探偵「本当は怖い化物語」 (66)

【注意】

・この話の中では、『化物語』は西尾維新ではなく、別人が書いた事になっています

・↓のスレの解答編となっていますが、続き物ではありません。化物語の内容を知っていればこれだけでも読めます

探偵「化物語」【推理】
探偵「化物語」【推理】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480670356/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1481540980

助手「おはようございます、探偵さん」ガチャッ

探偵「ん。ああ、君か。おはよう」カチカチ

助手「おはようございます。にしても、何やってるんですか? 朝っぱらからパソコンなんか弄って」

探偵「これかい? いや、なに、ちょっとした調べものだよ」カチカチ

助手「何を調べてるんですか?」

探偵「『化物語』って話だよ。君、知ってる?」

助手「ええ、まあ。ネットで書かれた作者不明の物語ですよね。以前、話題になったんで知ってますよ」

探偵「そう。知ってるなら話は早いや。で、君は実際にこれを読んだ?」

助手「ええ。読みましたよ。なかなか面白かったですね。話題になるのわかります」

探偵「ふうん……。面白かった、ね……」

助手「?」

探偵「参考までに聞くけどさ、『どんな風に』この話は面白かったのかな?」

助手「どんな風って……。別に普通ですよ。『怪異』にまつわる話も面白かったですけど、その原因がどれも非現実的なものじゃなくて人間性が出ていましたし……」

助手「なおかつ感動要素やら恋愛要素やらもあって、綺麗にまとまっているなあって。味のある物語だと思いましたけど」

探偵「なるほどね……。恋愛要素や感動要素があって、綺麗にまとまっているね……」

助手「?」

探偵「つまりさ、こういう事かい? ざっくばらんに一言で言うと、君にはこれが『良い話』に思えた訳だ」

助手「そうですけど……? それが何か?」

探偵「いやなに、大した事じゃあないよ。君の感想にケチをつけようとか、そんなんじゃあないさ。確かにこれは『良い話』だからね」

探偵「でもさ……」

助手「?」

探偵「この話が、『もしも本当に起こった出来事』だったとしたらどうだろう?」

探偵「それは、果たして本当に『良い話』になるのかな?」

助手「本当に起こった事……?」

探偵「そうさ。この話が、怪異なんてものが存在しない『現実で起こった出来事』だと仮定するとさ……」

探偵「実は、結構『怖い話』になるんじゃあないかと僕は思ってるんだけどね」

助手「……どういう事ですか?」

探偵「まず、常識で考えてみなよ」

探偵「体重がなくなったりだとか、幽霊だとか、悪魔や呪い、吸血鬼に化物、そんなものがさ」

探偵「『本当に存在している』なんて、君は思うかい?」

助手「そりゃ、思いませんけど……」

探偵「だろう? だから、もしもこの『化物語』が本当にあった出来事だったと仮定したら……」

探偵「ここに出てくる『怪異』とやらは全部『嘘』って事になる訳だ」

探偵「じゃあ、『何で』そんな嘘をつく必要があったんだろうかね?」

探偵「そこら辺をよくよく考えていくとさ」

探偵「結構、怖い面が出てくる訳だ」

探偵「『怪異』という化粧によって、綺麗に感動的にされたその部分がメッキの様に剥がれて……」

探偵「後に残るのは、人間のドス黒い話だけ。そんな風にね」

助手「…………」



『本当は怖い化物語』

推理・考察

化物語、第三話、『するがモンキー』


するがモンキーにおける、現実では有り得ない謎
・「レイニーデビルの存在」
・「阿良々木暦の再生能力」
・「神原駿河の猿の手」


以下、重要情報
・神原駿河の左手の包帯
・雨合羽に長靴という、レイニーデビルの異様な姿
・猿の手
・電柱に突き刺さる自転車
・大怪我を負う阿良々木暦
・それについて特に詮索しない戦場ヶ原ひたぎ
・翌日には傷が完治している暦
・駿河の家を訪ねる暦
・ひたぎを好きな神原
・暦に嫉妬し憎む神原
・暦を襲った犯人は、駿河(レイニーデビル)
・本人もそれを認めている
・忍野のところに相談に行った暦と神原
・密室での格闘
・腹を貫通され、そこから腸が飛び出している暦
・ひたぎを呼ぶ忍野メメ
・翌日には傷が完治している暦

探偵「まず、根本的な話をしようか」

助手「?」

探偵「『何で』阿良々木暦はこんな嘘をついたのか、という事だよ」

助手「何でって言われても……」

探偵「嘘には大きく分けて二種類あるのを君は知ってるかい?」

助手「いえ、知りませんけど」

探偵「なら、言うとさ。一つ目は『積極的な嘘』だよ。これは相手を騙す事で自分に得がある場合の事だ」

探偵「詐欺師がつく嘘だとか、あと愉快犯的な嘘もこれだね。それによって自分やその周りが良い思いをする訳だ」

助手「はあ……」

探偵「でも、阿良々木暦の場合はそうじゃない。何故なら、こんな嘘をついたところで、彼は何一つ得をしないからだ」

探偵「逆に好奇な目で見られるだけだよ。『怪異』がいるなんて真顔で言ったら、オカルトにはまってると思われるだけだからね」

助手「それはまあ、確かに」

探偵「だから、阿良々木暦はもう一つの種類の嘘をついた事になる」

助手「そのもう一方っていうのは?」

探偵「『消極的な嘘』。つまり、その嘘をつく事によって、自分が損をしない状況を作る」

探偵「言い逃れだとかさ、仕方なくつく嘘の事だ。身近な例で言えば、花瓶を落として割ったのを自分がやったんじゃないと言い張る時とかさ」

探偵「つまり、何か『隠しておきたい事実』があって、それを誤魔化しているんだよ。阿良々木暦は」

探偵「だけど、それを誤魔化す為には普通の嘘じゃ駄目だった。『怪異』なんていう非現実的なものを持ち出さなければとてもじゃないが誤魔化せない、みたいなね」

探偵「だから、仕方なく阿良々木暦は『怪異』が『いる』なんていう嘘をついた……。これがこの話の大前提なんだ」

探偵「いいかい?」

助手「……はい」

探偵「じゃあさ、この化物語における一番有り得ない出来事って何だと思う?」

助手「一番有り得ない事、ですか?」

探偵「そうだよ。一番現実では有り得ない事。それはつまり、逆に言えばさ」

探偵「『怪異という話を持ち出さなきゃ誤魔化せない出来事だった』って事になるからね」

助手「…………」

探偵「だから、そこから考えていくんだよ。それが別の謎を解き明かすヒントになる可能性もあるからね」

助手「……なるほど」

探偵「じゃあ、もう一度聞くけど、この化物語の中で一番有り得ない事ってのは何だろうね?」

助手「それは……。やっぱり、阿良々木君の吸血鬼による再生能力じゃないですか?」

助手「全部の話で出てきてますからね。傷がたちどころに治っていくっていう描写は」

助手「それに、もしも現実に起きた事だとしたら、どんな傷でもすぐに治るっていうのは一番謎だと思うんですけど」

探偵「そうだね。あれが一番現実では有り得ない事だという見解は僕も一緒だよ」

探偵「だから、その謎から考えてみよう」

探偵「で、一番それが顕著に出てくる話ってのが……」

探偵「化物語の三話、『するがモンキー』だよね」

探偵「何せ、この時の阿良々木暦は、腹に風穴が空けられていたし、あろうことかそこから出てきた腸を掴まれて壁にぶん投げられてるからね」

探偵「それで生きている方がおかしいし、その翌日には完治していたなんて、それこそ絶対に不可能だ」

探偵「じゃあ、これは全部、阿良々木暦がついた嘘なんだろうか?」

助手「ええと……」

探偵「僕はそうは思わないんだよね」

探偵「何故かって言うと、さっきも言った通り、阿良々木暦は『何か』を誤魔化す為に嘘をついている訳だからさ」

探偵「つまり、この中には誤魔化しておきたい真実ってのが必ずあって……」

探偵「それを『怪異』という話で上書きしている」

探偵「じゃあ、その誤魔化しておきたい真実ってのは何かと言ったら……」

探偵「当然、それは『怪異』に関する事になる。つまり、今回の場合は『大怪我』に関する事って訳だ」

探偵「わかりやすく言うと、阿良々木暦としては本当はこの大怪我を『なかった事』にしておきたかったんだと思うよ」

探偵「だけど、彼はこの時、『僕は大怪我なんかしていない』っていう嘘をつけなかったんだよ、恐らく何らかの事情があってね」

探偵「だから、それを誤魔化す為に、『怪我をしてもすぐに再生する』なんて無茶な嘘をつく羽目になったんだ」

探偵「だから、【この時、阿良々木暦が大怪我を負った】ってのは、僕は事実だと考える」

探偵「そして、【その翌日にはピンピンして動き回っていた】ってのも事実じゃなきゃおかしいんだ」

探偵「そうでなければ、『怪我がすぐに再生する』なんて嘘をつく必要がない。そうだろ?」

助手「それはそうですけど……」

探偵「だから、阿良々木暦はこの現実には起こり得ない話を、仕方なく『怪異』という事にして誤魔化した……」

助手「…………」

探偵「つまり、この相反する二つの矛盾した事実は確かに存在した事になる」

探偵「つまり、そこには何らかの仕掛けーー言い換えれば『トリック』があるはずなんだ」

探偵「まず、それを解いていこうか」

助手「はい」

探偵「じゃあ、そこで君に問題を出すけどねえ、助手君」

助手「え」

探偵「前日には阿良々木暦は確かに大怪我をしている。だけど、それが翌日には完治していた」

探偵「これにはどんなトリックがあると思う?」

助手「いや、そんないきなり無茶ぶりされても……」

探偵「まあ、そう言わずに考えてみなよ。どんなトリックを使ったら、そんな事が可能になるのかね?」

助手「だから、わかりませんって、そんなの」

探偵「なんだい、わからないのかい?」

助手「だから、わかりませんよ、そんないきなり。しかもそれ、一番難しい謎ですよね? 私にわかる訳ないじゃないですか」

探偵「いや、一番難しいとは僕は一言も言ってないぜ。『一番、現実では有り得ない』とは言ったけどね」

助手「同じようなものです」

探偵「いやいや、この二つは全くの別物だよ。似て非なるものだ」

探偵「大体さ、この時のトリックって、ミステリの見地からしたら、二級品だぜ?」

探偵「古今東西、この手のトリックは長く推理小説に使われてきたし、今更珍しいものじゃないんだよ。むしろ、使われ過ぎて今ではほとんど見かけないぐらいだね」

探偵「難易度でいけば、AからE段階の内のCだよ。その程度のものなんだ」

探偵「それでも君にはわからないのかい?」

助手「腹立つ言い方しますね……。自分がわかってるからって……」

探偵「そうはいっても、ミステリじゃあ、これはよくあるトリックだからねえ」

探偵「多分だけどさ、君は『怪異』なんてものを最初に聞いているから、その先入観が推理の邪魔をしてるんだよ」

探偵「ごく普通のミステリとして考えてみると良いよ」

助手「……ごく普通のって、どんなのですか」

探偵「だからさ、例えば君がふとベランダから外を眺めていたらさ」

探偵「向かいの家の中に、血塗れで倒れている人が見えたとするよ」

助手「はあ……」

探偵「大変だと、君は大慌てで警察や救急車を呼ぶ訳だ。そして、自分自身もその家に向かう」

助手「はい」

探偵「ところが、その家を訪ねてみると、何故か血塗れで倒れていたはずの本人が無傷で出てきてしまった。そして、その家の中には血塗れで倒れている人なんて誰もいやしない」

探偵「おまけに、出てきた本人もそれを否定する。自分はそんな怪我なんてしてないし、この家の中には自分以外誰もいないってね。不思議だろ?」

助手「まあ、そうですね……」

探偵「そして、警察の手によって免許証による本人確認も出来たし、家の中の様子も確認出来たがやはりそこには倒れている人なんていやしない」

探偵「だから、警察はこう結論付ける。見間違いによる誤報だとね。あるいは、君が見たのは現実ではなく幻だったと」

助手「はあ……」

探偵「状況的には化物語もこれと同じなんだ。大怪我をして倒れているはずの人間が、何故か無傷で現れている」

探偵「でも、君は確かに血塗れで倒れているところを『見た』訳だ。つまり、これには何かのトリックがあったという事になるだろ?」

探偵「さて、これはどんなトリックなんだろうか? こういうのは、結構ありがちな話だろ?」

助手「んー……」

助手「まず、血塗れで倒れている人がいたのが確かだって言うなら……」

助手「その人を犯人が隠したって事ですよね?」

探偵「そうなるね。ネタをバラすとその人はもう死んでいて、死体は家の中にあった隠し部屋にそれを隠したんだ」

探偵「だから、その時、きちんと警察が捜査していたら隠し部屋も見つかっただろうし、部屋からは大量のルミノール反応が出てきただろうね。ルミノール反応ってのは血液に反応する薬品の話だけど」

助手「だとしたら、本人が出てくるってのはおかしいですし、出てきたその本人が否定してるってのもおかしいですよね……。となると……」

助手「あ! わかりました!」

探偵「わかったかい?」

助手「はい。犯人はその家の住人に変装していたんですよ。それで本人を装ったんです」

探偵「そう、正解。これなら話の辻褄が合う。つまりさ、そういう事なんだ」

助手「あ……。って事は、もしかして化物語の阿良々木君も……」

探偵「そう。別人がなりすましてるんだよ。いかにも本人ですみたいな風にしてね」

探偵「『阿良々木暦が大怪我を負ったその翌日、別人が阿良々木暦を装って現れたんだ』」

探偵「そうすれば、『阿良々木暦が大怪我を負った』『でも、その翌日には無傷で現れている』という二つの事実が矛盾する事なく成立する」

探偵「どうだい? 聞けば簡単で単純なトリックだろ?」

助手「はあ……なるほど」

とりまここまで

・なお、以下の十点は順守する


1、「未知の登場人物が犯人(怪異)である事を禁ず」

2、「秘密の抜け穴や隠し部屋の存在を禁ず」

3、「常識から逸脱した偶然を禁ず」

4、「未知の薬物、及び、難解な科学装置の使用を禁ず」

5、「超能力・祟り・呪いなど、オカルトによる犯行を禁ず」

6、「登場人物全員が共謀者である事を禁ず」

7、「登場人物の中に多重人格者がいる事を禁ず」

8、「そっくりな双子の存在を禁ず」

9、「全てが偶然により発生した出来事である事を禁ず」

10、「観測者は自分の判断・解釈を主張することが許される」


うーんこの

……と思ったけど偽者がその9人の中にいるなら何の問題も無かったわ

助手「という事は、わかりやすく言うとこんな感じですか」


一日目
レイニーデビルが襲撃
阿良々木暦(本物)が大怪我を負う

二日目
阿良々木暦(本物)は病院に入院
代わりに変装した阿良々木暦(偽物)が登場
阿良々木暦(本物)が無傷のように装う


助手「それで、騙す事に成功した偽物の阿良々木君は、神原さんと一緒に忍野さんのところに行って……」

助手「それで、レイニーデビルとまた対決する事に……」

探偵「…………」

助手「あれ? 何かこれ、おかしくないですか?」

探偵「んー? 何がだい?」

助手「だって、この後、また阿良々木君は大怪我をする事になってるんですよ?」

助手「これだと、変装した偽物の阿良々木君もまた大怪我する事になりませんか?」

探偵「そうだねえ。この推理通りにいくとそうなっちゃうだろうね」

助手「はあ……」

助手「じゃあ、ここで阿良々木君の偽物も大怪我を負って……」

助手「でもまた、阿良々木君は翌日には無傷って事になってる訳ですから……あれ? また、もう一人の偽物が現れたって事ですか……??」

探偵「そうなっちゃうねえ」

助手「はあ……。でも、その次の話の『なでこスネイク』でも阿良々木君って腕の骨が折れてますよね?」

探偵「そうだね。そしてまたその翌日には無傷になってたよね」

助手「んん?? となると、これで三人目の偽物??」

助手「でも、またまたその次の『つばさキャット』でも首から血しぶきあげてたし……あれ???」

助手「やっぱりおかしくないですか、この推理? これだと阿良々木君の偽物が四人も出てきちゃいますし、それにその四人、変装して出てくる度に大怪我してる事になるんですけど……」

探偵「そうだね。常識で考えたら、そんなにゴロゴロ偽物は出てこないし、毎回大怪我してるってのも不自然だよね」

助手「って事は……さっきの推理は間違ってるって事になりませんか?」

探偵「いやあ、そうでもないよ?」

助手「え……」

探偵「阿良々木暦が別人に代わってるってのはさ、確かなんだよ。そこは間違いない」

探偵「何故なら、それ以外に『無傷』でいられる手段がないからだよ。そこは疑っちゃあ駄目なんだ」

探偵「でもね、そんなにゴロゴロ偽物が出てくるってのも変だよね。阿良々木暦の偽物はまず一人だけ……多くても二人だろう。それ以上はいくらなんでも無茶がある」

助手「でも、そうなるとまた新しい謎が出てきてませんか? 阿良々木君は、どうやったら、こんなに何回も『無傷』でいられるんです?」

探偵「うん。それなんだけどさ。『こう考えれば』別に謎でも何でもなくなると僕は思うんだよ」

助手「こう考えるっていうのは?」

助手「また何か、他にもトリックがあるって事ですか?」

探偵「まあまあ、そう焦るなよ。順序よく謎を辿っていけば自然とわかってくる事さ」

助手「順序よく?」

探偵「そう。なにせ、君はまだ最初の時の状況すらまともにわかってないだろ?」

探偵「そこをおろそかにしちゃあ駄目だよ。次の謎に行く前に、まずは最初の時の『5W』を考えてみようぜ」

助手「『5W』……って何ですか?」

探偵「5Wは5Wだよ。英語の授業中に君も習っただろ? あれさ」

探偵「『when』『where』『who』『why』『what』の五つ。ミステリ流に言うと、『犯行時刻』『犯行現場』『犯人』『動機』『殺害方法』の五つだね」

探偵「まず、そこから考えてみなよ。そうすると、自然と答えは出てくるだろうからさ」

助手「そうですか……。わかりました」

助手「まず、『犯行時刻』ですけど……」

探偵「うん」

助手「これは作中で出てきてますよね。正確に何時かまではわかりませんけど、勉強会の帰りで、夜です。日はもう沈んでたはずなので」

探偵「うん。夏に近い事を考えると、7時から9時ぐらいの間じゃないかな。10時とか11時とかだと遅すぎる気がするけど、これもまあ可能性はあるね。とにかく夜だよ」

助手「で、『犯行現場』は踏み切り近くです。これも作中で出てきてます」

探偵「そうだね。そこら辺はまあ疑う要素は今のところないよ。素直に信じておこう」

助手「それで、『犯人』なんですけど……」

助手「やっぱり神原さんなんでしょうかね?」

探偵「だと思うよ。この時、『犯人』は雨合羽に長靴って格好をしてて、フードを深くかぶっていたから顔は見えなかったって事になってるけどさ」

探偵「でも、作中でも『犯人』は『神原駿河』と断定されてるからねえ。怪異に操られていたって事になってるけどさ」

探偵「『有り得ない事』以外は、化物語の話を信用していくとすると、『犯人』は『神原駿河』で間違いないと思うよ」

助手「だとしたら、『動機』もそうなんでしょうか? 嫉妬で?」

探偵「うん。同性愛は現実にあるし、そこも疑わないでおこう。愛憎のもつれも、犯行動機ではよくあるからね」

助手「なら、最後の『殺害方法』ーーつまり、『犯行の方法』なんですけど……」

探偵「そう。これだけがさ。怪異絡みの『有り得ない』方法だよね。つまり、『謎』なんだ」

探偵「化物語の中では、レイニーデビルーーつまり、『左手の怪異』が『ぶん殴った』って事になってるよね」

探偵「つまり、彼女は『素手』で犯行を行った事になる」

探偵「でもさ、それがかなり無茶苦茶な『怪力』だろう?」

助手「そうですね」

探偵「パンチ一発で人が軽々と何メートルも吹き飛んでるし、戦場ヶ原ひたぎの証言によると、阿良々木暦の自転車は電柱にオブジェみたいに突き刺さっていたってんだからさ」

探偵「これは『現実では有り得ない』。よって、『怪力』や『素手』ってのは嘘だね。そう考えるべきだ」

探偵「普通に考えて、何か道具ーーつまり、『凶器』を使用したはずなんだよ」

探偵「それも、自転車が電柱に突き刺さる程の威力を持った『凶器』だ。おっそろしい事にもね」

探偵「じゃあ、その『凶器』って一体何だろうか?」

助手「何でしょうね……。ううん……」

探偵「まず、包丁やナイフみたいな刃物じゃあないよね。これは化物語の描写とまるで違う。阿良々木暦は『刺し傷』みたいなのを受けてないからね」

助手「じゃあ、金属バットとかどうです? それで思いっきり殴ったとか」

探偵「それも多分違うと僕は思うね。さっきも言ったけど、自転車が電柱に突き刺さっていたとか言うんだぜ?」

探偵「ここら辺は怪異絡みの信用出来ない話だから、それを差し引いて話し半分程度に考えるとしてもさ」

探偵「少なくとも、この時、自転車は突き刺さるとまではいかなくとも、見るも無惨な姿に壊れてたんじゃあないかと考えるのが自然だろう? バラバラに壊れて鉄屑同然の姿になっていたみたいにね」

助手「まあ、そうかもしれませんね……」

探偵「だろ? となると、それってさ、ちょっと尋常じゃない威力だよねえ?」

探偵「いくら神原駿河がスポーツ少女とはいえ、普通の女の子が金属バットで殴りかかったぐらいで出せるような威力じゃあないと僕は思うんだよ」

助手「でも、それだけの威力を出せる凶器ってまずないですよね? あっても、プレス機みたいな大きな機械とかそんなのになりそうですし……。まさか、そういった物を使ったなんて言うつもりじゃ……?」

探偵「いやいや、そんな非現実的な事は、僕は言わないよ」

探偵「もっと単純に考えてみなよ。君は見落としてるんだよ。僕達が入手可能な範囲で、それだけの威力を出せる『凶器』って身近なところにあるじゃないか」

助手「ありますか……? そんなの?」

探偵「あるよ。君も今日、『その凶器』を確実に見ているはずなんだけどね」

助手「私が……見ている?」

探偵「そう。ここに来るまでに。それとも君は見なかったって言うのかい? その『凶器』が道路の上をいっぱい走ってるのをさ?」

助手「あ! 『自動車』ですか!」

探偵「そう。この時の威力を考えるに、使用した『凶器』は『自動車』だと僕は思ってるんだよ」

助手「自動車……」

助手「だけど、神原さんって高校生ですよね? 自動車なんか手に入りますか?」

探偵「買う事は出来ないだろうから、必然的に盗んだって事になるよね」

助手「家の車を黙って使ったって事ですか?」

探偵「いや、家の車だと流石にバレちまうよ。だから、普通に盗んだのさ」

助手「でも、車を盗むってそう簡単に出来る事じゃないですよね?」

探偵「いやいや、結構簡単なもんだよ」

助手「え?」

探偵「そりゃ確かに自動車ごと盗むのは難しいけどさ。でも、『自動車の鍵』を盗む事自体はそこまで難しくないだろ?」

助手「ああ、まあ……。確かに……」

探偵「だから、神原駿河は知ってる人物から盗んだんだよ。鍵を拝借して、後は見よう見まねで運転するだけさ。免許がなくても、ゆっくりと進めば事故る事もそうそうないだろうしね。今はオートマ全盛時代だからさ」

助手「はあ……なるほど」

探偵「つまり、まとめるとさ」

探偵「神原駿河は阿良々木暦を殺そうと思い、自動車を盗み出して、踏切近くの帰り道で待ち伏せし……」

探偵「そこで、思いっきりアクセルを踏んで阿良々木暦にぶつけたのさ。轢いたんだ。それを『怪異』の仕業って事にしている訳だ」

助手「そうなりますよね……」

探偵「だとしたらさ、どうだろうね?」

助手「どうって言うのは?」

探偵「君も鈍いねえ。よくよく考えてみなよ」

探偵「神原駿河は『自動車』を使って、『阿良々木暦を轢き殺そうとした』んだぜ?」

探偵「当然、ブレーキなんか踏むつもりはないよな。自転車が大破していた事を考えると、相当なスピードでぶつかっていった事になる」

探偵「だとしたらさ、果たして阿良々木暦君は、『大怪我程度』で済むのかねえ?」

助手「え、まさか……」

探偵「そうだよ。阿良々木暦はさ、きっとこの時に……」

探偵「神原駿河によって殺されてるんだよ。『死んでるんだ』」

助手「!?」

助手「いや、でも、そんな……。死んでるなんて……」

探偵「いや、君はそう思うかもしれないけどさ。とはいえ、そうとしか考えられないからねえ」

探偵「だって、そうだろ? この時、阿良々木暦が死んでなかったら、神原駿河はもう一度轢き殺せば良いだけの話なんだぜ?」

助手「だけど、そこに戦場ヶ原さんが来て、死ぬ事はなかったんじゃ……」

探偵「いやあ、違う違う。そこで最初の話に戻る訳だよ。僕達は勘違いをしていた訳だ」

助手「勘違い……?」

探偵「そう。つまりさ、『阿良々木暦の偽者は翌日に現れた訳じゃあないんだ』」

探偵「この時点で、『阿良々木暦の偽者は本物と入れ替わってる』んだよ」

助手「あ……」

探偵「『阿良々木暦の死体はこの時点で隠されていて、そこに偽者の阿良々木暦が現れた』」

探偵「だから、『この時、戦場ヶ原ひたぎが見た阿良々木暦は、本物じゃあなくて偽者なんだよ』」

探偵「そして、『その偽者の阿良々木暦も、その時、怪我をしていた』訳だ」

助手「…………」

探偵「ただし、それは軽い怪我だよ。だから戦場ヶ原ひたぎはその怪我の事について、特に心配しなかったんだ。救急車を呼ぶなんて事もしなかった」

助手「そういう事ですか……」

探偵「そう考えるとさ、全部の辻褄が合うんだ」

探偵「この後に出てくるレイニーデビルとの密室の格闘、あるだろ?」

助手「あ、はい」

探偵「あの時、『阿良々木暦は腹に風穴が空いていて、そこから腸が飛び出している』訳だけどさ」

探偵「あれは『本物の阿良々木暦』についての話だよ。もう死んでるんだから、どんな状態になっていたって不思議じゃあないさ」

探偵「その一方で、『偽者の阿良々木暦』は当然怪我をしていないんだから、いつの時でも『無傷』だよ。怪我をしてたとしても、次の日には治ってるような軽いなものばかりだろうしね」

助手「…………」

探偵「つまりね。『するがモンキー』も含めてこれ以降、偽者の阿良々木暦は三話に渡って『死体の説明』をしているのさ」

探偵「だから、偽者の阿良々木暦が負った怪我なんて初めからないんだよ。怪我をしていたなんてのは全部『嘘』だ」

探偵「ただ単に、『すぐに怪我が治る』なんて嘘をいかにも本当らしく思わせる為の演出、大嘘なんだよ」

助手「…………」

探偵「だから、偽者は一人だけで済む。何人も必要ない」

探偵「これが『阿良々木暦が不死身』な理由だろうね」

助手「…………」

ここまで

助手「それにしても、神原さんが阿良々木君を殺してたって言うのは……」

探偵「意外、だとでも?」

助手「まあ……」

探偵「そうかねえ? 僕からしたら意外どころか必然に思えるけどさ」

助手「……どうしてですか?」

探偵「だってさ、そもそも『するがモンキー』の前半ってどういう話だい?」

助手「どういうって……」

探偵「ざっくばらんに言っちゃうとさ。『神原駿河が阿良々木暦を殺そうとしたけど、相手が吸血鬼なので失敗しました』って話だろ?」

助手「それは……。そうかもしれないですけど……」

探偵「つまり、阿良々木暦が吸血鬼じゃなかったら死んでたって事さ。で、阿良々木暦は吸血鬼じゃないんだから、殺されてても少しもおかしくはないよ。違うかい?」

助手「…………」

探偵「つまり、話の本筋は合ってるんだよ。違うのは、阿良々木暦が死んでるか死んでないかだけでね」

探偵「神原駿河が阿良々木暦を殺したいと思っていた事には変わりないし、それを実行したのも変わりない。そう考えると、少しも不思議じゃないだろ?」

助手「……はあ」

探偵「大体さ、僕だってあてずっぽうでこんな事を言ってる訳じゃあないよ」

探偵「根拠はあるんだ。色々とね」

助手「その……根拠っていうのは?」

探偵「踏切の時の戦場ヶ原ひたぎの態度だよ。あれ、不自然じゃあないかい?」

助手「不自然?」

探偵「そうだよ。化物語の中には、『怪異以外』でも不自然な描写が多いんだ」

探偵「そして、『するがモンキー』にはそれが三つある」

助手「どんなのですか?」

探偵「一つ目が、さっき少し触れた『踏切での戦場ヶ原ひたぎの態度』」

探偵「二つ目が、『踏切での会話』」

探偵「三つ目が、『レイニーデビルの格好』さ」

助手「?」

探偵「順番に説明していくとさ」

探偵「一つ目の『踏切での戦場ヶ原ひたぎの態度』って、どう考えてもおかしくないかい?」

助手「例の、ほとんど心配してなかったって話ですか?」

探偵「そう。怪我がすぐ治るって信じていたかもしれないけどさ、それでも普通、あんな態度を取らないよ。自分の彼氏が大怪我してるんなら尚更ね」

探偵「しかも、何で怪我していたのかも、深くは詮索してない。自転車で転んだなんてあからさまな嘘に対して、それ以上追求しようとはしなかったんだぜ?」

探偵「普通、気になるもんじゃあないのかい? 訳を知ろうとするだろ? 何か理由を隠していそうなら尚更さ」

助手「…………」

探偵「だから、この時点で、明らかに戦場ヶ原ひたぎの態度は不自然なんだよ」

探偵「そして、偽者の阿良々木暦が出てきている事を考えると……」

探偵「実は、本物はここで姿を消していて、その代わりに偽者が現れた……」

探偵「そして、その偽者も怪我をしていたが大した怪我じゃなかった……」

探偵「そんな風に考えた方が自然だろ?」

助手「…………」

探偵「次に僕が不自然だと思ったのが、『線路の上での会話』だよ」

探偵「思い出してみなよ。阿良々木暦が線路の上で倒れていてさ。戦場ヶ原ひたぎもそれを見下ろしながら会話してただろ?」

助手「そうですね」

探偵「で、その横を普通に電車が横切っていく訳だ」

助手「はい」

探偵「これさ、どう考えてもおかしくないかい?」

助手「?」

探偵「だってさ、普通、線路の上に誰かいたら電車は止まるもんだろ?」

助手「……あ」

探偵「普通はその横を通り過ぎる手前で気が付いて、急停車するぜ。下手したら轢き殺す事になるんだからさ」

助手「……そう言われてみれば、確かにそうですけど」

探偵「まあ、阿良々木暦の場合は、その時、夜だったし線路の上に寝ていたから運転士が気が付かなかったって可能性もあるけどさ……」

探偵「でも、戦場ヶ原ひたぎの姿については運転士が居眠りでもしてない限り絶対に気が付くはずなんだよ。線路の上に立っていて、おまけに光をよく反射する白い服まで着てたんだからさ」

助手「…………」

探偵「だから、これは明らかに『嘘』なのさ。その時、阿良々木暦は線路の上に寝転がってなんかいないし、戦場ヶ原ひたぎもそこで会話なんかしちゃいない」

探偵「そういう結論に至る訳だ」

助手「はあ……」

探偵「じゃあ、それがどこまで嘘かって話になるんだけどさ」

探偵「犯行現場が踏切近くってのは、多分、事実なんだよ」

助手「それはどうしてです?」

探偵「そんな嘘をつく理由がないからね」

助手「…………」

探偵「犯行現場が踏切でないなら、わざわざ話に踏切を持ち出す必要がない。初めからどこか人気のない路地とかで襲われたって事にしとけばいいんだからさ」

助手「……そういえば、そうですね」

探偵「だから、犯行現場は『踏切近く』。ここは疑わない」

探偵「となると、嘘は『戦場ヶ原ひたぎと阿良々木暦が会話していたのは踏切ではない』って事になるよね?」

助手「そうですね」

探偵「って事は、この時、阿良々木暦は場所を移動してる事になるんだ。多分、犯行現場から離れた線路沿いの道路だろうけどね」

探偵「実際には、そこに戦場ヶ原ひたぎが現れて、そしてそこで会話をしている時に横を電車が通っていったんだよ」

助手「はあ……」

探偵「となると、本当は『そこに移動するまでの時間』があったはずなんだ。ところが、化物語ではこれをなかった事にして、すぐに戦場ヶ原ひたぎが現れた事にしている。だから、こんな不自然な話が生まれたんだよ」

助手「……なるほど」

探偵「なら、そこでもう一歩踏み出して考えようか。『どうして、その時の移動時間の事を隠すんだろうか?』」

助手「え?」

探偵「『知られたくない事、隠しておきたい事』がさ、『その移動時間に起きてるから』じゃあないかい?」

助手「……あ」

探偵「つまりさ、踏切での襲撃をA。踏切での会話をBとするとさ」

探偵「化物語の中では、A→Bとして繋がっている訳なんだけど、でも、実際にはそこに謎の時間である『X』が挟まっている訳だ」

探偵「実際には、A→『X』→Bの順なんだよ」

探偵「ところが、化物語ではそれを隠してA→Bとして繋げているもんだから、こんな不自然な状況が出来上がってる訳だ。ここまでがこれまでのまとめだよ」

助手「はあ……」

探偵「じゃあ、この『X』の時間帯に何が起きたかを考えてみよう」

探偵「そして、この『X』の時間帯に起きた事は偽者の阿良々木暦にとっては『不都合な事実』って事だ」

助手「…………」

探偵「だからさ、これは僕の想像なんだけど……」

探偵「実際には、そこでこういう事が起きたんじゃあないのかい?」

探偵「『轢き殺した阿良々木暦の死体を、神原駿河が隠す』」

探偵「『そして、踏切近くから移動』」

探偵「『その後、偽者の阿良々木暦が現れて』」

探偵「『戦場ヶ原ひたぎと出会った』」

探偵「ってのが、真相だと僕は思うんだけどね。これなら全部の辻褄が合うし」

助手「…………」

探偵「で、この『死体を隠す』って事を神原駿河がやっただろうってのは、僕の中ではほぼ確信に近くてね」

助手「どうしてです……?」

探偵「その理由は二つあるんだけど、一つ目は『神原駿河は何故、車を凶器に選んだのか』だよ」

探偵「ナイフや包丁で刺し殺した方がよっぽどか簡単なんだ。わざわざ車を盗んで轢き殺すなんて普通は考えない」

探偵「なのに、神原駿河はそれを選んだ。つまり……」

助手「死体の移動を初めから考えてた、って事ですね……」

探偵「そう考える方が普通だろ?」

助手「……確かに」

探偵「そして、もう一つの理由。こっちのが本命なんだけどさ」

探偵「それがさっき話した三番目の疑問点、『レイニーデビルの格好』って訳だ」

助手「……どういう事です?」

探偵「レイニーデビルの格好って、雨合羽に長靴、そして猿の手だろ?」

探偵「何でそんな格好をしてたんだろうって疑問に思わないかい?」

助手「?」

助手「でも、レイニーデビルってそういう怪異ですよね? 雨合羽に猿の姿で描かれる事が多いって、確か化物語に書いてあったと思いますけど……。だから、別に不自然ではないんじゃ?」

探偵「いいや、違うよ。不自然も不自然。大不自然さ」

探偵「何でかって言ったら、化物語に出てくる怪異は『吸血鬼』以外、全て創作。『嘘の怪異』だからだよ」

助手「!?」

探偵「最初に僕、ネットで調べものしてただろ?」

助手「あ、はい……」

探偵「あの時、色々と調べたんだけどねえ。重し蟹や迷い牛、レイニーデビルに蛇切縄、障り猫。この五つの怪異の伝承なんて化物語以外に出てこないのさ」

助手「出てこない……?」

探偵「そう。例えば、重し蟹は九州に伝わる民間伝承とかだっけ? でも、そんなのは実際にないんだよ。伝承として存在してない。つまり、『嘘』なんだ」

助手「…………」

探偵「忍野メメは、いかにも本当にあるように、それっぽい事をいくつも話してるけどね。でも、それは全部『嘘』なのさ。デタラメなんだよ」

助手「……そうなんですか」

探偵「あくまでネットで調べた範囲で、とはつくけどね。でも、ほぼ間違いないと思うよ。『化物語に出てくる怪異は吸血鬼を除けば全部オリジナル』ってのはさ」

助手「…………」

探偵「つまり、レイニーデビルもそう。そんな悪魔は初めからいない。創作だよ。だから、レイニーデビルの『あの格好』も不自然なんだ」

探偵「となると、あんな目立つ格好をした嘘話をわざわざ作り上げるなんて、そっちの方がよっぽどか不自然だろ? 『実際にそんな格好をしていたから、そういう怪異の話を作り上げた』と考えるべきなんじゃあないのかい?」

探偵「それを不自然に思われないよう誤魔化す為にね」

助手「……はあ」

探偵「じゃあ、神原駿河は『何で』『そんな格好をしていたのか』って話に戻そうか」

助手「あ、はい……」

探偵「まず、猿の手からなんだけどさ。当然、人間の手が『猿の手』に変わる事はないよね? だから、これがもしも本当の事だとしたら、それは『猿の手に似せて作られた長めの手袋』って事になるだろ?」

助手「そうなりますね」

探偵「ま、それ自体は実際にあるだろうから、ここはそう考えても特に問題ないよ。特撮用のものとか、パーティーグッズとか、色々とあるだろうからさ」

助手「はい」

探偵「でも、そこは大きな問題じゃあない。もう一度言うけど、重要なのは、神原駿河が『何で』『そんな物をしていたか』だ」

探偵「雨合羽に長靴もそうさ。『何で』『そんな格好をしていたのか』が謎だろ?」

探偵「君さ、これ、どうしてだと思う?」

助手「んー……」

助手「……それ、神原さんが阿良々木君を殺しに行く時の格好ですよね?」

探偵「そうだね。神原駿河は愉快な事にも、そんな奇妙な格好で殺しに行った訳だ」

探偵「さて、どうしてだい?」

助手「……わかりませんよ。そんなの」

探偵「まあ、そう言わずにもう少し考えてみなよ。聞けば、結構簡単な事だからさ」

助手「……なら、何かヒントをくれませんか?」

探偵「ヒントねえ……。そうだね。なら、こう考えてみなよ」

助手「何です?」

探偵「例えば、君が、誰かを殺そうと思って包丁を用意するだろ? その時、君はそれをどうやって持っていく?」

助手「どうやってって……。多分、バッグの中に新聞紙か何かでくるんで……」

探偵「それだけかい?」

助手「んー……。どうだろう……。後は……」

助手「指紋がつかないように、手袋を……」

助手「……あ!」

探偵「そう。わかっただろ? 神原駿河が『包帯』だとか『猿の手』だとか、『そんな物』を『手』に装着していた理由がさ」

探偵「指紋がつかないようにしていたんだよ。それ以外に理由がない」

助手「…………」

助手「でも、それ、何で『猿の手』だったんでしょうか? 普通の手袋とかでいいと思うんですけど……」

探偵「実際、普通の手袋だったかもしれないよ? 後から『猿の手』っていう嘘を作り出したとも考えられる」

助手「ああ……それは確かに」

探偵「まあ、実際、本当にそれが『猿の手に似せて作られた手袋』だったのか、それとも普通の手袋だったかはとりあえず今は置いとくとして」

探偵「神原駿河が指紋がつかないように、『この時、手を何かで覆ってた』ってのは事実だろうね」

助手「……でしょうね」

探偵「だとしたら、雨合羽に長靴はどうだろう? これも同じ理由なんじゃないのかい?」

助手「同じ? 服や靴まで覆う必要ってなくないですか? 指紋とかつかないですし」

探偵「それがあるんだよ。『死体を運ぼう』なんて考えを持ってる時に限ってさ」

助手「?」

探偵「だって、そうだろ? その時、阿良々木暦の死体が『血だらけ』になってるだろうなんて、容易に想像がつくんだから」

助手「あ……」

探偵「つまりね。神原駿河は『服に血がつかないように』してたんだよ。だから、阿良々木暦を轢き殺した後に、雨用の完全装備をして外に出たのさ」

探偵「『何でそんな格好をしてたのか』『何で車を凶器に選んだのか』って、謎の正体がこれだよ」

探偵「『死体を車で運ぼうと考えてたから』なのさ」

助手「…………」

ここまで

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom