八幡「聲の形?」 (85)

俺ガイル×聲の形のクロスssです。
聲の形は小学生時代となっています。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1546392038



高校三年生の夏休み。

本来なら大学進学のため受験に向けて猛勉強しなければならない時期なのだが…

去年行われた千葉村における小学生の林間学校のボランティアを手伝う羽目に陥った。

顧問の平塚先生引率で、俺たち奉仕部と新入部員の小町。

あとついでに葉山たちグループが参加することになった。

ちなみに戸塚は不参加…あぁ…麗しの天使がいないのはつらい…

ここまでなら去年とほぼ同じ展開だ。だがひとつだけ異なる点があった。

それは俺たちが担当する小学生たち。水門小学校6年2組の子供たちだということだ。


「それじゃあみんな。お兄さん、お姉さんと一緒にカレーを作ろう!」


去年と同じくリーダー格の葉山が

率先して子供たちに指示を出しながら夕飯のカレーを作る準備に取り掛かった。

俺と葉山、戸部たち男勢が火を起こし料理の出来る雪ノ下や小町は

子供たちの見本となるべくテキパキと野菜を切り分け

三浦や海老名は子供たちが危ないことにならないかしっかりと監視していた。

ちなみに由比ヶ浜は調理の邪魔にならないようにキレイにお皿を並べている。

本人は「アタシもお料理作りた~い」とか言っているがさせるつもりはない。

悪いと思うがこれもこの場にいる全員の命を守るためだ。

こんな配役を押し付けた俺を恨めしく睨みつけているが悪く思わないでほしい。



「おっしゃー!出来た!一番乗りー!」


そうこうしているうちにどうやら最初にカレーを作り終えた班が出たようだ。

やたらと騒ぎ立てるガキだがあれがこのクラスのトップカーストみたいだな。

それは先ほど自己紹介で知ったが石田将也とかいう頭の悪いクソガキ。

まあ俺たちが担当するクラスのガキ大将的存在だ。


「やりー!俺たち最高だな!」


「オォッ!腹減ったぜ。早く食おうよ!」


そんな石田に呼応するかのように騒いでいるのが島田と広瀬とかいう取り巻きの二人組。

こいつらもよく騒ぐわ。


「ちょっと石田、アンタたちは騒いでただけじゃん。私らが作ったんだからね!」


「まあまあ、落ち着いて。石田くんたちも頑張ってたから。」


そんな騒ぎ立てる石田たちを諌めたのは

女子で雪ノ下みたく黒のロングヘアーが特徴的な植野直花。

それとメガネで三つ編みの川井みき。

こいつらもまたクラスではトップカーストに位置するガキどもだ。

ちなみにだが今回の林間学校は各クラス六人の班分けとされている。

だからクラスで男子三人、女子三人と均等に分けられてグループになってるわけだが…

おかしいな?石田たちのグループだが女子が一人足りないぞ?



「まったく、今年もあんなことが起きているのね。」


雪ノ下がガッカリとしたため息混じりである少女に視線を向けていた。

それは茶髪のセミロングヘアの女の子。

そういえばあの子だけ自己紹介の時にスルーされていたな。

見たところ一人だけ何もせずテーブルに座っているだけだ。

何で作業に加わらないんだ?


「やあ、一人なのかい?」


そこへこの女子を見かねた葉山が声を掛けてきた。

普通の女子なら葉山に声を掛けられたらすぐに靡くものだが…

だが何か様子がおかしい。葉山の声に何も反応を示さないからだ。

するとそんな葉山のところへ石田が近づいてきてこう告げた。



「無駄だよ。そいつ耳が聞こえねえから。」


石田はこの少女の耳元の髪を上げると補聴器を見せた。

それを見て葉山は思わずギョッとしながらもこの少女の立場を理解した。

これで葉山も、それに覗いていた俺たちも

ようやくこの少女がどうして無反応だったのかが理解できた。

聴覚障害。難聴だから俺たちの声が聞こえていなかったからだ。


「だからこいつここに置いてるんだよ。邪魔だし。」


「邪魔って…この子はみんなと作業しないのかい…?」


「だって危ねえじゃん。火や包丁使ってるし。そもそも西宮に何が出来んの?」


この少女…名前を西宮硝子というらしいが…

確かに石田の言うように難聴を患っているのならカレー作りに参加させるのは危険だ。

だが今の物言いは明らかに拒絶感を漂わせている。

それに班のヤツらも西宮のことに触れられてかなり嫌悪感を示していた。

このまま葉山に任せて西宮を半ば強制的にカレー作りに参加させたらどうなるか…

それは恐らく最悪の展開となるだろう。

西宮も耳が聞こえなくても

何か状況がやばそうだと察したのか思いつめたような険しい顔になっている。

やばいな。これはどうにかしないと…



「葉山くん待ちなさい。その子は私が面倒を見るわ。」


そんな葉山を見かねたのか雪ノ下が西宮に助け船を出した。

座っていた西宮を自分の元へ引き寄せ俺たちと一緒にカレー作りに参加させるようだ。


「雪ノ下さん、ここは石田くんたちと協力をさせてやるべきじゃないかな。」


「馬鹿を言わないで。
いくら能天気なあなたでもこの険悪な雰囲気くらい察することくらい出来るはずよ。」


「けどこれは課外活動だ。クラスのみんなと一緒にやらなくちゃ意味がないだろ。」


「それでもこの場を黙って見過ごすことはできないわ。」


オイオイ、何やってんだか。

今度は雪ノ下と葉山の二人が険悪なムードになりやがった。

西宮の扱いについて意見を対立させる二人。

当事者の石田たちなんて横からやれ!やれ!と騒ぎ立てる始末。

しゃーない。こうなったら…



「まあ落ち着け。お前らが喧嘩しても仕方ないだろ。」


「比企谷、何か提案があるのかい?」


「ああ、西宮は例外ってことにしておけ。
どのみちこいつらの言うように西宮を一緒に作業させるのは危険だ。
俺たち高校生ボランティアが傍に付いていた方が安全だろ。」


俺の意見を聞いて葉山も多少は納得した様子を見せた。

それと雪ノ下へのフォローもしておかなきゃならんな。


「それと西宮は女子だ。個別に指導するにしても
俺たちみたいな見ず知らずの男よりも同性の雪ノ下に付いてもらった方が落ち着くだろ。」


とにかくこの場における最適な折衷案を出してみた。

今の意見を踏まえて二人もそれならということで納得した。

葉山は元の場所へと戻り俺たちもまた西宮と一緒にカレー作りを行うことになった。



「あ…う…ぅ…」


だがここで問題が起きた。それもかなりやばい問題だ。

なんと西宮は言葉をうまく話せなかった。

雪ノ下が説明してくれたがどうやらこれは幼い頃から難聴を抱える人間の特徴らしい。

参ったな。これではどう指導したらいいのかわからん。


「私は雪ノ下雪乃。こっちはヒキガエルくん。わかるかしら?」


だがそんな頭を悩ませる俺を尻目に

雪ノ下は手話を使って西宮とコミュニケーションを図ろうとしていた。

さすがは学年主席さま。手話もお手の物ってか。

つかそんな便利なスキルがあるなら雪ノ下だけでいんじゃね?

それよりも何で俺のことをヒキガエルで紹介すんの!?


『私は西宮硝子です。』


とにかく雪ノ下の手話で西宮とコミュニケーションを取ることに成功した。

西宮も手話で改めて俺たちに自己紹介してくれた。

西宮硝子。クラスで唯一人難聴を患う聴覚障害者。

少し前に転校してきたばかりでまだクラスには友達がいない。

まあ友達に関しては俺と雪ノ下は兎や角言える立場ではないのでスルーしておこう。

とりあえず自己紹介を済ませた俺たちは

改めて西宮にもカレー作りに参加してもらうために調理を担当してもらうことになった。

調理を始めると西宮はかなり手際が良かった。

雪ノ下が手話を用いて知り得たことだが

西宮の家は母親が仕事のために夜が遅いのでお婆さんが家事を賄っているらしい。

そんな祖母の助けになるべく西宮も家事を手伝っているそうだ。


「オォ~!手際いいねぇ!
うちのゴミィちゃんも普段からこれくらいやってくれたら小町も楽出来るんだけどなぁ…」


そこへMyスウィートエンジェル小町ちゃんが西宮の調理を覗き見してきた。

コラ、お行儀が悪いぞ。余所の子に実兄の愚行を晒すんじゃありません!

ちなみに小町だが単に覗きに来たわけでなく

他の班が調理を終えたことを伝えに来てくれた。

周りを見渡すともうすべての班がカレー作りを終えて残るは俺たちだけだ。


「やっぱ西宮がビリじゃん。」


「だから西宮さんは来ない方がいいって言ったのに…」


「それ無理じゃない?だって西宮さん耳が聞こえないし。」


「フフッ、ダメだよ直花ちゃん。そんなこと言っちゃ!」


作り終えた子供たちが口々に愚痴を吐いてきた。

俺たちにわかるように愚痴を吐くのは石田たちのグループだ。

既に石田たちはカレーを作り終えている。

それなのに西宮がカレーを作り終えるまで待つのは退屈だってんだろうな。

とにかくこっちもカレーを作り終えるのが先だ。

だが西宮は自分に対する愚痴など聞こえるはずもなく至ってマイペースの様子だ。

まあこんなことで急かすわけにはもいかない。だがそんな時だった。



「よっしゃ!西宮の補聴器ゲット!!」


なんと調理中に石田のクソガキが西宮の補聴器を取り外してしまった!

俺は急いで補聴器を取り戻そうと押さえつけた。


「島田パスな!」


「オーライ!広瀬行くぞ!」


「オォッ!へへっ!面白いな!」


なんと驚いたことにこいつら西宮の補聴器でキャッチボール遊びをおっ始めやがった。

まさか高校生の俺ら見てる前でこんな悪ふざけをするなんて…

さらに最悪なのは他のクラスメイトどもだ。

こんな悪ふざけをしてるのに誰もそれを咎めようとはしない。

同性の女子どもだって石田たちの行いにクスクスと笑い出している始末。

こりゃ酷い。これを見たクラスの連中はバカ騒ぎを起こして周囲は騒然とした。



「――――あなたたち!いいかげんにしなさいッ!!」


見かねた雪ノ下が子供たちを怒鳴り散らして

さらに葉山たちリア充グループが石田から補聴器を取り戻してどうにか収集はついた。

さすがにこの悪ふざけを葉山が石田たちに注意してみせるが連中はまともに聞く気もない。

それに子供たちも悪態をついたままだ。理由はやはり西宮にあるのだろう。

まあそうこうしている内に俺たちのカレーもどうにか作り終えた。


「 「いただきますッ!」 」


全員でいただきますをしてさっそく食べ始めた。

石田は飯時にも関わらずまるで自分こそがクラスの中心かのように振舞った。


「西宮の物まねしま~す!あ゛…あ…う゛ぅ…なんちゃって~!」


難聴の西宮が上手く喋れないのをいいことに下手くそなモノマネを披露した。

これを見たクラスの連中は大笑い。え?今のどこに笑えるポイントがあったんだよ?

何?お前ら障害者馬鹿にするの流行ってるわけ?マジ引くわ…


「西宮さん、あなたこんなことされてなんとも思わないの?」


そんな西宮に雪ノ下は怒りを覚えないのかと手話で尋ねてみた。

けど西宮は笑いながら大したことないと答えてみせた。

それにしても西宮だがこんな目に遭っても笑顔なんだな。

けどこの笑顔だが…なんか見ていると違和感があるな…



「へえ、それじゃあクラスに気になる人がいるんだ。」


「そうなんです。直花ちゃんは石田くんに気があるの。」


「ちょっと…あんまり言わないでよ…」


「けど小学生なのにもう好きな人がいるとか最近の子って結構マセてますよね。」


「そう?普通じゃない?
あーしらだってこのくらいの歳には気になる男子くらい普通いたし。」


ちなみに女子は由比ヶ浜や小町。それに三浦たちが石田の班の女子たち。

確か名前は植野と川井。女子同士で恋バナに夢中になっているわけか。

それで平塚先生は小学校の先生方と話し合っている。

さてと、この状況で俺がやるべきことは…

すぐに辺りを見回すとお目当ての人物が辛気臭そうにカレーを食っていた。

それではちょいと動いておきますか。



「すいません。隣いいですか。」


「うん?構わないよ。キミは確か…」


「ども、ボランティアの比企谷です。そちらは担任の竹内先生ですよね。」


俺は偶然を装って石田たちの担任竹内先生に接触した。

本来ならこのおっさんと向かい合ってメシを食うつもりはない。

だがこれは必要な行いだ。

恐らくこの後、雪ノ下とそれに葉山は西宮のために行動を起こそうとするだろう。

去年の鶴見留美のイジメ問題でも動いたんだ。

こんな悪質なイジメの実態を目の当たりにしたのだからあいつらは当然動く。

そうなると俺も必然的に巻き込まれる形になる。だから事前の情報集めは必要だ。


「それにしても石田くんでしたか。随分とやんちゃですよね。」


「何がやんちゃだ。あいつは単なる頭の悪いクソガキだよ。
授業中もあんな態度で何度注意しても聞く耳も持たずモラルの欠片もない。」


「それって何か理由でもあるんですかね。」


「フン、片親だからじゃないか。
ヤツの家は母親が一人で美容院を切り盛りしているらしいが…
仕事にかまけて子育てを疎かにしているんだろう。
ヤツの姉もビザのない外人と付き合って子供を身篭っているというし本当にろくでもない。
まったくうちのクラスはそんな親ばっかりで嫌になる。」


うわ…この先生随分とストレス溜め込んでるんだな。

児童の守秘義務なんて知ったことかというくらいベラベラ喋ってくれてるよ。

けど待てよ?そんな親ばっかりと言ったな。それってつまり…



「もしかして他にも片親な家庭の子がいるんですか?」


「女子の西宮がシングルマザーなんだよ。娘があの状態なのに無理して転入させたんだ。」


「無理して…?何かわけありなんですか?」


「ああ、西宮は元々隣の学区の学校に通っていた。
けどそこでイジメ問題が起きて人間関係も悪化してうちの学校に転校してきたんだ。
母親のゴリ押しもあって仕方なく転校を許可されたんだ。」


ほ~ん、西宮にもそんな事情があったか。

つかこの先生そこまで把握していながらこの現状を放置してるのかよ。

まあ昨今は教師の体罰は禁止されてるから手出ししたら自分が危うくなるってわけか。

まさに触らぬ神に祟りなしってか?いや、待てよ。本当にそれだけか?

もうちょっと突っ込んでみるか。



「ところで聞きたいんですけど…
さっき石田が西宮の補聴器を投げ飛ばしてましたけどいつもあんなことやってんですか?
詳しくは知りませんけど補聴器をあんな玩具みたく扱ったら壊れるんじゃないですか。」


さすがに部外者の高校生からこんな質問をされるとは想定外だったようで

竹内先生は持っていたスプーンを下ろして食べるのをやめた。

けどそれだけだ。特に動じる様子は見せていない。

それどころか表情を何一つ変えずこう答えた。


「まあ壊れたら弁償だろうね。当然だろう。」


そう答えると再びスプーンを手に持ちカレーを食べだした。

なるほど、そういうことか。こうして夕食は終了。

この後、小学生たちは夕食の片付けを終えると風呂に入り各コテージで就寝。

その間に俺たち高校生は集合して先ほどの6年2組の実態について話し合うことになった。



「最悪っ!何あの石田ってクソガキ!本当に頭くるし!」


「同感ね。彼にはきつい罰が必要だわ。」


まず切り出したのが三浦とそれに雪ノ下だ。

当然だな。石田は障害を抱える西宮に対して明らかに悪意あるイジメに及んでいた。

普段は相容れない獄炎と氷の二大女王が怒りに燃えているのだからマジでおっかない。

本当にガクブルだよ。石田…終わったな…


「俺も二人の意見に賛成だ。今回はさすがに石田くんが悪い。反省させなきゃならない。」


「だべ!ありゃさすがにダメっしょ。俺らがひとつビシッと決めねえとな!」


「アタシも!今回は許せないと思う!」


「うん、ここはガツンと一発言った方がいいんじゃないの。」


「そうですね。小町も許せません!」


この場にいる全員が満場一致で石田を咎めることに賛成だ。

確かにあんな悪質なイジメ現場を見れば誰だってそう思う。俺だって同じ気持ちだ。

けど問題はそれだけじゃないんだがな。


「ちょっと待て。少し意見したいことがある。」


「何?アンタまさか石田をとっちめることに反対してんの!」


「罪には罰が必要よ。あなたも石田くんの卑劣な行いを目の当たりにしたでしょ!」


うわっ…待て…俺は悪くない…だから睨まないで!

つかそうじゃない。俺が言いたいのはこうだ。


「とにかく落ち着け。確かに石田は咎めなきゃならない。
けど問題なのは石田だけを咎めれば西宮のイジメ問題は解決されるのかって点だ。」


「ヒッキーそれってどういう意味?」


「お前らもさっきの様子は見てたろ。
確かに西宮を率先してイジメていたのは石田だ。それは間違いない。
けどクラスの連中も石田に便乗して他のヤツらも面白がっていた。そこが問題なんだよ。」


仮に石田だけを糾弾したとしよう。その場合どうなるだろうか。

恐らく石田はクラスの連中から西宮イジメの実行犯として吊るし上げられる。

このことに関しては別にどうだっていい。実際事実だし当然の報いだ。

問題はその後について。他の連中はどうなる?



「さっきお前らも6年2組の実態を目の当たりにしたよな。
あいつら西宮のことを嘲笑していた。あれには悪意を込められていた。
部外者の俺から見ても西宮へのイジメはクラス全体で行われていると考えるべきだろ。」


「それなら簡単よ。クラスの子たち全員を咎めればいいのよ。これで解決でしょ。」


西宮イジメの問題点を指摘すると雪ノ下はあっさりとその解決法を提言した。

確かにガキども全員をとっちめればイジメ問題は解消するかもしれない。

けど問題なのはそれだけなのかということだ。


「いや、この問題はかなり根っこが深いぞ。
そもそもさっきのカレー作りからしておかしいと思わないか?
あのクラスの担任は児童が全員で作るカレー作りで肝心の西宮を放置していたよな。」


「そういえば…けどそれがどうしたの?」


「つまりこういうことだ。あの担任は西宮のイジメ問題を放置している。
西宮のイジメは担任含めてクラス全体で行われているってわけだ。」


まあ担任は直接手を出すような真似はしないだろう。

けどあんな当然のように行われているイジメの現場を目の当たりにしながら放置だ。

要は黙認しているってことだ。

本来児童を注意しなきゃならない教師が黙認状態。これほどタチの悪い話はない。

さらに西宮の問題については学校だけではないはずだ。



「そもそも西宮って何であの学校いるんだ…?」


この指摘に雪ノ下や葉山など勘の鋭い幾人かは気づいた。

まあ由比ヶ浜や小町などは頭に「?」が薄ら見えるほど気づいてないが…


「比企谷待ちたまえ。ここから先は私が説明しよう。」


そんな時、これまで俺たちの話し合いを静観していた平塚先生が口を出してきた。

去年は俺らにだけ話し合いをさせていた平塚先生だが

今回に限っては最後まで参加しているところを見ると

どうやら先生もこの問題は俺たち高校生には荷が重いと判断しているのだろう。


「キミたちも高校生なら養護学校については知っているな。」


やはり先生も西宮の症状を見てこの点に気づいたか。

そもそも西宮のような障害を抱える子供は普通学級で行われる授業を受けるのは難しい。

健常者と障害者には身体的、精神的にもある程度の隔たりがある。

その差は決して埋めることが出来ない大きな壁だ。

教師だってたった一人の障害児のためにそこまで負担するのは困難。

ましてや小学生となれば周りを偏見の目で見る年頃に成長する時期になる。

いくらまともな教育を受けてきたとしても石田のように面白がって玩具代わりに誂う馬鹿もいる。

そんな障害を抱える子供らのために養護学校はある。

それで何でこんな話になっているかというとだ…



「当然だが子供を普通学級の学校に通わせるか養護学校に入れるのかは親の判断だ。
なあ雪ノ下。お前はこの中で西宮と手話でコミュニケーションを取っていたな。
そこで質問するが西宮の聴覚ってどの程度聞こえるのか尋ねてみたか?」


この質問にこの場にいる誰もが「お前普通そういうこというか?」って顔で睨みつけた。

自分でも本当にろくでもない質問しているなと思うわ。

だがこればかりはどうしても聞かなきゃならない。

雪ノ下は険しい顔で渋りながらも俺の質問に対してこう答えた。


「彼女は補聴器を付けているからある程度の音は聞き取れると思うわ。
けど私たちの会話を満足に聞き取ることは無理よ。
こればかりは西宮さんにしかわからないことだけど…
もしかしたら彼女がそう感じているだけで実際は何も聞こえてないレベルかもしれない。」


つまり西宮の聴覚障害は補聴器無しだと相当やばいレベルってわけか。

この雪ノ下の話で西宮の障害が深刻であることはわかった。


「ヒッキー。ゆきのん。さっきから何言ってるの?問題なのは硝子ちゃんのイジメだよ。」


「そうだよお兄ちゃん。小町もよくわからないけど問題が逸れている気がするよ。」


けど由比ヶ浜や小町は西宮の障害の程度と

先ほどの養護学校に何の関係があるのかまだわかってない。

二人の言うように俺の指摘は西宮のイジメ問題から脱線している部分がある。

けどこうなった大元の原因を

どうにかしなければ西宮のイジメ問題は決して解決には至らないだろう。

問題なのはその大元の部分だ。



「要するに西宮の親だよ。
さっきメシの最中に担任と話してわかったが
どうも西宮の親は半ば強引に娘を今の学校に入れたらしい。
本来なら西宮は症状からして養護学校へ入る必要があったはずだ。
それなのに親が普通学級の学校に入れたということは…
西宮の親は娘の障害に対してなんらかの偏見があるんじゃないかってことだ。」


俺が出した結論にこの場の空気が凍った。ここで全員が西宮の状況を理解したのだろう。

今の西宮には学校でもそれに家庭でも逃げ場がないかもしれない。

まあ家庭の方はあくまで憶測でしかないがその可能性は高い。

どんなぼっちだろうと学校に逃げ場がなくても家庭という逃げ場がある。

その家に逃げ場がないとなれば西宮にとってそれは二重苦でしかない。

つまりこういうことだ。

石田だけを糾弾したところで西宮の状況は何一つ変わらない可能性がある。


「まったく無理解な家庭ほど子供にとって惨酷なものはないわね。」


そんな西宮の状況を雪ノ下はまるで自分事かのように愚痴っていた。

そういえば雪ノ下も一人暮らしで母親ともいまだに蟠りがあるんだよな。

とりあえず雪ノ下の家庭問題は置いておこう。いま話し合うべきなのは西宮についてだ。


「それで比企谷くん、あなたはどうするつもりかしら。まさか黙って見過ごせというの。」


「そうだよヒッキー!硝子ちゃんのイジメはなんとかしてあげなきゃ!」


雪ノ下と由比ヶ浜の言うように西宮の問題を無下にするつもりはない。

どのみち遅かれ早かれあのクラスはいずれ西宮の問題についてぶち当たりことになる。

その時に何が起きるのかは大体の予想がつく。

だからこのままスルーしたって何の問題もない。だけど…

いや、こうなれば乗りかかった船だ。最後までやってみるか。



「一応この問題を解消出来る案はある。
けど事前に言っておくが去年同様かなりやばい橋を渡ることになるぞ。」


俺はこの問題をどうにか出来る解消策を提案してみせた。

だがそれは去年同様ろくでもないやり方だ。

話を聞いた全員がこれまた酷いツラで俺を睨みつけてるし…

まあわからなくもない。

現在、俺たちは高3で受験を間近に控えている。

それを今からやばい橋を渡らなきゃならないほどの解消策を実行しなきゃならない。

最悪の場合は受験にかなり影響が出る。俺は口には出さないが全員察しているのだろう。

暫く沈黙の時間が流れた。先ほどみたく誰も軽口を叩いたりもしない。

由比ヶ浜や小町は勿論のこと、あの戸部ですら黙ったままだ。


「なんとか話し合うということは出来ないか。そうすれば…」


「おい葉山、西宮をどうにかしてやりたいと思うならそんな甘い考えは捨てろ。
そもそも俺たちは西宮たちと今日あったばかりだ。
そんな俺たちがあの悪ガキどもを正攻法で説得なんてしたところで焼け石に水。
ぶっちゃけていうが今回ばかりは正攻法なんて無駄でしかない。」


さすがに話し合い話だ。

確かに今挙げた理由もあるが…

それ以前に耳の聞こえない西宮がどうやって連中と話し合うというんだ。

西宮の耳は聞こえない。この前提がある限り西宮が不利であることに変わりはない。

それからまた沈黙が続いた。



「一応この問題を解消出来る案はある。
けど事前に言っておくが去年同様かなりやばい橋を渡ることになるぞ。」


俺はこの問題をどうにか出来る解消策を提案してみせた。

だがそれは去年同様ろくでもないやり方だ。

話を聞いた全員がこれまた酷いツラで俺を睨みつけてるし…

まあわからなくもない。

現在、俺たちは高3で受験を間近に控えている。

それを今からやばい橋を渡らなきゃならないほどの解消策を実行しなきゃならない。

最悪の場合は受験にかなり影響が出る。俺は口には出さないが全員察しているのだろう。

暫く沈黙の時間が流れた。先ほどみたく誰も軽口を叩いたりもしない。

由比ヶ浜や小町は勿論のこと、あの戸部ですら黙ったままだ。


「なんとか話し合うということは出来ないか。そうすれば…」


「おい葉山、西宮をどうにかしてやりたいと思うならそんな甘い考えは捨てろ。
そもそも俺たちは西宮たちと今日あったばかりだ。
そんな俺たちがあの悪ガキどもを正攻法で説得なんてしたところで焼け石に水。
ぶっちゃけていうが今回ばかりは正攻法なんて無駄でしかない。」


さすがに話し合い話だ。

確かに今挙げた理由もあるが…

それ以前に耳の聞こえない西宮がどうやって連中と話し合うというんだ。

西宮の耳は聞こえない。この前提がある限り西宮が不利であることに変わりはない。

それからまた沈黙が続いた。



「―――いいでしょう。比企谷くんの案に乗るわ。」


まず手を挙げたのは雪ノ下だ。


「アタシも!硝子ちゃんのイジメはやっぱり許せないし!」


それに由比ヶ浜も、続いて小町や三浦、海老名や戸部も賛成してくれた。


「わかった。俺もキミのやり方で行こうと思う。
本当ならみんなを説得したいが悔しいが比企谷の言うように俺たちには時間がない。
けどいざという時のことも考えておいてくれ。さすがに全員で泥船に乗るのはゴメンだぞ。」


「葉山心配するな。一応私がフォローに入る。まあ最悪の事態はありえないと思ってくれ。」


こうして全員一致で俺の考えた案で西宮のイジメ問題に取り組むことになった。

その後、各自コテージに戻り就寝に付くことになった。

けどその前に俺は密かに雪ノ下と由比ヶ浜の二人を呼び出した。



「それで一体何の用かしら。まさか夜這いでもする気?この夜這いタニくん。」


「もーっ!ヒッキー!こんな時に何考えてるし!」


「ちげーよ。お前らだけに言っておきたいことがある。」


まったく夜這いなんて雪ノ下はそんなはしたない言葉をどこで覚えてんだよ。

まあ恐らくはあの魔王の姉ちゃんだろうけどな。

本当にろくなこと教えねえなあの魔王さまは…


「実はだが…このまま俺のやり方を実行すると失敗するかもしれん。」


「え~!それ本当なの!?」


「あなた…今更そういうことを言ってどうするの!もうみんなやる気で出て行ったのよ!」


こんな話を打ち明けられて二人は呆れてしまった。

いや、仕方ないじゃん。あそこは全員を強制参加させる必要があったわけだし…

頭数増やしておけば有利に話を進められるしさ。



「それで対処方法はどうするの?今からプランを変更するつもりなのかしら。」


「いや、そうじゃない。やり方は変えない。要はプランの精度を上げればいい。」


「へ?精度?どういうこと?」


「つまりあのクラスから俺たちの協力者になってくれるヤツを呼ぶんだ。」


要はあの6年2組から俺たちのスパイを仕立て上げるってわけだ。

この西宮のイジメ問題を解消するには内部の協力者が必要不可欠だ。

協力者さえ得ればどうにか西宮のイジメ問題も収まるという算段だ。


「………無理よ。あなたもあのクラスの実態を見たでしょ。
全員が西宮さんに悪意を向けているのよ。
それなのに彼女の味方になってくれる子なんているわけがないわ。」


「ああ、だからな……」


俺は二人にだけ事の詳細を説明した。

それから話を終えると二人は小学生の泊まるコテージへと向かいある人物を呼び出した。

そいつに先ほどまでの話し合いについて打ち明けると渋々ながら了承してくれた。

もしかしたら断られるかと思ったが納得してくれて助かった。

俺だけだったら無理だが雪ノ下と由比ヶ浜が同伴してくれたから信用したみたいだ。

とりあえずこれで目処は立った。あとは明日になるのを待つばかりだ。

とりあえずここまで

続きは夜にでも仕上げられたらいいなと思ってます

あと>>23がダブッているのは普通にミスです

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