魔王「フハハ……裂けよ大地! 轟け雷鳴! 燃え盛れ火炎!」勇者「強すぎる……!」 (22)


王国暦214年――

突如、魔界から人間界に、魔王が現れた。



魔王はその無尽蔵ともいえる魔力から、大魔法を次々繰り出し、人間界侵略を開始した。


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「裂けよ、大地!」


魔王がこう叫ぶと、巨大な地響きとともに大地が激しく揺れ動く。


世界各地で地割れが発生し、大勢の人々が地の底に呑み込まれていった。


「轟け、雷鳴!」


魔王の命を受け、たちまち闇よりも黒い雷雲が集まる。


雷雲からはおびただしい数の雷が落とされ、地上の生物を無差別に打ち砕いた。


「燃え盛れ、火炎!」


膨大な熱量を誇る火炎が、村や町にばら撒かれる。


人や建物が無慈悲に焼き尽くされていく様は、まさに地獄絵図というべき光景であった。


もちろん、人類とて手をこまねいているわけではなかった。



魔王を打倒すべく特別に鍛え上げられた戦士――「勇者」が、
国の全面的なバックアップを受けて、魔王に決戦を挑んだのである。



勇者の力は人の域を大きく超えており、誰もが彼ならば必ず……と勇者の勝利を期待した。


ところが、いかに勇者といえど、災害の集合体といっていい力を誇る魔王に対しては、
あまりにも無力であった。


「フハハハ……裂けよ大地! 轟け雷鳴! 燃え盛れ火炎!」


揺れる大地に翻弄され、落雷に打たれ、攻撃は灼熱の炎によって阻まれる。

勝負にすらならない。


「強すぎる……!」


人間側の見積はあまりにも甘すぎたのである。


打つ手がなくなりうなだれる勇者に、魔王があざけりの笑みを浮かべる。


「勇者とやら、無駄な抵抗もどうやらここまでのようだな」

「ぐっ……!」

「冥土の土産に、とっておきの魔法を見せてやろう」

「今まで以上の魔法があるというのか……!」

「出でよ!」


魔王の号令とともに、空に雷が走り、巨大な魔法陣が浮かび上がる。


「これは……召喚魔法!?」


魔法陣から降臨したのは、魔王そっくりな魔族であった。

いや、正確には魔王よりも背は低く、頭髪は薄く、顔にしわがあり、服装も地味である。
そしてなにより、内包している魔力は魔王を遥かにしのぐ。


さらなる敵の登場に、勇者は愕然とする。


「こんな奴が控えていたなんて……! 世界は終わりだ……!」

「フハハハハ……絶望しろ、人間ども! 人間は今日、地上から消滅するのだ!」


次の瞬間、新たに召喚された魔族はこう叫んだ。


「バッカモーン!!!」


「どこに行ったのかと探しておったら、こんなとこで悪さをしておったのか!」


魔族の拳骨が、魔王の頭に落とされる。


「ぐげっ!」

「このっ! このっ!」


召喚された魔族によって、魔王が一方的に打ちのめされる。


「お、俺はあんたにすごいとこ見せたくて……喜んで欲しくて……」

「こんなことして、わしが喜ぶと思ったか! このたわけが!」


勇者は二人のやり取りを、ただ呆然と眺めるしかなかった。


魔族が勇者に頭を下げる。


「うちのバカ息子が、本当に申し訳ないことをした。
 このバカが壊した物や傷つけた人々はすぐ元通りにしますゆえ、どうか許して下され」

「はあ……」

「それっ!」


魔族が手を振ると、魔王によって滅ぼされた建物や自然はたちまち元に戻り、
怪我人は回復し、命を奪われた人々も蘇った。


「大量の死者を現世に戻したから、天界も混乱しておるだろう。
 後で菓子折りでも持って、神の奴にも謝りに行かねばならんな……」


全てを魔王侵略前の状態に戻した魔族は、魔王の首根っこを乱暴に掴んだ。


「さあ、来い! 二度と異世界に悪さできんよう、性根を叩き直してやる!」

「ご、ごめんなさい、お父さん! 許してぇ!」

「数千年はお仕置きするからな! 覚悟しておけ!」

「ひええええっ……!」


魔王の悲痛な叫び声が消えたかと思うと、二人の姿は人間界から影も形もなくなっていた。


かくして、経緯はともかく平和は戻った――

魔王がいなくなった影響か、久しぶりに澄み切った青空を眺めながら、勇者はこう呟いた。


「地震よりも雷よりも火事よりも恐ろしいのは、親父だったか……」







― END ―

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2017年03月07日 (火) 14:20:27   ID: HwRIurt0

(´^ω^`)ワロチ

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