アクア「犬ね!」ダクネス「雌犬だと……ハァハァ」カズマ「はぁ……」 (45)


※この素晴らしい世界に祝福を!のSSです。
 オリジナルキャラ(動物とモンスター)が登場します。
 オリジナルキャラ苦手な人は注意してください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460467328



 ふぅ……いい朝だ。
 今日も屋敷を全力で警備していた俺はそろそろ就寝しようかと布団に潜り込んだ。

「カズマーカズマさーん」

 無事仕事を終え、お疲れモードの俺をどっかの駄女神が呼ぶ。

「カズマーカズマさーん」

 当然無視だ。俺は疲れているんだ。
 これ以上の厄介事はごめんだ。

「カズマー!カズマってば!起きてるんでしょう!?」

 迷惑女神が俺の部屋の前でドアをドンドンと荒々しく叩く。
 寝よう。俺は寝るぞ!

「このヒキニート!部屋から出てきなさい!あなたは包囲されているわ!田舎のお母さんが悲しむわよ!」

 だんだん楽しくなってきたのか、アクアは適当な事を言い出す。

「今ならカツ丼……いえ、カエルの照り焼き定職を署で出してあげるわ!さあ、吐きなさい!あなたを、犯人です!」

 悪い事は何もしてないのに、俺が一体何を吐くというんだよ……
 はぁ……このままアクアを放っておくと、何をしでかすかわからないし、部屋のドアを開けてやるとするか。

 観念した俺は部屋のドアを開けた。
 そこにはアクアが----

「ったく、どうしてカズマはこっちの世界でもヒキニートなの?だからヒキニートなのよ」


 か、かわいい。


「ねえ?カズマーカズマー?聞いてるー?もしもーしバカですかー?……って、いひゃいいひゃいいひゃい」
 調子に乗っているアクアの頬を引っ張り、俺は改めてアクアが抱いていた、かわいいそれを見た。



「なぁ?何で犬抱いてんの?」

 
  *  *  *



「かわいいですね。かわいいですね」

 めぐみんが目を真っ赤にしながら犬を抱っこしてナデナデしている。
 いいなぁ……。俺も犬になりたい。
 犬になったらスカートとか覗き放題だよな。
 それにペロペロしても犯罪にならないし、あぁ……いいなぁ……犬。

 犬を撫でているめぐみんをダクネスが羨ましそうに。

「な、なぁ。そろそろ私に代わってくれないか? もちろんこの犬を抱っこするだけだ。
決して首輪をつけて犬になりたいとかそんな事を考えていないからな。
もちろんだが、夜に薄着で散歩プレイをしたいだなんて考えてもいない」
 チラチラこっちを見るダクネスを無視して、めぐみんが続ける。

「そういえば、この子の名前は決まっているのですか? 決まっていないのなら、私が素敵な名前を考えますが」
 めぐみんが何か恐ろしい事を言った気がするが……
 というか、めぐみんは自分に名前をつけるセンスがあると、本気で思っているからたちが悪い。
 そんなやり取りを見ていたアクアがフフンと胸を張って。

「この子の名前はクイーンチャコール・ヴァイデンよ。この子はいずれ犬どころかワーウルフすらをも統べる犬族の王女になるわ。
そうね、この子を呼ぶ時はヴァイ姫とでも呼んであげて」

 
  *  *  *


 クイーンチャコール・ヴァイデン。
 小さい。本当に小さいの一言に尽きる。たぶん、生まれてほんの1ヶ月くらいの柴犬だ。
 手と足はまだまだ短く、毛並みは茶色で、目はクリッとしていてかわいい。


 この犬は、拾ってくださいと書かれた段ボールに捨てられていたらしい。
 それを見たアクアが拾って来たとの事。
 うーむ。本当は元の場所に戻してきなさい! というのが筋なんだろうが……

「わんわん」

 みんなに撫でられて、嬉しそうなヴァイ姫を見たら、それを言えなくなる。
 こんな小さいのにみんなを魅了するとは……将来は大物になるのかもしれない。


「じゃあ、ヴァイ姫だっけ? 俺はカズマ。よろしくな」
「わん!」

「そういえば、自己紹介がまだでしたね」
 めぐみんが立ち上がり、バサッとマントを翻し。

「我が名はめぐみん! アークウィザードをにして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者! アクセル随一の魔法の使い手にして、いつか爆裂魔法を極める者!!」
「我が名はアクア! 崇められし存在にして、やがて魔王を滅ぼす者!」
「私はダクネス。よろしくな。ヴァイ姫」
「わん!」

「あー! ダクネス、ノリが悪いわよ!」
「はぁ……ダクネスには失望しました」
「し、しかし、そういうノリは苦手で……」

 三人がワイワイガヤガヤ騒いでいると。
「にゃーん」
 我が家のペット……めぐみんの使い魔のちょむすけがヴァイ姫を舐めていた。

 よかった。犬と猫は仲が悪いと聞くが、特に問題ないようだ。

「じゃあ、ヴァイ姫の飯を買いに行くか。あと首輪とか必要な物もそろえないとな」
「ああ、そうだな。ふふっ……それにしても首輪か。色んな首輪があると聞くが、似合うものがあるといいな」
 ダクネスが意気揚々と立ち上がった。
「お前の首輪は買わないからな」
「……わかっている」
 ダクネスが寂しそうに呟いた。



 一日一爆裂に行く私達。
 いつもはカズマかダクネスと二人で行くのだが、今日からは新しく可愛らしい仲間が、一生懸命に連いてきている。

「頑張れ! ヴァイ姫! もう少しだからな!頑張れ!」
「わん!」

 この犬が来てから一週間。
 最初の頃は栄養が足りてなかったのか、走り回ったりできなかったが、今はもう元気過ぎて困るぐらいになっていた。
 その有り余る元気を少しでも発散させるために、今日から一日一爆裂に連れてくることにしたのだ。
 まぁ、困っているのは、主な遊び相手のちょむすけなんですが……。

「めぐみん。この辺にしないか? さすがのヴァイ姫も疲れてきているみたいなんだが……」
「まったくカズマは親バカか何かですか? ヴァイ姫はこんなに小さいとはいえ犬です。あまり甘やかしたらダメですよ」
「いや、だが……」
「ヴァイ姫。まだまだ元気ですよね?」
「わん♪」
 ヴァイ姫が元気に吠える。この犬は人間の言葉がわかる賢い子なのかもしれない。

「ほら、元気じゃありませんか」
「ぐ、ぐぐぐぐぐ」
 カズマが珍しく悔しそうにしている。
 カズマの悔しがる姿を見る事ができるなんて……ヴァイ姫には感謝しなくては。


「そ、それより、ヴァイ姫に紐が必要だろ。もしいなくなったら……。なんでこの世界では犬に紐をしないのが常識なんだよ……」
「はぁ……。またその話ですか。いいですか、カズマ? 紐は元々、勝手に人を襲ったり逃げたりする犬にする物。
ヴァイ姫は賢い子です。勝手に逃げたりしません。襲ったりしません。安心してください」
「賢いのはわかってるんだが……でもなぁ……」

 ヴァイ姫を飼ってわかった事がある。
 それはカズマが親バカだという事。
 ヴァイ姫の姿が少しでも見えなくなると、心配ばかりしている。
 この人と結婚した人は、子供の教育とかで大変な目にあいそうな気がする。


「ふふっ」
「おい。なんで笑ってるんだよ……」
「いいえ。将来大変だなと思いまして……。それより、あの岩に爆裂魔法を使いたいのですが」
「わかった」

 カズマがヴァイ姫を抱っこする。
 いくらヴァイ姫が賢い子とはいえ、初めての爆裂魔法には驚くかもしれない。
 いや、驚いてもらわないと困る。
 さあ、今日はヴァイ姫に爆裂魔法を披露する日。


 私は少し緊張し。



「『エクスプロージョン』ッッ!」





----私の生涯をかける爆裂魔法を新しい仲間に披露した。


 



 私が筋トレをしていると、ヴァイ姫が帰ってきた。
 ヴァイ姫がこの家にきて、すでに一ヶ月。
 友達でもできたのか、よく出かけるようになった。

「ヴァイ姫。遊んでくるのはいいが、身だしなみは常に整えないとダメだ。貴族の嗜みというものがあってだな」
「わん」
「まったく……返事だけはいいな」

 どこで遊んできたのか、ヴァイ姫は汚れていた。
 育てると決めたのだ。きちんと育てないといけない。
 どこに行っても恥ずかしくないよう、礼儀作法を身につけさせないと。

「ぐがーぐがー」
 ソファーで、真昼間から寝ている、あの男のようになって貰っては困る。
 この家で一番まともな私が躾をしなければ、ヴァイ姫がダメになってしまう。

 
  *  *  *


 私は外で桶に水を張り、ヴァイ姫を洗ってやることにした。
「ダクネス? 何をしているの?」
「アクアか。見ての通り、汚れたヴァイ姫を洗ってやっている」
「まったくこの子は。毎日ふらふら遊びに行って、誰に似たのかしら?」
 絶対にアクアとカズマの影響だ。


「きゃんきゃん」
「おっと、暴れるな。こらっ」
 ヴァイ姫は何故か水が好きで、水遊びをしたがる。
「ちょっと、もぉ。ヴァイ姫ったら……」

 水しぶきがアクアにかかり、それをヴァイ姫が舐めとる……顔を舐めとる。
「はいはい。ありがとうヴァイ姫。もう大丈夫だから……もうっ。くすぐったいってば」

 普段ご飯をやっているアクアへの恩返しのつもりか、ヴァイ姫がアクアの頬をペロペロと舐める。
「ねえ、ダクネス?ちょっとヴァイ姫を捕まえてくれないかしら?ダクネス?」

 も、もしもの話だが、水が大好きなヴァイ姫のために、その……私のちょっと敏感な部分に水をかけたら……その部分を舐めとってくれるのだろうか?

 い、いや、きっと賢いヴァイ姫の事だ。そんな事するはず……
 しかし、ヴァイ姫はこう見えて恩義に報いる方だと思う。
 う、うむ。そのように育てたつもりだ。そう貴族とは恩義に報いる生き物だ。

「ちょ、ちょっとダクネス!? なんでダクネスの方が犬みたいにハァハァしているの!? め、目が異常よ!? ダクネス!!!?」




 その後、アクアの身に危険を感じたのか、ヴァイ姫が私を襲って来た。
 まだまだ攻撃力が足りないようで、気持ちよくなかっ…………これでは番犬としてどうかと思う。
 今度からヴァイ姫を鍛えてやろうと私は密かに誓った。



「ただいまー」
「わんわんわんっ」

 私が帰宅するとヴァイ姫がお祭りのように騒いでお出迎えをしてくれる。
 さすがアクシズ教徒のヴァイ姫ね。お祭りが好きみたいで安心したわ。

「お出迎えありがとう。ヴァイ姫」
 ヴァイ姫の前だと私は自然と笑顔になってしまう。

「行くわよ。ヴァイ姫」
 たった今買って来たお酒を自室に持っていこうとすると、ヴァイ姫がついてくる。
 ヴァイ姫はお利口さんで、お母さんである私を護衛してくれる。
 私がお風呂に入る時は、外でジッと待って、カズマが覗きをしないように見張ってくれ、
 私が寝るときは、一緒のお布団に入ってきて、私を癒してくれる。



 どうしよう。この子。可愛すぎるんですけど。

「なぁ、ヴァイ姫。今晩は俺と一緒に寝ないか?」
 私がヴァイ姫に癒されていると、我が家のヒキニートが話しかけてきた。

「カズマ、ヴァイ姫は私が好きなの。年中ヒキニートのあなたは嫌いって言っているの」
「ぐっ。毎日毎日お前ばっかり卑怯だぞ!」
「ふふん。なんとでも言いなさい。さあ行くわよ、ヴァイ姫。その男と喋っているとゲスになっちゃうわよ」
「ヴァイ姫! 俺と一緒に寝てくれるなら、この高級な餌をやるぞ!」
「まったく……。ヴァイ姫を何だと思っているの?いい?私とヴァイ姫は親子みたいなものなの! 親子の愛情はお金や物じゃ揺るがな……あ、あれ?ヴァイ姫!? なんでそっちに行くの!?」

「最近、クエストに行かない貧乏なお前は嫌なんだと。じゃあなアクア。今日は一人寂しく寝ろよ」
「いやぁぁぁぁ。カズマさーーーん。お願いだからヴァイ姫を返してーーーー!」
「ほら、ヴァイ姫。お母さんにバイバイしろ」
「ヴァイ姫!? なんでバイバイするの!? カズマさん! お願いだから私も一緒に寝かせて!」



 その夜、カズマのベッドに侵入しようとした私は、めぐみんとダクネスに取り押さえられた。



------クエストに行ってお金を稼ぐわよ!!! カズマ! 覚えておきなさい!



 私は深く誓ったのだった。



「カズマ?」

「ん?どうかしたのか?」

「ヴァイ姫が私のパンツを持っていこうとしたのですが?」

「はははは。ヴァイ姫もお年頃だなー。パンツを履きたいのかな?」

「試しにパンツをくわえさせたら、カズマの部屋の前に持って行ったのですが?」

「…………」



 ヴァイ姫に何を教えてるんだコラァ!と言わんばかりに……というか言われて、女性陣にボコボコにされた。

 
  *  *  *



「お手」
「わん」

「おかわり」
「わん」

「ちんちん」
「わん」

「おぉー。上手だな。ヴァイ姫」
「おい。言いたい事はそれだけか?」

「め、めぐみん……さん?」



 またボコボコにされた。ちょっと過保護すぎると思う。

 
  *  *  *



「なんですか?これは?」
 めぐみんが不思議そうに聞いてきた。

「ヴァイ姫用のおもちゃだ。最近裁縫のスキルを手に入れたからな。記念に作ってやろうと思ってだな」

「カズマ……。ヴァイ姫のために裁縫スキルを手に入れるとは……」

「な、なんだよ! ち、違うぞ。これで俺の国の服を作って、一儲けしようかと」

「はいはい」

 めぐみんが全部わかってますからと言わんばかりに微笑んでくる。
 これ以上、話をしても勘違いが進むばかりなので、俺は作業に没頭する。
 今回作っているのは、ぬいぐるみだ。
 ヴァイ姫がちょうどくわえて持っていけるような大きさ。
 噛み心地も良いように計算して作っている。

 これをくわえながら、はしゃぐヴァイ姫を想像すると----うん。早く作ってやろう!


「ふふっ。カズマは最近『さすがに過保護すぎないか?』と私達にいいますが、私からするとカズマが一番過保護ですよ?」

「ちがう。ヴァイ姫がこれで遊んでくれるなら、商品化してウィズの店に置いてもらおうと」

「はいはい」

「ぐっ」



 俺達はそんなやり取りを何度も何度も繰り返した----



 カズマとケンカした。
 いつもいつもカズマは私を駄女神扱い。
 今回ばかりはカズマが悪いと思うの。

「くぅーん」
「ヴァイ姫。慰めてくれるの?」

 ヴァイ姫は好きに撫でさせてくれる。

「まったくダメなお父さんよね……。最近朝帰りが多すぎると思うの。だってカズマは幹部を倒したのよ?もしかしたら魔王軍に狙われる可能性だって。もっと緊張感を持つべきだと私は思うの」

 ヴァイ姫は私の愚痴を聞いてくれる。ずっと。たぶん、私が話続ければ、本当にずっと聞いてくれると思う。

「……ごめんね。あなたの前で弱音を吐いちゃって。うん。幹部だって倒しちゃうカズマの事だもの。朝帰りだって考えがあっての事よね。私謝ってくる」

 まったくこれでは、どっちが親かわからなくなる。
 本当にこの子が来てからは勉強させられることが多い。


「ありがとう。ヴァイ姫」

 私は笑顔でヴァイ姫に----大切な娘にお礼を言った。



「インプの討伐なんて楽勝よね」

 俺達はインプの討伐クエストを受注していた。
 最近、夜の墓場にインプが現れたらしく、それの討伐を……といった内容だ。
 アークプリーストであるアクアもいるし、レベルも高い俺達には手軽なクエストだ。


 手軽なクエストのはずだった。


「敵感知スキルに反応がある……。っ! 数が多い! みんな注意しろ!」
「ふふんっ。私の敵じゃないわ!」
 一歩先に出るアクアをダクネスが静止する。

「アクア一旦私の後ろに下がれ。数が多い、何が起きるかわからない」
「めぐみんは一番後ろに下がって、いざとなったら杖で殴ってくれ」
「わかりました」

 レベルが高いめぐみんなら、通常攻撃でもインプ程度なんとかなる。
 ちなみに爆裂魔法は使えない。だって墓地だから……墓を壊して呪われたくないから。


「キィーッ」
「出たわよ! このクソ小悪魔共! あなた達の報酬でヴァイ姫に美味しいご飯を用意してあげるんだから! 感謝しなさい!」

 こら!なんでお前はそうすぐに突っ込むんだよ!

「『ターンアンデッド』ー!」
「『ターンアンデッド』ー!」
「『ターンアンデッド』ー!」
「『ターンアンデッド』ー!」
「『ターンアンデッド』ー!」
「『ターンアンデッド』ー!」
「『ターンアンデッド』ー!」
「『ターンアンデッド』ー!」
「『ターンアンデッド』ー!」


「『ターンアンデッド』ーーーーー!」



 おぉっ。さすがアクア。かなりの数のインプが討伐されたぞ。残りは少ない。

「どうカズマ?もう全滅したかしら?所詮インプなんてこの程度よね」
 だから、お前はどうしてそう調子に----

 って、アクアの後ろに何か……しまった!

「アクア! 後ろだ!!!」

「え?」

 切り裂かれてしまった。
 アクアの後方にあった墓石、その陰にインプが一匹隠れていたのだ。

 切り裂かれてしまった。
「きゃあああああああああああ」
 アクアを庇ったヴァイ姫が------切り裂かれてしまった。

 まるでコマ送りのように現実が映る。
 アクアを庇ったヴァイ姫はそのまま地面に倒れる。
 真っ赤だ。救急車を呼んでも…………もう助かりそうもないくらい、血を出している。

 って、そうじゃない!
 なんでここにヴァイ姫がいるんだ!?
 今までクエストについて来た事なんてないはずだ。
 ……もしかして、気付かなかっただけで付いて来ていたのだろうか?

「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでヴァイ姫がここにいるの……いるのよぉ」
 アクアの悲鳴のような声が聞こえる。
 めぐみんとダクネスも固まっている。
 みんなヴァイ姫がなんでここにいるの?と考えているのだろう

 って、違う! そうじゃない!
 クールだ! 頭を冷やせ。そうクールだ。佐藤和真。

 救急車なんて呼ばなくていい! というかここは異世界だ! 救急車なんて存在しない!
 そう! アクアだ! アクアがいる!

「アクア! ヒールだ! 急げ!!!」

 ヴァイ姫を抱いて泣いていたアクアがハッとした表情になり、ヒールをかける。
 大丈夫だ。アクアなら蘇生だって出来る。
 今までだってそうやって来たじゃないか! 何を慌てているんだ俺!
 ヴァイ姫が死ぬことはない! 絶対に!


「ダクネス! アクアを守れ! 絶対に守ってくれ! めぐみんは俺と一緒にインプを討伐するぞ! 爆裂魔法の衝撃だけでアクアのヒールの邪魔になるかもしれないから、俺のショートソードを使え!」
「わかった! 命に懸けてアクアとヴァイ姫を守る。任せてくれ」
「わかりました。ヴァイ姫の体に傷をつけたインプ達を殲滅してやりましょう」
「行くぞぉぉ!!!」

 俺は装備していた日本刀もどきでインプに襲いかかった。

 
  *  *  *



 ヴァイ姫は無事だった。
 アクア曰く、死ぬ一歩手前だったらしく、血を流し過ぎたから数日安静に。との事だ。
 よかった。本当によかった。

「わんわん♪」

 ヴァイ姫は元気に俺達の周りを駆け回り、それを見ていたアクアが「安静にって言ったでしょ、ヴァイ姫」と微笑みながら注意している。
 みんなも笑顔だった。
 犬だからとかではなく、俺達は家族なのだ。誰一人欠けてはならない。

 インプの討伐を完了し、明日の朝、討伐の報告をする事にし、俺達は家に帰ることにした。
 ヴァイ姫は元気だった。
 ヴァイ姫はいい子だ。俺達を心配させまいと元気に振る舞っているのだと思う。

「今日はいい肉を買って宴会にしようぜ」
「そうね。ヒールで血の補充は出来ないし、少しでもいいものを食べたほうがいいと思うわ」

 俺とアクアが話をしているとダクネスが。
「血の補充=肉は関係ないと、何かの本で読んだことがあるぞ」
 げっ。そうなの?

「まぁまぁ、ダクネス、良いではありませんか。今日はヴァイ姫の初めてのクエストクリアの日。
お祝いとして好きな物をプレゼントするという事で」
 ああそうだな-----とダクネスが言ったその時。




------ヴァイ姫は倒れてしまった。


 



「一応、毒は治療したわ……。でも……」
 もう長くないかもとアクアが告げた。


「どうして……どうして、俺じゃなくてヴァイ姫が……」
「カズマ……」
 ヴァイ姫はインプの爪で引き裂かれたときに、大ケガだけではなく、毒にも侵されていた。
 くそっ。なんでだ。なんで俺は気づいてやれなかったんだよ!
 すぐに気付ければまだ対処があったかもしれないのに!


「カズマ知ってる?」
 アクアが俯いて、目を合わせずに話してくる。
「病で死んだ者は蘇生魔法で生き返らせる事ができないの」
 おい。やめろ。なんで今そんな話を……
 そんな話をされると、まるでヴァイ姫が……

「おいアクア、毒は治ったんだろ?じゃあ、全部解決だな。ほら、宴会やろうぜ。とっておきの宴会芸を見せてくれよ」

 アクアは顔を下げたまま。
「毒は治ったわ……でも……」
 なんで声が震えているんだ? お前はいつも空気が読めないよな。
 いい加減、空気を読んでくれよ……お願いだ、頼む!

「で、でもね」
 ようやくアクアが顔を上げた-----


「ヴァイ姫はね。毒の中、頑張ったの。
本当なら動けないほど強力な毒。でもヴァイ姫はお利口さんだから、私達に心配かけまいと頑張ったのよ。
すごくきつかったと思う。すごく大変だったと思う。すごく痛かったと思う。
でも、ヴァイ姫はいつも通り、普段通り、私達に毒を気付かせないようにと精一杯頑張ったの」

 顔を上げたアクアは……泣いていた。
 肩を震わせ、ボロ泣きしていた。

「毒で弱ったせいで……その後、無理したせいで……なにかの病気にかかっちゃったみたい……
病気で死んだ生き物は、蘇生魔法では生き返らせる事が出来ないの」


 日本でも、お年寄りとかが、ちょっと疲れて免疫力が落ちた時、急に肺炎に掛かって亡くなるケースを聞いたことがある。
 たぶん、ヴァイ姫も……。

「アクア。病気でしたら、まだ時間があるのでは?今から病院を探せば……」
 めぐみんが提案してきた。
 そうだ! いくらなんでもすぐに死ぬことはないだろう。
 それまでに病院を探せば!

 ずっと黙っていたダクネスが深刻な顔で。
「それは無理だ。犬の病院などは聞いたことがない」
「っ!」
 そうか……ここは異世界。医療関係は日本に遠く及ばず。
 そもそも動物病院がないのか……。
 本当にないのか?

「で、でも時間はあるんだろう?じゃあ、探そうぜ。もしかしたら、犬を見てくれる物好きな医者が……」
 俺の提案にアクアが首を横に降る。
「……時間はないわ。今のヴァイ姫はすでにHP0の状態よ。生きているのが不思議なくらい」

 なっ、HP0って……
 HP0になるまで毒の痛みに耐えていたという事なのか。
 俺達に心配をかけさせないために……

 あぁ……俺はなんで気付いてやれなかったんだ。
 あぁ……俺はなんでアクアが女神で回復魔法だけは優秀だと教えなかったのだろう。
 賢いヴァイ姫だ。俺がアクアが優秀と教えていれば、HP0まで頑張らずに、さっさと解毒して貰おうとしたのかもしれない。


 俺がちゃんとしていれば----

 


「わん」
「みんな! ヴァイ姫が気付いたわ!」
 ヴァイ姫はアクアの膝の上で、俺達を見つめてくるだけで……動かない。いや、動けない。
 アクアは何も言わずにヴァイ姫を撫でている。

 しばらくの沈黙。
 ダメだ。何を言っていいか、何を喋ればいいかわからない。
 こんなとき、どうしていいのか。わからない。
 みんな同じ気持ちだったのだろう。
 もしかしたら、この沈黙がずっと続くのかもと思っていたら、めぐみんが。


「今日はまだ一日一爆裂に行っていませんでしたね。
ヴァイ姫。今夜はゆっくり休んでください。
明日、目が覚めたら一日一爆裂に行きましょうね」
「わん♪」
 ヴァイ姫が陽気に返事をする。
「ふふっ。約束ですよ?」
 めぐみんは微笑みながら……涙をポロポロと流しながら大切な約束をした。
 強いな、めぐみんは。

「ん。次は私だな。ヴァイ姫、謝りたいことがある」
「?」
 ヴァイ姫がキョトンとしている。かわいいなぁ……。

「そのすまなかったな。私の敏感な部分に甘いものを塗って、お前を困らせた事があったな……おい! カズマなにをする!」
「うっせぇ! お前は最後に何をいうつもりだ! というかヴァイ姫に何をした! このド変態が!」
「ド・変・態だと!? くぅぅぅっ! か、カズマ、時と場合を考えろ! なんでこの場面で私を喜ばすんだ!?」
「いや、お前が時と場合を考えろ!」
「あっ、ヴァイ姫が笑ってるわ」
 アクアの声を聞き、ヴァイ姫を見る。
 正直犬の表情はわかりづらいが……確かに笑ってる気がする。
 そうだよな。これが俺達のやり取りだったよな。

 俺が優しくヴァイ姫を見ていると、ダクネスが片膝をつき祈りを奉げるポーズで。
「エリス様のご加護がありますよう……いや、お前のお母さんと同じ名前の、水の女神アクア様のご加護がありますように。
水と宴会が好きなヴァイ姫の事だ。きっと水の女神アクア様にも好かれる事だろう」

 そういうとダクネスは祈りのポーズをやめ。
「今度、私と一緒に寝よう。お前のお母さんの冒険談を沢山聞かせてやろう」
「わん!」
 ダクネスは凛々し表情で……涙を一筋流しながらヴァイ姫を撫でた。
 ありがとう、ダクネス。

 次は俺の番だ。
「俺には夢があるんだ」
 みんな黙って俺の話を聞く。

「俺の夢はハーレムを作る事……って、こら! 聞け! 最後まで聞いてくれ!」
 殴りかかってきためぐみんとダクネスを静止し。

「まぁ、だからさ、ヴァイ姫。お前は俺のハーレム要員の1番目で娘枠だ。どうだ?嬉しいだろ?」
「わん♪」


「ちゃんといい娘に育つんだぞ。友達もたくさん作ってさ。でも男友達もダメだぞ。彼氏なんて論外だ。絶対に許さん」
「この男は何を……」
「親バカですね」
 ダクネスとめぐみんが呆れている。

 そんな二人を無視して、俺は続ける。
「俺の傍を離れるのはダメだ。絶対に許さん。だってヴァイ姫は俺の娘なんだ。ずっと一緒だからな」
「わん!」
 泣いていない。目から汗なんか出ていない。


 絶対に泣いてなんかいない!

「じゃあ、みんな最後の挨拶は終わったわね?」
 最後の挨拶とか……相変わらず空気が読めない女神だ。
 みんなそういうワードを出さずに陽気……にやったっていうのに。


 アクアがヴァイ姫を抱きしめる。
 ヴァイ姫がアクアの胸の中で心地よさそうに鳴く。
 そして、アクアが優しい表情で、優しい声でヴァイ姫に告げる。

「親より早く亡くなる親不孝な娘、クイーンチャコール・ヴァイデン。
水の女神アクアの名において、あなたの罪を許しましょう。
……目が覚めると、目の前にエリスという不自然に胸がふくらんだ女神がいるでしょう。
彼女に頼みなさい。天国に行きたいと。
数年後……もしかしたら数十年後かもしれませんが、必ずあなたの母が会いに行きます。必ず。絶対に」


 女神のようなアクアの表情が徐々に崩れていく……。


 アクアの涙をヴァイ姫が舐めとり……。


「---!」


 小さく……本当に小さく吠えた。
 絶対に会いにきてね! と言ったような気がした。








 その声を最後にヴァイ姫は動かなくなった。

■エピローグ

 魔王討伐を終えた先輩がここに帰ってきた。
 なんだかんだほっとけない先輩が、無事戻ってきてくれた事が嬉しくて。

「先輩、おかえりなさい。本当にお疲れ様でした」
 と笑顔で出迎えたのだが。

「エリス! ヴァイ姫は! ヴァイ姫はどこにいるの!?」

「え……えーと、確か、あっちの天国のこっちの方に」

「ありがとうわかったわ!」

 すぐにいなくなってしまった。はぁ……先輩らしいというか。
 まぁ、今は天国の様子を見てみよう。


「ヴァイ姫! ヴァイ姫! ヴァイ姫! ヴァイ姫!」
「わんわんわんわん♪」
 感動の再会。経緯を知っている私としても、とても嬉しい。
 二人が出会えて本当によかった。

「ヴァイ姫! 会いに来たわよ! さあ、あの異世界に帰るわよ!」
 え?
「大丈夫。ヴァイ姫の体はウィズの魔法で冷凍保存しているの。
今の女神パワーが完全に復活した私なら、体さえあれば天国にいるヴァイ姫でも、簡単に蘇生する事ができるわ!」
 ちょ、ちょちょちょちょっと! 確かに女神の中でも最高クラスの先輩なら出来るでしょうけど、上への報告は誰がやるの!?


「あっ、その前にちょっと報告よ。実はあなたに弟が出来たのよ! 聞いて驚きなさい! 名前はキングスフォード・ゼルトマン----」
 ま、まぁ、先輩、嬉しそうだし、ちょっとぐらい頑張ろうかな……

 先輩は話を続ける。今までの冒険談を----
「でね、カズマさんが卑怯な手を使って魔王を----。ね?すごいでしょ?」
「わん♪」

 先輩は異世界にヴァイ姫を連れていくのを忘れ、冒険談を続ける。
 無邪気な子供の用に、はしゃぐ先輩を見て私は----


「運がない先輩にちょっとだけ。……良い事がありますように」

 幸運を司る女神である私が手を掲げ、心の底から祈りを捧げた。





「先輩とその家族に祝福を!」










       終わり

これにて終わりになります。
読んでくれてありがとうございました!
また機会があればよろしくお願いします!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom