男「鬱だ死のう」死神「命を粗末にしてはダメよ!」 (13)

――男の部屋――

PC『――が午前2時ぐらいをお知らせします』

カタカタカタカタ

男「……」

PC『あんっあんっ……!』

男「ぷっ……ぐふふっ……」

男「……」

男「……ふう」

男「……」


男「何やってんだろ、俺。むなしい……鬱だ死のう」


男「ん、丁度手元に麻縄が……。丁度いい、これで首吊って死ぬか……」

男「意外と引っ掛けられそうな場所がないな……カーテンレールでいいか」

男「よし、準備OK……」

男「後はひと思いに……」

スゥ

死神「こらー!」

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ガシッ

男「ぶおっ!?」

ギュウウウ

死神「勝手に死んでもらっては困るわ! 貴様の死期はまだ先なんだから!」

ギュウウウ

男「お、おごごごごごごごッ」

死神「命を粗末にしてはダメよ!」

ブチッ

男「ゲホゲホゲホッ……」

死神「まったく、今後は気をつけなさい」

男「お、お前っ! いきなり現れて足ひっぱんじゃねえよ! 縄が切れなかったら危うく死んでいたとこだぞ!」

死神「自分で死のうとしたクセに何言ってるのよ?」

男「は!? 何で俺が首吊って死ななきゃいけないんだよ!」

男(ってアレ? そういやさっき、俺……自分で首を吊ろうとしてたような)

男「そ、そういやそうだ。たまたま手近に縄があって……気付いたらそれで首を吊ろうとしてたんだ……」

死神「ふぅん。つまり、さっきの自殺未遂は貴様の意思ではなかったと?」

男「あ、ああ」

死神「……、なるほどね」

男「……」

男「って! つーかお前、誰!? 何勝手に俺の部屋に侵入してんの!?」

死神「私はしがない死神よ。細かいことは後で」

男「何か死神とか言ってるし! ちょっと頭おかしいんじゃないのこいつ! それっぽいコスにそれっぽい大鎌まで装備してるし!」

死神「静かに!」

男「は、はい」

ざわぁ・・

死神「どうやら、貴様を死に引きずりこもうとした元凶がまだそこにいるようだ」

男「お、俺を……死に?」

死神「そう。ヤツは人間の精神を操って自ら首を括らせ、しまいには自殺に追い込むの」

死神「閻魔帳に記載のない想定外の首吊り自殺には、ヤツが関与していたと思われるものが多々あるわ」

男「……じとー」

死神「な、何よ?」

男「厨二乙」

ボカッ

男「ぐあっ!?」

死神「意味は分からないけれど無性に侮辱されている気がするわね」

グリグリ

男「うおっ! 鎌の柄先が俺の……! あああっ! 死ぬう!」

死神「この程度で死ぬわけないでしょ」

ズズズズズ……


男「!? ……何だ、急に寒気が」

男「! 突然PCが落ちた! 明かりが……停電か?」

死神「男、そのカーテンを開けてみなさい」

男「えっ」

死神「早く」

男「いや、何か凄まじい悪寒を感じるんだが……俺の生存本能がカーテンに近づくのを全力で拒否しているといいますか」

死神「早く開けないと魂を抜きとってお手玉して玉乗りするわよ?」

男「ラ、ラジャー……」

シャアアアアン


縊鬼「んっふ~ん」

男「ギャアアアッ!?」

死神「やはり、縊鬼(クビレオニ)の仕業か」

縊鬼「あらヤダ、あんた死神なの? やーね、あたしの邪魔をしに来たわけ?」

死神「貴様のやっている行為は、我々死神の職分に対する妨害行為なのよね。魂の管理者は死神だけで十分よ」

縊鬼「こんの小娘が、イキがってるんじゃあないわよ! もともとはあたしたちの方が格上だったってのに!」

死神「ふーんそうなの。でも中国で名を馳せていた時代に比べたら随分と落ちぶれたんじゃないの? 今じゃただの妖怪風情になり下がってるしね」

縊鬼「ッ! くぉんのクソガキが! ブチ殺すぞ!!」

死神「やれるものならやってみなさいよ!」

男「えーと、……ちょっといいか」

死神「何よもう。今取り込み中なの、後にしてくれない?」

男「お、俺はさっき……そこの黒髪ロングニューハーフ系般若顔クリーチャーに……操られて?」

縊鬼「そうよぉ。……一目惚れだったの。あらヤダ、言っちゃった……恥ずかしいっ!」

男「」

縊鬼「それでね、一緒に心中したくてしたく仕方なくてぇ……『首をククレククレ』って念を送ってたの。それ用の縄も用意しておいたし」

死神「心中? 人間だったころの貴様はもうとっくに死んでるでしょ?」

縊鬼「ええそうよ? だから何? あたしは気に入った男のヒトに添い遂げて……一緒に首を吊ってイクのが唯一の楽しみなのよ! 悪い!?」

男「あ、あなおそろしや……」

死神「始末に負えないわ。その業の深い魂――私が狩り取ってあげる」

ダッ

縊鬼「ニヤリ」

パリーン

男「やったか!?……って窓ガラスがーっ! 鎌って普通に物理攻撃かよ!?」

死神「――消えた?」

ヒュルヒュルヒュル

男「う、後ろだ!」

死神「な!」

ギリギリギリギリ

死神「ぐ……ぅ……」

ドサッ

縊鬼「つっかまえたぁ~。あたしはウン百年も現世に留まって来たのよ~。気配を隠す術くらい身につけてるわ」

男(くっ……死神がニューハーフに羽交い絞めに!)

男(まずいぞ! このままじゃ、あの娘の命が……! ……あれ、そもそも死神って生きてるのか死んでるのか分かんねえ)

縊鬼「あんたは直に絞め殺してやるわ……!」

死神「む……ぐっ……」

男「!」

男(死神が目で俺に何か合図を? ……! そうか、落とした鎌を拾えってことか)

男(死神の鎌ならこのニューハーフを倒せるかもしれない。いや、出来るに違いない!)

男(奴は死神の相手をしていてこちらに注意払っていない。チャンスだ)

ガシッ

男「任せろ死神! 今、コイツでそのバケモンをぶった切ってや――って刃先が床に深く刺さって抜けねえ!?」

縊鬼「むっ」

死神「……ガクッ」

縊鬼「あらあらあらあら、男さん。ムダな抵抗はよしなさいよぉ~!」

ズズズズズ

男(うわっ来る!)

縊鬼「死神の小娘は気絶しちゃったようだし。先に儀式の続きといこうじゃないのぉ!」

男「ッ……よくも死神を……!」

男「てめぇ! クソッ抜けろぉぉぉおおおおおっ!!」

縊鬼「ぬふふふふふふふ」

男「おおおおおおおおッ!!」

縊鬼「無駄なのよぉぉーお”お”ッ!?」

ギチィィィィ

縊鬼「ぐえええええっ!!?」

男「!!」

死神「私だってそこまでヤワじゃないわよ、この妖怪ババア! いや、ジジイかな」

縊鬼「あ、ぐっ……首がっ……!」

男「その縄は、さっき俺が首吊りに使ってた……!」

死神「咄嗟に拾っておいたわ。切れちゃったとはいえ、輪状にした部分が残っているから長さは十分よ」

死神「コイツのように、一度死んだ後で怨念を残して変化した輩はね。もう一度、同じ死に方を味わわせれば成仏させられるの」

男「マジかよ! あっようやく鎌が抜けたぞ!」

死神「でも手っ取り早いほうがいいわ。こっちに鎌を放って!」

男「お、おう!」

パシッ

死神「ふっ」

縊鬼「ま、待ちな……さい……よ。あ……たし……には……まだ……未練が……」

縊鬼「一緒に……心中しよう……って……約束……したのに……あの男性(ヒト)は……」

縊鬼「逃げた……のよ。……騙され……た……そう、思った……」

縊鬼「だ、から……あた……しは……恨めしくて……恨めしくて……それ……で……」

男「……」

死神「あっそう」


スパ――――ン


縊鬼「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

シュゥウウウ

男「な……」

死神「ふう、一丁あがり。ん、何よ、そんな浮かない顔をして。不慮の死を遂げずに済んだんだから喜べばいいじゃないの」

男「で、でもさ……」

男「ニューハーフにも、ニューハーフなりの理由があったみたいだし」

男「こういう形で容赦なく、その……倒して……良かったのかなってさ」

死神「馬鹿ね。妖怪は説得してどうにかなるような甘っちょろいモノじゃないわ」

死神「ここで見逃しても、また性懲りもなく人間を襲う。何度も何度も。それが貴様であるか他の者であるかはさておきね」

男「……」

死神「それに、縊鬼を殺さない限り、元の人間の魂はいつまでも苦しみのたうち現世を彷徨って成仏出来ないの。だから、これで救済になったの」

男「はあ……。よく分からんが、そういうことなら」

死神「邪魔な妖怪連中が蔓延ってると、魂の管理に支障が生じるから本当に面倒なのよね」

男「死神もたいへんなんだな……」

死神「さーてと、そろそろ私は行くわ」

男「え? ちょっと待ってくれよ」

死神「これ以上、何?」

男「いやその、『詳しい話は後でする』って最初に言ってただろ?」

死神「かなり込み入った話までしてあげたんだから、もう十分でしょ? ……それに」

男「んー……それもそうか」

死神「でもまあ、縊鬼退治に手を貸してもらったっていうのもあるし」

死神「特別に、貴様の死期を教えてあげてもいいけど?」

男「えっ!?」

死神「どう、聞きたい? 別に嫌なら言わないわ」

男「え、ええーと。興味はあるけど……正確にわかるのか?」

死神「当然よ。ちゃんと閻魔帳に載ってるんだから」

シャッシャッ

男「それが閻魔帳ってやつ? アイパッドに見えるんだが」

死神「冥府でも文書管理の電子化が進んでるから」

男「そ、そうなんだ」

死神「えーとね、貴様の死亡予定は……」

男「わっ! 待って言わないで! やっぱ心の準備が!」

死神「……。今後100年以内に確実に死ぬわ」

男「いや、そりゃそうだろ……」

死神「ふふ。先は見えない方がいいのよね。見えないからこそ、生き甲斐があるんだと思わない?」

男「んー、それは……」

死神「まあ、せいぜい寿命がくるまで生きなさい。今この瞬間にも私の仲間が迎えている死者(だれか)の命のぶんも、ね」

男「……。ああ、そうだな。俺は天命を全うするさ。今度は、他の奴に惑わされないように気をつける」

死神「そう、なら安心ね」


死神「じゃ、また会う日まで――さよなら、男さん」

男「バイバイ――死神さん」


――――――――
――

~未明~

男「zzz……、ハッ」

男「何だ……夢……だったのか?」

男「PCつけたまま寝落ちしちまったんだな……うわ」

『あーっ……ンアッー……!』

男「……こんな動画見てたのかよ昨日の俺……いや、時間的には今日の俺か」

ヒュゥゥ

男「ん?」

男(窓ガラスが粉々に割れてる……)

男(そっか。あれは夢じゃあなかったんだな)


男「よし。何つーか、ははは、頑張ってみるか。こんな俺だけど」

男「いつか、その時が来るまで――」


男(ふあーあ……眠いしもうちょっと寝るか)

ザッ

男(ん、誰だ? さっきの死神?)

ギュゥゥゥゥウウウ

男「あぁぁ・・っ・・・・っ・・・・・!?」

ギリギリギリギリ

男「ゴ・・・・ガ・・・・・ァ・・・・・・」

母「男……母さんもすぐに一緒にいくからね」

――――――――
――


死神「言ったでしょ、100年以内に確実に死ぬって。それは100年後かもしれないし、1秒後かもしれないの」

死神「閻魔帳に記された予定通りの時間。1分1秒でもずれたら始末書モノだから神経使うわね」

死神「……何で言わないでもいいことを言っちゃったのかしら」

死神「悪霊や妖怪よりも、私のほうがよっぽどタチが悪いかもしれないわね」

死神「……さてと、男の魂を迎えに行きましょうか。恨みつらみを残して、現世に留まり続けないように」


「本日午前8時過ぎ、東京都板橋区△△の民家で無職の男性(33)が仰向けになって倒れているのが発見され、病院に運ばれましたが間もなく死亡が確認されました。

死因は窒息死とみられ、通報した男性の母親(62)は、

『寝ている息子の首をロープで絞めた。自分も死のうと思ったが怖くて死ねなかった』

などと供述しており、警察では無理心中を図った可能性もあるとみて捜査を続けています」






                                               (終)

胸糞エンドかあ

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