千早「『弓と矢』、再び」その3(101)

このSSは「THE IDOLM@STER」のキャラクターの名前と「ジョジョの奇妙な冒険」の設定を使った何かです。過度な期待はしないでください。

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千早「『弓と矢』、再び」
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千早「『弓と矢』、再び」その2
千早「『弓と矢』、再び」その2 - SSまとめ速報
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春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」(SS速報)
春香「あれ、なんですかこの『弓と矢』?」 - SSまとめ速報
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カタカタカタ

貴音「!」

律子がキーボードを叩く。

ブオン

端末の画面に、ぼんやりと『霧』に覆われた景色が映った。

律子「なるほどね、スタンドの規模…そして『霧』の範囲…『中心部の水場』ってのは理に叶ってるわ」

律子「遠くからじゃあわかんないけど、ある程度近づいていけば『霧』の濃い場所…本体がいる場所がきっと見つかる」

ジッ!

映像が途切れ、画面に砂嵐が走る。

律子「何個壊されようと、大したダメージにはならないわ…絶対に見つけ出す!」

カタッ!!

貴音「律子!!」

律子「………」クル

貴音「う…はぁ、はぁ、はぁ…」

律子「何よ。肩で息してるじゃない…休んでてって言ったでしょう? 大声出さないで大人しくしてなさい」

貴音「休みが必要なのは…」

ゴゴゴゴゴゴ

タラ…

ポタッ

律子の頭から、涙のように血が流れ、地面に落ちた。

貴音「貴女の方でしょう、律子…!」

律子「………」ジワ…

黒いスーツが、そこらじゅう赤黒く滲んでいる。

律子「ああ…こんなになってたのね。ちょっと壊されすぎたかしら」

亜美「はー、はー…」グッ

パキィィィン

『スタートスター・サニー』が砕いた氷の破片が、律子の足元まで滑ってくる。

貴音「伊織達を見つけた時点で、もう数え切れないほど壊されていた…」

律子「あんた達が守ってくれなかったら、私なんて10分もしないうちにミンチよ。それに比べたら、こんなのケガのうちに入らないわ」

貴音「確かに、外に出るよりは保っているかもしれない…しかし、比べるなどそんな段階はとっくに超えているッ!」

律子「だから?」

貴音「!」

律子「他に方法なんてないでしょうが」

貴音「律子ッ…!」

律子「情報収集、それだけが…それだけが戦闘に向かない『ロット・ア・ロット』の取り柄なのよ…」

律子「それが、こんな時に役に立たないでどうすんのよ…!」

貴音(止められない…)

貴音(今の律子嬢が冷静とは思えない…このままでは、本当に…)

貴音(しかし…他に方法がないのも、事実…だから、無理矢理止めることもできない…)

律子「………」チラッ

真美「はぁ、はぁ…」

律子は、倒れている真美を一目見ると…

律子「プロデューサーだもの。アイドルのために体を張るのが仕事よ」

カッ

キーボードに手を乗せた。

ブオン

島の上空に『ロット・ア・ロット』が複数出現する。

律子(水源は…まだ『霧』に阻まれて見えないわね、ある程度近かないと)

ブオン

より地面に近い位置に新たな『衛星』を出す。

律子(何個壊されようと、そこにいるのなら…)

ブオン

何十個もの『衛星』が、島の内部を探っていき…

律子(『ロット・ア・ロット』は必ず見つけ出す…!)

カシャ

タカネ『………』

『ロット・ア・ロット』のレンズが、タカネの姿を捉えた。

律子(今、地上には他の『複製』はいない…いられない、貴音の『複製』…こいつが、本体!)

律子「いた…見つけたわ!」ドロ…

貴音「律子! もう限界です、『ろっと・あ・ろっと』を消してください!」

タカネ『いいえ、消す必要はありませんよ』

律子「う…」クラッ

バタン!

貴音「律子ッ!」

律子が倒れる。

タカネ『律子嬢が島に放った「ロット・ア・ロット」は、私が破壊しておきました』

タカネ『残りは私の言葉を中継するこの一つだけ。無論、これもすぐにでも壊せますがね』ピキピキピキ

ピチャッ

モニターからタカネの声と、凍てつく音、そして水音が聞こえて来る。

貴音「私の…『複製』…」

タカネ『そして、貴女がたも…』

ヒュゴォォォ

亜美「ぎゃっ!?」ズシャッ

貴音「亜美!?」

『花びら』を捌ききれず、亜美の体が切れる。

タカネ『貴女達の居場所は最初からわかっていました。「複製」である私は、四条貴音…貴女の居場所がわかりますから』

タカネ『そして、それはそちらも同じ。私が四条貴音の「複製」だとわかれば、私の居場所も自ずと明らかにされてしまう。止めようにも、私の「風花」では攻撃範囲が広すぎる…仲間の「複製」を巻き込む可能性がありました』

タカネ『ですが、今は地上に他の「複製」はいない…もう何も遠慮する必要はない』

ヒュゴゥ

さらに多くの『花びら』が、貴音達のいる洞窟に向かって飛び込んでくる。

貴音(量が…増えた…!)

タカネ『「風花」をそこに集中します。他の場所への攻撃は中断されますが…四条貴音、貴女がそこにいる以上私としては見逃すわけにはいきませんので』

亜美「ちょっ…誰か手伝って! これは亜美一人じゃムリだ…!」

貴音「『フラワーガール』」ヒュ

キィン!!

貴音が割って入り、飛び込んでくる氷を洞窟に入る前に次々粉砕する。

貴音「ふーっ、ふーっ…」

しかし、体力は著しく奪われていく。

タカネ『貴女がたはよく頑張りました。頑張りすぎた…私の「風花」は手加減はできません』

タカネ『終わりです…ここで』

真美「はぁ、はぁ…ま、真美も…」ググ

真美はふらついた足で立ち上がろうとする。

貴音「真美は律子を守ってください!」

真美「う、うん…」ズズッ

貴音にそう言われると、真美は重い体を引きずって律子の前に出た。

貴音(この攻撃では、もう数分も保たない…)

貴音(ならば、せめてその前に本体の居場所だけは伊織達に伝えなくては…)

貴音「律子! 伊織達のもとへ『衛星』を!」

律子「………」

律子からは反応はない。倒れたまま動かない。

タカネ『私は「霧」から伝わる感覚で伊織達の居場所もわかっております。その上で言いますが…』

タカネ『伝えたところで、無駄ですよ。彼女達は私から離れすぎている…辿り着くまでにどれくらいかかると思います? そして、来るまでに私が動かないと思いますか?』

貴音「く…」

タカネ『まぁ、どうだろうと…どんなに些細な事であろうと、これ以上貴女達には何もさせませんが』

キン キキン

貴音「うっ…く」

貴音達は必死に襲いかかる氷を防ぎ続けるが、いくら耐えようとも攻撃が止むことはない。

フラ…

貴音「うぐっ」ズバァ

疲れで動きが鈍った途端に、腕を引き裂かれる。

タカネ『まずは4人…』

ゴォォォォォォ

貴音(やられる…)

ヌッ

・ ・ ・ ・

迫る『花びら』の前に、巨大な紫色の壁が現れる。

タカネ『む…?』

ザクゥ

『風花』の攻撃はその壁に阻まれ、突き刺さった。

亜美「この壁…」

貴音「いえ、壁ではない…これは…」

あずさ「ふぅ。間一髪、みたいね~」

タカネ『「ミスメイカー」の腕…!?」

亜美「あずさお姉ちゃん!?」

やよい「みなさん、大丈夫ですか!?」

貴音「やよい…」

真美「二人とも、どうしてここに…?」

あずさ「吹雪が止んだでしょう? そして、一箇所だけ激しく続いてる場所がある…そこをまっすぐ目指せばいいなんて、私でもわかるわ」

タカネ『はい…?』

やよい「間に合ってよかったですー」

タカネ『…まぁ、いいでしょう。で? 間に合った…何がです? この場に「スタンド使い」が二人増えたからなんだというのです?』

あずさ「………」ポタポタ

あずさの腕の、『ミスメイカー』に氷が突き刺さった場所と同じ部分から血が滴り落ちる。

タカネ『その鈍重なスタンドでは「風花」は捌けないでしょう?』

ヒュルルルル

やよい「はわっ」バッ

ズグシャ

やよいの前に立った「ゲンキトリッパー」が、あっという間に串刺しにされる。

タカネ『「ゲンキトリッパー」も同じ…傷は塞げるかもしれませんが』

ヒュンヒュン

タカネ『塞ぐより早く傷は増える…貴女達が来たところで、所詮魚が開けた口の中に虫が飛び込んで来たに過ぎません』

タカネ『いえ、むしろ足手まといなのではないですか?』

貴音「………」

タカネ『他の皆は既に満身創痍でした…それが貴女がたを助けるため、さらに頑張って氷を砕かなくてはならなくなる』

あずさ「あらあら、その通りよ。よくわかったわね~」

タカネ『はい…?』

あずさ「みんな…悪いけれど、頑張って氷を砕いてくれるかしら~?」

タカネ『はぁ…そんな身勝手な事を誰が聞くと…』

亜美「オラオラオラオラ」バババ

タカネ『!』

真美「うりゃっ!!」グオォッ

貴音「『フラワーガール』」ヒュオッ

パリィィィィン

三人はためらいもせず、体力を振り絞って『花びら』を迎撃する。

やよい「………」ポロッ

バララッ

『ゲンキトリッパー』は体から氷を落とすと、一緒にバラバラの粒になっていった。

ヒュォォォォォオオ

バキィッ キィン キィィィン

やよい「『ゲンキトリッパー』」

ウー ウウゥー

みんなが砕いた氷を、細かく分かれた『ゲンキトリッパー』が拾い、積み上げていく。

タカネ『これは…!』

ガシャン

洞窟の入り口に、氷のバリケードが出来上がった。

ヒュン ヒュン

ピタ…

襲いかかる『花びら』は、バリケードにぶつかると『くっつい』てしまう。

やよい「よーし! これでガッチリ安全かも!」

貴音「………」ガクッ

真美「ううっ」バタン

亜美「はー、はー…やった…」

あずさ「みんな、お疲れ様。よく頑張ったわね」

タカネ『「自分達を守れ」とも取れるような指示…! 何も言わず従ったのは、こうなることを予測していたからですか…』

亜美「いや…思いつきもしなかったよ。何する気なのかもゼンゼンわかんなかった」

真美「でも…あずさお姉ちゃんがこんな時にそんなヒドいことするワケないかんね」

タカネ『馬鹿な…』

やよい「律子さん、今治しますっ!」ウー ウー

律子「……う…」

『ゲンキトリッパー』が律子の傷を塞いでいる。

タカネ『しかし…安心できるのもいつまででしょうか』

貴音「なに?」

ジュゥッ

亜美「あっ!? 氷が溶けてる!?」

タカネ『「風花」の生み出した氷はすぐに溶け、また再び「霧」となる』

タカネ『せっかく作った壁ですが、保って1分でしょうか。なくなればまた攻撃を再開しましょう』

真美「うげ、1分しか休めないの…!?」

あずさ「いいえ。そんなに短くないわよ~」

・ ・ ・ ・

タカネ『氷が…溶けない…?』

ゴゴゴゴゴゴゴ

あずさ「『ミスメイカー』…この氷は『眠らせ』たわ。そのままの状態でね」

………

あずさ『これでもう、あなたは私達に手出しできない』

タカネ「………」

向こう側の水辺で、その言葉が嘘ではないことをタカネも感じ取っていた。

律子『う…』

タカネ(律子が…目を覚ました)

タカネ(向こうには私のオリジナルである四条貴音もいる…あの場に手出しができなくなった以上、もはや私の居場所は全員に筒抜けになる)

タカネ「まぁ…いいでしょう」

タカネ「それでは貴女達もそこから動くことは出来ません。伊織達も同じです」

タカネ「行方が知れない天海春香もそう。もしかしたら、既にくたばっているかも知れません」

タカネ「私の優位性はまだ失われてはいない。誰も私のもとへ辿り着くことは出来ないのですから」

タカネ「それともあの場にいる他の全員を犠牲にして、外を歩ける真にでも来てもらいますか? 私を捕えられるとは思いませんが」

??『いえ…必要ないわ』

タカネ「…?」

氷漬けにして捕獲していた『ロット・ア・ロット』の『衛星』から、声が聞こえて来る。

貴音『千早…』

タカネ「ああ、この声は如月千早ですか。貴女も一緒でしたね。いやに静かでしたが…しかし、必要ないというのは?」

千早『私が今からそっちに向かうから。真を行かせる必要はないということよ』

タカネ「貴女が? その洞窟から? バリケードを壊して、ですか?」

千早『………』

タカネ「まぁ、バリケードはすぐに修復出来るでしょうが…誰が来ようと同じですよ。私の方も『霧』の感覚で誰がどこにいるのか、手に取るようにわかるのですから」

千早『いえ、違うわね…向かっているわ。既に』

タカネ「は…?」

タカネ(向かっている…? 何を言っている…?)

ザワ…

タカネ(『風花』の感覚によれば、誰も外を歩いてはいない…千早が向かっているというのはありえない)

コッコッコッ

タカネ「!?」

『衛星』から、千早の足音が聞こえてくる。

タカネ(今は吹雪が止んでいる…『風花』の中で足音を出しているのなら、感じ取れるはず…やはり洞窟の中なのでは…?)

コツコツ

タカネ(いや…洞窟の中であれば、反響するはず! そういえば、千早の声も反響していない! まさか…)

タカネ「あずさ達と一緒では…ないのですか…? 千早…!?」

千早『私がいつ皆と一緒だと言ったのかしら? 「ロット・ア・ロット」では声しか受け取れないから、勘違いしたの?』

タカネ(『風花』は範囲が広すぎるから、感じ取れる感覚はそこまで鋭くはありませんが…)

タカネ(動くものと動かないものくらいの判別はつく…千早、やよい、あずさ…彼女達も他の皆と同じように洞窟に隠れ…そこからは一歩も動いていない! そこまでは感じ取った!)

千早『どうしたの? 私がどこにいるのか、わかるんじゃあないの?』

タカネ(何故、千早の居場所が感じ取れない…!?)

やよい『はいっ、キズはぜーんぶ治りました!』

あずさ『ありがとう、やよいちゃん』

タカネ(あずさとやよい…そもそも、この二人がいきなり駆けつけられたのもおかしい…律子達のいる場所に神経を集中していたから、他が手薄となり外を出歩けたのも不思議ではありませんが…)

タカネ(そもそも、あの短い期間であずさ達がいた場所から律子達のもとへ辿り着けるわけがない…彼女達は、突然現れた)

タカネ(まさか、洞窟に逃げ込んだと思わせて、そこから自由に動いていた…? 何らかの方法で『霧』の探知から逃れて…)

タカネ(一体、どうやって…)

シュゥゥゥゥゥ…

・ ・ ・ ・

タカネ「この音…まさか…!」

千早『「インフェルノ」』

千早『「熱」で水分を蒸発させる。「霧」はただの水蒸気になる…』

千早『水蒸気は冷やされ、すぐに「霧」へと戻る。けれど、私の周囲の「霧」は全部…』

タカネ「『ブルー・バード・インフェルノ』…『熱量操作』で周りの『風花』を消して探知をかわしたのかッ!!」

千早『途中で「ロット・ア・ロット」の「衛星」を捕まえられたのは幸運だったわ。それがなかったら、宛てもなく彷徨い続けることになったでしょうから』

タカネ(千早の居場所はわからない、しかし…)

タカネ「…『風花』」グ…

千早『んっ!』ヒュッ

パキ! パキィッ!!

腕を振るう音、氷が割れる音が『衛星』を通して聞こえてきた。

タカネ「ふ…」

その音を聞いて、タカネは笑った。

タカネ「なるほど、つまりは『霧』の中にいながら『霧』の外にいたのですね…見つからないわけです」

タカネ「ですが…それがわかれば、『花びら』の攻撃範囲を『霧』の外まで少しだけ広げればいいだけのこと」

千早『………』パキン

タカネ「『風花』の攻撃は薄い氷の『花びら』…『熱』である程度防げるようですが、それだけでは完全といかないようですね」

タカネ「そして、途中まではあずさややよいと一緒にいましたね? そうでなければ彼女達が律子達の所まで辿り着ける筈がない。貴女がどの程度近づいているかはわかりませんが、方角はわかる…」

千早『………』

タカネ「ふふ…私は貴女が力尽きるまで逃げ続ければいい。それだけのことです」

千早『律子が…』

タカネ「…?」

千早『律子が、貴女をただ見つけただけで終わると思う?』

タカネ「はぁ…」

千早『貴女はその場からは逃げられないわ』

タカネ「逃げられないとか、何を言っているのかよくわかりませんが…」

タカネ「私を見つけるだけでボロボロになった律子に、何が出来たと言うのです!? ええッ!?」

千早『………』

タカネ「ほら、こうやってすぐにでも…」スッ

タカネは水辺から上がり、立とうとするが…

タカネ「!?」ガクン!!

一歩踏み出す前に、膝をついてしまう。

タカネ「あ…?」

ガクガク

タカネ「足が…痺れて…!? これは…!」

千早『「麻酔液」よ』

タカネ「『麻酔液』…だと…」

千早『貴女は「ロット・ア・ロット」をその一つ以外は無差別に壊してしまったようだけれど、一体だけ混ざっていたのよ…カメラのない、「麻酔液」の詰まった「衛星」が』

タカネ「そんな…馬鹿な…」

千早『貴女は、気づかないうちにそれを足に浴びた』

千早『随分、好き勝手やってくれたようね。自分は安全な場所から、皆を見下して…こんなにも傷つけて…』

タカネ「う…」

千早『けれど…理解したかしら? 貴女の優位性なんてもうどこにもないということを』

タカネ「く…」ギリッ

千早『さぁ…怯えて待っていなさい。すぐに貴女を倒しに行くから』

タカネ「クゥッ…!」ガシッ

タカネは氷漬けになった『衛星』を掴むと…

タカネ「クソォッ!!」ガシャア!

地面に叩きつけた。

パキィン

氷とレンズが飛び散る。

プルプル…

ガチッ

タカネは痺れていない足を上げ、その周囲に氷を纏わせると…

タカネ「クソッ! クソッ! クソッタレがァッ!!!」ガンガンガン

割れた『衛星』を執拗に踏みつけ、コナゴナにした。

タカネ「はぁ、はぁ、はぁ…」

タカネ「いいでしょう…こちらに来れば来るほど『霧』は濃くなる。私の胃袋に飛び込んで来るようなもの…」

タカネ「『風花』の全力でお相手…いえ、始末させてもらいます…」

タカネ「そして…殺してやるッ! 如月千早がくたばったら、四条貴音も! 秋月律子も! 765プロの連中は全員ッ!」

………

……

ドドドドド

千早は『霧』に覆われた島の中を、独り進んでいく。

千早「…声が聞こえなくなったわね。『衛星』を破壊したのかしら」

その手には、『ロット・ア・ロット』の『衛星』が一つ握られていた。

千早「四条さん、彼女の居場所はわかるのですよね?」

貴音『ええ。なんとなく、ですが…感じます。案内は任せてください」

千早「律子、『ロット・ア・ロット』の『麻酔液』の効果はどれくらい続くのかしら」

律子『正確にはわかんないけど…相手は「複製」だから…長くて10分程度…かしら』

千早「そう…」

ヒュッ

パリィィィン

背後から迫る『花びら』を、振り向きもせずに砕く。

千早「なら、その前に辿り着くわ。必ず」

漫画版弓と矢一部『弓と矢を破壊せよ!』は『ストレイング・マインド』戦に突入!
SSとは一味違う、緊迫の展開をお楽しみください!

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=58592022

千早(一人でいることは、寂しい)

千早(幼かった私はそれを感じないよう、目を逸らした。寂しさに背中を向け、他者と壁を作り、孤独を選んだ)

千早(弟の死…両親の不仲、そして離婚…私は、何もできなかった)

千早(そして…ただ楽しかった、過去の思い出の中に逃避し、歌に縋った。私には、それしかなかったから)

千早(しかし、駄目だった。『上手いだけ』『心に響かない』『君の声は冷たい』…同じような言葉を何度も投げかけられた)

千早(アイドルなんて興味はなかった。けれど、機会さえあれば…本物は、きっと伝わるはず…そう信じて、不本意なアイドル活動をして…)

千早(…それも、駄目だった)

千早(私は本物なんかじゃないと…私には何もないのだと、突きつけられたようで…それを認めたくなくて…孤独から、無力から、逃げるように走り続けた。ただ、闇雲に…)

千早(そんな時、彼女から私に投げかけられた一つの問い)

春香『千早ちゃんは、どうして歌が好きなの?』

千早(どうして? そんなこと、考えたこともなかった。その頃の私には、そんなことを考える余裕もなかった)

千早(誰のために? いえ、何のために…?)

千早(考えた。それしかないから? いいえ、順序が違う。そもそも、どうして私は歌を選んだのか)

千早(何もないと思った。でも…歌う理由は、確かにあった。私は、それを思い出した)

千早(それからは、アイドル活動も少しずつ上手く回るようになった。けれど、名が売れてくると、また新しい疑問…不安が私の中に生まれる)

千早(私がアイドルを続ける意味はあるのだろうか? 惰性で、義理で、義務感でアイドルをしているのではないか、と)

P『千早はさ、アイドルってなんだと思う?』

千早(そんな私の迷いを見透かしていたのか…ある時、プロデューサーは私にそんなことを聞いてきた)

P『宿題だ。答えがわかったら、教えてくれ』

千早(宿題。プロデューサーに課せられたそれに、私は何日も頭を悩ませることになった…)

あずさ『千早ちゃん、どうかしたの?』

真『アイドルって何か…かぁ…』

律子『なるほど…難しい質問ね』

美希『そんな難しくないの。アイドルっていうのはね…』

真美『ね、ね、千早お姉ちゃん! 真美の答えも聞いて聞いて!』

千早(そして…悩んでいると、周りには人が次々と集まってきて…皆が、それぞれの答えを聞かせてくれた)

千早(答えはひとつひとつ、一人一人違っていて…結局、アイドルというものが何なのか、逆にわからなくなってしまって…)

千早(でも…)

千早『アイドルとは「与える者」です』

千早(私は、プロデューサーにそう答えた)

千早(一緒に悩んでくれた皆の…あたたかい、きもち。あまり意識したことはなかったけれど、皆がずっと与えてくれていたもの)

千早(きっとそれが、アイドルにとって一番大切なことなのだと…私はその時、確かにそう思ったから)

千早『これで合っていますか』

P『元々、答えがあるような問題じゃあないよ。俺だって、時々わからなくなる』

千早『え? そうなんですか…?』

P『でも、千早が自分で考えて出てきた答えだからな。だったら、それはきっと千早にとって大切なことだ』

千早(この時の答えが本当に正しいものだったのかは、今でもわからない。でもこの日、私は確かなものを手に入れた。そう思えた)

千早(少なくとも、私がアイドルを続けていたのは惰性や義務感なんかじゃないとわかったから)

千早(私には、アイドルを続ける理由…なりたい自分がアイドルを続ける先にあるのだと、それがわかったから)

千早(やがて、プロデューサーと二人三脚で…皆の支えも受けながら…私は、トップアイドルにまで登り詰めた)

千早(そこに辿り着くための方法を知っていたわけではない。私の気持ちを届けられるように、私が皆に貰ったものを誰かに与えられるように…私が想っていたのはただ、それだけ)

千早(そして…私がそれを想う度、進もうとする度、いつだって歌は応えてくれた)

千早(ああ、そうだわ…伸び悩んでいるとか、レベルが落ちているとか…何を考えていたのだろう。私はただ、私の目指す道に向かっていけばいいだけだったのに)

ゴッ

キキィン

熱の壁を突き破ってきた『花びら』を、『インフェルノ』で叩き落とす。

律子『貴音、千早の進んでいる方向は合ってるわね?』

貴音『ええ…正確にとは行きませんが、間違いなく近づいております』

千早「ありがとう律子、四条さん」

千早(今…『複製』達は私達の居場所を奪おうとしている)

千早(『アイドルは与える者』…私の答えは今も変わらない)

千早(彼女達が私達の代わりをしたところで、それはアイドルの『偽物』でしかない…そんなものを、私は認めない)

千早(『偽物』なんかに、私達の未来は奪わせない!)

千早(律子の『麻酔液』が切れるまでに本体を倒せなければ、相手は警戒する)

千早(そうなれば二度とチャンスはない…他の皆も大人しくしている筈はないけれど、恐らく本体を捕まえるのは困難…最悪、全滅すらありうるでしょうね)

千早(だというのに、なぜかしら…不思議と落ち着いているわ)

ヒュン

バキン

・ ・ ・ ・

手に持っていた『衛星』が、空から落ちてきた一本の氷の槍に射抜かれる。

千早「しまっ…」

シュババババッ

その後に続くように、無数の槍が千早を狙って襲いかかってくる。

千早「んっ!」キン バキン ギィン

『インフェルノ』の拳ですべて叩き落とすが…

ピキピキピキ

千早「!」

上空では次々に氷が作られていた。

千早(今までの無造作な攻撃とは違う…明らかに私を狙っている)

コォォォォォォ

千早(攻撃自体も今までと違うわ、さっきまでの氷が『花びら』なら、これは氷の『枝』とでも言うべきかしら)ヒュ

パキィン

降り注ぐ『枝』を叩き割っていく。

サァァァァァァ…

手に、細かい水滴が纏わりついた。

千早(『霧』が『熱』で散っていかない…今までと密度が違う)

千早(私が侵入したことが気づかれている)

千早(でも…だからと言って怯む必要はない)

ヒュン

パシッ

背後から迫る氷の『枝』を振り向くことなく掴む。

千早「本体に近づいているのでしょう? 逆に言えば」ジュウッ

『枝』は千早の手の中で、一瞬で蒸発した。

千早(四条さんと律子が教えてくれた道程は正しかったということだわ。別に、これっぽっちも疑ってはいなかったけれど)

ヒュン ヒュン

バキバキッ

『枝』を破壊しつつ、千早は前に進む。

シュゥゥゥゥゥ

千早「『インフェルノ』」ヒュッ

パキン

死角からの攻撃も正確に捉え、対処していくが…

千早(気流は暑い場所から寒い場所に移動する)

千早(その流れの中のノイズを感じ取れば、叩き落とすのは難しいことでは…)

ゴッ

ザクゥッ

千早「う…!?」

一本取り逃がし、背中に『枝』が突き刺さった。

千早「こ、これは…」ジワッ

背中に血が滲む。

千早(そうか、駄目だわ…『霧』自体がスタンド…ならば、その流れを変えることも出来るに決まっている!)

千早(さっきまでは私の居場所がわからなかったから、無闇に攻撃するしかなかった…けれど、今は…)

ゴォォォォォ

千早(全力を尽くしてくる! 私を狩るために…!)

千早「『インフェルノ』ッ」バキバキバキ

手当たり次第に拳を放ち、散弾のように襲いかかる氷の『枝』を次々に叩き割るが…

ドス!

全てを捌くことはできず、またも攻撃を受けてしまう。

千早「おっ…! ………」

ヒュン ヒュン ヒュン

攻撃は止むことがない。

千早「おおおおおおっ…!」

………

響「………」ガラッ

響が入り口の蓋をどかし、外を覗き込む。

雪歩「響ちゃん、顔出したら危ないよ!」

響「吹雪が止んだ」

順二朗「なに? それはつまり、如月くんが本体を倒したということか!」

キュルキュル

穴の中に『衛星』が一つ浮かんでいる。中のみんなはそこから情報を得ていた。

伊織「いいえ。『霧』はまだ消えていないわ…」

真「…やっぱり、ボクも行くよ! 千早一人に全部押し付けられない!」

伊織「駄目よ。アンタが行ってもこの距離じゃあ間に合わないわ、その体力は他に回しなさい」

真「でも…」

美希「これで終わりじゃあないんだから。今は休んでおくのも大切なの。あふぅ」

響「美希はくつろぎすぎじゃあないか…?」

P「千早…」

………

千早「はぁ、はぁ…」ヨロ…

ドクドク

千早はよろめきながら、血を流しながらも進む。

タカネ『身体中に「枝」を突き刺され…まるで木のようですね、如月千早』

千早(『霧』の中から声が…)

タカネ『しかし、「衛星」が壊されたというのに新たに送り込まないとは…律子嬢も薄情ですね』

千早「もう貴女は近くにいる…送ってきたところでどうせまた壊されるだけだもの、正しい判断だわ」

タカネ『貴女だけが傷だらけになりながら、たった一人で私に挑まなければならない…それも正しい判断だと?』

千早「………」ガクッ

膝をつく。

タカネ『もういいのでは? 貴女一人だけが頑張ってどうなるというのです。逆らわなければ傷つくこともないのに』

千早「………」

タカネ『貴女はずっと孤独だった。だからこそ、誰よりもその辛さを知っている』

タカネ『一人は、怖いでしょう?』

千早「…ええ、怖いわ」

千早「けれど…」

タカネ『…?』

千早(孤独は怖い。楽しい記憶ばかり思い出す。私は変わっていない? いいえ、きっとそれは違う)

千早(私を導いてくれた人がいる。私と一緒に進んでくれる仲間がいる。今の私は、それを知っている)

千早(昔の私は、孤独の中で、孤独に目を背けることでしか生きられなかった。思い出に縋らなければ生きていけなかった。今は違う)

千早(私がいくらあがいたって、何も変えられない。そう思っていた。今は、違う)

千早(私の心の中に刻み込まれている思い出…その中に皆がいる。だから、心細くても受け止められる)

千早(これから何度でも楽しい事があると信じていられる。だから、私は先へと進んでいける)

千早(私の大切な思い出を、『あの頃はよかった』と思い返すようなものになんて、絶対にさせたくない)

千早「それよりも、もっと怖いことがあるわ。だから…」

タカネ『………』

千早「こんなところで、倒れているわけにはいかないのよ…!」ググ

ふらつきながらも、千早は立ち上がった。

タカネ『ならば、私が倒れさせてあげましょう』コォォォォォォ

『霧』の中に無数の氷柱が浮かんでいる。

タカネ『果たして、いつまで保ちますかね?』

ヒュンヒュンヒュン

千早「………」

パキ! パキ!

タカネ『!』

氷が千早に襲いかかる途中、次々と割れるような音が鳴る。

千早「んあっ!」バババッ

パキィィィーン

音から判断し、襲いかかる氷の『枝』を正確に捉えて砕いた。

タカネ『周囲の「熱」を上げたのですか。そして急激な体積変化で亀裂を入れた…』

千早「ええ。製氷機の氷を手で包むと音が鳴るでしょう? それと同じよ」

タカネ『なるほど、まだそれくらい頭は回るのですね。しかし…』ズラッ

先程の攻撃とは比べ物にならないほどの『枝』が、千早に標準を合わせている。

タカネ『そんな子供騙しで私の下へ辿り着けると?』

千早「…思ってないわ」

シュゥゥゥゥゥゥ

『インフェルノ』が集めた『熱』が腕の排気口から噴出され、熱気として周囲に立ち上る。

グラ…ジュゥッ

刺さっていた『枝』は溶けて身体から抜け、水へと変化しながら落ちていく。地面に触れると、蒸発した。

タカネ『なに…?』

パキパキ

開いた穴から流れる血は水分を失い、固まって傷を塞いでいく。

千早(『熱』がいる)

千早(これじゃ、足りない。もっと、もっと…)

シュボ

排気口から蒼い炎が吹き出した。



……

………

ガチャン!

小鳥「ふーっ!」ギギィッ

765プロの事務室。小鳥は受話器を置くと、チェアにもたれかかって体を伸ばした。

小鳥「これで連絡すべきところは一通りは終わったかしら…」

大海「音無さん、お疲れ様です。それにしても、島に行ったみんなは今頃大丈夫ですかね…」

小鳥「春香ちゃんが心配ですか?」

大海「みんな心配ですよ。ああ…スタンドってやつ、私も使えたらよかったのに。そしたら、私もみんなの力になれたかもしれないのに…」

小鳥「大海さん。私たちの戦場は、ここですよ。帰ってきた時、765プロがなくなってたんじゃあみんな困るでしょう?」

大海「あ…はい、そうですよね! スタンドなんて使えなくても、力になれますよね!」

トゥルルルルルル

大海「よーし、それじゃかかってきた電話にも応えないと!」ガチャ

大海が受話器を取る。

大海「お電話ありがとうございます、こちら765…」

大海「はぁ、またイタズラ電話かぁ…」ガチャン

受話器を置いた。

大海「イタズラ電話とかやめてほしいですよね。まったく…」

小鳥「そうですね。でも、大事な電話もあるかもしれないし…」

大海「あれ?」

コツコツ

大海が何かに気づいて、窓際まで移動していく。

大海「音無さん、見てください!」

小鳥「? どうし…」クル

呼ばれて、窓の外を見ると…

小鳥「あ…」

シャンシャンシャン

小鳥「雪だわ。もう、春なのに…」

街の景色が、雪で白く塗られていた。

………

……

タカネ「!?」

タカネ「如月千早が『霧』の中から消えた…? また『熱』を上げて探知から逃れたのですか、小癪な…」

タカネ「ですが、近くにいることはわかっている…こちらに向かっていることも。大体の位置は見当がつきます」

タカネ「『熱』を上げたというのなら、氷をさらに大きくしなければなりませんね。さぁ、私の『風花』最大の出力で…!」バッ

手を高く上げ、千早のいるであろう場所の上空に氷塊を作ろうとするが…

・ ・ ・ ・

タカネ「はて…?」

タカネ「氷が…作られていない? 凝固するどころか、氷を作るための水分…『霧』が集まりすらしていない」

タカネ「いや…待って…これは…如月千早が消えたんじゃあない…」

ゴゴゴゴゴゴゴ

タカネを覆う深い『霧』の外…

ゴゴゴゴゴ

島を覆っていた『霧』は消え去り、夕暮れの光が射し込んでいた。

タカネ「私が撒いた『風花』が、全部! 島から消えたッ!」

タカネ「発生源である私の周りの『霧』はまだ残っていますが…一体、何が起こったのです!?」

ヒュォォォォ…

タカネ「うっ、寒い…この冷気は…まさか、如月千早の『インフェルノ』が空気中の『熱』を奪っている…?」

ピキピキピキ

タカネ「み、湖が凍っている…」

タカネ「馬鹿な! 水が凍るほど空気が冷くなるような『熱量』、身に受け止めて平気でいられる筈がない…!」

ボォゥ

タカネ「は…」

『霧』の奥に、青白い光が見えた。

タカネ(あれは…)

シュバァ

渦巻く炎が、『霧』を裂きながら近づいてくる。

千早「…見つけたわ」

ドドドドドドド

その中心には、千早が立っていた。

千早「『ブルー・バード・インフェルノ』」

パラパラ

千早「『霧』を構成する水分は凝固し、氷の結晶となって落ちたわ」

タカネ「…!」

千早「出ていた『霧』を全て消してしまえば、残るのは『霧』の発生地…つまり、貴女の居場所だけよ」

ジュウゥンジュウゥンジュウゥン

噴射口から吹き出す蒼い炎が、千早を取り囲むように螺旋を描いている。

タカネ「なんですか、それは…」

千早「………」ジュウゥン

タカネ「それだけの『熱量』を身に纏って、何故平気でいられるのです!?」

シュゥゥゥゥゥゥ

千早「『インフェルノ』は限度を超えた『熱量』を排出する。今まで試したことはなかったけれど…『熱』を『奪い』続ければ、やがて炎となって出て行くようね」

タカネ「それが、その蒼い炎だというのですか…!? 何故自らの炎で身を焦がすことがない…!?」

コォォォォォォォォ

千早「外がこの冷気だから、じゃあないかしら。快適よ、案外」

ドドドドドド

千早「さて…じきに私の射程距離内に入るけれど」メラメラ

シュゥゥゥゥ…

タカネ(如月千早の炎で、凍った湖が再び溶かされている…)

タカネ「は…貴女はまだ『風花』を完全に攻略した訳ではない…水源はまだこちらにある!」

ピキピキピキピキ

湖から浮き上がった水分が、空中で巨大な氷塊を作り上げる。

千早「ここまでになると、もう『木』そのものね」

タカネ「いくら炎を身に纏おうと、この質量…! 溶かしきるまでに、貴女に着弾する!」

千早「………」

タカネ「さぁ、喰らえッ!」

ゴガッ!!

・ ・ ・ ・

タカネ「………?」

氷の『木』は千早に向かっていくことなく、地面に落ちた。

タカネ「重すぎましたか…ならもっと『霧』を集めて…」シュゥゥゥ

グググ…

一点に集中した『霧』が、氷塊を持ち上げ…

タカネ「行けッ!」ゴォッ

千早に向かって行く。

グ…

ググ…

ゴロン…

タカネ「………」

しかし、またも千早に辿り着く前に落ちてしまう。

千早「これで終わりかしら?」

タカネ「くっ!」バッ

ピキピキパキパキパキパキパキ

ゴォォォォォォォォォォッ

タカネは捨て鉢のように大量の『枝』を作って、吹雪のように叩きつけようとするが…

千早「………」

ピキ ピキッ

カチコチ

バラン!!

その全てが、千早の手前で勢いを失って地面に落ちる。

タカネ「と、止まる…」

タカネ「炎に触れる前に…如月千早に近づいただけで、『風花』が凍りついて止められてしまう…!!」

タカネ(これは…これではまるで、あのスタンドと同じではないですか…!)

千早「………」ユラ…

タカネ「う…」

ジュゥッ

タカネ「うっ、ああっ、あっ、ああああ!!」

ジュワァァァァァ

ドドドドドドドド

千早が近づくたびに、タカネを包んでいる『霧』がどんどん削られていく。

タカネ(足は『麻酔液』で封じられている…逃げられ…)

タカネ「…!」

千早「………」

タカネ「か…『風花』!!」

ヒュン!

タカネは自分の目の前に氷の『枝』を落とす。

ガチガチ! ガチ! ガチ!

『枝』は次々と降り、氷の壁が積み上げられていく。

千早「『インフェルノ』…」ボォォォォ

千早は意にも介さずそのまま歩いて行くと…

ジュゥッ!!

氷の壁は触れる事すらなく、一瞬で蒸発する。

・ ・ ・ ・

千早「いない…」

しかし、その奥にタカネの姿はなかった。

タカネ「はぁ、はぁ…」タッタッタッ

タカネは森に紛れるようにして必死に逃げる。

タカネ「『麻酔液』の効果が切れていた…間一髪でした、あのままでは一方的に蹂躙されるところだった…」

タカネ(如月千早は怪我をしている。足さえ動けば、まだ逃げられる…)

タカネ(あんなもの、いつまでも保つ筈がない…逃げ切って何度でも『風花』を広げる…まだ勝機は…)

ドンッ

タカネ「きゃっ」グラッ

考えながら走っていると、何かにぶつかって体勢を崩した。

タカネ「な、なんですか…!? ぶつかるようなものは何も…」

タカネ「見えない…ハッ!」

「『アイ・ウォント』」

タカネ「………」クル…

声のする方を振り向く。誰もいない風景にノイズが走ると、元の姿を取り戻していく。

春香「くしっ」

元に戻った景色と一緒に、春香がくしゃみをしながら姿を現した。

タカネ「あ…天海春香…」

春香「やっほー。貴音さんの『複製』が本体だったんだね」

タカネ「む、無傷…?」

春香「そう見える? これでも崖から落ちてボロボロなんだけどなぁ」

タカネ「それはミキの『マリオネット・ハート』によるものでしょう!? 一体、どうやって『風花』の嵐の中を突破したのですか…!?」

春香「私の能力を知らない?」

タカネ「『六感支配』!? この『霧』の中すべてに、『花びら』を縦横無尽に駆け巡らせたのですよ、そんなものは役に立たないでしょう!」

春香「例えば、一枚の紙をペンで真っ黒に塗り潰すとしたらさ。太いペンで擦るよね。隅から隅まで…ガーって」

タカネ「突然何を…」

春香「…でも、ペンの太さが思っていたよりもずっと細かったら?」

タカネ「は…」

春香「いや、あるいは…紙の実際の大きさが全然違ったとしたら? 紙は真っ黒に塗り潰すどころか隙間だらけになる」

タカネ「な、にを…したのですか…」

春香「『触覚支配』で私の存在を認識できないようにした…ってのはわかるよね? だから、ああやって島全部を攻撃しなきゃならなくなった」

春香「それと一緒に、距離感を狂わせたんだよ。一枚の紙、私の周囲の空間を本来より小さく小さく認識するように」

タカネ「そんな…」

春香「そして『直感支配』でそれに疑問を抱かないようにした。音なんて、あの吹雪が勝手に消してくれるしね」

タカネ「馬鹿な…」

春香「どうやって本体を見つけようかはちょっと困ったけどね。でも、島中を攻撃してた氷が、突然一部だけを攻撃するようになって…」

春香「そして、その近くで濃い『霧』だけが残った。こうなったらもう誰だってわかるよ」

タカネ「ああ…」

春香「もう『霧』は晴れた。そしてここには『霧』を生み出す水源もない。そのためにあの湖の近くにいたんでしょ?」

ゴゴゴ

春香「あなたに私から身を守る手段はない」

ゴゴゴゴゴゴゴ

タカネ「ああああ…」

春香「さて、と…覚悟はいいよね?」

タカネ「ひっ」

春香「あれだけ好き勝手やってたんだもん。ね?」スッ

「春香!」

春香「………」ピタ

『アイ・ウォント』の振り上げた腕が止まる。

千早「もう、いいわ…決着はついた」

タカネ「如月千早…」

春香「もういいって?」

千早「ええ…もういい」

春香「でも千早ちゃん。この『複製』は、みんなを傷つけたんだよ?」

千早「そんなこと、貴女がする必要はない…そう言っているのよ、春香」

春香「………」

タカネ「止めを…刺さないの…ですか」

千早「必要がないから。また『霧』を生み出すようなら私が吹き飛ばすわ」

千早「もう貴女がどこで何をしようと、もう私達に手出しは出来ない。私がさせない」

タカネ「なるほど…」

サラサラ

タカネの体が砂に変わっていく。

千早「………」

タカネ「確かに、もう…止めを刺す必要はない…ですね」

春香「消えるんだね」

タカネ「ええ、そうですね…」

タカネ「しかし、不思議な気分です。敗北の無念も、如月千早、貴女に対する怒りももう残っていない」

千早「………」

タカネ「如月千早、貴女は何のために戦っているのですか?」

千早「何のため…」

タカネ「貴女は私を倒すためにここまで来ました」

千早「ええ」

タカネ「しかし、私に情けをかけた。消えゆくのは同じですが、止めを刺そうとはしなかった」

千早「………」

タカネ「何故です?」

千早「…私がアイドルであるためよ」

タカネ「…そう、ですか」

サラ…

その答えに納得したのか否か、タカネは目を閉じると、霧のように夕暮れの日差しの中に消えていった。

春香「倒したね」

千早「春香、無事でよかったわ」

春香「うん…千早ちゃんも」

千早「それにしても、さっきの『複製』への態度…怖いくらいに威圧していたわね」

春香「………」

千早「まるで…」

ポスッ

倒れこんできた春香を、胸で受け止める。

千早「春香…?」

春香「ごめん。少しだけ…こうさせて」

千早「…わかった」

千早(春香の体は、冷たく、震えていた)

千早(まるで春香が、半年前の冷たい彼女に戻ってしまったように感じた…けれど、違う。あの態度は、ただの虚勢だったのだとわかった)

千早(彼女は、今までずっと…たった一人で戦っていたんだわ)

To Be Continued...

スタンド名:「風花」
本体:シジョウ タカネ
タイプ:遠隔操作型・同化
破壊力:E~B スピード:C 射程距離:A(数km) 能力射程:A(数km)
持続力:C 精密動作性:E 成長性:C
能力:氷の「花びら」や「枝」などで敵を攻撃する「霧」のスタンド。
水分をスタンドにすることで「霧」を生み出し、広い範囲に撒くことができる。
「霧」の一部を凝固して氷を作り出し、それを「霧」で操ることができる。本体から離れた場所ではほとんどパワーが出ないため、薄い氷の「花びら」で切り裂いて攻撃する。
本体の近くならば、槍のような氷の「枝」や巨大な氷の「木」での攻撃ができるが、その分大量の「霧」が必要となる。
氷は「霧」がなければ動かすことができず、また「霧」で「風花」が作った氷以外のものを操ることはできない。
「霧」は音や動きを感じ取るセンサーの役割も果たしているが、射程距離の広さゆえに精度はそれほど高くはない。
A:超スゴイ B:スゴイ C:人間並 D:ニガテ E:超ニガテ

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