霞が頑張って素直になる話 (26)

試験的な作品です.
自己満足のための投稿です.

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 コンコン。執務室のドアが鳴る。

霞「クズ司令官、作戦が終了したわ。報告を聞きなさい。」

提督「霞か、遠征はどうだった」

霞「成功よ。まったく、つまらない任務だわ」

提督「ご苦労。ゆっくり休んでくれ」

霞「ふん!」

 霞は不機嫌そうに執務室を後にし、自分の部屋に戻る。
 霞が不機嫌なのはいつものことであり、
 提督は何事もなかったように、執務に戻る。

霞「あー! もう本当に嫌になる!」

満潮「また司令官に冷たく当たったの? 全く、いい加減仲良くすればいいのに」

霞「私だって、本当は仲良くしたい。でも・・・なんというか・・・」

大潮「素直じゃないねぇ。素直に、『司令官大好き!』とか言えばいいのに」

霞「そ、そういうのじゃないわよ! あんなクズを好きになるわけ・・・」

大潮「好きになるわけ?」

霞「・・・ああ! もう、大潮姉さんのいじわる!」

 提督に対してきつい言葉をかける霞であるが、決して提督を嫌っているわけではない。
 むしろ、提督の実直かつ臨機応変なところに、好意に近い思いさえ抱いていた。
 しかし、不器用な霞は、その思いを素直に表に出すことができなかった。

霞「・・・というか、満潮姉さんは、どうやって司令官と仲良くなれたの?」

満潮「うん? 別に、普通にしているだけよ」

大潮「素直が一番! 朝潮姉さんを見てごらんよ」

朝潮「わ、私は普通に、尊敬する人に尊敬の念で接しているだけよ」

大潮「ほらね」

荒潮「うふふふふ」

霞「うーん・・・その『素直』が、私には難しいのよ」

 好意は十二分にある。しかし、表現できない。

荒潮「そうだ! 今夜、みんなで提督に、自分の素直な気持ちを伝えに行きましょう」

大潮「いいね! みんなでやれば、霞も素直になれるんじゃない?」

霞「うん・・・それなら、たぶん・・・」

***

***

 その日の夜、約束通り、執務室の前に集まる。

満潮「ならまず、私が見本を見せるわ」

霞「ちょ、ちょっと、みんなでお礼を言うって話じゃ」

荒潮「うふふふふ。自分の気持ちを伝えるのだから、一人ずつでしょ」

霞「そ、そんな・・・」

 姉妹で提督の前に立って、姉と共に適当な言葉を言う。
 そんなものと考えていた霞は、早くも不安になる。
 きっとまた、その気もないのに罵倒してしまうのだろうと。

 満潮が執務室をノックする。
 姉妹は満潮の様子を、隙間から器用に観察する。

満潮「失礼します」

提督「おお満潮、どうした?」

満潮「特に用って、わけでもないけど・・・」

 満潮は、提督の椅子の真横へまっすぐ歩く。
 満潮の顔は、すでに耳まで赤い。
 そして、提督の顔を見て、言う。

満潮「司令官、いつもありがとう!」

 照れ混じりの満面の笑みでもって、満潮は言った。
 そして満潮は言い終えると、小走りで執務室から出て行った。

満潮「どうよ!」

荒潮「う〜ん、ちゅーまですれば、完璧だったのに」

満潮「ちょ、ちょっと、私にはまだ早いって」

霞「・・・・・・」

 霞は、自分でも驚くほどのショックを受けた。
 満潮を、自分と同じようなキツイ言葉をかける娘であると思っていた。
 しかし、今の満潮は違う。
 自分にはない輝きを放っていたのだ。

大潮「なら、次はこの2番艦大潮が!」

 大潮は満潮に続いて、ドアをノックする。

大潮「失礼します!」

提督「おお、大潮。珍しいな」

大潮「えへへ・・・ねえ、司令官」

 大潮は、提督と机を挟んで立つ。
 さっきまでは、平静を保っていた。しかし実際に目の前に立つと、突然、心拍数が上がりだす。

大潮「・・・・・・ 」

提督「ん? どうした」

 大潮はうつむきながら声にならない声を出す。
 『司令官、好きです』
 しかしその声はあまりに小さく、提督には聞こえない。

大潮「では! 失礼します!」

提督「おお!」

 赤くなった顔を勢い良く上げ、大潮はそそくさと執務室から出て行く。

大潮「いやー、心臓がアゲアゲになっちゃったよ!」

満潮「失敗じゃない。何言ってんのか全く聞こえなかったわよ」

荒潮「うふふふふ。じゃあ、次は・・・」

朝潮「では、この1番艦朝潮。出ます!」

荒潮「あらあら・・・」

 朝潮は荒潮を差し置き、執務室のドアの前に立つ。

荒潮「朝潮ちゃんも、結構ノリ気だったのね」

霞「単に真面目なだけでしょ」

***

***

コンコン。

ドアのノック音が、執務室に響く。

「失礼します!」

朝潮は執務室に入り、部屋の中央に立つ。

普段、任務の報告をする時と同じ位置である。

「どうした、朝潮。こんな時間に」

提督の声に、朝潮は無意識に頬を紅潮させた。

そして、体全体が熱くなるのを感じつつ、

思わず提督から目を伏せる。

今からやることは、決して義務ではない。

朝潮の、純粋な『願い』である。

「・・・おこがましいことは、承知なのですが・・・」

ドキドキドキドキ。

加速度的に速さを増す鼓動の調子を整えつつ、

朝潮は慎重に声を発する。

「・・・司令官を、ぎゅっと、しても、よろしいでしょうか」

照れくさい言葉を、朝潮は言い切った。

言い切れたという安心感をバネにして、朝潮は真っ赤な顔を上げ、

少量の涙と共に、提督をまっすぐ見つめる。

朝潮の目の先には、穏やかな微笑みでもって朝潮を歓迎する提督がいる。

「ああ、いいよ」

提督は椅子から立ち上がり、朝潮の立っているところまで、自ら歩み寄る。

提督は、慈愛に満ちた顔でもって、朝潮を優しく抱いた。

暖かい時間が、二人を優しく包み込む。

***

***

朝潮「少々照れくさいけど、とても幸せな時間でした」

 湯上がりのように赤く火照った朝潮を見て、他の姉妹は何も言葉を発することができない。
 次元の違う何かを、そこに感じ取った。

霞「・・・もう、帰りましょう」

満潮「・・・そうね」

荒潮「素直って、難しいわね〜」

 結局、本来の主役であった霞に出番が回ってくることなく、彼女たちは部屋に戻る。

 満潮も克服したのだから、自分もいつかは、この毒舌を克服できるはず。
 霞は安易に、そう考えていた。

 しかし、満潮と自分の差は、予想を遥かに超えて、大きかった。
 そして、自分もいつかそのうち、自然に提督と仲良しになれるという希望は、氷解した。
 それに呼応して、提督に対する想いは、益々強くなっていった。

霞「作戦が終了したわ」

提督「霞か、遠征はどうだった」

霞「いつもどおり、成功よ」

提督「ご苦労。続きで頼んで、申し訳ない。ゆっくり休んでくれ」

霞「・・・はい」

 いつもなら、霞はもっと不機嫌そうに振る舞い、さっさと執務室を出て行く。
 しかし、この時は違った。
 霞は、頬を赤らめ、覇気のない表情でもって、虚空を見つめていた。

 恋する者に対して、クズなどという罵倒語を使うだろうか。
 気持ちが強くなれば、自然と、振る舞いも変わる。

提督「・・・霞、どうかしたか?」

霞「・・・・・・」

提督「霞、どこか、体が悪いのか?」

 提督にとっては、口の悪い、生意気な部下である霞。
 しかし、他の艦娘と等しく大切な部下である。

提督「霞!」

霞「はい!」

提督「・・・具合でも、悪いのか?」

霞「いや、そんなこと・・・」

 提督は、手を霞の額にかざす。
 いつもの霞なら、触るなと嫌悪感をむき出しにして、反発するだろう。
 しかし、今の霞は違う。
 いつも以上に、『素直』だった。

提督「・・・俺のベッドで寝るか? 自室よりは、静かで寝心地が良いだろう」

霞「・・・・・・」

提督「霞、どうする?」

霞「・・・寝るわ」

 提督は、霞の肩を支えながら、寝室に霞を案内する。
 清潔に整えられた寝室である。
 しかし、特有の生活臭が、霞の鼻をくすぐる。

提督「・・・汚いとは思うが、落ち着いたら好きに出て行ってくれ」

霞「・・・ありがとう」

 霞は提督になされるがままに、制服のままベッドに入った。
 遠征での疲労が眠気を誘い、提督のベッドで、霞は深く眠った。

***

***
 
 寝室をでて、執務室に顔を出す。
 執務中の提督が、霞に気がつく

提督「起きたか、体調はどうだ?」

霞「うん、もう大丈夫」

提督「それは良かった」

 霞はそこに佇む。
 すぐに部屋に戻るものと思っていた提督は、霞を再び心配する。

提督「・・・どうした、霞。まだ、どこか悪いのか?」

霞「いえ・・・あの・・・」

 この奇跡的な状況、この上ないチャンス。
 霞は想いを口にしようと思った。
 しかし、まるで金縛りにあったように、体は動かない。

提督「・・・霞?」

霞「・・・ううん、大丈夫。ありがとう、司令官。」

 霞はそのまま、部屋に戻った。

霞「・・・ただいま」

朝潮「おかえりなさい! 遅かったわね」

霞「うん・・・ちょっとね」

 荒潮は、霞の服の不自然な皺に気がつく。
 荒潮はニヤニヤと微笑みながら、霞をからかう。

荒潮「あら霞ちゃん・・・意外と大胆なのね」

霞「ち、違うのよ! そういうことはないから!」

朝潮「ん? そういうことって、なにが?」

霞「んー・・・もう! とにかく、何でもないから!」

***

***

コン。コン。

夜の執務室に、澄んだノックの音が響く。

「失礼します」

夜。任務はとうに終了している時間に執務室に姿を表したのは、霞。

昨日、遠征の報告に来た際に、顔色の悪さを見かねて提督は彼女を寝室に寝かせた。

それから今まで、提督は心の端で、霞のことを心配していた。

「霞、体調は万全か?」

「ええ、司令官のおかげです」

「そうか、それは良かったよ」

2人の間に、沈黙が漂う。

霞には、言うべきことがある。

しかし、この沈黙が、ただでさえ言い難いこと益々言い難くさせる。

「・・・どうした、霞、何か、言いたいことでも?」

バクバクバクバク。

加速度的に速さを増す鼓動を必死に抑えて、

霞は声を発する。

「・・・私を、抱きしめてください!」

霞は言い切った。ついに、言い切った。

霞は真っ赤に火照った顔を上げて、

嬉し涙を目に浮かべて、提督をまっすぐ見つめる。

提督は目を丸くして霞を見つめる。

そして、優しく微笑んだ。

「ああ、いいよ」

提督は椅子から立ち上がり、霞に歩み寄る。

霞も、震える体でもって、提督に近づく。

ぎゅっ――――

時間が止まる。ここには、霞と提督の2人しかいない。

そして、暖かい時間は、再び、ゆったりと流れ出す。

***
***
***

霞「司令官、おはよう」

提督「ああ、おはよう」

 廊下でのすれ違い。いつもの日常。

満潮「霞、司令官と仲良くなってよかったじゃない」

霞「・・・うん」

 満潮に対して、霞は頬を赤らめて応える。
 昨夜のことは、霞は誰にも言っていない。
 自分だけの、秘密である。

朝雲「霞! ごはん食べましょう!」

霞「うん! 今行くわ」

満潮「あ、私はお姉さんと用事があるから、ここで」

霞「わかったわ、またね! 霰も、一緒に行きましょう」

山雲「今日はカレーみたいよ〜」

霰「・・・・・・」

 食堂へと向かう霞たちを、満潮は見送る。
 そして、姉たちのもとへと向かう。

朝潮「霞が司令官と仲良くなれて、嬉しいわ」

大潮「良い感じになってきたと思ったら、まさか抱き合うとは」

荒潮「霞ちゃん、嬉しそうだったわね〜」

満潮「・・・ともかく、霞が元気になって、なによりだわ」

荒潮「満潮姉さん・・・もしかして、ヤキモチ?」

満潮「違うから!」

(霞が頑張って素直になる話 -FIN)

閲覧ありがとう御座います.読みやすい文体を模索中です.
過去作の”欠けた歯車、良質な物【艦これ】 ”を読み返したら,自分でも感動するぐらい綺麗な話でびっくりしました.興味があれば,読んでみてください.

過去作
電「二重人格……」
提督「艦むすの感情」
艦娘という存在
朝潮は『不安症候群』
朝潮はずっと秘書艦
映画『艦これ』 -平和を守るために
深海の提督さん
お酒の席~恋をする頃
忠犬あさしお
影の薄い思いやり
欠けた歯車、良質な物【艦これ】
【艦これ】お役に立てるのなら
お役に立てたのなら【艦これ】
【艦これ】<霧の中で>他短編
朝潮の身長が伸びる話
霞が頑張って素直になる話

【書き込みますが,処理をお願いします】

<メモ>
自分にはきっと,もうほのぼの系の話は無理なのだと分かってきた
欠けた歯車の文体で焦燥感が出せるか

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