提督「もう戦わなくていいんだよ」 (15)

タクシーの運転手「お客さん、もうすぐで着きますよ」

タクシーの運転手「結構長く乗ってたからお客さんも疲れたでしょ」

提督「いえ、私は大丈夫です」

タクシーの運転手「これはすいません。女の子だからって軍人さんにこんなこと言っちゃあ失礼だったかな」

提督「気にしないでください。ところで、どうして私が軍人だとわかったんですか?」

タクシーの運転手「今の時代、普通の人はわざわざ鎮守府なんて場所に向かおうとは思いませんよ」

提督「それも……そうですね」


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タクシーの運転手「おっ兵舎が見えてきましたね。あのフェンスの奥が鎮守府ですよ」

提督「じゃあ、このあたりでお願いします」

タクシーの運転手「すいませんね、私は鎮守府の中までは入れないから」

提督「いえいえ、むしろここまで送ってくださりありがとうございます」

タクシーの運転手「仕事ですから」

提督「いえ、それでも本当にありがとうございます」

タクシーを降りると目の前には鉄製のゲート。奥には白い兵舎と青い海が見えた。
 
私は、鎮守府に、来たんだ。


新人が鎮守府に送られることも今のこの国では珍しいことじゃない。
深海棲艦との戦いは、この国を酷く消耗させた。 20年前に海上に現れた謎の生命体はすぐさま世界を恐怖のどん底へと陥れた。人間サイズの「それら」は人間ではあり得ない力を振るって人類に攻撃してきた。

 小さな国や発展途上国は「それら」に滅ぼされて、大国も当時の軍事力を持ってしても敵う相手ではなかった。「それら」は海から突如現れて海に浮かぶ船や軍艦をたちまちに容易く水底へと突き落とし、海域を支配していった。

 当時でいう海上自衛隊も「それら」によって壊滅的な被害を受けたらしい。

 世界中で増え続ける死傷者と、損害。対処しようにもそんな方法は誰もわからなかった。唯一わかっていることは「それら」は陸にあがることができない、ということ。
 
 つまりは海から離れた陸地であれば被害を受けない、そう思われていた。
 
 そのことを知った国民はこぞって海から遠い場所へ移動した。
 
 けれど、「それら」は人間の浅はかさをあざ笑うように、爆撃機によって海から離れた陸地をも攻撃した。私はまだ幼かったけれど、テレビに映る火の海と叫び声は鮮明に覚えている。

 「それら」の出現から数年で、人類は半分に減っていた。

 でも、人間という生き物は土壇場になったら強い生き物で、生き残った各国が対抗策を取り始めた。

 ある国は研究の末に、「それら」に対抗するための武器を作りだした。また別の国は「それら」の攻撃が届かないように、地下に都市を作った。

 一方、我が国の対抗策はまた違うものだった。

 「それら」に対抗するための武器を作り出すには多くの資材が必要になるけれど、この国の資材は少ない。地下に都市を作る程地盤も安定していない。
 
 だから我が国は「それら」に似たものを作り出した。

 だから我が国は「それら」に似たものを作り出した。
 
 海の上を滑るように高速で移動し、並外れた耐久力と尋常ではない感知能力、そして絶大な火力、そういった「それら」の能力に目をつけたのだ。
 
 「それら」の細胞を人間に移植することで、「それら」の能力を使用できる人間兵器を生み出すという実験はものの見事に成功した。しかし、「それら」の細胞を適合できる人間は限られていた。
 
 度重なる実験により兵器になれる人間の条件が判明した。
 
 一つは外部から植え付けられた細胞を適合させる素質を持つこと。それが絶対条件であった。そして、その素質を持つ人間は全員女性だった。
 
 その実験にあたって「それら」には深海棲艦という名前がついた。そして、深海棲艦と戦う女性として、彼女らは艦娘(かんむす)と呼ばれた。


—兵舎—


龍驤「んで、キミが新しい提督?」

提督「はい、そうです」

龍驤「そんな畏まらんでええよ。……ウチは軽空母、龍驤や。よろしゅうな」

提督「よろしくお願いします!」
 
 「せやから、畏まらんでええのに〜」と苦笑いする龍驤さん。
 兵舎に着くと玄関では彼女が私を待っていた。どうやら、兵舎の案内をしてくれるらしい。

龍驤「それにしても、キミが来るとは思っておらんかったわ」

提督「えっと……それは?」

龍驤「あーもっとごっつい人くるかと思うてたけど、可愛い子でよかったわぁ」

予想外の言葉に照れてしまう。

龍驤「前の人はごっついおっさんやったからな。やっぱ女の子のほうが目の保養になるわぁ」

確かにそっちの方が私も嬉しいけれども。

提督「あの、龍驤さん」

龍驤「ん?なぁに?あと龍驤でええよ」

提督「あの、龍驤さん」

龍驤「ん?なぁに?あと龍驤でええよ」

提督「えっと、じゃあ龍驤ちゃん。前任の人ってどういう……」

龍驤「そういえば、結構重そうな鞄もってんねんな。先、それ置きにいこか」

提督「は、はい」

龍驤「ちゅーことは先に執務室よったほうがええな」

そう言って龍驤ちゃんは回れ右して、階段を登っていった。

龍驤「ここが執務室や」

龍驤ちゃんが扉を開けると、大きな机と椅子、それと港が見渡せる大きな窓が目に入った。
結構広い部屋だ。

龍驤「今はもう綺麗に片づいとるけど、割りと自由に使ってもろても大丈夫な所やから」

「あ、そうそう」と龍驤ちゃんは言って、部屋の左奥の扉へとあるき出した。

彼女が扉を開けると、そこは一通りの家具といくつかのダンボールの置かれた部屋があった。
まるで一人暮らしのワンルームみたいだ。

龍驤「ここは提督用の部屋や。提督用の部屋言うても執務室とは違って、プライベートルームってやっちゃな」

龍驤「キミが東京から送った荷物とかはこっちに置いてとるで。それと浴室もあるし、コンロと冷蔵庫もあるから料理もできるで」

提督「つまりは、この部屋だけで生活できるっていうこと?」

龍驤「せやね。せやけど、兵舎には食堂と大浴場もあるからそっちも使えるで」

龍驤「とりあえず、荷物置いたら案内を再開したるわ」

そう言われて私は床の空いているスペースに鞄を置く。さっきまで、鞄を持っていた手がヒリリと痛い。

龍驤「んじゃ、食堂と工廠に行くで。この二つ知っといたら大丈夫やろ」

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