【ガルパン】×【古畑任三郎】 生徒会長の仕事 (72)

※ SMAPやイチローの話みたいな「登場人物が本人の役を演じているドラマ」
  だと思ってください。



古畑「皆さん、どうして戦車のことを『タンク』って呼ぶか知ってますか?第一次大戦の頃、
イギリス軍が秘密兵器の秘匿名称として戦車に『ウォーター・タンク』、つまり『水槽』って
暗号名をつけていたことが由来だそうです。戦車と水槽、どちらも閉じ込められたら死ぬのは
同じですねえ。今回はそんな戦車の

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話です…」



王大河「さあ、今回はここ大洗町からお送りしています。我らが大洗女子学園とBC自由学園の特別親善試合、
BC自由学園が物量と火力の差を活かした戦いを見せるのか、はたまた我ら大洗女子学園が地元の意地を見せるのか…」




柚子「会長、もう後戻りはできないんですね…」

杏「うん、もうこうするしかないんだよ、我々生徒だけの問題じゃない、学園艦に住んでる大勢の人たち、
それにウチが潰されたらその次はチョビ子のとこだろうし、その次は継続あたりだろう。もうあたしらだけの
問題じゃなくて学園艦って制度全体の問題なんだよ」

桃「私は何があっても会長についていくつもりです」

杏「河嶋、小山、二人とも苦労をかけるねえ」

沙織「すみませーん、そろそろお願いしまーす」

杏「じゃあ行こうか、『状況開始』だ」

杏「河嶋、そうビクビクすんなって。絶対にバレやしないよ、万が一バレたとしてもあんたら二人や
猫田ちゃんや他のみんなに迷惑はかけないよ。あたし一人で泥をかぶるつもりだから」

桃「そんな…」

柚子「会長…」

杏「じゃあ二人とも、最初に決めてた通りに頼むよ」

『試合開始!』



辻「まったく…、いくら人目をはばかる用とはいえ、こんなとこに呼びつけるなんて…、ん?誰だ?」

杏「そんなカジュアルな服も持ってたんだね、いつもの葬式帰りみたいな格好しか知らないから見違えたよ」

辻「君か、大きなお世話だ。それより何故ここにいるんだ?試合中じゃないのか」

杏「まあいろいろと手はあるんだよ」

辻「君の相手をしている暇はないんだ、約束がある」

杏「県教育委員会の人なら来ないよ、あれ猫田ちゃんが作ったニセメールだから。文面はあたしが考えたんだけどね、
良く出来てたでしょ?」

辻「…どういうことだ」

杏「どういうことかって?説明してあげたいんだけど時間がないんだよね、自分の胸に聞いたら?」

辻「おい!なんの真似だ!やめろぉぉぉ!」





杏「河嶋、こっちは済んだよ。そっちの具合はどう?」

桃「合流地点に急いでください、そろそろ西住たちが不審に思い始める頃です」

杏「わかった、そっちも気をつけてね」

柚子「おかえりなさい」

桃「大丈夫ですか?」

杏「ああ、大丈夫だよ。さあ、もう一仕事だ」


『BC自由学園フラッグ車、走行不能!よって、大洗女子学園の勝利!』

みほ「会長、やりました!私たちの勝利です!」

杏「そうだね、あたしらの勝ちだね。『状況終了』だ」

西園寺「あ、古畑さんこっちです」

今泉「被害者は辻廉太、文科省の官僚で学園艦教育局の局長だそうです。死因は解剖の結果を見ないと
わかりませんが恐らく頭を殴られたことだと思います」

古畑「そんなの一目でわかるよ、頭から血を流して倒れてて血のついたハンマーが転がってんだから」

西園寺「死亡推定時刻も解剖しないと詳しくはわかりませんが、臓器の検温による簡易測定では今日の
午前10時半から11時の間だと思われるとのことです」

古畑「この人、日曜日の午前中に農協の倉庫の中でなにやってたんだろうね?」

西園寺「さあ、財布はそのままなんですが携帯端末がなくなっているので、恐らく…」

今泉「恐らく犯人が持ち去ったものと思われます!」

古畑「わかんないよ、自宅に忘れて来たのかもしれないし」

西園寺「電話会社に問い合わせてGPSで位置を解析してもらいます」

古畑「そうしてもらえるかな、目撃者とかいないの?」

西園寺「この町では今日は戦車道の試合をやってたそうで、ここも封鎖されてて3ブロック先まで無人だったそうです」

古畑「じゃあその戦車道やってた人たちに話を聞こうか」

つづく

沙織「会長、警察の人が来てるんですが…」

杏「警察ぅ?」

沙織「はい、今みぽりんが相手してるんですが…」

杏「じゃあすぐ行くから待っててもらって」

みほ「あ、会長、警察の人が…」

古畑「生徒会長の角谷さんですね、私、警視庁捜査一課の古畑と申します」

杏「なんかあったの?」

古畑「ええ、文科省の辻さん、ご存知ですよねえ?彼、亡くなりました」

杏「ええっ!誰がやったの!?」

古畑「いえ、それはまだ…、現場の状況から見て他殺らしいのですが…」

杏「そっか、あたしら疑われてるんだ」

古畑「いえいえ、そんなわけでは…、被害者を知ってる方々が近くにおられたので、
ちょっとお話を聞こうかと思いまして…、今日の午前10時半ごろから11時ごろに
かけて、どちらにおられました?」

杏「その時間だったらあたしら全員戦車に乗ってたよ。試合中だったんだ。ねえ西住ちゃん?」

みほ「ええ、確かに会長も我々も試合中でした。調べてもらえばわかります」

古畑「そうですか、いやあ、お手間を取らせました」

杏「でもまあ、あたしらが疑われるのも無理ないと思うよ、あのおっさんが死んで一番得する立場だし」

古畑「またお話を伺うかもしれませんのでその時はよろしくお願いします」

杏「西住ちゃん、そういうことだから警察の人が話聞きに来たら協力するように言っといて」

古畑「あ、そうだ、最後に一つだけ伺いたいんですが、私が辻さんが死んだって言ったとき、なんで
殺されたって思ったんですか?」

杏「…そりゃあ、あんな人だったからねえ、あたしら以外にも恨んでる人は大勢いただろうし、
いつ殺されても不思議じゃなかったからねえ」

古畑「わかりました、今日のところはこれで失礼します」

杏「『今日のところは』ね…」

みほ「…ということがあったんだけど…」

沙織「怖いなあ、でも本物の刑事さんに会ったんでしょ?イケメンだった?」

華「沙織さん!不謹慎ですよ!人が亡くなってるんですから!」

麻子「まったく、悪いクセだぞ」

沙織「そうだったね…、ごめん…」

優花里「でも、不謹慎に思われるかもしれないけど、私は正直『ざまあみろ』としか
思えないです。あの人のせいで、もう少しで一家が路頭に迷うところだったんですから」

沙織「ゆかりんは一家全員が学園艦住まいだからねえ」

麻子「その上自営業だからな、そういう人は大勢いるだろうな」

みほ「やっぱり私たち疑われてるのかな…」

華「ちょっといやですね…」

西園寺「解剖の結果、やはり致命傷は頭頂部の打撃痕だそうです。直接の死因は頭蓋骨陥没骨折による広範囲の
脳損傷で、ほぼ即死に近い状態だったそうです」

古畑「んー、この人、結構背が高いよねえ、178cmくらいかなあ。そんな人の頭頂部を一撃か…」

今泉「犯人は力持ちの大男ってことですね!」

古畑「短絡的だなあ、君、単細胞ってよく言われるだろ?」

今泉「そんなぁ、ひどいなぁ」

西園寺「これからどうします?」

古畑「学園艦に行ってみようか」

古畑「うう…、気持ち悪い…」

西園寺「古畑さん、大丈夫ですか?」

古畑「どうもああいう小さい船は苦手だよ。今泉くん、悪いけど自販機で船酔いによさそうなもの買ってきて」

杏「あ、この間の刑事さんじゃないの、もう来たんだ。あれ?顔色が悪いけど、船酔い?」

古畑「ええ、内火艇っていうんですか、ああいう小さな船に乗るといつもこうなっちゃって」

杏「ちょっと待ってね、こうやって干し芋を額に貼ってと…」

古畑「あ、なんか楽になってきた」

杏「民間療法だけど効くでしょ?船酔いにはこれが一番だよ」

今泉「古畑さーん!買ってきました!」

古畑「今泉くん、なにこれ?」

今泉「おしるこです!昔、おばあちゃんに教わったんですが、乗り物酔いにはこれが一番効くんですよ!」

古畑「こんなもんで船酔いが治るのは君の一族だけだよ、もうそれあげるから飲んじゃっていいよ」

今泉「いいんですか!?すいません!」

古畑「あとでお金返してね」

今泉「…」

杏「あはは、面白い人だねえ」

古畑「いやいや、つまらん男ですよ」

杏「今日ここに来たってことは、やっぱりあたしらのこと疑ってんだ」

古畑「いえ、通り一辺倒の形式的な調査でしてね」

杏「形式的な調査だったら学園艦の駐在員でもいいでしょ?捜査一課の刑事さんが出張るってことは
やっぱり疑ってるってことじゃないの?」

古畑「いやあ、かなわないなあ。噂通り頭の切れる人みたいだ」

杏「まあなんでも好きなだけ調べていってよ、やましいことはないんだからさ」

古畑「はい、じゃあまた後程」

西園寺「古畑さん、まさか彼女がやったと思ってるんですか?あんな小柄な女の子が大の男を
ハンマーで撲殺なんてできないと思いますが…」

古畑「西園寺くん、あれ見てごらん」

ぴよたん「ふんっ!ふんっ!」

ももがー「どりゃあっ!」

西園寺「すごいな…、あんな女の子がベンチプレスでバーベルを持ち上げてる…」

古畑「あれ、100kg近くあるんじゃないの?それに、あっちも見てごらん」

今泉「あんなに重そうな荷物をあんな女の子が軽々と運んでる…」

古畑「ちょっと話を聞いてみようか」

古畑「随分と重そうな荷物ですねえ、手伝いましょう。ほら、今泉くん持ってあげて」

今泉「ええっ!?」

優花里「いいんですか?すみません。あ、重いから気をつけてくださいね」

今泉「よいしょっと、ぐぁぁぁぁ!こ…腰が…」

優花里「ああっ!大丈夫ですか?だから気をつけてって言ったのに…」

古畑「もう、だらしないなあ、お嬢さんすいませんねえ、お役に立てませんで。でも皆さんすごい力ですねえ、
あそこでトレーニングしてるお三方とか」

優花里「あの3人は別格ですけどね」

古畑「戦車に乗ってるとみんなそんなに強くなるんですか?」

優花里「まあ私は装填手なんですけど、戦車に乗ってると程度の差はありますがみんな腕力がつきますね。砲弾を積み込んだり、
増加装甲板、シュルツェンって言うですがそれを交換したり、履帯を交換したり。履帯って重いんですよ、奥に停めてあるアレ、
ポルシェティーガーって言うんですがアレの履帯って一枚30kg近くあるんです。そんなこと日常的にやってたらいやでも強く
なりますよ。まあ、ここにいるみんなは単純な腕力だけだったら普通の男性よりよっぽど強いんじゃないかな」

古畑「それはあの会長さんも含めてですか?」

優花里「会長を疑ってるんですか…、だったらもう話すことはないです。急いでいるんでこれで失礼します」

西園寺「あ、ちょっと待って!」

古畑「行っちゃった…、今泉くん、君がだらしないから嫌われちゃったじゃないか」

今泉「人のせいにしないでくださいよ!いててて…」

西園寺「それにしても、あの会長ってすごく人望が厚いみたいですね」

古畑「それに頭もいい。厄介なことになりそうだ」

杏「古畑さん、なんか成果はあったの?」

古畑「いえ、聞き込みしてたんですがカーリーヘアの彼女、えっと、秋山さんでしたっけ?
なんか嫌われちゃったみたいで」

杏「犯罪捜査は得意でも女の子の扱いは苦手みたいだね」

古畑「ええ、それよく言われます」

杏「彼女ね、横丁の散髪屋さんの娘で、生まれも育ちもこの学園艦なんだ。そんな子は大勢いるよ。
みんなここがなくなったら次の日から困る人ばっかりなんだ。ここを守るためだったらなんでもするよ」

古畑「なんでもですか…」

杏「生徒会長の仕事だからね」

古畑「じゃあ何かわかったらまたお知らせに来ますよ」

杏「うん、楽しみにしてる」

古畑「あれが会長さんの戦車ですか、随分と小さいですね」

杏「ヘッツァーっていうんだ、小さくても強いよ。性能もよくてスイスやチェコでは70年代まで
運用されたくらいなんだ。小さいからって弱いとは限らないでしょ?よかったら乗ってみない?」

古畑「いや、やめときますよ、以前地下室に閉じ込められて死にかけたことがあって、それ以来
狭いところや暗いところが苦手になっちゃって…」

今泉「古畑さん、まだ怒ってるんですか…」

古畑「じゃあ今日はこれで失礼します」

杏「どうせまたすぐ来るんでしょ」




西園寺「古畑さん、これからどうします?」

古畑「戦車道連盟に行ってみようか、あと事件のあった日の試合の内容について調べといて」

西園寺「わかりました」

児玉「お待たせしました、理事長の児玉です」

古畑「あ、どうも。警視庁捜査1課の古畑です。早速ですが亡くなった辻さんのことで…」

児玉「彼ですか、亡くなった人を悪く言うのは気が引けるんですが…、敵の多い人でしたねえ。
やり手の官僚と言えば聞こえはいいんですが、仕事のやり方が法律的にみても倫理的にみても
正直どうかと思えるところが多々ありまして、亡くなってホっとしてる人も多いんじゃないかなあ」

古畑「ええ、こちらの調べでもそういう話がいろいろと出てきてますねえ」

児玉「大洗の廃校にこだわっていたのも不動産会社や産廃業者との癒着が原因だなんて噂が出てますし、
プロリーグの発足に関しても協賛企業から過剰な接待を受けていたなんて話も出てましたからねえ」

古畑「それにしても、彼はあんなところで一体何をしてたんでしょうねえ」

児玉「ええ、役場の倉庫なんかで一体何を…」

古畑「役場?」

児玉「連盟のマップでは役場の倉庫になってますが…」

古畑「調べてみましょう、あの現場には試合の監視カメラはなかったんでしたね?」

児玉「はい、発砲しないとはいえ、まだ人が残っている場所を戦車が走るのはいかがなものかって声がでまして、
人も戦車も侵入しない緩衝地帯を設けようということになって、あの辺りはちょうどその無人区域に指定されてました」

児玉「技術的なことは審判員に聞いたほうがいいですね、すぐ呼びますから」

古畑「いやあ、助かります。おや、この模型の戦車、随分と強そうですねえ。砲塔が5つもついてて」

児玉「T-35ですよ、実戦に投入された記録が残ってる中では最も大きな戦車です。しかし実際は
あまり強くなくて、ずっと小さなドイツやフィンランドの戦車に全て撃破されました」

古畑「大きくて強そうだからって本当に強いとは限らないということですか。そういえば角谷さんも
そんなこと言ってましたっけ、『小さいからって弱いとは限らない』って」

児玉「やはり彼女を疑ってるんですか…、確かにあの人が死んで一番助かる立場なのはわかりますが…」

レミ「試合中に戦車から抜け出してまた戻って来れるかって?無理ですね」

古畑「出来ないんですか?」

花音「不正の防止と安全対策のために、試合中の選手はフィールド内に設置された多数の監視カメラで見張られてます」

ひびき「それに上空から航空機とドローンでも監視されてますし」

レミ「確かに偵察や簡易な修理のために車外に出ることはありますが、あれは競技本部の許可を得て審判員が安全を確認した上で
行っていますし、場合によっては審判員が直接立ち合いますから」

花音「不可能とまでは言いませんが、かなり困難でしょうね」

西園寺「鉄壁のアリバイですね、何がそんなに引っかかるんですか?確かに動機は十分ですけど…」

古畑「うん、ちょっとね…」

今泉「やっぱり力持ちの大男の仕業ですよ」

古畑「君、本当に短絡的だねえ、それよりも西園寺くん、あの試合について調べといてくれた?特に
あの会長の戦車についてだけど」

西園寺「ええ、これをご覧ください」

古畑「iPadなんて持ってたんだ、便利そうだねえ、僕も買おうかな?」

古畑「スタート地点がここで、開始と同時に散開して各自の持ち場に向かったわけだ」

西園寺「戦車道ってあまり詳しくはないんですが、不自然なところはないように見えますね」

古畑「会長の戦車の動きだけどね、やはり怪しい節はないみたいだね」

西園寺「殺害現場に最も近づいたときでも1km近く離れていますしね」

今泉「やっぱり違うんじゃないんですか?」

古畑「もう一度現場を見てみよう、現場百辺なんて言葉もあるくらいだしね」

今泉「古畑さん、ここはもう何回も調べましたよ、これ以上は何も出ないと思うけどなあ」

古畑「さっき児玉さんはここを『役場の倉庫』って言ってたよねえ、農協の倉庫なのに」

西園寺「それに関しても調べときますね」

古畑「外も一通り調べてあるんだよね?」

西園寺「まあ通常の範囲内ではありますけど」

古畑「ん?そうか…、そういうことか…」

西園寺「古畑さん、どうしたんですか?急にうずくまったりして、何か見つけたんですか?」

古畑「今泉くん、桑原くんに連絡して科捜研のチームを寄越してもらって。ちょっと調べて欲しいことがあるんだ。
我々はもう一度学園艦に行こう、こっちも確認したいことができた」

杏「古畑さん、また来てたんだ。今度は何?」

古畑「いやあ、いろいろと調べているうちに戦車に興味が湧いてきましてね、それで
先日の試合を中心に西住さんにお話を伺おうかなって思いまして…」

杏「またまた、ウソばっかり」

古畑「そうだ、会長にもぜひ聞きたいことがあったんですよ、会長って車長と砲手を兼務してるんですよね?」

杏「うん、前は車長だけだったんだ、でも西住ちゃんがあたしが砲手やった方がいいってね」

古畑「それ以前は河嶋さんが砲手をやってたんですよね?」

杏「そうだよ、あいつ本当に下手でねえ」

古畑「西住さんの判断は正しかったようですねえ、ちょっと調べたんですが河嶋さんの命中率は試合と練習を合わせて
5%を切ってます。いくらなんでも悪すぎる、ひどい時には目の前の静止目標さえ外してますねえ」

杏「そうなんだよねえ、そのくせやたらと撃ちたがるしさ、『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』って言うけど、
あいつだけは例外だね」

古畑「それに比べると会長は上手いですねえ、命中率は70%に近い。これは戦車道連盟の定める1級射手
に該当する腕前ですよ」

杏「ほめたって何も出ないよ」

古畑「でも、この間の試合はちょっとおかしいですねえ、15発も撃ってるのに最後の1発しか当たっていない。
それに明らかに不必要な発砲も多い、まるで砲手が河嶋さんに戻ったかのようです」

杏「…何が言いたいわけ?そりゃあたしだって調子の悪いときだってあるよ、誰だってあるでしょ?何やっても
うまくいかないときって」

古畑「まあそうですね、彼なんか逆に調子いいところを見たことありませんから」

今泉「うわぁ…ひどいなぁ…」

古畑「話は飛びますけど、あの日、辻さんはあんなところで何をやってたんでしょうねえ」

杏「さあね、農協の倉庫だっけ?あの人のことだからなんか後ろ暗いことでもやってたんじゃない?」

古畑「じゃあ西住さんたちを待たせてるんでまた後程」



柚子「あの…、会長…」

杏「大丈夫、疑ってはいるけど証拠がないんだ。カマ掛けてこっちがボロ出すのを待ってるんだよ。
普通にしてれば問題ない。それより河嶋についててやってよ、何度も刑事が来て動揺してるみたいだから」

古畑「やあ、西住さんお久しぶりです、捜査一課の古畑です。あ、秋山さんには先日お目に掛かりましたよね?」

優花里「…」

みほ「あの…、今日は一体…」

古畑「いえ、皆さんに不審な点があるとかそういう話じゃなくて、先日の試合でちょっと気になることがありまして、
それで少しご教授願えたらなあと思いまして…」

みほ「まあ、会長から協力するように言われてますし…」

古畑「ええ、ありがとうございます、本当に助かります。で、あの日のシフトなんですが…」

みほ「フラッグ車はウサギさんチームのM3リー、フラッグ車を守る形でⅣ号、Ⅲ突、ポルシェティーガー、三式の4輌が
パンツァーカイルを形成、B1bisが後方警戒で八九式とヘッツァーが予備戦力兼側面警戒でした」

古畑「ヘッツァーって会長の戦車ですよねえ、固定砲塔だと側面の見張りはやりにくいでしょうねえ」

みほ「そうなんですが、河嶋先輩が無線機の調子が悪いから今回は予備に廻して欲しいって…」

沙織「時々あるんですよ、ほら、戦車道って戦車だけじゃなくて無線機も第二次大戦の型だから今のデジタル回線と違って
混信したり、あと真空管が切れて通じなくなったりとかあるんです」

古畑「そういうときはどうしてるんですか?」

沙織「使用可能なら各自の持ってる携帯を使いますね、でも無線機と違って戦車の中では声が聞き取りにくい
ですし、メールも揺れる車内で素早く打つのはコツがいりますし、あくまでも非常の手段ですね」

華「でも沙織さんは車内でメール打つの上手ですよ」

麻子「武部流スマホ道師範なんてあだ名つけられるくらいだからな」

古畑「じゃあ会長さんたちもあの日は携帯で連絡してたんですか?」

みほ「いえ、あの日はカメさんチームの3人は揃って携帯を忘れてしまって…」

沙織「そうそう、3人で制服からパンツァージャケットに着替えたとき、まとめて置いといてそのまま
忘れちゃったって。意外とそそっかしいよねえ」

麻子「トラブルって重なるもんだからな、すぐに無線機が復旧したからよかったけど」

古畑「それじゃ会長さんの戦車は、途中までなんの指示も受け付けないスタンドアローンだったわけですね?」

優花里「それ、どういう意味ですか。やっぱり会長を疑ってるんですか」

みほ「優花里さん、気持ちはわかるけど…」

古畑「すみません、そんなつもりじゃなかったんですが…、で、その後の試合展開なんですが」

みほ「はい、相手チームは予想に反して縦深突破で側面を脅かしてきました」

華「BC自由学園の得意とする防御戦術でくると思ってたんですが…」

沙織「こっちがホームだからあまり大胆にはこないんじゃないかって河嶋先輩が提案したんだけどなあ」

麻子「カメさんチームはパニくって撃ちまくってたからな、すぐに態勢を立て直して撃退できたけど」

華「あれ、砲手やってたのって絶対に会長じゃなくて河嶋先輩でしたよねえ」

沙織「また車長席で干し芋食べてたのかな」

みほ「で、この道をこう行って、あ…、これって…」

華「どうしたんですか?急に顔色が…」

沙織「ちょっと、大丈夫?すごい汗だよ?」

みほ「ごめんなさい、ちょっと気分が…」

優花里「大丈夫ですか?震えてますけど…」

古畑「西住さん、大丈夫ですか?お体の具合が悪いようでしたら今日はこれで失礼します」

みほ「はい…、すみません…」

今泉「古畑さん、彼女急にどうしたんでしょうね?」

古畑「んー、さすがは隊長だねえ、いい勘してるよ。やっぱり戦車に乗ってるとああなるのかなあ。
今泉くん、君も戦車に乗せてもらったら?多少はマシになるかもしれないよ?」

西園寺「どういうことです?」

古畑「状況を再確認するうちに、僕と同じ結論に達したってことだろうねえ」

古畑『さて皆さん、彼女はその明晰な頭脳と忠実な共犯者の協力によって完全犯罪を成し遂げようとしました。ですが
その過程でいくつかミスを犯していたのです、致命的なミスを。古畑任三郎でした』


次回、解決編に続く

杏「急に呼び出してどうしたの?なんかあったの?」

古畑「ええ、何かわかったら知らせるって言ってましたよねえ?どうしても伝えなけばならない事ができまして…、
辻さん殺害の重要参考人としてあなたに同行を求めます。来てくれますよね?」

杏「…説明はあるんでしょうね」

古畑「はい、全てお話しますよ」

古畑「まず、あなたがどうやって辻さんを撲殺したかですが…、検死の結果、彼は右足の爪先にも打撲の痕が見られました。
指の骨にひびが入ってたそうです。今泉くん、ちょっと」

今泉「なんですか?」

ガっ

今泉「がぁぁぁ!何するんですか!痛ぁぁぁ…」

古畑「ね?爪先や足の甲って神経が集まってるから軽く踏んだだけでこの有り様です」

今泉「どこが軽くですか!痛ぁぁぁ…」

古畑「もし骨が折れるくらいの勢いでハンマーなんかで叩いたりしたら、きっと足を抱えてうずくまるでしょうねえ」

杏「で、しゃがんだとこを狙って頭を一撃か。でもそれは、そうすればあたしみたいなチビでも背の高いヤツを撲殺
できるって『説明』であって『証明』ではないわね。ましてや、あたしがやったって『証拠』では絶対にない」

古畑「ええ、仰る通りです。ではこれはどうでしょう、あなた現場のことを度々『農協の倉庫』って言ってましたよねえ。
何故あそこが農協の倉庫だって知ってたんですか?」

古畑「あの倉庫が役場から農協に移管されたのが事件があった2日前、備品が運び込まれたのが事件の前の晩です。
その事を知り得る役場と農協の関係者、20人程でしたがあなたにつながる人物は本人もその家族も誰もいません。
報道も新聞、テレビ、ラジオ、ネットのニュースも全て調べましたが農協の倉庫と報道したところはありませんでした」

杏「失言だったかな?でも証拠としては弱いわね。そんなの裁判になったらすぐひっくり返せるだろうし、そもそも
そんなのじゃ起訴もできないと思うけどなあ。第一、一番肝心なことを説明してないでしょ。戦車に乗って試合に出てた
あたしがどうやってあいつを殺したかってね」

古畑「あなたは戦車に乗っていなかったんです。正確に言えば途中で戦車から降りて辻さんを殺害してからまた戻ったんです」

杏「どうやって?監視カメラや上を飛んでる飛行機からずっと見張られてたんだよ?」

古畑「一つだけ気付かれずに戦車から抜け出してまた戻る方法があるんですよ、床下の非常口です。戦車って大抵
床下に非常脱出ハッチがありますよねえ、ヘッツァーも例外ではありません。それにヘッツァーの足周りって大型の
転輪を使ってるから監視カメラの位置を把握していれば、車体の向きを工夫して降りる人が見えないように死角を作る
ことも可能です」

杏「で?降りてからあたしがどこに行ったっていうの?まさかマンホール開けて下水道に入ったとでも?映画の見過ぎだよ」

古畑「そうですねえ、映画やマンガと違ってマンホールの蓋は専用の工具がないと開けられませんし、
開けたとしても中は点検や調整の機器があるだけで下水の本管に繋がってるところは殆どありません」

杏「じゃあどこへ行ったっていうの?」

古畑「道路脇の側溝ですよ、あの中を通れば見つかりません」

杏「ちょっと待ってよ、いくらあたしがチビだからってあんな狭いとこ這って行ったら何時間かかると…」

古畑「這って行ったんじゃありません、滑り降りたんです。試合中の監視カメラの映像で確認しました、
あなたが戦車から降りたと思われる地点、カメラに映らないように不自然な方向転換を繰り返していた
地点から犯行現場までは緩い下り坂になっています。犯行現場からあなたがまた戦車と合流したと思われる
地点も同様です。おそらくスケートボードを下に敷いてたんでしょうねえ、勢いがつけば自転車並みの
スピードが出たはずです」

古畑「BC自由学園と言えばマジノ女学院と並んでフランス式の防御戦術で有名な学校です、予備戦力に
回れば直接戦わずに、尚且つスタンドアローンとして自由に動けると思ったんでしょう。だが意に反して
敵は積極的に攻撃をかけてきた。小山さんと河嶋さんはさぞ慌てたことでしょうねえ、あなたが抜け出してる
間に撃破されてしまったら一巻の終わりだ。幸い西住さんたちのフォローのおかげでどうにか当初の予定に
戻ることができたが敵を寄せ付けないように14発も発砲してしまった。そのせいで砲手をやっていたのが
河嶋さんだとバレてしまった」

杏「…あいつ本当に射撃が下手なんだよねえ」

古畑「科捜研のチームが側溝の中からあなたのものとおぼしき戦車靴の足跡を発見しました、
サイズも一致します。まだ捜査は続いていますが他の証拠も見つかるはずです、毛髪とか服の
繊維片とかですね。小山さんと河嶋さんも今頃拘束されているころでしょうね」

杏「あの2人はあたしに脅迫されて仕方なくやったんだ、自分の意志でやったわけじゃない。
それだけは言っておくよ」

古畑「まあ、詳しいことは署で聞きますよ」

杏「本当わね、折を見てすぐに痕跡を消しに行くつもりだったんだ、でもマークされてたから動けなかった」

古畑「賢明な判断でしたねえ、もしすぐに証拠隠滅に動いていたらもっと早く尻尾を掴んでたでしょう」

杏「でもダメだった、ねえ、一つ聞かせてよ、いつ頃からあたしが怪しいって思ってたの?」

古畑「初めてお会いした時からです」

杏「あたしが『誰がやったの』って尋ねたから?」

古畑「あれはそんなに問題じゃありません、ああいう反応を示す人もいますから。問題は尋ねたことよりも
尋ねなかったことなんです。普通、知り合いが死んだと聞かされたら大抵の人はこう尋ねます、『それはいつ?』
ってね。でもあなたは尋ねなかった、だからピンときたんです、この人は辻さんが死んだ正確な時間を知ってるってね」

杏「『微かな違和感から敵の意図を見抜きその先を行く』か…、あんた女に生まれてたらいい戦車乗りになったと思うよ」

古畑「いやあ、それはどうでしょう、僕、狭いとこや暗いとこ苦手なんですよ。そろそろ行きましょうか、『状況終了』です」



                     終

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