北上「我輩は猫である」 (744)

1匹目:我輩は猫である




という本を読んだ。勿論タイトルに惹かれて。

前世(?)が猫の本家本元のガチ猫から言わせてもらえば、いやホントに言いたい事は山ほどあるが、読み物としては非常に楽しめた。

なのでかの名作に敬意を評し、二度目となる私の人生の最初を最も有名な冒頭部分になぞらえて言えば、

こうなる。


我輩は猫であった。

北上「名前は軽巡、北上。まーよろしく」

提督「おう、よろしくな」



ジャンルは、SFとかかな?

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1500349791

艦娘に別のものぶっこむのが好きらしい

ほのぼのをゆるりとまったりやってきたい

目指せハッピーエンド

更新もまったりと

2匹目:猫に炬燵





北上「…温いね~」

大井「そうですね~」

多磨「相変わらず2人は陽だまりが好きにゃ」

木曽「おい姉は上姉の真似してるだけだろ」

球磨「多磨より猫っぽいクマ」

多磨「にゃんと!」

木曽「別に多磨姉は猫に寄せる必要はないんじゃないか?」

多磨「負けられない戦いがここにあるにゃ」ゴソゴソ

北上「多磨姉じゃま~」グイ

大井「多磨姉さん邪魔です」グイ

多磨「妹が冷たいにゃ…」

球磨「おうおう、球磨の胸で暖めてやるクマ」

多磨「うるせーにゃ私より胸でかくしてから出直してこいにゃ」

球磨「なあ!?同じくらいだクマ!大差ないクマァ!!」

木曽「うわっ球磨姉暴れるな揺れる揺れる!」





本来四人部屋のところに5人。

4人用の炬燵に5人。

この狭さは、優しさで出来ている。

猫と時とは違う安心がある、狭さだ。


多摩 多磨 うわすげぇ深刻な問題だ。これは球磨が悪い
前にも駆逐艦で似た事やらかした気がする

球磨「さて、そろそろ仕事だ」

多摩「もうそんな時間かにゃ。あと語尾忘れてるにゃ」

球磨「きょ、今日は遠征だクマ」

木曽「俺もそろそろ行こうかな」

北上「キッソは出撃ないんじゃないの?」

木曽「その呼び方止めてくれ…道場に行くんだよ」

北上「な~る」

大井「と言うことは今日は北上さんと2人っきり!!」

ピンポンパ~ン
『あー、大井、金剛、比叡、半までに提督室に来てくれ。以上』

多摩「…出撃っぽいにゃ」

大井「チィッ!」

提督(なんか寒気が)ブルッ

大井「チョットイッキマス…」

木曽「こ、こぇよ大井姉」

球磨「まだ時間あるクマ。北上と居なくていいクマ?」

大井「残り時間たっぷりあの人と交渉して来ます」

木曽「ホントに交渉で済むんだよな?」

球磨「じゃあ北上、留守番頼むクマ」

北上「あいよ~。大井っちも頑張ってね~」

大井「っ!はいぃ!MVP全部かっさらって来ますね!」

多摩「…扱い心得てるにゃ」

北上「さてと」

一人の時間。

なんやかんやで今も昔もこの時間が一番好きだ。

せっかくだし炬燵に潜ってみる。

北上「ぶあっつ!」

息苦しい過ぎる。

猫は炬燵で丸くなると聞いたが本当にそんなことできるのかな?

猫だった時は炬燵に出会わなかったのでなんとも言えない。

北上「まあすっぽり収まるより、上半身動かせる方がいいよね」

ミカンを剥いて1粒、1粒?1個?なんて数えればいいんだろう。後でみんなに聞いてみるか。

北上「美味い」

炬燵が好きなのにミカンの味を知らぬ。猫とは悲劇だ。

3匹目:犬は人に付き、猫は家に付く


ということわざがあるそうだ。

思い返すとなるほど全くその通りだと思うのだが、

私は船に付いた。

ついた、というか憑いた。

艦娘。船の記憶を持つ人形の、妖怪みたいなもの。

世の中には二種類の艦娘がいるー!

ひとーつ。大さじ一杯の鉄にボーキを少々、弾薬を隠し味にし燃料をまぶせば完成。建造のタイプ。

ふたーつ。なんか海で拾われるやつ。よくは知らない。

私は、前者だった。

明石「変な記憶?」

北上「うん。なんか覚えのないというか、妙な記憶が浮かんでくるんだ」

明石「あ~たまにいるんですよ。建造だと。艦娘って船やそこに乗った人、作った人、関わった様々な人の想いの集合体見たいなものなんです」

北上「いよいよ妖怪じみてきた」

明石「妖怪ですか。それが案外1番合ってるかもですね。ともかくそんなんですからたまに何か別の記憶が混じる例がたまにあるんですよ」

北上「へ~。よかった。おかしな事じゃないんだ」

明石「ジャメヴ見たいなものみたいです。大体はそのうち忘れたり薄れていくものらしいですよ。心配なら対処法はなくもないですけど?」

北上「いんやいいよ。薄らとしか思い出せないものだし」

明石「なら大丈夫ですね。ちなみにどんな内容で?」

北上「ん~よく分かんないけど、背が低かった」

明石「へ?」

とかなんとか、ここに来たばかりの時明石に聞いた。

しかし実際のところ私はハッキリと覚えていた。

四足歩行の、耳の、嗅覚の、尻尾の、髭の、人間とは違うあらゆる感覚、経験、記憶がハッキリと。

同時に北上だという記憶もまた、ハッキリとある。

二重人格とかでなく、上手いことまざりあっているようだ。

不思議な感覚だが、猫の方の記憶は基本的に人間として保存されていた。

つまり、例えば猫の記憶にある花を思い浮かべると、それを花と認識していることに気づく。

猫は花を花と認識してはいない。猫として認識したあらゆる記憶は、人間の言葉や感覚に置き換えられていた。

逆に置き換えられなかったものもある。

人間の何倍も敏感な嗅覚や聴覚は臭いとか煩いとかかなり曖昧な感覚に置き換わっていた。

髭の感覚も、覚えているが説明出来ない。

そんなわけで、よく分からないけど今は艦娘の身だ。

元が猫だったからと特にやる事があるわけじゃなく、こうして日々を満喫している。

何より炬燵は素晴らしい。

最近そろそろ炬燵を片付け始めているという悪質なデマが回っているが気にしない。

しかし流石に暑くなってきた。

誰もいないし上でも脱ぐか。

北上「んしょっと。ん?」

外が何やら騒がしく、

バタンっ!

提督「助けてくれ北上!!」
大井「なんとか言ってやってください北上さん!!」

北上「え?」
提督「え?」
大井「あ」

2人から見えるのは炬燵から伸びた上半身下着のみの私。

不味いな大井っちに襲われかねないぞ。

北上「で、今度は何で揉めてんの?」

提督「あっ、いやっ、その、ですね「見るな変態ぃ!!」アハトゥンヌッ!」

大井っちの見事な回し蹴り。

うんでも、ごめん提督。これは私が悪い。

4匹目:借りてきた猫


いつもと違って大人しい、静かという意味。

いやでも初めての所に連れてこられていつも通りいろってのが無理な話だよね。

そんなわけで最初は私もビクビクだった。

別にこれといった問題はなかった。

それが問題だった。

艦娘としての私が勝手に鎮守府に馴染んでいく。

まるてそれが当たり前のように。

そんな中猫の私は驚きの連続だった。

まず生まれて、提督と会って、挨拶をした。

もうこの時点で驚き。

言葉を話してるんだもん。

しかも二足歩行。

うわ手もある。尻尾ない髭ない毛もない。髪長っ。

一挙手一投足に驚きつつ提督について行った、その時だった。

大井「北上さーーーん!!」

何かがすっ飛んできた。ルパンダイブで。

私の脳はそれが大井っちと認識したけど、ここでようやく猫の私が動いた。

こいつはヤバイ。

北上「よっと」スッ
提督「へ?」
大井「ちょっ!」

ドサッ

提督「ぐおぉ…重い、大井重いぃ…」

大井「なっ!乙女に向かって重いなんてホントデリカシーないわね!」

提督「いきなりルパンダイブカマしてくるやつを乙女と呼ぶ文化はここにはねえよ!大体今の北上でも危ないだろ!」

大井「北上さんは大丈夫よ!なんかこう、大丈夫よ!」

提督「だいじょばねえ!」

ギャーギャーワーワー

北上「…あのさ~」

提大「「はいっ」」

北上「あー、とりあえず、移動しない?」

球磨「お、やっときたクマ」

多摩「待ちくたびれたにゃ」

木曽「提督…そのアザは?」

提督「大i「さあさあ北上さんどうぞ中へ~」にゃろう…」

北上「ここが私達の部屋か~。あれ、でもここ四人部屋じゃない?」

提督「まあそうなんだがな。お前ら五人姉妹だろ?いずれ北上が来ても五人でここを使うって決めたんだ」

球磨「ちょっと狭くなるけど、その分私達の距離は近づくクマ」

多摩「おぉ、いい事言ったにゃ」

木曽「ベッドはとっぱらってな。寝る時ゃ布団を並べるんだ」

大井「北上さんは私のどちら側で寝たいですか?右ですか?左ですか?」

提督「隣は確定かよ」

大井「当たり前でしょう。ほら男はさっさと戻る戻る」

提督「お前なぁ、それが上官にとる態度かよ」

大井「そりゃ私だって年上や上官は敬いますよ。基本はね、基本は」

提督「俺は違うってのか!」
大井「当然です、この変態!魚雷ぶち込みますよ!」

北上「ま~たこれだよ」

球磨「気にするな。いつもの事だ」

北上「ん?」

多摩「球磨姉、語尾」

球磨「クマ」

多摩「遅せぇにゃ」

木曽「相変わらず仲良いなぁあの2人」

仲良い?そうなのだろうか。

それから鎮守府内を案内してもらったり歓迎会が行われたり、とても楽しかった。

私はともかく猫のことを忘れた。

それが正しいと艦娘の私が判断した。

5匹目:猫を被る




ここに来て2日目。そこそこ生活に慣れてきたが、一つ問題が出てきた。

北上「知りたい」

猫の私が人間という要素を取り入れて初めて得た強い衝動は、知識欲だった。

人の事がともかく知りたい。

でも、艦娘である私にとって猫の私は言わばエラーだ。その私が積極的に行動すべきなのか、悩みどころだ。

猫を被るの逆。人を被っている。

北上「はあ…」

悩む、なんてのも中々新鮮だ。

提督「な~に溜息なんてついてんだよ」

北上「うわ、提督か~。ビックリした」

場所は鎮守府の屋根の上。

登れるかな~と思ったら裏にハシゴがあった。

猫の記憶のせいなのか、やはり高所は落ち着く。

こうして夜中に目が覚めるのもそうなのかな。

提督「どっから見つけたんだよ。俺の秘密の場所なのに」

北上「たまたまだよ。ダメだった?」

提督「漏らさなきゃいいよ。特に大井には。ここは唯一ゆっくり酒が飲めるんだ」

北上「止められてるんだっけ」

提督「そゆこと」

北上「なるなる」

提督「で、悩み事か?まあ来たばっかりだもんな」

北上「そんなんじゃないよ。人は他人の命にどこまで干渉していいのかを考えてただけ」

提督「お前スゲェ事考えるのな」

提督「言いたい事やりたい事あるなら言えよ」

北上「やりたい事、ねえ」

提督「ほほう、つまりやりたい事があるのか」

北上「あっ、ズルいよそれは」

提督「ふふふバカめ墓穴を掘ったな」

北上「う~掘った穴に入りたい」

提督「好きにやりゃいいさ。あ、倫理的にも法律的にも許させる範囲でだからな?」

北上「ふふっ、なら大井っちはアウトじゃない?」

提督「アイツあたりが強いからなあ。でもいいんだよ。俺とアイツはこれで。あー、でもやっぱ暴力はなしで」

北上「あはははは」

提督「そんなに笑うなよ…」

北上「いやーごめんごめん。でも、うん。ありがとうね」

提督「ん?」

提督「髪」

北上「かみ?」

提督「髪の毛だよ。結ばないのか?」

北上「結ぶの面倒でさ~。どうせ寝る時ゃ解くし、朝起きたらまた結ぶんだよ?面倒」

提督「お前らしいや」

北上「でしょ~」

提督「…なんかアレだな」

北上「あれ?」

提督「黒猫みたい」

北上「黒猫かぁ」


生前は、ちなみに白猫である

図書館。

何故図書館。

近くにあるから。

さて、しかし来たはいいが何を読もうか。

日向「キミも読書家かい?」

北上「ん?日向さん?」

出撃したりする秘書艦と違って殆どを鎮守府での事務仕事に費す、実質秘書艦、事務員こと日向さん。

今更だけど秘書が最前線に出るってどうよ。

日向「読書が生き甲斐でね。日がな一日事務仕事しているのもこうして海に出ず本を読むためなのさ」

北上「えぇ…」

いいのかな、それは。

日向「それで、まだ二日目の新人がここに来るなんて余程好きなのだろう?」

目が怖い。この目を私は知っている。獲物を見つけ逃がすまいとする捕食者の目だ。

北上「本をね、読もうと決めたんだ。そこの迷いは吹っ切れてんだけど、今度は何を読めばいいのかと」

日向「とにかく何か読みたい、それだけなのか?」

北上「まあ、うん。取っ掛かりが欲しい感じかな」

日向「なら一つキーワードを思い浮かべてみろ」

北上「キーワード?」

日向「そうだ。それに関わる本を二三冊読めばいい。何も最後まで全部読む必要は無い。取っ掛かりが欲しいならそれで十分さ」

北上「へえ…うん、そうするよ。ありがとね~」ノシ

日向「ああ、また」

北上「すげぇタイトルだ」

我輩は猫である。しかしこれが日本で最も有名とも言える猫が題材の本と聞く。

こうして私は、本に出会った。

大井「また読書ですか?」

北上「うん」

大井「この前から急に読み始めましたけど、何かあったんですか?」

北上「うん」

大井「私の事好きですか?」

北上「うん」

大井「今晩一緒に寝ませんか?」

北上「いや」

大井「やっ…てない!なんで!?」

北上「いや聞こえてるしね…」

大井「くっ、流石にベタだったか」

多摩「2人ともうるせーにゃ」

木曽「でもホントに何があったんだ上姉」

北上「提督とちょっとね。後は日向さんかな」

球磨「あ~あの読書バカの影響か。まあいい事だ、クマ」

多摩「ギリギリセーフにゃ」

大井「まさか!提督に何か変なことを!?」

北上「そんな事する勇気ないでしょあの人」

木曽「妙な信頼だな。分かるけども」

大井「なんてこと…あんな人に先を越されるなんて」

球磨「何読んでるクマ?」

北上「Meet My Cats」

多摩「うわ英語だにゃ」

球磨「北上は猫が好きクマ」

多摩「もしかして多摩も好きにゃ?」

北上「にゃ以外に猫要素は無いけど多摩姉ちゃんは好きだよ」

多摩「…嬉しいけど納得いかんにゃ」

大井「…にゃ…」

木曽「おい姉、何企んでる」

大井「いや、別に!」

北上「安易ににゃとか言わないでよ」

大井「う…はい」


多摩「…アレ今多摩もディスられたにゃ?」

球磨「気のせいだクマ」

6匹目:喉元



猫は喉元をかくと喜ぶ。

何故か。

かけないから。

舐めれないし手も、届かなくはないけど微妙なところ。

孫の手がわりに机や壁の角なんかに擦り付けたりするけども、それじゃものたりないのだ。

人間になってそれらは消えた。

消えたーのだろうか。

北上「という事で試してみる」

大井「何をですか?」

北上「ちょ~っとそのままでいてね~」

大井「はい」

北上「んしょっと」スリスリ
大井「マ゛ッ(吐血」

炬燵に並んで座って、大井っちの横顔にすり寄せてみる。

肌と肌が触れうというのは全身毛だらけの猫にとって中々不思議な感覚だ。

ん~、しかしこれは…

北上「なんか違うな」

大井っちのもっちり?っぺは気持ちいいけど、なんか違う。

大井「」

木曽「…上姉、死んでるよ。おい姉が死んでる」

木曽「気持ちよさそうだったから?いよいよ猫みたくなってきたな」

むしろ段々猫じゃなくなってきてるんだけどね。

北上「やっぱ人じゃ無理なのかな。大井っちの頬は手でぷにぷにするものだし、あと髪が邪魔かな」

木曽「それおい姉に言うなよ、頭丸めかねない」

北上「あはは、そだね。さて木曽はどうだろうか」

木曽「お、俺にもやるのか?よしてくれよ、あまり気持ちよさそうには見えないぜ」

おい姉に殺されかねないし。と顔に書いてある。

まあこういうのはお互いが気持ちよくて初めて成立するものだ。無理強いは良くない。

北上「となると多摩姉ちゃんか」

炬燵の上に頭を乗せてぐっすり眠っている。

木曽「起こしちゃうんじゃないか?」

大井っちは伸びてる。

北上「今のところピクリともしてないし大丈夫でしょ」ゴソゴソ

多摩姉の隣にいどー。

木曽「まあ多摩姉なら大丈夫か」

ちなみに球磨姉ちゃんは寝起きの機嫌の悪さが凄い。多摩姉ちゃんが近くにいない時に起こしてはいけない。

北上「それでは、オジャマシマース」

多摩姉と同じく顔を炬燵に乗せすり寄る。

多摩姉はぷにぷにというよりスベスベ?っぺだ。

多摩「ニャァ…」

北上(かわゆい)

木曽(ゆっくりが2人…)

北上「さて」

木曽「あれ、もういいのか」

北上「髪の毛がチクチクする」

木曽「あ~、でもおい姉の髪でもダメだったんだろ?もう球磨姉しか残ってないぞ」

北上「長さ云々より髪の毛がダメなのかな。猫みたいにはいかないか…」

木曽「なんで猫にこだわるんだよ」

北上「好きだからかな」

木曽「猫みたくって言うなら喉元かいてもらえばいいんじゃないか?」

北上「それだと擽ったいだけなんだ」

木曽「ならやっぱ猫みたいにはいかないだろ。俺ら体は基本人間なんだし」

う~む。こりゃ打つ手なしか。

やはり人というわけか。

球磨「たっだいまクマ~!」

木曽「おかえり」
北上「おっかえり~」

球磨「久々の長距離遠征は堪えるクマ…北上~球磨を癒すクマ~」

北上「うわちょ、っと」

おんぶするかのように首に手を回し撓垂れ掛かる球磨姉。

身長差は殆ど無いので首に手を回す時点で球磨姉は少し体を浮かしている。

つまり、重い。

球磨「はぁ~、癒されるクマ~」スリスリ

北上「私は疲れるよこれ。お?」

木曽「ん?」

球磨姉の妙に弾力のある頬。包み込むように広がる長い髪。

これは!

北上「いいなぁこれ」

木曽「さいですか」

北上「でも重い」

木曽「座ったら?」

北上「そうする」

球磨「クマ~…」

大井「はっ!?北上さん?北上さんは!?」

木曽「んっ」指差し

大井「ん?」

北上「す~…」
球磨「クマァ…」

大井「……くっ!」

木曽(球磨姉だから文句言えないのか)

多磨のみならず木曽もか…木曾ごめんマジごめん
ら抜き言葉は特に気にしてない

ケジメ案件は困るのでもちっと書くよ…

7匹目:猫と家族







艦娘という個性の塊のような連中の中でも私の姉妹はかなり際立っているというのは、けして身内贔屓というだけではないだろう。

そんな中姉妹を紹介するとしてまず誰が一番に思いつくかと言われれば、

多摩姉ちゃんだ。

多摩「よろしくにゃ」

と挨拶した彼女。

にゃって、何?

当時はそう思った。

色々と本を読んで分かったのは、にゃーというのは猫を表す記号の代表例だという事だ。

いやにゃーとは言ってないよと思ったがこの体で聞いてみるとなるほど、にゃーと聞こえる。

実は彼女には密かに希望を持っていた。

もしかして同じように猫なのでは?と。

実際にはただのキャラだと判明しているのだが。

何故猫キャラに拘るのか。それは本人しか知らない。

北上(正直何故か聞いてはいけない気がする)

球磨「北上はまた日向ぼっこクマ」

多摩「にゃ!多摩も日向ぼっこするにゃ!」

木曾「多摩姉肌に悪いからって日光に当たるの嫌がるじゃん」

多摩「にゃぁ…」

球磨「何をそんなに張り合ってるクマ」

北上「…」ゴソ

大井「あ、どうも北上さん」

北上「大井っち、何故私の膝の上に?」

大井「北上さんぼっこです」キリッ

北上「あぁ、そう」

多摩姉は結構乙女だ。

クマはクマと鳴かない。というか鳴き声じゃなく吠え方と言うべきだ。

だが彼女はクマと言う。

それこそが我が命題、果たすべき使命とでも言うように。

でも結構語尾を忘れている。

球磨型の一番艦、長女球磨。

頼れる僕らのおねーちゃんである。

球磨「また漁船が襲われたみたいだ。こりゃ暫く魚が手に入りにくいかもしれん」

北上「マジ?多摩姉が暴れそーだな~」

球磨「秋刀魚だけでなく他の魚も私達が捕る事になるかもしれん」

北上「面倒だえど、それはそれでありだよね。楽しそうだし」

球磨「とはいえ、私達の目的はあくまで深海棲艦の殲滅だ。他の事に時間を割かれるのはあまりいい事とはいえん」

北上「真面目だなあ球磨姉ちゃん。でも、まあそうだね~」

角度調整でマットにもできるタイプのクッションイスに座り、大胆に脚を組み、鋭い目つきで新聞を読む球磨姉ちゃん。

そして、語尾警察の多摩姉がいないとこんな会話になる。

うーんこのイケメン感。

球磨「お、本の紹介がある。見る?」

北上「あざ~っす」

うわこの人もう新作だしたのか。筆早いなぁ。

これはこの前読んだやつか。え、アニメ実写化?こっちも早いなぁ。私は文字派だから見ないけど。

多摩「みんなー飯行くにゃー」ガチャ

球磨「おう、分かった」
北上「あいよ~」

木曾「うわ球磨姉がイケメンモードだ」

多摩「球磨姉、クマクマ」

球磨「?別に寝不足じゃない」

木曾「語尾の方だよ」

球磨「北上、行くクマよ」

北上「ハイハイ」

忘れるならキャラ作んなくてもいいのに。

理由を聞きたい所だがこのギャップが面白いので放置。

北上「じゃ行こっか大井っち」

大井「はい」

木曾「ところで上姉」

北上「ん~?」

木曾「おい姉はいつから膝枕を?」

北上「二時間くらい?」



大井「あ、足が…」

多摩「何やってるにゃ…」

球磨「ほら肩使えクマ」

木曾。キッソ。キソー。

特になし。

木曾「本人の前で言うかそれ」

北上「特徴がないのが特徴」

木曾「い、いやほら。眼帯とかキャプテンっぽいとことかさ」

北上「基礎とはつまりそういう意味か」

木曾「刀という艦娘としては破格の近接武器型という特徴がだな」

北上「例えば球磨姉や多摩姉が語尾をとってもそれはそれで語尾がなくなった球磨姉や多摩姉としてキャラが立つけど木曾が眼帯や刀を取って女の子っぽくしてもお、おう…としか言えない感じというか」

木曾「妹をいじめて楽しいか?」

北上「木曾をいじめるのが楽しい」

ニヤッと口元が歪むのを感じる。

我ながら加虐趣味とは如何なものかと思うが。

生きる目的以外で他の生き物を殺すのは人間だけだ、なんて話を聞いた事があるけどそれで言うと猫は結構殺してる。

鳥を捕まえては瀕死になるまで転がしてポイ、なんて記憶がある。

酷い話だ、なんて猫が思うわけもなく。

でも、だからなのか、人間で言うところのSな心が、加虐心が、私にはあった。

北上「でも木曾って嫌がらないよね」

木曾「これで嫌がってるように見えないなら上姉は根本的に問題がある」

北上「いやそれはそうだけどさ、本気で嫌がらないじゃん」

木曾「いやいや、もし愛すべき姉妹の愛さなきゃいけない姉に気を使って必死に我慢してたらどうすんのよ」

北上「それは考えなかった。よし、ならばこうだ」

正座する。そしてそのまま前にも手をつく。

木曾「え、いやいや待て、待て上姉!この流れで土下座はずるい!先手必勝にもほどが」
北上「にゃ~ん」

木曾「今なんと?」

北上「猫の真似」

木曾「…」

恥ずかしさと敗北感と、少し可愛いとか思ってそうな複雑な表情をしている。

猫=可愛い。人間にとって猫とは少し不思議な効果のあるものだと最近わかった。

木曾「上姉は、猫が好きだな」

北上「そう、だね。でもペットに対するような好きじゃない」

木曾「恋人とか?」

北上「憧れ、かなぁ。でも懐かしさかも知れないや」

木曾「ふ~ん。相変わらず上姉の考える事はよく分かんないな」

北上「誰だってそうじゃん。考えのわかる人なんていないよ、エスパー以外」

木曾「いや、そうじゃなくてさ。それは考えが読めないって話だろ?俺が言ってるのは読めないし想像出来ない、読めても理解できない。そういう意味だよ」

北上「…なんか傷つくな」

木曾「嘘つけ、上姉がそんな事気にするかよ」

北上「今しがた考えが読めないとか言った舌の根も乾かないうちに分かったふうな事を」

木曾「考えてる事は分からなくても、どんな人かは知ってるよ。姉妹だし」

北上「姉妹か~。ならしょうがない。どうにもしようがない」

抜き身の言葉。切り合いみたいな会話。

言いたい事を言い合える、飄々としたイケメン。そんな妹。

木曾「ところで上姉、その猫のポーズはきつくないのか?」

北上「思いの外きつい」

木曾「なら止めろよ…」

大井「北上さ~…」ガチャ

木曾「あ」

北上「にゃ」

大井「北上さん!!」
北上「大井っち」
大井「はい!!」
北上「お座り」
大井「はいぃ!!」

大井。大井っち。大井ちゃん。あ、これはなんかキモいな。ちゃんはないな。

私の妹。なんだけど、みんなからは殆ど双子みたいな扱い。

私としてもそんな感じ。

でも、大井っちはどう思ってるんだろうか。

大井「もう1度先ほどのポーズを!何卒!」

木曾(土下座…)

北上「また今度~」

大井「後生ですから!」

北上「ダメなものはだ~め」

大井「くっ!」

木曾「いや俺を睨まれてもな…」

彼女を語るには、私にはまだ少々言葉が、経験が足りないと思う。

大井「お願いします北上さ~ん」

北上「そんなに抱きつかないでよ~。分かった分かった、今晩一緒の布団で寝たげるから」

大井「ホントですか!」

北上「約束ね」

小躍りを始める大井っち。

ちなみにこんなんでも私に変な事をしてきたりはしない。

今のところは。

8匹目:猫と音


パァン

北上「うわっ!?」ビクッ
球磨「うおっ」

木曾「なんの音だろうな」

多摩「わからんにゃ」

大井「北上さん!なんで私に抱きつかないんですか!」

北上「いや球磨姉の方が頑丈そうじゃん」

球磨「姉を盾にしようとするなクマ」

木曾「上姉は音に敏感だよな」

北上「つい癖でね」

球磨「猫みたいだクマ」

大井「雷も苦手ですものね」

木曾「猫みたいだな」

多摩「にゃ!?」

パァン

球磨(まただクマ)
北上(慣れてきた)


多摩「うにゃぁぁあああ゛あ゛あ゛!!!」
木曾「うるせえぇぇえええええ!!!」




大井「ふぅ」スッ

北上「どこ行くの?」

大井「ちょっと」


その後鎮守府での爆竹の使用が禁止になった。

9匹目:猫にかつお節



北上「いや別に好きじゃない」

むしろ嫌いだ。

球磨「なら球磨が貰うクマ」

大井「ああ!ズルイです球磨姉さん!」

球磨「ふっふっふ、早い者勝ちだクマ」

木曾「かつお節くらいここにいっぱい置いてあるだろ」

多摩「美味しいけど臭いは嫌いにゃ」

かつお節。独特の匂いを放つ、まあ一応魚。

なぜ猫に?日本の猫は好きだったりするのか?

こんな臭いのモノを果たして本当に喜んで食べるものなのか?

北上「そういや私の好物ってなんだろう」

多摩「それは他人に聞くものじゃないにゃ」

北上「それはそうなんだけどね」

大井「はい!北上さん!私北上さんです!」

北上「球磨姉は?」

球磨「ん~ステーキとかクマ。ミディアムがいいクマ」

北上「わお」

多摩「多摩はねぎトロd、猫まんまだにゃ!」

木曾「見たことないぞ猫まんまなんて。俺は、いちごパフェかな」

球磨(可愛い)
多摩(カワイイ)
北上(かわいい)
大井(北上さんカワイイ)

木曾「なんだその目は」

木曾「猫ってホントに猫まんま好きなのか?」

北上「雑食だし食べるには食べるでしょ。好みかはともかく」

昔は何食べてたっけな。

多摩「種類や地域によって差がありそうにゃ」

球磨「日本猫ならなんだろうクマ」

大井「銀〇スプーンとかじゃないですか?」


大井「え、なんですかその間は」

球磨「猫もジャンクフードの時代クマか」

多摩「時代だにゃ」

木曾「うまいと思わせるために作られてるしな」

北上「さもありなん」

多摩「ちなみに人が食べるとただの味の薄いツナ缶だにゃ」

「「「「えっ…」」」」

多摩「え?いや、食べてない。食べてないにゃ。聞いただけにゃ…引くにゃ!距離をとるにゃ!」

10匹目:猫耳に水



58.59.60.61.62

水の中からの眺めは実に新鮮なものだ。

猫は水が苦手だから。

ゆらゆらと揺れる光は私の眼に不思議な光景を見せる。

沈むとはこういうものなのだろうか。

まだ経験した事の無いそれに思いを馳せる。

75.76.77.78.7

あ、やばい。

息がもう

北上「ぶは!」ザバッ

球磨「北上の負けクマ~」

木曾「おーい多摩姉~。勝ちだぞ勝ち」

多摩「ぷはっ。ふふふ、多摩に勝とうなんざ100年ゲホッ!…ゴフ…」

大井「ほら落ち着いてください。深呼吸深呼吸」

北上「ん~もちっと潜れるかと思ったけど、お湯だとなんか上手くいかないね」

木曾「海とは勝手が違うよな。なんでだろ」

球磨「バス〇マンのせいだクマ」

木曾「えぇ…」

お風呂での息止め大会。

球磨型最強は多摩姉ちゃんだった。

猫は水が苦手だ。

何故。

調べてみると、
耳に水が入ると死ぬ
毛が水を弾かないから
泳ぎに適した体じゃないから
水に溶けるから
遺伝子にトラウマがある
水甕に落ちると死ぬから

色々あったけどまあどれかが正解なのだろう。

だからこうして水の上を移動したりお風呂に入ったり潜ったりは、本当に新鮮なのだ。

球磨「多摩はよく息が持つクマ」

多摩「コツがいるんだにゃ」

木曾「相変わらず猫らしくない」

多摩「潜れる猫だっているにゃ!」

大井「開き直ることを覚えたんですね」

多摩「なんでみんな猫に関してはドライなんだにゃ…」

多摩「球磨姉もやるにゃ?」

球磨「球磨はいいクマ。髪がめんどくさいクマ」

北上「球磨姉は髪長いもんね~、ん?」

大井「どうしたんですか?」

北上「耳がなんか変な感じする」

多摩「水入ったにゃ?」

北上「おお」

これが水が入るという感覚!

凄い!気持ち悪い!


木曾「片足ケンケンやったらどうだ?」

北上「何それ」

木曾「こう、片足で立って、ジャンプしながらうわっ!」

バシャン!

球磨「ドジっ子クマ」

多摩「生きてるにゃ?」

北上「これ危なくない?」

球磨「耳に指突っみゃ治るクマ」

大井「ダメですよ、もし鼓膜とかに傷が入ったらどうするんですか!」

球磨「え、そんなに危ないクマ?」

大井「耳は繊細なんです。無闇に指を入れてはいけません」

球磨「うぅ、分かったクマ」

多摩「どっちが姉だかわからんにゃ」

木曾「脱衣所に綿棒あったはずだ」ザパッ

北上「体は洗ったしそうするかな」

大井「はっ!でしたら!」

大井「どうですか?」

北上「ん~いい感じ~」

鏡の前に座り、大井が後ろから綿棒で耳を掃除してくれてる。

やたらと上手い。何故か。

大井「はい終わりです。このまま髪も乾かしちゃいますね」

北上「うんお願い」

ドライヤーの音に一瞬ビクッとなる。

しかしこうして他人に髪を解かれるというのは、何だか毛繕いをされてる時を思い出して、まあ悪くない。

大井「結ぶのはいいんですよね」

北上「どうせ解くしね。その方が乾きやすいし」

大井「この後、またどこかへ?」

北上「うん」

大井「…」

北上「着いてきちゃダメだよ」

大井「わっ、分かってますよーオホホ」

分かっててやる顔をしている。

まあ大井っちをまくのはそう難しくないからいいけど。

北上「ねえ大井っち」

大井「はい?」

北上「あ~、ありがとね」

大井「いえいえ」

一人でいたい、とはなんか言えない。

それは、北上じゃなくて私の意思だ。

それは、表に出すべきじゃない気がする。

11匹目:女の心は猫の目



女の心は猫の目のようにコロコロ変わる、とか。

猫の目がコロコロ変わってるという自覚は無かったが、調べてみると確かに変わってる。

暗くても見えていたのはそういう仕組みだったのか。

確かに怪しく光ってたな。

さてでは女の心とはどうだろうか。

北上「ん~…」

朝。

規則正しい生活というのはなかなか面白いが、眠い時に寝れないのは如何なものか。

伸びを1回。

目を開ける。

大井「…」ジー

北上「…おはよう」

大井「おはようございます」

ニコッと満面の笑顔。

うん、まあいいか。

枕元には着替えが置いてある。

勿論私は用意してない。

大井っちだ。

私だからやってくれているのだろうが、しかし面白いのは私だけにやっているわけではない所だ。

多摩「おはよぅ」

大井「おはようございます」

語尾も付けないくらい寝起きの機嫌が悪い多摩姉にも着替えを渡してる。

木曾「んー、まあいいか」

大井「いいわけないでしょ。ほら貸しなさい」

木曾「ちょ、おい姉」

大井「ほらじっとする」

木曾「へいへい」

こうして妹の寝癖を直したり。

球磨「さてと、ありゃ?」

大井「スカーフならそこの机のとこにかかってますよ」

球磨「何故わかったクマ何故知ってるクマ」

大井「球磨姉さんの事くらい大体わかりますよ」

球磨「何か釈然としないクマ。でもありがとクマ」

私達の生活は、はっきり言って大井っち1人の存在で成り立っている。

大井「さあ、朝ご飯に行きましょう」

でも大井っちは、凄く嬉しそう。



大井「いただきます!」ムスッ

プンスカという効果音が聞こえてきそうなくらい怒ってらっしゃる。

北上「何かあったの?」ヒソヒソ
木曾「どうせ提督だろ」ヒソヒソ
球磨「午後の編成の件でもめたらしいクマ」ヒソヒソ
多摩「またかにゃ」ヒソヒソ

大井「何か」

「「「「いえ何も」」」」

提督「うーっす」

空気を読めない奴が食堂に入ってきた。

この場合提督を責めるのは酷というものだが。

提督「♪~…げっ」

うわ反応しやがったぞ。

スルーしときゃいいのに。

大井「げっ、とはなんですかげっとは。それが大切な部下に対する態度ですか」

提督「上官の命令に背くばかりか暴力まで振るうようなやつがよく言うぜ。大切にして欲しければまず敬う心をだな」

大井「なによ」
提督「なんだよ」

多摩「鶏が先か卵が先かにゃ」

球磨「元気なのはいい事だクマ」

木曾「この情熱ほかの事に向けてくれねぇかな」

提督「ぃい~だろう今日という今日は決着つけてやる!」
大井「望むところよ!」


北上「ごっそさん」

ちなみに2人はこの後提督室でボードゲームにて決着をつける気だ。

いつもの流れで。

さらに言うと将棋は提督が勝ってオセロで大井っちが勝つ。

チェスは見事に五分五分らしい。

北上「仲いいじゃん」

球磨「仲いいんだクマ」

多摩「言うとまた喧嘩が長引くにゃ」

木曾「そっとしとけ、ほっとけ」

おやつ時

大井「じゃ~ん!今日の戦利品です」

北上「おおこれは伝説の秘宝間宮券!」

大井「大魔王テイトークとの死闘の末勝ち取りました」

北上「これは祝わにゃなるまいよ」

大井「それでは」

北上「間宮っちゃいますか?」

大井「やっちゃいましょう!」

チケットを高々と掲げ満面の笑みの大井っち。

さ~て嬉しいのはチケットなのか勝利なのか、はたまた。

北上「ホントは私よりもこうしていたい人がいるんじゃないの?」

大井「まさか、北上さん以上の相手なんていませんよ」

一つのパフェを2人で向かい合って食べる。

こういうのは彼氏彼女でやるものだという事はしっかり知っている。

北上「提督とは?」

大井「誰があんな人。敵ですよ敵。深海棲艦なんかよりよっぽど」

北上「それは怖い」

大井「私は北上さんが居れば十分です。提督はいりません。というか邪魔です」

満面の笑みで怖いことを言う。

大北「「ごちそうさま」」

大井「北上さん、この後は?」

北上「読書タイム。そろそろ借りた本が溜まってきてね~」

大井「そうですか…」

少し落ち込む大井っち。

読書タイムは流石に大井っちも自分が邪魔になると分かっている。

なんだかんだで私の事を一番に考えてくれている。

なんだか悪い気もしちゃうんだけどさ。

大井「では戦利品を提督に見せつけてやりますか」

さっきスマホで撮ったパフェの写真の事だろう。

大井「それではまた」

北上「うん、じゃね~」

悪~い顔をして提督室へ向かう大井っち。

北上「やれやれ」

猫の目も、あそこまでコロコロは変わるまいよ。

13匹目:海猫




ウミネコを知ってるだろうか。

私も一応知ってはいる。

鳥だ。

ではウミネコと言われてまず何が思い浮かぶか。

私はカモメだった。

実際調べてみてもカモメとウミネコの違いなんてよく分からない。

知らない。

そんなもんだろう。

海とか浜にいる鳥で、カモメ以外をぱっと浮かべる人なんてそんなにはいないんじゃないだろうか。

いやどうだろう。偏見だろうか。

アンケートでも取ろうか?

いやしかし鎮守府なんていう極まりきった偏りきった空間でそんな事しても意味はないか。

さて、私はウミネコに会ったことがない。

いや正確には船の私は見た事ぐらいあるのかもしれないけど、それをウミネコと認識していない以上会ったことないも同然だ。

だからこれは、私が初めてウミネコに会ったという話だ。

北上「今日は、三日月?やや三日月か」

例の屋根上。

遅めのお風呂の後、髪を乾かしに来てみた。

少しづつ暖かくなっていくこの時期の夜風は中々のものだ。

時刻はどこぞの軽巡の夜戦時報が一通り騒いで取り押さえられた頃。

北上「夜にテンション上がるのは分からなくもないんだけど」

猫のせいなのかな。それとも猫の記憶のせいで意味もなく夜行性と勘違いを起こしているのか、はてさて。

提督「んだよ、お前も夜戦バカだったのかぁ?っしょっと」

北上「おや、提督」

やけにはしごを登るのに苦労してる。

北上「あ~お酒か」

提督「そゆこと。飲むか?」

北上「うっわ未成年に飲酒を勧めてきたよこの人」

提督「それは人間の法律だよ。つか既に何度か飲んでたろ」

北上「いや、実はまだ飲んでないんだ。これはマジで」

提督「そうなのか」

北上「飲んでるふりはしてたけど」

飲まなきゃいけないような雰囲気があったので。

とはいえアルコールのあの妙な匂いがする飲み物をわざわざ口にしようとは思わなかった。

猫のカンってやつ。

提督「なら今飲んでみるか?何事もお試しだ」

北上「それはー、ビール?」

提督「チューハイ、殆どジュースだよ」

北上「えぇ…こういう時提督って一升瓶に入った高そうなお酒飲むものじゃないの?お酒とかよく知らないけどさ」

提督「ばっかおめえ高いってマジで高いんだぞ。それに俺にとって酒はただの娯楽だ。安物でいーの」

北上「なるほどねえ。じゃいただきっ」
提督「あっおい!」

缶の蓋を開ける。

提督の頑張りのおかげで吹き出すことは無かった。

北上「んっ……ん?ん~」

提督「ごかんそーは?」

北上「これホントにお酒?」

提督「言ったろ、ジュースだよこんなん」

今の私の舌ではアルコール数パーセントの差は分からないらしい。

北上「ごっそさん」

特に面白味もなかったので提督に缶を返す。

提督「お、おう…」

北上「なに、その微妙な反応」

提督「いやだって、なあ?」

北上「だからなんなのさ」

提督「ほら、他人が口つけたのって気になったりしない?」

北上「あー雑菌とかか。提督そんなに気にするタイプだったっけ」

提督「んな汚ねえ話じゃなくて。だぁからぁ、関節キスだよ関節キス」

北上「かん、え?何て?」

提督「え?」

北上「関節キスね~そんなものがあるとは」

提督「マジで知らねぇのか」

北上「いやいやホントに勉強不足だったよ」

提督「別に知る必要があるかと聞かれたら皆無なんだけどな」

北上「でもそれって気になるものなの?鎮守府だけでもゆうに百を超える艦娘と提督が同じ食器とか使ってるじゃん」

提督「それはほら、洗ってるからセーフ」

北上「やっぱ雑菌か」

提督「そういう言われるとなんかな…」

北上「例えばその缶、今提督が飲んだら関節キスなんだよね」

提督「そうなるな」

北上「例えばそれを持ち帰って一時間後くらいに飲んだら関節キス?」

提督「ん~、関節キスか否かと聞かれたら関節キスだが。少し微妙になるな」

北上「つまり異性が触れたという認識は洗えば消えるし時間で薄れると」

提督「やめろよ…夢がなくなるような言い方」

ゴクッと一飲み。

北上「あれ?いいの~関節キスだよ~?」

提督「うっせ、んな気分じゃなくなったよ」

北上「でも意外。こんなとんでも男女比率の中でそんなこと気にしてるなんて」

提督「だからこそだよ。俺は上司でお前らは部下だ。それにお前らは兵士で、兵器だ」

北上「ありゃりゃ、結構ドライだね」

提督「迷いどころなんだけどな。ケッコンなんてのもあるし」

北上「まぁどころっこしいな~。そんなんだから童貞なんだよ」

提督「ブハッ!」

チューハイは宙に撒かれて消えていった。

下に誰もいないといいけど…

提督「ど!童貞、だけどさあ」

北上「誰か相手とかいないの?狙ってる人とか」

提督「ズバズバ聞いてくのな。いねえよそんなの」

北上「え~いるじゃん大井っちとか」

提督「ブッ…ゴホッゲホッ」

吹き出ーさなかった。でも咳き込んだ

提督「アイツはんなんじゃねえって」

北上「でも仲良いじゃん」

提督「男同志なら友情が芽生えそうなくらいいがみ合ってるのにか?」

北上「なら男女だと愛情が芽生えるかもよ?」

提督「人の事無能呼ばわりするし容赦なく殴る蹴るの暴行を加えてくる女だぞ」

北上「それについては聞いたよ」

提督「誰から」

北上「みんなから」

提督「…なんて」

北上「ツンデレ」

提督「忘れろ」

提督「仮にあれが愛情表現ならそれはそれで問題だろ…」

北上「そこはまあ、同意かな」

提督「第一俺に惚れてるって前提がおかしいだろ」

北上「そお?」

提督「特に身長も高くないしイケメンでもないし目立った成績も尖った功績もないし、技量も度量もなくて…女にも、慣れてないし、未だに、遠征も間違える、ダメ、提督、だし…」

北上「こらこらこら落ち込まない、自分で自分を傷つけない」

提督「グスン」

北上「大の大人がみっともないな~。そりゃ凄いところは無いかもだけど、特段ダメな所もないじゃん。大丈夫だよ!」

背中をバシバシと叩いてみる。

本で読んだ行為だがしかしなんで叩くのだろうか。

提督「慰め方下手くそか」

提督「つか大井に関してはむしろお前だろ」

北上「私?」

提督「お前ら仲いいじゃん」

北上「仲はそりゃあいいんだろうけど、え?何、大井っちの好みとか教えて欲しいの?」

提督「そうじゃなくて、その、女同士で~とか」

北上「女同士じゃダメじゃん」

提督「ほら、百合とかレズ的な?」

北上「花?」

提督「あり?」

北上「え?」

北上「なるほどね~同性愛か。考えもしなかったよ」

提督「なんな汚してはいけないものを汚してしまった気がする」

北上「余計な知識なんてないよ。余計なのは知識に善し悪しを付ける価値観の方さ」

提督「お、おう」

北上「でもなるほどね。確かにそう考えると大井っちの行動は理解出来ないもないかな」

提督「やっぱそうなのか」

北上「さあね。本人に聞かない限りそうかもってだけだよ」

提督「そりゃそうか」

提督「ほれ、やるよ」

北上「いいの?まだ残ってるけど」

提督「空き缶だけ渡すとか酷すぎだろ。なんか飲む気分じゃなくなったからな」

北上「あちゃ、悪いことしちゃったかな」

提督「逆だよ逆。いい気分になったから酒はいらんさ」

北上「そお?なら遠慮なく」ゴクッ

甘い。

提督「お前は気にしないのな」

北上「関節キス?まあ特にはね。なんなら普通のキスしちゃう?」

提督「っ…遠慮しとくよ。なんか怖いしな」

北上「え~とって食いやしないよ」

提督「やれやれ、ここは変なやつしか集まらないのかね」

北上「自分が変だとは思ってるんだ」

提督「多少はな」

あれ、しかし今の言い方だと。

北上「ここって私たち以外にも誰か来るの?」

提督「ああ、と言っても俺も最近知ったんだが」

ドクン、と心臓がなったのを感じた。

北上「誰が、来るの?」

提督「昼過ぎにそこのはしごを降りてるのを見ちまってな。なんでも飯食った後にここによく来てるんだと」

動悸が激しくなってるのは多分お酒のせいじゃない。

提督「谷風。面識はあるか?」

もしかして、という期待を、私は抑えられなかった。

自分で書いてる時は違和感ないから不思議

完全に、100%の直感だったけど、私は谷風に自分と同じじゃないかという期待を寄せていた。

だから次の日すぐに行動した。

北上「ホントにいた」

谷風「ん?あぁキミか。思っより早かったね。いやホントにね」

北上「こんな真昼間からなんでここに?流石にそろそろ熱い季節だよ」

谷風「空が近いじゃないか。それに皆を見下ろせる」

北上「えぇ、そんな理由?」

谷風「冗談だよ、半分ね。さて初対面ってわけじゃないけど、一応言っておこう。初めまして、谷風さんだよ、よろしくね」

北上「…北上」

谷風「うんうん。よろしくね、北上さん」

握手を、した。

谷風「でも高いところが好きなのはホントだよ?何故かね」

北上「…」

高いところ。やはりコイツも猫か?

谷風「別にスカートの中を覗かれることに抵抗がないわけじゃないんだけどね。まあこんなところを見る人もいまいよ」

特にそんな感じはしないけど。いや私だってパッと見は普通だけどね。

谷風「しかしこんな格好で毎日戦場に赴けば妙な思考を植え付けられても不思議じゃないよね。初めて被弾した時なんかこれはもういっそ下着だけでいいと思ったよ」

しかし何ていうか、この娘、

谷風「全部含めて艤装だし仕方ないんだけどね。それで言ったら一番可愛そうなのは提督になるのかねえ。心配で駆け付けたら目に映るのは露出した太股、お尻、お腹に、胸。お互い辛いもんだよ。誰が考えたんだかね。神様かな?なら納得だけど」

…よく、いや非常に、あまりに非常識になレベルで喋る。

北上「それは、今話す事?」

谷風「ふむ…では本題だ。キミ、猫の記憶があるんじゃないか?」

北上「え!?なんで!」

谷風「よしよし、合ってたみたいでホットしたよ。もっとも間違ってたところで何が変わるわけじゃないのだけどね。誤魔化すのは簡単だし」

北上「気づいてたんだ」

谷風「そりゃそうだ。だからキミがここに来るように仕向けたんじゃないか」

北上「仕向けた?」

谷風「キミが夜中にここに来てると知ってね。昼に私がはしごを降りるとこを提督に目撃させて私の事を話したんだ。そうすればキミはここに来る、かも知れない」

思わず構える。

仲間に出会えたのは嬉しいが、これは少しばかり予想外だ。

谷風「ここで大事なのはキミは来るか来ないか選べるってとこさ。もし記憶があるならきっと来る。なければ来ないだけだし」

北上「私に記憶が混じってるのを知ってたんじゃないの?」

谷風「確証はなかった。確信はあったけどね。だから待つつもりだったんだここで。最低1ヶ月は待つつもりだったかな。提督が話すか、いつ話すかは運任せだし」

北上「さっきの早かった、はそういう意味か」

谷風「そういう意味さ。まあ来てくれてよかったよ。キミの言う通りここは熱いからね」

北上「高いところが好きってのも私の反応を見るための嘘って事ね」

谷風「ん~まあそれもあるかな。好きなのは本当さ」

谷風「私はここの古株でね。今の提督の一つ前から。もう50年はここにいる」

北上「ご、ごじゅう?」

谷風「そう。だから色々知ってるし顔も利く。だから監視してるんだ。自分と同じ艦娘がいつか合われるんじゃないかって」

北上「猫ってのも人に聞いたわけだ」

谷風「うん。実験もしたけどね。爆竹流行らせて反応見たり色々。猫の反応だったよ」

北上「あれ意図的だったんだ。手の込んだことで」

谷風「人にはバレない方がいいからね。なんとなくだけど。回りくどいのもそのためさ」

北上「でももし私が来なかったらどうするつもりだったの」

谷風「記憶があった上で来なかったら、それはそういう意味だと理解して今後関わるつもりはなかったよ」

北上「へえ、優しいんだね」

谷風「気持ちは分からなくもないからね。こんな記憶忘れて、ただの艦娘として生きた方が楽ではあるんだろうしさ」

北上「他には、いないの?」

谷風「知る限りは。これまでも怪しい艦娘にはアプローチをかけてたけど来たのはキミだけ。だから認識上この鎮守府には私達しかいないと思っていいかな」

北上「そっか、残念。ってわけでもないのかな」

谷風「そうだね」

北上「でも、なんでそんなに必死に探してたのさ」

谷風「そんなの当たり前だろ?独りぼっちは寂しいんだ」

北上「それは、まあそうねえ」

谷風「秘密ってのは2人以上で抱えて初めて面白いものになるんだよ。1人じゃ負担にしかならないのさ。もっとも誰かに話すとその時点で戸が建てられなくなるんだけど、

とこんな話は今はいいか。ともかく私は話し相手が欲しいのさ」

北上「…お喋りが好きってわけだ」

長い。話がさっきから長い。

私とのセリフ量に差がありすぎる。

しかも途中に呼吸を入れずに一気に話すもんだからついていくのも大変だ。

谷風「そうなんだよ。この口ときたら頭で考えるよりも早く動くもんだから歯止めが効かなくてねえ。歯止め、なんてまさに書いて時の如くだね。

でも普段は抑えてるんだ。谷風ってのは別にそうお喋りなキャラじゃないからね。それ自体は別に構わないしむしろ谷風という自由なキャラは中々気に入ってんるんだ。人間関係の構築という点でも大いに役立つ。

さて私、つまり谷風でもなく海猫でもない今の私がこうなったのはまさにその海猫の部分が原因なのさ。視点がズレたと言うべきなのかなあ。そのせいか一つのことに対して思うところが次々と湧いてくるようになっちゃってね。こうして「ウェイト!」ん?」

北上「え、今なんつった」

谷風「今?」

北上「う、うみねこ?」

谷風「そうだよ」

北上「猫じゃないの?」

谷風「そんな事は言ってないはずだけど」

北上「えぇ…」

谷風「あるときふと気がついた。空を飛んでいた、と。ビックリしたよ。そうして色々必死に思い出すうちに、自分がどうやら鳥であったことに気がついた。

そして悩んだ。

そりゃそうだよね?何故に鳥ってね。徐々に翼やくちばしの感覚を思い出していった。

すると面白いものでね。価値観が大きく変わった。さっきも言ったけど、そうだね、当たり前が当たり前じゃなくなるって感じかな。

それがいい事かはともかく、周りとズレているというのはしかし想像以上に辛いものでね。悩みの種というわけだ。話し相手が欲しいというのはそういう事さ」

少しセリフの長さを抑えろと言った矢先にコレだ。諦めよう。

北上「つまりこれから仲良くやっていこうってわけね」

谷風「そゆこと。悩み事は共有した方が気が楽だろ?」

北上「同感」

谷風「さてと。ならこんな暑っ苦しい所にとどまる理由はないね。次からは夜にしよう。そうだね…毎週火曜と金曜に私はここに来るよ。キミも会いたければ来るといい」

北上「りょーかい。それ以外であった時はどうする?一応秘密なんでしょ」

谷風「そこは、ん~。キミに任せるよ。それじゃね」

北上「え~、ちょっと」

タッタッタッと振り向きもせずハシゴに駆けていく。

一瞬飛ぶのかと思ったが普通に降りていった。

さて、

北上「面白いことになっちゃったな」

ついにやけてしまう。

なんだかいい気分なのでニャーと言ってみた。

谷風のあの声をずっと聞いていたいと思ったらこうなった

誤字チェックをする気力は、あまりない

14匹目:好奇心は猫を殺す



イギリスのことわざ。

しかし好奇心とは大切なものだ。

それこそ、命を懸けてもいいくらいに。

やりすぎると馬に蹴られるかもしれないけどさ。

夕張「ズバリ、ツンデレよ!」

北上「うえ~?」

工房。

近代化改修と点検の真っ最中。

北上「なに、つんでれって」

夕張「あれ?知らない?本読むって言うから知ってるものかと」

読書家なら知ってるような単語なのか。

皆目見当がつかない。

永久凍土の上にある雨の少ない土地の知り合いかなにかかと思ったが。

夕張「ツンデレってのは略称で、最初ツンツン後デレデレって意味よ」

美味しいお米の炊き方かよ。

夕張「今は天邪鬼って意味に使われる事が多いかな」

天邪鬼。それならわかる。

北上「あ~確かに、うん。ツンデレだ大井っちは」

夕張「鎮守府の皆そう思ってるよ多分。絶対に言わないけどさ」

北上「鬼とはよく言ったもんだよね」

夕張「あはは、確かにそうね」

なんて喋りながらも作業スピードが一向に落ちない。プロや…

夕張「でも大井さんって北上さんが好きよね」

北上「ん~まあそうだよねえ」

夕張「やっぱ提督<北上さんなのかな~。せめてイコールを入れたいわね」

北上「難しい話だよ。私達は特に、命がかかってるしね。どちらもとはいかないし」

夕張「ケッコンの話もあるもんね。提督もあまり私達を異性として意識しないようにはしてるみたいだけど、そうも言ってられないんじゃないかな」

北上「命短し恋せよ乙女、って?」

夕張「寿命で言えば提督の方が短いけどね」

北上「戦場だもの、私達の方がきっと、短いよ」

夕張「ハイ終わりっ!」

北上「ん、ありがとね」

夕張「そうそう、最初の話に戻るけどさ。北上さん本読むのよね」

北上「まあそれなりに」

夕張「ツンデレをより理解してもらうために、私の秘蔵のコレクションを貸そうじゃないか!」

北上「お、おう」

目がキラキラしてる。

デジャヴ?

日向さんの時と同じだこれ。

夕張「さあさあ着いてきたまえ~」

自室に帰宅~っと、

大井「あら北上さん、改修は無事ああーーーー!!」

北上「うわっ、何何どうしたの大井っち!」

大井「き、北上さんが、エッチな本を!?」

北上「えっち?」

エロ、18禁、性的表現。

手に持ったらいとのべるとやらの表紙絵と夕張の言葉を思い出す。

「どんな本もジャンルもまず読む事よ!好き嫌いは構わないけど偏見はダメ」

無茶を言う。

北上「いやでも昔の本とか性的表現ガバガバだし表紙に裸体とかザラだし」

大井「うっ…」

北上「というか私らの格好も大概、それ以上じゃん」

大井「グハッ」

WIN!

大井「いえ。北上さんの読書を邪魔するつもりは無いんです…はい…」

北上「なんかごめん」

大井「お気になさらず…」

どうしよう、何か触れてはいけないことに触れてしまった気が。

北上「大井っちは服破けるのいやなの?」

大井「それは誰だってそうでしょう!」

そうかな、そうかも。

いや普通はそうだけど。

北上「慣れるしかないじゃん」

大井「でも、北上さんの、北上さんのあられもない姿があの唐変木に見られるかと思うと…」

唐変木。提督の事か。

北上「私の姿、ねえ」

とりあえず1冊目を開く。

読書とは、

知識を得られる、

見聞が広がる、

語彙力が上がる、

エトセトラ

でも一番に好きな部分は、他人の価値観を得られることだ。

色々な作者の、そして作者の様々な価値観がそこには登場人物として描かれる。

それらを読み、理解したり、出来なかったり、そうして自分の中に蓄積していく。

それがいい事かどうかは賛否両論ありそうだが、猫なんてぶっ飛んだ価値観が混じってる私には今更だ。

北上「いやでもさ、これはキツいわ」

夕張「ありゃ、ダメだった?」

北上「面白かったけど、そのね、大井っちを見る目が、変わりました…」

夕張「ほ、ほら!フィクション!フィクションだから!」

北上「小説より奇なりが現実だよ…」

私がそれを証明してる。

夕張「でも百合は少し理解出来たでしょ。まだまだ序の口よこれでも」

北上「マジかぁ」

愛の種類というのはこれほどまでに多彩に、深く広がっているのか。

私にはまだ早いようだ。

私は賢いので、好奇心を少し抑えることにした。

16匹目:猫と子猫






数。それは圧倒的な力の差をも覆す。

一つ一つは弱くても、膨大な数が集まるととてつもない強さへと変わる。

生き物は知っている。

本能的に。

数の暴力を。



北上「でさ、助けてくれない?」ヒソヒソ

谷風「私も涼みに来たくちだからねえ。そいつぁ無理かな」ヒソヒソ

日に日に熱くなる。そんな季節。

私は、

駆逐艦たちに襲われていた。

谷風「襲われてるとは随分ないいようじゃあないか」

北上「似たようなもんでしょ」

谷風「見解の相違だね」

北上「なんでコイツら私の所に寄ってくるのさ」

谷風「君のいる所は涼しいからね」

北上「私がいる所が涼しいんじゃないよ。涼しい所に私が来てるだけ」

谷風「いかにも猫って感じじゃあないか」

夕立「…ポイ~」スヤスヤ

谷風「あまり喋ると起こしちゃうかな」

北上「起こしたいからいいよ」

工房と母校の渡り廊下。

この時期いい感じに風が吹き込む日陰を見つけたのでここで読書と洒落込むつもりだったんだけど。

最初は遠征帰りの六駆。今は私の向かい側で壁を背に座って寝てる。

真ん中が響で皆そこにもたれかかる形になっている。誰が姉だか分かりゃしない。

次に工房から出てきた夕立と神風。

神風も本が好きらしく、最初は私の横に座って本を除いていたがライトノベルは合わなかったのか、そのまま眠ってしまった。寝るなよ…長い髪が少しこそばゆい。

夕立。こいつはもうストレートに寝た。横に座る神風を見て「私も!」と言って座って、「ここ涼しいっぽい」と言った次の瞬間には寝てた。のび太か。

こうも両手を固められちゃ本を読むのも一苦労だ。

谷風「なるほどね。そこで転がってるのは?」

北上「工房からあち゛~って出てきて倒れ込んだっきりだよ」

タンクトップにホットパンツほぼ下着みたいな姿で倒れ込んでるのは夕張。鎮守府内のエアコンゾーンまで行く気力は無かったらしい。

谷風「確かにここは涼しいね。妙に風が吹くし」

北上「海からの風がここを通るみたいなんだ。この時間なら日も当たらないし」

浦風「な~にしとるんじゃこんな所で」

谷風「あれ、浦風。工房に用かい?」

浦風「そうやったけど、今は無理みたいじゃね」

夕張「」

返事が無い、ただの屍のようだ。

浦風「それで、この子らは何しとるん?」

谷風「そりゃもちろん、おや?」

スッーと、少し強めの海風が吹き抜ける。

うわ神風の髪が。この子髪の毛サラッサラだな。同じく髪の長い球磨姉なんか結構くせっ毛なのに。

谷風「まあ、こういうことさ」

浦風「なるほどね。確かに、いい風じゃぁ」

北上「言っとくけど私の所はもう定員オーバーだよ」

当然のように膝枕に寝てる谷風を見下ろす。

谷風「そうかい?頑張れば2人は寝れそうじゃないか」

北上「それは私の負荷を考慮してないよね」

浦風「じゃあ谷風を枕にしようかねえ」

谷風「いいねえ。日が沈む頃には廊下に列ができそうじゃないか」

北上「いいわけないでしょ…」

浦風「浜風もそうやけど、浦風も浜辺を吹く風っちゅう意味なんやよ」

北上「艦娘、というか船の名前は海にちなんだものが多いよね。当たり前だけど」

谷風「海風なんてそのまんまだしね。でも私は谷だよ谷。海でも割れってのかねえ」

モーゼかよ。

浦風「そこら辺はもうただの風繋がりやろうね。他は、潮に波に、雲かいな」

谷風「月と雪」

北上「後は気象現象?とか」

谷風「ところで不知火ってどういう意味なのかね」

浦風「知らぬいってね」


北上「冷えるね」

谷風「涼しいなあ」

浦風「ちょっと」

谷風「ほらほら起きちゃうから静かに」

髪が、揺れる。

浦風「ほんにいい風じゃ…」

谷風「面白い話だよね。私達がこうして陸で風を感じているなんて」

浦風「ウチらは必要だから造られた。ウチは求められたからここにおる。次は、空かもしれんね」

次、か。

北上「空ねえ。空ってどんなところだろうね。ねえ谷風」

谷風「…空もなかなか大変なところだよ。鳥は、自由に飛んでいるわけじゃないんだ」

浦風「あら、随分知ったふうに言うんやね」

谷風「そうかい?」

北上「そうだよ」

神風「ん……はっ!き、北上さん?ごめんなさい!私」

北上「あ~いいよいいよ。それより私じゃなくて夕立何とかしてくんない?」

神風「…もしかして私達ずっと?」

北上「神風の髪の毛サラサラで気持ちよかったよ」

神風の顔が服の色と同じになる。

北上「ほら、谷風も起きる」

谷風「ぶぇ~、もう疲れたってのかい?なっさけないなぁ」

北上「寝転がってるだけのくせに。よっと」

夕立を神風に任せて立ち上がる。

北上「うわっと」
浦風「ほれ」ガシッ

北上「はは、悪いね。足腰がガチガチだよ。私も歳かねぇ」

浦風「何言うとるんじゃ。一番の新米じゃろうに」

谷風「さぁて帰るかね」

北上「谷風はそっち」

谷風「ああ、響型か」

浦風「暁じゃ」

谷風「爆竹やったらどうなるかな」

北上「まだ持ってたんだ…」

神風「谷風」

谷風「ん?」

神風「お願い」

夕立「スピー…」

谷風「あぁ…」

北上「じゃあ」

浦風「ウチらは退散やね」

北上「気楽なもんだね」

浦風「この分だと、暑い日は毎度寄ってこられそうやね」

北上「はぁ…駆逐艦ウザイ」

浦風「でもさっきの、まるで親猫と子猫みたいに見えとったよ」

北上「親猫って、それは」

小さな破裂音、と悲鳴。

浦風「ホントにやったみたいじゃね」

北上「まあやるでしょうよ」

提督「おい、なんだ今の音は」

北上「うわっ!」

浦風「提督さん!」

渡り廊下から建物内に入った直後。横の壁にいたのは、

座り込んでる提督と、

提督にもたれ掛かって寝てる大井っちだった。

北上「親猫はこっち。私らは姉妹でしょ」

浦風「ん~それもそうやね」

提督「何の話だ」

北上「そっちこそ、それは一体どういう状況?」

提督「どうもこうも、夕張から連絡がこねえから見に行こうと思ったら大井に足止めされてな。ここで待ってろって」

北上「見守ってたんだ…」

提督「見てはいないけどな。ここで言い合いしてるうちに寝やがったからな」

浦風「なるほどね~。こりゃお邪魔じゃったみたいやのう」

北上「さっさと退散しますかね~」

提督「あっおい!ちょ、ちょっとまって~」ヒソヒソ


浦風「父猫と、母猫になるかもしれんよ」

北上「それは悪くない。でも提督モテモテだしなあ」

泥棒猫が、はたして何匹いることやらね。

セリフ調じゃないと長い文章が読めない自分に優しい書き方になってます。読みにくく無ければ幸いです


メンテ終わったし嫁のレベリングしなきゃ(使命感

18匹目:猟ある猫は爪を隠す


と言ってピンとくる人はあまりいないかな。

能ある鷹は爪を隠す、のほうが一般的だし。

何故鷹の方が有名なのか。

そりゃまあ強いし、カッコイイしね。

北上「猫であることを隠す人間と、人である事を隠す猫ならどっちがいいかな」

谷風「そりゃ後者だね。絶対的な基準がない以上は、外見と中身の差がプラスに大きい方がいいだろうさ」

北上「人間の方が上?」

谷風「一般論さ」

北上「私も逆だったらなあ」

谷風「キミは別じゃないか。確かに猫だけど、人間でもある。中身がね。猫だけならこうしてお喋りだって出来ないじゃないか」

北上「それもそうか」

谷風「もっと視野を広く持たなきゃ。文字通り上から目線になってしまうけど」

北上「そうだったね、海猫さん」

月明かりの屋根上。

谷風はチェシャ猫のように笑う。

北上「ぶっ飛んだ発想が必要か」

谷風「それはダメだよ。着地のことも考えなきゃ。いずれどこか終着点を見つけるために飛んでるんだから。変に高く飛んでも見えにくいだけさ」

北上「雲の上くらい?」

谷風「雲の上から見てるのは神様くらいさ。私達はそこまで高く飛ぶ必要は無い。雲のある空は、私達が飛んでる空より高いところにあるんだ」

北上「含蓄ある言葉だなあ」

谷風「実体験だからね」

北上「ならさ、谷風はどこに向かってるのさ」

谷風「何処とは?」

北上「飛んでるって言うなら、どこを目指してるの?」

谷風「…目指してなんかいないよ。偉そうに言っといてなんだけど」

北上「目指してない?」

谷風「私はキミを見つけるために積極的に行動した。これまでもそうだし、これからもそうするだろう。でもそれはどこまでも見つめるため、飛び続ける為であって、着地点はない。

キミもこう思ったはずだ。こうして記憶があるのには意味がある。

世の中にそんなに必然性を求めるには、夢見る少女を名乗るには少々歳を取りすぎてる気もするけど、悪い考えじゃないさ。

でもだから怖いんだ。

もしかしたら意味が、目的があるのかもしれない。でもそれを見つけて、それが終わったらどうなるかな。

ここでの楽しい暮らしが、輝ける日々が、こうしてキミと話す時間が、空を飛んでいた時の記憶も、海を駆け回る今も、消えてしまうかもしれないじゃないか。

海面を歩けるガラスの靴は、鐘がなったら消えてしまうのさ。

なんの合図かは知らないけどね」

北上「…相変わらずよく喋るね」

谷風「性分でね。主人公じゃなくて語り部が向いてるのさ。だからこうしてここにいる。

例えばキミがここに留まるなら私は大歓迎だよ。話し相手が欲しかったと言ったろ?

でももし君が、何かを目指すと言って、どこかへ向かうなら、私は全力で応援する。協力する。そして、見届ける。

私はその為にここにいる」

北上「白雪姫か…白猫の私にはピッタリかもね」

谷風「ガラスの靴はシンデレラだよ」

北上「ありゃ、そうだっけ」

谷風「どちらにせよキミにピッタリさ」

北上「なんで?」

谷風「へへっ。猫灰まみれ、って事さ、お姫様」

スッと立ち上がり、手を伸ばしてくる。

でも

北上「いいよ。今はまだ、ここにいるから」

谷風「ならこの手はしっかりとっておこう」

北上「お願いね」


手も爪も、まだ隠しておかなきゃ。

19匹目:猫と熊としりとり



猫。ネコ目ネコ科の動物。

人間はやたらと分類するのが好きだ。

球磨。じゃない熊。ネコ目クマ科。

えネコなの?マジか。マジだ。

まあ種を明かすとネコ目の意味が違うのだが。

しかし暇だ。そして暑い。涼みたい。

こんな時は愛する姉妹達の力を借りよう。



北上「あー、あ、雨だね」

大井「ね、ね~、嫌になっちゃいます」
木曾「それは流石に無理y「す!」はいはい、すー、すっかり梅雨だな」

多摩「なんだか今年は妙な雨ばかり降るにゃ」

球磨「や、や?やっぱり地球温暖化が関係してるクマ?」

北上「全く振らないところもあるらしいよ」

大井「よもや四季が崩れる日が来るとは思いませんでした」

木曾「例えば梅雨が消えたら」

多摩「ラッキーだにゃ。ジメジメが無くなるにゃ」

球磨「ゃ…やーそもそも梅雨は指揮じゃないクマ」

北上「まあそうだね。しれっと混ざってるけど」

大井「どうも夏とセットで四季の中にうまいこと入り込ん出るように思います」

木曾「すっかり騙されたぜ」

多摩「絶対いらないにゃ。夏でいいにゃ」

球磨「やっかいな時期クマ」

北上「うわっ!…また雷だ」

大井「大気がずっと不安定ですからね。ゲリラ豪雨ばかり」

木曾「理解不能なレベルだよな。最近の異常気象は」

多摩「破壊の限りを尽くしてるにゃ。洪水はいやにゃ」

球磨「…やめて欲しいもんだクマ」

北上「毎年ひどくなってる気が」

大井「がー、ガッカリですね。来年はどうなることやら」

木曾「落雷は勘弁だ」

多摩「だからと言って降るなとも言えんにゃ」

球磨「やはり梅雨は必要だ」

北上「ラッキー」
球磨「あっ」
北上「ダムの所にだけ降るとかできたらいいよね」

大井「念力で動かすとか」

木曾「科学の力を信頼してやれよ…」

多摩「妖精頼りの私達が言えるセリフじゃないにゃ」

球磨「や、や~しかしよく降る、クマ」
北上「またそれ?」
球磨「マ」
北上「はいはい」

北上「毎日こうだと洗濯物も乾かない」

大井「いい加減太陽がみたいですよね」

木曾「ネットリとした暑さが戻ってくるぞ」

多摩「そいつが日本の夏だにゃ。諦めるにゃ」

球磨「やだクマ認めたくないクマ」

北上「真夏日と変わらないくらい暑いよね。体感温度は」

大井「はい。できればエアコンを入れたいところですが」

木曾「簡単に言うなよ。電気代も大変らしいし」

多摩「しかし今の日本の気候を考えたら夏に入ってからじゃないとダメってのは改める必要があるにゃ」

球磨「……」

多摩「にゃ」

球磨「やはり球磨もそう思うクマ。この暑さには何か対策が必要クマ」

北上「巻く?ひんやりシートとか」

大井「身体を冷やす以外にもなにか無いでしょうか」

木曾「辛いもの食べるってのはどうだろう」

多摩「うんにゃ、それは夏バテ防止にゃ。これはまた別の問題にゃ」

球磨「…ヤケクソクマ。裸になれば涼しくなるクマ」
大井「賛成です!」
北上「大井っち」
大井「はい」

北上「まあそのうち近い事にはなりそうだけどさ」

大井「流石にそれは」

木曾「分かった。着替えの不足か」

多摩「掛け布団なんかも最近干せてないにゃ」

球磨「厄介な問題クマ」

北上「稀に晴れたと思ったらすぐ降り出すし、僅かな晴れ間も信用出来ないよ」

大井「よく考えたら着替えの不足って深刻な問題ですよね」

木曾「寝て起きたら着替えがない、なんて事になる」

多摩「る!…ぅ……」

球磨「さーん、にーい、いーち」

多摩「類例がない以上何が起こっても不思議じゃないにゃあ!」

球磨「チィッ!」
多摩「にゃは」

木曾「あそこだけ熱いな」

大井「これ以上熱くされても困るのだけれど」

北上「私も大概辛いんだけどねえ」

球磨「夜間の暑さだけでもなんとかして欲しいクマ。寝不足はマズイクマ」

北上「まだ不明だけどさ、着替え乾かなかったらホントに下着で過ごすハメになるよ」

大井「良い事ですよ」

木曾「良くはねぇだろ流石に」

多摩「にゃ」


球磨「え?」

多摩「にゃ」
球磨「いやダメだろ」

多摩「にゃ、はにゃにゃ。うんとかハイとかと同じにゃ。そこになんの違いもありゃしねぇにゃ」

球磨「うんもハイもダメだクマ!にゃーなんて言語道断だクマ!」

多摩「そっちだってクマクマ言ってるクマ!」

球磨「クマはなんかこう丸い感じだからセーフだにゃ!や より ま の方が優しいからセーフだにゃ!たまに取れるからセーフだクマァ!」

大井「やはり自覚はあったんですか」

木曾「確信犯かよ。しかも色々混じってるよ」

北上「よく言うよ。 ま もそれなりに苦労するんだけどね」

多摩「いっつもつけ忘れるくせにこんな時だけやたらクマクマ言ってる癖に何言ってんだにゃ!これは勝負にゃ!」

球磨「そっちこそたいして猫っぽさも無いくせににゃーにゃーうるせークマ!」

北上「ねぇ、なんかヒートアップしてきた」

木曾「体感だが、心なしか部屋の温度も上がってるような…」

大井「なんとかしないと、とは言え有効な手段が思い当たりませんね」

球磨「クマァ!」
多摩「にぁあ!」

ジリリリリリリチンッ

タイムアップのベルを止める。

北上「ハイおしまい」

大井「2人の奢りという事で」

木曾「バニラ、チョコ、ストロベリーで」

球多「「あ」」

多摩「いやいや3人も普通に喋ったにゃ。ノ、ノーカンにゃ!」

球磨「つい熱くなったことは謝るクマ。でもこれはもうひと勝負すべきクマ!」

北上「いやウチら続けてたしね」

大井「暑いので早く買ってきてください」

木曾「やっぱ俺は練乳で」

球磨「クマァァァァ!!」ダッ
多摩「うにゃぁぁぁぁ!!」ダッ

しりとりが、その後禁止になった。

20匹目:猫舌





北上「暑いねぇ」

大井「ええ、ホントに…」

季節は夏、と言うには少し早いけど日本の暑いとは国外のそれとは違った意味合いを持つ。

この湿度。

温度自体は30度にも届かないというのにまとわりつくように、締め付けるようにジワジワと体感温度を上げるコヤツが原因だ。

戦争ということもあって環境問題なんか二の次三の次。結果地球温暖化とやらが進んでるのも問題だ。

戦争さえなければこんなに暑くなかったというのに。え、そんなことない?またまた~。

蛇口を捻ってホースから水を出す。

冷たい水を浴びてキラキラと輝く花たちがなんとも風流だ。

いいなあ涼しそうで。まあ彼らにも彼らなりの苦労があるのだろうけど。

北上「でなんで私達が花壇の手入れを」

大井「暇ですからね、私達」

その通りなんだけどさ。

北上「このままじゃ私達の方が枯れちゃうよ~」

真上から降り注ぐ容赦のない太陽光線は急降下爆撃のそれとなんら変わらない脅威だ。

艤装を纏えば温度は緩和されるが黙ってるだけで燃料を消費するのでダメと言われた。

北上「それに大井っちはこの後演習でしょ?」

大井「ええ、残念ながら」

心の底から残念そうだ。

北上「んじゃ後は私に任せてよ。テキトーにやっとくから」

大井「休憩はしっかり取ってくださいね!あと水分も!塩分は取ればいいというものではありませんから。少しでも身体に異変を感じたら」
北上「あーはいはい大丈夫だから」

過保護な妹をなんとか送り出して花壇には向き直る。

私より大井っちの方が心配だよ。心労で倒れそうで。

北上「これは、陽炎型か」

花壇にはそれぞれ名前の入ったプレートが刺さってる。

なんでも各々好きな花を植えたとか。実際生えてる葉はバラバラ、既に蕾のあるものや、なんか蔦がわらわら出てきてるものもある。

北上「こんな一緒くたに植えてどうするよ」

夏休みの自由研究って感じがする。

北上「これが全部アサガオなら良かったんだけどさ」

まあいい。とりあえず適当に水を。

ん?この花は。

北上「やれやれ」

後で谷風に鉢に植え替えて日陰に置けと伝えてもらおう。

植物はやたらと水を撒けばいいというものでは無いのに。

提督「お疲れさん。ほれ報酬だ。食え食え」

北上「どう考えてもワンコイン以内だよねこれ」

提督「カレーは夏バテ防止になんだぜ」

北上「部下への健康の配慮を報酬として出すってどうよ」

提督「モノは言いようだな」

北上「まったくね」

さて、

「「いただきます」」

北上「あっち!」

提督「その暑さがいいんじゃねえか。猫舌か?」

北上「大体の生き物は暑いものが苦手でしょ。猫に限らず」

風評被害もいいとこだ。なぜ猫だけ。

提督「それはほら、熱いもの嫌いな人がスープなんかをチョビチョビっと飲む感じが猫が舌で水を飲むのとかに似てたからだろ」

北上「あー、あー!」

提督「おぉ、そんなに驚く話か?」

北上「いやいや、これは革命だよ。衝撃だよ提督。誉めてつかわそう」

提督「そりゃどーも」

ほんとにそうかは知らないが妙に納得できた。

北上「それ貸して」

提督「ほいよ」

北上「サンキュ」

鎮守府の辛い食べ物は基本的に甘い方に寄せてある。辛いのが好きな人は自分で調整する必要があるのだ。

提督「…振りかけすぎじゃね?」

北上「辛くないカレーなどカレーにあらず」

提督「熱いのダメで辛いのはいいのか」

北上「夏バテ防止なんでしょ?ほら提督も1口」

提督「…おう。かっら!なんらこへ!!」

北上「え、そんなに?」

もちろん嘘。スプーンで掬ったところには辛い粉を沢山ふりかけただけだ。

北上「やれやれ。美少女との関節キッスにそんな反応をしている様じゃあケッコンできんぞ~」

提督「あぁどうやら刺があるらしい。ったく、熱いの苦手でなんでこの辛さがいけんだよ」

北上「そりゃ熱いのは苦手だけど人並みだよ。特別苦手ってほどじゃない」

提督「みたいだな、少なくとも猫舌じゃなさそうだ…ふぅ、ちょっと水もらってくる」

北上「いってら~」

無様に敗走する提督を眺めつつカレーを咀嚼する。辛いもの食べるとホントに顔も辛く、いや赤くなるんだな。

汗は健康によいぞ~私はかきたくないけど。

実際最初は刺激物に対しての警戒心が解けなかった。猫的には毒物も同然だし。

でも慣れてみるとこれが中々癖になる。これだけ色々なものが食べれるとは人間って便利だねえ。

提督「花壇の方はどうだった?」

北上「あ~あれね、もう少し植物に関して教えてあげた方がいいと思う」

提督「なんか不味かったのか?」

北上「色々と」

提督「マジか、じゃあ頼むわ」

北上「報酬を弾め報酬を~」

提督「子供たちを育てる事は仕事ではなく責務である」

北上「それ場所が場所なら炎上発言だよ」

提督「これ以上熱くなられちゃ敵わんな」

北上「鉢とか諸々の道具とアイス人数分を要求する」

提督「考えとくよ」

提督「何だかんだで好かれてるな、駆逐艦達には」

北上「何でだろうねぇ。原因が分からないと対処できないよ」

提督「対処って」

北上「群がられるのはウザイ」

提督「読書の邪魔だもんな。でも退けとは言わない」

北上「幼さは武器だよ。大体の動物は小さい時可愛いと思わせる造形をしてるんだ。そうする事で保護欲を掻き立てるわけ」

提督「守護らねばってか、なるほどね。上手いこと出来てるもんだ」

北上「…まあ邪魔とは言えないよね」

提督「そうだなあ。俺も仕事邪魔されてもなんか許しちゃうし」

北上「提督はむしろ仕事邪魔してほしいんでしょ~に」

提督「おっとそれ以上は口にするべきじゃないな。命に関わるぜ~」

北上「おぉ怖い怖い」

「「ごちそうさま」」

提督「さって、そろそろ演習が戻ってくる頃か」

北上「よかったの?提督が指揮しなくて」

提督「俺が指揮できない時の為の演習さ」

北上「なるなる。じゃあ向かいに行ったら?大井っちもいるし」

提督「…何で、あいつの名前が出てくんだよ」

北上「またまたぁ~」

北上「さて、邪魔者は消えましょう」

提督「なんだよ」

北上「大井っちにパフェでもご馳走したら?」

提督「それは、まあ悪くはないな」

北上「でしょ」

提督「でもお前がいた方がもっといいだろ」

北上「そのいいじゃダメでしょ~に。んじゃね」

提督「はいはいわあったよ」

まったく素直じゃないね2人とも。

私の舌は、もっと甘い物を求めているのだよ。

21匹目:猫と糸玉



猫は動くものが好き。

コロコロと転がるものが好き。

ところで糸玉ってちょっと引っ掻いたらすぐバラバラになりそうな気がするけどそこんとこどうなの?



球磨「いいものを買ってきたクマ」

多摩「出オチすぎるにゃ…」

球磨「糸玉クマ」

多摩「見りゃわかるにゃ」

球磨「人間にも程よいサイズのものにしたクマ」

多摩「無駄な気遣いすぎるにゃ」

球磨「600円もしたクマ」

多摩「どこで買ったんだにゃ…」

球磨「まあ私が何をしたいか、薄らとわかってきたと思うクマ」

多摩「薄れ用がないほどにハッキリくっきりと見えるにゃ」

球磨「前々から思っていたクマ。多摩は猫成分が足りない、と」

多摩「猫じゃないにゃ」

球磨「え、今そこを否定するクマ?」

多摩「いや割と最初から言ってるにゃ」

多摩「多摩はあくまで言動からほのかに感じる猫っぽさを目指してるんだにゃ。そんな露骨にあざとい反応はしないにゃ」

球磨「サラッととんでもねえ事カミングアウトされたクマ」

多摩「和の美にゃ。奥ゆかしさにゃ」

球磨「語尾ににゃーとか付けといてよくそんな事が言えるクマ」

多摩「ちなみに私が語尾をとると見た目は若いけど3桁は生きてるような妖怪的な印象を受けると言われた。妙に納得した」

球磨「確かに納得したクマ」

球磨「なぜ私は語尾をとるとイケメンと言われるのだ」

多摩「球磨姉は元からイケメンにゃ。クマが邪魔でそう言えないだけにゃ」

球磨「複雑な気分クマ」

多摩「私は球磨姉と違って語尾を忘れたりしないにゃ」

球磨「私はこんなものに特に思い入れはない。出来れば無視したい」

多摩「そうもいかんにゃ」

球磨「何故だ」

多摩「さぁにゃ。妖精さん辺りの仕業じゃないかにゃ」

球磨「難儀な事だ」

多摩「語尾」

球磨「クマ」

球磨「ではこれを放ってみよう」

多摩「そこに戻るのかにゃ」

球磨「原点にして頂点クマ」

多摩「意味がわからんにゃ」

球磨「玉はお気に召さないクマ?多摩なのに」

多摩「なんかすっげぇイラッとしたにゃ」

球磨「そんなあなたにこれクマ!」

多摩「だからいらねーにゃ」

球磨「糸の方がいいクマ?」

多摩「そういう事じゃないにゃ」

球磨「ちなみに球磨が1番興奮する糸は水着の糸クマ」

多摩「それは紐にゃ。というか去年その大好きな糸を引いたせいで大井に半殺しにされたの忘れたかにゃ」

球磨「大丈夫クマ」

多摩「何がにゃ」

球磨「今年は大井は狙わないクマ」

多摩「そういう事言ってんじゃねーにゃ。エロ親父かにゃ」

球磨「さあ見せてやるクマ。球磨の豪速球を」

多摩「そんなもん猫は追わないにゃ」

球磨「そうなのか?」

多摩「緩やかに曲線を描くように放るか転がすのがいいにゃ」

球磨「ほほ~う随分詳しいクマァ。なんでだろ~クマ」

多摩「…ちょっとそれ貸すにゃ」

球磨「おやおや、何だかんだ言っても興味しんしンッ!」バシッ

多摩「これが豪速球にゃ」

球磨「痛てぇクマ。糸なのに全然柔らかくなかったクマ」

多摩「豪速球を猫が追わないのはわかったと思うにゃ」

球磨「砲撃くらい恐ろしいクマ」

多摩「分かったらそれは鳳翔さん辺りに譲ってさっさと「オラァ!!」にゃんのぉ!!」

球磨姉が投げた不意打ちの豪速球は、残念ながら多摩姉に躱された。

さてこの場合何が残念かと言うと先程から二人の微笑ましくもやかましい応酬を聞かされながら座って本を読んでいた私がその軌道上にいる事なのだ。

直前にオラァとか聞こえたおかげで目で捉えてはいるので防ぐのは容易なんだけど、

まあ今は丁度と大井っちが、詳しく描写するとそれこそ目にも留まらぬ早さでサッと魚雷を1本、まさしくバッターのように構えた大井っちが、隣にいるので

後は任せてしまおう。

提督「ねぇ、何この報告書」

吹雪「壁の修繕費だそうです」

提督「いや、だそうです って言われてもさ。はい出しますってならないでしょ」

吹雪「何でも壁に穴が空いたとか。3枚ほど」

提督「え、何。しかも3枚なの?」

吹雪「貫通したんですって。隣の部屋まで」

提督「いや、なんなの?俺の知らない所で内乱とかあったわけ」

吹雪「これでも私達戦艦ですし。ちょっとした喧嘩もまあ内乱みたいなものですよね」

提督「何怖い事サラッと言ってんの。怖いよ。あとこのバケツ2個はどこに消えたの」

吹雪「球磨さんと多摩さんにぶっかけときました」

提督「アイツらかよ!だと思ったよ!書類に球磨型と阿賀野型の部屋の壁って書いてあるもん!その時点でほぼ分かるもん!つか大井だろもう!」

吹雪「さっすが司令わかってるぅ↑」

提督「なんでお前は楽しそうなの!」

吹雪「初期艦ですから」フンスッ

提督「慣れすぎだよ環境に!剛の者だよ流石鋼鉄少女だよ!」

吹雪「ところでネジが尽きました」

提督「いやもう今はそれどころじゃえ…マジで?」

吹雪「夕張さんから探さないでくださいって書いた手紙を預かってます」

提督「」



なんて会話が、扉の向こうから聞こえるのだが。

北上「…入りにくいなぁ」

ネジの行方は、実は心当たりがあったりするし。

熟れたというか、擦れた吹雪好き

猫にした意味が薄れてきてので何とかしたい

戦闘艦の略という事で…

起きたら、起きたらいっぱい書くんだ
水着はまたいずれ

はえー、リアル艦コレの知識なんて瑞雲が崇め奉られてるくらいしか知らないので勉強になる

22匹目:猫の目

22

ニャンニャン。猫の数字だ。

さて少し長い話になる。

猫の尻尾に例えるとシャム猫くらい。

分かり辛い?


北上「眩しいなぁ」

海上。それは不思議な空間だ。私達にとって。

人では決して理解できない。提督ですらも、それを分かってはいないだろう。

無理もない。

例えば、猫の見ている世界を想像してみろ、と言われて何を思うだろう。

視線を低くしてこれだと思うだろうか。

それは違う。

猫としての記憶がある私だから言える。それは説明も、理解も出来ないものだ。

目に写り、耳に入り、髭で感じ、鼻で嗅ぎ、脳が認識し作り上げるその世界はその生き物だけの世界だ。

そこには理解も変換も互換もない。ただその世界がその世界として存在するのみだ。

一体どれだけの人間がそれを想像したことがあるだろう。

私達艦娘は、1人で一つの船なのだ。

本来は幾百人もの人間が必死になって動く事で初めて機能する巨大な建造物を僅かに1人の体で体現している。

電探で感知し艦載機で見て通信機で話し動力源を作動させ舵を切り砲塔を動かし弾丸を装填し魚雷を発射し、

敵を討つ。

それら全てを1人で行う。

北上「おっと」

少し波に足を取られる。

この体制を保つ動作ですら、本来どれほど大変な作業なのか。

一体どうしてこれを人が理解できるというのだろう。

別にどちらが優れているとか、同じ姿をしていても結局は兵器であるということを嘆いているとか、そういう話ではない。

ただ、違うんだ。

だから、私が私達と、艦娘と違うのもまた、当然の事なのだろう。

瑞鶴「翔鶴姉ぇ、やるよ!艦首風上、攻撃隊…」
翔鶴「全航空隊!」

「「発艦始め!」」


2人の弓から放たれた矢はすぐさま無数の艦載機となり編隊を組みながら敵機との交戦に入る。


瑞鶴「ちっ、取りこぼした!」

制空権は確保。だが残った敵機がこちらに攻撃を仕掛けてくる。

秋月「まかせて!やらせは、しません!」

対空の申し子の射撃がそれらを正確に撃ち落とす。

僅かな数では彼女の弾幕を超えることは出来ない。

瑞鶴「よし!重巡、軽巡撃破!」

遠くで水柱が幾つか上がる。彼女の放った艦載機が敵を撃破したようだ。

大井「こっちも負けてられないわね。北上さん!しっかり見ていてくださいね」

大井っちが敵に向かって魚雷を放つ。

大井「敵空母沈黙。MVPはいただきよ!」

瑞鶴「なっ!誰が渡すもんか!翔鶴姉いくよ」

翔鶴「ちょっと瑞鶴、落ち着いてキャァっ!」

ズドン、すぐ近くで水柱が上がる。

例え小さくても戦艦の放つ砲弾による衝撃、音は死を予感させるには十分なものだ。

そのはずだ。

瑞鶴「わあびっくりした」

大井「まったく。お喋りなんてしてるからよ」

瑞鶴「アンタが言うなアンタが!」

秋月「皆さん集中してくださ~い!」

でも、そんな事は無い。

金剛「オーケー!次はこっちの番ネ、ファイヤー!!」

流石は1軍戦力。確実に敵を沈めていく。

金剛「テイトクゥ!見ていてくれましたかー!」

提督『見てねえ、つか見れねえよ。後うるさい、砲撃も声も』

金剛「なぁ!?」

北上「ちょ、金剛さん!」

金剛「ハイ?」

ガインと嫌な金属音がした。今のは直撃じゃ…

金剛「シット!テイトクとの通信を邪魔するなんて、許さいネ!」

北上「だ、大丈夫なの?」

金剛「こんなものサッカショウデス!」

サムズアップ。

しかしサッカショウ?あぁ擦過傷か。何故かすり傷じゃなくそっちを覚えているのか。

大井「やりましたよ北上さん!」

北上「あ~はいはい見てたよ、ん?」

耳がピクッと動く、なんてのは今じゃ比喩表現になってしまうのか。

でも感覚は覚えてる。

二時方向からだ。敵の砲撃音。

北上「あれか」

目を望遠レンズから人間の目に戻す。

あの軌道なら…

北上「大井っち、右に迂回して!」

大井「は、はい」

こちらも大井っちと対象に動く。

丁度、二人の真ん中に砲弾が落ちる。

大井「流石です北上さん!」

北上「いいから敵敵…」

私の訓練も兼ねた実戦。敵のレベルに対してこちらは過剰戦力だ。そりゃ負ける事もなかろうさ。

それにしたって皆あまりにも死への認識が低い。

私達は頑丈だ。バケツをかければ治る。

提督は優秀だ。私たちを沈めるような指揮はしまい。

でも、それにしたってだ。

この艤装が次も私を守ってくれる保証がどこにある。

敵の強さが想定通りである確証がどこにある。

私は怖い。

死が怖い。

生物としての当たり前の反応だろ、それは。

それは、

北上「魚雷、か」

波の間に僅かだが軌跡が見える。

あのコースなら金剛さんかな。

まあどうせ当たっても擦過傷なんだろうけど。

艤装の感覚を少し減らし、生身に委ねる


砲を構えてイメージする。動き回るネズミを、捕まえる!

瑞鶴「へへん、いっただき~」MVP

大井「く、次こそは」

翔鶴「もう、2人とも喧嘩しないの」

金剛「瑞鶴も翔鶴も、随分強くなりマシタ。私もうかうかしてられないネー」

翔鶴「そんな、私達なんてまだまたですよ」

瑞鶴「いいや!このままどんどん強くなって加賀のやつにギャフンと言わせてやるわ!」

秋月「ギャ、ギャフン…」

ちなみにこの艦隊の最高練度は秋月である。

大井「金剛さんは大丈夫だったんですか?最後の魚雷」

金剛「ヘーキヘーキ。ノープロブレムデース」

北上「あはは…」

やれやれ。目や体は昔の感覚を思い出してきてるけど、やはり砲撃は上手くいかないや。

そりゃ猫は武器なんて持たないので当たり前だけどね。

提督「よーし、とりあえずあ号は終わり。各自休憩だ」

「「「「「「はーい」」」」」」

帰投後報告を終え、さて何をしようか。

提督「あー北上、大井。2人は少し残ってくれ」

大井「え?」

北上「私達?」

2人で目を合わせる。

なんだろうか。

提督「とりあえずはお疲れさん」

北上「ど~も」

大井「そう思うなら早く休ませてくださいよ」

提督「まあそう言うなって。この調子だと、北上は二三日で改造できそうだな」

北上「おっ、ついに雷巡か」

大井「ようやくお揃いですね北上さん!」

提督「でな、大井ももう少しで改造できそうなんだ」

大井「私も?」

北上「改二かぁ。いいね~しびれるね~」

提督「そこでだ、せっかくだし二人一緒に改造しようと思ってな。どうだ?」

北上「どうって、ねえ?」

大井「それが提督の判断なら、反対はしませんよ」

提督「よっし決まりだ。3日後に決定。明日からはもちっと気合入れて訓練だ」

北上「うぇ…」

大井「……はっ!?」

北上「え、なになに」

提督「どうしたよ」

大井「か、改造したら…」

北上「したら?」

大井「北上さんとお揃いの服装じゃなくなる!?」

北上「そうなの?」

提督「そうだな。ほれ」

提督が見せてくれた本には大井っち、別の大井っちの写真が乗ってる。

ホントだ。白い。あと露出度が高い。

というかなんだこの本は。タレント紹介見たいなデザインだ。もっとこう真面目に作れなかったのかね。

大井「提督」

提督「おう」

大井「反対です」

提督「お前さっき反対しないっつったろぉぉ!?」

大井「だってぇ!せっかくお揃いになれると楽しみにしてたんですよぉぉぉ!!」

提督「知るかぁぁぁ!!」

うんうん、今日も平和だねぇ。

毎日これ程に特定の相手のためにエネルギーを使えるというのも、また愛の形なのだろうか。

北上「まあまあ、私としても強くなった大井っちの活躍を見たいな~なんて」

提督「そ、そうだぞ。強くなれば北上を守ることにも繋がるんだ!」

大井「…なるほど。そういった考えもありですね」

それ以外の考えとかねぇよ。って提督の顔に書いてある。

同感だよ。

北上「いいじゃんいいじゃん。大井っちは私の1歩先をゆくんだよ。目標がある方が私もやりがいがあるってもんだよ」

大井「北上さんがそういうなら」

提督「(無言のサムズアップ」

まったく、こりゃ

北上「提督も大変だねぇ」

提督「これも含めて提督よ。でも大井のアレはもちっとなんとかならんかね」

北上「無理、かな…」トオイメ

提督「そうか…」トオイメ

夜。草木も眠る丑三つアワー、なんてことは無くまだ日付も回っていない。

いつもの屋根上。

提督「ほれ、どうだこいつは」

北上「それは」

一升瓶。何やら達筆で読めないが強そうな漢字が書いてある。つまり、

北上「高いお酒!」

提督「そうよ!よく分からんけど値段は高かった、つまり高いお酒だ!」

「「わはは」」


北上「で、美味しいの?」

提督「美味しいから高いんじゃねえの?」

どうだろう。

提督「いやな、お前ら、つまり北上と大井の改造祝にと思って買ったんだよ。この前言われた事思い出して」

雑に開けた酒をおちょこに注ぎながら言う。

北上「覚えてたんだ。さては根に持つタイプだな」

高いお酒ってあんな扱いでいいのかな。

いいのかも。

提督「でだ。割と後先考えず買ったんだがお前が酒を飲めるか分からんだろ?だから事前に試してみようと思って。ほれ」

匂いを嗅いでみる。うん酒だ。

北上「サプライズとかは考えないんだ。まあ有難い配慮だけどさ」

手に取ってみると分かるが、改めておちょこって小さいな。まさにおちょこ。

提督「さてと」

北上「あれ、提督も飲むの?」

提督「お前1人だけ飲ませてもな」

北上「じゃあ、まあ、なんとなく」

提督「高いお酒に」

「「乾杯」」

ビビりながら1口。

提督は、おーイッキか。

提督「ん~」

北上「どう?」

提督「なんつーか、高いお酒だな」

北上「あ~」

提督「北上は?」

北上「高い、お酒だね」

提督「だよな」

うまいマズイで語る子供の飲み物ではないという事だ。

北上「大井っちはいける口だし、提督も少しは慣れといたら」

提督「マジかよ、艦娘の胃についていける気がしねぇな」

北上「そこまでは飲まないよ。多分」

飲みつぶれる提督を想像して思わず笑ってしまう。

提督「気楽に言ってくれる」

北上「ところでそのお酒どうするの」

提督「蓋閉めてしまっときゃ大丈夫だろ」

北上「そうなの?」

提督「そうだろ」

そうかな、そうかも。

提督「さて本題に入ろう」

北上「え、今の前座?」

提督「大切な話だがあくまでついでだ」

北上「ほほう」

提督「お前。今日魚雷に向かって砲撃したらしいな」

ゲッ…

北上「いや~なんかの勘違いじゃない?私まだ砲撃下手くそだしさ」

提督「らしいな。事実魚雷には当たらなかったらしいし。まあ当てる方が難しいわけだが」

狙った前提で話が進んでる。確信してるくせに聞いたなコノヤロ~。

提督「以前から大井がお前の目の良さについては色々言ってたんだよ。ただ北上の事だから大袈裟に言ってんだと思っててな」

オオカミ少年みたいな扱いを受けてるんだな…

提督「だが今回は金剛からの報告だ。もしかしたら、と思ってな」

流石に信頼度が違う。

提督「北上、何を怖がってる」

おっと…いきなり核心を突いてきたね。

提督「どうやら中々センスは良いらしいが、それをやたらと隠してる。逃げるみたいにな」

北上「いつからカウンセラーになったのさ」

提督「こんな職場だからな。悩みを抱えてるやつは多い。自然とカウンセリング紛いの事をする機会は増えてったよ」

北上「納得」

提督「生まれたばかりの艦娘にとって、悩むってのは自然な事だよ。そういう奴は沢山いた。だがほっとくわけにゃいかんだろ」

北上「まあ、そうねえ」

悩みか。

北上「私は怖いんだ。死ぬのが」

提督「死ぬ?何言ってんだよ。沈ませねーよ。そんなに信用ないか俺?」

そうじゃない。

そうではない。

確かに沈まないだろう。

きっとそうだ。

大破進軍なんてこの人はしまい。

どんなに傷ついてもバケツを被ればいい。

そうなんだ。

だから正確には死ぬのが怖いんじゃない。

その事実を受け止めるのが怖い。

艦娘を受け止めるのが怖い。

それを認めたら、私は生き物じゃなくなる気がする。

猫としての、生物としての私が、死ぬ。

提督「お前はなんつーか、掴みどころがないよな。飄々としててさ」

北上「そお?勝手気ままって言われたらそうかもしれないけど」

提督「北上が来る前から、お前の事は大井がよく口にしてたよ。だから知ってはいたさ」

北上「ちなみにどんな風に言ってたの?」

提督「ひたすら褒めちぎってたよ。同時に北上を迎えられない俺をなじってきた」

北上「…なんかゴメン」

提督「俺としても早く北上に会いたかったが、そこは妖精さんのせいだな」

提督「マイペースなやつ。そう聞いてたし、そう思った。その印象が変わったのが初めてここで会った時だよ」

北上「黒猫みたいって言われた時だ」

提督「今でもそう思ってるよ。解くと髪の量多いもんなお前」

北上「そだね~。お陰で中々乾かなくってさ」

提督「時々感じるんだ。北上はここにいるのに、なんか妙に距離を感じる事が」

北上「なんか拗れた恋人同士みたいな会話だね」

提督「茶化すなよ。文字通りこうしてお前に触れていても、なんだか掴めてない、掴みどころがない。そう感じちまうんだ」

提督が、私の頭に手を載せる。

みんなと違うその大きな手は、なんだか妙に心地よい。

艦娘になる事を怖がってるくせに、艦娘でなくなる事も怖がってる。

居場所が無くなることを恐れてる。

ワガママなんだろうな、これは。

まったく、どうして私はこんな妙な境遇にあるのやら。

提督「北上さん?」

北上「…ん?」

提督「いや、その…どうしたのかなーって…」

北上「…あ」

気がつくと私は提督の体に寄りかかりか頬をすり寄せていた。

しまった猫の癖でうっかりと。

頭を撫でられたあたりで何かスイッチが入ってしまったようだ。

北上「あはは、ごめんごめん。なんか気持ちよくって」

提督「ああいや、別に構わないけどさ」

こんなとこ大井っちに見られたらなんて言われるだろう。私に嫉妬とかするのかな大井っちは。

提督「ダメだな。お手上げ」

北上「ん?」

提督「俺じゃ無理だ。悔しいけど」

北上「無理って、何が?」

提督「今すぐここを降りろ。そうすりゃ分かる」

北上「はあ…」

なんだと言うんだ。

提督「俺はここでヤケ酒してるからよ。でも次はこうはいかねぇって覚えとけ」

北上「お、おう」

いやほんと何なんだ。

有耶無耶にされたまま仕方なくハシゴを降りると、確かに答えはあった。


大井「待ってましたよ。北上さん」

北上「大井っち…」

大井「あの人が、俺が北上の悩みをスパッと解決してやるぜー、なんて意気込んでたんですよ」

廊下を歩きながら大井っちはとても楽しそうに経緯を語ってくれた。

北上「それで賭けをしたと」

大井「賭け、と言う程じゃありませんよ。どうせ無理だから私はここで待ってますって言っただけです」

北上「バッサリだね」

大井「当たり前ですよ。あんなヘタレに北上さんは渡しません」

北上「渡すって…」

それにしても二人とも気づいていて、行動も同じとは。似た者夫婦め。

自動販売機を見ればその一帯に住む人々の生活が分かる。

なんて言葉があるかどうかは知らないけど案外的外れじゃないのではと思いながら適当に言ってみる。

例えば鎮守府の食堂にあるこの自販機は3割が炭酸、3割ジュース、後はコーヒーアルコールスポーツドリンクと、栄養ドリンク?かな。

お茶は食堂で貰えるのでない。

鎮守府のメンバーを考えれば妥当といった感じだろう。

ちなみに私のソウルドリンクはカルピチュソーダである。

大井「はいどうぞ」

渡されたのはカルピチュ。夏だからと炭酸ばかり飲むなというメッセージである。

北上「奢り?」

大井「前祝いという事で」

北上「なるほどね、それじゃ」

ジンジャーエールと乾杯。

食堂のすぐ外にあるベンチ。

屋根上とは違った景色が妙に新鮮に見える。

大井「私は北上さんの悩みがよくわかりません」

北上「えっ」

乾杯して一息ついての開口一番がこれだ。

なんというか面食らった。

大井「ですから私の話をします」

北上「大井っちの?」

大井「ええ。これは、提督には出来ない事ですから」

そう得意げに微笑んだ。

大井「まだあの部屋が四人部屋だった時です。私は早く北上さんに会いたいと思っていました。不思議と会ったことのないのに、北上さんのことをよく知っていました」

北上「提督からも聞いたよ。虐めてたんだって?」

大井「違いますよ。多分…」

そこで自身なくさないでよ…

お互いに手に持った飲み物を一口飲む。

大井「そうして北上さんとようやく出会えて、私は知りました。私は北上さんの事なんか何も知らないんだって」

北上「それは…」

私が多分、北上とは違うからじゃないのか。

私が異物だから。

大井「それから、何故か色々な事を考えました。何で生まれてきたのか。何で戦いっているのか。不思議とそれは艦娘としては非常に逸脱した思考でした」

当たり前の考えなのに、艦娘はそれを考えることは無い。

大井「当たり前の何かが壊れて、色々迷ってしまったんです」

私のせいで、ズレてしまった。

大井「だから決めたんです。私は北上さんのために戦います。アナタを知るために生まれてきたんだと。それが1番私のためになるって」

北上「自分のため?」

大井「はい。だってそうでしょう?自分の事も考えられない人が他人の事を理解できるわけないじゃないですか」

なんだか、お母さんの説教見たくなってきた。

大井「どうせ私達戦うしかないですからね。でも戦う理由くらい自分で見つけます。生まれた意味くらい自分で探します」

北上「そっ、か。なんか意外だなあ。そんなふうに思ってたなんて」

大井「北上さん」

北上「なぁに」

大井「私は北上さんが好きでした」

北上「過去形だねえ」

大井「今は大好きです」

北上「そう来たか」

大井「これからもっと好きになります」

北上「愛が重いなぁ」

大井「変わっていきますから。みんな」

北上「私が変わったらどうするの?」

大井「好きでいるかもしれませんし、そうでないかも知れません」

北上「ハッキリと言うね」

大井「でも多分、好きになろうと努力します」

北上「そっか」

そうか。

大井「さて、私の話は以上です。部屋に戻りましょうか」

北上「え、もういいの?」

大井「はい。それとも北上さんはまだ何か話したいことがありますか?」

北上「…いや」

話すような悩みは、もう無くなってた。

球磨「第3回!球磨型家族会議ー!!」

多摩「にゃー!」

木曾「き、キソー…」

北上「えぇ…」

大井「何やってるんですか」

部屋の扉を開けたら、何かが始まっていた。

球磨「ふふっ、球磨にはすべてお見通しだクマ!」

多摩「さあ難しい悩みも恥ずかしい思い出も隠さず誤魔化さず全てさらけ出すにゃ!」

木曾「趣旨が違ってきてないか」

大井「恥ずかしい思い出なら去年の夏に球磨姉さんが「あーなしなし!恥ずかしいのはなしクマァ!」」「恥ずかしい思い出ならおい姉の方が」「あぁ?」「大井の下着は痛い痛いギブギブにゃあ゛!」「木曾は「なんで俺に向くんだよ!」

あーもうほんとにこの人達は。

まったく。

北上「ありがとね」

多摩「イタタタタ!ん、何か言ったかにゃ?」

北上「いや」

ただの恥ずかしい思い出だよ。

谷風「やあ、ご無沙汰振りだね」

北上「なにその挨拶」

谷風「なんかお洒落じゃないかい?」

北上「私達はセンス合わなさそうだよ」

谷風「そりゃ残念」

北上「…何その手は」

谷風「手を、仮に来たんだろ?」

北上「まあね」

前とかわらない夜の屋根上。でも少し、広く感じた。

北上「なんで私が生まれてきたかを、知りたいんだ」

谷風「そいつは重畳。それに、いい目になった」

北上「見た目は変わってないよ。見えるものが変わっただけ」

お互いにニヤッと笑った。


22+1匹目:猫の目

たまにこういう話を書きたくなる

ところで最初猫の日にして最後猫の目にする予定だった気がするけど気のせいだね。別に間違ったとかじゃなく、うん

24匹目:海の猫






神風「きーたかーみさーん」

北上「…なに」

神風「その、遊ばないんですか?」

北上「遊んだからこうして休んでるの」

神風「なるほど」

北上「そらにさ、アレ」

神風「あれ?」

沖の方。先程から爆音がする方を指さす。

しばらくすると水柱が上がる。

北上「アレに混ざりたくはないでしょ?」

神風「えっと、どういう事ですか」

季節は夏。炎天下の、海水浴に来ていた。

夏とはどこからが夏なのか。この場合七月下旬。近所の小学校はもう夏休みらしいよ、じゃあ夏だな、というノリ。

もっとも気温はとっくに真夏日のオンパレードなので今更感満載なのだが。

いやあ夏ですねえ。

ビーチパラソルの下でビーチチェアに寝そべりアイマスクという場違いな格好をしといてなんだけど。

神風「いいから説明をっ」バッ
北上「うおっ」

アイマスクを剥ぎ取られた。

目がなれてくるにつれ光の中から段々と神風の水着姿が浮かび上がってくる。

北上「おぉ、可愛いじゃん」

神風「そ、そうですか?」

恥じらいながらもクルッと一回転。この娘、分かっていやがる。

えーっとなんて言うんだっけか。このフリフリが付いてる水着。昨日大井っちが色々教えてくれたけど正直頭に入ってない。

あーそうだフレアビキニだ。

白い布が彼女の肌と髪色を際立たせてる。所々入っている淡い紅色のラインも髪の色と合わせていいアクセントになっているようだ。

神風「私達の水着はみんな松風が選んでくれたんです。凄いんですよあの子のコーディネート」

北上「みたいだね」

ちなみに私は球磨姉から借りた普通のビキニ。何をもって普通というかは知らないけどまあビキニと言われて最初に思いつくやつみたいな。

色はもちろん茶色。モチロン?

神風「キャッ!」
北上「おお」

爆音と激しい水飛沫。沖からだいぶ浜に近づいてきた。

神風「何か悲鳴が聞こえたような…」

北上「球磨姉が木曾と大井っちの水着盗って追い回されてるの」

神風「またですか…警戒とかしてなかったんですか?」

北上「昨日の夜から細工をされていたとか」

神風「その熱意はどこから…」

あ、まただ。

木曾の対潜能力の高さに球磨姉も中々難儀しているようだ。

こんな普通の砂浜で艦娘がどったんばったん大騒ぎしてもいいのか。

いいのだ。

何故なら普通の砂浜じゃないから。

鎮守府から東に数キロ。所謂プライベートビーチなのだ。

なんでも昔遠征藩が帰りにこの島にビーチと別荘があるのを見つけたらしく、そこを勝手に使っているというわけだ。

いやいや勝手に使っちゃダメでしょ、ともちろん提督は反対したのだが、

深海棲艦の脅威から持ち主も完全に見放していると調べた上で

別荘の鍵ぶっ壊して侵入

私物を持ち込み勝手に劇的ビフォーアフター

最低限の電気設備の確保

潜水艦による付近の調査を終え

パラソルやチェアがいくつか並ぶ浜辺の写真と

「今日から出張間宮海の家がオープンですよ」

と満面の笑みで報告する吹雪を見て諦めたそうだ。

南無三。

実際合理的ではある。人気がないからか深海棲艦による被害はこれまで無かったが、普通の人間が暮らすにはあまりに危険な場所だ。

ならば国を守る我々艦娘が日々の疲れを癒す場として有効に使おうじゃないか、とのこと。

吹雪は絶対おっしゃラッキーくらいにしか思ってないだろうけど。

神風「ほらほら、折角なんですから遊びましょうよ」

北上「えー神風型の愉快な仲間達は?」

神風「みんなバテて休憩しちゃってます」

そういやこの子読書っ子のくせにアグレッシブというか、体動かすの好きなタイプだったな。

みんなついていけなかったか。

北上「やだよー暑い暑い」

神風「焼けたいわけじゃあるまいし、こんな所で寝転んでるだけなんて勿体無いですよ~」

北上「だるーい」

神風「もう、だったらどうしてここに来たんですか」

北上「姉ちゃん達に来いって言われた」

例の家族会議(?)の後、急遽決まったのだ。なんと多摩姉の直談判により今日の私達の出撃予定を全て無くしてまで、だ。

何者だ多摩姉。

ともあれそこまでされたら行かないわけにはいくまい。

北上「私を励ますため、なのかねえ」

神風「励ます?」

多摩「その通りだにゃ」

神風「多摩さん?え、どこ?どこから声が」

北上「そこそこ、そこのボール退けてみそ」

神風「ボール、これか」

パラソルの下。空気を入れる前の不自然に膨らんだボールを取ると、

多摩「にゃあ」

神風「キャァァッ!?」

中から多摩姉の生首が出てくる。

神風「う、埋まってたんですか、ずっと」

多摩「ヒンヤリしてて、良い心地にゃ」

神風「遊ばないんですか?」

多摩「暑いのは勘弁だにゃ」

猫が2匹、球磨型にはいる。

多摩「球磨型の掟にゃ。何かあったらここのビーチで気分転換するのにゃ」

神風「そうなの?」

北上「いやこっちを見られてもね」

ないでしょそんな掟。

多摩「嘘にゃ」

無かったよそんな掟。

多摩「去年の今頃。大井が酷く落ち込んだ時があったにゃ」

北上「大井っちが?」

神風「それって、例の輸送船事件の時ですよね」

多摩「そうにゃ。外国から日本に向かっていた輸送船が深海棲艦に襲われたんだにゃ」

北上「そんな事件が」

多摩「護衛はいたけどあまりにも予想外な奇襲で多くの被害が出たそうにゃ。その時たまたま近くにいたのが、大井を含むうちの艦隊だったにゃ」

北上「でも一年前って言ったら大井っちもまだまだ新米の頃でしょ?」

多摩「だから提督も戦わず乗客の避難に集中しろ、ヤバかったら脱退しろと何度も言ってたにゃ。でも行かないわけにはいかない。それほどの事態だったにゃ」

北上「…それで」

神風「船は積荷の爆発、炎上で沈没。乗客の生き残りはなしです」

多摩「正直仕方ない話にゃ。護衛艦隊はかなりの猛者だったにゃ。それを不意打ちとはいえ尽く沈めた相手を、たまたま近くにいただけのちゃちな艦隊で撤退まで追い込めただけでも十分な戦果にゃ」

北上「でも、そんなんじゃ納得しないだろうね」

多摩「その時の様子を詳しくは教えてくれなかったけど、まあ酷い落ち込みようだったにゃ」

神風「それで、水着を盗ったのかな」

多摩「あれは素にゃ」

北上「素かぁ」

そこはワザとであって欲しかった。

北上「なんかゴメンね。今回は私のためだったのにこんなにのんびりしてて」

多摩「くつろいでるならそれでいいにゃ。そもそも北上は昨日の時点でだいぶ吹っ切れてたにゃ」

北上「お見通しか」

神風「流石ね」

北上「自慢のお姉ちゃんだよ」

多摩「照れるにゃ。ん?あ痛い、イタイタイタイタイタイ!!」

神風「なに!?今度は何!?」

北上「頭の後ろにカニがいる」

多摩「にゃあ゛あ゛あ゛出れない!出れないにゃあ゛あ゛!」

神風「北上さん!どうすれば!」

北上「おやすみ~」アイマスク
神風「北上さん!」

多摩「」

神風「カニは排除できましたけど…」

北上「まあ静かでいいんじゃない?」

神風「まだ沖ではどんぱちやってるみたいですが」

北上「あれはほら、花火みたいなもんだと割り切って」

神風「汚い方になりますよあれ」

北上「たーまやーって」

神風「まあ確かに弾ですけどね」

神風「暇です」

北上「本あるよ」

神風「持ってきたんですか」

北上「ホントは別荘にいるつもりだった」

神風「水着の意味が無い…」

北上「ほら、前に言った猫探偵シリーズの」

神風「あぁアレですか。好きですね猫」

北上「猫も好きだけど、あの人の文章が好き」

神風「分かります」

神風「でもここは海です」

北上「海で読書ってアジがあるよね」

神風「暑いし砂は飛ぶしで最悪です」

北上「つまり私は早く別荘に行くべきだ」

神風「本を諦めましょうよ」

北上「そもそも他の駆逐艦は?」

神風「遠征等で午後から参加です」

北上「それで一層暇なわけか」

神風「かくなる上は…」

北上「え、なに。何企んでおわっ」

のしかかられた。私の体に覆いかぶさるように。

多分体制的に顔を合わせてる状態なんだろうけどアイマスクで見えない。

北上「ちょ重っ、くはないか。いやでも暑いよこれ暑い」

神風「そう!このまま密着してれば汗だくです。海に出て涼みたくはなりませんか?」

北上「コノヤロ~…」

やばいホントに暑い。どんだけ遊びたいんだこの娘。

北上「これ神風も暑いじゃん」

神風「私はすぐ海に向かうので」ギュッ

腕を首に回され、さらに抱きつかれた。

しかしなんというか、女同士で向かい合って抱きついているのに妙に体が密着するなぁ…

神風「…」
北上「…」

なにか通じあった気がした。

色々あってろくに書けてない

なんもかんも台風が悪い

神風の鼓動が、

互いの吐く息が、

体を伝う汗が、

全てがハッキリと感じられる。

うわ髪が引っ付いてきたよ。

身体と身体の間にある雫がなんとも言えない心地悪さ。

北上「だーもう!わかったわかった行くよ」

アイマスクを取って神風の顔を見る。

神風「ホントですか!やった」

パァッて擬音が聞こえるくらい表情を輝かせてる。

脅迫までしておいてこの娘は…

普段黙って本読んでる時の文学少女感はどこへ行った。

神風「よーし、まずは一泳ぎして汗を流しましょう」

北上「却下」

神風「え」

神風「遊ぶって言ったじゃないですか」

北上「泳ぐの等は禁止」

神風「…北上さん」

北上「なに」

神風「泳げなかったりします」

北上「…します」

多摩「ちなみに多摩も泳げないにゃ」

神風「」

絶句、だった。

船だから水には強い?

何をおっしゃる。あんなん浮いてるだけじゃあないか。

潜れるか!

泳げるか!

某海賊マンガだって弱点は溺れる事だぞ!

まあ私の場合泳いだ事がないからホントに泳げないかどうかもわからないけど。

未知と猫の記憶から水に対しての恐怖が拭えないのだ。

ちなみに多摩姉ちゃんはマジで単純にただただ泳げないだけ。

神風「つまり泳げないわけではないんですよね」

北上「かもしれないって話だけど」

とはいえ汗だくは嫌なので海水を浴びに行く。とりあえずは。

神風「怖いんですか?」

北上「最初は水も怖かったけどね」

水が腰くらいの高さまで来るところでストップ。

神風「ここが限界ですか」

北上「お風呂は別に嫌いじゃないんだよ」

神風「じゃあ何が?」

北上「過去の記憶と、経験が無いことから来る恐怖」

神風「矛盾してません?」

北上「真逆の事を言ってはいるけど矛盾はしてないんだよ」

呼吸ができない。

視界が悪い。

足がつかない。

これだけの条件が揃って怖がらない理由がない。

神風「あっ、視界だけなら解決できますよ!」

北上「へ?」

神風「ちょっとズルいですけど、こうやって…」

海がなんで青いか~なんてググれば済むような雑学はともかくとして、海中から見た景色を一言ありふれた言葉で表すと

本当に空中にいるような感覚だった。

水中ではなく、かと言って空中とも少し違う。

光の中にいる、といった感覚だった。

神風『どうですか?凄いでしょ!』

北上『こりゃいいや』

通信で会話する。

そう。神風のズルい解決策とは、艤装の力を使うことだった。

言わば機械の目だ、染みることもない。

神風『とはいえ艤装ですから燃料を消費します。あんまり使うと司令官に怒られちゃうので』

北上『あんまりじゃなきゃいいの?』

神風『誤差ですよ誤差』

ホントかよ。

ちなみに重巡以上は消費量の関係で禁止だそうだ。

北上「ぷはっ」
神風「ふぅ」

北上「まさか船なのに海に潜る日が来るとはね」

神風「流石に息の方はどうしようもないですけどね」

神風「さあどうです?次は泳いでみましょうよ!」

うわなんか凄い調子に乗ってる。

北上「私としてはもう少し海中探索してたいんだけど」

神風「それなら!いいスポットがありますよ。こっちこっち」

岩場の方を目指して無防備歩いていく。

くくく馬鹿めそれは罠だ。

北上「とりゃあ!」
神風「ひっ!ちょきたかアハハハダメダメダメェ!」

後ろから抱きついてのくすぐり攻撃。さっきの仕返しだじゃじゃ馬め!

人のことは言えないがこのような矮躯でバケモノと戦ってるって凄い事だよね。

精々が中学生程度の身体。

骨のラインがはっきり分かるような細身。

艤装が無ければ私1人振りほどけない腕力。

北上「ほれほれここか、ここがええんか」
神風「アハハハハハ…だ、だめぇ!ハッ、アハハハ…ハ…ふえ?」

北上「…」

神風「き、北上さん?」

北上「人間魚雷だ」

神風「…え?」

沖合から何かが、いや何かは明白なんだけど、突っ込んできた。

笑い涙を恐怖の涙に変えながら逃げようとする神風。

しかし、まあこれはどうしようもない。

大井「きーたーかーみーさーん゛!」

着弾。

大井「だって!せっかく水着を取り返したと思ったら北上さん海辺でキャッキャウフフしてたんですよ!我慢できるわけないじゃないですか!」

北上「お、おう」

神風「し、死ぬかと思った…」

木曾「悪いな、止められなくてさ…」

多摩姉の所に戻ると、隣に球磨姉が刺さっていた。

足を上にして。

茶色い水着なのでまあ球磨姉だろう。

北上「捕獲したと」

大井「逃げないようにと」

神風「二酸化炭素の逃げ場がないのでは」

北上「というかさ、こんなとこ他に見る人もいないんだし水着無くてもいいよね」

木曾「いや幾ら何でも、いや、ありか?」

神風「でも司令官はめったに来ませんよね」

多摩「忙しいからにゃ、あれでも。ところで出られないんだがにゃ」

北上「オシャレのしがいがなさそうだよね」

木曾「一部のヤツらは残念がってたな」

北上「やはり水着なんて着なくても良いのでは?」

大井「何言ってるんですか。普段しっかり隠していた方が本番の時萌えるじゃないですか」

神風「ほ!ホンバン…」カァァ

北上「…」
木曾「…」

これは提督の事か?私か?

多摩「あ、なんか来たにゃ。それはそうとここから出して欲しいにゃ」

神風「遠征組が来たみたいですね」

北上「なんか沢山荷物ない?」

木曾「スイカにクーラーボックス、スーパーの袋、でけぇ肉…どうやってあんな物」

多摩「お昼はバーベキューかにゃ。食べたいにゃ。出たいにゃ」

北上「私らも一旦別荘戻るかね」

大井「そうですね」

神風「私もみんなを呼んできます」

木曾「んじゃあ俺は、見張りかな…」

北上「よろしくね~」




神風「ところで多摩さんは何故ずっと放置なんですか?」

北上「水着忘れたから裸なんだよ」

神風「えっ」

大井「はいどうぞ北上さん」

北上「さんきゅー」

手渡された串にはBBQされたお肉と野菜がバランスよく刺さっている。流石だね。

大井「いいんですか?あちらに混ざらなくて」

北上「ちょっとね。騒がしいのはまあ、嫌いじゃないんだけど。今は少し考え事を」

大井「お邪魔でしたか?」

北上「ううん。むしろ私が邪魔になりそうだからここに来てるんだ」

あちらのBBQ会場は30人程が三つのコンロを囲んでいる。

そのうち一つからやたらと黒い煙が上がっているのが少々気になるが。

大井「では私はこれで」

北上「あー大井っち」

大井「はい?」

北上「ありがとね」

大井「野菜も、ちゃんと食べてくださいね」

北上「は~い」

向こうへ戻っていく白いワンピース。

大井っちもオシャレに気を使う一部なのだろう。提督はああいうのが好みなのかねえ。

さてさてお肉のお味は。

北上「…生焼けじゃん」

暗に戻ってこいと言っているのか?

球磨「食後のスイカ割りだクマー!」

多摩「おー」

球磨「ところで一つ質問があるクマー!」

北上「おー?」

球磨「なぜスイカの隣に球磨が埋められてるクマー?」

大井「はい目隠しー」

多摩「おー」

北上「回って~」

多摩「お~~」

大井「はい棒です」

木曾「十歩前に進んで右足で踏み込んで打て」

球磨「木曾ぉぉぉぉぉ!!!」

北上「もうちょい前前」

球磨「右!右がスイカクマ!」

大井「右は偽物です」

球磨「スイカ割りって言ったクマ!」

木曾「球磨姉もう暫く声出しててくれ」

球磨「なんで音を頼りにしてんだクマァ!スイカは喋らねえ!」

木曾「そこだっ!」

球磨「違うぅ!」

声で球磨姉の位置がわかるという事は当然隣のスイカの位置がわかるわけで、

まあここではずす程木曾の練度は低くない。

北上「スイカって砕くより切った方が絶対うまいよね」

大井「雰囲気を味わうものですから」

木曾「でも細かいのは勿体ないよな」

他の子達は普通に切って食べている。

何故こんなことをしてしまったのか、という後悔が…

北上「プッ」

種を飛ばし虚しさを誤魔化す。まずまずの飛距離だ。

木曾「プッ!」

北上「うおぉ、凄い」

木曾「コツがあんだよコツが」

多摩「すぅぅぅぅ…に゛ゃ゛!ゲホッ!飲み込んだにゃあ゛!」

北上「オヘソから芽が出てくるよ~」

木曾「スイカの子供が産まれてくるぜ」

多摩「」

大井「はっ!つまり北上さんの出した種を食べればそれはもう北上さんの子供を宿したと同義なのでは!」

北木「「えっ」」

私達の種は鎮守府の花壇に埋めることとなった。

こういうのって生えてくるものなのかね?

大井「北上さ~ん。口移しでいつもと少し変わった食感を楽しんでみません?」

北上「いやかき氷ってそれやったらただの水だよね」

木曾「多摩姉それ何味だ?」

多摩「鰹節にゃ」

木曾「鰹かー。え鰹っ!?」

多摩「嘘にゃ、ココアにゃ」

北上「お、あのネットはバレー用かな」

大井「口移し」

木曾「多分だけどおい姉、言ってる事と思ってる事が逆だぞ」

多摩「球磨型も参加するにゃ」

北上「最初は神風型と17駆か」

多摩「17駆の方は既にボールが四つもあるにゃ」

大井「何食べたらああなるんでしょうね」

北上「提督は大きいのが好きなのかな」

大井「…なんでここで提督の名前が出てくるんですか」

木曾「あれだけデカイと邪魔そうだがな」

北上「海とは違って飛んだり跳ねたりするからね」

多摩「多摩と同じかそれ以上にゃ」

大井「私よりも大きいかも知れません」

木曾「駆逐艦とは」

北上「デストロイヤーだね」

多摩「あんなもん一般のビーチにだしたら死人が出るにゃ」

北上「谷風って運動神経いいんだね」

大井「艦娘としての練度も高いですし、運動能力は高いはずです」

木曾「浦風も凄いな」

多摩「浜風はダメダメにゃ」

北上「磯風はアタックしかしてないけど強いね」

大井「神風は流石ね」

多摩「松風と春風もよくボールに食いついてるにゃ」

木曾「朝風は、ドジっ子か」

大井「ドジっ子ですね」

多摩「ドジっ子にゃ」

北上「あ、顔面にボールが」

球磨「クマクマクマ!見てるだけかクマお前達」

北上「ありゃいつの間に」

木曾「なんだよその笑い方…」

大井「そうですね、もう1度埋めましょう」

多摩「ところでなんで水着はなくてこれはあるんだにゃ」ブルマー

球磨「妹達が冷たいクマ…」

木曾「自業自得だろ」

多摩「水着はないが運動着はあると言われてみりゃこれにゃ」

球磨「似合ってるクマ」

多摩「ネコでブルマとかキャラあざとすぎにゃ。20年前のギャルゲーかにゃ」

北上「自分で言うかね」

球磨「ネコもブルマも玉追いかけてなんぼクマ。さっさと動けクマ」

多摩「あ゛?そっちこそサーブでその熊らしい腕力を見せつけてくりゃいいにゃ。クマクマ言ってあざとらしくポロリでもするにゃ」

球磨「やるか」

多摩「やるにゃ」

木曾「またこれだ」

多摩「水着はないが運動着はあると言われてみりゃこれにゃ」

球磨「似合ってるクマ」

多摩「ネコでブルマとかキャラあざとすぎにゃ。20年前のギャルゲーかにゃ」

北上「自分で言うかね」

球磨「ネコもブルマも玉追いかけてなんぼクマ。さっさと動けクマ」

多摩「あ゛?そっちこそサーブでその熊らしい腕力を見せつけてくりゃいいにゃ。クマクマ言ってあざとらしくポロリでもするにゃ」

球磨「やるか」

多摩「やるにゃ」

木曾「またこれだ」

北上「何かと争うよね」

大井「何度か長女の座をかけて戦ったりしてますし」

北上「多摩型になってたかもしれないのか」

木曾「でも何だかんだで球磨姉が勝つんだよな」

北上「長女の意地だね」

吹雪「おまたせしました~」

北上「あれブッキー?どったのその、弾?」

吹雪「夕張さん特性の対艦娘用強化バレーボールです」

木曾「なんて?」

吹雪「夕張さん特性の対艦娘用強化バレーボールです」

大井「このために?」

吹雪「艦娘用強化バレーボールです」

木曾「始まっちまった」

北上「バレーボールなのに1体1って…」

大井「バレーボールなのに砲撃の音がします…」

木曾「あぁ…」

北上「外れたボールが駆逐艦に」

大井「これ止めた方がいいんじゃないでしょうか」

吹雪「艦娘ですし大丈夫ですよ」

北上「楽しそうだねえ」

吹雪「このためにわざわざ大型建造1回分の資源ぶち込んだんですもの」

木曾「相変わらずフリーダムだな秘書艦」

大井「よく受け止めますね多摩姉さん」

神風「私知ってます。こういうのテニヌって言うんです」

北上「違うけど合ってる」

吹雪「神風、他のみんなは?」

神風「流れ弾が怖いんで殆ど泳いだりしてますよ」

北上「そういや木曾がいない」

神風「あ~木曾さんならあっちに」

北上「ちょっくら見てこよう」

北上「うわお」

木曾「お、上姉もやるか?」

電「んーこのままだと橋の強度が足りないのです」

雷「なら大きくしちゃえばいいじゃない」

暁「堀ももう少し広げちゃいましょうか」

響「監督、桐を貸してもらえるかい」

まるゆ「こっちので大丈夫ですか?」

響「いや、細い方を頼む」

北上「…何作ってるの」

「「「「「「江戸城」」」」」」

何もんだよこいつら。

大井「はい完成」

神風「わあ凄い!どお吹雪?」

吹雪「凄くカワイイ!凄く売れそう!」パシャ

神風「売る?え、売る?」

大井「じゃあ次は金剛さんの髪型で」

吹雪「ほらほら私の事は気にせず」

神風「ちょっと、もう…」

戻ってみると何やらヘアスタイルショーが始まってた。

神風のあの長い髪はよく弄られている。

姉妹だと松風なんかによくやられると言っていた。

球磨「オラァ!」
多摩「なんのお!」

北上「バレーは?」

ドッジボールと化していた。吹雪が次に作るべきはあの威力に耐えられるネットだろう。

だいぶ日が傾いてきているが、沈むまで続きそうだこれは。

多摩「にゃらぁ!」
球磨「クマァ!」

北上「蹴りもありなのか…」

北上「さてどうしたもんかね」

各々好き勝手にやりたい事をやっているが、ほんとに部屋に戻って読書でも始めてしまおうか。

龍驤「なんや、キミは泳がんのかい」

北上「…あれ、今日は駆逐艦とかしか来てなかったんじゃ」

龍驤「おう喧嘩売っとんのかコラ」

北上「ちなみに何故スク水?」

龍驤「飛龍か蒼龍に仕込まれたんや」

北上「に、似合ってますよ」

龍驤「それはボケか?素か?」

龍驤「思ったより元気そうで安心したわ」

北上「みんな随分気にかけてくれて、まあ嬉しいですけど、なんか気にしすぎじゃないですか?」

龍驤「せやなあ。やっぱ提督がえらい心配しとったのが原因やろな。ウチもそのクチや」

北上「提督が?」

龍驤「大井と仲のいいキミやからってのがあるんやろな」

北上「なるほどね。どっちも心配性な」

龍驤「似たもの夫婦やからな」

北上「まさしく」

龍驤「泳がんの?」

北上「泳げんの」

龍驤「…一人になりたいならあっちの岩陰の方がオススメや」

北上「え?」

龍驤「ほな」

いい感じに日陰になっていた岩場は、とてもヒンヤリとしていて気持ちがよかった。

北上「みんな色々な反応をしてくるなあ」

心配してくれているのは一緒みたいだが。

大井「みんな北上さんの事が大切なんですよ」

北上「大井っち、神風はもういいの?」

大井「ええ、堪能しました」

北上「さいで」

大井っちが隣に座る。

日は、だいぶ傾いてきていた。

北上「それは?」

大井「線香花火です。明石さんに頼んで火薬マシマシの長時間バージョンになってますよ」

北上「なんか不安なんだけど」

大井「1本試したので大丈夫ですよ」

流石、安全管理に抜かりはなかった。作者が作者なので当然か。

北上「まだ明るいけど」

大井「日が落ちる前には帰らなきゃですから。鎮守府でやるわけにもいかないですし」

北上「確かにね」

仮にも軍の基地。火薬物をおいそれと扱うわけにはいかない。

まあ魚雷やら爆撃機やらが日常的に飛び交ってるけど、提督室は特別ということで。

半分は提督の自業自得だし。

北上「さてと」

大井「では」

「「勝負」」

同時に火をつける。

岩場の影とそれを包むオレンジ色になりつつある陽の光が、想像とは違う花火の輝きを生み出していた。

パチ、パチと徐々に火花が散り始める。

一旦それが止み、ジジジと溜めが入っと思うと次の瞬間、花が咲いた。

まるで写真をコマ送りで見ているかのようだった。

雪の結晶のように一つとして同じ形を見せない花達の絵が瞬きよりも早く移り変わる。

大井「綺麗ですね」

おや、大井っちの方が長持ちしそうだ。まずいな、確か線香花火は斜め45°で持つと長持ちすると聞いた気が。

北上「大井っちの方が綺麗だよ」

普段の仕返し、なんて言い方は変だがたまにはこちらから仕掛けてみる。

大井「へっ?」ポトッ
北上「あっ」

ジュッ、とまだ半分も燃えてない火薬と火の玉が、湿った地面に音を立てて落ちた。

北上「あー、あはは。なんか、ゴメン」
大井「北上さんっ!」
北上「おっと」

そっと線香花火を持つ右手を掴まれた。

大井「責任とってください」

北上「仰せの通りに」

2人で一つの線香花火を堪能する。

長時間と聞いていたが、朱紅い雫が落ちるまではあっという間だった。

北上「重い」

大井「暑苦しい」

木曾「後で間宮奢りだな」

北上「パフェかな」

大井「ジャンボですね」

木曾「イチゴ乗せよう」


なんというか、リアルな間が空いた。


北上「重い」

大井「暑苦しい」

木曾「頑張って」

夕焼けの海を、私と大井っちは猫と熊を背負って航行していた。

球磨「」
多摩「」

砂浜で倒れる2人。

いい勝負だったぜ感を出されても困る。

北上「これおぶってくの?」

木曾「なんとも迷惑な」

大井「置いていってもいいんじゃないですか?」

吹雪「一応軍事機密ですし、放っておくわけにも」

とかなんとか。まあ仕方ない。

吹雪「はいチーズ」パシャ

北上「こんなの撮ってどうすんのさ」

吹雪「戦いの果てと言う事で」

木曾「また今回も沢山写真撮ってたな」

吹雪「艦隊の記録も秘書艦の仕事ですから」

大井「売るんでしょに」

吹雪「売ったりもするだけです」

北上「売ってんじゃんよ」

吹雪「安心してください。大井さんのワンピース姿はバッチリ撮りましたから。提督の今晩のオカズは決定ですね」

大井「ほう」スッ

木曾「おい待て魚雷はやめろ頼むから!」

北上「提督はワンピース好きなのかな」

吹雪「どうでしょうねえ。あのチャラ男どんな娘にもデレデレですから。好みっていうと浮かびませんね」

木曾「辛辣な。でもいいんじゃないか?チャラ男と真面目なおい姉の組み合わせは」

大井「いやですよあんな男。金髪ですよ金髪。チャラ過ぎです上司じゃなきゃ深海棲艦の餌にしてます」

北上「でもよく一緒にいるじゃん」

大井「上司だからですよ。転属が出来ないならあのチャラさを変えるまでです」

北上「おー鎮守府見えてきたー」

木曾「明日からは通常運営かあ」

大井「また実践訓練の日々ですね…」

北上「ぅあー…今からでも島に帰らない?」

木曾「賛成の反対」

大井「早くお風呂入って寝たいです…」

北上「だね~」

あぁ、いや。

まだひとつやる事がある。

やり残したことがある。

夏休みの宿題を、やらなくては。

なんでお盆開けてから連休なの

それよか夏休みください

イベントもやらねば

26匹目:猫の記憶




夜。私は先輩ネコの手を借りに来た。



谷風「先輩ネコ、とはまあなんともいい響きだねこりゃあ」

北上「気に入った?ウミネコさん」

谷風「そういえばキミはなんて種類たったのかね。ネコとして」

北上「全身真っ白な猫、なんてなんのヒントにもならないよねえ。雑種ならなおさら」

谷風「そう。その通りだね」

谷風「キミは猫の時の記憶があると言ったね」

北上「まあね」

谷風「そう。記憶がある。でもそれってホントかなって」

北上「…どゆこと?」

谷風「確かに記憶はあるんだろうさ。猫の仕草や習慣なんかをキミはよく覚えてる」

北上「そりゃあ、そうねえ」

谷風「でもそれってさ、猫の記憶ではあるけど猫の時の記憶ではないんじゃないかな」

北上「…はあ?」

谷風「ここで1度私の話をしよう。私が何故谷風になったかという話さ」

北上「え!そんな事分かってるの?」

谷風「というよりそれしか理由らしい理由がなかった。生前の、ウミネコとしての私にとっては」

北上「続けて」

谷風「飛んでた。飛んでる記憶ばかりだった。でも随分たったある日、唐突に一つの記憶を思い出した。

飛び疲れた私は羽休めに船にとまった。そこで私は船員に餌をもらった。その男に見送られながらまた飛んでいった。

そこが何処だったか、いつだったかなんて鳥にゃわからないけど、あの小さな船は、谷風だったのかもしれないなあって」

北上「…それだけ?」

谷風「それだけ」

北上「えぇ…」

谷風「そんなに落胆するなよ」

北上「いやだって…ええ~」

谷風「確かに理由としてはあまりにもなんて事無い話だけどね。でも案外そんなもんじゃないかとも思うんだ。

確かめようもないしね。確かめようとも思わないし」

北上「ほんと興味無いんだね」

谷風「さて話を戻そうか。私は思い出すのに随分時間をかけたが、キミのその手間を私が省いてあげよう。

北上。キミは何か物語としての記憶、思い出はないのかい?」

北上「思い出?」

急に言われてもパっとしない。猫の思い出、ねえ。

谷風「記憶には二種類ある、と言われてる。エピソードと知識だ。それでいうとキミはエピソード記憶が今のところ殆どからない。

猫の時の感覚、記憶もどちらかと言うと知識、習慣として身に染み付いているように思える」

北上「確かに、思い出すってのとは違ったかな」

谷風「では、キミは自分の事を白猫と言ったよね」

北上「まあ、うん」

谷風「キミは今自分の姿が見えるかい?全身が?」

北上「自分?鏡とかあれば」

谷風「猫にそんなものはないよ」

北上「…あれ」

あれれ。

谷風「キミの記憶の話をいくつか聞いたけど、まるで第三者目線で、飼い主がペットの行動を見ているかな記憶じゃないか」

第三者。だとしたら私は

谷風「キミが猫として身についた習慣や行動の記憶は確かだろう。でもキミが見たそれはキミの事じゃないんじゃないかい?」

あの白猫は私じゃない

谷風「キミは生前、もう1匹の猫と暮らしていなかったかい?」

線香花火のようだ。

パチパチとコマ送りのように様々な風景が頭の中に浮かんでは消えた。

しかしそれはどれも似たような風景だった。

今なら分かる。

これは麦畑だ。

私はそれを見上げていた。

まさに黄金色といった感じの広大な命の輝きの中にその一軒家はあった。

白い壁にの小さな家。農具や機械をいれる倉庫もあった。屋根の色は、見上げても見えないからわからない。

そこには白猫がいた。小さな子猫が。

そこには男がいた。私達にミルクをくれる、金髪の、毛むくじゃらで、大きな手で撫でてくれるおじさんが。

目まぐるしく映像が移り変わる。

白猫と、おじさんが次々と現れては消える。

ふと火花が止まった。

そこには写真があった。両手に猫を抱えて笑うおじさんの写真が。

おじさんは英語で私達に語りかける。

右手には白猫がいた。

左手には、黒猫がいた。

私がいた。

朱紅い雫が落ちた。

北上「もう1匹、いた」

谷風「そういう事だろうね。どうだい?他には」

北上「飼い主も、でも名前はわからない。外国人だ」

谷風「英語が堪能なのはそれが理由かい。しかし探すのが難しいねそれは」

北上「どこかも分からないや」

谷風「飼い主の方はともかく、もう一つは大きなヒントじゃないか」

北上「もう一つ?私が黒猫だったってこと?」

谷風「おやそうなのかい。でもそれはあまり関係ないよ」

北上「なら何が」

谷風「だってもう1匹いたんだろ?」

北上「うん」

谷風「ならこの鎮守府にいるかもしれないじゃあないか」


北上「え…?」

お札多すぎ…編成考えるのは好きだけどね

27匹目:結構毛だらけ猫灰だらけ



ことわざ、というよりはダジャレ。

あたり前田のクラッカーというやつだ。

全身毛だらけという感覚が無くなって久しいが、ココ最近灰だらけになる機会が増えてきている。

灰、というよりは火薬なのだが。

シンデレラもビックリのドレスだ。

北上「ぶはっ!」

爆撃による黒煙から抜け出す。

顔にまとわりつく汚れを気にする余裕はない。すぐさま索敵に入る。

視界を肉眼に戻し電探で探る。目と猫で言う髭とを合わせた三次元的な空間把握は私の得意とするところだ。

敵艦載機からの機銃を避け私とは別の艦娘へ狙いを定める戦艦に向けて砲撃する。

ダメージは殆どないが足止めには成功した。

比叡「ナイスアシストです!」ドォン

その隙を突き戦艦を撃破する。

大井「北上さん無事ですか!」

北上「おーけーおーけー、さて残りは」

少し遠くで爆発音がした。

蒼龍「敵旗艦撃破、完全勝利っ♪」

北上「被害は、飛龍さんだけか」

飛龍「たはーゴメンね、空母にばっか気ぃ取られちゃって」大破

秋月「すみません、私がしっかり守っていれば…」

蒼龍「気にしないの。飛龍が突っ込んでってのが悪いんだから」

飛龍「う~反省してまーす」

比叡「で、どうします?リーダー」

どうってそりゃあ、ねえ。

北上「帰って間宮しましょう」

提督「うむ、悪くない。いや、良い」

北上「…」

入ってきた扉をそっと閉める。

どうやら気づかれてはいないようだ。

提督室。いつもなら入ると目の前に座る提督からどうしたーとか声をかけられるところだが、今日は違った。

椅子を横に向け何やら手元に見入っている。私の位置は提督から横目で見えない角度ではないはずだが、余程見入っているらしい。

何を見ているのだろう。

ニヤっと口元が歪んむのを感じる。

抜き足差し足猫の足。

本気で忍び寄る時のコツは、体全体でオーバーリアクション気味にそろりそろりとーなんてやらない事だ。

人間も意外と野性的感覚を持っているものだ。

音を立てずとも妙な気配を出すと気づかれる。

すり足気味に音を抑えなおかつ上半身は普通に歩くように自然体で。

さてそろそろ見える位置だ。

が、ここで普通に覗くと私が100%悪いので、あくまで事故を装って。

北上「なーに見てんの提督~」
提督「ひょぉおう北上ぃ!?」

驚いた拍子に手に持っていた写真が舞い上がる。

北上「何夢中に見てたのさ。話しかけても全然答えないんだから」

大嘘である。

提督「ああいやぁそのぉねぇ」

慌てて写真を集める提督。

そのうち1枚を拾い上げる。

北上「あ、大井っちの写真だ」

モチロン水着の。色々と察しが付いたね。

愛しの彼女の水着に見入ってたなこいつめ。

提督「いやーそれはねー吹雪君がねー報告にねー持ってきてねー」

北上「へ~。でいくらだったの?」

提督「え」

北上「いくら」

提督「いやその」

北上「ハウマッチ」

提督「ワンコイン」

北上「五百か…」

札じゃないだけ良心的?

ちなみに青葉は吹雪の傘下だとか。

北上「で、誰の水着を見てたのかな~」

もう1枚めくる。ワンピース大井っち。

マジか。

提督「あ、いや。大井をだな!大井を見てた!うん!」

そんなとこで開き直られてもねえ。

提督「というか北上!お前はなんでここにいんだよ!」

北上「何って報告だよ報告」

提督「あー、そっか」

北上「提督」

提督「はい」

北上「落ち着こ」

提督「うん」

提督「どうだった。初めての旗艦。艦隊のリーダーというのは」キリッ

急にキリッとかされるとなんかムカつくが、まあそこはいいや。

北上「ぜーんぜんダメダメだった」

提督「え?戦果としては特に問題なさそうだったけど」

北上「旗艦としてって事。途中から比叡さんに任せっきりになっちゃってさ。そのおかげだよ」

提督「ほーう。お前はやたら索敵上手いし、周囲を見て指示出すのも行けるかと思ったんだが」

北上「そう上手くはいかないよ」

私の場合、その感覚を自分のためだけに、生きるためだけに使ってるからね。

提督「まあ慣れだ慣れ。役割上雷巡が旗艦をする事は少ないが、リーダーの目線を知っておく事も大切な事だ。また機会があったら訓練だな」

北上「へいへい」

北上「でもさあ、もちっと楽なところで訓練したいよね」

提督「そうも言ってられんねーよ。敵は待てを聞かないからな。お前のような新兵でも実践訓練のにせざるを得ない」

北上「なるほどね。はーやだやだ、戦争なんてさ」

提督「だ、な。でもまあ悪い事だけってわけじゃないさ。不謹慎かもしれんが、ただ悲観的になってもしょうがあるまい」

北上「お気楽だなあ」

提督「そーゆーのはお前の専売特許じゃないのか?」

北上「マイペースって言ってよね。私の適当は適度に適切にって意味なんだからさ」

提督「だが、そうだな。お前のその危機回避能力というか、生存力は強みだ。今回の編成もかなり攻撃によったものだったろ?」

北上「ん~まあそうねえ」

提督「大井の時なんかはもっと守備を固めたもんさ。生き残る事が大前提だからな。その点北上は優位だ」

北上「…でもそれっていいの?私達は敵を倒すための兵器だよ」

提督「それだけじゃないさ。それに今は非力でも、生き残って、経験を積んで、強くなってから敵を討てばいい。焦る必要はないからな」

北上「焦る必要はない、か」

提督「マイペースが売りなんだろ?」

北上「それもそうだ」

北上「しっかし提督に真面目な事言われるとなんかムカつくな~。カッコイイじゃんか」

提督「だろ~?普段適当なやつがここぞという時は真面目になる。ギャップは日頃の努力から生み出されるのよ」

北上「日頃努力してないって話でしょーが」

提督「まあな」

北上「そっか~わざと手を抜いたたんだ~大井っちが知ったらガッカリだろうなあ~」

提督「…き、北上さん?」

北上「そう言えばもう少しで大井っち演出から帰ってくるだっけ」

提督「まて落ち着け、俺達は話し合える分かり合える」

北上「貸一つ」

提督「よかろう」

提督「貸しはまあともかくとして。その、写真返してくんね?」

北上「いや~しかし大井っちってホント胸デカイよね。私もないって程じゃないと思うんだけど。それとも大井っち位が普通なのかな」

提督「お前ら艦娘は規格外だよ、色々と。北上くらいが普通だろ」

北上「ふむ、こっちは多摩姉ちゃんか」

提督「やめてなんか見られる度に心が削られる…」

北上「どう思う?ブルマ」

提督「大きさに関わらず胸の形を顕にする体操着は素晴らしいものだ。だが俺はブルマより現代のズボン型の方が興奮する」

北上「え、キモッ」

提督「」

提督「正直初めて多摩の胸を見た時ビビった」

北上「デカイよね」

提督「普段わかんねーもんな」

北上「なんか性格上慎ましやかなイメージがあるし」

提督「それ、ほんまそれ。その点逆に球磨は大きいイメージだった」

北上「全部包容力に吸われてるんだよ」

提督「なるほど」

提督「ところで球磨のこの水着はなんだ?なんつーか妙なセンスというか」

北上「クマだってさ」

提督「ん?球磨だろ」

北上「クマの方」

提督「くま、クマか。あーそゆこと」

北上「そゆことそゆこと」

提督「北上のはなんで?」

北上「まだ買ってなかったら借りた」

提督「球磨から?」

北上「サイズがね…」

提督「…ゴメン」

提督「そうかあ、まだ買ってなかったのか」

北上「…なんかよからぬ事を考えてないよね」

提督「ちげえって。1度そーゆー足りないものを買いに行った方が良いかなって思ったんだよ」

北上「あー、外出用の服とかもないしね~。そもそも外に行く用事もないか」

提督「そこら辺はまたおいおい、だな」

北上「だね」

とドアを叩く音が。

なんか妙に雑だな。コンコンというよりゴンゴンって感じ。

吹雪「吹雪入りましたー!」バタンッ

提督「事後報告かよ!」

吹雪「見ての通り荷物抱えてるんですよ?それに一々私室入るのに確認を取る間柄じゃあないでしょ」

提督「第一に両手塞がってるからと足で戸を叩くな第二にここは私室じゃない第三に俺とお前は部下と上司の間柄だ!」

吹雪「おおーナイスツッコミ、さっすがぁ↑」ドサッ

提督「嬉しくねぇわ!」

提督よりも長くこの鎮守府にいるという最古参にして、提督と最も長い付き合いの1人である吹雪。

会話は完全に兄弟かなにかだ。

北上「…でそのダンボールは?」

吹雪「資料ですよ資料。最近近海に現れた厄介者のね。北上さんの訓練が多少危険度の高い海域で行われてる原因でもあるんですよ?」

北上「え、そうなの?」

提督「うちの主力がそっちに割かれてるんだよ。で空いた穴を埋めるためにってのもあるわけだ」

それは知らなかった。

鎮守府も大変だね。

吹雪「いかんせん古い物でしたから大変だったんですよ~。今どき紙媒体って」

提督「全くだな。って事でそれデータに落とし込んどいてくれ」

吹雪「ええ!?これを?私が!?」

提督「お前以外に誰がいるよ」

吹雪「私じゃなければ誰でもいいですよ」

提督「そこはせめて自分以外に適任がいるとか言えよ!」

吹雪「はぁ~、わっかりましやりますやりますやらせていただきますー」

提督「おうおう、仕事に励め秘書艦どの」

吹雪「てことでこれ借りますよー」

提督「え?」

手に取ったのは館内放送用のマイクだ。

何故に?

吹雪「あーあー、叢雲聞こえるー?今すぐ提督室来て。いっ、30秒で。提督命令ね」ガチャ

1分と言いかけてから半分に減らしたぞこの秘書艦。

提督「おい何が提督命令だこら」

吹雪「提督のセリフからそういう意図を汲み取ったまでです」ビシッ

提督「敬礼すんじゃねえよお前がすべきなのは謝罪と訂正だよ」

北上「あ」

慌ただしい足音が近づいてきた。それも急いでるからというよりは怒っているからといった感じの。

本日2度目、乱暴に戸が開く。

叢雲「な、何よ急に呼び出しって!しかも、30秒、って…」

セットする余裕がなかったためか少しボサッとした髪と曲がった、ネクタイ?ネクタイだよねあれ。

息も絶え絶えで頭の、耳、うん耳。耳も今にも落ちそうになっている。改二が眩しい彼女。

吹雪「ハイこれ持って」ドサッ

叢雲「はぁ?いきなりなん重っ!何よこれぇ!」

吹雪「後今日は下手したら徹夜だけど付き合ってね。こっちはお姉ちゃんめーれー」

叢雲「徹夜ぁ!?ちょっとアンタ!どういう事よこれ!」

提督「あーうん。でも頑張ってくれ」

叢雲「は、はぁー?」

吹雪「はーい着いてきてー。あ、提督。終わったら連絡するので、それでは」

提督「わりぃな。頼む」

叢雲「ちょっ!あぁもう…言っとくけど絶対徹夜なんかさせないわよ」

行っちゃったよ。

北上「叢雲も大変だね」

提督「見たか?お姉ちゃん命令って言われた瞬間あいつの耳が立ったとこ」

北上「え、見てない」

提督「ありゃ吹雪なりのお願いなんだよ」

北上「頼られて嬉しい、と?」

提督「吹雪も忙しい身だからな。力になりたいとは思ってるんだろ」

北上「なるほど、ね」

徹夜しない、ではなく、徹夜させない、とはそういう意味か。

提督「情けない話だが、でも頼りになるよ。2人とも」

北上「いい姉妹だねぇ」

提督「みんなそうさ。お前らもな」

北上「そうだねえ。じゃあはいっ」

提督「えっ」

北上「んーっと、これとこれと、ハイ没収」

大井っちの写真計3枚を写真から抜き出す。

提督「んな殺生な!」

北上「提督もいい提督を目指そうね~」

提督「いい提督だろ!」

北上「部下の水着写真ジロジロ鑑賞する提督はなぁ…はい」

他は、まあみんなの楽しそうな姿が写ってるので許してやろう。

提督「…くそう、いいさ。まあいいさ」

妙に納得が早い。まさか大事なのは抜いて隠したか?

いや流石にそこまで念入りに探す理由はないからいいや。

北上「んじゃあ私は次の出撃までやすんどくね~」

提督「そうだ、ついでにこれも」

北上「これは、球磨型の集合写真」

提督「いい姉妹、だな」

北上「うん、うん」






北上「姉妹、ねえ」

廊下で写真を見ながら考える。

私の、もう1人の姉妹とも言える白猫の事を。

丙、乙と来て、明日は甲に挑むんだ

28匹目:ナマズ


鯰。漢字で書けないし読めない。

英語でキャットフィッシュと言うらしい。

理由はヒゲが猫っぽいから。

学者のネーミングセンスは何故こうも適当なのか。

便宜上だしわかりやすけりゃいいというならまあ分からなくもないが、いやそもそもわかりやすいかね?

そこへいくと「艦娘」という名前も随分適当じゃあないか。

船で、女の子で、じゃあ艦娘って。

実際わかりやすいのは確かだ。

それしか形容しようがないのも確かだ。

それしか分かってないのも、確かだ。

そう、結局何もわかってない。

ならば、例えば私や谷風のような存在は、案外それほど特殊ではないのかもしれない。

英霊とか船の擬人化だとか言われてるけれど、私達の中に何があるのかなんて私達自身わからないのだ。

私達は、何であっても不思議ではない。

つまり、

北上「私はナメクジかもしれない」

阿武隈「…なんですか急に」

北上「いやさ、汗がこうツーっと流れる度にそこから溶けだしそうな感覚なんだよ」

阿武隈「ナメクジが塩で溶けるって迷信らしいですよ」

北上「えぇ!嘘ぉ!」

阿武隈「ウソです」

北上「うわぁ、悪い子だ」

阿武隈「少しは疑ってくださいよ」

北上「ここは戦場じゃないし、疑う意味もないも~ん」

阿武隈「そんな大げさな…」

阿武隈。ちょっと不思議な縁がある娘。

何やら艦の記憶からか妙に私に警戒心を示していたのだが、いかんせん私がそっちの意識が薄いために完全に無視していたのだ。

そしたらなんか寄ってきた。向こうから。

「こっちはこれだけ意識してるのにズルイです!」というのが向こうの言い分だったが、いやなんとも理不尽な。

そんなわけでこうして私が部屋に1人の時に遊びに来たりしているのだ。

1人の時を狙うのは恥ずかしいからだとか。よくわからぬ。

そう、よく分からないのだ。だからまあ奇縁というべきだと思う。

北上「阿武隈は暑くないの?」

阿武隈「暑いと言えば暑いですけど、汗ばむほどでは」

北上「そりゃ羨ましいや」

阿武隈「あれ?あそこの本って」

北上「夕張に借りたラノベ。知ってるの?」

阿武隈「はい!駆逐艦達の間でも流行ってるんですよ、私もすっかりハマっちゃって!」
北上「あーボリューム下げて下げて」

阿武隈「あぁすいません…」

耳の近くで大声を出されれば猫でなくとも驚く。

そう。奇妙と言えば今現在こうしている関係こそ奇妙だ。

自分の部屋で、阿武隈に膝枕されているこの状況が。

阿武隈「読んでもいいですか?」

北上「ラノベってのも便宜上のテキトーな分類だし、合う合わないはあると思うよ」

阿武隈「だから読んでみるんです」

北上「うむ、いい心がけだ」

阿武隈「あ、でも届かないです」

北上「…私は少しでも動いたら溶けるよぉ」

阿武隈「溶けろぉ」
北上「ぐえー」ゴロン

膝枕転げ落ちる。

体制が変わった事で服が汗により身体にひっつく。

うえー気持ち悪い。

北上「チーズ蒸しパンになりたい」

仰向けで呟く。

阿武隈「どこのゴリラですか」

北上「あれ、知ってるんだ」

阿武隈「私的には北上さんが知ってる方が驚きです」

北上「夕張の英才教育の賜物かな」

阿武隈「まあ、教育ではあるかもしれないですね」

北上「漫画って凄いよね。文章なら原稿用紙一枚分くらいの情報でも一ページ、一コマで表したりできるし」

阿武隈「確かにそう考えるとなんだか凄いですね」

北上「表現方法が違うとはいえ、あれだけの情報をばっと読むってのはなんかクセになる面白さがあったよ」

阿武隈「漫画は気軽に早く読めますからね。遠征組に流行ったのも休憩時間に読みやすいって事がおおきいでしょう」

北上「そうそう、速いんだもん。夕張にとりあえず有名所は読んどけーって貸してもらったけど、サクッと読み終わっちゃった」

阿武隈「あの人の部屋漫画も本もすごい数ですよね」

北上「貴重な人材だから給料いいんだって」

阿武隈「あ、私これ好きかもです」

北上「マジ?推理ものだよ?」

阿武隈「推理小説は苦手ですけど、これは好きです」

北上「あー江戸川乱歩よりなところがいいのかな」

阿武隈「エドガー?」

北上「…おぅ…」

怪人二十面相って言った方がわかりやすいのかな?

いやそこまで説明する気もないしいいや。

阿武隈「お邪魔しま~す」
北上「ぐえ」

北上「え、なにしてんの」

阿武隈「さっきは私が膝枕したので今度は北上さんがお願いします」

北上「えー対価を要求するんかい。しかもそこは膝じゃなくてお腹だよ」

仰向けに寝た状況でお腹に頭を載せられると結構苦しい。

というか私はそもそも膝枕を頼んだ覚えはない。

「私は暑くてだるいのでこれから寝る。なので貴様にかまう暇はない」「なら私が膝枕をします」みたいな流れだったはずだ。

阿武隈「じゃあ膝に移ります」

北上「若干負担はあるけど、まあいいや」

阿武隈「ところでここって膝じゃなくて太ももですよね。太もも枕ですよね」

北上「よく考えたら膝枕って痛そうだね。硬いところじゃん、凶器じゃん」

阿武隈「テキトーな名前ですね」

北上「便宜上、というかこの場合は語感のよさかな」

阿武隈「…膝ってどこまでが膝なんでしょう」

北上「んー、膝に手を置いて、包める範囲くらいが膝なんじゃない?」

顔を起こし自分の膝を見る。

あ、阿武隈の頭が邪魔で見えないや。

ランニングにスパッツというこの季節の鎮守府においてそれほど珍しくないラフな格好。

その割に髪はしっかりセットしているようだ。

阿武隈「あの、なんですか?」

北上「いやさ、髪のセットとか大変そうだなーって」

鮮やかな色をしたそれを手で梳くように触る。

阿武隈「そうですけど、こうしないと暑いんですよ」

北上「テキトーにまとめてもいいんじゃないの?」

阿武隈「そこは、ほら、おしゃれと言いますか…」

その服装で何をいまさら、とは言わない。

阿武隈「北上さんこそ、いつもしっかり三つ編みじゃないですか」

北上「大井っちがやってくれるからね~。それにさ、ポニテって楽だけどこうして仰向けに寝れなかったりでめんどうなんだよ」

阿武隈「あーわかります」

北上「本音を言うと単発にしたいところだけどね」

阿武隈「そのぉ…前髪!私の前髪とか、どう思います?」

北上「前髪?さあ、普通じゃない?」

阿武隈「デスヨネー」

北上「?」

ポニテって横向きになら寝れるけど向きを変えようとする度に頭を持ち上げなきゃいけないし、
壁や大きい背もたれなんかに結び目が当たったりと地味に不便だ。

まあ動く人専用だね。

ちなみに三つ編みはやって見ると結構簡単だ。編み込みとかどーとかになるとまた別だが。

目を閉じる。

眠い訳じゃないが、なんとなく光を見てるより涼しいかもと思っただけだ。

張り付く服と時折流れる汗。扇風機の風で揺れる阿武隈の髪が太ももを撫でる。

暑い時は寝て過ごしたいのに暑いから寝れないというジレンマ。辛い。

北上「アブぅ」

阿武隈「なんですかその呼び方」

北上「隈までいう気力ない」

阿武隈「んー、名前はちゃんと呼んでください!」

北上「漢字で阿武隈って書けるから許して~」

阿武隈「ほんとですかぁ?」

北上「お、挑発的だねえ。薔薇も憂鬱も書けるよ~私」

多摩姉と木曾を間違えたことはあるが。

北上「いやそれはどうでも良くてさ」

阿武隈「よくないですよぉ…」

北上「なんで敬語なのさ」

阿武隈「エッ、それはその、なんか、ハズカシイノデ…」

よくわからん。何か船の記憶に関わる事だろうか。

ま、いっか。

たまにはこうしてのんびりするだけも悪くない。

こうして1日が平和に、

北上「終わらないや」

阿武隈「?」

部屋の戸が開いた。

大井「き~たか~みさあぁぁあぁぁぁ!!」
阿武隈「きゃぁぁぁぁぁ!!」

うるさい。予め耳を塞いでおいたが特に阿武隈のガラスとか割れそうは声が響く。

大井「なんでそんなうらや、羨ましい事を!!」

阿武隈「いやっ、そのっ、これはっ、き、北上さんは渡しません!!」

北上「えっ、そっち?」



あー騒がしい。それはいいんだけど部屋を暑くされるのは困る。

北上「はいはいちゅ~も~く。私から折衷案がありま~す」


球磨「何してる?」

大阿「「膝枕です」」

正しくは、大井っちが私に膝枕してる、で阿武隈が私に膝枕されてる、だ。

もっと正確に言うと大井っちが座ってそこに私が膝枕で仰向けに寝て、私の膝、もとい太ももに阿武隈が寝ている。

何の解決にもなってないはずだが2人は満足そうなのでいいだろう。

球磨「何も聞かない方がいい?」

北上「うん」

球磨「さいで」

この後帰ってきた多摩姉は何も聞かずに、言葉で表せないような表情をしつつも無視してくれた。

いい姉妹だねえ。

姉妹。姉妹艦。

それも、便宜上の、設定のようなものじゃないのかね。

私達の関係は、なんと言えばいいのだろう。


閑話休題


この日を境に、阿武隈が私1人じゃなくても遊びに来るようになった。

前髪を弄らない北上、弄られない阿武隈を書きたかった。

E3にかかりっきりで何も書けなかった日曜日
フラヲは許す、古姫も許す、フラヌは許さない

お札のため弱々しい編成になったけど何とかなるから面白い

30匹目:ネコゼミ





そんな蝉はいない。

でもさ、球磨ゼミがいるなら例えば多摩ゼミとか木曾ゼミなんかもいていいんじゃないか、なんて。

現実的な話猫っぽい鳴き声の蝉がいたら絶対ネコゼミだったよね。

ちなみにクマゼミは見た目が熊っぽいかららしい。

どこがよ…

北上「夏の始まりを知らせ、終わりを告げる使者が蝉なわけだけどさ」

木曾「そんな仰々しい存在だったか?あいつら」

北上「その役目を終えてるにも関わらずクソ暑い中暑苦しい鳴き声を昼夜問わず振りまくのはどうかと思うんだよ」

木曾「言わんとする事は分からんでもないけど、とんでもなく理不尽な理不尽な理屈だな」

北上「自覚はしてる」

木曾「なおタチが悪い」

北上「まるで恋愛みたいじゃないか。出会いと別れは刺激的なのに、その中間はどうにも中だるみしちゃう」

木曾「した事も無いのにそう賢しら顔で語られるとなんか嫌な感じだな」

北上「燃えるような恋がしたい」

木曾「暑いのは嫌なんだろ?それはともかく、蝉だって種を残すために必死なんだぜ。それこそ燃えるような恋だ。見守ってやれよ」

北上「そう言えばアイツらリア充目指してるんだよね。くそう全滅しちゃえ」

木曾「これは酷い嫉妬」

北上「だってさ、自分の恋愛のために他人にこれだけ迷惑かけてるんだよ?大問題でしょ」

木曾「物は言いようだな。そりゃあまあうるさいかもしれんが、短い命なんだぜ。少しばかり輝かせてやれよ」

北上「じゃあさ、子供のために必死に食料を運ぶ蚊に対して同じ事言える?」

木曾「…」

北上「…」

木曾「無理」

北上「うん」

北上「あーまた蝉の声が近づいてきたぁ…」

木曾「…なんかやけに近いというか、響いてる?」

北上「あれ?なんか窓と逆から聞こえてない?」

木曾「段々こっちに「多摩ぁ!」うわっ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
球磨「あれぇ!?いない?なら北上!木曾!見るクマ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
木曾「見るまでもねえ!なんだそりゃあ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
球磨「蝉クマ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
木曾「んなこた知ってるよ!なんで蝉を手に持って部屋に来たんだよ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシwwアアアアアア…↓」

球磨「クマゼミなるものがいると聞いたクマ!きっとこいつがそうクマぁ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
木曾「んなわきゃねえだろ!そいつは!はぁ…あー!ド忘れした!」
蝉「ツクツクウィーヨンwwウィーヨンww」
球磨「蝉クマぁ!」
木曾「それは知ってるわ!」
蝉「ウィーヨンwwウィーヨンwwww」
球磨「クマゼミぃ!」
木曾「上手くねえ!」
蝉「ウィーーーwwwアアアアアアアアア…↓」

木曾「だあぁもう!上姉!」
北上「?」
蝉「…」
木曾「1人だけ耳を塞ぐなよ…事態の収集に努めてくれ頼むから…」

北上「ツクツクボウシ」

木曾「あ、そういやそのまんまな名前だったな」

球磨「えー球磨にはチクチクボーンに聞こえるクマ」

木曾「いやそこはこだわるところじゃ…というかどこを見てクマゼミだと思ったんだよ」

球磨「色気」

木曾「色じゃないのか」

北上「ねえ」

木曾「ん?」

北上「くるよ」ミミセン

木曾「く「ツクツクホーシwwwツクツクホーシww」」

球磨「よし!こいつがツクツクボウシかどうか提督に聞きに行くクマぁ!」
蝉「ツクツクホーシwwツクツクホーシww」
木曾「はあ!?それ持って提督室に行く気か!」
球磨「さらばぁ!」
蝉「ウィーーーーwww」


木曾「あ、嵐だった…」

北上「ご愁傷さま」

木曾「上姉ぇ…」

北上「あはは、悪かったって。でもありゃほっとくしかないよ。それこそ嵐が過ぎるまで」

木曾「まあなぁ…」

バリィン!ウィゥィーー…

北上「ん?ガラスの割る音、と蝉が逃げる声」

木曾「うえー、か。提督室かな」

北上「爆撃とかじゃ無さそうだね」

木曾「球磨姉がうるさすぎて窓から投げられたとか」

北上「あー吹雪いるしありえるねぇ」

テイトクガー ウワナンヤ!? テイトクガーオチター

北上「…」

木曾「…」

北上「え提督の方?」

木曾「マジか」

医務室、なんてものはないので提督室に色々と道具が持ち込まれた。

このベットもそうらしい。

提督「俺さ、虫ダメなんだわ」

ベットに体を横たえる提督。

北上「いやだからって窓破って飛び出すかね」

吹雪「ちなみに今のツッコミは北上さんで53人目です」

ちゃっかり提督の椅子に座ってリンゴを剥く秘書艦。

北上「ずっと数えてたの?」

吹雪「秘書艦的にここを離れられませんからね。必然的にみなのお見舞いを見守る事になるんです」

提督「同じやりとりを今日で何回したか」

北上「で怪我は?」

提督「左足くじいただけ」

北上「それだけ?」

確かに。ベットに寝ている提督には包帯ぐるぐる巻の左足以外目立ったものはない。

吹雪「下に丁度龍驤さんがいまして、大怪我を防ぐくらいにはクッションになったみたいなんです」

提督「弾力性はなかったけどな。残念ながぐへっ」ブスッ

北上「お~」

割れた窓から飛んできた矢が見事に頭に突き刺さった。

吹雪「おーこれは初めてのパターン」

提督「…あいつ矢なんて使わなくね?」

吹雪「一芸に秀でるものは万芸に秀でるんですよ。陰陽師スタイルが一番得意なだけで弓が不得意なわけじゃないんですよ」

北上「へーすごいねそりゃ」

吹雪「空母の中じゃ最古参ですからね」

提督「まあそれはいいや。なんか食べていくか北上?みんなやたらとお見舞いの品を持ってきて困ってんだ」

北上「いやぁ私がそれ貰っちゃ悪いでしょ」

提督「なんか流れでこうしてベットにいるけど別に絶対安静じゃねえんだよ俺。歩きにくいだけなんだよ。見舞いを貰っても困る」

北上「あーね…」

矢もそうだがこの人頑丈過ぎる。普段から魚雷やら爆撃やらで鍛えられてると違うね。

吹雪「いいんですか~、他の子にはそんな誘いしなかったのに」

提督「いいんだよ。球磨がアレ持ってきた経緯も知りたいし」

吹雪「さいで。ではこちらをどうぞ」

北上「おー、カワイイ」

吹雪「自信作です」フンス

差し出されてお皿には綺麗なうさぎリンゴが並んでいた。

北上「これもお見舞いの品?」

吹雪「はい。小腹が空いたので頂いちゃおうと」

ナイフ1本で器用なものだ。

爪楊枝を掴んで口に入れる。

北上「うむ、おいしい」

吹雪「美味しいうちに食べちゃってください」

提督「え、俺には?」

吹雪「あ、そうでした。よし。ほれ」

果物ナイフの先端に無残にも突き刺さったウサギが提督の前に差し出される。

提督「…おい」

吹雪「三回回ってワンは残念ながら無理そうなので三回腹筋してキャイン!で許してあげます」

提督「さらに難題を!?」

北上「…あむ」

美味い。

ちなみに提督は三回腹筋まではやった。

リンゴは吹雪が頂いた。

セミがうるさかったので。もちっとだけ続くんじゃ

PTのキャハハを聞くと蕁麻疹が出る体になりそう、そんなE4はまだ終わらない

提督「なるほどね、そんな経緯で」

北上「いや~止める暇もなくってさ」

提督「別にいいよ。誰が悪いってわけでもないし。でも球磨にはよく言っといてくれ」

北上「今頃摩姉ちゃんが言ってるよ」

吹雪「虫嫌いの情けない男がイタズラに騒ぎを大きくしただけですしね」シャリシャリ

提督「ぐっ…まあそうなんだけど…」

北上「…虫ダメなんだ」

提督「ダメ、マジ無理」

北上「どのくらいダメなの?」

提督「…それなりに」

吹雪「あっ、提督!枕元にクモが!」
提督「オビョワウ!!」ビクン




吹雪「このくらいです」

提督「シニタイ」

北上「うん、仕方ないよ。今のは私もビックリするよ」ヨシヨシ

吹雪「オビょワウって言います?」

北上「…」ヨシヨシ

提督「優しさが辛い」

提督「俺もさ、カブトムシとかカマキリとかはかっこいいと思うさ。いや触れないけどね」

北上「そりゃゴキブリとかなら分かるけどさ、セミって割と虫としてはセーフって方じゃない?カブトムシに近いし」

提督「いやカブトムシはそれこそ甲に覆われてるからいいけど、セミってなんか虫虫さがもろじゃん割と」

北上「んー、まあ言わんとする事は分からなくもない、かな?」

吹雪「あ、司令官。トンボなんかはどうですか?」

提督「あー指に止まるくらいがギリだな」

北上「線引き細かいね」

提督「さてと、そろそろベットもやめるか。どうもこれ以上は見舞いも来なさそうだし」

吹雪「えーもちょっと寝ててくださいよ~」

提督「いやだって仕事溜まっちゃお前の負担も増えるだろ?」

吹雪「いやなんで私が提督の仕事手伝う前提なんですか」

提督「いやいや前提だろお前秘書艦だろ」

吹雪「いやいや私はこの鎮守府のこの艦隊のリーダーとしての仕事はしますけど司令官の仕事なんて知りませんよ」

提督「え?」

吹雪「え?」

北上「おー」

雲行きが怪しいぞ。

吹雪「そりゃあ司令官が仕事が終わらず残業なんてなったら皆に示しがつかないので手伝いますよ」

提督「うわグサッとくる。凄い切れ味」

吹雪「でも手をつけてない仕事がいくら増えようと知りません。むしろ楽なのでそこで寝ててください」

北上「でも溜まったら結局吹雪も手伝うハメになるんでしょ?」

吹雪「司令官療養中につきっていっていくつか海にでも捨てりゃいいんですよ!」

北上「うわー」

提督「前に貯めた時は艦隊運用は全部吹雪で俺は朝から晩まで机に磔にされたよ」

北上「うわぁ…でもそれは提督が悪い」

吹雪「さてと。司令官、私工房に松生杖貰ってきますね。もう出来てると思うんで」

提督「妙な機能付いてたら排除しといてくれよ」

吹雪「命に関わるようなら」

提督「ギリギリのラインを攻めんじゃねえよ!」

パタム、行っちゃった。

北上「相変わらずだねえあの子。凄く有能なのに」

提督「さっきも言ってたけど、あいつがやってんのは鎮守府の運営だ。俺の手伝いなんて事のついでだよ」

北上「提督いらない説」

提督「そんなっ!事は無い」

なぜ詰まった。

提督「実際あいつの方が艦隊運営は上手いんだよ。遠征に任務に警備、資材資金のやりくりまで」

北上「殆どじゃん」

提督「そこは、ほら、年機の違いだよ。経験経験。あいつもう50年は艦娘やってんだから」

北上「ごーじゅう?50…提督そんな歳とってたっけ?」

提督「なんでまず俺の年齢なんだよ。俺は2代目だ。この鎮守府のな」

北上「へー、2代目。じゃ吹雪はそっちの初期艦だったのかな」

提督「当たり。だからアレだ、前のご主人様を忘れられずなかなか懐いてくれないペットって感じdグエッ」

飛んできたのは松葉杖(ジェット付き)。

しかし一向に学習しないね…やはり無能なのでは?

吹雪「スミマセンコロビマシター」

提督「五月雨かお前は!つかジェット!ジェットって!危ねぇのはやめろつったろ!」

吹雪「さみちゃんを悪く言うなー!いやーバイブ付きのと二択だったので」

提督「バイブ付きでいいじゃん!」

吹雪「えぇ…」ドンビキ

提督「いや欲しいって意味じゃねえよ!」

やれやれ。このまま二人の兄弟喧嘩に付き合っててもしょうがない。

北上「んじゃ提督お大事に~」

提督「おうありがとな、だあっ!ジェットを突きつけるな!」


いいねぇ、気の置けない仲っ言うのかな。

ちょっとだけ、羨ましい。

北上「あり?」

提督室を出てしばらくすると、急に声が聞こえなくなった。

提督ってば意識でも飛ばされたかね。

面白い絵面を期待して猫足でそろりと扉前に戻ってみる。

おや?少し声が聞こえるな。

今やピクリとも動かない耳を扉に押し当てる。

「以上がこの前の資料を合わせた調査報告です」

「で、どう思う」

「無計画なようで周期的。無意味なようで戦略的。まあ充分考えられる話です。愚かなら今の海軍相手にここまで生き残ることは無理でしょう」

「同感だ」

「で、どうします?」

「俺はやる」

「私はやりません。と言っても、他の娘はやるんでしょうね。だから止めませんよ、前に言ったじゃないですか」


バッと扉から身を離し部屋に向かう。

なんかあれ以上聞くとやばそうな気がした。具体的に言うとお前は知りすぎたとかで殺されそうな気が。

しかしあの2人一体どういう関係なんだろうか。

考えるとなんかモヤモヤするのでセミの声で思考をかき消していく。

吹雪を出す気はなかったのになんか勝手に行動してる

やっと終わった、E4乙です(難易度的な意味で
道中支援凄い、当たる、当たるけど、来ない
たまらずE5から北上持ってきたけど、次のE5甲が激しく不安

前回は30じゃなく29だったよ…

31匹目:猫の歯に蚤


猫が歯で蚤を取ろうとしてもなかなか上手くいかない、という事から、不確実な事、めったに上手くいかないこと、まぐれ当たりの事を指す。

しかしいくら猫でも繰り返していけば上手くなるものだ。

いつまでも無様な醜態を晒しているわけにもいくまい。

北上「いやー緊張するねこりゃ」

大井「すぐに終わりますよ。初めは体の感覚に違和感を覚えますけれど、じきに慣れます」

北上「おぉ流石に経験者の余裕だね」

工房前。

お互い練度は十分。

改造の日だった。

提督室にて、

提督「色々と予定にズレはあったが、まご苦労さん。北上は改で晴れて雷巡、大井は改二でパワーアップだ」

北上「うんうん。いいねぇ痺れるねぇ」

大井「ハァァァァァ…ついにこの日が…」

提督「まだ納得してなかったのかよ」

大井「当たり前でしょ!って、まあいいです…北上さんの晴れ舞台を邪魔する気はありませんから」

ダシに使われた。

提督「いいじゃねえか強くなるんだし」

大井「私はあんな露出の多い服を着るキャラじゃありません」

提督「えーカワイイじゃん」

大井「提督の好みなんて知りません!」

素直に喜べばいいのにねぇ。

まあそんなこんなで工房へやって来たわけだ。

夕張「ハローハローお待ちしておりました~」

大井「なんですかのそカッコ…」

北上「闇医者の世話になる気は無いよ」

夕張「お、分かってるぅ!ブラックジャックと迷ったんだけどアッチはベタすぎるし用意が面倒なのよね~」

北上「普通に迎えりゃいいじゃん」

夕張「つまらないじゃん」

そう言いながら頭に嵌めた茶色の紙袋を取る。流石にあの高身長を再現はできなかったようだ。

夕張「あ、先に言っとくけど結構、いやかなーりあっさり終わるからそんなに構えなくてもいいわよ」

北上「え、ほんと?」

大井「はい。5分くらいで」

ウソだろ!

夕張「殆ど妖精さん任せですからねえ。ひみつ道具でいう小人ばこね。寝てたら終わるわよ」

北上「小人?」
大井「ばこ?」

内容から察するに「小人の靴屋」の小人か?

夕張「次はドラえもんね…」

夕張「そうそう、そこに座って。あと詳しくは言えないけど目は開けない方がいいと思う」

北上「なにそれこわい」

大井「体に不可はかからないので昼寝でもする感じにリラックスで大丈夫ですよ」

北上「そぉ?」

散髪とかの感覚だろうか。もっとも本や漫画で得た知識なので実際に理髪店に行ったことなどないのだが。

夕張「はいはーい、目ぇつぶってー。では妖精さんよろしくぅ」

何かが、始まった。

不思議な感覚だった。

自分で自分を見つめているような、自分で自分を触っているような、自分で自分を包み込んでいるような。

あらゆる「自分」を認識する刺激を脳が感じているにも関わらず、同じくらい自分が触れているという感覚がある。

触れているのが自分なのか、触れられているのが自分なのか。

それはさておき何だか妙に気持ちいい。

昼寝、とはいかないまでも脳以外の体の機能を切り離し、リラックスしてみる。

さてお立会い。衝撃の真実。

私には生前兄弟、兄妹?姉妹、まあ家族のような者がいたらしい。

者というか猫。

はてさてそれは一体誰なのか!

北上(まあ多摩姉ちゃんだよね)

ウミネコさんの言う事を全面的に正しいと仮定すれば。

思えばこれでもかと伏線は貼られていたように思う。

これで多摩姉ちゃんじゃないのならばそれはいささかミスリードが過ぎるというものだ。

推理小説をいくつか読んだ事がある人には分かると思う。

意外な犯人。奇をてらったトリック。思わぬ真相。そういうのを見たくて本を読む。

でも本当にそうだろうか。

例えば、吹雪の山荘に6人。

被害者1人、探偵1人、容疑者4人。

でもある程度推理小説に触れた事があるなら、当然読み手からしたら容疑者は六人全員だ。

実は殺害されたと思ってた彼女が犯人でした。なんと探偵こそが犯人だった。

それは意外で奇っ怪なオチだし読み手としても満足だが、思わぬ真相ではない。

なんだかんだで読み手は最初の段階で無意識にそれらも犯人たり得ると考えるものだ。

故に本当の意味で予想外な犯人なんてそうそういない。

ある程度決められたルールの範囲内でトリックを組みミスリードを誘う。

ここで実は山の幽霊の仕業でしたって言われても萎えるだけだ。

それで面白いのもあるけどね?

えーっと、だからつまり何が言いたいんだっけ。

夕張「わっ!」
北上「うわっ!?」

夕張「ありゃ、ホントに寝てた?改造終わりでーす」

北上「え、もう?」

あっという間だ。

大井「北上さん北上さん!どうどうどうですかこの衣装!」

北上「おーー、お?」

大井っちの改二衣装。白い、白くて、

北上「エロいね」
夕張「エロいですね」

大井「はぁぁぁぁぁ……」

隅っこでいじけだした。

北上「ゴメンゴメン冗談だって~」

北上「先制雷撃ねえ」

夕張「習うより慣れろ、ね」

北上「大体は分かるよ。よく大井っちの見てたし」

大井「いやん北上さんいつもそんなに私のこと見ていてくれたんですか~」

北上「うんうん見てた見てた」

夕張「慣れてるわね~。というわけでこちらが甲標的よ。使ってみる?」

北上「いいの?」

大井「提督から、というか吹雪から許可が降りてるわ。なので!一緒に練習しま「あ~大井さんはこの後近代化改修なので工房で待機です」あ゛?」

夕張「いやいや、あ゛、じゃないですよ…」

大井「チッ…まあ仕方ないわ」

夕張「それじゃ北上さんは向こうでアブちゃんと「はあ!?」何ですか!今度は何なんですか!?」

大井「今阿武隈って言いましたよね!なんで私じゃなくてあの娘なんですか!」

北上「そういや阿武隈も雷撃出来るんだっけ」

夕張「そりゃあできるできないで言えばお二人共同じですけど、練度が違うじゃないですか…」

大井「ぐっ…」

大井っちは練度50。

阿武隈はたしか80以上だとか。

大井「すぐに、すぐに、抜いてやるわ…」

怪しげなオーラを出しながら工房に戻っていく大井っち。

夕張「ちなみにこれが提督の狙いです」

北上「マジで?」

夕張「多分」

北上「多分かぁ」

提督「改造、改二おめでとぉおう!!」パァン

北上「お、おう」
大井「はぁ…」

夜。風呂に入ってご飯も食べた後。提督室に呼ばれた。

前に言ってたお祝いだろうとは分かってたけど、まさかこんなテンションでクラッカーまで鳴らされるとは思わなんだ。

大井「はいはい、今度はどんなお酒ですか」

北上「大井っち冷静だねぇ」

大井「前にも一度あったので」

前にも、つまり大井っちが改造で雷巡になった時か。

提督「今回のは取っておきだぞ。ほれ」

机の上にどんと置かれた一升瓶は、前に私が見たものとは異なっていた。

北上「それって?」

大井「魔王?」

提督「芋焼酎ってやつだ」

北上「変えたの?」

提督「サプライズになったろ?」

なったけど、それじゃ飲めるか確認した意味ないんじゃ…

大井「それで、どうして今回は芋焼酎を?」

提督「二人にぴったりだと思ってな」

大井「え?」

何故に芋。

提督「よしみんな、グラスは持ったか?」

大井「あらおいしい。いい意味で芋焼酎って感じがしないわね」

提督「はえーよ!飲むのはえーよ!」

北上「生か~、流石大井っち。私ゃお湯割りかねぇ」

大井「北上さんなら4:6位で丁度いいと思います」

北上「そお?」

提督「えーい勝手に飲め飲め、おら乾杯」

大井「乾杯」

北上「かんぱ~い」

北上「あっ、意外と美味しい」

提督「意外とってなんだ意外とって」

大井「聞かない名前ですけど、何処でこれを?」

提督「ここに来る前にいた鎮守府の近くにな、いや近くってほどじゃないけど。そこの地元の人から送ってもらったんだよ」

北上「へ~、意外な人脈が。というか提督ってほかの鎮守府に居たんだ」

提督「おうよ。2代目にして二つ目の鎮守府さ」

大井「私はこの鎮守府で生まれたので、提督の以前を知らないんですよね」

北上「ほほう。こりゃいい肴になりそうだね」

提督「そんなに気になるか?」

北上「そりゃその若さで鎮守府移転って珍しい事じゃん?」

大井「一体どんな問題起こしたんですか…?」

提督「何もしてねえよ。ここの前任者が引退した、それだけだよ」

大井「引退、ですか。珍しいですね」

提督「全くだ」

北上「…提督飲まないの?」

提督「俺これ苦手だわ」

北大「「えぇ…」」

子供か。

お酒って、なぜ飲むのだろう。

酔う酔わないで言えば私は強いほうだ。

でもあんな苦い、というかなんというか。妙な刺激だけのわけわからん飲み物をわざわざ飲もうとは思わない。

大井「ほ~ら、まだありますよぉ~」

提督「バッカおめぇ入れ過ぎだよそりゃよ。割れ割れお湯だお湯」

大井「こんなものお茶ですよお茶あ!」グビ

提督「バッカおめぇバッカお酒はそんな楽しみ方するもんじゃねえんだよ」クイッ

顔真っ赤で底なしの笑顔を浮かべる大井っちと、少し体制がふらつき呂律も回らない提督。

完全に出来上がってる。

北上「元気だね」ボソッ

お湯割りに少し口をつける。

北上「ついて行かなくてよかったの?」

大井「アレくらいの酔いなら1人で用くらいたせますよぉ。というか、なんで私がついて行かにゃならないんですかあの人に」

北上「それもそうだね~」

提督室で2人っきり。

しかしあの人ねぇ。いつもと違って随分柔らかい言い方をするじゃあないさ。

大井「ふぅ…」

北上「…」

またか。

改造してから何故か唐突に溜息をつき悲しげな表情をする時がちらほら。

まさかそこまで服の事を気にしてるのか?

北上「そういや大井っち、夕飯前にどこ行ってたの?」

大井「ああ、えと。明石さんのところへ」

北上「…服は変えられないと思うよ」

大井「へ?…ああ、そうですよね…北上さんこそ。雷撃訓練はどうでしたあ?」

北上「良かったって。目がいいからね私。あとは慣れって言われたよ」

提督「ただいま諸君!」ガチャ

北上「お~おかえうわっ提督!下下!」

提督「どうしたぁ北上!」

幸いにもフルチンじゃなかったが、パンツ一丁とは…

大井「提督」

提督「なんだぁ!」

大井「お酒に、強くなりましょう」

提督「よしこいぃ!」

大井っちの特訓によりぶっ潰れた提督をベットに放って私達は部屋に戻った。

大井「いいんですか?提督を介抱しなくて」

なぜ私に聞くのか。

あ、そうか。私をダシに自分も介抱するつもりか。

別に残ってもいいのにさ。

でも、まあ。

北上「いいよいいよ。戻ろ」

なんとなく、阻止してみる。邪魔してみる。なんとなく。

部屋までの道のりはなんだかいつもより遠く感じられる。

大井っちは全然平気そうだけど、私はちょっとふらつく。

大井「大丈夫ですか?」

そう言って肩を持つ大井っちはすごく嬉しそうだ。なんというか勝ち誇った感じの笑顔。

北上「ただま~」

流石にみんな寝てるか。

寝支度は終わってるし私達もさっさと寝よう。

多摩「おかえりにゃ」

大井「多摩姉さん。起きてたんですか」

いつも思うけどこういう時のひそひそ声って寝てても普通に聞こえる音量よね。

多摩「今起きたにゃ。多摩は耳がいいにゃ」

北上「そっか」

耳がいい、ね。

多摩「どうせ酒臭いんだろうにゃ。端で寝るにゃ」

北上「分かってるよ」

大井「ヨシッ」

端、ではなく私の隣という事実に食いつく大井っち。

大井「おやすみなさい」
北上「おやすみ~」
多摩「おやすみにゃ」



聞けばいい、聞けばいいんだ。

ひょっとして生前猫だったりしない?なんて。

でも、なんだろうね。

ちょっと怖い。

とはいえいつまでも放置しておくわけにもいくまい。

少し、歩き出さないと。

更新、攻略ともに再開

しかしイベントの方はこれもうダメかもわからんね。

E7は丙の予定だし行けそうだが、ルイちゃん掘れるかな…

天気、曇り。

この時期には珍しく気温は30度を下回っているらしい。

誰も通らない道路を1人で歩く。

左手には海。右手には草木が。

心地よい風が頬を撫でる。

過ごしやすいのは私だけじゃないのか、蝉たちの声もいつもより元気なように思える。

北上「あ」

と、思わず声が漏れた。

私の視線は、道路の脇に横たわっているそれに釘付けになる。

見てはいけないものを見てしまったような。何か見慣れたものを見たような。不思議な感覚を覚える。


蝉の声が一瞬、止まった気がした。

腕時計を見る。

予定の時間まであと10分。提督が貸してくれたものだ、ズレているということはあるまい。

早めの行動を心掛けて得た貴重な時間だ。

具体的に何をするかはまったく決まって無かったけれど、何もしないという事だけはしないだろう。

私は少しづつそれに近づいていった。

足取りは軽くも重くもなく、先程と変わらぬ速度で。

それに私の影が重なった。

不思議な事にそれと私の影は形が違った。

北上「よりにもよって、こんな日にね」

今日はお盆。なんて、そんな事気にするのはこちらの勝手で、この子にはなんの関係もないことなのだけれど。

改めてマジマジとそれを見つめる。

思っていたよりも綺麗だった。

この場合の思っていたはつまり轢かれてグチャグチャになってはいないかという話だ。

そうではないという事は撥ねられたのだろうか。

少しほっとする。

おかしな話だよね。

もうそこにはいない本人ではなく全く関係の無い私がそんな事を思うなんて。

北上「さてと」

肩にかけていた大井っちから借りたカバンを漁る。

念のためにと大井っちと提督から持たされたあれやこれやが七つ道具もかくやと言った感じに入っている。

実際役に立ちそうだ。

ビニール袋を二つ取り出して手にはめる。

別に艦娘は細菌とかなんやらには強いから問題ないけど普通の人間はそうはいかない。

これから人里に降りるのだしそこら辺は配慮しなきゃ。

北上「人里に降りるって、我ながらどうなんだろうね」

なんとはなく話しかけてしまう。

なんだろうか、この感じは。親近感?だとしたら何処に?

そっと、包み込むようにそれを持ち上げる。

暖かくは、なかった。

ビニール越しに伝わってくる感覚はおよそ生命の尊さを宿しているものとは言い難いものだった。

どがつかない程度の田舎だ。まして鎮守府のすぐ近く。舗装された道路以外は自然そのものだ。

道路脇の草むらにそっと死体を置く。

夏色の草木が私の手なんかよりも優しく、広く包み込む。

彼、彼女かな?確率でいえばまあ彼だろう。

その彼は最早人の目の届かない空間に置かれた。

時計を見ると残り時間は五分を切っていた。

貴重な10分は、決して長い時間ではないようだ。

もっとも時間がもういくらかあったとしても、私はこれ以上の事はしなかったろうし、出来なかっただろう。

北上「…」

両手にはめたビニール袋を慎重に裏返しながら考える。

こういう時はどう締めればいいのかな。

日本人ならやはり両手を合わせて南無阿弥陀仏?

それで言うと私はキリスト教かもしれないのだが、元。

まあ誰が見ているわけでもないし、そんな事をしても一銭の得にもなるまい。

せっかく会えた、なんて言い方もどうかと思うが、同胞にねぎらいの言葉でもかけてやろう。

北上「お疲れ様」

裏返して外したビニール袋を更にビニール袋で包んでカバンにしまう。

さてそろそろ時間だ。バス停に向かおう。

北上「それじゃね」

三毛猫の死体は、当然ながら、残念ながら、返事をしなかった。



33匹目:猫に小判



価値のわからない者にそれを与えても何の意味もない、という意味。

豚に真珠もそう。

ところでなんで人は動物に無理難題ふっかけてそれをことわざにするのか。

価値を知らないってそんなの当たり前じゃん。というか分かっても使えないじゃん。

勝手に並べ立てられて比べられる動物の方はいい迷惑だ。

だからこれは、そういった動物達の代表として、私から人類へのささやかな仕返しである。

しばらくはチョコチョコ更新していきます

E5甲終わり
旗艦リシュ子が30になっちゃったよ
なんというブラック

幸いにも海外艦は実装時にお向かいできているので今回はルイちゃん一点狙いです
明日から掘りながら輸送するだ…

雄雌うっかり間違えた…

雌に脳内変換お願いします

北上「お、きたきた」

毎日海に出ている私達よりもよほど日焼けしている古びたバスが坂を登ってくるのが見える。

予定表の時刻との差は10分。

これ程の正確さで毎日巡回しているとは、交通機関というのは実に素晴らしい。

初めてのバス乗車。大井っちの言いつけ通り確認をとる。

北上「〇〇行きであってますか?」

「ん?合ってる合ってる。ここじゃ他に行くバスは通ってないよ」

運転手のおじちゃんが優しく笑う。

入ってすぐの少しだけ位置の高い席に座る。

うむ、なかなか良い眺めだ。

「お嬢ちゃん、鎮守府の人かい?もしかして艦娘ってやつなのか」

運転中に、しかもバスの運転手が話しかけてきた。そういうものなのか?

いやこの際それはどうでもいい。

問題は鎮守府、つまり軍の関係者にあっさりと話しかけている事だ。

艦娘もいわば国家機密というか、軍の兵器。一般人がおいそれと触れていいものじゃない。

だから私もお忍びという事で変装してきているのだ。

だというのにいきなり艦娘とは。

北上「違いますよ。学生です。〇〇中学の」

「んー聞いたことねえな」

北上「隣の県から来たんですよ」

どうやら艦娘とバレてるわけじゃないようだ。乗ったバス停から適当に言ってみただけなのかな。

確かにあそこは鎮守府を除けば民家は数える程しかない。

北上「兄に会いに来たんです。鎮守府で働いてて」

「おー軍人さんかあ。すごいねぇ」

北上「ええ、まあ」

会話はそこで打ち止めとなった。流石に運転に集中してくれたのだろう。

これ以上聞かれたらどうしようかと思ったがどうにか誤魔化せたようだ。

ちょっとした緊張が切れ、背もたれに体重を預ける。

北上「ありゃ」

ポニーテールを結わえたところが後ろにあたる。

やはり不便だなこれは。慣れないことをするものじゃない。

変装目的なので解くわけにはいかないのだが。

窓を見る。

鎮守府は随分と遠くなっていた。

提督「外に行きたい?」

北上「そ。改造祝と、前の貸しとで。いいでしょ?」

提督「まあそりゃ止める理由は無いけどよ」

大井「でもどうして急に?」

北上「これだよこれ」

大井「えーと…サイン会?」

提督「あーこの本最近話題になってるやつだ。テレビで見たことあるぜ」

北上「私のお気に入りなんだけどね、その作者がここの近くの街でサイン会やるんだって」

大井「それで外に」

提督「なるほどね。理由は把握した」

大井「では提督、今度の日曜にでも私と北上さんで行ってきますね」

北上「え、私1人がいいんだけど」

大井「な゛っ!いやなんですか!私と2人はいやなんですか!?」

提督「落ち着け落ち着け…でも誰かとはともかく北上は外に行くの初めてだろ?1人は流石に危ないだろ」

北上「大井っちは行ったことあるの?」

大井「え、あぁはい。何回かは。服とかは実際に見て買いたいですからね」

提督「行ったことあるなしに関わらず基本は複数人でいくんだよ。何があるかわからないからな」

北上「そっかぁ…」

大井「何かひとりで行きたい理由があるんですか?」

北上「うん、ある」

北上「おっと」

バスが揺れる。

何か石か段差でも乗り越えたらしい。

車内を見るといつの間にか人がチラホラと乗っていた。

「次は〇〇。〇〇です」

メモ帳を確認する。

大分町に近づいてきたようだ。

渡りの景色も人工的なものに変わってきている。

カバンの中のカードを確認する。

私のこれまでの働きに対する報酬が入っているカードだ。

バスがトンネルに入った。

黒い窓に自分の顔が写る。

口元が少し歪んで、ニヤッという音が聞こえそうな顔をしている。

実物の硬貨でないのは少し残念だがまあいいだろう。

そう、これは私の復讐なのだ。仕返しなのだ。

私にはこの小判の価値がわかっている。

誰も知ることはないだろう。

今日を世界で初、猫が小判を使った記念日にしてやるんだ。

他の誰でもない。私が、私だけの力で成し遂げるんだ。

バスがトンネルを抜ける。

北上「おお」

そこには大きな、いや決して大きくはないのかもしれないが、しかし私が衝撃と感動を覚えるには十分な程に活気に溢れる人里があった。

前に近くに図書館があるとか言ってたけど気のせいだな

助言に従いさっさと輸送を終わらせようとしたら、出ました。三回目で、ルイちゃん
平日にチマチマ輸送して土日で綺麗に終われそう

北上「変、じゃないよね?」

終点。なんでも新幹線も通っているという一番大きな駅で降りる。

周りには鎮守府の何倍も大きな建物が立ち並んでいる。

駅の建物にある服やカバンが飾られているケースの前に行き、自分の姿を映す。

ポニーテールにセーラー服、学校指定といった感じのカバン。

「それでさー思わず買っちゃったんだあ」
「えーマジで?」

ガラスに、私の後ろを通る2人の女子学生が映る。恐らく中学生だろう。

北上「うん、違和感なし」

私も傍から見れば中学生に相違ないだろう。

話し相手がいないのは少々寂しいが、目的のためには仕方ない。

サイン会まではまだ時間がある。

今日はこのカバンに教科書の変わりに本を詰めて帰るんだ。

さて、本屋はどことどこにあるのだっけな。

北上「変装?」

提督「そそ。ほら、お前ら顔割れてるだろ?」

北上「まあクローンみたいなものだしねぇ」

基本的に一般人と接触する機会はないが、大都市なんかじゃパフォーマンスとして人々の前に出ることもあるらしい。

何せ北上というだけで皆顔が同じなのだ。どこかの北上がそうやって人々の前に出た時点で私の顔も割ることになる。

大井「だから変装するんですよ」

北上「いやでもそんなルパンみたいな事簡単にできるものなの?」

それとも何か変装用の装備とかあるのかな。

提督「そう難しい事はしねえよ。確かに顔は割れている。でも皆、艦娘ってのはあの服を着てあの装備をしてあの髪型をしてって固定されたイメージしかもってない」

大井「私達も基本的には人間と何ら変わらないんですから、少し工夫すれば変装としては十分なんですよ」

北上「工夫?」



北上「工夫ねえ」

読んでいた本を棚に戻す。

これは自論だが読むかどうかは粗筋や評判、作者などで決まるがその場でこれを買おう!となる本は大抵最初の3ページで決まる。

とまあそれはどうでもいいんだけど。

隣の棚に移動するとそこは漫画コーナーだった。

学校帰りの男子学生が3人立ち読みをしていた。

面白いものだ。普段は戦場で血に濡れている私達が、こうも簡単に日常に溶け込めるとは。

髪型も服装も大井っちから借りた。

球磨型で外に出る時は皆で同じ制服を着ていくらしい。

重巡や戦艦などとなるともっと大人な服装をするとか。

興味はなかったのでスルーしたけど。

というか話を聞く限りお洒落をして街に出る人はそこそこいるようだがホントに大丈夫なのかな、それ。

今こうして本を立ち読みしている時でさえいきなり「お前艦娘だな」とか黒服のやばそうな巨漢に話しかけられやしないかとビクビクなのだが。

変装の意味もその効果もよくわかっているけれど、そんな芸能人みたいな話と国の極秘情報を一緒にしないでもらいたい。

北上「よし」

買えた。

カバンに文庫本11冊+サイン付き単行本1冊。

本来教科書やらがギッシリ詰められ毎日通学時にウンザリさせられるであろうその重さは、今の私にとってイコール幸せと言っても過言ではない。

迷いに迷ったがその場で買うか否か決めるというのは中々機会が無さそうなので今回は文庫本で質より量作戦をとった。

猫の初めての買い物が文庫本11冊というのは如何なものかと思わなくもないけれど。

加えて言うとそれをカードで払いほぼ空っぽのカバンに詰めて帰る中学生を見る定員の顔が今日一番の思い出かもしれなかった。

しかしこのカードどうなってるんだろう?

個人情報とかあるんだろうし私のことバレるんじゃ…偽造カード?それはマズイか。

世の中案外ガバガバという事なのだろうか。

さて、では帰ろう。

攻略も更新もままならん

ルイちゃんは改が良い。この子もいつか書きたいな

北上「あ、そろそろかな」

帰らなきゃ、と思ったのは本屋を出てさあ帰ろうと言ってからかなり経ってからだ。

辺りに鳴り響くこの良い子は帰ろう的な放送がなければさらに遅くなっていたことだろう。

そういやこの曲なんて題名なんだろう。

多分知らない人はいないレベルで有名なんだと思うけど、カラス何故鳴くのってとこ以外正直知らない。

カラスの子とかでいいか。

読みかけの本に栞を挟んでしまい、席を立つ。

久々の過ごしやすい気候に思わず公園のベンチでの読書というなんだか洒落た行動をとってみたけど、これは大当たりだった。

陽の光と潮を感じないそよ風は私を日常から切り離してこうした非日常を感じさせるのに十二分な効果があった。

公園前のバス停に丁度バスが停車する。

急ぎ足で乗車口に向かうと前に若い男性の会社員と女子、高校生かな?がいた。

彼ら、彼女らは帰るべき場所に帰るのだろう。

日常から日常へ。

居るべき場所に。

ICカードを読み込むピッという音が2回。

私も同じようにステップに足をかける。

でも、私は違う。

非日常から日常へ帰る。

忌むべき場所に。

小銭の落下音が妙に耳に残った。

窓から外を見るとちょうど日が沈むところだった。

茜色。

茜って響きなんかいいよね、私は好き。

ふと最近読んだ本を思い出した。

確かに映画の小説版。

そこに書いてあった。

夕暮れ時。昼と夜が入れ替わる。暗いのでもなく明るいのでもない。

明るくなくなる、暗くなる。ぼやけて移ろいであやふやになる。

境界が揺らぐ。

すぐ近くにいる相手の顔が見えなくなる。

アナタは誰?

彼は誰?

誰ぞ彼

黄昏時。

日本語って適当なもんだ。

北上「君は誰?」

バスの窓に映る黒い影に問う。

この人の形をした影は、果たしてなんなのだろうか。

元々艦娘も人と船があやふやに有耶無耶にくっついている存在だ。

私なんかは輪をかけてあやふやだ。

そういやみんなはこの戦争についてどう思っているのだろう。

私は忌むべき場所と言ったが、あそここそ艦娘にとって居るべき場所のはずでは?

「〇〇〇~」

バスが停車し、人が降りる。もう残りは私だけのようだ。

な~におセンチになってるんだか。一人旅は思いの外堪えたらしい。

次はみんなで来よう。変にいじはらず寂しいと擦り寄ればいいのだ。

北上「ふ、あぁ~」

ねむ…

私は古い民家に囲まれた路地に一人立っていた。

北上「あれ?」

いやおかしくない?それ。

帰路についたんだし鎮守府に着いていて然るべきなのでは?

だというのに私は日が沈み真っ暗になった田舎の路地に一つだけポツンと立っている街灯の下に、同じくポツンと立っている。

不思議な事に周りの家々はこんな時間だというのに灯りの一つも灯っていない。

ふむ、なんだろう。夢か?

こういう時猫ならば暗闇だろうと自由に動けるのだが今はそうはいかない。

光源ゼロでウロウロしたらどうなるか。

猫と人間の体を自由に変えられたらなあとくだらない現実逃避を始めたあたりで、遠くからドォンと音がした。

最初は砲撃音かと思い身構えたがそれが同じところからリズムを取りつつ激しさを増して聞こえてきたあたりでようやく太鼓の音だと気づいた。

太鼓ねえ。

何にせよ太鼓の音がするということはそれを叩く者が少なくとも1名はいるはずだ。ならばそこに向かうとしよう。

ようやく闇に慣れてきた目を必死に使い、少々急ぎ足で音の方向へ向かう。

路地を抜け音の方を見て、理解した。

北上「おお」

それほど大きくもない山に光の列が見える。恐らく階段に提灯か何かが飾られているのだろう。

太鼓の音とともに次第に人の気配も大きくなっていく。

つまりこれは

北上「お祭りか」

ボンヤリと暖かい光に包まれた石段を登っていくと華やかに飾られた鳥居が見えてきた。

鳥居ってあんなにごちゃごちゃと着飾ってもいいものなのかな。クリスマスツリーじゃあるまいし。

しかし鳥居があるということはここは神社か。名前は山の入口の石に掘ってあったがとても読める状態じゃなかった。

鳥居を潜るとそこはもうこの世のものではないような光景が広がっていた。

それほど広くもないであろう境内に所狭しと屋台が並んでいる。

人も芋洗い状態だ。

その慣れない雰囲気に一瞬面食らったが、すぐに好奇心に背中を押され人の波に流されていった。

北上「はあ…」

やられた。いやまあ客観的に言って完全に私が悪いのだが、それでも私はしてやられたと言おう。

当然ながら、残念ながら、祭りでカードは使えない。

さて何を買おうと小銭を用意しようとした時に気がついた。

何たることか。折角の貴重な機会だというのに猫が小判を忘れるとは。

祭りの流れから出た私にはこうして神社の建物に腰掛けて項垂れることしか出来なかった。

そういや夕張が「神社の裏ってもうそれだけでなんか変な想像しちゃうよね」とか言ってたけど、あれどういう意味だったんだろ。

確かに少し不気味な感じはするけれど、丁度暇だし覗いてみようか。

重たい体を持ち上げ建物、本殿って言うんだっけな、を時計回りで裏に回ろうとした時だった。

「また会ったねお嬢さん」

北上「ん?」

声がした。

しかし後ろを振り向いても誰もいない。

「下だよ下」

下?足元には何も無い。いやまさか。

本殿の下、縁の下を見る。

三毛猫「お困りの様だし力を貸そう」

そこには不思議な縁があった。




33+1匹目:三毛猫ラビリンス

ルイ改のあの服が、いい

E6甲了。長いね。何運んでたんだろうね。パスタかね
E7は、丙なら、丙なら1日で終わるはず…

先程と同じく本殿に座る。

先程と違うのは隣に話し相手がいることだ。

三毛猫「僕も祭りに参加したいのだが、この体ではどうしようもなくてな」

北上「そりゃあ猫だもんね」

三毛猫「そこでだ。お前に僕を運んでほしいんだ。その代わりに僕がここを案内しよう」

北上「知ってるの?」

三毛猫「お前よりは」

北上「私は北上っていうんだ」

三毛猫「そうか。僕は、野良だからな。名前はない」

北上「じゃあホームズはどう?ミーコでもいいけど」

三毛猫「…ならばホームズだ」

北上「でもさ、私お金持ってないんだ。案内されてもさ」

ホームズ「知ってるさ。なあに、ここは任せろ、心配するな」

北上「はあ…」

この妙な自信はどこから来るのか。

とりあえず私は三毛猫ホームズを抱えて祭りの流れに戻った。

ホームズ「そうだな、アレだ。アレが飲みたい。行くぞ!」

北上「はいはい、って行くの私なんだけどな~」

アレとは。え、お酒?

北上「酒って…」

ホームズ「人間の食べ物は猫にはきついからな。これなら大丈夫だ」

北上「酒も人間の飲み物だよ」

もしくは神の。

北上「で、どうやってお金を用意するの?盗むとか言わないよね」

ホームズ「そんな事はしない。簡単な事さ、1杯下さいと言えばいい」

北上「ええ?」

くださいって…なんかもうめんどくなってきた。

北上「1杯くださいな~」

「はいよ~」

貰えた。コップに1杯並々と。

屋台のおばちゃんを見る。

柔らかい笑顔でこちらを見ている。

抱えたホームズを見る。

ホームズ「ふっ」

うわ凄いドヤ顔。

北上「結構貰ってきちゃったね」

ホームズ「残さず食べるなら問題ないさ。さて、一緒に食べよう」

最初の本殿に戻って戦利品を広げる。

饅頭に煎餅にようかんに型菓子エトセトラエトセトラ。

素晴らしく祭りらしくないラインナップだな。

ホームズ「ふむ、悪くないな。うん」

三毛猫の方はピチャピチャとお酒を飲んでいる。いける口らしい。何故だ。

北上「タダってなんか気が引けるな~」

ホームズ「構うな。どうせ彼らも貰い物なんだ」

貰い物?どういう事だ。まあいいか。

北上「それじゃ私も」

これは…東京バナナ?東京ってバナナを栽培していたのか。知らなかった。

しかしなんてネーミングセンスだ。いやそれを言ったら夕張メロンもそうか。

北上「はむ」

ん~…

バナナ、の味?

北上「なんだか変わったお祭りだね」

ホームズ「そうだな。変わったと言うならお前から見てこれほど奇妙な祭りはないだろう」

北上「あとなんかさ、年寄り臭いよね」

食べ物も飲み物もジジ臭いというかババ臭いというかさ。

唯一あったオモチャがこのキュウリに棒を刺した謎の物体だ。

ホームズ「若い者もいないわけではない。居るべきではないのだがな」

よく見れば1人2人くらいは確かに若者もいるようだ。

なんという高齢祭りだ。

ホームズ「…」

イベントは無事終わりました。ホントに昼でアッサリ終わるんだね…
とはいえ鶴姉妹や長門以上の戦艦もいないので乙甲は断念。嫁の記念写真があればいいのよ

ロイヤルのお姉さまも欧州棲姫もかっこよすぎ。いつか書きたい

太鼓が激しくなってきた。

北上「おお。いよいよ大詰めだね」

ホームズ「そうだね」

北上「あの太鼓の乗ってる台。お神輿なんだね。初めて見たよ」

ホームズ「そうだね」

北上「キレイだねえ」

ホームズ「…お前はまだ夢を見ているつもりなのか?」

北上「夢?なんで急に」

ホームズ「…僕の事を覚えていないのか?」

北上「えと、ホームズでしょ?」

ホームズ「ああそうだ」

北上「だよね」

ホームズ「そうだ。今朝会った、三毛猫だ」

ん、今朝?

急にきゅうりがモ~と鳴いたかと思うと祭りの流れに向けて歩き出した。

ホームズ「いよいよ大詰めだよ」

神輿が持ち上げられ、屋台の間を不規則に揺れていた人の波が一斉に同じ方向を向く。

1歩1歩ゆっくりと、鳥居へ向かってゆく。

北上「みんな、どこへ行くの?」

ホームズ「帰るのさ」

北上「家に?」

ホームズ「家にはもう帰った後だよ」

北上「…」

ホームズ「帰るっていうのは、あの世にさ」

急に辺が暗くなった。

ホームズ「お前は、艦娘というヤツみたいだな」

うん。

ホームズ「だがそれだけではないだろ?僕がお前を見つけられたのはそれが原因のはずだ」

猫、だったんだ。昔ね。

ホームズ「昔、か。なるほど。そういう事もあるのか。面白いな」

艦娘を知ってるの?

ホームズ「知ってはいないがお前と出会ってどんなものかは理解したよ。お前達は魂ではなく思い出を宿してるんだ。だから本来僕らには関わらないはずなんだ」

僕ら。

ホームズ「そう。だけどお前には魂があった。それも少々特殊なね」

そうかも。

ホームズ「お前は、僕達に近い存在なのかもな」

近い、ねぇ。

ホームズ君はどうしてここに?

ホームズ「不運にもこんな日に事故に遭ってしまったのさ。もっともホントに不運だとは思っていないが」

あの流れには混ざらないの?

ホームズ「言ったろ?アレは帰る人達だと。僕は帰るんじゃないし、人でもないから」

迷い猫か。

ホームズ「それはお前にこそふさわしい」

はは、そりゃそうか。

お盆も終わりか。

ホームズ「覆水盆に返らずと言うけれど、こうしてお盆には帰ってくるのだから面白い」

お、その言い回しいいね。

ホームズ「そうかい?」

でも結局、残された人から見れば帰ってきたかなんてわからないんだよね。

ホームズ「だからこそ覆水盆に返らず、さ」

零れた水は戻らない。

取り返しなんてつかない。

祭りの波はもう半分以上が鳥居をくぐり上へ登っていっていた。

石段ではない階段を、上へ。

私の目に映るそれに先程の華やかさはなく、まるでぼんやりとしか覚えていない昔の記憶のような虚ろとなっていた。

ホームズ「さてと。僕もやるべき事をやろう」

北上「何かあるの?」

ホームズ「猫の恩返しというやつさ」

恩返しか。

そういえば私は恩を返せていないんだよね。

私を抱いてくれた毛むくじゃらの腕を思い出す。

麦畑よりも輝いていたあの金髪を思い浮かべる。

そう、丁度あんな感じの。

北上「あれ?」

ホームズ「どうした」

北上「いや、あそこに今」

懐かしい匂いを感じた。

祭りの最後尾。

そこに確かにいた。

私は四本の足で駆け出していた。

「行くな!!」

あの金髪を目指して。

あの腕を目標にして。

あの記憶を頼りにして。

私も、そこに行きたい!

ボヤけていた視界がハッキリしてきた。

だが私の目に映ったのは、長い金髪の女性と毛むくじゃらの腕の大男の、2人だった。

第二次サラトガ白黒戦争勃発

え?

今にも鳥居を潜らんとするその2人に、後少しで追いつくところで私は一瞬怯んだ。

なんで2人?

「うらあぁぁぁ!!」

その一瞬に首根っこを銜えられた私は彼と2匹で鳥居を潜り、石段を転げ落ちていった。

1人、ではない。2人が離れていく。

分からない。

でも確かに私は2人を知っているように思えた。

北上「…ありがと」

石段の一番下で私は仰向けに倒れている。

ホームズ「お礼を言われるとは、正直思わなかったよ」

猫様の方はちゃっかり私の上に着地している。このやろう。

北上「ありがと…」

ホームズ「言っただろ。猫の恩返しって」

北上「ふふ。迷い猫オーバーランだね」

ホームズ「なんだいそれは?」

北上「君が知らないものだよ」

ホームズ「どうやらそのようだ」

ホームズ越しに鳥居の方を見上げる。

そこには先程の喧騒が嘘のように静まり返った暗い山があるだけだった。

北上「これからどうするの?」

ホームズ「お前はこの道を真っ直ぐ進むといい。そこまでは僕が送ろう。でもその先はお前次第だ」

北上「ホームズは、どうするのさ」

ホームズ「僕が何処へゆくかは、君自身で確かめてくれ。なあに焦る必要は無いさ。いずれその時は訪れる」

北上「そっか」

ホームズ「では行こう。あまり長居する場所ではない」

北上「うん」

ホームズ「立てるかい?」

北上「大丈夫だよっと」

私は、二本の足で立ち上がった。

北上「もう会えない?」

ホームズ「実際のところ、僕らは会ってすらいないからね」

北上「それもそうだ」

ホームズ「色々とイレギュラーだっただけさ」

北上「お墓でも作ろっか?」

ホームズ「よしてくれ。死んだ後まで場所を取りたくはない」

北上「世の中歴史的建造物になるような墓を立てる人もいるんだよ」

ホームズ「そいつらはきっと生きているという感覚が麻痺しているんだろう」

北上「君にとって生きているという事とは?」

ホームズ「そうだな。それで言うなら、僕今生きているのかもしれない」

北上「生きているんだ」

ホームズ「死に意味は無い。だから君がまだ生きている。また生きているのにはきっと意味があるよ」

北上「哲学的だなあ」

ホームズが足を止めた。

私は止まらなかった。

別れの言葉はない。

だからつまり、私達は実際のところ別れてはないのかもしれない。

谷風「また随分と奇妙な体験をしたものだねえ。そういう期待はあったとはいえ、これはあまりにも予想外だよ。ほいで今回の件に関する感想を一言欲しいんだけど」

北上「痛い」

谷風「どこが?」

北上「耳が」

帰るなり提督と大井っちに大声で色々と言われた。心配しただの何があっただの。

私は特に何も答えなかった。

2人の方も答えを期待していたわけではなく、単にそれまでの心配が爆発してそれを私で発散したというだけのようだ。

これに関しては私に原因があるので甘んじて受け止めた。

吹雪曰くもう少しで提督としての権限を限界以上に行使してあらゆる手段で私の捜索に出るところだったとか。

物凄い呆れ顔で語る秘書官殿からは苦労が滲み出ていた。

吹雪の事を問題児と提督は言っていたが、どうやらお互い様という事らしい。

ちなみに、ここまで聞くと私が数時間ほど帰るのが遅くなったかのように思えるかもしれないけど、実際のところ遅れたのはバス1本分。

はっきり言って過保護なバカ親が2人も騒いでいただけというのが正しい。

そう。気づいたら私は1本後のバスに乗っていた。

普通に降りて、普通に鎮守府に戻り、普通にお小言を大声で聞かされ、普通にご飯を食べて、こうして普通に夜の屋根上で真っ黒な空を見上げているだけだ。

谷風「私達はとても人に近いけど、裏を返せば決定的に人と違うという事になる。ホームズ君も言っていたんだろ?そりゃあその通りだろうね。

私達は所謂八百万の神。付喪神というやつだ。船に込められた想いや思い出を模倣し人の形にしたものだ。

それはどこまでも模倣でしかなくコピーにしかなれなく贋作としか生きられない。

でもそれって本物とどう違う?三つ子の魂百までとはよく言ったものだよね。

人の心とはそれまで出来事や出会い、周りの事象や人間から少しずつ寄せ集めて出来るものだ。子供なら家族。少年なら友達や先生。まあ大体そこらで人格は出来上がるかね。

一方私達はどうだい?思い出の寄せ集め。様々な思いの集合体。それは人とどう違う?

それにクローン的な存在とはいえ私達はその環境において様々な個性を会得するじゃあないか。

確かに世の中にはたくさんの谷風(わたし)がいるだろう。私と寸分違わぬ谷風が。でも住む鎮守府は違う。提督を主軸に鎮守府事に様々な個性がある。

私達にも個性がある」

谷風「人の模倣でコピーで贋作だが人とそう相違はなく、でもやはり決定的に違う。

それは繋がりだ、と私は考えるね。

魂とは繋がりだ。

親兄弟、親の親、親の親の親。血ではなく連なる思いの問題だ。

艦娘にそれはない。思い出は残るが続かない。思いはその時点で繋がらないんだ。

だからこそ君が出会ったそれは君の魂、猫の魂が間違いなく繋げた何がだろう。

私はそう考えるね」

北上「…これ以上私に長いセリフを聞かせないで。ホントに耳が死にそう」

谷風「かぁーなっさけない。耳耳ってどんだけ敏感なのさ。猫かってんだ」

北上「だから猫なんだってば。元ね」

谷風「そういやそうか」

北上「そうだよ」

谷風「今夜は、三日月のはずなんだけどね。生憎の曇り空だ。こうも暗いと慣れ親しんだ鎮守府もなんだか不気味に見えちまうねぇ」

北上「いつだってここは変わらないよ。人が変わるんだ」

谷風「およ?なんだか含みのある言い方だねえ」

北上「別に大した意味は無いよ」

谷風「そうかい。でもそのセリフに則って言うなら、君は変わったよ。今日を境に」

北上「かもね」

谷風「その2人組が気になるのかい」

北上「うん…」

谷風「安易に考えれば既に君の飼い主は覆水となっている、となるね」

北上「だとしても妙だよ。ここは日本だし。見た目も少し違った。あの女の人を私は知らないよ」

谷風「でも知っていた。そうだろう?」

北上「まあ、ね」

北上「でも一つわかった事があるんだ」

谷風「ほうほう。そいつは?」

北上「今までなんとなく探してたけど、これからは違う。前に言ってたじゃん。こうして生まれ変わったのには意味があるって。だから私は私の恩人たる飼い主を探す。探して恩返しする」

谷風「猫の恩返しかあ。ベタだけど、それってつまり素敵って事だよね」

北上「どうだろうね。でもこうして日本にいる意味は、やっぱりちゃんとあるんだと思う」

谷風「そうかい。まっ、頑張る事だね。ちなみにだけどさ、参考までにその2人ってどんな見た目だったんだい?」

北上「内緒。これは私の問題だもん」

谷風「そりゃ残念。でも相談にはいつでも乗るからね」

北上「ありがと」

谷風「どうも~」

北上「あ、それなら早速相談が」

谷風「早速過ぎるね。いいよ、なんだい?」

北上「お墓に添える花って何がいいかな」

谷風「お墓?いったい誰のだい」

北上「会ったこともない友達に」

谷風「…なら、花じゃないけどエノコログサなんていいんじゃないかな」

北上「あ~。ははっ、そりゃいいね」

艦娘ってこういう雰囲気の話合うよね。この手のSSもっと増えて

36匹目:猫なで声



北上「ね?お願い球磨ね~ちゃん」

球磨「…ダメクマ」

北上「ちっ」

多摩「諦め早いにゃ」

北上「球磨姉一度ダメって言ったら絶対変えないじゃん」

球磨「球磨をそんな意見をコロコロ変える様な軟弱者と一緒にするなクマ」

北上「柔軟な対応ができないとも言う」

球磨「うるせークマ。無理なものは無理クマ」

多摩「こればっかりは北上が悪いにゃ」

北上「えー多摩姉ちゃんまで…」

北上「お願い多摩えも~ん。あのジャイアントパンダにガツンと言ってやってよ~」

多摩「何うまい事言ってんだにゃ。そんな猫なで声出してもダメにゃ」

球磨「借りてくりゃいいのに何でそんなに買うんだクマ」

北上「手元に欲しいものってあるじゃん」

球磨「自分のキャパシティを超えて買う方が悪いクマ」

多摩「とりあえず


その本をどけるにゃ」

北上「いや他に置く場所ないから本棚置かせてって言ってるんだよ」

球磨「これ以上この部屋狭く出来るわけないクマ!」

北上「そこはほら~共有すべき知的財産として」

多摩「半分近く外国語にゃ…」

北上「だってそういうの貴重なんだもん」

球磨「読ませる気ないクマ…」

北上「お~ね~が~~い球磨姉さまぁ」

球磨「まったく。都合のいい時だけそうやって、そんなとこまで猫っぽくなくていいクマ」

ううむ、人間の体では猫なで声の効果は半減か。そりゃそうか。

しかし部屋が狭いのは事実だ。

何せ元々四人部屋のところに五人いるのだから。

鎮守府の部屋の大きさは全部屋同じ。違うのは部屋に寝泊まりしている人数。

駆逐艦は6。毎日が修学旅行状態。半端な数なので姉妹艦で綺麗に別れないため、寝る時は日毎に部屋のメンバーを変えているらしい。マジ修学旅行。

軽巡3~4。5なウチはちょっと特殊。逆に3は広い。

重巡は4。軽空母も。

正規空母、戦艦となると二人部屋だったり二部屋ぶち抜いて四人部屋だったり。

大まかにいえばこんな感じ。

多摩「とりあえずいくつか手放すしかないにゃ」

北上「そんな!」

球磨「取捨選択クマ。何かを得るには何かを失う必要があるクマ」

北上「むむ…」

しかしこの部屋をこれ以上圧縮出来ないのも事実。

はてさて

北上「どうしたものか」

日向「どうしたとはどうした?」

北上「いやちょっと深刻な悩みが」

提督と球磨型を除けば実はこの鎮守府でもっとも古い付き合いである日向さん。

要するに読書仲間である。

日向「なるほどな。コレクターにおける最大の悩みはその収納場所である、と言うやつだな」

お昼前に倉庫にいた日向さんに話を聞いてみた。

北上「誰の言葉ですかそれ」

日向「さあ。でもどこかの偉人が何か言ってそうな感じはしないか?」

北上「確かに」

日向「まあそれはともかくとしてだ。本の収納に関しては私も他人事ではいられないな」

北上「日向さんも?」

この人は2人で一つの部屋を使ってるからスペースはそれなりに確保出来てるはずだが。

日向「収集に際限などないからな。極端な話自分の図書館が欲しい」

北上「あー」

すごく納得。

神風「それで私に?」

北上「そそ、どーしてるのかなって」

神風「どうと言われても、普通に本棚ですよ」

日向「足りてるのか?」

神風「いやもう全然全く微塵に皆無にこれっぽっちも足りてません」

ここに鎮守府読書家三人衆の意見が揃ったのであった。

ランチタイムと洒落こもう。

神風「電子書籍とやらを試したりもしましたね」

北上「あースマホで見れるやつだ」

鎮守府では基本的に連絡目的でスマホを1人1台持っている。

軍事機密的なあれやこれやで制限は多いけど基本的には一般的なスマホと同じである。

日向「タブレット端末なら私も使っているが、資料などを読む際に拡大で小さい文字が見やすいのは確かに便利だった」

北上「電子書籍かぁ。確かに収納スペースの問題は一気に片付くね」

神風「いえでもやっぱり紙媒体がいいなぁって…」

日向「まあそうなるな」

北上「そっかあ…だよねぇ…」

神風「1枚1枚手でめくるのがいいんです…」

日向「ざっとめくってこの辺りにあのシーンが見たいな事が出来ないからな…」

北上「読みながら自分が今物語のどの辺にいるかわからないもんね…」

神風「挿絵のページが本を開かなくても黒い線で分かったり」

日向「栞を挟む楽しみがな」

北上「あれ?これってさっきの!とかでページ戻す時の感覚とかさ」

以下、紙媒体の良さ。は流石に割愛。

北上「提督に頼んでみよっかな~」

神風「頼むって、何をどうするんですか」

北上「んー…床下収納できるようにとか?」

神風「私達はみんな1階より上ですし…」

北上「工事にお金も時間もかかるからねえ」

日向「…ふむ、提督に頼むか」

北上「え、なにか妙案が?」

日向「2人とも。付いてきてくれ」

鎮守府の建物の中でも端っこの端っこ。恐らく訪れた事が無いどころか多くの者が存在すら知らないであろう空き部屋。

日向「ここを図書室とする」

神風「え?」

北上「そんな急に」

日向「まあ聞いてくれ。私も以前に1度、本の置き場に悩んだことがある。その時に提督に提案したんだ。図書室を作ろうと」

北上「本置き場じゃなく図書室?」

日向「私的な理由で部屋を一つ使うわけにもいくまい。あくまで皆が利用できるようにという建前だ」

神風「なるほど。でも以前提案した事があるってことは、無理だったってことじゃ」

日向「その通り。だが私は諦めなかった。副秘書艦という立場を利用しこの部屋を何にも使われないように守ってきたのさ」

この鎮守府、ろくな権力者がいない。

日向「さて。今回は私が勝算があると思う理由は三つある。一つは最近の鎮守府でのスマホ事情だ」

北上「最近?」

神風「ここ2.3年で一気に鎮守府での利用が広まったんですよ」

日向「連絡手段として便利なのは確かだからな。セキリュティと法律関連が整備され鎮守府でも利用されるようになった」

北上「へえ」

生まれたての私には当たり前のものだと思っていたが。これが世代の差というわけか。

日向「ところがだ。今では多くのものがスマホに夢中になり日がな一日画面とにらめっこという状況も珍しくない」

それは艦種によっては本当にただただ暇でやる事が無いからというのもあるので、一概に言えるものではない。一応。

スマホのアプリ。つまりゲーム。セキリュティのなんちゃらかんちゃらで監視はされてるけど利用は可能となっている。

妙な事をしたり情報を漏らさなければ普通の人と同じようにスマホを使えるのだ。

一応そこら辺は鎮守府事に提督が使用の是非を決めていい事になっているが、ほとんどOKを出しているとか。

何故か。暇つぶしのためというのもあるが一番はお金の使い所らしい。

外にはなかなか出れず、物を買っても置く場所は限られる。なのに命懸けの仕事でお金だけがふえていく。

そんな私達が経済にしっかり貢献できる手段が所謂ソシャゲ。有り体に言ってガチャである。

言ってて悲しくなるよねこれ。

日向「提督もダメとは言わないが決してよくも思っていないからな」

神風「それで図書室を作って読書を勧めようと?」

北上「理由としては、うん、問題はなさそうだね」

日向「提督は割と古い型の人間だからな。スマホは悪だと適当に言い含めておけば大丈夫さ」

何故こうも提督の周りには一癖も二癖もある者が多いのか。

日向「二つ目はラノベだ。最近夕張の熱心な布教活動で随分流行っている」

北上「スマホゲームのおかげでキャラは知ってるみたいだからね。原作を勧めやすいって聞いたよ」

日向「うむ。なのでラノベなんか読まずにちゃんとした本を広めようとか説いてやればいい」

神風「うわぁ…」
北上「えぇ…」

普段なら聞いた瞬間「あ゛?」とか言いたくなるセリフをこうもサラリと使うとは。

しかも分かって言ってるだけにタチが悪い。

神風「でも図書室にもラノベ置くつもりなんですよね?」

日向「部屋の使用許可さえ降りればこっちのものさ」

神風「デスヨネー」

書きたいものに時間も体もついていかない。

やたらと長くなってきましたが行き当たりばったりなのでちゃんと締まるかは、なんとも

北上「なりふり構わずって感じですね」

日向「ない袖だって振ってやるさ」

神風「それで最後は?」

日向「君だよ。北上」

北上「え?」

神風「北上さんが?」

私がなんだというのか。

北上「ってさ。私にお国よりも大事な本を捨てろって言うんだよ?」

所変わって提督室。

提督「おおよそ在りし日の船の魂が言うとは思えない発言だな。それにその件に関しては全面的にお前が悪い」

北上「え~提督からもなんか言ってよ~」

提督「言ってもいいが俺は球磨達に付くぞ。第1部屋の問題は部屋の者で解決しろ。そういうルールだろ」

北上「まあそうだけどさあ。じゃあじゃあ、床下に倉庫とか作ってよ!」

提督「お前の部屋2階じゃねえか!」

北上「ん~提督はなんかアイディアない?」

提督「そうだな。他の部屋に置いてもらうとかはどうだ?」

北上「他の部屋、夕張とかか」

提督「後日向も結構本を置いてるぞ」

北上「へ~そりゃ知らなかった」

大嘘である。

猫を被る、ではなく皮を被るである。

しかし驚く程スムーズな流れ。逆に怖い。

北上「でもさ、私英語の本とか多いからあんまり他の娘に預けるのはね」

提督「なんで?」

北上「読めない物渡されても困るじゃん」

提督「それもそうか」

北上「他にしまえるところないの~」

提督「…本ねぇ」

北上「おや?何か心当たりがある様子」

提督「いやあ違う違う。あっそうだ!部屋ってんならいくつか空きがあるぜ」

北上「ああ三階の奥のヤツとか?」

提督「そうそう。なんだかんだで使わずじまいでな」

北上「じゃあさ、あそこ図書室にするのはどう?」

提督「図書室?」

そう、図書室。全てはそのための布石。

あくまで自然な流れで、さも今しがた思いついたかのように図書室計画を進めるのだ。

私が。

理由の三つ目。私、というか大井っち。

提督は私に甘いのだ。

その甘さを素直に大井っちに向けてればいいのに、というのはこの際どうでもいい。

意中の人の大親友という立場を今日は存分に使おう。

日向さんから言われた通り。ここからは一つ目、二つ目の理由をさりげなく会話に盛り込み図書室計画を楽しげに語っていく。

もちろん要所要所で大井っちの名前を出すのは忘れないようにしなくては。

我ながら悪い事してるなあと思いつつもちょっと楽しんでたり?

北上「そそ。学校みたいに、って私学校なんて知らないんだけど。まあそんな感じでさ」

提督「いいんじゃね」

北上「ほら、最近みんなスマホとか…え?いいの?」

提督「あそこどうせ使ってないしな。ただしやるなら自分でやれよ。部屋は貸す。だがそれ以外は一切関与しない」

北上「…」

提督「なんだよその顔は…」

いやこの人私に甘すぎでしょ。日向さんに何されても知らないよ。

提督「お前駆逐艦や軽巡にやたら好かれてるしな。人は集めやすいだろ」

北上「別に好きで好かれてるわけじゃないしー」

提督「いーじゃねえか。どちらにせよ嫌じゃないんだろ?」

北上「まあね…」

駆逐艦は神風を中心に、軽巡は阿武隈繋がりだが最近は妙に寄ってこられる。何故だ。

提督「さて話は決まりだな」

日向「よしでは」ガチャ
吹雪「細かいところを詰めてきましょう」ガチャ

提督「は?」

今回の仕掛け人たちが入室してきた。

扉の前で待ってただけなんだけどね。

日向「部屋の採寸は終わっている。必要な棚、机、椅子等はこれから調達する。詳細はこの資料を見てくれ」

吹雪「本の管理システムですが夕張さんがスマホのアプリを使った物を開発してくれるそうなのでそれを使います」

日向「予算は私と北上、神風、夕張で出す。腐らせていた金だ、たっぷり使うさ」

吹雪「業者の人を入れるのは許可とか申請が面倒なんで人手がある日に鎮守府に届けてもらって私達で設置します。スケジュールの方はこっちの資料に候補をあげといたんで目を通しておいてください」

提督「え、いや、あの、ごめん、もっかい言って」

日向「それじゃ」
吹雪「それでは」

バタン。

台風一過のような静けさが訪れた。

提督「北上…」

うわぁ、すごく恨みがまし~い目で見られた。

北上「提督」

提督「なんだ」

北上「ありがとね」

提督「はぁ…」

北上「えーため息つかないでよぉ。いや悪い事したとは思ってるけどさあ」

提督「素直に言ってくれよだったら…というか怖いからあいつら巻き込むな」

そっちが本音か。

北上「感謝してる。ホントだよ?」

提督「知ってるよ。で、さ。図書室出来たらそこに入り浸りか?」

北上「あーどうだろ。入り浸りって事はないんじゃないかなぁ」

提督「そうか。そっか」

北上「?」

提督「ま、アイツらがいるから大丈夫だろうか、頑張れよ」

北上「うん」

北上「いいねぇ、痺れるねえ」

神風「出来てしまった」

日向「まあ、そうなるな」

計画開始から僅かに1週間。

私達の牙城が出来上がった。

四方を取り囲む本棚はまだ半分ほどしか埋まっていないがそれはこれから増えていくから問題ない。

部屋の中央には背の低いテーブルが二つ。座布団や椅子が周りに置かれている。基本は床に引いたマットに座る想定だ。

もちろん寝転んで読むことも出来る。

北上「受付とかってやる?」

日向「それは私がやろう」

神風「え?でもお仕事があるんじゃ」

日向「ここに持ち込めばいいさ。持ち込めないものはさっさと終わらせるか他に回せばいい」

優秀だもんね、この人。

北上「では」

日向「お楽しみと」

神風「いきましょう!」

ゴロンと寝転ぶ。場所は窓から入る陽の光で暖められている場所の隣。

隣というのがポイントでつまり直射日光ではなく陽の光を吸った干したての布団の温もりの上ということである。

よく寝ながら読書は読みにくいという話を聞くが私はこの方が落ち着く。何故だろう。猫だったから?

神風「んっと」

神風は人をダメにするというクッションチェアに深々と腰掛け、お臍の上辺りに本を広げている。いつもの姿勢だ。

この時いつも足を伸ばすのではなく膝を折り曲げるため行燈袴から太ももが、というかもうパンツまで見える時は見える。

ブーツを脱ぐとだらしなくなるのが彼女の特徴である。意外とふとましいというかむちむちとした太ももには是非とも膝枕をして欲しいのだが一向に首を縦に降ってくれない。

ちなみに一番は大井っち。阿武隈は細いのでダメ。

まあこのだらけ具合は完全にプライベート空間だし周りも女だけ、本人も気にしていないようなので特に何も言わないけど。

日向さんは入口に設置されたカウンターで椅子に座って読んでいる。

なんでもゲーミングチェアと言って角度や姿勢が色々調節できるらしい。

5万円もしたというがホントか嘘か。

基本的に駆逐艦は守備範囲外だけど神風だけはえっちぃと思いましたマル

壁にかけられた時計の針の音だけが響き渡る空間。なんとも素晴らしい。

本の収納に留まらずこんな癒し空間まで手に入るとは、いやほんとに素晴らしい。

大井「お邪魔しまーす」

多摩「うわ、マジにダラダラしてるだけにゃ」

北上「やほ~」

神風と日向さんは本にのめり込んでいるのか2人の来訪者に眉毛一つ動かさない。

いや受付は受付しなよ…

大井「ここが北上さんの牙城ですか」

あっ、発想が同じだ。

多摩「本関係なく過ごしやすそうな場所にゃ」

北上「2人は何しに?」

大井「夕張さんにこれを渡すようにと」

日向「お、端末か。これで正式に本の貸し借りができるな」

多摩「ビックリしたにゃ。急に会話に入るんじゃないにゃ」

日向「酷いことを言う。私が受け取らねばそちらも困るだろ」

多摩「なら最初から反応するにゃ」

日向「善処しよう」

多摩「した試しがないけどにゃ」

あれ?この2人なんか知り合いというか、気の置けない仲って感じが。

あんまりそういうイメージないけど、私みたいになにか趣味とかで繋がりがあるのかな。

日向「さてそろそろ行くか」

北上「いずこへ?」

日向「仕事さ。ついでに神風も起こしてくれ」

起こしてとは決して神風が寝ているという意味ではない。ようは目を覚まさせろという事だ。

というわけで、

北上「おりゃあ~」
神風「ひゃあっ!?」

袴を思いっきり捲ってやる。慌てて抑えてるけどさっきから丸見えなんだよねえ…

大井「桃色」
多摩「桃色にゃ」

神風「北上さん゛!」

くりんとした目を僅かに潤わせながら睨みつけてくる様はなんというかこう加虐心を擽られる。

北上「あーほらほら呼んでるから」

神風「呼んでる?」

日向「これから遠征だろ?そろそろ向かうべきだ」

神風「はっ!忘れてた!」

慌てて本を棚に戻す。神風はリアクションが大きくて面白い。

神風「では皆さん、ごゆっくり!」

日向「ごゆっくり?ごゆっくり…うん。ごゆっくり」

走り去る緋色とぬらりと消える白。

大井「と言われても、届けに来ただけなのよね」

多摩「せっかくだしゆっくりしてくにゃ」ゴロン

北上「いらっしゃ~い」

大井「も、もう。しょうがないですね」

とか言いつつ顔がにやけてる大井っち。

多摩「結構ふかふかにゃ」

大井「流石です北上さん!」

選んだのは神風とは言わない。

しかしこれは、チャンスだ。

読みかけの本を閉じ棚に戻す。変わりにある本を手に取る。

多摩「これ部屋にもひくにゃ」

大井「テーブルありますよ?」

多摩「畳めるようにしとくんだにゃ」

大井「それなら、いやめんどくさそうです」

多摩「えーそんな事ないにゃきっと」

大井「いえ、多摩姉さんが面倒くさがります絶対確実に間違いなく」

多摩「むぅ」

あくまで自然な形で本を開き、しばらく読み進め、ふと思いついたかのように口を開く。

北上「ねえねえ、ライ麦畑って見た事ある?」

大井「麦、 畑?」

多摩「どうしたんだにゃ急に」

大井「あぁCatcher in the Ryeですか」

北上「うん。実際麦畑ってどんな感じなのかーって」

多摩「見た事はないにゃ~。第1日本じゃ、無いこともないのかにゃ?でもほとんど無いはずにゃ」

大井「それこそアメリカみたいな広い国でないと」

多摩「知識というかイメージなら分からなくもないにゃ」

大井「そうですね。ともかく広くて大きくて」

多摩「ん、麦畑、にゃあ」

大井「日本語訳は確かライ麦畑でつかまえて、でしたよね」

北上「そうそう」

実はそっちはまだ読んでなかったり。

大井「でも実際麦畑で追いかけっこなんかしたら絶対捕まえられませんよね。お互いに全身スッポリ覆われてしまいますから」

北上「それもそうだねぇ」

ん?

多摩「…」

北上「多摩姉?」

多摩「見た事あるにゃ」

北上「え!?」

多摩「いや、ハッキリとは覚えてないにゃ。ただこう、まるで一枚の写真みたいな感じにぼんやりと絵が浮かぶにゃ」

大井「ど、どういう事ですか!?」

北上「何か他に思い出せないの!」

多摩「お、おうにゃ。ただ小麦色の背景に、人にゃ。えーと、なんだろにゃ、金色の…どこで見たんだったかにゃ」

北上「…まあうろ覚えじゃしょうがないか」

多摩「そんなに麦畑見たいのかにゃ?」

北上「いや、そんなんじゃないよ。まさかホントに見た事あるとは思わなかったから驚いただけ」

多摩「なんか悪いにゃ。変な期待させて」

北上「気にしないでよ。そう大した事じゃないからさ」

多摩「あ、そろそろ風呂の時間にゃ」

北上「じゃあ先行っててよ。私ちょっと夕張んとこ寄ってくから」

多摩「おっけーにゃ。大井ーいくにゃー」

大井「へ?あぁはい。行きましょうか」

図書室を出て別れる。

少し1人で考える必要がある。

一つ可能性を忘れていた。

多摩姉に記憶が全部あるとは限らないのだ。

それは生まれ変わる過程で失われたのか、それとも今はまだ思い出せていないだけなのか。そこら辺ら判然としないけど、ともかくあまり根掘り葉掘り聞いても仕方ない。

とは思うのだけど、焦る気持ちはやはりある。

自分の記憶だけだと現状私の飼い主を見つけるのはほぼ不可能だ。あまりに情報が少ない。

多摩姉の記憶にヒントになるものがあるという保証はないけど、それでも現状は唯一の突破口だ。

北上「一回頭冷やすか」

冷たい水でもかぶりたい気分だった。

多摩「そういや図書室って鍵かけたりしなくてもいいのかにゃ?」

隣でシャンプーのついた頭を洗い流す多摩姉が聞いてくる。

多摩姉も含めて多くの艦娘がそうなのだが頭を流す際、目をつぶって頭の上からドバっとシャワーをかける。

私はこれが苦手である。目に水が入るのがいや、というわけではなく目に水が入るような感覚がダメなのだ。

あと髪が長いからそれが顔にひっついたりそこを水が伝ったりというのも嫌だ。

例えゴーグルをしていても顔の上から水が垂れてくるのがどうにも気持ち悪い。ので頭を後ろに少し倒しオデコから後ろにお湯を流すように洗っている。

北上「鎮守府内ならどうせ取るやつもいないしいいんだって日向さんが」

多摩「まあそれもそうだにゃ」

蛇口を捻り、シャワーでお湯をかぶる。

北上「ねー大井っち~」

大井「なんですか~」

いつものように髪を乾かしてくれる大井っち。

いつものように腰に手を当てて風呂上がりの牛乳を飲む木曾。

いつものように謎のストレッチを開始する多摩姉ちゃん。

北上「球磨姉どこいったの?」

大井「あー、それがですねえ…」

気まずそうに目を伏せる。

何かあったのか?

北上「うわっ!」

球磨「 」

部屋に戻ると球磨姉ちゃんが死んでいた。

いや生きてはいるけど、なんいというか死んでいた。うつ伏せに。

北上「いつから?」

多摩「今日の午後からにゃ」

木曾「具体的に言うと図書室完成の連絡が回ってきた時からだな」

北上「図書室?」

なぜ図書室。

大井「北上さん北上さん」

北上「な、なにさ」

大井「アレです、アレ」

北上「アレ」

大井っちが部屋のある場所を指さす。

そこは私の買った本が積んであった場所だ。

なのだが。

北上「本棚?」

部屋の邪魔にならない細くて長い本棚が床から天井まで伸びていた。

棚は1/4ほどしか埋まっていないが、きっとこれなら私が図書室に運んだ分も合わせて全部収納出来ただろう。

北上「でも何でこんなのが」

球磨「クマガカッタクマ」

北上「え゛」

うつ伏せのまま妖怪球磨雑巾が喋る。

球磨「オトトイノアサトドイタクマ」

一昨日の朝、というと図書室の家具が届いた時と一緒か。その時一緒に届いたのだろう。

球磨「ケサクミオワッタクマ」

北上「う、うん…」

流石に読めてきた。非常にわかりたくない真実が。

球磨「図書室なんて聞いてないグマ゛アァァ!!」ガバッ

北上「えぇ~…」

つまるところ私達が図書室なんて用意してるとは知らずに私の為に本棚を、しかも完成まで見つからないように1人で作っていたという事だ。

確かにサプライズ的な意味も込めて私達も図書室の件はあまり触れ回らなかったけどさあ。

球磨「 」チーン

多摩「うむ、球磨はよくやったにゃ」ヨシヨシ

木曾「なんだろうな。この誰も悪くない感じは」

大井「不運としか」

北上「嫌な事件だったね…」

球磨「」

球磨姉は後ろから見ると良くわかるが、本当に髪が長い。それでいてフワフワとしていて触り心地がよい。それこそ毛皮のように。

なので

北上「とうっ!」
球磨「ぐえ゛っ!」

その毛皮に思いっきり飛び込んでみた。

球磨「何すんだクマ!死ぬところだったクマ!」

北上「う~ん、やっぱ球磨姉の毛皮気持ち~」

球磨「球磨は熊じゃないクマ!毛皮にしないで欲しいクマ!」

北上「まあまあ良いではないか~」

球磨「良くねえクマぁ!」

チラとほかの3人にアイコンタクトを取る。

木曾と大井っちは一瞬2人で顔を見合わせたが直ぐに察したのかニヤっと笑うと、

木曾「おらっ!」
大井「よっと!」
球磨「ギャーー!!」

さらに覆いかぶさってきた。

球磨「や、ヤメロクマー!ちょそこは違うクマ!くすあはははは、くすぐったいクマァ!」

実際のところ球磨姉の上に3人なんて乗れるはずもなく、私が頭らへん、大井っちが背中、木曾は下半身となった。

でも、なんだか包み込まれているような気分だった。

北上「ありがとね」

球磨「へ?って木曾!何靴下取ってあはははは足!足裏はダメクマァ!」

大井「…」パチッ

北上「え、何外したの」

大井「ホックです」

球磨「何とんでもねえ技披露してんだクマ!」

北上「よし、球磨姉のを揉んで大きくしてあげよう」

大井「承知。木曾、足をお願い」

木曾「え、マジで?」

球磨「クマアァ!!多摩あ!助けろぉ!」

多摩「いい揉み方を知ってるにゃ」

球磨「多摩ああああ!!??」

突如、バタン!と扉が叩き開かれる音が部屋の時を止める。

各々揉むのや抑える、脱がす暴れるなどを辞め一斉に扉に向く。

彼女は扉からぬらりと部屋に入ってきてこう言った。

神通「皆さん…もう少し静かに。下の子達から苦情が来てます」

「「「「「アッハイ」」」」にゃ」










棚の余った段には現在、球磨型の写真が飾られていて、日に日にその数を増やしている。

秋刀魚漁には間に合った…間に合った?
なんでも何かと幼女から奪うイベントが改修のために園児を集めるイベントになったとか

話が年内に終わる気がしない

37匹目:本の猫



本の虫とは、本が好きな人のことを指す。

しかしこれよく考えなくても害虫呼ばわりである。

物好きなって意味合いもあるんだろうけどもう少し言い呼び方はなかったもんかね。

まあいいけど。

趣味に熱中しすぎる人間は往々にして奇怪な目で見られがちである。

実際異質な行動をとりがちだし。

例えば鎮守府にも、

明石「記憶が蘇る方法?」

北上「そうそう。何かきっかけとかタイミングってあるのかなーって」

明石「もしかして記憶結構思い出したり?」

北上「あーうんまあ」

明石「ほほ~う、それはそれは中々興味深いわねえ」

明石の目が怪しく光る。

大丈夫と分かっていてもこの手の人種の知的好奇心溢れる目はなんというか身構えてしまう気迫がある。

明石「あはは、何もしないってば。本人の許可なく」

北上「だよねー」

許可したら何するつもりだおい。

場所は工房。明石とはお仕事中にも関わらずこうして相談に乗ってくれるくらいの仲だ。

消して私という存在への好奇心じゃなく。多分。

明石「そーね。きっかけと言えば、変わる時、ね」

くるりとイスごと回転して作業に戻る。

私と話しながら行える程度の作業という事らしい。

何となく私もイスで回ってみる。

北上「変わる?」

明石「そうそう」

ちなみに彼女の服装はツナギにタンクトップ。

危ないだろと思ったが防護服とかで防げるようなものなら艦娘には何の影響もないという話である。

彼女曰く「この長ったらしい髪の方がよほど危険」だとか。自分で言っちゃあおしまいでしょ。

明石「一つは生まれ変わる時。これはまあ私達が生まれる時ね」

北上「船から艦娘へってことか」

明石「前にも言ったけど、艦娘って色々なものが混ざって交わって合わさって出来てるのよ。だから生まれる過程で異物、って言い方はアレだけどそういったものが入る事はまれによくあるのよ」

どっちだよ。

明石「もう一つは改造で変わる時」

北上「改造も?」

明石「ええ。私達の力の源は基本的に船の記憶。船としての機能の模倣。ありし日の戦いの投影なの。ほら!艤装もこうフワッて出せるでしょ!トレースオンって感じ!」

北上「お、おう」

急に振り向いたかと思うと凄く楽しそうに喋る。

わざわざ書く事でもないけど彼女は既に夕張によって染められている。何とは言わないが、色々と。

明石「改造による強化や艦種の変更はその船の記憶をより定着させたり、違う記憶を入れたりするものなんだけど。それもきっかけになったりはするわね」

何事も無かったかのように作業に戻る明石。切り替えが早い。

北上「そっか~、改造かぁ…」

多摩姉は球磨型でも最高練度だ。当然改造済。う~んまいった。頭でもどつきゃいいのかな。

明石「何か不備があるならとりあえず叩いてみる?」

そう言ってスパナ(?)を右手でヒラヒラとさせる。技術者がまず第1にそれを言ってどうする。

北上「遠慮しとくよ。でもありがと」

明石「お役に立てたかしら?」

北上「いやもう全然まったく」

明石「ひどい!」

北上「んじゃね」

軽口を叩きつつ席を立つ。

明石「あー待って待って」

北上「どったの?」

明石「さっき夕張が呼んでたの忘れてた」

北上「夕張が?なんだろ」

明石「アレでしょアレ」

明石が、多分スパナじゃなさそうな何かの工具を拳銃のように持ちパァンと効果音をつける。

北上「あーアレね」

明石「アレよ」

思わずニヤついてしまった。

パァン、と言うのが一般的に銃が弾丸を放つ時の効果音として用いられる。

がこれは猫がにゃあと鳴くと言われるのと同じで実際にそう聞こえなくてもそう言う意味、状況を表す一つの記号として存在するものだ。

つまり何が言いたいかというと私は発砲音はタァン派という事だ。

とか何とか考えながら4発を的に撃ち込む。悪くない命中率だ。

右人差し指でセミオートからフルオートに切り替える。

子気味いい音とともに数十発の弾丸が発射される。

うん、これはたまらん。

北上「パーフェクトだ夕張」b

夕張「感謝の極み」b

P-90もどきを棚に戻す。名前はまだ決めてないらしい。

北上「やっぱこのくらいの大きさのが好きだなあ私は」

夕張「えーアサルトライフルとか機関銃とかもいいじゃ~ん。ヒャッハーって弾丸ばら撒くの!」

北上「トリガーハッピーめ」

夕張「化物狩るのが日常の艦娘が何を今更」

北上「そりゃそうだ」

以前に言ったが工房でちょくちょく消える改修資材ことネジ。え、逆?

まあともかくそのネジの行方がこれである。

ズラリと並んだ銃火器。

アメリカンな映画のような風景だ。

自身が軍所属の兵士であり軍所有の兵器であり化物を倒す生きた軍艦でありながら、意外にもこうした銃火器に触れた事がないのが艦娘である。

理由は反乱とかを恐れてだとか。

いやいや見た目が小学生低学年の駆逐艦ですら戦車とやり合えるというのに何を今更という話だが、実はちゃんと効果がある。

それは私達の燃費の悪さだ。

この大きさで軍艦同様の力を発揮するというのは末恐ろしい話だが、残念ながら自身で持てる燃料弾薬は人の大きさ基準なのだ。

便宜上「燃料」「弾薬」と呼ばれるそれは実に特殊なもので艦娘が身体に保有する以外での持ち運びが非常に難しい。

大規模な海域戦でこちらがジリ貧になったりするのはそれが原因だ。

補給艦なる者もいるが相応のリスクを伴う。

鎮守府に立て篭もるならともかく、私達は長期的な外部戦闘が難しいのだ。

簡単に言えば私達が人類を滅ぼしてやるーと意気込んでも守りに徹していれば勝手に息切れするのである。

弾丸がきれれば砲塔は飾りだし燃料がきれれば艤装は動かない。

残るのは身体能力のやたらと高いだけの少女である。

銃火器以外にも反乱等の対策は色々されているらしいがそこまでは夕張は教えてくれなかった。

なんて知ってるのとは聞かない。怖いし。

夕張「それじゃ今度はこいつね」

北上「うわごっつ。何それ」

夕張「名付けて、バレットY35!」

Yは夕張のYかな。35はなんの数字だろう。

北上「私の身長とあんま変わんないし…」

夕張「スナイパーだしね~対物だしね~」

北上「もどきならそこは私用にコンパクトにしてもいいじゃん」

夕張「そこにロマンはない」キリッ

北上「アッハイ」

銃を手に持つ。重い長いデカい。

こんな所までHELLSINGリスペクトしなくていい。

まあ実際は艤装の方が対化物用であり、こんなものは今の時代無用の長物なのだが。

北上「撃っていい?」

夕張「ちゃーんと海の方に的を浮かべといたから。音は作業音って言っときゃ大丈夫大丈夫」

北上「ならいいけど」

いいのかな。フラグにも聞こえるが。

艤装と銃をリンクさせ弾薬を装填する。

これがもどきの理由。

艦娘専用の銃。

作者、明張コンビ。

弾も艤装からなので深海棲艦にも効く、と言うと偉大な発明のようだがだったら戦艦が砲撃した方が手っ取り早いのでやはり趣味の範囲。

ちなみに先に述べたようにれっきとした銃なのでバレたら、どうなるのかね。

夕張「一応踏ん張っといてね。一般の女子中学生が撃ったら肩イくから」

北上「そこは流石に艦娘だし」

何せ普段は軍艦の砲撃を体で受け止めているのだから。

艦娘の活動域、燃料等の扱いは人によって大きく解釈の分かれるポイントではないでしょうか

遠征などで燃料弾薬を持ち帰ったりもする辺り、持ち運びは簡単だけど補給方法が特殊なため基本的に鎮守府外で補給出来ないという設定もいいですね

以上が工房で消えるネジと資源の理由である。

無駄遣いどころの騒ぎじゃない。

元々は夕張と明石でコソコソやってらしい。

私が夕張に借りた本に影響され銃に興味を持ったのを切っ掛けに色々とはっちゃけだした。

そこへいくともしバレた時私も責任がなくはないのだが。

止めた方がいいかな。

とかなんとか考えながら自室へ戻る途中、提督に出くわした。

提督「おーいたいた。探したぜ」

北上「んー?どったの提督」

提督「いや、そのな。工房の、というか夕張と明石の話でな」

北上「うんうん」

あれ、何か嫌な流れが。

提督「ここ最近資材の減りが妙に増えてんだよ。お前アイツらと仲いいだろ?なんか知らないか」

OH…

夕張「燃やそうか」

明石「事故装って爆破しよう」

北上「落ち着いて落ち着いて」

提督からの頼みをとりあえずは引き受け工房へとんぼ返りしてきた。

私にも責任の一端はあるからと対策を一緒に練ろうと思っていたのだが、二人がまず出したのは後処理だった。

北上「きっぱり切り捨てるんだねそこは」

明石「そりゃあ、まあねえ」

夕張「内容が内容だし」

自覚があるからなおタチが悪い。

明石「これが未来ガジェットとかなら誤魔化すとこなんだけどねぇ」

夕張「流石にこれはバレたら死ぬ」

北上「今更でしょそれは…」

とは言え冷静な判断ではある。爆破焼却はともかく無かった事にはすべきだろう、とりあえずは。

明石「いやでも拳銃とかなら隠せるか」

夕張「あズルい!私だって1丁くらいなら」

北上「はいはいストーップ」

まあそうなるな。

ちなみに明石はリボルバー拳銃大好きっ子。

ファニングショットも出来る。

手先器用だからとの事。いやそういう話じゃないでしょ。

北上「とにかく、早いとこ決めないとホントにバレるよこれ」

夕張「と言っても、ねえ」

明石「感情を殺したとしても後処理、フェイクの理由、色々と用意しなきゃだし…」

吹雪「あまり時間はないですよね~」

んーと黙り込む4人。

4人?

北上「吹雪?」

夕張「アイエエエ!」

明石「ブッキー!?ブッキーナンデ!?」

吹雪「その呼び方やめて下さい…」

吹雪「皆でしかめっ面して、もしかしてチャカの事バレました?」

北上「チャカって…」

夕張「まあそんな感じかなあ…相変わらず鋭いね」

吹雪「司令官が資料と睨めっこしてましたから。内容から予想しただけです」

明石「さすふぶ」

吹雪「なんですかそれ」

北上「アレ、ブッキーってこの事知ってたの?」

吹雪「その呼び方やめて下さい」

夕張「ブッキーにバレると怖いので早めに打ち明けて交渉しました」

明石「やり過ぎない限りは不干渉という事に」

吹雪「…まあそんなところです」

北上「ほう」

これはやり過ぎに入らないというのか。

吹雪「私がしたいのはこの鎮守府の維持ですから。多少の無駄遣いや違法な武器製造に興味はありません。でも司令官の方は戦力の増強や施設の拡張など色々とやりたいらしくて。だからこそこの件も無視出来なくなったんでしょうね」

真面目な話をする時の彼女はおおよそその稚い容姿からはは想像もつかないような独特の雰囲気を発する。

駆逐艦といえど、何十年とここで秘書艦をやってきているのだ。年季が違う。

吹雪「とはいえこれがバレるのは私としても避けたいですね」

夕張「沈めよう」

明石「魚雷に詰めて深海に届けよう」

北上「堂々巡りだこれ」

夕張「えー秘書艦さまなんとかしてよ~得意の書類偽装とかなんとかでさ~」

吹雪「そんな特技ないですよやった事も無いですよ。欲しいとは思いますけど」

明石「提督が北上に頼んだ以上あまり時間もないのよねぇ」

夕張「もうだめぽ」

吹雪「仕方ないですね。ここは助っ人を呼びましょう」

夕張「助っ人?」

明石「ダンス?」

北上「あ」

察しがついた。

吹雪「……あ、むらむら、くもくも? うわっ!」

もしもし感覚で妙な事を言ったかと思うとさっと携帯を耳から遠ざける。

電話の相手、なんて言うまでもなく叢雲なんだろうけど、彼女が大声で何を言ったのかは想像に難くない。

吹雪「ゴメンゴメンそんなにムラム、イライラしないでよっ」

言い終わると同時に今度は予め携帯を離しておく。

なんで息をするように妹を煽るのだろうか…

吹雪「いやいやちょっと真面目な話でね。そう!さっすが分かってるじゃん。うんお願い。工房のとこ。うん、うん。じゃね」

携帯を切る。

吹雪「オッケー」b

夕張「ナイスゥ」b

明石「おk」b

誰かいたわって上げて…

叢雲「で、私に頼ってきたわけ?」

夕張「このと~り」
明石「何卒何卒」

ジャパニーズ土下座。この2人に物作り以外のプライドはない。

吹雪「やっぱこの手の事は叢雲が1番頼りになるから。貸一つって事で、ね?」

叢雲「はぁ…まあいいわ。やったげる」

不承不承、という感じを醸し出しているが口元が僅かに緩んでいる事を誤魔化しきれていない。

あー吹雪が凄く、こう、生暖かい目というか、可愛いなコイツみたいな目で見てる。もう少し普通に可愛がって上げればいいのに。

叢雲「それで、その「趣味で作ったオモチャ」は隠し通せる前提でいいのよね」

夕張「イェスマム!」
明石「ノープロブレム!」

嫌味な言い方をするあたりこの件に賛成はしていないようだ。

叢雲「となると必要なのはカバーストーリーね。「 無 駄 遣 い 」が増えたのはいつから?」

夕張「に、2ヶ月ほど前ですサー!」
明石「北上が来た辺りですサー!」

サー、は男性に対するものである。と言う場面ではないか。

叢雲「二ヶ月前ねぇ。えっと…」

スマホを弄り始める。カレンダーとか予定表などを参照しているのだろう。

叢雲「あっ」

夕張「い」

明石「う」

吹雪「え」

叢雲「お゛!」ダンッ
夕明吹「」ビクッ

怒りのこもった足で工房の床を踏み鳴らす。

北上「ビビるならやらなきゃいいのに…」

吹雪「何か思いついた?」

叢雲「これよこれ、これでいいじゃない」

夕張「これって?」

明石「端末何も写ってないけど」

叢雲「中身もそうだけれど、これ自体よ」

吹雪「あーなるほど」

夕張「ワケワカメ」

明石「二ヶ月前?スマホ…?」

叢雲「だからー

提督「端末の開発に?」

北上「うん。図書室のもそうらしいんだけど、勝手に色々と開発してたんだって」

提督室で作業中だった提督に今回の件の報告(偽)をする。

提督「でも資源はともかくネジは使うか?」

北上「いくらあの二人でも携帯は専門外でしょ?分からないところはネジと妖精パワーで無理やり作ってたんだって」

提督「妖精さんも共犯か…まったく、科学の結晶かと思ってたのにオカルトが混じってたとは」

やれやれとスマホを眺める提督。大丈夫、ちゃんと化学の力100%だから。

北上「本の貸出のアプリとかも前から作ってたらしくてさ。私が図書室欲しいって言ってたのに聞いてたみたい」

提督「それでここ最近消費が増えたのか」

北上「その通り」

ではない。こうして嘘を並べるのは2度目だけど、上官に対してそれってどうよ。

北上「今回の事話したら暫くは自重するってさ」

これは本当。

提督「暫くかよおい。まあいいかぁ、結果役に立ってるんだし」

北上「あははーソダネー」

提督「何はともあれこれでようやく計画通りに進める」

北上「何か目標とかあるの?」

提督「そりゃあるさ。その為にやってんだから」

北上「何目指してんのさ」

提督「内緒だ」

北上「ちぇー」

ふと机の上の書類を見る。

北上「ん?これが無駄遣いってやつ?」

提督「そ。大した量じゃないんだけどな。うちはまだまだ小さいから貴重なんだよ」

北上「へー」

おかしい。こんなに少ないわけがない。どういう事だ?

北上「それじゃ、北上撤退しま~す」

提督「おう、ありがとな」

藪蛇な気がしたので無視して部屋を出る。

夕張に聞いてみようかな一応。

吹雪「その様子だとバッチリ見たみたいですね」

北上「うおっ、びっくりさせないでよ…」

吹雪「北上さん、取引です。夕張さんや明石さんと同じく」

北上「え」

同じく?

吹雪「他言無用、ですよ」

北上「…イエスサー」

吹雪「鎮守府にある資材。それは司令官も把握してます。なのに計算が合わない。司令官の知らない所から消費されている。さてどうしてか」

北上「…」

10あるものから2使われた。と思ってたら実際は4だった。なのに残りの8という計算は合ってる。2はどこから来たのか。

いやそもそも10はどこから来ているのか。

北上「抜いたな…」

つまり任務の報酬から、という事か。

10ではなく12あったのだ。

吹雪「ええ、提督に届く前に」

北上「書類の偽装はやったことないんじゃなかったの」

吹雪「得意じゃないだけです」

いけしゃあしゃあと。たいした秘書艦だこりゃ。

北上「そこまで夕張達に協力するのはなんでさ」

吹雪「協力はついでです。私の目的は取ったものの活用ではなく取ることで提督に届かなくさせる事」

北上「…」

吹雪「…」

野生の勘、と言うやつかもしれない。

北上「他言無用ね」

吹雪「はい」

私は引いた。

現状が維持できれば鎮守府の拡大は不要。

そう言っていたが実際は

現状を維持するには鎮守府の拡大の阻止が必要、という事らしい。

一体吹雪と提督はどんな関係なのか。

鬼嫁?どっちかというと怖い小姑みたいな。

前任者、提督の前の提督ってどんな人だったんだろう。

自分にはあまり関係のない話だが、段々と頭の中でその事が少しずつ、確実に忘れられなくなってきていた。

北上「ん」

ポケットからバイブの振動が伝わってきた。

スマホを取り出すと夕張からのメッセージが表示されていた。

『パイルバンカーって、いいと思わない?』

北上「懲りてない…」

どころか味を占めてる。

やれやれ、流石にこれは一言言ってやらねばなるまい。

『ヒートパイル好き』

とりあえず返信。

さて工房へ向かおう

海上輸送で三個もらえるのに北方撃破しても三個…?
これはまさか!(日記はここで途切れている

39匹目:猫と提督



提督室というのは本来上司の、というか職場におけるトップの部屋という意味なのだが、

30いくつの人間と生きた年数や生まれた年を考えれば三桁すらいる艦娘、人と兵器、人と船に一般的な上下関係やらが当てはまるはずもなく、

だからこの扉も一応ノックしろというあってないようなルールのみが辛うじて残る程度の薄いものなのだ。

北上「おじゃましま~す」ガチャ

提督「お~う」

適当な挨拶に適当な返事。

こんなもんだし、そんなもん。

北上「うわ、すごい書類」

提督「紙一枚分の情報を3枚分に増やすのが上の仕事なんだよ」

北上「それを紙半分にまとめるのが提督仕事ってわけか」

提督「そゆこと。あー座るならこっちのソファーにしとけ」

北上「ん?なんでよ」

提督「れでぃーがお茶をこぼした」

北上「あ~」

言われた通り机を挟んで反対側のソファーに移り仰向けに体を倒す。

おっと靴をソファーに付けないようにしなきゃ。

持ってきた本を開く。

ページと資料をめくる音だけが部屋を支配する。

鎮守府はともかく人が多い。

そりゃ田舎のそれほど大きくもない建物に百人以上もの人間がいればそうなるわって話。

別に皆でわいわいやるのが嫌いなわけじゃないけどやはり一人になりたい時ってのがある。

そういう機会はあるにはあるけれど、出撃や遠征の関係で偶然訪れるものでなりたい時になれるわけじゃない。

だからこそ、そういう場所を探す必要がある。

そして見つけたのがここ。

図書室とは少し違う。

少し特別。

お昼ご飯の後、おやつの時間の前の提督室。

予定がある者は出撃し、そうでなければお昼寝など。

ティータイムや間宮に提督を誘う人達はまだこない。

この時間こそが、至福の時となるのだ。

北上「ふう」

パタンと本を閉じる。

本というのは基本的に章などで区切られているのだが、私には章を読み終える毎に本を閉じそれまでの内容を頭で反復するという癖がある。

いつ何故ついた癖なのかサッパリだが、癖とはそういうものだろう。

提督「今日はなんの本だ?」

北上「えと、ふしぎの国のアリスって知ってる?」

提督「大体は。読んだことはないけどな」

北上「それを元にした殺人事件」

提督「えらく物騒だな。しかし元にしたってどういう事だ」

北上「アリスの夢ってやつだよ」

提督「夢?」

提督が作業をやめて椅子に深々と座りリラックスモードに入る。

つまり休憩という事だ。

北上「まず主人公がね」

今しがた読みえた所までの粗筋を話す。

いつも通り。

提督は本が苦手というわけじゃ無いらしいけど、仕事人間なのか読む事はないらしい。

最初は単にどんな本を読んでるんだって質問だった。

そのうち内容や感想等を色々聞いてくるようになって、私の方も提督に分かりやすいように伝えたり感想をまとめるのが好きになっていた。

人に教えるにはその三倍理解してなくてはならない、という言葉があるけど、こうして人に話すことによって新たに気付く事や自分の思っていた事がハッキリしたりと思わぬ収穫もあった。

北上「この夢の中の会話が好きなんだ~。アリス風の独特の言い回し」

提督「独特っていうとアレか、和訳する際に出る違和感みたい話か?アリスって海外の作品だし」

北上「それもあるけど…相手に伝える事を前提にしてない会話っていうのかな~。そんな感じ」

提督「あとは読んでみろってか」

北上「そゆこと」

提督「そうだなあ、戦争終わったらのんびり田舎で読書三昧とかいいな」

北上「あ、それいいね~。ベランダとかにあの、なんだっけ、揺れる椅子」

提督「ロッキングチェア?」

北上「それそれ。あれに座って本読むとかよくない?」

提督「俺はあれだ、ハンモックとかやってみたいな」

北上「どっちも元は海外のだよね」

提督「畳にチェアは合わないし、ハンモックするような木もないからな」

北上「いいよね~。外国の本とか読んでるとさ、一度行ってみたいなっておもうんだ」

提督「ん?お前外国語読めんの?」

北上「え、あー、うん。英語なら」

しまった口が滑った。別に問題は無いのだけど。

提督「そうか、なんか意外だな」

北上「あはは、だよね~」

とりあえず話題を変えなくては。

慌てて本を開きページをめくる。

北上「あ、これこれこれだよ」

提督「どれどれどれだよ」

北上「んしょっと」

ソファーから体を起こし提督の隣に移動する。

北上「おりゃ」

提督「おいおい、書類の上に本置くなよ」

北上「こいつのせいで机に張り付いてるんでしょ?なんなら北上様が焼き払ってあげようか」

提督「机傷つけたら弁償な」

北上「そーゆーとこ細かいよね~提督。モテないぞー」

提督「え、マジでか」

北上「マジマジ。彼女の体重が五キロくらい増えても気にしないくらいの器量がなきゃ」

提督「いや五キロはやべぇだろ」

北上「そうかな…?そうかも…」

北上「じゃなくてー、ここここ。ここ見て」

提督「どれだよ」

北上「ほらここの会話のところ」

少々強引なやり方だが提督を本に集中させる。

立っているのも疲れるので提督の座る椅子の肘掛に体を半分乗せる。

提督「あーうん。なんとなくさっき言ってた意味が分かった」

北上「読むの早っ」

提督「書類仕事で鍛えられたのさ」

北上「無駄なもん持ってるね~」

提督「うっせ。というかそこに座るなよ。狭いし壊れるかもわからん」

北上「大丈夫っしょ、この椅子デカいし」

提督「何一つ大丈夫な要素がないんだが」

北上「あっそうだ。提督速読できる?」

提督「資料ならできるし、本もできると思う」

北上「ねえやってやって。ここで見てるからさ」

提督「なんでそうなんだよ。見てどうする」

北上「えーどんな感じでページが進むか見てみたいの」

提督「速読っつっても早めに読めるってだけで、ページパラパラめくって内容把握するとかは無理だぞ」

北上「なんだぁつまんないの。北上さんはもう少し面白いオチを求めていたのですよ~」

提督「お前なぁ」

ガチャ

ガチャ?

大井「失礼しまー……あ」
提督「げ」
北上「あ」

扉を開けて大井っちの目に飛び込んで来た光景。

同じ椅子に腰掛け(?)体を密着させて話している想い人と親友。

うーん修羅場。

提督「北上、ちょっと大井と話がある」
大井「北上さん、少し提督と話があります」

北上「アッハイ」

本をさっと回収し流れるように部屋を出る。

サンマ…ドコ?

アトゴヒキ…ドコ?

部屋を出てしばらくすると提督室から賑やかで騒がしい声が溢れてきた。

提督のところへ大井っちが来るのは少し久しぶりだったが相変わらずの仲なようで一安心だ。

前は私があそこで本読んでると遅かれ早かれ必ず来てたのに、最近はめっきりだった。

やっぱあれか、改造後の服装が原因か。

恥ずかしがることもなかろうに。

何はともあれ久々に2人でゆっくりしていただこう。

提督に釈明の余地があればいいけど。

北上「ん」

右腕を触る。

提督と触れ合っていたせいか少し温い。

流石に馴れ馴れしくしすぎたかね私も。

どうにも球磨型内での距離感で接してしまいがちな所がある。

まあ悪い気はしないんだけど。

北上「ん?」

悪い気はしないってなんだ。

北上「~♪」

でも、いい気分だ。

41匹目:猫と多摩







北上「よし」

深夜。

消灯時間をすぎ皆が寝静まった頃。

私は部屋で、バケツを抱えていた。

今日の皆の寝る位置。いや、多摩姉の寝る位置は丁度本棚のすぐ近くに頭がくる所だ。

棚の空いてる位置にバケツをセットする。

うん、これで落ちたら多摩姉の頭にクリーンヒットするはずだ。

仕掛けは目覚ましと連動してバケツが落ちるだけのシンプルなもの。

さあ目覚めるのだ。

内に秘めた猫の記憶よ!

イタ…イタヨ…ホッポウニイタヨ…アリガトウ、アリガトウ…

なんでこんなに出ないかって間違いなく母港にいる9人の園児達のせいだと思うんですよ

木曾「いってぇ…」

多摩「そんなに痛むにゃ?」

木曾「いや痛さとしては全然気にならないレベルなんだけどさ。地味ーにジワジワくる感じが凄くイラッとくる」

球磨「鼻真っ赤クマ」

大井「北上さん、納豆いります?」

北上「あ、貰う貰う~」

朝食は納豆派である。

さて作戦はどうなったかというと、語るに落ちると言った感じで。

明け方トイレに起きた木曾が寝ぼけ眼でバケツに顔面から直撃したという運びだ。

上手くいかないもんだね~。

北上「ゴメンね、変なとこに置いちゃって」

木曾「いやいいよ。こっちも寝ぼけてたしな」

球磨「せいっ!」グシャ

多摩「…なんで卵が出るたびに片手で割ろうとするにゃ」

球磨「で、できたらカッコイイと思ったクマ」

大井「拭くものもらってきますね」

球磨「スマンクマ…」

北上「球磨姉球磨姉」

球磨「クマ?」

北上「ほっ」タマゴカパッ

球磨「なぁっ!?」

多摩「北上煽るんじゃないにゃ」

球磨「木曾!それ寄越すクマ!」

木曾「やだよ!絶対失敗するだろ!」

球磨「貰いぃ!」

木曾「あぁ!」

球磨「てやぁ!」ゴシャ

木曾「あぁ…」

北上「うわぁ…」

多摩「にゃぁ…」

大井「球磨姉さん…?」スッ

球磨「ヒッ」

北上「よいしょっと」

昼前。

自慢の魚雷を担いで出撃の準備をする。

と、勿論担ぐ必要はないのだが。

今度はこれで、

北上「出撃めんどくさいな~」

多摩「それを言ったら終わりにゃ」

北上「ただのパトロールじゃん?いらないじゃん?」

谷風「こういった所を怠らない事が大切なのさ。提督はそこんとこよぉ~く分かってるからねえ」

伊勢「ほらほら、みんな準備して~」

北上「魚雷重いなぁ…軽巡の頃は軽くてよかったよ」

多摩「まあ確かに量は増えたにゃ」

谷風「かぁーなっさけない。それでも軍艦かい?」

北上「ちぇー、皮かぶっちゃって」

谷風「そっちは猫被りだろ?お、リベが来たね」

多摩「北上お昼はどうするにゃ?」

北上「ん~そだねー。うどんとか?」

取り留めのない会話をしつつ多摩姉に近づく。

よし、ここなら当たるはず。

多摩「うどんはやっぱりオクラだと思うんだにゃ」

北上「私はとろろかな~。あっ、蝶々だー」ブン

上半身を右に思い切り振る。

担いだ魚雷が勢いよく、多摩姉の後頭部めがけて振られる。

唸れ!黄金の魚雷!

リベッチオ「ヘブンッ!!」ゴチン
北上「えっ」
多摩「にゃ!?」
谷風「うわー…」

どうなったかといえば、

何を思ったか思いっきり助走を付けて多摩姉に飛びついていったリベの顔面に魚雷が思いっきり当たった次第である。

飛びつかれる側の負担を一切考慮しない飛びつきと遠心力を加えた魚雷のスイングが見事にジャストミートした結果、場外ホームランが生まれたのだった。

飛んでったのはボールではなく意識なのだけど。

幸いにも出撃前の艤装装備時のことなので鼻血すら出ず、まるでギャグ漫画の如く仰向けで倒れるだけですんではいるが。

伊勢「え、何今の音?」

リベ「」チーン

北上「あはは…いやちょっとね」

多摩「ふ、不幸な事後がにゃ…」

谷風「おぉー白だねえ」ピラッ

多摩「こらっ」ペシッ
谷風「あいたっ」

多摩「リベちゃんの部屋ってどこだったかにゃ」

北上「海外組だし4階だよ」

お昼の後。

私達は階段登っていた。

最早手段を選ぶ余裕はない。今までも大概だったけど。

やるしかない。

3階と4階の間。

周りに人気はない。

私が前、後ろに多摩姉。

ええいままよ!

北上「うわっ」ズリッ
多摩「にゃ!?」

足を滑らしたていで多摩姉の体に体当りする。

転げ落ちるというより踊り場にすっ飛ぶ形になるはずだ。

大丈夫!艦娘だし!大丈夫、大丈夫?

飛んだ反動をそのまま回転に利用し、にゃんぱらりんと着地する。

北上「ほっ」スタッ
多摩「にゃ」スタッ



あれ?

多摩「大丈夫かにゃ?」

北上「う、うん。多摩姉こそ、大丈夫、みたいだね」

多摩「気をつけるにゃ。艦娘とはいえ何があるかわからんにゃ」

北上「ごめんごめん。怪我人のお見舞いに行くのに怪我してちゃ世話ないよねー」

多摩「まったくにゃ。まあ周りに誰もいなくてよかったにゃ」

北上「だねー」


忘れてた。

いや忘れてるのは多摩姉で今まさに思い出させようとしているのだけれど、

私達は猫だったのだ。

この程度で怪我をするドンくささは持ち合わせていない。

北上「もうだめぽ」

神風「何かよっぽどの事とお察ししますがだからと言って私の袴に顔を突っ込まないでください」

北上「え~」

黙々と、淡々と言われた。

神風「話しなら聞きますから後数ページ待っててください」

北上「うい」

助けを求めに図書室に来ると神風が本棚に背を預ける形で座り本を読んでいた。

ので袴に芋虫の要領で顔を突っ込んでみた。

ところで猫は狭いところが落ち着くものだが私はそうでもない。

それでも袴の中はなんというか心地よかった。

秋刀魚漁に疲れて燃え尽きていました

あれこれなんのゲームだっけ

北上「寝そう」

神風「って何してるんですか!?」ゲシッ
北上「ぐぇ」

文字の世界から現実に戻った神風がようやく現状を理解したらしく容赦のない蹴りをかましてきた。

北上「ぐおー…なんの本読んでたの~」

神風「もりのくまさん。処刑人の方の」

北上「あーあれね」

羞恥心からか若干涙ぐむその幼い容姿からは想像もつかないくらいエグいもの読んでやがる。

神風「記憶を戻す方法?」

北上「はい」

現在の姿勢。正座。

神風「北上さん記憶喪失なんですか!?」

北上「あーいや、私じゃなくて。でも同じようなものなのかな~」

神風「んー、イマイチ要領を得ませんね」

北上「まああんまり深く考えずにさ、物語上でよくある記憶喪失って感じに考えて」

神風「方法ねぇ。定番なのは頭に衝撃を与えるやつですよね」

北上「だよね~」

もうやり尽くした、とは言えないな。

神風「科学の発達した今だからなにか馬鹿馬鹿しい方法に聞こえますけど、記憶や意志が魂に宿ると言った考えの名残って感じで私は好きですね」

北上「確かに今じゃあまりに危険な方法だよね。壊れた家電製品を叩いて治すようなもんだし」

神風「昔みたいな簡単な作りならともかく、今の家電は精密機械ですからね。そこへいくと人間の脳も精密機械、もしくはそれ以上ですから」

叩くなんて以ての外、と言ったふうに語る。

めっちゃ叩こうとしちゃってたよ私。

神風「後は入れ替わりなんかも同じですね」

北上「入れ替わり?」

神風「ほら、角で男女がごっんつんこして入れ替わっちゃった!ってアレですよ」

ザ・少女漫画。どうでもいいけどごっつんこって言う神風カワイイ。

北上「改めて言われると凄い発想だよね。メモリーとメモリーを叩き合わせたら中身が入れ替わるなんて」

神風「だからやっぱり魂こそが人の根幹であり、体は入れ物という考えから来たものなんでしょうね」

北上「なるほどねぇ」

確かに、私にとってこの体は入れ物だ。

神風「荒っぽいのはなしだとして、後はキーワードですよね」

北上「定番だね」

事実、多摩姉が思い出しかけたきっかけも麦畑というキーワードだ。

残念ながらきっかけ以上の効果はあれ以降見られていないけれど。

北上「ところでさ」

神風「はい?」

北上「足が痺れてきた」
神風「ダメです」
北上「はい」

神風「後はー、五感に訴えるですかね」

北上「五感?」

視覚聴覚味覚…嗅覚!後は~ああ触覚か。

神風「物語上でいうなら、例えば思い出の場所に連れて行ったり、写真を見せたり音楽を聞かせたりとか。臭いや触覚はあまり出てこないですけど」

北上「五感かぁ」

視覚と嗅覚。とくに嗅覚は結構効果あるかもしれないな。猫だったし。でも何を使えばよいのやら。

神風「思いつくのはこれくらいですね」

北上「ありがとね。やっぱこういうのは自分以外に聞いてみると意外な発見があるもんだよ」

神風「お役に立てたようで何よりです」

北上「さてでは」
神風「私が読み終えるまではそこに正座です」
北上「そんなにっ!?」

神風「日頃の分も含めてですよ」ジトー

北上「うっ」

それを言われると弱い。

北上「仕方ない。代わりに私のパンツを見せてやろう」ピラッ

神風「キャーー!何してるんですか!」

キャーが似合う系女子。顔を背けつつしっかりとチラ見してる当たりが高得点。

北上「普段から見慣れてるし見られ慣れてるからねえ」

神風「ま、まあ確かに…」

艦娘の常である。

北上「大井っちなんかも露出度上がってがっかり来てたみたいだし」

神風「そうなんですか?」

北上「直接聞いたわけじゃないけど、最近少し元気ないからさ」

神風「意外です。なんていうか、そのー、北上さんさえいればって感じに思えたので」

北上「ふふ、結構大井っちは乙女なところあるよ」

それじゃ、と図書室を出る。



よし!脱出成功!!

年末に向けて順調に更新が遅くなってますね…

レイテ怖い

北上「うーむ」

しかし困った。

五感に訴えるとして、使えそうなのは嗅覚とか視覚かな。

嗅覚ってどうすんだ?

麦の匂いと言われてもねえ。

日向「おっと」
北上「むぐっ」

おお、ちょうど目の前に柔らかいクッションが。

日向「いや離れてくれないか」

北上「ごめんごめん」モミモミ

曲がり角でごっつんこ、とはならなかった。

日向「五感、匂い、ね。一体何がどうしてそういう話になったんだ?」

北上「まあまあそこら辺は気にせず」

相談がある、と言ったら日向さん(と伊勢さん)の部屋に招かれた。

以前は部屋の半分が本棚、もう半分が船や飛行機の模型となっていたが図書室の完成により99%模型になっていた。

日向「何か案はあったのかい?」

北上「ん~、とりあえず小麦粉でも嗅がせようかと」

部屋の中央のテーブルを挟み向かい合うように椅子に座る。

肘掛に手を置きいつもと同じ朴訥とした表情で話す日向さんはなんという貫禄を感じる。

日向「それは小麦粉の匂いだよ。麦畑というのならきっと、その土地の匂いであって麦自体の匂いではないだろう。私も詳しくは知らないけれど、麦はそうわかり易い匂いを放つ植物ではないはずだ」

北上「言われてみれば」

流石に安直すぎたようだ。

日向「そもそも私達は五感、というか人間的な感覚が鈍いからね」

北上「鈍い?」

日向「砲撃音や被弾、至近弾による爆音に晒されても鼓膜はおろか精神に影響すらない。血や硝煙の臭いを嫌がる事もなく、彼方まで続く海からの照り返しに目を痛めたりもしない」

北上「そりゃあまあ船だしね、私達」

そんなんに一々反応してたら三日と持たずに海の藻屑だろう。

日向「私達は人に近い形をとっているが、それはつまり人とは決定的に違うということさ」

北上「人とは、違うね確かに」

船だったり猫だったり鳥だったりだ。

思えば猫の時に感じた匂いを今再現するのって中々無茶だよね。

何を迷走してるんだか。

日向「『艦娘を殺すなら砲弾や魚雷ではなくナイフで動脈を切れ』なんて言葉がある。これは、なんだったかな。元ネタがあるらしいが。海外だったかな」

北上「なにそりゃ。初耳だよ」

日向「1種のブラックジョークってやつなんだろう。我々は怪我に鈍いからね。艤装が壊れても服が破けても体から煙が出ていてもバケツを被れば治る」

ここだけ聞くと爆発で髪の毛アフロになる世界の住人みたいだよね。

日向「逆に切り傷のような、艤装を付けていない生身の時の怪我に弱い。バケツじゃ治らないからね。そしてその事にひどく無自覚だ」

北上「でも実際そんな事あるかね。そりゃ本能的にヤバイと思えなくとも血が出るのがヤバイって知識はあるじゃん?」

日向「以前に、誰とは言わないけれど駆逐艦の1人が包丁で指を切った事がある。本人はうわ血が出たという程度の反応だった様だが、他の者が一乙止血やら消毒やらの知識があってな。だから水で指を洗って清潔なタオルで傷口を抑えた」

北上「正しい、かどうかイマイチ私にゃ分からないけど。でも問題なさそうに思えるね」

日向「その場にいた1人が提督室に来たんだ。何せ艦娘相手に包帯やらなんやらを使う事はあまり無いからな。その手の道具は提督室にある」

北上「へー。そりゃ知らなかったよ」

以前に提督窓から落ちたのを思い出す。

なぜ提督室で看病してたのかと思ったがそれが理由か。

日向「その時は私と提督が部屋にいた。そして部屋に来た駆逐艦は苦笑いしながらこう言った。妹が料理中に指を切ったから絆創膏が欲しい、と」

そういえば私は包丁を握った事がないな。

料理に興味はないからいいけれど。

日向「その顔を見て提督は何をやってんだ気をつけろと言いながら絆創膏を渡したんだ。そして少し気になるから一応私に付いていくように言った」

北上「なんだかオチが見えてきた気がする」

日向「まあそうなるな。ともかく私も台所についた。そこで見たのが、ケロッとした顔でこれどうしたらいいの?と問いかけてくる駆逐艦と、文字通り真っ赤に染まったタオルだった」

あれ、予想よりヤバそうなんだけど。

日向「それほど大きくないとはいえタオルが一色に染まり、それでも吸いきれなかった血が滴り落ちるというのが本来どれほど危険な状況か。キミには説明する必要はないだろう?」

北上「別に詳しいわけじゃないけどね。でも普通なら救急車案件だよね」

人によっては痛みや、その惨状を見て気絶、なんて事も考えられる。

勿論医学的にとかじゃなく推理小説とかの展開的に、なのだが。まあ見当はずれな予想でもあるまい。

日向「文字通り痛感というやつだね。いかに人に近いと言っても、根本的に人間らしさが足りないのさ。私達はね」

北上「うーん。そりゃ確かに艦娘として人とはズレているところは多いとは思うけどさ。そこまでじゃないと思う」

日向「ほう」

相変わらずぶっ飛んだというか、極端な意見を言う日向さんに反論してみる。

北上「痛みとかは人間らしさともいうより生物らしさでしょ?五感が鈍いのはその通りみたいだけど、文学的な人間らしさなら私達は十二分にそれがあると思うけど」

日向「例えば?」

北上「姉妹とか」

私の家族とも言える球磨型の皆を思い出す。

北上「恋しちゃったりとか」

恋する乙女な大井っちを思い浮かべる。

北上「そういうの」

提督の事を、思い返す。

日向「なるほどな」

といいつつ急に前のめりになって碇司令のあのポーズみたいな格好をする。

なんだかこちらも身構えてしまう。

日向「確かにそうだ。それは人間らしさであり、私達はそれを持ち合わせている」

あ、これは否定されるパターンだ。

日向「だがそれは私達が持って生まれたものでは無い」

北上「ん?でもそういうものじゃないの?人間は幼い時に親や近しいものから受けた、色々で、人間らしさを会得するわけじゃん」

愛情、とは言えなかった。世の中がそれほどドラマチック出ない事は知っている。

日向「そうだな。例えば狼に育てられた人間という話を聞いたことがあるが、おおよそ人間らしさと言えるものはなかったらしい」

北上「へー」

ヤバイ。もののけ姫しか浮かばない。

あれはかなり人間らしかったよね。

あ、育ての親が人語を喋れるから別か。

日向「でも私達に親はいないだろう」

北上「強いて言うなら、妖精さん?」

親、親かあ。アレは生みの親ではあるかもだが、親ではないなぁ。

北上「でもほら、姉妹艦とか。そうでなくとも色んな艦娘がいるじゃん。親代わりみたいな」

日向「ではこう考えよう。誰もいない鎮守府に1人の提督と、生まれたばかりの駆逐艦が1人やってくる」

北上「提督が親か」

日向「親どころではないさ。唯一の人間だ」

人間、という言葉を強調する。

日向「今現在でも提督はこの鎮守府における唯一の人間だよ。それこそが提督であり、だからこそ私達に必要なんだ」

北上「ちょっとタンマタンマ。話がぶっ飛び過ぎだって」

流石についていけなくなる。この人いつもこんな事考えてるのかな。

この人、か。

北上「確かに提督が大元なのはまあ分かるけどさ。それってこう、なんだろ」

上手い例えが出てこないな。

北上「うーん、言い方は悪いけどウイルスの発生源みたいな話でしょ?大元なのはそうだけど、1度感染してそこからまた広がっていったらもう発生源はあまり関係ないじゃん」

日向「提督はウイルスか」

北上「なんでそこだけ真に受けるのさ」

日向「元、というなら女王蜂と言った方が正しいだろうね。男女比は正反対だがね」

北上「女王蜂って…」

あれ、思い返してみると確かに私達のやっている事って働き蜂のそれと同じじゃあないか。

なんか釈然としないな。

日向「人と違って私達には生まれた時から人格がある。だがそれは型に過ぎない。言わばまだ白紙の塗り絵だ」

なんだがロマンチックな言い回し。

日向「考えた事はないかい?世の中には私と同じ日向が沢山いる。それは確かに同じだったろうけれど、実際会ってみるとその性格には差異がある」

北上「他の鎮守府の自分かあ。私は会ったことないや」

私はなにせ中身がアレなもんだから他所の北上を自分だというふうにあまり見れない。

日向「常に帯刀してる危ない私や妙にイケメンな私や一言も喋らない私や、瑞雲狂の私なんかもいたな」

北上「瑞雲?」

何故に。

日向「同じ日向なのにこうも違いが出る。何故か。それは提督の影響だ」

提督と言い切る。すごい自信だ。

日向「鎮守府の最高責任者は提督だ。運営方針もその提督次第で異なる。極端な話、ルールに厳格で根っからの軍人基質な提督の鎮守府であれば、私や皆もそれに沿った性格になっていただろう。ウチの提督は、まあそれの真反対だな」

北上「確かに。うん、そうだね」

うんうんと頷いてしまう。

トップの意向にそうというのは一般社会でも同じかもしれないが、私達にとって鎮守府こそが生活であり全てだ。その影響はもろに出る。

なんたる社畜。

北上「そういや何処ぞの鎮守府じゃ毎日艦娘と淫靡で淫らな生活を送ってるなんて話を聞いたことがあるよ」

日向「つまりそういう提督であり、そういう艦娘になったという事だ」

北上「…なんか洗脳じみてて怖いね」

日向「何をもって洗脳というか、だな。穿った言い方をすれば親が子供を躾るのを洗脳ととることも出来る」

北上「それは穿ちすぎでは…」

日向「私達の場合は刷り込みと言うべきだろう。元々染まりやすく出来ているのさ。提督色にね」

北上「刷り込みって…ああ鳥が最初に見たものを親と思うってやつか」

日向「それだ」

日向「私達は無意識に色々と刷り込まれてるのさ。例えば姉妹。当たり前のように姉妹とされているが、それは誰が言い出した?

元来船の姉妹というのは同型艦の呼び方の1種であり、それだけでしかない。実際作戦などで姉妹艦と行動する機会は殆どないことが多いし、生まれの時期に差があれば一度も合わずに終わる事すらある。

それを人の姉妹のように受け取り、そうあれと願っているのは提督だ。部屋割りや作戦時の編成にもその意識は現れる。そしてそれが私達の意志になる。

勿論姉妹として扱わない提督もいる。その場合その艦娘もそれ相応の者になっていたが。

他には、そうだな。鎮守府の上下関係かな。

軍艦としての年齢、艦娘としての年齢。戦績、実力。ふっ、提督のお気に入りかどうか、なんて。鎮守府によって異なるがそれはそこでは当たり前の常識となる。

また… 」

上下関係か。ウチは、上から戦艦や空母、重巡、軽巡、駆逐艦、みたいな感じかな。あらためて考えると潜水艦だけ特別枠な感じだ。

しかしいつまで話すつもりだこの人。段々話が頭をすり抜けてきた。谷風を彷彿とさせるがこっちは内容が濃いのでついていけない。

日向「

そして提督が居なくなると崩壊する



北上「え?」

不意に飛び込んできた言葉に意識を戻された。

日向「戦闘の結果鎮守府が壊滅するという例はいくらかあるが提督が居なくなるという例は少ないからな。あまり意識することもないだろう」

提督が、提督だけが居なくなる。

日向「この戦争が始まってまだ四半世紀もたっていない。寿命や病気でこの先そういった問題は増えていくとは思うが」

そういえば、提督は2代目だと言っていた。

だとしたらその数少ない例がここなのでは。

北上「問題、なんだ」

日向「そう問題だ。染まりやすい。だが一度染まればその色は中々変わらないのさ。適応ができない」

北上「…つまり次の提督に、適応できないと」

日向「多くの場合はな。人は大勢の他人から自己を形成するが艦娘は提督1人からなる。女王蜂がいなくなった巣は、どうなるだろうな」

例えば提督の事を嫌いな艦娘はいない。likeではなくloveのほうで提督の事が好きな艦娘も多い。

その提督が消えたら、どうなるか。

日向「五感や人らしさも全て、提督からもらった仮初のものなのさ。結局のところ」

北上「なんというか、ぞっとしないね」

日向「好き好んで考える話題ではないかもな」

なら話すなよと目で訴える。

日向「だから私は本を読むんだ」

北上「だから?」

日向「提督以外の好きな物であり、私が自身で見つけた趣味であり、私の個性であり、私の証明だからだ」

北上「なんでわざわざ」

日向「…提督を失った鎮守府を、知ってるからさ」

それってつまり…

北上「はぁ…」

提督室に向かう途中、思わずため息が出た。

日向さん。吹雪に負けず劣らずの変人だ。

個性が光りすぎてる。

年長者は変人しかいないのだろうか。

いや色々と年を重ねるうちに変人になるのか?

あまり考えたくないなそれは。

少なくともあんなアドバイスの仕方をするようにはなりたくない。

日向「つまり提督に相談してはどうかという事だ」

北上「え、今の壮大な話からそんなありふれた結論に帰結するの?」

日向「意外な回答は見ていて面白いが解決を望むならあまりオススメはしないぞ」

北上「いやそういう話ではなく」

日向「なに簡単な話さ。その手の人間らしさならば人間である提督に聞くべきというだけの事。まああまり期待できる相手でもないか」

さりげなくディスって行くスタイル。

目的地周辺、回想を終了いたします。

北上「結局ここか」

2代目の、提督の部屋。

その事を頭の片隅に押しやる。

朝から色々あって身体も脳もへとへとだ。

ここらで休憩が必要だろう。

さて安らぎの空間へ、

北上「お邪魔しま~す」

日向には何か難しい事を言って欲しいと思ったけど自分でも何言ってるか分からなくなってきた。もうやらない

アナタの日向はどんな日向?

提督「珍しいな。お前が本も持たずにここに来るなんて」

北上「別に本が目的じゃないもん。静けさを求めてここに来るのであって、読書はあくまでその静けさの中で最もやりたい事なだけ」

提督「んーよくわからん」

北上「まーつまりここが好きなのさ」

提督「ここがねえ。でも今は図書室もあるんだろ?」

北上「そりゃあ…まあ、そうねぇ。なんだろ、ここに慣れたというか、落ち着いちゃった?」

提督「いや俺に聞かれてもな。落ち着くなら、別にいいんだけどな」

そういって椅子ごとくるりと回りそっぽを向く。

なんか邪魔しちゃったかな?

北上「ん~~…ッ!」

とか思いつつくつろいじゃうんだけどね~。

ソファーに寝転び猫のように思い切り伸びを1回。

提督「猫かお前は」

北上「え」

提督「あぁいや、その気持ちよさそうな伸びがさ」

北上「あはは」

ちょっとドキッとした。

北上「提督はさ、何か思い出したいのに思い出せない時とかってどうしてる?」パタパタ

提督「ソファーの上で足を揺らすな。思い出したいのに思い出せない?忘れてるってことか」

北上「そうそう。絶対記憶のどっかにはあるのにそれが見つからない~みたいな時」

提督「んーなんか難しいな」

北上「テキトーでいいよテキトーで」

提督「そーだなぁ。まだ覚えてる時の自分が残したものを探すかな」

北上「残し、え?何それ」

提督「メモとかなんか残してるかもしれないだろ?それすら忘れてるだけで」

北上「おー…おー!」

提督「おー?どしたどした」

思わず声が出た。それくらいには意外な回答だった。

北上「目からウロコとはこの事だね。まさか提督なんかからこんな答えが出るとは」

提督「さり気にディスってないかおい」

北上「自分の胸に手を当てて考えてみるとよい」

提督「あ言ったな、後悔するぜ」

そう言うと机の横に立て掛けられていた板を持ち出した。

あ、ホワイトボードか。

提督「じゃん」

北上「わお、こりゃ凄いや」

ボードの上にはメモ用紙や文字がびっしり並んでいた。

提督「これでも提督の業務ってのは色々と忙しくてな。こうして書いてわかりやすくしてるのさ」

北上「へーなるほどねー。いやはや見損なったよ提督」

提督「それを言うなら見直しただろ~」

北上「いやいや合ってる合ってる」

提督「え」

北上「これ殆ど吹雪の字じゃん」

提督「あ」スッ

さり気なく戻そうとするホワイトボードの端を掴んでぐっと引き寄せる。

北上「一人称に私とかあるし」

提督「いや」

北上「提督って二人称あるし」

提督「その」

北上「これってさ」

提督「あのね」

北上「提督がすぐ仕事忘れるからわざわざメモ残してくれてるだけだよね」

提督「ハイ」

蚊の鳴くような声で返事を返す。

鳴くというか泣きそうな声で。

提督「いやあのね、提督も男なんですよ」

北上「ほう」

提督「見栄を、張るんです」

北上「ほう」

提督「良く、見られたいんです…」

北上「何故私に張ったし」

提督「いやぁ…」

北上「…」

男ってめんどくさいなー。

提督「実際さ、これだけの人数を動かして資材資源の管理や食費やら電気代やらなんやらとはっきり言って一人でやる事じゃないと思う」

北上「うん、実際一人でやる人はいないと思う」

何のために秘書艦がいると。

提督「だから仕方ない」

北上「いや提督はもうちょっと、かなり働こう」

私が特になにかしているわけじゃないけど、流石に吹雪の負担が大きいのでは。

提督「人間大切なこと以外は中々覚えられないものじゃん?」

北上「提督業務は大切じゃないというのか…」

いったい何が大切なんだろう。まさか大井っち?

もしくっついたらサクッと引退しちゃいそうだなこの人。

人間かあ。それともやはり私達と提督とじゃ何か根本的に違うのかね。

提督「そういや北上って英語読めるんだよな」

北上「へ?うん、まあね」

それは覚えてるのか。

提督「丁度いいや。見せたいものがあってさ」

北上「見せたいもの?何何、サプライズ?」

提督「んな大層なもんじゃないけどさ、丁度お互いに暇だし」

北上「暇なの?」

吹雪「暇じゃねー!!」ドガッ

豪快な蹴りによるドアの開閉。いい加減なれてきた。

というかあのドアよく持つね。

吹雪「何のためにメモ残してると思ってんですか!」

提督「何を言う。次の出撃までは何も無いはずだぞ」

吹雪「あーりーまーすぅーちゃんと書きましたー」

提督「ああ?何処にもねーだろんなもん、ほら見ろよ」

吹雪「何言ってんですかほらここ、に、ない!なんで!?」

提督「書いたかどうかも忘れてちゃ世話ないぜ。指示がないなら俺は動かん!」

吹雪「いやトップが指示待ち人間誇ってどうすんですか!少しは自分で考えて動いてくださいよ小学生ですかあなた!」

提督「ちーがーいーまーすー力を蓄えてるんですぅー三年寝太郎なんですぅー」

吹雪「能無しの鳩が爪のあるふりしてどーすんですかいっそ永遠寝てろ」

提督「なにぃ?」

吹雪「なんですかあ?」


北上「おっとゴミ箱に何やらメモガー」
提督「おっと仕事を思い出したそれでワッ」ガクン
吹雪「おっと年貢の納め時ですよ寝太郎さ~ん。もちろん3年分」グワシッ

提督「いやあ年貢より怒りを収めて欲しいかなあなんて」

吹雪「あはは」

提督「ははは」

吹雪「ふんっ!」ドス
提督「ごぉっ!?」

うわ入った、鳩尾入ったよぉ…

吹雪「あとは私が始末しとくんで」

満面の笑みで。笑顔とは本来攻撃的な意味があるというがなるほど、その通りだろう。

北上「ほ、ほどほどにね~」

始末とは仕事の事だろうか、提督の事だろうか。私には知る由もない。

気にはなるけどタイミングもいいし部屋に戻ろう。

今の時間なら丁度、部屋には誰もいないはずだ。

しおんちゃんエロい

43匹目:cat burglar



意味:泥棒、空き巣

二階から侵入する空き巣とかを指してそう言う。

泥棒猫、猫泥棒。

最も私は入口から堂々と侵入しているのだけれど。

いや自分の部屋なんだから侵入とは言わないか。

強いて言うなら、プライベートに侵入する。

日本には

例えば兄弟や友人、彼氏の家に遊びに来た時などにとりあえずその部屋にエロ本がないかを探す文化があるらしい。(夕張談)

艦娘である私にとってそれが果たして一般的にどれほど行われている行為なのかは皆目見当がつかないが、

そういった秘匿しているもの。秘密にしている何かを見つけるというのは実に背徳的で興味をそそられるというのは分かる。

気になる。

気になるけれどこれまで気にならないふりをしていたが、せっかくの機会だ。

存分に探索しよう。

北上「よし」

場所、球磨型の部屋。

皆は今のところ出払ってる。

時間制限、最低でも1時間。

がっつり皆の私物を漁っていこう。

全員分漁るとなるとなかなかの量に思えるかもしれないけど、実のところ個々の私物の量はかなり少ない。

理由は単純部屋が狭いから。

私達が下手なだけという可能性は否定出来ないが四人部屋を5人で分けて使うというのはなかなか難しいのだ。

図書室の完成で私の荷物がかなり減ったのだけどその代わり球磨姉の作った棚が共用として置かれたので結局私物の量はあまり変わっていない。

北上「まあ最初はやっぱ球磨姉だよね」

球磨姉の机に向かう。

仕事用というよりは勉強机と言った感じの木製の机。ほかも似たり寄ったりだ。

北上「さてと」

あまり躊躇せず上から棚を開いていく。

左棚右棚、横についてるタンスの上からひいふうみい最後に大きめの棚。

内容は釣り雑誌情報誌、何かの作戦の書類、誰かからもらったのか封の空いてない手鏡etc

北上「これは…」

様々な種類の熊のボタン。

集めてるのかな?それとも駆逐艦から貰ったとか。

しかしまあやはりこれといったものは何も無い。

球磨姉は、はっきり言って何も無い。

いやこの表現は少し違うな。

表裏がない。

360度どこからみても球磨姉ちゃんであり微分しようが積分しようが球磨姉ちゃんなのだ。

私達の頼れるお姉ちゃんなのだ。

北上「ん?」

これは、料理本!?料理なんてしないはずだが…

唯一付箋が貼ってあるページを開いてみる。

北上「そんなに片手で卵割れるようになりたいのか…」

なんとも球磨姉らしい。

2番手、木曾。

なのだが、正直躊躇するものがある。

木曾はまず、絶対に何かある。その上でなんというか、見るのが怖い。

こう、痛々しいというか、見てるこっちが恥ずかしくなるようなものがありそうで。

具体的にいえば黒歴史的なにかである。

偏見かもしれないが。

まあ見るけど。

まず出てきたのは剣道の本。

これはまあ普通。やってるし。

上から初級中級上級。

おや最後のこれは普通の本だ。

北上「どれどれ」

パラパラと流し見してみる。

うん。所謂ラノベ、勧善懲悪ものだ。

主に刀を持った主人公が活躍するやつ。

いやいやこれくらいは普通だよ憧れるよ。

やってんだもん剣道。

私だって猫ってだけで猫の本読みたくなるもん。

さて二段目の棚に。

また剣道の本と雑誌。

そして最後に、刀雑誌。

北上「ワンパターン過ぎでしょ!!」

思わず声が出た。

それほど隠す気がないながらもなんとな~く見られたくない的な気持ちが漂う配置。

なんだろうこのこっちまで心の隅っこ当たりをくすぐられる感じ。

世の母親は息子のエロ本を見つけるたびにこんな感じになってたりするのだろうか。

いやいやいやでもね、剣道やってるしさ、本人も元から刀、軍刀?刃物さしてるしさ。

趣味がこうじてこういったものに興味を示すのも自然な流れだようん。

さあラスト行ってみよう。

北上「お」

ファッション誌?これは意外な。

そういえば皆で街に行く時はお洒落してくーなんて大井っちが言ってたっけ。

木曾も乙女なんだなあ。

その下もファッション誌ファッション誌ファッション誌ファ

北上「じゃなーい!」

一番下のファッション誌(表紙)を取り出し不自然に凹んでるカバーをつまんではずす。

タイトル:イケてる眼帯

北上「…」

そっちか

ようやく色々と再開

E3輸送が辛すぎる

大井っちの机は他のみんなとは違って色々なものが置いてある。

そもそも私も含めて机を使う事が皆少ないのだ。

何かを書くための最低限の文房具と小物を除けばあとは雑誌や本が仕舞ってあるだけ。

基本的に外か海にいるし今は大抵の事がスマホで出来るのが原因だろう。

球磨型には机を使うような趣味を持つ人がいないし。

そんな中大井っちの机には、例えば裁縫道具やアクセサリー、色々な色のペンやヘアピン櫛髪留め。

雑誌や本も裁縫料理ファッションなどなど沢山ある。

マヂ女子力ちょぉ高い。球磨型の女子力は全て大井っちに集約されていると言っても過言ではない。

私の髪を梳いてくれるのも、結んでくれるのも大井っちだ。

今使っている髪留めも大井っちの自作だとか。

改めて考えると大井っちに色々やってもらい過ぎである。

向こうが好きでやってくれているとはいえ。

北上「ありがとね」

流石になにか覗くようなものもないし、本命に行くとしよう。

北上「ゴクリ」

と口に出してみる。

いよいよ大本命。

あるかどうかは分からないけど。

さて中身は、

まずは猫関係の本。

いちいち反応してたらキリがないな。

次だ次。

北上「あ」

トランプゲーム攻略本だと?この前からやたらとトランプゲームを推してくると思ったら…これか。

しかも戦績は特に良くはない。

これは、CDか。随分古いものだ。

タイトルは『カレーライス』。なんで?

んー他も大したものはないなあ。

これは、メモ帳かな?

〇月〇日、皆で海に行った。

北上「うおっ!」

つい手を離してしまう。

まさか日記帳かこれ!

多摩姉がこんなもの付けてるとは…

日記帳の下には同じ日記帳がビッシリ詰まっていた。これだけの量。着任当時からつけていたに違いない。

大当たりを引いてしまった。

恐る恐る一番下の日記帳を取り出して、開く。

北上「って、ありゃ。やぶけてら」

前半のページがごっそり無くなってる。

残ってるのは…四年前の日付か。

〇月〇日、全部回収された。今日からここが最初のページになる。でも忘れるわけにはいかない。他の娘もきっとそうだ。

四年前?

というと、提督がここに着任した時期か?

でも回収ってなんだ回収って。

あれ、というか

北上「多摩姉っていつからここにいるんだ」

ここの艦娘は基本的に提督が来たあとに、つまりここ4年の間に着任している。

後は提督着任前からここにいるという吹雪、谷風。

でもだとしたら着任前からここにいるのは吹雪だけじゃないのか?

多摩姉も、それにあの口ぶりからして日向さんも。

他にもいるのか?

だとしたら何故。

日向さん言ってたよね。提督が居なくなった鎮守府がどうなるか。そしてそれを知っているとも。

どうなったんだ?そもそもなんで前任者はいなくなった。

北上「…」

可能な限り綺麗に日記帳を元の状態に戻し引き出しを戻す。

さて面倒くさくなってきたぞお…

阿武隈「北上さ~ん。いますうわっ!?」

北上「」

阿武隈「あの、何やってるんですか…」

北上「」

阿武隈「そのままうつ伏せてると鼻潰れますよ…」

北上「頭痛い」

阿武隈「エッ!?な、何か病気とかですか!」

北上「そうじゃないけど」

阿武隈「私に出来ることありますか?」

北上「ん~」

阿武隈「?」

北上「あぶぅの膝枕あんまり気持ちよくないしなあ」

阿武隈「おりゃ」ゲシッ
北上「ぐえ」

阿武隈「もう!変な心配させないでください」

北上「ごめんごめん。ちょっと疲れただけ」

阿武隈「…でも、顔色はあんまり良くなさそうですよ」

北上「そう、かな」

阿武隈「そうですよ」

流石にきつくなって仰向けになった私の横に座る阿武隈が、シュンと頭を下げる。

力になれない事を気にしているのだろうか?

そういえば

北上「おりゃ」ワシャ
阿武隈「ヒャァッ!ななななんですか急に!」

北上「いやさ、提督が阿武隈の前髪ワシャワシャやってたの思い出して。嫌だった?」

阿武隈「いや、じゃあないです、けど」

あれ、提督の時と反応が違う。もっとプンプンと怒るのを想像してたんだけど。

なんだか複雑そうな顔をされた。

ちょいとばかり顔を赤くしてコチラを睨みつけてくるその表情は、しかし残念ながら余計に弄りたくさせるものでしかない。

北上「いやじゃないならないいよねー」ワシャワシャ

阿武隈「エェッ!続けちゃうんですかあ!やーめーてー」

北上「あ、じゃあやめる」

阿武隈「え」

北上「ほらそうやって物欲しそうな顔をする~」ワシャワシャ

阿武隈「キャー!!」

ガラッ

北上「ん?」
阿武隈「?」

大井「この泥棒猫」

阿武隈「大井さん!?」

またこれか

ちなみにこの場合の泥棒猫は英語でhome wreckerとなる。

直接的な表現だよね。

阿武隈「北上さん現実逃避してないで何か言ってくださいよ!!」

北上「私ファンタならグレープがいいかなあ」
阿武隈「きーたーかーみーさーん!」

惜しみ無いキラ付けとフル支援は裏切らない。

もうすぐイベントも終わりですね。
私は最後の手段と拾った扶桑を必死にレベリングしているところです、
丙のラスダンなんで大丈夫です…

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年09月01日 (金) 18:17:50   ID: G9__8UkR

すき

2 :  SS好きの774さん   2017年11月16日 (木) 23:12:48   ID: JThLHtgF

読書家に朧が入ってねえのはおかしいよなぁ!?

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