古畑「ふーん、ミューズねぇ」 (215)

古畑「えー…アイドルは人を笑顔にさせる仕事だそうです」

古畑「彼女たちはその笑顔の裏で、きっと血の滲むような努力を重ねているのでしょう」

古畑「だからこそ彼女たちはファンを魅了し続け、またファンに愛されるのです」

古畑「えーしかし…愛され過ぎるというのも、それはそれで考えものです」

古畑「さて今回は、ファンに愛され過ぎてしまった…、そんなアイドルのお話」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430068293

古畑任三郎とラブライブ!のクロスです。当然殺人事件が起こる内容ですので、ご覧になる際はご注意ください。

【部室】

真姫「…おかしい」

凛「にこちゃんが?」

真姫「変じゃない?練習にはあれだけ熱心だったのに、最近急に休んだり、遅れて来ることが増えたじゃない」

花陽「下の子たちの面倒を見なきゃいけないんじゃないかなぁ?」

凛「またお母さんが出張とかなのかにゃ?」

真姫「だったら隠すことないじゃない。もうみんな事情は知ってるんだから」

花陽「そうだけど…」

凛「じゃあなんで…」

真姫「それは…わからないけど」

凛「ああっ!もしかして!」

凛「かっ、かか、彼氏が出来たとか!」

真姫「ゔぇえ!?」

花陽「あり得ないよそんなのっ!」バンッ

花陽「にこちゃんはアイドルなんだよっ!?あんなにプロ意識が高いにこちゃんに限って、ファンを裏切るようなことするわけがないよっ!」

凛「わわっ…じょ、冗談だにゃ〜…」

花陽「冗談でも言っていいことと悪いことがあるよ、凛ちゃん!」ズイッ

凛「かよちんキャラ変わってるにゃー…」

真姫「でも…だったらどうして…」

ガチャッ

花陽「あっにこちゃん!」

にこ「あら、1年生だけ?」

凛「うん。穂乃果ちゃんとことりちゃんは生徒会の仕事があって、海未ちゃんは弓道部の方に顔出さなきゃいけないんだって」

にこ「そ。絵里と希も今日は遅れるって言ってたし、じゃあ先に4人で練習始めちゃいましょ」

凛「はーい」

真姫「…」ジー

にこ「…?」

にこ「なによ真姫、わたしの顔に何かついてるの?」

真姫「べ、別に」ぷいっ

ピロリロリン♪

にこ「あっ…」

パチッ

にこ「…」

花陽「にこちゃん、どうしたの?」

にこ「…あー、ごめん。ちょっと先に練習してて」

凛「え?いいけど…」

にこ「すぐ戻るから」

花陽「うん…」

テクテク…

真姫「…」

真姫「花陽、凛。先に練習行ってて」ガタッ

凛「え…真姫ちゃん、どこ行くの?」

花陽「まっまさか、にこちゃんを尾行するつもりなの!?」

真姫「しーっ!声が大きいわよ!」

真姫「ちょっと様子を見てくるだけよ。すぐに戻るから」

凛「真姫ちゃんだけズルいにゃー!凛も行く!」ガタッ

花陽「ええっ!?」

真姫「ちょっ…だから静かにしてって言ってるでしょ?」

タタタ…

花陽「…行っちゃった」ポツーン

【校舎裏】

凛「校舎の裏まで来ちゃったにゃー…なんでこんなとこまで?」

真姫「しっ!静かに…にこちゃんと…誰かいるわ」

凛「あれ?あの人って…」


にこ「いきなり呼び出さないでくれる?こっちにも練習があるんだけど」

渚「えへへ、ごめんなさい。でもこういうことはちゃんと会って話した方がいいかなって」


真姫「…あの人、同じクラスの如月さんよね」

凛「凛知ってるよ、あの子にこちゃんの大ファンだにゃー」

真姫「へぇ…」

渚「で…にこ先輩、考えてもらえましたか?」

にこ「…できるわけないじゃない。ちょっとは考えて物言いなさいよ」

渚「あらら、素のにこ先輩が出ちゃってますよ」

渚「ファンの前ではもっと笑顔を見せないと〜」

にこ「余計なお世話よ」

渚「まぁ素のにこ先輩もかわいらしくって好きなんですけどね♪」

にこ「…」


凛「…なんだか険悪なムードだよ?」

真姫「…そうね」

渚「わたしぃ、憧れのにこ先輩に悲しんでほしくないんですよぉ」

にこ「よくそんな白々しいこと言えるわね」

にこ「だったら、おかしな真似しようなんて考えないでくれる?」

渚「だからぁ、それは先輩がわたしの出す条件を飲んでくれれば解決する話じゃないですか〜」

にこ「私はみんなのアイドルなの。あんたのワガママに付き合うわけには」

渚「でもわたしだけのにこ先輩になって欲しいんですよ」キッ

にこ「…!」ゾッ

にこ「…だ、だからって、妹や弟に手を出すとかなんとか…そんなの脅迫じゃない」


真姫「なっ」

凛「えっ?」

渚「だから言ってるじゃないですか、わたしもそんなことはしたくないって」

にこ「そんなことしたら、あんただってただじゃ済まないでしょ?」

渚「もちろん。でもわたしだけじゃないですよ?」

渚「μ'sの活動が原因で在校生が問題を起こしたなんてことになったら、μ'sの今後にも影響が出ちゃうかもしれないし〜。何よりせっかく増えた入学希望者も、在校生が問題を起こした学校に来たいと思うかどうか…」

にこ「あんた…っ」ギリッ

渚「死なば諸共、ってやつです」ニッコリ


凛「なになに…?なにがどうなってるの…?」

真姫「…」

渚「わたし、先輩の側にいたいんですよ。だからお願いします、わたしにもスクールアイドル、やらせて貰えませんか?」

渚「メンバーに加えてもらえるなら、何もしません。大人しくしてますから」

渚「側にいられるだけでいいんです」

渚「そして、ゆくゆくはにこ先輩と2人でユニットを組むのが夢なんですよ」

にこ「…」

にこ「…そうね、時間をちょうだい」

渚「すぐにはお返事、いただけないんですか?」

にこ「入りたいって子がいるからって、『はい、いいですよ』で入れるわけにはいかないわよ」

にこ「やっぱりメンバー全員を説得してからじゃないと」

渚「…それもそうですね。じゃあしばらく待ちますよ」

にこ「ありがと」

渚「その代わり、入れないってことになったら…」

にこ「わかってるわよ。ちゃんとあなたを10番目のメンバーとして迎えられるようにするから」

にこ「先のことは、それから考えましょ」

にこ「これで満足?」

渚「はい、とりあえずは」

渚「でもよかった…!これでにこ先輩と一緒にいられるんですね!」ニッコリ

渚「じゃあ、お願いしますね。いいお返事待ってま〜す」

にこ「ええ」

スタスタスタ…

にこ「…っ」ギリッ

にこ「どうしろっていうのよ…っ」

真姫「…」

凛「ど、ど、どうしよう、なんか大変なことが起こってるよ…」

凛「とりあえず、戻ってみんなに相談…」

ダッ

凛「あれっ?真姫ちゃん?」


真姫「にこちゃんっ」

にこ「っ!」ビクッ

にこ「だれっ…ま、真姫?」

凛「…あちゃー」

にこ「それに…凛まで…」

真姫「…あの子、1年の如月さんよね」

にこ「だからなによ…?」

真姫「…ごめんなさい、にこちゃん。今の話、全部聞いちゃったの」

にこ「…!」

にこ「…跡つけてきた上に盗み聴きなんて、あんたたちも人が悪いわね」

凛「わ、悪気はなかったんだよ?」アセアセ

真姫「そんなことより!」

凛(真姫ちゃーん…)

真姫「脅されてるならどうして私たちに言ってくれなかったのよ!?あんなの、もう…ストーカーじゃない!」

にこ「…言ったってどうしようもないでしょ」

真姫「…っ、でも…」

にこ「話は全部聞いてたのよね?じゃあわかってるでしょ、メンバーに入れなきゃ妹たちに手を出すつもりなのよ、あの子」

凛「で、でも…脅されてるなら先生に相談するとか…」

にこ「わかってないわねぇ…」

にこ「このことを先生に言おうが警察に言おうが、在校生がこんな問題起こしたってことが広まったら、音の木坂はどうなっちゃうのよ?」

にこ「それが原因でもし入学希望者が減ればまた廃校がって話になる。もしそれが決まれば、あんたたち1年生には後輩ができない…一からμ'sを作り上げてきた穂乃果たちの頑張りも、全部無駄になっちゃうじゃない!」

凛「にこちゃん…」

にこ「…わたし、μ'sを抜けるわ」

真姫「ゔぇえ!?な、なに馬鹿なこと言ってるのよ!」

凛「そうだよ!そんなの…みんなが許すわけないよ!」

にこ「どっちにしろ、あんな子が加わったら、μ'sには絶対悪影響が出るに決まってる」

にこ「あの子の目的はわたしなんだから…わたしさえμ'sを抜ければ、みんなには迷惑はかからない」

真姫「だからってにこちゃん1人を犠牲にできるわけないじゃない!」

にこ「μ'sはね…夢を諦めかけてた私にチャンスを与えてくれた、奇跡みたいな存在なのよ。そのμ'sを守れるんならわたしは…」

凛「でもっ…そんなのなんの解決にもならないよ!」

にこ「じゃあどうしろって言うのよ!」

凛「そ、それは…」

真姫「…」

真姫「…一つ、方法があるわ」

にこ「方法…?」

真姫「…」

凛「真姫ちゃん…?」

にこ「何よ…、それ」

真姫「…」フゥ…

真姫「如月さんに…いなくなってもらうのよ」

にこ「は…?なにそれ、まさか私のことは諦めて転校して、とでも言うわけ?」

真姫「違うわよ…、物理的にいなくなってもらうの」

凛「…どういうこと?」

真姫「つまり…死んでもらうのよ」

~~~

凛(それからのわたしたちは大揉めに揉めた)

凛(と、言っても主に揉めてるのはにこちゃんと真姫ちゃん)

凛(わたしはただ、どんな理由でも『殺人』はダメだっていう、当たり障りのない理由でしか反対できなかったんだけど)

凛(でも、学校にもμ'sの他のみんなにも迷惑をかけずに、にこちゃんを助ける方法が他にあるのかって言われると…凛には思いつかない)

凛(真姫ちゃんの言う方法しかないのかな…って気持ちが傾いたけど、にこちゃんはやっぱり頑固に反対してたんだ)

にこ「そもそも、こ、殺すって…、そんなの、バレないわけないでしょ!?」

凛「にこちゃん、声大きいにゃ…」

にこ「あ…ごめん、つい…」

真姫「もちろんバレないように計画するわよ」

にこ「バレないようにって、どうすんのよ?自殺に見せかける?それとも通り魔にでも見せかけるわけ?」

にこ「真姫、わかってんの?自殺でも殺人でも、音の木坂の生徒が事件に関係してるって時点で大きな問題になっちゃうじゃない。それじゃあ意味が…」

真姫「事件にはならない」

にこ「…は?」

凛「…何か方法があるの?」

真姫「ええ」

真姫「病死よ。病死に見せかけるの」

にこ「病死…?」

凛「…って、病気で死んだように見せかけるってこと?」

真姫「そう」

にこ「そんな…うまくいくわけ…」

真姫「これでも医学部に行く為にずっと勉強してるし、パパからも色々教わってる。それなりの知識は持ってるわ」

真姫「突然死っていう言葉があるでしょ?健康な人でも、心不全なんかで突然死んじゃうことがあるの」

真姫「それに見せかけるのよ」

凛「でも、わたしたちまだ高校生だよ?あの…にこちゃんを脅してた、如月さんも」

にこ「そうよ、高校生で突然死なんて…」

真姫「10代でも珍しいことじゃないわ。都内だけでも年間で数十人は突然死で亡くなってるはずよ」

にこ「だ、だけど…どうせ毒かなにか使うんでしょ?調べられたら終わりじゃない」

真姫「それも心配ないわ。身体の中にある物質なら、調べられても発見されないもの」

にこ「身体の中にあるもの…?」

真姫「例えばそうね…カリウムとか」

凛「かりうむ?」

真姫「カリウムは本来人体に必要な物質なの。だけど、血中のカリウム濃度が上がると、高カリウム血症になって、不整脈からの心停止を引き起こすのよ」

にこ「こ、こうかりうむ…?ふせいみゃく…?」

凛「どういう意味だかわかんないにゃ…」

真姫「…まぁ要するに、注射かなにかで血液の中のカリウムの量を増やせば、心臓が止まっちゃうってわけ」

凛「それで…その方法なら、バレないの?」

真姫「ええ、まず病死として処理されるはずよ。それなら大きな騒ぎにはならないわ」

にこ「…」

凛「にこちゃん…?」

にこ「…わかったわ」

にこ「だけど一つ条件がある」

真姫「なに?」

にこ「どんな方法だろうと…殺すのは、わたしがやるわ」

真姫「えっ?」

にこ「わたしの問題よ。わたしが解決する」

真姫「そんな…無茶よ」

にこ「後輩に全部任せっきりになんて、できるわけないでしょ?」

真姫「でもっ」

凛「真姫ちゃん」

真姫「っ…」

凛「にこちゃんの気持ちも、わかってあげようよ」

にこ「やり方さえ教えてくれればいいから」

真姫「…わかったわ」

真姫「でも、今言った方法だけじゃ不十分よ」

真姫「病死に見せかけるにしても、万が一ってことがあるわ。私たちのアリバイを完璧にしておかないと」

にこ「万が一でもバレちゃあ困るんだけど」

真姫「もちろんよ。でも念には念を入れとくのよ」

真姫「凛…それには、あなたも協力してもらいたいの。いい?」

凛「ここまで聞いちゃったんだもん…今更いやだなんて言うわけないよ」

にこ「…巻き込んじゃって、悪いわね」

凛「大事なメンバーを守るためだもん。協力する」

にこ「…ありがとう」

にこ「それにしても、アリバイ…ね」

にこ「そんな言葉、実際に使うことになるなんて」

凛「凛もだよ…」

真姫「とにかく、今は時間がないわ。今日の練習の後、どこかに集まって話し合いましょ」

【1週間後】

にこ「START:DASH!!を歌い終わってから、わたしが新メンバーの加入を発表する」

にこ「それから客席のあなたを迎えに行って、一緒にステージに上がる」

にこ「それで、あなたが挨拶」

にこ「…一通りの流れはこんな感じよ。わかった?」

渚「はい!」

にこ「絶対に忘れるんじゃないわよ。どこでもいいけど、目立たないように、できるだけ後ろの、出て来やすい席にいてよ。あと客席に着いてからのことも」

渚「わかってますよ、よーく覚えておきますから〜」

渚「ああ、これでとうとうわたしもにこ先輩と…」

にこ「感謝しなさいよ、みんなを説得するの、大変だったんだから」

渚「ありがとうございます!にこ先輩」

にこ「とにかく…何度も言ったけど、このことはライブの途中まで極秘なんだからね。クラスに戻っても話すんじゃないわよ」

にこ「他のメンバーとも話さないでよ!話してる内容をμ's以外の生徒に聞かれたら困るから」

渚「わかってますよぉ、心配性ですね、にこ先輩は」

にこ「念には念をってやつよ。じゃあ、わたし準備があるから」

にこ「あ、これ、もう飲み終わったんなら捨てとくわよ」

渚「あ、ごめんなさい。ありがとうございます」

にこ「ええ。じゃあまた後で」

スタスタスタ…

にこ(睡眠薬はうまく飲ませたわ)

にこ(名前は忘れちゃったけど、とにかく時間が経って効き目が現れる薬なのよね)

にこ(でもいくら医者の娘だからって、こんな薬が易々手に入るって、大丈夫なのかしら?)

【部室】

ガチャッ

絵里「にこ、遅いわよ。どこ行ってたの?」

にこ「あーっごめんにこ〜。ちょっとファンに捕まっちゃってて〜」

希「相変わらずやなぁにこっちは」

ことり「まぁまぁ。今日は衣装に着替えたり、特別準備することはないから…」

穂乃果「それにしても、制服でっていうのもスクールアイドルらしくていいよね〜!」

凛「でしょでしょ〜?いい思いつきだと思ったにゃ〜」

真姫「自画自賛してどうすんのよ…」

花陽「でも、わたしもとってもいいアイディアだと思ったよ」

海未「真姫は制服でのライブは気が進まないのですか?」

真姫「そ、そんなことないけど…」

凛(急遽決まった学内ライブ。実はこれも真姫ちゃんの立てた計画の一部)

凛(まずにこちゃんが言い出しっぺを装って。衣装を揃える時間がない、って尻込みすることりちゃん達を、わたしが制服でライブしようって意見で誘導した)

凛(ライブで歌う曲も、真姫ちゃんがこれまで学外でしか歌ったことのない曲を中心にしようってことで上手く纏めた)

凛(そして、今日。その計画を実行するんだ)

凛(にこちゃんのあの様子だと、睡眠薬を飲ませるのは成功したみたい)

絵里「さて、全員揃ったことだし、講堂に行きましょう」

【講堂】

ザワザワ…

花陽「うう…ドキドキするよぉ…」

凛「うーん、でも思ったほどは入ってないような気がするにゃあ」

希「今日は学内限定やしね。うちの生徒数は200人程度やから、全校生徒がみんなが入ってもまぁこのぐらいやと思うよ」

ことり「そっか〜、前は生徒以外の人たちも集まってたしね」

凛(まぁ真姫ちゃんがそれを見越して、講堂でのライブを選んだんだけどね)

穂乃果「はいっ!みんなちゅうも〜く!」

穂乃果「じゃあライブの直前だし、気合を入れて〜」

穂乃果「にこちゃんっ!挨拶をお願いしますっ!」

にこ「はぁっ!?なんであたしなのよ!」

穂乃果「だって部長だし、言い出しっぺだし〜」

海未「ここは、にこが挨拶した方が自然ですね」

絵里「ほらほら、みんな待ってるわよ、部長さん?」

にこ「…仕方ないわね〜」

にこ「…あー、おほん」

にこ「今日は学内限定でのライブ、いわばホームゲームよ」

にこ「でもねぇ、だからと言って気ぃ抜くんじゃないわよ!」

にこ「見にきてくれたみんなを笑顔にする為に、精一杯のパフォーマンスをする」

にこ「講堂でのライブは、μ'sの原点なんだから。ファンの為、μ'sの為、音の木坂の為にも、迷いなくやり切るわよ!」

一同「おーっ!」

にこ(そうよ…もう、迷わないんだから…)

~~~

にこ(ライブはとっても盛り上がっていたわ)

にこ(学内では歌ったことのない『Wonder zone』や『Love wing bell』などを盛り込んだライブへのみんなの反応は上々で、順調に進んだライブは終盤へと差し掛かっていた)

にこ(『ユメノトビラ』が終わり、一旦幕が下がって、みんなが一息つく)

穂乃果「じゃあ、わたしとことりちゃんと海未ちゃんが最初に真ん中で歌って」

穂乃果「サビの部分でステージの左手から絵里ちゃん、希ちゃん、花陽ちゃんが」

穂乃果「右手からにこちゃん、真姫ちゃん、凛ちゃんが飛び出してくる!」

穂乃果「ってことでいいね?」

にこ「わざわざ確認しなくても大丈夫よ。さっさとはけるわよ」

タタタ…

フミコ&ミカ「はーい!ここで一旦MCで〜す」

にこ(穂乃果たちのクラスメイトが、最後のMCを買って出てくれた。時間は3分)

にこ(わたしたちの出番まで、4分近く時間があることになる)

にこ「凛、あの子はどこに座ってるかわかった?」

凛「うん、I列の辺りの、ステージから見て右側の通路寄りだよ」

にこ「ありがとう」

真姫「にこちゃん、これ…」

にこ「うん」

真姫「やり方は、教えた通りよ」

凛「凜を使って注射する場所がどこかとか練習したんだからね?失敗したら怒るにゃー!」

にこ「わかってるわよ。じゃ、行ってくるわ」

タタタ…

【講堂・座席】

フミコ「いや〜、思えば私たち、μ'sのファーストライブを生で目にした数少ないファンなんですよねぇ」

ミカ「それから約半年!μ'sも大きくなったよねぇ。ほろり」

フミコ「そうそう…って、μ'sの親かい私たちは」

アハハハ…

ミカ「でもあのライブのときにはあんなに厳しかった生徒会長が、今やμ'sの一員だなんてね~」

フミコ「今出てくる直前にわたしたちね、絵里先輩に『今日はありがとう、がんばってね』って言われちゃったんですよ?」

ミカ「いやぁ~あの絵里先輩に…やっぱり感慨深いなぁ~、ほろり」

フミコ「そうだねぇ…ってだからμ'sの親かって!」

アハハハ…

にこ(絶好調ねあの子たち…さすが最初の頃からμ'sの広報を担当してるだけのことはあるわ)

にこ(えーと、N、M、L、K、J…I、ここか)

渚「…」スー…スー…

にこ(周りには…端の席だしあまり人はいない)キョロキョロ

にこ「…」トントン

にこ(起きない…眠ってるわね)

にこ(まず靴を脱がせて、靴下をめくって…)ヌギヌギ

にこ(なんでニーソなんて履いてんのよ…めんどくさいわね〜)

にこ(あとは、くるぶしの横…この辺りか)

にこ(慎重に…)

渚「…」スー…スー…

チクッ…

プシュッ…

渚「…」スー…スー…

にこ(…終わった)

にこ(あとはニーソを元に戻して、靴を履かせて…と)

にこ(さてと…あったあった、まずこれを回収ね。あとは…あれ?どこかしら?)

にこ(ちょっと、この子どこにしまってるのよ?)ゴソゴソ

ミカ「さて、お待たせしましたっ!」

フミコ「μ'sのファーストライブで歌われた幻の名曲…歌って頂きましょう!」

フミコ&ミカ「START:DASH‼です!どうぞ!」

ガー…

にこ(マズい…幕が上がり始めたじゃない!)

にこ(やっぱり見つからない…、仕方ないわね、もう戻らないと)

タタタ…

ここでひとまず終了です。

途中まで再開します

【音の木坂学院・校門前】

向島「あっ古畑さん!ご苦労様です!」

古畑「ああご苦労さん。君は、えーっと確かぁ…」

向島「…」

古畑「…」

向島「…むk」

古畑「向島くんだよね。うんうん。覚えてる」

向島「光栄です!」

古畑「んっふっふ、ああそうだ。ちょっと君に頼みがあるんだけどね」

向島「なんでしょうか?」

古畑「私今日自転車で来たんだけどさ、校門の前が階段になってるってこと知らなくてね」

古畑「回り道するのも面倒だから、下に停めて歩いて登ってきたんだよ。後でここまで運んどいてくれるかい」

向島「はぁ、わかりました!」

古畑「大事な自転車だからね、慎重に頼むよ。あ、これ鍵ね」

【講堂】

今泉「あっ!古畑さん!」

古畑「またうるさいのがいる」

西園寺「ご苦労様です。早速ですが説明を」

古畑「その前にさぁ、どこか座らせてよ」

西園寺「座席でしたらたくさんありますが」

古畑「あぁあ」ドサッ

西園寺「だいぶお疲れですね」

古畑「いやぁ、ここまで自転車で来たんだけどね、ここ校門の前が長い階段だろう?」

古畑「だから自転車は下に停めて歩いて来たんだよ」

西園寺「それは大変でしたね…」

今泉「こんなとこまで自転車で来るからですよ」

古畑「これでもねぇ健康に気を使っているんだよ。君も気をつけなさい」

西園寺「古畑さん、説明を始めてもよろしいですか?」

古畑「どうぞ」

西園寺「はい。亡くなられたのは如月渚さん、16歳。この音の木坂学院の1年生です」

西園寺「友人が座席に座ったまま立ち上がらない彼女の異変に気付いて教員を呼び、その教員が救急車を呼んだそうです」

西園寺「残念ながら、救急車が到着した時点ですでに手遅れだったようですが…」

古畑「遺体はまだ動かしてないの?」

西園寺「はい、こちらのシートの下です。ご覧になりますか」

古畑「ん〜、拝見しましょう」

ペラ…

古畑「…」

西園寺「ご覧の通り目立った外傷はありません。検案の段階では、これといった死因は特定できなかったようです」

西園寺「ですが、恐らく原因は心臓ではないかとのことでした」

古畑「心臓ね…持病でもあったの?」

西園寺「それは現在確認中です」

古畑「ん…なんだぁこれは?」

西園寺「どうかされましたか?」

古畑「いや、ここの座席と座席の隙間…何か挟まってるよ」

西園寺「これは…なんでしょうか?」

古畑「鑑識さーん」

古畑「一応これ、撮っといてくれる」

鑑識「はい」

パシャッ

古畑「取っていい?」

鑑識「大丈夫ですよ」

古畑「よっ…と」

古畑「…青い液体の入った棒…」

古畑「なんだいこれは」

今泉「それ、サイリウムですよ」

古畑「あれ、きみいたの?」

今泉「ずっと側にいましたよ!喋る機会なかったけど!」

古畑「ふーん。で、どうしてサイリウムがこんなとこに落っこちてるの?」

今泉「サイリウムですよ?そんなのライブで使ったに決まってるじゃないですか」

ペシンッ

今泉「いてっ!」

古畑「いきなり話に割って入ってきといてライブに決まってるとか、訳のわからないこと言うんじゃないよ」

西園寺「ですがこれ、折った形跡がありませんね…未使用のようです」

今泉「あ、ほんとだね。もったいないな、もらっちゃおうかな」

西園寺「ダメですよ今泉さん、証拠品かもしれません」

古畑「で、ライブってなんなんだい。有名なアーティストでも来てたの?」

西園寺「古畑さん、ご存知ないんですか?音の木坂学院といえばUTX学院のA-RISEと並んで有名なあの…」

今泉「無駄だよ西園寺くん。古畑さんはアイドルと言えばゴールデンハーフの世代だから」

西園寺「あぁ…失礼しました」

古畑「アイドル…」

今泉「音の木坂学院でライブとなれば、あの有名なスクールアイドル、9人の歌の女神!μ'sに決まってるじゃないですか!」

古畑「ふーん、ミューズねぇ」

今泉「石けんじゃないですからね」

西園寺「今泉さん、使い古されたボケを得意げに言うのはやめてもらえませんか?」

今泉「う、うるさいなぁ!とにかくμ'sはですね」

今泉「前向きリーダー・高坂穂乃果!おっとり天然・南ことり!大和撫子・園田海未!ごはん大好き・小泉花陽!元気はつらつ・星空凛!クールなツンデレ・西木野真姫!正統派アイドル・矢澤にこ!ロシアンビューティー・絢瀬絵里!スピリチュアルガール・東條希!」

今泉「この9人が揃った奇跡のアイドルユニットなんですよ!」

西園寺「…今泉さん、詳しいですね」

今泉「当たり前じゃないか西園寺くん。僕はねぇ、前回のLoveLive!の人気ランキングで、μ'sの順位がまだ50位以下だった頃から応援してたんだよ」

西園寺「それは凄い…」

今泉「古畑さんも、μ'sのことでわからないことがあればなんでも訊いてくれても…ってあれ?古畑さんは?」

西園寺「さぁ…どちらへ行かれたんでしょうか?」

【部室】

絵里「まさか、ライブの最中に亡くなる子が出るなんてね…」

希「しかも、うちの学院の生徒…」

花陽「うう…ショックだよ…」

凛「で、でも、わたしたちのライブが原因ってわけじゃないんだし…」

真姫「そうよ、私たちが責任感じることじゃないでしょ」

穂乃果「うん…まぁそれはわかってるんだけどさ…」

ことり「せっかくμ'sのライブを見に来てくれてた一年生が、死んじゃったって考えると…」

海未「落ち込むな、という方が難しいですね…」

にこ(…μ'sを守るために仕方がない、とはいえ…やっぱりライブの途中で死人が出るなんてショックに決まってるわよね)

にこ(でも、万が一のときの為にも、μ's全員のアリバイを完璧にしておくには、こうするしかないのよ)

にこ(悪いわね…)

コンコン

絵里「…はい?」

ガチャッ

古畑「失礼します」

一同「…」ジー

古畑「…」

古畑「あ…失礼、アイドル研究部の部室はこちらで…?ああ、ここに小さく書いてましたね」

海未「…どなたですか?」

穂乃果「…不審者?」

ことり「ほ、穂乃果ちゃん…」

古畑「突然申し訳ありません。わたくし、警視庁捜査一課の古畑と申します」

古畑「決して不審者ではありませんのでご心配なく」

凛「けいし…ちょう…?」

にこ「…って、警察!?」

真姫「捜査一課ってことは…なに?まさかうちの生徒が亡くなったのって、殺人事件ってこと?」

古畑「はい?いえいえ、そういうわけではありません」

古畑「ただ死因や死亡した経緯が明確ではないので、とりあえず我々が呼ばれたということでして…」

古畑「状況的に見れば、いわゆる突然死ではないかと思われます」

ことり「突然死…」

希「つまり…病死ってことなん?」

古畑「まだ捜査の段階ですが、その可能性が高いと見ています」

絵里「そうですか…」

古畑「…えー、そういえばみなさん。μ'sというグループを組んで活動されていますよね」

穂乃果「え…?そ、そうですけど…」

古畑「これから最終予選を戦うそうで?」

ことり「は、はい」

古畑「東京地区はあのA-RISEを含め強豪揃いですからねぇ。応援しています、頑張ってください」

海未「…よく、ご存知ですね」

古畑「んっふっふ」

にこ「で?」

古畑「はい?」

にこ「はい?じゃないわよ、さっきから刑事さんがここに来た理由が見えないんだけど」

真姫「まさか、雑談する為に来たわけじゃないでしょ?」

古畑「ああ、申し訳ありません。実はですね、ちょっとみなさんの意見を伺いたいことが御座いまして」

古畑「えっと…どこにやったかな…」ゴソゴソ

古畑「あぁあった。みなさん、これがなんだかおわかりですか?」

ことり「それって…サイリウム、ですか?」

古畑「南さん、正解です」

ことり「えっ?…あ、はい」

古畑「正式にはケミカルライトと言うそうですが」

古畑「これ、亡くなった如月さんが所持していたもののようなんです。遺体の座っていた座席と隣の座席の間に落ちて挟まっていたんですが」

にこ(だから見つからなかったのね…)

古畑「えー、園田さん」

海未「はい?」

古畑「生徒の方に聞いたんですが、これは今回のライブの為に配られていたものだそうですね?」

海未「はい。ライブで使ってもらおうと思って、クラスメイトに協力してもらって入り口で配布してもらいました」

古畑「えー、みなさん。これご覧になってみて、何か気が付くことはありませんか?」

穂乃果「ええっ?うーん…青い?」ジー

古畑「んっふっふ、確かに青いですねぇ。他には?」

花陽「…えーっと…?」ジー

凛「…わかんないにゃー」ジー

絵里「…それ、まだ使われてないんじゃないかしら?」ジー

古畑「絢瀬さん鋭いですね。その通りです。このサイリウム、未使用なんです」

古畑「さて、ではなぜ如月さんはサイリウムを使っていなかったんでしょうか」

古畑「ああいったライブを見に行った以上、サイリウムを配られたのであればやはり使うものではないでしょうか?」

古畑「如月さんの友人に伺ったところ、彼女はμ'sの熱心なファンだったようです。となるとなおさら不自然に感じます」

希「確かに変やなぁ…熱心なファンで、しかも講堂に来てたってことは、ライブに興味がないから使わなかったってわけやないやろうし…」

古畑「私もそう思います、東條さん。彼女はこれを故意に使わなかったのか、あるいは使いたくても使えなかったのか…」

真姫「使いたくても使えなかったんじゃないの?」

古畑「はい?西木野さん、なぜそう思われるんですか?」

真姫「突然死だったのよね?きっと如月さんは席に着いて、ライブが始まる前に突然心不全を起こして、意識を失ったのよ。そして、手に持っていたサイリウムは座席の隙間に落ちた」

古畑「なるほど、それは合理的な考え方だ」

真姫「これぐらいのこと、すぐ考えつくでしょ?」

古畑「しかし…、疑問はそれだけではないんです」

真姫「え?まだあるの?」

古畑「さっきも言いましたが亡くなられた如月さん、μ'sの大ファンだったそうなんですねぇ〜特に矢澤さん」

にこ「はっ?なによ?」

古畑「如月さんの友人によると、あなたの熱烈なファンを公言していらっしゃったそうで」

にこ「へ、へぇ…そうだったのね」

古畑「小泉さんや星空さん、西木野さんもクラスメイトであったのならご存知だったのでは?」

花陽「えっ?ああ…確かに、にこちゃんの大ファンだって言ってました。だよね凛ちゃん?」

凛「う…うん、そう…だったね」

真姫「私は知らなかったけど」

古畑「ん〜、我々世代の言葉だと追っかけとでも言うんでしょうか?今も使うんですかね追っかけって言葉」

穂乃果「え〜と…その、如月さん?がμ'sの大ファンだったっていうのが、いったいどうしたんですか?」

古畑「ああ失礼、高坂さん。少々気になりまして。なぜそんな熱烈なファンであった彼女が、あんな後ろの席に座っていたのか」

古畑「在校生限定に開いたライブです。全学年合わせても6クラスしかないんですから、仮に全校生徒が集まったとしても200人程度でしょう。350人が収容できるあの講堂の席には余裕があったはずです」

古畑「それなのになぜ彼女は真ん中の通路より後ろの、見えやすいとは言えない右端の通路寄りの席に座っていたのか…座ろうと思えばもっと前の席に座れたはずです」

海未「何かの用事で遅れてしまって、入ったときには既に前の席が埋まっていたのではないでしょうか?」

古畑「なるほど〜、確かにそう考えれば辻褄が合います」

古畑「しかしそうではないんです」

絵里「なぜかしら?」

古畑「如月さん、開演の20分前には友人と講堂へ向かったそうで。その時間、まだ席には余裕があったようです」

古畑「しかし彼女は前の席で見ようという友人の誘いを断って、後ろの席に座ったそうなんです」

古畑「つまり彼女は後ろの席に座らざるを得なかったのではなく、自ら進んで後ろの席に座った、というわけでして…」

古畑「なぜそんな見えにくい席にこだわったのか、気になるんです」

凛「うーん…よくわからないけど、それがそんなに重要なことなのかにゃあ?」

凛「そのときは後ろで見る気分だったんじゃないの?凛もときどき、いつもと違うことしようかなーって思うときあるよ?」

古畑「んっふっふ…確かに単に気分の問題だったのかもしれません」

古畑「しかし私、人がいつもとは違う行動を取った理由はいったいなんなのか、無性に気になるたちなんです」

真姫「…面倒な人ね」

古畑「よく言われます」

古畑「…あぁ、申し訳ありません長々と話し込んでしまって。とても参考になりました」

古畑「今日はもう帰られても結構です。LoveLive!出場に向けて頑張ってください」

海未「あ、ありがとうございます…」

古畑「では失礼します。もう暗いですので、お気をつけて」

ガチャッ…バタン

にこ「…なーんか癖の強い刑事だったわね」

凛「変人って感じだったにゃー」

花陽「でも、A-RISEの名前を知ってたり、東京地区は強豪揃いとか、なんだかスクールアイドルのことをよく知ってるみたいだったね」

希「そういえばそうやね」

ことり「…というか、ずっと気になってたんだけど…」

穂乃果「どうしたの、ことりちゃん?」

ことり「どうしてあの人、わたしたち9人の顔と名前を覚えてたのかなぁ?」

【講堂】

西園寺「あ、古畑さん…どこへ行ってらしたんですか?」

古畑「んー、ちょっとμ'sの子達に話を聞きにね」

今泉「えー!?ズルいですよ抜け駆けなんて!僕も行って来ようかな〜」

古畑「もういないよ、全員下校したから」

今泉「ちくしょう、セコいなぁ」

古畑「私はねぇちゃんと捜査の為に行ったんだ。下心丸出しのきみと一緒にするんじゃないよ」

古畑「あ、西園寺くん、遺体は?」

西園寺「まだ運んでいません。とりあえず事件性はないようですし、署の遺体安置所に運んで、ご家族を呼びましょうか?」

古畑「…いや、監察医務院に回してくれる?」

西園寺「え…司法解剖、ということですか?」

古畑「お願いします」

西園寺「わかりました」

今泉「まさか、殺人の可能性があるんですか!?」

古畑「ん〜まぁ、ちょっと気になることがあってね」

古畑「あ、あとね、解剖のときにいくつか注意して調べてもらいたいことがあるんだけど」

西園寺「なんでしょうか?」

古畑「ええとね…」

【放課後・ハンバーガーショップ】

凛「…大丈夫なのかにゃあ」

にこ「なんか、ヤバそうなニオイがプンプンするんだけど」

真姫「…大丈夫よ」

にこ「なんでそんなに落ち着いてるのよ?警察よ?警察が来たのよ?病死で済まされるんじゃなかったの?」

真姫「突然死だもの。死因が特定できないとなれば、警察が来てもおかしくはないわ」

にこ「でも、変な刑事が部室にまでやって来たじゃない。なんか色々聞かれたし」

真姫「確かに色々引っかかってるみたいだったけど、どれも殺人に繋がるような証拠じゃなかったわ」

真姫「だいたいあの刑事が部室に来たのだって、にこちゃんがちゃんとサイリウムを回収しておけば…」

凛「ちょ、ちょっと真姫ちゃん…」

真姫「あ…」

にこ「…」

凜「にこちゃん…?」オソルオソル

真姫「…」チラッ

にこ「…悪かったわよ、わたしの不注意だったわ」

真姫「…いや…こっちこそごめん」

凛「…」ホッ

一旦ここで終了します

途中まで再開します

【翌朝・神田明神】

穂乃果「はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッ…

穂乃果「うぁ〜、疲れたー!ことりちゃん、そこの水取って〜」

ことり「はい、どうぞ」

穂乃果「ありがと〜」

海未「穂乃果、休んでいる暇はありませんよ。登校前に、残りのメニューも済ませておかないと」

穂乃果「え〜、ご、5分、いや3分だけ!休憩させてよ〜」

花陽「わたしも、ちょっと休憩したいかな…」

真姫「私も…」

海未「そうですね…では1分の休憩にしましょう」

穂乃果「1分だけ〜!?海未ちゃんの意地悪〜!鬼〜!」ジタバタ

凛「穂乃果ちゃんは相変わらずだにゃ〜」

古畑「んっふっふ…朝から元気がよろしいですね」

穂乃果「あ、昨日の…えっと、誰だっけ?」

古畑「古畑です」

穂乃果「あ、そうだそうだ古畑さん」

古畑「こんな早朝から朝練ですか。いや〜、低血圧の私にはとても真似できそうにありませんね」

ことり「あの…どうしてわたしたちがここにいるって…?」

古畑「皆さんがよくここで練習していると伺ったものですから」

真姫「誰からよ?」

古畑「えー、それは…んっふっふ。あぁそうだ、そんなことより」

凛「強引に話逸らしたにゃ…」

古畑「ちょっと重要なお話があるのですが…3年生のみなさんが見当たりませんね」

穂乃果「3年生は1時間目にテストがあるらしくて、早めに学校に行ったよ」

古畑「あー、なるほど。まぁ全員いらっしゃらなくてもいいでしょう」

真姫「で、なんなのよ?重要な話って」

古畑「えー実は、昨日の件で、大きな進展がありまして…」

海未「進展…とは?」

古畑「実はこちらの判断で、遺体を司法解剖に回させていただきました」

真姫「…!」

穂乃果「しほーかいぼー…ってなに?」

真姫「…警察が事件性の有無を調べる為に、遺体を解剖して調べることよ」

穂乃果「事件性のうむ…?つまり?」

真姫「だから…、殺されたのかそうじゃないのかをはっきりさせる為に遺体を調べたのよ」

穂乃果「へー…って、だったらその亡くなった如月さんって、殺された可能性もあるってこと!?」

古畑「はい、残念ながら…そしてその司法解剖の結果、単なる病死ではなく殺人の可能性が極めて高くなりまして…」

花陽「ええっ!?」

海未「どういうことですか!?」

古畑「えーまず遺体の体内から睡眠薬が発見されました」

古畑「自分で飲んだという可能性もありますが、学校で、しかもこれからライブを見に行くというときに飲むというのはどう考えても不自然です」

古畑「つまりこれは誰かに飲まされた可能性が高い」

真姫「でも、それだけで殺人って考えるのは…」

古畑「はい確かに、これだけではまだ殺人だと断定はできません。体内からも毒物は発見されませんでしたし」

凛「だったらどうして…」

古畑「確かに毒物は発見されなかったんです。しかし念のため遺体の血液を詳しく調べてもらったところ、カリウムという成分が異常に多く含まれていました」

真姫「…!」

古畑「カリウムというのは元々人体にあるものだそうですが、増え過ぎると人体に害があるそうで」

古畑「監察医の方のお話によると、なんらかの原因で血中のカリウムが増加し、高カリウム血症となって起きた致死性不整脈が死因ではないかとのことでした」

古畑「そして決定的だったのが注射痕です」

海未「注射痕…注射の痕、ですか?」

古畑「その通りです、これが比較的新しいものだったそうで」

古畑「高カリウム血症だけならまだ病死として済むのですが、睡眠薬、そして注射痕…」

古畑「これらを総合すると、如月さんはライブの前に睡眠薬を飲まされ、眠っている間にカリウムを注射されて毒殺された可能性が高い、というわけです」

花陽「で、でも、注射ぐらい、誰でもするんじゃないですか?」

穂乃果「そうだよ、もしかしたら前の日に病院に行ってたとか…」

古畑「確かにその可能性もあります。しかしそう考えるにはいささか妙な点が…」

穂乃果「妙な点…って?」

古畑「えー…、園田さん」

海未「は、はい…なんでしょうか?」

古畑「人体で静脈に触れられる場所となると、どこが思い浮かびますか?」

海未「唐突な質問ですね…えっと…手首や、腕の関節…あとは、首筋などでしょうか?」

古畑「なるほど、よく知ってらっしゃる。ではくるぶしはどうでしょうか?」

海未「え?くるぶし?」

古畑「あまり知られていませんが、くるぶしの近くの浅いところにも静脈が通ってるんです。麻薬中毒者なんかはよくあそこに注射するんですが。ご存知でしたか?」

海未「いいえ…知りませんでした」

古畑「小泉さんはご存知でしたか?」

花陽「えっ?い、いや、わたしも知らなかった、です…」

古畑「南さんは?」

ことり「いえ…わたしも…」

古畑「はい…ありがとうございます。このように、手首や腕の第二関節などとは違って、くるぶしの横を静脈が通っているなんてことは、一般的に認知されているとは言い難いんです」

古畑「だからこそ、検案の際にもつい見逃してしまう可能性が高い。くるぶしに死因があることなんてまずありえませんからね?」

古畑「そして…、注射痕のあった場所は、如月さんのくるぶしでした」

古畑「恐らく何者かが、睡眠薬で眠らせた彼女の足首の静脈から、致死量のカリウムを注射したのでしょう」

古畑「さて。こ〜うなると犯人像は絞られてくるんですねぇ」

古畑「つまり、ある程度医学的な知識を備えた人物、もちろん凶器となった注射器やカリウムを入手できるような立場にいることも条件になってきます」

古畑「あるいは…そのような人物から注射器の扱い方、また針を刺す位置などを教えられ、凶器を借り受けることができた人物」

古畑「みなさん、そのような人物に心当たりはありませんか?」

真姫「…もういいわよ」

古畑「はい?」

花陽「え…?真姫ちゃん?」

真姫「もういいって言ってるの」

海未「真姫…?どうしたのです?」

古畑「もういい…とはどういうことでしょうか?」

真姫「とぼけないでよ。もう調べはついてるんでしょ?私が医者の娘だってこと」

古畑「…」

真姫「確かに私の両親は医者だから、他の生徒より凶器を入手しやすいわ。私自身医学部を目指してるし、それなりに勉強して知識もある」

真姫「この学校で、あなたの言う犯人像に一番近いのは私よ」

古畑「ちょっと待ってください、それは思い込みです。私はあなたが犯人だとは一言も言っていません」

ことり「そ、そうだよ真姫ちゃん、この人は別に真姫ちゃんが怪しいなんて…」

真姫「だけど、実際そうでしょ!?」

凛「ま、真姫ちゃん落ち着くにゃ…」

古畑「確かにあなたは犯人像には合致しています。しかし強固なアリバイがあるではありませんか」

真姫「っ…そ、そうよ。わかってるじゃない」

古畑「如月さんが講堂に着いてから遺体となって発見されるまでの間、あなたも、そして他のメンバーの皆さんも約200人の観衆の目の前でステージに立っていた。これ以上ない完璧なアリバイです」

凛「なんだ〜…じゃあわたしたちは容疑者から外れてるんだね」

花陽「よかった…」

古畑「んーしかし完璧過ぎるアリバイというのは、それはそれで疑いを招くものでして…」

穂乃果「完璧過ぎるなんて、いやーあはは…」

穂乃果「…って、それって結局わたしたち疑われてるじゃんっ!」

凛「この場面でノリツッコミ!?」

古畑「完璧なように見えても、もしかするとどこかにライブを抜け出す時間があったかもしれませんから」

花陽「そ、そんな時間、なかったと思うけどなぁ…」

穂乃果「いくら刑事さんでも…μ'sのみんなを疑うのは、許せないよ」

古畑「申し訳ありません、しかし刑事というものは何事も疑ってかからなければならない職業でして…嫌な仕事です」

穂乃果「ほんとですね。友達いないでしょ」

古畑「んっふっふ…よく言われます」

古畑「あ、もうこんな時間だぁ。皆さん、そろそろ登校しないといけないのでは?」

海未「あ…そうですね。ではみんな、準備して学校へ向かいましょう」

花陽「う、うん」

凛「…はーい」

古畑「では私も失礼しましょう。みなさん、お気をつけて」

テクテク…

ことり「…」

海未「ことり…?どうしたのですか?ボーッとして」

ことり「あっ、ううん、なんでもない…」

【始業前・1年生教室】

凛「でねー、あそこのラーメンは豚骨出汁のスープを売りにしてるんだけど、実はトッピングに付いてくるもやしのシャキシャキ感が生命線だと思うんだよね〜」

花陽「へぇ〜…」

真姫「興味ない」

スタスタスタ…

花陽「あ…にこちゃん」

にこ「真姫、凛…ちょっといいかしら」

真姫「…いいけど」

凛「どうしたの?」

にこ「いいから来て」

〜〜〜

にこ「今日も古畑が来たらしいじゃない。穂乃果たちから聞いたわ」

真姫「そうよ、それがどうかした?」

にこ「殺人の可能性が高いって言ってたんだって?」

凛「えと…それは」

にこ「どうなってんのよ…病死で済むんじゃなかったの?」

にこ「いや…それどころか、わたしたちまで疑ってるらしいじゃない!」

真姫「…私たちのアリバイは完璧よ」

にこ「そういう問題じゃないでしょ!?」

凛「に、にこちゃん…落ち着くにゃ…」

にこ「どうすんのよ…殺人だってバレたってことは…もう」

凛「ま、まだ殺人って決めつけてるわけじゃなさそうだったよ?」

にこ「…気休めはいいわよ」

にこ「このまま事件が大きくなっちゃったら…音の木坂は…」

凜「廃校、になっちゃうのかな…」

真姫「…まだわからないわよ、入学希望者の人数次第ね」

にこ「とにかく…殺人だってことはあの刑事に気づかれたけど…もう起きちゃったことは仕方ないわ」

にこ「こうなった以上、せめてわたしたちは捕まらないようにしましょ」

にこ「凛も真姫も、気をつけるのよ」

凛「うん…」

真姫「わかってる」

【講堂】

古畑「…」

今泉「古畑さん、μ'sの子たちを疑ってるんですって?」

古畑「…」

今泉「考え過ぎですよぉ!μ'sの誰かが、殺人だなんて…」

今泉「μ'sの9人は女神なんですよ?その女神が、よりによって人殺しなんて…できるわけないじゃないですかぁ!」

古畑「わかってるよ」

今泉「ええ?」

古畑「女神かはともかくあの子たちは普通の女子高生だ」

古畑「普通は殺人なんて、考えつくはずないよ」

今泉「わ…わかってるじゃないですか」

古畑「普通なら、ね」

今泉「…?」

西園寺「古畑さん」タッタッタッ…

西園寺「被害者の部屋の捜索が終わりました」

古畑「ご苦労様」

西園寺「早速、これを見て頂きたいのですが」

古畑「拝見しましょう」

今泉「なになに、この写真?」

西園寺「被害者の部屋の写真です」

古畑「これは…凄いねぇ」

今泉「うーん…、確かにすごい量のグッズだけど、このぐらい熱心なファンなら普通じゃないかなぁ」

西園寺「他の写真も見てもらえればわかると思いますが、部屋の4方向がこの状況だったんですよ。これはただのファンの域を超えています」

西園寺「はっきり言って異常です」

西園寺「さらに…このような物もあったそうです」

古畑「ん、見せて」

今泉「これは…?」

西園寺「アルバムだそうです」

西園寺「恐らく、隠し撮りしたものではないかと…」

古畑「…」

西園寺「これが、あと三冊分あったそうです」

古畑「なるほどねぇ…」

今泉「うわぁ…」

西園寺「一個人に対してこれだけの執着を見せるというのは…ストーカーと言ってもいいのではないかと」

古畑「…」

ここで一時中断します。

再開します

【昼休み・2年生教室】

ことり「…」

海未「ことり?」

ことり「…」

穂乃果「ことりちゃん?」

ことり「…」

海未 穂乃果「「ことり!」ちゃん!」

ことり「ひゃいっ!?あ…ごめん、ボーッとしてた…あはは」

海未「朝練の後から様子がおかしいですよ?具合でも悪いのですか?」

穂乃果「あっ!もしかして古畑さんがわたしたちのことも怪しんでるからって、心配してるんじゃない?」

海未「そうなのですか?」

穂乃果「大丈夫だよ!いくらあの人がμ'sを疑ったって、あのときみんなはステージの上にいたんだから。そのうち疑いは晴れるって!」

ことり「うん…そうだよね」

海未「…ことり、もしかしてあなた、何か知っているのではありませんか?」

穂乃果 ことり「えっ?」

海未「どうなのですか?」

ことり「…」

穂乃果「ことりちゃん…?」

ことり「…聞いてくれる?」

穂乃果「もちろんだよ」

海未「…ここじゃなんですから、場所を移しましょう」

【アルパカ小屋の近く】

海未「それで、どうしたのです?」

穂乃果「ことりちゃん、何を知ってるの?」

ことり「…知ってる、というより、見ちゃったんだ」

海未「見た…とは、いったい何を?」

ことり「はっきり見たわけじゃないんだけどね」

ことり「『START:DASH‼』を歌う前に、幕が降りて、ミカちゃんとフミコちゃんのMCが入ったよね」

穂乃果「うん」

ことり「3分ぐらいでMCは終わって、幕が上がって、『START:DASH‼』のイントロが始まったでしょ?」

海未「そうですね」

ことり「それでね、幕が上がっていくとき、客席の右端の通路を、誰かが急いで駆け上がっていくのが見えたんだ」

ことり「その誰かが後ろの扉を開けたとき、外の光に照らされて姿が見えたんだけど…」

ことり「その人、にこちゃんだった気がするんだ」

穂乃果「そんな…っ」

海未「それは…確かなのですか?ことり?」

ことり「ううん…、一瞬だったし、離れてたし…ただ、背格好が似てたなってぐらいで」

ことり「でも、幕が降りて、ステージの右端から出てくる予定だったにこちゃんはすぐ舞台袖に引っ込んじゃったでしょ?」

海未「確かにそうでしたね…」

ことり「それから『START:DASH‼』のサビに入るまでの何分間か、わたしたちはにこちゃんの姿を見てないんだよ?」

ことり「だから…もしかして、にこちゃんが事件に関わってるんじゃないかって…不安で…」

穂乃果「ことりちゃん…」

ことり「でも…仲間のことを疑うなんて、自分がとてもイヤな人に思えちゃって…だからわたし、どうしたらいいのか…」

海未「ことり…よく話してくれましたね」

海未「このことは…私たちだけの秘密にしておきましょう」

穂乃果「海未ちゃんは…にこちゃんのことを疑ってるの?」

海未「…疑いたくはありませんが、ことりの話だけを聞けば、怪しいのは事実です」

海未「もちろん、ことりの見間違いであればなによりですが…今となっては確かめようもありません」

海未「だからこそ、にこに無用な疑いをかけられない為にも、この話は誰にも漏らさないでおきましょう」

海未「いいですね?二人とも」

ことり「…うん」

海未「穂乃果も、わかりましたね?」

穂乃果「えっ?あ…うん、わかったよ…」

【昼休み・1年生教室】

穂乃果「…」

花陽「あ…、穂乃果ちゃん、どうしたの?」

穂乃果「あっ花陽ちゃん!いや…その~…」

穂乃果「えーっと…凛ちゃん、真姫ちゃん、いる?」

花陽「うん…呼んでくるね」

~~~

凛「今度は穂乃果ちゃん?」

穂乃果「今度は…って?」

凜「いや、なんでも…あはは」

穂乃果「?」

真姫「で…どうしたのよ?」

穂乃果「ああ、ごめん…ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

穂乃果「いいかな?」

凛「…凛はいいよ?」

真姫「私も別にいいけど…」

【屋上】

真姫「なによ、わざわざこんなとこまで呼び出して」

穂乃果「…2人に確認しときたいことがあるんだ」

凛「なぁに?」

穂乃果「いや…その前に、ことりちゃんから聞いた話をしとくね」

真姫「ことりから…?」

穂乃果「実は、ことりちゃんがね…」

〜〜〜

穂乃果「…って、いうことなんだけど…」

凛 真姫「…」

穂乃果「ステージの右手にいたのはにこちゃんと、そして真姫ちゃん、凛ちゃんの3人だったよね?」

穂乃果「3人ともすぐに舞台袖に引っ込んじゃったから、わたしたちは何分間か3人の姿を見てないの」

穂乃果「もし…ことりちゃんが見た誰かが、本当ににこちゃんだったんなら…二人も、何か知ってるんじゃないの?」

凛「…穂乃果ちゃんは、それを聞いてどうするの?」

穂乃果「…わたしは…μ'sを守りたいの。だからこそ、ほんとのことをちゃんと知っときたいんだ」

凛「…穂乃果ちゃん」

真姫「…バッカみたい」

穂乃果「え?」

凛「ちょ、ちょっと真姫ちゃん!?」

真姫「どうせそんなの、ことりの見間違いよ。暗い客席だし、見えたのは一瞬だったんでしょ?」

穂乃果「う、うん…」

真姫「大方、急にトイレにでも行きたくなった誰かが、急いで客席を出て行ったのがたまたまにこちゃんに見えただけよ」

真姫「それともなに?穂乃果は私たちを疑ってるの?」

穂乃果「そっそんなことっ!な…ないよ」

真姫「とにかく」

真姫「私たちは舞台袖に下がってからずっと、サビからのダンスやパートを確認してたわ。もちろんにこちゃんも一緒。私と凛が保証する」

真姫「でしょ?凛」

凛「え…?う、うん!そうにゃそうにゃ!」

穂乃果「あはは…そうだよね。ごめんね?変なこと聞いちゃって」

真姫「聞きたいことってそれだけ?」

穂乃果「…うん、ありがとう」

真姫「そ。なら戻るわね。行くわよ、凛」スタスタ

凛「うん…」

穂乃果「…」

ガチャッ…バタン

凛「…よかったの?あれで」

真姫「当然でしょ?」

真姫「これ以上…誰かを巻き込むわけにはいかないじゃない」

凛「…そだね」

【昼休み・三年生教室前】

古畑「すみません」

生徒「はい?」

古畑「えーとですね…矢澤にこさん、いらっしゃいますか?」

生徒「は、はぁ…」

「なんか黒い人いるよ…」ヒソヒソ

「やだ、不審者…?」ヒソヒソ

古畑「あ、失礼…わたくし、古畑と申します。警察の者でして…」ヒソヒソ

生徒「あ…警察?」

古畑「はい。決して怪しい者ではありません」

古畑「矢澤さんにいくつか質問したいことがあるんです。呼んで来ていただけますか?」

生徒「はぁ…ちょっと呼んできますね」

〜〜〜

生徒「矢澤さーん」

にこ「なに?」

生徒「…」キョロキョロ

生徒「警察の古畑って人が呼んでるよ」ヒソヒソ

にこ「古畑が…?」

絵里「なにかしら…?」

生徒「廊下で待ってるよ」ヒソヒソ

にこ「そう…ありがと」

希「にこ…、一緒に行きましょうか?」

にこ「…いいわ、1人で行ってくる。絵里と希はここにいて」

絵里「そう…」

希「うん…」

スタスタ…

〜〜〜

にこ「どーいうつもり?教室にまでやって来るなんて?しかもわたし1人だけ呼び出して」

にこ「変な噂が立ったらどうしてくれんのよ?」

古畑「ん〜、すみません。できるだけ目立たないようにと思ったんですが…」

にこ「…冗談でしょ?」

にこ「そう思うんならまずその服装からどうにかしなさいよ」

古畑「あー…しかしこれしか着てくる服がないもので」

にこ「はぁ…もういいわよ。で?いったいなんなのよ話って?」

古畑「ああその前に…私ずーっと気になっていたんですけども」

にこ「なによ?」

古畑「いつもと随分印象が違うような気がするのですが」

にこ「…は?」

古畑「いや、いつもはこう、なんというかもっとアイドルらしい振る舞いをされているような…」

にこ「ああ…こうでしょ?」

にこ「…おほん」

にこ「にっこにっこにー♪」

にこ「あなたのハートににこにこにー♪笑顔届ける矢澤にこにこ♪にこにーって覚えてラブにこ♪」

古畑「」アゼン

にこ「…いつもこうしてるじゃないかって言いたいんでしょ?」

古畑「…あ、ああそうですはい、ふふふ。いや、最初にお会いしたときから気になっていたものですから」

にこ「あれはキャラ作りよ。アイドルはキャラ作りが重要なの」

にこ「アイドルは笑顔にさせる仕事なのよ。ファンを笑顔にさせる為には、アイドルとして、普段の自分とは違うキャラで振舞わなきゃいけないのよ」

古畑「なるほど…実にプロ意識の高い方だぁ。ご立派です」

にこ「あら…?ちょっと待って」

にこ「あんた、どうしてわたしがいつも作ってるキャラのことを…?」

古畑「あー申し訳ありませんつい長々と。本題に入りましょう」

にこ「急に話題切り替えたわね…まぁいいわ、早くしなさいよ。昼休み終わっちゃうじゃない」

古畑「はい、では…」

古畑「あー…アイドルというのは難しいですねぇ。ファンに愛されないのが辛いのは当然ですが、逆に愛され過ぎるというのも辛いものです」

にこ「…どーいう意味?」

古畑「今朝、如月さんのご自宅を調べました。ん〜…昨日、彼女はあなたの熱烈なファンだったと表現しましたが、訂正しましょう」

古畑「彼女はあなたのストーカーだったようです」

にこ「…!」

古畑「ご存知でしたか?」

にこ「…初耳よ」

古畑「本当に?」

にこ「ええ」

古畑「そうですか」

古畑「えーしかし、あなたはご存知なかったとしても他のメンバーの方々が知っていた可能性はあります」

にこ「ほ、他の子たちは関係ないでしょ!?如月さんはわたしのストーカーだったんだから!」

古畑「それはどうでしょうか」

古畑「もしμ'sのどなたかが如月さんのストーカー行為を知ったときに、同じメンバーであるあなたを助けたいと考えるのは自然な成り行きではないでしょうか?」

にこ「…っ」

古畑「それは殺人を犯すには立派な動機になり得る…そうは思いませんか?」

にこ「でもっ…、わたしたちにはアリバイがあるわ。如月さんが殺されたとき、わたしたちはステージにいたんだから」

古畑「はい確かに…」

にこ「講堂に集まってくれた生徒全員が証人よ。なんならひとりひとりに聞いてみれば?」

古畑「ん〜…まぁそれは確かめるまでもないでしょう」

にこ「そもそもっ」

にこ「あの講堂にはねぇ、全校生徒とまでは言わないけど、座席を半分埋めるぐらいの生徒が集まってたのよ?」

古畑「そのようですね」

にこ「座る席が決まってたわけでもないし、ステージから見る客席は薄暗くてひとりひとりの顔なんてわかりゃしないわ。踊ってればなおさらよ」

古畑「そうでしょうねぇ」

にこ「だから、ライブが始まる30分前から講堂に入ってたわたしたちには、如月さんがどこに座ってたかなんてわかんないの」

にこ「ずっとステージにいたわたしたちが、どこに座ってるかもわからない如月さんをどうやって殺しに行けたっていうのよ?」

古畑「ん〜…それはまだなんとも」

にこ「それもわからないのに、わたしたちを犯人呼ばわりなんて…警察が聞いて呆れるわねっ!」

キーンコーンカーンコーン…

にこ「…授業始まっちゃったじゃない」

古畑「そのようですね」

にこ「とにかく証拠もないのに変な疑いかけないでよ。アイドルは評判が命なんだから」

古畑「ん〜…では次からはきちんと証拠を揃えて疑うようにしましょう」

にこ「…!」

にこ「…言ってなさい」

スタスタスタ…

【中庭】

西園寺「これが、昨日のライブのプログラムです」

古畑「どうも」

古畑「えーと…?うわぁ、こりゃ内容が詰まってるね」

古畑「『これからのSomeday』から始まって、MCが入って『Love wing bell』、『Wonder zone』、お次は…」

古畑「…そして『ユメノトビラ』、そしてまたMCを挟んで、最後に『START:DASH‼』か…これ全部彼女達が全員でやったの?」

西園寺「特に注釈も付いていませんし、そのようですね」

古畑「うーん…これだけびっちり詰まってちゃあ抜け出す暇はなさそうだねぇ」

西園寺「さすがに曲の間の1分程度で舞台袖へ下がって客席へ行き、被害者に注射をして戻るというのは不可能でしょうね」

古畑「ジョイナーでもまず不可能だね」

西園寺「…ということは、彼女達は犯人ではないということでしょうか?」

古畑「うーん…どうだろうね」

今泉「古畑さーん!」

西園寺「今泉さん、どこへ行ってらしたんですか?ずっと姿が見えませんでしたが…」

今泉「いやぁ、古畑さんがμ'sを疑ってるって言うからさ、アキバに行って証拠を揃えてきたんだよ」

西園寺「証拠?」

今泉「μ'sが犯人じゃないって証拠だよ!」

西園寺「え…そんなものが秋葉原に?」

今泉「うちわに、缶バッジに、クリアファイルに、これまでの活動記録を収めたDVD…ほら!これを見てもらえればμ'sがそんな悪いことできる子たちじゃないって、きっとわかってもらえますよ!」

古畑「…」

西園寺「今泉さん、それは証拠とは呼びませんよ」

今泉「証拠だよ!こんな女神たちが殺人なんてできるわけないんだから!」

古畑「…まぁこれはありがたく受け」

西園寺「えっ?」

古畑「…取るわけないだろう。ほら、邪魔だから早くそれ持ってあっち行きなさい」

今泉「そんなぁ古畑さん!一度でいいから見てくださいよ、わかってもらえますから!ね!」グイグイ

古畑「うるさいなぁ君は。一人で見てな…さいっ」

ペチンッ!

今泉「あたっ!いってぇなぁ…もういいですよ、1人で見ますよ。せっかく昨日のライブのDVDもダビングしてもらったっていうのに…」テクテク

古畑「ちょっと待って」

今泉「なんですか?」

古畑「昨日のライブのDVDがあるの?」

今泉「はい、放送部の子達が撮ってたみたいで…」

西園寺「どうされたんですか?」

古畑「…見せてくれる?」

今泉「えっ?もしかして古畑さんもμ'sに興味が湧い…」

古畑「何か手がかりになるかもしれない。ほら、どこかDVD見られるとこ行くよ」スタスタ

【パソコン室】

ことり『Wonder zone♪キミに呼ばれたよ 走ってきたよ〜♪きっと不思議な夢がはじまる〜♪』

今泉「この曲はですね、通常だとアキバで大人気だった伝説のメイド・ミナリンスキーに扮したことりちゃんがセンターで…」

古畑「うるさいよ、集中してるんだから静かにしてなさい」

今泉「まったく、人が親切に説明してあげてるっていうのに…」

西園寺「しかし、ほんとにアマチュアのアイドルとは思えませんね…。ダンスのキレといい、歌唱力といい、プロのアイドルと言われても不自然に感じません」

今泉「当たり前だろう?μ'sは9人の女神なんだよ。そこらのアイドルとは違うんだよ」

古畑「…」ジー

今泉「なんなら、きみも今度ライブがあるとき、誘ってあげてもいいけど」

西園寺「いえ、それは…遠慮します」

今泉「ちぇっ…古畑さんはどうですか?行きませんか?」

古畑「…」

今泉「無視しないでくださいよぉ!」

古畑「うるさい」

今泉「つれないなぁ、昔は二人きりで海外まで行ったこともあるっていうのに…」

西園寺「こうして見ると、やはり抜け出す時間はないようですね…」

古畑「そうみたいだねぇ…間のMCも自分たちでこなしているし」

西園寺「合間にメンバーが舞台袖に下がる場面もありますが、どれも1分もありません…これでは客席とステージを往復するだけでも厳しそうですね」

今泉「だから言っただろう?μ'sを疑うなんて間違ってるんだよ」

〜〜〜

穂乃果『ユメノトビラ 誰もが探してるよ♪』
海未・絵里『出会いの意味を見つけたいと願ってる♪』
全員『ユメノトビラ ずっと探し続けて♪』
全員『君と僕とで旅立ったあの季節…青春のプロローグ…♪』

~…♪

西園寺「プログラムによると、この『ユメノトビラ』の次にMCを挟んで、最後の『START:DASH‼』ですね」

西園寺「『START:DASH‼』の後の挨拶が終わって、全員が席を立ち始めてから遺体が発見されましたから、ライブの直後の犯行も不可能ですし」

西園寺「やはり彼女たちは犯人ではなさそうですね…」

古畑「…」

『ガー…』

今泉「あれ?幕が…」

『タタタ…』

フミコ&ミカ『はーい!ここで一旦MCで〜す!』

古畑「…!」

西園寺「これは…!?」

今泉「μ'sじゃない…けど、この子たちもかわいいなぁ」

西園寺「そうか…最後のMCは彼女たちによるものじゃなかったんだ」

古畑「今泉くん幕が下がるとこまで戻して。西園寺くん、時間計って」

今泉「は、はい」カチカチッ

西園寺「了解しました」

『ガー…』

『タタタ…』

フミコ&ミカ『はーい!一旦MCで〜す!」

〜〜〜

フミコ&ミカ『START:DASH‼です、どうぞ!』

『タタタ…』

『ガー…』

西園寺「…3分11秒ですね」

古畑「…ちょっと待って、もう少し計って」

西園寺「はい」

穂乃果 ことり 海未『I say...Hey,hey,hey,START:DASH!!Hey,hey,hey,START:DASH!!』

ことり『うぶ毛の小鳥〜たち〜も♪…』

西園寺「…3人しかいませんね」

古畑「…」

〜〜〜

穂乃果『眩しい光に〜♪照らされて変われ〜っ』

全員『START!』

今泉「あっ!みんな出てきた!」

全員『悲しみに閉ざされて♪』

全員『泣くだけの君じゃない♪』

全員『熱い胸 きっと未来を切り開く筈さ♪』

今泉「サビまでは3人バージョンで、サビから全員パートなんてこれオリジナルだよぉ、いや〜、お宝だなぁ」

古畑「…サビまでの時間を入れて何分?」

西園寺「4分8秒です」

古畑「ありがとう」

古畑「…ちょっと出てくる」

今泉「ええ?最後まで見ないんですかぁ?」

古畑「1人で見てなさい」スタスタ

ここで一旦終了します。

再開します

【部室】

一同「…」

花陽(…なんだかみんな、雰囲気が暗いよぉ…)

花陽(凛ちゃんも真姫ちゃんも黙ったまんまだし…)

花陽(…誰か助けて〜…)

穂乃果「…よ、よーし!」パンパン

穂乃果「みんな、最終予選まであと少しだよ!今日も張り切って練習しよ〜!」

花陽(あ、ありがとう!穂乃果ちゃ…)

コンコン

一同「!」

花陽(あ、あのシルエットは…)

古畑「すみません、入ってもよろしいでしょうか」

花陽(やっぱりあの刑事さんだよぉ…)

海未「…どうぞ」

古畑「すみません、失礼します」

古畑「えー…みなさんこれから練習ですか?」

真姫「そうよ。見ればわかるでしょ?」

古畑「そうでしたか、申し訳ありませんすぐ済みますので」

にこ「まったく…今度はなんなのよ?証拠もないのに疑うなって言ったわよね?」

古畑「はい…確かにあなた方の中の誰かがやったという証拠はまだありません」

古畑「しかし、大変言いにくいのですが…、実はみなさんのアリバイが崩れてしまいまして」

一同「!?」

ことり「どういうことですか…?」

古畑「えー…これ、昨日のプログラムなんですが」

古畑「我々は勘違いしていたんです。これを全てあなたたちだけでこなしていたんだと」

古畑「曲の合間にいくつかMCの時間があります」

古畑「『ユメノトビラ』と『START:DASH!!』の間にも、MCの時間がありますね」

古畑「MCと言えば、アーティストが曲と曲との間に挟むお喋りの印象が強いです。しかし考えてみれば、決して当人たちがするものだけがMCというわけではないんですね」

古畑「実際、昨日のライブの最後のMCはあなたたちの手によるものではない。昨日のライブのDVDを見せてもらってわかりましたぁ」

古畑「聞くところによると、あのMCは高坂さんたちのクラスメイトが買って出たそうで?」

穂乃果「は、はい…」

古畑「え〜、彼女たちのたっての希望で実現したMCだそうですねぇ。その分かなーり気合が入っていたとか?」

希「…まぁそうやね。ステージ裏にもあの子たちの声ガンガン聞こえてきとったし」

にこ「そうね。わたしたちが制服なのに、あんなド派手な衣装着て出るぐらいだったし」

花陽「そ、そうだね…ある意味わたしたちより目立ってたもんね…」

古畑「ん〜、確かに派手な衣装でした。普段のみなさんのライブ衣装と変わらないほどに」

ことり「あれは…、わたしが内緒でデザインしたんです」

ことり「フミコちゃんとミカちゃんには前からお世話になってたから、そのお礼もかねて…」

古畑「へぇ、ことりさんが…通りで出来のいい衣装だったわけだぁ」

古畑「計ってみるとMCの時間は3分でした。一曲が4〜5分程度と考えると割と長いように感じます」

真姫「…で、だからなんなのよ、その3分でわたしたちが如月さんを殺しに行けたって言うの?」

古畑「いえ、正確には3分ではありません。一部の方々は」

古畑「1年生と3年生は、『START:DASH‼』のサビの部分から出てきたそうですねぇ」

古畑「『START:DASH‼』のイントロからサビに入るまでの時間は約1分です。つまり1年生と3年生の6人には4分という時間があったわけで」

古畑「ステージから見て左手には絢瀬さん、東條さん、小泉さん。そして右手には矢澤さん、西木野さん、星空さん…」

古畑「部下を使って実験してみました。ステージ左手からだと1分43秒で、ステージ右手からだと51秒で被害者の座っていた場所まで往復することができました」

古畑「さて、この移動時間から考えると怪しいのはステージ右手にいた矢澤さん、西木野さん、星空さん…少なく見積もっても2分半は客席にいることができますからね?」

古畑「3人に伺います。あなたたちは、MCからサビまでの間、誰も舞台袖から外に出てはいませんか?」

にこ 真姫 凛「…」

穂乃果「…出てませんよ」

凛「えっ?」

海未「ほ、穂乃果?」

穂乃果「3人は舞台袖から出ていません。わたし、MCの間に舞台袖に一度下がったときに、3人と話しましたもん」

穂乃果「MCが始まって、2分ぐらい経ってたかなぁ?」

古畑「…間違いないですか」

穂乃果「うん」

古畑「…矢澤さんたちも、間違いないですか?」

にこ「え…ええ」

真姫 凛「…」コクリ

古畑「…そうですか」

穂乃果「そういうことですから。わたしたちを疑うのはお門違いですよ。練習もあるし帰ってください」

古畑「…そうですね。とりあえず退散しましょう」

古畑「失礼します」

ガチャッ…バタン

【部室】

海未「穂乃果…」

真姫「どういうつもりよ」

穂乃果「…」

にこ「どうしてあんな嘘ついたのよ?」

穂乃果「…ごめんね」

真姫「謝るぐらいなら、嘘なんて…」

穂乃果「ううん、違うの」

穂乃果「嘘ついたことを謝ってるんじゃないよ」

にこ「はぁ?」

穂乃果「…わたし、仲間を…信じられなかった」

海未「…どういうことですか?」

穂乃果「ごめんね、海未ちゃん。わたし、ことりちゃんの話を聞いて…いてもたってもいられなくってさ」

穂乃果「真姫ちゃんと凛ちゃんのとこに、確かめに行ったんだ。にこちゃんがほんとに舞台袖を抜け出してなかったのか」

にこ「…!」

穂乃果「2人にそのことを確かめて…それで、違うって言う2人と、そしてにこちゃんのことも、信じようって思ってた」

穂乃果「信じられてるって、思ってたんだっ…」

凛「…」

穂乃果「でもさ…古畑さんに嘘、ついちゃったってことは…、3人を庇ったってことは…、わ、わたしが、仲間を信じられてなかったって…、こと、だよね?」

ことり「穂乃果ちゃん…」

穂乃果「今まで、ずーっと、ずーーっと一緒に頑張ってきた…μ'sの仲間を…っ…信じ、られないなんて…ぐすっ…」

穂乃果「ほんとに…ほんとに…っ、ごめんね、みんなっ…」

希「…どういうことなん?」

絵里「私たちには、いまいち状況がつかめないのだけど…」

絵里「いったい何が起こってるの?」

にこ 真姫「…」

凛「もう、言っちゃおうよ…」

真姫「凛…?ちょっと…」

凛「これ以上隠してても…みんなに辛い思いさせるだけだよ…」

穂乃果「…うっ…ぐすっ…」

真姫「でも…」

にこ「…仕方ない、わね」

真姫「にこちゃんまで…」

真姫「…わかったわよ。話しましょう」

海未「あの…」

海未「私は…聞きたくありません」

ことり「海未ちゃん…?」

海未「私は…仲間がさつじ…いえ…罪を犯したという話を聞いて…、それを黙っていることに耐えられるとは、思えないのです」

海未「にこたちから話を聞いてしまえば、それは紛れもない真実になります…。聞かなければ、少なくとも自分の中では、真実にはなりません…」

花陽「わ、わたしも…」

花陽「友だちが、その…よくないことをしたなんて…そんな話聞くのは、怖いよ…」

凛「かよちん…」

絵里「…海未、花陽。別にこれは、強制じゃないわ。聞きたくなければ、無理することはないのよ」

海未「…すみません」ガタッ…

花陽「…ごめんね、みんな」ガタッ…

ガチャ…バタン

真姫「…他のみんなはいいの?」

ことり「…大丈夫」

凜「穂乃果ちゃんも、平気なの?」

穂乃果「うん…聞くよ」ズズッ

にこ「絵里と希も、いいのね?」

絵里「ええ」

希「うちもええよ」

にこ「じゃあ…話すわよ」

〜〜〜

にこ(それからわたしが事の発端を、昨日の出来事については主に真姫が話して)

にこ(穂乃果とことりが、なぜわたしたちを怪しんだのかを話した)

にこ(誰かが話しているとき、他のみんなは終始無言だったわ)

にこ(そして、みんなの話が終わって…)

絵里「…言いたいことはたくさんあるわ」

希「そうやね…」

絵里「にこ…どうして相談してくれなかったの?」

にこ「…ごめん」

絵里「真姫も、凛も…」

真姫「…」

凛「ごめんなさい…」

絵里「…」ガタッ…

ことり「絵里ちゃん…どうしたの?」

絵里「…練習に行きましょう?海未と花陽を待たせちゃ悪いわ」

希「…そうやね」ガタッ…

にこ「ま、待ちなさいよ…言いたいことがたくさんあるんじゃないの?」

絵里「…言いたいことはあるわよ、もちろんじゃない」

絵里「でも、あなたたちが既に選んでしまった道だもの…。それについて、今更とやかく言うつもりはないわ」

希「他にどうしようもなかったんやろ?」

希「にこっちも真姫ちゃんも凜ちゃんも、うちらがなにを言わんでも自分のやったことにはとっくに覚悟は出来てるはずや」

希「大事なのは今や。せっかくにこっちたちが守ろうとした今を、そんな浮かない顔で過ごしてたら、元も子もないやん」

絵里「…ただ、これだけは言っておくわ」

絵里「これ以上、私たちは3人を庇うことはできない」

絵里「さっきの穂乃果のようにはね」

穂乃果「そんなっ…絵里ちゃん!」

絵里「これ以上、μ'sのメンバーに罪を背負わせるわけにはいかないでしょう?」

穂乃果「でもっ」

にこ「いいのよ、穂乃果」

穂乃果「っ…」

にこ「絵里の言う通りよ」

真姫「…私も賛成」

凛「その気持ちだけで嬉しいよ…、穂乃果ちゃん」

穂乃果「…みんな」

古畑SSを発見出来るなんてツいてるなあ
是非完結させてくれ

絵里「穂乃果もことりも、わかったわね?」

ことり「う、うん…」

穂乃果「…」

希「さ…話は終わりや。はよ、屋上に行こう」

ことり「穂乃果ちゃん…行こう?」

穂乃果「…うん」

ガチャッ…バタン

スタスタスタ…

希「絵里ち」

絵里「…なに?」

希「こうなった以上、わたしたちも…覚悟しとかんとね」

絵里「…!」

絵里「…そうね」

【講堂】

西園寺「それで、古畑さんは…高坂さんのその証言を信じるんですか?」

古畑「嘘だと証明することはできないからね」

西園寺「しかし…、証言したタイミングからしてもおかしいですよ。矢澤さんたちを庇って嘘をついているに違いありません」

西園寺「最悪、彼女たち全員が共犯だという可能性だってあるわけですし…」

古畑「…」

古畑「今泉くんを呼んでくれる?」

>>139

おそらく今日の深夜までには終わると思います

【パソコン室】

今泉「なんですかぁ、いきなり呼びつけちゃって…」

古畑「さっきのDVD、もう一度見せてくれる?」

今泉「あ?もしかして古畑さんも、μ'sの良さに気付いちゃいました?」

古畑「余計なことはいいから。早く見せなさい」

今泉「素直じゃないんだから、この人」

ウィーン…カシャッ

〜〜〜

フミコ&ミカ『はーい!ここで一旦MCで〜す!』

今泉「なんですか、さっきからMCの場面ばっかり見て…」

今泉「もっとライブのところ見ましょうよぉ」

古畑「うるさい」

フミコ『いや〜、思えば私たち、μ'sのファーストライブを生で目にした数少ないファンなんですよねぇ』

ミカ『それから約半年!μ'sも大きくなったよねぇ。ほろり』

フミコ『そうそう…って、μ'sの親かい私たちは』

『アハハハ…』

今泉「あ、もしかして古畑さんこの子たち気に入ったんですか?確かにかわいいけど、コアだなぁ」

古畑「やかましいなぁ君は。考えてるんだよ今」

ミカ『でもあのライブのときにはあんなに厳しかった生徒会長が、今やμ'sの一員だなんてね~』

フミコ『今出てくる直前にわたしたちね、絵里先輩に『今日はありがとう、がんばってね』って言われちゃったんですよ?』

ミカ『いやぁ~あの絵里先輩に…やっぱり感慨深いなぁ~、ほろり』

フミコ『そうだねぇ…ってだからμ'sの親かって!』

『アハハハ…』

西園寺「何が気になるんですか?」

古畑「もう一度」

カチッ

『ガー…』

『タタタ…』

フミコ&ミカ『はーい!ここで一旦MCで〜す!』

カチッ

フミコ&ミカ『START:DASH‼です!どうぞ!』

『タタタ…』

『ガー…』

『I say...Hey,hey,hey,START:DASH!!Hey,hey,hey,START:DASH!!』

ことり『うぶ毛の小鳥〜たち〜も♪…』

今泉「いや〜、やっぱり『START:DASH‼』何度聴いてもいいなぁ!名曲だなぁ!」

古畑「もういいよ、ありがとう」

今泉「え?もういいんですか?」

古畑「あとは1人でじっくり見てなさい」

今泉「ま、まぁその方が落ち着いて見られるからいいですけど?」

今泉「あ…?ああ、この写真は『START:DASH‼』のときの写真なのかな?」

西園寺「なんですか?これは」

今泉「音の木坂の校内新聞だよぉ!廊下にどっさり置いてあったから3枚持ってきちゃった」

西園寺「3枚も必要なんですか?」

今泉「わかってないなぁ、読む用と飾る用と保存用だよ」

西園寺「理解できません…」

今泉「あ…いやここの写真じゃないか、どこの写真なんだろ」カチカチッ

古畑「ちょっと見せて」

今泉「いいですけど、汚さないでくださいよ?」

古畑「『我が校の誇るスクールアイドルグループ・μ'sが昨日開催した校内ライブは大いに盛り上がりを見せた』…」

古畑「『写真は壇上で楽曲を披露するμ's(右)と盛り上がる客席』…」

古畑「…!」

古畑「行くよ西園寺くん、新聞部だ」

西園寺「はい」

今泉「ああちょっと、新聞持ってかないでくださいよぉ!」

古畑「廊下に置いてあるんだろう?また取ってくれば…」

古畑「…そうだ今泉くん」

今泉「なんですか、用事ですか?今DVD見るのに忙し…」

古畑「μ'sの生歌、見たくないかい?」

今泉「…え?」

古畑「…」ニッコリ

【屋上】

海未「ワン、ツー、スリー、フォー!ワン、ツー、スリー、フォー!」パンパン

ガチャッ

海未「ワン、ツー…?」

絵里「古畑さん…」

にこ「なによ、今練習中なんだけど」

古畑「あー、申し訳ありません。邪魔するつもりはなかったんですが」

希「刑事さんもしつこいなぁ」

古畑「んー、これも仕事でして…」

ことり「えっと…なにか御用なんですか?」

古畑「実はちょっとみなさんにお願いごとがございまして」

海未「お願い?」

古畑「講堂の方に来て頂きたいんです」

穂乃果「講堂に…?どうして?」

古畑「来ていただければわかります。お願いします」

真姫「お断りします」

花陽「真姫ちゃん!?」

絵里「ちょっと、真姫…」

真姫「だって、いったい何を企んでるかもわからないのに…」

凛「いやいや、真姫ちゃん…」

凛「ここで変に断るのは、かえって怪しいにゃ」ヒソヒソ

真姫「でも、もし罠だったら…」ボソボソ

凛「罠でもだよ。刑事さんが来た時点で、もう断れないよ」ヒソヒソ

真姫「…わかったわよ」

にこ「すぐ済むんでしょうねぇ?」

古畑「はい、すぐに終わります。お時間は取らせません」

【講堂】

穂乃果「で…なにをすればいいんですか?」

古畑「はい、このステージでみなさんに一曲歌って頂きたいんです」

にこ「はぁ?」

古畑「こちら、昨日のプログラムです」

古畑「それで、この中から一曲ですねぇ…そうだな、ん〜…、これとかどうでしょう?」

海未「『Love wing bell』ですか…凛をセンターにして歌った曲ですね」

古畑「歌っていただけますか?」

穂乃果「みんな…いい?」

絵里「私は構わないけど…」

ことり「別に、断る理由はないよ」

にこ「仕方ないわね…」

希「凛ちゃん、センターやけど大丈夫なん?」

凛「うんっ!全然問題ないにゃ!」

真姫「…」

古畑「ありがとうございます」ニッコリ

穂乃果「えっと…曲は…?流さないんですか?」

古畑「ああすみません」

ピポパ…

古畑「ああ西園寺くん、私だ。いいよ、うん。Love wing bellだ」

古畑「えー、流してよろしいですか?」

穂乃果「はい」

にこ「早くしなさいよね」

古畑「もしもし、西園寺くん?お願いします」

タタタン♪タン♪タン♪タン♪タタタタタン♪…〜♪


絵里 花陽「あこがれの瞬間を 迎える時がきたよ」

ことり 花陽「いいのかな こんなにも幸せ感じてるよ」

海未 穂乃果「光に誘われて 歩き出すこの道は」

真姫 にこ「未来へと続いてる 希望に満ちてるね」

凛 希「誰でも可愛くなれる?きっとなれるよ こんな私でさえも…変身!」

全員「だからねあげるよ元気 そのままの笑顔で

歌おう歌おう あげるよ元気

悩まないで夢をみよう

大好きなみんなとならば 新しいことできる

生まれ変わろう これからもっと広がるはず

さあ明日が見えてくる

Love wing…love wing…」

〜〜〜♪

凛「だからねあげるよ元気」

花陽「そのままの笑顔で」

凛「歌おう歌おう あげるよ元気」

真姫「悩まないで夢をみよう」

全員「大好きはたいせつなんだ 素晴らしいことできる

生まれ変わろう 次のステージ探しにいこう

さあ明日はどんな私?

Love wing…love bell…」

〜…♪

パチパチパチパチ…

古畑「いやぁ〜素晴らしい…」

穂乃果「いやぁ…えへへぇ」

今泉「ほんと素晴らしかったなぁ!」パチパチパチパチ!

古畑「あれ?君いたの?」

今泉「いましたよ!ずっと後ろで見てましたよ!」

古畑「あっそう、気づかなかった」

古畑「みなさん、気づかれましたか?」

海未「いえ…私は」

希「気づかんかったなぁ」

ことり「さすがに歌って踊ってる最中だと…」

今泉「みんな酷いなぁ…」

凛「凛は見えてたよ?左端で青いサイリウム振ってた人だよね?」

今泉「えっ?ほんとっ?嬉しいなぁ〜!」

凛「えへへ〜」

今泉「あ、そうだぁ!みんなのサインを…」

古畑「きみうるさいよ、下がりなさい」

古畑「申し訳ありません、騒がしい奴で」

古畑「いや〜しかし星空さんよく気づかれましたね。他のみなさんは本当にわかりませんでしたか?」

真姫「知らないわよ」

にこ「歌ってるだけならまだしも、踊りまでやってんのよ?普通気づくわけないじゃない」

古畑「ん〜、そうでしょうね。まぁ普通は気づかないでしょう」

古畑「その点星空さんは素晴らしい。後ろにいた今泉にもちゃんと気づいていたとは」

古畑「しかも他の方より動きの多いセンターにいながらです。スクールアイドルとしては全国レベルの運動神経と評されるだけあって、動体視力も大したものだぁ」

凛「えへへ、そんなに褒められると照れるにゃ〜」

真姫「だからなんでそういう評判まで知ってるのよ…」

古畑「んっふっふ…はい、もう結構です」

穂乃果「え?もう終わったの?」

古畑「はい」

にこ「今ので何がわかったのよ」

古畑「ん〜、みなさんのダンスと歌唱力はやはり素晴らしいということです」

真姫「なによそれ」

古畑「今泉くん、行くよ。西園寺くんももういいよ」

今泉「えー、ぼくもうちょっも見ときたいなぁ」

古畑「なに言ってるんだ、練習の邪魔になるだろう?」

海未「練習と言われても…私たちももう屋上に戻りますよ?」

古畑「あ、講堂の使用許可は学校側に取ってありますので。今日はこの後も練習で使って頂いて結構です」

穂乃果「えっ?そうなんですか?」

絵里「…ありがとうございます」

古畑「いえいえ、練習の時間を邪魔してしまったお詫びです」

古畑「では失礼します。頑張ってください」ニッコリ

【講堂・ホールの外の廊下】

今泉「遠目だったのが不満だったけど、いや~、μ'sのライブを音の木坂の講堂で見られるなんてなぁ!」

西園寺「これからどうされますか?」

古畑「ん~…君たち、ちょっと先に行ってて」


~スポットライト~


古畑「…えー、犯人は矢澤にこ、西木野真姫、星空凛の3人でどうやら間違いなさそうです」

古畑「しかし今回はまだ決定的な証拠が見つかっていません。詰手に欠けている状態だと言っていいでしょう」

古畑「ただ…私はここで事件を終わらせてしまいたいと思っています。はい?それはなぜかって?…んっふっふ」

古畑「えーその為には、ある程度相手を絞って対峙しなければなりません」

古畑「では、私はいったい誰を落とすつもりなのか」

古畑「小悪魔的だが強い情熱を秘めた彼女か…」

古畑「それとも、理知的でプライドの高い彼女か…」

古畑「はたまた、ムードメーカーで天真爛漫な彼女か…」

古畑「んーやはりここは…、失礼、時間がないのでこの辺で。古畑任三郎でした」

一旦終わります。次で解決編です。

再開します

【放課後・音の木坂学院・校門前】

にこ「…」スタスタ

希「にこっち」ヒョコッ

にこ「っ!…希…それに、絵里…」

絵里「ふふっ、驚いた?」

希「一緒に帰らへん?」

にこ「…別にいいけど」

絵里「ありがと」

希「よしっ、じゃあ今日はこっちから帰ろうや」

にこ「はぁ?ちょっと、そっちは遠回り…」

希「今日は帰り道を替えた方が運気が上がるんよ」

にこ「…また占い?」

希「まぁまぁ、どうせ5分ぐらいしか変わらんやん?」

にこ「…はぁ、じゃあちょっと急ぐわよ」

【放課後・音の木坂学院・廊下】

凛「今日は練習疲れたにゃ〜」

花陽「珍しいね、凛ちゃんが疲れたなんて」

凛「いつもと違って講堂で練習だったからね〜、つい張り切っちゃった」

真姫「むしろいつもあんなに練習してて、なんで疲れないのよ」

凛「えへへー、日々の練習の賜物だにゃ!」

真姫「それって無限ループじゃない…」

凛「よーし、今日は帰りにラーメン食べて帰るよー!」

花陽「ええ〜、それは重いよぉ…」

古畑「んっふっふ…練習の後だというのにお元気ですね」

花陽「あ…刑事さん」

古畑「どうも」

真姫「なんの用?今から帰るとこなんだけど」

古畑「えー…、矢澤さんは?」

凛「にこちゃんなら今日はごはん作らなきゃいけない日だって言って、ついさっき帰ったにゃ〜」

古畑「あ…そうでしたか…、ん〜…まぁいいでしょう」

古畑「実はちょっと西木野さんと星空さんに、話がありまして…」

凛「え〜?凛たち今からラーメン食べに行くんだよ?」

真姫「私は行くなんて言ってないけど」

花陽「わ、わたしもちょっと…」

凛「え〜!?真姫ちゃんもかよちんも裏切るの〜!?」

古畑「あの…よろしいでしょうか?」

凛「…明日じゃダメなの?」

古畑「できれば早い方が。これで最後ですので」

真姫「これで終わりなのね?」

古畑「はい。約束します」

真姫「…わかったわよ。凛は?」

凛「…別にわたしもいいけどさ」

花陽「真姫ちゃん…凛ちゃん…」

真姫「なに心配そうな顔してるのよ、花陽」

凛「大丈夫だよ〜かよちん、先に帰ってて?」

花陽「う…うん」

古畑「では…部室の方へ」

テクテクテク…

花陽「…」

凛「じゃあね〜かよちん!ラーメンは明日食べに行こうね〜!」

花陽「…うん」

【放課後・部室】

古畑「申し訳ありません突然お呼び止めしてしまって」

古畑「どうぞお座りください」

真姫「結構よ」

凛「凛も遠慮するにゃ」

古畑「そうですか…」

ピリリリリ…ピリリリリ…

古畑「あ、失礼」

古畑「もしもし、うん私だ。うん…見つからなかった?いつもの通学路で?」

古畑「…そう、まぁいいや。ありがとう、戻っていいよ」

ピッ

凜「今の電話は?」

古畑「んー…ちょっとした野暮用です、はい」

古畑「では時間も時間ですし、早速本題に入りましょう」

古畑「如月さんを殺害したのはあなたたちですね」

真姫 凛「…」

古畑「矢澤さん、西木野さん、星空さん…あなたたち3人は協力して如月さんを殺害した」

古畑「動機は如月さんの、矢澤さんへのストーカー行為」

古畑「いかがですか?」

真姫「…話にならないわね」

凛「言いがかりもいいとこだよ」

古畑「えー最初に引っかかったのは未使用のサイリウムです。そしてそれは西木野さんへの疑念を作り出すきっかけにもなりました」

真姫「私への?」

古畑「あなた、私が最初に部室を訪れて、サイリウムについて尋ねたとき『使いたくても使えなかったんじゃないか』とおっしゃいました」

古畑「心不全を起こして意識を失ったから、使えなかったのだろうと…覚えてらっしゃいますか?」

真姫「ええ」

古畑「ん〜、実に論理的な考え方でした。しかし、私あの時点ではまだ心不全とは一言も言っていなかったんです。言ったのは『突然死』、『病死の可能性が高い』とだけ」

古畑「しかしあなたは心不全と言い切った。それが引っかかったんです」

真姫「そんなの…ちょっとした思い込みじゃない。私はそういう勉強をしてたから、突然死の多くは心臓に原因があるってことは知識として持ってたのよ」

古畑「はい確かに。しかしあなたへの疑念を持つきっかけとしては十分でした」

真姫「…あっそ」

古畑「さて、サイリウムの話に戻りましょう。最初は彼女に使うつもりがなかったのか、使いたくても使えなかったのかと考えたのですが、もう一つ可能性がありました」

古畑「彼女はあのサイリウムを使う必要がなかったのではないか…」

古畑「ではなぜ使う必要がなかったのか。それは犯人から別のサイリウムを渡されていたんです」

古畑「違う色で光るサイリウムをね」

古畑「一面青いサイリウムの中に別の色のサイリウムが混じっていれば目立つでしょうねぇ。とは言ってもライブの最中です。踊りながら探すとなるとそれなりの動体視力が必要になってきます」

古畑「そこで星空さん、あなたの出番となってくるわけです」

凛「わたしの?」

古畑「矢澤さん、西木野さんと運動能力に関してはメンバーの中でとりたてていいわけではありません。しかしあなたの運動神経はずば抜けている」

古畑「現に先ほど講堂でも、後ろの方で今泉が振っていたサイリウムの色まで見抜くことができた」

真姫「待ちなさいよ、そんなの想像じゃない。凛が後ろで刑事が振ってたサイリウムが見えたからって、犯人にされちゃうわけ?」

凛「そうだよひどいよ。そもそも如月さんが違うサイリウムを持ってたって証拠もないのに」

古畑「確かに、未使用のサイリウムだけでは想像の域を出ません」

古畑「しかし、今の話を裏付けるものが残っているんです」

古畑「こちら…新聞部の生徒が客席を撮影した写真をお借りしてきました」

古畑「一曲目に歌った『わたしたちのSomeday』のときに写したそうで…みなさん青いサイリウムを振って盛り上がってます」

古畑「ここ、わかりますか?」

真姫「なによ?」

凛「…まさか、犯人が写ってるとか?」

古畑「いえ、そういうわけではありませんが…ここ見てください」

凛「ん〜…?」

古畑「赤い光が見えませんか?」

真姫「…そうかしら」

古畑「わかりませんか?ん〜、ではこの拡大した写真ではどうでしょう?」

真姫「そういうのはもったいぶらないで最初に出しときなさいよ」

古畑「んっふっふ…すみません。さて、これだと何に見えますか?」

真姫 凛「…」

古畑「わかりませんか?これ、赤いサイリウムに見えませんか?」

真姫「…さぁ」

凛「わかんないにゃ」

古畑「…んんまぁこれだと断定はできません。しかし。サイリウムではなくても、客席に赤く光る何かを持っていた人間がいたということはわかります」

古畑「そして。如月さん以外のライブを見に来ていた生徒全員に聞けば…もしその全員が青いサイリウムだけを振っていたと証言すれば。この誰かは、自ずと特定されるというわけです」

古畑「いかがですか?」

真姫「…」

凛「…」

真姫「…だから?」

古畑「だからとは?」

真姫「これで証明されたのは、客席に赤く光る何かを持って来てた誰かがいたってことだけでしょ?」

古畑「はい」

真姫「確かにあなたのいう方法なら、凛の動体視力があればステージの上からでも如月さんの位置を特定できたかもしれない」

真姫「だけど、そんな証拠はどこにもないわよね?」

古畑「…はい、そうなんです。今のは未使用のサイリウムと、この写真から導き出した憶測です」

古畑「赤いサイリウムが残っていればよかったのですが、さすがに光っているサイリウムはすぐに見つかって回収されてしまったようですし」

古畑「これだけで犯行を立証するのはまず不可能でしょう」

古畑「ただ」

凛「なに?」

古畑「…」

真姫「なによ、早く言いなさいよ」

古畑「お二人は、昨日のライブの映像はご覧になりましたか?」

凛「え?」

真姫「なんなの突然…」

古畑「どうですか?」

凛「…見てないよ?」

古畑「ご覧になっていませんね?」

真姫「だからなんだっていうの?」

古畑「こちらに昨日のライブのDVDが。まだ編集されていない、撮影したままのものです」

凛「わざわざ借りてきたの?」

古畑「いえ、放送部の方にダビングしてもらいました」

古畑「えーそれでですね、これを今から見てみたいのですが…」

凛「ええ?今から?」

古畑「ん〜…このパソコンで再生してよろしいですか?」

真姫「勝手にすれば」

古畑「では」

古畑「えーと…あれ、これどこにスイッチがあるんだぁ…?」

古畑「あれぇ…?」

凛「…古畑さんって機械オンチ?」

古畑「この手のものには強くないもので」

真姫「もう…じれったいわね」スタスタ

パチッ

古畑「ああ、そこにスイッチが…」

真姫「ほら、DVD貸して」

古畑「すみません」

ウィーン…カシャッ

真姫「で?頭から再生すればいいわけ?」

凛「え〜、時間かかっちゃうよ?」

古畑「いえ、最後のMCの手前の『ユメノトビラ』からで結構です」

真姫「『ユメノトビラ』からね…」カチカチ


〜…♪

穂乃果『ユメノトビラ ずっと探し続けた♪』
海未『君と僕との♪』
絵里『つながりを探してた♪』

~…♪


凛「で?これがどうしたの?」

古畑「まぁ見てみましょう」

真姫「はぁ…意味わかんない」


〜…♪

穂乃果『ユメノトビラ 誰もが探してるよ♪』
海未・絵里『出会いの意味を見つけたいと願ってる♪』
全員『ユメノトビラ ずっと探し続けて♪』
全員『君と僕とで旅立ったあの季節…青春のプロローグ…♪』

〜…♪

古畑「ん〜、いい曲です」

真姫「…まさか今の曲を見る為にDVD流したわけじゃないでしょうね」

古畑「止めてください」

真姫「え?」

カチッ

凛「どうしたの?」

古畑「この後がMCでしたね」

真姫「そうね」

古畑「どのようなMCだったか覚えていますか?」

真姫「さぁ」

凛「内容まではよく覚えてないにゃ」

古畑「では…彼女たちがどのような衣装だったか覚えてらっしゃいますか?」

凛「衣装?」

真姫「知らないわよ、幕が下がってたんだから見えるわけないでしょ」

古畑「はい…そうですよね」

古畑「幕が下がっていたんです。だから見えるはずはないんです」

古畑「幕の裏側にいたあなたたちにはね」

真姫「そうよ。それがどうしたのよ」

古畑「とりあえず再生してください」

真姫「…ほんとに面倒な人」

カチッ

『ガー…』

古畑「ここで幕が下がります」

『タタタ…』

古畑「ここでMCの2人が画面の右側から登場」

フミコ&ミカ『はーい!ここで一旦MCでーす!』

真姫「で?」

古畑「この衣装を見て、どう思われますか?」

凜「…わたしたちがライブで着てるような衣装だね」

古畑「はい、なかなか派手な衣装です」

真姫「それが?」

古畑「まぁ最後まで見てみましょう」

凛「もう…長いにゃ〜」

〜〜〜

ミカ『さて、お待たせしましたっ!』

フミコ『μ'sのファーストライブで歌われた幻の名曲…歌って頂きましょう!』

フミコ&ミカ『START:DASH‼です!どうぞ!』

『タタタ…』

『ガー…』

古畑「はい、もう結構です」

真姫「…いい加減説明してよね。さっきからなんなのよ?」

凛「いつになったら帰れるの〜?」

古畑「んっふっふ…すみません。今から説明します」

古畑「今、MCの2人は画面のどちら側に下がっていきましたか?」

凛「…右側だよ?」

古畑「はい、つまりステージから見て左手です」

古畑「この2人はあなたたちのいた側とは逆の方向から出てきて、下がっていったということになります」

真姫「だからなに?」

古畑「ですからこういうことです。ステージの左手にいた絢瀬さん、東條さん、小泉さんは彼女たちの姿を見ています。MCの中でも直前に絢瀬さんと会話したという内容が出てきますし間違いないでしょう」

古畑「2年のみなさんはこの際あまり関係ありませんが、高坂さんと園田さんはともかく、南さんもデザインした本人なんですから当然知っているはずです」

古畑「さて、ではステージ右手にいたあなたたちはどうでしょう?」

古畑「知らない、と…確かにそうおっしゃいましたね」

真姫「…そうよ」

凛「だって見るタイミングがなかったもんね」

古畑「はいそうです、そのはずなんです」

古畑「しかし…私が放課後部室に伺ったとき、矢澤さんはこう言いました、『あんなド派手な衣装』と…」

凛「…!」

真姫「そ、それが、なんだっていうの?」

真姫「にこちゃんが衣装のことを知ってたからって、それがイコール殺したってことには…」

古畑「MCに出てきた彼女たちに確かめました、着替えたのはライブが始まってからだそうで」

古畑「それでライブが終わってからはそのまま舞台袖に下がって、あなたたちには会っていないと」

古畑「衣装が幕の外で多くの生徒たちの目に触れている頃、ステージ右手にいたあなたたちは衣装を見ていなかった。これは当然です」

古畑「しかし、矢澤さんは衣装を見ていた」

古畑「一緒にいたはずの3人の中で、なぜ矢澤さんだけが衣装を目にすることができたのか」

古畑「衣装のことを知らなかったあなたたち2人は、確かに矢澤さんと一緒にいたと言っているのに」

古畑「私が問題にしているのはそこです」

真姫 凛「…」

古畑「つまりMCの間、矢澤さんだけがあなたたちと離れ、衣装を目にすることが出来る客席にいた」

古畑「舞台袖にいたはずの彼女が、そのとき、1人で客席でいったい何をしていたのか…」

古畑「なぜあなたたちは、矢澤さんと一緒にいたと嘘の証言しているのか…」

古畑「それは。矢澤さんが実行犯で、あなたたち2人が、矢澤さんの共犯者であると言うことを示しているのです」

古畑「西木野さんが凶器を調達し、星空さんがステージ上から如月さんの座っている場所を特定し、矢澤さんが如月さんを殺害した…」

古畑「…何かご意見は」

凛「…そ…その…えと…」

凛「…っ」

真姫「…あるわ」

凜「真姫ちゃん…」

古畑「西木野さん…どうぞ?」

真姫「にこちゃんが、客席にいたからって…それが殺人の証拠にはならないわ」

真姫「あなたがさっきから言ってるのは、どれも断片的な情報を集めて作り上げた想像じゃない」

真姫「凶器の注射器もない、あなたの言う赤いサイリウムもない…、物的証拠は何もないのよ。にこちゃんの言葉だって、別に録音してあるわけじゃないんでしょ?」

古畑「…はい」

真姫「そんな状況証拠ばかりじゃ…私たちを犯人にはできないわよね?」

古畑「…」

古畑「西木野さん」

真姫「なっ…なによ?」

古畑「昔、ある精神科の先生に伺ったことがあるんですがね」

古畑「理性的な人間だからと言って、殺人という結論に至らないわけではないそうなんです」

真姫「なにそれ…どういう意味?」

古畑「つまり、理性的な人間は理屈を付けて物事を見ることができるからこそ、理屈ではどうにも解決できないことがある、ということも知っているというわけでして…」

真姫「…何が言いたいのよ、あなた」

古畑「矢澤さんはアイドル活動への取り組みからも見て取れる通り情熱的な方です。聞くところによるとμ'sに加わる前には色々苦労されてきたとか」

古畑「その分、このグループを守りたいという気持ちもより一層強いのではないでしょうか」

古畑「ただ。彼女1人で今回の殺人計画を思い立てるとは思えないんですねぇ。凶器の入手経路などの問題以前に、どうしようもない状況に陥ったとしても、『殺人はいけない』という常識がそれを思いつくことすら許さないはずなんです」

古畑「もちろん星空さん、あなたもです。個性的なμ'sのメンバーの中で、あなたは実は一番常識的な感覚を持っていると言っていい」

凛「…『実は』は余計だにゃ」

古畑「ああ、すみません」

古畑「…その点西木野さん、あなたは実に理性的な方だ」

古畑「この犯行を思いついたのはあなたですね」

真姫「…」

古畑「私が扱ってきた事件の犯人の多くは、決して粗野な人間ではありませんでした。むしろ理知的で、人格的には尊敬できる人間さえいました。勿論犯した罪は決して許されないものばかりですがね」

古畑「もう一度言います。あなたは理性的な方だ。ですからわかっていると思います。もう逃げ切れないということは」

古畑「確かに今は状況証拠ばかりで、確たる証拠はありません。しかし、それも時間の問題です。凶器、薬品の入手経絡。被害者と矢澤さんとの詳しい関係。捜査が進めば、きっとより強力な証拠が見つかってきます」

古畑「できれば逮捕状を請求できる状況になる前に、あなた方には自首をお勧めしたいのですが」

古畑「今ならまだ、他のみなさんにお別れを言う時間もあるでしょう」

古畑「これは…、μ'sの一ファンとしての意見です」

真姫「…っ」

真姫「…そうした方が、良さそうね」

凛「ま、真姫ちゃん!?ダメだよ!」

真姫「凛。こうなってしまった以上…、自首するのが最善の方法なのよ」

凛「そんな…でも…」

真姫「この刑事さんは、そのうち確実な証拠を見つけ出すわ。私たちがとても言い逃れできないようなね」

真姫「負けるのがわかってて隠し続けるのは…もう誰の為にもならない」

凛「…っ…うっ…ひくっ…」

真姫「ちょっと凛、泣かないでよ…」

凛「だって…ひっく…凛たちが捕まったら、音の木坂は、どうなっちゃうの…?」

真姫「そ、それは…」

凜「これが原因で…また、入学希望者が減っちゃったら…」

古畑「…大丈夫です、きっと」

凛「え…?」

古畑「一度廃校の危機を乗り越えたんです。もう一度やり直せる力を、この学校は持っているはずです」

真姫「…知ったような口をきくのね」

古畑「んっふっふ、すみません」

古畑「でも私、こう見えて捨て目が利くんです」

真姫「…なにそれ、意味わかんない」

真姫「だけど…その通りかもね」

真姫「凜、心配なのはわかるけど…あとは生徒会長に任せましょう」

真姫「ちょっと頼りないけど…仲間もたくさんついてる。穂乃果たちならきっとまた、やってくれるわ」

凛「…うん」ズズッ

古畑「…」

真姫「そうだ…、穂乃果といえば…MCの間に私たちと話してたって言ったけど」

凜「そっ…、そう、だよ、あれは…ひっく、穂乃果ちゃんね、わたしたちを庇って…」

古畑「わかっています」

古畑「彼女が嘘をついているというのはすぐにわかりました…周りのみなさんの反応でね」

真姫「…そう」

凜「…ぐすっ…よかった…」

真姫「…それにしてもあなた、やっとμ'sのファンだって認めたわね」

古畑「あー…そうでしたっけ」

真姫「さっき言ったじゃない」

古畑「んー…忘れてしまいました」

凜「ずるいにゃ…刑事さん」

古畑「んっふっふ」

真姫「で…あなた、いつからμ'sのファンだったの?」

古畑「ん〜…それはぁ…」

古畑「まぁおいおいお話ししましょう」

真姫「はぁ…やっぱり面倒な人ね」

古畑「んっふっふ、よく言われます」

【通学路】

テクテクテク…

にこ「…さっきから全っ然一緒に帰ってる気がしないんだけど?」

希「…」

絵里「…」

にこ「ねぇ、なんで無言なのよ」

にこ「何か喋りなさいよ、気まずいじゃない」

絵里「…そうね」

にこ「…なにか話があるからこうやって誘ったんじゃないの?」

希「あはは、ごめんな、にこっち。特にこれと言って話題はないんよ」

希「やけど、こうやって一緒に帰っとかんときっと後悔するって、カードが言ってたんよ」

にこ「…なによ、それ」

希「…なぁ、にこっち。わたしはさ、この9人が揃ったμ'sは奇跡みたいな存在やと思ってるんや。にこっちもそう思わん?」

にこ「…かもね。でも奇跡ってのは大げさじゃない?」

希「ふふ、恥ずかしがらんでええやん」

にこ「べ、別に恥ずかしがってなんかないわよ」

希「相変わらず素直やないね。とにかく…μ'sはな、この9人から1人増えても、1人欠けてもダメ。この9人やからこそμ'sなんや」

希「μ'sが今まで奇跡を起こしてこれたのも、この9人が揃ったから…」

にこ「…なにが言いたいの?」

絵里「…ねぇ、にこ。μ'sのメンバーは、どれだけ離れようとμ'sのメンバーよ。もしも誰かが遠くに行っても、いつでも戻って来れるように、私たちがμ'sを守り続ける」

絵里「だから…にこ。心配しなくてもいいのよ」

にこ「…やめてよ、そんな…」

ピリリリリ…ピリリリリ…

にこ「…っ」

希「電話…鳴ってるよ?」

にこ「う、うん…ちょっとごめん」

にこ「もしもし?…真姫?」

にこ「一体どうしたのよ…、え…?」

にこ「…」

希「…」

にこ「…うん、そう…、わかったわ」

にこ「なんで謝るのよ。…いいから。うん。すぐそっちに行くわ」

にこ「また後で」

ピッ

にこ「…」

絵里「…にこ、今の電話って」

にこ「…にっ…」

にこ「にっこにっこにー♪」

希 絵里「…!」

にこ「ごめーん二人とも、ちょっとにこ、急用ができちゃって〜。学校に戻らないといけないのよね〜」

希「…ふふっ、そっか」

絵里「…それなら仕方ないわね」

にこ「うん、ほんとにごめんね〜?じゃあね、バイバイにこっ!」

タタタ…

希「にこっち!」

にこ「…!」

希「…また、今度ね」

にこ「…」

にこ「うん、また、ね」

にこ「あ…あとさ、二人にお願いがあるんだけど」

絵里「…なにかしら?」

にこ「今日、お母さんの帰りが遅いのよ…だから」

にこ「わたしが帰るまで…、妹たちの面倒、みといてくれる…?」

希「…うん、わかった」

にこ「帰りがいつになるか…わかんないんだけど」

絵里「…任せなさい」

にこ「…ありがと」

タタタ…


end

【巡査・今泉慎太郎】

~めげるな慎太郎~

今泉「えー…アイドルは人を笑顔にさせる仕事だそうです」

今泉「その為にはキャラ作りが大事なんだとか」

今泉「刑事にも、同じことが言えます」

今泉「事件を解決するには、キャラ作りが大事なんです」

今泉「つまり、ぼくがいつもおっちょこちょいなふりをしているのも…実は犯人を油断させる為の、キャラ作り」

今泉「えーしかし…そのキャラがハマり過ぎるのも、それはそれで考えものです」

今泉「さて今回は、キャラがハマり過ぎてしまった…、そんな名刑事のお話」

【科学捜査研究所】

桑原「今泉さん、いつまで落ち込んでんのさ?」

今泉「…」

桑原「まぁ、ファンだったアイドルグループのメンバーが逮捕されたってのがショックなのはわかるけど…」

桑原「聞いた話だと彼女たち、捜査本部が犯人を断定する前に罪を認めたから、自首って扱いになったみたいだし」

桑原「えーとほら、情状酌量っていうの?きっと量刑も軽くなるんじゃない?」

桑原「ま、元気出してよ」

今泉「…そういうことを言ってるんじゃないんだよ」

桑原「え?なにが?」

今泉「落ち込んでる理由だよぉ!」

桑原「なになにどうしたのよ、大きな声出してさぁ」

今泉「古畑のやつ、ぼくよりμ'sのファン歴が長かったんだよぉ!」

桑原「えっ!?そうなの?」

桑原「古畑さんって今でもアイドルと言えばゴールデンハーフで止まってるのかと思ってた」

今泉「ほんとだよぉ!いい歳してスクールアイドルのファンだなんてさぁ、みっともないと思うだろ!」

桑原「…それ今泉さんが言う?」

今泉「まさか、μ'sが3人の頃から見てたなんて…悔しい…くそう…」

桑原「まぁ、今はスクールアイドルって全国規模の人気だからねぇ」

今泉「音楽なんて『サン・トワ・マミー』と『ラストダンスは私に』しか歌えないくせに…しかも音痴なくせに…」

桑原「音痴なのは関係ないでしょ」

今泉「…そうだ」

桑原「なに?」

今泉「…」ニヤァ

桑原「うわ、悪そうな顔…どうしたの?」

今泉「古畑がいい歳してスクールアイドルのファンやってるって、署内で言いふらしてやろ」

桑原「またくだらないこと…やめなさいよ」

今泉「こうでもしてやらないと腹の虫が収まらないんだよぉ!」

今泉「早速行ってくる」

桑原「ちょっとちょっと!この大量のμ'sのグッズ置いてかないでよ!」

今泉「後で持って帰るから!」

桑原「ここに置いといたら僕まで誤解されちゃうじゃない!」

今泉「いいだろ!これを機に君もファンに…」

桑原「あ」

今泉「え?なに?」

桑原「…」

今泉「どうしたんだよ?」

桑原「いや、なんでもない」

今泉「なんでもあるだろ、今なんか言いたそうな顔してたじゃん」

桑原「…いや、今ふと思い出したんだけどさ」

桑原「これもさっきそこで聞いた話なんだけどぉ…」

今泉「もったいつけんなよぉ!なんなんだよぉ!」

桑原「…今泉さんが今日秋葉原で、μ'sのグッズ買い漁ってたの、見てた人がいたみたいでさ」

今泉「え?」

桑原「今署内は、その噂で持ち切り」

今泉「…」

桑原「いい歳こいてアイドルのお尻なんて追っかけてるから、未だに巡査止まりなんだ、とかさ…」

今泉「…!」

桑原「ま、これを機に、アイドルの追っかけはやめときなよ…ね?」

今泉「…はぅっ!」ヒシッ

桑原「ああ、うんうん、辛いね、よしよし」

桑原「あーよしよし…」

ガチャッ…バタン


end

これでおしまいです。古畑とラブライブを重ねてみたかっただけなので、推理物としては物足りないかと思います。
一応SMAPの事件も参考にしていますが、ベースは「しばしのお別れ」や「殺人特急」辺りをイメージしてます。
最終的に逮捕はされても、少しは救いがあってほしいと思ってこういう最後になりました。

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