お嬢様「わたしが、王立の魔術学校へ入学……ですか!?」 (149)


父「そうだ……入学は来月だから、それまでにお前も色々と準備しておくように」

お嬢様「ま、待ってくださいお父様!」

父「?……どうした、何か問題でもあるのか?」


お嬢様「その……わたしには魔術の素質は無いと、家庭教師の方もおっしゃっていたではありませんか……それなのに、どうして」


父「決まっている……それは王立魔術学校がこの王都で最も権威のある名門校であり、お前は王都で最も力のある貴族の娘だからだ」


母「そうですよ、貴方にはいずれ王族の方の元へ嫁いでもらうことになっているのですから……それなりの学位も修めておかなければ」

お嬢様「そんな、お母様まで……」


父「あくまでも肩書きとしてだがな、王族の妃となる者が直接魔術を扱う必要もなかろう」


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お嬢様「で、でも……そもそもわたしが魔術学校の入学試験を通るはずは……魔術なんて少しも扱えないのに」


父「それについては仔細ない、我々は貴族だ……その程度のことは私が手を回せばどうとでもなる」

お嬢様「!」


母「貴女はただ……魔術学校に在籍し、良き生徒である事を皆に示した後、ただ卒業すればよいのです」

お嬢様「そ、それは……その」

父「いきなりのことで困惑するのは無理もない、しかしこれはもう決まったことなのだ……分かるな?」

お嬢様「…………」


父「まぁいい……今日はもう遅い、自分の部屋でゆっくり休め、明日から忙しくなるだろうからな」

お嬢様「…………はい、お父様、お母様……おやすみなさい」

母「おやすみなさい、よい夢を」


お嬢様「……よい、夢を」

~自室~

お嬢様「……あぁ、お父様もお母様も勝手に……何もかも、いつの間にか一方的に決めてしまって」

お嬢様「……きっと二人とも、わたしの言うことを聞く気なんてないんだわ……はぁ」


お嬢様(けど……どう足掻いたってわたしは貴族であり、彼らの娘……その期待には応えないと)

お嬢様(そのために、わたしは生まれてきたのだから……)


お嬢様「………はぁ」



昔、家の庭に大きな木があった。


背が高く、張り出した枝には葉っぱが青々と茂った大きな木。

中ほどにあった樹洞に、リスが数匹住み着いていたことを、今でもよく覚えている。


わたしはその木に登って、そこから見る景色が大好きだった。

街は遠く、空は近く、どこまでも何もかも見渡せるその景色が



しかしあるとき、両親はそんなわたしの行動を危うく思い、そして厳しく叱責した。

「お前は貴族の娘だ、その体はお前一人の物ではない、そのことをよく覚えておけ」と



次の日、庭の木はもう無くなっていた。父に命じられた使用人たちが切り倒してしまったからだ。


おそらくは両親なりに、わたしのことを思いやってのことだったのだろう。

けれど、彼らのしたことの正しさは、わたしには分からない


ただ、あのリスたちが今も平穏に暮らしていることを切に願うばかりだ



チュンチュン


お嬢様「…………はぁ」

お嬢様(………いやな夢)

……

~一ヶ月後、試験当日~


お嬢様「……ここが魔術学校、大きな建物とは思っていたけど……近くで見るとより一層ね」

お嬢様(わたしには縁のない場所だと思っていたのに、まさかここを訪れる日が来るなんて……)


「もう試験だなんて……何だか緊張してきたなぁ」

「心配しなくても、あなたならきっと大丈夫よ」

「だといいけど…」



お嬢様「………はぁ」

お嬢様(他の人はみんな真剣だっていうのに、わたしだけがズルしてこの学校に入学しようとしてる……)

お嬢様「いえ、もしかしたら……わたし以外にもいるかもしれないわね……なんて」ボソッ

ドンッ

お嬢様「わぷっ!」

?「……!」


お嬢様「ぁ……ご、ごめんなさい!わたし、その少しボーッとしていて……それで、その」


令嬢「……………」

お嬢様「……ぁ」


お嬢様(わ、キレイな子……背が高くて、すごくスラッとしてて髪も……じゃなくて!)

令嬢「………」ジー

お嬢様「ぁ、あの……何でしょう、か」


令嬢「…………チッ」

お嬢様「えっ」


令嬢「…………」フイッ


お嬢様「………し」


お嬢様(舌打ち、された……)ガーン

~試験会場~

お嬢様「……はぁ」

お嬢様(何だったのかしら……さっきの、それは確かにぶつかったわたしの方が悪いけど……何も舌打ちしなくったって)


試験官「これより試験を開始します……各自、己の実力を存分に発揮してください」

「始まっちゃった……」

「うぅ、ドキドキするよぉ…」


お嬢様「…………ふぅ」

お嬢様(まぁ、いいか……考えても仕方ない……いまは目の前のことに集中しないと)


お嬢様(まず最初は筆記の試験、これは魔術が使えないわたしでもパスすることは出来る……)

お嬢様(けれど、問題はその次の試験)



試験官「ではこれで筆記試験を終了……次いで皆さまには、 "魔術適正試験"を受けてもらうことになります」


お嬢様「………ふぅ」

お嬢様(……魔術適正試験、各々の魔力量を測定し、魔術に関する適正を考査する試験)


試験官「この試験には、一人ずつ前に出てきてもらい……そしてこの水晶玉に触れてもらいます」


お嬢様(試験方法はとても単純……水晶玉に触れると、当人の素質、魔力量に見合った大きさの炎が水晶の中に現れるというもの)


「お、お願いします……えい!」ピトッ

ボッ

試験官「……はい分かりました、では下がってください」

「………ふぅ」

試験官「では次の方、前へどうぞ」

お嬢様「っ、はい」


お嬢様(普通ならば、魔術の素質のないわたしが触ったところで水晶玉の中には炎は現れない……はず)

お嬢様「だけど……」ピトッ


ボオオッ

試験官「ふむ、これは素晴らしいですね……ふむふむ」

「……ねえ、あれってもしかして」ヒソヒソ

「ええそうよ、あの王都でも最も著名な貴族のお家の方よ……」ヒソヒソ

「やっぱり優れた血筋の方は、素質からして違うのね……」ヒソヒソ


試験官「ご苦労様、では下がってください」

お嬢様「……ありがとうございます」


お嬢様(きっと水晶玉に細工がしてあったのだろう……でなければ、あんな結果になるはずがない)

試験官「では次の方、前へ」


お嬢様「はぁ……」

お嬢様(こんなことをして、他の方たちに申し訳ない……堂々とみんなの前で、こんな)



令嬢「………イカサマ女」ボソッ

お嬢様「……えっ?………あ!」


令嬢「…………」フイッ

お嬢様(あの子、学校の前で会った………というか今、イカサマって)


令嬢「………」

試験官「では、水晶玉に触れてください」


令嬢「…………………」

試験官「……どうかしましたか?早くしてください、後がつかえてますから」


お嬢様(?……何をやっているのかしら、あの子)

令嬢「……すぅ、ふぅ…………」ピトッ


バチバチッ!
ゴォオオオオオオッ!!

試験官「なっ!?」

お嬢様「!!」ビクッ


ボォオオオオオオッ!!!

令嬢「ふ、っ……!」


お嬢様(なに、あれ……水晶玉の中から、大きな火柱があがって……)


お嬢様(……いえ違うわ、あれは火柱なんかじゃない、まるで生きた……炎の蛇のような)

令嬢「………」スッ
フッ


試験官「…………はっ! ぁ……えっと……」

試験官「ど、どうやら水晶玉の具合が悪いみたいですね……交換してきますので他の人達はそのまま席で待っていてください」スタタタ

令嬢「…………」

お嬢様「……………………」ポカーン


「な、何だったのかしら、今の……いったい」

「さぁ、水晶玉がちょっと壊れてたんじゃないの?……試験官の人も言ってたし」


お嬢様「……な、あ」

令嬢「…………フン」


お嬢様(何なの、彼女は……いったい)

一旦切る、そう長くすることもない

……


お嬢様(それから数日が経ち、試験の結果がわたしのもとへ送られてきた)

お嬢様(結果はもちろん合格……何のことはなく、当然ながら達成感もない)


父「よくやったな、おめでとう……筆記試験の方にも手を回しておいたのだが、どうやら必要なかったと聞いたぞ」

母「おめでとう、私達も親として鼻が高いわ」

お嬢様「ありがとうございます、お父様、お母様」


父「しかし、これからの学生生活も一層気を引き締めていくようにな……我ら一族の娘として恥のないように」

お嬢様「はい、わかりました……」

父「そして何より、お前に魔術の素質がないことを他の者に知られてはならん……いいな」

お嬢様「…………はい」



~学生寮~

お嬢様「………はぁ」

お嬢様(これからは家を離れて、学校でしばしの寮生活………ちょうど良かったのかもしれない、あの家を離れられたのは)

お嬢様(息苦しい、あの家から……)



スタスタスタスタスタ
お嬢様「それにしても、ここって校舎も大きければ寮も大きいのね……わたしの部屋は一体どこに」キョロキョロ


お嬢様「!……あったわ、この部屋ね……よいしょっ、と」
ガチャッ


お嬢様「はぁ、やっと着い…」

令嬢「……?」

お嬢様「た…………!?」


お嬢様(……ど、どうしてお部屋の中に……ハダカの女の方、が……がが)

お嬢様「………」ポカン

令嬢「………あの」


お嬢様「あ、わっ!ご、ごめんなさい!み、見てません!見てませんから!その」

令嬢「……いや、何でもいいけど後ろのドア閉めてくれない? 誰か通るかもしれないし」

お嬢様「そ、そうですね申し訳ありません気が回らず、ああえっと……」ワタワタ

令嬢「………はぁ」ポリポリ


ガチャッ
お嬢様「ふぅ、これでよし……と」

お嬢様(それにしても……なんで、部屋を間違えたわけじゃないのよね)

お嬢様(もしかして、この子はルームメイト……ということなのかしら)


令嬢「……まったく、いきなり飛んだご挨拶ね……イカサマ女は」

お嬢様「え?……イカサマ女って、ぁ、ああっ!あなたは試験のときにいた!」


令嬢「やっと気づいたの? イカサマ女のくせに頭の回転は悪いみたいね」

お嬢様「な、なによその……わたしのこと何度もイカサマイカサマって、一体どういうつもりでそんな」


令嬢「だってあんた、魔術の素質ないでしょ? それなのにここへ入学できちゃうなんて……おっかしいんだー」

お嬢様「!?」

お嬢様(なんで、そのことが……バレて)


令嬢「……ふふん」ニヤリ

お嬢様「な、ななな……なっ」


~校長室~

お嬢様「いったいどういう事なのですか、校長先生!」

令嬢「………」ポリポリ


校長「うむ、それについては君のお父上からのお達しでな……」

お嬢様「お父様から?」


教師「ええ、貴女様がこの学校で過ごす間に、どうしても魔術を行使しなければならない場面もあるでしょう」

教師「そのような時には、あらかじめ彼女が貴女様を補佐するようにと……そういうことになっているのです」


令嬢「……へー、そうだったんだ、ふーん」

教師「……彼女は優れた魔術の才能だけは持っています、必ずや貴女様の助けになってくれる事でしょう」

お嬢様「……なるほど」

令嬢「…………」


校長「と、いうわけでして……理解していただけましたか?」

お嬢様「……はい、だいたいの事情は」

教師「それはよかった、でしたら……」


令嬢「話は済んだ? なら私はさっさと部屋に戻らせてもらうから、それじゃ……」

お嬢様「え?……ぁ」

教師「おい!……くれぐれもお嬢様に対して粗相のないように気をつけるのだぞ、いいな」ジロッ

令嬢「分かってますよ、それくらい」


お嬢様「…………」

お嬢様(……ピリピリした、イヤな空気)



令嬢「じゃあ窓側のベッドが私のってことで、荷物はまぁ……ちょっと多いけど気にしないで」

お嬢様「って、ちょっとどころじゃないわよ! 部屋の半分を貴女の荷物が占拠してるじゃない、何これ!」

令嬢「早い者勝ちよ、お嬢様のくせに後からきてグダグダ言わないの」


お嬢様「この本の数、学術書かと思ったら娯楽小説ばっかり……これとか、こんなものまで」

令嬢「別にいいでしょ趣味なんだから……そんな他人の私生活まで口出ししないで」

お嬢様「……!」ムッ


お嬢様「……それはそうかもしれないけど、少しくらい仲良くしてくれてもいいじゃない……一応はルームメイトなのだから」

令嬢「……あ?」ピクッ


令嬢「あぁ、ルームメイト……確かにそうね、その通りよ……でもね!」


お嬢様「ふぇ?」

ドンッ!
お嬢様「ひっ!?」


令嬢「だからって私は……アンタみたいな、家の名前だけで何でも決めつけるような貴族になんかと仲良くする気は……ない」


お嬢様「っ、それは……そっちだって貴族じゃない、お、同じでしょ?…そんなこと」

令嬢「チッ……これだから世間知らずは、世間知らずのインチキ女」

お嬢様「な、なんですって!」


令嬢「覚えておきなさい……世の中には、私みたいな奴もいるってことをね」

お嬢様「……?」

令嬢「…………ふん」


~夜~

お嬢様「………はぁ」

お嬢様(なんだか、寮に来ただけでずいぶんと疲れたわ……何なのよ、彼女はいったい)


令嬢「……zzz」

お嬢様(ちょっとわたしより背が高くて、顔がよくて……才能があるからって偉そうに)

お嬢様(それに髪もキレイで……瞳も、瞳?)


令嬢「………何?」ジッ

お嬢様「ひゃえっ!」


令嬢「……なに寝ながら人のことジロジロ見てんの、いやらし」

お嬢様「な、何でもないわ! べつに…」

令嬢「ふーん、まあいいけど……早く寝なさいよ、明日は入学初日なんだからしっかりしてくれないと……サポートする方も大変なんだから」


お嬢様「言われなくてもすぐ寝るわよ……おやすみ!」

令嬢「………はいはい」モゾ


お嬢様(まったく、何なのよ……)

旦切
グリムグリモアを50時間プレイした勢いで書いてたけどよく見たらソウルイーターノットだった

……

~魔術学校、教室~

教師「これから貴方達はこのクラスで魔術を学ぶこととなる……入学したからといって気を抜かず、いっそう励むように」


お嬢様(入学式が終わって、振り分けられたクラスには当然のように彼女もいた……それもすぐ隣の席に)

令嬢「…………」

お嬢様(わたしを補佐する以上、当たり前といえば、当たり前なんだけど……はぁ)

お嬢様「憂鬱だわ……」ボソッ



生徒1「聞きましたわお嬢様、入学試験では魔術適正トップだったとかで」

生徒2「流石ですわ、やはり家柄が違う人は素質からして違うのですね」

生徒3「羨ましいですわ…」

お嬢様「……えっ?あ、わ……わたし?ま、まぁ……大したことでは、ないですけど」


お嬢様(あぁ、まぁこっちの方は慣れたものよね……社交場みたいな、おべっか使い)


生徒1「そんなご謙遜を、お嬢様」

お嬢様「あはは、はは……」


生徒2「……あぁそういえば、聞いた話ですと……なにやら入学試験でズルをした方がいるのだとか」

お嬢様(ギクッ!…な、なんでそんな噂が……まさか、どこかから漏れ)


生徒3「イヤですわ、それって一体どこのどなたなのかしら……」チラッ

令嬢「………」

お嬢様(?……どうやら、わたしのことではないみたい……というか)


生徒2「どうせ下等な家柄の人がやったのでしょう? まったく、家が卑しいとやることまで卑しくなるようで……」クスクス

お嬢様「……?」


令嬢「チッ……」ガタッ
スタスタスタ

生徒1「………ふん」


お嬢様「あ、ちょっと」

生徒3「?あら、どうかなさいまして?」

お嬢様「……えっ?あ、いや……あの子どうしたのかなって、急に立ち上がって」

生徒2「……別に構うことありませんわ、どうせ私達には関係ありませんもの」

生徒3「そうですよ、関係ありませんわ」

お嬢様「……まぁ確かに……そう、ですね」

生徒1「それよりも、もっとお嬢様のお話聞かせてくださいませんか?」

生徒2「お願いします!」

お嬢様「ぁ、あはは……はあ」



お嬢様「……はぁ、やっと寮に帰ってこれた」


令嬢「……よかったわね、初日からお友達がたくさん出来たようで、流石流石」パチパチ

お嬢様「別に、大したことじゃないわ……はぁ」


令嬢「ま、どうせあんなの……あんたの家の名前にペコペコ頭下げてるだけなんでしょうけどね」

お嬢様「知ってるわよそれくらい……それよりそっちはどうなのよ」

令嬢「え?」

お嬢様「休み時間にどこか行ってたみたいだけど、貴女こそお友達にでも会いに?」


令嬢「……別に、あんな友達なんて私には必要ないから、アンタと違ってね」

お嬢様「ふぅん、そう……貴女って強いのね、そんなことが言えるなんて……てっきりわたし」


令嬢「…………」ジッ


お嬢様「な、なによ……そんな睨んで、何か怒らせるようなこと言った? えと」

令嬢「……………」ジリッ

お嬢様(ぅ、ち……近い)

令嬢「………………………」

お嬢様「……うぅ」



令嬢「…はぁ……もう夕食の時間だから、さっさと着替えて食堂に行かないとね、アンタも早く支度したら?」プイッ

お嬢様「あ……な、なによそんなことで、このっ…………はぁ、っていうかちょっと待ってよ!」



教師「今日の授業は、実技として水魔術の訓練を行う」

教師「水魔術は敵を退ける以外に、いざという時には飲み水の確保等にも使用することが可能だ」


教師「今回はまず基礎訓練として、ここの溜め池の水を操ってもらう……このように……"水よ、鳥の形となれ"!」

ザッパーンッ!


「わあっ!」

「すごい、綺麗……」


お嬢様「……これが、魔術」

お嬢様(水がまるで大きな鳥みたいな形になって……やっぱりというか、わたしにはとても出来そうもないわ)

教師「感心してないでさっさと準備に取り掛かるように……では各自で練習を始め!」


お嬢様「……………はぁ、さてと」


~ちょっと前~


教師『手筈はちゃんと理解しているだろうな?』

令嬢『さて、何のことだったかしら…』


教師『……お前はお嬢様が魔術を使うタイミングに合わせ、密かに無詠唱で魔術を行使する……決してバレないように』

令嬢『それで、さも彼女が使ったかのように見せかけると……とんだイカサマよねこんなのって』

教師『つべこべ言わず真面目にやれ、失敗は許されんのだからな』


令嬢『……了解』



お嬢様(……ということになってるらしいのだけど、本当にちゃんとやってくれるのかしら……あの子)

令嬢「……ふぁぁ」

お嬢様(のんきに欠伸なんてしてるし……ああ、心配になってきた)


生徒1「お嬢様、私達といっしょに練習しませんか?」

お嬢様「えっ?! わ、わたしと……ですか?」

生徒2「ええ、やはり練習というのは上手な人と一緒にするのがよいかと思いまして」

生徒3「ぜひ、お嬢様の魔術を拝見させてくださいませ」

お嬢様「……え、えぇまあ……構いませんのことでしてよ、おほほほ」


令嬢「……………」ツイーン


生徒1「では早速、お願いいたします」

お嬢様「よ、よーし……それでは」チラッ


令嬢「……………」


教師「………………」ジロッ

教師(分かっているだろうな、手筈通りに……抜かりなく、やれ)


令嬢(って目してるなぁ、はいはい……そんなに睨まなくても分かってるっての)


お嬢様「で、ではでは……いきますわよー!えい!」
バッ


シーン

お嬢様「……えっ、ぁ……あら?」

お嬢様(ちょ、なんで何も起こらないの……あの子いったい何してるの!?)チラッチラッ

令嬢「………………」


生徒1「あ、あの……お嬢様?」

お嬢様「は、はい!……な、なんですか?」

生徒1「その、呪文を唱えることをお忘れではありませんか?……まだ呪文がないと魔術は使えないかと」

お嬢様「………あ、あら、あはははそれはうっかりしてましたわ、うっかり……うっかり」

生徒1「?……は、はぁ」


令嬢(………バカ)


お嬢様「コホン、では改めて……」

お嬢様(呪文は……先生が言ってたのでいいわよね、それじゃあ)

お嬢様「ええと……"水よ、鳥の形になりなさい"!」バッ

令嬢「………」スッ



ザッパーンッ!


お嬢様「!」

生徒3「まあ!素晴らしいですわお嬢様」

お嬢様(よ、よし……何とか誤魔化すことは成功したみたい……で、でも)

バッシャーーンッ!
ズォォオオオオオオッ!


お嬢様(な、なんか鳥がちょっと大き……大きすぎるような)

ウゴウゴッ ブルブルッ キシャーーッ!


お嬢様(っていうかもうなんか鳥ですらない何これ、バケモノ!?クリーチャー!)



生徒1「さ、流石はお嬢様、教師の方のお手本よりも見事な出来栄えですね!」

お嬢様「あ、あははは、はは……」チラ


令嬢「………」ツーン

お嬢様(やりすぎよ!こんなの……もう!)


教師「なるほど、これは確かによく出来ている……合格点以上ですね」

お嬢様「あ、ありがとうございます」


令嬢「………ふっ」スイッ

バシャッ

教師「わぶっ!?な、なんだ!急に人の顔に水をかけるなんて」

お嬢様「えっ、あ……えと……あっ!」


令嬢「…………ふふん」

お嬢様(あ、あの子ったら……!)


お嬢様「ご、ごめんない先生……ついそのなんと言うか、手元が狂ってしまって」

教師「……まぁいいでしょう、次は気をつけるように」ギロッ

令嬢「……~♪」


お嬢様「……はぁ」

生徒2「そう気を落とさずにお嬢様、誰にでも失敗はつきものですから」

お嬢様「ええ、そう……ですね」

……

~寮~

お嬢様「やってくれたわね、まったく貴女は……何もあんな派手にやらなくっても」

令嬢「高評価が貰えたんだから、別にいいでしょあれくらい……それに」

お嬢様「?」


令嬢「より優秀な生徒としてこの学校を卒業した方が、アンタの家にとっても都合がいいんでしょう?」

お嬢様「それは……」

お嬢様(確かに、その方がお父様たちは喜びそうよね……名前に箔がつくとか何とか言って)


お嬢様「……言い返せないわ」

令嬢「でしょうね」


令嬢「まぁ今後も、実技のときは私がフォローしてあげるけど……座学の方については自力でなんとかしてちょうだい」

お嬢様「分かってるわよ、それくらい」


お嬢様「言っておくけど、わたしだって入学のときの筆記試験くらいは自力でパス出来たんですからね」

令嬢「どうだか、まぁせいぜい頑張って」

お嬢様「ええよく見てなさい、わたしの実力というものをみせてあげる!」

……

~教室~

魔術学教師「ではこの時間は、魔術学について勉強しましょう……教科書の10ページを開いて」

お嬢様(………とはいったものの)


魔術学教師「魔術には大きく分けて火・土・水・風の四属性があり、この中では火属性が最も上位のものとされており……」

お嬢様(自分が扱えないものについてただ学ぶだけなんて……なんだか虚しいわ)


令嬢「………zzz」スヤスヤ

お嬢様(そして寝てるし! まったくいい御身分だこと!)


キーンコーンカーンコーン

魔術学教師「では、今回の授業は以上です、次までによく復習しておいてくださいね」


令嬢「……ふぁぁ、よく寝た……」

お嬢様「まさか最後までグッスリだなんて……そんなことで大丈夫なの?貴女」

令嬢「ん?大丈夫って、何が」

お嬢様「テストのこと、座学にも期末に筆記の試験はあるんだから、日頃から勉強しておかないと」

令嬢「平気でしょそれくらい、一夜漬けでもなんでも……いざとなればカンニングすればいいだけよ」

お嬢様「ひどい、それじゃあ一体どっちがイカサマなんだか……」


令嬢「大体、私はアンタの補佐を任されてるんだから……下手に落第になんて出来ないでしょう?どうせ」


お嬢様「でしょうけど、そうやって油断しているといつか痛い目にあうわよ、きっと」

令嬢「へーそう、そいつはワクワクもんだー」


お嬢様「それに勉強はしておいて損にはならないし、いつかは役に立つときが」

令嬢「ハイハイ、うるさいなぁ世間知らずのガリ勉インチキ女は……静かにしててよ、ったく」

お嬢様「なっ! が……ガリ勉って増えてるし、この……あのねぇ! わたしは」

キーンコーンカーンコーン

魔物学教師「はい席に着いて、次の授業を始めるから静かにするようにー」


令嬢「ふっ………だってさ」ニヤニヤ

お嬢様「!……ぁ、っ…………ふん」

令嬢「ふふん……ふぁ、さてと」


魔物学教師「では、魔物学の教科書の9ページを開いて……」



お嬢様「………」

魔物学教師「……であるからして、ゴーレムは錬金術によって生み出され、その特性および弱点は以下のように」


令嬢「………zzz」スヤスヤ

お嬢様(寝てるしーっ!)


イゼッタが尊くて書くのが辛い

……

~数日後~


お嬢様「……はぁ」ドヨヨヨ

お嬢様(疲れたわ……彼女といると振り回されてばっかりで)

お嬢様(まず価値観が合わないし、まともに取り合ってもくれない……彼女のことは理解出来そうもないわ)

お嬢様「……………はぁ」


お嬢様(彼女のことなんて、むしろ構わなければいいのに……どうして、あんなに突っかかってしまうのかしら)ポー


生徒3「どうかなさいまして? お嬢様」

生徒2「ため息なんて、どこか具合でも悪いのですか?」

生徒1「はっ!それとも、まさか恋煩いというものでは!?」

お嬢様「えっ?あぁこれは……違います別に、少し疲れただけで」


生徒3「そうなのですか? でしたら良いのですけど」

お嬢様「ええまぁ……それはそうと、何かご用件でも?」


生徒3「いえ、大した事ではないのですが……もしよろしければ、お嬢様に昼食のお誘いをと思いまして」

お嬢様「昼食、あぁ……ええ構いませんよ、わたしでよければぜひ」

生徒3「!……はい、それでは食堂に行きましょう、お昼休みが終わってしまう前に」


お嬢様(……いつもは一人だけど、たまには誰かと一緒にお昼を食べるのもいいかな)



生徒1「美味しいですよね、ここの料理」

お嬢様「ええ、そうですね本当に」

お嬢様(さすが王立の名門校、食堂の料理も一流……家で食べるよりずっと美味しい)


お嬢様(そういえば、あの子はいつも昼食どうしているのかしら……食堂に姿はないみたいだけど)キョロキョロ

生徒2「?……どうかしましたか?お嬢様」

お嬢様「……ええ、実はその……あの子を探してまして、隣の席の子を」

生徒2「隣の席……ああ、あの方ですか」

お嬢様「……?」


お嬢様(何かしら、急に目の色が変わったような……)


生徒1「大変ですよね、お嬢様もあのような方と隣の席になって」

生徒3「確か、寮のお部屋も同じなのですよね……学校もいったい何を考えているのでしょうか」


お嬢様「あ、あの……それってどういう、彼女がどうかしたのですか?」


生徒2「……いえ、ただあんな落ちぶれた貴族の家の子が、お嬢様と一緒にいるなんて……ねぇ?」

生徒3「あまり似つかわしくはないのではと、思いまして」


お嬢様「……え?」

生徒2「彼女の家は、まだ歴史の浅い成金貴族でしたっけ……確か」

生徒1「ええ……とにかく地位の低い貴族だったらしいのですけど、それが近々お取り潰しになるのだとか」

お嬢様「!」


お嬢様「取り潰しに……そう、だったのですか……そんなことが」

生徒1「ご存知ないのも無理ありません、なにせお嬢様の家と比べれば木っ端も同然ですから」


生徒3「それにしても態度が悪すぎますわよね、あの子……言葉遣いも粗暴ですし」

生徒2「立ち居振る舞いも乱雑で、いったい今までどんな教育を受けてきたのやら……」


生徒1「ええまったく、それなのにここへ入学出来たなんて……きっと汚い手を使ったに違いありません」

お嬢様「………っ」


お嬢様(……どうしてか、あんなに美味しかった料理が全く喉を通らない)

お嬢様(胸が詰まるこの感じ……まるでお父様たちと食事をしているときのような感覚)



お嬢様(彼女たちはずっと、あの子のことを侮蔑し嘲っていたんだ……わたしはそれに気づかず、ただ傍観していた)

お嬢様(……ただ、それだけ)


令嬢『……別に、友達なんて私には必要ないから、アンタと違ってね』


お嬢様(!……けれど、向こうからすればわたしだって、結局は同じ……同類の貴族)


令嬢『私はアンタみたいな、家の名前だけで何でも決めつけるような貴族なんかと仲良くする気は……ない』


お嬢様「っ!……」ゾワッ


お嬢様(違う! わたしには、彼女を蔑む意思は一切ない!……だってわたし、わたしは!)


生徒1「?……お嬢様?」

お嬢様「はっ、あ……」


生徒3「どうかなさいまして? 急に立ち上がられて……」

お嬢様「い、いえ……あの、その」

生徒2「?」


お嬢様「えっと、実は急用を思い出しまして……校長先生に呼ばれていたとか、なんとか」

生徒1「!……あら、そうだったのですか、申し訳ありませんそうとは知らずに」


お嬢様「っ!」タッ


お嬢様(彼女たちのお詫びの言葉もそこそこに、わたしは走り出していた)

お嬢様(どうして、こんなにも胸がムカムカするのは……どうして、わたしが)


お嬢様(………彼女は、今どこに)


~屋上~


令嬢「……………ふぅ」

令嬢「………」

ザァァァ……


令嬢「………ここは、風が騒がしいわね」

バァンッ!

令嬢「!?」ビクッ


お嬢様「ハァ、ハァ……あ、いた!貴女、こんな所に、いたのね……ハァ」

令嬢「あ、アンタ……どうしてここに、っていうか……今の聞いてた?」

お嬢様「………えっ、なにが?」


令嬢「ぁ……いや、別にいい……何でもない」

お嬢様「?」


令嬢「コホン……それよりも、お嬢様がいったい何しに来たの? こんな校内の端っこまで」

お嬢様「えっと、まぁ……特に用ってわけでもないんだけど………その」

令嬢「歯切れの悪い……何?言うことがあるならさっさと言いなさいよ」


お嬢様「……っ」

お嬢様(分からないわ、ここまで来たのはいいけど……いったいわたしは彼女に何を伝えたいのか)


お嬢様「何というか………いっしょにお昼ゴハンでも食べない? という」

令嬢「…………は? なんだってまた、今日になって急にそんなことを」

お嬢様「べ、べつに深い意味とかはなくて……ただその、上手くは言えないのだけど……」

令嬢「……ふむ」

お嬢様「………えぇと」


令嬢「!……ああ、そういうこと……私の家のこと聞いたの……話の出所は、あの取り巻き達ってとこ?」

お嬢様「あっ……」

令嬢「図星中の図星ね」


お嬢様「……そうよ、わたしだって聞きたくて聞いたわけじゃない……けど、ただ自然と耳に入ったというか、なんというか」

令嬢「へえ……だからついでに、可哀想な私めに情けをかけようと……お嬢様はこうしてこんな場所まで足をお運びくださったと……まぁなんてお優しい」

お嬢様「そんな言い方しなくたって……わたしはそんな」


令嬢「………はぁ……まったく、面倒くさいな」ポリポリ


令嬢「……確かにそう、私の家は今どうにもならないほど困窮している……だからこそ、私は今こうしてアンタと一緒にいるわけだけど」

お嬢様「え?……それって、どういう意味」


令嬢「簡単な話よ、傾いた家を建て直すにはされなりの額の金がいる……けれど没落しかけてる貴族に金を貸すようなところはドコにも無い」

令嬢「……そんな時に、アンタの親父が話を持ちかけてきたのよ……"娘が卒業する手助けをするならば、金を貸してやってもいい" ってさ」


お嬢様「!それで……だからわたしの手助けを………じゃあそのためにこの学校へ」


令嬢「まぁね、それなりに魔術の素質があって、かつ金に困ってて逆らうこともできない……便利な駒ってことよ、私は」

お嬢様「……そういうことだったの」



令嬢「これで分かった? 私はアンタのためにここにいるわけじゃない……全部自分のため」

令嬢「だから別に、アンタは私に優しくする必要も……お互い仲良くなる必要もないのよ」

お嬢様「っ………でも、それでもわたし達は! わたしは、その……貴女と」



令嬢「それにね、最後に教えといてあげる……」ボソッ


令嬢「……私の家を破滅させたのは、他でもない……アンタの父親なのよ」

お嬢様「……ぇ」


令嬢「だからアンタの顔を見てると正直虫唾が走るの、この手でくびり殺していいのなら……そうしてやりたいくらいよ」

お嬢様「……そ、そんな」


お嬢様(まさか、お父様がそこまでのことをしていたなんて……彼女に、彼女の家にまで)

お嬢様「…………そんな、嘘」

お嬢様(否定したい、けれど……お父様達ならばやりかねない……わたしのために)


お嬢様「……」

令嬢「……チッ、あぁそうだ……これお昼に食べようと思ってたサンドイッチだけど、私はもういいからアンタにあげるわ……その顔見ただけでお腹いっぱいだから」

お嬢様「あっ……」ポスッ

令嬢「……じゃあね」


お嬢様「!……ま、待っ」

ガチャンッ

お嬢様「っ………」



お嬢様「………」

お嬢様「………………」


お嬢様「………………………」


お嬢様「……くっ、ぅ………うぅ、ぁ」ポロポロ


キーンコーンカーンコーン


お嬢様(結局、わたしだけが何も知らなかった……彼女のこと、自分の家族のことさえ、何も)


お嬢様(……わたしは、心のどこかで彼女と仲良くなりたいと……そういう思いを抱いていたのかもしれない)

お嬢様(彼女だけが、わたしのことを真っ直ぐ見ていてくれたような………そんな気がしていた、から)


お嬢様(でもそれは、わたしの一方的な思い込みでしかなくて……彼女は、わたしのことを……恨んでいただけ)



お嬢様「………はぐ……ぅ、ぅ」モグモグ


お嬢様(初めて食べたサンドイッチは、ひどく塩っぽい味がした……)




令嬢「………ハァ」


令嬢(しっかりしなさい、アイツは……あの家の、あの傲慢な貴族の娘なのよ……)

令嬢(たとえ彼女自身には、何ら非がないのだとしても……仲良くなんて、出来るわけない)

令嬢「……………」


令嬢「……お腹すいた」クゥ

……


教師「風魔術は威力は低いものの、上手く使えば空気を操り、自分自身を宙に浮かせることさえ可能となる」


教師「その際には、舵取りのために古くから人は箒にまたがって飛ぶことが多い……このように、『風よ、飛翔せよ』!」

ビュオンッ


お嬢様「わぁ……」

お嬢様(いいなぁ、わたしもああやって魔術が使えればいいのに……はぁ)

スタッ
教師「……では練習を開始する、あまり大人数でやると危険なので魔術を使うのは一人づつだ」


お嬢様(え? でも待って、つまりこれって……わたしが、彼女の魔術で宙に浮かされるって、ことじゃ……)


令嬢「……………」ジッ

お嬢様「………ぁ」サーッ



生徒3「まぁ、お嬢様ったらもうあんな高く上がられて……」

生徒1「やはり才能のある方は羨ましいです」


令嬢「……………」



ビュオオオオッ

お嬢様「~~~~~~っ!」ガタガタガタガタガタガタ


お嬢様(空を飛ぶのってちょっと気分いいかも、とか思っていたけど……これはさすがに高すぎる!)

お嬢様(高い、怖い!高い怖い!……こんなの落ちたらまず助からない)


令嬢「…………」


教師(おい、いくらなんでも高く飛ばしすぎだろう!コイツいったい何を考えている…)ギッ

令嬢「………ふん」


お嬢様「………っ」ゴクリ


お嬢様(いま、わたしの命運は彼女の手の中にある……)

お嬢様(彼女の気分ひとつで、わたしをここから落下させて……地面に叩きつけて、始末することだってできる)

お嬢様(……彼女には、そうまでするに足る動機が……理由が、あるのだから)


お嬢様「……だとすれば、わたしは」


令嬢「……」

教師「もういい十分です! 降りてきてくださいお嬢様!」


令嬢「………チッ」


フワッ
お嬢様「ぁ、は……はぁ……はぁ……」スタッ

生徒1「お疲れ様です、お嬢様!」

生徒2「あんなに高くまで上がられて、すごいです! 尊敬します」

生徒3「私はもう、見ていてヒヤヒヤしてしまいました」

お嬢様「……いえ、そんな別に…」チラッ


令嬢「………」


お嬢様(さすがに、こんな所ではやらないか……でも)

令嬢「…………ふん」


教師「おい、後で私の部屋まで来るように……話がある」

令嬢「……はいはい」


生徒1「まあ……相変わらず、礼儀のなってないですね……あの子」

生徒2「本当、分不相応といいますか」

生徒3「せいぜい身の程を弁えればよろしいのに」


お嬢様「………っ」ギュゥ

お嬢様(いつだって、やろうと思えば出来ることに変わりはない……)

お嬢様(そしてわたしは、それを受け入れるべき……なのだろう)


令嬢「…………」ツイッ

全然関係ないけど前回のジュウオウジャーが脚本田中仁でな
フリフラ嵐

………
……



お嬢様(あの日を境に、彼女との間にあったささやかな交流さえ……パタリと止まってしまった)

お嬢様(相変わらず授業のときは助けてくれるけど……それ以外は何も、寮の部屋でさえ見かけることが少なくなって)


お嬢様(そうしている内に、ただ時間だけは冷淡に過ぎていき……もうすぐ今学期の期末試験の日が迫っていた)



~寮室~
ガチャッ


お嬢様「……あっ」

令嬢「………………」


お嬢様「ぇ、えと……久しぶり、元気?」

令嬢「……別に、特に変わらないけど」

お嬢様「そ、そっか……ふぅん」

令嬢「……………」

お嬢様「…………なら、いいけど」


令嬢「……………」

お嬢様「……あの」


令嬢「……ハァ、もういいからそういうの……こっちはただ期末のことについて話しに来ただけだから」

お嬢様「あ、そうだったの……そっか、そうよね」


令嬢「筆記の方は別にして、重要なのは実技試験の方ね……内容は、えっと」ペラッ

お嬢様「…………」

お嬢様(本当は当日まで秘密のはずなのだけど……お父様が手を回したのね、きっと)


令嬢「"ゴーレム討伐"……学校の裏の森に放たれたゴーレムを二人一組で討伐し、その核となるクリスタルを回収すること」

お嬢様「ゴーレムって、そんなものを相手にして……危険じゃないの?」


令嬢「……さぁ? 何が相手だろうと私には関係ないけど、ただ倒すだけよ」

お嬢様「そう……」


令嬢「ゴーレムはランクごとに核となるクリスタルの純度も違ってくると、試験はそれで成績をつけるらしいわね……ふぅん」

お嬢様「…………」

令嬢「まぁ、アンタはいつも通り大人しくしてればいいから……これで話は終わり」


お嬢様「あ、あの」

令嬢「じゃあね」フイッ

バタンッ


お嬢様「………ぁ……はぁ」

……

~期末試験当日~


教師「本日は、学期末の実技試験を執り行う……それぞれこの数ヶ月で身につけた知識と魔術の腕を存分に発揮してほしい」

教師「なお試験は、予めこちらで決めておいた二人一組で行うように」


お嬢様「……………」

令嬢「…………」


「ゴーレム討伐だなんて、緊張しますね……」

「そうね、でもこれで今学期も終わり……明日には学校での晩餐会もありますし、頑張らないと」

「晩餐会には、王族の方も来られるのだとか……」


お嬢様(……そっか晩餐会、確かお父様達も来るんだったかしら……すっかり忘れてた)


教師「そこ! 浮かれるのもいいが、今は目の前の試験に集中しろ!」

「「は、はいい!」」


生徒1「お互い頑張りましょうね、お嬢様」

お嬢様「ええ、そうね……お互いに」


教師「では試験、始め!」



令嬢「……さてと」

お嬢様「それで、その……まずはどうするの?」


令嬢「なるほど、向こうの方……あまり生徒が寄り付かなそうな場所に、魔力の高いゴーレムの気配がする」

お嬢様「そんなことまで分かるのね……貴女って」


令嬢「とりあえず近くまで風魔術で飛んで行くかな……箒に乗るから私の後ろでしっかり掴まってなさい」

お嬢様「うん……」

令嬢「……しっかり掴まってないと、何かの拍子に落としちゃうかもしれないから」

お嬢様「そ、そうね……分かってるわ」ギュッ


令嬢「『風よ、飛翔せよ』……!」

ビュオオッ!

お嬢様「ひゃわっ!?……あぅ」

令嬢「………」


お嬢様(うわ、ぁ……すごく高いわ、雲に触れそうなくらい……それに風がとても心地いい)


お嬢様「空を飛ぶのって、気持ちがいいのね……こういうの」


令嬢「………あっそ」

お嬢様(この前は、余裕がなくて分からなかったけど……この景色は)

お嬢様「子どもの頃に見た景色に、よく似てる……」

令嬢「……?」




令嬢「さて、一先ずこの辺に降りて、少し休憩してからゴーレムの所へ行くかな」

お嬢様「そうね、ええ」


令嬢「……なんなら、アンタは待っていてもいいのよ? この辺りなら他に誰も見てないだろうし」

お嬢様「い、いいわよ、そこまでしなくたって……自分の身くらい自分で」

令嬢「守れるの?」


お嬢様「……………守れ、ません」

令嬢「無理しなくていいから、アンタに怪我されると私も困るのよ……色々と」

お嬢様「……そうよね、ええ」


お嬢様(やはり、というか……すっかりお荷物よね、はぁ)


ザッ
令嬢「……ふぅ、疲れた」

お嬢様「………」

令嬢「このあたりなら、少しくらい休めそうね……っと」


お嬢様「…………」ジー


令嬢「………はぁ、何よ……人のことそんな睨みつけてきて」

お嬢様「! いえ、睨むだなんてそんなつもりは……ただ、立派だなって思って……貴女のことが」

令嬢「……なに突然、それ嫌味? それともおべっかのつもりとか?」

お嬢様「ううん、そうじゃなくて……だって貴女は強くて……一人で何でも出来て、すごく……カッコよく見えたから、その」


令嬢「……こんなの別に、アンタだって家の名前を振りかざせば何だってできるじゃない? 何をするのも思いのまま……」


令嬢「綺麗な服を着て、学校にも入って………誰かを陥れることだって、そうでしょう?」

お嬢様「それは………そう、ね」

お嬢様(彼女の言う通り、なんでも出来てしまうだろう、きっと……)

お嬢様(…………わたしの望むと望まないに、関わらず)


お嬢様「それで……ここを卒業した後は、誰とも知れない相手の元へお飾りに嫁がされるだけ、なのにね……どうせ」


令嬢「!…………へぇ……そうだったの、アンタって」

お嬢様「ええそう、まぁ……貴族ならそう珍しくもないことだけど」

令嬢「でしょうね、貴族なら……そう」

お嬢様「うん」


令嬢「………だけど、アンタはそれが嫌じゃないの?」

お嬢様「え?」


令嬢「そんな風に、勝手に将来のこととか……結婚相手まで決められて……アンタのその」

令嬢「……気持ちとかは、どうなのよ」


お嬢様「わたしの……そんなもの、どうだっていいのよ……だって、わたしは貴族の娘で」

お嬢様「それに、それ以外の道なんて……考えたこともないから……」


令嬢「………ふぅん、あっそ」


お嬢様「でも……どうして? 急にそんなこと訊いてくるなんて」

お嬢様「まさか……心配してくれてる、とか」


令嬢「ち……違っ! 私は……ただ、アンタたち貴族のそういうやり方が嫌いなだけで……それで」

お嬢様「……っ!」

令嬢「だから……だからアンタのことだって、別に……キライよ!私は、大っキライ!」


ズシンッ!!

令嬢「ぐっ……!?」

お嬢様「はきゃっ!? なっ、何この揺れ、は……」


ズォオオッ
ゴーレム「……グォォオオオオオ」


お嬢様「!? きゃああっ! ご、ゴーレム!ほ、ほん……ホンモノ!?」

令嬢「チッ、まごついてる間にむこうから来てくれたってわけ……ったく、手厚い歓迎だこと」


お嬢様「あわ、あわわわわ……!」

令嬢「ちょっと!そんなとこウロついてないで、アンタは早くここから離れなさい」

お嬢様「で、でもあんなの相手に、貴女ひとりを残して……なんて」

令嬢「いいから! アンタがいるとこっちが全力を出せないでしょ、足手まといなのよ!」


お嬢様「!……そ、そう、よね……でもどうか気をつけて!」
タッ


令嬢「………フン、言われるまでもない」


ゴーレム「グオォォォ…………」

令嬢「思ってたより図体は大きい……パワーも相当強いんでしょう、けどね」


令嬢「残念だけど私の敵じゃあないわ! 『疾風よ、薙ぎ払え!』」

ビュオオオオオッ!
ゴオォォオオオオオッ!


ゴーレム「グゴッ!? ガァァアアアアアア!!……」

令嬢「怯んだわね、だったらこれでお終い!『水流よ、撃ち砕け!』」

ゴポゴポッ!
ズガァアアアアアアンッ!!

ゴーレム「ゴァァアアァァァアア!? アァ………ァ」

ガラガラガラ…



ゴーレム「」


令嬢「……ふん、他愛もない、あっという間にバラバラなんて……やっぱり楽勝だったわね」

令嬢「さてと……あとはクリスタルを回収すればこの試験は終了、っと」


ゴーレム「」ピクッ

令嬢「……え?」


ズゴォオオオッ
ゴーレム「…グオォォォ、ガァァアアアアアア!」

令嬢「!……コイツ、まだやられてなかったっていうの? まさか」


ゴーレム「グオォォォ……ォォォオ」

令嬢「チッ……だったら、もう一度粉々に砕いて倒すまで!」




お嬢様「……はぁ」

ズゴォオオンッ
ズォオオオオオンッ


お嬢様(どうしたのかしら……あの子のことだからてっきりすぐ終わると思ったのに、まだ手こずってるなんて)

お嬢様(!……まさか、彼女に何かあったんじゃ……けど、だとしてもわたしにはどうすることも)

お嬢様「………」


お嬢様「…っ、ええいままよ!」
タッタッタッタッタッ



お嬢様「……えと、確かこっちの方に……! あ、あれは」


令嬢「……ゼェ、ゼェ」

ゴーレム「…………グオォォォ、ォォォオオオ」

令嬢「ったく……クソ! 何でコイツ、まだ倒れない……なんでっ!」


お嬢様(まさか、彼女がゴーレムに押されているの、そんな……)


ゴーレム「グォオッ、ガァァアアアアアアッ!!」
ブォンッ!

令嬢「このっ……『土よ、防壁となれ』!……ぐっ!?」
バゴォオンッ!

令嬢「がっ、は………ぁ、あぅ」ドサッ

ゴーレム「グォォォオォォ………」


お嬢様(彼女が危ない!! けど、いったいどうすれば……)オロオロ


お嬢様「!………そうだ」


ゴーレム「ォォォォ……」
ズシンッズシンッ


令嬢「チッ、この………こんなことに……私が」

令嬢(たかが試験で死ぬことはないと思ってたけど……まさか、少し舐めすぎてたか)


ゴーレム「………グォォォオオッ」
ズズズッ

令嬢(はっ、もういいか、いっそ……もうあんな奴らのためにカラダ張るのも……疲れるし)

ゴーレム「……!」ググッ


令嬢(………ゴメンね、父さん……母さん………私、私は)


ゴーレム「………グォオオアッ!」ググッ

令嬢「っ!」



お嬢様「……ま、待ちなさい! そこのゴーレム!こっちを向きなさぁーーーい!!」

ゴーレム「ォ………ゴォォ、ォォ…」ピタッ

令嬢「……え………はっ、え?」


お嬢様(き、木の上なんて久しぶり登ったけど……た、高い……よく平気で登ってたものね昔のわたし!)


ゴーレム「……………グォォォオオッ」

お嬢様「そ、そうよ……こっち向いて、もっと近くに来なさいな!」


令嬢「なっ、ぁ……!」

令嬢(あの子! なんであんな木に登って……っていうか何を、ゴーレムの注意なんか引きつけてるのよ!なんで)


ズシンッズシンッ
ゴーレム「ゴォォアアアアッ!」

令嬢「な……何やってんのアンタ!……そんなところで、離れてろって言ったはずでしょ!」


お嬢様「だ、だだだって、これは自分のことだから!…… わたしだって」

お嬢様「……っ! わたしだって、頑張らなくちゃいけないのよ!」ガクガク

令嬢「!」


お嬢様「~~~っ! たぁぁああっ!!」バッ

令嬢(っ!? あ、あの子、木の上から……跳んだ!?)


ドサッ
お嬢様「ふぎゃ! あ、あわわ……お、落ち落ち!」

ゴーレム「グオ?……ゴォォオオ」

令嬢(しかもゴーレムの頭の上に着地して、何考えてるの……いったい)


お嬢様「っ、いたた……! あ、あった!これね」


お嬢様(魔物学の教師の方が、授業で仰っていた……ゴーレムの弱点)

お嬢様(その額にある"真理"の紋章さえ砕けば、ゴーレムはただの土くれに帰るはずだって!)

お嬢様「この、てやぁぁぁぁあああっ!!」ブンッ
バキィッ!

ゴーレム「!?」


令嬢「なっ!…………は?」

ゴーレム「……………」ピンピン


お嬢様「……あ、あはは……さすがにそこらへんで拾った木の棒じゃ、紋章に傷一つ付けられないわよ、ね」


ゴーレム「グォオオアッ! ゴォォアアアアッ!!」ブンブンッ

お嬢様「きゃあっ! ちょっと、待! お、落ち!今度こそ落ちちゃ」
ズリッ

令嬢「! あ、危なっ!」


ヒュンッ
お嬢様「……あっ、うそ……ゃ、ぁ」



令嬢「っ、この! 『風よ、あの子を受け止めて』!」
ヒュォオンッ

ドサッ!
お嬢様「あぐっ、く……うぅ」


令嬢「……チッ」

令嬢(落下の衝撃を完全には緩和しきれなかった……もう、私自身も……気力が)



お嬢様「……うぅ」

令嬢「だ、大丈夫?……ねぇ、ちょっと」ヨロヨロ

お嬢様「……う……え、ぇ」


令嬢「どうして、あんな無茶を……私のことなんて、助ける必要ないのに……なんで」

お嬢様「…………それ、は……だって……わたし」

令嬢「?」


お嬢様「………ずっと、あなたに謝りたかった、の……でも……どうして、謝ったらいいのか、分から……なくて」

令嬢「……!」

お嬢様「だから、わたし……」


令嬢「…………」

お嬢様「許してもらう資格なんて、わたしにはない……けれど、せめて……あなたの力に……なりた、か」フラッ
パタッ

令嬢「ぁ……」


お嬢様「…………」

ゴーレム「グォォォオォオッ……」ズズ


令嬢「……なによそれ……アンタ、そんなことのために……こんなにボロボロになって」

令嬢「バカよ………だってアンタは、少しも悪くないのに……それなのに私が、私」グッ


ゴーレム「……ゴァァアアアアアアアアアアッ!!」


令嬢「………チッ、あぁうるっさい、大体分かったわよ、もう」ヨロッ


令嬢「この子がさっき教えてくれたわ……その額の紋章が、ゴーレムの弱点なんでしょう?」

令嬢「まったく、言葉で伝えてくれればいいの………とんだ不器用よね……お互いに」ポリポリ


お嬢様「………すぅ、すぅ」


ゴーレム「ゴガァァアアアアアアッ!!!」グォオッ


令嬢「だから……今度こそ、本当の終焉をあげる……」スッ


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

ゴーレム「……!」


令嬢「『焔の大蛇よ……地獄の淵より生まれ出で、我が敵を……喰イ殺セ』」

……


お嬢様「……んに? ぅ……はばっ!? こ、ここはどこ!?いったい、何がどうなって…」

令嬢「やっと起きた、まったくいい気なもんね……アンタって」

お嬢様「え?……あ、そうだった……わたし」


お嬢様(確か、えっと……ゴーレムの頭の上から振り落とされて、それで……そこからの記憶があやふやで)

お嬢様「そうだわ! それでゴーレムは、どうなったの?ねえ」


令嬢「……ほい」ポイッ

お嬢様「わわっ!?っと、とと……これ、クリスタル? ってことは」


令嬢「……お陰様で無事にゴーレムは討伐、良かったわね……これで試験は完了よ」

お嬢様「あ、そ……っか………よかった、よかったぁ………」ポロポロ


令嬢「なっ、なに泣いてんのよ!?アンタ、こんなことくらいで」

お嬢様「わかんない、よくわからないけど……何かが、うぇ…」ポロポロ

令嬢「……まったく、とにかく教師のとこへ報告しに戻るわよ、試験完了しましたってさ」

お嬢様「……うん、うん」


令嬢「………ったく、もう」


令嬢「それじゃさっさと箒に乗って、クリスタルも落とさないようにしっかり持っておくように」

お嬢様「ええ、あっ……そうだ、そういえば」

令嬢「?……なによ、何か忘れ物でもしたの」


お嬢様「さっきゴーレムの頭から落ちた時、助けてくれたでしょう?……それで、ありがとう」ギュッ

令嬢「」

お嬢様「って、言ってなかったなって……だから」


令嬢「『風よ、飛翔せよ』」
ギュオンッ

お嬢様「はびっ!いったぁ……し、舌噛んだし、顎も……いてて」ガチッ

令嬢「ベラベラ喋るから……いいからアンタは静かにしてて」

お嬢様「う、うん……」ヒリヒリ





お嬢様(その後、わたし達は試験をトップの成績でパスし、とりあえず最初の学期は無事に終えることができた)


お嬢様(あと残っているものといえば、学校主催の晩餐会だけ……有力な貴族達や、王族の方も参列する盛大なパーティーらしい)

お嬢様(わたしの家族もきっと出席するだろう、会うのは入学以来久しぶりということになる)


お嬢様(正直、お父様やお母様と顔をあわせるのは、わたしとしては気が重い………けれど)


~魔術学校、ダンスホール~


父「久しぶりだな、元気でやっておったか?」

お嬢様「ええ、なんとか……特に大きな問題もなく過ごせています」

母「そう、ならよかったわ……貴女はあまり手紙も寄越さないものだから心配で」

お嬢様「……すみません、その……時間がなくて」


父「まぁよい……それよりも、だ……今日はお前に会わせたい方がいてな」

お嬢様「?……会わせたい方、ですか」

父「ああそうだ」

お嬢様「……それは、いったい」



王子「ごきげんよう、こうして直に会うのは初めてになりますね……お嬢様」

お嬢様「え? あっ! え、えと……貴方はまさか………王子様、ということは」


父「そうだ、お前の将来の婚約者になるお方だ、くれぐれも失礼のないようにな」

お嬢様(………この方が、わたしの婚約者)


王子「……どうかされましたか? 何だかボーッとしているようですけれど」

お嬢様「……いえ、なにぶん突然のことだったので……申し訳ありません王子様」

王子「いやいや、困惑するのも無理はありませんよ……無理なさらずとも大丈夫ですよ」ニコッ

お嬢様「……はい」


お嬢様(優しそうな人……物腰も柔らかで、いい人なんだろうな)


王子「どうでしょう……この後、私と一緒に踊っていただけませんか? 未来の婚約者として」

母「まぁ、なんて紳士的な方かしら……ねぇ」

父「それはいい、お前は是非そうしなさい」


お嬢様「……それは、喜ばしい申し出です……王子様」


お嬢様(以前のわたしならば、躊躇いなくこの差し出された手を取っただろう………けれど)



お嬢様「……けれど、すみません……わたし最初に踊る相手はもう決めているんです」

王子「……え?」

お嬢様「本当にごめんなさい、お父様とお母様も……それではまた後で!」タッ


父「あっ!おいちょっと待ちなさい!……嗚呼なんということだ、なんという」



お嬢様「……どこかしら、まさか会場に来てない、なんてことは……」キョロキョロ


生徒1「あら? お嬢様、こんなところにいらしたのですか?」

生徒3「まぁ、綺麗なドレスですわ……なんだか見とれてしまいます」


お嬢様「え? ああうん、ありがとう……ごめんなさいわたし急いでるの、ちょっと人を探していて」

生徒2「人を? でしたら私達もお手伝いします、どなたをお探しで…」

お嬢様「いいの、わたしだけで十分だから貴女達はジャマをしないで……いいわね」タッ


生徒2「えっ、は……はい、分かりました……??」


お嬢様「……ふぅ、さて……彼女は一体どこに」」



令嬢「…………はぁ」


令嬢(面倒くさい、なんで私がいまさらこんなパーティーなんか……柄じゃないのに)

令嬢(ドレスだってお古で……みすぼらしくなってない、よね……どっちでもいいけど)

令嬢「………………はぁ」


お嬢様「……あっ! いた、こんな会場の隅っこにいたなんて……探したわよ、もう」

令嬢「!……なんだアンタか」

お嬢様「でも、ちゃんと来てくれてたのね……でなきゃわたしが無駄足になるところだったわ」

令嬢「仕方なくよ、本当ならこんな催し来たくはなかったけど……」

お嬢様「生徒は全員参加だもの、仕方ないわよね」

令嬢「……ったく」


お嬢様「それにしても……ふぅん、なるほど」ジロジロ

令嬢「……なに、なにジロジロ見てんのいやらしい」


お嬢様「ドレス似合ってるじゃない………綺麗よ、とっても」


令嬢「……ふーん、あっそ……別にこんなの、べつに……そういうアンタは、何というか………無難ね」

お嬢様「無難って! はぁ、まぁいいわ……」

令嬢「……?」


お嬢様「世間話はこれくらいにして、と……あら」

~♪

お嬢様「ちょうど始まったわね」

令嬢「何が、あぁ……ダンスタイムね、だったらこんなところで遊んでないで、アンタはどこぞのお相手とでも踊ってきたら?」

お嬢様「そうね………それで、そういう貴女はどうするの?」

令嬢「私?……はっ、こんな没落貴族と踊ってくださる相手なんていないわよ……そんな物好き」


お嬢様「そう、それはよかった…」

令嬢「……あ? なによそれ、また嫌味のつもりでそんなことを」


お嬢様「そうならば是非、わたくしと踊っていただけないでしょうか……令嬢様」スッ


令嬢「……………何よ……それ、どういうつもりでそんなこと私に」

お嬢様「何故ってそれは、貴女がわたしの恩人で……それに、もっと仲良くなりたいと思ったから」

令嬢「恩人って、アンタまだそんなこと……私は」


お嬢様「嫌なら、この手を払いのけて……でも、出来ることならば……どうか」ジリッ

令嬢「!……」

お嬢様「……わたしと」


お嬢様「……」

令嬢「…………」

~♪


令嬢「……そんな誘い、私が受けると思ったの? アンタ……ホントおめでたい頭してるわ」

お嬢様「…………そう、よね……それじゃあ、やっぱり」


令嬢「……………チッ」


令嬢「けど、一回くらいなら……情けをかけて、踊ってあげても……いい、けど」

お嬢様「!」


令嬢「その代わり一回だけよ……こんなこと」

お嬢様「……あぁ、よかった……だったら早く行きましょう、音楽が終わってしまう前に!」グイグイ

令嬢「ちょ、引っ張らないでっての!」



~♪

令嬢「………はぁ、あてっ……ぐ」ヨロッ


お嬢様「貴女って……魔術の才能はあってもダンスの方はからっきしなのね、意外」

令嬢「し、仕方ないでしょ……こういうの、あまりした事ないんだから……っと、とと」フラフラ

お嬢様「ふふ、魔術では貴女の方が上でも、こういうことならわたしの方がリード出来るみたいね……♪」

令嬢「……この、っ」


「ね、ねぇ……あれって」

「まさか……そんな、ええ??」


令嬢「……やっぱり目立ってるじゃない、いいの? こんなことして」

お嬢様「いいのよ別に、気にしないで……それよりステップに集中して、ゆっくり……そう」


令嬢「っ、と……とと」

お嬢様「ダンスなんて簡単よ、1……2……3、数えられれば踊れるわ」

令嬢「簡単に言ってくれる、まったく……」

お嬢様「……♪」

~♪


お嬢様「こんな楽しいダンス、生まれて初めてだわ……貴女のおかげよ、ありがとう」


令嬢「………ふん、こっちは少しも楽しくないけどね」

お嬢様「……そう、それは残念」

令嬢「………」

~♪


お嬢様「……………ねぇ」

令嬢「……ハァ、何よいったい、まだ何か」


お嬢様「………このまま、わたしを攫って……どこか遠くへ連れて行って」ギュッ

令嬢「っ!? ……な、あ、アンタ……なにを、いって」


お嬢様「誰も追いつけないくらい、遠くへ……お願い、よ」ジッ

令嬢「……ぁ、私は、アンタも……その、えと……だって、だから……そんなこと、は」ト゚キト゚キ

お嬢様「…………」


お嬢様「ぷっ………ふふ、冗談よ……何でもないから、ごめんなさい気にしないで」

令嬢「なっ!? じ、冗談って……く、ぬ」

~♪……


お嬢様「……音楽、終わっちゃった」

令嬢「そうね、だったら早く離れて……ああ恥ずかしかった」


お嬢様「………ふふっ」

令嬢「………ったく、これだから貴族は」ポリポリ

お嬢様「……………」

令嬢「……」



お嬢様(わたしは、この夜に彼女と過ごしたこの時間を……生涯忘れることはないだろう、これから先に、たとえ何があったとしても)


お嬢様(いつまでも離れない手の温もりだけが、まるで自分の全てのように思えたのだから……)


おわり

第一部完
単に面倒とネタ被りで投下してなかっただけで、書き終わったのはだいぶ前よ、という

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