!」ドフッ! ドフッ! ドフッ!

ジョセフ「ぬああ!!」サッ!

ディオ(ふん、ようやくガードを下げたか!)

ディオ「間髪入れず顔面を狙う! 喰らえィ!!」シュバァッ!

ジョセフ「ぐ、う、」

ディオ「今更ガードを上げても間に合わん! このまま眼球ごと打ち抜いてこのディオの勝利よォーーーーッ!!」

ジョセフ「……へ」ニヤリ

 ぐにゃぁ~りッ!!!!

ディオ「な、何ィーーーーッ!!!?」スカァー

ジョセフ「ガードを下げさせてしてやったりだとでも思ったかァーー!? ガードはわざと下げたんだよマヌケ! テメーに顔面を狙わせるためにな!!」

ディオ「こ、こいつッ! 見よう見まねでぼくのスウェーイングをッ!!」

ジョセフ「そして大振りのパンチをすかされて無防備な顔面を晒したな、ディオッ!」ギュオッ!

ディオ「チィィッ! 拳を戻すのが間に合わんッ!! が、しかし! 奴とて慣れない動きの後とあって万全のパンチとは言い難いッ!!」

ディオ「これならばまだ! スウェーイングの回避可能範囲内よォーーーッ!!」グニャァ~

ジョセフ「へッ!」ニヤリ

 グゥゥ~~ン!

ディオ「な、何ィッ!? さ、さっきよりもパンチが伸びッッ!!?」

 パシンッ! ドタァーーッ!!

観客の少年「ジョジョのパンチが顔面に当たってディオがダウンした!! つまりこの勝負、ジョジョの勝利だ!!」

ディオ「こ、こいつ……!」

ジョセフ「このジョセフ・ジョースターに同じ手が二度通用すると思ったのがお前の敗因だぜ、ディオ」

ディオ「今の感触…! ドシンと脳に響く感覚ではなく、パシンと頬を払われたかのような感覚……!」

ジョセフ「へへへへ」プラプラー

ディオ「ジョジョッ! 貴様ッ!! わざとグローブを緩くしてリーチをッ!!」

ジョセフ「何にもルール違反なんてしてないぜェ~? どんな形であれ、顔面に一撃入れられたら負け。お前も試合前に確認してたとおりだぜ」

ディオ(クッ…! 背を反らしたところに一撃をもらってしまったため、大仰にダウンしてしまった)

ディオ(そのため、観衆は誰一人ジョジョのイカサマに気付いてはいない! ここでゴネてもこのディオのイメージが悪くなるだけ…ッ!)

ディオ「おのれ…ジョジョッ!!」

少年A「ナイスファイトだったぜディオ! あのジョジョとあそこまで戦えるなんて大した奴だな君は!」

少年B「あの見たことも無い動きはなんだったんだ!? 教えてくれよ!」

ディオ(このディオを中心としたコミュニティを築くことには成功した……が、ジョジョを取り巻くコミュニティは依然としてそのまま…!)

ディオ(奪わなければ…奴を腑抜けにするために……奴の心の拠り所をッ!)

 数日後―――ジョースター邸にて

スージーQ「ジョジョ! 盗み食いするのはいいけどせめてこぼさないように食べなさいよ! ばれないように掃除するのはどうせ私なんだからね!」

ジョセフ「へーへー、気をつけるよォー」ズビズバァー

スージーQ「言ってるそばからまたこぼして! いつまでたってもガキなんだから!!」

ジョセフ「うるせェーなァ! オメーはぼくのお袋かっつーのッ!!」

スージーQ「せめてお姉さんって言いなさいよ! こーんなキュートな女の子をつかまえて!」

ジョセフ「ケェーッ! オメーみたいなのが姉弟だとォー!? あんまりぞっとしてサブイボたっちまわぁー!!」

スージーQ「言ったわね、こいつゥーー!」




ディオ「……」

ディオ「ジョースター卿、少しお話が」

ジョージ「どうしたね? ディオ」

ディオ「このジョースター邸で雇っているメイドのうちの一人、スージーQについてなのですが」

ジョージ「近くの孤児院から紹介され、数ヶ月前から雇っているあの子か。彼女がどうかしたかね?」

ディオ「いえ、ジョジョがどうも、その……彼女と随分親しくしていたようなので」

ジョージ「ふむ…彼女の年齢はジョジョや君とそう変わらん。ジョジョの性格もあるのだろう、随分気安く接しているようだ」

ディオ「そうですか…いえ、道理で……」

ジョージ「何か気になることでも?」

ディオ「……少し、彼女のぼく達に対する態度が馴れ馴れしすぎるように思えまして」

ジョージ「それほどかね?」

ディオ「正直、使用人としての節度を越えているような気がします。いえ、ぼく自身も外から招かれた身」

ディオ「ジョースター卿達の暖かさに家族のような気安さで接してしまう気持ちはよく分かります。しかし、彼女の場合はあまりにも…」

ジョージ「ふむ……」

 ジョースター邸・夕食時

ジョージ「ジョジョの奴はまた夜遊びか……まったく」カチャカチャ

ディオ「……」カチャカチャ

スージーQ「……」ウキウキ…

 30分前―――

ディオ「スージーQ、ジョジョがどこに出て行ったか知っているかい?」

スージーQ「ディオ様…いえ、存じ上げておりませんけど……」

ディオ「あいつはね、スージーQ。君のためにプレゼントを買いに行ったのさ。何やら普段のお礼がしたいとのことでね」

スージーQ「まあ!」

ディオ「もちろんそんなのは建前さ。男が女にプレゼントを贈る事の意味……フフ、言われずともわかっているか」


 ―――現在

スージーQ(うふふ、ジョジョったら…///)ポケ~

ジョージ「………」

ディオ「スージーQ。ジョースター卿のグラスが空いているよ」

スージーQ「はっ! も、申し訳ありません! すぐに」

ディオ「」ニヤリ

 ガッ!

スージーQ「えッ!?」

スージーQ(ディオ様…今、足を…ッ!?)

 バシャーン!

スージーQ「あ、あああ~~~!!」

ジョージ「……」ポタ…ポタ…

召使A「ス、スージーQ!! お前、何てことを!!」

スージーQ「ち、違います…! い、今のはディオ様が……ディオ様が……!」

ジョージ「スージーQッ!!!!」ツクエダーン!

スージーQ「ヒッ…!」

ジョージ「人間たるものミスのひとつやふたつもするだろう! だが、こともあろうに主人たる家の者にミスを押し付けるとは何事だ!!」

スージーQ「で、でも…」

ジョージ「言訳無用ッ!! 先ほどからお前を観察していたが、心ここにあらずといった様子でそもそも職務に身が入っていなかった!!」

ジョージ「ディオの言っていた意味を理解した! この体たらくでは君をこれ以上ここに置いておくわけにはいかん!!」

スージーQ「そ、そんなッ!」

ディオ「それに、君はジョジョにこっそりご飯を食べさせている…ジョジョがこうして門限を軽くすっぽかす原因が、君に無いわけじゃあない」

ジョージ「残念だがスージーQ……お前がこれ以上ここにいることはジョジョのためにもならんようだ」

スージーQ「あ…あう…」ポロ…ポロ…

ジョージ「新しい勤め先は紹介してやる。荷物を纏めておきたまえ」

ジョセフ「あ~、腹減ったぜェ~。さっさとスージーQに飯を分けてもらいにいかなくっちゃあな!」

召使A「お部屋にお戻りください、ジョジョぼっちゃん」

ジョセフ「ゲ、ゲェーーー!! 何でお前が見張り係にッ!? スージーQの奴はどうしたんだァ!?」

召使A「スージーQはその勤務態度を問われ、解雇されました。私はぼっちゃんに食材を与えるなと固く言いつけられております故、お諦め下さい」

ジョセフ「な、なにィ~…ッ! もういっぺん言ってみろ!!」

召使A「ジョースター卿よりぼっちゃんに盗み食いをさせるなと固く言いつけられております」

ジョセフ「そっちじゃあねえ!! スージーQがどうしたってえ!!?」

ジョセフ「ディオッ!!」バーン!

ディオ「なんだこんな夜更けに…騒々しいぞ、ジョジョ」

ジョセフ「父さんから事情を聞いた……スージーQをクビにするよう勧めたのはディオ! てめえなんだってなァーーー!!」

ディオ「それで…? 何を激昂しているんだ? ぼくはあくまで進言しただけで、解雇の決断をしたのはお前の父親なんだぜ?」

ジョセフ「やかましい!! スージーQがぼくたちを舐めきっていただと!? 仕事を適当にしていただと!? 大嘘を吹き込みやがって!!」

ディオ「事実、あの女はお前の蛮行を見逃していたじゃあないか。立派な職務怠慢だ」

ジョセフ「いいや、てめえがそんな殊勝なことを考えるわけがねえ。お前は気に入らなかっただけだ! ぼくと彼女が仲良くしてるのがよォー!!」

ディオ「妄言だな。そんな証拠がどこにある」

ジョセフ「ねえよそんなもん! お前をブン殴るのに、そんなもんが必要あるかァーーッ!!」ダッ!

ディオ「フンッ! いいだろう……ボクシングの時の借りを今ここで返してやるぞ、ジョジョッ!!!!」ザッ!

ジョージ「何をしているお前たち!! やめないか!!」

ジョセフ「ぐッ…!」ピタッ!

ディオ「チッ…!」ザザッ!

ジョージ「ジョジョ! スージーQの一件はこの私が決断したこと……ディオを責めるのはお門違いというものだ!!」

ジョセフ「父さん! アンタは何にもわかっちゃいねえ!! 全てはこいつの筋書き通りなんだ!! 全部、このクソ野郎のよォーー!!」

ジョージ「家族を悪し様に罵るその態度……見苦しいッ!! ジョジョ!! 部屋に戻れ!! 後で罰を与えるッ!!」

ジョセフ「父さんッ!! ち、ちくしょおぉ~~~!!」

ディオ「覚えておくんだな、ジョジョ」ポンッ…

ジョセフ「なにィ…?」

ディオ「このディオにとって、お前から大切なものを奪うことなど造作も無いということだ……」ボソォ…

ディオ「これに懲りて、二度とぼくに対して生意気な態度をとるんじゃあないぜ」

ジョセフ「」プツーン

ジョセフ「ドラァッ!!」ボグゥ!

ディオ「ウゲェーーッ!!」ブシャァーー                 イシカメンカターン>

ジョージ「何をやっとるかジョジョォーーーーーッ!!!!」



 この一件を境に、ジョセフとディオとの間の亀裂は決定的なものとなる。

 二人は事あるごとに衝突し―――

 ジョースター邸の住人達の胃にダメージを与えながら―――

 ―――7年の歳月が経過した!

ジョージ「ゴホッ、ゴホッ」

ディオ「大丈夫ですか? おとうさん」

ジョージ「ああ…今日は大分調子がいいよ。ラグビーの大会で優勝したそうだね。おめでとう」

ディオ「ありがとうございます。大会で優勝できたのも、大学を首席で卒業できるのも、何もかもおとうさんの援助があったからこそです」

ジョージ「いいや、全て君の努力あってこそだ。これから先、援助は惜しまんよ。それにひきかえジョジョはまったく……」

ジョセフ「あでで! いでー! いでーッて!! もっと優しく塗ってよセンセェ~!」

医者「こら! じっとせんか! 195cmもある大男がびーびーわめきおって情けない!」

ジョセフ「センセェ~、俺はこう見えてもあのジョースター家の息子だよォ~? ヴイ、アイ、ピィ~。VIPよVIP!」

ジョセフ「ちゃあんとそれなりに扱ってくんないとさあ~~」

医者「ふん! 毎日毎日ゴロツキとの喧嘩で生傷こさえてくるような貴族様なぞ聞いたこと無いわい!!」

医者「大学にも碌に行かずに……ジョースター卿もさぞ嘆き悲しんでおるだろうよ!」

ジョセフ「いいんだよ。どうせ父さんは俺なんかよりディオのほうがお気に入りなんだからさァ~」イジイジ

医者「まったく、卑屈になった大男ほど見るに耐えんものはないな……」


ジョセフ「それよりセンセイ、頼んでおいた調べものはどうだったよ?」

医者「随分前に言っとった、人間の脳を針で刺すとどうなるかというやつか?」

医者「現代の医学じゃあ、そんなもん死ぬとしか言えんなあ」

医者「しかし、一説によると人間の脳には大きなパワーが眠っていて、それを引き出すために脳に刺激を与えるという手法もあったということだ」

ジョセフ「そっちじゃあねえ! そんな何年も前に茶飲み話で話したようなことに今更答えられたってしょうがねえだろ!」

ジョセフ「あれだよ、あれ! 胸が痛み、指が腫れて、咳が止まらなくなるような病気に効く薬があるかって話だよ!」

医者「ああ、この間言ってたな。本気で訊いとったのか……というか、それ明らかにジョースター卿のことじゃろう……」

ジョセフ「ち、ちがわいッ! あんなディオびいきのクソ親父なんてどうだっていいんだ!!」

医者「素直じゃないやつめ……」

医者「今まで聞いたことも無い症状だし、そもそもそんな伝聞情報だけで診断など下せるわけなかろう」

医者「入院でもして、症状を長期に観察しなくてはな」

ジョセフ「そんなこと言ってもよぉ~、父さんは何か知らんが入院したがらねえんだよ」

医者「やはりジョースター卿のことではないか」

ジョセフ「げっ! し、しまった…!」

医者「まあ、入院を嫌がる感情も理解できなくはないが、医者の立場としては入院を勧めるしかないぞ。原因不明というなら、なおさらな」

ジョセフ「ふむ……もう一度くらい父さんと話してみてもいいかもしれねえな」

 ―――夜。ジョースター邸。

ジョージ「ジョジョ! お前、また大学をサボったらしいな!!」

ジョセフ「あーもう!! そんな病気の体で怒鳴るんじゃねえよ!!」

ジョージ「うっ、ゴホッ! ゴホッ!」

ジョセフ「ほーら言わんこっちゃない」

ジョージ「ま、まったく……お前がもっとしっかりしていれば、私も安心して療養できるというのに……」

ジョセフ「それは悪うござんしたね。しかし父さん、早く治さなきゃって思うなら、それこそ入院でもしなきゃあ駄目なんじゃねえか?」

ジョージ「医者にもそう勧められたがな……私は自分の家にいる方が安心していられるのだよ」

ジョセフ「いや、そりゃ当然ホームの方が落ち着くだろうけどよォ~」

ジョージ「それに、ディオの助言もある」

ジョセフ「……なんだって?」

 キィ―――バタン。

ジョセフ(父さんの病院嫌いはディオに誘導されたものだった)

ジョセフ(父さんの話じゃ、ディオは病院の施設を悪し様に罵ったらしいが……何故奴にそんなことが言える?)

ジョセフ(ディオ自身に入院経験はない……少なくともウチに来てからは。ならば病死したという父親が…?)

ジョセフ(だが、ディオはロンドンの貧民街出身……こう言っちゃなんだが、入院できるほどの蓄えがあったとは思えねえ……)

ジョセフ(嫌な想像が頭をよぎるぜ……だが…いや、まさかな……)



ディオ「帰っていたのか、ジョジョ」

ジョセフ「!!」


ディオ「深夜まで遊びまわるのはいいが、あまりおとうさんに心配をかけないようにしてやってくれよ」

ジョセフ「ディオ、お前…その盆の上に乗っているのはなんだ?」

ディオ「ん? 見てわからんのか? おとうさんに渡す薬だよ」

ジョセフ「どうしてお前が? 召使はどうした」

ディオ「彼等ももう年でね。階段を昇るのが辛そうだったから、このディオが手伝いを買って出たのさ」

ジョセフ「そいつあ素晴らしい心がけだ。だが、まさか、いくらなんでも毎回お前が薬を渡していたわけじゃあ無いんだろう?」

ディオ「そのまさかさ。毎回ぼくが薬を届けていたのだよ。君と違って親孝行なのさ、ぼくはな」

ジョセフ「ほぉ~う、そうか。まったく、何てタイミングだ。何てタイミングで、何て情報が入ってきやがる」

ディオ「何をわけのわからないことを言っているんだ? ジョジョ」

ジョセフ「こんなタイミングでお前の行動が発覚してよォ~~、疑うなってのが無理な話だよなァーーーッ!!!!」

 バッシィッ!!!!

ディオ「貴様ッ!! 何をするジョジョッ!!」

ジョセフ「この薬は調べさせてもらうぜ、ディオッ!!」

ディオ「ふざけた事をッ!! 気でも違ったか!!」

ジョセフ「いーや、俺は正常だぜェ? しっかりクリアな頭で、わりとマジにこんなことを考えている」

ジョセフ「『ディオ、まさかこの野郎、父さんを毒殺しようとしてるんじゃあねえだろうな』ってなあッ!!!!」

ディオ「貴様…ッ!! 自分の言っている事がわかっているのか!! 自分が今どれほどこのディオを侮辱しているかッ!!」

ジョセフ「侮辱ゥ? 侮辱なんてこの7年間、俺たちにとっちゃあ挨拶代わりみたいなもんだったじゃねえか。今更そんな文句言いっこなしだぜディオ」

ディオ「ジョジョ、その薬を盆の上に戻せ……ッ!!」

ジョセフ「いいだろう。その代わり、お前の体を隅々まで身体検査させてもらうぜ」

ディオ「なッ…!?」

ジョセフ「おやぁ~? 青ざめたな? 別に何も問題ないだろう?」

ジョセフ「もしお前が潔白なら、その服のポケットから本物の薬が出てくるなんてこたあ無いはずなんだからなあ~~~ッ!!」

ディオ「ヌ、ヌググ……ッ!!」







ジョセフ「お前は次に『つべこべ言わずにさっさと薬を戻せジョジョ』という」




ディオ「つべこべ言わずにさっさと薬を戻せジョジョッ!! ……ハッ!?」






ジョセフ「おおおおおおおおおおおおッ!!!!」バッキィィィィッ!

ディオ「うげええええええッ!!!!」ドッシャァァァァ!

ジョセフ「疑惑は確信に変わったぜディオッ! この薬は調べさせてもらう……必ず証拠を掴んで、てめえをくせーブタ箱に送ってやる!!」

ディオ(殺さねば……何としてでも殺さねばッ!! 奴が証拠を掴む前に、事故死に見せかける何らかの手段を講じねばッ!!)

こんな感じのジョセフ主人公での1部再構成

キリのいいところまで書き溜め終わったらまたきます

 翌日―――

ジョセフ「父さん、俺はロンドンへ行く。多分二、三日で戻ってくるが、その間、俺の連れてきた医者以外の人間から物はもらわないようにしてくれ」

ジョセフ「薬はもちろん、食い物もだ」

ジョージ「ジョジョ、藪から棒に何を……」

ジョセフ「理由は今は言えねえ……だが、言うとおりにしてくれ。頼む」

ジョージ「………」

ジョセフ「………」

ジョージ「ふむ……真剣な……いい目だ」

ジョージ「いつもそれくらいの熱意を持って生きてくれていれば、私もそれほど口うるさくせずに済むのにな」

ジョセフ「う、うるせーやい。けど……信用してくれてありがとよ。父さん」

ジョージ「信じるさ。息子の言う事だ」

 ジョセフの部屋―――

ディオ「ふん。ジョジョの奴、流石に薬を置いていくようなヘマはしないか」

ディオ「だがこのディオの目的は別にある。多分この辺に……」ゴソゴソ…

ディオ「あった。これだ……石仮面」

ディオ「廊下の壁からコイツが消えた時、きっとジョジョがくだらん好奇心を発揮して部屋に持ち帰ったのだろうと思っていたが……ビンゴだったな」

ディオ「この石仮面に血をたらす…」ポタァ…

 ガシャァァァーーン!!!!

ディオ「やはり俺の見間違いではなかった。どういう仕組みかはわからんが、この仮面は血に反応して骨針を打ち出す」

ディオ「これをどうにかして奴に被せ、脳を刺し貫き、殺す」

ディオ「貿易商である父親のつてを使い、アメリカン・クラッカーなどと訳のわからん遊具を買い集めている奴の事……」

ディオ「趣味が高じて屋敷に保管してあったこの仮面に興味を持ち、色々いじっている際に生じた偶然の事故として扱われるだろう」

ディオ「このディオに殺人容疑はかかってこない……」

 ガヤガヤガヤ……

ディオ「む、玄関先が騒がしいな……あれは…ジョジョと共に出た御者だけが帰ってきたのか」

ディオ「おい! どうした、何を騒いでいる!」

御者「ディ、ディオ様! 実は……」

ディオ「なに? ジョジョがオウガーストリートに入っただと?」

御者「は、はい。私は必死でお止めしたのですが……」

ディオ「父さんにこれ以上心労をかけさせるわけにはいかん。このことは父さんには伝えるな」

御者「は、はい」

ディオ(ふん…仮面を使う手間が省けたな。ジョジョめ…今頃殺されているか、それとも野垂れ死んでいるか……)

 ―――ロンドン、通称『食屍鬼街(オウガーストリート)』。

ジョセフ「ケエ~、薄っ気味悪い所だぜ。ディオの奴、ガキのころからこんな場所に出入りしてりゃあ、そりゃあんな性根の曲がった奴になっちまぁわなァ~」

ジョセフ「しかし、本当に迷路みてえな街だな……気を抜くとすぐ行き止まりにぶち当たっちまう」

ジョセフ「道を聞こうにも居るのは悪食の猫ちゃんぐれえのもんだし……」

 ザッザッザッザ……

ジョセフ「お? 道の先の方から何人かこっちに走って来てるな。あいつらに道を尋ねてみるか」

ジョセフ「おーい!」

 ザッザッザッザ……!

金髪「おい刺青! おめえっちのナイフに任せるぜ!」

刺青「ああ! あの身なりのいい野郎の皮膚を刻んで身ぐるみ剥いでやるぜ!」

中華「あちょー!」

ジョセフ「………」クルゥ~リ

ジョセフ「うおおおおおおお!! なんじゃああああああ!!!?」ダッシュ!

金髪「ちっ、勘のいい野郎だ! 一目散に逃げ出しやがった!!」

刺青「へへ、貴族の甘ちゃんがいつまで体力が持つかな?」

ジョセフ「な、成程…伊達に食屍鬼街(オウガーストリート)なんて呼ばれてないって訳ね」ズドドドドドド!

刺青「って、速ッ!! あいつ足速いな!!」

金髪「なんかあの野郎、随分と逃げ慣れているように感じるぜ……!」

中華「ふん、心配せずともここは迷路のように入り組んだ街……どこかで行き止まりにぶつかるアルよ」

ジョセフ「ほっほっほっほ」ダダダダダダ!

金髪「って全然道間違えねーじゃねーか!! あいつこのままだと真っ直ぐ街の出口に着いちまうぞ!!」

中華「あ、あるぇ~?」

ジョセフ(知らない街に来たら頭の中で道順をマッピングしながら進むってのは常識だぜ常識ィ~)ダダダダダダ!

刺青「まずい! このままじゃ折角の上物を取り逃がしちまう! どうする!?」

中華「しょうがない、ちょっとだけ本気出すアルね。アチョーーッ!!」シュパパパパパ!

ジョセフ「うげえ! 一人やたら速ぇ奴が居やがる!! このままじゃ追いつかれる……どうする!?」

中華「ホァッ!」ピョーン

ジョセフ「……あん?」

中華「東洋の神秘『中国拳法』! この蹴りをくらってあの世まで飛んでいくねー!!」

ジョセフ「………」ブンッ!

中華「へぶっ!」ベッシャァァァ!

金髪「ああ! あの野郎、雪を!!」

刺青「投げつけやがったーーー!!」

ジョセフ「こんだけ雪が積もってる状況下で飛んでくるとかアホなんと違いますのオタク」ドゴゥス!

中華「ほんむッ!!」

金髪「ああ! あの野郎、中華を!!」

刺青「踏みつけてしっかり止めを刺しやがったーーー!!」

中華「きゅう…」

ジョセフ「さ~て、しかしこの中華マンに構ってたおかげで後ろの二人に追いつかれそうだ……とても街の入口まで逃げきれそうにねえ」ダダダダ!

金髪「ちっ…! また走り出しやがった!」

刺青「もう少しで追いつきそうだったのによう!」

ジョセフ「しかし問題はない。俺が元々目指していたのはここ…ここにたどり着けさえすれば、ゼェンゼン問題はねえのよ!」ダダッ!

金髪「……!? 路地に入った!?」

刺青「よぉやく道を間違えやがったぁ!! その道は行き止まりだぜぇ!!」

金髪「へへへ…」

刺青「まったく、手間かけさせやがって……」

ジョセフ「……くっ」

 絶体絶命!
 ジョジョの背後には壁! 左右は立ち並ぶ家々に阻まれ、その窓も雪が降り積もる極寒地らしくしっかりと塞がれており!
 唯一の逃げ道、前方の道には金髪と刺青が並んで立ち塞がっているのだ!

ジョセフ「な、なあなあ。何も身ぐるみ全部持っていくこたあないんじゃないの? ほら、ちょっとだけならお金あげちゃうからさ~」チャリン

刺青「駄、目、だ、ね。散々手間取らされた分を取り返させてもらわなくっちゃなぁ~」

金髪「それによぉ~、俺はお前みたいな貴族の甘ちゃんが大っ嫌いなんだ。親の力だけで高い地位にいるくせに、一丁前のツラしやがってよぉ~」

ジョセフ「そ、そりゃあ偏見ってもんよ? 俺なんてほら、どっちかというと貴族社会から外れたアウトローだし? 話してみたら意外と気が合う、か・も」

金髪「うるせえ! いい加減覚悟を決めやがれ貴族の甘ちゃんが!!」ザッ

ジョセフ「や、やめろ! それ以上俺に近づくんじゃねえ!!」

刺青「近づかなきゃテメーの身包みを剥げねえだろうが」ザッ

ジョセフ「後生だよぉ、頼む! 許して!」

刺青「俺っちの仲間を踏みつけといて、今さら虫のいいことを言うんじゃねえ!」ザッ

ジョセフ「どぉ~してもだめ?」

金髪「しつけぇぞ!!」ザッ








ジョセフ「ならあんたらの負けだ」ニヤリ



金髪・刺青「「ナニッ!?」」





ジョセフ「おらぁぁああああ!!!!!」グゥ~ム!

 ジョジョが大きく腕を引く! その勢いに引かれ、飛び出したのは!!

金髪「なにぃ!? 雪中からロープがッ!!」グラァッ

刺青「俺っち達の足に絡みつくようにィ!?」ガッシィィィ

ジョセフ「すっころんじまいな!!」ギュンッ!

 ジョジョによって引かれたロープは男たちの両足を縛り付け、その場に勢いよく引きずり倒す!

金髪「うがっ!」ズデーン!

刺青「ぽぴっ!」ドシーン!

ジョセフ「散々道に迷ったときに、ここに荷造り用のロープが放っておいてあったのを覚えてたのよォ~! んで、この手のロープマジックはこのジョセフ・ジョースターの十八番だぜ!」

金髪「野郎、こんな、こんな仕掛けをいつの間に!!」

刺青「こ、こんなもん俺っちのナイフで!!」

ジョセフ「あ、もちろんそれNGね」ヒョイ

刺青「ああ! 俺っちのナイフを!!」

金髪「さながら一流スリ師のような手際で!」

ジョセフ「そんでこのナイフをロープの端をちょいと切って……ほいほいっと出来上がり」

 ジョジョの手に握られたのは両端に輪っかの作られたロープ!

ジョセフ「ほいプレゼント」ポイッ

金髪「むっ?」スポッ

刺青「んっ?」スポッ

 ジョジョはそれを金髪と刺青の首に通し、ロープをキュッと引っ張った!

金髪「はう!」

刺青「むきゅっ!」

 暴れれば暴れるほど互いの首が締まる仕掛け! ああ! 男たちはもはや互いのロープを引き合わぬよう身を寄せ合うことしか出来ない!!

刺青「く、くるぴぃ~!」ジタバタ!

金髪(バ、暴れるな…! 俺の方の輪っかが引っ張られて締まる……!)ゴフッ!

ジョセフ「そこまで食い込んだんじゃもう自力で解くのは不可能だぜ! 俺の質問に答えると約束するなら解いてやる!!」

金髪(な、舐めやがって……!)ギラリッ!

刺青「」ブクブクブク…

ジョセフ「む…!?」

金髪「オラァァァ!!!!」ギュイン スパンスパンスパーン!

ジョセフ「こ、こいつ、帽子に仕込み刃を!? ロープを切りやがった!!」

金髪「その胴を叩き切ってやる!! 食らえッ!!」シュバッ!

ジョセフ「う、うおおおおおおおお!!!?」


 ―――ダァン! 


 響いたのは―――ジョジョの投げたナイフが宙を舞う帽子を壁に縫い付けた音。
 ジョジョは、咄嗟に先ほど刺青から奪い取ったナイフを迫りくる帽子に向かて投げつけたのだ。

ジョセフ(あ…あぶ、あぶなかった…!! あの野郎が胴を狙うと口に出してくれなかったら、とても軌道なんて読めやしなかったぜ…!)ハァ…ハァ…

金髪「な…なんて野郎だ…なんて……」パク、パク…

ジョセフ「面白いもん持ってるじゃないの。あれどこで買ったの? まさか手作り?」

金髪(涼しい顔してやがる……本当にこいつは貴族の甘ちゃんなのか!?)

ジョセフ(内心超ォ~ビビったけどこれ以上反撃されないように余裕綽綽の態度を取らなくっちゃな!)アセアセ…


金髪(なんなんだこいつは…! やたらと喧嘩慣れした動きといい、偶然見かけたロープを利用する機転といい…)

金髪(いや、本当に恐ろしいのは……仮にロープを使って俺らをふん縛ることを思いついたとしても、それを実際この状況で実行に移すなんてことが出来るか…?)

金髪(出来るとしたらそれは……なんて、なんてクソ度胸の持ち主なんだ…!)

金髪「俺たちに質問があるといったな……その質問には答えてやる。だが、先に俺の方の質問に答えてもらうぜ」

ジョセフ「? なんだよ?」

金髪「お前さんの足の速さならギリギリ街から逃げ出すことも出来たはずだ。何故わざわざこんな路地に俺たちを誘い込んだ?」

金髪「そりゃ、ロープを使った策で俺たちを嵌めるためだったんだろうが、それより街の入口を目指した方が何倍も安全だったはずだ」

金髪「策が失敗していたら俺たちになぶり殺しにされるかもしれなかったんだぜ…? それなのに、何故……」

ジョセフ「ん~?」

 顎に手を当て、しばし黙考するジョジョ。

ジョセフ「そりゃあ、俺はよく逃げる。その場を仕切りなおすためとか、何か目的を達成するためとか、そうせざるを得ない時とか……とにかく、必要だと感じたらその場を逃げ出すことに何の躊躇もない」

ジョセフ「でもな、そんな俺でも……戦いそのものを放棄するような真似だけはしないようにしてるのさ」

金髪「戦い……あんたの言う戦いとは、この場合、何だ……?」

ジョセフ「この街で、親父の解毒剤を作るための手がかりを手に入れる。それを達成するまでは、おめおめとこの街から退散するわけにはいかねーのよ」

金髪(な、なんてこった……! 貴族の甘ちゃんだなんてとんでもねえ……!!)

金髪(こいつは家族のために命を張れる熱い男だ……そして、その熱さを持つに相応しいタフガイだ……!)

金髪(タフなだけじゃねえ…咄嗟の機転、それを実行するクソ度胸……こいつは一体今までどんな修羅場を潜って……ハッ!!)

金髪(お、俺は今……この男に興味を抱き始めている。こいつが歩んできた過去に、そしてこれからこの男が挑むであろう運命に!! 惹かれ始めている……!!)

金髪「名前を……あんたの名前を聞かせてくれ」

ジョセフ「ジョースター……ジョセフ・ジョースター」

金髪「解毒剤には心当たりがある。このスピードワゴンが案内するぜ!!」

とりあえずここまで

 ―――ジョースター邸近郊・港町

ディオ「」グビ…!グビ…!

ディオ「酒ッ! 飲まずにはいられないッ!! あのクズのような父親と同じようなことをしている自分に腹が立つ…!!」

ディオ「ジョジョの奴はどうなったのか…のたれ死んだか、それともまさか毒薬の証拠を掴んだのか……」イライラ…

 ドンッ!

おっさん「いてぇ!! テメエどこに目をつけて歩いてやがるこのトンチキが!!」

ディオ「ちっ……衛生観念も持たない虫けら風情が……!!」


 (以下略)


ディオ「石仮面……! まさかこんな秘密があったとは……!」

 ―――ジョースター邸

ディオ「む…どうした執事! 何故邸内の明かりを消している!!」

ジョセフ「よう……待っていたぜ、ディオ」

ディオ「貴様、ジョジョ…!!」

ジョセフ「解毒剤は手に入れた…既に父さんに飲ませてある。俺の言っている意味……わかるよな?」

ディオ「ヌ、ヌグ…!!」

ジョセフ「つまりお前をブタ箱にぶち込む準備が整ったってことだぜ! 観念するんだな、ディオ!!」

ディオ(こ、こいつ…よもやこんな短時間で毒薬の証拠を掴み、しかも無事で戻ってくるとは……!)

ディオ(やるしかない…! 今、俺の懐には浮浪者をぶっ刺したナイフがある……これで一気に刺し殺してやる!)

ディオ「そうか…もはや言い逃れはできないな。ジョジョ…図々しいようだが、ぼくの最後の頼みを聞いてくれないか?」

ジョセフ「ヘン、最後に酒を一杯飲む時間くらいはくれてやるぜ?」

ディオ「ふ、それはありがたいが……時間をくれるというならジョジョ、ぼくに自首する時間をくれないか?」

ジョセフ「自首ゥ?」

ディオ(まずは油断を誘う…! 害意のないことをアピールし、奴が無防備になる瞬間を待つのだ…!)

ジョセフ「こりゃたまげたぜ。お前からそんな殊勝な言葉が出るなんてな」

ディオ「後悔しているんだ。なんて馬鹿なことをしてしまったんだ、とね。ぼくはここに罪の償いをしに戻ってきたんだよ。その気になれば逃げだすこともできたのに」

ジョセフ「そうか……本気なんだな、ディオ」

ディオ「もちろんだ! 神に誓うよ!!」

ジョセフ「なら俺もお前の背中を押してやるぜ。仮にも同じ家で7年も過ごした兄弟としてな!!」パチン!

 ジョジョが指を鳴らしたのを合図に、邸内の明かりが一斉に灯された。
 ジョジョの背後、応接間の仕切り幕を開けて姿を現したのは、ジョースター卿と、食鬼屍街からジョジョと行動を共にしてきたスピードワゴン。
 スピードワゴンに首根っこを押さえられた東洋人―――ディオに毒薬を販売した男、ワンチェン。
 さらにその三人の背後には―――七人もの警察官が立ち並んでいた!

ディオ「な…にィ!?」

ジョセフ「さあ懺悔しろよディオ。ここに警察の旦那方をお招きするのは中々の手間だったが、なあに気にするな。家族として、お前が更生するためなら粉骨砕身、尽力するさ!」

ディオ(こいつ! ジョジョッ!! 既にここまで手回しをッ! コイツ、コイツッ…!!)ギリギリギリ…!






ディオ「フ、」



ディオ「フフ、」








ディオ「ふはははははははははははははははははははははははは!!!!!!」





スピードワゴン「な、何だァあの野郎!? 気でも狂っちまったかァ!?」

ディオ「ふゥ~…負けたよ、ジョジョ」

ジョセフ「なにぃ?」

ディオ「こんな短時間に、ここまで周到に準備を済ませた上で俺を待つとは……まったく大した奴だお前は。恐れ入る。いや、尊敬に値すると言ってもいい」

ジョセフ「ケッ、お褒めの言葉をあずかりありがとセンキュー。で? だから何だってんだ?」

ディオ「せめてお前の手で俺に手錠をかけてくれよ。このディオが唯一尊敬した貴様の手で、引導を渡してほしい」

ジョセフ(何だ…? 潔すぎて気味が悪いぜ…ディオ……こいつがそんな殊勝なタマか?)

ジョセフ(いや、違う……断言するぜ。こいつは俺が出会ってきた誰よりも生き汚く、往生際の悪い男……この行動には何かしらの意図がある)

ディオ「さあ、早くしてくれ。……実は肩を痛めていてな。あまり強くしないでくれるとうれしい」

ジョセフ「ああ、いいだろう。ただし、お前が羽織っているその大仰な外套を取ってからだぜ、ディオ」

ディオ「……今日は冷える。それとも犯罪者は暖を取ることすら許されないと?」

ジョセフ「はっきり言ってやるがお前がその外套の下にナイフみてーな凶器を隠し持ってる可能性は0じゃあねえ。このままノコノコお前に近づいてやるほど俺ァお人好しじゃねえんだよ」

ジョセフ「なに、このクソ寒い中をずっと春の装いでいろって言う訳じゃねえ……ほんの一時、安全が確認出来るまでの間、脱いでくれてりゃいいんだ」

ディオ「………」ゴゴゴゴゴ…!

ジョセフ「出来ないのか? 何故だ? そこんとこ学のない俺にも理解できるように説明をしてくれよ……」ゴゴゴゴゴゴ…!

ディオ「ふん……つくづく……つくづく忌々しいやつだな、貴様は」スッ…

スピードワゴン「ああ! あの野郎、やはりナイフを!! ジョセフの言ったとおりだぜ!!」

警部「銃を構えろ!!」

警察官「ハッ!!」ガチャリッ

警部「妙な真似をするなよ……こちらに危害を加えるような動きを見せれば即座に撃つぞ!!」

ジョージ「ディオ…! やめるのだ!! これ以上罪を重ねるな!!」

ジョセフ「父さんの言うとおりだぜディオ。もうお前に逃げ道はねえ。これ以上あがいてもいたずらに刑期を伸ばすだけだぜ!」

ディオ「黙れジョジョ! 俺は貴様らなどには捕まらん!!」バッ!

スピードワゴン「な、なんだ!? 奴が懐から取り出したのは……仮面!? 石で出来た……仮面なのか、アレは!?」

ジョセフ「見覚えがある……それは…俺が部屋に持ち込んでいた石仮面か!!」

ジョセフ「だがそんな物を今この場に持ち込んで、一体何をしようってんだ!?」

ディオ「ジョジョ! さっき俺は貴様を尊敬していると言ったな……あれは嘘だッ!!」

ジョセフ「ケッ、言われなくても知ってるよォー。テメエの口から出るのは嘘かクソばっかってことぐれえはよォーー!!」

ディオ「むしろ逆!! 常に人を見透かしたような貴様の飄々とした態度には虫唾が走っていた!!」

ジョセフ「お互い様だぜクソッタレ! 常に人を見下したてめえの態度にはほとほと嫌気がさしてたわァーー!!」

ディオ「俺は…! 俺は貴様だけには捕まらん!! 貴様に、貴様なんぞに、俺の人生に引導を渡されてなるものかァーーーーッ!!」スパァー!

スピードワゴン「じ、自分の手をナイフで切り裂いたッ!?」

ジョセフ「ディオ! お前まさかッ!?」

ディオ「貴様に引導を渡されるくらいなら……俺は!! 俺の手で!! 俺の人生に幕を引く!!!!」ドバドバドバ…!

 ディオは―――静かに石仮面を被り、己の手から噴出する血を仮面へと擦り付けた。
 その余りに奇天烈な行動に、その場にいる者は誰も動けなかった。
 唯一、仮面の特性を知っていたジョジョだけが―――喉から絞り出すような叫びを上げていた。

ジョセフ「馬ッッ鹿野郎ォォォォォーーーーーーーーーッ!!!!!!」

 ヒュンヒュンと音を立てて仮面から骨針が打ち出され、ディオの頭部へと食い込んでいく。
 ゆっくりと崩れ落ちるディオの体。
 誰も―――その死を疑う者は居なかった。

ジョセフ「あ……」

ジョージ「ジョジョ……」

ジョセフ「父さん……俺は、俺は……ここまで、するつもりは……」

ジョージ「ああ、わかっている。わかっているさ。むしろこれは、私の責任なのだ……」

ジョージ「私があんな物を行商人から購入していなければ……私が教育を過たず、ディオの精神をあそこまで歪めていなければ……!」

ジョセフ「父さん、それは違う! 父さんの教育は間違っちゃいなかった!! 間違っていたのは……ディオだ。あいつは、最初から間違っちまってたんだ……」

スピードワゴン(ああ…そうだ。ジョセフとその親父さん、あんた等は何も間違っちゃいねえ)

スピードワゴン(俺は今まで色んな人間を見てきた……だからいい人間と悪い人間は臭いでわかる)

スピードワゴン(この男、ディオはゲロ以下の臭いのする生まれついての悪……それは間違いない)

 ディオという下劣な男の死にも涙を浮かべることの出来る親子の、その精神性の気高さを目の当たりにしながら、スピードワゴンは黙考する。

スピードワゴン(だからこそ腑に落ちねえ……この男が、まるで東洋のサムライがハラキリするように自決するなど……そんな潔さがこの男にあるとは思えねえが……)

 考えながら、倒れ伏すディオに疑惑の目を向けていたスピードワゴンだけが気づいた。
 ジョジョがジョージに慰められながらディオの体に背を向けた瞬間―――死んだはずのディオの体がむくりと起き上がったことに!!

スピードワゴン「何ィィィィィーーーーーーッ!!!!?? 野郎、馬鹿な!!!!!!」

 スピードワゴンの声に反応してジョジョも振り向く。
 目撃する。
 笑みを浮かべ、腕を振り上げているディオの姿を!!


スピードワゴン「 生 き て い る ! ! ! ! ! ! 」









ディオ「UREEYYYYYYYYYYY!!!!!!!」シュバァ!



ジョセフ「うおおおおおおおおおおお!!!!????」











 ドズム、と鈍い音を立て―――――





 ディオの突き出した手刀は―――――ジョジョをかばうように前に躍り出たジョージ・ジョースターの背中を貫いていた。







ジョージ「ぐ…は…」

ジョセフ「と……」

 ジョジョは目を見開いていた。
 信じたくなかった。
 父親の胸から、ディオの掌が生えているこの光景を!!

ジョセフ「父さァァァーーーーーーんッ!!!!!!」

ディオ「おやおや……完全に油断させるために自殺の振りまでしたというのに……年の割に存外いい動きをするじゃないか、ジョージ・ジョースター」

ジョージ「ジョ…ジョ……」ゴポ…

ディオ「いいだろう! このディオ・ブランドー再誕の祝杯は貴様の血で盛大に上げるとしよう!! ジョォォォジ・ジョォォォスタァァァァ!!!!」ズギュンッ!!

ジョージ「かはッ!!」ズギュンッ!

ジョセフ「なんだ…? 父さんの体が乾いていく……何をしている……やめろ……!! やめろディオーーーーッ!!!!」

スピードワゴン(吸っているのか…? 血を……命を……!!)ガクガクブルブル

ディオ「絞りかすだ! フフフフフ……!!」

ジョセフ「俺が…俺のせいだ……気づけたはずだ……ディオが、あんな潔く死を選ぶなんておかしいって……!」

ジョセフ「直前まで疑っていたじゃあねえか…! 俺は知っていたはずじゃあねえか……! ディオが、生き汚くて、往生際がとんでもなく悪いってこと……!!」

 ジョジョの腕の中には、ほんの数秒で驚くほど軽くなってしまった父の亡骸がある。
 強く抱きしめればポキリと折れて風化してしまうのではないかと思えるほど、その遺体は生気を失ってしまっていた。

ジョセフ「だからって……こんな突飛な展開…思いつけってのが無茶だろう……!! 父さん……!! 父さんッ!!!!」









医者『一説によると人間の脳には大きなパワーが眠っていて、それを引き出すために脳に刺激を与えるという手法もあったということだ』








ディオ「宣言通り俺は今までのチンケなヒトとしての生に幕を引いた……そして新たに始まる帝王としての生は、ジョジョッ!! 貴様の喚き散らす苦痛の叫びを開幕のファンファーレとすることにしよう!!」ペロリ…



ジョセフ「うおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!!!!!」



今日はここまで

自分で書いといてなんだが、ディオが石仮面被るくだりだけでこんなにかかるとは思わんかった

スピードワゴン「おい! サツの旦那方!! 何ボォーっとしてやがる!!」

警部「はッ!? ぜ、全員銃を構えい!!」

警官「は、はい!!」

ディオ「………」

警部「撃てーーーッ!!!」

 銃声が連続する。
 ディオの体に丸い穴が穿たれていく。
 しかしディオは!

ディオ「ふぅ~~む」コキコキ

スピードワゴン「ば、馬鹿な……! や、野郎、ケロッとして首を鳴らしてやがる……!!」

警部「つ、続けろォ!! ありったけだ! ありったけぶち込めぇッ!!」

警官達「「うあああーーーーッ!!!!」」バンバンバンバン!

ディオ「何だそれは!? 痛くも痒くもないぞ!! パンパンと、このディオの再誕を祝すクラッカーのつもりかァ!?」

 降り注ぐ弾丸の雨をものともせずにディオは警官たちに突進する。
 一人目―――ディオは先ほど号令を下した警部の元へと一瞬で肉薄し、その指を警部の首へ突き刺した!

警部「お…ガ…ぱァ~……!」ズギュン…! ズギュン…!

スピードワゴン「さ、さっきのジョジョの父親の時と同じだ……! ミイラみてえにカラカラになっていく……!!」

ディオ「ハァ~~……」シュウゥ~…

スピードワゴン「い、命を吸って、傷を治してやがるのか…!? ま、まさか…不死身なのか、奴は……!?」

警官A「この野郎があぁぁあああああ!!!!」

 警部を殺されたことで激高した警官の一人が警棒をディオの頭部目掛けて振り下ろす。
 瞬間、警官の視界からディオの姿が消えた。

警官A「なッ!? や、奴はどこへ消えた!?」キョロキョロ

警官B「う、上だァーーーーッ!!!!」

 悲鳴のような叫びを受けて、警官は反射的に天井を見上げた。

警官A「うわああああああああああああ!!!!」

 ディオは!
 桁外れの跳躍力でもって天井に逆しまに張り付き!
 そして今また!
 天井を蹴り、今度は下に向かって跳躍した!!

警官A「ばブちッ!!!!」ブヂュン!

 二人目―――流星のように降り注いだディオの体に押し潰され、為す術なく警官は絶命した。

ディオ「KUAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」ドドドド!

警官B「は、はわぁッ! はわわぁッ!!」

 三人目―――肉薄した警官に向かって無造作にディオの腕が振り下ろされる。
 咄嗟にその警官は両腕を交差して頭部を庇い、ディオの一撃を受け止めようとした。
 だがッ!

ディオ「無駄無駄無駄ァーーーッ!!」ドボァッ!

警官B「アッバァァァァーーーーーッ!!」ガッパァー!

 防御した両腕もろとも、頭頂部から袈裟切りに警官の体が引き裂かれる。
 そしてディオはそのままその警官の体を持ち上げ、狼狽する他の警官たちに向かってブン投げた!

警官C「ごッ!!」ガゴッ!

警官D「ガッ!!」ドバッ!

警官E「ピッ!?」メッショオ!

 凄まじい勢いで激突した警官の死体は、互いの身を守るように肩を寄せ合っていた警官たちの体を吹き飛ばし、命をもぎ取っていく。

警官F「ひ、はわ、うわぁ~~~ッ!!!!」

 最後に残った一人は一目散に逃げ出した。
 脇目も振らず玄関へ向けて駆けていく。

ディオ「フン」

 バウン! と音を立て、ディオの体が宙を舞う。
 ただ一度の跳躍で、ディオは玄関へと向かう警官の前へと回り込んでいた。


 七人目―――最後の警官の体が崩れ落ちる。

スピードワゴン「な、なんてこった……! 一分も経たねえうちに、警官を皆殺しにしちまった……!」ガクガクガク…!


 今まで数多くの修羅場を潜ってきたスピードワゴンは、しかし初めて体感する未曾有の恐怖に震える体を抑えることが出来ない。




ディオ「フフフフフハハハハハハハハハハ!!!!」


 圧倒的な暴力をまき散らしたディオは、自分の体に眠る可能性に狂喜し、哄笑している。

 夥しい量の血に濡れながら笑うその姿は、成程、万人が身を竦めてしまっても無理からぬ、そんな狂気に満ち満ちている。





 ジョジョは――――!!


ジョセフ「…………」


 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ! !


スピードワゴン「ジョ、ジョジョ……いつの間にか、飾られていた鎧騎士の鉄槍を持っている……ま、まさか!!」

ディオ「んん~?」クルリ

スピードワゴン「た、戦うつもりなのか!! あの化け物とッ!!!!」

ディオ「ほう……」

ジョセフ「お前は……越えてはならねえ一線を越えた」



 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ! ! ! !



ジョセフ「勝ち目が見えねえ勝負なんざ全く性分じゃねえし、いつもの俺なら迷わず逃げの一手を打つとこだけどよォ~……」

ジョセフ「お前だけはッ!! たとえ一秒だって長くは生かしちゃおけねえ!! 俺がこの手でこの世から消してやるッ!! ディオぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」


ディオ「フン、喚くな。はなから貴様を逃がすつもりはない」

ディオ「たっぷりと……この素晴らしい力の実験台になってもらうぞ、ジョジョ」

 ジョースター邸―――その大広間で、ジョジョとディオは対峙する。

スピードワゴン(勝ち目は…策はあるのか……? そんな鉄槍を持ってみたところで、相手は野生の豹以上の俊敏性とゴリラ以上の腕力を持つ化け物……まともにやりあったんじゃ、簡単に殺されちまう!)

ジョセフ「………」ゴゴゴゴゴゴ…!

ディオ「どうした? あれだけ威勢のいい言葉を吐きながら、来ないのか? 来ないのなら……こちらから行くぞ!」

 ディオが駆ける。
 一歩でジョジョとの間にあった距離をつぶす。

ジョセフ「オラァ!!」

 ジョジョは右手に持った槍をディオに向かって振り下ろす。
 ディオはその槍を片手で受け止めようとして―――しかし、頭部を目掛けていたはずの槍は途中でぴたりとその動きを止めた。

ディオ「むッ!?」

 一転してジョジョは左手を突き出す―――ギラリと光るナイフを握った左手を!

ディオ「それは俺の―――貴様、いつの間に!!」

ジョセフ「おおおおおおおおおおお!!!!」

 ダン、とジョジョの持つナイフがディオの胸に奥深く突き刺さった。

スピードワゴン「や、やったか!?」

ディオ「……ククク」

ジョセフ「ッ!?」

ディオ「無駄無駄無駄ァーーーーッ!!!!」ドゴォ!

ジョセフ「ぐおおッ!?」

 己の体に突き立ったナイフを意に介さず、ディオはジョジョの体を蹴りあげた。
 195㎝あるジョジョの体が宙に浮き、数メートルも吹っ飛ばされる。

ジョセフ「が…ふ…」

ディオ「フン、咄嗟に槍で防御したおかげで致命的なダメージには至らなかったか」ズルリ…

 ディオは胸からナイフを引き抜き、そして―――そのまま、ジョジョに向かって無造作に投げ放った!

ディオ「フン!」シュパッ!

ジョセフ「うげえーーーッ!!」ドスゥ!

 ナイフは朦朧としていたジョジョの肩を直撃する。

スピードワゴン(間違いなく心臓の位置を貫いたのに……どうやったら倒せるんだ、あの化け物は!!)

ジョセフ(考えろ…! 考えるんだ…!! ディオの野郎をぶっ倒す策を…!!)

ジョセフ(奴は不死身じゃねえ……もし石仮面が本当に不死身の化け物を生むなら、この世にもっとディオみてえな化け物が溢れているはず……!)

ジョセフ(考えろ…! 今ここにある物で、ディオを葬る方法を……!!)

ディオ「ジョジョ…人間ってのは能力に限界があるなあ」

ジョセフ「…? 突然何を…」

ディオ「お前は今、小賢しくも必死で俺を倒すための策を練っているのだろう。さっきの槍を使ったフェイントのように。かつてボクシングでやりあった時のように」

ディオ「ひとつ教えてやる。俺がこれまでの人生で学んだことは、策を弄すれば弄するほど、それは予期せぬ事態で脆くも崩れ去るということだ」

ジョセフ「けっ、お前のお粗末な策と俺の芸術的な策を一緒にするんじゃねえよ」

ディオ「ククク……ハハハハハハハハハハハハ!!!!」

ジョセフ(な、何だ!? 野郎が何を考えているのか全く読めねえ……気味が悪いぜ……!!)

スピードワゴン「う、うわああああああああああ!!!!」

ジョセフ「ッ!?」

 スピードワゴンの叫びに振り向く。
 ジョジョの目に、のそりと動く影が映った。
 そんなはずはない。
 今この場に居るのはジョジョとスピードワゴンとディオの三人のみ。
 あとは物言わぬ死体だけのはずだ。

 影の正体はディオに血を吸われた警部―――その成れの果てだった。

警部「あったけえ血…べろべろ、舐めてえなああああああああ」ズル…ズル…

スピードワゴン「ひ、ひでえ!! 化け物は化け物を生むのかァーーッ!?」

ジョセフ「血か…!? ディオに血を吸われた者は、同じく血を欲するゾンビーになっちまうってのか……!?」





ジョセフ「―――ッ!!」







 瞬間―――ジョジョは血が凍り付いたかのような寒気を覚えた。

 笑っている。

 ディオは相変わらずげらげらと笑っている。

 のそり、と視界の端で起き上がる影があった。

 警部ではない。

 もちろん、スピードワゴンでも、ディオでもない。

 ジョジョはゆっくりと振り向いた。














ジョージ「ジョジョォ~~……お前の血はァ~…私の体にィ~…さぞ、しっくり来るだろう、なァ~~!!」ズル…ズル…


















ディオ「ジョォォォジョォ!! 見せてみろよ! この状況を切り抜ける、お前の芸術的な策とやらを!! ククフハハハハハハハハ!!!!」





 ディオが笑っている。



 頭のどこかでプツンと何かが切れる音を、ジョジョは聞いた。




ここまで

当初の予定よりどんどん長くなっている

こんだけ書いてまだ波紋のはの字も出てねえよどういうこった

 余りに大きな怒りというものは、逆に人を冷静にさせるものなんだな、とジョジョはどこか客観的に思った。
 冷静に、冷淡に――冷酷に、そう考えた。
 ジョジョの思考はその感情の昂ぶりとは裏腹に――冷えきっていた。

ジョセフ「ぬおおおおおおお!!!!」ブゥン!

 手にした鉄槍を思い切り警部の頭に叩き付け、振りぬく。
 グシャ、とどこか湿った音を立てて警部の頭が陥没し、その体がどちゃりとその場に崩れ落ちた。

ディオ「ヌッ!?」

 その行動に目を見開くディオ。
 ジョジョは!
 警部の頭を砕いた鉄槍を即座に構え直し!
 そのまま!
 躊躇なくジョージ・ジョースターの頭に鉄槍を叩きつけた!

ジョージ「………」ドサァ…

 断末魔は無かった。
 一瞬、大広間に静寂が満ちる。

スピードワゴン「な…あ…?」

 目の前で起きた展開に唖然としていたスピードワゴンを現実に引き戻したのはギリギリと鳴り響く鈍い音。
 ジョジョが、奥歯を砕けるほど強く噛みしめる音だった。

ディオ「やれやれ……がっかりだぞジョジョォ~。それじゃあ策もへったくれもない、ただの力押しじゃあないか」

ディオ「……とはいえ、意外性はあったか。まさか貴様がこれ程容易く己が父を手にかけるとはな……所詮はジョースター家の放蕩息子。父への情とやらもその程度ということか」

ジョセフ「………」

スピードワゴン(違う…! 父親のために命をかけて食屍鬼街に挑むほど、ジョジョの愛は深かった…! そこまでして救いたかった父親を、自らの手にかけたんだ……その心中には、どれ程の怒りと悲しみが渦巻いているか…!!)ワナワナ…

ジョセフ「スピードワゴン」

スピードワゴン「…はッ! ど、どうしたジョジョ!!」

ジョセフ「……頼みがある」

 二言三言スピードワゴンと言葉を交わし、ジョジョは警部の亡骸に歩み寄る。
 その遺体を仰向けに向け直し、両手を祈りの形に握らせた。
 同様の処置を、父―――ジョージ・ジョースターの遺体にも施す。
 その様子を嘲笑と共に眺めていたディオにジョジョは向き直り―――両者の視線が交錯する。

ジョセフ「ディオ……俺は、今までの人生でお前ほど心から憎いと思った奴はいねえ」

ジョセフ「お前は…お前だけは……俺の全てをかけて、ここで絶対に殺してやる……!!」

ディオ「フン、気に入らんのはお互い様よ……貴様の存在は俺の人生において常に目障りな目の上のたん瘤だった」

ディオ「俺は! 俺が新たに得たこの究極の力でもって!! 貴様の全てを悉く引き裂いてくれる!!」

ジョセフ「スピードワゴンッ!!」

スピードワゴン「おぉッ!!」

 ジョセフの声と同時に、スピードワゴンが猛然と玄関に向かって駆け出した。

ディオ「ムゥ! 小虫が!! 何のつもりだ!!」

 ディオがスピードワゴンに気を取られた一瞬―――今度はジョジョが階段を駆け上がる!

ディオ「貴様、どこへ行くジョジョ!!」

ジョセフ「教えると思うか間抜け!! ザクザク刺されて斜め上に絶好調なてめえのそのご自慢の脳みそで考えてみやがれってんだ!!」

ディオ「ヌウ…!」

ディオ(考えられるジョジョの意図はひとつ……俺をかく乱し、ジョジョかあのスピードワゴンとやらのどちらかをこの館から脱出させ、俺を滅するための応援を手配すること)

ディオ(それを阻止することは容易い……このディオならば跳躍ひとつであのスピードワゴンとやらには追いつける。俺は奴の首根っこを押さえつけ、ジョジョに向かってこう叫べばいい)

ディオ(『こいつの命が惜しかったら戻ってくるがいい、ジョジョ』と)

ディオ(……しかしここで問題が生じる)

ディオ(俺はあのスピードワゴンとかいう輩の素性を何も知らない)

ディオ(タイミング的にジョジョが食屍鬼街で得た知己には違いあるまい……だがその関係性が読めん)

ディオ(意気投合したジョジョの友人か……いや、このジョースター邸までわざわざ同行しているところから見るに、ジョジョに売った恩にかこつけて財産をせびりに来たゴロツキであるとも考えられる)

ディオ(前者であれば人質として有効であろうが、後者であった場合、ジョジョが見捨てる可能性は十分にあり得る)

ディオ(いや、前者であったとしても、ジョジョが臆病風に吹かれて彼奴を見捨てる可能性は0ではない)

ディオ(そうなった場合、ジョジョを今夜のうちに始末できない可能性も生じてくる……)

 一瞬のうちに思考を走らせたディオは、ニヤリとその顔に笑みを浮かべ、地を蹴った。
 向かう先は―――ジョジョが駆け上がる大階段!

ディオ「フン――こうして貴様の元へ俺を引きつけることこそが貴様の策なのだろうが……あえて乗ってやる!! 貴様のちっぽけな策など、人を超越したこのディオには通じぬと知らしめてやるためにな!!」

ジョセフ(そうだ……追ってこい、ディオ! 頼んだぜ、スピードワゴン!!)

 ジョジョは階段を駆け上がり、自らの部屋へ飛び込んだ。
 お世辞にも整理されているとは言い難い、乱雑に散らかった室内を見回す。

ジョセフ「考えろ……考えるんだ……! 今ここにある物で、あの不死身の化け物を倒す方法を!!」

 雑貨の積まれた棚。月明かりの射し込む窓。195㎝のジョジョが十分に寝返りのうてるベッド。
 よく見知った部屋だ。
 この部屋にある物を、ジョジョは全て知っている。
 だからここに来た!

ディオ「何を企んでいようが無駄無駄無駄ァ~。必死に逃げ惑うその姿、惨めで哀愁すら漂うぞジョジョォ~」

 ディオは自らの能力を楽しむように、壁を踏み抜き、階上まで悠然と壁を歩いて到達した。
 ジョジョがどの部屋に入っていったかは確認している。
 かつて自らが石仮面を盗み出すために忍び込んだ――ジョジョの部屋だ。

ディオ「死に場所は慣れ親しんだベッドの上をご希望か?」

 部屋のドアは開け放たれている。
 一見して見える所にジョジョの姿は見えない。
 ディオはさしたる警戒もせず、部屋の中へ足を踏み入れる。
 バタン、と音を立て、入口のドアが閉じられた。

ディオ「ムウ!?」

 部屋の明かりは消されており、廊下からの光が途絶えた今、部屋の中を照らすのは窓から射す月明かりだけだ。
 薄暗い部屋の中で、しかしディオの視力は問題なく辺りの状況を捉える。

ディオ(ドアノブからロープが伸びている……何のことはない。俺が入った瞬間ロープを引っ張り、ドアを閉じただけか)

 ドアノブに結び付けられ、だらりと伸びたロープ。
 つまり、このロープの先に―――

ディオ「追い詰めたぞ……ジョジョ」

ジョセフ「ケッ。追い詰められたのはどちらか……教えてやるぜ、ディオ」

 ロープを手放し、ジョジョはベッドの陰から立ち上がった。

 カチン、カチンと金属同士がぶつかり合い、音を鳴らす。
 ジョジョの手の中で、鉄製のアメリカン・クラッカーが揺れている。

ディオ「……何のつもりだ? ジョジョ」

ジョセフ「おいおい、今時アメリカンクラッカーも知らねえのかあ? ちょっと遅れてんじゃないの? ディオちゃん」

ディオ「冷静そうに見えて、とっくに気を違えていたか」

ジョセフ「ご心配なく。俺ァ正常だよ。そして、決してふざけている訳でもねえ……闘争心は変わらずグツグツ煮え滾ってるぜ」

ジョセフ「俺ァよ、これで遊んでる時に手元が狂って壁をぶっ壊しちまったり、鉄製の窓枠をひしゃげさせちまったりしたことは一度や二度じゃねえ。その時俺は、心底びびっちまったもんだぜ」

 ジョセフの手の中で、アメリカンクラッカーが勢いをつけて回りだす。
 ヒュンヒュンと、風を切る音が響く。

ジョセフ「こんなもん、思いっきり勢いをつけて人にぶつけちまった日にゃ、怪我じゃ済まねえってなァーーーーーッ!!!!」ブオン!!

ディオ「ッ!!」

 凄まじい勢いでもってジョジョの手から放たれたクラッカーはしかし!
 ディオの頬を掠め、背後のドアに激突し―――のみに留まらず、ドアを突き破り廊下へと突き抜けていった!!

ディオ「……フン! 確かに大した威力だ。しかし当たらなければ意味は…!?」

ジョセフ「おおおおおおおおおおおお!!!!」

 最初の一撃は囮!
 ディオが入口ドアの方を振り向いた瞬間、ジョジョはベッドを踏み台とし、跳躍していた!
 そしてその両手では、それぞれアメリカン・クラッカーが空気を裂き、勢いよく回っている!

ジョセフ「その両肩砕いてやるッ!! くらえッ!!!!」

ディオ「エイィッ!! 小賢しいぞジョジョッ!!!!」

 大上段から振り下ろされ、左右から迫るクラッカーに対してディオは!

ディオ「URRRRRRRRRRYッ!!!!」ビッシィー!

ジョセフ「な、何ィィィイイイイイ!!!? ひ、紐の部分に手刀を!!」

 ディオの手刀により紐の回転を阻まれたクラッカーは、その勢いのままディの手に巻き付いていく!

ディオ「そう、巻き付く!! 紐の部分を押さえてやればクラッカーは俺の手に巻き付くだけよ!! ちょっぴり締め付けられるが、それだけだァーーーッ!!」ドッゴォ!

ジョセフ「ブッ…がッ!!!!」メリメリポキポキ

 クラッカーを通じて両腕を開かれ、無防備となったジョジョの腹部にディオの蹴りがめり込む。
 吹き飛ばされたジョジョの体は盛大に壁に叩き付けられた。

ジョセフ「が…ごほッ…!」

 骨が砕かれ、内臓も傷つけてしまったのだろう。
 ジョジョの口から鮮血が零れた。

ジョセフ「馬鹿な…これだけ暗い中で……正確にクラッカーの紐を捉えるなんて……」ゼエー、ゼエー

ディオ「生まれ変わったこのディオにとって、夜の闇の中こそ真骨頂よ。愚かにも無知な貴様はわざわざ俺をホームグラウンドへと招いていたということだ」ザッ、ザッ、

ジョセフ「や、やめろ……来るな……!」

 歩み寄るディオに向かって、ジョセフはそこらに散らばる物を手当たり次第に投げつけ始めた。

ジョセフ「頼む……来るな……来ないでくれ……!!」ポイポイポイポイ

 自らの体に当たる飛来物など気にも留めず、ディオはさらに歩を進める。

ジョセフ「やめろォッ!! 俺のそばに近づくなァーーーーーッ!!!!」

ディオ「ククク……」

ジョセフ「ハァー…! ハァー…!」

ジョセフ「お前の……次のセリフは……」




ジョセフ「『しかし近づかなければ貴様の血を吸えないじゃあないか、ジョジョ』…だ…!」


ディオ「しかし近づかなければ貴様の血を吸えないじゃあないか、ジョ―――何ィッ!!!?」


ジョセフ「待ってたぜディオ! お前が油断し、ここまで無防備に近づいてくるこの瞬間をよォーーーッ!!」チャキッ

 ジョジョはディオに向かってその両手を突き出す。
 その手に握られていたのは!

ディオ「何ィ~~ッ!? 拳銃ッ!? 貴様、そんな物をいつの間に……!」

ディオ「ハッ…!? あの時……警部の遺体の手を組ませてやった時に!!」

ジョセフ「距離1m……この距離なら、素人の俺でも流石に外しゃしねえ……!!」

ジョセフ「全弾くれてやるぜッ!! 呑気にさらけ出したそのドタマになッ!!」

 連続する銃声!
 ジョジョの放った銃弾は全てがディオの額に撃ちこまれ!
 その衝撃に、たまらずディオの体も後方にぶっ飛んだ!!

ディオ「GYYYAAAAAAAAAAッ!!!!」

 砕けた頭蓋を押さえ、地に伏し、ディオは悶え苦しむ!

ディオ「グ…ッ! い、『痛い』…!! 馬鹿な…!! ず、頭痛がする……吐き気もだ……!!」

ディオ「まさか、不死身のこの体……頭部だけは…脳だけは破壊されてはいかんというのか…ッ!?」

ジョセフ(ディオの化け物のような力は、石仮面により人間の脳の隠された力が引き出されたもの……)ハァー、ハァー、

ジョセフ(弱点があるならその脳そのものだと当たりをつけたが……どうやらビンゴだったようだな。ディオの野郎、苦しそうにうめき声を上げて、傷が回復する様子もねえ!!)

ジョセフ「畳みかけるなら今ッ!! ココしかねぇーーーーッ!!!!」ダッ!

 ジョジョがその手に持ったのは何の変哲もない無骨なハンマー!
 当然、ジョジョの膂力で思い切り叩き付ければ鉄製の鎧もひしゃげる威力!
 ふらふらと立ち上がるディオに肉薄し、ジョジョはハンマーを大きく振り上げる!!

ディオ「ぐうう…! させんッ!!」

 ディオは死力を尽くし、ジョジョの一撃を手刀で撃ち落としにかかる。
 今度の狙いはハンマーではなく、ジョジョの手首そのもの!
 当たれば肉を裂き骨を砕く起死回生の一撃!
 しかしジョジョは何と!!
 あっさりとハンマーを手放し、体を低く沈み込ませてディオの体にそのまま激突した!!

ディオ「なッ…!?」

 手刀を盛大にスカされ、体勢を崩していたディオはジョジョの勢いに抗うことが出来ない。
 ジョジョは足を止めず、そのままディオの体をかち上げ、部屋のドアへと激突した。
 その勢いに耐え切れず、ドアが開く。
 しかし、それでもまだジョジョの勢いは止まらない!

ジョセフ「おおおおォォォォォォッ!!!!」

 二人は遂に廊下の手すりに激突し!
 その質量に手すりはあっさりと砕け、二人の体は一階大広間へと通じる吹き抜けへと投げ出された!!

ディオ「何ィーーーーーーッ!!!!!???」

 驚愕の叫びはディオのもの。
 ジョースター邸一階部分は―――激しい炎に包まれていた!!




スピードワゴン『ジョジョ、頼みってのは何だ?』

ジョセフ『お前は今からタイミングを見計らって玄関へ向かってくれ。同時に俺も階段を上がって俺の部屋に向かう』

ジョセフ『ディオは間違いなく俺の方を追ってくるはずだ。そしてディオが俺の部屋に入るのを確認したら……この館に火を放ってくれ』

スピードワゴン『なッ!? 馬鹿な、そんなこと!!』

ジョセフ『奴に止めを刺すために今ここで準備出来るモンっつったらそれくらいしかねえ! この館そのものを材料とした、強烈な火力しか!』

スピードワゴン『な、ならせめて、親父さんの遺体だけでも外に出してから……!』

ジョセフ『いいや、駄目だ。人一人担いで外に出すのに何分かかる? それから火を放ったんじゃとても間に合わねえ』

ジョセフ『俺が奴を突き落とすまでに、どれだけ強い炎に出来るかが勝負なんだ……!!』

スピードワゴン『ジョ、ジョジョ……!』

ジョセフ『頼んだぜ……スピードワゴン』




ジョセフ「ヒュゥーーッ!! この火力! 随分と頑張ってくれたみたいだなスピードワゴン!!」

ディオ「貴様、ジョジョ!! 俺が部屋に入ったとき、ドアを閉めたのはこれが狙いだったのか!! 階下の状況を、俺に悟らせぬためにッ!!」

ディオ「最初から、このディオと心中するつもりだったのだな!!」

ジョセフ「心中ゥ…? そんなつもりはさらさら無いぜ!!」ニヤリ

 笑みと同時に、ジョジョはディオの体を蹴り飛ばす。
 その反動を利用して落下方向を変えたジョジョの向かう先には!
 ロープが! 一本のロープが垂れ下がっている!!

ディオ「何ィィィーーーッ!!? 馬鹿なッ!! そんな物をいつの間に……ハッ!?」

 そのロープの先に結び付けられていた物を目にして、ディオは全てを悟った。

ディオ「アメリカンクラッカー……!! ジョジョ、貴様ァァァァあああああああ!!!!」

 ガシィ! とジョジョの手がアメリカンクラッカーを掴んだ。
 部屋にあるベッドと繋がれたロープに支えられ、ジョジョの体が落下を止める。

ジョセフ「ロープを体に結び付けたりしたまんまお前に体当たりしてたら、がむしゃらにしがみつかれる可能性があったからな! 一工夫させてもらったぜ!!」

ディオ「最初に投げたアメリカンクラッカーはわざと外したのか!! 部屋の明かりを落としていたのは、クラッカーへと伸びるロープを見えにくくするため!!」

ジョセフ「ついでにドアをわざわざロープを使って閉めたのは、床を這うロープの存在をごまかすためだ。ベッドからドアに向かって一本のロープが伸びていたらそりゃ目立つが、一本が二本に増えている程度なら、どうかな?」

 事実、ディオはのたうつロープが二本あることに気付けなかった。
 間髪入れず上段から飛びかかったジョジョに気を取られ、気付く暇を奪われてしまった。




 ―――ディオの体が落ちていく。あらゆるものを燃やし尽くす烈火の中へ。


ディオ「KUUAAAAAAAAAA!!!! 焼ける…!! 俺の体が焼けるッ!!まさか、こんな……!! ば、馬鹿なぁぁぁああああああああ!!!!」メラメラメラメラ

ジョセフ「……罪悪感はねえ。カスまで燃えて無くなっちまいな、ディオ」


 ディオは―――炎の中へ消えた。
 下へ落ちるのは免れたものの、激しく燃え盛る炎の熱気は、宙づりになったままのジョジョを容赦なく責め立てる。

ジョセフ「うぷ…! い、いつまでもここでこうしちゃいられねえ。さっさとこのロープを使って這い上がらなきゃならねえんだが……」

 体を持ち上げようと腹筋に力を入れると、途端に強烈な痛みが全身に走る。

ジョセフ「グ…! 果たしてこの体で、炎が俺に追いつくまでに上まで辿りつくことが出来るか……火事場の馬鹿力はさっきディオを突き落とすのに使っちまったからなァ~……クソッ…!」

 ゴァッ! と一際大きく火の粉が巻き上げられた。
 おそらく館自体の崩壊までもう間がない。

ジョセフ「いよいよ……万事休すか……?」

「ジョジョッ!!」

 かけられた声にジョジョは上を見上げる。
 そこに居たのは―――

スピードワゴン「しっかり掴まってろ!! すぐに引き上げてやるからな!!」

ジョセフ「スピードワゴン!! お前、なんで外に逃げてねえんだ!! 馬鹿!!」

スピードワゴン「うるせえ!! 結局そんなザマでピンチに陥ってる癖に、デカい口叩くんじゃあねえ!! 言うべき言葉は他にあるんじゃねえのか!?」

ジョセフ「ああ……助かった! 礼を言うぜ!! スピードワゴン!!」

 無事引き上げられたジョジョは、スピードワゴンの肩を借りてふらつく体を何とか支える。

スピードワゴン「どうする? どっちに向かえばいい?」

ジョセフ「こっちだ……俺の部屋の窓からジャンプしてギリギリ届くくらいの所に木が生えている。そこから枝を伝って脱出するぜ」

ディオ「グ…ハ……」ズリ…ズリ…

 炎に全身を焼かれながら、ディオは床を這い、館の出口を目指していた。

ディオ(頭部を破壊されたせいで体にまるで力が入らん!! だが、地面を這うことくらいは出来る!!)

ディオ(間に合う…! このペースなら…我が体が焼き尽くされる前に何とか……外へ……!!)

 がしり、と地を這うディオの足首を何者かが掴んだ。

ディオ「な、なにッ!?」ギョッ

ジョージ「あ……ば、う」グググ…

ディオ「ジョージ・ジョースター!!? 馬鹿な! コイツ、まだ生きて……!! ええい!! 離せこの死にぞこないが!!」

 ぶんぶんと足を振ってもジョージの手は離れない。
 思い切り頭を蹴り飛ばしても、ジョージはその手を離そうとはしない。

ディオ「ま、まずい!! このままではッ!! うおおお離せ離すんだこのクソカスがぁぁぁぁあああああああ!!!!」ガンガンガン!

ジョージ「あぶ…ふ……と、と……も……に……」

 ぐずぐずに崩れたはずのジョージの顔に、確かな笑みが浮かんだ。

ジョージ「共に逝こう……ディオ……」

ディオ「うおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」







 ゴォーーー――――――


 メラメラメラメラ…………



 木から地面に降り立ったところで、ジョジョはがくりと膝をついた。

スピードワゴン「もう少し頑張るんだジョジョ! 館の中に何か引火性のものが無いとも限らねえ!! もう少し離れとかねえと危険だ!!」

ジョセフ「う…ぐ……」

スピードワゴン「どうした、どこか痛むの…か……」

 ジョジョの顔を覗き込んだスピードワゴンは言葉に詰まった。
 ジョジョは泣いていた。
 大粒の涙を、ぼろぼろとこぼしていた。

ジョセフ「う…く…ディオ…! 馬鹿野郎……この…馬鹿野郎……!!」

ジョセフ「父さん……あぁ…! 父さん……!!」ポロポロ…

ジョセフ「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 ジョジョはその場で声を上げて泣いた。
 かける言葉もなく、スピードワゴンは立ち尽くす。



 頬を濡らす涙は止まることなく――――いつまでも、いつまでも流れ続けていた。


ここまで
やっと前半終了
夏の間に終わらせるつもりだったが こりゃ無理だな
ま、のんびりやっていくべよ

弱点の頭部を負傷した上にジョージがカッチョイイせいでこれで滅した感がある

>>186
ジョージがディオの体にカッチョン(首を落して奪った)に見えた。お前の所為で
吸血鬼ジョージ「あの時、私はディオと死ぬつもりだった」
ジョセフ「次にお前は「私は逆にディオの体を奪って吸血鬼になっちゃっても良いんだと考え実行してしまった」という」
ジョージ「その通りだよジョセフ」
が浮かんでしまった。

生存報告がてら短め投稿

ジョセフ「う……」

 ジョジョが目を覚ましたのは白いベッドの上だった。

ジョセフ「ここは…? 俺は一体…」

 見覚えのない天井をぼんやりと見つめながら、ジョジョは回想する。
 あの時―――燃え落ちる館から脱出して、それから―――それからの記憶がない。

ジョセフ「つっ…!」

 体を起こそうとして、わき腹に走った痛みにジョジョは顔を顰める。

ジョセフ「手当てがされている……するってぇ~と、病院か? ここは。どうやらあの後気絶しちまった俺をスピードワゴンが運んでくれたみてえだな」

 ジョジョはキョロキョロと室内を見回した。

ジョセフ「新聞が置いてあるな。日付は…ふむ、あの夜から少なくとも二日は経ってるのか」

 ポイ、と新聞を元あった場所に放り投げ、ジョジョは再びベッドにその身を横たえる。

ジョセフ「何とか……生き延びることが出来たってわけか……」

 ジョジョは安堵したように、しかしどこか寂しげにそんな事を呟いた。

「ふんふふ~ん」ガチャリ

 ドアを開けて看護婦が部屋の中に入ってきた。
 ジョジョと目が合うと看護婦は目を丸くして驚き―――すぐに、満面の笑みをその顔に浮かべた。

「ジョジョ! 目を覚ましたのね!! 良かったぁ!!」

ジョセフ「お、おぉ?」

 パタパタとベッドのそばまで駆け寄ってきた看護婦の態度に少々面食らうジョジョ。

ジョセフ(な、何だァこの看護婦? いきなりベタベタしてきやがって…いや、そりゃ結構可愛いし、すり寄られて悪い気はしねえけどさァ~)

ジョセフ(ちょいと馴れ馴れしすぎるんと違う? いきなりジョジョって呼びやがるしよォ~)

「ちょっとぉ、何? その顔」

ジョセフ「あん?」

「あんたまさか、私が誰かわからないっていうんじゃないでしょーね?」

ジョセフ(何ィ? まさか知り合いか?)

 ムッ、と口を曲げる看護婦の顔をまじまじと見つめ、ジョジョは記憶を探る。
 確かに、どこか見覚えのある顔立ちをしている。
 しかし、どうしても名前が出てこない。

「やだ…もう、そんなにじっと見つめちゃイヤン!」

 自分から顔を近づけてきた癖に、頬を赤らめ、頬に両手を当てて顔を背ける看護婦。

ジョセフ(なんてノリの軽ィ女だ! こんな女にゃあ、今まで一度しか会ったことがねぇーぜ!!)

 と、ジョジョはそこではたと気づく。
 ジョジョの経験上一度しかお目にかかったことがないようなノリの女の子。
 目の前の看護婦にはその面影が確かにある。

ジョセフ「お、おめえ~まさか! スージーQかァ~~!?」

スージーQ「やっと思い出した? 久しぶりね、ジョジョ!」

 ディオの謀略によって屋敷を去った少女、スージーQ。
 この夜、ジョジョはその少女と運命的な再会を果たしたのであった。

スピードワゴン「今日でジョジョが入院して二日目……いい加減、目を覚ましているといいんだが」

 深夜、スピードワゴンはジョジョの入院している病院を遠巻きに眺め、独り言ちる。

スピードワゴン「今朝はやたら姦しい看護婦に面会謝絶って追い返されちまったからな……今から忍び込んで、何としてでもジョジョのそばまで行ってやる」

スピードワゴン「心だ! 父を亡くし、家を無くし、全くの孤独となってしまったジョジョには心の支えが必要なんだ!」

スピードワゴン「俺じゃあまったくの役者不足ってのはわかってんだがよォ、ほんのチョッピリでも与えてやりてえ! 生きる希望って奴を!」

 スピードワゴンは塀を乗り越え、病院の敷地内に侵入する。
 そのままジョジョの病室の前までやってきた所で、病室内から話し声がすることに気が付いた。

スピードワゴン「何だ…? こんな深夜に……ま、まさか、ジョジョの身に何か!?」

 スピードワゴンはドアの傍の壁に張り付き、そろりと室内を覗き込む。

 ジョジョは!


スージーQ「はい、アーン」

ジョセフ「あ~ん」

スージーQ「ひょいっ」

ジョセフ「あむ」スカッ

ジョセフ「おめえ~なぁ~」

スージーQ「ごめん、ウソウソ。はい、あ~ん」

ジョセフ「んあ~」

スージーQ「ひょいっ」

ジョセフ「あむ」スカッ

ジョセフ「てめえいい加減にしろよこの野郎ッ!!」ゴォー!

スージーQ「なぁ~によ! 元々こんな時間に患者さんに食べ物あげちゃいけないんだからね! ジョジョがどぉ~してもって言うからフルーツをわざわざ切ってきてあげたんだから!!」

ジョセフ「はいはいごめんごめん悪うござんしたぁ~! スッゲェ感謝してっからそろそろ食わせてくれませんかスージーQ様ァ~~!」

スージーQ「ん、よろしい! はい、あ~~ん」

ジョセフ「あ~~…む」モグモグ…

ジョセフ「ん、うめえ。サンキューな、スージーQ。ほんじゃ、もう一口…」ア~ン

スージーQ「はいはい…うふふ、あ~ん」

ジョセフ「あ~」

スピードワゴン(あ、あいつ…! いちゃついてやがる!! 何かもうすげえケロッとしてやがる!! し、心配した俺がアホらしくなるほどに…!!)ワナワナ…!

スピードワゴン(……いや、そんなことはねえ。ジョジョの心には深い傷が残ってる。それを、あの看護婦との触れ合いで少しでも癒せているのなら、それは素晴らしいことじゃあねえか)

スピードワゴン(ここで乱入するのは野暮ってもんだぜ。明日改めて顔出すことにすっか……スピードワゴンはクールに去るぜ……)

スージーQ「きゃあ! ジョジョ、それは私の指よ!! 私の体は食べられないったらぁ~!」

ジョセフ「えぇ~? 食べられねえのお~?」

スージーQ「んもう! ……少なくとも、入院している間は、ね?」

ジョセフ「でぇへへぇ~! それじゃあ僕チャン頑張って治しちゃおっかなー!! るんるん!!」

スピードワゴン(くおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!)



 スピードワゴンは―――最後まで声を出さなかった―――――

 背後で行われるやり取りに、爆発しろと叫びたくなる衝動を必死に噛み殺しながら―――――

 彼は――――――最後までクールにその場を去ったのだった。


ここまで

これからは書く時間増えるんで もうちょい頻度上げて投下する予定

何とかお付き合いをば

 数日後―――ようやく立って歩けるまでに回復したジョジョはスージーQを伴ってジョースター邸の焼け跡を訪れていた。

スージーQ「本当に…全部燃えてしまったのね……」

 スージーQは沈痛な面持ちで呟くように言った。

スージーQ「ジョースター卿も……ディオ様も……ここで、眠っているのね」

ジョセフ「ディオなんかに“様”付けする必要なんかねーぜ」

 思わず口に出してしまったジョジョの言葉に、スージーQはやや非難したような目つきでジョジョを見る。
 スージーQに事情は話していない。ただ、火事に巻き込まれて父とディオが亡くなったと伝えただけだ。
 もちろん、真実を告げるつもりもない。

ジョセフ(ディオがくたばったという確証がほしくてここに来てみたはいいものの、こんなに何もかも燃え尽きちまってるんじゃ、確認のしようがねえな)

スージーQ「ジョジョ?」

ジョセフ「何でもない。戻ろうぜ、スージーQ」

 館に背を向け、歩き出したところで一人の男性が目についた。
 鼻の下に髭をたくわえ、シルクハットを被っている。
 貴族階級を思わせる身なりの良い初老の男が、サンドイッチを齧りながらこちらをじっと見据えている。

ジョセフ「誰だ…? さっきからずっとこっちを観察している気がするが……」

 ジョジョが不信感をもって眺めていると、男は口元ににやりと笑みをつくった。

「君がジョセフ・ジョースターだね? 隣にいるのは君の入院する病院で看護婦を務めているスージーQ」

ジョセフ「俺たちを知っている!? 何者だアンタ!?」

 あぐらをかいた体勢から男は太ももを強かに地面に打ち付ける。
 驚くべきことに、それだけで男の体は195㎝のジョジョが仰ぎ見るような高さまで浮き上がった。

ジョセフ「何ィーー!? 座ったままの姿勢で跳躍をッ!?」

「よく生き残ったものだ、あの石仮面の力から。だが生きているぞ、石仮面の男も」

ジョセフ「なッ!?」

 男の言葉に気を取られたジョジョの隙を突き、男はジョジョの腹部に拳を突き立てる。
 跳躍した勢いのまま撃ちこまれた一撃に、たまらずジョジョの肺から空気が押し出された。

ジョセフ「うげぇーーッ!!」

「そうだ…肺の中の空気を1㏄残らず絞り出せ。しばらく呼吸は出来ん……が、心配いらん」

ジョセフ「が…は…」

スージーQ「ジョジョ!! 大丈夫!?」

 苦痛に呻くジョジョにスージーQが駆け寄った時―――ジョジョの体に変化が生じた。

ジョセフ「な…なんだ…? 痛みが…体の痛みが消えている!!」

スージーQ「まあ! なんですってジョジョ!?」

「消えたのではない、君の呼吸が消したのだ……そして、私は味方だ。ジョセフ君」

 男は再びサンドイッチを一口齧り、ぺろりと舌なめずりをしてから―――

「私はツェペリ男爵だ。勇気だけでは石仮面の力には勝てんよォー」

 ―――そう名乗った。

ジョセフ(ツェペリ男爵……奇妙な力を使う、この得体のしれないおっさんが何者なのかも気になるが……何よりもまず、このことを確認しなきゃならねえ!!)

ジョセフ「おっさん! アンタは今、ディオが生きていると、そう言ったのか!?」

ツェペリ「君の言うディオがディオ・ブランドーを指すのであれば、答えはイエスだ」

ジョセフ「ば、馬鹿な…!」

ツェペリ「私も故あって石仮面を追いかけている身。石仮面がジョースター邸に流れたことは掴んでいた……そして今回の事件が起きた。もしやと思い、私は調査を進めたのだ」

ツェペリ「警察の知己に頼んで調べてもらったのだが、あの日ジョースター邸には7人もの警官が派遣されていた。そしてその7人全てが火事に巻き込まれ、死亡している。普通ならあり得んことだ」

ツェペリ「しかしジョースター卿殺害未遂容疑で逮捕されるはずだったディオ・ブランドーが追い詰められ、石仮面の力に縋ったのならば……この惨状にも説明がつく」

ツェペリ「ところでその時、現場に東洋人が一人居ただろう?」

ジョセフ「あッ! そ、そういや…!」

 ディオに毒薬を売りさばいた東洋人・ワンチェン―――いつの間にか館から姿を消していた。
 すっかり忘れていたが―――奴はディオが石仮面を被るドサクサに紛れていち早く逃げ出していたのだろうか?

ツェペリ「奴が街でジョースター邸の火事について喋っていたことからディオ・ブランドーの生存を突き止めたのだ……どういう訳かその東洋人、今はディオ・ブランドーに従っているらしい」

ジョセフ「な、なんてこった……」

スージーQ「ねえジョジョ? どういうこと? あの人は何を喋っているの?」

ジョセフ(スージーQ! …駄目だ、こいつにこの話は聞かせちゃいけねえ。こいつをこんなもんに巻き込んじゃいけねえ!)

ジョセフ「その話……場所を変えてゆっくり話そうや。ツェペリさんとやら」

ツェペリ「ん、よかろう。私も君に見せたいものがあるからね」

 しばしの時が経ち、ジョジョとツェペリは近くの河原へ移動していた。
 スージーQはジョジョの説得に応じて既に病院へ戻っている―――途中何度も隠れて着いてきていたが、三度に渡りジョジョに看破され、渋々と帰路についていた。
 川の流れの中に立つツェペリの足元では、砕けた岩が蒸気を上げている。

ツェペリ「今見せたのが仙道―――『波紋』の力だ。ジョジョ……君は石仮面の力に対抗するため、この力を身に着けなければならない」

ジョセフ「拳を打ち付けたカエルには影響を与えず、その下にある岩のみを砕く……威力は凄まじく、それ以上に奇妙な力だ。だが、これが何故ディオや他のゾンビへの対抗手段につながる?」

ツェペリ「かつて私の父も仮面を被って吸血鬼と化し、日光を浴びて気化した……奴らは日光に弱いのだ」

ジョセフ(なーるほど。道理であれだけの生命力を持ちながら化け物達が繁栄してないわけだぜ。そしてディオが夜こそホームグラウンドと言っていたのも頷ける話だ)

ツェペリ「そして、特殊な呼吸によって血液から生み出す『波紋』のエネルギーの波は太陽の光の波と同じなのだ」

ジョセフ「つまり、その『波紋』とやらを叩きこんでやれば奴らは日光を浴びたように気化してしまうってことか」

ツェペリ「ジョジョ、君はこの『波紋』の力を習得しなければならない。ディオ・ブランドーは遠からず力を取り戻し、世界の帝王となるため動き出す。ディオが最初に狙うのは恐らく君だ」

ジョセフ「ケッ。世界の帝王……冗談としか思えねえ響きだが、あいつなら本気で目指しそうだからまったく始末に負えないぜ」

 ジョジョは拾い上げた小石を川に投げ込み、水面に生じた波紋をじっと見つめる。

ジョセフ「今度こそ、奴は俺自身の手で叩きのめす。その為の力をツェペリさん、アンタが授けてくれるってんなら願ったり叶ったりってもんだぜ」

ツェペリ(ほう……)

 ジョジョの瞳の中に漲る闘志を見出し、ツェペリは感嘆する。

ツェペリ(迷いのない、いい目をしている……流石、知恵と勇気のみで石仮面の力を退けただけはある)

ツェペリ「よし!! 修業はとても過酷なものとなる。だが君ならばそれも乗り越えられると信じているぞ、ジョジョ!!」

ジョセフ「え? 修業すんの?」

ツェペリ「え?」

ジョセフ「さっき俺の腹を殴った時みたいに、何か特別なツボとか押して力を引き出すとかじゃないの?」

ツェペリ「そんな都合のいいもんじゃあないぞ。さっきみたいに無理やり呼吸を調節してもそれは一時しのぎにしかならん。呼吸法を身につけるためには長く苦しい修行に耐えることが必要なのだ」

ジョセフ「オーーノォーー!! 痛ぇのは嫌だけどツレェのはもっと嫌いよ僕チャン!!」

ツェペリ(ヌ、ヌゥ……わからん。この若者、やはり運が良かっただけの馬鹿チンか……?)

 とある時刻、とある街―――――
 女の悲鳴が木霊する。絞りかすのミイラとなった死体が投げ捨てられる。
 全身を火傷で彩られたディオ・ブランドーが、回復のための『食事』を続けている。

ディオ「むうぅ……この傷、数人の命を吸っただけでは癒えぬ……もっと…もっと血が必要だ……それも、若い女の物が…望ましい……」

 ディオに『食糧』を調達しているのは、ディオに血を吸われ、下僕と化した東洋人、ワンチェンだ。

ディオ「あの時……ジョージ・ジョースターの肉体を直接捕食し、僅かでもエネルギーを摂取していなければ……夜が明ける前にワンチェンが石仮面を回収しに館を訪れていなければ……このディオの命運はあの夜尽きていた……」

ディオ「ジョジョ……奴だけは始末しなければ……このディオが帝王として覇道を歩むためのケジメ……奴だけは、どうあっても殺さねばならない……」

ディオ「ワンチェン!」

 既にディオに絶対服従のゾンビと化したワンチェンは、膝をつき、ディオの前で首を垂れる。

ディオ「ジョジョの様子を偵察してくるのだ……殺せるようなら殺していいが……奴は抜け目のない男……くれぐれも慎重に事は行え……」

ワンチェン「はっ……」

 ワンチェンの姿が闇の奥に消える。
 ディオは次の食糧へと手を伸ばす。

「ひ…! やめて、助けて……!!」

 少女の懇願はディオの耳には届いていない。
 人が家畜の首を落とす時に生じる僅かな罪悪感すら、今のディオからは消失している。

「ひきゃ、あああああああアアアアアあああああアアアアアアアアああああああアあアあアああアあ!!!!!!」

ディオ(ジョジョ……貴様は……貴様だけは……)

 少女の断末魔の叫びをBGMに、ディオは黙考する。


 今宵は満月。
 ジョジョはツェペリの修業に悲鳴を上げながら月を見上げた。
 ディオは捕食する少女の悲鳴を聞きながら月を見上げた。
 歩む道はかけ離れ、激突することが定められた二人。
 しかし皮肉にもその時月に託した願いだけは一致していた。



『お前だけは、必ず殺す』



今回はここまで

ツェペリ「ほれほれ、教えた呼吸法のリズムを狂わすなよォ~」

ジョセフ「ゼハァー! ゼハァー! む、無茶言うんじゃねえっつーの…! 今……何キロ走ってきたと……」

ツェペリ「そォれい!」ゲシィ!

ジョセフ「うばっぷ!」バシャァ!

ツェペリ「さて、今お前を川に叩き込んだ。水面に注目しろジョジョ。水面はしっかり波紋の力で揺らいでいるかァ~?」

ツェペリ「呼吸だ! 波紋の修業とは呼吸の修業……フルマラソンを走った後でも呼吸を乱さない……最低でもその域まで達しなければ吸血鬼どもとは到底やりあえんぞ」

ジョセフ「ち、ちっくしょォ~」ゼハァー、ゼハァー

ツェペリ(ほう…もうジョジョの足元から水面に波紋が起き始めた……既に呼吸は整いつつあるか。やはり資質と才能は十分なようだな)

ジョセフ「だァーー!! もうやってられるか!! スージーQんトコで酒もらってくらあ!!」

ツェペリ「馬鹿もん!! まだ今日のメニューの半分も消化しとらんわ!!」

ツェペリ(あとは修業に対するモチベーションを高く保ち続けてくれれば言う事は無いのだが……やれやれだわい)

 数日後―――――

ツェペリ「ところでジョジョ……気づいておるか?」

ジョセフ「え?」

ツェペリ「しばらく前から何者かに見られておるぞ。どうやら我々は監視されているらしい」

ジョセフ「監視?」

ツェペリ「うむ。そして今現在、我々を監視して益がある者と言えば」

ジョセフ「……ディオか!!」

ツェペリ「先ほどちらりと姿が確認できた。監視者はワンチェンとかいう東洋人で間違いないだろう」

ジョセフ「こっちを襲ってくる訳でもないってのが不気味だな」

ツェペリ「君から聞いた話より随分と慎重な男のようだな、ディオは。いや、一度手ひどくやられたことで慎重になったと考えるべきか」

ジョセフ「どうする? ツェペリさん」

ツェペリ「道は二つだ。一つは波紋法の情報を隠匿するため、位置が掴めている今のうちにこちらから仕掛け、ワンチェンを仕留める。もう一つは……」

ジョセフ「あえて泳がせ、逆にワンチェンの後を追うことでディオの潜伏場所を突き止める」

ツェペリ「その通り。前者は監視が戻ってこなかったことでディオが雲隠れする可能性があり、後者は波紋法を知られることで何かしらの対抗手段を講じられる可能性がある」

ツェペリ「どちらにも相応のリスクがあるわけだ。さて、どちらを選ぶか……ジョジョ、君ならどうするね?」

ジョセフ「俺は……」

ワンチェン「ディオ様、只今戻りました」

ディオ「ワンチェンか……ジョジョの様子はどうであった?」

ワンチェン「けへへ、奴らときたら水辺で何やらパシャパシャと呑気に遊んでいるばかりで、報告するようなことは何もありませんでした。もうこの爪で切り裂いて血をベロベロ啜ってきてもいいですかねェ~?」

ディオ「戯けが!! 奴を甘く見るなと言っただろうが!! ジョジョは時にこちらの思惑を大きく超えた行動をとる……見聞きしてきたことを詳しく話せ!!」

ワンチェン「は、はいィ~~!」


 ―――――ワンチェン説明中


ディオ「呼吸……そして、波紋だと……? ふむ……調べる必要がある、か……」

 そしてまた幾日かの時が経ち―――ジョジョはウインドナイツと呼ばれる町を目指していた。

スピードワゴン「裏の世界に手を回して得た確かな情報だ。ワンチェンって東洋人は『風の騎士たちの町(ウインドナイツ・ロット)』を根城にしている」

ツェペリ「あの時、ワンチェンとかいう東洋人ゾンビを泳がせた甲斐はあったというわけだ」

 ジョジョはあの時、波紋法を知られるよりもディオを野放しにしている方が危険だと判断した。
 ディオが一日でも長く生きるということは、それだけ多くの人間が犠牲になるということだ。

ジョセフ「ディオの野郎、すぐさま行ってとっちめてやる」

 それに、波紋法を知られたとしてもこの短時間で対抗策など用意できまいという思いもあった。
 波紋のエネルギーは太陽のエネルギー。
 それを克服できなかったからこそ、石仮面の一族は滅びてきたのだから。

スピードワゴン「ウインドナイツ・ロットへのトンネルに入るぜ」

ジョセフ「予定通りだな。どうやら昼のうちに到着できそうだぜ」

 しかしすぐに異変は生じた。
 トンネルの半ばで馬車が停止したのだ。

スピードワゴン「どうした御者! 何故馬車を止める!?」

 馬車から身を乗り出し、前の御者台を確認したスピードワゴンの目に飛び込んできたのは!!

スピードワゴン「うおおおおおおおおおおおお!!!!??」

 死体!
 それも異様な死体!!
 幾本ものナイフに串刺しにされた御者の死体に、切り落とされた馬の頭が被せられていた!!

スピードワゴン「ば、馬鹿な! こんな!! 一体いつの間に!!」

ジョセフ「ちっ、まずいぜ。ここは太陽の光が届かねえ」

ツェペリ「さっそくきたか……」

スピードワゴン「うわああああああ!!!! 頭を切り取られた馬の胴体、その切断面に!! 居る!! 何か居やがる!!」

「ハァ~~~」

 首の切り口から異様な男が姿を現した。
 濃い髭をたくわえており、上半身は裸。
 そしてその手に奇妙な形のナイフを持っている。
 男の名は切り裂きジャック。ディオに下り、永遠の命を手に入れた殺人鬼だ。

ジャック「絶望にィィ~! 身をよじれィ~~!! 虫けらどもォ~~!!」

 ジャックは馬車を凄まじい力で天井にぶち当て、トンネルを崩落させて入り口を封鎖する。

ツェペリ「二人とも下がっとれ。わしが奴の相手をしよう」

 その手にワインのグラスを掲げ、ツェペリがジャックの前に躍り出た。

ツェペリ「勇気とは!」




 以下略!!


ジャック「うがああああああ!!」

 ツェペリにより波紋の一撃を受けたジャックは、顔面をぐずぐずに溶かしながらもなお活動を止めず、トンネルの壁に現れた隠し通路に逃げ込んだ。

ツェペリ「さあ、ジョジョ。ここからはお前の仕事だ。お前は一人でこの隠し通路に入り、奴を仕留めてくるのだ」

スピードワゴン「おい!! 何言ってんだ正気かちょび髭!!」

ツェペリ「あんたはだぁーっとれい!!」

スピードワゴン「ヌ、ヌゥ…!!」

ジョセフ「いや、マジでスピードワゴンの言う通りだぜツェペリさん。これは明らかに罠だ。何なら無視してトンネルを出ていったっていい」

 ジョジョは言いながらトンネルの出口を指し示す。
 なるほど、確かに崩落により道は塞がれているが、無理をすれば何とか通れそうな隙間は空いていた。

ジョセフ「それをまだまだ波紋初心者である俺をわざわざ一人で行かせようってのはちょぉっと信じらんないぜ!」

ツェペリ「初心者であるからこそなのだ! いいかジョジョ、これを修業の仕上げだと思え」

 言いながらツェペリは赤い液体が注がれたワイングラスをジョジョに手渡す。

ツェペリ「そのグラスからワインを一滴も零さず奴を倒してくるのだ。もし一滴でもワインを零した場合、わしはもうお前を見捨てる」

ジョセフ「な、なぁにィ~…!?」

スピードワゴン「オイ!! だからマジで何言ってんだファンキーシルクハット!!」

ツェペリ「あんたはだぁーっとれい!!」

スピードワゴン「ヌ、ヌゥ…!!」

ツェペリ「どの道ここで奴に勝てないようではディオには勝てん。行くのだジョジョ。ディオをその手で討ち取りたいのならば」

ジョセフ「ちっ……くっそォ~! やってやろうじゃねえか!!」

 ジョジョは意を決し、隠し通路に足を踏み入れる。



 そしてここから先は原作とほぼ同様の流れとなるため、以下略とし結果のみを記す。

 ジョジョは見事切り裂きジャックに勝利した!!

 ジャック編おまけ

ツェペリ「………」

ジョセフ「………」

ツェペリ「…………ジョジョ」

ジョセフ「」ビクッ

ツェペリ「……ワインがなくなっておるようだが?」

ジョセフ「……いや、違うんデスヨ」オドオド

ツェペリ「何が?」

ジョセフ「あいつをやっつけるまでは本当に一滴も零してなかったんスよ。でも、ほら、あの……」

ジョセフ「やっつけた後にグイィーーってその…ね? 感極まっちゃって、その……勝利の美酒っていうか、うん……」

ジョセフ「飲んじゃいました……」

ツェペリ「………ハァ~~」

スピードワゴン「わかるぜジョジョ!! 何かを成し遂げた時、男ってのァ酒を欲しちまうもんなんだ!! アンタもわかんだろパパウパウパウ男爵!!」

ツェペリ「あんたはだぁーっとれい!!」

スピードワゴン「ヌ、ヌゥ…!!」

ここまで

ジャック編はジョセフでもやっぱ壁ドンで終わっちゃうイメージしか沸かなかった

トンネルを抜けて―――ウインドナイツ・ロットへの道中。

スピードワゴン「なあツェペリのおっさんよォ、俺にも波紋法ってのを教えてくれよ。少しでもあんたらの役に立ちたいんだ」

ツェペリ「ふむ、その心意気は買うがね。しかし君には無理だ」

スピードワゴン「なァんでだよ! やってみなきゃわからねえじゃねえか!!」

ツェペリ「前を行くジョジョを見たまえ」

スピードワゴン「んん?」

ジョセフ「フンフフーン」

ツェペリ「ああして鼻歌まじりで歩いているように見えて、ジョジョは常に波紋の呼吸を繰り返している。特別な呼吸を意識せず昼も夜も寝ているときでさえ続けるというのは大変なことなのだ」

ツェペリ「本人の有り余る才能、それと強い意志が合わさって初めてこんな短期間での波紋習得が可能となったのだ。本来なら達人の元で何十年と修業せねばとてもゾンビを屠る波紋など練りだせん」

スピードワゴン「ヌ、ヌゥ…!! し、しかし俺だってディオの野郎をぶちのめすために何か役に立ちたいんだよ!!」

ツェペリ「そこまで言うなら横隔膜を刺激して無理やり呼吸を変え、わずかな波紋なら練れるように出来なくもないが……」

スピードワゴン「本当か!? 是非やってくれ!!」

ツェペリ「それじゃあ………ホァチャァ!!!!」

 ド ッ ボ ゥ ゥ ゥ ゥ ゥ ア ! ! ! !

スピードワゴン「ウゲェェェェェェッ!!!!」

ツェペリ「ん…? 間違えたかな……?」

ジョセフ「……何をやっとんのおたくら」

スピードワゴン(く、くそ…!! おっさん、チョビヒゲとか呼んだの根に持ってんじゃねえだろうな……!!)

 ジョジョ達がそんなやり取りをしていると―――
 突然! 茂みの中から一人の少年が飛び出してきた!!

少年「やっりいーーー!! バッグはもらったぜウスノロども!!」

スピードワゴン「何ィーーーッ!! 野郎、ジョジョが肩にかけていたバッグをかすめ取りやがった!!」

 少年はロープを使い、木々のしなりから反動を得ていたらしく、猛烈な勢いでバッグを掴みとるとそのまま宙を舞い、近くにあった池へと着水した。

ツェペリ「ほう…略奪と逃走を同時に行うとは要領の良い奴」

スピードワゴン「落ち着いてる場合か! このままじゃ……」

ジョセフ「野郎ォーー待ちやがれコラァーーーーッ!!!!」

 余裕のツェペリとは対照的に、ジョジョは激情を露わにし、駆け出した!!
 躊躇なく池に向かって飛び出し、そして―――

ジョセフ「コォォォォ――――――」

 呼吸により足裏に波紋を練り出し、水面と反発させることで水面に立つ!
 波紋エネルギーの不足により膝まで水に浸かってはいるが、そのまま水面を走り少年を追いかける!

少年「げええ!? なんじゃあ!?」

ジョセフ「そのバッグん中にゃ、ディオをとっちめるために準備したあれやこれやが色々入ってんだよォーー!! 軽々しく手ェ出してんじゃねェぜこのスカタン!!」

 少年は急いで対岸に上がり、そこに聳えていた岩壁に手をかけた。
 少年はごつごつした岩壁を実に器用にするすると登っていく。

少年「へっへーん、ここまで来ればもう追いつけねえよーだ!」

 確かに例え波紋を利用しても既に頂上付近に到達している少年に追いつくことは難しい。
 だが、岩壁に到達したジョジョは!!


ジョセフ「『山吹色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)』!!!!」

少年「あじゃぱァァァァァ!!!!」ドッパァ~オ!

 岩壁を走る波紋の奔流に飲まれ、たまらず岩壁から弾け飛ぶ少年。
 ジョジョは少年の体と取られた荷物をナイスキャッチした。

ツェペリ「たわけ!! こんな少年に全力の波紋を見舞う奴があるか!!」

ジョセフ「いやいや、こういうのは一回痛い目みておいた方がいいんスよツェペリさん」

ツェペリ「限度があるわアホウ!!」

 しかしどうやら少年の体に別状はないらしい。
 波紋のショックから目覚めると、少年は辺りをキョロキョロと見回し始めた。

少年「あれ、どこだここ…? おっさん達、誰…?」

ジョセフ「なんだ? 様子がおかしいな」

ツェペリ「様子がおかしいのは少年だけではない。辺りを見てみろジョジョ」

ジョセフ「墓場……俺達はまんまとおびき出されちまったってわけか」

ツェペリ「少年は催眠術をかけられていたようだ。来るぞ」

 ぼこり、と地面が蠢いた。
 その様子は、モグラが地面に這い出てくるのに酷似している。
 何かが、地面から這い出てこようとしている。
 現れたのは、おぞましいゾンビーの群れ!!

ジョセフ「はッ!?」

ツェペリ「むぅ!?」

 そしてひときわ邪悪な存在感に、ジョジョとツェペリは同時に岩壁を見上げた。
 星が瞬き始めた空を背負い、岩壁の頂に君臨するその男―――

ディオ「陽は落ちた……貴様の命も没する時だ」

 邪悪の化身、ディオ・ブランドー!!

ジョセフ「野郎……ディオ……!!」

ディオ「フン……久しぶりだなジョジョ。互いに息災なようでなによりだ」

ジョセフ「どのツラ下げてのこのこ出てきやがったこの野郎!! すぐにぶちのめしてやっから降りて来い!!」

ディオ「図に乗るな。俺に用があるなら貴様から出向いてこい。もっとも、それが出来ればの話だがな……」

騎士ゾンビ「ぐぇーへへへ!!」

 墓場から蘇った騎士たちのゾンビがジョジョ達の行く手を阻む。

ツェペリ「雑魚にかまっている暇はない。蹴散らすぞジョジョ!!」

ジョセフ「おォォ!!」

スピードワゴン「おいガキ!! 俺たちのそばを離れるんじゃねえぞ!!」

少年「ひ、ひぃぃ~~!!」

 ツェペリは軽やかに舞うような見事な身のこなしでゾンビたちの攻撃をかいくぐり、すれ違いざまに波紋を食らわすことで次々とゾンビを撃破する。
 ジョジョは行く手を遮るゾンビを悉く正面から叩き伏せ、一直線にディオの元へ駆ける。
 先にディオの元へ辿りついたのはツェペリだった。

ツェペリ「貴様がディオか……個人的には貴様のことは知らん、が、貴様の脳を目覚めさせた石仮面に対してあえてこう言おう」

ツェペリ「とうとう会えたな」

ディオ「なるほど、貴様が波紋とやらをジョジョに伝えた呪い師か」

ツェペリ「へいベイビー! そんな不安定なところで戦う気か? 降りて来い」

ディオ「何度も言わせるな虫けらが。俺は生物界の頂点となった身……貴様らごときと対等な地に降りていけるか!!」

ジョセフ「図に乗ってんなァどっちだよ!! すっかり増長しやがって!!」

ディオ「この腹の傷を癒せばジョジョの奴につけられた火事の傷は完治する。来い呪い師! 貴様の命でこの傷の燻蒸消毒してくれよう!」

ツェペリ「貴様……一体何人の命をその傷のために吸い取った?」

ディオ「お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」

ツェペリ「貴様―――!!!!」

 ツェペリが跳ぶ。一瞬でディオに肉薄する。

ツェペリ「音を上げさせてやる。食らえ!! 太陽の波紋!! 山吹色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)!!」

ディオ「ふん……」

 ディオは繰り出してきたツェペリの拳を無造作に掴み取った。
 波紋に触れた吸血鬼の体は脆くも瓦解する。
 ツェペリは勝利を確信した。
 だが、異変は直後に起きた。

ツェペリ「な、何ィィィィィィイ!!!!」

 凍っていた! 波紋が流れたはずのディオの腕が!!
 いや、それだけではない!!
 ディオの手に触れていたツェペリの腕までもが、体温を無くし真っ白に変質していく!!

ディオ「波紋とやらは血液のエネルギー。血液ごと凍らせればエネルギーは当然その流れを止める。俺は触れたところから水分を奪い、気化熱を利用することで瞬時に対象を凍らせることが出来る」

ディオ「そして!!」

 ディオはツェペリの拳を掴み取ったまま、空いた手を大きく振り上げる。
 ツェペリも空いた手を使って咄嗟に防御の姿勢を取るが―――――

ディオ「無駄無駄無駄ァーーーー!! 防御した腕ごとアジの開きのように縦にかっさばいてくれるわァーーーッ!!」

 瞬間―――岩壁を駆け上がってきたジョジョがその勢いのままディオの体を蹴りあげた。
 ディオはその場から吹き飛んだものの、即座に体勢を立て直し、隣にあった一段背の低い岩へと着地した。

ジョセフ「あ~ら生物界の頂点さん。何かいつの間にかこっちが見下ろすみたいな体勢になっちゃってごめんなさいねェ~~?」

ディオ「貴様……ジョジョ……!!」

短いけどここまで

原作の流れをほぼ踏襲せざるをえんところはちょっと作業感があってモチベーションが下がり気味

しかしここからは色々と展開いじっていけるから楽しみながら書けるはず

時間さえあれば

 二つの岩壁の頂に立ち、ジョジョとディオが対峙する。
 先ほどまでとは位置関係が逆転し、ディオが見上げ、ジョジョが見下ろしている。
 しかしディオは余裕の表情を崩さず、ジョジョに蹴り上げられた腹を手で払った。

ディオ「フン……せいぜい束の間の優越感に浸っているがいい。すぐにその顔を真っ青な絶望色に染め上げてやろう」

ツェペリ「ジョジョ……気を付けろ。奴の冷凍させる能力は強力! 生半な波紋エネルギーでは突き破ることは出来ん!」

ジョセフ「ああ……どうやらそうみてえだな」

 こんこんと、ジョジョは靴底を地面に打ち付けた。
 さっきの蹴りには全力の波紋エネルギーを乗せていたはずだが、直撃を受けたディオはけろりとしている。
 直撃の瞬間、ジョジョの足との接触面を凍らせて防御した―――そう考えるのが妥当だろう。

ディオ「どんな気分だ? このディオを打ち倒すため、必死こいて身に着けた能力があっさりと打ち破られた気分というのは」

ジョセフ「けッ! 調子にのるんじゃ~ねえぜ!! まだ手はある! いくらでもなぁ~!!」

 ジョジョは背負っていた鞄から二つの鉄の塊を取り出す。
 その姿を認めたディオはぴくりとわずかに眉をしかめた。

ディオ「貴様……またそのような遊具を持ち出してきたのか……」

ジョセフ「お? どうした、顔色変わったぜ? 何か嫌なことでも思い出させちまったかな?」

 アメリカン・クラッカー。
 かつてジョースター邸での闘いでも利用したその『武器』にジョジョは指を通す。
 さらに鞄からもうワンセットクラッカーを取り出し、装着する。
 ジョジョの左右で、四つの鉄の塊が躍り出す。

ジョセフ「てめえが体を凍らせて固めるってんならそりゃ結構。凍った所をこれで打ち砕き! それから波紋を流し込んでやる!!」

スピードワゴン「い、いけるかもしれねえ! ディオの冷凍法は水分の気化熱を利用している! ならば、水分を含まぬ鉄の塊を媒介とすれば!!」

ジョセフ「おおおおおおおお!!!!」

 ジョジョの拳からクラッカーへ波紋が伝播する。
 ディオの斜め左右から、四つの鉄の塊が飛来する!

ディオ「間抜けが……教えてやる。そういうのをな―――」

 ディオが両腕を掲げた。
 それぞれの掌で斜め上から迫るクラッカーを、それぞれの肘で斜め下から迫るクラッカーを受け止める!

ディオ「猿知恵と呼ぶのだ、ジョジョォォォオオオオオ!!!!」

ジョセフ「な、何ィィィーーーー!!!? ク、クラッカーが、凍―――!!」

 ディオが触れた端から急速にクラッカーの冷凍が始まった。
 ジョジョは慌ててクラッカーの装着リングから指を引き抜く。

ジョセフ「まずい…!! 一旦距離を取らなくては……!!」

ディオ「おいおい、こんな下らん遊具をこの俺に押し付けるな。ちゃんと持って帰れ!」

 鉄球を繋ぐ紐までカチカチに凍ったクラッカーをディオは無造作にジョジョに投げつけた。

ジョセフ「うおおお!? 波紋防御!!」

 後退しつつ、波紋を全開にした両掌で迫りくるクラッカーを受け止める。
 その勢いに押され、岩壁から転落したジョジョは地面に強か体を打ち付けた。

ジョセフ「ぐ…がほ……!」

 苦痛に呻くジョジョの手にあるクラッカーの惨状を見て、スピードワゴンは驚愕の声を上げる。

スピードワゴン「ば、馬鹿な……!! 何故、水分を含まないはずの鉄の塊まで……!!」

ディオ「水分を含まない…? 馬鹿が! この空気中に一体どれだけの水分が含まれていると思っている。この大気に触れている物は必ず僅かなりとも水気を帯びる……そしてほんのチョッピリでも水分があれば問題なく冷凍できる」

ディオ「この地球上に存在している限り、どんな物体もこのディオの気化冷凍法を逃れることは出来ん!!」

ツェペリ「な、なんて奴だ……波紋を知ってから僅か数週間で、これだけの技を練り上げてくるとは……!!」

スピードワゴン「波紋がきかねえ……無敵…? だ、誰も奴を倒すことは出来ねえのか…!?」

ディオ「んん~気持ちのいい豚共の嘆きが聞こえるな」

 狼狽するツェペリとスピードワゴンの様子に満悦し、ディオはジョジョに目を向ける。

ディオ「で……そこの地に這いつくばったもう一匹の豚はまだ何かするつもりか?」

ジョセフ「何度も言わすな―――調子に乗るなよ。策はまだある」

ジョセフ「うおりゃああああああ!!!!」

 ジョジョは一気にディオが立つ岩壁を駆け上る。
 その手には何も持たず、徒手空拳。
 傍目には策など何もなく、ただ玉砕覚悟でディオに突撃しているように見える。

ディオ「猪突猛進―――やはり豚だったかッ!!」

 飛びかかってきたジョジョの腹に向けて、先ほどのお返しとばかりにディオは強烈な蹴りを繰り出す。

ジョセフ「ここだぁぁぁーーーーッ!!!!」

 迫りくるディオの足、その脛の部分にジョジョは肘と膝を叩き込み、挟み付けた。
 と、同時に―――!

ジョセフ「『波紋肘支疾走(リーバッフオーバードライブ)』!!!!」

 バヂィ! と音を立て、接触面で波紋が弾けた。
 だが!

ディオ「無駄無駄無駄ァーーーーッ!!!!」

ジョセフ「うおあああああああ!!!?」

 ディオの足は依然健在のままジョジョの体を吹き飛ばす!
 ジョジョは岩壁を転げ落ち、再び地面に叩き付けられた。

ジョセフ「げふ…! チィ~、カウンターで食らわせても駄目か……!!」

 ジョジョはディオの体に触れた肘と膝の状態を確認する。

ジョセフ(流石にこっちの体まで凍らす余裕は無かったみてえだな……だが、防御のために奴自身の体を凍らす速度はとんでもなく速ぇ。攻撃が来ることを認識した一瞬でもう冷凍は終わっちまう)

ジョセフ(奴に波紋を流すためには『攻撃が来ることを認識させることなく』波紋を打ち込む―――つまり『完璧な不意打ち』ってのが必要になる)

 ジョジョは鞄の中身に意識を向ける。
 そこには、ディオとの対決を想定したいくつかの武器が用意されていた。
 例えば、先ほど使用したアメリカン・クラッカーのような。
 そして今、ジョジョの脳裏に浮かんでいるのは―――――

ジョセフ(羊毛【ウール】の糸を何重にも束ねて太さと強度を増し、さらに油を染み込ませることで波紋伝導率を上げた特殊糸……これを利用して、何とか奴に不意打ちを食らわせてやることが出来れば……)

 ジョジョの思案をよそに、ディオはくるりとジョジョに背を向けた。

ディオ「ところで貴様はいつまで俺を見下ろしている? 呪い師」

ツェペリ「はッ!?」

ディオ「WRYYYYYYYYYYY!!!!!!」

 ディオは跳躍し、一段高い岩壁に立っていたツェペリ―――ではなく、ツェペリが立つその岩盤ごと蹴り砕いた!

ツェペリ「うおおおおおおおお!!!?」

 これにはツェペリも為す術なく地面へ落下していく。

ディオ「ジャックを倒した時はほんのちょっと驚いたが、実際に確かめてみてもう問題ではない。波紋? 呼吸法だと?」

ディオ「フーフー吹くならこの俺のために! ファンファーレでも吹いているのが似合っているぞ!!」

 ディオがその手を掲げると同時、大地が揺れた。
 激しい振動と共に岩盤の下から這い出て―――否、岩盤を持ち上げ、その下から現れたのは二人の屈強な鎧騎士!
 名は!

ディオ「タルカス! ブラフォード! この虫けら共の駆除は貴様らに任せる!! こいつらに悲鳴というファンファーレを吹かせてやるがいい!!」

ジョセフ「待ちやがれディオ!! 逃げんじゃあねえ!!」

ディオ「口を慎めよジョジョ。貴様などもはや俺が相手をするまでもない。既に格付けは済んだということだ」

ジョセフ「何ィ~~!! 何言ってやがる!! 俺はまだ策を使い切っちゃいねえぞ!!」

ディオ「ジョジョォ~~、この優しいディオ様が愚昧な貴様にもうひとつだけ教えてやる。そういうのをな……負け犬の遠吠えというのだ」

ジョセフ「て、てめえ~~~!!!!」

 その場を去ろうとするディオの後を追おうとしたジョジョの前に二人の騎士が立ち塞がった。
 長髪長身の黒騎士・ブラフォードと屈強巨漢の大剣騎士・タルカス。
 これまでのゾンビとは明らかに一線を画す雰囲気を纏った、異様な亡霊騎士。

ディオ「どうしてもというならそいつらを倒し、もう一度俺の元へ来い……謁見の機会くらいはくれてやろう」

ジョセフ「上等だこの野郎……!!」

 ジョジョの全身に闘志が漲る。
 ハッキリ言って、ムカついていた。
 眉毛がピクピク震えるほどに、はらわたが煮えくり返っていた。
 怒りをそのまま闘志に変えて、ジョジョは立ち塞がる二人の騎士に全く臆することなく対峙する。

ジョセフ「来い――――やっつけてやる」

ブラフォード「ふん、度胸はあるようだがァ……三百年ぶりのウォーミングアップの役にくらいは立ってくれよ? 小僧ォ…」

ここまで

次投下出来るのは来週になると思う

今回投下分書くだけで三時間かかってるもんな~

遅筆で申し訳ないがまったりとお待ちくださいませ

ツェペリ「ま、まずい! あのゾンビ共、二体ともジョジョの方に! 二対一ではジョジョに勝ち目はない! この腕に血液さえ通えば…!」

スピードワゴン「通ったらどうなる?」

ツェペリ「血液さえ通えば波紋の力で多少は傷を癒すことが出来る……だが、この凍った状態ではとてもそれは叶わぬ…!」

スピードワゴン「溶かせばいいんだな、その腕を!」

ツェペリ「何をする気だスピードワゴン!」

スピードワゴン「極寒地に住むエスキモーの奴らはうんたらかんたら、アザラシの体内に入ってうんたらかんたら!」

ツェペリ「スピードワゴン! 君はまさか!!」

スピードワゴン「これならどうだァーーー!!」

 ボジュウゥゥゥゥゥ!!!!

ツェペリ「スピードワゴンの中、あったかいナリィ……」

ブラフォード「フン!」

 ブラフォードが首を振るう。
 振り回された長髪がジョジョの腕に絡みついた。

ジョセフ「こんなもんで俺の動きを封じたつもりか!?」

 ジョジョは絡みついた髪を振りほどこうと腕を振り回す。
 だがその時異変が生じた!

ジョセフ「げええ!? な、何だァーーッ!?」

 髪が! ジョジョの腕に巻き付いた髪が、まるで自分の意思を持っているかのように蠢いている!
 まるで一本一本が独立した生物のようにうねうねと自在に動き回り、その先端をジョジョの腕に突き刺した!
 鋭い痛みと共に、指先が急速に冷え込むような嫌な感覚が駆け巡る。

ジョセフ「す、吸ってやがるのか! 俺の血を!!」

ブラフォード「このままカラッカラの干物みたいになるまで吸い尽くしてくれるゥゥ!」

ジョセフ「ケッ! それじゃあ逆にこの髪の毛を通して波紋を食らわせてやるぜ!!」

 ジョジョは絡みつく髪の毛を掴み取り、波紋を発生させる。
 だが、生まれた波紋は髪の毛を伝わる前に霧散してしまった。

ジョセフ「波紋を生み出す血液そのものを吸われているから波紋効果が弱い……とても奴の髪の毛の抵抗を突き破れねえ……ならばッ!!」

ジョセフ「無事な方の手で髪の毛が絡まっている腕に波紋を打ち込み、奴の髪の毛に波紋が十分に浸透した血液を吸わせる!!」

ブラフォード「むッ…!!」

 ジョジョの腕に絡みついていたブラフォードの毛先が融けだした。
 髪の毛の抵抗に阻まれ、ブラフォード自身まで波紋効果が及ぶことは無かったが、とにかくジョジョは髪の毛攻撃から逃れることに成功した。

ブラフォード「やるな小僧ォ……だが、次の攻撃は果たしてェ……かわせるかなァ……?」

ジョセフ「な…なんだ…? 両腕を後ろに回したぞ…?」

ブラフォード「ウシャァァァアア!!!!」

ジョセフ「そ、そのまま飛びかかってきやがった! どっちが来る…腕か、それとも足か!?」

 否! 答えはそのどちらでもなかった!!
 ブラフォードの腰から長剣を抜き、ジョジョに突き出してきたのは―――――
 意外! それは髪の毛ッ!!

ジョセフ「うおおおお!!??」

 すんでのところで背を反らしたジョジョの顎先を剣が掠めていく。

ブラフォード「ほう…俺の『死髪舞剣(ダンズ・マカブヘアー)』をも躱すか……おもしろい」

ジョセフ「チィィーッ!! 何とか躱したものの、思いっきりバランスを崩しちまった! このままじゃ岩壁を転げ落ちちまうことは避けられねえ!! そ、それに確か! こっちの方向は良くねえ! こっちの方向に落ちちまうと……」

 ジョジョは落下方向、すなわち己の背後にちらりと目を向ける。
 きらきらと月明かりを反射する水面がそこには広がっていた。

ジョセフ「オーノォーやっぱし!! 水の中に落ちちゃあ波紋が使えねーし大ピンチだ! 何とかここで…踏ん張る!! コォォォォオオオオオオ!!」

 ジョジョは咄嗟に足の裏に波紋を展開し、水面と反発させる。
 落下の衝撃で膝まで浸かってしまったが、何とか水中に沈むことだけは回避した。

ブラフォード「水は嫌いかァ…? 生憎俺は嫌いじゃァない……生前はこの甲冑を着込んだまま5㎞の湖を泳ぎ切ったものだァ……」

 背後から聞こえたブラフォードの声に、ギクリとジョジョの体は震えた。
 シュルシュルとジョジョの全身にブラフォードの髪の毛が絡みつく。
 直後にドパンと大きな水柱が上がった。ジョジョの体に髪の毛を巻き付けたまま、ブラフォードが水中に潜ったのだ。

ジョセフ「ぐおお!! ひ、引きずり込まれる……! 俺の波紋が水面と反発する力より、奴が水中へ引っ張る力の方が……強い……!!」

ジョセフ「ヤ、ヤバイ! このまま水中に引きずり込まれちまうのはどう考えてもやばい!! 何か、何か手はねえか!?」

ツェペリ「ジョジョォーーーーッ!!」

 ツェペリは崖上から泉を覗き込む。
 必死に髪の毛の力に抗うジョジョの姿が目に入るがしかし!
 ツェペリとスピードワゴンの前にはタルカスが立ち塞がっており、背中を見せようものならその手のビッグ・サーベルでばっさりと断ち切られるのは目に見えていた。
 救援は不可能。
 だが! ジョジョはツェペリに向かってにやりと笑って見せた!

ジョセフ「ツェペリさん!! 良く顔を出してくれた!! こいつを受け取ってくれ!!」

ツェペリ「うお!?」

 ジョジョはツェペリに向かって何かを投げ放つ。
 同時に限界が来た。ジョジョの体は遂に水中へと引きずり込まれてしまう。
 ツェペリはジョジョが投げた物をキャッチし、その正体に気付くと露骨に顔を顰めた。

ツェペリ「ア、アメリカン・クラッカー…? これで、何をどうしろというんじゃ!?」

ジョセフ「がぼごぼごぼぼ」

ブラフォード「改めて思うに、人間ってのは脆いなァ…こうして数分呼吸が出来ないだけで、もう死んじまうんだから」

ジョセフ「ごぼがばごばば!!(ゾンビ風情が上から物言ってんじゃあねえぜ!)」

ブラフォード「何やら喚いているようだが……いいのかァ? 貴重な空気を無駄遣いしちまってェ」

 ジョジョの体を拘束していたブラフォードの髪の力が緩んだ。

ブラフォード「このままお前を水中に引きずり込み続けてやれば簡単に殺せるがそれではつまらん……一度解放してやるゥ」

ブラフォード「剣は使わん…お前には呼吸のハンデがあり、俺には甲冑の重さのハンデがあるゥ。どちらが先に水面まで泳げるか、これは決闘だァ!」

 呼吸の制限のないブラフォードは水中においても躊躇いなく言葉を発している。
 対するジョジョは空気を吐けば吐いただけ苦しみが襲う―――故にブラフォードのように言葉は出せないが、パクパクと唇を動かし始めた。

ジョセフ『決闘ォ…? 生憎、そんな余興に付き合ってられるほど俺は暇じゃあねえのよ。それとよォ~……』

 ジョジョはしゅるしゅると己の体から離れようとしていたブラフォードの髪の毛をがっちりと掴みこんだ。

ジョセフ『髪の毛は離さなくていいのよ。逆にしっかり俺の体に巻き付けといてくれ』

 ジョジョの顔に、ニヤリとした笑みが浮かぶ。

ジョセフ『じゃねえと、お前んとこまでしっかり波紋が伝わんねえだろう?』

ブラフォード「何ィッ!?」

 そこで初めてブラフォードは気づいた。
 ジョジョの体から、一本の糸が水面に向かって伸びている。
 そして、その糸は!

ツェペリ「なるほどな……得心がいったぞ、ジョジョ!!」

 ジョジョが水没する直前、ツェペリが受け取ったアメリカン・クラッカーと繋がっていた!!

タルカス「………!!」

スピードワゴン「やばい! タルカスが糸に向かっている!! あの剣で糸を切る気だ!!」

ブラフォード「KUAAAAA!! 小賢しい!! そんなチンケな糸、俺の髪の毛ですぐにプツンと切ってくれるゥゥゥ!!」

ツェペリ「やれやれ、おのれら化け物共……わしの一呼吸より速く動けるつもりか? ――――舐めるなよ」

 息を深く吸い―――吐く。
 一瞬にも満たぬ間にその動作を済ませたツェペリの目がギラリと鋭く輝く!

ツェペリ「我が全力の―――『波紋疾走(フルオーバードライブ)』!!!!」

 まるで迅雷のごとく糸を伝わり、ツェペリの波紋がジョジョの体を打つ!

ジョセフ「ウゲェーーーいってぇーーーッ!!」

ブラフォード「なァにィ~~ッ!!?」

ジョセフ「くぅ~、流石にキクぜ! この波紋は俺の付け焼刃とは違う、波紋の達人ウィル・A・ツェペリの波紋だ!! 髪の毛の抵抗なんぞ突き破り、てめえのドタマまで波紋が伝わっていくぜ!!」

 ジョジョの言葉のとおり、ジョジョの体を経由し、ブラフォードの髪の毛をツェペリの波紋が駆け抜けていく!

ブラフォード「うおあああああああああ!!!!」

 と同時に、ジョジョの体の周囲から爆発的に気泡が生じた!

ジョセフ「そして俺の体を駆け巡る波紋により、周囲の水を反発! その反発力で一気に水面へ上昇する!!」

 ばしゃあ!と勢いよく水面を飛び出し、ジョジョは近くの陸へと復帰する。

ツェペリ「無事かジョジョ!!」

ジョセフ「サンキューツェペリさん!! 俺の意図(糸だけに)が通じてくれてうれしいぜ!!」

ツェペリ「あの一瞬でこんな策を考えるとは大した奴よ――――ブラフォードは仕留めたか!?」

ジョセフ「だといいけどな……」

 ドパン!とまたしても水しぶきが上がり、水面からブラフォードが姿を現した。
 ブラフォードもまた陸へと復帰し、ジョジョと再び対峙する。
 ブラフォードの右手には剣があり、ブラフォードが飛び出した辺りの水面に、ゆらゆらと大量の髪の毛が浮いていた。

ジョセフ「波紋が伝わる前に自ら髪の毛を断ち切ったか……」

ブラフォード「今のは、ヒヤリとしたぞォ……どうやら、お前には下手に小細工を使わぬ方が良いようだァ。正面からァァ叩き伏せてやるゥゥゥ」

 ブラフォードの髪が再び蠢き始めた。
 水中で大量の髪の毛を切り捨てたはずなのに、その量は少しも減ったようには見えない。

スピードワゴン「伸縮自在なのか、あの髪の毛は!!」

ジョセフ「また髪の毛を使った攻撃か! どうやらこの髪の毛がお前の最大の武器らしいな!!」

ブラフォード「SHIIIIAAA!!!!」

ジョセフ「大量に迫りくる髪の毛……これをどう処理するか」

 ①ひたすら波紋疾走で打ち払う→ジリ貧になるのは目に見えている。
 ②糸を使ってギュッと束ねちゃう→髪の毛の量が多すぎる。現実的ではない。
 ③逃げる→まずはツェペリさん達と合流することを優先する。

ジョセフ「答えは④―――『何もしない』だ」

 ギュチィ!と音を立て、ジョジョの体が激しく拘束された。

ジョセフ「そして、この状態から……」

 一瞬、髪の毛一本一本がグンと膨らんだような錯覚をジョジョは覚えた。
 ふわり、とジョジョの足が地を離れる。

ジョセフ「嘘だろ!? 俺何㎏あると思ってんのよ!! やばい、これはマジで計算外!!」

ブラフォード「KUAAAAAAA!!!!」

ジョセフ「うおおおおおおおおおおお!!!?」

 髪の毛によって高く持ち上げられたジョジョの体が、勢いよく振り下ろされ、岩壁に叩き付けられた。

ジョセフ「ぐっ、は……」

スピードワゴン「ジョジョォーーー!!!!」

ツェペリ「い、いかん! ジョジョを救いに行かねば!! し、しかし……」

タルカス「………」

ツェペリ「タルカス……!! こいつがわしらの前に立ち塞がっていては……!!」

 ブラフォードは髪の毛を使い、近くに生えていた木にジョジョの体を固定した。
 身動きの取れなくなったジョジョに、ブラフォードは剣を抜いて歩み寄る。

ブラフォード「これで決着だなァ……三百年経った世界の若者よ」

 ジョジョは朦朧とした頭を振り、一度深呼吸をして―――しっかりとブラフォードを見据え、言った。

ジョセフ「ああ…決着だ。この勝負―――俺の勝ちだ」

ブラフォード「何ッ!?」

ジョセフ「さっきみたいに俺の体をぶんぶん振り回していた方が、アンタに勝機はあったかもしれねえな……なんせ、あの状態じゃろくに呼吸もできなかった」

ジョセフ「だが今は……スゥー、ハァー……この通り、しっかりと深呼吸まで出来ちまってる。……俺の今の全力の波紋を練り出すことが出来る」

ブラフォード「だから何だというのだ。波紋とやらを使ってもお前の力では我が死髪舞を打ち破ることは出来ん。それは先ほども証明されたはずッ!!」

ジョセフ「そうだ……一回目、最初に腕を捉われた時、俺の未熟な波紋じゃお前の髪の毛の抵抗を打ち破ることは出来なかった。だが、気付かないのか? あの時と今じゃ、決定的に違う点がある」

ブラフォード「違う点だと…? 一体何が……」

 ぴちゃり、とブラフォードの頬を伝い、液体が地面に落ちた。
 汗ではない。生命活動を止めたゾンビは汗をかかない。
 これは、この水は、さっき水中に潜っていた際の――――!!

ブラフォード「ハッ!? 貴様、まさかッ!!!?」

ジョセフ「そう、濡れている!! 俺たちは今、ぐっしょり濡れちまってるんだぜ!! 特にあんたの髪の毛だ!! 量が多いだけあって、ゼェンゼン乾いてねえ!!」

ジョセフ「俺の波紋で髪の毛の抵抗を突き破る必要なんてねえ。俺はただ、あんたの髪の表面に波紋を滑らせてやればいい。―――容易いぜ? 波紋が水を伝わるのは」

ブラフォード「うおおおおおおおお!!!!」

 ブラフォードが剣を振りかぶる。

ジョセフ「髪の毛は切らせねえ!! 食らえ!! あえて陸上での『青緑波紋疾走(ターコイズブルーオーバードライブ)』!!!!」

 ブラフォードの髪の毛の表面を波紋が走る。
 波紋は振り下ろされた剣を掻い潜り、ブラフォードの頭部へと到達した!

スピードワゴン「や、やったか!?」

 悶え苦しむブラフォードの頭部からは波紋傷の煙が噴き出している。
 だが、ブラフォードは未だ二本の足で立ち、倒れる気配を見せない。

ブラフォード「お…の、れ…! よ…く、も……!!」

ジョセフ「その根性には感心するが、もうその様子じゃ髪の毛は使えないだろう。お前にもう勝ち目はないぜ、ブラフォード」

ブラフォード「まだだァ! 俺にはまだこの剣がある!! 髪に頼らずとも、俺はこの剣で数多の戦場を潜り抜けてきたァ!!」

ジョセフ「波紋を受けて、大分動きが鈍っているな。それでもまだやるってんなら、いいぜ、相手になってやる……来いよ」

ブラフォード「GOUAAAAAA!!!!」

 ブラフォードが地を蹴り、猛然とジョジョに向かって突進する!

スピードワゴン「何ィーーーッ!? 速い!! とても死に掛けの奴の動きじゃねえ!!」

ツェペリ「腐ってもブラフォードは剣の名手、徒手空拳で挑んで勝てる相手では―――」

ジョセフ「もちろん、素手で戦うつもりなんてさらさらないぜ!!」

 ジョジョの手にアメリカン・クラッカーが出現する。
 波紋が伝播した鉄の塊がぐるぐるとジョジョの手で踊る。

ツェペリ「だ、だがそれでもリーチが足りん! アメリカン・クラッカーの長さを足しても、とてもブラフォードの剣の長さを上回ることは出来ん!!」

ジョセフ「おいおい、ツェペリさん。波紋法の基礎中の基礎を忘れちまったのか?」

ツェペリ「な、なに?」

ジョセフ「これは、あんたが俺に最初に教えてくれた技なんだぜえええええ!!!!」

 関節を! 関節を外して腕を伸ばす!!
 その激痛は波紋エネルギーで和らげる!!

ジョセフ「ズームパンチwithアメリカン・クラッカァーーーー!!!!!!」

ブラフォード「う、腕が伸び―――ガハァッ!!!!」

 波紋法による肉体操作―――腕を伸ばし、アメリカン・クラッカーを持ったジョジョのリーチがぎりぎり剣の長さを上回った。
 振り下ろされた剣がジョジョの体に到達するより先に、波紋を十二分に帯びたクラッカーが、ブラフォードの頭部に撃ちこまれていた。

 カラン、と音を立て、ブラフォードの剣が地面を転がった。

ブラフォード「大した……ものだ……」

 頭部より広がる波紋傷の激痛に耐え、ブラフォードは呟く。
 痛みを感じていた。
 波紋によりゾンビとしての肉体は滅びたが、代わりに彼は高潔な生前の魂を取り戻していた。

ブラフォード「あらゆる局面でこの俺を出し抜き、遂には真正面から圧倒してみせた……三百年経った世界で、これほどの勇者に会えるとはな」

ジョセフ「勇者っていうなら、アンタこそ勇者だぜ。ブラフォード」

ブラフォード「な…に、を…?」

ジョセフ「アンタは結局、一度だってタルカスと二人がかりで襲ってくることは無かった。最初の局面でそれをやられていたら、正直詰んでたかもしれねえ」

ジョセフ「だがあんたはゾンビとしての本能……血への渇き―――『食欲』に屈せず、どこどこまでも一対一の決闘に拘った。ゾンビになりながら、生前の誇りを貫いた」

ジョセフ「正直―――ディオなんぞの下僕に成り下がる前の生前のあんたと、こうして話をしてみたかったぜ」

ブラフォード「フ…フフ……」

 ブラフォードの顔に笑みが浮かぶ。
 それはあらゆる何かに納得したような、痛快な笑みだった。

ブラフォード「まさしく……生き恥を晒してしまった、ということか……クク…それとも、死に恥かな…?」

ジョセフ「安心しろよ。この落とし前は、俺がディオの野郎にきっちりつけさせてやる」

ブラフォード「ふふ、ならば託したぞ……この剣を持っていけ。きっと役に立つ……出来れば一太刀、これで奴に食らわせてやってくれ」

ジョセフ「ああ、約束するぜ」

ブラフォード「三百年経った世界の好敵手(とも)よ。お前の名を聞かせてくれ」

ジョセフ「ジョセフ・ジョースター」

ブラフォード「ジョセフ……俺の剣に刻んであるこの言葉をお前に捧げよう。『LUCK!(幸運を!)』」

 ブラフォードは指先を切り、その血で剣の柄に文字を書き足す。

ブラフォード「そしてお前の未来へこれを持っていけ! 『PLUCK!(勇気を!)』」

 ジョジョは頷き、ブラフォードからしっかりと剣を受け取る。

ブラフォード「だが……悪くない気分だ……最後にお前と出会えたこと……それだけは、奴に感謝してもいいかもしれん……な……」

 その言葉を最後に、ブラフォードは塵と消えた。
 ジョジョは学校の勉強を真面目にしていない。
 だから、ブラフォードのことも、正直名前を聞いたことくらいしかなかった。
 それでもジョジョは、対面して感じた彼の在り方に、その魂に―――奇妙なシンパシーを感じざるを得なかった。


 それを弄んだディオ・ブランドー。

 ジョジョの中で、収まることなく闘志は滾る。

ここまで

スピードワゴン「危ないジョジョ! 後ろだァーー!!」

ジョセフ「ッ!?」

タルカス「………」

 いつの間にかジョジョのすぐ真後ろまでタルカスが迫って来ていた。
 ジョジョは即座に振り向き、一歩下がって距離を取る。
 だが、タルカスの狙いはジョジョではなく―――

タルカス「この腰抜けが! 77の輝輪(リング)の試練をのりこえた騎士の恥さらしよ!!」グシャ!

ジョセフ「なにィーーッ!? コイツ、ブラフォードの鎧を!!」

タルカス「ぬりゃああああ!!!!」ゴッシャァー!

スピードワゴン「踏み潰して砕き、蹴り飛ばしやがったァーーッ!!」

ツェペリ「ひょっ!?」

 さながら散弾銃のように、鎧の欠片がたまたま射線上に居たツェペリを襲来する。
 瞬間、対応策を頭で練るツェペリ。出した答えは―――

ツェペリ「当たる面積を最小にして波紋防御!!」

 なんか足の裏を突き出して空中浮遊し、破片の直撃を避けるというもの!

ツェペリ「ふぁぁぁあああん!!!!」ザシュザシュザシュザシュ!

 当然、どんなに真っ直ぐにしても足の裏の範囲からはみ出す胴体部を、破片は縦に抉り取っていく。

スピードワゴン「ツェペリさん!!」

ツェペリ「ふう~、大丈夫じゃ」ムクリ

ジョセフ「……なんつ~か、これ単なる興味で聞くんだけどさ」

ジョセフ「そんな大層な試練を共に乗り越えた仲間として、ブラフォードに対して『友情』とか『敬意』みたいなもんは持たないわけ? おたくさんは」

タルカス「フン! 共に試練を潜り抜けたからこそ、貴様のような小僧に後れを取ることは許せん! 恥を晒しおって!!」

ジョセフ「あっそぉ……そこで『ブラフォードを破るとはこの小僧侮れん』っていう思考には至らないわけ。『負けたブラフォードが弱かった』って結論になっちゃうんだ」

 ジョジョは殊更相手を挑発するような口調になって、

ジョセフ「なら楽勝だな、こりゃ。ハッキリ言って俺ァアンタみたいなタイプが一番やりやすいぜ」

 そう言って、タルカスにビシッと指を突きつけた。

タルカス「笑わせるな! 骨ごとミンチにしてくれるわ!!」

 タルカスはジョジョの身長にも及ぼうかというその大剣を振り上げる。

タルカス「ブラフォードは所詮技士にすぎぬ男…だが俺は違う。見せてやろう、ただひたすら殺戮を追求した俺の力を!!」

 タルカスが狙ったのはジョジョではない。
 タルカスはただ無造作に足元に剣を叩き付けただけだ。
 だが! その剣先から地面に罅が割れ走る!

ジョセフ「う、お、おお!?」ゴゴゴゴゴゴ…!!

ひったくりの少年「うわ、うわわわわわ!!」ゴゴゴゴゴ…!!

スピードワゴン「お前もこんなことに巻き込まれて気の毒によ! 名前は何てんだ!!」ゴゴゴゴゴ…!!

少年「ポ、ポコ! おいらポコってんだァ!」

スピードワゴン「OKポコ! こっち来て俺にしっかり掴まれ!!」

ポコ「う、うん!」

ツェペリ「く、崩れる……! 信じられん! あのタルカスとかいう剣士、大地を切りおった!!」ゴゴゴゴゴ…!!

 倒壊した崖下で、ジョジョはぶんぶんと頭を振り、かかった砂や石を振り落す。

ジョセフ「みんな無事か!?」

スピードワゴン「な、なんとか……」ガラ…

ポコ「ふえええ……」

ツェペリ「しかしわしらはどこへ落ちたのだ? タルカスは崖を崩したようだが……」

スピードワゴン「な!? おい見ろ!!」

 真っ先に気付いたのはスピードワゴンだった。
 ジョジョ達が落下した場所のすぐそばから、さらに切り立った絶壁になっている。
 その絶壁の下には奇妙なほど立派な建物が連なっていた。

ポコ「昔の騎士たちの修業場だよ! お化けが出るってんで、村の皆は近づかないけど……」

スピードワゴン「落ち場所がもう少しずれてたらまっさかさまだったな……」ゾォ…

ツェペリ「この場所はまずいな……今タルカスに襲われてはひとたまりもないぞ」

ジョセフ「しかし奴は間髪入れず襲ってくるはずだ。奴としてもその為に崖を崩したんだろうしよォ~。そら、噂をすればお出ましだ!!」

タルカス「グフゥ~…てめえら血の詰まった皮袋共がァ。どいつもこいつもずたぼろにしてくれる!!」ドバォウ!

スピードワゴン「崖の上から飛び降りてきた! や、やはりこの場所で俺たちを仕留める腹積もりか!」

ジョセフ(チィ! どうする!? 絶壁に突き落とされでもしたらみんな死ぬ! それにスピードワゴンやポコを庇いながらの戦いは流石に厳しい!!)

ツェペリ「ジョジョ! まずはこの場を脱出するぞ!! 足元を見ろ!!」

ジョセフ「足元…?」チラリ

ジョセフ「成程ピンときたぜ! スピードワゴン、ポコ! 俺たちの体に掴まれ!!」

 ジョジョとツェペリは同時に地面に手をついた。
 その手の周りには、多くの木の葉が落ちている。

ジョセフ・ツェペリ「「『生命磁気への波紋疾走(オーバードライブ)』!!」」

 二人が波紋を発生させると次々に葉っぱが集まり、長さ5mほどにも及ぶ大きな葉形を形成する。

ジョセフ「飛ぶぜぇぇええええええ!!!!」

 巨大な葉をパラシュートの代わりとし、宙を舞う。
 このまま順調にいけば絶壁の向こう側まで辿りつけるだろう。
 空を飛ぶ手段を持たないタルカスにジョジョ達を追う術はない。

ポコ「すげえや! 兄ちゃん達何者なの!? 魔法使い? それとも天から降りてきた神様の使い!?」

スピードワゴン「まったくだぜ……こんなことまで出来ちまうなんて、波紋ってのは一体なんなんだ!? ツェペリのおっさん! あんた一体何者なんだ!?」

ツェペリ「いいだろう…君も石仮面の運命に片足を突っ込んだ身…わしの過去をちょっぴりだけ話してやろう」










波紋ってゅうのゎ。。


石仮面の逆。。


逆ってゅうのゎ。。


「ウジわいてる足を健康的なピンクに戻す」


ってコト。。


もぅマジ無理。


会得しょ。。


\  メメタァ!  /









ツェペリ(……波紋を会得することは、死への運命を背負うこと……これはジョジョにも言えぬわしだけの秘密よ)

スピードワゴン「お、おい、何かタルカスの様子が変だぜ」

タルカス「GAAAAAAAAAAA!!!!」ダンッ!

ジョセフ「何ィーーーッ!!? 野郎、俺達に向かって飛びおりてきやがった!!」

タルカス「GOUUUUUUUU!!!!」バリバリバリ!

ポコ「うわあああああ!! 葉っぱが破かれてるぅぅうううううう!!!!」

ジョセフ「やばい! このままだと地面に叩き付けられる!! 建物に飛び移れ!!」

 ジョジョ達は葉っぱのパラシュートを捨て、崖下に聳え立っていた建物に飛び移る。
 落下のスピードを十分に殺していたジョジョ達はとある部屋のベランダ部分へと見事に着地した。
 だが、タルカスは自由落下の勢いのままジョジョ達より更に下方、建物の壁へと激突する。
 余りの勢いにタルカスの体は重厚な石造りの壁を突き破り、建物の中へ消えた。

ジョセフ「よし! 奴らゾンビにはディオと違って再生能力はねえ!! あの勢いで壁にぶつかっちゃひとたまりもないはず!!」

ジョセフ「……って、何ィーーーッ!?」

タルカス「………」ズリ…ズリ…

ツェペリ「壁を這い上がって来ている…! 全身の骨がイカれているだろうに、何てタフな奴……!!」

ジョセフ「しょうがねえ。奴は下、俺達は上…幸い状況は俺たちが圧倒的有利!! このまま奴をここで迎え撃つ!!」

ジョセフ(念には念を入れて、スピードワゴンとポコは建物の中に避難させておく。そこのドアが開きゃあいいんだが……)ガチャリ

ジョセフ「お、ラッキー。どうやら鍵なんかはかかってなかったようだな。中に不審な点は無いか、ちょっとだけチェックしとくか」キョロキョロ…

スピードワゴン「ジョジョ!! 危ねえ!! 何か降って来てるぞ!!」

 扉を開け、中を覗き込んだジョジョの死角から迫っていたのは鎖!
 その鎖の先に着けられた重厚な首輪がジョジョの首を絡めとる!

ジョセフ「な、なあにぃぃいいいいいいい!!!?」ガッシャーン!

 死角からの一撃に、流石にジョジョの反応も遅れた。
 首輪をつけられたジョジョの体は、そのまま部屋の中へ引きずり込まれてしまう。

スピードワゴン「と、扉が勝手に!!」ガシャーン!

スピードワゴン「ジョ、ジョジョが閉じ込められちまった……!!」

ツェペリ「はッ…!?」キョロキョロ…

ツェペリ「い、居ない! 壁を這っていたタルカスが消えている…! や、奴は一体どこへ!?」


ジョセフ「な、なんだこの部屋は?」

 ジョセフは自身が閉じ込められた部屋を観察する。

ジョセフ「首輪から伸びた鎖は天井の穴に繋がっている。少し離れた所にもうひとつ穴が空いていて、そこからもう一組鎖と首輪がぶら下がっている。もしや……」

 ジョセフは自身の首から伸びる鎖を引っ張ってみた。
 じゃらんと音を立て、もう一組の鎖が天井の穴に引き込まれる。

ジョセフ「やはり繋がっているのか。ポコの話じゃこの建物は昔の騎士たちの修業場……ここも何かしら修業のための施設ってことか」

タルカス「う~…む…懐かしい……『双首竜の間』…チ、チェーン・デスマッチ……」

ジョセフ「タ、タルカス……馬鹿な、てめえどっから……」

タルカス「さ、三百年ぶりに、やってみる、か……」ガチャリ

ジョセフ(や、やべえ! この仕組みで、もう一つの鎖をタルカスが着けるっていうのは、圧倒的にやべえ!!)

タルカス「チェーンネックデスマッチ……48人を葬ったわしのもっとも得意とする競技のひとつよ……」

ジョセフ「チッ…! 届くか!? 『銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバドライブ)』!!」バヂィ!

 ジョジョは自分の鎖に波紋を放ち、タルカスの鎖まで波紋を流そうと試みるがしかし!

ジョセフ「や、やはり駄目か! 鎖から天井に散って、波紋が向こうまで流れていかねえ!!」

ジョセフ「か、かくなる上は……!!」ギュウゥ…!

ジョセフ「だあー! 駄目だ!! こんな首輪、マウンテン・ゴリラでもちぎれやしねーぜ!!」

タルカス「間抜けめ! その首輪は人間の力では到底切れん! ディオ様に力を授かったわしですらてこずるのだからな!!」

タルカス「貴様はこの闘技場のルールに則り! わしのこの首輪にある鍵を手に入れることでしか……首輪から解放される術はないのだぁぁああああ!!!!」ギュウン!

ジョセフ「う、お、おおおおおおお!!!?」グゥイン!

 タルカスの膂力に引っ張られ、ジョジョの足が地面から離れる。

ツェペリ「ま、まずい!! 首吊りの状態になっては呼吸が出来ず波紋が使えなくなる!! 絶体絶命になってしまう!!」

ジョセフ「なろ…!!」バッシーン!

スピードワゴン「お、おお…! ジョジョ!!」

 ジョジョは鎖が完全に天井に引き込まれるまでの一瞬に、咄嗟に下半身を持ち上げ、天井に膝をつく形で首を庇うことに成功した。

ツェぺリ「な、なかなかの運動神経と言いたい。天井に膝をつき、蹲る形になっていることでタルカスからの圧は首の後ろにかかり、気道を確保することにも成功している。だ、だが……」

タルカス「小癪な真似を……」ギリギリギリ…!

ジョセフ「ぐ、うぅ…!!」ギリギリギリ…!

ツェペリ「所詮は一時しのぎ……このまま首の後ろに圧を受け続ければ、脊髄をへし折られるのも時間の問題!! は、早く助けに行かなくては!!」

スピードワゴン「と、扉だ! この扉を何とかして開けることが出来れば……!!」

ツェペリ「扉は中にあるレバーを倒すことでしかロックを解除できんようだ。そして中に入れそうな明かり窓があるにはあるが、大人の体格ではとても通り抜けられる大きさではない」

スピードワゴン「な、なら子供なら……」チラリ

ポコ「ッ!?」ビクッ!

ツェペリ「馬鹿な…年端もいかぬ無関係の子供を、どうして命の危機に晒すことが出来ようか……」

スピードワゴン「ち、ちくしょぉおおおおお!!!!」ダーン!

ポコ「お、おいら……」ガタガタガタガタ…

ジョセフ(どうする!? このままじゃ長くはもたねえ!!)

 ジョジョはちらりとツェペリたちが覗き込んでいる入口へと目をやった。

ジョセフ(扉の所にレバーがある…近くにガキなら通れそうな明かり窓も……)

ジョセフ(ベストなのはポコが扉を開け、自由に動けるツェペリさんが加勢すること……だが、それに期待しちゃいけねえ)

ジョセフ(期待して何もしなければ、それが叶わなかった時訪れるのは死……まずは、俺の力だけでこの状況を切り抜ける方法を考える!!)

ジョセフ(だがどうする…!? この状況じゃ、とても背中のバッグから道具を取り出す余裕はねえ…鎖を握っている手を両方離そうもんなら、あっという間に首をへし折られちまう)

ジョセフ(出来るのは精々、体の前面、上着のポケットとかを探るくらいか……!)ガサガサ…

ジョセフ(頼む! 『あれ』! あってくれ! 普通なら、『ある確率の方が高い』はずなんだ!!)ガサガサ…カサッ

ジョセフ(ッ!!)カサ、カサ、

ジョセフ(『あった』ぜ…!)ニヤリ

ジョセフ「ようタルカス。『イタチの最後っ屁』って知ってるか?」

タルカス「なに…?」

ジョセフ「三百年も土の中で眠ってりゃ知るわけねーか。俺もちょっと前に、たまたま医者の先生んトコの図鑑で見たから知ってるだけだしな」

タルカス「下らん…その、いたち? とやらが何だというのだ」

ジョセフ「イタチってのは追い詰められると相手の鼻先にくっせえ屁をぶちかまして窮地を逃れるんだそうだ。そこで今回! 俺はお前にイタチの最後っ屁を受けた敵の気持ちを味わわせてやろう」スチャ

タルカス「……?」

ツェペリ「…? 何だ? ジョジョの奴、手に何を持っている?」

スピードワゴン「あれは……葉っぱ!? さっき崖から飛ぶのに使った葉っぱか!!」

ジョセフ「そう! 生命磁気の波紋疾走で寄って来てくれた活きのいい葉っぱちゃんよォ~!! お前がぶち破ったせいで、けっこうもみくちゃになったからよォ~、何枚かは俺の体にくっついてると思ったぜ!!」

ジョセフ「この葉っぱたちを握りつぶして細かく砕き! 波紋を流す!!」コオオオオ!

ジョセフ「生命磁気の波紋疾走によって遠くから寄ってくるほど波紋への反応が良かった葉っぱたちだ……細かく砕き、ひとつひとつの大きさは小石ほどになっても…」

ジョセフ「そして俺の手から離れても! しばらく波紋は葉っぱの欠片に残り続ける!! 食らいなタルカス!! 俺の最後っ屁だ!!」

 ジョジョは天井に膝をついたまま、ほんの少しだけ振り返り、その手に握った葉っぱの欠片たちをタルカスの顔面に叩き付けた。
 例えるならそれは、握りこんだ砂を突然顔に向かって投げつけられたようなもの。
 目をつむり、砂が目に入ることくらいは防げても―――その砂を全て体に触れぬよう打ち落とすことは不可能だ。

タルカス「GYAAAAAAAAA!!!!」ボジュゥウウウ!

 波紋を帯びた葉の欠片がタルカスの顔面を溶かす!
 たまらず叫びを上げるタルカス!
 だが!

ツェペリ「だ、駄目だ! あんなに小さく砕かれた葉の欠片では、ひとつひとつに滞留する波紋は微々たるもの! とてもタルカスを倒せるものではない!!」

タルカス「おのれこのビチグソがぁぁあああああ!!!! ふぅざけた真似をぉぉおおおおおお!!!!」

ツェペリ「や、やはり! あの程度では奴の神経を逆なでしただけだ!! あれでは本当に、『最後に一矢を報いただけ』になってしまう!! ジョジョ!!」

タルカス「その首、一気にたたき折ってやる!!」パッ

 タルカスは鎖を離し、ジョジョの体を天井から落とす。
 そしてそこから全力で引っ張り、反動をつけて一気にジョジョの首をへし折る。
 ―――そのつもりだった。

 少し遅れてタルカスは異変に気付いた。
 タルカスは既に鎖から手を離している。
 なのに―――ジョジョの体は天井から落下していない!

ジョセフ「勿論俺の場合、『最後っ屁』にするつもりはさらさらねえがなあ!!!!」バチバチバチ!

 ジョジョは!
 その手のひらを天井に押し付け、波紋によって己の体を天井に繋ぎとめていた!

ツェペリ「馬鹿な! 見たところ、天井は鉄板張り! 波紋伝導率は低く、とても人間の体重を支えることなど出来んはず!! 『表面に油でもついていれば別』だが……!」

ジョセフ「へへ…今の俺の手はよォ~、お前の締め付けを散々我慢してた時にかいた汗でべちゃべちゃ、滲み出た脂でギットギトだぜ、チクショウ」

ジョセフ「こんな手汗まみれじゃカワイイ女の子の手を取るこたあ出来ねえけどよ……こうして味気ねえ天井に張り付く役には立つんだよ!! そして!!」ダンッ!

 ジョジョは天井から手を離し、同時に天井を蹴ることで推進力を得る。
 タルカスは鎖から手を離してしまっている。
 ジョジョの行動を阻害するものは、ない。

ジョセフ「待ってたぜ!! お前が感情任せに止めを刺すために、鎖を緩める瞬間をよ!!」

タルカス「ヌゥ!?」ギシイ!

ジョセフ「今さら鎖を掴んでももう遅え!! 天井の穴と穴の間は精々3m~4m、一歩でも前に進めりゃもう届くんだよ!!」

 そしてジョジョの手が、タルカスの首から伸びる鎖に届く。

ジョセフ「てめえの敗因はタルカス、確かにお前はこの闘技場で百戦錬磨だったかもしれねえが……」

ジョセフ「自分がゾンビの状態で戦うのは初めてで、しかも波紋戦士を相手にするってのがどういうことかを理解していなかったことだ」

ジョセフ「……終わっちまうんだぜ。こうして、テメーの鎖に触れられた時点で……」

タルカス「う、うおおおおおおおおおおああああああああああああああ!!!!!!」

ジョセフ「『銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバードライブ)』!!!!」バヂィ!!

 ジョジョの出から、タルカスの鎖へ波紋が奔る。
 今度は天井で散らされることはない。
 そして鎖はタルカスの首輪に直結しており、首輪はタルカスの首をがっちりと固定している。
 逃れる術も、ない。

タルカス「あがががっがあが」バヂバヂバヂバヂ!

ジョセフ「ああ…それと……やっぱ、ブラフォードより弱かったぜ、アンタ」

タルカス「オ…ご…ヴ…」ボシュゥ…

 タルカスの頭部は塵となり、消失した。

ポコ(す、すげえ……!!)フルフル…

 少年は、実はドアのロックを解除すべく、明かり窓の中へ侵入していた。
 その行動を起こしただけでも少年にとっては大きな革命であり―――少年に『勇気』が生まれた瞬間だった。

ポコ(あのにいちゃん、あんなでっけえ化け物を倒しちまった!)

 その明かり窓の先の光景を目にして、少年は歓喜に打ち震えていた。
 絶対に勝てないと思っていた怪物を打ち倒した。
 その事実は、少年の心に大きな衝撃を与えていた。

 少年は、故郷の村でいじめられていた。

 いじめっ子に反撃しなかったのは、『勝てっこない』という意識が根底にあったからだ。
 抗うことは無駄である、と諦観していたからだ。
 いつも庇ってくれる姉に何度叱られても、戦う勇気が持てなかった。
 戦っても、勝てっこなかったから。
 しかし。

ポコ(絶対に勝てない、なんてことはない…! 勝てないなら、『勝てる状況まで誘導してやればいい』。にいちゃんが、今そうしたように…!!)

 少年が家族を想う心は少年に戦う『勇気』をもたらした。
 そして、少年が明かり窓から見た光景は、少年に戦う『自信』を与えたのだ。

ツェペリ(なんということだ……)ワナワナ…

ツェペリ(終わってみれば、ジョジョは無傷でタルカスを倒してみせた。あれほどの怪物を、あれだけ不利な状況にあって……)

ツェペリ(仮に、わしが加勢に入っていたとして、わしはあのタルカスを倒すことが出来ただろうか……ジョジョのように、鮮やかに……)

ツェペリ(……無理だ。そのヴィジョンが見えん。わしはタルカスを相手に苦戦し、もしかしたら敗れてすらいただろう……)

ツェペリ(波紋の力はまだまだわしの方が上。だがジョジョはその波紋を『どう使うか』を発想する才能に秀でている……いや、もはや図抜けている、といっていい)

ツェペリ(言うなれば、『戦闘の天才』)

ツェペリ(我が波紋の師、トンペティは人の運命を読み取る力があった……わしもまた、ジョジョに対し、奇妙な運命のようなものを感じている)

ツェペリ(ジョジョ……こやつは石仮面を超えた、もっと大きなものと対峙する運命にあるのではないか? このディオとの戦いは、通過点に過ぎないのではないか?)

ツェペリ(わしは、そんな漠然とした予感を抱いている)

ツェペリ(わしは……)

 ジョジョがタルカスの首輪から得た鍵で自分の首輪を外すと同時、中に侵入したポコによってドアが開けられ、ツェペリとスピードワゴンも部屋の中に入ってきた。

スピードワゴン「ジョジョ! 無事でよかった! あんな化け物を一人で倒しちまうなんて、大した奴だよお前は!!」

ジョセフ「ケッ! 大したこたあねーよ! 図体でけえばっかのアホは、俺が一番得意とする相手だぜ!」

スピードワゴン「いやいや、やっぱりお前はすげえ奴だよ。なあ! ツェペリのおっさん!!」

ツェペリ「………」

スピードワゴン「おっさん?」

ジョセフ「どしたんだツェペリさん。そんな浮かない顔して」

ツェペリ「…………ふぅ~~」

ツェペリ「そうだな、わしもそう思うよ。ジョジョ、お前は『天才』だ。紛れもなくな」

ジョセフ「でへ、何だよそんなこと言われると調子のっちゃうよォ~? 俺」

ツェペリ「おそらく『対吸血鬼』の技能において、お前は既にわしを上回っているだろう」

ジョセフ「そりゃ言い過ぎってもんじゃないのォ~ツェペリさん」ニヨニヨ

ツェペリ「事実だ……ジョジョ、お前は恐らく生涯を通し『何か』と戦い続ける運命にある。引いてはやがて満ちる潮の流れのように……戦いの運命はお前を決して逃がさぬだろう」

ジョセフ「……や、やめろよそんな不吉なこと言うの。そんな運命死んでもごめんだっつーの」

ツェペリ「言うなれば『戦闘潮流』……その流れに溺れぬように、わしはお前に力を託そう。今ならばわかる……わしは、そのためにここまで来たのだ」ガシッ!

ジョセフ「おい、なんだよ。何で俺の手を掴む? 何する気だ、ちゃんと説明しろよオイ!!」

ツェペリ「辛く厳しい旅路となるだろう……だが忘れるな。わしの魂は、常にお前の傍にある!」コオオオオ!

ジョセフ「な、何をするーーーーーッ!!!?」







ツェペリ「究極! 『深仙脈疾走(ディーパスオーバードライブ)』!!!!」ビッシャァァァァ!!


ジョセフ「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」


 モクモクモクモク―――――――

スピードワゴン「す、凄まじい蒸気! これほどの蒸気を生み出すエネルギーを、おっさんは生み出したのか!?」

スピードワゴン「だが、何故今!? 何故ジョジョに!? 一体何の目的で!?」

ジョセフ「なんだ……これは……」

スピードワゴン「ジョジョ! 無事か!?」

ジョセフ「力が…力が湧いてくる……! まるで、まるで『ツェペリさんの生命エネルギーが全て俺に渡された』みたいに!!」

スピードワゴン「生命エネルギーが、全て、だと…? 馬鹿言うなよ…そんな言い方、それじゃまるでおっさんが……」


『忘れるな――――わしの魂は常のお前の傍にある』


ジョセフ「ふざけんなよ……誰が、誰がそんなこと望んだんだよ……!!」ワナワナ…

ジョセフ「ま、まだ、まだまだ、教えてほしいことがたくさんあったのに……!!」

 ―――煙が晴れる。
 地面に跪いているウィル・A・ツェペリの輪郭が徐々に姿を現す。

スピードワゴン「おい、おっさん。ジョークだろ? 返事をしろよ……」

 ツェペリは応えない。
 ツェペリは、その顔を上げようとしない。
 ジワリと目頭が熱くなるのを、スピードワゴンは自覚した。

スピードワゴン「ふざけんな!! 返事をしろ! おっさん!! ツェペリのおっさァーーーーんッ!!!!!!」





























ツェペリ「ふぁ?」ムクッ


ジョセフ・スピードワゴン「「お、老いてるーーーーーーーーッ!!!!!!」」ガビーン!!


ここまで

やっと体調が戻った

今年の風邪はマジで長引く模様

みんなも気を付けて

追記

何気に一番時間かかったのがマジ無理のとこ

あれなけりゃ昨日の段階で投下出来てたね

 しばらくの時が経ち―――ジョジョ達は騎士たちの修業場を後にし、町までの道中を歩んでいた。
 ディオが住処としている館ではなく、一度町を経由する理由はポコを送り届けるためと、町の様子を確認するため。
 それともう一つ、大きな問題があったからであった。

ツェペリ「ふぁ~、むにゃむにゃ、むぅ~」

 スピードワゴンの背中で盛大に欠伸を上げている、老いたツェペリの存在である。
 ジョジョにその力を全て預けたツェペリは、その代償として推定80歳程に及ぼうかというほど老け込んでいた。
 とてもこの状態のツェペリを抱えたままではディオの館に突入することなど出来ない。
 今後の計画を一度きっちり話し合うためにも、町を目指すのは妥当な判断であった。
 ちなみにスピードワゴンがツェペリを背負っているのは、ゾンビの襲撃に備え、ジョジョを身軽にするためだ。
 果たして、前方からジョジョ達に向かって歩み寄ってくる人影があった。
 警戒し、油断なく人影を観察するジョジョだったが、人影の方からこちらに声をかけてきた。

??「おい! そこ歩いてんのはもしかしてポコじゃねえか!?」

ポコ「アダムスさん!!」

 アダムスと呼ばれた男は、どうやら町の住民で、ポコとも面識があるようだ。

ポコ「アダムスさん! 町は、町は無事なの!? おいらのねえちゃんは大丈夫!?」

アダムス「大丈夫どころかカンカンもんよ! オメーが帰ってきたら牛小屋に閉じ込めてやるって言ってたぜ!!」

 両手で角の真似をしてポコを脅かすアダムス。
 そのやり取りに『日常』を感じ、ポコは胸をなで下ろす。

スピードワゴン「どうやらまだ町は無事なようだな。急ごう」

ポコ「ありがとうアダムスさん! それじゃ!」

アダムス「おーう。あんまり遅くまで夜遊びすんなよー」

 ひらひらと手を振るアダムスとすれ違い、ジョジョ達は町へと歩みを再開する。
 そこで、スピードワゴンがジョジョの表情を見咎めた。

スピードワゴン「そんな変な顔して、どうしたんだ? ジョジョ」

ジョセフ「今の男…こんな時間にこんな所で何をしているんだ? そして、『何をしに俺たちが来た方向に向かっている』?」

スピードワゴン「はっ!?」

 もぞもぞとスピードワゴンの背中でツェペリが動いた。

ツェペリ「来るぞ……ジョジョ」

 空気を切り裂く音と共に背後からポコに迫ってきた『何か』をジョジョは掴み取る。
 それは、アダムスと呼ばれた男の口から伸びた、何mもの長さにも及ぶ舌だった。

アダムス「あったけえ子供の血だぁ~……す、吸いてえなあぁ~~」

スピードワゴン「この男、既にゾンビだ!!」

ジョセフ「ちょうどいいぜ。試してやる……ツェペリさんから受け継いだ波紋の力を!」

ツェペリ「ふがふが……」

アダムス「俺様のスピードがかわせるかァーー!!?」

 アダムスが地を蹴り、ジョジョへと向かって跳躍する。
 その一撃をジョジョは紙一重で回避する。
 ジョジョの頬のすぐ傍を、突き出してきた爪が通り過ぎた。

スピードワゴン「なにィーー!? その辺の雑魚ゾンビかと思いきや、こいつなかなか鋭い動きをしやがる!!」

 驚きはスピードワゴンだけでなく、ジョジョにもあった。

ジョセフ(遅い! このゾンビの動き…スゲェー遅いぜ!!)

 紙一重でかわしたのはゾンビの動きがまるでスローモーションのように見えたからだ。
 あまりにも見えすぎて、大きくかわす必要性が全くなかったのだ。

アダムス「クアアーーーーッ!!!!」

 再びアダムスが地を蹴り、姿勢低くジョジョに突進する。
 ジョジョの目にはやはり、その動きはスローモーションのように映っている。

ジョセフ「オラァーーーーッ!!!!」

 迫りくるアダムスを、ジョジョはいとも容易く迎撃した。
 地を這うように突進してきたアダムスを思い切り地面に向かって踏みつける。

アダムス「オゲェーーーッ!!?」

ジョセフ「違う。こいつが遅いんじゃあねえ……もしかして、俺がすっげえ速くなってんじゃねえのーーーッ!!?」

 そのまま足元より波紋を走らせ、アダムスの体を粉砕する。
 アダムスは断末魔の叫びを上げ、塵と化した。

スピードワゴン「おお……ジョジョ!!」

ジョセフ「波紋疾走の威力も段違いだ……これが、ツェペリさんの力なのか……」

ツェペリ「ふがふが…ふぇくしょ!!」

 感動に震えながらジョジョはツェペリに顔を向ける。が、当の本人はどこ吹く風といった様子だった。

スピードワゴン「しかし、こうなると町はもう……」

??「その通りだ」

ジョセフ「ヌッ!?」

 再びジョジョ達の前に男が立ち塞がった。
 漲る闘志、鋭い眼光。真上に逆立てた金髪が特徴的な男だった。

??「町はずれにゾンビがはびこりつつあるぞ」

スピードワゴン「あ、新手のゾンビか!! しかもこの眼光……ただならぬ気配を感じるぜ!!」

ジョセフ「へッ! 何者だろうと今なら負ける気がしねーぜ!!」

??「我が名はダイアー」

 一方的に名乗りを上げた男はそのままずかずかとジョジョとの間の距離を詰める。
 ジョジョが構え、戦闘態勢を取ると同時に、ダイアーと名乗った男はふわりと跳躍した。

ジョセフ「蹴りか……しかし、スローな蹴りだ」

 ジョジョはす…と一歩動き、男の蹴りを回避する。
 ふわり…と男はジョジョが元居た位置に着地した。

ダイアー「………避けたか」

ジョセフ「避けるわ!!」

 その時、目をしぱしぱさせていたツェペリが男の存在に気が付いた。

ツェペリ「おお……」

 男の姿を目にしたツェペリは驚きと喜びを声に含ませる。

ツェペリ「久しぶりじゃなダイアー!」

ダイアー「その声は……ツェペリさん! ツェペリさんか!!」

 どうやらツェペリと旧知の間柄であるらしい男は、スピードワゴンの背中に居るツェペリの姿を認め、驚きの声を上げた。











ダイアー「お、老いてるゥゥゥーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!」ガビーーン!









 ダイアーはツェペリと共に修業した波紋戦士だった。
 ツェペリは事前に手紙で師に助力を求めていたのだ。
 そして今、ジョジョ達の前にはツェペリの師・トンペティともう一人の波紋戦士・ストレイツォも姿を現している。

ダイアー「そうか……深仙脈疾走を使ったのか」

 ツェペリの有様を見たダイアーは大きく狼狽えていた。
 20年来の親友が、いきなり自分の親よりも老け込んでいたのだ。
 困惑するのも無理からぬことだった。
 トンペティとストレイツォもツェペリの姿にそれぞれ思うことがあるのか、何やら深く考え込んでいる様子だった。

ツェペリ「皆、それ程深刻になりなさんな。わしはわしなりに考えた結果じゃ。後悔はないよ。のう? ジョジョ」

ジョセフ「え、うぇ?」

ツェペリ「まさかわしに後悔はさせんじゃろう? 必ずディオを倒し、石仮面を破壊してくれるよな?」

ジョセフ「お、おお! 任せとけ!」

トンペティ(フム……かつて見たツェペリの運命が変わっている……? 人は『運命の奴隷』から抜け出すことが出来るのか……? 興味深いな…実に)

 とにかく、早く町の様子を見に行った方がよかろうと、歩みを再開しようとした時だった。

ダイアー「ジョジョ、といったか。俺と立ち会えい」

ジョセフ「にゃ、にゃにおう!?」

 ダイアーの突然の申し出に、ジョジョは目を丸くする。

ジョセフ「な、何でだよ!?」

ダイアー「貴様がツェペリさんの力を受け継ぐに相応しい奴なのか、俺直々に確かめてくれる」

ジョセフ「んなあ!?」

ツェペリ「おい、ダイアー!」

トンペティ「ツェペリよ。ダイアーからすれば、共に培ってきた力をポッと出の小僧に奪われてしまったような思いがあるのだろう。奴には『納得』が必要なのだ。やらせてやれ」

ツェペリ「し、しかし…」

トンペティ「我々はこれから共に戦うのだ。わだかまりは早めに処理してしまうに限る。それに我々もジョジョの実力を知っておきたいしな」

ダイアー「往くぞ! ジョジョ!!」

ジョセフ(マ、マジかよォ~! ツェペリさんも結局止めてくんねえし、何のためにこんな事しなきゃなんねえのよ!)

ジョセフ(確かめるって、それで俺がお眼鏡に適わなかったらどうすんだよ! 今さら返せったって返し方なんてわかんねえし、お互い気まずくなるだけじゃねえか!!)

ジョセフ「なあダイアーさん、やっぱりやめとこうぜこういうの! 俺達これから仲間として一緒にやってくんだしさぁ!」

ダイアー「くどい! 腹をくくれ小僧!!」

ジョセフ「ッ!?」

 最初、ジョジョは目の錯覚を疑った。
 ダイアーの体が幾重にも重なって、ぶれて見える。

ジョセフ「な、何だ!? 足の運びだけで、これだけの残像を生み出しているのか!?」

ダイアー「ハッ!!」

 摩訶不思議な動きにジョジョが困惑したのを見計らって、ダイアーは跳躍する。
 先ほど初見の時に繰り出したような、両足を揃えたスローな跳び蹴り。
 しかし、直前の動きで避けるタイミングを奪われたジョジョは、先ほどのように身をかわすことが出来ない。

ジョセフ「無理にかわせば体勢を崩し、大きな隙を晒すことになる。受け止めるっきゃねえ!」

 幸いダイアーの蹴りは遅い。受け止めることは容易だった。
 しかしそれも当然。
 この技は、相手に受け止めさせることを前提とした技なのだから。
 ジョジョがダイアーの蹴りを受けるため、両手を伸ばす。

 そこで! 突如としてダイアーは蹴りのために突き出していた両足を大きく開脚!
 ジョジョの両腕を大きく蹴り広げた!

ダイアー「『稲妻十字空裂刃(サンダークロススプリットアタック)!!!!』」

 そしてそのまま、交差した両腕でジョジョの頭めがけて強烈な手刀を見舞う!

スピードワゴン「交差した手刀はジョジョからの頭突きなどを防ぐ盾にもなっている!! 攻守において完璧!! 何て技だ!!」

ストレイツォ「これを破った格闘者はひとりとしていない」

 ダイアーの手刀がジョジョに迫る!
 両腕を固定されてしまったジョジョに防御の術はない!

ダイアー「やはりこの程度か……ツェペリさんの人を見る目も衰えてしまったものだ……」


ジョセフ「」プッチ~ン!

ジョセフ「いィィい加減にしやがれぇぇぇぇええええええええ!!!!!!」

 ダイアーが無意識に吐いた侮辱の言葉がジョジョを激高させた!

ジョセフ「見てえってんなら見せてやる!! これが俺がツェペリさんから受け継いだ力だ!! とくと味わいやがれ!!」

 ジョジョは蹴り広げられたその両手で、ダイアーの足首をがしりと掴む。

ジョセフ「全ッ開のッ!! オォォォバァァァドライブゥゥゥゥウウウウウ!!!!!!」

 バヂィ!! とまるで稲妻に打たれたかのようにダイアーの体が弾ける。

ダイアー「うごああああああああああああああああ!!!!!!」

 たまらずダイアーは技の体勢を崩し、地面にどしゃりと崩れ落ちた。

ダイアー「ぬ、ぬぐ…」

ジョセフ「どうだこの野郎! これが俺とツェペリさんの、二人の力だ! これで俺はディオの野郎を絶対にとっちめる!! まだ文句があっか!!」

ダイアー(ま、まさかあの状況から攻撃に転じるとは……加えて、生み出された波紋は俺の波紋抵抗を打ち破るほどの威力!)

ダイアー(ツェペリさんの生命力が合わさっているとはいえ……成程波紋の才能は凄まじく、そして修業も怠ってはおらぬようだ……)

 ダイアーは立ち上がり、ジョジョに向かって目を伏せ、頭を下げた。

ダイアー「すまなかった。お前の力を認めよう」

ジョセフ「わ、わかりゃ~いいんだよ。わかりゃあ」

ツェペリ「まったく、やれやれじゃわい」

トンペティ「『納得』はいったようだな。では町を目指すとしよう」

ここまで

 町に到着したジョジョ達は少年・ポコを家へと送り届ける。
 ポコを出迎えたのは父の叱責と平手打ちだった。

ポコ父「ポコ! 今までどこをほっつき歩いてやがった!!」

ポコ「と、とうちゃん…! とうちゃんは無事でうれしいけど、ねえちゃんは!? ねえちゃんはどこに居るの!?」

ポコ父「な、なんだポコ…お前、何か様子が変だぞ?」

ポコ「まさかおいらを探しに外に出たの!? ねえちゃん!!」

トンペティ「これはなかなかのっぴきならない状況になっているようだの」

ジョセフ「ブラフォード、タルカスと連戦続きで小休止を挟みたかったところだが、そうもいかなくなっちまったか」

スピードワゴン「急がなきゃならねえ! ポコの姉貴がゾンビ化されちまう前に!」

ツェペリ「………」

ダイアー「何を考えている? ツェペリさん」

ツェペリ「いや……」

ダイアー「当ててやろうか。本当は石仮面が破壊されるのを見届けたい。だが、今の体でついていけば足手まといになってしまう。と、そんなところだろう」

ツェペリ「ダイアー……」

ダイアー「伊達に20年以上も付き合っておらんさ。あなたの考えそうなことくらいわかる。なあに気にするな。ついてきたいならついてくればいい」

ツェペリ「う、む…しかし……」

ダイアー「ディオとかいう奴がどれ程手強い吸血鬼かしらんが……今ここには波紋戦士のトップ・クラスが三人も集結しているのだ」

ダイアー「ジョジョの強さももはや我らと遜色ない。腰の立たぬじいさんを一人連れたところで、何の不利にもなるまい」

ダイアー「あなたの面倒はこのダイアーが責任をもってみよう」

ツェペリ「……すまんなダイアー。世話になる」

ダイアー「なあに気にするな。我らは20年共に過ごした友ではないか」

ツェペリ「となればまずはオムツを調達せねばな……ポコの家に置いてあればよいのだが」

ダイアー「oh…」

 ディオが根城としている洋館の一室で、一人の少女が震えていた。
 帰りの遅い弟を心配し、探し回っていたところを運悪くゾンビに発見され、ディオの元へと献上されてしまった―――ポコの姉である。

ディオ「なあマドモアゼル。この薔薇を見たまえ。美しいだろう? だが花の美しさは一時の物で、時が経てばすぐに萎れ、枯れ散ってしまう」

 ディオはその手に一輪の薔薇を摘み、震える少女の姿を楽しげに見つめながら言う。

ディオ「何とも儚いものだ……人の人生においても同じことが言えるだろう。そこで、いつまでも全盛の美しさを保ちたいと願うのは果たして罪だろうか?」

人面犬「美味しそうでしょディオ様ァ~! この娘、16歳で正真正銘の生娘! まさに食べごろ、いや、吸いごろですかなァ~!!」

ポコ姉「ひッ!」

 ディオの傍に座り込んでいた、犬の体に人の顔というおぞましい化け物が口を挟んできた。
 少女は恐怖と生理的嫌悪感に息をのみ、ディオは不快気に眉をしかめる。
 ディオは人面犬の頭を踏み抜いた。

人面犬「おぎゅッ!!」

 ぐしゃり、と湿った音が響く。
 余りの光景に少女は口元を押さえ、目を背けた。

ディオ「礼儀を知らんものに生きる価値はないな。こういう手合いも中々趣深いと戯れに作ってみたのだが……不快にさせてしまって申し訳なかった。謝罪しよう」

 さて、と指で薔薇を弄びながらディオは場を仕切りなおす。

ディオ「このディオならそんな願いを叶えてやることが出来る。どうだ? 無理強いはしないよ……君の今の本当の気持ちを聞かせてほしい」

ポコ姉「………」ボソボソ…

ディオ「ん? 聞こえないよ?」

 少女の答えは言葉ではなく平手打ちだった。
 不用意に顔を近づけたディオの頬を、少女の手がパチンと勢いよく叩く。

ポコ姉「あ、あなたは永遠に呪われている…ば、ばけものよ…!!」

 目に涙を溜めながら、それでも少女は気丈に言葉を紡ぐ。
 ディオは己の口元から流れた血を舐めとりながら、そんな少女の様子を見つめている。
 その表情には、明らかな愉悦の色が見て取れた。

ポコ姉「ハッ!?」

 気づけば、少女の頭上に一体のゾンビが迫っていた。

ディオ「出会ったばかりでもうお別れとは遺憾に思うが紹介するよ。彼の名は怪人ドゥービー。このディオがお気に召さんなら後は彼に相手をしてもらうといい」

ドゥービー「ぐへへうひゃひゃ!!」

 筋肉質で、その顔を布で隠している、ドゥービーと呼ばれたその大男に少女はあっという間に組み敷かれてしまう。
 びりびりと少女の衣服が男の手によって引き裂かれた。

ポコ姉「いやぁーーーーーーッ!!!!」

 これから自らの身に起こる悲劇を理解して、少女は心からの悲鳴を上げた。
 ゾンビは人の肉を食らい、血を啜る。
 だが、このドゥービーと呼ばれたゾンビはその前に少女に性的な行動を起こして楽しむつもりのようだった。

ドゥービー「でゅへへ……!」

 男の全身でぬめぬめと光る、汗とは違う奇妙なぬめりをもつ粘液が、露わになった少女の肌を濡らす。

ポコ姉(ああ……)

 天井に開いた天窓から見える星。
 何となくそのまま星を見つめながら、尋常ならざる嫌悪感に少女の心が壊れそうになった、まさにその時だった。

 ひょっこりと、身長195㎝はあろうかという大男が窓から顔を覗かせていた。

 ぱちくり、と少女は目を丸くさせる。
 男は少女と目が合ったことに気付くと、何やら口パクとジェスチャーでコミュニケーションを取ろうとしてきた。

ポコ姉(『こっちを振り向かせるな』…? 『気を引け』…?)

ドゥービー「んん~? おめえ、さっきからどこ見てんだぁ~~?」

ポコ姉「あッ!!」

 少女は思わず怪人ドゥービーの布に包まれた頭を掴んでいた。
 ごわごわとした奇妙な感触にひっ、と思わず声が漏れる。
 が、少女は我慢してその顔に笑みを作った。

ポコ姉「やだ…よそ見なんてしないで。そのたくましい体は私だけに向けてちょ・う・だ・い」

 声色に出来るだけ色気を込めたつもりだが、いかんせんこういった経験は皆無なのでうまくいったかわからない。

ドゥービー「うっひょ~~う!! おーけえおーけえす~ぐに舐め舐めしたげちゃうもんねぇ~!!」

 うまくいったみたいだった。
 後ろを振り返りかけたドゥービーはすぐに少女の方に向き直ると、手をわきわきさせて少女の裸体に手を伸ばす。
 と、その時!

ジョセフ「スーパー不意打ち波紋疾走!!!!」

 天窓から降ってきたジョジョが怪人ドゥービーの頭を蹴り飛ばした!
 頭に包まれた布の奥でボジュゥ! と波紋によってゾンビの体が気化する音が響く!

ドゥービー「おばぁぁあああああ!!」

 ドゥービーが断末魔の叫びを上げる。

ドゥービー「ま、まさか、これでおデ終わりィ~!? な、なんの見せ場もなくぅ!? こ、この卑怯者がぁ~~!!」ボジュゥー…!

ジョセフ「ケッ! 女を力づくでどうこうしようとするような奴にそんなセリフを吐く資格はねえぜ!」

ポコ「ねえちゃん!!」

ポコ姉「ポコ!!」

 再会の抱擁を交わす姉弟を横目に、ジョジョは重厚な作りの扉に手をかける。
 確信がある。
 感じる。
 この先に――――奴は居る。







ジョセフ「よう……また会えて嬉しいぜ。お前の次の台詞は『生きていたのかジョジョ』だ」


ディオ「フン…あえて乗ってやる。生きていたのか……ジョジョォ!」





ここまで

やっとここまできた

次の投下で最後になるかな

随分と長くかかってしまったが 最後までお付き合いの程よろしく

ダイアー「この男が石仮面の男……ディオ・ブランドーか」

トンペティ「なんと邪悪なオーラよ。この男、既に悪の帝王として成熟しつつあるか…」

ストレイツォ「……」

 ジョジョの後ろから部屋に入ってきた者達の姿を見て、ディオは薄く笑う。

ディオ「知らぬ顔が増えているな。周囲に助けを求めたか。涙ぐましい努力をしているじゃあないか、ジョジョ」

ディオ「しかし有象無象がいくら増えたところでこのディオの脅威にはなり得ん。小虫を叩き潰すが如きまったく気安い作業よ」

スピードワゴン「野郎ッ! これだけのメンツを相手に、やれるもんならやってみやがれってんだ!!」

ディオ「フン、かかってくるがいい。まとめて死の忘却をプレゼントしてやろう」

ジョセフ「勘違いしてんじゃあねえーぜ」

 背後の仲間達を手で牽制し、ジョジョは一歩前に進み出る。

ジョセフ「戦うのは俺だけで……地獄に落ちるのはテメーだけだ、ディオ!」

スピードワゴン「ジョ、ジョジョ! 何故!」

ジョセフ「心配すんな、策はある。奴をぶっ倒す、とっておきの策がなぁ~」

ダイアー(ツェペリさん……どう思う?)ボソ…

ツェペリ(ジョジョには何か考えがあるようだ……ここは奴に託そう)ボソ…

ディオ「ふむ、正気か? 折角集めた仲間の力を頼らんとは……それともそれも小賢しい策の前振りかな?」

 ディオの問いかけには答えず、さらに一歩、ジョジョは歩を進める。

ディオ「ほう…正気かどうかはともかく、本気ではあるようだな。本気でこのディオとの一騎打ちを望むか」

ディオ「よかろう、受けてやる。しかし、来客に何のもてなしも無しとあっては館の主として恥よ。よって観衆どもにもそれなりの歓待を送ろう」

 ディオはパチン、と指を鳴らした。
 その音を合図に、突然現れた数多のゾンビがスピードワゴン達の周囲を取り囲む。

ポコ「う、うわあぁぁあ!!!!」

ポコ姉「きゃあああああ!!!!」

スピードワゴン「お前ら! 俺のそばを離れるんじゃねえ!!」

 恐怖に悲鳴を上げる姉弟を背後に庇い、スピードワゴンは持参したスレッジ・ハンマーを構える。
 チッ、と舌を鳴らしたのはダイアーだ。

ダイアー「これではジョジョの加勢に行きたくても行けん…!」

ツェペリ「ジョジョ…!」

ジョセフ「相変わらずのゲスっぷりだな、ディオ」

ディオ「さて、これで正真正銘貴様の望み通り一騎打ちだ。精々策を弄してかかってくるがいい」

 ディオはジョジョを迎え入れるように大きく手を広げ、言う。

ディオ「その全てを悉く叩き潰し、貴様を絶望の深遠に叩き落としてから殺してやる」

ジョセフ「やってみやがれ」

 さらに一歩。
 すでにそこは両者にとって必殺の間合い。



 ――――戦闘、開始。

 ジョジョはその手にブラフォードから託されたLUCK(幸運)とPLUCK(勇気)の剣を握る。

ジョセフ「行くぜ……波紋を流したこの剣でオメーをぶった斬る!」

ディオ「無駄無駄無駄…」

ジョセフ「おぉぉぉぉぉおおお!!!!」

 雄叫びと共に、ジョジョは大きく振り上げた剣をディオの脳天目掛けて振り下ろす。
 ディオは後方に向かって跳躍し、くるりと宙返りをする余裕まで見せてその一撃を回避した。

ディオ「遅い遅い、スロウ過ぎて欠伸が出るぞジョジョォォオオオオ!!」

ジョセフ「野郎、ちょこまかと!」

 ジョジョはディオの首目掛けて水平に剣を振る。

ディオ「ふん!」

 ディオは今度は回避せず、無造作に腕を刃の横っ腹に叩き付けた。

ジョセフ「くお…!」ビリビリ…!

 幸い刀身が折れることはなかったが、凄まじい衝撃で吹き飛びそうになった剣の柄をジョジョはしっかりと握りなおす。

ディオ「無駄無駄無駄ァーーッ!! 既に格付けは済んだと言ったはずだ! 先ほどの崖でのやり取りで貴様の動きは見切っている!!」

 三度振るわれるジョジョの剣。
 ディオの目にはその軌道がスローモーションで再生しているようにはっきりと見えている。

ディオ「動きがすっとろいぞウスノロが! その剣を振りぬいた時、落ちているのは貴様の首だッ!!」

 剣の軌道を潜り、カウンターでジョジョの首目掛けて手刀を繰り出そうとしたその刹那。
 ジョジョがニヤリと笑うのをディオの目は捉えた。

ディオ「何ィッ!?」

 突如としてジョジョの剣のスピードが上がった。
 見えていたはずの剣の軌道は影となり、その姿をディオは見失う。

ディオ「ぐ、お、お!!」

 ディオは咄嗟に回避行動に移る。
 最初にそうしたように後方に飛び、ジョジョから距離を取ろうとする。
 カァーン、とジョジョの剣が床を叩いた。
 再び開く両者の距離。
 その真ん中で、くるくると宙を舞う物体があった。


 ―――ディオの右腕、その肘から先である。

スピードワゴン「や、やった!!」

 スピードワゴンは歓声を上げる。

スピードワゴン「あえて加減した攻撃を見せることで最大速度を誤認させ、ディオの虚を突いた……言わば緩急のフェイント!」

ジョセフ「約束通り一太刀食らわせてやったぜ。ブラフォード」

ディオ「ぐぬ…!」

 床に落ちた自らの腕を目にし、ディオの顔が屈辱に歪む。

ディオ「馬鹿な…たった数時間で身体能力をこれ程向上させるなど…貴様一体何をした……!」

ジョセフ「それを答える義務はねーぜ」

 ダイアーの隣で、ツェペリはニヤリと笑う。

ジョセフ(とはいえ、今の一撃は本当は首を斬り飛ばしにいったもの……うまくかわされちまったな。それに…)

 ジョジョはディオの様子を確認する。

ジョセフ(やはり、切断面から波紋が通った様子はない…この方法では奴の気化冷凍法を破ることは出来ないか)

ジョセフ(ならばどうする…?)

ディオ「相も変わらず底の知れん男よ…だが、同じ手はもう二度と食わん…!」

ジョセフ(斬撃が通るってのが分かったのは収穫だが、もう奴は易々とこちらの攻撃を食らってはくれないだろう。となれば)

ディオ「ウリィ!!」

 ディオが攻撃に転じた。
 残った左手で繰り出される、凄まじい速度の手刀。
 とても加減した速度ではかわすことは出来ない。
 ジョジョは全力で地を蹴り、ディオの攻撃を掻い潜る。
 しゅるり、とジョジョのポケットから音がした。

ジョセフ(やはり『糸』の作戦で行く! ディオの攻撃から身をかわすと見せて逃げ回りながら糸を四方に張っていく!)

ジョセフ(その糸の結界にディオが入ってきたら、奴の体に波紋を通した糸を巻き付け、倒す!)

ジョセフ(反射で行う気化冷凍法には限界があるはずだ……死角から奴の全身に糸を巻き付けてやれば、気化冷凍法を破れるかもしれねえ!)

ディオ「SHAAAッ!!」ブンッ!

ジョセフ「うおおッ!?」チッ

ジョセフ「回し蹴りッ!? あぶねえ、かすった…!」

ディオ「チィ! ちょこまかと…!」

ジョセフ(も、問題は動物の豹以上のスピードで繰り出してくるディオの攻撃をかわし続けられるか、だぜ…!)

 次々と繰り出されるディオの攻撃を、ジョジョは紙一重でかわしていく。
 身を屈め、横っ飛びし、時にブラフォードの剣で牽制しながら糸を張り巡らせていく。

ダイアー「ぼ、防戦一方か…!」

ツェペリ「なんという…わしの力を乗じてなお、ディオとの間にはこれ程力の差があるのか…!?」

 ジョジョの思惑を知らぬ者にとっては、成程その光景はジョジョの圧倒的劣勢を思わせる。
 なので、こういった感想を抱くのも致し方ないことではある。
 だからといって、ならば二人の感想は的を外しているのかと言えば、実はそうではない。

ディオ「ふん!!」

ジョセフ「ぬはあ!?」

 事実、ジョジョとディオの間には近接格闘において圧倒的な力量差があった。
 そしてその原因は、ディオの強力無比な気化冷凍法にある。
 防戦一方―――ジョジョには『ディオの攻撃を受け止めることすら許されない』のだ。
 だからこんなにも一方的な戦いになる。 
 ジョジョは数時間前の崖での闘いで気化冷凍法の威力を実感している。
 脳裏には、一瞬で凍らされたアメリカン・クラッカーの映像がこびりついている。
 故にジョジョは、ディオとの肉体的接触を極端に警戒していた。

 しかしいくらジョジョがツェペリの深仙脈疾走により人の限界値と言えるほどの能力を獲得していたとしても。
 元より人を超越したディオよりも速く動き続けることなど、出来るはずがない。

ディオ「WRYYYYYYYY!!!!」

 それは、ディオの手刀をかわし、ジョジョが地面に片膝をついた直後に起きた!
 間髪入れず繰り出されたディオの蹴りが、遂にジョジョの体を捉えたのだ!

ジョセフ「うおおおおおおおお!!!!」

 だが、直撃はしていない!
 ジョジョは咄嗟にブラフォードの剣でディオの足を受け止めていた!
 しかしその代償として今度こそブラフォードの剣は砕き折られてしまう。
 受けた衝撃に身を任すことでジョジョは後方に逃れ、ディオと距離を取った。

ディオ「剣は折れた…次はどうする?」

ジョセフ「すまねえ、ブラフォード…アンタのおかげで間一髪、助かった…」

 ゼエゼエと息を切らせながら、ジョジョは不敵に笑った。

ジョセフ「そして……間一髪、間に合ったぜ……」

 仕掛けは終わった。
 糸はディオの周囲を取り囲むように張り巡らされている。










ディオ「間に合った、というのはこの下らん仕掛けの準備のことか?」








 ジョジョは言葉を失った。

ディオ「気づいていないとでも思ったか? おめでたいことだなジョジョォ~」

 ディオの顔に、勝ち誇りの笑みが浮かぶ。

ディオ「いい加減付き合いも長いんだ…貴様のことはよく知っている」

ディオ「貴様が何の策もなくただ逃げ回るだけとはとても思えんかったからな…貴様の動きには最大限注意を払っていた」

ディオ「丸見えで、滑稽だったぞ? 貴様がこそこそと糸を伸ばしている姿は」

ジョセフ「ぐ…ぬ…!」

 くるり、とディオはジョジョに背を向け、腕を振り上げた。
 その視線の先には、ジョジョの張ったウール100%の糸がある。

ディオ「これを切ってしまえば貴様の苦労も水の泡というわけだな、ジョジョ」

ジョセフ「やめろディオ! その糸を切るんじゃねええええええ!!!!」

ディオ「そんな嘆願を聞くと思うか間抜けがァァああああああ!!!!」

 躊躇なくディオはその腕を振り下ろす。
 プツン、と音を立て、あっさりと糸は断ち切られた。



 ――――瞬間、ディオの全身を取り囲むように周囲から糸が飛び出した。



ディオ「何ィーーーッ!!!?」

ジョセフ「あーあ、だから『切るな』と忠告したんだぜ」

ディオ「切ったはずの糸が、何故!!」

ジョセフ「お前は下らねーといって一笑に付していたが、俺は大好きだったのよ…騙しの手品って奴がよォーーーッ!!」

 ジョジョは糸を二重に張っていた!
 糸は数か所の接触点で互いの伸縮を引き止めるように絡まらせており、どちらか一方が切られればもう片方が飛び出す仕掛けとなっていたのだ!

ジョセフ「いい加減付き合いも長ぇからよォ~、俺も『お前が俺をよく知っている』ことを知っている。普通に張ったんじゃすぐにバレると思ったんでな、苦労したが、一工夫させてもらったぜ!!」

 ビシビシと、糸を握るジョジョの拳に波紋が滾る。
 波紋は拳から糸へと伝わっていく。

ジョセフ「さあ、糸を巻き付けて全身くまなく波紋を流してやる。逃れられるかな? お前ご自慢の気化冷凍法で…」

ディオ「KUUAAAAAA!!!!」

 ジョジョが勢いよく腕を引く。
 引っ張られた糸が、ギュチィ、と勢いよくディオに巻き付いた。










 だが、それだけだった。









 糸はディオの体にただ巻き付いただけで、何の影響も与えなかった。
 気化冷凍法ではない。糸が凍らされた様子はない。
 ジョジョは今度こそ本当に、心底から驚愕していた。
 茫然自失、と言ってよかった。

ジョセフ「馬鹿な…何故波紋が流れていかない…?」

ディオ「く、クク……」

ディオ「くく、うはははははははははは!!!! フハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 ディオの哄笑が響く。
 それは勝利の喝采に他ならなかった。

ディオ「初めてやってみたが、気持ちの良いものだな…知略で相手を上回るというのは。ましてや相手が貴様ならなおさら、格別だ!」

ジョセフ「ディオ、てめえ…一体何をした!!」

ディオ「まだ気づかないのか。ンッン~、いいだろう。察しの悪い貴様にもわかりやすいように説明してやろう」

ディオ「用水路を思い浮かべるがいい。人一人すっぽり入るくらいのサイズの物だ。中に居るのが俺、流れてくる水が波紋だ」

ディオ「さてジョジョ、貴様はこの用水路に波紋という名の水を流そうとしている。このディオは水に濡れないようにするために、どういった対策を取るべきだと思う…?」

ディオ「防水性の布を身に纏うか? 気化冷凍法での防御がこれにあたるだろうな。だがそれでは僅かでも水に濡れる可能性が生じてしまう。あるだろう?もっと確実な手段が」

ジョセフ「確実な…手段…?」

ディオ「用水路と言っただろうが。水門を閉じてしまえばいい。水路を塞いでしまえば、当然下流まで水は流れてこない」

ジョセフ「水門…まさか!」

 ジョジョは自らが握りしめている糸を目で追う。
 『それ』はすぐに見つかった。

ジョセフ「な、あ…そ、そんな…!」

 『それ』は腕だった!
 先ほどジョジョの手によって切り飛ばされたディオの右腕が!
 ジョジョの手から伸びる糸を掴み、凍らせていた!

ディオ「糸を一部でも凍らせてしまえばそこから先に波紋は流れん! 貴様がこそこそと糸を張っている間、俺も糸を伸ばしていたのだ……神経を繋げ、切断された右腕を操っていた!!」

 よく見れば、目を凝らさなければわからないほど細い糸が、ディオの腕の切断面から糸を掴む右腕まで伸びている。

ジョセフ「はっ!?」

 気づけば、眼前までディオが迫っていた。

ディオ「貴様の敗因は自らの策にかまけ、俺が策を練る可能性に思い至らなかったことだ。『策士策に溺れる』…まさしく! まさしくと言ったところだな、ジョジョォ!!」

ジョセフ「ディオォォォォオオオオオオオオ!!!!」

 ズブ、と自らの肉が沈む音をジョジョは聞いた。
 切り裂かれた胸元から噴き出す鮮血がディオの頬を濡らす。

ジョセフ「う…ぐ…」

ディオ「フン、ちょいと浅かったか。胸を刺し貫いて父親と同じ死に様をプレゼントしてやるつもりだったが…往生際の悪い奴よ」

 ふらふらと抉られた胸を押さえ、ジョジョは数歩後ずさる。
 押さえた手の隙間から、止めどなく流れる血が足元を濡らした。
 頬についた血を舐めとりながら、ディオは楽しげにその姿を見つめている。

ダイアー「い、いかん! あの出血量…放っておけば命に関わる!!」

ツェペリ「ジョジョ! 波紋の呼吸をするのだ! 血液の流れをコントロールし、出血を抑えろォーッ!!」

ジョセフ「ぐふ…が…ハァー、ハァー」

 既にジョジョの出血量は甚大で、足元に水溜りを作るほどになっている。
 ぴしゃり、とその血の海にさざ波が立った。
 ディオが歩を進め、ジョジョの目の前に迫っている。

ディオ「何を足掻こうが今さら無駄よ。無駄、無駄、無駄……」

 ディオの指がジョジョの首に突き立てられた。
 既に意識が朦朧としているのか、ジョジョはその動きに碌な反応を示すこともできなかった。
 皮膚の下を探るような動きをしていたディオの指が、何かを摘まむ。

ディオ「コリコリと弾力ある頸動脈に触っているぞジョジョォ~! この温かい弾力、心地よい感触よ!」

ジョセフ「う、うぅ…!」

ディオ「絶望に濡れたいい表情をしているじゃあないかジョジョ……どうだ? 命乞いをしてみろよ」

ディオ「今までの非礼を詫び、みっともなく鼻水垂らして命を乞えばこの慈悲深いディオのこと…貴様を多少特別製のゾンビにして配下に加えてやらんこともない」

ジョセフ「も…もう遅い……ぜ…」

ディオ「なに、そう悲観することはない。お前が思う以上に俺は寛容だ……お前の態度次第ではまだまだ心変わりする猶予はある」

ジョセフ「へへ…違えよ…そうじゃ、ねえ……」

ディオ「……何?」

 ふぅ~、とジョジョは一度長い息をつく。

ジョセフ「もともと…糸の結界はお前の気化冷凍法を前に通じないんじゃないかっていう不安はあった……まさか、あんな方法で破られるとは思いもしなかったが……」

ジョセフ「とにかく…だから俺は保険として他にも色々と策を考える必要があったのさ…例えば、そうだな……『お前に波紋をたっぷり行き渡らせた血液を吸わせる』…とか…」

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ジョセフ「だが体内を流れる血液にそこまでの波紋効果は望めねえ…ゾンビ共の体組織を破壊するほどの威力を持つ波紋は、拳や足先などの体の末端部分からしか出せない…つまり、ホースで水を飛ばす原理だからだ……」

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ジョセフ「でも、そのアイデア自体には何か感じるものがあった…気化冷凍法を破るために必要なのは『完全なる不意打ち』…それに、このアイデアが何か利用できるんじゃないかってな……」

 ジョジョの胸元から手を伝って一滴の血が滴り落ちた。
 思わずディオはその動きを目で追う。
 ぽたりと雫が落ちて、足元の血だまりに波紋が生じた。
 広がる波紋は別の大きな波紋にぶつかって消える。

ディオ「な――――ッ!?」

 波紋はホースの発射口たるジョジョの足先から生じていた。
 揺れる液面はぱしゃぱしゃとディオの足元を濡らしている。




ジョセフ「お前は次に『まさかジョジョ、貴様』―――と言う」


ディオ「まさかジョジョ、貴様―――ハッ!?」








ジョセフ「そして俺の答えだ――――『もう遅いぜ』。ディオ」






 次の瞬間、ディオの両足首から先が消し飛んだ!

ディオ「なァにィィィィィィイ!!!?」

 突然の事態にたまらずディオはバランスを崩す!

ディオ「ま、まずい! この足元の血だまりはたっぷりと波紋を含んだ、言わば『波紋のプール』!! こ、このまま倒れこむのはまずい!!」

ディオ「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 ディオは血だまりに向かって両手を伸ばす。
 皮膚が液面に触れた瞬間、気化冷凍法を全力で行使する。
 ビッシィィィ、とあっという間に床一面が氷に覆われた。

ジョセフ「全力で気化冷凍法を使うために両手をつき、無防備な頭を晒したな? ディオ」

ディオ「ハッ!?」

 声と同時、ディオの頭部に叩き込まれたのはスピードワゴンが持参していたスレッジ・ハンマー。

ディオ「が…ッ!?」

 ディオは咄嗟に気化冷凍法を発動。スレッジ・ハンマーが氷に覆われる。

ジョセフ「苦労したんだ…凍らせようが関係ねえ。このまま頭を撃ち抜かせてもらうぜ、ディオ!!」

ディオ「うぐおおおぉぉぉぉおおお!!!!」

 ハンマーがディオの頭に沈む。
 その威力に頭部を半ばまで陥没させて、ディオの体が吹き飛んだ。

スピードワゴン「うおおおお!! ジョ、ジョジョ!!」

 ジョジョにハンマーを投げ渡したスピードワゴンが喝采を上げる。

ダイアー「や、やったか!?」

 ようやくその数を減らしてきたゾンビを打ち倒しながら、ダイアーはディオの様子を確認する。

ディオ「お…の、れ…!」

 ディオは身を起こすことすらままならず、地面に這いつくばったままだ。

ディオ「またしても…またしてもこのような……! 帝王たるこのディオを…こんな無様な姿に……!!」

ジョセフ「俺の家でお前が初めて吸血鬼になった時……」

 ジョジョが歩を進める。
 ぎくりとディオの肩が震える。

ジョセフ「頭を破壊されたお前は体の治癒すらままならない状態だった……今はどうだ?」

ジョセフ「そんな状態でも……使えんのかい? 気化冷凍法は…」


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ディオ「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー…!!」

 ディオは必死で自分の状態を確認する。
 足首は再生の兆しを見せない。
 そもそも腰から下は感覚がなく、動かすことも出来ない。
 上半身はがくがくと震え、手先は痺れている。
 皮膚感覚もぼやけていて―――つまり、どう足掻いても気化冷凍法を行使することは出来そうもない。

ディオ「な、何か、何かないのか!! 俺の体で、まともに動くところはないのかッ!! このままでは、このままでは俺はッ!!」

ジョセフ「その様子じゃ…どうやら無理みたいだな…」

ディオ「う、うお、うおおおおお!!!?」

 ディオの感情が爆発した。
 言うことを聞かぬ腕をそれでも必死に動かして、ジョジョから少しでも離れようと地面を這い進む。
 恥も外聞もなく。
 傲岸不遜に君臨していたはずの帝王は、今は惨めに追い詰められた鼠のようだった。

ディオ「や、やめろ……来るな……!」

 歩み寄るジョジョに対し、ディオは何とか動く腕で手に触れたものを手当たり次第に投げつける。

ディオ「頼む……来るな……来ないでくれ……!!」

 レンガの欠片、落ちて割れた食器。
 力なく放物線を描くそれらはジョジョの体に跳ね返るばかりで、ジョジョは気にも留めず歩を進める。

ディオ「やめろォッ!! それ以上俺のそばに近づくなァーーーーーッ!!!!」



ディオ「ハァァ~…! ハァァ~…!」







ディオ「…………お前の、次の台詞は」





ディオ「『しかし近づかなきゃあお前に波紋を叩き込めないぜ、ディオ』―――だ」


ジョセフ「しかし近づかなきゃあお前に波紋を叩き込めないぜ、ディオ―――なッ!?」





スピードワゴン「なにィィィイイイイイイイ!!!!?」




 ディオの瞳孔が中心から裂けた。
 そしてそこから超高圧で圧縮された体液が弾丸のように撃ちだされる。

 名付けるならば『空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)』!!

ディオ「SHAAHHHHHHH!!!!」

 撃ちだされた体液はもはや光線。
 肉を貫き、大理石の柱すら豆腐のようにすぱりと切断する。
 巻き添えを食らったゾンビが脳天を撃ち抜かれ、崩れ落ちた。



「ば、馬鹿な……」









 驚愕の声は―――ディオの物。

 空裂眼刺驚の射線上に、つまりはディオの視線の先にジョジョの姿が無い。

 きょろり。
 ディオは視線を右に動かす。
 ジョジョの姿は無い。

 きょろり。
 ディオは視線を左に動かす。
 ジョジョの姿は無い。

 視線を上へ―――ジョジョの姿はやはり、無い。

 視線を下に―――つまり、仰向けに寝ている自分の足元に向ける。

ディオ「馬鹿なぁぁぁぁああああああ!!!!」

 そこにジョジョは居た。
 ジョジョは咄嗟に身を屈めることで空裂眼刺驚をやり過ごしていた。

ディオ「何故ッ!? 何故かわせるッ!? これは追い詰められた俺がたった今偶然に編み出した攻撃……読めるはずがない!!」

ジョセフ「『あの時』は、俺の油断が父さんを殺した……だから、今度はどんなに自分が優勢になっても、俺は絶対に油断しないよう心に決めていた」

ジョセフ「お前の往生際の悪さを、俺はもう嫌ってほど思い知っている……『何をしてくるか』は読めなくても、『何かしてくる』ことだけは読めていた」

 だから、反射的に体を動かすことが出来た。
 それでも光線のような速度で発射された弾丸を、通常はかわせるものではない。
 ジョジョにとって幸運だったのはディオが狙いをジョジョの頭部に限定したことだった。
 しかしこれも致し方ないことではあった。
 ディオはジョジョを『即死』させねばならなかった。
 でなければ、ジョジョは恐らくダメージを負いながらもその強固な意志で体を動かし、ディオにとどめを刺していただろう。
 故にディオは狙いをジョジョの眉間に定め、確実に命中させるためジョジョをギリギリまで引きつける必要があった。
 引きつけた上で――――それでもかわされてしまった。
 その事実が意味するところはひとつ。


 つまり今の二人の間の距離は零である、ということだ。


ジョセフ「おおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!」

ディオ「RUAHHHHHHHHHHHHH!!!!!!」

 ジョジョの拳が金色の輝きを帯びる。
 ディオは両手を床に叩き付けて無理やりに跳躍し、逃走を図る。
 しかし迫る拳から逃れきることは叶わなかった。
 ディオの胸元を、十分に波紋を帯びたジョジョの拳が打つ。

ディオ「が…ッ! 馬鹿な…ッ! 何世紀も未来へ、永遠に生きるはずのこのディオがッ!!」」

 ジョジョの拳から太陽のような輝きが生まれた。
 ディオの体は粒となって吹っ飛び、シュウシュウと蒸気を上げて消えていく。

ディオ「このディオがぁぁぁぁああああああ!!!!!!」

 ディオはそのままベランダの柵を越えて吹き飛び、崖下へと転落した。
 深い闇の底へ、ディオの体が消えていく。

スピードワゴン「やっつけた! 遂にディオをやっつけたぞ!!」

ジョセフ「ディオ……」

 落下の最中、ディオは執念で腕を動かす。

ディオ「ぐぉ…波紋が、頭まで到達する……その前に…!」

 ディオは自ら己の首を断ち切った。
 直後に波紋の伝播によってディオの肉体は完全に消失する。
 地に落ちたディオの頭は一度大きく跳ね、草むらに着地した。

ディオ「ぐあ…! クッ…!」

 ディオの表情が苦悶に歪む。

ディオ「今ので更に頭部の傷が広がったか…! 目がかすむ…このまま、意識を手放すのはまずい……耐えろ…耐えなくては……」

 そうしてディオがしばらくの時を堪え忍んでいると、さくりと草むらを踏む足音が聞こえた。

ディオ「ワンチェン…か…?」

 足音がした方に目を向けたディオの、かすむ視界に映ったのは。
 彼に完全服従を誓った東洋人の小柄な影ではなく。

「ワンチェンは倒した――――助けはもう来ねえぜ」

 195㎝の大男。
 7年以上の歳月を共に過ごし。
 彼の人生において、常に大きな障害となっていた存在。

ディオ「ジョジョ……ジョセフ・ジョースター……」

ジョセフ「最期の刻だぜ――――ディオ・ブランドー」

 場違いなほど穏やかな風が二人の髪を揺らした。
 満月の静かで清涼な光が、二人の姿を闇夜に照らし出している。

ディオ「いよいよ……俺の命運も尽きたということか……」

 ディオの声は不思議なほど穏やかなものだった。

ディオ「なあ……ジョジョ」

ジョセフ「……何だ?」

ディオ「教えてくれ……俺は一体どこで間違えたんだ?」

ジョセフ「どこで間違えたのかなんて、決まってんだろ……最初っからだよ、馬鹿野郎」

 ジョジョはぶっきらぼうに答える。

ジョセフ「俺は元々、父さんの事業を継ぐつもりはなかった……財産なんて、欲しけりゃくれてやったんだ」

ディオ「……ふふ、ははは……そうか。幼少期にお前ともう少し深く話をしておけば……」

 いつもの人を見下したような笑みではなく、ディオは素直な笑い声を上げた。

ディオ「だがそれは無理だ。何故なら俺は昔からお前が大嫌いだからだ」

ジョセフ「知ってるよ。俺も同じだ馬鹿野郎」

 ディオの瞳孔が裂ける。
 空裂眼刺驚がジョジョに向かって発射される。

ジョセフ「ボクシングの時も言ったはずだ―――このジョセフ・ジョースターに同じ手は二度通用しねえ!!」

 ジョジョの両手にはディオの館からくすねてきたショットグラスが握られていた。
 そしてグラスに波紋を流し、眉間と喉を防御する。

ジョセフ「ぐはッ!!」

 片方の弾丸はジョジョの右肩を貫いた。
 しかしもう一方の弾丸は眉間に構えられた波紋グラスの中を滑り、元来た方向に撃ちだされる。

ディオ「おおおおッ!」

 空裂眼刺驚は囮。
 首の切断面から血管をジョジョの首に伸ばし、跳ね返された弾丸に頭を撃ち抜かれながらもディオはジョジョに向かって突進する。


ディオ「ジョぉぉぉジョぉぉぉぉオオオオオ!!!!」


ジョセフ「ディぃぃぃオぉぉぉぉオオオオオ!!!!」


 ジョジョの拳が、迫りくるディオの頭に叩き込まれた。

 シン―――と世界が静止する。
 まるで時が止まってしまったかのような錯覚。
 永遠に引き延ばされた一瞬の中で、ジョジョは口を開く。


ジョセフ「最後だから本音を言ってやる。俺はお前のことが本当に大嫌いだったが――――」

ジョセフ「――――それでも、そのしたたかさを、決して曲げない意思の強さを……俺は尊敬していた」


 その余力など無いはずなのに、ディオもまた、ジョジョに対して言葉を紡ぐ。


ディオ「フン、俺とて同じよ――――お前の賢明さ、決して折れぬ誇り高き生き方には敬意を表していた」

ディオ「俺は――――」











「お前に、勝ちたかった」











 ディオはこの世から塵ひとつ残さず消えた。


 達成感は驚くほど無かった。


 ただ、奇妙な喪失感だけがジョジョの胸に去来していた。



 風の騎士たちの町(ウインドナイツ・ロット)ではささやかながらも盛大なパーティーが行われていた!
 短い間に大量の行方不明者を出したこの事件、恐怖に慄いていた人々は事態を解決したジョジョ達を勇者として歓待したのである!
 もちろん、真実を知る者はごく一部であり、大多数の町の者はゾンビなどという化け物が跋扈していたことを知らない。
 余計なパニックを避けるため、真実を知る者達にも口外しないよう言い含めてある。
 パーティーを主催しているのはポコの一家など、直接的にジョジョ達に救われた者達のみである。

ポコ父「さあ! 子供たちの命の恩人たちよ、今夜は好きなだけ食べて飲んでくれ!」

ポコ姉「これ、私が作ったんです。良かったら、食べてみてくださいませんか?」

スピードワゴン「ん? お、おお! ありがたくいただくぜ!!」

ポコ「あれえ~? 姉ちゃん、もしかして~」ニヨニヨ

ポコ姉「まあ! 何を言うのポコ!!」カァー///

ポコ「へへへ、顔が赤いぜ姉ちゃん!」

スピードワゴン「こらポコ! 大人をからかうもんじゃあねえぜ!!」

ジョセフ「が、ガァ~ン!! こらスピードワゴンてめえ!! 何でお前がおいしい目にあってんだくぉんの野郎!!」

スピードワゴン「う、うるせえ! 怪我人は大人しくしてやがれってんだ!!」

ジョセフ「俺がディオと必死でやりあってる間にお前は後ろでおんにゃのことよろしくやってたってのか!? おん!? おぉん!?」

スピードワゴン「だぁーーッ!! 鬱陶しいってんだよこの酔っ払いが!!」

ポコ姉「ち、違います! スピードワゴンさんは身を挺して私たち姉弟を守ってくれていただけで…その横顔がただ…かっこよかっただけで…」

スピードワゴン「嬢ちゃんそのフォローは火に油を注ぐだけだからやめてマジで!!」

村人A「さあさ! 食べてください!! 魚が旨いのだけがこの町の自慢なのです!!」

ダイアー「ほう…やはり海が近いからか、いい味をしている……」

村人B「こちらもどうぞ! これはここの近辺で捕れる希少な貝です! 肉厚ジューシィでンマァ~イですよ!!」

ダイアー「ほ、ほう…いただこうか……」ゴクリ…

ストレイツォ「ハッ!!」ヒュパァ!

ダイアー「な、なにィッ!?」

ストレイツォ「むぐんぐ……成程これは確かに……素晴らしい味だ」モグモグ

ダイアー「きっさまぁ!! 料理を横取りするとは何の真似だストレイツォ!!」

ストレイツォ「このストレイツォ、容赦せんッ!!」


 ワーワーギャーギャー!!


トンペティ「やれやれ……波紋法の指導者の立場にある二人がこの様子では先が思いやられるのう」

ツェペリ「………」

ジョセフ「よ~うツェペリさん! 飲んでるかァ~?」

ツェペリ「ああ、いただいているよ……傷の調子はどうだ? ジョジョ」

ジョセフ「ああ、トンペティさんから貰った薬草を塗り込んで、波紋で治癒力も活性化させてもらったからな。ゼェンゼン問題はねえぜ!!」

ジョセフ「流石にまだチョッピリ痛えケドよォ~! ぎゃはは!」

ツェペリ「チョッピリなどと痩せ我慢をしおって……周りに心配をかけたくないのはわかるが、ちゃんと自愛しろよ。ジョジョ」

ジョセフ「……ちぇ、ツェペリさんには敵わねえな。見た目に相まって言動までお爺ちゃん化してきたんじゃねえの?」

ツェペリ「かっかっか…否定はせんわい。昨日まではお前を息子のように思っておったが、今は孫のように可愛く見える」

ジョセフ「何かむず痒いからやめてくれよ、そういう言い方はさ」

ツェペリ「いや、本当に……息子と友人と孫を同時に持ったような奇妙な気分じゃぞ、ジョジョ」

ジョセフ「実際のところ、どうなんだ? ツェペリさんには子供や孫がいるのか?」

ツェペリ「……おるよ。しかし恨んでおるじゃろう。石仮面を追うため、わしは家族を捨てた。今さら会わせる顔などないわい」

ジョセフ「そんなことねえよ。ツェペリさんは大袈裟じゃなく、世界を守るために戦ってきたんじゃねえか。事情をちゃんと説明すれば、わかってくれるさ」

ツェペリ「それでも、今まで放っておいてしまったことは変わらぬ……心の距離は、絶望的に離れておろうよ」

ジョセフ「ならそれもこれから近づけていけばいい。出来るさ。これからのツェペリさんには、そのために使える時間がたっぷりあるんだから」

ツェペリ「そうか……そうじゃな……」

ツェペリ「ジョジョ……石仮面を破壊できたこと、改めて礼を言っておくよ」

ジョセフ「礼を言うのはこっちの方だっつーの。ツェペリさんが俺を鍛えてくれなきゃ、俺はきっといずれディオに殺されていた」

ツェペリ「いや、本当にそう思っているのだ。いくら言葉を重ねてもお前への礼は言い尽くせん」

ツェペリ「長い……本当に長い旅路だった。波紋を学び、父を殺した石仮面を追って……今日ここで、石仮面の破壊を見届けることが出来た」

ツェペリ「肩の荷がスッとおりた気分じゃ……これでもう、思い残すことはない」

ジョセフ「縁起でもねー言い方すんじゃねえよ。アンタただでさえ見た目老い先短いじいさんなんだから」

ツェペリ「ジョジョ。かつてわしが言ったことを覚えているか?」

ジョセフ「何のことだよ?」

ツェペリ「いずれお前は再び戦いの運命に巻き込まれるだろう。もしかしたらそれは、今回よりもなお苛烈な戦いとなるかもしれん」

ツェペリ「だが忘れるな。お前は決して一人ではない。スピードワゴン君のような頼れる仲間も、ダイアーやストレイツォのような師となる者達もおる……何より、わしの魂はこれからもお前の中で生き続けるのだ」

ジョセフ「だから、縁起でもねえことを……!!」

ツェペリ「楽しかったぞ。お前と過ごしたこの数週間は……本当に、悪くなかった……」

ジョセフ「おい、ツェペリさん?」

ツェペリ「…………」

ジョセフ「悪い冗談はよせよ、オイ」



ツェペリ「………………」


ジョセフ「……………ツェペリさん?」




 愛してその人を得ることは最上である


 愛してその人を失うことはその次に良い


    ――――ウィリアム・M・サッカレー 19世紀英国作家




 ――――三か月後。
 ジョジョとスピードワゴンの二人はとある港町に居た。

スピードワゴン「ジョジョ! 準備はいいか!?」

ジョセフ「おう! いつでも出発出来るぜ!!」

 必要最低限の荷物を纏めて、ジョジョとスピードワゴンは港に向かう。
 二人がこれから乗り込む船の行き先はアメリカ。
 そう、二人は血気盛んな世間の若者と同様に『アメリカン・ドリーム』を謳い、かの開拓精神溢れる大陸へと渡ろうというのである。

スピードワゴン「しかし酔狂な奴だなお前は。しっかりした身分のあるお前はわざわざアメリカに渡らなくても、イギリスに残れば成功が約束されているだろうに」

ジョセフ「人の敷いたレール渡って何が楽しいんだっての。俺の人生は俺が決める。それに、楽しそうじゃねーかアメリカってところは!!」

スピードワゴン「ま……確かにお前みてーな奴は貴族社会には向いてねえかもな」

スージーQ「ジョジョーーーッ!!」

ジョセフ「ゲッ、スージーQ!! ちょっと待てなんだその荷物は……お前まさか!!」

スージーQ「三年も待ってろなんて冗談じゃないからね!! 私も一緒についていくから!!」

ジョセフ「オーノォー何考えてんだこのアマ!! お前が来ても足手まといになるってあんだけ言っただろうが!!」

スージーQ「うるさい! アンタ全然私の言う事聞いてくれないんだもの!! だったら私だってアンタの言う事なんか聞いてあげないんだから!!」

ジョセフ「上ォ等だッ!! テメー、一回弱音吐くごとにそのケツひっぱたくからな!!」

スージーQ「イーーーッだ!!」

スピードワゴン「……やれやれ」




【ジョセフ・ジョースター】

 ジョースター家に残されていた財産については必要最小限を残して処分し、周囲の孤児院に寄付。
 ジョージ・ジョースターが展開していた事業を信頼できる人物に託し、自身はその身ひとつでアメリカに渡る。
 着手した土地開発事業でその才覚を十二分に発揮し、成功。後に『ニューヨークの不動産王』と呼ばれるまでになる。
 スージーQとの間に女児を一人もうけた。



【スージーQ】

 ジョジョと共にアメリカに渡り、後に結婚。スージーQ・ジョースターとなる。
 ツェペリの波紋相乗効果によって一向に老けないジョジョに対抗し、アンチ・エイジングのためだけに執念で波紋法を習得。
 流石にジョジョほどの不老効果は無いが、妙齢の若奥様としてご近所の評判となった。



【スピードワゴン】

 石油発掘に成功し、巨万の富を獲得。『石油王』と呼ばれる。
 その財産をもってスピードワゴン財団を設立。幅広い分野の発展に貢献した。
 独身。
 かつて彼に恋慕の情を抱く女性もいたらしいが、本人は頑なに想いに応えなかった。
 曰く、『彼女を幸せにできるのは自分ではない』とのこと。
 石油王として成功した彼は、真っ先にとある町の発展に尽力したという。





【ダイアー】

 ウィル・A・ツェペリの遺体を故郷に届けた後、そのままイタリアに残留。
 ディオの件を通じて波紋戦士を強化する必要性を痛感したダイアーはヴェネチアに渡り、そこに眠っていた修業場の復興に着手する。
 毎年命日には必ずツェペリの墓前に花を添え、彼の家族にその誇り高き人生を説き続けた。



【ストレイツォ】

 波紋法の正統な後継者となる。
 『石仮面が一つであるはずがない』と提唱し、いかなる思惑の上かその探索に並々ならぬ熱意を燃やすようになる。
 が、十二度目の探索の旅を境に、ぷっつりと探索を中断。
 その後、彼が石仮面のことを話題に出すことは無かった。
 なお、幾度目かの旅の際、戦災孤児となった少女を保護し、養女としている。



【トンペティ】

 波紋法指導者の立場をストレイツォに譲った後は早々に隠居。
 第二の人生をそこそこ楽しんだという。



【ポコ】

 頑張っていい男になった。



 時はほんの少し遡り―――ジョジョ達が風の騎士たちの町(ウインドナイツ・ロット)で楽しい宴を過ごしていた夜。
 つまり、ディオ・ブランドーがこの世を去った夜。
 一人の少女がふらふらと当て所なく夜道を歩いていた。
 少女がその胸に掻き抱いているのはディオの右腕―――その肘から先だった。

「あ、う、ふ…うぅ~…! ディオ様……ディオ様……!!」

 少女の目からは止めどなく大粒の涙が零れ落ちている。
 彼女はディオの館に監禁されていた少女のうちの一人であった。
 しかし彼女は他の少女とは決定的に異なっている点があった。
 平たく言えば彼女はディオに心酔していた。

 だからジョジョ達が館で生存者を探しているときはその身を隠したし。

 ジョジョ達の目を盗んでディオの腕を回収し、館から逃れた。

 彼女は人間というものに絶望していた。
 だから、人を超越したディオという存在に憧れた。
 人間社会を滅ぼさんと行動するディオを希望とすら感じていた。

「よくも…よくも……!! ジョセフ・ジョースターめ……!!」

 少女の背後で人型の何かがゆらりと揺らぐ。
 これが、彼女が人間に絶望していた理由。
 生まれつき奇妙な影をその背後に従えていた少女は、生まれ故郷において占い師に『悪魔憑き』と診断され、周囲から忌み嫌われていた。
 虐待され、人としての尊厳を踏みにじられて生きてきた。


 がぶり、と少女はディオの右腕に歯を立てる。


「はむ、ぐ、んぐ……」

 その血を飲み下し、その肉を租借し、その骨を噛み砕く。
 やがて綺麗さっぱりディオの腕を平らげた少女は、愛おしげに自らの下腹部を撫でた。

「根絶やしにしてやる……ジョースターの一族は、皆殺しにしてやる……!!」







 ――――これは全くの余談であるが、少女の背後に聳え立っていた影は後世において『スタンド』と称される物に相違なく。


 またその『スタンド』には、対象の遺伝子を取り入れ、特性を受け継いだ『子』を生み出すといった能力を持つものもあったのだとか。









 血脈は絶えず、運命は絡み合い―――――『柱の男』は静かにその時を待つ。









というわけで色々妄想の種をバラ撒きつつ投げっぱなしジャーマン

何とか年内に完結できた良かった

久しぶりにSS書いたら駄目だなやっぱ 書くペース落ちまくり

楽しんでもらえたならこれ幸い

読んでくれてありがとう

乙!楽しかったぞ!できれば2部もやってくれ!そしてスト様が拾った孤児が誰かを!せめてヒントを!

>>583
色々妄想しなさいよ 楽しいよ?

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年09月15日 (日) 20:25:19   ID: _WFxUuey

うまい

2 :  SS好きの774さん   2013年11月12日 (火) 19:53:04   ID: kfDuKRft

がんばれおもしろいから

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