遊勝「紹介しよう、デニス。超高校級のマジシャンの夢野秘密子さんだ」 (230)




ニューダンガンロンパV3と遊戯王アークファイブのSSです。

両作品のネタバレ、並びに独自解釈や独自設定があるので、注意をお願いします。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1556623316




ーエクシーズ次元の家屋ー



遊勝「紹介しよう、デニス。超高校級のマジシャンの夢野秘密子さんだ」

デニス「……はい?」

夢野「んあー……ウチはマジシャンでは無い、魔法使いじゃ。何度も言わせるでない」

遊勝「ははっ、そうだったね。すまなかった、秘密子」

夢野「……気安く下の名前で呼ぶでない。ウチのことは上の名前で呼ぶように言ったはずじゃぞ」

遊勝「それもそうだったね、夢野さん……というわけで、デニス。キミも彼女のことは、上の名前で呼ぶことを勧めるよ」

デニス「あ、えっと、その……」

夢野「……んあ? なんじゃ、お主? どうかしたのか?」






デニス(ーーーあ…ありのまま、いま起こったことを話すよ!)


デニス(アカデミアの長期休暇……という名目のユーリのデュエル相手の日々が終わったと思ったらーーースパイ先であるエクシーズ次元で、先生がボクに女の子を紹介していた……!)


デニス(それも、あの、希望ヶ峰学園の誇る、超高校級のマジシャン、夢野秘密子を……!)


デニス(な…何を言っているのかわからないとは思うけど、ボクも何が起きたのか、わからない……)


デニス(頭がどうにかなりそうだよ…スマイルワールドだとか、そんなチャチなものの仕業とかじゃあ、断じてない)


デニス(もっと、恐ろしいものの片鱗を味わったよ……!)





遊勝「ーーー何はともあれ、デニス。キミも、これから夢野さんのデュエル相手になって欲しい」

デニス「……えっ、?」

遊勝「実はね……夢野さんは、希望ヶ峰学園に入学したは良いものの、【科目:デュエル】で良い成績を取れるかどうか、不安があるみたいなんだ」

夢野「は、はっきりと言うでない……! 恥ずかしいではないか……」

遊勝「だから、夢野さんには、デュエルの練習相手が必要なんだ。それも、己の実力を向上させるに足る、相応の実力を持ったデュエリストの、ね」

デニス「……」

遊勝「本来ならば、練習相手を引き受けた私がやるべきことなのだろうが、キミも知っての通り、平日の私はクローバー校の生徒とのデュエルや教師としての仕事で忙しい」

遊勝「故に、デニス。キミには、平日の間……出来れば休日中にも、夢野さんのデュエルの練習相手になって欲しいんだ」

遊勝「引き受けてくれるかい?」

デニス「……あっ、ええ、それは、別に構いませんがーーー」

遊勝「ーーーそれは、良かった。是非ともよろしく頼むよ」

夢野「……ということのようじゃ。よろしくな」

デニス「ーーーあー、うん、よろしく」





デニス(……よし! ここは、先生の言う通りにしておこう!)


デニス(ここで断れば、ボクは先生から見て、困っている女の子を見捨てた人間となってしまう)


デニス(そうなると、ボクと先生の関係も何処かギスギスしたものになるかもしれない)


デニス(それは、嫌だ。そんな空気の中で先生とデュエルし続けるなんて、まっぴらゴメンさ)


デニス(そのことを考えれば、先生の言う通り、彼女のデュエル相手になった方が良い)


デニス(そうと決まればーーーー)





デニス「ーーーもう、ボクのことは、先生から聞いてはいると思うけど……ボクもエンターテイナーの一人。自己紹介はさせて貰うよ」

デニス「ボクは、デニス……デニス・マックフィールド! 榊先生の弟子! そして、トラピーズマジシャンを相棒に持つ、エンタメデュエリストさ!」

デニス「ボクを呼ぶ時は、親しみを込めてデニスって呼んで欲しい! それに、マックフィールドという呼び方だと、ちょっと長いしね!」

デニス「これからよろしくお願いするよ! 超高校級のマジシャン、夢野秘密子さん!」

夢野「魔法使いじゃ」

デニス「……そうだね、魔法使い、さん」

遊勝「そこを間違えるとは……デニス、やはりキミはまだまだだ」ヤレヤレ

夢野「……いや、お主もさっき間違えてたじゃろ?」


デニス(夢野さんは、コスプレ海賊……キャプテン・ソロと同じで、なりきるタイプなのかな?)


デニス(まっ、そこは、本人の自由だし、別に良いと思うけど……)


今はここまで

再開します





デニス(ーーーそうして、夢野さんとのデュエル漬けの日々が始まった)


デニス(合間に日常トークとかもしたかったけど、夢野さんは内向的な人で、あまり自分のことを話そうとはしなかったため、叶わなかった)


デニス(まだ出会ったばかりのボクのことを、警戒しているのかもしれない)


デニス(そのため、ボクらの会話はほとんどデュエル関連のものばかりだった)


デニス(そして、夢野さんは、はじめの方は基本的なルールは理解していたものの、複雑な部分は理解していなかった)


デニス(だから、ボクはデュエルを通して、複雑なルールを教え続け、夢野さんはそれを吸収してデュエルの腕を磨き上げていった)


デニス(夢野さんは、そのお礼としてボクにマジックを披露してくれた。もっとも、本人は魔法と言い張っているけどね……)


デニス(ボクは、そのマジックを見ることで、楽しい気持ちになってデュエルに関するインスピレーションがどんどん湧き上がっていった)


デニス(その結果、ボクのデュエルの腕は、以前よりも遥かにハイスピードで磨かれていった。先生の弟子になって、エクシーズ次元では先生とばかりデュエルしていた時よりも遥かに、成長出来たように思う)


デニス(そうやって磨き上げたデュエルの腕で、ボクは夢野さんにデュエルを教え、夢野さんのデュエルの腕も磨かれ、そのお礼に夢野さんはマジックを披露し、それによってボクのデュエルに関するインスピレーションが湧き上がり、ボクのデュエルの腕は磨かれるーーー)


デニス(ーーーそうした相乗効果によって、ボクと夢野さんのデュエルの腕はどんどん磨かれていった)


デニス(まあ、夢野さんの成長速度は、ボク以上だったんだけどね……)


デニス(流石は、超高校級と言ったところか……)


デニス(この成長速度だと、いずれボクと互角のデュエルが出来る日も近いかもしれない)


デニス(そして、初めて会った日から約一週間、平日の放課後、ボクと夢野さんはーーーー)






ーエクシーズ次元の家屋・デュエル場ー



デニス「ーーーいくよ! レベル4のハットトリッカー二体でオーバーレイ!」



夢野「ーーーんあ!?」



デニス「show must go on !」

デニス「天空の奇術師よ! 華やかに舞台を駆け巡れ! エクシーズ召喚!」

デニス「現れろ、ランク4! 《Em トラピーズ・マジシャン》!」



トラピーズ『ヤーハハーッ!』ATK2500





夢野(デニスめ……もしや、トラピーズマジシャンで、ウチの《黒き森のウィッチ》を攻撃するつもりか?)



ウィッチ『……』ATK1100



夢野(確かに、トラピーズマジシャンで《黒き森のウィッチ》を攻撃すれば、ウチのライフはゼロになるじゃろう)LP900


夢野(じゃが、ウチの場には、ウチと同じ魔法少女が……ブラマジガールがおる! そして、ブラマジガールには、《磁力の指輪》と《月鏡の盾》が装備されておるのじゃ……!)



ガール『……フフーン!』キラーンッ



夢野(《磁力の指輪》を介した引力魔法によって、お主が攻撃出来るのは、ブラマジガールだけじゃ)


夢野(しかも、《月鏡の盾》を介した支援魔法によって、ブラマジガールの攻守は、戦闘する相手モンスターの攻守どちらか高い方よりも、100だけ上回った数値となるのじゃ)


夢野(いかに、トラピーズマジシャンといえど、ウチの魔法……マジカルコンボの前にはーーー)



デニス「罠カード発動、《小人のいたずら》!」





夢野「……んあ?」キョトン



デニス「その効果で、お互いの手札のモンスターのレベルを1下げる!」



小人『……ヘーイ!』ミミューン…



デニス「これで、ボクは、レベル5のモンスターがリリース無しで召喚可能!」スッ



夢野「レベル5じゃと? いったい何をーーー」



デニス「紹介するよ! 新しく、ボクのショーに加わった、亀の砲台!」



デニス「その名もーーー《カタパルト・タートル》!」ババンッ



タートル『……』ATK1000





夢野「そ、そやつは……!」



デニス「《カタパルト・タートル》は有名なモンスターでもある。その効果は、キミも知っているよね?」



夢野「……ああ、そやつは自分のモンスターをリリースして、その攻撃力の半分のダメージを相手に与えるモンスターじゃ」



デニス「ご名答」キラッ



夢野「まさか、お主……」LP900



デニス「その通りだよ、夢野さん!」



デニス「ボクは、トラピーズマジシャンを射出し、キミに1250ダメージを与える!」


今日はここまで

投下します。




夢野「……デニス! トラピーズマジシャンはお主の相棒のはずじゃろ!? こんな外道戦法のためにリリースして良いのか!?」



デニス「No problem! 実は、トラピーズマジシャンは蘇生魔法も扱える、奇跡の魔法使いなんだ! 射出されたって、あの世から次のショーまでスタンバるだけのことさ!」



夢野「……何を言っておる? トラピーズマジシャンに、そんな魔法(効果)、無かったはずじゃがーーー」



デニス「さあ、いくよ! ボクは《カタパルト・タートル》の効果でーーー」



夢野「さ、させんわい! ウチは《カタパルト・タートル》の召喚成功時に速攻魔法、《ディメンション・マジック》を発動じゃ!」



デニス「!!」



夢野「その効果……ウチの空間転移魔法によって、フィールド上の《黒き森のウィッチ》をリリースし、手札の魔法使い……《妖精伝姫ーシンデレラ》を守備表示で特殊召喚じゃ!」



ウィッチ『……』スタスタ



ガチャッバタンッ……



……ギイイッ



シンデレラ『んあ……!』DFF1000





夢野「そして、この瞬間、《妖精伝姫ーシンデレラ》の支援魔法が適用される!」

夢野「その永続効果によって、このカード以外のフィールドのモンスターを魔法効果の対象にすることは出来んようになった!」

夢野「さらに、《ディメンション・マジック》を介した攻撃魔法で、《カタパルト・タートル》を破壊じゃ!」



デニス「そんな……! ねえ、夢野さん。シンデレラの支援魔法で守ってくれたりはしないの?」



夢野「残念じゃが、この破壊は、『選択して』ではなく、『選んで』という呪文(テキスト)で詠唱されておる! 故に、対象を取らん魔法効果となるため、《妖精伝姫ーシンデレラ》の支援魔法でも防ぐことは出来んわい」



デニス「ははっ……そうだったね、夢野さん!」



夢野「《カタパルト・タートル》、ウチの魔法で一刀両断じゃ!」



ビビーッ……スパッ!



タートル『……!』



ドガーンッ!





デニス(ーーーなるほど、こうやって、お互いのモンスターに耐性を与えながらも、その耐性をすり抜けた効果で、厄介なモンスターを破壊するってわけか)


デニス(しかも、トラピーズマジシャンに耐性を与えられたおかげで、ボクが《月鏡の盾》など対象を取る魔法カードを持っていても、それでサポートすることも出来ない)


デニス(……あーあ、この手札にある《月鏡の盾》をトラピーズマジシャンに装備出来れば、ブラマジガールを戦闘破壊出来るのになあ)


デニス(そう、《月鏡の盾》を装備したモンスター同士が戦闘すれば、ターンプレイヤーであるボクの《月鏡の盾》がチェーン1で発動して、非ターンプレイヤーである夢野さんの《月鏡の盾》がチェーン2で発動する)


デニス(それで、逆順処理で最終的にトラピーズマジシャンの攻撃力がブラマジガールの攻撃力を100上回るため、戦闘破壊出来る……もっとも、《月鏡の盾》を装備できない今においては不可能なプレイングだけどさ)


デニス(……それにしても、夢野さん。まさか、魔法少女になったシンデレラと正統派魔法少女のブラマジガールで、お互いを守り合わせるだなんてーーー)


デニス(ーーー本当に予想外!)


デニス(物語上の『シンデレラ』ではあり得ない、とんでもない展開だよ! 夢野さん!)


デニス(先の見えないデュエル……! それでいて、勝ち負けを気にしなくて良いデュエル……!)


デニス(これだから、この次元でのデュエルは最高なんだ!)


デニス(ワクワク、するよ……!)





夢野「……かーっかっかっ! どうじゃ、ウチの魔法の力は!」



デニス「うん! 楽しい魔法をありがとう、夢野さん!」

デニス「……だけど、まさか忘れてはいないよね?」



夢野「……んあ?」キョトン



デニス「《ディメンション・マジック》でリリースされ、墓地に送られた《黒き森のウィッチ》のことをさ」





夢野「……もちろんじゃ。ウチは、墓地から《黒き森のウィッチ》の魔法を発動じゃ!」

夢野「その効果でデッキから、守備力1000の《Em ダメージ・ジャグラー》をサーチしてーーー」



デニス「ならば、ボクは、それにチェーンして墓地から罠カードを発動する!」



夢野「んあ!?」



デニス「《小人のいたずら》!」



夢野「……!?」



デニス「これは、さっきボクが発動し、墓地に送ったカード!」



デニス「このカードの効果で、お互いの手札のモンスターのレベルを、さらに1下げる!」





夢野「ーーーなんじゃ? そんなことをして、いったい何の意味があるのじゃ?」



デニス「魔法のためさ!」



夢野「ま、魔法じゃと?」



デニス「そう、それもとっておきのね!」



夢野「……」



デニス「これはそのための準備! ボクは、《小人のいたずら》にチェーンして、速攻魔法、《スター・チェンジャー》を発動だ!」



夢野「!?」



デニス「その効果で、シンデレラのレベルを1上げる!」

デニス「シンデレラは、お互いのモンスターに対象を取る魔法効果の耐性を与える効果があるけど、シンデレラ自身は効果の対象外! 故に、《スター・チェンジャー》の発動対象にすることが可能!」

デニス「……夢野さん! キミの、そのシンデレラは、さっきウチの小人がイタズラして、レベルという名の星を減らしてしまった!」

デニス「これは、そのお詫び! レベルを……星を元に戻させて貰うね!」





夢野(ーーーなんじゃ? いったい、何が目的なんじゃ、こやつは?)


夢野(こんなことをしたところで、何の意味もーーー)



デニス「これで準備は整った!」

デニス「ボクは、《スター・チェンジャー》にチェーンして、速攻魔法、《奇跡の蘇生》を発動だ!」



夢野(んあ!? そ、そのカードは……!)



デニス「このカードは発動条件が厳しくてね。チェーン4以降にしか発動出来ないんだ」

デニス「その代わり、発動出来れば、墓地のモンスターを無条件で蘇生出来る!」

デニス「うん! まさに、奇跡の蘇生魔法! そうだよね? トラピーズマジシャン!」



トラピーズ『ハーッ!』キラキラ





夢野「デ、デニスよ。お主はーーー」



デニス「そう! ボクの目的はモンスターのレベルを変動させることじゃない! 《奇跡の蘇生》のため、チェーンを稼ぐことが目的だったのさ!」



夢野「んあ!?」



デニス「さあ、これより、奇跡の魔法使い、トラピーズマジシャンによる、蘇生魔法のはじまりだ!」

デニス「it's show time!」



トラピーズ『ハハーッ!』グルングルン



デニス「当然、蘇生させるモンスターはーーー」



トラピーズ『ハーッ!』ギュイーンッ



デニス「ーーー《カタパルト・タートル》!」



ボンッ!



タートル『……』DFF2000





デニス「おかえり、《カタパルト・タートル》!」



タートル『……』



デニス「ははっ、蘇っても相変わらずクールビューティーだね! そこもキュートで良いと思うよ!」



夢野(ま、まだじゃ……!)



シンデレラ『んあ……』レベル3→4



夢野(このチェーンの逆順処理が終われば、ウチの手札にダメージジャグラーが来る)



小人『……ヘイ?』←レベルを下げるモンスターが手札にいなくて困ってる



夢野(そして、ダメージジャグラーは効果ダメージを与える効果が発動した時、それを無効にして破壊出来る魔法が使えるのじゃ)スッ


夢野(……そう、いま、《黒き森のウィッチ》で手札に加えたこのカードで、《カタパルト・タートル》をーーー)


夢野(ーーーいや、ダメじゃ! 《黒き森のウィッチ》の魔法には誓約がある! その効果でサーチしたダメージジャグラーはそのターン中に魔法を発動出来ん!)ガガーンッ


夢野(つまり、ウチはもうーーーー)LP900





デニス「ーーー逆順処理は終わったようだね! ならば、これで、クライマックスだ!」



夢野「!?」



デニス「《カタパルト・タートル》でトラピーズマジシャンを射出!」



トラピーズ『ハーッ!』ヒュンッ…スタッ



タートル『……』ゴオオン…ガシャッ



デニス「さあ、夢のような、フィナーレを飾れ! トラピーズマジシャン!」



デニス「トラピーズドリーム・マジカルダイブ!」



トラピーズ『ヤーハハーッ!!』ヒュウーンッ



ドゴオーーーンッ!!



夢野「んあーーー!?」LP900→0



ピィーッ!



【winner デニス】


今はここまで


デニスが融合次元のキャラクターということを活かしてキャプテン・ソロの名前を出してるの個人的に好き
んあーに対象を取るとかの細かいルールを意識したプレイをさせることでデニスの指導の成果が示されてて良いね

>>27

感想ありがとうございます。

ちなみに私は、夢野をあの海賊と同列視するのはちょっとマズかったかな?省略デュエルだけど大丈夫かな?と不安に思ったりもしたのですが、特に問題なく喜んで頂けたようで何よりです。

これからもデニスが融合次元のキャラであることを活かしたり、夢野とデニスが関わった結果などをもっと描きたく思います。


続きを投下します。




デニス「ーーーありがとう! 楽しいデュエルだったよ! 夢野さん!」スタスタ

夢野「んあ~、また負けてしもうたわい……」

デニス「そう落ち込むことは無いよ! キミのデュエルは素晴らしかった!」

夢野「そ、そうかの……?」テレテレ

デニス「そうだよ! ついこの前、はじめてデュエルした時と比べて、格段にデュエルタクティクスが向上している!」

夢野「んあー……それは、あの時のウチは、《ディメンション・マジック》の破壊が対象を取らんとか、『選んで』と『選択して』が違うとか、複雑なところが全然わかっておらんかったからのう……」

デニス「そうした複雑なルールを、今やキミは理解している!」

夢野「まだまだ、ようわからんところがあるがの……」

デニス「それでも、普通はこんな短い期間で、ここまで成長したりはしない!」

デニス「流石は、超高校級の肩書きを持つだけはあるよ!」














夢野「…………」














デニス(ん? ひょっとして、ボク……また褒め過ぎちゃった?)


デニス(……夢野さんって、どういうわけか、褒め過ぎると、一気にクールダウンするんだよね)


デニス(多分、照れ過ぎて、感情を処理し切れなくなるからだと思うけど……)


夢野「……」


デニス(……まあ、この雰囲気のままじゃいけないし、とりあえずここは話題を変えてーーー)


デニス「……そうだ! 夢野さん、良かったら、これから一緒に、先生とボクのデュエルビデオを観ないかい?」

夢野「……っ、!?」

デニス「キミにも前に話したと思うけど、ボクは先生とデュエルする際、そのデータを取るためにビデオに撮っておくことがあるんだ!」

デニス「それを一緒に観ないかい? 夢野さん!」

夢野「……」

デニス「……キミ一人で観ても面白いだろうけど、二人で観れば、もっと面白いとボクはーーー」



夢野「ーーーお主は、本当にそれが観たいのか?」





デニス「ーーーえっ、?」

夢野「……」

デニス「え、えーと……?」

夢野「……答えい、デニス」



夢野「お主は、本当に、榊遊勝とのデュエルビデオが観たいのか?」





デニス「……ああ、うん、観たいと思ってるよ。あのビデオは、ボクにとっても、夢野さんにとっても、勉強にもなると思ったし……」

夢野「……」

デニス「それがどうかしたのかい?」

夢野「んあ……」

デニス「……いや、んあ、じゃなくてね?」

夢野「んああ……」





デニス(ええー……何でこんな反応するの?)


夢野「……」


デニス(……思えば、夢野さんは、ボクが先生に負けたところを見ても、ボクに慰めの言葉をかけたりはしなかったなあ)


デニス(慰めの言葉をかける……この次元の人間ならやってもおかしくないことを、何故か夢野さんはボクにしなかった)


デニス(ひょっとして、ボク、かなり嫌われてる?)


デニス(……いや、夢野さんはボクにマジックを披露してくれたりもしたし、それを考えると、かなり嫌われているわけでは無いはずだ、うん)


デニス(……あっ! もしかして、夢野さんは、他人が負けて悲しんでいるところを見たくないタイプの人なのかな?)


デニス(夢野さんは、アカデミアで言うなら、カード化を躊躇うタイプと……他人が悲しむところを見たくない人たちと、同じ雰囲気をしているからね……)


デニス(……だとしたら、夢野さんが望んでいるのは、他人同士のデュエルではなく、自分のデュエルということになる)


デニス(それならーーーー)





デニス「ーーーねえ? もしかして、夢野さんは、先生とボクのデュエルを観るよりも、先生とデュエルがしたかったのかな?」

夢野「!?」

デニス「……もし、そうだったのなら、夢野さんも先生に頼んで、デュエルして貰うと良いよ!」

デニス「今日は平日だから無理だけど、明日や明後日といった土日……休日中なら、他の人とデュエルショーをしている時でも無い限りは、いつだって受け付けてくれるはずだよ!」

夢野「……っ、」

デニス「ーーーん? そういえば、夢野さんは、ボクとはじめて会った日に先生とデュエルしなかったけどーーーもしかして、先生に気をつかっていたのかい?」

夢野「……」

デニス「だとしたら、そんなこと全然気にする必要は無いよ! 先生はつかみどころの無い人ではあるけど……デュエルから逃げるような人じゃ無いはずだよ、うん!」

デニス「それに、キミもせっかく先生の弟子になったんだから、デュエルしないなんて勿体無いーーー」



夢野「ーーーウチは、あやつの弟子ではない!」





デニス「ーーーえっ、?」

夢野「ウチが、榊遊勝の弟子じゃと?」

夢野「ふざけるのも大概にせい! ウチのお師匠様はあの人だけじゃ! ウチはあの人だけの弟子なんじゃ!」

夢野「榊遊勝なんかの弟子などでは、断じてーーー」

デニス「ーーー聞き捨てならないね」

夢野「!」

デニス「 “ なんか ” ? 仮にも、ボクの先生を、 “ なんか ” ?」

夢野「んあ!? そ、それはじゃなーーー」

デニス「どうしてそんな風に言うのかな?」

夢野「……」

デニス「何か、気に入らないところでもあるのかい?」ズイッ

夢野「んああ……」プルプル

デニス「まさか、 “ 話すのがめんどい ” なんて言って終わらせたりはしないよね?」

デニス「仮にも、ボクの先生に向けて、 “ なんか ” なんて言っておいてさ」



デニス「ねえ、夢野さん?」





夢野「……」







夢野「…………」










夢野「………………」





夢野「ーーーし、正直に言って良いのか……?」

デニス「構わないよ、ボクも別に先生が全能の神さまだなんて思ってない」

夢野「!」

デニス「ひょっとしたら、どこかでキミに不快な思いをさせていることだってあるかもしれない」

デニス「それを元に、キミが先生を “ なんか ” と形容せざるを得ないのならば、ボクは否定はしない」

デニス「怒ることも無い。先生に教えることも無い」

デニス「これまで通りの関係を続けるつもりだよ」





夢野「ーーー本当に、怒らないんじゃな?」

デニス「うん、怒らないよ」

夢野「本当の、本当に、言っても良いんじゃな?」

デニス「全然構うことは無いよ。自由に言ってみると良い」







デニス「ボクは、それを、受け入れる」





夢野「ーーーそれなら、言わせて貰うがの……」

デニス「……」

夢野「……榊遊勝、あやつのデュエルは、デュエルの相手に失礼なように思うのじゃ」

デニス「失礼、ね……」

夢野「あやつのデュエルは、相手の思考を読むだけでなく、読んだ思考を相手や観客に推理として披露しておる」

夢野「言い換えるなら、デュエルの相手を晒し者に、見世物にしておるのじゃ」

デニス「……」

夢野「……じゃが、そんなことをされたら、やられた側は、恥ずかしくて仕方が無いではないか」

夢野「やられた側のデュエリストにもファンはいるじゃろうし、そやつらも決して良い気持ちはしないじゃろう」

夢野「ウチは、それが気に入らないんじゃ……」



デニス「……まあ、確かに、そういう考え方もあるだろうね」



夢野「!」



デニス「ボクは、先生がああいったデュエルをしているのは、あのスタイルが先生の肌に一番あっているからだと思って、深くは考えなかったけどーーー確かに、考え方次第では受け入れられないかもしれない」



デニス「……なるほど、そういうことなら、夢野さんが、先生を “ なんか ” と形容してしまうのも無理の無いことだろうね」





夢野「ーーーじゃが、それでも、 “ なんか ” などと言うべきでは無かったかもしれん」

夢野「ウチにとっては、気に食わんでも、お主にとっては大切なお師匠様なんじゃからのう……」

デニス「まあ、それはね……」

夢野「……すまんかったの、デニス」

デニス「ーーーいや、いいよ。キミの考え方が嫌いというわけじゃない」


デニス(……ボクだって先生のあのデュエルで負けた時、恥ずかしく思うことがあるし、出来れば衆目に晒したくは無い)


デニス(ボクが先生のデュエルショーに参加したことが無いのは、そういうことが理由でもある……)


デニス「……うん、そうした理由で気に入らないというのなら、不快感は無いよ」



夢野「……」





デニス「ーーーところでその話、先生には直接言ったの?」

夢野「……そうじゃな、言ったわい」

デニス「えっ、ホントに言ったの!?」

夢野「……」

デニス「すごいね、キミ……」

夢野「……我慢、出来なかったんじゃ」

夢野「ウチは、先週の土曜日、たまたま榊遊勝の開催したデュエルショーをはじめて見たんじゃがーーーどうしても言うのを我慢出来んかった」

夢野「めんどいとわかっていても、どうしても、あやつに問い正したくて仕方がなかったわい」

夢野「それで、その気持ちのままに、あやつに言ったのじゃ」

夢野「なぜ、あんな風に、相手に恥をかかせるようなデュエルをするのか?」

デニス「……」

夢野「……じゃが、それに答えてはくれんかった」

夢野「その代わり、榊遊勝はウチに向けて、明日からお主と榊遊勝のデュエルを見るなりして、なぜあんなデュエルをするのか学ぶと良いとーーー」

夢野「ーーーそう、言ったのじゃ」

デニス「……」

夢野「……ウチは、それに乗った」

夢野「だからこそ、先週のあの日曜日に、ウチとお前は出会ったのじゃ」





デニス「ーーーあれ? でも、確か先生は、キミがデュエルの成績に不安を感じてるから連れてきてあげたかのようなことを言ってなかったっけ?」

夢野「……それも間違いではない」

夢野「あやつは、ウチがデュエルの成績に不安を感じていることを見抜いていたようでのう」

夢野「それを、あやつ及びお主とデュエルすることで解消することも出来ると、別方向のメリットも提示して来た」

夢野「ウチは、それにも乗ったのじゃ」

デニス「……」


夢野(……それに、ウチのお師匠様は、『若いうちはデュエルが弱くても大目に見られるが、大人になっても弱いままでは、それがバレた時に求心力を失うこともある。絶対にデュエルの腕は上げておけ』……とも言っておったからのう)


夢野(お師匠様からの言葉を思えば、高校生になった今でも、魔法の修行三昧というわけにはいかん。何処かで必ずデュエルの腕を上げねばならんかった)


夢野「ーーーそうした理由もあって、ウチは、ここに来てお主を通して、デュエルを学ぶことに決めたというわけじゃ」


デニス「なるほどね……」(物の見事に先生に言いくるめられたってわけだ)


夢野「……もっとも、榊遊勝があんなデュエルをする理由は、未だにわからんままじゃがのう」





デニス「ーーー参考までに聞かせて貰いたいんだけど、キミは、何故そこまで先生のデュエルを目の敵にするんだい?」

夢野「!」

デニス「いや、ボクとしても、先生のデュエルが全ての人に受けるだなんて思ってはいないよ?」

デニス「でもね、先生が開催したデュエルショーは、観客からとても喜ばれていたはずだよ」

夢野「……っ、」

デニス「キミも、先生が開催したデュエルショーを見たんだろう?」

デニス「観客が歓声を上げているところだって見たはずだ」

デニス「だったら、それで良いとは思えない?」





夢野「ーーー観客が喜んでいれば、それで良いのか?」

デニス「……」

夢野「デュエルはマジカルショーと同じじゃ! 一人回しでも無い限りは、必ず二人以上で行うものじゃ!」

夢野「……じゃからこそ、ウチは、どっちも笑顔になれるようなデュエルが良い」

夢野「じゃが、榊遊勝のデュエルは、デュエル相手を利用して、自分だけが輝いて笑顔になろうとするデュエルに見えるわい」

夢野「……そう、あやつのデュエルは、相手の思考を読むだけでなく、読んだ思考を相手や観客に推理として得意げに披露するものじゃ」


夢野(ウチの知り合いにも推理が得意な者はおるが、だからといってあんなデュエルはせんぞ……)


夢野「……榊遊勝のデュエル、ウチには、あやつが相手を利用して自分だけが輝いて笑顔になるためのものに見えて仕方がないんじゃ」



夢野「……はっきり言って、気に入らんわい」





デニス「……キミは、ずいぶんと甘いことを言うんだね」

夢野「……なんじゃと?」

デニス「デュエルは勝負事だよ? 楽しいのは、勝った方だけ」

夢野「なっーーー」

デニス「これは、元々は、ボクの友人のセリフだ」

デニス「……いや、彼の方もボクのことを友人と思っているかはわからないんだけどーーーここではひとまず置いておくね」

デニス「ともかく、その友人が言った、さっきのセリフは、この世の真理が詰まっていると思っている」





夢野「……真理じゃと?」

デニス「違うかい?」

デニス「先生がどんなデュエルをしようと、それが勝負事である以上は、勝者と敗者が生まれることに変わりは無いだろう?」

夢野「それはそうじゃが……」

デニス「いや、仮に勝負事で無かったとしても、同じこと」

デニス「人は物事に対し、優劣をつけたがる生き物だからね」

デニス「勝負事でないショーであっても、そこに二人の人間がいれば、どちらが優れているかを決めたがる」

夢野「!」

デニス「それは、観客はもちろん、ショーを行っている本人たちも例外じゃない」

デニス「勝ち組と負け組に線引きしようとする」

デニス「その上で、勝ち組になれてこそ、楽しいと思える」



デニス「それこそが、真理」



デニス「故に、ボクには、キミの発言は、甘い香りがしてならないよ」





夢野「……じゃ、じゃが、それでもーーー」

デニス「それに、キミのその甘さがそこまで必要だとも思えないね」

夢野「……な、なんじゃと!?」

デニス「先生のデュエルショーなら、負けたとしても、その人やそのファンは深く傷付いているわけじゃないからね」

デニス「事実として、先生とのデュエルでは、負けた側もそのファンも、笑顔になっているケースが多いはずだ。先生のファンや中立の観客と同様にね」

夢野「!」

デニス「キミも先生のデュエルショーを見たんだろう?」

デニス「だったら、知ってるよね? そのことも」

夢野「………」

デニス「先生が笑顔にするのは、先生のファンや中立の観客だけじゃない。倒した相手とそのファンでさえ、笑顔にしてみせる」

デニス「先生の相棒である、スカイマジシャンと共にね」

デニス「キミにとって気に入らないデュエルをしようとも、大概のケースで笑顔にしてみせる。それが先生なんだよ」





夢野「……ウチは、榊遊勝と出会った先週の土曜日、一度だけあやつとデュエルして負けたことがあるが、笑顔になったりはせんかったぞ」

夢野「無論、その翌日の日曜日も、お主があやつに負けたところも何回か見たが、ウチは全く笑顔になんぞなれんかったわい……」

夢野「……お主とて、あやつに負けたあと、まったく笑顔にならんかったではないか」

デニス「大概のケースで、って言ったでしょ? 先生だって全能の神さまじゃない。相手によっては、笑顔に出来ないことだってある」

デニス「キミのような、甘すぎる考え方を持つ者ならば、特にね」

夢野「っ、」

デニス「……まあ、ボクとしても、なんで先生のあのデュエルで、大概のケースで負けた側やそのファンも笑顔になるのか、計りかねているところがあるけどーーー」

デニス「ーーー先生は、デュエルがものすごく強いからね」

夢野「……?」

デニス「故に、先生は、異常なまでの発言力を持っている」



デニス「……その上で、『笑顔になって欲しい』と言えばーーー」



デニス「ーーー先生の望み通り、笑顔にならざるを得ないのかもしれないね」





夢野「……どういうことじゃ?」

デニス「良いかい? まず、前提条件として、デュエルの強さと発言力は比例するんだ」

夢野「んあ……確かに、デュエルが強いと就職に有利という話は良く聞くのう……」

デニス「そして、先生は、デュエルがものすごく強い。故に、先生は、異常なまでの発言力を持っている」

デニス「その上で、『笑顔になって欲しい』と、人間的な感情から見て正しいとされることを言えば、先生はそれを体現する善人となる」

デニス「先生の言葉は、人間的な感情から見て受け入れなければならない、絶対の善人の言葉となるんだ」

夢野「んあ……!?」

デニス「そうした言葉は、逆らいづらい言葉だ」

デニス「善人の言葉に逆らうのは難しい」

デニス「それに逆らえば、自分が、自分自身の心や周囲から見て、悪人であるかのように映ってしまうんだからね」

デニス「誰だって、悪人になんて、なりたくない」

デニス「故に、先生の言葉を、受け入れなければならない、空気が発生する」


デニス(……そうなれば、よほど譲れないもののある人間か、あるいは壊れてしまった人間でも無い限りは、そうした空気に従うだろう)


デニス「だからこそ、先生に負けた側やそのファンも、笑顔になっていたんじゃないかな?」



夢野「ーーーんあ!?」



デニス(……仮に、ユーリが先生と同じような言動を取っていればーーー)



デニス(ーーーもしかしたら、ユーリも、先生のようにーーーー)





デニス「ーーーまあ、実情はどうあれ、先生のデュエルでは負けた側やそのファンも笑顔になっていることは事実」

デニス「それを考えれば、キミのその甘さがそこまで必要だとは思えないとボクはーーー」

夢野「ふざけるでない!」

デニス「!」

夢野「……どうしてじゃ!? どうして、そんなことを涼しげに言えるのじゃ!? どうして、そんな風に甘さを切って捨てられるのじゃ!?」

夢野「確かに、もし本当にお主が言った通りならば、榊遊勝のあのデュエルでも一応は笑顔になれるのじゃろう!」

夢野「じゃが、その笑顔は、デュエルの強さ、そして人間的感情を盾にした同調圧力で! 強制されたものに過ぎないではないか!」

夢野「そんな笑顔は仮面と同じじゃ! 外側は笑顔になっても内側は断じて笑顔にならん! それでは、必ず、不満が残る!」

夢野「その不満が、何かのはずみで爆発でもすれば、笑顔は消え失せるぞ!」





デニス「……断っておくけど、さっきの話はあくまでボクの勝手な想像であって、実際に先生がどんな人心掌握術を用いて負けた側やそのファンを笑顔にしているかは知らないよ」

デニス「先生が人を笑顔にするメカニズム、それを解き明かすには、もっと先生を理解してみないことにはーーー」

夢野「だとしてもじゃ!」

デニス「!」

夢野「さっきの話が勘違いで、本当は真っ当な方法で笑顔にしているとしても! 『甘さなど必要ではない』と言えてしまうことに疑問は無いのか!?」

デニス「……どういうことかな?」

夢野「良いか!? 真っ当な方法にせよ同調圧力にせよ、全ての者が榊遊勝のデュエルで笑顔になれるわけではないはずじゃ!」

夢野「あやつのあのデュエルで、心の底から笑顔になれるとは限らないはずじゃ!」

デニス「まあ、それはそうだろうけどさ……」

夢野「ならば、ウチは、榊遊勝のやり方では心の底から笑顔になれん者を、笑顔に出来るようなショーが……デュエルがしたい!」

夢野「それをするために必要なものが、お主がさっき、『必要だとは思えない』と切って捨てた、甘さではないのか!?」

夢野「……少なくとも、転子たちは、ウチの友達は、ウチの甘さが必要だと、そう言ってくれたんじゃ!」

デニス「………」

夢野「ーーーもう、ええわい! 不愉快じゃ! 今日はもう帰る!」

デニス「あっ、ちょっと……」

夢野「ふん!」スタスタ



バタンッ!



デニス「……」





……



デニス「」ゴクゴク

デニス「……うん、落ち着きたい時は、ミルクティーが一番だ」

デニス「良かったら、夢野さんもーーーって夢野さんは、今いないんだった……」

デニス「……怒らせちゃったみたいだからね」

デニス「まさか、あんなに怒るとは、夢にも思わなかったよ」

デニス「まあ、『今日はもう帰る』と言っているところから見て、明日また来てくれるとは思うけど……」



デニス「はあ……」





デニス(……本当、なんで、ボク、あんなこと言っちゃったのかな?)


デニス(主義主張のぶつけ合いなんて、アークエリアプロジェクトが実行される以上は、どうせ無意味なんだ)


デニス(プロフェッサーの意思の元、全てが一つに統一される。ボクや夢野さんの、個人の意思なんて何の意味も無い)


デニス(それを考えれば、夢野さんの言葉は、適当に受け流していれば良かった)


デニス(これまで通り、嫌なことは忘れて、この夢のような世界で楽しくデュエルや大道芸をしていれば良かったんだ)


デニス(……アカデミアは実力主義。勝ち負けを気にしなくて良いデュエルなんか、まずあり得ない。デュエルディスクに自動記録される勝率が、大体のケースでそのまま待遇に反映される)


デニス(しかも、アカデミアのデュエリストは、エクシーズモンスターであるトラピーズマジシャンを召喚すると、ボクらを侮蔑の目で見てくる……ユーリを除いてね)


デニス(そんな現実とは異なる、この夢の世界で……楽しくデュエルや大道芸をしていれば良かったんだよ)


デニス(……ボクにはどうせ、そうすることしか出来ないんだから)


デニス(そんなボクが、主義主張をぶつけたところで、無意味な面倒ごとにしかならない)


デニス(なのに、どうしてボクは、夢野さんの言葉に、あんなコトダマをぶつけたりなんかーーー)



ピピピンッ……ピピピンッ……



デニス(? このデュエルディスクの着信音……ユーリから……?)ピッ




デニス(ーーー!?)




デニス(こ、これは……!?)


今日はここまで

投下します。




ーエクシーズ次元・公園ー



夢野「……」



アカデミアA(ーーーおい、見ろよ! あの、ベンチに座ってる奴!)


アカデミアB(ああ……間違いないな)


アカデミアC(超高校級のマジシャンの夢野秘密子だ)


アカデミアA(こんな通りがかりの場所でお目にかかれるとはな。探したりとか準備する手間が省けてラッキーだぜ! さっそく誘拐してドクトルの所に連れてくぞ! 幸い他に人もいないしよ!)


アカデミアB(……いや、しかし、本当に夢野秘密子を誘拐して大丈夫なのか?)


アカデミアA(ああっ!? 何言ってんだお前!? まさか、俺たちが夢野秘密子を誘拐する理由を忘れたってんじゃないだろうな!?)


アカデミアA(ーーーいいか? ドクトルは夢野秘密子をモルモットに欲しがっていた!)


アカデミアA(ドクトルが言うには、超高校級というステータスを持てるくらいのハイスペックな脳を持ち、なおかつ未成熟な肉体を持つ娘であればあるほど、虫の寄生研究を進めるのに最適とかほざいていたがーーーそれはどうでも良い!)


アカデミアA(大切なのは、ドクトルは夢野秘密子をモルモットに欲しがっていたってことだ!)


アカデミアA(それでドクトルは、夢野秘密子を誘拐して連れて来るよう、俺たちに依頼した! 大量の報酬を約束し、次元転送装置までくれた上でな!)


アカデミアA(だからこそ、俺たちは報酬のために、夢野秘密子を誘拐することにした! そういう理由だったろーが!)




アカデミアB(……それはわかっているが、だからと言って、今それをしていいのか?)


アカデミアC(ああ、融合次元の本国が言うには、まだ超高校級に手を出して良い段階じゃないって話だ)


アカデミアB(その通りだ。なのに、ここで個人的な理由で勝手に誘拐なんてしたことがバレたら、融合次元の本国から何と言われるかーーー)


アカデミアA(はっ、一匹ハンティングしたくらいでそんな大ごとにはならねーよ! それに、夢野秘密子は、戦闘スキルを一切持ってねーって話だ! 絶好のカモだぜ!)


アカデミアC(だが……)


アカデミアA(今さら怖気付いてるんじゃねーよ、お前ら! それに、ここで誘拐しておけば、楽に大量の報酬をゲット出来るんだぜ?)


アカデミアB(まあ、確かにあの額は魅力的ではあるな……)


アカデミアC(あれだけの金があれば、三等分しても十分過ぎる釣りが出る。レアカードも買い放題……!)


アカデミアA(おうともよ! 強いレアカードさえあれば、戦争が始まった時、俺たちが生き残る確率も高くなる!)


アカデミアA(そして、俺たちの本来のデッキをまともに強化出来るようなカードは融合次元にしか無い!)


アカデミアA(だったら、ここでサクッと誘拐して、ドクトルから報酬を貰って、融合次元でレアカードを買いまくるしかねえだろ!)





アカデミアB(……それを考えるとなぁ)


アカデミアC(命あっての物種だしな……)


アカデミアB(やるしかーーー)


アカデミアC(ーーー無いか)


アカデミアA(よしっ、そうと決まれば、ハンティングのはじまりだ! まずはファンのフリして自然に路地裏まで連れて込んでーーーー)ヒソヒソ






………





……



アカデミアA「ーーーあれ? そこにおわすは、ひょっとして、超高校級のマジシャンの夢野秘密子さんじゃありませんか?」スタスタ

夢野「ウチは魔法使いじゃ……って、なんじゃ、お主ら?」

アカデミアB「ああ、僕たちは怪しいものじゃありません」

アカデミアC「ええ、純粋に、あなたのファンなんですよ」

夢野「ファン……じゃと?」

アカデミアA「こんな所でお目にかかれるなんて、光栄だなあ。これも、きっと何かの縁、良かったらお茶でもしませんか? 向こうに良い喫茶店があるんですよ」

夢野「……んあ?」キョトン

アカデミアB「もちろん、勘定は俺たちが払いますよ」

アカデミアC「行きません? 喫茶店」

夢野「……んあー、悪いが、知らない人についていくわけにはいかんのでな」

アカデミアB「ええっ、そんな行きましょうよ!」

アカデミアC「そうですよ、ファンのせっかくの気持ちを何だと思っているんですか?」

夢野「……そんなようなことを言うファンとやらに、ロクな奴はおらん」

夢野「付いて行ってやるわけにはいかんわい」






アカデミアA(……チッ)



アカデミアA(万が一ここに目撃者がいた場合を考えて、そいつが夢野秘密子を助けに来ないよう、なるべく穏便に路地裏まで連れて行きたかったがーーーこうなっては仕方ない)



アカデミアA(ここは無理やりにでもーーーー)






アカデミアA(ーーーおい! 強硬手段に移るぞ! 腹パンは俺がやる!)ヒソヒソ


アカデミアB(……りょーかい)ヒソヒソ


アカデミアC(これなら打ち合わせの必要無かったな)ヒソヒソ


アカデミアA(やかましい! とにかくやるぞ!)ヒソヒソ


夢野「……もう関わるでない。それに、ウチは、今日疲れてーーー」

アカデミアB「まあまあ! そう言わずに!」ガシッ

夢野「……んあ!? 何をする!?」

アカデミアC「疲れてるんでしょう? だったら、公園よりも喫茶店で休んだ方が良いですよ」ガシッ

アカデミアA「そこ(路地裏)を通ってすぐのところですんで!」

夢野「や、やめい! 離さんかい! お主ら!」ジタバタ

アカデミアA(よし、このまま腹パンして気絶させてから路地裏まで連れ込んで次元転送装置でーーーー)







デニス「ーーーそこまでだよ」





夢野「んあ……!? デニス!?」


アカデミアA(……なんだ、こいつ?)


アカデミアB(夢野秘密子の知り合いか?)


アカデミアC(面倒だな……)


夢野「デ、デニス……どうして、ここにーーー」



デニス「キミを探していたらーーーキミの叫び声が聞こえてね」



夢野「!」





デニス(……本当はボクのデュエルディスクには、アカデミア製のディスクを感知する特別な機能があって、この場所に三人分の反応があったからなんだけどね)


デニス(それが物の見事に、夢野さん、キミを狙っている連中だったってわけだ)


デニス(……ドクトルがユーリにとっちめられたあと、こいつらに通信して誘拐を取りやめるよう言うか、通信機能を介して次元転送装置を遠隔操作してこいつらを強制送還してくれれば、ボクもこんな綱渡りな手を取らずに済んだのにーーー)


デニス(ーーー通信傍受を恐れて、こいつらのディスクの、通信機能を封じたとか、参るよ。本当……)


デニス(ボクらのディスクの通信機能には、次元技術が組み込まれているんだから、通信の傍受なんて、まず不可能なのに……)


デニス(ドクトル、キミはどこまで用心深いんだーーーー)





アカデミアC「ーーー夢野秘密子さんとどういう関係かは知らないが、見ての通り、こっちは取り込み中だ。今日は出直してくれ」



デニス「……悪いことは言わない。早く夢野さんを解放することだ」



アカデミアA「……」

夢野「デニス……」



デニス「ここで、超高校級である夢野秘密子さんを無理やり連れて行くのは、不味いはずだよ?」



アカデミアB(? 何を言っている?)


アカデミアC(ハートランド警察でも呼ぶつもりか? だが、俺たちには次元転送装置がーーーー)





アカデミアA(ーーーくっ、邪魔が入るとはな。しかし、どうする?)


アカデミアA(このまま夢野秘密子を次元転送装置で連れて行くわけにはいかねえ。アカデミアで脳波登録をした人間以外の人間を次元転送装置で連れて行く場合、腹パンして気絶させるなどして意識を失わせる必要がある)


アカデミアA(連れて行く対象が覚醒状態にある場合、その脳波の影響で次元転送装置を誤作動させる危険性が大だからな)


アカデミアA(そうなりゃ、かなりの確率で俺たち全員が、次元の藻屑と化す)


アカデミアA(……なら、今すぐ夢野秘密子を腹パンして気絶させて次元転送装置でーーー)


アカデミアA(ーーーいや、ダメだ! こいつの目の前でそんなことをしたら、無理やりにでも俺たちから夢野秘密子を引き離そうと動く可能性が高い)


アカデミアA(そうなったら、夢野秘密子を気絶させることに成功したとしても、こいつの戦闘スキル次第では、次元転送装置を使用する際こいつと戦闘になって、次元移動に巻き込む危険がある)


アカデミアA(脳波登録していないこいつを巻き込めば次元の藻屑と化しかねない。そいつはゴメンだ)


アカデミアA(……腹立たしいが、ここは出直してーーーー)





アカデミアA「ーーーチッ、帰るぞ、お前ら!」

夢野「!」

アカデミアB「えっ、」

アカデミアC「おい、良いのかよ?」

アカデミアA「こうなっては仕方が無いだろ! 行くぞ!」


アカデミアB(はあー、無駄骨かー……)ササッ


アカデミアC(だが、無理して次元の藻屑になるよりマシか……)ササッ


夢野「んあ……!?」ドサッ



タッタッタッ……





デニス(ーーーよし、これで、あいつらは、夢野さんの元を去った)


デニス(しばらくすれば、あいつらはアカデミアから応援にやって来た連中に捕縛されて、アカデミアに強制送還され、ユーリの手でカード化されるだろう)


デニス(……ユーリはドクトルもカード化したいだろうけど、それは無理だろうなあ)


デニス(プロフェッサーが言うにはドクトルの研究は非常に有用とのことだ。おそらくは、プロフェッサーが厳重注意をするだけで処分は終わる。ユーリによるカード化が認められることは無いだろう)


デニス(……アカデミアに有用とされた者は、一度やらかしたくらいじゃ、カード化されないからね。まあ、それでも二度三度やらかしたら、ほぼ確実にカード化されるだろうけど)


デニス(……せっかく、ユーリがドクトルの挙動を怪しんで疑って、ドクトルを尋問してさっきの連中のことを聞き出して、それをボクに連絡してくれたってのに)


デニス(本当、ムカつくったらないよーーー)



夢野「んああ……」フルフル



デニス「ーーー大丈夫かい、夢野さん? 怪我はないかい?」タッタッタッ

夢野「んあ? あ、ああ……ウチは平気じゃ」

デニス「……とりあえず、先生の家屋まで送るよ。また似たような手合いがやってきたら困るからね」

夢野「んあ……」コクン


今はここまで。

投下します。




ーエクシーズ次元の家屋ー



夢野「」ゴクゴク

デニス「ミルクティーはどうだい? 夢野さん」

夢野「んあ……あたたかいわい」

デニス「落ち着いた?」

夢野「……すっかりの」

デニス「そう、それは良かったよ」

夢野「ーーーあー、その、なんじゃ……」

デニス「……」

夢野「……さっきは、助けてくれて、ありがとの、デニス」





デニス「……ごめんね、夢野さん」

夢野「……んあ? 何でお主が謝るのじゃ?」

デニス「だってこうなったのは、元はといえば、ボクがキミの甘さを切って捨てるようなことを言ったからだよ?」

夢野「!」

デニス「もし、ボクがキミの甘さを尊重していれば、さっきのようなことにはならなかったかもしれない」

夢野「それはーーー」

デニス「……それに、甘さを切り捨てるだなんて、よくよく考えれば、不快な発言だったと思う。キミが怒って出て行ってしまうのも無理は無い」

デニス「だから、キミの甘さを切って捨てるようなことを言って、本当に悪かったよ」

夢野「……」





デニス「……キミの言う通りだ。甘さとは、そう簡単に切って捨てて良いものじゃない」

夢野「!」

デニス「甘さとは、言い換えれば、理想なんだ。優しさなんだよ」

デニス「そして、理想のデュエルやショーとは、二人のうちどちらが勝っても負けても、その二人とそれぞれのファンが心の底から笑顔になれるような、優しいもののことを言う」

デニス「そうしたデュエルやショーは、きっと素晴らしい」

デニス「それを考えれば、理想と優しさ……甘さを、簡単に切り捨てて良いはずがなかった」

デニス「ごめんね、夢野さん。ボクが短慮だった」

夢野「デニス、お主……」







デニス「ーーーだけどね、これだけは理解して欲しい」





夢野「?」

デニス「夢野さん、キミの掲げる甘さは、負けた側の立たされている状況によっては、通用しないんだよ」

夢野「……どういうことじゃ?」

デニス「例えば、一度の敗北が人生を奪うような状況だったらどうかな?」

夢野「なっーーー」

デニス「それこそ、百年前に起きた希望と絶望の戦い……その中で行われたようなコロシアイゲームで負けて、江ノ島盾子によるオシオキを受けるような状況だったらどうかな?」

夢野「!?」

デニス「……あるいは、デュエルに負けたら魔法の力でカードに封印されるーーーそうでなくとも、全財産…自由や権利といったものまで失われるような状況ならばどうかな?」

デニス「そんな状況で、負けた側やそのファンは笑顔になれるかな?」





夢野「ーーーそ、そんなの極論じゃ!」

デニス「……まあ、そんな状況は、キミからしてみれば現実味は無いかもしれないね」

デニス「だけど、それなら……負けた側の心が弱かった場合はどうかな?」

夢野「!?」

デニス「負けた側が精神的に追い詰められていて心が弱り、自分のファンの存在すら満足に認識出来ない状況にある」

デニス「そう、自分にもファン……味方がいることを認識出来ない状況にある」

デニス「そうした状況で、負けた側やそのファンが笑顔になれるだろうか?」

夢野「……」

デニス「……ボクには、笑顔になれるとは、とても思えない」

デニス「負けた側の心が弱ければ、その人もそのファンも笑顔にはなれないんだ」

夢野「っ、」





デニス「夢野さん、キミは、自分や誰かがデュエル……あるいはショーで負かした心の弱い人やそのファンを、笑顔に出来る自信があるのかい?」

夢野「っ、それは……」

デニス「そう、簡単にはいかないはずだよ」

デニス「笑顔になって貰うためには、相手の気持ちを理解し、誰もが楽しめる納得のいくデュエルやショーを……あるいは慰めをしなくてはならないんだ」

デニス「それをして、はじめて負けた側やそのファンも笑顔になれる」

デニス「そう、笑顔にするためは、まずは相手の心を理解しようとしなければならないんだ」

デニス「だけど、それはとても難しい行為だ」

デニス「ボクたちは、エスパーじゃないんだから」

デニス「……夢野さん、もしかしたらキミもそれを薄々わかっているんじゃないかな?」

夢野「!?」

デニス「だからこそ、キミは、ボクが先生に負けた際、ボクに慰めの言葉をかけたりしなかったんじゃないかな?」

夢野「っ、!」





デニス「……相手の心を理解することは、とても難しい」

デニス「相手の心を理解しないままでは、その相手に対して、どうすればいいかもわからない」

デニス「その相手のためにどんな理想を実現すべきか想像することも出来ない。その相手のためにどんな風に優しくしてあげれば良いかもわからない」

デニス「どう、慰めて良いのかも、わからない」

夢野「……」

デニス「それでは、どんな理想と優しさ……甘さを掲げたところで空回りして、逆に相手の心に余計な負荷をかけてしまうだけで終わりかねない」

夢野「っ、」

デニス「そうやって、余計な負荷をかけてしまうくらいなら、最初から、理想と優しさ……甘さなんて要らない」

デニス「……甘さは、時に、心を蝕む毒となるんだ」

デニス「ボクは、そう思った」

デニス「だから、キミの掲げる甘さは、負けた側の立たされている状況次第では通用しないんだ」

デニス「そのことは、理解して欲しい」



夢野「……」



デニス「……その上で、聞かせて貰うよ、夢野さん」



デニス「この話を聞いても、甘さを抱き続けるべきだと思うかい?」






夢野「………」






夢野「………………」












夢野「………………………」






デニス「……まあ、答えられないよね。普通は」

夢野「……」

デニス「そうだよ、こんなこと、すぐに答えの出せる問題じゃあ無い」

デニス「問題と真面目に向かい合っているのならば、当然だ」

デニス「ただ、もし、少しでも甘さを抱き続けたいのならばーーー」







デニス「ーーーこれからもデュエルに励むと良い」





夢野「……?」

デニス「元々は先生が言っていたことだけどーーーデュエルとは、デュエリスト同士のコミュニケーションなんだ」

デニス「相手のデュエルのデータを取るなりして、相手の気持ちを理解しようとするからこそ、強くなれるし相手に勝つことも出来る」

デニス「故に、デュエルに強くなればなるほど、デュエルにおける相手の気持ちが理解出来るようになる」

夢野「……」

デニス「そして、これは、デュエル以外でも応用が利く」

夢野「!?」

デニス「デュエルに励むことは、それ自体が相手を理解する力を養うことに繋がるんだ」

デニス「理解する力を養った上で、相手を理解しようとすれば、その通りに相手を理解することが出来る」

デニス「その相手のために、どんな理想を想い描き、どんな風に優しくすべきかもわかる」

デニス「慰め方だってわかるようになる」

デニス「そうすれば、相手の心に余計な負荷をかけずに済むため、キミの抱く甘さを切り捨てる必要は無くなる」

夢野「……!」

デニス「その甘さのままに、お互い楽しくデュエルをして、ショーをして、相手やそのファンを笑顔に出来るはずだ」

デニス「ボクは、そういう風にも、思っているよ」

夢野「デニス……」





デニス「……だから夢野さん、これからもデュエルに励もう」

デニス「励めば、より人の心を理解出来るようになるかもしれない」

デニス「理解した上で、その人にとって必要なことを考え実行することで、お互いに楽しい気持ちになれるかもしれない」

デニス「そうすれば、相手がどんな状況に立たされていたとしても、笑顔に出来るかもしれないんだ。夢野さん」

夢野「……」





デニス(……そうだよ、夢野さんーーー)


夢野「……」


デニス(ーーーキミのような人ならば……キミのような人になれさえすれば、もしかしたら実現出来るかもしれない)


デニス(そう、超高校級の肩書きを持てるほどにまで、己の魔法(エンタメ)を磨き上げることの出来る、強い心を持つキミならーーー)


デニス(ーーーそれほどの人間ならば……それほどの人間になれさえすればーーー)


デニス(ーーーたとえ、相手がどんな人間でも、その心を理解出来るかもしれないんだ)


デニス(そうして、その人に何が必要なのか、考え抜いて実行し、お互いに楽しい気持ちにだってなれる)


デニス(その時、ようやく産まれるんだ)


デニス(魔法のように甘い、本当のーーーー)














デニス(ーーー笑顔をーーーー)














夢野「……そうじゃな、デニス。お主の言う通りじゃ」

夢野「まずはデュエルに励んでみるわい」

デニス「夢野さん……」

夢野「……甘さを抱き続けるかべきか、そうでないかーーー」

夢野「ーーー答えを出すのは、それからじゃ」

デニス「………」

夢野「……明日からは、榊遊勝とも、本格的にデュエルしてみるかのう」

デニス「!」

夢野「あやつは強い。あやつとデュエルすれば良い経験になるじゃろう。理解力も上がるはずじゃ」

夢野「それに明日は、土曜日。あやつとデュエル出来る日じゃからな」





デニス「……良いのかい? 先生はキミにとって苦手な人だったはずだよ」

夢野「確かに、苦手のままじゃ……」

デニス「……」

夢野「……じゃが、それは、今の話じゃ」

デニス「!」

夢野「お主が言ったんじゃぞ、デニス」

夢野「デュエルに励めば、相手の気持ちを理解出来るようになると」

夢野「それは、榊遊勝も例外では無いはずじゃ」

デニス「……!」

夢野「ーーーそうやってデュエルをし続けて、デュエルに強くなって理解力を養えば、あやつがなんであんなデュエルをしているか、理解出来るようになるかもしれん」

夢野「……理解さえ出来れば、あやつとの接し方も見えてくるじゃろう」

夢野「榊遊勝が苦手で無くなるかもしれん」

デニス「夢野さん……」





夢野「……まさか、中学生のお主に、人生の先輩であるウチが、デュエルだけでなく人との関わり方まで教えられるとはのう」

夢野「ウチもまだまだじゃわい」

デニス「……ああ、そういえば、超高校級って、高校生だけの肩書きだったね」

夢野「……デニス、お主まさかウチが高校生であることを忘れておったのではあるまいな?」

デニス「いやいや、忘れてなんかないよー、アハハー」ジーッ

夢野「んあ……!? よさんか! 背が高いからって、上から見下ろすでない! 」

デニス「……フフッ、じゃあ、夢野さんがボクに収縮魔法をかけてくれるかい?」

夢野「んあ!? い、いまはマナが切れておっての……」

デニス「じゃあ、それが溜まるまで、こうしているとするよ!」

夢野「んあ……!? ち、調子に乗るでないぞ、デニス! ウチはまだまだこれからなんじゃ! これから、大人のレディーになるんじゃー!!」ウガーッ






~~~~~~~~

~~~~~~

~~~~

~~





~2年前・エクシーズ次元の家屋~



王馬「ーーーにしし! 悪いねー! 悪の総統であるオレのために、わざわざ時間作って貰っちゃってさー! 嘘だけど!」

遊勝「……いや、構わないよ」

遊勝「それよりも、王馬くん、キミは先ほど、私に確認したいことがあると言った」

遊勝「そして、その内容は、私のデュエルショーに関することだとか」

王馬「……」

遊勝「さあ、王馬くん、何か私に確認したいことがあるのであれば、何でも聞いてみると良い」

遊勝「私はそれに答えてみせよう」





王馬「ーーーじゃあ、確認させて貰うけどさ……」



遊勝「……」



王馬「おじさんの、あのデュエルーーー」







王馬「ーーーあれ、わざとだよね?」





遊勝「? どういう意味かね?」

王馬「いや、おじさんのデュエル幾らか見たけどさ。あれはすごいよ」

王馬「相手の思考を読むだけじゃなくて、読んだ思考を推理として相手や観客に披露する」

王馬「そうやって、デュエル相手を、晒し者に、見世物しているんだ」

遊勝「……」

王馬「あんなデュエルをされたら、やられた側は恥ずかしくて仕方が無いし、そのファンも決して良い気持ちはしないだろうね」

王馬「……あーあ、せめて、おじさんがヒール役だったらなー」

王馬「それなら、やられた側やそのファンだって、デュエルや応援を通じて、自分たちの抱える不満をおじさんにぶつけて発散出来るのに」

王馬「その行為を、他の大勢の観客から応援されて、たくさんの観客を味方につけたデュエルが出来るのに」

王馬「そんな歓声の中で、打倒おじさんを掲げることが出来るのに」





王馬「だけど、おじさんは、自分が絶対の善人であるという姿勢を崩さない」

王馬「それじゃあ、不満を抱えても、おじさんにぶつけて発散出来ない」

王馬「絶対の善人であるおじさんに、不満をぶつけてしまったら、自分が悪人であるかのように映ってしまうんだからさー」

王馬「それじゃあ、おじさんとデュエルする人やそのファンは、他の観客を味方につけることが出来ないし、打倒おじさんを掲げることも出来ない」

王馬「それで負けた後は、おじさんの言葉通りに、笑顔にさせられる」

遊勝「……」

王馬「つまらなくて、笑えない」

王馬「それが、オレから見た、おじさんのデュエルだよ」





遊勝「ーーーキミは、私のデュエルで笑顔にならなかったようだね」

遊勝「笑顔にならない者がいる以上、私もまだまだ未熟だったようだ。これからも精進しなくてはーーー」

王馬「嘘つくなよ」

遊勝「……」

王馬「オレ……他人の嘘が嫌いなんだよね」

遊勝「……私の言っていることが、嘘だと?」

王馬「オレって嘘つきだからさ……わかっちゃうんだよね、他人のつく嘘が」

遊勝「ほう……?」

王馬「……おじさんがあんなデュエルをしているのは、未熟だからなんかじゃない」

王馬「さっきオレが言ったように、わざとあんなデュエルをしているんだ」





王馬「そう、榊遊勝、あんたはーーー」






遊勝「……」






王馬「ーーーこうやって今みたいに、自分に反感を向けさせたいがために、わざとあんなデュエルをしているんだ」


今日はここまで。

投下します。




遊勝「……言っていることの意味がわからないな」

王馬「……」

遊勝「なぜ、そんなことをする必要がある?」

遊勝「そんなことをしたところで、こうやって今みたいにキミのような人物に嫌われるだけだ」

遊勝「そんなことをするメリットがあるとも思えないがーーー」

王馬「あるよ、メリット」



遊勝「……」



王馬「……そう、『人類を革新させる』というーーー」



王馬「ーーーとびきりのメリットがね」














遊勝「……はっ、?」














遊勝「ーーー何だって?」

王馬「……」

遊勝「人類の、革新?」

王馬「……」

遊勝「王馬くん、キミは突然何を言い出すんだ?」





王馬「……おじさんだって、本当はムカついてるんじゃないの?」

遊勝「……」

王馬「おじさんの、あんなデュエルを見て、笑顔になっている奴らがムカつく」

王馬「あんな風に、人を晒し者にして見世物にして恥をかかせるデュエルを見て、笑顔になっている観客がムカつく」

王馬「そうやって、恥をかかされた側……負けた側やそのファンの気持ちを無視して、勝ったあんたを讃える観客がムカつく」

王馬「おじさんの『笑顔になって欲しい』という言葉に屈して、負けた側やそのファンが自分の気持ちに嘘をついて、笑顔になることがムカつく」

王馬「デュエルする相手も、そのファンも、その他の観客やファンも、みんなムカつく」

王馬「そんな人類を革新させないといけないと思っている」

王馬「そうだよね? 榊遊勝」





遊勝「……仮に、キミの言う通り、私が怒っていたとしよう」

遊勝「しかし、怒っているというだけで、人類を革新しようなどと大それたことを考えるものかね?」

王馬「……まー、確かに、怒っているだけじゃ、人類を革新しようだなんて考えないだろうね!」

王馬「どんなロマンチストでも、人類を革新するだなんてこと、未来を憂いでもしないと考えたりはしないよー!」

遊勝「……私が未来を憂いているとでも言うのかね?」

王馬「実際、そうでしょ?」

遊勝「……」





王馬「少なくとも、オレは、このデュエル社会の未来がとってもこわいよー」

王馬「このデュエル社会では、おじさんのあんなデュエルで負けた側とそのファンを笑顔に出来る」

王馬「そんな社会がこわくてたまらないね!」

遊勝「……」

王馬「……あんな洗脳染みた現象が成立するのは、おじさんが強いデュエリストだからだ」

王馬「強いデュエリストは相応の発言力を持つ」

王馬「その発言力を持った状態で、おじさんは『笑顔になって欲しい』とか、人間的感情から見て正しいことを言っている」

王馬「故に、おじさんはそれを体現する絶対の善人となり、その言葉に逆らえない空気が生まれ、不満を抑え込んで……自分の気持ちに嘘をついて、笑顔にならざるを得ない」

王馬「デュエル社会……デュエルの強さが人の魅力とされる社会だからこそ、無理やり人を笑顔に出来てしまうんだよ」

遊勝「……」





王馬「そんな中、もし、おじさんよりも遥かに強いデュエリストが現れたらどうなるだろうね?」

遊勝「!」

王馬「おじさんよりも遥かに強いデュエリストということは、それこそ神さまレベルの発言力を持つということになる」

王馬「それで、そいつが『楽しいデュエルをしよう』とか人間的感情から見て正しいことを言えば、そいつはそれを体現する正義の使徒になる」

王馬「そうなれば、そいつの言うことやることを誰も否定出来なくなる。そいつが、おじさんが今やってるようなデュエルをしたとしても、おじさんよりもずっと上手く不満を抑えつけられるかもしれない」

王馬「オレみたいに、反感を向けてくる奴すら現れなくなるかもしれない」

王馬「むしろ、憧れて同じようなデュエルをする奴が大量に出てくるかもしれない」

王馬「そんな感じで、誰にも否定されず肯定しかされないことで、自分が絶対正義だと錯覚し、観客ウケのためならどんな過激なパフォーマンスだって許されると考え、実行するかもしれない」

王馬「……極論、衝撃増幅装置とかで大怪我を負わせるようなデュエルをするようになるかもしれない」

王馬「そして、そのデュエルを、社会は受け入れる」

王馬「正義の使徒のやることだから問題は無いと、社会全体が受け入れてしまうんだ」





遊勝「……そんなこと、あるわけがーーー」

王馬「ありえなくない話だと思うよ? 人は珍しい物が大好きだからね!」

王馬「事実として、おじさんのエンタメデュエル……珍しいタイプのデュエルは人々に受け入れられている」

王馬「それと同じように、衝撃増幅装置とかで大怪我を負わせるデュエルも、珍しいタイプのデュエルとして受け入れられるんじゃないかな?」

遊勝「……」

王馬「もちろん、いくら珍しくても、そんな非人道的なデュエルをすれば、嫌悪感の方が強いし、何より衝撃増幅装置は違法アイテムだ」

王馬「それらを考えれば、普通は受け入れられないだろうけどーーー」

王馬「ーーーそういうデュエルをしている奴の発言力が高く、正義の使徒として認知され、やることが全肯定される状況にあるのなら話は別だ」

王馬「そんな状況にあれば、人々の嫌悪感は麻痺して、違法アイテムを使っていることも気にならなくなるかもしれない」

王馬「ただ、珍しいタイプのデュエルをやっているという事実だけが残る」

王馬「その珍しさに人々は歓喜し、当たり前のこととして社会全体が受け入れてしまう」

王馬「ありえなくない話だと思うよ?」

遊勝「……」





王馬「デュエルの力は本当にすごい」

王馬「デュエルが強ければ強いほど、発言力が増す」

王馬「『楽しいデュエルをしよう』とか、人間的感情から見て正しいことを言えば、それを体現する正義の使徒となり、その人物の言葉と行動に逆らえない空気が発生する」

王馬「そこで、その空気を発生させた人物がデュエルで誰かを可哀想な目にあわせても、当たり前のように受け入れられることになる」

王馬「デュエルが強く発言力が高ければ、どんな過激なパフォーマンスでも受け入れられるんだ」

王馬「例えそれが、衝撃増幅装置とかで、大怪我を負わせるデュエルであろうとも」

王馬「珍しいタイプのデュエルとして、当たり前のように受け入れられるようになる」

王馬「そうなれば、憧れて同じようなデュエルをする奴だって出てくるだろうし、それも受け入れられるかもしれない」





王馬「……だけど、過激なパフォーマンスを誰もがやってしまえば、いずれそれが完全に当たり前の社会へと変わる」

王馬「そんな社会で生きていれば、人々はその狂気に呑まれて心の在り様だって変わる」

王馬「心の在り様が変わってしまえば、先人の築き上げた倫理や道徳とかも歪んだ形に変貌していくことになる」

王馬「変貌の仕方次第では、デュエルに負けたら処刑される殺人ショーが法律で認められるようになってしまうかもしれない」

遊勝「……」

王馬「おじさんは、そんな未来が来ることを憂いている」

王馬「だからこそ、人類の革新が必要になるんだよ」





遊勝「……私が人類を革新させるメリット……動機についてはなんとなくわかったがーーーそれで?」

王馬「……」

遊勝「それでどうして、私のあのデュエルが、人類の革新と結びつくんだ?」

王馬「……おじさんがあんなデュエルをし続ける限り、必ずオレみたいな奴に反感を向けられることになるからだ」

王馬「反感を向けてくるそいつによって、おじさんが倒され、おじさんのデュエルは社会全体で否定されることになるからだ」

遊勝「……」

王馬「そう、おじさんがあんなデュエルをし続ける限り、おじさんのデュエルを否定しにかかる奴が絶対に現れる」

王馬「おじさんの人に恥をかかせるようなデュエルをやめさせるために、自分を鍛え上げておじさんをデュエルで打ち倒して、自分がおじさんよりも強いことを社会全体に見せつけようとするだろう」

王馬「デュエルの強い人間には発言力があるんだから」

遊勝「……」





王馬「おじさんをデュエルで倒せば、自分の発言力は跳ね上がる」

王馬「負けたおじさんよりも、高い発言力が手に入る」

王馬「その発言力をもって、おじさんのデュエルを言葉で否定しようとするだろう」

王馬「そうなれば、人々は、より高い発言力を持った者の言葉に倣い、相手に恥をかかせるデュエル……つまりは相手を無駄に可哀想な目にあわせるデュエルが間違っていると認識するようになる」

王馬「その認識のもと、人々はおじさんのデュエルビデオなどを見て、おじさんのデュエルを反面教師にする」

王馬「相手を無駄に可哀想な目にあわせるデュエルをしないようになる」

王馬「そんなデュエルが絶対に許されることの無い、新たな社会が誕生するんだ」

遊勝「……」

王馬「そんな社会であれば、おじさんよりも遥かに強い奴が現れても、そいつは、相手を無駄に可哀想な目にあわせるデュエルを自分からやらなくなるかもしれない」

王馬「やったとしても、同じ社会に住む人々が止めてくれるようになるかもしれない」

王馬「デュエルの力によって生じる発言力に抗い、間違ったデュエルを否定してくれるかもしれない」

王馬「おじさんは、そうした人類の革新をしようとしている」

王馬「そのために、あんなデュエルをして自分に反感を向けさせて、倒されようとしている」

王馬「そうでしょ? おじさん?」





遊勝「……キミの言うことには、疑問が3つある」

王馬「あっ、やっぱり?」

遊勝「……疑問だらけだ」

遊勝「まず一つ目の疑問だがーーーなぜ、そんな回りくどいことをする必要がある?」

遊勝「人類の革新とやらをさせたいなら、嫌われるようなデュエルをする必要は無い」

遊勝「普通に、理想的なデュエルを行い、それを手本として世界中の人々に示せば良い」

王馬「……」

遊勝「デュエルの強い人間には、発言力があるのだろう?」

遊勝「ならば、発言力がある状態で、理想的なデュエルを行い、その通りのデュエルを皆もやるように言えば良い」

遊勝「そうすれば、世界中の人々は、その理想的なデュエルに倣うはずだ」

遊勝「自らもそのデュエルと同じようなデュエルを行い、人に恥をかかせる……無駄に可哀想な目にあわせるデュエルとやらをしなくなるはずだ」

遊勝「理想的なデュエルならば大多数に受け入れられるだろうし、不満もそんなにはあるまい」

遊勝「そうやって理想的なデュエルの手本を示すやり方でも、充分に人類を革新出来るのではないかね?」





王馬「……それじゃあ、ダメなんだよ」

王馬「それじゃあ、誰もが、おじさんの猿真似をするばかりになる」

王馬「人々のデュエルに、独自性が失われていってしまう」

遊勝「……」

王馬「おじさんは、そんなことを望んではいない」

王馬「人それぞれ、自分に合ったデュエルを見つけ、その通りのデュエルをして欲しい」

王馬「そう思っているから、おじさんは、『どんなデュエルをすれば良いか』じゃなくて、『どんなデュエルをしてはいけないか』を示そうとしているんだ」

王馬「だからこそ、自分の人生を賭けて、長きに渡り間違ったデュエルを人々に見せつけ、その上で自分のデュエルを否定して貰う必要があるんだ」

王馬「そうやって、理想的なデュエルを明確に定義しなければ、人々のデュエルから、独自性が失われることは無いからね」





遊勝「……一つ目の疑問については解消された。答えてくれてありがとう、王馬くん」

王馬「どういたしまして! 嘘の答えだけど!」

遊勝「……ならば、二つ目の疑問についても答えて貰いたい」

王馬「うん、いいよ! これも嘘だけど!」

遊勝「ーーー仮に私が人類の革新とやらを目的にしているというのなら、なぜ早く名声を得ようとしない?」

王馬「……」

遊勝「キミの言う人類の革新をするためには、私は世界的に有名……プロデュエリストになる必要があるはずだ」

遊勝「世界的に有名な舞台で否定されなければ、世界中の人々の記憶に残らないだろうからね。それでは、人類単位での革新が出来ない」

遊勝「そして、私がものすごく強いというのなら、プロデュエリストになれない理由は無い」

遊勝「なのに、なぜプロデュエリストになっていないのかな?」





王馬「あー、それは、おじさんが後ろ暗い立場の人間だからだよー」

遊勝「……どういう意味かね?」

王馬「おじさん、まともな戸籍持って無いでしょ?」

遊勝「!」

王馬「おじさんの実力なら簡単にプロ試験に合格にしてプロになれるはずだ」

王馬「なのに、おじさんはプロになっていない」

王馬「それは、おじさんがまともな戸籍を持っていないからだよ」

遊勝「……」





王馬「それがどうしてかは知らないよ」

王馬「犯罪者のデュエリストが整形手術をして別人になりすましているのか、あるいはマッドな科学者によって製造されたデュエルロボだからなのか、あるいはデュエルモンスターズのカードに宿る精霊だったりするのか、あるいはもっと変わった事情を持つ何かだからなのかは、知らない」

王馬「……まあ、どんな事情にせよ、まともな戸籍を持っていない今の段階で有名になると、いろいろ身辺調査をされて、面倒なことになるかもしれない」

王馬「だから、やらない。違う?」

遊勝「……」

王馬「もっとも、これは今の段階の話だろうけどね」

王馬「Dr.フェイカー……だよね?」

王馬「おじさんの知り合いの、あの資産家の力で、どーにかこーにか、面倒なことにならない程度の戸籍を手に入れようとしているんでしょ?」

王馬「そうしてから、プロデュエリストになって、人類の革新をするつもりなんだよね?」





遊勝「……三つ目の疑問に移るが、人類の革新とやらがしたいのならば、私が名声を得てすぐにでも、公の場で衝撃増幅装置を使用し、デュエル相手に大怪我を負わせれば済む話だと思うがね?」

王馬「……」

遊勝「キミの話によれば、私に敗北したデュエリストとそのファンは、私の発言力に屈し自分の気持ちに嘘をついて不満を抑え、無理やり笑顔になっているようじゃないか?」

遊勝「そんな笑顔は仮面と同じだ。何かのはずみで不満が爆発すれば、笑顔は消え失せる」

遊勝「故に、私が違法アイテムである衝撃増幅装置を用いて相手のデュエリストに大怪我を負わせれば、そのデュエリストとそのファンの不満は爆発し、笑顔は消え失せることになる」

遊勝「無論、私がもっと強ければその発言力を盾に、より上手く不満を抑え込ませ、衝撃増幅装置の使用を正当化出来るかもしれない」

遊勝「だが、私程度の強さと発言力ではそこまでのことは出来まい。問題なく不満は爆発し、笑顔は消え失せることになるだろう」

遊勝「他の大勢の者たちも、衝撃増幅装置を用いた私のデュエルに強い嫌悪感を抱き、受け入れることはあるまい」

遊勝「そうなれば、世界中の人々は、私を否定するようになり、私やそのデュエルを……無駄に可哀想な目にあわせるデュエルとやらを反面教師にしてくれるはずだ」

遊勝「だが、キミの話によれば、デュエルで私を倒しに来る者を待つことになる」

遊勝「なぜ、そんなことをする必要がーーー」

王馬「あんたが理解者を欲しているからだよ」

遊勝「!」





王馬「……デュエルは、相手を理解しようとするコミュニケーションでもある」

王馬「つまり、デュエルする相手に対し、憧れみたいな感情に呑まれて盲目的になってしまえば、それはもう『デュエル』とは呼ばない」

遊勝「……!」

王馬「だからこそ、あんたは、本当の『デュエル』を……理解されることを望んでいる」

王馬「そうした目的もあって、あんたに憧れとは程遠い気持ち……反感を持ち、『デュエル』で倒しにくる者を待っている」

王馬「いや、ひょっとしたら、それが本当の目的で、人類の革新とかは後付けの目的でしか無かったりして!」

遊勝「……」

王馬「そこのところ、どうなの? 寂しがり屋のエンタメおじさん?」














遊勝「…………」














王馬「……おじさんの疑問には3つとも答えてあげたけど、おじさんとしては、どう思う?」

遊勝「……」

王馬「おじさんが人類の革新を大義に、わざとあんなデュエルをして、自分に反感を向けさせようとしているという話」

王馬「そのオレにとっての嘘っぱちは、おじさんにとって真実ってことで良いのかな?」

遊勝「……」

王馬「……ねえ、答えてよ?」



王馬「お・じ・さ・ん?」


今はここまで。

投下します。




遊勝「ーーー嘘か、真実か、それを決めるのは、キミだ。私ではないよ」

王馬「……」

遊勝「それに、キミのその豊かな想像が、私にとって嘘か真実であるかなど、キミならば私の反応だけでわかるだろう?」

王馬「えー? 普通にわかんないけど? だってオレ、エスパーじゃないしー?」

遊勝「故に、キミはもう、確認を終えた。これ以上、私に確認したいことも無いだろう」

王馬「そ、そんな……! 子供の言葉を無視するだなんて……あんまりだあああああ!!」ウワアアーンッ

遊勝「そして、今度は私から確認させて貰いたい」

遊勝「キミは私をどうするつもりなのかな?」

王馬「……」





遊勝「おそらく、キミは、先ほど述べた豊かな想像が真実であると仮定していると思う」

遊勝「そして、キミは、ひょっとしたら私のことが、とても気に入らないんじゃないかな?」

王馬「……」

遊勝「ならば、どうするというのだね?」

遊勝「悪の総統らしく、私を始末するのかな?」

遊勝「だが、こうしてキミと接触した後に、私に何かあれば、キミが疑われることになる」

遊勝「キミも気づいているとは思うが、さっきまでの会話は通信でDr.フェイカーの方まで流しているからね」

王馬「……」

遊勝「故に、Dr.フェイカーは、私とキミが接触したことを知っている。その後に、私に何かあれば、当然のごとくキミが疑われることになる」

遊勝「そう、Dr.フェイカー、戸籍の偽造さえも可能と目されるほどの資産家に、疑われることになるんだ」

遊勝「王馬くん、それでも、私を始末するつもりーーー」

王馬「バッカじゃないの、あんた?」

遊勝「……」





王馬「……そもそも、あんたを始末するつもりなら、こんな風に接触したりはしないからねー?」

遊勝「……ほう?」

王馬「悪・即・斬! 目で見て気に入らないものは、速攻で排除!」

王馬「悪の総統らしく、裏からサクッとやっちゃえばOKってわけだ!」

王馬「それをしない時点で、あんたを始末するつもりなんて無いに決まってるじゃん! 嘘だけど!」

王馬「なのに、そんな風に身構えるなんて、おじさんも案外抜けてるんだねー!」

遊勝「……ならば、どうする?」

遊勝「私を始末しないというのならば、何をーーー」

王馬「おい、デュエルしろよ」

遊勝「!」

王馬「……デュエリストには、デュエルで引導を渡す」

王馬「それがオレの美学なんだ! 嘘だけど!」





遊勝「……なるほど、キミは今すぐに『デュエル』して、私が再起不能になるまで、精神的に徹底的に打ちのめすつもりなんだね?」

王馬「……まあ、確かにデュエルは挑むけどさーーー」

王馬「ーーーだけど、それはまだ先の話だよ。今の段階で、そんなことするわけないじゃん」

遊勝「? 王馬くん、もしかして、キミは、今ここに自分のデッキを持って来ていないのかな?」

王馬「……それも理由の一つではあるけどさ」

王馬「そもそも、オレ、本業デュエリストじゃないし、まだ高校生にもなっていない子供なんだよ?」

王馬「それに対して、あんたはプロデュエリスト養成学校であるクローバー校の教師。しかも、デュエルの強さによる発言力で、負けた側の不満を抑えつけて笑顔に出来るくらいには、デュエルが強いおっさんだ」

王馬「そんな相手に、今の段階で、デュエルを挑むとか本気で思っているの?」





遊勝「……キミも案外臆病なようだ。クローバー校の生徒たちは何度負けようと、私に勝つために何度もデュエルを挑み続けているというのに」

王馬「いや、オレは、当たり前の選択をしているだけだよ?」

王馬「おじさんの生徒たちはどうなのか知らないけど、オレはデュエリストであると同時に、悪の組織の総統でもあるんだよ?」

王馬「部下の気持ちを背負っている、責任ある立場なんだよ?」

王馬「……その責任ある立場の人間が、何の準備もせず、強大な相手に立ち向かうわけないじゃん」

王馬「それで敗北……いわゆる大失敗をしたら、オレは、オレに気持ちをくれた部下を侮辱することになるんだからさー」

遊勝「……」

王馬「……あんたのような存在に負けたとなれば、尚更だ」

王馬「その事実を隠し通すにしても、全ての部下に隠し通せるわけじゃない」

王馬「オレと共にデュエルを行う方の部下……オレのデッキのカードたちには、どうやったって隠し通せっこないんだから」

王馬「その上で、おじさんに今すぐ立ち向かう?」

王馬「無責任にも程があるだろ、そんなの」














遊勝(……理屈はわかるがーーーそれでも、キミのその考え方は、いささか潔癖過ぎると私は思うがね)














王馬「……2年だ」

遊勝「!」

王馬「あと2年でオレは、もっともっと強くなる」

王馬「その時に、おじさんにデュエルを挑むとするよ。嘘だけど!」

遊勝「……なるほど、2年か」

遊勝「王馬くん、もしかしてキミは、私が2年かけて充分な戸籍を用意し、プロデュエリストとなる準備を終えると思っているのかな?」

遊勝「そうしてプロとして有名になれた私に『デュエル』を挑み、公共の電波で世界放映される中、私のデュエルを否定しこき下ろし、間違ったデュエルとして世界に晒すつもりなのかな?」

王馬「……あははー! 何言ってんの、おじさん! そんなつまらなくて笑えないことするわけないじゃん!」

遊勝「……」

王馬「……2年後、おじさんがプロになっているかは知らないけど、オレはおじさんとつまらなくなくて笑えるデュエルをする」

王馬「そう、誰もが笑えるデュエルをする」

王馬「観客も、オレも、あんたでさえもだ」

王馬「そんなデュエルをされたが最後、おじさんは感動のあまり、もうあんなつまらなくて笑えないデュエルは出来なくなるだろうねー! 嘘だけど!」





遊勝「……良いのかい? それでは世界中の人たちに対し、私やそのデュエルが間違ったものであると示すことが出来ない」

遊勝「人類の革新とやらが、実現出来なくなってしまうよ?」

王馬「そもそも、そんなことやっちゃダメなんだよ」



遊勝「……」



王馬「……あんたやそのデュエルが間違ったものであると世界中の人たちに向けて証明する」

王馬「それは、世界中の人たちに対し、無理やり試練を押し付けるも同然だ」





遊勝「試練、か」

王馬「そう、試練」

王馬「あんたのやろうとしていることは、今まで自分たちに笑顔をもたらしてきたあんたやそのデュエルを、間違ったものであると認めることが出来るかどうかを試す試練でもあるんだ」

遊勝「……」

王馬「だけど、どんな試練も、無理やり押し付けられるべきものじゃない。自分から望んで取り組むべきものなんだよ」

王馬「どんな試練も、無理やり押し付けられたら、それについていけない奴が壊れることになる」

王馬「……例えば、あんたを心の底から信じているピュアな人たちがいたとして、そいつらがあんたやそのデュエルを間違ったものと認められると思う?」

遊勝「……」

王馬「認められるわけが無い」

王馬「あんたやそのデュエルが間違ったものであると世界中の人たちに示したりすれば、あんたを心の底から信じているピュアな人たちが壊れるだけだ」

王馬「そんな、つまらなくて笑えない真似、出来るわけないでしょ?」

遊勝「……」





王馬「それに、おじさんの望み通り、人類を革新出来るとは限らないしーーー革新出来たとしても、長くは保たない」

王馬「時間が経てば経つほど、人はおじさんやそのデュエルについて、忘れるだろうしーーー」

王馬「ーーーそれで、革新出来た世代の人間がいなくなった時、つまりは百年後には完全に元通りだ」

王馬「もし、百年後も革新を維持出来たとしても、それは実体験の伴わない盲目的なものに変貌してるだろうねー」

王馬「そんな革新、いつ崩れ去っても、おかしくない」

遊勝「……」

王馬「しかも、おじさんの革新は、あくまでデュエルスタイルが間違った方向にいかないようにするものだ」

王馬「それ以外でのデュエルの悪用を防ぐことは出来ない」

王馬「例えば、おじさんよりも遥かに強いデュエリストが、デュエルの力による発言力で支持率を集めて政治家になって、無茶苦茶な法律を押し通すだとかそういう問題には対処出来ない」

遊勝「……」

王馬「おじさんのやることは、根本的な解決にはならないんだ。いや、おじさんはそれしか出来ないから、そうするしか無いんだろうけどさ」

王馬「そんな、つまらなくて笑えないことに、協力する気は無いよ」

王馬「……そんなことをするくらいなら、つまらなくないことを考えて、笑えることをした方がよっぽど楽しい」

王馬「少なくとも、オレは、そう思うよ! 嘘だけど!」





遊勝「……なるほどね」

遊勝「まあ、人類の革新についてはさておき……王馬くん、キミとの『デュエル』は中々に楽しめそうだ」

王馬「えっ、オレ? デュエルするのは千年マフラーに宿った闇王馬だけど?」

遊勝「……騙されたと思って2年、キミを待ってみるのも悪くは無いかもしれないね」

王馬「……うんうん! それこそ、騙されることの醍醐味って奴だよー! おじさん、わかってるー!」

遊勝「ははっ、私もそう思うよ」

遊勝「2年後にまた会おう、王馬くん」

王馬「えーっ、ムリだよ! だって、全部、嘘だから!」

遊勝「……」ニコッ






~~~~~~~~

~~~~~~

~~~~

~~





ー現代・2年後のエクシーズ次元の家屋ー



遊勝(……3ヶ月だ)


遊勝(あと3ヶ月で、キミと約束した、2年目に到達するよ、王馬くん)


遊勝(私は、 “ キミには ” 逃げも隠れもしない)


遊勝(キミは、私と『デュエル』するに足る、掛け替えの無い存在なのだから)


遊勝(……あれほどまでに悪意ある想像を私にぶつけてくれたのは、キミがはじめてなんだ、王馬くん)


遊勝(もはや私の記憶でしか証明する術は無いがーーー私が前に住んでいた世界に、キミほどの人間はいなかった)


遊勝(……『デュエル』とは、心理戦だ)


遊勝(相手の思考や行動を先読み……すなわち相手を理解しようとする力が必要になる)


遊勝(それに必要なものが、想像力であり、悪意でもあるのだ)


遊勝(王馬くん、私は、キミとの『デュエル』が楽しみで仕方が無い)


遊勝(準備が出来次第いつでも来ると良い)


遊勝(私はいつだって受けて立とう)





遊勝(しかし、試練は自ら望んで取り組むもの、か……)


遊勝(……実に、その通りだと思うよ、王馬くん)




遊勝(ただ、私が定義する『自ら望んで取り組む』とは、自分の責任で行うことを意味するのだがね)


遊勝(故に、その結果、自分が破滅しようと、その時の自分がそれまでの人間だったというだけの話なのだよ、王馬くん)




遊勝(……自分の責任で何かを行えば、それは自分のせいになる)


遊勝(自分の責任で行ったことの結果は、自分で受け止めなくてはならないからだ)


遊勝(つまり、自分の意思(責任)で誰かを信頼すれば、その誰かが間違いを犯したとしても、その結果を自分で受け止めなくてはならない)


遊勝(それこそが、『自ら望んで取り組む』ということの意味なのだ)


遊勝(ならば、その結果、自分が破滅しようと、その時の自分がそれまでの人間だったというだけの話なのだよ)





遊勝(……例えば、王馬くんが間違いを犯し、その結果、私が『デュエル』で笑顔になることが出来なくなったというのなら構わない)


遊勝(もちろん、笑顔になることが出来なければ私は悲しいし、壊れてしまいそうな気持ちにもなるだろう)


遊勝(だが、構いはしない)


遊勝(何故ならその悲劇は、間違いを犯す人間を信頼し、間違いを犯さないよう正してあげることすら出来なかったことが原因だからだ。つまりは、当時の自分の責任でもあるのだ)


遊勝(そう、相手の本質を理解しきれず正してあげること叶わず、ただ信頼してしまった、当時の自分の責任なのだ)


遊勝(いや、むしろ自分の責任であるが故に、それだけ強く、己の中に歴史として刻み込み、教訓とすることも出来る)


遊勝(人はその教訓を胸に、これからは間違えないよう、理解力を高めようとする)


遊勝(その理解力をもって、これから自分が信じるべき人間を考え抜き、その人間たちを支え、真実(まこと)の信頼関係を築いて、笑顔になる道を目指すことも出来る)


遊勝(……振り子と同じだ。大きく振れば、それだけ大きく戻る)


遊勝(つまり、自分の意思(責任)で誰かを信頼すれば、結果的に裏切られても、それを教訓に理解力を高め、新たな信頼関係と笑顔を築きあげることも出来るということだ)


遊勝(それだけの、リターンを手に出来るかもしれない)


遊勝(故に、もし、王馬くんが間違いを犯し、その結果、私が『デュエル』で笑顔になることが出来なくなったというのなら、まったく構わない)





遊勝(……だからこそ、零王。キミによる一方的な侵略戦争の結果、『デュエル』で笑顔になることが出来なくなるなど、あってはならなかった)


遊勝(その戦争で、『デュエル』で笑顔になることが出来なくなるのが、私だけならば構わない)


遊勝(その悲劇は、キミが戦争を引き起こすような人間であると長いこと理解しきれず、親友としてキミを正すことも出来なかった私自身の責任だからだ。戦争を止められなかった当時の自分がそれまでの人間だったということなのだ)


遊勝(……だが、王馬くんには、エクシーズ次元で産まれた人たちには、何の責任も無い)


遊勝(王馬くんを含むエクシーズ次元で産まれた全ての人たちは、零王、キミとは何の関係も無い人間だからだ)


遊勝(なのに、零王、キミによる一方的な侵略戦争によって、王馬くんが……エクシーズ次元で産まれた全ての人たちが、『デュエル』で笑顔になる未来を奪われるかもしれないだと……!)


遊勝(……ふざけているにも程がある)


遊勝(その悲劇は、エクシーズ次元の人間の責任などでは断じて無い)


遊勝(エクシーズ次元の人間は、零王、キミをまったく知らないのだ。知らない人間を理解しようとすることなど出来るはずが無い。理解しようの無い相手を理解出来かったとして、誰がそれを責められよう)


遊勝(エクシーズ次元の人間に、責任があるはずが無いのだ)


遊勝(自分の責任でも無いことを己が歴史に刻んだとして、どうやって己が教訓とすれば良い?)


遊勝(そう、自分に責任が無いことでは、人はその分だけ教訓を……リターンを得ることが出来ない。自分では無い、誰かのせいにすることしか出来ないからだ)


遊勝(そうした理由もあって、零王。キミによる一方的な侵略戦争の結果、『デュエル』による笑顔が奪われてしまうことなど、あってはならなかった)





遊勝(だから、私は、あの日、一刻も早くキミを止めようとした)


遊勝(戦争はいつ起きるかわからない。一刻も早く止めなくてはならなかった)


遊勝(それ故に、ストロング石島とのチャンピオン決定戦の日、未完成の次元転送装置を半ば強引に使用し、融合次元まで向かうことを決意した)


遊勝(失敗すれば、次元の藻屑となるかもしれないと理解しながら)


遊勝(成功しても、融合次元の敵として処刑されるかもしれないと理解しながら)


遊勝(生命が助かったとしても、二度と元いた世界に戻れず、家族・後輩・生徒・ファン……私が大切に想う全ての人たちの信頼を裏切り、繋がりを失うことになるかもしれないと理解しながら)


遊勝(そんな恐怖と絶望に直面し、壊れそうになりながら)


遊勝(それでも尚、一刻も早くキミを止めるために、未完成の装置を半ば強引に使用したのだ)





遊勝(……泣きたい時は笑え。縮こまってちゃ、何も変わらない。成し遂げたいことがあるなら、勇気をもってまっすぐ前に出ろ)


遊勝(そう、どんなに可能性の小さなことであっても、恐怖を乗り越え勇気をもって実行すれば、一刻も早く戦争を止められるかもしれなかった)


遊勝(そうして、戦争を回避して、平和を守れたかもしれなかったのだ)


遊勝(故に、私は、自分の気持ち……恐怖と絶望に嘘をついた)


遊勝(……上手く行かなくても構わないと、すべては自分の責任なのだから構わないと、正論をもって自分の気持ちに嘘をついたのだ)


遊勝(そうすることで、その嘘の正論はやがて真実に変わり、心の底から構わないと思えるようになった)


遊勝(私は若い時からずっと、そうやって目の前の恐怖と絶望を乗り越えて来た。ならば、同じように乗り越えられない理由は無い)


遊勝(そうして、恐怖と絶望を乗り越えた後は、真実(まこと)の勇気と希望を手にして、まっすぐ前に出た)


遊勝(自分の気持ち……恐怖と絶望に嘘をついて、真実(まこと)の勇気と希望を手にしたこそ、あの日、一刻も早くキミを止めようとすることが出来たのだ)





遊勝(……もっとも、結果的に融合次元に行くことが叶わず、家族たちの信頼を裏切り、失うことになったのだがーーー構わない)


遊勝(己が天運を過信し、焦って早まったことをしてしまった、当時の自分の責任でもあるのだから)


遊勝(ならば、これからは、それを教訓にして生きるだけのこと)


遊勝(私の天運……身の程は理解した。もはや焦っても意味は無いだろう)


遊勝(ここで得た新しい生徒たちに、デュエルと笑顔の素晴らしさを教え続けるとするよ、零王)





遊勝(……零王、私はキミが踏みとどまってくれることを心から願う)


遊勝(キミも私と同じ、心を持つ人間のはずだ。ならばわかるはずだ)


遊勝(キミによる一方的な侵略戦争の結果、『デュエル』による笑顔が奪われてしまう)


遊勝(王馬くんの、エクシーズ次元の人たちの、『デュエル』による笑顔が奪われてしまう)


遊勝(自分の責任でも無いのに、奪われてしまう)


遊勝(それがどれだけ理不尽なことか、わかるはずなんだ)


遊勝(だから、頼む、零王。戦争なんてしてくれるな)


遊勝(踏みとどまるべきだ)


遊勝(……心を持つ、同じ人間として、どうかこの気持ちを裏切らないでくれ、零王……!)



ガチャッ…



夢野「……おはようじゃな、榊遊勝」





遊勝「ーーーああ、夢野さんか。おはよう」ニコッ

デニス「good morning ! 先生、ボクもいることを忘れないでくださいよ?」

遊勝「もちろんだ。おはよう、デニス」

夢野「榊遊勝、デニスから連絡を受けているとは思うが、今日からウチはーーー」

遊勝「わかっているよ。キミは私と『デュエル』がしたいのだろう?」

夢野「んあ……そうじゃな」

遊勝「構わないよ。私はキミたちが『デュエル』しようとする意思ある限り、逃げも隠れもしない」


デニス(先生と夢野さんのデュエル……ワクワクが止まらない!)


遊勝「……さあ、楽しい『デュエル』をしよう! 夢野さん!」

夢野「んあ……!」














「「デュエル!!」」











今日はここまで。

なんか気楽に読んでたけど凄いテーマのssだな

>>143

お読み頂きありがとうございます。励みになります。

続きを投下させて頂きます。




ー2ヶ月後・未来機関第一支部ー



支部長「ーーー仕方が無い。これより近日中に、全ての超高校級は、その才能と記憶を封印し、それぞれの出身国から見た国外で、一般人として生きて貰うことにする」

職員「なっーーー」

支部長「我々の薬物技術ならば、可能だ」

支部長「キーボくん……あのロボットには、また別の方法を試みることになるだろうがな……」

職員「いや、しかしーーー」

支部長「つい最近発生した、超高校級の集団失踪事件は、知っているだろう?」

職員「……ええ、まあーーー」

支部長「私は、あれを、誘拐事件であると見ている」

職員「!」

支部長「しかし、犯人グループは未だ特定出来ていない……」

職員「……」





支部長「……また、あのようなことが起きては一大事だ。故に、全ての超高校級には、犯人グループを検挙するまで、薬物投与で才能と記憶を封印し、それぞれの出身国から見た国外で、一般人として生きて貰う」

支部長「そうして、犯人グループの目から超高校級を隠すのだ。もちろん、厳重に監視はするが……」

職員「……」

支部長「超高校級の才能は、時に人の生命を奪う兵器となる」

支部長「それほどの才能の持ち主が、世界各国から合計百人以上も誘拐されたのだ。これ以上、誘拐されたらどうなる?」

支部長「そうした多くの才能が、我々を含めたありとあらゆる人々の生命を奪うことに使われたらどうなる?」

支部長「私は、それがとても恐ろしい」

職員「……」

支部長「そんなことになれば、この希望に満ちた世界が、絶望によって崩れ去ってしまうかもしれない」

支部長「それだけは絶対に避けねばならないんだ。我々は何としても、この希望に満ちた世界を、絶望の魔の手から守り通さなくてはならない」

支部長「キミも、それを理解して欲しい」

職員「……承知しました」





支部長「すまないな、こんなことに巻き込んでしまって……」

職員「……いえ、支部長の言っていることは、正しい」

職員「此度の事件が誘拐事件だとすれば、犯人グループは、あれほどまでの大規模な誘拐に成功したことになる」

職員「それだけ強大な相手となれば、当然の警戒でしょう」

支部長「……」

職員「……しかし、犯人グループは、どうやってそんなことを可能にしたのでしょうか?」

職員「あれだけ大規模な犯行をすれば、必ず足がつくはずですが、まったくと言って良いほど尻尾を掴ませない」

職員「……これではまるで、犯人グループは異世界からの侵略者で、超高校級はその異世界に連れ去られたかのようではありませんか」

支部長「……私にも、わからん」

支部長「だが、犯人グループが如何なる存在であるにせよ、これ以上の誘拐は防がねばならない」

支部長「才能と記憶の封印、実行するぞ」

職員「はっ……」





ー希望ヶ峰学園・女子寮ー



夢野「すまんのう、デニス。 電話ごしでしか話せなくてな……」

デニス『……しょうがないよ。超高校級の集団失踪事件が発生して未だに解決していないんだからさ』

デニス『残り少ない超高校級のキミが、警備の厳重な希望ヶ峰学園の寮で待機する。それは仕方の無い当然の話だと思うよ?』

夢野「まったく、何であんなことになったんじゃ……」

デニス『……本当、何でだろうね?』





夢野「……それはそうと、デニス。今日の電話は、いつもかけてくる時と比べて、かなり早くかけてきたのう」

デニス『……うん、そうだね』

夢野「何か、ウチに急いで伝えたいことでもあるのか?」

デニス『……』

夢野「……何度も言うようじゃが、《RUMーマジカル・フォース》の返却は受け付けんぞ?」

夢野「確かに、あのカードは高額じゃったが、ウチはお主にデュエルを教わり続けていたんじゃ」

夢野「あのカードは、そのお礼じゃ」

夢野「胸を張って使えば良いのじゃ」





デニス『……もちろん、そのつもりだよ』

夢野「!」

デニス『何度もそう言われておきながら返却するだなんて、却ってキミに失礼だ』

デニス『それに、あのカードは、ボクのデッキと合うし、シャドーメイカーなども出しやすくなる』

デニス『本当に、嬉しいプレゼントだったよ……』



夢野「んあ!? そ、そうか……!」














夢野(嬉しい、のう……!)














夢野「ーーーんあ? じゃが、そうなると、今日早く電話をかけてきたのは、違う理由ということになるのう」

デニス『……そうだね』

夢野「結局なんなんじゃ? その理由は?」

デニス『……ボクが人を探している、ということは前に一度話したよね?』

夢野「んあ……? そういえば、いつだったか、お主は『自分が持っている顔写真と同じ顔の人物を探している』と言っておったな……」

夢野「? もしや、お主ーーー」

デニス『そう、実は、会ってしまったんだよ』



夢野「!?」



デニス『……ボクが持つ顔写真と同じ顔の人物にーーー』







デニス『ーーー会ってしまったんだよ』





夢野「……んあ!? それは本当か!?」

デニス『……うん、その人は、顔写真の顔と間違いなく同じ顔をしていた』

デニス『毎日のように写真を見て確認していたからね……探し人はあの人で間違いないよ』

夢野「……!」

デニス『……会えてしまった以上、ボクは、その事実を認めなくていけないーーー』



デニス『ーーーそれも、一刻も早くに、だ』



デニス『……だからこそ、会えてしまった事実を、一刻も早くキミにも伝えることで、己に強く印象付けようと思ったんだ』

デニス『そのために、ボクは、今日早くキミに電話をかけたんだ』





夢野「そうか……」

デニス『……』

夢野「強く印象付けるだとか……ウチには、ようわからん理屈じゃがーーー探し人に会えて、良かったではないか」

デニス『……』

夢野「……それで、その後どうなったんじゃ?」

夢野「デュエルは、したのか?」

デニス『……』

夢野「……んあ、デニスよ。何を黙っておる?」

夢野「ウチはお主が探していたという、そやつのことを全く知らんのじゃぞ? そやつが男か女かも知らん」

夢野「何も言わんのでは、そこからどうなったのか、ようわからんでは無いか」

デニス『……』

夢野「……なんじゃ? どうした?」



夢野「会えて、嬉しくないのか?」



デニス『……いや、何でもないよ』





夢野(……なんじゃ、デニス?)


夢野(元気が無いようじゃが……)


夢野(……この感じ、これではまるでーーー)


夢野(ーーー最後に会った時の、お師匠様のようなーーー)



デニス『……』



夢野「ーーーデニスよ」



デニス『……何かな?』



夢野「また、ウチとデュエルしてくれ」





デニス『……えっ、?』

夢野「……」

デニス『どうしたの、急に?』

夢野「……なんでも無いわい」

夢野「なんとなく、じゃ」

デニス『……』

夢野「なんとなく、言わなくてはならない」

夢野「そう、思ったのじゃ」





夢野(……そうじゃ、なんとなくーーー)



デニス『……』



夢野(ーーーこう言わんと、どこかに行ってしまう)



夢野(そんな気がしたんじゃーーーー)














デニス『………………』














デニス『ーーーわかったよ、夢野さん』

夢野「!」

デニス『約束だ! またボクとデュエルしよう!』

夢野「……ありがとな」

デニス『……キミからも約束してくれるかい? 夢野さん?』

夢野「……もちろんじゃ。ウチからも約束するわい」

夢野「……もし、破ってみい! ウチのマジカルコンボでギッタギタじゃぞ?」

デニス『えっ、? ひょっとして、またキミのマジカルコンボでライフで回復しまくってから、《お注射天使リリー》三体でボクにダイレクトアタックする気?』

デニス『あれは、心臓に悪かったなあ! ハハハ!』

夢野「たわけ! 《魔導師の力》を三枚がけしてトラピーズマジシャンをパワーアップさせてダイレクトアタックしたあと、《カタパルト・タートル》で打ち出したことのあるお主よりはマシじゃ!」

デニス『いや待ってよ! あの時はキミのマジカルコンボ……《サベージ・コロシアム》と《レインボー・ライフ》によるライフ回復で、キミのライフが三万ポイント近くあったんだよ? 仕方無くない?』

夢野「何を抜かすんじゃ!? そうなったのも、元はといえば、お主が魔法でトラピーズマジシャンの攻撃力を一万ポイントもアップさせたからじゃろうがーー!!」

デニス『いやいや! そうなったのも、元はといえばーーーー』






………





ピッ……!






デニス「………………」








デニス(……あーあ)


デニス(会いたく、なかったなあ……)


デニス(何で、いま、あの娘に……黒咲瑠璃に会っちゃったんだろうなあ、ボク……)


デニス(いま会わなければ、もっと大道芸をしていられたかもしれないのに……)


デニス(勝ち負けを気にしなくて良いデュエルを、やり続けられたかもしれないのに……)


デニス(夢野さんと、先生と、楽しくデュエルしていられたかもしれないのに……)


デニス(その上で、もっとデュエルに強くなれたかもしれないのに……)


デニス(もっと強くなれれば、夢野さん、先生……ユーリのことだって、もっと理解出来るようになれたかもしれないのに……)


デニス(そうすれば、みんなで笑いあえる……エンタメデュエルを、出来るようになれたかもしれないのに……)


デニス(戦争だって、ボクのエンタメデュエルで、起こる前に無くせたかもしれないのに……)


デニス(……そんな、魔法のように甘い、平和な世界が、あったかもしれないのにーーーー)





デニス(ーーーでもそうなる前に、ボクは、あの娘に……黒咲瑠璃に会ってしまった)


デニス(黒咲瑠璃は、ボクの大道芸の、観客となってくれてしまった)


デニス(黒咲瑠璃は、ボクの記憶に残ってしまった。故に、ボクがアカデミアに帰還したが最後、その際に使用される記憶照合マシーンによって、黒咲瑠璃……セレナと同じ顔の人物と接触したことは、確実にアカデミアにバレてしまう)


デニス(それを機に、戦争が、始まってしまう)




デニス(……そう、それが全てなんだよ)




デニス(……定期的にアカデミアに帰らなければ、ボクはデュエルディスクに内蔵された次元転送装置を遠隔操作され、強制送還させられる……)


デニス(……だからと言って、デュエルディスクから離れようにも、ボクはボクのディスクから、あまり遠くまで離れることが出来ない)


デニス(遠くまで離れると、ディスクに内蔵された次元転送装置が自動で作動し、ボクとディスクをアカデミアに強制送還させてしまうからだ)


デニス(もちろん、デュエルディスクを破壊するわけにも行かない。そんなことをすれば、内蔵された次元転送装置まで連動して破壊され、その影響で周囲の空間に異常を発生させ、ボクが次元の藻屑になる可能性が高い)


デニス(……ボクは、生きている限り、アカデミアから逃れることは出来ないんだ)


デニス(ボクは生きている限り、必ずアカデミアに帰還することになり、その際に使用される記憶照合マシーンによって、黒咲瑠璃と接触したことがアカデミアにバレてしまう)


デニス(その情報を元に、アカデミアは必ず黒咲瑠璃を探し当てるだろう)


デニス(結局、エクシーズ次元との戦争が、始まってしまうことになるんだ)





デニス(……アカデミアでの記憶照合を拒否することも出来ない。そんなことをすれば、裏切り者の烙印を押され、ユーリに処刑されることになる)


デニス(ユーリは、あのアカデミアの中で、ただ一人だけ、トラピーズマジシャンを受け入れてくれた……)


デニス(……そのユーリに処刑されてしまうんだ)


デニス(今のままのボクじゃ、ユーリに勝てる可能性は限りなくゼロに近い……)


デニス(……エンタメデュエルで笑顔にするなんて、夢のまた夢だ)


デニス(ほぼ間違いなく処刑されることになるだろう)


デニス(……仮に、処刑を免れたとしても、あの【剣闘獣】使いような幽閉生活か、ドクトルのモルモット生活が関の山)


デニス(そう、ボクが裏切り者に堕ちたところで、ボクは大切なものを全て失うだけで終わる)


デニス(人との繋がりを……全て失うだけで終わってしまうんだ……)





デニス(……これ以上、何かを考えるのはよそう。ボクらの未来は、プロフェッサーに考えて貰えば良いんだから)


デニス(甘くて楽しい夢はこれで終わり。魔法のような、秘密のひと時はこれで終わり)


デニス(時計の針は動き、また別の夢がはじまる。そう、ここからはーーー)


デニス(ーーー悪夢(ハンティングゲーム)の時間だ……)






~~~~~~~~

~~~~~~

~~~~

~~








夢野「……あれからウチはーーーー」









デニス「ボクはーーーー」






~~~~~~~~

~~~~~~

~~~~

~~

















「「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」














今はここまで。

次回からは、一気に時が飛びます。

今はここまで。

次回からは、一気に時が飛びます。

投下します。




ー1年後・ペンデュラム次元・遊勝塾のデュエル場ー



バタンッ……



夢野「……久しぶりじゃのう、デニスよ」

デニス「夢野さん……」

夢野「すまんの、ペンデュラム次元まで呼び出して……」

デニス「……」

夢野「……ウチはお主と久しぶりに話がしたいと思っておる。そのために、ペンデュラム次元まで呼び出した」

夢野「……エクシーズ次元や融合次元でも話は出来るのじゃが、ウチが融合次元に行くにせよ、お主がエクシーズ次元に行くにせよ、そこで落ち着いて話が出来るとは限らんからのう」

夢野「次元戦争は、まだまだ、終わったばかりなのじゃからな……」

デニス「……」

夢野「故に、榊遊勝に頼んでここを貸して貰い、エクシーズと融合のどちらでもないペンデュラム次元まで呼び出させて貰った」

夢野「すまんの……」

デニス「……キミが謝る必要は無いと思うよ?」

デニス「キミは当たり前のことをしているだけだし、ボクはそれに応えなければならない義務がある」

デニス「……だから、キミが謝る必要なんて、ぜんぜん無いんだ」

夢野「……」





夢野「……あー、この前の、お主と榊遊矢とのデュエル、観ておったぞ」

デニス「……」

夢野「最初が、ちと頂けんかったがーーーそれでも終わりは良かった」


夢野(ウチが渡したカード、《RUMーマジカル・フォース》も使ってくれたからの……)


夢野「……本当に、良いデュエルじゃったぞ、デニス」



デニス「……喜んでくれたのなら、何よりだよ」








夢野「…………」






デニス「…………」








夢野「……本題に移るが、デニスよーーー」

デニス「?」

夢野「ーーーウチとデュエルしてくれ」

デニス「!?」

夢野「ウチはペンデュラム次元で、プロデュエリストになる」

デニス「なっ、!?」

夢野「理由はもちろん、お金を稼ぐためじゃ」

夢野「エクシーズ次元の復興は、融合次元からの賠償金……つまりはお主たちの税金によって賄われておるが、それだけでは復興のスピードが遅くなる」

夢野「故に、デニス。お主はプロデュエリストになって高い収入を得て、そのほとんどをエクシーズ次元に渡そうと思っているそうじゃな? 榊遊勝はそう言っておったぞ」

デニス「……」

夢野「……ウチも、そうやって、お金を稼いで、エクシーズ次元の復興の役に立たねばならんと思った」

夢野「無論、それは、ウチのマジカルショーだけでも可能じゃが、プロデュエリストとして名を馳せた上でショーをすれば、より客は入り……興行収入は高くなる」

夢野「それに加えて、プロデュエリストとしての収入も加わる」

夢野「プロデュエリストにならん手は無い」

夢野「じゃからこそ、デニス。お主には、ウチがプロになる実力を身につけるための、そのデュエル相手になって欲しいのじゃ」





デニス「……良いのかい、夢野さん?」

夢野「……何がじゃ?」

デニス「……確かに、キミのデュエリストとしての素質を考えれば、ボクとデュエルして強くなって、プロデュエリストを目指すことも出来るだろう」

デニス「だけど、キミはそれで良いのかい……?」

夢野「……」

デニス「……ボクらアカデミアが、何をしていたのか、キミだって知らないわけじゃないだろう?」





夢野「……もちろん、知っておるわい」

夢野「赤馬零王に言われるがままに、フワフワしたようわからん理想郷がために、エクシーズ次元の街を破壊し、人々をカード化していたこともーーー」



デニス「……」



夢野「ーーーウチら超高校級を誘拐して、VR空間……仮想世界でコロシアイをさせたこともーーー」







夢野「ーーー全部、知っておる」





デニス「……仮想世界での、コロシアイが何の目的で行われたかも知っているんだろう?」

夢野「……そうじゃな、あのコロシアイの目的は、エクシーズ次元を守っている未来機関を、デュエルを介さずにカード化するためじゃ」

デニス「……」

夢野「エクシーズ次元は、未来機関のデュエリストによって守られていたからのう」

夢野「……無論、ハートランドやその付近を守っていた未来機関は運悪くほぼ壊滅したそうじゃが、未来機関の全てが、ハートランドやその付近と同じように壊滅しているわけでは無かったのじゃ」

夢野「ハートランドという一つの市に救援を寄越すまでの余裕は無かったようじゃがーーーそれでも未来機関は、このエクシーズ次元の各地でアカデミアの侵略を食い止め続けていたのじゃ」



夢野「そうした未来機関のデュエリストは強かった」



夢野「いくらアカデミア兵がデュエルを挑んでも、相手が未来機関のデュエリストでは、大概のケースで返り討ちか、引き分けまで持っていかれてしまうわい」

夢野「そして、人をカード化する場合は、対象の人物にデュエルで勝利する必要があったのじゃ」

夢野「故に、返り討ちや引き分けにされたが最後、カード化は不可能」

夢野「じゃが、アカデミアのカード化システムは、条件を満たせば、デュエルを介さずにカード化することが可能じゃった」

デニス「……」

夢野「……そう、カード化の対象となる人間の心が、ある程度絶望に呑まれた状態であるという条件下ならば、デュエルを介さずにカード化することが可能となるのじゃ」





夢野(……無論、カード化に必要な絶望の量には個人差があり、デュエルが強い者であればあるほど、多くの絶望が必要だったようじゃがな)



デニス「……」



夢野「……そして、そうした絶望に呑まれさせる手段こそが、コロシアイだったのじゃ」

夢野「そう、かつて江ノ島盾子が、希望を打ち砕いて世界中の人間を絶望させるために、超高校級の生徒にコロシアイをさせたように」

夢野「赤馬零王もまた、未来機関の希望を打ち砕いて所属するデュエリストを絶望させるために、江ノ島盾子のコロシアイを模倣し、ウチらにコロシアイをさせたのじゃ」

夢野「次元戦争が起こる前、もしくは次元戦争が始まって間も無い時のドサクサに紛れて、超高校級を誘拐して記憶を操作し、戦争中にコロシアイを行わせーーー」

夢野「ーーー殺人事件が発生してから、学級裁判が終わって裁判場を出るまでの映像を、ソリッドビジョンを利用したスクリーンで、未来機関の各支部の上空に、映し出させてのう」

夢野「……その映像が自分たち未来機関を絶望させるためのものであることは、未来機関もわかってはいたじゃろう」

夢野「じゃが、だからといって、目を逸らすことは出来なかったんじゃ。なにせ、超高校級の希望である苗木誠の残した、新しい希望ヶ峰学園の生徒が、絶望的なコロシアイをさせられていたんじゃからのう」

夢野「見れば見る程、絶望するとわかっていても、目を逸らさずにはいられない」

夢野「そうして、未来機関に絶望を与え続け、デュエルを介さずにカード化が可能になるまで、絶望させる」

夢野「なんとも、悪辣なやり口じゃわい」

デニス「………」





夢野「……無論、赤馬零王によるコロシアイは、仮想世界でのコロシアイじゃった。故に、コロシアイの中で死んだ皆も厳密には死んでおらん。本来の肉体は仮死状態にある」

夢野「じゃが、あのコロシアイは、江ノ島盾子によるコロシアイに負けず劣らずおぞましいものだとウチは思っておる」

夢野「なぜなら、江ノ島盾子のそれとは違い、希望が勝っても良いのじゃからな」

デニス「……」

夢野「希望が勝っても、融合次元の民衆は喜ぶ」

夢野「そう、あのコロシアイは、決してエクシーズ次元だけに放映されていたのではない」

夢野「融合次元でも放映されていたのじゃ。それもエクシーズ次元とは異なり、全ての部分を、な」

夢野「もちろん、実在の人物を使ったコロシアイなど胸糞悪いだけで受け入れられんじゃろうが、架空の人物を使えば話は別じゃ」

夢野「……エクシーズ次元から誘拐され、コロシアイをさせられた超高校級は、融合次元の民衆の認識では、架空の人物に過ぎん」

夢野「赤馬零王は、ウチらの世界では現実の出来事である超高校級同士によるコロシアイを、何年も前から融合次元中に放映させていた」

夢野「現実の出来事ではない架空の物語と、融合次元の民衆に認識させた上でな」

デニス「……」

夢野「架空の物語と同じ歴史を辿った世界があれば、それは架空の世界であるかのように扱われる」

夢野「架空の世界に住む人物もまた架空の人物」

夢野「ハンティングしてコロシアイをさせようと、融合次元の民衆にとっては何の問題も無かった」

夢野「いや、むしろ、そのコロシアイは、融合次元の民衆に受け入れられてしまうというわけじゃ」

デニス「……」





夢野(……もっとも、数年前から赤馬零王が放映していたコロシアイは、江ノ島盾子が黒幕のコロシアイだけでは無かった)


夢野(たった一回のコロシアイでは、時間と共に、コロシアイや超高校級という概念自体が忘れられてしまい、それらが架空の存在であるという風に印象付けること難しくなる)


夢野(そのため、赤馬零王は、江ノ島盾子以外が黒幕のコロシアイも放映していたのじゃ)


夢野(……赤馬零王本人から聞いた話じゃが、あやつは、以前存在していたとされる “ 一つの世界 ” で行われたコロシアイも融合次元に放映していたという話じゃった)


夢野(赤馬零王が元々住んでいたとされる “ 一つの世界 ” では、どういうわけか江ノ島盾子によるコロシアイがフィクション作品の出来事であり、それを雛形としたフィクション作品が何十作とあったようじゃからのう……)


夢野(赤馬零王の記憶にあるそれをそのまま融合次元に放映することで、いろんなコロシアイを見せ、融合次元の人々がコロシアイや超高校級が架空の存在であるということを忘れないようにしていたというわけじゃ……)





夢野「……ともかく、架空の人物にされた超高校級が、コロシアイの最後に希望か絶望を選択する」

夢野「選択するのはどちらでも良い。希望エンドでも、絶望エンドでも、どちらも物語に合った結末じゃからのう」

夢野「故に、希望を選んだところで、融合次元の民衆が喜ぶだけで終わってしまうのじゃ」

デニス「……」

夢野「……そうした事実を、エクシーズ次元に派遣されたアカデミア兵は、未来機関に教えた」

夢野「……かつて苗木誠が選択した “ 希望 ” さえも、融合次元の民衆の喜びとなってしまっている」

夢野「流石の未来機関でも、そんな事実を聞かされ、希望ヶ峰学園の誇る超高校級が “ 希望 ” を選択し続けているともなれば、そんなコロシアイが繰り返し行われてしまえばーーー」



夢野「ーーー未来機関は、着実に絶望に呑まれていく」



夢野「コロシアイをさせられた者たちが、希望でも絶望でも無い結末に持っていかない限り、その上で仮想世界を二度と再利用出来ないくらい完全に破壊しない限りーーー」



夢野「ーーー絶望に呑まれていく」



夢野「その絶望の進行具合によっては、アカデミア兵は未来機関のデュエリストを、デュエルを介さずにカード化することも可能となる」



夢野「おぞましいにも程があるわい」





デニス「……そこまで、わかっているのならーーー」



夢野「……」



デニス「ーーーどうして、キミは、ボクなんかにーーー」



夢野「……確かにウチは、赤馬零王、そしてお主ら融合次元がやったことを許すわけにはいかん」

デニス「……」

夢野「あのコロシアイのせいで……ウチのような一部を除いた超高校級の生徒は、未だ仮死状態にある」

夢野「赤馬零王、Dr.フェイカー、各次元の科学者が総出で目覚めさせようとはしているがーーー」

夢野「ーーーいつ、目覚めるか、その目処は未だついておらんのが現状という話じゃ」

夢野「それに加えて、ウチらが住むエクシーズ次元に対する数えきれんほどの蛮行」

夢野「許せるはずがないわい」

デニス「……」





夢野「……じゃが、許せないからと言って、共に歩めないわけではないはずじゃ」



デニス「えっ……?」



夢野「いっしょにデュエルしながら、前に進めないわけでは無いはずなんじゃ」

夢野「同じ心を持つ、人間なんじゃからのう」



デニス「!?」


今日はここまで。


V3要素とARC-V要素を上手く混ぜてきたなぁ

>>184

感想ありがとうございます。

いろいろ考えた結果どうにか混ぜ合わせることが出来ました。これもV3とアークファイブがいろんな解釈の出来る作品だからだと思います。

原作に恥じないよう、最後まで書き上げたく思います。


続きを投下します。




夢野「……もちろん、お主ら融合次元のやったことは許せん」

デニス「……」

夢野「じゃが、赤馬零王とその配下であったアカデミア兵が、心に抱えていた苦しみ……ウチには全くわからんでもないのじゃ」

デニス「!?」

夢野「……赤馬零王、あやつは、赤馬レイという大切な人に会いたいと、大切な人と前のように暮らしたいと思っておった」

夢野「じゃが、その大切な人は、自分の記憶の中にしか存在せんし、大切な人との思い出の場所も自分の記憶の中にしか存在せんときた」

夢野「それが、どれだけ恐ろしいことか、ウチにはよくわかる」

デニス「……」

夢野「……自分の記憶の中にしかいないとされる大切な人と、会いたくて仕方が無い。その大切な人が、記憶の中だけの存在だなんて認めたくは無い」

夢野「そうした苦しみが、ウチにはよくわかるのじゃ……」

デニス「……」





夢野「……配下のアカデミア兵が、抱えていた苦しみに関しても同じじゃ」

夢野「アカデミア兵は、自分から物事を深く考えることをやめ、そうしたことは赤馬零王に任せれば良いと思っておった」

デニス「っ、!」

夢野「無理も無い。なぜなら、融合次元の民衆は富裕層でも無い限りは、必ず親元から離され兵士にさせられ、死の恐怖のつきまとう戦場へと送られることを義務付けられた存在なのじゃからな」

夢野「その義務に逆らえば、カード化されることもある」

夢野「そうして我が身を死の恐怖に晒されてしまえば、恐怖のあまり、物事を深く考えるのをやめたくもなる」

夢野「自分の代わりに、いろいろなことを考えてくれる存在を求めたくもなる」

夢野「そうした苦しみが、ウチには、よくわかるのじゃ……」

デニス「……!」





夢野「……そうじゃ、赤馬零王も配下のアカデミア兵も、みんな苦しんでいたんじゃ」

夢野「その苦しみから逃れたい……そんな理由もあって、いま目の前に広がる世界を架空の世界と思うしか無かったんじゃ」

夢野「その世界で、どんなに人が懸命に生きていたとしても同じことじゃった」

夢野「ゲームか虚構……夢の世界としか思うしか無かったんじゃ」

デニス「……」

夢野「そうやって、自分の気持ちに、嘘をつくしか無かったんじゃ」

夢野「嘘をつきすぎて、壊れてしまったんじゃ」

夢野「壊れてしまったが故に、悪魔のようなことをしてしまった……」

夢野「……じゃが、そうなってしまったのは、赤馬零王もその配下のアカデミア兵も、ウチと同じ人間だったからなんじゃ」

デニス「!」

夢野「心を持つ、同じ人間で、同じように苦しんでいたから、そうなってしまったんじゃ」

夢野「そして、同じ人間ならば、いっしょにデュエルしながら、前に歩めないことも無いはずなんじゃ……」

デニス「……」





夢野「……融合次元が以前のままなら話は別じゃが、今は心を入れ替え、懸命に己の罪を償っておる」

夢野「デニス、お主だって、そうじゃろう?」

デニス「……」

夢野「償う気があるから、榊遊矢とのデュエルの際、悪役となって、倒されようとしたんじゃろう?」

夢野「そして、倒されようとする中、ただ倒されて償うのではなく、勝ち負けに囚われない……全力のエンタメデュエルを魅せる形で償うことに決めたのじゃろう?」

夢野「そうして、《RUMーマジカル・フォース》とハイマジシャンを用いた、あのエンタメデュエルを成したのじゃろう?」

デニス「……」

夢野「そう、デニス、お主を含めて融合次元は、懸命に己の罪を償おうとしているのじゃ」

夢野「じゃからこそ、いっしょにデュエルしながら、前に進むことだって出来る」

夢野「….…ウチは、そう、信じておる」

デニス「……」

夢野「これがウチが、お主とデュエル出来る理由じゃ」





夢野「……そうして、デュエルして、お互いに実力を上げてプロになれば、お互いにお金を稼ぐことが出来る」

デニス「……」

夢野「そのお金で、少しでも早く、エクシーズ次元の傷を癒せるようになるはずじゃ」

デニス「……」

夢野「協力してはくれんか?」





デニス「……協力するよ」

夢野「……」

デニス「ボクには、それをする義務がある」

デニス「……だけど、わかっているのかい? 夢野さん?」

デニス「もし、ボクらがそうやってデュエルし続けていることが広まれば、エクシーズ次元の人から見て、夢野さんは同胞でありながら、アカデミアと仲良くしているように映るよ」

夢野「……」

デニス「キミは幼く見えるとはいえ高校生だ。何もわからない子供というわけじゃない」

デニス「……それに加えて、キミは、いまやアカデミアによるコロシアイを終わらせた伝説の一人でもある」

デニス「それが、コロシアイをやらせていたアカデミアと仲良くしているように映る」

デニス「それが、エクシーズ次元の人にどんな感情を与えるか、わからないわけじゃーーー」



夢野「覚悟の上じゃ」



デニス「!」





夢野「……ウチの行動の何もかもが益をもたらすわけでは無い」

夢野「気分の悪くなる者もいるじゃろう」

夢野「……じゃが、それを理由に逃げていては、何も変わらん」

デニス「……」

夢野「ならば、一時、気分を悪くさせようとも、歩み寄る姿勢を見せるわい」

夢野「エクシーズ次元と融合次元の人間は、お互いに歩み寄り、二度と戦争を起こさんようにしている……とな」

夢野「……怒りのままに仲違いして、また争いが起こるなど、ウチはゴメンじゃ」





夢野「……そして、デニス。お主の頭なら、その理屈がわからんはずが無い」



デニス「……」



夢野「なのに、ウチにそれを聞いた」

夢野「……まるで、話を逸らすかのようにのう」



デニス「っ、!」



夢野「逃げるかの、ようにのう……!」





夢野「逃げるな!」

デニス「!」

夢野「また、逃げるというのか!?」

夢野「聞いたぞ、デニス! お主は、自分から瑠璃やリンという少女の居場所を吐いて自分を追い込んだあと、自らカード化したそうじゃな!?」

夢野「その時みたいに逃げるというのか!?」

デニス「っ、!」

夢野「……逃げようとする理屈はわかる。あの時、お主は、黒咲隼に続いてカイトに敗北していた。そこまで失態を重ねれば、アカデミアに戻ったところで、処刑される可能性だって出てくる」

夢野「かといって、榊遊勝の望み通りアカデミアを裏切るわけにも行かなかった」

夢野「どちらにしろ、ユーリ……お主が友人のように思っていたという少年と、今まで通りの関係でいることは出来なくなるからのう……」

デニス「……!」





夢野「……おそらく、お主はユーリと榊遊勝の板挟みになって、苦しんでいたのじゃろう」

デニス「……」

夢野「じゃが、だからといって、逃げて良いことにはならん!」

デニス「!」

夢野「どんなに、こわくても! どんなに、これ以上自分で何かを考えるのが嫌になったとしても!」

夢野「その弱さのままに、面倒くさがって! 他人に何もかも押し付けて! 逃げて良いはずがなかろう!」

夢野「そうして逃げた結果、お主のショーを観てくれた瑠璃という少女は! お主が友人のように思っていたユーリという少年は! いつ『人間として』目覚めるかわからん状態に陥った!」



デニス「っっ、」



夢野「……ウチの友達や仲間と同じにな!」



夢野「……また、同じ過ちを繰り返すというのか!? また、逃げるというのか!?」

夢野「そんなこと、ウチは絶対に認めんぞ!」














デニス「…………」














夢野「……頼む、逃げてくれるな、デニスよ」

夢野「逃げずに、今のウチとデュエルしてくれ」

夢野「ウチは、お主と今度こそ、ちゃんと理解しあいたいんじゃ」

デニス「!」

夢野「……ウチは今、さっきまで、さもお主のことを理解しているかのようなことを言ったがーーーそれが正しいかどうかは断定することは出来ん」

夢野「ウチは仮想世界から目覚めてから今日お主と会うその時まで、一度もお主と話をしておらんかった」

夢野「デュエルもしておらん」

夢野「だから、ひょっとしたら……いや、きっと、まだお主について理解出来てないところがあるんじゃ」

夢野「理解出来ていたようで、理解出来ていないのかもしれないんじゃ」

夢野「……一年前のようにな」

デニス「……」





夢野「……一年前、ウチはお主ことを理解出来ているつもりじゃった」

夢野「ウチはお主に勝てたことは無かったがーーー何度もデュエルし続けた。勝つために何度もお主の考え方を理解しようとした」

夢野「じゃから、ウチはお主のことを、不完全ながらも理解出来ているつもりじゃった」

夢野「じゃが、その実まったく理解出来ておらんかった……」

デニス「……」

夢野「……この際ハッキリ言うが、ウチはお主に憧れていた」

夢野「ウチよりもデュエルが強くて、先のことを見据えられるお主に憧れていた」

夢野「ウチの成長に怯えることなく、平常心を保ち続けるお主に安心していた」

夢野「お主のそんな強さに……強さにばかり目を奪われていた」

夢野「そうして、ウチは、何処か目を曇らせていたんじゃ……」





夢野「……今になって考えてみれば、お主のやっていることはおかしかった」

デニス「……」

夢野「お主は、かつて、『自分が持っている顔写真と同じ顔の人物を探している』と言っておった」

夢野「じゃが、探しているのなら、ウチにその人物の顔くらい教えれば良かった」

夢野「顔写真を見せるなりして、その顔の人物を見かけたら教えるよう頼むくらいすれば良かったんじゃ」

夢野「じゃが、お主はそういったことを一切せんかった」

デニス「……」

夢野「……それは、それが出来ないだけの理由があったから」

夢野「その人物に、本当は会いたくないだけの理由があったから」

夢野「何かしらの事情があったからだったのじゃ」

デニス「……」





夢野「……じゃが、ウチはそのことを特に疑問には思わんかった」

デニス「……」

夢野「ウチはお主とデュエルするだけで、何処か満足していんじゃ」

夢野「デュエルを通じて鍛え上げた理解力を……お主に対してはデュエル以外で使おうとせんかった」







夢野「……その結果が、今じゃ」





デニス「……そうでなければ、変わったって言うのかい?」



夢野「……」



デニス「夢野さん、もしキミが、ボクが顔写真を見せないことを大きく疑問に思っていたらーーー」







デニス「ーーーこの結果が……今が、変わったって言うのかい?」





夢野「……巨大な建物も、蟻の一穴から崩れると言う」

デニス「!」

夢野「この言葉は、元々は、レジスタンスに所属していたという少年のものでもある」

夢野「ウチは、この言葉には、この世の真理が詰まっていると思うておる」

デニス「真理……?」

夢野「……ウチは、あの才囚学園に、蟻の一穴を突き続けた人間を知っておる」

デニス「!」

夢野「あのコロシアイの中で真実を……その向こう側を求め続けた人間を知っておる」

夢野「そうやって蟻の一穴を突き続けていった結果、才囚学園を崩壊させ……コロシアイを終わらせることが出来た」

夢野「ウチは、それを知っておるのじゃ」

デニス「……」





夢野「……そうなんじゃ、何ごとも蟻の一穴からなんじゃ」

夢野「赤馬零王やDr.フェイカー……各次元の科学者たちだって、今もなお、蟻の一穴を突き続けるような研究をしておる」

夢野「その研究をもって、榊遊矢と柊柚子の中に封じられた者たち……そしてあの仮想空間の中で仮死状態にある者たちを『人間として生活が出来るように』目覚めさせようとしている」

夢野「エクシーズ次元と融合次元の人々も、まずは蟻の一穴のような歩み寄りからはじめて、お互いを理解しあおうとしている」



デニス「……」



夢野「そうして、いつかはーーーー」





夢野「ーーーそう、蟻の一穴とは、決して馬鹿に出来んものなのじゃ」

デニス「……」

夢野「じゃから、もしウチがお主が顔写真を見せないことを大きく疑問に思っていたらーーー」



夢野「ーーーそんな蟻の一穴を突き続け、もっとお主を理解しようとしていたらーーー」



夢野「ーーー何かが変わったかもしれん」

夢野「今の、この結果が変わったかもしれんのじゃ」



デニス「夢野さん……」

夢野「お主だって……自分をカード化なんて、しなかったかもしれないんじゃ」





デニス「なっーーー!?」

夢野「……お主は言っておったな、デニス」

夢野「心の弱った人間に笑顔になって貰うためには、まずは、その相手の心を理解しようとしなければならないとーーー」



夢野「ーーーでなければ、甘さは、時に、心を蝕む毒となるとーーー」



デニス「!?」



夢野「ーーーその通りじゃった」

夢野「ウチはお主のことを、ちゃんと理解しようとしていなかった」

夢野「なのに、ウチはお主に甘ったれて、《RUMーマジカル・フォース》を渡した」

デニス「っ、夢野さん、それは……」

夢野「ウチは、お主にカードを渡してしまった」

夢野「……それに加えてウチは、お主から最後に電話を受けた時、またデュエルして欲しいとも言った」



夢野「デュエル戦士として、これからエクシーズ次元を敵に回さねばならない立場の、お主に、じゃ」



デニス「……」



夢野「それらは、コロシアイで言うなら、外の世界に出なければならない動機を持つ者に凶器を渡し、無防備な姿を見せるに等しい行為じゃった……」

夢野「それがどれだけ、心を蝕むことか……」





デニス「ーーー違う! 夢野さん! キミは悪くない!」

夢野「それを決めるのはウチじゃ! お主ではない!」

デニス「!」

夢野「ウチはもう、誰かに考えることを……責任を丸投げするような生き方をするわけにはいかん!」

夢野「じゃから、ウチが悪いかどうかはウチが決める!」

夢野「そうやって考えた末に、ウチは、ウチも悪いと思った!」

夢野「じゃから、ウチも悪かったんじゃ!」

デニス「……!」





夢野「……話を戻すぞ、デニス」

デニス「……」

夢野「ウチはお主のことを、ちゃんと理解しようとしていなかった」

夢野「なのに、ウチはお主に甘ったれて、《RUMーマジカル・フォース》を渡した」

夢野「それに加えてウチは、お主から最後に電話を受けた時、またデュエルして欲しいとも言った」

夢野「それが、お主の心を蝕んだ……自分自身をカードにしてしまうまでにのう……」

デニス「っ、」

夢野「そして、お主が自分をカード化した結果どうなったかは……さっき言った通りじゃ」



夢野「……全ては、ウチが、蟻の一穴を突き続けられなかったことの結果なんじゃ」



夢野「……もし、ウチが、お主が顔写真を見せないことをもっと疑問に思っていればーーー」



夢野「ーーーそうやって、もっと、少しでも、お主を理解しようとしていれば、何かが変わったかもしれんのじゃ!」



デニス「……!?」





夢野「ーーーじゃから、ウチは、その事実を理解して、生き続ける」

夢野「その事実をお主にも伝えて、お主にも理解して貰った上で、生き続ける」

夢野「その上で、ウチは、お主とデュエルしながら、共に歩みたいんじゃ」

デニス「……」

夢野「そうすれば、お互い、以前のような間違いを犯さないよう、気をつけることが出来る」

夢野「お互い、どんな才能を持っていようと、どんな肩書きを持っていようと、それらにばかり目を奪われることも無くなる」



夢野「他のものにも、目を向けられるようになる」



夢野「……どんなにデュエルが強かろうと弱かろうと」

夢野「融合次元だろうとエクシーズ次元だろうと」

夢野「加害者だろうと被害者だろうと」

夢野「超高校級だろうと、そうでなかろうと」

夢野「それらに目を向けることはあっても、目を奪われることは無くなる」

夢野「肩書きだけでは無い……お互いの、いろんなところに、目を向けることが出来るようになる」



夢野「そうして、お互いを、一人の人間として見ることが出来る」



夢野「一人の人間として、理解しあおうと、思うことが出来る」

夢野「そうして、ウチは、今度こそ、お主のことをちゃんと理解したいんじゃ」

夢野「理解、しあいたいんじゃ」



デニス「……」





夢野「……もう、ウチは、過ちを繰り返すのはゴメンなんじゃ」

夢野「だから、お主とデュエルして、理解しあうんじゃ」

デニス「……」

夢野「……いや、デュエルだけでは無い」

夢野「デュエル以外でも、お主を理解したい」

デニス「!」

夢野「また、お主にウチの魔法を見せたい。その感想が聞きたい」

夢野「お主の魔法……大道芸も見たい。その感想を伝えたい」



夢野「……お主と、もっと、たくさん、いろんな話がしたい!」



夢野「デュエルだって、何度も、数えきれないくらいしたい!」

夢野「もっとお主のことが知りたい! もっとウチのことをお主に知って欲しい!」



夢野「そうやって、何度だって、理解しあうんじゃ!」



夢野「それこそが、過ちを繰り返さないための、一番の道なんじゃ!」





デニス「……夢野さん!」

夢野「!?」

デニス「……ボクは、ボクはね! ずっとキミたちを、エクシーズ次元の人間を騙していたんだよ!?」

デニス「キミにも、ずっと嘘をついていたんだよ!?」

デニス「最初からキミたちエクシーズ次元の人間を裏切るつもりで、エクシーズ次元に潜入して、先生に弟子入りして、キミにデュエルを教え続けた!」

デニス「そうやって、嘘をつき続けて、裏切ったんだよ!?」

デニス「なのに、どうして、そんな風にボクに接することが出来るんだい!?」

デニス「まるで、ケンカした友達に向けて言うかのようにーーー」

夢野「当たり前じゃ! お主はウチの友達じゃ!」

デニス「!?」





夢野「……確かにお主は嘘をついていたんじゃろう」

夢野「じゃが、それでも、ウチはお主を友達だと思っておる!」

デニス「!?」

夢野「……お主とウチの関係は嘘にまみれた歪なものだったのやもしれん」

夢野「お主がウチにかけてくれた言葉にも、あるいは嘘があったのやもしれん……」

デニス「……」

夢野「……じゃが、お主のデュエル、お主の言葉、それは確かにウチの胸に響いたんじゃ!」

デニス「!」





夢野「ウチはお主のデュエルが嬉しかった!」

夢野「デュエルを通じて、ウチに複雑なルールを教えてくれて嬉しかった!」

夢野「ウチのために、そうしたメッセージを込めてくれて嬉しかった!」

夢野「それで成長出来たウチのデュエルを……褒めてくれて、嬉しかった!」

夢野「その後、ウチのために、『甘さ』を抱くべきかどうか真剣に考えるよう、説いてくれて嬉しかった!」

夢野「それから、何度も、ウチとデュエルし続けてくれて、嬉しかった!」

夢野「お主のデュエルも、お主の言葉も、確かにウチの胸に響いたんじゃ!」

デニス「……!」





夢野「こうしている今だって、響いておる……!」

デニス「……!」

夢野「そうして……今のウチが形作られておる!」

夢野「ウチにとってお主は、それだけ価値ある存在なんじゃ!」

夢野「……誰が何と言おうと、絶対に譲れないものなんじゃ!」

夢野「友達なんじゃ!」

夢野「じゃから、お主はウチの友達なんじゃ!」

デニス「夢野さん……」

夢野「お主だって、きっと、そうではないのか!?」

デニス「!」





夢野「さっきも言ったが……お主は嘘をついていた」

夢野「それは、他人にだけでは無い……自分にもじゃ!」

デニス「っ、!?」

夢野「人は時に、そうした嘘を真実にしてしまうこともある……」

夢野「……じゃが、それでも誰かを想う気持ちを嘘にして、その嘘を真実にしてしまうことだけは、絶対に出来ん!」

デニス「!」

夢野「どんな魔法を使おうと、そんなことは絶対に出来んのじゃ!」

夢野「そんなことが出来るとしたら、そいつは人間を超えておる!」

夢野「じゃが、お主は人間じゃった!」

夢野「人間じゃからこそ、自分の気持ちについた嘘を真実に出来ず、苦しんで苦しんで……自分をカードにしてしまったんじゃ!」

夢野「お主は、それだけ誰かを……ウチや榊遊勝たちのことを想ってくれたんじゃ!」

夢野「絶対に譲れないものだと、想ってくれたんじゃ!」

夢野「だとしたら、デニス、お主にとっても、ウチは友達なんじゃ!」

デニス「……!」





夢野「……人間とは、心の中に、絶対に譲れないものを持つことの出来る生き物なのじゃ」

夢野「人間である限り、譲れないものは絶対に譲れん。それは、どんなに強大な存在と直面しようと、同じことじゃ」

夢野「強過ぎるデュエリスト、コロシアイを求める観客、恐怖と絶望……どんなに強大な存在が相手だろうと譲れないものは絶対に譲れん」

夢野「……少なくとも、自分が大切に想う存在を、心の底から、譲り渡せる人間など何処にもおらん」

デニス「……!」

夢野「同じ心を持つ人間ならば……誰だってそうなのじゃ」

夢野「そう、人間は同じ心を持っているが故に、それぞれの心の中に、絶対に譲れないものを持つことが出来る」

夢野「それがわかるから、同じように譲れないものを持っているかもしれない誰かを、大切にしようと思える」

夢野「お互いに、傷付かないように、間違えないように、支え合うことも出来る」

夢野「……友達にだってなれる」

デニス「!」





夢野「……友達として、仲直り、出来る」

夢野「わかりあえる」

夢野「苦しい気持ち、楽しい気持ち、嬉しい気持ち……それを心に響かせあって、繋がることが出来る」

夢野「笑いあって、デュエルだって出来るんじゃ!」

夢野「そうやって、過ちを繰り返さないよう、いっしょに生きていけるんじゃ!」

デニス「……!」

夢野「ウチは、お主とデュエルがしたくて、仕方が無いんじゃ……!」

夢野「……じゃから、デニスよ……」














夢野「これからも、ウチとデュエルしてくれ……!」















デニス「…………」












ズキッ……





デニス(ーーーこの痛み……)ズキズキ


デニス(……ああ、そうか)


デニス(これが、理解しようとしてくれる、ってことなんだ)ズキズキ


デニス(それだけの価値を、夢野さんが、ボクに感じてくれているってことなんだ)


デニス(ボクを、譲れないものだと、想ってくれたんだ)


デニス(すべては、甘さを、抱き続けてくれたが故のーーー)




デニス(ーーー魔法の、言葉)




夢野「……」





デニス(ーーーああ、痛い)


デニス(胸が痛いよ……)


デニス(これが、夢野さんの魔法……)


デニス(……メッセージの、込められた、言葉)


デニス(だから、キミの気持ちはとても響く)




デニス(ボクも、響かせたい……)




デニス(響かせあって、理解しあいたい)


デニス(そのために、デュエルで……いや、いろんなことを通じてーーー響かせたい)


デニス(……そう、夢野さん。他ならない、キミの胸に、メッセージをーーー)




夢野「……」




デニス(ーーーボクの魔法を響かせたいーーーー)















デニス(ーーーならば、ボクはーーーー)














デニス「ーーーごめんなさい、夢野さん」

夢野「!」

デニス「裏切って、本当にごめんなさい……!」

デニス「キミの世界を傷付けて本当にごめんなさい……!」

デニス「キミに、キミの友達に、仲間に……取り返しのつかないことをして、本当にごめんなさい……!」

夢野「デニス……」

デニス「ーーーそして、ありがとう」

夢野「!」

デニス「ボクのデュエルを……言葉を大切にしてくれて、ありがとう」

デニス「ボクを譲れないものだと、想ってくれて、ありがとう」

デニス「ボクを、友達だと言ってくれて、本当にありがとう……!」

デニス「魔法を、ありがとう……!」



夢野「……!」



デニス「……今こそ、約束を果たす時だ! 夢野さん!」



デニス「さあーーーー」














デニス「ーーーー楽しいデュエルを、しよう!」














夢野「……!」

デニス「ーーーもちろん、何度でもね!」

夢野「!!」

デニス「……おっと、デュエルの前に、観客を呼んだ方が良いかな?」

夢野「んあ……!」

デニス「……どうする?」

夢野「んあ……いや、良い」

デニス「……」

夢野「今回は、呼ばん……」

デニス「……本当に良いのかい?」



夢野「……まずは、練習からじゃ」



デニス「!」

夢野「そう、二人でショーをする場合、相方と徹底的に練習してからの方が良い」

夢野「ウチは、そう思っておる」

デニス「……」

夢野「だから、まずは、そこからじゃな……」





夢野「……また、二人で、デュエルしようぞ」



デニス「……」



夢野「何度だって、するんじゃ……」



夢野「……そう、お互いを観客としたーーー」



夢野「ーーーー楽しいデュエルを、じゃ」



デニス「……望むところさ!」



夢野「……ふふん、行くぞ、デニスよ!」



デニス「いつでもどうぞ! 夢野さん!」





夢野「……魔法使い、夢野秘密子と!」



デニス「道化師、デニス・マックフィールドによる魔法(エンタメ)が今ここに始まる!」



夢野「そうじゃ、ウチのーーー」



デニス「ボクのーーー」







夢野&デニス「「マジカルデュエルショーの始まりじゃ(だ)!!」」














「「デュエル!!」」











以上で完結です。お読み頂き本当にありがとうございました。

仲直り後に1デュエル描かれるかと思ったけどこれはこれでスッキリした良い終わり方だった

>>229

感想ありがとうございます。

デュエル描けなくて申し訳ない。わたし、デュエル構成に関しては修行中の身でして……言い訳ですね。すいません。

ただ、スッキリした終わり方と言って頂いて、本当に嬉しく思います。なるべくモヤモヤした終わり方はしないように、気を入れて書き上げていたので、それが実ったようで本当に何よりです。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。

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