北上「我々は猫である」 (238)



北上「我輩は猫である」
北上「我輩は猫である」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1500349791/)
の続き。
ここから読み始めた方への配慮は多分出来ていないのでこちらも読んでくれると嬉しいです。
凄く嬉しいです。

随分と長くなったしまだまだ長くなりそうですが絶対に書ききってやるので何卒


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1521225718

54匹目:招き猫






験担ぎ。おまじない。儀式。神頼み。願掛け。

良い結果を出そうと、あるいは悪い結果を避けようと人々は様々な方法で何かにすがる。肖る。

例えば私達の艦娘に関わるものでも千人針とか幸運艦の一部を御守りにするとか、オスの三毛猫を乗せるとか。

効果の程はともかくそういった気持ちは分からなくもない。

猫といえば、招き猫なんかもそうだ。

北上「えいっ」

招き猫は右手を挙げていると金を、左手を挙げていると客を呼ぶという。

この手、というか前足は己の獲物を捕らえるものであって別に金なんかを呼ぶものではないと声を大にして言いたいところである。

第一猫に小判などとバカにしておいて困った時は金を呼ぶと奉る辺人間は本当に都合がいい。

なんて心で悪態をつきながら差し出されたスマホの画面中央を右手人差し指で触れ、そのまま下に下げる。

するとボールが画面の上に飛んでいき代わりに金の卵が転がってきた。

阿武隈「…」ドキドキ

北上「お、なんか虹色だ」

阿武隈「ホントですか!?」パシッ

恐ろしく早い手際でスマホをひったくられた。阿武隈のだしいいんだけど。

北上「どうだった?」

阿武隈「…被りました」orz

北上「あっそう」

阿武隈「うぅ…なんで来ないのぉぉ…」

北上「そんなもんでしょ」

宝くじで一等狙うよりはマシ程度のものだろう、多分。

阿武隈「北上さん!もっかい!もう1回お願い!」

北上「えー無理だって。というか無理だったじゃん」

阿武隈「星5は出たからきっといけます!いって!」

北上「んな無茶な」

阿武隈「今日の北上さんならいけます!」

北上「そういえば今日の占い2位だったっけ」

阿武隈「いけます!」

ガチャ。

もちろんガチャガチャの事ではなくいわゆるソシャゲというやつである。

金だけが貯まっていきやすい艦娘にソシャゲが大人気であるというのは以前にも言った気がするけど、

その金がもっとも注ぎ込まれているのがガチャというやつだ。

北上「はぁ…」

その後足の指までつかって5回ほどガチャを引かされた。

結果阿武隈が灰になって部屋(しかも球磨型の部屋)で倒れたので放置してきた。

北上「出るわきゃない」

ガチャにも旬がある。

基本的に四季とバレンタインやクリスマスなどのイベントに沿っているらしい。

今の時期だと秋の何かなのかな。

響「あ、いたよ。皆」

北上「ん?」

曲がり角から出てきた響が私を指して言った。

皆とは?

暁「ほんと!?」ヒョコ
雷「見つけた!」ヒョコ
電「なのです」ヒョコ

北上「うおっ!」

ろっくの ぐんだんが あらわれた 。

さんにんは ガチャをひいてほしそうに こちらをみている 。

きたかみは どうする

たたかう
>にげる

北上「南無三!」ダッ

雷「あっ!」
暁「逃げた!」
電「逃がすな!」

響「了解だよ」サッ
北上「げっ」

しかし まわりこまれた 。

まあ別にはっきりと引きたくない理由があるわけでもないからいいのだけれどね。

それぞれのスマホで10連を数回引かされた。

ちなみに結果として暁が当たりを引いて電雷はダメだった。

響は既に自力で目当てのものは出したらしい。

電「その運よこすのです!」コチョコチョ

暁「アハハハダメェそこはダメアハハハ」

雷「ほらほら!これでもかー」コチョコチョ


北上「あれ大丈夫なの?」

響「死にはしないさ」

相変わらず怖いことを言う。

やれやれだ。

このまま鎮守府を彷徨いていたら何回引かされるか分かったもんじゃない。

ここは提督室に避難しておこう。

北上「北上さまが入りますよー」ガチャ

提督「おー北上。丁度いいところに」

北上「…」

扉を開けかけたところで動きを止める。

北上「提督」

提督「ん」

北上「そのスマホは」

提督「ちょうど良かった。お前にこれ「リセット」おい!」

バタン

ここもか…

北上「とまあ散々な目にあってね」

明石「散々って、別に気にすることでもないんじゃない?」ニコニコ

なんやかんやで1番安全な気がする、工廠。

北上「そう言われたらそうなんだけどさ。でもやっぱ引く度によく分からないけど一喜一憂されるのはなんかね」

明石「北上はソシャゲ、もといスマホに全く関心がないものね」ニヨニヨ

北上「…明石」

明石「ん?」ニヤニヤ

北上「引けたの?」

明石「ピックアップは私を見捨てなかった」ニンマリ

素敵なオリジナル笑顔だった。

北上「よくもまあそこまで熱心になれるものだよねえ。あーいや別に否定するつもりはないんだ。それでもやっぱりお金のかかることだから率直に言うとドン引きというか、ね」

明石「それ課金してる人には基本的にクリティカルな発言だからね」

北上「払う金額と対価は人それぞれの価値観とはいえ数十分に数十万が消えるってどうなのよ」

明石「モノの価値は希少性であがるし、その点で言えば私は納得してるわよ。博打性があるのは否定しないけど」

北上「納得してるなら、まあそうか」

明石「真面目な理由をつけるなら、そうねー。私達が兵器だからとか?」

北上「というと?」

明石「練度や装備があるとはいえ生まれつき私達は性能に限界がある。どんなに努力してもね。だからこそこうして金を払って私ツエーみたいな事が出来るのは魅力的なの、かも?」

北上「もっともらしいね。もっともらしいだけだけど」

北上「ところで夕張は?」

明石「さっき奥の倉庫に入ってったわよ」

北上「何故に」

明石「儀式だって」

北上「あー、あぁ…」

察した。

北上「ところで夕張は?」

明石「さっき奥の倉庫に入ってったわよ」

北上「何故に」

明石「儀式だって」

北上「あー、あぁ…」

察した。

夕張「マイマーリン…」チーン

北上「Oh…」

明石「わー綺麗」

ウィトルウィウス的人体図を知っているだろうか。

名前は知らなくてもダ・ヴィンチ関連の絵で見た事がある人は多いだろうと思う。

円の中に両手足が異なる位置で二人の男性が重ねられていてそれが円と四角に内接している、というものだ。

意味は私も知らないけれど。

まあ、なんというかそれが、倉庫の床に表現されていた。

夕張の体で。

北上「このもう一人分の腕と足なに?」

明石「マネキンよ。艤装とか試着させるやつの」

北上「あーね」

夕張「もうダメぽ」グッタリ

明石「ほらほら起きて起きて」ツンツン

仰向けで目を閉じている夕張をスパナでつつく明石。

なにやらもう片方の手でスマホを弄っている。

夕張「どうして現実は辛く厳しいの…」

明石「目覚めよ。さすれば与えられん」

夕張「ハッ!」パチッ

明石「それ」

明石が夕張の目の前にスマホ画面を差し出す。




夕張「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」ゴロゴロゴロ

両手で顔を覆い物凄い勢いで転がり出した。

北上「何見せたの…」

明石「私にあって夕張に無いものよ」

北上「鬼か」

画面には白いローブと黒い杖を持った青年が写っていた。

明石の顔に愉悦って書いてある。

夕張はしばらく転がり続けた。

夕張「皆にガチャを引いてって言われる?」

北上「うん。何故か私ばかり」

明石「別に運がいいってわけでもないのよね」

北上「特にそんなに出来事はないと思うけど」

明石「なんでかしらね」

夕張「そりゃあやっぱ特別だからでしょ」

北上「特別?」

夕張「何回引いても同じ結果しか出ないから何か特別な方法を試す事で違う結果を出したいと思うわけよ」

明石「凄い説得力」

北上「でも私が特別って?」

夕張「スマホを持っていないこと」

夕張「北上は特に意識してないだろうけど、今どきスマホを持ち歩かないって結構異端よ異端。だからこそ物欲センサーをすり抜けるのでは!と思わずにはいられないのよ」

北上「なるほど。凄く納得させられた」

明石「それはそうと基本的には連絡用なんだから持ち歩きなさいよ」

北上「何かを身につけるって割とストレスなんだよね」

夕張「慣れよ慣れ。そのうちパンツと同じくらい身につけて当然になるわ」

北上「つまりたまに身につけないということか」

夕張「ノーパンの事は過去に置いてきてほしい」

明石「というか気づけば心臓と同じくらい身につけるのが必然になるわよ」

北上「無ければ死ぬというのか」

夕張「死ぬでしょ」

明石「死ぬわね」

北上「日本の戦線が崩壊寸前になっている…」

夕張「それにほら、私達仕事でもガチャやってるし」

明石「開発建造改修。どれもリアルラック」

北上「アレってなんでランダムなの」

夕張「結局は妖精さん次第だから」

明石「妖精さん曰く、(・ヮ・)あいまいないめーじゆえ、だそうで」

北上「それ違う妖精さんだよね」

夕張「髪の色的に明石が私ちゃんか」

明石「私が妖精人間か~。夕張は?」

夕張「んー、助手?」

明石「アロハシャツ買おっか」

北上「それはいいから」

明石「まあそんなわけで改修や建造が上手くいかなくても私達のせいにしないで欲しい」

夕張「むしろどうにか成功率をあげようと日々努力しているのに一向に報われない私達を労って欲しい」

北上「ガチャも出ないしね」

明石「日頃の行いなんて結局運には関係ないのよね」

夕張「死にたい…」

北上「むしろ日頃の行いが悪いから?」

明石「それだと私が出てるのがおかしいじゃない?」

北上「そんな堂々と自分は日頃の行いが悪いと宣言されても」

夕張「死にたい」

明石「不運と踊っちまったのね」

夕張「提督も改修や建造でこんなに顔になる時がある」

明石「FXで有り金全部溶かす人の顔」

北上「リアルだからねそっちは。余計に辛いでしょ」

明石「北上が来る前とかも中々悲しい顔してたわよね」

北上「私?なんで」

夕張「大井ちゃんと二人で来ねー来ねーって嘆いてた」

明石「球磨型も丁度揃うところだったしね」

夕張「今日こそは!って二人で変な儀式してダメだったらワーキャー喧嘩して」

明石「仲良いよねぇ」

北上「前からあんな感じなんだね」

夕張「そうそうそう」

明石「ところで北上ってスマホ何処に置いてるの?」

北上「部屋、だと思うけどどうだろう。最後に見たのがいつかも覚えてないや」

夕張「連絡とかどうしてるの…それ」

北上「大体大井っち経由。もしくは直接呼び出し」

明石「携帯しよう携帯を」

北上「携帯ねぇ」

夕張「えーっと、あホントだ。部屋にあるぽ」

明石「てことは一応充電は生きてるのね」

夕張「ほぼ新品未使用のバッテリーだものね」

北上「ちょ、なんでわかんのさ」

夕明「「GPSで」」

そんなさも当たり前のように部屋単位で位置特定できることを暴露されても…

夕張「というか図書室で使ってないの?」

明石「あ~そういえば図書カードアプリ入れたんだっけ」

北上「管理者権限って事で適当に持ち出してる」

夕張「これは酷い」

明石「さんはい」

夕明「「これは酷い」」

北上「何も二回言わなくても」

夕張「大事な事なので」

北上「まーほら、スマホがないってのも悪い事ばかりじゃないしさ」

夕張「ほほう」

明石「例えば?」

北上「例えば、例えば…社会問題ともなっているスマホ依存やSMSによる人間関係問題などに悩まされずにすむじゃないか」

夕張「私達社会とは無関係だし」

明石「問題とともに上司からの連絡まで絶ってどうするのよ」

北上「…スマホからは実は有害な電波が」

夕張「どんなに有害でも敵の砲撃よりはマシでしょ」

北上「くそうこれだから理系は」

提督「おーいたいた」

夕張「ありゃ提督?どーしたんですか」

提督「北上を探してたんだよ」

北上「私?なんでさ」

提督「お前が連絡手段を持ってないからだ」

明石「ほーらやっぱり持ってた方がいいじゃない」

北上「うー、ごめんなさい」

提督「別にいいさ。そう悪い事ばかりでもないしな」

夕張「例えば?」

提督「た、例えば?例えばー、例えば君が傷ついて」

明石「挫けそうになった時は」

北上「必ず僕がそばいて」

夕張「その姿を撮ってSNSに上げていいねを稼ぐよ」

提督「これは酷い」

北上「やはりスマホは悪い文化だ」

明石「いやそれはおかしい」

提督「さて行くか」

北上「いずこへ~」

提督「提督室。大井もいるぞ」

北上「お、じゃあ行くか」

提督「いなかったら来ない気だったのかおい」

夕張「で、例えばなんなのよ提督」

提督「ほーら行くぞー北上ー」

北上「はいはーい」

夕張「あちょっと!無視しないでよぉ」

提督。これも華麗にスルー。

提督「そういや北上。さっきなんで急に部屋出てったんだ?」

北上「ガチャはもうお腹いっぱいだったから…」

提督「ガチャ?」

北上「ありゃ、違うの?」

提督「俺はただ北上用に腕時計型のスマホとかどうかなと聞こうとしててな」

北上「あー」

早とちりだったか。これは悪い事をした。

北上「大きさじゃなくて常に持ち歩くってのがなんかねぇ」

提督「そこは正直我慢してほしいんだがな」

北上「善処します」

提督「しないやつだこれ」

北上「てへ」

提督「てへじゃねえ」

そう言って苦笑する提督は私の歩幅に合わせて少しゆっくりと横を歩く。

提督室までのそう長くない時間だが、まあ、スマホがないというのも、悪くない。

北上「ところで大井っちはなんで部屋に?」

提督「北上と連絡が取れないんだけど何処にいるか知らね?って連絡したら部屋に来た」

北上「ほほう」

なるほどなるほどそれが例えばの内容だったわけか。

大井っちも私を理由に提督に会いに行くとは相変わらずだねえ。

提督「なにニヤニヤしてんだ?」

北上「いやぁ、今日の占いが良かっただけだよ。2位だよ2位」

提督「ん?北上もおひつじ座?」

北上「ありゃ、提督も?」

提督「俺は先祖代々おひつじ座よ」

北上「なにそれ」

提督「いや代々は冗談だけどな。両親ともにおひつじ座だったんだ」

北上「わお。そりゃ大したカップルだ」

提督「だからどうって話だけどな」

北上「私はここに来たのが春だったからね。テキトーにおひつじ座って事にした」

提督「そんなもんか」

北上「そんなもんそんなもん」

北上「やほー大井っち」ガチャ

大井「もう、どこ行ってたんですか」

提督「ただいま~」

吹雪「おかえりなさ~い」

提督「お邪魔しましたー」
吹雪「待てい」グワシッ


北上「今度はなにやったの?」

大井「装備の開発に資源注ぎ込んだらしいですよ」

北上「あー…」

さっき夕張達が言ってたのはそれが原因か。という事は結果は…


提督「いけると思ったんだよ!占いがそう言ってたんだよ!」

吹雪「なら消費した資源と実際にできたものを一言一句間違えずに読み上げてください」

提督「スミマセンデシタ」

大井「どう思います?」

北上「どうとは?」

大井「あそこでワーキャー言い合ってる二人ですよ」

北上「んーそだねぇ」


提督「確率は偏るんだ!こういう日もあるさ!」

吹雪「それでしばらく開発控えるならいいですけどどうせ日を置いたらまた大量に注ぎ込むじゃないですか」

提督「何を根拠に」

吹雪「過去の事実」


北上「ガチャは悪い文化」

大井「おあとがよろしいようで」

北上「よろしいのかなあ」

大井「あ、北上さんもお茶飲みます?」

北上「飲む~」

用法用量を正しく守ろう。

ご指摘ありがとうございます。完全に失念してました。

徹子の部屋?
徹子の部屋…
徹子の部屋!(納得)

56匹目:猫とサンマ





秋刀魚。

秋に捕れる美味しいお魚。

魚特有の初見殺し的読み方。

なんだよ秋の刀の魚って。

意味を聞けばなるほどと思わなくもないけど、それを並べてサンマとは読まんでしょと。

ところでこのサンマ、かどうかは定かではないけど、意外な所で使われていたりする。

球磨「行くよ」

多摩「来いにゃ…」


球多「「三!式!弾!」」

掛け声とともに出されたのはチョキとグー。

球磨姉の勝ちだ。

カウントは球磨姉が3で多摩姉が2。つまり

球磨「勝ったぁぁぁあ!!!」

多摩「ニャ…にゃぁぁ」orz

木曾「はい球磨姉の勝ち」

大井「では多摩姉さんお願いします」

多摩「ニャァァ…」

北上「頑張って~」

サンマ。

及びごーま。

じゃんけんの一種である。

ジャンケンポンのリズムでさーんーま、ごーおーまと掛け声を出しながらじゃんけんをするものだ。

では一体何がじゃんけんと違うのかというとサンマは3点先取。ごーまは5点先取の勝負なのだ。

3マ、と5マ。雑だ。だけどわかりやすい。

どちらかが規定の回数勝つまでじゃんけんをする単純なルール。

1回きりのじゃんけんより心理戦の趣が強く読み合いのレベルが高いのが特徴。

基本的には流れを掴んだものが勝つ。

ちなみに地方によってルールや掛け声に差異がある。

発祥がどこなのかはさっぱり謎だ。

その鎮守府バージョン。

それが三式弾。

ちなみに5回ならごーや。

10回勝負の徹甲弾もあるがあまり好まれない。

多摩「トイレ掃除ってもしかしてやらなくてもいいんじゃないかにゃ」

木曾「残念ながら点検対象だ」

大井「多摩姉さんがサボった場合私達全員の責任なんですからね」

球磨「ふははははは!負けを認めてさっさと行くクマァ!」

ちなみに今回はトイレ掃除をかけた勝負だ。

秋に向けた、鎮守府衣替え兼大掃除の日である。

北上「あれ?一個足りない」

カーテンを付け替えていたのだがあの引っ掛ける部分が1つ足りない。

木曾「一個ズレたんじゃないか?」

北上「ズレた…あーホントだ。うひー付け直しだよぉ」

木曾「テキトーにやるからだろ」

北上「キソー代わって~」

木曾「断る」

北上「ちぇー」ガタッ

台にしている椅子を体の反動で右にスライドさせる。

なんだかサーフィンでもしている気分だ。

大井「あ!北上さん危ないです!ちゃんと降りてください!」

北上「だいじょーぶだいじょーぶ」ガタ

大井「わかりましたともかく一度ストップです。私が支えるのでそれに合わせて移動してください」

北上「はいはい」

相変わらず過保護な。

木曾「おい姉ドアの掃除はいいのか?」

大井「もう終わったわ」

木曾「はやっ!」

北上「よっし終わり」

木曾「いかにも秋って感じのカーテンだな」

北上「でもわざわざカーテンまで変えなくても」

木曾「一応外気を遮断するために分厚いものになってるしビジュアルだけが目的じゃないんだよ」

北上「あーなるほど」

大井「夏は海風が心地よいですけれど、冬は中々堪える寒さになりますからね」

北上「うひー…怖い怖い。しっかり閉じましりとこう」

大井「さてお次は机の掃除ですかね」

球磨「みんな~濡れ雑巾持ってきたクマ~」

北上「よーし机掃除開始~」

「「「お~」」」

北上「と言ってもさほど掃除することもないなあ」

自分の机を濡れ雑巾で磨きながら思った事を口に出してみる。

木曾「上姉は所有物少ないもんな」

北上「お気に入りの本と筆記用具に少しの紙と、あ!スマホここに入れてたのか」

大井「携帯してくださいよ」ヤレヤレ

北上「たは~善処しま~す」

球磨「そういう木曾もそんなに物はないクマ」

木曾「まあこんなもんだろ。球磨姉だってそうだろ」

北上「というか大井っちが多い」

球磨「大井が多い…」ボソッ

大井「…球磨姉さん?」ニッコリ

球磨「なんでもない」キリッ

北上「手伝うよ大井っち」

大井「そんな悪いですよ」

北上「いーじゃんいーじゃん。素直に甘えたまえよ」

大井「じゃあここの棚の物を1回全部下ろして貰っていいですか」

北上「あいよ」

木曾「よし、俺も手伝うよ」

球磨「球磨も手伝うクマ!」

大井「球磨姉さんは多摩姉さんの机を磨いといてください」

球磨「なぁ!怒ってた、やっぱり怒ってたクマ!?」

大井「怒ってません」

球磨「怒ってるクマ!」

大井「怒ってません」

木曾「この雑誌とかはどうする?」

大井「そうねえ。後で捨てるものと分けるからそこに詰んでおいて」

木曾「あいよ。お、これいいな」

大井「手伝うなら読んでないで手を動かしなさい」

木曾「う、サーセン」

北上「わーこれ美味しそう」

大井「!それはですね!ハロウィンのお菓子特集のやつで!」

木曾「おい手を動かすんじゃないのかよ」

大井「北上さんはいいんです」

木曾「開き直りすぎだろ!」

球磨「キソー」

木曾「なんだい」

球磨「これなんだと思う?」

木曾「猫のー、猫の…猫の?置物?」

球磨「でもなんか触るとふにふにしてる」

木曾「多摩姉のか?」

球磨「そう。ホコリかぶってるけどなんか下手に触るのが怖い」

木曾「ライト、とかか」

北上「なになに?うわ…なに?」

球磨「それがわからんから苦労してる」

大井「ここだけ何か硬くないですか?」

球磨「ホントだ。スイッチみたい」

木曾「押しみるか」

北上「どうぞどうぞ」

球磨「爆発しそうでいやだ」

木曾「いや爆発はしないだろ…」

球磨「じゃあ木曾が押せ」

木曾「え……やだ」

球磨「やっぱり怖がってるじゃないか!」

北上「姉ちゃんここはクマを付けて愛らしく」

球磨「木曾に押して欲しいクマァ」
木曾「やだ」
球磨「キサマぁ!」

大井「えい」ポチ


置物「ニャア(低音」

「「「「……」」」」

球磨「多摩はよくわからん物ばかり持ってるクマ」

木曾「あんなもの一体どこから手に入れたんだか。あ球磨姉、引き出しの一番下には手をつけるなよ」

球磨「わかってるクマ」

北上「…一番下?」

球磨「そう、ここだけは開けるなと念を推していた。多摩らしくもない真剣な顔で」

北上「へえ」

ダメだと言ってはいたのか。罪悪感と背徳感が今になって押し寄せてきた…

木曾「日記が入ってるだけだったけどな」

北上「え」

球磨「恥ずかしがり屋な妹クマ」

北上「え」

大井「あ、日記なら私もつけてますよ。北上さん見ます?」

北上「え゛」

まだ 最終海域が 終わって いない

ロリ金剛と同士でっかいのはタシュケられたので…

球磨「見るなとか言われて見ない方がおかしいクマ」

北上「それはおかしいでしょ」

木曾「別にじっくりは見てないさ。流石にそこまでするのは悪いからな」

北上「いや悪いでしょ既に」

大井「ポエムでも書いてるのかと思いましたけどただの日記なら特に言うこともないですね」

当然のようにみんな見ていた…まあここで私がいくら言っても盗人猛々しいというだけの話なのだが。

球磨「せっかくだし北上も見ておくクマ?」

北上「遠慮しとくよ…逆に見る気がなくなった」

木曾「衣替えと掃除はこんくらいかな」

皆日記を見ていながら何も反応がないということは最初の方は見ていないのか。

大井「あら、衣替えなのに衣を変えてなかったわね」

パッと見て日記だと分かったらその時点で読むのを止めた、という感じか。

球磨「衣?服の事かクマ」

まあ下手に目撃者が多いよりはいいか。騒ぎにしたくはないし。

木曾「でも俺達服なんてほとんどないぞ」

球磨「北上なんて特にそうクマ」

北上「へ、私?何が」

大井「服ですよ服」

北上「あぁね。水着も結局借りちゃったものね」

木曾「上姉はその制服と下着だけだもんな」

球磨「球磨達も水着と夏用冬用の服とで、多分10着もないクマね」

大井「私はかなり多いですけど、それでもやはり女性としては少ないほうですね」

北上「大井っちはともかく他は服とか着る機会あるの?」

木曾「ぶっちゃけないな」

球磨「皆で出かけた時に買っただけクマ」

北上「みんな?」

木曾「一度球磨型4人で外に買い物に出かけたことがあってさ」

大井「そうですよ!せっかく5人全員揃ったんですしまた行きましょうよ」

外に遊びに、か。そりゃ悪くない。

球磨「予定が合うか、だ」

木曾「そこだよなあ。提督にはおい姉が頼めばなんとかなるだろうけど」

大井「吹雪が許してくれるといいのだけれど」

北上「あーそこかあ」

割と暇な時間の多い艦娘だが1日暇かと言われるとそうでもない。

まだまだ練度上げ中の私や大井っちは演習やらがあるし、貴重な雷巡の木曾も出番は多い。

練度の高い多摩姉も遠征や出撃などの引率役として意外と忙しい。

木曾「そこへいくと1番暇なのは球磨姉さんだよな」

球磨「クマッ!?」

大井「微妙に出番がないですものね」

球磨「クマァッ!?」

球磨「意外と傷つきやすい球磨ちゃんってよく言われるクマ…」グスン

多摩「ただいまに…どういう状況だにゃ」

木曾「また球磨型皆で外に遊びに行かないかって話してたんだ」

多摩「とてもそうは見えないにゃ」

大井「球磨姉さんはそっとしておいてあげてください」

多摩「お、おうにゃ」

北上「おーよしよし、いいこいいこ」ナデナデ

球磨「クマァ」

川内「球磨型のしょくーん」

多摩「にゃ?」

球磨「川内、どうした?」

川内「相変わらずクマがつかないね。じゃなくて、てーとくが物置小屋に応援求むってさ」

球磨「何かあったのか、クマ?」

川内「予想以上に物置に物があったらしいよ。だから各部屋から1人ずつ人柱を立てるようにって」

木曾「人柱ってお前な…」

人柱は川や海を沈めるためにも用いられたという。私達には少し笑えない話とも言える。

川内「あーちなみに川内型の犠牲者は私ね」トホホ

川内「そいじゃね~」


多摩「だってにゃ」

球磨「さてどうするクマ」

大井「それはもう決まってますよ」

木曾「だな」

北上「やっちゃいましょうかねえ」

多摩「ところで多摩はさっき負けているので今回h「出さなきゃ負けクマ」聞けに゛ゃあ゛!」

北上「5?」

木曾「3で」

球磨「3」

北上「よし」

多摩「よくないにゃ」
北上「出さなきゃまけよ」

「「「「三 式 弾!」」」」




ちなみに、数分の死闘の後普通に木曾が負けた。

駆け抜けた(乙)

甲にしてたらと思うと…
E1でフル改修にした卵焼きが得意な嫁が大暴れしてくれたので満足です
エンディングの存在は、後で知りました…

58匹目:寝る子



猫とは、ねるこ、が語源だとかそうじゃないとか。




北上「…にゃ」

徐々に意識が覚醒していく。

陽炎のように揺れながら思考の奥へと消えていく夢の世界を必死に追いかけようとするが、ある一言が私をいっぺんに現実世界に引っ張り出す。

大井「朝ですよ、北上さん」

北上「…はよ」

大井「はい。おはようございます」

観念して目を開ける。

私の枕元に座り優しくほほ笑みかける大井っちは、紛れもない現実だ。

大井っちは私を起こしてくれる。

無論頼んだわけではない。自主的にだ。

最も私もその優しさにガッツリ甘えているわけで、実際大井っちがいなかったら寝坊の北上と言う不名誉な称号を貰っていた事だろう。

北上「あーあ。出撃なんてなけりゃいいのにさ」

大井「今日は演習ですよ」

そう言いながら優しく私の髪にクシを通す。

北上「似たようなものでしょ」

大井「全然違いますよ」

北上「早起きならどっちも同じだよ。はぁやだやだ、大井っち一緒に二度寝しない?」

大井「着替えここに置いておきますね」

北上「ちぇー容赦ないや」

もっとも毎日起こしてくれるわけじゃない。

あくまで私が出撃やらなんやらで起きなくてはならない日だけだ。

それ以外の日は決して私の眠りを邪魔しない。

つまり

秋雲「お、北上サンおはー。おは?おはじゃないか」

北上「おそよう」

秋雲「あははそれそれ。遅ようだ」

部屋を出て右に真っ直ぐ行くと共有の洗面所がある。

このフロアだと使うのは主に駆逐艦と軽巡だ。

現在時刻は正午、を少し過ぎたあたり。

少し、随分と遅めではあるが私はまだ完全に覚めていない顔を洗っていたところだ。

秋雲「相変わらず遅いっすね~」ジャー

北上「そういう秋雲こそ遅いじゃん」パシャパシャ

お互いまずは顔を洗う。

秋雲「いやぁ、原稿がねぇ…」パシャパシャ

北上「進捗どうですか」ジャー

秋雲「ダメです」キュッ

北上「ダメじゃん」キュッ

水を止め濡れて顔を拭く。顔を濡らすより濡れて顔を吹いた瞬間の方が私は気持ちいいと思う。

秋雲「気づいたらこの手は筆ではなくコントローラーを握っていた」プルプル

北上「自制心を鍛えよう」ホイ

タオルを見失ったらしい秋雲にタオルを渡す。

秋雲「お互い様」フキフキ

北上「私は夜更かししてるんじゃないもの。寝すぎてるだけ」

秋雲「それもそれでどうなんだろ」

北上「自由な時間のために睡眠を削るんじゃなくて自由な時間をいくらか睡眠に
当ててるだけだよ」

秋雲「お、なんかカッコイイ」

北上「だしょ」

秋雲とは夕張明石繋がりで割と話すようになった。

なんというか凄く空気が読める子だ。距離感がうまい、とでも言うのかな。

凄く親しいという訳でもないけれど会話に困らない程度のいい友人である。

秋雲「北上サン今日はお仕事あり?」

北上「ヒトゴーから演習」

今度はお互い髪を結ぶ。

演習もあるししっかり結んでおかないと。ちなみに無い時はポニテか結ばないでほおってる。

秋雲「後2時間半くらいかあ」グッ

北上「適当に腹ごしらえせにゃ。秋雲はお仕事あり?」スルスル

秋雲「今日はなし。明日はあり」シュッ

北上「秋雲先生はお仕事ありあり?」ギュ

秋雲「今日も明日もありありぃ…」

北上「気を落とすならやらにゃいいのに」

秋雲「気は落とせても原稿は落とせんのです…」

北上「だれうま」

三つ編みめんどくさい…やっぱ後で大井っちにやってもらおう。

秋雲「これをやめたら死ぬのよ秋雲は。書く事と心臓が動くことは同義」

秋雲はポニテ、でいいのかな。

長いけど量は少ないので楽そうだ。

秋雲「ほいじゃまったね~」

北上「また~」

秋雲「あそーだ。今度バリちゃん達とアニメ一挙視聴やるんだけど来る?」

北上「うーん内容による」

秋雲「オーキドーキ。決まったら連絡するね」ノシ

北上「あいあい」

たっぷり寝過ごした昼の洗面所。

意外な人と二人っきりになったりしてそれが少し楽しみになっているところがあるのは否めない。

別の日。

北上「おや」

叢雲「あら」

ばったりと。

そんな唐突な出会い。

北上「おはよー」

叢雲「おはよーって、もう昼…あぁおはよう」

どうやら私のボサボサの髪とクシャクシャの顔を見て察してくれたようだ。

しかしそれはともかくとして、

北上「叢雲もおはよう?」

叢雲「えぇ、おはようよ」

そう。叢雲も同じように起きたてほやほやと言った格好だった。

北上「珍しいじゃん」

叢雲とも話す機会はそれなりに多い。

提督といると吹雪がやってきてそこに叢雲もいて、みたいなことばかりだけど。

叢雲「たまにはね。夜遅くまで遊んでたから」

二人並んで髪をとかす。叢雲もかなり髪が長いほうだ、色々大変そうである。

北上「なんでまた?」

叢雲「吹雪が皆と遊びたいーっていうから相手してあげたのよ」

北上「吹雪が?」

叢雲「吹雪が」

そりゃまたさらに意外な。真面目、優等生、学級委員長の擬人化みたいなやつなのに。

北上「雪でも降るのかね」

叢雲「あの子も人の子よ。息抜きくらいしたくなるんでしょ」

北上「息抜きねえ」

そういえば休憩中に隠れてアルコールいれたりしてたっけ。

叢雲「まったく、付き合う身にもなって欲しいわ」

北上「でも付き合うんだ」

叢雲「仕方ないでしょ」

バレないように鏡を利用して隣で髪をといている叢雲を見る。

口元がにやけてることを指摘するとまたぞろどんな言い訳が飛び出すか分からないので黙っておく。

北上「皆って吹雪型の皆で?」

吹雪型というと吹雪叢雲に雪が3人と、あれ?後誰だっけ…

叢雲「いいえ。特型姉妹の皆、よ」

北上「特型」

めちゃくちゃ多かった気がするが。

叢雲「今日仕事の娘もいるし最後まで起きてたのは10人もいなかったけれど」

十分多い。さすが駆逐艦。

北上「姉妹が多いってのも大変だね。それで何やってたのさ」

叢雲「トランプとかワードウルフとか」

北上「どうだった?」

叢雲「初雪が妙に強かったわ…」

北上「なんかわかる」

叢雲「後雷も強かったわ」

北上「それは意外。で主催者はまだ寝てるの?」

叢雲「起きたらいなかったしどうにも普通に秘書艦やってるみたいよ」

北上「え、徹夜してるのに」

仕事人間すぎるのでは。

人の子ではなく艦娘だからこそ出来る芸当、なのかな。

叢雲「ちょっとは寝たと思うけれどそういう問題じゃないわ」

北上「だろうね」

叢雲「だから朝…昼ご飯を食べたらふん捕まえてはっ倒してでも寝かせるつもりよ」

パン、と両手で頬を叩き鏡を睨みつける叢雲。

コワイ。

叢雲「アナタはなんで夜更かしを?」

北上「私は寝すぎてるだけで夜更かしはしてないよ。10時には寝てるもん」

叢雲「その睡眠欲吹雪に分けてあげてほしいわ」

北上「吹雪は欲があっても寝ないでしょ」

叢雲「そうね。だから困るのよ」

北上「さもありなん」

叢雲「よかったら一緒に来ない?私一人じゃ捕まえるの苦労するし」

北上「遠慮しとくよ。なんかあとが怖いし」

叢雲「あら、秘書艦に日頃の鬱憤を晴らす貴重な機会よ?」

北上「別に鬱憤なんかないよ。晴らすとしたら、あー…」

叢雲「ん?なにかあるの?」

北上「いや、やっぱないや」

叢雲「え~気になるじゃない」

北上「プライベートで~す。黙秘権黙秘権」

晴らすなら、謎の期待を少しやめていただきたい。

叢雲「それじゃ」

北上「頑張れー」

叢雲「応援より増援が欲しいわ」

北上「嫌厭しとく」

叢雲「残念」

なんて特に残念そうな素振りもなく手をヒラヒラとさせながら提督室の方へと去っていく。

北上「ふむ」

しかしせっかくの機会だったというのにまた聞きそびれてしまった。

艤装をしていないのにも関わらず叢雲の頭上に当然のように浮いているあのファンネル(仮)。

北上「何なんだろう」

なんなんだろう

特に物語に絡む要素ではないので明言していませんが例えば吹雪、叢雲と聞いて未改造、改造後のどちらが先に思い浮かぶかは人によりそうです。
私は前者は改造後、後者は未改造ですかね。

吹雪「それ何?って聞いたらこれ以上ここにはおれませんって飛び去っていきそうで聞けてないんですよね」

北上「鶴の恩返しじゃあるまいし」

叢雲と会った次の日のお昼。

今度は吹雪と出会った。

吹雪「何せ生まれた時からありますからね」

北上「でも海で泳いでた時は確かなかったよ」

吹雪「お風呂とかの時も消えますね。あと寝る時も」

北上「消える?消えるの?アレが?」

吹雪「消えますね。スッ…って。この前も疲れた~って布団に倒れ込んだ瞬間に消えてました」

北上「なにそれこわい」

吹雪「消える時も現れる時も気づいたらそうなってるんですよね~」

そりゃ聞きたくても聞けんわ。

北上「で、今日はなんでこんな遅くにおはようなの?」

吹雪「またまた~知ってるくせに」

北上「結構騒ぎになったものね」

叢雲の「はっ倒してでも寝かせる」はホントにはっ倒して寝かせる事だったようで、提督室で一悶着あったらしい。

吹雪「ビックリしましたよ。いきなり部屋に入ってきたと思ったらつかつかと私の前まで来てグーパンですよグーパン。右ストレート」シュッシュッ

北上「そんなにハードだったのアレ」

吹雪「めっちゃハードでした。面食らって思わず受け止めちゃいましたもの」

かわせずに受け止めた、という話なのだろうが咄嗟に防御できるあたり吹雪の練度の高さが伺える。

北上「そのまま殴り合い?」

吹雪「まさかー、そこまではやりませんよ」

やりそうだよ君らなら。

吹雪「叢雲がこう続け様に二三発打って防いでる隙に脚を払われてお終いでした」

北上「わーお」

吹雪「カッコよかったですよー。倒れ込んだ私の上に馬乗りになって胸ぐらをグッと掴んでですね、この程度もあしらえないくらいフラフラの癖に仕事なんかしてんじゃないわよ!寝ろ!って」

迫真の演技。やられた張本人だけあって臨場感がすごい。

北上「それ提督の前でやったんでしょ…?」

昨日見た叢雲のコワイ表情を思い出す。

私ならチビるな。

吹雪「私も提督もあまりの事にフリーズしましたね。その後提督がまず話を聞かせろと言うので事の発端を話して、まあ最終的に私に休暇命令がでました」

北上「ちゃんと対応したんだ提督。てっきりビビって何も出来なかったのかと」

吹雪「そこはまあ仮にも提督ですからね、提督」

北上「仮ねえ」

それくらいの信頼はおいているのか。

北上「そもそも吹雪が皆で遊びたいって言うからでしょ」

吹雪「へ?私そんな事言ってませんけれど」

北上「え」

吹雪「ん?あー」

北上「何その分かってしまったみたいな反応」

吹雪「誰から聞きました?」

北上「誰って、叢雲だけど」

吹雪「はーん。はは~ん。へへぇ~」ニヨニヨ

段々と顔が緩んでいく吹雪。

北上「まさかそのまま1人だけ納得して終わりってんじゃないよね」

吹雪「いいでしょう。可愛い妹の可愛い所を教えてあげましょう」フフン

吹雪「一週間くらい前かな。叢雲に何の気なしにポロッと愚痴ったんですよ。そういえば最近妹達と遊べてないなーって」

北上「ちなみに最後に遊んだのはいつ?」

吹雪「春頃に鎮守府で花見した時ですかね。そこからはあまり」

北上「そりゃまた随分時間が空いてるね」

吹雪「そうなんですよ。それで思わず寂しくなっちゃって、という程じゃないですけど」

北上「口から漏れちゃったと」

吹雪「ええ。次の日には言った事も忘れてましたけどね」

北上「叢雲はしっかり覚えてたってわけか」

吹雪「まさかあんなサプライズをくれるなんて、愛がヒシヒシと伝わってきますね~」

北上「案外叢雲の方も寂しかったんじゃない?」

吹雪「ん…それは、考えてなかったですね。毎日アレだけ可愛がってあげてるのに寂しいとは生意気な」プンスカ

北上「可愛がるねぇ…」

主にからかってばかりじゃん。可愛いがるのニュアンスが少し違うのでは。

北上「でもさ、そのサプライズは叢雲が企画したものなんでしょ?気が付かなかったの?」

吹雪「仕事中に白雪ちゃんから今日みんなで遊ぶんだって事を聞いただけだしたから。事の始まりも暁姉妹と漣がきっかけみたいでしたし」

北上「じゃ叢雲は隠してたのかな」

吹雪「多分そうなんでしょうね」

北上「ふーん。となると昨日私に漏らしちゃったのはそれだけ気が立ってた、ってことなのかな」

チラと吹雪の顔色を伺ってみる。

吹雪「そういうこと、なんですかねえ」

流石に困った表情を浮かべる。

吹雪「叢雲も叢雲で、恥ずかしがらずにハッキリと言ってくれればいいんですけど」

北上「確かに。なんでそんなに恥ずかしがってんだろ」

吹雪「思春期かな」

北上「青春の秋か~」

吹雪「反抗期とか」

北上「成長の秋だね」

吹雪「デレ期が来た」

北上「恋愛の秋?」

吹雪「さて、私はもう一眠りしてきちゃおっかな」

北上「まだ寝るの」

吹雪「休めと言われた以上はとことん休まなきゃ。仕事の方はどうやら叢雲がしっかりやってくれてるみたいですし」

北上「秘書艦代理?」

吹雪「ええ。あと提督の世話も」

北上「世話って…」

吹雪「ちゃーんと宿題やってるか監視しなきゃですし」

北上「おかーちゃんかっての」

吹雪「でも叢雲ってお母さんっぽさありますよね、性格は」

北上「言われてみれば。厳しそうなカーチャンだね。最近じゃそういうのバブみっていうとか」

吹雪「バブ?」

北上「ソースは夕張達なんだけどね」

吹雪「わ~テレビとかでやってる流行語大賞並に信用出来ない」

吹雪「それではおやすみなさい」

北上「いい夢を、眠り姫」

吹雪「キスで起こしに来るように叢雲に言っといてください」

北上「それじゃシンデレラだよ」

吹雪「え、白雪姫じゃ」

北上「あれ」

吹雪「まあどれも似たようなものでしょ」

姉妹愛か。それはとても、羨ましいものだ。

北上「おや」

洗面所から水の音がする。

さて今日は誰がいるのだろうか。

ひょいと中を覗いてみると白というよりは銀に近い色の髪を邪魔になるからか後ろで軽く結わえ顔を洗っているちびっ子がいた。

北上「ハラショー」

とりあえず声をかけてみる。

響「それは挨拶じゃない」

水を止め顔を拭いた後所々に黒い跡が残る顔でそう言った。

北上「ってうわ、何その顔」

響「マジックの後だよ。幸いにも油性じゃないみたいだ」

ハラショー、と私の挨拶に返してくれた。

響「電にやられてね」

北上「なんでまた」

響「プリンを食べたのがバレた」

北上「…なんでまた」

響「美味しそうだったから」

北上「情状酌量の余地なしな犯行理由だね」

響「いけると思ったんだけどね」

北上「確信犯か」

大人びているようで、むしろだからこそ根は随分と子供っぽいやつだ。

響「…」ジャー

北上「…」

響「…」ゴシゴシ

北上「…」パシャパシャ

響「…取れない」

北上「手伝おうか?」

響「いや、問題ない」

北上「でもまだ黒ずんでるよ?」

響「流石にこれは、恥ずかしいな」ゴシゴシ

北上「油性じゃなくてよかったじゃん」

響「流石にそこまではしない、と、思うよ」

北上「不安になってるじゃん」

響「悪いのは私だし甘んじて受け止めるさ」

響「…」

北上「…」

無言の空間。

多少意味合いが違うがお互い顔を洗いに来ただけだし特に喋ることもないといえば無いのだが。

響「取れた」

北上「…ホントだ」

響。

普段は4姉妹で行動していて私を見つけ次第寄ってくるウザったい奴らなのだが、

こうして個別で会ってみると対応に困る。

響「どうかな」

北上「キレイだよ」

響「何だか恋人同士の会話みたいだね今の」

北上「その発想はなかった」

北上「そういえばこの前夜通し吹雪を労る会やってたんだってね」

響「ん、知ってたんだ。吹雪の事」

北上「あーうん。叢雲と、吹雪から直接聞いちゃってね。叢雲の方は口を滑らしたって感じだけど」

響「そうか、そうかい…」

北上「どしたの?」

響「当日、叢雲に夜みんなで遊ぼうと提案されてね。勿論内緒にするように言われて」

北上「案の定だね」

響「色々と察しはついたから行動力のある暁達と影響力のある漣を最初に巻き込んで、後は流れる様に皆で集まったよ」

流石に叢雲が任せるだけあって行動が的確だ。

北上「いいねぇ、侘び寂びだねぇ。家族愛ってのはいいものだよ」

響「…そうだね。その通りだと思うよ」

北上「なにさ。さっきから少し顔が怖いよ?」

響「吹雪はね、何も言わないんだよ」

北上「何も?あんなにいつもペラペラと喋ってるのに?」

響「そういう意味じゃない。何も、話してくれないんだ」

北上「何も…」

響「忙しくてそういう機会が少ないのは確かだ。それでも同じ艦隊の仲間で、一応姉妹艦だ。なのに私達を頼ったりしないんだ」

北上「1人で何でもやっちゃうタイプか」

響「そう。でもそうじゃない。頼ったり愚痴ったりする相手がいないわけじゃないんだ」

頼ったり愚痴ったり。それはつまり

北上「叢雲か」

響「そして北上さんも」

北上「え?私?」

響「うん」

北上「いや私ゃ別に頼られたり…」

そういえば謎の期待をされてたっけ。

北上「愚痴られたり…」

色々と話してくれる事は多いかもしれない。

北上「されてるか」

響「ほら」

北上「いやでも、うーん、なんでだろ」

響「それは分からないかな」

北上「なに、嫉妬した?」

響「それも少し」

少しはしたのか。

響「私達がその役でないのは少し悔しいけど、結果として頼ったり愚痴ったりする相手がいるのはいい事さ」

北上「私としてはあんまり頼られてもなあ」

響「私達がやりたくても出来ないことをやってるんだ。頑張ってみてよ」

北上「いじわる」

響「嫉妬してるのさ」

そう涼し気な顔でニヤリと笑う。

響「おねーちゃんをよろしくね」

北上「あっこら。行っちゃった…」

押し付けて行きやがった。

子供っぽくて大人びていてちぐはぐで、人ではなく船でもなく、だから艦娘なのかもしれない。

北上「あれでも艦娘としては私より年上なんだよなあ」

ややこしい。

暁「う~~」バシャバシャ

北上「…」

暁「ん~~!」ゴシゴシ

北上「…どう?」

暁「全然取れない!」

北上「一応聞くけど誰にやられたの?」

暁「響よ!響に決まってるわ!」

北上「デスヨネー」

後日、響はしっかり仕返ししてた。

全然甘んじて受け止めてないじゃん。

暁「あーんこんなんじゃレディ失格よお!!」

北上「…ハラショー」

ダラダラと続いてゆく

書いていて好きになったタイプなので実は吹雪が鎮守府にいなかったり
そもそも特型駆逐艦が叢雲と暁姉妹以外誰もいなかったり

うおぉ…完全なるミス
こっそり電→暁に脳内変換してください

毎日ちょこちょこ書いてると話の中身がズレるのが怖い

60匹目:猫車




猫車、と聞くと日本を代表するアニメ映画に登場する足が何本も生えた猫のバスを想像するかもしれないがコレとは一切関係ない。

猫車とは手押し車の事だ。

何故猫なのかは諸説あるがそれだけ猫という存在は人に近いところにあった事がわかる。

それとは全然話が違うのだが猫は車酔いとかあるのだろうか?

少なくとも艦娘になってからの私が車で酔わない事はこの日に判明した。

そう、その日は案外早く来た。

球磨「みんなー準備はいいクマァ?」

「「「「おー」」」」

球磨姉の前に四人並んで掛け声に答える。

球磨型の長女としての行動に満足したのか誇らしげな笑みを浮かべる球磨姉の後には、

車。

あののっぺりとした、軽自動車?とかじゃなく四角い感じの大きめのやつ。

なんというのだろう。船なので車はとんと分からない。

提督「朝からテンション高いな」ファ~

吹雪「眠いなら寝ててもいいんですよ。どうせ起きてても仕事量変わらないんですし」

提督「覚めるわ~めっちゃ目ぇ覚めるわ~」

多摩「朝から痴話喧嘩とは元気いいにゃ」

木曾「見送りに来た保護者みたいだな」

北上「実際立ち位置は保護者だよね」

北上「でもよかったの?こんなにあっさりと5人で外出なんて」

吹雪「あくまで買い出しって体でですからね。そこの所忘れないよーに」

提督「まあそういうこった。それにこれからは秋刀魚漁で忙しくなるしその前にな」

北上「サンマ?」

大井「北上さーん。もう出発しますよ~」

北上「あいはーい」

振り返ると左後部座席の中から大井っちが手を振っている。

皆も既に乗り込んでいるようだ。

大井「これをこうして、ここにカチッと」

北上「おおーこれがシートベルトかぁ」

多摩「多摩達の身体なら大抵の事故には耐えられるけどにゃ」

球磨「交通ルールの問題クマ。か弱い人間に合わせるしかないクマ」

木曾「球磨姉言い方言い方」

球磨「気にするなクマ。とりあえず木曾はナビの準備頼むクマ」

そう言いながら球磨姉はミラーとかを調節してる。

座席の上から飛び出ているアホ毛がなんだか可愛い。

ちなみに席順は運転手が球磨姉。助手席に木曾。後部座席に右から多摩姉大井っち私だ。

木曾「ん?おい球磨姉、窓窓。助手席の」

球磨「窓?あー今開けるクマ」

見ると助手席の窓を提督が叩いている。

提督「最終確認だ。あくまで今日は買い出し。それを忘れない事」

球磨「はーい先生」

提督「誰が先生だ。買い物メモはさっきスマホで送った通り。追加があったらまた連絡する」

多摩「はーいお父さん」

提督「誰がお父さんだ。後いつでも連絡は取れるようにしとく事。特に北上」

北上「うっ、はーいパパ」

提督「誰がパパだ。ホントに大丈夫なのか大井?」

大井「電話の使い方は昨日みっちり教えたので大丈夫ですよ過保護」

提督「誰が過保護だつか呼び名ですらねえだろそれ。それに過保護はお前もだ」

大井「は?」

提督「あ?」

木曾「もう窓閉めてもいいかな…」

北上「いいんじゃない」

球磨「それでは!」

「「「「抜錨!」」」」


時刻はマルキュウマルマル。

季節は少しづつ色めき立つ木々とは裏腹に心地よい涼しさが戻ってくる秋。

艦娘などと名乗っておきながら1度も船に乗ったことのない私は今日、

初めてのドライブに出た。

木曾「こんな田舎道特に混むこともないし、1時間弱で着くだろう」

球磨「まだ少し暑いクマ?」

多摩「冷房はいいにゃ。窓開ければ事足りるにゃ。後今日はクマはいいにゃ」

球磨「おおそうだった」

北上「いらないの?」

木曾「処世術ってやつかな」

北上「処世術…」

ということは。

北上「2人のそのかっこうもそうなの?」

前に座る2人に向かって朝から抱いていた疑問を投げかける。

球磨「その通りだ」

普段の愛らしい言動から忘れがちなスラリと長い足にジーパンを履き、

毛皮のように広がる髪をこの時期にはまだ少し暑そうなフワフワのモッズコートで隠し、

何よりクリンとした瞳をグラサンみたいな色の伊達メガネで隠している。

木曾「変装みたいなものだけどな」

木曾も同じような服装だ。

グラサンに露出の少ない服。いかした帽子が木曾にピッタリだ。

北上「で、一体どんな意味が」

多摩「多摩が説明するにゃ」

球磨「えー」

大井「2人は運転に集中してください」

ちなみに私と大井っちと多摩姉はラフな格好だ。

(※Availファッション)

多摩「まず想像してみて欲しいにゃ」

北上「ほう」

多摩「いつもの格好の球磨が運転席に座っている姿を」

北上「いつもの」

ともすれば中学生にも見える我らがマスコット球磨姉が運転している姿。

多摩「それをお巡りさんが見たらどう思うにゃ」

北上「アウトだね」ウンウン

大井「そういうことです」

北上「なるほど」

球磨「実際大変だった」

北上「前例あるの!?」

球磨「免許取り立てで調子乗ってたんだ」

大井「前に話した4人で出かけた時です」

多摩「デパートの駐車場前で交通整理してたお巡りさんに見られたんだにゃ」

木曾「あの時の警官の表情はなんというか、正直面白かった」

球磨「でも笑い事じゃねー。こっちは職質されてんだ」

大井「お互いにすごく戸惑ってましたね」

北上「そりゃそうでしょうよ」

怪しいヤツならともかく高校生か中学生4人組が保護者なしでデパートに車で来てる図なんて想像しようにも出来るものではあるまい。

木曾「他にもナンパとか」

球磨「カード使う時もいちいち確認されて面倒だった」

北上「それでその、大人っぽいというか、イケイケな恰好なわけ」

木曾「そ。効果があるかはまだわからないんだけどさ」

球磨「今日は球磨達が保護者役だ」

多摩「クマを取れってのもそういうことだにゃ」

大井「基本的に外部の人間との会話は2人に任せることにしたんです」

北上「色々対策済なのね」

球磨「そういうことだ」

木曾「次の信号右な」

球磨「おう」

北上「免許、もってるの?皆も」

多摩「球磨型は多摩と球磨だけにゃ」

大井「持ってる人はそこそこいますね。最近だと夜戦バカが大型二輪取ったとか」

北上「えぇ…あいつが?」

いつ乗るんだ…

木曾「阿武隈とかも持ってるぞ。大型の」

北上「えぇ嘘ぉ!?」

北上「免許ってそもそも何処で取るのさ」

大井「年に一、二回くらい地方ごとに海軍で合宿があるんです。大きい鎮守府とかをしばらく借りて」

多摩「ここら辺だと、あれにゃ。最近勲章貰って話題になってた白ヒゲの提督のとこを借りるんだにゃ」

北上「へー。結構しっかりしてんだねえ」

木曾「だから見た目的にはアウトでも一応合法なんだよな」

多摩「だからこそ余計ややこしいんだにゃ」

北上「一応成人扱いなんだっけ」

球磨「球磨達は基本的に軍人だ。そして軍人は当然成人。逆説的ではあるけど成人って事になってる」

木曾「あ、次左だから車線へんこー」

球磨「おう」

大井「お酒も飲めますしね」

多摩「北上も持ってるにゃ。身分証明書」

北上「あぁこれね」

大井「それがあれば問題なしです」

木曾「確認したりするのは面倒なんだけどな」

球磨「あの時の警官も、えマジ?これが噂の艦娘?どないする?みたいな感じでえらく手間取ってた」

北上「ご愁傷様」

多摩「ちなみにこれが免許にゃ」

北上「おーなんか少しカッコイイ」

多摩「艦娘のは特別仕様なんだにゃ」ドヤァ

木曾「球磨姉、なんか曲かけるか?」

球磨「別になんでもいい。後ろのレディ達は何かリクエストある?」

北上「語尾だけじゃなくて話し方までその方向でいくの?」

多摩「海、その愛」

大井「相変わらず好きですねそれ」

木曾「CDここに入れてたんだっけ。あ、なんか飴がいっぱい入ってる」

大井「飴?」

木曾「この車って最後誰が乗ってたんだ?」

球磨「提督だと思う。ミラーとか座席が提督仕様になってた」

多摩「あー前にお偉いさんに会いに行く時に乗ってったんだにゃ」

木曾「じゃこれ吹雪のかな」

多摩「多分にゃ」

北上「吹雪の?」

球磨「吹雪のやつ乗り物ダメなんだ」

北上「船なのに?」

球磨「船なのに」

大井「むしろ船だからこそ地上の乗り物が合わないのかも知れませんね」

木曾「あ、酔い止めもあった。間違いなさそうだな」

大井「北上さんは乗り物大丈夫ですか?」

北上「うん。今のところ特になんにも」

多摩「吹雪は車移動の日だけはめちゃくちゃ機嫌悪くなるんだにゃ」

北上「そんなに嫌なんだ」

木曾「相当辛いらしい」

球磨「ありゃ。工事中だ」

木曾「げっ。っと、じゃあ2つ先の信号まで行って左折かな」

なんだろう。木曾と球磨姉のコンビって新鮮で面白いな。

木曾「後ろもなんかあるかもだぜ」

北上「こっちはしまうとこないよ」

他になにかありそうなところはー、ここか?

多摩「飴が欲しいにゃ」

木曾「何味?」

多摩「何があるにゃ?」

木曾「あー、オレンジレモンメロン、イチゴ」

多摩「レモンにゃ」

大井「私もレモンで」

木曾「あいよ」

北上「んー」ゴソゴソ

大井「北上さん何やってるんですか?」

北上「何か挟まってないかなーって」

大井「シートの隙間って結構汚いと思いますよ」

北上「うえ、じゃあ止めとー…あ」

既に割と奥まで突っ込んでいた手を引き抜こうとした時、何かに触った。

大井「あ?」

北上「なんかあった」

大井「何でしょう」

人差し指と薬指を交互に動かしてなんとかそれを引っ張りあげる。

北上「袋みたい。飴かなー。ほら」バッ

ようやくと釣り上げた獲物を大井っちにも見えるようにスっと持ち上げたところ、

コンドーム「やあ」

大井「…」

北上「…」

多摩「どうしたに…わお」

とんでもないものが出てきた。




木曾「どうした?なんか見つかっt「なんでもない!何でもないよ!」「そ、そうね!ただの飴の袋だったわ!」お、おう、そうか」

多摩「いやこれはどう見てもコムグッ!?」
大井「どうぞ私の飴も頂いちゃってください!」

北上「…」

コンドーム。

知識としては知っている。

知っているが、まさかこんな所にいらっしゃるとは…

多摩「なんで言わないにゃ?中々面白そうなものなのににゃ」ヒソヒソ

大井「こんなもの見せてビックリして事故でも起きたらどうするですか!」ヒソヒソ

北上「前の2人絶対凄いリアクションするよこれ。ハンドルもナビも機能しなくなること受合いだよ」ヒソヒソ

多摩「そんなコンドームくらいでそんなまさか…いやあの二人なら」ヒソヒソ

北上「でしょ?」ヒソヒソ

球磨「後ろがなんか静かに騒がしい」

木曾「球磨姉は前見ろ前」

球磨「じゃ木曾が実況しろ」

木曾「ナビはどうする気だよ。とりあえず今入ってるCD流すか」ポチ

球磨「おーこれは」

木曾「俺は知らないなこれ」

球磨「アクセルを全開にしたくなる」

木曾「よし止めるか」

球磨「冗談だ」

木曾「心臓に悪い」

球磨「はーいうぇ~とぅーざーでんじゃぞ~ん」

北上「まさか提督…」ヒソヒソ

大井「いくらなんでもそれは…例えそうだとしても吹雪が許さないですよ」ヒソヒソ

多摩「もしかして外に女がいるかもにゃ~」ヒソヒソ

大井「…」

うわ、凍った。大井っちの表情が凍った。

北上「でもあのヘタレ提督だよ?」ヒソヒソ

大井「…それもそうね」ヒソヒソ

多摩「妙な信用があるにゃ」ヒソヒソ



球磨「木曾ー」

木曾「待てって、今ナビ見てるから」

北上「と、ところでさ、この車って他に誰が乗ってるの?」

木曾「提督以外だと阿武隈とか潜水艦組とか」

北上「意外なメンツしか出てこない」

多摩「阿武隈は遠征メンツで、潜水艦も似たようなもんにゃ」

大井「まとめて休暇が取りやすいグループですからね」

北上「なるほどね」

球磨「後はー夕張が使ってた」

北大「「それだ(それよ)!」」
球磨「うおう!?」

多摩「アイツなら納得にゃ」

木曾「さっきから何話してんだよ」

球磨「気になるー」

北上「着いたら話すよ」

大井「今は運転に集中を」

北上「夕張はなんで?」

球磨「夏と冬に東京に遠征に行ってるらしい」

北上「あー」

木曾「なんでも全国の夕張が一堂に会す日らしい」

北上「なにそれこわい」

下手な深海棲艦の艦隊よりも怖い集まりだ。

多摩「秋雲も一緒にゃ。たまに明石もにゃ」

球磨「多摩だけに」

多摩「うるせえ」

球磨「えっ」

多摩「そろそろデパートが見えてくるにゃ」

北上「アレでかいもんねえ」

球磨「多摩の方の窓から見えるんじゃないか?」

北上「どれどれ」

多摩「あ、アレだにゃ」

北上「大井っちちょっとごめんね」

見づらいので体を大井っちの前に倒して無理やり覗きこんでみる。

大井「危ないですよ北上さん」

北上「へーきへー…」

大井「もう。…北上さん?」

北上「あーいや、なんでもない」

球磨「どうした?」
木曾「おい球磨姉!赤赤!」
球磨「クマア゛!」キキィッ

球磨「すまん…」

多摩「気をつけるにゃ」

木曾「艦娘が事故なんて起こしたらまたぞろどっかの政治家が躍起になって叩いてくるぞ」

大井「これ以上不自由にされるのは勘弁ですね」

球磨「スマンクマ…」

北上「なんか面白いね」

球磨「北上はジェットコースターとか好きなタイプみたいだ」

木曾「球磨姉」

球磨「ハイ」

大井「あら、駐車場って裏から入った方が混んでなくて良かったんじゃなかったかしら」

木曾「そういやそうだったな」

多摩「あの時は迷った結果裏から行ったんだったにゃ」

球磨「じゃ次で左だ」

木曾「だな」

球磨「とうちゃーく!」

木曾「こっからが大変なんだけどな」

多摩「2人とも、半舷上陸するにゃ」

北上「私達?」

大井「駐車のお手伝いです」

木曾「球磨姉駐車ヘッタクソだからさ」

球磨「下手くそとはなんだ下手くそとは!運転する機会も限られてるし仕方ない!」

多摩「はーい降りるにゃー」ガチャ

大北「「はーい」」








球磨「完璧な駐車だった」

木曾「多摩姉の迫真の止まれえ゛!がなかったら擦ってたけどな」

球磨「結果オーライだ」

多摩「やっぱり多摩が運転した方がいいんじゃにゃいかにゃ…」

北上「ちなみに多摩姉の運転スキルはいかほど?」

大井「免許の試験は満点だったそうですよ」

北上「球磨姉は」

球磨「擦った」

北上「なんで受かってんのそれ…」

木曾「身内での試験なんて余程じゃなきゃテキトーに合格して終わりなんだと」

北上「海軍陸の事はテキトーなんだね」

球磨「さて。本題の買い出しだが、基本的にこのデパート内で揃うものだ。まずはそれらを先に買い車に積む。その後思いっきり遊ぼう!」

木曾「手分けするか?」

多摩「数があるし2組に分かれるのが良さそうにゃ」

大井「となると保護者役の2人をそれぞれリーダーにして私と北上さん、多摩姉さんで分かれる形ですね」

北上「当然のように私達は一組なんだね。いいけど」

多摩「なら多摩は球磨と行くにゃ」

球磨「必要数が多いものは運ぶのに人がいるし木曾達に任せる」

多摩「キーはこっちが持ってるし多摩達が先に戻るのが理想にゃ」

木曾「ならそこは随時連絡取り合って調整かな」

球磨「よぉーしそれでは、出発!」




球磨「反応が欲しいクマ」

北上「いや流石に1日に何回もやるのはね」

まさか木曾が多摩を呼び捨てとは

この話は多分やたらと長くなると思う

木曾「炭ってこれでいいのかな」

大井「えーっと、そうね。メモと同じやつみたい」

北上「網あったよ~」

大井「メモの大きさと合ってましたか?」

北上「メモってどうやって開くんだっけ」

大井「すみません私が確認します」

木曾「…とりあえずここで買うものはこれで全部かな」

北上「そもそもさ、口実だってのは分かるけど買い出しって必要なの?」

木曾「それが意外と必要なんだよな」

北上「ほほう」

大井「数や量が大きいものは業者に頼んで鎮守府に運んできて貰いますけど、細かいものまで一々やるのは面倒なんですよ」

木曾「仮にも軍だしな。手続きとか色々ややこしいんだと」

北上「お役所だねえ」

大井「だから細かい買い物はこうして自分達でやった方が楽なんですよ」

木曾「サイズ合ってた?」

大井「バッチリ」

北上「後は箒だっけ」

木曾「確かこの上のフロアだったな」

大井「あら、追加注文が来たわね」

北上「なになに?」

大井「プリンターのインクですって」

木曾「インクはもっと上のフロアだったか」

大井「あ、そっちは多摩姉さん達が向かうみたい」

北上「おや、これは」

木曾「どしたー?」

北上「見て見て~。単装砲!」

銀色のジョウロを持って片膝をつき構えをとる。

木曾「すげえ違和感がない」

北上「あんなんでも分厚い鉄板ぶち抜ける威力が出るんだから不思議だよねぇ」

大井「北上さん!私もできました!」

木曾「おい姉も!?」

北上「お、酸素魚雷かあ」

大井「連装ではないですけど」

ペットボトルを固定するバンドを太腿に巻き私と同じポーズを取る大井っち。

木曾「よし、なら俺はー…こ、これだ!」バッ

北上「…」

大井「…」

木曾「なんか言ってよ」

コースターを片目に当てながら言う。

剣でもマントでもなく眼帯をチョイスするあたり無意識に自分のトレードマークと認識しているようだ。

北上「しかもまさかお買い上げとは」

木曾「これも何かの縁さ…」

大井「何変なところで拗ねてるのよ」

木曾「拗ねてない。しかしアレだな、こうしてお金を払うという行為をするのは新鮮でいいな」

北上「鎮守府じゃ使わないものね」

大井「今じゃ精々ネットで買うくらいよね」

木曾「アレはなんだかお金を払うって感じじゃないよな」

北上「でもこれだって結局カード払いでしょ?」

木曾「店員を通してカードとはいえ直に取引をするってのはなんというかちょっとした感動すらあるぜ」

北上「私はアレだ、釣りはいらねぇよって言ってみたいな」

木曾「それって普通の店でやったら迷惑そうだよな」

大井「ここでいったん荷物をまとめちゃいましょうか」

木曾「そうだな。このままだと持ちにくいし」

大井「マイバッグとか持ってくればよかったわ」

木曾「マイバッグ持ってたのか」

北上「あ、あそこベンチあるよ」

木曾「少し休憩もしてくか」

大井「そうね」

北上「既に妙な疲れが」

木曾「慣れない人混みだからなあ」

大井「こればっかりはしょうがないわね」

北上「ふーどっこいしょ」

木曾「ババ臭い座り方だな」

北上「ババ臭いとはなんだ。これでも生まれは大正なんじゃよ」

大井「そう考えると皆ババアみたいなものなのかしらね」

木曾「そこは否定しておきたいところだが」

北上「そういえばこれどうしよう」

木曾「これ?」

北上「ほら」

近藤さん「やあ」

木曾「…なんだそれ」

北上「避妊具」
木曾「ブハッ!」

大井「よしよし、落ち着いて落ち着いて」ポンポン

木曾「いやっ、ゲホッ!…なんでんなもんを」

大井「車にあったのよ」

木曾「あぁ…それでさっき」

北上「どうせ夕張達か、秋雲辺りがくだらないことに使ってるんでしょうよ」

木曾「むしろそうでなかったら問題だろ…」

大井「こんなもの何に使う気なんでしょうか」

木曾「昔バイブ徹甲弾を作って工廠が半壊した事件があったよ」

北上「えぇ…これ大丈夫?爆発とかしない?」

大井「北上さん、見られてもアレなのでもう捨てちゃいましょう」

北上「そだね」

ベンチから離れゴミ箱へ向かう。

北上「やれやれ、ホントにすごい人だ」

デパート。

その大きさだけあって平日なのに随分と人が多い。

人。

いつ見ても慣れない。

人なんて見慣れているはずなのに、それをはっきりと自分達(艦娘)とは違うものだと認識してしまう。

行き交う人達は誰一人私が艦娘だなんて気づかないだろう。

なのに私は彼ら彼女らが自分と違うとはっきりと認識している。

大井「北上さん」

一体何がそう思わせているのやら。

大井「北上さん!」

北上「わっ、どしたの大井っち」

大井「どうしたじゃありませんよ。まとめ終わったから移動しますよ」

北上「へーい」

人とすれ違う。

人々と行き違う。

人間とは生き方が違う。

北上「あ」

大井「どうしました?」

設置されていた大きなモニターにニュースが流れていた。

そこには艦娘の2文字が確かにあった。

木曾「行くぞ、上姉」

大井「行きましょう北上さん」

北上「あ、うん」

2人の圧力に素直に従う。

口には出さなくとも確かにそういう意図があった。

関わるな、考えるな、見るな。

私達(球磨型)は、いや私達(艦娘)は世界からどう見られているのか。

こうして外には出られるが、なんというか籠の中の猫と言った感じだ。

北上「あ」

木曾「今度はなんだ?」

北上「いやあなんでもないよー」

木曾「?」

やっば、ゴム捨てるの忘れてた。

せっかくだし夕張にこれがなんなのか聞いてからにするか。

正直結構気になるし。

ものによっては大井っちにでもプレゼントしちゃおうか。

多摩「これで全部、だにゃ」

球磨「思ったより量あった」

はじめてのおつかい開始から約2時間。車のトランクがギュウギュウになるくらいには多かった。

木曾「というよりかさばるものが多かったな」

北上「これホントに必要なものなの?」

大井「勿論。多分」

このドクロのお面なんて絶対不要なものでしょ…やたらかさばるし。

球磨「流石にお腹減った」

木曾「だな。もう昼すぎてるし」

大井「逆に人が少なくなって丁度いいかもしれませんね」

多摩「北上、何か食べたいものあるかにゃ?」

北上「んーせっかくだし普段食べないものがいいよね」

木曾「イタリアンとか?」

北上「それいいね」

球磨「となればあそこ一択だ」

大井「どうせならもっとちゃんとしたところ行きません?」

多摩「質は問題じゃないにゃ。のんびり出来るのが1番にゃ」

大井「それは、まあそうですけど」

木曾「決まりだな」

大井「結構上ですね」

地下駐車場から建物のほぼテッペンまで行かなきゃいけないようだ。

北上「何度乗ってもなれないなあエレベーター」

球磨「球磨も慣れたとは言い難い」

多摩「多摩もにゃ」

木曾「お、止まった」

大井「人が乗ってきますね」

北上「はーい多摩姉お口チャック」

多摩「にゃぁ…」

球磨「じゃあ今のうちに午後どこに行くか相談するか」

多摩「!?」

北上「私ペットショップ行きたい」

大井「いいですね。私はまたお洋服見たいですね」

木曾「そういや上の方に映画館出来たらしいぞ」

球磨「おお、名案だ」

多摩「ッ!」ブンブン

北上「多摩姉が何か言いたそうです」

多摩「ー!ッー!フッ!!」ブンシュッサッ

木曾「全然伝わらない…」

球磨「あんまり暴れると周りの迷惑だ」

多摩「…」シュン

大井「行きたい場所話ですか?」

多摩「!」フンフン

球磨「あ、わかった」

多摩「!」キラキラ

球磨「トイレだ」

多摩「…」ギュッ
球磨「イタタタタ取れる取れる髪の毛取れる!」

大井「あんまり騒がないでください」

北上「あー球磨姉のアホ毛が…」

別に語尾を取れば周りから変な目で見られることもなかろうに、何故しないのか。

木曾「さー着いたぞー」

大井「並んでますね」

多摩「いっても2組位にゃ。すぐ入れるにゃ」

木曾「他の店は、同じようなもんか」

大井「なら並んじゃいましょうか」

多摩「…大人5人でいいのかにゃ?」

木曾「あー…まあ一応大人5人だが」

大井「別にお酒を飲む訳でもないし未成年って事にした方が楽じゃないかしら」

多摩「じゃそうするにゃ」

球磨「お姉ちゃんの髪の毛生きてるクマ?大丈夫クマ?」

北上「…そのうち生えてくるよ」

球磨「え?」

「オオイさまー。5人でお待ちのオオイさまー」

大井「わ、私達ですよね」

多摩「だにゃ」

大井「はーい!」

木曾「なんでおい姉の名前で」

多摩「タマもキソもクマも書くと妙に嘘っぽい感じがしてにゃ…」

球磨「確かに…」

木曾「別に落ち込むことではないだろ」

北上「私と大井っちは何となく実際にいそうだよね」

大井「禁煙と喫煙どっちにします?」

球磨「どっちでも」

木曾「空いてる方で」

北上「良かったー早めに入れて」

木曾「思ったより腹減ったなー」

「ご注文はいかがなさいますか」

球磨「どうする?」

大井「ミラノ風ドリア1つ」

「ミラノ風ドリアがお1つ」

北上「ペペロンチーノ」

「ペペロンチーノがお1つ」

木曾「マルゲリータ1つ」

「マルゲリータピザがお1つ」

球磨「ミートソース1つ」

「ミートソーススパゲッティがお1つ」

多摩「…ア」

「はい?」

多摩「アラピアータ1つにゃ!」

「アラピアーt…アラピアータがお1つ」

球磨「あ後ドリンクバー5つ」

大井「凄かったですね」

木曾「プロだな。あの定員プロだったな」

球磨「よく立て直せたものだ」

多摩「代わりに誰か言えにゃ」

というか多摩姉はなぜ頑なに語尾を取らないのだろうか。

球磨姉ほど疎かにするのもあれだが。

木曾「やはり自分の注文くらい自分でしなきゃな」

球磨「そうそう。それくらいできなきゃダメだ」

多摩「意味わかんねーにゃ。あとドリンクバー行くから早くどけにゃ」

大井「私が残っておくので先に行ってきてください」

北上「じゃあ大井っちの取ってきてあげるよ。何がいい?」

大井「ホントですか!ではアップルティーを」

北上「これがドリンクバーというやつか」

球磨「北上分かる?」

北上「これくらいは。あーアップルティーってどこ?」

木曾「お茶はあっちだ。流石にこれは分からないか」

多摩「多摩がやってきてあげるにゃ」

北上「お願ーい」

木曾「午後はどうするかねえ」

球磨「んーもう何気に1時過ぎてるからやれる事は限られる」

北上「車の移動を考えたら8時くらいまでしかいられないものね」

木曾「げっ、コーラ切れてる」

木曾「ただいまー」

北上「入れ方わかんないから多摩姉にやってもらったよ」

多摩「はいにゃ」

大井「ありがとうございます」

多摩「気にするにゃ」

大井「ところで多摩姉さん」

多摩「なんだにゃ?」

大井「1口飲んでみてくれませんか?」ニッコリ

多摩「…」タラリ

大井「…」ニコニコ

多摩「……」ダラダラ

球磨「何か入れたか」

木曾「さっきの仕返しか」

北上「皆が標的というわけだ」

球磨「北上、とりあえずそのタバスコ端っこに隔離しろ」

北上「あいあい」

多摩「不味いにゃ」チーン

大井「それは良かったです」

球磨「さて、午後はどうする」

北上「食べ終わったら2時すぎるかな」

木曾「門限は何時だっけか」

多摩「一応九時頃ってパパが言ってたにゃ」

北上「門限厳しいなあパパは」

木曾「もっと自由にさせて欲しいよなあ」

球磨「可愛い娘達を放ってはおけないんだ。分かってやれ」

大井「だから過保護なんですよ。あの人は」

木曾「そうなると移動に1時間と考えてここを8時にでなきゃならないわけだ」

北上「あと6時間か~。長いようで多分短いんだろうね」

多摩「あっという間にゃ」

球磨「木曾がさっき映画館があるって言ってた」

木曾「ああ。確か最上階にあるとか」

多摩「映画、悪くないにゃ」

大井「映画館なんて行く機会は早々ないですからね」

北上「よし映画館けってー」

木曾「いや何が何時にやってるかにもよるだろ」

多摩「今だと何が旬なのかにゃ」

大井「リアルタイムで映画なんて見ないですからねえ」

木曾「鎮守府で見るのは借りてきたやつだけだもんな。旬な映画と言われても」

球磨「あ、料理がきた」

北上「大井っちのも美味しそうだね」

大井「1口食べます?」

多摩「マルゲリータも良さそうにゃ」

球磨「みんなで一切れずつ分けるか」

木曾「俺のはどうすんだよ!」

北上「あれ、何の話してたんだっけ」

木曾「映画だよ映画。なに盗ろうとしてるんだ多摩姉」

多摩「にゃっ!」ビクッ

球磨「じゃあ映画は球磨が調べておくクマ」

多摩「語尾」

球磨「…調べておく」

多摩「それでいいにゃ」

球磨「別にここなら問題ないだろ」

多摩「意識の問題にゃ」

球磨「自分だけずりぃ」

多摩「普段から蔑ろにしてるくせに何をこだわってるにゃ」

球磨「なにを!」

多摩「やるかにゃ?」

木曾「料理冷めるぞー」

大井「北上さんはペットショップに行きたいんでしたよね」

北上「そうそう。さっき見かけたからさ」

木曾「俺もちょっと行きたいところあるな」

多摩「多摩もペットショップ行ってみたいにゃ」

木曾「猫か」

多摩「猫にゃ。いや猫じゃないにゃ」

北上「紛らわしいね」

球磨「映画はー、ドラえもんとか」

木曾「ネコ型ロボットか」

多摩「猫だにゃ。いやだから猫じゃないにゃ」

北上「何回やるのさ」

球磨「ホラーは?」

木曾「いやだ」

多摩「いやにゃ。あと猫じゃないにゃ」

北上「ダメなんだ」

大井「多摩姉さんが特に」

球磨「海外のは?」

木曾「ヒーローものか」

北上「スターウォーズとか今やってるんだっけ?」

大井「あまりグッとくるものはないですね」

多摩「大井は恋愛ものとかにゃ?」

大井「いえ、特にそういう趣味もないですね」

球磨「ほほう、意外だ」

多摩「意外にゃ」

木曾「意外だな」

北上「意外だね」

大井「えっ?」

球磨「あとは何があるか」

多摩「プリキュア?」

木曾「いや流石にそれはなあ」

大井「私って恋愛ものとか好きそうに見えます?」

北上「割と見える」

球磨「あ」

北上「お?」

球磨「君の名は」

木曾「あー」

多摩「見たことある奴はいるかにゃ」

大井「ないですね」

北上「いいんじゃない?評判良いし」

木曾「時間は?」

球磨「1時間後」

大井「席取れるかしら…」

多摩「それほど混んでるわけじゃないしいけるにゃ」

球磨「よし。球磨がひとっ走り席だけ取ってくる」

木曾「いいのか?」

球磨「それで取れたら時間までここでゆっくり出来るし行くだけお得だ」

北上「じゃあここは球磨姉に甘えちゃいますかね」

大井「そうしましょう」

球磨「ふふん、任せろクマ」ドヤァ

ミートソースをペロリと平らげて颯爽と去っていく球磨姉。

木曾「随分張り切ってたな」

多摩「お姉ちゃんっぽい事したいんだにゃ」

北上「なるほどね」

大井「普段は全然出来てませんからね」

サラリと酷いことを言う。

多摩「その通りにゃ」

北上「まあ確かに」

木曾「何にせよもう少しここでゆっくりしていかないとな」

大井「何か追加で頼んじゃいましょうか」

北上「ピザ分けて食べようよ」

木曾「俺はもう食べちゃったし、フォッカチオとかでいいや」

大井「ではそれで」

多摩「ハンバーグステーキにゃ」

北上「まだそんなに食べるの」

多摩「ピッツァどう分けるにゃ?」

北上「ピッツァ2」

木曾「ピッツァ0」

大井「1で」

多摩「じゃ多摩がピッツァ3にゃ」

北上「さらに食べるか…」

木曾「球磨姉のは?」

多摩「冷めたらもったいないねえから食っちまうにゃ」

木曾「お、おう」

大井「あら、メッセージが…チィッなんだ提督から」

相変わらず反応が怖い。

多摩「なんて言ってるにゃ?」

大井「楽しんでるかーですって」カチカチ

北上「なんて返すの?」

大井「仕事しろ」

ごもっとも。

大井「こんどは球磨姉さんからメッセージが」

北上「どれどれ?」

大井「北上さん。自分のスマホで見たらいいんじゃないですか」

北上「え、なんてゆーかさ。出すのも億劫で」

大井「はあ、まあいいですけれど」ハイ

北上「さんきゅー」

木曾「画像が送られてきたな」

多摩「なんおがおうあ?」モグモグ

木曾「食べ終わってからにしてくれ」

北上「おーチケット取れたみたいだね」

大井「館の中で自撮りしたみたいですね…」

木曾「何してんだ姉さん…なんか周りの人も見てるし」

木曾「後で行ったらぜってー受付の人とかに、さっきの変な人の連れだーって見られるぜこれ」

北上「グラサンつけたイケイケなねーちゃんがやる事じゃないよねぇ」

大井「私達一応あまり目立たっちゃいけないんですけれどね」

多摩「これはお仕置きが必要だにゃ」

北上「お仕置き」

多摩「木曾」ヒョイ

隣の木曾に手を差し出す。

木曾「…え?」

多摩「木曾!」

木曾「いやわかんねえよ」

多摩「タバスコに決まってるにゃ!」

木曾「いやわかんねえよ!」

多摩「これをピッツァの最後のひとつにたんまりかけてやるにゃ」ニヤリ

大井「あまり食べ物で遊ぶとバチが当たりますよ」

木曾「多摩姉、ドリンクバー行くからちょいとどいてくれ」

多摩「にゃ」

北上「あーそっか、ドリンクバー飲み放題か」

大井「北上さんも行きます?」

北上「いくいくー」

大井「何を御所望で」

北上「メロンソーダぷりーず」

大井「了解です」

木曾「鎮守府の食堂にもこういうメニュー増えないかなあ」

多摩「パスタはともかくピッツァは厳しいと思うにゃ」

北上「お」

木曾「メニューが増えた事ってあるのか?」

多摩「何回かあるにゃ。フレンチトーストもそうにゃ」

北上「木曾木曾ー」

木曾「ん?」

北上「チクマー」ベロン

木曾「ブッwww」

多摩「な、なんにゃ…その顔は」

北上「この前食堂で事件があってさ」

木曾「めっちゃ再現度たけえ…ww」

大井「何笑ってるの。はい北上さん」

北上「サンキュー」

北上「で、最後にこんな顔でチクマーってなってたの」

多摩「それほとんど川内のせいじゃないかにゃ」

木曾「まあそうなんだが流れが完璧すぎてさ」

球磨「ただいまクマァ!」

北上「うお、おかえりー」

多摩「語尾にゃ」

球磨「ただいま諸君」

木曾「チケットは?」

球磨「えーっと、それ!」

北上「なぜ胸元から」

球磨「洋画とかにありそうだと思って」

多摩「この中で胸に挟めそうなのは大井くらいだにゃ」

大井「多摩姉さんもできるんじゃ…」

多摩「ちょっとお手洗いにゃ」ガタッ

多摩姉逃げる気か。

球磨「お、ピッツァが!貰っていい?」

多摩「いいにゃ。ご褒美にゃ」

北上「なに、ピッツァって流行ってるの」

球磨「ピッツァはピッツァだ」

木曾「ピッツァだな」

北上「どういうことだってばよ」

大井「前に出かけた時に色々あったんですよ」

北上「色々とは」

木曾「結論から言えば多摩がやらかしたんだ」

球磨「いっただっきまーす」パク

木曾「あ」

大井「あ」

あー。

づほの5周年ボイスしゅごい…

子供の時、食べ物に何か仕込むのは定番でした。
タバスコより塩コショウの方がダメージがでかいです。
まだ続く

多摩「た、ただいまにゃ」プルプル

必死に笑いをこらえている。さては遠くから見てたな。

球磨「ユルサンクマ」

机に突っ伏したまま呪詛の言葉を吐く球磨姉。

木曾「そろそろ行くか」

大井「そうね」

北上「私ポップコーン食べてみたい」

木曾「上姉も結構食べるな」

多摩「会計はどうするにゃ」

木曾「小銭とかないしまとめてでいいんじゃないか?」

大井「普段現金を使わない弊害ね」

北上「細かいのは帰ってからのがいいもんね」

北上「というわけで球磨姉ごちになりまーす」

球磨「クマァ…」

木曾「やっぱ入れすぎだったんじゃないかタバスコ」

多摩「にゃ…」

罪悪感あるならやめときゃいいのに。

球磨「もういい。とりあえずこの残ってるドリンクバーは全部飲んでけ」

北上「はーい」

多摩「律儀だにゃあ」

北上「うわ氷が溶けたせいで殆ど水だこれ」

多摩「ブッ!?ゲホッゲホッ!!」

球磨「ふっはっはー!引っかかった!そいつには同じくタバスコをぶち込んでおいた!」

多摩「き!ゲホッ貴様ァ…」


大井「行きましょう2人とも」

木曾「だな」

北上「慣れてるね2人とも」

北上「球磨姉はともかく多摩姉まであんなにはしゃぐとは」

大井「多摩姉さん外に出るとやけにテンション上がるんですよ」

木曾「気持ちはわかるけどな。らしくないというか、普段落ち着いてる多摩姉も外界の魅力には勝てないのかね」

北上「んじゃ映画館向かっちゃいますかねー」

木曾「あの二人は」

大井「まだ何かやってるわね」

店の入口で店内を振り返る。

ふと、私達のいた所とは逆の方に女子学生のグループが座っているのが見えた。

私達の制服と似たセーラー服。中学生だろうか。

セーラー服ねえ。以前海軍の軍服が元になっていると聞いたな。

何やら一人のスマホの画面を皆で覗き込んだかと思ったら急に爆笑しだした。

女子特有の甲高い声はここまでよく聞こえる。

こりゃ私達も大分周りに迷惑かけてたかねえ。

しかしまあ、なんら変わらないものなんだな。

私達も今まさに女子学生のようにこの世界を満喫しているんだ。

私達だって。

球磨「何ぼおっとしてる。早く行こう」

北上「あーごめんごめん」

2人ともようやく支払いを終えたらしい。

多摩「時間も丁度いい具合にゃ」

北上「よし行ってみよう」

北上「薄暗いね」

大井「映画館っていうのはどこもこうなのかしら」

多摩「眠くなってきそうにゃ」

木曾「買ってきたぞー」

球磨「思ったよりビックサイズがビックだった」

北上「うわホントだ」

木曾「こっちがキャラメルでこっちが塩だ」

大井「北上さん本当にいらないんですか?」

北上「ポップコーンって喉乾くからさ」

球磨「んでこっちがオレンジジュース、コーラ、カルピスだ」

木曾「ポップコーンどうわける?」

球磨「どうって?」

木曾「上姉がいらないとして、4人でこの2つをわけるわけだろ。横一列なんだから2人で1つに別れなきゃ」

多摩「じゃあキャラメルがいい人手を上げるにゃ」

球磨「ん」ノ

木曾「ホイ」ノ

大井「あら」ノ

多摩「塩は多摩だけかにゃ…」

北上「なんでキャラメル人気が」

木曾「塩は普段から嫌という程味わってるからな」

大井「もし身体が人だったら今頃塩分の過剰摂取でぶっ倒れてそうです」

球磨「あ、甘いのが好き、クマ…」

北上「おぉ…」

よもや職業柄だったとは。

多摩「じゃあ今からゲームをするにゃ。負けたヤツが塩行きだにゃ」

大井「ゲームですか」

木曾「ジャンケンとかでよくないか」

多摩「とりあえず木曾。このポップコーンをよく見るにゃ」

木曾「おう」

塩味のポップコーンを1粒手に乗せる多摩姉。

多摩「にゃ」ヒョイ

それを少し上に放り、その後素早く両手をクロスさせながらキャッチした。

多摩「さあポップコーンが入ってないのはどっちにゃ」

木曾「げ、そういうやつか。普通入ってる方が当たりじゃないのか」

多摩「塩を選んだら塩行きという事にゃ」

球磨「大井、今の見えた?」コソコソ

大井「正直さっぱり」コソコソ

実際多摩姉はかなり上手かった。でも

北上「ねえねえ多摩姉」

多摩「なんにゃ」

北上「両手、開いて」

多摩「…なんでにゃ」

北上「まあまあいいからいいから」

木曾「どういうことだ?」

多摩「さ、さっぱりだにゃ!」

球磨「ほれほれ」コチョコイョ

多摩「ニュワッ!」ポロツ


木曾「なんで2つあんだよ」

多摩「バ、バイバイン」

北上「やっぱり猫じゃん」

木曾「完全に俺をはめる気だったじゃねえか」

多摩「ぬぅー思わぬ伏兵がいたにゃ」

大井「北上さんよく気づきしたね」

北上「目は自信があるんだ」

球磨「どうやったんだ?」

北上「上に投げた時に逆の手でもう1個を掴んでた」

多摩「騙す時の基本にゃ。右手を見ろと言って左手で仕込むんだにゃ」

大井「何処で教わったんですかそんな技術」

多摩「提督にゃ。あー、うん、提督だにや」

北上「なんでそこで歯切れ悪くなるのさ」

球磨「何にせよキャラメルは球磨と大井ということで」

大井「そうですね」

木曾「あズリぃ!こういう時だけ躊躇なく妹売りやがって!」

多摩「塩からは逃れられんにゃぁ」

北上「逆になんで多摩姉はそんなに塩好きなの」

多摩「なんでだろうにゃ。なんとなくにゃ」

木曾「猫って塩はあまり良くないんだろ?」

多摩「猫じゃねえにゃ」

球磨「そろそろ時間だ」

大井「スマホはちゃんと鳴らないようにしてくださいね」

北上「大井っちー、これ鳴らないようなってる?」

大井「えっとー…まず電源がついてませんね…」

北上「わお」

木曾「やっぱ連絡取れるようになってないじゃないか…」

木曾「何番?」

大井「3番シアターだから、あそこね」

多摩「ドキドキが止まらないにゃ」

球磨「なんかメガネ貰った」

木曾「おいそれ違う映画のじゃないか」

球磨「なんと!」

大井「ちゃんと戻してきてください」

多摩「これが3Dメガネにゃ」

球磨「ちょっとかけてみる」

木曾「いいのか、勝手に使って」

球磨「おおー」

多摩「どうにゃ?」

球磨「なんか、ぼやっとしてる」

大井「そりゃ普通にかけたら何も起こりませんよ」

なんてくだらないやりとりを眺める。

北上「ほらほら早く入ろうよ」

本当に女子高生にでもなった気分だ。

目覚ましボイス…だと…?

予約は全滅してました






球磨「面白かった」

木曾「内容もそうだけどやっぱ映画館ってすごいな。迫力が違う」

球磨「女版瀧くんはなんだか摩耶を思い出した」

大井「言われてみるとそうですね」

多摩「なら男三葉は天龍だにゃ」

木曾「いやいやそれはねぇだろ」

北上「あー確かに」

球磨「近いものがある」

大井「違和感はないですね」

木曾「あれ?」

木曾「51cm砲で隕石って壊せないかな」

球磨「空想科学みたいだ」

多摩「質量の暴力には勝てんにゃ。何より下からじゃ重力というハンデもあるにゃ」

木曾「すげぇ真面目に返答された」

大井「波動砲なら」

木曾「それは違うヤマト砲だ」

北上「そういや流れ星って見たことないな」

多摩「もうすぐなんたら流星群が来るってテレビでやってなかったかにゃ?」

木曾「そうだっけ?」

球磨「北上はどうだった?」

北上「あーんー、面白かったよ。特に、時間差トリックが、ね」

木曾「あれなー、全然気づかなかったよな」

大井「でも私達も似たようなものですよね」

多摩「確かににゃ。あの戦争から、もう何年なんかにゃ」

球磨「正直イマイチピンと来ない」

木曾「俺もだ」

そう、時間差。

北上が生まれてからもう百年は経つだろう。

北上が死んでからは、この場合何をもって船を死んだと定義するかによるが半世紀以上は経ったはずだ。

北上が消えて、こうしてまた生まれるまでに時差がある。

問題はそこだ。

すっかり忘れていた、というか考えが至らなかった。

大井「次はどこ行きましょうか」

球磨「座りっぱなしで疲れた。少し歩いて周りたい」

木曾「さんせー」

多摩「にゃ~」

大井「なら服見に行きましょう!先に買っておけばその場で着て周れますし」

球磨「じゃそれでいくか」

多摩「北上もいいかにゃ?」

北上「あ、うん」

生まれ変わりというかはわからないが、何にせよ死んでから生まれるまでに時差がある。

じゃあ、私はいつ死んだ。

猫の私はいつ死んだ。

猫の寿命などたかが知れている。

10年も生きれば大往生だろう。

室内であればもう少しいくかな?

最も新しいと思われる記憶から私の飼い主は恐らく50代だろう。

例えば私がその時点から10年もの長期間を生きたとしよう。

そうなると飼い主は60代。彼が寿命で死んでいる可能性は現代においてそれほど高くはない。

問題は私が死に、北上になるまでにどれほどの時が経ったかだ。

これが10年20年ともなれば飼い主が生きている可能性は著しく下がる。

現状でさえ見つけるのが困難なのに生きていなければより難易度が上がる。

なにより、再開が果たせなくなる。

北上「糸でも繋がってりゃいいのに…」

球磨「ん?なんだ、想い人でもいるのか?」ニヤニヤ

北上「そうじゃなくてさ」

大井「糸ですか…」

多摩「何真剣に考えてるにゃ」

木曾「ほら、早く行こうぜ」

別に運命の赤い糸なんていらないよ。

リードでも繋がってりゃそれでいいのに。

【服屋】

大井「ジャン!」バサッ

木曾「おお~」

多摩「ギャップが凄いにゃ」

球磨「流石我が妹」

北上「大井っち」

大井「はい!」

北上「マフラーはまだ早いのでは」

大井「これからに備えてです!」

北上「なるほど」

振り返って改めて更衣室の中の鏡を見る。

白くて結構大きめのフワッとしたマフラー。同じく白のセーターに茶色っぽいブーツ。

流石球磨型唯一の女子力。パーフェクトだ大井っち。

正直これがセンスいいのか分からないけど。

大井「…やっぱりもう少し黒を…でもこの方が黒が映えるし…」ブツブツ

北上「あーいいよいいよこれで!これが気に入った」

大井「ホントですか!」

北上「う、うん」

一生懸命選んでくれるのは嬉しいけれどこれ以上時間をかけられても困る。

多摩「大井はそれでいいのかにゃ?」

大井「はい」

木曾「こうして見るとおい姉の方が年上に見えるな」

球磨「今度から保護者役は大井に任すか」

少し濃いめの緑ロングコートに白のレディースパンツ、黒のトップスとパンプス。

落ち着いた茶色のダブルロングと大井っち特有の雰囲気は確かにすごく大人っぽく見える。

何よりも胸が…

(※三越ファッション)

木曾「多摩姉はそれでいいのか?」

球磨「せっかくだし大井に全身コーデしてもらうといい」

大井「そうですよ。多摩姉さんの服も色々考えたんですから」

多摩「これは多摩なりのこだわりにゃ。譲れないのにゃ」

黒タイツに黒カーディガン、妙に短いスカートと艦娘の制服に近い服装。

その上に白のフードパーカーを羽織っている。

(※秋刀魚漁ファッション+α)

木曾「こだわりねぇ」

球磨「こだわり」

多摩「なんにゃ、その反応は」

大井「いえ別に」

北上「…」

フードに猫耳がついていることに、結局誰もつっこめなかった。

白を選ぶあたりは無意識なのかな、白猫は。

球磨「おー結構なお値段、なのか?」

木曾「金銭感覚ゼロだもんな」

大井「どうせお金は腐るほどありますし」

多摩「富豪の気分だにゃ」

北上「現物じゃないけどね」

木曾「よし、皆で写真撮ろうぜ」

球磨「賛成!」

大井「どうやって撮ります?」

多摩「この際だし自撮り棒でも買うにゃ」

北上「あれあれ、1階の噴水広場で撮ろうよ」

建物の真ん中を通る吹き抜けの一番下を見下ろす。

球磨「おーでっかい」

木曾「決まりだな」

大井「これでいいんですかね」

木曾「多分…このボタンで撮るのかな」

球磨「えいっ」パシャ

多摩「ウニャッ!眩しいにゃ」

北上「フラッシュはいらないよね」

大井「えーと、はい!OKです」

木曾「順番は?」

球磨「球磨が真ん中だ!」

多摩「撮るのは大井なんだから球磨が真ん中じゃダメにゃ」

球磨「なんと!?」

大井「なら球磨姉さんお願いします」

木曾「すげえ不安なんだが」

球磨「舐めるなクマァ」

多摩「不安だにゃ」

大井「北上さん!もっと寄らないと映りませんよ」ギュッ

北上「噴水映しすぎなんじゃないの?」

多摩「木曾もこっち来るにゃ」

木曾「あいよ、これでキレイに映るかな」

球磨「…」

北上「どったの球磨姉?」

球磨「こういう時なんて言えばいい?」

大井「普通にはいチーズとかでいいんじゃないですか?」

球磨「なんか味気ない」

木曾「そここだわるとこか?」

やれやれ、呑気なもんだ。

球磨「あ、いいのを思いついた」

私としてはもっとこう色々と考えたいことがあるのだけど。

多摩「ホントに大丈夫かにゃ…」

でもまあ、

球磨「任せろ」

きっと今はこれでいい。

北上「ピースでいいかな?」

木曾「お!丁度噴水が」

多摩「球磨!急ぐにゃ!」

球磨「よし!ちゃくだ~~ん…」

大井「えぇ…」

北上「よりによってそれ…」

球磨「今!」パシャ

ずっとこうしていたい。

深海鶴棲姫のボイスで笑わなかった提督0人説

その後ソロ写真をいくらか撮りあった。

北上「あれ食べようよ」

撮った写真を皆で見ていた時ふと前方の看板が目に止まった。

大井「あれ?」

木曾「クレープか」

多摩「いいにゃ」

球磨「クレジットも使えるみたいだ」

多摩「あのデカいの食べたいにゃ」

大井「多摩姉さんのお腹どうなってるんですか」

球磨「大井なんて食べて太ってはダイエいてててて!痛い痛いクマァ!」

大井「何か言いましたか?」

球磨「ナンデモナイクマ」

この姉いつも一言多い。

木曾「俺はイチゴのやつかな。でも1人で食うにはちと量が多いような」

北上「じゃ私と半分こしようよ」

球磨「球磨は多摩から少し分けてもらおう」

大井「じゃあ私も多摩姉さんから」

北上「えっ?」

大井「はい?」

北上「あ、いやなんでも」

木曾「…意外な」

大井「何がよ」

球磨「ほらさっさと買うよ」

多摩「何処で食べるにゃ」

木曾「食べ歩くか?」

大井「それはお行儀が悪いわよ」

北上「あそこテーブル空いてるよ」

木曾「俺らで席取っておくか」

球磨「頼む」

木曾「おい姉、大人しいな」

北上「てっきり私と食べたいって言うものかと」

木曾「最近あんまり上姉にベッタリじゃなもんな」

北上「女は男ができると変わるんだねえ」

木曾「で、結局提督とはどうなんだ?」

北上「私もよくわかんない」

木曾「聞いてないのか」

北上「流石に直接はね」

木曾「それもそうか」

北上「2人とも照れ屋さんだしねえ」

木曾「それもそうだな」

北上「なんか女子っぽい会話だね」

木曾「え?」

北上「恋バナだよ恋バナ」

木曾「友人じゃなく姉の恋事情だけどな」

北上「まあね」

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「でっか」

木曾「見てるだけで腹が膨れそうだ」

多摩「美味そうにゃ」

球磨「とりあえず1口欲しい」

多摩「ほれにゃ」

球磨「クレープ!クレープを1口!バナナ一欠片貰ってもしょうがない!」

多摩「ほらあーん」

大井「あーん、あら。意外と甘さ控えめね」

北上「木曾ー、私も私も」

木曾「ほらよ」

北上「…え、あーんは?」

木曾「やる気かよ!?いや、流石に少し恥ずかしいな」

北上「それでも木曾か!」

木曾「どういう意味だよ!?」

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

大井「結局ほぼ1人で食べましたね…」

球磨「我が妹ながら恐ろしい」

多摩「戦士たるもの食える時に食っとくもんにゃ」

木曾「これも食べるか…?」

北上「もう食べらんないやー」

多摩「いただきにゃ~」

木曾「今日だけで何カロリー食べてんだか」

北上「草とか食べる?」

多摩「なんで草にゃ」

大井「猫は草を食べるんですよ。本能的なものなので何でと聞かれると分かりませんが」

北上「消化を助けるためとか諸説あるみたいだよ」

私は草を食べてたっけな…?覚えてないや。

多摩「へえ…いや猫じゃないにゃ」

北上「よぉし次行こう次」

大井「もう移動ですか?」

北上「時間は限られてるんだしちゃっちゃといこう」

多摩「…まあそれもそうにゃ」

球磨「どこ行く?」

木曾「行きたいところバラバラだしな」

多摩「一旦分かれるかにゃ?」

大井「…そうですね」

北上「む、まあしょうがないか」

球磨「何か買いたいものがあったら球磨か木曾を呼ぶといい」

木曾「あーそっか、ならさっきと同じ分け方で行動した方がいいんじゃないか?」

多摩「多摩はとくに買いたいものはないにゃ」

北上「私も~」

大井「2人はペットショップでしたね」

球磨「なら2人は一緒で、後は各自自由行動だ」

木曾「あいよ」

大井「北上さんのことくれぐれも頼みますよ」

多摩「任せろにゃ」

うわー信用ないな私。確かに連絡を取れる自信は無いけど。

球磨「じゃ球磨は下の方にいく」ノシ

北上「じゃーねー」

多摩「…どこ行くのかにゃ」

木曾「さあね。俺は、うわ結構上だな」

北上「どこ行くの~?」

木曾「ひ、秘密だ」

眼帯、眼帯だきっと。

ん?眼帯?眼帯ってデパートにあるのか?

木曾「エレベーターかなこりゃ」

北上「私達はこの上だね」

多摩「にゃ」

大井「私はその上ですね」

北上「大井っちはどこに?」

大井「ん~小物とか見たいですね」

木曾「また後で」

多摩「またにゃあ」

北上「エレベーターはー、あれか」

多摩「アレ?木曾と球磨が離れたらまずいんじゃないかにゃ」

大井「あ、確かに」

北上「そういや保護者役だったね」

大井「デパート内だったら滅多な事は起きないでしょう。多分」

北上「それに余程じゃないと私達が怪我することもないでしょ」

多摩「それくらい強いからこそ問題なんだけどにゃ…まなんとかなるにゃ」

北上「エスカレーターいいねえ。鎮守府にも欲しいよこれ」

大井「物凄く電気代かかりそうですね」

多摩「動く廊下とか楽そうにゃ」

大井「2人はもう少し積極的に動いてください」

北上「動くコタツとか欲しいなあ」

多摩「コタツ型艤装もいいにゃ」

大井「あら」

北上「どったの大井っち?」

大井「いえ、あの店。ちょっと良さそうだなって」

多摩「んー行ってみるかにゃ?」

北上「もう食べるのはいいかな」

大井「私もちょっと…」

多摩「にゃぁ、じゃあまた来た時にゃ」

北上「そだね、また、また来た時に」

【ペットショップ】

多摩「猫って、可愛いにゃ」

北上「…そだね」

自画自賛。

大井っちとも分かれて私達はペットショップの猫達をひたすら眺めていた。

生後数ヶ月程度の子猫達はそれぞれのゲージの中で遊んでいたり寝ていたり、

主にこの二択だが思い思いの行動をとっていた。

北上「生まれてからずっと商品としてここに並べられるってどんな気分なんだろ」

多摩「本人は特になんとも思ってないんじゃないかにゃ。多摩達も生まれつきのこの立場にこれと言って疑問は抱いてないにゃ」

北上「それもそっか」

多摩「あ、この子可愛いにゃ」

北上「白黒だね。ダルメシアンみたい」

多摩「ダル?多摩は牛かと思ったにゃ」

北上「猫に牛ってどうなのよ」

北上「ふふ、いいねぇ。鎮守府で猫とか飼えないかねぇ」

多摩「どうだろうにゃあ。犬とかなら番犬みたいな感じで役に立ちそうだけどにゃ」

北上「帰ったら提督に聞いてみよ」

多摩「そんなに猫が好きなのかにゃ?」

北上「多摩姉こそ、飼いたくならないの?」

多摩「可愛いけど、可愛いだけにゃ。きっと多摩達じゃこの可愛い生き物を幸せに出来ないと思うんだにゃ」

北上「…達」

それは、私も含まれてるのだろう。

多摩「あっ、ごめんにゃ。他意はないにゃ」

慌ててフォローする多摩姉。

でも別に私は傷ついたとかそういうわけじゃない。

ただ

北上「多摩姉はさ、猫に対してこう、シンパシーというか、親近感?みたいなのって感じたりしない」

多摩「猫じゃないにゃ」

北上「ふざけてるんじゃなくてさ、真面目な話」

多摩「んー?いまいち意図が読めないけれど、多分北上が言うような何かを感じた事はないと思うにゃ」

北上「そっかあ」

嘘や隠し事をしているようには見えない。

自分の前世の、白猫の事を、本当に覚えてはいないのだろうか。

いやそもそも本当に多摩がそうなのだろうか。

前に麦畑を見たことがあるような事を言っていたが、それはあの写真の事である可能性もある。

北上「だーもぉいいや!次行こう次!」

多摩「どうしたにゃ、急に」

北上「他にも面白そうなところ探そう。行こっ」

多摩「もう少しここでゆっくりしてもいいんじゃないかにゃ?」

北上「時間は有限なんだし色々見て回ろうよ」

多摩「…」

北上「多摩姉?」

多摩「今日の北上はなんか変だにゃ」

北上「そお?多摩姉だってテンション高いじゃん」

多摩「楽しいからにゃ」

北上「私もだよ」

多摩「北上は、楽しんでいるというより楽しんでいようとしている感じにゃ」

楽しんでいようと。

北上「どういうことさ」

多摩「必要以上に、無理に楽しもうとする時の顔だからにゃ」

北上「…なんでそんなこと」

多摩「多摩もその顔をよく知ってるからにゃ」

北上「多摩姉も?」

多摩「昔、鎮守府から皆がいなくなった時の事だにゃ」

北上「…」

吹雪の言っていた、前の提督、前の鎮守府か。

多摩「やっぱり知ってたんだにゃ。吹雪から?まあなんでもいいにゃ」

北上「日記、ちゃんと棚に鍵とかしといたほうがいいよ」

多摩「そうもいかないのにゃ」

北上「なんでさ」

多摩「誰かに見つけて欲しいと、そう思ったりもするからにゃ」

多摩「無理に笑うもんじゃないにゃ」

北上「教訓?」

多摩「にゃ」

北上「そっか」

これ以上は多分聞いても答えてくれないのだろう。

吹雪は口止めしていると言っていた。

北上「なんかさ」

多摩「にゃ?」

北上「人間みたいにさ、容姿相応に、パーっと楽しめるのかと思ってさ。人みたいに」

多摩「多摩も楽しいにゃ。でも楽しみ方はそれぞれにゃ。自分なりに楽しめばいいにゃ」

北上「そうだね」

多摩「北上はなんで人みたいにと思ったんだにゃ?」

北上「え?んー、なんでだろ?」

多摩「分かってないのかにゃ」

北上「なんか、あったと思うんだけどなあ。んー?思い出せないや」

多摩「ならいいにゃ」

北上「うん」

多摩「で、次はどうするにゃ?」

北上「…もう少し、ここでゆっくりしてこ」

焦る必要は無い。

私達と人とでは流れている時間が違うんだ。

決定的に。

北上「あり、大井っちから連絡来てる」

多摩「なんて言ってるにゃ?」

北上「本屋の近くを回りたいから一緒に行きませんか、だって」

多摩「受け渡しだにゃ」

北上「なんで私が子供みたいな扱いなのよさ」

多摩「不満ならスマホに慣れろにゃ」

北上「連絡ってそんなに大事?」

多摩「仮にも軍にゃ。緊急時は鎮守府に戻る必要があるし、事件に巻き込まれでもしたら後々が面倒なのにゃ」

北上「騒がれそうだもんね私達」

多摩「管理という点だけ見れば、こうして外に出すのだってあまりいいとは言えないだろうにゃ」

北上「提督が優しくてよかったよ」

多摩「全くだにゃ」

北上「はいっと」

多摩「スタンプ使えるんだにゃ」

北上「はいといいえのスタンプだけ使い方教わった」

多摩「だけ…」

北上「今何階ですか?」

多摩「ここは2階だにゃ」

北上「2と」

多摩「数字だけ…」

北上「数字は打てる」

多摩「練習しろにゃ」

北上「今から向かうので2階のエスカレーター付近で待っていてください、だって


多摩「じゃ向かうにゃ」

大井「北上さーん」ブンブン

多摩「手ぇ振りすぎにゃ」

北上「やほー大井っち。あれ?何も買わなかったの?」

大井「え?あー、はい。見て回ってただけですから」

北上「ふーん」

多摩「多摩は置物とか見てくるにゃ」

北上「また後でー」

多摩「にゃー」

大井「…またあの妙な猫の置物とか買ってくるんでしょうか」

北上「んーどうだろう」

大井「では私はこのフロアを回ってますから後でまた迎えに来ますね」

北上「はーいママー」

大井「提督と同じ扱いはやめてください」

北上「どちらかというと私の扱いが皆同じなんだけどね」

大井「北上さんはどうにも危険意識が低いからですよ」

北上「えーそうかなあ」

大井「そうです」

北上「ちぇ、大井っちは私と一緒に回らなくていいの?」

大井「北上さんと?でもあまり北上さんが見て面白そうな物はないと思いますよ」

北上「いや、ならいいんだ。またね」

大井「はい、また」

本屋に1人。

しかしどうにも気が乗らない。

北上「大井っちやっぱり変わったよね」

前なら絶対に私と回ったはずだ。

北上「考える事がいっぱいだなあ」

まーた頭ん中がぐちゃぐちゃになってきた。

とてもじゃないが本を落ち着いて読める状況じゃないや。

どうしよう。

北上「ゴムの事夕張にでも聞いてみるか」

夕張「もしもしー」

北上「あー夕張?やほー」

夕張「北上!?え北上が電話!?ホンモノ!?」

北上「失礼な。私だって教われば電話くらい出来るんだから」

本屋を一旦出て人気のない通路で初めての電話をした。

夕張「あははゴメンゴメン。えーっと、ああ街に出てるんだ。そういや買い出しとか提督が言ってたっけ」

北上「サラッとこっちの位置を特定しないでほしい」

夕張「気にしなーい気にしなーい。でなんのよう?」

北上「いやね、車に乗ってきたんだよ」

夕張「あーあれね」

北上「そこにコンドームがあってさ」

夕張「げっ!落としてたかぁ」

北上「やっぱお前かい」

夕張「年に二回各地の夕張が東京のとある場所に集まるのよ」

北上「それ大丈夫なの?」

夕張「ヤバイわよ。だから皆で場所被らないように担当決めて買い物してんだから」

北上「この情報化社会で中々にリスキーな」

夕張「多少変装はしてるしね。で、その集まりでちょっとした発明の発表会とかしてんのよ」

北上「あーオチが読めたわ」

夕張「言いたいから言わせて」

北上「どーぞ」

夕張「前回のテーマがコンドームだったのよ!」

北上「ひっどいテーマだ」

夕張「面白かったわよー。5mくらいまで伸びるやつとか発光するやつとか、ユニークなのだと段々萎んできて締め付けるのとか」

北上「拷問器具かなにかで」

夕張「個人的にお気に入りなのは使おうとしたら、北上ってゴムの使い方知ってる?」

北上「知ってても知ってなくてもここで知ってるって言ったらアウトだよね私」

夕張「そりゃそうか。袋破いて出したらね、音が鳴るやつかな。あの時はチクマーチクマーってなってた」

北上「鬼か」

軽くホラーである。

北上「夕張はどんなの作ったの?」

夕張「私?私は使うとGPSで居場所が特定出来るやつ」

北上「なんで何でもかんでも居場所特定したがるのさ」

夕張「システム使いまわせるから楽でさー。残念ながらゴムの大きさの都合上破って1時間で電池切れちゃうんだけどね。これで提督の浮気現場もばっちしよ!」

北上「もっとまともな用途は…ああゴムの時点でまともじゃないや」

夕張「ふっふっふー。RubberでLoverを見つけ出すってね!」

北上「別れはいつも唐突で」
夕張「あ、ちょ!ちょっと待って切らないで!」

夕張「袋は何色だった?」

北上「少し緑っぽい?ピンク」

夕張「なら大丈夫。グリーンは安全なものだから」

北上「色分けしてるんかい」

夕張「物騒なのもあるからね。なんかあったらヤバいからそこら辺の管理はしっかりしてんのよ」

北上「もっとしっかりすべき所は別にある…」

夕張「まあまあ、せっかくだし記念に持ってたら?」

北上「何故そうなる」

夕張「コンドームってなんか持ってると金運が上がるって聞いたわよ」

北上「ものっすごい嘘くさいんだけど」

夕張「ホントホント!あーただ聞いたってのは本当だけど話の中身が本当かはやっぱ分からないわ」

何処の夕張が言ったか知らないが夕張の時点で信用ならない気が…

北上「そもそもどこにしまえってのさ」

夕張「財布とか、スマホとか?」

北上「スマホに入れるとこある?」

夕張「ケースに、北上ケースって付けてるっけ」

北上「ないよ」

夕張「デスヨネー。今買っちゃえば?」

北上「それはアリかもね」

夕張「ゴム入れるためにケースを買うという前代未聞の購入理由ね」

北上「やっぱやめようかな」

夕張「捨てるにしてもそん時は破いて中身が何だったか教えてよ」

北上「えーここでやれと?まあいいや、じゃね」

夕張「ばははーい」

北上「…」

夕張「…」

北上「…」

夕張「切らないの?」

北上「どうやるの?」

夕張「oh…」


タッチひとつで電話を切れるとは。

でもこれ間違えて電話中にピッとおしてしまわないのだろうか。

北上「ケースかあ」

言われてみればみんなケースは付けている。形は多種多様だが。

さてそろそろ本屋に戻ろうか。

来た道を戻る。

角を曲がり、

北上「おっと」
「おっと」

曲がろうとしたら人とぶつかりそうになった。

北上「ごめんなさい」
「いやあこちらこそ」

女性だった。髪型も服装も私とは全く違う。

ただ身長が同じくらいで

北上「あれ?」
「んん?」

心做しか声も似ていて

北上「え」
「うわ」

どことなく顔も近くて

北上「マジか」
「ウソん」

というか

北上「北上?」
北上「北上?」

私がいた。

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「へぇ、皆でショッピングか~。いいねえ侘び寂びだねぇ」

北上「まあね」

どうやらこの私も侘び寂びを適当に使っているようだ。

先程と同じ人気のない通路。そのベンチに2人で腰掛けた。

北上「その服ってさ、もしかして大井っちが選んだやつ?」

北上「そそ。ちょっと窮屈というか、分不相応な感じがしてムズムズするけど」

北上「あー分かるなぁそれ。だから私は髪を解いてるんだ」

北上「意味あるのそれ?」

北上「変装してる気分になるっていうかさ、違和感があることに違和感がなくなる感じかな」

北上「なんじゃそら」

北上「私も言ってて分からんくなってきた」

聞けば彼女は提督の付き添いで遠くの鎮守府からここに来たそうだ。

北上「もう一山超えたとこの鎮守府に提督が用があるらしくてさ。長い時間話すっていうからその間ここでブラブラしてたの」

北上「付き添いなのに付き添わなくていいの?」

北上「鎮守府の中なら大丈夫だよ。それにあそこまで行くと周りなんもないんだもん」

北上「昼寝とかしてたら?」

北上「そんな、猫じゃあるまいしさ」

一瞬ドキッとした。

北上「ねえ、本って好き?」

北上「本?ん~漫画とかなら読むけど」

おお、やはり同じ北上でも色々と違いはあるのか。なんか感動。

北上「私の服も大井っちが選んでくれたんだぁ。余所行きの良い奴をって張り切ってさ」

北上「大井っち流石だねえ」

私の服と違って可愛いというよりは綺麗よりな服装だ。派手な色はないがだからこそ際立つ。

北上「そうだった。大井っちへのお土産探してたんだった」

北上「どんなのを探してたの?」

北上「服とかハンカチとか、そういうのかな。ペアルックなのがいい」

北上「ペアかあ」

北上「君はそういうのしないの?」

北上「大井っちと?」

北上「そうそう」

北上「私は、しないかな」

北上「へえ」

そう言ってまじまじと私を見つめる。

向こうも自分と違う北上に思うところがあるようだ。

北上「あれ?それって」

ふと彼女の左手に目が止まる。

北上「これ?あーこれね。昨日阿武隈に噛み付かれた跡でね」

北上「そっちじゃなくて。いやそっちも凄く気にはなるんだけど」

北上「じゃあ、こっち?」

北上「そう、それそれ」

謎の噛みつきあととは逆の手にハマっている、指輪だ。

北上「ケッコンのやつだよ」

北上「結婚!?提督と?」

北上「提督と…もしかしてケッコンってしらない?」

北上「知ってるよそりゃ、結婚でしょ?」

北上「待って、多分違う。絶対齟齬があるこれ」

北上「なんと?」

北上「君は艦歴いくつ?」

北上「半年位だけど」

北上「なら知らなくてもおかしくはない、のかなぁ。まあ説明しとくか」

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

北上「へぇケッコンカッコカリか」

北上「酷いネーミングセンスだよね」

北上「確かに」

北上「こんな名前だから欲しがる娘は多くてさ。提督ラブな娘なんか特に」

北上「カッコカリとはいえケッコンだものね」

金剛さんが真っ先に思い浮かんだ。

北上「もう何人にも渡してるのにそんな特別な意味なんてないだろうにさ」

北上「いっぱいいるの?」

北上「うん。十、いや二十はいたかな。信頼関係ではあっても恋愛関係ってわけじゃないよ」

北上「その辺の違いは議論の余地がありそうだけどね」

北上「かもね。でも私は別に提督の事を好きってわけじゃないよ。極上の信頼は置いてるけどさ」

北上「極上?」

北上「極上だよ。命を預けてるわけだし」

北上「私はどうなんだろうなあ」

北上「おやおや?恋に恋する乙女的な悩みがあったり?」

北上「どっちかと言うと恋に悩めるかな」

北上「相手をどう思うとかじゃなくて、恋自体に悩んでると」

北上「流石私物分りがいい」

北上「別に無理に男女じゃなくたってさ…」

北上「なに?急にフリーズして」

北上「ちょっとこっち向いて」

北上「いいけど、一体なn!?

唇を塞がれた。

しかも唇で。

並んで座っていたというのに恐ろしく早く手慣れた手つきで私の顔を引き寄せた。

驚きで目を瞑ってしまい、暗闇にとらわれる。

えなに何やってんこいつと軽くパニクったがようく考えてみるとこれはキスというやつだ。

勿論知ってはいるが半ば空想上のモノと認識していただけにこのリアルな体験はかなりの衝撃があった。

ここが人気のないところでよかった。

うわ舌を入れてきた。世の中には魚の踊り食いなんてものがあるらしいが口の中で自分以外の何かが動くというのはこんな感じなのだろうか。

控えめに言ってもあまり気持ちの良いとは言い難い感じなのだが。

視界がゼロなせいか余計に感覚が鋭く舌の動きを脳に伝える。

実際には1分もなかったであろう時間もやたらと長く感じられた。

北上「プハッ」

北上「…」

あ終わった。

北上「恐ろしく無反応だね」

北上「拒否反応じゃなくてよかったじゃん」

北上「どう?何か感じた?」

北上「若干引いた」

北上「そうじゃなくてさ」

北上「んー艶かしい…いや生々しい。有り体にいえば気持ち悪い」

北上「えーそれだけ?」

北上「それだけ…第一何でこんなことを」

北上「私はよく大井っちとするんだ」

北上「マジで」

北上「マジでマジで」

北上「キスって好きな人とするものじゃん?」

北上「初対面の、しかも自分のドッペルゲンガーを好きだとは思わないよ私は」

北上「そうじゃなくてさ、実際にやってみたら好きとかそういうのがなんかわかるかなーって」

北上「それだけで?」

北上「それだけで」

北上「…本当、に?」

北上「…キスしてる時の自分の顔ってどんなのか気になってちゃったりしちゃったり?」テヘ

そう言ってチラリと舌を出す。

うーむこいつの前世は蛇だな間違いない。

北上「提督にはしないの?」

北上「そんなことしたら戦争が起きるよ」

北上「言わんとすることはわかるけどよく考えるととんでもない事だよね」

北上「へへ。そっちこそ提督にはしないの?」

北上「なんで私がさ」

北上「してみたら好きかどうかわかるじゃん」

北上「わかる、かなぁ?」

北上「多分ね。何の保証もしないけど」

北上「ちぇー無責任め」

北上「おっと提督から連絡だ」

北上「なんて?」

北上「そろそろお迎えに行かなきゃだ」

北上「ならお別れだ」

北上「そうだね」

北上「元気でね私」

北上「息災でね私」

北上が立ち上がる。

不思議とまた会うこともあるだろう、とは全く思えなかった。

北上「ねえ」

北上「なに?」

北上「大井っちの事どう思ってるの?」

北上「大井っち?大井っちかぁ」

少し考えた後、振り返った北上はこう教えてくれた。

北上「大好きだよ。何よりも。他の誰にも、提督にだって渡したくないくらい、ずっと独り占めしていたいくらいに」

北上が去った後も、その言葉とあのなんとも言えぬ表情がまるで蛇のように私の頭の中に絡みついて離れなかった。

同じキャラ同士での絡みって意外と少ない増えて

すり減った資源と精神にすうっと効くミニイベント

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