ファンとのふれあい! 脇山珠美編 (18)

・書けたから投下
・これでシリーズ終わるかもしれません
・前作を読む必要はありません

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二宮飛鳥単独合同SS会場


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彼は、古びた道場の中心に座していた。

年の頃は32。

剣道の師範を勤め、生計を立てている。

彼は一人の少女を待っていた。

脇山珠美。

美城プロダクション所属。 デビュー前。

9月20日生まれ、16歳。乙女座。B型。

145cm、38kg。

彼女を、待っていた。

彼は珠美の、剣道の師だった。

そして、剣士としての彼女の、第一のファンだった。

初めて出会った時の感動。

彼を遥かにしのぐ天賦の才。

真摯に修行に取り組む精神。

体格からは想像もつかない、勇猛果敢な戦い方。

脇山珠美に剣を教えられたことは、

彼にとって望外の喜びだった。

だからこそ、彼女から“アイドルになった”と打ち明けられた時、

彼は困惑した。

街で歩いていたら、突然スカウトされたのだという。

しかも相手は、天下の美城プロダクション。

騙されていると思った。

しかし、美城プロダクションに確認を取ると、

たしかに脇山珠美は候補生として所属扱いになっていた。


彼ははじめ、“なぜ自分に相談もせず”と憤った。

だがしばらく考えてみると、当然とも思った。

年頃の少女にとって、剣道の修行漬けの毎日は不毛である。

そして、剣道は道場経営・大学専属コーチなどを除けば、金にならない。

さらにその経営者、コーチの大半は男性で占められている。

日本は、女性が剣一本では食っていける社会ではない。

アイドルになりたいというなら、

少しくらい夢を見させてやってもいいではないか。

別に、デビューできると決まったわけでもない……。

だが彼の予想に反して、脇山珠美のデビューは

トントン拍子に決定した。

彼は驚きながらも、妙に納得するところがあった。

脇山珠美は愛らしい少女だ。

さらっと爽やかな栗色の毛。

ぱっちりとした瞳。

形の良い、小さな鼻

笑顔が似合う、やわらかな頬。

プロポーションはこれからに期待、といったところだが。

加え、物事に手を抜かない、手を抜けない実直さ。

きっと養成所で、めきめきと頭角を現していったのだろう。

デビューの予定が定まったとなると、彼は一層、

脇山珠美の才が惜しくなった。

彼女はアイドルになる決めた時から、道場に顔を出す頻度が下がった。

一流の武芸者が1日修行を怠ると、勘を取り戻すのに3日かかる。

1週間休むと丸々1ヶ月。

1ヶ月以上休むと、いくら才能があっても錆び付く。

半年以上となると、もう使い物にならない。

懸命に修行に取り組んでも、前と同程度に届けば幸い、

大抵は第一線から置いていかれ、必ず後悔する。

彼は脇山珠美に、“アイドルになるのをやめてくれ”と頼んだ。

彼女が剣のみに生きてくれるなら、いずれ道場を譲ってもよいとさえ思った。

雇ってもらえるよう各大学に土下座しても構わない。

それも無理なら、一生かけて彼女を養うつもりだった。

だが、彼女の意志は固かった。

彼女は脇山珠美だから。

彼は断られるのは予想していた。

なので、“自分から一本を取れたら、アイドルになってもいい”と言った。

とんでもない横暴。パワーハラスメントの極み。

これしか策が思いつかなった。

彼は一度も、脇山珠美に負けたことはない。

彼女に才があるとはいえ、体格で大きく優っているし、

なにより経験が違う。

だが、脇山珠美はその条件を飲んだ。

道場の、立て付けの悪い戸が開く。

脇山珠美がやってきた。

きたな。彼は言った。

きました。彼女は言った。

それからは言葉もなく、両者は防具を身につけた。

道場の中心で向かい合う。

彼の体格は169cm、68kg。

男としては大柄ではないが、脇山珠美に比べれば優位。

同時に振れば先に届く。

彼は中段に構えた。

対して、脇山珠美は大上段に構えた。

彼は驚いた。

大上段は、振り上げの動作を先取りするため攻撃に移りやすい。

その一方で、面と胴が完全に空く。

つまり、相手の攻撃が先に届くような状況で取る構えではない。

脇山珠美には、あるのだ。

師より速く、正確に打ち込む自信が。

舐めるなよ。

彼は奥歯を噛んで、ジリジリと距離を詰めた。

こちらからは初手は取らない。

脇山珠美からの攻撃を、全て弾く。

アイドルになるという心を完全に折ってから、倒す。

脇山珠美が踏み込み、振り下ろす。

彼は受け止めた。

そして驚愕する。

以前は竹刀の中心で受けていたのに、

今は鍔競りの形になっている。

格段に速くなっている。

さらに威力も向上している。

剣に体重を、余すところなく乗せているのだ。

間合いの優位は消失した。

だがそれでも。

彼は竹刀を押して、脇山珠美を突き放した。

力はまだ彼の方が上。

もっと、もっと打ち込んでこい。

彼は竹刀を小さく振った。

それに合わせるように、脇山珠美が動く。

左からの胴。

これも防ぐ。だが、彼は腕に痺れを覚えた。

彼の知っている脇山珠美の動きは、よく言えば剛直、

悪く言えば、直線的で分かりやすい。

だが、現在は流水のようになめらかで、非常に読み辛い。

体さばき、重心の移動が格段に上手くなっている。

それでも彼は、攻撃を仕掛けない。

相手の倍の年月を生きて、剣だけに生きてきた。

アイドルが……。

次に繰り出されたのは、裏からの払い。

彼はやや下がり、竹刀を合わせる。

小手を狙われていた。

彼の首筋に、じわりと汗が流れる

脇山珠美の身体が、やけに大きく見える。

彼は威圧され、ゆえに無意識に後退してしまった。

払い小手の回避は、その無意識に助けられた。

しかし身体を襲うプレッシャーは、集中力を蝕み、

体力を著しく消耗させる。

彼はその後、数度攻撃をしのいだが、息切れを起こしてしまった。

こんなことは初めてだった。

一方の脇山珠美は、呼吸も構えも全く乱れていない。

養成所でのレッスン。

不適合者を容赦なく振り落とす、地獄の有酸素運動の毎日。

脇山珠美は、それをくぐり抜けた。

彼は余裕を失い、先ほどの決意も忘れ、自分から打ち込んだ。

面から竹刀を合わせての、払い胴。

だが脇山珠美は、師よりも一歩先に踏み込み、華麗に面を決めた。

いくのか。彼は道場の中心で仰向けになり、肩で息をしながら言った。

いってきます。彼女は戸を静かに開き、道場から去った。

実に、良い笑顔だった。

アイドルになれば剣道が強くなるのだろうか。

俺も強くなりたい、と彼は呟いた。

すると、戸が開いた。

「力が……欲しいか」

彼がそちらに顔を向けると、黒いスーツの男が、

直立不動で名刺を差し出していた。

おわり

過去を捏造してすいませんでした

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