小林「好感度測定眼鏡?」 トール「ぐぁるるる」 (51)

~自宅~


小林「荷物が届いてたけど、これ何だろ」

小林「えーと、差出人は……ケツァルコアトルさん?」

小林「取りあえず開けて見よっか……」ゴソゴソ

小林「ん、眼鏡?」

小林「説明書がついてるな、なになに……」


「好感度測定眼鏡」

「この眼鏡をかけて相手を見ると好感度が数字で表示されます」


小林「……なんだこれ」

小林「好感度が数字にって、そんな訳が……」スチャッ


トール「ふんふんふん~♪」≪98≫


小林「おおう……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1485601562

小林「ホントに表示されたな……しかも98って、えらい高いな」

小林「いや、待てよ……そもそもこれって数字の上限いくつなんだろ」

小林「上限1000とかなら98って大したことないって事になるし」

小林「えーと、説明書の続きは、と」


「上限は100、下限は0です」


小林「……上限は100かあ」

小林「って事は、私は本当に好かれてるのか」

小林「……」

小林「ちょっと照れるかも」

小林「まだ続きがあるな、ついでに読んでみよう」


「下限0になると殺されます」


 

小林「何か物騒な事も書いてあるなぁ……」

小林「まあ、下限0って事は嫌われまくってるって事なんだろうから仕方ないのかも」

小林「……待てよ、じゃあ上限100になると、どうなるのかな」


「上限100になるとレイプされます」


小林「……」

小林「ん?」

小林「今、何か変な文字が見えたような」ゴシゴシ

小林「ははは、眼の錯覚だよね、もう一度読み直して……」

小林「ほら、やっぱり読み間違えてた、えーと?」

 


「上限100になるとレズレイプされます」



 

小林「悪化してるじゃないかっ」

小林「読み間違えじゃなくても私は女だし多分大丈夫かって期待してたのに……」

小林「……」

小林「うーん、どうしようか」

小林「トールの事は嫌いじゃないけど、レズレイプされるのは御免だし」

小林「……トールに冷たく当たって好感度下げる?」

小林「いやいやいや、こんな眼鏡に振り回されて態度変えるなんて、何かヤダな」

小林「そもそも、トールは私の意に反してそんな事をする子じゃないと思うし」

小林「そうだよね、暫くは様子を見る事にしておこう」


「小林さーん、カンナ~、ご飯出来ましたよ~」


小林「はーい、いまいくー」

小林「へえ、今日のご飯もおいしそうだね」

トール「腕によりをかけて作りましたから♪」

カンナ「おいしそー」

小林(そういえば、カンナちゃんの好感度はいくつかな)

小林(この眼鏡を全面的に信用するわけじゃないけど、ちょっと気になる)チラッ

カンナ「いただきまーす」≪90≫

小林(カンナちゃんも割と高いな)

小林(ちょっとホッとした)

小林「いただきます」

トール「私も、いただきまーす!」


モグモグ


 

小林「うん、美味しい、もう料理の腕前ではトールには勝てないなあ」

トール「えへへ、そう言って頂けると努力した甲斐があります!」≪98≫



小林(うん、数字に変化はない)

小林(まあ、好感度なんて些細な事では上下しないんだろうな)

小林(もっと、こう、愛を囁いたりしない限りは大丈夫なのかも)

小林(だったら、安心して日常生活は過ごせるか)



小林「あ、ごめん、トールちょっとお醤油とって」

トール「はい♪」≪99≫

小林「ありが……あれ」

トール「どうかしましたか、小林さん」≪99≫

小林(数字が上がってる……え、なんで)

小林(お醤油とって貰って上がるってどういう事よ)

トール(ああ、今のお醤油とってって感じは何だか夫婦みたいで凄く癒されました)

小林(これ、気楽に考えてたけど、ちょっとヤバいのかも)

小林(あれだけ簡単に数字が上がった上に、あと1上昇しただけで……レイプされるの?)

小林(いや、ないよ、ないよね、そんな事しないよねトールは)

小林(信じたいけど……)


トール「あれ、小林さんお風呂ですか?」

小林「う、うん、ご飯も終わったしね」

トール「じゃあ、お背中お流ししますよ!」

小林「え」

トール「さ、いきましょ♪」

小林「……い、いや、今日はいいかな」

トール「え、どうしてです?小林さんはトールに綺麗にされるのが好きなんでしたよね?」

小林「あー、確かにそう言ったけど……うーんと」

トール「小林さん?」


小林(駄目だ、やっぱり好感度が上がるようなことは避けた方がいい)

小林(ここはとりあえず乗り切って、明日にでもケツァルコアトルさんに相談してみよう)


小林「えっと、やっぱり、ちょっと恥ずかしいからさ」

小林「今日は1人でお風呂入るよ……」

トール「……」≪99≫

小林「トール?」

トール(恥ずかしいってどういう事でしょう)

トール(昨日までは私が背中洗ってても普通に接してくれてたのに)

トール(どうして今日になって突然)

トール(そもそも恥ずかしいと言う感情はどんな相手に対して発せられるものなのでしょう)

トール(別に意識してない同性に対して感じる事じゃないですよね)

トール(つまり、小林さんは私を意識してるのでしょうか)

トール(同性である私を意識してるのでしょうか)

トール(同性なのに性的に意識してるのでしょうか)

トール(小林さんが私を性的に見てる?)

トール(私と一緒にお風呂に入ると小林さんの理性が断ち切られそうになってるから拒絶した?)

トール(それってつまり、それってつまり?)

トール(つまりつまりつまりつまりつまりつまりつまりつまりつまりつまりつまりつまり)

 



トール「……」≪100≫




 

(もしかして、トールを怒らせちゃったかな)

そう心配した小林がトールに声をかけようとした瞬間、その変化は起こった。

トールの姿が掻き消えたのだ。


いや、違う、別の視点から見るとと掻き消えたのではなく……。

「高速で屈んだ」のだ。

あまりにも早くその動作が行われたので、小林にはそれが消えて見えた。


身を屈めたトールは手を地につける態勢を取っていた。

獲物に襲い掛かる前の、四足獣の構え。

その目は飢えを孕んだ赤色に塗りつぶされていた。

その口からは普段のトールとは違った、恐ろしい声が漏れていた。


「グァルルルル」


小林が状況に気付いた瞬間、トールは地面を蹴っていた。

ドラゴンの力を駆使した超高速跳躍。


(あ、これ、しんだ……)


自分に飛びかかってくるトールの残像を見た小林は、死を覚悟した。

「ドラゴン、アッパーカットなの」


死を覚悟した小林の耳に、幼い声が聞こえた。

後ろから?

違う、もっと近く。

そう、小林の前。

足元から……。


そう意識した瞬間、小林の眼前まで接近してきていたトールは。

轟音と衝撃を伴って、天井に叩きつけられ、そのまま突き刺さった。


パラパラと瓦礫が落ちてくる中、「声の主」はフワリと着地する。

小林「か、カンナちゃん?」

カンナ「コバヤシ、だいじょうぶー?」

小林「う、うん、大丈夫だけど……え、この状況は何なの」

カンナ「……私は、トール様から頼まれてた」

カンナ「もし将来、自分が理性を失い小林の生命に危険を及ぼそうとしたなら」

カンナ「絶対にそれを止めて欲しいって」

小林「そうだったのか……け、けど、トール大丈夫かな、天井に頭が刺さってるけど」

カンナ「トール様はこれくらいじゃ死なない」

カンナ「多分、起きた頃には頭も冷えてるとおもう」

小林「そっか」

小林「けど、助かったよ、カンナちゃん」

小林「あのままだと、私はトールに、ちょっと、口では言えない事をされてたかも」

カンナ「やくめなのー」

小林「あははは、カンナちゃんは頼りになるなあ」ナデナデ

カンナ「……」≪90≫

小林「カンナちゃん?」

「トール様を止めた私の事を褒めてくれた」

「頼りになるって言ってくれた」

「頭を撫でてくれた」

「つまりこれからも頼りにしたいって事だと思う」

「これからもって何時まで?」

「じゅみょうが無くなるまで?」

「それまでずっと一緒に?」

「私もコバヤシとずっといたいー」

「つがいになりたい」

「ずっとなでてほしい」

「ずっと」

「ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと」

 



カンナ「……」≪100≫




 

カンナ「くるるぅ」

小林「え?」

カンナ「クルルルゥゥゥ」

小林「カンナちゃん?どうしたの?何かちょっと怖いんだけど」


ズボッ


小林「ひっ!?」

トール「……」ズシャッ

小林「あ、と、トール?眼を覚ました?頭大丈夫だった?」

トール「……グァルルルル」

小林「え、あの、ちょっと、2人とも怖いんだけど……」

カンナ「クルルルルゥゥゥ」

トール「グァルルルルゥゥ」



そこには2匹の獣が居た。

二匹の獣は同時に飛びかかってきた。


「ひっ!」


それに対して小林は、条件反射的に頭を抱えて身を屈めた。

それが幸いした。

二体は小林の頭上を越え、背後にある台所に突撃する。


轟音、衝撃。

冷蔵庫はひしゃげ、フライパンは宙を舞い、鍋には穴が開く。

電気コンロがショートし発火、その熱がスプリンクラーを作動させ、室内に水が降り注ぐ。

まるで雨のように。

ザァザァと。


そして小林は見た。

その雨の向こうに、ゴミの山と化した家電の中から、ズルリと立ち上がる二つの人影を。

その人影が発する、忌まわしい鳴き声を。


「ぐぁぁるるぅぅくとるふえあえあはすたぁぁぁ」

「るるぁぁぁたんぺへまんたあん、ねぃたあんな」


彼女達は探していた。

私の事を探していた。

恐らく、狂った彼女達の認識を、この雨が阻害しているのだろう。

だったら今のうちに逃げないと。

居間から離れないと。

私は手近な部屋へと転がり込んだ。

~浴室~


小林「ああ、よりによってこんな所に逃げ込むなんて……」

小林「ここじゃ隠れる所なんて限られてるし……外に出るには居間を通らないといけないし……」


ガタン

ドーン

グァルル


小林「トール達、まだ居間で私の事を探してるみたい……」

小林「ああ、2人とも早く正気に戻らないかな……」


クルルゥゥ


小林「ひっ……」


小林(声がこちらに近づいてきた)

小林(ど、どうしよう、どうしたら……何か、何かないかな)

小林(流石に洗濯機には入れないし、あとはバスクリンと、カンナちゃんのお風呂セットくらいしか……)

小林(……これ、使えるかも)

カンナは浴室の扉を開けた。

居間は水にぬれて区別がつかないが、この部屋にはコバヤシの匂いが残っていた。


(どこだろう、どこなのかな、はやく、はやく、あいたい)

(もっと、もっとこばやしの匂いをかぎたい、もっともっと)

(匂いをかいで、それから、それから?)

(どうしたいのか、わからない、けど、けど)

(コバヤシにあえば、きっと自然に身体がうごくから)


意識がコバヤシの事で埋まる。

他の事は上手く考えられないし、どうでもいい。

コバヤシの匂いはここで途切れている。

少しずつ、薄まってきている。

ここではなかったのだろうか。

この匂いは、ただの残り香だったのだろうか。

見当たらない、見つけられない。

今はただ、水と薬液の匂いがあるだけだ。

ふと、バスタブに注意が向く。

水が溜まったバスタブ。

誰かがお風呂に入ったのだろうか。

水は不透明で白く濁っている。

薬液の匂いはここから出ているようだ。

違和感がある、けれどそれが何か判らない。


「クルルゥゥゥゥゥ」


グシャリッ


思考を上手く言語化出来ない苛立ちから、バスタブを叩いてしまう。

ひび割れたバスタブから、少しずつ水が抜けていく。


(ここにいても仕方がない)

(コバヤシを、コバヤシを早く探さないと)

(はやくはやくはやく)


そのまま彼女は、フラフラと浴室から出て行った。

小林「ぷはっ……」

小林「あ、危なかった」ハァハァ

小林「気づかれたかと思った……」ハァハァ


小林はバスタブの中に隠れていた。

最初から入浴するつもりだったので、水は貯めておいたのだ。

あとはバスクリンで水を白く着色。

呼吸はカンナのお風呂セットの中に合ったシャンプー容器をバラしてチューブ部分をホース替わりにして補っていた。

一か八かの賭けだったが、上手くいったようだ。


小林「うう、服がずぶぬれだ……」ハァハァ

小林「時間がなかったから仕方ないけど、眼鏡も水の中に落としちゃった」ハァハァ

小林「えっと、どこだ……」チャプチャプ


ハァハァ


小林「あ、あった、よかった割れてないみたい」


ハァハァ


小林「これで良く見え……」

 






真横にトールとカンナが立っていた。





 

小林「ひっ!」


ハァ、ハァ

ハァ、ハァ


小林「あ、あははは、と、トール、カンナちゃん、そこにいたんだ」

小林「ちょ、ちょっとだけびっくりしちゃった」

小林「は、ははは……」


2人は何も答えない。

何も答えず、トールを見つめている。

息を乱しながら、トールを見つめている。

その2人の様子を見ている内に、小林の中に1つの疑問が生まれた。

「良く考えたら、どうして私が2人の為にビクビク後悔して『お願い神様助けて』って感じに逃げ回らないといけないのかな」

「逆じゃない」

「何で」

「ここから逃げられるなら『同僚のミスが発覚してデスマに巻き込まれて半泣きになってる方がずっと幸せ』って願わなきゃならないの」

「ちがうんじゃあない?」

「そうだよ、怯えて逃げ回るのは!」

「家主である私を怒らせて後悔するのは!」

「ドラゴン!お前達の方だ!」

小林はそう言い放ち、2人に指を突きつけた。


その指はトールにチュパチュパと舐められた。

そのままカンナにスラックスをズルッと脱がされた。

逃げる場所がなかったので、小林は思わずバスタブにしゃがみ込んだ。

そしたら2人も入ってきた。

押し倒されて密着される形になった。


「ごめんなさい、許して」


その言葉を最後に、小林はもう何も言えなくなった。

物理的に言わせてもらえなくなった。



2匹の獣の欲求は、次の日の朝まで続いた。

「うん、こないだの親睦会の時にね、2人の愛情がちょっと危険な所まで高まってたから」

「警告の意味であの眼鏡を送ったんだよ」

「あれがあれば、何とか好感度のバランスを取って性的犯罪が発生するのを防げるだろうからね」

「え、防げなかった?」

「そっか、それは残念だ」

「けど、一度好感度がを発散させてしまえば、ある程度数値は降下するよ」

「予想では、70台くらいまでは下がるはず」

「だから次からは……」

「……え?」

「ごめん、もう一度言ってくれるかな」

小林「だから、2人とも全然数字下がってないんですって!」


トール「小林さーん、電話で誰と話してるんですかー?」≪99≫

カンナ「うわきなのー」≪99≫


小林「正直、私のどんな行動がトリガーを引くか判らない状態なんです!」

小林「このままじゃ身がもちませんよ!」


トール「……じー」≪99≫

カンナ「……じー」≪99≫


小林(うわ、やばい、2人ともめちゃくちゃこちら見てる)

小林(視線合わせると何か怖いし、申し訳ないけど眼を逸らしておこう)プイッ


トール「あ……」≪99≫

カンナ「……あ」≪99≫

「小林さん、眼を逸らしました、どうしてでしょう」

「コバヤシ、きっと先日の事で照れているのー」

「確かに小林さん初めてだって言ってましたしね」

「コバヤシ、普段は強がってるのに可愛いー」

「小林さん、可愛いですねー」

「コバヤシコバヤシコバヤシコバヤシコバヤシ」

「小林さん小林さん小林さん小林さん小林さん」

「クルルルルルルルルルルルルルルゥゥゥ」

「グァルルルルルルルルルルルルルルルル」

どのマンションにも奇妙な話というのは存在する。

だが「そこ」は群を抜いてその手の話の数が多かった。


曰く、晴れの日に屋上に行くとずぶ濡れの巨大な化け物が居る。

曰く、窓から出火してるのを目撃した消防員が駆け付けると、どの部屋の窓も焦げ跡すらない。

曰く、時折、何処かから大きな咆哮が聞こえる


この中に、最近新たな逸話が追加された。

その内容はこうだ。

「真夜中の廊下に、誰かを探す女性と幼女の声がする」

「そんな時は、決して廊下に出てはいけない」

「彼女達に会ってはいけない」

「絶対に」


その話を聞いた住民の女性は、ある夜、勇気を出して玄関の覗き穴から外を覗いてみた。

そして、見てしまった。


廊下を徘徊する彼女達の姿を。

四つん這いで廊下の床を、壁を、天井を這いまわり。

誰かを探している姿を。


恐ろしい事に、彼女達は女性の部屋の扉にへばりつき、こちらを覗きこんできたという。

まるで、覗き穴からこちらを観察するように。

見えるはずがないのに。

見えないはずなのに。

彼女達はこう言った。


「ちがう、こいつじゃない」


その声を聞いた女性は、そのまま意識を失った。

翌朝、眼を覚ました女性は即座に引っ越ししてしまった。

笹木部「またですか」

小林「はい、すみません、またです」

笹木部「まあいいですけどね、お隣さんですし」

小林「助かります……」ハァ

笹木部「しかし、意外ですね、昼間見る貴女達三人は凄く仲が良くて」

笹木部「喧嘩するようにはみえないんですけど」

小林「ははは、喧嘩っていうか、私が一方的に逃げてるだけです」

笹木部「いけませんよ、ちゃんと話しあわないと?」

小林「え、ええ、善処します」

笹木部「話は変わりますけど、最近、引っ越しが多いですよね」

小林「え、そうですか?」

笹木部「はい、何か怖い目にあったとかあわないとかで、ドンドン引っ越しちゃってるみたいです」

笹木部「まあ、けど静かになるので私達には都合がいいですよね?」

小林「ですねえ」


ピンポーン


笹木部「あら、お客さん?こんな夜中に?」

小林「……!」ビクッ

小林「笹木部さん!あ、あの、私ならここにいないって事に!」

笹木部「ええ、どうしようかなあ」

小林「お、お願いします!」

笹木部「ふふふ、冗談ですよ、その代わり、何か奢ってくださいね?」≪60≫


小林(ほっ……良かった)

小林(それにしても、あれくらいの好感度の人となら気兼ねなく会話で来て楽だなあ)

小林(夜中に訪れて避難所として使わせてもらっても文句言わないし)

小林(いい人だ)


小林「……」

小林「それにしても静かだな」

小林「何時もは少しくらいなら生活音が周りから聞こえてたのに」

小林「本当にみんな引っ越しちゃったのかな」

小林「けど、外を通るトラックの音とかも聞こえないのは……」

その時、私はふと視線を感じた。

別に特異な能力を持っているわけではないが、なんとなく。

なんとなく、誰かに見られている気がする。

部屋を見渡すが、誰も居ない。


テレビはついてない。

ソファには誰も座ってない。

窓はカーテンが閉まっている。


では誰の視線?

笹木部さんが戻ってきた?

いや、そんな様子もない。

……というか。


「笹木部さん、遅くないか」



何か嫌な予感がした。

そんな時、ふと何かが視線の端をよぎった。


何?

誰?

誰かいるの?


もう一度、部屋の中を見渡す。

誰も居ない。

誰も居ないけれど、何かが揺れている。


カーテンだ。

カーテンが揺れている。


何だ、視線の端をよぎったものの正体は、それなのだ。

ほっと一安心。

自分も少し、臆病になっていたのかもしれない。

笹木部さんが遅いのだって、何か荷物を受け取っているだけかもしれないし。

そうだ、笹木部さんを迎えに行こう。

そうしよう。


私は。








私は、カーテンが揺れている理由について、考えないようにしようとしていた。

けれど、それは失敗した。

ああ、室内でカーテンが揺れている理由なんて、それしかないんだ。

窓が、窓が、窓があいて。

その向こうに、ああ、ああ。

 



びったりと、窓に張り付く


ふたりの ドラゴンの姿が



 

笹木部「うーん、どうやら悪戯だったみたいです」

笹木部「廊下に出て確認してみたんですが、誰も居ませんでした」

笹木部「あれ、小林さん?」



シーーーーン



笹木部「小林さん?」







部屋には誰もおらず。

ただ、カーテンが靡くばかりであった。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom