タツマキ「サイタマ、抱っこして」サイタマ「ん? ああ、いいぞ」 (13)

本作品にはweb版のネタバレが含まれておりますので未読の方はくれぐれもご注意ください。

それでは以下、本編です。

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「サイタマに会いたいわ」

姉が突然そんなことを言い始めた。
普段から何を考えているのかわからない人だが、それでも妹として推察してみる。

先日、私と姉は大喧嘩を繰り広げて、そしてサイタマもその騒動に巻き込まれた。
いや、巻き込んでしまったと言うべきか。
彼には随分と迷惑をかけてしまった。

最終的に姉は私の意思を尊重してくれた。
独りでは弱く、何も出来ない私に対して他人を切り捨てろと主張していた姉が折れた形だ。
恐らく、サイタマとの戦闘中のやり取りで思うところがあっただろう。つまり彼のおかげだ。

A級ヒーローとなったサイタマこと、通称『ハゲマント』はS級ヒーローである私の姉、『戦慄のタツマキ』に対して一切物怖じせずに立ち向かい、互角以上の立ち回りを見せて、私達の姉妹喧嘩を仲裁してくれた。全ては彼のおかげだ。

超人的な姉とは違い、私は凡人だ。
『地獄のフブキ』などと大層な呼ばれ方をしているが、実力はB級止まりでしかなく、私だけでは姉の言い分を曲げることは不可能だった。
サイタマの言葉を借りるならば、彼と『知り合い』になっていたおかげで辛くも難を逃れた。

今回の一件で自らの弱さを改めて自覚したが、私は自分の方針に自信を持てた。
これからも他人との繋がりを大事にしていく。
無論、それは私自身の強さとは言えない。
他ならぬサイタマにも以前こう言われた。

『独りで戦わないといけない時が来る』と。

だから私はきっと強くはなれないだろう。
しかし、それでもいいと今では思う。
別に、私がヒーローになれなくてもいい。

悪に立ち向かうヒーローの手助けがしたい。

今後はそうした形でサポートをしていく。
運良く知り合えた、本物のヒーローの為に。
だからこそ、姉と彼を会わせるのを躊躇った。

「リベンジするつもり?」

恐る恐る、姉の真意を問いただす。
すると姉であるS級ヒーロー、タツマキは。
キョトンと首を傾げて、ポカンと口を開いた。

「はあ? そんなのに興味ないわ」

心底意味がわからないといった表情。
返答次第によっては戦闘も覚悟していた。
ひとまず、難関を乗り越えてほっと安堵する。

「じゃあ、どうして彼に会いたいの?」
「またぎゅってして欲しくて」
「は?」

姉は今、なんと言った?
理解が追いつかない。
あの姉が、S級ヒーローであるタツマキが。
よりによって、あんなハゲに抱かれたいなど。

「どうしたの、フブキ?」
「えっ? 今、ちょっと幻聴が聞こえて」

そうだ、今のはきっと幻聴だ。
もしかしたら姉の新たな能力かも知れない。
化物じみた姉ならば、なんら不思議ではない。

やはり、油断ならぬ存在だと気を引き締めて。

「実はあの日、あの男に抱きしめられた感覚が忘れられなくて最近寝つきが悪いのよ」
「そんな馬鹿な!?」

二度に渡る幻聴に頭を抱えた。
いや、姉の口の動きもシンクロしていた。
幻聴のみならず、幻覚まで操るとは。
我が姉ながら、まさに『戦慄』である。

「ねえ、フブキ。お姉ちゃんが頼んでるんだけど、もしかしてあんた、私の邪魔すんの?」

ぶわりと、身の毛がよだった。
髪のないサイタマには味わえない感覚。
姉の周囲の物体が浮遊していく。
絶望的なまでの力量差に、死を覚悟する。

姉はお冠だ。
クルクルの髪がさらにぎゅるぎゅる巻かれ。
じっと見ていると、目が回りそうだった。

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