肇「今宵、月はなくとも」 (22)

ガチャッ

肇「あ、おかえりなさいプロデューサーさん」

肇「わっ、ビショビショじゃないですか!ちょっと待っていてくださいね。今タオルをお持ちしますから」

肇「はい。取り合えず上着を脱いでください。そのままでは風邪を引いてしまいますよ」

肇「エアコンをつけて……と。暖かいもの用意してきますね。体を冷やさないようにしていてください」

肇「ああ、もう…ワイシャツまでビショビショになっちゃってます」

肇「それも脱いじゃってください。風邪引いてしまいますよ?」

肇「はい。タオルでよく拭いておいてください。すぐに暖かいお茶を持ってきますから」

肇「着替えは確か仮眠室でしたよね?一緒に持ってきます」

肇「プロデューサーさんはそこでしっかり体を暖めていてください。私がやりますから」

肇「ええっと…確かここの引き出しの中に…」

肇「あっ、あったあった」

肇「こんなに着替え常備して…また事務所で寝泊まりしてるんだろうなぁ」

肇「…」

肇「…プロデューサーさんのシャツ…」

肇「………」

肇「はっ、はいっ!?ありました!着替えありましたから今持っていきます!」

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肇「はい、暖かいものどうぞ」

肇「ふふ、ちゃあんと温めでしょう?」

肇「お疲れさまでした。突然降ってきましたもんね…ほら、もうこんなに酷くなっちゃってます」

肇「こんな大雨の中そんなに無理をしてまでみんなを送っていかなくても…」

肇「…でも、それでプロデューサーさんの方が風邪を引いてしまったら元も子も無いじゃないですか」

肇「さっき冷蔵庫の中を見たらレモンがあったので後でレモネードでも作りましょうか」

肇「私が、プロデューサーさんに、作るんですっ」

肇「ほらぁ、もう体が冷え切ってしまってるんじゃないですか。はい、ティッシュ」

肇「本当はすぐにお風呂に入るのが一番なんですけど…シャワールームはアイドル用しかありませんし」

肇「他のみんなもちひろさんも帰っちゃってますから別に使っても……駄目ですよね?やっぱり」

肇「ちょっと失礼しますね……うん、熱は無いですね」

肇「えっ?まだお仕事が残っているんですか?」

肇「もう…本当に体を壊してしまいますよ」

肇「何か、お手伝い出来ることはありますか?」

肇「帰ろうにもこの大雨ですし…」

肇「いえ、寮はすぐそこなんですから送って頂くなんて…」

肇「……じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」

肇「でも本当に無理だけはなさらないでください」

肇「…むー」プクー

肇「プロデューサーさんに何かあったらみんな心配するんですからね?」


肇「雨、ますます強くなってきましたね…」

肇「でも良かったですね。この前のお月見イベントの時に降らなくて」

肇「あっ、仕事ってあのイベントの事だったんですね」

肇「…こうして改めて見ると、ちょっと恥ずかしいですね」

肇「に、似合うって…!え、あの。だからって流石にそういう路線ばかりに持っていかれるのは…」

肇「もうっ!女の子に向かってそう易々と可愛いとか言ったら駄目です!」

肇「あ、幸子ちゃんは別ですけど。…じゃなくて!」

肇「ちょ、どうしてあの時のウサ耳がまだあるんですか」

肇「凄く似合ってたから貰ってきた、って…もう」

肇「…つけません」

肇「…ウサ耳ならカフェにいけば会えるじゃないですか」

肇「アレは千葉県民だからって…それ絶対ご本人に言わないでくださいね?」

肇「…つけません」

肇「どうして私がウサ耳つけたらプロデューサーさんが暖まるんですか!」

肇「……つけません」

肇「どうしても、です」

肇「……」

肇「うぐっ…つ、つけ…ません!」

肇「……」

肇「………そんなに、見たいのですか?」

肇「即答っ」

肇「…構えているスマホからまず手を放してください」


肇「知りません」プクー

肇「知りませんっ」プククー

肇「…ちょっ、消してください!いつの間に録画なんてしてるんですか!」

肇「没収します!そのスマホは没収します!」

肇「駄目です。消します」

肇「そんなこの世の終わりみたいな顔されても、駄目です」

肇「だ・め・で・す」

肇「…」

肇「……」

肇「…本当ですね?」

肇「むぅ……」

肇「…わかりました。Pさんを信用します」

肇「じゃあ、もうコレ外しますね?」

肇「え、駄目なんですか?」

肇「でも流石に事務所の中でこの姿は、ちょっと恥ずかしいんですけど…」

肇「確かに今は2人きりですけれども」

肇「…」

肇「…こういうのがお好きなんですか?」

肇「即答っ」

寝るす。オヤスミー

肇「雨、止みませんね…」

肇「いいえ?雨は嫌いではありませんよ」

肇「ええ、雨は田畑や土にとっては恵みですから」

肇「はい、是非。きっとおじいちゃ…祖父も喜びます」

肇「そんなことありませんよ。おじい…祖父もPさんを信頼しているからこうして私を預けているのだと思います」

肇「Pさんはご自分で思っているよりずっと周りから信頼されていると思いますよ?」

肇「…意地が悪いって自覚しているなら少しは自重してください」

肇「スキンシップにも別のやり方があると思います」

肇「まったくもう……あ、お茶が無くなっていますね」

肇「待っていてください。あ、折角ですしレモネード作りましょうか?」

肇「だから、私がっ、Pさんに作るんですってば」

肇「おとなしくそこで待っててください。…ほらまたクシャミして…」

肇「ハチミツは多めですよね?では、すぐに用意してきます」

肇「お母さんって…そこは普通お嫁さん、じゃないですか?」

肇「…そういう事をさらりと言ってしまうのはワザとなのか天然なのか…」

肇「あ、ワザとですね」

肇「Pさんのマグカップ見当たらないんですけどー」

肇「あ、本当。欠けちゃってますね」

肇「じゃあ湯飲みに入れてしまいますね?」

肇「えっと、Pさんの湯飲みは…っと」

肇「……ふふっ」



肇「はい、熱いですから気を付けてくださいね?」

肇「えっ?嬉しそう、ですか?」

肇「ふふ、内緒です」

肇「駄目でーす。黙秘します」

肇「…それにしても、このまま一晩中降り続けるんでしょうか」

肇「朝の天気予報では雨だなんて全然いってなかったんですけど」

肇「知ってます?今夜って満月らしいですよ」

肇「とは言え…これじゃあお月様なんて全然見えませんけど」

肇「……やりません」

肇「どうしてそうなるんですか」

肇「月が見えないならせめてウサギが見たいって、さっき見せたじゃないですか!」

肇「この機に私まで動物キャラにしようとしていません?」

肇「……似合っていたのはウサ耳だけなんですか?」

肇「あ、いえ、ちょっ。そこまでっ、そこまで力説して頂きたかった訳では!」

肇「アイドルなのですから、色々なお仕事をするとは思っていましたけど…まさかウサ耳をつける日が来るとは思いませんでした」

肇「似合ってるから問題ない、じゃありません。もぅ…」

肇「…かぐや姫みたいだった?」

肇「それなら、月に帰らないといけませんね」

肇「ふふっ。冗談です。いつもいつも意地悪されてる仕返しです」

肇「ふぁふぁっ、ひふぁえふぃふぁっふぇふぃっふぁ」

肇「女の子の頬っぺたをそんな気軽に引っ張っちゃ駄目です!」ペチッ

肇「相手は選んで……尚更駄目ですっ!」

肇「もちもちして柔らかかった?……知りません、もうっ!」

肇「…」プクー

肇「……年頃の女の子にビスコで機嫌を取ろうとするのはどうかと思いますよ」

肇「あんまりからかってばっかりいると、本当にお月様に帰ってしまいますからね?」

肇「はい。反省してください」

肇「だからと言って急にそんな堅苦しく敬語になるのも」

肇「極端ですっ」

肇「ほんとにもう…。Pさんって昔はもっと真面目な印象だったのに」

肇「猫被ってましたって、そんなアッサリと」

肇「いいえ?今の素のPさんの方が」

肇「そうですね…昔より距離が近くなったような気がするから、でしょうか」

肇「あ、そろそろ冷めたんじゃないですか?レモネード」

肇「猫舌…」

肇「もう終わりそうですか?相変わらず凄いスピードですね」

肇「雨は、どうでしょう?止んでは無いようですが弱まっていれば1人で帰れるでしょうし…どれどれ?」

肇「……」

肇「…駄目ですね。まだ物凄い降ってます」

肇「はい。ではよろしくお願いします」

肇「あ、Pさんもちゃんとお家に帰ってくださいね?事務所に戻って泊まったりしたら駄目ですからね」

肇「事務所に着替え一式や枕を持ち込んでいる人がそんな事を言っても説得力がありません」

肇「休憩室はPさんの別荘じゃないんですよ?ちゃんと自宅に戻って、お布団でお休みしてください」

肇「お母さんじゃありませんっ」

肇「お仕事ではキチッとしているのに…」

肇「お母さんより、お嫁さんの方が必要なんじゃないですか?」

肇「…またそんな事を」

肇「あ、お仕事終わったんですね」

肇「送るから着替えてくる?はい、では私も用意しておきます」

肇「…」

肇「…あ、また降ってきた」

慣れないやり方してるから進行遅いゴメンオヤスミー


肇「雨、止んでしまいましたね…」

肇「えっ?い、いえ別に残念だなんて思っていませんよ?」

肇「送って頂けるのですか?雨も上がりましたし、一人で帰れますけど…」

肇「…はい。では甘えさせてもらいますね」

肇「…」

肇「どうして助手席に毛布と枕があるんですか」

肇「車の中に泊まるのも駄目ですっ」

肇「寝心地の問題ではありません!」

肇「きちんと休まないと疲れが取れませんよ?」

肇「…スタドリとは一体何なんでしょう」

肇「…」

肇「……」

肇「雨は止みましたけど、雲で月も星も見えませんね」

肇「これではお月様には帰れそうにありませんね」

肇「ふふ、冗談です」

肇「大丈夫ですよ」

肇「今宵、月はなくとも」

肇「私が帰る場所は、ちゃんとここにありますから」

肇「…どういう意味でしょうね?」

肇「あ、信号変わりますよ」

肇「……」

肇「…あの、あまり掘り返さないで下さい。我ながら恥ずかしい事を言ったなぁ、と思っているんですから」


肇「今日はわざわざありがとうございました」

肇「Pさんも今日は早めに休んでくださいね?あんなにずぶ濡れになってしまっていたんですから」

肇「ちゃんと暖かくして、お腹を出して寝たりしないように」

肇「…明日事務所で寝ていたりしたら、怒りますからね?」

肇「もう…人の心配はするのにご自分は心配かけるんですから」

肇「……」

肇「かぐや姫が月に帰らないように善処する?」

肇「はい。実家に帰らないように今後はもう少しご自愛下さいね?」

肇「…」

肇「…ふふっ」

肇「いえ、Pさんがそんなキザな事言うと、違和感が…」

肇「ほらぁ、掘り返されると恥ずかしいでしょう?」

肇「はぁい。ではまた明日。事務所で」

肇「…事務所には泊まらないけど車の中で寝る、というのも駄目ですからね?」

肇「駄目ですからねっ」プクー

肇「はい。ではおやすみなさい」

肇「…」

肇「…っ♪」









千枝「あ、おかえりなさ………どうしてウサギのお耳つけてるんですか?」

肇「えっ」

いつもと趣向やら何やら色々変えてやってみたらこの様ですよ!書いてて我ながらニンニクヤサイアブラ抜き食べてるような気分でした…なんでやろ。
日頃個性がちょっぴり強い面々ばかりな気がしていたのでたまにはこういうのもいいかなぁ…と。ちょっとでも肇が可愛く書けていたら何よりです。
次からまた県民性に乗っ取った作風に戻ると思いますが深く考えないで下さい。土地の呪いのようなものです。


オツカーレ

オヤスミーとハチミツで「ん?」ときて

ビスコでさらに「ん?ん?」と来て


最後に悪い子が出てようやく気がついたよ

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