オーク「姫が脱獄しました!」 ドラゴン「捕まえろぉ!」 (102)



ドラゴン「王国から拐してきて早々に逃げられたのでは、赤っ恥ではないか!」

オーク「参りましたねえ……」

スライム「報告! ダンジョン内で迷っていた姫を確保しました!」

ドラゴン「おお、早いな! よし、ここに連れてこい」

スライム「御意」

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~~~~~



姫 「……」

ドラゴン「驚いたぞ姫よ。まさか、そのようにか弱い身ながら脱走を図るとは」

姫 「脱走は捕虜に与えられた職務だ」

オーク「職務?」

姫 「私が脱走を図ることで、魔王軍の後方に多少なりとも混乱を生じる」

姫 「そうすることで、少しでも前線の人員を割かせることができる」

ドラゴン(『ビッグエスケープ』とか『戦場にかける橋』の兵士みたいなこと言いおる)


ドラゴン「して、如何にして牢獄を破ったのだ」

姫 「……」

ドラゴン「答えぬか。オークよ、どういう状況で逃げられたのだ」

オーク「牢屋の格子が壊されていました」

ドラゴン「力ずくというわけではあるまいが……」

姫 「こちらの要求を飲むなら、どうやって格子を破ったのか話そう」

ドラゴン「よかろう。ただし、できることには限りがあるぞ」


姫 「構わない。簡単なことだ、ドレスの中に隠し持っていた金切りノコで格子を壊した」

ドラゴン「オーク! 身体検査はしておらんかったのか!?」

オーク「えぇ……だって姫ですよ。何で究極の箱入り娘が、金切りノコなんて何て持ってるんですか」

オーク「それに、嫁入り前の娘さんをオークがベタベタ触るのもねえ」

ドラゴン「むぅ、一理ある。ならば、魔王城から女魔族に来てもらえ。そうだな、サキュバスちゃんあたりを呼べ」

ドラゴン「身体検査を終えた後、再び姫を投獄するのだ」

オーク「はい」


姫 「私の要求がまだなのだが」

ドラゴン「そうであったな。申してみよ」

姫 「部屋着が欲しい。ドレスは肩が凝る」

ドラゴン「ふむ。確かに、ドレスだと何を隠し持ってるか分かりづらいしな。よかろう」

ドラゴン「オークよ、デパートへ行って何か良さげな服を買ってこい」

オーク「はーい」


姫 「おい、間違っても絹の服なんて買ってくるなよ。アレはなんかツルツルしてて好かんのだ」

ドラゴン「オーク! デパートではなく、しまむらに行け。綿のスウェットか何かでよさそうだ」

ドラゴン「それと、姫のドレスをクリーニングに出しておくのも忘れるな」

オーク(何と的確な指示。さすが魔王軍一の知将ドラゴン様だ)

オーク「御意!」


かくして、金切りノコと引き換えに部屋着を手に入れた姫。
だがしかし、姫は決して脱走を諦めない。

?



オーク「姫が、また逃げ出しました!」

ドラゴン「またか! すぐに探し出せ!」

と、その時。
ドラゴン達のいる部屋の扉があいた。

姫 「……あ」

ドラゴン&オーク 「あ」

ドラゴン「ひっとらえろぉ!」

~~~~~

ドラゴン「まさか、迷った挙句にダンジョン最奥のこの部屋までくるとはな」

姫 「……不覚」

オーク「まあ、探す手間もはぶけて良かったですよ」

ドラゴン「して、此度はどうやって逃げ出した? 金切りノコは没収したはずであろう」

姫 「……」

ドラゴン「答えぬか。オークよ、どういう状況で逃げられたのだ」


オーク「私が最後に見たのは、夕食の膳を下げる時でした」

オーク「それで、今朝がた朝食をもっていったときには、既に姿がなく」

ドラゴン「姫を最後に見た時、何か変わったことは無かったか?」

オーク「えっと、飯がまずいって皿を投げつけられました」

ドラゴン「なに? サイクロプス料理長が、久々のコース料理だって張り切って作った夕食をか!?」

姫 「……」


オーク「いえ、料理は全て完食してましたので、空の皿が割れただけで済みました」

ドラゴン「ふうむ……サイクロプスの料理が無駄になったわけでは無いのだな。ならばよい」

ドラゴン「しかし、それだけでは脱出手段がわからんな」

姫 「……こちらの要求を飲むなら、どうやって逃げ出したかを話そう」

ドラゴン「ほぅ、それは助かる」


姫 「昨晩、私はオークに皿を投げつけたどさくさに皿の欠片を手に入れた」

姫 「それを使って、朝までに私一人がようやく収まる程度の穴を堀り、毛布と土を被せて偽装し中に隠れた」

姫 「朝食を運んできたオークは私の姿が見えず、牢獄の鍵を開け部屋の中に入ってきた」

姫 「そして、私が逃げ出したと思い込み、鍵を閉めるのを忘れ私を探しに出て行ってしまった。というわけだ」

オーク「え、あ……」汗だらだら


ドラゴン「……よい、気にするなオークよ。姫の方が一枚上手であっただけだ」

ドラゴン「次から気を付ければよい」

オーク「ド、ドラゴン様……」涙

ドラゴン「ふむ、なんと機転の利く娘よ。さあ、約束だ。姫よ何を望む」

姫 「逃げるためとはいえ、料理長には悪いことをした。『料理は本当に美味かった』と伝えてほしい」

姫 「ただし、あの手の料理は王国で食べ飽きている。ごく普通の食事と、たまにはジャンクフードが食べたい」


ドラゴン「ふふふ、謙虚な娘よ。よかろう! 姫の食事は、我がダンジョンの魔族用食堂で振舞われている定食と同じものとする」

ドラゴン「更に土曜の昼は、ご希望のジャンクフードを用意しよう」

姫 「そうしてもらえると助かる」

ドラゴン「オークよ! 近辺の出前や、ウーバーイーツの使える店を至急リストアップするのだ」

オーク「御意!」


ドラゴン「しかし、姫よ。うちの料理長は、姫が来たことで久々に全力で腕を振るえると喜んでいたのだが」

姫 「……月に一度ぐらいであれば、サイクロプスの本気のコース料理を味わうのも良い」

ドラゴン「ははは、気遣い感謝するぞ!」

ドラゴン「そうだ、忘れておった。オークよ、サキュバスちゃんを呼び、姫に湯あみをさせろ」

ドラゴン「脱走の為とはいえ、一国の王女が土まみれではみっともないからのう!」

オーク(流石、魔王軍一の気遣い屋であられるドラゴン様だ!)

オーク「御意!」


かくして、脱出手段と引き換えに、週に一度のマックを噛みしめる権利を得た姫
しかし、姫の脱出計画はまだまだ始まったばかりなのであった。


?


~ダンジョン内食堂~


サイクロプス「~~♪」

ドラゴン「今日の料理長は、やけに機嫌がいいな」モグモグ

オーク「なんでも、お姫様から献立にリクエストがあったとか」モグモグ

オーク「それも、かなり手間のかかる料理だったらしいです」

ドラゴン「手間のかかる料理を作って機嫌が良くなるとは、本当に料理バカここに極まれりだな」


オーク「プロ根性たくましいと言ってあげてください」

サキュバス「あっ! ドラゴン様食事中にすみません!」

ドラゴン「構わん。サキュバスよ何かあったのか?」

サキュバス「姫ちゃんが逃げ出しました!」

ドラゴン「またか! すぐに探し出せ!―――と言いたいところだが、慌てることはない」

オーク「よろしいので?」


ドラゴン「ああ、よく考えたらな脱獄されたからと言って焦る必要がないことに先日気づいたのだ」

サキュバス「と、言いますと?」

ドラゴン「ワシのダンジョンは、北と南の大陸を唯一つなぐ洞窟ダンジョンじゃろ」

ドラゴン「であるならば、洞窟の入り口と出口さえ抑えておけば……」

オーク「なるほど、探す手間もなく。いずれ捕まえられるというわけですね」

オーク「では、門番のガーゴイル達にだけ気を付けるよう伝えておきましょう」

ドラゴン「うむ」


サキュバス「で、でも、もし門番が姫ちゃんを捕まえそこなったら?」

ドラゴン「安心せい。仮に北の大陸側に抜けたとしても、洞窟の周りには毒沼があっての」

ドラゴン「普通の人間には通ることなどできん」

サキュバス「じゃあ、南の大陸に逃げられたら?」

ドラゴン「それも、心配ない。南の大陸は魔王軍の支配下にある。とても逃げおおせるものではない」


ドラゴン「まあ、魔王様に姫の脱獄が知られたらワシが怒られるかもしれんが」

サキュバス「な、なら安心ですね!」

ドラゴン「じゃから、とりあえずは料理長の食事を楽しみながら姫が捕まるのを待とうではないか」

ドラゴン「ぐあっはっはっはっは」


~~~それからしばらくして


ドラゴン「……」

オーク「……」

ドラゴン「かれこれ、数時間経つが。まだ姫は捕まらんのか……」

オーク「現在、出入り口を固め、サキュバスさんを筆頭に手の空いている者たちを使ってダンジョン内を捜索させています」

ドラゴン「こんなことなら、最初から捜索隊を出すべきであった」


オーク「……ダンジョン内は結構暗いし、転んだりしたら危ないですしね」

ドラゴン「女の子一人で心細い思いをしてないといいのだが……」

サキュバス「報告しますっ!」

ドラゴン「おお! 姫を捕まえたか!」

サキュバス「いえ! 別件です!」

ドラゴン「なに?」


サキュバス「女子更衣室にオークさんが忍び込み、私の荷物を漁っていたところを捕らえました!」

ドラゴン「なんだとっ!?」

オーク(んん?)

サキュバス「もう信じられない! ドラゴン様の腹心だって聞いて信頼してたのに!」

サキュバスのビンタが炸裂
オークに55のダメージ

オーク「あいたぁっ!」


サキュバス「至急! セクハラ委員会を開いてください! オークさんを厳罰に処してください―――ってオークさん???」

オーク「……はい。私は、ずっとここにいました」

サキュバス「あれ? え? ご、ごめんなさい! じゃあさっき捕らえたのは……?」

ドラゴン「……とりあえず、その捕まえたオークを連れてきなさい」

サキュバス「―――わかりました」

~~~

オーク?「……不覚」

ドラゴン「……その声、姫か」

サキュバス「あ! なにこれ、豚の被り物だわ」

ドラゴン「なるほど、オークに化けて門番をやり過ごすつもりだったのだな。これは危なかった」

オーク「しかし、よくできた被り物ですね……それに一体どうやって牢獄を破ったのですか?」


姫 「……」

ドラゴン「答えぬか。よし、オークよ。姫の逃げ出した状況を詳しく教えよ」

オーク「はい。と言っても今日の当番はサキュバスさんですので。そちらから」

サキュバス「あ、はい。定刻に姫ちゃんに夕食を持っていって。その後、膳を下げに行ったときにはもう姿が無かったです」

ドラゴン「何か気づいたことはなかったのか?」

サキュバス「いえ、特には……そういえば、皿の上には残飯一つ残ってませんでした」


サキュバス「姫ちゃん細いのに食欲すごいなあって思ったぐらいで」

ドラゴン「……姫が料理長にリクエストしたという料理は」

オーク「豚の丸焼きだそうです」

ドラゴン「―――であろうな。であるならば、皿に残飯一つ残っていなかったのもうなずける」

ドラゴン「姫は、豚の丸焼きを解体し被り物を作ったのだ」

姫 「食べれる部分は全部食べたぞ」


ドラゴン「しかし、それでもなお謎は残る。サキュバスよ、夕食を運んだ際、ちゃんと鍵は閉めたのだな」

サキュバス「も、もちろんです! 先日のオークさんのミスの話は聞いてましたんで!」

オーク「―――」ションボリ

ドラゴン「ならば、姫はどうやって牢を抜け出したのだ……」

姫 「……こちらの要求を聞いてくれるなら、全て話そう」


ドラゴン「のもう」

姫 「うむ。まずは一つアドバイスからだ。獄中から見えるところに牢の鍵は、置かない方がいい」

オーク「どうしてです?」

姫 「鍵の形状がわかれば、開錠も容易いからだ」

サキュバス「まさか食事用のフォークとナイフで開けたの? でもそれじゃ、大きすぎて鍵穴にはいらないでしょ」


姫 「フォークとナイフを使ったのは間違いないが、実際に鍵穴に差し込んだのは違うもの」

姫 「そう、豚の骨だ」

姫 「私は、豚の骨をナイフとフォークを使って削り鍵を複製したのだ」

ドラゴン「ぬう……なんと器用な。しかし、そうなると何かしら対策を打たねばならんのう」

姫 「……要求」

ドラゴン「む、忘れていた。よし姫よ、申してみよ」


姫 「……独りの食事は寂しい」

ドラゴン&オーク&サキュバス 「!」

ドラゴン「……何としたことか。ワシとしたことが、年頃の娘に寂しい思いをさせていたとは!」

ドラゴン「投獄初日から脱獄を図る胆力の持ち主ゆえ、気が回らなんだ」

サキュバス「ドラゴン様! 食事は姫ちゃんも食堂で一緒に食べれるようにできませんか?」


オーク「しかし、逃走の危険性を考えると」

サキュバス「オークさんのいじわる!」

オーク「」

ドラゴン「いや、今回の件を鑑みるに、姫に独りで食事させる方が脱獄の危険性が増す」

ドラゴン「なれば、監視役として誰かと食事を共にするほうが安全と言えよう」

オーク「た、たしかに!」


ドラゴン「よし、サキュバスよ。今後は、お前が食事を姫と一緒にとるのだ!」

ドラゴン「当然、姫との食事は就業時間に含まれるから休憩は別途とるように」

サキュバス「やったぁ!」

オーク(なんと! 姫の要求と、脱獄対策二つを両立させたうえ、サキュバス嬢への配慮も怠らないとは)

オーク(ドラゴン様こそ上司の中の上司だ!)


かくして、豚の被り物と複製した合鍵と交換に、食事の相手を手に入れた姫。
対して、無駄にビンタを受けた上にサキュバス嬢から『いじわる』という評価を受けてしまった中間管理職のオーク。だがしかし、たとえ職場の女子に嫌われようとオークの職務へかける情熱に変わりはない。
負けるなオーク。頑張れオーク。

?


オーク「ドラゴン様、魔王軍情報部より勇者が国を発ったとの連絡がありました」

オーク「装備や方角から推測するに、こちらに向かっているのは間違いなさそうです」

ドラゴン「ほぅ! 姫を助けに来る気か」

オーク「なんだか、嬉しそうですね?」

ドラゴン「実はな。勇者になら姫をかっさらわれても良いと考えておるんじゃ」

オーク「それまたどうして」


ドラゴン「ドラゴンに攫われた姫を勇者が助けに来るんじゃぞ」

ドラゴン「そんな誰もが知るシチュエーションの、悪役とはいえ、その一役を担えるんじゃ」

ドラゴン「血がたぎるのも自明の理よ」

オーク「そんなもんですか」

ドラゴン「だからこそな。姫の脱獄を許すわけにはいかんのだ」


オーク「勇者に助け出される前に、逃げられたんじゃ勇者の冒険譚も腰砕けですもんね」

ドラゴン「その通り。だから、今後は一層に姫の動向に気を付けろ」

オーク「と言っても、姫はかなり手ごわいですからねえ」

サキュバス「どどどどどドラゴン様! 報告です」

オーク「ほらきた」

サキュバス「姫ちゃんが! 姫ちゃんが!」


ドラゴン「……申してみよ」

サキュバス「死んじゃいました!」

ドラゴン「」


~ダンジョン内通路~


ドラゴン「ななな何ということじゃ。王国からお預かりした、大事な娘さんをををを」

オーク「ととととりあえず、落ち着いてくださいドラゴン様。そそ蘇生魔法を使えるものをすぐに呼びますから」

サキュバス「ええっと、あああっと医務室は……こっちだっけ???」

オーク「こっちですよ。まだダンジョンの道を覚えてないんですか」

サキュバス「貰った地図無くしちゃって……」


サキュバス「ああ、あった医務室! ここです!」

サキュバス「あれ?」

ドラゴン「どうしたサキュバス!?」

サキュバス「ここのベッドに運び込んだはずなのに……姫ちゃんがいない」

オーク「あ、ベットの脇でスライムが伸びてます」

スライム「―――」キュウ


オーク「しかも、ダイイングメッセージを残してますね。死んでませんけど」

オーク「なになに? 『はんにんは ひめ』」

サキュバス「……」

ドラゴン「……」

ドラゴン「脱獄だあ!!!」


~~~それからどしたの


ドラゴン「姫よ。まさか、購買部でジャンプを立ち読みしていようとは思いもしなかったぞ」

オーク「あっさり捕獲できましたね」

姫 「……不覚」

サキュバス「生ぎででよがっだあああああ」

姫 「ご、ごめん。サキュバスちゃん」

オーク「しかし、どうしてサキュバスさんは姫が死んでいるなんて勘違いしたんですか?」

サキュバス「あの時は、本当に息をしてなかったんです!」


ドラゴン「ふむ、姫よ。いったいどういうわけなんだ」

姫 「……」

ドラゴン「やはり答えぬか。よし、サキュバスよ。何があったのか全て話してみよ」

サキュバス「はい―――今日、姫ちゃんと食べようと思ってミスドを買ってきたんです」

サキュバス「それで、3時ごろでしょうか。姫ちゃんにポンデリングを差し入れて、二人で談笑していたら」

サキュバス「姫ちゃんが急に『ぐええええ』って呻きだして、前のめりに倒れっちゃって」


サキュバス「ただ、あまりに演技臭かったので、また脱獄かなって……」

サキュバス「でも、放っておくわけにもいかないし」

サキュバス「それで、スライムを呼んで来て、格子の隙間から獄中に入ってもらいました」

オーク「鍵をかけたまま、スライムに姫の様子を確認させたんですか。良い判断だと思います」

サキュバス「そしたら、息がないって。脈も止まってるって。それで二人で、慌てて医務室に運び込んだんです」

ドラゴン「……そして、姫はよみがえりスライムをノして逃げ出したというわけだな」


オーク「自分自身に蘇生魔法をあらかじめかけていたってことでしょうか?」

ドラゴン「いや、そんな蘇生魔法はきいたことがない。仮にあったとして、姫がそれほどの魔法を扱えるとは思えない」

姫 「私は、魔法は使えない」

サキュバス「じゃあ、蘇生アイテムだ!」

姫 「半分正解」

ドラゴン「ぬぅ……もうよい、もったいぶらずに教えてくれ」

姫 「ようk―――」

ドラゴン「のもう」


姫 「……貴方たちは私が如何にして蘇ったかを考えてばかりだけど、本当に重要なのはどうやって死んだか」

姫 「私が使ったのは仮死薬。これを使用すると呼吸率、体温、心拍数が低下する」

姫 「医療知識のないものが見えれば死んだように見えるだろう」

オーク「仮死薬ってことは、本当に死ぬわけでは無いということですか」

姫 「そう。ただ、放っておくと本当に死ぬ」

サキュバス「……そんな危険なものを」


姫 「そうならないために、遅効性の蘇生薬とセットで使う」

ドラゴン「それで、半分正解というわけか」

姫 「蘇生薬が効くと、仮死薬の働きを阻害して、さらに使用者を覚醒させる」

オーク「つまり蘇ると。ちなみに、どこにそんなもの隠し持っていたんですか? 身体検査は行ったはずですけど」

姫 「奥歯に仕込んでいた」

ドラゴン「王家は姫に、なんてもの仕込ませてるんだ」


姫 「……要求」

ドラゴン「そうだったな。申してみよ」

姫 「毎週、ジャンプが読みたい」

ドラゴン「ぬう、確かに牢獄の中ではまともな娯楽もあるまい」

ドラゴン「あい分かった。購買部に、毎週一冊は必ず取り置きしておくよう頼んでおこう」

サキュバス「……」


ドラゴン「どうしたサキュバスよ。表情が暗いが」

サキュバス「姫ちゃん、今回は本気で逃げる気がなかったでしょ?」

姫 「!」

オーク「どういうことです?」

サキュバス「逃げる気だったら、購買部で立ち読み何かするはずないです」

サキュバス「ドラゴン様にジャンプを買ってもらうためだけに、見せかけの脱獄を演じたんでしょ」

ドラゴン「何と! それは困るぞ姫!」


姫 「……」

ドラゴン「いや、逃げ出すのは構わないのだ。ただ、そのような些細な理由で逃げられたらこちらもたまらん」

オーク「確かに、ジャンプぐらいなら言ってくれれば差し入れしましたのに」

姫 「サキュバスちゃん怒ってる?」

サキュバス「すごく怒ってる。たかがジャンプの為に、あんな危ない薬使ったりして」

姫 「ごめんなさい」

サキュバス「もう、二度としない?」


姫 「脱獄に、仮死薬は使わない……サキュバスちゃん、本当にごめん」

サキュバス「よし! 許す!」

オーク(できれば脱獄自体を辞めてほしいんですけど)

ドラゴン「なるほど、サキュバスよ。姫は遠慮をしておるのだ」

サキュバス「遠慮?」

ドラゴン「仮にも敵である魔族に、ジャンプを読みたいなんて言いづらいのは仕方あるまい」


サキュバス「まあ、言われてみればそうかもですね」

ドラゴン「よし、決めたぞ。姫には毎月小遣いを出すこととしよう」

ドラゴン「その限りであれば、自由に購買部で買い物をするがいい」

オーク「それは良い考えです」

ドラゴン「姫は年はいくつだったかな?」

姫 「15」


ドラゴン「オーク!」

オーク「はい、15なら月2000Gぐらいが妥当かと」

ドラゴン「よし、姫よ。無駄遣いするなよ。購買部に行きたいときは、いつでも看守に声をかけるがいい」

姫 「……いいの?」

サキュバス「やったね! 姫ちゃん!」

ドラゴン「ふはははは、脱獄されることに比べれば安いものよ!」

姫 「ふふ、ありがとう」


オーク(この小遣い制、15歳の少女の気持ちに寄り添うだけでなく姫の脱獄を抑制する効果もある)

オーク(流石ドラゴン様! この方こそ、仕事と家族を両立させる理想の社会人の在り方だ!)

オーク(できることなら、勇者と戦わずに生き残ってほしいものだが……)



かくして、危険な脱獄を封じられ、毎月の小遣いを手に入れた姫
更には、牢獄からの自由な出入りまで許されて、もはや姫の捕虜としての待遇は形骸と化した。
しかし、姫の脱獄欲は尽きることなどない。
その溢れんばかりの情熱と知識は、更なる脱獄へと姫を駆り立てるであろう。
そして、一方で。ドラゴンのダンジョンにはかつてないほど危険な存在が近づきつつあった。


~閑話休題~

姫 「スライム。この間はごめん」

スライム「む、気にするな。弱い俺が悪いのだ」

姫 「これ貸してあげる」スッ

スライム「これは、ジャンプの今週号ではないか! 売り切れていて買えなかったのだ」

スライム「何と礼を申したらよいか」


姫 「これはお詫びだから」

スライム「お詫びね……時に姫よ、ジャンプの三大原則を知っているか?」

姫 「友情、努力、勝利」

スライム「そう、特に俺はジャンプにおける『友情』が好きでな」

スライム「ドラゴンボールのベジータ、幽遊白書の飛影に鞍馬、ジョジョのポルナレフ」

スライム「当初、敵として登場した者が主人公と対峙したのち味方になる」


スライム「この展開が、たまらなく好きなのだ」

姫 「……」

スライム「姫よ。俺の言いたいことがわかるか?」

姫 「私たち、もう友達?」

スライム「あぁっ! 俺たちはもう親友であり、ライバルだ! だからもう気にするな」

姫 「ありがとう……親友」

スライム「ああ、次は負けないからな。覚悟しておけ」

?


オーク「物見が、北の平原に勇者の姿を捕らえました」

ドラゴン「ようやく来たか。待ちかねたぞ!」

オーク「毒沼地帯で足を取られることも考えると、一刻ぐらいでダンジョンにたどり着くかと」

ドラゴン「ぬぅぅぅぅ……ここまできて一刻も待つのは辛い!」

ドラゴン「よし、オーク。魔物たちに勇者との戦闘を避けるように伝えてくれ」

ドラゴン「早々に、ワシと勇者の対決を実現するのだ」


オーク「いや、しかし」

ドラゴン「ワシの望みは先日教えたであろう」

ドラゴン「ドラゴンは勇者に倒され、姫は勇者の腕に抱かれながら王国に帰還しなくてはならんのだ」

オーク「勇者討伐は魔王軍の悲願であるはず。それを、敢えて手を抜けと仰るのですか?」

ドラゴン「一世一代の晴れ舞台なのだ。つべこべ言わずに、言われたとおりにせい」

オーク「……御意」


ドラゴン「そうだ! ヒロインがしまむらのスウェット姿では様にならん。姫に支度をさせい!」

オーク「既に、姫のもとにサキュバスを走らせました。ドレスもクリーニングから帰ってきております」

ドラゴン「さすがの手際だ」

ドラゴン「よし、あとは勇者を迎えるのみだ。脳内トレーニングは完璧。最高の最期を飾ってみせようではないか」

オーク(ドラゴン様は、勇者と戦って死ぬ気だ……)

オーク(魔族の矜持をすて、勇者にあえて負けるなんて。本当にそれでいいのだろうか)


サキュバス「報告! 報告!」

ドラゴン「おお、もう勇者がダンジョンに着いたのか!?」

サキュバス「えっと、そのう……」

オーク「どうしましたサキュバスさん?」

サキュバス「姫ちゃんが脱獄しました!」


~牢獄~


ドラゴン「いないな……」

オーク「見事にもぬけの殻ですね」

サキュバス「あ! 布団の下に、人間一人なら通れるぐらいの穴が掘られてます」

オーク「以前、私を出し抜いたときの穴を掘り返したみたいですね」

サキュバス「道具もなしにですか?」


ドラゴン「いや、姫の能力なら道具などいくらでも調達できる」

オーク「というか、購買部でたいてい買えますし」

サキュバス「トンネルの底からは、横に穴が続いていますね」

オーク「脱獄トンネルだ! ダンジョンの外までトンネルを掘ったに違いありません」

ドラゴン「……いや、違う! サキュバスよ、すぐに穴の先を探れ。姫が倒れておるやもしれぬ!」

サキュバス「はい!」


オーク「どういうことです?」

ドラゴン「トンネル内は密閉空間。だから長距離のトンネルを掘る際は、空気の供給が必要となる」

ドラゴン「しかし、姫に脱獄仲間はいない。つまり……」

オーク「酸欠に陥り穴の途中で倒れていると!?」

サキュバス「ドラゴン様!」

ドラゴン「おお! どうであった!?」


サキュバス「姫は見当たりませんでしたが、こんなものが落ちていました」

オーク「これは、手紙ですか?」

ドラゴン「読んでみよ」

サキュバス「はい」

姫 『この手紙を読んでいるということは、もう私は脱獄を果たしていることでしょう』

姫 『もしかすると、私が酸欠で倒れていると心配しているかもしれません』


姫 『でも、安心してください。そんなヘマはしていません』

ドラゴン「とりあえずは、無事なようだな。しかも、既に脱獄を果たしているだと?」

オーク「ハッタリではないでしょうか。今から追えば、捕らえられるかも」

ドラゴン「……いや、姫の性格からして嘘をつくとは思えない。ならば脱獄は成功したとみるべきだ」

サキュバス「私も、そう思います」


姫 『それじゃあ、せっかくですので答え合わせといきましょう』

姫 『私がいかに、酸欠を回避し脱獄を果たしたのか全て書き記しておきます』

ドラゴン「今回は、何の要求もなしか」

オーク「もし本当に脱獄が成功したのなら、もう必要ありませんからね」

サキュバス「……ちょっと寂しいです」


姫 『そのトンネルは、実はそれほど長いものではありません』

姫 『トンネルの先は、ダンジョン内の武器庫につながっています』

姫 『そして、武器庫からは食糧庫、食糧庫からは宿直室の押し入れ』

姫 『そういうふうに、ひと気のない部屋や場所を伝って、最終的にダンジョンの外まで通じているのです』

ドラゴン「なるほど、短いトンネルなら酸欠の心配はあるまい。だがそんなことは不可能なはずだ」

オーク「どうしてです?」


ドラゴン「このダンジョンは天然の洞窟を利用したものだ。部屋の位置関係や、距離などわかるはずもない」

ドラゴン「それを、どうして、ひと気のない部屋ばかりを選んでトンネルが掘れるというのだ」

オーク「正確な見取り図でもなければ、無理ですね……」

サキュバス「あ」

ドラゴン「……思い出したぞ。いつぞや、姫はオークに化けサキュバスの荷物を漁っていたことがあったな」


ドラゴン「魔王城から転任してきたばかりのサキュバスには地図を渡していたはず」

サキュバス「ダンジョンの地図、姫ちゃんが盗んだんだ……無くしたとばかり」

姫 『と、そろそろ気づいている頃でしょうか。サキュバスちゃんには、本当に悪いと思ってます』

サキュバス「もう、姫ちゃんめ! でも生きているなら許す!」

ドラゴン「ふむ……なるほど、短いトンネルなら酸欠の心配はあるまい」


ドラゴン「しかし、それでもなおダンジョンから出ることのできるトンネルなど掘れるはずがないのだ」

サキュバス「なぜです?」

ドラゴン「ダンジョンの北側、すなわち王国側の出口は、広大な毒沼に面している」

オーク「沼……つまりトンネルが掘れる地盤ではないと」

姫 『~と、お考えでしょうが。私が逃げたのは北ではありません』


ドラゴン「まさか!?」

姫 『そう、私が逃げたのは魔王軍支配下の南の大陸なのです』

オーク「なんか、ちょいちょいその場にいる雰囲気で語り掛けてきますね」

ドラゴン「すべて計算づくなところを見るに、ワシよりも知略に優れとるかもしれんぞ」

サキュバス「姫ちゃんは、あえて王国から遠ざかる選択をしたってことですよね。でもどうして……?」


姫 『私は、王国に居た頃、女王となるべく厳しい教育を受けていました」

姫 『歴史を学び、地理を学び、算術を学び、剣を学び、王に必要な全ての知識を学んでいたのです」

姫 『友達と遊ぶ時間もなく、そもそも友達をつくることもできず私はずっと一人でした』

姫 『そんな毎日が嫌になり、私は王城から逃げ出すのが日課となりました。でも王城の警備は厳重で』

姫 『脱走しようとしては捕まってを繰り返すうちに、脱獄が私の趣味になっていたんです』


姫 『そして、私はある日、遂に王城からの脱出に成功したんです』

姫 『でも、逃げ出したのはいいものの行く先にあてなどなく、私は途方にくれていました』

姫 『気がついたら。私は、ドラゴンさんの腕に抱かれ空を飛んでいました』

オーク「まさか、姫が王国から逃げ出してきたなんて」

ドラゴン「姫は、王都のはずれにある草原に一人たたずんでいた。それをこれ幸いとワシが攫って来たのだ」


姫 『ダンジョンでの生活は、とても充実したものでした。みんな優しいし、勉強もしなくていい』

姫 『なにより、牢獄からの脱獄はスリリングで楽しかった』

姫 『友達もできて、家族みたいに接してくれて本当に嬉しかった』

姫 『王城では、魔族の残虐さ非道さをさんざん教えられてきましたが、貴方たちは違っていた』

姫 『王城で学べることより、自分で見て聞いたことの方が学びは多かった』


姫 『だから、私は南の大陸に逃げることに何の不安もありません』

姫 『それどころか、もっと多くのものを学べる期待に胸をふくらませているのです』

姫 『今回は、いつもみたいにもったいぶらずに、脱獄方法から私の気持ちまで全部書き記しちゃいました』

姫 『でも、なんの要求をする気もおきません』

姫 『なぜなら既に私は、多くの者を貴方たちから十分に受け取ったのですから』

姫 『それでは、最後になりますが皆さんお元気で』

姫 『P.S.王国に帰る際には、また立ち寄ります。お土産を楽しみにしていてください』


ドラゴン「……」

オーク「……」

サキュバス「……」

オーク「追いかけます?」

ドラゴン「いや、いい。帰りに立ち寄ると言っているのだ、ならば待っていればよい」


サキュバス「帰ってきたら、料理長に言って盛大なパーティーを開きましょうね!」

ドラゴン「そうだな……ふふ」

料理長「ああ、皆さんこんなところにお揃いで」

ドラゴン「おお、サイクロプス。お主こそ、こんな所でどうした」

料理長「いえ、勇者がダンジョンに到着したのでその報告に」

オーク「勇者のこと忘れてました!」


ドラゴン「しまった。姫はもういないというのに」

オーク「どどどどうしましょう」

ドラゴン「……オークよ、命令変更だ。ガンガン行こうぜじゃ!」

ドラゴン「姫の脱獄を王国に知られては赤っ恥。あらゆるアイテム、罠、策略を使ってよい」

ドラゴン「何としても勇者を倒し、教会に送り返すのだ!」


オーク「それでこそ、魔王軍最強のドラゴン様です! サキュバスさん、我々も行きますよ!」

サキュバス「ええ、姫ちゃんの旅が続くよう勇者は必ずここで止めて見せます!」

ドラゴン「では行くぞ皆の衆!」



オーク サキュバス サイクロプス 「「「 応っ!!! 」」」


かくして、遂にダンジョンからの脱獄を成功させた姫
彼女に待ち受けるは、魔王軍に支配された知られざる大陸
王国と魔族、その両方に追われることになろうとも姫の歩みは止まらない

仮に捕らえられ、手足に枷をはめられようとも、投獄され、あらゆる責めを受けようとも
彼女の心を、捕らえておくことなど誰にもできようはずがなく
いつしか牢獄はもぬけの殻になっているのであろうから

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魔王「ふははははは、まさか我が魔王城の城下町で姫を捕まえることになろうとわな」

魔王「縁日の屋台で買い食いしているところに出会うとは、思いもしなかった」

魔王「棚からぼたもちとはこのことだな」

魔王「しかし、ドラゴンの奴め。娘っ子一人捕らえておけぬとわ」

魔王「今度、会った時はからかってやるか」


魔王「ふははははははははは!」

側近「ま、魔王様! ご報告です!」

魔王「うん? どうした側近よ」

側近「姫が脱獄しました!」

魔王「捕まえろぉ!」


――――

 おわり

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