ｳｨｰﾝ


「ありがとうございましたー」


比奈「…」ｶﾞｻ

比奈「げ」


ｻﾞｱｱｱｱ…


比奈「…、そっかー、雨かぁ…」

比奈「……」ﾊｱ

比奈「ちょっと…雨宿りして行くッスかね…」

ｻﾞｱｱｱｱ…


ｽﾄﾝ


比奈「梅雨ッスねー」

比奈「…」

比奈「……ふふ。日が出てないのは悪くないッス…落ち着くッス…」ﾊﾌ

比奈「……」

比奈「あ、かたつむりー」

比奈「…むう」

比奈（バタバタしてて…コンタクトもかけずに来ちゃったッス……だらしないなー、もう）

比奈「……」

比奈「……へ、変じゃないッスよねー…」ﾍﾟﾀﾍﾟﾀ

比奈「……」ｼﾞ


ﾃﾞｻｰ　ﾍｰ


ﾊﾞｼｬﾊﾞｼｬ


比奈「……相合傘ッスかー」

比奈「ありッスね。マンガのネタになるかも…」ﾌﾑ

比奈「……」

比奈「…」

かたつむり「…」ﾖｼﾞﾖｼﾞ

比奈「……」ﾂﾝﾂﾝ

比奈「？」


ﾊﾞｼｬ　ﾊﾞｼｬ…

「…ふう」ｶﾞｻ


比奈「っと」ｷﾞｭ

比奈（い、一応、私って、そこそこ売れっ子でスよね……帽子くらいは被って来たッスけど……）

比奈「…」

比奈（ま、寝癖を隠したかっただけでスけど）ﾋﾋ

「？」ｳｨｰﾝ


「いらっしゃいませー」

比奈「むぐ」ﾑﾆｭ

比奈「…むー。しゃいきん、輝子ちゃんの口癖が移ったような気が…」ﾑﾆﾑﾆ

比奈「……なんかすごく落ち着くんスよね、あの笑い方…私に合ってんでスかね」

比奈「……ふひ♪」

ｻﾞｱｱｱｱｱｱ…


比奈「……」

比奈「…いっそ、走って帰っちゃいまスか…」

比奈「いやでも…そんなことしたって言ったら、たぶんプロデューサーがうるさい……でスよね」

比奈「……」

比奈「…」

比奈「……お、大人しく、…もうしばらく待ちまス」ｳﾝ

ｳｨｰﾝ


比奈「？」

「ありがとうございましたー」

「…」ｶﾞｻ

比奈「…ん」ｷﾞｭ

比奈「…」ﾊｱ…

「？」

比奈「…」


ｻﾞｱｱｱｱ…


「…」

「…あの」

比奈「？」

「えっと…君、もしかして…」

比奈（やば、気づかれたッスか？）ﾄﾞｷﾄﾞｷ

「傘、持ってないの？」

比奈「……」

比奈「そ、そうでスけど……あ、気にしないで欲しいッス」

「そう？」

比奈「ス」

「そっか…」

比奈（…ほっと…したような。……ちょっと残念なような…）ﾊｱ

比奈（……まあ）

比奈（そうでスよね。上下ジャージで、髪も整えてないような女の子が……アイドルだなんて普通思わないッスよね）

比奈「……ふひ」ｹﾗｹﾗ

「？」ﾋﾞｸｯ

ｻﾞｱｱｱｱ…


「…」

比奈「…」

「よかったら俺の傘…使う？」

比奈「へ？　い、いやいや、——」ﾊﾞｯ

「？」

比奈「…う…」ﾌｲ

比奈「ほ、ホント、気にしないで欲しいッス。それじゃお兄さんが風邪引いちゃうッスよ」

「はは、俺は頑丈だから。それこそ気にしないでいいよ」

比奈「……」

比奈「ふふ。そういう問題じゃないと思いまス」

「そ、そう？」

比奈「そうッス」ｸｽｸｽ

比奈「えと、傘がないのもあるんでスけど」

「ん？」

比奈「……私、雨宿りするのは、けっこう好きなんでスよ」

「……ああ、なるほど。そっか。分かったよ」

比奈「ス」

「じゃあちょっと、俺も雨宿りしてっていいかな」

比奈「……」


ｻﾞｱｱｱｱｱ…


比奈「…そりゃあれッス」

比奈「同じ雨宿り好きを無下にはできないッスよ」

「はは。どうもありがとう」

比奈「ス」

・
・
・


ｻﾞｱｱｱｱｱ…


比奈「…」ｳﾄ…

比奈「…はっ」

比奈「……はれ、さっきの人は……」ｸﾞｲ

比奈「……」

比奈「…傘…置いてあるッスね…」

比奈「それに、取っ手のところに、なにか…」ｶｻ

比奈「……？」





ｻﾞｱｱｱｱｱ…

・
・
・


ｶﾞﾁｬ


比奈「おはよーございまース」

ﾎﾟｺ

比奈「いた」

輝子「…あ、ひ、比奈さん……お、おはよう」ﾌﾋ

比奈「ス」

ﾎﾟｺﾎﾟｺ

比奈「ふふ。今日もきのこさんたちは元気そうッスね」

輝子「つ、梅雨だから…ね」ﾌﾋ

比奈「いいッスねー」ﾌﾋ

輝子「い、いいね」ﾋﾋ

Ｐ（一見物々しい会話だな、おい）

比奈「あ、プロデューサーも、おはようございまス」ﾍﾟｺ

Ｐ「うん」

比奈「？　なんかスーツ濡れてまスね…傘忘れて来たんでスか？」ﾎﾟﾝﾎﾟﾝ

Ｐ「まあな。ありがとう」

比奈「いえ。…」

比奈「ふひ…そっか。じゃあ私と一緒でスねぇ」ﾆﾍﾗ

Ｐ「え？　比奈は持ってるじゃないか、それ」

比奈「あー、これは…その…」ｺﾞﾆｮ

Ｐ「？」


Ｐ「…話変わるけど」

比奈「はい？」

Ｐ「なんだか嬉しそうだな」

比奈「……。ふひ。そ、そうでスかね…」ﾆﾍﾆﾍ

Ｐ「うん」

比奈「…えへへ。その……ちょっと雨宿りして来たので。元気いっぱいでス」

Ｐ「…、そっか」

Ｐ「それはよかった」

比奈「はいッス」ﾆｺ

Ｐ「比奈も雨宿りが好きなんだな」

比奈「も？」

Ｐ「うん。楓さんと柚も、そんなこと言ってたなーってな」

比奈「…はい、好きでス」

比奈「——でも、きっと、」

Ｐ「ん？」

比奈「雨宿りって、だれと一緒かが大事なんだと思いまスよ」

Ｐ「……、なるほど」

比奈「はい。ふふ」ﾆｺ

Ｐ「…」ﾊﾊ…

輝子「？」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

輝子「ひ、比奈さん。…その、手に持ってるのは……なに？」

比奈「あ、これッスか？」ｶｻ

Ｐ「…」

比奈「えへへ。内緒ッス」

輝子「…え…」ｶﾞｰﾝ…

比奈「友達は、隠しごとの一つや二つをするもんでス」

輝子「…」

輝子「…ﾌﾋ…な、なるほど……そ、そうだね。ﾄﾓﾀﾞﾁだ…だから、ね」ｺｸｺｸ

比奈「でス」ｺｸｺｸ

Ｐ（最近…というかこの季節は、とくにいいコンビだな）ｳﾑ

比奈「それじゃー」

比奈「プロデューサー。アイドル比奈ちゃん、今日はお仕事がんばるッス」

Ｐ「今日だけかよ」

輝子「お、おー」ﾌﾋ

Ｐ「ま、やる気があるのはいいことだよな。よし、頑張ろう」ｳﾝ

比奈「はいッス」ﾆﾍﾗ


———おしまい