島村卯月「普通の傷心」(57)

アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作SSです

よろしくお願いします


──休憩室──

卯月「失礼します。凛ちゃんいますか」

ピコピコピコ…

卯月「?」

凛「ごめんね、もう帰る時間だっけ」

卯月「その手に持ってるのって……ゲーム機? 珍しいですね」

凛「うん、普段はこういうのあんまりやらないんだけどさ」

加蓮「私たち奈緒にどうしてもって誘われたんだ。協力プレイだと色々と効率が良いらしくて」

奈緒「凛! 敵がそっちに行ったぞ!」

凛「え、わっ」


ピコピコッ

加蓮「集中してよね。このクエストに挑戦するのもう3回目だよ。私早くストーリー進めたい」

凛「仕方ないでしょ。悔しいけど、1週間も前に始めた2人と違って私はまだ初心者なんだから」

奈緒「だべってる暇があるなら目の前のアイテムの収集を急いでくれ!」

卯月「……」

凛「ごめん卯月、この敵を倒し終わったら帰る準備するから……」

卯月「い、いえ、忙しいようなら今日は私1人で帰りますから」

奈緒「悪いな卯月」

卯月「いえ……お邪魔しました」

バタン


奈緒「おっ、今の凛の動きいい感じだったぞ」

凛「本当?」

奈緒「ああ。凛はセンスがあるよ、メキメキ上達してる」

加蓮「なにそれ、遠回しに私にはないって言ってるの?」

奈緒「あいや、そういう意味じゃなくてな……」

凛「ぼやぼやしてるとすぐに追い越しちゃうよ、加蓮先輩?」クスッ

加蓮「……もう怒った。次のクエストでどっちが多くダメージを与えられるか勝負だから」

凛「ふふ、受けて立つよ」

奈緒「おいおい、ゲームはチームプレイだぞ?」

アハハ…

卯月「……」


──卯月の家──

卯月「ねぇ、ママ」モジモジ

卯月母「どうしたの卯月。夕ご飯ならもうすぐ出来るわよ」

卯月「そうじゃなくてね。えっと、来月のおこずかいを今月にもらうことってできないかな?」

卯月母「前借り? 構わないけど、何に使うつもりなの」

卯月「……ゲームを買おうかなって思ってて」

卯月母「ゲーム?」

卯月「うん。携帯用ゲームなんだけど、機械とカセットを一緒に買うと今の貯金だけじゃ足りないんだ」

卯月母「ゲームが欲しいだなんて珍しいわね。友達から誘われたのかしら?」

卯月「いや、誘われたわけじゃないんだけど……」モジモジ


卯月母「何か事情があるみたいね。でも無駄遣いはダメよ?」

卯月「む、無駄遣いじゃないよ。……ちゃんと考えたもん」

卯月母「……ふふ、ますます珍しい。卯月がそこまでして買いたい事情って何かしら」

卯月「事情っていうか、なんていうか……」

卯月母「いいわ、パパにはママから言っておいてあげる。ちょうど今週末に電気屋さんに行くからその時卯月も一緒についてらっしゃい」

卯月「! うん!」

卯月母「でも買ったからには大切に使うのよ。安い買い物じゃないんだし、約束だからね?」

卯月「うんっ、ありがとうママ!」

タタタッ

卯月母「ゲームってまるっきり男の子の趣味よねぇ。ふふ、一緒に遊びたい人でもいるのかしら」


──週末──

タダイマー

卯月母「卯月、自分の部屋で開けてきたら」

卯月「うんっ」タタタッ

ガサゴソ

卯月「うわー。ゲームの箱ってこんなに頑丈になんだぁ」

卯月「出てきたっ。これがゲーム機で、こっちがカセットで、説明書によると……」

卯月「じ、字が細かいです……。これ全部読まないとダメなのかな?」


カチッ… ピコン

卯月「動いた! わー、起動の画面がかっこいいっ」

卯月「それにボタンがたくさんあって……ふふっ、パイロットになった気分」クスッ

卯月「ゲームが始まりましたっ。名前はウヅキ、と……」

卯月「チュートリアル? これを進めればいいんですかね」

ポチポチ ピコピコ

卯月「……」

卯月「……む、難しい」ガーン


卯月「まるボタンがビームで、ばつボタンがステップで……」

卯月「十字ポタンとスティックを……Lボタンを押すと視点が変わって……うぅ、覚えることがいっぱい」

卯月「凛ちゃんたちはすごいなぁ。私こんな難しいこと、できるようになるのかな」

卯月「……ううん、くじけちゃダメ。頑張って覚えて凛ちゃんたちの力になるんですっ」

卯月「絶対強くなって、みんなの役に立つんです!」グッ

卯月「だから頑張って操作を覚えるんですっ。島村卯月、頑張ります!」

ピコピコピコ…


──1週間後──

卯月(1週間経って、なんとか操作にも少し慣れることができました)

卯月(主人公のレベルも10まで上がったし、これで少しは凛ちゃんたちの役に立てますよねっ)

ガチャッ

凛「……」ピコピコ

卯月「おはようございます」

凛「あ、卯月。おはよう」パタン

卯月「ゲームやってたんですね?」

凛「うん、ごめんね。人が来る前に終わらせようと思ってたんだけど」

卯月「いえ……」ソワソワ

凛「?」


卯月「えっと、今どこらへんなんですか。ゲームの中で何をしてるんでしょうか?」

凛「うーん、どこらへんなんだろう。ストーリーは正直言ってあんまり覚えてないんだよね。ほら、奈緒と加蓮に追いつくのに必死で」

卯月「なるほど……」

凛「今もストーリーの攻略じゃなくて、レベル上げの方をやってたんだ」

卯月「レベル上げ?」

凛「私はまだレベルが20ぐらいしかないからさ」

卯月「20レベル! ……しかないって、もう十分過ぎるほど強いんじゃ?」

凛「まだまだだよ。奈緒と加蓮なんて50レベル以上あるもん」

卯月「ご、ごじゅうれべる!?」


凛「うん。追いつこうと思ったら、結構長い道のりだよね」

卯月「そ、そんなの何年かかっても到達できる気がしません……」

凛「何年は言い過ぎだけど……確かに2人と一緒にやってるだけじゃまず追いつけないと思う」

卯月「それで凛ちゃん、1人でレベル上げを?」

凛「そう。ゲームとはいえ、奈緒と加蓮の足は引っ張りたくないからさ」

卯月「……」

凛「誘われた身の私が、ここまで付き合う義理はないんだろうけど。でもだからと言って──」

凛「弱い人が一緒にゲームしても、相手はただ迷惑なだけでしょ」

卯月「……」


凛「あ、ごめんね。興味ないよね、ゲームの話なんて」

卯月「いえ……」

凛「?」

凛(なんだか卯月の様子が変だ)

凛「……卯月、後ろで組んだ手に何か持ってるの?」

卯月「え!?」

凛「さっきからずっと手を後ろに回しっぱなしだからさ」

卯月「あ、いや、何も持ってないです! 何も!」

凛「本当に?」

卯月「え、ええ。あははっ」コソコソ


凛「……なるほど。そういうことね」クスッ

卯月「ん?」

凛「私にイタズラを仕掛けようとしてるから様子が変なんでしょ。背中に隠してるのはクラッカー? それともびっくり箱?」

卯月「そんな、違いますよ……」

凛「ふふ、私にはお見通しだよ。きっと未央からの差し金だね。さ、その手にある物を見せてみて」スッ

卯月「いえ、あの……」

凛「ふーん、まだ隠すんだ?」

卯月「えっと、その……」

凛「卯月っ」ズイッ

卯月「きゃっ!」パッ

ヒュー…

ガシャーン!


卯月「あ……」

凛「え……?」

卯月「ゲーム機がバラバラに……」

凛「な、なんで卯月がそのゲーム機を持ってるの。カセットまで私達と同じだし」

卯月「……」

凛「よくわからないけど……卯月もそのゲーム持ってたんだね。ごめん、壊したゲーム機は必ず弁償するから」

卯月「……」

凛「ソフトの方のデータも消えちゃったかな。でもそれも必ず、私が元のレベルまで戻すから」


凛「卯月は何レベルだった?」

卯月「……10レベルです」

凛「そっか、良かった。10レベルなら半日くらいで元に戻せるね」


──卯月の部屋──

卯月「……」ボーッ

卯月母「卯月? 何してるの?」

卯月「あれ、ママ」

卯月母「さっきから何度もご飯って呼んでるのに、何ぼーっとしてるのよ」

卯月「えへへ。ごめん……」

卯月母「ゲームしてたわけでもないのね。もしかしてもう飽きちゃったのかしら」

卯月「……違うよ」

卯月母「違うならいいけど。ほら、ご飯食べるよ」


モグモグ

卯月(あんまりお腹空かないな)

 凛『弱い人が一緒にゲームしても、相手はただ迷惑なだけでしょ』
 
卯月「……」

卯月母「卯月?」

卯月「っち、違うよ! 凛ちゃんに悪気がなかったことぐらい私だって分かって……」

卯月母「凛ちゃんって?」

卯月「あ……」カァー

モグモグモグ!

卯月「ごちそうさまっ」

タタタ…


──3日後・夕方──

卯月「凛ちゃんお疲れさまです」

凛「うん、お疲れさま。これ、この間のやつ」スッ

卯月「あ、ありがとうございます」

凛「その袋にカセットも入ってるから。データも10レベル。それ以上進めても良かったんだけど、卯月の楽しみがなくなっちゃうと悪いと思って」

卯月「はい。ありがとうございます」ニコ

凛「……」

卯月「?」

凛「えっと、それでさ。もし良かったら私と──」


奈緒「凛!!」

ビクッ

凛「な、奈緒?」

奈緒「レッスン後、休憩室で一緒にゲームするって約束だろ。何やってんだお前!」

凛「あ、そうだったね。ごめん今いくよ」

卯月「ふふ。いってらっしゃい」

凛「……卯月も、一緒に来る?」

卯月「!」


 凛『弱い人が一緒にゲームしても、相手はただ迷惑なだけでしょ』
 
卯月「い、いえ。私は、遠慮しておきます……」

凛「……そう」

奈緒「凛!」

凛「今行くって! それじゃ、またね卯月」

タタタッ

卯月「……」


卯月「……だって、迷惑かけたくないもん」

杏「迷惑?」

卯月「きゃ!?」ビクッ

杏「おはよう卯月ちゃん」

卯月「あ、杏ちゃんっ。いつから事務所に……」

杏「ずっといたんだよ。ソファーの下で寝てたんだけど、ゲームがどうとか聞こえてきたから急に目が覚めてさ」

杏「何のゲームの話? その袋の中見せてもらっていい?」キラキラッ

卯月「ふふっ。はいどうぞ」


杏「お~っ、このゲームか!」ガサゴゾ

卯月「杏ちゃんも知ってるんですか」

杏「知ってるっていうか持ってるもんっ。100レベ・完クリ・フルコン。もう全部終わらせちゃったけどね」

卯月「ひゃくれべかんくりふるこん……?」グルグル

杏「でもこのゲームを卯月ちゃんが持ってるとは驚いたよ~。結構玄人向けのソフトだしさ。初心者には難しいゲームだったんじゃない?」

卯月「はい……レベルを10にするのに1週間もかかっちゃいました」エヘヘ

杏「ふーん」

卯月「遅い、ですよね」

杏「うん。めちゃ遅いね」バッサリ

卯月「うぅ……」


杏「でも楽しかったでしょ?」

卯月「え?」

杏「10レベルにするまでの道のりは、険しくも楽しいものだったでしょ!」ドヤ

卯月「えーと……ど、どうだったでしょうか……」

杏「つまんなかった? ほら、5レベで強制イベント起こるじゃん。序盤のくせにあのシーン結構感動的じゃなかった?」

卯月「イベント? すみません、私あんまりストーリーとかは見てなかったから」

杏「えー、もったいない。ストーリーが面白いゲームでもあるのに!」

卯月「そうなんですか?」

杏「そうなんですかって……じゃあ逆に聞くけど、卯月ちゃんは何を楽しみにしてこのゲームを買ったの?」

卯月「え……」

杏「お金を払って買ったからには、卯月ちゃんはこのゲームに何かを期待してたわけでしょ」

杏「卯月ちゃんはこのゲームが、どんなだったら良いなって思ってたの?」

卯月「……」


 ドカーン!

 奈緒『すごいっ。また卯月が敵をやっつけてくれたぞ!』

 加蓮『卯月がいてくれたおかげで、あんなに難しいボスが倒せちゃった!』
 
 卯月『うふふ……島村卯月頑張りましたっ』

 凛「ありがとう卯月。また卯月に助けられちゃったね」

 卯月『凛ちゃんっ。いえいえ、みんなとの協力があったから出来たことですよ!』

 凛『卯月がいてくれて良かった。私たちすごく助かってるよ』

 卯月『えへへ、私も凛ちゃんたちがいてくれて、とても助かってますっ』

 凛『うん。……ゲーム楽しいね、卯月』ニコッ
 
 卯月『うんっ、楽しいです、凛ちゃんっ!』


卯月「……」

杏「卯月ちゃん?」

卯月「私は、私はただ……みんなと、遊びたかっただけ、なんですけど……」

杏「?」

卯月「だけど同時に認められたくて。あっちからも、一緒に遊びたいって、思われたくて」

卯月「……」

杏「えぇ……う、卯月ちゃん。なんで泣いてるの?」

未央「おはよー」ガチャ

杏「げっ!」

未央「あー! 杏ちゃんがしまむーのこと泣かせてるー!」

杏「ち、違うよっ、杏じゃないよ! ち、違うよね卯月ちゃん?」


──控え室──

奈緒「っしゃー! クエスト成功!」

加蓮「やっと倒せた~っ。チームワーク完璧だったね」

奈緒「これがトライアドプリズムの力だ! いえーい!」キャッキャ

加蓮「奈緒ったらはしゃいじゃって……うふふっ」

凛「ふふ……こんなに子供っぽく喜ぶ奈緒って珍しいね。かわいい」ナデナデ

加蓮「うん。かーわいっ」ナデナデ

奈緒「なっ、ちょっ、やめろお前ら! 頭撫でるな~!」

アハハハ


凛「それじゃあ、私もう帰るね」

奈緒「えーっ、もうひとクエストやって行こうぜ?」

凛「ごめん、今日は先に帰らせて。2人は続けてやってていいからさ」

奈緒「2人だとクリアできるクエストが限られるだろ~。どうするよ加蓮?」

加蓮「うーん……アイテム収集クエストをやるのはどう? ほら、さっきのクエストで回復アイテムかなり消費しちゃったし」

奈緒「あー、確かに! それなら2人でも全然オッケーだしな。うん、それしようぜ」

凛「じゃあね2人とも」

奈緒「おう、また明日!」

加蓮「ばいばーい」


──事務所──

ガチャ

凛「……」

凛「……先に帰っちゃったか」

コツ

凛「わっ! 誰……って、プロデューサー」

凛「もう、後ろからいきなり現れないでよね。ビックリするじゃん」

凛「あ、うん。もう帰るとこだよ」

凛「……え? 車で送ってくれるの? ほんと?」

凛「ありがとう。それじゃあ頼んじゃおっかな」


ブロロロロ

凛「助かるよ。今から電車で帰ると、家に着くの結構遅くなっちゃうから」

凛「あ、うん。さっきまで奈緒と加蓮とゲームしてたんだ」

凛「最初は単に奈緒の手伝いってだけだったんだけど、そのうち私も加蓮もハマっちゃってね。今じゃ毎日残ってゲームしてるんだ」

凛「……そうだ、プロデューサーも始めてみない? あのゲーム4人まで同じクエストで遊べるから、私たちと一緒にプレイできるよ」

凛「奈緒も加蓮も喜ぶと思うし」

凛「え? 今から始めたら1人だけ弱くて、迷惑かけちゃうかもしれない?」

凛「……ふふ、何言ってるのプロデューサー」

凛「そんなこと、誰も気にしないよ」


──次の日──

ピコピコピコ…

卯月「……」

卯月母「入るわよ卯月ー。ってあら、こんな朝早くからゲーム?」

卯月「あ、ママおはよう」

卯月母「早起きは良いことだけど、あんまり熱中しすぎないようにね。朝ごはんできたからキリのいいところで降りてきなさい」

パタン

卯月「……もう朝なんだ。うぅ、目が痛いなぁ」


──事務所──

卯月「おはようございますっ」

未央「おっはーしまむー。……あれれ、なんでしまむーメガネかけてるの?」

卯月「伊達メガネです。ちょっと目が赤いので、隠そうかなと」

未央「ふーん? ものもらい?」

卯月「いえ違います。なんだろう……テレビを見すぎちゃったのかな?」アハハ…

未央「も~。しまむーといいしぶりんといい、アイドルなんだから体調管理には気を使わないとダメじゃんっ」

卯月「? 凛ちゃんもどこか悪いんですか?」

未央「寝不足だって言うんだよ。夜遅くまでゲームの説明書読んでいたらしくて」


──控え室──

凛「でね。まるボタンが攻撃で、ばつボタンがステップ。LとRは視点操作なの。やってみて」

奈緒「おいおい凛。そんないっぺんに説明したってわかんねーって。ほら、プロデューサーさん困ってるだろ」

加蓮「……ふ~ん? 奈緒、私たちにゲームの操作覚えさせてた時とは違って、プロデューサーには随分優しく教えたがるんだね?」

奈緒「なっ!?」

凛「……だね。奈緒ってばかなりスパルタだったのに、プロデューサー相手だと手取り足取りなんだ。ふーん」

奈緒「て、手も足も取ってねーだろ! それにプロデューサーさんはあたしらの上司で、忙しい時間の合間を縫って来てくれてんだから、態度が変わるのは当たり前だろーが!」

加蓮「そうやって早口で反論するところが怪しー」

奈緒「あ、怪しいって何がだよっ! 何も怪しくなんかねーよ!」カァァッ

加蓮(かわいい……)

凛「ま、もしわからない操作があったらいつでも私に聞いてよ。一応、説明書は改めて読み直してきたからさ」

加蓮「もちろん、私や奈緒にも声かけてもらって大丈夫だからね」

奈緒「一緒に強くなろうな、プロデューサー!」


──レッスン後──

アリガトウゴザイマシター

卯月(……なんとかレッスンが終わりました)

卯月(寝てないからかすごく疲れた……でも、帰ったらゲームしないと)

卯月(強くならないと……)

ガチャ

卯月(事務所には誰もいない。凛ちゃんはきっと、控え室で奈緒ちゃんたちとゲームですよね)

卯月「……」

 凛『弱い人が一緒にゲームしても、相手はただ迷惑なだけでしょ』

卯月(……島村卯月、頑張ります。頑張って、凛ちゃんたちに絶対認めてもらうんです……!)


ドカーンッ!

加蓮「あはははっ。プロデューサー! 派手にやられちゃったね~」

奈緒「もう少しステップが早く踏めてればな~」

凛「ふふっ。ま、これからだんだんと慣れていけばいいんじゃない? じっくり付き合うよ、プロデューサー」

加蓮「今日はもう遅いし、そろそろ帰ろっか」

ブロロロ…

奈緒「あたしたちはここで降りるよ。じゃあね凛」

加蓮「2人きりだからって、あんまりはしゃいじゃダメだよー?」

凛「はいはい。じゃあね2人とも」


ブロロロ…

凛「今日はありがとね。私たちとゲームやってくれて」

凛「奈緒とかすごく楽しそうだったし、加蓮も表情には出してないだけで内心絶対喜んでたよ」

凛「……私も嬉しかった。最近こういう時間ってほとんどなかったから」

凛「プロデューサー、明日も一緒にゲームしようね」

凛「……え? また今日みたいにすぐにやられて私たちに迷惑かけちゃうんじゃないかって?」

凛「ふふ、だから、そんなこと誰も気にしないって。プロデューサーは真面目だなぁ」

凛「……だけど、そのプロデューサーの考えはわからないでもないよ。私も自分がプロデューサーの立場だったらそういう風に考えるだろうし」

凛「大事な仲間だからこそ、気のおけない関係だからこそ、迷惑かけたくないって思っちゃうよね」

凛「……」


 凛『卯月も、一緒に来る?』

 卯月『い、いえ。私は、遠慮しておきます……』 

凛(もしかして、あの時の卯月も……)

──翌朝──

ガチャ

凛「おはよう」

未央「あ、しぶりんっ。おはよう……」オロオロ

凛「どしたの未央、そんな青い顔して」

未央「実は、しまむーが……」


──卯月の部屋──

卯月「ごほっごほっ」

卯月母「ゲームのやりすぎで体調を崩すなんて……完全に自業自得よ卯月」

卯月「ママ……事務所に……」

卯月母「もう連絡したわ。今日は1日ゆっくりしてなさい」

卯月「……」

卯月母「こんなことになるんなら、ゲームなんて買わなければよかったね」

バタン

卯月「……」


プルルルル

卯月「?」ピッ

卯月「はい、もしもし」

凛「もしもし」

卯月「あ、凛ちゃん。……すみません、今日のレッスンはお休みさせていただくことになって……」

凛「それはもう知ってる。電話したのはレッスンのことじゃないよ」

卯月「え?」

凛「……今からそっち行っていい?」

卯月「そっちって……わ、私の家にですか?」

凛「そう。お昼過ぎに向かうから、待ってて」

卯月「え、あ、はい……」


ガチャ

凛「おじゃまします」

卯月「凛ちゃんいらっしゃい。えへへ、ベッドに横になったままで失礼します」

凛「いいよ、そのまま安静にしてて。はいこれ、お見舞いのスポーツドリンク」ガサッ

卯月「わぁ、ありがとうございます」

凛「未央はポジパの収録が終わったら来るって。夜になるかも。私は今日、トライアドがなかったから」

卯月「すみません、お2人にはご迷惑をおかけしてしまって」

凛「別に迷惑だなんて思ってないよ。私たちは単に卯月の体調が心配なだけ」

卯月「……」

凛「未央から聞いたよ。最近あんまり元気ないんだってね。何か、悩み事?」

卯月「いえ、悩み事なんてそんな……」


凛「無理に話してとは言わないからさ、一緒にゲームしようよ。ゲームしながら、少し話そう?」

卯月「……」

ピコピコ

凛「おー、だいぶレベル上がってるね、卯月。すごいじゃん」

卯月「い、いえ、すごくなんか」

卯月(あれ、凛ちゃんのレベル、あんまり……)

凛「追い抜かれちゃったなぁ。最近はプロデューサーのレベル上げを手伝ってて、自分のレベリングやってなかったから」

卯月「……プロデューサーさん?」

凛「うん。最近はプロデューサーさん含めた4人でやることが多いんだ」

卯月「あ、そうなんですか」


凛「プロデューサーって自分が弱いこと気にしててさ。だから私も最近は抑えてたんだ、できれば一緒に強くなりたかったから」

凛「強い弱いなんて本当はどうでもいいんだけどね……あ、このクエスト受けよっか」

ピッ

凛「卯月、そっちに敵行ったよ」

卯月「あ、はい」

凛「よしっ。倒した。ナイスプレー、卯月」

卯月「ありがとうございます」

凛「次は一緒にアイテム集めしよっか。卯月、この回復アイテム持ってる?」

凛「このステージにはレアアイテムがあるんだ。確かこの角で決められたコマンドを入力すると……」

卯月「……」

凛「……私、今までゲームにはあんまり興味なかったけどさ」

凛「始めてみると結構楽しいよね、卯月」


卯月「……」

 卯月母『こんなことになるんなら、ゲームなんて買わなければよかったね』

凛「……卯月。卯月? どうしたのぼーっとして」

ドカーン

凛「あ、ほら。ぼーっとしてたら卯月のキャラ死んじゃったよ?」

卯月「……」

凛「卯月?」


──夕方──

凛「それじゃあ卯月。お大事に」

卯月「うん。今日は来てくれてありがとう、凛ちゃん」

バタン

卯月「……」ゴソゴソ

ガチャ

卯月母「卯月、凛ちゃん帰ったよ。ちゃんとお礼言った?……って、どうしたの、ゲームの箱なんて取り出して」

卯月「あっ、うん……しばらく、ゲームは、しまっておこうっかなって」

卯月母「……それがいいわね。片付け終わったらご飯にするから、下に降りてきてね」

卯月「うん」

卯月母「……卯月? 大丈夫?」

卯月「うん。ありがとう、ママ」


──夜──

卯月(ベッドに横になりながら、天井をじっと見つめてみた)

卯月(そうしてる間は、胸の中で渦巻くドロドロが、少しだけ薄くなる気がしたから)

卯月(……どうすればよかったのかな)

卯月(もっと素直になれればよかったのかな。最初から不釣り合いなものを望みすぎちゃったのかな)

卯月(こんなことで傷ついちゃうなんて、私ってすごく弱虫なのかな)

卯月(こんなことで嫌な気持ちになっちゃうなんて、私、凛ちゃんの友達失格かな)

卯月「……」

 卯月母『ゲームなんて買わなければよかったね』

卯月「……違うよママ」

卯月「買わなくても、結局私は泣いちゃってたんだ……きっと……」

卯月(目をつぶってしばらく経つと、私はいつの間にか眠りに落ちていた)


──数ヶ月後──

コンコン

卯月「失礼します。凛ちゃんいますか」

ピコピコピコ…

卯月「?」

凛「あ、卯月。ごめんね、もう帰る時間だっけ」

卯月「凛ちゃん。ゲームしてたんですか?」

凛「うん、前に卯月もやってたゲームとは別のやつなんだけど。また奈緒に誘われちゃってさ」

加蓮「性懲りも無く付き合わされてるんだよ~」

奈緒「なんだ、よ2人だって楽しんでるくせに!

卯月「……」


奈緒「そうだ卯月。よかったらお前も、一緒に始めてみないか?」

卯月「え?」

加蓮「あ、いいねそれ。まだ始めたばっかだから卯月もすぐに追いつけるよ!」

奈緒「やろうぜ卯月、人は多ければ多いほどいいんだ!」

凛「ちょっと2人とも、無理に誘わないの。……どうかな卯月。卯月さえ良ければ私たちと一緒に──」

卯月「ごめんなさい」

凛「……え?」

卯月「すみませんが、私は遠慮しておきます。私、こういうの疎くって」アハハ

奈緒「そうか。残念だが、そういうことなら仕方ないな」

加蓮「なんかごめんね。気遣わせちゃって」

卯月「とんでもありません、誘ってくれてありがとうございました」ペコ

凛「……」ポカーン


卯月「それじゃあ凛ちゃん。また明日」

凛「あっ、うん。お疲れ様……」

バタン

凛「……」

奈緒「……なんか変わったな。卯月のやつ。こう言っちゃなんだけど、断られるとは思ってなかったよ」

加蓮「うん。でも今の卯月の方が好きだな。こっちの目を見て、ちゃんと自分の言葉で否定してくれたから」

凛「……」

奈緒「なにポケーッとしてるんだ凛?」

凛「えっ?」

加蓮「どうせ凛は『自分も誘えば断るはずない』とか思ってて、驚いてるんでしょ」クス

凛「ち、違うよっ! だ、だけど、その……」

凛「……」

凛「……ごめんね2人とも。私、やっぱり帰るから!」ダッ


──外──

未央「しーまむー!」

卯月「?」

未央「やっほー。今帰りかい?」

卯月「あ、未央ちゃんっ。お疲れ様です」

未央「お疲れっ。あれ、しぶりんは?」

卯月「えへへ、断られちゃいました。凛ちゃんはこれからみんなでゲームをするみたいです」

未央「そっか、しぶりんゲームかぁ」

卯月「はい。なので仕方ありません」

未央「寂しいね」

卯月「そうですねぇ」


未央「……」

卯月「? どうかしましたか?」

未央「ううん。なんかしまむーの横顔がどことなく……大人っぽくなったって」

卯月「え、そうですか?」

未央「でも、どこが変わったんだろう。背も変わってないし、髪型も同じだし……」

卯月「……多分、何も変わってないんじゃないかな」

未央「へ?」

卯月「きっと、何も変わってないんです。……だってあんなの、不幸でもなんでもない、普通の出来事なんですから」


タタタッ

凛「卯月!」

卯月「あ、凛ちゃん」

未央「しぶりんっ。久しぶり」

凛「未央、久しぶり。2人とも今帰るところだよね。私も混ぜてもらっていいかな?」ハァハァ

卯月「もちろんですっ」

未央「えへへ。寂しくなっちゃったの? 可愛いところあるなぁ」

凛「もう、茶化さないでよ。……2人は最近何やってるの?」

未央「お、聞いてくれちゃう? 私はね、最近舞台のオーディションに受かって……」


──卯月の部屋──

卯月母「またあの子ったらこんなに散らかして!」

卯月母「いつまでたっても子供なんだからもぉ~」ガサガサ

卯月母「……あれ、ゲームの箱が机の上に出してあるわ」

卯月母「飽きてから一度も使ってないかと思ってたけど、たまには遊ぶこともあるのね。ちょっと安心した」

卯月母「でもそもそも、なんで卯月はゲームを始めたのかしら。男の子と一緒に遊びたかったから? 単に趣味が変わった? それとも別の理由が?」

卯月母「……」

卯月母「……気になるけど、聞くようなことじゃないわよね」

卯月母「親の知らない間に子供は変わっていくものなんだから」


タダイマー

卯月母「あ、おかえり卯月!」

卯月母「今部屋の掃除をしてたんだよ。全く卯月は、相変わらず部屋をちらかして……」



おわり


お疲れさまでした

見てくださった方、ありがとうございました


もしかして蒼い痕とか髪を梳かす理由とかの人かな? 今回の話もよかった
違ったらスマソ


みんなの気持ちがわかるだけに切ないな…

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