男「復讐なんてやめるんだ!!!」 (22)


インタビュアー『今のお気持ちはいかがですか』

中年男『妻を殺した犯人を、私と娘は絶対に許しません!』

中年男『必ず見つけ出して……この手で殺してやりたいくらいだ……!』

中年男『いいや、絶対に殺してやる! 復讐してやるぅ……っ!』

中年男『ううっ……うううっ……!』



妻「大の男がテレビで大泣きして、情けないわねえ。ねえ、あなた?」

男「……」


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中年男(警察はあてにならん……必ずこの手で……!)

男「こんにちは」

中年男「?」

中年男「なんですか、あなたは」

男「私、こういう者です」スッ

中年男「……『私刑を防ぐ会』の会長……?」

中年男「一体なんの用です?」

男「復讐なんてやめるんだ!!!」

中年男「!」


中年男「なんですか、いきなり!?」

男「私、テレビであなたのことを見ていましてね」

男「このまま放っておけば、あなたは必ず復讐に走る、といてもたってもいられなくなったわけです」

男「『私刑を防ぐ会』の代表としてね」

男「復讐なんておやめなさい。復讐は何も生まないのですから」

中年男「な、なにをいう! いきなり現れて、知った風なことを!」


男「復讐などという行為は、すでに死んだ人に行動を縛られた、非常に愚かな行為です」

男「死んだ奥さんも、あなたが復讐に走ることなんて望んでない!」

男「さあ、奥さんのことなど忘れ、前を向いて生きるのです!」

中年男「きれいごとばかり並べやがって……」

中年男「あんたがなんといおうと、私は復讐を諦めるつもりはない!」

中年男「失礼する!」

男「……私だって諦めませんからね!」


……

中年男「……またあんたか! いい加減にしてくれ! 毎日のように現れて、一体なんのつもりだ!」

男「なんのつもり、はこっちのセリフです」

男「毎日のように復讐なんていう陰鬱なことばかり考えて楽しいんですか?」

男「奥さんが死んだぐらいで落ち込んでちゃいけません!」

男「世の中、もっと不幸な人はいっぱいいるんですよ! あなたは甘えてるだけなんだ!」

中年男「……なんだと!」


中年男「あんたは、自分の妻が殺されたわけじゃないから、そんなこといえるんだ!」

中年男「そうだ! あんたには家族がいるのか!?」

男「……いますよ、妻が一人ね」

中年男「もしも、その妻を殺されたら、あんただってきっと私みたいになるはずだ!」

男「なりませんよ。私は復讐が愚かな行為だと悟っていますからね」

男「私はあなたほど愚かではない! あなたとは違うんです!」

中年男「……!」

中年男「その言葉……必ず後悔させてやるからな!」

男「……」


数日後――

男「ただいまー」

男「ん……?」

男「ただいまー」

男(なんだこの異様な気配は……まさか!?)


中年男「クックック……」

男「こ、これは……! 私の妻が……!」

中年男「名刺を渡したのは失敗だったな……」

中年男「おかげで名前から、自宅を見つけ出すことができた」

中年男「あんたが愛する妻はこの通り、この手で殺した!」

中年男「どうだ、この光景を見ても、私にいったことと同じことがいえるか!?」

中年男「復讐は愚かな行為だ、といえるのかァァァァァ!」

男「……いえるとも」

中年男「なにっ!?」


男「妻が殺されたのは、たしかに悲しいが……」

男「死んだ妻は私に復讐など望んでないと分かるし、私も復讐などするつもりはない」

男「私にできることは……妻の冥福を祈ることのみ」

男「あと、できるなら……あなたには自首をして欲しい」

中年男「う、うう……」

中年男「ああああああああああっ……!」


中年男「私は……なんと早まったことを……」

中年男「あなたが……これほどまでの聖人だとは知らずに……」

男「よいのです、よいのです」

男「あなたは奥さんを亡くされて、精神的に参っていただけなのです」

男「私はあなたを恨みはしませんよ……」

中年男「じ、自首します……!」

男「……ありがとうございます」

……

……


……

男「……ク、ククク」

男「ハーッハッハッハッハッハ!」

男「とまぁ、おかげであのクソ女を他人の手で殺させることができた!」

愛人「すっご~い」

男「俺の妻は、女としては最低ランクのどうしようもない女だったからな……」

男「かといって俺の手で殺してしまうと、間違いなく俺は最有力容疑者にされ、捕まる可能性が高い」

男「だが、奴のおかげでそうならずに済んだというわけだ!」

男「妻を殺されたって復讐なんかするわけがない。だってこれっぽっちも愛してないんだから!」

男「ハハハハハハハッ!」


男「おかげで、最近知り合った君とも、なんの障害もなく結婚できるしな」

男「ほとぼりが冷めたら、結婚しようじゃないか」

愛人「うん、そうしよ、そうしよ!」

愛人「ところでさ……」

男「うん?」

愛人「もし、アタシが殺されたら、あなたはどうするの?」

男「そりゃもちろん、怒り狂って、死に物狂いで犯人に復讐するに決まってるさ!」

男「君のような若くて美しい娘のためなら、俺は自分の命だって捨てられる!」

愛人「やだ~、チョー嬉しい!」


愛人「それと聞きたいことがもう一つ」

男「なんだい?」

愛人「あなたの奥さんを殺した人の奥さんを殺したのって、もしかしてあなたなんじゃないの~?」

男「ん~……そのことについては墓場まで持っていこうと思ってたけど、今は気分がいいから答えちゃおう」

男「正解だ!」

愛人「アハハ、やっぱり! アタシ名探偵~!」


男「俺はあのクソ女にいい加減うんざりしててね」

男「なんとか始末する方法を考えてたところ、この計画を思いついたんだ」

男「まず、本当に愛し合ってる夫婦を探し出し、この手で妻の方を殺害する」

男「で、怒り狂ってる夫のところに出向き、デタラメな身分で復讐なんかやめろと煽りまくる」

男「そして……そいつは俺の誘導通り、俺の妻を手にかける!」

男「ククク、我ながら見事な計画だったが、正直ここまでうまくいくとも思わなかったな」

愛人「あなたってマジ天才~」


愛人「でもさ~、あなたも殺人をやっちゃったんでしょ? ケーサツは大丈夫?」

男「大丈夫さ」

男「その辺に落ちてた石でガツンとやって即逃げたから、俺につながるような証拠は残ってない」

男「接点がない人間による殺しは迷宮入りしやすいっていうしな」

男「現に警察も、すでに通り魔による犯行としてるってことだ」

男「俺が捕まることはありえないよ」

愛人「やるぅ!」

男「それどころか、遺族に復讐をやめさせようとしたら妻を殺されてしまった悲劇の人ということで」

男「きっとマスコミに持ち上げてもらえるに違いない! なんなら自伝でも出して大儲けするか!」


愛人「だったら、あなたの始末はアタシがつけるしかないね」

男「……は?」

男(ん!? いつの間にか首にロープが……!)

ギュッ!

男「ぐえっ!」

男「お、お前……ま、まさか……」

愛人「そうよ……あんたに母親を殺され、父親を殺人犯にされた娘だよ」ギュッ

男「ぐ、ぐえぇ……!」


男「お前まさか……最初からこのつもりで……俺に近づいたのか……!?」

愛人「いいえ……最初はお父さんに復讐をやめさせようとしてる人だと思って、純粋に惹かれてたわ」

愛人「だけど、付き合ってくうち、あんたの本性が下劣だってことがすぐ分かってきてね」

愛人「もしかしたら、お母さん殺したのこいつなのかも、って思い始めたの」

愛人「もう少し早くさっきの自白を引き出せてたら、お父さんを殺人犯にしなくて済んだのにね」

愛人「ま、いいや。もうどうでも。こうして復讐は果たせるわけだし」

愛人「さっきの言葉通り、アタシのために命を捨ててもらうわよ」

男「ひっ……!」

男「復讐なんてやめるんだ!!!」

男「や、や……め……ろぉ……」

男「……」





― 終 ―

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