春香「竜とロマンとアイドルと」 (458)
伝説の中の竜 -Draco in fabula-
竜の中の時間 -In dracone hora-
竜の中の望み -In dracone spes-
竜の中の迷い -In dracone error-
竜の中の真実 -In dracone veritas-
竜の中の幻 -In dracone somnium-
竜の中の宿命 -In dracone fatum-
竜の中の理由 -In dracone causa-
竜の中の恋 -In dracone amor-
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春香「――――あれ」
事務所の屋上で、満天の星空を、仰ぐ。
世界に広がる星の海。そこに、竜の巨躯が翔け抜けて。
月光に、白き鱗が照り映え、星々の欠片のような輝きが世界に散っていく。
亜美「あ、あれ竜だよ! 兄ちゃん!」
真美「ドラゴンだー!!」
貴音「なんと……!!」
雪歩「わ、わわわ! おとぎ話だと思ってました」
響「うはー! でっかくて綺麗だなー!」
美希「…………ふぅん」
P「そうか……」
P「――――遂に、来たか。竜ってやつが」
白き鱗の輝きが、宙で揺れる様に解けていき。
星の海に一人の少女が揺蕩い現れた。
艶めかしく、凛々しく。
高貴なほど鋭く。
妖艶なほど円く。
満月から零れ落ちる涙のように。
それは星へと靡いて落ちて。
――――少女は地上に降臨する。
「――――では、物語(ロマン)をはじめよう!」
社長「――そうかね。『竜』を視認したかね」
『はい! 一体なんのために――』
社長「……夢だね」
『え?』
社長「それはだね、キミ。『彼女』は――きっと夢を試しに来たのだよ」
社長「輝く成功譚。シンデレラストーリー。苦難を乗り越え頂点を目指す、アイドル達の物語」
社長「敵として、悪として、竜として……焦がれる一人の乙女として」
社長「彼女は立ち塞がらんがため、この地上に降りたのだ」
社長「くじけては駄目だよ……生き様こそがアイドルだ」
『社長。――はい! わかりました!』
――
――――
港の見える丘公園
春香「ここらへんで竜が消えたって情報だけど……」
千早「竜なんて影も形も無いわね」
春香「プロデューサーさん私達が目当てかも、なんて言ってたから、ちょっとでも調べようと思ったけど、手掛かりないね」
千早「ええ……『竜』だもの。人のやることの上をいくんでしょう」
春香「はーっ、でも実感わかないなー! あの竜だよ? それがなんで私達に……」
千早「幻想の存在……。私達、アイドルもそれに近づいたからではないかしら?」
春香「え?」
千早「人の心を惹きつけるという点では、アイドルも竜も同じだと思う。だから竜も、私達をライバル視する」
春香「ええー! 全然違うと思うけどなぁ」
千早「ふふっ、でも、もし竜と会うことがあれば、色々語りあったりしてみたいわね。竜はなぜ歌い、謳われるのか……」
春香「すごいなー千早ちゃん。よーしっ! 私も竜と会ったら、いっしょに歌って下さいってお願いしてみる! 竜とデュエットなんてすごくない?」
千早「春香、あなたなら本当にそれを実現させてしまいそうね……」
春香「えへへ、褒めても何も出ないよ――あ、ジュース買ってくるね! 待ってて!」タタッ
春香「ふんふ~ん、ぎーんのりゅーの、せにのって~♪」
春香「千早ちゃんは、紅茶でよかったよね。よし、戻ろ……」
???「おー。巨大ロボットの中の人だー」
春香「はいっ!?」
春香(――女の子?)
ブレザーの制服の上からでもわかる、抜群のプロポーション。
桃色の髪。滑らかな輪郭。翠色の大きな瞳に、不敵な笑みを携えて。
その少女は天海春香の前に立っていた。
???「あっと失敬。造形が少し違うのだね。あっちはサンライズ版。キャラクターボイスも別人だ」
春香「はい?」
???「改めて――こんにちは、偶像」
春香「え、え、え? こ、こんにちは」
春香「ぐうぞう、って……あなたは?」
???「己(オレ)の名を気にするより、己(おのれ)の身を案じたまえ、人間。貴様はズメイの竜の前にいるのだっ!」
春香(こ、この子なにー!? 竜って……!?)
???「――なんてな♪ ここでは貴様を喰らわんよ。この邂逅は、流れ者の礼を尽くしたまでだ。貴様と愛し合うのは、再び相まみえる刻までとっておこう!」
???「気の高まりを感じる場所もあることだしな――ふふん、覇気が足りん貴様よりおもしろそうだ」
春香(急に話しかけられて、訳の分からないことを言われてる!)
春香「あの、私なにがなんだか」
???「また会おう。人間」
春香「!?」
瞬間、眩き光が周囲を包む。
春香(え――――これって)
春香(『竜』?)
――
――――
菊地真単独ライブin野外ステージ
キャアアアアッ!! マコトオウジー!!
真「みなさんっ! ついてきてますかーっ!?」
ワアアアアァァァ……ッ!!!
真「うわぁー! 燃えてるなぁ! よーしっ! それじゃこの高まりのまま最後の曲……」
キィイイイイン――……!!!!!
真「ん……!?」
アレ、ナニ!! ヒコウキ!?
チガウ!! アブナァーイ!!
真「なんだ――空からっ!!?」
キャアアアアアアアアアアア!!! ワアアアアァァァァ!!!!
観客に暴風を叩きつけ――その巨躯は、高速で滑空する中、人の形へと変じていく。
――ドゴォォォオオオオンッッッ!!!!
真「うわぁあああ!!!!」
真(な、なんだ……一体! ステージに、何かが……!)
真(衝突で、粉塵が巻き上げられて――)
真「! だ、誰かいる!?」
???「――――お初にお目に掛かる。鉄と火薬の時代の人間よ!! 神と英雄の時代より、ドラゴンがまかり越したぞ?」
凹ませた床の中心に、一人の女性が佇んでいる。
彼の者は闘志と覇気をさらけ出し、眼下の客らを睥睨し――
――ふふん。
と、不敵に笑っている。
真「お、女の子――!? なにが起こったんだ!?」
ザワザワ……ザワザワ……
???「うん? 登場の演出を誤ったか? はっはー! 寛大な心で許せ!」
真(お客さんが混乱してる……!)
真「何者だよキミは!?」
???「うぅん? 先ほどの口上、貴様には聞き取れなんだか? 己(オレ)は竜よ」
真「り、竜だって……!? あの!?」
???「然り然り。天使より俊敏で、悪魔より残酷で、グールと同じぐらい容赦無いドラゴン――それこそ己(オレ)の銘である!」
真(『ドラゴン』!)
真「プロデューサーが、ボク達の前に現れるかもって言ってたドラゴン……! それが君か!」
ドラゴン「如何にも! ヒトの持つ夢(ロマン)どれほどのものか、知りたくって矢も楯も止まらず推参した次第」
ドラゴン「お目通り適い、嬉しいなぁ! アイドル殿! 巡り会えたことを物狂いの竜に感謝しよう!」
ドラゴン「そして――ふふん、中々いい舞台だ。……では、早速始めるとするか」
真「何しに……いや、今からキミ、なにをする気なんだ!」
ドラゴン「――竜は神速を尊ぶ。己(オレ)も思うままに竜の本壊を遂げる。……ミュージックカモーン!」
張り上げたその声に応じるかのように。空気がたわみ、音が生まれ出す。
何時の間にか、周囲にはガラス片のような光る塵が舞っていて、このステージを煌めきで覆っていた。
ドラゴン「人心を惹きつける術――星に教えてもらったが、なるほど、これは心地いい……!」
真(これ……手品じゃない! これがドラゴンの舞台作り……!?)
P「真、早く! 舞台袖に下がれ!」
真「プロデューサー!?」
ナンダ? サプライズ!? マコトクンハー? デモ、コレ スゲエ……!!
ドラゴン「この輝く竜の舞いに存分に酔えッ! 全ての無礼はこの竜が許すッ! 『炸裂・本能GIRL』!!!!」
軽やかな音楽が虚空より出で、そのドラゴンは甘く、熱い吐息を声高らかに発していく。
ドラゴン「絶対零度の 沸点で火を吹くー ♪ 震える姿が ちょっといい感じー! ♪」
オ、オオオオオオ!!!
真「あ、あれが、ドラゴンだって!」
P「やはり現れたか……! 竜は幻想が宿らない攻撃は効かない。そんな相手じゃ、どんな警備も抵抗もほとんど無意味だ……!」
真「なんだってボクの所に! いきなり割り込んで歌われてますよ!」
P「社長が言うには、彼女は楽しそうだったり、おいしそうだったりする奴の前に現れる、超肉食系ガールなんだそうだ」
真「んん? どういうことですか?」
P「いや、きっと! きっとお前を男扱いしているとかそういうんじゃないと思うぞ!」
真「そうだったら一層許せませんよ!」
真「肉食系――確かに、今歌っている歌も、かなり肉食系の歌詞ですね……ちょっと、ほんのちょっと憧れるかも」
P「っておい真!?」
真「いやでも――、あの人、本当にダンスもすごい」
真(速度とか、力強さそのものが段違いだ……なにより、原始的なまでに感情を振りまいた踊り方……!)
真(本能が、叩かれるみたいに……、否応なしに血が滾ってくる……!)
真(これが、ドラゴンのスター性なのか)
ドラゴンの扇情的な肢体が織成す、エネルギッシュな歌と舞。
それは戸惑う観客達の目を、心を、無理矢理惹きこんでいく。
気付けば、叫ぶ者がいて。腕で力いっぱい振り回す者も、立ち上がって歓声をあげる者もいて。
それはむしろ魂に火をつけられたのか女性が多く。
戦場のような狂騒が、この会場を湧かせていった。
P「なんだよ……これは。種族としてのスペックが違う……! 体力もスキルも、人を魅せる力も」
真「プロデューサー! お客さんたちから、ステージに向かって何か光が!」
ドラゴン「レアのまま いただきます! ♪ がおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおォォォォー――――!!!」
ドラゴン「――――大☆喝☆采ッッ!!!!!」
ウォオオオオオオオオオオオ!!! キャァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
ドラゴン「おおっ、関心と感心と歓心のエーテライトが、己(オレ)の元へと集ってくるなぁ!」
客たちから出る小さな光の欠片。それがステージに渦巻く光の塵に組み込まれていく。
真「あれ……お客さんたちの、燃える気持ちなんじゃ!?」
P「え?」
真「なんかそんな感じしますよ!」
P「確かに、竜は幻想的な存在だから、そういう想いの力みたいなものを糧にしているのかも知れないな」
真「ボク……ボクもステージに戻ります!」
P「おい、真!?」
真「ボクのライブだったんです、今日は。そして来てくれたのも、ボクのファンなんですよ!」
真「このままじゃ、物理的に飛び入りしてきたゲストに、全部思い出を取られてしまう……!」
真「いきますよ、ボク! お客さんのために。そして自分自身のために!」
P「真……!!」
P(竜を倒すには、確かに物理的な方法では駄目だ。しかし、アイドルが見せる高揚は――あの竜にも届き得るんじゃ……)
P「無理はするなよ! 相手は竜だ! 満腹になったら帰るかもしれない! 対処はお前一人だけでがんばらなくてもいい!」
真「『自転車』をお願いします。……一人じゃありませんよ。このライブバトル、アイドルみんなの誇りが懸かってるんです――!」
真「ドラゴン! ボクが相手をするよ!」
ドラゴン「ほほぅ?」
真「みんなー!! ボクといっしょに、夢の先まで走りましょう!! さぁ! 拳を突き出して!」
オオオ! マコトー!!
真「だぁーんっ!! へへっ! やーりぃ!」
ワァアアアアアアアアッ!!!
真「ドラゴン、キミには負けないよっ!」
ドラゴン「おお、士気高揚だな! 見事見事! やるじゃあないかベオウルフ殿!」
真「誰なのさ!?」
ドラゴン「だが、竜殺しの誉れを得れるかどうかは話が別だ」
ドラゴン「特等席で拝観しよう!」
――♪
真「好きだよ キミが一番! ♪ 好きだよ キミひとり! ♪」
P(あの、ドラゴンの娘……勝手にバックダンサーを……! しかもたった一人でやっているのに、存在感があるから不自然さに気付けない……! なんだこれ!)
P(だが、それでもあくまでバックダンサーに徹している。真が歌や踊りを邪魔しているわけじゃない。『決闘』でもしてるつもりか?)
真「――だってキミが 好きだぁぁぁああああああー――――!!!!! ♪」
ワァアアアアアアアアアアア!!!!
真「はぁはぁ……やった……! あ、あれ。ボクの周りにも光の粒が飛んでくる……?」
ドラゴン「貴様に魅せられた者が、敬意と感謝を献上しているのだよ」
ドラゴン「い~い歌だったな。やはり乙女たるもの恋は漢らしくなくては……♪」
ドラゴン「いいぞ! ノってきたぁ! 己(オレ)のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと、轟き叫ぶ!」
ドラゴン「認めるぞ、貴様の刃は竜に届き得る!」
――♪
P「この曲……!?」
真「『オーバーマスター』!?」
ドラゴン「では……一緒に踊ってもらおう」スウゥゥ――
真「なっ!」
真(ボクの周りの光が……、あのドラゴンの方に吸い寄せられてく……!?)
真「これ、もしかして、アピールで稼いだボクへの興味が奪われているってこと?」
ドラゴン「然り然り。リアルタイムでのアピール合戦を制さねば、お前の後援は己(オレ)が平らげてしまうぞ」
真「……そうか、一緒に踊るって、勝負ってことか……受けて立つ!」
ドラゴン「流石だな! 初陣の対手に貴様を選んで正解だった! 己(オレ)のマルドゥーク殿と呼んでやろうか!」
真(『オーバーマスター』のイメージはダンス……! そして、挑戦的な歌詞。この娘とやりあうにはふさわしい、か)
真「ふ、ふふふ」ブルッ!!
真「なんか、すごくわくわくして来たよ……!!」
――over master♪
――――「「 カッコ悪いわよ アタシを墜とすのバレてるの ! ♪」」
その時、舞台は灼熱だった。
互いのボーカルとダンスが、不敵な歌詞と調べに乗り、鋭さをいっそう強めていく。
竜が床を踏み砕かんほどのステップを踏めば、
真が熱狂する空気を切り裂く様に腕を振る。
観客から出でる『興味』のエーテライトは、真と竜の間を高速で行き交って、いつしか光の竜巻を舞台に生み出した。
ボルテージは天井知らずに上昇し、声援、歓声が天を突く。
果てしなく鋭さを増すボーカルと、戦場の如き高揚と一体になるダンス。
共演とはいえない、競演。いつしか狂宴へといたるそれ。
見る者も、演じる者も。 魂を全て引き剥がされてしまいそうなそれは。
――まさしく『LIVE』そのものだった。
命を解き放つかのように
ドラゴン「――!!」
一人と一匹は歌い、踊る。
真「――! ――!」
曲が織成す世界は、されど有限で――
終曲と、終局が迫り。
そして――
――
――――
ドラゴン「――ふふん、愉しかったぞ。ここまで興が乗るとは思わなかった」
ドラゴン「互いの闘気と炎のブレス、魔法力がぶつかり合って……舞台は超高熱のフィールドと化した!」
ドラゴン「『真竜の闘い』――――ヴェルザーは、己(オレ)だッ!!!」
真「――――」
ドラゴン「さらば、だ。己(オレ)のベル・マルドゥーク。その奮戦ぶり、苦き水の竜(ティアマト)も讃えよう……」
真「…… …、… 」
ドラゴン「おや?」
真「い、いしょう、ぶだった、よ……次は、負けるもんか……!」
ドラゴン「ふ、ふふふ!」
ドラゴン「また逢おう、好敵手(とも)よ」
――この日。世界は竜の脅威と狂気のもとに置かれた。
今回の投下は終了。
アイマスと竜†恋のクロスです。名無しの彼女ですが、ここでは『ドラゴン』表記。
ここでは初めてですがよろしくお願いします。
乙です
蘭子に乱入してもらいたい
・・
・・・
765プロ事務所
律子「ちょっと! すごい話題になってますよ! 『ドラゴン対真』!」
P「ああ……あの後大変だったんだぞ。興奮のあまりお客さんが50人くらいぶっ倒れて」
社長「そうか、そこまで没入させるライブだったとは……。歌い終わって倒れてしまった菊地君は大丈夫なのかね?」
P「ええ、ゆっくり休ませてます。アイツあの時気が高まり過ぎて、歌ってる最中の記憶ぼんやりしてるんですよ」
伊織「どんだけ全身全霊でやったのよ……」
千早「しかし、それにしても」
貴音「竜、ですか」
P「そうですよ! 竜に人間の常識当てはめるのもアレですけど、なんなんですかアイツは!」
P「空から飛び入りしてきて、舞台むちゃくちゃにして、注目を集めて、一気に熱くさせて……日高舞並の所業ですよ。何の誇張も無く!」
雪歩「ううぅ……恐い……!」
あずさ「前例があるのもすごいわねぇ」
社長「キミ達も、覚悟はしておいた方がいいね。これからも進み続ける覚悟があるのなら」
雪歩「えっ、また別のライブに来るかもしれないんですかっ!?」
社長「竜とはそういう存在だよ。脅威であることを望み、熱く燃え上がるような戦いを望むものだ」
社長「……それが武闘ではなく舞踏に依るものでも」
春香「…………この写真」
春香(桃色の髪に、翠色の目。それに、白い帽子を被って……)
春香「……やっぱり、あの子がドラゴンだったんだ」
P「あーそうだ、雪歩。定例のミニライブのことだが」
雪歩「あ、そうでしたぁ!」
P「また、ドラゴンのヤツが乗り込んでくるかもしれないけど、まぁ、心配するな。命を取られるわけじゃない」
雪歩「ううぅ……でも、竜なんて……」
律子「犬でさえまだ十分に克服してるってわけじゃないのに、竜はちょっときつくありません?」
P「雪歩は逃げないさ……ドラゴンにだって勝てると俺は信じてる」
雪歩「か、買いかぶりですぅ!! 真ちゃんでもあんな……!」
律子「まぁ、落ち着きなさい。真が竜と逢ったのは、ライブも後半に入った時で万全というわけじゃなかったから……」
雪歩「そうですか……? 敗因にするには弱い気が……」
P「弱気に、なるな」
雪歩「えっ?」
P「真の借りを、返したいとは思わないか? いやそうじゃなくても――竜というファンタジーの存在に会えるかもしれないんだぞ。それはわくわくしてこないか?」
雪歩「……」
P「ドラゴンがなにを考えているのかは分からないが、アイツはアイドルと競おうとしている。言いかえれば、アイドルであればドラゴンに逢えるんだ」
P「資格があることを、幸運だと思おう、雪歩」
雪歩「そんな……」
P「竜に、なにか聞きたいことはないか」
雪歩「……そんなの……。あ……」
雪歩「…………え、エーテル界の色を……」
P「うん? えーてるってなんだ」
律子「第五の元素ね。光を伝える媒介」
雪歩「別の世界がどんな風になっているのかを、聞きたいかも、知れません……」
P「おお、じゃあそれを出会えた時の楽しみにしよう!」
雪歩「え、えへへ……聞けたらいいなぁ」
P「それで、今回のゲストなんだが……やよい!」
やよい「はいっ!!」
雪歩「やよいちゃん?」
P「ゲストはやよいに決まった。やよい、しっかりな!」
やよい「はいっ!! どらごんさんが来ても、私が雪歩さんを守りますっ!」
雪歩「あ、ありがとう。よろしくね、やよいちゃん」
P「それで、デュエットの時の衣装は、天使系でいく。やよいは初めからリングと羽根を……」
貴音(雪歩……がんばるのですよ)
――
――――
控室
P「じゃあ、俺は舞台の最終点検にいってくる」
やよい「はい!」
雪歩「わかりましたぁ」
やよい「雪歩さんと二人で歌えるなんてわくわくしますねー!」
雪歩「うん。今日はよろしくね、やよいちゃん」
やよい「こちらこそ、よろしくお願いしまーすっ!」ガルーン!
雪歩「ドラゴンさん、来るのかなぁ……」
やよい「だいじょーぶですっ! 私に任せて下さい!」
やよい「そうだ。プロデューサー! 私もついてっていいですかー?」
P「うん?」
やよい「雪歩さんをお守りするためにも、ステージをもっと良く見ておいた方がいいかなーって!」
P(おいおい。武器になるものでも探す気か?)
P「ふ、いいぞ! ばっちり確認するといい! 良かったな雪歩! これで安全だぞ!」
やよい「ありがとうございます! 雪歩さん行ってきますね!」
雪歩「やよいちゃん……ありがとう」
P(だが、これで雪歩が安心できればいい、か……)
シーン…
雪歩「ふう」
雪歩(段取りは確認したし、衣装も大丈夫。お茶も飲んだし……歌う前だからちょっとだけだけど。これで、万全なはずだよね)
雪歩「……」
雪歩「ううぅ、やっぱりちょっと不安になっちゃうなぁ……ドラゴンさんかぁ……だめだめ! やよいちゃんがあんなに気を遣ってくれてるのに!」
雪歩「がんばれ雪歩ー!」
雪歩(竜と出会うことは、マイナスじゃない、マイナスじゃない、マイナスじゃない……!)
雪歩「あ、そうだ。プロデューサーが言ってた質問を考えておこうかな……」
雪歩「詩集を出して……」ゴソゴソ
雪歩「――『エーテルの空で』」
雪歩「『極彩色の地平から ふたりの熱が はらりと溶けた 色が失せてく世界のハート……すれちがう 彩のカケラ……』。うん、よく書けてる」
雪歩「別世界の情報が集まったら、また書き直すのもいいな。エーテルの色……虹の風みたいなのかなぁ……あ、『虹の風』っていう表現いいなぁ」
雪歩「ちょっと、書いておこうっと。『虹の風』。『顔をあげて 静謐に閉じこもるのはもうやめて 風の彼方の声が響く』……」カリカリ
雪歩「……」カリカリ
雪歩「………………」カリカリ
雪歩「…………………………」カリカリ カリカリ
ドラゴン「十四行詩(ソネット)でも書いてるのかー?」ヒョイ
雪歩「ひゃぁっ!!!?!??」ガタッ!
雪歩「だ、だ、だ、誰ですかぁっ!? どうやって入ってきたんですかぁ!? ああ!! そ、そのノート返してくださぁい!!」
ドラゴン「己(オレ)はドラゴン。ノックしたが返事がなかったんで堂々と押し入らせてもらったぞ」
雪歩(ノック!? うぅぅ、聞こえてなかったよぉ!)
雪歩「あれ? ……ドラゴン……って? へ?」
ドラゴン「うむ? 分からんか。ではもう一度自己紹介だ。――やぁやぁ、お嬢さん。冷たい宇宙(そら)の遥かより、白き竜が跳び出してきたぞ!」
雪歩「え、ええええええ!?」
ドラゴン「――それにしても、なかなか精緻な筆致じゃあないか、詩人の姫よ。夢(ロマン)の彩りがまるで万華鏡のようだ!」パラパラ
雪歩「ひゃぁあああああああっ!!! 読まないでー!!!」バシッ
ドラゴン「恥ずかしがるなよぉ……『サンピラーの臺(うてな)を昇る儚い私』殿」
雪歩「あああああ! 読んだー!! あ、あああああああ!」
ドラゴン「うん?」
雪歩「私!!! 穴掘って!!! 埋まってますぅ~~~~っ!!!!」シャキン!!
ドラゴン「おお! 身を伏せて、虎伏絶刀勢の構え……じゃないね」
ドラゴン「まぁ待て。土で眠るのは墓に入ってからでも遅くはないぞ。散るまでの刹那にせいぜい己(オレ)を楽しませてくれ♪」ガシッ
雪歩「あ、スコップが!」
ドラゴン「それに貴様は判断を誤っているぞ? 白竜を前に土竜(もぐら)の真似をしたところでどうなる。マグロ食ってるイグアナもどきより興冷めじゃないか」
雪歩「うぅぅぅ……何を言ってるのかわかりませんが、すいません……」
ドラゴン「自負と誇りを持てよー、ヒトの子よ。そんな相手喰らっても美味くないじゃあないか♪」
雪歩「ひっ! 食べられちゃうんですかー!? あわわわ……」
雪歩(なんなの~!! いきなり来られて頭がぐるぐるだよぉ~!)
雪歩(こ、こういう時こそ落ち着くの! 大人のレディの対応をするの! がんばれ雪歩! ミスミスミスター! ドリドリラー!)
雪歩(あ、でも良く見れば……この人、すごく綺麗で、カッコいいかも……)
雪歩「…………」
ドラゴン「うん? どうかしたかな」
雪歩「こんなひんそーでちんちくりんな私は、あんまり美味しくないかもしれませんが……や、やさしく食べてくださいね」
ドラゴン「ほほぅ? 竜の顎(あぎと)に対して、その覚悟や天晴れ――」
コンコン
スタッフ「萩原雪歩さーん! そろそろステージの方へお願いしまーす」
雪歩「……はっ! ちょっと暴走しちゃってましたっ!? は、はい!!」
ドラゴン「おや、出陣かね? 武運を(グッドラック)。雪と土と詩(うた)の姫よ」
雪歩「あ、ありがとうございます」
雪歩(えっ? 送り出してくれるの? この人何しに来たんだろう……)
・・
P「おう、雪歩、来たか」
雪歩「は、はいっ!」
P「段取り通り、『First Step』から始まって、ゲストの紹介だ! それで、やよいに一曲歌わせて」
雪歩「はい、大丈夫です! あの、プロデューサー……」
スタッフ「ステージ準備OKです!」
P「よし、行ってこい! 雪歩」
雪歩(あ……ドラゴンさんのこと伝えなきゃいけなかったのに……)
雪歩(でも、あの人ついてくるわけでも無かったし……なにかするつもりあるのかな……)
やよい「がんばってくださいね! 聞いてますから!」
雪歩「あ、やよいちゃん……」
雪歩(そうだよね。まずはステージの方に集中しないと……!)
雪歩「うん! 行ってくるね!」
雪歩「―― 初めて会った日、覚えてますか? ♪」
ワァアアアアアアアアアアア!! ユキホチャーン!!
ドラゴン「…………ふふん♪」
――
――――
雪歩「――ありがとうございましたぁ!」
ウオオオオオオオォォ!! サイコー!!
雪歩「え、えへへ。みなさん、実は今日はゲストにお越し頂いてますぅ!」
オオー!! ダレー!?
タタタタタ……
雪歩(うん、やよいちゃんが歩いてきてるね)
雪歩「はいっ、ゲストはこの人! たかつき……――」
ドラゴン「よろしく頼む。人間風情ども!」
雪歩「」
ドラゴン「エーテル界の666丁目から越してきましたーっ! 好きな映画は『キス・オブ・ザ・ドラゴン』だよーっ!! よっろしっくねー!!」
P「!!! なぁっ、また出た!! どこから入ってきたんだアイツは!! あれか! 別次元界からポータルでも作ってるのか!?」
やよい「わ、わわわ!! 雪歩さん!」ダダッ!!
ドヨドヨ…アレッテ…
雪歩「あ、あわわわ……! 私のとこにはこないんじゃ」
ドラゴン「んーん? 普通に来るよ? どうやったら夢(ロマン)的登場かなーってタイミングを計ってたのだよ」
雪歩「ううぅ、謀られましたぁ!」
ドラゴン「さぁーて、じゃあ、心躍る一時を存分に味わおうか。んー?」スゥウウ
真の時と同様に、光る塵が宙に煌めき始め、あの関心を具現化する竜の舞台が形作られていく。
雪歩「や、やめて……許して……!」
ドラゴン「おいおい、貴様にも牙があるんだろう? 感じているぞ。逃げるなよぉ♪」
雪歩「え?」
やよい「雪歩さんをいじめないでくださいっ!」タタッ!
ドラゴン「おや?」
やよい「あなたがドラゴンさんですねっ! 雪歩さんは私が守りますからっ!!」
ドラゴン「そういう貴様は天使か。ごきげんよう。聖(セント)ジョージは元気かねー?」
やよい「せ、せんとじょうじ? えっと芸能人の方ですか?」
ドラゴン「んー、芸能従事者というよりは農業従事者だな。『聖大致命者凱旋者ゲオルギイ』と言った方が理解が容易かな?」
やよい「はー、すいません。わからないですー。せいだいちめいしゃがいせんしゃ……なんかロボットアニメみたいな名前かも」
ドラゴン「ハハハ! 確かに、武勲の誉れは高いがな! よろしい……『竜殺しの聖人』のその凄まじさ、竜と相対して一端でも思い知っておくといい!!」
雪歩「っ!!」
竜の娘が両手を握り締め、身をわずかに沈める。
瞬間、青白い闘気が彼女の体から噴出し、舞台に旋風を巻き起こした。
ドラゴン「ハァアアアアアッ!!!」
ウワー!! ナンダアリャ! スゲェ!! ドラゴンボールカヨ!!
ワァアアアアアアアアッ!!!
やよい「はわわっ!」
雪歩「きゃぁああ!」
ドラゴン「さて、貴様らは英雄になれるかな……?」バチバチ
――♪
やよい「演奏がはじまってます!?」
軽快で爽快な演奏が、舞台を、このライブハウスを染めていく。
ドラゴン「では混乱を興奮に変えるとしよう! 『ARE YOU HAPPY?』」
ドラゴン「All bad things in the way ホントに思うコトがあるんだ ♪」
竜の歌と舞が、始まる。
気の奔流と、渦巻く煌めきの欠片に包まれて、その圧倒的な力強さを伝えるダンスはさらに、見る者の目を惹きつける。
さらに、熱く、なにかに焦がれるような切なさを残すドラゴンの吐息(ボーカル)は、ヒトの奥底の意思と願いを揺り起こす。
有無を言わさず。ただただ破壊的なまでの蹂躙めいたパフォーマンス。
――ヒトの身を越え為されるそれ。
ウオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!! ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
気付けば、やよいと雪歩は後退し、舞台の隅にいた。
気付けば、観客は竜の重力にその魂を曳かれている。
――♪!!
ドラゴン「大☆喝☆采っ!!!!」
竜の歌が締めくくられ。
観客席が、爆発のような歓声を上げる。
雪歩「あ、ぁぁ……」
雪歩「す、すごすぎ……ます……だめ、だめだめだめ……これ……追いつけな……」
雪歩の足は震えていた。
間近で竜が発する闘気と、パフォーマンスと吐息(ボーカル)を浴びせられ、体が芯まで熱くなるような高揚を覚えていた。
高揚。それは、魂を掴まれたかのような被支配感でもあって。
雪歩「体が……叩きのめされて、動けないよ…………!」
圧倒されていた。
対抗する気持ちを根こそぎ奪われている。
ドラゴン「おや、貴様のターンだぞ? あの詩集のように、熱意まで筐底に秘したかね?」
雪歩「うぅぅ、あ、穴掘って埋ま……」
やよい「はーいっ!! 高槻やよいでーすっ!!!!」
雪歩「――え?」
やよい「今日はゲストで雪歩さんのライブにお邪魔させてもらいましたーっ!!」
やよい「次は、私の番です! 盛り上がっていきましょー!! 『キラメキラリ』っ!!」
ドラゴン「ほほぅ!」
退いていくドラゴンの位置に、やよいが躍り出て、観客に向かって声をかけた。
ドラゴンを中心として回っていた、巻き上げられた関心のエーテライトの幾筋かが、やよいに向かって飛んでいく。
ドラゴン「そうだ! そうこなくては! そうじゃないといけない! 魔を断つ剣が折れぬように、夢を捧げる羽も折れない!」
ドラゴン「竜に応じるのだな貴様らも――いいぞっ!」
ドラゴン「語り継がれし物語と、その未来。この原初の御伽話が、今を脈打つストーリーを検めてやる! 神と英雄の物語をどれほど換骨奪胎できたかを!」
――♪
やよい「フレーフレー頑張れ!!さあ行こう♪ フレーフレー頑張れ!!最高♪」
ワアアアアアアア……!!
やよい「どんな種も蒔けば芽だつんです ♪ マルマルス―パースター ♪」
雪歩(……どうして、前に出れるの?)
雪歩(やよいちゃん……あなただって、体震えてたのに……!)
雪歩は知っていた。先ほどドラゴンのパフォーマンスの後、やよいもまた圧倒され、身を震わせていたことを。
雪歩(……あ)
――『はいっ!! どらごんさんが来ても、私が雪歩さんを守りますっ!』
雪歩(私の、ために……!!)
やよい「晴れがあって 雨があって さあ虹がデキル ♪」
やよい「心と夢で 未来がデキル ♪」
ドラゴン「……ふふん、逞しいな。歌も、歌い手も……!」
雪歩(約束、果たそうとして……やよいちゃん……!! 私、私は、こんななのに……!)
雪歩(! そうだ。なにを、やっているの……私は)
雪歩(私も……がんばら、なきゃ)
やよい「ミラクルどこ来る? 待ってるよりも 始めてみましょう ホップステップジャンプ!! ♪!」
雪歩(真ちゃんの仇とか、年上としての責務とか……そんなこと本当にできるのか、ううん、したいのかもわからないけど)
やよい「キラメキラリ ずっとチュッと 地球で輝く光 ♪」
雪歩(今、私は……がんばりたい、って思う……!!)
やよい「キラメキラリ もっとMOREっと――♪」
雪歩(そう、そうなんだ。今、私は――)
「「私を私と呼びたい」」
やよい「――宇宙から 見れば地球も 流れ星 だから願いは 叶っちゃうかな?」
ドラゴン「………………おぉ! なんという……!」
雪歩(上を行くとか、勝負とか……考えない)
雪歩(ただ私がやれることを)
雪歩(やよいちゃんに、真ちゃんに、堂々と顔向けできるように――――私がしたいことを、やる)
やよい「――キラメキラリ 一度リセット ♪ そしたら私の『ターン』! ♪!」
やよい「キラメキラリ プッと「ポチッとな」 元気に始めればALL OK!! ♪」
ワァアアアアアアアアア!!!
――――フレーフレー頑張れ!!さあ行こう♪ フレーフレー頑張れ!!最高♪
やよい「えへへへへ!! みなさん、ありがとうございまーす!!」
ドラゴン「天晴れなステージだったぞ。援けの首飾り(ブリージンガメン)の姫よ」
やよい「ぶり? あ、ありがとうございまーっす!」ガルーン!
やよい「これでドラゴンさんも満足してくれたかなーって」
ドラゴン「ふふふ、御生憎様。まだピリオドは遠いようだ――嬉しいなぁ、ひた向きなる姫たちよ」
雪歩「やよいちゃん。ありがとう。私の歌を聞いていて」ザッ
澄んだ瞳に揺らぎない光を湛えて、萩原雪歩が進みでた。
雪歩「――がんばるから」
――♪
雪歩「Kosmos,Cosmos 跳び出してゆく 無限と宇宙(そら)の彼方 ―――― ♪」
ドラゴンに、やよいに纏われていた光の欠片が、中央の雪歩へと移っていく。
観客席からも、ゆっくりと光が雪歩へと伸びていった。
雪歩「つながるハートに伝わる 鼓動が乗り越えたデジタル ♪」
雪歩「マイナス100度の世界で何も聴こえないけど ほら ♪」
ドラゴン「おぉ……!」
しかし、それは『関心の集め方』が違うためか、収束する光の筋は不可思議な軌道を描いた。
揺さぶるようでなく、盛り上げるようでなく。
ただ清澄な歌声が、幻想的な世界を広げ、聴く者を包み込んでいく。
ドラゴン「エーテライトが歌い手だけに集中しない。周りの空気感までに惹かれて」
ドラゴン「光の欠片がふわりと舞いあがり――」
――『雪』のように。
雪歩「Kosmos,Cosmos 跳び出してゆく 冷たい宇宙(そら)の遥か ♪」
ドラゴン「この歌は――心臓の琴線を、揺らす……」
雪歩「――ヒラリ フワリ 惑星と巡る極彩色 ハラリ ―― ♪」
雪歩「語り継いだ物語と未来―― ♪」
ドラゴン「…………ふふん」
舞い散る光の粉雪の中。
――萩原雪歩は光のような『夢』だった。
――♪
Kosmos,Cosmos
跳び出してゆく 次元と宇宙の軽さ
Kosmos,Cosmos
もう止まれない ステージを駆け抜けて
コトリ ポトリ 融けるように ユメの雫みたい
辿り着いた 振り向いたら二人――
ドラゴン(―― 己(オレ)と重なる、か……)
雪歩「ユラリ フワリ 花のようにユメが咲いて
キラリ 光の列 すり抜けたら二人 ――♪」
――――♪
ワアアアアアアアアアアッ!!
ユキホー!! ユキホチャーン!! ユキポ! ユキポ!!
雪歩「――はっ、はぁ……」
やよい「うっうー! 雪歩さんとっても綺麗でしたーっ!!」
雪歩「ありがとう……! やよいちゃん……! 私、私……」
ドラゴン「愉しめたぞ、雪と土と詩(うた)の姫よ」
ドラゴン「同輩の奮戦に、己もまた闘志に火をつける……良いな。やはり貴様もまた煌めく姫だ。なんとも甘く、熱い興趣を感じるぞ!」
ドラゴン「――少し、乱暴にしてもいいかな? いいよねっ!」
雪歩「え?」
やよい「はい?」
ズ。
ズズズズズズズズズズズズズゥ――――!
P「な、何だ空気が重く……! ぷ、プレッシャーか!?」
ドラゴン「此度の戦に血のように滾る夢(ロマン)を……!! 思い知れ。ヒトの子らよ」
雪歩「そ、そんな……!」
ドラゴン「『竜には見せかけの慈悲も、上っ面の上品さの仮面もない――飢えて、燃え盛り、求めているだけだ』」ゴゴゴゴゴ……!
歓声が、ざわめきが、蓋をされる様に――圧されて消えた。
千の兵を戦慄させる竜の威。
それが決壊し、この場所を覆っていく。
やよい「こ、これ、すごすぎ、かな……って……! あ、足が……!」ガク―
雪歩「や、やよいちゃん……! わ、私に掴まって!」
やよい「雪歩さんっ」ガシッ
ドラゴン「――――」ゴゴゴゴゴゴ……!!!!
予感した。その場の全員が。
――竜の暴が、解き放たれようとしている。
それはケタ違いの破壊であり、蹂躙であり、暴虐なのだと。
ドラゴン「さあ――これぞ、ドラゴンの――――!」
ドラゴンがその質量が圧縮された腕を振り上げた。掌を『牙』のように象って。
雪歩(あ、来る)
死の予感のような。慄然たる直感が、雪歩の胸を凍てつかせた。
――ここで。
私は終わるのだ。
ドラゴン「――――ハアアアアッ!!」
――――ずどっ。
雪歩「……」
やよい「……」
P「……」
観客「……」
「「「……………………」」」
雪歩「――あれ?」
静寂を訝り、雪歩は思わず閉じた目を開けた。
果たして。
竜の腕は。
――光る、杭に、突き刺されて――――
ドラゴン「…………来たか」
ドラゴン「――『竜殺しの使者』よ」
ドラゴン「暴れようとした矢先に、ちっとは空気読めよぉ~!」
やよい「りゅう、ごろし?」
ドラゴン「 ド ラ ゴ ン フ ァ イ ヤ ー ―――― !!!!」
瞬間、青白い極太の熱線が虚空に向かって撃ち出された。
P「なぁっ!?」
――ドゴォォォオオオオン!!!
観客の頭上をすれすれで飛んでいったそれは、観客席の奥で盛大に爆ぜる。
ウワアアアアアア!! キャァアアアアアアアア!!
爆風がこの空間を揺らし、悲鳴があちこちで上がり始める。
雪歩「ひっ!! な、なにを!?」
その問いにもドラゴンは意に介さず。『熱線の先』を不敵な笑みと共に見据えていた。
ドラゴン「――墜とされたいカトンボからかかってきたまえ」
ヒュン!! ヒュンヒュン!!
竜の吐息の残滓である煙の中から、何かが高速で飛びだして来る。
やよい「はわっ! なんですかあれ!?」
雪歩「小さい、人の形をした――よ、『妖精』?」
ローブを羽織った者がいる。
羽を背中に生やした者がいる。
杖を持った者がいる。
なるほど確かにそれは妖精のようで。
しかし、それらの目は。
――殺意のように赤かった。
雪歩(―― 恐いよっ!?)
ドラゴン「ふんっ!」バキィン!
ドラゴンは突き刺さった光の杭を、腕に力を込めて破砕する。
ドラゴン「がおーっ!!」
再び、熱線が竜の口より放たれた。
ズガガガガガッ!!
いっそ景気良いほどに、その熱線はローブの妖精に盛大にぶち当たった。
しかし、羽と杖の二者は左右に散開し、指と杖から輝く針をドラゴンに向けて放ってくる。
ドラゴン「ぬっ! くっ!」ズガッズガッ!
雪歩「ひゃあああ!?」
雪歩(想像してた妖精と違う)
ドラゴン「おい、離れたほうがいいぞ。流れ弾で普通に死ぬぞ」
雪歩「ひぇええ!」
P「雪歩! やよい! こっちだ早く!」タタッ
やよい「プロデューサー! い、行きましょう雪歩さん」
雪歩「なんなんですかぁ……」グスッ
ドラゴン「ドラゴンが此処にいるんだ……それならアレはドラゴン退治の兵に決まってるじゃあないか」
――最も、今回の己(オレ)の振舞いのせいなのか、タイプが随分違うがな。
とドラゴンは付け足して。
ドラゴン「エビルズスレイヤーッ!!!」ズドォ!!
跳躍からのアッパーを、高速で宙を飛んでいた羽の妖精に突きたてた。
拳をモロに食らった羽の妖精はぶっ飛んでいき、天井に跳ねかえり、最後には光の粒となって溶けていく。
ドラゴン「いやはや、貴様らに狩られる訳にはいかんよ、妖精殿。竜を討つのは何時だって英雄だ。あまり乙女を甘やかすなよ……」
宙で身を翻しつつ、ドラゴンは不敵に笑う。
P「すっげぇパワー……! 竜ってのは伊達じゃないな……」
杖の妖精「――! ――!!!」バチバチバチバチ
雪歩(あれなんだろ? 杖の妖精さんが作ってる大きい光の玉は)
ドラゴン「――!!!」
ドラゴン「情緒(ムード)に欠けるヤツめ……!! この舞台ごと爆破かよ。竜殺しは夢(ロマン)なれど、それなりの殺し方があるでしょう?」
P「え」
杖の妖精「――」ブン
雪歩(え、私達もいるのに)
無造作に。その爆弾光球(ファンタジック・グレネード)は、舞台に向かって投げられて。
雪歩「――!!」
ドラゴン「ふんッッ!!!!」ガシィ!!!
――着弾間際で、竜によって受け止められた。
破壊の意思を帯びた凄まじい烈風が、突き進む光球と踏ん張るドラゴンの周りで発生し。
尻もちをついた雪歩の髪と服を激しくはためかせる。
ドラゴン「剣でなく槍でなく裁きでもなく……こんな粗悪品で竜が殺れるか! 六つ花の姫よ、散りたくなくば退くがいい」
雪歩「あ、あああ」
ドラゴン「速くしろッッ! 本気で死にたいのか貴様ァァアアッッー――!!!」
雪歩「は、はい!」
光球の威力は凄まじく、ドラゴンのブレザーの制服を切り裂き、身を焦がし、命を削っていく。
P「雪歩っ! さあ!」
雪歩「――で、でも! 爆発するんだったらドラゴンさんは……!」
P「そうだ! ちょっと逃げたくらいじゃ俺らも!」
ドラゴン「あー心配無用。竜闘気砲呪文(ドルオーラ)の応用がある」
雪歩「それ大丈夫じゃないんじゃ!?」
ドラゴン「見損なうなよ、ヒトの子らよ。竜はこの程度じゃ死なん――『この相手』ではやられてやらん」
ドラゴン「いくぞ、妖精! 熱いキッスはいかがかな?」
ドラゴンは光球を、無理矢理野球ボールぐらいに圧縮し、それを弾丸にして、狙いを定める。
目標の杖の妖精は、このライブハウスの天井付近を飛び回っている。
P(速いぞ、あの妖精ってやつ。当てる気かよ!?)
ドラゴン「――逃げるなよぉ♪」キイッ
雪歩(あっ、目が、蛇みたいに――――)
―――――――――――
―――――――ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!
高速で飛ぼうが関係なく。
竜の弾丸は、杖の妖精を撃ち抜いた。
雪歩(――――天井ごと)
やよい「あ、青空が見えますね……!」
ドラゴン「ふふん」
P「なにやってくれてんだー!?」
カァン、と。杖だけが、床に落ちる。
混乱のただ中にある観客達。
その中の一人が天井に開いた穴を指差し、何事かを叫んでいる。
ドラゴン「――新手か」
雪歩「ああっ! また来てますー!!」
開いた穴から、またあの赤く目を光らせる小さな妖精達が三体、こちらを覗いていた。
ドラゴン「……おもしろい♪」
雪歩「え?」
ドラゴン「準備運動は終わりだ。こっからが本当の闘争だ」
雪歩「闘争って……」
雪歩「――あなた、一体」
ドラゴン「うん?」
雪歩「一体、何しに来たんですかぁ!!」
やよい「雪歩さん!?」
雪歩「私達の物語を検めるって言って。それでこんな闘いも楽しんで! なんなんですかぁ! ううぅ……!!」
ドラゴン「……ふん」
ドラゴン「罪深いと思うかね?」
雪歩「うぅ……え?」
ドラゴン「――それならば、己(オレ)は全うできているのだな。鱗を享けし生というものを」
瞬間、ドラゴンの体が光に覆われた。
体積が膨れ上がり、竜本来の形状を取り戻していく。
白き鱗に覆われ、牙と爪を携えた、幻想のフォルムへと――彼女の体が変じていく。
雪歩「あ、ああ……」
雪歩(――綺麗)
やよい「はわわっ! 恐竜ですかぁ!?」
P「!! やよい、雪歩! 下がるんだっ!!」
突き上げる彗星のように、竜が翔ける。
天井に開いた穴から、踏み行ってきた妖精達を蹴散らしながら――空へと昇る。
雪歩「…………」
穴から覗く空。
火を吹く竜と、それを取り囲む妖精が見え――
やがてそれらは、闘う舞台を探す様に飛び去っていった。
雪歩「――――ドラゴンって……一体……?」
――
――――
――――――
『ライブを強襲! 竜の狼藉!!』
『歓声と悲鳴 竜に湧いた』
『巻き込まれたアイドル 萩原雪歩! アイドル活動休止か』
黒井「……無作法というより、無法。それこそ竜たるものの行動」
黒井「思いのままに、猛るままに振舞い――それが魂を掴む」
黒井「自由と、豪快な行動に、人は活力を与えられるのだ」
黒井「一方、竜は暴れ、壊し、畏怖と反感を撒き散らす」
黒井「……やがては倒すべき相手として、この世界の人間たちが認識するだろう」
黒井「暴れ、挑み、倒して、笑え」
黒井「ファンを増やし、ヘイトを稼ぎ、羨望を食み、恨みを背負え」
黒井「そうすることで、竜はまっとうするのだからな――――」
黒井「―― 己の生き様と、死に様を」
今回の投下は終了。
全員と絡ませるつもりだがどうなるか
>>27 蘭子との掛け合いもおもしろくなりそうですね。おまけみたいな感じでやるかも
――
――――
765プロ
真美「ゆきぴょーん!! やよいっちー!! 大丈夫だったー!!」ピョーン!
亜美「ドラゴン見たんでしょ!? どんなだった!? ねえ!」ダダダー!!
雪歩「ひゃ!? 亜美ちゃん真美ちゃん……」
律子「こーら! 少しは気遣いなさい!」
亜美「あ、そだね……」
やよい「うん! 私は元気だよーっ!!」
真美「流石、やよいっち! ドラゴンもなんのそのだね!」
雪歩「私は……うん、私も元気だよ。心配してくれてありがとう」
貴音「雪歩……本当に平気でありますか?」
雪歩「え、四条さん?」
貴音「おもしろおかしく書いた記事も多かったですが……竜とそれを追ってきた妖精なるものの闘いに巻き込まれ、危ない所であったとか」
雪歩「はい……。あ、トラウマになってアイドルを辞めるとか書かれたりしてますけど、辞めませんから!! 確かに、正直、死んじゃうかもって思いましたけど……」
貴音「……! 竜は幸運でしたね」
貴音「私、雪歩になにかあれば、その竜を許さなかった所です」
雪歩「四条さん……」
やよい「そう! ドラゴンさんがヒトの姿のままでね、がおーって火を吹いたの!」
真美「すっごー! ゴジラだ!」
亜美「そ、そんで!? そんで!?」
やよい「妖精さんが作ったピカピカ光るボールをね、爆発する前にガシッて受け止めてね……」
真美「ふんふん!」
亜美「それで、どーしたんだい!?」
雪歩「確かに、ドラゴンさんのパフォーマンスはすごくて……舞さんを思い出させるくらいに、恐くて……」
雪歩「それで、火を吹いたり、本当に竜になって暴れたりして……それもとっても怖かったです」
貴音「さぞや辛かったでしょう……」
雪歩「はい……でも、ドラゴンさんはちゃんと私達の歌や踊りも楽しんでいたんです。褒めてさえくれたように思います」
雪歩「でも、でも……あの人は、闘いも楽しんでて……刺されたり、撃たれたりしても嬉々として闘っていて……」
雪歩「私、ドラゴンさんのことが分かりませんでした」
雪歩「凄かったし、恐かったし、ちょっと憧れみたいなものさえ感じているんですけど――今、ドラゴンさんに思うのは『聞いてみたい』って気持ちなんです」
雪歩「『エーテルの色』とかじゃなくて、あの人が、竜が一体何を思っているのかを聞いてみたいんです」
貴音「強く……なりましたね、雪歩」
雪歩「え?」
貴音「あのような相手にきちんと対峙し、歌を臆さず披露し、そして自分のらいぶで暴れた相手をなお知ろうとする」
貴音「真素晴らしき精神です」
雪歩「四条さんに褒められるなんて……えへへ、嬉しいですぅ」
貴音「――確かに、かの竜は一体何しに来たのでしょうね」
雪歩「それもとっても遠い冷たい宇宙(そら)の遥かから……」
貴音(……私も国を離れ、己の証を立てに来た身)
貴音(為すべき大義や夢が、あの竜にもあるのでしょうか……)
貴音(しかし、それでも、あのように暴れるのは頂けませんが)
真美「あれー兄ちゃん何それー?」
亜美「魔法使いのマネ? イクシアダーツサムロディーアって唱えてみてYO!」
P「こらこら! これは竜を調べるための手掛かりなんだからな!」
貴音「!」
雪歩「あ、それ、襲ってきた妖精さんが持ってた」
P「そう、『杖』だよ。ドラゴンのヤツに撃たれたやつの杖だけ残ってたんだ」
真美「おー! イリューヒン、ってやつだね!」
P「ああ、そうだ。ファンの人がスタッフさんに拾って渡してくれてて、そのスタッフさんから俺に流れてきたってわけさ」
亜美「でも、ちっちゃいね。ボールペンみたい」
P「まぁ、妖精のサイズ自体30センチぐらいだったからなぁ。これで妖精は光の玉とかいろいろ出してたんだが……」
貴音「プロデューサー殿が持っても何も起こらないのですね」
P「ああ、残念ながら」
亜美「亜美! 亜美にやらして!」
P「いいけど何も起こんないぞ」
亜美「んっふっふ~! 亜美は兄ちゃんとは違うのだよ、兄ちゃんとは!」
真美「やったれ! 真美隊員!」
亜美「ラジャーだよーん! むむむ……!」
やよい「でも気をつけてねー、亜美」
亜美「むむむむ……!!」
亜美「むむむ……!」
亜美「にゃにゃにゃにゃ……!!」
P「声を変えてもどうにもならんぞ」
亜美「イクシアダーツサムローディーア…… 魔法のことば唱えましょ!!」ブン!
雪歩「ひゃっ! 振り回したら危ないよぉ」
亜美「あーもー!! なにもオコんないじゃーん! ツマンないよーっ!!」ポイッ
P「おい、放りだすな」
貴音「亜美、魔法なる力は強靭なる意思によって作られるものと、以前読んだ書にありましたよ」スッ
貴音(……小さき杖ですね。これから色々なものが放たれたというのですか……面妖な)
貴音(しかし、竜の手掛かりと言えばこれぐらいしか……)
貴音(えいっ、竜の居場所でも答えてごらんなさい。杖よ)
――ポゥ
貴音(! 今、杖の先から微かに光が出たような……?)
P「おい、そろそろお前たちレッスンの時間だろ。やよいと雪歩はもう少ししたら送っていくよ」
亜美「そうだったー!」
真美「ちぇー! ドラゴンがレッスン場、壊したりしないかなー」
律子「不謹慎なこと言うんじゃないわよ。ホラ、特に亜美はイベントに備えて私がミッチリ鍛えるからね!」
亜美「ギャース! ここには鬼がいるよー!」
貴音「これは、もしかして……ならば、私も竜に逢うことが……」
P「うん? どうした貴音、歌のレッスンの時間だぞ?」
貴音「! ――ええ、わかっておりますよ」
貴音「プロデューサー殿、私この杖を少しお借りしてもよろしいでしょうか。私なりに調べてみたいことがあるのです」
P「うん? まあ、貴音ならいいが……オレよりは何かに気付きそうだし。分かったことがあったら教えてくれよ?」
貴音「はい。しかと伝えましょう」
――――
……ポゥ
貴音「やはり、この光の球は何度やっても同じ方向に飛んでいくようです……」
貴音「竜の場所を、教えているということでしょうか」
貴音「――ならば、やることは一つですね」
貴音(お許しを。あなた様。しかし、竜の元に乗り込むなどと知ったらきっと止められることでしょう)
貴音(私は、遠い地よりかの竜の姫がなにをしに来られたのか確かめたいのです)
貴音(アイドル達の前に現れるのはなぜなのか……アイドルとして振舞うのは何のためなのか……)
貴音(かつての私と同じように、大義を身に帯びているのか)
貴音「ふ、雪歩の思いもありますが、きっと私はかの竜の姫に、自分を見出してしまっているのでしょうね」
貴音「光る欠片を奪い合うという『らいぶばとる』」
貴音「もしやり合うことになったら、負けられませんね」
貴音「遥かし地より参られた異邦の姫。本来なら畏敬を以て接するべき相手。話すだけで済めばいいのですが……」
貴音「もし、皆を無法に苦しめる輩であれば……私が倒しましょう」
――
――――
社長「『竜』が来たな……最後に来たのはどれほど前だった?」
黒井「ふん、そんなことも覚えていないのか。十三年前だ」
社長「あの時も凄まじかった」
黒井「まったくな。違う世界から来訪し、礼儀も知らずに暴れまわり……! あんな制御できない本能の塊なぞ利用もできん」
社長「しかし……あの時は世界が湧いていた」
黒井「あんなもの、一種の熱病にかかったとの表現が適切だ」
社長「しかし、人々は興奮し、夢を見た。……なぁ、黒井。私達はあの興奮と夢と並ぶほどのものをこの世界に供することができているだろうか?」
黒井「ふん、酒の回りが早いぞ高木。あんな原始的な活力よりもよほど上等なエンターテインメントを私は造っている!」
社長「ああ……それはお前の目標の一つでもあったな」
黒井「あんな一過性の竜巻などに負ける道理など無い! 私はかの竜に勝っている!」
社長「……ふ、そうだな」
社長(黒井よ。気付いているか? その闘争心もまた……かの竜が植えつけていったものだということを)
社長(竜がもたらす脅威は、やがて力比べの物語に繋がる)
社長「――そして、その果てに竜の本懐はあるのだろうね……」
――
――――
都内に残る、広々とした芝生を湛える公園に、貴音は辿りついていた。
貴音(なんと広い……案内板には、かつて飛行場だったと書いてありましたが……このような広い公園があったのですね)
貴音「……おお、月があんなにも大きく見えます」
貴音(こんな状況ですが、少しうきうきとしてしまいますね……)
貴音「――む、あそこに佇んでおられるのは……?」
ドラゴン「大気が澄んで――良い夜だな」
貴音「…………」
貴音「ええ、とても良き夜です」
ドラゴン「"The Dragon wing of night o'erspreads the earth." (夜の竜の翼は、地をあまねく覆う)……シェイクスピアも慧眼だね。夢(ロマン)溢れる措辞だ」
貴音「心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな ――三条院殿も狂おしき歌を詠まれました。この月に焦がれたのでしょうか」
ドラゴン「ふふ、こんばんは」
貴音「ええ、こんばんは」
月から下ろされた視線が絡み合い、空気がピンと張りつめた。
――瞳には魔力が宿る。
貴音「……」
ドラゴン「……」
互いに胸の内をさらい、思惑と、本質とを薄らと理解する。
二人はこれから行きつく先をなんとなく予感した。
そしてそれに不思議な面白みを覚える。
熟練の騎士が受けた剣の手ごたえで相手の狙いを読みとる様な、言外のコミュニケーション。
それは互いが持つ相手への興味――好意にも似た敵意を、伝えていた。
この夜に期待と、覚悟と、歓喜がないまぜになった空気が醸成されていく――――
そして、会話が封切られた。
貴音「竜の姫とお見受け申しました。杖の導きにより御前に侍ります。私、765プロにて御厚誼を賜っております四条貴音と申します」
ドラゴン「これはこれは、謝絶の姫の面影を残す王女様。御尊顔を拝し光栄の至り♪」
貴音「不躾な質問をお許しくださいますよう――」
ドラゴン「婆娑羅のこの身に過ぎたる礼節、恐悦至極に存じ奉る……汝の疑問はなんぞや?」
貴音「貴女様は、如何様な仔細でこの地に馳せ参じておられるのでしょう」
ドラゴン「……ふぅむ、これは寸鉄! 『何のため』にと、きましたか」
ドラゴン「――『難題婿譚』のメソッドをこの星に挑ませるために。……と貴殿に対して言うのは不遜に過ぎるかね? 輝きの夜の姫よ」
貴音「我々が……試練を受ける身ということですね。これは……確かに諧謔も過ぎますね。宝珠を抱えし竜殿」
ドラゴン「『白龍頷下(はくりゅうがんか)の珠』――貴公らに獲れるか」
貴音「貴女様の愛なき心の空白を埋めるためならば……是非もなし」
ドラゴン「よろしい! 熱い求婚を頼むぞ!」
貴音「大伴公のようには参りません。御覚悟を!」
ドラゴン「ハッハァッ!! 迷いがなくていいぞ王女様!」
ドラゴン「さぁ……!! 恋っぽいこと、しようぜぇ!?」
周囲に、光の欠片が渦巻き、闘いのフィールドが形成される。
互いの意を知り、彼女らはこれまでになく早く闘いになだれ込んだ。
もとより、闘うために来たのならば。それに対するやり方は一つ。
――竜との相対の流儀を、この世界の者たちも理解し始めていた。
貴音「これが雪歩達も包まれたという、光のどーむ……面妖な」
ドラゴン「月と木々の他にギャラリーはいないぞ? だから……勝ちたくば、己(オレ)を屈服させるしかない」
貴音「承知しました。奪い合うは互いの関心ということですね」
ドラゴン「そう、一騎打ち――いいだろう? 夢(ロマン)が合理の泥を被る前の闘いだ!」
貴音「――ふふ。少々昂ぶってまいりました。私、貴女様を倒しましたらば、その喉元の宝玉頂いて参ります」
ドラゴン「ああ、その暁には褒美を取って帰られよ!!」
――♪
貴音「――『風花』」
大気より鳴り響いた曲に乗り、四条貴音は清らかなる歌声を口にした。
その様は凛然と、広場に白き華が咲いたようで。
――哀切と憧憬が、歌を雫に夜を染めた。
貴音「 砕け散った空に 風花が舞う 」
対峙するは――己の魂。
相手を潰すような歌などもとより流儀には無い。
ただただ歌との合一を。
調べが為す所への肉薄を。
意思を注いで、歌に心を乗せていくのみ。
貴音「 心覆う闇は 晴れることは無く ――」
いつしか孤高の響きに、四条貴音と『風花』は達し
声はこの月に溶け――
歌はこの風に散った。
貴音「追いつめられて言葉無くして思うのは 心の中に散った 風 花 ――――! ♪」
竜もまた――歌っている。
真正面に相対して歌に全てを注いでいる。
切ない調べ。
曲調がもたらすイメージは似通っているとも言っていい。
竜のブレスが、
貴音の歌声が、
この夜の広場に†(クロス)して
光の橋が夜闇の海に架かるよう。
互いに光の器の中心で、気を取られることなく、自身の歌に没入している。
しかし。
だからこそ歌と心が織成す聖域は、感受性をも鋭く研いで。
――――『破壊と再生』――――『気高き君の呪縛』――――
貴音(……これは)
間隙に微かに差し込まれた歌の世界に、魂を容易く奪わせた。
貴音(竜の姫よ――あなたは――)
貴音(まさか)
貴音(――――この意思は、『覚悟』…………)
纏われていた光の欠片が、気まぐれな蝶のように貴音の元から離れていく。
歌に乗せられた感情を、高めた精神で真正面から受け止めてしまった。
察した竜の背景は。
あまりにも儚く――――人の夢のようで。
それゆえなんともいじらしくて。
……そして戦慄するほどに狂気だった。
――――『終わりと始まり』
――――『尊き君の記憶』
――――♪
――
――――
ドラゴン「……初めは己(オレ)は押されていたのだろう。あまりに鋭い歌への姿勢に」
ドラゴン「しかし、貴様の歌は―― 心の臓を揺さぶって、己(オレ)のココロに火をつけた」
ドラゴン「互いの道程を感じ、重なりを覚え……己(オレ)はきっと本当の意味で歌のチカラを理解した」
ドラゴン「礼を言うぞ、銀色の王女よ。そして遠く離れた我らが出会えたことを物狂いの竜に感謝しよう」
貴音「…………」
膝をつく貴音の周りには、夜の闇が。
視線の先、ドラゴンの元には――燦然たる光の器。
…………勝負は決した。
貴音「あなたさまは止まらないのですね……」
ドラゴン「然り。竜とはそういうモノだ」
貴音「どうにかご容赦を頂けませんか、お相手は私が何度でも務めます!」
ドラゴン「……ふむ」
ドラゴン「それでは己(オレ)がこの星に降りた意味がないじゃあないか?」
貴音「……了承していただけませんか。では! せめて妖精なるものとの危険な闘いは……」
ドラゴン「それも止められん。闘争は我らの規定(ルール)なればこそ。止めたとあっては天帝の御勘気を被る」
ばっさりと、せめてもの願いも切り捨てられる。
貴音「……!! わかりました……ならば、破れた身なれど私は……!」
立ち上がる四条貴音。
貴音「私の仲間の為に! 私は必ず、貴女を……倒します!」
その決意を込めた瞳に、竜はなんとも深い微笑みを向ける。
ドラゴン「そうか、貴様はこの星で自分のやるべきことを見つけたのだな――」
貴音「このような無様な在り様を、国の民に見せられませんが……」
貴音「共に高みを目指す友の脅威を見過ごすことこそ最も恥ずべきこと!」
貴音「さあ、もう一度です……竜よ!」
ドラゴン「……大義に生きて、大義に死ぬか。『竜門原上の土に骨を埋むとも名を埋めず』」
ドラゴン「凛々しく雄々しく散るがいい。白銀の月の姫よ。この白銀の竜の姫が、介錯仕ろう……!」
貴音(どうしたら、この者に……勝てるのでしょう)
貴音(考えるのです……この貪欲に成長を続ける竜に対抗する術を!)
貴音(――そうです!)
貴音は、懐にしまっていた杖を引き抜く。
ドラゴン「ほう……それは『竜殺し』の……!」
貴音(強き意思を以て願えば、この杖は面妖なる力を返す……)
貴音「ならばもう一度……! 次は私に――『力』を!」
杖を握り締めた貴音は、頭を垂れ、祈る様に願いを放った。
貴音「……私に、この者を倒せる『力』を……っ!!」
瞬間、杖の先端から光る糸が噴出し、貴音の体を覆っていく。
貴音「こ、これは……願いが届いたのですね!」
貴音(これならばこの竜を…………!)
■■■■■■■■■
――――試練ヲ超エラレヨ
――――振ル舞イヲミセヨ
貴音(――――なっ)
貴音(なんでしょう、頭に声が……?)ダダッ!
貴音(! なぜ私は駆けだしているのです!?)
ドラゴン「『菩提樹の印』――アイドルであれば、みな心にそれが烙印されているということかな?」
ドラゴン「仲間を思って立ち上がる……いい英雄ぶりだが」
貴音(体が自由に動きません! あっ! 竜に跳びかかって……)シュオッ!!
ドラゴン「……魔法の装具が貧弱で、支配も弱い」
ドラゴン「ドラゴンファイヤー!!」ブアオオオオオッ!!
貴音「……!!」
跳びかかった貴音。
熱戦を吐いたドラゴン。
広場が昼のように照らされ。
…………貴音の記憶はそこで途切れた。
――
――――
ドラゴン「『竜とは、力とそれを用いる意思との完璧な融合だ』ってね」
貴音「……むぅ」スヤスヤ
ドラゴン「貴様は魔具を御し切れなかった。それじゃあまだ己(オレ)を斃すのは時期尚早というものだよ、お姫様」テクテク
ドラゴン「イイ線いってたみたいだがね。もう少し決意を具体化し、燃える展開だったなら、魔法の装備も空気を読んで駆けつけただろう」
ドラゴン「『堪えがた』な結果だったな。……だが己(オレ)もまだ知りたいことがあるんだ…………もう少し粘るよ? 己(オレ)は」
ドラゴン「ふふん、我が逆鱗に殺意を突きたてるのは、果たして誰になるかな♪」
貴音「むにゃ……しょうろんぽう……まこと、びみです……」ハム
ドラゴン「ふにゃあ!? コラ、耳を食むな!! 後ろから不意打ちとは卑怯なり! おんぶしてやってるというのに」
貴音「これは……なんとも……」ハムハム
ドラゴン「「あ……敏感なとこ……触っちゃ…… いやぁ……」」ピクン
貴音「おかわり……むにゃ」
ドラゴン「……おもしろいヤツだな貴様も…………」
ドラゴン「愉しい一騎打ちだった。勇気を絞り出す臆病者も愉しいが、やはり堂々と挑んでくる兵(つわもの)も血が滾る」
ドラゴン「さあ、次は誰で夢(ロマン)を確かめようか」
貴音編投下終了。
掛け合い作るの楽しい。
――
――――
――――――
亜美「……で、だから。こう願うと……」ムムム
亜美「てや!」ピシューン!
真美「いいよ亜美! また成功! 次は真美にもやらして!」
亜美「だんだんこの杖の使い方分かってきたよー! ぐーっと願ってバシッとメイレーする感じ! 大発見だったねお姫ちん!」
貴音「ええ。その杖の使い方次第で、竜を倒すことができるかもしれません」
亜美「でも無茶だったよ、ドラゴンと一騎打ちなんて。カッコいーとは思うけど」
貴音「反省しておりますよ。しかし……どういう幕引きだったか記憶が曖昧なのです。杖に何かを願ったところまでは覚えているのですが」
真美「そっからは先は覚えていないと」
貴音「ええ。恥ずかしながら……起きた時には事務所のドアの前で……」
亜美「兄ちゃんびっくりしてたよねー!」
真美「ほんとにブジでよかったよー! 食べられちゃってたかもしれないもんね」
貴音「……それはぞっとします」
真美「お姫ちんおいしそーだもんね」
亜美「脂乗って旬ってカンジだよね!」
貴音「お、おやめなさい! 亜美真美!」
貴音「と、ともかく、私は竜を倒すには、杖の力が効果的ではないかと察したのです!」
真美「うんうん、めんよーにはめんよーってね」
亜美「ドラゴンハンター目指してがんばろー!」
貴音「ですが……なんとなく、その杖は危ないものでもあったような気もするのです……練習するのもいいですが、気をつけるのですよ」
亜美真美「ほーい!」
貴音(竜がその活動を止める気がない以上、対抗する手段を持たせるほかはありません)
貴音(機が来たれば……私も、また)
亜美「ん、デンワだー。もしもし→? りっちゃん?」
律子『そろそろ事務所に戻ってきなさい。伊織とあずささんはもう待ってるわよ』
亜美「あ、そだね。わかったー」ピッ
亜美「亜美、そろそろ行くよー」
真美「うん、いってらー。こっちはもう少し練習しとくよ!」
亜美「では任せたぞ真美隊員!」
真美「イエッサー亜美隊員! ドラゴンに気ぃつけてね!」
亜美「んっふっふ~! 大丈夫。りっちゃんと特訓してたからね!」
亜美「――ドラゴンにターンを渡さない方法を!」
貴音「……ほう」
貴音(律子嬢、竜に対して備えたのですね)
貴音(アイドルにとって、注目を奪われるのは何より痛手……本気にもなりましょう)
貴音(『ユニット』ならば、勝機を見つけられるというのですか)
貴音「ふふ。がんばるのですよ、亜美」
亜美「うん!」
――
――――
街中
律子「次に出すCDの宣伝も兼ねたパフォーマンス……あなたたちなら出来るわ! 自身をもって心をつかんできなさいっ!」
亜美「最近のレッスン特にキツかったもんね!」
伊織「群衆の関心を一気に集め、虜にする……いつもやってることじゃない。今更ビビらないわよ、律子!」
あずさ「うふふ。なんだか街中が浮わついてるように感じるわー。みんながもってる『わくわく』、私たちにも向けてもらいましょうね」
律子「さぁ、円陣組んで」
「「「竜宮小町……ふぁいとー!!」」」
オオッ!? ナンダー!? ライブ?
リュウグウコマチ! ナンデコンナトコロデ!!
街中でのゲリラ的パフォーマンス。
彼女らは瞬く間に道行く人の関心を集め、湧かせていく。
土台はあった。
ドラゴンが現れる年は、全国が奇妙な高揚感に包まれる。
超ド級の暴力が生み出す活気。
騒々しく荒々しい活力の誇示。
破壊による解放。新生のための儀式。
倦む世界を切り開く、竜の牙と爪。
――世界は浮き立っている。
亜美「ひゃっほーい!」
あずさ「~♪」
伊織「さぁっ! まだまだ行くわよ! ついてきてっ!」
その振りまかれた、解放の種を。
竜宮小町が開花させる。
律子(いいわ! 視線を集める役目を亜美が担い、あずささんがそれを釘づけにする。――そして伊織が心まで引っ張っていく)
律子(見せる魅力が竜巻のように目まぐるしく入れ替わるアピール……成功ね!)
律子(あとは、竜だけど)
律子はノートパソコンを開いた。
ドラゴンの目撃情報が流れてきていないかを確認するためだ。
律子「目ぼしいツイートは、と……」
ワッ!!!!
その時、集まった群衆が一際大きく湧いた。
律子「な、なに!?」
聞こえてきたのは、爆発音。そして衝突音に……風切り音。
群衆に習い、上を仰ぐと。
一人の少女が天空から落ちていた。
周囲には、やられたのだろう、光の粒となって消えていく妖精達。
凄まじい速度で近づいてくるのは……少女。
その目は爛爛と輝き――
――――ドズゥゥンッッ!!!!!
と、地響きを立てて隕石の如く着地した。
爆風と粉塵の中心(グラウンド・ゼロ)に、竜のあの翠の目がきらりと光る――
ドラゴン「ふふん……同族の匂いがするぞ」
律子「で」
伊織「で……!」
亜美「でたーーーーーーーーっっ!!!」
あずさ「あらあら」
ウワアアアア!! リュウダー!!
ニュースデミタヤツ!! スッゲー! ホンモノダー!!
ワアアアアアアアアアッ!!
騒ぎ立つ群衆を見渡すドラゴン。その視線は彷徨すると、伊織たちに定められた。
ドラゴン「おおっ! そちらは765プロの昇り竜、『竜宮小町』じゃあないか!?」
伊織「アンタ……! とうとう私達のとこまで来たわね!」
律子「ま、まっ、待っていたわ! 真たちにやったこと……こっちは忘れてないんですからね!」
亜美「ドラゴンだっ! ドラゴン!! 生ドラだよっ!!」
あずさ「律子さんも亜美ちゃんも落ち着いて~」
ドラゴン「竜神の宮。そのもてなしはこの世のものとは思えぬほどに華麗にして絢爛……ふふん、是非拝見したいところだな」
ドラゴン「はじめまして竜の名を戴く子らよ。青き海の乙姫諸君!」
ドラゴン「己(オレ)は竜の覇を嘶く者。白き空の竜姫!」
ドラゴン「――――いっしょに食事でもいかがかな?」
律子「な、なんですって?」
伊織「敵方のアンタと食事? ふん、挑発のつもり? 私とアンタが食事をするとしたら、それは私達の祝勝会のゲストとして呼んだ時だけよっ!」
ドラゴン「上等な自負を持っているね令嬢殿下(マーショネス)。その眩しさ、七光りではないな」
伊織「誰がデコよっ!!」
亜美「誰もそんなコト言ってないよいおりん」
あずさ「あら、あなた大丈夫なのかしら?」
律子「え?」
あずさ「ほっぺた。切ったような傷があるわ」
ドラゴン「ん、これかね?」
ドラゴン「あー、実はだね」
伊織「なによ」
ドラゴン「すぅー………… ド ラ ゴ ン フ ァ イ ヤ ー ! ! 」ズアッッ!!!
亜美「はいっ!?」
唐突に。ドラゴンは斜め上方を向き、熱線を放射した。
中空でそれは爆ぜて、烈風が辺りに広がる。
律子「きゃああ! なにやってんのよ!?」
あずさ「あら? キラキラしたものが」
腕で風を遮りながら熱線が爆ぜたポイントを見ると、光の粒が気泡のように消えていくところだった。
――妖精の散り際。
ドラゴン「あははー! 妖精どもとちょっと乱暴なワルツを踊っていたところでね!」
ぐい、とドラゴンが頬の血の線を拭う。既にその傷は竜の回復力により塞がっていた。
あずさ「お取り込み中だったのね。……あら? ほっぺたの傷もう治っちゃってるのね! すごいわ~」
ドラゴン「鍛えてますから。ま、ちょっと体力削れているんで……力(りき)つけさせてもらっていいかな?」
ぱちん、とドラゴンが指を鳴らす。
瞬時、渦巻く光の欠片が周囲を覆い、あのエーテライトを獲得するための舞台が設えられていった。
亜美「おおっ!! これが光のドームってやつですな!」
伊織「注目とか関心を奪い合うとかいう……!」
ドラゴン「然り。我らが構成要素、エーテライトを収穫できる優れモノだ。『オラに元気を分けてくれ』ってな具合だな♪」
律子「……元気を分けてもらう? パフォーマンスを押し売りして、無理矢理奪っていってるようにしか見えないんだけど?」
ドラゴン「それを言うなら、貴様らも同じじゃあないか? 街中で、あんなゲリラライブを……ふふん、随分貪欲で企みに満ちているな?」
律子「あら、私たちはあなたとは違うわよ? 目的も、意思もそしてアイドルとしての格もね」
ドラゴン「ふぅん?」
律子「――勝負して、確かめてみる?」
ドラゴン「もとより、そのつもり…………」
律子「伊織、亜美、あずささん」
あずさ(わかってます)コクリ
亜美(そのために特訓してたんだもんね)
伊織「飛んで火にいる夏の虫……あんたの暴挙、ここで竜宮小町が止めてあげるわっ!!」
ドラゴン「その気概、すでに己(オレ)に相対する覚悟を決めていたようだな」
ドラゴン「いや、己(オレ)をも喰らい、さらなる高みへと飛翔するつもりか……おもしろい。野心もまた夢(ロマン)の基軸」
ドラゴン「存分にファンを揺らし、増やすがいい。乙姫諸君。そして日本中の電信柱とかに『765プロ最高』ってポスター張ってもらうのだ」
律子「ぶふっ! ちょっ、ちょっと! なんでその発言知ってるのよ!」
ドラゴン「雑誌で読んだ。いやしかし……貴様野心はんぱねぇな?」
律子「~~!! そ、そうよドラゴン! ここで沈みなさい、あなたには竜宮城の礎になってもらいます!」
ドラゴン「やってみせろよ! 池漂いの鯉どもよ! 堰を越え真の竜に飛躍してみせろ!」
律子(音楽スタートっ!)
――♪
群衆に囲まれ、光のドームが展開された殷賑極まるこの舞台。
流れ出した音楽に、即座に前に躍り出て、群衆の視線を集めた一番槍は――
亜美「兄ちゃん姉ちゃん! ちゅーもーくっ!!」
果たして。双海亜美だった。
亜美「~~♪ !」
竜の到来により、空気に奔った緊迫を、まるで意に介さぬような浮遊感。
見る者の心を容易くほぐし、緩んだ隙間に歓喜を差し込む、その手腕は天然で。
瞬く間にムードが鮮やかに変わっていく。
細い華奢な体は、枝。
その肢体を存分に震わせ咲かせるは、花。
天真が、まさに爛漫と。
心界の塵埃を吹き飛ばし、寄せ来るエーテライトの波濤を受ける。
ドラゴン「ほう! これが悪戯精霊(パック)の踊りか!」
亜美(――じゃっ)
あずさ(はい!)
魅せられ、さらに身を乗り出した時
つい、と『顔』が変わる。
快活な純真にはしゃいだ自分を、しっかりと受け止める母性。
聖母の慈愛の抱擁。高揚した心がすっぽりと、包まれる。
しかし、その安堵も一瞬で。
あずさ「~~♪~♪」
ふらり、と感触は別のものに移り替わる。
――可愛げと、清純と、憧れ。
時に怜悧に、時に優しく。
時に幼けない風情、時に大人らしい風貌。
印象は転がり続け――見る者の中にある『あずさ像』が次々に入れ替わる。
それは恋心の変遷にも似て。
エーテライトも花びらや糸や流れ星などの様々な軌道を描き、あずさに収束する。
ドラゴン「おー! あの袋に夢(ロマン)が詰まっているというのは俗説でも無かったか」
あずさ(しっかり)
伊織(任せなさい)
あずさの印象を捉えようと、動かしていた視線が、そこで縫いとめられた。
一番鋭く。
一番甘く。
一番気高き――その振る舞い。
水瀬伊織の全開が、そこに在った。
伊織「――――――」
瞳に飲み込まれそうになる。
仕草と甘い声に、足の感覚を無くす。
零れた笑顔が、精神どころか体の感覚までをも痺れさせる。
ハートはパッション。ビジュアルはキュート。パフォーマンスはクール。
女王の権勢。
伊織が築いた新たな地平がそこには在り。
ぶわりと大風がうなる様に、観客からのエーテライトが押し寄せる。
ドラゴン「やるじゃあないかレイディ・イオリ・ミナセ。戦王妃(ブリュンヒルデ)の器よな!」
ドラゴン「侮りがたしは竜の名か……こっちもホワイトドラゴン三体連結で対抗してやろうかな?」
ドラゴン「では、そろそろ」
曲の終わりを感じ取ったドラゴン。
彼女はアピールを開始しようとして腕を振り上げた。
――が。
律子(さぁ! こっからよ!)
――♪!
亜美「まっだまだいくよー!」
曲が、区切られることなく、別の曲に移行した。
伊織が作った陶然の空気を、再び亜美の弾丸のような振る舞いが破る。
エーテライトは、再び亜美の元に向かい――
竜宮小町は大きな光の器を構築していく。
ドラゴン「終わらないだとっ?」
ドラゴン「尾を噛む巨竜(ミドガルズオルム)……!! 世界を包む勢いか!」
メインの交代は、魅力の螺旋を生みだして。
ドラゴンの付け入る隙を与えない。
あずさ「~♪」
伊織「――♪」
亜美「!―!♪!」
ワアアアアアアアアアアアッ!!
律子(良いわよ! みんな!)
ドラゴン「たまらんね……どうしたものか」
ドラゴン「……そういえば、こんな時のための良ぃ~い言葉があったな」
ドラゴン「『考えるな感じるんだ』」
ドラゴン「海流を読まずにもがき、死するはオトシゴのみ。我ら竜は流れを読み、風を読み、真の意味で空気を読む」
ドラゴン「乙姫諸君に習ってみるか」
ドラゴン「『竜宮の乙姫の元結の切外し』のごとく。流れに揺蕩い、根を張ろう」
ドラゴン「――『友よ、水のようになれ』。ふふん、至言だな」
ドラゴン「La~~LaLa――♪!」
律子(ドラゴン、なにをしているの……?)
律子(あれ……バックコーラス?)
竜宮小町をむしろ後押しするように、竜は曲に合わせ歌い始めた。
対立項ではなく、むしろこちらに一体となって、ドラゴンの息吹が染み出していく。
ドラゴン「――♪」
曲の移り変わりやメイン交代のわずかな間に、その声は存在感を濃く表す。
伊織(ドラゴンの声が、私達の曲に付け足されてる!)
亜美(あ、あずさお姉ちゃん、お願い!)
あずさ「――♪♪、~♪」
ドラゴン「――♪♪、~♪」
あずさ・ドラゴン「~~♪ ♪ ――――! ♪」
律子「なっ……!」
律子「あずささんに変わった途端に……ボーカルを重ねられた!」
観客が、湧いた。
竜宮小町の魅力の変遷の一環として、ドラゴンはここに浮かび上がる。
エーテライトが幾筋か竜宮小町からドラゴンの側へ移っていく。
亜美(あれっ!? このままじゃやばくない!?)
あずさ(次は、曲の交代に合わせて伊織ちゃんがメイン――)
伊織(押し切って勝つわ! 来なさいドラゴン!)
曲が、変わり。曲調が移ろいだ。
あずさから、伊織へとバトンは渡され。
その時微かな、空白が生まれた。
ドラゴン「己(オレ)のターン……!!!」
伊織「!」
ドラゴン「――!!! ――!!!」
殺気さえ篭もった宣言に、伊織の口が震える様に一瞬だけ固まった。
しかし、その刹那を見逃さず。
伊織が担うはずの歌いだしを、ドラゴンの牙が捕える。
律子「――――やられたっ……!!」
竜宮城は内部から喰い破られ、竜の叫びが決壊した。
雪崩れ込むエーテライトの渦を受けながら、竜は渾身、全霊で歌を紡ぐ。
アスファルトを砕くステップ。
暴風を生むポージング。
見る者にひりつくような生存本能の叫びを感じさせる、規格外のパフォーマンスが関心を呑みこんでいく。
――――竜宮小町の器を、竜が食らっていき。
曲が終了した瞬間。
光の器は――――
――
――――
竜と竜宮小町。
より輝いていたのは――竜の側。
伊織「ま、負けた……?」
ドラゴン「いい闘争だったぞ。己(オレ)の心臓は激しく打ち! 己(オレ)の肺は震えて呼吸を為していた! このバトル中……己(オレ)は真なる姿だった!」
亜美「ず、ずっこいよ! こっちに乗っかってきてさ!」
ドラゴン「ふふん、四種のアピールをご覧になれたんだ。観客も満足だろうさ。それに四方四季の庭の再現なら四人が妥当じゃないか?」
あずさ「確かに盛り上がってくれてたけれど……」
伊織「もう一度よ……このままでは終わらせないわ」
律子「伊織、だめよ!」
ドラゴン「おう、いいとも! ……と言いたいところだがやめとこう。全てを刈り取るのはあれだ、眩しすぎるというものだ」
伊織「アンタ……デコ見て言ってんじゃないわよ!」ブン
ドラゴン「おっと」ヒョイ
伊織「あうっ!」ステーン
イオリンノ コケカタ マジ ハルルンナミ!!
ドラゴン「体を厭えよ、レイディ。己(オレ)の魂を震わせるあれほどのパフォーマンス、全霊を賭さずして成るものではない」ヨイショ
伊織「こらっ! 抱っこしてんじゃないわよ!」
あずさ「伊織ちゃん、ほら」ギュッ
伊織「あうっ、あずさ……」
ドラゴン「ふふん、その気概ならばいつか己(オレ)の逆鱗を撃ち抜けるかもな」
亜美「くっそーエラそーに言ってくれるぜー!」
ドラゴン「偉ぶるのは竜の宿病だね。……いやな、貴様らがあまりに隙がなくてな? どう対抗しようかと思案したんだよ?」
亜美「それで?」
ドラゴン「 が お ー っ っ っ !!!」ゴアアアアアアアアッ!!!
亜美「ぎゃー!! いきなり何火ぃ吹いてんのー!!?」
ドラゴン「――ってな。こんな風に、火吹き芸でもして無理矢理注目を奪おうかとも思った」
亜美「危ないこと考えないでよ!」
亜美(うーこのドラゴンやっぱりムチャクチャだよー! どうやったらタイコーできるか……)
亜美(やっぱり、杖……)
ドラゴン「ふふ、此度もまた良い闘争だった。力(りき)もつけたことだし……ではな、また会おう。同胞よ! 妖精とのバトルがまだ残っているんで失礼する!」
亜美「……妖精?」
亜美「そういや、やよいっちに聞いた時から思ってたんだけど、なんで妖精さんに追われてんの?」
ドラゴン「……ふふん、知りたいか?」
ドラゴン「まあ理由は単純だ」
そう言って、ドラゴンは足元の砕けたアスファルトの破片を拾い上げた。
そして、それを造作も無く握りつぶす。
亜美「うわっ」
ドラゴン「こんな力を持つ奴が、思うままに振る舞い跳梁しているんだ……危ないし、悪だろう? 殺す方が正しいのさ」
亜美「……へ?」
ドラゴン「――誰が己(オレ)を倒して見せるか。貴様にも期待しているよ♪」
ドラゴン「さらばだ。また『食事』を御一緒できればいいな!」
ドラゴンは、駆けだした。
加速をつけて跳躍し、信号機を踏み越え、ビルの壁を昇っていき――――
そして姿を消した。
律子「なんてヤツ……本当に怪物なのね……」
亜美「……怪物」
亜美(やっつけなければ、いけないモノ)
ふわり、と黒い布の断片が亜美の元に舞い降りた。ローブの妖精の残滓。
見ると、その布は焼け焦げている。
先ほど空に放った『ドラゴンファイヤー』。その標的は実はこの布の主だったのだろう。
傷のことを聞いた時と同様、会話の途中でついでに倒したのだ。
亜美「ドラゴン、かぁ……」
亜美の瞳に光が差した。
困惑は、憧れの色に移り変わり、さらにその色は情熱に深まっていく。
手ごわさを目の当たりにした彼女の心は不思議に燃えていた。
『ドラゴン退治』――憧れる言葉。
亜美「よぅし……!!」
亜美「亜美が、やっつけてやる!」
竜宮小町戦投下終了です。
クロス元を知らない人も読んでくれているみたいで、なんかすごい嬉しい。
――
――――
――――――
街中で勃発した竜宮小町の一件で、竜の名はさらに轟き。
世界はいよいよもって美酒に酔うような高揚感を覚えていた。
765プロ
美希「…………」
真「あれ? 美希珍しいね。起きてテレビ見てるなんて」
美希「あっ! 真君」
『――の上空にて竜の姿が確認されたようです』
真「ドラゴンのニュースか……」
美希「うん。真君は勝負したんだよね」
真「そうだよ……濃い経験だったなぁ、あれは。体がカーッと熱くなって、頭の中まで燃えてるみたいだった」
美希「はぁー、すっごいの! ドラゴンと戦ったらみんなそんな風になるのかな?」
真「どうだろうね。でもボクはあの経験が忘れられないよ」
美希「……ハニーもそうなのかな」
真「プロデューサー?」
美希「ドラゴンが来たらどうするかってそのことばっかり考えてるの」
真「そっか……ドラゴンに人気を取られちゃ死活問題だよね」
美希「だからね、ミキがやっつけちゃえばいいかなって思ったの」
真「え?」
美希「すっごくおもしろそうなヒトだから、楽しく競えるかなって思うし! あ、ヒトじゃなくてドラゴンだけど」
真「美希……やりあうつもりかい?」
美希「うん。そうすればきっとハニーもミキにホレなおしてくれるの」
真「あー、ははは。言っとくけど……危ないよ?」
美希「うん」
『ご覧下さい。この映像は『妖精』と空中戦を繰り広げるドラゴンの姿です! 熱線が雲をたやすく吹き飛ばしていきます……っ!!』
美希「見てたら分かるの」
真「そうだよね」
美希「思うんだけど……ドラゴンの相手をホンキでするなら、ミキ達もレベルをあれぐらいまで上げなきゃいけないんじゃないかな」
真「……それは、ボクも感じてた」
真「なんていうか、あのドラゴンのパワーに押されないぐらいの力を手に入れなきゃ、本当に心と心をぶつけ合えないんじゃないかって」
真「……前にやりあった時、あのドラゴンは……熱い闘いを求めているって、そんな気がした」
美希「うん。真君は流石なの! で、そのことなんだけど――あのね、貴音がね」
真「へ?」
美希「ドラゴンに対抗できる方法を見つけたんだって」
◇
亜美「――これならドラゴンにタイコーできるっ!!」
真美「やれる! これなら勝てるよ亜美!」
公園で快哉を上げる亜美と真美。
双子の前に置かれた小箱には数本の杖、ローブ、首飾りやとんがり帽子が入っている。
――妖精の装飾品。
亜美「いやー苦労しましたなぁ」
真美「うん。ファンのみんなに、もし妖精さんのパーツ拾ったら送ってほしいってこっそり伝えて」
亜美「集まったパーツを使いこなせるまで特訓して……」
真美「それをドラゴン打倒を胸に乗り越え、遂に真美たちは!」スチャ
亜美「ジタとも認めるマジックマスターに!」スチャ
「「なったのだ!」」
ばしゅんばしゅん、と双子がそれぞれ掲げた杖から鮮やかな光線が迸る。
亜美「さあ、ゆくぞ真美隊員! 『おぺれーしょん・どらごんさんだー』を開始する!」
真美「いえっさ!」ビシッ
亜美「我らのもくひょーはなんだっ! 真美隊員!」
真美「サーイエスサー! 我らはドラゴンの『ゲキリン』を狙います! ……要するに、ドラゴンの首についてる宝石だよね」
亜美「うん、アレを突かれるとドラゴンは負けるっぽい。なんかそんなこと言ってた」
亜美「律っちゃんにも教えてもらったけど、ゲキリンっていうのは首元にある竜の弱点だそーだから」
真美「魔法を使ってそこを突いて、ドラゴンをやっつけるんだね!」
亜美「そのとーり!」
真美「……勝手に行って、兄ちゃんとか怒らないかな?」
亜美「一応待ったじゃん。忙しくて会えないならしょうがないっしょー」
真美「……そだね。お姫ちんが杖の力とかを話すって言ってたし。ほーこくは任せればいいかな?」
亜美「ま、ドラゴンのケンキューは亜美達が倒しちゃったら意味無くなるかもしれないけどねっ! では出発!」
真美「杖さんドラゴンの居場所どこだーい?」…ポゥ
――
――――
真美「お台場まで来ちゃったね」テクテク
亜美「近づいて来たっぽい。ここ見晴らし良いから……真美、アレ」
真美「おっけーローブだね。『透明マントの術』! 真美たちを隠してくれぃ!」
真美は妖精のローブを切れ端に命じる。
途端、切れ端は広がって覆いかぶさり、真美の姿を消した。
真美「どう? 消えてる?」
亜美「ばっちし!」
真美「じゃ、亜美も入って」
亜美「おー!」
真美「ドラゴンはここら辺にいるっぽいけど、どこだろ?」
亜美「真美! あれ!」
ドラゴン「もぐもぐ……315プロ所有のサーバーが何者かにより爆破か。物騒な」ペラッ
亜美「オープンテラスで新聞読んどるっ!?」
真美「いくらなんでも人間社会に馴染み過ぎっしょ……」
亜美「でもチャンス! こっそり近づいてゲキリンにアタックだ!」
真美「いえっさ!」
亜美真美「…………」コソコソ
ドラゴン「ふんふ~ん♪ ここのコーヒーは上等だな。流石は『グリーンドラゴン』の系譜。茶会事件の味よな……♪」ズズ
亜美真美「…………」コソコソ
ドラゴン「ふぅ。まんぞく。……さて」
亜美(よーしもう少しだ)ヌキアシ サシアシ
真美(油断してる! これはいけるね!)シノビアシ
ドラゴン「ふっ」ボッ
カップを置いたドラゴンの右手。その立てられた人差し指から、ライターの如く火が生じる。
ドラゴン「これは余のメラだ」ヒュッ
亜美真美「!?」ボウッ!!
亜美真美「アチャチャチャ!!」
投げられた火種が『透明マント』を炎上させ、亜美と真美の姿を露わにした。
ドラゴン「なんだ貴様か……おおっ、今日は二人か!?」
亜美「うあー!」
真美「なんでバレたの!?」
ドラゴン「竜の知覚パラメータを侮り過ぎだぞ。タルンカッペの隠匿など固定値だけで看破余裕よ」
真美「くっそー、イタズラ失敗!」
亜美「奇襲作戦がオジャンだよー……」
ドラゴン「で、何用かな。混沌にして中立の子らよ。魔法石をお手軽に稼げる方法でも教えに来てくれたのか? んー?」
亜美「そんなワケないっしょ! ちかたない! 真美、プランB!」スッ
真美「おっけー! 任せて!」スッ
ドラゴン「ほぅ、杖持ちか」
真美「えくすぺりあーむず!」バシュ!
亜美「あいすにーどる!」ビュビュビュ!
ドラゴン「ふんッ!」ドゥンドゥン!!
プランB(バーサーカー)はつまりは出たとこ勝負、『攻撃あるのみ』の作戦。
杖から奔った閃光がドラゴンに当たり、もくもくと煙が発生する。
真美「やったか!?」
ドラゴン「お約束。類型に準じてくれて礼を言う」ドーン
亜美「ムキズ……ですよねー」
ドラゴン「足りん足りん。覇気がまるで足りん。そんな程度では己(オレ)の鱗一枚傷つけることはできない」
ドラゴン「プランB。しょせんは本壊をずらした苦し紛れの死んだ攻めだな」
亜美「あわわどーしよ!」
真美「このままじゃゲキリン突けないよ!」
ドラゴン「あははははー! なんだ貴様ら己(オレ)の逆鱗が目当てなのか? 武力で以て乗り込んでくる英雄……貴様らが最初だとはな!」
真美「むっ! なめんなよー!」
ドラゴン「そうかそうか……ふっ、連星の姫よ。覇気が足りんなどといって悪かったな。純心を踏みにじったか?」
ドラゴン「打倒の意思を胸に秘めた騎士ならば、丁重に扱わないとな♪」
亜美「え?」
真美(……うれしそう?)
ドラゴン「OK――――愛し合おうじゃあないか?」ゴオッッ!!!
亜美「うあうあー! すごいパワー!」
真美「なんかスイッチ入っちゃったよ!?」
――――バトル開始!
ドラゴン「先陣を切る貴様たち。滾るリーダースキルを期待するぞ」
【ドラゴンが現れた!】
真美「ボス戦みたいにキンチョーするYO! とりあえず首飾りでバリア張ろ!」
亜美「ばりあー!」シュビビィン
亜美と真美を優しい光が包んだ!
ドラゴン「ドラゴンは力をためている」グググ
真美「今のうちに攻撃!」バシュ!
亜美「てやー!」ビー!!
【真美の攻撃! 「その程度かね?」 しかしダメージを与えられない!】
【亜美の攻撃! 「チャンスメイク!」 完全防御! ドラゴンが攻撃に移る!】
ドラゴン「あたたたたたたたーっ!!」ドドドドドドドドッ!!
真美「ぎゃーすっ!?」
【ドラゴン怒りの鉄拳! 真美はぶっ飛ばされた!】
真美「」パキィン
【真美のバリアが破られた!】
亜美「真美、大丈夫!?」
真美「なんとか……でもバリア割られちゃった。次から受けられない……」
ドラゴン「ふふん。バリア張るんだったら、常時5択を迫るくらいのことはやるんだな♪」
亜美「やばいかも……クエストレベル予想以上に高い」
真美「さ、作戦ターイム!」
ドラゴン「認める」
真美「どーする亜美?」
亜美「セイコウホーじゃちょっとムリだという結論に至りました」
真美「真美たちどっちかっていうと、引っ掻きまわしたりする方が得意だもんね」
亜美「次のプランを練らねば……」
ドラゴン「会計済ませるか」スタスタ
亜美「で……だから」ゴニョゴニョ
真美「うん、じゃ、一旦……」ゴニョゴニョ
ドラゴン「もーいーかい? 焦らしプレイもこれはこれで愉しいが、己(オレ)はもっと激しい方が好みだぞ?」
真美「な、なにいってんのさ」カアァ
亜美「? 真美いくよ」
亜美「太陽けーん!」ピカアアアアッ!!!
真美「スモークディスチャージャーけーん!」ボフン! モクモクモク…
ドラゴン「むっ」
真美「そんで!」
亜美「とんずらっ!!」
亜美「逃げろーっ!」ピュー!
真美「てったいてったい!」ピュー!
ドラゴン「 が お ー っ ! ! 」ゴオッ!!
逃げる亜美と真美。そこに竜の咆哮が響き、青白い熱線が亜美と真美の間を通り抜けていった。
亜美「あっぶ……!!」
真美「ああっ! 熱線で煙幕がぶっとばされてる!」
ドラゴン「逃げるなよぉ♪」ドシンドシーン!
亜美「うあうあー! 怪獣王っぽく迫ってくるー!?」
真美「くっ! このままじゃ!」クルッ
亜美「真美!? 駄目だよバリアも無いのに!」
真美「でもこのままじゃ逃げられないじゃん! 足止めぐらいはしないと! くらえっ! サンダー……」
ドラゴン「ドラゴンファイヤーッ!」バオッ!!!
真美「!?」ジュッ
一閃。真美が振り上げた杖が竜の吐息によって墜とされる。
真美「あ、あああ!」
ドラゴン「ふふん、魔道の武器を持った相手ならドラゴンファイヤーを使わざるを得ない」
亜美「どこの極限流なのさっ!? 真美逃げるよっ!」
真美「異議なしっ!」
ドラゴン「『竜は自分を刺激することのない精神や、そうしようとして爆発することのない精神には容赦がない』」
ドラゴン「ふふん、もっと歌舞(かぶ)けるだろう? アクセルシンクロぐらい至ってみせろよ? 双子の星姫」ドシンドシン
逃げる亜美真美。追いかけるドラゴン。
図らずも――鬼ごっこが開始される。
――
――――
橋の上
ドラゴン「がおーっ!」バオオオッ!!!
亜美「ぎゃー! 危ないよ!」
ドラゴン「どうしたどうしたっ! 尻についた火、火力が足りないんじゃあないのか?」
――
――――
海を望む歩道
ドラゴン「遅い遅い!」
真美「しつこいよー!」
ドラゴン「くくく、知らなかったのか? ドラゴンからは逃げられない」
――
――――
アウトレット
亜美「人ごみに紛れよう!」
真美「よし! これなら……」
ワアアアアッ!! フキヌケノ ソラカラ フッテクルゾー!!
亜美「えっ?」
ドラゴン「上から来るぞ! 気をつけろぉ!」キィィン!!
――
――――
モール内
亜美「混雑中のファミレス発見!」
真美「お店の中に駆けこめばっ!」
ドラゴン「すいません3人テーブル席お願いしまーす」
真美「」
――
――――
広場
ドラゴン「ra・鰍ンPイ(ノ畚a#2LCc°鉤ッ殼鉧L﨟ヘム聹黝鷂・迥・1@ル并Gュ?」ドシンドシン
亜美「饗-Qュ纈薮・ョァ¥榕*親っっっ!」ダダダダッ!!
――
――――
亜美「ε=(‐ω‐;)」
真美「ε=(‐ω‐;)」
ドラゴン「 (*´∀`)」
亜美「 ( ゚д゚) 」
真美「 ( ゚д゚) 」
――
――――
…………ドゴォン!! ゴオオォォォ!! バキィン!! ズドォン!…………
・・・
・・・・
海辺の広場
亜美「も……、だめ……」ハァハァ
真美「し、しっかりして!」
ドラゴン「おや、鬼ごっこは終わりかな?」
亜美「逃げても逃げても……追いついてきて、先回りされて……ううぅ、どこに行ってもドラゴンがいるよー……」
ドラゴン「ふふん、神出鬼没、雲蒸竜変。次元の狭間の宝箱にも竜はいる。我らは立ち塞がるものであるが故に、な」
亜美「うえぇ……」
真美「……ど、どーしてなのさ……?」
ドラゴン「うん?」
真美「真美たち逃げてるのに……そんな相手を追うことないじゃん! 確かにこっちから仕掛けたけどさ! そんなに闘いたいの!?」
ドラゴン「闘いたいね」
真美「即答っ!?」
ドラゴン「それこそが竜の仕事であり、使命であり、死力を尽くして行うべきものだからな」
亜美「はぁはぁ……どういうこと?」
ドラゴン「こんなに魔王勇者ものが溢れているからわかるだろう? 我らは暴虐と激闘と……退けられることを以て物語に殉じるのだよ」
ドラゴン「物語(ロマン)を完成させる為の、共に踊る恋人(ペア)。焦がれて追いかけもするさ」
ドラゴン「だから――気張りたまえよ正義の味方?」
ドラゴン「……そして己(オレ)に見せてくれ。女が試練を越える様を」
真美「え、え、え? 倒されたいってこと……?」
ドラゴン「すぅー……!」
真美(またあのドラゴンブレス!?)
亜美「はぁはぁ……」
真美(亜美……!)
ドラゴン「覚悟はいいかね? ドラゴンファイヤー!!」ブアオッ!!!!
真美「守らなきゃ!!」バッ!
亜美「――」
亜美を護る様に、真美は前に出る。
ゴオオオオオオオオオオオオォォォッ!!!!!!
熱線の輝きが周囲を苛烈に照らした。
ドラゴン「……見込み通り。魅せてくれるじゃあないか。己(オレ)のトリスタン殿ぐらいは言ってやってもいいぞ?」
亜美「――」
真美「あ、亜美? なんで……」
真美「なんで、亜美の方が庇ってるのさ!?」
前に出た真美に対し、亜美はさらに進みでて真美を護る様に立ち塞がっていた。
亜美「あはは……真美もうバリアないじゃん。だから亜美が守んないとだめっしょ……」
真美「亜美……」
亜美「でも、あの熱線……『外れた』けどね。ドラゴン、どういうつもり?」
ドラゴン「なぁに。――――この光景が見たかっただけさ」
亜美「バカにしてっ!」
ドラゴン「しかし、いいヒーローぶりだったな。おめでとう。そして……ありがとう」
亜美「……いいかげんにしなよ、ドラゴン」
真美「ね、ねえちょっと?」
その時、二人が携えていた杖やローブの切れ端が宙に浮きあがった。
それは亜美の周りを旋回し、光の粒子に変じ、渦巻いていく。
竜を討つ意思。自己犠牲的行動。それを示した者に、『竜殺し』の欠片が纏われる。
亜美「――」ヒィイィイィン
真美「なにこれ!? 変身ってやつ?」
真美の言葉の通り。体を包み込んだそれは、亜美を変じさせた。
ドラゴン「ひとまず出来上がりか」
真美「りゅ、竜宮小町の衣装?」
亜美「……もう逃げない。やっつけてやる!」シュオオオオオッ!!
薄い金色の光を放つ『パレスオブドラゴン』。それが亜美の体で煌めいていた。
ドラゴン「成程な。なぜ『竜殺し』が妖精のフォルムになっていたかが得心いった」
ドラゴン「フェアリー・ゴッドマザーの例を手繰ればすぐだ。ポテンシャルを引き出す魔法の服を生みだす役目……」
ドラゴン「『輝く世界の魔法』。変わってみせたな、双星の姫の片割れよ……素晴らしい!」
亜美「いくよドラゴン!!」
ドラゴン「ふふん。存分に来たまえよ? パレスオブドラゴン」
亜美「すぅ…………がおーっ!!」バオッ!!
収束された音の弾が、ドラゴンに飛来する。
ドラゴン「竜の咆哮か。がおーっ!!」ドウッ!!
音の弾は、迎えうたれた竜の吐息に衝突。弾はバァンという重低音とともに辺りにはじけ飛んだ。
真美「うあっ! 亜美すごっ!!」
ドラゴン「Vo上昇値最強は伊達ではないか。いやはや、侮れんね?」
亜美「真美! すごいパワーだよこれ!」
真美「か、勝てそう?」
亜美「んっふっふ~……勝ーつっ!」
ドラゴン「さて、ステージに上がる資格は得たようだな。さあ存分に愛し合おうか!」
亜美「すぅ……!!」
ドラゴン「お、東映名物、光線合戦。もいっちょやるかい!?」
亜美「りゅうせいぐーん!!」ドドオッ!!
ドラゴン「ドラコイグニィィスッッ!!!」ブアオッッ!!!
咆哮弾と熱線が再び衝突。
先ほどよりも規模が大きく、爆風が巻き起こる。
真美「た、退避ー!」
亜美「おりゃー!」ビュッ!
ドラゴン「妖精の魔法。さぞ夢心地なのだろうな?」ガシッ!
亜美「わっ! 捕まった!」
ドラゴン「筋力(ストレングス)は己(オレ)の方が優位か」グググ
亜美「――解き放つ罠 油断は大敵~♪ !」ボフンボフン!!
ドラゴン「ぐっ……?」
ティアラについていた8つのアクセサリ。それが独りでに飛び出しドラゴン衝突して破裂する。
亜美「さすらうペテン師の青い吐息♪」ボッ!!
ドラゴン「おうっ!?」
そして作った隙を見逃さず、亜美は咆哮弾を放ちドラゴンを吹き飛ばした。
咆哮弾を喰らったドラゴンは空中でくるりと身を捻り、着地する。
ざざざぁっ、と勢いを殺し切り、彼女は亜美に向かい合った。
ドラゴン「いいぞっ! ノってきたぁ!」
亜美「手がかりに I wanna 恋どろぼOh! ♪」ダダダッ!!
ドラゴン「射止めるなら覚悟に酔いどれ~♪」ダダダッ!!
ズドォォンン!!!
亜美(同じステージに立ててる! やれる!)
ドラゴン「ハッハァ! 愉しいなぁ竜宮の姫よ! 『下ろし立て』をよく着こなす! これが若さか!」
亜美「ドラゴン退治! タッセーするかんねっ!」ドウンッ!!
ドラゴン「その意気やよし! やってみせろよ非合法ガール!」ドカアッ!
凄まじいスピードで両者は交差し、ブレスや波動が周囲に無造作にまき散らされていく。
亜美「お、おおおおー!! くらえーっ!!」
ドラゴン「そうだ! その調子だっ!!」
亜美「エラソーな口! もう開かせないよッ!!!」
真美「亜美……?」
亜美「ああああああっっ!!」
ドラゴン「そうだ、もっと覚悟に酔え! そして我が誓約の逆鱗に肉薄してみせろっ!!」
ドラゴンは亜美の猛攻を捌きながら、なおも煽る。
亜美「こっ……のォッー――――!!!」ズドォ!! ズドォ!! ズドォ!!
ドラゴン「カウンターで相殺っ!!」ドドドドド!!!
一方。亜美は同じステージに立ち、それゆえに竜の強さに改めて気付きはじめていた。
――このままやって勝てる保証はない。
その感情は焦りを呼び。
更に力を引き出そうと猛っていく。
真美「あれ……バーサーカーになってない?」
亜美「やああっ!!」
ドラゴン「ふふん」
ドラゴン「0-G LOVE !!」バシュウ!!
亜美「あうっ!」ズササアッ!!
鱗と宮殿の激闘。ドラゴンが宙からの強襲を仕掛け、亜美は避け切れず吹っ飛ばされる。
ドラゴン「少し力の運転が甘いぞ? パレスオブドラゴンか……ふふん。そんな衣装、ドラゴンを崇めるためのものであり、ドラゴンから身を守るためものではない」
ドラゴン「――そもそも、そのような役目なぞほとんど期待できない。さて次はどう来るね?」
亜美「ぐぐぐ……もっと、……レベル上げなきゃ……」
ドラゴン「そうだ。レベルを上げて物理で殴れば解決するぞ? 秘めたる体のポテンシャル、絞り出せ」
亜美「ドラゴンに、勝つ……倒す……やっつける……ゲキリンを突く……!!!!」バチバチバチ…
真美「あ、亜美が金色に光って……!」
パレスオブドラゴンに纏われていた金色の光が、亜美の想いに応えるかの様に強まっていく。
ドラゴン「さて――のるか、そるか」
亜美「レベルアップ……!」
亜美「――――」ドクン
竜■■関■■版六■■
――英■■委員■,■■■
――賛■:三,条■■■成:■,
■留:六,
――■時的措■■シテ追■戮力■■与
亜美「あ、あ、―――ア――ァ」バチバチバチバチ!!
真美「すご!! 力が迸ってる!」
ドラゴン「……やはり超えられないか。ふんッ! ならば最初の目的を遂げてみせろ」
亜美「アアアアアアアッッ!!!」ギュオッ!!
ドカアッ!!
ドラゴン「むっ!」
肉食獣を思わせる跳躍で、荒ぶる金色の光に覆われた亜美はドラゴンに突き進んだ。
溢れるパワーを全てぶつけたようなタックルは、ドラゴンの体を豪快にふっ飛ばす。
ドラゴン「ずいぶん熱いボディタッチだな――――」
吹き飛ばされた空中でドラゴンは身を転じ――
亜美「――」ガシッ!!
ドラゴン「お?」
追撃に迫る亜美に足を取られた。
亜美「ヤアアアアアッッ!!!」ブオオンッ!!
ドラゴン「のおっ!?」
着地を待たず。
空中で亜美はドラゴンを振り回し、その体をさらにぶん投げる。
ドラゴン「――――!」
ザバァァンッ!!
柵を越え、ドラゴンは海に墜落。
亜美はそれを見、さらなる追撃に行こうと身を屈ませた。
真美「亜美なんかヘン……いや、とってもヘンだよ!」
亜美「……!」グググ
真美(声届いてない!?)
真美「あ、亜美――――」
貴音「――――治まりなさい亜美っ!」
真美「お姫ちん!?」
貴音「あなた達の姿が見えず、杖の導きで来てみれば……。やはり竜に挑んでいましたか……!」
貴音「思い出しました。その杖や、妖精が身につけし器具は使い手の理性を乗っ取るのです!」
真美「ええっ!?」
貴音「まるで……竜を倒す駒にするが如く!」
真美「そんな! う、ウソだよね! 亜美!」タタッ!
亜美「――!」
貴音「真美! 迂闊に近づいては……!」
真美「え」
亜美「――!!!」ギロッ!!
威嚇するかのように、亜美は近づいてきた真美を睨みつける。
黄金の光は体全体を覆っていて、目の辺りは紅く輝いていた。
――あの妖精達と同様に。
真美「あ、あのね、今ちょっとオカシイから、一端変身解除しよ? し、CM明けにまた、ね?」
亜美「――」スッ
真美(え? なんで? それ――咆哮弾のポーズだよね?)
貴音「いけません! 真美!」
真美「あ、あれ?」
――――敵意が、向けられている。
ドラゴン「どうしたっ! 己(オレ)は逆鱗はここだぞっ!!?」バシュッ!!
亜美の行動に真美が固まったその時。水面からドラゴンが噴出し、こちらに向かって吼えた。
亜美「――ハッ!!!」ドオッ!!
瞬間、亜美は向きを変え、咆哮弾はドラゴンに向かって放たれる。
ドラゴン「竜闘気(ドラゴニックオーラ)!!!」バウッ!
空中でドラゴンは青白い闘気を立ち上ぼらせ、身の水滴を蒸発させた。
――ドゥン!
ドラゴン「ふっ、水没は生存確定なのだよ」スタッ
オーラはぶち当たってきた咆哮弾に対する防御膜となり、ドラゴンは無傷でこの広場に着地する。
ドラゴン「……さて」
真美「ああ、ドラゴン!!」
貴音「竜の姫……!」
亜美「――!!」
ドラゴン「―― 己(オレ)のターン!!!」ビュッ!!
竜は身を屈めながら亜美へ急接近し。
亜美「!?」
ドラゴン「アタタタタタタタタタタタター――――ッッッ!!!!」ドドドドドドドドドド!!!
目にも止まらぬ連撃を叩きつける!
亜美「カ―――――フッ――――――ハっ――!!!!?」ドドドド!
真美「や、やめて!!! 亜美をいじめないでッ!」
ドラゴン「心配無用! こいつは己(オレ)を殺す相手ではないし―― 己(オレ)が殺されるシチュエーションでもない!」ドドドトドトドド!!!
ドラゴン「そう見切った。これは妹御に付いたきんいろオバケを剥がしてるのさ!」ドドドド!!!
貴音「なんと……!?」
ドラゴン「ホゥワァチャアッッ!!!」ドゴオッ!!
後ろ回し蹴りが炸裂し、亜美は宙を舞った。
その瞬間。
ドラゴン「破滅のブラストスクリィィィィィィィィィィムッッ!!!」
ドラゴンは跳び上がり、閃光とともに白銀の竜のフォルムへと転じ。
貴音「離れるのです!!」
亜美「――――――――――――――――!」
極太のドラゴン・ブレスを亜美に見舞った。
――
――――
ドラゴン「己(オレ)はまだ確かめ切れていない……試練を越えるアイドルの、本当の力というものを」
ドラゴン「だからここで斃れるわけにはいかん。しかし、熱いアタックには礼を言っておこう」
ドラゴン「――竜宮の姫よ。此度の歓待、時を忘れたぞ。ありがと!」
亜美「……」
真美「亜美亜美!」
金色の光は剥がれ、亜美はパレスオブドラゴンの衣装から解かれていた。
ドラゴン「うん? 火力の調節は誤らなかったぞ」
貴音「確かに、眠っているだけのようですが……私の時と同様に」
ドラゴン「『竜殺し』の力に耐えきれなかったのだね。じっくり休ませることだ」
貴音「竜殺し……? あの、妖精達のことですか?」
ドラゴン「そうだ。己(オレ)を倒す本来の手順は、あの者たちの力を借りる必要があるんだ」
貴音「……貴女はなぜ、そんなことを教えてしまうのです」
ドラゴン「えっ? ……あー、あれだよ。君らを信じてるからだよ……うあー、恥ずかしいヤツだな己(オレ)も!」
貴音(倒されたがっている? ……そして、私達に何かを期待している?)
ドラゴン「して、久闊を叙しているが……輝く夜の姫よ、リベンジはいいのかね?」
貴音「!」
ドラゴン「遠慮はいらんぞ? 竜種は常住座臥戦闘本能全開だ」
貴音「私は――」
真美「――もういいよっ! 帰るっ! 亜美を休ませてあげなきゃ!」
貴音「!」
ドラゴン「ふぅむ?」
眠る亜美に寄り添って、その体を抱きしめながら真美は、涙で濡れる目でドラゴンを見据える。
真美「……!」キッ
ドラゴン「そうか。お前もまた、護るために……素晴らしい」
ドラゴン「貴様らのその二つ星の輝き、己(オレ)の魂に刻んでおこう」
ドラゴン「今後のさらなる成長に期待する」
真美「…………はぁはぁ」
貴音「……真美。ええ。帰りましょう」
貴音「しかし、しばしお待ちください」
真美「えっ? どったのお姫ちん」
貴音は倒れる亜美の周りに積もる、黄金の粉をビンに入れはじめた。
――パレスオブドラゴンの残滓。
ドラゴン「――ふふん、そうか! 己(オレ)を倒すことはまだ諦めていないかぁ!」
貴音「ええ。私……少々、負けず嫌いなのです」
ドラゴン「力を得ても、己(オレ)が番(つがい)に認めるとは限らんぞ?」
貴音「認めさせてみせます」
ドラゴン「あはは! 楽しみだなぁ!」
貴音「ふふふ」
真美(ナニコレ……ケンカなの?)
――
――――
貴音「では、戻りますよ、真美」
亜美「むにゃ、わた雲……」スリスリ
真美「ふわぁー、亜美ふわふわなお姫ちんの髪に包まれて……うらやましい」
貴音「ふふ、真美にも後でやってあげますよ?」
真美「ホント!? やった!」
貴音「さあ、行きましょう」
真美「――あ、ちょい待って」
真美「ドラゴン!」
ドラゴン「うん?」
真美「その、アレだよチミ!」
ドラゴン「はて、お代官様なんのことですかな?」
真美「だからさ……亜美を戻してくれてありがとう。そっちが煽ったから、こんなことになったかもしんないけど、オレイは言っとく」
ドラゴン「ははっ! 裏世界の教訓だ……」
ドラゴン「油断するな。迷わず撃て。弾を切らすな。――ドラゴンには手を出すな」
真美「え?」
ドラゴン「いいか二つ星の姫よ。最後の一節は忘れろ。表舞台を歩むアイドルならば」
ドラゴン「存分に己(オレ)を越えろ。存分に恋っぽいことをし合い、愛し合おう」
ドラゴン「夢を生きるものならば――くじけてくれるなよ?」
真美「あ、うん……」
真美(――なんだろう)
真美(ドラゴンってなんなのか、ほんのちょっと分かったような――)
――
――――
765プロ
美希「貴音遅いね……あふぅ」
響「話があるって言ってたのになー」
亜美真美戦(リアルファイト)投下完了。
ドラゴンネタまみれ。
ストック切れたけどペース落とさずにいきたい
毎度乙です。肉弾戦! そういうのもあるのか!
寡聞にして知らなかったので>>124-125で話題になってた妖刀×千早も読んだ
感銘受けました。あなたのファンやります
特撮ネタもカバーしてるということは
アギトやプトティラコンボネタも来るかな? 期待
――
――――
――――――
765プロ
亜美と真美がドラゴンと戦った日から数日。
春香は事務所のソファに腰掛けて、竜に想いを馳せていた。
春香(ドラゴンが世界を騒がせてる)
春香(あの子はあちこちでアイドルとの勝負や妖精との戦いを繰り広げて注目を集める)
春香(プロデューサーさんも色んなところで話し合いして、対応策を練ってるみたいだけど明確な案出てないみたい)
春香「ふう、このままじゃマズいよね。アイドルの立つ瀬がなくなっちゃう……」
――――『貴様と愛し合うのは、再び相まみえる刻までとっておこう!』
春香「あの子、やっぱり私のとこにも来るのかなぁ」 ブルッ
ガチャ
P「おっ、春香来てたのか」
社長「おはよう、天海君」
春香「あれ、プロデューサーさん、社長といっしょだったんですか」
P「ああ」
春香「……ドラゴン関係ですか?」
P「……そうだよ」
春香「またですか……大変ですねー」
P「春香、他人事じゃないぞ。アイツは色んなアイドルに挑みまくっているんだからな。いつかお前のとこにも来るだろう」
春香「たはは……やっぱりそうですか」
春香「もう! ドラゴンっていったい何が目的なんでしょうね! アイドル全員潰すつもりですか!」
春香「好き勝手やり過ぎですよ! ほんとにもう!」
社長「はは、天海君。まぁ落ち着きたまえ」
P「ま。お前らはつぶされないと俺は思ってるけどな」
春香「え?」
P「真、雪歩、やよい、貴音、竜宮小町に……それに無茶やったらしい亜美と真美。戦って竜を間近に見ても、みんなドラゴンにビビっちゃってるってわけじゃない」
P「春香、お前も憤る気持ちがちょっとあるだろ? それはアイドルとしてのプライドだ。『ドラゴンには負けられない』ってな」
P「お前らは決して挫けず、いつか竜を越えるさ。俺はそう信じてる」
春香「プロデューサーさん…………」
P「ふっ」
春香「だったら、もう少し堂々と構えててくださいよー。美希、プロデューサーさんに最近会えてないって御機嫌ナナメでしたよ」
P「うっ……悪い」
春香「あはは、美希がメチャクチャやりださないうちに構ってあげてくださいね?」
P「ああ。わかった。ありがとな、よし春香! お礼に構ってやるぞ!」
春香「わ、私はいいですよぅ!」
――
――――
――――――
美希「うわぁ! 高いのー! こっから飛ぶんだね!」
美希「うん? ハッキー? そこについてる円い玉だよね。うん、大丈夫なの!」
美希「ドラゴン……もうすぐ会えるね」
美希「あ、あそこだ! じゃっ! ミキいくのー!!」バッ!!
◇
春香「もう、構ってくれるのはうれしいですけど、それよりもドラゴンをなんとかするアドバイスが欲しいですよ」
P「……」
P「そうか。なら春香……お前、竜を超えたいって思ってるか?」
春香「え? そりゃあ……思ってる、かな? どうでしょう……」
P「亜美に起きた現象は知ってるか? 妖精の力を使って、変身したっていう」
春香「……聞きましたけど、あれ本当なんですか?」
P「貴音もそう言ってたからな。本当だろう」
春香「貴音さんが……」
P「妖精の力を使って竜を超える。俺達が考えているのはそれだ……」
春香「ええっ! 危険じゃ」
P「危険だよ。だからまだ保留してる」
P「これは貴音からの提案だったが……おそらく、それぐらいのことをしないと竜は倒せないと俺も思う」
P「アピールのレベルに追いつかないことにはな」
春香「…………」
春香「今のままじゃダメなんでしょうか」
P「うん?」
――――『また会おう。人間』
春香「私ドラゴンさんを人間のまま、なんとかできないかって思うんです、けど……」
P「うーん……」
春香「だって、アイドルの力ってすごいじゃないですか。ただの人間ががんばって、キラキラして、人に夢を見せて……そういうすごさがあるじゃないですか」
春香「だから、なんていうか、その壁もアイドルの力で超えられるんじゃないかって――」
P「……そうだな」
~♪
P「おっとメールだ。貴音からか……ん?」
『美希が竜に闘いを挑むつもりです――』
P「は……はあ!?」
春香「どうしました?」
◇
――
――――
とある広場に設えられた野外ステージ。
そこにドラゴンは在った。
傾き始めた日の中、竜はあぐらをかいて、書状を広げている。
ドラゴン「『果たし状』。うれしいなぁ、無双でバサラなサムライの魂、未だこの時代に息づいていたか!」
ドラゴン「この己(オレ)の志向を心得た『エスコート』。あの月の姫か?」
ドラゴン「ああっ、早く来い! 早く来い早く来い早く来い!」
ドラゴンは立ち上がり、書状をぐしゃりと潰し、溢れる期待を抑えつけられずにうろうろと歩き始める。
それを遠巻きに眺めるのは観客達だ。
竜の姿を発見し、恐れと好奇心が拮抗した距離で人々が集い始めている。
昨夜、ドラゴンの元に一本の矢文が届いた。
場所と時間を指定しドラゴンを呼び寄せるもので、明らかな挑戦の意が込められていた。
ドラゴンの場所を突きとめられるのは、竜殺しの力を持つ者だ。
杖を所持する貴音ならば矢文を届けることが可能。
よって、ドラゴンも貴音が相手かと考えたが――――それは実際どうでも良かった。
ただ、闘えるのがうれしい。
この古めかしいほど愚直に挑戦してくる人間は、十分英雄の素質を持っていると言える。
もしかしたらこの逆鱗に届き得る兵(つわもの)かも知れない。
それは竜に恐怖ではなく、ただただ純粋な期待と憧れを覚えさせるものだ。
そう。竜は待ち望んでいる。
闘いを。
そしてその先に在るものすら。
ドラゴン「早く来い早く来い早く来い早く来い早く来い早く来い――――疾く、恋っぽいことしようぜぇ!!」
焦がれが、溢れ。
竜が吠えたその時。
群衆の中で、上を指差すものがいた。
オ、オイ!! アレ! オオオオオ!!
ドラゴン「――――!」
天より。一つの花びらが風に乗り。
竜の鱗に舞い降りる。
ウオオオオオッ!! アレ! ミタコトアル!! アイドルノ!!
集った人々が、その影を認めて湧き立った。
興奮を雄弁に物語る歓声が次々と上がる。
上げさせるだけの、存在なのだ。
ドラゴン「空からかっ!!!」
竜の翠の瞳が天を突く。
パラシュートを踊るかのように操り。
夕の日に金髪を照り映えさせて。
輝けるものが天より落ちる。
美希「はぁーいっ!!! ミキなのー――――ッ!!!!!」
ワアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!
――金の雫はその一滴だけで血を沸かす。
降下してきた美希はステージに見事な着地を決める。
美希「てやっ!」バサッ
そしてパラシュートごと防風服を舞台の外に放った美希は、髪をかき上げ、観客達に向かってウィンクした。
美希「みんなーっ! 見ててね! ミキがドラゴンを退治しちゃうの!」
ウオオオオー――ッ!!!
ドラゴン「……く、くくく」
美希「あなたがドラゴンだね! 会えて嬉しいの! ……って何笑ってるの?」
ドラゴン「いやすまんすまん、愉しくってな! しょっぱなからカマしてくれるじゃないか、イヴァンの獅子よ!」
美希「しし? ライオンのこと? あはっ、それ何回か言われたことあるの!」
ドラゴン「あっはっは! ああーくそ、ダメだ、愉快だ……これは気を引き締めんといかんね。あのまま空中で急降下手刀かまされてたらイントロKOの危機だったというのに」
美希「えへへ。ドラゴンも空から乱入してくるでしょ? ミキもやってみたくてマネしてみたの! 気持ちいいね、これ!」
ドラゴン「度胸は十分のようだな、黄金の獅子姫様。 己(オレ)の相手は貴様で相違ないね?」
美希「うん、ミキが勝負するんだよ?」
ドラゴン「そうかそうか」
ドラゴン「――おっけ、愛し合おう!」
ドラゴンが指を鳴らす。
光のドームが生み出され、美希と竜を包み込む。
美希「これがでこちゃん達が言ってた……すごいの! ねえ、これミキにも作れる?」
ドラゴン「んーそうだな、やってやれんことはないんじゃないか? 亀の甲羅を背負って牛乳配達とか畑仕事をしたりしてればいずれ」
美希「ミキ天下一武道会に出るつもりはないの」
ドラゴン「――そうだね。武舞台でなくとも、折角の舞台に立っているんだ。ここでの流儀に則り、歌と踊りで打ち合おう!」
美希「うん。せっかく覚えた歌とダンス見せたいし!」
ドラゴン「ほう?」
美希「――♪ ~~~♪」タッタッタ
美希が何やらメロディを口ずさみながら、ステップを踏む。
野性的な、本能的な印象を受けるそれ。
ドラゴンの目が驚いたように見開かれる。
ドラゴン「おおっ!! 『炸裂・本能GIRL』か!! 己(オレ)の十八番をここまでものにするか!」
美希「ドラゴンが真君のトコに乱入した時やった曲でしょ? 撮ってたビデオで見たの。ミキもうカンペキに踊れるよ?」
ドラゴン「マジかっ! スゲェ!」
ドラゴン「しかし――――周到な敵意というか、なにか強い意思を感じるなぁ、貴様からは。……なんだろね?」
美希「えっ、そう?」
ドラゴン「己(オレ)の登場、己(オレ)の曲……それをなぞらえるのは、己(オレ)を倒す強い意思とも取れる」
ドラゴン「何かは知らんが重い意思を向けられている気がするぞ?」
美希「あぁ。ミキ、ドラゴンをゼッタイ倒すって決めてるからね。そのせいだと思うの」
ドラゴン「ふぅん……個人的に恨みを買ったか、己(オレ)は?」
美希「ドラゴンが暴れるから……ハニーはミキを見てくれないの」ボソ
ドラゴン「ほうほう」
美希「頭の中はドラゴンをどうするかでいっぱいなんだよ……? だから、ドラゴンを倒してカイホーしてあげることにしたの!」
美希「そうしたら、いつも通りのミキのことを考えてくれる頭に戻るの!」
美希「あはっ! ソウイウコトだから……ミキ、負けられない。カクゴするの!」
ドラゴン「そういうことか、なるほどだ。敵意は恋に似る――――貴様の論理は間違っていない」
ドラゴン「しかし恋する乙女かぁ……その命、短いぞぉ」
美希「そう人生は短いの。あっというまにおばあちゃんになっちゃう。だから思いっきりキモチをぶつけなきゃいけないの」
ドラゴン「然り然り。愛に狂い、恋という闘争を制するのだ。乙女たちよ。――我らの寿命は短く、儚いのだから」
美希「ドラゴンもそうなの?」
ドラゴン「ああ、貴様たちよりもよほど短い」
美希「…………ふぅん、そうなんだ。じゃあ、ホンキで生きなきゃね?」
ドラゴン「無論。例え呪われた生でも、毒杯を呷るその時までは――狂気のように本気で生きる」
美希「じゃっ、始めよっか……?」
ドラゴン「ああ始めよう」
美希「ミキの中の恋する気持ち」
ドラゴン「己(オレ)の内の恋する気持ち」
美希「歌に込めて」
ドラゴン「愛を叫ぼう!」
――――♪
「「絶対零度の 沸点で火を吹くー ♪ 震える姿が ちょっといい感じー! ♪」」
黄金の獅子姫
白銀の竜姫。
二人が揃って歌声を上げ、ダイナミックな踊りを披露する。
美希「~♪ !」
ドラゴン「♪♪――!」
魅入られる様に、遠巻きだった群衆がステージに一歩一歩接近し。
エーテライトが宙を舞い、二人に吸い上げられていく。
同じ歌。同じダンス。
しかし人と竜のスペック差。
絶対的に竜の方に分があると見えたが。
美希(ここで、ミキのオリジナル!)タッタン!!
オオッ!!
歓声が上がる。集うエーテライトは互角だった。
美希はドラゴンのダンスをただ真似ていたわけではなかった。
決してアピール度で後れを取らぬよう、改変を加えている。
重量感に対しては、浮遊感。
獰猛な仕草には、蠱惑的なしなを作り。
荒々しさには、流麗さで対抗する。
それは新鮮さをも生じさせ、注目度は決してドラゴンに負けていなかった。
美希「――♪」
ドラゴン(こいつ……やる! ミラーニューロンも勝負時の勘働きも一級だ!)
二人の引力は凄まじく。
見る者たちの奥底から歓声が引きずり出され、天を突くような喝采が満ち満ちる。
獅子と竜のこの舞踏。
この瞬間、両者の実力は拮抗し、光の競演を織り成していた。
ドラゴン(これはいい――)
己(オレ)を打ち負かそうとする覇気。
夢を抱いて邁進する様。
恐れ知らずの度胸に、煌めき溢れる才気。
そして恋に燃える熱き魂。
それらは全て――――彼女の物語を紡ぐ糸。
これだ。これが見たいんだ。
これに焦がれたんだ。
ドラゴン(――ああ。良い相手だ)
そうだ。
こいつになら。
己(オレ)の逆鱗をくれてやってもいいかもな――――
――
――――
春香「プロデューサーさん慌てて出て行っちゃった」
社長「彼は君達を信じているが、同時にとても心配しているんだよ」
春香「あはは、私もドジだから心配かけちゃってますね」
春香「――そういえば……13年前にも竜が来たんですよね?」
社長「うん?」
春香「その時はどうやって対処したんですか?」
社長「うむ……」
春香「社長。13年前にやってきた竜は……どうやって収めたんです?」
社長「それは、彼も聞いてきたことだね」
社長「…………首だよ。逆鱗だ」
春香「はい? 逆鱗って亜美と真美が狙いに行ったっていう……」
社長「そう。竜の首元の宝玉、そこを突かれ――竜は消えたらしい」
春香「き、消えたって!?」
社長「竜とはそういうものらしい。泡のように生まれ、花のように散る」
社長「当時、間近で竜を見た私達は、竜の言葉と起きた現象から『竜』とはなんなのかを推測した」
社長「おそらく」
社長「竜は……負ければ、消えるのだ」
春香「――え?」
――
――――
ワッ!!!
歓声が一際高く轟いた。
竜が振るった腕が暴風を生み、観客達を煽ったのだ。
美希(え?)
美希(なんか、カラダがうまく動かない)
美希(なに、これ?)
体がコールタールに浸かったかのように重い。……初めての体験。
美希は戸惑った。
奔放に生きてきた中で、彼女は滅多に体験することがなかったのだ。
『凄まじい重圧』というのものに。
ドラゴン「――!」ドゥン!! ブワォッ!!
今、竜の吐息も竜の足運びも、一際力強さを増していた。
加えて、発せられるプレッシャーがとてつもなく鋭く重いものに変わっていた。
ドラゴン(―― 己(オレ)はまだ何かを期待している)
ドラゴン(アイドルという存在の底の底まで見てみたいんだ)
ドラゴン(もとより背水の陣なれば)
ドラゴン(『それ』が見えるまで、竜の全霊を捧げよう――――)
ドラゴン(これこそ)
ドラゴン(……命短き、乙女の生き様)
――――♪!
ワァアアアアアアアッッッ! オオオオオオオオオー――ッッ!!!
曲が終わり、大喝采が轟々と唸る。
美希「あっれ~? おかしいな、なんか急にカラダ動きにくくなっちゃったの」
美希はしきりに体を捻り、自身の体を点検している。
エーテライトの得票数。
それは、ラストで差がついた。
ドラゴン「ふぅ~……紙一重だったなぁ」
美希も、初めて経験する強張る体を操ってのパフォーマンスを、大きな失敗も無くやり遂げた。
それは終わってからも強張りの原因が分からないほどの奔放さと、勝負強さの賜物だ。
勝負を決したのは、賭けているものの重さ。
ドラゴン「おー、大喝采じゃあないか! うれしいね!」
――――竜は負けたら、消えるのだ。
美希「……」ジー
ドラゴン「どうした? 獅子姫よ」
美希「むー、そっちの方がキラキラしてるの。これミキの方が負けてるってことだよね?」
ドラゴン「然り」
美希「あーあ、なの」ガク
ドラゴン「おいおい、どうした。絶望に暮れることはないぜ? エンゲージリングとドラゴライズリングを手に入れたら、またやろう」
美希「エンゲージリング付けたらミキ、アイドルしてるかなぁ……?」
美希「ま、いいや! じゃ、気を取り直してもう一回やろ!」
ドラゴン「おおっ!? 今やんの? 貴様立ち直り早いなぁ!」
美希「言ったでしょ? ゼッタイ倒すって」
ドラゴン「あーそうだったなー」
美希「それに、いい加減メーワクかけられ過ぎなの。そろそろ大人しくして、のんびりしといてほしいから……ね、ドラゴン?」
ドラゴン「なんだ」
美希「約束してね。ミキたちが勝ったら大人しくするって」
ドラゴン「あははー。竜に向かって不躾な物言いだね。心配するな。そこは請け合おう」
美希「ホント?」
ドラゴン「約束する。倒されたら己(オレ)は潔く消えよう。アレだったらドブルイニャとの証文に、一筆書き加えてやっても構わんぞ」
美希「やったの!」
ドラゴン「だが、それは己(オレ)を超えられたらの話だ」
ドラゴン「ハ――――アアアアアアアッッ!!!!」ゴオオッ!!
美希「うわ! す、すごい!」
ドラゴン「竜種は『強靭! 無敵! 最強!』 この力、ヒトの子が容易く凌駕できるモノではないと知りたまえ」
ドラゴンから漲る圧倒的なパワー。
旋風が巻き起こり、ピリピリとした空気の振動が美希の肌を叩く。
美希「これがドラゴンかぁ……流石なの!」
美希「……でも、勝って見せるよ。ミキ『達』は」
ドラゴン「うぅん?」
美希「響っ! 貴音っ!」
観客達に向かって叫ばれたその声。
それは――計画を封切る音頭。
響「美希ー! やるんだな!?」タタタッ
貴音「一人でやりきろうと思わず……よくぞ決心して下さいました」タタタッ
ドラゴン「おー! アギャンゲランを待たせていたのか!」
ドラゴン「どこまでも本気だなぁ、黄金の女王様?」
美希「間近にドラゴンのチカラ、見れて良かったの」
美希「――――悩まず、決められたから」
響「貴音っ! アレを!」
貴音「わかっております」キュポン
舞台に向かって駆けつつ、貴音はビンを取り出し、栓を開ける。
ドラゴン「そうか――こちらの土俵で戦ってくれるのか!」
貴音「妖精の力を引きだし、暴走することなく竜を下す……」
響「3人の力を合わせて竜を超えるっ!」
美希「『プロジェクト・フェアリー』――――こっからミキ達、思いっきりやるからね」
美希戦投下終了。フェアリー戦開始。
元ネタ知らない人でもドラゴンがどういう存在なのか分かっていくように作っていますが、それまでリーダビリティ保つのも難しいね
>>167 あれ、支援絵頂いてビビった覚えがありますw
>>168 アギトも思いっきり『ドラゴン』ですよね。ネタ入れられたら入れます。
ドラゴンがネタキャラというのはその通り
二トロロワイヤルでの会話を聞けば、ネタじゃないところを探す方が難しいほど
ということで、このSSにおいてもTRPGやら格ゲーやらMTGやら遊戯王やら色んなネタを叩きこんでます
ここまでの時点では、竜の化身の少女ぐらいの認識があれば十分かと思います。
ということで投下開始
響「お、おお!」
振りまかれた金の粉。
それは夕景の中を幻想的に漂い、3人に降り積もる。
竜を倒す意思を持つ者。
竜を討ち負かす物語の担い手。
アイドルとして困難を乗り越え、さらなる輝きに到達するべく。
竜の領域に彼女たちは踏みいった。
貴音「…………」
3人を包むのは黄金の繭。
輝きに包まれた彼女たちの体は、ふわりと宙に浮いた。
宵が迫る夕暮れ。眩しい西日の中さらに一層の輝きを見せた繭は、瞬間散り解けて。
美希「――――――あはっ♪」
さらなるステージに駆けのぼった彼女たちの姿を現しめる。
ドラゴン「ほう。可憐に妖艶に流麗! 見事な誂えだなぁ妖精使いども!」
コウモリの羽がはためく。
夕景の日差しに、鮮やかな赤とそれを縁どる瀟洒な黒、清廉な白のブラウスが浮かび上がる。
それは妖しいほどの、魅惑だった。
――ヴァンパイアガール。どこかからそんな呟きが漏れる。
美希「飛べてる飛べてる♪ ねぇ! ミキ達今スゴイことやってるの!」
響「おおー! 成功したぞっ! やったね二人とも!」
貴音「美希、響――本番はこれからですよ」
興奮する二人を貴音は宥め、ドラゴンを見据える。
ドラゴン「ふふん♪ 吸血鬼か! ドラキュラもまた竜の末裔だ」
ドラゴン「歌と踊りだけでなく――闘争の領域でも張りあわんとするか、星の姫よ」
美希「ドラゴンはアイドルとして勝負してくれたでしょ。だったら今度はこっちから合わせるの!」
ドラゴン「ふぅん。月の姫よ。仲間を守ると言っていたのに、そのお仲間を駆り出していいのかね?」
貴音「ただ一人で事に当たろうとするのは傲慢でしかないと、そう気付いただけですよ。これ以上の暴挙は私たちが押しとどめます」
ドラゴン「覚悟完了ってな風情だな……よろしい。逆鱗はここだ。よく狙いたまえよ?」
美希「ロックオンしたの!」
ドラゴン「それでは!! 恋っぽいことしようか!! ドラ……」スゥ―
美希「発射ー!!」ドヒュッ!!
ドラゴン「ごほうっ!!?」ドスゥ!!!
ブレス放射の『溜め』。そこを突いて弾丸(バレット)と化した美希が急降下タックルを竜に敢行。
奇襲は成功し、ドラゴンが舞台からぶっ飛ばされる。
ドラゴン「く……ふっ! サラマンダーより、ずっとはやいなぁ貴様は!!」ズサササッ
竜は地を滑りながら笑った。
戦闘が揺り起こす歓喜。――竜の領分。
しかし笑うドラゴンの後ろには、すでに影が回り込んでいて。
貴音「御免!」シュッ!
ドラゴン「!」
死角からの一撃を首元に見舞った。
ガシィ!
ドラゴン「気配を消しすぎだろ……もっとしゃなりしゃなりと来いよぉ~!!」グググ
貴音(止められました! なんという野生でありましょうか)
ドラゴン「捕まえたぞ♪」
ドラゴン「ドラゴンファイ……ぐふっ!!??」バキィ!
響「貴音っ! 離れて!」
ブレスを放とうとしたドラゴンの頭を上から踏みつけたのは響。
彼女はそのままドラゴンの腕を取り、空中に引っぱり上げる。
ドラゴン「けほっけほっ!」
響「う、うがぁー!!」ビューン!!
ドラゴン(こいつ、己(オレ)の質量を持ちあげるか!)
吸血鬼と竜の少女が、蒼く染まり始めた空に突き上がり、金の軌跡をひいていく。
それは天へと伸びる柱のようで。集まった群衆は逃げるのも忘れ、しばしそれに見蕩れた。
ドラゴン「夜景は魅力だが……このエスコートは強引だなっ!」バシッ!
響「うわっ!」
ドラゴンは響に掴まれた手を振りほどき、宙に身を投げた。
光が一瞬ドラゴンの体を覆う。
ドラゴン「――ふふん」バサッ
響「おおっ、翼が生えた! 一部分を竜にできるのか!」
ドラゴン「そうとも空は我らの住処。己(オレ)はその気になれば昇竜拳で宇宙までいけるぞ?」
響「すごいぞ……! えへへ、実は自分、事務所の屋上で一目見たときから君に惚れてたんだっ!」
ドラゴン「そうか! いやはや、照れるね?」
響「大人しくしてさ、自分の家族になる気ないか? ご飯も散歩もお風呂もしっかりやるぞ!」
ドラゴン「はっは! ドラゴンはM.O.M.分類 XXXXX(訓練・飼い馴らし不可)。ふくろう試験を受けてきたまえ」
響「来る気ないか……残念だなー」
ドラゴン「ご期待に添えず心苦しく思うよ。泣いたら召喚されてやらんことも無いが……すまんね?」
響「なんくるないさー! ライバルとして競い合えばいいんだ! ドラゴン、この勝負、自分達が勝つからな!」
ドラゴン「眩しいオーラだ。太陽の力を感じる……が、己(オレ)も予言の蛇竜(ピュートーン)と同じ轍を踏む気はない」
ドラゴン「蝕竜(アタリア)にどこまでやれるか見せてみろ。己(オレ)のアポローン殿よ!」ギュン!!
響「来いっ! ドラ子!」ガシッ!!
ドラゴンの突進を響は正面から受け止めた。宙で後退する体をコウモリの翼が羽撃き、押し止める。
ドラゴンはなおも響に向かって拳を振るう。
ドラゴン「ドラコ? なぜに急にラテン語?」ドガッ! ヒュバッ!!
響「いや、ドラゴンの女の子だからドラ子だぞ?」バシッ! ビュッ!!
ドラゴン「えー! 竜に異名を授けるならもうちょっと捻ろよー! 5000G取るぞ!」ドドドドド!!
響「わ、わかった! 考え直すぞ! 確かにワニ子にも被るしな、同じ爬虫類だし!」バシィ!バシィ!バシィ!
ドラゴン「爬虫類って言われたっ!?」ギュア!!
爪と拳。竜と吸血鬼の応酬は人界を越えた速度で行われる。
これはその激闘の最中の会話である。
響「えーっと! ドラゴンで……お姫様……」バシィ!!
ドラゴン「――――『姫』?」
響「『ドラ姫(き)ー』っていうのはどうだー?」
ドラゴン「ふ、ふっふ。ドラキーね……ヴァンパイアガールよ――――コウモリは貴様の方だろっ!!」ドゴッ!!
響「うわー!」
ドラゴンの怒りの鉄拳に、響は吹き飛んだ。
ドラゴン「ふー……っ!」
だが振り切った拳を戻そうとしたその瞬間、
――――ざしゅ!
ドラゴン「――ッ!?」
背に爪の一閃が走った。
美希「響、ナイス囮なのー!!」
ドラゴン「やるね……!」
美希「次はミキの番だよっ!」ビューン!
身を翻し、急上昇してドラゴンに迫る美希。
それを認めたドラゴンは右手を振り上げた。
腕が輝きだし、一瞬後、竜の鱗による白銀のブレードが腕から伸びるように形成されていた。
――ガキィン!
ドラゴン「熱くさせてくれるなぁ……カインの子よ」グググ
美希「ミキも今体が熱いの! こんな形の『キラキラ』もあるんだねっ!」グググ
爪とブレードがつばぜり合う。
されど、両者は刃を境界線に――笑いあっていた。
ドラゴン「――本来この闘争こそが、世界が求める輝きなんだぞ?」
貴音「美希! 危険ですっ!」ビュバッ!!
ドラゴン「おっと!」バッ!
美希「貴音!」
横からの貴音の強襲に、ドラゴンはつばぜり合いを弾き、美希と距離を取った。
貴音「……はあっ!」
ドラゴン「来るかっ! 月の姫!」ビュッ
向かい来る貴音にドラゴンはブレードを振る。
貴音「――ふっ」
しかし、貴音は直前で減速し、ブレードを空振らせた。
ドラゴン「あれ?」
貴音「取りましたよ……竜殿」ハシッ
ドラゴン(刃を掴まれた……ッ!!)
貴音「はっ!!」ブンッ!!
そのまま半回転し、ドラゴンを投げる貴音。
竜が下へと墜ちていく。
ドラゴン「おおっ、柔(やわら)とは! 不遷流? 起倒流?」ヒュー…
響「追撃だっ!!」ビュン!!
響「いけーっ、コウモリのコウ之進たち!」
号令を受け、響の周りで羽ばたいていたコウモリの群れが、ドラゴンに飛びかかっていく。
コウモリ「キーキーキーキー!!」バサバサバサバサ
ドラゴン「ぐっ! ちょこざいなっ!」
貴音「美希!」
美希「うんっ! チャンスッ!」
コウモリにたかられるドラゴンに、美希と貴音も追撃に飛ぶ。
響「てやぁあああ!」
美希「ゲキリン、もらうよっ!」
貴音「ここまでです! 竜よっ!」
ドラゴン「き、貴様ら…………竜を安く見るなっ!!!!」
ドラゴン「……ガゥアぁぁああああああアアアアー―――――――――ッッッ!!!!」バシュゥゥゥゥゥウッッッ!!
青白い熱線が、空に縦横無尽に疾る。
コウモリが焼かれ金の塵となり、大気が焼け、轟音が空と地上に轟いた。
響「うひゃ!!」
貴音「響! 退くのです!」
美希「す、スゴイの……!!」
ドラゴン「ふっ……!」
ドラゴン「『その一滴は、肌を鱗とし、拳を爪とする』。竜の末裔よ、やはり侮れんな」
ドラゴン「が……まだまだ」
美希「む!」
ドラゴン「貴様らは竜と対峙する意味を正しく理解していない。竜の鱗一枚は戦士千人の命と等価であることを知れ」
貴音「猛り過ぎてはなりませんよ美希。私達は暴走しないために3人で……」
美希「わかってるの」
響「熱線はヤバイよね……近くで抑えながら戦ったほうが」
ドラゴン「ふふん、それも今からは厳しいぞぉ……? ――変身!」
響「へ?」
ドラゴンの翼がまるで大魚のヒレのような、航空機のような形状に変形する。
ブレードが左腕の方からも突きだして、全身に蒼いオーラが横溢し。
ドラゴン「……ふふん」ゴゴゴゴゴ
――竜はより強大に変身を果たす。
ドラゴン「言ってなかったかな? 己(オレ)はまだ2回変身を残していると!」
美希「言ってないよ!」
ドラゴン「高機動。重装甲。ホワイトサレナと呼んでくれたまえ」
響「ホワイトサレナ……白百合?」
ドラゴン「ああ、百合の花言葉は『威厳』『純潔』『無垢』! どれをとっても竜に相応しい」
ドラゴン「――ま、真に相応しいのは黒百合(ブラックサレナ)の方だがね」
貴音(黒百合の花言葉……『恋』に『呪い』……ですか)
美希「確かにツヨそーなの。でもミキ逃げないよ! 響っ! 貴音っ! フォローよろしくっ!」ビュン!!
響「美希っ! 一人で行っちゃダメさ!」バサッ!
貴音「二人とも……いえ、ここは3人で接近戦が正解ですね……! 私も参ります!」ヒュッ!
ドラゴン「おーらい、天使とダンスだ!」
――
―――――
オオー!! スゲエ!! キレー!!
ワアアアアアァァ…!
P「はぁはぁ……! 美希、貴音、響……あいつら!」
歓声が上がる。宵の空で繰り広げられる光の芸術への称賛だ。
3本の黄金(きん)の軌跡。
1本の白銀(ぎん)の軌跡。
それは勝手気ままな流星のように、複雑に絡み合い、衝突しながら蒼の空を切り裂くように飛び回る。
閃光の道が交わるたび、清澄な剣戟のごとく音が響き渡り、金と銀の火花が散った。
だが、それもまた空の彩りとなって、見る者の心を揺らす。
――幻想なる空の舞踏。
P「まるでロボットアニメの戦闘シーンだな……」
P(貴音……これが『竜を退ける計画』なんだな。やるにしても、俺としてはもう少し考えてからの方がいいって思っていたのに)
P「いや、そんなだから美希が痺れを切らしたんだな……俺のミスか」
P(社長によると竜は負けたら、消えるらしい)
P「このまま……このドラゴン騒動に幕を引けるか?」
P「いや! 俺が信じなくてどうする!」
P「こうなったらガンバレ美希! 貴音! 響! せめて応援はしてやるっ!! アイドルの力を見せてやれっ!」
舞台で展開された光のドーム。
貴音と響が来て闘争になだれ込んでからも、まだそれは消失していなかった。
関心をエーテライトとして集める、竜とヒトとの戦場。
それは中心となるドラゴンを追い、空へと駆け上がり、ヒトの関心を集める3人の妖精にも纏われた。
そう、彼女たちは大空で光の競演を成し遂げながら、関心と歓心と感心のエーテライトを集め続けている。
滾るような闘いを見せられた人々の心は湧き立ち、光の筋が何本も空へと伸びていく。
天と地を役者たちの演技が結ぶそれは物語で。
それはドラゴンの本懐であり――――そしてアイドルの役割でもあった。
――
――――
TV局・VIPルーム
千早「ドラゴンが負けたら『消える』とは……?」
武田「言葉通りの意味だよ。――いや、僕は『役割を終える』と見ているが」
千早「そんな。ということはドラゴンは負けたら自分が消えることを承知で、色んなアイドルに挑んでいるということですか?」
武田「そうだよ如月君。不可解だろうが……それが竜の在り方なんだ」
音楽プロデューサー武田蒼一。
千早にドラゴンのことを聞かれた彼は、局に設けた自分の部屋に招待し、竜について教えていた。
千早「命を賭してまで夢に生きて、散ってしまう――――」
千早「そんな生き方しかできない、なんて」
武田「その役割を帯びて、竜は生まれ、暴れ回るのさ」
武田「いつか自分が斃されることすら役目と分かって、それでも気高く吼える」
武田「人間には分からない境地だが……だからこそ僕はその純粋を美しいと思うよ」
千早「愚直に不器用に、夢に縋る…………」
千早(私も、そうだった時があるけれど……自分の存在を賭けるなんて)
武田「腑に落ちないようだね」
千早「……はい」
武田「しかし、惹かれているのだろう?」
千早「!」
武田「存在を雄大に叫び、一直線に燃え尽きていくその在り方。刹那に想いを紡ぐ歌のようでもある。如月君、君は興味を覚えるはずだ」
千早「…………はい、そうです」
千早「もっと知りたくなりました」
千早「――竜という存在を、それが追い求める夢の深さを」
武田「そうか…………君と竜が響きあった時、どんな化学反応が起こるのか僕も興味がある」
千早「鋭く、一筋な在り方にはとても惹かれます……それでも、消えることに納得するなんておかしいです」
千早「私ドラゴンに逢おうと思います。それで、確かめます。竜の存在を」
千早「自分には歌しかないと決めつけていた私だからこそ、見えるものがあるはず」
武田「ふっ、こうなるから彼は君にこの情報を教えなかったかもしれないな……君もまた純粋だ」
武田「わかった。彼には僕から話しておこう。如月君、心のままに竜に触れたまえ」
千早「はいっ!」
――
――――
ガァンッ!! ギイィン!!
空で展開されるドラゴンと3人の戦いはより一層の白熱を見せていた。
ドラゴン「温い温い! どうしたフェアリー! じゃれつくだけで己(オレ)にこうかばつぐんを取れると思うな!」
美希「はっ、はっ……もーっ! 逆鱗に届かないのーっ!!」
ドラゴン「貴様らも、きゅんパイア・マキシマムフォームを繰り出していいんだぜ?」
響「そんなもの無いから!」
貴音(爪が通りませんね……それに3人で一斉に攻める戦法も見切られてきました)
貴音「……この際、仕方ありません。響! 美希!」
響「え?」
美希「な、なに?」
貴音「猛って暴走することはありません。竜に頓着し過ぎるが故、そのような事態になるのです」
貴音「競い合いましょう! 私と!」
美希「え、競い」
響「合う?」
ドラゴン「ほぅ……?」
貴音「ええ、3人で競争です。誰が一番先に逆鱗を取るか……そういう『げぇむ』です」
貴音「受けてくださいますね? 二人とも」
響「……」
美希「……」
「「…………あははっ!」」
美希「わかった! やろっ!」
響「美希にも貴音にも負けないさーっ!」
ドラゴン「ふ、はははははっ!! そうか、そう来るか!」
ドラゴン「――素敵だ、やはりアイドルは素晴らしい」
美希「――!」ビュン!
響「!!」ビュッ!
貴音「はっ!」バサッ!
ドラゴン「そうだその意気だ! 己(オレ)を串刺しにしてみせろ! ドラクル!」
動きが変わる。
今展開されているのは連携ではなく、各々が互いの動きを利用し合う動きだ。
ドラゴン「ぜあっ!」ギィン!!
美希「あうっ」
一人が突っ込み、ブレードに圧されれば。
ドラゴン「……ちっ!」
貴音「捕まえました……はっ!」ブン!!
その出されたブレードを取り、投げを出す。
響「やああっ!!」ギューン!
ドラゴン「ぬッ!」
さらに、その機を見て飛びかかる者あれば。
ドラゴン「なめるなっ!」ギュアッ!!
響「わっ」バッ
――その影に潜む者もある。
美希「――!」ズバッ!!
ドラゴン「グウッ!? 陰陽撥止!?」
乱戦。
竜とアイドルのワルツは激しさを増していく。
ドラゴン(なるほど……イキイキとしてるなぁ!)
ドラゴン(競い合い高め合う、こんな形もあるのか)
ドラゴンは爪の攻撃を何度か叩き込まれ、フェアリーの方も打ち合うたびに金のヴェールが削られている。
彼女たちの戦いは消耗戦に様相を呈していた。
ドラゴン「がおーっ!!」ブアオッ!!
美希「パッと舞って」パッ
ドラゴン「よけたかっ!」
響「ガッとやって」ガッ
ドラゴン(掴まれたっ!?)
貴音「チュッと吸って」チュッ
ドラゴン「はぁあぁぁぁぁぁ~~ん」ビクビクッ
貴音「ふむなかなか……」ムグムグ
ドラゴン「――ってまた貴様はっ! 食むなっ! くすぐったい!」
貴音に抱きつかれるような格好で、ドラゴンは肩のあたりを噛みつかれていた。
ドラゴン「逆鱗には届かせなかったが……これは、なんだ?」シュウウ・・
貴音「むぐ?」
噛みつかれた所から、金の蒸気のようなものが漏れ出す。
同時に、ドラゴンに脱力感が滲み始める。
ドラゴン「あっ、コラ! これエナジードレインじゃないか!」
ドラゴン「竜糧民食を体現する気はないぞっ! 離れろ吸血鬼っ!」
美希「貴音ばっかりドラゴンを抱き枕にしてずるいの♪」ガシッ!!
響「あっ、自分も入れてよ!」ギュッ!
貴音を外しにかかろうとするが、さらに横から美希、背中から響が来てドラゴンを抱擁する。
――完全なる拘束。
美希「がぶ」
響「がぶーっ」
ドラゴン「んはっ!? いひんっ!?」ビクビクッ!!
ドラゴン「は……はぁっ……」シュウゥゥ…!
響(やったぞ! このまま3人で力を吸い続ければっ!)
ドラゴン「く、くくくっ……!」
ドラゴン「……なんとも、熱い、抱擁だなぁ……? ホワイトサレナとは言ったが、これほど百合百合になるとは読めなかった! このドラゴンの目をもってしても!」
ドラゴン「認めよう。貴様らは見事な兵(つわもの)だ。しかし、だからこそ、残念だ……」
ドラゴン「己(オレ)に狂うほどの愛を向けてくれないことが」スゥ・・・
貴音「む?」
美希(ドラゴンが上を向いて……)
ドラゴン「いっしょに墜ちてくれるぐらいの愛は欲しいな…………がっ、うぉっォォォォオオッッー――――――――――――――ッッ!!」ゴアアアアアアアッッ!!!
「「「!!!??」」」
天に向かって放たれた熱線はバーニア。
激烈な勢いで噴射されるブレスに、4人の体はフリーフォールを越えるスピードで急降下していく。
凄まじいGが4人を貫き。
隕石のように。
それは瞬く間に地上に突き刺さった。
――
――――
ドラゴン「か……はっ……!」
美希「う、ぅぅん……」
貴音「……はぁ、はぁ」
響「うへ、ぁ……」
強烈なG。
そして巨大な衝撃。
次いで轟音と爆風。
それら全てに晒された4人は、地上にできたクレーターに身体を投げ出していた。
ドラゴン「ふ、はっ……! 仲良く心中とは行かなかったか……はっ、それもまた、ロミジュリっぽくて一興……!!」
美希「強がり、過ぎ、なの……」
響「ああ、頭がぐるぐるだぞー……なんだこれぇ……」
貴音(妖精の力のおかげで助かりましたが……やはり、かなり剥がれてしまっていますね……)
響「ホントに、ドラゴンってムチャクチャ、なんだな……」
ドラゴン「ああ……ほら、空を見てごらん」
貴音「空……?」
言われ、見上げた宵の空。
そこに、一際輝く星が一つ。
立ち上がったドラゴンはその星を、慈しむように眺めている。
ドラゴン「『宵の明星』……紅き竜が照覧する舞台。気合も入ろうというものさ」
美希「ドラゴンって……もしかしてロマンチスト?」
ドラゴン「然り然り。我らは幻想を生きる光の機織り――――」
ドラゴン「さて……己(オレ)を倒すミカエル殿は誰かな?」
そう言い放ったドラゴンは視線を落とし、立ち上がろうとするフェアリーの3人を睥睨する。
残された力はわずか。
美希「……」
響「……」
貴音「……」
しかし、竜の言葉に、再び闘志が燃え上がる。
美希「――あはっ」タッ
響「――へへっ」バサッ!
貴音「――ふっ」スウッ
――――そして。3人の妖精は飛びかかり。
ドラゴン「ふっ、……最後の変身。甘い吐息はエーテル……!」
――――現れでた白銀の竜は、ブレスを高らかに放った。
ドォオオオオオオオオオンッッ――
――
――――
P「はぁ、はぁ……! あいつらが墜ちたのはこの辺りのはずなんだが」
P「あ、あれか!?」
ドラゴン「しっかし、君たち戦上手だったなぁ」
美希「劇場版の撮影で慣れてるの……あふぅ……」
響「まぁ、ここまで体動かしたのも久しぶりだぞ」
ドラゴン「ふふっ、凄まじかった。愛が足りていたらどうなっていたことやら」
貴音「むにゃ……らぁめん……」ズズズ
ドラゴン「だぁ~かぁ~らぁ~、寝ながら髪をすするなよぉ」
響「ほら貴音。やめてあげて」
美希「むにゃ……ミキも眠いの……」
『マイディアヴァンパイア』の衣装も、金の輝きも既に解け。
フェアリーとドラゴンは、夜空を眺めるように寝っ転がって星を見ていた。
P「お前ら……なにをやってるんだ」
響「あっ、プロデューサーっ!? 迎えに来てくれたんだな! 助かったぞ」
P「はぁ、お前らなぁ……無茶し過ぎだ! 特に美希! 俺も悪かったが一人で勝手に」
美希「むにゃ……はーにぃ……」zzz…
P「ってもう寝とる!?」
ドラゴン「傍についてやることだ。その獅子姫どのはさみしがり屋ようだからな」
P「うっ! ドラゴン!」ササッ!
ドラゴン「あー、心配無用。ここで暴れたりはしない……己(オレ)も“ばたんきゅ”三歩手前ぐらいだしね」
P「そ、そうなのか?」
ドラゴン「うむ。非常用のエーテライト食って、お風呂入って、寝るとする。……というわけでさらばだ♪ 人の子らよ」
P「ど、ドラゴン!」
ドラゴン「ん、なんだね?」
P「倒されれば消えるんだろ、お前は」
ドラゴン「……然り」
ドラゴン「なんだあれか? アイドル達の手を汚したくないとか、そんなこと思ってんのか?」
ドラゴン「遠慮はいらん。我らはもとよりそういう存在。極点で身を引くことは竜にとっては憧れだ」
P「そう、なのか……やっぱり」
ドラゴン「しっかし、アイドルとは骨がある奴ばかりだなプロデューサー殿? 己(オレ)もアイドル達には期待しているよ」
P「なんだって?」
ドラゴン「次はちゃあんと殺意を向けてくれるヤツがくればいいな……――――ではな、人の子よ」
P「あっ、おい!」
ドラゴンは白銀の竜のフォルムに変じた。
そして迷いなく夜の空に飛びあがって、星々の輝きに消えていく。
P「アイドルには期待してるって……なんだよ、もう」
P「これでやりあっていないのは、春香と千早だけか……」
美希「はにぃ~……」スゥスゥ
P「……はいはい」
フェアリー戦投下完了。書いてて楽しい回だった
ネタ解説をやってもいいけど、知りたい人いるんだろうか…w
ネタ解説、完結後におまけでやることにします。ただ、分からないでも内容の理解に支障は全然ないっすww
MUGENはちょくちょく動画で見ますねー。司祭様は天に還ってて下さい。
では投下します
――――
――――――――
――――――――――
765プロ
春香(負けたら消える。13年前もそうやってドラゴンは倒されて、消えた)
春香「亜美や貴音さんが言うには、あの子は『倒されたがっている』感じもしたって……」
春香「それじゃあドラゴンは倒されるために来たってこと? う~ん、分かんないや」
春香「美希たちと戦ってから四日……そろそろ私のところにも来るのかなぁ」
雪歩「春香ちゃん。お茶入れようか?」
春香「あ、雪歩。うんお願い!」
・・・・
春香「やっぱり、雪歩が淹れてくれたお茶おいしいなぁ」
雪歩「えへへ。ありがとう」
春香「ねえ、雪歩もドラゴンに会ったんだよね」
雪歩「え、そうだけど……」
春香「どう思う? ドラゴンのあの子。アイドルに挑んで、妖精と戦って、それで倒されたいって……結局何がしたいのかなぁ」
雪歩「………………うん。私もドラゴンさんに会ってから、ずっとそれ考えてたよ」
――ドラゴン『語り継がれし物語と、その未来。この原初の御伽話が、今を脈打つストーリーを検めてやる! 神と英雄の物語をどれほど換骨奪胎できたかを!』
雪歩(あの言葉は、きっと)
雪歩「……多分ね、『ドラゴン』っていうのは暴れて恨まれて……それで勇者様とか王子様に倒される存在そのものなんだと思う」
春香「え? 『悪者』ってこと?」
雪歩「そう。おとぎ話とかの物語は『悪を倒してハッピーエンド』で終わるよね? ドラゴンっていうのはその『悪』とか『敵』とか『試練』とか……そういうものの代表」
雪歩「それでドラゴンさんは……自分がその『役割』を負っているって自覚しているんだと思うの」
雪歩「暴れるのも、恨まれるのも、倒されるのも……仕事。物語を完結させる為の、役割」
――ドラゴン『罪深いと思うかね?』
――ドラゴン『――それならば、己(オレ)は全うできているのだな。鱗を享けし生というものを』
雪歩(……そういうことだよね、あれは)
春香「はぁー、ということは、要するにドラゴンは物語を作りに来てるわけなんだね。自分の身を削ってまで」
雪歩「うん。多分そういうことだと私は思うよ」
春香「あれ? でもちょっと待って」
雪歩「なぁに? 春香ちゃん」
春香「じゃあさ、今回は誰に倒されるの?」
雪歩「……へ?」
春香「ほら雪歩が言うにはさ、倒されるのも『ドラゴン』の望むところなんでしょ。でもドラゴンのあの子は未だに負けてないじゃない。それはなんでなんだろ?」
雪歩「え、えーっと……きっとあっさり負けちゃったら物語的に『盛り上がり』が無いからなんじゃないかな?」
春香「ここ一番! って時に盛大に負けたいってこと?」
雪歩「多分……ロマンって言葉をよく口にしていたし」
春香「じゃあ、そのロマンを感じさせる相手じゃないと倒せないのかぁ。美希たちと戦ってた時もかなり盛り上がったって聞いてたけど、あれでもダメなんだ」
雪歩「う~ん……ごめんね春香ちゃん。私も推測だから全部は分からないや。ドラゴンさんの方も何かこだわりがあったりするのかも」
春香「こだわり、かぁ」
春香「アイドルに触れることで何かを見つけたいのかな……あの子は」
――
――――
とあるオフィスビルの屋上にドラゴンは在った。
寝転がりながら音楽雑誌やファッション誌、テレビガイド誌を広げ、ビル風を気にもせずそれに目を通している。
ドラゴン「~~♪ おっ、伊達政宗特集か。おもしろそう…………ちっ、『ガメラ2』と被ってやがる」
ドラゴン「独眼竜を取るか、レギオンを取るか思案のしどころだな――――と」
泰然とページに視線を遣っていたその時。
ドラゴン「うん?」
竜の肌が震えた。
――『敵意』の察知。
ドラゴン「――おやおや、大物だな」ポイッ
雑誌を投げ捨てドラゴンは瞬時に立ちあがり、上を見据えた。
空から黒い影がこちらに向かって降りてくる。
ドラゴン「さて、英雄の出現でも予言しに来てくれたかね? カスバドもどきよ」
空から威厳を湛えて降りてきたのは、黒きローブを纏った『魔法使い』。
長い十字架状の杖を厳かに掲げ、つばの広い帽子を目深に被り、その奥の瞳を赤く滾らせて。
その『竜殺し』の兵はドラゴンにゆっくりと接近していく。
ドラゴン「……この気配、妖精どもとは違うな。どうした」
『魔法使い』「――――――!」ブンッ
ドラゴンの言葉に耳を傾けることなく。
『魔法使い』は杖を振るった。
それは大波のような暴風のような赤黒い波動を生みだして
ドラゴン「ぬあっ!!?」ドドドォッ!!
ドラゴンの体を容易く吹き飛ばした。
ドラゴン「痛た……! 役者はまだ揃いきってない筈だが―― やる気かよドルイド」
ドラゴン「いいだろうそのケンカ買った……!!」
ドラゴン「 ド ラ ゴ ン フ ァ イ ヤ ー ! ! ! 」ブアォオオオオオオォォォ!!!!!!!!!!!
――
――――
街中
春香「千早ちゃん、今日も個人レッスンかぁ。気合入ってるなぁ」
春香(そういえば千早ちゃん、竜に興味を持ってたよね……)
春香(ってことは、千早ちゃんも美希たちみたいに戦ってたりするのかな。『分かり合うためにはそれぐらい当然よ』とか言いそうで心配だよ)
春香「確かにこのままドラゴンをほっとくわけにもいかないけど……」
春香「『竜』っていう存在について、まだわからないことが多いんだよね」
ワアアアアアアアアアアッ!! ナンダアアァァッ!?
春香「えっ、なに!? ドラゴン!?」
春香(最近何かあったらドラゴンだなって思うようになっちゃってる)
春香「何で騒いでるんだろう? あ、みんな上を見てる……ビル?」
ドラゴン「らららららららあああああぁぁぁぁいっッッ!!!」ダダダダダダダダダダダダッ!!
目に止まったのは、高層ビル。そこにはその側面を駆け下る少女の姿があった。
春香「なっ……!!」
ドラゴンの少女の姿ばかりではない。
幽鬼のような『魔法使い』がドラゴンに並行して飛んでいる。
その者は杖を構えると、そこから光の刃を伸ばし巨大な剣を作り出す。
『魔法使い』「――――!」ブゥウウウン…!!
春香「えっ、剣?」
『魔法使い』「!!」ズアッ!!
それは地面に向かって垂直に駆けるドラゴンに振るわれた。
ドラゴン「ちっ!!」ダン!
対しドラゴンは向かい来る剣を、ビルの側面を蹴って『飛び越える』ようにかわす。
重力の鎖に曳かれ、ドラゴンが地上に落ちてくる――――
ドッッズゥゥゥウン!!!
春香「きゃっ!?」
ドラゴン「なかなかガッツある奴だ」
ドラゴンは難なく着地を決め、空中の敵を仰いだ。
『魔法使い』は光刃を収め、虚空を攪拌するかのように杖を揺らす。
『魔法使い』「――」シュオオオオオオォォォ…!!
オッオイ!! ヤバイゾ!! ワアアアッ!!!
春香「……あ、あ」
背筋が慄く。杖の先に集う光。揺れ始める空気。
本能的に分かる。
――破壊する気だ。ドラゴンさえ仕留められれば後はどうでもいいのだ、『あれ』は。
ドラゴン「貴様ら身を伏せていろ!!」
春香「え?」
ドラゴン「コォォォォォ――……」
戦う彼女の呼吸法が変わった。
竜眼と逆鱗に光が灯る。
これは前触れだ。――ドラゴン・ブレスが放たれる。
ドラゴン「惨烈(サンレツ)たる煉獄(レンゴク)の息吹、その身に刻め!」
『魔法使い』「――!」ズドアッッ!!!!!
ドラゴン「――!」ブアオッッ!!!!!
春香「ひゃあっ!!?」
ブレスと魔法がぶつかり合って、閃光と爆風が辺りにほとばしる。
身を伏せていなければその衝撃をモロに受けたことだろう。
春香(ドラゴン……やっぱり危険すぎるよ!)
杖から噴き出た光線は竜のブレスで相殺され、辺りに薄らと煙が立ち込める。
ドラゴン「ハッ!、なりがでかくなっても情緒(ムード)に欠けるところは相変わらずだな」
そう言ってドラゴンは『魔法使い』を睨むが――
ドラゴン「む?」
いなかった。空に在った姿が消えている。
ドラゴン「撤退したか? いや気配が色濃く残っている……!」
春香(あれ? なんだろう、あの子のそばの空気が陽炎みたいに歪んでるような……?)
シュルルルルルル!!
ドラゴン「!!」
瞬間、輝きを放つロープがドラゴンの体に高速で巻き付いた。
ドラゴン「オオッ!?」
釣りあげられたように、ロープに操られ宙を舞う。
彼女はそのまま容赦なく建物にぶつけられた。
ドラゴン「ぐがっ!!」
輝くロープの始点には、地上に降りていた『魔法使い』の姿があった。
その者は杖から伸びるロープを操り、ドラゴンを振り回し、叩きつけていく。
『魔法使い』「――!! ――!!」ブオンブオン!
ドラゴン「なっ!! ぐぅ!」ドゴォォン! バコォン!!!!
春香「あの魔法使いみたいなの姿を消してたんだ……!」
春香「っていうか、あの子大丈夫なの!?」
その時、一際大きく振り回され、ドラゴンがビルに掛けられていたゴンドラにぶち当たった。
遠心力が乗った竜の質量と衝突し、ゴンドラはひしゃげ、そのワイヤーが引き千切れる。
春香「あっ!! 危なぁあああいっ!!!」
ドラゴン「――廻れ廻れと……!!! いい加減にしろオオオオオォォォッッ!!!!!」
――空で炸裂する光。
白銀の竜が虚空に零れ出る。
顎(アギト)から咆哮が噴出し、弾け飛んだ輝くロープを牙が捕えた。
行為の関係は今逆転する。
竜が『魔法使い』を杖ごと振り回し、空中高くに放り投げる。
『魔法使い』「」
――咆哮。そして熱線。
噴出する膨大な吐息。
打ち上げられていく黒き魔法使い。
――飛翔。
白銀の竜が、敵の滅びを見届けることなく地上へ翔ける。
最後の一本のワイヤーも遂に千切れ。揺れていたゴンドラが、春香の――人々の上で落下する。
春香「きゃああああああっ!!」
翔ける竜。
墜ちるゴンドラ。
数瞬後、破壊的な轟音が街に響いた。
春香「あ、あああ……」
果たして。
春香「助かった…………?」
ゴンドラは竜の巨躯で遮られ、人は眼に白銀を映していた。
オオオオ…!! アッブネェ!! コ、コレガドラゴン!?
安堵や感嘆の声が周囲から漏れだす。
弾ける光。
白銀の竜の残像の中、あの少女が現れる。
ドラゴン「なんだ……よく見たら貴様か…………」
春香「あ、ど、ドラゴンの!!」
ドラゴン「やあ。アイドルの」
未だ騒然とする群衆の中、春香はドラゴンと向かい合った。
春香「えっとえっと!」
春香(な、なにを話せばいいんだろ?)
ドラゴン「……」ジー
春香(うひゃあ! 見られてるよぉ! 面白い返ししなきゃダメなのかな!?)
ドラゴン「戦闘力たったの5。あのカスバド殿は貴様に惹かれたわけじゃなさそうだな」
春香「はいっ!?」
ドラゴン「まあ、それはそれだ……はぁ……。図らずもまた会えたね。己(オレ)に喰われてみる?」
春香「え!? い、いやだよ!」
春香「っていうか……大丈夫なの? 苦しそうだけど」
ドラゴン「剣で斬られたわけじゃない……これくらいは堪えられるさ」
春香「……本当なんだ」
ドラゴン「ん?」
春香「生で闘いを見てようやく納得できた気がする……ドラゴンさん。闘って、暴れるのが役割って本当なんだね」
ドラゴン「おっ、知ってるのかね?」
春香「それで……倒されるのも仕事だって」
ドラゴン「ほう、そこまで。――然り。13年前もそうやって斃されただろう?」
春香(13年前のことを知ってる……もしかしてあの時消えた竜っていうもこの子なの?)
春香(聞いてみようかな)
春香(……って、あれは)
ドラゴン「どうだ、ここで一戦交えるか? ……っておい、どこに行く」
春香「……」タタタ
春香「ほら。泣かないで。もう大丈夫だから」
女の子「うっ、ひぐ……」
ドラゴン「子ども、か?」
女の子「ふぇ……あれ? はるかちゃん……?」
春香「そうだよー。アイドルの天海春香ですっ!」
女の子「ほんもの?」
春香「もっちろん! こわかったねー! でももう怖いのどっか行っちゃったよ! 安心安心!」
女の子「ほんと……?」
春香「本当!」
女の子「えへへ、はるかちゃんが言うんならしんじる」
ドラゴン(ふぅん。さっきまで一番危険にさらされていたのは自分だろうに……もう他者を気遣うか)
ドラゴン(試練に遭っても、なお夢を紡ぐとは)
春香「そうかーママとはぐれちゃたんだ」
女の子「うん……逃げる人におされちゃって……」グスッ
春香「ああっ、泣かないで! よし! 春香ちゃんが探したげる!」
女の子「ほんと!? ありがと、はるかちゃん」
春香「えへへ。いいのいいの! すいませーん! この子のお母さんを探していまーす!」
ドラゴン「おい、アイドルの」
春香「あっ、ドラゴンさん。そっちにも責任あるんだから探すの手伝ってよ!」
ドラゴン「いや、もう迎えが来たようだぞ?」
春香「えっ?」
女の子「あっ! ママだ!」
見ると母親らしき女性が、慌ててこちらに駆け寄ってくるところだった。
春香「良かったぁ。もう! ドラゴンさんが暴れるから! もうこんなことにならないように……」
ドラゴン「ふっ、本当の闘争はこんなものではないよ」
春香「へ?」
ドラゴン「己(オレ)はここで果たすべきコトがある……止まらんし、止められんし、止めるつもりもない」
春香「ちょ、ちょっと!?」
ドラゴン「しかしアイドルの。貴様を見ていると、なんだか元気が出てくるよ――なんでだろうね?」
春香「!」
春香(なんだろうこの顔。まぶしいものでも見るみたいに……)
ドラゴン「ひとまずさらばだ。願わくば夢とロマンが交差する四つ辻にて巡り合わんことを」
――
――――
春香「こんなに暴れて悪びれないなんて、もう! 私だって人前でこけたときはとりあえず謝ることにしてるのに」
春香「それなのに……あんな顔でこっちを見たりして……」
春香(やっぱり、何かを期待しているのかな――)
・・
・・・
夜。街中。
一匹の竜と一人の乙女が邂逅する。
ドラゴン「――おや?」
あずさ「あら。こんな時間に女の子が一人歩いていると思ったら、ドラゴンちゃんだったのね」
ドラゴン「これはこれは竜宮の。――ふぅむ、ここまで接近されるまで気付かないとは」
ドラゴン「一度嗅いだ匂いも、調べたエーテル流も己(オレ)は忘れんのに……ぼうっとしていたようだな。ともあれ、こんばんは。再び巡り合えて欣快に堪えないよ」
あずさ「ええ。こんばんは~」
ドラゴン「そっちも一人かね?」
あずさ「ええ。……実は私ね、仕事場の人といっしょに飲みに行くって約束していたんだけど、向こうに予定が入っちゃったみたいで、一人になっちゃったのよ」
あずさ「それで久しぶりに一人で行こうって思ったんだけど……道に迷ってしまって~」
ドラゴン「貴様も危なっかしい女だな。己(オレ)とは違う意味でだが」
あずさ「『壮行篤喜(そうこうあっき)』って店なんだけど、もしかしてご存じないかしら?」
ドラゴン「うん? そんな看板なら先刻見たぞ? エスコートしてやってもいいが」
あずさ「本当? 良かったわ~! そうだ! ドラゴンちゃんもいっしょに来ない? 晩御飯おごっちゃうわよ」
ドラゴン「おいおい。ヒトにとっての天敵を捕まえて、ずいぶん呆けた誘いだな」
あずさ「そうね。事務所の子たちもあなたに思うところあるみたい。……でもね、私はあんまりあなたを恐いと思わないし、倒してやる~なんて全然思わないの」
ドラゴン「そうなのか?」
あずさ「なんだか、一生懸命夢に生きてる感じがして……私ちょっとあなたに憧れてるのね。どう、来ない?」
ドラゴン「憧れか。己(オレ)のこの鼓動の意味もそれなのかもな…………どうしようかな、見たいテレビがあるしなぁ~」
あずさ「テレビも見れる所よ」
ドラゴン「ほう……?」
あずさ「それでとっても美味しいお酒を出すの。ドラゴンちゃんはお酒大丈夫?」
ドラゴン「おいおい、竜とうわばみは等号関係だぜ? 酔って討たれれば神器すら出す気質だよ」
あずさ「『神器出し上戸』?」
ドラゴン「あっはっは! そう言われると愉快な酒癖だな。よろしい。力(りき)付けようと思ってたところだ。御相伴に預かろう」
あずさ「うふふ。――色々お話、聞かせてね?」
ドラゴン「ああ。『飲み比べ』の強さも英雄の尺度の一つ。存分に飲み、語ろうか! レッツパーリィ!」
あずさ「じゅーしーぽーりぃいぇい~!!」
あずさ「このお酒おいしいわ~。いくらでもいけちゃうわね」クピクピ
ドラゴン「海老フライとマグロのメンチカツ、旬菜のパスタサラダの追加を頼む!」
あずさ「すいませ~ん、私もこのお酒もう一つ頂けますか~?」
ドラゴン「平気なのかよ、随分と聞し召してるようだが」
あずさ「うふふ、だ~いじょうぶ。ほらかんぱーい!」
ドラゴン「ふっ、ブロージット!」カァン!
あずさ「お酒よく飲むわね~」
ドラゴン「うむ。元来、鬼も神も竜もみんな酒好きなのだよ。蜂蜜酒でやられたヤツもいるくらいだ」
あずさ「ドラゴンはお酒好き、と。うふふ、覚えました」
あずさ「ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってくるわ~」スタスタ
ドラゴン「おー」
ドラゴン「…………」
ドラゴン「ああいうアイドルもいるのか。面白い」
ドラゴン「ふふっ。それにしても色んな奴がいたなぁ」
ドラゴン「覇気がある者。他者の為に気張る者。弱さを踏破する者」
ドラゴン「大義と慈愛に生きる姫に、気位高いお嬢様。明晰なる軍師殿に、奔放と純真の双子。才気溢れる獅子姫と、太陽の気質を持つ乙女……」
ドラゴン「みんなみんな面白いヤツだった……」
ドラゴン「ヤツらは試練を越えようと鮮烈に向かってきた。戦意はみな己(オレ)に注がれたんだ」
ドラゴン「――いやはや、たまらんね」
あずさ「なにがたまらないのかしら~?」ボフッ
ドラゴン「おっ、お帰りか。よく迷わなかったね……しっかし後ろから抱擁(ハグ)とは。こういうのはデートで男にやってあげたまえよ」
あずさ「まあ。そんなはしたない真似……嫌われちゃうわ」ドタプーン
ドラゴン「すごく……大きいなぁ……――って違うそうじゃない。勘だが絶対嫌われることないと思うぞ? ヒトの牡(オス)はその脂肪の塊が愉しいらしいからな」
あずさ「そうね……でも男の人相手にそんなの気軽にやれないわ。いつか出会う運命の人に失礼な気がしちゃうもの」
ドラゴン「運命の人?」
あずさ「――うふふっ、聞いてくれるかしら? あなたになら聞かせてもいいって思えたの、私がアイドルになった理由」
ドラゴン「光栄だね……お聞かせ願おうか」
あずさ「私ね――――運命の人に出会うために、アイドルになったの」
ドラゴン「……ほぅ! そいつは素敵だ! 夢(ロマン)の王道を行く志だな!」
あずさ「……! 笑われると思っていたんだけど……うふふ、ありがとう」
ドラゴン「アイドルである以上、困難な道だとは思うが、その恋の物語(ロマンス)、是非成就させてくれよ?」
あずさ「ええ。がんばるわ……その夢が実現するまで、私諦めない」
あずさ「ふふっ、でも事務所の子たちががんばっているのを見ると、まだまだだって感じちゃうんだけどね」
ドラゴン「……ふ。だがその夢を持ったのは恥じることではないよ。」
あずさ「はじめは、夢を叶えてとても魅力的にアイドルをやっている人達を見て、私もこんな風になれたら夢を叶える力がつくんじゃないかしら、って思っただけなんだけれど」
ドラゴン「それが――夢の役割だよ。違う世界観に焦がれるのはそこに夢(ロマン)があるからだ」
あずさ「ん、なぁに?」
ドラゴン「皆、おのれの夢(ロマン)に生きている……語り語られを繰り返し、波及しながらそれはいつしか誰かの夢(ロマン)となる」
ドラゴン「その連鎖こそ大いなる幻想(ファンタジー)なんだ」
ドラゴン「竜には竜の夢(ロマン)があり、アイドルにはアイドルの夢(ロマン)がある――他者の夢に伝播しながら。我らもまさしくそうして生きて」
ドラゴン「――――そうして、斃され死ぬのだよ」
あずさ「し、死ぬって……!?」
ドラゴン「そう。竜はね、殺される時が寿命なのだ」
あずさ「え、えっと……私13年前にやってきた竜っていうのもあなたなんだと思っていたんだけど。骨も鱗も残さず『消えた』っていうから……」
ドラゴン「13年前の竜は己(オレ)ではない。その竜は死んだ。『消える』というのは、はっきり言えば『死んで消滅』するということなのだよ」
あずさ「! どういうことなのかしら……?」
ドラゴン「我ら竜は皆、供物の竜(リヴァイアサン)の呪いを享けてこの世に生まれ落ちる。――とある物狂いの竜が世界に刻んだ爪痕だ」
あずさ「呪い……?」
ドラゴン「我らの創造神話(コスモゴニー)さ。竜がこういう風になっている理由だよ」
あずさ「それが……あなたの背景なのね。聞きたいわ。――いえ、聞かせて。私たちが知っておかなくちゃならないことだと思うから」
ドラゴン「…………ふ」
ドラゴン「――――むかし、むかし。まだこの世がみずからの尾をかむ竜のように完全だったころ。」
ドラゴン「なにもかもが満ち足りてたころ。だれもかれもがひとりぼっちで完成していたころ。」
ドラゴン「とあるひとりの竜が、くるった――」
――
――――
――――――
港の見える丘公園
千早「――――ドラゴン。来ましたか」
ドラゴン「おお。待たせてしまったかね?」
千早「気にしないで下さい。来てくれるまでここに立ち続けるつもりでしたが、すぐに来てくださって……」
ドラゴン「あぁ。いい、いい。そんな畏まるな。竜に畏怖は必要だが、これから『挑む』者がそんな固くなっていては面白くない」
千早「! 『挑む』と気付いて――――」
ドラゴン「無論だよ。こんな鋭い清澄な覇気を見逃すほど己(オレ)の竜眼は耄碌しちゃいない。ふふん、これは気合い入れていかんといかんね?」
千早「自分の命を賭けているんでしょうに……どうして、そこまで躊躇が無いの……? そんな生き方に、疑問は無いの?」
ドラゴン「侮ってくれる……驕るな人間」
「泳ぐことを疑う魚がいないように」
「飛ぶことを疑う鳥がいないように」
「――――捧げられることを疑う竜はいない」
飲み回投下完了。ようやく終盤に入れた…
ベネさんが序文書いてるスマウグ本超欲しい
竜が厳かに口を開く。
「とあるひとりの竜が、くるった――」
竜は罪を負い、呪いを享けた
供物(リヴァイアサン)の呪い。
全ての竜は生贄として捧げられる。
最後に斃されるのは竜。
最後に捧げられるのは、いつだって竜。
竜は夢(ロマン)に捧げられる。
はじまりの竜がくるったから
くるった竜が自らの尾を離したから。
世界は壊れてしまった。
ドラゴン「誰も彼もひとりっきりで生きられなくなったから」
ドラゴン「夢が、必要だったんだ。誰もが憧れる、心躍る夢が」
ドラゴン「――英雄譚とはそういうものだ」
千早「理解できない……いえ、生涯を音楽に捧げた人もいるもの。使命に殉じる覚悟は尊いと思う」
千早「でも、殉じる覚悟があることと、死ぬことに躊躇が無いこととは違うわ」
千早「ドラゴン。私はあなたに挑むつもりでいた。でもそれは皆があなたとの戦いを通して、あなたへの理解を少しでも深めていたからよ」
ドラゴン「…………」
千早「あなたのことを知りたかった。けれど……今あなたの話を聞くと腑に落ちないの。死んでいい命があるとは思えない」
ドラゴン「……竜の世界の触れ方を否定するなよ」
ドラゴン「これは尊い物語の軌跡なんだぜ?」
千早「物語……」
ドラゴン「我らの宿業。たったひとりの竜がその序編(プロローグ)を紡いだのだ。己(オレ)はその使命と制限の中、自由と歓喜を享けている」
千早「世界に対しての、償いなんて……っ! そんな生き方しかできないなんてっ!! 私にはわからないわ。役割を押しつけられて生きて、命を散らすなんてこと……っ!」
ドラゴン「違うね。償いの為に死ぬんじゃない。竜はね、夢(ロマン)を生きるんだよ」
ドラゴン「竜の生き様を不自由で不幸だと、貶めてくれるな。貴様らアイドルもまた夢(ロマン)を生きるモノだろうに」
千早「それは……でもそんなのっ……悲しいことだわ」
千早「死んでなにかを世界に残すなんて考え方は受け入れられない」
ドラゴン「死は無意義だと?」
千早「そんなの……」
――優『お姉ちゃん!』
千早「決まってるわ……」
ドラゴン「弟君のことか」
千早「おとうとぎみ……!? あなたっ」
ドラゴン「知っているよ。…………弟君の死は無意義じゃあないさ」
千早「ッ! 何を勝手に――」
ドラゴン「貴様がいるからな」
ドラゴン「貴様が……弟君のことを魂に刻み、悲しみを知り、そして乗り越える物語を綴った。王道なセリフだが、弟君は貴様の中で生きている」
千早「私のことを、優のことをそんな風に言わないでっ! 優が死んでしまったことは……」
ドラゴン「どうして無意味であって欲しいんだ?」
千早「違う! そう思っているわけじゃ……ないわ……!」
ドラゴン「では、意味がある、ということにするのが怖いか」
千早「な……!?」
ドラゴン「乗り越えてしまうのが辛いか。消化して、切ないだけのものにしてしまうのは不実だと、そう思ってしまうか」
竜の翠の瞳が大きく見開かれて、千早を射抜いた。
幻想なるその視線は、胸の奥すら見透かすよう。
どくん、と千早の心臓が大きく脈打つ。
千早「うっ……」
ドラゴン「ふふん、竜の選別眼を甘く見るなよ。貴様は脆いが、弱くはない。自分を縛るが、それで飛べぬほど狭量でも無い」
ドラゴン「――なあ姉君よ。心ない中傷に惑わされるな。貴様はもう乗り越えていいんだ。『悲しみに暮れなくなっても構わない』んだ」
千早「な、なにを……どうして、その考えを……っ!」
ドラゴン「貴様の物語(ストーリー)に、既に不可分なものとして、弟君は在る」
千早「!」
千早(――え)
突き刺さった言葉が、眼を滲ませた。
弟のこと。その死の悲しみは千早に影を落とし、今日までの人生を作ってきた。
そのことを突かれ、声が出なくなるほど打ちひしがれたこともあった。
――しかし、その悲しみは仲間によって越えられて。
今はもう……それほど悲しくない。
だがその無痛を、如月千早は良しとしなかった。
弟に対する罪悪。不誠実。なにより悲しむ者がいなくなることは、彼を『独り』にしてしまうことだと……そう考えた。
あの記事に書かれたような『見殺し』などということはしまいと、そう自分を縛った。
――だが竜は。
その曇りを見抜き。
その縛りをひきちぎっていった。
――悲しみは、乗り越えていいと。そう言った。
ドラゴン「卑賤な死などあるものか。あるのは貴き意思だけだ」
ドラゴン「悲しみや、呪いは……忌避すべきものじゃない。その戒めに意味を見出す、不屈なるいじらしき営み。――それをロマンというんじゃないか」
ドラゴン「死を詩に変えて。傷を絆に昇華して。呪いを享けて夢(ロマン)を紡いで。そうして貴様もここに在るんだっ!」
千早「それは……責められるものではないの、かしら……っ」
ドラゴン「野次に少しばかり生き方を迷わされたか。悲しみを越える力を得ることが正しいのか、と悩んだようだな」
ドラゴン「だが。そんな非難に折れることなく貴様はここに立っている…………もうそれが答えだ」
ドラゴン「誇れ歌姫! 悪徳も嫉妬も殺意すら、貴様だけの輝ける夢だ!」
千早「うぅ……くふっ……ぅ……」
千早「ふ、はっ……あ、ありがとう――ドラゴン」
ドラゴン「ああ。ゆめゆめ違えるな。我らも畢竟ヒトと同じだ。死と夢(ロマン)を昇華する過程が違うだけさ」
ドラゴン「最高の対手と最高の歌を叫び、世界を震わせたい―――― 己(オレ)という音楽を極点まで引き上げたい」
ドラゴン「己(オレ)は貴様を見込んだぞ。悲しみと絆を知るヒトよ。共演者のオファー受けていただけるかな?」
千早(…………使命と、夢。人の営み)
千早「あなたの世界観が分かりました。あなたの言葉に震えました」
千早「……終止符を打たれることが望みなら」
千早「私が、やります……いえ、きっとこれは私がやらなくちゃいけない」
千早「あなたという物語を完成させる。それで……私の人生の道を歩む」
ドラゴン「流石だ――――さあ、セッションだ」
ふわりと大気が霞んで靡く。
光る欠片が宙を舞う。
エーテライトを集める竜の舞台が、ここに。
ドラゴン「…………む」
カラァン、カラァァン――
どこかから鐘の音が響く。
光のドームが、歌い手の心に反響し、一つの音楽を浮かび上がらせていく。
ドラゴン「圧巻だな…………このオーラ」
千早が前に進み出た。
竜に相対する決意を込めた一歩。
音楽が染み出す。少女の体に静謐が満ちる。
壮大で、荘厳な――それはバラード。
ドラゴン「その歌はディーヴァの凱歌となるや否や? ―― 調べを心臓(ハート)を突き立ててみろ! 孤高の歌姫!」
千早「――――……」
ずっと眠っていられたら
この悲しみを忘れられる
そう願い 眠りについた夜もある――――
――
――――
春香「…………千早ちゃんが歌ってる」
ドラゴンのことに想いを馳せていた春香は、最初に出会ったあの公園に向かっていた。
そこで不意に胸の内が波打った。
空を見上げる。
薄く、波紋のように輪を描き広がっていく光が見える。
……幻想の欠片。
春香「あれって……ドラゴンが振りまいた」
大気が微かに震えている。それは歌のような、震え。
瞬間、糸が春香の頭で繋がった。
春香「ドラゴンと競ってるんだ!」
春香「千早ちゃんドラゴンは危ないんだよ! 無茶するんだから!!」タタッタッ
春香(危ないだけじゃないような気もするけど……)
春香「とにかく、無事でいてよ、千早ちゃん……!」
春香は駆けた。
空気の振動は、公園に近づくほど強まっていった。
――――『 あれは 儚い夢 そうあなたと見た泡沫の夢 』
光のドームがさざめきたって膨張する。
旋風が吹き、大地が歌姫の震えに反響する。
――――『 たとえ百年の眠りでさえ いつか物語なら終わってく 』
石も、風も、草も。
響きわたる歌にその内包するエーテライトを解放する。
――――『 最後のページめくったら 』
光の筋が、一陣の風となって歌姫に集中していく。
光の欠片が沸いて空を舞い、歌う千早を煌めきで彩る。
――――『 眠り姫 目覚める私は今 誰の助けも借りず 』
――――『 たった独りでも 明日へ歩き出すために 』
人ならざる者でさえ。その歌に魂を解放する。
輝くエーテライトの欠片が、この舞台に吹雪き、超然とした空気を醸成していく。
――――『 朝の光が眩しくて 涙溢れても 』
それは世界が揺れるような。
――――『 瞳を 上げたままで ―――――――― 』
如月千早が紡ぐ歌。
高らかに歌いあげられた声が万物を惹きこみ、光の筋が歌姫に急速に収束した。
暴風のごとき『喝采』がドラゴンの体を呑みこんでいく。
ドラゴンの周囲の光の欠片が、空中でわだかまり、形を成した。
――『剣』
歌で討たれるその時は、この剣が逆鱗を突く。
竜の舞台は、この機能こそが本質だった。
敗れた時に、竜は死ぬ。
その使命を果たす修羅場の一刀。
今まさにそれは竜の逆鱗に照準を合わせ、飛んでいく。
常に竜は命を賭けて英雄に挑む。
ドラゴン「――」
……ぱきぃん!
喉元に迫ったその刃はしかし、刺さる直前で砕け散る。
ドラゴン「――♪」
竜の歌が静かに、関心のエーテライトを集めその身を護っている。
ひたむきなアイドル達との合戦が、竜の歌を短期間で研いでいた。
謳い、謳われる竜の存在は、歌姫の曲の奔流にあってなお掻き消されない。
千早「――――」
千早はそのドラゴンの姿を認め、さらに歌に没入する。
集中が研ぎ澄まされていく。
……竜を討つ決意。
千早「――♪」
圧されない。竜眼と目を合わせても。悲愴に思える覚悟に晒されても。
強まる歌声。それは、躊躇を乗り越えた証。
歌が高まり、風が天を翔け、光が地を照らしていく。
――瞬間、雷が光のドームを突き破った。
千早「ッ!!?」
ドラゴン「むっ……!!」
轟音。爆風。
ドラゴンと千早の間に、一つの影が降臨する。
漆黒のローブ。紅く光る瞳。十字の杖を携えた『それ』。
千早「ま、魔法使い……?」
ドラゴン「――このまま終わるのはご不満か、『竜殺し』殿? ……いや、そうか!」
『魔法使い』「…………」
千早「……どうして私を見ているの」
ドラゴン「――貴様はマーリンの助言を授かる。明確に竜を討つ意思を持ち、プレッシャーを跳ね除け、凄まじい歌を紡いだその振る舞いに、資格を認められたのだよ」
ドラゴン「なるほどなぁ、魔術師殿よ。貴様はこの歌姫を見初めて地上に降りたか」
千早「…………私に力をくれるというの」
ドラゴン「英雄は試練を経て、魔法的手段を手に入れ、困難を克服し、栄光を勝ち取る……英雄譚とはそういうものだ」
ドラゴン「歌姫よ。貴様は妖精の力を得て、偉業を為すんだ」
『魔法使い』「!!!!」ブワゥッッ!!!
千早「これは……っ?」
黒の魔法使いが、光の糸となり千早に纏わりついていく。
千早「……これも、物語の完成の為なのね――――ドラゴン」
ドラゴン「うん?」
千早「私、迷いは無いわよ。あなたに応えるわ」
ドラゴン「ほんとにっ……! たまらんなぁ貴様は!」
二重螺旋を編みつつ、糸は体と一体化していき。
千早は、今『竜殺し』の力を得る。
英雄のように迷いなく。
貴音「!」
P「律子。あずささんを連れてきてくれたんだな」
律子「ええ。みんな聞いて……あずささんがドラゴンと話をして竜がどういう存在なのかを知ったそうよ」
亜美「え、あずさお姉ちゃんドラゴンと話したの!?」
あずさ「ええ。それで……あら。春香ちゃんもいないわね?」
亜美「はるるんはドラゴンのこと考えたいって、外にいっちゃったよ!」
伊織「もうドジね、大人しくしてればあずさから話を聞けたのに……それで? どんな情報を掴んだのよ?」
あずさ「あのね、みんな……竜が負けたら消えるっていうのはね、別の世界に帰っちゃうとかそういうんじゃないの」
あずさ「……死んじゃうってことなの」
伊織「!」
貴音「やはり……! 薄々感づいてはおりましたが……!」
美希「美希たちが勝ったら大人しくするって……そういうことだったの?」
律子「一度退治されちゃったら、それで役目を終えるってことね」
あずさ「――ドラゴンはひとりっきりなんです。13年前に来た竜とは違うんです。『あの子』はこの世に一人しかいない存在で……」
あずさ「闘って、負けて……死ぬことでで世界にロマンを捧げるという、宿命を背負っているんです」
――
――――
765プロ
伊織「それじゃあんた、千早に一人で行かせたわけっ!?」
P「千早がそう望んだんだ……武田さんの元でレッスンを積むくらい集中していたしな。あいつは竜の存在を気にしているんだよ」
伊織「竜……ドラゴン! またアイツなのね! やっぱり叩き潰してあげないといけないわねっ」
やよい「伊織ちゃん熱くならないで……」
真「んー、千早が終わったら、ボクももう一回勝負しに行こうかな」
雪歩「真ちゃん?」
真「やられっぱなしは性に合わないしね! 美希たちみたいに妖精の力を使っての戦いはやってないし!」
美希「真君やる気マンマンだね! でも妖精のチカラとってもおもしろいけど、ちょっと疲れるよ?」
真「それくらい平気さ!」
P「……千早が勝ったら竜は消えるぞ、真」
真「ああ、そっか! 消えるんでしたっけ……じゃあどうしよう。今から乱入っていうのはナシですよね」
響「でも13年前にも来たんだから、また来るかもしれないぞ?」
真美「負けたら消えるけど、今回もう一回来てるもんね」
貴音(しかし、一時舞台を降りるというだけであれほどの『覚悟』が要るのでしょうか……?)
律子「あの娘は命を賭けてこの世界に来たのよ」
貴音「!」
P「律子。あずささんを連れてきてくれたんだな」
律子「ええ。みんな聞いて……あずささんがドラゴンと話をして竜がどういう存在なのかを知ったそうよ」
亜美「え、あずさお姉ちゃんドラゴンと話したの!?」
あずさ「ええ。それで……あら。春香ちゃんもいないわね?」
亜美「はるるんはドラゴンのこと考えたいって、外にいっちゃったよ!」
伊織「もうドジね、大人しくしてればあずさから話を聞けたのに……それで? どんな情報を掴んだのよ?」
あずさ「あのね、みんな……竜が負けたら消えるっていうのはね、別の世界に帰っちゃうとかそういうんじゃないの」
あずさ「……死んじゃうってことなの」
伊織「!」
貴音「やはり……! 薄々感づいてはおりましたが……!」
美希「美希たちが勝ったら大人しくするって……そういうことだったの?」
律子「一度退治されちゃったら、それで役目を終えるってことね」
あずさ「――ドラゴンはひとりっきりなんです。13年前に来た竜とは違うんです。『あの子』はこの世に一人しかいない存在で……」
あずさ「闘って、負けて……死ぬことでで世界にロマンを捧げるという、宿命を背負っているんです」
雪歩「えっ」
ドラゴン『罪深いと思うかね?』
ドラゴン『――それならば、己(オレ)は全うできているのだな。鱗を享けし生というものを』
雪歩(…………そっか、そうなんだ)
雪歩(退治されるまでが役割なんだ。そこまで命を賭けてるから――あの人は私達の物語を試せるんだ)
あずさ「それで、みんな――私の考え聞いてくれる?」
風が凪いでいる。
先程まで高まりきっていた場所に、今は張りつめた静寂が一つ。
そこに。
千早「……」スゥ―
ゴゥアッッ!!!
千早の『杖』が振るわれ、烈風が突き抜けた。
次いで圧倒的なまでの光が溢れ出す。
強大な存在感を振りまきながら、如月千早はそこに在った。
千早「……!」
舞台風の衣装。
赤と白を基調としたジャケットに、ふわりと靡くパニエスカート。胸元のスカーフは『蒼く』。
花びらのような光の欠片が周囲にひらめき、その紗幕の向こう側、竜を見据える瞳は『紅く』。
長い『杖』に見えたそれは、双頭のマイクスタンドで。
――『竜殺し』の意思を纏った偶像(アイドル)が現出している。
ドラゴン「『プリマコンツェルト♪』、か」
ドラゴン「おはよう、オーロラ妃殿下! 真実も美徳も見当たらないが、それで竜討伐を成せるかね?」
千早「成せます――――あなたを倒します」
ドラゴン「いいぞ……! 『竜殺し』の殺意を見事に意思に載せている!」
ドラゴン「――嵐が渦巻き、天空かき曇り、砕け散るのは誰の骨か。果たして誰の運命が打ち砕かれるのか」
ドラゴン「誰の運命が最期を告げるのか、我歴史の証人とならん!――――さて……では荒涼に身を委ねようか、殿下!」コォオオオ!!
――ズドアアアアアアァァァァッッッ!!!!
ドラゴン・ブレスが猛り狂って千早に押し寄せる。
千早「ふっ!」ブン!
ピキィイイン!! ……バシュゥウウ!
千早はマイクスタンドを掲げ、盾を張りそのブレスを容易く防ぐ。
ドラゴン「バリアか……! 壁を張るのはお手の物かよ?」
千早「せあっ!!」ドウッ!
ドラゴン「ぐうっ!?」ザザァ!
音のように広がる波動にドラゴンは圧された。
その隙を逃さず、たたみかけるように千早がマイクスタンドを振り上げて接近し。
千早「はっ!!」ギィン!
ドラゴン「むんっ!」ガァン!
マイクスタンドとドラゴンのブレードがつばぜりあった。
しかし、拮抗は一瞬。
千早「La――――――!!!」
ドラゴン「!!」
マイクに口を寄せ、発せられた声。それは空間をたゆませるほどの衝撃を生みだし、竜の体を跳ね飛ばす。
ドラゴン「いいぞいいぞ!! その調子だ!!」
ドラゴン「GAOOOOOOOOOO!!!!!!」ズドオオオオオオオッ!!
飛ばされた空中で竜は身を転じ、熱線を放射する。
千早「――」ピキィイイン!
――ズガガッガッガガッガッガガガガ!!!!!!
対し千早は盾を展開。
ドラゴン・ブレスが千早の周囲以外の地面を激烈に抉る。
そしてそのまま。
千早「いくわっ」ドウッ!!
千早は蒼い盾を展開したまま雷翔。
ドラゴン「……がうっッッ!!」ズガアアッ!!
その蒼の突進は、熱い抱擁の様にドラゴンを射止めた。
千早「あ、あああああああああああっっ!!!!」ヒィィイイイイイン!!!
ドラゴン「――――――――はっ」
――――雷翔はなお留まらず。
竜を抱いて天へ天へ。
ガアァン!! ギィン!! ズドォアアアッッ!!
舞台は天。
白銀と蒼。
二つの雷が合わさり、交差し、弾けていく。
魔道が爆発を呼び、吐息が天を溶かす。
斬撃が星々のように空に煌めきを削りだし、地上に衝撃の余波が伸びる。
歓喜の祭りのように。煌びやかなクライマックスのように。
二つの星が廻る廻る。
――
――――
春香「あ、あれは……! 千早ちゃん…………美希たちみたいに……!!」
春香「たった一人で! 危ないよぉ!」
――千早『ふふっ、でも、もし竜と会うことがあれば、色々語りあったりしてみたいわね。竜はなぜ歌い、謳われるのか……』
――ドラゴン『しかしアイドルの。貴様を見ていると、なんだか元気が出てくるよ――なんでだろうね?』
春香「お、おかしいよ……! 分かり合うための手段ってあんなカタチしかないの!?」
春香「千早ちゃん、どうか無事で……っ!」
ズガアッッ!!
千早「……くっ!」
蒼の星が炸裂する。
裂かれた防護のエーテル膜が、花びらのように宙に舞う。
ビィキィィィン!!
ドラゴン「はっ……ハァッ!! 血が滾るぞ!」
白銀の星が爆裂する。
砕け散った銀色の鱗の破片が、金色の竜の血を引き連れて空に細かな箒星を描く。
黄金の鮮血。
剣閃と閃光の戦場で、それが遂にまろびでた。
千早「竜を――――斃すっ!!」ゴアッ!!
その黄金を目にした途端、一層深く戦意が猛る。
シュンシュン!! シュンシュン!!
ドラゴン「!」
『盾』がドラゴンの四方に現れ出て、その体を囲う。
竜を閉じる透明な箱。
ドラゴン「……っ!!」ガガッ!
刃を突きたてるも、その壁は砕けない。
千早「はっ――!!」
歌姫が飛ぶ。海よりも激しく。山よりも高々く。
彼女は今、蒼と紅の風となって、竜に迫り――
千早「斃します――――!」
その刃を打ち下ろす。
――ザシュゥウウッッッ!!!
ドラゴン「が……はぁっ!!!」
マイクスタンドから生じた青白い光刃。
それは『箱』ごと竜に斬撃を刻みこんだ。
ドラゴン「ぐ……は……」
雷翔の速度が乗ったその一撃は、竜を凄まじい速度で地に墜とす。
黄金の血流を曳きながら、竜という巨星が虚空を滑る。
ドラゴン「――――ははは!!!!!」
ドラゴン「はははっ!! あはははは!! ハハハハハハ!!!!!! アッハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!!!!!!!」
春香(え、『金色』がこっちに墜ちて――!)
春香「き、きゃぁあああああああああああっ!!!」
◇
千早「――!」
千早「は、春香?」
我に返る。
なんだ私は。
竜を倒す決意をしたとはいえ、苛烈に過ぎないか。
春香の声が、引き戻してくれた。――春香?
下を見る。『竜殺し』の力で強まった瞳は、またたくまに彼女の姿を捉えた。
黄金の鮮血を振りまいて、墜落していく竜。
その落下点に――天海春香が立っていた。
千早「春香ぁああああああっ!!!」
ドラゴン「がぅああああああああああー――――っっ!!!!」ズドアッッッ!!!
春香「!」
慣性と重力の鎖を、竜の吐息が突き破る。
ドラゴンはブレスの反動で、落下点をずらし――
……ドッズゥゥゥン!!!
ドラゴン「ふ、ふははは!」
地上に二本の足で着地する。
春香「あ、ああ!」
千早「――!!」
ドラゴン「お返しだ歌姫っ!!」ジャキィン!
千早は春香のもとに駆けつけるべく、地上に全速で向かっていた。
そこに跳躍のスピードが乗った竜のブレードが振るわれる。
バキィイン!!
千早「あァっ!!!」
春香「ち、千早ちゃん!!」
ドラゴン「『竜殺し』の意思を植えつけられておいてなお、友に走るか」
ドラゴン「素晴らしい。それがいい、それがいいんだ。己(オレ)は貴様らのそういうところが気に入っている」
竜は、春香と千早に視線を遣ってそう言った。どこか潤んだ声。
ドラゴン「糸車の針だけに気を注ぐなよ、ブライア・ローズ。暁(オーロール)を陰らせるのは何も黒き竜だけではない……」
ドラゴン「貴様が繋ぎし糸こそを護れ。悲哀に断ち切られぬ様に」
春香「ど、ドラゴン! そんなこと言って、千早ちゃんに容赦なく攻撃して……! おかしいよ!」
ドラゴン「……」
春香「私を見てると元気が出るっていったじゃない! それなのになんでこんなことをするの!? わかんないよ、気に入ってるっていうのはウソなの!?」
ドラゴン「生ける者に本当(まこと)も嘘もない。おれはこの世にただ一人――――竜。……なんてな」
ドラゴン「愛情表現は時に決闘や戦争の体をとる、そういうハナシだ」
千早「春香っ! 離れてっ!」ピキィンン!
春香「えっ!?」
ドラゴン「ぐっ!!」ギュアッ!!
千早が空中でスタンドを掲げた。
ドラゴンの足元にあの蒼の盾が発生し、突き上がって竜を空に運ぶ。
千早「LaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――ッ!!!!」
ドラゴン「ぐあっ!!」バキバキバキッ!!
降り注ぐ音波の雨。上昇する盾はその刃をいっそう深く竜の体に刻みこむ。
千早「みんなのためにっ……! あなたを……!!」
ドラゴン「狂おしいな……っ! 高まれっ!!! 昂ぶれっ!!! その意気だ!!」
空間を歪ませる音の波動が、雲をかき消し、嵐のような烈風を振りまいた。
体が削れ、鱗が震え、黄金(きん)の血潮がこの空に花火のよう。
軋みの音が割れる天に吸い込まれていく。
重い愛。夢(ロマン)の愛でたまう殺意。
貴様の抱擁と想うなら
鱗に射当たる鏃もまた愛し
千早「――――!!」ビキィン!!
ドラゴン「また箱に押し込めるか……っ」
ドラゴン「こんなもので己(オレ)は果てない――――」
その時、竜眼が見開かれた。
ドラゴンの『箱』を中心に、煌めく花びらが大量に渦巻いている。
それは回転しながら苛烈な光を発し、圧倒的な熱量でもって竜を灼く。
ドラゴン「ぐ……あああああー――――っっっ!!!!!」ズアアアアアッッ!!
花吹雪は銀河のように渦巻いて光を放ち、廻る廻る。
回転が疾走する。熱量が際限なく暴走する。
春香「す、すごい…………!!!」
千早「終わりにしましょう……ドラゴン!」
太陽がもう一つできたが如く。
天に光球が発生し、中心の竜を火刑に誅する。
――ズアアアアアアアアアッッッ!!!!!!
灼熱が廻る。廻転が灼ける。
余波が地上を叩き、絶え間ない衝撃が天を駆けた。
ドラゴン「………ふ」
竜は笑った。
灼熱と衝撃に包まれる。渦巻く愛に己(オレ)は在る。
今こそ世界は己(オレ)を中心に踊り、今こそ己(オレ)は世界の中心で歌うのだ。
さあ、この身を食い破る爆裂よ。
この身を引き裂く回転よ。
宇宙の総てを巻き込み、廻れ廻れ。
己(オレ)は白の鱗の生を享けし者。
光を紡ぐ機織(はたおり)にして光(エーテル)を翔ける銀翼。
己(オレ)は、貴き白。
ドラゴン「……し……おうじゃ…………――」
零れ出た黄金(きん)の血が、螺旋を描いてドラゴンの体を覆っていく。
光の再編。
螺旋は、竜巻の如く速まって、絡み合い、噛み合って、黄金律を形成し、竜の姿を織り紡ぎ――――
千早「…………!?」
『音』の反射が変わっていく。竜が内部でなにかをしている。
鉛のように重いプレッシャーが千早を叩く。
千早「抑えられないっ!!」
――ヴワアアアアッアアアアアッアアッッッ!!!
瞬間、太陽の牢は弾け飛んだ。激烈な勢いで熱と力が波濤となって押し寄せる。
爆発の中心に、煌めく巨躯が嘶く。
白銀竜の顕現。
≪愛し合おうじゃあないか?≫
千早「! くっ!」ピキィン!!
ゴゥアッッ!!!
竜の硬質なる翼の刃が、とっさに展開した盾をも突き破って千早に巨大な斬撃を見舞う。
千早「あ…………っ!!」ヒュウゥゥゥ!
春香「千早ちゃんが、落ちて……っ!!」
千早(しまった……!! 体の自由が)
千早(このままじゃ……竜を斃せない…………!)
竜の顎(アギト)が開く。
喉奥に剣呑な熱量が蓄えられていく。
春香「ああっ!!」
バッシュウウウウゥゥー――――ッッッ!!!!!!
落ちる千早に向かってその砲身は合わせられ、鏖殺の吐息が光柱となって撃ち出された。
千早(――春香)
千早(そうよ。竜を斃すより、春香を、仲間を護る方が――)
金属を抉るような爆音が天に轟いた。
春香「ち、千早ちゃん……!」
千早「――――くっ、あああ!!」ズガガガガガガ!!!
空中で熱戦が弾かれている。
巨大な盾を展開し、千早が竜の吐息を受け止めていた。
ブレスの威力は凄まじく、宙で留まる千早の体が降下していく。
千早「くぅ……ううぅぅぅ……!!!!」グググ
千早は『盾』を傾けた。真正面から受け止めるのではなく、逸らして受け流すために。
熱線が曲がる。
海の方角へ逸らされたそれは、海面を叩き巨大な水柱を生み、けたたましい音を立てて海を蒸発させていく。
春香「下にいる私の、ために……?」
放射が止んだ。
竜は歓喜するように天に向かって咆哮し、銀の颪(おろし)となって歌姫に迫る。
千早「は……はぁはぁ……!」
『竜殺し』の意思が千早に告げる。
――吐息の余波を受け、体を覆うエーテル膜が剥がれている。雷翔力の回復まで数秒。
数秒。それは戦場では絶望的な待ち時間。
竜の顎(アギト)が千早を噛み砕かんと広げられる。
炎より熱く、氷より鋭い竜の牙。
――ガガガッ!!!
千早(間にあった!)
体を囲う様に、盾を展開し千早は牙の侵略を防ぐ。
千早(春香――――!!!)グググ!!
≪――――――ッ!!≫
戻り始めた雷翔力。それを千早は顎(アギト)からの脱出のためではなく、竜の誘導することに注ぎこんだ。
千早は上昇する。竜の頭が上昇する。竜の巨躯が上昇する。
噛みつかれた獲物は、最後の矜持で怪物を曳く。
≪――――――いいなぁ貴様らは≫
千早「!!」
瞬間、どこか潤んだ声が天を裂いた。
竜が啼く。顎(アギト)の中の千早に震えが走る。
その啼き声の響きは、千早の心を惹きつける。
千早(――――なんて声。戦意と歓喜と…………これは称賛?)
声。その質はアイドルが浴びるものとよく似ていて。
ぴぃんと、千早の頭に理解が閃く。
千早(ドラゴン、あなたは……本当は私たちのことを――――)
瞳に宿る赤色の光が薄らぐ。
戦意が一瞬崩れたがため。
竜は上昇する。天に向かって口を向け、千早を咥えたまま吼える。
啼き声が、壮大な呼吸音に移り変わっていく。
千早(! 喉奥が光って……!)
千早(…………………………)
千早(――――でもいいわ)
千早(あんな『声援』を聞いたなら。私はあなたを斃せない)
――ドラゴン『誰も彼もひとりっきりで生きられなくなったから』
――ドラゴン『夢が、必要だったんだ。誰もが憧れる、心躍る夢が』
――ドラゴン『――英雄譚とはそういうものだ』
千早(今、分かったわ)
千早(ドラゴン、あなたも…………ひとりぼっちではいられないのね)
心のうちに、歌が湧く。
送りたい、という想い。
上昇し、流転する背景。
威圧と、極点のそこで歌姫は口を開く。
千早「 蒼い光の向こうへと 涙は拭い去り 」
千早「 あの空見上げて ―――― ♪」
――――爆発が、世界を揺らす。
――
――――
春香「千早ちゃぁぁぁあん!!!!!」
仰ぎ見る上空。殺伐とした爆発がここまで衝撃を届けてくる。
春香「ドラゴン! ひどいよ! なんて、ことを!」
春香「なんてことをするの……!」
親友を想い、春香の心に火が燈った。
春香「許せない……っ!」
竜は全てを破壊する者だ。
アイドルを、親友を、仲間を、立場を、世界を、蹂躙する無法者だ。
春香は、跳んだ。
親友の盾となりたくてしょうがなかった。
果たして、春香の跳躍は。
空から降りた『光る糸』が絡め取って、そのまま空に引き上げられていった。
――
――――
空に、白銀竜のフォルムが溶けた。
少女が姿を現す。彼女は傷口を抑えながら、落下していく歌姫に視線を遣った。
ドラゴン「――――はぁ、はぁ……はっ……はっ……」
ドラゴン「……ん」
落下していく千早。
その衣装が『光る糸』となって、下に伸びていく。
訝り、竜眼を見開いたその時。
上昇してきた一つの影が、千早の体を受けとめていった。
春香「…………」
ドラゴン「これはこれは、アイドルの! そうか、このタイミングか!!」
ドラゴン「貴様と己(オレ)はここで惹き合うかっ!!」
春香「ドラゴン、を……」
ドラゴン「……む」
春香「悪いドラゴンを倒さなきゃ……!!」
その言葉を引き金に、光る糸は高速で春香の体に渦巻いていった。
一気に気迫が膨れ上がり、周囲を圧する。
『竜殺し』の殺意。
ドラゴン「親友のために怒り、竜を斃す決意を……!!」
ドラゴン「まったく、出来すぎなシチュエーションだなっ!」
春香「――――」シュオオオオオオオッ!!!
>竜殺機関裏漆版六五刷:
――英雄譚委員会,審査中
――賛成:十二
>竜殺機関裏漆版六五刷:
英雄譚委員会(ラウンド・オブ・テーブル)ノ決議に従イ――
――選魔ノ儀ヲ此処ニ執リ行ウ.
千早戦投下完了。あと戦うべき相手は春香だけ。
>>283でミスしてしまった。あと2,3回の投下で終われたらいいですね
――黒く染まっていく。
――殺意に染まっていく。
――竜を戮せと、頭の中に声が響く。
今、光る糸は肉体と溶け合って、分かちがたく結びつく。
春香「………………」シュオオオ―
千早の体が浮かび上がり、ゆっくりと地上に降りていく。
わずかに残った理性はその親友の保護に使われて。
春香はいっそう力を貯め込み、頭と心を闘志に染めていく。
ドラゴン「幻想なるモノみな集いて夢(ロマン)を捧ぐ時は来たれり」
ドラゴン「最初は貴様で、最後も貴様だ! 巡り合わせがここが極点だと告げている」
ドラゴン「さぁ、愛し合おうぜぇ……アイドル!!」
荒涼とした風が吹いた。
発せられる気迫が形を持ってドラゴンの肌を叩く。
春香「――畏れ」
春香「平伏し」
春香「 崇 め 奉 り な さ い っ ! ! ! ! 」バサァ!!
ドラゴン「おー! 巨大ロボットの中の人だー!」
春香は変じた。
上着が白くなった『パンキッシュゴシック』。はためく仰々しい黒マント。
黒と赤のオーラが揺らめき、周囲をよりいっそう剣呑な空気に染めている。
ドラゴン「ハルシュタインか! 数多の夢(ロマン)を抱えしアイドルよ。その強大なる力も、貴様の可能性の一つなのだな」
春香「閣下」
ドラゴン「ん?」
春香「……閣下と、そう付け加えなさい」
ドラゴン「ふ、これは不敬だったかな。ハルシュタイン閣下。御身辺をお騒がせいたしまして、まことに申し訳なく思う次第――討たれるのならば、覚悟は出来ておりますが?」
春香「愚かな竜よ、跪きなさい。そうすれば――戮(りく)、奉ってあげるから」
ドラゴン「ふふん、恐悦。だがせっかくの謁見の機会」
ドラゴン「…………逆鱗を砕く器かどうか、鼎の軽重を問わせていただくっ!!」
ドラゴン「がぅあぁぁっぁー――――っっ!!!」ゴオオオオォォォッ!!!!
春香「ふぅん」バサアッ!
火と熱の爆発。
巻き起こった煙の中、『竜殺し』の意思は健在で。
春香「恐れ多いトカゲ」
春香は翻したマントで容易く竜の吐息を遮った。
春香「あなたはここで――――羽をもがれて落ちなさい」
ついっと春香が指揮の合図をするかのように指を振った。
途端、空間が質量を持ち――
――ドゴオオオッッ!!!
ドラゴン「がはあああっ!?」
ドラゴンを強烈に殴り飛ばした。
ドラゴン「ぐ、うぅぅぅ……!!」
黄金の血が流れ出す。歌姫との闘いは今も体に響いている。
空中でなんとかドラゴンは体勢を整えた。
ドラゴン「レムリアインパクト……いや、ブロディアパンチ?」
竜眼が空間に出現した巨大な鋼の腕を捉える。アレに殴られたのだ。
さらにその腕から繋がる様にボディが空間に現出していく。
春香の威圧のオーラを体現したかの如き鋼の巨人。
ドラゴン「流石はラスボスだ。連邦のアイドルは化け物か」
黒き翼を広げた女性型の……それは『ロボット』
『竜』に抗する架空の、空想の、幻想の存在。
――白きロマンには、黒きロマンを以て。
春香「――あ、ははは」
ドラゴン「ふふん」
その『ロボット』の頭上に立った春香は、にいっと口角を吊り上げた。
対するドラゴンも、同じように口の端を歪ませる。
無邪気で、邪悪な……愉しさに満ちた笑み。
強烈な風が吹き、舞台は整う。
春香「踊りましょうか、ドラゴン」
ドラゴン「存分に。閣下」
――爆撃。
ドラゴン「は、はははははっ!!!」
――熱線。
春香「ふふふ……」
――衝突。
ドラゴン「その程度かっ!? 違うだろう!」
――乱舞。
春香「あなたこそ、その程度?」
爆裂が荒れ狂い。
空の世界が凄まじい荒涼感を纏う。
絶え間ない攻撃に、ドラゴンの身は削れていく。
ドラゴン「――ッ!!」
吹き飛ばされ、振り回され、黄金(きん)の血潮が零れ出る。
ドラゴン「凄まじいな……!」
だが、その痛みは愛。死に向かうは、恋の成熟。
竜は笑う。
ドラゴン(なんという可能性だ。なんという多様性だ)
ドラゴン(これを確かめたかった)
ドラゴン「は――はっ……気張りたまえよ……魔王であっても今の貴様は正義の味方だ」
――世界に夢(ロマン)を与える、ヒーロー、ヒロインの成功譚。
そんな物語を生みだすために。己(オレ)は脅威となった。
さあ、己(オレ)という難題を超えてみせろ。存分に、己(オレ)の心を震わせてみせろ!
――
――――
やよい「はわっ!! そ、空ですっごい爆発が何回も!!」
真「あそこだっ! ほらっ、でっかいロボットが見える! ……あれって、『無尽合体キサラギ』で出たヤツじゃ」
雪歩「ま、真ちゃん目がいいね……うぅぅ、こ、恐い……かも……」
貴音「雪歩、気を強く持つのです。私たちはあそこに参らねばならないのですよ。……あなたも竜にもう一度会うべきだと、そう考えたのでしょう?」
雪歩「そ、そうでした。が、がんばらなきゃ……!」
響「でも春香と千早の方も心配だぞっ! プロデューサーもっとスピードでないのか? 300キロぐらい!」
P「このミニバンじゃそこまで出ないな。道自体は空いているんだが」
美希「……街の人、みんな空を見上げてるの。チューモク集めるんだね、ロマンって」
P「ああ。……13年前も、こんな感じだったのかな」
やよい「みんな、ドラゴンが倒されたら、やったーって言うんでしょうね」
雪歩「やよいちゃん……?」
響「何の話?」
やよい「ほら……私たちもオーディションとかグランプリでいい結果になったらお祝いしますよね」
やよい「でも、それは誰かの負けの上に成り立ってることで…………わかってたんですけど、そのこと、あんまり考えなくなってました」
P「……」
響(やよいも、色々考えてたんだ)
美希「う~ん…………ミキも、キラキラしたいって思ってがんばって、色んなコを落としていったのかな」
美希「いや、落としたんだよね。ミキだって昔は落とされてばっかりだったんだし。勝てば誰かが負けるのはトーゼンなの」
真「うん。……そこははっきりしとかないとね。負かした相手の意思を継いでがんばるためにも」
やよい「でも負けて引退とか……そのヒトが消えちゃう時、私たちはわからないんじゃないでしょうか」
真「そうだね……やよいは鋭いなぁ。騒がれずにひっそりとアイドルを終えた人もいるんだよね……」
雪歩「組んでたユニットと固い空気のまま別れた人。雨の中アカペラを歌って去った人。そんな人達もいたのかなぁ」
響「うわー雪歩ぉ! そんな想像力をここで出さないでよー! ちょっとリアルだったぞ!」
雪歩「ご、ごめん響ちゃん」
やよい「みんなギセイになった人のことをあんまり考えないのは…………ちょっとさびしいって思います」
P「やよい……。ああ、そうかもな。みんなに夢を見せるってことは、結構重いものなのかもな」
貴音「――なればこそ、ここでアイドルとして在る私達は、竜に向かい合わねばなりません」
貴音「彼の者もきっと……一人の夢見る乙女なのですから」
――
律子「対向車線、すごく車が多いわね……」
真美「きっとドラゴンから逃げてるんだよっ」
亜美「今は空で戦ってるみたいだからいーけど、下で全開で暴れられたら……街、廃墟になっちゃうね」
伊織「GDP比約0,5%」
亜美「え? いおりんなんて?」
伊織「お父様が教えてくれたの。竜の被害への対策費と復興費。それは国内総生産の約0,5%が充てられている。防衛費の半分ぐらいの額が竜に対して向けられているってこと」
律子「0,5%も……!? いや、あの空の戦い見てたら、おおげさじゃないような気もしてくるわね……」
伊織「過去にはドラゴン対策に防衛軍作ろうなんて話も真面目にあったみたい。笑っちゃうでしょ? 一匹の竜に……あの一人の女の子に世界が振り回されて」
伊織「何より許せないのはこの伊織ちゃんを振り回したことね。……ふざけんじゃないわよ、まだ終わりにするには早いんだからっ」
真美「おおっ、いおりんやる気じゅーぶんですなぁ!」
あずさ「伊織ちゃん…………」
あずさ(ドラゴンちゃん)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あずさ「ロマンの為に……それが、あなたが生まれた理由なのね」
ドラゴン「そうだ」
あずさ「………………もうひとつ、聞いていいかしら」
ドラゴン「ん?」
あずさ「その物語を完成させるための相手に、どうしてアイドルを選んだの?」
ドラゴン「己(オレ)が相手にアイドルを選んだ理由か……」
ドラゴン「己(オレ)が、そうしたかった理由」
ドラゴン「黄金竜(スマウグ)の如く煌めく才を財として愛でたかったからか……」
あずさ「え?」
ドラゴン「ふん違うな。恥ッッずかしいから隠しちまうぜ」
ドラゴン「ファン、なんだよ。単純に。だから試したいし戦いたいし……」
ドラゴン「――繋がりたいんだ」
あずさ「ドラゴンちゃん……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あずさ(あの子は……アイドルに憧れている)
あずさ(それはきっとあの子の中に重なり合う部分があるから)
あずさ「命が燃え落ちる前に、私たちはあの子の夢を…………!」
――
――――
爆発、斬撃、熱線。
舞台は一層の熱を帯びる。
ドラゴン「オ、オオオオオッッ!!!」ザウッ!! ズバァ!!
突進する鋼の巨人を縫うように、ドラゴンはその刃で巨人の腕や、脚や、胴を切り裂きながら春香に迫る。
――♪
公園で展開した光のドームが戦場に合流し、音楽が染み出す。――『I want』
クライマックスを後押しする、アイドルの力。
春香「――っ!!」シャキィィン!!
春香も虚空より取り出した刀を構え、竜に向かって雷翔していく。
――――ガキィィンッッ!!!
衝突しあう二人。
まるで荒れる波濤のように
背筋つらぬき 心狂わす出逢い
春香「見苦しいほどのそのしぶとさ、称賛に値するわ」
ドラゴン「ふふはは……もう少しだ、もう少しで最高潮なんだ……っ!」
春香「夢(ロマン)に奉ずる精神は立派なものね。その一意専心ぶり、配下にしたら役立ちそう」
ドラゴン「愚民集めが趣味かね、殿下。己(オレ)も竜の狂信者(サルカン・ヴォル)どもを従える快感は分かるがよ」
ドラゴン「だが首輪付きとなる意思はない。竜は、物語に生きるモノ」
ドラゴン「――ふふん、鱗の生を享けて生まれし者は数あれど、かくも麗しい夢(ロマン)を与えられた者なぞ、そうはおるまい」
春香「ならば、今、その全身全霊に――無窮の愛と、強い支配を刻むのよ」
ドラゴンがオーラを立ち上らせ、翼と二本のブレードを展開する。
ドラゴン「ああ。世界をすべて振り捨ててでも 究めあげたい ――」
春香が刀を掲げ、空間をひずませ、巨大な鋼の巨人を更に七機呼び出した。
春香「はじめての 他の何にも替わることない ――」
――――最高の瞬間(とき)よ 嗚呼!
961プロ
赤く染まった空。
響く剣戟の音。
畏れ伝う風。
震える肌。
沸く心。
黒井「…………ちいっ」
高木「これが、竜なのだな。夢(ロマン)に命を捧ぐアイドル」
黒井「ふん、あの程度……全国公演をしている我々961プロの方が……」
高木「お前の言うアイドルの理想と近い存在なのだと思ったがな。孤高で、活動に全てを捧げられる人間」
黒井「人間ではない、あいつは竜だ! 死ぬまでの一発屋だ、あんなもの」
黒井「我々は負けていない……現に、ヤツの天下はもう終わる。短い間だったがあれだけ暴れて本望だろう。――倒され、消える時だ」
高木「黒井よ……今竜と戦っているのはアイドルだ。765プロのな」
黒井「……!? なるほど、なんのために顔を見せに来たかと思えばそういうことか。竜を越えるのは『765のアイドルだ』と言いたいわけだ」
高木「そんなつもりはない。ただ……今を生きるあの子たちが作る物語の終わりを、お前と見たくなっただけだ」
高木「13年前、ともに竜に焦がれた同志とな」
黒井「貴様……っ! 私は憧れてなどいないっ!」
高木「ああ、そうだったな。悪かった……」
破滅的なロンドが、熱く熱く。
刃にロボットの躯が斬り分けられ、墜ちて虚空に消えていく。
止む事ない爆撃が白銀の鱗を侵し、黄金の鮮血に染めていく。
ドラゴン「五機目…………!!! ハッハァッ!! これで後二体だ!!」バキィイン!!
春香「喰らったエモノの感触を反芻している暇があって?」シュバッ!!
ドラゴン「がっ!! ――くくっ、失礼!!」フラッ
ドラゴン「ガウアアアアァァァー――――ッッ!!!」ブアオオオオオオッッ!!
春香「……往きなさいっ!!」バッ
ドラゴン(僚機をだけを突っ込ませるだと!?)
どこまで 堕ちる 堕ちる このまま
ドラゴン「ォォォォー――――!!!!」バオオオオオォォォ!
僚機『――――』ドゴォン!! ズガガガウッ!!!
ドラゴン(……体が爆発してもなお……止まらんっ!)
――――ガシィ!!!!
春香「捕まえた♪」
ふたりで いける いける 高みへ
僚機『――――』ギラッ
ドラゴン「爆発の道連れに……っ!!」
春香「真っ赤な照明を…………今、鞭打つわ」
ドラゴン「あははハハハハハハハハハハハ―――――!!」
――ドガァアアアアアアアァァァァアアアァァンッッッ!!!!!!!!!
どれだけ 燃える 燃える 一途に
春香「…………っ!!!」バサバサバサッ!!!
春香(爆炎の中に、反応が――)
春香「……ラストシーンが近いわね」
Dragon『――――GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!』ギュアオオオッ!!
春香「来たわね。白銀の竜!!」
春香「逆鱗に刺す――刃はここに!!!!」バシュウウウゥゥゥッ!!
求めて 翔べる 翔べる どこまで!
――
千早「……う、うぅん…………! ここは……?」ムクリ
千早「私は――――そう! ドラゴンと……っ!!」
千早「空のあれは……」
千早(え?)
千早「は、春香!?」
千早「――――だめよっ! 春香っ!!」
千早「あの、ドラゴンは!」
千早(あの『声』は……っ!!)
顎(アギト)で聴いた叫びを、千早は思い出す。
熱がこもった潤んだ声。
……それは夢に焦がれる一人の少女の叫びだった。
『竜殺し』が極点は“ここ”だと告げる。
赤い意思が体全体に駆け巡る。
春香「は―――ハアアアアッッ!!!」
春香が駆る、最後の一機。それは腰に帯びた大剣を引き抜き、向かい来る竜の巨体に迫った。
――バルムンクの一撃。
凄まじい勢いで彼我の距離が殺意(ラブ)によって埋められていく。
猛る士気が。熱い死期が。麗しの儀式が。
竜の首に収斂していく。
されど竜は、本懐を遂げる気分だった。
――――――――――――― 終(つい)に、この時が ――――――――――――――
『竜殺し』に武闘で負けても
アイドルに舞踏で負けても
己(オレ)は死ぬ。
本懐である英雄譚でなく。
この少女たちの物語に首を突っ込んでいるからには、負って当然の誓約(ゲッシュ)だろう。
多くの英雄が試練を乗り越え、悪い竜を倒し、栄光を、財宝を、あるいは美しい姫を手に入れた。
困難を乗り越え、幸福を掴む――そんな無邪気な希望に満ちていた時代の、ものがたり。
その夢(ロマン)を継ぐ者よ。
己(オレ)を越えて、夢を魅せてくれ。
さあ。今こそ――
呪いのように生きて
祝いのように死のう
赤の閃光。
竜と偶像の†(クロス)。
黒の爆裂。
無音。
刹那の静寂が破られて。
金の大輪。
白光が轟々轟々轟々轟々轟々――――。
光と音が混沌(カオス)に煮詰まって、渦巻いて、吹き荒ぶ。
狂乱のライブのように。
――――爆発
――
――――
黒井「むうううううっ!!」ビリビリビリビリ!
高木「くくっ……ビルの中だというのに……なんという衝撃だ!」
黒井(竜の最期――――)
高木「あの子たちは……やったのか?」
黒井「…………っ!」
黒井「――――あれは」
――――声が、聞こえた。
春香「――――ぜぇ……ぜ……っ!」
違う、響いてきたのは『歌』だ。
心を揺らす、友の歌。
周囲に展開するあの光のドームの音に乗り、それは耳を叩いてきた。
それのせいか。
いや違う。
『止まった』のは光る糸が機体に、体に引きとめるように巻きついてきたからだ。
転がり落ちる所をそっと、押し留めるような、それ。
それのせい、だ。
春香「あ、ああ」
竜を仕留められなかったのは。
Dragon『――――――――――………………』
日の光が差して、白き鱗に照り映える。
爆発したロボットの欠片が宙に散り解けていく。
天に佇む一人と一匹。
春香の視線が、握っている刀に向けられる。
春香「ド、ドラゴンを――――」
――斃せ。
倒さなきゃ。
……………………え、待って。ホントにそうだっけ?
歌が聞こえた。
春香「――――」バシュ!
耳慣れたポップス。
歌い慣れた、アイドルの曲。
『何があったって 何がなくたって 自分は自分』
『私らしい私で もっともっと』
心は揺れて、変わる前の自分が
――竜を斃せ
私の願いは倒すことだっけ。
――竜を戮せ
違うそんなこと目指してなかった。
私は/斃せ/アイドルとして/戮せ/違う/竜を――/違う!/私は天海春香として/竜/――と
――――『私も竜と会ったら、いっしょに歌って下さいってお願いしてみる!』
ああ、そうだ。
私が最初に想ったのは、その夢だった。
あの幻想を生きる存在と、いっしょに歌うことだった。
――竜を戮せ
どうしてそんなことしなきゃいけないの。千早ちゃんだってみんなだって無事じゃない。
追い払う前に、斃す前に…………私は――――!
『アイドルに触れることで何かを見つけたいのかな……あの子は』
あの子のことを少しでも知りたいんだ。知りたかったんだ。
だってあの子は、アイドルに憧れて
体が空を切って飛ぶ。
刃をかざして、竜へと。雷となって。
春香「――ァァ――――ッ!!」ギュオオオオオオッ!!
Dragon『――――』
ドラゴン。あなたは、どうして――――
――ドラゴン『しかしアイドルの。貴様を見ていると、なんだか元気が出てくるよ――なんでだろうね?』
怒りが、湧いてきた。
春香「そんなの――――」
春香「そんなの私が知りたいよっっ!!!!!」ブアッ!!
Dragon『!?』
体に巻き付いた『竜殺し』の糸――意図が、湧き出した意志に弾け飛んだ。
春香「……ぁ、ああああっ!!」ヒュゥウウウ―
戒めを解いたことで、普通に戻った春香は墜ちていく。
しかし、その時地上から一筋の光が上昇し、春香に接近していった。
――先刻とは、逆。
千早「春香……っ!!」ギュウ
春香「千早ちゃん――――」
如月千早が春香の体を抱きとめた。
千早「よく止まってくれたわ……本当に……っ!」
春香「そっか…………千早ちゃんだったんだね。さっき、私を止めたのは。――ありがと」
わずかに残った『竜殺し』の、幻想の力。
それは今にも落ちそうなほど弱々しかったが、二人を空の舞台に縫いとめた。
ドラゴン「……どうして?」
光が溢れ、白銀の竜が一人の少女に溶けていく。
ドラゴン「どうして、貴様は」
春香「どうしてって……それは私の方が聞きたいよっ!!」
春香「あなたは何でアイドルに憧れたのか、全然話さないじゃないっ!!」
ドラゴン「!」
春香「ロマン、ロマンって言って! 竜だとか何だとか――そんなの関係無くして、あなたはなにを――どうしたいの……?」
千早「春香…………」
春香「私達に憧れてくれたっていうのは…………きっと、あなたが何かを夢見てるからだよ。私たちが会ったファンは、そんな人ばかりだもん」
ドラゴン「己(オレ)は貴様らと競い、斃され、物語を」
春香「――それだけじゃないでしょ?」
春香「倒されたいだけじゃ、私達を……あんな羨ましそうに見ないよ」
ドラゴン「…………」
春香「私はあなたの夢がなんなのか、まだ聞いてない。ドラゴンさん、あなたは私達を通して憧れてるモノを見てるはず」
春香「それを確かめないまま……お別れなんてしたくないよ」
ドラゴン「――夢」
ドラゴン「己(オレ)の、夢」
千早「一人ではいられなくなった。誰も彼も――人も竜も。あなたも……誰かと繋がりたいんでしょう?」
ドラゴン(なんだこれは)
ドラゴン(本懐を遂げる機会を逸したというのに――)
ドラゴン「…………ふふん」
なぜこんなにも嬉しいのか。
『竜殺し』を超えたあの一瞬。心にさわやかな風が駆け抜けた。
勇気と元気と歓喜と希望を――あの時己(オレ)の魂は抱いた。
どうしようもない状況を、乗り越えていく女たち――
ああ。そうか。
これに己(オレ)は焦がれたんだ――
……あんなふうに、なれたら。
千早「……はあ……っ、くっ……」ガクゥ
春香「あっ! 千早ちゃん、もう飛ぶ力が!」
真「千早! 春香!」ギュアアアアッ!!
千早「えっ!? 真!?」
真「よし、捕まえた!」ガシッ!
美希「はい、春香はこっち。二人とも、ドラゴンを倒さなかったんだね。甘い……ううん、流石なの」ハシッ!
春香「美希まで!?」
ドラゴン「貴様たち……」
春香「どうやってここに!? と、飛んでるし!」
真「ああ、それは……」
貴音「あの『竜殺し』だけが我らに与えられた幻想の力という訳ではございません」スウゥゥ
千早「四条さん……」
雪歩「ファンの人達から与えられた、関心のエーテライト。それが、私たちの中に染みこんでいたんです」フワフワ
雪歩「人の持つエーテルが一つの感情で精製されてエーテライトになる。それを向けられる私たちは、ファンから本当に元気を貰っていたってことなんだね……」
貴音「そうです。後は妖精の魔具を使った時の要領で、その『えぇてる』の力を振るうだけ。……もっとも、それに気付けたのはつい先刻、『竜に逢わねば』と強く願った時でしたが」
亜美「ゆきぴょんはすっごいリカイが早かったよねー」フワァ
響「自分は勘でわかってたけどね! この光の欠片は竜とか妖精達の元だって!」ビューン!
真美「……これで、もう一度ドラゴンに会えたよ」
ドラゴン「……二つ星の姫の姉君よ。貴様まで」
真美「真美はライブバトルもマジバトルもやってないけど……ドラゴン、キミから『貰ってた』みたい」
真美「んっふっふ。真美のファンになってくれたんだね?」
ドラゴン「――ふ」
あずさ「――異なる世界観を越えて、誰かの夢と繋がりたい」フワッ
ドラゴン「……ああ、女神殿」
あずさ「あなたがアイドルに憧れた理由……ファンになってくれた理由。それはきっと……私と同じ夢を抱いているから。違うかしら?」
ドラゴン「――――!」
ドラゴン「……………………………同じ夢……」
あずさの言葉に、心臓(ハート)に刻まれた欲求が芽吹く
戦うこと。死ぬこと。恋っぽいことをする――――だけではない。
戦うだけでなく。死ぬだけでなく。恋を――――する。
誰かと『繋がりたい』という欲求。
その相手を。
あずさ「きっとあなたは求めているのよ」
あずさ「……私の話を聞いてくれた時、応援してくれてありがとう……私も、あなたを応援するわ」ニコッ
ドラゴン「貴様は、とてつもない女だなぁ…………」
春香「……」
貴音「貴女も、夢を抱き歩む者」
やよい「そんな人を倒して終わりってしちゃうのは……私たち、いやだって思いました。だからここに来たんです」
ドラゴン「ははっ、王道に、ケンカを売るかよ……」
伊織「なめんじゃないわよっ!!」グワッ!
ドラゴン「ん!」
真「あ、伊織。やっと上がってきたね! ――って、あれっ律子も?」
伊織「そうよ! 私は律子を引っぱってきたんだからね! ほらっ、亜美真美手伝って!」グググ
律子「ま、待って! もう飛び方わかってきたから!」フラフラ
亜美「おー、律っちゃんも、ファンのにーちゃんねーちゃんからエテ公ライト貰ってたんだね!」
律子「エーテライトでしょ……! く、くっ……はぁ! ゲリラライブの指揮してただけなのに、私に注目してた人もいるなんて……」ヨロヨロ
真美「律っちゃん飛ぶのヘタっぴ~! フォースの力を信じるのだ!」ビューン!
亜美「信じることができれば空だって飛べるのだ!」フワフワ
律子「く、あんたたち……!」
伊織「勝手な脚本を書かれたものね。あんたは納得してるかもしれないけど、私は全然受け入れられないわ」
ドラゴン「……ほぅ?」
伊織「負けても納得づく……そんなサプライズもないストーリーなんてつまらないわ。勝手に私達を巻き込んどいて、そんな自己中な終わり方絶対許さないんだから!」
伊織「――リテイクを要求するわ。下をご覧なさい」
ドラゴン「下?」
ドラゴン「おぉ……これは……!!」
人々の心が竜とアイドルに湧き立って。
地上から何千何万という光の筋がこの舞台に伸びてくる。
それは流星群の只中を思わせる。一閃一閃がここに立つ役者達を煌めかせる舞台。
伊織「私達を応援してくれている人達の力で、この物語を変えられる」
伊織「竜と英雄の物語じゃなく――応援を背に試練を越えていく人間の物語に」
伊織「にひひっ! その物語には、誰かが死んじゃうなんて悲劇は要らないわっ!」
ドラゴン「…………!!」
春香「ねぇ。ドラゴン……話して?」
ドラゴン「何を」
春香「あなたはここで消えてしまうだけでいいの?」フワッ
美希(春香にも、あのエーテライトっていうのが集まってる……もう、ミキが支えとかなくていいね)スッ
美希(いけっ春香!)
春香「まだ、やりたいことが……あるんじゃないの?」
春香「――聞かせて?」
ドラゴン「……………………」
ドラゴン「…………………………ふ、ふ」
ドラゴン「ふふん」
ドラゴン「あるよ。――――貴様らに明確に気付かされた」
竜は笑った。
称賛するように。
ほんの少しばかり気恥かしげに。
恋する乙女のように――笑った。
春香「――わかった」
――
――――
……ヒィィィン!!
P「おおっ!! なんだぁ!? 空に集まっていく光の筋が……廻って、でっかい舞台みたいに……っ!!」
P「ああ……そうか」
P「これは、あいつらアイドルの物語になったってことか」
P「がんばれ。みんな」
P「お前らはまだ……最高の輝きを見せていない」
P「ここで俺は、見ているから」
P「思う存分やってこい!!」
その時Pの胸から、エーテライトが一筋天に伸びた。
それは天上の舞台へと伸びていき、彼女たちを彩る照明となる。
オールスターの輝きを見守る輝き。
律子「輝き……これだから……アイドルの夢も捨てられない。でも、それも人の持つ夢なのね」
真「ずっとこのままじゃ終われないと思ってた。ドラゴン、ボク達の『最高』を受け止めれば、きっとキミは変わるよ」
ドラゴン「ほぅ、『竜殺し』も負けを認めるほどの夢(ロマン)を供するというのか」
伊織「ふんっダメ出しできないくらい、とんでもないのお見舞いしちゃうんだから!」
雪歩「戦って戦って、それで夢を紡ぐ人。私、あなたに会えて……その、実はちょっとだけ楽しかったです。えへへ」
ドラゴン「意外に肝が太いな……いや、それが貴様らの強み、か」
千早「私たちは互いを糸で繋いで、そうして織り成した極点がある。……ドラゴン。これはあなたに送る最後の曲よ」
ドラゴン「ははは……ああ、頼む」
――♪
春香「みんなっ! いっくよー!!」
駆けあがってくる関心のエーテライトが、サイリウムのように光の海を作り出す。
彼女が見た『夢』を終わらせるな。
私達はアイドル――――夢の紡ぎ手なればこそ。
投下終わりです。
次回最終回。
投下開始します
ドラゴン「おお!」
エーテライトが、彼女たちからも溢れだす。
それは噴水を思わせる動きで上に伸びると、花の如く開いて散っていく。
光の筋は揃い浮かぶ彼女たちの周囲を回り、ゆっくりと体を包む。
互いに互いを想い、一人ではないと確認し合う……それは可視化された彼女たちの絆。
春香「――!」
微笑みと共に、彼女たちが一際大きく輝いて。
新たな星の夢を創るに相応しい衣装を、燦然と纏う。
ドラゴン「これが、貴様たちの」
白を舞台に赤と青の星が輝く、トリコロールカラーのその衣装。
――『スターピースメモリーズ』
春香「765プローっ!! ファイトぉー――――っ!!!!」
『 オ ォ ー ! ! ! 』
発せられた掛け声に応え、仲間の声が轟いた。
――――♪! ♪!! ♪!!!
微かに染み出していた音楽が、彼女たちの心に弾け、空間に広がっていく。
暖かなメロディ。快活なリズム。多様な音が輻輳し、万感を呼び起こすそれは一つの小世界。
音が風に。曲が空に。旋律が光に。
解き放たれた鳥のように、それは13人とひとりの世界に満ち満ちて。
この虚空を星のステージに染め上げる。
ドラゴン(なんて心が躍るんだ。ここまで胸が高鳴るとは)
ドラゴン「超えられるか? 供物の竜(リヴァイアサン)の呪いを」
春香「任せて。私たち『最高』を届けるから」
ドラゴン「承知した。アイドルの極点……心臓(ハート)に確りと刻もう」
音楽が高まって、少女たちが前に進み出た。
英雄譚の輝きのその向こう側に至るため。
あの歌が、封切られる。
――♪
『M@STERPIECE』
溢れだしたのは、準備と変化を経た力強い歌声。
『 さあ今を輝け!! 』
『 YES⇒ 幾つもの思い出達 』
『 眩しい 今日の光へ 』
13人の歴史と決意が、新たな夢(ロマン)を創り出す。
『 さあ今を翔ばたけ!! 』
『 YES☆ たったひとつだけの未来 』
『 誇らしい今日の翼へ 』
『 STAGE 歌いたいから 』
高木「音と声が、この世界に吹きわたっていく……」
黒井「歌だと! この期に及んで、竜を斃さず終わるつもりか!?」
『 LIVE 踊りたいから 』
高木(……そうか、キミ達はそう決めたのだね)
高木「黒井よ。お前の言ったことは正しかったようだ」
黒井「なにィ?」
『 新しい幕を開けよう 』
高木「私がピーンときたアイドル達の輝きは、決して英雄譚に負けてはいない」
黒井「っ!」
『 NEVER END IDOL!! 』
私も、かつての竜への憧れを超えよう。彼女たちを見出した男として。
社長「――765プロファイト、だ!」
『 夢を初めて願って 今日までどの位経っただろう 』
武田「至ったようだね。星のロマンに」
武田「役割を終わらせるのではなく、変えることで。新たな夢を再編する」
『 ずっと一日ずつ 繋げよう 』
武田「『竜殺し』の力が歌に染まって……エーテルに刻まれた意志が上書きされていく」
武田「これが掛け値なしの彼女たちの全力。――素敵だ」
『 夢は自分を叶える為に 』
『 生まれた証だから 』
『 きっと この心で 』
『 私 の M @ S T E R P I E C E ―――― ! ! ! 』
ドラゴン「――――!!!」
心が奪われる。
竜の舞台にあって、逆鱗を突く『剣』が宙に現れて揺蕩った。
だが、それは彼女たちの歌声が響くたび、溶けてドラゴンの周りを回っていく。
――この『歌』は、竜を敵としていない。
むしろ、仲間としてこの竜の少女を受け入れて。
渾身の、声援を。
彼女たちは決めたのだ。
竜を倒して終わりにするのではなく。
夢を持つ少女を応援すると。
それこそがアイドルの物語だと、そう考えた。
『 ねえ… 逢えて良かった 』
一人一人が、確固とした意志と背景と夢を持って歌を歌い、踊りを踊る。
渾身の『個』が、煌めく『全』を完成させる。
『 ねえ… あなたに言葉言うなら 』
これまでの道のり。出会い、別れ、挑戦、競争、悲しみ、喜び、過去と未来――
メモリーを積み重ねたアイドルたちが織り成すは、大いなるグランドデザイン。
御業の如き、人の営み。
『 ありがとう そしてよろしく 』
泣きあって笑いあった彼女たちだからこそ達しえた、星の夢(ロマン)の傑作(マスターピース)。
『 SMILE みんなでいても 』
王道。古典。
リファイン。脱構築。
アンチテーゼ。ポストモダン。
『 TEAR ひとりでいても 』
変遷していく物語。受け継がれていくスピリット。
人が夢想し、綴った物語は波及し、広がり、いつしか生きる主題そのものへと。
『 輝きの向こう側へ進め 』
愛が溢れて。絆が人と竜の垣根を越えて結ばれる。
『 ALL STARS!! 』
ああ、ならば。この己(オレ)も、愛そう。
連綿と続く彼女たちの物語の中に在ることを。
『 明日がどんな日になるか 誰だって解らないけれど 』
――――彼女たちのとある日の風景に、胸に刻まれた一つの思い出に。
夢(ロマン)の欠片になれることに、歓喜しよう。
『 それは どんな日にも出来る事 』
そして。
己(オレ)もまた、彼女たちのように。
『 明日は追いかけてくモノじゃなく 今へと変えてくモノ 』
『 それが自分になる 』
『 私 が M @ S T E R P I E C E ―――― ! ! ! 』
ドラゴン「新しい物語を――――」
――
――――
765プロ
小鳥「すごいわ……みんな」
小鳥「いけない、また泣いちゃ……っ……」
小鳥(ダメねあたしは……)
小鳥(もっと誇らしげに、あの子たちを見るべきなのに……っ)
あの空の舞台。
きっと、未来のアイドル達も見ているだろう。
竜とロマンとアイドルと――――新しい物語の輝きを。
小鳥(窓の外、光が湧き上がって……すごい……っ)
『 STAGE 歌いたいから 』
『 LIVE 踊りたいから 』
――――♪
ワアアアアアアアアアアッ……!!!
P(空でのライブを見ている人達の歓声が……ここにまで響いてくる)
喝采が、声援が、拍手が膨大な光の柱となって。
天で歌い踊る少女達を盛大に煌めかせる。
P「ああ……これだからプロデューサーはやめられない」
『 新しい幕を開けよう 』
『 NEVER END IDOL ―― ! 』
P(超新星みたいに、光が鮮烈に輝きながら廻っていく)
少女が、竜に変じる時のような――エーテルの再編。
P「こんなに背を叩いてもらって。ドラゴン……」
P「お前も、自分の夢を追うことにしたんだな――」
『 M @ S T E R P E A C E ! ! 』
――
――――
夢を初めて願って
今日までどの位経っただろう
ずっと一日ずつ繋げよう
夢は自分を叶える為に
生まれた証だから
きっとこの心で
私のM@STERPIECE
――――――――♪ !
光が風に溶けて、響きわたって、彼女たちを覆う。
煌びやかに輝く空間が、今一つの物語の終焉を告げるように薄く、遠くなっていく。
ドラゴン「……貴様らの勝ちだ。世界が鮮やかに夢(ロマンに)に染まった」
ドラゴン「そして己(オレ)の魂もな」
竜は目を閉じていた。
刻んだ歌をじっくりと確かめるように。
春香「ドラゴンさん……」
ドラゴン「『竜殺し』の気配がない――――物語の終わりだ」
ドラゴン「それでは……己(オレ)も消えるとしよう」
千早「えっ!?」
伊織「ちょっとなによそれ!? なんで――」
ドラゴン「ああ、違う違う。消滅するってことじゃあない。この世界から旅立つことにしたんだよ」
雪歩「旅立つ……?」
ドラゴン「然り。夢を叶えるために、挑戦を始めるのさ」
そこで、ドラゴンはにやりと笑った。
無邪気な、邪悪な、微笑み。
あずさ「……そう。さびしくなっちゃうわね」
蜃気楼のように光がたわんだ。ドラゴンの姿が、揺れる。
響「遠いところで、一人で夢のためにがんばるの?」
ドラゴン「いいや。一人だけで見る夢は今しがたダメ出しをくらったばかりだろう?」
ドラゴン「誰かの夢に居場所を……見つけられたらいいと、そう思っている」
響「そっか。誰かといっしょにがんばるつもりなんだな。自分応援するぞ!」
貴音「……私も応援いたします」
ドラゴン「痛みいる。しかしもう十分だ」
ドラゴン「貴様らの夢に、己(オレ)の居場所をもらったのだから。――それだけで己(オレ)はずっと滾ることができる」
春香「ドラゴンさん!」スウッ
ドラゴン「うん?」
進み出た春香。
彼女はドラゴンの頭に手をかざした。
同時に、空間に残っているわずかなエーテライトの光がその手に収束していく。
幻想の時間はもう終わる。
だけど、この†(出会い)が消えないように。
夢の紡ぎ手、アイドルの先輩として最後の魔法を。
ドラゴン「これは……ティアラ?」
帽子を取って被せられたそれは、おとぎ話の姫が戴くような冠。
律子「あら、『お姫さまティアラ』? ふふっ、あなた中々似合うじゃない」
春香「えへへ。ようやくわかったから。危なくってすごいパワーを持っていても、私と同じような女の子なんだって」
ドラゴン「………………」
春香「だから、お姫様っていうかヒロインっていうか……あなたもそうなれるはずだって……ええと……そう、思って、だからこれは……」
千早「春香、落ち着いて」
美希「春香って甘いところばっかりなの」
ドラゴン「自分のようなヒロインになれと言うか……恥ッずかしい真似をしてくれるじゃないか」
春香「ち、違うよっ!?」
ドラゴン「いや、わかっている。かたじけないなぁ、アイドル」
ドラゴン「そうだな、諸君にならってひとまずは……」
ドラゴン「ひとつ、ヒロインっぽいことをしてみるとするか」ヒィィィン…!!
春香「!」
亜美「あっ、ドラゴンがいっちゃう……!」
真美「ばいばい…………またね」
雪歩(虹色に移り変わっていくエーテルが、次第のあの人を溶かしていく……)
真「こんなに熱くなれたの久しぶりだったよ、ドラゴン」
ドラゴン「ああ」
美希「飛んだり光を集めたり、楽しかったの。決着まだつけてないけど、ミキ、もっとすごくなってドラゴンみたいに皆を盛り上げてみせるから……そうしたらミキの勝ちでいい?」
ドラゴン「ああ」
千早「さようなら……ドラゴン」
ドラゴン「――さようなら。アイドル」
光が消えていく。ドラゴンの姿が薄らいでいく。
――夢の時間が尽きていく。
なにか、不意に、寂しさが
春香「…………!」
ドラゴン「そんな顔をするな。星の姫殿。別れるだけだ。己(オレ)と貴様らの物語は無くならない」
「夢の帳が下りたとしても――」
「夢(ロマン)の翼は広がっている」
空から光が掻き消えた。
白銀の鱗も、黄金の血も、翠の逆鱗も。
一切の光が散って消えた。
風が荒涼を纏わず吹いて。
光が情熱を帯びずに降り注ぐ。
祭りの、後。
――この日。世界は竜をなくした。
――
――――
――――――
――――――――
「――そうか。己(オレ)は竜の身にて、ヒトと結ばれるハッピーエンドに焦がれたか」
「己(オレ)の恋人と、『恋』をすることを望んでいたか」
「あの『運命の人』に出会うことを夢見たアイドルのように。この己(オレ)も……」
「なんてことはない。己(オレ)がアイドルに挑んだのは…………この夢(ロマン)を抱えたが故か」
「確かめたかった。夢に生きる乙女には、輝ける未来があることを」
「ふふん。そうかそうか。ならばティアラに誓おう」
「己(オレ)は己(オレ)の恋人を見つけ――――素敵で不敵で無敵な恋物語(ロマンス)を紡ぐ」
「それが成ったその時は、また逢おう。世界を湧かす偶像諸君」
・
・
・
・・・
・・・・・
765プロ
春香「おはようございまーす」ガチャ
小鳥「おはよう春香ちゃん」
P「おっ、来たな。ちょっと待っててくれよ、この書類の確認が終わったら車出すから」
春香「はい、お願いしますっ」
春香(……ドラゴンさんがこの世界から消えて、もう3か月経った)
春香(湧き立っていた空気は竜が消えてしまったことで、普通に……というよりも気が抜けたみたいになっちゃったけど)
春香(今は、私達アイドルがその熱を取り戻していってる)
春香(エーテルとかいうので飛んだり、衣装を変えたり……そんなことは竜が去った後はできなくなった。夢の時間が終わった感じ)
春香(けれど、みんな元気でやってる。真や伊織はいっそう気合が入ってるし、美希もこの頃すっごく魅力が深まってる)
社長「おはよう! 天海君! 今日もひとつガツンと頼むよ!」
春香「あ、はいっ! おはようございますっ!」
春香(社長もドラゴンさんが消えてから、なんかハツラツとしてる)
春香(竜は迷惑だった。けれどやっぱり、それだけじゃないから『竜』なんだろうな……)
春香(私も、未だにちょっぴり寂しさみたいなものを感じているし)
小鳥「春香ちゃん、竜のこと考えてる?」
春香「え? あ、あーまたボーっとしちゃってました? すいません」
小鳥「いいのよ。私たちの時もそんな感じになったから」
春香「…………」
春香「……ふふっ、そうだったんですか」
でも、きっと
なんていうか――もっと安心してもいいんでしょうね。
物語はそれぞれに。
分かたれていても、紡がれていて。
その創り出されていく『ロマン』の欠片になれていることを思えば。
なんだか色んな世界を間接的に作っていってるみたいで。
嬉しさと、誇らしさが
ほら、こんなにも――――
千早「春香? 収録に行くわよ」
春香「え、あっ、うん!」
春香「今回は二人で収録だったよね。私楽しみにしてたんだ!」
千早「ええ。私もよ。そういえば…………ドラゴンとのデュエット、やれなかったわね」
春香「そういえばそうだねー。あはは、斬り合ったりはしたのにね!」
春香「……どうしたの、千早ちゃん?」
千早「いえ、ごめんなさい。ちょっとドラゴンのことを思い出しただけ。たまにふっと、ね、頭によぎるのよ」
春香(でも、やっぱり寂しいことは寂しい、か……)
風邪が治った時、あまりに軽い体に戸惑うみたいに、ちょっと空っぽになってしまった世界に私たちはぴったりときていない。
大きなライブが終わった時の脱力感みたいなものが、長く尾を引いている感じ。
春香(もう少ししたら、抜け出せると思うけど)
でも、思い出さなくなっちゃうのも、寂しいような気がして。
――
――――
春香「ふー、今日もアイドル活動がんばったなぁ」
春香「明日も早いし、寝ようっと」ボフッ
春香(今日は良い夢見られるかな? 夢…………夢かぁ)
春香(ドラゴンさん夢を叶えたのかなぁ……)
世界が違う私たち。
きっと成就は見られない。
でも、だからこそ、想像は走る。
あの娘がどんな風にがんばるのか。
会話を思い出す。プロデューサーさんが気を利かせてくれて、ささやかに打ちあげをした、その時の会話。
――律子『竜にとってはあの闘いも、コミュニケーションの一環だったんでしょうね』
――あずさ『火を吹いたり、物を壊したり……情熱的なスキンシップだったわね~』
春香「…………」
春香「とんでもなく騒がしいやり方をするんだろうなぁ」
春香「……あはは」
春香「ふぅ」
彼女の物語。それはきっと燃え盛るような、疾走するような、世界がひっくり返るような――そんなハイテンションなものなんだろう。
そんな想像をして、笑う。
ああ、でもやっぱり
どうなったのか知りたいな――――
春香「……」
春香(ねむ……)
――
――――
――――――
ドラゴン「 あ っ さ だ よ ー っ っ !!!! 早 く 起 き な い と チ コ ク し ち ゃ う ぞ ぉ ~~ っ !!?」バァーン!!!!!
春香「――ひゃぁあああああっ!!!!?????」ビクゥ!!!!
春香「は……、へ……、え……?」
ドラゴン「ふふん。久しいな、星の姫よ」
春香「ド、ドラゴンさん!?」
春香「ほ、ホントに!? っていうかどうして!? もう行ったはずじゃ……っ!! あれれ~!?」
ドラゴン「何なのだ、これは! どうすればいいのだ?! ってな風情だな。テンションを持ち直し給えよ」
春香「そんなこといっても、いきなりすぎて――あれ?」
ドラゴン「気付いたか」
周りを見て、春香は気付く。
どこまでも真っ白な空間に、二人は立っている。
ドラゴン「――ここは夢だ。ナンバーワンヒロインになった帰りに、貴様のところに寄ったのさ」
春香「え、え、え? えーっと……?」
春香「寄ったって……そんなことできるの?」
ドラゴン「ちょっと別の世界に呼ばれててな、戻る途中に無理矢理夢を織り紡いできたんだ――なに、夢を紡ぐのは竜の十八番さ」
春香「な、ナンバーワンヒロインっていうのは?」
ドラゴン「デュエルの果てにある栄冠みたいな感じ? くっく、44%の圧倒的得票率を誇って一位になった貴様と比べれば見劣りするが、まぁ少しは得意にならせてくれよ」
春香「……うん」
春香「やっぱり、わけわかんないや」
ドラゴン「んー、最初の出会いから進歩が見られんね?」
春香「……でも、わけわかんないからこそ、ドラゴンさんって感じもするよ」
ドラゴン「そうか? はっはー! 結果オーライ!」
春香「っていうか、夢の世界なのに『朝だよーっ!』なんて言って声かけないでよー。すごくびっくりしちゃったよ」
ドラゴン「すまんなぁ。でも崇拝の対象に逢えたら、血液はフルスロットるもんだ。許せ許せ」
春香「まったくもぅ……」
再会。それもあまりに唐突な。
でもそのメチャクチャっぷりは、どう考えてもあのドラゴンの振る舞いで。
ふっと、微笑みが漏れた。
春香「ね、聞いていいかな?」
ドラゴン「ああ」
春香「――ずっと気になってたんだ。あの後どうなったのか」
ドラゴン「そうだな。その報告のために己(オレ)はここに寄った」
逢えたのだ。
夢の中でも再会ができた。
なら聞こう。せっかくなんだから、気になっていたことを。
ドラゴン「……ドラゴンとアイドルは同じく『見る』という語を元とする」
不意に、ドラゴンがそんなことを言った。
春香「え?」
ドラゴン「δέρκομαι(デェルコマイ)とιδειν(イデイン)さ。なんだ、希語は不得手か?」
春香「うん。そんなの知らなかったよ。……それがなんなのかな?」
ドラゴン「己(オレ)たちは相性が良かったという話さ。竜ははっきりと見るモノ――偶像は注目を集めるモノ――」
ドラゴン「貴様らが見せてくれた輝きを、この己(オレ)も、ものにできたんだ」
春香「! それって――」
竜とアイドルの共通項。
ロマンを紡ぎ、夢を追いかける人たち。
春香たちが輝いているというのなら、きっと、竜もまた――――
ドラゴン「ふふん」
竜が笑う。
この覚めれば消える微かな夢の中で。
素敵で不敵で無敵な、あの微笑みを浮かべる。
春香「どうなったの、教えてよ!」
春香の顔もほころんだ。
年相応に、恋話に花を咲かせる様な、そんな表情で。
ドラゴン「急くな急くなっ! 今度はわけわからん話じゃないぜ! わっかりやすい、王道のストーリーだからな!」
ぱぁん、とドラゴンが手を叩いた。
そして口上を述べ始める。冒険譚を、語り継ぐが如く。
ドラゴン「今回の夢は英雄が悪い竜を退治する、ありふれた英雄譚――――それがこの夢の正しい形」
ドラゴン「だが、英雄殿が間違いを犯さないとは限らない」
ドラゴン「英雄が悪い竜を退治してお姫様を助けてハッピーエンド」
ドラゴン「――――そんな夢(ロマン)はいかがかな?」
興味津々な春香の前で。意気揚々とドラゴンが語り、謳う。
語られ、謳われるのはアッパー系で、青春で、ドラゴンもので、ラブコメで、アドベンチャーで、ロマンチックな――――
――そんな、とある竜の恋。
――状況終了.
物語ノ完遂ココニ成ル.
ついに終わってしまったか乙乙、最後リアルタイムに見られて幸運だった
クロス先を知らなかったのにこれだけ楽しめたんだから
知ってりゃもっと楽しめただろうにってのが唯一の悔いだ
練習用スレにギリシャ文字があったの見たときは何事かと思ったがあんただったか
終わりです。
お付き合いありがとうございました。
「サバト鍋-Nitro Amusement Disc-」収録の「竜†恋 (Dra+KoI)」よりヒロイン、通称 恋するドラゴンとアイドルマスターとのクロスでした。
>>401
練習したのばれとるww
竜†恋は名作。18歳以上でいつか機会があれば触れてみてください
クロスものは初めて書いたけど、すごく楽しいねこれ
ありがとうオレトテモウレシイ。
クロスにあたって公倍数を探すみたいに設定を利用したんで完成度が高いと言われると一番うれしいかもしれない。
蘭子とは掛け合いをさせるつもりっす。熊本弁をおさらいしてるんでちょっと待ってね
ネタ解説ちょっとあげときます
あんまり粋じゃあないし、蛇足は承知ですが、主にドラゴン言ってるネタを解説
分かる人に分かればいいぐらいな感じで入れてるんで、読まなくても特に支障ありません。
最初~真編
・巨大ロボットの中の人
⇒アイドルマスターゼノグラシアの春香のことを指す。CVは井口裕香女史。
・貴様はズメイの竜の前にいるのだっ!
⇒天空の城ラピュタ、ムスカの「君はラピュタ王の前にいるのだ」より。
『ズメイ』は東欧・中欧のドラゴン。善良なる竜もいるがドブルイニャという勇者の話では、3つの首・12の尾・2つの翼・火炎放射機と化した口を持つゴルイニチという悪竜が彼に退治されている。
・天使より俊敏で、悪魔より残酷で、グールと同じぐらい容赦無い
⇒MTG(マジック・ザ・ギャザリング)・『大翼のドラゴン』のフレーバーテキストより。
・『炸裂・本能GIRL』
⇒本編に収録されている楽曲。歌:江幡 育子
・ベオウルフ
⇒竜殺しの英雄。おじいちゃんになっても強い。
・己(オレ)のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと、轟き叫ぶ
⇒Gガンダム、ゴッドフィンガー使用時のセリフより。
・マルドゥーク
⇒古代バビロニアの神。モンスターメイカーとして名高い原初母神ティアマトを斃す。ベル・マルドゥークの「ベル」は「主の」「偉大なる」など意味し、強大さを表す。
・『真竜の闘い』
⇒ドラゴンクエスト ダイの大冒険より。熱気と光が渦巻いた真との闘いをドラゴンはこう表した。もちろん「真」と「竜」の闘いだからでもある。
雪歩・やよい編
・冷たい宇宙(そら)の遥かより~
⇒Kosmos, Cosmosの歌詞より
・虎伏絶刀勢
⇒るろうに剣心、雪代縁の倭刀術絶技。地に深く沈みこむのが特徴で、雪歩が身を屈めたのに反応した。
・マグロ食ってるイグアナもどき
⇒ハリウッド版ゴジラのこと。『ゴジラ FINALWARS』でX星人統制官が『ジラ』としてゴジラに差し向けたが秒殺され、「やっぱりマグロ食ってるようなのはダメだな」と発言。
竜もどき(土竜)じゃあ竜に勝てないってことを言いたいようだ。
・エーテル界の666丁目
⇒666はヨハネの黙示録(13章18節)で出てくる『獣の数字』。黙示録の獣は終末に際して人々を惑わし支配するといわれ、その獣を指す数字である。
赤い竜(=エデンの蛇=サタン)がその獣に権威を与えたとされる。余談だがこれはローマ帝国を暗喩しているという説が有力。
・『キス・オブ・ザ・ドラゴン』
⇒2001年に公開されたジェット・リー主演のアクション映画。
・聖(セント)ジョージ
⇒竜殺しの英雄。聖人。
農業従事者と言ったのは、彼のギリシア語での名前、『ゲオルギウス』の語が農夫を表し、農民の守護聖人になっているため。
・『ARE YOU HAPPY?』
⇒本編に収録されている楽曲。歌:カリキュラマシーン
・大☆喝☆采
⇒元ネタは遊戯王の海馬社長及び遊戯王GXカイバーマンのセリフより。ニトロワでも吐いている。
・魔を断つ剣
⇒ニトロプラスのADVデモンべインシリーズより。『憎悪の空より来たりて 正しき怒りを胸に 我等は魔を断つ剣を執る! 汝、無垢なる刃デモンベイン!』。脚本は竜†恋と同じ鋼屋ジン氏。
・語り継がれし物語と、その未来
⇒Kosmos, Cosmosの歌詞より
・援けの首飾り(ブリージンガメン)
⇒北欧神話に登場する女神フレイヤの象徴とも言える首飾り。ヴァン神族なんでちょっとビッチっぽい感じを受ける神様だが、戦神としての面もあり兵を鼓舞する。ヴァルキューレとして戦死者の魂も連れ帰る。
ちなみに叙事詩『ベオウルフ』にも、ブロージング族の首飾りが登場する。
・『竜には見せかけの慈悲も、上っ面の上品さの仮面もない――飢えて、燃え盛り、求めているだけだ』
⇒MTG・『ヘルカイトの首領』のフレーバーテキストより。
・墜とされたいカトンボ
⇒機動戦士Ζガンダム、11話でハプテマス・シロッコが発した「落ちろカトンボ!」より。
・エビルズスレイヤー
⇒ニトロワで昇竜拳「リトル・ホワイト・ドラゴン」を出した時に発するセリフ。マクロス挿入歌『小白竜』に出てくる歌詞より。
・六つ花の姫
⇒六つ花は雪のこと。イコール雪歩。
・竜闘気砲呪文(ドルオーラ)
⇒ダイの大冒険に登場する呪文。作中では竜の騎士しか使えない。竜闘気砲呪文(ドルオーラ)の応用というのは、黒の核晶の爆発規模を抑えた方法である。
貴音編
・謝絶の姫
⇒求婚を断り続けたかぐや姫のこと。
・『難題婿譚』のメソッド
⇒課された難題を解決することで娘との婚姻が成立するという、昔話の類型。ドラゴンは悪竜を倒し褒美を得るという英雄譚になぞらえた。
貴音が諧謔が過ぎるといったのは、かぐや姫では姫が5人の皇子に難題をふっかける側であり、姫が試練を受けるというあべこべな状況になっているため。
「愛なき心の空白を埋めるため」「熱い求婚を頼む」「大伴公のようには参りません」 といった会話も、貴音の試練を越える決意や竜の本懐をかぐや姫になぞらえての表現。
・『白龍頷下(はくりゅうがんか)の珠』
⇒『驪竜頷下(りりょうがんか)の珠』の改変。黒竜の顎の下にあるとされる宝珠で、危険を侵さなければ手に入れられないものの例えである。
・『竜門原上の土に骨を埋むとも名を埋めず』
⇒死後に立派な名を残すこと
・『竜とは、力とそれを用いる意思との完璧な融合だ』
⇒MTG・『火のるつぼ』のフレーバーテキストより。力を制御できずに暴走しては竜には及ばないことを揶揄して言っている。
・『堪えがた』な結果
⇒大納言大伴御行は「龍の首の珠」を探しに行ったが嵐に遭って失敗に終わる。さらに病んで目をスモモの如く大きくしてしまい、世間の人に「たべがたい」と言われ、「堪え難い」の元となった。
挑戦が失敗したことを表す。
予想以上に文量要りそうなんで全部はもう少し猶予をおくれ…
やっとネタ解説全部書けたんで投下します。
ネタ解説といっても、わかりにくい表現の解説とかも入れてます。
亜美真美編書いてる時、過去の自分を殴りたくなった…
竜宮小町編
・同族の匂い
⇒竜宮小町の“竜”に反応。ニトロワではペンドラゴンを宿すセイバーに言った。
・オラに元気を分けてくれ
⇒ドラゴンボールより元気玉を作る悟空の台詞。っていうか説明するまでも無さそう。
・真の竜に飛躍
⇒竜門を登ることができた鯉は竜になるという後漢書(鯉魚紋)の記述より。
・戦王妃(ブリュンヒルデ)
⇒竜殺しの英雄ジークフリートと恋愛関係にあった女王。槍投げの名手。戦乙女ヴァルキューレでもある。負けん気が強い伊織を褒めている。
・ホワイトドラゴン三体連結
⇒遊戯王。青眼の白竜3体連結より。青眼の究極竜とは違う。余談だがバンダイ版のブルーアイズは『青眼の白“龍”』ではなく『青眼の白“竜”』である。
・尾を噛む巨竜(ミドガルズオルム)
⇒世界を取り巻き、自らの尾を噛む北欧神話のドラゴン。アピールをループさせ続ける竜宮小町をこう評した。
・『考えるな感じるんだ』
⇒燃えよドラゴンの作中でのセリフ。 ブルース・リーの本名は李小龍。
『友よ水のようになれ』も彼の言葉。ニトロワでもドラゴンは引用している。
・竜宮の乙姫の元結の切外し
⇒甘藻の別名。海中に生える海草。竜宮に掛けて言った言葉。ちなみに最も長い和名。
・己(オレ)の心臓は激しく打ち~
⇒MTG・『月の帳のドラゴン』のフレーバーテキストの変形。
・四方四季の庭
⇒竜宮城にある四季が同時に展開している庭のこと。一度見ると一年経ってしまうとか。
・体を厭えよ
⇒北斗の拳より。ラオウがトキを倒した後に掛けた言葉。
亜美真美編
・『グリーンドラゴン』
⇒アメリカ・ボストンのコーヒーハウス。ボストンの歴史に深く関わる。ボストン茶会事件の謀議もここで練られた。
・余のメラ
⇒ダイの大冒険。大魔王バーンのセリフより。「今のはメラゾーマではない……メラだ」
・タルンカッペ
⇒Tarnkappe ジークフリートが手に入れた隠れ蓑。俗に言う透明マント。(ドイツ語でTernenは「隠す」、Kappeは「マント・帽子」の意)
・固定値
⇒TRPGの判定において、ダイス目に影響されないパラメータのこと。出目が悪くとも固定値は裏切らない。
・混沌にして中立
⇒ダンジョンズ&ドラゴンズでの属性。大体、自由奔放なキャラクターのことである。
・魔法石
⇒パズル&ドラゴンズのアイテム。通貨のような役割を果たす。
○真美の「えくすぺりあーむず」はハリーポッターシリーズ、亜美の「あいすにーどる」テイルズオブシリーズに登場する魔法。
・リーダースキル
⇒パズドラでリーダー枠(それとフレンド枠)に設定したモンスターが発動する効果。他のソシャゲでも良く見られる。
・チャンスメイク
⇒ニトロロワイヤルでの防御システム。相手の攻撃を弾き反撃可能状態となる。
・ドラゴン怒りの鉄拳
⇒ブルース・リー主演の映画。1972年に公開され大ヒットを飛ばす。「怒りの鉄拳」はニトロワでドラゴンの必殺技名になっている。ぶっちゃけ極限流の暫烈拳。
・バリア張るんだったら、常時5択を迫るくらいのことはやるんだな
⇒マーベルの『X-MEN』に登場するキャラクター、マグニートーのこと。格ゲーの彼はマグネティックフォースフィールドというバリア技を所持している(VSシリーズでは当て身技)。
『MARVEL VS. CAPCOM 2』での彼は控えめに言ってぶっ壊れている。
「高速の低空ダッシュからの裏表と中・下段に加え投げの5択、発生が1フレームのしゃがみ弱キック(通称「神の小足」)、
エリアルレイヴにハイパーキャンセルを絡めたグラテン、低空ダッシュの早さを活かした永久連続技からディレイドハイパーコンボへと繋ぐ即死連続技が驚異的。
弱点といえば耐久力が平均より若干低いことぐらいしかない。」(格ゲ―用語事典より抜粋)
○亜美が言った怪獣王はゴジラを指す。今までも、そしてこれからも。今年2014年に公開される映画も待ってます。
・魔道の武器を持った相手ならドラゴンファイヤーを使わざるを得ない
⇒「武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない」のパロ。
初代『龍虎の拳』で主人公リョウ・サカザキが妹を救出するために、軍港施設に乗り込んだ時に発言。
・『竜は自分を刺激することのない精神や、そうしようとして爆発することのない精神には容赦がない』
⇒MTG・『竜英傑、ニヴ=ミゼット』のフレーバーテキストより。
・アクセルシンクロ
⇒遊戯王5D'sより。シンクロ召喚を超えたシンクロ召喚。アニメではバイクに乗りながら行うライディングデュエル専用。走って逃げる亜美真美にも期待を寄せていた。
・ドラゴンからは逃げられない
⇒ダイの大冒険、大魔王バーンの「大魔王からは逃げられない」という絶望感を植えつけてくるセリフから。
・上から来るぞ! 気をつけろぉ!
⇒セガサターンで発売された糞ゲーの帝王…もといガンシューティングゲーム『デスクリムゾン』の主人公コンバット越前のセリフより。
・次元の狭間の宝箱にも竜はいる
⇒『ファイナルファンタジーⅤ』に出てくる神竜のこと。最終ダンジョンの宝箱に潜み、ラグナロクを守護している。
・トリスタン
⇒円卓の騎士の一員。竜退治の話があるが、毒を受けて相打ちになっている。
・フェアリー・ゴッドマザー
⇒シンデレラに登場する魔法使いの妖精。
・Vo上昇値最強
⇒パレスオブドラゴンはVo最強衣装。亜美が咆哮弾を出せるのはそこが理由と見抜いた。ちなみに他のパラメータもかなり上げてくれる。
・東映名物、光線合戦
⇒ゴジラが敵怪獣と繰り広げる。VSシリーズで顕著。
・筋力(ストレングス)
⇒キャラクターの身体的な力強さを表すパラメータ。D&Dでも採用されている。
・0-G LOVE
⇒ニトロワでドラゴンが「白熱拳バニシングブレイド」を放つ時に発するセリフ。マクロスの同名の楽曲がネタ元。
・そんな衣装、ドラゴンを崇めるためのものであり、ドラゴンから身を守るためものではない ――そもそも、そのような役目なぞほとんど期待できない。
⇒MTG・『炉焚きのドラゴン』のフレーバーテキストの改変。
・レベルを上げて物理で殴れば解決
⇒ゲーム『ラストリベリオン』の戦闘攻略法。これが基本であり、全てこれで解決される。「レベルを上げて物理で殴ればいい」
・竜闘気(ドラゴニックオーラ)
⇒ダイの大冒険。竜の騎士が発する闘気。
・水没は生存確定
⇒特撮・ライダーネタ。水落ちは戦いを区切るためによく用いられる手法である。
・きんいろオバケ
⇒言い方のネタ元は竜†恋のドラマCD『ぎんいろアクマときんいろオバケ』。竜†恋の世界観をより理解することができる。キャラクター追加ディスクが同梱されており、ニトロワにドラゴンを追加できる。
・油断するな。迷わず撃て。弾を切らすな。――ドラゴンには手を出すな
⇒TRPGシャドウランの序文。ストリートの警句であり世界観を端的に表すもの。ニトロワでもドラゴンはアインに向かって発言している。
美希編
・無双でバサラなサムライの魂
⇒コーエーの戦国無双、カプコンの戦国BASARAより。
・イヴァンの獅子
⇒イヴァンはアーサー王伝説の物語に登場する騎士。彼はドラゴンと獅子が争っている所に出くわし、獅子側に味方しドラゴンを退治する。獅子はイヴァンに感謝し、彼に付き従い冒険をともにした。
・急降下手刀
⇒『禊』のこと。ストリートファイターのキャラクター豪鬼の技。空中に飛び高速の手刀を落雷の如く叩き込む技である。『CAPCOM VS. SNK MILLENNIUM FIGHT 2000』で一定条件を満たすと、イントロでラスボスのベガをこの技で一撃で倒して豪気が乱入してくる。
・亀の甲羅を背負って~
⇒ドラゴンボールがネタ元。亀仙人の厳しい修行。武舞台は天下一武道会の試合場。
・ドラゴライズリング
⇒仮面ライダーウィザードより。ウィザードが己のファントム『ウィザードラゴン』をアンダーワールドで召喚する時に使用する。負けた絶望を希望に変えろという意味を込めて言った。
・ドブルイニャとの証文
⇒悪竜ゴルイニチは勇者ドブルイニャに退けられ「未来永劫広野で戦わない、血を流す争いをしない」と証文を書いた。けどこの竜は約束した後速攻でウラジミール公の姫をさらっており、あんまり信用ならない。
・『強靭! 無敵! 最強!』
⇒遊戯王より王国編での海馬社長の心の中でのセリフ。青眼の究極竜の融合召喚を狙っている際に発せられた。余談だが原作では「3」がそれぞれの言葉の右上に小さく付け加えられており、「強靭(の3乗)! 無敵(の3乗)!! 最強(の3乗)!!」ということになる。
GXでも正義の味方カイバーマンが発言。
・アギャンゲラン
⇒トリスタンは竜の口に剣を突きたてて竜退治には成功したが、自身も竜の毒によって倒れた。そこに現れたのが赤毛のアギャンゲラン。彼は退治された竜の首を切り取り、王に自分が退治したと報告した。
つまるところ手柄の横取りをしようとした奴だが、「竜に追い打ちをかける者」ぐらいの意味でドラゴンは使っている。
フェアリー編
・ドラキュラもまた竜の末裔
⇒ドラキュラはルーマニア語で『竜の息子』という意味。ブラムストーカーの『ドラキュラ』が有名になり過ぎたため吸血鬼全般を指すようになっているが、ドラキュラと言えば本来ヴラド=ツェペシュを指す。
彼の父はドラクル(Dracul)公とあだ名されており、「a」は語尾に付くと子どもを表す。Dracul+aでドラキュラ(Dracula)となる。ドラクルは竜の意。よってドラキュラは小竜公といった意味。
・覚悟完了
⇒覚悟のススメより。主人公、葉隠覚悟が強化外骨格零を纏い戦闘態勢に入った際に叫ぶ。
・サラマンダーより、ずっとはやい
⇒スクウェアが発売したゲーム『バハムートラグーン』の悪女…もといヒロイン、ヨヨのセリフ。
主人公ビュウのサラマンダーに乗せてもらいその速さに感動していた彼女だが、その後、敵国に拉致され、その国の将軍パルパレオスに惚れてしまう。
バルパレオスのドラゴンレンダーバッフェに彼といっしょに乗ることになり、彼女は感激し感想を言うのだが、そのセリフこそ「サラマンダーより、ずっとはやい!!」である。
主人公の竜と比較しての発言で、多くのプレイヤーに寝取られ体験を提供した迷言として名高い。
・昇竜拳で宇宙までいける
⇒AC北斗の拳・レイの必殺技「南斗撃星嚇舞」を使ったバグ技、通称「バグ昇竜」のこと。ヒットすると相手ごと画面外まで昇り続けるという永久確定の技。トベウリャ!
・M.O.M.分類
⇒ハリー・ポッターシリーズにおける架空の生物の危険度を示したもの。魔法省が設定。Xが多いほど危険。ふくろう試験はホグワーツが5年生に行うテスト。Ordinary Wizarding Levels Test(普通魔法レベル試験)の頭文字OWLから「ふくろう」とも言われる。
・予言の蛇竜(ピュートーン)
⇒ガイアの子でもある竜。ギリシア神話では、レートーの子に殺されるという予言を受け、ゼウスの妻であるレートーを追い回した。しかし彼女を殺すことは適わず、アポロ―ンとアルテミスは誕生する。
誕生した太陽神アポローンはすぐにピュートーンを討伐する。
・蝕竜(アタリア)
⇒日食・月食などの蝕を引き起こすとされる空の竜。太陽のオーラを発している響に対しての挑発。
・5000G
⇒ドラクエネタ。ドラゴンクエストのⅥとⅦでキャラに不真面目な名前を付けると命名神マリナンの怒りを買う。ここから名前を変えようとすると5000G払わなければならない。
ドラ子はちょっと安易すぎて嫌だった。
・ドラキー
⇒ドラクエのコウモリのモンスター。ドラゴンから離れ過ぎたあだ名で、しかもコウモリみたいなヴァンパイアガールに付けられたんでなおさら怒った。
・カインの子
⇒聖書に登場するカインとアベルの兄弟。二人はアダムとイブの子であり人類最初の殺人者とその被害者である。弟を殺したカインは追放され神の前を去る。
追放され生きたまま世界を彷徨っていることや、『モーセの黙示録』においてアベルの血を飲んだことなどから、カインは吸血鬼の祖と見られることがある。
・『その一滴は、肌を鱗とし、拳を爪とする』
⇒MTG・『ドラゴンの血』のフレーバーテキストより。フェアリーの力を評価して言った。
・まだ2回変身を残している
⇒ドラゴンボール、フリーザのセリフより。
・ホワイトサレナ
⇒劇場版『機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-』に登場する機体ブラックサレナのパロ。重装甲にして高機動の機体。
・天使とダンスだ!
⇒バンダイナムコゲームスのゲーム「エースコンバット6」での冒頭の言葉。ナムコエンジェルと空で遊ぶ時はそりゃもう言うしかない。
・じゃれつくだけで己(オレ)にこうかばつぐんを取れると思うな
⇒ポケモンネタ。本来ドラゴンタイプにフェアリータイプの技『じゃれつく』はこうかばつぐん。
・きゅんパイア・マキシマムフォーム
⇒ニトロワでドラゴンはモーラを倒すと『ヴェドゴニア・マキシマムフォームの出番は?』と聞く。ライダーの強化フォームのパロ。
ヴェドゴニアの虚淵氏はライダーの脚本を書いている。
・「――素敵だ、やはりアイドルは素晴らしい」
⇒ヘルシング・アーカードのセリフ「素敵だ。やはり人間は素晴らしい」のパロ。
・串刺し
⇒ドラキュラ・ヴラド=ツェペシュの『ツェペシュ』は「串刺しにするもの」を表す言葉。
・陰陽撥止
⇒るろうに剣心、四乃森蒼紫の飛刀術。2本目の小太刀が1本目の後に完全に隠れる。響の後ろに隠れてた美希の攻撃をこう評した。
・竜糧民食
⇒ナムコ(現バンダイナムコゲームス)が発売したゲーム『ミスタードリラー ドリルランド』のBGM名。
・読めなかった! このドラゴンの目をもってしても!
⇒北斗の拳・南斗五車星の一人、海のリハクのセリフより。天才軍師とされていたがことごとく読みを外し、出した策が裏目にばかり出てしまったので、多くの読者から節穴の烙印を押されている。
ちなみに五車星の中で唯一最後まで生き残っている。「読めなかった、このリハクの目をもってしても!」
・『宵の明星』……紅き竜が照覧する舞台
⇒金星のことである。ラテン語でルシファー(=サタン =赤い竜)は金星を表す。輝けるもの天より墜ち…
明け方・夕方のみに観測でき、太陽・月に次いで明るく見える。ケツァコアトルというアステカ神話の神の蛇や、日本ではアマノカガセオという朝敵の星ともされる。
・ミカエル
⇒赤い竜(ルシファー)を打ち倒した熾天使。警官や兵士の守護聖人とされているが、菓子職人の守護聖人でもある。春香さんも守ってるかもしれない。
・甘い吐息はエーテル
⇒『きゅんっ!ヴァンパイアガール』の歌詞より。
あずさ編(飲み回)
・カスバド
⇒ケルト神話に登場するアルスター王に仕えるドルイド(魔法使い)。クーフーリンの英雄の未来を予言した。
・戦闘力たったの5
⇒元ネタはドラゴンボール。ラディッツの「戦闘力…たったの5か…ゴミめ」という有名なセリフ。原作でも主人公のエーテル波長を調べてこう心で言い放った。
○『壮行篤喜(そうこうあっき)』はニトロプラスの『装甲悪鬼村正 -FullMetalDaemon MURAMASA-』のパロ
・酔って討たれれば神器すら出す気質
⇒スサノオに退治されたヤマタノオロチのこと。スサノオが持っていた十拳剣は、この大蛇の尾にあった草薙剣に当たって刃が欠けている。
・レッツパーリィ!
⇒戦国BASARA・奥州筆頭の独眼竜、伊達政宗のセリフ。パーリィは「ぽーりぃ」と同様に“Party”のこと。
・蜂蜜酒でやられたヤツ
⇒ウェールズの伝承における『スィッズとスェヴェリスの物語』に登場する、蜂蜜酒によって眠りに着いた2匹の竜。ブリテンの赤い竜とサクソンの白い竜と見るのが自然か。
・すごく……大きいなぁ
⇒元ネタは『くそみそテクニック』。道下正樹が阿部高和のある部分を指して言ったセリフ。「すごく…大きいです…」。
・ヒトの牡(オス)はその脂肪の塊が愉しいらし
⇒竜†恋は18禁ゲームです。原作ではこういうセリフも出てきます。
千早編
・ディーヴァ
⇒イタリア語で「女神」「神々しい女性」を意味する。女性歌手の賛辞として使われ、日本では『歌姫』と訳される。
・オーロラ妃殿下
⇒童話『眠れる森の美女』におけるヒロイン。原作では名前がないが、ディズニー版ではこのオーロラという名が付けられている。
千早が『眠り姫 THE SLEEPING BE@UTY』におけるチハヤ=キサラギの力を得たのでこの名で呼んだ。
・「糸車の針だけに気を注ぐなよ、ブライア・ローズ。暁(オーロール)を陰らせるのは何も黒き竜だけではない……」
⇒糸車の針……オーロラ姫に魔女マレフィセントが「糸車で指を刺して死ぬ」という呪いをかけた。
⇒ブライア・ローズ……オーロラ姫が呪いを避けるべく身を隠していた時の名前。
⇒暁(オーロール)を陰らせる……姫に危害を与えること。
ペロー版の『眠れる森の美女』では
『王女には、ふたりもこどもが生まれました。上の子は女の子で、これは「朝」という名でした。下の子は男の子でこれは「昼」という名でした。
そのわけは、弟のほうが、ねえさんよりも、ずっとりっぱで、美しかったからでございます。』
とあり、眠り姫の娘の名前は、あかつき(オーロール)姫であるとされている。
ディズニー版の姫の名前はここから取られたという説がある。
⇒黒き竜……魔女マレフィセントのこと。彼女は黒いドラゴンに変身する。
・真実も美徳も見当たらないが、それで竜討伐を成せるかね?
⇒ディズニー版映画において、フィリップ王子はドラゴンと化したマレフィセントを『真実の剣』と『美徳の盾』によって倒すことに由来するセリフ。
・嵐が渦巻き、天空かき曇り、砕け散るのは誰の骨か。果たして誰の運命が打ち砕かれるのか 誰の運命が最期を告げるのか、我歴史の証人とならん!
⇒1996年公開の映画『ドラゴンハート』、自称詩人で学者でもあるギルバートのセリフより。
・生ける者に本当(まこと)も嘘もない。おれはこの世にただ一人――――竜
⇒麻雀漫画『哭きの竜』の主人公竜のセリフより。
春香編~ラスト
・巨大ロボットの中の人
⇒『無尽合体キサラギ』において、ハルシュタインは自分にそっくりの女性型巨大ロボットを駆る。奇しくも最初に出会った時と同じセリフ。
・レムリア・インパクト
⇒鬼械神(デウス・マキナ)デモンべインの第一近接昇華呪法。右掌に内蔵されたヒラニプラ・システムにより無限熱量で敵を撃破する。
ニトロワでもアル・アジフがリーブアタック(KOFのストライカーのような助っ人攻撃)として使用。巨大ロボットの腕が画面を覆う。
・ブロディアパンチ
⇒『MARVEL vs CAPCOM』シリーズのジン・サオトメが使用する技。巨大ロボットブロディアの鉄拳を呼び出すというもので、これもロボットの腕が画面を覆う。
・連邦のアイドルは化け物か
⇒機動戦士ガンダム、シャア・アズナブルのセリフ「ええぃ!連邦軍のモビルスーツは化け物か!」より。
・サルカン・ヴォル
⇒MTGのキャラクター。人間の男性だがドラゴンを崇めている。竜好きが高じ過ぎて、ドラゴンが支配する別世界に行っちゃったりする人。
・ナンバーワンヒロイン
⇒『ニトロ+ロワイヤル ヒロインズデュエル』でラスボスを倒した後に得る称号。ドラゴンはこのデュエルに参加していた。
格ゲーのニトロワでのドラゴンのキャラ性能はせいぜい中堅クラスなので、慣れてない人はエンディングまで行くの苦労するかもしれない。
ヒロインたちはラスボスのアナザーブラッドによって呼び寄せられたというストーリーで、エンディングでは元の世界に帰る際、「他の可能性の世界」を夢として垣間見る。
ドラゴンはその「夢」を無理矢理春香の夢に接続して、自分の物語を語りに来た。
・44%の圧倒的得票率
⇒2013年1月2日。ラジオ番組「特集・渋谷アニメランド~わたしの大好きなヒロインたち~」(NHKラジオ第一)において、過去50年のアニメ全ヒロインを対象にナンバーワンヒロインを決めるリスナー参加型の選挙が行われた。
予備選挙を経て上位10名で争われることになったこの本選挙において、我らが天海春香は綾波レイや涼宮ハルヒといったライバルを抑え、全体の44%という圧倒的獲得票数により、見事ナンバーワンヒロインとなった。
すごいぞ春香さん。
春香編~ラスト
・巨大ロボットの中の人
⇒『無尽合体キサラギ』において、ハルシュタインは自分にそっくりの女性型巨大ロボットを駆る。奇しくも最初に出会った時と同じセリフ。
・レムリア・インパクト
⇒鬼械神(デウス・マキナ)デモンべインの第一近接昇華呪法。右掌に内蔵されたヒラニプラ・システムにより無限熱量で敵を撃破する。
ニトロワでもアル・アジフがリーブアタック(KOFのストライカーのような助っ人攻撃)として使用。巨大ロボットの腕が画面を覆う。
・ブロディアパンチ
⇒『MARVEL vs CAPCOM』シリーズのジン・サオトメが使用する技。巨大ロボットブロディアの鉄拳を呼び出すというもので、これもロボットの腕が画面を覆う。
・連邦のアイドルは化け物か
⇒機動戦士ガンダム、シャア・アズナブルのセリフ「ええぃ!連邦軍のモビルスーツは化け物か!」より。
・サルカン・ヴォル
⇒MTGのキャラクター。人間の男性だがドラゴンを崇めている。竜好きが高じ過ぎて、ドラゴンが支配する別世界に行っちゃったりする人。
・ナンバーワンヒロイン
⇒『ニトロ+ロワイヤル ヒロインズデュエル』でラスボスを倒した後に得る称号。ドラゴンはこのデュエルに参加していた。
格ゲーのニトロワでのドラゴンのキャラ性能はせいぜい中堅クラスなので、慣れてない人はエンディングまで行くの苦労するかもしれない。
ヒロインたちはラスボスのアナザーブラッドによって呼び寄せられたというストーリーで、エンディングでは元の世界に帰る際、「他の可能性の世界」を夢として垣間見る。
ドラゴンはその「夢」を無理矢理春香の夢に接続して、自分の物語を語りに来た。
・44%の圧倒的得票率
⇒2013年1月2日。ラジオ番組「特集・渋谷アニメランド~わたしの大好きなヒロインたち~」(NHKラジオ第一)において、過去50年のアニメ全ヒロインを対象にナンバーワンヒロインを決めるリスナー参加型の選挙が行われた。
予備選挙を経て上位10名で争われることになったこの本選挙において、我らが天海春香は綾波レイや涼宮ハルヒといったライバルを抑え、全体の44%という圧倒的獲得票数により、見事ナンバーワンヒロインとなった。
すごいぞ春香さん。
うわ、最後二重投稿になっちゃった。
ひとまずこれでネタ解説は終わりです。
自分でも引く量だわ…
番外・神崎蘭子 竜と逢う
とあるフェス会場
ドラゴン「はははっ! ここはいいな! 夢(ロマン)の煌めきが満点の星空を思わせるっ!!」
蘭子「邪竜よ我が魔力でその身を凍てつかせよっ!!」(ドラゴンさんそこまでです!)
ドラゴン「ん! これはこれは、灰かぶりの堕天使殿! ミカエル殿を討つ謀議の提案に来られたかー?」
蘭子「血に伏せる運命こそ、貴君の戒めであろうっ」(私がやっつけるのはあなたですっ)
ドラゴン「ふふん。そうか、敵味方に分かれて争うは竜種の常だったな、紅き竜の魔力を享けし子よ」
蘭子「我が纏いし闇のヴェールを看破するとは面白い。――白き竜よ! 我が深淵を覗け!」 (ま、魔力!? ドラゴンさんホントに私に魔力あるんですか!?)
ドラゴン「感じる、感じるぞぉ~! これは……神代の霊素(マナ)! 王の資質!」
蘭子「万物が平伏す神帝と我を讃えるか。流石は世界を勾引(かどわ)かす邪竜。その審美眼は曇らぬな」(ええっ王様クラス!? でも竜が言うんだったらホントだよねっ! やったぁ!)
ドラゴン「だがいくら貴様が頂に立とうと、我ら竜は根源的にまつろわぬ者。ウェールズのそれのように己(オレ)を扱いたければ、きっちり調伏するんだな、魔王様よ?」
蘭子「やはり戦禍を望む性(さが)か。承知した、横溢する魔力の瀑布に溺れよっ!」(そうだった、やっつけないといけないんだった。いきますっ)
ドラゴン「愉しいヤツだな貴様は♪ いいぞっノッてきたぁ! せっかくドラゴンとしてここに在るんだ、たまにはドラマティックに戯曲でもやるか!」
ドラゴン「我は古の竜。ヴェスヴィオの灰を受け、プロヴァンスの風とそよぎ、“mise en roman”に生き、そして滅びし龍蛇なり」
ドラゴン「英雄譚に育まれし姫よ。我が逆鱗に触れなれば生命(いのち)保つこと叶い申さん。此の愛(めで)をひたぶるに求め給うならば、身命を賭くる意(こころ)を持ち給え!」
蘭子「このオーラ、滲み出る圧力の渦……真の龍!」(このオーラ、滲み出る圧力の渦……真の龍!)
蘭子「現世にて斯様な邂逅があろうとは……魂が湧き立ち震える!」 (まさかホンモノの竜と出会えるなんて……感動です!)
ドラゴン「バルムンクの剣、果たして汝に持ち得るや?」
蘭子「愚昧なる問いを投げるか、竜め!」 (やってみせます! ドラゴンさん!)
ドラゴン「よかろう。栄光のアヴァロンの歓待が貴様にあらんことを」
蘭子「我が魂の放浪――終焉の刻は未だ遠し」(ここで終わる気はないですっ)
蘭子「魂が共鳴する。闇と光がこの地平で交錯する――」(ううぅ、どうしよう! 会話が! 会話がすっごい楽しい!)
ドラゴン「では愛し合おうっ!」
蘭子「鋭き鱗の輩(ともがら)よ」 (ドラゴンさん)
蘭子「漆黒の理力を――」 (私の力を――)
ドラゴン「白銀の火力を――」
蘭子「ここに氾濫させてくれるっ!!」 (すべてぶつけます!)
ドラゴン「この物語(ロマン)に刻もうかっ!!」
― ガオオオオオーッ!!!
― キャー!
リクがあった蘭子との掛け合いでした
蘭子ちゃんの口調と並べて書いてて思ったけど、やっぱりドラゴンの口調はただ中二的なもんじゃないですね
朗々さがあるというか自然に使ってる。ここにきてようやくドラゴンの喋くりのコツをつかんだかもしれない
エレ速から来ました
こういう胃もたれするような(誉め言葉)SS書ける人あんまりいないから最後まで読んだときは圧倒されたわ
つか、千早妖刀SS書いた人だと知って二度驚いたw
機会があれば2chなりおーぷんなりでまた安価スレやって欲しいな
>>433
ありがとうすごく嬉しい。二つの作品の間でどんな話にするかそれなりに悩んだんで、そう言ってくれる人がいると救われます。
安価は好きなんで気が向いたらまたやるかもw
おまけの876組編投下します
日高愛の場合(ターン)
公園
愛「ああっ! ドラゴン!!」
ドラゴン「……む?」
愛「765プロの皆さんにコーゲキしてるっていうのはアナタですねっ!! ここであったがヒャク年目!! 私が退治しちゃいますっ!」
ドラゴン「何だ貴様もアイドルか。すでに臨戦態勢とはおもしろい。退治か、やってみたまえよ猪武者」
愛「ちょーっぷっ!!!」ズビシッ!!
ドラゴン「ケンタッ!?」
愛「ちょーっぷっ!!! ちょーっぷっ!!!! ちょーっぷっ!!!!!」ズビシッ!!ズビシッ!!ズビシッ!!
ドラゴン「このっ!! いきなり手刀とは、この天の龍に向かって、中々ロマンある攻撃してくれるじゃあないか!」バシッ!!
愛「ドラゴン、ゼッタイ倒ーすっ!!」ギラッ
ドラゴン「ほぅ……戦闘力が跳ね上がった。珍しい! 戦闘民族か! まさかこの地で会えるとは!」
ドラゴン「面白い! 相手をしてやる!! 存分に愛を叫べよ小さな騎士殿!!」
愛「がるるるるーっ!!」
ドラゴン「ぎゃーっす!!!」
愛「ふしゃー――っ!」
ドラゴン「がぅお~~~ん!!」
愛「がおぉー――っ!!!」
ドラゴン「がおぉー――ぅ!!!」
光のドームが展開。
道ゆく人が吠えあう二人を見てなにごとかと足を止める。
ドラゴン「ぜったーい―――― ♪」
愛「がるるるるるるるるるるー――――っっっ!!!!!!!!!!」
ドラゴン「ひをふくー――っ ♪」
愛「うにににににににににー――――ッッッ!!!!!!!!!!!!」
ドラゴン「ちょっといいかんじー―――― ♪」
愛 「 ド ラ ゴ ン に 勝 ち た い よ ぉ ー ―――― ! ! ! ! ! ! ! ! ! 」
ドラゴン「コラ! 貴様も歌えよぉ~! 己(オレ)のヴォイスを遮る声量はすごいが、驚かせるだけじゃエーテライトは届かんぞ」
愛「あっ、そうなの? 大声対決じゃないんだ……」
ドラゴン「それも愉しそうだが。アイドルなら歌で勝負が本道じゃあないか?」
愛「…………それは、やめとく」
ドラゴン「ふぅん? 戦端を開いたのは貴様の方だろう?」
愛「このままやると周りの建物の窓ガラス割っちゃうから……」
ドラゴン「――そうかい。まぁ本来、騎士が市井の者に迷惑かけちゃあいかんよな」
愛「きょーぼーな動物からみんなを守らなきゃって思ってたのに……また空回っちゃった」
ドラゴン「貴様もかなりの本能ガールだな」
愛「どっかなーにも無い場所が見つかったら、また会いに来て!」
ドラゴン「おう」
愛「それじゃ、あたし特訓してくるからっ!! だーっしゅっ!!」ダダダー!!!
ドラゴン「あっ……おい。行ってしまったか」
ドラゴン「ずいぶんと愉快な戦車(チャリオット)だな。あの調子ならこの己(オレ)の鱗にも傷をつけうるだろう」
ドラゴン「しかも、あのエーテル波長。すさまじいポテンシャルを感じた。ここは泳がせ飛翔するのを待つとするか」
ドラゴン「まだ未熟なようだが……戦意に溢れていた。あの娘はきっと越えるべき相手が他にいるのだろうね、ふふ、面白い♪」
ドラゴン「……しっかし、まーだ耳が痺れているなぁ」
水谷絵理の場合(ターン)
街中
絵理「ひぅ!? ど、ドラゴン?」
ドラゴン「おおっ! 貴様は確か――知っているぞ! 『ネットワールドからの迷い子』だな? 外でこんなレアモノとエンカウントできるとは!」
絵理「…………じゃあ、私はこのあたりでお暇?」
ドラゴン「逃げるなよぉ! 同じ現世に降りた幻想同士、親睦を深めようじゃあないか」
絵理「うん……竜には興味あるし、お話するくらいならいいけど……」
ドラゴン「肉体言語で」
絵理「だからそれは……いや?」
ドラゴン「ふぅん、わかったよ。確かにアマテラス殿からしたらスサノオ殿のような振る舞いは水が合わんよな。では粛々とビジュアルでも競おうか?」
絵理「わかった。それならいい……じゃあ、一週間後までにお互い動画作ってあっぷろーど?」
ドラゴン「――貴様、自分の土俵に引きずり込む気か。意外と虎視眈眈としてるじゃあないか」
絵理「ドラゴンは無理矢理自分の世界に引きずり込むから……」
尾崎「絵理ぃー――――っっ!」ダダダーッ!!
ドラゴン「ん?」
絵理「あ……尾崎さん」
サイネリア「センパーイ!! そのトカゲ女から離れてくだサーイっ!!!」ダダダーッ!!
絵理「サイネリアまで……」
ドラゴン「なんだ、にぎやかになったな」
尾崎「はぁはぁ、絵理! ケガは無いっ!? 大丈夫だった!?」
絵理「へ、平気」
サイネリア「コラーッ!! そこの爬虫類! センパイを襲ってないデショーネ!?」
ドラゴン「本番はまだだ」
絵理「い、意味深な言い方しちゃダメ。ビジュアルで勝負しようかって……」
サイネリア「ビジュアル勝負~?」
ドラゴン「そうだ。己(オレ)が美少女コンテストを仕掛けている」
サイネリア「…………」ジー
尾崎「…………」ジー
サイネリア「センパイの勝ちデス!!」
尾崎「絵理の圧勝ねっ!!」
絵理「ちょっと二人とも!?」
ドラゴン「モテモテだな貴様は」
ドラゴン「くっくっ、軍配はそちらか。ではたまには空気を読んで退くとするかな」
尾崎「やったわね、絵理! あなたの方がかわいいって」
絵理「ううぅ……恥ずかしい」
ドラゴン「………………」
絵理「……どうかした?」
ドラゴン「いや、紙一重だなぁ貴様らは」
尾崎「紙一重? なにが?」
ドラゴン「夢と呪いがさ」
尾崎「っ!」
ドラゴン「己(オレ)が言うのもなんだがどうにも危なっかしいぜ。竜種としての立場から一言助言を添えておこう」
ドラゴン「夢(ロマン)に至るための両翼、大切にな。ゆめゆめ?ぐんじゃあないぜ」
絵理「……うん、よくわからないけどわかった……?」
ドラゴン「我ら竜も夢(ロマン)の完遂には対手が不可欠だ。……呪いに巻き込むやくざな在り方、たまには思い出せよ」
尾崎「あなたに言われなくても……っ!!」
ドラゴン「ならばよし。では、あでゅ~!」
絵理「いっちゃった……」
サイネリア「センパイにビビったんデス! 『大竜種接近遭遇なう』、『Ellieの無敗神話更新!!!!!』っと」ポチポチ
尾崎「絵理、あの…………、その、こ、これからもよろしくね?」
絵理「うん、よろしくお願いします?」
尾崎「――何で疑問形やねん」
秋月涼の場合(ターン)
神社
涼「よしっ! 自主練けっこう手ごたえあった。時間に余裕あるけど、そろそろ仕事場に行こうかな」
涼「ううぅ、それにしても水着撮影なんて…………耐えろ、耐えるんだ。男アイドルとしてのデビューができるその日まで……社長を信じて……っ!」
ドラゴン「…………なんてヤツだ」
涼「よし、行こう……」
ドラゴン「フリィィーズッッ!!」ダーン!!!
涼「うわっ、な、なにっ!!? 空から人が――――あなたは?」
ドラゴン「やあ、いい天気だな」
涼「――!! あなたは……真さんの前に現れたっていう……!! ど、ドラゴン!?」
涼(そういえばアイドルの所に出没してるって……! 愛ちゃんと絵理ちゃんも会ったって言ってた!)
ドラゴン「いや気負うな。通りすがりの美少女が来たと思って気を楽にしたまえよ」
涼「え、え?」
ドラゴン「…………」ジィー…
涼「ぼ……私に何か用なんですか?」
ドラゴン「――竜種でもあるまいにこんな風に在り方が絡まるとは。いやはや、こんなレアケースは初めて御目に掛かった。あの電子の妖精たちのそれとも全く趣を異にするな」
涼(れ、レアケース……珍しいって、もしかして僕が男だって見抜かれたっ!? ど、どうしよぅー!!)
ドラゴン「夢と呪いが軋みを立てながら、物語を紡いでいる。夢に向かう呪いのような生。ふふん、親近感を覚えるぞぉ……!」
涼「夢と、呪い……」
ドラゴン「異端、かつ自分を越えるための王道の物語。我ら竜の在り方と似る」
涼(え? 竜と似ているって)
涼「……ドラゴンさん、あなたも、自分を縛るような……そんな生き方をしているんですか?」
ドラゴン「ああ。夢のために、な」
涼「暴れるのも?」
ドラゴン「ああ」
涼「アイドルの人達に挑んでいるのも?」
ドラゴン「ああ、そうだ」
涼「そうですか――」
涼「その、あの、がんばってください!」
ドラゴン「む?」
涼「決まりごとみたいなものがあってやっているんですよね? 周りからは理解されないかもしれないけれど……目指している夢があるのなら、諦めないでください」
ドラゴン「ははっ、なんだそれは。自分に聞かせているのか?」
涼「うぅ……そうかもしれません。でもおかしな生き方をせざるを得ないっていうのは……僕にとっても他人事じゃありませんから」
ドラゴン「ふ、礼を言おう。握手だ、同類」スッ
涼「えっ、あ、はい!」ギュッ
ドラゴン「――ほう! これは!」
涼「な、なんですか?」
ドラゴン「混迷としたエーテル流の中心に、何とも気高い御心が。貴様は竜側よりむしろ、英雄側か!」
涼「え、英雄?」
ドラゴン「貴様は素質がある。外見なんか問題じゃないほどの煌めく力が、その内に埋まっているようだ」
涼「そんなものが僕の中に? 本当ですか!?」
ドラゴン「ああ、今はまだ微かな力だがな。竜の審美眼は確かだよ。……ふふん、いいだろう」
ドラゴン「同類よ。貴様も存分に夢に生きろ。己(オレ)のように」
涼「ドラゴンさん?」
ドラゴン「そしてその呪われた生の、その先の物語(ロマン)がどちらが上等か、競おうじゃあないか。……そのために、決して挫けてくれるなよ?」
涼「競うって……」
涼「……わかりました。ドラゴンさんも、どうか悔いがないように」
ドラゴン「ふふん、承知した。それでは各々の夢(ロマン)を再開するか。ではな――竜の如き呪いと、英雄の如き御心を持つ者よ」
涼「あ、ちょっと待ってくれませんか」
ドラゴン「うぅん?」
涼「みんなを圧倒したっていうダンス……僕にも見せてもらいたいんです、けれ、ど……」
ドラゴン「…………あっはっはー!」
ドラゴン「いいだろう竜の舞を披露してやる。研鑽したまえ――その代わり、貴様のも見せてくれよぉ~?」
涼「あ、ありがとうございます! よしっ! やるぞ!」
ひとまず投下終わりです
>>440
訂正
ドラゴン「夢(ロマン)に至るための両翼、大切にな。ゆめゆめ?ぐんじゃあないぜ」
↓
ドラゴン「夢(ロマン)に至るための両翼、大切にな。ゆめゆめもぐんじゃあないぜ」
投下します。これで最後です
日高舞の場合(ターン)
ビル・屋上――
舞「さぁて♪ ドラゴンちゃん、かも~んっ!」
街のネオンを見下ろしながら、日高舞は言った。
そうすれば、向こうからここに来る。確信している。
舞「ふふ、来たわね」
降り注ぐ月の光に、白銀の色彩が混ざる。
幻想が、近づいている。
そして。
空から。
一人の少女が――――
ドラゴン「がおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉー――――っっ!!!!!!!!!」ギュアッ!!!!
奇襲を仕掛けた。
舞「ひーだーかー……」クルリ
舞「らいんじぐいんぱくとぉ!!」グアッ!!
ズガアァアアッンッ!!!!
振り落とされた拳と、飛び上がった拳が激突。
空中に衝撃の波紋が広がった。
ドラゴン「ふふん」スタッ
舞「うっふっふ~!!」スタッ
ドラゴン「凄まじい。その戦闘力やはり竜眼の故障ではなかったか」
舞「いきなり熱くカマしてくれるじゃない。若くしなやかなケモノ……」
ドラゴン「いったいどれほど強大なのかな? ド ラ ゴ ン フ ァ イ ヤ ー ! ! ! 」ブアアアアアアッ!!
舞「あら、宴会芸? 舞ちゃんへっどくらーっしゅっ!!!!」ドンッ!!
――ドガガガガガガッッ!!
熱線をかき分けて――否、かき消しながら、無造作に日高舞は突進した。
ドラゴン「っ!!」
瞬く間に彼女は、ドラゴンに迫り
舞「どかーんっ!!
ドラゴン「ぐあぅっ!?」
その体を弾き飛ばす。
ドラゴン「たたっ……すごいなぁ! 銅筋鉄骨、火眼金睛。およそ人とは思えぬほどの強靭さだ!」
舞「なんてことないわよ、これくらい」
ドラゴン「ダメージが通っていると思ったら……エーテルを纏っているのだね。…………そうか、貴様がそうなのだな」
舞「あら、なにが分かったのかしら?」
ドラゴン「――13年前の竜が世話になったな、かつての『竜殺し』殿よ」
舞「あら、やっぱりわかっちゃうもんね。ええ、あの竜との戦いは、とってもステキな思い出よ」
舞「あなたも色々暴れてるみたいねー。聞いたわよ。愛とも会ったんだって? あの子声大きいでしょー」
ドラゴン「ほぅ、あの小さな騎士殿の母君だったか!」
舞「ええ、そうよ。ドラゴン、あの子に手を出しちゃダメよ~?」
ドラゴン「それは失敬したなぁ、御母様よ。やはり我が子は心配……」
舞「あの子の全力は私に向けてもらうつもりなんだからっ!」
ドラゴン「………………はん、成程。己(オレ)に負けず劣らずの難敵をあの騎士殿は抱えているようだ。なかなか難儀な出自だな」
舞「なにか言ったかしら?」
ドラゴン「聞き流してくれたまえよオーガ様」
舞「むっ、『おかあさま』の発音がおかしいわよ」
ドラゴン「失礼。…………して、如何がするつもりかな? ソードダンサー殿。再び竜の首級に焦がれるか?」
舞「そうねぇ。久しぶりに骨のあるコが来てはしゃいじゃったけど、私が出張っちゃ今のアイドルの立つ瀬がないわね」
舞「これでも私は今のアイドルにも期待しているし……あなたを越えることができたアイドルは、きっともっと強くなる。その可能性をツブしちゃうのはオトナのやることじゃないわよね~」
ドラゴン「流石にそこらへんの分別はあるのか?」
舞「と、思ってたんだけどね…………やっぱダメ! ジッサイに逢ってみたらウズウズしてきちゃった! ちょ~っとだけつまみ食いしちゃおっと!」
ドラゴン「ベルセルクめ! ――だが、それがいい。己(オレ)をつまみ食いか、ヤミツキならんように気をつけろよ」
舞「大丈夫大丈夫! 軽~く遊ぶだけだからっ!」ゴゴゴゴゴゴゴ
ドラゴン「立ち上るオーラの方が本心をより雄弁に伝えている。そんなさぁ、極上の戦意をぶつけられるとさぁ……滾らんわけにはいかんじゃないか!!」ゴアッ!!
舞「うふふ、そのビビらないキャラクター。だからドラゴンって好きよ」
舞「ここじゃ、ちょっと建物の強度が心配ね。どっか別の場所でやりましょうか」
ドラゴン「ああ、そうしよう」
ドラゴン「『DANCES & DRAGONS!』 存分に猛り、舞おうじゃないか!」
舞「竜が来たら使おうと思ってた一品もあるから、楽しみにしてなさい♪」
ドラゴン「一品? なんだそれは?」
舞「ドリル付き戦艦♪」
ドラゴン「――――ふ、はははっ!!!! すっげえ楽しみだ!!」
――
――――
――――――
――翌日
舞「たっだいまー!!」
愛「あ、ママ! 昨日からどこ行ってたのー!?」
舞「ちょっとね。お昼ごはん食べてないでしょ? ぱぱっと作っちゃうわ!」
愛「あ、うん」
舞「あー、久しぶりに泳いだわー!」
――昨夜から未明にかけて、東京湾で竜と何者が戦闘が行った模様です。
現場と見られる海域では、艦の残骸と思しきものが複数見つかっており……
舞(昨日は燃えたわね~。久しぶりに時間が立つのを忘れて楽しんじゃったわ)
舞(でもこんな風に燃えてたら、竜がいなくなった時すっごくガックリきちゃいそうね。あの時みたいに)
舞(やっぱり、私が倒すのはやめときましょ)
舞(それに――あのコとはトモダチになっちゃったもの)
舞「ふふっ、あのコも心を埋めてくれるものを見つけられればいいわね。私みたいに」
愛「ママーご飯まだーっ!?」
舞「もうできるわよーっ!」
愛「じゃあ、お皿持ってくね」
舞「ええ。――ありがとう、『愛』」
ネタ解説。例によって別に読まなくてもいいです。
春香編~ラストで抜けてたもの
・何なのだ、これは! どうすればいいのだ?!
⇒ゲーム『ドラッグ・オン・ドラグーン』より。レッドドラゴン・アンヘルが新宿上空で発言。ファンタジーだったのに「ここは神の国なのか……?」→『新宿』で多くのプレイヤーが驚愕した。
さらにいきなり音ゲーと化したラスボス戦をすることになったプレイヤーはこのセリフに深く同調する。
余談だがこのEエンドでミサイルを放った「スカーフェイス」は、ナムコの『エースコンバット』の主人公のコードネームである。
蘭子編
・ウェールズのそれ
⇒ウェールズの赤い竜(ア・ドライク・ゴッホ)のこと。『悪しき龍』ではない。ウェールズの象徴となっており公家の紋章や国旗にも描かれている。
・アヴァロン
⇒アーサー王が最期を迎えた楽園。
愛編
・ケンタッ
⇒プロレスラーの小橋建太から。チョップ・ラリアットなどを得意とする。2005年、東京ドームの佐々木健介戦での両者合わせて218発のチョップ合戦は語り草となっている。
・天の龍
⇒プロレスラーの天龍とかけたセリフ。プロレス界の生きる伝説。逆水平チョップ(天龍チョップ)など多様なチョップを使用。
絵理編
・アマテラス殿からしたらスサノオ殿のような振る舞いは水に合わん
⇒アマテラスはスサノオの乱暴な行動を見畏みて、天岩戸に引き篭ったことに由来するセリフ。
・美少女コンテスト
⇒ぷよぷよ・魔導物語シリーズに登場する半人半竜のキャラクター・ドラコケンタロウスの持ちネタ。彼女は主人公アルルになにかと美少女コンテストを申し込んでくる。
涼編
・通りすがりの美少女
⇒原作でも主人公と初めて逢った時に発しているセリフ。
舞編
・銅筋鉄骨、火眼金睛
⇒強靭な体、金色が混じる赤目を意味する、外見を表す言葉。孫悟空の特徴の表現である。
・オーガ
⇒『グラップラー刃牙』シリーズに登場する範馬勇次郎を指す言葉。巨凶。ドラゴンは我が子と全霊の闘いを求める舞と彼を重ね合わせた。
・ベルセルク
⇒バーサーカー(狂戦士)のノルウェー語での言い方。北欧神話などに登場するオーディンの力を受けた野獣の如く闘う戦士のこと。
三浦建太郎氏による同名の漫画作品の主人公ガッツは『ドラゴン殺し』を持つ。
有名な「それは 剣というにはあまりにも大きすぎた。 大きく 分厚く 重く そして大雑把過ぎた。 それは 正に鉄塊だった」 という文章はこの『ドラゴン殺し』を表したものである。
余談だが、三浦建太郎氏はニコ動で発表されているノベマス(アイマスを題材にした二次創作)にハマって『アイドルマスター』をXbox360と同時購入している。千早が好きらしい。
さらに余談だが、『ベルセルク』の映画三部作の監督は、アイドルマスターのキャラクター原案も担当した窪岡俊之氏である。
・ドリル付き戦艦
⇒轟天号のこと。東宝の映画『海底戦艦』で初登場し、以降も様々な作品に出演する。ゴジラシリーズでは『ゴジラ FINAL WARS』で遂に登場した。
竜†恋に登場する『竜殺し』の英雄は、『竜殺機関第伍版一〇刷』とされているのだが、これも5(ご)と10(テン)で轟天号をパロっていると思われる。
以上です。抜けが他にもあるかもしれませんが、所詮はフレーバーなんで気にしないで大丈夫です。
これにて終了でございます。
アイマスキャラとドラゴンを掛け合いさせようと思って書き始めたのにこんなに長くなってしまいました。
お付き合いいただいた方々に感謝。楽しかった。
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ED
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