探偵「化物語」【推理】 (145)

『補足』


・元ネタはスレタイ通り

・作中には時折【】で囲まれた言葉が登場する。その言葉は、理由も説明も必要なく絶対的な真実。間違いはない

・逆に言えば、それ以外の言葉には全て疑う余地がある

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1480670356

【注意・重要】


・時系列は、つばさキャットが終わった後

・話は『化物語』限定。ひたぎクラブ、まよいマイマイ、するがモンキー、なでこスネイク、つばさキャットの五つの話のみ。『傷物語』は含まれない

・出てくる登場人物(容疑者)は以下の9人。これ以上は増えない

【阿良々木暦、羽川翼、戦場ヶ原ひたぎ、忍野忍、忍野メメ、八九寺真宵、神原駿河、千石撫子、ブラック羽川】

・なお、以下の十点は順守する


1、「未知の登場人物が犯人(怪異)である事を禁ず」

2、「秘密の抜け穴や隠し部屋の存在を禁ず」

3、「常識から逸脱した偶然を禁ず」

4、「未知の薬物、及び、難解な科学装置の使用を禁ず」

5、「超能力・祟り・呪いなど、オカルトによる犯行を禁ず」

6、「登場人物全員が共謀者である事を禁ず」

7、「登場人物の中に多重人格者がいる事を禁ず」

8、「そっくりな双子の存在を禁ず」

9、「全てが偶然により発生した出来事である事を禁ず」

10、「観測者は自分の判断・解釈を主張することが許される」

助手「それでは、阿良々木暦さん、そして戦場ヶ原ひたぎさん。あなた達に起こったという不思議な体験を聞かせて下さい」

助手「初めから終わりまで全部、詳しくお願いします」

助手「途中、私が質問を挟む時もあると思いますが、それも宜しくお願いします」


暦「……わかりました」

ひたぎ「ええ」



第一の謎

『戦場ヶ原ひたぎの体重』


暦「事の発端は、そこにいる戦場ヶ原がバナナの皮で滑った事からです」

ひたぎ「ええ、学校にいる時、階段の踊り場にバナナの皮がポイ捨てされてました」

ひたぎ「私はそれに気付かず、その皮を踏んで滑って……」

ひたぎ「階段の踊り場から落ちていきました」

ひたぎ「私の通う学校にはとても高い螺旋階段があります。そのほぼ最上階の場所から、下へと真っ逆さまに落ちていきました」

ひたぎ「その時、私が転げ落ちた地点と地面の間までには十メートル以上の落差がありました」

ひたぎ「それは、ほぼ即死する距離です。私もあの時は死ぬかと思いました。ですけど……」

暦「それを受け止めたのが僕です」

暦「その選択が正しかったかどうかはわかりませんが、その時、僕は落ちてくる戦場ヶ原をまるでお姫様抱っこのような態勢で受け止めていました」

暦「ラピュタに出てくるあのシーンのように」

暦「そして、二人とも、無傷でした。本来なら僕も戦場ヶ原も死んでいてもおかしくなかったんですが……」

暦「戦場ヶ原には『重さ』というものがほとんどなかったんです」

暦「だから、傷一つ負う事なく、受け止める事が出来ました」


助手「…………」

助手「重さがない、というのは?」

ひたぎ「正確には五キロです。私の体重は五キロしかありませんでした」

助手「……それは、有り得ない事ですよね? あなたの体格からいくと……。赤ん坊ではないんですから」

ひたぎ「ええ。ですが、私の体重はその時は五キロでした」

ひたぎ「どうしてかと言えば、『怪異』に重さを取られていたので」

助手「…………」

助手「帰納法や常識からいけば、あなたには40から50キロぐらいの体重があるはずなんですが……」

助手「体重が五キロという事は有り得ません」

ひたぎ「ですが、事実です。今は体重を取り戻しているので、五キロという事はありませんけど」

ひたぎ「それに、体重が五キロでなければ、どうやって転落した私を無傷で受け止める事が出来るのでしょうか?」

ひたぎ「だから、これは間違いなく事実です」

助手「…………」

助手「いくつか質問をしても良いですか?」

ひたぎ「ええ、どうぞ」

助手「まず、あなたが落ちた場所です。そこの高さを教えて下さい」

助手「『本当は低い場所から落ちた』という可能性もあるので」

ひたぎ「わかりました。正確な高さまでは知りませんが……」

ひたぎ「【私が落ちた地点は、地上から12メートル以上はありました】」

助手「では、阿良々木さん。あなたが受け止めたという地点は? その時、あなたはどのぐらいの高さの場所に?」

暦「【その時、僕は地上から2メートルぐらいの地点にいました】」

助手「……なるほど。つまり、高さにして10メートルは離れていたと」

ひたぎ「はい」

助手「……あなたが阿良々木さんに受け止められたのは確かですか?」

ひたぎ「ええ。【受け止めたのは阿良々木君です】」

助手「…………」

ひたぎ「何か?」

助手「いえ……。そして、その時はお互いに無傷だったと?」

ひたぎ「ええ。【その時、私も阿良々木君も傷一つ負っていません】」

ひたぎ「【阿良々木君は無傷で私を受け止めました】」

助手「…………」

助手「それなら……例えばパラシュートとか、そういった物を使ったとかは?」

ひたぎ「【私はその時、道具を一切使っていません】」

助手「では、落ちた速度は? 何かが原因となってゆっくり落下していったとか……」

ひたぎ「【私は地球の自由落下速度で落ちていきました】」

助手「……それなら、阿良々木さん。あなたは?」

助手「例えば、クッションだとかトランポリンの様な物を使って受け止めたとか……」

暦「【僕もその時、道具を一切使っていません】」

助手「…………」

ひたぎ「そもそも、【阿良々木君は両手で私を受け止めています】」

ひたぎ「それに、【その時、道具を一切持っていませんでした】」

助手「……そうですか」



第一の謎

『戦場ヶ原ひたぎの体重』


終了



次回、『阿良々木暦の超回復』

ああ、大事な事を書き忘れてる


【この話の中に『怪異』は存在しない】


>>3>>4の間にこの一文をお願いします

>>14
落ちた速度は地球の自由落下速度やで

>>15
1=15なのか?
idが変わっているので、区別がつかない。
出題している間だけでいいので、ハンドルネームを付けてくれ。

>>17
コテとか酉つけんのめんどいんだよね。必要ならつけるけど、今はまだ大丈夫でしょ
それと、>>15は俺じゃないけど、それに関しては>>10で出てるよ
一応、念の為、真実を追加しとこか


【阿良々木暦と戦場ヶ原ひたぎがいた場所は地球であり、重力は一切変化していない】



第二の謎

『阿良々木暦の超回復』

暦「それで、僕は戦場ヶ原の事が気になったので、クラスメイトの羽川翼という女子に戦場ヶ原の事について色々質問しました」

助手「はい」

暦「その時、羽川から聞いたのは、戦場ヶ原の家が裕福な家庭である事」

暦「中学の時は陸上部に所属していて、かなり速かったという事」

暦「明るくて誰にでも慕われる様な存在で、皆から憧れに近い目で見られていたという事」

暦「だけど、ある時、部活を辞めて、それ以降めっきり人付き合いも悪くなったという事……」

暦「そういった事を聞きました」

ひたぎ「……あなたはそんな事を羽川さんに聞いていたのね」

暦「いや、まあ、その点は大目に見てくれ。悪気があってした事じゃないし」

助手「わかりました。それで?」

暦「その後、羽川に断りを入れて僕は教室の外に出ました」

暦「その時は授業も終わっていて夕方に近く、学校に残っている生徒はほとんどいなかったんですけど……」

暦「教室の外に出るなり、後ろから戦場ヶ原に声をかけられ、振り向いたら……」

暦「口の中に、いきなりカッターとホッチキスを入れられ、脅されました」

暦「私の体重の事は黙っているようにと」

ひたぎ「…………」


助手「……それはまた。随分、過激ですね」

ひたぎ「それぐらい、私の体重の事について知られるのは嫌だったという事よ」

ひたぎ「人から好奇な目で見られるのは私は嫌いなので」

助手「……はあ」

暦「それで、僕は戦場ヶ原から自分の体重が五キロだという事と」

暦「その理由が、『ある時、大きな巨大な蟹に出会い、体重を取られた』という事を教えられました」

助手「『怪異』というやつですか?」

ひたぎ「ええ、そうね。私は蟹の怪異に出会ったの」

助手「…………」


暦「その後に僕は、戦場ヶ原から自分については無関心を貫いて欲しいという趣旨の事を言われて」

暦「駄目押しとばかりに、ホッチキスで頬を挟まれました。当然、ホッチキスの針は口の中にバチンと刺さって」

ひたぎ「…………」

暦「僕が痛さでその場にうずくまっている間に、戦場ヶ原は去っていきました」

助手「お気の毒でしたね」

暦「ええ、まあ……」

ひたぎ「あの時は悪かったわね、阿良々木君。でも、その時の私からしたらあれは仕方なくの事で……」

暦「いや、それはもういいんだけどな。戦場ヶ原の気持ちもわかるし」

助手「すみませんが、そこら辺は後でお願いします。続きを」

暦「その後、僕は戦場ヶ原を追いかけて」

暦「自分が体重を取り戻す力になれるかもしれないという事を話しました」

暦「何故なら、僕も『怪異』だから」

暦「正確に言えば違うのだけれど、僕は『吸血鬼』なんです」

助手「吸血鬼?」

暦「はい。元は普通の人間ですけど、とある事情により、それに近い存在となりました。なので、『体の傷の治りが、人よりも何倍も早い』んです」

暦「僕はその事を戦場ヶ原に信じてもらう為に、自分の頬の中を見せました」

暦「さっき、戦場ヶ原にホッチキスの針を挟まれた箇所です」

暦「普通なら、そこにはまだ傷跡が残っているはずです。でも、僕は違う」

暦「僕はその時既に『傷が完治して』いました」

ひたぎ「そう。だからこそ、私も阿良々木君が『普通の人間ではない』という事に気付いたのよ」

助手「……なるほど。今度は、吸血鬼ですか……」

助手「お二人には申し訳ないんですが、生憎私は、幽霊だとか化物だとか、そういった物を一切信じていません」

助手「なので、また何点か質問させて下さい」

暦「どうぞ」

助手「まず、戦場ヶ原ひたぎさん。あなたが阿良々木さんの頬の内側にホッチキスを使って傷をつけたのは確かですか?」

ひたぎ「ええ。間違いなく。【私は阿良々木君の右頬にホッチキスを挟んで、ホッチキスの針を頬の内側に突き刺しました】」

助手「それで、次にあなたが確認した時には、その傷跡がなかったと?」

ひたぎ「ええ。【私が次に確認した時には、傷跡はどこにもありませんでした】」

助手「それは、時間的にはどれぐらい経ってからですか? 例えば、一時間や二時間経過していたとかそういった事は?」

ひたぎ「【傷をつけてから、次に確認するまで、五分も経っていません】」

助手「確認した場所は間違いないですか? 例えば、右頬と間違えて左頬を見ていたとか……」

ひたぎ「どちらも右頬です。【それは、私から見てどちらも左側の頬でした】から」

助手「鏡などで左右が逆になって見えていたという可能性もありませんか?」

ひたぎ「【鏡や映像などではなく、直接確認しました】」

助手「当たり前の事かもしれませんが、どちらの時も、お互いに向かい合っていましたか?」

ひたぎ「ええ。【傷をつけた時も、次に確認した時も、お互いに向かい合っていました】」

助手「……そうですか。わかりました」



第二の謎

『阿良々木暦の超回復』


終了



次回、『重し蟹(怪異)の存在』

この手のを読むのは初めてなんだけど
登場人物は推理ショーの台本どおりに演じてるって感じに読めばいいのか?

>>26
物語じゃなくて推理ゲームみたいな感じで読んでくれればいいよ
内容は化物語ほぼそのままだし
化物語知ってる人からしたら、【】の部分のところだけ読めばそれでOKなはず。他は知らない人の為に書いてる。今は単なる出題編



第三の謎

『重し蟹(怪異)の存在』

暦「それで、僕達二人は自転車に二人乗りして『あるところ』に行ったんだ」

助手「あるところ、というのは?」

暦「僕の知り合いが住んでいるところ。元は学習塾で、それが潰れて今は廃ビルになってるところなんだけど」

暦「そこに、忍野メメっていう『怪異』に詳しい人間がいたから」

助手「霊媒師みたいなものですか?」

暦「まあ、それに近いかもしれない。とにかく『怪異』の専門家みたいな感じのやつだよ」

暦「アロハシャツに金髪で、見た感じはかなり怪しげなんだが、その手の事に関しては信頼出来る人間なのは間違いないから」

助手「なるほどね……。霊媒師ですか」

暦「それで、二人して忍野のところに行って……」

ひたぎ「その途中、ビルの中に可愛らしい女の子が座り込んでいるのを見たわね」

助手「女の子?」

暦「忍野忍だよ。命名したのは忍野(メメ)だけど」

暦「吸血鬼のなれの果て、その絞りカス、そういう存在」

暦「今は、話とはあまり関係ないから忍の事については飛ばすけども」

助手「……わかりました。構いません。続きをどうぞ」

暦「それで、僕達二人は忍野のところにまで行って」

ひたぎ「私が大きな蟹に出会って体重を無くした事を話したわ」

暦「忍野の話によると、戦場ヶ原が出会ったのは『重し蟹』という『怪異』だそうだ」

ひたぎ「神様だと言っていたわね。八百万の神、その中の一つだと」

助手「神様ね……」

ひたぎ「それで、私は忍野さんに体重が戻るのかを尋ねたわ」

助手「忍野さんは何と?」

ひたぎ「戻る、という事だったわ。神様にお願いして体重を戻して欲しいとお願いすれば良いと」

助手「…………」

暦「忍野の話によると、神様ってのは『どこにでもいて、どこにもいない』っていう、そういう存在だそうだから」

助手「それは、哲学ですか?」

暦「さあ。それは僕にはわからない。でも、忍野に言わせると怪異全般がそういうものらしい。僕達には見えないだけで、『どこにでもいて、どこにもいない』」

助手「…………」

ひたぎ「だから、その見えない神様を私達の目にも見えるよう、儀式を執り行って、それでその神様にお願いすれば私の体重は元に戻してもらえるんじゃないかと、そういう事だったわ」

暦「神様は、僕達人間の事なんかまるっきり興味や関心を持ってなんかいないから、普通に返してもらえるんじゃないかと、そう言っていたと思う」

助手「……わかりました。それで?」

暦「儀式には準備がいるから、僕達は一旦、家に戻る事になった」

ひたぎ「神様に会うのだから、体を浄めて、清潔な服に着替えてくるようにと言われたわ」

助手「……なるほど。よく聞く話ですね。ちなみに、代金とかはどうだったんですか?」

助手「その手の話は、よく法外な料金を取ると相場が決まっているんですが……」

ひたぎ「忍野さんは、いらないと言っていたわね」

暦「忍野曰く、『僕は助けない、君が勝手に助かるだけさ』って、そう言っていた」

助手「…………」

ひたぎ「だけど、私は払う事にしたわ。タダほど怖いものはないと言うし、無償で人を助ける人間は逆に信用出来ないものだから」

助手「そうですか……。ちなみに、おいくらほど?」

ひたぎ「十万円よ」

助手「…………」

ひたぎ「もしも、本当に私の体重が戻るなら、払う価値は十二分にあると思ったわ」

助手「それは、前払いで?」

ひたぎ「いいえ、後払いよ。体重が戻らなかったら、当たり前の事だけど払う気はなかったわ」

助手「でしょうね。わかりました」

ひたぎ「それで、私は体を浄める為に家へと戻ったわ」

ひたぎ「ついでだから、そこの阿良々木君も誘ってね」

助手「はい」

ひたぎ「それで、家に戻ってシャワーを浴びて……」

ひたぎ「忍野さんの事を教えてくれたお礼という訳でもないけど、そこの阿良々木君にヌードと下着姿を披露したわね」

暦「いや、まあ、その……」

助手「…………」

ひたぎ「阿良々木君はその見た目通り、そんな経験が一度もなかったから、反応が面白かったわね。なかなか楽しめたわ」

暦「いや、それは何て言うか、視聴者サービス的なあれであって」

ひたぎ「メタ発言は控えた方がいいわよ、阿良々木君。あなたは原作でもそれを言われているでしょう」

暦「それこそメタ発言じゃないか!」

助手「そこら辺の話はいいです。どうぞ、続きを」

暦「それで、話を戻すと、僕らは夜にまた忍野のところに行って」

ひたぎ「空き教室の一つで、儀式を行ったわ。忍野さんも神主の格好に着替えていたわね」

助手「その儀式というのは、具体的に何を?」

ひたぎ「質問だったわね。名前から始まって、他愛ない事を幾つか」

ひたぎ「それから、私が体重を無くした理由に関する質問になってきて……」

ひたぎ「気が付くと、私の目の前には巨大な蟹がいたわ。あの時の蟹。私の体重を取っていった蟹にまた会ったのよ」

暦「その蟹は僕には見えなかったけど、忍野と戦場ヶ原には見えていた」

助手「…………」

ひたぎ「忍野さんは言ったわ。その蟹に体重を元に戻してもらうよう頼むと良いと」

ひたぎ「でも、その時の私は怯えていてそれどころではなかったの」

ひたぎ「そうしたら……」

ひたぎ「その巨大な蟹は私に襲いかかってきたわ」

ひたぎ「私は空中に持ち上げられて、壁に勢いよく押し付けられた」

暦「それは僕にも見えた」

暦「戦場ヶ原の体がいきなり浮かび上がったかと思うと、そのまま壁に叩きつけられて」

暦「壁には大きなひびが入っていた」

助手「…………」

ひたぎ「それを助けてくれたのが忍野さんよ」

暦「そう。僕は役立たずな事にも、それを見ているだけだった」

暦「忍野はその僕には見えない巨大な蟹を掴んで」

暦「背負い投げの要領でひっくり返して、足で踏んだ」

暦「蟹はひっくり返されると何も出来ないって」

暦「このまま、その蟹を潰して終わりにしても、一応の解決を迎えるけどって」

助手「…………」

ひたぎ「ただ、私はそれを良しと出来なかったから……」

ひたぎ「その場で礼儀正しく床に手をついて蟹にお願いしたわ」

ひたぎ「私の重さを返して下さいって……」

助手「…………」

ひたぎ「私は小さい頃に、大きな病気になった事があるの」

ひたぎ「それは命が助かるか助からないかの、酷い状態だったわ」

ひたぎ「その時、私の母は神様にお願いした」

ひたぎ「私の命を救って下さいって」


ひたぎ「その祈りが通じたのかどうかは私にはわからないけど、私は奇跡的に助かった」

ひたぎ「だけど、母はそれが神様のおかげだと信じ込んで……」

ひたぎ「それから、悪い宗教にはまるようになった」

助手「…………」

ひたぎ「その宗教にのめり込んだ母は、多額の寄付をしたわ」

ひたぎ「そのせいで、家からはどんどんとお金が消えていった」

ひたぎ「そして、私が中学生だった時……」

ひたぎ「母は、その宗教の幹部を家に連れてきて、私にその人と性行為をする事を要求したわ」

ひたぎ「母は、それが私の幸せに繋がると信じて疑っていなかったの」

助手「…………」

ひたぎ「もちろん、私は抵抗したわ」

ひたぎ「それで、最悪の事態は避ける事が出来た。でも、その代わり……」

ひたぎ「私はその幹部に大怪我を負わせてしまい、そのせいで母は立場がなくなったのか、更に多額の寄付をするようになった」

助手「…………」

ひたぎ「私の家庭はそれで崩壊したわ。父と母は離婚して、家も売り払って……」

ひたぎ「私はそれが自分のせいだと思った」

助手「…………」

ひたぎ「私が病気にならなければ、あるいは、あの時、私が抵抗しなければ……」

ひたぎ「私の家庭は崩壊する事がなかったんじゃないかと……」

ひたぎ「そんな重い想いが私の中にはずっとあった」

助手「…………」

暦「忍野の話によると、重し蟹って『思いし神』……」

暦「それが変化して『重し蟹』になったという事だった」

暦「人の想いを、重たい想いを、重さごと取ってしまう」

暦「それによって、想いを取られた人間は重さも無くすけど、代わりにその『想い』も無くしてしまう」

暦「そういう『怪異』だそうだ」

ひたぎ「だから、想いを無くす事を望んでいた私の元に現れた……」

ひたぎ「でも、それは私が背負っていかなければならない想いだから……」

ひたぎ「私は重し蟹に頼んで、重さを返してもらったわ。私の想いごと」

暦「ああ……」


助手「…………」

助手「……ありがとうございます。話自体はわかりました」

助手「私自身の感想を言わせてもらえれば、とても良い話だと思います」

助手「ですが、これもまた何点か確認させて下さい。私は『怪異』というものを信じない人間ですので」

助手「『重し蟹』が現実に『いる』とは私には思えないんです」

助手「宜しいですか?」

ひたぎ「ええ」

暦「どうぞ」

助手「まず、気になったのは、『重し蟹』が本当に存在しているのか、という点です」

助手「常識で考えれば、『重し蟹』なんてものは存在しませんし、『見えない何か』に掴まれて体が宙に浮くなんて事は有り得ません」

助手「誰かが戦場ヶ原さんの体を掴んで持ち上げ、壁に押し付けたと考えるのが自然です」

助手「そこで、戦場ヶ原さんに聞きたいのですが、あなたが『重し蟹』に掴まれて壁に押し付けられたというのは確かですか?」

ひたぎ「ええ。確かです。私を掴んで宙に持ち上げたのは『重し蟹』です」

助手「なるほど。それで、阿良々木さんにはその『重し蟹』が見えなかった?」

暦「はい。【僕には『重し蟹』が見えませんでした】」

助手「見えなかったという事は、仮にそれが存在していなかったとしても、『見えなかった』という事になりますよね?」

暦「確かに言葉の上では【存在していないものも『見えない』という事になります】けど……」

助手「それだけわかれば十分です」

助手「では、また戦場ヶ原さんにお聞きします。あなたは『重し蟹』に掴まれて体を宙に持ち上げられた。これは事実ですか?」

ひたぎ「ええ。事実です。私は『重し蟹』に掴まれて体を宙に持ち上げられました」

助手「ところが、それは阿良々木さんには見えず、阿良々木さんから見たら戦場ヶ原さんの体がいきなり宙に浮かび上がったように見えた。これは事実ですか?」

暦「はい。戦場ヶ原の体は宙にいきなり浮かび上がったように見えました」

助手「なるほど……。ありがとうございます」

助手「では、更に細かく聞きます。戦場ヶ原さん、あなたの体は本当に宙に浮かび上がっていましたか?」

ひたぎ「宙に浮かんだのではなく、重し蟹によって持ち上げられていたんです」

助手「……それなら聞き方を変えましょう。あなたの体はその時、足が地面についていなかったんですか? 地面とはもちろん床も含みます」

ひたぎ「はい。【その時、私の足はどこにも接触していませんでした】」

助手「体はどうですか? 例えば高い椅子に座っていても、足は地面に接触しませんが……」

ひたぎ「【その時、私の姿勢は直立不動に近い状態でした】」

助手「仮に上からワイヤーか何かで吊り上げたらどうでしょう? それならその姿勢でも宙に浮く事は可能ですが」

ひたぎ「【その時、私は道具を使っていませんし、誰かに使われてもいません】」

助手「偶然、引っ掛かったなんて事もありますが」

ひたぎ「【偶然も含め、一切使用していません】」

助手「手で体を支えて、両足を浮かせるなんて事も可能ですよね?」

ひたぎ「【その時、私は両足を浮かせる行為を自分でしていませんし、その意思もありませんでした】」

助手「……なるほど」

助手「となると、戦場ヶ原さんは自分でそういう状態になったという事ではなくなりますね……」

助手「それなら、『誰か』が戦場ヶ原さんの体を持ち上げた、という事になりますが……」

ひたぎ「ええ。重し蟹にです」

助手「……それは一旦置いておきましょう。次の質問をさせて下さい」

助手「その時、その場にいたのは何人ですか?」

ひたぎ「【私と阿良々木君、そして忍野(メメ)さんの三人です】」

助手「それなら、阿良々木さんか忍野さんがあなたの体を持ち上げた、という事になりますが……」

暦「【その時、僕も忍野(メメ)も戦場ヶ原の体には指一本触れていません】」

助手「それは直接的に、という意味ですか? それとも間接的にという意味ですか?」

暦「?」

助手「例えば、手袋などをして触れば、『直接的には指一本触れていない』という事にもなります。その点はどうですか?」

暦「【その時、僕も忍野(メメ)も道具を使っていませんし、戦場ヶ原には間接的にも触れていません】」

助手「…………」



第三の謎

『重し蟹(怪異)の存在』


終了


次回、『見えない八九寺真宵』



第四の謎

『見えない八九寺真宵』

助手「まず、八九寺さんというのは?」

暦「小学生ぐらいの女の子です。大きなリュックを背負っていて、横から見るとまるでカタツムリみたいに見えます」

助手「はあ……なるほど。それで?」

暦「その子が公園にあった地図を見ていました。その地域の地図が掲示板として置いてあったので」

助手「はい」

暦「その子が二回ぐらいその地図を見に来ていたので、僕はその子が迷子だと思って声をかけました」

助手「今だと下手したら通報されかねない行為ですね」

暦「……まあ、それは否定しませんが」

暦「それで、詳しい事は省きますけど、その子は実際に迷子でした」

暦「とある家に行こうとしていたんですが、そこにどうしてもたどり着けないという事だったので」

暦「僕も一緒に探す事を提案したんです」

助手「ますます通報されかねない行為ですが、それは一旦置いときましょう。それで?」

暦「僕は、その時、たまたま戦場ヶ原とそこの公園で出会っていたので……」

暦「そして、八九寺が告げた住所が、戦場ヶ原が昔住んでいた場所の近くだという事だったので」

暦「戦場ヶ原に頼んで、案内をしてもらいました」

助手「はい」

暦「だけど、八九寺は案内を最初拒んでいました。絶対にその住所にはたどり着けないからと」

助手「たどり着けない?」

暦「八九寺曰く、自分は『カタツムリの迷子』だから、って」

暦「そう言っていました」

助手「カタツムリの迷子……。よくわかりませんが……」

暦「最初は僕もその意味がわかりませんでした」

暦「でも、八九寺の言う通り、僕達はいつまで経ってもその住所にたどり着けなかったんです」

暦「同じところを行ったり来たりでぐるぐると」

暦「どうしても、そこにはたどり着けませんでした」

助手「つまり、自分達も迷子になったという事ですか?」

ひたぎ「いいえ。正確には迷子とは言えないわね」

ひたぎ「迷子というのは、現在地がわからなくなった時に使う言葉よ」

ひたぎ「その時、私は現在地がわかっていた。なのに、どうしてもその住所にはたどり着けなかったのよ」

ひたぎ「あまりに不自然な程に」

助手「……なるほど」

暦「それで、これは怪異絡みの事なんじゃないかと思って」

暦「僕達は、一旦、最初の公園に戻った後」

暦「戦場ヶ原が僕の自転車を使って忍野(メメ)のところにまで聞きにいったんです」

助手「はい」

暦「その待っている間に、公園で羽川と偶然出会いました」

助手「……偶然が多いですね」

暦「その日は日曜日で、そして、羽川は家庭の事情からあまり家にいたがらないので……」

暦「家を出てあてもなく散歩していたところを、見つけたそうです」

助手「そうですか。わかりました」

暦「それで、八九寺の事を聞かれたので、軽く説明をして、それから二人が会話をかわして」

暦「それで、羽川はまたどこかに散歩に行きました」

助手「はい」

暦「その後、しばらくして戦場ヶ原が戻ってきて……」

暦「忍野から聞いた事を僕に伝えました」

暦「八九寺は怪異のせいで目的地にたどり着けなかったんじゃなく」

暦「八九寺自体が『迷い牛』という『怪異』だと」

暦「家に帰りたくないという人を迷わせて引き止める、そういう『怪異』だと」

暦「そう伝えられたんです」

助手「八九寺さん自身が『怪異』ですか……」

暦「忍野の話によると、カタツムリは漢字で書くと『蝸牛』、つまり牛という文字が入っている」

暦「それで、本人が『カタツムリの迷子』と言うなら、それは『迷い牛』で間違いないと、そういう事でした」

暦「そして、八九寺の姿は実は戦場ヶ原には見えていなかった」

助手「見えていない?」

ひたぎ「ええ……。初めから私には八九寺さんの姿が『見えていなかった』」

ひたぎ「でも、私はついこの間まで怪異によって体重を無くしていた」

ひたぎ「だから、阿良々木君に見えて私に見えないというのなら、見えないのは私に原因があると思っていたのよ」

ひたぎ「そして、それを阿良々木君には言いたくなかった。また怪異の事で心配をかけたくなかったから……」

ひたぎ「だから、見えているように振る舞っていたのよ。見えないとは言わなかった」

助手「…………」

暦「迷い牛は、さっきも言った通り、家に帰りたくないという人にだけ見える怪異で」

暦「それで、僕もその時、とある事情で家には帰りたくなかった。この事情については今回の話とは何の関係もないからそれは省くけど……」

暦「僕も羽川も、家に帰りたくなかったという点では共通していた」

暦「だから、僕と羽川には八九寺が見えて、戦場ヶ原には見えなかった」

ひたぎ「そういう事ね」

助手「…………」

暦「八九寺の話に戻すと、八九寺は幽霊と言うのが正しいと思う」

暦「昔、まだ八九寺が物心つくかつかないかの頃に、八九寺の親が離婚して……」

暦「それで、八九寺は父親が引き取る事になった」

暦「だから、八九寺は母親の顔すらろくに覚えていない」

暦「だけど、八九寺は母親に会いたかった。そして、自分がこれだけ大きくなったという事を母親に伝えたかった」

暦「だから、ある日、八九寺は大きなリュックを背負って、一人だけで、今、母親の住んでいる家へと向かった」

暦「だけど、その途中で、車にはねられて……」

暦「八九寺はこの世からいなくなった」

助手「…………」

暦「そして、『迷い牛』という怪異に変わる。母親の家にたどり着こうとしても、絶対にたどり着けない『怪異』に」

暦「そして、それに人を巻き込む怪異に」

暦「八九寺もそれがわかっていた。だから、最初は僕達の案内を拒んだんだ」

暦「僕達を出来るだけ巻き込まないようにしていたんだ。八九寺は……」

助手「…………」

ひたぎ「それで、忍野さんの話によると、迷い牛から逃れる方法は基本的に一つだけ……」

ひたぎ「こちらが近付かずに離れていけばいい。つまり、家にたどり着けない八九寺さんを見捨てて、そのまま立ち去ればいいという事だったわ」

ひたぎ「だけど……」

暦「僕は、そんな事が出来ない。母親の住んでいた家にたどり着けずに永遠にずっと迷子でいる八九寺を見捨てる事なんて出来なかった」

ひたぎ「そう。阿良々木君はそういう人ね。だから、忍野さんも今回に限っては特別に使えるという裏技を教えてくれたのだけど」

暦「生憎、そこら辺の話は省かせてもらうけど、最終的には僕達は八九寺を母親の家へと連れていく事が出来たんだ」

暦「そこで、八九寺は成仏したかのように消えていって……」

暦「姿が完全に見えなくなった」

暦「これは、後日談となるけど、結局、八九寺は迷い牛ではなく浮遊霊としてこの世に残る事になったんだが」

ひたぎ「そして、私はその前に阿良々木君に告白をしていたから」

暦「僕達は、この時から付き合うようになった」

暦「これが、八九寺に関する話の全て、だと思う」

助手「……なるほど。わかりました」

助手「それでは、申し訳ないですが、またいくつか質問をさせて下さい」

ひたぎ「ええ」

助手「私はもちろん幽霊の存在も信じていません。なので、そこからいきたいと思います」

助手「八九寺さんは幽霊で間違いないですか?」

暦「ああ。それは間違いない」

助手「……なるほど。では、質問の仕方を少し変えます」

助手「八九寺さんは、果たして本当に存在していますか? いるという証拠はありますか?」

暦「幽霊だから証拠はないです。ですが、存在はしています」

助手「つまり、以前は間違いなく存在していて生きていた。戸籍もある。だけど、今は死んでこの世からいなくなっている、と捉えて間違いないですか?」

助手「架空の人物や空想上の人物という事はない訳ですね?」

暦「【はい。間違いなく存在していて、戸籍もあります。架空の人物ではありません】」

暦「だけど、正確に言えば、この世からいなくなってはいません。幽霊としてこの世に残っていますから」

助手「つまり、死んではいないという可能性もある訳ですね?」

暦「いえ。【八九寺は死んでいます】」

助手「……なるほど」

助手「それで、その八九寺さんをあなた達は見た……。これは間違いないですか?」

暦「【間違いないです。僕はその時、八九寺を見ています】」

助手「……戦場ヶ原さんは?」

ひたぎ「話した通りよ。【私には八九寺さんの姿が見えなかった】わね」

助手「ちなみに、その時の距離はどうでした? 例えば、距離が五キロも十キロも離れていたとかそういった事は?」

ひたぎ「私には見えなかったのだから、どれだけ離れていたかは判別がつかないわね」

助手「……そうですか。それなら、見えていたという阿良々木さんに質問します。その時、二人の距離はどれぐらい離れていましたか?」

暦「【その時、戦場ヶ原と八九寺の距離は、三メートルも離れていなかった】と思う」

助手「なのに、戦場ヶ原さんには八九寺さんの姿が見えなかった?」

ひたぎ「ええ。【私は八九寺さんを見た事が一度もないわ】」

助手「……なるほど。それなら、声はどうでしょう? 声も間違いなく聞こえなかった?」

ひたぎ「そうね。姿同様、【私は八九寺さんの声を聞いた事が一度もない】わね」

助手「……阿良々木さんは?」

暦「【僕は八九寺の声を何度も聞いている】」

助手「……それなら、姿が見えていたという羽川さんはどうでしょう?」

暦「【羽川も、八九寺の姿が見えていたし、声も聞こえていた】はずだ」

助手「……そうですか」

助手「なら、もう一点。目的地にたどり着けなかったと言ってましたが……」

助手「それを案内したのは戦場ヶ原さんで間違いないですか?」

ひたぎ「ええ。私が案内をしたわ」

助手「なるほど……。だけど、目的地にはたどり着けなかった」

ひたぎ「そうね。どうしてもたどり着けなかったわね」

助手「何回も同じところを行ったり来たりぐるぐるしていたと言っていましたが、それは?」

ひたぎ「確かよ。【私達は何回も同じところを行ったり来たりしていた】わ」

助手「わかりました。そちらはそれほど不思議という事ではなさそうですね」

ひたぎ「……どういう意味かしら?」

助手「いえ、こちらの事です」

助手「それでは、最後に八九寺さんが消えたという事ですが……」

助手「それは間違いなく消えたんでしょうか? つまり、消滅したと?」

暦「いや。八九寺はさっきも言った通り、浮遊霊になったから消滅した訳じゃない」

助手「では、言い方を変えます。そこで姿が消えて見えなくなったんですね?」

暦「はい。【八九寺の姿はそこで僕からも見えなくなりました】」

助手「『見えなくなった』で正しいんですね? 『姿が消えて、見えなくなった』ではなく」

暦「……【見えなくなった、で合っています】。さっきも言った通り、浮遊霊となって残っていますので」

助手「わかりました。ありがとうございます。これで、八九寺さんの件については大体わかりました」

暦「……それは、どういう意味ですか?」

ひたぎ「何が言いたいのかしらね……」



第四の謎

『見えない八九寺真宵』


終了


次回、『不死身の阿良々木暦』



第五の謎

『不死身の阿良々木暦』

助手「確か、『怪異』の話は全部で五つありましたよね?」

暦「そう。次が三つ目。神原駿河の話です」

暦「最初の神原との会話はほとんど関係ないので飛ばしますけど……」

暦「神原というのは、僕の後輩で、女子バスケ部のエースです」

暦「何故だか、その神原にやたら話しかけられるようになりまして」

助手「良い事じゃないですか。後輩に慕われるなんて」

暦「……確かに良い事なんですけど、神原の場合、性格がちょっと変わってるというか、率直に言ってしまえば変態に限りなく近い存在というか……」

ひたぎ「私の可愛い後輩に酷い言いようね」

暦「だけど、事実だしな……。まあ、そこらの話は置いとくとして」

暦「それで、神原は戦場ヶ原や羽川の事まで知っているようだったので、神原についての事を僕は戦場ヶ原に尋ねたんです」

暦「前に話しましたけど、僕は戦場ヶ原と付き合っているので、戦場ヶ原の家で勉強を教えてもらう事になって、その時に」

助手「はい。それで?」

暦「戦場ヶ原から聞いた話だと、神原と戦場ヶ原は通っていた中学が同じで」

暦「二人とも陸上部に所属していて、戦場ヶ原は神原からかなり慕われていたそうです」

暦「ただ、戦場ヶ原は中学の時に体重を無くしてから、部活も辞めて周りとの付き合いを一切合切絶ってしまった」

暦「当然、慕っていた神原は戦場ヶ原がどうしてそんな風になったのかが気になり……」

暦「遂には、戦場ヶ原の体重の件を知った」

助手「はい」

暦「それで、神原はどうにか戦場ヶ原の力になろうとした」

暦「だけど、それを戦場ヶ原は拒否した。そして、僕にしたのと同じような事を神原にもして……」

暦「自分に対して無関心でいるように、と神原にも伝えた」

助手「なるほど……」

助手「同じような事を、という事は、ホッチキスを使って口の中をバチンと?」

ひたぎ「流石にそこまではしていないわ。ただ、神原にとってはそれと同じぐらいの精神的な衝撃を受けたでしょうね」

ひたぎ「あの子は本当に私に対して好意を寄せていたから」

助手「それは……さぞかしショックだったでしょうね」

ひたぎ「ええ……。恐らくは。でも、当時の私にはそんな事しか出来なかった」

暦「それで、神原もそれ以降は戦場ヶ原に近付こうとはしなかったんだが……」

ひたぎ「神原は、私の事を多分諦めていない。昔のように親しくしたいと思っていて、今もきっと私の事を気にしている。だから、私と急に親しくなった阿良々木君の事が気になってつきまとうようになった……」

ひたぎ「私はそう考えて、阿良々木君にその事を伝えたわ」

暦「そして、それは実際、ほぼその通りだったんだ」

助手「……なるほど」

暦「それで、その日の夜、勉強を教えてもらった帰り道の事だ」

暦「僕はその時、羽川に電話をしていたから、自転車には乗らずに押していたんだけど」

暦「電話が終わって、すぐの頃。踏み切りあたり」

暦「そこで、僕は奇妙な人間を見た」

暦「雨も降っていないのにレインコートを着ていて、フードもすっぽりかぶっていて」

暦「足は長靴。そして、左手だけが毛むくじゃら。まるで動物の手みたいに」

暦「顔はフードで隠れていたから見えなかったけど、明らかにその奇妙な人間は僕を見ていた。まるで待ち構えていたみたいに」

暦「そして……」

暦「僕はそいつに、いきなり殴りかかられ、襲われた」

暦「とても人間とは思えない怪力で。僕は数メートル近くも吹き飛ばされた」

暦「骨も折れたし、内蔵も多分いかれたと思う。僕が吸血鬼じゃなかったら間違いなく死んでいたはずだ」

助手「…………」

助手「まるでポーの書いた『モルグ街の殺人』みたいな話ですね」

助手「あれは確かオランウータンが犯人だったと思いますが、その話はとりあえず置いとくとして」

助手「それで、阿良々木さん。あなたはその後どうなったんです?」

暦「僕は吸血鬼とはいえ、忍の力を借りなければ『ただの回復が異常に早い人間』みたいなものなので」

暦「つまり、体の再生速度よりも早く体を破壊され続けたら多分死にます」

暦「実際、その時はそういう状態でした。僕は危うく死にかけていたんですが……」

暦「その時、戦場ヶ原が僕の忘れ物を届けに来ていた」

暦「それを察知したのか、そいつは見つかる前に姿をくらましました」

暦「そのおかげで僕はどうにか助かったんです」

助手「……そうですか」

暦「ちなみに、僕のお気に入りの自転車は、そいつのせいで、まるで前衛的なオブジェの様に電柱に突き刺さっていました」

助手「自転車が……電柱に突き刺さる?」

ひたぎ「ええ。さしもの私もあれには我が目を疑ったわね」

ひたぎ「おまけに阿良々木君は線路沿いで大怪我をして倒れている」

ひたぎ「まあ、阿良々木君が吸血鬼だと私は知っていたから、そこまで心配はしなかったけれども」

ひたぎ「救急車が必要かどうか尋ねたら、しばらくすれば傷が治るという事だったので救急車も呼ばなかったわ」

ひたぎ「その時、少しサービスをしてあげたくらいね」

助手「サービスというのは?」

暦「いや、それは」

ひたぎ「単に私の下着を見せてあげただけよ。治るまでの間ね」

暦「…………」

助手「……はあ。そうですか」

暦「僕はこの件についてはノーコメントだ」

助手「…………」

暦「それで、話を戻すと、その翌日、僕は神原の家を訪ねた」

暦「昨日、僕を襲ってきたやつ、そいつが神原じゃないかと考えたから」

助手「……それはまたどうして?」

暦「第一に、神原は僕が戦場ヶ原の家に勉強を教えてもらいに行く事を知っていたから」

暦「第二に、神原の左手だ。神原は前から左手に包帯を巻いていた。そして、僕を襲ってきたやつの左手も、毛むくじゃらでとても人間の腕とは思えなかったから。だから、それを隠しているんじゃないかと」

暦「第三に、戦場ヶ原の話。そいつが無差別じゃなく僕個人を襲ったとしたなら、僕のせまい人間関係の中では神原が関係しているような気がしたから」

暦「どれも大した根拠じゃなくて当てずっぽうみたいなものなんだけど、でも、その推測は当たっていて、僕を襲ったのは神原で間違いなかった」

暦「正確に言うと、神原の左手……。『怪異』が僕を襲ったんだが」

助手「…………」

暦「僕はそこで、神原が左手の包帯を外すところを見せてもらった」

暦「神原の左手は、昨日見た化物と同じで……」

暦「まるで『猿の手』のように僕には見えた」

助手「『猿の手』というと……あの有名な小説のあれですか?」

暦「そう。三つの願い事を叶えてくれる猿の手。だけど、使った本人は必ず不幸せになるという、あの猿の手」

暦「神原の家には昔からその猿の手があって、小学生の頃に神原はその猿の手に願った事がある」

暦「運動会の徒競走で一位になりたいと」

暦「その願いは歪な形で叶えられた。その徒競走に参加する生徒が神原を除いて、全員が怪我で休んだから」

暦「その日以来、神原は怖くなってその猿の手を使わない事を誓った」

助手「……なるほど」

暦「だけど、神原はその猿の手をもう一度使ったんだ」

暦「詳しい話は省くけど、神原は俗に言うレズビアンで、戦場ヶ原の事が好きだったから」

ひたぎ「…………」

助手「……わかりました。それで?」

暦「神原は戦場ヶ原に一度手酷く拒絶されている。それで、一旦は自分の想いを諦めかけた」

暦「戦場ヶ原が神原に望んだ事は、自分に対して無関心である事だった。なら、せめてそうしようと。無関心を貫き戦場ヶ原に声をかけずにいようと。それを戦場ヶ原が望んでいるのだからと」

暦「なのに、今年に入って神原は僕と親しくしているところを見てしまった」

助手「…………」

暦「そして、僕に嫉妬した。次に、どうして自分は戦場ヶ原の特別になれないんだ、自分が男に生まれていれば良かったのかと、また僕に嫉妬した」

暦「気が付けば、神原はその不幸を呼ぶ猿の手にまた願っていたそうだ」

暦「昔の様に、私も戦場ヶ原先輩の側にいたいと」

暦「そして、気が付けば自分の左手は猿の手のようになっていて……」

暦「僕を殺そうと、無意識的に襲っていたそうだ。さっきも言った通り、猿の手は願いを歪な形で叶える。つまり、僕を殺す事で猿の手はその願いを叶えようとした」

暦「猿の手が神原の体を使って、僕を殺そうとした。それが僕が襲われた原因だった」

助手「…………」

助手「まだ話の途中ですが、少し質問をしても良いですか?」

暦「どうぞ」

助手「まず、最初の話……。あなたが神原さんに襲われて、大怪我を負ったという事ですが……」

助手「阿良々木さんがこの時、神原さんに大怪我を負わせられたというのは確かですか?」

暦「確かです。【僕はその時、怪我を負っていました】」

助手「申し訳ないですが、質問には正確にお答えするよう、お願いします。『神原さんのせいで』あなたは『大怪我』をしていましたか?」

暦「正確に言えば、僕の怪我は神原を乗っ取っていた左手、つまり『怪異』によってつけられたものなので、神原のせいではないです」

暦「それに、怪我は普通の人なら大怪我でしょうけど、再生能力が高い僕にとってはそこまで大怪我とは言えません。次の日には完治してましたから」

助手「……なるほど。そうきますか」

助手「わかりました。確認ですが、その怪我は阿良々木さんにとっては『一日で治る程度の怪我』だったという事ですね?」

暦「……そうなりますね」

助手「そして、それは翌日には完治していた。まるでちょっとしたかすり傷みたいに」

暦「そこまでは言いませんけど……。【その怪我が翌日には完治していたのは確かです】」

暦「だけど、それは僕だからの話であって、普通の人なら全治二ヶ月ぐらいはかかるほどのものだったと思います」

助手「ええ。それについてはもう結構です。貴重な情報をありがとうございます」

ひたぎ「…………」

助手「それで、次の質問ですが……」

助手「神原さんの左手。これが猿の手だったと阿良々木さんは言ってました。これは本当に『猿の手』だったんですか?」

暦「いえ。後から出てきますけど、それは実は『猿の手』ではなく、『レイニーデビル』という怪異でした」

暦「なので、『猿の手』ではありません」

助手「……なかなか言い張りますね」

ひたぎ「…………」


助手「なら、質問を変えましょう。それは阿良々木さんには『猿の手』のように見えたと?」

暦「ええ。【僕にはそれが猿の手のように見えました】」

助手「つまり、本物の猿の手ではなかったという可能性もある……。そういう事でいいですね?」

暦「実際、猿の手ではなくレイニーデビルだったので、そうなります」

助手「なるほど、なるほど。質問はこれまでで結構です。続きをどうぞ」

暦「……わかりました」

ひたぎ「…………」

暦「それで、僕は神原と一緒にまた忍野のところに行きました」

暦「忍野なら、神原の腕についた『怪異』をどうにか出来るだろうと思って」

助手「はい。例の怪しげな霊媒師の方ですね」

暦「その言い方は少し誤解を招くと思うんだが……」

助手「ですが、実際に怪しげな格好をしていると阿良々木さんは言ってましたので……」

暦「まあ、常にアロハシャツを着てるし、廃ビルに住んでいる時点で怪しげなのは否定出来ないけども……」

ひたぎ「…………」

暦「それで、さっきも少し言いましたけど、僕たちはそこで忍野からその左手が『猿の手』ではないという事を聞いたんだ」

暦「忍野曰く、『猿の手』ってのは小説の中のものだけで、現実には存在しない」

暦「それは『猿の手』ではなく、『レイニーデビル』という悪魔だと聞いたんだ」

助手「神、幽霊と来て、次は悪魔だという訳ですね」

ひたぎ「…………」

暦「……それで、忍野はその事を神原に伝えた」

暦「レイニーデビルは悪魔とはいえ、願った人間の希望は正しく叶えると」

暦「神原は心の裏では正しくそう願っていたと。運動会の時もそう。神原はその徒競走に参加する人間がひどい目に遇えばいいと願っていたと」

暦「運動が苦手という事で、神原は恐らくクラスからつまはじきにされていた。そんな人間を神原は見返してやりたいと思っていた。これが表の願い」

暦「でも、裏ではその人間達が憎くて、酷い目に遇わせてやりたいと思っていた。これが裏の願い」

暦「レイニーデビルはその裏の願いをきっちり叶えたんだと、忍野はそう言っていた」

助手「……わからなくもないですね。それで?」

暦「今回の時もそう。戦場ヶ原と昔みたいに親しくなりたいというのが神原の表の願い」

暦「だけど、僕に嫉妬し憎み殺したいとも思っていた。これが神原の裏の願い」

暦「だから、レイニーデビルはその裏の願いを叶えようとした……」

助手「はい」

暦「そして、レイニーデビルは願いを叶える代わりに、その人間の体を乗っ取ってしまうと」

暦「神原は既に二つ、レイニーデビルに願っている。だから、左手をレイニーデビルに乗っ取られた」

暦「このままだと、ずっと僕はレイニーデビルから命を狙われるし、神原の左手も元に戻る事はないと忍野はそう言った」

助手「でしょうね。それで?」

暦「そうならない為の方法として、忍野は神原にこう提案した。その左手を切り落としてしまえばいいと」

助手「また、ずいぶんと過激ですね……」

暦「忍野曰く、人を殺そうとした代償としては当然の報いだろうという事だったけど……。相手が僕でなかったら確実に死んでいただろうからね」

暦「でも、僕はそれはあんまりだと思った。こうして僕は無傷で生きているし、左手を切り落とす程の事じゃないと」

助手「……それは何とも言えないところですが、気持ちはわからなくもないです。それで、結局はどうしたんですか?」

暦「僕らは別の方法を取る事にしたんだ」

助手「その別の方法というのは?」

暦「レイニーデビルの願いを阻止する事」

助手「阻止ですか……」

暦「レイニーデビルは悪魔とはいえ、いや、悪魔だからこそ、契約はきっちり守ると」

暦「つまり、神原の願いが叶わなければ、神原の体を乗っ取る事は出来ないんだそうだ」

暦「そうなった場合、神原の体を諦めざるを得ず、レイニーデビルは消えてしまうとの事だった」

暦「ただし、そうするには僕自身の力だけでレイニーデビルの願いを阻止しなければならないという事だった」

暦「簡単に言えば、僕とレイニーデビルが戦って、僕が勝てばいいという話だよ」

助手「なるほど」

暦「それで、僕は学習塾跡、その廃ビルの中でレイニーデビルと戦って……」

暦「今度こそ間違いなく死にかけた」

助手「…………」

暦「少しグロテスクな話になるけど、その時、僕は全身血塗れで、腹に穴が開いていてそこから腸が飛び出していたし、両手両足もボキボキに折られていた」

暦「あとちょっとで本当に死ぬところだったと思う」

助手「…………」

暦「そんな時、固く閉めきっていたはずの部屋の扉が開いて……」

暦「そこに戦場ヶ原が現れた」

助手「戦場ヶ原さんが?」

ひたぎ「ええ、そうよ。そして、私はこう言ったわ。神原のせいで阿良々木君がもし死ぬような事があれば、私が神原を殺すとね」

助手「…………」

暦「戦場ヶ原を呼んだのは忍野だった」

暦「忍野には多分わかっていたんだと思う。僕がレイニーデビルに勝てない事」

暦「そして、レイニーデビルの願いを阻止する方法がもう一つあるという事」

暦「神原の表の願いは『戦場ヶ原と親しくなる事』だった。だから、レイニーデビルはその願いを自らの手で消すような事が出来ない」

暦「レイニーデビルの前で、戦場ヶ原は僕を殺したら神原を殺すと明言した。だから、レイニーデビルは僕を殺せなくなったんだ」

暦「その後、戦場ヶ原は神原に寄り添って二人はまた元のように和解したよ」

暦「僕はその時、倒れて一歩も動けなくなっていたから、黙ってそれを眺めていた」

暦「これで、神原についての話は終わりだよ。全部が全部、ハッピーエンドとはいかなかったけど」

暦「中途半端に終わってしまったから、神原の左手は元に戻らなかった」

暦「でも、神原と戦場ヶ原はまた元のような関係に戻ったんだ。神原もそれに満足していたと思う」

助手「……わかりました」

助手「それでは、また改めて質問をさせてもらいますが……」

助手「まず、前と同じで確認をさせて下さい。その時、阿良々木さんは『神原さんのせいで』『大怪我』を負っていた?」

暦「ああ。【その時、僕は怪我をしていた】」

助手「……またなんですね。わかりました。何度もその事について聞きません。それだけで結構です」

暦「…………」

ひたぎ「…………」

助手「それと、前に確認し忘れてましたが、一応、場所も聞いておきましょうか」

助手「初めの時は、踏切近く。そして、二回目は廃ビルで間違いないですか?」

暦「間違いないです。【一回目は踏切近く。二回目は廃ビルの中です】」

助手「どちらも人目はなかったんですね」

暦「【当事者である僕達を除けば、他に見ている人はいませんでした】」

助手「僕達というのは、具体的には?」

暦「名前で言うと、【阿良々木暦、神原駿河、戦場ヶ原ひたぎ】の三人です。忍野はその時の様子を見ていなかったので」

助手「わかりました。特に確認する必要もなかったですね。どうもありがとうございます」

助手「そして、今回は謎と言えるようなものが一つもないという事がよくわかりました」

暦「……それはどうしてですか?」

助手「いえ。こちらの事ですので」

ひたぎ「…………」

ひたぎ「ところで、阿良々木君。あなた、そろそろ時間じゃないのかしら?」

暦「ああ、そうか。いつのまにかそんなに経っていたのか」

助手「?」

暦「すみませんけど、僕はこれから用事があるので、もう行かなきゃいけないんですが……。人に呼ばれているので」

ひたぎ「私はまだ時間があるから話を聞くのは構わないけれど、生憎、この後の事を私はほとんど知らないのよね」

助手「そうですか。そういう事でしたら、私も今日はこれで失礼しますので」

助手「また後日、時間のある時に」

暦「わかりました。それじゃあ、僕はこれで」

助手「ええ。貴重な時間を割いて頂いてありがとうございます」

暦「いえ。大した事じゃないので」

ひたぎ「…………」

失礼、訂正。

>>82をこれに差し替えで



助手「それでは、また改めて質問をさせてもらいますが……」

助手「まず、前と同じで確認をさせて下さい。その時、阿良々木さんは『神原さんのせいで』『大怪我』を負っていた?」

暦「ああ。【その時、僕は怪我をしていた】」

助手「……またなんですね。わかりました。念の為に確認しますが、その怪我は翌日には治っていたんですか?」

暦「【翌日には、完治していました】」

助手「わかりました。何度もその事について聞きません。それだけで結構です」

暦「…………」

ひたぎ「…………」

助手「それでは、阿良々木さんも行ってしまいましたので、私もこれで失礼を……」

ひたぎ「いえ、あなたはちょっとだけ待ってもらえるかしら?」

助手「?」

ひたぎ「阿良々木君はそこまで気にしていないようだったから、あえて私も阿良々木君の前では黙っていたのだけれども……」

ひたぎ「あなたは今、こう考えているんじゃないかしら?」

ひたぎ「『本当は阿良々木君は大怪我なんかしていなくて、それは阿良々木君がついた嘘だ。実際はかすり傷程度のもので、だから、翌日には完治していた』と」

助手「……そうですね。否定はしませんが……」

ひたぎ「そんなあなたにプレゼントよ」

ひたぎ「【一回目(踏切近く)の時、阿良々木君は大怪我を負っていた】のを私はこの目で見ているわ」

ひたぎ「そして、【二回目の時(廃ビル)もそう。その時、阿良々木君のお腹からは腸が飛び出していて、両手両足が骨折していた】わ」

ひたぎ「そして、【どちらの時も、その傷をつけたのは神原で間違いないわよ】」

助手「……!!」

ひたぎ「無駄な推理、御苦労様。それでは、私もこれで失礼するわね」

ひたぎ「ごきげんよう」


助手「…………」



第五の謎

『不死身の阿良々木暦』


終了


次回、『阿良々木暦の超回復(二回目)』

>>87
訂正。差し替えで



第五の謎

『不死身の阿良々木暦』


終了


次回、『蛇切縄(怪異)の存在』

助手「どうも、こんにちは」

暦「ああ、また来たんですね」

助手「ええ。この前の話の続きを知りたかったので」

助手「今、お時間大丈夫ですか?」

暦「いいですよ。この前の続きって言うと、神原のレイニーデビルの話が終わったんで、千石の話になりますけど」

助手「ええ、お願いします。それも前回と同じ様に幾つか質問する事になると思いますが」

暦「わかりました。大丈夫です」

助手「では、お願いします」

暦「まず、千石と久し振りに会った日の事についてなんだけど……」

暦「その日、僕と神原はとある神社にお札を貼りに行ったんです。忍野に頼まれて」

助手「お札、ですか……」

暦「はい。物凄く簡単に言うと、そこの神社には悪い怪異が集まって来そうになっていたので」

暦「そうなる前に、お札を貼る事でそれを防ぐという事でした。忍野から聞いた話ですけどね」

助手「……はあ」

暦「それで、そこの神社は山の中にあって、途中、長い石段があったんだけど」

暦「そこを僕と神原が上っている時に、すれ違う様にして下りて来たのが千石でした」

助手「はい」

暦「最初、僕はその子が誰だったか覚えてなかったんですが、僕の妹の友達で昔家に何回か遊びに来てた子でした」

助手「妹さんの友達で、忘れていたけど、顔と名前は知っていたという事ですね?」

暦「はい」

暦「で、僕が誰だったか考えている間に、石段を上りきって神社まで着いたんですが……」

暦「そこの神社で、バラバラに切断された蛇の死骸が転がっているのを見つけました」

助手「……何とも不気味な話ですね」

暦「はい。それでお札を貼り終えた僕と神原は、その蛇も土に埋めてやったんだけど……」

暦「境内を回ってみたら、蛇のバラバラ死体はそれだけじゃなくて、他にも幾つかありました」

助手「…………」

暦「元々、神原がそこの神社に着いた時に体調を崩していた事もあって、薄気味悪くなった僕らはそれで神社から帰ってきました」

助手「はい」

暦「それで、その次の日に、僕は羽川と一緒に本屋にいて」

暦「その時また、偶然、千石の姿を見かけたんです」

助手「はい」

暦「千石は呪いだとか、そういう類いの本が置いてあるコーナーにいて、真剣にその本を読んでいました」

助手「……なるほど」

暦「その時、僕は千石の事をようやく思い出したんですけど……」

暦「同時に、あの蛇の死骸の事についても思い出していました」

暦「もしかしたら、あれをやったのは千石なんじゃないかって。そんな本を読んでいたぐらいなので」

助手「でしょうね。それについては、わかります」

暦「それで、僕は神原にお願いして、またあの神社まで来てもらいました。千石が来るならここだろうと思ったので」

暦「神原も呼んだのは、僕一人で声をかけたら、余計、警戒心を募らせるだけだと思ったので。その点、神原は後輩とかに好かれるタイプだったので」

助手「わかりました。それで?」

暦「それで、僕と神原が神社の上までたどり着いたら……」

暦「やっぱり、千石はそこにいました。そして、蛇を小刀みたいなもので切断してました」

助手「……なるほど」

暦「それで、僕が千石に声をかけたら、千石の方は僕を覚えていて」

暦「それで、千石から事情を聞く事になったんです」

助手「ええ」

暦「千石の話によると、それは『呪い』で」

助手「今度は『呪い』ですか……。わかりました……」

暦「千石のいる学校では、今、呪いとかおまじないみたいなものが流行っていたそうです。千石はまだ中学生ですし」

助手「まあ、そういうのはありますよね……。それは、わかります」

暦「それで、千石はとある男子生徒から告白されたそうなんですが、それを断った」

暦「その事を妬んだ女子から、その呪いをかけられたみたいだという話を聞きました」

助手「ええ」

暦「それで、詳しい話は省きますけど、千石は自分にかけられた呪いを解こうと調べて……」

暦「その呪いを解く方法が、その神社で蛇を殺す事だった。そういう事です」

助手「……ええ。それで?」

暦「ただ、それをしても千石の呪いは解けなかった」

暦「その時、千石の体にはまるで蛇に締め付けられているかのような跡が浮かび上がっていました」

暦「それが自分を締め付けていて、とても苦しいと」

助手「…………」

暦「なので、僕はすぐに忍野のところに行って」

暦「その事を話して相談したんです。あいつは、本当にその手の事については詳しいんで」

助手「……わかりました。それで?」

暦「忍野によると、それは『蛇切縄』だろうという事でした」

助手「蛇切縄というのは? やはり例の『怪異』なんですか?」

暦「はい。『呪い』の類いだそうです」

助手「…………」

暦「忍野が言うには、『呪い』なんてそう簡単にかけられるもんじゃないと」

暦「少なくとも、素人が出来るようなものじゃないそうです」

助手「…………」

暦「だけど、千石は自分が呪いにかけられた事を知って……」

暦「呪いにかかっていないのに、解除の為にその神社で蛇を殺してしまった」

暦「そのせいで、逆に本当に呪いにかかってしまったそうです。場所とタイミングが悪かったと忍野は言っていました」

暦「もしも蛇を殺したのがあの神社じゃなかったら。もしも千石が僕がお札を貼り終わった後に解除の儀式を行っていたら、呪いにかかる事はなかっただろうと」

助手「……そうですか。わかりました。続きをどうぞ」

暦「それで、事態は一刻を争うという事だったので」

暦「忍野から渡された新しいお札を持って、僕らはすぐにその神社まで行きました」

暦「もう夜になってましたけど、朝まで待ってるような時間はないとの事だったので」

助手「ええ。それで?」

暦「忍野から言われた通り、僕らはそこで呪いを解く儀式をしたんですけど」

暦「だけど、千石の様子はいつまで経っても良くならなかった。逆に悪化していくばかりで」

助手「それはまたどうしてですか?」

暦「呪いは……千石の体を締め付けていた『見えない蛇』は、実はもう一匹いたんです」

暦「つまり、千石を呪っていたのは嫉妬した女の子一人だけじゃなくて、恐らくもう一人、そのフラれた男の子も逆恨みで千石を呪ったんじゃないかと」

暦「だから、一匹は儀式によって消えたけど、もう一匹の方はまだ残っていた」

暦「それが、千石の体をまだ締め付けていた」

助手「…………」

暦「それに気が付いた僕は、千石を助けようと駆け寄りました」

暦「前に話した『重し蟹』もそうだけど、『怪異』は見えないだけであって、『そこ』に確かに『いる』んです」

暦「だから、僕はその『見えない巨大な蛇』を掴んで、千石から引き剥がしました」

助手「…………」

暦「だけど、無理矢理引き剥がされて大人しくしているやつじゃない」

暦「僕はすぐにその『見えない巨大な蛇』に襲われて……」

暦「そいつと戦う羽目になりました」

助手「……そうですか」

暦「これも前に言った事ですけど、僕は忍の力を借りないと『ただ再生能力が異常に早い』だけの普通の人間です」

暦「なので、僕はその蛇にも腕を折られたりして……」

暦「見かねた神原が僕を助けました」

暦「忍野が言うには、『人を呪わば穴二つ』……。失敗した呪いは、かけた本人のところへ戻って、その本人に逆に呪いをかけると」

暦「あの時もそうでした。『見えない巨大な蛇』は僕の方じゃなく、神社から去っていった」

暦「かけた本人のところへと」

暦「これが、千石に関する話です」

助手「……わかりました」

助手「では、また幾つか質問を……」

助手「まず、阿良々木さん。その時、腕を折られたそうですが、これは本当ですか?」

暦「はい。本当です」

助手「……なるほど」

助手「で、前と同じ様に、その次の日にはその骨折は完治していたと?」

暦「ええ。【その次の日には、僕は無傷でした】」

助手「『完治』ではなく、『無傷』なんですね。それでいいですか?」

暦「……いいですけど、何か問題でも?」

助手「いえいえ。阿良々木さんは気にしなくてもいいです。こちらの事なので」

暦「…………」

助手「では、次にその『見えない巨大な蛇』についてなんですが……」

助手「この蛇は実在していた。それで間違いないですか?」

暦「『怪異』なので、実在している、という言い方が正しいかは僕にはちょっとわからないですね」

助手「わかりました。その手の言い方については、こちらももう慣れましたので」

暦「…………」

助手「なので、私から少し提案があります。千石さんと阿良々木さんを襲ったその『見えない巨大な蛇』については、私は『それ』と表現するので、阿良々木さんも『それ』と表現して下さい」

助手「『それ』は阿良々木さんには見えなかった?」

暦「……見えなかったですね」

助手「なるほど、なるほど」

助手「なら、もう幾つか質問をしましょう」

助手「千石さんの体には蛇で締め付けた様な跡があったという事ですが、これは本当ですか?」

暦「そうですね。【その時、千石の体には締め付けられた跡がついていました】」

助手「……なるほど。そして、それは蛇が巻き付いた様な跡だったと?」

暦「はい。僕にはそう見えました」

助手「そうですか。では、それが蛇が締め付けた跡でない可能性もあるという事ですね。見えたというだけなのだから」

暦「まあ……そうなりますね」

助手「それで、千石さんは実際にその時、『それ』による締め付けで苦しんでいましたか?」

暦「ええ。【神社で、千石は体の痛みに苦しんでいました】。『怪異』のせいです」

助手「ですが、それが『怪異』の仕業だと証明する手段は阿良々木さんにはないですよね?」

暦「それは……確かにそうだけど。でも、千石や神原も同じ様に言うはずだから、そうとは」

助手「いえ、実際には千石さんを苦しめていたのは、阿良々木さんか神原さんだったという可能性もあります」

暦「いや、それはない。【その時、僕は千石に危害を加えてないから】」

助手「では、神原さんは?」

暦「同じです。【その時、神原は千石に危害を加えてない】」

助手「……なるほど」

助手「となると、千石さんは阿良々木さんにも神原さんにも危害を加えられていない」

助手「なのに、痛みに苦しんでいた事になる……。そういう事ですね?」

暦「はい。だから、それが『蛇切縄』が本当にいたという証拠になるはずです」

助手「……確かに、今のままではそうなりますが」

助手「とはいえ、千石さん自身が自分の体に危害を加えていたという可能性もまだ残ってますよね?」

暦「それもないです。【その時、千石は他人にも自分にも危害を加えてない】ので」

助手「病気や、あるいは、元から怪我をしていたという事も」

暦「【その時、千石は健康体でした。病気もしてないし、元から怪我もしていなかった】」

助手「となると、残る可能性は別の誰かが千石さんに危害を加えていたというものですね」

助手「その時、その場にいたのは阿良々木さん、神原さん、千石さんの三人だけという事でしたが、それは確かですか?」

暦「確かです。【その時、その場にいたのは三人だけです】」

助手「……なら、何か道具を使って」

暦「さっきも言った通り、僕らは『危害を加えてない』んです。【危害を加えてない、という言葉には道具も含まれています】」

助手「偶然、何かトゲが刺さったとか、そういった可能性も」

暦「【千石が体の痛みに苦しんでいた原因は、偶然ではありません】」

助手「精神的痛み、という事もないんですよね……」

暦「さっきから体の痛みと僕は言ってます。もちろん、精神的にも苦しんでいたでしょうけど、それを抜きにして言ってます。【千石が苦しんでいた原因は肉体的苦痛です】」

助手「…………」



第六の謎

『蛇切縄(怪異)の存在』


終了


次回、『ブラック羽川』

暦「それで、これが最後の話になりますけど」

暦「羽川の話です。『障り猫』の話」

助手「わかりました……。それで、その『障り猫』というのも当然『怪異』なんですよね?」

暦「はい。長くなるので羽川の話ーー僕がGWに体験した話は飛ばしますけど」

暦「羽川はその時、『障り猫』に変わりました」

暦「髪の毛が白くなって、猫耳が頭から出てきたんです」

助手「……すみません。唐突過ぎて何がなんだか。猫耳?」

暦「はい。コスプレとかじゃなく、どちらかと言うと変貌に近いですね」

暦「羽川の姿がそんな風になって、障り猫という『怪異』が表に出てきたんです」

暦「取り憑いたとも違うし、あれはなんて言えばいいのかな? 僕にもよくわからないけど……」

助手「あなたにわからないのだから、私にもわかりませんよ」

暦「忍野が言うには、『障り猫』っていうのは、今で言う多重人格みたいなものだそうです」

暦「障り猫が出てくると、顔も声も性格も変わってしまう」

助手「確かにそれは多重人格と言えますね」

暦「ただ、多重人格と決定的に違うのが、『障り猫』はやはり『怪異』だという事です」

暦「だから、本物の猫耳が頭から生えてくるし、髪の色まで変わってしまう」

暦「あと、身体能力も猫並になりますし、人の生気を手から吸う事も出来ます。生気を取られた人間は死にはしないけど、当分の間、動けなくなる」

暦「そんな怪異です」

助手「……なるほど」

暦「それで、この『障り猫』が出てくる原因って言うのが、ストレスだそうです」

助手「実際、多重人格もそうですね。過度のストレスによる原因がほとんどのはずです」

暦「ええ。で、羽川もそのストレスを抱えていた。前に少し話したかもしれないけど、羽川は家庭の事情から遅くまで家に帰ろうとしない」

暦「親と上手くいってないんです。それが羽川のストレスの原因です」

助手「よく聞く話ですね。それで?」

暦「羽川のたまりにたまったストレスが原因で、『障り猫』が表に出てきて」

暦「それで、この『障り猫』の目的は羽川のそのたまったストレスを発散する事」

暦「人から生気を吸う事で、そのストレスが少しずつ無くなっていく訳です」

助手「なるほど」

暦「それで、あの時も僕と羽川は忍野に相談に行って」

暦「忍野と僕の前で、羽川は完全に『障り猫』に変わりました。髪の毛が白くなって、別人の様に変わった」

助手「はい。それで?」

暦「一旦は忍野がそれを捕まえて、逃げないよう廃ビルの屋上に縛り付けておきました」

暦「その後、忍野から『障り猫』の説明をされて」

暦「忍野が命名したんですけど、あの猫は羽川が普段表に出さないようため込んでいるストレスそのものだという事で」

暦「羽川の黒い部分そのもの、つまり『ブラック羽川』と言うべき存在だと」

助手「ええ」

暦「それで、ブラック羽川を元の羽川に戻す方法なんですが」

暦「これは、忍に。忍野忍。吸血鬼のなれの果ての女の子」

暦「その忍にブラック羽川の血を吸ってもらう事で、一緒にエネルギーも吸い取ってもらって」

暦「ブラック羽川の場合、過度のストレスが出てきた原因なので、つまりその負のエネルギーごと無くしてしまえばいい」

暦「だから、それで元に戻せるという事でした。実際、GWにもこの方法でブラック羽川を元に戻していたので」

助手「……はあ」

暦「ただ、その時は肝心の忍が家出していて見つからなかった」

助手「家出?」

暦「家出というのが適当かどうかはわからないけど、とにかく家出です。見つからなかった」

助手「……わかりました。いなかったんですね」

暦「ええ。なので、僕は忍を探しに出ていって」

暦「途中、いつのまにか縄から抜け出して逃げ出して来たブラック羽川と会う事になります」

助手「はあ……」

暦「ブラック羽川の目的も、羽川のストレスを消す事が目的なので」

暦「僕とブラック羽川の利害は一致してるんです」

助手「確かに、そういう事にはなりますが……」

暦「なので、僕とブラック羽川は一緒に忍を探し回って」

暦「その途中で、ブラック羽川から聞かされて、羽川のストレスの本当の原因を僕は知る事になります」

助手「その本当の原因というのは?」

暦「それは、なんというか、僕の口からは言い辛いんですが……」

暦「羽川も僕の事を好きだった。だけど、僕はもう戦場ヶ原と付き合ってしまっている」

暦「その事がストレスの本当の原因だと、ブラック羽川はそう言いました」

助手「…………」

暦「それで、この後の経緯はかなり省きますけど、ブラック羽川は僕に襲いかかってきて」

暦「その時、僕は首の頸動脈を切られています。噴水の様にそこから血が飛び出してきた」

助手「頸動脈を、ですか……」

暦「ただ、僕はそれぐらいじゃまだ死なない。でも、それを継続されたら死んでしまう」

暦「その時、僕が助けを呼んだのが忍でした。忍に助けて欲しいと頼んだ」

暦「そうしたら、僕の影の中から忍が現れて……」

暦「忍は家出した訳じゃなくて、ずっと僕の影の中に潜んでいたんです」

暦「その忍が僕を助けてくれました。ブラック羽川に飛びかかって血を吸って」

暦「それで、羽川は元に戻りました」

暦「これが羽川の話の大体のあらまし……」

暦「そして、この話で最後です」

暦「僕が体験した五つの怪異の話、その全部です」

助手「……わかりました」

助手「で、申し訳ないですが、また何点か質問を」

助手「羽川さんが『障り猫』ーーつまり、ブラック羽川に変わったと阿良々木さんは言ってましたが……」

助手「これは確かですか?」

暦「確かです。【その時、羽川の髪の色は黒ではなく白でしたし、頭には猫耳もついていました】」

助手「では、確認します。その『ブラック羽川』と『羽川』さんは同一人物ですか?」

暦「『障り猫』は『怪異』なので、同一人物という表現が正しいのかは僕には判断がつかないです」

助手「そう言うとは思ってましたが……。まあ、いいでしょう」

助手「では、質問を変えて……。どちらも『体』は羽川さんのもので間違いないですか?」

暦「それは間違いないです。【羽川もブラック羽川も、体は同じです】」

助手「……なるほど」

助手「となると……」

助手「もう一つ質問を。変わったのは髪の色と猫耳でしたよね? それは本物ですか?」

暦「……というのは?」

助手「いえ、単にですね。髪の毛は染めて色を変えられますし、猫耳はその手の店に行けば売っていると思いますので、その確認です」

助手「なので、正確にこの通り、復唱してもらえますか? 『羽川がブラック羽川に変わる時、道具は何も使っていない』と」

暦「…………」

助手「どうしました?」

暦「……いや。単にそれを復唱する意味がないので、わざわざ僕が言う必要はないんじゃないかと」

助手「……そう来ますか」

助手「まあ、構いません。沈黙もまた答えだと言いますし」

暦「…………」

助手「では、別の質問を」

助手「阿良々木さんはブラック羽川に頸動脈を切られたと言っていましたが……」

暦「…………」

助手「これもまた、正確に復唱をお願いします。『その時、阿良々木暦は頸動脈を切断されていた』」

暦「……本当に、この復唱に何の意味があるんです? 僕にはその意味がわからない」

助手「という事は、これも復唱出来ないんですね?」

暦「そうじゃなくて、する意味があるのかって事です。必要ない」

助手「ですが、出来ない、と、しない、では大きな隔たりがあるんです。この差はとてつもなく大きい」

助手「復唱出来ない、と捉えますが構いませんか?」

暦「……わかった。復唱する。それで、何て言えばいいんだっけ?」

助手「『その時、阿良々木暦は頸動脈を切断されていた』です。一言一句間違えずにお願いします」

暦「【その時、阿良々木暦は頸動脈を切断されていた】。これで良いか?」

助手「!?」

暦「ついでに言うと、【僕はその翌日、完全完璧に無傷の状態だった】」

助手「……!!」

暦「これでいいだろ? 要望には完璧に答えたはずだけど……」

助手「…………」

助手「……わかりました。それなら、別の質問を」

助手「忍さんが、阿良々木さんの影の中から出てきたという話は……」

暦「それも本当だよ。忍は僕の影の中から出てきた」

助手「……そうですか。わかりました」

暦「もう話はいいかな?」

助手「ええ、結構です。これだけで十分です」

助手「……不可解な謎が幾つか残ってしまいましたけど」

暦「『謎』じゃなく、『怪異』だけどね。それじゃあ、僕はこれで」

助手「ええ、もしかしたらまた話を聞きにいく事があるかもしれませんが……」

暦「…………」

助手「……さて、では私も戻って」

ひたぎ「あら、ごきげんよう」

助手「……戦場ヶ原さんですか」

ひたぎ「ええ。それよりも、あなた。だいぶ浮かない顔をしているけど、大丈夫かしら?」

ひたぎ「少しはあなたの言う『謎』とやらが解けたのかしらね?」

助手「……全部はまだですが、幾つか解いたものなら」

助手「『怪異』なしでも説明出来るものはそれなりにあるようなので……」

ひたぎ「そう。それはそれは。良かったわね」

ひたぎ「そんなあなたに私から最後のプレゼントをしてあげようと思って、こうして待っていた甲斐があったわ」

助手「最後のプレゼント……?」

ひたぎ「ええ。阿良々木君と千石さんの話よ」

ひたぎ「神社で阿良々木君は『蛇切縄』によって腕の骨を折られたっていう話があったわよね?」

助手「ええ、ありましたが、それが何か?」

ひたぎ「前と同じで、あなたは阿良々木君の再生能力を信じてなんかいない」

ひたぎ「だから、阿良々木君がその時、本当は骨を折られてなんかいないと考えている。他の時も何かのトリックがあったとそう思っている……。違うかしら?」

助手「…………」

ひたぎ「【阿良々木君はその時、間違いなく腕の骨が折れた状態だった】わ」

助手「……!!」

ひたぎ「これが私からの最後のプレゼントよ。頑張って元から解けない『謎』を解く事ね」

ひたぎ「だって、『怪異』は本当に『いる』のだから」

助手「…………」



第七の謎

『ブラック羽川』


終了

探偵「ふうん……。なるほどね。君はそんな事を戦場ヶ原ひたぎに言われた訳だ」

助手「ええ……。何も言い返せなかったですけどね。わからない事だらけだったので」

助手「一体、どんなトリックを使ったらああも不思議な事が出来るのか、見当もつかないんですけど……」

探偵「見当もつかない? やれやれ、たいしたジョークを言うもんになったね、君も」

助手「ジョーク?」

探偵「そうだよ。どの謎も至極簡単じゃあないか。少し考えればすぐにわかるような謎だよ、これは」

助手「……という事は、探偵さんはもう全部の謎が解けたんですか? これだけの情報で?」

探偵「『これだけ』じゃあなくて、『こんなにも』だよ。ヒントはたんまり転がっていたからね」

探偵「謎だけじゃあなく、どうしてこんな奇怪な話が生まれたのか。そして、どうしてその事を彼らは『怪異』なんていうありもしない話にしているのか」

探偵「それらが全部、僕にはわかったよ。多少、時間はかかったけどね」

助手「…………」

助手「じゃあ、それを早速教えてもらえますか?」

探偵「まあ、そう焦るなよ。最後にはきちんと話すさ、全部ね」

探偵「でもね、その前に……」

助手「その前に?」

探偵「君も自分自身でよく考えてみたらどうだい? さっきも言ったけど、この謎はどれも簡単なものばかりで、ヒントも十分に転がっているんだ」

探偵「君も探偵助手なら、ただ僕の話を聞くだけでなく、自分で考えてみなよ」

探偵「きっと、謎自体はあっさりと解けるはずだからさ」

助手「…………」

探偵「それよりも重要なのはさ」

探偵「『どうしてこんな物語を二人が話す事になったのか』。そちらの方が重要だ」

探偵「そのヒントぐらいなら出せるけど聞きたいかい?」

助手「ええ……まあ。聞かせてもらえますか?」

探偵「うん。じゃあ、この二つの真実を君にあげるよ」


探偵「真実1、【ひたぎクラブで阿良々木暦が戦場ヶ原の家に行った時、家の中にいたのはこの二人だけだった。他には誰もいない】」

助手「?」

助手「それが何のヒントになるんです?」

探偵「言っただろ? 謎自体のヒントにはならないよ。ただこれは物語の本質に迫るヒントってだけさ」

探偵「むしろ、謎のヒントになるのはもう一個のヒントだろうね」

助手「それは?」


探偵「真実2、【戦場ヶ原ひたぎと阿良々木暦の話は、そのほとんどが嘘で構成されている】」

助手「…………」

探偵「まあ、ほとんど怪異絡みの話だからそうなるよね。ただし、あくまで事実も含まれているけど」


探偵「さて、この二つのヒントを元に、物語を解いてみなよ」

探偵「もちろん、謎だけでも構わないけどね」

探偵「僕からは以上だよ。君が自力で解いてくれるのを期待しているからね」

助手「…………」



探偵「化物語」


終了

以上で出題編は完結


近い内に解答編を書く予定

ああ、あとWIFI使ってるせいか知らんがIDが何かコロコロ変わってまってるけど、本人なんで

解答編は別スレで。その時はリンクをここに貼るから

多分、スレタイは『探偵「本当は怖い化物語」』になると思う

>>1じゃないけど赤字まとめ作った
取りもらしあったらごめん

第一の謎
『戦場ヶ原ひたぎの体重』

【私が落ちた地点は、地上から12メートル以上はありました】
【その時、僕は地上から2メートルぐらいの地点にいました】
【受け止めたのは阿良々木君です】
【その時、私も阿良々木君も傷一つ負っていません】
【阿良々木君は無傷で私を受け止めました】
【私はその時、道具を一切使っていません】
【私は地球の自由落下速度で落ちていきました】
【僕もその時、道具を一切使っていません】
【阿良々木君は両手で私を受け止めています】
【その時、道具を一切持っていませんでした】
【阿良々木暦と戦場ヶ原ひたぎがいた場所は地球であり、重力は一切変化していない】

第二の謎
『阿良々木暦の超回復』

【私は阿良々木君の右頬にホッチキスを挟んで、ホッチキスの針を頬の内側に突き刺しました】
【私が次に確認した時には、傷跡はどこにもありませんでした】
【傷をつけてから、次に確認するまで、五分も経っていません】
【それは、私から見てどちらも左側の頬でした】
【鏡や映像などではなく、直接確認しました】
【傷をつけた時も、次に確認した時も、お互いに向かい合っていました】

第三の謎
『重し蟹(怪異)の存在』

【僕には『重し蟹』が見えませんでした】
【存在していないものも『見えない』という事になります】
【その時、私の足はどこにも接触していませんでした】
【その時、私の姿勢は直立不動に近い状態でした】
【その時、私は道具を使っていませんし、誰かに使われてもいません】
【偶然も含め、一切使用していません】
【その時、私は両足を浮かせる行為を自分でしていませんし、その意思もありませんでした】
【私と阿良々木君、そして忍野(メメ)さんの三人です】
【その時、僕も忍野(メメ)も戦場ヶ原の体には指一本触れていません】
【その時、僕も忍野(メメ)も道具を使っていませんし、戦場ヶ原には間接的にも触れていません】

第四の謎
『見えない八九寺真宵』

【はい。間違いなく存在していて、戸籍もあります。架空の人物ではありません】
【八九寺は死んでいます】
【間違いないです。僕はその時、八九寺を見ています】
【私には八九寺さんの姿が見えなかった】
【その時、戦場ヶ原と八九寺の距離は、三メートルも離れていなかった】
【私は八九寺さんを見た事が一度もないわ】
【私は八九寺さんの声を聞いた事が一度もない】
【僕は八九寺の声を何度も聞いている】
【羽川も、八九寺の姿が見えていたし、声も聞こえていた】
【私達は何回も同じところを行ったり来たりしていた】
【八九寺の姿はそこで僕からも見えなくなりました】
【見えなくなった、で合っています】

第五の謎
『不死身の阿良々木暦』

【僕はその時、怪我を負っていました】
【その怪我が翌日には完治していたのは確かです】
【僕にはそれが猿の手のように見えました】
【その時、僕は怪我をしていた】
【翌日には、完治していました】
【一回目は踏切近く。二回目は廃ビルの中です】
【当事者である僕達を除けば、他に見ている人はいませんでした】
【阿良々木暦、神原駿河、戦場ヶ原ひたぎ】
【一回目(踏切近く)の時、阿良々木君は大怪我を負っていた】
【二回目の時(廃ビル)もそう。その時、阿良々木君のお腹からは腸が飛び出していて、両手両足が骨折していた】
【どちらの時も、その傷をつけたのは神原で間違いないわよ】

第六の謎
『蛇切縄(怪異)の存在』

【その次の日には、僕は無傷でした】
【その時、千石の体には締め付けられた跡がついていました】
【神社で、千石は体の痛みに苦しんでいました】
【その時、僕は千石に危害を加えてないから】
【その時、神原は千石に危害を加えてない】
【その時、千石は他人にも自分にも危害を加えてない】
【その時、千石は健康体でした。病気もしてないし、元から怪我もしていなかった】
【その時、その場にいたのは三人だけです】
【危害を加えてない、という言葉には道具も含まれています】
【千石が体の痛みに苦しんでいた原因は、偶然ではありません】
【千石が苦しんでいた原因は肉体的苦痛です】
【阿良々木君はその時、間違いなく腕の骨が折れた状態だった】

第七の謎
『ブラック羽川』

【その時、羽川の髪の色は黒ではなく白でしたし、頭には猫耳もついていました】
【羽川もブラック羽川も、体は同じです】
【その時、阿良々木暦は頸動脈を切断されていた】
【僕はその翌日、完全完璧に無傷の状態だった】


その他
【この話の中に『怪異』は存在しない】
【ひたぎクラブで阿良々木暦が戦場ヶ原の家に行った時、家の中にいたのはこの二人だけだった。他には誰もいない】
【戦場ヶ原ひたぎと阿良々木暦の話は、そのほとんどが嘘で構成されている】

とりあえず自分の推理を書いてみる
赤字以外ガン無視。かなり的外れかも知れない

第一の謎
→『阿良々木と戦場ヶ原は水中にいた』
 「地上」って言い方に抵触しそうだが
→『阿良々木のいた地点は標高10メートル以上あった』
 「地上から2メートルの地点にいた」のは確定なので、地面自体を高くすればいける?

第二の謎
→『戦場ヶ原が二回目に確認した相手は阿良々木とは別の人物』
 二回目に確認した相手の名前は赤字で言われてない

第三の謎
→『戦場ヶ原は水に浮いていた』
 「足が水に接触している」ことになりそうだから駄目っぽい?
→『ベッド』『リクライニングチェア』『遊園地のアトラクション』
 「道具」の定義について屁理屈をこねてみる。寝具、家具、遊具は道具に含まれない?

第四の謎

戦場ヶ原にだけ八九寺が見えなかった謎
→『阿良々木と羽川は八九寺の姿が映った映像を見ていた』
→『八九寺という寺と、八九寺さんという人物がいた。阿良々木と羽川に見えていたのは寺』
 阿良々木の赤字には、寺の八九寺と人物の八九寺が混在している

目的地にたどり着けなかった謎
→『そもそも迷ってない。「目的地に着けなかった」とは赤字で言われていない』
 同じところを行ったり来たりしていただけ。

第五の謎
→『阿良々木という名前を持つ存在が他にいた。腸が飛び出して骨折していたのは別の阿良々木』
 あまり考えたくないけど、犬や猫に「阿良々木君」と名付けて可愛がっていたけど神原さんが怪我させちゃったよ説。
 もしくはここで証言している「僕」がそもそも阿良々木じゃないよ説。

第六の謎
→『千石は「元から」怪我をしていないだけで、その場で怪我をしたので苦しんでいた』
→『千石は生理痛に苦しんでいた』
→『千石は幻覚や、トラウマのフラッシュバックによりあるはずのない痛みに苦しんでいた』

第七の謎
→『羽川はもともと白髪だった』
→『ここでの羽川とブラック羽川はフィギュア等の人形』

連投ごめんね

「僕=阿良々木」であるとは赤字で言われてない。
すべての赤字内の「僕」と「阿良々木君」「阿良々木暦」を別人として考えると辻褄は合うかな
そうなると阿良々木を騙る「僕」は誰だよって話になるが

物語自体の謎はさっぱりわからん
「僕」と戦場ヶ原が、死んでしまった「阿良々木君」を悼むために話を作ったとか?

>>132-141

嘘だらけの供述なだけに真実であると明言された部分だけを抜き取られると、難易度がぐっと下がるね

どうやって【】の中の証言は真実であると断定しているのかが、一番の怪異だけれど

せっかくだから自分も便乗反芻ショーダウン

>>139
『戦場ヶ原ひたぎの体重』

これそもそも地上からxmって言い方をしているのが怪しい
文脈上は、『地下12m』でも『地上から12m』になる
だから何だって話だし、それにこの説だと落ちたと道具を使っていないの供述が足を引っ張る
望みは薄いか


『阿良々木暦の超回復』

ホチキスを打った奴と確認した奴は別人でほぼ合っていると思う


『重し蟹(怪異)の存在』

そもそも足が浮いたからなんだって話になるよね
単にすっ転んだだけかもしれないし、階段を踏み外しただけかもしれない

>>140
『見えない八九寺真宵』

お寺で同じ場所を行ったり来たりっていうのはお百度参りをイメージするよね
ていうか死んでいるのに『戸籍がある』っていうのがそもそもおかしい
死んだ人が入るのは『戸籍』ではなく『鬼籍』


『不死身の阿良々木暦』

わからぬ上にどうでもいい


『蛇切縄(怪異)の存在』

怪我をしたタイミングと苦しいんでいたタイミングがずれているのはあっていると思う
締め付けられた痕っていうと真っ先に思い浮かぶのは、自殺未遂
痛みっていうと片頭痛とかかな


『ブラック羽川』

一切のことはわかりません

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