P「346プロの愉快な仲間たち」 (36)

001
休憩所

P「あっ、武内くん」

武内P「お疲れ様です。浮かない顔をしておられますが、なにか仕事でトラブルでも?」

P「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、担当のアイドルがちょっと……」

武内P「──っ!?私でよろしければ、いつでも力になります。少しお話してみませんか?」

P「それが……最近、担当のアイドルが僕を見る目が違うというか、色気付いてるというか……なんだか妙に積極的で、ちょっと困ってて」

武内P「あっ……」

P「スカウトしたときはあんなに積極的じゃなかったはずなんだけどなあ……本から余計な知識を学んでなければいいんだけど」

武内P「……そ、そうですね」

P「ん……?武内くん、顔色悪いよ。大丈夫?」

武内P「いえ、少々思い当たる節が……」


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P「へえ……やっぱり武内くんみたいに担当アイドルが多いと、そういう悩みは経験済みってこと?差し障りなければ、どうやって解決したか教えてほしいな」

武内P「……それは難しいかと」

P「ええ、けちけちしないで教えてよ」

武内P「いえ、それが……私も現在進行形で悩んでいまして」

P「えっ?」

武内P「………………」

P「……へ、変なこと訊いちゃってごめんね」

武内P「こちらこそ、なんの力にもなれず……面目ないです」

P「………………」

武内P「………………」

P「どうにかしないとまずいよね」

武内P「はい。早急に対処すべき事案です」

P「彼に訊いてみるのはどうかな?」

武内P「彼?ああ、彼なら百戦錬磨でしょうから、きっと良い案を出してくれるでしょう」


まゆP「おっ、こんなところで会うなんて珍しいな。俺も混ぜてくれよ」


P「噂をすれば……」

武内P「正に最高のタイミングですね」

まゆP「最高のタイミングって、なにが?」

武内P「折り入って相談があるのですが、よろしいでしょうか」

まゆP「また随分と唐突だな。いいけど、どんな内容なんだ?」

武内P「担当アイドルから異性として見られた場合について、です」


まゆP「………………」


P「あっ、フリーズした」

武内P「視線が虚空を彷徨っていますね」

まゆ「そう言えばすっかり忘れてたわ。俺、この後打ち合わせあるから現場行ってないとマズいんだ……じゃ、そういうことで!」

P「逃がすか!」

武内P「確保ぉ!」

まゆP「離せっ!!頼むから離してくれっ!!」

P「堕ちるときはみんな一緒だって約束しただろ!」

武内P「同期として助け合いましょう!」

まゆP「嫌だっ!!この手の話題に関わると翌日絶対に地獄を見るんだっ!!もう知らない間に部屋入られるのは懲り懲りなんだよっ!!」

武内P「と、とにかく落ち着いて話し合いましょう!」

まゆP「ああああああああああああああ!!!!」

プロデューサー説明終了



まゆP「よし、諦めよう!」

P「ついに開き直っちゃったよ……この人」

武内P「無理もありません。相手は佐久間さんですから、策を弄したところで大した効果はないかと」


まゆP「俺はな、悟ったんだ……全てを受け入れるしかないって」


P「プロデューサーして僅か数年で悟りの域とか嫌だなあ……」

武内P「私達とは悩みのレベルが違うということでしょうか」

P「でも、そんな彼だからこそ出せる答えがあるような気もするよ」

武内P「はい。私も同感です」

まゆP「答えとか言われても……さっさと会社の外で相手作って、籍入れるしかないだろ」

P「やっぱりそれしかないか」

武内P「しかし、相手を見つける方法が……」


まゆP「──今度合コンでもするか?」


P「いいの!?」

まゆP「すげえ食いつきようだな……まあ、合コンの一つや二つをセッティングするのは難しくないけど」

武内P「ええ、セッティング自体は容易でしょう。しかし────」

P「そう易々と合コンを開くところまで辿り着けるのか、っていう疑問はあるよね」

まゆP「………………」

武内P「………………」

P「………………」

武内P「し、しかし、立ち止まっていては前に進めません。どんなときでも、最初の一歩が肝心です」

P「そ、そうだよ。まずは何事も前進あるのみさ」

まゆP「だ、だな。ビビッてなにもしないままじゃ、俺たちホントにアイドルたちと────」

武内P「っ!?誰かいるんですか!」


「………………」


まゆP「おいおい武内、驚かすなよ。心臓に悪いぜ」

P「ホント、ホント。演技上手なのは認めるけど、このタイミングでそういうのは止めてよ」

武内P「いえ、今確かに人の気配を感じたのですが……」

まゆP「考え過ぎだって。さっ、そろそろ仕事に戻るかな。合コンの段取りができたらまた連絡するわ」

P「うん、楽しみに待ってる」


武内P(……確かにこの曲がり角付近から視線を感じたのですが)


P「武内くん、まだ時間大丈夫なの?」

武内P「いえ、私も行きます」


武内P(気のせいなら良いのですが……)

























凛・文香・まゆ「………………」

002/Pside
事務所

P「えっ、あれからなにか変わったことはないかって?いや、特に変わりはないけど……うん、大丈夫。なにかあったらまた連絡する。それじゃ──」

P(まゆPも心配性だなあ……合コンの話をしただけで、そこまで神経質になることないのにさ)

文香「Pさん……お疲れさまです……」

P「お疲れさま、文香さん。もしかして、今撮影が終わったとこ?」

文香「はい。現場の方々が上手く誘導してくださったので……予定よりも早く終わりました」

P「あそこのスタッフは手際が良いって評判だからね。でも、文香さんがこの仕事に慣れてきたってのも大きいと思うよ」

文香「そ、そんな……Pさんや色んな人達の支えがなければ……私なんて……」

P「そう自分を卑下しない。前にも言っただろ。文香さんは着実にアイドルとして進歩してるって」

文香「そう……でしょうか……」

P「もっと自分に自信を持って。少しずつかもしれないけど、ちゃんと変わり始めてるからさ」

文香「Pさんは……」

P「ん?」

文香「Pさんは、私が変わってしまって……元の鷺沢文香じゃなくなっても……傍にいてくれますか」

P「難しい質問だね。それは、時と場合によるかな」

文香「っ!?」

P「これから文香さんが売れっ子になって、自分を省みることも忘れて天狗になって、周囲のことを気に懸けず、ただひたすら富や名声を追い続けるようになったら、僕は傍にいれなくなるかもしれない」

文香「天狗に……ですか」

P「もしもの話だよ。この業界ではよくある話でさ、芸能界の華々しさに毒される人は決して少なくないんだ」

文香「私……そういうもしもは……あまり好きになれません」

P「そう言うと思ったよ。でも文香さんなら大丈夫……自分で言っておいてあれだけど、結局どんな形になったところで、僕たちは最後まで一緒にいそうな気がするんだ」

文香「はい……私も……同じことを考えていました」

P「はは、偶然だね」

文香「いいえ……必然です」


P(なんだ、この事務所内に流れる微妙に甘い空気は……意図せずしてこうなってしまったとはいえ、弁解の余地もないぐらい親しげな会話をしていないか)

P(ダメだ、ダメだ。プロデューサーとアイドルが必要以上に深い仲になるのはよろしくない。ここは少々強引でも、一旦事務所内の雰囲気を変えなければ……)


P「あー、そう言えば次の打ち合わせまでまだ時間があるみたいだし、ちょっとぐらいなら外出してもらっても──」

文香「残りの時間は、ここで本を読むことにします」

P「そ、そう。無理に気を遣わず、自由にしてくれていいんだからね」

文香「無理などしていません……私の居場所は、ここですから」

P「そっか。ならいいんだ」

文香「はい。ところでPさん……以前お貸しした本、もう読了しましたか」

P「うん。あれなら三日前ぐらいに読み終えたよ」

文香「……感想はどうでしょう」

P「凄く面白かった。特に主人公が良いね。なんか親しみがあって、感情移入しちゃってさ。後半は涙腺が緩くなったよ」

文香「気に入ってもらえてなによりです。私も……最初に読んだときは、随分とヒロインに感情移入してしまった記憶があります。
それに、あの作品の主人公は……どこかPさんに似ていますので……読んでいると、つい熱が入ってしまって……」

P「そ、そうかな。自分じゃちょっとわからないんだけど」

文香「共通点は沢山ありました……それを探すのも、読書の醍醐味です」

P「は、ははは……いろんな本の読み方を知ってるんだなあ、文香さんは」


文香「……私は、人の目を避けるように生きてきた、本の虫ですから」


P「文香さん」

文香「す、すいません……注意してるつもりなんですけれど、気を抜くと卑屈になってしまいがちで……」

P「ま、それも文香さんらしさなのかもね。無理に変わろうしなくても、ちょっとずつでも良い方に行けるのなら、それが一番だしさ」

文香「そう言っていただけると助かります……ではPさん、次はこれをお貸ししますので、是非読んでみてください」


P「……人でなしの恋?」


文香「今のPさんなら……きっと、楽しんで読むことができると思いますよ」


P(そう言って薄く微笑むと、文香さんはソファで読書を開始した)

P(人でなしの恋……真っ赤な表紙に、彫刻刀で刻み込んだのかと思えるぐらい歪な字体のタイトル)

P(文香さんは今の僕なら楽しんで読めると断言したけど、本当にそうだろうか)

P(なんだかとてつもなく嫌な予感がするんだけど……とりあえず、読んでみるしかないか)

002/武内Pside
帰路

武内P「これなら素晴らしい舞台になりそうです」

ちひろ「下見に来て良かったですね。本番が今から待ち遠しくなってきませんか」

武内P「はい。あのステージで皆さんが観客の方々を笑顔にしている様子を、鮮明に思い浮かべることができます」

ちひろ「なんだかPさん、凄く楽しそう」

武内P「すいません。少し興奮し過ぎました……」

ちひろ「そんなことありません。アイドルたちのことを想えば、Pさんぐらいのテンションになるのは自然なことだと思いますよ」

武内P「なら良いのですが……あまり興奮して周りが見えなくなるのも嫌ですので」

ちひろ「心配しなくても大丈夫。みんながついてますから」

武内P「……そうですね。私達は、一人ではありません」

ちひろ「ええ、もちろんですとも。困ったときは助け合いながら、一歩一歩階段を昇っていきましょう」

武内P「はい。当日はよろしくお願いします」

ちひろ「こちらこそ、よろしくお願いしますね。ところでPさん、気がついてますか?」

武内P「はあ……なんのことでしょう?」


ちひろ「──今私達、二人きりですよ」


武内P「なっ──!?」

ちひろ「こうして並んで歩いていると、まるでデートしてるみたいじゃないですか」

武内P「あの、それは──」

ちひろ「恥ずかしがらなくても平気ですって。今はアイドルたちもいませんし、なんなら腕でも組んでみましょうか?」

武内P「ご、誤解されたらまずいので、腕を組むのは……」

ちひろ「誤解……?一体なにをどう誤解されるんですか?できれば詳しく教えてもらえると嬉しいんですけど」

武内P(うーん……困りました。人の目がないとはいえ、こういう事をするのは少し抵抗があります)


武内P「千川さん。一応まだ勤務時間内ですので、少し抑えてもらわないと」

ちひろ「じゃあ勤務が終わればいいってことですよね」


武内P(はっ!?しまった!?)


ちひろ「どうせ人目なんてないんですから、ちょっとぐらいは許してくださいよ」


凛「ふーん、ホントに人目がないと思ってるんだ」


武内P「渋谷さん!?いつの間に!?」

ちひろ「出ましたね……まあ、来ると思っていましたが」

凛「暇だったから会場の下見に行こうとしてたんだけど……どうやらそれどころじゃなくなったみたいだね」

武内P「あの、これは……」

凛「いいって。どうせちひろさんが、恥ずかしがるPをからかってただけなんでしょ」


ちひろ「からかってる……?いえいえ、普段からこんな調子ですよ──私とPさんは」

凛「へえ……普段からこの調子なら、心配しなくても平気かな」

ちひろ「どういう意味でしょう」

凛「そのままだけど」


武内P「ふ、二人とも、どうか落ち着いてください」

凛「なに言ってるの?別に普通の会話してるだけだよ」

ちひろ「はい。至って普通の、何気ない雑談です」


武内P(はたして、普通の会話をするのに並々ならぬ闘気を纏う必要があるのでしょうか)

武内P(私には理解できませんし、理解したくありません)

凛「ま、Pもあんまり羽目外し過ぎちゃダメだよ。お抱えのアイドルがいっぱいいるんだから」

武内P「はい、重々肝に銘じておきます」

凛「特にアレは良くないね」

ちひろ「ええ、アレはダメですね」

武内P「……アレ、とは?」


凛「──合コン、とかさ」


武内P「っ──!?」


武内P(やはりあの気配は渋谷さんのものでしたか!!)

武内P(彼女が知っているとなると、346プロのアイドルたちの大半に情報が流出している可能性が出てくる……)

武内P(これは由々しき事態です!!)

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