女「またボール飛んできた……これで何回目?」(229)

男「……すまん、こっちにボール飛んでこなかったか、って」

男「……」

女「……」

女「…思いっきり」

女「思いっきり飛んできたわよ!!!このドアホ!!!」

男「だから謝ってんだろ!?わざとじゃねっつのオラ!!!」

女「練習なんだから意識して飛ばす方向考えなさいよ!!!毎度毎度……っ、バカなの!?学習しなさいよ!!!」

女「窓開けてるが為に割れないで済むから良いものの……って、良くない良くない!!人に当たったらどうする訳!?あんた責任取れんの!?」

男「あぁ!?この美術室が野球部の練習スペースに近いのが悪いんだろ!?!?こんなに近けりゃ意識とかそんな問題じゃねぇだろうがよ!!!」

男「大体文句あるならてめぇんとこの顧問に言えや小心者!!!精々最上階の薄暗い目立たない部屋でも紹介して貰え!!!」

女「何ですって!?」

男「繊細で?貴重な?作品が豊富な美術部様wにはそんなとこボールも飛んで来ねぇしお似合いなんじゃねぇの!?まぁ、幽霊部員が更に増えるかもしれないけどなぁ!!!!」

女「あ、あんたねぇ……っ、好き放題言ってくれるじゃない…!」プルプル

幼馴染み「男ーっ、ごめんねー!ジャグのドリンク入れ変えてたから…」タッタッタ

幼馴染み「いつものボール、合った?」

男「おー、合った合った。てか自分が飛ばしたボールぐらい俺が取りに行くわ。マネージャーにそこんとこ気遣わせんのはな」

幼馴染み「…そう?」

男「おう」

女「…あの、ねえぇっ!」

女「合った合ったじゃないでしょ!?!?いつも同じとこに飛ばし過ぎて習慣化してんじゃないわよ!!!」

女「なぁにが『マネージャーにそこんとこ気遣わせんのはな』よ!!!こっちにもそれぐらい謙虚でいて貰えないものかしら!!!」

男「てめぇこそ分かってんなら絵ぐらい別の部屋で描きやがれ!!!邪魔臭いったらありゃしねぇ!!!」

男「大体女!!!てめぇは一々うるせぇ!!自分の事棚に上げて物喋るその態度が気に食わねぇから俺がわざわざご丁寧に分かりやすく物申してやってんのによぉ!!!」

女「はぁ!?今関係ない事指摘してんじゃないわよ!!!そっちこそその揚げ足取る悪癖何とかしたらどうなの!?根性が余計ひん曲がって見えるわよ!!」

男「やんのかゴミ」

女「何よポンコツ」

幼馴染み「…はぁ」

幼馴染み(また、始まった…)

幼馴染み「……男ーっ」

男「あ?」

幼馴染み「先輩、先輩が呼んでるよー…!」

男「げっ」

女「」ハッ

女「あぁっ、私の有意義な時間がこんなバカのせいで……」

男「チッ…それはこっちの台詞だカス」

「男!!!何やってんだ!!!さっさと練習に戻れ!!!」

男「うっす!!!今行くっす!!!」

ダダダッ

幼馴染み「……」

幼馴染み「…ごめんね、女ちゃん」

女「…えっ?あっ、…いいのいいの。あいつの言う通り場所が場所だし、正直仕方無い部分もあるって言うか…」

幼馴染み「いや、あの、それもあるけど……私が言いたいのは…」

女「…?」

幼馴染み「……ぁ」

幼馴染み「……美術部」

女「ん?」

幼馴染み「美術部、上手くやってる?」

女「え、あ、うん……毎日楽しいよ。人数少ないけれど」

幼馴染み「そっかぁ」

女「……やっぱり」

女「やっぱり、私にはこっちの方が合ってるかなって、あはは」

幼馴染み「!」

幼馴染み「…私、もう行くね」

幼馴染み「部室掃除しなくちゃいけないし」

女「えっ、あ、あぁ、うん」

幼馴染み「…じゃ、また」

女「また、ね」




女「……」

クラスメイト「女さん、ちょっと良い?」

女「…!う、うん、どうしたの?」

クラスメイト「今暇だったりする?」

女「あっ、えっと…」

女(どうしよう、部活あるんだけどな)

女「……」

女「…暇だよ」

クラスメイト「え、あっそう?えぇっと、言い辛いんだけど」

クラスメイト「この資料今日中に委員の皆で協力して仕上げとけって言われてさー」

クラスメイト「でも何か皆帰っちゃったんだよね」

女「……」

クラスメイト「俺もこの後用事あるからさ代わりにー…」チラッ

女「……」

クラスメイト「どう?やってくれたり……しない?」

女「……」

女「分かっ、た」

クラスメイト「おっ、まじで!?!?神様が舞い降りた~!!!じゃあ俺はこれで!!!」バビュンッ

女(はやっ!!!)

男(盗み見るつもりは無かったが、偶然見てしまった)

男(あいつ、何やってんだ)

男(あれだけの資料を一人で仕上げるつもりかよ)

男(断れば良いもんを……アホ過ぎ)チッ

男(……俺に対してはあんなにズケズケ言いやがる癖に)

男(俺以外には途端に猫被りやがって)

男(何しおらしい喋り方してんだよ腹黒女が)

男(お前の本音じゃねぇだろ気色悪い)

男「…うっぜ」

男(……まじで、一人で作業してやがる)

男(黙りやがって、愚痴の一つや二つも言えねぇのか)

男「……」

男(……俺には部活がある)

男(そうだ、暇じゃねぇんだよ俺は)

男(……こいつと違って、俺は)

男「…くそが」

男「幼馴染み、頼みがあるんだがよ」

幼馴染み「改まって、珍しいね。なぁに?」

男「…隣のクラスの担任の人使いが荒いそうでな」

幼馴染み「え?…うん、隣って女ちゃんのクラス?」

男「ああ。お前、今日は部活休むんだろ?用事までに少し時間があるならそのバカ女が言いように使われてるから手伝ってやってくんねぇか」

幼馴染み「……」

幼馴染み「なるほどね、分かったよ」

幼馴染み「……男の頼みなら断れないね」

男「…すまん、ありがとう」

幼馴染み(……男は、ずるい)

幼馴染み(私が何も言わなくても、何もしなくとも)

幼馴染み(…彼は鋭いから)

幼馴染み(敏感に、少しずつ、気付いていく)

幼馴染み(私の心の変化を)

幼馴染み(……単純に、知らない振りをして)

幼馴染み(私との関係に折り目を付けていく)

幼馴染み(男は器用だ)

女「…幼馴染みちゃん、ごめんなさい」

幼馴染み「え?」

女「手伝って貰っちゃって、私が受けた仕事なのに」

幼馴染み「全然大丈夫だよ、気にしないで。私もちょっと時間あるし」

女「そ、そっか……」

女「……」

女「…ありがとう」

幼馴染み「……」

幼馴染み「…お礼は男に言いなよ」

女「……男?」

幼馴染み「……」ハッ

幼馴染み(…言っちゃ、不味い、よね…?)

女「何で男が…」



ガラッ バン!!!!!

男「そうだ!!!!!俺に感謝しろ虫けら女!!!頭が悪いお前の為に幼馴染みを寄越したのはこの俺だぞブァァァアアアカ!!!!」

女「」ビクッ

女「騒がしいわね!!!びっくりするじゃない!!!部活行きなさいよ!!!」

男「今は休憩時間だっつのオラ!!!」

女「あっそ」

男「あ?やんのか?お?」

女「何も言ってないでしょうが!」

幼馴染み「…はぁ」

幼馴染み(いつもの調子に戻った…何だこれ)

男「俺に感謝しろよ」

女「……ありがとう」

女「……と、でも言うと思ったかー!!!!!このっ!!タコ!!!」

男「ああぁんっ!?!?」

女「結局手伝ってくれたのは実際幼馴染みちゃんじゃない!!!あんたは偉そうに出来る立場じゃないんじゃない!?!?」

男「…っんだと、っこのアマ!!!その言葉そのままそっくりお前に返してやるよ!!!ろくに出来もしねぇ仕事を一人で受けやがって…情けねぇよなぁ!!!!」

女「そ、それは……っそうかもしれないけど」

男「お?言い返せねぇのか?図星だな。猫被りちゃんは俺以外の人間には媚びて餌を貰う事に必死だもんな、哀れなこった」

幼馴染み「ち、ちょっと男流石にっ…」

男「そんなんだから、無能だって言われんだよ」

女「!!」

幼馴染み「…!」

幼馴染み(無能…?何の話…?)

女「仕方無いじゃない!!私は……あんたとは違うのよ」

男「おう、そらそうだな。有能な俺と無能なお前じゃ雲泥の差だろ」

女「……」

幼馴染み「ふ、二人共ちょっとやめてよ……こんなとこで」

女「……」

男「ほんと、てめぇを相手にしてるとイライラしてたまんねぇよ。その態度から面、何から何まで」

女「……うるさいわね、だったら話しかけて来ないでよ」

女「部室にだって……二度と来ないで頂戴!」

男「あん!?行きたくて行ってる訳じゃねぇよ!!!あんな埃くせぇ野暮ったい部屋こっちから御免だ!!!」

女「よく言ってくれるわ!!!迷惑してるのは私の方なのよ!?!?あの空間に居るだけでいつボールが飛んで来るのか毎日ひやひや、ひやひや……っ!」

幼馴染み(この二人……ほんと)

幼馴染み(…何て言うか…)

幼馴染み「はぁ…疲れる」

幼馴染み「あっ」

幼馴染み(…もうこんな時間)

幼馴染み「私、そろそろ」

女「えっ、あっ…」

幼馴染み「ご、ごめんね。最後まで手伝えなくて…何か」

女「ううん、全然大丈夫!」

幼馴染み「…じゃあ、私はこれで」

女「空気悪くしちゃってごめんなさい」

幼馴染み「気にしないで!」

幼馴染み(いつもの事だし…)

幼馴染み「じゃ、お疲れ様!男も!また明日ね~」

男「おう、また明日」

男「……」

女「……」

男(俺もそろそろ部活に戻らねぇとな、怒鳴られちまうぜ)

女「……」

男「……」チラッ

男(黙々と作業続けやがって気に入らねぇ…)

男(だから嫌なんだ、こいつは)

女「……」

男(頭も悪いし、鈍くせぇし、何か特技がある訳でもねぇし)

男(口だけの、女)

男(だから)

男(だから、ほっとけねぇ)

女「……」

男「……」

男(……ムカつくんだよ)

幼馴染み(………やっぱり)

幼馴染み(……女ちゃんがマネージャー辞めちゃったのは男が原因してるの、かな)

幼馴染み(……無能、か)

幼馴染み(途中で抜けちゃって悪い事したな…)

幼馴染み(……)

幼馴染み(男は、きっと)

幼馴染み(…きっと)

幼馴染み(…辞めよう、胸痛い)




女「もう、真っ暗…」

女「……」

女「……」

女「っ…」

女「終わん、ないよ…こんなの…っ」

女(やだ、泣きそう)

女「……どうしよう、これ」

女(今日中までに提出なのに……)

女(担任、まだいるのかな)

女「……はぁ」

女「……ぐす」

女(自業自得でしょ)

女(結局、あいつの言う事は正しかった)

女「……」ギュッ

男「お疲れーっす…」

先輩「何だ男、元気ないな」

男「疲れたっす」

先輩「……さては」

男「なんすか」

先輩「今日は幼馴染みが居なかったから寂しかったのか…?」

男「それは面白い冗談っすね」

先輩「そうかそうか!いやぁ!照れなくても分かっているぞ俺は!」

男(話、聞けよ…)

先輩「どうだ?これから二人で食べに行かないか?勿論俺の奢りだ!!」

男「奢り!!」

先輩「そうだ奢りだ!!」

男「」ハッ

男(いやいや…)

男「あー…、折角誘って貰って悪いんすけど今日はちょっと用事が」ゴニョゴニョ

先輩「?」

先輩「何の用事だ?」

男「忘れ物……教室に携帯忘れて来ちゃったんすよそれで」

先輩「携帯?さっき触ってただろお前」

男「」

先輩「つまらない嘘をつくもんじゃないぞ男。お前はもう少しセンスのあるジョークを言える奴だと思っていた」

男「」

先輩「よし、来い。久し振りに上手い飯を食いに行こう」グイッ

男「」ズルズル

男(……)

男(……資料、は終わったのだろうか)

男(…終わってないだろうな、タイミング悪)

女「……」

女(早く、早く終わらせなきゃ…)

女(…結局、今日は部活に行けなかったな)

女「……」

女「……」

女「……」

女(全然、終わらない…っ)

女「……」

女「……」

女「…っ」

女「……うぅ」

女「っ」

ガラッ!!!

女「」ビクッ

不良「あ…?」

不良「何やってんだこんな遅くまで」

女(不良君がどうして……)

女「い、いや…ちょっと頼まれ事を」

不良「ふぅん」チラッ

女「……」

不良「……」

女(…早く、出て行ってくれないかな)

不良「帰らねぇの」

女「え、あ…その、まだ終わって、ないし」

不良「早く終わらせろよ」

女「そ、そうなんだ、けど……中々、終わらなくて」

不良「はぁ?じゃあまた明日とかに回せば良いだろこの教室使いたいんだよ早くしろ」

女(何に使うんだろ……?)

女「…ごめんなさい、今日中に仕上げとけって言われたもので」

不良「これ全部か?あんた一人で?」

女「…」コクッ

不良「無謀だろ、断れよ」

女「うっ」グサッ

女「……断れずに」

不良「ふぅん」

女「……」

不良「……」

女「……」

不良「……」

女(……やだな、この視線)

男『猫被りちゃんは俺以外の人間には媚びて餌を貰う事に必死だもんな、哀れなこった』

女「……」

女(…哀れみの、目)

不良「……」

不良「…つか」

不良「終わりそうにねぇな」

女「ごめんなさい…教室何に使うつもりだった…?」

不良「あ?」

女(あ?って……)

不良「別に何でも良いだろ」

女「そ、そうだけど…」

ガラッ

女生徒「不良君、空いてる教室ってここの事?」

女「えっ…?」

女生徒「って、人いるじゃん」

女生徒「何だ、無理っぽいね」

不良「……ああ」

女「…!」ハッ

女(…え、あ、も、もしかして)

女生徒「んー……じゃあ、あたし帰るね」

女生徒「会える時また連絡して」

不良「おう」

女生徒「んじゃ、バイバイ」

不良「……」

女「……」

女(わ、わた、わたし……今の、絶対邪魔だった…)

不良「……」

女(…何、やってんだろ)

不良「……いつ、帰るんだよ」

女「へ、あ、え……と、いつ、だろ……」

不良「……」

女「……」

不良「……」

女「……ごめんなさい」

不良「……」

女(その視線)

女(……嫌だ)

女「……私の事」

女「可哀想だって言いますか?」

不良「……」

女(…何言ってんの私)

不良「……」

不良「…そいつは、周りの人間が勝手に思って決める事じゃねぇだろ」

女「!」バッ

不良「つまんねーよ、その質問」

女「……」

女「…つまんなくて悪かったわね」

不良「あ?」

女「……」

不良(…態度変わりやがった)

女「……」

不良「……」

女「……」

不良「もう適当に切り上げとけよ」

女「……そうする」

女「……あの」

不良「んだよ」

女「……」

不良「…何もねぇなら俺は帰る」

不良「じゃあな」

女「……さよなら」

不良「……」

ガラッ バタン

女「……」




クラスメイト「えっ、結局出来なかったの…!?」

女「ご、ごめんなさい!…こ、この量は中々一人では…」

女「…あの、半分は、終らせた…から」

クラスメイト「あ、あぁ…いや、無茶言った俺が悪いし…はは」

女「…」ホッ

クラスメイト「……」

女「…あの、それじゃ、私これで」

クラスメイト「…ああ、ありがとう」

女「!」

女(……お礼、言って貰えた。良かった)

クラスメイト「……」


キンコーンカンコーン

友「男ーっ、今日は隣のクラスで弁当食わね?」

男「…何で」

友「可愛い子が多いから」

男「だるい、俺はここで食べる」

友「つれないな」

男(よりによって隣かよ、冗談じゃねぇ)

男「行きたきゃ一人で行け」

友「へいへい、分かったよ」

男「……」

友「何だお前、結局来たのかよ」

男「……」モグモグ

友「まぁ別にいいけどよ」

野球部員「あれ?男じゃん、何でここで食べてんの?」

男「……ちょっと、な」

男(…女は相変わらず一人で食べてるんだな、寂しい奴)

男(クラスメイトに喋り掛けられてもしおらしい対応しかしねぇし)

男(端は落とすし、マジでどんくせぇ鈍過ぎ)

男「……」イライラ

男(弱くて、弱くて、見てられねぇ)




女(教科書忘れてしまった、教室まだ開いてるかな)

女(ん…?話し声が聞こえる…誰かいるの?)

「……あんな奴に頼んだ俺が馬鹿だたぜ」

「普通、頼まれたからってあれだけの量を一人で片付けようとしないよな」

女「……」

「友達いないんだろ、いつも一人じゃねーか」

「お陰で俺が怒られたつーっの」

「嘘吐いて仕事サボったんだから因果応報だろ、案外女も分かってて狙ってたりしてな」

女「…っ」

女(なに、それ……)

「まぁ、役立たずを引いたお前の負けだよ」

「チッ」

女「……」

「女が無能だっただけに運が悪かったな」

女「!!」

女(……)

女(…それ、一番聴きたくない言葉)

女(……)

女(……)




不良「……」カチッカチッ

シュボッ

不良「ふー…」

不良「……」

不良「……」

女「…あ」

不良「…あ?」

女「……」

不良「……こんなとこに何しに来たんだよ」

女「…ゴミ、捨てに来ただけよ」

不良「……」

女「……」

不良(…泣きそうな面しやがって)

不良「まだ何か用か」

女「……あの」

不良「…またつまんねぇ事聞くつもりじゃねぇだろうな」

女「…!」

女(つまらない、事……)

女「…違うわよ」

不良「ほう」

女「……」

不良「……」スパー

不良「……」ポイッスリスリ

女「……」

女(つまらない)

女(…そんな言葉に少し、救われた気がしたなんて)


ガラッ

男「!」ビクッ

女「…どうして、あんたがここにいるのよ」

男「居ちゃ悪いか?担任に呼び出されて美術の課題しに来たんだよ」

女「あっそ」

女(最悪…こいつと二人だけなんて)

男「…お前、また一人で弁当食ってたな」

女「……」

男「ぼっちだと色々大変だな」

女「うるさいわね!余計なお世話!」

男「おー、こわ。図星だとすぐ声荒げるのやめてくれよ、煩くて敵わねぇ」

女「…っ、少しは黙りなさいよ…!!」




男「…てめぇ!!ピカソにも勝る俺の芸術作品に難癖付けやがったなぁ!!」

女「あんたピカソバカにしてんの!?その馬糞みたいなゴミセンスどうにかしなさいよ!!見てるだけで虫酸が走る!!」

男「あぁ!?んだとこのアマァ!!この際言わせて貰うけどよ!!てめぇの作品も正に脳内お花畑な奴が描いた臭いがぷんぷんするんだよ!!くせぇったらありゃしねぇ!!芋女は畑で芋掘りでもしてろ!!!」

女「そうやって戯れ言叩いてる暇があるなら少しは手を動かしたらどうなの!?だから呼び出しなんてくらうのよ!ほんとざまぁないわね!!」

男「やんのかコラァ!!!」

女「課題をやれバカ野郎!!」

ガラッ バンッ

幼馴染み「うるさぁーい!!!!」

女「」ハッ

男「」チッ

幼馴染み「って、苦情きてるからほんと自重して二人共」

幼馴染み「男もほんと懲りないなぁ…」

男「……うるせぇよ」

幼馴染み「……」

幼馴染み「……もうすぐ夏休みだね」

男「…ん?あぁ、そうだな。でも俺らはずっと練習じゃねぇか」

幼馴染み「うん…あ、あのさ男」

男「何だ?」

幼馴染み「その…夏休み、の課題教えて欲しいって言うか…。男頭良いし…部活ない日にでも…」

幼馴染み「…」チラッ

男「……なぁ」

男「お前嘘吐く時、決まってそうやってチラ見するよな」

幼馴染み「!!」

幼馴染み「それ、は…」

男「…部室、行こうぜ」

幼馴染み「……そうだね」




ザァーッ

女(酷い雨)

女(傘、忘れてしまった)

女(…どうしようかな)

不良「よう」

女「っ」ビクッ

女「こ、こんにちは…」

不良「おう」

ザァーッ

女「……」

不良「……」

女(止まないな)

女「…」チラッ

不良「……」

女「……」

不良「あんた」

女「な、なに」

不良「今日もおせぇのな、また居残ってたのか?」

女「今日は、部活で…」

不良「ふぅん」

女「……」

女「止まないなぁ…」

不良「……」

女「…雨は嫌いじゃないけれど」

不良「奇遇だな、俺もだ」

女「……」

不良「……」

女「……今日、教室にいなかったわね」

不良「あ?……あんた、同じクラスだったのか」

女「…知らなかったの?」

不良「待て、名前当ててやるよ」

女「……」

不良「女」

女「しっかり把握してるじゃない」

不良「まぁな」

女「何よそれ」クスッ

不良「……」

女(何だか、不思議…)

女(こうやって、学校で普通に喋るの)

女(野球部にいた頃以来だ…)

ザァーッ

不良「……止みそうにねぇな、仕方ねぇ。俺は帰る」

女「……」

不良「…じゃあな」

女「……さよなら」

不良「……」

バシャッ

女「……」

女(降り続いてる…)

女(…風邪、引くよ)

女(一向に止みそうにないな…)

女(少し、距離あるけれど途中のスーパーで傘買おう)

バシャッ バシャッ

女(冷たい)

女(ついでにホットココアも)

バシャッ バシャッ

男「おい」

女「げっ」

男「……」

女「……」

男「傘、ねぇのか」

女「…だったら何」

男「…」スッ

女「…いらない」

男「あぁ!?折角俺が差し出してやってんのに何だその態度!!」

男「つうかてめぇの家まで山道だろうが!!妙な所に家建てやがってあぶねぇんだよ!!」

女「そんなボロボロの汚い傘あっても意味ないわよ!!早く帰れば!?」

女「大体家の事まで口挟まないで頂戴!!そんな山と言う山じゃないわよ!!」

男「文句言ってねぇでとっとと受け取りやがれ!!」

女「いらないってば!!」

男「濡れてんだろうが!!!!!!」グイッ

女「っ…!」

女「……」スッ

男「…チッ」

女「……」

男「感謝しろ雌豚」

女「折っていい?」

男「は?俺の善意を踏み躙る訳?」

女「……」

男「……」

女「……ありがとう、ございます」

男「……」




女(…結局、借りてしまった)

女「……雨」

女(……見なさいよ、止んで来たじゃない)

女(…山砂、ぬかるんでる)

女(でも、普通に歩けるし…ちょっと歩きにくいけど)

女(……)

女(……)

女(…この山間から見える海、いつも綺麗)

女(……)

ズリッ

女「…!?」グラッ

女「…っ…やだ」

女(気、取られてっ……)

グシャッ

ガンッ ズテンッ

女「……っ」

女「……」

女(痛い、のに……視界が)

女「……」

女「……」


ガサッ ガサッ

ガサッ ガサッ

不良「……?」

不良(この鞄、うちの学校の奴じゃねぇか)

不良(何で落ちてんだ?)

ガサッ

不良「!!」

女「……」

不良「…おいおい、何でこいつが」

不良(しかも気絶、してんのか…?)

不良(…足を滑らせたのか)

不良「チッ、世話の焼ける」

女「……」

不良「よっこらせ」ヒョイッ

不良(軽いしほせぇ……ちゃんと飯食ってんのかこの女)

不良「……」

不良「……」

爺「お帰り、漁場の様子はどうじゃった」

不良「雨の後とは言え問題は無さそうだぜ、明日は船を出す」

女「……」

爺「……って、その子はどうしたんじゃ」

不良「倒れてた、そこの山道で」

爺「…ふむ、畔の家の子かの」

爺「布団で寝かせて置いてあげなさい」

不良「おう」




女(…何だか、冷たかった筈なのに)

女(酷く、温かい…)

女「……」パチッ

女「……」ガバッ

女(頭、痛い……)

女(……和室?)

不良「よぉ、起きたか?」

女「!?!?」

女「えっ、なっ、えっ」

不良「良い反応じゃねぇか」

女「ど、どうして不良君がっ」

不良「俺があんたを助けた、以上」

女(……)

女(あ、そうか……私、ぬかるみで足滑らせて)

女「……はぁ」

女(…こんなの、男にバカにされて当然じゃない)

女(…服、変わってる。私、確か制服で)

女「ももももしかして…っ」

不良「あ?」

女「服、脱がして…っ!?」

不良「当たり前じゃねぇか、泥々のまま放って置く訳にはいかねぇだろうが」

女「そ、そう…よね!」カアァッ

女(助けて貰った手前文句は言えないわ…)

不良「安心しろ、見ねぇ様に努力はした」

女「う、うん…」

不良「……」

女「…あ、あの」

女「ありがとう」

不良「ん」

女「……え、と」

女「じゃあ、私帰るね。その、お世話になりました」

不良「おいコラ待て」

女「へ?」

不良「あんた……今何時だと思ってんだよ」

女「…?」

不良「もう9時回ってんぞ」

女「嘘…!?」




爺「そうだ、今日は泊まって行きなさい」

女「い、いや、そんな、悪いです!助けて貰った上に!」

不良「じゃあどうすんだよ、帰るのか?まともに光りもねぇ状態で山道入ったってまた足滑らすんじゃねぇの」

女「うっ……ごもっともだわ」

爺「まぁ、ゆっくりせい」

女「……すみません」


不良「……」

女(不良君、魚捌けるんだ…凄い)

女(手際、良いな)

女「……あの」

不良「……」

女「…晩飯の仕度、手伝うよ」

不良「……」

女「……」

女「……ちょっと、聞いてる?」

不良「…集中してんだよ、黙って待ってろ」

女「……」

女「……」

不良「……」


不良「よし」

女「…この魚ってそこの海で捕れた物?」

不良「ああ」

女「…やっぱり」

女「凄く、美味しそう」

不良「食うぞ」

女「う、うん……」

不良「……」

女「……お爺さんは?」

不良「漁協の集まりに行った、向こうで寝泊まりするだろ」

不良「今日は帰って来ねぇよ」モグモグ

女「ぎょきょう?」

不良「…俺は爺ちゃんと二人で暮らして、漁業で生活してるからな」

女「そう、なんだ…」

女(…通りで)

女「…頂きます」

不良「……」モグモグ

女(……お爺さんがいないって事は、二人きりなのよね)

女「……」チラッ

不良「……」

女(……)

女(…不良君は、変わってる)

女(…周りの人間とは、何だか少し違う人)

女「……」パクッ

女(……何これ、美味しい)

女「……」パクパク

不良「……」




カチッ シュボッ

不良「……ふー」

不良「……」

女「…一服してる所ごめんなさい、お風呂あいたわよ」

女「……服、また借してくれてありがとう」

不良「おう」

不良「……」

女「…星、沢山見える」

不良「……」

不良「…雨の後だからな」

女「……」

女(鮮明で、酷く力強い空)

女「……私、寝るね」

不良「……」




女(…すっかり、制服乾いてる)

女(少し、物悲しいと思うのは不純だろうか)

女「…あ」

女(……置き手紙)

『私と孫は、漁場におる。朝食は置いておくよ。 爺より』

女(…朝早いのに、凄いな)

女(……鍵まで、置いてある)

女(……)

女(……不良君は、今日学校来ないのかな)

女(……)


女(鍵、今日の帰り道でも寄って返しに行かないと)

女(…畔から丘までそんな遠くないし)

女「……」トコトコ

女(……)

女(……あれ?私何か、忘れて)

女(……そうだ、傘)

女(男から借りた、傘)

女(…不良君の家にそれらしき物は無かった)

女(……っ)サァーッ

女(って事は、私滑った時に落として……?)

女(……どうしよう)

女(探しに、行かなくちゃ)

タッタッタッ


ガサガサッ

女「……」

女(……無い)

女(……どうして?確かに、ここで)

ガサッガサッ

女(…風で飛ばされたの?)

女(……そんなの、探しようがない)

女「っ…」

女(…見つかって、お願い)

女(……じゃないと、私また)

女(……また)

女「……」

女(……最低、自分の事ばかり考えてる)


女(…かれこれ一時間は探してる)

女(…折角、洗って乾かして貰った制服もまた泥々だ)

女(これじゃ、学校行けないわね)

ガサッ

女(……)

女(……馬鹿じゃない)

女(…人に借りた物、なくすなんて)

女「……」

女「……」

女「……」

女(飛ばされて、崖下まで落ちたのかしら)チラッ

女「……」

女(そんな深くないもの、降りれるわよね…)スッ

女「……」

女「……」

女「……よっ、と」

女「……」

女「……」

女「……」

女(……どこを見ても、無い)

女(…どうすれば、いいの)

ガサガサッ

女「……」

女「……」

女「……痛っ」

女「……な、なに?」

女「……足腫れてる」

女「」ハッ

女「まさか…!」チラッ

女(……やっぱり、マムシ)

女(……靴下の上から噛まれたの)


女(痛みが段々酷く、なって来る)

女(戻らなきゃ、危ないわ)

女(……力、入らない)

女「……」

女「……っ」

女「……」

ガサガサッ

ガサッ

女(草を掻き分ける音)

女(…誰か、来る?)




不良「……あんた」

女「!!」

不良「……」

女「ぁ…」

不良「…学校に行ったんじゃなかったのか」

女「……傘、落として」

不良「…昨日か」

女「……」コクリ

女「…何で、ここに」

不良「事情があってな、海がよく見える場所探してたんだよ」

女「……っ」

女「……」

女(…泣きそう)

不良「…おい、どうした」

女「……痛い」

不良「また転けたのか」

女「…噛まれて、多分マムシに」

不良「…見せてみろ」

女「……」ヌギッ

不良(…確かにマムシだ)

不良「…」スッ

女「…タオル、良いの?血、付いちゃうわよ…」

不良「黙ってろ、毒の進行を止めるのが先だ」

不良「……っ」

女「!」

女(……毒、吸ってくれてる)

女「……」カァ

女(…直視、出来ない)

女「……」

不良「……」

女(傷口が熱いのは、毒のせいかな)

不良「……」ペッ

不良「…一時的にはこれで大丈夫だろ、症状を見る限り強い毒性じゃねぇっぽいな」

女「……ありがとう」

不良「おう」

女「……」

不良「…そんな状態じゃ学校に行けねぇし、家戻るか」

女「…!」

女「……でも、傘」

不良「あ?」イラッ

不良「さっきのはあくまで応急処置だ、完治したと錯覚して調子に乗るんじゃねぇ」

女「……ごめんなさい」

不良「……おぶってく、乗れ」

女「…自分で歩くわ」

不良「良い加減、自覚してくれねぇか」

女「……」

不良「……乗れ」

女「……」スッ

不良「…っしょ」

不良「……」

女「……」

女(あったかい、背中)

女(…広くて、逞しい)

女「……罰が、当たったのね」

不良「チッ」

不良「……またつまんねぇ事ほざきやがって」

女「……」

女(…酷い言い草)

女(…でも、悪く感じない)

女「……」ギュッ

不良「……」




ガラッ

男「すまん、こっちの方にボール飛んでこなかったか……って」

男「……」

男(……何だよあいつ、今日はいないのか)

男(…休みか?)

男「……」

「男ーっ、早く定位置付けーっ!!」

男「うっす!!!!」

男(……)




爺「すまんの、不良は今漁場まで出向いていて」

女「いえ…!そんな、全然!お構い無く」

爺「また、夏休みにでも遊びに来たらええ」

女「ありがとうございます」

爺「まぁ、本音はこんな老いぼれを支えてくれる孫を手伝ってやってくれんか」

女「…そんな、老いぼれだなんて」

爺「……ほほ、病院にはちゃんと行くんじゃよ」

女「はい、」

女(不良君にも挨拶しときたかったな)




幼馴染み「女ちゃん、おはよう」

女「あっ…幼馴染みちゃん、おはよう」

幼馴染み「昨日、休んでたんだって?どうしたの?風邪?」

女「…あはは、ちょっと…ね」

幼馴染み「……そっか、無理はしないでね」

女「う、うん」

女(……男に正直に言わなきゃ)

女(ちゃんと謝って、詫びて)

女(……自業自得とは言え、気が重い)

女「……」

女(…不良君、今日は来てるのかな)

女「……」

女(会いたい、なんて)


「…いえ、話を聞いてくれただけでも嬉しいです」

男「……」

女(…女の子、行っちゃった)

男「……はぁ」

男(教室…戻るか)クルッ

スタスタ

女「やばっ、近付いてくる…!」

ガンッ

女「痛っ」

男(あ?誰か、聴いてたのか?)バッ

男「!?」

男「……女」

女「…あ」

男「てめぇっ…!盗み聞きとは良い趣味してるじゃねぇか!」

女「わ、わざとじゃないのよ。たまたまあんたに用事があって…っ」

男「あん?言い訳は要らねぇんだよ!まぁ、お前みたいな野暮ってぇ女に取っちゃ今みたいな場面は夢のまた夢みたいなもんだから珍しく映っただろうけどよ!!」

男「一方俺はと言うと日常茶飯事だからなぁ、ハッ」

女「くっ」

女(我慢我慢……今日はそう、目的があるのよ)

男(何だ?言い返してこねぇ)

女「…私、あんたに謝らないといけない事があるの」

男「…んだよ、気色わりぃな」

すまん、ミス
>>84の後に

女(あれは……男?)

女(丁度良いわね)

タタタッ

女(…?誰かといる?)

「好きです、付き合って下さい」

男「……」

女「!?!?」

女(こ、こくはく現場……っ)

男「……ごめん、それは出来ない」

女「……」

女「……えっと、その」

女「……あの、ね…」

女「……」

女(…謝るだけ、そうよ謝るだけ)

男「……」

男「……はよ」

男「言えやノロマァ!!」

女「ちょっとぐらい待ちなさいよ!!」

男「俺は優しい男じゃねぇからな!待たねぇぞ!教室に戻るからな!?!?」

男「ふんっ」クルッ

男「……」スタスタ

女「えっ、ちょ、待って……っ」

男「……」スタスタ

女(……私の、意気地無し)

女(……)




女「……」

女(……ゴミ捨てに行こう)

女(……また、裏庭にいるのかな)

女「……」

女「……?」チラッ


女生徒「……」

不良「……」


女「!!」ドキッ

女(……あの子、確かこの間の)

女(……)

女(……付き合ってるのかな)

女(……会話、聞こえないや)

女「…」ハッ

女(こんな、盗聴みたいな事しちゃ駄目ね……早く離れましょ)ソソクサ



不良「……」グイッ

女生徒「…ん」



女(…え)

女(ちゅ、ちゅー、っして…!?!?)

女「……」

女「……」

女生徒「ふっ、んんっ」

不良「……っ、はぁ」

女生徒「…ねぇ…っ、ここで…抱いてよ」

不良「…馬鹿言うな」

女生徒「あはは、冗談だよ」


女(…)

女「……」

女(…早く、離れないといけないのに)

女(足が、動かない)

女(……)

女(……あの時の傷口が、傷む)

女(……)




ザァーッ

女(…また、雨)

女(……)

女(……)

不良「よぉ」

女「…っ!」ビクッ

女「あ……き、奇遇ね」

不良「おう」

女「……」

不良「……」

女「…今日は、早いのね」

不良「あんたも」

女「……部活、途中で抜けて来たから」

不良「ふぅん、で」

不良「…傷、どうだ?あれから病院に行ったのか?」

女「!」

女「う、うん……その、特に何ともなくて薬は一応」

不良「そうか」

女「……」

女「……貴方のお陰、ありがとう」

不良「…どう致しまして」

不良「また、傘…忘れたのか」

女「あ、えっ……と」

女「……うん」ギュ

不良「ぷ、奇遇じゃねぇか俺もだ」

女「……」

不良「でも、今日は止むだろうな」

女「…根拠は?」

不良「ねぇよ、勘だ」

女「…何よ、それ」

女(……嘘まで吐いて)

女(私はどうして不良君といるんだろう)

女「……」

不良「……」

不良「……探してた傘」

女「え?」

不良「お前がぶっ倒れてた時にちゃんと確認して、俺が回収するべきだった」

不良「すまねぇ」

女「!」

女「……」

女(……どこから、どう、考えてみても)

女(悪いのは、私なのに)

女(……私から始まって、私が原因を作った)

女(……不良君は、それを分かってて、私が素因だって、認知してる癖に)

女(……どうして謝るの)

女(……それは、哀れんで?)

不良「……」

不良「……なぁ」

不良「あの傘、あんたのじゃねぇだろ?」

女「…っ!」ドキッ

不良「やっぱりか」

女「……」

女「…うん。か、借りたの」

不良「……」

不良「……」

不良「……その傘」

不良「黒い、でけぇおんぼろ傘じゃねぇだろうな」

女「…えっ、何で知ってるの」

不良「拾った、まさかと思って家に保管してある」

女「……」

女「絶対、確かに、それだわ…」

不良「……」

女「…申し訳無い」




女「お、お邪魔します」

爺「いらっしゃい」

不良「確か、ここに」

不良「……」スッ

不良「…これか?」

女「間違いない、これよ…!これだわ!」

不良「持ってけ」

女「あ、ありがとう」

不良「……」

爺「何じゃ、今朝から海にまで入って探してたのはそれだったのかの」

女「え?」

不良「…ああ」

爺「ふむ、昨晩から風が強くて少し荒れとった。危ない真似はよしなさい」

不良「すまねぇ」

女「さ、探してくれてたの」

不良「…そうだな、拾ったってのは嘘だ」

女「……」

不良「風で飛ばされたのか、海の方まで流れていた」

不良「大事なもんはしっかり、その手で握っとけ。俺じゃ手に余る事もある」

女「……うん、ありがとう」

女「…海まで入って、びしょびしょになったんじゃ」

不良「あ?んなの、漁やってりゃ日常茶飯事だ」

女「……」

不良「それより、俺はちゃんと謝罪した」

女「!」

女(……哀れんでなんか、なくて)

女(私の、背中を押す為に)

女「……」

女「これ、ちゃんと返して」

女「…私も、謝って来るよ」

不良「……」

女「……ありがとう」

女「おじゃま、しました」

爺「また来なさい」

ガラッ ピシャッ

タッタッタッ

女(……彼の目は)

女(鋭くて、眩しい)

女(……静かに、私を見通して)

女(そっと、熱をもたらす)

女(強過ぎる、人)

女(……とても、敵わない)

タッタッタッ



不良(行ったか)

不良「……爺ちゃん、俺延縄繕って来るから」

爺「ああ、すまん」

不良「……」

不良(……あの傘)

不良(無駄にでけぇし、厚い)

不良(それに黒々してて、シンプルだ)

不良(……それに、女が使うには持ち手が少し重い)

不良(……ただでさえ、ほせぇ腕してんのに)

不良「……」

不良「……男もんか」

不良(………)

不良(………あんな、小胆な女でもいるもんなんだな)

不良「……」


後輩「お疲れっしたー」

男「気を付けて帰れよー」

後輩「うーっす」

男(……俺も帰るか)

女『…私、あんたに謝らないといけない事があるの』

女『……えっと、その』

女『……あの、ね…』

女『……』

男(……)

男(……大体、予想は付くんだよあのアホが)

男(……そうだよ)

男(俺が分かっててやらねぇと、あいつは…)

女「…男」

男「…!」ハッ

男「校門でこんな遅くまで何してんだてめぇ」

女「…あんたを待ってたのよ」

男「あっそ、で…何」

女「この傘、ありがとう。助かったわ」スッ

男「……」

女「……あの、ね」

女「その傘、落としてなくしてた所を見付けて貰って」

女「ごめんなさい、折角貸してくれたのにそんな風に扱ってしまって」ペコッ

男「……」

女(……謝れた、わよね?)

男「…」

女「…」

男(…何だ、この違和感)

男(女は、こうやって物言う奴だったか…?)

男(……違うだろ。お前はもっと、受動的で、小心者で)

男(……受動的で、小心者…?)

男(……)

男(何、言ってるんだ俺……まるで、知った様な口…)

男(……自分が、気持ち悪い)

男(……くそっ)

男「……っ」

女「…?」

幼馴染み「男」

男「!」

幼馴染み「何やってるの、早く帰ろ……」ハッ

女「…ぁ」

幼馴染み「あ、あれ?ごめん、えっと、何か話し込んでた?」アタフタ

女「う、ううん。もう終わったから帰るよ私」

女「じゃあね」

男「…あ、おい…っ、ま」

女「」タッタッタッ

男「……」

幼馴染み「……何か、ごめん」

男「……帰るぞ」

幼馴染み「…うん」

トコトコ

幼馴染み「……ねぇ」

幼馴染み「……何か、空が澄んで見えるよ」

男「…雨で浄化されたんだな」

幼馴染み「綺麗だね」

男「ああ」

幼馴染み「……月も、月も綺麗」

男「……」

男「……俺は、月よりも星を見ていたいな。夏の大三角形」

幼馴染み「……そう」

男「……」

幼馴染み(……私の心は)

幼馴染み(……何度も、何度も)

幼馴染み(……そうやって、切られていく)

幼馴染み「……」




女(……あ、雨止んでる)

女「……」


不良(…勘、当たったな)

不良「……」


女(…明日も)

不良(…降ったらいい)




『なぁ、何で女ってマネージャーやってんのかな』

『知らね、興味ねーし』

男(……)

『男、知ってる?』

男『あ?知ってる様に見えるか』

『いや…だって随分仲良いじゃん、お前ら』

男『ふざけんな、俺とあいつがまともに話してる所見た事あるか?』

『ないな』

男『当たり前だ、想像しただけで気色悪い』

『ひでぇ言い草』

幼馴染み『喋ってないで、練習に集中してー』

男『……』

『うぃっすー』

『へーい』

幼馴染み『気の無い返事は困るよー』



『幼馴染みと女だったら、どっちが良い?』

男『何だ、いきなり』

『気になった』

男『幼馴染み』

『俺も』

男『ミスばっかするし、鈍いし、マネージャー所か足手まといなんだよ女は』

男『その癖、俺ばっか偉そうに指図してきやがって』

『…まぁ、正直、いてもいなくても変わらねぇっつうか』

『幼馴染みと比べたら、無能だよな』

男『比べるまでもないだろ』

男『…無能は、野球部から消えれば良いのに』


女『…!』

『えっ、あっ、お、女…』

『い、いたのかよ』

男『……』

女『……』




ポツ ポツ…

男(…チッ、朝から降ってきやがった。うぜぇ)

男(……?)

男(……女じゃねぇか、朝練もない癖に何でこんな早くから登校してやがんだ)

幼馴染み「男ーっ、おはよ!」

男「おう、はよ」


女(…今日の天気予報は朝から雨だったから)

女(降って来る前に登校してしまった)

女「……」

女(…わざわざ傘、忘れる為に)

女「……」

女(…早く、放課後にならないかな)



女生徒「不良君、最近ここにいるのデフォになってない?」

女生徒「そんなに良い?裏庭」

不良「まぁな」

女生徒「……こんな、何もないとこ」

不良「煙草を吸うのに丁度良い」

女生徒「…体に悪いよー」


不良「……」スパー

不良「また、ゴミ捨てか」

女「ち、ちがうわよ。今日は、兎の餌やりを頼まれて…」

不良「ほう」

不良「……」

不良「あんた、お人好しだな」

女「……」

不良「どうせまた、断れなかったんじゃねぇのか」

女「…別に、今回のは餌やりだけだし」

女「…それなら私にも出来るなって思って」

不良「ふぅん」

女「……」

不良「……」




女(……雨、止んじゃってる)

女(……残念)

女生徒「…あれ、君」

女「……?」

女(…あ、この子…確か、不良君の彼女さん)

女生徒「ねぇ、美術部の子だよね!女さんだったかな?」

女「えっ、あ、そ、そうです」

女生徒「しょっちゅう、男君と喧嘩してるって結構有名だよ~あはは」

女「えっ」

女(そ、そうだったんだ…恥ずかし)

女生徒「あっ、そうだ!廊下に飾ってある君の絵見たんだけど、凄く綺麗だね!あれはなんていう花なの?」

女「あ、え、えっとっ…あ、あれは、桔梗っていって…」

女生徒「へぇ!うーん……でも、見た事ないなぁ」

女「ぜ、絶滅危惧種なので」

女生徒「そうなの!?」

女生徒「あっ、同じ学年なんだし敬語じゃなくても大丈夫だよ!」

女「す、すみません…」

女生徒「あはは、また敬語~」

女(……気さくで、明るくて、笑顔が素敵で)

女(……可愛いなぁ)

女生徒「あ、そう言えば……この間、教室に割り入ってごめんね」

女「い、いえ!そんな!」

女「……」

女(……むしろ、私の方だ。立場を弁えていないのは)

女(……最近、おかしい)

女(……あの目を思い出して)

女(……何度も、何度も、彼の言葉を頭の中で、反芻する)

女(……あの手で)

女(抱かれた自分を想像して、酷く、切なくなる)

女(……これじゃ、まるで)

女(まるで)

女「……」

女生徒「?」

女「その、私の方こそ、ごめんなさい」

女「彼女さんだとは知らなくて」

女「…空気も読まずに。私が退出するべきだったのに」

女生徒「あはは、堅苦しいなぁ。彼女じゃないから大丈夫だよ」

女「……え?」

女生徒「ん?」

女「……彼女じゃ、ないの?」

女生徒「違うよ?」

女(で、でも、じゃあ、どうして)

女(……あれは、確かに)

女「……」

女生徒「そろそろ帰ろうかな。じゃあね、女さん。バイバイ」

女「あ……バ、バイバイ」



不良「……」

不良(…この絵、女が描いたのか)

不良(美術部、だったんだな…)

不良「……」

不良(特別上手い訳じゃない、けど)

不良(……あいつ、筆ならこんなに自分を表現出来るんだな)




女(あれから、嘘みたいに晴天が続いて)

女(……明日から、夏休み)

女(……不良君は、ずっと見掛けていない)

女(……教室にも、来ない)

女(…彼は幻の様な人だから)

女(…雨の様に、消えていく)

女(……)


ポツ…ポツ…

女「…!」

女(……久々の、雨)

女(……)

女(……傘なんて持って来てない)

女(濡れて、帰ろう)

女「……」


バシャッ

タッタッタッ

女(……冷たい)

女(……また、あの山道で)

女(会ったり、しないかな)

女「……」



女「……」

女(……変わらず、雨の後の道は泥々だ)

女(……そんなの、前までは気にならなかったのに)

女(頭に残る、あの時の熱)

女「……」

ザァーッ

女(……酷く、なって来た)

女(……もう少しだけ、ここにいたい)

女(……海の波が、こんなにも荒れているのに綺麗だなんて)

女(……もう少しだけ、もう少しだけ踏み込むんだ)

ガサッ ガサッ

女(……もっと、近くで見たい)

女(この荒んだ海を、目に焼き付けて置くんだ)

女(頭の中で描けるように)

ガサッ

女「……っ!!」


不良「!」

女「……」

女(……)

女(……何で)

不良「…また、あんたか」

女(……こんな所で)

女「……何してるの」

不良「……」

不良「……強いて言えば」

不良「……死のうとしていた」

女「は……?」

不良「冗談だ」

女「……」

女(……そんな風に)

女(薄く、笑うのは癖…?)

不良「それよりもあんた」

女「」ハッ

不良「……」

女(やばい!しっ、した、したぎ…!透けてるっ)カァッ

不良「…何回も傘忘れてんじゃねぇよ、びしょびしょじゃねぇか」

不良「入ってけ」スッ

女「…!」

女「あ、ありがとう」

不良「どう致しまして」

爺「どうしたんじゃ……そんな濡れて」

女「あっ、こ、こんばんは!その……傘を忘れてしまって」

女「偶然会って、不良君に入れて貰ったと言いますか…」

不良「……」

爺「ふむ、そうだったか。しかし、今夜は止みそうにないが」

爺「幸い明日から夏休みじゃ、泊まっていくと良い」

女「えっ、い、いえ!タオルを借りに来ただけなので!」アタフタ

不良「ついてねぇな」



不良「あんた、親には連絡したのか」

女「あっ、うん。えっと…何とか誤魔化せた、かな?」

不良「…誤魔化す必要ねぇだろ」

女「そ、そうだけど…」

不良「…まぁ、どうでも良いけどよ」

女「……」

不良「俺は晩飯の仕度するから」スッ

女「う、うん…」


不良「……」トントン

女「…あの、私にも手伝わせて」

不良「……」

不良「……味噌汁、そこに味噌あるから」

女「!」

女「う、うん!」

女「……」トントン

女「」ザクッ

女「いたっ」

不良「……」

女「……」トントン

不良「……」

グツグツ…

不良「沸騰したら中火にしてくれ」

女「分かった」カチッ

女「っ!あつ!」

不良「……」

不良「…何あんた、料理した事ねぇの?」

女「い、いや…するにはするんだけれど」

不良「…ふぅん」

女「……」

不良「爺ちゃん、飯」

爺「はいよー」

不良「魚の仕分けなら俺が後でやって置くからよ」

爺「すまんの」

不良「おう」

不良「先に食っててくれ」


ガラッ

女「……」

不良「……」セッセ

女「…ご馳走さま、美味しかった」

不良「そうか、味噌汁はどうだったんだよ」

女「微妙だった」

不良「何だ、そりゃ」

女「……」

女「ご飯、食べないの?」

不良「これ終わってからだな、もう終わる」

女「冷めちゃうわよ」

不良「今更だ」

女「……」

女「……一人で、いつもお爺さん支えてるの?」

不良「……」

女「ねぇ…私も、手伝う」

不良「…あんたには、出来ねぇよ」

不良「魚の質なんて分かんねぇだろ」

女「…じゃあ、見とく」

不良「勝手にしろ」

女「……」

不良「……」

女(……日に焼けた、腕だな)

女(……黒くて、節くれだった手)




幼馴染み『ねぇ、男』

男『……』

幼馴染み『女ちゃんと喧嘩でもしたの?』

男『は?喧嘩ならいつもしてんだろうが』

幼馴染み『…最近、変だよ。二人とも』

男『……何がだよ』

幼馴染み『だって、前みたいに明快な言い合いじゃなくて、何か、険悪』

男『お前の思い込みだろ、俺とあいつは初めからそういう関係だ』

幼馴染み『皮肉とか、嫌味とか、それ以前に』

幼馴染み『……女ちゃんに元気ないっぽいし』

男『……』

男『…あいつは、元々暗い女じゃねーか』

幼馴染み『ほんとにそう思ってるなら何でイラついてんのさ』

男『……』




男「……チッ」

男(先輩人使い荒いんだよな…)

男(…忘れ物ぐらいてめぇで取りに行けよ)

男(……あ?誰かいんのか?)チラッ

『はぁ……女、お前はいつまで立っても同じミスを繰り返すな』

女『…ごめんなさい』

男(……んだよ。女とキャプテンがいんのか)

『意識して周りをもっとよく見ろ。成長しないと意味がないぞ』

女『はい……以後、気を付けます』

男(……キャプテンも優しいんだよな、もっと怒鳴れば良いもんを)

男『……』

男(……俺には、関係ない)

監督『』スッ

男『!?!?』

男『か、かんとく!?』

監督『おう』

男『な、なんすか…』

監督『いや、キャプテンもまだまだ青いと思ってな』

男『青い、すか?』

監督『ああ』

監督『…周りが見えてないのは、あいつも一緒だ』

男『…はあ』

監督『それはお前もだぞ、男』

男『……』




ピピピピピピッ

男「!」

男(……夢)

男「……」

男(……今更、なんて夢みてんだ)

男「……」

男(……そうだな、俺は周りなんて見ちゃいない)

男(自分の事と、女だけ)

男(……不甲斐なくて、要領悪くて、脆弱で)

男(……それが、あいつだろ)

男(でも、それは)

男(……女の本質なのか?)

男(俺はちゃんと見ていたか?)

男「……っ」

男(……そうやって、女はこうだと断定して思い込んで。あいつを分かった気でいて、満足していたんじゃないのか)

男(……)

男(……狭い、見識で)

男(哀れむ様に、その目で、捉えていたんじゃないのか)

男(……)

男(……なに、夢を見たからって自問自答してんだ俺)

男(…自分に、疑念なんて抱いて)

男(……バカみてぇ)



幼馴染み「男、おはよう」

男「…ああ、はよ」

幼馴染み「何か、顔色悪いね」

男「今日から夏休みだと思うとな…」

幼馴染み「なぁにそれ」クスッ

幼馴染み「まぁ、練習メニューは少し厳しくなるね」

男「少し所じゃねーよ…」

幼馴染み「……男さ、感覚鋭いし頭の回転だって速いし能力高いんだから、もうちょっと真面目に練習しなよ」

男「俺はプレイするより、観戦側の方が好きなんだよ」

幼馴染み「じゃあ、選手辞めれば良いのに」

男「アホ抜かせ。辞めたきゃ今頃辞めてるっつうの」

幼馴染み「…まぁ、そうだけど」

男「……」

男「…俺はどっかの馬鹿みたいに勝手に放り投げたりしねぇ」

幼馴染み「……そうだね」



幼馴染み(……いつも)

幼馴染み(私は、女ちゃんを不憫な目で見ていた)

幼馴染み(私だけじゃない)

幼馴染み(男も、部員も)

幼馴染み(……何度も同じ失敗、臨機応変性に乏しい、非効率的で特に突出した才能も無い)

幼馴染み(……正直、欠点なんて幾らでも出てくる程)

幼馴染み(ああ、また怒られてるって)

幼馴染み(彼女を見て、部員達はいつもそう口にする)

幼馴染み(可哀想)

幼馴染み(マネージャーなんて向いていないのに、する必要ないって)

幼馴染み(辞めれば良いのに)

幼馴染み(どうして、マネージャーなんてやっているんだろう)

幼馴染み(そうやって皆、勝手な事言いたい放題)

幼馴染み(……私も)

幼馴染み(そんな目で、見てしまっていたから)

幼馴染み(……そっと、目を伏せて無言のままだった)

幼馴染み(私は、彼女をよく見ていた)

幼馴染み(部室や道具の細かい補強、補充、廃棄、清掃)

幼馴染み(時期事に生えてくるグラウンドの脇の草抜き、そして手入れ)

幼馴染み(部員達の体調の変化、身体的負担を毎日記録して監督に提出)

幼馴染み(野球部関連の資料の仕分け、印刷、管理)

幼馴染み(夏は必ず、塩飴、冷たいドリンクなどを多めに用意。冬は、甘い物、温かいドリンクに変更……など)

幼馴染み(……彼女の仕事は私の仕事と違ってどれもこれも、目立たず)

幼馴染み(そして、誰にも気付かれない)

幼馴染み(……男さえも)

幼馴染み(肝心な部分も見て貰えず、誤認されて)

幼馴染み(彼女は一方的な評価ばかり受けるんだ)

幼馴染み(……唯一、それを知っている私は)

幼馴染み(いつも、それをそっと黙視して)

幼馴染み(……薄情なのは、今に始まった事ではないのだから)

幼馴染み(……)

幼馴染み(……彼女を可哀想だと思うのと同時に)

幼馴染み(羨ましい、とも思う自分が酷く、醜い)

幼馴染み(特別な事をしなくても、彼女の姿は男の目に留まるから)

幼馴染み(……っ、どうして)

幼馴染み(どうして男は……私を見てくれないの)

幼馴染み(……私は、心が綺麗な人間ではないけれど)

幼馴染み(……この想いだけは、確かに澄んでいるのに)

幼馴染み(……)




不良(……毎日、目が覚めて光を見る度に)

不良(朝なんて来なければ良い)

不良(……そう、思う)

不良(……)

不良(……何も、要らない)

不良(……何も、触れたくない)

不良(……)

不良(……でも、夢の中では)



ガサッ

不良『!!』

女『……』

不良『…おいおい、何でこいつが』


不良『……あんた』

女『!!』

不良『……』

女『ぁ…』


女『……何してるの』

不良『……』

不良『……強いて言えば』

不良『……死のうとしていた』

不良(……っ)

不良(……何で)

不良(……消えようとすれば)

不良(……あんたに、何度も出会うんだよ)

不良(……)

不良(……)

ガラッ

男「失礼します」

「やっぱりこのボール…また、男君なの?毎度懲りないんだから…」

男「いやぁ、下手くそなもんで。すみません」

「野球部は夏休みも忙しいわね、頑張って」

男「あざっす」

男「……美術部は夏休み中、自主参加なんすか?」チラッ

「?」

「いいえ、いつも通りの活動予定だけれど」

男「ああ、そうなんすか」

「ええ、まぁ…相変わらず少人数だからそう思われても仕方ないわね」

男「いや、うるさいのが居なくて良かったっす」

男「……」


スタスタ

男(……んだよ)

男(……あのアマ、結局どれもこれも)

男(中途半端に投げ出すんじゃねぇの)

男(……逃げるのだけは一人前だな、ハッ)

男「!」ピタッ

男(……これ、あいつの絵)

男(……)

男(……そうだ)

男(……才能なんか、ねぇんだから)

男(……辞めちまえ)

男(……)




幼馴染み「男、帰ろう」

男「すまん、ちょい先生に呼ばれてんだよ」

幼馴染み「そうなの?待っとこうか?」

男「いや、悪いし先帰っててくれ」

幼馴染み「んー…分かったぁ」



男「…で、用事ってなんすか」

男(つか、何で隣の担任なんだよ……)

「お前、女と良く喋るだろ?」

男「……はあ」

男(……早く帰りてぇ、疲れた)

「その、女がな……何と言うか」

男「……?」

「……余り、良くない生徒と絡んでるそうでな」

男「……」

男「それ、実際誰か目撃でもしたんすか」

「あ、ああ……聞いた話ではな」

男「……何か、俺の事疑ってるとか」

「まさか!お前は優秀な生徒だと言う事は分かっている!」

男「……」

「……担任としては心配なんだ。女は気が弱いから、素行の悪い生徒に影響されないものかと」

男「……それで、その問題が俺にどう関係あるんすか」

「……女は友人関係が広い方ではないからな。唯一接点があるお前に頼みがあるんだ」

男「……」

「……出来れば、女の事をよく見ていてやって欲しい」

男「……」

「そして、時々で良いから、どうか話を聞いてやってくれ」

男「……」

「頼む」

男「……そうっすね」

男「そもそもめんどくさいっす」

「そう言わずにぃ……」

男「こういうのは、同性の方が良いんじゃないすか」

男「しかも、俺と女クラス違いますし」

男(と、言うかよ……)

男(……気になる問題は、生徒に丸投げかよ。勘弁してくれ)

「俺のクラスには居ないんだ、他に適任者が」

男「……」

「……気にならないのか、男」

男「……」

「一年前まで、お前ら一緒の部活で活動していたじゃないか」

男「……」

男(……どうせ、しょうもない噂話だろ)

男(……そうじゃなきゃ、その良くない生徒って奴の名前ぐらい上がってくらぁ)

男「…俺、夏休みは部活でそんな暇は無いんすけど」

「分かっている、新学期からで良いんだ。頼む」

男「……」

男「……分かり、ました」

男(……すげぇ不服)



男(……何で、俺が虫けら女の為に)

男「……はぁ」

男「……」

男「……!」

幼馴染み「……」

男「…待ってくれてたのか」

幼馴染み「…うん、何か」

幼馴染み「……寂しくて」

男「……そうか」

幼馴染み「……ごめんね」

男「あ?別に謝る必要ないだろ」

男「うし、コンビニ寄ってくか」

幼馴染み「!」

幼馴染み「うん!お腹空いたねぇ」


男「暑い日はアイスに限る」

幼馴染み「敢えてほかほかの唐揚げを食べるのもありだよ」モグモグ

男「…こんなクソ暑いのによく食うなそんなもん」

幼馴染み「暑い日に熱い物を食べるのは体に良いんだってさ。半分こ、する?」

男「要らねぇよ」

幼馴染み「そっか」

男「……そう言えば」

幼馴染み「んー?」

男「……忙しくて、余り気に留めてなかったけどよ」

男「……今日、祭りじゃね?」

幼馴染み「あっ」

幼馴染み「……確かにそうだね」

男「……しまったな」

幼馴染み「うーん……」

幼馴染み「花火だけでも見に行く?」

男「遠い、だるい。花火なら家からでも見えるだろ」

幼馴染み「そうだねぇ」

男「早く帰ろうぜ」

幼馴染み「待ってよ、まだ食べてる」

男「食いながら歩けば良いだろ…」




不良「何か、描いてんのか」スッ

女「!」ビクッ

女「う、うん……き、昨日の海の様子が印象的だったから」

不良「ふぅん」

女「……」

不良「……」

女「……あんまり、見ないで。手元、狂うのよ」

不良「ああ、すまん」

女「……私、そろそろ帰らなくちゃね」

不良「…そうだな」


爺「雨、昨日の内に止んで良かったの」

不良「おう」

女(……あ、そっか。今夜、お祭りだから)

不良「送ってく」

女「……ありがとう」

不良「……」


不良「……」

女「……」

不良「……」

女(……花火、今上がらないかな)

女(二人で、見たい)

女「……」

不良「……」

女(……離れたら、また会えなくなるわよね)

女(……夏休み、だし)

女(……)




爺「不良、珍しいな。そんな趣味あったんか」

不良「!」

不良「あ、ああ……まぁな」

爺「昔の話だが、婆ちゃんもよう絵描いとったわい。今も残っとるよ」

不良「……そうか」

不良「……描くの、って難しいんだな」

爺「ふむ。絵描きってのは繊細な人が多い」

爺「わしには無縁だな」

不良「……」

不良(……真似事じゃ、あいつの見ている世界は分からない)

不良(……)

不良(……俺は)

不良(何も要らない、何も触れたくない)

不良(……筈じゃ、なかったのか)

不良「……」

不良(……どうしたら、写し出せる)

不良(……あんたと同じ、色で輪郭で)

不良(あの、花のように)




女生徒「あれ?不良君じゃん、おはよう」

不良「ん」

女生徒「夏休みなのに学校にいるなんて怖いね…」

不良「余計なお世話だ」

女生徒「あっ、補習?でも居たっけ?」

女生徒「因みにあたしは補習だったよ」

不良「聞いてねぇ」

不良「……」

女生徒(ん?何見てるんだろ)チラッ

女生徒「あっ、この絵!!」

不良「……」

女生徒「何々ー、不良君も目掛けてたの?この桔梗の花!」

不良「…桔梗って言うんだな」

女生徒「うん、本人から聞いた」

不良「あ?」

不良「……話したのか」

女生徒「話したよ?不良君同じクラスでしょ、女さんだよね」

不良「……ああ」

女生徒「さっき補習にも来てたよ」

不良「……そうか」

女生徒「何か、不思議な子だよね」

不良「……」

女生徒「当てはめようとしても、どの言葉にもしっくりこないの彼女」

不良「……」

女生徒「……だんまり?」

不良「……あんたが喋り過ぎなんだよ」

女生徒「そうかな?」

女生徒「で、さ……」コソッ

女生徒「……今日、あいてる?」

不良「……」

女生徒「久し振りにしたいんだけど」

不良「……そんな気分じゃねぇっつったら?」

女生徒「代わりを探す」

不良「じゃあそうしてくれ」

女生徒「へーい…」



不良(……)

不良(……)

不良(……)

『美術室』

ガラッ

女「!!」

女「え……?」

不良「……よう」

女「あっ、えっ?あ……こ、こんにちは」

不良「……誰もいねぇんだな」

女「うん。今日は、私だけだけれど……」

女「……」

不良「……居ても、いいか?」

女「!」

女「うっ、うん!」

不良「さんきゅ」

女「……」

不良「……」ドスッ

女「……」

女「……」

不良「……」

不良「……」

女(……無言って、こんなに心地好かったっけ)

女「……」

女(……どうして、来たんだろう)

女(……)

カキーンッ

「どこ飛ばしてんだぁー!!」

後輩「すみません!!」

「男と同じかお前はーっ!!」

男「…!」ハッ

男「おいっ、そっちの方向は……っ!!!」



ガシャーンッ

男「バカ野郎!!!何やってんだ!!!!」

後輩「すっ、すみません!!!」



不良「……」

女「……」

女(び、びびびっくりしたぁ……)

不良「……おい、大丈夫か」

女「だ、大丈夫……」

女(……ど、どうしよう)

女(咄嗟とは言え、抱きかかえられてしまった…っ…)

不良「……くそが、あぶねぇじゃねーか」パッ

女(あっ……)

女「……」

不良「……」

女「………不良君は、怪我ない?」

不良「ああ」

女「……ありがとう、ごめんなさい」

不良「……」

ガラッ

後輩「大丈夫っすか!?ほんとすんませんっす!!!」ペコッ

女「へっ?」

女(あ、あれ……?男じゃないのね……)

後輩「下手くそでごめんなさい!!!」

女「だ、大丈夫だよ。怪我しなかったし」

後輩「すみません、ほんと……っ」

後輩「後片付けしますね……」

女「……わ、私も手伝うよ」スッ

女「いたっ」

不良「……アホか、あんた」

後輩「大丈夫っすか!?」

女「う、うん……ちょっと切れただけ」

後輩「……ほうき、持って来ますね」タッ

女「あっ、ほうきならここにも」スッ

不良「!」

不良「おい…!ちゃんと足元見ねぇか……!」

ガッ

女「あっ……」

女(しまっ……転ける…!)

不良「っ……」グイッ

ポスッ

女「……」

不良「……」

女「……」

不良「……」

不良(……さっきと同じ状況じゃねぇか)

不良「……あのなぁ、あんた」

不良「……そこら中に破片落ちてんの分かってねぇだろ、転けるなら何もねぇとこで」チラッ

女「……」

不良(……顔、真っ赤)

不良「……チッ」パッ




男「……!!」

不良「……あ?」

男「……」

不良「……」

不良「……」

男「……」

男「……おい、女」

女「!」ハッ

男「何どんくせぇ真似してんだ。邪魔だ、どけノロマ」

女「は…はぁ!?」

女「何あんた!謝罪も出来ないの!?」

男「俺がやった訳じゃねぇだろうが!!」

女「そこは形だけでも謝るでしょ!?あんただって毎日ここに飛ばして来る癖に偉そうに言える立場じゃないわよ!!大体ねぇ!明日は我が身って言うんだから!!」

男「だからこうやって後処理に来たんだろうが!!俺はガラス割るようなへまはしねぇよ!!いいから黙ってろ!!キーキーキーキーうるせぇんだよてめぇは猿か!!」

女「何よそれ!!じゃあいつも狙って打って来てる訳!?」

男「顔面に直撃するようにな、ハッ」

女「……さいってい…っ」プルプル

不良(……知り合いか)

後輩(……戻って来たら、何か揉めてる)


男(……それを見た瞬間)

男(……とてつもない怒りが電撃の様に走って、黒い何かがべたべたと頭の中に張り付いていく感覚)

男(……その男は誰なのか。どうして一緒にいたのか。何故そんな顔をするのか)

男(……触れられて、見た事のない目で、動作で、表情で)

男(どうして、何で)

男(何で、何で、何で、何で、何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で)

男(……おかしい)

男(悲しくもないのに悔しくもないのに)

男(ただ、狂いそうな程の)

男(焦燥感と憎悪)



『その、女がな……何と言うか』

『……余り、良くない生徒と絡んでるそうでな』

『……担任としては心配なんだ。女は気が弱いから、素行の悪い生徒に影響されないものかと』


男(……違うだろ)

男(……だってそうなら)

男(……あんな顔、しねぇよ)

男「……」

女「……何よ、急に静かになって」

男「……」

女「……?」

不良「……とっとと片付けちまうぞ」

女「……そうね」

不良「……」

男「……」ギロ

不良(……何だか知らねぇが)

不良(……よく思われてねぇみたいだな)




ザァーッ

女(……天気予報、晴れだったのに)

女(それに梅雨過ぎてても、よく降るんだな)

女「あ」ゴソ…

女(……傘、何度忘れるの私)



幼馴染み「……ねぇ、男」

男「何だ」

幼馴染み「あれって、女ちゃん……だよね?帰る所なのかな」

男「…!」

男「……」

男「……なぁ」

幼馴染み「ん?」

男「先、帰っててくれ」

幼馴染み「……分かった」

男「……」

男「女」

女「!」クルッ

女「……またあんたなの」

男「話があるんだが」

女「……」

女(……何、改まって)

女「……」

女「……悪いけど、雨降ってるし早く帰らないといけないから」

女「じゃあね」

男「っ、待てよ!!」グイッ

女「!!」

女「な、何」

男「……少しで良いから」

男「……頼む」

女「……?」

女(何なの?)

男「……」

女(……調子、狂うじゃない)

女「……さっさと済ませてよ」

男「ああ」


「いらっしゃいませー、何名様ですかぁ?」


女「……あんた、ねぇっ」

女「人の話聞いてた!?どうしてファミレスなのよ!!」

男「うっせぇなぁ、店内で騒ぐんじゃねーよ。相変わらず品の無い女だな」モグモグ

女「さっさとって言ったわよね!?て、み、じ、か、に!!!」

男「俺は腹が減ってる」モグモグ

女「知らないわよ!笑えるぐらい心底どうでも良いわ!」

男「あ、すみませーん。これとこれ追加で」

女「」ムッカァ

女「帰る」ガタッ

グウゥ~

女「……」

女(……くっ、なんてタイミング)

男「何か食ってけ、食わねぇからそんなガリガリなんだよ洗濯板」

女「どこの事言ってんのよ!デリカシーほんっとないわね!」

女「……ふん」ストン

女(……何、食べよう)

男「……」モグモグ

女(……このバカ、どれだけ食べるつもり)



女「……で、話って何な訳?」

男「……」

男「……誰なんだよ」

女「……は?」

男「……今朝の」

女「?」

男「男だよ!!あの、いかにも低俗な見た目の!!」

女「は、はぁ……?何、逆切れ?」

男「3秒以内に答えろ」

女「あんた立場的にもっと謙虚でいなさいよ!」

男「3……2……」

女「……」

女(……大体、今朝のって)

女「……不良君の事?」

男「……」

男「へぇ」

男「ほー」

男「ふーん」

女「な、何なの?」

男「で?その不良君?とやらとは親密なご関係で?」

女「……べ、べつに」

女「そ、そんなんじゃ……ないし」ゴニョゴニョ

男「……」

女「……」

男「あー、今宇宙レベルでイラッと来たの初めて」

女「さっきから何なのよ!!!」

男「言っとくけど」

男「てめぇみたいな、うんこ女が相手にされてる訳ねーだろ」

男「遊ばれてんだよ」

女「……」

男「心当たり、あるんじゃねぇの」

女「……」

女「……だから、別にそんなんじゃないってば」

男「お友達として仲良くやってます、ってか?」

女「……」

男「そうには、見えないが」

女「……うるさい、私が誰と関わろうが勝手でしょ。口挟まないで頂戴」

男「あっ、そう。折角俺が忠告してやってんのに物分かりの悪い奴だな、後悔しても知らねぇぞ」

女「……」

男「……」

女「……私、帰る」カタン

女「お金、置いとくから」


「ありがとうございましたー」


男「……チッ」

男「外、まだ雨降ってんじゃねぇかあのクソブス」

男「……っ、おい!」

女「……!!」

女「……」

男「……傘ねぇ癖にバカやろう、入れ」

女「嫌」

男「……」

男「……」

女「……ほっといて」

男「あぁん!?ブラ透けてんだよ!!良いからとっととその貧相な胸隠しやがれ!!」

女「!!」バッ

男「……これだから、雨は嫌いなんだ」

女「……」

男「……はぁ」

女「……あんた、電車通学でしょ」

女「駅までで良いから」

男「……傘、やる」

女「いらない」

男「ほんと、てめぇ……めんどくさい女だな……!」

女「……」

男(……なんつー面、してやがる)

男(……そんなに情、抱いてるのか)

男「……うざってぇ」

女「……私」

女「……あんたが、何を考えてるのか」

女「……分からない」

女「考えても、考えても」

女「いみ、わかんない……」

男「……」

女「……固執して嫌がらせするぐらい私の事嫌いな癖に」

女「……どうして、ここで」

女「止めるの」

男「……」

女「……もう!ほっといてよ!!」

女「……私は、あんたから逃げた筈なのに」

女「これじゃ、意味が無いのよ!」

男「……」

男「……」

女(……言ってやった)

女(……でも)

女(なのに……なんて顔、してるの)

女(……私の事、嫌いなんじゃないの?)

女(何を、考えているの)


男(……)

男(……どこから、いつから)

男(……捻じ曲がった様な言葉を吐いて、行為で、目で見ていたのか)

男(……ああ、こいつには最初からだったな)

男(……つまり、俺は)

男「……」

女「……」

女「……」

男「……」

女「……都合が悪くなったら黙り込むの」

男「……」

女「……私、あんたと話す度に」

女「……頭の中、ぐちゃぐちゃになる」

男(……嫌いで憎くて、好きで愛しくて)

男(……本当はどれなんだ)

男(……どう、想ってるんだ)

男(……ただ、強く、お前の姿が残るだけで)

男(……どうしたら、良かったのか)

男(……優しくすれば正しかったか)

男(……認めれば上手くいってたか)

男(……ちゃんと伝えていたら)

男(……ちゃんと、見てたら)

男(……)



男(……結局、自身の事さえ分からないから)

男(……俺は、ずっとこのままなんだ)

男(……これからも、変わらない)




女『……不良君は、その』

女『……彼女とか、いるの?』

不良『……とか、って何だよ』

女『……え?あ、いや…』

不良『……いねぇ』

女『そ、そうなんだ……!』

女『……』

不良『不要、だな』

女『……そうかな』

不良『……無駄とは思わねぇが』

不良『……夢みたいに消えるもんだろ』

女『……』

不良『……当てはまる項目、この世の全て、そうなんじゃねぇの』

不良『沈み切ってしまえば、もう浮上は出来ない』

女『……うん』

女『……あの』

女『誰かに、好きって言われたら』

女『……どうする?』

不良『……』

不良『……そうだな』

女『……』

不良『……好きな奴なら』

不良『そんな、関係にはならねぇだろうな』

不良『……どうやっても、変わんねぇよ』

女『……』

女『……うん』ギュ



女『あ』

女『またボール飛んできた……これで何回目?』



fin

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