未央「しぶりんとしまむーのやる気が無い?」 (43)

NGと少しTPのSSです。総選挙の話と少しのシリアスです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1527259384

 いつか一番になりたい、という甘えた考えはいつからか、今すぐ一番になってみせるという想いに変わっていた。
それでも、そう上手くは行かない訳で。今回の総選挙で私、本田未央は惜しくも二位という結果になったのだった。

 いや、惜しくもと言う表現は少し改めなくてはならない。まず、応援してくれたファンの皆が居てくれるからこの順位なのであって、
それを一位では無いからと言って惜しむようなことはしたくない。
そして、と言うよりこっちの方が本音なのだが、今回の総選挙で一位になるにはあまりにも大きな壁が立ちはだかっていて、
これは勝てないな、と思ってしまったのだ。勿論それで手を抜いたり何てしてないし、私は私が出来る最高のアイドルであり続けた。
でも、それでも菜々さんはそれ以上に凄かった。あの瞬間の菜々さんは歴代のシンデレラガール、いや、今までのどんなアイドルよりも輝いていたと思う。
それは皆分かってたし、今回は菜々さんで決まりだろうって空気があったのが現実で。
私は沢山の応援を受けたけれど、菜々さんはそれを圧倒的に上回ってシンデレラガールとなったのだ。

 ……悔しいに、決まっている。私だって頑張ってきたんだ。目指すは一番、色んな期待を背負ってきたし、私も一番になりたかった。
それが、結果だけ見たら大きく差をつけられての二位。応援してくれた皆には決して、二位でごめんなんて情けない事は言わないけれど、
でも心の片隅でそう思ってしまう自分が居るのも否定できなかった。

 そんな状態でも私が二日足らずで現場復帰できたのは菜々さんのお陰でもある。あれだけ最っ高に輝いていた菜々さんと、
一位になって、涙ぐみながら喜びを口にする菜々さんと。そのどちらも私の心に響くものがあって、
結果発表の日は心の底から菜々さんにおめでとうと言えたぐらいだった。
そんな風に後に残らないような日だったから、結果発表翌日は一日中気が抜けてしまったけれど、
その次の日にはもう、私も同じ所を目標にまた頑張り続けようと思えたのだった。

 そう、私はけりをつけて、さあまたこれからだと事務所を訪れたのだが。

未央「何してるの?しぶりん」

凛「ん、んー」

未央「え、何?どうしたの?」

凛「……あー、未央。おはよ」

未央「うん、できればその挨拶はしぶりんが起きた状態で聞きたかったかな」

凛「そうだね。……うん」

未央「あ、相槌打ってもソファからは起きないんだね」

凛「……そうだね」

 何だろう、このしぶりんは。前提として、レッスンで凄く疲れてる時も冗談を言う時も、しぶりんは基本的に事務所では横になったりしない。
そのしぶりんが目の前でぐったりとソファに横たわっているというのだ。こんな風にソファに寝っ転がるしぶりんはそうそうお目にかかれない光景である。
まあ誰かの家とかなら見られるけど。と、それは兎も角。今日は本当にどうしたと言うのだろう。
また何かおふざけでも仕掛けてきているのかとも考えたけど、たまに来る面倒臭いときの絡みじゃ無くて、ただ単に気が抜けているような……。

卯月「おはようございます……、あ、未央ちゃんと凛ちゃんだぁ~」

未央「しまむー、おはよっ!って、うん?」

 今何か凄い違和感が。

卯月「あ~、凛ちゃん寝てるんですかぁ?ちょっと詰めて下さい~」

凛「幾ら卯月の頼みでも、それは出来ないかな」

卯月「残念です……。じゃあ上に失礼しますね」

凛「……うん、どうぞ」

未央「ってちょっとまって!?何!?二人ともどうしたの!?」

 違和感どころの騒ぎでは無かった。明らかに二人が異常だ。

卯月「未央ちゃんは、元気なんですね……」

未央「元気って言うか、二人が元気無さ過ぎなんでしょ!?」

凛「ふーん……」

未央「ふーんじゃないよ!え、何、今日はどうしたの!?」

凛「どうしたのって聞くの、三回目だよ未央」

未央「数えなくて良いよ!」

卯月「単調なツッコミは良くないですよ未央ちゃん」

未央「なんの指摘なの!?」

未央「いや、いやいや、何?何かあったの?」

凛「別に……」

未央「沢尻さんかよ!」

卯月「ちょっと古いですね」

未央「だから何の指摘なの!?」

 困った、今日はしまむーも変な日だ。
いつもはしまむーがしぶりんの変になった理由を見つけてくれるというのに、こうなってしまっては頼る相手が居ない。
いや、まあ、正直理由は何となく察しが付くのだけれど、それを私が自分で言うのも少し気が引けるというか。
もう少し話したら向こうから理由を話してくれるかも知れない、という淡い期待を胸に、会話を続ける事にした。

凛「何か考え込んでたみたいだけど、どうしたの?」

未央「どうしたのはさっきから言ってるけどこっちの台詞だからね」

卯月「きっと私達がどうしてだらけてるか考えてたんですよ」

凛「なるほど。ごめんね未央、気を遣わせて」

卯月「ごめんなさい、未央ちゃん」

未央「そのパンダの親子みたいな状態でよく謝れるよね」

凛「まあ気を使う達人の未央だから、大体察しが付いてると思うけど」

未央「太極拳を極めたみたいな言い方やめて」

凛「私達は今やる気が99%カットされた状態だから」

未央「それは見たら誰でも分かると思う」

卯月「凛ちゃん凛ちゃん、未央ちゃんが聞きたいのはそういう事じゃ無いと思いますよ?」

未央「そうだね」

卯月「未央ちゃんが聞きたいのは、どうして私達がこんな風になってるかですよね?」

未央「そういう事だね」

卯月「いいですか未央ちゃん、私達がこうなっているのは」

未央「いるのは?」

卯月「やる気が99%カットされているからですよ」

未央「うん、聞いた、それさっき聞いたから。後、聞きたいのはそれじゃ無いから」

凛「もしかして未央、怒ってる?」

未央「怒ってるか怒ってないかで言えば、怒ってる方だと思うけど」

凛「怒ってないか、やや怒ってないか、どちらでも無いかで言えば?」

未央「アンケートか。いや、それにしても選択肢が作為的すぎるでしょ」

卯月「もしかして未央ちゃん、怒ってますんか?」

未央「その冗談、疑問系にするとカオスになるからやめてくれない?」

凛「どうしよう卯月、未央怒ってるよ」

卯月「どうしましょう凛ちゃん」

未央「普通に戻ればいいんじゃないかな」

 ……ふう。こうなった二人を相手するのがこんなに大変だとは思ってなかった。
普段の冗談みたいに、ちょっと話をすれば戻ってくれるはずと見くびっていたのかも知れない。いや、見くびるって何なの?という話なのだけれど。
取り敢えず二人が相当根深くやる気が無いのは分かったけれど、これは元に戻るのに時間がかかる事も分かってしまった。
誰か助けてはくれないだろうか。と、考えていたら、祈りが通じたのかタイミング良く事務所の扉が開いた。

美優「おはようございます、あら?」

未央「あっ、みゆみゆ、おはよ!」

美優「ええ、おはよう……」

凛「ふ~ん」グデー

卯月「ぴにゃ~」グダー

美優「……、ええっと」

未央「みゆみゆ、ちょっとお願いが」

美優「ふふっ、ごゆっくりね、未央ちゃん」

未央「ああっ、待って!行かないで!」

美優「お邪魔しても悪いし……ね?」

未央「そんな事無いよ!さあ一緒にお話しよ!?ね、ね!?」

美優「いえいえそんな、ユニット水入らずじゃ無いですか」

未央「いやほんと全然気にしないから、待って何で扉に手を掛けるのお願い一人にしないで!」

美優「ンフッ……、それじゃあまたね、未央ちゃん」

未央「今笑ったでしょ!あっ」

 バタン、と無情にも扉は閉められ、三人だけの空間になってしまった。
全く、みゆみゆはいつも気遣うフリをして面倒な時のしぶりんを回避していく。たまには私を助けて欲しいものだ。
っていうか最後ちょっと笑ってたよね?

凛「未央、楽しそうに話してたね」

未央「どう見たらそう見えたのかな」

卯月「あんなに沢山お話ししてて、ちょっと妬いちゃいます」

未央「もしかして耳に何か詰まってたりするのかな?」

卯月「もうっ、未央ちゃんったら。私達はいつでも以心伝心ですよ?」

未央「以心伝心どころか意思疎通すら出来てないけどね」

凛「私達の距離繋ぐテレパシー、だよ」

未央「どこかの歌詞からそれっぽく引っ張ってくるのやめてよ」

卯月「ちょっと古いですね」

未央「始めに言い出したのはしまむーだからね、分かってる?」

 埒が明かない。いい加減、どうにかしないと私がどうにかなってしまいそうだ。
仕方が無いのでそろそろ本題を聞き出そうかという時に、またガチャリと扉が開かれる。

奈緖「おはよーっす、って、ああ……」

未央「おはよう、何か訳知り顔のかみやん」

奈緖「うわっ!何怖い顔してんだよ未央!」

 私はそっとソファの方を指し示す。

凛「ねえ卯月、分け尻顔ってひどい言葉だと思わない?」

卯月「少なくとも、アイドルが言われる言葉じゃ無いですし、言っていい言葉でもありませんね」

未央「……分かった?」

奈緖「思ってたよりひどかった」

未央「どうやらかみやんは事情を知ってそうだね?」

奈緖「ああ、まあな。二人とは昨日会ったし」

未央「じゃあ、どうしてあんな風になってるか教えてくんない?」

奈緖「あー、えっと、だな」

未央「?」

奈緖「あんまこういう事言いたくないけどさ、分かってる奴に何を教えたら良いんだ?」

未央「えっ……、うん、そうだね、ごめん」

奈緖「ああ、違う違う!怒ってるわけじゃ無いんだよ、その、何だ、大体察するしさ」

未央「いやぁ、何というか、自分で言うのも、ね」

奈緖「分かる、分かるぞ未央。自分で分かってても言いづらい事は結構あるよなぁ」

加蓮「そういう時の奈緖がこれまた可愛いんだけどね」

奈緖「どわぁ!加蓮!?急に出てくんなよぉ!」

加蓮「何?人を幽霊みたいに。まだ生きてるよ?」

奈緖「ジョークが重い!」

未央「ねえ、かれんも事情は知ってるの?」

加蓮「まあね。うん、でも思ってたよりひどくなってたかな」

奈緖「NGのメンタルはあんまり強くないからな……」

未央「今、私の事も馬鹿にした?」

奈緖「いやぁ悪い悪い、ちょっとだけな。でも未央は立ち直りが早くなっただろ?」

未央「むむむ……、仕方ないけど、ここは納得しておきます……」

加蓮「でも、あの二人はほっとくとあのままだよ?」

奈緖「未央にしか、あの二人はどうにか出来ないと思うぞ」

未央「そう、だね。うん、二人ともありがとう。行ってくる!」

奈緖「おう、言ってこい」

 二人がやる気をなくしてた理由、それは簡単な話で、私と同じだっただけの事なんだ。私が二位だったこと。
あれだけ盛り上がったんだ、その熱が抜けたら少しはやる気も抜けるというものだ。
私の結果だと言うのに、これだけ落ち込んでくれているというのは、変な話だけれど嬉しく感じている。
だけどそれと同じ位悔しさと申し訳なさが、心の中にじんわりと込み上げてきていた。
私がいなかった昨日に、私と同じぐらい落ち込んでいたんだろうか、とか、今日はその気分を引きずったまま来て、
それでも私の前では少しおどけて見せてるのだろうか、とか。そんな事が浮かんではまた溶けていく。
私には二人が感じているそれを忘れさせる事なんて出来ないし。

 だったら、出来る事なんて一つで。

 上手く言葉には出来ないかも知れないけれど、二人には言わなくちゃいけないから。

未央「二人とも」

凛卯月「「……」」

未央「私は、大丈夫だから」

未央「まだまだ頑張れる、立ち止まっても、また走り出すから」

凛「……うん」

未央「待ってて。そこまで、絶対行ってみせるから」

卯月「……はい!」

未央「えっと、あの、それだけ!んじゃ、レッスン行ってくるから!!」

出てレッスンルームに行く時には二人はもういつも通りの表情で、しぶりんは優しく微笑むように、しまむーは朗らかに話しかけるように、

「「行ってらっしゃい」」

 と、言ってくれたものだから、私は少しだけ潤んだ目元を指で弾きながら

「それでは未央ちゃん、行ってきます!」

 と、元気よく返事をして、扉を開けるのだった。

――

加蓮「良かったの?もっと話したい事とかあったんじゃ無い?」

凛「いいんだよ、もう伝わったから」

卯月「そうですね、未央ちゃんの気持ちが伝わってきましたから」

奈緖「そりゃ良かった」

加蓮「でも変な話だよね、普段通りにしてたら未央は何も言わなかったんでしょ?」

奈緖「未央は気を遣いすぎるからな」

凛「でも、私達が本気で落ち込んでたらあんな風には言ってくれなかったかもしれない」

卯月「だから、奈緖ちゃんの言った通りにしてみたんですよ?」

奈緖「まあ、普段から未央は色々と苦労してるだろうし、少しぐらいはな」

凛「ちょっとその言い方には含みがあると思うんだけど?」

奈緖「さてな。それより、二人はもう予定は無いのか?」

卯月「私は少ししたらラジオ収録なので、もう行きますよ?」

凛「私も撮影があるから、もう行こうかな」

卯月「じゃあそこまで一緒に行きましょうか」

凛「そうだね、それじゃ奈緖、加蓮、またね」

卯月「また明日!」

加蓮「またね~」

奈緖「また明日な。……はあ」

加蓮「フフ、今日はお手柄だったね?奈緖」

奈緖「あたしの柄じゃ無いんだけどな」

加蓮「そんな事無いでしょ、奈緖ったら世話焼きなんだから」

奈緖「そんな事無いと、いや、あんま否定できないなぁ」

加蓮「でも、あの三人は少し羨ましいなって思うんだよね」

奈緖「ん?なんだ、まだボケ足りないのか?」

加蓮「それは奈緖のお陰でおなかいっぱい。そうじゃ無くて、何て言うんだっけ?ああいう風にさ、多くを言葉にしなくても伝わるってやつ?」

奈緖「以心伝心、ってやつか」

加蓮「そうそれ。良いよなぁって思わない?」

奈緖「まあ、少しは」

加蓮「うーん、ちょっと妬けちゃうから、私も奈緖の考えてた事当ててみてもいい?」

奈緖「どういう理屈だよ!?」

加蓮「まあいいからさ」

奈緖「はぁ……。んで、あたしの考えてた事って何だよ?」

加蓮「奈緖が今回手助けしたのってさ、『言ってこい!』ってどや顔で言いたかっただけでしょ」

奈緖「……」

加蓮「いやまあそれだけって事は無いんだろうけどさ、少なくともあの時心の中で、「決まった!」って思ってたでしょ?」

奈緖「……」

奈緖「えーっと、まあ、あれだ。言わなくても、分かってくれ……」

短いですが終わりです。
相も変わらずゆったり投稿。
未央、頑張ったね。お疲れ様。また頑張ろうな。

台詞のところだけじゃなく他のところも改行しないと読みにくいとあれほど

>>28
地の文ってどこで改行したらいいか
よく分からないんですよね……。
スマホで確認したら確かに凄く見づらい。
試行錯誤ではありますが変えていこうと思います。

文の最後の。のところで改行すればいいんじゃない?
例えば>>19だと

二人がやる気をなくしてた理由、それは簡単な話で、私と同じだっただけの事なんだ。

私が二位だったこと。

あれだけ盛り上がったんだ、その熱が抜けたら少しはやる気も抜けるというものだ。

私の結果だと言うのに、これだけ落ち込んでくれているというのは、変な話だけれど嬉しく感じている。

だけどそれと同じ位悔しさと申し訳なさが、心の中にじんわりと込み上げてきていた。

私がいなかった昨日に、私と同じぐらい落ち込んでいたんだろうか、とか、今日はその気分を引きずったまま来て、それでも私の前では少しおどけて見せてるのだろうか、とか。

そんな事が浮かんではまた溶けていく。

私には二人が感じているそれを忘れさせる事なんて出来ないし。

こんな感じ?

スマホだと、>>30さんのが
読みやすいですかね。
普通に文章を書いている身としては
なかなか慣れない形ですが。

ネットの横書き媒体は
意識して改行する事にしてみます。

>>22 抜けがあったので修正

 やっぱり言葉にすると少しだけ恥ずかしくって、顔を背けてしまったけれど。

私が部屋を出てレッスンルームに行く時には二人はもういつも通りの表情で、

しぶりんは優しく微笑むように、しまむーは朗らかに話しかけるように、

「「行ってらっしゃい」」

 と、言ってくれたものだから、私は少しだけ潤んだ目元を指で弾きながら

「それでは未央ちゃん、行ってきます!」

 と、元気よく返事をして、扉を開けるのだった。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom