【ミリマス】五月の第二日曜日 (22)

※ 某ラジオドラマ風

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N『今回のお話は、変わりばえのない765プロに秋月君が戻って来たところから始まります』

秋月律子「……ただいま戻りました」

P「ん、お帰り」

音無小鳥「お帰りなさい。律子さん」

律子「あい」

N『扉を開けて入って来るなり、のっしのっしと気だるげに、自分のデスクへ戻る秋月君』

N『そんな彼女の姿を見て、Pと音無さんはコソコソ内緒話を始めます』


P「……小鳥さん。なんだか律子、元気ないですね」

小鳥「え、ええ。出発前はいつも通りだったハズですけど」

N『さて、一体どのようにいつも通りだったのか? ここで少し、振り返って見ましょうか』

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1494759970

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N『時間は少々遡り、出発前の事務所です』

律子「えぇっと? こっちの案件は処理済みで――」

双海亜美「てぇーいっ! とりゃーっ!」

我那覇響「ほっ! はっ!!」

望月杏奈「…………とうっ」

七尾百合子「はぁっ! そこですっ!」

星井美希「むにゅ……すぅ」

伊吹翼「ふふっ、美希先輩ってば面白い寝顔~♪」


N『ご覧の通り、見慣れた事務所の光景ですね』


律子「これは、新しく入った子に任せますか」

百合子「聖なる風よ! 動きを止めて!」

杏奈「ん……亜美ちゃん、響さん。今、です!」

亜美「ガッテン! 喰らえ、亜美たち二人の必殺技――」

響「ミリオン剣、Vの字切りだあぁぁっ!!」

律子「そうそう響。響の探検番組に出す子も、決めておかなくちゃいけないのよねー」


響「……って、うぎゃーっ!?」

百合子「ひっ、響さん! 大丈夫ですか!?」

杏奈「盛大に……外した!?」

響「ちょっ、待って! 自分のキャラがタコ殴りに……」

亜美「あっ、やられた」

杏奈「ゲーム、オーバー……」

百合子「……ああ、私たちの三十分が」


律子「雪歩は準レギュラーだから。美也なんかを入れると面白いかも……って、あら。もうこんな時間じゃない」

N『書類仕事を切り上げて、秋月君が遊んでいた四人に呼びかけます』

律子「みんなー? そろそろ仕事の時間だけど」

響「ごめんみんな! もう一回、もう一回だけチャンスをちょうだい!」

百合子「そ、そんなに謝らなくっていいですよ」

亜美「うんうんそうそう! ひびきんが肝心なところでポンコツなのは」

杏奈「ん……みんな知って、ます」


律子「ゲームも止めて、準備してー」

響「うぅ……ありがとう、ありがとう!」

百合子「それじゃあ、装備を整えて」

亜美「もう一狩り!」

杏奈「おー」

律子「止めなさいって言ってるでしょ!」

響「うわあぁっ、律子!?」

亜美「ああっ! ひびきんがリアルでモンスターからのコーゲキを!」

律子「誰がモンスターだ! 誰が!」


杏奈「ど、どうしよう百合子さん……!」

百合子「えっ!? と、とりあえず退却? 反撃?」

律子「アンタたちもいつまでゲーム気分なの! さっさと片付けて準備する!」

杏奈&百合子「は、はい!」

律子「亜美もほら、ゲーム機の電源切って」

亜美「待って待って、今セーブしてるとこだから――」

N『そうして我那覇君の持っていた携帯機の電源を、ぷちっと落とす秋月君』


響「ちょっ、律子! 自分まだセーブしてなかったのに!」

律子「えっ? あ、そうなの?」

響「ひ、酷すぎるぞぉ……」

律子「ご、ごめんなさい。ほら、泣かない泣かない!」

杏奈(……急がなきゃ!)

百合子(こっちまで消されたらたまらない!)


美希「むぅ~……みんなワーワーうるさいの。ミキ、お昼寝してるんだよ?」

翼「そうですよ。折角わたしの膝枕で、気持ちよさそうに寝てたのに~」

亜美「ちょっとバサバサ、今はそういうのめちゃマズ――ひぇっ!?」

律子「アンタら二人も静観決めてないでっ! さっさと準備を済ませなさーいっ!!」

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P「――で」

P「半泣きになった響をなだめつつ、叩き起こした美希も連れて外回りに行ったんだよな。確か」

小鳥「ええ、だいたいそんな流れでしたよね」

N『はい。そういう流れでした』

律子「はぁ~……」

小鳥「……どうします? 作品を捨てられちゃった時の、ロコちゃんみたいな目をしてますよ?」

P「これは……結構重症かもしれません」

小鳥「それじゃあここは、プロデューサーさん」

P「なんです?」

小鳥「理由、聞いて来てください」

P「……どうして俺の役目なんですか」

小鳥「そんなの、質問するまでもないでしょう?」

小鳥「落ち込んでいる女性を元気づけるのは、男の甲斐性じゃないですか!」

P「むぅ……そんな物ですかね」

小鳥「はい。そんな物です」


N『自信満々で言い切る音無さんに、Pが渋々頷きます』

P「まぁ、俺だって何があったか気になりますし。それぐらはしてもいいですけど――」

律子「……うぅ、ぐすっ」

P(な、泣いてる!?)

小鳥(律子さんが!?)

小鳥「これは……物凄いほどの落ち込みようですね」

P「一体、律子の身に何が……?」

小鳥「何がって、それを聞いて来るんですよ。ほら、早く早く」

P「えぇっ!? ちょっと待って、雰囲気滅茶苦茶重いですよ!」

小鳥「わ、私だっておいそれと行けませんよぉ~!」

N『……騒がしそうにしてますが、一応二人とも内緒話です』

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P「……うぅ、怖いなぁ」

小鳥「頑張ってください! 骨は拾ってあげますから!」

P「その言葉、頼もしいほどに頼りない」

N『そうしておっかなびっくりと、Pが秋月君に近づきます』


P「……な、なあ律子、ちょっといいか?」

律子「……ん、なんですか?」

P(うわぁ……急いで涙を拭ったけど。目、真っ赤じゃないか)

小鳥(普段は気丈な律子さんが見せる、弱ってしまったこの姿……)


小鳥(良い! 凄くそそられる!)

N『こら、そこの事務員さん』


P「その、何かあったのか? ちょっと、元気が無さそうだけど」

律子「……なんでもないです」

P「な、何でもないことはないだろう? その、そんなに目を腫らしてさ」

律子「これは……花粉です。花粉症なんで、ちょっと目が痒くなってただけですよ」

P「うっ、あ……そうか」

律子「そうです」

P「…………よし」


P「――司令、ただいま帰還しました」

小鳥「ちょっと!? 何すごすごと戻って来てるんですか!」


P「だってだって居たたまれないんだもん!」

P「無理です無理! あの目で見つめられちゃったら、言葉も詰まって出てきません!」

N『へたれなPの言い訳に、音無さんが吐き捨てます』

小鳥「ちっ、この根性無しの役立たずめ」

P(どストレート!)

小鳥「いいわ、やるわ。事務所の最年ちょ――げふんげふん!」

小鳥「事務所の頼れる先輩として、私が聞きに行きましょう!」

P「……言い直す必要ありましたかね?」

小鳥「ヘタレは黙っていてください」

N『そうしてPを一蹴し、音無さんが不敵に微笑みます』


小鳥「坊ちゃんはそこで座ってな。本当の甲斐性って奴を、アナタに見せてあげますよ!」

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P「――で、何か申し開きはありますか」

小鳥「無いです。皆無です。まったく何も聞き出せませんでした」

P「でしょうね。なんですかあの『君の心も曇り空かい?』って台詞」

小鳥「ドラマであった台詞ですよ。イケてるやり手のプレイボーイが、その台詞で落ち込んでる女の子を物にするんです」

P「じゃあ、『君をジャッキアップしたいのさ』ってのは?」

小鳥「そっちはゲームの台詞ですね。車の修理工をしている相手を、主人公が落とす時の名台詞です」


P「小鳥さん……アナタの甲斐性ってやつは、ドラマとゲームにしか無いんですか?」

小鳥「失礼ですね、漫画もあります!」


N『その時、事務所の扉を開けて一人の少女が現れました』

P「なんだ?」

小鳥「あら、星梨花ちゃん」

箱崎星梨花「あ、プロデューサーさんに小鳥さん」


星梨花「ちょうど良かった。実は、お二人に用事があったんです」

P「俺たちに用事? なんだい?」

星梨花「はい。えぇっと……どうぞ!」

P「どうぞって……これ、花か」

小鳥「とっても綺麗なカーネーションね」

P「でも、どうして急に花なんか……それも大きな花束で」


N『Pの言葉に箱崎君が、もじもじと照れ臭そうに笑います』

星梨花「あの、今日は母の日ですから」

星梨花「日頃の感謝の気持ちを込めて、いつもお世話になってる
プロデューサーさん達に、内緒で花束を贈ろうって話になったんです」

P「ああ、それでカーネーション」

星梨花「はい! 事務所のみんなでお金を出し合って」

星梨花「今日がお休みの人もいますから、私が代表で持って来ました!」


N『笑顔で報告する箱崎君に、音無さんも微笑み返します』

小鳥「そっか……ありがとう星梨花ちゃん。嬉しいわ」

P「そうだな、みんなの気持ちが伝わる贈り物――って、ちょっと待った」

小鳥「あ、そうね。そうですね」


星梨花「はい? どうかしましたか、プロデューサーさん」

P「いやな、こうしてプレゼントは貰ったけど――」

小鳥「私たち二人は受け取ったけど、律子さんの分はどうしたの――ですよね? プロデューサーさん」

P「えっ? あ、まぁ確かに。それも引っかかるとこですけどね」

星梨花「律子さんですか? ……えっと、律子さんの分のカーネーションは」

律子「私は……もう、受け取っていますから」

小鳥「きゃっ!?」

P「律子!」

小鳥「は、背後から急に声をかけないでください! ビックリします!」

律子「あ、ごめんなさい」


律子「……でも今言った通り。私はお二人よりも一足先に貰ってるんです、カーネーション」

P「そうなのか? でも、いつ?」

律子「丁度外回りから帰る車の中で、響達から渡されて」

N『そうしてPたちが見守る中、みるみるうちに涙目になる秋月君』

律子「あ、あんまり急なものだから。何だか凄く泣けて来ちゃって」

星梨花「響さんたちは特にお世話になってるから、自分たちで渡すんだって言ってたんですよ」

律子「嬉しいやら驚いたやら……気持ちの整理がまだつかないんです。恥ずかしい話なんですけど」

小鳥「でも、花束なんてどこにも持ってませんでしたよね?」

N『音無さんのもっともな質問に、秋月君は照れ臭そうに答えました』


律子「だって、六人が一つずつ渡して来たんですよ? とても持ちきれなかったから、今は車に置いてあります」

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N『そうして、事件はひと段落』

P「じゃあ結局、落ち込んでたワケじゃないだな」

律子「違いますよ。当然じゃないですか」

小鳥「それにしても、母の日ですか。……なんだか不思議な感じですね」

P「と、言うと?」

小鳥「だって三人とも誰一人、結婚だってしてないのに」

小鳥「……そう、結婚だってしてないのに」

律子「ちょっと小鳥さん。自分の発言で傷つかないで」

P(この人も難儀な人だなぁ……)


律子「でも――小鳥さんの気持ちは分かります。私も、普段はあの子たちに口うるさく接してましたから」

律子「正直、嫌われててもしょうがないって思ってたんですよね。……なのに、本当のお母さんみたいに慕っててくれて」

小鳥「そう、そうなんですよね! なんというか、頼りにされてるっていうか」

律子「嬉しい気持ちになれますよね」

小鳥「ええ、とっても!」


N『すると二人の会話を複雑な表情で聞いていたPが、突然ポツリと呟きました』

P「お二人には悪いんですけど、さっきからソコが引っかかってるんです」

小鳥「はい?」

律子「何がですか?」

P「そのですね……どうして俺にまで、花が贈られたんでしょう?」

律子「あっ」

小鳥「え、えぇっと、それは……」

N『……以上、五月の第二日曜日でも頑張っている765プロのお話でした』


P「母の日ですよね? ねぇってば!?」

P「誰か、答えてくださいよぉー!」

===
おしまいです。芸能事務所に休みなんて無い……のか?

お読みいただき、ありがとうございました。

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