カプチーノ「もうすぐ今年もX'masだね」 ジムニー「うん……」(75)


……キーンコーンカーンコーン

ミンナ オツカレー!
オウ、マタアシタナー!

ブロロロロ……


カプチ「もうすぐ今年もクリスマスだね」

ジムニー「うん……」


カプチ「……楽しみじゃない?」

ジムニー「そういうわけじゃないんだけどさ」

カプチ「今年も出るの? JTCのトライアウト」

ジムニー「うん、そのつもりだよ」


カプチ「『Japan Tonakai Car of the Year』か……けっこうみんな目指してるみたいだもんね」

ジムニー「サンタに乗ってもらって子供達に夢を配るなんて、車冥利に尽きる晴れ舞台だからね」


コペン「おっ……お二人さん、またご一緒に下校?」ニヤニヤ

S660「相変わらず仲がいいねぇ」ニヤニヤ

タントカスタム「チョーウケルー」


カプチ「ちょっ、冷やかさないでよー」テレテレ

ジムニー「そうだよ、そんなのカプチが可哀想だろ」


コペン「可哀想?」

ジムニー「……俺とカプチは幼馴染みなだけだよ、こいつには俺みたいな寸詰まりのオフロードじゃ似合わない」

S660「じゃあどんなヒトなら似合うってのよ」

ジムニー「そりゃ……もっとスタイリッシュで、一緒にワインディングを楽しめるような奴だろ──」


86「──そうそう、解ってるじゃん。カプチちゃんだって軽とはいえFRスポーツなんだ」サラッ…

BRZ「俺たち兄弟みたいな、ロングノーズのエアロフォルムじゃないとね」フワッサァ…


コペン「きゃっ……86センパイ!」キラキラ

86「おっとすまない、FFのコペンちゃんを悪く言ったつもりじゃないんだ」キラーン

BRZ「そうだよ、FFもMRも素敵だと思ってるさ」


カプチ「……4WDだっていいじゃないですか」ムッ

BRZ「そうは言ってもねぇ……」

86「あの通りだからね──」


エボ「やるんかゴルアアアアアァアァアァァッ!!」ドッザアアァアァァァァッ!

WRX「ブッ潰したらァアアアアァアァァッ!!」ギャリギャリギャリィッ!


……ドッカーーーン!ギャーーー!


86「──お世辞にも上品とは言えないよねぇ……」ハァ…

BRZ「ロードスポーツ寄りでもああだからね。ましてやクロカン……いや、俺達とはジャンルが違うってだけなんだけどさ」


S2000「おーす、お待たせ」

ロドスタ「なんか賑やかにやってんな?」


BRZ「よし、じゃあFR同士で帰るか……カプチちゃんも一緒にどう?」キラッ

カプチ「私はジムニーと帰りますっ」フンッ


86「ははは……意固地だな、まあじきに気づくさ」

ロドスタ「ばいばーい、軽のロリッ娘ちゃん達ー」フリフリ

S2000「先に帰ってるぞー、妹」

S660「はいはい、私もすぐに帰りますよーだ」


コペン「はぁ……やっぱ二年生(661~2000cc)にもなると、余裕あって格好いいなぁ」

S660「あはは、一緒に住んでるとけっこう格好悪いトコも見るもんだよ?」

コペン「でもあんなお兄さん羨ましいよー」

タントカスタム「チョーウケルー」


ライフ「あ、コペンいたいた」

ワゴンR「一緒に帰ろー」

S660「じゃあ、カプチは幼馴染み君と帰るんでしょ? また明日ね!」フリフリ

カプチ「うん、また明日……」フリフリ


コペン「……ジムニー君、ちょっといいかな?」

ジムニー「うん?」

コペン「耳貸して」

ジムニー「えっ」ドキドキ


コペン(カプチに向かって『自分とは似合わない』なんて言っちゃダメよ?)ヒソヒソ

ジムニー(え……? でも本当の事だよ?)ヒソヒソ

コペン(本当に鈍いなぁ、とにかくダメだからね! それと、あんまりキミもうかうかしてちゃいけないんだよ?)ヒソヒソ

ジムニー(それって、どういうこと──?)ヒソヒソ


ハスラー「──カプチちゃん、今帰りなのかい?」ニコニコ

カプチ「うん、こんにちはハスラー君」ニコッ


コペン(あ、言ってたらちょうど来たわ。いい? ちゃんとカプチを捕まえといてね!)ヒソヒソ

ジムニー(わ……わかったよ)ヒソヒソ


ハスラー「よかったら、帰りご一緒してもいいかな?」

カプチ「ジムニーと帰るつもりなんだけど……」

ハスラー「駅の近くにできたカフェ、すごく良かったんだ。寄って帰らない?」


カプチ「だから、三人でになるけどいいの?」

ハスラー「あいつは林道で一人用コンロ焚いてインスタントコーヒー飲んでるのが似合いだろ?」ハハハ

カプチ「……いい、私はジムニーと二人で帰る」プイ

ハスラー「ちぇ……幼馴染みってだけで、ずいぶん優位に立てるもんだ。でもこのままだと思うなよ?」ギロッ


ジムニー(捕まえておけ……か)

ハスラー「あれ? 聞こえてないのか、幼馴染みクンよ?」

ジムニー「……このままだよ」ボソッ

ハスラー「はぁ?」


ジムニー「幼馴染み同士な事はずっと変わらない、このままなんだよ。この学校でカプチは俺の唯一の幼馴染みなんだ」

カプチ「ジムニー……」キュン


ハスラー「……はん、そうかい」チッ…

ジムニー「そうだよ」キッ

ハスラー「けっこうだよ、ずっと幼馴染み関係でどうぞ。ボクは彼女にとって、もっと特別な存在になればいいだけだ──」


………


…下校中


カプチ(──ジムニー、口数少ないな……)

カプチ(みんな、ジムニーをからかうような事言うんだもん)


カプチ「みんな、酷いよね」ポツリ

ジムニー「……ん? なにが?」

カプチ「だってジムニーの事、体育の授業の時は競技によってはヒーロー扱いしてるくせに」フンス

ジムニー「ああ、さっきの事か。まあ今日は、たまたま走り系の車が集っちゃったしね」


カプチ「ハスラー君は走り系ってわけじゃないでしょ」

ジムニー「あいつはいつもあんな感じじゃん」

カプチ「そうだけど……」


カプチ「ジムニーは悔しくないの?」

ジムニー「うーん……そりゃ気分良くはないけどさ」

カプチ「……私は悔しいよ」ボソッ

ジムニー「ん? なんでカプチが──」


『──本当に鈍いなぁ』

『あんまりキミもうかうかしてちゃいけないんだよ──?』


ジムニー(──いや、さっきのコペンの言葉を読み解けば……やっぱりカプチは)


カプチ「ジムニーには、ジムニーにしかできない事がいっぱいあるんだよ」

ジムニー「……そうかな、嬉しいけど」ポリポリ


カプチ「だってラダーフレームだから丈夫だし」

ジムニー「重いけどね」

カプチ「大径タイヤだから悪路に強いし」

ジムニー「交換に選択の余地が少ないんだけどね」

カプチ「リジッドサスだから道無き道も入れるし」

ジムニー「めっちゃ跳ねるけどね」


カプチ「とにかく! ジムニーはすごいんだよ!」フンスフンス

ジムニー「あ、ありがとう……」

カプチ「86先輩達なんか、凸凹砂利道だったらついていけないくせに!」

ジムニー「あー、前にセルシオ先輩に絡まれた時、そうやって逃げたなぁ……」ウンウン


カプチ「でも……私もついていけないから、ゆっくり走ってね?」

ジムニー「っていうか、カプチは凸凹道とか入ったらダメだよ」

カプチ「ついて行きたいんだもん……」


ジムニー「亀になったら大変だろ?」

カプチ「そしたらジムニーが助けてくれるでしょ?」

ジムニー「そりゃまあ……だけど、お腹が擦り傷だらけになっちゃうよ」


カプチ「や、やだ! ジムニーの変態っ! そんなとこ想像しないでよっ!」アセアセ

ジムニー「してないよ! それに昔は一緒に洗車機入ったりしてただろ!」アセアセ

カプチ「昔と今じゃ違うの! もう……子供なんだから」

ジムニー(くそ……そんなの言うから、前にオイル交換してるの窓越しに見ちゃった時の事、思い出したじゃん……)ドキドキ


カプチ「ふーんだ」プイ

ジムニー(あの時、部分合成油だったな……昔は鉱物油だったのに。……だめだ! 忘れろ、俺! 煩悩に支配されてるぞ!)ブンブン


カプチ「……さっきから黙ってたのは、落ち込んでたんじゃないの?」

ジムニー「ああ、そんな事を気にしてくれてたのか」

カプチ「そんな事って言わないでよ」


ジムニー「ごめんごめん、トライアウトの事ばっか考えてたよ」

カプチ「なーんだ、心配して損しちゃった」


ジムニー「今年も選ばれるのはOBのハイエースさんなのかなー」

カプチ「そうしたら三連覇だもんね、でもキャラバンさんも狙ってるらしいよ?」

ジムニー「あー、そうみたいだね。やっぱり軽と違って、積載性がすごいよなぁ……」


カプチ「でも同級生のウェイク君も相当気合い入れてるって、応援してあげたいよね」

ジムニー「あいつはやっぱCMが効いたよね、『兄ちゃん、これウェイクだよ!』って」ケラケラ

カプチ「あはは、似てなーい」ケラケラ


ジムニー(……ちゃんと捕まえておけ、か)チラッ

カプチ「はー、おかしかったぁ」フゥ


ジムニー「なあ、カプチ」

カプチ「ん? どしたの?」

ジムニー「ウェイクも、もちろん他のみんなも全力を出し切って欲しいし、応援すべきなんだけどさ」

カプチ「うん」


ジムニー「でも、その……今年のトライアウトでは、お前は……俺だけを応援しててくれないか?」テレテレ

カプチ「……!!」


ジムニー「こ、声に出したりはしなくていいから……心の中だけでも──」

カプチ「──ジムニーの、ばーーーーか!」ペシッ

ジムニー「痛てっ」


ジムニー「なにすんだよ……馬鹿ってなんだ」

カプチ「そりゃ、さっきウェイク君の事『応援したい』って言ったよ?」

ジムニー「だからだよ」ムム…

カプチ「でも、みんなに対する応援とジムニーへの応援が同じなわけないじゃない。そのくらい解ってて欲しかったな」

ジムニー「……それって」


カプチ「みんな頑張って欲しいよ。でも、私が『勝って欲しい』と願ってるのはジムニーだけ、昔っからね?」

ジムニー「う……願っておいてアレだけど、言われると照れるな」ポリポリ

カプチ「私だって照れてるの、ちゃんと聞きなさい! だって……ジムニーは私にとって一人だけの、大切な幼馴染みだよ? ねっ?」


ジムニー「でも学校は違うけど、アルトもスイフト兄ちゃんも幼馴染み──」

カプチ「──てーい!」ベシッ!

ジムニー「痛てっ、またかよ」


カプチ「私は今、なんて言った?」

ジムニー「『一人だけの幼馴染み』って……」

カプチ「不正解ーー。ほんと馬鹿、大馬鹿、そこが大事だったのに」

ジムニー「えー……」


カプチ「はい、時間切れー。家に着きましたー」

ジムニー「なんだよ」

カプチ「教えなーい、また明日ねっ!」ベーーー


…ウィーーーーーーーーン、カシャン


ジムニー(電動シャッターいいなー。ウチのガレージ、手動式で重いんだよなー)ガラガラガラ…

ジムニー(でもウチ、物持ちいいし。大切に使ってるから、まだまだ──)

ジムニー「あ……」

ジムニー(──そっか……あいつ、さっき「一人だけの『大切な』幼馴染み」って言ったんだ)

ジムニー(明日、ちゃんと謝ろう──)ニヤニヤ


……………
………


…数日後、トライアウト会場


アクア《──さあ、今年もJTCトライアウト開催となりました! 実況は私、HBD48のアクアが務めさせて頂きます!》

アコード《いやぁ、参加者みんな気合いの入った表情で実に楽しみですね》

アクア《本当ですね、解説のアコードさん。今日はよろしくおねがいします!》

アコード《よろしくおねがいします》ペコリ


アクア《『よろしく』と言えば私達HBD48の新シングルが明日発売なのでよろしくお願いします! 握手券ぜひGetして下さいね!》

アコード《実に唐突なPRです》


アクア《さあ、そしてこの本部席には審査員長であり今年もトナカイカーのハンドルを握る事となる、サンタさんがいらっしゃいます!》

アコード《サンタさん、今回の参加者の面々を見ていかがですか?》

サンタ《豊作・平年並み・不作の三択いずれかでしょう、サンタクロースだけに》ドヤァ

アコード《なぜドヤ顔できるのかわかりません》


アクア「それでは私は最初の競技『積載性チェック』の会場にやって参りました。現在審査中なのは優勝候補、ハイエースさんです!」

ハイエース「ワイド&ロング&ハイルーフ平床仕様の俺に勝てる奴なんざいねえぜ」フッ…

アクア「やはり広い! 圧倒的なアドバンテージです!」


アコード《優勝候補と言われるだけありますね、サンタさん》

サンタ《うむ、これならプレゼントも数百……あるいは千人分も積めるかもしれません》

アコード《ほう、という事は今年のプレゼントは比較的サイズは小さいという事でしょうか?》

サンタ《まだ物は明かせませんが、ハイエースなら実際のところ800TENGAくらいでしょうか》


アクア「続いては打倒ハイエースさんに闘志を燃やします、日産キャラバンNV350さんです!」

キャラバン「どうも、特に後ろから声を掛けられる時しょっちゅう『ハイエースさん!』と言われるのが悩みです、恐縮です!」

アクア「もうちょっと差別化しましょうよ……」

キャラバン「テールランプ横型にして欲しかったです!」


アコード《積載量としてはハイエースと互角、甲乙つけ難いですね》

サンタ《しかしハイエースやキャラバンに、なぜTENGAなのか? そこはフルフラットシート&カーテンでギシアンではないのか……と考えると、いたたまれません》


アクア「さあ、次に……ここで軽自動車がエントリー! 軽でありながら抜群の積載性を誇るN-BOX選手の登場です!」

N-BOX「どうも! 諸先輩方の前で緊張しちゃってますけど、頑張ります!」

アクア「リヤシートを倒すと相当な空間ですね!」

N-BOX「いやぁ、普通車の方々には勝てないですよ! でも燃費重視の合わせ技で狙ってます!」


アコード《確かに、燃費の良さは環境面を考慮しても経費の面でも魅力的なんじゃないですか?》

サンタ《まあ私が払うんじゃないしね》

アコード《お役所思想ですねー》


アクア「次のエントリー車輌は……おっと、ここで毎年出場のジムニー選手です! いかがですか、今年の意気込みは?」

ジムニー「はい! トナカイカーになる事にずっと憧れてたので、頑張りたいです!」


カプチ「ジムニー、頑張って……!」ドキドキ

コペン「積載性については頑張るも何もなくない?」

タントカスタム「チョーウケルー」


アクア「それでは注目の判定です!」

アコード《あー……これは解ってはいましたが、厳しいですねー》

サンタ《TENGA-EGGで精一杯ですが、あの先端集中の刺激もそれはそれで良い物です》カポッ


ジムニー「キャリアを装着すると屋根にも積めます!」

アクア「ジムニー選手、熱烈なアピール!」

アコード《キャリアの取り付けが可能な車種なら何でもそうですよね》

サンタ《たまには林道で人目を気にせずというのも一興かもしれませウッ…》カッポカッポ


アクア《さあ、次の審査項目は特設サーキットのラップタイムを競う『走行性能チェック』! 私も放送席からお送りします!》

アコード《一晩という限られた時間の内にプレゼントを配り終えるためにも、やはり走行性能は高いに越した事はありませんか?》

サンタ《限られた時間、一夜限り……ソソるモノがあるワードです》ウットリ


86(──テクニカル区間……! ここで稼ぐっ!!)ヴォウッ!キュイィィィィッ!!

エボX「圧倒的トラクショーーーーン!!!!!」ギュイイィィィィッッ!!

インテR「コーナー楽すぃぃぃーーーーっ!!」グッ……キュウゥゥンッ!!!

スイスポ「コンパクト舐めんなあああぁあぁぁっ!!!」ギャギャギャ……ッ!!


アクア《テクニカルエリア、積載性には劣る選手達が火花を散らしています!》

アコード《あれはトナカイカーの座を狙っているというより、走りたいだけでしょう!》

サンタ《私の三擦り半より速い者など存在せぬ……ッ!!》


キュルルルル……! ガッシャーーーン!!


アクア《ここでクラッシュ発生! 大丈夫でしょうかっ!?》

アコード《土煙が晴れていきます、大クラッシュしたのは……?》


パラパラ……メキッ…
…コロンッ


プリウス「いやー、痛てて……またやっちゃった」ケホケホ


アクア《プリウス兄さん! 先週の用水路インに続いて、今度はコンビニドライブスルー未遂です!!》

アコード《日常の光景ですね》

サンタ《あの頻度でクラッシュしていれば、女子校の壁を突き破って侵入しても怪しまれない……閃いた》キラーン

アコード《通報した》


ロドスタ「最終コーナー! いいポジションだ……このままっ!!」キュキュキュッ…!


アクア《ストレート立ち上がり! 加速勝負です!!》

アコード《ホームストレートの全長は2km弱、ゴールラインまでは1.5kmあります。これは加速のみならず最高速性能も物を言うでしょう》

サンタ《輝け右手! レッドゾーンの向こうにホワイトゾーンが開けるまで……ッ!》スコココココ


BRZ「くそ……! 後ろから追い上げが来るっ!」ブォンッ…!

S2000「なにっ──!?」ギュウウウゥゥゥンッ!!


スープラ「──力こそ正義……!! どけ、小童どもっ!」ヴォオオオォォオォッ!!!

GTR「フン……280馬力規制に捉われたお前がそれを言うのか?」フオオオォォォォォン……ッ!

FD「馬力が低かろうが、軽けりゃいいのさ……!」キュイイイィイィィィン!!


アクア「ここに来て大排気量車やロータリーといったハイパワースポーツが追い上げてきました!!」

サンタ「ロリータアアアアァアァァァッ!!」ウオォォォォッ!

アコード「なに叫んでるんでしょう」


アクア《今、ゴーーール!! 一位は日産GTRさん! 素晴らしい伸びでした!》

アコード《やはりこの種目はスポーツタイプの車輌が席巻しましたね、当然です。いかがでしたか、サンタさん?》

サンタ《オゥ……イェスッ……! ホワイトアウト……ッ!》ビクンビクン


アクア《続々と周回を終えた車輌がゴールラインを通過します! 高級セダンとしてはクラウンアスリートさんが勝利! ミニバンではオデッセイさんが最初にチェッカーを受けしました!》

アコード《RVジャンルとしてはフォレスターさんが強かったですね、水平対向エンジン恐るべし》

サンタ《縦に横に、前から後ろからですね》キリッ


アクア《エントリー車輌はこれで全てゴールしたでしょうか? 皆さんお疲れ様でした!》

アコード《いや……今、最終コーナーを立ち上がってくる車輌がありますよ》

アクア《あれは! ジムニー選手です!片輪が浮きそうなほどのロール具合! 絵面だけを見ると早そうです!》

アコード《サーキットの路面は非常にミューが高いため、あの車高と車幅でブッ飛ばすとよく横転しますね》


ジムニー「転ける……転ける……!」アワワ

カプチ(ジムニー、格好いいなぁ……)キュン…


アクア《それでは最終審査項目、『スタイリングチェック』です!》

アコード《やはり子供達も格好いい車でプレゼントを運んでもらえたら嬉しいですからね、重要な要素です》

アクア《現在までの最高評価を受けているのは昨年に続きハイエースさん、僅差でキャラバンさん! トールワゴン以外で健闘しているのが、レガシーさんとなっています!》

アコード《このスタイリングにおいては背の低い車にも大いに分がありますからね、これは最後までわかりませんよ》


ジムニー(……上位30車種まではボードに車名が出てるけど、俺の名前があるわけない)

ジムニー(ほら、ミニバンのストリーム先輩でさえギリギリの30位なんだ)ハァ


ハスラー「やあ、ジムニー。順位はボードに載ってたか?」

ジムニー「ハスラー……大きなお世話だよ、お前だって載ってないだろ」

ハスラー「まあね、さすがにトナカイカーへのハードルは高い。でもこの種目で少しは巻き返せるかな? こう見えて割と女性を中心に評価してもらっててね」ニヤリ

ジムニー(くそ……俺なんか20年近くも前のデザインなのに──)


カプチ「──ジムニー! 最後まで諦めずに頑張って!」

ジムニー「え?」

カプチ「私、応援してる! ジムニーだけを応援してるからね! あなたの野性的なデザイン……私は、す……好きだからっ!」

ジムニー「カプチ……」


ハスラー「……やれやれ、どうやれば彼女の目を覚まさせてやれるかね」チッ

ジムニー「無理だよ」

ハスラー「なんだって?」

ジムニー「カプチは昔っからああなんだよ、趣味が悪いんだ」


ハスラー「ふん……解ってるじゃないか。つまりスタイリングで巻き返しなんかできない、トナカイカーの座は諦めるって事だな」

ジムニー「それも諦めない、叶わなくても最後までやり切るさ──」


アクア《──スタイリング評価、最初のエントリーはエスティマさんです! ミニバンらしからぬ流線型フォルムは、この種目でも高得点が期待できまね!》

アコード《彼は積載性でもまずまずの加点を受けてますからね、これはかなりイイ線いくんじゃないでしょうか》

アクア《この種目ではサンタさんが自ら審査員として会場に赴いています! 果たして点数は100点中いくつでしょうか!》


サンタ「ボンキュッボンのキュッが無いから5点」ケッ

エスティマ「えっ」ガーン


アクア《これは残念! あくまでエロスを求めるサンタさんからは辛口の評価がなされました!》

アコード《ボンキュッボンだとアメ車くらいしか当てはまらなさそうですね》

アクア《残念ながらこのトライアウトはあくまで日本のトナカイカーを決める舞台、外車の出場は予定されていません!》


オオォッ…スゴイ テンスウ ダゾ!!
ザワザワ…


アクア《おっと、会場に何やらどよめきが起こっています! 高得点が出たようです!》

アコード《審査を受けたのはZ34のフェアレディZのようです、アメ車的なフォルムはZ32をピークに薄れたようにも思えますが……》

アクア《点数は驚きの85点! 確かに曲線美を感じるフォルムではありますが、何がサンタさんの心を捉えたのでしょうか!》


Z34「そりゃこのセクシーなヘッドライト&テールランプのデザインさ」フッ

サンタ「ネーミングがフェr」
アコード《そこまでだ》


ハスラー「なんてこった……スタイリング評価じゃないのかよ……」クッ

ジムニー(◯◯ニー……きびしいか)ウムム…


………


…会場からの帰り道


カプチ「──ジムニー、元気出して」

ジムニー「うん……」トボトボ

カプチ「頑張ってる姿、かっこよかったよ」


ジムニー「でも判定はDだったよ……絶望的だよね」ハハッ

カプチ「Dの人は他にもたくさんいたじゃない」

ジムニー「だいたいスポーツタイプの人達だったけどね……彼らは特設サーキット走りたくて来てるようなもんだしさ」


カプチ「ジムニーが本当に得意なのは悪路だもん。そこを審査する項目が無いから、不利なのは仕方ないよ」

ジムニー「……そうだね、ありがと」ニコッ

カプチ「やっと笑ってくれた、よかったぁ」エヘヘ

ジムニー「もう大丈夫、立ち直ったよ。クロカンがしょげて車高低くしてちゃダメだよね」

カプチ「そうだよ! リフトアップしてんのかってくらい胸張ってなきゃ!」フンス


カプチ「おウチ到着ーっと。また明日、ちゃんと元気な顔でね!」

ジムニー「うん、わかった」


カプチ「精一杯やったんだから、悔やむ事なんか無いんだよ! 来年また頑張ろ!」

ジムニー「あい」

カプチ「じゃ、おやすみー!」フリフリ

ジムニー「おやすみ、また明日な」


ジムニー(……でも、本当に悔しかったのは──)


『──望み薄なのは同じだけど、一応B判定だったよ。いずれカプチちゃんからの評価も、キミを上回ってみせるさ』


ジムニー(ハスラーに……言い返せなかった事なんだ)

ジムニー(いつか本当に──)


……………
………


…クリスマスイブ当日、午後7時


ジムニー「──やっべえええぇえぇぇ!」ブイイイィイィィィン!


ジムニー(しまった……! 山に薄っすら雪が積もった事に興奮して、雪中林道で遊んでたら遅くなった!)

ジムニー(もうみんなパーティー会場に集まってる……ってか、7時だからパーティーそのものが始まっちまう!)

ジムニー(カプチに先に行っといてもらったのはいいけど、ハスラーと二人きりにしたら絶対ちょっかいかけてくるだろ!)


ブイイイィイィィィン……キュキュッ!
……ジュリッ──


ジムニー「──おっと」グイッ!

ジムニー(街でも少し雪降ったんだな……日陰だったとこには残ってる)


ジムニー(……ん?)チラッ

シルフィ「あぁ、もし…どなたか……」オロオロ

ジムニー「どうしたんです、お婆さん」

シルフィ「道の勾配で滑ってしまってねぇ……動くと側溝に落ちてしまいそうで…」

ジムニー「ああ……凍り始めてるのか……」


…ハラリ……ハラハラ……


ジムニー(雪……また降り出した、これは積もるぞ)

ジムニー(時間が……でもこのままじゃ、お婆さんは雪が溶けるまで動けなくなる)


ジムニー(俺は、なんのために四駆なんだ──)

シルフィ「参ったねぇ……」ヤレヤレ

ジムニー「──お婆さん、牽引ロープかけるよ」チャキッ


………


…パーティー会場、午後8時


コペン「──めりくりーーっ!」

ワゴンR「めりくりめりくり!」


ワイワイ、ガヤガヤ、プップー
ウルセー ダレダ ホーン ナラシタ ヤツ!


N-ONE「今年もすごい人ねぇ」

ハスラー「トライアウトに敗れた人達にとっての反省会でもあるからね」

プレオ「反省会ってより、ヤケクソ打ち上げ会って感じだけどね」

タントカスタム「チョーウケルー」


キャラバン「ちくしょぉぉぅ……ちくしょぉぉぉぅ……」ウィーヒック

エルグランド「おいおい、泥酔するにゃ早いぜ」


アルファード「仕方ねーべ。採点はほぼ互角だったのに、結局選ばれたのはハイエースだもんな」

エルグランド「今ごろはプレゼント配達の真っ最中だろ」

エリシオン「夕方見た時には、もうツノのトロフィーを前ピラーに着けて、エンブレムのとこにも赤鼻光らせてたぜ」


キャラバン「てやんでぇ……おい、酒だ! 軽油、ジョッキで持ってこい!」

エリシオン「あ、俺はスーパーゼアスね」

アルファード「んじゃ、俺はV-Powerで!」

マーチ「カシコマリー」


86「当たり前だけど、スポーツタイプじゃトナカイカーになる事は無いんだろうな」

BRZ「まあ、積載性が何よりねぇ」

S2000「俺なんかセキュリティ面でアウトだもんよ」

ロドスタ「わかる、ナイフ1本で開けられちゃうもんな。幌車の辛いとこね」ウンウン


アテンザ「おつまみ、何か追加頼む人ー?」

ハリアー「あ、LEDのバルブお願い。6000Kくらいのやつね」

ヴェゼル「6000って、ちょっと青くね? 俺5000Kでいいわ」


フォレスター「さっき頼んだヴィーゴのロックまだ来てないんだけど、大至急ねー!」フリフリ

マーチ「カシコマリー」


カプチ(ジムニー、遅いな……)ハァ…


………


…その頃、街中


ジムニー「──せーので引っ張るよ!」ブォンッ!

フィールダー「悪いなぁ、助かるよ……」

ジムニー「いいって、いくよ? せーの!」ブオォォォン……


デミオ「すみませーん! あっちでCX-3ちゃんが止まっちゃって…」

ジムニー「はいはい、すぐ行くよー」ヤレヤレ

フィールダー「すみません、お礼に添加剤でも」

ジムニー「気にしないで、今度は滑らないように家まで帰ってね!」


ジムニー(雪、すごいな……みんなパーティー会場から帰れるのかな)

ジムニー(まあ、カプチは俺が連れて帰るから心配ないけどさ)

ジムニー(……それともいっそ、今日は──)チラッ


【HOTEL エロエロハット/満室】


ジムニー(──空いてるわけないか……いやいや、何を考えてんだ!)ブンブン


プレミオ「おおおぉぉぉい、そこの若いの、助けてくれええぇぇぇい……」

ジムニー「おいおい、爺さん。なんでこんな日に散歩したんだよ……げっ、後ろ片っぽ脱輪してんじゃん!」

プレミオ「どうせあちこち擦っとるからのぉ、気にせんと引っ張ってくれんか……」フォッフォッフォッ

ジムニー「解った、フロントしっかり右に切っといてよ」


ジムニー(こりゃ、会場行けるの何時になるかなー……)フゥ…


………


…住宅街


ハイエース「──くそっ、遅れ気味だ」ガロロロロ…ッ!

サンタ「雪道だし、あまり飛ばさないように。飛ばすのは私に任せウッ…ふぅ……」


ハイエース「でもサンタ爺さん、このままじゃ街の全部の家を回れないぜ」

サンタ「何年か前にも酷い雪でね、途中からセカンドトナカイカーに出動してもらったよ」

ハイエース「セカンド……俺は、一人でやりきりたい」


サンタ「まあ、このペースならどうにかなるでしょ。ただ、山の上の集落だけは厳しいかもしれん」

ハイエース「山の上って、あの隣市の方から回りこんで長い峠道上がってく、あの集落か?」

サンタ「そう、街に近い方から上がってゆく道もあるが、あれは普通車が通れる幅じゃないしなぁ」


ハイエース「去年や一昨年は、そこに子供はいなかったはずだろ」

サンタ「引っ越してきたそうだ。可哀想だが、そこの子にはクリスマス明けにネコミミヤマトで届けてもらうしかあるまい」


ハイエース「……そこだけ、誰かの手を借りるとか」

サンタ「セカンドをつけるのは嫌なんじゃないのか?」

ハイエース「クリスマスに子供が寂しい想いする方が、もっと嫌だよ」チッ

サンタ「なるほど、三年もトナカイ役をこなしていれば、すっかり板につくものだな」ニヤリ


ハイエース(もう9時になろうとしてやがる……)チラッ

ハイエース(プレゼントを配れるのは、深夜0時まで。間に合わないか……くそっ)

ハイエース(街の方から上がれる……細道…ダメだ、普段でも危ないのに雪まで積もってちゃ)

ハイエース(でも……)


ガロロロロロロロ……ッ!


………


…パーティー会場、午後9時


レヴォーグ「──おい! みんな、ちょっと聞いてくれ!」

アウトランダー「どうしたんだよ、急にでかい声出して」


ヴェゼル「また水平対抗だからプラグ交換し難いとか、自虐風自慢するんじゃねーの」ケッ

レヴォーグ「うるせーよ、その判りにくい後ろのドアノブ赤に塗るぞ」

アウトランダー「いいから、何か言う事あったんだろ?」

レヴォーグ「ああ……そうだ。今、ハイエースさんから電話があってよ──」


『──このままだと山の上の集落にプレゼント届けるのが間に合わねえんだ』

『どこも渋滞気味だ、おそらくもう隣市から回ったんじゃ時間が足りない』

『危険だが、神社の脇の細道を登り切れる自信がある奴はいないか──?』


アウトランダー「──あのへんは午後には日陰だったからな……積雪どころか、下は凍ってんじゃないか」

レヴォーグ「そもそもあの道は、ただでさえ5ナンバーサイズでギリ通れるかどうかの幅員だ」

ヴェゼル「軽ならイケるんじゃねーか?」

アウトランダー「ガードレールも無い未舗装路だ、よほど走破性の高い奴じゃなきゃ無理だぞ」


コペン「パジェロミニちゃん、行けるんじゃない!?」

パジェロミニ「私……二駆のグレードなんだ……」ウッ

コペン「なんかごめん…」

タントカスタム「チョーウケルー」


ワゴンR「ハスラー君なら! 四駆でしょ!?」

ハスラー「……情けない話だけど、積雪の未舗装路となるとボクじゃ無理だ」ショボン…

コペン「ダメかぁ……そりゃ、危ないよね」


ハスラー「くそっ」

ワゴンR「ごめん、変に自分を責めないで」

ハスラー「違うよ……言いたくもない事を言おうとしてるからさ」

ワゴンR「え?」


ハスラー「行ける奴なんて、一人しかいない。馬鹿でガサツで全然お洒落じゃないくせに、でも悪路なら誰よりも強い……アイツなら行ける」チッ


コペン「……!! そっか、ジムニー君なら……カプチ! ジムニー君、もう来た!?」キョロキョロ

ワゴンR「あれ? カプチは……?」キョロキョロ

ハスラー「そういえば、さっきから見ないな──」


………



ジムニー(──はぁ……もう嵌って困ってる人もいないかな)


ゴハン オイシカッター コレカラ ドウスルー?
ワタシニスル? ワタシニスル? ソレトモワ・タ・シ?
ナーンチャッテ///


ジムニー(いつの間にやら、周りはカップルばっかりだ)

ジムニー(……カプチ、怒ってるかな──?)


カプチ「──あ! いた!」

ジムニー「ん?」

カプチ「ジムニー! こっちこっちー!」


ジムニー「え!? カプチ……なんで、お前はこんな積雪路で外出してたら危ないだろ!」

カプチ「だって、ジムニーがぜんぜん会場に来ないから…もしかして、やっぱり落ち込んでて顔を出せないんじゃないかと思って……」

ジムニー「あー……そっか、ありがとな。でも、そうじゃないんだ」


カプチ「そうなの? じゃあ何してたのよ?」

ジムニー「あちこちで雪に嵌っちゃった人がいてさ、それを助けて回ってた」

カプチ「あはは、なーんだ。でも、ジムニーらしいな」クスクス


ジムニー「へへ……じゃあ、行こう」

カプチ「うん、よろしく」

ジムニー「ん? なにをよろしく?」

カプチ「嵌って動けないの……」

ジムニー「えー……」ヤレヤレ


………



ジムニー「このくらいのペースで大丈夫?」トロトロ

カプチ「うん、平気」トロトロ


カプチ(でも、ずっと牽引ロープで繋がったままって、なんだか照れちゃうな)テレテレ

カプチ(……嬉しいけど)

カプチ(前に観た映画、雪道でレンジストーマーがエリーゼお嬢様の手を引いてたっけ)

カプチ(えへへ、憧れてたんだぁ)ニヤニヤ


ジムニー「会場、こっちだよね?」

カプチ「う、うん……でも」

ジムニー「?」

カプチ「……ちょっと、遠回りして行きたいな──」


………


…公園、遊歩道


カプチ(──って、言ったら人影まばらな公園の遊歩道)ドキドキ

カプチ(ジムニー、意外と大胆なのかな……うわ、この先は真っ暗だよ? もしかして…?)ソワソワ

ジムニー「はー……やっぱり木々の多いとこは落ち着くなー、林道みたいで」

カプチ(落ち着いてるんかいっ!)ガーン


ジムニー「寒くない?」

カプチ「エンジンかかってたら、寒い方が快調だよ」

ジムニー「そだね、たまにはこんなのもいいな」


カプチ「たまに……じゃなくて、いいよ?」

ジムニー「ん?」


カプチ「きっとジムニーのせいだよ」

ジムニー「なにが? なにか悪い事した…?」

カプチ「ううん、私……FRのくせに街中より、こういうところの方が好きみたい」

ジムニー「公園とか?」

カプチ「林道とか、河川敷とか……つまりジムニーが輝いて見える場所だよ」


ジムニー「か、輝いて…って」テレテレ

カプチ「なかなか一緒にそこへ行けないのが寂しいなぁ」

ジムニー「……連れて行きたくはあるんだけど」

カプチ「連れてってよ。私は入れるとこまで入って、ジムニーが走り回ってるのを見てるだけでいいの」


ジムニー「でも……あんまりそんな山の中とかに女の子を連れてってたら、カプチだって心配されちゃうだろ」

カプチ「なんの心配?」

ジムニー「そ、そりゃ……その……」ゴニョゴニョ

カプチ「私だって、もう小さな女の子じゃないんだよ? 排気量は変わらないけど」


ジムニー「だからだよ」

カプチ「そう、だから……だよ?」


ジムニー「え? カプチ……っ?」


……チュッ


カプチ「……ずっと、好きだったよ」

ジムニー「カプチ……」


カプチ「大丈夫、幼馴染みのジムニーとなら、パパもママも安心して見守ってくれると思うの」

ジムニー「……俺も、好きだよ。カプチ」

カプチ「よかった……えへへ、よろしくね」ギュッ


ジムニー(う……カプチ、甘い匂いがする。カストロール入れてる…?)ドキドキ

カプチ(ちゃんと勝負オイルに換えてきたんだから……準備はできてる、心の準備も……!)ドキドキ


ジムニー「カプチ……会場、戻れなくてもいい?」ゴクリ

カプチ「……そういう事、訊かないの」スリスリ

ジムニー「俺……我慢できない」

カプチ「うん、いいよ……ジムニー、底見せて」


ジムニー「今日は雪道で遊んだから汚れてるよ?」

カプチ「いいの、ジムニーらしくて好き」

ジムニー(う……底見せちゃった……いつ以来かな…前はまだ子供だったけど)ドキドキ


カプチ「ふふ……このラダーフレーム、大好き」チュッ…

ジムニー「く、くすぐったいよ」ピクッ


カプチ「ねえ、前にオイル換えたのいつ?」

ジムニー「……5,000kmちょっと、そろそろと思ってた」

カプチ「じゃあ溜まってたんだ……私が換えてあげるね? カストロールの化学合成油、持ってきてるんだ」


ジムニー「え……!? 汚れちゃうよ!」

カプチ「ジムニーに汚して欲しいの、ほら……恥ずかしがってもドレンから少し滲んでるよ?」ハァ…ハァ…

ジムニー「だって、我慢できない…」


カプチ「ん…」ペロッ

ジムニー「あぁっ……ばかやろ、急に舐めたりすんな」ビクンッ

カプチ「あは、鉄粉の味がする……緩めてくよ?」ドキドキ

ジムニー「うぁ……あっ…だめだ、エンジン温もってるからすぐ出そうに…っ!」ドクッ…ドクンッ…!

カプチ「ぷぁ…っ、いいよ…出してっ──」


S2000「──見つけたぁっ! お前ら、なにこんなとこで不純異性交遊してんだ!!」

ジムニー&カプチ「うわああああぁあぁぁぁっ!?」


S2000「急げ! ジムニー! お前の出番だ!」

ジムニー「で、出番って…!?」

S2000「お前じゃないとプレゼントを届けられない場所があんだよ! お前がセカンドトナカイカーになるんだ! 」


ジムニー「セカンド……俺が…?」

カプチ「ジムニー! すごいよ!」


ジムニー「で、でも……もうドレン緩めてて…」

S2000「時間が無えっつってんだろ! おらっ!」キュルキュルスポーン!ドクドクドクドク…

ジムニー「ひぎぃ」ビクンビクン

カプチ「ジムニーーーっ!!」


S2000「ほら、エクスターオイル飲め! 飲め!」コポコポコポ…

ジムニー「げふっ…ごほっ、も、もう規定量…!」

S2000「はい終わり! 行けっ!」

ジムニー「うぅ……慣れた鉱物油の味…」グスン


カプチ「ジムニー! 急いで! プレゼントは午前0時までしか配れない!」

ジムニー「う、うん…でもカプチ……」

S2000「俺と二人きりになったって、妹のツレに妙な真似なんかしねぇよ! それに俺は一度停まったから、もうここから動けねぇ!」

カプチ「私も、動けない」


ジムニー「……解りました。俺、行きます!」ブォンッ

S2000「神社のところでハイエースさんが待ってる! ブッ飛ばせ!」

ジムニー「はいっ!!」ジャリッ…ギャギャッ!!


ブオオオォオォォン……


S2000「……カプチちゃん、助け呼べるアテある? あ、だめだ、滑る、側溝落ちそう」ツツツーーー

カプチ「無いです」

S2000「あっ」ガコンッ


………


…神社前


ハイエース「──来たか!」

ジムニー「すみません! 待たせました!」ズシャアッ


サンタ「よし、それでは手分けをするか……ミニスカサンタ娘」

ミニスカ「はい、お祖父様」

ジムニー「こちらは……?」

サンタ「私の孫だ、こいつを乗せてやってくれ」

ミニスカ「キャッ…いきなり騎乗位だなんて」ポッ


ハイエース「ジムニー、この道はとにかく狭い。舗装もされてねえ……気をつけて行けよ」

ジムニー「何度か登った事ならあります!」

ハイエース「馬鹿野郎、積雪時の経験もあるってのか?」

ジムニー「それは……」フルフル


ミニスカ「それじゃあ、お守りのツノトロフィーもちゃんと着けましょうね」

ハイエース「ツノは毎年使い回しだろ? 予備があったのか?」

ミニスカ「ちゃんとセカンド用がありますわ。ほらっ」ピタッ

サンタ「鼻飾りもな」ポチッ


ジムニー「へへへ……どうですか? ハイエースさん」クルッ

ハイエース「ああ、なかなか勇ましいぜ」

ジムニー「憧れてたんだ……嬉しいなぁ」ジーン

ハイエース(どう見てもシカのツノと正月飾りのミカンだけど、言わねぇでおくか……)


ジムニー「じゃあミニスカサンタ娘さん、乗って下さい! 急ぎます!」ヴォンッ

ミニスカ「失礼しまぁす、んっ…」ウットリ

ハイエース「さすがこのジジイの孫娘だぜ」


ジムニー「ハイエースさん、呼んで頂いてありがとうございました。残りの道、お気をつけて!」

ハイエース「生意気言ってんじゃねーよ、そっちこそ谷に落ちるんじゃないぞ」

ジムニー「はい、気をつけます! それじゃ!」ヴォンッ!

ミニスカ「あんっ…激しいっ……」


ブオオォォォン……


ハイエース(……本当に気をつけて行けよ)

ハイエース(上手くこなせば……山の上の集落に子供がいる限り、お前は不動のセカンドになれる器だ──)


………



ブオオオオォォオォォッ!
ジャリッ…ザザザッ!


ジムニー(──くそ、ハイエースさんの言う通りだ)

ジムニー(走った事はあっても、夜……しかも積雪路。路面の凹凸や転石が全く判らない)


ゴロッ……ズザザッ!


ジムニー「うぉっ…と!!」ガタンッ!ズシャァッ…!

ミニスカ「すごい突き上げ……サスが底突きしちゃいそう……っ!」ビクンビクン

ジムニー「大丈夫ですか!? 喋ってたら舌噛んじゃいますよ!」ヴォオオオォォォッ!

ミニスカ「もっとぉ…もっと激しくぅっ!」トローン


ジムニー(五合目は超えた……でも、この先に丸太橋があったはず)

ジムニー(登り勾配に設置してあったし、左右の勾配さえ怪しいもんだ。滑ったら谷底だぞ…)


ガォンッ!ブロロォオオォォッ…!
パラパラパラ…


ジムニー「あった…! 丸太橋だ!」

ミニスカ「私、マグロじゃないもん!」

ジムニー「ミニスカさん、一応降りて下さい。渡りきったところでまた乗ってくれたら」

ミニスカ「お預けは嫌ぁ…」ウルウル

ジムニー「……知りませんよ、じゃあ突っ切ります! 4L切替…本気モードだ!」ヴォンッ!ヴォオオォォォ…


ガタッ…ズズズッ……
…ヴォンッ…ブロロロロ……ヴォンヴォンッ…


ジムニー「もう……少し、丸太の継ぎ目からタイヤを外さないように…っ!」

ミニスカ「私、この振動知ってる……っ」ヴヴヴヴヴ…


ジムニー「よし……丸太橋クリア! あとは路面は悪くても普通の林道と変わらないはず…!」ガォンッ!ヴォオオオォォォ…

ミニスカ「フィニッシュ間近……いいわ! どこにでも!」ハァハァ


ポロポロ…カランッ…
ザシャッ…ズズズ……


ジムニー(でも油断はできない……あちこちで小規模な落石が起きてる)

ジムニー(この先の道が、無事とは限らないな──)


──ザザッ!ブロロロオオォォォォッ…!
ザザザッ…ヴォンッ!

ズシャァッ!


ジムニー「!!」

ミニスカ「あぁんっ…急に止めるなんて意地悪…っ」ビクッ…ビクンッ…

ジムニー「道が…半分埋まってる…!」


ジムニー(片側が谷のところじゃないだけマシだけど、軽自動車分の幅さえ残ってない)

ジムニー(横方向の角度は30度はあるか……側面が岩壁だから転倒はしようが無いものの、ボディはガリガリだな…)


ジムニー「でも──」ヴォンッ…!!

ミニスカ「あぁ……入ってく…! 隙間を押し分けて入ってくる……っ!!」ゾクゾク

ジムニー「──ジムニーがキズを怖れてどうすんだっ!」ヴォオオオォォォォッ!!


ガリッ…ギギギギ…ッ!
ヴォオオォォォンッ…ヴォンッ……メコッ…ガリガリガリッ!


ジムニー「ぐっ……痛くない…っ!」グググ…ッ!

ミニスカ「こ…擦れちゃってるよぉ……!」ガクガク

ジムニー「キズ……錆…泥汚れ……全部っ…! ジムニーの勲章だっ!!」ヴォオオオォォオォォンッ!!

ミニスカ「らめえええぇえぇぇぇっ……!」ビクンビクン


ザザッ!ズシャッ!


ジムニー「越えた……! 駆け上がるぞ──!!」ヴォンッ!!


……………
………


…26日、午後


ジムニー「──痛てて…」

カプチ「ジムニーと言えど、さすがにこの凹み具合は入院・板金コースだねぇ」クスクス

ジムニー「年末だからどこもいっぱいだって、錆止めだけ塗って帰されたけどね」

カプチ「じゃあ年始早々、入院療養かぁ……大変だね」


ジムニー「退屈だから、見舞い来てくれよな」

カプチ「行きますとも、私は貴方のカノジョさんですから」ニヤニヤ

ジムニー「わ、わざとらしい言い方すんなし」テレテレ


ジムニー「プレゼント貰った子供、喜んでたけど驚いてもいたなー」

カプチ「あはは……だって、左側面がベコベコになった車が来たんだもん、そうなるよ。ほとんど事故車だよ?」ケラケラ

ジムニー「……でも『格好いい!』って言ってくれたよ」ポリポリ

カプチ「うん、ジムニーはカッコいいよ!」フンス

ジムニー「へへへ、照れるぜ──」


ハスラー「──なにヘラヘラしてんのさ、見せつけるのも程々にしてくれよ」チッ

ジムニー「ハスラー……ありがとうな、お前が俺の名を挙げてくれたんだろ?」

ハスラー「ふん、雪さえなきゃボクが行ってたさ」プイ


ジムニー「そうだね、雪と最後の土砂崩れが無かったら、ハスラーでも行けたと思うよ」

ハスラー「……本当かい?」チラ

ジムニー「うん、お前だってスズキの誇る立派なクロスオーバーだろ」

ハスラー「おだてたって何も出ないぞ」

ジムニー「おだててるんじゃないよ」クスクス


ハスラー「あー、うん……その、ジムニー……よかったら、なんだけどさ──」


S660「──あ、カプチ!!」

コペン「出た! 噂の二人だ! これはお話きかなきゃ!!」フンスフンス

タントカスタム「チョーウケルー」


ジムニー「うわ……これ、まさか」

カプチ「あぁ、もう…っ! S2000先輩、内緒にしといてって頼んだのにぃっ!」ガーン


ジムニー「悪い、ハスラー! また今度聞くよ! カプチ、逃げるぞ!」ヴォンッ!

ハスラー「あ、ああ……また」

カプチ「ごめんね、ハスラー君!」キュキュッ!ヴイイィィィィン……


ニゲタゾー!オイカケロー!
マテマテー!ドコマデヤッタ カ キカセロー!


ハスラー「やれやれ、妬けるね」フゥ…

ハスラー(でも、また今度……林道連れてってくれよな──)


【おわり】


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