紬「おさんぽ!」 (12)

高校を卒業して、春から大学に通い始めた。
軽音部4人そろって寮での生活をしている。
最初はずっとみんな一緒で楽しくて仕方がなかったが、半年もするとこの生活にも慣れていた。

ある日、たまには一人の時間を作って次の曲のアイデアでも出そうと思い、夕方散歩に出かけた。
しばらくは何も考えずゆっくりと歩いていたが、少し冷たい風が吹いてふと気が付いた。

「あぁ、夏が終わっちゃったんだなぁ」

季節の変わり目というのはいつも不確かで、そう感じた時が境界線なのだと思う。
その境界線は「終わり」であり「始まり」であるのだ。

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過ぎ行く夏に少し名残惜しさも感じながら、これから始まる秋に思いを馳せる。
食欲の秋、読書の秋、行楽の秋……
皆で過ごす初めての大学生としての秋がとても楽しみに感じ、いつしか夏の名残惜しさは頭から消え去っていた。

それでも少しでも夏の思い出を頭に焼き付けておこうと思い、町の中で最後の夏が感じられるような情景を探しながら歩いた。
まだ青々とした木の葉や少なくなってきたセミなどを見つけるたびに足を止めて眺めた。
気づけば辺りは暗くなりつつあった。沈むのが早くなってきた太陽も、最後の夏の証拠として胸にしまった。


その日の夜はとても作曲が捗った。夕方の散歩はとても気持ちがよかった。また、歩こう。

あれから夕方に散歩するのが日課になっていた。
段々肌寒くなる秋の空気を感じながら歩くととても気持ちがいい。

ある日、今日も散歩に出かけようと部屋を出たところで呼び止められた。

「あれ、ムギちゃんおでかけ?」

「あら唯ちゃん、ちょっとお散歩にいくの」

「お散歩!私も行く!」

今日は賑やかなお散歩になりそうだ。

毎日のお散歩だが、決まったコースのようなものは無くむしろできるだけ同じ道は通らないようにしていた。
その日の気分で新しい道を散策するのが楽しかった。
今日はせっかく二人だったので唯ちゃんに道を選んでもらうことにした。

「う~ん、こっち!」

「いいわね、この道は通ったことが無いわ」

二人で知らない道を歩くのはとても新鮮で、ときどき立ち止まっては色々な景色を堪能した。
涼しげな水が流れる小さな用水路を眺めていると、唯ちゃんが話し始めた。

「ムギちゃんはいろんなことに『楽しい』を見つけられて素敵だよね」

「そうかしら?私はいろんな『楽しい』をみんなに与えてあげられる唯ちゃんのほうがすごいと思うわ」

「えへへ、ありがと。ムギちゃんといるとね、一人だけじゃ気づけなかったことにたくさん気づけて楽しいよ。」

「じゃあ、お互い一緒にいると楽しさ二倍になってお得ね!」

「違うよ!私の二倍、ムギちゃんの二倍、合わせて四倍だよ!!」

唯ちゃんの理論はよくわからなくて笑ってしまったけど、確かにそうかもしれない。
理屈じゃ測れないのが唯ちゃんのいいところだ。

そこから少し歩いた公園で休憩することにした。
自動販売機で、唯ちゃんはホット、私はアイスのミルクティーを買ってベンチに座った。

「この時間帯ってもうこんなに涼しいんだね。ちょっと寒いくらいだよ」

「そう思って今日は少し厚着してきたの」

「その服かわいいよね~。今度一緒に秋服買いに行こうよ」

「今度の週末にでも行きましょう!」

こうやって、次の季節のために服を買いに行くのも季節の変わり目の楽しみだ。

なんて考えていると、いいフレーズが頭に浮かんだので口ずさんでみた。

「~~♪」

「おっ!新曲?」

「うん、まだ全然形になってないけどね」

「もっと聴かせて」

「~~~~~~~♪」

「ここら辺までしかできてないの」

「いい曲だね~、さすがムギちゃん!」

「でもここから先がなかなか思いつかなくて……」

「う~ん、じゃあさ……。 ~~~~♪ なんてのはどう?」

「わぁ!素敵!」

「えへへ、作曲って楽しいね!」

「そうだ、唯ちゃん作曲やってみない??」

「ええっ!? ちゃんと一曲作るのって難しそう……」

「大丈夫、私も一緒にするから!」

「じゃあ、やってみようかな」

「やった!!」

「いつもムギちゃんと澪ちゃんに頼りすぎだからね、次の曲は作曲平沢唯、作詞田井中律で挑戦だね!」

「とっても楽しそうね。梓ちゃんを驚かせたいわ」


その帰り道は二人で思いついたフレーズを口ずさみながら遠回りして寮へ帰った。
とっても楽しくて、寮に着くころには辺りもだいぶ暗くなっていた。


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