白雪千夜「ばーか」 (15)

P「……ふわぁ」

千夜「仕事中に欠伸……感心しないな」

P「あぁ……ごめんごめん。ちょっと寝不足でさ」

千夜「そうですか。別にお前の体調は聞いていませんが」

P「はは……そうだな。コーヒーでも飲んで目を覚ますか」

千夜「お嬢さまも、眠たい朝はいつもコーヒーを飲んでいます。きっと効果があるでしょう」

P「だな。ところで千夜」

千夜「断る」

P「まだ何も言ってないだろう」

千夜「………今の私は、少しだけ歩み寄りの姿勢を見せようとしています。一応、話を聞きましょう」

P「千夜は今、コーヒーメーカーの傍にいるだろう?」

千夜「ティウンティウンティウン」

P「ゲームオーバー!?」

千夜「コンティニュー200円」

P「しかもゲーセンだ。金取る気だ」

千夜「………」

P「?」

千夜「何故私がお前の戯れに付き合わなければならないのでしょう。やめます」

P「急にめんどくさくなって会話打ち切るなよ」



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千夜「結論だけ。コーヒーは、淹れない」

P「ダメか」

千夜「私はお前に仕えているわけではありません。自分でどうぞ」

P「ちとせに『私の僕ちゃんの淹れるコーヒーはおいしいよ~?』って自慢されたから、一度飲んでみたいと思ったんだけど」

千夜「お嬢さまも余計なことを……いや、この男がこうすることを見越して吹き込んだのか。困った人だ……」

P「まあ、今回は諦めて自分で淹れるよ」

千夜「次回も自分で淹れてください」

P「手厳しいなぁ」

千夜「お前のリクエストに応えるのは、あくまでアイドルの仕事の範囲だけ。それ以上は契約にありません」

P「おっしゃる通りで」

千夜「今度こそ無駄話は終わりです。私は黙ります」

P「………」

千夜「………」

P「千夜」

千夜「………」

P「千夜たん」

千夜「二度目はない」

P「すみません」

千夜「はぁ……お嬢さまも、厄介な男に引っかかったものだ」

P「その表現は若干の誤解を招くぞ」

千夜「お嬢さまも、厄介な男を引っかけたものだ」

P「受動か能動かの問題じゃなくて」

千夜「……まあ。私などでは計れないからこそ、お嬢さまは輝かしいのかもしれないな……ふふっ」

P「ダメだ、自分の世界に入り込んでる」

千夜「お前も、誰かに仕える喜びを早く得られるといいですね」

P「仕える喜びか……一応社長に仕えてはいるけど、喜びはないなぁ」

千夜「社畜」

P「それ以上言うな」

千夜「お前も社長とユニットを組めばどうですか。きっと生まれるものもあるでしょう」

P「おぞましいものが生まれそうだ」

千夜「お嬢さまの嗤いも生まれるでしょう」

P「笑いの漢字がおかしくないか?」

ちとせ「私としては、今現在ふたりが仲良くお話してる光景に笑っちゃいそうだな~♪」ニュッ

千夜「お、お嬢さま!? いつから」

ちとせ「私は、お前になら……のところから」

千夜「そんな思わせぶりな発言はしていません」

P「千夜、君は俺のことをそんな風に……」

千夜「お前はずっといたのだから騙されるな、ばーか」

ちとせ「いいな~、私も千夜ちゃんにばーかって言われたーい」

千夜「お戯れを……」



――私の話し相手は、常にお嬢さまただひとりだった。
その他の人間とは、必要最低限の問答を交わすだけ。会話とは、呼べないものだった。

だが、この事務所に入って、アイドルとやらにさせられて。
少しだけ、無駄な会話が増えてしまった気がする。

時折道化のような言葉を放ちながら、気取った言葉で私達をステージへと導く存在。

お嬢さまいわく、この男は『魔法使い』だそうだが……果たしてその心の内には、何を抱えているのか。

数日後



千夜「………今日のレッスンでトレーナーに与えられた課題は、主に3つ」

千夜「次までには、できるようになっていなければ……」

千夜「………」



ちとせ『ごめんねー、まだちょっと身体が重くて。今日はちょっと外出られなさそう。千夜ちゃん、私のぶんまで頑張ってきて』



千夜「お嬢さま……大丈夫だろうか」

千夜(昨夜よりは、容態も幾分落ち着いていたが……)

千夜「次のボーカルレッスンが終わり次第、早く帰って……看病を……」

千夜「………」ウトウト



千夜「すぅ………」

千夜「………ん」

がさっ

千夜「!? しまった、眠って……」

千夜「……毛布?」


P「おはよう、千夜。ぐっすりだったな。ちとせの看病で疲れていたんだろう」

千夜「お前……」

P「レッスンまではまだちょっと時間があるから安心してくれ。それと、これ。そろそろ起こそうと思って、先に淹れておいた」

千夜「……コーヒー」

P「好みはまだよく知らないから、砂糖とミルクは自分でどうぞ」

千夜「……この前の意趣返しのつもりですか」

P「意趣返し? ……いやいや、全然そんなんじゃないって。ただ単に、俺が千夜にコーヒー淹れたいと思っただけだ」

P「それとも、これも契約に入ってないから飲めないか?」

千夜「………」

千夜「いただきます……ありがとう」

P「どうぞどうぞ。ついでに、眠気覚ましにこれを見ていってくれないか?」

千夜「?」

P「俺の手をよく見ていてな………ふんっ!」


ぽんっ


P「どうだ、薔薇の花が出てきたぞ!」

千夜「………」

P「あれ? 反応が薄い」

千夜「………ふん」


ぽぽぽんっ


P「薔薇3本出てきた!?」

千夜「お嬢さまの度重なる無茶振りに鍛えられてきたので。手品くらいは」

P「すごいな……千夜も、ちとせも」

千夜「というより、いきなりなんですかお前は。前振りなく手品を披露されても反応できるわけがない」

P「いや、魔法使いだから手品くらいはできるところ見せとかないとと思って」

千夜「なんだそれは……お前は相変わらず、ふざけているな」

P「ふざけてなんて」

千夜「ふざけているでしょう。時折私に対して意図的に道化を演じるのは何故だ。私にはそれが理解できない」

P「………あー。それは、だな」

千夜「………」

P「その方が、スキンシップが取りやすいかと思って」

千夜「………は?」

P「ほら、千夜と親しいちとせがあんな感じだろう? だから俺も、ああいうノリで、かつ魔法使いっぽくいたほうが千夜と仲良くなりやすいかなと」

千夜「……お前。それはつまり、私のためと言うのですか」

P「……まあ、うん」



――なんだそれは。

何を抱えているのか、と散々頭を悩ませていたというのに……蓋を開ければ、そんな理由で? 私のために?

ああ……なんて、なんて馬鹿らしい。


千夜「……ふふっ」

P「ははっ」

千夜「待て、何故お前まで笑う」

P「千夜が笑ってるから」

千夜「………まったく。何もかも的外れで、お前は本当に」

P「本当に?」

千夜「ばーか」

P「千夜のその言葉、ちょっと言い方がかわいいよな」

千夜「お嬢さまならこう言うだろうと思っただけです」

P「でも俺、ちとせが『ばーか』なんて言うところ、見たことないぞ」

千夜「……それは、お前に心を許していないからでしょう」

P「なら千夜は」

千夜「………」

P「………」

千夜「今のは間違えました。忘れろ」


翌日



P「ふわぁ……あー、最近なんか眠気がとれないな」


コトッ




千夜「ん」

P「ん?」

千夜「んっ」

P「新種のしりとりか?」

千夜「ぶっかけるぞ」

P「ごめん、冗談……で、これは」

千夜「……私の淹れたコーヒーは、飲めませんか」

P「いや、そんなことは。むしろ喜んでいただきます。でも、どうして急に」

千夜「借りは返す主義なだけです。お前のリクエストに応える義務はありませんが、私の勝手でコーヒーを淹れる理由はあります」

P「千夜……」

千夜「何か」

P「デレた?」

千夜「………」


その言葉に、気取ったものは感じられなくて。この男は、素でこういうことを口にする生き物なのだろう。
まったく、本当に――


P「千夜?」


……だから私は、皮肉たっぷりの『笑み』とともに、こう言ってやるのだ。



千夜「ばーか」




おしまい

おまけ


P「ちなみに、貸しとか借りとかなしでコーヒーを淹れてもらうにはどれくらいかかる?」

千夜「親愛度50は必要」

P「ちなみに今の親愛度は」

千夜「0.05」

P「意外とイケそうな数字だと思ったのが馬鹿だった」

千夜「やっぱり、ばーか」


おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
「ばーか」って言ってくれる女の子に悪い子はいない

由愛「Ver.Ka?」

雪美「少し……違う」



このコーヒーには千枝ちゃんのコンデンスミルクが入ってるなぁ ズズッ

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